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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 - JAXA Repository / AIREX
ISSN 1349-1121
JAXA-RM-14-009
宇宙航空研究開発機構研究開発資料
JAXA Research and Development Memorandum
センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
水谷 忠均
2015年3月
宇宙航空研究開発機構
Japan Aerospace Exploration Agency
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
水 谷 忠 均*1
Conceptual study of sensor integrated honeycomb sandwich panel from
manufacturing perspective
Tadahito Mizutani*1
概要
本資料は宇宙航空研究開発機構、研究開発本部、構造・機構グループが実施した研究「構
造とセンサの一体化」の成果をまとめたものである。ここでは特に、光ファイバセンサを
宇宙機構造で一般的であるハニカムサンドイッチパネルの内部に一体化した「センサ一体
型構造」の設計コンセプト、製造に必要な要素技術およびセンサ一体型パネルの試作につ
いて、製造性の観点から試作検討を行った結果を記す。
* 平成 26 年 12 月 19 日受付(Received 19 December, 2014)
*1 研究開発本部 構造・機構グループ
(Structures and Mechanisms Group, Aerospace Research and Development Directorate)
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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-14-009
1
はじめに
本資料は宇宙航空研究開発機構、研究開発本部、構造・機構グループが 2011~2014 年度
に実施した研究「構造とセンサの一体化」の成果をまとめたものである。本研究の背景に
は、近年の人工衛星開発における機械系設計の課題がある[1][2]。特に、衛星の軌道上にお
ける熱変形と微小振動(擾乱)の抑制は重要視されており、これらの課題を解決し衛星の
性能を向上させるための技術開発が求められている。地上試験における精密な熱変形測定
系の研究[3]や擾乱に関するコリレーション技術の研究[4]はその直接的な解決手段となり得
る。しかしながら、大型で複雑化した衛星システムにおいては設計上想定することが出来
ない事象が起こりうる。その原因は、設計で使用する数値解析モデルと実構造のわずかな
相違や、地上試験環境と実環境(打ち上げ環境や宇宙環境)との相違などが考えられる。
これらの相違は数値計算技術や試験技術が向上する中でも必ず存在する。従って、設計精
度を極限的に追及するためには実環境における構造データ取得、およびそのデータによる
設計検証が重要となる。
「構造とセンサの一体化」の研究では、地上における開発試験だけではなく運用中の構
造体の状態(加速度、外力、温度、応力、ひずみ、変位等)を継続的にモニタリングし、
設計に使用した数学モデルやパラメータをチューニングしていく軌道上設計検証の概念を
提案した[5][6]。一般的に大型構造の設計検証には多くの計測点が必要になる。しかしなが
ら、リソースが限られる宇宙機において、軌道上設計検証を実現するためにはリソース制
約、例えば計測系の寸法、質量、電力、センサハーネスの実装等の制約を常に考慮する必
要があり、その実現は容易ではない。また、従来から使用されているセンサ(例えば加速
度計や熱電対)は衛星を組み立てた後、試験をする直前に取り付けられることが一般的で
あり、物理的にアクセスが困難な場所は計測ができない。本研究でこれらの課題に取り組
むべく、センサを構造要素の製造段階で部品内部に組み込む「センサ一体型構造」の概念
検討を行った。
センサ一体型構造の概念は宇宙機の軌道上設計検証を実現するための一つの手段を提案
するものであり、本資料では宇宙機構造に特化した検討結果を報告する。しかしながら、
この概念の適用範囲は宇宙機や航空宇宙分野の構造に留まらず、広く一般的な構造物の設
計検証技術に応用できる。
また、本資料は「センサ一体型構造」の設計、製造および実装に関する報告に特化して
いる。センサ一体型構造の機能、性能評価については参考文献[7]-[10]を参照いただきたい。
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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3
設計コンセプト
本研究で検討するセンサ一体型構造とは、構造ヘルスモニタリング(スマート構造)の
概念から発想を得ている[11]。ここでは、宇宙機の一般的な構造部材であるハニカムサンド
イッチパネル製造時に構造の状態をモニタするためのセンサを構造内部に組み込む手法を
検討する。これはセンサを試験前に構造部材表面に設置する従来の手法とは異なり、次の
利点が考えられる。

従来センサの設置が難しいと考えられていた場所(他の構造部材や搭載機器と干渉す
る場所や宇宙機組立後にアクセスが難しい場所など)にセンサを配置することが可能
で、設計上知りたい情報をより多く計測できる可能性がある

配線(センサハーネス)が構造内部に組み込まれているため、宇宙機組立時のハンド
リング性が向上する
構造に組み込むセンサは数多くの利点が考えられる光ファイバセンサを採用した[6]。
1990 年代後半以降、光ファイバセンサによるスマート構造の研究は多数行われている。宇
宙分野、例えば Rapp ら[12]の報告では、多点型光ファイバセンサである FBG(Fiber Bragg
Gratings)を温度センサとして使用し、ハニカムサンドイッチパネルの温度分布計測を試
みている。また、一体型構造としての応用ではないが、衛星搭載用の FBG センサ計測機器
の試作および温度計測の軌道上実証についても欧州において報告例がある[13]。
本研究では宇宙機構造として一般的な CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)を表皮
とするハニカムサンドイッチパネルに光ファイバセンサを一体化した構造を考える。提案
するセンサ一体型構造の概念図を図 1 に示す。ここでは、光ファイバセンサは表皮とコア
の間に埋め込まれ、パネルの平面内を 2 次元的に配線されている。パネル製造工程以降で
のハンドリング、特にセンサ接続作業を容易にするために、パネルの端部には光ファイバ
センサのインターフェースとなる終端ブロックが埋め込まれる。終端ブロックには光ファ
イバのコネクタが設置してあり、計測機器と光ケーブルで接続するだけで容易に計測を行
うことが可能である。また、この終端ブロックはパネルのキュア中に光ファイバ(センサ
ハーネス)を保護する機能も併せ持つ。
なお、光ファイバセンサの種類は計測目的によって様々な選択肢が考えられるが、本研
究のセンサ一体型構造は構造計測において一般的な FBG の波長多重方式による多点計測を
行うことを前提に設計を行った。しかしながら、他の計測原理(例えばブリルアン散乱光
等を利用した分布型センシング方式)の場合でも基本的なパネル製造方法は変わらない。
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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-14-009
Terminal Block
(Connector Interface)
Optical
Cable
Optical Fiber (Sensors)
Face Sheet
Core
図 1
3
センサ一体型ハニカムパネルの設計コンセプト
要素技術の検討
本節では、センサ一体型パネルを設計する上で重要となる次の 3 つの要素技術について
説明する。
(1)終端ブロックの検討、
(2)センサ一体型パネルに適した光ファイバの検討、
そして(3)パネル製造工程を考慮した光ファイバ設置方法の検討である。
3.1 終端ブロックの検討
図 1 に示す終端ブロックの実装方法について検討を行った。ここでは終端ブロックの材
料と形状について数種類の案を示し、それらを質量、コスト、精度・加工性の観点から比
較した。その結果を表 1 に示す。
まず材料については、アルミ合金、CFRP、合板、フォーム材を候補とした。また、形状
についてはコの字形を基本として考え、CFRP については馬蹄形も候補とした。まず質量
面においてはフォーム材が最も軽量で設計可能であり、次いで CFRP(馬蹄形)、合板、CFRP
(コの字形)
、アルミ合金の順となった。次に、製造コスト面では材料コストと製作コスト
について検討を行い、材料コストは合板が最も安価、次いでアルミ合金、CFRP(馬蹄形)、
CFRP(コの字形)、フォーム材の順、製造コストではアルミ合金、合板、フォーム材は同
程度、CFRP はそれよりも高コストとなることが見込まれる。また、加工性についてはど
の項目もほぼ同程度の評価とはなるが、合板は加工が最も容易、フォーム材は一部加工が
手作業になることが予測される。その他の注意事項として、合板は吸水性(脱湿性)やア
ウトガスの観点で宇宙空間(高真空環境)における使用はリスクがあり、また可燃性であ
ることもリスクとなり得る。
以上の比較項目を総合的に判断し、ここでは CFRP(コの字形)と CFRP(馬蹄形)の
終端ブロックついて試作を行い、センサ一体型パネルに実装した。CFRP(コの字形)終端
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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ブロックの実装例を図 2、CFRP(馬蹄形)終端ブロックの実装例を図 3 にそれぞれ示す。
また、実際に試作した終端ブロック実装パネルの写真を図 4、終端ブロックに光ケーブル
を接続した写真を図 5 に示す。製作した終端ブロックの平均質量は CFRP(コの字形)が
45.4 グラム、CFRP(馬蹄形)が 7.4 グラムであった。
表 1 端部ブロック設計のトレードオフ
精度・加
総合
工性
評価
△
○~△
△
△
×
○~△
△
合板
○
○~△
○
△
4
フォーム材
○
△~×
○~△
△
5
CFRP
○
△~×
○~△
○
No.
材料
1
形状
質量
コスト
アルミ合金
△
2
CFRP
3
図 2 CFRP(コの字形)終端ブロックの実装例
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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-14-009
図 3
図 4
CFRP 終端ブロック(馬蹄形)の実装例
終端ブロックを実装したハニカムパネルの製作例(中央は図 2, 左と右は図 3 に相
当する)
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
図 5
7
終端ブロックに光ファイバを接続した例
3.2 センサ一体型パネルに適した光ファイバの検討
光ファイバセンサを構造体内部に埋め込む、もしくは組み込む場合には次のことに注意
する必要がある。

構造特性に悪影響を与えないこと

曲げ(マイクロベンディング等)による光の伝送損失
まず、構造特性に対する悪影響を軽減するためには光ファイバの寸法を小さくする必要
がある。ただし、寸法が小さすぎるとハンドリング性が著しく悪くなるため、作業環境や
作業に必要な周辺機器等の状況を十分考慮に入れた設計が必要である。次に、曲げによる
光の伝送損失については、光ファイバの光学特性を調整することで低減を行うことが可能
である。多くの光ファイバセンサはシングルモード光ファイバを使用するが、この場合、
モードフィールド径を小さくすることで曲げに対する伝送損失特性の改善が可能である。
ただし、モードフィールド径を小さくしすぎた場合、一般的に接続損失が増大するため、
曲げ損失と接続損失の間で適当なバランスを取った設計が必要である。
本資料では、
一体型パネルに適した 2 種類の光ファイバを使用した。一つは、HEATOP300
(東京特殊電線)であり、もう一つはセンサ一体型パネル用途に最適設計を行い試作した
特殊ファイバ(フジクラ)である。これらの光ファイバ特性を表 2 および表 3 にそれぞれ
示す。後者のファイバは構造特性に与える影響を最小限にしつつ、同時にハンドリング性
に著しい困難さをもたらさない寸法となるように設計を行った。
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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-14-009
これらのファイバをセンサ一体型パネルに使用したときに発生する信号強度損失につい
て実験的な推定を行った。ここでは図 6 に示す方法で FBG からの反射光強度を測定し、そ
の結果から強度損失を推定した。まずはそれぞれのファイバに FBG を書き込み、ハニカム
サンドイッチパネルの表皮とコアの間に埋め込み成形した。成形後の FBG センサを計測装
置(SM125 Optical Sensing Interrogator, Micron Optics)に接続し、反射光強度の低下量
を測定した。この強度低下量とセンサの埋め込み長さの関係をプロットし、その関係を線
形近似したときの傾き α を推定強度損失量とした。図 7 は表 2 および表 3 に示す光ファイ
バを、一般的な通信用シングルモードファイバに FBG を書き込んだファイバ(ただし被覆
材料はポリイミドであり、被覆外径は約 150μm のファイバ)と比較した図である。両者と
も強度損失の抑制には有効であり、最適化設計を行った表 3 のファイバの方がより強度損
失を抑制できることがわかる。
表 2
表 3
曲げに強い PI 被覆シングルモード光ファイバ(HEATOP300)の特性
項目
単位
値
モードフィールド径@1310nm
μm
4.0~4.1
クラッド径
μm
124.9~125.2
被覆材料
n/a
ポリイミド
被覆外径
μm
149~151
伝送損失@1550nm
dB/km
2.5~3.1
センサ一体型構造用に試作した PI 被覆細径シングルモード光ファイバの特性
項目
単位
値
モードフィールド径@1310nm
μm
3.8~3.9
クラッド径
μm
75.1~75.4
被覆材料
n/a
ポリイミド
被覆外径
μm
98~99
カットオフ波長
nm
1203~1247
伝送損失@1550nm
dB/km
0.88
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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l: length from specimen edge to sensor
l3
l2
l1
FBG #2
FBG #1
FBG #3
FBG
interrogator
Face Sheet
FBG
#1
L3
L2
FBG
#2
loss
reference
L1
L: peak power loss after integration
L3
wavelength
図 6
estimated signal loss = slope α
L=αl+β
L2
L1
FBG
#3
2l1
2l2
2l3
length
センサ一体型構造の信号強度推定損失量の算出方法
12.0
センサ強度の推定損失量[dB/m]
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
図 7
PI被覆細径
(MFD3.8/CLAD75)
PI被覆耐曲げ
(MFD4.0/CLAD125)
0.0
PI被覆通常品
(MFD9.2/CALD125)
reflectivity
Core
光ファイバの違いによるセンサ一体型構造の信号強度推定損失量
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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-14-009
3.3 パネル製造工程を考慮した光ファイバ設置方法の検討
最後に、光ファイバをハニカムサンドイッチパネル内部に設置する具体的な手順につい
て検討した結果を示す。表 4 はセンサの設置位置について、パネルの製造性、センサ設置
および接続の作業性、センサ故障時の補修性、後工程におけるハンドリング性そしてパネ
ル上に配置される搭載機器との物理的干渉という 5 つの観点から比較評価を行ったもので
ある。以下の 4 つのパターンを比較した。
A) 従来型
一般的なセンサ設置方法である。センサは予め製造されたパネルの表面に接着もしくは固
定される。
B) 表皮埋込型
表皮材料が複合材料を使用するときに可能なセンサ設置方法である。センサは表皮の内部
に埋め込まれ、表皮と同時にキュアされる。
C) 表皮一体型
一般的に、表皮とハニカムコアの間は接着フィルムを用いて接着される。表皮一体型では
センサは表皮と接着フィルムの間に挟まれる形でパネルに一体化される。
D) コア一体型
表皮一体型に近いタイプ。コア一体型ではセンサはハニカムコアと接着フィルムの間に挟
まれる形でパネルに一体化される。
表 4
軌道上設計検証の観点から評価した光ファイバセンサ設置方法のトレードオフ
パターン
従来型
skin
センサ位置
パネル製造
センサ設置・
接続
センサ補修
後工程の
ハンドリング
パネル上機器と
の物理的干渉
総合評価
sensor
表皮埋込型
skin
sensor
表皮一体型
skin
コア一体型
skin
adhesive
adhesive
adhesive
core
core
core
sensor
adhesive
core
sensor
○
△~×
△
△
○~×
△~×
○~△
△~×
○
×
×
×
△
○
○
○
△~×
○
○
○
△
×
○
△
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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パネルの製造性について、従来型を基準に考えると、表皮一体型とコア一体型は光ファ
イバセンサの位置決め、キュア時のセンサ養生、キュア後のコネクタ接続がパネル製造過
程に追加される。表皮埋込型の場合、表皮の積層過程でセンサを設置する必要があり工程
はより複雑になると予測される。また、表皮をトリミングする際にセンサを保護する方法
を別途考慮する必要がある。
センサの設置および接続性について、従来型では容易でありセンサの設置手順書に従っ
て作業をすればよい。ただし、宇宙機としてパネルが組み立てられた後でセンサを設置す
る場合、アクセス性が悪い場所にはセンサが設置できない。表皮埋め込み型は前述の通り、
表皮の積層過程でセンサを設置する必要がある。パネルの製造後、外部から表皮内部のセ
ンサに接続する技術はまだ成熟していない。表皮一体型については、表皮上に予めセンサ
を仮固定することが可能であり、センサの位置決め精度は従来型とほぼ同等である。接続
性は 3.1 節で検討した終端ブロックを導入することで、パネル製造後も容易に接続可能とな
る。コア一体型の場合、コアにセンサを仮固定することが困難な点で、表皮一体型よりも
難易度が上がる(後述)
。
センサの補修性について、アクセス性が悪い場合を除き、従来型は故障時に交換可能で
ある。その他の方式はパネル製造後にセンサを交換することは出来ないため、センサの冗
長系を検討する必要がある。後工程におけるハンドリング性およびパネル上に配置される
搭載機器との物理的な干渉については、その逆で、従来型ではセンサがパネル表面上にあ
るためハンドリング性が悪化する場合や、搭載機器との物理的干渉を避けるためのハーネ
スルーティングが必要になる場合が生じる。一方で、表皮埋込型、表皮一体型およびコア
一体型では後工程においてセンサを直接ハンドリングする必要はなく、搭載機器との物理
的干渉も生じない。
以上の比較から、本報告では表皮一体型のセンサ一体型パネルをベースラインとした。
この場合の工程例を図 8 に示す。通常のハニカムサンドイッチパネル製作過程に加えて、
表皮にセンサを設置・仮固定する工程、終端ブロックを設置する工程およびセンサをコネ
クタ接続する工程が追加となる。表皮にセンサを設置、仮固定する工程では図 9 に示すと
おり表皮に溝加工を行い、その溝に光ファイバセンサを設置して仮固定を行う工法を採用
した。この溝加工により、センサを 2 次元的かつ高い位置決め精度で配置することが可能
になる。図 10 に試作したセンサ仮固定後の表皮の写真を示す。
また、比較のためにコア一体型の工程例を図 11 に示す。表皮一体型と比較すると、セン
サの設置・仮固定の順番が異なる。この工程ではコア下面に光ファイバセンサを設置する
ことが難しいこと、光ファイバセンサの位置決めが難しいことが判明した(図 12 参照)。
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製造開始
通常の工程より追加される作業
成型準備
表皮にセンサ設置・仮固定
表皮(下面)設置
表皮(下面)
―A
表皮(上面)
接着フィルム(下面側)設置
ハニカムコア設置
終端ブロック設置
接着フィルム(上面側)設置
―B
表皮(上面)設置
キュア
―C
コネクタ接続
製造終了
図 8
センサ一体型ハニカムサンドイッチパネル(表皮一体型)の工程例
skin
groove cutting
(depth 0.1mm(min.), width 0.2mm)
additional skin
adhesive
core
図 9
表皮一体型パネルのセンサ実装例. CFRP 表皮の場合, 加工用のプライを追加し溝加
工を行う. 光ファイバセンサはこの溝に設置する.
12
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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図 10 溝加工を行った CFRP 表皮に光ファイバセンサを仮固定した状態. 溝加工を行うこと
でセンサを平面内で自由に配線することが可能になる. またセンサの位置決め精度
も高い.
製造開始
通常の工程より追加される作業
成型準備
表皮(下面)設置
接着フィルム(下面側)設置
ハニカムコア設置
コアにセンサ設置・仮固定
終端ブロック設置
接着フィルム(上面側)設置
表皮(上面)設置
キュア
コネクタ接続
製造終了
図 11 センサ一体型ハニカムサンドイッチパネル(コア一体型)の工程例
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図 12 コアにセンサを設置するための加工(クラッシング). クラッシングしたコアの上
に光ファイバセンサを設置, 仮固定したが, 位置決めの精度は表皮一体型と比較す
ると低く, また 2 次元的に光ファイバを配線することも難しいことが判明した.
4
センサ一体型パネルの試作
4.1 設計
前節の要素技術検討結果を踏まえて、センサ一体型パネルの設計を行った。設計したパ
ネルの図面を図 13 に示す。パネルは縦 300mm、横 300mm のサイズで搭載機器取り付け
点を模擬したインサートを含んでいる。表皮は CFRP(UD 材)。積層構成は[0/+60/-60]と
非対称積層であるが、表皮上下面を対称に接着することでパネル全体としては疑似等方性
を持つ構成となっている。なお、センサの設置パターンは表 4 の表皮一体型を選択した。
3.3 節で検討した結果を反映し、表皮に溝加工用のプライを 1 層追加している。この追加
プライは CFRP(クロス材)であり、図 14 に示す溝加工を行った。本研究ではセンサの 2
次元的な配置、さらにはセンサの冗長性を考慮した配置を試みている。2 次元的な配置を可
能にするための工夫として、図 14 に示すように 2 種類の溝サイズを設けて(深さが 0.1 mm
と 0.2 mm、幅はともに 0.2 mm)、溝が面内で交差する部分は深さが必ず異なる設計を行っ
た。溝深さが異なるため、光ファイバをスムーズに交差させることが可能となる。具体的
には、光ファイバセンサの配置図を示す図 15 において、Sensor A と Sensor B のラインは、
溝深さが 0.2 mm である。一方で、Sensor C と Sensor D のラインは溝深さが 0.1 mm とな
っている。また、Sensor B は Sensor A の、Sensor D は Sensor C の冗長ラインとなるよ
うに意図して配線設計を行った。
14
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
15
光ファイバセンサは FBG センサを片側の表皮に 39 点配置した。FBG は被覆を含んだ外
径が 99 μm のシングルモード光ファイバ(表 3 参照)に書き込んだ。図 15 に示す通り、
39 点の FBG センサを 4 本の光ファイバ上に設置した。使用した FBG の仕様を表 5 に示
す。それぞれにファイバにはパネル端部に設置した終端ブロックでコネクタ接続可能であ
る(コネクタインターフェースは FC/APC)。なお、本パネルに使用した 4 本の光ファイバ
はすべて同一仕様であり、この 4 本を直列につないで同時計測することは出来ないが、計
測器に並列接続してスイッチングを行いながら計測することは可能である。また、もう片
側の表皮には FBG を書き込んでいないファイバを同様に埋め込んでいる。
図 13 光ファイバ一体型パネル
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図 14 表皮の溝加工(図 13 の部品 1)
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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図 15 光ファイバの配線および FBG センサの配置(図 13 の部品 2)
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表 5
項目
光ファイバセンサの仕様
値
備考
表 3 参照(クラッド径
使用ファイバ
PI 被覆細径シングルモードファイバ
FBG ゲージ長
5.0mm
公差は±0.5mm
1530nm(#1), 1533nm(#2), 1536nm(#3),
公差は±0.5nm. 1 本のファ
1539nm(#4), 1542nm(#5), 1545nm(#6),
イバに 11 波長の FBG を製
1548nm(#7), 1551nm(#8), 1554nm(#9),
作. 帯域幅(FWHM)中心を
1557nm(#10), 1560nm(#11)
中心波長とする.
中心波長
反射率
75μm, 被覆径 99μm)
20%以上
外観形状
下図の通り
リコート
あり(ポリイミド)
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
19
4.3 試作
最後に試作を行った結果をまとめる。表皮溝加工の加工精度は表 6 に示す結果が得られ
た。平均的な誤差は小さいが、特に深さ方向の最小誤差はより小さい値で管理する必要が
ある。また、溝加工そのものが技術的に困難な作業であったため、今後は加工方法を含め
て再検討が必要となる。
パネル製作は図 8 の工程に従った。図 16 は表皮の溝に光ファイバを設置し、瞬間接着
剤で仮固定を行った状態、図 17 は終端ブロックを設置し、上面の表皮を設置した状態、そ
して図 18 は光ファイバコネクタを接着している工程をそれぞれ示している。
センサ一体型パネルを製造した後、光ファイバセンサの健全性確認を行った(図 19 参照)。
前述の計測装置 SM125 で FBG からの反射光スペクトルを計測した結果を図 20 に示す。
設置した 39 個のセンサ全ての反射光が確認され、極端な反射光強度の低下もないことが確
認できた。
最後に、製造したパネルの質量表を表 7 に示す。センサの一体化により約 150 グラムの
質量増となったが、この増分はパネルサイズには依存しない。異なる見方をすれば、39 点
の計測点を 150 グラムの質量増で実装することが可能である(計測点 1 点あたりの質量増
は 4 グラム以下)。
以上の試作結果より、センサ一体型パネルは概ね問題なく製造可能であることが確認で
きた。
表 6
表皮溝加工の加工精度(製造後検査値と設計値の差)
表皮 1
表皮 2
(図 13 の部品 1)
(図 13 の部品 2)
計測方向
深さ
幅
深さ
幅
計測点数
38
38
38
38
項目
単位
誤差最大
mm
0.01
0.00
0.09
0.01
誤差最小
mm
-0.06
-0.04
-0.08
-0.04
誤差平均
mm
-0.02
-0.01
-0.02
-0.01
標準偏差
mm
0.02
0.01
0.03
0.01
19
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図 16 光ファイバセンサを設置し仮固定した後の表皮. 図 8 の右側に A で示す工程.
(上写真)図 13 の部品 1. (下写真)図 13 の部品 2.
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
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図 17 終端ブロック設置が終わり, 表皮(上面)の設置工程まで終了した状態. 図 8 の右
側に B で示す工程.
図 18 コネクタ接続工程. 図 8 の右側に C で示す工程.
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図 19 製造後検査(センサ健全性確認)時のセンサ一体型パネル
1.0
0.9
Normalized Intensity
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
1,525
1,530
SENSOR A
1,535
1,540 1,545 1,550
Wavelength [nm]
SENSOR B
SENSOR C
1,555
1,560
1,565
SENSOR D
図 20 製造後検査(センサ健全性確認)の結果
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センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの製造性検証
表 7
5
23
試作したセンサ一体型パネルの質量表
部品
質量 [gram]
表皮
145.5
コア
36.3
終端ブロック
135.1
インサート
80.8
接着フィルム
72.9
その他(コネクタアダプタ、ネジ等)
47.4
合計
518.0
まとめ
本報告では「構造とセンサの一体化」の研究で実施したセンサ一体型ハニカムサンドイ
ッチパネルの製造性検証について記述した。センサ一体型構造の設計コンセプトおよび必
要となる要素技術について検討を行い、39 点の FBG センサを一体化した縦 300 mm、横
300 mm のセンサ一体型パネルを試作した。溝加工については技術的な再検討が必要と思わ
れるが、光ファイバのハンドリングを容易にする終端ブロック、一体型構造に最適化した
光ファイバセンサ、および光ファイバの設置方法の要素技術については、パネル試作を通
してその有効性を確認し、センサ一体型構造の概念が実現可能であることを示した。
謝辞
本研究の実施において、
(株)ジーエイチクラフトの渋谷祐介氏、
(株)TMP の村越修氏
にはセンサ一体型パネルの製作性検討、設計および試作にあたり多大なるご協力を頂きま
した。厚く御礼申し上げます。
参考文献
[1] 小松敬治, “衛星構造の高精度化”, ISAS ニュース, No. 334, pp. 2-3, 2009.
(http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.334/ISASnews334.pdf)
[2] 小松敬治, “宇宙航空構造の無理難題”, 第 54 回構造強度に関する講演会, 2012.
[3] 神谷友裕, 宇都宮真, 清水隆三, “熱変形精密評価のための高精度測定系の構築”, 第 58
回宇宙科学技術連合講演会, 2014.
[4] 内田英樹, 小松敬治, 神谷友裕, コステルクリストフ, 水谷聡一, “宇宙機の擾乱解析に
向けた有限要素モデル化とコリレーション技術に関する研究”, 第 55 回構造強度に関
する講演会, 2013.
[5] 水谷忠均, 宇都宮真, 清水隆三, 小松敬治, “センサ一体型 CFRP ハニカムパネルの製造
性検証”, 第 3 回複合材料合同会議, 2012.
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宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-14-009
[6] 水谷忠均, 宇都宮真, 清水隆三, 小松敬治, “軌道上設計検証に向けたセンサ一体化構造
の初期検討”, 日本航空宇宙学会第 43 期年会講演会, 2012.
[7] 水谷忠均, “センサ一体型ハニカムサンドイッチパネルの機能検証”, 第 55 回構造強度に
関する講演会, 2013.
[8] 水谷忠均, “光ファイバセンサ一体化構造による高精度宇宙構造の設計評価技術に関す
る研究”, フォトニックセンシング最前線(招待講演), 2013.
[9] Tadahito Mizutani, “Proof-of-concept study of smart panel for space structures”,
International Workshop on Structural Health Monitoring 2013, 2013.
[10] Tadahito Mizutani, “Precise sensing utilizing optical fiber for spacecraft”, 23rd
International Conference on Optical Fibre Sensors (invited), 2014.
[11] R. M. Measures, “Smart structures with nerves of glass”, Progress in Aerospace
Sciences, 26(4), pp. 289–351, 1989.
[12] S. Rapp and H. Baier, "Integrated fiber optic sensors for hot spot detection and
temperature field reconstruction in satellites", Smart Materials and Structures,
19(7), 075007, 2010.
[13] R. V. Kruzelecky, J. Zou, E. Haddad, W. Jamroz, F. Ricci, E. Edwards, I. McKenzie
and P. Vuilleumier, ”Fiber-optic sensor demonstrator (FSD) preliminary test results
on PROBA-2”, International Conference on Space Optics, 2010.
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