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アメ リカ大西洋岸3州の農業環境政策

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アメ リカ大西洋岸3州の農業環境政策
89
綱査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
- 水質保全対策を中J
L
りこ-
西
洋
栄一郎 ・合
田
素
行
1. はじめに
環境の状況
2. アメ リカ農業の環境問題 と州 による農業環
農業水質保全費用分担 プログラム
境政策の概 要
養分管理計画の普及 と義務化
(
1
) アメ リカ農業 における環境問題
保全休耕向上 プログラム
(
2) 州 による水質保全対策の概要
3, ノースカロライナ州の農業環境政策
土壌保全区-
環境施策の実施機関
5. ニ ュー ヨー ク州の農業環境政策
環境の状況
(
1
) 農業の概要
(
2
) 環境 の状況
州の農業環境政策の実施体制
(
3) 農業環境管理 プログラム
農業費用分担 プログラム
(
4) 農業面源汚染除去 ・制御 プログラム
農業の概 要
(
5) ニ ュー ヨー ク市水源地農業プログラム
タール ・パム リコ川点源 ・面源排 出取 引 6 おわ りに
プログラム
(
1) 連邦の政策 との比較
(
2) 施策の成果 と広が り
4. メ リー ラン ド州の農業環境政策
畜産廃棄物規制
(
1)
農業の概要
(
3) 農業環境政策の今後
1. は じめ に
本稿 は, アメ リカ合衆 国における,州 による農業環境政策 を明 らか にす るこ
UsDA)の施 策 について は,現行 の根 拠 法 で
とを目的 とす る。連邦 農務省 (
9
9
6年農業法 (
連邦農業改善 ・改革法)の解説 な どで概 要が紹介 されて い
ある 1
る(
1)
。 しか し,州 レベルの施策 について はほ とん ど紹介 されて いない。環境
問題 の発現の しかたは地域 によって異 な り,対応 も一様 ではす まないため, そ
れぞれにあった独 自の取 り組 みや,連邦 よ り積極的 な施策 を行 ってい る州 もあ
る。本稿で は, ア メ リカ農業 にお ける環境問題 と各州の農業環境政策 を概観 し
たあ と,大西洋岸 に位置す るノー スカロライナ州, メ リー ラン ド州お よびニ ュ
90
農業総合研究
第5
3巻第 1号
- ヨー ク州 にお ける取 り組 みについて解説す る(2)
。
この三 つの州 を選 んだのは,つ ぎの ような理 由か らである。 まず, アメ リカ
の東海岸 は人 口が多 く,農業の環境問題 が穀倉地帯の中西部や大平原 に比べて
よ り顕著 に現れている。 また,3州 は, ノースカ ロライナが豚飼 養頭数の急増,
メ リーラン ドが ブロイラーの増加, ニ ュー ヨー クが酪農か らの悪臭 ・ふん尿の
発生か ら, それぞれ畜産 に伴 う環境破壊 が問題化 している。 これ に対応 して,
ノースカロライナは大規模 養豚経営の立地規制, メ リー ラン ドは全農家 に対す
る養分管理計画の義務化,ニ ュー ヨー クは地域 主導の総合的対策 といった,独
自の先進的 な取 り組 みを始 めている。
注(
1
) 代表 的 な もの として服部
〔5〕が ある。1
9
8
5・9
0年農業法 T
Jの環境施 策 につ いて
は,服部 〔4〕 を参照の こと。 なお,農業 に関わ る環境対策 には, この ほか に環境保
護庁 (
EPA)
,陸軍工兵隊,内務省所管の ものがある。
(
2) 本稿 は,1
9
9
8年 11月の現地調香に基 づいてい る。お世話 にな った関係部局 の方 に
厚 くお礼申 し上 げる。USDA も訪問 し, 多 くの情報 を得 たが,連邦 の政策 について
は改めて まとめたい と考 えている0
2. アメ リカ農集の環境 間庵 と州 による農兼環境政策の概要
(1) アメ リカ農業 におけ る環境 開溝
アメ リカ農業の資源 ・環境 問題 としては,土壌侵食が最 も重大視 されて きた。
USDA) は 1
9
35年 に土壌保全局 (
1
9
9
4年 に自然資源保全局 に改
連邦農務省 (
称) を設置 し, さまざまな対策 に取 り組 んで きた。現在 ,USDA の支 出額 で
9
85年農業法 に基 づ き始 まった保 全休 耕 プ ログラム
みて最大 の環境対 策 は,1
(
Cons
e
r
va
t
i
onRe
s
e
r
v
ePr
o
gr
a
m :CRP)である。 これ は,侵食 しやすい耕
0-1
5年の間休耕す る場合,UsDA がその土地の地代 を支払 うものであ
地を1
り,土壌保全 を第一の 目的 としている。 こうした施策の結果,土壌流出 は以前
9
8
2年 と 1
9
92年 とを比較 す る と,年 間 1h
aあた
に比 べ て減 って きて い る。1
5.
6 トンか ら 2
7.
2 トン, それ以外の
りの土壌流 出量 は,侵食 しやすい耕地で 3
粥査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
91
耕地 で 1
1.
4 トンか ら 8.
4 トンへ と, それぞれ減少 してい る (
Ma
le
g
by e
tal
.
〔
1
3,p.3〕
)
。
ただ,土壌侵食 は, まず農場 内 (
ons
i
t
e)の問題 として現 れ る。つ ま り,
生産手段 である土地の劣化 とい う形で農家が被害 を受 けるのである。 したが っ
of
f
s
i
t
e) に
て, これ は資源 問題 の側面が強 い。 しか し,土壌侵食 は農場 外 (
も影響 を与 える。耕地か ら水 に流 され, あ るいは風 に飛 ば された土や それ に付
着 した養分や農薬が河川や湖沼 に入れ ば,水質 を悪化 させ る。US
DAは 1
9
8
0
年代 まで,土壌侵食防止 を第一 に,水質保全 を副次的な目的 として資源保全対
策 を行 って きた。
農業の環境問題 として,現在最 も重要な もの は水質保全である。農業活動 で
水質汚染 の原因 とな る もの には,土壌,養分 (
栄養塩類)
,農薬,家畜 ふ ん尿
に含 まれ る病原菌 な どがある。農業 は, ア メ リカ国内の河川 ・湖沼の最大の汚
染源 とな っている。環境保護庁 (
EPA) に よる 1
9
9
6年 の ま とめで は,汚染 が
0% と 4
90
/
.とが農業か らの影響 を受 け
み られた河川 と湖沼の うち, それ ぞれ 7
ている (
第 1表)O これ は,農業分野 の対策が進 んでいない ことを示 している。
EPA は,1
9
7
2年連邦 水質汚染管理法 (
通称 ク リー ンウ ォー タ一法 :CWA)
を制定 し,工場排水の規制 や 自治体への下水処理場 の建設補助金 をは じめ とす
る,点源汚染源 (
1)
への対策 を積極的 に行 って きた。 その一方 で,農林地 か ら
の排水,市街地 か らの雨水 な どの面源 について は,発生源が とらえに くく,量
的把握 が容易でないため,対応が遅れた。 そのため,点源対策が進 むにつれて
面源の汚染への寄与度 が相対 的 に とが って きた。1
9
8
7年 の CWA の改正 で,
EPA は州 に面源管理 プログラムの策定 ・実施 を義務づ けた (
北村 〔
1
〕
)
。 さら
に,1
9
9
8年 の ク リー ンウ ォー ター行動計 画で は,規制 的措置 を含 む, よ り厳
Ri
baudoand °or
an
しい 手段 も含 め て対 策 を検 討 す る よ う求 め て い る (
〔
2
7
〕
)
0
農業 は面源の中で も最 も大 きな影響 を与 えているが,汚染排 出量 をつかみ に
くい こともあ り,規制 をか けることは難 し く,農家の 自発的取 り組 みを奨励 す
る対 策が一般的で ある。US
DAは,1
9
9
0年農業法 で水質改善奨励 プ ログラム
92
農業総 合研 究
第5
3巻第 1号
第 1表
水 質 の現状 (
全 国 ,1
996年)
1,
00
0k
m) 116.
5 A 調査対象湖沼面積 (
km2)
6
8,
1
2
0
A 調査対 象河川距離 (
総河川距離 に対 す る割 合 (
%)
1
9
総湖沼面積 に対 す る割 合 (
%)
4
0
B うち何 らかの汚染 が
B うち何 らかの汚染が
み られた部分 (
1,
0
00k
m) 399.
1
km2)
2
6,
491
み られ た部分 (
%)
3
9
Aに対す る割 合 (
Aに対 す る割合 (
%)
36
主要 な汚染源 (
Bに対 す る割合 ,%)
F
_
要 な汚染源 (Bに対す る割 合 ,%)
7
0 農 業
農 業
1
4 不特定の面源
下水処理場
1
4 大気降 卜
流路 改変
1
4 都市 の面源
生息地 改変
資源採掘
都市 の面源
1
3
1
3
主要 な汚染原因 (Bに対 す る割 合 ,%)
栄養塩類
病原菌
酸素消費物 質
農
薬
その他 の生息地 の改変
懸濁物質
金 属
下水処理場
流路 改変
i=
.
要 な汚染原 因 (Bに対 す る割合 ,%)
40
3
2
2
9
21
栄養塩類
1
9
1
8
1
6
有害水 中植物
金
属
泥の堆積
酸素消費物質
懸濁物 質
資料 :U
.
S
.
E
P
A〔
3
5
)
.
(
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nc
e
nt
i
vePr
o
g
r
am)を創設し,1
9
9
6年農業法ではそれを
既存のプログラム と合わせ,環境改善奨励 プログラム (
Envi
r
o
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nt
a
l
Qual
-
i
t
yI
nc
e
nt
i
v
ePr
o
gr
a
m)に再編す るな ど,水質対策 を第一の目的 とす る施策
を導入 し始 めてい る。 また,保全休耕 プログラム も, 1990年農業法以後,環
境便益指数 を使 って農場外の環境改善 に資す る耕地 を優先的に対象 とするよう
になっている。
湿地保全 も農業 に関連する環境問題である。湿地 は,野生生物 の生息地 とし
て重要であ り,かつ,洪水防止,水質浄化 をは じめ とする数多 くの機能 をもつ
とされているが, ヨー ロッパか らの入植以来, その約半分が失われた とみ られ
ている (
He
i
ml
i
c
he
tal
.〔
1
1
〕
)
. 1954年以前 は平均 して 800千エーカー (
320
調査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
93
千 ba
)以上の湿地が毎年消滅 していた と推定 されてい る(2)
。農地 に転換 され
た湿地 も多 い。1
9
5
4
-7
4年 に失 われ た湿地 の 8割 ,1
9
8
2
-9
2年 で もその 2割
が農地 に変わ っている。1
9
7
0年代 まで USDA は,湿地 を排水 して農地 にす る
の を支援 していた。1
9
9
0年代 に入 って ようや く,湿地保全 プ ログラム (
We
t
-
1
andRe
s
e
r
vePr
ogr
am) をは じめ とす る対策が始 まってい る。
その他の環境問題 に,生物多様性 と景観 (
アメニテ ィ)がある。 これ らは,
9
9
6年農 業法 か ら,野 生生物生 息地奨励 プ ログラム (
Wi
l
d連邦 レベ ルで は 1
Far
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ogr
am)お よび農地保全 プログラム (
pr
ot
e
c
t
i
onPr
ogr
am)の導入 に よ り対策が本格化 した ものである
。
本稿 で は,営農方法が問われ る水質問題 に焦点 をあて, その対策 を検討す る。
(2) 州 によ る水質保全対策の概要
農務省経済研 究局 による と,1
9
9
6年 の時点 で何 らか の水質保全対 策 を行 っ
て いる州 は 4
4に上 って い る (
第 2表 )0 1
6の州 で養分管理計 画 の策定 ・実施
を定めているが, その多 くは地下水汚染のおそれのある地域 に対 してである と
い う。何 らかの形 の農薬使用規制 は 8州 で行 われ てい る。1
9の州 で ケ ミゲイ
ション (
Che
mi
ga
t
i
on:濯概用水に農薬や肥料などを溶かして施用すること)
が禁止 あ るいは厳 し く規制 されて いる。土壌侵食の防止 を求 めて い る州 は 1
8
あ り,河畔や湾岸 な ど影響 を受 けやすい土地 で最善管理方法 (
Be
s
t Manage
一
me
ntpr
ac
t
i
c
e:BMP)を義務 づ ける事例 が多い。費用分担 とい うの は,農場
か らの汚染物質の排出 を軽減す るため,農家が特定の BMPを採用す る場合,
その費用の一部 を補助 した り,奨励金 を出す, とい うインセ ンテ イヴ施策 であ
る。 これは USDA の環境 改善奨励 プログラム と同様 の仕組 みであ り,2
7州 で
採用 されている(
:
i
)
0
(
po
i
n
ts
o
ur
c
e
so
fp
o
l
l
u
t
i
o
n)と面 源 汚 染 源
(
n
o
np
o
i
n
ts
o
ur
c
e
so
fp
o
l
l
u
t
i
o
n)とに分 けることがで きる。前者 は,工場や 卜水処
注(
1
) 水 質 の 汚 染 源 は,点 源 汚 染 源
理場 な ど, 発生地点がはっきりしている ものであ り,排出量の把握 が比較 的容易で,
94
農業総 合研 究
第5
3巻第
第
州
州 の水 質施 策 の概 要
養分管理
計画
農 薬 規 制C
he
n
麗
(
1
9
9
6年)
妄
i
o
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堆砂規制
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2,
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資料 :USI
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2
9〕
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C
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○
0000 00
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0
0 0LUO
ユタ
ネヴ ァ ダ
ワ シン トン
オ レゴン
カ リフ ォルニ ア
ハ ワイ
費用分担
0
00
000C. ○○CU0
00
UO
メイ ン
ニ ュー ハ ンプ シ ャヴ ァ- モ ン ト
ロー ドアイ ラ ン ド
コ ネテ ィカ ッ ト
ニ ュー ヨー ク
ニ ュー シ ャ- ン
/ペ ンシル ヴ ァこ ア
オハ イオ
イ ンデ ィア ナ
イ リノイ
ミシガ ン
ウ ィス コン シン
ミネ ソタ
ア イオ ワ
ミズー リ
ノー ス ダコ タ
サ ウス ダ コタ
ネブラス カ
カ ンザ ス
デ ラ ウ ェア
メ リー ラン ド
ヴ ァー ジニ ア
ノー ス カロ ライナ
サ ウ スカ ロ ライナ
ジ ョー ジア
フ ロ リダ
ケ ン タ ッキー
ア ラ‥ 7
ミシ シ ッピ
アー カ ン ソー
オ クラホマ
モ ンタナ
ア イダ ホ
ワ イオ ミン グ
コロ ラ ド
ニ ュー メキ シコ
ア リゾナ
2表
1号
C)
(
○
汚(
1) 濯 概 用 水 に農葵 や 肥料 な どを溶 か して使 う こ と.
(
2
) 農場 評 価 シ ステ ム(
Far
ms
t
e
adAs
s
e
s
s
me
ntSys
t
e
m):農 家 が環境 へ の リス ク を F
L
i
己評 価 し, 対策 を とる よ う支援 す る もの. 立 川 〔
3〕 を参照 の こ と.
(
3) 施 策 は, 特定 の農家 や特 定 の地 域 を対 象 とす る もの が あ る.
(
4) 表 に掲 げ られ て いな いの は, ア ラ スカ, ル イ シア ナ, マ サ チ ュー セ ッツ, テ ネ シー,
テキサ ス, ウ ェス トヴ ァー ジニ アの 6州で あ る.
調査 ・資料
ア メ リカ大西 洋岸 3州の農業環境政 策
95
規制 しやす い。後者 は,農林地 や市街地 か らの雨排水や浸 出,大気 か らの降下 とい っ
た,面 的 な発生源 で あ り, 排 出量の把握 が難 し く,量 的規制 が しに くい。 なお, 後述
の よ うに,CWA は,一定規模以 上の畜産経営体 を点源 として規制 して いる。
(
2
)1
9
8
2-9
2年の推定減少率 は 8
0千 エー カー (
3
2千 ha)以下 に低下 してい る。
(
3) 第 2表 による。表 にCが つ いていな くて も,対策が とられて い る場 合 が あ る。例 え
ば, ニ ュー ヨー ク州 で は費用分担 プ ログラムがない こ とにな ってい るが,後述 す る よ
うに実際 には存在 す る。
3. ノースカロライナ州の農業環境政策
(1) 農業の概要
ノー ス カ ロ ラ イナ は,大 西 洋 岸 南 部 に位 置 す る (
第
1図),面 積 1
3
6,
5
1
7
km2
,人 口 7
,
1
9
5千人 (
1
9
9
5年)の州 で あ る。農地面積 は 3,
6
9
5千 ha
,農家
了
\\「
く
三
、
I
、
C
2ノヱこ葦
/ 「
し
・
町
「
T
や
\> '
弓
メリー ラ ンド
\
ノース カロラ イナ
C3
第 1図
調査対象 3州 の 位 置
96
農業総合研究
第5
3巻第 1号
戸数 は 4
9千戸で,一戸 あた り平均農地面積 は 75haであ る (
1
997年農業 セ ン
サ ス)
。農業生産額 でみ る と,豚, ブロイ ラー, たば こが 3大 品 目で あ り, こ
55.
2%) を占め る。 た ば こ,七面鳥, さつ まい
れ ら三 つで全生産額 の過半 (
Nor
t
h Car
ol
i
naAgr
i
cul
t
ur
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at
i
s
t
i
c
s
もの生産高 は全 国一 を誇 ってい る (
〔
21〕)。
990年代 に入 って著 し く成 長 してい る。
ノー スカ ロライナ州 の養豚 業 は,1
1
980年代 ,2-3百万頭で微増傾 向だ った飼養頭数 は,9
4年 にイ リノイを抜 き,
第 2図 )0 1
997年 1
2月時点 の飼
アイオ ワに次 ぐ全米 第 2位 に まで増加 した (
6百万頭 と日本 のそれ にほぼ匹敵す る。 また,他州 に比べて規模拡
養頭数 は 9.
988年 に 200だ った一 戸 あ た り飼 養頭 数 が,1
997年 に は
大 が急速 に進 み,1
2,
1
00を超 えるまでになっている。
980年代 に落 ち込 んだため,州が大規
養豚 業の急成長 は,た ば この生産 が 1
979年 に家
模養豚経営の優遇措置 を とった ことを きっか けに してい る。州 は 1
百
給飼養頭 数
1
9
8
8 1
9
8
9 1
9
9
0 1
9
91 1
9
9
2 1
9
9
3 1
9
9
4 1
9
9
5 1
9
9
6
資料 :Us
DA,Na
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a
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sSe
r
vi
c
e〔
3
3〕〔
3
4〕
.
第 2図
主要豚肉生産州における飼養頭数の推移
調査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州 の農業環境政策
97
族農業保護 のため営農権法 (
r
i
ghtt
of
a
r
ma
c
t
) を制定 した。 これは,農家 は,
過 失 が な けれ ば営 農 開始後 1年以 降 に起 きた状 況 の変 化 に よ って不 法 妨 害
(
nui
s
a
nc
e)で訴 えられ る ことはない, と定 めている。 この法律 は,1
9
9
1年,
すべての畜産経営 を 「
農家」の定義 に含 めるように改正 され,大規模畜産 が受
けていた規制が緩和 された。加 えて,売上税 の免除,飼料課税 の廃止,養豚飼
Mor
gan 〔
1
9〕,
料 の検査料免除 な ど, さ まざまな税 の優 遇措 置 が とられた (
本郷 ・藤野 〔6〕
)
。
(2) 環境 の状況
ここでは,水環境 について見 てい くことにす る。水質 を調査 した州内の河川
9%に何 らかの汚染が認 め られ, その うちの 5
3%に農業が関与 している と
の1
U.
S.EPA 〔
3
5
〕
)
。 ノースカロライナは,1
7の集水域 に分 け られ
されている (
る。西部 の丘陵 ・山岳地域 の水質 は概 して よ く,大西洋 に近 い東部 の水質が悪
い。
とくに,栄養塩頬の過多に よる富栄養化が問題 にな ってお り, タール ・パ ム
Tar
Paml
i
c
o)
,ニ ュー ス (
Ne
us
e) な ど東部 の四つの流域 は,州 の栄
リコ (
Nut
r
i
e
ntSe
ns
i
t
i
v
eWat
e
r
s
)に指定 されてい る。 タール ・
養塩類監視水域 (
4%,ニ ュース川流域で はその 5
4%が農
パ ム リコ川流域 で は全窒素流入量 の 4
業 か らの ものであ る と推定 されている(
1)
。富栄養化 は植物 プランク トンや藻
類の大量増殖 を促 す.す る と, それ らの死後,分解過程で酸素が使 われ るため,
9
8
0年代後半 か ら魚
水 中の溶存酸素濃度 が低下 し,魚介類の生存 を脅 かす。1
の大量死が毎年夏 に頻発す るようにな り,漁業への影響 も出ている。 また,負
9
8
8年 に発 見 された, フ イステ リア (
pf
i
e
s
t
e
r
i
a)の関与 も指摘
の大量死 は,1
されている。 これは,有毒の渦鞭毛藻類の一種 で,栄養塩類の濃度 が高 い と大
Ba
r
k
e
r〔7〕
)
0
発生す る (
栄養塩類の水系への流入増加 は,急成長 した養豚 をは じめ とす る家畜の排滑
物が一因だ とす る主張が強 まっている。 ノースカロライナで は,家畜ふん尿 を
人工のため池 (ラグー ン と呼 ばれている) に保管 し発酵 させ,周辺 の農地 に散
98
農業総合研究
第5
3巷第 1号
布す るのが一般的である。 ラグー ンのふん尿 は農地か ら,あるいは直接河川に
9
95年 6月には,ニ ュー (
Ne
w)川流域 の養豚場 で ラグー ンが決
流入す る。1
5,
00
0klのふん尿が川に流入 し,魚が大量 に死 んだ。 この事件 は地 元
壊 し,9
の新聞で大 き く取 り上 げられ,その後の対策の きっかけとなった。
また,糞便性大腸菌 のため,貝類 の漁場 の 1
8%が閉鎖 されてい る。 これ に
も畜産廃棄物が関与 している と考 えられてい る。地下水 に関 しては,1
9
96年
に 1,
71
9の飲料用井戸 を調べた ところ,1.
8%で硝酸態窒素が基準値である 1
0
mg/
1を超 えてお り,約 2
0%が 4
-9mg/
1と高 い値 を示 した。 また,9
7年 の
農薬調査で は,4
6の飲料用井戸の うち,五つで最大汚染許容量 を超 える農薬
を検出 している (
Gi
l
l
i
am,Os
mond,andEvans〔
1
0
〕
)
0
(3) 州の農業環境政策の実施体制
ノースカロライナ州の実施 している農業環境政策 は多岐 にわたる。農業に関
0
わる水質保全政策の実施体制 はつ ぎの ようになっている(2)
環境 ・自然資源局土壌 ・水保全課 :費用分担 プログラムの全体運営
土壌 ・水保全区 :費用分担 プログラムの実施お よび技術支援
環境 ・自然資源局水質課 :水質対策の総括,畜産経営のふん尿処理に関す
る許可証の発行
農業 ・消費者サー ビス局 :農薬 に関する施策
ノースカロライナ州立大学普及部 :教育,技術支援,研究
連邦農務省 自然資源保全局 :環境改善奨励 プログラムの実施,技術支援,
計画策定支援 (
土壌保全局 に職員 を配置)
本節で は,費用分担 プログラム,畜産廃棄物規制, タール ・パ ム リコ川点
源 ・面源排出取引プログラムについて説明する。
(4) 農業費用分担 プログラム
Agr
i
c
ul
t
ur
eCos
tShar
ePr
ogr
am)は,最善管
農業費用分担 プログラム (
BMP) を採用 しようとす る農家 に対 して, その費用の一部 を補助 し
理方法 (
調査 ・資 料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
99
た り,奨励金 を支給 す る ものであ り, プログラムのおお よその仕組 みは連邦農
,
USDA)の環境改善奨励 プ ログラム と同 じであ る。 しか し 「面源汚染
務省 (
規制のための農業費用分担 プログラム」 とい う正式名称か らも窺 えるように,
水質汚染防止 を主 目的 とし,農業 ・消費者 サー ビス局ではな く,環境 ・自然資
源局土壌 ・水保全課が所管 してい る。
9
8
4年 にパ イロ ッ トプ ログラム として始 まった。 当初
この プログラム は,1
6郡 を対 象 として いた。3年
予算 は約 2百万 ドルで,栄養塩類監視水域 内の 1
7郡 を追加 したあ と,1
9
8
9年 に州全域 を対 象 とす るようにな
後 に大西洋岸 の 1
った。
1
) プ ログラムの仕組み
プログラムの全体運営 は,土壌 ・水保全委員会が実施 す る ことにな ってい る
が,実務 は環境 ・自然資源局土壌 ・水保全課が行 う。土壌 ・水保全委員会 は,
技術評価委員会 の助言 を受 け,補助対象 とす る最善管理方法 を定め, それぞれ
の土壌 ・水保全 区に予算 を配分 す る。補助 を受 けよう とす る農家 は,BMPの
実施計画 と, その費用の見積額 を記 した申請書 を地元の土壌 ・水保全 区に提 出
す る。土壌 ・水保全 区は,水質 ・土壌保全の効果や,費用効果性 を考慮 し,揺
択 を理事会で決定 したの ち,農家 と契約 を結ぶ。 また,土壌 ・水保全 区は,計
画策定 ・実施 に関わ る技術支援 を行 う。補助対 象案件 は,土壌 ・水俣全委員会
の承認 を最終的 に必要 とす る。
5%,一戸 あた りの補助 金額 の上 限
補助 率 は,各 BMPの平均単価 の最大 7
5,
0
0
0ドルで ある。州 を 2地域 に分 け,物価 や土地 条件 な どの違 い を
は年間 7
平均単価 に反映 させている。単価 は 3年 ごとに見直す。
2) 補助対象の最善管理方法 (
BMP)
9
9
8年現在つ ぎの 2
7種類である(3)
0
補助対 象 となっている BMPは,1
①
圃場 内での土壌侵食 ・養分流出の削減手法
0%以上 を作物残漆で覆 う耕起方法
保全耕転 :地表面の 3
0%以上 の作物残液 を残す ことを目指 し 5年間続 ける
長期 の不耕起 :8
c
r
i
t
i
c
alar
e
apl
ant
i
ng):侵食 しやすい土地への永年性植物
保全植栽 (
1
00
農業総合研究 第 5
3巻第 1号
の植栽
耕地の転換 :耕地か ら林地,草地への転換
草地の転換 :侵食 しやすい草地への永年性植物の植栽
牧草輪作 (
s
odbas
e
dr
ot
at
i
onpr
ac
t
i
c
e):耕地 を牧草やマメ科植物 と
輪作 し,有機物 を確保する
帯状栽培 (
s
t
r
i
pc
r
oppi
ng):作物 と牧草 な どを等高線 に沿 って交互 に
植 え,侵食 を軽減する
di
ve
r
s
i
on):流下す る水 を農地か ら逸 らすためにつ くる水路
承水路 (
テラス :斜面の傾斜 を小 さ くす る
②
圃場外での土壌侵食 ・養分流出の削減手法
f
i
e
l
dbor
de
r
):圃場の周囲に植栽 して排水 を安定化 させ る
縁植 え (
f
i
l
t
e
rs
t
r
i
p):帯状 に植栽 して耕地 か らの排水 を渡過
帯状 フィルター (
する
gr
ades
t
abi
l
i
z
at
i
ons
t
r
uc
t
ur
e
):築堤 な どをつ くって
傾斜安定化施設 (
排水 を安定化 させ る
gr
a
s
s
e
dwat
e
r
way):雨排水の流路 を草で覆 う
草生水路 (
石敷水路 (
r
oc
kl
i
ne
dout
l
e
t
):水路 をコンク リー トや石で保護す る
排水調節施設 (
wat
e
rc
ont
r
ols
t
r
uc
t
ur
e):農場からの排水を調節し,
養分の流出を減 らす
沈砂池 (
s
e
di
me
ntbas
i
n):堆積物 を沈殿 させ る池 をつ くる
r
i
par
i
anbuf
f
e
r
):川沿いに永年性植物 を植 える
河畔緩衝帯 (
河畔安定化 :河岸 を保護 した り,流路 を安定化 させ る
③ 畜産関係
he
avyus
ear
eapr
ot
e
c
t
i
on):家畜が頻繁 に出入 り
家畜利用区域保護 (
する区域の地面 を踏 み荒 らされないように何かで覆 う
家畜通路 (
s
t
oc
kt
r
ai
lorwal
kway):家畜の よ く通 るところを踏 み荒 ら
されないように何かで覆 う
家畜立入禁止 (
l
i
ve
s
t
oc
ke
xc
l
us
i
on):家畜 が小川や侵食 しやすい土地
調査 ・資料 アメリカ大西洋岸 3州の農業環境政策
1
01
へ近 づか ない よ う柵 な どを立 て る
河川保護 :家畜 の水飲 み場 をつ くって川や土手 に入 られ ない ようにす る
家畜 ふ ん尿 管 理 :家畜 ふ ん尿 の保 管 ・処 理 -ふ ん尿 の た め池 (ラ グー
ン),堆肥化施設,散布装置 な ど
昆虫防除 :畜舎やふん尿置場 にハエ な どが集 まらない ようにす る
悪臭防止 :畜舎やふ ん尿置場 か らの悪臭の発生 を防止 す る
④
その他
養分管理 :養分 を投入す る量,時期, 方法 を明記 し,表流水 ・地下水 へ
の流 出 を極 力避 ける計 画 をたて る
農薬取扱施設 :農薬の調合や タンクへの注入 を安全 に行 えるよ うな施設
この プロ グラムの支 出額 は,現在 まで に合計 で 79百万 ドル に上 る。予算額
は近年増加 してお り, 1998年度 は 10.
3百万 ドル,加 えてニ ュー ス川流域 の畜
産 対 策 に 7.
5百 万 ドル が あ て られ て い る。 97年 度 まで の 実 績 を第 3表 に示
す (4)。
第 3表
ノースカロライナ農業費用分担プログラムの実績 (
1
997年度 まで)
対 象面積
(
ha)
5
4
8,
3
6
2
契約件数
24,
01
9
(
ha)
保全耕転
1
37,
0
67
1,
8
27
8
0
9
2
9,
25
0
1
6,
98
9
8,
5
9
5
家畜立入禁止 (
k
m)
河川保護
ふん尿管理施設
保管容量 (トン)
堆肥化施設
ふん尿散布面積 (
ha)
1,
1
2
8
4 3 9
6 6
0 9
3
5
4
6
3 0
2
2 3
長期の不耕起
保全植栽
耕地の転換
草地輪作
帯状栽培
承水路 ・テラス (
k
m)
圃場外の手法
緑植え ・帯状フィルター
傾斜安定化施設 (
件数)
草生水路
排水調節施設 (
件数)
沈砂池 (
件数)
(
件数)
畜産 関係
2 3
6 6
2 2
9 5
3 9
6
5
9
6
4
8
3
8
5 1 9
7
U
9
Q
圃場内の手法
その他
養分管理 (
ha)
農薬取扱施設
資料 :No
r
t
hCar
o
l
i
naDi
vi
s
i
onofSoi
landWa
t
e
rC(
)
ns
e
r
v
a
t
i
on 〔
24〕
.
102
農業総合研究
第5
3巻第 1号
(5) 畜産廃棄物規制
1
) 大規模畜産軽宮 に対 す る許可証交付制度
点源汚染源 は,連邦 の ク リー ンウ ォー ター法 で規制 され て い る。 これ は,
個々の汚染源 に対 して排 出基準 を定 めた許可証 を交付す る制度 であ り,全国汚
Nat
i
onalPol
l
ut
antDi
s
c
har
geEl
i
mi
na
t
i
onSys
t
em)
染物質排 出除去制度 (
と呼 ばれてい る。 この制度 の運 営 は,環境 保護 庁 (
EPA)か ら州 に委任 され
0
0
0家畜 単位 (6)以 上 の高密度 畜産 経 営体 (
Conて い る ところが 多い (5) 1,
0
c
e
nt
r
at
edAni
malFe
e
di
ngOpe
r
at
i
ons:CAFO) は点源 に分類 され,許可証
0
0
0家畜単位以 上 の経営体 は,全国で 6,
6
0
0を超 えて
の取得が必要である。1,
5%が許可証 を持 っていない といわれてい る(
7)
。 また, この許
いるが, その 7
可証 には家畜 ふん尿の保管 についての規定 はあるが,処分 に関す る定 めはない。
1
9
9
3年, ノー スカロライナ州環境管理委員会 は,原則 として許 可証 を必 要
とす る対象 を広 げた。ただ し,ふん尿 を直接水系に排出 していない場合,経営
の登録 お よびふん尿管理計画の承認 が行われていれ ば,水質課か ら許可証が得
O対 象 は,牛 1
0
0頭,馬 7
5頭,豚 25
0頭,羊 1,
0
0
0頭,
られた と見 な され る(a)
0,
0
0
0羽 (
液状 のふん尿 が あ る場合)以上 の経営体 で あ る。 この
あるいは鶏 3
見 な し許可制度 は, さまざまな解釈や運用がな され,現場 で混乱 を招 いた こと
もあ り,1
9
9
6年 に改正 され,普通許可証 (
ge
ner
alpe
r
mi
t
)(
9)の取得 が経営
0,
0
0
0羽以上の養鶏場 も,
体 に義務 づ け られた。 また,乾燥 した廃棄物 を出す 3
新 たにふん尿管理計画の策定 を求 め られ るようになった。
2
) 養豚場の立地規制
1
9
9
5年 には養豚場立地法が成立 した。 この州法 は,25
0頭以上の養豚場 を新
設 あるいは規模拡大す る場合,豚舎や ラグー ンを近隣施設 か ら一定の距離 をお
9
9
7年 の ク リー ンウ ォー ター責任
いて建設 す る ことを定 めている。 これ は,1
法 (
後 述)で規 制 が強 化 され た。現 在,豚 舎 お よび ラ グー ン は,住 宅 か ら
1,
5
0
0フィー ト (
約4
5
0m),学校,病院,教会,野外 リク リエー シ ョン施設,
5
0
0フ ィー ト (
約7
6
0m)
,他人 の所 有地 との境 界 か ら
国立 ・州立公園か ら 2,
5
0
0フ ィー ト (
約1
5
0m)
, それぞれ間隔 を置か なけれ ばな らない(10)。公共水
璃査 ・賛料
アメ リカ大西洋岸 3州 の農業環境政策
103
道水源 として使 われている井戸 か らは 5
0
0フィー ト以上離 さなけれ ばい けない。
また,住居 の あ る他 人 の所 有地 との境界 お よび河 川 か ら 7
5フ ィー ト (
約2
3
m ) 以 内にある耕地 にふん尿 を還元 してはな らない。 さらに, この 1
0
0年以 内
に洪水 に見舞われた ところにふん尿処理保管施設 をつ くって はな らない と定 め
ている。
この他 に 1
9
95年 には,豚 のふん尿 の農地還元 を行 う者 に関す る資格試験制
度が法律 で定 め られた。普及部 の研修 を受 けた人 は 1
9
9
7年 まで に約 4,
00
0人
に上 っている(
l
l
)
。
3) 養豚場の新規 ・規模拡大の一時停止
9
9
7年 8月 に成 立 した ク リー ンウ ォ
養豚 業 に対す る さらに厳 しい規制 が,1
5
0頭以 上の豚 舎 ・ラグー ンの新設 ・増設許可
ーター責任法である。 これ は,2
を 97年 3月 に さかのぼ って 2年間,一時停止す る もので あ る。一時停止 は,
98年 1
0月に半年間 (
9
9年 9月 まで)延長 された。 また, この法律で は,嫌気
性 ラグー ンの段 階的廃止計画 を農業 ・消費者サー ビス局が作成 す るよう求 めて
い る。
(6) タール - マム リコ川点源 ・面源排 出取引 プログラム
ノースカロライナ州 で もうひ とつ注 目すべ き施策 は, タール ・パム リコ川流
域 での点源 ・面源排 出取引 プログラムである。 タール ・パム リコ川流域 の点源
汚染源 (
主 に下水処理施設) は,窒素 とリンの排 出削減 を求 め られている。点
源 は,処理 を高度化 して 自 らの排 出量 を削減 す るか, あるいは面源汚染で ある
農家 に資金 を提供 して,代わ りに排 出削減 をして もらって もよい, とい うのが
この制度の基本的仕組 みである。 これ は, 面源の排 出量が点源 のそれ よ り多 く,
かつ低 コス トで削減 で きる と考 え られているため,費用効果的な対策 として導
入 された。
1
98
0年代後半,パ ム リコ川(
1
2
)で は藻類の大発生 と魚の大量死 が頻発 した。
1
9
8
9年 1
2月,環境管理委員会 は同川流域 を栄養塩類監視水域 に指定 した。点
源汚染源 は排出削減 を求 め られ ることにな り, 多大 な経費がかか ること,排 出
104
農業総合研 究
第5
3巻第 1号
量 は面源の ほ うが多 いに も拘 わ らず,規制 は点源 のほ うが厳 しい ことな どを挙
げ,反 発 した(
1
3
)
。 この ため,費用効 果的 な対策 として取 引 プ ログラムが検 討
され,州 と点 源 の グル ー プ, それ に環境 保護 団体 との間 の合 意 に よ り, 1992
年具体 的 なルールが定 め られた。
栄 養塩 類 削減 計 画 の第 1期 (
1
990-94年)で は,農 業 の BMPに よ る窒 素
の平均 削減 費 用 を窒 素 1k
gあ た り 56 ドル とした。第 2期 (1995- 2004年)
で は,BMPの費用 を再計 算 し,窒 素 1k
gあた り 29 ドル に変更 して い る。第
1期 にお け る調 査研 究 を踏 まえ,第 2期 で は窒 素 の 削減 目標 を 1
990年 水準 の
3
0% と決 めた。汚水処理 の高度化 な どに よ り,点源 の排 出量 はい まの ところ
規制値 を超 えていない。 しか し,点源 の グルー プは,農業部 門 に資金提供 を始
めてい る。 この資金 は,農業費用分担 プ ログラムの中で ,BMPへ の補助 金 ま
た は人件 費 に使 われ て い る。点 源 の グル ー プ は, 1
997年 まで に 950,
000 ドル
を支払 った。 これ は約 26 トンの窒素 の削減 に対応 す る (
1
4)(
1
5)(
1
6)
0
注(
1
) タール ・パムリコはJac
obs
on,Hoag,andDani
el
s
on 〔
1
2〕
,ニュースは Gi
l
l
i
am,
os
mond,andEvans〔
1
0〕による
。
(
2) Nor
t
hCar
ol
i
naDe
par
t
me
ntofEnvi
r
onme
nt
,He
al
t
handNat
ur
alRe
s
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c
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s
,
Di
vi
s
i
onofWat
e
rQual
i
t
y〔
2
3
,p.
2
〕
し
3
) Nor
t
hCar
ol
i
naDi
vi
s
i
onofSoi
landWat
erCons
er
vat
i
on 〔
2
4〕による
。
(
4) 参考までに,補助金の単価を例示する。実際に費用の発生する BMP は,各部分の
費用の計算が複雑なので,奨執金についてみてみると,1エーカーあたり (
( )内
は 1haあたり)の支給額はつぎのとお りである。保全耕転 :1
0(
2
4.
7) ドル ;長期
の不耕起 :7
5(
1
8
5.
2) ドル ;牧草輪作 :耕作期間に応 じて 4
0
-9
5(
9
8.
8-2
3
4.
6)
ドル ;帯状耕作 :1
5(
3
7) ドル,これに牧草などの植栽費用 6
3,
7
5(
1
5
7.
4) ドルが
加1
算される ;養分管理 :6(
1
4.
8) ドル (
Nor
t
h Car
ol
i
na Di
vi
s
i
on of Soi
land
wat
e
rcons
e
r
vat
i
on l
2
4]
)
D
t
5)
ノースカロライナとメリーランドは州が運営している。ニューヨークはまもなく委
任をうける予定である。
(
6) 肉牛で 1,
0
0
0頭,乳牛で 7
0
0頭,豚で 2,
5
0
0東,鶏で 1
0
0,
0
0
0羽である。
(
7) シエラクラブのインターネットのホームページよりO
(
URL:ht
t
p:
/
/
www/
s
i
e
r
r
ac
l
ub.
or
g/
c
af
os
/
map)
アメリカ大西洋岸 3州の農業環境政策
明査 ・資料
105
(
8
) これは,法令の条項の番号か ら,「
.
0
2
0
0規則」 と呼 ばれている。
(
9
) 個別経営 ごとに異な らない,一般的な排出基準 を定めた許可証o
(
1
0
) ただ し, ヒ記の施設の所有者が承諾する場合はこの限 りではない。
(
l
l
) Nor
t
hCar
ol
i
naDe
par
t
me
ntofEnvi
r
onme
nt
,He
al
t
handNat
ur
alRe
s
our
c
e
s
l
2
3,p.
5
]
(
1
2
) タール ・パ ム リコ川 はひ とつの川で あ る。 タール川の川幅 が広 くな って河 口域
(
Es
t
uar
y)になるところか ら下流 を′(ム リコ川 と呼んでいるO
(
1
3
) 当時の推定で,水系への流入量 に占める点源か らの排出量の比率 は,窒素で 2
8%,
リンで 80
/
oた ったの に対 して,農 業 か らの排 出量 の比 率 は どち ら も 4
40
/
.だ った
(
Jac
obs
on,Hoa
g,andDani
e
l
s
on 〔
1
2〕)
0
(
1
4
) Nor
t
hCar
ol
i
naDi
vi
s
i
onofWat
e
rQual
i
t
y,Wat
e
rQual
i
t
ySe
c
t
i
on 〔
2
6.P.
5
9
〕
。
(
1
5
) 魚の大量死が同様 に問題 とな ってい るニ ュー ス川流域 について も,1
9
9
7年末 に窒
素の 3
0%削減 を目指 した行動計画が策定 されたが,農業部門の対策 は,何 らかの形
での BMP採用を求めることに とどまってお り,経済的手法の導入 はまだ行われてい
ない
。
(
1
6
) その他の施策 として,農薬関連施策 を紹介 してお くo まず,農薬の使用 に関 しては,
1
9
71年 に成立 した農薬法が,農薬登録 を義務 づ けてお り,品質検査,散布 業者 の資
格試験制度 な どについて定めている。 また,農薬の空中散布用飛行機,地上の散布装
置,ケ ミゲイシ ョンシステムな どの検査 も行われ るo また,い くつかの農薬 を含 む有
害廃棄物 を衛生埋立地 (
固形廃棄物や汚泥な どを展圧,覆土 した埋立地)に捨 てるこ
とは禁 じられている。 しか し,民間の有害廃棄物処理業者の処理費用 は高 く, そ もそ
も民間業者はそうした小 「
1の委託 を,
受け付 けない場合がある。 そ こで,農業 ・消費者
サー ビスf
Jは,1
9
8
0年 に農薬処分 プログラムを開始 し,郡 による容器 回収 リサ イク
ルシステムの構築 をすすめている。
4. メ リー ラ ン ド州 の 農 業 環 境 政 策
(1)
農 業 の概要
メ リー ラ ン ド州 は, 大 西 洋 岸 中部 に位 置 し, 国 内 最 大 の 河 口域 で あ る チ ェサ
ピー ク湾 の 大 半 を擁 して い る (
第
1図 )。 面 積 は 2
7,
1
1
5km2, 人 H は 5,
0
4
2千
人 (
1
995年 ) で あ る。 農 地 面 積 は
あ た り平 均
8
7
3千 ha, 農 家 戸 数 は 1
2,
0
0
0戸 で , 一 戸
7
2haで あ る (
1
9
9
7年 農 業 セ ンサ ス)。 農 業 生 産 額 で み る と, ブ ロ
イ ラー ,牛 乳 , 大 豆 が
3大 品 目 で ,
この
3品 目 の 生 産 額
は全 体 の
5
2.
1% を 占
106
農業総 合研究
第5
3巻第 1号
(
Ma
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fAg
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1
5
〕
)
0
9
9
7年 には飼養羽数で 2
9
5百万羽 (日本の 2.
6倍),生産量
ブロイラーは,1
めてい る
4
3.
5千 トンとなっている。飼養羽数 は,1
9
9
0年 と比較 して 1
1%伸 びてお
で6
り,全 国第 7位 で あ る。チ ェサ ピー ク湾 東岸 にあた る,平坦 なデル マル ヴ ァ
De
l
ma
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va
)半島で とくに養鶏が盛 んである。
(
(2) 環境の状況
メ リーラン ドは,西端 のアパ ラテ ィア山脈 にかか るご く一部 を除 き, ほぼ全
体がチ ェサ ピー ク湾 の集水域 である。 ここでは,チ ェサ ピー ク湾 の状況 をみて
い くことにす る。
多様 な生物が棲 み, カキをは じめ とす る水産資源が きわめて豊富だ ったチ ェ
サ ピー ク湾 は,経済成長,人口増加,開発 に伴 って環境 の劣化が進行 した(
1)
。
1
9
7
6年,連邦議会 はチ ェサ ピー ク湾 の環境調査 に予算 をつ けた。1
9
8
3年 に出
された, この調査の最終報告 は,緊急 に対応が必要 な もの として, つ ぎの 4点
を挙 げた。①窒素 とリンによる富栄養化,②水 中の植物 の減少,③有害物質 に
よる水質汚染,④水産資源 の乱獲。 同年,集水域 にある三 つの州 (
ペ ンシル ヴ
2)とワシン トン D.
C.
お よび環境保護
ァニア, メ リー ラン ド, ヴ ァー ジニア)(
庁 (
EPA) は, チ ェサ ピー ク湾の環境 悪化 を認 め, その再 生 に共 同で取 り組
む ことに同意 し, チェサ ピー ク湾 プログラムを発足 させた。
チ ェサ ピー ク湾 プログラムでは広範 な対策が とられているが,富栄養化対策
9
8
7年,窒素 とリン
にお いて,数値 目標 が設定 され た ことが特 筆 に値 す る。1
0
0
0年 まで に 1
9
8
5年の水準比 で 4
0%削減 す る こ とを上
の湾へ の流入量 を,2
C.
,EPA が合意 した。 これ は, コン ピュー タ解析 で
述の 3州, ワシン トン D.
湾の再生 に最低 限必要 とされた値 である。 その後, よ り具体的な窒素 とリンの
0の流域 に分 け, それ ぞれ に削減 目標量 を割 り当
削減計 画 として,集水域 を 1
てた。 そ して,流域 ご とに実行計画 を策定 し, 削減 に取 り組 んでいる。農業部
BMP)の普及 に よって削減 を図 ろ うとしてい
門 は, もっぱ ら最善管理 方法 (
る。 こうした努力の結果, リンについては目標達成が可能 だが,窒素 について
調査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
707
は難 しい と予測 されている。
(3) 農業水質保全費用分担 プログラム
1
) プ ログラムの概要
1
9
8
4年, チ ェサ ピー ク湾 の水質保全 を主 た る目的 として開始 された農業水
質保全費用分担 プログラム
(
Ma
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sha
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m:MACS)は,農業局資源保 全室が所管 してい る。補助 を受
けて BMPを採用 しよう とす る農家 は, その計画 を地元の土壌保全区 に申請 す
る。 この とき,土壌保全 区は,計画 の策定や費用の見積 もりな どに関 して支援
を行 う。農業局 は土壌保全 区か ら提 出 された計画 を審査 し,採択 を決定す る。
補助金交付後,土壌保全区 は,BMPが実施 されてい るか どうか をチ ェ ックす
る。
9種類 (3),補 助 率 は堆 砂 調 整 池
補 助 の対 象 に な って い る BMPは現 在 2
(
s
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o
nt
r
o
lpo
nd,6
5%) を除 いて 8
7.
5%で ある。費用の単価 は物
価 の格差 を考慮 して郡 によって異 な り,かつ毎年見直 され る。1年間 に受 け取
ることがで きる補助 金の上限 は,家畜ふん尿処理関連 の対策 について は一戸 あ
0,
0
0
0ドル (他 の BMPと合 わせ て実施 す る場 合 は 6
5,
0
0
0ドル), その
た り5
他 の BM P に つ い て は ひ とつ の BM P あ た り 1
0,
000 ドル , 一 戸 あ た り 35,
000
ドル となっている(
4)
0
1
9
8
4
-9
8年度 まで に約 10,
0
0
0件 の プロ ジ ェ ク トが実施 され,支 出額 は 4
1
百万 ドル を超 えてい る。1
9
9
8年度 は 4.
5百万 ドルが支 出 された。 これ に よっ
,
4
5
0haの農地 において何 らかの土壌保全が施 され,4
3,
0
0
0トンの土壌
て,4
0,
0
0
0家畜単位 の家畜 に
流出が防がれた と推定 されてい る。 また,合計 で約 3
3
7トンのふ ん尿 の適正処理 が図
対 してふん尿処理対策が行 われ,1日あた り 7
9
8
8年 か ら現在 までの
られ た とされ てい る。第 4表 に補助 対 象 の BMPと,1
補助件数 を示す。草生水路,ふん尿保管施設,傾斜安定化施設 に対す る補助が
多い。
1
08
農業総合研 究
第 4表
第5
3巷第 1号
メ リー ラ ン ド農 業 水 質 保 全 費 用 分 担 プ ロ グ ラ ム の実 績
保全被覆
保全植栽
等高線栽培
畜産関係
1
2
6
5
51
21
小 川の踏 み板 (
家畜用)
河岸柵 (
家畜隔離用)
家畜飲料用井戸
家畜水飲 み場
68
ふん尿保 管池
線植 え
柴鶏堆肥化施設
帯状 フ ィル ター
5
6
4
傾斜安定化施設
1,
0
8
9
草生 水路
2,
5
2
5
右横 水路
2
03
沈砂池
その他
防風林
屋 根排 水 管理
9
日
H
テラス
ふん尿保 管施設
ふん尿用 ラグー ン
21
承 水路
1
03
2
76
帯状 栽培
日
H
2
等高線果樹作
家畜利用 区域保護
1 3 1 18 5 4 62
1 1
6 6
59
4 1 3 5
4
1
72
圃場 内外 の方法
不耕起
4
5
堆砂調整池
9
0
9
河畔緩衝帯
3
資料 :Ma
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on(
1
7
)
.
注. 1
9
8
8
-9
8年度 の補助 件数.
2
) 緊急被覆作物 ・小粒穀物管理向上プログラム
1
997年 は激 しい干ばつ に見舞 われ, ひ どい ところで は収 量 が平年 の 2割 に
まで減少 した。 このため,耕地 に施用 された養分が使われずに とどまり,収穫
後流出 して しまうとい う懸念が高 まった。 また,牧草 の生育 も悪か ったため,
冬場 の飼料不足が予測 された。 そ こで,州 は 9月に緊急被覆作物 ・小粒穀物管
理向 Lプログラムを創設 し,秋 か ら冬 にか けての被覆作物や小粒穀物 (
小麦,
大麦, ライ麦, オー ト麦 な ど)の作付 を奨励 した。州予算 の 2百万 ドル に加 え,
チ ェサ ピー ク湾財 団が 5
0,
00
0 ドル を拠 出 した。 これ に対 し,2,
2
0
0件 の 申 し
0,
0
0
0haが対象 とな った。奨励 金の 1haあた り平均支給額 は,
込 みが あ り,4
6ドル,小粒穀物 で 3
5ドルだ った。
被覆作物 で 6
1
998年 は,チ ェサ ピー ク湾東岸 を対 象 に,冬場 に被覆作物 を植 える場合 の
費用 を補助 す るこ とに してい る。予算額 は 1.
5百万 ドルである。
桐生 ・資料
ア メ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
109
(4) 養分管理計画の普及 と義務化
1
) 茸分管理推進 プ ログラム
養分管理計画 は,作物栽培 に必須 な要素で ある窒素, リン, カ リウムの適切
な施 用 (
量,時期, 方法) をはか り,合理的 な肥料 の使用 と,養分の流出防止
を目的 としている。 したが って,化学肥料 の過剰 な使用が抑 えられ る とい う点
で,環境保全のみな らず,経営 に も資す る ものである。養分管理計画 は,各農
場 ごとに策定 され る。具体的 には,農場 の概要,輪作体系,土壌検査 と期待収
量 か ら算出 した必 要蓑分量,肥料 の種類 (
化学肥料,厩肥 な ど),散布 時期,
方法, ア ドヴァイス (
た とえば,家畜 ふん尿 をよ り多 く使 うための作付体 系の
変更) な どか らなる (
チ ェサ ピー ク湾集水域の例)0
9
8
9年か ら養分管理計 画 の普及 を積
農業局 とメ リー ラン ド大学普及部 は,1
_関が策定
"
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」
.
幾
園 〟
民謡議
「 二
2
0
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3
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5
1
9
9
6
資料 :メリー ラン ド州農業局資料.
第 3岡
メリーランドにおける養分管理計画 Fの農地
1
9
9
7 年度
110
農業総合研究
第5
3巻第 1号
極 的 にすす めてい る。1
993年,
第 5表 養分管理計画コンサルタン トの
画策走者 の資格試験制度 をつ く
公的機関
メリーラン ド大学
り,肥料会社や農薬会社 の コン
usDANRCS(1)・土壌保全区
サル タン トな ど,民間人 も参加
州環境局 ・自治体
画 を農家のために策定す るには,
行政部局,大学,民間 を問わず,
その他 (
州外 を含 む)
民間部門
肥料会社
汚泥散布業者
試験 に合格 し, その後 も適宜講
独立コンサルタント
習 を受 けなけれ ばな らない。 こ
農
家
農薬業者 ・土壌検査機関
あ り, チ ェサ ピー ク湾 プ ログラ
ムに取 り組 んでいる隣接諸州の
人 もメ リー ラン ドの資格 を取得
合
計
9
2
4
の試 みは全国で初 めての もので
R
U7 2
5 3
3n
X
U3
5
4
1
1
23
で きるように した。養分管理計
1
0 3
8 6
0
5
(
X
U6
1
所属別内訳
よ りい っそ うの普及 のため,計
資料 :メ リー ラン ド州農業局資料.
注(
1) 連邦農務省 自然資源保全局.
(
2
)1
9
9
8年 2月現在.
してい る(5)
。
1
998年 2月現在, この資格 を持 ってい る人 は 429人 お り, その うち民 間の
48人 と,全体 の 58% に達 している (
第 5表)
。 い ままでの ところ,民間
人は2
部門 による計画策定 は,肥料会社 な どが顧客サー ビス として無料で行 うとい う
7年 度 末 の 累 計 で
の が ほ とん どで あ る。養 分 管 理 計 画 下 の 農 地 面 積 は,9
400,
000ha (
全農地面積 の 4
7%) を超 えてい る (
第 3図)。
2
) 1
998年水質改善法 一養分管理計画の義務づ け
さらにメ リー ラン ド州 は,実質的 にすべての農家 に養分管理計画 を策定 ・実
施 す る こ とを求 め た,水 質 改 善 法 (
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f
1
998) を 1
998年春 に制定 した。 この法律 は農業だ けを対象 に した ものであ り,
農業局の所管 にな っている。 これ は,前年夏 に起 こった,渦鞭毛藻類 フイステ
997年 夏, チ ェサ ピー ク湾東岸 の河 川
リアの発生 を直接 の契機 としてい る。1
で フ イステ リアが確認 され, それが原因 とみ られ る魚の大量死が相次 ぎ, ノー
スカロライナで起 こった よ うな被 害 の拡 大が懸念 され た。 と くにポ コモー ク
調査 ・資料
ア メリカ大西洋岸 3州の農業環境政策
111
(
po
c
o
mo
k
e
)川で は魚 が 2
0,
0
0
0匹以 上死 に,数十人 が病 気 にかか った。近
年,東岸部で は鶏 の飼養羽数が増加 してお り,確証 はない ものの, そ こか ら排
出, あるいは農地還元 され る, リンを多量 に含 むふん尿が一因ではないか とい
われてい る。
法律で は,養分管理計画の策定 ・実施 を求 める農家 を,売上高 2,
5
0
0ドル以
上または 8家畜単位以上 としてお り,実質的 にすべての農家 を対象 としている。
9
93年 に,経営面積 1エー カー (
0.
4
0
5ha
)あた り
ペ ンシル ヴ ァニア州で は 1
2家畜単位以上の有畜経営 に対 して養分管理計画 を義務化 して いる。 メ リー ラ
ン ドの対象 は実質全農家であるため,全国で最 も厳 しい規制 である といわれて
いる。
規制 の実施 は,化学肥料 を使 っている農家 に対 して,窒素 お よび リンに関す
0
0
1年末 までに策定 し,2
0
0
2年末 まで に実施 す る ことを求 めてい る。
る計画 を 2
厩肥 または汚泥 (6)を使 っている農家 は,窒素 に関す る計画 を同 じスケ ジュー
ルで, リンに関 しては 3年遅 れのスケジュールで策定 ・実施 が求 め られてい る。
農業局 は計画 を受 け取 り, それが実行 されているか どうか を圃場 で確認す る。
計画 を策定 しなか った り,実施 を怠れ ば罰金の対象 とな り,費用分担 プログラ
ムの補助 を受 けている場合 は,返還 を求め られた り,今後 の補助 金支給が不利
になるな どのペナルテ ィーが課せ られ る。
養分管理計画の義務化 に伴 い,民間部門 に計画策定 を依頼 す る場合 は,費用
分担 プログラムか ら費用の半額補助 (
上限 は 1エーカー あた り3ドル) を受 け
る ことがで きる。加 えて,土壌保全区の増員や税 の控除 も行 われ る見込 みであ
る。
フ イステ リア との関連が疑われている養鶏部 門 に対 して は, さまざまな施策
0
0
0年 まで にフ イタ-ゼ (
酵素 の一
が考 えられている。 まず,購入飼料 には 2
種)な どの,ふん尿 中の リンの量 を減 らす物質 を添加 しなけれ ばな らない。 ま
た,農業局 は,鶏糞の実需家 を紹介す るサー ビスや,鶏糞輸送の プログラムを
7)
0
始 める ことに している(
11
2
農業総合研究 第 5
3巻第 1号
(5) 保全休耕向上 プログラム
CRP) は,前述の とお り,USDA の環境施 策の中で
保全休耕 プログラム (
現在最 も多額 の資金が投入 されているものである。1
9
9
7年,UsDA は このプ
ログラムの規則 を改正 し,特定地域の環境改善をすすめるため,い ままで より
手厚い施策 をとることがで きるような仕組みを導入 した。 これが保全休耕向上
Cons
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ogr
am :CREP)であ
プログラム (
る。 このプログラムで は,USDA が各州 と地域, 目的,金額,事業規模 な ど
について取 り決 めを行 う。 メ リーラン ドは USDA と取 り決 めを交わ した最初
1
9
9
7年 1
0月)(8)0
の州である (
メ リーラン ドの CREPは,チ ェサ ピー ク湾保全 のため,河川沿 いの耕地 ・
牧草地 を生産か ら引 き上 げ,林地 や草地 に した り,湿地 を復元 す る場合 に,
CRPの地代 に加 え植林や湿地の復元 に要す る費用 を補助 するものである。
従来の CRPは募集,契約の時期 が決 まってお り,応募案件 の うち環境便益
指数の高 い もの を採択 してい る。CREPで は,対象 とす る場所 (メ リー ラン
ドの場合 は河畔地) と補助対象 となる BMPの環境 に対す る有効性が明 白であ
るとい うことか ら,いつで も契約が結べ るようにな っている。
地 代 につ い て も,CRPで は,農 家 は希 望 地 代 を申告 す る仕 組 み だ が,
CREPではその地点の平均地代 に一定率 を上乗せ して地代 を支払 う(
9)
。その
上乗せ率 は,植林す る河畔地が 7
0%,樹木以外 の植物 を植 える河畔地 または
湿地 にす る土地 は 5
0%である。林地の上乗せ率が高 いの は,生物の生息地 と
しての価値 と水質改善の機能が高い とされ るためである。 また,その土地所有
者 は,恒 久地役権 (10) の買い取 りを州 に求 めることもで きる。
0
0% (
USDA5
0
土地利用の転換 費用 に対 す る補助 率 は,林地への転換 が 1
%,州 3
7.
5%,環境保護団体 (
l
l
)1
2.
5%), その他 の植物 が 9
5% (
USDA5
0
%,州 3
7.
5%,環境 保護 団体 7.
5%),湿 地 が 7
5
-1
0
0% (
USDA5
0
-7
5%,
環境保護団体 2
5%) となっている(12)。
このプログラムの目標面積 は,川沿いの林地,草地が 2
8,
3
5
0ha (
7
0,
0
0
0エ
ーカー)
,湿地が 4,
0
5
0ha (
1
0,
0
0
0エーカー),河川か ら 3
0
0m 以 内の侵食性
調査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
11
3
指数 1
5以 上 の土地 8,
1
0
0ha(
2
0,
0
0
0エ ー カー)で あ る。CREPには USDA
と州 とをあわせて約 2
0
0百万 ドルが支 出 され ることになっている(
1
3
)
。
(6) 土壌保全区- 環境施策の実施機関
1
) アメ リカ固有の農家窓 口機関
土壌保全区 は,州 ・連邦 の費用分担 プ ログラムの受 け付 けや,BMPの技術
支援 な ど,農業環境政策 を実施す るための機関 として重要な役割 を担 っている。
ここで は, このアメ リカ独特 の組織 について解説す る。
DAの土壌保 全対 策 を実
土壌保全 区 (14) は,土壌保 全局 の設 置 に始 まる US
施 す るための現場機関 として,全国に設置 された。 これ は,州法 に基づ く州政
府 の機関であ る(15)。担 当区域 は郡域 と同 じだが (16),郡政府 の一部 で はない。
郡 や 自治体 は,土地利用 に関わ る権 限 は有 してい るが,農業政策 は所管外で あ
DAが農業政策 を担 当 してい る。 したが って,土壌保全 区 は,農
り,州 と US
家 に とっての農業政策 の窓 口である。
0人弱で,土壌保全 区 に所属す る人 もいれ ば,UsDAや
ス タ ッフは数人∼1
州農業局の職員 もいる。人件費な どの運営費 は,連邦,州, 自治体 が支出 し合
っている。 また,5人の理事か らなる理事会が議決機関である。
2) 土 壌 保 全 区 の 兼 務
土壌保全 区の業務 は, メ リーラン ドの場合,つ ぎの ような ものである。
①
BMPの採用 ・設置 に関わ る技術 支援 :州 ・連邦 の費用分担 プログラム
に よって行われ る ものに加 え,補助金 を受 け取 らない 自発的 な取 り
組 みについて も支援 す る。
②
費用分担 プログラムの農業局への応募 :メ リーラン ドの場合,個々の案
件 を採択 す るか どうかは農業局が決定す る。土壌保全 区は,農家の
申 し出 を受 け, プログラムの対象 となるか どうか検討す る とともに,
その費用 を見積 もり, 申請書の作成 まで行 っている。
・
③
9
8
5年農業法 で,侵食 しや す い
農家 ごとの土壌 ・水保 全計 画 の策定 :1
耕地 を持 ってい る農家 は,商品 プログラムな どの支払 いを受 ける条
114
農業総合研 究
第5
3巻第 1号
件 として,土壌 ・水保全計画の策定が求め られるようになった。 ま
た,州 として も,計画 を策定 し,農家 に実施 して もらうよう努 めて
いる。
④
養分管理計画の策定 :土壌保全区に養分管理計画 を策定す る資格のある
職員がいる。
(
参 開発 ・建設 に伴 う土壌流出防止計画の認可 :州 は,宅地や シ ョッピング
センターな どの開発 に関 し,建設中および完成後の面源汚染防止策
の策定 ・実施 を求めている。 この計画の認可 を土壌保全区が行 って
いる。
⑥
環境教育 ・啓発 :農家だけでな く,一般の人々や子供 に対す る環境教育
を行 っている。た とえば,家庭で芝生や植木 に農薬 ・肥料 をどう使
えば,環境への影響が減 らせ るか といった ことを指導 している。
このように,土壌保全区は土壌保全 ・水質保全対策全般 を手がけてお り,磨
家以外の人々をも対象 としている。
注(
1
) 以 下の記述 は,Che
s
ape
akeBa
yPr
ogr
am 〔9〕 に よる。
(
2) この ほか, ニ ュー ヨー ク, デラウェア, ウェ ス トヴァー ジニ アの一部 も集 水域 に含
まれ る。
(
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1
7
]
に よる。
(
4) 複数 の農家が関 わ る計 画 の場 合, その他 の
BMPl種類 あた り 2
0,
0
0
0ドルが上限で
ある。
(
5
) 現在で は, ヴ ァー ジニア,ペ ンシルヴ ァニア両州 も同様 の制度 を持 ってい る。
(
6) メ リー ラ ン ドで は下水汚泥 の 80% が土壌 還元 され てお り, 農地 へ の還 元 は, 発生
量の約 600
/
.となって い るo
(
7) 州 は, 鶏糞 の輸送 に対 し,1トンあた り 2
0ドル程度 の補助 を検討 して い る。
(
8)1
9
9
8年末時点 で,CREPは メ リー ラ ン ドの ほか, ミネ ソタ, イ リノイ, ニ ュー ヨ
ー ク, ワシン トン, オレゴンで始 まってお り, ノー スカロラ イナ, デ ラウ ェア,ペ ン
シル ヴ ァニ ア, ヴ ァー ジニ ア, フロ リダ, カ リフ ォルニ ア, ユ タの 各州 が USDA と
交渉中であ る。
(
9)1
9
9
7年 1月現在 ,cRPで USDA が支 払 って い る年間地 代 は, メ リー ラ ン ド州 の
鯛査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
115
平均で 1
0aあた り 1
8ドルである (
USDA,Far
m Se
r
vi
c
eAgenc
y〔
3
2,p.
3
5
〕)
。
(
1
0
) 地役権 (
e
as
e
me
nt
)を譲渡 す る と,所有権 は移転 しない ものの,現状 の土地利 用
を変更す ることがで きな くなる。公的機関 ・非営利団体 による地役権 の買 い取 りは,
農地の転用 を防 ぐためによ く用い られ る手法である。
(
l
l
) 渡 り鳥 (
お よびその生息地 として重要 な湿地)の保護 を目的 としている Duc
ksUn1
i
it
m
e
d と,チ ェサ ピー ク湾保護 を目的 としてい るチ ェサ ピー ク湾財 E
Bが参加 して い
るO
(
1
2
) このほかに,家畜の河川への侵入 を防 ぐい くつかの BMPで 1
0
0%補助 が得 られ る。
(
1
3
) その他の施策 として,農薬関連施策 と土地利用規制 とについて紹介 してお く。
1
) 農薬関連の施策
特定の農薬の散布 に関 して は,州の資格が必要で あるo 資格 には,農家が
自分 の耕地 に農薬 を散布 す るた めの個 人用 と,散布 業者用 とが あ る。1
9
9
7
年時 点 で,有資格 者 は個 人用 が 4,
4
3
8人,業 者 用 が 3,
6
5
8人 で あ る (
Mar
16
,p.
4
7
〕
)
0
yl
andDe
par
t
me
ntofAgr
i
c
ul
t
ur
e〔
また,1
9
9
3年か ら,農薬容器回収 プロ グラム を ゴ ミ処理 業者 と共 同 で行
ってい る。7
-9月の間 (
一部 6月か ら) H l回,州 内 9か所 で農薬 容器 の
l
E
l
川又を行 っているO集め られた容器 は,洗浄後裁断 され,再利用 に回 され る。
1
9
9
7年 は 3
7,
0
0
0個の容器 を回収 したo加 えて,使用が禁止 された, あるい
はイく要 にな った農薬のl
n
川父処 分 も行 って い る01
9
9
7年 は 4トン以上 の農 薬
を回収 した。
2
) チ ェサ ピ-ク湾岸の土地利用規制
1
9
8
4年,チ ェサ ピー ク湾保全 のため,湾岸 の帖 3
0
0m の地帯 を保全地域
(
c
r
i
t
i
c
alar
e
a)に指定 し, そこでの土地利用 を制限す るようにな った。農
業 についてだけみる と,一定の開発規制 がか けられ,州 の承認 した B
MP採
用計画の実行が求 め られている。 また,現在の 自然植生や湿地 をな くす こと
も禁 じられている。
(
1
4
) メ リーラン ドでの名称O州 によって呼ひ方は異なるが,土壌 ・水保 全区 と称 して い
Tr
amandChuang 〔
2
8
〕)
0
る州が最 も多 い (
(
1
5
)
USDA は,事業の実施 を全面的 に州 に委任 す る とい うこ とは,一般 に していない。
農家 との摘品 プログラム (
c
ommodi
t
ypr
ogr
am)の契約手続 きな ども,農家 サー ビ
ス庁 (
Far
m Se
r
vi
c
eAge
nc
y)が現地事務所 を置 き, そ こで行 っているO州の統計部
)
A の職 員が配置 されている。土壌保全 区に も, 口然資源保全尚 に所属 し
門には USL
ている人が配置 されている。
(
1
6
) メ リー ラン ドで は, フレデ リック (
Fr
e
de
r
i
c
k)郡 にだけ 2つの土壌保全 区が置 か
れている。
116
農業総合研究
第5
3巻第 1号
5. ニューヨーク州の農業環境政策
(1) 農集の概要
ニ ュー ヨーク州 は,大西洋上のロングアイラン ド島か ら五大湖東部のオンタ
2
7,
2
87km2
,人 口は 1,
81
4千人
リオ湖,エ リー湖 まで広が っている。面積 は 1
(
1
9
95年)で, その半数近 く (
47%) はニ ュー ヨー ク市 とその周辺 に住 んで
93
8千 h
a
,農家数 は 3
2,
0
0
0戸で,一戸 あた り平均 93ha
いる。農地面積 は 2,
である (
1
9
97年農業セ ンサス)。農業生産額 でみる と,牛乳,牛肉, リンゴが
3大品 目である。そのほかに, じゃがい もやキャベ ツをは じめ野菜の生産 も多
0
い (1)
ニ ュー ヨークの酪農 はウィスコンシン,カ リフォルニアについで全米第 3位
であ る。1
9
97年の牛乳生産量 は 5.
2
3百万 トン,1.
5百万 ドルで,州 の農業生
9
9,
0
0
0頭で,
産額の約半分 を占める。生産量 は横 ばいだが,乳牛の飼養頭数 は 6
微減 している。
(2) 環境の状況
ニ ュー ヨー クでは,州内すべての河川 と湖沼の水質調査が行われている。何
らかの汚染がみ られたのは,河川では総河川長の 7% にす ぎないが,湖沼では
3% に 上る。主要 な汚染源 として,河川汚染 の 7
8%,湖沼汚染 の
総面積 の 5
82% において農業が挙 げ られてお り,第 1位 にな ってい る。 また,栄養塩類
が最大の汚染原因 に指摘 されている (
河J
t
l
で8
50
/
.,湖沼 で 7
3%)。病 原菌 の
割合 も河川では 4
3% と高い (
湖沼では 2
8%)。
農業の分野で環境への影響が問題 になっているのは,畜産である。 コ-ネル
大学が 1
99
7年 に行 った,酪農家へのア ンケー ト調査 (2)による と,37% が こ
の 5年間に周辺住民か らの苦情 あるいは行政部局か らの問題の指摘 を受 けてい
2% と最 も多 く,ついで路上のふん尿 (
牛が道路 を
る。 その内容 は,悪臭が 4
横切 るとき, またはふん尿の運搬時 にふん尿 を落 としてい くことへの苦情 ,2
6
調査 ・資料
%),水質汚染
ア メ リカ大 西洋岸 3州 の農業環境政 策
117
(
1
7%)な どとな っている。
悪臭や路上のふん尿 は局地的 な問題 だが,水質汚染 は影響範 囲が広 い。ふん
尿 に含 まれ る汚染物質 は,栄養塩頬で ある窒素 とリンが主体 だが,近年,病原
9
9
3年の ウ ィス コンシ ン州 ミル ウ ォー キ
性微 生物 が問題 になって きてい る。1
ー市での ク リプ トスポ リデ ィウム (
c
r
ypt
os
por
i
di
um) による水道水汚染で は,
4
0
0,
0
0
0人が病気 にかか り,死者 も 1
0
0人 に達 した。 この事件 での寄生虫 の潜
入経路 は解明 されていないが,家畜 ふん尿 にはク リプ トスポ リデ ィウムや ラン
gi
ar
di
a) をは じめ さまざまな病原菌 の存在 す る こ とが知 られて
ブル鞭毛虫 (
い る。 このため,水道水源 の保全のために も,家畜ふん尿 の適切 な処理が求 め
られてい る。
しか し,現在 の家畜 ふん尿処理 に問題 がない とはいえない 。前述 の コ-ネル
0%以上 のふん尿 を毎 日散布 す る と答 えた農家が 6
3% もい
大学 の調査で は,9
た。冬の凍結 した農地 にふん尿 を散布 すれば, そ こに とどまらず,容易 に水系
に流 出 して しまう。 また,土壌検査 を 5年 に 1回以上行 わない と答 えた農家 は
27% に とどまったが,ふん尿 の成分検 査 を 5年 に 1回以 上行 わ ない と答 えた
00
/
.に上 ヮ,養分管理計画 に従 っていない とい う答 え も 5
5%あったO
農家 は 8
(3) 農業環境管理 プログラム
農業環境管理 (
Agr
i
c
ul
t
ur
alEnvi
r
onme
nt
alMana
ge
me
nt:AEM)プロ
グラムは,農家が環境 に配慮 した農業 を営 む ように支援 す る,包括的 な仕組 み
で ある。 これ は,今 までの施策 に代わ る, あるいはそれ に加わ る新 たな施策 と
い うよ りは,現行の制度 と組織 を有機的 に連携 させ,総合的 に環境 問題 に対処
9
9
5年,知事 の発案 で
しよ うとす る枠組 み とい うべ き もので あ る。AEM は 1
始 ま り,翌年二 つの集水域 でパ イ ロ ッ トプログラムを発足 させ た (
3)
。農業 ・
DA,農業 団体,環境 保護 団体, その他 さ
市場局,環境保 全局,保健 局 ,US
まざまな組織が参加 しているが,州土壌 ・水保全委員会が全体 の方向付 けを行
っている。
農業環境管理 プログラムの特徴 は,地域主導 とい うことであ る。集水域 を単
11
8
農業総合研究 第 5
3巻第 1号
位 として,土壌 ・水保全 区, コ- ネル大学普及部 ,USDA の ス タ ッフが共 同
してプログラム をすすめる。 プログラムは,五つの段階か ら構成 されてい る。
① 農家 に対 す るア ンケー ト :農家 に簡単 なア ンケー トに答 えて もらい,環
境 への影響が出ているか, またはそのおそれが あるか どうか診断す
る。
②
ワー クシー トの記入 :ア ンケー トで問題 があ りそ うだ と診断 された項 目
5項 目) について,農
(
ふ ん尿管理,農薬使用,土壌 の状 態 な ど 1
家が ワー クシー トを記入 し,具体的 に問題 を把握 す る。
③ 対策の立案 :ワー クシー トで明 らかになった問題 について,土壌 ・水保
全区の職員, または民間の コンサル タン トの協力 を得 て,農家が対
策 を立て る。
④
対策 の実施 :最善管理 方法
(
BMP)を採用 す る とい う形 が一般 的 で あ
る。 その さい,農家 は費用補助 を申請で きる。
⑤
対策の フォローア ップ :対策が農家経営 と環境 に どうい う影響 を及 ぼ し
たか をチ ェックす る
。
アンケー トや ワー クシー トによって問題 を明 らか に して,農家の取 り組 み を
支援 す る とい うの は, ウィスコンシン州で考案 され各地 に広 まってい る農場評
Far
m*
A*
Sys
t
) の考 え方 を採 り入れた もので ある。 また,第 3段
価 システム (
階の対策 とは,土壌 ・水保全区が従来か ら農家のために策定 して きた,土壌保
段階での B
MPの実施
全計画や家畜ふん尿管理計画の ことを指 している。第 4
に際 して,州や連邦 か ら費用補助 が受 け られ る。 また, プログラムの運営 に当
た っては,州 お よび連邦 の複数の財源か ら資金が提供 されている。
この ように,AEM プログラムは,既存の組織 と制度 を まとめ,農家が水質
保全 を中心 とす る環境 問題 に対処で きるように工夫 されている。 したが って,
現在のニ ュー ヨー ク州の農業環境対策 は,すべて この中の一部 である といえる。
1
9
9
8年 の時点 で州 内の全 6
2郡 の うち 4
9郡 が この プ ロ グラム に取 り組 んでお
0
0
0戸 (
全農家の 1割強)である。
り,参加農家 は 4,
羽生 ・箕料
ア メ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
11
9
(4) 農業面源汚染除去 ・制御 プ E
lグラム
ニ ュ ー ヨ ー ク 州 農 業 面 源 汚 染 除 去 ・制 御 プ ロ グ ラ ム (
Agr
i
c
ul
t
ur
al
Nonpoi
ntSour
c
eAba
t
e
me
ntandCont
r
olPr
ogr
am)は,農業環境管理 プ
ログラムにお ける計画策定 ・実施 に関わ る経費 に対 して,州が補助金 を交付 す
る制度である。 このプログラムは,土壌 ・水保全委員会が所管 している。財源
9
9
6年水 質 ・大 気浄 化 債 法 (
Cl
e
an Wat
e
r
/
Cl
e
an
は,州環境保 護 基 金 と,1
t
) による資金か らな る
Ai
rBondAc
。
これ は,土壌 ・水保全区 (
集水域 が複数の区に またが っている場合 は, その
グルー プ)が土壌 ・水保全委 員会 に応 募 す る, とい う仕組 み にな ってい るo
BMPの実 施 だ けで な く,第 1
-3段 階 の経 費 も補 助 対 象 とな って い る。土
壌 ・水保全委員会 は,環境問題 の深刻度,対策 の予想 され る効果,効率 な どを
勘案 して交付対 象を決定す る。BMPの費用 に対 して は,農家の 自己負担が な
い場合 は 7
5%, 自己負担がある場合 は負担 に応 じて 9
0% まで補助金が支給 さ
0種類 で ある。家畜 ふん尿保 管施設,畜 舎周辺
れ る。対象 となる BMPは約 3
整備 (
bar
nyar
dmanageme
nt
)
,養 分 管 理,帯 状 フ ィル ター へ の補 助 が 多
o BMPの実施 に対 して,1
9
9
5-9
8年 の間 に総額 8.
3百万 ドルが支 出 さ
い (1)
れた (5)0
(5) ニュー ヨーク市水源地農業 プログラム
1) プログラムの経緯
農業環境管理 プログラムは, い くつかの集水域 プログラムの展開 を うけて,
地域密着型の環境対策 を州全体 に適用 しようと始 め られた。集水域 プログラム
の中で, ニ ュー ヨー ク巾水源地農業 プログラム (
Ne
w Yor
kCi
t
yWat
e
r
s
he
d
0
Agr
i
c
ul
t
ur
ePr
ogr
am)はその最初 の取 り組 みである(6)
プログラムの発端 は,1
9
8
6年の連邦安全飲料水法 (
Saf
e Dr
i
nki
ng Wat
e
r
Ac
t
)の改正であった。 この法律 は,適切 な集水域管理 プ ログラム を もたず に
地表水 を水道 に使 う場合 は,浄水場 での渡過 を義務 づけた。ニ ュー ヨー ク市 は,
-8百万 ドル,年 間維 持 費
この費用 が か な りの額 にな る と見込 み (
建設 費 5
120
農業総合研究
第5
3巻第 1号
0.
2
-0.
5百万 ドル),代替策 として,市民 とその周辺住民 9百万人 の水道水源
の9
0% を頼 って い る,市 北部 の キ ャ ッツキル ・デ ラ ウ ェア (
Cat
s
ki
l
l and
De
l
awar
e)集水域 の農家 に対 す る規制 を提案 した。 それ は,農家か らの排水
や廃棄物 を水系に流入 させてはな らず,ふん尿の保管や農地還元 は水系か ら一
定距離以上お くことな どの,厳 しい ものだ った。 これ に農家側 が,営農が続 け
られ な くなる として強 く反発 し,市 との話 し合 いの結果,農家が適切 な対策 を
とるのであれば,農業 は離農 した場合の土地利用 よ りも環境面か らは望 まし く,
もし水源地が開発 されれ ば,水質 は改善 されず,結局 フィルターが必要 になっ
て しまうであろう, とい うことが確認 された。
2
) 農場全体計画 を柱 とす る対策
こうして,水源地農業 プログラムが 1
9
9
2年か ら始 まった。 ここでの手法 は,
農家の 自発的取 り組 みを奨励 し,土壌 ・水保全区な どが協力 して個々の農家の
whol
eFar
m Pl
an)を策定 し,水質保全 のための BMPを実
農場全体計画 (
0人 と市環境
施す る とい うものであ る。 プログラムの推進 に当た って,農家 2
保護局, それにア ドヴァイザ-たちか らなる水源地農業協議会がつ くられた。
0戸 の農家で実証 プロジェ
第 1期 は 2年間で,5百万 ドル を市が支出 した。1
9
9
3年 1月 には, こうした経過 を見 て環境 保護 庁 が条件 付
ク トが行われ た。1
きで フィル ター を設置 しな くて もよい との決定 を下 した。
1
9
9
4年秋 か ら, プログラムは第 2期 に入 った。5年間 に 3
5.
2百万 ドル を市
0
0戸 の うち 8
5%の参加 を目標 に掲 げてい
が支給 す る。対 象地域 にあ る農家 5
る。BMPに対 す る補助 金 は 1戸 あた り平均 7
5,
0
0
0ドル とな って い る。1
9
9
8
年の時点 で,参加 農家数 は 3
1
4戸,農場全体計画 は 1
7
0戸 ,21,
5
0
0haについ
7
6の BMPが実施 されている。
て策定 され,7
3) 保全休耕 向上 プE
)グラムの導入
1
9
9
8年 4月,ニ ュー ヨー ク市水源地農業 プロ グラム に保 全休耕 向上 プ ロ グ
ラム (
CREP)が導入 された。 これ は,侵食 しやすい土地, お よび河畔 に植物
0
2
5ha
を植 えて水質 を保全 しよ う とい う もので あ る。 目標 面積 は,全体 で 2,
0ha (
2,
0
0
0エー カー) を割 り当 て
(
5,
0
0
0エー カー), うち河 畔緩衝帯 に 81
明査 ・資料
アメ リカ大西洋岸 3州の農業環境政策
1
21
ることにしている。
侵食 しやすい土地 (
侵食性指数 8以上の土地) は,植物 を植 えるか,野生生
物の生息地 とす ること,河畔緩衝帯 は植物 を植 えるか,湿地 にすることが条件
である。 その費用 は全額補助金で まかなわれ,USDA とニ ュー ヨー ク市 とが
半分づつ負担する。 また,地代 は,通常の保全休耕 プログラムで適用 されてい
る郡 ごとの地代 の 2倍 プラス 1エーカーあた り 5ドルの維持費が USDA か ら
5
0ドル (
1
0aあた
支払われ る。ただ し,河畔緩衝帯 で は 1エー カー あた り 1
り3
7ドル),浸食 しやすい土地で 1
0
0ドル (
1
0aあた り 2
4.
7ドル)が上限で
ある。プログラムの費用 は総額 1
0.
4百万 ドル と見込 まれてお り,ニ ュー ヨー
7百万 ドルを,残 りを USDA が負担す る ことになって
ク市 が約 4分の 1の 2.
いる(
7)
。
注(
1
) 州農業統計部資料 による。
(
2) 回答数 は 47
0で, これは州内の酪農家の 5%にあたる。
(
3
) ワ ッピンガー川 (
wappi
nge
rCr
e
e
k)流域 とキューカ湖 (
Ke
ukaLake)集水域 の
プロシェク ト。 ワッピンガー湖では富栄養化がすすみ,大腸菌 の数 も増 えたため,水
遊 びや釣 りに適 さな くな って いる。 キ ュー カ湖の水質 はよいが, この 2
0年で農地が
1
0%増加 した こともあ り,予防的な水質保全対策 として AEM を開始 した。
(
4) コ- ネル 大 学 農 業 ・生 物 」二学 科 の バ ー バ ラ ・ぺ ロ ウ ズ 博 士 (
AEM の 広 報 ・教 育 責
任者)か らの聞 き取 りによる。
(
5
) Ne
w Yor
kSt
at
eSoi
landWat
e
rCons
e
r
vat
i
onCommi
t
t
e
e〔
2
0
〕 による。
(
6) プログラムの経緯 と実績 については,ChapmanandCoombe〔8〕,Mol
l
y〔
1
8
〕
お よび鈴木 〔2〕 を参考 にした。
(
7) その他の集水域 プロ グラムで も, それ ぞれ特 色が み られ る。 スケ イ ンア トレス湖
(
skane
at
e
l
e
sLake)の場合,水道水質 の確保 を目的 としてお り,供給 を うけて い
るシラキ ュー ス (
Syr
ac
us
e)市が資金 を提供 してい る。 また,サ スケハ ナ川上流域
(
Uppe
rSus
que
hannaBas
i
n)では, この川がチェサ ピー ク湾 に注 ぐ最大の川 とい
うこともあ り,E
PAのチ ェサ ピー ク湾 プログラムの資金 を得てい る。
1
22
農業総合研究
第5
3巻第 1号
6. おわ りに
三っの州の農業環境政策 を概観 した。最後 に,若干の考察 を行 う。
(1) 連邦の政策 との比較
顕著 な水質汚染がみ られ る州 は,連邦 よ り積極的な, また よ り厳 しい施策 を
実施 している。 ノースカロライナでは,豚 の飼養頭数が急増 したため,養豚場
の立地規制や新規 ・規模拡大の一時停止の措置が とられている。 メ リー ラン ド
では,チ ェサ ピー ク湾 の水質保全のため,事実 上すべての農家 に対 して養分管
理計画の策定 ・実施 を求 める水質改善法が成立 した。 また, 各州で独 自の取 り
組 みがみ られ る。 その例 として, ノースカロライナでの点源 ・面源排 出取引,
メ リーラン ドでの養分管理計画の普及 とその資格試験制度,ニ ュー ヨー クにお
ける,既存の制度 ・組織 を有機的 に連携 させた農業環境管理 プログラムが挙 げ
られ る。
施策の量的な比較 は,予算や実績 に関す る詳 しい資料が入手で きなか ったた
DAの費用分担 プ ロ
め, なか なか難 しい。 ここで は,断片的 で はあ るが,US
ACP) と,各州 の
グラム予算 の半分以 Lを占めていた農 業保全 プ ログラム (
費用分担 プログラムの予算 とを比べてみ る。第 4図 には,資料の得 られた農業
9
9
6年度 の各州へ の配分額 と,各州 に よる費用分担 プログ
保全 プログラムの 1
9
9
5年か ら予算額 が大幅 に
ラムの予算 を掲 げてあ る。農業保全 プ ログラムは 1
6年度 の 2倍 近 くの額 で あ った 9
4年 の値 を参考 に載 せ て あ
減 少 したので,9
る(1)。
ノー スカロライナ とメ リー ラン ドは,農業保全 プログラムの配分額 を大 き く
9
9
6年以 降,農業環境 管理 プ
1
二
回 る資金 を投 入 してい る。ニ ュー ヨー クは,1
8年度 は 4.
5百万 ドル に達 してい
ログラムの展 開 に伴 い,予算額 を増 や し,9
る。 また, ニ ュー ヨー ク市 も別途資金 を提供 している。 この ように,各州 は規
模 において も,連邦の施策 の単 なる補完物で はない, それ と並ぶか上 回 る施策
調査 ・資料
ノースカロライナ
アメリカ大西洋岸 3州の農業環境政策
メl
)-ラン ド
1
23
ニュー ヨーク
資料 :UsDA 〔
3
0
〕・〔
31〕, 各州の資料 による.
注.ニ ュー ヨー ク州の費用分担 プログラムは,1
9
9
5-9
6年度の数値である.
第 4図
費用分担 プ ロ グラムの予 算額
を行 っている とみることがで きる(2)
0
(2) 施策の成果 と広が り
それぞれの州で, プログラムの成果 (
水質への影響) について尋ねたが, い
ずれ も,効果が現れ るまでには まだ時間がかか るだ ろ うとい う答 えだ った。因
果関係 を明確 に しに くい とい うこともあるが,水質のモニ タ リングが十分 に整
備 されていない とい うことであった。 さらに,現在 のプログラムが費用効果的
であるか どうか を評価 す ることは, ア メ リカで もこれか らの課題で ある。
では, これ らの対策 は どの程度すすんでいる とい えるのだ ろうか。 あ とどの
くらいの対策が必要なのだろうか。 この問いに も答 えが出 しに くい。現状 の把
握 も完全 だ とはい えないか らだ(
3)
。 そ こで,環境施策 は,問題 が起 きてい る
か, また起 きるおそれが あるか どうかの診断か ら始 め られてい る。 とくに, ニ
ュー ヨー クの農業環境管理 プログラムで は, アンケー トとワー クシー トを使 っ
た問題発見の システムを採 り入れた点が注 目され る。
1
24
農業総合研究
第5
3巻第
1号
(3) 農業環境政策の今後
ア メ リカの農業環境政策 は,農家の 自発的取 り組 みを助長 す る仕組み を各種
取 りそろえて きた。農業サイ ドで は, この方法が有効で あ り,規制 は望 まし く
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ない, とい う認識で一致 しているようだ (
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)
。 しか し,環境 問題が深刻 な ノー スカ ロライナや メ リー ラン ドで は,
規制的 な施策 の導入 も始 まっている。 とはい え, ヨー ロ ッパ でみ られ るような,
家畜の飼養密度や単位面積 当た りの厩肥投入量 の規制, あるいは家畜頭数の総
量制限 とい った,本格的 な規制 は まだ現れていない。今後, アメ リカで規制 的
手法が広が るか どうか は,環境 問題が どれほ ど悪化す るか とい うことと,農業
環境管理 プログラムの ような 自発的 ・地域的取 り組 みや, タール ・パ ム リコ川
での取引 プログラムの ような経済的効率性 を考 えた手法が どれだ け成功す るか
にかか っている。
い うまで もな く, ア メリカ農業 は日本農業 とかな り異 なる。環境保全的農業
技術 に して も,養分管理や総合的病虫害防除 とい った ソフ トの方法 は もちろん
アメ リカに もあるが,草木 を植 えた り施設 をつ くった りとい うハー ドの比重が
日本 よ り高 いように見受 け られ る。 しか し,施策の考 え方, すすめかたには学
ぶべ き点がある。 とくに,ニ ュー ヨー クで とられているような,予防的対策の
考 え方 と,農業の環境 への影響 を診断す る手法が重要であ ろう。
注(
1
) 農業保 全 プ ログラムの,USDA の費用分担 プログラム予算全体 に占め る割合 は,
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(
2) 各州 とも近年予算 を増額 しているが,聞 き取 りでは, もっと多 くの予算が必要 との
指摘が あった。
(
3) メ リー ラン ドの土壌保全 [
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では,職員の不足か ら,半数以下の農家 に しか技術支援
がで きない とい う (
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いないためか,対策 を必要 とす る農家 はそれ ほ ど多 くない との ことであったo
調査 ・資料 アメリカ大西洋岸 3州の農業環境政策
〔
参
考
〔1〕 北村喜宣 『
環境管理の制度 と実態-
1
25
文 献〕
アメ リカ水環境法の実証分析-
』(
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〔2〕 鈴木宣弘 「米国の畜産環境 政策 の考 え方」(
『日刊酪 農経済通信』第 1
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〔3〕 立川雅司 「ア メリカにお ける農業環境問題 と政策」(
『農総研季報』第 2
9号,
1
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6年 3月),9
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1
7ペー ジ。
〔4〕 服部信司 『先進国の環境問題 と農業』 (
富民協会 ,1
9
9
2年)0
〔5〕 服部信司 『大転換するアメリカ農業政策』 (
農林統計協会 ,1
9
9
7年)0
〔6〕 本郷秀毅 ・藤野哲也 「米国の環境規制 と生産地域 の動向して-
」(
『
畜産の情報
養豚業 を中心 と
(
海外編 )
』1
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第5
3巻第 1号
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