沖縄本島主要ビーチの津波危険度評価

IV-062
土木学会西部支部研究発表会 (2008.3)
沖 縄 本 島 主 要 ビーチ の津 波 危 険 度 評 価
琉球大学大学院
琉 球 大 学
学生会員
正 会 員
志良堂
神 谷
貴紘
大 介
1 . はじ めに
沖 縄 本 島 で は 、M7. 8 規 模 の 地 震 に よ る 津 波 被 害 が 想 定 さ れ て い る 1 ）。こ こ を 訪 れ る 観 光 客（ 年
間 500 万 人 以 上 ） の 多 く は ビ ー チ リ ゾ ー ト を 目 的 と し て お り 、 そ の 影 響 は 観 光 客 に も 及 ぶ と 考
えられる。このため、従来の地域防災計画において明確な対象とされていない観光客を含めた
津波減災計画が必要である。そこで本研究ではビーチを対象とし、津波発生時の避難行動に着
目して主要ビーチの津波危険度評価を行う。
2 . ビ ーチ 別 の 津 波 危 険 度 評 価
2 . 1. 評 価 方 法
評 価 対 象 は 、本 島 内 で 年 間 利 用 客 数 が 1 万 人 を 超 え る 主 要 ビ ー チ 21 ヵ 所 で あ る 。こ れ は 次 式
を 用 い て 行 う 。 式 （ 1） は 、 津 波 発 生 か ら 第 一 波 到 達 ま で に 避 難 が 完 了 す る か 否 か を 示 す 。
(i = 1,2,･･･, n)
Ti f t i （ 1）
（ 2）
t i = L1i s1 + L2i s 2
こ こ で 、T i ; 津 波 第 1 波 の 到 達 時 間（ m i n ）、t i ; 避 難 完 了 時 間（ m i n ）、 L ; 砂 浜 で の 歩 行 距 離（ m ）、
1
i
L2i ; 道 路 で の 歩 行 距 離（ m ）、s 1 ; 砂 浜 で の 歩 行 速 度（ m / m i n ）、s 2 ; 道 路 歩 行 速 度（ m / m i n ）で あ る 。
津 波 第 1 波 の 到 達 時 間 Ti に は 沖 縄 県 津 波 ・ 高 潮 被 害 想 定 調 査 結 果 1） を 用 い る 。 歩 行 速 度 s2
は 通 常 歩 行 の 60（ m / m i n ）、 歩 行 困 難 者 及 び 子 供 を 考 慮 し た 3 0（ m / m i n ） と す る 2 ）。 砂 浜 で の 歩
行 速 度 s 1 は s 2 / 2 と な る も の と し 、歩 行 時 間 に 伴 う 疲 労 や 高 低 差 に よ る 歩 行 速 度 の 低 下 は 考 慮 し
ないものとする。また地震発生後すぐに避難を開始した場合を想定する。
2 . 2. 避 難 場 所 の設 定
観光客は地元のことに関して不案内であるため、目標を定めることで迅速な避難が可能にな
ると考える。そこで、主要水浴場ごとに避難場所を設定する。本島内で津波避難ビルが指定さ
れているのは糸満市だけである。そこで、避難場所設定にあたって以下の条件を設ける。
（ 条 件 a ） 各 ビ ー チ で 指 定 さ れ て い る 津 波 避 難 場 所 と す る 3 ）。
（ 条 件 b） a 以 外 の ビ ー チ で は 、 3 階 以 上 2 ） の 公 共 施 設 を 優 先 し て 選 択 す る 。
2 . 3. 避 難 経 路 の決 定
道路ネットワークを考慮して、ダイクストラ法により抽出した最短避難経路をビーチから避
難場所までの避難経路とする。避難経路抽出に際して以下の条件を設ける。
（ 条 件 a） 避 難 開 始 点 :ビ ー チ 出 入 口 か ら 直 線 距 離 で 1 番 遠 い 地 点 と す る 。
（ 条 件 b）通 過 点 : ビ ー チ 内 の 管 理 塔 を 通 過 す る（ ホ テ ル 内 の ビ ー チ に 関 し て は 、通 過 し な い ）。
桑江中学 校
北 谷 町
国 道 58 号
津波浸水区域
主要ビーチ
国 頭 村
避難目標
ノード
リンク
基地施設
JAL プ ラ イ ベ ー ト
リ ゾ ー ト オ ク マ
奥 間 ビ ー チ
国頭村観 光物産
センター
アラハビ ーチ
キャンプ瑞慶覧
津波浸水区域
主要ビーチ
避難目標
国 道 58 号
ノード
リンク
基地施設
ハンビー タウン
図 1 避難経路（奥間ビーチ）
図 2 避難経路（アラハビーチ）
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IV-062
土木学会西部支部研究発表会 (2008.3)
2 . 4. 評 価 結 果
評価結果を表 1 に示す。なお、表 1 中の「避難完了時間」は小数点以下を切上げた結果であ
る。また「情報伝達余裕」とは、第 1 波到達時間と避難完了時間との差である。対象としたビ
ーチでは避難に関する情報を警報・注意報発表に依存しており、過去の記録より発表までに 4
∼ 14 分 か か る こ と が わ か っ て い る 。マ イ ナ ス 値 は 津 波 第 1 波 到 達 時 間 内 に 避 難 が 完 了 し な い こ
と を 意 味 す る （ 網 掛 け 部 分 ）。「 確 認 」 は 、 ビ ー チ か ら 避 難 場 所 が 確 認 で き る か 否 か を 示 し て い
る。表 1 の結果より、通常歩行の場合でも 5 ヵ所のビーチで避難完了しないことがわかる。さ
らにこれらのビーチからは避難場所を確認することができない。避難場所が確認できないとい
うことは、そこにたどり着けない可能性も考えられる。それに加え、対象としたビーチにはシ
ーズンオフでも観光客が訪れることから公共の建物だけでは観光客の安全性を確保することは
難しく、新たに避難場所の設定が必要である。
表 1 ビーチ別津波危険度評価結果
ビーチ名
奥間ビーチ
かりゆしビーチ
万座ビーチ
リザンシーパークビーチ
ブセナビーチ
サンマリーナビーチ
ルネッサンスビーチ
ムーンビーチ
読谷村営残波ビーチ
ニライビーチ
サンセットビーチ
アラハビーチ
宜野湾トロピカルビーチ
あざまサンサンビーチ
波之上ビーチ
新原ビーチ
美々ビーチ
タイガービーチ
21世紀の森ビーチ
エメラルドビーチ
伊計ビーチ
避難目標
確認
国頭村観光物産センター
リーフリゾートかりゆし
万座ビーチホテル＆リゾート
リザンシーパークホテル谷茶ベイ
ザ･ブセナテラス
サンマリーナホテル
ルネッサンスホテル
ホテルムーンビーチ
沖縄残波岬ロイヤルホテル
ホテル日航アリビラ
桑江中学校
桑江中学校
沖縄コンベンションセンター
安座真公民館
波之上宮
新原コミュニティーセンター
沖縄水産高等学校
仲泊小・中学校
名護市民会館
沖縄美ら海水族館
伊計小・中学校
×
○
○
○
○
○
○
○
○
○
×
×
○
×
○
×
×
×
○
○
×
第1波到達 避難完了時間(min) 情報伝達余裕(min)
歩行距離(m)
砂浜 道路 合計 時間(min) 通常歩行 歩行困難 通常歩行 歩行困難
457 1586 2043
31
42
84
-11
-53
136
0
136
27
5
10
22
17
266
627
893
27
20
39
7
-12
243
31
274
25
9
18
16
7
14
209
223
27
4
8
23
19
241
12
253
25
9
17
16
8
9
184
193
27
4
7
23
20
143
0
143
27
5
10
22
17
158
389
547
20
12
24
8
-4
213
201
414
20
11
21
9
-1
114
875
989
33
19
37
14
-4
175 1183 1358
33
26
52
7
-19
183
226
409
34
10
20
24
14
66 1173 1239
19
22
44
-3
-25
68
85
153
28
4
8
24
20
508
326
834
11
23
45
-12
-34
139 2079 2218
3
40
79
-37
-76
67 1762 1829
27
32
64
-5
-37
281
798 1079
33
23
46
10
-13
14
662
676
31
12
23
19
8
188
425
613
20
14
27
6
-7
3 . 避 難 目 標 の 再 検 討 に よる 津 波 危 険 度 評 価
2 . 4 の 結 果 よ り 、 歩 行 困 難 の 場 合 を 含 め マ イ ナ ス 値 が 確 認 さ れ た 12 ヵ 所 の ビ ー チ に 関 し て 、
民間の建物（ホテルやショッピングセンター）も考慮に入れて避難場所を再検討する。なお、
避 難 場 所 は ビ ー チ か ら 確 認 で き る 建 物 に 限 る も の と し 、歩 行 速 度 及 び 情 報 伝 達 に 関 す る 条 件 は 、
2.1 同 様 と す る 。 再 評 価 結 果 を 表 2 に 示 す 。 再 検 討 す る こ と に よ り 各 ビ ー チ で 避 難 完 了 時 間 は
短縮されているが、津波第 1 波到達時間内に避難が完了しないビーチは存在している。また 7
ヵ所のビーチでは周辺に避難場所として指定できる建物がない。
表 2 ビーチ別津波危険度再評価結果
ビーチ名
サンセットビーチ
アラハビーチ
あざまサンサンビーチ
タイガービーチ
21世紀の森ビーチ
避難目標
ザ・ビーチタワー沖縄
ハンビータウン(ショッピングセンター)
ホテルサンライズ知念
恩納マリンビューパレス
ゆがふいんおきなわ
第1波到達 避難完了時間(min) 情報伝達余裕(min)
歩行距離(m)
砂浜 道路 合計 時間(min) 通常歩行 歩行困難 通常歩行 歩行困難
114
346
460
33
10
20
23
13
175
557
732
33
16
31
17
2
66 1112 1178
19
21
42
-2
-23
67
713
780
27
15
29
12
-2
125
939 1064
33
20
40
13
-7
4 . お わ りに
本研究では、避難行動に着目してビーチ別の津波危険度評価を行い、現状を把握するととも
に公共施設に加え民間の建物を避難場所として検討することで観光客の安全性が高まることを
示した。一方で避難困難なビーチが存在することも明らかになった。それらは避難場所の条件
や避難方法を変えて評価することが必要である。さらにビーチの利用客数と避難場所の容量を
考慮した避難場所選定を行っていく。
参考文献
1） 沖 縄 県 : 沖 縄 県 津 波 ・ 高 潮 被 害 想 定 調 査 業 務 委 託 報 告 書 、 2007
2） 内 閣 府 : 津 波 避 難 ビ ル 等 に 係 る ガ イ ド ラ イ ン （ 案 ）、 20 05
3）志 良 堂 貴 紘 ・ 神 谷 大 介 : 沖 縄 本 島 に お け る 津 波 避 難 困 難 地 域 に 関 す る 分 析 、第 62 回 土 木 学 会
年 次 学 術 講 演 会 概 要 集 、 講 演 番 号 Ⅳ -1 43 、 20 06
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