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− オープンな情報交換で企業間連携を実現 −

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− オープンな情報交換で企業間連携を実現 −
EDI
− オープンな情報交換で企業間連携を実現 −
日経コンピュータ掲載記事 1995年5月29日号
藤野裕司
EDI(電子データ交換)は企業間のデータ交換手順を標準化し、情報流通の仕組
みを効率化する。日本標準のCIIと国際標準のUN/EDIFACTの2つの大きな流れがある。
日本でも国際標準の採用を表明する業界が増えているが、開発途上で標準化に時間
がかかるEDIFACTに対して、CII標準実用段階に入っている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
EDI(電子データ交換)が世界規模で急速に実現されつつある。米国の繊維業界
におけるQR(クイック・レスポンス)、日用品・雑貨・食料品業界のECR(効果的な消
費者対応)を始めCALS(コンティニュアス・アクイジション・アンド・ライフサイ
クル・サポート)やEC(エレクトロニック・コマース)といった一連の流れの根底
にあるのがEDIだ。
EDIは企業間のデータ交換を標準化することで情報流通の仕組みを効率化する。
今日の企業に求められている新たな経営戦略、すなわち企業間のオープンな連携と
協調を構築するために不可欠な技術である。
従来型のデータ交換はオープンでない
企業間の情報流通の形態としては、日本では80年台初頭から始まった「オンライ
ン取引ネットワーク」が幅広く普及している。しかし、この種のデータ交換方式は
新しい形の企業間連携を生み出すには十分ではない。
従来型のデータ交換では、やりとりする情報の内容を接続する2社、または系列
企業内で決めてしまう。業務の効率化や新規展開のために接続相手を拡大するには、
そのつど相手との取り決めが必要になる(図1)。これでは接続相手を簡単に増や
せない。
-1 -
従来のデータ交換 ⇒ EDIでのデータ交換
自社固有の
データ・
フォーマット
A社用フォーマット
A社用 データ
変換プログラム
自社固有の
データ・
フォーマット
汎用 データ
変換プログラム
標準フォーマット
(トランスレータ)
自社用データ交換システム
A社
B社用フォーマット
B社用 データ
変換プログラム
B社
C社用フォーマット
C社用 データ
変換プログラム
...
フォーマット
トランスレータ
.......
自社用データ交換システム
A社固有データ・
標準フォーマット
C社
A社 データ交換システム
B社 データ交換システム
C社 データ交換システム
EDIの場合、汎用のトランスレータがあれば、
すべての相手先とデータ交換ができる
図1 従来の企業間データ交換とEDIでのデータ交換との違い。
EDIはこの煩雑な取り決めを標準化する。企業間のデータ交換で接続相手を意識
せず、様々なアプリケーション同士をつなげるためのものだ。
EDIの取り決めはデータ項目の定義、交換するファイルの構造、業務の運用、契
約レベルにまでおよぶ。ここまで標準化されているため、接続相手ごとの変換プロ
グラムの開発が不要になり、より短期間のうちに、より多くの企業と情報を交換で
きるようになる。
CIIとUN/EDIFACT
現在EDIの標準には2つの大きな流れがある。日本国内の標準は通産省の外郭団体、
日本情報処理開発協会(JIPDEC、井川博会長)の産業情報化推進センター(CII)
が91年に制定した「CII標準」である。一方国際標準は、国際連合の場で制定され
たUN/EDIFACTである。
これらはともにEDIに必要な要件として、シンタックス・ルール(データの構造、
構文規則)、標準のメッセージ(データ化される伝票の種類やフォーマット)、デ
ータ項目を規定している。両者を比較してみると134ページの表1のようになる。
-2 -
項目
推進母体
管理範囲
・シンタックス・ルール
・メッセージ
・データ項目
データ構造
通信プロトコル
日本での適用業界の例
CII標準
日本情報処理開発協会の
産業情報化推進センター(CII)
UN/EDIFACT
国際連合/欧州経済委員会
(UN/ECE)
CIIが決定
各ユーザー業界団体で決定
各ユーザー業界団体で決定
UN/ECEが決定
UN/ECEが決定
UN/ECEが決定
可変長、タグ方式
項目の並び順は問わない
項目ごとにデータの意味などを
示す情報を付加して送る
事実上、全銀手順を採用
電子機器、鉄鋼、石油化学、
建設、住宅産業、ガス、電力など
可変長、デリミタ方式
項目の並び順が決められて
いる。項目間をデリミタで区切る
決められていない
流通、運輸、その他輸出入
関連の業界と企業
表1 EDIの日本標準CIIと国際標準UN/EDIFACTの比較
EDI:電子データ交換 EDIFACT:Electronic Data Interchange For Administration,Commerce and Transpor
t
EDI導入へのステップ
取引先の企業からEDIによる接続を要求されたと仮定する。EDI導入のきっかけと
しては、このパターンが最も多い。EDIの導入作業は次のようなステップになる。
① 接続相手の企業とその業界のEDI実施状況を調べる。すでにEDIを実施中の業界
には必ず「ビジネス・プロトコル標準」という規格書が作られている。EDIに強
いベンダーから説明を受けるのが手っ取り早い。
② その標準規格と自社の業務プロセスの差異を調べる。伝票の項目の使い方が違
う、必要とする項目がない、納品伝票/返品伝票の発行ルールが異なるなど、
さまざまな違いが潜んでいる可能性がある。
③ 標準に合わせた形で業務プロセスの改善、システムの改修個所などを洗い出す。
通常ここで何らかのシステム開発作業が入る。業務改善は現行業務の流れを前
提とせず、いろいろな角度から効率化を考えることが重要である。これには現
場の協力が不可欠だ。
④ EDIに必要なツール類を導入する。たとえば「トランスレータ」と呼ばれるデー
タ変換のためのプログラムは、自社開発するよりも標準品を購入することで導
入までの期間を短縮できる。
⑤ 相手企業と導入スケジュールを調整し、テスト期間を経て本番業務の移行を行
う。
⑥ 1つのサンプルとなる業務でEDIが稼動した後、他の業務も順次そのシステムを
使ってEDIに移行していく。
もちろん、自社の都合だけで導入作業を進めることはできない。しかし、1つで
もEDIのシステムを稼動させたら、あとはそのシステムをできるだけ活用した方が
得られるメリットは大きい。積極的なEDIの展開によって、投資効率が向上するか
らである。
欧米で先行したEDI
EDIのルーツは、米国の運輸業界(航空、海運、トラック)が業務の効率化のた
-3 -
めに行った標準化にあると言われている。やがて80年代半ばの不況期に自動車業界
が取り組みを始め、繊維業界もQRと呼ばれるEDIを開始した。両業界はその結果、
高い利益を得られるようになった。
この過程で米国はEDIの国内標準としてANSI X.12 を確立した。これに続いて日
用品・雑貨・食料品業界がECRの発想でEDIの導入を進めている。1)2)
そして欧州でもEDIへの取り組みが始まった。欧州では貿易手続きの簡易化が最
初の試みだった。今では、EU(欧州連合)の統合に向けて、国際間の取引はすべ
て世界標準のUN/EDIFACTに基づく情報交換とともに行うとことが必要条件になり
始めている。
動き出した日本のEDI
日本は通信回線、通信サービスの自由化が欧米よりも遅れた。このため企業間の
データ交換の仕組みは、欧米のように同業各社を結んだ横への広がりを見せず、縦
つまり系列企業を結ぶオープンでないネットワークとして発達していった。そのた
め標準化が進まず、「日本はEDIが遅れている」と言われるようになった。
91年にCII標準を制定され、94年あたりからようやく日本独自のEDIが着実な普及
を始めた。すでに展開を始めている業界としては電子機器、鉄鋼、石油化学、建設、
住宅産業、ガス、電力などがある。
CII標準とは別に早くから標準化を進め、日本のEDI普及に大きく貢献しているの
が流通業界である。日本チェーンストア協会(JCA、鈴木敏文会長)の決めたJCA
手順を土台に、流通業界全体の標準としてJ手順を80年に制定。その後、財団法人
流通システム開発センター(青木慎三会長)の主導で、ISDN(総合ディジタル通信
網)対応のH手順の普及にも力を入れている。
さらに通産省はこの4月に、今後の流通業界のEDIの標準としてUN/EDIFACTを採用
することを表明し、UN/EDIFACTの流通業界用標準メッセージ集であるEANCOMの国内
流通業への適用を始めた。
高まる国際化の機運
UN/EDIFACTへのシフトは他の業界にも見られる。3月には運輸省が物流情報シス
テムの標準にUN/EDIFACTを採用すると発表した。現在、運輸省政策審議会で具体的
な策定作業を行っており、6月末には「連携指針」として公表される予定である。
国際取引にEDIを採用する環境も整ってきた。2月に大蔵省は「輸入航空貨物の事
前通関許可を96年度から実施する」と発表した。これで国際取引の電子化が遅れて
いた大きな要因が1つ排除されることになる。今後、海上貨物への展開も考えられ
ており、貿易に関わる業務のEDI化が大いに期待されるところである。
これらの流れを見ていると、国際取引にかかわる業界がUN/EDIFACTを採用する動
きが加速しそうだ。繊維業界が業界全体でQRを推進しているが、ここにもUN/EDIF
ACTシフトの影響が予想される。
これからのEDIは日本標準か国際標準かの判断は難しい。一概に「国際化の時代
だから国際標準」と言い切ることはできない。UN/EDIFACT自体はまだ、米国と欧州
の間の調整や2バイト文字の扱いなどを解決しておらず、開発の途上である。さら
にメッセージの標準はISO(国際標準化機構)の場で詰める必要があるなど、実際
に運用するための細部の取り決めに時間がかかるという問題を抱えている。
-4 -
一方日本のCII標準は、そうした取り決めが業界ごとに任されており、自由度が
高い。すでに表1に示したような多くの業界で展開が始まっている。現実的には国
際取引にUN/EDIFACT、国内取引にCII標準が採用されるであろう。そして国内・国
外をまたがるデータ交換のためには、日米欧の各業界が共同でデータ項目やその取
り扱いの標準を定める、というような作業を経て、EDIが実現されていくことにな
ろう。
国内と国際の2つの標準への対応以外にも、商習慣の見直し、業界ごとの業務形
態の統一など標準化にかかわる課題は多い。各業界団体ではそうした問題への取り
組みも進められている。オープンな企業間の連携を可能にするEDIの実現には、標
準化の問題を避けて通ることはできない。
始まるECとCALSの取り組み
EDIは着実に普及を始めた。その発展形として考えられているのがECである。商
流・物流・金流を含めたすべての取引が、マルチメディアの世界で統一的に実現さ
れる。
ECに向けた一番具体的なシステムがCALSである。85年に米国防総省が軍事物資の
政府調達のために開発したシステムだが、90年代に入って民間利用に向けた標準化
が進められている。日本でも94年から東京電力を中心とした電力業界、自動車業界
などで本格的な研究開発が始まった。
このEC、CALSとEDIの関連を見てみると図2のようになる。
EDI はECの概念の大部分を実現しているが、商取引における企画、販売促進に関する部分をカバー
していない。CALSも特定業界のシステムから、EDIやECとと同じようなコンセプトに昇華しつつあるが、
まだ適応されている業界が限定されているため、データのフォーマットが取り決められていない部分が
残っている(参考文献3)をもとに作成)
EC
C AD/C AM など
商取引とと関係
ない部分
EDI
EDI:電子データ交換
EC:エレクトロニック・コマース
CALS:コンティニュアス・アクイジション
アンド・ライフサイクル・サポート
CAD:コンピュータ支援による設計
CAM:コンピュータ支援による製造
CALS
図2 EDIとEC、CALSの位置付け。
現在のEDIは商取引における企画・販売促進業務の部分をカバーしていない。通
信プロトコルも詳細に標準化していない。これらを取り込んだEDIの発展形がECに
近いと考えられる。
-5 -
一方CALSはまだ取り組みが始まったばかりで、業界の広がりが無く適用アプリケ
ーションが少ない。主に製造業で、設計ドキュメントの交換のための標準化に使わ
れる程度にとどまっている。適用業務が広がり、設計文書以外のデータ・フォーマ
ットの標準化が進んでいけば、EDIやECを実現するシステムとみなすことでできる
だろう。
EDI成功のポイント
社会環境としてはEDI普及の準備が整ってきた。むしろ企業はEDIを導入しなけれ
ばならない状況に追い込まれつつある。
自社の属する業界がEDIの導入を表明していなくても、取引先の企業がEDIを実施
していた場合、EDIでの接続を要求される可能性がある。どのような業種において
もEDI導入の準備は必要だ。
すでにシステムの現場でEDIを導入するステップについては触れた。だがEDI導入
のためにはほかにも考慮すべき問題がある。
第1にEDI導入はトップダウンの意思決定と推進が必要である。EDI導入の目的は、
産業構造の変革に伴う企業と業界全体の業務改革である。従ってトップダウンで全
社一丸となって取り組む必要がある。経営者が十分に重要性を理解し、率先して臨
むべきだ。
具体的には関連部門から代表者を集めてプロジェクトを発足する。そしてそれを
基に、経営者がEDIを含めた企業戦略を策定することが重要である。EDIはまさしく
アプリケーションを含めたリエンジニアリング(業務革新)である。
第2に関連企業や業界と密な連絡を取り、全体の調整を行いつつ進めていく必要
がある。1社だけがEDIを導入しても意味がない。常に業界団体の動きを見ておくこ
とが重要なポイントになる。
新しい企業協調に不可欠なEDI
日本企業はここ数年、リストラや人員整理、社内業務の効率化など、固定費削減
という形で体質改善を進めてきた。しかし、内部努力は限界に達し、これ以上の収
益回復は見込めない。依然として続く不況を脱出するには新しい企業の枠組みが必
要だ。それは業際にまたがる企業間のオープンな連携である。
これまで個々の企業は独自の技術開発力や生産力、マーケティング力などを武器
に競合してきた。だがこれから目指すべき企業関係は、各社が得意の分野で力を出
し合い協調することだ。重複するコストを削減し、いち早くニーズに合った製品を
消費者に届ける。
例えば流通業ならば「メーカー−∼(卸)∼−小売」の流れを、協調関係に基づ
く「製販同盟」あるいは卸も含めた「製配販同盟」に変革する(図3)。
-6 -
EDI 導入前:情報が個別に発生し、相互に連携していない ⇒ EDI 導入後:発生した情報を連携する企業で共有し、有効活用する
発注 / 支払通知 発注/支払通知 POS情報
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商品
商品
図3 EDIによって異種企業間の連携が進む。
新しい商流・物流を支える、情報の流れのインフラになるのがEDIだ
この新たな商流・物流の実現に不可欠なのが情報の流通、つまりEDIに基づくイン
フラである。
70年代は大量生産によるコストの削減、80年代は多品種少量生産による付加価値
の創造、そして現在はスピード、すなわち消費者ニーズに対する高速レスポンスが
要求される時代である。EDIなくしてその実現は考えられない。
参考文献
1) 小林、「企業連携進める流通業界、情報共有で売り上げ拡大へ」、『日経コン
ピュータ』、1995年2月20日号、no.359、pp.8391.
2) 西山、「流通業界全体を改革するECR」、 『日経コンピュータ』、1994年12月2
6日号∼1995年1月23日号、no.355∼357.
3) 日本情報処理開発協会、『海外における情報産業ならびに情報化の動向』、平
成6年3月.
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