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神戸コンシューマー・スクール(第4期生) 研 究 報 告

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神戸コンシューマー・スクール(第4期生) 研 究 報 告
神戸コンシューマー・スクール(第4期生)
研
究
報
告(№5)
平成25年3月
神 戸
市
目
研究発表1
次
神戸大学名誉教授
サプリ漂流民~アンケートから見えてきたストレス 北海学園特任教授
社会とサプリメント~
田村 正紀
研究発表2
神戸大学名誉教授
SNSを利用して旅行の内容を豊かにできる?
北海学園特任教授
田村 正紀
講師ゼミ
神戸大学名誉教授
幸せな生活とは
北海学園特任教授
関西学院大学経済学部教授
知っておきたい金融広告のからくり
田中 敦
研究発表5
神戸大学名誉教授
消費者関連法規の研究
同志社大学法科大学院教授
研究発表6
P31
講師ゼミ
研究発表4
安永 正昭
P17
講師ゼミ
研究発表3
田村 正紀
P1
講師ゼミ
P49
P57
講師ゼミ
兵庫県立大学経済学部教授
国民生活センターPIO-NET データに見る消費生活相 斎藤 清
講師ゼミ
P69
談の可視化~利殖方法・マルチ商法・健康食品~
研究発表7
筑波大学人文社会科学研究科
介護保険サービス~それは契約です~
法学専攻教授
P87
本澤 巳代子 講師ゼミ
研究発表8
神戸大学名誉教授
電気と消費者問題~電気の買い手としての消費者問 甲南大学法科大学院教授
題と電気の売り手としての消費者問題~
根岸 哲 講師ゼミ
研究発表9
神戸市外国語大学教授
ネット社会 消費者リスクの認知
芝
勝徳
講師ゼミ
P99
P121
~無料サービスの向こう側にあるもの~
わたしたちの提案(発表順)
P137
研究発表1
田村正紀講師ゼミ サプリメントグループ
「サプリ漂流民」
■指導教官
神戸大学名誉教授 北海学園特任教授 田村正紀
■発表者・ゼミ生
大塚里枝 川島郁子 鈴木寛子
1 はじめに
私たちは、最近ではすっかり生活の中に定着したように思えるサプリメントについ
て、その利用実態や社会的背景について、アンケートを実施して探っていきましたが、
その中で「サプリ漂流民」と呼べる人々の姿が浮かび上がってきました。
2 研究の流れ
まず、最初に人々の健康観について探るグループインタビューを実施しました。実
施時期は昨年の 8 月で、調査対象は、20 代~30 代、40 代~50 代、60 代以上の 3 グル
ープで、それぞれ男女合わせて 5~6 名の方に依頼しました。
このインタビューでは、
「健康とは何か」と聞かれて、体だけではなく、心の問題に
言及する人が多いことがわかりました。健康とは心身ともに良好な状態ととらえ、身
体の健康に対する心の健康やストレスの影響が大きいことをどの世代の人も意識して
いる現状がうかがえました。また、健康のためには食事が重要であるという認識は全
世代に共通していますが、食生活の充実度は年齢が高いほど高く、若い世代(特に単
身世帯)では食生活に自信のない様子がうかがえました。
このインタビューの結果を踏まえ、アンケートを昨年の 11 月に実施しました。年齢
別の傾向を分析するための年齢区分は、35 歳未満の若い世代、35 歳~55 歳の現役の
中心世代、55 歳以上のシニア世代の 3 つに分けました。有効回答数は 918(男性 414、
女性 498、不詳 6)でした。特徴としては 35 歳未満のサンプル数が約 2 割と少なめで、
シニア世代の女性が全体の 3 割を占めました。
アンケートを分析するとともに、健康についての専門的立場にある医師にもサプリ
メントに関するインタビューを実施し、考察を行いました。
3 ストレスと健康不安
アンケートの結果、
「ストレスを感じない」人で健康に不安を感じている人は 40%で
すが、
「ストレスを感じる」人では 80%に上っています。ストレスが現在の健康のみな
らず、今後の健康への自信にまで大きな影響を及ぼしていることがわかりました。
4 ストレスを感じる人の割合
ストレスを感じると答えた人の割合は、35 歳以上では男女差はみられません。男女
ともに、子育てや仕事が一段落する 55 歳以上でストレスが減少する現状が見て取れま
す。35 歳未満のみ、男女に顕著な差が見られます。
若い男性はシニア世代のようにのんびりしているのに、女性だけが大きなストレス
を感じている理由は何か?この理由を探るため、ひとつの要素として女性の労働力率
の推移を調べてみました。
このグラフは、総務省の「労働力調査」より、年齢ごとの働く女性の割合の推移を
表しています。一番下の青いグラフは 1975 年「一億総中流社会」と呼ばれていた頃で
すが、女性は 20 代後半には結婚して仕事をやめる人が多く、働く人がこの年齢で激減
しています。赤色のグラフが均等法改正で、雇用における男女差別が縮小され、女性
の社会進出が進んだ 1985 年で、働く女性がこの 10 年間にかなり増えているのがわか
ります。緑色の 1993 年はバブル崩壊が完了した年と言われており、その後紫色のグラ
フで示す 2004 年頃までは、失われた 10 年と言われ、長引く不況の中格差が広がって
いた時代です。このグラフで表している期間はわずか 30 年ですが、たったの一世代ほ
どで女性のライフスタイルが大きく変化したことがわかります。
女性の労働形態はM字型とも言われ、出産で一旦仕事から離れ、また再び就労する
人が多いのですが、そのM字の凹みはだんだん小さく、そして凹みのピークが遅くな
っていることがわかります。また、不況下の 2004 年の特徴として、20 代の前半より
後半の方が働く人が増えており、高学歴化・就職難・晩婚化を反映していると思われ
ます。
30 年間で最も変化が大きいのが 35 歳以下の女性であり、働く女性が激増しているこ
とがわかります。アンケートで、同世代の男性と比べてストレスが非常に大きい理由
として、仕事を続けるべきか辞めるべきか、あるいは仕事と家事との両立等、同世代
の男性には無いストレスがあることが考えられます。また、そのようなライフスタイ
ルの変化が急激に起こったことで、まだ社会の支援体制や周囲の理解などの環境が整
っておらず、女性だけにしわ寄せがいく現状がストレスの原因になっていると思われ
ます。
5 ストレスの原因
ストレスの原因についてもう少し詳しく見てみます。
55 歳未満では、仕事のストレスが突出しており、性別・年代別の差は仕事をしてい
る人数や頻度の差を反映していると思われます。例えば、35 歳未満の若い世代は男女
が同等に働いています。今の現役中心世代は、女性の労働形態はパート労働が中心で、
その分フルタイムで出世競争にもまれている男性よりはストレスが少なくなります。
今後フルタイムで働く女性が増えると、この世代も男性と同様に仕事のストレスが増
えることが予想されます。リタイアすれば、仕事のストレスはなくなっていきます。
次に多いのが今後の収入の見通しで、各グループに共通して、ストレスの大きな要
因となっています。これは不況を反映していると思われますが、今のシニア世代より
も、将来の年金に不安のある現役世代が最もストレスを感じており、男性に比べると
財布を握る女性の方が強く認識しているのかなと思います。
子育てのストレスは女性に多いのかと思えば、35 歳未満では男性の方が強く感じて
いるという意外な結果が現れました。今や「イクメン」の時代で、男性も妻にお任せ
では済まされなくなり、渋々協力している方もおられるのでしょうか…。
今回の調査で男女差がはっきりしているのが人間関係に関するストレスで、職場の
人間関係も含めて、明らかに女性は人間関係のストレスが多いと言えます。
男性は仕事以外のストレスは少なめで、仕事をしている時間が長く、その他のこと
は女性に任せているような様子が伺えます。グラフに特徴があるのは 35-55 歳の女性
で、様々なストレスが同居している様が表れています。
女性
男性
6 ストレスとサプリメントの関係
このように、ストレスが健康不安の要因となっていると思われ、そしてそのストレ
スは、先ほど述べた女性の就労率のような社会的背景が影響しているのではないかと
考えられます。私たちは、そのような健康不安がサプリメントに人々を向かわせる原
因となっているのではないか、また社会背景とともにある業界やマスメディアがさら
に健康不安をあおっているのではないかと考え、さらに詳しく調べました。
7 サプリメントの歴史と生活
前頁の図によると、1980 年代はビタミンブームと書かれていますが、もともとビタ
ミン剤は「サプリメント」という言葉が無いころから人々の生活に取り入れられてお
り、常に一定の需要があったと思われます。市場規模も安定しています。ちなみにア
リナミンは 1954 年に発売されています。
健康食品市場の急激な拡大は、1991 年のバブル崩壊からの失われた 10 年に一致し
ており、長引く不況によって人々のストレスや不安が増したことが推測されます。1991
年にはトクホ制度がスタートし、また、規制緩和が後押しするかたちで、様々な健康
食品が世に出ました。
さらに 2000 年代になると、アミノ酸や、コエンザイムQ10 など、マスメディアや
業界が消費者のさまざまな不安をあおって需要を喚起し、健康ブームを作りだしてき
たことが見て取れます。その後、テレビ番組の捏造が発覚したり、様々な食品偽装事
件など、食品の安全性や、マスメディア情報の信頼性をゆるがす事件が多発し、現在
のところ市場規模は横ばい状態となっています。
8 サプリメント利用状況
アンケートで、現在サプリメントを利用していると回答があったのは、全体の 37.7%
にあたります。男女別に見ると、女性は約半分の方が利用しているのに対し、男性は
30%程度と開きがあります。年代別では 35-55 歳の現役の中心世代が最もよく利用し
ています。
9 サプリメントの利用目的
女性
男性
サプリメントはその目的と利用動向から3つのグループに分けて考えることができ
ます。
①健康目的サプリ
病気の予防や健康の保持・増進など、この目的でのサプリ利用が最も多い。
性別に関わらず、年齢が上がり健康が気になってくるに従い利用が増えます。
②栄養補給目的サプリ
食生活を補う目的で利用されるビタミン剤や栄養ドリンクを含みます。
若い人に多いという傾向と、男性に多いという傾向が顕著です。特に若い男性の
利用が突出しており、グループインタビューにおいて聞かれた、コンビニ利用が
多く食生活についての自信がないという実態に関連があると思われます。
男性は、若い世代以外でも外食の機会が多く単身赴任者もいることから、食生活
を補う目的でサプリメントが利用されていることがうかがえます。
③美容目的サプリ
美容・ダイエット目的で利用する人は圧倒的に女性が多いが、男女とも年齢と共
に減少します。
主として若い女性がこの目的でサプリを利用しています。
若い女性は同世代の男性と比べてもかなり大きなストレスを感じており、その原
因として仕事に起因する様々の悩みが推測されます。
10 サプリメントに関する不満
では、サプリメントに対する満足度はどうでしょうか。サプリメントを利用したこ
とがある人(現在は飲んでいない人も含む)481 人中、不満ありと答えた人は 125 人
で、全体の 26%を占めました。不満の中身を詳しく見てみると、
「効果が期待外れ」と、
その効果が期待したほどではないという理由が圧倒的でした。他には価格に対する不
満や、体調悪化、情報入手の困難さが主な理由としてあげられています。
11 今後の利用可能性
現在サプリメントを利用している人に「サプリメントは効果があると思うか」と質
問し 5 段階で回答していただいて、効果がある・ややあると答えた人以外を「はっき
りした効果がないと答えた人」としました。このグループは 255 人でサプリ利用者の
74%にあたります。その方たちが今後もサプリメントを利用するかどうかを尋ねたと
ころ、
「どちらでもない」と答えた人を含めた、利用する可能性のある人が赤色で示さ
れています。つまり効果がないと思ってもまた利用しようとする人が 4 割近くもいる
ことになります。これらの人々は、サプリメントへの期待値が潜在的に高く、業界や
マスメディアがこのような人をターゲットに今後も新しいブームを作り出していくの
ではないかと思われます。
12 サプリ漂流民とは
アンケートから浮かび上がってきた、サプリメントに失望しても再びサプリメント
に向かう人々を「サプリ漂流民」と名付けました。
健康不安からサプリメントを飲用しますが、効果がはっきりしないなどの不満を感
じ、利用を中止すればまた健康不安の状態に戻ってしまいます。
また別のサプリメントに期待をかけて様々なサプリ飲用を繰り返す人もいます。こ
のサプリ漂流民のサイクルの中から抜け出す方法は、ここで効果を実感し不安を解消
することしかありません。
13 サプリ漂流民の不安の受け皿
従来から病気の治療・予防や人々の健康を担ってきた医療機関は、サプリ難民の受
け皿になり得るのだろうか?医療機関はサプリメントをどのように捉え、どのように
対応しているのだろうか?サプリメントと医療の関係について調べてみました。
以下の医師会資料では、
「健康食品」という用語が使用されていますが、サプリメン
トは健康食品に含まれるものと考えます。
●医療提供者の立場から見た健康食品の問題点(医師会資料より)
①副作用、アレルギー等
・健康の保持等に効果のある成分(未知の成分含む)を濃縮して含有
・医薬品成分の含有(医薬品にしか使用が認められていない場合、国内未承認
の成分の場合を含む)
②医薬品との相互作用
・患者が健康食品を摂取していることを伏せている場合は、相互作用の把握、
原因究明に遅れが出る
③多種摂取、過剰摂取
・多くの種類の食品を、一度に摂取
・用量を大幅に超えた摂取
④過大な宣伝方法
・
「がんが治る」などの宣伝を信じた場合は、適切な時期に、医師の診療を受け
るチャンスを逸失するおそれ
⑤情報不足
・医師における健康食品の成分や有害性等に関する情報不足
⑥患者の摂取状況の把握困難
・医師が、患者の健康食品の摂取状況を把握できていない
⑥について、実際我々が行ったアンケート結果でも、以下のような結果が出ました。
医師が患者の摂取状況を把握できていない理由について、実際の医療現場で医療に
従事する医師にインタビューを行ってみたところ、
「 普段の診察の中で患者に尋ねる場
面がない」
「医師も知識が十分ではない」などの答えが返ってきました。また、患者側
がサプリメントを摂取していることを伏せているケースもみられ、その場合は、疾病
の因果関係の把握に遅れが出たり、処方した医薬品との相互作用が発生したりする恐
れも出てきます。日本医師会による「(健康)食品安全に関する情報システム
モデル
事業(平成 18~21 年度)」(参加医師会17、参加医師3万5千人、情報件数50、
96製品)によると、下表のとおり、摂取情報を知った医師が「かかりつけ医」であ
った場合が7割強を占め、そのうち患者が健康食品を摂取していることを知ったきっ
かけが「患者が自発的に相談したので」と「患者の症状で」が計6割であったことか
ら、患者の摂取状況の把握には、相互のコミュニケーションが取りやすい、かかりつ
け医の存在が重要であることがわかります。
かかりつけ医の有無×患者が健康食品を摂取していることを知ったきっかけ(人数)
無回答
かかりつけ医
ではない
的に相談
問診で
4
患者の症状で
その他
総計
6
1
13
9
11
6
39
13
14
12
6
50
4
かかりつけ医
総計
患者が 自発
11
●医師から見たサプリメント人気の社会的背景とその弊害
なぜ人々がサプリメントに向かうのか?前述の医師に尋ねたところ、
「 高齢化社会
で、元気に長生きしたいとの意識の高まり」
「マスコミによる玉石混交の健康情報の
氾濫、宣伝力」
「病院に行っても治らない場合や医療への不信から、藁をもすがる思
いで服用」などの社会的背景があるとした上で、「医者に罹ることへの時間的・精
神的ハードルの高さ」
「医薬品を長期的に使うのは心配」「化学化合物を体に入れる
のは抵抗がある」等、病院、薬に対してのマイナスイメージも理由として挙げてい
ます。
しかし、
「医薬品とサプリメントの最も大きな違いとして、医薬品はかなりの母数
の市販後調査があり、サプリメントにはそれが無い。実際、いくつかのサプリメン
トについて調べた際、それらしきデータを並べてはいるが、しっかりとした医学論
文などの検証に耐え得るかどうか疑問を感じた。」と述べており、「基本的に本当に
有効なものは、医薬品として発売されるはず。」と患者に説明しているとのことです。
先のモデル事業によると、医師により「健康食品による健康被害を疑う」と報告
された 50 件の内訳は以下のようになります。
健康食品による被害の医学的関連性と重篤度(人数)
重篤度
その他
局所的
全身的
重大な
症状
症状
症状
8
1
3
11
7
2
1
21
1
4
7
4
16
1
1
死亡
(軽症)
不明
医学的に
疑い
医学的に
推定
12
医学的検
証済
総計
20
12
総計
12
6
0
50
これによると、
「症状と健康食品との関連性が医学的にも高いと思われ、かつ症状
の重篤度が高いもの」(黄色で示した部分)が全体の 30%にも上り、サプリメント
摂取の弊害の深刻度がうかがえます。
では、具体的な症状と健康食品との関連性(症状を引き起こしている原因)を見
てみましょう。
症状等と摂取食品との関連性
総計
※複数回答
N=50
過剰摂
アレルギ
有害成分
医薬品との相互
依存による治
取
ー
含有
作用
療中断
6
14
21
6
0
その他
総計
12
59
アレルギーが 29.1%、有害成分含有が 43.8%を占めています。過剰摂取が原因と
なっているものは比較的少ないが、1 人で 18 製品を摂取していた例も 1 件ありまし
た。
サプリメントによる健康被害の中には、医学的にもその摂取と症状の関連性が高
いと考えられるものが多く、中には重篤な症状に至るものもあります。
症状を引き起こす原因をみてみると、医師が患者の摂取状況を把握していれば発
症を防ぐことができたと思われるものが少なからずあり、医師会も健康被害防止に
向けてモデル事業を実施するなど、強い関心を持っていることがうかがえます。サ
プリメントと医療の連携はまだその端緒についたばかりですが、関心を寄せる医師
も多く、効果的に機能するためには医師と患者相互のコミュニケーション(例えば
かかりつけ医を持つことなど)が重要な鍵を握っていると思われます。
●不安の受け皿としての医療
以上のことから、医療機関はサプリメントを病気や医薬品との絡みで捉え、健康
被害防止を連携の大きな目的としていることがわかります。しかし、大半の消費者
はサプリメントを病気以外の健康増進、栄養補給、美容・ダイエットなどの視点か
ら捉えており、病気とまではいかないちょっとした不調や不安から利用している状
況があります。
もちろん健康被害の防止は今後の重要な課題ですが、医療機関はサプリ難民の不
安解消までは視野に入れておらず、現状では受け皿にはなっていません。
医療機関と消費者の眼差しの違い・隙間を埋める仕組みとして、どのようなこと
が考えられるでしょうか。
●サプリ難民の受け皿としての「サプリ・ステーション」
「健康不安の要因となるストレスを最も強く感じているのは、多忙な現役世代」
ということがアンケートにより浮き彫りにされました。多忙な人々にとり、一般的
な医療機関の診察時間に時間を取って受診することは、前述の医師も述べていたよ
うにハードルが高く、ある程度病状がはっきりするまでは行けないというのが実情
です。
これらの人々の健康不安の受け皿としては、夜間や休日に気軽に相談でき、便利
な駅前や商業施設の中に立地する「サプリ・ステーション」を提案したいと思いま
す。相談を受け、その人に必要なサプリメントをアドバイスするのは医師・薬剤師・
栄養士・アドバイザリースタッフ等が考えらます。
厚生労働省医薬食品局食品安全部「『健康食品』に係る制度に関する質疑応答集(平
成 17 年 2 月 28 日)」において、以下のような記述があります。
「健康食品」を利用するに当たっては、食品の持つ機能、その必要性、使用目的、
使用方法等について正しく理解し、情報を提供できる身近な助言者として、アドバ
イザリースタッフの活用が期待される。代表的なものとしては、独立行政法人国立
健康・栄養研究所が試験を実施しているNR(Nutrition Representative・栄養情
報担当者)、(財)日本健康・栄養食品協会が養成している食品保健指導士及び日
本臨床栄養協会が養成しているサプリメントアドバイザー等がある。
アンケート結果、その他の資料から、摂取しているサプリメントの種類の中でビ
タミンが最多であり、健康増進・栄養補給の目的でサプリを飲む人が圧倒的に多い
ことがわかりました(健康食品市場の歴史がビタミンで始まることからも、そもそ
ものサプリの目的は、健康増進・栄養補給でした)。
昨今の社会的背景からコンビニや外食に頼る人も増え、
「栄養不安」を感じている
人も多いと思われます。本来なら、我々の生命活動に必要とされるビタミン等の栄
養素は食事から摂るのが理想ですが、全てを食事から取るのが困難であり、また、
栄養に関する正しい知識なしに多種類の食品を選択した結果、食事の凹凸がひどく
なるというのが、現代の食事情です。その凹凸を修正するためにサプリを活用する
ことは有効な手段だと考えられます。現在の食事のどこがどう凹凸しているのか、
それを修正するには、どのようなサプリメントをどのように取ればよいのか、指導
できる人の存在が求められています。
また、健康不安のベースにストレスが存在することから、単に事務的にサプリメ
ントを選ぶというよりはゆっくりと話を聞くというようなカウンセリング機能も果
たせることが望ましいと思います。
基本的にはそのようなアドバイザリースタッフが主に相談に応じますが、前述し
たような健康被害を防止するためにも、オブザーバー的な立場としての医師や薬剤
師との連携が望まれます。
私達の提案
サプリ・ステーション
①サプリメントを健康という大きな観点からとらえる
②販売業者とは関係のないところで、中立な立場でアドバイスをする
③利用しやすい時間帯と場所
④必要に応じて医師や薬剤師との連携が可能
参考文献
1)田村正紀(2006)『リサーチ・デザイン─経営知識創造の基本技術─』白桃書房
2)近藤克則(2010)『「健康格差社会」を生き抜く』朝日新聞出版
3)内藤裕史(2007)『健康食品・中毒百科』丸善
4)金沢和樹(2010)『健康食品・サプリメントを科学する』 コープ出版
5)内閣府男女共同参画局(2007)『男女共同参画白書 平成 19 年版』
(http://www.gender.go.jp/whitepaper/h19/zentai/)
6)特定非営利活動法人 健康都市推進会議(2004) 『健康の社会的決定要因(第二
版)』
(http://www.tmd.ac.jp/med/hlth/whocc/pdf/solidfacts2nd.pdf/)
7)日本医師会制作物(2011)『日本医師会の健康食品安全対策について~「食品安
全に関する情報システム」モデル事業より~』(平成 23 年 3 月 4 日消費者委
員会ヒアリング資料)
(http://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2011/049/doc/049_110304_shiryou1.pdf)
8)日本臨床栄養協会(2005)『サプリメントアドバイザー必携 第2版』薬事日報社
9)株式会社野村総合研究所(2011)『日本が変わる、エッジが変える
エッジ産業
分析レポート~健康食品~』
(http://www.nri.co.jp/publicity/mediaforum/2011/pdf/forum151_2.pdf)
10) 独立行政法人
国立健康・栄養研究所『「健康食品」の安全性・有効性情報』
(https://hfnet.nih.go.jp/)
研究発表
田村
正紀
講師ゼミ
SNS 利用して旅行は豊かにできる?
指導教官
ゼミ助手
ゼ ミ 生
神戸大学名誉教授
松岡 孝子
緋本 順子 今村
北北海学園特任教授
田村
正紀
Ⅰ
仮
旅行の昔・現在・未来
Ⅱ
アンケートから見る旅行の目的・情報収集と手段
Ⅲ
アンケート結果の分析
Ⅳ
SNS とは
Ⅴ
神戸ツアー案(SNS つぶやき・個人的な経験情報を基に)
Ⅵ
ミシュランガイド・パリ等、ガイドブックと SNS の情報の質・量の比較
Ⅶ
SNS を利用しての消費者問題
Ⅷ
仮説の検証結果と提言
充
説
SNS(social networking service)
人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティ型のWeb
サイト。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場
を提供し、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」
といったつながりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供す
る、会員制のサービスのこと。人のつながりを重視して「既存の参
加者からの招待がないと参加できない」というシステムになってい
るサービスが多いが、最近では誰も自由に登録できるサービスも増
えている。
1
Ⅰ旅行の昔・今
旅行・時間軸と要因(表 1)
時代
~江戸
(※注)
要因
~現代
~現在
今・これから
個人の価値観の多様
化
多様化?
価値観
あこがれ
必ずかなえたい夢
行きたい人が行く→
行く人によって異な
る(多様化)
目的
参拝・湯治
新婚旅行・家族旅
行・社員旅行等
家族旅行・友人・
個人
交通
徒歩
馬
駕籠
新幹線
高速鉄道
バス
新幹線・自家用車(ス
さらに高速化?
ピード・利便性)~
or ゆとり
青春 18 切符・寝台特
(二極化・多様化)
急・客船(道中も)
短縮化
日帰り増
欧州のバカンス型
?
時間
数週間~数か月
一泊~一週間
費用
高額
高額(価値観による
が安くない)
低額化
(例 LCC)
さらに低額化?
or 超高額?
情報源
日記本・旅行記
旅行社・ガイドブッ
ク
ガイドブック・ブロ
グ
SNS が増える?
効果
一大行事
癒し・リセット
行事(連帯感)
満足感
癒し・娯楽
多様化
気持ち
なんでもあり?
失敗したくない
費用対効果
憧れ?
自由?
非日常?
※東海道中膝栗毛より
「旅」は、全時代を通して、非日常といえる。いかに「効果」
の満足度を高くできるかが昔・今を通しての課題である
仮
説
SNS を上手に利用することによって、「旅・観光」が
でき、より気軽に、内容豊かに、楽しめるのではないか?
2
Ⅱ
アンケートから見る旅行の目的・情報収集と手段
~消費者の希望は?~
かつて旅行は誰もが、他の消費を我慢しても、得たいと思う夢の一つだったが、移動時間・費用・
目的等の価値観の変化から、現在、旅行は行きたい人が行くものとなっているようである。
アンケートで、確認してみたい。
1.観光旅行アンケートからみる消費者意識(n=918)
(1)属性
今回のアンケートの回答者の年齢が、55 歳以上の高齢者が 50%を超えていることから、インターネッ
トや SNS 利用が少ないのではと危惧された。
就業状況では 55 歳以上女性の未就業者の回答が最も多かった。
年代別男女数
35-55歳
131
35歳未満
93
87
55歳以上
106
196
男性数
299
2
4
未回答
未回答
414
合計
0%
498
20%
女性数
40%
6
60%
80%
100%
年代・男女別就業状況
300
242
35歳未満男性
200
35歳未満女性
126
100
35-55歳男性
102
83 89
68
44
37
14
0
常勤
1
11
5
24
非常勤
35-55歳女性
55歳以上男性
43
3
6
0
12
55歳以上女性
未就業
(2)旅行実態
旅行回数(年間)
国内日帰り・宿泊、海外ともに性別、年齢での差際は見受けられない。しかし、国内旅行をしない、
海外旅行の経験がない回答では 55 歳以上の高齢者に多くの回答があった。
・国内日帰り旅行
年回 1~3 回の回答が最も多く(回答数 500/54%)、続いて年間 4~6 回(回答数 204/22%)とな
ったが、国内日帰り旅行をしない回答(回答数 93/10%)が得られた。
3
・国内宿泊旅行
年間 2~3 回(回答数 389/42%)が最も多く、続いて年間 1 回(回答数 279/30%)となった。国
内宿泊旅行をしない回答(回答数 155/17%・内 55 歳以上の回答が 104)が 3 番目の結果となった。
・海外旅行
海外旅行未経験の回答(回答数 260/28%)が最も高く、続いて 10 年に 1 回の回答(回答数 247/27%)
となった。未経験及び 10 年に 1 回の回答を合わせると 56%と半数以上を占め、海外旅行のハー
ドルが高いことを表している。
(3)支出可能金額(旅行 1 回あたりの支出可能金額)
支出可能金額においても性別、年齢での差は見受けられない。
・国内日帰り
5,000~10,000 円の回答(514/56%)と最も高い。次いで 10,000 円以上の回答
(246/28%)が高い。5,000 円以上とした回答が 84%となった。
・国内宿泊
20,000~50,000 円の回答(489/53%)と最も高い。次いで 10,000~20,000 円」の回
答(224/24%)と高い。10,000~50,000 円で 77%を占め、国内旅行では日帰り、宿
泊ともに安近短の傾向が高いと思われる
・海外旅行
100,000~300,000 円が最も高い回答(376/41%)、50,000~100,000 円(187/20%)
と高く、あわせて 61%で、高価格帯でも低価格帯でもなかった。
(4)国内宿泊旅行実態(直近での旅行)
・同行者と旅行形態」
家族との個人旅行の回答(401/44%)、友人・知人との個人旅行の回答(216/24%)が高く、あわ
せて 68%との回答があった。ついでツアーなど団体旅行の回答(175/19%)と高かった。
自由度の高さから個人旅行の回答が多いものの、気楽に参加できる団体旅行(日帰りバスツアー)
が受け入れられているのが伺える。55 歳以上の高齢者ではツアー党の団体旅行が受け入れられて
いる。
年代別旅行実態(直近での旅行)
400
300
200
100
家族との個人旅行
友人・知人との個人旅行
0
ツアーなど団体旅行
合計
55歳以上
1人の個人旅行
35-55歳
35歳未満
4
・交通手段(複数回答)
観光旅行手段
鉄道が一番多いが、マイカーとレンタカーを合わせる
407
と車を使っての旅行が最も高く、自由に時間が取れ、
400
目的地以外にも移動ができ自由度の高い旅行手段を
300
選ぶ傾向が高い。次いで鉄道であるが、比較的短時間
200
で移動できることが要因であると考える。バスは安価
385
358
200
85
100
で手軽にできる日帰り旅行を選択する傾向が見られ
61
33
0
た。飛行機は遠距離の移動時間が短縮できることが考
えられ、船舶は移動時間が長いことが低い回答の要因
と考えられる。
・旅先でのアメニティ
温泉と料理が重要であり、街並みや自然、名所旧跡に関する回答が多くみられ、旅行先の特色が
求められる傾向が伺える。
500
406
400
300
200
アメニティ(魅力)
315
283 278 270
252
159
122 120 113
100
86
84
78
76
51
37
36
31
77
0
・観光旅行先のアメニティ情報の収集と役立ち度
情報収集とその役立ち度では観光ガイドマップが最も高く、次いで旅行会社のパンフレットと口
コミが高い回答となった。ガイドマップで自ら計画を立て旅行を計画していることが伺える。反
面、SNS の利用が低いことが伺えるが、アンケートの高齢者の構成比が高かったと考えられる。
500
旅の情報収集と役立ち
400
情報収集方法
300
役立ち
200
100
0
5
・観光旅行をするために節約とするもの
節約では服飾代と外食を控え、旅行代に充てる傾向がある。特に 55 歳以上の女性には顕著にその特
徴が見られる。外食を控えるものの食費は最も低くなっている。
節
外食
食費
ファッション
約
交際費
書籍
自動車関連
その他
200
150
100
50
0
35歳未満
35-55歳
55歳以上
35歳未満
35-55歳
女性
55歳以上
男性
・インターネットの利用
インターネットの利用者は 611(67%)の回答があり、5 年以上の利用者が 522(利用者の 85%)で
ある。利用していないとの回答は 287(31%)ではある。55 歳以上の未利用者が 271 であり、今後
のインターネット利用者は増加するものと思われる。
インターネット利用期間
200
150
100
50
0
35歳未満
35-55歳
55歳以上
35歳未満
女性
1年未満
1~3年未満
35-55歳
55歳以上
男性
3~5年未満
6
5年以上
利用していない
無回答
・SNS 利用状況
SNS利用状況
年齢が高いい程、利用していない回答が高い
400
結果となった。しかし利用尾経験のある」と
300
の回答が 318 となり若年層では利用経験者の
回答が多くなっている。SNS に対する不安が
200
高齢者に多くみられ、若年層においては抵抗
100
がないことが解る。
(性別での差は見受けられない)
0
頻繁に
あまり どちら 全くし
時々し
してい
してい でもな ていな 無回答
ている
る
ない
い
い
35歳未満
38
71
32
4
47
1
35-55歳
24
28
32
13
125
2
55歳以上
12
34
47
11
372
21
35歳未満
35-55歳
55歳以上
・風景景写真や面白い情報があれば、インターネットに投稿して皆に見てもらいたいと思いますか。
前記利用状況と同じような結果となった。
年齢が高いほど抵抗感があり、年齢が低い程抵抗がないことが伺える。SNS の普及は進んではいる
が、今後スマートフォン、タブレットパソコンが普及するにつれ、さらに手軽に投稿できる環境が
進むにつれ拡大すると思われる。
ネット上に投稿したいか
300
200
100
0
全くそう思う
やや思う
35歳未満
17
48
19
51
57
35-55歳
16
24
20
55
106
55歳以上
12
30
38
103
286
35歳未満
どちらでもない あまり思わない
35-55歳
7
55歳以上
全く思わない
・アンケートからのお勧め神戸
【 グ ル メ 】 回 答 者 236( 26%)
神 戸 ビ ー フ が 最 多 を 占 め 、 続 い て 中 華 料 理 ( 回 答 数 27/南 京 町 が ほ と ん ど ) 、
洋 食( 回 答 数 2 5 )の 回 答 が 多 く を 占 め た 。他 洋 菓 子 、ホ テ ル で の 食 事 が 続 く 。
ま た 高 級 レ ス ト ラ ン( フ レ ン チ 、イ タ リ ア ン 等 )、長 田 区 に 特 化 し た 粉 も ん 、
ぼっかけの回答もみられた。やはり神戸の代表的なグルメは神戸ビーフであ
っ た 。 し か し な が ら 、 未 回 答 者 が 682( 72% ) も あ り 、 少 数 で は あ る が 、 分
からない、ない等の回答もあった。神戸を代表するものは神戸ビーフではあ
る が 、庶 民 が 神 戸 で し か 食 べ ら れ な い 物 を 作 り 出 す 必 要 が あ る の で は な い か 。
例えば回答にもあった、長田のぼっかけコロッケ、粉もんにヒントがあると
思われる。
【 観 光 地 】 回 答 者 378( 41%)
六 甲 山 ( 回 答 数 102) 、 有 馬 温 泉 ( 回 答 数 81) 、 北 野 異 人 館 ( 回 答 数 71) の
3 か 所 が 多 数 の 回 答 が あ っ た 。 他 、 旧 居 留 地 、 ハ ー バ ー ラ ン ド 7、 麻 耶 山 、 神
戸 港 ハ ー ブ 園 、王 子 動 物 園 等 が 挙 げ ら れ た 。ア ン ケ ー ト で 旅 行 の ア メ ニ テ ィ の
ト ッ プ と し て 温 泉 が 挙 げ ら れ た が 、そ の 通 り の 結 果 で あ る と 考 え ら れ る 。ま た
少 数 で は あ る が グ ル メ で も 触 れ た が 、 長 田 の 鉄 人 28 号 の モ ニ ュ メ ン ト を 挙 げ
る 回 答 も 少 数 で は あ る が あ っ た 。従 来 か ら の 名 所 は と も か く 最 近 で き た 名 所 ?
の回答がある事が伺える。
【 ホ テ ル ・ 旅 館 】 回 答 者 236( 26%)
ホ テ ル オ ー ク ラ ( 回 答 数 34) 、 北 野 ホ テ ル ( 回 答 数 29) 、 舞 子 ビ ラ ( 回 答 数
28) 、 有 馬 温 泉 の 旅 館 ( 回 答 数 25) 、 有 馬 グ ラ ン ド ホ テ ル ( 回 答 数 24) 、 オ
リ エ ン タ ル ホ テ ル ( 回 答 数 19) の 回 答 が 多 く あ っ た 。 観 光 地 の 回 答 と 同 様 に
温泉に魅力を求めていることが伺える。
【 土 産 物 】 回 答 者 263( 29%)
洋菓子(回答数 156/カステラ、チョコレート含む)が圧倒数を占めた。神戸プリン、ケーニヒス
クローネ、モロゾフ、エストローヤ、ユーハイムル等、神戸発祥の有名企業が多く存在すること
からと思われる。他少数ではあるが、神戸ならではのかわらせんべい、炭酸せんべい、神戸ワイ
ン、釘煮、豚饅等も挙げられた。
8
Ⅲ
アンケート結果の分析
・日帰り旅行の増加
・インターネット利用者は多いが、SNS 利用者は少ない。しかし、35 歳以下では、少数ではないこと
が分かる。
(アンケート対象者の特性か?インターネット多用している新聞記事、統計等多いが…(参
考)「旅行情報インターネット使用 90%超」、「情報拡散を好む若者」)
・「神戸」に関して、イメージが偏っている?
観光で、神戸と言えば…的な回答が多く、具体的な見どころ・特徴・魅力等の言及があまり見られ
なかった
・観光地の行き先決定要因は温泉・食事が大きい。日帰りであれば、まずどこで食事するか、が重要。
・旅行のために得ようとする情報・得た情報によって、旅行の内容に影響が出ている可能性がある。
ガイドブックで扱う情報は、どうしても「動かない対象」になりがちである。
旅行情報の質・量に着目
仮説を検証する前に…(SNS の情報の質・量は多く豊かか?)
インターネットサイトで「神戸・観光・SNS」を検索する
と、神戸観光 WEB「こうべウェブ info」、」神戸観光ガイ
ド、兵庫ツーリズムガイド等々、たくさんの神戸観光サイ
トが表示され、インターネット上に存在することが分かる。
また、
「趣味人倶楽部(シュミートクラブ)」や「フォート
ラベル」等、全国区の SNS も多数ある。さらに、Mappi
(マッピー・GPS 機能を使って、今いる場所の近くの情
報やお店のクーポンがもらえる SNS)等、様々な形態が
ある。これらの特徴は?役立ち度は?など、見ていきたい。
9
Ⅳ
SNS とは
特徴
リアルタイム
速報性・伝播力
共感・協調
感情や思考の共有
リンク
具体的行動の促進
オープン
参加や離脱が容易
興味喚起(いろいろな物事が決まっていく
プロセス可視・透明性
過程が見える)、透明性確保可能
情報の巨大なデーターベース→賞味期限
ストック型→フロー型
メリット
20 分~4 時間・「情報の一期一会」
外出や旅行などの余暇を楽しむために新たな情報収集チャネルとして期待
「過去の情報」を「自分で探して見に行く」から、「リアルタイムの情報」が「向こ
うからやってくる」に変える
ピンタレスト等写真の多用→視覚的に
わかりやすい・情報量が多い
災害時の情報検索・伝達・収集
旅 行 に 当 て 名所めぐりではなく、狭い路地に入って土地の暮らしぶりやにおいに触れる
はめると
自分の体験が誰かの役に立つ
ふつう、知り合いえない人と情報交換できる
今まさに起こっていることがらに出会える
利 用 者 に 必 自己責任・責任を負う能力
要な事
判断力
実名・匿名の意識・議論
情報リテラシーを育てること
(リアルタイムメディアが動かす社会
津田大介
より)
※観光サイトでも、口コミ等、リアルタイムに情報提供できる環境がなければ、SNS の特徴がなく、情
報の質は印刷物と変わりがない。
Ⅴ
神戸ツアー案(SNS つぶやき・個人的な経験情報を基に)
初詣パターン
南京町でカウントダウン悪天候時カフェ等→三宮神社又は走水神社に初詣(両方小さな神社なので、
両方詣るも可) →元町ケーキ(神戸っ子ならずとも、ザクロは懐かしい味だし、…何と、終戦直後は
リヤカーで売り歩いていたそう…
本店は、イートインもできる。)→海または山から初日の出を見
る海、大蔵海岸、麻耶山 →1/2 有馬の入湯式を見るお土産、炭酸煎餅、有馬筆
10
4月
桜パターン
須磨水族園→須磨浦公園で、花見をしながらお茶→王子公園ハッサム邸見学→王子動物園桜の通り抜
け
8月
みなとこうべ海上花火大会皆さん、ホテルの部屋や、レストランを予約しますが、無料で、よく見え
る場所があります…が、これは、ちょっと・秘密、そうそう、8 月は、海の盆踊りもあり、これが割り
と人気行事。
9月
中秋節
須磨浦離宮の月見の宴に参加しよう。お月見琴とか、舞とか、笛とか…平敦盛!須磨寺にお参りして
から、須磨山上公園にロープウェイで上り、下りて来てから、離宮公園に行きます・。ボックサンで
お菓子を買う。(ボックサンも、福原オーナーのお父さんの時代から神戸では馴染みのお店。ちなみ
に、弟さんも西区で、リッチフィールドってお店して、ここもお父さんの味を受け継いでいます)
10 月
何と言っても、ジャズストリートと、元町ミュージックウィーク。NHK 神戸スタジオだったり、大丸
前だったり、アサヒ会館前だったり、あっちこっち歩き回って疲れた…
12 月
ルミナリエ…と言いたいところですが、今年はフルーツパークが人気です。あと北野クリスマススト
リートや… 普通なら、フルーツパーク行く時は三田のアウトレットとセットにするのですが、今回
三田は関係ないので、王子動物園で、干支の引き継ぎ式を見てから、神戸ワイン城でワインを楽しみ、
酔いを冷ましてからフルーツパークに行き、遊んでからイルミネーションを楽しみましょう。
Ⅵ
ミシュランガイド・パリ等、ガイドブックと SNS の情報の質・量の比較
ミシュランガイド…歴史・成り立ちについてとても詳しく、観光地をどのように見たら良いか、に
ついての情報が豊富。情報の正確性・客観性に対して評価が高い。(広告掲載がない)
出版物は、その内容の正確性・客観性について責任がある。旅行ガイドブックの場合、見知らぬ土
地を旅する読者はガイドブックの情報に大きく依存するからである。しかし、一般のガイドブックは
広告に支えられており、内容に客観性を伴わせることと広告を掲載することが両立しうるかは、疑問
の残るところである。
(これは SNS にもいえる。
)国内では、地方別・都市別、登山など目的別という
ように分冊・シリーズ化して出版されている。名所旧跡だけでなく、宿泊施設や食事、土産物など、
消費誘導型の情報・広告も多い。一方で地域の行政庁やコミュニティが該当地域独自に発行するもの
もある。ガイドブックの内容は、発行日から経過するとともに現状に沿わなくなる。そのため、毎年
または数年間隔で改訂する必要があり、情報の賞味期限はどうしても、出版物の改訂間隔にあわされ
がちである。
旅行をする際の情報は、名所の案内だけでなく、交通網や、周辺情報などについても深く豊富な事
が望ましい。例えば、神戸観光をするうえで、SNS を利用して、ミシュランガイド・パリのような情
報が、より速く(しかも新しく、同時性があり、地域色が豊か)入手できると良いのだが。しかし、
11
SNS の性質上(口コミサイトは、情報の正確性が担保出来ない)、今のままでは、難しいと感じられる
…。反面、田山花袋の「温泉めぐり」や太宰治の「津軽」等にみられるような主観的な情報(土地情
報だけでなく、今そこに確かにある、人々の息づかいや暖かさ、状況の変化等)を、SNS の口コミは、
即座に伝えることができる。
神戸ツアー案に見られるように、SNS は季節の行事や、特別な催しについての情報が拡散・入手し
やすいと思われるので、上手に活用する方法を考えていきたい。
Ⅶ
SNS を利用しての消費者問題
・一般的な SNS の利用規約・プライバシーポリシーの検証等(フォートラベル)
利用規約・サービス内容が、一方的に随時変更・改定・廃止され、サイト利用することで、変更等
に同意したとみなされる。ユーザーに不利益または損害が発生したとしても、運営サイトは一切責
任を負わないと明記。著作権や、不適切な投稿の内容を理解しておかないと、トラブルに巻き込ま
れる可能性がある。ユーザーが本サービスの利用にあたり投稿した情報についての権利は、当該著
作物たる情報を創作した著作者または著作権者、その他当該権利に関する正当な権限を有する者に
帰属すると同時に、運営サイトに、日本の国内外において、無償で非独占的に使用、複製、編集、
改編、掲載、転載、公衆送信、頒布、販売、提供、譲渡、貸与、翻訳・翻案などができる権利及び
二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利(著作権法 21 条ないし 28 条の権利をいう。商用利
用を含む)を許諾したものとみなされる。更に運営サイトから第三者に対する再利用許諾権も含ま
れる。
また、ユーザーは、再利用許諾権を受けた第三者に対して著作者人格権を行使しないものとします。
(著作権を主張できない)
[規約例]
1 当社は、本サービスによって提供する情報(以下、「提供情報」といいます)について、いか
なる種類の保証も付けることはなく、とりわけ、これらの正確性、速報性、完全性については、
いかなる表明または保証(明示的、黙示的を問わず)も行いません。当社は、ユーザーによる
提供情報の使用(入手、収集、編纂、解釈、分析、編集、翻訳、送付、伝達、配布に関わる誤
り及びこれに依拠して製品を購入した場合のトラブルも含みますがこれに限られません。)ま
たは当社提供情報の使用が不可能であることによりユーザーに生じる損害について、一切の責
任を負いません。
2 本サービスにおける提供情報は、当社による商品の購入・売却もしくは保有、又は他社の提供
するサービスへの申し込み推奨とみなしてはなりません。また、提供情報の内容については時々
刻々変化する場合がありますので、ユーザーは、提供情報に全面的に依拠することなく、ご自
身の判断によって、商品の購入等を行われるようお願いいたします。
1
2 より、前提として、利用者自身の判断にゆだねられる。
[プライバシーポリシー]
個人情報の取り扱いについて理解が必要
クッキー(cookie)(アクセス及び閲覧履歴)について、知識・理解が必要→当該サイトを利用し
て検索を行うと、その結果が観光ヤフーやグーグル等、4~5 の会社にクッキーが利用されている。
12
Ⅷ
仮説の検証結果と提言
観光を活性化することで、消費者も豊かな時間を過ごせると思われる。インターネットは改訂が容
易なため、今後増えていくと考えられる SNS の利用には、しかし、注意も必要である。
1 消費者の希望と現状を近づけていくには。
食事が重要なので、店のクチコミを確認するなど、インターネット・SNS の活用場面は多い。
(若者層は、情報拡散に積極的との新聞記事も有)
あまりにも利用者(消費者)に不利な利用規約・プライバシーポリシーは見直されるべきでは。
また、書き込みの影響を知り、マナーを学ぶことも必要である。
2 今後増えると考えられる SNS を上手く利用するには
利用サイトの利用規約・プライバシーポリシーに関して、充分理解する。
個人情報の取り扱い、GPS 機能についてなど、様々な仕組みを理解する。
安心できるサイトを見分ける力を身につける。
3 神戸市への観光事業についての希望
観光地のアピールが少ないと感じる。例えば、大阪府堺市では名所旧跡に行くと、観光案内をする
ボランティアスタッフがいて、その場所について詳しく教えてもらえた。さらに近くの観光地の情
報と、バスでの行き方まで教えてもらえ、思いがけず、たくさんの場所を訪れることができた。先
日、須磨寺を訪れたが、残念ながら、案内は不十分と感じた。もし、散策しながら、その場で、詳
しい歴史や、見どころ、ちょっとした豆知識などが入手できたら、もっと親しみが持て、楽しかっ
たのではと思う。
せっかく神戸にはたくさんの名所・名物があり、それぞれに物語があるのだから、消費者が安心し
て利用できるインターネット環境を構築し、内容の信頼度を確保し、情報提供しやすく、利用しや
すい神戸観光 SNS ができることが望まれる。
神戸に詳しい人たちが、
「清少納言」のように、神戸について「六甲山は、~から見るのが素晴
らしい。」とか、「鉄 人 2 8 号 の モ ニ ュ メ ン ト は 何 月 の 、 何 時 ご ろ が 見 る の が い い 。」
な ど と 、 安 心 し て つ ぶ や け る 場 が あ れ ば 、 面 白 い の で は 。 人 と 人 ・ 場所と場所・
時間と時間などのつながりを、消費者と協力し、インターネット・SNS を活用して、補強してい
かれることを希望する。しかしながら行政では企業(屋号等)を特定することは難しいと思われる。
そこでボランティア的な SNS ホームページを立ち上げ、行政はそれらをバックアップできるリン
ク(イベント情報、市の施設情報等)を掲載し相互に関連情報を広く公開することが幅広く神戸市
の観光事業につながるものと考える。
13
提
言
神戸市の魅力アップのためのネットワークの構築
市民による神戸市の魅力情報発信を!!
情報発信基地(仮称)
市民が神戸市の体験談、アメニティの投稿
情報発信
情
報
<旅行者>
他市町村との提携
情報収集
情報
見つけに行こう!神戸!!
―
14
以上
-
研究発表3
田村 正紀 講師ゼミ
「幸せな生活とは」
【指導教官】
神戸大学名誉教授 北海学園特任教授
【ゼミ生】
秋山
ひろみ
上田
田村
正紀
明子 上代 節子
Ⅰ.序文
戦後の経済復興と高度経済成長の結果、わが国は、世界でもトップクラスに入る経済
大国となった。身近に物が満ちあふれ、必要なものは何でも手に入る社会が実現した。
しかし、世界第三位である GDP(国内総生産)が示すようなゆたかさの実感ができな
いと言われている。
国の政策の根拠となっているものは、GDP(国内総生産)の成長率であるが、これ
は、市場での生産額を示している。GDP が伸びることにより、人々の生活は良くなり、
豊かな生活が実現してきた。しかし、今や経済成長の望めない時代である。平成 20 年
度国民生活白書によると、1990 年代、2000 年代に向かうにつれ、実質 GDP の増加の
ペースが鈍くなり、生活満足度が低下してきているという結果がある(図表 1)
。GDP
は、経済面でのゆたかさを示す指標でしかなく、生活実感を感じ取ることができないこ
とが指摘されている。
図表1 一人当たり実質GDPと生活満足度の推移
では、ゆたかさ(幸福)とは一体何なのだろうか。我が国では、過去において、ゆた
かさを指標化してとらえるよう試みられたこともあった(1992 年に国民生活審議会に
より、PLI 新国民生活指標が提案された)
。また、近年、ブータンが提唱している GNH
(国民総幸福)という考え方が注目されている。GNH では、経済的ゆたかさだけでな
く、より包括的な生活のゆたかさを考えている。幸福度を測定してみようとする動きは、
現在世界的に広がっている。その理由は、環境破壊にもつながる GDP が伸び続けるよ
うな経済成長を求め続けるべきだろうかといった疑問があるからである。
そこで私たちは、経済的な尺度のみではなく、幸せに暮らすためには生活の中で何に
価値を求めたらよいのかを考えてみた。日常生活においてどのような側面をより重視す
ると幸せを実感できるのだろうか。
Ⅱ.目的
ゆたかさには、「物のゆたかさ」と「心のゆたかさ」の両面がある。ここでは、とも
に含める価値を「幸福度」と呼ぶことにする。経済成長の望めない時代に、幸福を実感
して生活してゆくためには、生活のどういう側面をより重視したらよいのか、作文及び
アンケート調査により考察する。
Ⅲ.方法
1.「豊かな貧乏生活」についての作文の概要
(1)テーマ
「豊かな貧乏生活」と聞いて、思い浮かべる生活を小説家になったつもりで朝起きて
から夜寝るまでの一日を 400 字程度の作文にして書いてもらう。
(2)回答者の属性
回答数 39 部(38 名)
性別 男性 10 名 女性 24 名
年齢 10 代 1 名
20 代 2 名
不明 4 名
30 代 0 名
40 代 10 名 50 代 16 名
60 代 3 名
70 代 2 名 不明 4 名
2.「幸せな生活」についてのアンケートの概要
(1)質問項目の作成(資料1)
作文結果及び日経テレコンのキーワード検索を参考に、キーコンセプトを「幸せな生
活」として、健康、生きがい、お金、新しい消費など生活の諸側面に分けて、幸福度を
測るため 32 の質問項目を設定した。それぞれの質問項目について、全くあてはまらな
い、ややあてはまる、どちらでもない、ややあてはまる、全くあてはまるの5段階で答
えてもらった。
(2)回答者の属性
総数 918 名
性別 男性
414 名、女性
年齢別 35 歳未満
498 名 不明6名
193 名、35 歳から 55 歳 224 名、55 歳以上 497 名、不明4
名
就業形態別 常勤
424 名、パート
同居者の有無 同居者あり
121 名、なし
778 名、同居者なし
367 名、不明6名
134 名、不明6名
Ⅳ.結果
1.「豊かな貧乏生活」の作文結果
(1)作文例
作文の結果得られた回答例を以下に示す。
・田舎の格安一軒家を賃貸で借り、家族で食す野菜程度は家庭菜園でまかなう。
(40 代
女性)
・地域自治会のボランティアで小学生の安全パトロールにも手を挙げ、結構忙しく毎日
を過ごしている。
(60 代男性)
・ストレッチやラジオ体操、ウォーキングなどの軽い運動のあと、畑で採れた野菜をサ
ラダにして朝食を摂る。
(40 代女性)
・エアコン、車のない生活、節約生活を送っております。毎日の日課は朝5時に起床す
ると、約1時間、夫婦で散歩し、帰宅後は6時25分からの NHK の5分間の体操をす
るのを日課としています。朝食は、ご飯に家庭菜園で栽培した野菜で、米、調味料以外
は、自給自足で菜食中心の食生活をとっています。(60 代男性)
・朝日がアルプスの頂から顔を出すと同時に、私の一日はこんな風に始まる。まず身仕
度をして仏壇に手を合わす。庭に水をやり、トマトをもぐ。ゆっくりと食事をし、新聞
に目を通す。ふっと浮かんだ句をチラシの裏に書き留める。
(70 代女性)
(2)キーワードの分類(資料 2)
作文に書かれている言葉の中で、「豊かな貧乏生活」の特徴づけていると思われる言
葉を抜き出し、分類・整理した。
(3)キーワード分類の分析
・忙しすぎてあわただしい毎日の中、自然をめで、自由時間を生かし、ゆったりとくつ
ろぐことを理想としているように感じられる。
・明るい、健康なイメージで描かれている。
・手作りのもの、旬のものに価値を見出し、物を大切にし、省エネにも配慮する。
・町の人や友人・知人との交流を重視している。
・作文から伺える生活とは、知識ではなく、経験を生かす、生活の知恵と言える。
2.「幸せな生活」についてのアンケート結果
実施したアンケートは、EXCEL や統計解析ソフト SPSS を用いて解析するため、そ
れぞれの質問項目にラベルをつけた(資料1)。以下、各質問項目の代わりにラベルを
用いて分析する。
(1)アンケート回答傾向(資料3)
まず、アンケートの回答傾向を見てみる。以後、35 歳未満を若年世代、35 歳から 55
歳を中年世代、55 歳以上を高年世代と表記する。また、文中の数字の意味は、以下の
とおりである。1(全くあてはまらない) 2(ややあてはまらない) 3(どちらでも
ない)
4(ややあてはまる)
5(全くあてはまる)
なお、回答傾向は、アンケート項目を作成する際、設定した分類ごとに分析した。
①健康(アンケート項目【1】~【6】
、【32】
)
■全体
【1 早寝早起き】
【3 衣服で調節】
【4 有機野菜】
【5 栄養バランス】【6 健康診断】で
は、4 と 5 の割合がいずれも高く、健康に対する関心の高さと実践の様子がうかが
える。
【2 運動習慣】は、ある人とない人の割合がほぼ同じである。
【32 健康の実感】
は約半数の人が健康だと思っている。
■世代別
【1 早寝早起き】
【2 運動習慣】
【3 衣服で調節】
【4 有機野菜】
【5 栄養バランス】で
は、高年世代が、他の世代より 4 と 5 の割合がいずれも高い。特に、【2 運動習慣】
のある人の割合は、高年世代が、若年世代の 2 倍近い。
【6 健康診断】は、世代間の
差はほとんどなく 80%以上が定期的に健康診断を受けている。中でも中年世代の受
診率が 85.3%と最も高い。
【32 健康の実感】では、4,5 と答えた人の割合が、中年世
代では低くなっている。
②生きがい(
【7】~【14】)
■全体
【7 ベランダに野菜】は、
「育てている」が「育てていない」をやや上回る。
【8 近隣に
自然が多い】は、4 と 5 で 58%である。【9 旅行】は、回答にばらつきがある。【10
家族団欒】
【11 知人親戚】
【13 趣味】は、4 と 5 を合わせるといずれも約 70%になる。
【12 行事参加】は、5 が 24%で最も高いが、回答にばらつきがある。
【14 仕事で社
会貢献】は、4 と 5 を合わせると約 50%である。
■世代別
【7 ベランダに野菜】
【12 行事参加】は、4 と 5 と答えた人の割合が最も高い世代は、
高年世代で、中年世代、若年世代の順に低くなっている。【13 趣味】も 4 と 5 と答え
た人の割合が最も高い世代は高年世代であった。
【10 家族団欒】は、4 と 5 と答えた
人が、中年世代で 75.4%、高年世代で 74.3%とほぼ同じだが、若年世代では 56.2%と
最も低い。
③お金(【15】~【21】
)
■全体
【15 衣類の長期使用】
【16 購入時熟考】ともに約半数がお金を節約し物を大切にする
シンプルライフを実践している。また、もっと物が買えても幸せだと思わない人が半
数近くいる(
【17 物と幸せ】
)
。しかし、【18 節約】では、実際に家計簿をつけ、節約
している人は 3 割以下である。
【19 貯蓄】
【20 所得満足】とも 4 が最も高い。
【21 図書館】は、利用している人は少数
派である。
■世代別
【15 衣類の長期使用】
、
【16 購入時熟考】では、高年世代は、4 と 5 と答えた人の割合
が最も高い。また、物が増えても幸せだと思わない人が高年世代で最も多い。【20 所
得満足】で、所得に対し満足していない人は、中年世代が最も多く、若年世代と高年
世代は、ほぼ同じである。
【21 図書館利用】については、若年世代の利用率が最も低
い。
④新しい消費(
【22】~【27】、【30】、
【31】
)
■全体
【22 カーシェアリング】
【24 リサイクルショップ】
【25 家事代行サービス】
【27 買物に
ネット利用】は、1 が最も高く、利用が少ない。
【23 惣菜活用】
【26 百円商品廃棄】は
回答にばらつきがある。
【30 SNS で交流】【31 情報アップロード】ともにまだ利用が
少ない。このように「新しい消費」という項目を設定したが、現在及び将来に向けて
の利用の割合が、低い消費傾向にあることが伺える。
■世代別
若年世代では、
【22 カーシェアリング】を利用したいと考えている人が多く、
【23 惣
菜利用】
【27 買物にネット利用】でも利用することが多いと回答。
【24 リサイクルシ
ョップ】は、中年世代の利用が多く、若年世代、高年世代の利用は少なくなっている。
【30 SNS で交流】は、若年世代では、過半数の人が利用している。【31 情報アップ
ロード】も、若年世代では多い。いずれも世代が上がるにつれて利用は少なくなって
いる。
⑤指標(【28】、
【29】
)
■全体
【28 質素】は、3 が 40%と最も高い。4 と 5 を合わせると 46%になる。
【29 幸せ】は、
4 と 5 を合わせると 71%となる。一方、少数ながら、幸せであると感じていない人も
いた。
■世代別
【28 質素】は世代間の差異はほとんどない。【29 幸せ】は、中年世代、高年世代とも
4,5 と答えた人が 7 割以上であるが、若年世代は、7 割に満たず、最も低くなってい
る。
(2)【29 幸福度】への回帰分析
アンケート結果から、
【29 幸福度】に最も影響を与えている項目を調べるために、IBM
の統計解析ソフト SPSS を用いて、段階的回帰分析を行った。幸福度に、影響を与えて
いる順に図に示す。
(図表 2)
その結果、最も幸福度に影響を与えている項目は、
【10 家族団欒】であった。家族と
ともに時間を過ごすことが、生きがいにもつながり、充実した生活につながると言える。
2 番目は、
【20 所得満足】である。生活に十分なお金があるかどうかは、幸せを感じる
上で重要である。また、3 番目は、【32 健康の実感】である。この、生きがい、お金、
健康の3つは、幸せな生活をする上で重要な要素である。
また、
【17 物と幸せ】の項目がマイナスの傾きとなっており、物が増えたら幸せにな
るという考え方は否定されている。物によって満たされるという高度経済成長時代の考
え方ではなく、より、生活の質が重要視されている。これは、内閣府の「国民生活に関
する世論調査 2012.8」でも、同様の結果が得られている(物のゆたかさよりも心のゆ
たかさを求める人の割合が 64%)。
図表 2 【29 幸福度】に影響を与えている項目(段階的回帰分析)
(3)【29 幸福度】への回帰~世代別の分析
次に、幸福度に影響を与えている項目を世代別に段階的回帰分析を行ない、影響度を
調べた。その結果を、表に示す(図表3)
。
図表3 世代別【29 幸福度】に影響を与えている項目
35歳未満(若年世代)
35歳から55歳(中年世 55歳以上(高年世代)
代)
1 10 家族団欒
10 家族団欒
20 所得満足
2 32 健康の実感
20 所得満足
13 趣味
3 14 仕事で社会貢献
15 衣類の長期使用
17 物と幸せ
4 9 旅行
18 節約
32 健康の実感
5
24 リサイクルショップ
6
10 家族団欒
この結果により、若年世代は、
【10 家族団欒】が最も【29 幸福度】に影響を与えて
おり、地域とのつながりはあまりないが、家族指向が強いことが分かる。また、健康で
あるという認識が幸せ感につながっている。中年世代もまた、
【10 家族団欒】が最も幸
せ感に影響を与えているが、働き盛りで仕事に生活にと追われる堅実な生活を反映して
か、
【20 所得満足】が次に、
【15 衣類の長期使用】、
【18 節約】が続いている。高年世代
は、生活に十分な所得が最も切実に幸福度に影響しており、
(【20 所得満足】が最も【29
幸福度】に影響している)
、次に、生きがいを追い求め(【13 趣味】)、生活は、物質的
な価値だけでなく、質素に(
【17 物と幸せ】がマイナス、【24 リサイクルショップ】
)
生活するスタイルが幸せ感に通じている。
(4)【29 幸福度】との相関分析
次に、
【29 幸福度】と他の質問項目の間の回答傾向に相関があるかどうかを相関分析
を用いて調べた。その結果を以下に示す(図表 4)。
図表4 世代別【29 幸福度】との相関がある質問項目
35歳未満
35歳から55歳 55歳以上
若年世代
中年世代
高年世代
1早寝早起き
1早寝早起き
1早寝早起き
21図書館利用
2運動習慣
5栄養バランス
3衣服で調節
23惣菜活用(マイナス)
3衣服で調節
6健康診断
4有機野菜
24リサイクルショップ
8近隣に自然
8近隣に自然
6健康診断
28質素
9旅行
9旅行
7ベランダ野菜
31情報アップロード
10家族団欒
10家族団欒
9旅行
32健康の実感
11知人親戚
11知人親戚
10家族団欒
14仕事で社会貢献 13趣味
11知人親戚
15衣類の長期使用 14仕事で社会貢献 12行事参加
18節約
15衣類の長期使用 13趣味
19貯蓄
16購入時熟考
20所得満足
17物と幸せ(マイナ 15衣類の長期使用
14仕事で社会貢献
ス)
23惣菜活用(マイナ 18節約
16購入時熟考
ス)
28質素
19貯蓄
17物と幸せ(マイ
ナス)
32健康の実感
20所得満足
18節約
23惣菜活用(マイナ 19貯蓄
ス)
32健康の実感
20所得満足
その結果、質問項目は、世代が上がるごとに有意な相関がある項目が増えることが分
かった。これは、高年世代では、幸せを感じる人がより節約、節制した生活を心がけ、
生活の中でいろいろな工夫をしていることが伺える。また、どの世代でも幸福度との相
関が見られなかった項目は、
【22 カーシェアリング】と【30 SNS で交流】である。若
年世代に利用の多い SNS であるが、幸福度とは無関係であることは、注目すべきこと
である。
(5)因子分析
アンケート項目がどれだけの要素から成り立っているかを調べるために、世代別に因
子分析を行った。その結果、若年世代は、11、中年世代は、10、高年世代は11の
要素から成り立っていることが分かった。これは、質問項目が当初設定した、健康、生
きがい、お金、新しい消費などの要素だけでなく、もっと多くの要因から成り立ってい
ることを示している。また、世代により構成要素が異なっており、回答傾向に差異があ
ることが分かった。
(6)【29 幸福度】の世代別男女差の比較
【29 幸福度】を世代別、男女別に5段階評価の平均点を出し、カイ二乗検定を行い、
有意差があるかどうか調べた。その結果、最も得点の低い若年世代男性と最も得点の高
い高年世代女性の得点差について、有意差が見られた。これにより、高年世代女性が、
もっとも幸福度が高く、生活により満足していることが分かった。
図表5 【29 幸福度】の世代別男女差の比較
男
女
合計
35歳未満
3.67
3.88
3.79
35歳-55歳
3.91
3.84
3.88
55歳以上
3.86
3.94
3.91
合計
3.84
3.91
3.88
Ⅴ.提案
幸福度に最も影響を与える項目は、単に経済的な価値観だけでなく、健康、家族団欒、
趣味などの側面も大きく影響している。また、若年世代の男性よりも高年世代の女性の
方が、幸福度が高かった。これは、高年世代の方が、生活の質を上げるための生活の知
恵を身につけていると考えることもできるのではないか。
若年世代では、ネットに親しみ、SNS にも親しんでいるという結果が出た。じかに
関わりあう関係ではなく、感情を含めない文字情報だけでつながるという関係は、微妙
な感情のやりとりを含まないため、対人関係が、平準化されやすい。これを人間の絆と
言えるかどうかについては疑問も感じる。高齢世代の持っている生活の知恵にもとづい
た人間の絆にとって代われるものとは言い難いが、次世代の主役は間違いなくネット世
代の若者である。どのような社会が作られることであろうか。
神野直彦氏も言っているように、「ゆたかな自然、人間のふれあいと絆が、幸福をつ
くる。」私たちは、もっと高齢世代の持っている対人関係の技術や生活の知恵に学ぶ必
要があるのではないか。
幸せの実感を得るためには、単に便利さや物質的な満足を追いかけるだけではなく、
もっと生活の質を高めるような方向であるべきである。それは、
「良いものを長く着る」
などに見られるように、消費の質を向上させ、お金を有意義に使う、「足るを知る」生
活である。流行を追いかけたり、物を買い続けたりするような際限のない欲望を追いか
けても幸せ感を感じることはできない。
現代の社会は、使い捨てが広がり、夜昼関係なく 24 時間型で、人と人とのつながり
が薄れてしまっている。また、大量生産、大量消費の社会では、持続可能な社会を築く
ことができない。エネルギーや資源を大量に消費する現在の生活をより環境負荷の少な
いものへと改善していかなければならない。それには、
「あらゆる物を使いつくす」
、
「自
然のリズムに合わせた暮らし」
、「大事なことでつながる地域」(NHK ニュース
時論
公論 2011.9.19)といった暮らしの知恵というべき価値観を生活に取り入れてゆくこと
が必要なのではないだろうか。また、アンケート結果にも見られるように、幸せ感につ
ながる行動としては、所得に対し、貯蓄などの金銭計画を立て、家族とともに過ごす時
間を大切にし、生きがいにつながる趣味を持つ、など、丁寧に生活をしてゆくことであ
ると思う。幸せな生活の要因は多様であり、一概には言えないが、生活を点検し直し、
無駄をはぶき、丁寧な生活をしてゆくことを提案したい。
■参考文献
平成 20 年度国民生活白書
内閣府
GNH(国民総幸福)―みんなでつくる幸せ社会へ
枝廣淳子他 海象社
消費者の歴史 田村正紀 千倉書房
清貧の思想
中野孝次 文春文庫
リサーチ・デザイン
田村正紀 白桃書房
EXCEL ビジネス統計分析
SPSS による統計解析入門
2007/2003 末吉正成・末吉美喜著
株式会社翔泳社
小田利勝 プレアデス出版
国民生活に関する世論調査(平成 24 年 6 月) 内閣府
人間回復の経済学
神野直彦
岩波新書
暮らしの質を測る 経済成長率を超える幸福度指標の提案 ジョセフ・E・ステイグリッツ
/アマティア・セン/ジャンポール・フィトゥシ 一般社団法人金融財政事情研究会
安全・安心でゆたかな暮らしを考える 中島克己 三好和代編著 ミネルヴァ書房
■添付資料
資料1 アンケート項目一覧
資料2 「豊かな貧乏生活」作文のキーワード分類
資料3 設問別アンケート回答数
資料 1
アンケート項目一覧
※調査概要
調査対象:主として関西に居住する成人男女・有効回答数 918 件
回答属性:①性別:女性(54.6%)
、男性(45.4%)
、②年齢:35 歳未満(21.2%)
、35~ 55 歳未満(24.5%)
、55 歳以上(54.4%)
③職業:なし(40.2%)
、非常勤・パート(13.3%)
、常勤(46.5%)
分類
ラベル
④同居者:ない(14.7%)
、ある(85.3%)
アンケート項目(いずれも 5 点尺度で質問)
1
早寝早起き
自然のリズムに合わせて、早寝、早起きを心がけている
2
運動習慣
ウォーキング、ジョギング、ラジオ体操などの運動習慣を生活に取り入れている
衣服で調節
夏や冬は冷暖房よりも衣服を調節して、体温調節をしている
有機野菜
値段が高くても、安全・安心のために、有機野菜や無農薬野菜を買うようにしている
栄養バランス
献立は魚や野菜を取り入れ、栄養バランスをとる
6
健康診断
定期的に健康診断を受けている
32
健康の実感
現在自分が健康だと思いますか
7
ベランダ野菜
庭やベランダで花や野菜を育てている
近隣に自然
自宅周囲や近隣には自然が多い
旅行
他の人より、よく旅行していると思う
家族団欒
一緒の食事など、家族とのだんらんの時間がある
3
健
4
5
8
康
生
9
10
き
11
が
知人親戚
気軽に行き来できる親戚や知人が近くにいる
12
い
行事参加
地域の行事に積極的に参加したり、ボランティアをするなどして、知り合いを増やすように
している
13
趣味
趣味を持ち、楽しむ時間を持っている
14
仕事で社会貢献
仕事を通じて、社会貢献をしていると感じている
15
衣類の長期使用
衣類は流行にとらわれず、良質のものを長く使用する
購入時熟考
欲しいものはよく考えてから買い、物を増やさない
物と幸せ
もっと物が買えたら、もっと幸せになると思う
節約
家計簿をつけ、節約するなど生活の工夫をしている
19
貯蓄
家計は資金計画を立てて、貯蓄している
20
所得満足
今の所得で十分生活できている
21
図書館利用
本・雑誌は買うよりもむしろ図書館を利用している
22
カーシェアリング
カーシェアリングシステムがあれば、利用してみたい
惣菜活用
出来あいの惣菜や、半加工の食材を利用することが多い
リサイクルショップ
不要になった衣類や本はリサイクルショップを利用する
家事代行サービス
忙しいときなど家事代行サービスを利用したことがある
16
お
17
18
23
金
新
24
25
し
26
い
百円商品廃棄
100 円ショップの品は気にしないで捨てられるので便利だ
27
消
買物にネット利用
買物、外食、観光に際してはインターネットをよく利用する
SNS で交流
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用し、友人や知人との交流をしていますか。
30
費
31
28
29
情報アップロード
指
標
風景写真や面白い情報があれば、インターネットにアップして皆に見てもらいたいと思いま
すか
質素
自分の生活スタイルは簡素であると思う
幸福度
自分の生活は幸せであると感じている
資料2
No. 分類
1 イメージ
2 自然
3 食事
「豊かな貧乏生活」作文のキーワード分類
キーワード
平穏、ゆったり、イライラしない、仲良く楽しく、笑
いあふれる、GNH国民総幸福量(自由、公平、健康、安
全、生態系)、GPI(真の進歩指標)、ブータン、健
康、挨拶、感謝、心と体の健康、才能、人脈
家庭菜園、道の駅、半農半民、貸し農園、田舎に住
む、南の島、川、美しい地球、自給自足、無農薬、摘
みたての野菜、太陽の光、雑草、空の雲の様子の観
察、小鳥のさえずり
自家製パン、手作りジャム、田舎料理、麦入りご飯、
弁当、手作りプリン、コーヒー、旬の野菜、玄米ご
飯、ぬか漬け、有機野菜、手作りクッキー、野菜
ジュース、梅酒、缶ビール
イメージ
明るい前向きなイ
メージ
自然とともに生活
する
手作りのもの、旬
の野菜に価値を見
出している
4 運動
お金をかけずに体
散歩、スポーツクラブ、山登り、ラジオ体操、ハイキ を動かすことが中
ング、森林浴、ジョギング、山歩き
心。自然の中を歩
くなど。
5 レジャー
高級ホテルに宿泊、旅、温泉、美術館、博物館
6 環境
物を大事にし、省
修繕作業、畑仕事、パート、リサイクル、整理整頓、
エネなどの環境対
カーシェアリング、フリーマーケット、緑のカーテン
策をする
7 社交
ホームパーティー、お祭り、イベント、ティータイ
まちの人や友人、
ム、家族だんらん、ボランティア、友達、商店街、安
知人との交流を重
全パトロール、一人暮らしの会、老人ホーム、朝飯
視する。
会、サークル活動
8 趣味
短歌、俳句、映画、かるた会、スケッチ、韓流ドラ
マ、読書三昧、バンド活動、テレビドラマ、クロス
ワードパズル、ブログ、スケッチ、日曜大工、画家
日常から離れた世
界で息抜きをす
る。
夢中になれる趣味
の時間をすごす
資料3 設問別アンケート回答数
アンケート回答総数
1
ラベル
アンケート項目
1 早寝早起き
自然のリズムに合わせて、早寝、早起きを心がけて
いる
2 運動習慣
ウォーキング、ジョギング、ラジオ体操などの運動
習慣を生活に取り入れている
3 衣服で調節
4 有機野菜
918
2
全くあてはまらない ややあてはまらない
3
4
5
どちらでもない
ややあてはまる
全くあてはまる
無回答
83
9%
154
17%
157
17%
330
36%
181
20%
13
1%
231
25%
152
17%
126
14%
239
26%
157
17%
13
1%
夏や冬は冷暖房よりも衣服を調節して、体温調節を
している
43
5%
107
12%
153
17%
438
48%
165
18%
12
1%
値段が高くても、安全・安心のために、有機野菜や
無農薬野菜を買うようにしている
84
9%
126
14%
294
32%
305
33%
95
10%
14
2%
5 栄養バランス 献立は魚や野菜を取り入れ、栄養バランスをとる
23
3%
74
8%
124
14%
460
50%
224
24%
13
1%
6 健康診断
46
5%
49
5%
70
8%
286
31%
455
50%
12
1%
284
31%
85
9%
83
9%
219
24%
234
25%
13
1%
81
9%
139
15%
154
17%
295
32%
237
26%
12
1%
163
18%
170
19%
250
27%
206
22%
116
13%
13
1%
定期的に健康診断を受けている
7 ベランダ野菜 庭やベランダで花や野菜を育てている
8 近隣に自然
自宅周囲や近隣には自然が多い
9 旅行
他の人より、よく旅行していると思う
10 家族団欒
一緒の食事など、家族とのだんらんの時間がある
66
7%
105
11%
95
10%
371
40%
271
30%
10
1%
11 知人親戚
気軽に行き来できる親戚や知人が近くにいる
47
5%
85
9%
139
15%
356
39%
279
30%
11
1%
12 行事参加
地域の行事に積極的に参加したり、ボランティアを
するなどして、知り合いを増やすようにしている
181
20%
168
18%
162
18%
175
19%
223
24%
9
1%
13 趣味
趣味を持ち、楽しむ時間を持っている
46
5%
71
8%
144
16%
362
39%
279
30%
16
2%
14
仕事で社会貢
仕事を通じて、社会貢献をしていると感じている
献
98
11%
77
8%
275
30%
293
32%
158
17%
17
2%
15
衣類の長期使 衣類は流行にとらわれず、良質のものを長く使用す
用
る
17
2%
102
11%
310
34%
341
37%
139
15%
9
1%
37
4%
158
17%
256
28%
305
33%
151
16%
11
1%
16 購入時熟考
欲しいものはよく考えてから買い、物を増やさない
17 物と幸せ
もっと物が買えたら、もっと幸せになると思う
226
25%
203
22%
301
33%
132
14%
47
5%
9
1%
18 節約
家計簿をつけ、節約するなど生活の工夫をしている
250
27%
206
22%
203
22%
176
19%
69
8%
14
2%
19 貯蓄
家計は資金計画を立てて、貯蓄している
107
12%
179
19%
274
30%
295
32%
51
6%
12
1%
20 所得満足
今の所得で十分生活できている
91
10%
159
17%
217
24%
298
32%
139
15%
14
2%
21 図書館利用
本・雑誌は買うよりもむしろ図書館を利用している
350
38%
198
22%
191
21%
110
12%
59
6%
10
1%
22 カーシェアリング
カーシェアリングシステムがあれば、利用してみた
い
315
34%
141
15%
274
30%
89
10%
35
4%
64
7%
23 惣菜活用
出来あいの惣菜や、半加工の食材を利用すること
が多い
154
17%
233
25%
234
25%
224
24%
61
7%
12
1%
24 リサイクルショップ
不要になった衣類や本はリサイクルショップを利用
する
311
34%
190
21%
189
21%
156
17%
60
7%
12
1%
25 家事代行サービス
忙しいときなど家事代行サービスを利用したことが
ある
801
87%
45
5%
24
3%
16
2%
19
2%
13
1%
26 百円商品廃棄
100円ショップの品は気にしないで捨てられるので
便利だ
126
14%
200
22%
294
32%
215
23%
71
8%
12
1%
27 買物にネット利用
買物、外食、観光に際してはインターネットをよく利
用する
276
30%
111
12%
140
15%
218
24%
162
18%
11
1%
28 質素
自分の生活スタイルは簡素であると思う
20
2%
99
11%
369
40%
319
35%
102
11%
9
1%
29 幸福度
自分の生活は幸せであると感じている
10
1%
32
3%
215
23%
437
48%
215
23%
9
1%
30 SNSで交流
SNSを利用し、友人や知人との交流をしています
か。
546
59%
111
12%
28
3%
134
15%
74
8%
25
3%
31 情報アップロード
風景やおもしろい情報があれば、インターネットに
アップして皆に見てもらいたいと思いますか。
450
49%
210
23%
77
8%
103
11%
45
5%
33
4%
32 健康の実感
現在自分が健康だと思いますか
58
6%
172
19%
205
22%
295
32%
179
19%
7
1%
神戸コンシューマー・スクール
平成 24 年度調査
神戸市市民参画推進局市民生活部消費生活課
消費者アンケート調査へのご協力のお願い
時下、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
平素は、本市の消費者行政にご協力いただきありがとうございます。
さて、本市で開講している「神戸コンシューマー・スクール」において、物質的豊かさ、
サプリメント、旅行情報に関する消費者の意識を研究するため、消費者にアンケート調査
を実施することになりました。
大変お忙しいとは存じますが、本アンケート調査にご協力いただきますようお願い申し
上げます。
平成24年10月31日
【お問合せ】
神戸市市民参画推進局消費生活課
高平、藤川、藤井
電話322-5185
【記入要領その他】
1.選択肢は、特に指示がなければ、1つだけお選びください。
2.質問ごとに、当てはまる番号に○をご記入ください。
3.回答がお済みになりましたら返信用封筒に入れて11月9日(金)までに
ご返送ください。
4.ご回答いただきましたアンケート内容については、本調査の結果分析のために使用
し、それ以外には利用いたしません。
5.調査結果については、後日、神戸コンシューマー・スクール研究報告書として、
神戸市のホームページに掲載する予定です。
〈統計目的での分類質問〉
番号に○を記入してください。
F1.あなたの性別は
1.女性
2.男性
F2.年齢は
1.35 歳未満
2.35 歳以上 55 歳未満
3.55 歳以上
F3.職業は
1.なし
2.非常勤・パート
3.常勤
F4.同居者は
1.ない
2.ある
-1-
Ⅰ
以下のライフスタイルはあなたの場合どうでしょうか。
各項目について該当番号に○をつけてください。
生
活 ス
タ イ ル
全く
やや
どちら
やや
全く
あて
あて
でも
あて
あて
はまら
はまら
ない
はまる
はまる
ない
ない
1
自然のリズムに合わせて、早寝、早起きを心がけている
1
2
3
4
5
2
ウォーキング、ジョギング、ラジオ体操などの運動習慣
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
を生活に取り入れている
3
夏や冬は冷暖房よりも衣服を調節して、体温調節をして
いる
4
値段が高くても、安全・安心のために、有機野菜や無農
薬野菜を買うようにしている
5
献立は魚や野菜を取り入れ、栄養バランスをとる
1
2
3
4
5
6
定期的に健康診断を受けている
1
2
3
4
5
7
庭やベランダで花や野菜を育てている
1
2
3
4
5
8
自宅周囲や近隣には自然が多い
1
2
3
4
5
9
他の人より、よく旅行していると思う
1
2
3
4
5
10 一緒の食事など、家族とのだんらんの時間がある
1
2
3
4
5
11 気軽に行き来できる親戚や知人が近くにいる
1
2
3
4
5
12 地域の行事に積極的に参加したり、ボランティアをする
などして、知り合いを増やすようにしている
1
2
3
4
5
13 趣味を持ち、楽しむ時間を持っている
1
2
3
4
5
14 仕事を通じて、社会貢献をしていると感じている
1
2
3
4
5
15 衣類は流行にとらわれず、良質のものを長く使用する
1
2
3
4
5
16 欲しいものはよく考えてから買い、物を増やさない
1
2
3
4
5
17 もっと物が買えたら、もっと幸せになると思う
1
2
3
4
5
-2-
生 活
ス タ
イ ル
全く
やや
どちら
やや
全く
あて
あて
でも
あて
あて
はまら
は ま ら
ない
はまる
はまる
ない
ない
18 家計簿をつけ、節約するなど生活の工夫をしている
1
2
3
4
5
19 家計は資金計画を立てて、貯蓄している
1
2
3
4
5
20 今の所得で十分生活できている
1
2
3
4
5
21 本・雑誌は買うよりもむしろ図書館を利用している
1
2
3
4
5
22 カーシェアリングシステムがあれば、利用してみたい
1
2
3
4
5
23 出来あいの惣菜や、半加工の食材を利用することが多い
1
2
3
4
5
24 不要になった衣類や本はリサイクルショップを利用する
1
2
3
4
5
25 忙しいときなど家事代行サービスを利用したことがある
1
2
3
4
5
26 100 円ショップの品は気にしないで捨てられるので便利
だ
1
2
3
4
5
27 買物、外食、観光に際してはインターネットをよく利用
する
1
2
3
4
5
28 自分の生活スタイルは簡素であると思う
1
2
3
4
5
29 自分の生活は幸せであると感じている
1
2
3
4
5
Ⅱ
あなたがなさっている観光やインターネット利用についてお伺いします。
問1.1年間にどれくらい観光旅行をされますか。
①国内日帰り
②国内宿泊
③海
外
1.しない
2.1~3回
4.7~11回
5.毎月1回以上
1.しない
2.1回
4.4~7回
5.8回以上
1.したことがない
2.10年に1回
3.5年に1回
4.2・3年に1回
5.年1回
6.年に2・3回
7.年に4回以上
-3-
3.4~6回
3.2~3回
問2.旅行する場合に、1回に1人当たり支出可能な限度額は。
①国内日帰り 1.千円未満
2.1~3千円未満
3.3~5千円未満
4.5千円~1万円
5.1万円以上
1.1万円未満
2.1~2万円
4.5~10万円
5.10万円以上
1.5万円未満
2.5~10万円未満 3.10~30万円
4.30~50万円
5.50万円以上
②国内宿泊
③海外旅行
3.2~5万円
問3.観光旅行をするため、切り詰めても良いと考えられる費目をいくつでも選んでください。
1.外食
2.食費
3.ファッション
5.書籍
6.自動車関連 7.その他
4.交際費
問4.あなたはインターネットを利用してどのくらいになりますか。
1.利用していない
2.1年未満 3.1~3年未満 4.3~5年未満
5.5年以上
問5.SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用し、友人や知人との交流をしていますか。
1.全くしていない
2.あまりしていない
4.時々している
5.頻繁にしている
3.どちらでもない
問6.風景写真や面白い情報があれば、インターネットにアップして皆に見てもらいたいと
思いますか。
Ⅲ
1.全く思わない
2.あまり思わない
4.やや思う
5.全くそう思う
3.どちらでもない
あなたにとってもっとも近時に行った、国内宿泊観光旅行についてお伺いします。
問1.この旅行は。
1.ツアーなど団体旅行
2.1人の個人旅行
4.友人・知人との個人旅行
5.その他
3.家族との個人旅行
問2.利用された交通機関をいくつでも選んでください。
1.マイカー
2.鉄道
3.飛行機
5.船
6.レンタカー
7.その他
-4-
4.バス
問3.この旅行で、行き先選択の決め手になった訪問地の魅力は次のどれですか。
いくつでも選んでください。
1.宿泊施設
2.温泉
3.ご当地料理(グルメ) 4.土産物
5.名所旧跡
6.歴史伝統
7.町並み・景観
9.郷土芸能
10.美術・博物館等の文化施設
12.自然
13.農水産物
8.イベント・祭り
11.気候風土
14.商業施設(百貨店、商店街、アウトレット)
15.テーマパーク 16.レジャー施設
17.価格
18.そこへの移動時間
19.その他
問4.訪問地の魅力情報を旅行前にどこから得られましたか。
いくつでも選択してください。
1.観光ガイドブック 2.旅行会社のパンフレット 3.新聞広告
5.雑誌記事
6.TV番組
4.新聞記事
7.訪問先のフェア・物産展
8.友人・知人からの口コミ
9.訪問先自治体のホームページ
10.訪問先観光団体のホームページ
11.訪問先観光業者のインターネット広告
12.ヤフー・楽天など総合インターネット業者
13.訪問体験者の個人ブログ
14.地元の人の個人ブログ
15.旅行に関するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
16.地域に関するSNS
17.その他
問5.実際の旅行体験からみて、それらのうちで非常に役立ったのはどれですか。
いくつでも選択してください。
1.観光ガイドブック 2.旅行会社のパンフレット 3.新聞広告
5.雑誌記事
6.TV番組
4.新聞記事
7.訪問先のフェア・物産展
8.友人・知人からの口コミ
9.訪問先自治体のホームページ
10.訪問先観光団体のホームページ
11.訪問先観光業者のインターネット広告
12.ヤフー・楽天など総合インターネット業者
13.訪問体験者の個人ブログ
14.地元の人の個人ブログ
15.旅行に関するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
16.地域に関するSNS
17.その他
Ⅳ
あなたがとくにお勧めの神戸観光があれば教えてください。
①お勧めのグルメ
(
)
②お勧めの観光地 観光地名(
)
③お勧めのホテル・旅館
(
)
商品名(
)
④お勧めの土産物
店名
-5-
Ⅴ
健康関連についてお伺いします。
問1.現在自分が健康だと思いますか。
1.思わない 2.やや思わない 3.どちらともいえない
4.やや思う
5.思う
問2.今後の健康について不安を感じていますか。
1.感じない 2.あまり感じない
3.どちらともいえない 4.やや感じる 5.感じる
問3.現在ストレスを感じていますか。
1.感じない 2.あまり感じない
3.どちらともいえない 4.やや感じる 5.感じる
問4.どのようなことにストレスを感じていますか。(複数回答可)
1. 子育て
2.家族の介護
3.仕事
4. 職場の人間関係
5.夫婦関係
6.友人関係
7.近所付き合い
8.親戚付き合い
9.今後の収入の見通し
10.その他(
)
問5.何らかのサプリメントを利用していますか。
1.利用したことがない(→8ページ問18へ)
2.以前は利用していたが、今は利用していない(→7ページ問9へ)
3.たまに利用している
3、4を選択された方
4.ほとんど毎日利用している
→問6へ
【現在サプリメントを利用している方(問5で3または4を選択)は、問6へお進みください。】
問6.サプリメントは何種類利用していますか。
1.1種類
2.2~4種類
3.5 種類以上
問7.サプリメントを利用する目的は何ですか。
(複数回答可)
1.病気の治療(→問8へ)
2.病気の予防
3.日常的な健康の保持増進
2~6を選択された方は
4.特定の栄養成分の補給
問9へ
5.美容やダイエット
6.その他(
)
【次の問8は、問7で‘1.病気の治療’を選択された方のみ】
問8.サプリメントを利用する理由は何ですか。
(複数回答可)
1.治療方法や医薬品に対する不信感があるから
2.通院治療と併用して、できるだけ自分でもケアしたいから
3.通院が面倒なので自分で治したいから
4.その他(
)
-6-
問9.利用している(していた)サプリメントの形態は何ですか。
(複数回答可)
1.カプセル・錠剤
2.飲料
4.粉末・顆粒
5.その他(
3.濃縮液
)
問10.サプリメントを利用したきっかけは何ですか。(複数回答可)
1.家族・親類から勧められて
2.友人・知人から勧められて
3.テレビ番組を見て
4.新聞や雑誌の広告を見て
5.インターネットを見て
6.商品のパッケージを見て
7.チラシ・ダイレクトメール・フリーペーパー等
8.医療関係者から勧められて
9.その他(
)
問11.サプリメントに関する情報源はどの程度信頼できると思いますか。
あまり
どちら
で き な で き な でも
い
い
やや
できる
できる
ない
1
テレビ・新聞・雑誌等のマスコミ
1
2
3
4
5
2
インターネット
1
2
3
4
5
3
商品のパッケージやパンフレット
1
2
3
4
5
4
家族や友人からの口コミ
1
2
3
4
5
5
行政機関
1
2
3
4
5
問12.サプリメントを購入する際に重視していることは何ですか。(複数回答可)
1.原材料名
2.含有成分名・成分量
3.製造した国
4. メーカー・販売者名
5.効果・効能
6.キャンペーン・割引
7. 業界団体の認証マーク 8.価格
9.行政機関による安全性等の情報
10.その他(
)
問13.具体的に、現在摂取しているサプリメントは何ですか。(複数回答可)
1.ビタミン類
2.ブルーベリー
3.カルシウム
4.コラーゲン
5.ビール酵母
6.コエンザイム Q10
7.ウコン
8.グルコサミン・コンドロイチン
10.ローヤルゼリー・プロポリス
9.プロテイン
11.ポリフェノール
12.その他(
)
13.現在は摂取していない
-7-
問14.サプリメントは効果があると思いますか。
1.思わない 2.やや思わない 3.どちらともいえない
4.やや思う
5.思う
問15.これまでサプリメントによるトラブルはありましたか。
1.ない
2.勧誘方法のトラブル
3.身体的なトラブル
4.その他
問16.サプリメントに対し、不満を感じたことがありますか。
1.ない(→問18へ)
2.ある(→問17へ)
【次の問17は、問16で‘2.ある’を選択された方のみ】
問17.どんなことに不満を感じましたか。(複数回答可)
1.体調が悪くなった(悪くなったと感じた)
2.購入時に強引・執拗な勧誘をされた
3.期待したほどの効果がなかった
4.高額過ぎた
5.安全性に関する情報の入手が難しかった
6.有効性に関する情報の入手が難しかった
7.その他(
)
問18.今、病院にかかっていますか。
1.病院にはかかっていない
2.病院にかかっており、薬を処方されたが、それを飲んでいない
3.病院にかかっているが、薬は処方されていない
4.病院にかかっており、薬を処方されていて、指示通り飲んでいる
問19.医薬品処方の際、健康食品の利用状況について医師から尋ねられたことがありますか。
1.尋ねられたことはない
2.尋ねられたことがある
問20.サプリメントの服用について、医師に相談したことがありますか。
1.相談したことはない
2.相談したことがある
問21.今後、何らかの形でサプリメントを利用したいと思いますか。
1.思わない 2.やや思わない 3.どちらともいえない
どうも有難うございました。
-8-
4.やや思う
5.思う
研究発表4
神戸コンシューマー・スクール
田中ゼミ
「知っておきたい金融商品のからくり」
■指導教官
関西学院大学経済学部教授
田中
敦
■ゼミ生
秋山ひろみ・石﨑陽子・上田明子・河田みどり
炭谷英一・浜本久恵・古川祐貴子
■はじめに
関西学院大学 田中敦教授のご指導のもと、田中ゼミ生 7 名は、吉本佳生著『金融広
告を読め どれが当たりでどれがハズレか』をテキストにしてそれぞれの章を担当し、
資料を集め研究してきた。
そこで見えてきたものは、日ごろ何気なく見ている金融広告に「一般的に消費者が知
らされていない」からくりがあることだった。その「広告の裏側」をしっかり読みとり、
金融商品を選ぶ目を養う一助になるようにわかりやすく解説したい。そして金融機関と
の賢い付き合い方も提言したいと思う。
*私たちの伝えたいテーマは「5つ」である。
1、リスクとリターン
2、手数料のからくり
3、金利のからくり
4、広告のからくり
5、金融商品を選ぶ時の注意点
1.リスクとリターン
金融商品でよく使われる「リスク」と「リターン」という言葉は、間違った意味で使
われていることが多い。
「リスク」とは「投資に失敗したときの損失」というふうに用いられることがあるが、
正しくは「平均的に予想される結果のバラツキ」という意味である。また、
「リターン」
とは「成功したときの利益」ではなく、「平均的に予想される利益、期待値」という意
味である。
1
例えば、競馬を例にとってみよう。競馬は「ハイリスク・ハイリターン」と言われる
が、実際には「ハイリスク・ローリターン」である。「ハイリスク」とは、100 円の馬
券に対し、賞金が 0 円、300 円、1,000 円、1万円などと予想される結果のバラツキが
大きいという意味である。一方、
「ローリターン」とは、100 円の馬券に対し期待値は
100 円以下であることから、予想される利益(期待値)が低いという意味である。つま
り、競馬は「ハイリスク・ハイリターン」ではなく「ハイリスク・ローリターン」なの
である。「高いリスクを引き受けることでリターン(平均的に予想される利益)が高ま
った状態」を「ハイリスク・ハイリターン」と呼ぶべきである。
≪金融取引のリスクの種類≫
つぎに、金融取引のリスクについて以下にまとめてみた。
株価、為替レート(円相場)、金利、債券価格、地
価格変動リスク
価など、資産価格が変動することで、損失が生じる
(あるいは利益が生じる)リスク
信用リスク
企業の倒産などのために、約束された利息や元本の
支払いが行われなくなり、損失が生じるリスク
市場での取引量が少なく適正価格よりも安く売る
流動性リスク
しかないため、また、必要な時にすぐに換金売却で
きないため、損失が生じるリスク
2.手数料のからくり
≪投資信託の手数料≫
投資信託とは多くの投資家から集めた
資金を、専門家が株式や債券などで運用
し、得られた収益が投資家に分配される
金融商品である。
投資信託の手数料は3種類ある。
①販売手数料は、購入するときに、販売
会社である証券会社や銀行に支払う。同じ
投資信託でも購入する金融機関によって
違うこともあり、「ノーロード」と言われ
る販売手数料のかからないものもある。
2
②信託報酬は、保有期間中ずっとかかり、販売会社と運用会社と信託銀行の3社に支払
う。信託財産から毎日自動的に引かれており、その分収益が減る。年1%の信託報酬が
かかる投資信託では、年に1%ずつ資産が減る。つまり基準価格が減ることになる。
③信託財産留保額は、解約時点で運用が続いている信託財産に戻すものである。金額的
にはあまり高くないことが多く、かからないものもある。
投資信託は3つの金融機関がかかわるため、手数料が割高な金融商品である。
≪為替手数料≫
外貨預金をする場合、基準となる相場
(TTM)に為替手数料が加えられた相
場(TTS)で外貨を買い、為替手数料が
差引かれた相場(TTB)で円に戻すこ
とになる。為替手数料は金融機関や外貨の種類によっても大きく違う。金融機関や商品
を選ぶことが大切である。
例えば1ドル 100 円の時は、101 円で円から
ドルに替え、99 円でドルから円に替えることに
なる。往復2円の手数料は 100 円に対して2%
にもなり、米ドルでは2%の利息がついても税
金を引くと円での受取額はマイナスになる。こ
れでは、為替差益が出なければ最初から損をす
ることになってしまう。
普通の円預金では元本割れはないが、外貨預金は為替手数料で元本が割れてしまうこ
とがある。外貨預金は為替リスクもあり、ハイリスクの金融商品である。
≪セット販売≫
低金利の続く今、少しでも高い利子のつく
金融商品にお金を預けたいと考える人が多い。
銀行の多くが「資金作りセット」
「マネープラ
ンセット」などといった金融商品をチラシや
HP で宣伝している。投資信託、または外貨
預金と組み合わせて高金利の円定期預金をセ
ットした商品として発売されている。これら
のセット商品は、はたして本当のところお得
なのだろうか。
図のような投資信託と円定期のセット商品
の例を見てみよう。
3
円定期預金の金利を見ると、通常の何倍も高くてとても魅力があるように見えるが、
注意して読めば円定期預金の金利が書かれた後に「3ヶ月もの」と記されている。ここ
に年率表示のトリックが用いられている。
「3ヶ月もの」の記載を見落として高い利息がもらえると勘違いしてしまうが、実
際に受け取る金利を計算してみると4%×3/12(12ヶ月分の3ヶ月)=1%しかな
い。そして高い金利がつくのは3ヶ月の期間のみであり、3ヶ月後は通常の低金利に戻
ってしまう。
投資信託と「期間限定で金利が高い」という円定期預金のセット商品では、円定期預
金が3ヶ月であっても金利が高ければ損がでないのではと思ってしまうかもしれない。
有利な金利の円定期預金で可能な限り多額の資金を預けたいと考えても、投資信託も円
定期預金と同額買う必要がある。つまり、円定期預金を100万円預けるなら、投資信託
も100万円購入する必要がある。さらに投資信託購入時に1~3%台の販売手数料がか
かる。 販売手数料が3.15%の商品の場合、31,500円を銀行に支払うこととなる。
このセット商品を購入した人は10,000円の利息を受け取れるが(税引き後の利息は約
8,000円) 一方で、31,500円の手数料を払うこととなり、高金利で得をしたつもりがそ
れよりも多くの手数料を銀行に払うという結果になってしまう。
投資信託で23,500円以上の儲けがないと、全体で損してしまうことになる。その分、
銀行側は円定期預金を高金利にしても手数料で利益を得るしくみになっているわけで
ある。
3. 金利のからくり
≪金利は年利表示≫
スーパー定期預金の3ヶ月もの年利 4.0%と 1 年もの年利 1.0%、どちらを選ぶか?
例えば、100 万円を預けた場合で考えてみる。
(税控除は考慮しない)
3ヶ月もの年利 4.0%は
100 万円×4%×3/12 ヶ月=1 万円
1 年もの年利 1.0%は
100 万円×1%=1 万円
どちらも受取利息は同じになる
銀行が支払う利息は変わらないものを選べる形にして、4%という高金利を広告に載
せて客の興味をひこうとしているのである。
4
≪インフレと金利≫
インフレとは、物価が上昇し続ける現象のことであ
る。仮に、物価が毎年5%ずつ上昇すると、現在は 100
万円で買える車が、5年後には 128 万円出さないと買
えなくなってしまう。 逆に、5年後の 100 万円では現
在の 78 万円の価値のものしか買えなくなる計算になる。
インフレの状況下では、100 万円の現金をじっと持
っていると、表面上の損は無くても 100 万円で買える
モノが減ってしまうことになるので、実質的に損をす
るという危険性がある。
今後、日本はインフレになると予想されている。そのときの預金金利について考えた。
実質金利について
預金やローンなどの表面上の金利は「名
目金利」と呼ばれる。年利1%の定期預金
に 1 年間預けるとして、1年後に5%の物
価上昇が予想される場合を考えてみよう。
名目金利1%-予想されるインフレ率5%=実質金利マイナス4%
預金に1%の金利がついても差し引きでは 1 年後に4%の価値の目減りが起きる。
つまり、予想されるインフレ率よりも低い金利で預金していると、実質はマイナスとい
うことになってしまう。
債券など長期の固定金利のものは、インフレで金利が上がりそうなときは注意が必要。
逆に借入れ(ローン)の場合は、低金利で長期固定されるものが有利。
4.広告のからくり
≪毎月分配型の広告≫
右図は毎月分配型の投資信託の広告である。
大変収益が上がっているように見えるが、実は
ここに「からくり」が隠されている。
一番目立っている右肩上がりの太線は、実はあ
りもしない基準価格である。この投信は毎月分配
金が出るタイプなので、分配金は再投資されない
ことに注意したい。『もし分配金を再投資してい
たら』という条件で描かれたのがこの太線である。そして実際の基準価格を表したのが、
下の細い線である。発売当初の価格は 1 口 1 万円だったのが2年後には9千円以下にま
で下がっている。
5
この広告から見えてくるのは、現実の不利な情報よりも、実際はありもしない都合の
いい情報を目だたせていることだ。毎月支払われている分配金は、必ずしも利益ではな
いということにも注意が必要である。利益が上がっていないのに分配金を支払うという
ことは、元本が目減りしたということなのである。この目減りした部分を元本払戻金(特
別分配金)という。
そして、広告の中にとても小さく手数料○%と書かれている数字は必ずチェックする
必要がある。とくに販売手数料と信託報酬のふたつはよく確認すべきである。多くの客
はそこまで読まない。
≪高金利の外貨預金の広告≫
右図は代表的な外貨預金の広告である。魅力的
な高金利に注目させている。
「○ヶ月もの」の表示に注意することと、一番
下に書かれた目立たない 2 行にも注意したい。
「一
定金額以上の円資金」等々と細かい文字で注意事
項がそえられている。高金利に注目させ、消費者
にとって不利になるかもしれない期間・手数料・
為替変動といった情報は目立たせない作りにな
っている。
金利のプラス分と為替手数料のマイナス分を
実際に金額で計算して、収益を考えてみる必要が
ある。
≪顧客の選別≫
金融機関の広告では「顧客
層別」にターゲットを決めて
顧客選別をはかっている。
*退職者向けでは、退職金の
高額な預け入れ金目当ての勧
誘が行われている。たとえば
50 歳以上、500 万円以上預け
る顧客に金利優遇などをうた
っている金融機関もある。
6
*新社会人向けでは、給与振込、公共料金の引き落としをポイント制などで換算するな
どして、口座開設を促す。自社に囲い込み、長期間取りこむ勧誘が行われている。
また若者向けに、スマホで簡単口座開設ができると HP でアピールしている金融機関も
ある。
*高齢者向けでは、年金受け取り口座目当ての顧客勧誘が行われている。
上記3つの顧客を対象としている金融機関の狙いは、顧客を囲い込み、金利や手数料を
長期間にわたり得ることである。
*富裕層向けでは、プライベートバンクサービスと称して高い手数料目当ての顧客勧誘
が行われている。
プライベートバンクサービスとは、金融機関によって提供される、富裕層を対象に
総合的な資産管理を行う金融サービスである。資産の管理・運用への助言、税務や
法律への助言、資産や事業の継承への助言、信託業務、遺言執行など様々なサービ
スを提供している。一度顧客を囲い込めば、様々なサービスを提供することで顧客
から多大な(手数料)を得ることが出来るために、金融機関側は安定して高収益を
見込める。この部門の好不調が業績を大きく左右する銀行も多数存在する。
*(ウィキペディア プライベート・バンキングの項参考資料)
≪広告戦略≫
上記のような顧客選別をするために、金融機関のテレビ CM やパンフレット、HP に
は「高感度の高いタレント」を使い「安心・信頼」をアピールする広告戦略が取られて
いる。しかし、商品の中身が詳しくはわからないことが多い。パンフレットや HP には
「リスクがあります。」と表示されていることが多いので、しっかり商品の中身を確か
めることが肝要である。そして、タレントのイメージや、安心のイメージにつられない
ように、消費者も賢く金融商品を利用することを心がけたい。
≪客を選別する機能≫
このような広告戦略によって、企
業は「高くても買う客」と「安くな
いと買わない客」のタイプに分け、
それぞれ異なった価格設定をする。
金融商品の広告には都合の悪いこ
とも含めて内容はちゃんと書いて
ある。
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ある程度の知識があり細かな文字までしっかり読むタイプの人は広告につられない。
大きな文字だけを見て広告のトリックに引っかかるような人には、もっと手数料が取れ
るような商品を勧めようとする。広告宣伝してまで売りたい商品は、金融機関が儲かる
手数料の高い金融商品かもしれない。
5.金融商品を選ぶ注意点
①絶対に儲かるうまい話はない!
ローリスク・ハイリターンの金融商品はない。
②手数料は収益を減らす!
金融機関は手数料で儲けていて、複雑な商品ほど手数料は高い。
③金利は年率表示で書かれている!
自分で実際に金額を計算してみよう。
④金融商品の内容を知る!
広告やパンフレットに書かれている細かい文字までよく読み理解しよう。
⑤分からない商品には手を出さない!
複雑な仕組みの商品はリスクと手数料がいっぱいである。
■まとめ
大切なお金である。ちゃんと金融商品の中身を勉強しよう。消費者一人一人がリスク
を理解し、正確な知識と情報を得ることで判断力を高め、金融商品の内容を比較検討し
たうえで選べるようになりたい。そうなることで適正な手数料の金融商品が増え、「ぼ
ったくり商品」はなくなり、貯蓄から投資への動きも高まるであろう。
金融機関とうまく付き合い、自分に合った金融商品を選べる賢い消費者になりたいも
のである。
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研究発表5
安永正昭
講師ゼミ
消費者関連法規の研究
指導教官 神戸大学名誉教授
ゼミ生
同志社大学法科大学院教授
安永 正昭 先生
木嶋 律子、河口 早苗、小西 一義、鈴木 寛子、瀬戸 九美、
前田 由美子、正保 洋子
■安永ゼミの概要
私たち安永ゼミは、消費者問題に関わる法律の以下の 4 つのテーマについて分担を決め、担当者
が法律の背景や判例を調べて事前にレポートを提出し、当日発表する形式で行われた。担当者の報
告に対し、質疑応答・意見交換など活発な議論が行われ、また先生からも適切な助言や指導をいた
だきながら、各テーマに対する理解を深めることができた。
(1) 商品の品質・欠陥とそれに対する法的な対応 ・・・小西・鈴木
(2) 契約締結過程において事業者の説明義務違反・不実の告知などがあった場合の
法的な対応 ・・・河口・正保
(3) 契約〔約款〕の条項内容が不当である場合の法的な対応 ・・・瀬戸・前田
(4) 割賦販売・クレジットによる販売信用における法的な問題の整理・・・木嶋
1.商品の品質・欠陥とそれに対する法的な対応について
従来からあった製品(商品)の欠陥による消費者被害に対応する法律
① 債務不履行責任(民法415条)
給付された目的物に欠陥がある場合は、債務が完全に履行されたと言えず、売主は債務不履行責
任を負い、損害賠償をしなければならない。
過失が要件であるが、買主の立証は不要。
② 瑕疵担保責任(民法570条)
売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合、買主は損害賠償を請求でき、瑕疵のため目的を達する
ことができない場合は契約解除できる。売主の過失は要件ではない。
拡大損害は瑕疵担保責任の損害賠償の対象にはならない。
買主の権利行使は、買主が事実を知った時から 1 年以内。
③ 不法行為責任(民法709条)
被害を受けた消費者が直接契約関係のない製造業者に対しても、損害賠償を請求できる。
過失、因果関係を被害者が立証しなければならない。
予見可能性のない場合や結果回避義務が尽くされている場合には過失が否定される。
⇒①と②は契約関係の存在を前提としている為、被害者は製造業者の責任は追究できない。
③は過失・因果関係の立証が困難
⇒製造物責任法(PL法)の制定へ
■ 製造物責任法 1995 年 7 月 1 日施行
製造物の欠陥を要件とする損害賠償責任(過失は要件ではない)
契約関係の存在を前提としない。拡大損害が発生した場合のみに適用。
⇒今後の検討・見直しが必要と思われる項目
① 通常予見される使用方法か、誤使用か?(誤使用の抗弁)
製造業者は誤使用(事業者が意図した使用方法以外の使用方法)を主張。
▼誤使用と認められる場合
通常予想される使い方とはかけ離れている場合
(例:包丁を振り回す)
▼誤使用と認められない場合
それが使われる場所や人などあらゆる可能性を想定し、そこで予想される使い方と判断され
る場合
(例:乳幼児製品を乳幼児が飲み込んだ)
同種の事故が繰り返し起こる可能性がある場合
② 製品の欠陥かその他の原因か?
製品の欠陥については被害者側に立証責任がある ⇒立証は容易ではない
被害者の立証負担を軽減するための方策として検討されていること
△ 被害者が行政機関や製造業者などが有する情報にアクセスできるような法改正
△ 推定規定の導入
欠陥が推定されるときは、損害賠償を負うという規定を条文に加えるかどうか
1.
欠陥の推定
2.
因果関係の推定
3.
欠陥の存在時期の推定
⇒これに対しては、被害者の立証負担が軽減できるという肯定意見と、真の原因が他にある
場合でも製品に欠陥があるとされる可能性を危惧する等の否定意見があり、結局導入には至
っていない。ただし、現在の裁判においても必要に応じて事実上の推定により適宜立証負担
の軽減が行われているとの見方もある。
③ 開発危険の抗弁
製造物を引き渡した時点の科学知識・技術知識の水準では欠陥の存在が予見不可能であったこと
を証明すれば、製造業者は賠償責任を負わない。
これに対し、これを条文から削除すべきとの意見がある。
つまり、過失がなくても欠陥があれば責任を負うのがPL法の意義であるのに、開発危険の抗弁
は予見不可能=過失なしの抗弁を認めたことになってしまい、その趣旨を著しく後退させるから
である。
ただし、実際の裁判で開発危険の抗弁が認められた事例はない。
④
責任期間
被害者が損害および賠償義務者を知ってから 3 年間
製品の製造時から 10 年間(製造物責任法 5 条 1 項)
※例外
アスベスト被害のように、長期の潜伏期間が経過してから被害が生じるような場合は、損害の
発生時から起算する例外もある(製造物責任法 5 条 2 項)
今後、10 年を超える長期使用が想定される製品を含めて、責任期間については見直しが必要で
あると思われる。
2.契約締結過程における事業者の説明義務違反・不実の告知などがあった場合の法的
な対応
私たちは、
大津地裁 平成 15 年 10 月 3 日判決
「教育訓練給付制度の利用と説明義務違反」
大阪高裁 平成 16 年 4 月 22 日判決
「商品の対価についての不実告知」
東京簡裁 平成 15 年 5 月 14 日判決
「不当勧誘と不退去・困惑させる行為」
大阪地裁 平成 22 年 8 月 26 日判決
「銀行の投資信託勧誘の適合性原則・説明義務違反」
について検討、議論、意見交換をした。
事業者の説明義務違反・不実の告知などがあった場合、法的な対応は
①民法
②特定商取引法
③消費者契約法
④金融商品販売法
以上 4 つの法律が考えられる。
説明義務違反・不実の告知などがあった場合に消費者は、契約締結の無効あるいは取消し、契約
の解除ができる。また損害賠償を請求できる場合がある。
①民法
民法では、詐欺・強迫や錯誤によって、無効、取消しができる。
詐欺や強迫による意思表示は、取消すことができる。詐欺及び強迫は意思表示の形成に欠陥があ
るため、
「瑕疵ある意思表示」とされる。詐欺や強迫による意思表示は、不完全であっても、表意
者の意思がある意思表示である、このため無効ではなく取消しとなる。
ただし、詐欺や強迫による意思表示の取消しが認められることはかなり困難である。
②特定商取引法
・訪問販売
・電話勧誘販売
・連鎖販売取引
・特定継続的役務提供
・業務提供誘引販売取引
・訪問購入
により契約を締結した場合、一定の期間内であれば無理由・無条件で契約を解除できるクーリン
グ・オフ制度がある。クーリング・オフの起算日は契約した日ではなく、契約書面を受け取った
日から起算される。したがって事業者が書面を交付していないときや法律が定めた記載事項を満
たしていないときは、クーリング・オフの起算日が開始されておらず、いつでもクーリング・オ
フが行使できる。また不実の告知または故意の事実不告知により契約した場合は取消権が認めら
れている。
特定商取引の取消制度は、事業者と消費者との間の情報の格差に注目し、その契約に関する情報
を持っている事業者に対して、消費者にきちんと情報を開示すること、つまり説明する義務があ
るという考え方に立っている。それにもかかわらず、客観的な事実と異なることを告げたり隠し
ていた結果、消費者が事実関係について誤認するに至り、その誤認がなければ契約はしなかった
にもかわらず契約することになった場合には、消費者に対して契約を取りやめることができる権
利を与えている。⇒対等当事者間を前提とした民法の詐欺による取消し制度とは考え方が異なる。
事業者の「騙すつもりはまったくなかった。」という言い分は消費者の取消しを妨げる理由になら
ない。また威迫困惑行為は禁止されているが、威迫困惑行為により契約した場合は、取消権は規
定されていない。
③消費者契約法
消費者契約法は消費者契約に関する民法の特別法である。しかし、消費者契約法が優先されるの
ではなく、民法も適応される場合がある。
消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、
・重要事項(⑴質、用途その他の内容 ⑵対価その他の取引条件)に係る不実告知
・断定的判断の提供
・重要事項に係る事実不告知
により消費者が誤認をした結果、契約を締結した場合、その意思表示を取消すことができる。
また事業者の不退去、消費者への退去妨害により消費者が困惑した結果、契約の申込みまたはそ
の承諾の意思表示をした場合、その意思表示を取消すことができる。
ただし、以上の取消しは追認することができる時から 6 か月または契約の締結の時から 5 年間と
民法と比較すると非常に短い。
④金融商品販売法
金融商品販売業者等が金融商品の販売等に際し、顧客に対して説明すべき事項及び金融商品販売
業者等が顧客に対して当該事項について説明をしなかったことにより、当該顧客に損害が生じた
場合における金融商品販売業者等の損害賠償の責任並びに金融商品販売業者等が行う金融商品の
販売等に係る勧誘の適正の確保のための措置を定めている。
・販売業者等の説明義務の明確化
⑴リスクに関すること
⑵権利行使期限や解除できる期間の制限に関すること
・販売業者等の断定的判断の提供等の禁止
損害賠償請求については、立証責任は消費者側にあり、請求できる損害賠償額は「元本欠損額」
となる。「元本欠損額」は推定とされる。
1.はじめに
消費者と事業者の間には、情報力の質並びに量、交渉力の格差が存在する。(消費者基本法 1 条、
消費者契約法 1 条)
。契約締結過程における情報提供義務・説明義務は事業者に課された責務である。
(消費者基本法 5 条、消費者契約法 3 条 1 項)また、消費者の属性にあった商品の勧誘をするとい
う適合性の原則も事業者に負わされた責務である。(消費者基本法 2 条 2 号、5 条 3 項)
。適合性の
原則違反は事業者の行為の悪性に注目して採り上げられるが、特定商取引法(7条 4 号)や金融商
品取引法(40 条)などでも行為規制として規律されている。
契約は申込、承諾によって成立するが、突然に成立するものではない。その間には、事業者によ
る広告、表示、説明などの事業者の勧誘行為が存在するが、多くの消費者トラブルは、契約締結過
程において問題がある場合(不当な勧誘)や契約の内容そのものに不備がある場合(不当な契約条
項)が多い。
2.消費者契約法の意義
契約は、契約自由の原則から、一旦、契約をすると理由なく取りやめることはできない。民法は
対等な私人間の取引を対象としているため、その要件も厳格である。よって、問題解決には、従来
は個別の業法などの特別法で対応してきたが、消費者問題は多岐に渡り、多種多様、高度化してき
ていることから、いわゆる隙間事案が生じることがあった。
「すき間」と「タテ割り」を超えて消費
者問題の解決のために制定されたのが、消費者契約法である。
なお、民法を一般法とすれば、消費者契約法は消費者と事業者との契約に限定しているので、消
費者契約法は特別法となる。また、消費者契約法があらゆる業種の消費者契約を対象としているの
にたいして、個別法はそれぞれで対象が限定されている。消費者契約法を一般法とすれば、例えば、
特定商取引法は特別法となる。一般法と特別法では、特別法が優先されるが、民法と消費者契約法
の重用適用が認められている。消費者契約法は使い勝手が良く、契約トラブルの解決法として有効
に活用されている。
3.消費者契約法第 4 条
消費者契約法第 4 条では、不当な勧誘が行われた場合において、消費者に取消権を認めている。
4条1項1号
不実告知
誤認類型
4条1項2号
断定的判断の提供
誤認類型
4条2項
不利益事実の不告知
誤認類型
4条3項1号
事業者の不退去
困惑類型
4条3項2号
事業者による消費者の退去妨害
困惑類型
誤認類型は、消費者の意思決定の認知過程において事業者の行為が原因で消費者が誤認して契約
の意思表示をしたものであり、困惑類型は、消費者の判断過程において事業者が消費者の思考を妨
害し、通常精神的に自由な判断がしにくくなる心理状態で契約の意思表示をしたものである。事業
者の不当な勧誘行為は、誤認類型、困惑類型が入り混じって行われることも多い。
4.その他
消費者トラブルの解決方法として、契約関係の解消(拘束力からの開放)だけでなく、損害賠償
請求という方法もある。契約締結過程において、消費者が意思決定をするにつき重要の意義を持つ
事実について、事業者が不適切な告知・説明をしたために契約し、その結果、損害を被った場合は、
損害賠償請求ができる。しかし、消費者にも落ち度があったとして過失相殺されることがあり、そ
の割合で争われることがある。
5.おわりに
消費者被害、トラブルをなくするためには「自ら考えて行動する消費者」を育てることが必要で
ある。消費者はいわゆる消費者力を身につけることである。欧州委員会では、消費者力とは①消費
者が購入時に自分の意思に基づいて決定ができること、②消費者が自らの権利に関する情報を得ら
れること、③消費者が助言・救済制度にアクセスできることを 3 要素としている。消費者としてい
ろんな知識を身につけて、広告、表示を読み取る力を養い、クーリンク・オフなどの消費者法に関
する法律を理解、活用し、被害にあった時の対処法を学ぶ。被害の救済と回復のためにどういう制
度があるか、それを利用するにはどこにアクセスすれば良いかなど消費者情報へ関心を持つことが
大切である。具体的には、訴訟以外の解決方法として、各種のADR(裁判外紛争解決制度)、各業
界で設けられている相談窓口はどこか、近年、設立が検討されている集団的消費者被害救済制度に
ついても関心を持って勉強していくなどである。消費者自身も、格差を前提とした法律の保護の下
から自立した消費者へと成長していくことが必要である。
3.契約(約款)の条項内容が不当である場合の法的な対応
①契約自由の限界
契約にかかわる基本原則「契約自由の原則」は、対等平等な当事者の合意によることが前提と
なっているが、現実には、消費者と事業者との間には「情報の質及び量並びに交渉力の格差」が
あり、対等な関係にない。消費者が認識しないままに、著しく不利な条項の契約が結ばれ、重い
義務を負ったり、本来有する権利を奪われることがある。
【不利な条項の契約を結んでしまう原因】
・事業者は、一般に消費者よりも法律や商慣習について詳しい情報を持っている
・事業者は自ら作った契約条項の意義についての知識を持っている
・事業者が予め設定した契約条項を消費者が交渉して変更させることはほとんどあり得ない
民法は一般法であるから、消費者と事業者の関係には特化していないため、消費者問題に対し
ては限界がある。消費者契約法は、契約自由の修正をして、消費者の利益を保護することとした。
②不当な契約条項をコントロールするための特別法として
消費者契約法
【8条】事業者の損害賠償責任を免除する条項の無効
事業者の債務不履行・不法行為による損害賠償責任の全部免責条項は無効
事業者の故意・又は過失による損害賠償責任の一部免責条項は無効
【9条】消費者が支払う損害賠償責任を重くする条項等の無効
1項
消費者に帰責事由があって契約を解除する時支払う損害賠償の額が、同種契約で
当該事業者に通常生ずべき平均的な損害を超えるような特約はその超える部分は無
効
2項
金銭債務の支払いが遅延した場合の損害賠償額を定める条項。年 14,6%を超え
る損害賠償を請求することができない
【10 条】信義則に反して消費者の利益を一方的に重くする条項の無効
③約款の不当性に関して、争われた事例として
・ 大学の入学金返還問題
・ 賃貸住宅退去時の、原状回復にかかわる費用負担問題
・ ペットショップで購入した仔犬・仔猫等の病気や死亡に関する問題
などがあげられる。
その中でも身近な約款として「ホテル宿泊約款」「宅配便利用約款」につき、二つの判例を元に
事例研究をした結果、利用者が一方的に不利な契約を承諾せざるを得ない状態に陥っているとは
言いがたい事例に関しては事業者の言い分が通り、逆に事業者の過失があったときでも消費者側
に損害賠償する金額の上限を決めたような約款については不当であることが認められた。
④ 約款内容も含め、複合的な問題を孕んだ課題としての事例
結婚式場・ブライダルパーティ等のプロデュース会社による契約トラブル
ⅰ)不当と思われる勧誘
「本日この場で申し込んでいただければ○○万円引きにします」等の誘い文句で見学会に訪問し
た消費者に、他社との比較を制限させ、契約を締結する。
ⅱ)見積内容を「最低限のレベルでのサービス」で作成。「平均的な挙式」を行うには追加料金
が発生するため、結果として消費者が予測していた予算以上の金額になることが徐々に判明する。
ⅲ)早々に料金体系に気がつき、キャンセルを申し立てても「約款に記載がある」との理由で、
式当日から換算して一年近く前であっても、事業者が到底被った損害額とは思えない高額のキャン
セル料を請求される。
上記内容の件を不当であると消費者側が主張しても、約款に記載された内容であり、承諾の上契約
をしていると事業者は見做しており、消費者問題に発展するケースが多く報告されている。
そもそも、公益社団法人 日本ブライダル文化振興協会 http://www.bia.or.jp/ が定めている、
「結
婚式・披露宴会場におけるモデル約款」自体が、他業種と比べ高いキャンセル料を標準と定めてい
ると思われることに関し、全相協が見直しの要望を出している。
協会自体は、見直しに前向きな姿勢であるが、協会の定める標準約款には、拘束力も無いため、消
費者に不利な約款を作成する事業者の排除には至らない。
このように約款は、便利な契約手段である半面、多数の契約者に対し、事業者側が画一的なルール
を半ば一方的に要求するといった側面がある。これによる消費者被害を無くす、トラブルを未然に
防ぐためには、約款の説明に関する自主基準を業界団体で設けるなどの、事業者側の自浄努力も必
要だが、あまりにも一方的な約款によって不利な契約を締結させられている、と消費者が感じたら、
消費者契約法8~10条に抵触していないか、もししていると感じられた場合は契約の無効を主張
できないか、振り返ってみることが肝要とおもわれる。
4.割賦販売・クレジットによる販売信用における法的な問題の整理
1.販売信用における問題
販売信用とは、
「支払いをする能力がある」という消費者の信用をもとに、後払いで商品の購入
をする取引のことである。
このうち、ここでは2者間契約の売主信用供与ではなく、買主(消費者)、売主(販売会社)
、
クレジット会社の3者が関係する販売信用(クレジット)における問題を考えてみる。
関係する法律としては、民法、割賦販売法がある。
ここでは割賦販売法上の信用購入あっせん(消費者が、販売会社で商品等を購入する際、ク
レジット会社が消費者に代って販売会社に代金の支払をし、後日、消費者が代金を 2 カ月を超
えて〈リボルビングを含む〉クレジット会社に支払う取引)について考える。
《基本的な3者の法律関係》
A 購入者
売買契約
代金の立替払契約*
サービスの供給契約等
個別信用購入あっせん
包括信用購入あっせん
B 販売会社
C クレジット会社
加盟店契約
*割賦販売法においては、立替払契約の他の形態として、ローン提携販売があり、ほぼ同じに扱
われるが、近年ではあまり見かけない。
個別信用購入あっせん・・商品等の購入ごとに契約
包括信用購入あっせん・・クレジット会社の審査をパスして発行された「カード」で商品等を購入
問題①
A-B 間の契約において、無効、取消し、解除をした場合や商品の瑕疵等、契約自体に何ら
かの問題がある場合、A は C との立替払契約上の立替金等の返済義務の履行を拒絶できる
か。また既に支払ったものの返還を求めることができるか。
《抗弁の対抗》の問題
問題② 立替払契約は借金である。
《過剰クレジット》の問題
問題③
A は B と売買契約、C と立替払契約を締結するが、手続きは B が行っているため
2つの契約をしていることが見えにくい。
《クレジット会社の加盟店管理責任》
2.割賦販売法
《抗弁の対抗》の問題
判例 最判平成2年2月20日判決において、
「・・購入者が売買契約上生じている事由をもって
当然にあっせん業者に対抗することはできないというべきであり、昭和59年の改正後の割賦販
売法30条の4は、法が、購入者保護の観点から、対抗しうることを認めたに過ぎない」と述べ、
売買契約と立替払契約が密接不可分性があるとはいえ、法的には別個であり、抗弁の対抗は購入
者保護のために特別に購入者の権利を創設したとの考え方を示した。
1984年(昭和59年)で導入され、2008年(平成20年)改正で拡大
・個別信用購入あっせん(割賦販売法35条の3の19)
・包括信用購入あっせん(割賦販売法30条の4,30条の5)
・ローン提携販売(割賦販売法29条の4で30条の4の規定を準用する)
<効果>
A は、販売業者との契約に関してなんらかの抗弁事由があれば、それを C に対しても対抗する
ことができる。つまり、支払請求を拒絶することができる。しかし、既払い金の返還まで求め
ることはできない。
<抗弁ができない場合>
昭和 59 年通達では「消費者が抗弁を主張することが信義誠実に反すると考えられる場合」とあ
り、名義貸しの場合などが考えられる。
<2008年改正割賦販売法>
・個別信用購入あっせんにおいて
特商法の適用がある通信販売以外の5種類の取引について、クーリング・オフ制度、取消制度、
過量販売の解除制度が導入され、B との法的問題が発生した場合、A は C に対して既払い金の
返還を求めることができるようになった。
《過剰クレジット》の問題
2008年改正割賦販売法において
・個別信用購入あっせん・・クレジット契約の締結に際し、個別支払可能見込額の調査義務等
・包括信用購入あっせん・・カード交付時と利用限度額拡大時に包括支払可能見込額の調査義務
等
《クレジット会社の加盟店管理責任》
2008年改正割賦販売法において
・個別信用購入あっせん・・開業規制(登録)
加盟店調査義務
《その他》の問題
・近年、通信販売等の浸透によって、海外取引等、クレジットカード決済可能取引の範囲が、ノ
ン・オンアス取引(4者間取引)
、決済代行業者介在取引、クロスボーダー取引等拡大しており、
これらクレジット決済のほとんどはマンスリークリアによっている。マンスリークリアには規
制する法律がなく、販売契約上トラブルが発生した場合、個別にクレジットカード会社との交
渉となる。消費者からは、その仕組みが複雑で見えにくくなっているのが実態である。決済代
行会社に対する規制等さらなる改正が望まれる。
参考文献
1)長瀬二三男(2004)「新訂版 製造物責任法の解説」一橋出版
2)内閣府国民生活局(2006)「製造物責任法の運用状況等に関する実態調査報告書」
3)坂東俊矢・細川幸一「18 歳から考える消費者と法」法律文化社
4)廣瀬久和・河上正二「消費者法判例百選」 有斐閣
5)村千鶴子「誌上法学講座-特定商取引法を学ぶ-」国民生活センター
6)消費者庁企画課「ハンドブック消費者
2010」
7)国民生活センター「くらしの豆知識 2013」
8)消費者庁「 契約締結過程の適正化のためのルールの内容」
(http://www.caa.go.jp/seikatsu/shingikai2/kako/spc16/houkoku_c/spc16-houkoku_c-2_2.html)
9)国民生活センター ADR (http://www.kokusen.go.jp/adr/index.html)
10)金融庁 金融 ADR
(http://www.fsa.go.jp/policy/adr/index.html)
11)証券・金融商品あっせん相談センター
(http://www.finmac.or.jp/html/finmac/finmac.html)
12)村千鶴子「誌上法学講座―割賦販売法を学ぶ―」国民生活センター
13)島川勝・坂東俊矢「判例から学ぶ消費者法」民事法研究会
14)(社)全国消費生活相談員協会「クレジットナビ」
15)「現代消費者法 No11,No12,No14,No15,No17 」民事法研究会
16)「別冊ジュリスト No.200 消費者法判例百選 」有斐閣
17)「ホテルでの手荷物紛失事故と免責約款」国民生活センター
(http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200109.html)
18)「ジュリスト No.1352」有斐閣
19)「日本消費経済新聞 」2012年10月22日号(http://www.zenso.or.jp/news/index.html)
20)「結婚式場における婚礼契約に係る紛争案件報告書」大阪市消費者保護審議会
(http://www.city.osaka.lg.jp/lnet/cmsfiles/contents/0000015/15118/20_1.2.3hokokusho.pdf#
search='結婚式場における婚礼契約に係る紛争案件’)
研究発表
斎藤
清
講師ゼミ
国民生活センター「PIO-NET データ」にみる
消費生活相談の可視化
利殖商法・マルチ商法・健康食品
テ ー マ :利殖商法・マルチ商法・健康食品
指
導:兵庫県立大学経済学部教授 斎藤 清
ゼミ助手:何 慧貞
発 表 者 :林 裕美
ゼミ研究生
今村充 奈良美千代 林裕美 緋本順子 吉岡千昭
1.はじめに
私たちのゼミでは斎藤清先生のご指導のもと、国民生活センターの「PIO-NET/全国消費生活情報ネ
ットワーク・システム」から得られるデータから、
「利殖商法」
「マルチ商法」
「健康食品」をテーマとし
てとりあげ、異なる視点、角度からグラフを作成し、学習を進めた。可視化にあたっては、斎藤先生が
独自に開発された XCAMPUS(探索的経済経営データ処理システム)および Excel®を活用した。
PIO-NET からの年齢別・商品分類別からデータを可視化、さらに PIO-NET のデータと全国 13 地域
別・7 年齢区分別の人口一覧表(2010 年国勢調査)を組み合わせた地域別グラフィックス実践をおこな
った。特に XCAMPUS は従来の統計グラフをはるかに超えたダイナミックでヴィジュアルなデータの可
視化が可能であり、近年の消費者被害の傾向などを分析するにあたり大変有用であることを再認識した。
PIO-NET は全国の消費生活センターと国民生活センターをオンラインで結び、収集した消費生活相談
のうち苦情相談(危害情報を含む)をデータベース化したもので、Web 上から「商品・サービス別」
「主
な販売手口・商法」などのキーワードで検索して集計したデータを得ることが可能である。
なお、本稿のデータの多くは PIO-NET に拠るものだがここに明記して図表ごとの PIO-NET データの
出所明示は省略する。
2.国民生活センターPIO-NET データベースの各種相談から
(1)近年の消費生活相談にみられる特徴
全国の消費生活センターが受け付け、PIO-NET に登録された消費生活相談情報の年度別相談件数
は図表 1 のとおりである。架空請求に関する相談が多数寄せられた 2003 年、2004 年をピークに、
架空請求の減少とともにやや減少傾向であるがここ数年は 90 万件前後で推移している。
1
図表 1 消費生活相談の年度別総件数の推移(1984~2011 年度)
件数(万件)
200
192.0
180
67.6
160
151.0
架空請求
140
130.4
架空請求以外
48.3
120
26.7111.3
105.1
17.8
100
87.4
95.1
90.2 89.7 87.9
9.9 6.1 2.3
2.1
7.6
80
65.6
54.7 1.7
93.5 92.6
2011
2010
2009
2007
2006
2005
2004
2003
2002
53.2
85.2 84.1 87.4 85.8
63.9
2000
41.5 46.7
1999
35.1 40.1
1998
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
13.3 15.2 15.2 16.6 16.5 17.1 19.1
4.9 8.9
21.8 23.4 27.4
1997
16.6 16.5 17.1 19.1
1996
13.3 15.2 15.2
103.7
102.7
79.8
27.4
1995
4.9
8.9
1994
20
21.8 23.4
124.4
46.7 1.5
2001
35.1
40
40.1 41.5
2008
60
0
12.5
年度
しかし、一方では我が国の高齢化の進展に伴い、図表 2 にみられるように高齢者の被害相談が年々
増加している。国民生活センター『消費生活年報』
(2012)によると 2011 年度の特徴の一つとして
ファンド型投資商品に関する苦情相談が前年度比 2.58 倍に増加、その他「公社債」などの怪しい出
資に関する相談も目立っている。また、消費者庁『消費者問題及び消費者政策に関する報告(2009~
2011 年度)』にも「利殖商法に関するトラブルが大きく増加、…(中略)…ファンド型投資商品、未
公開株、公社債・・怪しい社債に関する相談が急増しています。以下略」と述べられている。
図表 2 年度別に見た契約当事者年代別割合
2002年度
4.1
2003年度
5.9
2004年度
6.4
22.5
2006年度
3.7
15.3
2007年度
3.7
15.4
2008年度
3.1
12.1
2010年度
3.4
10.6
2011年度
3.4
9.8
19.7
16.1
20%
16.3
30%
30歳代
40歳代
2
6.7
5.2
11.0
12.1
8.9
13.2
50歳代
6.8
14.4
10.2
12.7
13.8
14.2
60%
10.4
11.9
13.3
50%
5.6
9.2
12.9
40%
6.6
10.7
13.7
16.5
6.4
12.4
14.0
16.6
18.5
11.5
7.6
13.0
16.9
19.6
15.9
20歳代
14.9
20.8
16.8
10%
15.0
8.8
9.6
17.2
19.5
13.4
8.4
13.9
25.5
16.3
2009年度 3.0
11.8
25.3
20.7
3.9
20歳未満
14.3
26.7
2005年度
0%
22.6
8.7
12.2
9.4
13.6
10.2
15.5
10.7
16.8
70%
60歳代
80%
70歳以上
10.7
90%
100%
不明
3.利殖商法
図表 3 利殖商法相談件数
2004 年度~2012 年 12 月までに PIO-NET に登
30,000
録された「利殖商法」に関する相談件数は図表
25,000
3 のとおりである。2010 年度あたりから急増、
20,000
2011 年度は大幅に増え、2012 年度も 12 月現
15,000
在で 16,000 件と 2010 年度の件数を上回りそう
10,000
な勢いである。
12月現在
5,000
0
(1)「利殖商法」とは「あなたが選ばれた。今だけのチャンス」「必ず儲かる」「元本保証」「銀行は低
金利で増えない」
「値上り確実」
「高値で買い取る」
「必ず上場」などと『値上がり確実』や『必ず儲
かる』など利殖になることを強調して、投資や出資を勧誘する商法である。怪しい投資に関する相
談が多く「もうからない」「返金されない」といった相談のほか、なかには詐欺まがいのものもあ
る。勧誘手口も「劇場型」「代理購入型」「被害回復型」など多様化し、多くの消費者が被害にあ
っている。利殖商法の商品は、未公開株、公社債、外国の通貨、商品相場、事業への投資話などが
あるが、2011 年度の特徴の一つであるファンド型投資商品には、和牛預託、水資源の権利、有料老
人ホームの利用権など投資の名目が次々と変化してトラブルが起きている。2012 年度には、iPS 細
胞に関する実態のない投資話のような時流に応じた話題での勧誘も発生している。
利殖商法被害の大きな特徴は、契約金額や既支払金額が多いことである。ファンド型投資商品で
は平均契約金額 7,936,542 円、平均既支払金額 6,567,005 円、公社債では平均契約金額 8,206,528
円、平均既支払金額 4,918,623 円にものぼり、被害者は高齢者が大半を占めている。
「お金」
「健康」
「孤独」の 3 つに大きな不安を持っているといわれている高齢者は、自宅にいることが多く、電話
勧誘販売や訪問販売時に言葉巧みにこれらの不安をあおられ、親切にされて信用してしまい被害に
あいやすい。神戸市でも、神戸市生活情報センターのデータによると、2011 年度のセンターへの相
談件数の約 3 割 3,454 件が 60 歳以上の高齢者からの相談であり、その相談内容も一番多いのが金融
商品に関するものであった。神戸市においても高齢者の年金や退職金を狙った詐欺的なものが増加
しているのが現状である。
(2)グラフで見る「利殖商法」に関する相談の地域別・年齢別・具体事例の可視化
このような「利殖商法」についてより詳しく特徴をとらえるため「地域」、「年齢」を切り口に
PIO-NET のデータをグラフィック化し、「利殖商法」に関する相談のうち契約当事者「地域」によ
る差異を調べた。PIO-NET から利殖商法(商品・サービス中分類上位 30 項目)の地域別(全国を
13 の地域に分別)の相談件数を求め、当然のことながら人口の多い地域は相談件数が多くなるので、
「国勢調査 2010 の 13 地域別・7 年齢区分別等の人口一覧表」を使用することによって人口調整相
談件数(10 万人当たり相談件数)を割り出し、図表 4 を作成した。
「利殖商法」の「商品・サービス」
の種類は中分類(上位 30 項目)とした。1 位の「預貯金・証券等」には「公社債」や「株」、
「医療機
関債」
、
「社員権」が含まれている。4 位の「集合住宅」は主に投資用マンションを指している。
3
図表 4 利殖商法上位 30 項目地域別 10 万人当たり相談件数
契約当事者 地域
商品・サービス(中分類)
北海道
東北北部
東北南部
北関東
南関東
甲信越
北陸
東海
近畿
山陰)
山陽
四国
九州北部
九州南部
合計
預貯金・証券等
13.65
13.94
24.09
23.82
25.45
33.92
22.78
19.48
17.30
24.75
17.35
17.27
12.82
21.30
ファンド型投資商品
14.82
11.86
21.83
19.70
19.28
21.93
16.11
11.67
18.68
19.23
19.11
16.27
17.24
17.24
デリバティブ取引
2.78
4.72
7.30
6.68
4.84
2.67
5.62
4.13
4.82
4.87
4.78
6.15
3.35
5.37
集合住宅
2.21
4.09
5.51
3.89
7.14
8.73
6.16
2.55
4.06
4.27
2.26
2.05
1.23
3.96
他の金融関連サービス
2.44
1.59
1.98
1.90
2.47
3.94
1.79
1.84
2.07
3.98
2.26
1.84
1.58
2.11
役務その他
1.02
0.74
1.40
1.54
2.65
5.31
0.84
0.65
0.31
1.34
1.16
1.31
0.94
1.31
商品一般
0.41
0.70
0.72
0.30
0.89
1.27
0.64
0.38
0.69
0.97
0.73
0.83
0.94
0.58
パソコン・パソコン関連用品
0.39
0.29
0.47
0.59
1.09
1.04
0.28
0.58
0.61
0.82
0.40
0.30
0.45
0.53
各種会員権
0.25
0.20
0.27
0.48
0.50
0.94
0.42
0.14
0.54
0.32
0.28
0.19
0.17
0.34
内職・副業
0.28
0.47
0.34
0.24
0.15
0.42
0.21
0.25
0.92
0.19
0.88
0.57
0.33
0.31
他の教養・娯楽
0.17
0.18
0.27
0.34
0.30
0.10
0.26
0.23
0.77
0.18
0.28
0.41
0.24
0.28
他の教養娯楽品
0.13
0.23
0.11
0.07
0.71
1.11
0.13
0.21
0.84
1.34
0.18
0.09
0.21
0.25
健康食品
0.16
0.32
0.16
0.19
0.15
0.10
0.05
0.12
0.77
0.16
0.20
0.90
0.68
0.24
金融・保険一般
0.15
0.27
0.20
0.23
0.24
0.33
0.23
0.25
0.54
0.27
0.25
0.20
0.05
0.24
放送・コンテンツ等
0.15
0.31
0.21
0.24
0.15
0.29
0.12
0.29
0.00
0.14
0.10
0.24
0.17
0.22
他の商品
0.11
0.11
0.23
0.26
0.13
0.20
0.09
0.22
0.00
0.18
0.25
0.19
0.09
0.19
土地
0.17
0.11
0.16
0.20
0.26
0.03
0.17
0.12
0.00
0.14
0.08
0.26
0.05
0.17
音響・映像製品
0.08
0.02
0.10
0.22
0.26
0.07
0.10
0.13
0.08
0.13
0.05
0.07
0.12
0.14
無限連鎖講
0.13
0.11
0.13
0.07
0.07
0.00
0.08
0.09
0.15
0.34
0.18
0.25
0.80
0.14
融資サービス
0.08
0.20
0.04
0.15
0.11
0.13
0.19
0.08
0.15
0.08
0.10
0.20
0.17
0.14
生命保険
0.10
0.11
0.11
0.12
0.07
0.07
0.11
0.16
0.00
0.11
0.05
0.16
0.28
0.13
老人福祉・サービス
0.14
0.02
0.19
0.06
0.04
0.10
0.09
0.05
0.00
0.16
0.03
0.25
0.07
0.10
役務一般
0.03
0.45
0.07
0.08
0.04
0.13
0.10
0.04
0.00
0.03
0.03
0.09
0.00
0.08
飲料
0.01
0.27
0.09
0.10
0.15
0.03
0.10
0.03
0.23
0.02
0.03
0.05
0.12
0.08
教室・講座
0.02
0.02
0.01
0.16
0.02
0.00
0.12
0.03
0.00
0.03
0.05
0.02
0.00
0.07
アクセサリー
0.04
0.07
0.07
0.05
0.24
0.03
0.11
0.03
0.00
0.08
0.03
0.08
0.05
0.07
書籍・印刷物
0.03
0.04
0.07
0.05
0.04
0.13
0.08
0.05
0.08
0.14
0.10
0.11
0.02
0.07
工事・建築・加工
0.05
0.07
0.06
0.05
0.11
0.07
0.04
0.07
0.23
0.11
0.10
0.07
0.05
0.06
学習教材
0.06
0.00
0.07
0.14
0.02
0.03
0.02
0.01
0.00
0.02
0.08
0.00
0.02
0.06
相談その他
0.01
0.02
0.07
0.05
0.00
0.03
0.11
0.04
0.00
0.05
0.00
0.08
0.09
0.05
40.07
41.52
66.35
61.97
67.57
83.14
57.14
43.90
53.83
64.45
51.34
50.49
42.34
55.80
合計
図表 5 は、図表4「利殖商法」の商品・サービス上位 30 項目を地域別人口調整相談件数の 3-D 棒
グラフにしたものである。10 万人当たり相談件数で預貯金・証券等、ファンド型投資商品が全地域
で多くなっている。地域では北陸地域が群を抜いており、甲信越、山陽、北関東、南関東、東海地
域と続いている。ファンド型投資商品の 10 万人当たり相談件数では北陸、北関東、南関東、山陽、
四国、山陰地域に多くみられる。集合住宅は北陸、甲信越、東海地域で目立っている。近畿地域は
預貯金・証券等では全地域の中位ほど、ファンド型投資商品では全地域で最も少なく、集合住宅な
ども比較的少ないことが特徴である。
図表 5 利殖商法上位 30 項目地域別 10 万人当たり相談件数
35
30
25
20
15
10
5
4
合計
九州南部・沖縄
四国
九州北部
山陽
山陰
近畿
東海
北陸
甲信越
南関東
北関東
東北南部
北海道・東北北部
学習教材
相談その他
書籍・印刷物
工事・建築・加工
教室・講座
アクセサリー
預貯金・証券等
ファンド型投資商品
デリバティブ取引
集合住宅
他の金融関連サービス
役務その他
商品一般
パソコン・パソコン関連用品
各種会員権
内職・副業
他の教養・娯楽
他の教養娯楽品
健康食品
金融・保険一般
放送・コンテンツ等
他の商品
土地
音響・映像製品
無限連鎖講
融資サービス
生命保険
老人福祉・サービス
役務一般
飲料
0
図表 6 では利殖商法の上位 30 商品・サービス(中分類)の人口調整相談件数の合計を地図状グラ
フにしたものである。図表 5 でも確認した通り、合計では北陸地域が全地域のなかで大きく際立っ
ている。一方、北海道・東北北部、東北南部、九州南部地域に続いて近畿地域も相談件数が少なく、
地域による違いが鮮明になっている。
図表 6 利殖商法
上位 30 項目別人口調整相談件数の地図状グラフ
(3)次に「利殖商法」の契約当事者「年齢」にはどのような特徴があるのか調べてみた。
図表7は、販売手口・商法を「利殖商法」として、商品・サービス(中分類)上位 20 項目を契
約当事者の年齢で求めた表である。相談件数1位の預貯金・証券等では、60 歳以上の相談件数比率
は 79.9%である。
また 2 位のファンド型投資商品、3 位のデリバティブ取引はそれぞれ 69.2%、
66.7%
と高比率である。
図表 8 は、利殖商法上位 20 項目の商品・サービス(中分類)別年齢3区分の相談件数構成比を三
色三角バブルグラフで表わしたものである。年齢区分は「40 歳未満」「40・50 歳代」「60 歳以上」
で、縦軸 Y(赤)が「60 歳以上」構成比、横軸 X(緑)が「40 歳未満」構成比、横軸 Z(青)が「40・
50 歳代」構成比を表している。三角形の上位にある赤い色のバブルは「60 歳以上」の高齢者相談件
数構成比が高い項目で、バブルが大きく赤いことから高齢者の相談件数の多さが一目で視覚からも
見て取れる。また左下の青いバブルは「40・50 歳代」の相談件数構成比で、その商品は集合住宅(主
に投資用マンション)である。高齢者の構成比率が多い利殖商法の中にあっては特に目立っている。
5
図表 7 利殖商法
上位 20 項目別年代別相談件数
図表 8 利殖商法
上位 20 項目年齢三区分構成比三色三角バブルグラフ
(40 歳未満・40-50 歳代・60 歳以上)
預貯金・証券等
ファンド型投資商品
デリバティブ取引
その他の金融関連サービス
集合住宅(投資型)
6
図表 9 は、利殖商法上位 20 項目の商品・サービス(中分類)を 3-D 効果バブルグラフで表したも
のである。縦軸は「60 歳以上」高齢者比率、横軸は利殖商法相談件数である。1 位の預貯金・証券
等は相談件数も特に多いのでバブルの大きさがひときわ目立つ。また 2 位のファンド型投資商品と
合わせると、この2つで利殖商法の相談件数の約7割近くを占めており、その多さが視覚的にもよ
くわかる。他にもデリバティブ取引、他の金融関連サービスなど利殖商法の各項目は、グラフの 60%
ラインより上部に集中しており高齢者の被害の多さを物語っている。
図表 9 上位 30 項目別 60 歳以上の相談件数をバブルサイズとする 3-D バブルグラフ
100.0
他の金融関連サー
ビス
80.0
預貯金・証券等
デリバティブ取引
60.0
ファンド型投資商品
40.0
20.0
集合住宅
0.0
(5000)
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
-20.0
図表 10 利殖商法
商品別相談件数推移(60 歳以上)
12,000
(4)近年増加している利殖商法の商品・サービ
ファンド型投資商品
スの内容について、前項の中分類より詳しい
10,000
株
公社債
分類により、具体的な商品として調べたのが
商品デリバティブ取引
図表 10 である。ファンド型投資商品、株、
8,000
分譲マンション
その他金融関連サービス
公社債の相談件数が 2009 年度~2012 年 12
デリバティブ取引その他
6,000
月現在まで著しく増加していることが分か
った。そこで、前項で 60 歳以上の相談件数
4,000
が特に多いことから、60 歳以上の利殖商法
2,000
におけるファンド型投資商品、株、公社債の
地域別人口調整相談件数をグラフにした。
0
2009年度
図表 11 は、60 歳以上のファンド型投資商
2010年度
2011年度
2012年度
受付年度 2012 年度は 12 月現在
品・株・公社債の人口調整相談件数の昇順ス
カイライン図を作成したものである。首都圏を含む南関東地域は横軸の 60 歳以上人口が多く、3 つ
の商品すべてにおいて人口調整相談件数も多いことは予想どおりであったが、2 位以下は商品ごとに
地域が入れ替わっている。ファンド型投資商品では山陰、北関東、山陽、北陸地域が、60 歳以上人
口が少ないにもかかわらず人口調整相談件数が多く、株では東海、北陸、山陽地域の相談件数が多
7
いことがわかる。公社債の人口調整相談件数では山陽、北陸、近畿地域が上位を占めている。図表
12 は図表 11 を地図状グラフに置き換えたものである。○、☐、◇はそれぞれファンド型投資商品、
株、公社債を示し、大きさが人口調整相談件数を表している。3 つの商品の相談件数について地域ご
との特色が一目でわかるようになっており、近畿地域の相談件数は 3 商品とも他地域に比べて多い
とはいえない。南関東、北陸はファンド型投資商品、株ともに多く、東海は株が他の商品より多い
ことが、北海道、東北地域は 3 つの商品すべてにおいて相談件数が少ないことが特徴と言えよう。
図表 11
60 歳以上のファンド型投資商品・株・公社債の地域別人口調整相談件数の昇順スカイライン図
60歳以上のファンド型投資商品・株・公社債の地域別人口調整相談件数の昇順スカイライン図
縦軸:人口調整相談件数(10万人当たり)
山
陽
山陽
公社債
北北
陸陸
山陰
北関東
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
k
l
m
株
ファンド型投資商品
甲
信
越
北陸
北
陸
山
陽
北海道・東北北部(北海道、青森、岩手、秋田)
東北南部(宮城、山形、福島)
北関東(茨城、栃木、群馬)
南関東(埼玉、千葉、東京、神奈川)
甲信越(新潟、山梨、長野)
北陸(富山、石川、福井)
東海(岐阜、静岡、愛知、三重)
近畿(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)
山陰(鳥取、島根)
山陽(岡山、広島、山口)
四国(徳島、香川、愛媛、高知)
九州北部(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分)
九州南部・沖縄(宮崎、鹿児島、沖縄)
東
海
東
海
九
州
北
部
南
関
東
近
畿
南
関
東
南
関
東
近
畿
近
畿
東
海
近畿
横軸:累積60歳以上人口(人)
図表 12
60 歳以上の利殖商法のファンド型投資商品・株・公社債の地域別人口調整相談件数の地図状グラフ
8
4.マルチ商法
マルチ商法とは、販 売 組 織 の 加 盟 者 が 消 費 者 を 組 織 に 加 入 さ せ 、 さ ら に そ の 消 費 者 が 別
の消費者を組織に加入させることを次々と行うことにより組織をピラミッド式に拡大
し て い く 商 法 の こ と 。 近頃は、比較的少ない金額で参加できるマルチ商法も目立つ。マルチ商法
は、連鎖販売取引として規制されている。マルチ商法だからといって直ちに違法になるわけではな
いが、一 般 的 に 、 販 売 員 が 特 殊 な 一 部 の 成 功 例 を 引 き 合 い に し て 、 あ た か も 多 大 な 利 益
が 容 易 に 得 ら れ る か の よ う に 新 た な 消 費 者 を 信 じ 込 ま せ た り 、友 人 や 親 戚 等 の 身 近 な 人
の 親 し い 関 係 を 利 用 し た り し て 販 売 組 織 に 加 盟 さ せ よ う と す る 行 為 等 が 多 く 、 トラブル
が起こりやすい販売形態である。消費者庁で は 、PIO-NET に 寄 せ ら れ た マ ル チ 取 引 に 関 す る
消 費 生 活 相 談 の 実 態 の 調 査 を 実 施 し 、 2012 年 4 月 に 「 い わ ゆ る マ ル チ 取 引 の 被 害 に 遭
わ な い た め の 5 つ の ポ イ ン ト 」を 公 表 し 、消 費 者 へ 注 意 を 促 し て い る た め 、グ ラ フ 化 を
試みた。
(1)マルチ取引の上位30商品サービス(中分類)別・地域別人口調整相談件数
PIO-NETから、2009~2012年度のマルチ取引の消費生活相談に関して、相談件数上30の商品・
サービス(中分類)に限定して、地域別に集計した。図表13から、品目では、全国的に健康食品と、
化粧品についての相談が多いことが分かる。理由として、効能が分かりやすく、賞味期限が長く、
消耗品で扱いやすいなどが考えられる。
図表14の地図状グラフから、地域では、山陰・北陸、及び西日本に相談(被害)が多いことが分
かる。理由として、地縁・血縁の結びつきが強い土地柄で、貯蓄性向が強く、利殖にも積極的と考
えられる。余談であるが、田山花袋の「温泉めぐり」(大正7年刊)では、北陸の山中・山代温泉周
辺の栄えた様子が描かれており、文中には「山代温泉は、ぐっとひらけている。…この付近は、例
の九谷焼の主産地の中心をなしている。…どことなく金持ちの多いような気分、そうした感じが初
めて行った旅客にもすぐ感じられた。」とある。現在のイメージも同様ではないだろうか。
図表 13 マルチ取引の上位30商品サービス(中分類)別・地域別人口調整相談件数
相談件数上位30項目
2009~2012年度
2012年6月22日現在
平成22年国勢調査人口等基本集計(総務省統計局)
第3-1表 年齢(各歳),男女別人口,年齢別割合,平均年齢及び年齢中位数(総数及び日本人) - 全国※,都道府県※
地域別・年齢別のExcelファイル(population-age-region-2010.xls)より
商品・サービス(中分類)
契約当事者 地域
北海道・東北北部
健康食品
化粧品
商品一般
内職・副業
飲料
ファンド型投資商品
食器・台所用品
パソコン・パソコン関連用品
医療用具
電話機・電話機用品
理美容器具・用品
洋装下着
音響・映像製品
インターネット通信サービス
家具・寝具
預貯金・証券等
教室・講座
放送・コンテンツ等
アクセサリー
無限連鎖講
デリバティブ取引
学習教材
他の保健衛生品
洗浄剤等
空調・冷暖房機器
役務一般
他の商品
他の教養娯楽品
移動通信サービス
役務その他
合計
6.25
3.09
1.13
0.97
0.72
1.36
0.79
0.63
0.98
0.31
1.02
0.93
0.45
0.68
0.44
0.49
0.16
0.16
0.25
0.27
0.17
0.09
0.09
0.14
0.09
0.13
0.09
0.16
0.24
0.10
22.35
東北南部
7.39
3.14
2.58
1.37
2.06
1.26
0.83
0.32
1.12
0.14
0.43
0.58
0.85
0.45
0.63
1.24
0.27
0.11
0.87
0.41
0.25
0.04
0.13
0.09
0.09
0.47
0.11
0.07
0.14
0.05
27.50
北関東
6.48
3.15
1.55
1.30
1.29
0.97
1.10
0.70
0.84
0.23
0.39
0.97
0.29
0.11
0.37
0.20
0.21
0.17
0.10
0.17
0.36
0.13
0.06
0.13
0.09
0.17
0.10
0.01
0.24
0.09
21.99
南関東
6.00
3.76
1.83
0.86
1.30
0.67
0.89
1.13
0.44
0.34
0.44
0.44
0.65
0.15
0.28
0.19
0.41
0.25
0.14
0.13
0.17
0.45
0.10
0.28
0.11
0.10
0.06
0.08
0.10
0.10
21.85
甲信越
6.57
3.45
2.04
1.30
1.67
1.37
0.98
0.76
0.76
0.43
0.52
1.45
0.26
0.43
0.35
0.65
0.15
0.07
0.30
0.20
0.41
0.06
0.15
0.04
0.06
0.15
0.06
0.19
0.07
0.02
24.90
9
北陸
8.89
6.06
2.90
4.43
1.99
2.09
1.37
0.85
1.27
0.72
1.43
1.37
2.96
1.43
1.08
0.33
0.42
0.68
0.29
0.10
0.23
0.85
0.42
0.23
0.26
0.20
1.63
0.07
0.20
0.13
44.86
東海
6.19
3.62
1.44
1.25
1.34
1.01
0.97
0.84
0.92
0.44
1.03
0.97
0.58
0.60
0.37
0.19
0.40
0.12
0.52
0.15
0.30
0.03
0.22
0.18
0.13
0.09
0.25
0.10
0.07
0.13
24.43
近畿
5.87
5.38
2.12
1.64
0.92
0.70
1.38
1.34
0.62
1.54
0.87
0.69
0.73
0.46
0.29
0.21
0.29
0.41
0.25
0.25
0.20
0.27
0.23
0.19
0.20
0.11
0.15
0.21
0.14
0.12
27.79
山陰
11.33
4.59
4.67
3.29
2.30
3.45
1.84
3.90
1.45
2.22
1.76
0.54
1.00
1.84
0.77
0.38
0.15
0.23
0.38
0.38
0.92
0.00
1.07
0.54
0.46
0.46
0.08
0.31
0.23
0.08
50.61
山陽
8.17
5.66
2.89
1.92
1.74
1.90
1.49
1.39
1.33
1.05
1.33
0.96
0.80
0.34
0.74
0.66
0.24
0.48
0.58
0.54
0.45
0.14
0.38
0.16
0.35
0.21
0.37
0.54
0.18
0.21
37.17
四国
九州北部
7.59
10.55
4.37
6.25
2.34
2.83
3.60
2.31
1.06
1.57
2.39
1.89
1.89
1.62
1.43
1.17
0.93
1.04
2.54
1.55
0.83
0.80
0.88
0.88
1.08
0.69
0.45
0.76
0.25
0.81
0.45
0.65
0.03
0.46
0.25
0.49
0.23
0.43
0.20
0.87
0.88
0.41
0.03
0.08
0.70
0.20
0.13
0.17
1.11
0.18
0.25
0.29
0.33
0.13
0.08
0.35
0.15
0.26
0.08
0.33
36.51
40.04
九州南部・沖縄
11.67
5.36
3.21
1.20
1.54
3.40
2.22
2.13
2.41
0.92
1.13
0.97
1.18
1.06
0.31
0.83
0.09
1.32
0.17
1.06
0.35
0.09
0.43
0.17
0.12
0.52
0.07
0.38
0.38
0.94
45.63
合計
7.15
4.43
2.16
1.50
1.36
1.22
1.20
1.12
0.85
0.80
0.79
0.78
0.72
0.47
0.43
0.38
0.32
0.32
0.31
0.30
0.29
0.23
0.21
0.20
0.18
0.17
0.17
0.17
0.16
0.15
28.54
図表 14 マルチ取引の上位30商品サービス(中分類)の人口調整相談件数合計の地図状グラフ
縦軸:人口調整相談件数合計
バブルの面積:人口調整相談件数合計
(2)マルチ取引の上位30商品サービス(中分類)別・年代別相談件数
年齢区分を40歳未満・40歳代と50歳代・60歳代以上の三区分とし、マルチ取引の上位30商品サー
ビスの年齢3区分構成比の三色三角バブルグラフ(図表15)を作成した。このグラフから、3区分そ
れぞれと全体に、相談される商品・サービスの特徴を見ることができる。60歳代以上ではファンド
型投資商品・デリバティブ商品及び、健康用品・家具寝具、40歳未満では学習教材・教室講座、イ
ンターネット及び通信関連、化粧品・洗剤等に多く見られた。40~50歳代では大きな傾向はみられな
い。健康食品は全世代に共通する商品である。
若年層にマルチ商法の被害が多いことが分かるので、さらに、30歳未満相談件数をバブルサイズ
とする3-D効果バブルグラフ(図表16)から、若年層特有の「学習教材」の突出度合や、相談件数全
体でみる「健康食品」の割合の大きさがよくわかる。若年層にみられるマルチ商法の被害・最近の
傾向として若 年 層 の 参 入 の 増 加 が 懸 念 さ れ る 。 現 状 に 対 す る 不 安 を 抱 え た 若 年 層 は 、 マ ル
チ商法メンバーの強い仲間意識に魅了されやすいのだろうか?
近 年 、仕 事 仲 間 と し て 勧
誘 時 に が っ ち り 協 力 し 、プ ラ イ ベ ー ト で も BBQや キ ャ ン プ を す る な ど 密 な つ な が り が あ り 、
駆 け 出 し の メ ン バ ー を 徹 底 し て サ ポ ー ト す る と こ ろ に 、「 こ の コ ミ ュ ニ テ ィ の 楽 し さ や 頼
も し さ が う ら や ま し い 」と 感 じ る 若 者 が 多 い よ う だ 。プ ラ イ ベ ー ト で 仲 が 良 い こ と や 、後
輩 の 面 倒 を 見 た り す る こ と は 、あ く ま で そ こ か ら で き る 人 間 関 係 が ビ ジ ネ ス に つ な が る か
らであるのだが。
最近の流行商材の問題点は「情報商材を売るためのノウハウを提供する情報商材」が多いこと。
本来の価値を有する「現物」の情報商品は存在しない。「売るためのノウハウを売る、ためのノウ
10
ハウ」という複雑さは、お金を得るという 1 つの欲望によって固く結ばれた虚構である。この虚構
においては、“富”は「創造」されず、閉じた系の中で、単に“お金”が「移転」しているだけである。
実体なきババ抜きゲームが行なわれ、最後の参加者が損をするという事態が起こるので、注意が必
要である。
消費者庁より「 い わ ゆ る マ ル チ 取 引 の 被 害 に 遭 わ な い た め の 5 つ の ポ イ ン ト 」
・身近な人からの勧誘でも、契約する意思がない場合は毅然と断ること。
・「簡単に儲かる」等の甘い見通し言葉を信じて安易に借金しないこと。
・投資の勧誘を安易に信じず、十分に確認すること。
・家族や友人など、トラブルを抱えている人を救う努力をすること。
・遠慮せずに、消費生活センターへ相談すること
図表 15 マルチ取引の上位30商品サービス(中分類)別の年齢3区分「40歳未満」「40・50歳代」
「60歳以上」の相談件数構成比の【合計込】三色三角バブルグラフ
←横軸z(青):40・50歳代の構成比 →横軸:x(緑):40歳未満構成比
商品・ サービス( 中分類)
印字
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
k
l
m
n
o
p
q
r
s
t
u
v
w
x
y
z
A
B
C
D
E
11
健康食品
化粧品
商品一般
内職・ 副業
飲料
ファンド型投資商品
食器・ 台所用品
パソコン・ パソコン関連用品
医療用具
電話機・ 電話機用品
洋装下着
理美容器具・ 用品
音響・ 映像製品
インターネット通信サービス
家具・ 寝具
預貯金・ 証券等
放送・ コンテンツ等
教室・ 講座
アクセサリー
無限連鎖講
デリバティブ取引
学習教材
他の保健衛生品
洗浄剤等
空調・ 冷暖房機器
他の商品
役務一般
他の教養娯楽品
移動通信サービス
役務その他
合計
図表 16 30歳未満相談件数をバブルサイズとする3-D効果バブルグラフ
5. 健康食品
(1)
「健康食品」はあくまでも食品であり薬ではない
医薬品は薬事法によって規制を受けるが、俗にいう「健康食品」はあくまでも食品であり、食品
衛生法や健康増進法など食品を規制する法律が適用される。ちまたに「○○に効く」「○○が治る」
の表現が許されてはいない。近年増加してきた特定保健用食品(特定の保健の目的が期待できるこ
とを表示した食品)においても健康増進法(消費者庁)でその表示や広告内容まで厳しく審査・規
制されており、例えば「体脂肪の気になる方へ」のような表現に留まっているのが現状であり、表
示には必ず「食生活は、主食・主菜・副菜を基本に、食事のバランスを。」の一文を記載することが
義務づけられている。
(2)
「病は気から」は本当か
「病は気から」とは昔から言われているが、まんざら迷信とも言いがたい。1955 年米ハーバード
大学の麻酔科医師であるヘンリー・ビーチャー氏の論文によれば、手術後の不調(痛み・頭痛・狭
心症・咳など)を訴える患者(1082 人)に、食塩水を注射したり、乳糖を与えたりしたところ(偽
薬として)
、うち 35%の症状にハッキリと改善がみられたというのだ。このような偽薬の事をプラセ
ボと呼び、本物の薬だと信じこむことによって症状が改善することをプラセボ効果という。また効
果には、価格が影響するという研究結果もある。消費者は、価格が高いほど効果があると考える傾
向にある。健康食品(サプリ)を利用する人は高学歴者に多い、頭で食べると言われている。元来、
食品である健康食品は、薬ではないので大きな効き目や即効性を期待することは難しい。にもかか
わらず、
「効果があった」と感じる消費者がいるのは、このプラセボ効果の影響であると考えられる。
それに加え、価格が高い方がより感じるとすれば、販売側にとってこんなに好都合な商売はない。
大小にかかわらず様々な企業の参入が後を絶たない理由はここにあるものと考える。
12
(3)危険もいっぱい 命をおとすことも
健康食品は、医薬品と違い処方箋なしに自由に購入することができる。あくまでも健康な人が、
足りない栄養素などを補うために利用するものであり、成分や製品の選択は個人で決める。その上、
薬事法で成分・効能等厳しく決められている医薬品と異なり、健康食品は、そのような厳しい規制
もないことから品質が一定である保証はどこにもない。個々の成分にブレがあるものも存在する。
またネットや流通の発展から個人輸入で、これら健康食品を取り寄せ、肝機能障害や死亡事故も実
際に発生している。その他、医者で治療中の薬を飲んでいる人はその飲み合わせにも注意を払う必
要がある。
(4)広告方法・勧誘方法に問題
毎日、新聞・テレビ・雑誌等で健康食品の広告を見ない日はないだろう。今やメディアも健康食
品産業なしでは成り立たない。もちろん商品の価格にこの宣伝費用が含まれていることはいうまで
もない。製品原価は、商品代の 1 割程度といわれている。どこか化粧品の世界に共通するものを感
じる。週刊ダイヤモンド 2012/11/24 号によると、こんな広告には気をつけた方がいいチェックポイ
ントがある。①CM≠人気商品 ②過剰な期待は禁物(みるみる痩せる等) ③お墨付きには注意(厚
生労働省認証済み)
ではない
④芸能人にだまされるな
⑦今だけ価格は疑え
いものが多い)
⑤必要以上の含有量は無意味
⑧悩みにつけ込まれるな
⑩体験談や専門家のお墨付きを信じるな
⑥「天然」が安全
⑨人気ぶりは信用するな(根拠に乏し
⑪臨床実験は信頼できない
⑫相談室
の連絡先のないものは要注意 の 12 点だ。もちろん、最初にも書いたように「○○に効く、治る」
や「誰でも、必ず」の表現は禁止されている。
(5)マルチ商法 詐欺まがいの投資への勧誘
1970 年代以降、健康食品市場を牽引してきたのはマルチ商法であった。90 年代後半には、参入し
てきた外資系マルチ企業の業務改善命令も相次いだ。国民生活センターは、98 年に日本アムウェイ
に対して販売方法の改善を要求している。02 年全国八葉物流(被害額約 1550 億円)と 07 年リッチ
ランド(同:約 500 億円)が巨額詐欺事件を起こした。また、08 年ニューウェイズジャパンの会員
が「アトピーが治る」と勧誘されたことにより、特商法違反で3ヶ月の業務停止命令を、09 年フォ
ーリーフジャパンも「がんに効く」
「白内障が治る」で 6 ヶ月の業務停止命令を受けた。最近では、
マルチ商法は「大手と悪徳業者」の二極化の傾向にある。また、マルチ商法の社会的批判が強まっ
た影響か、過去 10 年でその市場規模が 2 割弱減少した。加えて、テレビやネット等の通販が「○○
に効く」という書籍を出版し、その中で健康食品の効能などを解説し、商品を販売するバイブル商
法なども問題化している。2000 年に入ると、健康食品販売を通じて出資話しを持ちかける業者も出
始めた。
「1000 万円で 5%の配当金」
「年利 3.25%~3.75%の確定お支払い利息」など、実際に自転車
操業をしている業者も見られる。近いうちに世間を賑わす事態へと発展することが懸念されている。
(6)健康食品に関しての相談内訳(図表 17)
どの年代でも圧倒的に女性が多く、年齢が上がるに従い増加傾向になる。健康食品と一口にいっ
ても、30 代 40 代までは美容やダイエットに関するものの傾向が高く、健康をターゲットにした商
品は、高齢者が多い。一方、20 代~30 代は男女ともサプリメントな補助的な健康食品を購入する傾
向が強いと思われる。
13
図表 17 年代別性別相談件数
合計
12,608
不明
868
70歳以上
33,270
162
984
1,819
162
4,878
864
14,686
73
0
契約当事者年齢
男性
60歳代
2,101
50歳代
1,228
40歳代
1,080
30歳代
5,490
3,709
3,042
968
20歳代
2,247
1,351
20歳未満
10%
30%
40%
50%
60%
団体
0
6
不明・無回答
0
7
342
20%
女性
14
0
09
1,935
134
0%
0
8
03
70%
80%
90%
100%
図表 18 購入形態別・年代別相談件数
14000
13239
12000
11091
10257
10000
9000
8000
6220
6000
4000
4682
3416
3748
1954
1666
2000
933 637
0
14
合計
3251
2762
809 595
60歳以上
(7)地域別相談件数 上位 30 項目人口調整(10 万人当たり)
(図表 19)をみると、
山陰や北陸、九州に高い傾向がみられる。これは高齢者割合の高い地域及び一般や療養病床数が
高い地域とほぼ一致する。購入形態では通信販売が最も多く、次いで電話勧誘となっている。
図表 19 地域別相談件数
30
25
20
15
10
5
0
通信販売
電話勧誘販売
マルチ取引
訪問販売
不明・無関係
店舗購入
ネガティブ・オプション
その他無店舗
15
6.まとめ
(1)利殖商法について
近年、利殖商法の特徴は、グラフから読み取れるように、圧倒的に高齢者の被害が中心となって
いる。商品別では、
「ファンド型投資商品」
「未公開株」
「公社債」といったいわゆる詐欺まがいの投
資商品が目立つ。また、
「劇場型」
「代理購入型」
「被害回復型」など手口も年々巧妙化しており、被
害額も高額である。地域別のグラフからは明確に地域ごとの商品・サービスなどの相談の特徴が読
み取れる。特に北陸地方は、相談件数(10 万人当たり)が最も多く、商品・サービスそれぞれにお
いても上位を占める結果となった。利殖商法については、周囲の人の高齢者に対する一層の見守り、
一人暮らしの高齢者に対して、とりわけ地域包括支援センター、地元警察などとの連携が不可欠と
考える。一方、投資型マンション(集合住宅)に関してのみ、働き盛りの 40~50 代の相談件数が多
い結果となった。
これらグラフを見る限り、近畿はそれ程目立ってはいないが、兵庫県の1世帯当たりの貯蓄額は
2009 年日銀神戸支店の調査で、中央値で 920 万円(平均額 1628 万円)全国4番目の高さであり、
貯蓄のうち有価証券の保有高は大阪の 1.5 倍であることからもターゲットになる可能性は極めて高
い地域である。今後とも引き続き警戒を続けていく必要性を強く感じる。
(2)マルチ商法について
人間関係が密の地域の高齢者や、仲間と繋がっていたい若者の相談件数が多いのが特徴である。
グラフの結果から、相談件数の多い地域は、北陸を含む西高東低であった。30 代以下の若者と高齢
者は「健康食品」
「化粧品」の順に多く、高齢者はここでも「投資型ファンド商品」が次に続く結果
となった。マルチ商法の防止策としては、何故殊更、儲かった話しをするのか、その仕組みは生産
性を産むものなのか、それとも、ただ単にお金の移動(かたや儲かった人がいて、誰かが損をする)
なのか、そのシステムの中身を十分確認することが肝要である。また、親しい人からの勧誘でも毅
然と断る勇気をもつことである。
(3)健康食品について
健康食品の相談は、圧倒的に女性が多く、
「病は気から」のプラセボ効果(処方した薬に改善効果
がないものでも治った)が見られる。本来、医薬品ではなく単なる食品のため、大きな効果や効き
目を元来期待出来ないものにもかかわらず、健康食品が高価である程、プラセボ効果も大きいため、
参入業者にとっては“美味しい市場”となっている。グラフからは、相談の多い販売形態は、「通信販
売」
「電話勧誘販売」「マルチ商法」の順となり、地域では、山陰をトップに北陸、中国、九州が多
い。また、高齢の女性は、一度信じると色々変えず長年続ける傾向にある。このような優良顧客を
もつ一部業者が、当初健康食品の販売だけが、投資話へ派生したため被害の発展の兆しがみられる。
今後注意していく必要がある。
7.最後に
斎藤ゼミでは、
「利殖商法」
「マルチ商法」
「健康食品」という相関関係が強く、相談増問題の多い、
悪徳業者からすれば“美味しい市場”の相談件数を調べた。そのためのデータベースは PIO-NET から
引き、このデータベースをエクセルの表に落とし、それを 3-D グラフにして可視化をした。PIO-NET
は誰でもアクセスできるため、
エクセル表に表せる機能が備わっていれば、現行のエクセルで 3-D バ
16
ブルグラフを描くことは誰にでも容易である。3-D グラフには、色が不可欠であり、その色自体の持
つ視覚効果は、長い歴史の中で様々な学者たちによって、すでに証明されているところである。色
に加え、図形の大きさや高さ、幅などに地図を加えることにより、端的に正確に現状を伝えること
が可能である。斎藤先生が作られた“折り紙グラフ”は、消費者啓発の場で、話を聴くだけでなく実際
に手を動かし折り、眺めることによって、印象や記憶に残る。また身近にそれを常に目の付く所に
置くことにより、常に意識づけできるアイテムとなる。消費者問題は、何気ない日常生活で起こる
ことであるため、常に「気づき」を促すことが大切と考える。例えば洋菓子のフィナンシェは「金
融家」
「お金持ち」
「金塊」の意味を持つ。これを口にする時に、
「お金」について気を付ける機会に
なればよい。これらのアイテムを含め 3-D グラフが、今後様々な所での啓発活動に利用されること
を切に願う。また、消費者啓発のみならず様々な用途や機会で、表や二次元グラフでは伝えきれな
い奥行き(問題の本質)部分をあぶり出す効果を大いに活用したい。合わせて PIO-NET のもう一歩
の進化に今後期待したい。
PIO-NET データへの要望
・県別相談件数
・月別相談件数
・データ集計日の指定
・相談件数と被害件数と被害金額の相関関係
〔参考文献〕
・国民生活センター「消費生活相談データベース(PIO-NET)
」 (http://datafile.kokusen.go.jp/)
・
「神戸コンシューマー・スクール 2012 での XCAMPUS 分析事例―PIO-NET データにみる高齢者消
費生活相談のグラフィックス実践・追補と立体模型―」
兵庫県立大学政策科学研究所№245 斎藤清 2012 年 7 月
・
「PIO-NET データにみる高齢者消費生活相談のグラフィックス実践」
神戸コンシューマー・スクール研究書 2012.神戸市市民参画推進局市民生活部消費生活課
斎藤清
2012 年
・
「折紙の数理とその応用」共立出版 日本応用数理学会監修、野島武敏・萩原一郎編 2012 年
・
「いわゆるマルチ取引の被害に遭わないための 5 つのポイント~いわゆるマルチ取引に関連する相談
から~」消費者庁HPニュースリリース 2012 年 4 月 17 日
・
「消費生活年報 2012」独立行政法人 国民生活センター編 2012 年
・
「消費者問題及び消費者生活に関する報告(2009~2011 年度)
」 消費者庁
・
「若年世代に『マルチ商法』がジワジワ浸透中!?」週刊プレイボーイ 26 号
2012 年 8 月
2012 年 6 月 14 日
・
「健康食品サプリのウソ ホント」週刊ダイヤモンド 2012.11.24 号
・
「高齢者を消費者トラブルから守る~高齢者の消費生活見守りハンドブック」神戸市 2013 年 1 月
17
研究発表7
スライド
本澤巳代子 講師ゼミ
「介護保険サービス
[ゼミ講師]
~それは契約です~」
筑波大学人文社会科学研究科法学専攻教授 本澤巳代子
[ゼミ生] 岩井尚子、大塚里枝、川島郁子、上代節子、田村泰造、坊野平和、森下雅子、薮田晶子
はじめに
本ゼミは、筑波大学教授
本澤巳代子先生指導のもと、神戸市の発行する「介護保険のあらまし」、
「介護保険ポケットガイド」などを学習教材として、介護保険サービスにおいて消費者にとって必
要な知識を学習しました。次に、国民生活センター発行の「くらしの豆知識 2013」
、特集「長寿時代
に生きる」の記事に対する反論やここが抜けていると思うところを各章ごとに、指摘しその理由を
述べる作業を行いました。その過程で、
「突然倒れて介護状態になった場合、どう対処したらよいか?
等」を含め介護についての注意点をまとめておくことが大切なことと考え検討を行いました。
1.私たちは介護サービスを買う消費者です
2000年4月、介護保険制度がスタートし、介
護サービスの利用方法は、措置から契約に転
換しました。これは、行政処分として行政機
関が提供していた介護サービスが、原則、利
用者と事業者との間の利用契約に基づくもの
になったということです。
2000年11月、国民生活センターでは、「介
護契約にかかわる相談の実態」を調査し、そ
の内容を公表しています。そのなかで、介護
サービスの特質として、
・介護を買う消費者は、心身機能の衰えた人
である。
図表 1
・サービス(役務)は、形のある商品とは異なり、内容や質がわかりにくい。
・第三者のいないところで提供される場合が多い。
としています。
また、①要介護認定の通知を受けた後、居宅サービス利用者は、居宅介護支援事業者に居宅サー
ビス計画作成などの申し込みをし、事業者が承諾すると、居宅サービス計画作成などの居宅介護支
援契約が成立すること。②訪問介護の契約の前に、居宅介護支援契約があること。 ③居宅介護支援
の契約と訪問介護契約などの居宅サービス契約が併存すること。以上の3点を認識できないまま、戸
惑う消費者の姿を指摘しています。また、契約書や重要事項説明書の重要性を利用者、事業者双方
が認識していないことを懸念しています。この状況は、12年後の今、改善されたのでしょうか。国
民生活センターのデータベース、PIO-NET で老人福祉・サービス全般における契約・解約の相談件
数を調べてみますと、2004年度の346件から、2011年度の1132件と、7年間で約3倍増加しています。
また、図表2からもわかりますように、介護
サービスにおける相談苦情で最も割合の大き
いのが、説明・情報不足によるものです。地
域包括支援センターや居宅介護支援事業所を
はじめ各サービス事業者は、商品説明を「重
要事項説明書」という書面で必ず行い、納得
の上で契約をすることになっています。契約
前には契約書類を予め手に入れ、一通り目を
とおしておき、不明な点を事前に確認してお
くことが大切です。
2.介護保険制度
介護保険制度について、介護サービスの利用
の流れ、地域包括支援センターについて詳し
図表 2
く述べます。
(1).介護保険は40歳から使え
ます
介護保険サービスには利用
条件があります。介護保険で
は「65歳以上」なら、介護
条件を問わず利用できますが、
「40~64歳」では「16
種類の特定疾病」のみの限定
利用となります。特定疾病に
は、例えば骨粗鬆症、リウマ
チ、糖尿病、認知症、末期が
ん等があり、老化に伴う病気
に限られます。40歳以上6
5歳未満では、交通事故や転
落による麻痺などでは使えな
図表 3
いのが現状です。(図表 3)
介護保険サービスを利用するには、介護保険証が必要です。65歳以上の方は全員に郵送で送ら
れてきますが、40~64歳までの方は申請が必要です。先ほどの特定疾病に該当する方は、おそ
らく医師の方からも話があるでしょうが、相談の上役所に申請してください。
(2).介護サービスの利用の流れ①
(図表4)
介護サービスは、介護保険証があればすぐに利用できるものではなく、介護認定が必要です。
実際の利用手順について見ていきましょう。介護保険サービスを利用するには、介護度を決めるた
めの「認定申請」がスタートとなります。
市区町村の介護保険担当窓口や最寄り
の「地域包括支援センター」(下記(5)
参照)で本人や家族が申請書類を記入、
介護保険証を添付して提出します。
申請書類には、主治医の意見書が必要
となり、認定結果に多大な影響を及ぼす
ので、日頃から全身状態や介護環境など
を診られる身近な主治医を持つことを
心がけておくと慌てずにすみます。
申請手続き後、ほどなく調査員による
訪問調査があります。ただ1時間前後の
初対面調査ではなかなか実情どおりの
判定がされない場合があるので、日頃から本人の状態をメモ
図表 4
しておき、できるだけ家族も同席する方が望ましいです。
判定結果は、申請から1ヵ月以内に文書で届きますが、認定結果が想定より軽度だと、利用でき
るサービスの量や種類が限られ困ることがあります。結果に納得がいかないときは、市町村の介護
保険担当へ説明を求めましょう。
(3).介護サービスの利用の流れ②
(図表5)
要介護度の認定が終わりやっと利用に
こぎつけた介護保険サービスは、介護度に
より「介護予防」「予防給付」「介護給付」
の三つの種類にわかれます。「介護予防」
「予防給付」は地域包括支援センターのケ
アマネジャーによる介護予防ケアプラン
のもと、介護予防サービスを利用します。
「介護給付」は介護サービス事業者のケア
マネジャーによるケアプランのもと、自宅
か施設にわかれて介護サービスを利用し
ます。
ケアプランは随時見直しや変更が可能
です。
図表 5
利用者側のニーズをはっきり伝え、介護状態の変化や使い勝手を遠慮せずフィードバックすること
が、適切なサービス利用につながります。また、要介護認定は症状の変化により変更となる場合が
あります。地域包括支援センターのケアマネが、要支援者の予防プランだけでなく、要介護者のケ
アプランを引き続き担当することもできますが、「予防ケアプラン」から「ケアプラン」への変更
は、契約先が変更となります。注意しましょう。重要事項説明は事業者の義務ですが、利用者も契
約について十分な説明を求めることが大切です。
(4).介護サービスの利用は 1 割負担
では、実際いくらまで利用できるのでし
ょうか?図表 6 に示すように、介護度によ
って 7 段階に分かれ、一番軽度の要支援 1
で 49,700 円~最重度の 358,300 円まであ
り、この金額がおよそ 1 カ月に利用できる
利用限度額です。これ以内なら、利用額の
1 割が自己負担です。これを超えてサービ
スを利用した場合、超えた費用分は自己負
担となります。
図表 6
(5).地域包括支援センターとは
地域包括支援センターは高齢者の生活全般を支援する生活拠点とされており、
・介護保険の相談~申請
・要支援1・2の介護予防ケアプラン(予防給付)
・介護予防事業
・虐待などの権利擁護事業
などが主な事業です。
社会福祉士、ケアマネジャー、保健師、看護師
等が配置されています。居住地ごとに担当センタ
ーが決まっていますので普段から自分の担当セ
ンターがどこか調べておくとよいと思います。自
治体によっては「地域包括支援センター」という
名称ではなく、独自の名称が付いている場合があ
図表 7
ります。例えば、神戸市では、「あんしんすこやかセンター」、西宮市「高齢者あんしん窓口」な
どの名称です。こちらも調べておきましょう。
なお、地域包括支援センター=役所
と思わないでください。これらの事業は区市町村が直接実
施することが原則ですが、法人に委託することができます。さらに、地域支援事業の介護予防支援
の一部を居宅介護支援事業者に委託できるため、地域包括支援センターは事業者となっている場合
があり、注意してください。不要なサービスの押し付けははっきり断りましょう。
3.介護の例
次に、具体的な例を通して、介護の問題と保険制度の利用方法について考えてみましょう。
(1).介護保険を利用する時
田舎で暮らす母親から、足が痛くて歩くことが出来な
いと突然の電話がかかってきました。そこで私たち夫婦
は共働きであるため、すぐにお互いの職場に連絡をして、
その日の仕事の段取りをつけて実家に向かうことにな
りました。母親は以前より膝に水が溜まり、何度か病院
に水を抜いてもらっていましたが根本的な治療がない
と言われておりました。そこで近所のお医者さんより紹
介状をもらって大きな病院へ行くこととなりました。突
然に降りかかってきた母親の病気によって、私たち夫婦
図表 8
は、職場を数回休み、戸惑いながら介護保険の制度と向き合うこととなりました。
(2).介護認定を受け介護サービスを利用する
検査結果により、手術はできるが改善の見込みは
薄いと医者から告げられ、母も手術を望まず、自宅
で暮らすことを希望し、医者からは介護保険の利用
を勧められました。
私たち夫婦はどうすればいいのか戸惑う中、まず
役所に電話をすることにしました。そこで、地域包
括支援センターを紹介され、そこで介護保険利用の
申請をすることとなりました。医者の診断書をとっ
て、自宅訪問による認定調査をしてもらいました。
その後、介護保険認定通知を受けることとなりまし
た。要支援2の認定を受けました。
図表 9
介護認定を受けたことにより、ケアマネジャーと相談して、週 3 回デイサービスを利用すること
となりました。車いすの生活は疲れるということで、歩行補助杖を購入しました。また、介護保険
の住宅改修費で認められている 20 万円全額を使ってトイレの改修をすることとなりました。今後の
改修は介護度が大幅に進まない限り自己負担になるということでした。
(3).家で介護希望
家で介護をするにあたり、今後についてケアマネジャ
ーと相談すると、足の痛みも進んでおり、歩行が困難な
様子と、認知等行動にも不安があり介護認定の見直しを
進められたが、要支援から要介護になれば手続等が変更
になったり、やっと慣れたケアマネジャーが変わるので
図表 10
はないかなど様々な不安がわいてきます。また、歩行が困難になってくると、住宅の改修を再度考
えることとなってくることからも、改修業者を選ぶときも注意が必要になってくると思われます。
次に、母親とは日常会話が通じないことも多く、先ほどの行動も忘れたりとあぶなかしいことも増
えてきており、特に台所の使用が危ない状況となってきています。また、金銭の感覚が急に衰え一
人での判断ができないこともあります。そして、田舎に住んでいるため出入り口を常に開けていて、
近所の皆さんの出入りも自由になっている環境で、近所の方々にはお世話になっており大変助かっ
ています。ただ、不思議と知らない人とはしっかり会話をすることもあるため、訪問販売等には気
を付けるように言っております。
4.相談・申立てなど支援機関ご紹介
先ほど、介護に困っている方の事例紹介がありましたがこのような介護の悩みを抱えている方に
介護される方の日常生活の支援について相談・申し立てなどできる機関を紹介します。
①介護で悩みがあるがどこに相談したら良いか
わからない人、地域の区役所保健福祉課に相談下
さい。
②精神上の障害によって判断機能が充分でない
方(認知症高齢者知的高齢者・精神障害者)、成
年後見支援センターへ連絡下さい。成年後見制度
への登録を支援しています。成年後見制度には、
法定後見制度と任意後見制度があります。
③社会福祉協議会へ連絡下さい。日常生活自立支
援事業が行っているサービスを利用することが
出来きます。
図表 11
④介護保険サービスでお困りの方、地域包括支援センターへ連絡下さい。
⑤なかでも、障害をお持ちの方、障害者地域生活支援センターに連絡下さい。
⑥契約上のトラブル等でお困りの方、法テラスに連絡下さい。
次に、成年後見制度のように精神上の障害によって判断能力が充分でない方を対象に家庭裁判所
の手続きを要するものがありますが、家庭裁判所の手続きを要しない③番目の社会福祉協議会が実
施している「日常生活支援事業」による介護サービスについて紹介します。
5.日常生活支援事業
(1)日常生活支援事業とは
1) あなたの暮らしの安心をお手伝いする事業です。
①福祉サービスを利用したいけど、手続きの仕方が分からない。②銀行に行ってお金を下ろした
いけど、自信がなくて誰かに相談したい。③商品勧誘の人が来た時、どう対応していいかわからな
い。等問題を抱えている人をサポートする事業です。
毎日の暮らしの中には色々な不安や疑問、判断に迷ってしまうことがたくさんあります。日常生
活自立支援事業は、このような場合に、福祉
サービスの利用手続きや金銭の管理のお手伝
いをして、あなたが安心して暮らせるように
サポートします。
2)福祉サービスとは
介護保険制度などの高齢者福祉サービス、
障害者自立支援法による障害福祉サービス
などです。例ホームヘルプサービス、食事
サービス、入浴サービス、就労支援や外出
支援サービスなどがあります。
3)相談からサービスの提供まで、あなたの
町の社会福祉協議会がお手伝いします。
図表 12
①日常生活支援事業は、社会福祉協議会が実施しています。
相談からサービスの提供にいたるまで、各地域の社会福祉協議会で働く「専門員」「生活支援員」
があなたのところにうかがいます。
②専門員の役割
困りごとや悩み事について相談を受けます。そしてご本人の希望をもと適切な支援計画を作り、
契約までサポートします。サービスの利用を始めてからも、支援計画を変えたい場合や心配な点が
あればいつでも相談にうかがいます。
③生活支援員の役割
契約内容にそって、定期的に訪問します。福祉サービスの利用手続きや預金の出し入れをサポー
トします。
④社会福祉協議会とは
地域の住民や福祉・保健の関係者、行政機関、ボランティアなどにおって構成されています。全
国すべての市町村にネットワークを持ち、地域福祉を推進する公共性の高い団体です。
(2)どんな人が利用できるの?
自分ひとりで契約などの判断することが不安な方やお金の管理に困っている方などが利用できま
す。①福祉サービスを使いたいが、どうすればいいかわからない方②介護保険関係の書類がたくさ
ん来るけど、どう手続きしたらいいか分からない方③計画的にお金を使いたいけど、いつも迷って
しまう方④最近物忘れが多くて預金通帳をちゃんとしまったか、いつも心配な方
※ 施設や病院に入所、入院した場合でも利用できます。
(3)どんなサービスがあるの?
1)福祉サービスを安心して利用できるようにお手伝いします。
①さまざまな福祉サービスの利用に関する情報の提供、相談
福祉サービスの利用における申し込み、契約の代行、代理入所、入院している施設や病院のサー
ビスや利用に関する相談福祉サービスに関する苦情解決制度の利用②手続きの支援
福祉サービスとは、介護保険制度などの高齢者福祉サービス、障害者自立支援法による障害福祉
サービスです。
2)毎日の暮らしに欠かせない、お金の出し入れをお手伝いします。
①福祉サービスの利用料金の支払
代行②病院への医療費の支払代行③
年金や福祉手当の受領に必要な手続
き④税金や社会保険料、電気、ガス、
水道等の公共料金の支払の手続き⑤
日用品購入の代金支払の手続き⑥預
金(日常生活費程度(50 万円程度)のも
のに限ります)の出し入れ、また預金
の解約の手続きを行います。
3)日常生活に必要な事務手続きのお
手伝いをします。
①住宅改造や居住家屋の賃借に関
する情報提供、相談②住民票の届出等
図表 13
に関する手続き③商品購入に関する簡易な苦情処理制度
(クーリング・オフ制度等)の利用手続きを行います。
4)大切な通帳や証書などを安全な場所でお預かりします。
①保管を希望される通帳やハンコ、証書などの書類をお預かりします。
※ 保管できるもの(書類等)年金証書、預貯金通帳、証書(保険証書、不動産権利証書、契約
書など)
、実印、銀行印、その他実施主体が適当と認めた書類(カードを含む)
※ 宝石、書画、骨董品、貴金属などはお預かりできません。
(4)どうやったらサービスが利用できるの?
まず、あなたのまちの社会福祉協議会に連絡してください。そこから手続きがスタートします。
1)相談の受付
社会福祉協議会に連絡してください。社
会福祉協議会は全国すべての市町村に設
置されています。本人以外でも、家族など
身近な方、行政の窓口、地域包括支援セン
ター、民生委員、介護支援専門員や在宅福
祉サービス事業者などを通じてのお問い
合わせにも対応します。
2)打ち合わせ
担当者がうかがいます。専門的な知識を
持った担当者(専門員)が自宅や施設、病
院などを訪問し、相談に乗ります。相談に
図表 14
当たっては、プライバシーに配慮し、秘密は必ず守ります。気軽に相談してください。
3)契約書、支援計画の作成
お困りのことを一緒に考え、支援計画をつくります。困っていることや希望をお聞きして、どの
ようなお手伝いをどれくらいの頻度おこなうかなどをご本人と一緒に考えます。その後、契約内容・
支援計画を提案します。
(5)サービスの利用に費用はかかるの?
相談は無料、サービスは有料です。相談や支援計画の作成にかかる費用は無料です。福祉サービ
ス利用手続き、金銭管理などのサービスを利用する際は料金がかかります。生活保護を受けている
方は、利用料を国と都道府県・指定都市が助成します。
(6)もっと知りたい日常生活自立支援事業
1)安心して利用いただくために
このサービスの実施にあたっては、利用者と社会福祉協議会の契約内容を審査するための契約締
結審査会、サービス提供の適正さを監督するための運営適正化委員会(運営監視合議体)を設置し
ています。これらはいずれも、法律、福祉、医療の専門家と当事者組織の代表者などで構成し、適正な事
業運営の確保に努めています。
(7)成年後見制度の利用を支援します。
日常生活自立支援事業は、ご本人にこのサービスを利用する意思があり、契約の内容がある程度理解で
きる方と社会福祉協議会が対等な立場で契約することが前提です。障害などにより、ご本人に社会福祉協
議会と契約できるだけの判断能力がなくなった場合には、この事業以外でご本人にふさわしい援助につな
いだり、「成年後見制度」の利用を支援します。
6.成年後見制度
(1) 成年後見制度とは、
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でなくなり、契約
や財産管理などをすることが難しくなってきた方が、自分らしく安心して暮らせるように本人の権
利を守り、生活を支援するための制度です。
成年後見制度の活用を検討すべき案件
としては、①銀行や保険の手続、②金銭管
理が困難、心配に方、③福祉サービスや医
療サービスの契約が困難、心配な方④財産
管理が心配な方、⑤頼れる親族がいない、
いても将来が不運な方などです。
成年後見制度には「法的後見制度」と「任
意後見制度」があります。
法定後見制度は、すでに判断能力が十分
でなくなっている場合に、適任と思われる
成年後見人を家庭裁判所が選び、援助する
制度です。法定後見制度には、対象となる
方の能力により、後見、保佐、補助の3つの種類があります。
図表 15
もう一つの制度が、任意後見制度です。判断能力が十分でなくなったときに備えて、あらかじめ任
意後見人を決めておく制度です。
(2)成年後見人の仕事
成年後見人は本人の意思を尊重し、福祉サービスの利用契約や適切な財産管理などを行うことで、
本人の生活や財産を守ります。成年後見人には、日常生活に関する行為を除く法律行為を、本人に
代わっておこなったり、必要に応じて取消したりする法的な権限が与えられます。
日々の生活の中で、①生活を支援するために、日常生活の見守り、入退院の手続き、施設入所契
約、福祉サービスの利用契約、サービス内容の確認などをおこないます。②財産を守るために、預
貯金・有価証券の管理、各種費用の支払い手続き、不動産の管理、本人が不利益な契約を結んだ場
合の取り消しなどをおこないます。
(3)成年後見制度と日常生活自立支援事業との比較
ここでは、主な違いについて、図表16にまとめてみました。日常生活自立支援事業は、成年後見
制度と比較して、①手続が比較的容易であり、②申請の費用、維持が安価であるなど、判断能力が
おちたため日常生活を営むことに支障を抱えた人を広く支援する制度です。扱える金額も50万円以
内に制限されています。などです。
図表 16
7.介護サービス詐欺に要注意
国民生活センターは月2回、「見守り新鮮情報」というメールマガジンを発行して、消費者被害か
ら高齢者、障害者を守る情報を発信しています。昨年1月13日の127号では、「公的介護保険を補っ
てくれる介護サービス?」と題して、不審な介護サービスの勧誘を受けた事例を紹介していました。
これは、「国の介護保険で受けられる介護サービスには限りがある。」と漠然とした不安をあお
った上で、「入会の際、高額な費用を納めておけば、将来介護が必要になったときに公的介護保険
とは別に必要なサービスが受けられる。」として、高額な入会金を払わせるものです。相談内容を
みると、詳細は不明ながら、マルチ商法である可能性があります。国民生活センターでは、「たと
え知り合いからの勧めでも安易に応じず、契約前にサービスの具体的な内容や中途解約時の返金な
どについて十分に確認しましょう。よくわからない場合は契約しないといった慎重な対応が必要で
す。」と、注意喚起を行っています。
自分や家族が要介護になったとき、一体どれ
くらいのお金がかかるのでしょうか。公的介護
保険の利用だけでは、足りないのでしょうか。
これは介護の程度や環境によって違いますので、
一概には言えません。しかし、この不安を商売
のネタにする業者はたくさんいます。その中に
は、最初の事例にあげたような悪質なものもあ
ります。これは、どんな業界にもいえることで
す。大事なことは、「いらないもの、よくわか
らないものは買わない。」ということです。
また、日頃から公的介護保険以外にどのよう
図表 17
なサービスがあるのかを調べておくことも大切です。たとえば神戸市では、在宅で暮らす高齢者の
自立生活を支援するために、配食サービスや介護用品の支給など、神戸市独自のさまざまなサービ
スを実施しています。所得制限や、一定の要件を満たさないと利用できないものもありますので、
地域包括支援センターなどに問い合わせてみるとよいでしょう。
民間事業者の介護保険対象外サービスに関しては、介護サービス事業者が行うもの、家事代行事
業者が行うものなどがあります。これは当然、全額自己負担なので高額なものとなります。また、
民間の介護保険もあります。利用を考える際には、情報収集のうえ、十分に比較検討しましょう。
あとがき
本澤ゼミ生は、ほぼ全員なんらかの介護経験者でした。しかし、介護に関する知識を深めて行く過程
で、知らないことが沢山あることを実感しました。契約の問題、介護保険制度、介護事業者、成年後見
支援センター、社会福祉協議会、地域包括支援センターなど介護の相談窓口が複数あること、ケアマネ
ジャーの役割など。地域包括支援センターについても愛称があり、地域によりことなること。介護に関
するトラブルも多く発生していることなど、さまざまな場面で「介護は契約です。」の認識が重要である
ことを報告してきましたが、今回の報告はそのほんの一部にしかすぎません。今後、一人住まいの高齢
者が増加している状況のもと、介護者の住い介護の担い手の問題を含め、介護の問題の深刻化が予想さ
れています。中心的役割を担う地域包括支援センターでの問題など、取り組むべき多くの課題を残して
います。今回の研究報告を機会に、益々介護について見聞を広め、今後の活動に役立てたいものです。
(参考)
介護サービス情報公表システム
全国の介護事業所の関連情報が、介護サービス情報公表システムにて検索することができます。
図表 18
参考文献
「重要事項説明書及び契約書のガイドライン(2006 年版)
」
(PDF 版・兵庫県ホームページ)
藤井健一郎監修「介護保険制度とは…」
(改訂第 12 版)2012 年、東京都社会福祉協議会
杉岡直人他監修「介護トラブル相談ハンドブックー契約からみた 105 の事例―」2003 年、新日本法規
厚生労働省ホームページ
国民生活センターホームページ
兵庫県国民健康保険団体連合会ホームページ
「月刊 国民生活(2011.8)
」 国民生活センター
研究発表8
根岸 哲
講師ゼミ
「電気と消費者問題」
電気の買い手としての消費者問題と電気の売り手としての消費者問題
[ゼミ講師]
神戸大学名誉教授 甲南大学法科大学院教授 根岸 哲
[ゼミ研究生] 岩井尚子、河口早苗、木嶋律子、田村泰造、浜本久恵、坊野平和
前田由美子、森下雅子、薮田晶子
はじめに
「スイッチを押してついた電気は欲しいだけ使える」と普段当たり前のように思って生活してい
たことが、福島原発事故により計画停電という電力供給の不安に直面しました。
ベース電源であった原発の電源が失われ「地域の電力会社からの送電で十分なのか?」と改めて
電力について考えました。新電力の(株)エネットより電力自由化の「取組の現状」「電力自由化
における問題点」について話を聞き、家庭の電力の自由化により今後私たちは電力会社を自ら選択
する時代が来ると思い、「電気と消費者問題」電気の買い手としての消費者問題と電気の売り手と
しての消費者問題についてまとめました。
Ⅰ.売り手としての消費者問題
現在、主要なエネルギー源となっている化石燃料は、有限の資源であり枯渇の恐れがある。また、
新興国の経済発展などを背景としてエネルギー需要が増大し、化石燃料の価格が乱高下するなどエ
ネルギー市場が不安定となっている。さらに、地球温暖化の抑制は急務となっており、化石燃料の
利用によって発生する温室効果ガスを削減することが、重要な課題となっている。このような状況
の中、エネルギーを安定的に供給するために、資源の枯渇のおそれが少なく、環境への負荷が少な
い再生可能エネルギーの導入を進めることが不可避となり、国際的な動きとなってきた。
我が国は、石油や天然ガスなどエネルギー源のほとんどを海外に依存している。現在約4%であ
るエネルギー自給率を高めるためにも再生可能エネルギーの導入が急がれていた。そのような中、
東日本大震災により、エネルギー供給システム、エネルギーバランスの見直しが必要となり、一層
の再生可能エネルギーの推進が求められている。
2009 年、太陽光発電の余剰電力買取制度が始まったことにより、これまで電気の買い手であった
消費者の一部は同時に電気の売り手の立場となり供給の担い手となった。一方で、太陽光発電設備
の契約を巡るトラブルも多数発生している。
電気の売り手の側面から、再生可能エネルギーに関わる制度と問題点についても考察した。
Ⅰ-1.日本の再生可能エネルギー事情
再生可能エネルギーに関する制度の変遷
①2003(H15)年 4 月 1 日施行「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」
RPS制度 (新エネ等電気利用法)
新エネルギー等のさらなる普及のため、電気事業者に対して、その販売電気量に応じた一定割
合以上の新エネルギー等を利用した電気の利用を義務付けるもの。
FIT 制度により廃止。
②2009(H21)年 11 月 1 日施行 (供給構造高度化法)
太陽光発電の余剰電力買取制度
「低炭素社会の実現」に向けて「国民の全員参加」により太陽光発電の普及拡大を目指す。
発電事業目的で設置されたものは対象外
太陽光発電設備で作られた電気のうち余剰電気を電力会社が買い取り、その買取費用を太陽光
発電促進付加金(太陽光サーチャージ)として徴収しすべての電気使用者が負担する。
買取単価・・~平成 24 年度 6 月 30 日
42 円/kwh
買取期間・・ 10 年
住宅用太陽光発電は、施行後 3 年で、発電量・世帯数ともに倍増している。
2008 年累計 214 万 kw(約 50 万世帯)→2011 年 491 万 kw(100 万世帯超)
この制度は FIT に移行し、同条件で買い取りが継続される。付加金の徴収の移行期間は継続す
る。
Ⅰ-2.再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)
2012(H 24)年 7 月 1 日施行
「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する
特別措置法」
2010 年水力発電を除く再生可能エネルギーは発電電力量のわずか1.2%と少なく、さらなる
再生可能エネルギーの拡大のために発足。
電力会社に対し、再生可能エネルギー発電事業者(太陽光発電・風力発電・中小水力発電・地
熱発電・バイオマス発電)から、政府が定めた調達価格と調達期間で、電気の購入をすることを
義務付けた。
このうち、住宅用太陽光発電の余剰買い取りは、
(毎年見直し、決定する)
H24 年度
買取単価・・42 円/kwh
買取期間・・10 年
すべての電気使用者が電気料金の一部として賦課金を負担して買取を支える仕組み。
再生可能エネルギーが拡大するに従い賦課金も上がっていく。
H24 年度は、月に 300kwh(電気料金約 7000 円)使用する標準家庭で月 87 円の負担。
固定価格買取制度先進国のドイツやスペインでは、賦課金の額は相当高額になっている。
Ⅰ-3.太陽光発電の契約を巡る消費者トラブル
① 相談件数
過去10年間の全国の消費生活センターに寄せられた相談の件数、約5000件を分析すると、
次の特徴がある。
ソーラーシステムの訪問販売に関する相談は、2009年度住宅用太陽光発電の固定買取制度
の導入により、増加し、原発事故後2011年には更に急激に増加している。(2002年度は、
56件だったのが昨年度は1252件と右肩上がりの増加。)
ソーラーシステムに関する相談全体のうち、6割以上が訪問販売に関する相談である。
地域別では南関東、近畿、東海、北関東、九州北部の順に多い傾向。
年代別では、30歳代が22%、40歳代が19%、50歳代が17%、60歳代以上が27%と
なっている。
契約金額では、100万円以上500万円未満が49%と半数を占めている。
② 問題点
ア
売電収入について過剰な説明や、売電制度について不正確な説明をしている。
イ
補助金の対象外であるのに、
「補助金が受けられる」と説明している。
ウ
契約を急がせる、お得感の強調、長時間にわたる勧誘等で、冷静に検討できない状況にあ
る。
Ⅰ-4.主な太陽光発電の相談内容
○
新築の家に転居したら訪問販売業者が来て、太陽光発電を勧めるが信用できるか。当地実績
作りのため工事費無料、商品代無料と説明していた。
(商品代や工事費無料という勧誘方法は、
極めて問題である。
)
○ 太陽光発電をつけたが説明どおりに発電しないし、工事も杜撰。取り消しは可能か。(工事が
不良と判明)
○ 団体信用保険への加入を条件に契約した。高額な太陽光発電システム、保険に加入されておら
ず、支払いが続くと言う。不満。
(販売店のミス、契約者死亡したので残債を販売店が持つ。)
○ 一年前に太陽光発電システムを設置したが、試算どおりの発電量が得られない。
(パネルの取り付け位置に問題がある。)
○ 訪問販売で太陽光発電の契約をした。建築業者に確認して、契約したメーカーの商品は取り付
けられないことが分かった。止めたい。
(屋根野地板が9ミリしかなかったのが原因。12ミリ必要であった。)
○ 訪問販売で太陽光発電の勧誘が何度もある。工事の説明に来たと言って、この地区は国から指
定されたと言う。本当か。
(国から指定されたと言う事実はない。業者の選定は複数見積もりを取り、話をよく聞いて、
書面化し、契約することが必要。
)
Ⅰ-5.太陽光発電の訪問販売に係る裁判事例
①太陽光発電売買契約の取り消し
事件名:売買代金等本訴請求事件、原状回復反訴請求事件(平成17年神戸地裁姫路支部)
要旨:訪問販売で太陽光発電システムの契約の勧誘をするに際し、オール電化高熱機器類を無
償サービスでつける旨の説明を受けて契約したものの、実際は、太陽光発電機システム代金
及びサービス品設置工事費用が通常よりも高額であり、太陽光発電システムの発電能力の説
明も誇大だったケースについて、消費者契約法による重要事項の不実告知及び重要事項の不
告知に該当するとして契約の取り消しを認め、事業者からの設置機器類の撤去を求める原状
回復を命じた。
②契約から2ヵ月後余りに経過後にクーリング・オフが認められた事例
事件名:求償金等請求酵素事件(平成20年名古屋高等裁判所)
要旨:ソーラーシステムの訪問販売について、交付書面に対価の支払時期、クーリング・オフ
に関する事項、担当者の氏名の記載がないこと、さらに、取引方法にも問題があることを理
由に契約から2ヶ月経過し、工事も完了した後、消費者が行ったクーリング・オフを有効と
認め、権利の濫用に当たるとする事業者の主張を認めなかった。
Ⅰ-6.設置何年で元が取れる?家庭用太陽光発電
家庭で取り組める「環境に優しい行動」で効果が特に大きいのが太陽光発電システムの設置。
ただ、標準でも200万円ほどの設置費用がかかる。発電した電気を売るなどで、何年でもとが
取れるか気になるところです。収支シュミレーションの進め方を紹介し、関連する注意点なども
考えてみた。
一戸建て住宅の太陽光発電は、2009年から余剰分の固定価格買取制度が実施されている。
日中に家庭で消費する電気は、太陽光で発電した電気で賄う。
発電量から自家消費の分を除いた余剰分を、電力会社が固定価格で10年間買い取る。夜間は、
従来通り電力会社から電気を買う。
パネルの発電能力は、基準の状態でどれだけ発電するかを示す「定格出力」で示される。一戸
建て住宅は、3~4kWが多い。名古屋市で定格出力 4kWのシステムを設置するケースを考えて
した。(図表 1)
4キロワットに名古屋市での一日の平均日照時間の4.2時間と365日を掛ける。ここで0.
8を掛けることを勧める。システム内部での電力喪失などが原因で定格出力通りには発電しない
からです。計算すると年間総発電量は約4,900kW時になる。
総発電量のどの位が余剰電力になるか。蓄積したデーターでは、標準は7割くらい。
本年度にシステムを設置した人は、設置後10年間は 1kW時当たり42円で余剰分を電力会社に
買い取ってもらえる。この試算では、年間の売電収入は、約14万4200円となる。
電力会社から電気を買う時の料金単価は、契約の仕方でさまざまですが、1kWあたり20円強
のことが多い。ここでは21円と仮定し、支払わずに済んだ年間の電気代を約3万900円とは
じきだしました。売電収入と合わせた年間の総利益は約17万5千円となる。
次はコストの計算。メーカー各社が示すシステムの設置費用は、定格出力 1kW当たり40万円
台や50万円台が多い。この試算では55万円とした。
住宅用の太陽光発電には、国や自治体の補助制度もある。1kWあたりの補助金額は、国が3万円
または3万5千円。自治体によってまちまちで、多いところは10万円を超える。名古屋市は少
ないほうで2万円である。
この試算では、設置費用から補助金額を差し引いた実質的な設置費用は、丁度200万円になる。
年間の総利益が17万5千円であるから、設置10年後でも元はとれない。固定価格買取り期間
の10年が終わった後の買い取り価格は未定で、11年目以降の執す計算は困難であった。昼間
に電気を使う家庭では、20年たっても元がとれないこともありそうである。
しかし、設置費用が安いメーカーのシステムを選んだり、補助金の金額が多い自治体に住んで
いたりすると、10年未満でもとが取れるケースも考えられる。
図表 1
住宅用太陽光発電については、強引な営業などによるトラブルが多く、消費者委員会や国民生
活センターなどが消費者に注意を促している。買い取り制度の仕組みをしっかり調べた上で、自
宅での電気の使い方や、屋根の広さなどをチェック。さらに、いくつかの工事業者から見積もり
を取って、比較すると言った慎重な姿勢が必要である。
Ⅱ.買い手としての消費者問題
Ⅱ-1.電気料金の内訳
図表 2
電気料金は基本料金と1ヶ月の使用量に単価をかけた電力量料金があり、ここに燃料費調整額が
増減され、太陽光発電促進付加金と再生可能エネルギー発電促進賦課金が加わる。
燃料費調整額・・・17銭/1kwh(2013年2月度 関西電力)
燃料費の為替レートや原油価格等による増減を反映したもの。3か月間の平均燃料価格にもとづ
き、2カ月後の燃料費調整単価を決め1カ月ごと変動する。1月~3月分は6月に、2月~4月分
は7月に反映される。
太陽光発電促進付加金・・・5銭/1kwh(2012年度
関西電力)
前年(1月~12月)の太陽光発電買い取り費用を当年度(4月~翌3月)に太陽光発電促進付
加金として負担する。
太陽光発電買い取り制度は2012年7月から再生可能エネルギー買い取り制度に移っているが、
来年度まで2種類の付加金(賦課金)の負担が生じる。
再生可能エネルギー発電促進賦課金・・・22銭/1kwh(2012年度)
当年(4月~翌3月)の再生可能エネルギー発電の買い取り費用の見込み額を当年度(4月~翌
3月)に再生可能エネルギー発電促進賦課金として負担する。
燃料費調節額と太陽光発電促進付加金は各電力会社によって異なるが、再生可能エネルギー発電
促進賦課金は、全国一律で毎年経済産業大臣が決定する。今後、再生可能エネルギー発電の量が増
えてくると、買い取り費用が膨らみ、将来は負担が増えてくるかもしれない。
「電気ご使用量のお知らせ」(関西電力)
自宅の「電気ご使用量のお知らせ」を細かいところまで見ているだろうか?電気の使用量や電気
料金だけでなく、請求金額の内訳や燃料費調整単価・太陽光発電促進付加金単価・再生可能エネル
ギー発電促進賦課金単価などもぜひ見て欲しい。
図表 3
電気料金の単価(関西電力)
図表 4
家庭用電気料金(従量電灯 A)は三段階料金制度で、使用量が増えるほど料金単価が高くなる。
はぴeタイムといわれる選択制料金制度は、電力使用量のピークである夏季の昼間が最も高く、使
用量の少ない夜間が安くなっている。このような価格設定をすることで、家庭での電力使用を電力
需要の少ない時間帯へ移行するよう促進されている。
Ⅱ-2.電気事業の主な歴史
現行の電気事業法制定までの電気事業の歴史を簡単にたどりたい。
・1883 年(明治 16 年) 東京電灯創立 (日本の電気事業の誕生)
当時は電灯をともすためだけの会社。その後電灯会社が乱立し、20年後の1903年(明治36年)
頃には60社以上あったとされる
・1911年(明治44年) 電気事業法制定 (電気料金は届出制)
この頃、電気事業は水力発電と遠距離送電が実用化され大きく飛躍、過当競争により吸収合
併の繰り返しが行われた結果、体力の強い事業者が生き残り寡占化していった
・1931年(昭和 6年)
電気事業法が改正され、料金認可制が導入される(翌年公布)
電気事業の公益規制の高まりを受けて、電気事業法が改正され料金は認可制となる
・1933年(昭和 8年)
電気委員会で総括原価方式が料金認可の基準とされる
・1937年(昭和12年)
総括原価方式による新料金体制への移行
・1938 年(昭和 13 年) 第 1 次電力国家管理決定
国家総動員法と同時に電力管理法が施行
・1939 年(昭和 14 年) 日本発送電発足
(国内の電力施設を国が接収、発電と送電設備の一元統制化)
・1942 年(昭和 17 年) 第 2 次電力国家管理実施
(これにより従来の電気事業者は消滅、全国 9 ブロックの配電会社に集約)
・1951 年(昭和 26 年) 電気事業再編成により民営 9 電力体制が発足
・1952 年(昭和 27 年) 電源開発(通称 J パワー)設立
(国と電力会社 9 社が共同出資→2004 年完全民営化)
・1957 年(昭和 32 年) 日本原子力発電設立(電力会社 9 社と電源開発が共同出資)
・1964 年(昭和 39 年) 現行の電気事業法制定
今
話題に上ることの多い「総括原価方式」ですが80年前に、そのもとになるしくみが始まって
いたとは驚きである。
Ⅱ-3.総括原価方式とは
電気料金を決定している、総括原価方式とはどういうことであろうか。
総括原価方式は膨大な固定資産を持ち、投資コストの長期にわたる安定的な回収が必要な
ガス・水道・鉄道などの公益的な事業で適用されている。
また、電気料金も電気事業法に基づいて、総括原価方式で計算されている。
「総括原価」には発電所や送電設備の建築費、保守管理費用、燃料費(原油やウラン、為替レート
図表 5
変動コスト)、発電所の運転費用、営業費用(電力会社の従業員給与、営業所経費)、核燃料の再
処理費用などが含まれ、使用済み燃料もこれらの「総括原価」に含まれる。
この総括原価に 事業報酬率を掛けた「報酬」をプラスしたものが私たちの支払う「電気料金」と
なっている。
「事業報酬」とは、設備投資資金を調達するための利払い利息などのコストを織り込んだものであ
る。
Ⅱ-4.経済産業省の電気料金値上げ検討について
総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会において
平成 24 年 5 月 11 日付で東京電力株式会社より経済産業大臣に対して、電気事業法第 19 条第 1
項の規定に基づいて供給約款変更認可申請が提出された。総合資源エネルギー調査会総合部会電気
料金審査専門委員会は、料金査定方針等の検討を行い、経済産業大臣に対して、意見を行うために
同日(平成 24 年 5 月 11 日)に設置された。東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請に
ついて審議しており第 1 回~第 17 回の全てにおいて消費者団体、消費者庁からオブザーバーとして
の参加を得ている。査定方針案として、電気事業法に基づき、ルールに則って検討し申請された料
金が「能率的な経営のもとにおける適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」等の電気事
業法の要件に合致しているか審査している。
電力システム改革専門委員会において
また、電力システム改革専門委員会においても検討されており、平成 24 年 2 月第 1 回~平成 25
年 2 月 12 回開催されている。そこでは、電力が、国民生活と企業活動にとって不可欠の財であるが、
東日本大震災において電力供給システムの持続可能性について疑問をもたらした。他のエネルギー
に比べてあらゆる角度から最も優れていると考えられてきた原子力発電への信頼が揺らぎ見直さな
ければならない。今まで築き上げてきた電力システムを基盤として、新たな信頼できる電力市場の
設計にチャレンジするべきであるという方針をあげている。平成 25 年 2 月には大手電力会社の発電
部門と送配電部門を分ける「発送電分離」は 5~7 年後に実施する。家庭が電力会社を自由に選べる
ようにする「電力小売りの全面自由化」は 3 年後に行うと行程表に明記している。大手電力会社の
地域独占から競争を促して、電気料金の値下げにつなげるのが狙いである。電力システム改革専門
委員会ではこれらの内容を盛り込んだ電気事業法改正案を今国会に提出することを目指している。
Ⅱ-5.消費者庁の電気料金値上げ検討について
消費者庁では公共料金の値上げの検討が行われている。そのなかで、電気料金の値上げについて
も話し合われている。
消費者委員会において
消費者委員会では公共料金の決定については、家計消費が影響を受けることもあり、消費者の関
心事項の一つである。かって政府においては、公共料金問題を物価問題として対応してきたが、物
価の下落傾向が続く経済社会状況のもとでは、公共料金を単なる物価問題として扱うべきではなく、
消費者が「選ぶ権利」を持たない公共料金分野においては、消費者参画のもと、公共料金が適正な
水準であるか検証をしていくべきである。消費者委員会では、平成 23 年 12 月以降公開されている
情報の収集・分析を行い、学識関係者、関係省庁等からのヒアリングなどを行ってきた結果を踏ま
え、関係省庁に対して消費者庁及び消費者委員会設置法に基づいて建議を行い一層の努力を求めて
いく事になり、平成 24 年 2 月には公共賞金問題についての建議がだされた。次に、平成 24 年 6 月
には東京電力の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する消費者委員会としての現時点の考え方、平
成 24 年 7 月には東京電力の家庭用電気料金の値上げ認可申請に対する意見が発表されている。
また、消費者庁では家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会を値上げ申請がなされた電
気事業者に対して、消費者の視点から申請内容の検証を行うため調査審議を行っている。ちなみに、
平成 24 年 12 月第 1 回~平成 25 年 1 月第 2 回開催されている。
以上のように、消費者庁では消費者の意見が反映されるような検討が行われている。
Ⅲ.電力市場自由化への取組み
~競争体制に変えることができないか~
(電力市場自由化への取組み~競争体制に変えることができないか~添付資料図1に図式化)
Ⅲ-1.電気事業の現状
①日本の電気事業者は、1990年代からの電気事業制度改革により多様化し、現在のところ、
図表6のように一般電気事業者の他、卸電気事業者、特定電気事業者、特定規模電気事業者(新
電力)等が存在している。(資料2)
図表 6
電力供給においては(図表7参照)発電所から電圧を下げながら供給されるが、地域割の垂直
一貫体制となっている。
②2011年の東日本大震災に伴う東京電力・福島第一原子力発電所事故を契機に、エネルギー
効率が高く、安定的、コストも低く、温室効果ガス低減効果等すぐれていると考えられていた
ベース電源(発電電力量の3割)としての原発への依存が再考されている。
③2003年、第3次電気事業制度改革により、2005年4月から、契約電力が50kw以上
の需要が自由化され、その年間販売電力量は全体の約6割となっているが、家庭等小口小売部
門は一般電気事業者の地域独占が法定されている。(図 2)
④新電力シェアは東京電力と関西電力の供給区域内では高いが、その他の供給区域では低い状態。
新電力は原発のような24時間稼働し続けるベース電力が弱く、夜間の電力利用が多い大規模
工場等への供給が難しく、顧客は商業施設や自治体などに限られ、シェアは3.5%、市場全
体の2割以下にとどまっている。
⑤2003年第3次電気事業制度改革において、一般社団法人として創設された卸電力取引所で
の売買は、需要全体の約0.6%にとどまっている。
Ⅲ-2.電力の公益性と特異性
図表 7
①公益事業。電気はライフラインの一つであるとともに産業基盤である。
②季節、時間帯により需要が大きく異なる。
③貯蔵するのが難しく、時間ごとに需給を一致させる(同時同量)必要がある。需要と供給のバ
ランスにおいて、需要が多いと周波数が下がり、供給が多いと周波数が上がる。電圧や周波数
等、電気の質の維持管理には高度な技術を要する。高品質な電気の供給は、高品質な製品の生
産に不可欠。
④電力会社は、性質上電力は貯蔵できないことから、年間のごく短時間しか発生しない最大需要
(ピーク)時のために多くの発電設備を待機させなければならない。
⑤電気は送配電網によって供給されるが、現在、既存電気事業者が電力供給の送配電網を所有し
ている。
Ⅲ-3.自由化に向けて(資料 4 用語の解説参照)
<小売分野>
①地域独占の撤廃
電気事業法の改正により、家庭等小口小売部門において、供給区域を超えた供給業者や複数業
者からの購入、またグリーン電源等を選べるようにする。
②供給義務の撤廃
現在は僻地や離島にも供給義務があるが、撤廃により供給の空白地帯が生じる恐れがある。
電力系統とつながっていない離島は、供給コストが高く、供給されない事態となる危険性もあ
る。また、過疎地域等も供給事業者が現れない場合や破綻・撤退する場合も考えられ、需要家
保護のため、最終保障サービス・ユニバーサルサービスについての検討が必要になる。
③料金規制の撤廃
現在は、総括原価方式による電気料金が設定されており、事業者は事業に必要なすべての費
用に妥当な利益を加えた料金とすることが認められている。事業者は設備投資を確実に回収で
き、費用削減努力を薄れさせ、過大な設備保有を生み出す原因となっています。これを撤廃し、
ピーク時需要を抑え、オフピーク時に需要を分散させるための自由な料金設定ができるように
することが求められている。このためには、スマートメータなど使用状況の見える化が不可欠
となる。
<発電分野>
①卸規制の撤廃・・現行制度では卸電気事業者・卸供給事業者は一般電気事業者にしか供給でき
ない。撤廃により発電事業者の自由度が高まり、市場活性化が期待できる。
②卸電力市場の活性化
現在、卸電力取引所での取引率は極めて低く、一般電気事業者間の競争としては、九州電力に
よる広島市郊外のイオン宇品店への供給のみ。規制の撤廃と市場の活性化のため、電力会社によ
る取引所への一定規模の売電・調達の義務化、自治体保有発電所の売電の一般競争入札等により、
新電力のベース供給力を上げることができ供給先の拡大につながる。
<送配電分野>
①送配電部門の「広域性」の確保
これまでの「供給区域の需要に応じて供給力を確保する」仕組みから、より広域的に供給力を
有効活用する仕組みへの転換のため、
「広域系統運用機関」の創設が考えられる。
②送配電分野の分離
一般電気事業者は発電部門と共に送配電部門も保有しており、自由化においては公平性を確保
するため送配電部門の分離が必要となる。一般家庭の太陽光発電による余剰電力の売却等、電力
の供給者は広がってきつつある。電気事業者のみならず、全ての需要家、地域・コミュニティ、
企業すべての送配電網利用者に対し、透明性ある効率的で、絶対的中立・公平性を確保した送配
電分野の改革・充実が求められる。分離の方式は送配電部門を分社化する法的分離が実施される。
③託送料金の透明化
新電力から購入する場合、料金の2割が託送料金である。その内訳の詳細開示等、託送料金の
透明化が求められる。
Ⅲ-4.これからの電力
①原発依存度の低減
発電量の3割を担っていたベース電源の原発の停止による供給量不足をいかに補うかが課題。
省エネルギー・節電対策の強化、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス、中小
水力)の開発・導入、
「大規模」とコージェネなど「分散型」のバランスある競争的市場の創出に
より全体的需要を確保。買取制度による余剰電力の売却等で一般家庭等も供給に参加することに
なる。
②需給の調整監視
「広域系統運用機関」の創設により、中長期の需給の調整監視がされることになる。
③送配電分野の改革
自由化により、多様な供給者が参加すればするほど、送配電部門には強い調整機能が必要とさ
れる。絶対的中立性・公平性の徹底が求められる。
④需要家の意識改革
需要家(消費者)が最も大切なことは、これまでの「使いたいときに使いたいだけ使える」と
いった電気消費の意識を変え、ピーク時の電気消費をできる限りオフピーク時にシフトさせる等、
電力消費の在り方全体を見直す意識を持ち、工夫し、情報を求めて行動する時代に入ったという
ことができるのではないか。
例
「電力の見える化」への取組みの効果(電力の需要と供給の関係が瞬時に見える環境が整備
された場合)(図表8)
多くの需要家が電力を使用し、電力需要がピークに近づくと、電気が不足気味になる。「電力の
見える化により」そこで警告が表示され(節電を促し)、「節電するとご褒美がでる」(等)と表
示され節電をすることになる。需要が調整され電力会社はピーク対策のための無駄な投資をしなく
てすむ。資産規模の小さな企業も電力市場に参入しやすくなることで電力会社間の競争が活発にな
り、結果として電気代を安くすることができる。これが「電力の見える化」の広い意味での効果で
ある。
この「電力の見える化」を実現するためには、各家庭にスマートメーター(次世代電力計)の設置
が必要です。またスマートグリッド(次世代送電網)の運用、更には大型蓄電池の設置が必要である。
家庭内でおこなっているのがHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・サービス)で、ビル全体で
おこなっているのがBEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・サービス)、都市レベルでお
こなっているのが、スマートコミニティである。環境配慮型都市とも呼ばれていて、街全体の電力
の有効利用や再生可能エネルギーの活用、余った電力を貯蔵するために蓄電池の活用、更に進んで
分散型電源(コージェネレーション)を組みあわせることで、電力の地産地消の実現を目指す。
Ⅲ-5.補足
図表 8
2013年2月8日、経済産業省の電力システム改革専門委員会は、改革を3段階で進める報告
書を了承した。
(資料 1 参照)
あとがき
私たちが取り組んだ電力の問題は極めて身近なそして旬を得た問題であった。最近、「電力小売
りの全面自由化」「発送電分離」「総括原価方式の廃止」などの文字を新聞紙上で目にする。私た
ちは、今後、原発により発電された電気を使うのか、再生可能エネルギーにより発電された電気を
使うのか、またどこの電力事業者と契約し電力の供給を受けるのか、正しい情報の収集と電力につ
いての知識を持つことが必要となってきた。電気を自由に選び、自ら電力会社を選択する時代への
足音はもうそこまで来ている。
参考文献
電力システム改革の基本方針(電力システム改革専門委員会資料)
第10回電力システム改革専門委員会事務局提出資料
今泉大輔 「電力供給が一番わかる」 技術評論社
橘川武郎 「電力改革」 講談社現代新書
ライフ・リサーチ・プロジェクト 「日本の電力」青春出版社
資料2.事業者要約
日本国内で電力を供給できる事業者は法律によって6種類に分けられており、それぞれで電力を販
売できる対象などが厳しく規定されている。
事業者区分
事業内容
販売対象
事業者
(略称)
一般電気事業者
不特定多数の利用者に電力を
制限なし
供給
卸電気事業者
一般電気事業者に電力を供給
地域別 10 電力会社
一般電気事業者
一般電気事業者に電力を供給
(IPP)
一般電気事業者
コスモ石油など
一般電気事業者から
エネットなど 72 社
50Kw 以上の電力を受
(平成 24 年 12 月 20 日現
けている利用者
在)
地域内の利用者
諏訪エネルギーサービス、JR 東日
(200 万KW以下の発電設備を保有)
新電力(特定規模電気 一般電気事業者の送配電ネッ
事業者)
トワークを使って電力を供給
(PPS)
特定電気事業者
特定供給
電源開発、日本原子力発
電
(200 万KWを超える発電設備を保有)
卸供給事業者
東京電力をはじめとする
特定の地域で自社の発電設備
と送配電ネットワークを使っ
本、六本木エネルギーサービス、住
て電力を供給
友共同電力、JFE スチール
関係者に対して自社の発電設
子会社など
東急ガスなど
備と送配電ネットワークを使
って電力を供給
資料 3.事業者と供給者
①電気事業 一般電気事業、卸電気事業、特定電気事業及び特定規模電気事業をいう。
②電気事業者 一般電気事業者、卸電気事業者、特定電気事業者及び特定規模電気事業者をいう。
③卸供給 一般電気事業者に対するその一般電気事業の用に供するための電気の供給(振替供給を除
く。)であつて、経済産業省令で定めるものをいう。
④卸供給事業者
卸供給を行う事業を営む者(一般電気事業者及び卸電気事業者を除く。)をいう。
⑤振替供給 他の者から受電した者が、同時に、その受電した場所以外の場所において、当該他の者
に、その受電した電気の量に相当する量の電気を供給することをいう。
⑥接続供給 特定電気事業又は特定規模電気事業を営む他の者から受電した一般電気事業者が、同時
に、その受電した場所以外のその供給区域内の場所(特定規模電気事業を営む他の者から受電した
場合にあつては、特定電気事業者が次条第一項又は第八条第一項の許可を受けたところにより、特
定電気事業を開始した供給地点(同条第三項の規定による変更の届出があつたときは、その変更後
のもの。第十八条及び第二十五条において「事業開始地点」という。)を除く。)において、当該
他の者のその特定電気事業又は特定規模電気事業の用に供するための電気の量の変動に応じて、当
該他の者に対して、電気を供給することをいう。
資料 4.用語の解説
①スマートメーター(次世代電力計)とは、光ファイバーや無線などにつないで通信機能を持たせた
電子式電力計。オフィスや家庭の電力消費状況をリアルタイムに把握できる。
②スマートグリッド(次世代送電網)とは、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適
化できる送電網。専用の機器(スマートメーター等)の通信・制御機能を活用して停電防止や送電調
整のほか多様な電力契約の実現や人件費削減等を可能にした電力網である。定義は曖昧で、「スマ
ート=賢い」明確ではない。
③スマートコミュニティーは、「環境配慮型都市」とも呼ばれ、街全体の電力の有効利用や再生可
能エネルギーの活用などを、都市の交通システムや住民のライフスタイル変革まで、複合的に組み
合わせた社会システムをいう。これは、公害などの環境問題への配慮と快適な生活を両立するため
に、ITや省エネなど多岐にわたる最先端の技術を組み合わせた「システムとしての社会インフラ」
である。
④BEMS とは Building and Energy Management System の略で、ビル管理システムのことを指す。ビ
ルの機器・設備等の運転管理によってエネルギー消費量の削減を図るためのシステムの事である。
⑤HEMS とは、Home Energy Management Servise(ホーム・エネルギー・マネジメント・サービス)
の略。家庭内の消費電力を「見える化」して、空調や照明などをインターネットなどの回線を利用
してネットワークに接続して、『監視』や『遠隔操作』を行うことにより、例えば、電力消費量が
基準以上になると、照明の明るさを抑えたり、空調の温度を変更したりして電力消費を抑えること
で、省エネにつなげることのできるシステムです。
⑥コージェネレーション、またはコジェネレーション (cogeneration)、英語では combined heat and
power ともいわれる。これは、内燃機関、外燃機関等の排熱を利用して動力・温熱・冷熱を取り出し、
総合エネルギー効率を高める、新しいエネルギー供給システムのひとつである。略してコージェネ、
コジェネとも呼ばれ、熱電併給(ねつでんへいきゅう)、古くは熱併給発電(ねつへいきゅうはつ
でん)ともいった。
⑦ネガワットとは"電力消費を抑える"ということです。
⑧同時同量とは、電力の需要と供給を絶えず一致させることを言う。需要と供給のバランスを保つ
ことで、英語ではバランシング(balancing)と言う。電気は、電気のまま貯めておくことが難しく、
また「売り切れましたので停電します」と言うわけにもいかないビジネス上の特性がある。このた
め、時々刻々と変動する需要量に合わせ、供給量(発電量)をピッタリ一致させ続ける必要がある。
⑨ユニバーサルサービス (Universal service) とは、一般的には社会全体で維持され、誰もが等し
く受益できる公共的なサービスの全般を指し、電気、ガス、水道から放送、郵便、通信や公的な福
祉と介護などでの、「地域による分け隔て」のない便益の提供義務を強調して用いられることが多
い。
⑩グリーン電力とは、風力、太陽光、バイオマス(生物資源)などの自然エネルギーにより発電さ
れた電力のことです。石油や石炭などの化石燃料による発電は、発電するときに CO2(二酸化炭素)
が発生しますが、自然エネルギーによる発電は発電するときに CO2 を発生しないと考えられていま
す。このように風力など自然エネルギーによる電気は、
「電気そのものの価値」の他に、省エネルギ
ー(化石燃料の節減)や CO2 排出抑制といった付加価値を持った電力と言えます。 これを「環境付
加価値」と呼んでいます。この「環境付加価値」を、電力と切り離して「グリーン電力証書」とい
う形で購入し、通常お使いいただいている電気と組み合わせることで、環境にやさしい価値を持つ
グリーン電力を使用しているとみなすことができます。
⑪発送電分離 とは、発電事業と送電事業を別の会社が行うようにすること。
図 1.電力市場自由化への取組 ~競争体制に変えることができないか~
2000 年 3 月
大口の需要家を対象にした「特別高圧」の自由化
卸電力市場が開放され
2005 年 4 月
契約電力が 50kw 以上の「高圧」の自由化
もっと電力が買えたら!
卸電力取引所での売買は、需要全体
の 0.6%にしか過ぎない。
全需要の 6 割が自由化(新電力シェア 3.5%)
競争進まず
独占状態続く
目的:電力会社間の競争⇒ピーク時の電力抑制⇒設備投資抑制
電力市場の完全自由化を推進したい!
料金の低廉化を実現したい!
どうしたら競争体制に変えられるのか!
自由化 2 割の壁
電気事業法の
規制見直し
電力市場の分析
事業の特徴
商品の特異性
季節・時間帯により需要が大きく異なる。
公益事業であり、固定費比率が高い。
時間ごとに需給を一致させる必要がある。
卸電力市場は寡占競争市場である。
安価に貯蔵するのが難しい。必需財である。
既存事業者と新規参入者の事業規模の差が顕著
商品(例えば、エネルギー源)がわからない。
既存事業者が電力供給の送配電網を所有
解決策の例
ピーク対策
競争させるためには!
多様なメニュー
⇒
価格の変動制
電力事業は規模の経済
魅力ある市場に!
⇒
規制の見直しも必要
電力の貯蔵
規模の経済の緩和
特定供給制度見直し
需要の調整監視
送配電分野
大規模集中型
⇒
地域分散型
情報処理技術
の法的分離
大きな電力会社
⇒
小さな、複数発電会社
発電、遠隔地
⇒
発電、近くの地域
地域独占
⇒
選択・自由化
託送制度
技術革新の推進
技術革新の推進
例、
エネルギー監視システム
揚水発電
蓄電池
など
スマートコミュニティ
BEMS、HEMS
ツールとして
スマートグリッド
スマートメータ
競争体制は機能しているか!
電力需給調整の新機関
「最終保障サービス」の実現
需要の調整
電力の質の維持
送電コストの最小化
客先情報の遮蔽
「ユニバーサルサービス」の実現
地産地消の実現
分散型電源、小規模発電
例、コージェネレーション
マイクロガスタービン
監視機能は働いているか!
図 2.電力自由化の経過
[欧州の電力自由化についての資料]
1
はじめに
電力会社各社が電気料金の値上げを申請している。現在、日本に約 50 基ある原発のほとんどが停
止しており、原子力による発電分の代替として火力発電が増え、火力燃料費が増加、各電力会社の
経営を圧迫しているのである。電気料金の値下げまたは据置きについては届出制がとられているが、
値上げについては、経済産業大臣の認可が必要である。
電気料金は水道、ガスと並ぶ公共料金である。日本では、その供給体制、電力の供給源、料金体
系等が話題になることは少なかったが、欧州では、電気料金はしばしば消費者問題として取り上げ
られている。
2
欧州の電力自由化について
出典:Global Energy Network Institute サイト提出資料を基に作成
日本は島国であり、国土も南北に細長いため、電気の送電網はくし型と呼ばれているが、欧州では、
国をまたいで送電ネットワークがはりめぐらされており(メッシュ型)
、電気の輸出入も行われている。
欧州を単一市場とみなし、欧州における電力自由化は、欧州委員会の主導の下で行われており、EU 加
盟国は電力小売分野の自由化が義務づけられている。
•
1990 年初頭より北欧とイギリスで先行的に自由化が実施される
•
1996 年
EU 電力自由化指令で電力小売分野の自由化が義務付け
•
2003 年
2007 年までに家庭用を含め全面自由化に合意
送配電部門の法的分離を加盟国に義務付け(一部例外あり)
•
2007 年
第 3 パッケージを選択し、完全自由化に向けて進行中
※第 3 パッケージの目的
①消費者の選択
価格
②より公正で透明性のあるガス・電気
③低炭素エネルギーの促進
④供給の安全性
「消費者が電力自由化の中心的存在。競争を促進し、質の高いエネルギー市場を形成するのは消費
者自身の行動にかかっている。
」としている。
また、EU 委員会では 2020 年に再生可能エネルギーのシェアを 20%にする目標を掲げている。
3
価格比較サイトについて
出典:http://www.ccijf.asso.fr/ccijf/ja/vie-en-france/vie-en-france-09/359-koborebanashi-31 より作成
電力の自由化が進んでいるイギリス、ドイツ、フランスと言ったヨーロッパの国々では、電気料
金の価格比較サイトがある。自分の住んでいる住居地の郵便番号とだいたいの電気の使用量、夜間
割引プラン利用の有無、支払方法などを入力すると、利用できる電気の供給業者、契約プランが表
示される。現在の契約から乗り換えた場合、お金がいくら節約できるかが表示されるが、料金だけ
でなく、電源構成についての情報や、CO2 の排出量についての情報を載せているサイトもある。
消費者は、複数の選択肢の中から、自分にあったプランを選択することができる。安価なことを最
優先したい消費者は価格で選択し、割高でも原発によらない電気を使いたい消費者は、グリーンエ
ネルギーの認証を受けた業者と契約をし、再生可能エネルギーによる発電の支持を表明し、推進を
することができる。
ドイツでは、福島の事故のあと、原子力発電による電気の契約から、自然エネルギーからつくら
れた電気の契約へと乗り換えた人がとても多かったそうである。再生可能エネルギーを選択する消
費者が増えれば、企業も消費者のニーズに合わせた供給行動をとるように変わると考えられている。
選択を通じて発電の仕方にまで消費者が影響を及ぼし、電力市場のあり方まで変えることができると考
えられているのである。
価格比較サイトの例
http://www.energie-info.fr/
(フランス)
http://www.stromvergleichi.de/ (ドイツ)
http://www.uSwitchi.com
4
(イギリス)
おわりに
電気は毎日の生活、生産、経済活動に必要不可欠のものである。原子力発電にとって代わる供給
源はすぐには見つからないが、地球環境を守り、安全な電源であることが必要である。また、電気
料金の消費者問題としては、情報の開示、周知の問題もある。現行の総括原価方式の電気料金の仕
組みでは、不透明であるため、消費者が負担する費用も、情報が開示され、消費者が分かるように
して欲しい。また、複数から選択できるということも大切である。消費者が消費という行動を通し
て、社会に対して意志を表明し、社会参加をして行く。国や企業が決めるのではなく、消費者の自
分たちはこれからこうありたいという意見が反映されるような仕組みが作られることが望ましい。
これからは、消費者も自分の生活を見直し、何をどう選択していくのかを考えていくことが必要
である。権利と義務という言葉があるが、消費者の責務として社会的な関心を持つ責任、環境への
自覚を持つ責任といったことがあることを忘れてはならない。次世代も安全で安心な暮らしができ
るように持続可能な社会を残すように選択していきたいものである。
参考文献
民事法研究会
「現代消費者法
No.12」
研究発表9
指導
芝
神戸市外国語大学教授
勝徳 講師ゼミ
芝
勝徳
ゼミ助手
内田 紀子
ゼミ研究生
石﨑 陽子
河田 みどり
炭谷 英一
瀬戸 九美
林
裕美
古川 祐貴子
小西 一義
奈良 美千代
正保 洋子
吉岡 千昭
《はじめに》
平成 23 年度通信利用動向調査(平成 24 年5月;総務省)によると我が国のインタ
ーネット利用は人口普及率では 79.1%、世帯普及率では 86%に達している。日常生活
における利便性の高さでは他のメディアをしのぐほどになり、市民生活の必需インフラ
となってネット社会を構築していると言えよう。
このようなネット社会における利用者=消費者はインターネットの利便性のうちに
ひそむさまざまなリスクの存在や複雑な契約内容の詳細について十分な認知、理解が出
来ているのだろうか。消費者基本法の基本理念第2条では「・・・略・・・商品及び役
務(サービス)について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保され、消費者に対
し必要な情報及び教育の機会が提供され・・・・中略・・・消費者が自らの利益の擁護
及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援す
ることを基本として・・・」とうたわれている。
私たちのゼミでは神戸外国語大学教授 芝勝徳先生のご指導のもと、このネット社会
で消費者が自主的かつ合理的に選択し、行動できるために必要とされる基本的知識につ
いて学習をすすめてきた。とりわけネット社会で日常的に散見される無料や安価で提供
されるさまざまな商品・サービスの内容やそのビジネスモデル・収益モデルに着目し、
ネット社会における消費者と事業者の間に存在する情報の非対称性に潜む、見えない
(見えにくい)リスクを明らかにしようと試みた。また数年前に登場したスマートフォン
は急速に普及、今後若年層にも利用が拡大する見込みである。本格的なスマホ時代に生
きる若年層、とくに 10 歳前後の子どもたちへの消費者教育について、見えない(見えに
くい)リスクの認知、自主的かつ合理的な選択や行動、批判的思考力の育成などが重要
課題であることを確認した。
(以下、携帯電話を「ケータイ」スマートフォンを「スマホ」と略称する場合がある)
1
【1】情報・通信サービスの相談件数
情報通信分野はインターネット普及後、それまでの固定電話と放送サービスから移動通
信サービス=携帯電話、パソコン、テレビ、ゲーム機にまで一気に拡大し、サービスの
内容が多様化、複雑化してきた。特に近年はスマートフォンが登場し、商品・サービス
の販売競争が激化するにつれて、よりいっそう契約内容が複雑になる一方、消費者側の
理解が十分追いついていない現状がうかがえる。
図1
国民生活センターに寄せられる
全国の消費生活センターからの相
談情報をデータベース化した
PIO-NET(2009 年~2013 年 1 月)
によると、情報通信関連サービスで
は契約・解約に関する相談が多い。
その内訳を年齢別にみると図1の
とおりである。アダルト情報サイト
の相談件数はすべての商品・役務等
の中でも最も多い。
デジタルコンテンツにはオンラインゲーム、懸賞サイト、占いサイトなどが含まれてい
る。移動通信サービスにはスマートフォンが含まれている。どのサービスも 30 歳~40
歳代が中心とみられるが、アダルト情報サイトでは 20 歳未満の相談も目立っている。
【2】昨今の具体的事例
*昨年、コンプガチャが問題になったが、小学生がゲーム機で無料というふれこみの
オンラインゲームにアクセスし、遊んでいるうちに親のクレジットカードを使って
10 万円分のアイテムを購入していた。
*コミュニティサイトで知り合った人から、新規会員は無料というゲームサイトを紹
介された。登録すると突然入会費 3 万円とゲームポイント 5 千円を請求され、振り
込んだが連絡がないので退会を申し出ると、退会手続きに 3 万円必要と言われ振り
込んだ。その後もそのサイトからいろいろな請求が来て困っている。
*「KDDI 研究所の分析によると、スマホでダウンロードしたアプリ 400 件のうち端
末を特定する ID 情報を集めるアプリが 181 件(45%)あり、そのうち情報収集につ
いて適切な説明があったものは 17 件、無断で集めていたものが 157 件あった」
(2012.10.2 日本経済新聞記事より)
*携帯電話を解約したら解約料を請求された。契約時に解約料のことは聞いていなか
った。
2
【3】携帯解約料は「ユーザー囲い込み」が目的
スマートフォン(iPhone など)解約時の注意点
現在は複数の携帯電話会社が取扱う人気機種 iPhone やスマートフォン。これの解約
には注意が必要だ。
「機種代0円」
「○○プラン」など、消費者にとって魅力的な契約を
始める時は、ハードルを低くして購入しやすくしているが、解約時にはいわゆる“2年
縛り”が存在する。2年間使い続けて毎月の利用料を支払ってくれるなら、本体代は0
円、お得なプランも適用しましょうといった具合になる。ところが、途中解約となると
機種代 24 ヶ月分の残りの月数分の違約金+解約手数料(9千 975 円)が必要となる。
(図2参照)ここでの解約手数料は、なぜか各社横並びで同金額である。また、この契
約は2年ごとの自動更新という点にも注意が必要だ。各社によって 24 ヶ月目~27 ヶ月
目までと時期には若干差はあるが、それが終了する約1ヶ月間に解約の手続きを取らな
ければ、本体の支払いが終了していても解約手数料が発生する。次に解約手数料を払わ
ず解約できるのは、さらに2年後となる。スマートフォンを契約する際は、その契約日
をまるでお誕生日のような大切な記念日として覚えておく必要があるようだ。
端末月賦
開始
端末
購入月
0か月
1ヶ月目
端末本体2年月賦払
2ヶ月目
端末月賦
終了
26ヶ月目
端末月賦支払中
= 違約金発生
図2
解約のベストタイミング
違約金が発生しない
自動更新
開始
27ヶ月目
解約時に
違約金発生
【4】「○○割」の落とし穴
「○○割」実施中○月○日まで。などと TVCM などで季節ごとに大幅な値引き額を
強調する広告がよく見受けられる。これにもキャリアごとにさまざまな思惑が見え隠れ
する。値引き額に心動かされる所ではあるが、ふたを開けてみれば家庭の IP 電話、プ
ロバイダー、CATV(ケーブルテレビ)の契約までもが組み込まれており、既にしてい
る契約自体を変更しなければ適用されない。スマートフォン同様、各社の顧客を囲い込
みたい欲求が、色濃く表れている。
【5】フリーのビジネスモデル(図3参照)
無料からお金を生みだす戦略として、フリーのビジネスモデルは大きく4つに分類さ
れる。
3
① 「直接的内部相互補助」
無料(あるいは安価)の商品で消費者の気を引き、有料の商品を買ってもらうモデル。
② 「三者間市場」
サービスを利用するユーザーが直接費用を
負担するのではなく、広告や集客代行モデルな
どとして第三者が代わって費用を負担するモ
デル。従来の地上波での民放テレビや Google
などのアクセス数の多いウェブサイトの主要
収入源となっている。Facebook は自社コンテ
ンツを持たずプラットフォーム事業に専念し
ている(広告売上が大半を占める)
。
③ 「フリーミアム」
商品やサービスを無料で提供し、その中で一
部のユーザーが有料のプレミアム商品やサー
ビスを利用することで収益を得て、無料をカバ
ーするモデル。アバターなどのアイテム課金や
機能を強化した有料のプレミアム商品やサー
ビスへ誘導し収益を確保する。
④ 「非貨幣市場」
金銭以外に人々が無償で参加することで、新
たなサービスや価値、情報が生み出され、やが
て注目度や評判といったものに動機を得て活
動するモデル。
【6】検索エンジンはなぜ無料か
フリーのビジネスモデルは大きく4つに
分類され、検索エンジンはこのうちの②広
告収入により無料をカバーする三者間市
場に分類されている。
検索エンジンの Google がなぜ無料なのか、
また無料の先には何があるのか考えてみ
たい。
私たちは普段無意識に Google を利用して
いる。その理由として、
4
図4
図3
① トップページは広告がなくシンプルで使いやすい。
② 検索スピードが速い。
③ 魅力的な高機能の無料サービスが数多くある。YouTube やニュース、Google ブ
ックスなども無料サービスである。
このようなサービスでユーザーを数多く獲得し、検索結果画面や各種無料サービス表
示画面のキーワード連動広告を見る人を増やし、広告収入のアップにつなげている。こ
のキーワード連動広告は「検索連動型広告」と呼ばれている。(図4参照)
ユーザーが検索連動型広告をクリックするごとに広告主は広告料を Google に支払い、
2009 年の年間売上は2兆1千億円で、その 90%以上が広告収入であった。また 2013
年1月 22 日に発表された 2012 年 10 月~12 月期決算は、売上高が前年同期比 36%増
で、約1兆2千 760 億円と四半期ベースで過去最高であった。
なおこの検索連動型広告は、ターゲティング広告でもあり、たとえ同じキーワードで検
索しても、それぞれのユーザーの過去の Web 履歴や広告のクリックなどによって表示
される検索結果画面は、1人ひとり全く違う結果となって表示されている。
このようにユーザーは広告収入により無料で利用できるが、Google にも利用規約や
プライバシーポリシーが存在する。2012 年3月1日この利用規約とプライバシーポリ
シーが変更され、数多くあったプライバシーポリシーが、Google 全体で1つのプライ
バシーポリシーとなった。その結果、1つの Google アカウントがパソコンと Android
搭載スマートフォン両方で使えすべての Google サービスが利用できる。また、さまざ
まな Google サービスでのユーザーの利用履歴や情報を横断的に収集でき、各種サービ
スすべてで共通して1人のユーザーとして扱うことができると説明している。
これは利用した個人情報が1つにまとめられることを意味する。Google アカウント
登録時には、氏名・メールアドレス・生年月日・性別・電話番号・クレジットカードな
どの個人情報を登録する必要があり、サービス利用の利便性と引き換えに、ユーザーは
自分のデータがどのように管理されているのかを知る方法がないまま、利用するほか無
いのである。
【7】終わりなきソーシャルゲーム
オンラインゲームの特徴には、無料からスタートして気軽に参加し、仲間をつくって
交流しながらゲームを進めていくソーシャル(交流)という要素がある。仲間を増やし協
力するなど、交流によってゲーム内にコミュニティが生まれると、仲間の後押しや仲間
より優越感を味わいたいといった心理状態に陥りやすく、もはや無料のアイテムでは満
足できなくなる。そうなると有料のアイテムを購入したくなり、無料の入り口から有料
のゾーンに進むことは非常に容易であると推測される。またゲームは単純な内容が多い
が、一通りクリアしたら終わりとなるような内容ではなく、継続して長期間遊ばせるよ
うな仕様で、運営者からの巧みな誘導により、ひとたびハマってしまうと自主的で合理
的な選択が難しくなるようだ。
5
運営者にとっては利用者の拡大がビジネスモデルのカギである。利用者を増加させる
無料スタートやイベント企画は、広告収入の増大はもちろんのこと、たった5%の有料
ユーザーが 95%の無料ユーザーを支えるこのような収益モデルには必要不可欠である。
(図5参照)
図5
【8】トラブルとそのもたらす相関関係
子どもに生じるネット社会のトラブルとして、次のようなものがあげられる。
1. 書き込みやメールでの誹謗中傷やいじめ
2. 掲示板での個人への嫌がらせ
3. ウィルスの感染や個人情報の流出
4. ネットショッピングをめぐるトラブルや不当請求
5. コミュニティサイトでの巧みな誘いだしや脅迫、出会い系サイトでの性的脅迫
6. アバタ―など射幸心をあおり、親が知らないところで大金を浪費させるトラブル
7. 著作権法等の違反
8. ネット依存による健康被害
9. 犯行予告 など
これらのトラブルは、家庭内や子ども同士のコミュニティの中で起こっている。同時
に個人情報流出や有害メディアへの誘導により、子どもたちがネット犯罪等に巻き込ま
れ、被害者や加害者へ陥る状況にもつながっている。トラブルの要因として、非対面性
や匿名性、取引の相手が誰かわからない、熟慮することなく安易に機器を操作すること
などが考えられる。
6
そして特に子どもにおいては、個人情報流出に対する問題認識の低さ、時空間制約の
解放、現実的なコミュニティの希薄化へとつながる可能性がある。また、このようなト
ラブルは家庭生活やネット中毒など、子どもの心身の健康へも影響を及ぼしている。
【9】SNS の危険性について
次に、SNS(ソーシャルネットワークシステム)の危険性について述べたい。
現在人気の SNS は、会員制で新たな人間関係を作る場を提供するコミュニティ型の
Web サイトのことである。特に Facebook は、実際に性別や世代を超えた幅広い利用者
が短期間に増加し、国内に約1千 400 万人のユーザーが存在する。
(会員数は 2013 年2
月現在、セレージャテクノロジー調べ)
◆SNS の利点
1. 無料で会員になれることが多い
2. 気軽に参加できる
3. コメントなどを交換し、親近感が持てる
4. 友達機能により、知らない人とでも友達になれる
5. 趣味や嗜好を同じくする人と知り合える
6. 世界中に開かれており、国境を越えて友達になれる
7. サークル活動やイベントの告知ができる
8. ビジネスの集客やマーケティングに使える
などがあり、会員同士のコミュ二ティを形成し、信頼感が持てる、つながれる
ことが急速に普及した要因だ。
●代表的な SNS
大きくわけて、匿名で利用可能なもの、実名登録が原則のものの 2 つに分類される。
匿名 OK
mixi
twitter
GREE モバゲー
実名登録
Facebook Google+
など
などがある
◆SNS の危険性
図6
7
会員同士が親近感をもちやすい心理を悪用した、偽のプロフィールを使って会員に近
づいて利用しようとする悪意のある人物に、騙されてしまう危険性が高い。
(図6参照)
その結果、
「芸能人のマネージャー」を名乗る人物からの詐欺被害、ネットワークビ
ジネスや悪質な宗教団体の誘い込み、アダルトサイトや出会い系サイトへの誘導、個人
情報を教えた結果のストーカー被害、犯罪に巻き込まれるといった実例がある。
Facebook や Google+のように実名登録ならば安心かといえば一概にそうとも言えず、
またその実名登録を逆手にとった被害が出ている。
実名登録だからこそ会員の信頼度が高いといわれている Facebook は、日本のネット
社会が匿名文化で発展してきた背景があるため、他国に比べれば普及しにくいと考えら
れていたが、対人口比におけるユーザー数は 10.9%にのぼっている。
(2013 年 2 月 6 日、
セレージャテクノロジー調べ)
●個人情報がここまで知られている
*Facebook に会員登録するときは、住所・氏名・生年月日・血液型・学歴・職業・交
友関係・家族構成・宗教・恋愛対象・思想などの個人情報を入力する。スマホから GPS
機能を「ON」のままで画像などを投稿していると、現在地を特定され個人の行動履歴
を知られてしまう。現在、ブログや他のサイトを見たことも「いいね!」ボタンを押す
ことで、会員は趣味・嗜好までも、広く Web 上に公開することになる。SNS 利用者の
個人情報は丸裸にされていると認識しても大げさではない。Google の検索でも顔写真
が出てくる。
SNS のつぶやきや、貼っている写真などから個人を特定し、就職前の「個人の嗜好、
思想調査」に使われ採用が取り消しされる事例もある。一度 twitter などでつぶやいた
ことが、大きな波紋を呼び、サイトの閉鎖や日記、ID の削除をしても第三者がコピー
することによってネット上にずっと出回り、削除不能となることがある。
(図7参照)
図7
8
●個人情報の蓄積は何に使われるか
*SNS の膨大な個人情報や趣味・嗜好、行動履歴、購買履歴の蓄積は、大きなマーケテ
ィング情報である。お金を払って情報を入手する企業にとってこれほど好都合なものは
ない。
Facebook が会員の個人情報を他の企業に売買し利益を得る。行動、趣味・嗜好、購買
履歴の情報が売られる危険性があることを知ってほしい。
仮に、SNS 側が個人情報を売買しなくても、その会員になっている悪徳商法の企業
などは無料で個人情報を手に入れられ、リストアップすることが考えられる。
そして、現在運営している巨大 SNS が潰れたら、会員の情報流出が始まる危険性が
ある。
そうなればリスト回収などもできず、取り返しがつかない事態に陥る。
SNS を運営する企業は、利益を何で得て、なぜ無料で会員登録に誘導するのだろうか?
その裏側も考える必要がある。無料であることは危険と隣り合わせの側面もあることを
理解し、SNS を利用する私たちも賢く利用することが求められる。
【10】LINE というアプリは安全なのか、危険なのか
LINE とは、スマートフォンがメインのコミュニケーションツールでパケット料だけ
は契約している携帯会社に対して支払う必要があるが無料で音声通話ができ、違うキャ
リア同士でも無料でメッセージを送ることができる。10歳~20歳代のユーザーがメイ
ンであったがユーザー数が増えるに従い年齢層が幅広くなってきた。またサービス開始
から1年7ヶ月、LINE 利用者は1億人を突破したそうである。利用者の増加に伴い、
事業者は公式アカウントを持ち、内閣官房
内閣広報室においても、「首相官邸」公式
アカウントを昨年10月から開設しており、多くの地方自治体も追随している。
LINE の基本的な機能は主に2点だ。
・音声通話・・・友達と電話のように通話ができる。
・メッセージのやりとりができる。 メッセージは「トーク」と称され、その「トーク」
で「スタンプ」という大きな絵文字を送ることができる。
驚異的に伸びるアプリ「LINE」
、これからのインフラになりつつあるとまでいわれて
いる LINE は安全なのであろうか。
「LINE」は次のような危険性があるといわれている。
1. LINE は無料電話、無料通話…タダより高いものはない
2. LINE は犯罪の温床に…出会い系の目的に利用されている可能性
3. LINE は勝手にアドレス帳のデータを抜き出し登録させられる
4. LINE は自分の意思とは関係なく個人情報がさらされる
5. LINE はアプリケーション用パスワードを変更され乗っ取られ、
メール履歴を消される可能性
6. LINE は電話番号が間接的に流出してしまう恐怖
9
「LINE は無料通話・無料のメール」がポイントである。友達と通話やメールが楽し
い世代=中高生を中心に流行し、LINE 同士の利用なら無料で通話ができるため友達に
誘われて利用者が急増した。そして無料と引き換えに大事な個人情報を明け渡している
危険性に、ユーザーは気づかないかもしれない。LINE を利用するには個人情報を登録
する必要があるが、その時にスマホのアドレス帳に登録している全員の情報がユーザー
の知らないところで開発側のサーバーに送信されているのである。既に利用している友
達がいると、たとえ自分が LINE を利用していなくても、友達のアドレス帳に記録され
ている自分の電話番号やメールアドレスなどの情報が取り込まれる危険性があるとい
われている。
他の SNS 同様、非公式掲示板が出会い系の温床になっており、実際に被害が起きて
いる。ID 検索機能は出会い系に悪用されやすい。設定した ID を相手に検索してもらい、
電話番号や名前を明かさなくても電話やメールのやり取りができる。この点が問題視さ
れ、スマホメーカー側が18歳以下の未成年の ID 検索を強制的に停止する対応をとった
り、開発側が利用規約やロゴ商法の無断利用を指摘し、サービス停止の申し入れ・改善
をおこなっているのが対応策の現状である。
法律では電話番号やメールアドレスだけでは個人を特定することはできないと解釈
され「個人情報」と定義されない。電話番号が知らない間にアップロードされても収集
した企業を規制できない。
LINE 以外にも無料通話・メールアプリは多く開発され、若者を中心に浸透している。
アプリを使用する前に利用規約を熟読し本当に必要なのか賢明に選択する必要がある。
【11】子どもを取り巻くネット環境
子どもを取り巻くネット環境は、急激に変化している。ケータイやスマホは、もはや
一部の子どもたちが持つ特殊なモノではなく、小学校→中学校→高等学校へと年齢が上
がるにつれ、コミュニケーションツールとして不可欠な存在となっている。そして、そ
の使い方は通話機能よりもその他の機能 メール、Web サイトの閲覧、ネットショッ
ピング、コンテンツのダウンロード、ブログでの自身の日記の公開、SNS の利用、ゲ
ームなどを使用する頻度が多くなっている。さらにその使用時間も長くなっており「ケ
ータイ依存」に陥る子どもたちもいる。
子どもといえどもネットの危険性は大人と同じだ。ケータイやスマホの料金を自分で
払っておらず、その使用料については無関心である。むしろネットの使用環境や使用方
法は大人より無防備と言えるのではないか。ケータイやスマホを使わない、使わせない
時代から、どのように適切に使うかという時代に変わってきている。子どもたちが犯罪
に巻き込まれないためのケータイやスマホの適切な使い方、自分の安全は自分で守る、
そして「無料の裏側にあるものは何か」という教育をしていく必要がある。また保護者
にはネット社会での消費者リスクを理解してもらい、メリット・デメリットを周知した
うえで、子どもにケータイやスマホをどう使わせるかを真剣に考えてもらわなければな
10
らない。小学生の間はフィルタリング機能の付いたキッズケータイを持たせたい保護者
が多いと思われるが、いまやケータイではなくスマホを持ちたいと思う子どもたちのほ
うが増えてきている。
2013 年2月1日、携帯電話会社Dからジュニア向けスマホが発売された。防犯ブザ
ーを搭載し、自由にアプリをダウンロードできないようにしており、保護者がコンテン
ツ・アプリ・Web サイト閲覧の制限をかけられるようにもしている。スマホの利用時
間帯や通話時間を制限可能にし、安心・安全への取組みを前面に打ち出している。しか
し使用する子どもに要望された場合、保護者である契約者は、このセーフティーデバイ
ス、安全装置を解除して与えることも可能であり「子ども用なら安全」とは言い切れない。
携帯電話会社が説明するように、本当に子どもたちは安心・安全にスマホを使用できる
のか。すばらしいスペックが備わっていても、使うのはリスクを十分に理解していない
子どもたちである。安心・安全のために一番大切なことは親子の間でスマホの危険性に
ついて話し合い、使い方のルールをきちんと決めることでないだろうか。
【12】子どもにスマートフォンを与える前に
私たち芝ゼミでは、これからケータイやスマホを持つことによってネット社会に入っ
て行く 10 歳ぐらいの子どもたちが安全で安心してこれらの機器を使えるようにするに
は、どう説明すればよいかを考えた。
そして、あるアメリカの女性が考案した「スマホ 18 の約束」という使用契約書の原文
を基にして、ゼミ生の意見も反映させた「14 の約束」を提言したい。
【13】スマホ 14 の約束
1.と 2.は、保護者がスマホを所有し、支払
う責任と子どもを管理する権限を持って
いることを明言している。管理する側がパ
スワードを知っておくことはセキュリテ
ィーの大原則である。
3.では、たとえスマホであっても電話とし
ての基本的マナー遵守を教えている。
4.の使用時間の制限も保護者が子どもを
管理する意思を表している。
11
5.と 6.も 3.と同様に、基本的ルールを教
えている。
7.では、「ネットいじめ」を、さらに子ど
もたちが公の場にふさわしくない乱暴な
言葉をネットで使う現象を示唆している。
8.「お母さんと一緒にみられる情報」とい
うのは、アダルトサイト禁止のことを示唆
している。
また、子どもたちは、知りたいことがある
と簡単にネットで検索する傾向にある。人
と会話をしたり自分の頭で思考すること
が大切である。
9.これは、経験したことは自分の目でしっ
かりと見つめ、記憶にとどめることが大切
だということを教えている。
10.公共の場での電源 off とマナーモードは
基本的なマナー。
11.では、
「ネット依存」にならないよう注
意を促している。
12.の下線部分は、スマホを使うことによ
ってインターネット社会と繋がるという
ことが、いかに危険に満ちたことなのかを
教えている。子どもたちが、一度アップロ
ードした言葉や映像は残ってしまい、消す
ことは困難である。
12
13.何もかもスマホを使ってググる(検索
する)ことをしないで、自分で物事を考え
ることも大切なこと。そして
14.「それが、たとえ無料でも
無料が一番怖いのよ」
この最後の二行は「スマホ 18 の約束」原
文にはなかった言葉であったが、芝ゼミで
一番訴えたいメッセージであったので挿
入させていただいた。
《まとめ》
ここまで、現代の携帯電話・スマートフォンとそれにまつわるさまざまなネット環境
の現状と問題点などを挙げてきたが、この文章を作成している時点でも状況は日々変化
している。
私たち大人にとっても理解しづらい状況の中、これからこのネット世界に入ってくる
子どもたちに全てを伝え、理解をさせることは至難の業である。しかし、現代では携帯
やネットを避けて生活することは不可能であり、既にそれらの便利さを十分享受してい
る私たちが、その便利さの裏側に潜む危険から子どもたちを守るために伝えるべきこと
がある。それが、アメリカのある母親が子どもと交わした「18 の使用契約」を元に作
成した「スマホ 14 の約束」である。この中に書かれている事は、基本的ではあるが普
遍なことばかりである。最後に頼るのはネットやその向こう側にいる顔の見えない人た
ちではなく、子どもたちの身近にいる両親(保護者)であることを伝えている。また、
日本でよく目にする「無料」という言葉の裏側にある本質について考える動機付けをさ
せるものとなっている。携帯電話会社(キャリア)は今後も色々なサービスや機能を提
供し続けるだろう。激しく変化するネット環境の中で、これら携帯やスマートフォンの
使い方の基本をしっかりと身につけておくこと、そしてこれらの知識によって自分で判
断し、ネットを有益に利用できる「賢い消費者」へと成長していくことを切に願う次第
である。
13
参考文献
1.網野衛二 (2009)『自分のペースでゆったり学ぶTCP/IP』
2.クリス・アンダーソン、高橋則明訳
(2009)『FREE
技術評論社
<無料から>お金を生み出
す新戦略』NHK出版
3.野口智雄(2010)『FREE 経済が日本を変える:無料で儲ける人たちだけが知ってい
ること』中経出版
4.苫米地英人(2010)『FREE 経済入門』 フォレスト出版
5.『週刊 ダイヤモンド
ネットの罠』(2012 年 6 月) ダイヤモンド社
6.キーワード101編 (2011)
『<図解>フリーのカラクリ
知っておきたい59の<無料>とビジネスモデルの
裏側』光文社
7.総務省(2012 年 7 月)
『平成 24 年度版 情報通信白書』
8.消費者庁(2012 年 8 月)『消費者問題及び消費者政策に関する報告(2009~2011 年
度)』
9.国民生活センター(2012 年 11 月) 『消費生活年報 2012』
10.国民生活センター『消費生活相談データベース(PIO-NET)
』
(http://datafile.kokusen.go.jp/)
11.
『Google 利用規約-ポリシーと原則』
(http://www.google.co.jp/intl/ja/policies/terms/regional.htm)
12.
『Google 利用規約』
(http://www.google.com/apps/intl/ja/terms/user_terms.html)
13.
『Facebook を利用する上で注意、Facebook の危険性についてまとめ』
(http://matome.naver.jp/odai/2130720299046181301)
14.『知らないうちに、Facebook で全世界に個人情報を流している!?』
( http://communityjp.norton.com/t5/blogs/blogarticlepage/blog-id/SSS/article-id/96/
page/1)
15.
『Facebook の個人情報は、自分の知らない所で売買されている』
フェイスブック上で秘密が暴露されたら - WSJ 日本版
(http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-530010.html?mg=inert-wsj)
16.
『Facebook で収集されている個人情報』
( http://gendai.ismedia.jp)
17.藤川大祐(2009)『本当に怖い「ケータイ依存」からわが子を救う「親と子のルール」
』
主婦の友社
18.総務省総務省 総合通信基盤局
データ通信課
『子どもを取り巻くインターネットの現状に関する調査研究/インターネットトラブ
ル事例解説集』
(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jireishu.html)
14
19.つねさん@図解思考塾『
「フリー(無料)戦略」を考える』
(http://tsunesanzukai.yoka-yoka.jp/c10574.html)
20.日経 Biz アカデミー『第 3 回フリー価格―価格をタダにするビジネスモデル』
(http://bizacademy.nikkei.co.jp/)
21.国民生活センター(2012 年 8 月)『WEB 版国民生活』
(http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201208_02.pdf)
22.総務省(2012 年 4 月)
『スマートフォンを経由した利用者情報の取り扱いに関する
WG 中間とりまとめの概要』
(http://www.soumu.go.jp/main_content/000154855.pdf)
23.東洋経済新報社(2013 年 1 月)『週刊東洋経済
特集/LINE 大爆発』
24.(社)全国消費生活相談員協会 (2011)『通信入門』
15
神戸コンシューマー・スクール(第4期生)研究発表会
『わたしたちの提案』
平成 25 年 2 月 9 日
私たちの提案
ゼミ講師:神戸大学名誉教授
発表者:上田 明子
北海学園特任教授
田村
正紀
私たち田村ゼミでは研究テーマを、豊かな消費生活を題材に、「サプリメント(健康食品)」、「旅
行(観光・SNS)」および「幸せな生活」の 3 テーマで研究を行った。
本ゼミでは今後、日本では少子高齢化がますます進行する中、それぞれのテーマが豊かな消費生
活に繋がると仮説を立てた。仮説を検証するため、田村先生のご指導のもと、アンケート調査の実
施と、そのアンケート結果の分析と検証を行った。以下各テーマの研究内容である。
「サプリ漂流民」チーム
「サプリ漂流民」をタイトルとし、グループインタビュー、医師へのインタビュー、アンケート
調査から、ストレス社会におけるサプリメント利用の実態について分析および考察を行った。浮か
び上がってきたのは、効果に疑問を抱きつつも、健康や美容に対する不安感から、やめるにやめら
れないサプリメント利用者の姿であった。しかし、近年サプリメントの利用によるトラブルも多く
見られることから、上手な利用の仕方を提案できる仕組みの構築の必要性を感じた次第である。
「SNS を利用して旅行の内容を豊かにできる?」チーム
そもそも「旅行」とはなに?に始まり、現在の旅行・SNS の状況、SNS を上手に活用するために
は?そこにある消費者問題とは?などの問題意識を持ち、アンケート結果を分析し、研究に取り組
んだ。そして、SNS を上手に活用するにとどまらず、
「このような SNS を作ってはどうか」という
提案を行なった。旅行内容が情報に影響を受けていることを意識するとともに、安全に情報を受信・
発信していけるインターネット環境があれば、より楽しく、費用対効果の高い旅行ができるのでは
と感じた。さらにそれを行政だけに要望するのではなく、消費者も一緒に作っていくことが重要だ
という結論に至った。
「幸せな生活とは」チーム
幸せの要因を探るため、
「豊かな貧乏生活」というテーマで作文を依頼した。そこからキーワード
を収集し、それを基にアンケート項目を設定した。アンケート結果を世代別に分析したところ、幸
せを決める要因は、多様な側面による広がりを見せ、各世代間においても異なることが明らかにな
った。これにより、
「幸せの物差しは人それぞれ異なり、幸せの問題は難しい」という結論に至った。
今後は、クオリティーオブライフにも迫っていきたい。
まとめ
誰もが健康で楽しく生活していきたいと思う中、老後の生活時間が伸び、相対的に余暇時間も増
え、これからの生活をどう過ごしていくかは大切なテーマである。その際、旅行やレジャーは大き
な関心事であり、健康や美容のためにサプリメントを摂取するかどうかは、費用対効果も考えつつ、
正しい情報が得られるかが鍵を握っている。また、幸せに暮らすには、生活の質の向上を踏まえ、
日々、どう過ごせばよいのかを考える必要がある。
ゼミでは、田村先生ご自身のお話から、食べることを楽しみ、文学の世界、レジャー等に興味や
関心を大いに持たれ、豊かな生活をされている人生の先達としての在り方が感じられた。どうすれ
ば、より良く生活していけるかといった問題へのヒントを与えられた思いがする。各ゼミ生におい
ては、この一年の学習を生かし、さらに研究テーマの考察を深め、消費者市民として、より豊かに
生活していけるよう、様々な分野に関心を広げていきたい。
私たちの提案
ゼミ講師: 関西学院大学経済学部教授 田中 敦
発 表 者: 炭谷 英一
私たちは田中敦先生御指導のもと、吉本佳生著『金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか』を中心
に学習しました。「知っておきたい金融商品のからくり」として、消費者が「金融広告」では、知らないが知っ
ておくべきことをプレゼンしました。以下の章のいくつかをそれぞれゼミ生が分担して報告し、発表項目を整理
し、「リスク」「リターン」「手数料」「金利」「インフレ」「広告」等の概念を中心に、金融商品を選ぶ時の
注意点としてまとめました。
第1章 「高金利預金」の広告-客の選別
第2章 「セット商品」の広告-手数料の水増し
第3章 「長期の預金」の広告-インフレの恐怖
第4章 「リスクとリターン」の正しい意味と考え方
第5章 「外貨で運用」の広告-コストの比較
第6章 「国債・社債・地方債」の広告-金利変動の影響
第7章 「特約つき○○」広告-富裕層向けの商品はお得?
第8章 「年金保険」の広告-老後の不安につけ込む
第9章 「投資信託」の広告-手数料のかたまり
第10章 「流行の投資信託」の広告-毎月分配はお得?
第11章 続「流行の投資信託」の広告-リスクは小さい?
第12章 「新しいテーマを追う商品」の広告-夢と現実
ゼミでは、あくまでも金融商品の仕組みや広告の落とし穴について一緒に勉強しました。本書では、定期預金
から外貨預金、国債、EB債、年金保険、投資信託、また最近流行の商品(中国株ファンド・インド株ファンド・
社会的責任投資ファンド・ファンドオブヘッジファンズ・商品ファンドなど)まで、様々な金融商品広告のサン
プルを提示し、微細に渡るパターン分析を行っています。60以上の架空金融広告を用いて、解説を行っていま
す。
あとがきにおいて、「規制強化は必要ない」として、金融商品にだまされる人が多発している現代において、
規制を強化するのではなく、消費者一人一人が、判断力を高める以外方法はないという言及がかなり印象的です。
日本は、規制を強化しているが、こうすることにより世界から入って来るお金もまったく入って来なくなり、日
本の国力もおちる。そう考えることもできるし、規制によって守ってばかりでは、日本人は判断力が向上しない
と書かれています。規制緩和と自己責任論の辺りは、出版された2005年の時代性を感じさせます。
デリバティブ等を組み込んだ複雑な金融商品が急増していますが、その割に国民の金融商品に対する知識は向
上していません。
2008年9月15日 世界的金融危機の大きな引き金となったリーマンショックを契機に欧米と日本の金融教育は
真逆の方向をたどりました。
金融商品の複雑化等によって、消費者の金融商品、金融サービスへの関与が拡大し、金融リスク、責任の個人
への転嫁がさらに進んでいるということで、世界的に見て金融教育の強化が要請されています。国際的にはリー
マンショックを契機に、金融教育の国家戦略化が大規模に推進されるようになりました。
日本では、リーマンショック以降、我が国の金融教育全体で見ると批判や混乱も多く、さまざまな金融機関等
でも、予算が削減されているということもあり縮小傾向だといえます。
OECDの金融リテラシー調査を参考に昨年9月に発表された金融広報中央委員会の「金融力調査」では、例
えば複利計算の正解では、3割の人しかできない。分散についての認識がしっかりしている人はそれほど多くは
ないということです。
世界的には「金融のガバナンス」「金融包摂」「金融教育の強化」「国家戦略化」の潮流が起きています。
2012 8月に成立した消費者教育推進法は、自立だけではなくて、消費者市民として社会性を身につけて、環境
その他を配慮するような消費者行動をするという、レベルのことが盛り込まれています。
教育を進めるべき中心点をはっきりさせて、金融行動にフォーカスして、理念としては金融の社会性を重視す
るべきではないかと思います。行動プラス社会的に責任ある金融行動をとるというところが目指すべき理念であり、
神戸市が作成した消費者教育の体系をもとに、ライフステージに応じた体系的な金融教育を学校教育及び社会教
育・生涯教育で推進する必要があります。以上が提案ということになります。
わたしたちの提案
ゼミ講師:神戸大学名誉教授
発 表 者:小西
同志社大学法科大学院教授
安永
正昭
一義
私たちは日常生活の中で、ものを買ったり、サービスを受けたり、たくさんの契約を結んでいる。
基本は、一般法である民法(私的自治の原則)のルールでの対応となる。しかし、事業者と消費者の関
係においては、当事者の力(情報力など)の格差により、次々に複雑な消費者問題が生じ、民法では構
造的な限界が生じてきた。そこで、民法の不備を補正し、消費者、被害者を救済するものとして後追い
ながら関係の特別法が整備されてきた。
安永ゼミでは複雑化する消費者問題とそれに対応する法律について、4つのテーマから関係法令制定
の背景や改正の経緯、また事例を通して問題点などをゼミ生で議論し、先生からも適宜、適切なご指導
をいただきながら理解を深めた。
1.商品の品質・欠陥とそれに対する法的な対応
製造物責任法(PL法)の制定により、製品の欠陥による被害者の救済が、従来の民法によるものか
らどのように進んだのかを、PL法以前の判例との比較により考察した。PL法の適用が争われた最近
の判例からは、それでもなお被害者による欠陥の立証は容易ではないという現実を認識し、今後の検討
や見直しが必要と思われる項目を整理した
2.契約締結過程における事業者の説明義務違反・不実の告知などがあった場合の法的な対応
消費者はその契約締結の無効あるいは取消し、契約の解除ができる。また場合によって損害賠償を請
求できる。しかし消費者と事業者の間には情報力・交渉力・経済力等の格差があり直接解決することは
困難な場合が多い。ADR(裁判外紛争解決手続き)や金融商品等の場合は金融 ADR、FINMAC(証券・金融商品
あっせん相談センター)等を積極的に利用することを消費者に周知し、それらが広く普及することが望ま
れる。
3.契約(約款)の条項内容が不当である場合の法的な対応
消費者契約の条項の中で消費者の利益を一方的に害するものを無効にする旨定めた消費者契約法 8 条、
9 条、10 条の内容を確認し、ホテルの宿泊約款・宅配便約款の責任制限条項、結婚式場利用約款におけ
る申込金の不返還条項等についての判例を検討した。裁判外でも適格消費者団体の差止請求により不当
条項が修正される動きがあり、消費者が関心を持ち声をあげていくことの重要性を認識した。
4.割賦販売・クレジットによる販売信用における法的な問題の整理(割賦販売法、民法)
販売信用のクレジット3者契約における問題点を検討した。割賦販売法における抗弁の対抗の規定の
考え方について判例を通して考察し、判例と法律の深い関係性を改めて認識した。また、大きな社会問
題を背景に改正された改正割賦販売法についても調べることで法律が社会情勢との一致を目指している
が、さらに整備される必要もあることを知った。クレジット取引が日常化する中で消費者も知識を深め
主体的に行動することが求められている。
コンシューマースクールに期待すること
社会変化の中で、通常では考えにくい危害や事故が今起こっている。世の中の変化や消費者のちょっ
とした声に耳を傾け、異変に気づくことが潜在的危険性を察知し、また、その対応が予防につながる。
それらを実践するために、消費者一人ひとりが声をあげ法律にも関心を持ち、不当なことに対して声を
上げていくことが法律を変え、社会をも変えていく。消費者市民社会の実現のために自らの消費行動を
通して社会変革を実現する。KCS はその学びの場であり、社会への発信の場であって欲しい。
私たちの提案
ゼミ講師:兵庫県立大学教授
発表者:今村
充、奈良
斎藤
清
美千代、林
裕美、緋本
順子、吉岡
千昭
私たちのゼミは斎藤清先生のご指導のもと、国民生活センター「PIO-NET(全国消費生活情報ネ
ットワーク・システム)」から得られるデータから、「利殖商法」、「マルチ商法」、「健康食品」のテ
ーマを取り上げ、データから異なる視点、角度からグラフを作成し学習を進めた。可視化に当たっ
ては、斎藤教授が独自に開発された XCAMPUS(探索的経済経営データ処理システム)及び Excel®
を活用した。年齢別や商品分類からのデータを、全国 13 地域別・7 年齢区分別の人口一覧表(国勢
調査 総務省 2010 年)
と組み合わせた地域別のグラフィックス実践を行った。
特に XCAMPUS は、
従来の統計グラフをはるかに超えたダイナミックでヴィジュアルなデータの可視化が可能であり、
近年の消費者被害の動向などを分析することに大変有用であると認識した。
1. 利殖商法について
近年の利殖商法の特徴は、圧倒的に高齢者の被害が多く、相談内容の商品別では、ファンド型投
資商品、未公開株、公社債といった詐欺まがいの投資商品が上位に、地域別では、北陸、関東、中
国地域の順となっている。「劇場型」「代理購入型」「被害回復型」など手口も年々巧妙化しており、
被害額も高額となっている。特に高齢者の被害防止や早期救済が必要と考える。
2. マルチ商法について
人間関係が密の地域の高齢者や、仲間と繋がっていたい若者の相談件数が多く見られる。マルチ
商法は昔から問題の多い商法であることから、消費者庁が「いわゆるマルチ取引の被害に遭わない
ための5つのポイント」を出している。殊更、儲かった話しを何故するのか、その仕組みは生産性
を産むものなのか、それとも、ただ単にお金の移動(儲かった人がいて、誰かが損をしている)な
のか、商法の中身をじっくり確認することが何よりも肝要となっている。
3. 健康食品について
健康食品の相談は、圧倒的に女性が多く、
「病は気から」ではないが、プラセボ効果(処方した薬
に改善効果がないものでも治った)が見られる。本来、医薬品ではなく食品であり大きな効果や効
き目は期待出来ない場合も多々ある。しかし、健康食品が高価である程、プラセボ効果も大きいた
め、参入業者にとってはとても“美味しい市場”となっている。最近は構成比こそ減少したが、マ
ルチ商法やバイブル商法など問題の多い商法の温床にもなっている。また、高齢女性は、一度思い
込むと色々変えず長年続ける傾向にあるため、近年、健康食品から投資話へと被害の発展の兆しが
みられる。
まとめ
斎藤ゼミでは、
「利殖商法」
「マルチ商法」
「健康食品」という相談増加傾向にある問題の多い、悪
徳業者からすれば“美味しい市場”での相談件数を調べた。それを 3-D グラフで可視化することに
より、長々と説明することなく端的に、現状を広く多くの人に伝えることが可能であることを確信
した。今後、様々な場面で啓発活動に利用されることを節に願う次第である。また、消費者啓発の
みならず様々な用途で、表や二次元グラフでは伝えきれない奥行き(問題の本質)部分をあぶり出
す効果を大いに活用し、これら問題点の現状把握、未然防止及び拡大防止に役立ててもらいたい。
わたしたちの提案
2013 年 2 月 28 日
[ゼミ講師]:筑波大学人文社会科学研究科法学専攻教授
本澤巳代子
[本澤ゼミ生]: 岩井尚子、大塚里枝、川島郁子、上代節子、田村泰造、坊野平和、森下雅子、薮田晶子
総務省「人口推計」によると、2013 年には高齢化率が 25.1%で 4 人に 1 人、2035 年には 33.4%で 3
人に 1 人と超高齢化社会が到来します。また、生保保険文化センターによると、
「過去 3 年間に家族や親族
の介護経験あり」が 15%となっています。この様な状況下、私たち本澤ゼミでは、先生指導の下、介護保
険サービスの利用について学び、介護問題の重要性(特に契約について)を認識、次の提案を行いました。
1.本澤ゼミで学んだこと
私たちグループは本澤先生の指導の下で、神戸市の発行する「介護保険のあらまし」、
「介護保険ポケッ
トガイド」などを学習教材として、介護保険サービスについて学習しました。次に、国民生活センター発
行の「くらしの豆知識 2013」、特集「長寿時代に生きる」の記事に対する反論やここが抜けていると思う
ところを各章ごとに、指摘しその理由を述べる作業を行いました。その過程で「突然倒れて介護状態にな
った場合、どう対処したらよいか?のフロー」について提案することになりました。以下の通りです。
介護サービスを利用するには介護認定を申請することから始まります。まず、主治医の診断を受け、主
治医の意見書を添付し、市町村の窓口へ申請します。その後、訪問調査を受け認定を受けます。その結果
に基づいて、受けることが出来る介護保険サービスが決まります。認定結果には要支援1~2・要介護1
~5があり、それぞれの認定結果によりケアマネジャーがプランを立ててくれます。介護度により 1 か月
に利用できる限度額が決まっています。限度額を超えた場合は自己負担になります。また症状の変化によ
り、介護認定が変更されます。その都度契約を行いますが、契約を結ぶときには重要事項説明は事業者の
義務ですが、契約を行うときには十分説明を受けるようにしましょう。そして、介護に悩んだときは、各
区役所保健福祉課、成年後見支援センター、社会福祉協議会、地域包括支援センター、障害者地域生活支
援センター、法テラス等に相談して、一人で悩まないようにします。
また、併せて、下記の項目についてさらに活動を続けることを提案します。(詳細は参考資料による。)
2.今後の活動目標あるいは、取り組み姿勢について
(坊野平和の私の提案)
介護サービスの勧誘に要注意及び日常生活支援事業の普及活動
(川島郁子の私の提案)
高齢者に優しい情報伝達~デジタル・ディバイドの解消を~
(上代節子の私の提案)
居宅支援介護事業者・ケアマネジャー選びのためのチェックリスト
(大塚里枝の私の提案)
ケアマネジャーの質向上施策と質の高いサービスの提供のために
(薮田晶子の私の提案)
介護について気軽に相談できる窓口の創生とその広報活動を
(田村泰造の私の提案)
介護サービス部門への現状調査による改善活動の継続を
(森下雅子の私の提案)
介護保険サービスが「なぜ消費生活の問題?」などの出前講座による啓蒙活動
(岩井尚子の私の提案)
介護サービスを普段から話題にできるような講演会・勉強会の提案
3.今後のコンシューマー・スクールに期待すること
1 年間を通して様々な講義・ゼミを受講でき大変有意義な時間を持てたと感謝しています。卒業後「消費
生活マスター」として活動するに当たり、卒業生間の連携の中核として、有志による明確な組織の結成をお
願いしたい。その中で本件のような有用なテーマについては継続的に研究していくとともに、マニュアル作
りや、対外的な啓蒙活動が出来る組織でありたい。また、消費生活に関係している情報が目まぐるしく変化
している現状であり、消費生活マスターのレベル維持のためにも継続的な研修の場(例えば、来期以後のス
クール生に交じって学習できる場)を設けて頂きたい。最低限、今回の課題への取組について、コンシュー
マー・スクールでの学習が 1 年で終わらずこれからも継続できるような機会を是非計画して頂きたい。
「卒業生ネットワートによる継続支援を!!」
よろしくお願い 致します。
わたしたちの提案
(参考資料)
2.今後の活動目標あるいは、取り組み姿勢について
(坊野平和の私の提案)
介護サービスに要注意
「公的介護保険を補う」には市町村が独自に行うサービスの他に、民間事業者が行うサービスなどがありますが
国民生活センターが見守り情報が出していますとおり、国の介護保険で受けられる介護サービスには限りがある
と言って高額な費用がかかる勧誘しているケースあり、しかも子会員、孫会員を勧誘するマルチ商法などの詐欺
商法の介護サービス詐欺とか、高齢者を狙う投資詐欺とか介護保険を利用する住宅改修のトラブル事案が発生し
ております。怪しくなくても、経営基盤の弱い業者に注意してください。大事なお金が返ってくるとは限りませ
ん。まだまだ、介護保険をめぐる問題点はあります。
高齢者になると、体力も精神力は誰でも強弱の差こそあれ低下してきます。
例えば、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者など判断能力が低下した人は、自分ひとりで契約など判断する
ことが不安な方、お金の管理に困っている方などが出てきます。判断能力低下の強い人には家庭裁判所の手続き
を要する成年後見人の制度を利用する制度がありますが、そこまでに至らない人には「日常生活支援事業」と言
うのが、あることが分かりました。その申込み方法やそのサービスの内容について研究しました。これらの制度
につては一般には余り浸透していないように思われますので、成年後見制度と比較すると利用しやすいですので、
今後、市民に対し啓発普及させていきたい。
私たちのグループで分析研究したテーマは、介護保険をめぐる問題の入門書のような段階です。研究の中で浮
き上がってきた法律上の制度と現実の実務との違いなども浮上しそこの当たりの更なる検証と研究の中で一部
触れてきました「成年後見制度」など、まだまだ研究を究めていかなければなりません。今後はそれらを課題と
して消費生活マスターとして力をつけるため、研鑽に努める決意であります。
(川島郁子の私の提案)
~デジタル・ディバイドの解消を~
消費者基本法は、消費者の選択の機会が確保されることや、情報の機会が提供されることを基本理念として掲
げています。介護サービス利用においてもこの権利は尊重されねばなりません。厚生労働省は平成 24 年 10 月に
介護サービス情報公表システムをリニューアルしましたが、これはインターネットを使うことを前提としていま
す。総務省「平成 24 年版
情報通信白書」によると、インターネットの人口普及率は 79.1%ですが、65 歳~69
歳のインターネット利用率は 60.9%しかなく、80 歳以上にいたっては 14.3%しかありません。また、所属世帯
年収が 200 万円以下では、63.8%の利用にとどまっています。健全な介護サービス利用のために、地域でこの格
差解消に取り組むことが緊急の課題といえます。
(上代節子の私の提案) ~居宅支援介護事業者・ケアマネジャー選びのためのチェックリスト~
利用者に合った、居宅支援介護事業者・ケアマネジャーを選ぶことは、とても大切なことです。しかし、市区
町村から送られてきたり、地域包括支援センターにある居宅支援介護事業者のリストには、各事業所の詳しい内
容は記載されていません。
そこで、居宅支援介護事業者・ケアマネジャーを選ぶ場合のポイント・判断基準・変更の仕方などについてチ
ェックリストを作成してはどうでしょうか。内容は、①ケアマネジャーは、どこで探すのか。②ケアマネジャー
の評判を確認しよう。③良いケアマネジャーの見つけ方④ケアマネジャーはいつでも変更できる。などを挙げれ
ばよいでしょう。
介護サービスは、利用者と事業者とが直接契約を結ぶことになります。自分に合った事業者・ケアマネジャー
を見つけることは、在宅介護を円滑に行う上で欠かせない条件となるのです。
(大塚里枝の私の提案)
~ケアマネジャーの質の向上と質の高いサービスの提供のために~
介護保険サービスを利用する際、ケアマネジャーの力量により、受けるサービス内容にかなりの差が生じ
ている実態があります。ケアマネジャーの仕事の質を高めていくために、定期的な研修制度の充実を行うと
ともに、施設などでは、ケアマネジャー本来の仕事に徹することができるよう、介護人材の不足を解消して
いただきたいと思います。また、初めての介護サービス利用者でもわかるよう、介護度に応じて、様々なニ
ーズに合わせて組み立てたケアプランのケースを、具体的に幾つも示した資料が必要だと思います。
介護サービスが、お金で買うという契約である以上、サービスは商品であるという認識のもと、利用者へ
の質の高い提供が望まれます。
(薮田晶子の私の提案)
~介護について気軽に相談できる窓口作りと広報活動を~
介護については、消費者問題ととらえていない方も多いと思います。しかし、介護に関して詐欺にあうこ
ともあります。また、介護といえば受け身になっているのが現状で、ケアマネジャーの提案をそのまま受け
入れていると思います。我慢していることも多いと思います。そのためにも、介護についての現状をもっと
調べ、出来るだけ介護を受ける方や家族が気軽に相談できる窓口を作り、その窓口を広く知ってもらえるよ
うな活動が出来ればと思います。
(田村泰造の私の提案)
~介護サービス部門への現状調査による改善活動の継続を~
今回のゼミを通して、介護保険サービスについてどのような仕組になっているか、学習し考える機会を得るこ
とが出来ました。介護保険サービスは契約であること。このため色々な場面でトラブルも発生していることを学
びました。ただ、私の場合、実際の各現場で具体的にどの様な問題が発生しているのか経験したことがありませ
んでした。そこで、地区包括センターでケアマネジャー、社会福祉協議会で日常生活自立支援事業の担当の社会
福祉士の方、また、民生委員の方と一人暮らしの人のサポートのお話など一度ですがお話をすることをしました。
介護の問題について深堀が出来てないことを感じました。引き続きもっと現場を知る、訪れることでより利用者
の立場に立った改善の提案ができると考えます。
(森下雅子の私の提案)
介護保険サービスが「なぜ消費生活の問題?」などの出前講座による啓蒙活動
経験上、親が突然介護保険サービスを受けるとこになった場合の手続きの煩雑さと難しさは、日頃の生活から
考えられないものでした。介護保険の研修等の機会があれば受講しておくことが必要であると思いました。
介護保険を使えば必ず費用負担が発生することから、
「必要」
「必要でない」と判断し、選択することはやはり
消費生活の問題であります。介護保険サービスが「なぜ消費生活の問題?」であるかを、高齢者大学、地域の民
生委員、高年クラブなどに「介護保険の学習」から「介護保険サービスは契約」などテーマ別のカリキュラムを
作成し出前講座など広く啓発していくことが必要です。身近なところの小さな質問に耳を傾け、今起きている問
題から啓発テーマを洗い出すことも大切であると思います。
(岩井尚子の私の提案)
介護サービスを普段から話題にできるような講演会・勉強会の提案
今、介護に関わっていなくても将来家族や自分自身に関わってくる可能性は誰にでもあります。
その時になってから慌てて情報収集するより、介護保険サービスのしくみを知識として持ち、担当の
地域包括支援センターがどこにあるか、介護保険施設はどんなところがあるか、気にかけておくだけでも
いざというときに少しでも余裕をもつことができます。
介護にまだ関わっていない人でも、日頃から気軽に介護の話ができる井戸端会議や勉強会・講演会が必要
ではないかとの思いが強くなり、そういう場を提案していきたいと思います。
わたしたちの提案
講師ゼミ:根 岸 ゼ ミ
発 表 者:森 下 雅 子
私たち根岸ゼミでは、根岸先生の指導の下で、
「電気の買い手としての消費者問題と電気の売り手としての
消費者問題」について考えました。
「スイッチを押せば電気がつく」
「電気は欲しいだけ使えるもの」
「電気は
地域の電力会社が送ってくるもの」と当たり前のように思っていました。しかし東日本大震災により、福島原
発事故でベース電源であった原発の電源が失われ、私たちは初めて電力供給の不安に直面しました。節電、省
エネ、太陽光発電による売電、原子力に頼らない再生可能エネルギーの利用と今後電気とどのように向き合っ
ていけばよいか、まさしく時期を得た消費者問題に取り組みました。
1.根岸ゼミについて学習あるいは、根岸ゼミで学んだこと
新電力の(株)エネットから電力自由化の「取組の現状」と「電力自由化における問題点」について説明を
受け、私たちが課題とする電力の自由化について、これからどのように取り組んでいったらよいかの手がかり
となる知識を得ました。これをもとに3つの班を編成し、根岸先生の指導のもと各テーマについて調査を行い
知識の向上を図りました。
1)売り手としての消費者問題として、電力自由化と消費者問題、再生可能エネルギーの固定価格買取制度
についての内容、太陽光発電を巡る消費者トラブル例についての調査
2)買い手としての消費者問題として、経済産業省と消費者庁の電気料金の値上げの検討、電気事業法の歴
史と総括原価方式、電気料金の仕組みについての調査
3)買い手としての消費者問題として、大口需要家向け電気供給は自由化され競争が導入されているが、競
争は有効に機能しているとは言えないその理由はどこにあるか。電気事業法上、消費者は電力会社を選
択できない電力会社の地域独占体制が採用されている、競争体制に変えることができないかについての
調査
学習にとりかかった当初は、課題の大きさに方向性を見失い、どうなることかと思っていましたが、何とか
電力の自由化問題についてまとめるところまでたどり着けました。問題意識を持って取り組むことの大切さを
体験し、大きな励みを得ることができました。
2.今後の活動目標あるいは、取り組み姿勢について
電力問題は、私たち消費者にとっては極めて身近な問題であります。家庭の電力供給が自由化された場合、消費
者は契約事業者を自ら選択することになります。事業者の選択にあたっては、正しい情報の提供が第一義的であり
ますが、私たち消費者も電力問題全般に高い意識を持ち、自らの電力消費の在り方を考え、正しい判断を持って行
動する時代に入っています。
刻々と変わっていく電力事情に、これから日本の電力はどうなっていくのか。私たちの根岸チームは今後もこの
テーマを学習していくことを約束しました。そして、今回ゼミで学んだ知識を多くの人に知ってもらうため、知り
得た情報の発信の手法を考えたいと思っております。
3.今後のコンシューマー・スクールに期待すること
今回の私たちのテーマは、安全で安心な生活を送るための大切なテーマで、旬を極めた身近な消費者問題で
あったため、ゼミの期間をとおして常に問題意識を持って取り組むことができました。出来ることなら、この電力
問題は次のチームに、是非引き続いていただきたいテーマです。また、次年度のコンシューマー・スクールでも、
旬を得た消費者問題に取り組まれることを提案します。そしてゼミ生が卒業後も、自主的に消費者問題にかかわっ
ていける姿勢を持ち続けることができるスクールであってほしいと切に望みます。
私たちの提案
ゼミ講師:神戸市立外国語大学教授 芝 勝徳
報 告 者:炭谷 英一
本ゼミは、芝勝徳先生のご指導のもと、ネット社会の消費者リスクについて学習し、特にスマートフォンの急激な
普及に伴う危険について使い始める子供への消費者教育の重要性を課題としました。
昨年のクリスマスに米国マサチューセッツ州のお母さんが 13 歳の息子に iPhone をプレゼントとしたお
母さんが作った使用契約書
「スマホ 18 の約束」
がアメリカのみならず日本でも大きく話題になっています。
インターネットはビジネスや生活の必需インフラとなり、
スマートフォンの普及も急速に進んでいます。
総務省情報通信政策局の「通信利用動向調査報告書世帯編」によれば、2011年度でのインターネットを
利用する世帯は86%となっています。また、日経 BP コンサルティングの「携帯電話・スマートフォン“個
人利用”実態調査 2012」によれば、スマートフォンの普及率は18%(前年度調査では9.5%)となっ
ており、短期間でその普及率が一気に加速することが予想されます。普及により関わる時間が増加していま
す。2011 年の内閣府による調査では、スマホを利用している中学生は 5.4%、高校生は 7.2%でしたが、2012
年になってスマホを利用している中高生は激増していると考えられます。
インターネットやスマートフォンのデータ通信は、ほぼ定額制が採用されるようになり、基本機能の利用
だけでは通信料の高額課金の問題も減っています。
より高位層でのアプリケーションの消費者問題が起こっ
ており、所轄の行政あいまいなこともあり、規制が追いついていません。こうした多機能な機器を定額コス
トで利用できるような環境が整い、
インターネットを利用したサービスやスマートフォンは更に増えていく
ことでしょう。
「フリーミアム」と呼ばれるビジネスモデルで提供されています。フリーミアムとは「フリ
ー」と「プレミアム」を組み合わせた造語で、多くの人が無料(フリー)で利用でき、一部の利用者が有料
(プレミアム)で利用するというものです。ネットで提供されるサービスは無料の利用者が増えても提供者
側のコストがあまり増えないので、ネットとフリーミアムとは相性がいいと言えます。大手ソーシャルゲー
ムサイトでも、無料の利用者が圧倒的に多いと考えられます。ビジネスや生活の利便性が向上するという面
では、インターネットやスマートフォンの普及は好ましいことです。ただ、普及の反面でさまざまなトラブ
ルが生じているのも事実です。そのトラブルをパターン化すると、以下のように分けることができます。
(1)課金・浪費系 (ソーシャルゲーム、オークションなど)
(2)詐欺系(ワンクリック詐欺、デート商法、出会い系サイトなど)
(3)コミュニケーション系(掲示板、SNS での口論など)
(4)出会い系(SNS、ゲームサイト、LINEなど)
(5)犯罪系(著作権侵害、殺害予告、違法ドラッグなど)
消費者教育において、無料サービス利用の留意点をどのようにまとめて、認知させればよいか
教育・啓発としては、学習指導要領で情報モラル教育の充実が定められ、各学校で携帯電話に対応した情
報モラル指導が行われるようになったことをはじめ、
携帯電話事業者やサイト運営事業者等による青少年や
保護者を対象とした啓発活動も活発に進められています。しかし、スマホに関しては、こうしたこれまでの
取り組みが十分に機能しない可能性があります。保護策に関しては、無線 LAN 環境やアプリ利用の際にフ
ィルタリングが機能しない場合があります。教育・啓発に関しては、スマホがあまりにも急速に普及したた
めにスマホに対応した教材やプログラムの開発が追いついておらず、
スマホの特徴の理解につながる取り組
みが進んでいません。スマホが急激に普及している現状では、子供たちはネット環境に費やす時間がのべつ
まくなしの増加となり、スマホ時代に対応した保護策と教育・啓発とを確立し、強力に進めていくことが私
たちすべての関係者に求められています。
消費者教育に関する OECD 消費者政策委員会の政策提言について(2009)消費者教育の分野の「消費者
の権利や義務」
「個人金融」
「持続的な消費」
「デジタルメディア・技術」と定義されました。デジタルメデ
ィアの形態やコンテンツを読み、書き、批判的に評価し、行き来する能力 「クリティカル・シンキング」
「フリー」
「メディアの向こう側の人を想像する力」等を理解し、ICTメディアにおける送り手の意図を
批判的に読み解く力、情報モラル教育の重要性が高まっていくといえるでしょう。2012年8月には消費
者教育推進法が成立しました。今後、学校教育や社会教育の場で消費者教育の更なる導入が進むと思われま
す。
「スマホ 18 の約束」の衝撃は、家庭教育の見直しの問題提起でありました。情報モラル教育と消費者教
育には交錯する領域も多いため、
消費者教育の一環として情報モラルについての教育メニューを体系的に推
進する必要があります。以上をもって、提案といたします。
神戸コンシューマー・スクール(第4期生)研究報告(№5)
平成25年3月発行
(神戸市広報印刷物登録
発行
神戸市
平成24年度第389号
市民参画推進局
市民生活部
A-6号)
消費生活課
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