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報告書 - 学術研究・産学官連携推進本部

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報告書 - 学術研究・産学官連携推進本部
文部科学省委託調査
欧米における産学官連携支援に関する調査研究
'米国偏(
報告書
平成 22 年 3 月
名古屋大学
産学官連携推進本部
1
はじめに
本報告書は、文部科学省からの委託を受け、東海岸の下記 5 大学'MIT、Purdue、VT、Wake Forest、
NCSU(を訪問し、技術移転局等の関係者へのインタビューを実施するとともにウェブ調査及び文献調
査を行い、大学を中心とした米国の産学連携活動について調べた結果をまとめたものである。
これらの 5 大学は、大学として産学官連携が極めて重視されており、そして一定程度以上の成果を上げ
ていること等から、今後、我が国における産学官連携の方向性を検討していく上で、大いに参考となるも
のと考えられる。また、これらの一部の大学については、技術移転組織が大学本体ではなく外部組織と
して設立されていること、技術移転組織が拡大途中であること等、特殊な要素があり、これらも今後我が
国の大学の産学連携組織の組織体制、活動を考えて行く上での一つの具体的な事例となるものと考え
られる。
なお、本調査の実施に当たっては、名古屋大学産学官連携推進本部と連絡調整を図りつつ、米国ノー
ス ・ カ ロ ラ イ ナ 州 に 設 立 さ れ た 名 古 屋 大 学 の 技 術 移 転 組 織 で あ る 米 国 現 地 法 人 ' Technology
Partnership of Nagoya University, Inc.: NU Tech(が実務的な調査を行ったものである。具体的には、
NU Tech が用意した質問票を調査対象大学の技術移転局等に事前に送付し、その後、面談によるヒア
リング調査を行った。また、更なる不明事項等については、メールでの質問や文献調査等により補足し
た。
'調査対象大学(
マサチューセッツ工科大学 (Massachusetts Institute of Technology)
パーデュー大学 (Purdue University)
バージニア・テック (Virginia Polytechnic Institute (Virginia Tech))
ウェイク・フォレスト大学 (Wake Forest University)
ノース・カロライナ州立大学 (North Carolina State University)
2
'各調対象査大学技術移転局等へ送付した質問票(
Nagoya University, Japan
Questionnaire to MIT Technology Licensing Office
on Technology Transfer and Research Collaboration with Industries
Prepared by Ministry of Education, The Japanese Government
Translated by Technology Partnership of Nagoya University, Inc. (NU Tech)
Underlined items added by NU Tech
1. Background
A) Status of technology transfer activities in MA
B) State Government’s major policies on promoting and supporting technology transfer
C) History of MIT’s technology transfer activity
2. MIT’s mission statement, TLO’s mission statement, and technology transfer and research
collaboration policy
3. Organization
A) MIT’s organizations that serve for technology transfers and research collaboration with
industries; the relations between these organizations; the overall organizational chart
B) Any non-MIT organization for MIT tech transfer and research collaboration; relationships with
MIT organizations; any outsourced functions to non-MIT’s organizations for tech transfer and
research collaboration with industries
C) Each organization’s role and demarcation
D) Coe player among these organizations; its number of employees, job description, career path,
term, and authority and duty
4. Research Collaboration with Industries
A) Total amount of the research collaboration income from industry
B) Strategy to collaborate with industries and acquire external fund
C) Intellectual property management of the fruits from the collaboration researches with industries
3
5.Technology Transfer
A) Technology marketing strategy; marketing team
B) MIT support for researchers to incubate their technologies to commercialization; incubation
facility, early stage investment or loan by MIT itself
C) IP licensing policy; principles for negotiations; principles for licensing fee calculation
6. Venture start-ups from MIT
A) Any special support to venture start-ups from MIT; subsidization, low interest loan, or low-rent
facility
7. Human resource development and training
A) Talent search, Training and Education, and performance evaluation
B) Background of employees
C) Incentive payment to employees
8. Patent application
A) Organizations in charge of patent filling and patent management; the roles of
researchers/faculties, schools, TLO, and MIT administrations
B) Technology selection criteria for filing domestic or international patent applications
C) Financial source of patent application fees and annual fees
9. Success and failure story
A) A few success case and the analysis
B) A failure case and the analysis
10. Collaboration with other universities
11. Collaboration with local government
12. Others
A) Support system for academic research, including research administrators
B) Financial health of TLO; the degree of financial independence from MIT
###
(MIT TLO に実際に送付したもの)
4
'面談相手及びその日時・場所等(
調査対象
大学
MIT
日時
面談相手
12 月 3 日
Lita Nelson
Purdue
1 月 11 日
Karen
White
タイトル
面談場所
Director
Technology License office
Director
Office of Technology
Commercialization
VT
Senior Licensing Associate
1 月 21 日 John
Geikler
Virginia Tech Intellectual Properties
WF
Director
2 月 25 日 Michael
Batalia
Office of Technology Asset
Management
NCSU
Billy
Director
-
Houghteling Office of Technology Transfer
*複数の者と面談した場合には、その代表者を一人について記載
ワシントン DC
コンベンション・
センター
OTC オフィス
VTIP オフィス
OTAM オフィス
-
*NCSU に関する調査については、日常の NU Tech と NCSU OTT との業務関係が構築できており、か
なり情報の蓄積が NU Tech 側にあることから、本調査のみを目的としたヒアリングは実施せず。ただし、
不明事項については、適宜、他の業務に係る面談時等において質問し明確化を図った。
'各大学の比較'2008 年度(※(
発明開示件数
ライセンシング収入
スタートアップ・
カンパニー件数
ライセンス契約数
MIT
Purdue
Virginia
Tech
Wake
Forest
NCSU
名古屋大学
522
430
175
82
153
293
$89M
$3M
$2M
$96M
$3.6M
$0.7M
20
11
3
2
4
98
82
20
8
73
74
1300
229
特許保有数
818
特許申請数
282
175
85
102
96
285
米国特許取得数
140
24
23
7
47
6
$1,919M
$495M
$200M
$150M
$366M
$736M
1,835
2,427
1,598
596
1,955
1,713
10,384
30,899
30,870
6,862
32,560
16,395
総研究開発費
教職員数
学生数
145
※2008 年度のデータが発表されていない場合には、最も直近のデータを掲載
5
目 次
はじめに ......................................................................... 2
Executive Summary .................................................... 7
Massachusetts Institute of Technology (MIT) ......... 10
Purdue University ...................................................... 26
Virginia Polytechnic Institute (Virginia Tech) .......... 40
Wake Forest University ............................................. 51
North Carolina State University ................................ 65
参考文献・出展等 .......................................................... 80
6
Executive Summary
MIT、Purdue、VT、Wake Forest、NCSU の 5 大学に対し産学連携に関する調査を行った結果を踏まえ、
今後、我が国の大学の産学官連携の組織、活動を検討していく上で、参考となると考えられる事項を 7
つまとめると以下のとおり。
1.大学としてのコミットメントの重要性
調査した大学では、産学官連携を担当する責任者は研究担当か財務担当'Wake Forest 大の場合(の
副総長クラスとなっており、産学官連携関係組織のディレクターは、副総長クラスの責任者に対して直接
業務の報告を行い、直接指示を受けるなど、大学として技術移転を推進していくという強いコミットメント
が現れている。また、大学としてのコミットメントは組織形態にだけではなく、財政支援としても強く現れて
いる。産学官連携組織の人件費、特許取得費用等がライセンス収入等で賄えない場合であっても、技術
移転の重要性、また、具体的な成果が出るまでに地道な努力を要すること等を大学が十分理解しており、
大学側から財政支援が行われている場合が多い。
2.産学官連携組織の集約化・権限の強化'2 大組織(
産学官連携に関する組織・機能は、調査を行った 5 大学'MIT、Purdue、VT、Wake Forest、NCSU(と
も Office of Technology Transfer'OTT(と Office of Sponsored Program'OSP(の二つに集約される。
前者の OTT は研究者からの発明開示の受付、特許の取得、マーケティング、契約交渉、契約締結を全
て行い、後者の OSP は企業からの共同研究・受託研究の受付、政府機関等への研究グラントの申請、
契約管理、研究資金の管理を一元的に行っている。OTT も OSP もそれぞれ全学組織として一元化され
ており、類似の業務を行う学部毎の組織は存在しない。これらの組織が一括してそれぞれの業務を集約
的に担当しており、学部や個々の研究者が OTT や OSP を通さずに直接個別企業と契約交渉等を行う
ことはできないことになっている。このように OTT や OSP の権限が全学レベルでの各種規程で明確に
定められており、OTT、OSP が学内で活動し易い環境が整えられている。なお、我が国では産学官連携
組織を学内か学外におくべきか、議論される場合があるが、大学からのコミットメントがしっかりしており、
業務・権限に関する各種規程がしっかり整備されているのであれば、学内外のどちらに設置されても大
きな差は生じないものと考えられる'Purdue、VT、は学外組織で別法人、MIT、WF、NCSU は学内組
織(。
3.OTT の組織・業務体制の効率化・フラット化
大学の研究成果を商業化し、産業界へ移転する重要な役割を担う Office of Technology Transfer'OTT(
の組織体制は、「特許を取得し管理する部門'知財部(」、「マーケティングを行う部門」、「契約交渉を行
う部門」等がそれぞれ独立して構成された形態'部門制(から、各技術について一人の担当者を選任し、
当該者が責任を持って特許取得からマーケティング、ライセンス交渉まで行う Case Manager 制'CM 制(
7
へと変化してきており、現在 CM 制が米国大学の OTT では主流となってきているものと考えられる。事
実、Purdue 大学は OTT の組織を部門制からケース・マネージャー制に改革したばかりである。その理
由としては、部門制では各部毎に閉じた世界での仕事となり「官僚的」になりやすいこと、一つの部から
他の部への情報移転に膨大な労力が必要であり迅速な情報共有ができないこと、そもそもライセンシン
グ交渉などには、技術の知識だけではなく、バックグラウンドの知識として特許取得の経緯・範囲、マー
ケティングの状況など全ての情報が求められことなどが挙げられていた。
CM 制が採用されている大学では、組織は概ね 3 段階のフラットなものとなっている。まず、3、4 人の
Case Manager がライフサイエンス、エンジニアリング等の技術分野毎に設置されている。この下に数人
のアソシエイトが付き業務を Case Manager の指示を受けつつ業務を行っている。また、Case
Manager やアソシエイトをサポートする者として OTT の各業務の記録保持、文書化などを担当するアド
ミニスタッフが存在している。なお、OTT の業務の円滑な遂行のためには、このアドミニスタッフの機能の
重要性を訴える大学が多かった'MIT、VT(。
4.ライセンシングを見据えた戦略的な特許の取得
米国では技術移転を行うための権利保護のツールとして必要な場合のみ特許を取得するという考え方
が徹底されており、ライセンシーが見つかっていないもの、見つかる可能性が低いものは特許申請しな
いという合理的な考え方が取られている場合が多い'MIT、VT、Purdue(。すなわち、OTT が綿密なマー
ケティング調査を行い、特許費用が回収できない恐れのある案件を at risk で申請することは稀である。
このような戦略的な特許申請を徹底し、OTT の大きな支出項目である特許費用を削減するため、特許
申請を行うか行わないかの最終的な判断は、OTT だけではなく各学部から選出されたメンバーで構成さ
れる委員会で最終的な判断を行っている大学'NCSU(もある。
5.知財部等におけるマーケティング意識の向上
日本の大学における「知財部」は、特許申請案件の精査、そして申請、取得、ポートフォリオ構成等にそ
の業務の重点を置いている場合が多いと考えられるが、調査した 5 大学の産学連携組織ではいずれも、
特許取得後の活動の在り方を念頭に置き業務を行っていると言える。具体的には、特許の取得は全て
外部の弁護士事務所にアウトソースされ'VT では特許の仮出願は自ら実施(、また、特許を取得するこ
とだけを担当している者はほとんどいないのが現状となっている。CM 制により、当該技術のマーケタビ
リティを調査しつつ、特許事務所を効率よく指示し、そしてマーケティング活動を行いながらライセンス交
渉も行う、という川上から川下までの業務を CM が担当している。すなわち、特許取得・管理やポートフォ
リオの構成自体が目的ではなく、特許を出発点としたマーケティング、ライセンシングへと組織の目標が
シフトし、明確化されていると言える。このため、特許出願をした技術については、当該技術担当者は必
ず責任を持ってマーケティングを行うとの意識が徹底されている。
6.研究者のマーケティング活動への参加
8
技術のマーケティングの重要性はどの大学も認識されているが、そのやり方には温度差が 5 大学の中
では見受けられた。電子メールや郵便によるいわゆる Cold Call 的な企業への個別アプローチは成功率
が低く時間の無駄と認識している大学も尐なくない'MIT、NCSU(。これらの大学ではマーケティングは
研究者自らが行うもの、または、研究者が有する各種コンタクトを OTT に開示し、そこから OTT が個別
に当たっていくもの、と考えられている。我が国においてどのようなマーケティング手法が最適かについ
ては、議論が分かれるところと考えられるが、尐なくとも研究者自らのマーケティング努力が今後更に必
要となってくるものと考えられる。例えば、一部の大学では研究者が学会で発表する際には必ず OTT が
作成した 1 枚紙を持たせ、企業の参加者に配布し PR をするようにしているとのことであった'Wake
Forest(。
7.産学官連携における官の役割
調査した 5 大学の産学官連携において、官'連邦政府、州政府、カウンティ(の役割はネットワーキング
の場の提供等の極めて限られたものであった。また、大学を中心としたクラスターの形成も官の政策支
援によるもの'NCSU が一角を構成するリサーチ・トライアングル・パーク(も一部あるのも事実であるが、
多くは自然発生したものである'MIT のボストン等(。むしろ、官の役割としては、国立衛生研究所
'National Institute of Health(や国防総省'Department of Defense(等から、研究グラントを惜しみなく、
大学や実績のないスタートアップ企業および大企業との産学官連携プロジェクトに集中的に投下し、これ
らを契機に数多くの産学官連携を同時進行させ支援しているとの印象を受けた。
以上
9
Massachusetts Institute of Technology (MIT)
'マサチューセッツ州(
10
1.
背景
(1) マサチューセッツ州の産学官連携の状況
マサチューセッツ州は州都ボストンを擁し、その周辺の大学、病院、研究機関を軸に全米においても非
常にハイテク・スタートアップや大企業からのスピン・アウト企業の多い地域となっている。
ボストンに隣接するケンブリッジ市には、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学が存在し、また、ハ
ーバード大学医学部の臨床部門を担うマサチューセッツ総合病院等が、全世界からタレントを引き付け
ており、新しい革新的な技術を絶えず生み出し供給しているとも言える。
同時にボストンにはニュー・ヨークやカリフォルニアからの投資資金も豊富に流入し、「起業」を資金面で
支えている。さらに、ベンチャー企業法務に詳しい法律事務所、そしてベンチャー企業の会計面を支える
会計事務所など、プロフェッショナル・サービスも充実しており、このように各方面から「起業」を支える構
図となっている。
以上のようなハイテク・スタートアップの「起業」を構成する「人材」、「技術」、「資金」、「プロフェッショナ
ル・サービス」は、どれを取っても、ボストン周辺の「起業風土」を構成する重要な要素となっているが、そ
のコアな要素として、やはり「人材」、「技術」の供給源として存在する MIT 等の大学の存在が大きいと言
えるだろう。そして、「起業」という観点からは「人材」、「技術」の供給源としての役割は、その歴史的背景
からハーバード大学よりも MIT の方が大きなものとなっている。このように MIT を中心として、一種の「起
業」創出メカニズムが構築されていると言っても過言ではなく、このシステムが自律的に回転し絶えず新
鮮な「起業」活動を生み出しているとも言える。
(2) マサチューセッツ州政府の産学官連携政策の概要
マサチューセッツ州政府は、下記に示すような雇用を創出するような企業の誘致や研究開発型企業を育
成するための施策を講じている。その充実度は、他のハイテク・スタートアップの多い州、例えば、カリフ
ォルニア州、メリーランド州等と比べても遜色のないものである。しかしながら、このような州政府の施策
のみが、産学連携におけるボストンの現在の地位を固めるため、確たる中心的な役割を果たしてきたと
は言いにくい。
MIT を中心とした「起業」創出メカニズムは、州政府の各種施策の結果、構築されたというよりも、むしろ
自然発生的に時間をかけて出来上がってきたという方が適切であろう。それは生物のように生きており、
そして今も進化している。事実、70 年代、80 年代にはコンピュータ技術を中心とした企業群が数多く集
積する地域として名を馳せたが、これは過去 20 年間に亘り徐々にバイオテクノロジーのクラスターへと
進化しその形を変えてきた。そして、今、時代の要請も受け革新的なクリーン・エネルギー技術を有する
ベンチャー企業の萌芽が数多く見られ、ボストン、MIT では新たな分野のクラスター形成への最初の一
11
歩が踏み出されつつある。
マサチューセッツ州の研究開発促進施策
(税制支援)
 研究開発促進税制
 研究開発企業等が支出した年間研究開発費の 10%を税額控除
 大学、病院等の研究機関に寄付を行った場合、寄付金額の 15%相当額
を税額控除
 投資促進減税
 研究開発企業等が行う建物、設備、備品等に対する投資額の 3%相当
額を、企業が納めるべき消費税額から控除。
 移転促進税制
 再開発地域等に進出する企業に対し、建物、設備費用等投資額の 5%
を税額控除
 再開発地域等に進出する企業に対し、固定資産税の減免。初年度は
100%減免し、以降、75%(次年度)
、50%(3 年度)、25%(4 年度)
減免
2.
(補助金等)
 雇用促進補助金
 1 年間に 10 人以上新規雇用したバイオテクノロジー企業、医療機器企
業に対して、新規雇用の者に支払う給与に係る所得税額相当分を支給
 従業員教育訓練促進補助金
 過去に 1 年以上失業していた者を雇用した企業に対して一人当たり
2,000 ドルを補助
 従業員 50 人以下の中小企業が支出する従業員教育訓練費の 50%を補
助
 低利融資制度
1
 不動産取得、改装等費用を$3M
まで、設備、装置取得費用を 50 万ド
産学官連携ポリシー
ルまで、低利で融資
(1) MIT の産学官連携の歴史
我が国の大学においては、その役割として、まず「教育」、「研究」が優先的な事項として位置づけられて
きており、現在においてもそれは大学の絶対的かつ普遍的な価値観を構成している。もちろん、第三の
「柱」として、当初より「社会貢献」を行うという役割も存在していたが、それは近年までは、教育を通じて
人材育成を行い・供給することによって社会的な貢献を行うという間接的な考えた方が主流であったと言
える。特に我が国の大学では Technology Transfer (技術移転:大学の研究成果を産業界や地域に還
元することによって社会貢献を行う)という考え方は、比較的新しいものとして位置付けられているのが普
通である。また、これは米国の大学においても、日本よりは二十年程度早くから技術移転という取り組み
が行われたという歴史があるものの基本的には同様である。
12
上記のような背景に照らし、MIT における産学官連携の歴史・位置付けを見ると、MIT は極めて特殊な
大学として位置づけられることが分かる。すなわち、MIT はその創設時'1861 年(から、その設立の目的
に産業界における諸問題への実学的な対応が明確に記されており2、今日に言う、「技術移転」というコ
ンセプトが約 150 年以上前の設立当初より存在していた。
具体的には、科学の原理等を純粋な Science としてアカデミックに学ぶことに加え、School of Industrial
Science を設立し、農業、製造業、商業における Science の実学的な応用'Practical Application of
Science(を目指していた。当時には、当然「技術移転」という用語は存在していなかったが、当時の MIT
Charter の趣旨は明らかに今日に言う、「技術移転」を通じた社会貢献を目指していたと言える。この点
では、Science の学問的追及に重きを置いていた隣接するハーバード大学とは、設立の趣旨から根本
的に異なり、技術移転の遺伝子が MIT にはその創設時から植え込まれているともいえる。ボストンの
「起業」創出メカニズムにおける MIT とハーバードの役割・貢献度の違いは、このような歴史的背景、設
立趣旨の違いからも説明可能と考えられる。
1861 年設立当時の MIT 憲章
(MIT の設置に係る基本法の一部)
Acts and Resolves of the General Court of the Commonwealth of Massachusetts
concerning the Massachusetts Institute of Technology
Acts of 1861, Chapter 183
An Act to Incorporate the Massachusetts Institute of Technology, and to Grant Aid to
Said Institute and to the Boston Society of Natural History
Be it enacted by the Senate and House of Representatives in General Court
assembled, and by the authority of the same, as follows:
Section 1
William B. Rogers, James M. Beebe, E.S. Tobey, S.H. Gookin, E.B. Bigelow, M.D.
Ross, J.D. Philbrick, F.H. Storer, J.D. Runkle, C.H. Dalton, J.B. Francis, I.C. Hoadley,
M.P. Wilder, C.L. Flint, Thomas Rice, John Chase, J.P. Robinson, F.W. Lincoln, Jr.,
Thomas Aspinwall, J.A. Dupee, E.C. Cabot, their associates and successors, are
hereby made a body corporate by the name of the Massachusetts Institute of
Technology, for the purpose of instituting and maintaining a society of arts, a
museum of arts, and a school of industrial science, and aiding generally, by
suitable means, the advancement, development and practical application of
science in connection with arts, agriculture, manufactures, and commerce; with
all the powers and privileges, and subject to all the duties, restrictions and liabilities,
set forth in the sixty-eighth chapter of the General Statutes.
13
(2) MIT の産学官連携ポリシー3
MIT はその研究成果について、社会へのオープンな普及、学界における自由な情報交換を促進していく
ことが MIT の使命であるとしている。この観点から技術移転は MIT の使命を実現するための重要なツー
ルであるが、一方で、技術移転は、「教育」、「研究」の下位に従属するものとして位置付けられている。し
たがって、研究成果に係る情報の公開・普及は、情報の内容の定義や権利を保護するために必要な最
小限度の時間を除き、迅速に行われなければならないとされている。
このようなポリシーが顕著に表れているのが、その MIT におけるライセンス活動であろう。MIT の
Technology Licensing Office (TLO)の担当者へのヒアリングによると、MIT は基本的に Non-Exclusive
のライセンス契約を志向するとのこと。いわゆる大企業は Exclusive なライセンスを要求することが多く、
このため、大企業との契約を交わせないことになる場合も存在するとのことであった。また、毎年 100 件
程度のライセンス契約が締結されるが、大企業ばかりとではなく、中小企業との小さい契約が数多くを占
めることも、MIT のこのような基本的なポリシーを物語っているとも言えよう。
3.
大学の産学官連携体制
(1) MIT の産学官連携組織体制
産学官連携を担う組織として、研究成果のライセンス等を行う Technology Licensing Office (TLO)4と企
業等との共同研究を管理する Office of Sponsored Program (OSP)5が挙げられる。特に企業との共同
研究の成果の取り扱い、そのライセンシングなど両オフィスとも担当者レベルでの連携が機敏に図られ
ており、結果として、組織としての連携も十分実現されているようである。
MIT の Associate Provost for Research が直接 TLO、OSP を監督し、TLO、OSP 局長は業務の状況
等を直接 Associate Provost に報告している。そして、Associate Provost は、必要に応じ Chancellor
に報告し、最終的に Chancellor から President に TLO、OSP の業務が報告される。
14
MIT における産学官連携関係組織とその関係図
MIT President
MIT Chancellor
Associate Provost for Research
Technology Licensing Office
・技術の評価
Office of Sponsored Program
連携
・共同研究等の窓口
・特許等の取得
・利益相反規定等、共同研究の
・ライセンス交渉
実
・商業化の手伝い、
定
・研究目的のための情報提供
・輸出規制の窓口
施に係るルールの策
・政府からの補助金情報の提供
・
(2) 関連組織間の役割分担
MIT 自体は巨大な組織となっているにもかかわらず、産学官連携に係る各学部毎の縦割り組織は作ら
れておらず、産学官連携については TLO 及び OSP がそれぞれ一括して、全学組織として管理・運営さ
れている。(注:一部の日本のいわゆる「TLO」と異なり、MIT では TLO は学内の組織となっている。)
TLO は特許の取得・管理、ライセンス交渉を主に行い、OSP は企業等との共同研究窓口として、契約の
締結、各種ルールの策定等を担当している。両組織の役割分担はしっかりしており、かつ、両者の連携・
情報共有は徹底されている。例えば、OSP に Intellectual Property Officer が設置されているなど、共同
研究による成果の取り扱い、当該成果物の第3者へのライセンスなどのケースにおいて、TLO 担当者と
協調して案件にあたっている。
(3) 人員体制等
TLO には 32 人の常勤職員が存在している。特に幹部クラスの人材は皆、10 年~20 年のビジネスの経
15
験があり、それぞれ製品開発、マーケティング、新規ビジネス開発等に関する知識・経験を有する者とな
っているとのこと。具体的な人員構成は、局長及び二人の副局長を筆頭に、技術分野別に担当分野を
分けられた Technology Licensing Officer が 7 人、その下に Associate Technology Licensing Officer、
Technology Licensing Associate と続く。また、Financial や Office の運営に係るスタッフの他に、外部
の弁護士事務所との調整を行う担当官も存在している。毎年、インターンを受け入れ、ライセンス業務を
教育している。ほとんどのインターンが修士号以上の学位の所有者であり、これらのインターン経験者の
一部が TLO で実際に職を得て働くことになる。
なお、給与に関する事項として、ライセンス契約高に応じたインセンティブ・ペイメントについて聞いたとこ
ろ、MIT ではそのようなシステムは導入していないとのことであった。
OSP には約 50 人程度のスタッフが常勤している。複数のセクションが存在するが、中心的であり、最も
多くの職員を抱えるのが、Grant & Contract Administration Team であり、政府等からの各種補助金の
申請補助の他、企業等からの外部資金の獲得に際しての契約条項等の調整・交渉を行っている。
4.
共同研究等に関する取り組み
(1) 民間企業からの資金を獲得するための戦略
MIT はその世界的な知名度があるが故、民間企業等からの共同研究のオファーや寄付の申し出が他大
学よりも多くなっているとの指摘は事実ではあるが、外部資金の獲得に対して何も努力せずに受身の姿
勢でいるというわけではない。
MIT では'基本的にどの米国の大学でも同様と思われるが(、教授等に外部資金の獲得を強く奨励して
いる。自らの研究活動費は自ら獲得するというスタンスが徹底されており、企業等とのコラボレーションを
行いたいと言う教授等のインセンティブも一般的な日本の大学教授等よりもかなり強いと思われる。教授
等が自らの研究に関する産業界とのコンタクト先を最も数多く有していることから、考えてみれば、これ
が企業等からの外部資金の獲得には最も有効な手法とも言える。
教授等による外部資金の獲得の取り組みをサポートする意味で、共同研究を行う際の規程、経費の配
分方法などの各種ルールが全て OSP のウェブサイト上で公開され、企業側からみてもその透明性が確
保されている。他方で、前述したとおり、MIT では産学連携等の技術移転の取り組みは「教育」「研究」の
下に従属するものとされており、教授等の MIT における「教育」、「研究」に関する Activity が企業との共
同研究によって、阻害されないように十分な配慮がなされている。具体的には、教授等の利益相反規程
や企業等の共同研究に割くことができる時間数の上限が MIT の通常の就業時間の 20%までと決められ、
MIT において最高レベルの「教育」、「研究」が維持・提供されるように配慮されている。
さらに MIT では Office of Corporate Relations の下に、Industrial Liaison Program'ILP(6が展開され、
16
企業と MIT のインターフェース機能を大きく発揮している。このプログラムへの参加は有料であるが、参
加企業には当該企業と MIT の関係を促進・フォローする Industrial Liaison Officer が個別に割り当てら
れ、この担当官が企業からのニーズ・要望に応じて、対応できる教授等を紹介している。MIT コミュニティ
へのゲートウェイを確保するために、現在、ILP には約 200 社が参加しており、ILP を通じて各種のコラ
ボレーションの実現の端緒が提供されている。
Office of Corporate Relations
Industrial Liaison Program
・企業と MIT の連絡窓口
・企業からの技術相談に応じ教授等を紹介
・企業毎に Liaison Officer を一人設置し、企業と MIT の関係を個別にフォローアップ
(2) 共同研究等から生じる知的財産のマネージメント
一般論として、企業との共同研究による成果については、企業との契内容によることになる。しかしなが
ら 、 MIT の 産 学 連 携 の ポ リ シ ー が 解 説 され ている Guide to the Ownership, Distribution and
Commercial Development of MIT によれば、企業との共同研究契約文書には原則として MIT が特許
等の研究成果を所有すること、また、スポンサー企業は当該特許等を MIT からライセンスするオプション
を有する旨を明記した上で契約を交わすこととしている。このように MIT では共同研究による成果も MIT
に帰属するように契約上措置されている。
また、これに加え、研究成果の保護のため、MIT における共同研究プロジェクトに参画する者、すなわち
企業からの派遣研究員、MIT の職員、学生、他大学からの参加者等全ての者に対し、発明した成果は
MIT に帰属させることを誓約する Invention and Proprietary Information Agreement の提出を義務付
けている。
さらに企業からの共同研究'外部資金(の受け入れを検討している教授等は、常に OSP の Intellectual
Property Officer とコンタクトしなければならず、専門知識を有した同 Officer が共同研究契約の締結に
は全て関与する体制を整えている。
5.
技術移転に係る取り組み
(1) 技術のマーケティング方法・体制
MIT の TLO では、各技術毎に Case Manager を置き、この Case Manager がマーケティング戦略、ラ
イセンス交渉を一義的に担当し、個別に対応している。しかしながら、技術を宣伝するための MIT TLO
17
としてのマーケティング戦略は特に存在していないように見える。
この理由としては、①前述したとおり、発明者である教授等が自らライセンスの話を TLO に持ち込むこと
が多いこと、②発明者がライセンス先を発掘していない場合でも、尐なくとも潜在的なライセンス先となる
各種コンタクトを有しており、まずはこれらのコンタクト等に打診していること、③その知名度から技術を
求め自らやってくる企業等が他大学等と比べ多いこと'ILP などを通じ MIT にアプローチしてくる企業が
多い(、等が理由として考えられる。
事実、担当者へのインタビューによれば、コールド・コール的なマーケティング活動はほとんどしていない
とのこと。さらに、こうしたアプローチは成功率が極めて低く'1%~5%(、非効率的との認識であり、これ
は MIT TLO における上記のようなマーケティングに対する認識を象徴しているようにも受け止めること
ができる。
(2) 研究成果を実用化するための大学内での支援システム・大学発ベンチャーの支援
MIT では毎年約 20~30 のスタートアップ企業を生み出しているが、スタートアップ企業への支援は極め
て限定されているのが現状である。学内には入居できるインキュベーション施設も整備されていないし、
MIT が補助金や低利融資をこれらの企業に提供していることはほとんどなく、下記のようなボランティア
や慈善家、大学 OB の寄付によって運営されているものが一部あるのみである。
① The MIT 100K Student Entrepreneurship Contest7
MIT の学生によるビジネスプラン・コンペであり、優勝者'チーム(は$ 100,000 の賞金を受け取るこ
とができる。チームは MIT のエンジニアリング系の生徒とビジネススクールの生徒から通常構成され
る場合が多い。単なるビジネスプランのコンテストであはるが、これまでに 85 のプランについて実際
に起業され、$600M の資金をベンチャーキャピタルから投資されている。中には、優勝した二年生
の生徒が、起業し、後にその会社を$13M で売却した例もある。なお、本コンテストは MIT の生徒自
らの手で運営されており、優勝賞金も全て生徒の手でファンドレイジングされていることは注目に値
する。
② The Deshpande Center8
Deshpande 氏からの個人的な寄付金によって設立・運営されており、MIT の教授等の研究活動及
びその後の商業化活動に対し資金援助を行っている。シーズの採択は、商業化の可能性に基づき、
ベンチャーキャピタリスト等によって行われている。採択後は、Catalyst という専門のメンターが配さ
れ、教授等に対して商業化に向けたアドバイスを行っている。
他方で、ファンドレイジング手法、企業マネージメント、技術の売り込み方法、マーケットの絞り込み等の
各種専門的なビジネス・アドバイスを受けやすい環境が MIT には整備されている。ただし、これらのサー
ビスを提供する組織は MIT の組織ではなく、MIT の OB 等のボランティアから構成される自然発生的な
18
組織・ネットワークであることに留意が必要である。
③ The MIT Enterprise Forum9
1978 年に MIT の同窓会によって設立され、現在では全米で 18 の支部、海外で 6 つの支部が存在
している。コンセプト・クリニックやスタートアップ・クリニックなど、起業家向けの勉強会が各種実施さ
れており、有識者からのアドバイスを直接受けることが可能である。このようなイベントには毎月数
百人に上る起業家等が全世界で参加している。
④ The Venture Mentoring Service10
1997 年に MIT の二人の卒業生によって設立され、ボストン周辺の投資家、ビジネスマンのボランテ
ィアによって支えられている。起業家に対し、マーケティング戦略、ビジネスプランの作成方法からプ
レゼンテーション・スキルに至るまで、アドバイスを行っている。
(3) 特許等のライセンス戦略11
①ライセンス先の選定
MIT がライセンシングに際し、一般的に Non-exclusive のライセンス形態でスタートアップ等の中小企業
を相手先として望んでいることは前述したとおりであるが、MIT では実際に約 20%のライセンスは発明者
等が起業したスピン・アウト企業が相手となっている。
一つの技術に対して複数の者がライセンスを希望する場合においては、まずは、Non-exclusive のライ
センスの可能性を追求するが、仮に双方の企業側が Exclusive のライセンスを希望した際には、ライセ
ンス先の選択を行わなければならない状況が発生する。仮に「既存企業」と「発明者が中心となり設立す
るスピン・アウト企業」の両者が exclusive のライセンスを同時に望んだ場合には、下記のような判断基
準がライセンス先の選定に大きく影響するとのこと。
ライセンス先の判断基準例
項目
①技術内容
判断基準
ライセンス先候補
スピン・アウト企業
既存企業
◎
△
△
◎
技術自体が各種の製
品に派生していく可能
性のある Platform
Technology の場合
②類似製品
既に市場に類似製品
が存在している。
19
③市場規模
リスクを取るのにふさ
わしい大きなマーケッ
◎
○
◎
○
トが存在する
④発明者の参画
発明 者が情熱を 持 ち
ス ピ ン・ア ウ ト 企 業の
経営に参画する意向
がある場合
◎: ライセンス先として、好ましく適切
○: ライセンス先として、適切
△: ライセンス先として、好ましくない
'注(

実際の判断は、より複雑な背景事情等を勘案して行われていることに留意が必要。

③、④についてはスピン・アウト企業にライセンスする場合の最低限の条件。すなわち、ベンチ
ャーキャピタル等から投資を受けるためには、一定規模以上の市場規模があり、リターンの大
きさが一定以上であること、また、発明者が経営に参画していることが求められる場合が多
い。
②ライセンス料の構成
ライセンス料については、技術の内容、ライセンス先の状況、マーケットの状況等により、大きく異なるた
め、簡略化して議論する場合には注意が必要であるが、凡そは以下のとおりとなっていると言える。一
括したライセンス料が全額前払いされるというケースは当該技術の成熟度、ライセンス先のリスク・テイ
クの度合い、等から判断してそれほど多くないのが現状であり、売上等に応じたライセンス料が後年度
以降に支払われる形態が多数となっている。
主なライセンス料は下記の要素によって構成される場合が多く、実際の項目や額の算出方法は、個別
の交渉やライセンシング先の資金力等にもよって大きく異なってくる。
ライセンス料 =
ライセンス開始料'ライセンスを開始時の手数料'一回のみ((
+
ライセンス維持料
'売上等に無関係に毎年一定額の支払い、最低年間ロイヤリティの確保(
+
特許取得費用・維持費用
+
マイルストーン料
'ある目標'FDA 臨床試験のフェーズ II への移行時など(達成時に支払い(
+
売上等に応じたライセンス料'売上額の一定パーセント(
20
また、スピン・アウト企業の場合には、MIT はライセンス料の対価として Equity を受け取ることもあり、こ
の場合、上記の一部の項目が大幅に減額されるケースが多い。なお、言うまでもなく Equity の価値は、
当該スピン・アウト企業の成功度・成長度によってその価値が大きく左右され、大きな収益をもたらす場
合もあれば、逆にただの「紙切れ」になることも多々ある。
③ライセンス料の凡その範囲
ライセンス料はケースごとに、その額、支払い方法等が大きく異なるため、一律に議論することは難しい
が、MIT の経験によると凡そ下記のレンジと言うことができるとのこと。ただし、レンジ外となるケースも
多々存在することに留意が必要である。
通常のライセンス
ライセンス料の項目
ライセンス開始料
凡その範囲
$10,000 - $200,000
License Issue Fee
ライセンス維持料
$20,000 - $200,000
Annual License Fee (minimum royalties)
マイルストーン料
$50,000 - $1,000,000
Milestone Fee
薬等において FDA 認可を取得した場合などは
額が大きい
売上等に応じたライセンス料
0.5% - 7%
プロセスの改良や製品の場合には一般的に低
い。非製品の場合やソフトウェア、さらに薬品の
化学組成等の場合には高くなる傾向がある。
スピン・アウト企業等へのライセンスで Equity を受け取る場合については、全発行 Equity のうち概ね約
5%~22%程度のシェアを受け取っている場合が多くなっている。
例えば、当該スピン・アウト企業がベンチャーキャピタルから 1 億円の投資を受けた場合、その Equity の
関係者間の配分は概ね以下のとおり。
スタートアップ企業の Equity の配分例
ライセンス料の項目
凡その範囲
ベンチャーキャピタル
33%
技術ライセンシング者'MIT TLO 等(
特許への対価のみの ライセンシング者が商
場合'商業化へは大 業化へ大きく貢献して
21
きな貢献が無い場合(
いる場合
5% - 7%
15% - 22%
スピン・アウト企業従業員へのストック・オプショ 20%
20%
ンへのリザーブ
スピン・アウト企業創設者等の経営層
6.
40% - 45%
25% - 32%
人材育成・確保
MIT TLO は人材確保のために絶えず努力している。TLO の活動に必要な人材を三種類に分けると、
Senior Staff、Junior Staff、及び Administration Staff となるが、これらの三分類はそれぞれが役割を補
完し合いうまく機能しているとのことであった。
Senior Staff は実際にビジネスの経験が 10 年から 15 年以上ある者を採用し、求められる資質は、強い
技術的なバックグラウンド、マーケティング能力、コミュニケーション・スキル、そして実際に製品開発から
販売等のマーケティングを一通り経験した者が望ましいとのことであった。強い技術的なバックグラウン
ド、コミュニケーション・スキルを求める理由は、アカデミックな特殊な言語を一般のビジネス言語に「翻訳」
する能力が非常に重要になってくるためであり'アカデミックな世界にいる人間に、ビジネス言語への翻
訳を期待することは全くできないとのこと。(、製品開発等の長年のビジネス経験を求めるのは、MIT 技
術の商業化に際し、ビジネスとして次に何が起きるか、必要かを事前に察知するスキルが必要なためで
ある。MIT TLO では、このポストに就く人材を育成すると言うよりは、以上の資質を有する者を適宜、必
要に応じて採用しているのが実態のようであった。
Junior Staff は Ph.D.保有者もいれば、学部を卒業したばかりの者もいる。これらのスタッフは Senior
Staff に師事し、その仕事ぶりから色々なスキルを体得している他、定型的な業務を Senior Staff に代わ
り行い、Senior Staff が最も必要とされる業務に集中できるように助けているとのこと。特に学部を出た
ばかりの Junior Staff は成長が早く、3 年くらいで、そのスキルを活かし次のステップ'ロースクール、ビジ
ネススクール、メディカルスクールへの進学など(に着実に進んでいくとのこと。
Administration Staff は、その重要さがしばしば無視されているとのことであった。本来、技術移転業務
はその仕事の内容からして詳細なドキュメンテーション'記録保持(が求められる仕事であり、また、近年
特に契約の複雑化、利益相反規程に基づく宣誓書へのサインなど、ペーパーワークが著しく増えている
状況において、Administration Staff の重要さは著しく高くなっている。このスタッフのパフォーマンスがラ
イセンス先の発掘などにつながることはないが、業務をストリーム・ライン化し、ひいては TLO 全体のパ
フォーマンス向上に影響を与える可能性が大いにあるとのこと。そのため、しっかりした事務能力のある
人を雇用するよう心がけているとのことであった。
22
7.
発明の権利化に係る支援
(1) 特許の取得・管理体制
特許の取得・管理は全て TLO が担当している。このため、学内の他の組織との二重構造となり手続きが
冗長・煩雑化する恐れはない。MIT のポリシーによれば研究成果である技術の開示は全て一義的に
TLO に行われなければならないとされている'開示件数は年間約 500 件(。
なお、TLO は特許取得に係る業務を全て外部の民間弁護士事務所にアウトソーシングしており、その限
られたリソース'人材・時間(をライセンスに係る交渉、教授等からの相談への対応、技術の商業化への
取り組み支援に集約している。また、TLO は MIT での研究成果のみならず、MIT と関係の深い外部の研
究機関'The Whitehead Institute や The Broad Institute(における研究成果についても取り扱ってい
る。
(2) 特許の活用戦略
MIT の米国特許取得数'登録数(は年間概ね 150 件程度であり、単純計算によれば、TLO に対して行わ
れる年間の技術開示数'500 件(の約 30%程度となっている。
社会への研究成果のオープンな普及、学界における自由な情報交換を促進していくことが MIT の使命
であるとしているため、MIT では基本的には技術成果の商業化を図る場合や企業との共同研究契約で
求められている場合にのみ、特許の取得を試みている。すなわち、どれだけ学術的に研究成果がすぐ
れていても、商業化の見込みのないものについては、特許の取得を志向せず、できる限りオープンで自
由な情報交換の促進を追求している。
担当者へのヒアリングによれば、特許の取得数は国際的な特許については、さらに徹底しており、ライセ
ンス先が確保されている場合のみ'見込みのある場合のみ(特許を取得しているとのことである。また、
商業化の見込みがあると判断し、特許を取得した技術についても、上記の趣旨に照らし、8 年以上ライセ
ンス先が見つからないものについては権利を放棄しているとのことであった。
(3) 特許出願費・管理費の財源
MIT TLO では、過去 20 年間において、人件費、管理費、特許出願費・管理費、弁理士事務所費用
'2009 会計年度の特許関連費用は 1,600 万ドル(等は全てライセンス料収入'2009 会計年度のライセ
ンス収入は 6,630 万ドル(から賄われている。このため、MIT からの予算措置を一切受けていない。
さらには、TLO はライセンス収入の余剰分を MIT に収めており、MIT における Profit Center となってい
る。この点は、大学や政府からの財政的支援を受け運営されている Cost Center である日本の大学の
23
技術移転組織とは大きく異なっている。
ライセンス料収入があった場合の配分は、以下の順序に従い通り各関係機関等へ配分されている 12。
TLO の取り分がまず最初に規定されている点は、MIT における TLO の位置付け、また、技術移転にお
ける TLO の果たす役割の大きさを物語っているとも言える。
MIT におけるロイヤリティ収入の配分方法・手順
① まず、ロイヤリティ収入の 15%を TLO へ配分
② 残りの 85%から特許関連費用を控除(②までの結果の残額を「改定ロイヤリティ収
入」Adjusted Royalty Income(ARI)と呼んでいる)
③ ARI の 1/3 を発明者へ配分
④ 更なる費用が発生・判明した場合には、ARI の 2/3 から、当該諸費用が控除される。
⑤ ④の結果として ARI がプラスとなれば、当該額の 1/2 を当該発明を行った学部、研
究所、センター等へ配分
⑥ ARI の最終的な残額(⑤と同額)を MIT 本体へ配分し、MIT 全体でプール
なお、⑤の数字(諸費用控除後の ARI)がマイナスの場合、MIT 全体でプールされ
ているファンドから補てんが行われる
8.
成功事例・失敗事例
ヒアリングによれば、成功事例は数多くあり、そして失敗事例は成功事例よりもはるかに多くあるとのこと
であった。その多くの成功事例のうち、一例を挙げると以下の通り。
Akamai
MIT Computer Science Laboratory において開発されたインターネットのトラフィック管理技術をベース
に起業され、現在では分散型コンピューティングシステムの事実上のプラットフォームを手掛けるまでに
成長している。同社のプラットフォームは、インターネット上のウェブトラフィックの 10-20%を恒常的に
取り扱っており'毎日 500 億ヒット(、インターネットがどのように機能するか大きな影響を与えていると言
っても過言ではない。
Integra
MIT の細胞工学における研究成果をベースにした、同社の皮膚再生基盤は、火傷や皮膚再生等の治療
向けに FDA で唯一認可を受けている画期的な製品となっている。同社の製品は二層構造となっており、
24
皮膚の再生の足場となり、再生を促進させることが可能である。
ヒアリングにおいて、失敗事例については特段の言及はなかったが、数多くの失敗事例は単に失敗とし
て終わるのではなく、結果として MIT の産学連携、起業コミュニティの中で貴重な事例・教訓として
今後の成功に向けた貴重な糧となっていることは言うまでもない。
9.
大学間・地方自治体との連携
MIT として正式に産学官連携について、他大学と協定等を結んでいることは尐ない模様。ただし、教授レ
ベルによる非公式な研究協力、商業化はさかんに行われている模様。ただし、非公式な研究協力等に
あっても MIT のコミュニティの一員が MIT において発明した成果は、MIT に帰属するため、TLO や OSP
が一義的な窓口となり全ては把握される。
また、地方自治体'Cambridge 市(との連携は極めて尐なく、そもそも MIT が地方自治体に産学連携に
ついて期待している事項は極めて尐ないとの印象を受けた。
地方自治体やマサチューセッツ大学を中心に、地域の技術移転機関の連絡会のようなものは主宰され
ている模様であるが、これも情報交換会程度のものであり、本質的な技術移転等の取り組みをしている
ものとはなっていない。
25
Purdue University
'インディアナ州(
26
1. 背景
(1) インディアナ州の産学官連携の状況
ミッドウェスト地域に属するインディアナ州は、そのビジネス環境において、全米でもトップ 10 またミッドウ
ェストにおいても上位にランクされる州となっている。同州における産学官連携を含む起業活動について
は、州内の大学も充実していること等から'ボール州立大学、インディアナ大学、ノートルダム大学、
Purdue 大学(、ミッドウェストにおいて、二番目に起業環境が良い州とされている。
また、インディアナ州では大学の研究パークが数多く整備されている。これらは、大学発技術をインキュ
ベートする施設として機能し、多くの技術の商業化を実現する場となっている。代表的な研究パーク
'Research Park(としては、Purdue Research Park がまず成功例として挙げられ、 そして、インディア
ナ大学の Emerging Technologies Center も近年急成長している。
このように総じて、インディアナ州においては、産学官連携活動が活発に取り組まれていると言える状況
であるが、特に注目すべきは、大学発技術のライセンス等において、中小企業への技術移転が多いこと
が挙げられる。事実、大学からの中小企業への移転活動については、全米で 8 位にランクされている。
これは、飛びぬけて世界的に有名な大学、また、大企業が数多く集積するわけでもないことから、大学
の技術移転活動が中小企業、大学発ベンチャー等へ特に焦点を当てていることの結果とも言えると考え
られる。
(2) インディアナ州政府の産学官連携政策の概要
インディアナ州政府は企業誘致、雇用創出の観点から産学官連携を捉えており、研究開発を促進する
ための税制策、補助金施策を準備している。これらの施策が、他の州の同様の観点からの施策と比較し
て、どの程度厚遇されたものであるか、その判断は容易なものではないが、他州にはなく特に目を引くも
のの一つとして、特許収入非課税措置が挙げられる。
これは特定の特許収入'ライセンス料等(を法人所得税の課税対象額の算出から控除できるというもの
である。最大 50%まで控除可能となっており、これはインディアナ州が技術移転や研究開発の社会への
還元を重視している姿勢の一つとして見ることができる。
また、州政府は、州内の大学の研究者、特許のデータベースのネットワーク'INDURE と呼ばれている。(
を構築し、起業家が関心のある技術に係る研究者やその知財をワンポイントで検索できるようにしてい
る。このシステムに参加している州内の大学は、Ball 州立大学、 インディアナ大学、ノートルダム大学、
そして Purdue 大学等が挙げられる。
27
インディアナ州の主な研究開発促進施策
(税制支援)
 研究開発促進税制
 研究開発企業等が支出した年間研究開発費と過去 3 ヵ年の平均年間研
究開発費を比較し、その差額分($1Million を上限)の 10%を州法人
税額から税額控除 (Tax Credit)
 上記 Tax Credit は当該年から 10 年間にわたり、繰越ができる。
 特許収入非課税措置
 従業員 500 人以下の企業が得た特許収入は、当初 5 年間は 50%を非
課税とする。
 6 年目からは、漸減し 9 年目及び 10 年目には 10%となる。11 年目以
降、非課税措置は無い。
 一企業が 1 年間に非課税とすることができる特許収入は上限$5Million
までに制限されている
(補助金等)
 21 世紀研究開発補助金
 地域に雇用を創出する等の効果が見られる研究開発型企業に対して、
研究開発費等を 21 世紀研究開発ファンドを通じて補助。補助金額は
その都度設定
 例えば、2007-2008 会計年度では、 21 企業に対し、総額$33Million
を補助
 フ ァ ン ド の 20% は 連 邦 政 府 補 助 金 Small Business Innovation
Research 補助金の申請企業の支援事業に用いられている。
2. 産学官連携ポリシー
(1) Purdue の産学官連携の歴史13
1869 年にランド・グラント大学として、Purdue 氏からの寄付などを得て、農業技術や機械工学を専門と
する大学として設立された。基本的に地域の農産業従事者に対して、農業技術を教えていたが、他のラ
ンド・グラント大学と比較し古くから工学部門にも力を入れていた。しかしながら、農業以外の他の産業
界が大学へのアクセスが十分ではなく、大学での研究成果や知識を十分に活用できていない状況に対
して懸念を表す声も尐なくなかった。これは、Purdue 大学がランド・グラント大学としての公共的な性格
のため特定のプライベート企業に貢献することを禁じられていたためである。このため、1930 年に
Purdue 大学と企業との間をつなぐ存在として、非営利組織である Purdue Research Foundation
(PRF)が設立された経緯がある。RPF は現在、Purdue 大学の IP の管理、マーケティングを始め、大学
28
に対する寄付金の管理、信託資産の管理、大学施設の所有、奨学金の支給等、Purdue 大学本体にと
って、その中心的な業務を担う重要な存在となっている。
1990 年代以降、Purdue 大学及び PRF は Purdue Research Parks'PRP(を州内 4 か所に設置し、主
にライフサイエンス、国土安全保障、エンジニアリング分野における産学官連携の拠点として成果を挙げ
つつある。また、2001 年、Purdue 大学における学際的な分野の研究拠点として、Discovery Park が設
置された。Discovery Park では主にバイオテクノロジーやナノテクノロジー等について、学際的に各分野
からの多面的・複合的なアプローチを通じて研究が行われ、多くの技術シーズを産業界や PRP に提供
している。
(2) Purdue の産学官連携ポリシー14
Purdue 大学では、教授、スタッフ、学生によるアカデミックな活動の成果による技術を商業化するなど
社会へのそのインパクトを最大化し還元することは、大学の重要な使命の一つとして位置付けられ、産
学官連携の重要性は十分認識されている。そして産学官連携による大学からの技術移転は、下記のよ
うに発明者、大学、産業界、そして最終消費者にとって、Win-Win の状況をもたらすことを大学として理
解している。

アーリー・ステージの発明や技術が製品化やサービス化され、社会に還元され具体的な形として利
用可能となる。

新製品の製造を通じて、新たな雇用を地域に創出する。

ライセンス収入等を通じて、発明者や大学に対して新たな収益源をもたらす。

産業界との新たな共同研究のきっかけとなる。
上記の使命を果たす手段の一つとして、Purdue 大学における教授陣、スタッフ、学生による全ての発明
は一義的に大学側に帰属することとされており、Purdue Research Foundation (PRF) に設置された
Office of Technology Commercialization'OTC(がその技術を全て管理し、精力的に技術移転先の発
掘を行っている。また、Sponsored Program Services'SPS(が、産業界との共同研究のインターフェー
スになるなど、大学や社会の利益を最大限化する活用方法が模索されている。'一部の技術については、
その発明者からの要請により、厳重な大学側の審査の結果、発明者に帰属させることがあるが、これは
極まれの事例のようである。(
このようなポリシーの下、Purdue 大学において産学官連携は大学の使命を果たすための重要な使命
'Mission(の一つとして、積極的に推進している。
29
3. 大学の産学官連携体制
(1) Purdue 大学の産学官連携組織体制
代表的な産学官連携組織としては、Office of Technology Commercialization'OTC(及び Sponsored
Program Services'SPS(がある。これらの組織の関係図は以下の通り。
Purdue 大学における産学官連携関係組織とその関係図
President
Chief of Staff
Vice President for Research
Exec. VP for Business & Finance,
Treasurer
Purdue Research Foundation
Senior Vice President for Business
Services and Assistant Treasurer
Office of Technology
Commercialization
・技術の評価
・特許の取得の判断
・ライセンス交渉
連携
Sponsored Program Services
・研究資金(連邦政府のファンド等)
・マーケティング
獲得サポート(プロポーザルの作成
・契約作成時における SPS へのア
等)
ドバイス
・企業との共同研究に係る契約交渉
・利益相反規程等の監督
・輸出規制・管理
30
(2) 関連組織間の役割分担
Purdue 大学の研究成果等を一括して管理しているのが、Office of Technology Commercialization
'OTC(15であり、大学本体に設置されているのではなく、Purdue Research Foundation (PRF) の一部
の組織となっている。OTC は 1999 年にそれまでの Office of Technology Transfer'OTT(の組織及び
その目的を再構成して設立されたものであり、OTT 時代と比べ、既存企業へのライセンス等の技術移転
よりも研究成果である技術の商業化に一層焦点を当てている。ただし、OTC はあくまでも Purdue 大学
本体の業務を代行している立場に過ぎないため、大学の全てのポリシーに従うことが必要である。
連邦政府等からの補助金獲得のサポート、企業との共同研究契約の交渉・締結等を担っているのが、
Sponsored Program Services'SPS(16である。教授等が外部資金を獲得するためにプロポーザルの
作成等の支援を行っている他、企業との共同研究に係る契約交渉を担当している。契約交渉において
は、特に研究成果の帰属の取り扱いやライセンスする際の企業側の費用負担などが明記される場合が
多いため、OTC はライセンス交渉の実務に当たる立場から SPS へアドバイスをすることも多い。
OTC 及び SPS は連携して業務を遂行しており、特に、企業との共同研究の成果の取り扱いやそのライ
センスに係る制限事項について、連絡を取り合っている。また、輸出規制に係る取り扱いについても、
OTC と SPS が協調して監督している。
(3) 人員体制等
OTC には局長以下 14 人のスタッフが存在している。Purdue Research Foundation の規模に比べると
小さな組織であるが、OTC の年間ロイヤリティ収入 4~6 億円程度の規模からみると、妥当な体制となっ
ていると言える。
具体的には、開示のあった発明の内容に応じて 3 分野に分類し、一つの分野につき二人のケースマネ
ージャーが業務に当たっている。合計で Case Manager'CM(は 6 人いる。各 CM の下にはインターン
や事務スタッフがおり、CM がマーケティングやライセンス交渉等の業務に集中し、生産的な業務活動が
行えるような体制となっている。平均して、各 CM は毎年約 40 件づつの新しい発明案件を担当するなど、
その業務量は大きなものとなっている。
他方、SPS には局長以下、約 80 人のスタッフが配置されており、大所帯な組織となっている。SPS 局長
の下に、Pre-Award、Post-Award、Contracting 等を担当する Assistant Director が存在し、それぞれの
ユニットを率いている。
4. 共同研究等に関する取り組み
(1) 民間企業からの資金を獲得するための戦略
31
基本的には Sponsored Program Services'SPS(が共同研究の窓口となり、産業界に対し各種情報提
供を行っているが SPS は、企業からの研究資金獲得にとどまらず、政府等からの外部資金を全て担当
しているため、連邦政府資金、教授等の州政府資金など申請に係る手伝い・サービス、これらのグラント
補助金等の獲得後の事務手続き、企業等との共同研究に係る契約の交渉・策定を幅広く実施している。
このため、民間企業からの資金を獲得するためだけに特化した組織・業務とはなっていないのが現状で
ある。
そこで、Purdue 大学では、Office of the Vice President for Research の下に、The Office of Industry
Research and Technology Programs (OIRTP)を設置している。OIRTP は教授陣等と企業とのパート
ナーシップ促進のための窓口として機能しており、産業界からの問い合わせについて、丁寧に対応する
他、幅広い分野にわたる Purdue 大学の研究分野の中から、企業のニーズに応じた研究分野を実施し
ている教授等をピンポイントで紹介している。
また、OIRTP は具体的な交渉や契約実務は基本的に行わないものの、SPS や OTC との企業のやりと
りをフォローアップして、企業に対して必要に応じて適切なアドバイスを行っている。
(2) 共同研究等から生じる知的財産のマネイジメント
先述したとおり、Purdue 大学のポリシーによれば、大学において教授等が発明した技術等は全て大学
側に帰属することとされているため、企業との共同研究'Sponsored Research(の際にも、原則としてこ
れに従うこととなる。しかしながら、実際の取り扱いは企業との共同研究契約の個別の内容によって決
定されているようである。
具体的には、Sponsored Program Services'SPS(のウェブサイトにおいて予め公表されている「企業と
の共同研究におけるモデル契約」17によれば、研究成果である知的財産は以下の通り分類され、その帰
属先もモデル契約において規定されている。
① Sponsor Intellectual Property
共同プロジェクトの遂行において、スポンサー企業の従業員のみによって発見され、または、実現・
改良された成果
→ 当該知的財産はスポンサー企業に帰属し、Purdue の IP ポリシーや、当該共同研究契約には
縛られない。
② Purdue Intellectual Property
共同プロジェクトの遂行において、Purdue 大学のスタッフのみによって発見され、または、実現・改
32
良された成果であり、当該共同プロジェクトの遂行によって初めて実現等されたもの。ただし、
Sponsor Intellectual Property と重なる部分を除く
→ 当該知的財産は Purdue 大学に帰属し、Purdue 大学の IP ポリシー及び当該共同研究契約に
従う。
③ Joint Intellectual Property
共同プロジェクトの遂行において、スポンサー企業の従業員及び Purdue 大学のスタッフによって発
見され、または、実現・改良された成果であり、当該共同プロジェクトの遂行によって初めて実現等
されたもの。ただし、Sponsor Intellectual Property 又は Purdue Intellectual Property と重なる部
分を除く
→ 当該知的財産はスポンサー企業及び Purdue 大学に両方に帰属し、Purdue の IP ポリシーや、
当該共同研究契約に従う。
上記を見ると、②の Purdue 大学本体に帰属する成果は、①の企業に帰属する部分と重複しない範囲と
いった限定された形となっていることに気づく。これは、Purdue における全ての研究成果は Purdue 大学
に帰属するという Purdue の基本的な IP ポリシーとは、若干異なるような印象を受ける。このような背景
には、企業との共同研究をたくさん呼び込み外部資金を獲得するための Purdue 大学の「苦肉」の策とし
て、研究成果の IP の帰属先について若干「甘く」なっている可能性も考えられる。
5. 技術移転に係る取り組み
(1) 技術のマーケティング方法・体制
Purdue 大学では、基本的に The Office of Technology Commercialization'OTC(におけるウェブサイ
トでの利用可能技術の紹介、The Office of Industry Research and Technology Programs (OIRTP)18
による定期的なニュースレターでの PR など、他大学と比較して特段変わったことをしているとは認めら
れない。
OTC に開示された発明技術に対しては、各技術毎に Case Manager が選任され、当該 Case Manager
が責任を持って、特許取得からマーケティング、そしてライセンスにおける交渉まで、すなわち川上から
川下まで全て担当する。
数年前までは、例えば特許を取得するための業務を行うセクション、マーケティングを行うセクション等、
業務ごとに縦割りの体制になっていたが、それぞれの担当者が同じ技術を勉強する必要があり効率的
ではないこと、ライセンス交渉には、発明開示からの経緯、特許申請時の議論などを背景情報として知
っておくことが必要であること、等から、近年、一人の担当者が発明開示の受付からライセンス契約交渉、
そしてライセンス契約、フォローアップまで全て行う Case Manager 制に変更された。
33
(2) 研究成果を実用化するための大学内での支援システム・大学発ベンチャーの支援
① Trask Venture Fund19
学内の初期的な技術を商業化につなげるための支援策として、Trask Venture Fund'TVF(が用意され
ている。TVF は 1974 年に Verne Trask 氏からの寄付金を基に創設され、OTC を通じて発明開示され、
Purdue Research Foundation の管理する技術の一層の研究実施、保護、商業化に向けた開発等に対
して、Purdue 大学内の研究者に対して拠出している。
TVF への出願は当該技術の発明者である研究者が OTC の Case Manager の協力を得て行う。支援は
1 年間に限り、上限 100,000 ドルまでとなっている。この資金は、基礎研究には利用することができず、
当該技術のマーケタビリティを高めるために使われなければならない。
また、こうした新技術の商業化支援への財政的なサイクルを生み出すためにも、TVF から援助を受けた
当該技術が商業化され、何らかのロイヤリティ収入等を成功裏に生み出した場合には、その収益からま
ず最初に TVF から受けた資金援助額と同等額を TVF へ返済しなければならないとされている。具体的
には、ロイヤリティ収入から、TVF 援助額、特許申請関係経費等が最優先に控除された後、ルールに則
り、収益が関係機関に分配されることとなる。
支援する技術の選択には、専門の選考委員会が設けられており、技術的な「質」について同僚等による
精査、そして、ビジネスパーソンによるマーケットのポテンシャルの検討の両面から行われている。TVF
は年に 2,3 回技術の公募を行っており、選考委員会は定期的に開催されている。
② Purdue Research Parks20
Purdue 大学・Purdue Research Foundation では、1990 年代に州内に 4 か所 Purdue Research
Parks'PRP(を設置し、大学の研究成果である技術シーズやディスカバリー・センターからの技術成果
等について、実際の商業化に向けた開発・実用化を行う場所として、民間企業等に広く開放されている。
現在、4 か所の PRP に入居するスタートアップ企業は約 200 社に上り、企業同士のネットワーキングや
Knowledge Spillover がされやすい環境が提供されている。
(3) 特許等のライセンス戦略21
①ライセンス先の選定
Purdue 大学におけるその知的財産のライセンス先の選定方法として、注目すべきは共同研究を実施し
た企業へのアプローチである。Purdue 大学は共同研究実施企業に対して、当該共同研究による成果
'Purdue 大学本体に帰属する部分のみ(について、他の企業よりも先に、利用するかしないかを判断す
34
る優先権'First Option(が与えており、いわば Take or Leave のスタンスを取っている。
共同研究実施企業が権利を行使し、当該研究成果を利用すると文書にて OTC に通知した場合には、
OTC は当該技術成果を保護するために初めて特許申請の準備を開始し、文書受理後 3 カ月以内に特
許の申請を行うこととしている。
②ライセンス料に係る方針
共同研究実施企業には、①非独占的なライセンス契約と②独占的なライセンス契約、の 2 つのオプショ
ンが与えられている。ライセンス料は基本的にケース毎に異なるが、一般的に①の場合には、特許申請
に係る準備費用'プロフェッショナル・フィー(、申請費用、特許維持費用の一式となる場合が多い。また、
②の場合には、共同研究実施企業が文書にて OTC に対して当該技術を利用する旨の通知を発出した
後、6 か月以内に双方が納得のいくライセンス契約を締結することとしている。
また、大学発ベンチャー企業等にライセンスする際には、ロイヤリティとして Equity を取得する場合もあ
る。ただし、内部規定上、Equity は C-Corporation からしか受け取ることができず、LLC 等の形態を取る
ベンチャー企業等からは Equity との引き換えのライセンスはできない。
6. 人材育成・確保
特殊な人材育成プログラムが用意されているわけではなく、基本的に OJT によって仕事の仕方を身に
つけさせて行くのが OTC の方針とのことであった。また、AUTM'The Association of University
Technology Managers(のライセンシング・コースを受講させることもよくあるとのこと。
Case Manager'CM(の下には初期レベルのスタッフやインターンが必ず一人以上配置されており、CM
の業務のサポートを行いつつ、仕事の仕方の仕方、コミュニケーションの取り方等を学んでいる。インタ
ーンは週 10 時間程度の勤務が平均的となっている。
初期レベル的なスタッフとして、OTC への採用に当たっては、工学系、科学系の学士号を有している者
を優先的に採用している。インターンからの採用もある程度あるが、一方で、採用するソースは多様化し
ている。
他方、CM クラスになると、大学等の技術移転機関勤務の経験年数が 10 年以上の者が多くなっている。
Ph.D.取得者の中には、OTT 等の勤務経験年数が短い者もいるが、逆に MBA 等の学位を併せ持つ者
も多い。また、CM クラスではアカデミックな経験年数や学位よりも、実際にビジネスに携わり商品開発、
マーケティングをした経験、自分で起業した経験などが極めて重んじられている。
35
7. 発明の権利化に係る支援
(1) 特許の取得・管理体制
発明の開示、特許申請・取得、そしてそれらの管理は全て Purdue 大学外の組織である Purdue
Research Foundation に設置されている OTC によって行われている'2008 年度発明開示件数 430 件(。
また、特許申請については外部にアウト・ソーシングされている。
(2) 特許の取得・活用戦略
Purdue 大学の米国特許取得件数は 2007 年で 77 件となっており、単純計算では開示件数の約 1/3 と
なっている。特許申請については、特許の効果'費用対効果(を最大化するためにも、申請件数を既にラ
イセンス先の目途が立っているような「有望」案件に絞り込んでいる。
①ライセンシーが既に確保できている案件
先述したとおり、共同研究を実施した企業等から、予め当該研究成果の利用について申し出があった場
合には、最優先で特許の申請が行われている。このような案件は特許申請件数の 20%-40%を占めて
いる。
②その他
OTC では、発明開示受付後、各担当の Case Manager が当該技術のコマーシャル・ポテンシャル'事業
性(等を精査し、出願案件を選出している。その際の判断基準は以下の通り。なお、担当 CM が判断でき
ない案件については、6 人全員の CM が合議し、その結果を踏まえ最終的に OTC 局長が特許申請をす
るか、しないかを判断している。

申請に当たり法的な問題点がないか

企業との共同研究による成果の場合には、企業との間で申請に際し問題が無いか

特許が取得できる可能性は高いか

コマーシャル・ポテンシャル

従来技術に対してどの程度優位性があるか

どの程度複雑性'困難性(を包含しているか

潜在的なライセンシーの価値観、ニーズ、経験等にどの程度マッチするか

最終的な消費者がどの程度、当該技術に価値を見出し購入するか

最終的な技術の製品への利用の前に、どの程度、簡単に「お試し」ができるか
36
(3) 特許出願費・管理費の財源
Purdue 大学における特許の出願については、共同研究実施企業がライセンスを前提に申請費用を負
担する場合を除き、全て Purdue Research Foundation'PRF(がその費用を負担している。年間特許申
請関連費用は$3~4Million に上っており、OTC の大きな支出項目となっている。このため、Purdue 大学
OTC では特許申請費用が効率的に使われているかどうかを判断する指標として、特許申請費用総額
'新規申請に係るものに限る(から、当該年に生み出された新規のロイヤリティ収入を差し引いた額をモ
ニタリングしている。年間予算作成時には、この差'単純な赤字幅(が$1.5Million 以下となることを目標
として設定しているとのことであった。
このように OTC は PRF にとってコスト・センターとなっており、財政的に自立している状況にない。また、
特許申請料以外にも、OTC の人件費、office 費用、その他の間接経費等も全て PRF によって負担され
ている。
(4) ロイヤリティ収入等の配分方法22
特許のライセンスによる収益は Purdue 大学の IP ポリシーによって、以下の通りに配分されることとされ
ている。①において、最初に控除される費用には、OTC 等の人件費などの内部費用は含まれず、特許
申請費用等の外部費用のみが含まれる。
Purdue におけるロイヤリティ収入の配分方法・手順
⑦ ロイヤリティ収入から特許申請関連費用、TVF への返済(援助を受けている場合)
⑧ ①の 1/3 を発明者へ配分
⑨ ①の 1/3 を発明者の属する学部等へ配分
⑩ ①の 1/3 を Purdue Research Foundation の Trask Fund へ配分
上記は、基本的な配分方法。個別のケースや状況を斟酌し、学長が配分方法について
特例を設けることも認められている。
8. 成功事例・失敗事例
(1) 成功事例
Purdue 大学における発明・技術の商業化において最も成功している例の一つに挙げられるのは、細胞
37
外基質'Extracellular Matrix:ECM(に関連する技術であろう。
ECM 関連技術で最初に特許が取得されたのは 1998 年で、小腸の粘膜下組織を利用して動脈・静脈の
一部を移植するというものであった。そして、その技術を利用することにより、身体上の様々な怪我や欠
陥を治療することが将来的に期待されていたが、実際の商業化を迎えるまでに各種の紆余曲折を経る
こととなる。
まず、1990 年に Lilly と共同研究契約を締結し、医療分野への実用化に向け初期的な許認可の取得を
目指したが、当時のマーケットにはない画期的な商品であったため、医療機器・技術の定義の壁にぶつ
かり、許認可の取得に失敗した。そして、インディアナ州に本拠を置く DePuy Orthopedics という企業と
初めてライセンス契約を結び、商業化に必要な条件の理解・克服、それに向けた新たな研究開発を実施
した。その結果、ECM のソースとして小腸の他に胃の粘膜、膀胱、肝臓等も利用可能となり、許認可の
取得にも目途が付いてきた。
その後、1995 年に Cook Biotech を Purdue 大学及び Cook Group とのジョイントで設立し、最終的な
商業化の成功を見ることとなる。Cook Biotech は自社の ECM 技術が利用可能なあらゆる分野に技術
をライセンスし、急成長を遂げた。
現在までに、50 万人以上の患者が Cook Biotech 社の ECM 技術による治療を受けている。同社は
Purdue Research Park に本拠を構え、従業員数は 130 人、特許数は 75、特許申請数も同数程度、そ
して Purdue 大学に 800 万ドル以上のロイヤリティ収入をもたらしている。
(2) 失敗事例
個別の企業の失敗事例ではなく、ここでは Purdue のリサーチ・パークへの取り組みに係るいわゆる「失
敗」事例に触れる。
Purdue 大学では Purdue Research Foundation を通じて、1960 年代にリサーチ・パーク'Purdue
Industrial Research Park:PIRP(の建設に取り組んだ。このプロジェクトは、州政府や産業界の取り組
みとは一線を画し、PRF、すなわち Purdue 大学の独自の取り組みとして行われた経緯がある。
一方で、Purdue 側にしてもリサーチ・パークの建設・造成に対して、結局、過度の資金を投入することに
慎重であったため、大胆な企業誘致等を試みることなく、一定程度のインフラの整備を行うのみなど、受
身な姿勢が批判されることもあった。また、政府からの公的資金も受け取らず、結局、地元における研究
開発企業の尐なさ、PIRP は経済情勢などの不運などもあり、1970 年代、80 年代と成功することなく単
なる企業団地のような存在にとどまっていた。
上記のような事例から得るべき教訓の一つは、研究型リサーチ・パークの建設には、そしてその目的で
38
ある技術移転等の実現には、言うまでもなく、大学が中心的な役割を担うとともに、産業界、そして政府
からの支援を得て、三者が一体となって取り組むことが必要不可欠であるということである。Purdue 大
学では、この教訓を活かし、1990 年代より Purdue Research Park を展開し、大学発ベンチャー等のイ
ンキュベーションに力を入れてきている。
9. 大学間・地方自治体との連携
OTC にとって、地方自治体や州政府との産学官連携活動における正式な協働はほとんどないとのこと
であり、個人的なネットワーク等を通じて人物の紹介等をしてもらう程度にとどまっている。
他方、他大学との連携についても正式なものはほとんどないが、他大学と特許を共同出願し、特許を取
得した場合など、非公式ベースで密に連絡を取り合うケースがあるとのことである。例えば、ある企業が
Purdue の特許をライセンスしたいと申し出てきた場合に、具体的なライセンス・フィーに係る交渉を始め
る前に、特許を共同出願した大学'同じ特許を保有している大学(にコンタクトし、情報交換を行うことが
多いとのことであった。
情報交換の結果、当該企業へのライセンスについて大学間で競合しあうことを避け、Purdue OTC が他
大学を代表してライセンス交渉をして、ロイヤリティについては折半するというようなことが、非公式で行
われる場合があるようである。
39
Virginia Polytechnic Institute (Virginia Tech)
'バージニア州(
40
1. 背景
(1) バージニア州の産学官連携の状況
バージニア州は米国南部の入り口として、首都ワシントン DC に隣接しており、もともと産業界と各種連
邦政府機関とのコラボレーションが発生し易い土地柄となっている。具体的にはワシントン DC 近郊部で
は、例えば国防総省からのグラントを受けたハイテク・スタートアップ企業等が、新たな IT や軍事技術等
について開発を行っている。また、隣接するメリーランド州の南部に位置する National Institute of
Health からのグラントをベースにライフサイエンス系企業も一定程度集積している。'これは「バイオ回廊」
と呼ばれている(
他方、バージニア州は東西に長く、西部の山岳部は連邦政府の上記のような影響を受けにくくなってい
ると言える。バージニア・テック'VT(のある Blacksburg もバージニアの中西部に位置し、首都 DC から
遠く、独自の産学官連携が発達しやすい土壌となっていると言える。具体的には、VT を中心として市が
形成されており'市内では、VT が最大の雇用主となっている(、VT 及び VT に隣接し設置されている VT
Corporation Research Center が、産学官連携の中心の場となっている。このように VT の土地柄上、こ
の地域での産学官連携は大学を中心とした比較的クローズドな環境となっていることは否めない。
(2) バージニア州政府の産学官連携政策の概要
もともとバージニア州政府は企業誘致、起業支援に積極的であり、各種優遇制度を設けている。特にバ
ージニア州の法人税は 6%と他州に比較しても低く、しかも過去 30 年間以上も引き上げられていない。
このような点からも企業に最大限有利なビジネス環境を提供するというバージニア州の強い意志が感じ
られる。なお、その他の消費税等も他州に比べ安くなっている。
バージニア州の基本的な諸税率の他州との比較23
サウス・
バージニア州
米国'中央値(
アトランティック諸州
'中央値(
Income Taxes:
Corporate Income Tax
6.00%
6.90%
6.90%
4.00%
5.60%
5.75%
5.00%
6.00%
6.00%
Sales and Use Taxes:
State Tax
State and Typical Local Tax
(combined)
41
産学官連携に関係の深い研究開発支援策としては、税制支援、補助金支援の他に、ネットワーク構築
の支援が行われている。バージニア州内での研究開発型企業の支援を行う Center for Innovative
Technology'CIT(24が、1984 年より組織されており、CIT Connect というサービスを展開している。これ
は、Fortune 500 企業や政府機関と中小の研究開発型企業のマッチングを行うサービスであり、新技術
をバージニア州さらには全米大で素早く認識し、露出させることにより、当該企業の育成、Exit 戦略の支
援等を行っている。また、CIT は最大 100,000 ドルまでの GAP ファンド補助金を支給している。
バージニア州の研究開発促進施策
(税制支援)
 雇用者訓練税制
 研究開発企業等が従業員の訓練・トレーニング等を行った場合には、
当該費用の最大 30%を税額控除
 投資促進減税
 研究開発企業等が行うバイオテクノロジー研究関連設備、備品等に対
し、資産税を減免(カウンティ毎に減免額を決定)
 研究施設のコンピュータ等及び工場等の製造設備等については、消費
税を非課税
 雇用促進補助金
 100 人を上回り従業員を雇用している場合には、101 人目から一人当
たり 1000 ドルの税額控除
(補助金等)
 移転促進補助金
 州政府の指定する地域に進出し、雇用を創出した場合には、従業員一
人当たり 500 ドルの補助金を支給
 上記地域に進出し、研究所等の建設など投資を行った場合には、別途
規定する必要最低投資額を上回る投資額の 20%相当の補助金を支給
 知事特別補助金
 企業誘致等で他州と厳しい競争になっている場合において、知事の裁
量によって補助金等を支給
2. 産学官連携ポリシー
(1) VT の産学官連携の歴史25
1872 年に Virginia Agricultural and Mechanical College として、ランド・グラント大学として設立されたよ
うに主に農業及び農業技術に関する教育が主な役割であった。設立当初は思うように生徒数が伸びな
い時期もあったが、現在は学生数 3 万人を超え、バージニア州で最大の大学となっている。また、公立
大学ではめずらしく士官学校を併設している。
42
その大学のモットーである「That I May Serve」というフレーズからもわかるように、研究、発見等を通じ
て社会に貢献することが古くからの大学自体のミッションとなっており、具体的には、「教育と学習」、「研
究と発見」、「成果の普及と貢献」、の 3 つが大学の主要な使命として位置付けている。
産学官連携を促進するために、広大な Virginia Tech Corporate Research Center が大学キャンパスに
併設して設置されており、大学と起業家そして新技術の融合する場所としての機能を発揮している。この
ような取り組みにより、2009 会計年度には、23 の特許の取得 30 のライセンス契約等を実現している。
(2) VT の産学官連携ポリシー
VT の知財ポリシーには、まず、教育、研究、社会のニーズへの対応、バージニア州を始め地域の経済
発展が大学の大きな使命として掲げられ、そして、同様に知財の効率的で有効な普及、知財の産業界
での商業化への活用機会の模索も重要なミッションとされている。知財の社会への普及には出版等によ
りパブリック・ドメインに知財を置くことが有効な場合が多いことを認めつつも、一方で、特許法等により
知財を保護しつつ産業界から対価を得つつ収益を上げて行くことも重要としている。この点に VT の産学
官連携への期待と意欲が強く伺われる。
VT における教授、スタッフ、学生等による全ての発明は基本的に VT に帰属することとされており、VT
外部に設置された VT Intellectual Properties が一元的に管理している。知財に係る帰属、取扱い等に
ついて問題が生じた場合、また、知財の取り扱いに係るルールの策定等は、研究担当の副学長を筆頭
とした委員会'Intellectual Property Committee(において議論され、同委員会は VT における知財、産
学官連携等の最高意思決定機関となっている。
3. 大学の産学官連携体制
(1) VT の産学官連携組織体制
VT の産学官連携を全体的にとりまとめているのは、Vice President for Research となっている。米国大
学で産学官連携を担当するトップとしては、大きく分けて研究担当の副学長の場合と財務担当の副学長
の場合があるが、VT は研究担当の副学長が総責任者となっている。研究担当副学長の下にいくつかの
組織が存在するが、産学官連携に大きく関係する組織として Office of Sponsored Program'OSP(26と
VT Intellectual Properties'VTIP(27が挙げられる。
43
VT における産学連携関係組織とその関係図
Provost
Intellectual
意見
Properties
Vice President for Research
Committee
外部組織
Office of Sponsored Programs
VT Intellectual Properties
・発明開示の受付
連携
・共同研究等の契約交渉
・技術の評価
・上記に係る契約実務
・特許等の取得
・政府機関等への補助金申請のサ
・ライセンス交渉
ポート
・商業化の手伝い
・共同研究費、グラントの資金管
理
(2) 関連組織間の役割分担
各学部の研究者等に共同研究・受託研究等の申し出があった場合、OSP が一義的に契約交渉を行うこ
ととなっており、Pre-Award Project Administrator がその任にあたっている。また、企業との共同研究等
以外にも、政府機関等への補助金の申請などについても OSP が研究者のサポートを行い申請を行って
いる。企業との共同研究契約が結ばれた場合や政府等からの補助金の支給が決定され場合には、当
該案件は Pre-Award 担当者から共同研究費や補助金等の管理を行う Finance Team が案件を引き継
ぎ、プロジェクト終了まで担当している。
他方、VTIP は VT の発明を全て管理し、IP の取得、マーケティング、交渉、契約、フォローアップまで全
てを一元的に行っている。ここで、注目に値するのは VTIP が学外の組織として別法人として設置されて
いることである。外部に置くことにより、学内の煩雑な事務手続きから解放されるなど効率性を追求した
ことが背景にあるものと考えられるが、ヒアリングによれば、単に歴史的な背景ということであった。いわ
44
ゆる OTT の設置ブームとなった 1980 年代には、知財のライセンスというものが実際にどのようなものか
大学側も図りかねていたため、万が一の訴訟等を恐れて、学外の組織として切り離したということであっ
た。ただし、内部の規程、ポリシー等によって VT 本体と VTIP のブリッジングはしっかりと担保されており、
内部の組織と同様に取り扱われているのが実態である。産学官連携組織が学内におかれるか学外にお
かれるかが日本においても議論される場合が多々あるが、VT の例のように学内の規程によってしっか
りと管理されるのであれば、組織が学外か学内かは特段の問題とはならないものと考えられる。
(3) 人員体制等
OSP には約 50 人程度の人員が配置されている。それぞれ大きく Pre-Award、Post-Award、Finance、
Proposal Assistant の業務に分類されて、各人員が専門的な任務に当たっている。
一方 VTIP には、現在、約 10 人程度の人員しか配置されていない。しかしながら、民間出身の
President 等を精力的に雇い入れるなど、現在、組織拡大の途中とのことであった。なお、VTIP では現
在では米国大学の OTT では主流となりつつある Case Manager'CM(制が導入されており、一つのケ
ースについて一人の CM が発明開示から全て担当している。VT には 4 人の CM が存在している。
4. 共同研究等に関する取り組み
(1) 民間企業からの資金を獲得するための戦略
OSP は共同研究の窓口組織であるため、民間企業からの資金を獲得するための特段の努力をしてい
るというよりは、受身の組織であると言える。共同研究等の外部資金の獲得は、基本的に Faculty メンバ
ーが自ら開拓し獲得することが期待されている。米国の他の大学においても、同様なことが言える場合
が多いが、大学で研究を続けるためには、大学からの研究費の支給は一定年度で打ち切られることが
多いため、Faculty メンバー自らが政府機関からグラントや民間企業から共同研究資金を獲得すること
が強く求められている。なお、OSP はこのような Faculty メンバーの個々の取り組みを支援している。具
体的には多種多様なグラント情報の提供、グラント申請のサポート、グラントの資金管理などを行ってい
る。
(2) 共同研究等から生じる知的財産のマネイジメント28
VT の IP ポリシーによると、企業との共同研究によって発明された成果等についての取り扱い'所有権の
帰属等(は個別の当該共同研究契約によるものとしている。このため、契約時の個々の交渉によって成
果の帰属が具体的に決められていることになる。
ただし、OSP のウェブサイトにおいて開示されている共同研究契約の「ひな型」によれば、大学側か企業
側のどちらに成果物が帰属するかは、当該発明をした者の属する組織に帰属するとされている。そして、
45
当該発明をした者の判別については、米国特許法の一般的なルールに従うとされている。米国特許法
の一般的なルールによって判断するためにも、記録の保存の他に、双方の組織は発明や成果を挙げた
時には遅滞なく、相手方に通告することが義務付けられている。
仮に全ての成果物の帰属先が VT となり、共同研究実施企業側に所有権が残らない場合にであっても、
当該企業は自社内の研究活動、非営利目的等のために VT に帰属した成果を、非独占的に、無料で永
久に使用できる権利が与えられる。この権利は、当該企業の全世界の親会社や子会社にも適用される
が、第三者企業へのサブライセンスは認められていない。
同様に共同研究の成果が VT に帰属した場合には、当該共同研究実施企業は VT から最初に独占的な
ライセンスを受ける権利を有する。具体的には、発明の開示から 6 か月以内に共同研究企業が文書に
て独占的なライセンスを望むことを通知した場合には、当該企業との間で独占的なライセンス契約が締
結されることとなる。VTIP は文書の通知を受け次第、本格的な特許取得の準備を行う。なお、特許取得
の費用等はライセンス料とは別に共同研究実施企業が負担することとされている。
また、共同研究企業が独占的に VT からライセンスを行った場合であっても、非営利目的かつ研究目的
に限っては、VT から他の学術機関へ非排他的にサブライセンスを行う権利が、VT 側に留保されることと
なっている。
5. 技術移転に係る取り組み
(1) 技術のマーケティング方法・体制
当該技術を担当する Case Manager'CM(がマーケティングを担当しているが、実際にはマーケティング
を行う時間等は十分に確保できていないのが、VTIP の状況のようである。CM へのヒアリングによれば、
業務の内容の実態は時間配分で見ると、マーケティングに費やしている時間は 15%程度とのことであっ
た。その他は、OSP との協議に 30%、特許の申請関係業務が 30%、ライセンス等に係る企業との交渉
に 25%となっている。
また、このようにマーケティングに使える限られた時間を有効に使うために、発明をした研究者や教授等
にマーケティングのサポートをしてもらうことが多いとのコメントも聞かれた。具体的には、VT の教授等は
民間出身者の比率が比較的高く、当該発明に関心を持ちそうな企業、同様な研究を行っている企業等
のコンタクトを多数'最低でも 10 以上ありとのコメント(持っているため、これらに集中的にコンタクトして
いるようである。
いずれにしても、VTIP として体系的なマーケティング手法が確立していると言い難い状況であり、CM 等
の個人の人脈や経験、そして研究者の人脈に大きく依存した形式となっている。このため、VTIP は CM
には民間企業において商品開発、マーケティング経験者を優先的に雇用しているとのこと。
46
(2) 研究成果を実用化するための大学内での支援システム・大学発ベンチャーの支援
産業界、民間等からの寄付等の受け皿となり、VT における研究活動等を支援するための非営利法人
VT Foundation'VTF(が設立されている。VTF は寄付等を管理し、必要に応じて VT の諸活動に対して
還元している。
VTF の一組織として整備されたのが、VT キャンパスに隣接する VT Corporate Research Center
'VTCRC(29である。連邦政府からの約$2M 、VTF から$4M の拠出を受け設立された VTCRC は現在
約 140 のスタートアップ企業が入居している。単なるテナントビルではなく、VTCRC は入居企業等に対し、
様々なサービスを提供している。
VTCRC のサービス
1.
Business Assistance: Develop business plans
2.
3.
4.
Financial Assistance: Find capital
Training: Improve employees
Personnel: Hire best employees
5. Telecommunications: Best broadband service
6. Affiliates: Provide product and service discounts
7. VT Partnership: Use of university assets
8. Networking: Leverage others
9. International: Find partners
VTCRC は、上記サービス等の質から同様なリサーチセンター等と比較しても、高い評価を得ている。そ
の一つの証拠として、現時点での VTCRC の資産等評価額は$88M に上っており、VTF 等の投資を大き
く上回っている。
特に VTCRC のサービスで定評のあるのが VT Knowledge Works30である。起業前の段階や起業後の
間もない段階で、VT のネットワークを活用したビジネスコンサルティング・サービス等を展開している他、
ファンド・レイジング、IP に係る相談も実施しており、VTCRC の数多くのスタートアップ企業が、割安な価
格でそのサービスを活用している。
(3) 特許等のライセンス戦略
①ライセンス先の選定
VT においてライセンス・ポリシーは明文化されていない。ライセンスに際しては、共同研究企業に First
Right to Negotiate が与えられている場合を除き、複数の候補企業がある場合にはライセンス先を選定
47
することが必要となってくる。すなわち、独占的か、非独占的か、また、大企業か中小企業か、などを判
断することが求められる。
VTIP では CM が詳細な精査に基づき、方針を決定し、VTIP の President に了解を求める形式を取って
いる。判断の基準として、最優先されるのは Public Benefit がより大きくなる可能性があるかどうか、ライ
センスを受ける企業の商品やサービスの開発能力が高いか、そして、ロイヤリティ収入が大きくなるかの
3 点が用いられている。ただし、これらの基準により明確に判断される場合はまれであり、4 人いる CM と
President の合議で最終的な判断がなされる場合もよくあるとのこと。
②ライセンス料収入等について
現時点は VTIP のオペレーションが拡大段階の途中にあるため、VTIP のライセンス収入は 2009 年で約
$2M にとどまっている。これは米国大学では、かなり小さな規模に相当するが企業等からの費用補償受
領後の実質的な VT 負担特許費用が$100K に抑えられているなど、極めて堅実な経営体制となってい
る。このような中で、毎年の$100K の新規ライセンス収入を生み出す新規案件の確保に努めているとこ
ろであり、今後、ライセンス収入が増加していくことが見込まれる。
6. 人材育成・確保
人材育成のプログラムを別途 VTIP で用意しているという訳ではなく、適切な経験・知識を有する人材を
雇用し、OJT によってトレーニングしているというのが実情のようである。VTIP では不足する人材の確保
のために、VT 本体から 4 名程職員を受け入れている。これらの 4 人は全て Case Manager としての任
についており、VTIP で主要な役割を果たしている。
Case Manager の下に配置されている事務スタッフについては、見落とされがちであるが、CM のパフォ
ーマンスの向上に極めて重要とのことであった。これらの事務スタッフは、CM が交渉やマーケティング
等の「本業」に専念できる環境を作り、そして、個々の業務・活動について明確に記録を残すという重要
な役割を担っている。こ のため、 VTIP では AUTM'The Association of University Technology
Managers(31等の研修・講習に積極的に事務スタッフも派遣している。
なお、VTIP におけるインセンティブ・ペイメントについて聞いてみたところ、そのような制度は導入してい
ないとのことであった。その理由としては、CM がやり易い仕事をえり好みするようになる、ライセンス先
発掘などの成果はマーケティング努力以上に「運」に左右されやすいというものであった。
7. 発明の権利化に係る支援
(1) 特許の取得・管理体制
特許の取得は全て特許事務所にアウトソーシングされている。ただし、VTIP の支出の大半を占める特
48
許出願経費の節約のために、特許の仮出願は全て自前で 2008 会計年度より実施している。
(2) 特許の活用戦略
年間約 200 の発明開示が VTIP に対して行われるが、これら全てについて特許申請がなされているわけ
ではない。特許申請費用は大きな支出項目となっているため、特許申請する技術の個数を厳選する必
要がある。
このため、VTIP では発明開示を受けた後、①研究者への徹底したインタビュー、②インタビュー結果を
裏付けるための独自の二次調査、③当該技術を巡るマーケット調査、を実施している。これらの初期的
な調査結果が良好なものについてのみ、まず、自ら'特許事務所を用いずに(Provisional の申請が行わ
れる。
そして、9 か月以内に更に詳細な調査を続け、ライセンシーの確保できたもの、確保できそうなもの、At
Risk ではあるもののビジネス・ポテンシャルの高いと思われるもの、について実際に特許事務所を用い
て特許出願を行っている。このような方針を徹底することにより、2009 会計年度においては、発明開示
175 件に対して、Provisional 申請 82 件、本申請 27 件という結果となっている。'ただし、年度を跨ぐ案
件もあるため、特許申請件数には前年度以前に発明開示を受けたものも含まれていることに留意が必
要(。
(3) 特許出願費・管理費の財源
① 特許費用の規模
VTIP は特許申請費用を 25%削減することを目標に掲げている。具体的には申請件数の厳選、ライセン
ス先からの特許取得費用の補償等を徹底することにより、2009 会計年度では全特許関連費用が
$568,137 に抑えられた。さらに、企業等から補償された特許関連費用が$462,275 に上り、実質的な特
許費用負担は$105,862 となっている。
② 特許費用の財源
ライセンス等収入から差し引かれる間接経費相当額が VTIP に割り当てられ、VTIP の自主財源となって
いる。具体的には、ライセンス等収入の 15%が VTIP の収入となる。ただし、これらの額では特許費用や
VTIP のコストを全て賄える状態となっていない。このため、VT 本体からの財政支援が行われ、年間数
億円規模の支援に加え、先に述べた Case Manager の人件費相当額が支援されている。
Case Manager へのヒアリングによれば、今後数年で財政的に VTIP が自立することを目指し、Case
Manager の所属も VT から VTIP へ変更される予定とのことであった。
49
(4) ロイヤリティ収入の分配方法32
他の大学と異なり、発明者の取り分が多くなっていることが大きな特徴である。間接経費分 15%を差し
引いた残りの 50%が発明者に配分されている。また、発明者の属する学部等への配分が極めて尐なく
間接経費控除後の 10%しか配分されない。このため、近年では発明者の属する学部、特に研究センタ
ーから、配分方法の見直しの要望が強く出されているところ。
VT におけるロイヤリティ収入の配分方法・手順
⑪ まず、ロイヤリティ収入の 15%を間接経費相当分として VTIP へ配分
⑫ 残りの金額の 50%を発明者へ還元
⑬ 残りの金額の 10%を学部等へ配分
⑭ 残りの金額の 40%を VT 本体へ配分。
なお、④の VT 配分額はそのまま VTIP へ配分されている。
8. 成功事例・失敗事例
VT は伝統的に農業分野が強い、現在でもロイヤリティ収入の約半分は農業関係技術、獣医学関係技
術となっている。主なものは、種、苗などの品種改良に関する技術や幼い豚がかかり易い疾病の予防に
関する技術などが挙げられる。また、近年では化学分野を中心にライフサイエンス、薬剤関係の技術も
増えてきているようである。
9. 大学間・地方自治体との連携
距離的にバージニア州政府と離れていることもあり、州政府とは情報交換程度の交流にとどまっており、
具体的なプロジェクトは存在していないようである。ただし、近郊にあり医学系の分野で強い Wake
Forest 大学と従前より医工連携を積極的に展開しており、医療技術分野等での研究が進められてい
る。
2010 年からは Wake Forest との連携の経験を踏まえつつ、悲願の医学部が設置される予定となってい
る。
50
Wake Forest University
'ノース・カロライナ州(
51
1. 背景
(1) ノースカロライナ州 Piedmont Triad エリアの産学官連携の状況
ノースカロライナ州の中西部に位置する Piedmont Triad は、ノースカロライナ州内で二番目に大きい産
業地区である。Winston-Salem、Greensboro、High Point の三都市が含まれていることから、Triad と
呼ばれるようになった。この地区には、Wake Forest University, University of North Carolina at
Greensboro、North Carolina A&T State University があり、Piedmont Triad への重要な知の供給源と
なっている。Piedmont Triad 地区は、元来、ラーレイ市からシャーロット市あるいはテネシー州に抜ける
ハブ都市となっており、ロジスティック関係の企業が多く集積している。
また、近年ではバイオ産業の中心地区としても発展してきている。その理由として一番大きいのは、
Wake Forest 大学'WFU(の存在と言えるであろう。特に WFU の医学部は産学官連携が盛んで、これ
までに数多くの製品、またスタートアップ企業を生み出している。Winston-Salem 市内には、Piedmont
Triad Research Park'PTRP(33 が所在し、WFU の技術移転オフィス'Office of Technology Asset
Management(も当パーク内に入居している。PTRP 内には他に、Piedmont Triad Partnership'PTP(34、
NC 州政府 35、ノースカロライナ・バイオテクノロジー・センター'NCBC(36 Piedmont Triad 支部など、地
域産業の支援団体がすべて集積している。また、インキュベーション施設もパーク内にあり、WFU から
スタートアップした企業が入居し、技術開発に努めている。つまり、パーク内には産学官に必要な組織が
すべて集結し、Piedmont Triad の産業発展に働いていると言える。
また当地区には、検査試薬会社で最大の LabCorp、大手製薬企業の Novartis、また植物研究会社とし
て最大の Syngenta などがその研究所を Piedmont Triad 内に構えており、その所在理由としては、この
地域にはハイテク、ハイクオリティーの人材が揃っていることを挙げている。
52
(2) ノースカロライナ州政府の産学官連携政策の概要
ノースカロライナの特徴は、シリコンバレーやマサチューセッツ州ボストン周辺のような自然発生的にで
きた産業集積とは異なり、むしろ州政府の忍耐強い政策立案と実行の下、現在の全米バイオクラスター
3 位という地位を獲得したと言う方が適切である。リサーチ・トライアングル・パークは 1959 年に構想が
立てられたのち、州政府による積極的な企業誘致活動、また企業が求める人材育成事業、そしてベンチ
ャー企業支援を徹底したことにより、徐々にハイテク企業数を増やし、雇用数を増やしてきた。
州内の産学官連携は基本的に商務省のリーダーシップの下、政策立案を行っているが、各機関・各地
方・各大学ともに自己のイニシアティブでプロジェクトを進めている。州政府立案→各機関がそれに従う
という単方向の協力ではなく、大学・地方が独自にプロジェクトを立案し、独自の資金集めを行い、その
結果として州政府に協力を求めるという、下の方向からの動きも著しい。
その中でも、ノースカロライナ・バイオテクノロジー・センター'NCBC(、Council for Entrepreneurial
Development'CED(37、NC BioNetwork (NCCCS)38 の存在は大きい。NCBC は州政府の直下でベン
チャー企業に対してローンやグラントを提供しハイテク技術の開発を支援している。また、CED は全米で
最も古いベンチャー企業支援組織として、起業家の育成セミナーを随時開催、またセミナー等を開催し
起業家向けネットワーキングの場を多く提供している。また NCCCS は新卒を含め、既存の労働者の再
教育を行うことが大きな目的として州内に約 100 の校舎を持っている。この組織は、特定の企業の需要
に応じての、専門分野の教育・訓練を行っており、即企業戦力として働ける実力をつけることを目的とし
ている これによりノースカロライナのリサーチ・パークあるいは、リサーチキャンパスの良質な労働力の
供給に貢献している。
2. 産学官連携ポリシー
(1) WFU の産学官連携の歴史 39
Wake Forest University(WFU)は現在ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムに所在するが、その校
名は、ノースカロライナ州にある創立当初のキャンパスの所在地が「ウェイクの森」(Forest of Wake)と
呼ばれていたことに由来する。現在は Winston-Salem 市内で最も大きな私立の総合大学として存在す
るが、1834 年に創立された当初は農園の労働者を育てる単科大学としてバプテスト派の牧師によって
設立された。1828 年に「肉体」労働システムが禁止され、南北戦争中に大学は一時完全閉鎖となったが、
新たに就任した総長らのリーダーシップにより 1894 年には、法学部が設立され、また 1902 年には医学
部が設立された。さらに 20 世紀初頭に、生物学者が総長として就任して以来、多くの優秀な科学者を雇
用し、大学の質を上げていった。その後、当医学部は 1941 年に Z. Smith Reynolds によって買収され、
Winston-Salem 市に移籍し、その後次々と学部を増やして行った。1961 年に大学院を設立したのち、
1967 年についに、単科大学から総合大学としての認定を受けた。
53
WFU 内に技術移転オフィスが設立されたのは、総合大学として認定を受けて 16 年後の 1983 年である。
当初は、Duke 大学のサテライトオフィスとして設立された。その為、オフィスは、Duke 大学のシステムに
沿って運営され、特許化とライセンスがその作業の中心となっていた。WFUの技術移転オフィスは徐々
に知的財産の数を増やして行き、1987 年には独自運営となった。ただし、設立当初は技術ライセンスに
加えて、企業との共同研究や委託研究の管理も行っていた。1990 年初頭の技術移転オフィスの優先事
項は、特許化、商業化に係る出費をライセンス収入で賄うことが中心であったが、その後尐しずつ、スタ
ートアップ企業の支援と Equity の取得の検討へとシフトしていった。また、WFU の技術移転オフィスは
1999 年に一大改革が行われた。これにより、それまで当オフィスの役割とされていた、共同研究契約、
MTA 契約などは、すべて Office of Research and Sponsored Programs へと移管された。またこの時、
Office of Technology Asset Management (OTAM) という名称が付けられた。
(2) WFU の産学官連携ポリシー40
WFU の産学官連携ポリシーは、以下とされている。
1. 発明者の研究やアイディアの発展を支援すること
2. 地域社会が求める技術を大学から産業界を通して提供すること
3. 発明者、学生、教員、大学の発明を法的に守ること
WFU の使命は地域社会の経済発展をリードすることであり、OTAM はそれを支援することである。
54
3. 大学の産学官連携体制
(1) WFU の産学官連携組織体制
WFU における産学官連携関係組織とその関係図
WFU President
WFU CEO Baptist Medical Center
Provost
President WFU Health Science
Dean, School of Medicine
Associate Provost for
Research
Chief Operating Officer
Office of Research and
Office of Technology
Sponsored Programs
Asset Management (OTAM)
・ 内部・外部資金申請サポート
・ 技術の評価
・ 共同研究等の窓口
・ 特許申請
・ 共同研究の実施に係るルールの策定
・ ライセンス交渉
・ CDA・MTA 契約
・ 商業化の手伝い
・ 輸出規制の窓口
・ 起業支援
・ 政府からの補助金情報の提供
Business School
Patent Advisory Committee
・ 技術の評価
・ 特許申請を行うか決定
・ 特許の帰属について精査
4. 関連組織間の役割分
・ インターンとして派遣
・ 技術移転について学ぶ
・ ビジネスプランの作成
・ 商業化戦略を練る
・ スタートアップ企業支援
55
(2) 関連組織間の役割分担
Office of Technology Asset Management (OTAM) と Office of Research and Sponsored
Programs
先に述べたとおり、OTAM は 1999 年の改革を迎えるまで、技術の特許化、ライセンス、共同研究契約、
MTA などの契約業務すべてを一括で担当していた。しかし、1999 年に就任した Director Spencer
Lemon により、大々的な構造改革が行われ、これまで Dean of Research’s Office 下に所在したオフィ
スをメディカルセンターの下に移籍させ、報告はすべて COO (Chief Operating Officer)にすることとなっ
た。このように報告先を COO にすることにより、OTAM は基礎研究ではなく、より商業化に近い技術に
集中することができるようになった。また、COO は研究の観点からではなく、ビジネスの観点からの成果
を見るため、より効果的な活動が可能となった。これと同時に、これまで OTAM が請け負っていた、共同
研究契約、MTA 契約は完全に Office of Research and Sponsored Programs が引き受けることとなっ
た。
OTAM は設立以来、このような大きな改革を経た後、医学部のある研究者によって発明された技術で大
成功を得て、現在では毎年莫大なロイヤリティ収入を得ている。結果として、ロイヤリティ収入ランキング
では昨年は全米 4 位、研究投資家とロイヤリティ収入から算出した“Return on Investment”では2位とい
う報告が得られている。WFU の組織改革による技術移転の成功に関心を持った NC 州に本部の持つ世
界最大シンクタンク RTI International は、数年前に WFU の OTAM を調査し、報告書をまとめている。
それによると、成功の秘訣の一つは、強力な WFU の大学本部の協力であると述べられている。1999 年
に OTAM が構造改革を行った際、OTAM は大学本部とある契約を交わした。それは、結果を出すには、
ある程度の時間と有能な人材が必要であるということ。成功には最低 5 年かかる為、まず 5 年間忍耐強
く協力してほしいとのことであった。大学本部は OTAM の望む通り、新しいプログラム運営の為に、トップ
ランクの人材を雇用することに最も力を注いだ。
The Patent Advisory Committee
WFU の総長が指名する者によって大学 Patent Advisory Committee (PAC) が組織されている。
PAC は、
1. OTAM の役割・活動についてアドバイスをする
2. セメスター毎会議を持ち、OTAM の活動をまとめた報告書を受理し、それを総長へ報告する
3. OTAM が提示した、特別な事例等について検討、指示をする
4. 特許ライセンス契約等で問題が生じているケース、または契約の締結について最終調査・検討をす
る
56
委員会には 6 名の教員が含まれており、4 名は科学研究に携わっている者でなければならない。また委
員の一人は経営学科・ビジネススクールから選出された者である。
(3) 人員体制等 41
OTAM には現在 Director を入れて 8 名のスタッフが常勤している。具体的な人員構成は、局長を含めた
プロフェッショナルスタッフ'技術評価・特許申請・マーケティング・ライセンス・交渉・契約など(5 名とサポ
ートスタッフ'秘書、データ管理、経理など(3 名である。1 人のプロフェッショナルスタッフは通常、5~10
のアクティブケースを管理している。また現時点で 5 名のインターンを受け入れており、彼らは OTAM に
開示された技術の新規性、特許性、市場性を調査する役割を与えられている。就業時間は'4-6 時間/週(
で、無償と有償のケースがある。
Office of Research and Sponsored Programs の人員体制については、OTAM に確認したところ 40~
50 名の人員を抱えているとの事。
4. 共同研究等に関する取り組み
(1) 民間企業からの資金を獲得するための戦略
WFU では外部資金獲得は基本的に研究者が中心となって行う。民間企業からの資金的な援助につい
ては、特に研究者が学会発表や論文発表を行った際、企業よりアプローチを受けることが多いとの事。
とは言うものの、現在大学が得ている共同研究の 75%は政府からであり、残りの 25%も、多くはある特
定の団体が支給する基金であり、そのうちの数%が民間企業から得られる資金となる。また、通常民間
企業から得られる研究費は政府資金に比べて額が小さく、また期間も短いものが多い。
(2) 共同研究等から生じる知的財産のマネージメント 43
WFU の IP ポリシーによると、発明また特許に係る管理上の責任はすべて大学総長にあると述べられて
いる。総長はすべてあるいは一部の責務を、総長自身が人選した者にその権限を委任することができ
る。
教員と学生から生まれた研究成果は次の場合において、すべて大学に帰属する。
1. 授業の一環から生まれた成果
2. 教員の通常の業務内で生まれた成果
3. 大学の予算または大学の施設内で生まれた成果
57
しかしながら、教員が大学以外の資金あるいは施設を用いて発明を生んだ場合、原則としてそれは個人
の発明として扱われる。また、大学以外の組織'政府、プライベート資金、企業等(より支援を受けて行っ
た研究から発明が生まれた場合、相手組織と事前に交わした契約書に特別な記載がない場合、その発
明は大学に帰属することになる。いずれにしても、教員は他組織から研究費を受け取る場合は、必ず大
学本部を通じて然るべき契約を行わなければならない。
OTAM と Office of Research and Sponsored Programs は随時頻繁に行き来し、情報交換をしている。
その為、共同研究から知的財産が生まれた場合、Office of Research and Sponsored Programs は該
当案件を OTAM に速やかに連絡をし、OTAM は早急に出願内容について相手企業と細かな調整を行う
こととなる。
OTTへのヒアリングによれば、他大学と共同出願した特許に係るライセンスについて、他大学と密接に
連携しているとのことであった。具体的には当該特許について特定の企業からライセンスの打診があっ
た場合、共同出願した大学のうち一大学が窓口として代表して交渉に当たり、ロイヤリティは大学間で分
配しているとのこと。また当該企業側にしても、全ての関係者と交渉していることが確認でき、好ましいと
のことであった。
5. 技術移転に係る取り組み
OTAM の技術移転に係る取り組みの一つとして重要なのが、インターナル・マーケティングである。これ
は、研究者に対して技術移転の存在をアピールするという活動である。OTAM によると、技術移転の成
功には、研究者の技術移転に対する理解と熱意が必要不可欠である。
商業化成功には、発明者の、
1. アイディアが革新的であること:常に商業化の可能性を見ている
2. 発明が産まれたら速やかにOTAMに報告すること:知的財産を保護する必要があることを理解して
いる
3. 市場を見ていること:積極的に企業と共同研究をし、社会ニーズを意識している
が重要であると、OTAM は言っている。もちろん、WFU の研究者全員が、技術移転指向ではない。
OTAM の職員によると、大学には二種類の研究者がいる。技術移転は地域貢献に繋がり大変遣り甲斐
があるという考えの研究者と技術移転は基礎研究への集中力を奪うものでしかないという考えの研究者
である。WFU では、技術移転に積極的な研究者は尐ない。しかしながら、WFU 内のすべての研究者は
尐なくとも技術移転の存在は知っておく必要があると言っている。
このような技術移転指向の環境をどのようにして大学内で育てるかと言うと、まず WFU では研究者の雇
用を知的財産の保有実績を基に行う。また、常時各部局の研究局長と技術移転について議論をし、そこ
58
から各研究者に技術移転の重要性をアピールしてもらう。そして、一番効果的なのは、やはり OTAM が
研究者の方で出向きその存在をアピールすることである。特に、技術の商業化に成功した事例を紹介す
るセミナー等を開催することで、多くの研究者に技術の商業化に興味を持ってもらうことが非常に重要で
あるとしている。また、発明が生まれたとき、誰に連絡をすればよいかということを明確にすることが何よ
りも大切であるとのことである。このように、技術移転を考えるとき、まずはイノベーションの起こりやすい
環境を提示することが成功へのカギとなる。
(1) 技術のマーケティング方法・体制
研究者から技術開示があった際、OTAM はまずその技術に新規性があり、特許化が可能であるかどう
かを十分に精査する。USPTO の検索システムを使い、類似した特許がないかどうかを調査する。類似
した特許を保有する企業は、つまりライセンス先としても可能性がある。商業化の可能性が得られると評
価された場合、まず特許仮出願を行うが、この時点ですでに十分なマーケティング調査および活動を行
うため、Provisional を申請した特許の多くを本出願することとなる。
OTAM 曰く、実際にそのロイヤリティ収入が得られるのは、9 件のライセンス契約中1件であるとの事。さ
らに、得られたロイヤリティ収入が特許費用や間接経費等を上回るのは、ライセンス契約中 20 件のうち
たったの1つであるとのこと。その為、一つの技術に付き多くのライセンス候補先を見つけることが成功
への秘訣であると述べられている。
過去 5 年間の OTAM のライセンス契約の確率を単純計算で見ると、出願特許 140 件に対して、ライセン
スに結びついたケースは 47 件、つまり約 33%の確率であることが分かる。これは、2000 年初頭のライ
センス契約率が約 80~90%であることに比べると、かなりの落ち込みである。しかしながら、現時点に
おいては、OTAM のライセンス収入等が多く、特許申請に係る費用を支払う為の資金が潤沢にある故、
申請件数が多くなっていることの結果とも考えられる。
Email および Website の活用
特許仮出願を行った後、ライセンス先が見つからない技術については、マーケティング用の技術概要を
作成し OTAM の Website に掲示する。現時点で OTAM の Website にはライセンス可能な技術全てで
はなく、厳選された 17 の技術が紹介されている。技術要旨は PDF として 1 枚ごとダウンロードできるシ
ステムになっており、Email によって関係者間で容易に転送等ができるようになっている。OTAM の現職
員に話を聞いたところ、ほぼ 100%の確率で問い合わせは入るが、実際に契約に結び付いたケースは
尐ないとの事であった。
59
技術開示
A 特許を申請
商業化の評価
B 特許申請に係る費用を十分に確認
知的財産保護
市場調査
C ポートフォリオ・アプローチ:一
D スタートアップ企業に必要な
マーケティング
つの技術につき複数の契約先を探す
資源(資金・人材)を与える
ライセンス
起業
(2) 研究成果を実用化するための大学内での支援システム・大学発ベンチャーの支援 44
1999 年の改革以来、OTAM はスタートアップ支援を行うことを大学から許可され、またその Equity を取
得することも認可された。その理由として、WFU の所在する Piedmont Triad 地区には、スタートアップ企
業を支援するコンサルティング会社やベンチャーキャピタリストが尐ないことが挙げられる。この為、
OTAM 内には起業に精通な人材が置かれ、民間コンサルティングと同様な起業支援を行っている。また、
大学のビジネススクール内に、インキュベーション施設'Babcock Demon Incubator(があり、WFU 発ス
タートアップ企業はまず、このインキュベーション施設に入居する。
当インキュベーション施設には現在 7 社のスタートアップ企業が入居しており、施設内には実験施設も配
備されているが、レンタル期限が一年間ということもあり、多くはビジネスプランの作成、マーケティング
キャンペーン、投資家向けの発表資料の作成等のスキルを身につけに来ている。スタートアップ企業の
CEO は多くの場合、教員ではなくスタートアップ経験が豊富な CEO を雇用する。
OTAM は、スタートアップに必要となる人材、特にビジネスに精通している CEO、また法務に詳しい者を
探し、起業が研究者の「おままごと」で終わらないよう、マネージメントチームの立ち上げをサポートする。
またベンチャーキャピタルやエンジェルファンドへ掛け合って資金獲得の支援を行ったり、発明者に代わ
ってビジネスプランを書くこともある。因みに、過去 5 年間で OTAM から立ち上げられたスタートアップの
数は 6 社である。一見尐なく見えるが、WFUはそもそも医学部を中心とした中規模の大学であり、毎年
開示される技術の数は NCSU に比べて半分~1/3 程度である。また、プロフェッショナルスタッフがたっ
たの 4 名という環境内でのスタートアップ支援は多大な労力と時間を費やし、OTAM としては決して楽で
はない。しかしながら、WFU からスタートアップ企業が地元に進出することにより、地域に雇用を増やす
60
ことで、WFU の使命である地元の産業発展への貢献が可能となることから、市場価値が高いと思われ、
また研究者の熱意がある場合、OTAM は積極的にスタートアップ支援に乗り込む。
(3) 特許等のライセンス戦略
①ライセンス先の選定
OTAM がライセンス先を決める際、最も気をつけていることは、相手企業が大企業であるかどうかという
ことよりも、研究者がその契約内容を気に入るかどうかである。相手企業がいくら高い契約金を提示して
きても、研究者がその契約内容を気に入らなければ、契約は成立しない。またライセンスが成立した場
合、企業との関わりはそれから 5 年 10 年と続いていく為、研究者と相手企業の担当者の相性が良いか
どうかも重要な選定基準となってくる。
②ライセンス料に係る方針
OTAM にはライセンス契約用のひな型はあるものの、ケース毎に外部の法律担当者と共に修正し、相
手企業に提案する。他大学同様、OTAM は独占または非独占契約の二つのオプションが設けられてい
るが、多くの場合独占契約を行う。ただし、企業での製品開発が進まない場合、OTAM はその実施権を
買い戻すこともあるとの事。
6. 人材育成・確保
産学連携従事者の資質、育成、確保
WFU では、OTAM のプロフェッショナルスタッフ 5 名のうち3名が Ph.D.保有者、1 人が MBA 取得者、
そして 1 人が企業出身者である。WFU は優秀な人材獲得する為に多大な力を注いでいる。まず、
Director となる人間は必ず十分なライセンス、またスタートアップ支援の経験があることが非常に重要で
ある。技術移転オフィスを立ち上げる際如何に優秀な局長を得られるかが、成功へのカギである。そして、
優秀な人材を獲得する為には、それなりの高給料を提供する必要があるとしている。また、OTAM 内に
Ph.D.取得者が居ることは非常に重要である。多くの場合、Ph.D.取得者はサイエンスに精通である事に
加え、後にビジネスマインドを磨くことができるが、ビジネスから来た人間が後からサイエンスを理解する
ようになるのは非常に困難であるとの事。また、Ph.D.取得者は教員からの信頼を得られ易い。地元投
資家や企業と繋がりを持っている人材を雇用することも必要である。また、OTAM で雇用される人材は
Cold Call'売り込み電話(を惜しみなくできる人間である必要がある。また、OTAM のスタッフはみな、
AUTM の講習会に参加し、技術移転の研修を受けている。さらに、OTAM では毎年、数人のインターン
を有償あるいは無償で受け入れ、OJT を提供している。インターンの多くはビジネススクールまたは大学
院生である。
61
7. 発明の権利化に係る支援
(1) 特許の取得・管理体制
OTAM へ開示されてきた技術はまず、分野別に担当者'ケース・マネージャー(が割り当てられる。ケー
ス・マネージャーを選任することにより、発明者との関係が充実し、また技術についての問い合わせが入
った際、敏速に対応することが可能である。ケース・マネージャーが決まると、まず商業化の可能性につ
いて、個々に十分に吟味する。この段階で商業化が難しいと判断された技術については、発明者に更な
る開発が必要と説明をし、技術を研究者に戻す。過去 5 年間のデータを平均すると、OTAM は毎年約 60
件の技術開示を研究者より受け、そのうち約半分'30 件(について米国特許出願をしている。特許出願
の比率は 1999 年に組織の改革が行われてから数年間縮小傾向にあったものの、2005 年よりまた出願
件数が徐々に増えてきている。その理由として一番に考えられるのが、WFU の過去 5 年間のライセンス
収入である。2005 年からのデータを見ると、ライセンス収入は 2005 年で約$50M だったのが、2009 年
には二倍の$100M 弱にまで増加している。つまり、現時点で OTAM は潤沢な運営費を元に多くの優れ
た技術について特許出願することが可能な、非常に恵まれた環境に置かれていると言える。
Knowledge Sharing System45 の活用
WFU も NCSU 同様、OTAM に開示された技術および保有特許情報は Knowledge Sharing Database
System(KSS)を用いて管理している。しかし、Office of Research and Sponsored Programs とは当シ
ステムは共有化していないとの事。
(2) 特許の活用戦略
OTAM は商業化が確定されていない技術についても、特許出願をすることが資金的に可能である。しか
しながら、OTAM では特許仮出願の前に必ず十分な市場調査等を行い、商業化の可能性があるかどう
かを精査する。そして、可能性があると判断された技術について特許仮出願を行う。特許仮出願により、
本出願前に一年間技術の新規性を確保することができ、本出願に比べて費用が安い。スタッフ曰く、多く
の場合そのまま本出願に移行させるとの事であった。また、国際特許が必要と判断される技術について
は、PCT 出願も行うとのことである。
OTAM は特許活用方法として、企業へのライセンスだけではなく、スタートアップ企業の設立についても
常に検討している。大企業の思考は、過去 10 年間で研究開発からビジネス開発へと移行している。そ
の為、大学で発明された技術がそのまま大企業へライセンスされる事はますます難しくなってきている。
OTAM はそういった社会の変化に対応するため、約 10 年前よりスタートアップ企業支援プログラムを開
始している。スタートアップ企業として研究開発を行う為のファンドレイジングを行い、ある程度技術が成
長し商業化への可能性が高まった所で、大企業から企業ごと買収されることを期待している。
62
(3) 特許出願費・管理費の財源
WFU は約 20 年前に WFU の医学部の研究者により発明された技術により、全米ライセンス収入の過去
数年間で上位を維持している。具体的なライセンス収入額は、約 10 年前の 2000 年から徐々に伸びて
おり、2009 年には約$100M にまで達した。その為、OTAM は WFU にとっていわば、「利益センター」と
して存在している。特許出願経費および管理の財源はすべて、大学から OTAM に配分される運営費に
て賄われている。現在 OTAM は大学より毎年$3M の予算を受理しているが、その予算範囲の中で、人
件費、特許出願経費、管理費が賄われている。
大学内のイノベーション環境を育てる上で、報奨金の存在は重要である。WFU のロイヤリティ配分は現
在、第一に発明者に配布されるよう設定されている。ロイヤリティ収入総計 100%に対して、35%がまず
発明者に配布される。その後、10%が学部へ配布され、そして残りの 55%はすべて大学の収入とされ管
理される。WFU はロイヤリティ収入の割当がまず発明者に届くシステムを提供することで、より多くの研
究者らが技術の商業化への関心が高まることを期待している。
8. 成功事例・失敗事例
(1) 成功事例
WFU が全米ライセンス収入ランキングで過去数年間トップ上位に挙がる理由となった成功事例が下記
技術である。
The V.A.C.®
今から約 20 年前に WFU の医学部の研究者らによって発明された当技術は、傷口にプラスティック素材
でできたバンドエイドを貼り、陰圧をかけて傷の修復を促進させるという技術である。これにより余分な体
液や血液を容易に除去することができ、感染症を防ぐことが可能である。当技術によって商品化された、
“Vacuum-Assisted Closure (V.A.C.)”は 1995 年に FDA の認可を受けて以来、火傷、床ずれ、糖尿病
に伴う潰瘍など多種多様の傷に多く利用されるようになった。現在では世界中の病院、また戦場での負
傷における緊急処置などにも活用されている。市場統計によると、現在一億人以上の米国人が当商品
を利用しているとの事。ポータブル式の為、自宅での使用も可能で、患者がわざわざ病院に行かなくても
治療ができるという手軽さも、その成功の理由の一つであろう。
(2) 失敗事例
1996 年にある研究者より開示された技術で、従来のステントの端にひだの様なものを付けることで血管
の再狭窄を防ぐというものがあった。コンピュータ・シュミレーションを用いて、当技術が有効であることを
63
証明した後、ジョンソン&ジョンソンと共同で動物実験を行ったが、結果は元来のステントと全く変わらな
いというものであった。しかし、治験が成功しなかった理由として、対象とした冠動脈が広すぎたのではな
いかと、諦めがつかない研究者に対して、OTAM は更なる動物実験に必要な資金を与え、豚を用いた治
験を行った。しかしながら、やはりその治験も失敗に終わり、この技術について更なる開発を行うことは
中断したとの事であった。
9. 大学間・地方自治体との連携
Piedmont Triad地区は、86のバイオサイエンス関連企業と、179のそれをサポートする企業が集積する
バ イ オ テ ク ク ラ ス タ ー と な っ て い る 。 Winston-Salem の PTRP に 加 え 、 Greensboro に は Gateway
University Research Park46 が 存 在 す る 。 こ の リ サ ー チ ・ パ ー ク は 、 North Carolina A&T State
Universityとthe University of North Carolina at Greensboroとの協力により、大学の研究技術を当パ
ーク内のハイテク企業へ技術移転することで、地域の産業発展を促進させる為に作られた。近年、
Gateway Campusには、この二大学間の融合大学院として、ナノサイエンスとナノエンジニアリングを専
門とした学科が設立され、地域へ新しい産業分野の発展を提供する形となっている。
64
North Carolina State University
'ノース・カロライナ州(
65
1. 背景
(1) ノースカロライナ州の産学官連携の状況
1959 年に州政府・大学・不動産事業を中心とした企業家の連携によって発足したリサーチ・トライアング
ル・パーク'RTP(47 には、現在研究開発を中心とした企業が約 170 存在し、その半分はスタートアップ企
業という実績を持っている。
RTP の周辺には、全米で最も古い州立大学であるノースカロライナ大学、私立大学として多くの著名人
を輩出し、全米大学ランキングで常に上位を確保しているデューク大学、そしてライセンス収入ランキン
グで毎年上位にランクインしているノースカロライナ州立大学が存在し、地元企業に対して多くのハイテ
ク人材を供給している。
またノースカロライナ州は温暖な気候と生活費の相対的な安さなどから州外からの移住率が高く、州の
人口は 2000 年に 800 万人を超えてから急速に増加している。恵まれたロケーションと優れた輸送ネット
ワークで、企業立地に関する月刊誌「サイトセレクション誌」が毎年行う「ビジネス環境ランキング」では
2005 年、2006 年に続き、2007 年度もナンバーワンに選ばれた。
「起業」を支援する組織やプログラムも豊富で、ベンチャー企業法務・会計・税務に詳しいプロフェッショナ
ル・サービスが多く存在し、ベンチャー企業が成長しやすい環境であると言える。実際、スタートアップ企
業から始まり、今では世界規模の大企業まで成長した企業が数多く存在する。
(2) ノースカロライナ州政府の産学官連携政策の概要
ノースカロライナの特徴は、シリコンバレーやマサチューセッツ州ボストン周辺のような自然発生的にで
きた産業集積とは異なり、むしろ州政府の忍耐強い政策立案と実行の下、現在の全米バイオクラスター
3 位という地位を獲得したと言う方が適切である。リサーチ・トライアングル・パークは 1959 年に構想が
立てられたのち、州政府による積極的な企業誘致活動、また企業が求める人材育成事業、そしてベンチ
ャー企業支援を徹底したことにより、徐々にハイテク企業数を増やし、雇用数を増やしてきた。
州内の産学官連携は基本的に商務省
48
のリーダーシップの下、政策立案を行っているが、各機関・各
地方・各大学ともに自己のイニシアティブでプロジェクトを進めている。州政府立案→各機関がそれに従
うという単方向の協力ではなく、大学・地方が独自にプロジェクトを立案し、独自の資金集めを行い、その
結果として州政府に協力を求めるという、下の方向からの動きも著しい。
その中でも、ノースカロライナ・バイオテクノロジー・センター'NCBC( 49 、Council for Entrepreneurial
Development'CED(、NC BioNetwork (NCCCS)の存在は大きい。NCBC は州政府の直下でベンチャ
ー企業に対してローンやグラントを提供しハイテク技術の開発を支援している。また、CED は全米で最も
66
古いベンチャー企業支援組織として、起業家の育成セミナーを随時開催、またセミナー等を開催し起業
家向けネットワーキングの場を多く提供している。また NCCCS は新卒を含め、既存の労働者の再教育
を行うことが大きな目的として州内に約 100 の校舎を持っている。この組織は、特定の企業の需要に応
じての、専門分野の教育・訓練を行っており、即企業戦力として働ける実力をつけることを目的としてい
る これによりノースカロライナのリサーチ・パークあるいは、リサーチ・キャンパスの良質な労働力の供
給に貢献している。(Wake Forest 大学に関する報告部分の一部を再掲)
2. 産学官連携ポリシー
(1) NCSU の産学官連携の歴史
ノースカロライナ州立大学(NCSU)50 はランド・グラント大学、つまり南北戦争中に制定されたモリル・ラン
ドグラント法により、農学、軍事学及び工学を教える高等教育機関を設置することを目的として州政府に
よって設立された大学である。その為、NCSU の Office of Technology Transfer (OTT)51 は、そのミッシ
ョンとして、「大学の発明をノースカロライナ州の利益となるよう地域へ還元すること」を第一に掲げてい
る。その結果として、NCSU の OTT は 1984 年の設立以来、全米の技術移転プログラムの中で常に 20
位以内にランクインされている。
(2) NCSU の産学官連携ポリシー52
NCSU の産学官連携ポリシーは、すべて The University of North Carolina (ノースカロライナ大学シス
テム) によって創出された特許および著作権ポリシーに則ってデザインされている。UNC ポリシーによる
と、1) 教員、学生によって大学内で発明された技術、2) 大学の教員が外部組織に雇われて発明した技
術、3) 大学の時間、機器、スタッフ、材料、情報そして資金を利用して発明された技術、全てが NCSU
に帰属するとしている。その為、商業化に発展しうる発明をした学内の教員および学生は、速やかに
OTT にその発明を開示しなければならないとしている。学内に設置された Intellectual Property
Committee(IPC)はこれらの技術を精査し、発明の所有権が NCSU にあるか否かを決定する。IPC によ
り技術が NCSU に帰属すると認定されたものにつき、必要に応じ OTT は特許申請手続きを行い、企業
へのラインセンスあるいはスタートアップ企業の設立を支援する。
NCSU OTT の Director によると、OTT の使命は大学内の研究者や学生によって発明された新しいアイ
ディア、デザイン、機器等を地域社会、特に NC 州へ還元することを援助することである。すなわち、大学
のベンチレベルでの研究を企業の協力を得て市場まで発展させることを、支援することである。OTT は
大学の協力の下、知的財産に関する企業との契約について交渉し、作成し、そして管理している。また
発明者および大学を特許や著作権などの法務業務の面で全面的にバックアップすることが OTT の任務
であるとしている。
また、教員や学生個人が大学を通すことなく、外部組織と共同研究等の契約を交わすことは、UNC のポ
67
リシーに違反するとされている。外部組織との共同研究の契約等は学内に所在する、 Sponsored
Programs & Regulatory Compliance Services (SPARCS)53 が行う。研究者が外部との共同研究を進
める場合は、必ず上記オフィスへ報告し、内容を精査した後契約を交わす必要がある。
3.大学の産学官連携体制
(1) NCSU の産学官連携組織体制
他大学と同様、NCSU には研究成果の特許化、ライセンス等を行う Office of Technology Transfer
(OTT)と企業等との共同研究を管理する Sponsored Programs & Regulatory Compliance Services
(SPARCS)が存在する。OTT は特許の取得・管理、ライセンス交渉を主に行い、SPARCS は研究者の
内部・外部資金申請のサポートおよび企業等との共同研究窓口として、契約の締結、各種ルールの策
定等を担当している。また NCSU 独自の体制として、OTT、SPARCS 以外に、大学内に Office of
Extension, Engagement, and Economic Development (EEED)54 という組織が存在する。EEEDは非
常に大きな組織で、現在全部で 6 つのユニットから形成されている。産学官連携に係るすべての契約等
については OTT 及び SPARCS がそれぞれ一括して、全学組織として管理・運営しているが、EEED は
アウトリーチ、つまり外部組織との連携を推進する組織として存在する。さらに、 NCSU 内には、
Technology, Education and Commercialization Program (TEC)55 というプログラムが存在する。これ
はNCSUの経営大学院に設置されており、新規技術の目利き、商業化の戦略について学んでいる大学
院生のプログラムであり、OTT と強い繋がりを持っている。
68
NCSU における産学官連携関係組織とその関係図
NCSU Chancellor
Intellectual
Property Committee
・ 技術の評価
・ 特許申請有無の決定
・ 特許の保有権について
Vice Chancellor for Research
and Graduate Studies
精査
Sponsored
Programs
and
Office of Technology Transfer
Regulatory Compliance
・ 技術の評価
・ 内部・外部資金申請サポート
・ 特許申請
・ 共同研究等の窓口
・ CDA・MTA 契約
・ 利益相反規程等、共同研究の
・ ライセンス交渉
連携
実施に係るルールの策定
・ 商業化の手伝い
・ 輸出規制の窓口
・ 起業支援
・ 政府からの補助金情報の提供
Technology, Education and
Commercialization Program
Office of Extension, Engagement,
and Economic Development
・ 工学部と経営学部の学生が共同
・ 地域社会への協力を先導する
で技術移転の手法を学ぶ
・ 技術の市場性を検討
・ ビジネスプランの作成
・ 商業化戦略を練る
・ 各部局と各連携相手との情報交換
を支援する
・ ノースカロライナの産業と生活の
質の向上に貢献する
69
(2) 関連組織間の役割分担
Office of Technology Transfer'OTT(と Sponsored Programs & Regulatory Compliance
Services'SPARCS(
NCSU の OTT には現在 SPARCS の出身者が一人常駐している。このことからも、常日頃から OTT と
SPARCS が大学内の研究者についての情報交換を行いつつ、各々研究者から挙がってきた共同研究
や発明開示ケースを、状況に応じてそれぞれ対応していることが伺える。また、NCSU の OTT 内には、
研究者情報を管理するソフト Knowledge Sharing Database System(KSS)の担当者が常駐している。
このソフトは OTT と SPARCS 内のオンライン上でシェアされており、大学内研究者の共同研究情報、特
許情報、ライセンス情報が、共有で一括管理されている。KSS の担当者は常日頃から大学内の各部局
長、管理者と交流を持ち、学部内の最新情報を入手する。また、特許明細書、発明開示書類、契約書類
などを KSS 内に入力するなど、データベースの更新を中心に行っている。
Intellectual Property Committee (IPC)
OTT のライセンシング・アソシエートおよび主要学部から選出された教員で構成されており、月に一度知
的財産の評価会議が開催される。OTT に開示のあった技術を特許化すべきかどうか、また保有権を維
持するかどうか、各国移行するかどうかなど、大学が保有する特許について検討をする。また教員らが
大学のポリシーに沿って、産学官連携活動を行っているかどうか等も評価の対象となっている。
Office of Extension, Engagement, and Economic Development (EEED)
EEED はランド・グラント法の趣旨に従い、NCSU と地域社会が協力し、NC の産業をさらに発展させ生
活の質の向上に導くよう、相互間の関係を取り持っている。EEED はこれらの協力について構想を提案
し、またその活動に対してリーダーシップをとっている。NCSU の教員、スタッフ、学生は州が抱える問題
に対し、地域の産業界、官公庁、他大学の個人・グループなどと協力して、解決策を導くべく活動をして
いる。 ここで産まれた大学・産業間の共同研究は速やかに SPARCS へ報告され、また発明が生まれた
場合速やかに OTT に報告される。
(3) 人員体制等
OTT には 15 人の常勤職員が存在している。具体的な人員構成は、局長とその秘書、技術分野別に担
当分野を分けられた Licensing Associate が 6 人。その他、Business Development が1人、契約担当
が 1 人、MTA 担当が 1 人、経理が 2 人そして情報管理者が 2 人となっている。
SPARCS には 23 人程度のスタッフが常勤している。任務内容が 7 つに分かれており、それぞれ数名の
担当者が割り当てられている。
70
Leadership, Management: 5 名
eRA Assistance: 3 名
Systems Development: 3 名
Regulatory Compliance: 7 名
Export Controls Management Team:5 名
Negotiations:6 名
Processing:5 名
EEED は NCSU Vice Chancellor オフィスの直下にて運営されている。現在 16 名のスタッフが常勤して
おり、組織としては 6 つのユニットに分かれている。
Vice Chancellor Office Staff: 4 名
Cooperative Extension Service: 1 名
Economic Development Partnership:1 名
Henry Hugh Shelton Initiative for Leadership Development:3 名
Industrial Extension Service:2 名
Mckimmon Center for Extension and Continuing Education:1 名
Small Business and Technology Development Center:3 名
4.共同研究等に関する取り組み
(1) 民間企業からの資金を獲得するための戦略
NCSU は医学部の無い全米の州立大学の中で、企業からの共同研究費による収入が第三位である。
また、70%以上の教員が企業と共同研究契約をしている。これらの管理はすべて SPARCS にて行われ
ている。
また SPARCS は民間企業からの研究資金に留まらず、連邦政府、州政府、NIH などのグラント提出に
係る事務手続きをまとめて支援している。しかしながら、資金を獲得する為の戦略を SPARCS が提示す
るわけではなく、教員個人個人が独自の戦略の下、提案書を作成し提出している。SPARCS はそのウェ
ブサイトに常時、取得可能な内部および外部資金の情報を掲示しており、また申請書類等もサイトから
ダウンロードできるよう整備されている。それと同時に、教員が論文発表あるいは学会発表をして独自に
外部組織に対してプロモーション活動をすることにより、共同研究資金を獲得するケースも多いと言える。
また、大学として新しい共同研究先を獲得する為の戦略としては、先に述べた Office of Extension,
Engagement, and Economic Development (EEED)がその役割を担っているといえる。EEED では他
分野に跨る様々な支援プログラムが実施されているが、すべて地域社会との連携に関わるプログラムで
71
ある。社会のニーズを調査し、それに合った知識、人材、技術の提供を行うのが EEED の役目であり、
地域社会からのニーズと大学のシーズがマッチした場合、自然的に共同研究が成立する。
(2) 共同研究等から生じる知的財産のマネージメント
共同研究から知的財産が生まれた場合、研究者は速やかに Office of Technology Transfer へ報告を
する。共同研究が学内もしくは、相手が他大学、国の研究機関の場合、特許の共同出願契約は比較的
スムーズに行われる。
企業との共同研究契約に関しては、成果である知的財産の帰属先について、交渉が難航することが多く、
殆どの場合、契約書類の雛形はあるものの、先方とのやり取りの段階で相当な改定が必要になる。企
業は、自分達にとって有利になるような契約書類を提示してくる。ここで、OTT は弁護士の力を借りて、
NCSU および発明者にとって不利とならない様交渉を行っている。
5. 技術移転に係る取り組み
NC State University At A Glance57 によれば、NCSU はライフサイエンス分野において全米の大学中 3
番目に強力な特許リストを保持するとされている。また、過去三年間において、136 の保有特許が様々
な団体から特許賞を受賞している。この事からも、NCSU の保有する技術が如何に産業に近いものが多
いかが推測される。
(1) 技術のマーケティング方法・体制
NCSU の OTT では、各技術毎に Case Manager を置き、このケース・マネージャーがマーケティング戦
略、ライセンス交渉を担当し、個別に対応することとなっている。しかしながら、MIT 同様 NCSU の場合も、
発明者である研究者らが自らライセンスの話を OTT に持ち込むことが多く、ケース・マネージャーは日々
それらの対応に追われている。毎年 150 以上の新規技術開示がある NCSU であるが、常駐のケース・
マネージャーはたったの 6 名である。過去から継続するケースは現在 2600 以上で、1 人当たりのケース
数は単純計算で 400 を上回り、その多忙ぶりは想像を絶する。そこで、NCSU ではマーケティング活動
をインターンに担当させることが多い。インターンは開示のあった技術のマーケティング要旨を作成し、そ
れを NCSU OTT のウェブサイトにある TechFinder に掲示する。また Email を用いて、NCSU が持つ既
存のコンタクト先にアプローチをする。しかし、こういった方法によるマーケティングの成功率は極めて低
く'5%~10%(、非効率的との事である。その為、NCSU の OTT の中では、マーケティング活動は余力の
ある時にやるものとの意識のようである。なお一年に一度学内で技術ショーケースを行うが、契約に持ち
込めたケースはほとんどないとの事。
72
(2) 研究成果を実用化するための大学内での支援システム・大学発ベンチャーの支援
NCSU の学内には Technology, Education and Commercialization Program (TEC)というプログラム
が存在する。OTT はこの組織と連携を取り、学内の研究成果を実用化に結びつけている。
Technology, Education and Commercialization Program (TEC)
TEC プログラムでは、工学部と経営大学院の学生がチームを作り、新技術の目利きおよび商業化の手
法について学んでいる。具体的なコース内容は、工学部の大学院生と経営学部でビジネスを専攻してい
る学生がチームを作り、技術移転と市場性について学ぶ。生徒らは約一年にわたり、技術移転の 4 つの
フェーズ、市場価値のある技術の発掘、潜在的な商品・マーケットの評価、ビジネスプランの作成、商業
化プランの作成について学ぶ。彼らがコースの中で扱う技術の一部は、NCSU の OTT へ開示されてき
た技術であり、その評価をもとに OTT は特許を取得するか否か判断することもある。
また TEC の学生は、技術の商業化と同時に起業について学ぶ。過去 15 年間で、TEC は 200 人の生徒
を送り出してきたが、生徒らの働きにより、事実ベンチャーキャピタルから$120M もの資金を集め、それ
によりいくつものベンチャー企業が設立された。基となった技術は、NCSUのみならず、DUKE 大学、
NASA、研究所、個人技術者から生まれたものである。これらの企業はすべてノースカロライナ・リサー
チトライアングル・パーク内に所在し、250 もの職を生み出したことからも、TECの地域社会における存
在意義は非常に大きなものと言える。
(3) 特許等のライセンス戦略
①ライセンシング先の選定
大学で発明された技術が市場に出る為には、産業の協力が不可欠であるが、NCSU にはライセンス先
の選定について特別な戦略はうたっていない。NCSU が取り扱うライセンス契約の多くは、教員または
研究者が話しを OTT に持ち込むケースであり、その殆どは共同研究から始まっている。よい技術は放っ
て置いても企業が寄ってくると NCSU の担当者は言っている。研究者の論文もしくは学会発表を見て企
業は研究者にアプローチをする。該当する技術に特許があれば、そのままライセンス契約に繋がる場合
もあるが、特許がない場合は共同研究契約を結び、ある程度必要データが揃ったところで、共同で特許
出願をするようである。しかしながら、全く企業からアプローチを受けない技術については、まず NCSU
のウェブサイト上にある TechFinder に載せる。ウェブに載せると約 9 割の技術については企業からアプ
ローチを受ける。しかしながら、実際に契約に結びつくものは 5~10%との事。NCSU は契約の際相手
企業の資金力・技術等も見るが、交渉が決裂し、不成立に終わることもあるとの事。適当なライセンス先
が見つからない、あるいはもし発明者が技術を元に起業したいといった場合、OTT は研究者の起業を支
援し、その企業とライセンス契約を行うこともある。また、該当技術についてライセンス契約を交わす価値
があるかどうか、その時点で企業が判断できない場合、NCSU は企業に対してオプション契約を提供す
73
る。オプション契約は 6 ヶ月~一年間の契約で、この間に企業が求める試験を研究者が行い、随時その
データ企業側へ提示する。期間終了までに企業が納得するデータが得られた場合、企業は優先的にそ
の特許をライセンス契約することができるというシステムである。その為、オプション契約中は NCSU は
他企業へのライセンスを行うことができない。
②ライセンス料に係る方針
NCSU のライセンス契約には、独占また非独占契約の二つのオプションが設けられているが、NCSU は
基本的に非独占契約を推奨している。
OTTの Director によると、個々のライセンス契約内容はケースごとに異なる為、特に一律の単位を設け
ていないとのこと。ライセンス料およびロイヤリティの割合は、契約相手によって大きく変わる。また独占
か非独占かによっても契約内容は大きく変わってくる。相手が企業の場合多くが企業にとって有利となる
契約内容を提示してくる為、NCSU の OTT は外部弁護士を雇い、企業との交渉を行う。大学および研究
者にとって不利とならないよう、最大の努力を尽くすのが OTT の仕事である。ただし、ライセンス契約先
がスタートアップ企業であり、ライセンス料を支払う体力を持ち合わせてない場合、ライセンス料の対価と
して大学が Equity を受け取るような契約を交わす 56。
74
6. 人材育成・確保 '産学官連携従事者の資質、育成、確保(
NCSU の場合、OTT で働くすべての Licensing Associate が Ph.D.保有者であり全員が大学の研究者
出身である。多くは他大学の OTT でインターンを経て、NCSU の OTT に就職している。一年目の
Associate は必ず AUTM の Basic Licensing Course で研修を受ける。OTT 内に特別な教育システム
は用意されていないが、毎年、数人インターンを受け入れ、OJT を提供している。インターンの多くはロ
ースクールの学生で、研修終了後弁護士事務所に就職する事が多い。また先に述べた TEC で OTT に
必要な教育を提供している。
7. 発明の権利化に係る支援
(1) 特許の取得・管理体制
NCSU のポリシーによれば研究成果である技術の開示は全て一義的に OTT に行われなければならな
いとされている'開示件数は年間約 150 件(。NCSU の OTT は特許申請書類の作成は外部の弁護士事
務所に委託しているが、申請内容の確認等で教員・弁護士間の仲介役として機能している。
Knowledge Sharing System の活用
先にも述べたが、OTT へ技術が開示されるとまずケース・マネージャーが選任され、担当者は技術の情
報を KSS へ入力する。以後、特許申請状況、共同研究状況、ライセンス状況、また特許維持費に関する
情報を KSS で一括管理する。
Patent Auto Payment System の活用
弁護士事務所と契約をし、そこが提供する Patent Auto Payment System を活用している。NCSU は現
在 1300 以上の特許を保有しており、すべての特許状況を把握するのは不可能である。従って、当シス
テムを用いて、特許の維持年金の支払いを行っている。毎月一度、特許事務所から特許費用の管理者
宛に保有特許についての状況がメールで届き、それを各担当者へ転送する。各担当者はその特許を維
持するかどうか Director と検討判断し、継続する場合オンラインで支払いを行う。
(2) 特許の活用戦略 58
2008 年度における NCSU の米国特許申請数は 96 件であり、単純計算で技術開示 153 件の約 65%
程度となっている。因みに、過去 5 年間のライセンス契約数は 371 件で、ライセンス先の内訳は 153 件
'41%(が NC 州内、177 件'48%(が米国内、41 件'11%(が海外企業との契約であった。
75
地域社会への研究成果の還元、NC 内の雇用を増やす事が NCSU の使命であることからも、OTT は開
示されてきた技術について積極的に特許取得を検討する。特許を取得するかどうかは、 Intellectual
Property Committee による月一回のミーティングで決定をするが、開示されてくる技術の多くは、企業と
の共同研究の話が進んでいるもの、またはライセンス契約の依頼があるものであり、そのような技術に
ついては早急に特許申請手続きを行う。特許のライセンス先が見つからない技術についても、市場価値
が高いと期待される技術、尚且つ発明者の意欲がある場合、スタートアップを提案し、それに必要な特
許申請と起業に必要なネットワーク・人材・知恵を OTT は提供する。OTT が設立されて以来、NCSU か
らは合計 70 以上のスタートアップが起業され、そのうちの 75%の企業が未だ経営を継続させている。こ
れらの企業の存在により、NCSU は NC 州内に述べ 3000 以上の雇用を増やしている。
NCSU の特許ポートフォリオは現在 1300 件を超えている。
TechFinder の活用
先に述べた、Knowledge Sharing System の項目内に技術の概要を入力する欄があり、ここに文章を
入力すると、そのまま NCSU OTT Website 内の TechFinder リストに掲示されるシステムとなっている。
各技術には通し番号が付けられ、技術はケース毎に管理されている。当サイトを訪れた者は、キーワー
ドにより技術を検索することができ、技術に興味がある場合、担当者へ問い合わせができるようシステム
化されている。
(3) 特許出願費・管理費の財源
NCSU OTT は現在、オフィスの運営にかかるすべての経費をロイヤリティ収入'2008 会計年度のロイヤ
リティ収入は 360 万ドル(にて賄っている。つまり特許出願費および管理費について、大学からの予算措
置を一切受けていない。
NCSU ではグロス・ロイヤリティを以下の通り配分 59 する。
40% 発明者
5% 大学'研究資金として(
5% 学部・学科'研究資金として(
50% 特許資金
発明者が複数の場合、事前に分配の割合について既定の約束がされているケースを除いて、ライセン
ス収入は均等に分配される。
76
8. 成功事例・失敗事例
(1) 成功事例
NCSU は設立以来 60 以上の企業をスピンアウトし、それにより 13,000 以上の雇用を産み出している。
成功事例を下記に挙げる。

Agro Gresh, Inc. 60: 野菜や果物の熟成を遅らせる技術
NCSU の研究者によって発明された、SmartFresh システムの商品開発、販売を目的に設立された。
2001 年に実用化され、現在では欧州を含め 26 カ国で利用されているとされている。

Sicel Technologies, Inc. 61: がん患者の抗がん剤治療・放射線治療を監視する機器を開発
癌治療を行う医師にとって、抗がん剤や放射線治療の癌組織への効果を調べることは、次の治療
方針を決定する上で非常に重要なことである。しかしながら現在、癌組織の大きさを調べる方法とし
て、MRIやPetなど手間とお金の係る検査方法しかない。NC State University と UNC at Chapel
Hill の Joint Department of Biomedical Engineering の教授である、Dr. H. Tory Nagle と Triangle
Radiation Oncology の医師Dr.Charles W. Scarantino の共同研究によって、がん患者の体内の
癌の大きさをリアルタイムで感知する、埋め込み式ワイヤレスデバイス技術が開発され、その技術を
元に立ち上げた Sicel Technologies および NCSU が 1997 年に共同で特許を申請した。現在数多く
の病院にて治験が行われている。

Biolex Therapeutics, Inc. 62: 浮き草を用いて、バイオ創薬を産生する技術
NCSU の College of Forestry Resources の Dr. Anne-Marie Stomp 准教授によって、浮き草内で
人のインスリンを生成する方法が発明され、その技術を元に Biolex, Inc.'現 Biolex Therapeutics,
Inc.(が設立された。特許は Biolex 単独所有となっている。当企業は、NCSU 内に当時存在した
Centennial Venture Partners という大学発ベンチャー企業に特化して支援をするベンチャーキャピ
タルから資金を得て設立された。現在 Biolex Therapeutics では、C 型肝炎用創薬を開発中で、臨
床試験フェーズ2a が終了している。またこれ以外にも、末梢動脈障害や、B 細胞非ホジキンリンパ
腫に対する抗体医薬を開発中である。
9. 大学間・地方自治体との連携
ノースカロライナ特にリサーチ・トライアングル・パーク地区は、その歴史からも各大学と地方自治体との
連携が大変活発である。大学の開催する産学官連携イベント等には、地方自治体が必ず関与しており、
連携をすることが当然の世界となっている。
例えば、NCSU とノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC at Chapel Hill) 間では、The Joint
Department of Biomedical Engineering (BME)63 という学部・学科が設立されており、NCSU の工学
部の学部生および院生と UNC-CH の医学部の医学生が当学科にて単位を取得することが可能となって
77
いる。生徒らは両方のキャンパスにて講義を受けることが可能である。また、この学部の最終学年の生
徒は Senior Design Program というコースを受講することになり、ここでは、今、医療現場で解決されて
いない問題・求められている技術を自分達で調査し、それに対するアイディアを編み出し、実際に物を制
作することを求められる。コース終了時には、自治体の一つであるノースカロライナ・バイオテクノロジ
ー・センター(NCBC)で開催されるシンポジウムにて自分らが開発した技術を地元社会へ披露する。発
表形態は極めてビジネスライクであり、会場には新しい技術を求めて地元コンサルティング会社、ベンチ
ャーキャピタル等が足を運ぶ。また、一年間で形にした製品を発表前に OTT へ技術開示することが義務
付けられており、製品を特許によって保護するという技術の管理についても学ぶ。
また、地元組織として Council for Entrepreneurial Development(CED)の存在も非常に大きい。彼らの
役割は、起業家をネットワーク、教育の面から支援することであるが、同時に大学との連携も非常に強い。
CED と大学が共同で開催する技術ショーケースイベントが、毎年数回開催される。また、年に一度開催
される CED Biotech Conference はノースカロライナ州内で開催されるバイオ関連イベントしては最大で
あり、毎年地元ベンチャー企業、投資家、大学、地方自治体から約 1,000 人近くが参加する。最近では
州外からわざわざ足を運ぶ人も尐なくないようである。スポンサーは、州政府、バイオテクノロジーセンタ
ー、弁護士事務所、コンサルティング企業、大学など多彩に亘る。基調講演から得られる情報も大きい
が、それ以上に、ネットワーキングをする最大の機会とされている。
さらに、商務省の職員が大学内にポジションを置き、大学と地元企業の連携を図っていることも注目に値
する。州と大学が協力をして、地元の産業を活性化させていきたいという強い意思が見られる。また、ノ
ースカロライナ州には、The Small Business and Technology Development Center (SBTDC)64 という
組織が存在し、ほぼ無償でビジネスコンサルティング業務を行っている。SBTDC は州政府および US
Small Business Association から資金支援を受けており、現在 University of North Carolina Systems
の 16 大学内に支部が設けられている。本部はNCSUキャンパス内にある。彼らの存在からもノースカロ
ライナ州が如何に大学の技術移転に積極的かつ真剣に取り組んでいるかが判る。
10. その他
Southeast TechInventures, Inc (STI)65 は地元大学の技術移転を有料で支援することを目的とする
RTP 内で最大のコンサルティング会社である。STI のチームは、数々のスタートアップ経験を持つ者、大
手企業出身者、MBA 取得者、競争的資金の取得に精通な者、Ph.D.取得者等で構成されている。SIT
チームはそれぞれの経験を活かして、大学の技術を評価し商業化の可能性が高いものについて、

ライセンス支援

発明者の技術開発サポート

スピンアウト起業の設立

融資契約の支援

ビジネスガイダンス、メンター
78
を行う。また、

Proof of Concept を得る為の SBIR (Small Business Innovation Research)資金取得支援

商業化の可能性が高い技術については、大学からIPのライセンス

ビジネスモデルやビジネスプランの作成支援

スタートアップ企業の資金取得支援
などを行っている。地元からの信頼も厚く、Advisory Board は RTP 内に所在する投資家, ベンチャー企
業、シンクタンク、DUKE、UNC at Chapel Hill、NCSU の技術移転オフィスの Director、またビジネスス
クールの Director によって構成されている。
79
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