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公共図書館向けソリューションコンセプトOne Library

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公共図書館向けソリューションコンセプトOne Library
公共図書館向けソリューション
コンセプトOne Library
Solution Concept for Public Libraries: One Library
● 中塚啓介 ● 赤木義夫 ● 清水侑子
あらまし
富士通は,公共図書館市場で30年を超える活動実績を持つ。市場全体を複数の製品・
サービスでカバーする全方位サポートにより,現在国内シェアではトップを維持してい
る。しかし,地方自治体を運営母体とする公共図書館は無償サービスを原則としており,
ICT化による費用対効果を直接的に把握することが困難な面もある。加えて昨今の経済状
況が公共図書館の運営を圧迫し,サービスの維持,拡大に対する投資を困難にしている。
一方,スマートデバイスの普及に代表されるICTによる生活スタイルの変化で公共図書館
サービスへのニーズも日々拡大している。これらの状況を踏まえ,富士通は既存の複数
製品の成長を維持しつつ新たな提案活動,製品開発を推進するための指針としてコンセ
プト
「One Library」
を掲げた。
本稿では,コンセプト策定の経緯とこれに基づく製品開発について述べる。
Abstract
Fujitsu has been engaged in the public library market for over 30 years. With allaround support that covers the overall market through multiple products and services,
Fujitsu currently has the largest share of this market in Japan. However, public
libraries are operated mainly by local governments and they provide free-of-charge
services in principle. Consequently, there are some aspects where the cost-benefit
achieved with information and communications technology (ICT) cannot be directly
identified. Furthermore, the current economic circumstances weigh on the operations
of public libraries and make it difficult to invest in keeping and expanding services.
On the other hand, there are growing needs for public library services due to changes
in people s lifestyle that are caused by ICT such as the spread of smart devices. In
consideration of these situations, Fujitsu has set out the concept One Library as
guidelines for promoting new proposal activities and product development while
continuing to expand multiple existing products. In this paper, the background to this
concept creation and the product development based on this concept are described.
FUJITSU. 65, 3, p. 53-57(05, 2014)
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公共図書館向けソリューションコンセプトOne Library
ま え が き
富士通が公共図書館向けパッケージの販売を開
に追随する形で変化してきた。以下に記す変化へ
の対応は,市場全体の課題につながっている。
(1)費用対効果の追求
始してから,既に30年を超える。他社が汎用機を
公共図書館のサービスは原則無料で提供されて
中心とした製品化を推進する中,富士通はオフィ
いる。そのため昨今の国内経済状況では,自治体
スコンピュータを中心とした製品を販売してきた。
のコスト削減対象として図書館が対象になること
これにより低価格・高い安定性が評価され,シェ
も多く,人件費だけでなく,資料購入費まで削減
アが拡大し,その後,Windowsサーバ,UNIX(UXP/
対象となる。このような状況のもと,サービス向
DS)サーバでの製品を経て,現在はLinuxサーバ
上と図書館利用者への費用対効果が明示できるシ
を中心としたWeb型製品が主力となっている。そ
ステム提案,構築の実現が課題となる。
の結果,富士通は国内の公共図書館市場において
シェアの約40%を獲得し,トップベンダーを維持
(1)
(2)インターネットサービスの拡大
近年,スマートデバイスの普及やネットワーク
している。 今後,更なるサービスの充実に向けて
の進歩により,公共図書館においてもインターネッ
富士通の強みであるクラウドを活用して,公共図
トを使った蔵書検索や予約などのサービスが定着
書館様へのパッケージやサービスの提供および,
してきた。しかし,公共図書館が提供するサービ
地域間の各図書館が同じ機能を利用することがで
スは,様々なインターネット上のサービスと比較
きる図書館連携の強化を図っていく(図-1)。
して「遅れている」
「古い」と評価されることが多い。
本稿では,図書館システムの構築条件や必要な
これは,システム構築時からの更新が少ないこと
機能に関する課題を挙げ,それらの課題に対応す
が原因の一つであり,今後サービスの陳腐化を防
る富士通の新しいコンセプト「One Library」を定
止し,継続的なサービスの成長に対する支援機能
義し,One Libraryを形成する主力製品を紹介する。
が課題となる。
図書館システム構築の課題
● ICT化に起因する課題
ダウンサイジングやオープンシステム化の浸透
本章では,図書館システム構築に当たり,図書
により,外購製品とのバンドル製品化やサーバや
館運営を取り巻く環境を踏まえて課題を考察する。
クライアントなど,機器類の汎用仕様に対応した
また,図書館業務において必要な要求を挙げて
システム構築が求められており,ハードウェアを
みる。
はじめとするシステム構成品においての他社との
● 社会の変化に起因する課題
差別化が図りにくくなってきた。これを打開する
公共図書館が提供するサービスは,社会の変化
ためには,いかに有用な外購製品を選定し調達す
るか,また,アプリケーション機能としての差別
化ポイントを数多く生み出していくかが課題と
2016年度
地域間連携サービスの提供
One Libraryの実現
なる。
(1)外部サービスとの連携に関する課題
これまでの図書館システムは,図書館内に所蔵,
収蔵する資料・情報を効率的に提供することを求
2014年度
地域図書館サービスの連携強化
められてきたが,昨今は電子書籍や商用データベー
スに代表される外部サービスの活用も求められて
2013年度
いる。特に電子書籍サービスは,スマートデバイ
次世代サービス基盤の拡充
スが広がる中,利用者のニーズとしても注目され
∼2012年度
製品・サービス群の整備
ており,図書館としてのサービスも拡大するもの
と予想される。しかし現状の外部サービスは,提
供ベンダーが乱立する中で個別のプロトコルで独
図-1 コンセプト実現ロードマッププラン
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自性を打ち出しているため,システムはこれらに
FUJITSU. 65, 3(05, 2014)
公共図書館向けソリューションコンセプトOne Library
追随する必要がある。運用性,保守性の面からも
新しいコンセプト
プロトコルの統合や複数のサービスに対応できる
ゲートウェイとしての機能の開発,提供が課題と
なる。
(2)図書館間連携に関する課題
前章で述べたように,公共図書館市場に対する
ビジネスは,住民サービスの拠点である全国の地
方自治体の事業として成長を続ける一方,社会情
従来,公共図書館はその独立性を確保してきた
勢の変化に伴いより費用対効果の高いサービスを
ため,他サービスから独立したネットワークとサー
継続的に提供する責務を負っている。図書館シス
ビス提供を展開してきた。しかし,昨今の社会情勢,
テムは,規模やカテゴリーでお客様要件,性能,
ネットワーク化の拡大から自治体ネットワークへ
中核となる業務も異なることから,各製品・サー
の参加に加え,他図書館との連携によるサービス
ビスは,独自に機能拡張し,成長してきた。今後,
の維持・拡大が必須要件となっている。個別に設
利用者に対するサービスの拡大を実現するために
計された図書館システムの連携に当たって,標準
は,図書館単体でのサービス・機能では限界がある。
インターフェースをどのようにして実装するかな
このような昨今の市場動向への対応や現在の課
どを自治体や対象の図書館が一体となって検討す
題の解決を実現するためには,個々の製品・サー
る必要がある。
ビスの成長を維持しつつ,図書館間の連携を中心
● システム構築要求
としたビジネス全体のコンセプトが必要となって
大規模な公共図書館のシステムでは利用者数
100万人,蔵書数400万冊という膨大なデータを管
理している。一方,公共図書館そのものは住民サー
いる。コンセプトを策定するに当たり次のポイン
トを強化する必要がある。
(1)図書館間ネットワークの強化
ビスであり,貸出・返却に代表される奉仕業務(カ
一つの図書館で実現できるサービスの限界を超
ウンター業務)にシステム負荷が集中することか
えるためには,図書館間ネットワークにより,巨
ら,ベンダーに求められる要件は,次の二つのポ
大な仮想図書館によるサービスを実現する必要が
イントが中心となる。
ある。このため,図書館間連携を実現する標準イ
(1)レスポンス
カウンター業務のレスポンスとして,通常,貸出・
ンターフェースの実装が必要となる。
(2)「見せる」サービスの強化
返却では画面の表示は1秒以下,蔵書検索の結果表
従来のWebサービスは,利用者が目的を持って
示は5秒以内を要求される。また,目録・収書の登
当該サイトにアクセスすることで成立しているが,
録などといった内部管理系業務へのレスポンスも
これでは「図書館サービスを利用する」ことが前
求められる。このようにレスポンスに関する要件
提の利用者にしかサービスを提供していない(で
は,図書館の規模・カテゴリーでも異なるためシ
きない)ことになる。今後は多岐にわたる利用者
ステムのカスタマイズが必要になる。
のニーズに対して「図書館にも情報がある」こと
(2)無停止運用
公共図書館においてもインターネット版の
OPAC(Online Public Access Catalog:利用者用
を容易に周知させる機能が必要である。
(3)利用者参加型サービスの強化
公共図書館が提供するサービスは,蔵書検索を
蔵 書 検 索 シ ス テ ム ) サ ー ビ ス が 普 及 し て い る。
はじめとして,図書館からの情報発信が中心であっ
OPACは,地域間の複数の図書館が連携して資料
た。今後は図書館利用者自身が発信する情報も取
情報を提供するケースもある。各図書館システム
り込み,より広範囲な情報提供を実現するととも
においては,24時間無停止運用は当然のことであ
に,利用者が図書館サービスを活用して相互に情
り,不定期に運用停止(閉館)する図書館も考慮
報交換を実現できる「空間」としての機能が必要
した運用設計が必要となる。また,様々なデータ
である。
形式に対応するシステムの構築が求められる。
そこで富士通は,これまで提供してきた製品・
サービスを基に今後のビジネス指針となるべき
コ ン セ プ ト「One Library」 を 策 定 し た。One
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公共図書館向けソリューションコンセプトOne Library
Libraryは公共図書館市場に対し,規模・カテゴリー
ビスの全てをクラウド型で提供できる。iLiswing
に関わらず全方位をサポートし,連携機能の強化,
より低価格でカスタマイズ・レスでのシステム構
標準インターフェースの実装と各製品,サービス
築を実現している。
の機能の水平展開,統合を実現することで,図書
館間のコミュニケーションの活性化と業務運営の
(4)Ufinity(Ufinity for Public)
当初大学図書館向け学術ポータル SaaSとして
提供したUfinity は,複数図書館を対象とした「横
簡便化・共通化を実現するものである。
富士通が提供するソリューション
富士通は,利用者に親しみやすく,柔軟な拡張
断 検 索 」 機 能 と CMS(Contents Management
System)としての高い機能性と操作性が評価さ
れ,公共図書館市場でのサービス提供も開始した。
性を備えた公共図書館市場向けソリューションを
加えて県立図書館が中心となって運営する「県下
提供している(図-2)。
相互貸借サービス」機能を実装した「Ufinity for
(1)iLisfiera
Public ILL」(InterLibrary Loan: 図 書 館 間 の 資
都道府県,政令市・大規模市の公共図書館向け
料相互利用)も提供している。これは,自館に所
パッケージである。各図書館の要件取込みを前提
蔵しない資料を他館から借り受けて利用者に提供
に現地環境でのカスタマイズ範囲を広げ,冗長性
する相互貸借(図書館間貸出・返却)機能を横断
の高いシステム構築を実現している。検索エンジ
検索機能と合わせてシステム化したもので,県下
ンを中核とした検索システムを実装し,大規模図
の市町村立図書館にある資料を有効活用すること
書館の特徴である大量のトラフィックや情報検索
ができる。
に対応している。
製品の機能強化
(2)iLiswing
市町村立図書館向け公共図書館パッケージであ
前章で紹介したOne Libraryをビジネスコンセプ
る。職員の操作性向上を実現し,小規模図書館の
トとした製品の機能強化を実施した。
特徴である少人数でも容易な運用性の提供を実現
● OPAC機能の強化
している。カスタマイズ範囲を絞り込み,低価格
iLisfieraお よ び,iLiswingで は,2013年 度 末 よ
り以下の機能を追加した新しいバージョンV3を提
でのシステム構築を主眼としている。
上記2製品のレベルアップ機能は,お客様からの
要件を基に決定する。また,運用保守サービスを
ご契約いただいたお客様を対象に1回/年のレベル
アップと2回/年の改修モジュールを提供する。
供している。
(1)読書推進機能
OPACの主たる機能である「蔵書検索」の付加
情報として,「レイティング」「書評・コメント」
「レコメンド」機能を提供する。利用者が読書後の
(3)WebiLis
iLiswingをベースに開発した「クラウド型公共
評価を「星の数」で表現し,書評を投稿すること
図書館サービス」である。基幹業務,利用者サー
で,第三者への新たな付加情報を提供できる。利
用者からの情報発信や情報交換の機能として有効
である。
都道府県立
基幹業務
特別区
政令市立
中核
大規模市立
iLisfiera
OPAC
CMS
Ufinity
横断検索
Ufinity for Public
市町村立
WebiLis
iLiswing
(2)ブログパーツ
図書館が推薦する蔵書の有用な情報を,自治体
内の別機関のサイトから手軽に発信できることで,
広くその情報をアナウンスできる。
(3)Myライブラリ
利用者が図書館Webサイト上にMyページを登録
することで,読んだ本,読みたい本を整理できる
機能である。
図-2 富士通の公共図書館ソリューション
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FUJITSU. 65, 3(05, 2014)
公共図書館向けソリューションコンセプトOne Library
● 業務機能の刷新
iLiswingでは,更なる業務効率化を目指し,業
務画面を刷新した。公共図書館ソリューション市
料)の検索,提供を主軸とした機能から情報の精査,
集約,発信を担う「情報コーディネータ」として
の機能提供が必要となる。
場の特徴である「少人数で最大のサービス」を考
富士通は,様々な市場でお客様の情報管理,情
慮し,少ない操作で最大の情報を提供することを
報発信を支援している。公共図書館市場向けソ
実現する。これにより図書館職員の利用者サービ
リューションは,これらの情報をコーディネート
スへの時間確保に有効であり,より新鮮で継続的
し,お客様に提供することが,今後の公共図書館
な図書館職員による情報発信を支援できる。
市場のニーズに対する「解」であると考える。富
む す び
公共図書館は,図書館法を基に地方自治体が住
士通だからこそ提案,提供できるソリューション
を,コンセプト「One Library」の実現と位置づけ,
今後の活動を推進する。
民サービスの中核として提供しているものであり,
教育,学習の拠点としても位置づけられ,かつ地
方の文化資産を保存,維持,発信する役割も併せ
持つようになってきている。今後,ベンダー企業
参考文献
(1)ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)第2号.
アカデミック・リソース・ガイド社,2013.
が公共図書館に提供する製品・サービスは,図書(資
著者紹介
中塚啓介(なかつか けいすけ)
清水侑子(しみず ゆうこ)
ヘルスケア・文教システム事業本部次
世代教育ソリューション統括部 所属
現在,公共図書館ソリューションビジ
ネス開発事業を総括する業務に従事。
ヘルスケア・文教システム事業本部次
世代教育ソリューション統括部 所属
現在,公共図書館ソリューションビジ
ネ ス 開 発 事 業 の 開 発, 製 品 化 業 務 に
従事。
赤木義夫(あかぎ よしお)
ヘルスケア・文教システム事業本部次
世代教育ソリューション統括部 所属
現在,公共図書館ソリューションビジ
ネス開発事業の企画,開発業務に従事。
FUJITSU. 65, 3(05, 2014)
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