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太陽活動と景気」正月特別バージョン - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

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太陽活動と景気」正月特別バージョン - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
景気循環研究所
嶋中雄二の景気サイクル最前線
No.9 2011 年 1 月 11 日
干支より頼りになる(?)太陽黒点説
― 「太陽活動と景気」正月特別バージョン―
なぜ正月だけ太陽黒点説か?
年に1度の正月は、お祭り気分というのか、人々の心が明るくオープンになって、太陽黒点説などど
いう、普段はなかなか信じてもらえないような説を唱えても、「正月だから、まあいいか」という具合
に、むしろ歓迎してもらえる。何しろ、正月には「今年は干支で見ると卯年だから、縁起が良く、株価
も跳ねる」などという会話が盛んになされるのが通例であり、奇説でも受け入れてもらえる素地がある。
これが通常の時期だと、「何を言っているのか!少し頭がおかしいのではないか?」ということにな
る。私が『太陽活動と景気』(日本経済新聞出版社、1987年刊。文庫版は2010年刊)の中で、大真面目
にその復興を唱えた太陽黒点説という学説は1875年に英国の経済学者W.S.ジェヴォンズ(限界効用価
値説の最初の提唱者で、近代経済学の父)が唱え、死ぬまでその正しさを主張し続けた学説である。息
子のH.S.ジェヴォンズが1909年にその説を改良し、1934年には、Quarterly Journa
l
of
Economicsという権威ある経済学の学術雑誌の巻頭論文として、ハーバード大学の
F.I.シャフナーとアルゼンチン大使館のC.G.マタの二人によってリニューアルされ、さらに1985年
以降に私自身が一段の実証的な根拠と共に、外生的景気循環理論として体系化した。
しかし、このように独創的な学説は、特にムラ社会の日本においては、余程人々の気分がオープンマ
インドになっている時、すなわち正月やお盆でないと、なかなか理解が得られない。そこで、私はこの
学説、つまり太陽黒点説をレポートで取り扱う時期として、いくら日常から多くのリクエストがあろう
とも、正月とお盆に限定しているのである。今回も、まだ松の内なので、1年ぶりに太陽黒点説を読者
の皆様に披露したいと思う。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
1
崩れた「1」と「7」の年のパターン
今回のテーマは「1」の年と「7」の年のパターンについてである。数年前に私は2011年が「景気後退
の年」になるかも知れない、との見方を提示したことがある。その見方の根底にあったのは、過去から
の規則的なパターンの繰り返し、という側面である。すなわち、米国の景気後退は何故か、西暦のディ
ケード(10年間)において、初頭の1の位が「1」の年に集中しており、1961年、71年、81年、91年、2001
年、と少なくとも過去5回繰り返している。これは、米国経済にきちんと10年周期で生起する、厳格な
ジュグラー・サイクルがあって、「1」の年がいずれも下降局面に当たっているのではないか、と私は
解釈してきた。もちろん、日本経済は米国経済の影響を大きく受けるため、数ヵ月のタイムラグはある
ものの、やはり1961-62年、71年、81年、91年、2001年はすべて景気後退局面となっている。それでは、
11年はどうなのだろうか。結論として、私は以前の見方を撤回して、今回は景気後退にはならないとみ
ている。
また、これも何故か、米国を中心にして、世界的に西暦のディケードの後半の「7」の年に金融危機
が発生する傾向がある。すなわち、1957年(スエズ危機)、67年(ドル危機)、77年(カーターショッ
ク)、87年(ブラックマンデー)、97年(アジア危機)、2007年(サブプライム危機)、である。しか
し、直近の07年を除くと、過去の、「7」の年に起きた金融危機はことごとく、世界的リセッションと
はならず、少なくとも米国はすべて景気後退を免れているという特徴がある。つまり、「7」の年の金
融危機は米国に景気後退を引き起こすほど強力ではない傾向があったのだが、ではなぜ、07年だけは違
ったのだろうか。
仮りに日米でジュグラー・サイクルが逆循環であったとしても、10年周期が不変であるならば、これ
までと同様に「1」の年は景気後退になり、「7」の年は後退には至らない金融危機の年となるであろう。
これは「卯年は跳ねる」といっているのと同じである。それが、今回だけは違うとすると、そもそもこ
れまでの経験則が間違っていたか、何らかの構造変化が起こったために、パターンが狂ってきたのかの
どちらかになろう。
太陽黒点説と周期の「ずれ」
しかし、太陽黒点説ではそうは考えない。これまで厳格な10年周期が続いてきたのは、たまたま太陽
活動周期がほぼ一定で、大きな狂いなく、同じようなサイクルを繰り返してきたからだ。太陽活動は、
ジェヴォンズ親子によれば、降雨量や気温の変動を通じて穀物など有機性商品の需給に影響を与え、マ
タ&シャフナーによれば、紫外線等の放射量の変化を介して生物としての人間の中枢神経系に作用する
ことにより、投資や消費の心理に影響する。私はさらに、異常気象を通じて、季節商品の需要の変化を
起こしたり、寒暖の変化が人間の体温維持機構やカロリー摂取量に作用して化石燃料消費並びに衣食住
関連の消費性向に影響する可能性にも言及した。
ここで、上述の「1」の年と「7」の年が、これまでは何故パターンに沿っていながら、直近は何故そ
うならなかった、もしくはそうならないといえるのかを太陽活動周期との関係で説明してみよう(図1)。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
2
図 1.
「1」の年、「7」の年と太陽活動周期
(太陽黒点相対数)
200
(山)1957
190.2
(山)1979
155.4
160
80
-40
1950
(資料)
(注 1)
(注 2)
(注 3)
55
1977
27.5
(谷)1976
12.6
(谷)1964
10.2
(谷)1954
4.4
1960
65
1970
75
(山)2000
119.6
2001
111
2011
47.5
40
0
1991
145.7
1981
140.5
(山)1968
105.9
1967
93.7
1971
66.6
1961
53.9
120
(山)1989
157.6
1987
29.2
(谷)1986
13.4
1980
85
1990
1997
21.5
(谷)1996
8.6
95
2000
2007
7.5 (谷)2008
2.9
05
2010 (年)
SIDC(Solar Influences Data Analysis Center)、National Weather Service
太陽黒点相対数Rは黒点の多少を示すものでR=k(10g+f)なる式で計算される。
ただしgは黒点群の数、fは観測した黒点の総数、kは観測器械、観測者等による係数である。
1960 年~2010 年までの数値は、SIDC 発表の数値による。
直近 2011 年は、National Weather Service 発表の 2011 年 1 月 1-10 日平均値。
は、山・谷、
は、下一桁が 1 の年、
は、下一桁が 7 の年。
まず、図中に▲印で示した「7」の年だが、1957年、67年、77年、87年、97年はことごとく、太陽黒
点のシュワーベ・サイクル(平均10~11年周期、但し、7~17年まで幅がある。1843年にドイツのアマ
チュア天文家H.シュワーベが発見)の上昇局面に当たっている。ところが、直近の07年だけは、太陽
黒点サイクルの下降局面に当たっているのだ。この差は大きいというべきであろう。
次に、今年つまり2011年だが、世界的な景気後退の時期に当たる、これまでの「1」の年が図中では
■印で示したように、1961年、71年、81年、91年、01年と、すべてシュワーベ・サイクルの下降局面で
到来していたのに、11年だけは、08年の谷の後、すなわちサイクルの上昇局面に当たっているのである。
要するに、07年を皮切りに、戦後初めて米国を含む世界経済が景気後退を伴う金融危機に陥る一方で、
今年11年が戦後初めて「1」の年なのに景気後退にならずに済む可能性があるといえるのである。
太陽黒点説はあくまでも1つの考え方であるが、ここから導き出されるインプリケーションは、予め
「10年」とか干支の「12年」といった厳格な周期を当てはめて、「今年は良(悪)い年」とかいってし
まうのは、やはりリスクが大きいということだ。現実は、太陽活動周期のように、基本周期は11年とい
ったものがあっても、ある時は「10年」、またある時は「12年」という具合に、周期が次第にずれて行
くものなのである。この微妙な「ずれ」を考慮に入れながら、予測を行うことこそが、景気循環論に基
づく予測作業の最大の困難であり、醍醐味なのだと思う。
(以上)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング
景気循環研究所長
嶋中 雄二
03-6213-6571
[email protected]
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
3
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