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津田大介氏と語る「新しい(ICT)技術と人間の生き方

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津田大介氏と語る「新しい(ICT)技術と人間の生き方
50
社会科学部創設 周年
社会科学部デーにおけるスペシャル・トーク
津田大介 氏と語る「新しい(ICT)技術と人間の生き方 ─こ れからの時代を創る者として何を考えるべきか、するべきか ─」
“ソーシャル・メディアのカリスマ”として、
通しているわけではありません。
自分の経験とか自分の知識であればこうい
うことだ、ということを提示すると、知的に
誠実な人たちは話を聞いてくれます。自分の
体験を自分の言葉で話すとそれをその人のフ
ィールドや知識に置き換えて、それはこうい
うことだね、と理解してくれます。つまりそ
の人たちが何かを考えるきっかけみたいなも
のを作ることができる。もうそこであなたの
社会的な価値が生まれてるわけですね。
自分一人で大きなことをするのは無理でも、
優れた他人のためにできることはたくさんあ
る、と思うとやれることが増えるのではない
でしょうか。それが20 年間仕事をしてきた僕
の結論です。
マルチな分野で活躍をされている
津田大介氏による講演会が
2015年11月10日に井深大記念ホールで
開催されました。
これからのメディア時代を生きるために
プラスになる示唆に富んだ
提言がなされました。
ICT を使ってどう生きてきたか
津田といえば twitter で知っている方も多
いと思います。どうして twitter で短いアカ
ウント(“tsuda”
)が取れたかというと、最も
初期に twitterを始めたからなのです。2007
年の4 月11日、日本で最初にtwitterが紹介さ
れたときにすぐアカウントを取りました。使
い始めたら結構面白くて、速報のためのツー
ルとして使い、ジャーナリズム目的で使い始
めたんですね。
2007年から「ナタリー」というサイトを始
めて、2009 年には並行して twitter の単行本
を執筆しました。ちょうど twitter がブーム
になり始めたころです。発売後、ソーシャル
メディアの専門家としての取材が増えて自分
の仕事も変わっていきました。
2011年にはアラブの春が起きました。この
ころから政治に強い興味を持ち始めたんです。
twitterとかfacebookがきっかけで政権が
倒れることもある、ということに驚きました。
このころ同時にメディア業界の激変が起きて
いました。個人のブログでスタートしたハフ
ィントンポストがAOLという巨大メディア
に日本円で約260億円で買収されたんですね。
そうか、ネットメディアって、どこか資金
力がある企業のコングロマリットに買われて、
そこで自由にやっていくって道があるんだ。
自分もこの道に進むことができるんじゃない
かと、結構未来が開けた感じがしたんですね。
それで自分で政治メディアをつくろうと思
ったんです。ネットと政治を組み合わせた面
白いメディアにしようと。
実際に始めようと思った矢先に 3 . 11 が起
きました。自分も情報の整理作業を始めて、
震災の 1カ月後くらいから東北に取材に行っ
て、現地で衝撃を受けました。これはまじめ
に日本の政治のメディアを変えないと駄目だ
21
School of Social Sciences No.60
なって思いました。2013 年 7 月に「ポリタス」
という政治を扱うサイトをオープンさせ、現
在は選挙期間を中心に定期的に特集を更新し
ています。
ICT を使ってどう生きていくのかというこ
とを体現してきたのが僕でもあるとも思うの
ですが、結局昔からやってきたことは情報発
信やメディアでした。高校のときに、新聞部
の部長でその時から将来は取材をして原稿を
作ったり、メディアを作ったりしたいと思っ
ていたので、やりたいことは実はずっと変わ
っていないと気づいたのです。
サステナビリティ、持続可能性という言葉
も最近よく聞かれます。持続可能性というと、
ずっと同じで変わらずにいることと思いがち
なのですが、実はサステナビリティとは時代
に合わせて変わっていける能力のことなんだ
と思うんですね。
変わり続けていった結果が、今の僕なんだ
と思います。自分が変わるためには強固な土
台が大切であるということでもあります。僕
も土台ができるまで時間がかかりましたその
土台を皆さんぜひ見つけてほしいと思います。
やりたいことが見つからないです、と悩み
を抱えている学生も多いようですが、見つか
らなくて当たり前です。でもなんとなくこっ
ちの方向かな、ぐらいのところに行って、や
りたいことってなんだろうっていうのを考え
続けることが大事です。そういうことが土台
を作っていくことになるはずです。
ICT 技術の発達による恩恵
ICT 技術が発達して、第一に試行錯誤が楽
になりました。とにかく作っては壊し、作っ
ては壊し、ということがネット上で簡単にで
きるので、挑戦する数と種類を増やせる。こ
れは大きいですよ。
そのとき大事なのはまず自分で動くことで
す。これはどう見ても割に合わないけれども、
それでも動いてるんだ、というところで価値
が生まれることがある。逆に頭で計算してば
かりいると割に合わないことに対して動かな
くなる。そうすると試行錯誤ができなくなっ
てしまう。どんどん動いてください。
2 つ目はコストです。試行錯誤しやすくな
ったのはコストが安くなったからでもありま
す。将来ドキュメンタリーの監督になりたい
というメディア系の学生は結構います。じゃ
あ撮ればって言います。作っちゃえばいい。
昔だったらドキュメンタリーの映画を撮るた
めには、カメラを買うだけで何十万円もかか
っていました。でも今は iPhone が 1 台あれば
録画して、しかも手ブレ補正もついていて、
切り貼りもできる。もう簡単なドキュメンタ
リー映画が作れてしまいます。
3 つ目はギブアンドテイクの関係を作って、
社会で活躍している人たちの“肥やし”にな
ることが簡単にできるようになったというこ
とです。できるだけ損得考えずに奉仕する。
すると予期せぬギブが舞い込んできます。こ
れがしやすくなったのもICT 技術の発達によ
る恩恵です。
面識がない人でもICT 技術を使えば直接会
えるんですよね。昔は何かの専門家に会いに
行って話そうと思っても、出版社とか新聞社
が連絡先を握っていて、連絡がとりにくかった。
でも今は有名人に直接コンタクトが取れる。
そして実際にそういう人たちと会うことが
できる。学生が学びたいと言ってきたときに
会ってくれる人は多いはずです。これは学生
の特権ですから最大限に生かしてください。
そして会うだけではなくて、そういう人たち
に対して自分でもプラスになれることを考え
ることが大事です。どんなに頭の良い博覧強
記に見える人でも、世の中すべてのものに精
ットには書かれていない、独自のノウハウが
あります。ノウハウって一番情報にならない
ものですね。紙には残らないですね。その人
が持っている経験値、ちょっと表に出せない
秘密な情報は人から直接聞くことからしか得
られません。
います。公的な場所で公的発言をする場合と
いうことです。一方で世論は匿名の情報発信
ということになります。
どっちが上でどっちが下というわけではな
いのですが、世論は情緒に流されてしまいま
す。世論は世論でそこそこ気にするけれども、
直接的に政治的な意思決定に繋がっちゃいけ
ないのではないかという危惧は持っておくべ
輿論の担い手になってほしい
きです。そしてせっかく社学で学んでいる皆
ここ1~2 年ぐらい社学に来てお話しをした
さんは、
「世論」ではなく「輿論」の担い手
り、先生方と話す機会が増えたりするなかで、 になってほしいと思います。
嬉しく感じたのは、2011 年の東日本大震災の
難しいことかもしれません。じゃあどうや
後、社学が1番ボランティアに行った人の数
って担っていけばいいのか。たとえば競争が
が多かったということなんです。
苦手な人は誰もいないところに行けばいいと
それは本当に誇りに思うことだし、社学が
思うのです。誰もいないところで、自分です
担うべきことだと思います。社学の中に公的
べてを起こすのではなくて組み合わせればい
な関心と公共心がきちんと根付いて育ってい
いのです。自分の好きなものを複数持ってお
情報源は 3 つ
るということなのです。
くと、組み合わせたときにそれで何かが語れ
情報源は何を見ているのですか、と尋ねら
これは輿論と世論の話でもあります。今で
る可能性があります。僕の場合はいままで全
れることがあります。やっぱりネットですか、 は世論という漢字で統一されていますが、も
部そうでした。
と言われるのですが、僕はこの3つの答えを
ともと輿論、世論というのは、大正時代あた
これまでネットと音楽という組み合わせで
用意しています。
りでは完全に分けられていたものです。
情報発信をしたり、ネットと新聞という組み
1つ目はもちろんインターネットです。
輿論とは理性的討議による合意や真偽をめ
合わせでメディアを作ったりしてきました。
twitter や facebook は情報が速いですから。
ぐる公的関心のことです。社会問題に対して
今はネットと政治という組み合わせでポリタ
もうひとつは紙です。そして3つ目が実際に
のパブリックオピニオンです。
スをやっています。組み合わせれば専門家の
会う人です。
一方で世論とはいわゆる世俗的な論という
数が少なくなってきて、そこで価値が生まれ
この3つをきちんと全部確保しておくこと
ことで、情緒的な参加による共感や美醜をめ
てくる。
が、自分の土台をつくる上で非常に大切なこ
ぐる、私的な感情に繋がっています。
もう一つやり方があります。チーム戦です。
とだと思っています。
新聞で言うと高級紙と大衆紙の違いです。
自分はこれは詳しい、こういう能力がある、
ネットは最新のニュース速報をチェックし
高級紙は今は日本にはありませんが、絶対王
といろいろな人がいます。あなたがもし、ネ
たり、新聞やテレビでは報道されない特別な
政の時代に貴族が自分の名前を出して王制の
ットで情報を集めてくるのは得意だけど、人
視点を知ったりするには便利です。でもやは
政治に対して意見を言ったのが起源です。つ
前で話すのは苦手だとしたら、自分が集めて
りネットの情報は信頼度が低いものです。
まり政治の論議であり、合意審議をめぐる公
きた情報と、話すのが得意な人とを組み合わ
一方で紙です。僕がオススメしているのは
的関心のことです。
せればいいのです。
新書です。新書であれば2時間読んで、それ
大衆紙は印刷技術が発達してくる頃の新聞
そしてチーム戦の成果が社会的に意味があ
で得られる情報の量ってすごい。かけた時間
が起源で、エンターテイメント等を扱う新聞
ったり、面白そうだったりしたときには、ク
に対しての、得られる情報の効率は一番良い
も含みます。また、ビジネスとしてほかの事
ラウドファンディングのようなかたちでお金
と思います。ネットの信頼度が50%としたら、 業もやっている新聞社が発行しています。
を出してくれる人が出てくるのも新しい ICT
紙は80~90%くらいの信頼度があると言える
ソーシャル・メディアではどうでしょうか。 技術の時代なのです。
でしょう。
あえてざっくり分ければ実名で情報発信をし、 こんなに便利なICT 技術を使わない手はな
そしてやっぱり人ですね。そこには本やネ
社会的に発言に責任を取る場合が輿論だと思
いですよね。
津田大介(つだだいすけ)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。
「ポリタス」編集長。
1973 年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒業。大阪経済大学客員教授。京都造形芸術大学客
員教授。テレ朝チャンネル 2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」
ネットナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。
メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執
筆活動を行う。ソーシャル・メディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。世界経済
フォーラム(ダボス会議)ヤング・グローバル・リーダーズ選出。
主な著書に『ウェブで政治を動かす!』
(朝日新書)
、
『情報の呼吸法』
(朝日出版社)
、
『Twitter社会論』
(洋泉
社新書)
、ほか。
School of Social Sciences No.60
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