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ピーク値を用いた状況認識手法の実環境での再評価

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ピーク値を用いた状況認識手法の実環境での再評価
「マルチメディア,分散,協調とモバイル
(DICOMO2014)シンポジウム」 平成26年7月
ピーク値を用いた状況認識手法の実環境での再評価
村尾 和哉1
寺田 努2,3
概要:加速度センサやジャイロセンサなどを用いてユーザの行動や状況を認識し,認識結果に応じて適応
的に動作するシステムが提案されている.それに伴い,高精度な認識手法やデータ圧縮手法に関する研究
が数多く発表されているが,それらの研究で用いられている評価用データの多くが実験室環境で採取され
たものである.実験室環境で採取されたデータはセンサの装着方法や行われる動作が実験主催者によって
統一され,実験中は実験主催者の監視下にあるため,ノイズが少なく,一般的に高い性能として評価結果
が得られる.筆者らはこれまでに,加速度センサを用いた行動認識におけるデータ処理手法を提案してお
り,評価実験で用いるデータは自由な環境で採取したものであると認識しているが,想定外の環境でデー
タが採取されることも考慮しなければならない.本稿では HASC(人間行動センシングコンソーシアム)
が構築した行動認識データセット HASCcorpus に収録されている実環境で採取されたデータを用いて,筆
者らの提案手法を再評価し,筆者らがすでに行った実験の結果と比較する.
用いて装着者の行動(食事,歩行,仕事など)を認識し,運
1. はじめに
動不足や過労を警告する.看護師の行動認識システム [2]
近年,マイクロエレクトロニクス技術の発展によるコン
は,加速度センサと赤外線 ID 受信器を用いることで,位
ピュータの小型化や軽量化により,コンピュータを常時身
置情報や手の動きから点滴や車椅子の補助といった看護師
に着けて生活するウェアラブルコンピューティングに注
の行動を認識・記録する.
目が集まっている.さまざまなセンサやコンピュータを身
このようなシステムの提案に伴い,低消費電力な認識手
に着けるウェアラブルコンピューティングは,従来のコン
法やデータ圧縮手法に関する研究が数多く発表されている
ピュータの利用形態と比較して次の 3 つの特徴をもつ [7].
が,用いられている評価用データの多くが実験室環境で採
(1)ハンズフリー:コンピュータを身体に装着しているた
取されたものである.実験室環境とは,センサやデバイス
め,両手を使用せずに情報を参照できる.(2)常時電源
などの装着方法,設置方法,保持方法が固定で被験者間で
ON:コンピュータは常に電源が入っており,使いたいと
統一されていることが多く,行われる動作も実験主催者に
きにすぐに使える.(3)個人適応:センサなどの利用によ
よって統一されている環境のことである.実験中は実験主
りユーザの詳細情報を得て,きめ細やかなサービスが提供
催者の監視下にあるため,想定外の行動をとることはない
できる.ウェアラブルコンピューティングの発展に伴い,
ためノイズが少なく,仮に想定外の行動を行ったとしても
加速度センサやジャイロセンサ,筋電計 [9] や心電計 [1],
そのようなデータを排除したり,再度データ採取を行える
GSR(Galvanic Skin Reflex: 皮膚電気反射)[4] といった
ため,一般的に評価結果では高い性能が得られることが知
さまざまなセンサを用いてユーザの行動や状況などのコン
られている [6].筆者らもこれまでに加速度センサを用いた
テキストを認識し,コンテキストに依存した適切なサービ
行動認識におけるデータサイズ削減手法を提案しており,
スを提供するシステム(コンテキストアウェアシステム)
評価実験においデータサイズを 97%削減できることを確認
が提案されている.
している.この評価実験で用いたデータは 24 時間自由に
例として,LifeMinder[4] は日常生活での行動を温度セン
生活して,一切の制限を課していない環境下で採取したも
サ,GSR センサ,加速度センサ,光電脈波センサ,地磁気
のであるが,一般利用を考える際には想定外の環境で使用
センサ,ジャイロセンサを用いて認識し,生活習慣の改善
されることも考慮しなければならない.
などのアドバイスを行う.具体的には,腕時計型センサを
本稿では HASC(人間行動センシングコンソーシアム)
が構築した行動センシングコーパス HASCcorpus に収録
1
2
3
立命館大学情報理工学部
神戸大学大学院工学研究科
科学技術振興機構さきがけ
されている実環境データを用いて,筆者らの提案手法を再
評価し,筆者らがすでに行った実験の結果と比較する.
― 415 ―
ベルデータも付与されている.
2. HASC corpus
• 実環境データ
行動認識技術の行動化には大規模な行動コーパスの存在
駅や職場などの任意のランドマーク間を自由に移動
が重要であるにもかかわらず,これまで研究者が利用で
したデータである.実環境で採取したデータであるた
きるパブリックなコーパスは存在しなかった.非営利任
め,上記 6 種類の行動に限らず,エスカレータやエレ
意団体 HASC(人間行動センシングコンソーシアム)[16]
ベータなどの行動も含まれている.実環境データには
では,人間行動のセンシングを通じて,行動の認識および
前述のメタデータと正解ラベルデータが付与されてい
理解の実現を目指しており,そのために必要となるセン
る.実環境データのメタデータには上記 2 種類のデー
シングデータの大規模データベースの構築に取り組んで
タのメタデータに加えて天候,行動開始地点,行動終
いる [8].HASC は人間行動理解に関する研究開発を加速
了地点の情報が記録されている.
し,日本が世界をリードするデバイス開発やサービス提供
採取するセンサ値は加速度,角速度,地磁気,GPS のう
を実現するために HASC Challenge と名付けた技術チャ
ち少なくとも 1 種類であり,使用するセンサは市販されて
レンジを 2011 年,2012 年,2013 年に開催し,2014 年も
いるものであれば参加者の自由である.また,センサ装着
開催予定である.HASC Challenge は複数の参加者の協力
位置に関してはズボンのポケットに入れたり,手首に固定
を通じ,人間行動センシングのためのデータ収集技術の獲
するなど参加者の自由であるが,前述のとおり使用したセ
得,特徴量・アルゴリズムの開拓,およびアルゴリズム・
ンサや装着位置,センサの向き,装着方法,サンプリング
ツールの標準化を目指した技術チャレンジである.HASC
周波数,参加者の年齢や性別,身長,体重,履物の種類,
Challenge の参加者は最低 5 名の行動センシングデータを
データ採取時の天候などの情報はメタデータとしてセンシ
HASC に提出し,行動認識アルゴリズムを提案し,HASC
ングデータと関連付けられて記録されている.
に提出されたすべてのデータに対してアルゴリズムを適用
本稿では,より実世界での利用に近いデータで筆者らの
し認識精度を競う.Challenge 終了後に,参加者から提出
既出提案手法の検証を行うために,HASC2012corpus の実
された行動センシングデータを HASCcorpus として公開
環境データを用いて評価実験を行う.実環境データに含ま
している.これらの成果として HASC2011corpus(被験者
れている被験者数は 40 名(男性 34 名,女性 6 名)である.
数 116,行動データ数 4898)
,HASC2012corpus(被験者数
136,行動データ数 7668)を構築した.HASC2011corpus
3. 先行研究
は利用許諾に同意すれば登録者は誰でも使用できる.ま
本節では,筆者らが [13] において提案した,行動認識の
た,HASC Challenge2011 の参加者と同等のデータを提出
ための低データサイズな特徴量および,それを用いた認識
すれば,HASC2012corpus を利用できる.
手法について説明する.
HASCcorpus は以下の 3 種類のデータから構成されて
3.1 想定環境
いる.
• 学習データ
本稿では腕や腰,足に加速度センサを装着し,装着者の
静止(直立)
,歩行,ジョギング,スキップ,階段を上
行動を取得する環境を想定する.一般的にはセンサ装着者
る,階段を下りるの 6 種類の行動のデータであり,1
の行動や状況などのコンテキストを認識するシステムをコ
つのファイルには 1 種類の行動のみでで構成されてい
ンテキストアウェアシステムと呼ぶ.コンテキストアウェ
る.1 つのファイルに含まれる行動は 20 秒以上で,6
アシステムにおける処理の流れを図 1 に示す.システム
種類の行動を 1 セットとして,1 人あたり 5 セット分
では初めにセンサから取得した生データを特徴量に変換す
のデータが用意されている.また,メタデータとして,
る.その後,事前にデータと正解情報のペアを用いて学習
センサデバイスの種類,計測周波数,被験者の性別,
しておいた認識器に特徴量を入力して装着者のコンテキス
被験者の年代,被験者の身長,被験者の体重,被験者
トを推測する.ここで,複数のセンサのデータを統合する
の靴の種類,センサデバイスの装着状態,センサデバ
必要があり,かつバッテリ容量やデバイスのサイズの観点
イスの装着箇所,センサデバイスの設置方向,データ
からセンサデバイスの処理能力は高くないため,一般的に
収集時の床の種類,データ収集場所が記録されている.
認識処理は個々のセンサはではなくスマートフォンやクラ
• シーケンスデータ
ウドなどで行われる.
上記 6 種類の行動全てがひとつづきの行動として行わ
ここで,コンテキストアウェアシステムの利用環境とし
れているデータである.一連の行動が 1 つのファイル
て以下の 2 種類が想定される.1 つ目は取得したセンシン
に保存されており,ひとつの行動は 10 秒以上継続さ
グデータをセンサ自身が保持し,後から解析を行うオフラ
れている.行動の順序は被験者の自由である.シーケ
イン環境である.このような環境の例として,活動中の装
ンスデータには,前述のメタデータに加えて,正解ラ
着者のセンシングデータを蓄積しておき,後からデータを
― 416 ―
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図 1
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コンテキストアウェアシステムの流れ
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図 3 ピーク抽出手法
3.2 ピーク特徴量
ピーク値はセンサ信号に見られる基本的な情報であり,
観測値と移動平均との交点で挟まれた領域内の極値のもつ
値である.加速度波形において,姿勢や動きによって波形
図 2
先行研究で使用したセンサ:Porcupine
のピークの形状に違いがあるため判別性能が高く,同じ行
動を行った場合に類似の波形が繰り返し出現しているため
解析する運動支援システム [12], [14] などがある.2 つ目は
再現性も高いと考えられる.先行研究では,ピークの幅と
取得したセンシングデータをセンサは保持せず,逐次無線
高さを用いた新たな特徴量を提案した.
経由でメインコンピュータに渡して蓄積および処理するオ
3.2.1 特徴量抽出アルゴリズム
ンライン環境である.このような環境の例として作業者を
ピーク抽出アルゴリズムを図 3 に示す.センサは現在時
サポートするシステム [2], [11] やユーザの状態に応じた情
刻 t から過去 ∆t 秒間(ウィンドウ)のセンシングデータ
報提示システム [3],健康管理システム [4] などがある.前
の平均 m(t) を計算する.ここで,Epsilon tube と呼ばれ
者の環境ではデータはセンサデバイス上のメモリに蓄積し
る領域を m(t) ± ε に設け,一度波形が Epsilon tube 外に
ておく必要があり,ストレージの容量の制約や読み書きの
出てから再び Epsilon tube 内に戻るまでの波形をピークと
オーバヘッドの問題が存在する.また,後者の環境ではセ
して検出する.加速度波形が Epsilon tube 内で変動してい
ンサとメインコンピュータが常に通信する必要があるため
る間はピークは検出しないため,Epsilon tube を設けるこ
通信量の問題がある.そのため,センサデバイス上でセン
とでノイズなどによる微小なピーク検出を防ぐことができ
シングデータのサイズの小さくしておくことは両者の環境
る.センサが 1 つのピークを検出すると,そのピークの情
に対して有効である.
報(幅,高さ,平均 m(t),発生時刻 t)をメモリに格納,ま
先行研究で使用したセンサは図 2 に示す小型記録プラッ
たはメインコンピュータに送信する.メインコンピュータ
トフォーム Porcupine[5] に搭載された 3 軸加速度センサ
では受信したピークを発生時刻をもとに情報を時系列上に
(ADXL 330) である.Porcupine は内部のマイクロコント
並べる.ただし,メインコンピュータはピークの情報しか
ローラに専用の OS が搭載されておりセンシングデータの
受信しないため,復元した時系列データはセンサが取得し
収集やコンピュータからのコマンドへの応答などを行う.
ている滑らかな加速度波形ではなく矩形となる.このよう
バッテリは小型の 2 次電池を採用しておりサンプリング周
に提案手法ではピークの情報のみを送信するため,センシ
波数 150Hz において加速度データを採取した場合約 2 日
ングしたすべての生データを送信する場合と比較してデー
間連続稼働する.また,miniUSB ポートを搭載し,バッテ
タ量を削減できると考える.
リの充電と同時にセンサの設定および蓄積したセンシング
3.2.2 特徴量ベクトル生成アルゴリズム
データの読み出しを行うことができる.さらに,動作確認
次に,受信したピーク情報から認識に用いる特徴量の抽
用 LED,タグ付け用ボタンが搭載されている.Porcupine
出方法を述べる.図 4 に受信したピーク情報からの特徴量
には加速度センサの他に 9 軸のバイナリ傾きセンサ,照度セ
抽出方法を示す.歩行などの特定のパターンの繰り返しか
ンサが搭載されているが,先行研究では使用しない.先行
らなる動作において,1 つのパターンの加速度波形のピー
研究ではセンサのサンプリング周期を 150Hz とし,採取し
クは動作開始時の動作,主要な動作,動作終了時の動作か
たデータは特徴量に変換されたのちにセンサ上の microSD
ら成る.主要な動作にその行動の情報が最も多く含まれて
カードに記録した.
おり,その前後の部分は開始前の動作および終了後の動作
― 417 ―
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図 5 加速度波形とピーク:歩く(上),座る(下)
図 4 ピーク情報からの特徴量ベクトル生成手法
に関する情報が含まれているためノイズが多い.そこで,
に 従 い 標 準 化 し ,N 次 元 の 特 徴 ベ ク ト ル Z(t) =
主要な動作はある一定時間内の最も大きな動作であること
{z1 (t), z2 (t), · · · , zN (t)}(平均 0,分散 1)を得る.ここ
に着目し,ウィンドウにおける最大のピークを第 1 ピーク
で M = {m1 , m2 , · · · , mN } および S = {s1 , s2 , · · · , sN } は
とした連続 5 ピークを抽出することで開始前および終了後
データフォーマットは [L1x , H1x , · · · , L5x , H5x , mean1x ,
標準化前のデータ X(t) = {x1 (t), x2 (t), · · · , xN (t)} の各成
∑T
分の平均および標準偏差であり,mi = T1 t=1 xi (t) およ
∑
T
び s2i = T1 t=1 {xi (t) − mi }2 で定義される.ただし,リ
L1y , H1y , · · · , L5y , H5y , mean1y , L1z , H1z , · · · , L5z , H5z ,
アルタイムアプリケーションでは未来のデータは取得でき
の動作を除いた.
mean1z ],ただし L1x および H1x は x 軸のデータの第 1
ないため,全データの平均および標準偏差を用いて標準化
ピークの幅および高さ,mean1x は x 軸のデータの第 1
を行うことは不可能であるため,採取したデータの一部の
ピークの平均である.装着者が静止していたり,ウィンド
平均および標準偏差を用いて,残りのデータを標準化して
ウ内の最大のピーク(第 1 ピーク)がウィンドウの終わり
評価用データセットとした.予備実験より静止時において
に出現すると,抽出されるピーク数が 5 個に満たない場合
センサが出力するノイズが 50mG 程度であることを確認し
がある.その場合は欠損したピークの幅と高さを 0 として
たため,本論文では ε = 100[mG] とした.また,ウィンド
扱う.ウィンドウ内に 1 つもピークが存在しない場合は全
ウの幅 ∆t を 2 秒と設定した.
てのピーク特徴量を 0 として扱う.また,次元数が高いた
め,主成分分析によって次元数を削減した.主成分分析と
4. 実験
は統計手法の一つで,複数の変数間の共分散を主成分と呼
本節では HASC2012corpus の実環境データに対して,筆
ばれる少数の合成変数で説明する手法である.n 種類の変
者らがこれまでに提案している加速度センサのピーク値を
数がある場合,主成分も n 個存在する.第 1 主成分は元
用いた特徴量抽出手法 [13] を適用し,データ圧縮率を評価
のデータの散らばりを最もよく表現し,第 2,第 3 となる
する.
につれ,もつ情報が小さくなる.元の特徴量は各軸に対し
て 10 個のピーク特徴量と 1 つの平均もっている.では第
4.1 先行研究での結果
5 主成分までを採用し,次元数削減後のデータフォーマッ
先行研究の評価では手首,腰,足首の 3 ヶ所に 3 軸加速
ト は [s1x , · · ·, s5x , mean1x , s1y , · · ·, s5y , mean1y , s1z , · ·
度センサを装着した 1 人の被験者から採取したデータを用
·, s5z , mean1z ] となる.ただし,s1x は x 軸のピーク特徴
い,オフラインで解析した.サンプリング周波数は 150Hz
量の第 1 主成分である.また,主成分分析においてリアル
である.採取したコンテキストは歩く,ゆっくり歩く,自
タイムアプリケーションではすべてのデータを用いて主成
転車を押しながら歩く,階段を昇る,エレベータで昇る,
分を計算できないため,あらかじめ採取したデータの一部
立つ,バスの中で立つ,バスの中で座る,座る,座って食事
の分散共分散行列を用いて残りのデータの主成分を計算
をする,座って仕事をする,走る,膝立ち,階段を降りる,
した.
エレベータで降りる,自転車に乗るの 16 種類である.採
特徴量に平均を含めているのは,ピークだけでは位置に
取したデータサンプル数は 965380 で,107 分に相当する.
関する情報をもたないためである.センサから送信される
まずはじめに,ピーク数によって提案する特徴量のデー
ピーク情報は 1 つのピークに対して 1 つの平均値を含んで
タサイズが決定するため,加速度波形に現れるピークの数
いるため,ピーク特徴量の平均値は第 1 ピークの平均値を
について述べる.加速度波形およびピークを図 5 に示す.
利用する.ウィンドウ内に 1 つもピークが存在しない場合
図中の上の波形は「歩く」データ,下の波形は「座る」デー
は直近のピークから現在までピークが発生していないため
タであり,コンテキストによって出現するピーク数が異な
平均値には大きな変化はないと考え,直近のピークの平均
ることがわかる.特に静止しているコンテキストでは,加
値を利用する.
速度波形が Epsilon tube 外に出ず,ピークとして検出され
こ こ で ,こ れ ら の 特 徴 量 は ス ケ ー ル が 異 な り 等 価
ないためピーク数が少ない.
に 扱 う こ と が 出 来 な い た め ,Z(t) = (X(t) − M )/S
― 418 ―
また,表 1 に 10000 サンプルあたりの出現ピーク数を示
す.表中のピーク数は 3 軸の合計である.表よりコンテキ
#EVKXG
ストによって出現ピーク数が大きく異なることが分かる.
とえば,
「走る」データは 8294 個のピークが出現している
#EEGNCTCVKQP
分散値と同様に行動の激しさとピーク数に相関がある.た
5NGGRKPI
#EVKXG
のに対し,「歩く」データは 6583 のピーク,「ゆっくり歩
く」データでは 1289 個のピーク,
「立つ」データでは 8 個
6KOGa=aUGEQPF?
のピークが出現しており,これは行動の激しさと一致する.
Za
図 6 24 時間の加速度波形
データサイズの列は生データおよび生成されたピーク特
徴量のデータサイズを表している.ただし,コンテキスト
䢵
のラベルは含まれていない.センサがコンピュータに送
䢴
信する生データのフォーマットは [x 軸の値 (1),y 軸の値
䢳
(1),z 軸の値 (1),タイムスタンプ (4)] の 7 バイト,ピーク
䢲
情報のフォーマットは [ピークの幅 (1),ピークの高さ (1),
䢯䢳
平均値 (1),タイムスタンプ (4)] の 7 バイトとする.ただ
䢯䢴
し () 内の数字はバイト数である.ここでタイムスタンプを
4 バイトとした理由は時刻をミリ秒単位で記録しなければ
䢯䢵
ならず多くの桁数を必要とするためである.3 バイトでは
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䢵䢰䢵䢶
䢵䢰䢵䢷
䢵䢰䢵䢸
䢳䢰䢲䢵
5 時間弱までしか表現できないため数日単位の長時間利用
する環境では容易にオーバフローが発生するためタイムス
図7
䢵䢰䢵䢺
䢳䢰䢲䢵䢴
䢵䢰䢵䢻
䣺䢢䢳䢲
䢶
䢳䢰䢲䢵䢶
先行研究の歩行データ(左)と HASCcorpus(右)の歩行デー
タの波形
タンプを 4 バイトで表現した.4 バイト使用すると 50 日弱
まで表現可能であり,実際に市販されている無線加速度セ
䢵䢰䢵䢹
4.2 HASC corpus での結果
ンサ [15] でもタイムスタンプを 4 バイトで表現している.
提案手法を HASC2012corpus の実環境データに適用し
結果より,10000 サンプルの生データは 10000 × 7 × 3 =
た結果のうち 5 つのケースを表 2 に示す.装着位置の「自
210000 バイト,提案手法は「自転車」が最大のデータサイ
由」とは固定せずにポケットなどに入れた状態であること
ズで 80584 バイトであり,データサイズは生データと比較
を示している.先行研究の評価で最も圧縮率が低かった
して 61.6%削減できていることがわかった.16 種類の行動
「自転車に乗る」でも圧縮率は 61.6%であったため少なくと
の平均では 22344.44 バイトであり,すべての行動を均等に
もこの値以上の圧縮率が得られることが期待される.しか
行った場合のデータサイズは生データと比較して 89.4%削
しながら,結果より HASCcorpus に対する圧縮率は最も高
減できていることが分かる.
いもので 65%であり,低いものは 31%にとどまっており,
前述の評価結果は採取した 16 種類のコンテキストそれ
先行研究で行った結果よりも性能が低く現れた.
それ,あるいは各コンテキストが同頻度で発生した場合
最も圧縮率が低かった#2 のデータについて波形を比較
の平均的な数値であり,実生活では静止している時間が
して考察する.図 7 に先行研究で採取した歩行データと
活動している時間よりも長い.文献 [10] では 16 日間のモ
HASC2012corpus の#2 の被験者の歩行データを示す.図
ニタリングにより約 4100 分間のうち約 3000 分が「座る」
より先行研究のデータは歩行のステップが明確であるが,
である結果が得られている.また,前述の結果には睡眠は
HASC2012corpus のデータはステップが明確ではなく細か
含まれておらず,睡眠を含めた 24 時間で考えると静止し
い波形の振動が多く見られる.この細かい振動によって
ている時間は大部分を占めると考えられる.そこで,腰に
ピークが多く発生し,データ圧縮率が低くなったと考えら
加速度センサを装着し,サンプリング周波数 20Hz におい
れる.細かい振動が多く発生した理由について#2 のデー
て入浴を除く 24 時間のデータを 1 人の被験者から採取し
タ収集者にヒアリング調査を行ったところ,当該データの
た.得られた加速度波形を図 6 に示す.図 6 より睡眠時
被験者はゴムバンドにセンサを貼り付けて足に装着してい
はピークの出現回数が少なく,活動時にはピークがあらわ
た.ゴムの伸縮によって歩行中は常にセンサが振動してい
れているように見えるが,活動時の加速度波形を拡大する
たため図のような細かい振動が現れたと考えられる.
と静的な動作が多いことが確認できた.また,ピーク特徴
量と生データのデータサイズはそれぞれ 12096000 バイト
5. まとめ
と 366002 バイトとなり,ピーク特徴量は生データと比較
本稿では,筆者がこれまでに提案した手法に対して,実
してデータサイズを 97.0%削減できており,前述のすべて
環境で採取したデータを用いて評価を行い,評価に用いる
の行動を平均的に行った場合と比較してもデータサイズ削
データの質が評価結果に与える影響を調査した.今後は,
減率が改善されていることが分かる.
筆者が提案している他の手法に対する評価を実施する予定
― 419 ―
表 1 先行研究で採取したデータに対する評価結果
ピーク数 [個]
コンテキスト
生データ
手首
腰
5949
データサイズ [バイト]
足首
計
2137
3426
11512
80584
13
0
8
21
147
1265
2318
3001
6584
46088
79
46
13
138
966
1351
3272
3671
8294
58058
-
-
自転車
エレベータ下降
階段下り
膝立ち
走る
210000
座る(バス)
8
0
0
8
56
座る(仕事中)
73
27
25
125
875
座る(食事中)
690
167
151
1008
7056
座る
53
37
35
125
875
立つ(バス)
93
49
321
463
3241
ピーク特徴量
立つ
1
3
4
8
56
エレベータ上昇
16
0
3
19
133
階段昇り
981
1584
2431
4996
34972
歩く(自転車を押す)
5145
2021
2734
9900
69300
歩く(ゆっくり)
275
275
739
1289
9023
歩く
1145
2342
3096
6583
46081
平均
1071
892
1229
3192
22344.44
表 2
HASCcorpus に対する評価結果
データ#
端末
周波数
移動
生データ量
圧縮後データ量
データ削減率
1
iPod touch
100Hz
駅の改札→建物の 5 階
29214
10263
65%
2
Wireless-T WAA-006
100Hz
研究室 4 階→研究室 4 階
152064
104496
31%
50Hz
建物の 3 階→バス停
39733
22505
43%
100Hz
神社→釣具店
28453
10414
63%
50Hz
建物 3 階→駅前
56500
27350
52%
(手首・固定)
(足・固定)
3
Samsung Galaxy S II
(ズボンのポケット・自由)
4
iPhone
(ズボンのポケット・自由)
5
Samsung Galaxy S II
(ズボンのポケット・自由)
である.
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