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PDF形式 296 KB - 内閣府経済社会総合研究所

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PDF形式 296 KB - 内閣府経済社会総合研究所
セッション1:日本経済の新たな経済成長に向けて
議長:杉田伸樹
経済社会総合研究所
○杉田議長
それでは、セッション1「日本経済の新たな経済成長に向けて」を開始いたします。
このセッションでは、マクロ経済の側面を見ていきます。ご存じない方もいるかもしれま
せんので申し上げますが、アベノミクスは三つの矢からなっています。第1の矢は金融政
策、第2の矢は財政政策、そして第3の矢は構造政策です。セッション1は、主に第1と
第2の矢に係わります。
2人の方からプレゼンテーションをいただきます。それぞれ指定されたディスカッサント
の方からコメントをいただき、その後、会場の皆様との間での討議をしたいと思います。
最初の発表者は、カリフォルニア大学バークレー校の教授のアラン・オーエルバッハ先生
です。トピックは、「Fiscal Multipliers in Japan(日本の財政乗数)」です。
財政乗数には、ご存じのとおり、長い議論の歴史があります。今回のご発表で財政政策の
効果について、新たな洞察を得ることができると思います。
それでは、オーエルバッハ先生、お願いいたします。
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“Fiscal Multipliers in Japan”
発表者:Alan Auerbach, University of California, Berkeley
討論者:杉原 茂 内閣府
○発表者: アラン・オーエルバッハ/カルフォルニア大学バークレー校 教授
ESRI の主催する会議に再び参加できたことを大変うれしく思っております。私は ESRI が NBER と
共同で開催した会議にこれまで何回か参加させていただいていますが、この会議がまた再開され
たことを大変喜ばしいことである思っています。この会議は、米国のエコノミストにとって日本経済に
ついて学ぶことのできる非常に有益な機会となっております。これは、ここ数年、私がバークレーの
同僚であるユーリ・ガラナチェンコ(Yuriy Gorodnichenko)とともに継続的に行っている研究プログラ
ムの一部です。私たちはこれまで 3 つの論文を発表していますが、そのうちの 2 つが今回の論文で
カバーした内容と関連があります。そして、今回の論文はこれまでの論文をさらに敷衍したものであ
るため、最初に、私たちが用いた一般的な手法について少し説明させていただきたいと思います。
これまでの研究から重要な結果がいくつか得られています。第一点は、政府購入乗数は、景気の
拡大期よりも後退期の方が大きくなるということです。少なくとも、日本だけを対象としたのではない
国々に関して私たちが過去の論文で研究したデータでは、経済が後退局面にあるか、拡大局面に
あるかをどのように測定するかに関係なく、そうした結果が得られています。
また、財政ショックの定義というのが非常に重要であることも分かりました。つまり、構造ベクトル自己
回帰分析(VAR)でショックを特定する典型的な方法を使うと、適正であろうと考えたものとは異なる
ショックが測定されることになるからです。特に、専門家によるその時点の予測は、いわゆる財政政
策の策定プロセスに対するショックをある程度予測する傾向のあることが判明しました。つまり、その
プロセスの中でのそうした予測は本当に革新的なものではないという意味になり、私たちの測定し
たショックを訂正することは乗数の大きさに影響を与えるという意味も持つのです。事実、乗数に及
ぼすこの影響は景気後退局面において、さらに大きくなる傾向が認められました。
今回もこれまでの手法、特に日本を含めた OECD 諸国のパネルを見た 2 つ目の論文で使った手
法を使いました。ちなみに、この2回目の検証は、ある特定の国だけを対象としたものではありませ
ん。最初に、日本について1960年まで遡った長期の時系列を見てみました。日本は他の国とは
違うという見方があることを踏まえると、驚きと感じる人もいるかもしれませんが、この期間を検証して
導き出された結果は、実際、これまでの研究結果とほぼ同じでした。しかし、異なる推定手法を使っ
て異なるサンプル期間を注意深く見てみますと、乗数は時間とともに不安定になるということが分か
りました。そして、日本に関して結論を導き出すに当たっては、とりわけ 2 つの追加的な問題に直面
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しました。一つはこの分析に利用できるデータの質の問題です。これについてはこの後ディスカッ
サントもお話することとなっています。もう一つは、いかに景気循環を定義づけるかという問題です
が、例えば米国のような国々と比べると、日本の場合はなかなか難しいのです。
ここからは、私たちがどういった手法を用いて乗数を推定したかについて手短に説明したいと思い
ます。ここでは、NBER の書物で公表されたばかりの 2013 年論文で用いたのと同じ手法を用いまし
た。私たちは、おそらく皆様にとってより馴染み深い VAR ではなく、直接的でシンプルなダイレクト・
プロジェクション・アプローチという VAR に替わる手法を用いました。ここでは標準的な VAR アプロ
ーチとの比較はせずに、私たちの推計法がどのようなものであるかを説明したいと思います。
まず指摘しておきたいことは、これから説明する結果の大部分は、GDP の対数を政府購入の対数
に関係付けたもので、特に、政府購入の対数に対するショックとの関係を見ているという点です。こ
のページの真ん中には乗数を推定する基本的な方程式が示されていますが、その方程式に含ま
れている項目についてこれから説明したいと思います。まず、「X」は、コントロール変数のベクトル
で、アウトプットの「Y」、そして政府購入の「G」のラグが含まれています。これらは、VAR で見られる
コントロール変数と同じです。
この回帰分析に私たちが追加したものは、財政ショックを推定するためのものです。現時点「t」にお
ける財政ショックは、シンプルな VAR であれば、政府支出を遅行するアウトプットと政府支出の価値
で回帰し、そして残差を政府支出のショックとして使うことで計算されるわけですが、ここではリアル
タイム予測を説明変数に取り入れることで財政ショックを計算しています。私たちはリアルタイム予
測を制御する時、これも説明変数として含め、財政ショックを計算しています。
この回帰をゼロ四半期からそれに続く11四半期先まで、さまざまな期間で行いました。何をしようと
していたかというと、アウトプットの政府購入へのショックを、アウトプットの起きた四半期、その1四半
期先、2四半期先、3四半期先と続け、11四半期先のアウトプットまで関連付けたのです。これらの
期間、h のそれぞれについて一つの回帰分析を行ったのです。
景気の後退期と拡大期の効果を分けるためには、ビジネスサイクルの状況がどうなっているかを示
す標識変数が必要になります。私たちが選択した変数については、この後説明しますが、とりあえ
ず、「Z」は、値が高ければ景気が強いということを示す標準的な景気循環指標と説明しておきます。
「F」という関数ですが、これは Z のロジスティック変換と定義され、値は1からゼロの間を取ります。Z
が無限に近づくと、F はゼロに近づき、Z が小さくなると、F は1に近づきます。したがって、F の値が
非常に低ければ力強い拡大期、F の値が高ければ、深い景気後退期を示していると考えることが
できます。これまでの分析に基づき、γは1.5に設定しました。これは、F という関数の指標変数 Z
に対する感応度を示すパラメータです。
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景気後退時、拡大期それぞれに1セットあるため、マトリックスπとスケール係数Φはペアで使われ
ています。そして、時間と共に変わる乗数をどのように推定するかというと、まず、景気は深い景気
後退期と強い景気拡大期の間にあると見て、その時点の経済の動きは、この 2 つの係数のセットの
平均によって決定されると考えて行います。ちなみに、そのウェートは Z の変換値 F で決まります。
例えば、F が1に近づくような不況の谷では、この景気後退期の推定係数が非常に重要になります。
同様に、景気拡大期にはその他の 2 つの係数のセットが重要になります。
最後に、VAR において乗数を推計する場合に同じく推定するインパルス応答関数は、h をゼロから
始め、それ以降の期間についてそれぞれに、単に推定された係数から直接的に抜き出しています。
例えば、期間を3年とした場合、h がゼロから11まで、つまり12の方程式から12セットの係数が推
定されることになります。インパルス応答関数は 12 の方程式から直接的に導き出せます。
それではデータの問題についてお話ししたいと思います。これを米国のケースで行う場合ならば、
最新の国民所得勘定のデータと希望する時点まで遡った過去のデータを用いることができます。
米国のケースでは通常、1940年代後半まで遡ります。戦後のデータを分析するのは、単に、第二
次世界大戦中および大恐慌の時代には、場合によっては結果に大きな影響を与える非常に強い
経済の力が働き、それが戦後の政策にとって支配的な要素になったと懸念されるためです。その
ため、私たちは戦後のデータを調べることが多いのです。日本の場合には、それを行えません。つ
まり、国民所得勘定の改定はそれほど前までは遡ることはありません。そのため、1960年まで遡っ
た系列データを得たい場合の唯一の方法は、様々なバージョンの国民所得勘定からのデータを集
め、調整を行うことなのです。
今回のプロジェクトでは、私たちはこのデータを提供していただきました。しかし、これはこのプロジ
ェクトのためだけに作られた非公式のデータであり、米国について行う場合に得られるような正式な
データではありません。この点は少し残念なことでした。ちなみに、これは政府購入だけに限ったデ
ータです。これまでの分析では別の情報源から得られたデータを使って税についても分析しました
が、この系列データはさらに短い期間のものですので、ここではこれについてはお話しません。ま
た今回の論文でも省いております。短いサンプル期間の税のデータを入れたとしても、それほど結
果は変わらなかったためです。また、リアルタイム予測に関しては、さらに短い期間のデータしかあ
りませんでした。リアルタイム予測の問題は、国民所得勘定の問題ではなく、プロフェッショナルに
よる予測の欠如の問題です。論文には結果を示してありますが、非常に短いサンプル期間であっ
たため、標準誤差が非常に大きく、決定的な結論は出せないということで、ここではこれ以上の説
明は省略します。
では、このメジャーZ についての説明をします。過去の研究では、Z を測定するために、トレンド成
長率、つまり7四半期の GDP 成長率の移動平均を用いました。トレンドを予測するために、この種
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の分析では標準的な HP(ホドリック・プレスコット)フィルターを使っています。また他の指標も考慮
しました。これまでの分析ではこれはあまり大きな影響を持たなかったのですが、日本については
重要性が高いのです。そのため、別の定義の Z の結果についてこれからお話したいと思います。
景気循環の定義の仕方が日本ではなぜ重要なのかについて説明します。ここに、景気後退局面
であるかどうかを確率で示した関数 F の 3 つの測定結果があります。黒い線はアウトプットのトレンド
からの偏差を示しています。2番目のブルーの点線は最近の成長率の最近のトレンドからの偏差を
示しています。そして、3番目の赤い点線もトレンドからの成長の離れぐあいを示しています。このケ
ースでは、1990年までの平均成長率との相対性を見ており、日本は1990年以降成長率が鈍化し
ましたが、トレンド成長が鈍化したのではなく、むしろ非常に長い景気後退であると考える人もいる
でしょう。
ですから、このブルーの点線は、トレンド成長率が低下していると解釈でき、赤い点線は、もっと前
の期間との比較が必要であることを示しています。したがって90年以降というのは景気後退である
確率の方が高いことが示されています。ここ数十年間の赤い点線と青い点線を比較して見てみると、
赤い点線の方が高く、そうであることが分かります。しかし、成長率に基づいた、あるいはレベルに
基づいた、この3つの時系列を比べてみると、景気が後退期である確率に関して、かなり違うパター
ンを示しています。これは、米国のデータでは見られないことですので、私は即座にこれに回答を
出すことはできません。
では、1960年以降の基本的な結果について説明し、これら3つの異なるメジャーを示したいと思い
ます。最初に言っておかなければならないことは、日本でも乗数は景気後退期において大きいとい
うことが分かったことです。図の左側は景気拡大期の乗数、そして右側は景気後退期の乗数です。
これはインパルス応答関数を標準化したものです。というのも、私たちは政府購入に対する生産の
平均倍率からこれを求めているからです。つまり、政府購入が1円増加した場合の生産への影響を
円で測定しています。したがって、乗数が 1 であれば、政府購入が 1 円増加した場合には生産も 1
円増加することが意味されます。
青の点線は90%の信頼区間を示していますが、ご覧の通り、拡大期の乗数は概ねゼロからそれほ
ど大きくは離れていません。成長率に基づいた左側のケースのうち、2 つ、つまりトップとボトムに示
したパネルですが、推定値は大部分マイナスになっています。一方、右側に示される景気後退期
の乗数は概ね正の値、それも非常に大きな正の値になっています。これらは12四半期のインパル
ス応答ですが、かなり大きく、真ん中のパネルでさえ、拡大期に見られるものとは確かに異なってい
ることが分かります。実際、私たちが推定値を出している 3 年間の平均値を出してみると、不況期に
おける政府購入の乗数は 2.5~2.8 と、米国および OECD の国々に関して得られた測定結果よりも
大きいものとなりました。もし、ここで終わってしまえば、日本の財政政策、少なくとも政府購入は、
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米国および OECD 諸国とほぼ同様の、あるいはそれよりももっと強い効果を持ち、景気の拡張期と
後退期で大きな違いはあるかもしれないものの、(用いる指標によって景気循環のタイミングが影響
されるにしても)景気循環をどのように測定するかに関わりなく、有効であると結論付けることも可能
です。
しかし、景気の拡大期と後退期とを区別しない、また個々のレジームも区別しない、この線形モデ
ルでは、後のサンプルの結果は弱くなっています。まず、この線形モデルを見てみましょう。この方
が簡単だからです。私たちの以前の結果に拡大期と後退期を合わせてみますと、このようになりま
す。こちらの乗数は、私たちが景気後退期では2.5~2.8であると検証したその2.5~2.8のレンジ
の間にあり、拡大期にはゼロ近くになっています。これを、例えば米国など、過去の研究の結果と
見比べてみますと、やや値は大きくなっているものの、他の研究における推定値を踏まえた場合、
確実に妥当な水準だと見なされます。こちらは、すでに皆さんにご紹介した後退期と拡大期の結果
を別々示したものです。しかし、同じ推定を1985年から2012年までの後半期に当てはめてみると、
このような結果が出てきました。
見てお分かりの通り、乗数が大幅に低下しています。そして、インパルス応答関数はほとんどゼロ
に近くなり、意味がありません。拡大期と後退期を比べてみますと、これは短期のものですから、標
準誤差は大きくなっています。その効果についてコメントすることは難しいのですが、後退期の推
定乗数が以前より低くなっていることは読み取れます。どのケースにおいても、乗数はゼロ付近に
あり、それほど大きな違いはなく、真ん中ではマイナスにさえなっています。実際、このケースでは
拡大期の乗数の方が、後退期の乗数よりも大きくなっています。
データの少ないこの短い期間についてあれこれ解釈することは難しいのですが、何かが起きたに
違いないとはいえると思います。もう少しこれを押し進めて、これが一回限りのシフトなのか、それと
も、不安定化というもっと一般的な傾向なのかという問題を考えてみましょう。そのために、10 年間
のローリングサンプルにおける乗数を推定してみます。付属書類には後退期と拡大期の別々の推
定値を示しましたが、観測数がさらに少ないことから(期間が10年であるため)標準誤差が非常に
大きくなるため、拡大期と後退期を組み合わせた線形モデルに絞って考えてみたいと思います。
1990年代の半ばに乗数が低下傾向をたどったという一般的なトレンドは、ここでも認められました。
その後は安定化し、おそらくどのようなメジャーを使うかにもよりますが、最近では上昇に転じていま
す。確実なことはいえませんが、少なくとも大部分のグラフからは、90年代の半ばを底として、その
後若干上昇していることが分かります。
データ上の問題も、景気循環を測定する上での問題もあるため、これは単なる試験的な分析です。
私たちのその他の研究でははっきりとは出てこなかったのですが、乗数には期間による何らかのバ
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リエーションがあるように思われます。一方、もっとデータが多いということで、ある意味最も信頼性
が高いといえる長いサンプルを見てみますと、日本について示された結果は他の国々に関するそ
れまでの研究結果と一貫性が認められます。ですから、一体何が起きているのかというのを理解す
るのが難しいのです。データがもっと良いものであったなら、よりよい結果を得ることができたでしょう
が、こうしたデータが示す結果は、その範囲において、この論文が求めていた回答にとって極めて
価値が高いものになる可能性があります。
その他にも私たちが検討していない要因があります。例えば、最近乗数の上昇が見られています
が、それは、ゼロ金利による制約があるからだというふうにも考えられます。通常ならば、金融政策
は相殺要因になるわけです。この数年の乗数の上昇と関係があるかもしれませんが、まだはっきり
とは分かりません。また、ここ 20~30 年間の乗数の低下は、例えば、資本の分配、あるいは制度上
の制約など、他の要因が原因かもしれません。そうした要因により、財政刺激があったとしても、成
長が見込まれたペースほど高くならなかったのかもしれません。しかし、現在のデータでは、これも
はっきりしたことをいうことはできません。
最後に申し上げたいことは、トレンドとサイクル(景気循環)を区別するのが非常に難しいという点で
す。日本のデータを他の国々のデータと比較し、例えば、雇用データを見て、経済に何が起きてい
るのかを知ることは日本でははるかに難しいのです。米国では、オークンの法則というのがあります。
いつも完全というわけではありませんが、通常、生産の伸び、稼動率、失業率との相関性をかなり
の精度で説明でき、またそうでない場合はその原因を理解できます。ですから、オークンの法則で
は、経済の強さを測るのに、例えば米国では失業率を生産の代替指標として使うことができるので
す。
日本の失業率は、私の感触としては、データとしての代替性がない、あるいは低いのです。日本で
は、失業率が比較的低かったとしても、またその変化が比較的小幅であったとしても、経済が非常
に弱いということがあり得ます。したがって、私の日本経済に対する理解というのは、米国経済に対
する理解ほどではないと思います。この論文は、日本で何が起きているのかをより深く理解するた
めの最初の試験的分析であると考えています。これからさらに理解していくための最初のステップ
だというふうに考えています。この論文により、少なくとも、この重要な問題についての関心がさらに
強まることを希望いたします。
○杉田議長
オーエルバッハ先生、ありがとうございました。
では、杉原審議官に、このプレゼンテーションのコメントをお願いしたいと思います。
杉原審議官は、内閣府の分析担当の審議官を務めていらっしゃいます。
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○討論者:杉原茂/内閣府 分析担当審議官
簡単にまとめると、この論文は、財政乗数が景気後退期と景気拡大期で変わるかどうかということを
日本に適用した論文です。それほど強くはおっしゃっていませんでしたが、特に日本で興味深い
のは、長く低成長が続いていて特に期待も非常に低いということと、ゼロ金利が続いているというこ
とです。ですから、日本について乗数を調べることによって、一般的な景気後退と景気拡大におけ
る乗数の違いを調べるとともに、ゼロ金利時の乗数を調べることができるという、そういうことがあるか
と思います。
ファインディングとしてはいささか残念な結果も交じっていましたが、フルサンプルであれば期待通
り乗数は景気後退時に大きかった。ただ、85年以降は、景気後退でも乗数は小さい。ただ、これ自
体がそんなにがっかりする結果ではないのかなというのは私の感じですけれども、特に興味深かっ
たのは、rolling estimation です。乗数が90年代の半ばまでは低下するけれども、それ以降上昇と
いうことが、ちょっと驚いた結果だと思います。ご存じの通りと思いますが、日本は、乗数が時間とと
もにずっと低下したかどうかという議論がいろいろありました。ですから、この結果を見てがっかりす
るのではなくて、乗数が最近上昇したのか、あるいは乗数が上昇したり低下したりする理由は何か
ということをさらに研究するというのが非常に興味深いのではないかと思いました。
問題点について、論文と今のプレゼンテーションで幾つか指摘されていますが、それについて簡
単にコメントします。時系列が短いということも確かに問題はあるかと思いますが、本質的にこれで
引っかかっているのかなというのが私の感じです。結果がやや困惑するようなものであったとしても、
そこから何か乗数を決める要因についての情報を得ることができるのではないかというのが一点で
す。
景気後退確率を推定するのは非常に問題が多い。これはこの後のコメントでもう少し取り上げます。
ただ、これも本当にこれだけが問題というよりは、恐らくもう少し他の要因が入ってきている。そこで
乗数が85年以降小さくなっているということがあるのかと思います。もう少し大きなコメントとしては、
乗数が景気後退とか景気拡大で変化する要因を探求してはどうかということです。そうすることによ
って、乗数が時間とともに変化する要因も明らかになるのではないかと思います。
要因はいろいろあるとは思いますけれども、金融政策と Confidence の役割ということを簡単に触れ
たいと思います。
最初に、景気後退確率の推定について。オーエルバック先生も問題点を指摘されましたが、これ
はメジャーによって違います。さらに、日本の標準的な景気循環の景気基準日付とは大分異なりま
す。これ(注:杉原氏プレゼン資料 Figure1)が論文で推計された景気後退確率ですが、日本の景
気後退確率は、この(注:杉原氏プレゼン資料 Discussion Figure1)シャドーの部分が景気後退、白
い部分は景気拡大です。例えば80年代、日本はバブルという高度成長がありましたが、景気後退
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確率がかなり高い。バブル崩壊後、日本の景気後退期は景気後退確率が低いとか、あるいは
2000年代、戦後最長の景気拡大という時期も景気後退確率が高く出てしまって、さらにリーマンシ
ョックの後、景気後退じゃないという、そういう形になると、ちょっとこの辺のビジネスサイクルの推計
がうまくいっていないところがあるのかなと。
日本に標準的なメジャーを当てはめる。例えばHPフィルター、それでλは非常に大きくとっておら
れるということですけれども、これはご案内のように、次のグラフ(注:杉原氏プレゼン資料
Discussion Figure2)ですけれども、GDPが相当大きく変化をする。トレンドが変化をするということ
で、あまり適切ではないだろう。もう一つ、LESというメジャーも 90 年以前のトレンドグロスを使って
いるというのもあまり適切ではない。日本の場合は、ビジネスサイクルを検出するためには、景気動
向指数を使って、GDPは通常使わないことが多いです。先ほどの図(注:杉原氏プレゼン資料
Discussion Figure1)の折れ線は、景気動向指数の Composite Index、CIと呼ばれるものです。これ
は景気循環に対応した波動を描くという形で、これを使うというのが結構多い。CIは、鉱工業生産
指数と非常に密接に動きますので、そういったものを使って景気循環を検出するというのが一つの
やり方かと思います。ただ、CIもIIPも必ずしも長期の系列が一貫してとれるわけではないので、こ
のあたりは少し考えなければいけないところです。
これは若干ツリー的なものですけれども、幾つかの指標を使って景気後退確率を推計したものが、
先ほどの図のように、特に1985年以降とても異なる。それにもかかわらず割といろいろなメジャー
を使ったときの乗数が似たような感じになっているというのは、むしろ意外な感じがしました。ですか
ら、メジャーに問題があるといえばあるのですが、他の要因もかなり重要なのではないかという感じ
を受けました。そういったファクター、乗数が何によって決まるかという要因をさらに検証するのが重
要なのではと思います。
そのひとつは金融政策ですけども、金融政策が時間とともに変わっているというのはかなりあるので、
それが大きな候補のひとつかなと思います。もちろん乗数が変化する要因は、例えば、消費性向と
か投資性向とかあるいは confidence、それから経済が開放経済か閉鎖経済か、あるいは為替レート
が固定為替レートか変動しているか、そして先ほどの金融政策の話と、日本経済は長期間にこうい
ったものが随分変わってきているので、いろいろ変わっています。ただ、個人的にはやはり金融政
策というのが非常に重要ではないかと思っています。実際に、ゼロ金利がバインディングの時に乗
数が大きいという指摘も、最近かなりなされているということで、このあたりは普通の金利がポジティ
ブの時には、政府支出を増やしたら金利が上がってしまう。それでクラウディングアウトなり、あるい
は Taylor rule の金融政策の反応がある。ただ、金利がゼロの場合には、政府支出が増えても名目
金利は上がらない。むしろ実質金利は期待インフレ率が上がるので低下をするということが言われ
ているわけです。ただ、そうだとすると、日本で1990年代に乗数が小さかったということがパズルな
わけですが、金融政策自体が、accommodation の度合いが結構違うということもあるのかなと思いま
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した。例えば、日本銀行は財政支出が増えた時に、同時に金利を引き下げるということが多い。で
すから、財政支出というのは金融緩和を伴っているのが通常です。これは通常の Taylor rule とは
整合的ではありませんが、特に日本の場合は、金融政策と財政政策が協調することによって
confidence を高めようというような意図もあったのかと思います。
こういった accommodation を通常の景気後退で行っているとすると、金利がゼロの時には、結局そ
れ以上金利を下げられない。だから、財政拡張に対応できないということで、むしろそれ以外の時
期に比べて乗数が小さくなってしまうという可能性はあると思います。ただ、ゼロ金利の場合でも、
基本的には乗数は大きくなるという話なので、これが非常に小さいというのはパズルであって、ほか
のファクター、confidence があるのかなということです。
日本の monetary accommodation がどのように行われていったか、私の見た限りでのものですが、
ESRI の堀・鈴木・萱園、三氏による論文によると、実際に財政支出とともに金融緩和を行ったという
ことが観測されます。ただ、それが景気後退時だけではなく、景気拡大時も協調しているかどうか
は明確ではないということです。ESRI が実際にマクロ計量モデルを使って行ったもの、それに関し
て次のグラフ(注:杉原氏プレゼン資料 Discussion Figure3)がありますが、下の青い線は、金利が
動く、つまり財政支出時に金利が上昇する時の乗数で、赤い線が、金利を固定する、つまり財政支
出 を し て も 金 利 が 上 昇 し な い よ う に 金 融 緩 和 を 同 時 に 行 う 。 で す か ら 、 確 か に monetary
accommodation の場合には乗数が大きい。ただ、それがドラスティックに違うかというと、そこまでは
違わないという、そういう感じです。
恐らく、長期に渡っては monetary accommodation の程度は大分変化してきています。例えば60年
代は、日本銀行はあまり独立性が強くなかったとすれば、財政政策に対して accommodation を非
常に強くとったということはあり得ると思います。70年代、もし日本銀行が Inflation Fighter のように
なったとすれば、accommodation の度合いは弱まる。90年代にはゼロ金利で、先ほどの話と、これ
はひとつの仮説ですが、非常にコミットメントを強くしたので、もう少し財政乗数が高まるようになると
いう可能性もあるのかなと思います。いずれにしろ、この辺はちょっと思いついただけなので、こうい
った accommodation の度合いみたいなのをうまく取り入れるということは考えられるのかなと。 財政
乗数がそういう accommodation の効果を含んでいるとすると、それをうまく分離して推計しなければ
いけない。その分離して推計するというのはそう簡単ではないということで、ひとつは、単純に金利
みたいなものを説明変数に入れるのかなと。ただ、これはご指摘があるように内生性の問題がある。
そういったものに対して、よくナラティブアプローチとかやりますけれども、これは日本についてやる
のは相当ディマンディングでしょうということであって、この辺はあまり提案というのもなかなか難しい
ところがあります。
もうひとつ、Confidence について簡単にご紹介をしたいと思います。財政乗数の大きさというのは、
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人々が消費とか投資をどのくらい増やすかによって変わりますので、例えば景気後退時には非常
に confidence が低い。そうすると、財政出動が起きても消費や投資を増やす割合は低いということ
で乗数が小さくなるという可能性があります。景気拡大時は、逆に Confidence が高い。ただ、これは
通常想定されている景気後退で乗数が高くなるというのとは逆になっているということで、これはオ
ーエルバック先生が論文で引用されていますが、バックマン氏と清水氏は、財政支出が直接に
Confidence を上昇させて乗数を高めるというのではなく、財政支出がむしろ投資のほうに偏る、そう
すると経済の生産性が上昇して乗数が大きくなって、同時に Confidence も高くなるという、そういう
ようなことをやっています。こういったことが本当に起きているかどうかは私にもよくわかりませんが、
日本の場合、特に経済対策は公共投資が多いということも言えるかと思いますので、そういったも
のを使って検証するというのは、日本の場合は結構やりやすいのかなと思います。ただ、日本の場
合、公共投資の効果、生産性に対する効果というのはオーバータイムに小さくなっているという指
摘があるということはあります。
日本の場合、60年代は Confidence が非常に高かったのがどんどん落ちてきて、最近では非常に
弱いということだと思いますが、こういったものをどのように取り込んでいくか、簡単なことではないと
思いますが、例えば、日本銀行の短観統計の Confidence を直接使うとか、あるいは財政出動のパ
ッケージをアナウンスしたものをフィスカルショックみたいにする。これは非常に不完全ですけれど
も、例えば、ある時期にどのくらいの規模がアナウンスされたかというのをある程度とることはできま
すので、こういったものを使っていくということもあります。ただ、やはりこれもいろいろ問題があって、
内生性の問題とか、あるいは経済対策のアナウンスメントがあっても、実際にどれだけ支出された
かというのは非常に難しい、疑問だということもあります。ただ、いずれにしろ、アナウンスメント効果
みたいなものは検出できるのかなということです。
以上が私のコメントです。
○杉田議長
杉原審議官、ありがとうございました。 では、会場の方からご質問、ご意見をいただきたいと思いま
す。まず、ご発言をなさる前にお名前をおっしゃってください。
○コメント 1: 吉野直行/ 慶應義塾大学 教授、金融庁・金融研究センター長
慶應義塾大学の吉野直行と申します。 3つコメントがあります。
私は、全く違ったアプローチを乗数に取っています。まずは、アグリゲートされた供給サイド、そして
民間資本ストック、政府資本ストック、そして労働、また技術進歩という点を見ています。
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そして、財政乗数、特に政府資本乗数は、1990年以降一貫して低下しています。というのは、政
府の資本ストックの乗数効果が低下したためです。このアプローチと、フローのアプローチでは全く
違った結果が出ています。ですから、なぜ、二つのアプローチがそんなに結果が違うのかというの
が一つの質問です。
それから、多くの構造変化が日本の経済では起きています。このペーパーでは85年から扱ってい
ますが、しかし、資産価格のバブルがあり、それから信用逼迫、そして銀行の破綻、またゼロ金利
政策がありました。ですから、こうした構造的な変化を、こうしたインパルス反応関数にどう入れてい
くかということです。また、政府購入の定義、Gの定義ですけれども、政府の購入の構成要素という
のは、この25年間で劇的に変わってきています。公共政策は非常に80年代、90年代は大きかっ
たと言えますが、今、社会福祉が最大です。ですから、こうした構成要素の変化が乗数に影響を与
えているかもしれません。政府購入だけを使おうとすればそうなると思います。
ありがとうございました。
○コメント 2: 塩路悦朗/ 一橋大学 教授
一言コメント、それから1つ質問があります。
まずコメントは、若い研究者が日本でかなり多数、財政政策のショックのアウトプットへの影響の経
年変化について様々な手法を使って分析しています。マルコフスイッチングモデルであるとか時変
係数ベクトル自己回帰分析、そのほかスムーズトランジションモデルなど。それらの分析に共通す
る結果は、このペーパーと整合的であるように思われます。まず、長期的に乗数のサイズが低下し
てきていること。次に、最近になって乗数が少し回復してきていること。この論文の結果はその意味
で非常に心強いものだと思っています。それが私のコメントです。
質問ですが、最近の文献、財政政策についての文献がよく指摘しているように、ほとんどの財政政
策、そして財政支出は実際に支出が行われるときにはすでに民間経済主体によって予測されてい
ます。ほとんどの場合、政府はまず最初に新しい歳出を議会、国会に提案し、そして国会で審議を
しなければなりません。実際に支出がなされるときには、全てもう予測されているということで、人々
の情報セットの中に入っているわけです。ですから、これらの文献が指摘しているのは、こういった
予測された部分と予測されない部分があるということを考慮する必要があるということです。これに
ついてはどう対応されているのかというのが私の質問です。
ありがとうございました。
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○コメント 3: 沖本竜義/ 一橋大学 教授
一橋大学の沖本竜義と申します。
ウェイト関数のパラメータγについてお聞きしたいと思います。γの値は1.5に定めたとおっしゃっ
ていました。これはどのように決めたのでしょうか。また、この値を推定するのは難しかったのでしょう
か。この値は景気後退の確率の計算に非常に影響を及ぼすと思うのですが、論文の結果はこのγ
の値にどの程度依存しているのでしょうか。
○コメント4: 祝迫得夫/ 一橋大学 教授
一橋大学の祝迫得夫と申します。
日本でマクロ経済の会議に出席したり、経済メディアの報道に触れると、何より重要なのは為替レ
ートです。同じことで、アメリカで一番重要なのは失業率です。そして日本では、財政のバランスと
いうことになるでしょうか。とにかくこの国では、何より重要なのは為替レートということになります。
可能なら、為替レートの変化、あるいは為替レートの最 近のトレンドからの逸脱についても分析の
対象に入れて頂ければと思います。円高のときに(対策として)財政支出を行ってもあまり効果がな
かったというような結果が出れば、望ましいと思います。
○コメント5: 齋藤潤氏/内閣府 参与
内閣府の齋藤潤と申します。
私の質問は、財政支出の構成を考慮する必要がないのかどうかということです。これには2つの側
面があります。
第1の側面は、景気後退期には乗数は大きく、景気拡張期にはそうでもなかったということですけ
れども、当然、それぞれの時期で財政支出の構成が違っています。景気後退期に拡大するのは公
共投資です。これに対して、景気拡張期には何が拡大するかは一概には言えませんが、多分、公
共投資ではないと思います。そうだとすると、そうした景気の局面によって財政支出の構成が変化
していることを考慮する必要はないのでしょうか。
第2の側面は、財政支出の構成が長期的にも大きく変わってきていることです。公共投資が減少し、
社会保障関係支出が拡大してきています。このことも当然、乗数に影響を与えるのではないかと思
います。
いずれにしても、財政支出の構成を考慮する必要性について、お考えを教えて頂きたいと思いま
す。
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○杉田議長
ありがとうございました。 もうご意見ないでしょうか。
それでは、オーエルバッハ先生、お願いいたします。
○発表者: アラン・オーエルバッハ/カルフォルニア大学バークレー校 教授
非常に有益なコメントありがとうございます。特にディスカッサントの方、ありがとうございます。多くの
有益なご意見をいただきました。できる限りご質問にお答えしたいと思います。
いかにγを推定したか、なぜ1.5にしたのかという一番シンプルな質問からお答えしたいと思いま
す。γが上昇すれば上昇するだけ、指標変数 Z の変化に対する関数 F の感応度が高まります。
私たちの最初の論文では、非線形モデルにより、γを個別に推定しようとしました。そして、この尤
度関数がさまざまなγの値に関してフラットであることを発見しました。しかし、高い信頼度を持って
γを特定することができませんでしたので、景気循環をうまく追跡できるようなγを選択しました。私
たちは、これを OECD および日本の分析に持ち込みました。γの合理的な変化は、その標準誤差
を考えた場合でも、推定値にそれほど大きな影響は与えなかったと記憶しています。
何人かのディスカッサントの方が話された支出の構成要素についてですが、最初に確認しておか
なければならないのは、ここで議論しているのは政府購入についてだけであり、移転支出や日本、
米国、その他の国で政府予算の大きな部分を占めているその他の項目は含まれていない点です。
もちろんそうしたデータを入れるに越したことはないのですが、前にも説明した通り、日本の税やそ
の他の移転支出に関してのデータは政府の購入データよりもさらに質が悪く、期間も短かったため、
入れることを断念せざるを得ませんでした。
構成要素に関していえば、米国に関するオリジナルの論文では、例えば防衛支出と非防衛支出、
政府投資と政府消費支出などで幾つかのデータがカットされていました。また、乗数も違っている
のが分かりました。米国でさえ、推定に追加の変数を加えることになるため、構成要素別分解を始
めると、標準誤差は大きくなってきます。ですから、これをもし日本で行うとすれば、特に短期の時
系列で行う場合、非常にノイズの高い推定に終わってしまうと思います。米国の結果を見ますと、政
府投資の方が、特に景気後退期には、政府支出よりも乗数が大きくなることが示唆されています。
これが日本にも当てはまるかどうかについては、憶測しかできません。
また、今後の研究において追加すべき幾つかのポイントとして、例えば、為替レート、制度上の特
徴における変化など、皆様からご指摘を頂きました。米国についてのオリジナルの研究では、金利
を入れましたが、それを入れても推定財政乗数にはあまり大きな影響はないことが分かりました。も
ちろんそれは米国での結果ですから、これが必ず日本に当てはまるとはいえません。特に日本は、
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特にこの 20 年、超低金利にあったというユニークな状況にあったため、分かりません。
また様々な推定ポイントでもその他の変数を見てみましたが、あまり有益ではありませんでした。だ
からといって日本で役立たないというつもりはありません。皆さまから頂いた数々の質問は鋭いご指
摘ではありますが、こうした分析を行えるだけ十分なデータがありませんでした。ここで示した推定
値はかなりノイズがあります。特に短いサンプル期間のものはノイズが顕著です。ローリングサンプ
ル期間、または短期のサンプル期間を見ることで、構造変化を探り、同時に追加的な変数の効果
を見極めようとしましたが、結果はどうでしたでしょうか? 私たちが分析に使ったデータにより、一
体どうやってそれを探りだせるか、私には分かりません。
次に、期待値をどのようにコントロールするかという点ですが、これは実は、リアルタイムのプロの予
想値を入れたオリジナルの論文に戻ることで、今回のプロジェクトでやろうとした非常に大きな部分
でした。政府が何か変更を提案する場合、法案を作り、国会決議を通じてそれを実現しようとします
が、既にそれを織り込んだプロフェッショナルの予想が存在しているのです。彼らは、「こうなること
は分かっていました。私たちの予想には次の四半期の政府支出が織り込まれています」とコメント
するでしょう。これがまさにリアルタイム予測を私たちの説明変数に加えた一つの根拠です。なぜな
ら、これらの予想は、VAR に組み入れられる少数のマクロ変数にはない方法で当時入手可能であ
った情報を取り込むことができるからです。
米国では、専門家による様々な予想が入手可能であり、民間セクターあるいは連邦政府の予想な
どから望みの予想を選ぶことができますが、残念ながら日本ではそうした情報を入手可能か知りま
せんでした。ですから、私たちが使ったのは、IMF と OECD のものです。これらは全て非常に短期
の系列のものでした。できるだけ前の論文で使ったのと同じアプローチで臨みましたが、日本に関
して得られた結果は非常にノイズが多いものになってしまいました。そのため、ここでは触れません
でした。
以上です。ありがとうございます。
○杉田議長
オーエルバッハ先生、そして杉原審議官、ありがとうございました。
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