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日本進化学会ニュース Vol.15 No.1

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日本進化学会ニュース Vol.15 No.1
ISSN 2187-798X
Vol . 15 No . 1
March 2014
目 次
01
日本進化学会 会長挨拶
02
日本進化学会 2014 年度役員紹介(2014 - 2015 年)
03
第 16 回日本進化学会大会(大阪大会)のご案内
04 ミーティングレポート①
根井正利先生、京都賞受賞おめでとうございます!
~京都賞記念講演会・ワークショップレポート~
野澤昌文(国立遺伝学研究所 生命情報研究センター)
07 ミーティングレポート②
国際生物学賞記念シンポジウム参加報告
河合洋介(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
09 ミーティングレポート③
2014 年 2 月 15 ~ 16 日
GDR 2nd Meeting in 九州大学に参加して
佐藤 淳(福山大学 生命工学部 生物工学科)
12 海外研究室だより 第 17 回
非英語圏での研究-ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
17
編集後記
松村洋子(日本学術振興会海外特別研究員)
日本進化学会ニュース
日本進化学会 会長挨拶
March2014
進化学会会員のみなさま
本年より日本進化学会の会長を務めさせていただくこととなりました。学会がみなさまの研究のお役にた
つよう、2 年間の任期の間がんばりたいと思います。どうぞよろしくお願いします。倉谷前会長、浅見前事務
幹事長、田中前会計幹事を始めとした前執行部の方々のおかげで、今期は特に大きな問題は無いように思い
ますので、これまでの伝統にのっとり、粛々と会務を行っていければと思っております。
新執行部人事につきましては、できるだけ多くの会員が学会運営に参加できるように、私以外はほとんど
の方が前執行部から交代致しました。また、本年より、執行部と大会本部の連絡が密にとれるように、大会
代表の方に渉外担当として執行部に加わっていただくことに致しました。進化学会の情報誌である「進化学
会ニュース」は宮前委員長が勇退され、荒木編集幹事のもと新体制で編集が開始します。執行部と致しまし
ては、会員選出の評議員ともども会務運営を行っていきますので、会員のみなさまのご協力を引き続きお願
い申し上げます。
進化学会の良いところの一つは、いろいろな分野の研究者と交流できることにあると思います。大学院生
だったころ、進化学会の前身の研究会で、ほんとに多くの先輩方に御世話になったように思います。そのつ
ながりが今でも大いに研究、その他に役立っています。今年の第 16 回大阪大会は蘇智慧大会委員長、小田広
樹実行委員長(ともに JT 生命誌研究館)のもと、8 月 21 日から 24 日まで高槻現代劇場で開催されます。ぜひ
ご参集ください。
進化学会賞、研究奨励賞、教育啓蒙賞の選考は進化学会の大きな仕事の一つです。研究奨励賞は過去の
授賞者をご覧になるとわかるように、受賞後大きく飛躍されています。若手研究者の方々、幸運を得る一歩
としてぜひ挑戦してみてください。
研究には研究費が必要です。現在、学術研究を支える科研費が危機的状況にあります。応用志向の世論と
マスコミ報道、一部の有力科学者による応用基礎研究への投資拡大発言などによって、今年度に引き続き来
年度予算も科研費総額が減額されることがほぼ確定しました。減額幅は実質数パーセントと大きくないのです
が、政治的には一度減額された予算は減る一方になるのが常ですし、科研費で減額された分が実質的には総
合科学技術会議主導の ImPACT や日本版 NIH などの応用研究に回り、研究予算総額は減額されていないこ
とが基礎研究削減、応用研究増額の流れを決定づけています。文科省の中でも科研費を維持して学術研究を
守ろうという考えの方々と、いっそのこと基礎研究は見捨てて予算立てしやすい応用研究に重点化し研究費
総額を増やそうという考えの方々がいらっしゃるように感じられ、前者の方々は極めて大きな危機感を持って
います。また、米国、ドイツをはじめ、世界的に同じような潮流であることも危機に拍車をかけています。進
化学会には基礎研究、応用研究のどちらの分野の方もいらっしゃると思いますが、人間の自由な好奇心に基
づいた基礎的学術研究および学術教育の重要性については全員が認識されていることと思います。日本から
基礎的学術研究を無くさないために、我々進化学者ができることは、基礎的学術研究の意義を、一流の研究
て、世界中の人をあっと言わせる、それが学術研究学徒の最大の攻撃なのかなと思っています。学会がその
ような研究活動の一助として機能するように努力したいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
日本進化学会会長
長谷部光泰
日本進化学会 会長挨拶
成果を生み出すことと、成果の一般への公表によって示していくことかと思います。めっちゃ面白い研究をし
1
日本進化学会ニュース
日本進化学会 2014 年度役員紹介
(2014 - 2015 年)
March2014
■執行部
会 長
長谷部 光泰
(基礎生物学研究所)
副会長
田村 浩一郎
(首都大学東京)
事務幹事長
河村 正二
(東京大学)
会計幹事
入江 直樹
(東京大学)
庶務幹事
長田 直樹
(国立遺伝学研究所)
渉外幹事(国内)
蘇 智慧
(生命誌研究館)
渉外幹事(国内)
西田 治文
(中央大学)
編集幹事
荒木 仁志
(北海道大学)
web 担当
野澤 昌文
(国立遺伝学研究所)
国外渉外担当
北野 潤
(国立遺伝学研究所)
広報担当
奥山 雄大
(国立科学博物館)
生物科学学会連合担当
寺井 洋平
(総合研究大学院大学)
日本分類学会連合担当
村上 哲明
(首都大学東京)
自然史学会連合担当
三中 信宏
(農業環境技術研究所)
男女共同参画委員会担当
原 恵子
(東京大学)
浅見 崇比呂
(信州大学)
池尾 一穂
(国立遺伝学研究所)
今西 規
(東海大学)
入江 直樹
(東京大学)
巌佐 庸
(九州大学)
遠藤 俊徳
(北海道大学)
岡田 典弘
(国際科学振興財団)
河田 雅圭
(東北大学)
河村 正二
(東京大学)
倉谷 滋
(理化学研究所)
郷 通子
(情報・システム研究機構)
斎藤 成也
(国立遺伝学研究所)
嶋田 正和
(東京大学)
西田 治文
(中央大学)
長谷川 真理子
(総合研究大学院大学)
真鍋 真
(国立科学博物館)
三中 信宏
(農業環境技術研究所)
宮 正樹
(千葉県立中央博物館)
渡邉 日出海
(北海道大学)
和田 洋
(筑波大学)
■評議員
日本進化学会役員︵
年︶
2014 - 2015
2
日本進化学会ニュース
■編集委員
荒木 仁志(編集長) (北海道大学)
大島 一正(副編集長)(京都府立大学)
March2014
奥山 雄大
(国立科学博物館)
工樂 樹洋
(理化学研究所)
佐藤 行人
(東北大学)
真鍋 真
(国立科学博物館)
山道 真人
(コーネル大学)
伊藤 剛
(農業生物資源研究所)
西原 秀典
(東京工業大学)
■会計監査
第 16 回日本進化学会大会(大阪大会)の
ご案内
日程 2014 年 8 月21日(木)
∼ 24日(日)
会場 高槻現代劇場(阪急高槻市駅より徒歩 5 分、JR 高槻駅より徒歩 12 分)
大会ホームページ https://sites.google.com/site/shinka2014osaka/
第 16 回日本進化学会大阪大会を、2014 年 8 月 21 日(木)午後から 24 日(日)の 4 日間、大阪府高槻市の現
代劇場で開催します。22 日午後には、国際プレナリーシンポジウムを大阪大学の四方哲也博士に企画して頂
いています。
「実験室内進化」をメインテーマとし、海外から Santiago F. Elena 博士(サンタフェ研究所、ス
ペイン分子細胞生物学研究所)
、Tim Cooper 博士(ヒューストン大学)を招き、最新の研究動向を紹介して頂
きます。一般演題の発表形式は口頭またはポスターのいずれかを選択していただきます。すべてのポスター
は初日から 3 日目午後まで掲示可能の予定です。詳細は未定ですが、一般演題の中から若手の優秀発表を表
彰します。
3 日目 23 日(土)の午後には、高校生ポスター発表「第 9 回みんなのジュニア進化学」と、一般市民向けに
公開講座を開きます。公開講座では、生命誌研究館 20 周年を記念して制作した演劇「生命誌版 セロ弾きの
開講座での研究紹介展示に協力していただける会員を募ります。最終日午後の進化学・夏の学校ではゲノム
解析技術の講習会を予定しています。
シンポジウム・ワークショプの企画申込、大会の参加登録等、詳細は順次、大会ホームページを通じてお
知らせしていきますので、そちらをご覧下さい。多くの皆様のご参加をお待ちしております。
大会概要
8 月 21 日(木) 一般口頭発表、シンポジウム、ワークショップ
8 月 22 日(金) 一般口頭発表、シンポジウム、ワークショップ、プレナリー国際シンポジウム
8 月 23 日(土) 午前:一般ポスター発表、午後:高校生ポスター発表、公開講座(入場無料)
、高校生ポス
16
回日本進化学会大会︵大阪大会︶のご案内
ています。芸術とサイエンスの融合、一般市民と学会員の交流を意図した企画です。一般演題とは別に、公
第
ゴーシュ」の上演、共生と進化をテーマとした深津武馬博士の講演、学会会員による研究紹介展示を予定し
3
日本進化学会ニュース
ター表彰式、総会・学会賞授賞式・受賞講演、懇親会
8 月 24 日(日) 一般口頭発表、シンポジウム、ワークショップ、進化学・夏の学校(入場無料)
申込期間
March2014
シンポジウム・ワークショップの企画申込の受付:4 月 1 日(火)
∼ 4 月 30 日(水)
∼ 6 月 27 日(金)
一般口頭発表・ポスター発表の申込:6 月 2 日(月)
∼
参加登録:6 月 2 日(月)
※ 上記はあくまでも予定であり、変更の可能性があります。最新情報については随時大会ホームページ
(https://sites.google.com/site/shinka2014osaka/)をご確認ください。
大会委員長:蘇智慧( JT 生命誌研究館)
大会準備委員長:小田広樹( JT 生命誌研究館)
大会事務局メールアドレス:[email protected]
ミーティングレポート①
根井正利先生、京都賞受賞おめでとうございます!
~京都賞記念講演会・ワークショップレポート~
野澤昌文(国立遺伝学研究所 生命情報研究センター)
29 回京都賞記念講演会とワークショップに参
加しましたので、その時の雰囲気などをレポー
トしてみたいと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、平成 25 年
度の基礎科学部門/生物科学(進化・行動・生
態・環境分野)の受賞者は根井正利先生(ペン
シルバニア州立大学 Evan Pugh Professor 分
子進化遺伝学研究所所長)でした。授賞理由は
「遺伝的変異と進化時間の定量的解析を取り入
れた生物集団の進化に関する研究」ですが、根
井先生の業績について改めてここで書く必要は
写真 1 記念講演会後に花束を贈呈される根井先生
ないでしょう。というかその業績があまりにも
多すぎて、私も把握できていないといったほうが良いかもしれません。
記念講演会
まず 11 日に行われた記念講演会(写真 1)について書いてみたいと思います。この記念講演会では根井先
生の講演のほかに、今年度の先端技術部門の受賞者である Robert Heath Dennard 博士の講演、思想・芸術
部門の受賞者である Cecil Taylor 氏のパフォーマンスも行われました。会場はほぼ満席で、特に年配の人を
中心に一般の方々も数多く参加されていました。
根井先生の講演はご自身の半生を幼少期から振り返りながら、いかにして学問の世界にのめり込んでいっ
根井正利先生、京都賞受賞おめでとうございます! ∼京都賞記念講演会・ワークショップレポート∼
去る平成 25 年 11 月 11 ∼ 12 日に行われた第
4
日本進化学会ニュース
たのかという内容から始まりました。特に印象的だったのが、好奇心の強さが災いして、戦争時の爆弾の雷
管をペンチで開けようとしてそれが爆発し、破片が左眼に入って視力を失ったというエピソードでした。根井
先生の左眼が悪いことは知っていましたが、視力を失っていたことは知りませんでした。しかも不慮の事故
ではなく、ご自身の好奇心によって起こった事故だったとは。しかし、この事故でスポーツをあきらめて読書
March2014
に没頭したことが学問の世界に入るきっかけだったとのこと。当時は大変ショックだったはずですが、それを
力に変えてしまうところがさすが根井先生、そのバイタリティは昔から変わっていないようです。
ご自身の研究内容の紹介では、日本に居たころの量的形質の集団遺伝学的解析や重複遺伝子に関する研究
から、アメリカに渡ってからの人類進化に関する研究、当時大学院生だった斎藤成也先生(遺伝研教授)と開
発した近隣結合法の話、やはり当時大学院生だった Sudhir Kumar 博士(アリゾナ州立大学教授)や当時ポス
ドクの田村浩一郎先生(首都大教授)と開発した分子進化解析ソフトウェア MEGA の話、さらには出生死亡
進化(Birth-and-Death Evolution)の話、MHC 遺伝子における超優性選択の話、といった具合に非常に広範
な話をされていました。その際、もともと理論集団遺伝学者である根井先生が「生物学では理論的にこうな
るというだけでは不十分で、実際のデータを使って証明する必要がある」とおっしゃっていたのが印象的でし
た。最後に、根井先生が昨年出版した本「Mutation-Driven Evolution」の紹介をされ、突然変異こそが進化
の原動力であり、自然淘汰はふるいに過ぎないという持論を展開されました。そして笑いながら「この本に対
するいろいろな批判が出るのを楽しみにしている」とおっしゃっていました。
こんな風に書くと、一般の人たちには難しすぎる講演だったのではないか、と感じるかもしれませんが、そ
こはさすが根井先生、独特のユーモアで会場は何度も笑いの渦に包まれていました。
記念ワークショップ
翌 12 日には記念ワークショップ「分子集団遺伝学から比較ゲノム学へ」が開催され、こちらは、根井先生
いう豪華なワークショップとなりました。このワークショップでの根井先生の講演も、やはり突然変異こそが
進化をもたらす最大の要因である、というメッセージが込められたものでした。なかでも、自然淘汰の有効性
を示すのによく用いられる工業暗化とオオシモフリエダシャクの体色の関係に対する根井先生の解釈は非常
に興味深いものでした。この例では、産業革命による大気汚染にともない自然淘汰によって暗化型が増加し、
「自然淘汰によ
環境改善と共に自然淘汰によって再び白色型が増加したとされています。しかし根井先生は、
る暗化型の頻度変化は一時的に集団中の遺伝子頻度を変えただけで、長期的にみれば特に進化に寄与してい
ない」というのです。自然淘汰について深く考えさせられるメッセージでした。その他の先生方も、根井先生
の研究テーマと関連のある内容を根井先生との思い出を交えながら紹介されており、非常に興味深いもので
した。一般の方々からの質問も数多くあり、根井先生はじめ講演者の方々が丁寧に答えていたのが印象的で
した。終了後には根井先生を囲んで懇親会も行われ、みんなで根井先生の受賞をお祝いしつつ歓談しました。
根井先生との思い出
さて、京都賞に関するレポートは以上なのですが、ここで少し私自身と根井先生の関わりについても書か
せていただきたいと思います。私は東京都立大学(現首都大学東京)で学位を取得しましたが、学位取得の目
「根井先生がポスドクを探しているか
処がたってきた頃、当時研究指導をしてくださっていた田村先生から、
らペンステート(ペンシルバニア州立大学)に行ってみたらどうだ」という話をいただきました。当時、実験生
物学的なアプローチで分子進化の研究を行っていた私は、理論研究やデータ解析が中心の根井研でやってい
けるのか?とかなり悩みましたが、やはり集団遺伝、分子進化のメッカである根井研で試してみたいと思い、
ポスドクとして根井研に移りました。最初は 2 年くらいを目処に考えていたのですが、結局 2006 年の 4 月から
2011 年の 3 月まで 5 年もの間、根井先生のところでお世話になりました。
研究室初日は、何とあの根井先生が「日本語」でいろいろと研究室について説明をしてくださり、すごく
根井正利先生、京都賞受賞おめでとうございます! ∼京都賞記念講演会・ワークショップレポート∼
はもちろん、斎藤先生、颯田葉子先生(総研大教授)
、田村先生、長谷部光泰先生(基生研教授)が講演者と
5
日本進化学会ニュース
ホッとしたことを覚えています。今思うと根
井先生の気遣いだったのだと思います。し
かし 2 日目からは英語での会話になり、しか
も「You have to write at least two papers
March2014
every year. This is the standard of our lab.」
と言われ、かなりビビりました。結局最後ま
で根井研のスタンダードには至りませんでし
たが、根井研の歴史と先輩たちの偉大さを思
い知りました。
私がいたころの根井研(写真 2)は、人数
もだいぶ少なくなっており、根井先生も毎
写真 2 私が 根井研を去る頃(2011 年 3 月)の根井研メン
バー。左から私、三浦明香子博士(当時大学院生、現アリゾナ
州立大学ポスドク)
、ZhenguoZhang 博士(ペンシルバニア州
立大学ポスドク)
、根井先生
日午前中はご自宅で研究や書き物をして午
後研究室に来るというスタイルでした。しか
しディスカッションの頻度は非常に多く、ほ
ぼ毎日何らかの議論をするという感じでし
た。特に論文を書き始めてからのディスカッ
ションの頻度はすさまじいもので、午前中
にご自宅から 5 回も 6 回も電話がかかってく
ることもよくありました。例えば 11 時ごろ
, you
電話がかかってきて、
「Fumi(私のこと)
should conduct some additional analysis to
というと、11 時半には電話がかかってきて
「Did you get the results?」といった具合で
した。そんな簡単に結果が出る解析ではない
写真 3 京都賞の授賞式に参加する前に三島に来られた際
の夕食会の様子。左手前から根井先生、斎藤先生、Partha
、
Majumder 博士(インド国立生物医学ゲノミクス研究所教授)
、
五條堀先生の奥様、JianzhiZhang 博士(ミシガン大学教授)
WilliamMartin 博士(デュッセルドルフ大学教授)
、斎藤先生の
奥様、五條堀孝先生(アブドラ国王科学技術大学教授)
んですけど(苦笑)
。そういう日は根井先生
がオフィスに来た午後も延々とディスカッションが続きました。また、土日でも私の携帯に電話がかかってき
て、いろいろと議論した後、
「Let s see, can you come to my office in this afternoon?」と結局オフィスに呼
び出されたりもしました。同僚のポスドクや学生たちに対してもこんな調子でしたから、みんないつも緊張感
を持って研究していたように思います。とにかく根井先生の研究に対する情熱にはいつも驚かされました。
根井先生の今後
さて、今後根井先生はどうされるのでしょうか? 83 歳で現役バリバリの研究者という人生は、私には到
底想像もできませんが、去る 2 月 2 日に NHK で放送されたサイエンス ZERO を拝見する限り、根井先生の研
究人生はまだまだ続くと言えそうです。番組内のインタビューでも「Darwin の引用回数(約 9 万回)は私(約
19 万回)の半分ですよ」
、
「何かを残したいという気持ちがあるので、ワイフは怒るだろうけれども死ぬまで研
究を続けると思います」
、
「やはりえらい研究者は死ぬまで研究をしていますよ」
、
「何かを考えようとするとや
められませんね」と今後の研究にも意欲満々でした。今後、根井先生がどのようなご研究をされるのか、要
チェックです。でも根井先生、奥様もお大事にしてくださいね。
:http://www.youtube.com/watch?v=23XYTXMrU2k
記念講演会の動画(YouTube)
根井先生からのメッセージ(YouTube)
:http://www.youtube.com/watch?v=bxKHppzL4BQ
根井正利先生、京都賞受賞おめでとうございます! ∼京都賞記念講演会・ワークショップレポート∼
confirm your results.」といい、私が「OK.」
6
日本進化学会ニュース
ミーティングレポート②
国際生物学賞記念シンポジウム参加報告
March2014
河合洋介(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
第 29 回国際生物学賞は University of Washing-
ton の Joseph Joe Felsenstein 博士が受賞しまし
た。私は 2011 年 4 月から半年間ワシントン州シアト
ルにある Felsenstein 研究室に留学をしておりまし
たので、授賞式と記念シンポジウムの参加報告と
合わせて留学記を書かせていただきたいと思いま
す。
国際生物学賞は 1985 年に昭和天皇在位 60 周年
を記念して創設された生物学の国際賞で、これまで
[1]
にも進化生物学の研究者が多く受賞しています 。
2013 年の受賞対象分野はずばり「進化生物学」で、
Felsenstein 博士の分子系統学の理論・方法論の研
写真 1 第 29 回国際生物学賞授賞式後のパーティーに
て。左から工樂樹洋、沓掛展之、JoeFelsenstein、田
嶋文生、田村浩一郎、筆者(敬称略)
究における貢献に対して授与されました。具体的
な受賞理由は以下のとおりです(第 29 回国際生物
学賞ホームページより)
。
1)系統樹作成における最尤法の確立
2)ソフトウェアパッケージ PHYLIP の開発と公開
3)最大節約法の統計学的問題点の指摘
4)ブーツストラップ法の導入
5)対照法の提唱
いずれも分子系統学の教科書に詳しく書かれて
いますので説明は割愛して、本稿では今回の受賞
理由以外の Felsenstein 博士の研究や教育に焦点を
当てたいと思います。
写真 2 JamesF.Crow 博士と木村資生博士(1972 年)
(Felsenstein 博士提供)
上野の日本学士院で行われた授賞式は招待者し
か参加する事ができないのですが、光栄にも Joe が招待者リストに私の名前を加えてくれたお陰で参加するこ
とが出来ました。授賞式は天皇・皇后両陛下が臨席される非常に厳かな雰因気の中で行われ、受賞者でもな
です。記念シンポジウムは矢原徹一先生の企画のもと九州大学で 2 日間行われました。微生物学、ゲノミク
ス、心理学、古生物学などをバックグラウンドとした第一線の進化学研究者による多種多様な講演が行われ
[2]
ました
。最後に行われた受賞記念講演のタイトル Impact and Influence of Our Knowledge of Evolution-
ary Mechanisms on the Reconstruction of Evolutionary History, and Vice Versa に相応しい大変有意義な
シンポジウムでした。受賞記念講演では分子系統学の始まりから現在に至るまでのレビューに加えて、Joe が
取り組んでいる近年の研究成果についての話がされました。特に講演の締めくくりとして話していた進化生
物学の今後への展望-分子系統学と集団遺伝学の reunion 、つまり種間の違いに関心のある分子系統学と
種内の多様性に関心のある集団遺伝学は今後再びひとつになるだろうという展望は非常に印象的でした。写
真 2 は記念講演の中で紹介された James F. Crow 博士と木村資生博士が三島駅で議論しているところを Joe
国際生物学賞記念シンポジウム参加報告
い私がとても緊張してしまいました。写真 1 は授賞式の後に行われた記念茶会(懇親会)の時に撮影したもの
7
日本進化学会ニュース
が撮影した写真です。貴重な写真だと思ったので許
可を得て掲載させていただきました。
ここで Felsenstein 研究室の事を紹介させていただ
きます。Felsenstein/Kuhner 研究室は比較的小さな
March2014
研究室で私の滞在時には Joe の他に Research Assis-
tant Professor の Mary Kuhner 博士とポスドク 1 名と
。私が SeaTac
プログラマ 3 名がいました(写真 3、4)
空港に到着した時も手の空いているスタッフがおら
ず、Joe 本人に自動車で迎えに来て頂いた上にそのま
まアパートの契約や家財の買い物に付き合っていただ
きました。研究室の日常はどうかというと午前 10 時頃
写真 3 Felsenstein 博士。研究室にて筆者が撮影
(2011 年 9 月)
に全員集まり、午後 5 時ぐらいになると誰もいなくな
るのが普通で、よく聞く 24 時間ハードワークが当たり
前のアメリカのウェットラボとは全然違う印象でした。
Felsenstein 研究室ではプログラマも含めて全員が自
分のプロジェクトを持っており、週に一度のラボミー
ティングで進
報告を一人ずつ行うことになっていま
「今週はここまでプログラ
した。Joe も例外ではなく、
ムを作ったけど、∼∼がうまくいかない」といった相
談をみんなでするのが定例になっていました。
Felsenstein 研究室といえば今回の受賞理由の一つ
にもなった PHYLIP が有名ですが、私の滞在中は LA-
MARC の開発が研究室の中心的なプロジェクトでし
写真 4 Felsenstein/Kuhner 研究室の風景(2011 年
9 月)
(Likelihood Analysis with Metropolis
た。LAMARC
[3]
は遺伝子系図(gene genealogy)の解析を行うためのツールで、
Algorithm using Random Coalescence)
SNP やマイクロサテライトなどの多型情報から有効集団サイズ、移住率、組み換え率といった集団遺伝学パ
ラメータの推定を行うことができます。同じ機能をもつソフトウェアとしては Bayesian Skyline Plot で有名
な BEAST や分集団の解析に特化した IMa などがあります。これらはサンプリングする系統樹の事前分布を
coalescent theory(合祖理論)に基づき計算することから coalescent sampler(あえて意訳すれば遺伝子系図
サンプラーでしょうか)と呼ばれています。Joe は最尤法やブートストラップ法などの数理統計学的な手法を
進化生物学に数々導入してきましたが、LAMARC の Metropolis-Hastings アルゴリズムを使った系統樹のモ
[3]
ンテカルロサンプリング(いわゆる MCMC 法)も Joe と Mary が最初に提案したものです
。遺伝子系図サン
プラーを使った解析には柔軟に集団遺伝モデルを設定しそのモデルパラメータを直接推定できるという利点
同時に推定することができます。このような解析は遺伝的多様性や分化の程度をπや Fst などの統計量を測っ
て行うことが多いと思いますが、Joe はこのような記述統計量に依存した集団遺伝学に批判的で、将来は記述
統計量による解析が coalescent 理論を使った解析にほとんど置き換わるだろうと言っていました。
最後に Joe の教育者としての側面に触れたいと思います。 Inferring Phylogenies は分子系統学の定番の
参考書として活用されている方も多いかと思います。Joe はこの本の他に Theoretical Evolutionary Genet-
ics という教科書も書いています。この本は Joe が 1970 年代以降に行ってきた進化遺伝学に関する講義の内
容をまとめた本で、400 ページを超える分量に教科書としても専門書としても十分な内容が詰め込まれていま
す。研究者が主な読者である Inferring Phylogenies に対して、 Theoretical Evolutionary Genetics は学
部生が読むことを想定して書いたそうで、PDF ファイルとしてホームページから自由に入手することができます
国際生物学賞記念シンポジウム参加報告
があります。例えば LAMARC は複数の分集団を仮定して、各集団の有効集団サイズと分集団間の移住率を
8
日本進化学会ニュース
[4]
。Joe によればこの本はこれまでに何度も通常の書籍としての出版の打診があったそうですが、多くの学生
が進化遺伝学を始めるきっかけを得られるようにとの配慮から無料の電子書籍として公開し続けているそう
[5]
です。また、PHYLIP のダウンロードページ
には PopG という教育目的のプログラムも公開されています。
PopG は有限集団の前向きシミュレーションとその可視化を同時に行うプログラムで、遺伝的浮動の効果を直
March2014
感的に理解するのに役立ちます。個人ウェブサイトにはその他にも講義資料のスライドやビデオが多数公開さ
れており、進化遺伝学の自習に役立つと思います。
Felsenstein 博士は今回の国際生物学賞の受賞理由にもなった最尤法などの分子系統学に関連した業績で
著名ですが、系統樹の MCMC サンプリングを集団遺伝学の解析に実用的な形で最初に導入したもの同氏で
あったということはあまり知られていない事だと思います。MCMC 法は分子系統樹のベイズ法にも使われて
いますが、これも分子系統学と集団遺伝学の reunion の一例なのではないでしょうか。
最後に私の訪問を受け入れ多くのことを教えていただいた Joseph Felsenstein 博士と本稿執筆の機会を与
えて頂いた工樂樹洋博士に感謝申し上げます。
参考文献・ウェブサイト
[1]http://www.jsps.go.jp/j-biol/03_pastrecipients.html
[2]http://www.congre.co.jp/seibutsugaku-prize/program/program.html
[3]Kuhner, M. K., Yamato, J., & Felsenstein, J.
(1995)
. Estimating effective population size and mutation rate from
sequence data using Metropolis-Hastings sampling. Genetics, 140
(4)
, 1421-1430.
[4]http://evolution.gs.washington.edu/pgbook/pgbook.html
[5]http://evolution.genetics.washington.edu/programs.html
ミーティングレポート③
2014 年 2 月 15 ~ 16 日
GDR 2nd Meeting in 九州大学に参加して
佐藤 淳(福山大学 生命工学部 生物工学科)
九州大学で開催された遺伝的多様性に関する国際会議・シンポジウムに参加してきましたので報告したい
と思います。GDR Meeting とは Genetic Diversity Report Meeting の略称で、2 年前の 2012 年 3 月に同じ
く九州大学で第 1 回会議が行われました。今回は 2 回目となります。この会議は九州大学の矢原徹一博士と
については後ほど紹介したいと思います。
生物多様性保全において、遺伝的多様性が何故重要なのでしょうか? 生物多様性には生態系、種、そし
て遺伝子の 3 つの階層の多様性があるとされています。人の生活に直結する生態系サービスの劣化や種の絶
滅による生物多様性の減少は一般的にも理解しやすいかもしれませんが、遺伝的多様性が社会に与える影響
はやや捉えがたいものがあります。保全生物学においては、ある生物集団の遺伝的多様性が減少すると、近
交弱勢、免疫能の低下、そして変動する環境に対する適応進化能の低下を介してその集団の脆弱性が高ま
る、つまり絶滅リスクが増大すると考えられています。また、植物では種内の遺伝的多様性が大きいほど生
産性が高くなることや、訪花昆虫の数が増すことなどが報告されています。では、何が原因となり遺伝的多
nd
九州大学に参加して
GDR2 Meetingin
を惹かれ参加させていただきました。今回、幸運にも講演のチャンスを与えていただきましたので、その内容
16
日 当面の課題としております。私自身は第 1 回会議の前にメーリングリスト evolve に流れた会議の案内に興味
15
∼
(Group on Earth Observations Biodiversity Observation Network)を土台としたレポートにまとめることを
2
月
性の観測と評価に関する国際メカニズムの構築を目標に据え、遺伝的多様性が何故重要なのかを GEO BON
年
玉川大学の三村真紀子博士を中心に様々な生物種を専門とする国際的なメンバーから構成され、遺伝的多様
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0
1
4
9
日本進化学会ニュース
様性は変動するのでしょうか? 会議では哺乳類、
魚類、昆虫、植物を専門とする研究者が具体的な
例を提供し合い、遺伝的多様性に与える人為的な
要因等を探る議論を行いました。
March2014
会議に先立ち初日には国際シンポジウム Status
and Trends in Genetic Diversity under Changing Environments が開催されました。この日はあ
いにくの全国的な大雪のため、参加が遅れた方が
いらっしゃいましたが、最終的には全演者の講演
を聞くことが出来ました。シンポジウムは 4 つの
写真 1 懇親会で Faith 博士と
セッションから成り、1. Common/model species
(座長 九州大学 舘田英典博士)
、2. Invasive species
(座長 国立環境研究所 五箇公一博士)
、3. Declining spe、そして 4. Key species in ecology, economy, and sociology(座長 北海道
cies(座長 京都大学 井鷺裕司博士)
大学 荒木仁志博士)の中で、それぞれ遺伝的多様性に関する 9 つの話題提供がありました。セッション 1 で
は、University of Arizona の Bruce Walsh 博士が集団遺伝の理論について、国立遺伝学研究所の北野潤博士
がトゲウオの適応と種分化について、東京大学の久保田渉誠博士が野生のシロイヌナズナ属種の局所適応に
ついての話題を提供しました。セッション 2 では、Berkeley Natural History Museum の George Roderick
博士が昆虫を対象に、Queensland University of Technology の Peter Prentis 博士がヤナギランを対象に外
来種の遺伝的多様性について報告し、セッション 3 では、ETH Zurich の Chris Kettle 博士が熱帯雨林におけ
る分断化の影響について、そして私は哺乳類における Phylogenetic diversity(PD)と島の集団の遺伝的多様
性について話をしました。セッション 4 では、McGill University の Andrew Hendry 博士が野生集団の遺伝
的多様性の重要性について主に魚類を例として紹介し、最後に荒木仁志博士と京都産業大学の佐藤洋一郎博
士が栽培化・家畜化された生物の遺伝的多様性について話題を提供しました。アクティブな方たちの中で話
題を提供することが出来、また有益なコメントを頂くことが出来、個人的に得たものが非常に大きいシンポジ
ウムでした。この国際シンポジウム及び会議には、1992 年に PD の概念を提唱した The Australian Museum
の Daniel Faith 博士が参加されており(Faith 1992)
、私の発表内容についてコメントを頂いただけではなく、
。ラーメン屋のカウン
懇親会やランチの際に PD の今後の展開について話をすることが出来ました(写真 1)
ターで Faith 博士と並んで博多ラーメンを食べながら PD の話ができるなんて感激です!おっとすみません。
さて、私の講演は「Evolutionary distinctiveness and genetic diversity in mammals」というやや大げさ
なタイトルでした。皆さん良く理解されていますように、保全のための資源は限られており経済に大きく依
。EDGE とは Evolutionarily Distinct and Globally Endangered の頭字語で、系統的な特異性(ED)と
2007)
IUCN レッドリストにおける保全状況のカテゴリーに基づき決めた値(GE)から算出されるもので、例えば、
近縁種が存在せず(系統的に特異性があり)
、Critically Endangered に指定されているなど絶滅危惧種であれ
ばあるほど、EDGE の値は大きくなり、保全の優先順位が高いと判断されます。近年、EDGE を含む PD の
概念はますます広がりを見せつつあります。
その一方で、PD の評価には正確な系統樹と分岐年代の存在が必要になります。これまでの哺乳類の PD に
関する研究のほぼ全ては、Bininda-Emonds et al.(2007)により推定された網羅的な哺乳類種をカバーした
Supertree に基づいていますが、この系統樹と分岐年代推定値は Supermatrix 法を用いて分析した他のより
nd
九州大学に参加して
GDR2 Meetingin
いうものです。2007 年には、さらにその PD を基礎とした EDGE という概念が提案されました(Isaac et al.
16
日 様性の一つの尺度です。単純に種の数だけで多様性を評価するのではなく、その系統の特異性も考慮すると
15
∼
)を考慮した生物多
す。PD は系統学的な違い、つまり進化的な特異性(Evolutionary distinctiveness[ED]
2
月
てはならないという議論があります。前述の PD はその優先順位を付ける際に有用であると考えられていま
年
存しています。そのため全ての種を同等に扱い保全することは現実的には不可能であり優先順位を付けなく
2
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日本進化学会ニュース
小規模な研究結果と著しく異なります。私は講演の中でこれまでに行ってきた Supermatrix 法を用いた食肉
目哺乳類の分子系統学的研究(Sato et al. 2009a, 2012; Wolsan and Sato 2010)を例として、その顕著な違い
を示しました。Supertree 法により短時間で大規模な系統推定が可能ですが、最終的な系統推定の際にオリ
ジナルデータの系統学的情報がかなり消えているという問題があります。一方で、Supermatrix 法ではオリジ
March2014
ナルデータを直列に連結しダイレクトに系統推定を行うため、系統学的情報の損失は少なく、よりオリジナル
データを反映した系統推定が可能であると考えられますが、推定にかなりの時間を要するところが問題です。
しかしながら、現状では網羅的種を対象とした系統推定を行う際には、Supertree 法と Supermatrix 法は二
者択一的な方法ではなく、コンピュータの発展に合わせて併用するのが現実的であろうと考えられます。こ
のような状況で保全の優先順位を付けるためには、両方法が ED に与える影響を明らかにすることが今後の
課題であろうと会議を通して感じました。講演後には、Walsh 博士から「ベイズ法を用いて系統樹や枝の長さ
の不確実性を考慮した EDGE も可能では?」との大変有益なコメントを頂きました。まさにその通りだと感じ
ました。EDGE はある樹型と枝長を固定して算出されていますが、最適な樹型と枝長が正しいとは限りませ
ん。そこには必ず不確実性が伴います。不確実性を考慮することで EDGE リストの順位間の統計的な差を考
えることもできます。さすが Walsh 博士!
次に話は PD から一変し、島の哺乳類の遺伝的多様性に関する研究例を紹介しました。哺乳類の多くはこ
れまでに島で絶滅したことが知られています。島の哺乳類集団のゲノムを見ることで絶滅の傾向を把握でき
るのではないかと考え、日本列島の小さな島に隔離された哺乳類集団の遺伝的多様性に着目した研究を行っ
ています。今回は、対馬のニホンテン集団と瀬戸内海島嶼のアカネズミ集団に焦点を当て中立遺伝子座や味
覚受容体遺伝子のような機能的な遺伝子座の多様性に島の隔離が与える影響を議論しました。特に対馬に生
息するニホンテン(ツシマテン)は環境省レッドリストにおいて近年、絶滅危惧 II 類から準絶滅危惧と変更と
なりましたが、遺伝的な解析によると系統的に特異的であり、また本土の集団と比較して遺伝的多様性が著
しく均質化しており絶滅リスクが高い
ことが明らかとなりました(Sato et al.
。これは島による隔離の影響が顕
2009b)
著に表れた例と言えます。島の生物集団
は高い固有性と低い多様性を有していま
す。うつくしくもはかない性質とでも言
いましょうか。島国に住む者として今後
も島の生物集団の遺伝的特徴には着目し
ていきたいと考えています。以上、私の
二日目には今回の主な目的である GDR
Discussion(SGD)形式で、まずはシン
ポジウムと同じ各セッションに分かれ、
Common/model species、Invasive species、Declining species、Key species in
ecology, economy, and sociology のそれ
ぞれの種について、どのような人為的な
環境変化が該当種に悪影響を与えてい
写真 3 全体討議の様子
るのか?その事例研究は?レポートの中
16
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九州大学に参加して
GDR2 Meetingin
Meeting が行われました。Small Group
15
日 を提供させていただきました。
2
∼
士、井鷺博士、Kettle 博士、私
を当てた保全生物学的研究について話題
月
写真 2 Decliningspecies の SGD。右から京都大学 渡辺勝敏博
年
方からは哺乳類の固有性と脆弱性に焦点
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日本進化学会ニュース
で何を議論すべきか?といったことを議論しました(写真 2)
。その後、再び全員が集合し全体で討議を行い、
。そして最後には矢原博士から今後の活動方針についての説明があり、
レポートの構造を固めました(写真 3)
会議は閉会に至りました。二日間という短い間でしたが、遺伝的多様性に関する多くの情報を得ることが出
来、大変有意義な会議でした。今後はよりレポートの内容を充実させ説得力のあるものとするために、アトラ
March2014
クティブな事例研究を選別するなど行うべきことはまだまだ多いと感じました。私も微力ながら野生哺乳類の
遺伝的多様性の観点から貢献をしていきたいと考えています。遺伝的多様性がより身近に感じられる日を期
待して。
引用文献
・Bininda-Emonds et al.(2007)Nature 446: 507-512.
・Faith(1992)Biological Conservation 61: 1-10.
・Isaac et al.(2007)PLOS ONE 3: e296.
・Sato et al.(2009a)Molecular Phylogenetics and Evolution 53: 907-922.
・Sato et al.(2009b)Zoological Science 26: 457-466.
・Sato et al.(2012)Molecular Phylogenetics and Evolution 63: 745-757.
・Wolsan and Sato(2010)Cladistics 26: 168-194.
第 17 回
海外研究室だより
非英語圏での研究
-ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
松村洋子(日本学術振興会海外特別研究員)
読者への 2 つのメッセージ
本記事では、私がドイツで学んでいる昆虫形態学の魅力と、ドイツ留学を通して私が考えた日本での外人
研究者の受け入れ体制についてお話していく。
ことは必要不可欠である。ドイツは形態学に伝統をもち、古くは解剖を主体とした美しい記載を行ってきた。
近年ドイツは昆虫学では使われてこなかったイメージング技術を駆使して形態学を盛り上げている。その様
子を前半でご紹介する。
後半では、日本と同じ非英語圏であるドイツでの研究留学で経験したことを赤裸々に書くことにした。
様々な国籍の研究者との交流を通し、日本人研究者の留学促進のみならず日本への外人研究者の招聘を促し
ていくべきだと私は考えるようになった。海外からの研究者が心地よく研究できるにはどのようなラボ環境
を整えたら良いのか私の非英語圏での経験から思うことを記したい。非英語圏である日本でラボを持つ方に、
留学生・外人研究者の受け入れで何を配慮すべきか、 外人 として研究する私の思いを一意見として参考に
していただきたい。日本での外人の環境改善と日本への頭脳流入につながることを祈ってやまない。
1. ドイツから形態学への愛を叫ぶ!
松村洋子とは
私と進化学会の関連は 2009 年の札幌大会への参加のみ。そんな私を読者の皆さんは、誰だこいつと思って
おられるに違いない。本題に入る前に、まず自己紹介をさせていただく。
私は、長∼いペニスを持った種を含むハムシ科甲虫(図 1)とジュズヒゲムシ(図 2)を相棒としてきた。ど
こかで昆虫の長∼いペニスの話をした女性をご覧になったことがあるならばそれは私だろう。これまでの私の
17
回海外研究室だより 非英語圏での研究︱ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
長い交尾器の進化史を主題としている。私の研究に限らず形態の進化を論じるうえで、形を正確に理解する
第
私は 2012 年に日本で学位取得した後、現在までドイツで修行中だ。専門は昆虫の形態学、特に体長より
12
日本進化学会ニュース
研究スタイルは、1)交尾中ペアを
固定・解剖し、ペニス周辺の動き・
形態の理解から、体長より長いペ
ニスを動かす機構を提示、2)近縁
March2014
分類群のペニス周辺形態を網羅的
に理解し、系統樹ベースでその進
化史を議論、3)ペニスの形態形成
過程の理解から進化機構を議論、
というものだ。現在の任期終了後
図 1 ハムシの一種(Timarchasp.)
は、形の機能や進化を多角的に論
じるためドイツのキール大学で交尾器のバイオメカニクスを始める予定だ。
イエナ大学と形態学
私の所属機関は、イエナ大学の動物学部になる。ここは Ernst Haeckel 教
授が動物学を学び、教
をとられたところでもある。現在ここの昆虫学部門
図 2 ジュズヒゲムシの一
種(Zorotypus weidneri)
(ボイテル)教授だ(図 3)
。彼の専門は、
を仕切るのは我がボス Rolf G. Beutel
昆虫の頭部や胸部の形態を精査し、昆虫の目レベルの系統関係を論じることだ。ボスも私も昆虫の体のつく
りを理解することに心血を注ぎ、その上で進化を議論する。単純に形態を精査すると書いたが、外骨格の構
成要素とその配置および内部の筋肉・神経系の配置を出来るだけ正確に理解するということだ。
小さな生き物である昆虫の内部形態をどのようにして理解するのだろうか。昆虫には、体長が数百 µm ∼
体長数 mm しかないものも多い。古き時代のドイツ人研究者は解剖(顕微鏡下でピンセットやピンを使って
行う)により昆虫の内部構造を理解してきたが、比較的大型(体長 1 cm 以上)の昆虫を扱っている。現在
Beutel 研では、組織切片を基に作成する内部形態の 3 次元画像の構築を中心に、µCT、共焦点レーザー顕微
鏡、電子顕微鏡、シリアルブロックフェイス SEM といった日本の昆虫学では普及していない技術を駆使し、
小型昆虫の形態を徹底的に調べ上げることに成功している。
格段に高めている。この論文では分子データを用いた昆虫の目間の系統仮説と比較しながら、分子系統学の
時代における形態学の役割も論じている。極端な言い方をすれば分子データは分岐パターンを示すにすぎな
いが、昆虫という地上で最も繁栄を遂げた生き物がどのような形態の変遷を経て現在の姿に至るのかはその
形を理解することでしか推定することが出
来ない。分子データを得ることが困難な化
石と現生種を比較することもでき、生き物
の歴史を視覚的に我々に魅せてくれること
が形態学の強みだ。
私のこちらでの研 究 成果として、Mat(in press)では、体長 2 mm の
sumura et al.
昆虫について、体長より長いオス交尾器の
出し入れ機構とその進化を論じた。交尾中
に固定された多数のペアと単独の雌雄につ
図 3 動物学部の研究者と飲みニケーション。左から Jörg(海
、Hans(昆虫、副ボス)
、Rolf(昆虫、
綿動物)
、Hendrik(両生類)
(鳥類、アメリカ人)
ボス)
、Brandon
いて腹部内部の形態を調べ上げ、ペニスの
一部である細長いチューブが交尾中にメス
に挿入されるにも関わらず精子輸送に使わ
17
回海外研究室だより 非英語圏での研究︱ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
した。上の技術を用いることで、従来の解剖による形態の理解より見落としが少なくかつデータ取得効率を
第
例えば Beutel et al.(2011)では、昆虫 30 種の形を調べ上げ 356 形質を解析し、目レベルの系統仮説を提示
13
日本進化学会ニュース
れないという意外な事実を示した。実は彼らは 二刀流の侍 であり、もう一本の挿入器官で大きなゼリー状
の物質にくるまれた精子をメスに渡す。筋肉の配置を細かく理解することで、ゼリー輸送を促す腹部の蠕動
運動が細長いチューブの挿入運動をももたらしていることが示唆された。近縁分類群の既知の情報と比較す
ることで、ゼリー輸送というシステムが先に獲得されており、この昆虫で細長いチューブ獲得の前適応となっ
March2014
たという歴史までも見えてきた。
多様な生き物のことを知る上で、一般性を追い求める学問だけではなく、個々の生物を知りその成り立ち
を説明する学問が 同等に 重要な価値を持つと私は考えている。形態を知れば知るほど見えてくる歴史や機
能は実に美しく、形態学を重んじるドイツ人の姿勢に共感する。
2. 非英語圏での留学とは、そして日本に頭脳流入を!
非英語圏での文化、言葉そして心の壁
私がドイツに来た初めの 9 ヶ月、私は昆虫学部門の唯一の外人で、ラボは完全に非英語圏だった。その中
で私に立ちはだかった壁をいくつかご紹介する。
まずは文化の違いからくる壁が立ちはだかった。私が来た初めの数か月、休み期間と重なっていたことも
あり、ラボの活気はゼロだった。朝 9 時にはメンバーが皆
うのだが、明らかに雑談に時間をとられており、
15 時には確実に全ての学生・ポスドクがいなくなる。休暇で数週間、席を空けることもある。さて技術を学
びにきた私は、是非いろいろ彼らから学びたい。そこでメンバーにお願いすると必ず引き受けてくれるのだ
が、結局のところ大学にいる時間が少なく休憩が多い彼らからいつまでたってもしっかりと習う事が出来な
い。そんなことが最初の数か月続いた。
次に言葉の壁も大きかった。私のドイツ語は英語を話さないドイツ人とのコミュニケーションを助けるとい
う程度だ。一方ラボメンバーの会話は全てドイツ語だ。ボスが引き受けた一人の外人のために、ラボの日常
会話が英語になるわけがない。日々同じ部屋で、室員が爆笑を伴う談笑をしている横で、蚊帳の外。経験し
ないと気がつかないことだったが、強い強い孤独を感じるものだ。
些細なことだが、心の壁も抱いた。これまで幾度も昼食をドイツ人とご一緒させてもらったことがある(変
な表現だが理由は直ぐにご理解いただけるだろう)
。声をかけてくれるのだが、彼らはドイツ人同士で全て決
気持ちを素直に表に出すので分かり易いが、正直すぎるぞぉといつか突っ込んでみたい。
ボスの人柄と私の苦悩
そんな環境ではあるが、私のボスはこれまで多くの外人学生・ポスドクを受け入れられたかたで、私が救
われたことも少なくない。ボスは日本も含めた異国の文化や言語に深い知識をお持ちで、土日も働く私に「ヨ
。初めの 9 ヶ月、外人が私
ウコサン、カロウシ、シナイデクダサイ」と声をかけてくれるお茶目な人だ(図 3)
一人で寂しさはあったのだが、ボスはそれも気にかけてくれた。ラボにおられる日は、毎日コーヒータイムを
作ってくれ、たわいもない話から研究の話まで一対一で話させていただいた。国内外から尋ねてくるボスの
共同研究者には、私を真っ先に紹介し、話をする機会を多々作ってくださった。ドイツ人では受けられない
VIP 待遇をしていただいた。
一方で日々ボスとお話する中で、表には見えないボスの厳しさを知り、悩みもした。ドイツは褒める文化な
ので決して面と向かっては言わないのだが、厳しいボスは大抵の学生・研究者に対し批判的な意見を持って
いる。論文の数というのは研究活動の一つの指標になる。特に論文数が少ない者への批判を聞くことが少な
くなかった。最初の半年ほどは、私にはプレッシャーしないと言われ、期待されていない自分が情けなくあっ
た。一方でデータが取れてくると、原稿は今日はまだか明日はまだかと聞かれ、プレッシャーを感じずにはお
られなかった。ボスにとって初めての日本人ポスドクとしてボスに認めてもらわなければと、論文を書くこと
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回海外研究室だより 非英語圏での研究︱ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
然ドイツ語になり、通訳をしてくれるドイツ人もいるのだが、通訳の最中あからさまにため息をつく人もいる。
第
め出かける間際に、
『君も僕たちと一緒に行きたいか?』と私に尋ねる。ドイツ人が多数の場合、食事中は当
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日本進化学会ニュース
に強い強迫観念を抱いた時期が長くあった。外人とし
ての孤独、ドイツというお国柄もあり、私はアルコー
。
ル中毒になってしまうかと思った(図 4)
March2014
多様な英語!?
ドイツ人は博士課程の学生であれば、トピックにも
よるが流暢な英語を話す。さらに不思議なことにドイ
ツ人は英語を話すのが苦手な人でも、英語の聞き取
図 4 酔いつぶれたくま
りは問題ない。ただし日本人と中国人の話す英語は
難しいようだ。情けないのだが私自身は完全な日本
語英語をノロノロと話すレベルで、相手に聞こうとい
う意思がないと理解していただけない。聞き取りに関
しては、よくドイツ人の英語は分かり易いという人が
いるが、どのくらいドイツ人と接してのことなのだろ
う。日本人でもネイティブのように英語を話す人もい
れば、日本語かと思う人もいるではないか。当然ドイ
ツ人もいろんな訛りをもった英語を話す。せっかく研
究者と食事に行く機会をいただき会話が英語になるこ
とがあっても、多様な英語が飛び交い、そのうえ雑音
(背景の音楽すら私には雑音だ)があり、その中での
図 5 本場の餃子を作りながらの異文化交流、Ming
(左)と HuaYi
(右)
聞き取りは本当に難しい。全員の発言が理解できない
状況で、そこに加わるのは至難の業だ。
中国人研究者との交流
最初 9 ヶ月ほど一人ぼっちだったが、徐々に外人が
第
やってきた。今は中国人准教授 Ming とその博士課程
だ。中国科学院から来た Ming は同じゲストハウスに
住んでおり、ちょくちょく中国料理をいただきながら
。彼
セミナーと称した飲みニケーションをする(図 5)
らとの交流を通し、日本も中国から学ぶべきことが少
なくないと感じており、少しご紹介したい。
中国では、博士課程院生は一定期間、海外で修行
図 6 ブラジルでの様子。アマゾンを見下ろす地
上 45 m に腰が引けているのが筆者。左から Josy、
Chinko、前列が Jose
することが強く推奨されている。 HuaYi もプログラム
の一環でドイツに一年滞在中である。彼らは国から経済的支援を受けて国外に滞在しており、帰国後、5 年は
中国での研究が義務付けられているそうだ。優秀な中国人がより良い環境の国外で活躍する機会を妨げかね
ないとも思うが、頭脳流出が過ぎないよう制御しているのだろう。さらに、中国科学院では、我がボスを含む
様々な分野の大御所を招いてはシンポジウムを開き、また若い外人ポスドクを技術講師として長期間招き技
術の習得にも余念がない。若い中国人学生に異国のトップ研究者に接する機会を提供でき、かつ有名どころ
のラボの若手ポスドクをつかむことで長期的な関係作りにも成功している。
他国での経験(ブラジル)
イエナ大学が拠点ではあるが、これまでに他のラボでもお世話になってきた。そのうちの一つ、ブラジルの
回海外研究室だより 非英語圏での研究︱ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
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学生 HuaYi、ポーランド人博士学生がラボメンバー
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日本進化学会ニュース
国立アマゾン研究所での体験は、イエナ大学とは違うものだったので、その時の様子をお話したい。
(図 6)とはメールのやり取りだけで、マナウスの空港で初めて会った。しかし会うなり
ホスト研究者の Jose
ハグで出迎えてくれた(イタリアの先生もそうだったが、ドイツでは最初からハグはあまりない)
。ラボでは外
人のゲストなど珍しくもないのだが、学生・ポスドクが積極的に声をかけてくれた。ブラジルに初めて来た私
March2014
に、サンバや腰振りダンス(?)の動画を見せてくれ昼間からラボで一緒に踊ったこともあった。ドイツで感
じた心の壁は短期滞在のブラジルでは全く感じられなかった。
短期滞在ゆえかもしれないがブラジルは楽しくて仕方なく、言葉の壁も相当低かった。食事に毎日誘って
いただきお言葉に甘えて参加していたのだが、仲良しのブラジル人が多数集まればポルトガル語優勢には
なった。しかし英語が得意でないにも関わらず通訳をしてくれ、話を振ってくれることが多くあった。ある晩
は、学生・ポスドク 10 人ほどとお酒の力を借りての下ネタトークで大いに盛り上がった。酒飲みニケーショ
ンは言葉の壁を越える良い方法だろう。
非英語圏への研究留学とは:ホストラボや外人は何をすべきか
私は非英語圏での 1 年 8 ヶ月ほどの経験を通し、大学院時代に日本のラボでご一緒した 3 人の留学生のこと
を思い出していた。一人は日本語がある程度出来る人で 6 年も日本の大学に在籍したが、日本人は冷たいと
言っていた。当時は分からなかったが、外人となった今は良くわかる。ラボ内や飲み会で、外人は蚊帳の外
になることが少なくなかった。平等が重要な日本は外人にも声をかけ彼らも飲み会に参加するのだが、会話
は基本的に日本語だった。それなら外人は誘わないこちらのドイツ人学生の方が親切だとすら今は思う。言
葉が出来ることは重要だが、それ以前にコミュニケーションしたいという想いが互いにないからこのようなこ
とが起きるのだろう。私は経験するまで気がつかなかったが、想像していただきたい。あなたならこの状況で
どう生きるだろう? 母国語が完璧に出来ずにその国で生活する人間の責任だと突き放していいのだろうか?
非英語圏において、外人研究者は、ボスではなくラボ全体で受け入れなければ、本当の メンバー になれ
ないと思う。外人もメンバーとして受け入れられるべく、その国の言葉を学ぶ努力や受け入れラボのメンバー
への感謝の意思表示を積極的に行うことが必要だろう。双方がコミュニケートしたいと思える状況を築き歩み
寄ることなくして、真に外人受け入れ・留学は達成しえないのではないか。これは凄くエネルギーのいること
ネガティブなことを中心に書いたが、これまで多くのドイツ人から暖かい心を頂き支えられてきた。ドイツ
人が冷たいのではなく、配慮のポイントが国によって違う、もしくは外人が求めているものと違うだけだ。し
かし些細なことも日々の生活として積み重なれば、ドイツ人は冷たいという感想になってしまう。異国で生活
するからこそ感じることができる不満であり、今は自分の財産だとさえ思っている。今でも落ち込むこと悩む
ことはまだあり、英語すら下手で恥ずかしい日々だが、私は研究留学したことを微塵も後悔していない。
ご意見ご質問がございましたらお気軽にどうぞ:[email protected]
最後に、草稿に目を通し忌憚のないご意見を下さった庭山律哉博士ならびに高須賀圭三博士に、厚く御礼
申し上げる。
参考文献
・Beutel RG et al.(2011)Cladistics 27: 341-355.
・Matsumura Y et al.(in press)Biol J Linn Soc.
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回海外研究室だより 非英語圏での研究︱ドイツ・イエナ大学・昆虫学部門ほか
終わりに
第
だが、ヒトや国の多様性を見知ることは大変面白いことである。
16
日本進化学会ニュース
編集
後記
昨年まで 4 年に渡り進化学会ニュースの編集を主導されてきた宮正樹先生(千葉県立中央博物
館)からバトンタッチした北大農学部の荒木です。昨年は 2001 年に学位を取って以来、実に 12 年
ぶりに日本の研究機関への復帰となったこともあり、いろいろと学ぶことの多い一年でした。これ
までも宮編集幹事の下、
(日本語を忘れないよう)時折記事の執筆に携わってきましたが、今年も本ニュース
March2014
編集を通じて広い分野の研究や研究者像に触れる機会があるものと期待しています。
今回編集幹事をお引き受けするにあたって最初にお願いしたことが、カバーできる専門範囲をより大きく
するための編集委員の拡充です。おかげさまで今回から進化学をリードする若手研究者を中心に 7 人体制で
の編集作業となりました。よい機会ですので私自身を含め新・編集委員の顔ぶれについて簡単に紹介します。
今回は前半部として私自身と大島副編集長、前年より引き続き編集委員をお願いできることとなった国立科
学博物館の真鍋博士、理化学研究所の工樂博士の紹介です。関連分野で記事にできる面白いイベントや発見
があったら是非我々にご連絡ください。自薦・他薦は問いません!
編集幹事:荒木仁志(ARAKIHitoshi)
北海道大学大学院 農学研究院 動物生態学研究室 教授
[email protected]
専門: 生態進化学、集団遺伝学、保全遺伝学
趣味: 旅行、釣り(--> 最近は専ら旨いもの探索と子育て)
一言: 遺伝子レベルでの進化と個体、生態系を繋ぐ生態進化の研究に興味を持ってい
ます。対象生物はいろいろですが、最近は保全問題も絡んだサケマス魚類が多
いです。進化学会ニュースではこれまで以上に面白い研究やイベント、読者の
役に立つ情報の紹介をやっていきたいと考えています。
副編集長:大島一正(OHSHIMAIssei)
京都府立大学 大学院生命環境科学研究科 応用昆虫学専門種目 助教
[email protected]
専門:昆虫体系学、進化生物学
趣味:バレーボール、テニス、スキー
一言:野生生物に見られる多種多様で不思議な形質の遺伝基盤に興味を持っており、
特に植物を食べる昆虫類の食性に焦点を当てた研究をしています。非モデル生
物でもゲノム情報が手に入るようになり、いい時代に生きているなあと思いなが
ら日々研究しています。分類学出身の人間ですので、生き物そのものに関する
話題等をできるだけご紹介できればと思っております。
編集後記
17
日本進化学会ニュース
編集委員:真鍋 真(MANABEMakoto)
国立科学博物館 地学研究部 研究主幹
[email protected]
March2014
専門: 古生物学(主に恐竜など中生代爬虫類、鳥類)
趣味: 旅行
一言: 化石から気がつかされる形態の多様さや、化石からもたらされる時間軸的な視
点などを、日本進化学会に集う広い関心領域の中で共有出来たら嬉しいと思っ
ています。
編集委員:工樂樹洋(KURAKUShigehiro)
独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
ゲノム資源解析ユニット ユニットリーダー
[email protected]
専門: 分子系統学、発生生物学、ゲノム進化学
趣味: サッカーと野球(おもに観戦)
一言: 研究における最近のおもな興味は、1)脊椎動物の発生制御遺伝子の分子進化、
2)次世代シーケンス技術の発生生物学への効率的な利用、3)軟骨魚類研究の
ための分子情報の整備です。脊椎動物の遺伝子そしてゲノムの進化についての
研究の話題だけでなく、次世代シーケンサー運用現場をマネジメントする立場
から、その現場の実際と、進化学をはじめとする生物学研究への有効利用につ
ながる話題なども提供できればと思っております。
日本進化学会ニュース Vol. 15, No. 1
編集後記
発 行: 2014 年 3 月 18 日
発行者: 日本進化学会(会長 長谷部光泰)
編 集: 日本進化学会ニュース編集委員会(編集幹事:荒木仁志 副編集長:大島一正
編集委員:奥山雄大/工樂樹洋/佐藤行人/真鍋 真/山道真人)
発行所: 株式会社クバプロ 〒 102-0072 千代田区飯田橋 3-11-15 UEDA ビル 6F
TEL : 03-3238 -1689 FAX : 03-3238 -1837
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