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CONTENTS - 血友病関連サイト
CONTENTS
インヒビター
SATELLITE SYMPOSIUM
定期補充療法
整形外科的側面
血友病の看護
感染症・遺伝子治療
TGA ・ WAVE FORM
監修 吉岡 章(奈良県立医科大学小児科)
2
4
6
8
9
10
11
2004 年の第 26 回世界血友病連合(WFH)国際学会は,10 月 17 日から 21
日にかけて活気溢れるアジアの大都市,タイ王国のバンコク(推定人口 670 万
人)で開催された。
バンコク国際展示場(Bangkok International Trade and Exhibiton Centre:BITEC)にて開催された本学会には 120 か国から 3,634 名が参加し,
200 セッションを超える発表が行われた。オープニングセレモニーは,10 月
17 日の夕刻に開催され,今回は特に,タイ王室の Sirindhorn 妃殿下から歓迎の
辞を賜りタイ王国の伝統文化の香りに満ちた華やかな開幕を迎えた。本学会が
アジアで開催されたのは 1976 年に日本で開催されて以来である。また,発展
途上国で開催されたのは,WFH の長い歴史上はじめてである。
「これは大変意義
のあることである。なぜならば,全世界の血友病患者のうち約 80 パーセントの
人々は発展途上国に居住しており,有効な治療が受けられない状態にあるからで
ある」と,本学会の会長である Parttraporn Isarangkura 教授は述べた。
また,翌日に催された Opening Plenary において,Brian O’
Mahony 会長は
「Back to the future」と題した講演を行い,WFH は今後もグローバルな活動
を展開するとともに,先進国および途上国の血友病患者ひとりひとりをサポート
するためのプログラムを推進してゆく使命がある,と締めくくった。
Inhibitors: Diagnosis, Treatment and Prognosis
インヒビター:発生,診断,治療,および予後
ORAL SESSION
などが考えられる。これらの影響について今後確認する必
要がある。
Inhibitors in haemophilia: Clinical aspects
M2-1
血友病におけるインヒビター:
臨床上の問題
Models for bypass and immune tolerance therapy
M2-1
of inhibitors in haemophilia A and B
Donna DiMichele, Weill Medical College of Cornell University, NY,
USA
インヒビターの発生は血友病領域における最大の難問の
血友病 A および B のインヒビターに対す
る免疫寛容療法とバイパス療法
Charles Hay, Manchester Royal Infirmary, Manchester, UK
ひとつである。このため,インヒビター発生の免疫学的機序
を解明し治療による改善を可能にすること,および自己抗体
存在下における止血療法を最適化することが急務である。
インヒビター生成に影響を及ぼすと考えられる因子には,
先進各国においては,新規インヒビター発生例に対する標
準療法はいずれも,免疫寛容導入療法(ITI)および出血に対
する on demand 療法(FVIII またはバイパス療法 :Novo-
遺伝因子(FVIII 遺伝子自体・組織適合性複合体の免疫応答
Seven または FEIBA)である。FVIII インヒビター保有患者の
遺伝子・インヒビター発生の家族歴など)
,血友病の重症度,
ITI 成功率は約 90 %であるのに対し,FIX 保有患者の ITI 成
人種および民族性が含まれる。
功率はこれより低い。免疫寛容導入に至るまでは極めて高
コストの治療を 1 ∼ 3 年継続する必要がある。しかし,インヒ
Risk Factors for Inhibitor Development
M2-1
インヒビター発生の危険因子
Johannes Oldenburg, Institute of Transfusion Medicine and Immunohematology, Frankfurt, Germany
ビターが持続的に認められる患者においては治療費が 3 ∼ 5
倍増大するのみならず,重大な関節症および障害を生じる
場合が多いため,この治療コストは有益な投資といえる。
ITI には通常,インヒビター発生の原因となった製剤を用
いる。ITI は中心静脈カテーテルを用いて,インヒビター検出
FVIII 遺伝子の大欠失や複数箇所の欠失,ならびに逆位以
直後かつインヒビター力価が 10 BU/mL 未満に低下した時点
外の遺伝子再配列がインヒビター出現リスクの増大に関与す
で開始するのが一般的である。高力価インヒビター保有例
ることを明らかにした。重症血友病 A および B の場合には,
(100 BU/mL 超)の治療には,高用量法(100 ∼ 200 IU/kg/
FVIII/IX 蛋白の欠損または切断をもたらす変異がインヒビ
day)
を使用できる。これより低力価のインヒビター保有例の
ター生成のリスクを最も高めることから,免疫系における新
治療には,高用量法または低用量法(50 IU/kg を週 3 回)が
規抗原の提示がインヒビター発生の引き金になることが示唆
使用できる。だが,これらの治療法の相対的な有効性および
されている。
合併症に関しては,治験にて現在検討中である。インヒビター
軽 症 血 友 病 A 患 者 に お い て は,ミスセンス 変 異( 特 に
C1/C2ドメイン)が FVIII 蛋白の免疫原性を変化させ,免疫応
力価が 5 BU/mL 未満の患者に FVIII を投与すると,インヒビ
ター発生は一過性である場合が一般的である。
答を誘発するものと考えられる。一方,FIX 遺伝子の大欠失
ITI 無効例は,FVIII に不応性を示すインヒビター高力価の
を病因とする血友病 B 患者の中には,インヒビター発生に伴
ハイレスポンダーであることが通例である。このような無効例
う重度のアレルギー反応を併発する者もある。
に生じた出血は,院内または家庭においてバイパス療法
だが,同胞間(一卵性双生児を含む)におけるインヒビター
発生の不一致率が 28 %であることから,遺伝因子以外の因
子(環境または治療関連因子)
も関与することが明らかにさ
(NovoSeven または FEIBA)
を用いた on demand 補充療法が
用いられている。
FIX インヒビター保有患者における ITI の奏効率は,FVIII
れている。こうした因子としては,初回補充療法時の年齢,
インヒビター保有患者に比して低く,FIX に対するアナフィラ
幼児期における免疫応答誘発(ワクチンなど)
,臨床手技,
キシーや,場合によってはネフローゼ症候群をきたすおそれ
FVIII 投与経路,投与量および投与方法,FVIII 製剤の種類
がある。通常 FIX インヒビター保有患者に対する ITI は,高
2
HEMOPHILIA
2004
純度または遺伝子組換え FIX を用いて院内で施行される。
だが,ITI およびバイパス療法は無効な場合があるとともに
印象記
極めて高コストであることから,方法の改善が必要とされて
いる。
How do Inhibitor Antibodies Develop?
M2-1
どのようにインヒビター抗体は発生する
のか?
第 26 回
世界血友病学会に参加して
広島大学病院輸血部 藤井輝久
J. M. Saint-Remy, Katholieke Universiteit, Leuven, Belgium
特異的 T 細胞による認識がインヒビター発生に関与すると
ともに,ヒトにおいては,CD4 + T 細胞が減少すると,インヒビ
ターが消失する場合がある。T 細胞レベルでの治療的介入が
可能であるものと考えられる。 さらに,抗 FVIII 抗体の産生源
および構造は,インヒビターの誘導および制御の機序と直接
的に関連する。FVIII に対するヒトの免疫応答を B 細胞クロー
ンレベルとT 細胞クローンレベルの両方で解析すれば,凝固
以前から参加してみたいと思いつつ参加する機会に恵ま
れませんでしたが,この度ようやく
「世界血友病学会」に参
加することができました。
バンコクは暑い!これが第一印象でした。天候と同様に
さぞ学会も熱い討論が交わされているのか,と思いきや…。
全体として低調な感がしました。その原因としては,血友病
の問題に関する breakthrough が近年ないことがあげられる
と思います。私が出席したセッションは,遺伝子治療,C 型
経路における FVIII の機序およびインヒビター分子の発生原
肝炎,インヒビターが中心でしたが,
目を見開くような話には,
因に関して多くの知見が得られるものと予想される。
ついに出会うことはありませんでした。
まず遺伝子治療についてですが,ベクターの改良により
POSTER SESSION
遺伝子導入効率は上昇していますが,ベクターや遺伝子導
入された細胞の抗原性に宿主の免疫機構が反応してしまう
Efficacy of FEIBA in surgical and invasive proce12-PO-60
dures
問題が依然として解決されていません。もう一つの問題は,
ベクターの長期の安全性が確保されていないことです。こ
手術および外科的処置の際に使用する FEIBA
の有効性
れらより現時点では“血友病の遺伝子治療は進んでいない”
Claude Negrier, Hopital Edouard Herriot, Lyon, France
これはエイズ関連の学会でもしばしば取り上げられていま
本研究においては,手術 18 件(うち 4 件は大規模手術)
を受
けたインヒビター保有患者 15 例(うち1 例は後天性血友病)
にお
けるFEIBA の有効性および忍容性が検討された。平均 FEIBA
用量は 71(± 18)U/kg で,手術の平均 3.6 時間前に投与され
た。術中の再投与が必要であった手術は 4 件であった。
術後における FEIBA 点滴静注回数の中央値は 10 回(範
囲:1 ∼ 33 回)で,患者 4 例は 15 回を超える投与を受けた。
FEIBA 用量が 200 U/kg 未満であった手術は 13 件であった。
有害事象は 1 件も発生しなかった。
という印象が残りました。
C 型肝炎で話題となっているのは HIV との重感染です。
す。HIV が HCV 感染症の進行を早めることは理解されてい
ますが,この学会では,1)HIV(+)では HIV(−)
よりHCV
の血中ウイルス量が多い,2)HCV(+)では抗 HIV 剤による
治療(HAART)で,CD4 リンパ球数の増加スピードが遅い,
など,HIV/HCV 重感染がそれぞれの疾患を悪化させること
が具体的なデータで示されました。
インヒビターですがこれも様々な問題が山積しています。
オランダの Dr. van den Berg から,インヒビター発生には年
令の早い曝露(乳児期)がリスクファクターの一つとなってい
るとの報告があり,日本でも既に導入,あるいは導入が検討
大規模手術 4 件における出血は FEIBA 使用開始後 5日以
されている “primary prophylaxis”に一石を投じる内容と
内にコントロールされた。術後に FEIBA が効果不十分で
思われました。しかし,前向き比較試験のデータではない
あった手術は 3 件あったが,この原因は用量または投与スケ
こと,また診断技術の向上などでインヒビター発生を見逃さ
ジュールが適切でなかったことにある。術中の有効性が極め
なくなってきた可能性を加味すると,日本での“primary pro-
て良好または良好と判定された手術の割合は 100 %,術後
phylaxis”に対して否定的な見解にはならないと考えます。
の有効性が極めて良好または良好と判定された手術の割合
は 83 %であった。
さて次回 2006 年の開催地はカナダのバンクーバーです。
果たして 2 年後までに血友病に関する“breakthrough”はあ
るのでしょうか?
3
SATELLITE SYMPOSIUM
インヒビターの治療に関する最新の見解
Current Opinion on Management of Inhibitor Therapy
「インヒビターの治療に関する最新の見解」と題するシンポジウムが,
10 月 20 日のランチレセプションとして開催された。
INTRODUCTION
ビター形成率が 50 ∼ 70 %にのぼる。HLA アレルも重要な影
序論
響を及ぼす。また,人種も重要な影響を及ぼし,未治療患者
本シンポジウムは,座長を努めた Cindy A. Leissinger
を対象とした 3 件の試験においては,インヒビター形成率が
M.D.(Tulane University School of Medicine, New Orleans,
アフリカ系米国人で 50 %超であった一方,白人では約 25 %
USA)の講演で幕を開けた。
であった。
インヒビターは治療が困難な合併症である。インヒビターは
血友病 B におけるインヒビター発生率は血友病 A と比較し
補充因子の活性を中和するほか,血中からのクリアランスを
て大幅に低い。この原因は,血友病 B においては血友病 A
促進して補充因子の治療効果を低下させ,止血困難および
と比較してヌル突然変異の出現率が低く,ミスセンスまたは
それに伴う障害をきたすリスクを著しく増大させる。だが,
点変異の出現率が高いことにあるものと考えられる。さらに,
現在ではインヒビターに対するより積極的な対処方法が存在
FIX は FVIII と比較して低分子量かつ血漿中濃度が高いもの
する。免疫寛容導入(ITI)
,出血時のバイパス製剤投与など
と考えられる。
である。こうした新たな治療法の利点のひとつは,インヒビ
ター保有患者が手術を必要とする際の安全性の向上である。
インヒビターは複数の遺伝子に組み込まれた過程(polygenetic process)に環境因子が影響を及ぼすことにより発生
治療法を選択する際には,インヒビター力価,抗インヒビ
することが示唆される。今後の研究では,T 細胞と B 細胞の
ター療法の有効性,各種療法により合併症が生じる可能性,
相互作用および各種因子(サイトカインなど)を検討し,イン
一部のバイパス療法により生じうる既往反応,ならびに治療
ヒビター発生の機序におけるダウンレギュレーションの指標
費を判断基準とするが,治療費は不明瞭な場合が多い。
マーカーを特定する必要がある。
OVERVIEW OF INHIBITORS
CURRENT OPINION ON INHIBITOR TREATMENT
−インヒビター概論
OPTIONS
Jan Astermark, MD, PhD(University Hospital, Lund Uni-
−インヒビター治療の選択肢を取り巻く現況
versity, Malmo, Sweden)は,凝固因子補充療法の開始後,2
Prasad Mathew, MD(University of New Mexico, Albu-
∼ 3 週間以内にインヒビターが発生する場合が多く,その大
querque, USA)は,インヒビターが発生すると,医療費が大幅
部分が IgG4 型であることを示した。インヒビターは低力価の
に上昇すると述べた。低力価インヒビター保有患者は高用量
場合も高力価(7,000 BU/mL にも及ぶ場合あり)の場合もあ
の特異的因子製剤により治療可能な場合が多いが,高力価
る。また,
「一過性」のインヒビターが出現した後,治療法を
インヒビターを保有するハイレスポンダーに対してはバイパス
変更せずに自然消失することもある。
製剤を使用する。
インヒビター発生に関連する可能性のある環境リスク因子
インヒビターは ITI により永続的に消失できる場合が少な
としては,凝固因子補充療法の開始年齢(生後 6 か月より以
くない。また,定期補充療法は重度 FVIII または FIX 欠損患
前に開始すると,リスクが増大する場合がある)
,免疫学的刺
者に対して有効であるが,インヒビター保有患者においても
激(感染など)
,補充因子の製造工程あるいは種類または純
出血の予防に有用である。だが,急性出血の治療には凝固
度の変更(VWF の含有の有無など)
,軽症血友病患者におけ
因子製剤またはバイパス製剤のいずれが最善なのか,バイ
る持続点滴静注の使用などがあげられる。
パス製剤の中でも最も有効かつ忍容性良好で経済的なもの
遺伝因子の役割に関する解明も進んでいる。抗体軽鎖遺
はどれなのか,ITI をどのような方法で施行すべきか,また,
伝子に複数ドメインにまたがる大欠失または停止コドンの変
ITI はどの程度の期間試行してから断念すべきか(無効率
異が認められる患者はインヒビター形成リスクが高く,インヒ
30 %)
,といった疑問が残る。
4
HEMOPHILIA
2004
遺伝子組換え製剤はインヒビター発生リスクを増大させる
を受けていた患者であった。Negrier のグループは 1997 年,
おそれがあると示唆されてきた。だが,適切に計画・実施さ
大規模手術 4 件および小規模手術 19 件に aPCC を使用した
れた前向き試験からは,インヒビター発生リスクに関して遺
ところ,過剰出血の発生件数は 1 件に過ぎなかったと報告し
伝子組換え製剤と血漿由来製剤の間に差が認められないこ
た。その後も,良好な成績が報告されている。
とが報告されている。だが,インヒビター保有患者の治療に
は VWF が影響を及ぼす可能性がある。
臨床現場においては,インヒビターの種類および力価(10
BU/mL 超,または 10 BU/mL 未満)が明確にされた後,高
aPCC または rFVIIa を使用すれば手術は施行可能である。
両製剤の止血効果は極めて良好または良好で,血栓塞栓性
合併症が生じることはまれである。だが,最低有効量の定義,
方法および高コストが問題となっている。
用量 rFVIII,rFVIIa,バイパス製剤のいずれを使用するかが
決定される。
PCCとaPCC はいずれも,急性出血をきたした患者における
止血率が 87 ∼ 100 %であり,術中出血を高率かつ有効にコン
トロール する。また,r F V I I a は 出 血 に 対 する 止 血 率 が
COST CONSIDERATIONS OF INHIBITOR TREATMENT
−インヒビター治療の費用について
Jerry Teitel MD(University of Toronto, Ontario, CA)は,
60 ∼ 90 %であり,80 ∼ 100 %の手術において術中出血を有効
凝固因子製剤の費用はインヒビター保有患者の大規模手術
にコントロールすることが明らかにされている。研究者主導型
に要する医療費の 85 ∼ 90 %を占めるのみならず,血友病患
のクロスオーバー試験が現在進行中であり,関節内出血の治
者の全医療費の 85 ∼ 90 %をも占めると指摘した。
療におけるaPCC および rFVIIa の有効性が検討されている。
最近発表されたフランスにおける6 施設の研究結果から,イ
ITI 施行期間中に FEIBA,rFVIIa などのバイパス製剤を使
ンヒビター保有患者の平均入院医療費はインヒビター非保有患
用すれば,出血を予防し,血友病性関節症の罹患率を低下
者より7 倍高いことが明らかになった。インヒビター非保有患
させることができる。ITI の成功後に定期補充療法を施行す
者の大半は入院理由が手術である一方,インヒビター保有患
れば,血友病性関節症の罹患率が低下するため,患者はよ
者の大半は入院理由が出血エピソードのコントロールである。
り正常に近い生活を送ることができるようになる。
インヒビター保有患者と対照例の 9 マッチドペアを比較検
だが,FEIBA および rFVIIa はいずれも高コストである。ま
討したところ,6 ペアにおいては,インヒビター保有患者の医
た,これらの薬剤の選択方法と投与法に関する問題,インヒ
療費が対照例と比較して安かったが,2 ペアにおいては,イ
ビター保有患者の生活の質の向上など課題は多い。インヒ
ンヒビター保有患者 2 例の医療費が極めて高かった。そして,
ビターの免疫学的機序を検討することにより,これらの問題
この 2 例は特別に高コストの「Outlier」患者であるという重
に対する最善の対策が示されるものと考えられる。また,本
要な見解を示した。インヒビター保有患者の平均医療費がイ
総会で発表された症例報告およびポスターからは,ritux-
ンヒビター非保有患者の 2.25 倍になったのは,Outlier 患者
imab による抗 CD20 抗原(B 細胞上に存在)療法が有効であ
の影響によるものである。だが,その影響は,比較検討に中
る可能性が示唆されている。
央値を用いることにより除外することができる。中央値を比
較した結果,インヒビター保有患者の医療費はインヒビター非
SURGICAL INTERVENTION IN INHIBITOR
保有患者の医療費と比較して低く,その比は 0.72 であること
PATIENTS
が明らかになった。
−インヒビター保有患者における外科的治療
インヒビター保有患者における医療費と治療効果の関係に
Geir Tjonnfjord, MD, PhD(Rikshospitalet University Hos-
関してオーストラリアで 2 ∼ 3 年前に実施された試験の結果,
pital, Oslo, Norway)は,aPCC(FEIBA)投与によりインヒビ
再治療の必要性,疼痛緩和,障害,救急外来の受診および
ター保有患者の手術が可能となることが 1983 年に明らかに
長期欠勤の面で良好な成績を示し,rFVIIa が患者の QOL の
されたものの,多くの医師はインヒビター保有患者への手術
向上に多大な貢献をしていると結論付けた。
施行に消極的であったと述べた。だが,1988 年に rFVIIa 投
インヒビター保有患者の重度術中出血および ITI に要する医
与下のインヒビター保有患者における手術成功が報告された
療費は高額になるとは限らず,少数の「Outlier」患者の影響
ことを受けて,この状況は変化した。
により,インヒビター保有患者全体の医療費が大幅に誇張さ
デンマークのグループは 2002 年,rFVIIa 投与下での計画
れている。また,rFVIIa はインヒビター保有患者の総医療費
的整形外科手術(大規模手術 53 件を含む)に関する経験を
を上昇させている。FEIBA および rFVIIa の両製剤は依然と
要約した。軽微ないし中等度の出血合併症が 6 例に発生し
して臨床的に有効かつ安全であり,家庭治療における費用
たが,いずれも低用量投与法または rFVIIa の持続点滴静注
対効果は高いと考えられる。
5
CURRENT PROPHYLAXIS
定期補充療法
凝固因子の定期補充療法は重症血友病患児に対する標準的治療法と考えられ,身
体障害を引き起こす重篤な関節症(特に肘,膝および足関節)の予防を目的と
する。
ORAL SESSION
ITI または定期補充療法のための連日投与には,中心また
は末梢静脈アクセス器具が必要となる場合がある。これに
Optimizing factor prophylaxis for the hemophilia
T3-1
population: where do we stand
血友病における至適定期補充療法:
現時点での概観
Victor S. Blanchette, Hospital for Sick Children, Toronto, Canada
はポータカット,あるいはより新しい末梢静脈アクセス器具
(P.A.S. Port,Slim-Port など)
も存在する。感染率を低下さ
せるため,投与を施行する家族または介護者に対する正し
い手技に関する定期的な教育を実施すべきである。
静脈アクセス器具を使用すると血栓症を二次的に生じる
おそれがある。血栓症は臨床症状を呈さない傾向にあるが,
定期補充療法にはどのような治療法を用いるべきか。ス
静脈造影を施行すれば高頻度に検出される。しかし,静脈
ウェーデンで構築されたシステムは「ゴールドスタンダード」
アクセス器具の使用により重篤な合併症を引き起こすこと
であるものの,いくつかの欠点があるため,この他の治療法
はまれである。
も存在する。定期補充療法は関節内出血の初発時または初
発前に開始すべきか,あるいは関節内出血が数回生じた後
かつ 3 歳になる前に開始すべきか。良好な成績を得るため
には定期補充療法を早期に開始すべきとの共通認識がある
ものの,不確定要素が数多く存在する。
投与頻度はどの程度にすべきか。関連コストはどの程度か。
いつ定期補充療法を中止すべきか。どのような評価項目を使
Compliance in hemophilia care: the challenge of
T3-1
the adolescent years
血友病の治療に対するコンプライアンス:
青年期の問題
Marlene Manco-Johnson, Mountain States Hemophilia and Thrombosis Center, Colorado, USA
用すべきか。International Prophylaxis Study Group は理学
療法および X 線像の新規評点システムを現在構築中である
血友病患児,特に青年患者においては,定期補充療法の
が,同システムには MRI 像も含めるべきである。重症血友病
コンプライアンスが問題となる場合がある。だが,青年患
患児を対象として各種定期補充療法の成績および経済的側
者が血友病に関する理解を深めるとともに,家族,医師,
面を比較する治験も1 件以上,現在進行中である。
家庭治療チームや,友人(最も重要)からの適切なサポー
トを受ければ,コンプライアンスは向上する。血友病治療
Venous access in the hemophilia population: risks
T3-1
versus benefits
に対する青年患者の受け入れは,幼児期にその基礎が築か
れる。幼児期には,血友病に対する両親の適切な行動およ
血友病患者に施行する静脈アクセス術:
有用性とリスク
び態度が極めて重要である。
Rolf C. R. Ljung, University Hospital, Malmo, Sweden
Towards the goal of prophylaxis-experience from
W4-1
Sweden
インヒビター保有患者または非保有患者に凝固因子製剤
を高頻度に投与することで,感染症が生じるおそれがある。
インヒビター非保有患者に感染が生じる比率は 0.2 ∼ 1.0
件/1,000日であり,インヒビター保有患者ではこれより 2 ∼ 5
定期補充療法の発展−スウェーデンからの
研究報告
Pia Petrini, Haemophilia Center, Karolinska Hospital, Stockholm,
Sweden
倍高い。外部アクセス器具を使用すると,感染リスクはさら
に増大する。
6
すべての血友病団体は重症血友病患者の治療選択肢とし
HEMOPHILIA
2004
て定期補充療法を推奨しているものの,補充製剤の供給に
は自然発生的な関節内出血の再発予防とされた。同ネットワ
問題がない先進国においてさえ定期補充療法は標準療法に
ークの PUPS Cohort は現在,フランスの血友病センターで治
なっていない。カナダにおいては,5 歳未満の重症血友病小
療を受けている 18 歳未満の患児約 750 例を対象として定期
児患者のうち,週 1 回以上の定期補充療法を受けている患
補充療法の評価を実施中である。
者の割合は 47 %に過ぎない。この割合は米国では 38 %で
ある。欧州においては,2 歳になる前に 1 次定期補充療法を
POSTER SESSION
開始する血友病患者は 39 %に過ぎない。
1 次定期補充療法に対する反対意見のひとつとして,低年
齢の小児ほど血液製剤による悪影響を受けやすいことを示
唆する最近のデータがあげられる。スウェーデンにおいて 4 歳
未満,4 ∼ 7 歳および 8 歳以上の小児を対象として実施された
ある試験においては,関節スコアが 0 点の患者は定期補充療
Evaluation of FEIBA for prophylaxis in patients with
22-PO-10
inhibitors
インヒビター保有血友病患者の定期補充療
法における FEIBA の評価
B Ewenstein, Baxter BioScience, Westlake Village, CA, USA
法をごく幼い時期に開始した患者のみであることが明らかに
されている。オランダで実施された X 線学的試験においては,
インヒビター保有患者 16 例(血友病 A: 14 例,後天性血友
関節内出血の初発後,定期補充療法を 1 年延期すると Pet-
病:2 例)を対象として,FEIBA の定期補充療法が施行され
tersson スコアが 8 %上昇することが明らかになった。
た。うち 4 例は 12 歳未満であった。血友病 A 患者のうち 12
1 次定期補充療法を施行する際に障害となるのは,同療
例は 1 関節以上に損傷をきたしていた。
法の必要性を認知してもらう必要があること
(特に血友病の
点滴静注 1 回当たりの平均用量は 16(± 26)U/kg(範囲:
家族歴がなく,両親の教育が必要な場合)のほか,静脈アク
50 ∼ 100 U/kg)であった。投与頻度は 1日1 回ないし週 1 回
セス,凝固因子製剤のコストおよび利用可能性,無作為化治
であり,隔日投与を受けた患者が最も多かった。患者 4 例に
験が未実施であることなどである。
おいては,定期補充療法が無効であったため,FEIBA の用
末梢静脈アクセスは若年患者の 80 %で可能である。ストッ
量または投与頻度の増加が報告された。
クホルムにおいては,定期補充療法は 1 歳前後で開始され
投与期間が記録された患者 12 例における平均投与期間は
る。家庭治療が目標であるが,そのためには両親を数か月間
19.5 か月
(範囲:0.25 ∼ 26 か月)であったが,投与期間が 6 か
訓練する必要がある。
月に満たなかった患者も 6 例存在した。患者 13 例は観察期
定期補充療法の概念を現在採用している他の欧州の国々
間終了後も FEIBA 投与を継続した。
が,そこに至るまでの道のりは困難であった。フランスにお
FEIBA 定期補充療法中に出血頻度が低下した患者の割合
いては,凝固因子製剤の供給量が増大し一部の血友病セン
は 77 %,不変であった患者の割合は 23 %であった。FEIBA
ターが定期補充療法を開始した 1980 年代後半,他の国と同
定期補充療法後の出血エピソードが報告された患者 13 例の
様,AIDS が流行した。その結果,患者は製剤および医師に
うち,出血頻度が低下した患者は 10 例,不変であった患者
対する信頼を喪失した。2002 年までは,定期補充療法の登
は 3 例であった。定期補充療法の全般的効果が「良」または
録はなく,小児に対する補充療法に関して統一した見解はな
「優」と判定された患者は 9 例(69 %)であり,この大半は
かった。
FEIBA の投与頻度が 1日1 回または隔日投与であった。
「可」
と判定された患者は 4 例(31 %)であった。
インヒビターが報告された患者は 9 例に過ぎなかったが,
France's Experience in Introducing Prophylaxis:
W4-1
Strategies and Problems
うち 8 例においてはインヒビター力価が治療開始前の 99.2
フランスにおける定期補充療法の導入:
その方法と問題点
例ではインヒビター力価が上昇した。3 例は ITI を併用したほ
Herve Chambost, Hemophilia Care Center, Children Hospital La Timone, Marseille, France
BU/mL から報告時点には 2.5 BU/mL まで低下した。残る 1
か,ステロイド剤を併用した患者もいた。
後天性血友病患者は 2 例(55 歳および 83 歳)
とも FEIBA
50 U/kg を週 3 回投与され,2 例とも有効性が「良」と判定さ
18 歳未満の血友病患児における定期補充療法の施行率が
れた。いずれの患者にも有害作用は報告されなかった。
8.9 %のみであることが調査結果により確認された。
2002 年,French Coagulation Network(COMETH)は,定期
補充療法に関する勧告を発表し,定期補充療法の主要目標
7
ORTHOPEDICS PROBLEM
整形外科的側面
血友病性関節症の評点システムは既に 2 種類存在する。理学的所見を基にした評点システムで
ある World Federation Joint Scoring System と,スウェーデンの Holger Pettersson が
考案した有名な単純 X 線学的スコア(Pettersson スコア)である。より新たな手法である磁気
共鳴撮像はいまだ全世界的に普及していないものの,早期病変を検出できる可能性がある。
ORAL SESSION
と考えられる。あるいは,おそらく一方またはもう一方のシ
ステムに情報を追加する必要が生じる場合も考えられる。
Compatible Scales for Progressive and Additive
Magnetic Resonance Imaging Assessments of
Th2-7
Haemophilic Arthropathy
本検討を報告した論文は来年,Haemophilia に発表予定で
ある。
血友病性関節症を有する小児患者においてこの複合スコ
血友病関節症に対する累進的および加法
的 MRI 評価システムに用いる適合スコア
アの使用が別個に評価された結果,両スコアとも小児患者
Bjorn Lundin, Department of Rediology, University Hospital of Lund,
Sweden
ることが判明した。
血友病性関節症の評価における MRI の役割に関して論じ
における評価者間および評価者内信頼度が極めて良好であ
Physical Therapy Scale: Validity/Reliability
た。主に骨を描出する X 線写真とは異なり,MRI は軟骨な
理学療法評価法:妥当性と信頼性
どの軟組織の変化を描出するため,X 線写真に比して早期
Brian Feldman, Hospital for Sick Children, Toronto, Canada
Th2-7
病変の描出に適している。MRI は滑膜肥厚,ヘモジデリン
沈着のみならず,早期および晩期の骨変化(軽微な骨変化を
1 次定期補充療法の普及に伴い,The World Federation
含む)
も X 線写真に比して詳細に描出できる。
Joint Scoring System 以外に,軽微な関節病変をより明確に
6 種類の MRI 評点システムが既に報告されており,累進的シ
識別できるツールが必要となっている。また,World Federa-
ステム(最も重度の所見に基づきスコアを決定)を採用して
tion スコアは年長児および成人用にデザインされたため,幼
いるものもあれば,加法的システム(所見の合計に基づきス
児の正常な発育に伴う変化(関節可動域:ROM,軸アライン
コアを決定)
を採用しているものもある。米国では累進的シ
メントの変化など)
を異常と判定してしまうおそれがある。こ
ステム,欧州では加法的システムが一般的である。
の解決策としては,歩行解析などのより高度な解析を採用
MRI Expert Working Group は,Denver グループが作成し
することや,軸アラインメントの変化が患者年齢における正常
た MRI Atlas of Hemophilia Arthropathy をリファレンス・マニ
範囲を逸脱しない限り変形とみなされないよう,スコアを調
ュアルとして用い,推奨される MRI 評点システムを構築した。
整することが考えられる。
MRI 評点システムは平易かつ実用的であるのみならず,必要
この難題に 2 グループが取り組み,既存評点システムに比
な場合には,高度かつ詳細な解析も可能であるとの確信が
して幼児における妥当性および軽度関節病変を有する患者
得られたため,両タイプのスコアを調和させたスコアシステ
における感度が向上した治療成績の新規理学的評点システ
ムが最も適切との結論に達した。
ムが作成された。そのうちのひとつは Dr. Manco-Johnson の
同グループは Denver スコア(10 段階の累進的システム)
と
グループ(Denver, USA)
,もうひとつは Pia Petrini のグルー
欧州で使用されているスコア(28 段階の加法的システム)を
プ(Stockholm, Sweden)により作成された。専門家委員会
統合し,累進的システム 1 種類とこれに対応する加法的シス
はこれらの評点システムを組み合わせ,統合スコア(Hemo-
テム(20 段階)1 種類を作成した。これらは同時に使用でき,
philia Joint Health Scale)
を作成した。評価項目は腫脹とそ
一方または両方のスコアを極めて容易に抽出することがで
の持続期間,筋萎縮,軸アラインメント,関節轢音,屈曲性の
きる。スコアは 1 枚の評点シートに列記できる。加法的スコ
喪失,伸展性の喪失,関節動揺性,運動時の関節疼痛,歩
アを抽出すれば,累進的スコアもほぼ自動的に算出できる。
行,筋力などである。
最終的にいずれか一方のシステムがもう一方のシステムに優
作成されたガイドラインには,手技の実施方法およびスコ
るか,もう一方のシステムが不要であることが判明するもの
ア法のほか,各小児の評価から得られた重要な臨床情報を
8
HEMOPHILIA
2004
記録した後,関節の総合スコアの評点の補助に使用できる
実際のワークシートが提示されている。
合計スコアの信頼度は極めて良好であったが,全関節が
同様に評点できるわけではなかった(左肘関節など)。その
ため,スコア自体および指針書の改良・明確化を行うととも
に,使い勝手の向上したワークシートを作成する必要がある。
次のステップとしては,関節スコアから実際に必要情報を得
POSTER SESSION
Long-term outcomes of rehabilitative treatment for
25-PO-08
hemophilic arthropathy
血友病性関節症に対する理学療法の長期
的成績
S. Ohno,Department of Rehabilitation medicine, University of Occupational and Environmental Health, Kitakyushu, Japan
ることができるか,1 次定期補充療法を受けていない重症血
友病小児患者と中等症または軽症血友病小児患者を鑑別で
血友病患者 105 例(血友病 A:93 例,血友病 B:12 例,う
きるかどうかを検討する妥当性試験を実施する予定である。
ち女性 1 例)を対象として関節可動域(ROM)および筋力を
その他にも,様々なグループおよび研究者が多様なスコア
検査し,関節症に対する包括的治療の長期的成績を示した。
を構築している。その中には,評価スケール,疼痛に焦点を
105 例のうち,98 例は重症,5 例は中等症,2 例は軽症血友病
当てた動作に関する自己評価式の質問票などがある。前者
であった。この研究結果より,包括的医療チームによる治療
により,急性出血エピソード後の理学的療法が患者の転帰を
(定期補充療法,家庭治療における点滴静注療法など)は,
改善することが明らかにされている。また,後者により,足
ROM,筋力および de Palma 変法スコアの悪化予防に概して
関節症は肘および膝関節症ほど動作の大きな障害にならな
有効であるが,足関節症を完全に予防することはできないと
いことが明らかにされている。
結論付けた。
NURSES WORKSHOP
血友病の看護
10 月 17 日,オープニングセレモニーに先立ち血友病看護を主題とするワーク
ショップが開催され,世界中から集まった看護師による活発な討論が行われた。
POSTER SESSION
(Hemophilia Care Nurse Seminar)が 1997 年に Baxter Lim-
Development of hemophilia care seminar in Japan
17PO16
日本における血友病看護セミナーのあゆみ
Orie Ono, North Kyushu Hemophilia Center, Kitakyushu, Japan
日本における血友病の専門看護師を対象としたセミナー
ited の後援により開催されて以降,2003 年 12 月までに 5 回
のセミナーが開催され,全国の施設から看護師 62 ∼ 75 名
が参加した。2004 年には,血友病看護に関する研究会
(Study Group on Hemophilia Care)が発足し,より専門性
の高い看護に向けて発展し続けている。
の成果に関するポスターが,小野織江氏(北部九州血友病
センター)らにより発表された。
日本の医療システムの下では,血友病の専門知識を有す
る看護師であっても,通常所定の期間が過ぎれば本人の意
Understanding Genetics
血友病の遺伝学的側面
Susan Hook, Royal infirmary of Edinburgh, Edinburgh, Scotland
思とは関係なく他部門に配置転換されてしまう。また,血
友病患者は少数であり,血友病に対する知識が不十分な医
血友病家系に生まれた女性が保因者診断を受けることは
師も存在することから,熟練した看護師が血友病患者の看
重要である。保因者診断の最適期は月経開始時であり,この
護を行う場合は様々な障害に直面することが多い。看護師
時期に診断を行えば,結婚および出産に関する意思決定を
は血友病患者とその家族に多くの助言を与え,患者とその
下す時間が十分に得られる。専門看護師は血友病患者に対
家族に対する深い理解を有するが,血友病に関する幅広い
する深い知識と理解を有することから,その女児が実際に遺
知識を得る機会や論文発表の機会に恵まれることはまれで
伝相談または診断を受けない場合でも,十分な支援を行う
ある。血友病の専門看護師を対象とした第 1 回セミナー
ことが可能である。
9
あることを意味する。事実,英国においては,臨床症状が未
感染症・遺伝子治療
発現の vCJD 感染者からの輸血を明らかな原因とする vCJD
HIV 感染はいまだ世界規模の問題である。また,主な治療製剤にウイ
ルス不活性化処理や分画工程を経ていない血漿由来製剤が使用され
ている一部の発展途上国においては,血友病患者にとって HIV 感染は
依然として問題である。こうした不幸な状況は主として,これらの
国々の保健当局の意欲の欠如ばかりでなく,経済情勢にも起因する。
感染が 2 例報告されている。このうち,濃縮赤血球の投与を
受けた 1 例は vCJD により死亡した。残る 1 例の死因は不明
であったが,脾臓およびリンパ節にプリオン感染が認められ
た。また,実験的には,発症前の感染動物からの輸血および
バフィーコート投与によりヒツジが BSE に感染した。
vCJD 伝染性を決定づけるのは輸血量の割合ではなく,全
ORAL SESSION
般的な感染能である。全血は長時間オートクレーブにかける
HIV Management of HCV co-infected patients: Maximizing efficacy and minimizing hepatic and other
T2-1
toxicities
HCV 感染患者における HIV 治療:最大限の
有効性および最小限の肝臓等に生じる毒性
ことができないため,汚染除去が難しい。白血球の除去,な
らびに英国での輸血受血者による供血の禁止が有用である
ものと考えられる。
ORAL SESSION
W. Keith Hoots, University of Texas, USA
血友病患者の多くは HIV と HCV に同時感染している。
HIV 感染に対する抗レトロウイルス薬による強力な併用療法
(HAART)が普及したため,HIV ウイルス量の検出下限未満
への低下,CD4 +細胞数の改善,ならびに日和見感染率の
Preclinical and Clinical Gene Therapy for Hemophilia
W-1
血友病における前臨床および臨床段階の遺
伝子治療
Thierry VandenDriessche, University of Leuven, Belgium
大幅低下が実現した。だが一方,HAART には,HCV 性肝
血友病患者の遺伝子治療に関する第 I 相治験はこれまで
疾患の活動性を増大させ肝硬変への進行をもたらすという
に 5 件施行されている。いずれもさまざまな理由で成功して
欠点もある。こうした患者は HIV に感染していない HCV 感
いないが,遺伝子治療は血友病治療に役立つものと考えら
染血友病患者と比較して経過が大幅に不良である。これら
れている。遺伝子治療により,凝固因子の反復点滴静注が
の患者においては,血友病および食道静脈瘤の両方に起因
不要になり,結果として重症度が低下し,治癒が得られる可
して出血エピソードが増加するのみならず,止血作用を有す
能性がある。
る肝由来セリンプロテアーゼの合成低下により出血症状がさ
らに悪化する。
前臨床段階では,遺伝子治療により血友病マウスの FVIII
および FIX 濃度を長期間治療レベルに維持することに成功
し,毒性は生じなかった。FIX 欠損霊長類およびイヌにおい
ても有望な成績が得られており,両動物種で正常値の 10 %
ORAL SESSION/PLENARY SESSION
を超える FIX 濃度が得られ,イヌにおいては特発出血が予防
Prion Diseases and their transmission by blood
T-1
プリオン病およびその血液感染について
James W. Ironside, National CJD Surveillance Unit, Edinburgh, Scotland
輸血,あるいはその他のヒト血液由来製剤を投与される患
されたほか,両動物種で毒性は生じなかった。こうした動物
実験の多くにおいては,ベクター(遺伝子を動物または患者
に移入する「輸送システム」)
として,ウイルス遺伝子のひとつ
を FVIII または FIX 遺伝子に置換したアデノ関連ウイルスベ
クターなどのウイルスが使用された。
者には,変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)
と呼ばれ
だが,分裂細胞を標的としうるある種のウイルス
(レンチウ
るプリオン病を発症する危険性がわずかながら存在する。
イルス)
を使用すると,他の細胞に意図しない遺伝子発現を
vCJD 患者の発症原因は明らかにウシ海綿状脳症(BSE)病
きたすおそれがあるためベクターの改良が必要である。こう
原体に感染した牛肉の摂取である。だが,臨床症状が出現
した遺伝子発現は重症複合型免疫不全症のために遺伝子治
する前に,異常プリオン蛋白がリンパ組織に検出される場合
療を受けた小児 2 例で過去に生じており,B 細胞増殖がコン
がある。実際,英国の研究チームは最近,虫垂切除術から
トロール不能となったために白血病を発症した。また,ヒト
得た標本 14,964 例を解析し,うち 3 例でリンパ細網系にプリ
肝細胞特異的なナノ粒子が現在開発段階にある。ナノ粒子に
オン蛋白の蓄積が認められたと報告した。このプリオン蛋白
より遺伝子が直接送達できれば,インヒビター発生のリスク
が vCJD に特異的なものかどうかは不明であるが,ヒトプリオ
が低下するものと考えられる。遺伝子組換え筋幹細胞も意
ン病を含む他の疾患との関与は報告されていない。
図する遺伝子の送達に利用できるものと考えられる。また,
このことは,vCJD 感染者由来の血液(特に血漿および白
血球を含むバフィーコート分画)
も感染性を有する可能性が
10
「大容量型」アデノウイルスなどのその他のウイルスベクター
も使用できるものと考えられる。
HEMOPHILIA
2004
Clot Wave Analysis and Thrombin Generation Test
凝固波形解析およびトロンビン生成試験
ORAL SESSION
予防効果が期待されることが示唆された。また,後天性血友病
患者の凝固波形解析を実施したところ,後天性血友病患者の
The Application of Waveform Analysis in Hemophilia TH3-6
凝固機能は先天性血友病 A 患者と比較して不良であった。こ
血友病患者における凝固波形解析の応用
れは,FVIII の存在するタイプ 2 症例でも同様で,本疾患にお
Midori Shima, Department of Pediatrics, Nara Medical University,
Kashihara City, Japan
いて FVIII 活性が凝固機能を必ずしも反映しないことが明らか
になった。トロンビン生成試験からも同様の結果が得られた。
凝固波形解析は新しい全血凝固過程の評価法である。同
解析法は,基本的に aPTT または PT 測定反応系のフィブリン
形成過程における透過度の変化を,測定機器(光学的自動
凝固測定装置 MDA-II,Biomerieux 社)
を用いてモニタリン
グすることにより凝固波形として描出するものである。さら
に,データをコンピューター処理することにより,凝固速度あ
るいは凝固加速度などの各種パラメーターを算定して凝固機
能を定量的に解析することが可能である。本方法は血友病
患者の止血モニタリングに極めて有用である。
FVIII 活性の測定は,FVIII 欠乏血漿を用いた凝固 1 段法,
あるいは活性型第 X 因子の合成発色基質法を用いて実施さ
POSTER SESSION
Thrombin generation assay (TGA): a test for monitoring the pharmacodynamics of inhibitor treat03-PO-45
ment in hemophilia
トロンビン生成試験−血友病のインヒビ
ター治療における薬力学的検査法
P L Turecek, Baxter BioScience, Vienna, Austria
インヒビターバイパス製剤の止血効果を総合的に測定する
方法の大半は,血液凝固の初期相(血液凝固時間の測定)
ま
れる。一般に,これらの測定法における FVIII 活性の測定限
たは凝血塊形成とその後のフィブリン溶解反応を測定する方
界は約 1 %であるが,様々な要因により影響を受ける。従っ
法であり,トロンビン生成の真のエンドポイントは測定できない。
て,1 %前後の微量な第 VIII 因子の評価は困難であった。凝
オーストリアの Baxter BioScience が開発した新規測定法
固 1 段法で 1 %未満の重症型と診断された患者血漿の aPTT
は,凝血塊形成後であってもトロンビン生成を測定できるた
凝固波形,凝固速度,および凝固加速度などのパラメーター
め,トロンビン生成の動態が凝固の全活性化系・不活性化系
は症例により異なっていた。さらに,0 ∼ 1.0 %の微量第 VIII
によりどのように影響されるかを評価することができる。血
因子を含有する血漿の凝固波形解析により 0.2 ∼ 1.0 %の微
漿検体に FEIBA を添加した場合,トロンビン生成が正常化
量第 VIII 因子の評価が可能であることも判明した。これは,
され 0.5 U/ml 超まで上昇したが,トロンビン生成の誘導に必
通常の測定により< 1 %の重症型と診断された症例のなか
要な rFVIIa 濃度は 12.5 ug/mL 超であった。FEIBA または
には,0.2 ∼ 1.0 %の微量な第 VIII 因子を有する“軽度”の重
rFVIIa 投与患者から単回ボーラス投与後 30 分以内に採取し
症型と,< 0.2 %の“真”の重症型の 2 タイプが存在すること
た検体はトロンビン生成の改善を示したが,トロンビン生成
を示している。微量第 VIII 因子の測定による重症血友病の
能の生物学的半減期は FEIBA が 5 ∼ 7 時間,rFVIIa が 1 時
正確な診断は,臨床経過の予測やインヒビター発生リスクに
間であった。FEIBA または rFVIIa 投与患者から採取した検
極めて重要である。
体のトロンビン生成特性は,FEIBA または rFVIIa を in vitro
一方,トロンビン生成試験も,グローバルな凝固機能評価法
において添加した検体のトロンビン生成特性と極めて類似し
として再評価されている。同検査は血漿,あるいは PRP を用
ていたことから,この新規測定法はトロンビン生成に関する
いて,凝固反応開始後のトロンビン生成量を経時的に測定す
適中度が高いことが示唆される。
る。これまでに,出血傾向および過凝固状態の評価や,抗凝
固療法のモニタリングにおける有用性が報告されている。本
Technothrombin TGAと呼ばれるこの測定法においては,
凝固カスケードが組織因子により活性化されると,トロンビン
報告では凝固波形解析に基づく凝固速度および加速度がトロ
生成が蛍光基質によりモニターされ,トロンビン生成の全動態
ンビン生成パラメーターと良好に相関したことから,凝固波形
を測定することができる。すなわち,フィブリン生成までの初
解析はトロンビン生成を反映することが明らかにされている。
期相のみならず,トロンビン生成のダウンレギュレーション相お
凝固波形解析はインヒビター陽性例の止血評価にも有用で
よび生成されたトロンビンの不活性化相も測定可能である。
ある。免疫寛容療法を施行中の FVIII 投与後の凝血学的効
本検査法はインヒビターバイパス療法中の血友病患者のモ
果を凝固波形解析にて検討した結果,凝固波形の改善効果
ニタリング,抗凝固療法のモニタリングおよび血栓形成傾向
がみられた。従って,インヒビター陽性例でも症例により出血
の測定にも有用である。
11
Hemophilia 2006
Vancouver
Hemophilia 2006, the XXVII World Congress of the WFH は,
2006 年 5 月 21日から 25日の日程でカナダのバンクーバーにて
開催予定。
http://www.hemophilia2006.org/
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2005 年 4 月作成
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