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第1回カレー再発見フォーラム(PDF 7ページ)

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第1回カレー再発見フォーラム(PDF 7ページ)
News letter
1999年8月
カレー再発見フォーラム事務局
−カレー再発見フォーラム−
「スパイスの魅力とは?」
1999年7月21日「高輪和彊館」にて
「カレー再発見フォーラム」は1999年7月21日
に開催いたしました。テーマは「スパイスの
魅力とは?」。名古屋大学大学院生命農学研
究科教授の大澤俊彦氏、インド家庭料理研究
家のミラ・メータ氏、食の教育推進協議会実
行委員で、ハウス食品フードアドバイザーで
もある碧海酉癸氏をパネリストにお迎えし、
ディスカッション形式で皆様からお話しをう
かがいました。
大澤俊彦氏にはスパイスの機能性食品として
の可能性について、ミラ・メータ氏にはイン
ドでのスパイスの重要性と実際的なスパイス
の使い方を、また碧海酉癸氏には消費者とス
パイスメーカー双方のお立場から日本人とス
パイスの現況についてお話しいただきまし
た。スパイスの知られざる魅力を多方面から
発掘することで、カレーの新たなる価値に触
れる機会となったと思います。
このニュースレターは、大澤俊彦氏、ミラ・
メータ氏、碧海酉癸氏にお話しいただいた内
容を各テーマ別にまとめさせていただいたも
のです。
身近になったスパイスの魅力
名古屋大学大学院
教授
農学博士
大澤俊彦氏
インド家庭料理研究家
ミラ・メータ氏
スパイスはこの数十年で、日本人の食生活
にめざましい勢いで浸透してきた。実際、40
年前のテレビの料理番組で使用していたスパ
イスといえば、せいぜいがローリエ、パプリ
カ、シナモン、ガーリック、ナツメグ程度で
はなかったかと記憶している。当時は、その
取り扱いも一部のデパートや専門のスーパー
に限られていた。
それが現在はどうだろう。多種類のスパイ
スを、一般のスーパーで容易に手に入れるこ
とができるし、スパイス関連の料理本も数多
く出版されている。今日、私たちにとってス
パイスは、ごく身近な存在である。
しかし、スパイスの認知度が高まった現在
でも、スパイスの魅力を理解し、上手に使い
こなせているかという点では、残念ながら疑
問である。「スパイスはすべて辛い」というイ
メージや、「刺激があるから子どもには絶対に
食べさせてはならない」という誤解をしてい
る人も多く、せっかくのスパイスの特性が十
分に生かされていないというのが実感である。
スパイスの一番の魅力はなんといっても、
その「香り」だろう。スパイス特有の香りで、
食品の生臭みを消したり、反対にシナモン
ティーのように、いい香りを加えたりする。
そして、スパイスには優れた防腐効果や、薬
としての効能も多くある。食品の保存技術や、
医薬品が不十分だったころに、スパイスのも
つこれらの効果がどれほど重要であったかは、
スパイスの歴史が語るところである。
右 食の教育推進協議会実行委員
ハウス食品フードアドバイザー
碧海酉癸氏
左 コーディネーター
食の教育推進協議会実行委員
評論家
木元教子氏
1
インドの家庭料理とスパイス
インドで、もともとスパイスは、伝統医学で
あるアーユルヴェーダの中で、薬として使われ
ていた。そのスパイスの薬効を、日常生活の中
に取り入れることで、病気を予防できるのでは
ないかということから、料理に少しずつ加える
習慣ができ、次第にインドの家庭料理に欠かせ
ないものとなった。インド人はスパイスの鮮度
にとても気をつかう。たいていは量り売りして
いるスパイス店で、挽きたてのスパイスを1週
間分くらい購入し、新鮮なうちに使い切るよう
にしている(資料2-1参照)
。
★資料2-1
量り売りをする
スパイスの店
また、インドにはスパイスを砕くことを生業
にする人がおり、大家族の場合はホールのま
まスパイスを買い、そういう人に頼んで、軒
先でスパイスを砕いてもらう場合もある。
最近では、仕事をする主婦も増えたため、
パック詰めのスパイスも出回っているが、ど
の場合も、スパイスに混ぜものがないかどう
かが、スパイスを選ぶ際の一番の目安になっ
ている。(資料2-2参照)
★資料2-2 最近ではパックに詰めたスパイスを売る店も
★資料2-3
スパイスはスパイスボックスに
入れて料理に使う
実際には、ターメリック、トウガラシ、コ
リアンダー、クミン、ガラムマサラなど、数
種類のスパイスと塩を、スパイスボックスに
入れて使っている。こうしておけば、その日
のメニューや家族の健康状態、気候などを考
慮しながら、スパイスの種類や量を調節しや
すい(資料2-3参照)
。
また、インドでは野菜を買う際にも、鮮度
にこだわる。たいていの場合はバラ売りされ
ているので、手で触って状態を確かめてから
一つひとつ選んで買っている。ナッツ・豆類
も料理によく使う。とくにインドにはベジタ
リアンが多く、一般の人でも肉料理はせいぜ
いが週に1、2回程度と、あまり食べない。そ
のかわり、アーモンドや、カシューナッツを
使ったり、ムング豆、キドニービーンズ、ガ
ルバンゾービーンズなどの豆類をよく食べ
る。肉に比べてナッツや豆類は栄養価が高く、
客人があるときは、ナッツ入りのカレーで特
別にもてなすことも多い(資料2-4参照)
。
このように、新鮮で良質なスパイスをはじ
め、いい野菜、いい豆・ナッツなどを、バラ
ンスよく使った食事で、健康を守るというの
がインド人の食事に関する考え方である。
★資料2-4 インド料理には欠かせないナッツも種類豊富に揃う
2
疾病予防と機能性食品
現在、日本人のおもな死因には、ガンなど
の悪性腫瘍および、動脈硬化をはじめとする
心疾患が挙げられる(資料3-1)。これらの病
気は食生活が深く関係しており、ガンはその3
分の1が毎日の食事に起因していると言われて
いる(資料3-2参照)。
★資料3-1
「日本人の
主な死因の推移」
重
要
性
の
増
加
の
度
合
い
ガーリック
キャベツ
カンゾウ
大豆、ショウガ
セリ科植物(ニンジン、
セロリ、バースニップ)
タマネギ、茶、ターメリック
全粒小麦、亜麻、玄米
柑橘類(オレンジ、レモン、グレープフルーツ)
ナス科(トマト、ナス、ピーマン)
十字架植物(ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ)
マスクメロン、バジル、タラゴン
カラス麦、ハッカ、オレガノ、キュウリ、タイム、アサツキ、
ローズマリー、セージ、ジャガイモ、大麦、ベリー
★資料3-3
「ガン予防の可能性のある食品のピラミッド」
★資料3-4 「食品の機能性」
食品の機能性
一次機能 二次機能 感覚機能
(味覚、嗅覚、視覚、触覚など)
三次機能 生体調節機能
(神経系、循環器系、外分泌系、
内分泌系、細胞分化、
生体防御・免疫系、消化系)
★資料3-2
「ヒトのガン発生の要因」
しかし、疾病予防という点で捉えるなら、
食事の重要性は更に高まる。
資料3-3は、アメリカで「デザイナーフーズ」
と呼ばれる食品群であるが、これは膨大な疫
学調査に基づき、ガン予防に貢献する食品と
して挙げられたものである。このアメリカに
おける「デザイナーフーズ」を背景に、日本
で「機能性食品(ファンクショナルフーズ)」
の概念が生まれた。機能性食品は、ガンに限
らず、生活習慣病予防に関わる食品全般を対
象としている。
栄養機能
資料3-4に示すように、食品には3つの役割が
あると言われているが、機能性食品という場
合に着目しているのは、食品の3次機能、つま
り「生体調節機能」である。「生体調節機能」
とは、資料4-1にあるように、神経系、循環器
系をはじめ、病原菌の感染から生体を防御す
る働き(生体防御)、ガン、アトピー、アレル
ギーとの関連が示唆される免疫系などに対す
る食品の役割を示している。
言い換えれば、機能性食品とは、そのよう
な生体調節機能に優れ、その結果として、
様々な疾病を予防する食品だと言うことがで
きる。そしてそれには、これまで非栄養素と
され、どちらかと言えば体に好ましくないと
されてきた食品成分(フードファクター<食
品因子>)が深く関与している。
3
スパイスのもつ生体調節機能∼抗酸化食品としてのスパイス∼
スパイスは機能性食品の代表的な素材であ
る。スパイスは資料4-1に代表されるような
様々な生理調節機能(三次機能)をもつ。こ
れらの機能は、スパイスに含まれる辛味成分、
香味成分、色素成分などのフードファクター
が関係している。
★資料4-1 「香辛料のもつ三次機能の例」
香辛料のもつ三次機能の例
ガン予防効果 ローズマリー(ロズマノール、カルノソール)
甘草(グリチルレチン酸)
この活性酸素の過剰生成を食品で抑えると
いう点で、スパイスの抗酸化性が大きな効果
を発揮するのである。スパイスは抗酸化成分
の宝庫であり、資料4-2からもわかるように、
高い抗酸化性を持っている。スパイスは伝統
的に食品、とくに油の酸化を防ぐということ
が知られており、食品の保存に役立てられて
きたが、これと同様に、体内に入ってからも
体の酸化を防ぎ、病気を予防することができ
るのである。
ターメリック(クルクミン)
ニンニク(アリルイオウ化合物)
ワサビ(イソチオシアナート)
脂質・エネルギー代謝促進
トウガラシ(カプサイシン)
ジンジャー(ジンゲロン)
★資料4-2 「各種香辛植物の抗酸化性(ロダン鉄法)」
科 可溶部
コショウ(ピペリン)
ワサビ(イソチオシアナート)
免疫・生体防御作用増強
ニンニク、シソ、ショウガ
抗血栓作用 ニンニク、タマネギ、ワサビ
抗酸化活性 シソ科 クローブ(オイゲノール)
ジンジャー(ショウガオール)
ローズマリー(ロズマノール、カルノソール)
セージ、タイム(チモール)
コショウ科
ターメリック(クルクミン)
スパイスの三次機能のうち、とくに注目され
ているのが、スパイスのもつ抗酸化性だろう。
我々人間は、1日に2500リットルの空気を吸って
いる。そのうち500リットルが酸素であるが、
この酸素のうちの2%は、体内で「活性酸素」と
いう物質に変化する。この活性酸素は諸刃の刃
的な側面を持ち、一方で体内に侵入した病原菌
やウィルスから体を防御してくれるが、もう一
方では脂質、タンパク質、核酸などに「酸化ス
トレス」を与え、遺伝子を傷つける。通常、こ
の活性酸素の働きはバランスが保たれ、損傷を
受けた遺伝子も修復される。しかし、老化やそ
の他の要因によってこのバランスが崩れ、活性
酸素が過剰に生成されると、酸化障害が体内に
蓄積し、これがガンや動脈硬化、糖尿病など、
様々な病気を招く主要因となるのである。アル
ツハイマーや、パーキンソン病なども活性酸素
による酸化ストレスとの関与が言われている。
香辛植物 部位 塩化メチレン エタノール抽出物
酢酸エチル 水溶部
抽出物
ショウガ科
ニクズク科
クスノキ科
ミカン科
フトモモ科
セリ科
モクレン科
バジル
マジョラム
オレガノ
シソ
ローズマリー
セージ
タイム
ホワイトペッパー
ブラックペッパー
クベバ
生姜(ジンジャー)
乾姜(ジンジャー)
ターメリック
カルダモン
ナツメグ
メース
ローレル
シナモン
サンショ
クローブ
オールスパイス
キャラウェイ
コリアンダー
クミン
フェンネル
スターアニス
葉
葉
葉
葉
葉
葉
葉
果実
果実
果実
根
根
根
果実
種実
種皮
葉
樹皮
種実
花蕾
果実
種実
種実
種実
種実
果実
+++
+++
+++
+++
+++
+++
+++
++
+++
+
+++
+
++
+++
±
±
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+
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+++
±
++
++
-
+++
+++
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+++
+++
+++
+++
+++
+++
+++
+++
+++
+++
+
+++
+++
+++
+++
++
+++:活性が非常に高い、++:活性が高い、+:活性があ
る、±:活性の有無が微妙である、-:活性がない
(大阪市立大学 中谷 延二教授データより)
4
ターメリックの抗酸化性
カレーに多く使われるスパイスの1つにター
メリックがある。これはショウガ科の植物で、
日本名はアキウコンである。ターメリックに
はクルクミンと呼ばれる黄色色素成分が含ま
れるため、昔から着色料として使われてきた。
また産褥期の女性がへその緒や下腹部にター
メリックを塗ったり、皮膚が炎症を起こした
ときの塗り薬に用いられるなど、ターメリッ
クの抗菌作用、抗炎症作用も経験的に知られ
てきた。こういった伝統的な背景から、まず
は、皮膚に塗った場合のターメリックの効果
について研究が始まったのである。
しかし、現在、とくに注目されているのは、
経口摂取した場合のターメリックの機能性で
ある。ターメリックの主成分であるクルクミ
ンは、体内(腸管)でテトラヒドロクルクミ
ンという無色の物質に変化する(資料5-1参
照)。クルクミン自体、高い抗酸化性をもつが、
腸管で変化したテトラヒドロクルクミンは、
より強力な抗酸化物質であることがわかって
いる。そしてこのテトラヒドロクルクミンが、
体内の酸化ストレスを抑制し、大腸ガン、腎
臓ガン、糖尿病の合併症などを予防する効果
があることも確認されている。
★資料5-1 「クルクミンの経口摂取後の生体内変化」
★皿の上にのったターメリック
インドにおけるターメリック
インドでは料理だけでなく、生活全般にお
いてターメリックの存在は欠くことができな
い。たとえばターメリックは、「血をきれいに
してくれる」「たんをすっきりさせる」「のど
の痛みがひく」「お酒で痛めた肝臓にいい」な
どと言われ、お湯の中にターメリックを溶か
して、それを飲んだり、うがいをしたりして
いる。
また、捻挫をすると、ターメリックと塩を
サラダオイルに混ぜて湿布薬を作ったり、日
焼けのほてり、ニキビの治療にターメリック
にヨーグルトなどを加えたパックを使うこと
もある。
5
スパイスとのつきあい方
残念ながら日本では、しばしばスパイスが
誤解されたまま使われている。
ガラムマサラを例にとると、ガラムマサラ
というのは、1種類のスパイスではなく、5∼7
種類のスパイスをブレンドしたものである。
「ガラム」は「温かい」「熱い」、「マサラ」は
「スパイス」の意味で、つまりガラムマサラは、
「体を温めるスパイスをブレンドしたもの」な
のである。
体を温めるスパイスを大量に使ったチキン
カレーやチキンコルマに、さらにガラムマサ
ラを加えるとどうなるか。体を温めすぎるた
めに、逆にバランスを崩してしまうだろう。
ガラムマサラは、ヨーグルトカレーなど、体
を冷やすものの入ったカレーに適しているの
である。
またトウガラシダイエットブームに見られ
るように、「○○がいいらしい」という断片
的な情報で、単一のスパイスを過剰に摂るこ
とは、スパイスの折角の効果を台無しにする
だけでなく、かえって体に悪影響を及ぼしか
ねない。
インドでは、スパイスに関する知識を、親
が子供へ一つひとつ教えていく。そして、こ
れまでに述べてきたような、体の健康を守る
ためのスパイスの多様な使い方(その組み合
わせや量など)を総合的に身につけて大人に
なる。
スパイスの使い方ひとつで、子供からお年寄りまで、
様々な楽しみ方ができる
スパイスの魅力は奥が深い。まずは、スパイ
スのもつ特性をよく知り、その上で日本でも
スパイスをもっと幅広く活用してはどうだろ
う。一度に複数のスパイスを使いこなそうと
するのは難しいので、1種類のスパイスをふ
だんのメニューに加えて、その味や香りの変
化を楽しみながらスパイスに親しむのがよい
だろう。
インドの代表的なパン「チャパティ」
最後に∼ カレーとスパイス
日本人にとって最も身近なスパイス料理と
いえばカレーだろう。カレーをきっかけに、
スパイスに興味を持った人も多いのではない
だろうか。カレーには多種類のスパイスが含
まれており、完成されたカレーのレシピは、
スパイスの効用の面でもバランスが保たれて
いて、体の健康にとってすばらしい素材と言
えるだろう。
カレーと組み合わせるご飯や、ナン、チャ
パティ、またつけ合わせの薬味や、サイド
ディッシュなど、スパイス同様、好みや体調
に合わせて、もっと柔軟な発想でカレー料理
を楽しんでほしい。
6
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