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「アイガモ・アヒル農法による生物多様性の保全」

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「アイガモ・アヒル農法による生物多様性の保全」
プロジェクト発表会
区分
「環境」
「 ア イ ガ モ ・ア ヒ ル 農 法 に よ る 生 物 多 様 性 の 保 全 」
愛知県立佐屋高等学校
1
はじめに
私 た ち の 先 輩 は ,平 成 14 年 度 か ら 地 元 小 学 校 の 5 年 生 を 対 象 に 年 間 6 回 の 稲 作 体 験
活動を実施し,その中にアイガモ農法を取り入れてきた。アイガモ農法は,農薬や化
学肥料が一切要らず,安全・安心でとても美味しいコメができる。しかし,アイガモ
農法と生物多様性との関係については,あまり詳しく教えていなかった。
2
今年度の計画
環境に優しいアイガモ農法を理解してもらうため,次の5つを検討した。
①
移動式の水田のジオラマを作成
②
C O P 10 の 関 連 行 事 に 参 加
③
アイガモ農法を科学的に検証
④
慣行田との生物多様性の違いを調査
⑤
扱いが難しいアイガモの代わりにアヒル
の可能性を検討
(1) 移 動 式 水 田 の ジ オ ラ マ 作 製
水 田 の ジ オ ラ マ は ,大 き さ は 畳 1 枚 分 で ,
そ こ へ 厚 さ 10cm の 土 を 入 れ た 。そ し て イ ネ
の苗をしっかりと植え,アイガモ小屋も設
置 し た 。 約 200 ㎏ あ る が , ト ラ ッ ク で ど こ
へでも運べ,アイガモ農法の良さをPRで
きる。
図1
アヒル農法の特徴
(2) ア ヒ ル 農 法 へ の 転 換
作製したジオラマには,アイガモを放す予定であったが,新たな農法の可能性を探
るためアヒルに変えてみた。私たちは,これを「アヒル農法」と命名した。アヒルの
特徴は,性格が穏和で集団で行動することや,生長が早いことである。また,5㎏と
大 型 で た く さ ん の 害 虫 や 草 を 食 べ る こ と が 期 待 で き る 。 ( 図 1)
(3) C O P 10 関 連 行 事 へ の 参 加
次 に 2 つ 目 の 取 組 で あ る C O P 10 関 連
行 事 へ の 参 加 で あ る 。 平 成 21 年 10 月 , 愛
・地球博記念公園で『生物多様性フェステ
ィバル』が開催された。私たちが展示した
「アヒル農法のジオラマ」は,子供達に大
人気であった。アヒルのヒナが泳ぎ回り,
水を濁らせ,草をついばむ様子を十分に観
察 し て も ら え た 。 92 名 の 来 場 者 の ア ン ケ ー
トからは,アイガモ・アヒル農法が生物多
図2
来場者アンケート結果
様 性 に 貢 献 し て い る こ と を 70% 以 上 の 人 た
ち が 理 解 し た と い う 結 果 が 出 た 。 (図 2 )
(4) ア ヒ ル 農 法 の 実 践
平 成 22 年 4 月 ,ア ヒ ル 農 法 の 実 践 が ス タ
ートした。6月9日,小学生達は,期待に
胸を膨らませ,自分たちが田植えをした田
んぼへ元気にアヒルを放った。愛知県では
初めてとなるアヒル農法の歴史がここに誕
生した。この様子は,翌日の新聞に掲載さ
れた。また,地元のケーブルテレビやラジ
図3
アヒルの成長の様子
オでも紹介されたため,連日多くの見学者が訪れた。その後,アヒルのヒナをカラス
などの野鳥から守るため,水田の周囲に柵と防鳥網を張り,アヒル小屋を設置した。
アヒルはすくすくと成長し,元気に水田を
動き回った。アイガモに比べて糞の量も多
く,害虫をよく食べ,イネの生長も良好で
あ っ た 。 (図 3 )
(5) 生 物 多 様 性 の 保 全 に つ い て 調 査
C O P 10 関 連 行 事 へ の 参 加 を き っ か け
に生物種の絶滅について研究した。現在は
大量絶滅の時代と言われ,その数は1年間
に4万種である。このままでは,様々な点
で生き物に依存している人間も絶滅してし
まうかもしれない。私たちの取組は,この
図4
アヒル水田に生息する水生昆虫
生物種の絶滅スピードを遅らせることにある。そこで,アヒル水田に棲む生き物が現
在どの程度,絶滅の危機にひんしているのか調べてみた。
表1
水生昆虫・魚類の生息推移
私たちは,過去7年間,毎年7月~8月にかけ
て生物多様性の調査を行ってきた。
今年も既に多くの水生生物が確認できた。これ
は,アイガモ・アヒル水田に棲む主な水生昆虫で
ある。(図4)この中では,タガメは絶滅危惧種
第2類に指定され,ゲンゴロウとコオイムシは準
絶滅危惧種に当る。7年間のアイガモ農法と今年
のアヒル農法により,これらの水生昆虫は確実に
よみがえった。過去8年間の生息数の推移
であ
る。(表1)ゲンゴロウやミズカマキリ,メダカは,毎年のように確認され,本校の
水田に棲み着いたことがよく分かる。
多くの命をはぐくむアイガモ水田。そこで私たちは,アイガモ水田と慣行田で,生
き 物 冬 眠 調 査 を 行 っ た 。調 査 面 積 は 1 ㎡ で ,深 さ は 30 ㎝ ,土 の 容 量 に し て 0.3 ㎥ で あ
る。これを,それぞれの水田で8カ所ずつ行った。
結果は,ドジョウやジャンボタニシは慣行田の2~3倍の生息数で あったが,ミミ
ズ に つ い て は ,慣 行 田 の 3.5 倍 の 14 匹 も い た 。さ す が に ,土 が 良 く 肥 え て い る こ と が
分 か っ た 。そ こ で ,ア イ ガ モ の 糞 に つ い て も 調 査 し た 。ア イ ガ モ は ,1 日 当 た り 約 104
g の 糞 を し , 13 週 放 飼 す る と , 1 羽 当 た り 9.5 ㎏ に な る こ と が 分 か っ た 。 こ の 糞 が ,
栄養分となり,多くの生き物が棲み着くことが科学的に検証できた。
(6) 地 域 へ の 普 及 活 動
環境に優しいアヒル農法を地域へPR
す る に は ,分 か り や す い 資 料 が 必 要 と 考 え ,
カラーチラシを作製し,学校周辺の稲作農
家 12 軒 を 回 っ て ア ヒ ル 農 法 へ の 理 解 と 来 年
度への協力を求めた。テレビやラジオで私
たちのプロジェクト活動を知っている方も
多く,2軒の農家から休耕田の提供に前向
き な 回 答 を 得 た 。さ ら に ,来 年 度 に 向 け て ,
地元の農業関連企業を訪問した。この会社
図5
生息数の比較
は既に有機農法で酒米の栽培を行っているが,来年度から私たちと協働でアヒル農法
を実践することを決めていただいた。学校からも近いので,一生懸命サポートし,地
域 に 話 題 を 提 供 す る と 共 に ,ア ヒ ル 農 法 の 輪 を ま す ま す 広 げ て い け れ ば と 考 え て い る 。
校 外 へ の 普 及 活 動 だ け で な く ,私 た ち は ,校 内 に も 目 を 向 け た 。平 成 25 年 か ら の 新
学 習 指 導 要 領 の 施 行 に 伴 い ,新 科 目「 農 業 と 環 境 」が 始 ま る 。私 た ち の ア ヒ ル 農 法 は ,
農業生産と環境の改善を一体的に学ばせる上で最適な教材であると考えてい る。夏休
みの1年生の「総合実習(当番実習)」において,私たち3年生がこのプロジェクト
活動の成果をしっかりと1年生に指導をした。後輩たちにも,今後の活動の継続と発
展を期待したい。
ア ヒ ル 農 法 は ,昨 年 11 月 と 今 年 8 月 の 2 回 ,テ レ ビ 番 組 で 紹 介 さ れ た 。こ の 活 動 を
広く愛知県民の皆さんに知っていただくことができたと確信している。
3
まとめと今後の課題
水 田 の ジ オ ラ マ を 作 成 し ,C O P 10 関 連 行 事 に 十 分 に 活 用 で き た 。ま た ,こ の 4 月
からアヒル農法を実践した。8年間の取組により生物多様性は確実に よみがえった。
今後の課題は,アヒル農法を継続し雑草の生物多様性についても調査 する。また,
アヒルが水田内で活動するのに最適なイネの栽植密度の検討を行う。そして,地元企
業と協働で地域の休耕田を借りてアヒル農法の面積を拡大していきたいと考える。さ
らに,アヒルの卵を使った加工品にも挑戦するつもりである。
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