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大学生の就職活動の実態と支援~進路未定者に着目して

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大学生の就職活動の実態と支援~進路未定者に着目して
㊧論文㊧
大学生の就職活動の実態と支援
∼進路未定者に着目して∼
堀有喜衣
︵独立行政法人労働政策研究・研修機構︶
率も低いという関係ではあるのだが、九六∼九八年に求人
倍率があがったからと言って、大卒無業率が下がっている
定者に着目して分析する。
学生に対する調査から検討することである。特に、進路未
本稿の目的は、大学生の就職活動の実態と支援について、
どんな学生がどのように就職活動をして卒業後の進路を
がえる。
卒に対する求人だけで決定されるわけではないことがうか
大卒者に対する需要に規定される部分が大きいものの、新
大卒無業率が回復しているわけではない。大卒無業率は、
はじめに
選 来年度卒業予定の大学四年生に対する求人はバブル期な
決定していくのか、あるいは未定のまま卒業するのか。こ
わけではなく、また二〇〇二年に求人倍率が回復しても、
の志望の企業に内定する学生にスポットがあたっているが、
学こうした景気回復はすべての学生に及ぶのだろうか。
. はじめに、昨年度までの大卒求人倍率と、大卒無業率と
そこで本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構
る必要がある。
うした点については、学生個人に対する調査から検討され
特の関係をみてみよう︵図1︶。求人倍率が高いと大卒無業
27
萎灘灘
難灘
路みの水準に達し、・活発な採用活動が繰り広げられた。第一
択
進
生
集
は、以下のとおりである。
就職活動の実態に迫っていく。調査対象の抽出と調査方法
ア展望と就職活動に関する実態調査﹂を用いて、大学生の
が二〇〇五年秋から冬にかけて実施した﹁大学生のキャリ
況によって異なり一律ではない。
のみに配布した場合がある。また、配布数も、大学の状
程等の都合で、内定者のみに配布した場合や一部の学部
生全体を代表する構成になるように依頼したが、学事日
各大学における学生の抽出は、できる限り該当大学の学
1.50
「左記以外のもの」と表現されている。また、2004
年からは「専修学校・外国の学校等入学者」を別掲
しているが、ここでは連続性を確保するため無業に
0,00
く、大学院等への進学や就職、一時的な仕事を除く、
いる
含めている。
不明20%『
毒鰍・毒錘
58.8%
4。8%
図3 上の円グラフのうち「未内定・就活停止/なし」の
予定進路内訳
資格試験準備2.2%_ 結婚・芸術活動0.8%
織
猟
学からWeb調査のアドレスを配信・掲示する、のいず
れかの方法によった。また、Web調査分以外の回収は、
回答者が各自封入後、大学で回収してからの返送と本人
実施時期”二〇〇五年一〇月∼一一月
からの直接の郵送の二通りによった。
有効回収票数”一万八五〇九票
二 予定する進路
対象者は卒業後、どのような進路を予定しているのだろ
うか。四年生秋の時点で内定を得て就職活動を終えている
者が五八・八%、内定はもらったが就職活動を継続中の者
の予定進路についてみてみると、卒業後について﹁未定・
卒業後に何らかの就学を目指している。就学を目指す以外
迷っている﹂という者が二・七%、就業希望がありなが
繋
騰
∼% その楠1
自営家業1.5%/その他1.5%
白営家業1
は差があるのだろうか。
動・未定・迷っている﹂の者の就職活動に
就職活動中﹂﹁無活動・就職希望﹂﹁無活
それでは、正社員内定者と、﹁内定なし・
三 就職活動における差異
職活動について見ていこう。
定・迷っている﹂に着目し、それぞれの就
活中︶﹂、﹁無活動・就職希望﹂、﹁無活動・未
了︶﹂、﹁内定なし・就職活動中︵未内定・就
以下では、﹁正社員内定︵内定有・就活終
四・三%いる。
務員や教員を希望している者︵未内定︶が一
ら就職活動をしていない者が二二・一%いる。この他、公
11.7%
14.3%
なく、かつ現時点で就職活動をしていないという者も一
44.3%
留年3.3%
留学・専門学校希望72%
14.3%
九・九%いた。なお﹃学校基本調査﹄と比較してみると、
内定有・就活中
本調査はやや就職者の割合が高いデータとなっていること
内定有・
未内定・就活中
迷って
’希望
教員
希望
大学院・編入希望
に留意する必要がある。
図2 予定進路
28
調査対象”全国の四年制大学︵医学・看護学・宗教学の単
注:2000年以降は、「学校基本調査」では「無業」でな
調査方法”各大学の就職部・キャリアセンターを通して学
資料出所:リクルートワーク研究所(各年)「大卒求人
倍率調査」、文部科学省(各隼)「学校基本調査」
科大学を除く︶のうち、協力を得られた二七六校の四年
96 99
1990 93
Qo
02
05
生に配布した。具体的には、就職ガイダンス等やゼミ等
10.0
生︵医学部、歯学部、看護学部の学生を除く︶。調査票
15.0
2.00
内定企業がなく就職活動をしていない者について、図3
2.50
50
求人倍率
0.50
20.0
無業率
纈
が四・八%、まだ内定をもらっておらず就職活動を継続中
3.00
の機会に直接配布する、大学から学生宅に郵送する、大
25.0
3.50
を見ると、約半数が、大学院・編入や留学、専門学校など、
図
の者が一四・五%いた︵図2︶。これに対して、内定企業が
1.00
就活終了
14.5%
未定
就職
公務
29
大卒求人倍率と大卒無業率
配布数は、約四万九〇〇〇票︵Web調査分を除く︶。
特集・学生の進路選択
特集・学生の進路選択
3.5
1.1
就職のために役立った情報源(第璽位)と予定進路
30
3フ
3.6
76
その他
0.0
0.0
0.0
0.0
無回答
0.7
7石
100.0
100ρ
10.8
友人
7.1
迷っている
7.0
462
432
微、,欝灘講悪鵬、滋
4.3
4.3
定はおぼつかない。すでに活動
そも企業に接触しなければ、内
てもらっている。その中から、代表的なものを紹介しよう。
卒業後の予定や今困っていることについて、自由に記述し
卒業後どうしたいと考えているのだろうか。本調査では、
活動をやめてしまったり、そもそもしていない未定者は、
四 未定者の卒業後の予定
は問題が大きい。
者に比べると、未定者の相談は
た︵図4︶。まず﹁正社員内定﹂
手に着目してさらに検討を加え
た。そのため、自己分析を繰り返し、自分のやりたい事、
・﹁何社か受けたがいずれも内定を取ることはできなかっ
︿無活動・未定・迷っている﹀
続いて、就職活動中の相談相
を停止してしまっている学生に
も含まれている。しかし、そも
ながっていく可能性がある学生
から接触企業が増え、内定につ
不活発であり、特に先輩や大学の先生・職員・カウンセラ
3.1
正社員内定者に比べると、﹁内
家族・親族・保護者
2.3
ーに相談する割合が低い。内定は得られていないが、就職
1.6
2.4
定なし・就職活動中﹂﹁無活
41
2.2
活動を続けている学生は、大学の先生・職員・カウンセラ
1.1
動・就職希望﹂﹁無活動・未
2.2
公的な就職支援機関
ーに相談する割合は正社員内定者とそれほど変わらない
2!7
が、現在就職活動を続けていない学生や迷っている学生は
OB・OG訪問
13
定・迷っている﹂いずれも企業・
05
2.4
との接触が少ないため、相対的
λ2
低くなっている。
インターンシップ
0.7
にチャンスは小さいと推測でき
1.6
1ρ
とりわけ迷っている学生においては、誰にも相談しなか
22
る。内定なし・就職活動中につ
4.6
った割合が高くなっており、迷っている学生が孤立する状
3!7
いては、活動が始まって問もな
大学の先生
況をうかがわせる。
、甜彷鞭勲‘勲環
い業種・職種もあるため、これ
42
100n
100.0
.灘灘
懸錘駿鍵灘.
講騒灘
N隙號畷・・丹』醒鵬
謬縣夷照轟.・耀
3.1
5.2
3.4
無活動・未定・
択 表1は、どのようにして情報収集をしているのかを予定
無活動・未定・迷っている
f r1 一盛識・ゴ1瓦1、陰 1 −1一聾踊一ド』,ド 隔 ド
各進路別に検討した。
1.7
34.6
進 正社員内定者と内定がない者において差が見られる項目
5.4
無活動・就
職希望
生は、﹁会社説明会やセミナーなど﹂である。情報誌やウェ
無活動・就職希望
ヰ4
●ブサイトの情報はいわば誰にでも手に入る情報であるが、
2.9
内定なし・
集実際に説明会やセミナーに参加しなければ、企業の雰囲気
65
就活中
を感じることはできないし、また説明会やセミナーが選考
内定なし・就職活動中
465
を兼ねている場合もある。OB・OG訪問と同様に、実際
7.2
2.4
に足で稼ぐ情報収集の努力は重要であるが、パソコンの前
14.7
正社員内定
で就職活動をしている気分になってしまっている学生は少
なくない。
正社員内定
大学の就職関連行事・事業
また、大学就職部・キャリアセンターの利用にも差が見
5フ
就職支援ウェブサイト
られる。﹁正社員内定﹂や、﹁内定なし・就活中﹂は、大学
11.7
就職情報誌
をうまく活用している。﹁内定なし・就活中﹂は、大学を
活用したために内定を得ていないのではなく、大学の支援
が役立っているために就職活動を継続していると推測でき
る。﹁無活動・就職希望﹂﹁無活動・未定・迷っている﹂で
学を十分に利用していないことがうかがえる。
全体平均
合計
は、内定者や活動継続中の者に比べて低くなっており、大
説明会参加企業数
30
31
面接を受けた企業数
次に、企業との接触について平均をみたのが表2である。
表2 予定進路と企業との接触
表1
セ選
の
学
特
特集・学生の進路選択
図ム 申冊漸謂邊・誹澤諦響丑S益脚鎌孟州
蕪煎響・評露融隅
蕪蒜轡・暑満・諜oパぐソぴ
目︾罫鈷灘露渦湘藤瀦
囲課δび曲蝶C鈷サo浮
たいと思い、やめました。保育資格を取得して養護︵児
童︶施設につきたいです﹂ ︵家政、二二歳、女性︶
・﹁地元に帰りたいので、近々地元のハローワークに行こ
うと考えています﹂ ︵社会福祉、二一歳、女性︶
なかなかない﹂ ︵社会福祉、二二歳、女性︶
.﹁自分が希望する施設︵仕事内容、必要な資格など︶が
ら企業で、人事面接を受け、アルバイトから働くことに
決まった。特にその企業で働きたかったのでアルバイト
からでも働こうと思った﹂ ︵工学、二二歳、女性︶
・﹁今しているアルバイトで社員の人にキャリア社員の試
験を受けないかと言われているので受けるつもり。今も
リーダー手当をもらっていてやりがいがあるため﹂
︵商・経、二二歳、男性︶
・﹁就職活動に踏みきれずにいる。フリーターでもいいの
では? と思ってしまうこともあるし、海外留学をして
て、困っている﹂ ︵社会福祉、二一歳、女性︶
専門性を深める勉強もしたいと思う。方向性が見えなく
・﹁アルバイトをして資金をためて、留学することを希望
します﹂ ︵商・経、二二歳、男性︶
糎’,♂,’,’,’,の,
一〇〇訳
冴満労C・灘煎丑
圃一汁磁3冷餅・薄加・尋噂紹鳶噸ー
一∼』、奮、両㌔1i,』■∼む、
Oま
囲洋油澱諦
圏汁磁冴3済鵡酔
囲冷憐
’‘’i’‘∼‘’颪卍噺’匝
曜、哩∼璽『o哩∼哩∼哩、翌∼
・﹁内定を頂いたのですが、自分のやりたいことに挑戦し
圏小3禽︵︾ヘプ譲・洋ゆ>鞍︶
囲囎回曖
’,’,’
団卿卦ψ滝ぐ・
■∼5馬8
ひO承
ε承
8ぷ
Oま
圏聾帰吋3癩購疎
翻汁韓享3済㍊ぴ
国朔>
したい事がわからなくなった﹂ ︵法、二一歳、男性︶
・﹁まだやりたいことがわかってないからこんな時期だが
うご廿ない。⋮⋮どうすれば就活にふみだせるかを知り
たい。今一歩踏み出せない﹂ ︵商・経、二二歳、男性︶
・﹁就職活動について、具体的なことが︵何をすれば良い
のか︶全くわからない。学校も﹁早くしろ﹂とは言うが、
それだけである﹂ ︵社会福祉、二二歳、女性︶
・﹁とくに、何も考えていない。まだ自分がしたい事がわ
からないので、いろいろな本や、いろんな人と話をして、
自分を見つけようと思っている﹂︵人文、二一歳、女性︶
・﹁院にいきたいけれど、経済的な問題で︵就職活動を︶
やります。⋮⋮また、迷っている。相談できる人がいな
い﹂ ︵農学、二三歳、女性︶
・﹁福祉資格の国家試験が来年一月にあるので、就活はし
ておらず、勉強中。終わり次第、就活を始める予定︵福
祉関係、医療関係で︶﹂ ︵社会福祉、一二歳、女性︶
・﹁内定待ち、落ちたらまた来年受ける﹂
︵芸術、二四歳、男性︶
32
33
■騨d『■ゴ■
oo
︿無活動・就職希望﹀
特集・学生の進路選択
特集・学生の進路選択
択 多様な自由記述から、社会に出ることに悩む若者像がう
路かびあがってくる。
進 ﹁未内定・迷っている﹂場合は、①就職活動中につまずき、
題に大学が直接対応することは難しいが、大学が支援でき
学で対応できないような問題も含まれており、こうした問
以上のように、進路未定の学生のつまずきや悩みは、大
で資金稼ぎ、などに分けられる。
⑤様々な進路で悩む、⑥やりたいことのためにアルバイト
求人がない、④就きたい仕事のためにアルバイトから入職、
定まち、方向転換、②地元に帰りたい、③就きたい仕事の
﹁無活動・就職希望﹂は、①今は資格試験に集中する、内
集進学との問で悩む、などのパターンがある。
孝どうしたらよいのかわからない、④ゆっくり考えたい、⑤
生方向修正に悩んでいる、②やりたいことがわからない、③
いう観点からだけでなく、進路選択という場面においても、
から取り込んでいけるかという課題は、大学生活の充実と
の決め手となっている。大学がすべての学生をいかに早く
学生生活を送ることは、学生の進路選択においてもひとつ
着させるかが課題となっているが、学生が﹁大学生らしい﹂
現在、就職とは異なる観点から、学生をいかに大学に定
ことがうかがえる。
らは大学入学時から、大学へのコミットメントが低かった
相談する相手にも恵まれていないというものであった。彼
内定者像は、大学を十分に活用せず、企業にも接触せず、
内定者を中心に検討してきたが、本稿でうかびあがった未
学生に対する調査に基づき、就職活動の実態について未
五 おわりに
るケースも少なくない。彼らは集団的支援に馴染まなかっ
重要さを増してくることが予想される。
︻引用文献︼
た層であることから、大学側から学生に、個別の支援を働
きかけていくことが効果的であろう。
巨肩\ゼ類三一一●σqoセ言の自葺魯①。。。馨ミ80ひ\O一Sげ馨
労働政策研究・研修機構︵二〇〇六︶﹃大学生の就職・募集採
用活動等実態調査結果1﹄JILPT調査シリーズ晦17
34
選
の
特
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