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超電導磁気軸受と永久磁石磁気クラッチの電磁力解析と評価

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超電導磁気軸受と永久磁石磁気クラッチの電磁力解析と評価
特 集 論 文
特集:浮上式鉄道技術とその応用
超電導磁気軸受と永久磁石磁気クラッチの電磁力解析と評価
清野 寛* 長谷川 均* 池田 雅史**
長嶋 賢* 村上 雅人***
Numerical Analysis and Evaluation of Electromagnetic Forces in Superconducting
Magnetic Bearings and Non-contact Permanent Magnetic Clutch
Hiroshi SEINO Hitoshi HASEGAWA Masashi IKEDA
Ken NAGASHIMA Masato MURAKAMI
The RTRI is developing a superconducting magnetic bearing and a non-contact permanent magnetic clutch
applicable to the flywheel energy storage system for railways. In this paper, the electromagnetic force analyses
method concerning the superconducting magnetic bearings and the permanent magnetic clutch under development are reported. In the electromagnetic force analysis, the electromagnetic force that is generated in the superconducting magnetic bearings and the non-contact permanent magnetic clutches were estimated based on the magnetic field distribution obtained by the numerical analysis. Then, the validity of the analysis was evaluated by
comparing them with the outcome of an experiment. The analytical results well correspond to the outcome of the
experiment. It was confirmed that this analysis method is effective for estimation of electromagnetic force of
electromagnetic equipment containing the bulk superconductor, and is applicable to the designing.
キーワード:エネルギ貯蔵,フライホイール,磁気軸受,超電導磁石,超電導バルク体,極低温
1.はじめに
2.電磁力解析の手法
(財)
鉄道総合技術研究所ではフライホイール蓄電装置
電磁力解析には,3 次元非線形動磁場解析ソフトウェ
に適用する超電導磁気軸受の研究開発を行っている1)。
ア ELF/MAGIC を用いた。ELF/MAGIC は,マックスウ
超電導技術を適用した軸受で,軸受部分のメンテナンス
エル方程式の積分形を解く積分要素法を用いており,磁
性を向上するとともに,運転効率の向上を図ることを目
気モーメント法,表面磁荷法,表面電流法,ネットワー
指している。
ク法を組み合わせて精度を向上している。メッシュ分割
本報告では,
この研究開発における超電導磁気軸受と,
は物質のみで空間メッシュが不要であること,磁性体の
要素技術として開発している永久磁石磁気クラッチに関
メッシュを粗く分割できること,境界条件が不要である
する電磁力解析について報告する。
といった利点がある。
超電導磁気軸受はロータに超電導バルク体,ステータ
に超電導コイルを適用したもので,両者を超電導化する
3.超電導磁気軸受の電磁力解析と評価
ことで荷重容量の大きな超電導磁気軸受ができる2)。ま
た,永久磁石磁気クラッチは,クライオスタット内に配
3. 1 試験用超電導磁気軸受
置したフライホイールと外部の電動・発電機とのエネル
本研究では,超電導磁気軸受の実用性を確認するため
ギ授受を行う要素部品であり,クライオスタット容器を
に,実用に供す規模の荷重支持能力を有する試験用超電
介して非接触でトルクを伝達するものである3)。
導軸受を開発した。研究開発の第一段階では,液体窒素
電磁力解析では,磁界分布を解析から求めて,発生電
冷却した超電導バルク体を回転体側に配置し,固定側に
磁力を予測した。また,それらを実験結果と比較するこ
超電導磁石を配置する構成を採用し,これをスラスト軸
とで,解析の妥当性を評価した。そのうえで,磁気軸受
受に適用した。超電導磁石のコイル巻線には,臨界温度
およびクラッチの応用形態を解析により検討し,その電
10K の Nb-Ti 超電導体を使用している。静荷重で 10kN
磁力特性を予測した。
の荷重容量を確認した後, 5kN のスラスト荷重負荷で
* 浮上式鉄道技術研究部(低温システム)
** 芝浦工業大学大学院
*** 芝浦工業大学
RTRI REPORT Vol. 24, No. 1, Jan. 2010
3000rpm までの回転試験を実施している。引き続き,ス
ラスト荷重を実用的なレベルである 20kN まで引き上げ
ることを目標として,開発を継続している。この試験用
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特集:浮上式鉄道技術とその応用
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表2 超電導バルク体形状一覧
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対象モデル
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66
-
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44
44
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※高荷重化対応()内数字はリング形状のもの
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図1 試験用超電導磁気軸受
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図3 解析モデル例(ディスク形状)
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図2 解析モデル例
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表1 モデル要素一覧
モデリング対象
超電導コイル
超電導バルク体
応力評価面
空間磁場評価
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電流要素
ループ電流要素
マクスウェル応力評価要素
空間磁場評価要素
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図 1 に試験用超電導磁気軸受の模式図を示す。超電導
バルク体は,上下に配置した超電導コイルの中心位置よ
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超電導磁気軸受に関する電磁力解析について報告する。
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図4 磁界分布計算例
り 20mm下がった位置に配置している。超電導磁石は,直
形状バルク体モデルをコイル内に挿入した時を比較した
列に配置した 2 個のコイルを有しており,これらを異極
もので,バルク体は完全反磁性(中央)と 1T の磁束侵入
に励磁することで,カスプ磁場を発生させる。定格起磁
を模擬している(右)。
力は 1032A である。図 2,表 1 に解析モデルと使用した
バルク体上下面の内径エッジ部の一部に磁束変化が見
モデル要素種別をそれぞれ示す。図2の右側には,バルク
られるが,これはミクロンレベルピンホールの影響であ
体周囲および内側の磁束評価面部分を拡大して示す。
る。ループ電流要素で閉空間を作ると計算が収束しない
ディスク形状とリング形状の 2 種類の超電導バルク体で
ため,ピンホールを設けている。磁界分布から,バルク
計算を実施した。また,表 2,図 3 に今回の解析でモデル
体モデルの表面で反磁性もしくは設定した磁束(1T)が
化したバルク体の形状一覧と超電導バルク体のモデル例
保持できていることが確認できる。
(ディスク形状)を示す。
超電導バルク体には,4 本の線分電流によって構成さ
図 5 に解析結果と静荷重測定実験結果の比較4) を示
す。横軸は超電導磁石の定格起磁力を 100%として表示
れるループ電流で要素の中心位置の磁場をゼロまたは指
している。リング形状のバルク体ではコイル出力が 70%
定した値に定義できる要素を適用した。超電導バルク体
を超えたところで実験値と解析結果に乖離が見られるも
要素の外側を応力評価面で囲って,バルク体の遮蔽電流
のの,ディスク形状バルク体では,実験結果と解析結果
によって生じる電磁力を計算した。図 4 に磁界分布の計
がよく一致している。リング形状バルク体では,バルク
算例を示す。コイルのみで通電した時(同図左),リング
体の置かれた磁場が大きくなるに連れて磁束の侵入が大
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RTRI REPORT Vol. 24, No. 1, Jan. 2010
特集:浮上式鉄道技術とその応用
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図5 バルク体の発生電磁力(解析と実験値比較)
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図7 改良磁気軸受の能力試算と実験値との比較
きくなり,印加磁場の上昇に伴う浮上力の上昇率が低下
がら,実験では,コイル磁気力 40% を超えたあたりから
したことが推測できる。また,ディスク形状の場合は,超
発生電磁力が解析より低めに推移し,起磁力 64% で
電導コイル出力が 60% を超えない,つまりバルク位置の
20kN が発生した。65K 冷却の実験結果では解析と実験
最大磁場が 2T を超えない領域でほぼ完全な反磁性状態
値がほぼ一致していることから,これは,磁束侵入の影
が保持できているものと推測できる。
響であると考えられる。
リング形状バルク体の磁束侵入量について,実験結果
解析結果は,実験結果とよく一致しており,磁束侵入
の発生浮上力に見合うだけの侵入量を解析で同定してプ
の影響を考慮することで,より正確な電磁力予測が可能
ロットした結果を図 6 に示す。コイル出力 70% 程度より
となることが確認できた。
徐々に磁束侵入が始まり,定格磁界(100%)下では 0.3
~ 0.5T 程度の磁束が侵入していたものと推測できる。
3. 2 高温超電導磁気軸受の設計
次に,実用荷重までの特性向上を目的とした高荷重化
研究開発の第二段階では,スラスト,ラジアル双方の荷
改良の効果を見積もった。表 2 に示した“高荷重化対応バ
重を一組の超電導磁気軸受で支持し,回転体を非接触で
ルク体”を 4 個使用する。z=-20mm の位置にディスク形
磁気支持することを目指している。図8に実験装置の構想
状のバルク体を,また z=190mm の位置にリング形状バル
図を示す。クライオスタット(低温容器)に,フライホイー
ク体を配置した
(z=0は超電導コイル間の上下中心位置)
。
ルとそれを磁気支持する2組の小型超電導磁気軸受を配置
直径 60mm バルク体を適用した超電導磁気軸受(改良
し,外部とのエネルギ授受を永久磁石磁気クラッチで行
前)と,直径 80mm のバルク体を 2 箇所に配置した磁気
う計画である。回転体質量は 100kg 程度である。この装置
軸受(改良後)の発生電磁力解析結果の比較と,改良後
に適用する超電導磁気軸受を電磁力解析で設計した。
の実験結果5) を図
7 に示す。解析は完全反磁性条件で
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行った。解析では改良を実施することで,57% 起磁力で
目標とする 20kN が得られる見込みであった。しかしな
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図6 バルク体への磁束侵入模擬(実験値との比較)
RTRI REPORT Vol. 24, No. 1, Jan. 2010
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図8 高温超電導磁気軸受実験装置構想図
31
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ル,バルク体形状をパラメータとして検討した6)。
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シングルコイルでは,通常,浮上力と径方向案内の復
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元力の両立ができない。安定した磁気浮上を実現させる
ためには,試験用超電導磁気軸受のようなカスプ磁場が
有効であるが,この場合,コイル巻線が 2 倍でも,浮上
力は 2/3 程度となる。したがって,カスプ磁場を採用す
るとステータ側の磁石のコストが高くなる欠点がある。
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超電導コイル,バルク体とも高温超電導体とし,コイ
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図 10 高温超電導磁気軸受解析結果例
超電導バルク体と超電導コイルの製作コストを比較する
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特集:浮上式鉄道技術とその応用
浮上・案内ができる軸受を設計した。
バルク体は直径 46mm,厚さ 15mm のディスク形状と
に働くか,ほぼ 0 となり不安定となる。
し,コイル内直径は 53.5mm,起磁力は 98kA とした。解
径方向電磁力(Fr)が復元力として発揮される -20 <
析の基本モデルを図 9 に示す。また,図 10 にコイル内に
z < 20 の領域では,上下方向電磁力(Fz)に復元力が発
バルク体を配置し,それを上下方向に移動させた時の両
生しないために,安定浮上はできない。また,上下方向
者の相対位置と発生電磁力の関係を示す。なお本解析で
に安定浮上できる z > 18 の領域では,径方向の電磁力
は,バルク体は完全反磁性とし,径方向復元力を評価す
(Fr)が不安定となる。従って,シングルコイルを磁場発
るために 1mm の径方向変位を付与している。
生源とした場合は,超電導バルク体を安定して浮上支持
図 10の横軸は,超電導バルク体と超電導コイルとの軸
することができない。一方で見方を変えれば,コイル中
方向相対変位を表している。z=0 で両者の高さ中心が一
心部付近の径方向復元力が大きい領域に径方向案内用の
致しており,z が負でバルク体がコイルより下方,正で
バルク体を,浮上力の安定するコイル上部に浮上用バル
上方に位置する。z > 0 で上下方向電磁力(Fz)は浮上力
ク体を配置することにより,安定した浮上支持ができる
となるが,このうち z < 18 の領域では,バルク体の高
可能性がある。これを解析によって確認した。
さが下がるほど,浮上力が小さくなるので。下方に変位
図 11 に設計した高温超電導磁気軸受の基本形状を示
したときの復元力は発生せず安定しない. 一方,z > 18
す。また,図 12 にロータ側バルク体とコイルとの相対変
の領域では,バルク体の高さが下がるほど,浮上力は大
位と浮上力・径方向電磁力の解析結果を示す。上向き変
きくなるので,復元力が発生して安定浮上ができる。
位(正変位)で浮上力が低下し,下向き変位(負変位)で
径方向電磁力(Fr)については,コイル中心高さ(z =0)
浮上力が増加するので,一定質量の浮上体を磁気支持し
付近で大きく,コイル中心高さより遠ざかる(z > 20,z
た場合は復元力となる。径方向変位についても,変位方
< -20)と,径方向電磁力(Fr)が変位を増長させる方向
向に対して逆向きの電磁力が発生するので復元力とな
る。よって,安定浮上できることが確認できる。図 8 の
構想図のように,この軸受をフライホイール上下に配置
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することで,回転体質量と均衡する位置において回転体
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が浮上し,2 倍の軸支持剛性が期待できる。
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図9 高温超電導磁気軸受解析モデル例
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図 11 設計した高温超電導磁気軸受の基本形状
RTRI REPORT Vol. 24, No. 1, Jan. 2010
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の異なる 2 種類の単位永久磁石で構成されている。なお,
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永久磁石は,残留磁束密度を 12.85kG ,保持力を
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特集:浮上式鉄道技術とその応用
12.217Oe,最大エネルギ積を 39.34MGOe とした。
図 15に磁界分布の解析結果の一例を示す。図中の凡例
は色分けした Bz の範囲である。また,図 16 に伝達トル
クの解析結果と実験結果の比較8) を示す。
解析は理想的な位置関係での最大トルクとして算出し
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たもので,実験値は,極低回転で脱調トルクを測定した
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ものである。横軸は,クラッチ間のギャップである。
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試作品形状の解析値と実験値は良く一致しており,解
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図 12 高温超電導磁気軸受の電磁力解析結果
ハルバッハ配列を比較すると,ハルバッハ配列にするこ
4.永久磁石磁気クラッチの電磁力解析と評価
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次に,永久磁石磁気クラッチの電磁力解析と,試作装
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置による実験結果の評価を示す。
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研究開発において,永久磁石磁気クラッチは,クライオス
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超電導磁気軸受を適用したフライホイール蓄電装置の
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タット内に配置したフライホイールと,外部の電動・発電
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機とのエネルギ授受を行う要素部品として位置付けてい
る3)。クライオスタット容器を介して非接触でトルクを
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伝達するために,永久磁石を利用している。この磁気ク
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ラッチの特性を電磁力解析で予測するとともに,試作装
図 13 に試作クラッチを示す。また,図 14 に解析モデル
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グ面に集中させるハルバッハ配列にしたモデルで実施し
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向に着磁した磁石を埋め込んだような形状で、着磁方向
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列は,試作モデルで空間となっていた部分に紙面垂直方
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置での実験結果と比較して,解析の妥当性を評価した。
た7)。各モデルは,8 極で構成されている。ハルバッハ配
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図 15 クラッチにおける磁界分布計算例
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図 13 永久磁石磁気クラッチ(試作品)
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図 14 解析モデル
RTRI REPORT Vol. 24, No. 1, Jan. 2010
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図 16 解析結果と実験結果の比較
33
特集:浮上式鉄道技術とその応用
とで伝達トルクがおよそ 3 倍となることが分かる。
構成される部品の電磁力特性がほぼ正確に把握でき
各モデルの極数を 16 極,24 極と拡大した時の最大伝達
ることが確認できた。
トルクの解析値を図 17 に示す。ギャップは 16mm とした。 (2)高温超電導磁気軸受を解析により検討した結果,従
個々の永久磁石の形状は,図 14 に示す基本形状とし,配
来は安定した浮上のために 2 つのコイルでつくるカ
置位置(径)を拡大することで極数を増加している。また,
スプ磁場が必要であったが,バルク体側の形状を最
図17には,トルク伝達能力を具体的に評価するために,本
適化することで,シングルコイルにおいても安定し
開発で製作した試験用超電導磁気軸受の回転試験装置の
た浮上・案内力を有する超電導磁気軸受ができる見
定格トルク,一例として IHI が開発している低消費電力フ
通しを得た。
ライホイール9 , 10) の定格トルク推測値を明示してある。
(3)永久磁石磁気クラッチにおいては,極数を増加させ
解析結果から,多極化することで,実用的なトルク伝
ることで,実用的な負荷レベルのトルク伝達ができ
達ができることが確認できた。また,同心円状に配置し
る見通しを得た。
てもこの配置半径であれば,相互の磁界干渉はほとんど
なお,高温超電導磁気軸受,永久磁石軸クラッチについ
ないことから,さらに大きなトルク伝達が可能であり,
ては,本解析結果をもとに,現在,試作品を製作中である。
実用性は十分あると考えている。
以上より,本解析が,超電導バルク体を含んだ電磁力
利用機器の電磁力予測に有効であり,設計に適用できる
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ことを確認した。
本研究の一部は国庫補助を受けて実施した。
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文 献
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1)清野寛,長嶋賢,田中芳親,中内正彦:フライホイール用
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高温超電導バルク体磁気軸受の基礎検討,鉄道総研報告,
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Vol. 22, No. 11, pp. 35-40, 2008
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雅人:超電導バルク体と超電導コイルを用いた磁気軸受の
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載荷力密度,鉄道総研報告,Vol. 21, No. 9, pp. 29-34, 2007
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2)長嶋 賢,清野寛,宮崎佳樹,荒井 有気,坂井 直道,村上
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3)清野寛,長嶋賢:超電導技術を適用して磁気軸受を創る,
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図 17 クラッチの実用性検討結果(解析値)
Railway Research Review,Vol. 64, No. 12, pp. 24-27, 2007
4)清野寛,長嶋賢:超電導コイル磁場中に配置した超電導バ
ルク体に働く電磁力,秋季低温工学・超電導学会講演概要
集,p. 40, 2008
5.まとめ
5)清野寛,長嶋賢:20kN 対応超電導磁気軸受の開発,2009
ロータ / ステータともに超電導体で構成する磁気軸受
6)清野寛,長嶋賢:高温超電導ロータ・ステータで構成され
を適用したフライホイール蓄電装置の研究開発を行って
る磁気軸受の電磁力解析,2009 年度秋季低温工学・超電導
年度春季低温工学・超電導学会講演概要集,p. 47, 2009
いる。この研究開発において,超電導磁気軸受と,要素
学会講演概要集,p. 202 (11 月中旬確定), 2009
技術として開発している永久磁石磁気クラッチに関する
7)池田雅史,竹田圭吾,村上 雅人,長谷川均,清野寛,長嶋
電磁力解析を実施し,実験結果と比較することで,解析
賢:永久磁石型非接触磁クラッチの特性解析,平成 21 年電
結果の妥当性を評価した。そのうえで,磁気軸受および
クラッチの応用形態を解析により検討し,その電磁力特
気学会全国大会講演論文集,p. 23, 2009
8)長谷川均,清野寛,長嶋 賢,池田雅史,竹田圭吾,村上
性を予測した。
雅人:永久磁石型非接触磁クラッチの特性試験結果,平成
解析には,ELF/MAGIC を適用し,ロータ側に配置す
21 年電気学会全国大会講演論文集,p. 298, 2009
る超電導バルク体には, 4 本の線分電流で構成される
9) Kuwata, Sugitani, Saito: "Development of Low Loss Active
ループ電流で要素の中心位置の磁界をゼロまたは任意に
Magnetic Bearing for Flywheel UPS", Aug. 2006, Proceed-
設定できる要素を適用した。
ings of The 10th international Symposium on Magnetic Bear-
以下に結果をまとめる。
ings (ISBM 10).
(1)解析結果と実験結果の比較において両者は良く一致
10)斉藤修,桑田厳,温見寿範,岩崎郁夫,真島隆司:機械式
し,超電導バルク体,コイルおよび永久磁石要素から
2 次電池の開発,IHI 技報,Vol. 49, No. 1, pp. 54-59, 2009
34
RTRI REPORT Vol. 24, No. 1, Jan. 2010
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