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愚者の狂想曲 - タテ書き小説ネット

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愚者の狂想曲 - タテ書き小説ネット
愚者の狂想曲☆
ポニョ
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
空は、休日に立ち寄ったレンタル店のワ
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
愚者の狂想曲☆
︻Nコード︼
N1734BG
︻作者名︼
ポニョ
︻あらすじ︼
とある学生であった葵
ゴンセールで、一本のゲームを手にする。何気にそのゲームを起動
した葵は異世界に飛ばされてしまう。右も左も解らない異世界で何
とか生き抜いて半年、行商をしていた葵は、頑張った自分へのご褒
美に、性奴隷を買いに奴隷館に行く。そこで一人の汚い奴隷と出会
った事から、葵の物語は広がって行きます。行商や冒険、その果て
に葵は何を手に入れ、何を切り捨て、何を失うのか⋮。これはそん
1
な葵を主人公とした物語です。
※物語はゆっくりと進んで行きます。長編予定です。露骨な性描写
や、暴力描写、性奴隷なども出て来ますのでご注意を。ハーレム要
素も過大に有り、主人公は弱弱チートで、上には上がいる、徐々に
強くなる感じです。ヒロインとのイチャイチャも多大に有るので、
その辺もご注意を。拙い文章ですが、楽しんで頂ければ、幸いかと
思います。
2
愚者の狂想曲 −1 おまけなのですYO!
どうもです♪わぁいヽ︵∀`ヽ*︶︵ノ*´∀︶ノ
此方は、メインキャラ案内所ですの︵*´Д`︶
わぁい♪
メインキャラさんが増えたら、随時更新しちゃいますの!
そら
ネタバレも含みますので、注意して下さいね︵o^−^o︶
あおい
﹃名前﹄ 葵 空
﹃種族﹄ ヴァンパイアハーフ
﹃年齢﹄ 16歳
3
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
168㎝ 体重 59㎏
﹃戦闘職業﹄ タッスルマークスマン︵Tussle
man︶
﹃レアスキル﹄ 魅了、霊視、闘気術
言わずと知れた、本編の主人公。
Marks
現代の地球から、変なゲームを起動させ、異世界に飛ばされちゃっ
た、不幸?な少年。
実年齢は20歳。異世界では初めの設定で、16歳になっちゃった、
年齢詐称アイドルっぽい感じ。
エロい事大好き!ヒロインの奴隷ちゃん達、大大大好き!ビバ!ロ
リコン!
見た目の容姿は、中の中!男前でも無ければ、不細工でも無い。物
覚えも普通、戦闘センスも普通、何もかもが普通ずくしの、少し細
身の標準的な日本人。本人曰く、量産型モビル○ーツ。
しかし、ここ一番の、機転と発想力は、超天才美少女ルチアちゃん
も認めてる感じ。
人間とヴァンパイアの始祖とのハーフ。
限定不老不死で、超回復を持ち、不老。でも、回復値以上の攻撃を
受けたり、頭を破壊、首を斬られると、おっ死んじゃいます。毒系
にも弱い。闇属性には強いが、光属性には倍食らっちゃう!
呪われた武具も、装備出来ちゃうよ!半分魔族なので!
レアスキルの霊視で、人の状態や物の状態を見る事が出来、魅了で
1人の人間を操れちゃいます。
4
闘気術は、気を使って、五感や身体能力を上昇、戦闘でも気で攻撃
しちゃいます。
召喚武器、銃剣2丁拳銃の、グリムリッパーで、バンバンやっちゃ
います。
座右の銘は、1日1エロ!エロが服を着て行商しちゃってます。
﹃今日も行商頑張って、一杯エロい事をしちゃうのだ∼∼∼∼﹄
﹃名前﹄ マルガ︵?????︶
﹃種族﹄ ワーフォックスハーフ
130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63
﹃年齢﹄ 13歳
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ マジックウォーリアー
﹃レアスキル﹄ 動物の心
葵が助けた奴隷ちゃん。初めは男の子と思っていたけど、女の子だ
ったと言う、王道の女の子。
ワーフォックスと人間のハーフで、緩やかなウエーブが掛かってい
5
る、ライトグリーン掛かった美しいブロンドの髪、綺麗で柔らかく
色の白い玉のような肌、華奢だが、女の子を感じさせるスタイル。
髪の毛と同じライトグリーンの透き通る様な瞳、顔立ちは可愛くも
綺麗にも見える、大人と子供の中間の様な美しい顔立ち。耳は人間
と同じ位置に付いていて、少し尖っている。お尻に金色の毛並みの
良い尻尾が生えている。尻尾はマルガちゃんの、元気バロメーター
︵葵談︶。パタパタ♪
名前をつけると、すご∼∼∼∼∼∼∼∼く長いのつけちゃいます!
要注意なのです!
いわゆる超絶美少女。葵は、幼女系の超美少女と言っています。
匂いや音に敏感で、200m位なら気配を感じちゃう程。俊敏性や
早さも高い。
葵から古武術の鍛錬を受けていて、爪や、攻撃用の、小手や脚甲で
戦っちゃってます。
レアスキルの動物の心は、動物と心を通わせ、意思の疎通を行う事
が出来ちゃいます。でも、悪意の有る動物や魔物には効かないみた
い。マルガちゃん純真だから!
白銀キツネの甘えん坊のルナの飼い主であり、主人で、大親友。大
変懐かれてます!
1番
お母様、ルナ!
2番
蜂
武器は大熊猫の双爪と大熊猫の耳。キツネちゃんなのに、パンダ装
ご主人様!
備!そのギャップが⋮ハアハア⋮
好きな物は、特別
蜜パン、マジカル美少女プリムちゃん。
基本、特別と1番以外は、全部2番らしいです。
3番の順位は?と、葵に聞かれ、う∼んと唸りながら可愛い子首を
傾げて、一晩考えて寝不足になって、目をショボショボさせていた
ので、葵がやめさせたみたいですの。元気一杯の真面目で優しい女
の子。
座右の銘は、1日1ご主人様︵1日1回、ご主人様の役に立って、
6
褒めて貰う事!︶
﹃ご主人様大好きです!今日も一杯いっぱ∼∼い、可愛がってくだ
さいね!﹄
尻尾パタパタ♪
﹃名前﹄ リーゼロッテ・シャレット
﹃種族﹄ ハーフエルフ
165㎝ 体重 47㎏ B84/W54/H74
﹃年齢﹄ 18歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ ドールマイスター
﹃レアスキル﹄ 器用な指先
色々我慢してきた、苦労人の女の子。ハーフエルフ。
光り輝く金髪の綺麗な髪、白雪の様な白く柔らかそうな肌、月の女
神と見紛う美しい顔立ち、華奢だが豊満さを感じさせるスタイル。
美しい金色の髪と同じ色の透き通るような瞳。エルフの特徴である、
綺麗で長く尖った耳を持ってますの。寿命は200年近く。博識で、
7
勉強家。責任感も強い。
スーパーモデル級のプロポーション。パフパフ出来ちゃいます!
ファッションモデル系の、超絶美少女。容姿端麗、成績優秀、才色
兼備が似合う、凛としている、頭の良い女の子。でも、運動は普通
の女の子より、少しどんくさい。そこがまた⋮萌え!
すぐに我慢しちゃうので、葵が素直にさせています。それをニコニ
コして受け入れている模様。
一種のプレイ?かも!?意外とSで、笑いのツボに入っちゃったら、
プププと我慢出来無いみたい。
レアスキルの器用な指先は、指先で行う事なら、超天才的に何でも
出来ます。
その指で⋮エッチッチーな事をされれば⋮もう正に天国なのですよ!
武器は、召喚武器は双子人形、ローズマリーとブラッディーマリー。
2体の人形は、2本の双剣が仕込んであり、魔力でフワフワ浮く。
魔法も人形から発せられる。
細工、調合、薬師も得意で、純血のエルフであった、母様に色々教
えて貰ったみたい。
二体の人形と、賢しい知識と回転の早い頭で、葵をサポートしちゃ
います!
﹃葵さんとマルガさんは私が守ります!たとえ世界を敵に回しても
!おいでなさい!私の可愛い人形達!!﹄
ローズマリーとブラッディーマリーは、クルリと回り、綺麗にお辞
儀している♪
8
﹃名前﹄ ルチア︵ルチア・ベルティーユ・ローズリー・フローレ
ンス・フィンラルディア︶
﹃種族﹄ 人間族
160㎝ 体重 43㎏ B78/W52/H71
﹃年齢﹄ 16歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ マジックファイター
﹃レアスキル﹄ 天賦の才能
何処かのお金と権力を持つ家のご令嬢。かなりのツンデレで素直じ
ゃなく、凄く寂しがり屋さん。
腰まで伸びているピンク掛かった美しい金髪のロール髪、少しキツ
メな印象の綺麗な瑠璃色の大きな瞳、マルガに引けをとらない白く
柔らかそうな肌、綺麗だが、どこか可愛さも感じさせる、美しい顔
立ち、少し華奢な印象を受けるが、しっかりと女性を主張している
プロポーション。
葵曰く、トップアイドル系の超絶美少女。性格も含めてかも!?
常にお供のマティアスを傍におき、我が道を行く、怪獣系?︵葵談︶
博識で勉強家で、しかも努力家。頭の回転も、リーゼロッテさん並
に早い。
マルガちゃんとマルコが大好き。遊ぶのも教えるのも好き。葵を虐
めるのが趣味。
そのくせ、超がつく寂しがり屋さんで、のけ者にされると、涙ぐみ
9
ます。︵葵談︶
お淑やかになれる、レアスキルも、持って生まれて欲しかった⋮︵
葵談︶
レアスキルの天賦の才能により、なんでも天才的に出来ちゃいます
!いわゆるチートっ子︵葵談︶
習得の早さ、応用力、到達点の高さ、全てにおいて、常人のソレを
凌ぐ才能を見せるスキルです。
得意武器は槍やハルバート系の長物。ブンブン振り回して突撃しち
ゃいます!正に猪突猛進!︵葵談︶
運動神経も良く、文武両道。気戦術や魔法も使え、上級者に近い闘
いも出来ます。
本当に、お淑やかになれる、レアスキルも、持って生まれて欲しか
った⋮主にオラの為に︵葵談︶
見た目だけは、本当に可愛い!ここ重要!ここ重要!大切なので2
回言いました︵葵談︶
﹃︵葵談︶ってのが、微妙にムカツクのよ!喧嘩売ってるの!?売
ってるのね!良い度胸だわ!!﹄
槍をブンブン回しながら、葵に突撃中♪
﹃名前﹄ ステラ
﹃種族﹄ ワーウルフ
10
154㎝ 体重 42㎏ B73/W53/H76
﹃年齢﹄ 16歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃レアスキル﹄ 無し
小さい頃に人攫いに攫われて、奴隷にされちゃった可哀想な女の子。
少し大人びた大人しめの美しい顔、少し銀色掛かった、肩に届くか
届かない位の長さの、艶の良い黒髪、銀色掛かった大きな紫の瞳、
華奢だが女の子らしく、胸もルチアちゃんより少し小さい位の、な
かなかのスタイル。純血のワーウルフの特徴である、銀色の触り心
地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳が、頭の上についています。
その小尻には、マルガちゃんと色違いの、銀色の毛並みの良い尻尾
を持っています。
時折、ピクピクと動かせる耳が、何となく可愛く見え、マルガちゃ
んやリーゼロッテちゃんには及ばないけど、かなりの美少女。何処
かの何十人と居る、国民的な英語三文字に数字が付きそうな、アイ
ドルクラスの美少女。
獣人美少女3人娘のリーダー的存在で、気性が荒いと言われるワー
ウルフなのに、凄く落ち着いていますが、ひょんな事からその気性
が見えちゃったりします。たまに怖いのです!
責任感が強く、しっかり者。面倒見もよく、マルガちゃんやエマち
ゃんのお世話を積極的にしちゃってます。
リーゼロッテちゃんには及ばないものの、かなりの切れ者でもある
のです!
11
いろんな勉強もしているので博識で、経済や取引、礼節等も、本格
的な家事スキル所有者なので、なんでもこなしちゃいます!
実は甘いもの好きで、可愛いものが大好き。でも、普段は恥ずかし
いので見せてくれません!
影でハアハアしている様です♪
小さい頃に、溺れた事から、泳ぎは苦手。葵に教えて貰ったバタ足
しか出来ません!
でも、純血のワーウルフなので、その他の運動神経は抜群だったり
します。
戦闘は出来ませんが、その知識と経験で、葵達をサポートしちゃい
ます!
﹃葵様∼!私に何か役に立てる事はありませんか∼?﹄
ワーウルフの特徴である、銀色の毛並みの良い尻尾をブンブン振っ
ています♪
﹃名前﹄ ミーア
﹃種族﹄ ワーキャットハーフ
﹃年齢﹄ 13歳 ﹃性別﹄ 女
12
﹃身体﹄ 身長
144㎝ 体重 38㎏ B73/W50/H72
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃レアスキル﹄ 無し
獣人美少女3人娘の1人。ステラちゃん同様に、小さい時に攫われ
て奴隷にされちゃった不憫な子。
あどけなさの残る可愛い童顔の顔、肩に掛からないショートの紫色
の綺麗な髪、可愛く大きな茶色の瞳、色の白い肌に、マルガちゃん
と同い年とは思えない、少し発育の良い柔らかそうなプロポーショ
ン、ワーキャットハーフの特徴である、細く柔らかそうな紫色の毛
並みの尻尾を、お尻でチョコチョコさせています。こちらもマルガ
ちゃんやリーゼロッテちゃんには及ませんが、大人数の国民的アイ
ドルなら、なんとか7?には、入れる位の可愛さを備えています。
獣人美少女3人娘の最年少!
マルガちゃんと同い年なのですが、小さい頃から教育を受けている
ので、年齢の割にはしっかりしちゃってます。
でも、同い年のマルガちゃんと遊ぶ時は、年相応の感じでキャキャ
と楽しそうにしてます。
引っ込み思案で、恥ずかしがりですが、時には思いもよらない様な
事をしちゃう行動力もみせちゃいます!
動くものを見ると、ついつい目で追う癖があって、猫じゃらしには、
思わず手をだしてネコパンチ!
性格の優しい、可愛い子猫ちゃんなのです!
その可愛さと、たまに見せる大胆な行動力で、皆を助けちゃいます!
﹃葵様∼!また蜂蜜パンが食べたいです∼!それと、私と遊んで下
13
さい∼!﹄
細く柔らかそうな紫色の毛並みの尻尾を、お尻でチョコチョコさせ
ています♪
﹃名前﹄ シノン
﹃種族﹄ ワーラビットハーフ
156㎝ 体重 46㎏ B85/W56/H87
﹃年齢﹄ 15歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃レアスキル﹄ 無し
獣人美少女3人娘の1人。小さい頃に攫われて、ステラちゃんと、
ミーア、ちゃんに知り合った子。
肩より少し伸びた強く紫色掛かった黒髪、可愛さの残る整った綺麗
な顔、日本人に近い肌色の柔らかそうな肌、髪の毛と同じ綺麗な紫
の瞳、割と華奢な印象を受けますが、それを打ち消す豊満な胸の持
ち主。ハーフなので、マルガちゃんやミーアちゃんの様に、耳は人
14
間族と同じ所に付いています。、柔らかそうなお尻には、モフモフ
っとした白い毛並みの良い、丸っこい可愛い尻尾がちょこんと付い
ちゃってます。
少し柔らかそうな身体をした、いたいけなウサギちゃん!
リーゼロッテさんより少し大きい豊満なむねでパフパフ出来ちゃい
ます!
シノンちゃんとリーゼロッテさんとの、ダブルパフパフの気持ち良
さと言ったら⋮天国です!
人に依存しがちな、恥ずかしがり屋さん。おっとりしていて性格も
穏やかです。
野菜が大好きで、なんでも食べちゃいます!他の女の子同様に、蜂
蜜パンも大好き!
家事スキルも高く、取引も色々経験しているので、博識でもありま
す!
見た目の可愛さとのギャップに、オオカミさんになっちゃいそう!
﹃はうう⋮シノンの事を⋮食べてくれませんか葵様∼♪﹄
丸っこく可愛い尻尾をピョコピョコさせてます♪
﹃名前﹄ ルナ
﹃種族﹄ 白銀キツネ
﹃年齢﹄ 1∼2ヶ月?
15
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
25㎝︵尻尾含まず︶ 体重 1.4㎏ ﹃戦闘職業﹄ あるのかな?
﹃レアスキル﹄ マルガちゃん大好き?
マルガちゃんに助けて貰った、白銀キツネの子供。
一人で彷徨っていたら、良い匂いが⋮クンクン⋮美味しそう⋮マル
ガちゃんがGET!みたいな♪
甘えん坊で、何時も大好きなマルガちゃんの後ろを、トテテテと歩
いている。抱かれるのも大好き。
食べ物はなんでも好きだけど、キュウリだけ嫌い。マルガちゃんが
聞いたら、匂いと青っぽい味がダメなんだって!
兎に角マルガちゃん大好きで、夜に寝る時に、葵とマルガちゃんの
間に入って、寢らないと寂しがる。
マルガちゃんの大親友で、マルガちゃんの親衛隊。頭も良く、此処
ぞという時は大活躍?
﹃ク∼∼∼!!ククク∼!!﹄
何々?⋮大好きなマルガちゃんの為に、頑張る!キュウリ嫌い!と、
申しております♪
﹃名前﹄ マルコ
16
﹃種族﹄ 人間族
145㎝ 体重 40㎏ ﹃年齢﹄ 11歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ スカウト
﹃レアスキル﹄ 無し
イケンジリの村で、行商人に憧れていた少年。
何故か葵の事を気に入り、弟子入りしちゃった、可哀想?な子︵マ
ルコ曰く、ビビビと来た!!︶
行商人のエドモンから、投擲を教えて貰い、小さい頃からずっと練
習していたので、投擲LVは高い。
運動神経も良く。筋肉もそこそあり、将来、男前になりそうな予感
!︵エイルマークラス︶
茶色の髪に、茶色の瞳。かなりの努力家。最近字をマルガちゃんと
リーゼロッテさんから教えて貰っている。エッチッチーな事に、過
敏に反応する、チェリーボーイでシャイボーイ。⋮ういやつめ⋮
すぐに僕ちゃんな部分を、押さえちゃいます。
﹃葵兄ちゃんが、エロいだけだよ!オイラは⋮きっと⋮普通だよ!
!﹄
僕ちゃんな部分を押さえながら、モジモジしている♪
17
﹃名前﹄ マティアス︵マティアス・オイゲン・ウルメルスバッハ・
バルテルミー︶
﹃種族﹄ 人間族
193㎝ 体重 86㎏ ﹃年齢﹄ 29歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ ︵?????︶
﹃レアスキル﹄ ︵?????︶
ルチアの忠実な家臣。出鱈目な強さを持つ騎士。
フード付きのローブと、この世界には珍しい、縁の太い大きな眼鏡
を掛けている。
茶色掛かった金髪と瞳。切れ長のかなりの男前。女はまず放っとか
ないクラス。羨ましい⋮︵葵談︶
体格もかなり良く、鍛錬された筋肉美を持つ偉丈夫。それなのに、
スタイルが良い。
ルチアに絶対の忠誠を誓っており、ルチアの為なら、命を掛ける事
も厭わない。忠義の騎士。
しかし、頭が悪い訳では無いけど、頭が固く、融通が効きにくい所
もある。
18
常に全力!何時も全開!闘う時は全解放!!めちゃくちゃ強い!ホ
ント強い!!でも⋮アレ︵葵談︶
教えるのが苦手で、マティアスの訓練に唯一ついてこれたのは、イ
レーヌのみ。因みにイレーヌの師匠。
ルチアを優しく見守り尽くす姿は、皆が認めている。
﹃ルチア様∼∼∼!!!敵を全滅させましたよ∼∼∼!!!﹄
ドカ!︵ルチアの蹴りが入った音♪︶
﹃名前﹄ エマ
﹃種族﹄ ドワーフハーフ
102㎝ 体重 19㎏ Bまだ無いよ?/W細
﹃年齢﹄ 6歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
いの!/Hちっちゃいの∼!
﹃戦闘職業﹄ 皆のマスコット?
﹃レアスキル﹄ 無邪気な爆弾落とし?
19
ドワーフのヴァロフに自国金貨を作らせる為に、母親のレリアと一
緒に葵に買われちゃった不憫?な子。
愛嬌のある可愛い顔立ちに、少し癖のある茶色の髪に茶色の瞳。顔
立ちは母親のレリアに似ていて、瞳や髪は、父親であった、ドワー
フのバスラーに似ている。
何時も無邪気な、元気一杯の女の子!みんな大好き!みんな友達!
みんな遊ぼ∼!って感じの可愛い子。
その無邪気さ故に、時にとんでも無い発言で、周りをびっくりさせ
ちゃいます!
当然、本人は無自覚!キャキャと嬉しそうにしてます!
皆のマスコット的な存在で、愛されています!
白銀キツネのルナや馬のリーズ、ラルクルとも仲が良く、レアスキ
ルを持っていないのに、凄く懐かれちゃってます!
ドワーフと人間のハーフなので、魔力を持ち、凄い腕力があります
が、普段は母親のレリアに﹃危ないから、普段は使っちゃダメ!﹄
と、キツク言われているので、必要な時しか使いません。
将来の夢は、お嫁さんになる事!その無邪気な可愛さで、葵達をサ
ポート?しちゃいます!
﹃ねえねえ∼葵お兄ちゃん∼!いつ、ルチアお姉ちゃんを奴隷にす
るの∼?﹄
キャキャとはしゃぐエマちゃんの横で、ルチアさんが葵に槍をぶん
回して突撃中∼♪
﹃名前﹄ レリア
20
﹃種族﹄ 人間族
160㎝ 体重 秘密にして下さい!㎏ B秘密
﹃年齢﹄ 25歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
で/Wどうか/Hお願いします!
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃レアスキル﹄ 無し
エマちゃん同様、ドワーフのヴァロフに自国金貨を作らせる為に、
葵に買われちゃった普通の村の女の人。
ドワーフであるバスラーと恋に落ち、駆け落ちの上に、エマちゃん
を授かりました!
ヴァロフとも和解出来、その胸にエマを抱かせる遺言を果たしまし
た。
本当に普通の村人で、ある意味、1番の常識人。面倒見がよく、気
配り抜群の一児の母。
何時も葵たちを優しく見守る様に見ています。
お転婆のエマちゃんには、時折悩まされちゃったりしています!
周りの女の子が可愛い子ばかりなので、そこが少しコンプレックス
みたい。
影で隠れて、美容に力を入れちゃってます!
﹃ダメよエマ!アウロラ女王陛下様にそんな事しちゃ∼∼∼!!﹄
アウロラ女王に抱きつくエマちゃんを、必死で止めようとしていま
21
す!当然エマちゃんはウキャキャしています♪
22
愚者の狂想曲 −2 おまけなのですYO!!
どうもです♪わぁいヽ︵∀`ヽ*︶︵ノ*´∀︶ノ
此方は、サブキャラ案内所ですの︵*´Д`︶
わぁい♪
サブキャラさんが増えたら、随時更新しちゃいますの!
ネタバレも含みますので、注意して下さいね︵o^−^o︶
﹃名前﹄ラングリー
葵とマルガちゃんが出会った、ラングースの街の奴隷館、ガリアス
奴隷商店の番頭。マルガちゃんにメイド服をプレゼントした。
23
﹃名前﹄フォルマン
ラングースの街の宝石店の店主。マルガちゃんの形見のルビーを、
金貨50枚で査定した。
﹃名前﹄モリス
ラングースの街の衣料店の店主。葵と懇意にしている。マルガちゃ
んのエッチッチーな寝衣を葵に売った人。
﹃名前﹄ギルゴマ
葵の商人としての師匠。とある事で葵と知り合い、葵を商人として
の弟子にする。ラングースの街から王都ラーゼンシュルトに移動に
なる。現在はリスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店長。色々な
情報網を持ち、知識も豊富で、頭の回転も非常に早い。
弟子である、リューディアとは恋人関係。葵の良き理解者で、協力
者。
﹃名前﹄エドモン
ギルス達に殺されていた行商人。人格者で、色々な人から人望があ
ったらしい。
その人柄は、ギルゴマやリューディアも認めていた。
24
﹃名前﹄アロイス
イケンジリの村の村長。人柄の良い優しい人。孫に、エイルマー、
ハンス、リアーヌがいる。
﹃名前﹄エイルマー
イケンジリの村の副村長で、アロイス村長の孫。弟ハンス、妹リア
ーヌがいて、メラニーの婚約者。
ギルス達の陰謀に巻き込まれ、苦悩を強いられる。
﹃名前﹄リアーヌ
アロイスの孫娘。10代。イケンジリの村の騒動に巻き込まれる。
﹃名前﹄ハンス
アロイス村長の孫。イケンジリの村を守る為に、ギルス達の手先に
なっていた。
モンランベール伯爵家の御曹司のアロイージオに、沈黙の守護のメ
ダルを極秘に渡すが、バレて殺される。
25
﹃名前﹄メラニー
エイルマーの婚約者。村の外でベルントに攫われ、犯された。その
事を秘密にするのと、エイルマーの身を守る為に、村の中でハンス
を監視させられていた。
﹃名前﹄アロイージオ
モンランベール伯爵家の三男。箱入の御曹司で世間知らずの美男子。
性格は優しくお人好し。
ギルス達の策略に掛かる。その後も葵達とは、色々な関係が出来る。
﹃名前﹄ハーラルト
モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊、隊長。
酒場でくすぶっていた所を、アロイージオに拾われる。女好きで、
マルガちゃんを娼婦にしようとして、リーゼロッテさんに阻止され
る。アロイージオに対しての忠誠心は高い。
ギルスに襲撃された時、ギルスに殺される。
﹃名前﹄ゲイツ
26
イケンジリの村に住む、マルコの父親。豪快な人柄だが、人情深く、
人柄は良い。
﹃名前﹄メアリー
イケンジリの村に住む、マルコの母親。優しい人で、何時もマルコ
を気遣っている。
﹃名前﹄ギルス
盗賊団のリーダー。だが本当の正体と目的は不明。歴戦の猛者で、
葵たちを苦しめる。なかなかの男前。後に、葵たちとは、とんでも
無い再開をする。
﹃名前﹄カチュア
盗賊団の副リーダー。ギルスの恋人。ギルス同様、歴戦の魔法使い。
葵たちを苦しめる。なかなかの美女。ギルス同様、葵たちと、とん
でも無い再開を果たす。
﹃名前﹄ホルガー
27
盗賊団のギルスとカチュアの昔からの仲間。歴戦の戦士。ギルスや
カチュアからの信頼も厚かったが、激闘の末、葵とマルコの前に敗
れ去リ死亡。
﹃名前﹄ベルント
盗賊団の隊長。メラニーを村の外で捕まえ犯し、ハンスを監視させ
ていた。乗り込んできた葵に無慈悲に殺される。
﹃名前﹄イレーヌ・エメ・プレオベール
バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団の副団長。
実直な、心優しき女騎士。
マティアスの唯一の弟子であり、綺麗な赤毛で、身長173cmの
21歳の美人騎士。
師匠であるマティアスに片思い中の乙女でもある。
葵達とは、色々な繋がりが出来る事になる。
﹃名前﹄ルクレツィオ・シルヴェストロ・バルテルミー
バルテルミー侯爵家当主であり、大都市である港町パージロレンツ
ォの領主。
強大な権力を持つ、フィンラルディア王国の六貴族の内の一人でも
ある。
28
アウロラ女王や、ルチア王女、メーティスと親交が深い。
善政を敷く領主としても、その人望は厚い。
葵達と物語の中で色々と絡んでいく。
﹃名前﹄ランドゥルフ・シュッセル・モンランベール
モンランベール伯爵家当主であり、大都市である工業都市ポルトヴ
ェネレの領主。
強大な権力を持つ、フィンラルディア王国の六貴族の内の一人でも
ある。
独自の派閥を持っており、孤高のリアリスト。
同じ六貴族のルクレツィオとは幼馴染であり、親友であるが、自分
では腐れ縁と言っている。
葵達とは、物語の中で色々と絡んでいく。
﹃名前﹄アニバル
モンランベール伯爵家の港町パージロレンツォの別邸の執事。
仕事がよく出来る事と、ランドゥルフとルクレツィオの関係をよく
知る為に、主人であるランドゥルフに重宝されている。魔力を持っ
た、有能な人。
﹃名前﹄大魔導師アーロン
29
ラフィアスの回廊を作った人物。一説には神の様な存在であったと
伝えられている。
とある王女との血縁も噂されるが不明。ラフィアスの回廊に伝説の
秘宝、真実の心を隠していた。
その後の詳細や生死は不明。
﹃名前﹄ルキフゲ・ロフォカレ
ラフィアスの回廊に魔法陣により召喚された、伝説の上級悪魔。
その力は、守護神に近い物を持つと言われている。
激闘の末、マティアスと葵によって、討ち滅ぼされた。
﹃名前﹄アガペト・ロデス・バレーラ
冒険者ギルト、港町パージロレンツォ支部の長。上級亜種であるド
ワーフ族。
ルクレツィオやルチアと親交が深く、特にルチアには目を掛けてい
る。
ルチアに頭をペチペチと叩かれてるのが恥ずかしいらしい。
﹃名前﹄オーレリアン
リーゼロッテの元恋人。結婚の約束をしていたが、親族に反対され
る。
30
エルフの中でも位の高い名家で、父親はエルフ首長会の代表。
消え去ったリーゼロッテとはその後思わぬ所で再開し、物語に絡む。
﹃名前﹄ルイゾン
リーゼロッテの生まれた村、セルネの村長。
両親を亡くしたリーゼロッテを、娘の様に可愛がって育てる。
モンランベール伯爵家当主のランドゥルフとは親友。
伝染病鎮圧の為に、苦渋の決断を強いられる。
﹃名前﹄チェルソ
フィンラルディア王国の男爵で、セルネ村の領主でもある。
伝染病のキンキケ病鎮圧の為に、セルネ村を焼き払おうとした。
アーベントロート候爵家の派閥に属しているらしい。
﹃名前﹄イルベル
モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフの一級奴隷。
来客をもてなす為に、数多くの男にその身を捧げてきた、なかなか
の美人。
本人はそれに不満を感じては居ない様子。
言いたいことをズバッと言う、竹を割った様な性格の器量良し。
リーゼロッテの事を心配して、色々と世話を焼く。
31
その後⋮葵たちとは⋮
﹃名前﹄コンスタンチェ・ジョエル・ムニエ・フェリシー
フィンラルディア王国、フェリシー子爵家次女。
グリモワール学院の生徒で、同じ派閥であるバルテルミー侯爵家と
の親交は深い。
カミーユとは恋人関係。物語で色々と葵たちと絡む。
﹃名前﹄カミーユ・レオナール・エルキュール・フェヴァン
フィンラルディア王国、フェヴァン伯爵家三男。
グリモワール学院の生徒で、同じ派閥であるバルテルミー侯爵家と
の親交は深い。
コンスタンチェとは恋人関係。物語で色々と葵たちと絡む。
﹃名前﹄アルベルティーナ・マリザ・ティコッツィ
グリモワール学院の学院長。大らかな性格の優しい女性。
頭も良く仕事も出来、人望も厚い。フィンラルディア王国、ティコ
ッツィ伯爵家当主でもある。
どの派閥にも属さない、アウロラ女王直轄の人物。
葵たちに協力し、物語に絡む。
32
﹃名前﹄メーティス・アントワネット・エメ・ヴァルデマール
グリモワール学院の統括理事。ヴァルデマール侯爵家当主でもある。
マルガちゃんやリーゼロッテさんに、勝るとも劣らない位の超美女。
その詳細は謎に包まれている。どの派閥にも属さない、アウロラ女
王直轄の人物。
葵たちの協力者として、共に立つ事になる。
その後⋮葵たちとは⋮
﹃名前﹄ヒュアキントス・ナルシス・モントロン
ド・ヴィルバン商組合、統括理事である、レオポルドが次男。天才
的商才を持つ商人。
超がつくほどの美男子で、バイセクシャル。だが、女性は愛してい
ない。
同じ美男子であるアポローンとは恋人関係。
葵のライバルでもあり、色々と葵達の障害となる。
﹃名前﹄ヴァーユ・エエカトル
フィンラルディア王国の四属性精霊である四属性守護神、風の精霊
長、風神のヴァーユ。その力は膨大。伯爵の地位を与えられている。
超美男子で、何時も女を侍らかしている、女たらし。そうなったの
は、過去にアウロラ女王と何かがあったらしい。アウロラ女王に絶
33
対の忠誠を誓っている。
﹃名前﹄アウロラ・エーヴ・レティシア・フィンラルディア
フィンラルディア王国の現女王。ルチアの母親で3児の母。
天才のルチア同様、頭の回転の非常に早い人物。穏やかな性格だが、
若い時はルチア同様おてんばで、周囲を困らせていたらしい。善王
として国民の支持も高い。
葵たちとは物語で色々と絡んでいく事になる。
﹃名前﹄ジギスヴァルト
フィンラルディア王国の宰相にして、六貴族であるビンダーナーゲ
ル伯爵家当主。
ルチアの専任商人選定戦でヒュアキントスを推薦して、画策した人
物。
クレーメンス公爵家と同じ派閥である。とある事柄で、葵たちの障
害になる。
﹃名前﹄アルバラード・デュ・コロワ・デルヴァンクール
アウロラ女王の専属商人で、デルヴァンクール子爵家の当主。
どの派閥にも属さない、アウロラ女王直轄の者。
選定戦では、葵の障害として立ちはだかるが、その理由は国の為と
34
考えての事だったらしい。
葵たちとは、物語で色々と絡む事になる。
﹃名前﹄アポローン
真っ赤な燃える様な髪をした、超美男子。ヒュアキントスとは恋人
関係。
ヒュアキントスの使者で、絶対の忠誠を誓っている。
ヒュアキントス同様、葵たちの障害となって立ちはだかる事になる。
﹃名前﹄キリク
バイエルント国の商会の売り子販売員。
ギルゴマと親交が深く、葵たちに貴重な情報を伝える。
﹃名前﹄クラーク
マルタの村の村長で、優しい人格者。人望も厚い。
村の危機に、ルイーズ、アンリ、ジュネを売る決断をし、涙する。
その後、売られた彼女たちから手紙を貰い、ルチア王女の専属侍女
になったことを知り、彼女たちの幸せを祈っている。
35
﹃名前﹄ルイーズ
マルタ村の村娘であったが、村の危機に自ら売られる事を志願する。
その後、ルチアの専属侍女になりルチアに生涯の忠誠を誓う。
﹃名前﹄アンリ
マルタ村の村娘であったが、村の危機に自ら売られる事を志願する。
その後、ルチアの専属侍女になりルチアに生涯の忠誠を誓う。
﹃名前﹄ジュネ
マルタ村の村娘であったが、村の危機に自ら売られる事を志願する。
その後、ルチアの専属侍女になりルチアに生涯の忠誠を誓う。
﹃名前﹄デッセル
コジャドの村の村長。新しく着任して、私利私欲でコジャドの村を
支配している。
村の危機に、レリアとエマを嬉々として葵達に売る。
その後、売ったお金を自分の為に使い、それが村人にバレて、恨み
を買い殺される。
36
﹃名前﹄サビーノ
カナーヴォンの村にヴァロフと一緒に住んでいる、ホビット族の男。
ヴァロフの鍛冶の弟子であり、身の回りの世話をしている。
その後⋮葵達とは⋮
﹃名前﹄ヴァロフ
カナーヴォンの村に住むドワーフ。息子のバスラーとレリアの結婚
を反対していた間にバスラーが死に、レリアを恨んでいたが和解。
金貨戦争時代を知っていて、人間族を恨んでいる。
その後⋮葵達とは⋮
﹃名前﹄バスラー
レリアと結婚してエマを授かったが、亡くなる。
遺言でと父のヴァロフにエマを抱かせてやって欲しいと言い残して、
他界する。
﹃名前﹄キャスバル
フィンラルディア王国の前王。7年前に亡くなっている。ルチアの
父親。
37
子供たちを溺愛し、アウロラ女王を愛していた。その雰囲気や考え
方は、葵に似ているとか。
他の者達からは、フィンラルディアの無能の王と呼ばれていたらし
い。
その死亡には色々な説が有ると言うが⋮
﹃名前﹄アベラルド
冒険者ギルド、王都ラーゼンシュルトシュルト支店の長。
色々な人脈を持つ人物。アウロラ女王やルチア女王と親交が深い。
葵たちには色々な依頼をしていく事となる。
﹃名前﹄デボラ
ステラ、ミーア、シノンの元主人で、彼女たちの処女を奪ったレズ
ビアン。
ドリオース商組合と言う中堅の商組合に属していたが、ヒュアキン
トスの画策にあい、あっという間に破産させられた。
その後、ステラ、ミーア、シノンと、思わぬ再開をする。
﹃名前﹄ドリー
デボラに仕えていたメイド長。ステラ達に色々な教育をする。
デボラが破産した後の詳細は不明。
38
そら
愚者の狂想曲 0 プロローグ
あおい
俺の名前は、葵 空。某大学に通う学生だ。年齢は20歳。18の
時に両親を飛行機事故で無くし、天涯孤独の身となってしまった。
もともと親戚付き合いが無かったので、18歳と言う年齢もあり、
一人で生きて行く事にした。
幸い両親の保険金が3000万程入って来ていたので、大学の学費
も十分補えている。なので普通の生活で困る事は無かった。
両親を無くして当時は悲しんでいたが、今はそれなりに楽しんで生
活をしている。
そんな俺は休日である今日、近所にあるGEOGEOにDVDを借
りようと足を運んでいた
﹁う∼ん。何か良い物は無いかな⋮と﹂
そんな事を小さく口ずさみながら、借りる物を探していた
﹁⋮これにしようかな﹂
一本の映画を選んだ。B級映画のホラーである、229週目と言う
名前のゾンビ系の映画である。全力でゾンビが追いかけてくると言
う、なかなか面白そうなホラー系物であった。俺はそれを手に取り
1Fに戻る。そして、ゲームコーナーに立ち寄り、何か面白そうな
ゲームは無いか探していた。
﹁⋮と、良いのは無いな⋮﹂
陳列されたゲームを見ながら、何気にふと視線を横にやった。
その時俺の目に、ワゴンセールのゲームの山が見えて来た。色々古
いゲームや、売れ残りを山積みにしている。俺はそのワゴンセール
39
の前に来ていた。
そして、徐にそのワゴンセールを漁り始めた。色々懐かしいゲーム
がそこにはあった。昔子供の頃に遊んだゲームだとか、クソゲーと
言われるネタ物まで。俺は懐かしさを感じながら見て行くと、ふと
一本のゲームが目に止まった。俺はそれを手に取って見た。
﹁ファンタジークエストランド☆Ⅸ∼遥か彼方の世界∼﹂
と、言うタイトルのゲームであった。ファンタジークエストランド
⋮その有名なゲームは良く知っている。俺もそのゲームのファンで
あるからだ。
でもそのゲームは名前こそ似ているが、パッケージのデザイン等、
俺の知っているゲームとは違っていた。良く名前を見たら☆も付い
ているし、そもそもあのゲームにⅨなんてシリーズは無い。副題の
∼遥か彼方の世界∼なんてのも聞いた事が無い。ちょっとした戸惑
いを感じながらパッケージの横を見ると、製造元が書いてある
﹁製造元 Ouroboros ﹂
とだけ書いてあった。株式会社なのか有限会社なのかさえ書いて無
かった。それどころか、住所、連絡先、その他、会社に関わる事は
何も書いて無かった。そんな事があって良いのか解らなかったが、
現に売り出されているのだから、不思議には思ったが深くは考えな
い様にした。そして、パッケージの裏を見て、ゲームの内容を見て
みる
﹁100種類を超える種族、1000種類を超える職業。1000
0種類を超えるアイテム。様々なダンジョン、遺跡、様々な国や街
⋮貴方の知らない世界で繰り広げられる冒険世界﹂
と書いてあった。このゲームは俺の知っているファンタジークエス
40
トランドとは、似て非なる物であった。俗に言うパクリのゲームで
ある。コンセプトは似ているが色々追加要素が有る様で、全く別の
ゲームだと思って良い。道理で知らないメーカーなはずだ。
しかし⋮このパクリゲームは、俺の心をくすぐった。何か俺のゲー
ム心を刺激する。ファンタジークエストランドのファンとしては複
雑な気分であるが、興味は十分そそられるものであった。そして、
再度パッケージを表に向けて見てみる。
﹁これ⋮パソコンのゲームなんだ⋮666円!安!﹂
思わず声を上げてしまった。周りを見回して誰もいなかった事に安
堵した。
俺はこのゲームを買って見る事にした。ファンタジークエストラン
ドのファンであると同時に、このパクリゲームの内容が知りたい。
内容も俺向きだ。
もし面白くなくても666円である。話のネタ位にはなると思った
のである。俺はそのゲームを手に取りレジに向かい、支払いを済ま
せ家に帰ってきた。
そして、帰る途中に買ったハンバーガーセットを食べながら、借り
てきたDVDを見る。B級映画と言えどかなり面白く、つい見入っ
てしまった。
そして、DVDを見終わり休憩している時に、ふと買ってきた例の
ゲームがある事を忘れていた。俺は袋からゲームを取り出しパソコ
ンの前に行く。パソコンを立ち上げゲームをセットする。すると、
ゲームが立ち上がって、画面が出てタイトルが出た。
﹁⋮Startっと⋮﹂
俺はスタートをクリックして始める事にした。すると、オープニン
グが始まり、色々な風景や、魔物、町や国、世界地図などが出て来
41
た。そして、そのオープニングが終わると、画面が切り替わった
。そこには、一人の黒いスーツを来た悪魔っぽい男の二頭身キャラ
が立っていた。
﹁ヤ∼ハハ!良く来たな!運命に導かれし、哀れな子羊ちゃんよ∼
!﹂
高笑いしながら言う悪魔のキャラ
﹁これ⋮声が出るんだな。⋮この時点で既に俺の知ってるファンタ
ジークエストランドでは完全に別物だな。ま∼とりあえず先に進め
るか﹂
俺は先に進める事にした。
﹁とりあえず、貴様の名前をオレ様に教えろって、教えろって∼!﹂
そら
悪魔のキャラが言う。そして。名前を入れるスペースが出る。
あおい
﹁⋮葵 空⋮﹂
そう言って名前を入れる俺。すると悪魔キャラが
﹁アオイソラってえ∼のか!よろしくな!﹂
声で喋る悪魔キャラ。そんな機能が付いているのにちょっとビック
リしたが先に進める
﹁次に、お前はオスか?メスか?どっちなんだよはっきりしろや∼
!それと、歳は幾つだ!﹂
悪魔キャラが笑いながら言う
﹁⋮クチの悪い悪魔だな⋮﹂
軽く溜め息を付きながら性別の男を選ぶ。年齢は16歳にした。フ
ァンタジークエストランドは高齢になると、老衰で死ぬ事があるか
42
らだ。
﹁じゃ∼次は、お前の種族を決めやがれ!一杯あるからな!好きに
選びやがりやがれ!﹂
高笑いする悪魔キャラ。俺はその種族を見て見る事にした。一覧を
見てびっくりする。
ざっと見ただけで、100種類以上の種族がのっていた。一般的な
俺と同じ人間から、ゲームにはお馴染みのエルフやもろもろ。ワー
ウルフやワードラゴン、悪魔や天使などもある。実に様々。巨人族
なんてものもある。その種族の多さに見ているだけで楽しくなって
来た。その様々な種族の特徴や能力を見ていると、気になる種族が
あった
﹁⋮ヴァンパイア⋮吸血鬼か⋮﹂
クリックして種族の特徴を見る。
﹁なになに⋮不死の王ヴァンパイア。究極の不老不死に近い種族。
歳はとらず、特定の手段を取らないと殺せないし、死なない。超人
的な身体能力と膨大な魔力を持ち、雷を操り、霧になったり、影に
潜んだり、蝙蝠になったりする事が可能。飛行能力もある。自分の
血を利用して、眷属にする事も出来る。但し日光には弱いので、日
中は行動出来無い⋮か﹂
魅力的な種族ではあるが、日中行動出来無いが痛い。ヴァンパイア
なので夜行性なのは解るが、能力が高いので行動制限が掛かるのか
な?と、思いながら、とりあえずキープしておく。するとその下に、
また気になる職業を見つけた
﹁ヴァンパイアハーフ⋮﹂
小さく呟きソレをクリックする
43
﹁なになに⋮不死の王ヴァンパイアと人間のハーフ。不死の王、ヴ
ァンパイアと同じ様に、超人的な身体能力、膨大な魔力、限定的で
はあるが不老不死の能力を持つ。別名、ダンピール。ヴァンパイア
と人間のハーフの為、ヴァンパイアの弱点である物は効果が無いが、
本家のヴァンパイアと比べると不死性は弱い。回復能力を上回る攻
撃を受けると死ぬ。日中でも行動が可能なデイウォーカーでもある。
闇属性や雷を操る事は出来るが、霧になったり、影に潜んだり、蝙
蝠になったりは出来無い。普段は普通の人間とは変わらず、ヴァン
パイアの能力を解放する事でその力を発揮する。開放状態時のみ飛
行可能。能力の解放は一度使うと暫く使用出来無い。能力の高さは
LVによって上がっていく。月に3回血を吸わないと死ぬ﹂
ヴァンパイアに比べて色々出来無い事があるが、日中行動できるの
は魅力的だな。ま⋮月に3日最低血を吸わないとダメって事は否め
ないが、能力も高そうだし⋮これに決めた!種族を選ぶと、次の画
面に切り替わる。
﹁種族はヴァンパイアハーフか!えらくマニアックなのを選びやが
ったな!じゃ∼次は、お前にプレゼントだ!レアスキルを3個選び
やがれ!やがれ∼!﹂
と、悪魔キャラ。すると画面が切り替わりスキルの一覧が現れる
﹁ここから、3個選べばいいのか⋮﹂
俺は一覧からレアスキルとやらを選ぶ事とする。魔力増強、攻撃強
化、防御強化⋮様々な物がある。癒しの声とか、不思議な踊りなん
て物もあった。その中でまず目についたスキルを見る。
﹁闘気術⋮気を体内で練り戦いに使うスキル。生命力、精神力が続
く限り使用可能。その使い方は多岐にわたる⋮か⋮。これにしよう
44
!﹂
一つ目はこれにする事にした。そして次々見ていく。次に気になっ
たのが ﹁霊視⋮相手の力や能力、状態を見ぬく能力。か⋮。﹂
初めて相手にする敵の能力や、その人の力、状態まで見抜ける。物
体の力と本質も見極めれるのか⋮なんか便利そうだな。これに決め
た!そして最後のレアスキルとやらを決める為に探す事にする。最
後なので色々悩む。魅力的な能力が多いからだ。色々悩みながら見
ていると、
﹁魅了⋮一時的に相手を従わせる能力。自意識を占拠し、操り人形
にする事が出来る。操られている者は、操られている間の記憶は無
い。操れる対象は1人のみ。但し、相手が意思の強い者や、魔力等
が高い者には効き目が無い﹂
ふむふむ。強い相手には効かないって事だろう。使い方次第かな?
そんな事を考えながら、このレアスキルにする事にした。そして、
すべてのレアスキルを入れ終わると、
﹁闘気術、霊視、魅了この3つで良いんだな?もう決めちゃうぞ?
決めるぞこのやろ∼!﹂
と悪魔キャラ。すると、次の画面に切り替わり、
﹁最後に、あちらの世界に持って行きたい物を、3つ入力しやがれ
やがれ!﹂
悪魔キャラが言う。俺はこの質問の意味が解ら無かったが、入力し
ないと次の画面に行けそうにも無いので、入力を済ませる事にする。
そして、しばし考慮して、仮定の設定で考えた3つを入力する
﹁とりあえず⋮一つ目は、最近買ったばかりのパソコンセットかな
45
∼。ゲーム用のかなりスペックの高いノートパソコン。デジカメ、
スキャナー、にマウス、A4の用紙や、ボールペンまで付いている。
そのセットが一つ目でいいや﹂
詳細を打ち込んで行く。
﹁2つ目は∼タバコとジッポ。3つ目は⋮ま∼適当に大きなダイヤ
の宝石!かな∼。タバコは無いとイライラするし、ジッポがないと
タバコは吸えないしな。宝石は売ったらお金になる?ま∼仮定の話
なんで適当でいいや!﹂
半ば何も考えずに入力する俺。すると画面がまた切り替わる。
﹁じゃ∼これで全部選んで貰ったぞ!確認しやがれやがれ!確認が
終わったらクリック押せや!﹂
そら
と悪魔キャラ。そこに、選んだ項目が出てくる
あおい
﹁名前 葵 空﹂
﹁性別 男﹂
﹁年齢 16歳﹂
﹁種族 ヴァンパイアハーフ﹂
﹁レアスキル 闘気術、霊視、魅了﹂
﹁持ち込み品 ノートパソコンセット タバコセット ダイヤの指
輪﹂
﹁これで、良いんだな?だな?変更はしなくて良いんだな?後悔す
るなよ?コノヤロ∼!﹂
46
悪魔キャラが聞いてくる。ステータスのボーナスポイントの振り分
けや、見た目を選んだりは出来無いのか⋮。それに職業はここでは
選べないのか?ファンタジークエストランドなら、初めから高いボ
ーナスポイントを振り分けて、高い職業、侍、聖騎士、忍者などの
職業に就く事が出来るのに。流石にファンタジークエストランドで
出来無い事が出来る代わりに、出来ていた物が減らされていると言
った所か。成る程⋮
俺はYesをクリックして、この項目でOKする事にした。すると、
チャッチャラ∼と音がして
﹁良し!これで、OKだ!OKだ!﹂
踊りながら言う悪魔キャラ。そして、ひと通り踊ると、クルっと葵
の方を見て真剣な顔で
﹁⋮では、最後の質問だ。お前は⋮このゲームに全てを捧げるか?﹂
今までと雰囲気の違う悪魔キャラ。その下に、Yes、Noが表示
されている。
﹁全てを捧げるって大げさな。高々ファンタジークエストランドの
パクリゲームに、捧げる奴なんていないよな。な∼んて言ってもゲ
ームなんだから、ここをYesにしないとゲームは出来無いだろう
しな。ま、ゲームの雰囲気作りなのだろうから⋮当然Yesっと。﹂
俺はYesをクリックする。すると悪魔キャラが、再度本当に全て
を捧げるか聞いて来た。当然Yesを選んで、次の画面に切り替わ
るのを待つ。すると、悪魔キャラがニヤっと寒気のする笑みを浮か
べ言う。
﹁契約はなされた!お前の全ては⋮このゲームに捧げられた!さあ
47
!行くが良い!新しい世界に!﹂
と言って、高笑いする悪魔キャラ。するとソレと同時に、パソコン
の画面が激しく光り出す。
﹁うわあああ!な⋮なにこれ!?﹂
大きな声を上げる。その光は俺を包みこんだ。その光の中に吸い込
まれていく俺。そして、俺の部屋には誰も居なくなった。
﹁⋮良き旅を。フフフ⋮アハハハハ∼!﹂
高笑いする悪魔キャラ。そして、そのゲームは霧の様に消えてしま
った。静寂に包まれる俺の部屋。
俺は訳の解らない所⋮グニャッとひん曲がった様な、奇妙なズレを
感じさせる様な空間の中に居た。訳が解らずその光景を見ていると、
空間から妙なプレッシャーを受けて気を失ってしまった。
これから、何が起こるのか解らずに⋮
48
愚者の狂想曲 0 プロローグ︵後書き︶
☆
49
愚者の狂想曲 1 三級奴隷の小柄な少年
パカパカガチャガチャ
今俺は荷馬車の上にいる。
あの変なゲームを起動してしまったせいで、異世界に飛ばされてし
まったんだ。何故こうなったかは理由は解りません。元の世界に帰
れる事も出来ず、右往左往しながら毎日を生きている。
この異世界に飛ばされて半年⋮本当色々あったよな∼。
何も解らないまま生活を始め、やっとここまでこれた。
何故か解ら無いが、この世界の言葉や文字は理解出来たので必死に
なって頑張った。
そして、こちらの世界に持って来たダイヤの指輪がかなりの価格で
売れたので、その資金で装備やら荷馬車やらを買う事が出来た。
今俺は冒険者として登録して、ダンジョンを探検したり、行商を行
なって生活をしている。
最近やっとこの生活も安定して来たので、俺は自分にご褒美を上げ
たいと思うのです。
そう⋮⋮ご褒美とは⋮⋮自分だけの可愛い女の子の奴隷を買っちゃ
う事なのです!!
ま⋮堂々と宣言すると恥ずかしい気持ちになる⋮
でも気にしない!俺は強い子なんだ!やれば出来る子なんだよ!⋮
多分⋮。
兎に角!自分の欲望に素直に生きるのだ!やっちゃうのだ!
ちっちゃくて、可愛らしい女の子が良いんだけどな∼。12、3歳
位の⋮
50
うん?ロリだって?ハハハ。そうです!ロリですが何か!?
可愛い物好きなのだ!苦情は一切受け付けません!
とりあえず落ち着こう。スーハー⋮深呼吸もしたし大丈夫だ!
⋮この世界には、まだ奴隷制度なる物が残っている。地球で言えば
中世のヨーロッパ位の文化と言った所なのだ。王様や貴族なんても
のも普通に居る。
地球と違う所は、この異世界は魔法があり、魔物がいて、様々な種
族が生活してるって所かな。初めは戸惑ったけど、今は慣れっこに
なったよ!
現に目の前にあるのだから、認めないとダメだろう?考えても始ま
らないしさ。
そんな感じで俺は奴隷が売っている奴隷館のある街に来ている。
もう見慣れた洋風な感じの家々や商店を片目にしながら、石畳の道
を荷馬車に揺られて奴隷館に向かう。
暫く来た所で、レンガ作りの割と大きい建物に到着する。
入り口には鎧を着た門番が4人、腰に剣をさげている。幾人もの人
が出入りしている。
俺はその建物に有る看板を読み上げる
﹁ガリアス奴隷商店⋮か⋮﹂
この街、ラングースの街に唯一ある奴隷館だ。俺が荷馬車の上で看
板を見ていると、一人の小太りの男が近寄って来た。
﹁どうもこんにちは!本日はどういったご用件で?﹂
小太りの男はニコニコしながら俺に話しかけて来た。如何にも商人
やってます的な見た目に内心笑いがこみ上げてきそうになるが、ぐ
っと我慢しました。
51
﹁えっと⋮奴隷を買いに来たんですけど⋮﹂
愛想笑いしながら俺が言うと、さらにニコニコして
﹁そうですか!それはどうもありがとうございます!ささ!ご案内
致しますのでこちらに!﹂
荷馬車から丁寧に降ろされる。
﹁荷馬車の方はこちらでお預かり致しますのでご心配無く!ほれ!
お前達!﹂
そう小太りの男が言うと、2人の奴隷の少年が荷馬車を店の裏側に
移動を始めた。
小太りの男に案内されるまま奴隷館の中に入って行く。ロビーの様
な一階の広間に通された俺に小太りの男は言う
﹁本日はどのような奴隷をお求めなのでしょうか?﹂
ニコニコしながら言う小太りの男。
奴隷には種類がある。一級奴隷、二級奴隷、三級奴隷だ。この世界
に有る奴隷法によって扱いが違う。
まず、一級奴隷。これは奴隷でありながら上級の職業にも就ける事
が出来る。財産を持つ事も出来、生活も身分も一般庶民並み、又は
それ以上に奴隷法によって保証されている。主人は罰は与えられる
が、殺すことは出来ない。殺したい時は役所に申立て、理由をきち
んと説明して、役所が厳しく審査して受理してくれた時に、役所が
処分すると言った感じだ。なので一級奴隷は奴隷でありながら差別
を受ける事無く生活出来る。貴族や王族の持つ一級奴隷は、一般庶
民などよりはるかに身分が高かったりもするのである。
次に、二級奴隷。これは俺達が奴隷と認識しているものに一番近い
かも?いわゆる労働奴隷である。
52
職業は限定されていて、役所系、商取引系等の責任が発生する職業
には就けない。財産は規定内で持てる。生活は必要最低限の衣食住
しか保証されていない。身分は一般庶民より低く設定されており、
罰を与える事が出来、主人は殺したい時に何時でも殺す事が出来る
が、殺した後、役所に罰金として二級奴隷の人頭税の2倍のお金を
役所に払わないといけない。勿論役所にきちんと申請して受理され
れば罰金は発生せず、殺して処分する事は可能である。
そして最後は三級奴隷。この奴隷は、罪人と同じ位に身分が低く設
定されている。
平たく言うと何をしても良い奴隷である。職業には就けず、主人の
決めた事しか出来無い。財産は持てず、生活の保証はされていない。
罰は当然の事、主人は何時でも殺して処分する事が出来る。殺して
処分した後に、役所に処分した事を申請すればOKなのである。戦
争に捨て駒として使われたり、魔法や武具の試し切り等の実験に使
われたりと、使い捨ての奴隷である。宗教の生贄に捧げられたりと
かもあるらしい。最下層の奴隷であり、一番数の多い奴隷である。
二級奴隷と三級奴隷は、主人︵所有権者︶以外も勝手に殺す事が出
来る。但し、奴隷は財産であるので、殺した相手は各等級の奴隷の
売買価格の相場の2倍のお金を、主人︵所有権者︶に支払わなけれ
ばならない。二級奴隷にはこれとは別に役所に払う罰金もあるので、
他人が二級奴隷を殺した時は、必要経費として、売買価格の相場2
倍のお金と、2倍の人頭税が必要になる。なので、他人が他の奴隷
を殺すというのは金銭的に負担が掛かるので余りする人は居ないら
しい。三級奴隷はたまに殺されるらしい。
一級奴隷は上記に該当せず、他人が殺せば普通の人を殺した時と同
じ殺人罪になる。一級奴隷は普通の人と同じ法律で他人から守られ
ている。主人はこれには該当はしないが。
53
じゃ∼みんな優遇されている一級奴隷で良いじゃないかってなるん
だけど、そこはうまく出来ているみたい。何が違うかと言うと、各
等級の奴隷では年一回払う奴隷の人頭税が違う。
三級奴隷は年間の人頭税は銀貨50枚、二級奴隷は年間の人頭税は
金貨1枚、一級奴隷の年間の人頭税は金貨5枚なのである。法律で
守られているだけあって、一級はずば抜けて税金が高い。
庶民の一日の平均賃金は銀貨2枚、年収で金貨7枚程度。税金で5
割近くは持って行かれるので、実質は金貨3枚と銀貨50枚程度で
生活をしている。家族3人で贅沢をしなければ暮らしていける金額
だ。金貨50枚程で家が買える価格。そう考えると、一級奴隷はあ
る程度の収入が無いと持て無い事が解ると思う。
ちなみに銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となっ
ている。
と、まあ∼説明が長くなってしまったけどこんな感じなのです。こ
んな事を考えていたら、小太りの男がどうしたのかと俺の顔を見て
いる。少し恥ずかしくなった。
﹁えっと⋮女の奴隷が欲しいのですが⋮﹂
俺が気まずそうに言うと、ニヤニヤした顔を更にニヤっとさせて俺
を見る。
⋮そりゃー女の奴隷って言ったら性奴隷しか無いだろうけどさ⋮勿
論そういう事をする為に買いに来たんだけどさ⋮そこまで露骨に顔
に出すな!この小太りの男め!
⋮なんか、深夜のコンビニにエロい本買いに行ってレジに持ってい
った時に、﹁フ⋮お前も好きだな﹂と、店員に思われる様な微妙な
空気じゃないか!⋮くうう⋮
そんな少し気恥ずかしくなっている俺を、ニヤニヤしながら小太り
の男は話を続ける。
54
﹁それでは、どの等級の奴隷をお求めでしょうか?﹂
小太りの男は俺を品定めする様に見ながら言う。
むう⋮そうなんです。女性の性奴隷を求めるなら、一級が一番品が
良い。いわゆる美人や可愛い女の子が多いって事ですね。その分価
格も高い。低い等級になるほど、その品質︵美人度?︶は落ちてい
く。
その分安くなるんですけどね。でも、初めての性奴隷だし、可愛い
方が良い!
それに俺の求めているのは、可愛い小さな華奢な女の子!12∼1
3歳の!
しかも、処女が良い!初めての性奴隷なんだから、他の野郎に使い
込まれたのは嫌だ!俺色に染めたいのです!
そう⋮俺はロリコ○⋮ゲフンゲフン。以下省略。
﹁い⋮一級の女の奴隷が欲しいです⋮﹂
気恥ずかしそうに俺が言うと一瞬目をピクッとさせたが、すぐに表
情を戻してニコニコしながら
﹁それはお目が高い!ではではこちらにどうぞ!﹂
小太りの男はそう言って俺を広間から別の部屋に連れて行く。二階
に上がり、装飾の付いた扉の前に来た。
そして、部屋の中に入って、思わず感動した。モデルクラスの美女
達が全裸で鳥籠の様な檻に入れられている。スタイルも良く、色々
なタイプが居る。肌の白いのから褐色まで。胸の大きさや、体のラ
インも色々。
しかし、ここに居る20人近くが全員美女なのだ。思わず出現した
楽園に、アソコが反応して少し前かがみになってしまった。トホホ
⋮。
55
そんな俺を見てニヤニヤしながら小太りの男は言う
﹁お客様。どのようなタイプの奴隷をご所望でしょうか?﹂
嬉しそうに小太りの男が言う。俺のご所望?フン!そんなもの決ま
っているじゃありませんか!
﹁身長は130㎝から140㎝位で、歳は12∼13歳位。華奢で
可愛くて、処女が良いのですが﹂
また気恥ずかしそうにそう言うと、ニヤニヤした顔を今日一番ニヤ
ーっとさせて笑う。
ううう⋮これは、深夜のコンビニにエロい本買いに行ってレジに持
っていった時に、﹁ブ!おまえそんな趣味があるのかよ!﹂と、店
員に蔑まれた様な微妙な空気じゃないか!⋮くうう⋮
良いだろう!どんな趣味でも!可愛ければ何でも良いんだよ!可愛
さは正義だ∼!!
⋮ちなみに、普通のセクシーな女性も好きなんだよ?俺は!
只、そっちよりも好きってだけなんです。⋮言い訳になったかな?
ううう⋮ガク⋮
﹁解りました。ではこちらでお待ちください﹂
そう言うと、小太りの男は条件に会う性奴隷を探しに行った様だっ
た。暫くその他の性奴隷を眺めながら悶々としていると、小太りの
男が帰って来た。
﹁こちらが今当店で、お客様の条件に合うだろうと思う奴隷にござ
います﹂
そう言って小太りの男が連れて来たのは3人の少女であった。その
3人を見た俺は思わず
﹃美少女キターーー!!!!!﹄
56
心の中で思わず叫んでしまいましたよ。3人共、俺の出した条件を
見事にクリアしている。はっきり言って美少女だ。3人の違いとい
えば髪の毛の色位と言っても良い位である。それぞれが美少女。
こ⋮これは悩む!
そんな俺の顔を見て満足そうな小太りの男が
﹁どうですか?条件に合いましたでしょうか?﹂
俺の顔を見て条件に合っているのが解っているはずなのに聞いてく
るなんて!意地悪だな!小太りが!
ま⋮仕事だから一応聞くよね⋮ガク⋮
若干?かなり見透かされたような感じになりながらも、俺は気にな
る事を聞く
﹁えっと⋮価格は幾ら位なんですか?後は⋮全員処女ですか?﹂
その言葉を聞いってニヤっと笑って小太りの男は言う
﹁彼女達は全員価格は同じに設定してあります。全員金貨25枚と
なっております。それと、当店で扱う女の一級奴隷は全員処女でご
ざいます。お買い上げ前に、処女である事を確認出来ますのでご安
心下さい﹂
成る程⋮全員処女で、確認出来るのか。きっと⋮秘所を広げて目視
で確認なんだろうな⋮
うは!エロす!美少女に自分で秘所を広げさせて、それを目視で処
女膜の確認をするとかエロす!
は!⋮さっき迄美女を見ていたせいで悶々しすぎだねこりゃ∼。⋮
ううう⋮反省⋮
⋮価格は金貨25枚なら相場かな?聞いた話じゃ普通の女性の一級
奴隷なら、相場は金貨15枚から50枚、二級奴隷なら、金貨3枚
から8枚、三級奴隷は金貨1枚から金貨3枚っていうのが相場って
57
言ってたからな。金貨25枚でこの美少女なら、納得の値段と言っ
た所かな?
でも⋮俺も行商人として生活も行ってるんだし、このままじゃって
感じもあるな⋮
﹁価格は納得ですね。でも⋮もう一声欲しい所ではありますね﹂
俺が微笑みながら言うと、ニヤッと笑い
﹁解りました。では、これでどうでしょう?価格は金貨25枚で、
その他にメイド服一式と荷物鞄をお付けするというのは?﹂
ニコニコしながら言う小太りの男。
メイド服美少女キターーーーーー!!!⋮ゲフンゲフン⋮冷静に冷
静に。
確かにメイド服一式︵靴とかその辺もセット︶と荷物鞄なら、物に
もよるが最低銀貨20枚は行くだろう。この3人の美少女なら全く
問題ないし、街にはここしか奴隷館も無い。他の街でこれ位の美少
女に出会える可能性もあるかどうか解らないし⋮ここはこれで納得
かな?
﹁解りました。じゃ∼その条件で。でも、誰にするか暫く考えたい
のですが良いですか?﹂
はっきり言って悩んでいます!顔立ちスタイルは同じ位、本当髪の
毛だけなんだもん。
茶色かブロンドかグレー⋮それぞれ美少女に似合ってて悩んじゃい
ますよ!
そんな俺の言葉にウンウンと頷きながら
﹁解りました。この3人は予約と言う形で置いておきます。一階の
広間でどちらの奴隷にするか考えて下さい﹂
そう言ってくれる小太りの男。俺は一階の広間に戻り、テーブル迄
58
案内される。椅子に座り入れてくれた紅茶を呑みながら、誰にする
か考えていた。
﹃誰にしようかマジ悩む∼!!あの3人なら誰でもいいよ本当に!
マジ美少女だし!⋮でも⋮あの内の誰か一人の美少女とこれからは
⋮あんな事や⋮こんな事⋮ウフフ⋮調教三昧か∼!﹄
そんな妄想をして恐らく顔はひどくにやけていたと思う。
そんなエッチで幸せな妄想をしている時に、ドカっと威勢良く奴隷
館の扉が開いた。そのけたたましい音に、広間に居た全ての者が振
り返った。
そこには190㎝位の大柄で体格の良いガサツそうな男が、鎖をジ
ャラジャラ引きずりながら入って来た。その後ろに、鎖につながれ
た5人の奴隷服に身を包んだ男女が、引きずられる様に入って来る。
一目でその光景がどういう事か解る。ここは奴隷館。奴隷を売りに
来たのであろう。
鎖を引きながら大柄な男は受付のカウンターまで歩こうとした時、
その中の小柄の少年?がフラフラして倒れてしまった。その子柄の
少年に近寄っていく大柄な男。
﹁おら!なに寝てるんだよ!さっさと起きねえか!この犬っころが
!!﹂
そう言って倒れている小柄な少年の腹を蹴り飛ばす。呻き声を上げ
て腹を抑えて震えている小柄な少年。その蹴られた時に、小柄な少
年の胸元から何かが転げ落ちた。それを拾う大柄な男
﹁あん?なんだこりゃ∼?小汚ねえ石ころだな∼?﹂
小さな黒くなった石のような物を見つめる。それを見た蹲っている
少年が震えながら
59
﹁それは!か⋮返して!そ⋮それは大切な物なんです!﹂
腹を抑えながら必死にもう片方の手を、大柄の男に向ける小柄の少
年。その言葉を聞いた大柄の男の表情が怒りに染まる
﹁何口答えしてるんだよ!犬っころの奴隷の分際で!!﹂
そう怒鳴り散らし、小柄な少年にありったけの怒りをぶつける。殴
り飛ばされ、蹴られまくっている。小さな体は悲鳴を上げながら、
大柄の男の暴力によって血に染まっていく。
﹃⋮あの首の印⋮三級奴隷の紋章⋮しかも、亜種か⋮﹄
俺は心の中でそう呟く。殴られて飛ばされた時に、小柄の少年の首
に奴隷の印である黒い色の奴隷の紋章が見えた。
奴隷になると首に奴隷の紋章が刻まれる。一級奴隷は赤い奴隷の紋
章、二級奴隷は青い奴隷の紋章、三級奴隷は黒い奴隷の紋章。
さっきも言った通り、三級奴隷は最下層の奴隷である。人権など全
く無い。三級奴隷など主人の気分次第で気軽に殺せる存在なのだ。
しかも亜種。亜種というのは人間以外の種族を指している。そして、
一部の高等な亜種のエルフ等以外は、人間より下等と位置づけられ
差別を受けている。
あの小柄な少年も亜種だ。長く伸びた汚い髪の隙間から見える少し
尖った耳に、かなり汚く汚れて黒ずんで居る尻尾。犬系の亜種であ
ると思う。
三級奴隷でしかも亜種。彼の人生は何時終わってしまっても不思議
ではない所に有るであろう。この世界で最低の位置に存在している。
こんな光景は、ここでなくても、たった半年この世界に居るだけで
沢山見て来た。
この世界は⋮地球より理不尽な世界だ。金貨1枚の前に、何人もの
60
命が散って、散らされ殺される。
当然の様に、金貨一枚より命の方がはるかに軽い世界⋮
俺はそれがどうのとは思っていない。思った所で、俺にどうする事
も出来はしないと思っているし、それが現実であろう。
確かに遥かに進んだ文明の異世界から来たし、それなりの能力もこ
ちらの世界に来た時に授かっている。しかし、それを使っても出来
る事と、出来無い事がある。俺には世界を変えるなんてのは無理で
すよ。そこまでのチートな力は有りませんから。それに俺は善者で
はない⋮
俺が此処に来たのは、か弱き処女の美少女の奴隷をレイプして調教
して、性の捌け口にする事なのだ。
大柄な男が小柄の三級奴隷の亜種の少年にしている事と、大して差
は無い。同じレベルの事だ。
俺はそう思っているので、その光景から目を逸らして、あの3人の
美少女の中から誰を選ぶか考えだそうとした時に⋮そう⋮目に入っ
てしまったんだ⋮
⋮必死に助けを求め縋り付く様なその虚ろな目を⋮
﹁もうやめろ!それ位で良いだろう!それ以上その子に暴力を振る
うな!!﹂
椅子から立ち上がり咄嗟にそう叫んでいた。なぜか血が滾って居る。
理由なんか解らない。只そうしたかったんだきっと。小柄な少年が
俺を血だらけに震えながら俺を見ている。
俺の叫び声を聞いて、驚いていた大柄な男だったが、我に返って俺
に近づいて来た。
﹁ああ∼ん?兄ちゃんよ∼これは俺の奴隷なんだよ。俺の三級奴隷
61
なんだよ。兄ちゃんもこんな所に居るんだ。奴隷の事は良く知って
いるだろう?⋮俺が何を言いたいか解るよな?﹂
ニヤ∼っと汚らしい笑いを浮かべて言う大柄な男。
十分解っている。人権の無い奴隷の中でも最下層の三級奴隷だ。ゴ
ミに等しい存在。
主人の気持ち一つですぐに処分される、哀れな存在。
それが解ってても、何故か血が滾ってしまったんだ。善人では無い
けど仕方無い。
小柄な少年は三級奴隷。主人の許可が無くても、俺が殺す事は出来
る。金さえ払えば。
簡単に遊びの様に殺せるが⋮助ける方法は一つしか無い。俺は大柄
の男に言う。
﹁ああ!解ってるよ?だがもう止めろ!⋮俺がお前からその奴隷を
買う。それでどうだ?お前もここに奴隷を連れて来たって事は、こ
こにそいつらを売りに来たんだろう?だから俺がその子を買ってや
る!これなら文句は無いだろう?﹂
俺が睨みながら言うと、驚いた顔をする大柄の男。そしてニヤっと
笑って言う
﹁ああ!それなら文句はねえよ!﹂
笑いながら言う大柄な男。気に入らないと思いながらも、小柄な少
年を買える事が解って安心した俺
﹁良し!では取引だ。幾ら⋮払えば良い?﹂
俺がアイテムバッグから金の入った袋を取り出すと、大柄な男は言
う。
﹁ヘヘヘ⋮金貨20枚だ!﹂
62
笑いながら言う大柄な男
﹁金貨20枚だな⋮⋮え!?き⋮金貨20枚だと!?﹂
思わず声を上げてしまった。周りに居た者達も困惑の顔をしている。
通常三級奴隷の相場は金貨1枚から金貨3枚って所だ。俺は金貨3
枚程度で十分だと思っていた。
この大柄な男は、相場の実に約6∼20倍の価格を要求して来たの
だ。
この世界は弱肉強食が非常に強い世界。弱みを見せればたちまち食
われてしまう。
それが解ってはいるが、今はどうしようも無い。焦って弱みを見せ
てしまったのだから。俺のせいである。実際大柄な男は金貨20枚
が手に入るとは思ってはいないであろうが、普通の取引価格で買え
無いである事を俺は理解し、覚悟した。そんな俺にしびれを切らし
た大柄の男が
﹁ああ∼ん?どうした?この犬っころを買うんじゃなかったのか∼
?﹂
そう嘲笑ながら小柄な少年の顔を蹴った時、ボキっという乾いた音
がした。
そして、小柄な少年はぐったりして動かなくなり、血を流しながら
ピクピクと痙攣を始めた。
それを見てかなりまずい状態になったと解った。一刻の猶予も無い。
そんな小柄の少年を見て怒りの表情をする大柄な男
﹁おめえ犬っころ!勝手に死ぬんじゃねえ!この役立たずが!﹂
そう言って大柄な男が、小柄な少年に怒りをぶつけるように蹴ろう
としている。
63
﹁止めろ!その子は俺が買った!金貨20枚だな!受け取れ!﹂
俺は大柄な男の足元に、金貨20枚を投げつけた。その金貨に目を
丸くしている大柄な男
ここで駆け引きをして価格を下げている場合では無くなった。駆け
引きなんかしていれば少年の命が危ない。
﹁ネームプレートを出せ!そして、その子の所有権を俺に渡せ!﹂
俺はそう叫んで身分証明書であるネームプレートを取り出し、大柄
の男につきつける
﹁あ⋮ああ⋮解った⋮﹂
呆然としている大柄の男は自身のネームプレートを取り出し、小柄
な少年の所有権を俺に引き渡す。
ネームプレートが光り出し、俺に小柄な少年の所有権が無事移った
のを確認した。
﹁これで話は終いだ!この子を連れて行く!﹂
そう叫んで、俺は小柄な少年に駆け寄る。相変わらず血を流しなが
らピクピクと痙攣している
﹃かなりやばい!俺は治癒魔法は使えないから⋮急いで医者に見せ
ないと!﹄
俺は心の中でそう呟いて、小柄な少年を抱き抱えた。
﹁う⋮﹂
思わず声を上げてしまった。小柄な少年は長い間水浴びや、体を拭
くと言った事をしていないのであろう。髪の毛は油でバリバリにな
っていて硬くなっていて、肌も同じようにどす黒くなっている。そ
れが強烈に腐ったドブ川の様な強烈な匂いを発していた。
それに、殴られて出た血の匂いが混じり、吐き気がする様な匂いに
64
なっていたのだ。流石は三級奴隷。過酷な生活を送っていたのであ
ろう。
何とか吐き気のする匂いを我慢して、小柄な少年を抱きかかえなが
ら奴隷館を飛び出した。
そして、奴隷館の裏手に停まっている荷馬車に乗り込む。手綱を握
り、この街にある診療所まで一目散に駆け出した。小柄な少年は、
相変わらず血を流しながらピクピク痙攣している
﹃死ぬなよ少年!すぐに助けてやるからな!﹄
俺はそう心の中で叫びながら必死で手綱を握り、荷馬車を走らせる
のであった。
暫く荷馬車を走らせて、この街にある診療所についた。
俺は小柄な少年を抱きかかえながら診療所に駆け込んだ。何事かと
診療所の人々がこちらに注目する。
医者を至急呼ぶ様に言うと、すぐに奥から医者が出て来た。そして、
抱えている非常に汚い、血まみれで痙攣している三級奴隷の強烈な
匂いを嗅いで、顔を歪めている。
﹁この子に治癒魔法をお願いします!﹂
俺が必死に言うと、見たくもない様な顔をして
﹁ここではその汚くて、臭い三級奴隷を診ることは出来無い﹂
顰めっ面で淡々と言う医者。俺は怒りが湧いてきて激しく言い立てる
﹁お前は医者だろうが!早く診ろ!さもないと、俺がお前をこいつ
と同じ目にあわせてやるぞ!﹂
65
俺の殺気だった言葉にギョっとした医者は慌てて言う
﹁こ⋮ここじゃ見れないと言っただけだ!あの荷馬車の荷台で診て
やる﹂
そう言って玄関前に横付けされている、俺の荷馬車を指さす。そし
て、何処で診ても一緒だという医者。
今は一刻も争う事なので渋々承諾する。他の医者に回る時間は恐ら
く残されていないと思ったからだ。
仕方無く小柄な少年を荷台に寝かせる。すると医者は治癒呪文の詠
唱を始める。
医者の両手から光が溢れる。それを小柄な少年に当てていく。
﹁⋮所で⋮金はきちんと払ってくれるんだろうな?﹂
医者は治療しながら流し目で俺を見ながら言う。医者の吐き捨てる
様な言い方にイラッとしたが、今は邪魔を出来ない。払う旨を伝え
ると、フンと言って小柄な少年の回復をする。
暫く小柄な少年を治療していた医者が、治癒の魔法を辞める。どう
やら治療し終わったらしい。
﹁⋮とりあえず、折れていた首の骨や、受けた傷は回復出来た。後
遺症や傷も残ってはいない﹂
そう言う医者。俺はホッとして深い安堵の溜め息を吐く。しかし、
言いにくそうに医者は話を続ける。
﹁しかし⋮この三級奴隷は元々弱っておった。恐らく栄養不足⋮餓
死寸前であったんだろうな。そこに、あの怪我だ。沢山の血を流し、
更に大きく生命力を削ってしまった。回復力の上がる魔法は施して
おいたが⋮恐らく今夜が山場⋮明日まではもたんだろうな⋮﹂
淡々とそう告げる医者。
66
﹁このまま何もしなかったらだろ?⋮この診療所にある最上級の薬
を買おう。⋮あるんだろ?﹂
俺が流し目で言うと、ハーッと溜め息を吐いて医者は言う
﹁そこまで知っているなら、その薬の値段も大体予測はつくだろう
?さっきの治癒魔法代と薬代⋮こんな三級奴隷なら、沢山買える位
の金額になってしまうのに。そこまでして、こんな汚くて臭い三級
奴隷に価値が有るとは思えないが⋮﹂
また顰めっ面をして言う医者
﹁⋮こいつに価値があるかどうかは、金を払う俺が決める事だ。貴
方じゃない⋮﹂
俺がイラっとしてそう言い放つと、フンと鼻で笑って医者が言う
﹁確かにその通りだな。私は金さえ払ってもらえれば良い。じゃ∼
薬を持ってくる。金を用意しておけ﹂
そう言って、診療所に戻る医者。俺は小柄な少年を見つめながら待
っていると、医者が薬を持って出て来た。さっきの治癒魔法と薬代
を払い、薬の用法用量を聞く。そして、この街に取ってある宿屋に
戻ろうと荷馬車に乗った時、医者が言った
﹁⋮その薬を飲ませても、生き残る確率は半々だぞ⋮﹂
医者は淡々と告げる
﹁⋮いいさ。そのままじゃ死ぬのが半々まで確率が上がるのであれ
ば上等だ﹂
小柄な少年を見ながら言う俺。再度フンと鼻で笑って医者が言う
﹁とりあえず、明日の昼にお前の泊まっている宿まで行くとしよう﹂
﹁⋮これ以上金を取る気か?⋮ったく⋮﹂
67
俺は呆れながら溜め息を吐くと、フフフと笑いながら
﹁今はこれ以上金は取らぬよ。⋮明日行くのは様子見じゃ。その三
級奴隷は生き残ると思っておるんだろ?﹂
ニヤっと笑いながら言う医者
﹁当然!生きてもらわないと困る!こいつにどれだけ投資したと思
ってるんだ?十分に元は取らせてもらわないとな!﹂
俺が笑いながら言うと
﹁それは生き残ってもかなりの仕事をしないといけなさそうだな﹂
そう言って苦笑いする医者。俺は医者に挨拶を済ませ、宿屋に帰っ
て来た。
小柄な少年を抱きかかえて宿屋に入って行くと、余りの汚さと強烈
な匂いで止められてしまった。
宿屋の主人に、汚し賃や迷惑料を払うのでと言って、何とか渋々こ
の小柄な少年の宿泊を許可して貰った。
ベッドに小柄な少年を寝かせる。そして診療所で買った薬を用意す
る。
水に薬を溶かしコップで飲まそうとしたのだが、小柄な少年は眠っ
ていてうまく飲ませる事が出来無い。価格も高く貴重な薬である。
こぼしてしまっては元も子もない。俺は覚悟を決める。
﹁はあ∼。やっぱり⋮アレしか無いよな⋮﹂
俺はコップに入っている水に溶かした薬を口に含む。
そして、小柄な少年の口を開き口移しで薬を飲ませる。小柄な少年
の強烈な悪臭に薬を吐き出しそうになるが何とか我慢した。口の中
に薬を流し込むと、コクコクと喉を鳴らして薬を飲んで行く。全て
の薬を飲ませる為に、数回口移しをする。
その時、若干小柄な少年が目を開けていた様な気がしたが⋮気のせ
68
いかな?
とりあえず、薬を全て飲ませた事なので、小柄な少年をこのまま見
守る事にした。
﹁お前⋮死んじゃうなよ?頑張って⋮生き残ってみせろよな⋮﹂
そう言って、小柄な少年の手を握っている俺であった。
69
愚者の狂想曲 1 三級奴隷の小柄な少年︵後書き︶
☆
70
愚者の狂想曲 2 小柄な少年は⋮!?
どうしてこうなった?軽く自問自答してみる。
俺は奴隷館に、可愛い美少女を求め向かったはずなのだ。
それがどういう訳か、大金を叩いてめっちゃ小汚い亜種の三級奴隷
を買ってしまったのである。
しかも⋮男の子!!
俺は確かロリコ○趣味だったは⋮ゲフンゲフン⋮口に出すと最後の
一線を超えそうなので自重しよう。
⋮でも⋮良く考えたら、ロリ○ンより酷い、同性ショ○に走ってい
る様な気が⋮ううう⋮ガク⋮
もう⋮ここまで来たら、毒を食らわば皿まで!どこまでも行ってや
るーーーー!!
こんな事をグルグル考えながら、小柄な少年の手を握って回復を待
っていた。
ウトウトウト⋮ZZZ⋮
なんだか夢見心地だ⋮
なんだか暖かいし⋮
そう言えば⋮何か忘れている様な⋮何だったっけ?
えっと⋮昨日は奴隷館に美少女を見に行って⋮
そこからむっさい男が現れて⋮倒した!?
﹃むっさい男は起き上がって、仲間に入れて欲しそうな目でこちら
71
を見ている。仲間にしますか?﹄
﹃ハイ﹄
﹃イイエ﹄
﹃虐殺﹄▼ ポチットナ!
うんうん!むっさい男なんてきっと虐殺したよね!だって美少女じ
ゃないんだもん!きっとそうだよ!
その後戦利品で⋮何か手に入れた様な気が⋮
チャラララ∼♪︵何処かで聞いた事のある音だな∼︶
﹃むっさい男は宝箱を落とした!開けてみますか?﹄
﹃ハイ﹄▼ ポチットナ!
﹃イイエ﹄
むっさい男のパンツとか入ってたら⋮ザオ○クで生き返らせて、1
00回位虐殺してやる!
トゥルル∼♪︵これも聞いた事のある音だぞ!︶
﹃葵は死にかけの小柄な少年を手に入れた!﹄
なんじゃそりゃ!死にかけの小柄な少年って!アイテムですら無い
じゃん!斜め上すぎるわ!
うん?⋮⋮死にかけの小柄な少年!?⋮⋮!!!!!!!!
﹁うは!﹂
思わず声を上げてしまった。目が霞んでいる。どうやら眠って夢を
72
見ていた様だ。
窓を見ると暖かい日差しが窓から差し込んでいる。昼前みたいだ。
昨日からずっと小柄な少年を看病して、知らない間に眠ってしまっ
たのだろう。
その事を思い出して、俺は焦ってベッドの小柄な少年に目を向ける。
﹁スウースウー﹂
小柄な少年は気持ち良さそうに、寝息を立てて眠っていた。
﹁よ⋮良かった⋮どうやら山を超えて生き残ったらしいな⋮﹂
小柄な少年の様子を見て安堵する。顔は汚れていて顔色は解らない
が、なんとなく気が溢れ、生命力が上がっている様に感じる。容態
が安定した事を確信した俺。
その直後、グウーと腹の虫が鳴く。
そう言えば、昨日の昼から何も食べて無かった。宿屋の主人に言っ
て何か作って貰おう。
そう思って立ち上がった時に、自分の状態が目に入った。
小柄な少年を抱き抱えた事で、血がべっとり付いている。しかも、
この小柄な少年の汚れまでついて黒ずんでいる。この小柄な少年と
ずっと同じ部屋に居たせいで鼻が麻痺しているのだろうが、きっと
凄い匂いがしているに違いないと予想出来た。とりあえず部屋の窓
を全開にする。空気の入れ替えだ。
﹁さて⋮飯の前に⋮水浴びして体を洗って⋮着替えて⋮そこから飯
だな⋮﹂
苦笑いしながら部屋を出る俺。
案の定、宿屋のカウンターを通る時に、宿屋の主人に渋い顔をされ
てしまった。きっと、俺自身も臭っていたのであろう。
とりあえず、水浴びして体を洗って着替えたら、昼食を頼むと宿屋
73
の主人に伝言をして体を洗いに行く。
丹念に体を洗い綺麗にして、着替え終わって宿屋のカウンターを通
りかかったら、宿屋の主人がちょうど昼食が出来たと言うので、す
ぐ傍のテーブルで昼食を頂く事にする。
だって⋮あの部屋凄い匂いがするんだもん⋮そんな所で飯は食えま
せん!今は鼻の麻痺は直っちゃってるしね!
昼食を食べ終え紅茶を飲みながらタバコを吹かしていたら、昨日の
医者が宿屋に現れた。
そして、俺の顔色を見てニヤっと笑う
﹁どうやら⋮本当に生き残ったようだな﹂
ニヤニヤしながら言う医者
﹁当然!﹂
不敵に笑いながら俺が言うと笑っている医者。
﹁私はあいつの様子を見てくる。お主はそこでいててくれて構わん
よ﹂
そう言い残して医者は俺の部屋に向かって行った。医者の言葉に甘
えて暫くゆっくりしていると、顔を顰めて戻って来た医者。その表
情に一瞬ドキッとしたが、どうやら部屋が臭かっただけらしい。
﹁もう大丈夫だろう。完全に山は超えている。もう安心じゃ。後は
渡した薬を飲ませ、7日ほど栄養を取らせてゆっくり寝かせていれ
ば、完全に回復するだろう﹂
と医者は言う。そう言って宿屋から出て行く医者に
﹁ありがとうな⋮助かったよ﹂
医者に礼を言うと、クククと笑って医者は言う
74
﹁あの小僧が生き残ったのが良かったのか悪かったのかは解からん
がな。お主にかなりの額の金を使わせたみたいだからな。目一杯働
かないとダメだろう?運が良かったのじゃなくて、運が悪かったの
かもな?﹂
そう皮肉めいた事を言って笑いながら帰って行った。そんな皮肉に
苦笑いしながら、夜には小柄の少年は目を覚ますだろうとの事なの
で、今の内に買い物に出かける事にした。色々欲しい物もあるし調
度良い。俺は、宿屋の主人に出かける旨を伝え、宿屋を後にした。
辺りはすっかり夜の帳が降りている。夜空にはこの世界独特の土星
の様にリングの付いた青い月の優しい光が射している。買い物を済
ませ、今は小柄な少年の傍で様子を見ている。夜には目を覚ますと
医者が言っていたので、それを待っているのだ。
暫く時間を潰していると小柄な少年に動きがあった。
﹁う⋮うん⋮﹂
眠そうな目をゆっくり開ける小柄な少年。寝ぼけているのと、体の
怠さにボーッとなって、状況が把握出来ていないと言った所であろ
う。顔半分までかかった前髪を邪魔そうにしながら目を擦っている。
﹁お!起きたか?大丈夫か?痛い所は無いか?﹂
小柄な少年を見ながら言うと、こちらを見て目をぱちくりさせて居る
﹁え⋮えっと⋮貴方は⋮誰ですか?⋮ここは何処でしょうか?﹂
小柄な少年は俺を見て、そして、辺りをキョロキョロ見回している。
どうやら目も覚めて来て、頭も回転しだした様だ。
75
﹁ここは、俺が宿泊している宿の部屋だ。そして俺は、お前の新し
い主人だ﹂
ゆっくりそう言うが、まだ理解出来ていないのか、え?え?っと混
乱している小柄な少年。俺はゆっくり昨日から今までの事を説明し
ていく。その説明を聞いて、ワナワナ震えながら急に動こうとして
﹁イタ!⋮ウウウ⋮﹂
無理に起き上がろうとして、体の痛みを覚えてピクッとなっている
小柄な少年。
﹁おいおい無理しなくていいよ﹂
小柄な少年を宥めながら言うと、慌てながら小柄な少年が
﹁で⋮でも!ご主人様にご迷惑をおかけするには!それに⋮ベッド
で寝るなんて⋮私は三級奴隷ですし!﹂
まだ動こうとする小柄な少年。このままじゃまた無理をしかねない
ので、最終奥義を出す事にした
﹁お前はまだ動けるような体じゃない。なんせ死にかけていたんだ
からな。なので、体調が良くなるだろう7日間は、ベッドの中でゆ
っくり養生する事!ちなみにこれは命令です!﹂
俺がそう言うと、ピクッとなって大人しくなった小柄な少年。きっ
と﹃命令﹄と言う言葉が効いたのであろう。
奴隷にとって主人の命令に対しては絶対服従。どんな理不尽な命令
であろうとも逆らう事は許されない。主人の命令に逆らえば処分さ
れる。それは、たとえ身分を保証されている一級奴隷でも同じなの
である。
大人しくなった事に少し安堵した俺は小柄な少年に
﹁よしよし。お前お腹空いてるだろう?薬も飲まないとダメだから、
76
夕食持ってくる。大人しくしてろよ﹂
そう言うとコクッと頷いて大人しくしている小柄な少年。俺は宿屋
の主人に夕食を貰い部屋に戻って来た。小柄な少年をベッドの背も
たれにゆっくりもたれかけさせた。まだ体が痛くて動かせないだろ
うと思い、食事を食べさせる事にしたのだ。
今日の夕食は、パン2つと野菜と羊の肉のシチュー。そして、栄養
価の高い果実ジュースだ。俺もさっき食べたがかなり美味しかった。
シチューをスプーンで掬い、小柄な少年の口の前に差し出す。
﹁ほら。あ∼んして。あ∼ん。﹂
そう言うと小柄な少年はキョトンとしている
﹁⋮お前は体が痛くて自分で食べれ無いだろう?だから、体が動く
様になるまで、俺が食べさせてやる。解った?ほら、あ∼んして。
あ∼∼ん﹂
言っている事が理解出来たのか、小柄な少年は恐る恐る小さな口を
開けた。その小さな口にスプーン一杯に掬われているシチューを口
に運ぶ。それをモグモグと食べる小柄な少年。しかし、次の瞬間、
小柄な少年がビクッとなって固まってしまった。
﹁え!?ど⋮どうしたの!?シチュー熱かった!?それとも体に合
わなかった!?﹂
心配になって小柄な少年に言うと、首をフルフルと横に振り
﹁い⋮いえ⋮違うんです⋮その⋮余りにも美味しくて。⋮私⋮こん
な美味しい物⋮生まれて初めて食べました!﹂
そう言って震えながら感動している小柄な少年。まあ三級奴隷なら
一生かかっても食べれる様な物では無いのかも知れない。⋮たかが、
シチューとパンとジュースだというのに⋮
77
﹁そうか⋮それなら良かった。じゃ∼冷めない内に、全部食べちゃ
おうな。ほら、あ∼んして。あ∼ん﹂
薬を飲ませる為と栄養を取らせる為に、次々と口に食物を運んで行
く。余程お腹を空かせていたのか、ペロリとたいらげた小柄な少年。
食欲があるって事は健康と言う事だ。うんうん良いね。
俺がそんな事を思いながら小柄な少年を見つめていると、微かに震
えて涙を流し始めた。
﹁ちょ!ちょっと!どうしたの!?どこか痛くなった!?﹂
突然泣き出した小柄な少年にアタフタする俺。そんな俺を見て、泣
きながらはにかみ微笑む小柄な少年。
﹁いいえ⋮どこも痛くはありません。⋮私⋮人からこんなに優しく
された事が無くて⋮それが嬉しくて⋮嬉しくて⋮﹂
そう言って涙を流す小柄な少年。俺は小柄な少年の頭をポンポンと
優しく叩く。バリバリの汚く固まった顔半分以上伸びている汚い髪
の毛の間から、小柄な少年の微笑む表情が見える。
﹁⋮そうか⋮良かったな。じゃ∼早く良くなって、元気になろうな
!ハイこれ!﹂
そう言って小柄な少年な少年の顔の前に、水に溶かした薬の入った
コップを出した。そして、コップに入った薬を小柄な少年に飲ませ
る。その時、再度体がビクッとなって固まっていたが、何故そうな
ったか今度は安易に理解できたので驚きはしなかった
﹁うええ⋮ご主人様⋮苦いです∼﹂
ものすごく顔を歪めながら、可愛い舌をペロっと出して言う。
そう!この薬はと∼∼ても苦いのです!
昨日、小柄な少年にこの薬を口移しで飲ませ様と口に含んだ時、俺
も同じ事を思った。
78
小柄な少年に口移しをする時に吐きそうになったのは、この小柄な
少年の悪臭だけではない。この薬自体も苦すぎて吐き出しそうにな
る。まさに、良薬口に苦し!を、地で行く物なのだ。
良薬口に苦しを体現するものを指すならば、俺は間違いなくこの薬
を挙げるであろう。それ位なのだ。
地球でもこれ位苦い薬は飲んだ事は無い。異世界怖す⋮
とりあえず、もの凄く効く薬なんで、無理矢理にでも飲ませないと
⋮。
俺は嫌そうにしている小柄な少年のおでこにピシっとデコピンをした
﹁イタタ⋮﹂
そう言っておでこを押さえる小柄な少年。
﹁その薬は、非常に良く効く薬なの!価格も高いんだから、必ず残
さず飲む事!これも命令です!﹂
そう言って、最終兵器を発動させた俺。また、ウウウとなっていた
小柄な少年だが﹃命令﹄を発動されれば、言う事を聞くしかない。
小柄な少年は、ゴクゴクと薬を飲み干していく。
﹃うわ⋮すごい勢いで飲んでるよ⋮俺なら絶対に出来ないね!最終
兵器、命令怖す⋮﹄
そう心の中で呟く。俺はこの薬を口に含む事は二度とごめんだった。
涙目になりながら飲んでいる小柄な少年。ちょっと悪戯した気分で
可笑しくなった俺は、口元がニンマリしていた。
あの小柄な少年を買ってから7日が経った。小柄な少年は順調に回
復して行き、当初はガリガリだった体も、その辺に居る普通の子供
79
の様にふっくら柔らかくなっていた。その結果をもたらしたのは、
あのめっちゃくちゃ苦い良薬と、栄養の有る食物だったであろう。
ま∼歳も若いことだけあって、回復が早いというのも有るのだろう
が。今は生命力溢れ、体は激しく汚れているがきっと血色も良いだ
ろう。動ける様になってからは部屋の中限定で軽い運動もさせてい
たし、今は健康優良児だ。
そして、今日はいよいよとあるミッションを開始すべく、小柄な少
年の居る部屋に向かった。
部屋の中に入ると窓辺に立っていた小柄な少年は俺の元にやって来た
﹁ご主人様!おはようございます!﹂
そう言って元気一杯走って来て、俺の足元で平伏︵土下座︶して、
俺の足の甲に何度も口付けをする。
これがショタ好きのお姉さまなら堪らない状況なのであろうが、あ
いにく俺はロリコ○!
なのでそんな攻撃は俺には効かないんだよ!小柄な少年よ!
心の中でそういう風に決着をつけて、小柄な少年を抱え上げ立たせ
る。
そんな俺を見て顔半分以上汚い髪に隠れてはいるが、微笑んでいる
と解る表情を俺に向ける小柄な少年。その表情を見て俺もつい微笑
んでしまう。⋮むうう⋮俺もショタにやられているのかな!?怖す⋮
しかし、今日は小柄な少年をとあるミッションにかりだすべくここ
に立っているのだ!
こんな事では負けないよ?俺は!俺はやれば出来る子なんです!⋮
多分⋮ううう⋮以下省略。
﹁今日は体を洗いに川に行きます!﹂
そう言って高らかに宣言する俺!勿論、人差し指は窓の外の川の方
?を指している。
そんな俺を見て他人事の様にオオ∼と言って、パチパチ拍手する小
80
柄な少年。
いやいや⋮小柄な少年よ。君を洗う事がメインだからね?俺じゃな
いのよ?え!?心の中が汚れているって!?⋮心は放っておいて⋮
きっと泣いちゃうから⋮⋮ウウウ⋮
﹁とりあえず、準備は万端だから、レッツゴー!!!﹂
そう言って俺と小柄な少年は部屋を出たのであった。
﹃ズ∼∼∼∼∼ン⋮﹄
と、まるで聞こえてきそうな擬音を体全体で醸しだす小柄な少年。
体を洗いに行くのを俺だけと思っていたらしい。
そこで、体を洗いに行くのは小柄な少年がメインで、君はものすご
く汚くてものすごい悪臭を放っていると言ったらこうなった。
まあ∼俺でも同じ事を言われればこうなるのかも?
⋮たまには悪戯もしたくなるよね?だって俺は心が汚れてるから!
⋮キリ!⋮⋮シクシク。
俺は小柄な少年に、この前は何時体を洗ったのか聞いてみた。予想
では半年は洗ってないと予想出来た。
しかし、小柄な少年から帰ってきた答えは、俺の想像を遥かに超え
ていた。
﹁えっと⋮最後に体を拭いて貰ったのは⋮6年前で⋮体を洗った事
は有りません﹂
言いにくそうに小柄な少年は言うと、シュンとなっていた。
つまり、6年前を最後に、体を拭いたりしていない。俺の考えは早
くも瓦解した。
オーケーオーケー。落ち着こう。そんな事もあろうかと、秘密兵器
を沢山用意してきたのだ!
今回のミッションは失敗なんてするはずがない!必ず、コ○ニーを
81
地球に落としてやる!
星の屑成就の為に!ソ○モンよ!私は帰って来た∼!!キリ!⋮本
当に屑にならない様に注意しよう⋮
しかし、どういった経緯でこの様な三級奴隷になったのかが気にな
った。
本来なら、踏み込んで来て欲しくない領域だろうけど、この先当分
一緒に過ごすのだ。
後になるほど聞きにくくなる事なんてのも世の中にはある。なので、
最初に聞く事にした。
小柄な少年は言いにくそうに話し始めた。
小柄な少年は生まれてから塔の中で生活していたらしい。塔の中か
ら出る事は激しく禁止されていたと言う。どういった経緯でそうい
う生活を送っていたかは、本人も知らないらしい。
たまに、母親が塔に現れて一緒に遊んでくれたと言う。母親とはい
つも一緒に居れる環境では無かったらしい。母親はいつも優しかっ
たと言って微笑む小柄な少年。
そして、7歳の時にソレは起こった。何者かが塔のある街を襲った
と言う。何者がどういった事で襲って来たかも当然解らない。
しかし、小柄な少年の母親は、小柄な少年を逃がす為に塔から連れ
出して逃げたという。途中で襲って来た奴らに追いつかれそうにな
り、母親は小柄な少年だけを逃したと言う。それっきり母親とは逢
えなかった様だ。
その後、フラフラしていた所を、あの奴隷館で会った体格の良いむ
っさい男に捕まって、三級奴隷にされて、働かされていたと言う。
そして、6年間働かされてあの奴隷館に売られる所で、俺に買われ
たと言う事だったらしい。
瞳を涙で揺らしながらゆっくりと言った小柄な少年。
その小柄な少年の頭を優しく撫でると涙を流しながら微笑んでいた。
82
川に向かう荷馬車の上、そよぐ風はとても気持ち良かった。
﹁ここが今回のミッション遂行の目的地、ジルレー川です!!﹂
高らかに俺は宣誓する!キリリ!ついでに勝鬨も上げたい気分だ!
パチパチパチと笑顔で拍手する小柄な少年。⋮フフフ決まった!ザ
○とは違うのだよ!○クとは!
今は春先、川の中に入るには若干の冷たさを伴うが、本日は晴天な
り!非常に暖かい。
ジルレー川は川幅15m位の浅くて流れの緩やかな川だ。多くの旅
人が喉を潤し、体を清め洗う。
勿論、文明が発達していないこの世界の川は非常に綺麗だ。沢山の
魚が気持ち良さそうに、光りながら泳いでいる。今回のミッション
にはお誂えの場所だと言える。
俺は今日の為に用意した秘密兵器を川辺に並べる。小柄な少年が興
味津々でそれらを見ている。
フフフ⋮。気になるかね?小柄な少年よ!これで君はビューティフ
ォー少年に生まれ変わるのですよ!
では⋮まず第一段から始めようではないか!
﹁君はさ、良くお腹が痛そうにしているよね?﹂
俺は小柄な少年にそう告げる。小柄な少年はコクコクと頷く。養生
中にもよく言っていた。我慢出来ないほどではないが、よく痛くな
ると。第一段はソレの解消だ!
小柄な少年は、恐らくかなり劣悪な環境で生きてきた事が、見た目
でも聞いた話でも理解出来る。
食物もゴミ同然の不衛生な物しか食べていなかったはずだ。じゃな
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いとあんな栄養失調の様なガリガリの死にかけになるはずがない。
そんな不衛生な食物を食べていると必ず出てくるのだ⋮ヤツが⋮
そう⋮寄生虫だ!
小柄な少年がお腹が良く痛くなるのは、寄生虫が原因だとすぐに解
った。なので用意した!
この⋮虫下しスーパーデラックスを!
この世界でも寄生虫の存在は知られている。この薬はそういった体
内の寄生虫を殺し、お尻から出す効果がある。これでお腹も痛くな
ることは無いであろう!なにせこの薬は、確認されている寄生虫は
すべて殺して出す効果があるらしい。その分高価だけど⋮ううう⋮。
俺は2人分の薬を用意してコップに入れる。ソレの一つを小柄な少
年に渡す。
ソレが薬であると聞いて、小柄な少年の顔が歪む。⋮あの療養中に
飲んだ薬の事を思い出しているのであろう。
確かにアレはトラウマになるよね⋮。
しかし最終兵器の﹃命令﹄発動によって小柄な少年は涙ぐみながら
ゴクゴクと薬を飲んでいく。
しかし、その顔は、アノ薬より苦くなかったとすぐに分かる表情を
していた。
そうか⋮アノ薬まででは無かったか⋮安心安心⋮
人柱の小柄な少年の表情に安心した俺も飲み干した。何故俺も飲む
のかって?
俺は小柄な少年の看病をしていたからさ!オシッコやウンチの始末
もしてたんだよね⋮
まあ⋮尿瓶にしているソレらを捨てたり、お尻を拭いた布を洗った
り⋮それだけなんだけどね。
直接小柄な少年の僕チャンな部分を触ったりはしてません!最後の
84
一線だけは守りたい⋮ショタ怖す⋮
なので、俺も伝染っている可能性があるので念の為にね。初めに飲
ませたのは、効き始めるのに多少時間がかかるからだ。体を洗って
る時に、お尻から排出されるであろう事を小柄な少年に伝えると、
モジモジしながら頷いていた。⋮ういやつめ⋮
では第二段、行っちゃいましょう!
﹁スーパー石鹸とミラクル頭洗い液!︵シャンプーもどきだ!︶﹂
再度小柄な少年がパチパチと笑顔で拍手する。よせやい⋮照れるじ
ゃないか!キリ!
この石鹸とシャンプーもどきは、店の人に一番汚れが落ちる奴と言
ったらこれを進めてくれた。
何でもこれで洗うと見事に綺麗になるらしい。とりあえず最低10
回は体と頭を洗ってやろう。
﹁良し!まず⋮服を脱ぎます!キリ!﹂
キリって言っちゃった⋮グハ⋮
服を脱ぐと言う言葉に、恥ずかしそうにモジモジしている小柄な少
年。
やだ⋮ちょっと⋮このショタっこ可愛いじゃない⋮お姉さんメロメ
ロ⋮俺はお姉さんじゃないけどね!
とりあえず男同士なのだ!裸の付き合いと洒落込もうじゃないか!
⋮健康的な意味でだよ?
俺は服を全部脱いで全裸になる。俺の全裸姿を見てなぜか顔を隠し
ている小柄な少年。
どこまでシャイなんだね君は⋮俺にそんな攻撃は効かないんだぜ?
ヘイ!ボ∼イ!俺はロリ⋮以下同文
俺は小柄な少年に近づき、激しく汚れた男物の奴隷服をスッポーン
と脱がす。
85
小柄な少年は左手で胸を隠して、右手でパオーンチャンを隠してい
る。
⋮君はミロのヴィーナスですか⋮
とりあえず、小柄な少年を川辺に立たせ全身に水をかける。冷たそ
うにしていたが慣れるであろう。小柄な少年は俺に背中を向けて立
っている。そのカラダのラインは華奢で柔らかそうだった。
オオウ⋮小柄なショタっ子め⋮俺を誘惑するとは⋮破廉恥な!
俺はそうツッコミながら石鹸を泡立てていく。まずはその黒ずんだ
肌から綺麗にしてくれよう!
そして、背中から洗って行く。初めはぎこちなくしていたが、気持
ち良いのかなすがままにされるようになる小柄な少年。一回目の背
中洗いを終えてこちらを向かせる。その時再度恥ずかしがっていた
が無視をした。そして⋮こちらに向かせた瞬間に、目に入って来た
物に少し戸惑った。
﹃うん?胸が⋮少し膨らんでいる?﹄
そう心の中で呟いた俺。小柄な少年の胸は可愛いお茶碗位の膨らみ
があった。
子供だから胸が柔らかく膨らんでいるのかな?それとも筋肉?
でも歳は⋮13歳だったはずだし⋮俺もこの歳の頃はこんな感じだ
ったのかな?
それとも⋮違う種族だからかな?
そんな事を考えながら小柄な少年の上半身を洗って行く。
﹁⋮っんうん⋮﹂
胸を洗っている時に、艶かしい声を上げる小柄な少年。
オオウ⋮何かエロイ声あげちゃうよこの子。気持ち良さそうに目を
潤ませて俺を見ている。
イヤイヤイヤ。俺はショタじゃないからその攻撃は無効だぜ?⋮お
86
姉さんなら、確殺だったね!
そして上半身を洗い終えて下半身に移る。小柄な少年はまだパオー
ンチャンを左手で隠していたが、いよいよパオーンチャンとご対面
の時が来た!
俺のパオーンちゃんと何方がパオーンチャンキングか勝負だ!⋮負
けたらどうちよう⋮ドキドキ
さあ!小柄な少年よ!いざ尋常に勝負!
一気に小柄な少年の左手を取り去った。小柄な少年は恥ずかしそう
に俯いている。
そして、小柄な少年のパオーンチャンと勝負しようとしたが、目見
入って来た物に俺は全ての時間が止められた。
不意に上空を眺める。今日は晴天だ。空高くに鳶のような鳥がクル
クル輪をかいて飛んでいる。
そう俺の視力は2.0だ。ここから鳥が良く見える位に。近眼でも
ない、乱視でもない。
ましてや老眼でもないだろう⋮。
良し!深呼吸だ!スーハー。うん落ち着いた。じゃ∼再戦と行こう
ではないか!
もう一度ゆっくり目を凝らして小柄な少年のパオーンちゃんを見る。
しかし⋮そこにあるものは⋮一筋の割れ目⋮。
膨らんだ胸、一筋の割れ目⋮柔らかそうな体⋮この結果から導かれ
るのは⋮
不意に俺は呟く
﹁君は男の子だよね?﹂
静かにゆっくり言うと、急に震えながら小柄な少年から帰って来た
答えは、
87
﹁私は女の子です⋮﹂
少しワナワナしている小柄な少年。
﹁えええええええええええ!!!﹂
思わず声を上げる俺。
パオーンチャンキング決定戦は、小柄な少年の参加不可能によって
俺の不戦勝が決定した。
88
愚者の狂想曲 2 小柄な少年は⋮!?︵後書き︶
☆
89
愚者の狂想曲 3 超美少女マルガ
﹃何時からこうなった?﹄
心の中でそう呟く、パオーンチャンキング暫定チャンピオンの俺。
小柄な少年の参加不可能と言う理由で、不戦勝で暫定チャンピオン
になった俺は、そこからの行動は早かった。素早くネームプレート
を見る。
ネームプレートというのは自身の身分証明書である。役所や冒険者
ギルド、教会や商組合などで発行してくれる魔法の産物である。
ネームプレートは一人一枚しか持てず、魔法で出来ていて偽造や複
製は作れない、素晴らしいマジックアイテムなのである。この世界
に生き、国家に身分を登録している者はほぼ全て持っている。
ネームプレートを見れば、名前、種族、年齢、現住所、スキルやレ
ベル、所有している財産等、全て見る事が出来る脅威のアイテムな
のである。
俺はアイテムバッグからそのネームプレートを取り出す。そして、
開いて所有財産の項目を見る
﹁所有奴隷⋮三級奴隷⋮名前はマルガ⋮種族ワーフォックスハーフ、
年齢13歳、性別⋮女⋮﹂
確かに女と書いてある⋮
そう言えば⋮見た目が汚すぎていたし、男の奴隷服を着ていたから、
俺は男の子だと思い込んでいた。
あの医者も特に何も言わなかったし⋮。あ⋮俺が⋮聞かなかっただ
けか⋮?
元小柄な少年に、性別なんて聞かなかったし⋮。
90
そもそも、男の子なんで特に興味もなかったし、あの時は元小柄な
少年の命がかかっていたから見ている余裕もなかったし⋮。今更な
がら名前を覚えるに至る。
俺は元小柄な少年に目を向ける。元小柄な少年は、まだワナワナし
ながら俯いている。
何か⋮女の子に言ってはいけない事を言った様な気がして来た。
弱々しく彼女の名前を呼んでみた。
﹁マ⋮マルガ?⋮君はマルガって言うのかな?﹂
苦笑いしながら彼女の名前を呼ぶと、ピクッとなって俺を見る
﹁ハ⋮ハイ!私はマルガです!﹂
さっきまでの雰囲気が嘘の様に、嬉しそうに言うマルガ。その証拠
にワーフォックスの特徴である尻尾を、まるで子犬の様にブンブン
と左右に振っている。たまに見せる嬉しい時のマルガの尻尾だ。
何とかさっきの失言をカバー?出来たみたいで、機嫌の良くなった
マルガに近づく
﹁ごめんねマルガ。あんな格好してたから⋮てっきり男の子だと思
っちゃって﹂
苦笑いしながら俺が言うと、首をフルフルと横に振りながら
﹁いいえ⋮いいんです。男物の奴隷服を着てましたし、凄く汚れて
いましたから⋮﹂
そう言ってまた俯くマルガ。ムムム⋮まずいぞ⋮また俯いちゃった
⋮良し!
﹁マ⋮マルガ!とりあえず、君の体を綺麗にしよう!﹂
そう言って半ば強引に体洗いに戻る。再度手に泡を付けてマルガを
91
洗いまくる。
体、頭、全て何回も洗っては流す。そしてまたアワアワにする。口
の中も歯木と房楊枝とミントやアイリスを粉末にして作っている歯
磨き粉を使って、マルガの可愛い歯や口の中も入念に何度も綺麗に
する。さっきまで居た小柄な少年は、アワアワなマルガと変わって
いた。
﹁マルガ、泡を一気に流すからちょっとの間息を止めててね﹂
そう伝えてアワアワマルガを抱きかかえる。キャっと可愛い声を上
げるが、そのまま少し深い所に頭から2人で飛び込む。一気にマル
ガを包んでいた泡が綺麗に流された。
そして、水中から上がって来たマルガを見て、また俺の時間は止ま
ってしまった。
ライトグリーン掛かった美しいブロンドの髪は、緩やかなウエーブ
が掛かっている。綺麗で柔らかく色の白い玉のような肌。華奢だが
女の子を感じさせるスタイル。長い髪をかき上げてやれば、そこか
ら覗かせる髪の毛と同じライトグリーンの透き通る様な瞳、顔立ち
は可愛くも綺麗にも見える、大人と子供の中間の様な美しい顔立ち
⋮俺が理想としている以上の美少女が目の前に出現した。
﹁め⋮女神⋮!?﹂
思わずそう呟いてしまった。いや⋮呟かなければいられなかったと
言うのが正解だ。
マルガは俺の呟きが聞こえ無かったらしく、ライトグリーンの透き
通るような大きな瞳をパチクリさせて俺を見ている。暫くお互いを
見つめ合っていたが、マルガが小刻みに震えだした。
どうやら、体を洗う前に飲ませた虫下しが効いて来た様だった。
﹁ご⋮ご主人様⋮何か⋮お尻がムズムズします⋮﹂
92
そう言って身悶えながら、顔を赤らめ瞳を潤ませている。その表情
に俺の心は鷲掴みにされた。
マルガの細く、くびれた腰をギュット引き寄せ、マルガを腕の中に
抱く。身長ギリギリ130㎝のマルガは、俺の胸にギュットしがみ
ついていた。マルガのお尻を見ると死んでいる寄生虫が、お尻の穴
から出て来ていた。腕の中で身悶えるマルガを胸で感じながら、俺
はマルガのお尻の穴から出てきている寄生虫の死骸を掴む。
﹁あっうん⋮﹂
マルガが艶かしい声を上げ身悶える。顔を赤らめ甘い吐息が胸にそ
よぐ。
俺はその死骸をゆっくりと引き出して行く。更に身悶え甘い吐息を
上げるマルガ。マルガの甘い吐息を感じながら次々と死骸を引き抜
いていく。マルガは身悶えながらしっかりと胸の中でしがみつく。
俺はそんなマルガが可愛くて我慢出来無くなっていた
﹁マルガ⋮目を閉じちゃダメ⋮こっちを向いて俺を見て⋮﹂
そう言って、空いている手でマルガの顎を掴みこちらを向かさせる。
必死になって俺を見るマルガ。目は潤んで顔を更に赤くしている。
口からは甘い吐息を吐いている。
俺は我慢出来無くなってその甘い吐息に誘われる様にマルガの唇に
自分の唇を重ねる。
﹁う⋮んん⋮﹂
マルガの口の中に舌を滑り込ませる。マルガの口の中を堪能し舌を
弄ぶ。マルガも必死になって俺の舌に絡みつかせてくる。
当然、俺の下半身は大きく膨らんでいる。俺のモノをマルガの柔ら
かい肌のお腹にこすりつける。
そんな俺を感じて、マルガは俺のモノをギュッと握って来た。マル
ガの柔らかく小さな手が、俺のモノを優しく握る。
93
気持ち良くて、マルガの口の中を蹂躙するのも力が入る。俺はマル
ガのお尻の穴から死骸を引き出しながら、マルガの口の中を舌で蹂
躙し、マルガはソレに答え舌を絡め、オレのモノをどんどん刺激し
て行く。あまりに気持ち良くて絶頂を迎える。マルガの可愛く小さ
な胸に俺の白い精液が飛び散る。
そして俺も残っていた死骸を一気にお尻の穴から引き出す。マルガ
も身を強張らせて身悶える。死骸は全て取り除かれた様だった。
俺はマルガの胸に飛び散っている精液を指で掬いマルガの口の中に
指事入れると、マルガは両手で俺の手を掴んで精液ごと舌で舐めて、
綺麗に飲み込んで行く。全ての精液をマルガの口の中に入れ口を開
けさせる。
マルガはコクコクと喉を鳴らして精液を飲み干す。そして飲み干し
た所で再度口を開けさせる。きちんと飲みましたと解る様にだ。そ
れを見て俺は至上の幸福を感じる。
﹁可愛かったよマルガ⋮﹂
そう言って俺はマルガにキスをする。マルガは嬉しそうに俺に抱き
つく。
二人は煌めく清流の中で暫く抱き合っていた。
﹁クチュン⋮﹂
季節は春先で暖かいが、流石に全裸で水の中に長く居ると寒くなる。
俺とマルガはまだ全裸で川の中に居た。マルガが寒そうにしている
﹁マルガ⋮一度川から上がろうか⋮﹂
94
俺は恥ずかしくなってそう言うと
﹁ハイ⋮ご主人様⋮﹂
マルガも恥ずかしそうに小声で言う。二人は川から上がって布で体
を拭く。そして用意しておいた焚き火に火を付ける。
﹁ご主人様⋮暖かいです⋮﹂
マルガは俺の隣に座り薪にあたっている。マルガを引き寄せ顎を掴
みキスをする。
マルガの口の中に舌を入れ、マルガの柔らかく甘い口の中を堪能す
る。マルガの顔を見ると真っ赤になって目を潤ませてこちらを見て
いる
﹃う⋮が⋮我慢出来無くなるなこれは⋮﹄
思わず心の中で呟く。まだ洗わなければならない所があるので、ぐ
っと我慢する事にした。
﹁マルガ⋮まだ洗わないとダメな所もあるし風邪引いたら大変だか
ら、先に済ましちゃおうか﹂
そう言うと、ハイと元気良く言うマルガ。再度川辺に立ち水をかけ、
マルガをアワアワにして行く。
今使っているのは殺菌効果のある石鹸だ。毛じらみ等を全て排除し
てくれる。マルガは長い間不衛生だったのでこれも買っておいた。
全て洗い終え、最後の仕上げに上等な石鹸とシャンプーもどきを使
って洗って行く。水で洗い流し布でマルガのを拭いてやる。マルガ
からはほんのり石鹸の良い香りがする。それに満足した俺。
﹁うんうん!綺麗になったねマルガ。良い香りになってるよ﹂
微笑みながら言うと
95
﹁ハイ!ありがとうございますご主人様!⋮気持ち良かったです⋮﹂
そう言って嬉しそうに顔を赤らめるマルガ
どっちが気持良かったのだろう⋮?体を洗う時も秘所も念入りに洗
ってあげたし⋮
あの時のマルガの顔と身悶え方は⋮可愛かった⋮良く我慢出来たよ
俺!頑張った!
ま⋮口の中は舌で蹂躙させてもらったけどね!
綺麗に拭き終わったのでマルガに服と靴を渡す。
﹁こ⋮これを私が着ても宜しいのですか?靴まで⋮﹂
そう言いながら受け取った服と下着、それと靴を見て感動している。
通常奴隷は一級奴隷を除いて、下着どころか靴も履かせて貰え無い
事が多い。いつも裸足なので二級奴隷や三級奴隷の足の裏は、まる
で象やサイの様に足の裏の皮が硬くなっている。
﹁男物でごめんね。今まで着てたあの服なら、もう薪で燃やして処
分しちゃうから、街で服を買うまでそれを着てて。でも⋮マルガは
三級奴隷だったのに足の裏も綺麗だし、どこも労働していた様な後
は無いよね?﹂
そう、マルガは裸足なのだが、足の裏はとても柔らかく綺麗だった。
俺よりも柔らかいと言って良い。
他も手も柔らかく綺麗で不思議に思っていたのだ
﹁えっと⋮それは、私が働かせられていた所は、歩く必要の無い所
だったんです。寝る所から労働場迄は30m位の距離しかなくて、
やっていた仕事も針仕事だったので⋮。ほとんど歩かなかったので
す。私は力が無かったので、その様な事をやらされていました﹂
マルガは説明してくれた。なるほど⋮そういう事だったのか。
﹁とりあえず着替えて街に帰ろう。街に帰ったらマルガの髪を切っ
96
て貰って、そこから夕食にしよう﹂
そう言うと、マルガはモジモジしながら
﹁か⋮髪の毛まで切って頂けるんですか!?﹂
うんと言うと、尻尾をパタパタさせて喜んでいる。やっぱり女の子
なんだな∼。
着替えを済ませ片付けもして、荷馬車に乗り込みラングースの街に
戻る。
街の警備兵に滞在許可書を見せ理髪店に向かおうとした時に声を掛
けられた。
振り返ると、そこには先日の奴隷館に居た小太りの男がニコニコし
て立っていた。
﹁これはどうも。この間は大変でございましたね﹂
ニコニコしながら言う話す小太りな男。
そう言えばこの間、何も告げずに奴隷館から飛び出して来た事を思
い出して気まずくなった。
﹁あ⋮いえ⋮こちらこそすいませんでしたね。勝手に何も告げずに
出て来てしまって﹂
苦笑いしながらそう言うと、ハハハと笑いながら
﹁いえいえ、いいんですよ。私も二階から事の次第を眺めていまし
たから。それに、こちらもきちんと利益は挙げさせて貰いましたか
ら﹂
そう言って笑う小太りの男。俺はどこで利益が上がったのか解らな
かったが、気にしてくれてないみたいなので内心ほっとして苦笑い
した。
そして、荷馬車で俺の隣に座っているマルガを見てニヤっとする小
太りの男
97
﹁どうやら、別の奴隷を買われたみたいですね。⋮確かにあの3人
じゃそちらの奴隷には勝てませんな﹂
そう言って笑う小太りの男
﹁いあ!違うんです。この子はあのもめた時に買った三級奴隷です
よ。余りに汚れていたので、僕もさっきまでは男の奴隷だと思って
いたんですけどね﹂
そう言って苦笑いする俺。マルガはシュンとなっていたが、頭を撫
でてやると尻尾を振っている。
機嫌は直った様だ。
﹁そ⋮そうなんですか⋮フム⋮どうやら金貨20枚以上の価値があ
った様ですね﹂
マルガを見ながら言う小太りの男
﹁⋮そうですね。結果的には﹂
苦笑いする俺を見てアハハと笑う男。マルガは何の事か解らずキョ
トンとしている。
﹁そう言えば、これからどこかに向かわれるのですか?﹂
俺はこれからマルガの髪を切りに理髪店に行く事を伝える。すると、
何かを考えて
﹁三級奴隷に理髪店で髪をですか⋮。フム⋮でしたら、私の知って
いる理髪店に案内いたしましょう。私達の奴隷もそこで髪を切らせ
ています。価格も適正で、腕も確かですから﹂
そう言う小太りの男。普通この世界では髪の毛などは、一般庶民で
あれば家族の者や知り合いに切って貰う。
理髪店に行く、又は呼ぶ等するのは極一部で、裕福な家の者しか利
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用しない。ましてや、奴隷の髪を切らせるなどは一級奴隷位で、二
級、三級奴隷はマルガの様にほったらかしか、奴隷同士で切らせる
と言った所なのだ。奴隷館にいる奴隷は商品である事、特に一級奴
隷は見た目が重要なので理髪店を利用しているらしい。
奴隷の髪を切ってくれている所なら変な偏見も普通の所よりマシだ
ろうと思い、小太りの男に案内して貰う。そして、理髪店に到着す
ると髪結いを紹介して貰う。
﹁私は一度、館に戻ります。貴方様に渡したい物がありますので﹂
そう言い残して理髪店から帰る小太りの男。渡したい物とは何だろ
う?そんな事を考えながら、髪結いにマルガの髪をこの様にして欲
しいと伝える。
髪結いがマルガの髪を切って行く。俺はテーブルに出された紅茶を
飲みながら、椅子に座って切り終わる間休憩していた。暫く紅茶を
呑みながら待っていると切り終わった様だ
﹁如何でございましょうか?﹂
髪結いの女主人が俺に聞いてくる。髪を切られたマルガは、肩まで
のセミロングに綺麗に切られている。ライトグリーンの綺麗な髪が
若干癖のある緩やかなウエーブでフェミニンな感じを醸し出し、可
愛くも綺麗にも見えるマルガの顔に良く似合っていた。
﹃か⋮可愛い⋮もの凄く⋮好みだ⋮﹄
思わずマルガに見蕩れてしまった。そんな俺の視線を感じてマルガは
﹁ど⋮どうでしょうか?ご主人様⋮﹂
マルガはモジモジしながら恥ずかしそうに聞いて来る。
﹁うん!凄く似合ってるよ!可愛いよマルガ﹂
素直な感想を述べるとマルガは嬉しそうに尻尾をパタパタさせてい
99
る。髪結いの主人に礼を言って料金を支払う。
その時、あの小太りの男が店に入って来た。
﹁おお、ちょうど終わったみたいですね。フムフム見違えましたね﹂
そう言って笑う小太りの男。そして、俺の前に来て割と大きな鞄を
俺に差し出す。
その鞄を開けると、中にはメイド服やら靴がセットで入っていた。
俺が困惑していると
﹁これは、この間お約束していたメイド服セットでございます。サ
イズを少し直せば、そちらの奴隷にも合うと思います﹂
そう言ってニコニコ笑う小太りの男
﹁で⋮でも⋮俺は、貴方の店で何も買ってませんし⋮﹂
俺が困惑しながら言うと
﹁いえいえ。先ほど申しました通り、あの一件で私共も利益は出ま
したので﹂
そう言って、訳を説明してくれる。
俺がマルガを抱かえて奴隷館を飛び出した後に、あのむっさい男か
ら金貨20枚の内、半分を取り上げたとの事。
もともと、奴隷館に二束三文で売る予定だった事に加え、奴隷館の
客を取った事への金だと言って巻き上げたらしい。
﹁あいつの持ってくる奴隷は、いつも品質の悪いやつばかりでして
ね。お情けで買ってやっていた所が大きいのですよ。それに、あい
つの奴隷調達の方法は、公に出来無い所の方が多いですからね。少
し圧力をかければこちらには逆らえませんからね﹂
そう言って笑う。マルガはまだ解っていない様だった。
100
﹁でも⋮そうだからと言って、俺がこれを貰っても良いんですか?﹂
﹁ええ!言い方を変えれば、貴方のお陰で儲かった様な物。こちら
は元手を掛けずに大金を手に入れたんですからね⋮それに⋮﹂
﹁それに?﹂
不思議そうに俺が言うとニコッと笑って
﹁珍しいものも見れましたしね⋮奴隷最下層の三級奴隷を助けるっ
ていう人を﹂
そう言って笑う小太りの男。俺は苦笑いしながら礼を言って、あり
がたく頂く事にした。マルガはまだキョトンと首を傾げていた。
﹁まあ、これからもご贔屓にお願いします。あ!まだ名前を言って
そら
ませんでしたな。私はガリアス奴隷商店で番頭をやっておりますラ
ングリーと言います﹂
あおい
﹁あ!俺は、行商や冒険者ギルドで仕事をしてます。葵 空です﹂
そう言って握手を交わす2人。その時、ラングリーが耳元で囁く
﹁余計なお世話かも知れませんが⋮葵様の三級奴隷⋮早く役所で一
級奴隷に登録を変更した方が良いかも知れませんよ?﹂
そう、耳打ちしてくれるラングリー。その意味を解った俺は
﹁ええ⋮解っています。明日にでもそうしようと思っています﹂
微笑みながらそう答えると、うんうんと頷くラングリー。
ラングリーと別れを告げて宿屋に帰る事にした。
このままマルガを連れて酒場にでも夕食を食べに連れて行ってあげ
ようかと思ったけど、マルガはまだ三級奴隷なので酷い扱いを受け
かねないとラングリーから忠告を受けたのだ。
俺とマルガは宿屋に帰って来た。もう日は傾いて、そろそろ夜の帳
が下りるだろう。
101
宿屋の主人に夕食を頼んで部屋で食べる事にした。
﹁ご主人様!ご夕食美味しいです!﹂
感動して食べるマルガ。養生中から食べていると思うんだけど、マ
ルガは毎回感動している。
マルガが嬉しそうに食べているのを見て微笑ましく思う。うん可愛
いね。
夕食を食べ終わって休憩している時に、マルガはラングリーとの話
を思い出して聞いて来た。
マルガにあの日の事を説明する。マルガは申し訳なさそうに
﹁本当に⋮有難うございましたご主人様⋮﹂
そう言って、ベッドに座っている俺の足元に平伏して足の甲に何度
もキスをする。
慌ててマルガの脇に手を入れて抱きかかえ、俺の座っているベッド
の隣に座らせる。
﹁もういいんだよ。マルガも無事に助かったんだし﹂
そう言って、優しくマルガの頭を撫でると、目に涙を浮かべながら
微笑んでいるマルガ。
俺は今日考えていた事をマルガに話す為に俺の方を向かせる
﹁マルガ大切な話があるんだ。俺の話を聞いて、マルガに何方か選
んで欲しいんだ﹂
マルガはいつになく真剣な俺の雰囲気を感じてゆっくりと頷く。
﹁マルガ⋮君には2つの道を選ばせてあげよう。二つの道というの
は、このまま俺の奴隷として永遠に俺に服従するか、奴隷から解放
されて自由に生きるかだ﹂
話を聞いたマルガは予期せぬ言葉に言葉を詰まらせていたが、気持
102
ちを必死で落ち着かせた様で聞き返してくる
﹁そ⋮それは、どういう事でしょうか?⋮やっぱり私の事がお邪魔
なので捨てると言う事でしょうか?﹂
マルガは目を潤ましながらそう言うと俯いてしまった。
﹁そうじゃないよ。⋮俺はマルガ自身の意思を俺に見せて欲しいだ
けなんだ。自分の意思で俺に永遠の服従を誓うのか⋮自由を選ぶの
か。奴隷から解放されて自由を選ぶなら、多少のお金も持たせてあ
げる。もう惨めな思いもする事は無い。⋮マルガ⋮君はどうしたい
?君の意思を教えて﹂
そう俺が告げると、マルガの瞳は戸惑いの色を見せる。
﹁さあ⋮選んで⋮。永遠の服従か⋮自由か⋮﹂
マルガの顎を掴み瞳を覗き込む
﹁わ⋮私⋮は⋮﹂
マルガの綺麗なライトグリーンの瞳の中の俺の姿は微かに揺れてい
た。
しかし暫くすると、戸惑いに揺れていた瞳は何かの意志を秘めたか
の様に輝き出す。
﹁私は⋮ご主人様の奴隷として⋮生きて行きたいと思います!﹂
俺の瞳をしっかりと見つめて言うマルガ。
﹁本当にいいの?もう二度と奴隷から解放してあげないよ?﹂
右手をマルガの頬に添える
﹁はい⋮私はご主人様の奴隷になりたいです⋮﹂
マルガは頬に添えられている手を優しく握ってくる
103
﹁今日⋮川でした様な事をいっぱいされるんだよ?それ以上の事も
⋮いいの?﹂
今度は左手をマルガの頬に添える
﹁はい⋮私の体で良ければ⋮何時でも好きな様に使って下さい⋮﹂
マルガは頬に添えられた左手にも手を重ね優しく握ってくる
﹁⋮じゃあ⋮ここで誓えマルガ⋮﹂
マルガの顔を両手で挟み込んで、その美しいライトグリーンの瞳に
命令する。
﹁私⋮マルガは⋮ご主人様に全て⋮身も心も捧げます⋮私は永遠に
ご主人様の奴隷です⋮﹂
ゆっくりと大きな声ではなかったが、はっきりと聞き取れる声で言
うマルガ。
その瞳に映っている俺の姿は揺れていなかった。
﹁解った⋮マルガは⋮俺の奴隷だ⋮永遠に⋮もう⋮離さないからな
!﹂
そうマルガに告げて、マルガの総てを掴む様にきつく抱きしめる。
﹁はい⋮私の全てはご主人様の物です⋮永遠に⋮﹂
マルガもソレに答えるように、ギュっとしがみついて来る。
俺はこの夜、マルガの全てを奪い蹂躙し犯し、完全に自分の物にす
る事にした。
104
﹁う⋮うん⋮﹂
マルガの口の中を舌で蹂躙し舐め回す。マルガは甘い吐息を漏らし
ながら必死で舌を絡めてくる。
マルガをゆっくりベッドに寝かせ服を脱がそうとした時に、マルガ
は申し訳なさそうに言う
﹁ご主人様⋮私はこういう事をするのが⋮初めてでして⋮ご主人様
にきちんとご奉仕できないかも知れません。⋮きっとご主人様に喜
んで頂けるご奉仕が出来る様に頑張りますので、私に失望なさらな
いでくださいませ⋮﹂
マルガは少し震えて目を潤ませながら見てくる。
俺はマルガの言葉に驚いた。マルガは三級奴隷。俺はとっくにマル
ガの処女は奪われてしまっているものだと思っていた。
しかし良く考えてみたら、男の奴隷服を着てあんなに汚れて激しい
悪臭を放つ少年に見える三級奴隷を、どうにかしたい奴など居るは
ずがない。余程な趣味じゃない限りは。
俺は喜びに震える。マルガの処女を⋮全てを蹂躙し犯す事が出来る
事を⋮
﹁ううん⋮逆に嬉しいよ⋮﹂
そう呟いて、マルガの首筋に舌を這わせる。ピクッと身悶えるマル
ガ。そのまま口まで舌をはわし、マルガの舌をゆっくり味わう。
﹁マルガの初めてを全て奪う⋮解った?﹂
マルガの舌を弄びながらそう言うと
﹁はい⋮ご主人様に、私の全ての初めてを捧げます﹂
マルガは必死に舌を絡め答えてくる。俺は地球から持って来たある
物をアイテムバッグから取り出した。そして、それらをセットして、
105
ベッドの上のマルガの服を脱がしていく
﹁ご主人様⋮あれは何ですか?﹂
見た事の無い物に興味を惹かれたみたいであった。ベッドの近くま
で寄せられたのレンズを見てニヤッとする俺。
﹁あれはね⋮今後のお楽しみ﹂
そうだけ告げて全裸になったマルガを見る。
柔らかい玉のような白い肌、小さく控えめだが柔らかい女の子らし
い胸には、ピンク色に乳首が恥ずかしそうに乗っている。下腹部の
割れ目はまだ毛も生えておらず、軽く撫でるとツルツルしていて気
持ち良かった。そんな俺を見て顔を真赤にして恥ずかしそうに俺を
見るマルガ。
もう我慢出来なかった。マルガの唇を吸い、舌で蹂躙しながら可愛
い胸を揉みしだく。
﹁ん⋮ふっ⋮ん﹂
可愛い吐息を漏らしながら、ギュッ抱きしめてくるマルガ。そんな
マルガの胸まで舌を這わせ、ゆっくり、ゆっくりピンク色の乳首の
周りを舌で弄ぶ。
マルガはキュッと抱く力を強める。そしてマルガの可愛いピンク色
の乳首を一気に口の中に含み舌で弄ぶ。身悶えているマルガ。両方
の乳首を交互に舌で弄ぶ。
﹁ご⋮ご主人様⋮き⋮気持ち良い⋮です⋮﹂
吐息混じりにそう漏らすマルガ。胸も十分ほぐれて来た所で、まだ
毛も生えていない一筋の割れ目に手を這わせる。柔らかい割れ目を
広げると、マルガの秘所は既にヌレヌレになっている。
そして、ゆっくりとマルガの豆の部分を嬲るようにしつこく指で弄
ぶ。
106
﹁あ⋮んっあっ⋮はあ⋮﹂
マルガは甘い吐息を更に撒き散らす。余程気持ち良いのか、俺の手
の動きに合わせて腰を動かし、俺の手に秘所を擦りつけてくる。マ
ルガの秘所から手をのけて、マルガの顔まで持っていく
﹁ほらマルガ⋮。マルガの大切な所はこんなになってるんだよ?﹂
﹁とっても⋮気持良くて⋮恥ずかしいです⋮﹂
マルガの愛液でいっぱいの手を見せて、マルガの可愛い口の中にそ
の指を入れる。マルガは舌を絡めながら指を舐め回している。マル
ガの舌が気持ち良い⋮
マルガをベッドに座らせる。そして、胡座をかいて俺も座る。マル
ガを引き寄せ唇を吸う。
マルガの右手を取り俺のモノを握らせる
﹁さあマルガ⋮その可愛い口で、俺のモノに奉仕するんだ⋮﹂
﹁解りました⋮ご主人様⋮﹂
俺はモノをマルガの頬に擦りつける。マルガは俺のモノを両手で優
しく掴むと、小さい口を目一杯開けて俺のモノを口の中に含む。マ
ルガの柔らかい舌や唇、暖かい唾液が俺のモノを包みこむ。マルガ
は必死に舌を絡め、顔を動かして俺のモノに奉仕していく。
﹁マルガ⋮オレを見ながら奉仕するんだ﹂
マルガにこっちを向かせる。俺のモノを咥えながらマルガは顔を赤
くして、目を潤ませながら微笑んでいる。胡座をかいて座っている
俺のモノに奉仕しているマルガは犬のような格好をして、尻を突き
出しながら奉仕している。マルガの口の初めてを奪った事の興奮も
合わさって、我慢出来き無くなって来た。
﹁マルガ⋮俺のモノは美味しい?﹂
107
﹁はい⋮とっても美味しいです⋮ご主人様⋮﹂
﹁よし⋮なら、ご褒美にマルガの口に⋮精液をくれてやる﹂
そう言って、マルガの頭を強引に掴んで激しく俺のモノに奉仕させ
る。マルガは少し苦しそうに顔を歪めるが、その表情がまたオレを
刺激する。マルガはイマラチオをされながら、必死に舌をオレのモ
ノに絡め奉仕してくる。オレは余りの気持ち良さに絶頂を迎える
﹁イクぞマルガ!口の中で全て受け止めて、全部吸いだすんだ!﹂
﹁はい!ご主人様!﹂
マルガの頭を抑え一気に腰を振り、マルガの口の中に精液を放出す
る。マルガは必死にオレの精を受け止め、吸い出している。全ての
精を出し終えマルガの口から一物を引きぬく。ヌロっといやらしく
糸を引く
﹁マルガ⋮口を開けて﹂
マルガは命令されたまま口を開ける。マルガの小さい口の中には波
々とオレの精液が見える。
﹁マルガ⋮俺の精液をよく味わって、全て飲み込みなさい﹂
そう言うとコクッと頷いて、マルガはクチュクチュとオレの精子を
口の中で味わいながらコクコクと飲み干していく。そして、飲み干
しましたと言った感じに口を開け俺に確認させる。
﹁全部味わって飲み込んだね﹂
﹁はいご主人様⋮精を口に頂きましてありがとう御座いました﹂
そう言って嬉しそうに微笑むマルガの顎を引き寄せ唇を重ねる。
﹁マルガのお口の初めて可愛かったよ﹂
そう言って、頭を優しく撫でると、嬉しそうに真っ赤になるマルガ。
﹁じゃ∼今度はマルガを可愛がってあげるよ﹂
108
マルガの腰を抱き寄せ、マルガの秘所に顔を埋める。マルガの秘所
は愛液が流れだし、キラキラとヌメっていた。指で秘所を広げると、
可愛いピンク色の膣が見える。もう少し広げるとマルガの処女膜が
見えた。俺は我慢出来なくなり、顔をマルガの秘所に埋め、マルガ
の秘所を味わう。甘い吐息を吐いて身悶えるマルガ
﹁マルガ⋮マルガの処女膜舌で舐めてあげるね⋮﹂
﹁は⋮はい⋮ありがとうご⋮ざいます⋮﹂
マルガは身悶えながら言う。俺はマルガの今日無くなってしまうで
あろう処女膜を舌で十分に堪能する。マルガの口から艶かしい声と
甘い吐息が漏れている。そのまま舌をマルガの菊の部分まで持って
行き、マルガの菊の部分も丹念に愛撫して行く。
﹁ご⋮ご主人様⋮そんな所⋮汚いで⋮す﹂
マルガは身悶えながら恥ずかしそうに言う。
﹁今のマルガに汚い所は無いよ⋮。全部舐めてあげるね﹂
そう言うと俺はマルガの菊の部分を舐めたり舌を入れたりと弄ぶ。
マルガは相変わらず身悶え、甘い吐息を撒き散らせている。マルガ
の秘所は煌く愛液で輝いている。
﹃これぐらい濡れていれば問題ないな⋮﹄
心の中で呟く。マルガを仰向けに寝かせ、その上に覆いかぶさる。
﹁マルガお前の処女を奪うからね⋮。優しくはしない⋮全力で犯す
からね⋮一生に一度の⋮マルガの処女の喪失している時の顔を存分
に見たいから⋮さあ⋮おねだりしてごらん⋮﹂
そう言って、マルガにキスをすると、マルガは両足を開いて、両手
で自身の秘所を広げる。
109
﹁ご主人様⋮マルガの処女を捧げます⋮存分に奪って下さい⋮﹂
﹁ああ⋮解った⋮﹂
俺はマルガの足の間に腰を入れていく。マルガの秘所の入り口に俺
のモノを持っていく。
マルガは体を一瞬強張らせる。入念にマルガの秘所を俺のモノでこ
すりつける。俺のモノはマルガの愛液で艶かしく光っている。十分
にマルガの愛液をつけたモノをマルガの秘所にめり込ませていく。
マルガはキュッと足の指を強張らせている。徐々にマルガの誰も入
った事の無い秘所に入って行く。
ミチミチと音を立てそうなマルガの秘所。亀頭が入った所で一気に
奥まで貫く。
﹁イッ⋮は⋮んっうん⋮﹂
マルガは大きく声を上げ体を震えさせた。
俺のモノは処女膜を破って、マルガの大切な秘所の一番奥に到達し
ている。マルガの膣の中は、初めての男を向かえ入れた喜びを表す
様に、ピクピクと俺のモノを刺激する。
俺はマルガの顔を両手で抑え顔を見る。僅かに目に涙を貯めている
マルガは、嬉しそうに俺を見ていた。
﹁⋮マルガの処女膜を破ったよ⋮。俺のモノを咥えちゃったね⋮﹂
﹁はい⋮ご主人様に私の処女を奪って貰えて⋮嬉しくて幸せです⋮﹂
マルガは涙を流し微笑みながら言う。その表情にゾクゾクとする。
﹁マルガ⋮これから全力で動くから⋮その初めての表情をもっと俺
に見せて⋮﹂
﹁ハイ⋮ご主人様⋮私の初めての全てを見て下さい⋮﹂
俺はマルガの顔を抑えこんで、口の中に舌を滑り込ませる。マルガ
も必死で俺の舌に絡みつかせてくる。それと同時に、マルガの秘所
を突き上げていく。
110
﹁ん⋮ふっん⋮ん⋮﹂
マルガは甘い吐息を上げている。俺に舌を弄ばれ、秘所をモノで蹂
躙されて、マルガは玉の様な汗を流している。舌を弄ばれる度にマ
ルガの可愛い膣は、俺のモノをキュンと絞めつけてくる。
その刺激が余りにも可愛くて、俺は我慢出来無くなっていた。
﹁マ⋮マルガ!出すよ⋮マルガの可愛いアソコの中に、一杯精液出
すからね!﹂
﹁ハイ!私の⋮私の中に沢山注いでください!﹂
マルガは甘い吐息混じりに俺の目を見ながらそう言うと、俺の口に
舌を滑り込ませて来た。
マルガの柔らかい舌を蹂躙しながら激しく腰を振る。マルガは一層
甘い吐息を上げる。
そして限界を迎えた俺は、一気にマルガの可愛い膣の中に精を放出
する。
大量の精がマルガの中に染みこんで行く。
マルガは膣でそれを感じたのか、恍惚の表情をしている。俺は脱力
感を覚えマルガに覆いかぶさる。
﹁マ⋮マルガ⋮出したよ⋮マルガの可愛い膣に一杯⋮精子出してあ
げたよ⋮﹂
俺のその言葉に、マルガは俺にキスをせがんでくる。再度マルガの
舌を堪能する。
﹁ご主人様⋮マルガに精を注いで頂いて⋮ありがとうございます⋮﹂
目を潤ませ赤く紅潮して微笑んでいるマルガの顔は、どんな物より
可愛かった。
﹁これで⋮マルガは俺だけの物だからね⋮﹂
111
﹁はい⋮マルガはご主人様だけの物です⋮ご主人様専用です⋮ご主
人様の物になれて⋮私⋮幸せです﹂
マルガは涙を流しながら微笑む。
俺はマルガをギュット抱きしめる。マルガもそれに答え、全て包み
込むように抱き返してくれる。
俺を抱きしめるマルガが愛らしくて、愛おしくて、そのまま離れる
事が出来無かった。
眩しい日差しが窓から射している。小鳥の囀りが心地良く聞こえて
来た。どうやら今日も晴天の様だ。
俺はベッドの中で目を覚ます。そして、腕の中に包まれている、柔
らかく、暖かい、甘く優しい香りのする、愛おしい女神の様な美少
女に目を向ける。どうやら昨日、あのまま寝てしまった様だ。
﹁スースウー﹂
マルガは気持ち良さそうに胸の中で寝息を立てている。マルガの額
に優しくキスをする。すると、ピクッと体を動かす
﹁ん⋮うん⋮﹂
マルガは可愛い目をゆっくり開けてぱちくりさせる。そして、俺の
顔を見つけて微笑みながら
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
そう言って俺にキスをする。マルガの柔らかくて暖かい舌が、俺の
口の中に滑りこんでくる。
俺は抱きしめながら、マルガの舌と口の中を十分に堪能する。
112
これから朝起きる時は必ずキスをするように言ったら、喜んで了承
してくれた。
十分にマルガを堪能し終え顔を離す
﹁マルガおはよう﹂
微笑みながら言うと、頬を赤らめてニコッと笑うマルガ。
⋮可愛い⋮やっぱりマルガ⋮可愛いよ!
そんな事を考えていたら、当然俺の下半身は元気になっていた。ソ
レに気が付いたマルガは、俺のモノを優しく握り
﹁ご主人様辛そうです⋮。こちらも毎朝ご奉仕致します⋮﹂
そう言って、マルガは俺の下腹部まで顔を埋めていく。
そして、可愛い口で俺のモノを愛撫し咥えていく。マルガは暖かい
口の中で舌を動かし、俺のモノを吸って行く。
﹁マルガ⋮気持ち良いよ⋮﹂
マルガの頭を撫でながら言うと、マルガは優しく微笑む。
朝の過敏な時にマルガの口でして貰っているので、あっという間に
達してしまった。
マルガの口の中に精を放出すると、マルガはコクコクと精を飲み干
していく。
すべて飲み終わった所で、マルガは口を開けて飲みましたと解る様
に俺に見せる。
マルガをキュッと抱き寄せ、
﹁マルガ⋮可愛かったよ⋮﹂
そう言うとマルガは顔を赤く染めて満面の笑みで
﹁ありがとうございます⋮ご主人様⋮﹂
ギュッと抱きついてくるマルガ。2人はそうやって抱き合っていた。
113
暫くゆっくりとベッドの中でマルガを抱いていたが、お腹が空いて
来たのかグウ∼とお腹の虫が鳴いた。
マルガと顔を見合わせて笑う。もう少しマルガを抱いて居たかった
が、今日は出かける所が有る。
マルガに出かける旨を伝えて準備をする事にした。
着替え終わり宿屋の主人から朝食を貰い2人で食べる。マルガは相
変わらず美味しそうに食べている。マルガはまだ男物の服を着てい
た。昨日貰ったメイド服のサイズ直しがまだ終わってないのだ。
まあ⋮昨日はマルガちゃんを可愛がって⋮そのまま寝ちゃったしね!
帰ってからマルガの好きにさせよう。
朝食も食べ終わり宿屋を出た。
﹁ご主人様。これからどこに行かれるんですか?﹂
マルガはニコッと笑いながら言う。⋮可愛いよマルガ!
﹁うん、午前中は2つ位かな?とりあえず付いて来て﹂
そうマルガに言うと、ハイ!と返事をして俺についてくる。
暫く行くと、少し小さめの商店に到着した。マルガには店の前で待
っていて貰って中に入って行く。その店には色々な装飾品が飾られ、
小さいながらも高級な感じが出ている。
俺が入って来たのを確認した主人が俺に声を掛けてくる
﹁いらっしゃ⋮ああ!葵様でしたか﹂
微笑みながら言う男。細身のクセのある髭を生やした男だ
﹁こんにちわフォルマンさん。例の物は出来てます?﹂
俺も店主に挨拶をする。それを聞いたフォルマンはニコッと笑い
114
﹁ええ、出来てますよ。持って来ますので、暫くお待ち下さい﹂
フォルマンは奥に向かう。そして、注文の品を持って俺の前に来た
﹁こちらです。ご確認下さい﹂
フォルマンに出された物を確認する。初めて見た時とは比べ物にな
らない様にソレは輝いていた。
ソレに見蕩れていた俺にフォルマンは
﹁⋮葵様。それをどこで手に入れたかは解りませんが、中々の物を
手に入れられましたな﹂
﹁そうなの?ま⋮綺麗な赤い宝石っぽいけど⋮そんなに良い物なの
?﹂
﹁そうですね。その宝石はルビー。大きさも4㎝もありますし、そ
の台座の部分はプラチナで、加工も装飾も中々の物です。しかも⋮
その宝石は魔法具ですね﹂
そう説明してくれるフォルマン。
このルビーが魔法具⋮価値から考えて、かなり裕福な家じゃないと
持てないって事か⋮
って事は⋮マルガは元々良家の者?この宝石は母親の形見だって言
ってたし⋮
まあ⋮本人も解らない事らしいし⋮考えても無駄か。
﹁このルビーの魔法効果は解ります?﹂
﹁いえ⋮魔法具である事は確かなのですが、効力は解りませんね。
⋮恐らくは⋮限定条件魔法具だと思いますけどね﹂
フォルマンがそう説明してくれた。
限定条件魔法具⋮時、場所、人物、様々な特殊条件下にのみ、効力
を発揮するタイプの魔法具か⋮
俺が色々考えていると
115
﹁もし良ければ、その宝石を買い取りますが⋮金貨50枚でどうで
すか?﹂
ニコッと微笑むフォルマン。
ブホ⋮これ金貨50枚の価格をあっさり引き出す位の物なのか⋮
あの汚れた黒い石みたいな物だったのに⋮マジマジと宝石を見つめ
る俺。
﹁この宝石は、売る事が出来無いんですよ。すいません⋮﹂
申し訳なさそうに言うと、苦笑いしているフォルマン。
﹁いえそれなら仕方ないですよ。それとこちらのご注文の品もどう
ぞ﹂
俺はフォルマンが置いた品物を手に取って見る。
﹁これは法律で付けても問題無いって言う代物なんですよね?﹂
﹁はい、問題無いですよ。まあ⋮付けれる階級はほとんど一つです
けどね﹂
﹁なるほど⋮では料金を支払いますね﹂
俺は宝石の修理代と清掃代、もう一つの注文の品の代金を支払う。
ムウウ⋮合計で金貨1枚と銀貨85枚か⋮流石にアクセサリー系は
高額だな⋮
⋮これで喜んでくれれば良いんだけどな⋮
フォルマンと挨拶をして店の外に出ると、マルガはニコっと微笑ん
でくれる。
じっと待っててくれるマルガも可愛ゆすな∼。マルガの頭を優しく
撫でると、尻尾を振って喜んでいる。
﹁ご主人様おかえりなさい!﹂
﹁待たせたねマルガ。じゃ∼次に行こうか﹂
116
マルガは俺の横に来て腕を組む。特にそうする様に言ってはいない
んだけど、自然とそうしてくる。
その顔を見るとニコッと可愛い微笑みを向けてくれる。
ウウウ⋮可愛すぎる⋮癒されるよマルガ!また欲しくなっちゃうジ
ャマイカ!⋮ゲフンゲフン⋮
俺はマルガを連れて次の目的地に向かう。暫く歩き目的地に到着す
る。
その建物は、この町で一番大きな石造りの立派な建物である。入り
口には沢山の鎧を来た兵隊が警護している。沢山の身なりの良い人
々が出入りをしている。
﹁ご主人様⋮ここはどこですか?﹂
マルガは三級奴隷で有る自分と、余りにかけ離れた所であると思っ
たのであろう。その顔は困惑気味だ
﹁ここはラングースの町唯一の役場だよ。色々な公的手続きをする
所だよ﹂
﹁や⋮役場ですか!?﹂
それを聞いたマルガの顔の血の気が引いていき、蒼白になっている。
うん⋮きっと勘違いをしている⋮でもちょっと面白そうだから、何
も言わないでおこう!だってオラSだもん!マルガの顔を見てたら、
悪戯したくなっちゃうしね!
俺はマルガの手を引っ張って中に入って行く。
さっき迄軽やかだったマルガの歩みは鉛の様に重い。繋いでいる手
は微かに震えていた。
役場の中に入り、俺は目的の受付までマルガの手を引いて歩いて行
く。
そして受付についた所で、その歩みを止め説明をする。
117
﹁ここが奴隷の財産管理をしている公証人の受付だ﹂
その説明を聞いてより一層顔色が悪くなるマルガ。微かに震え俯い
ている。
ありゃ⋮ちょっとやりすぎたかな⋮?心が痛くなって来た!⋮反省⋮
マルガのその様子に耐えきれなくなった俺は、マルガをその場で待
たせて受付に手続きに行く。
受付に要件を伝え手続きの準備をして貰う。
むううう⋮手続き費用に銀貨20枚とは⋮まあ⋮魔法を使うし、そ
んなものなのかな⋮
受付の公証人はすぐに準備すると言って来た。俺はマルガの元に戻
る。
するとマルガは何処か思いつめた顔で
﹁ご主人様⋮今迄有難うございました⋮こんな私に色々して下さっ
た事感謝しています。ご主人様のご期待に応えられなかった私を⋮
お許し下さい⋮﹂
そう言って平伏して、俺の足の甲に何度もキスをするマルガ。目に
は涙を一杯貯めていた。
あわわわ!完全にやり過ぎた!完全に誤解しちゃってる!
俺は慌ててマルガの両脇に手を入れてマルガを立たせる。マルガは
もう耐え切れずに泣きそうだった。
マルガを引き寄せギュッと抱きしめ、額に軽くキスをする
﹁マルガ⋮心配させちゃってごめんね。でも、マルガの思ってる様
な事じゃないよ?﹂
そう言って微笑みながら優しく頭を撫でると、キョトンとしてマル
ガは俺を見ている。
118
⋮奴隷にとって役所や役場は鬼門だ。
一般人が初めて奴隷になる時は、公証人が主人と奴隷に魔法で奴隷
契約を結ばせる。そして奴隷には首に首輪の様な奴隷の紋章が刻ま
れる。ネームプレートにも身分が刻まれ奴隷になるのだ。
初めの一回目は必ず公証人が行うのである。初めの奴隷契約は、公
証人以外に出来無い様に法律で決まっている。それを破ると厳しく
処罰︵処刑︶される。
一度奴隷に登録したら後の取引は公証人が居なくても出来る。ネー
ムプレートで所有権の移動をさせるだけ。ネームプレートの財産の
項目は、国が管理している財産管理台帳と連動していて、所有者が
変わると国が管理している財産管理台帳の方も変わる仕組みなのだ。
これによって国は所有者の特定と、税金の徴収状態を確認出来るの
だ。その他の財産、家、土地、その他もこの方法と同じである。
ほんと魔法って凄いよね!
では、マルガが何故こんな感じになってるかと言うと⋮
マルガは既に国に登録された三級奴隷なのだ。登録された奴隷は基
本、役場や役所にもう用は無い。
つまり来る必要が無いのだ。
その用が無い奴隷が、役所に連れて来られる時があるのは⋮処分︵
殺される︶時だけなのである。
役所や役場に奴隷の処分を頼む、もしくは、奴隷の処分を申請する
時に連れて来られる。
マルガは三級奴隷、きっと俺に処分されると思ったのであろう。な
のでこんな感じになっているのである。
でも⋮マルガはもう一つの連れて来られる理由を忘れている⋮
﹁マルガ、何も心配しなくて良いから、あの公証人の所に行って来
119
て﹂
俺が微笑みながらそう言うと、マルガは困惑した顔をして、何度も
俺に振り返りながら公証人の元に向かう。
なんか⋮アレだね⋮飼っていた動物を、野生に解き放つ時に見る動
物みたいだ⋮追っかけたくなる!
その欲望をぐっと我慢して様子を見守る事にした。
そら
マルガが公証人の前に立つ。公証人はマルガを見てフンと軽く鼻で
言うと
あおい
﹁お前が⋮葵 空の所有している三級奴隷だな?ネームプレートを
見せろ﹂
そう淡々と告げる公証人。マルガは頷き、公証人に言われるままネ
ームプレートを差し出す。
﹁ウム。間違いないな。では、そこでじっとして立っていろ。動く
なよ?﹂
そう言う公証人。マルガはその言葉に恐怖を感じたのか、少し震え
ている様に見える。
じっとして立っているマルガに、公証人は右手を額にかざす。
そして、何やら呪文の様な言葉を発する公証人。すると、掌から光
が出てマルガを包む。
マルガは何をされているのか解らないが、体に痛みも何も感じてい
ない様でキョトンと光を見ていた。
暫くすると光が消える。マルガは何が起こったのか全く解っていな
かった。
その表情を見て、公証人は再度フンと鼻で言うと
﹁これで終わりだ。奴隷の階級変更は無事完了した。ネームプレー
トで確認する事だな﹂
120
そう言って公証人は、マルガにネームプレートを返却する。
訳が解らないマルガは、そのままネームプレートを受け取って俺の
所まで帰って来た。
何をされたか解っていないマルガは、俺を見て困惑の表情をしてい
た。
俺はマルガに説明する
﹁マルガ⋮ネームプレートを開いて見て。そして、自分の身分の所
を見てよ﹂
そら
葵 空 遺言状態 所有者死亡時
あおい
そう微笑みながら言うと、マルガは黙ってネームプレートを開く。
そして、その変化を見つける。
﹁⋮身分 一級奴隷 所有者
奴隷解放⋮⋮え!?⋮わ⋮私が⋮一級奴隷!?﹂
マルガは目をこすって、何回もネームプレートを確認している。そ
の仕草が可愛らしい。
﹁マルガを一級奴隷にした。三級奴隷のままなら⋮他の人に気軽に
殺されちゃう可能性が有るからね﹂
その言葉を聞いたマルガは、やっと自分の身に起きた事が理解出来
た様だった。
マルガの三級奴隷の証であった黒色の奴隷の紋章は、一級奴隷の証
である赤い紋章に変化していた。
﹁な⋮何故⋮私なんかを⋮一級奴隷になされたのですか?﹂
マルガは瞳を揺らして俺を見つめる。俺はマルガをキュっと抱きしめ
﹁言ったでしょ?もう離さないって⋮。マルガは俺だけの物。他の
誰にも触らせないし、どうこうさせる気はない。⋮大切なんだマル
ガが⋮。もう一度聞くよ?⋮マルガは誰の物?俺の大切なマルガは
121
誰の物?﹂
そう言って優しく頭を撫でると、少し震えながら瞳を潤まし
﹁私はご主人様の物です!私はご主人様の為にあります!私の全て
はご主人様の物です!﹂
そう叫ぶと瞳を濡らし、綺麗な涙を一筋流すマルガは、俺の胸をギ
ュと掴んで顔を埋めて泣いている。
そんなマルガが愛おしくて、強くギュッと抱きしめてしまう。
﹁イッ⋮﹂
マルガは小さく声を上げる。つい力を入れすぎたみたいだ。
﹁あ⋮ごめん⋮痛かった?﹂
苦笑いする俺に、瞳を濡らしながら微笑むマルガ。マルガの涙を指
で拭う。マルガは赤くなってはにかんでいる。その可愛い顔に、ド
キッとさせられちゃった!ある意味凶器だねこれは!
とりあえず、その可愛い凶器を前に何とか心を落ち着かせ、ポケッ
トからフォルマンの店で買った物を取り出す。
﹁ご主人様それは何ですか?﹂
マルガの眼の前に出された物は赤い上等な皮で出来ていて、金の装
飾が美しく施されている。それは一目見て解る豪華なチョーカーで
あった。
﹁これは、奴隷が首に付けれる唯一のアクセサリー。奴隷専用のチ
ョーカーだよ﹂
奴隷は奴隷の証である首の輪っかの様な奴隷の紋章を、隠してはな
らないと言う奴隷法がある。
しかし、国が認める形式の首飾りなら付ける事が出来る。なぜなら、
この美しいチューカーも、奴隷だという事が解る様に、赤い色をし
122
て、その先端には鎖を繋ぐ飾りが付いているのである。
﹁マルガ⋮これはね⋮俺がマルガに付ける首輪だ。マルガが俺の物
だと言う証⋮﹂
そう言って、マルガの顎を掴み額にキスをする
﹁さあ⋮マルガ⋮言ってご覧⋮俺に⋮おねだりするんだ⋮﹂
マルガの瞳を見つめると、その瞳は歓喜に満ちた色に染まっていた。
﹁ご主人様⋮その首輪を私につけて下さい⋮私がご主人様の物であ
ると言う証明に⋮﹂
そう言うと、マルガは顎を上げて細く白い首を俺に差し出す。
その白い首にゆっくりと赤い豪華なチョーカーは付けられていく。
﹁マルガ⋮可愛いよ。良く似合っている⋮﹂
﹁私にご主人様の証の首輪をつけて頂いて⋮ありがとうございます
⋮﹂
うっとりした瞳で俺を見ながら、右手で嬉しそうにチョーカーをさ
すっているマルガ
﹁じゃ∼きちんと言えたマルガにご褒美を上げないとね﹂
そう言って俺はフォルマンに修理と清掃を依頼していた品物を出す。
ソレを見たマルガの表情が一瞬で変わる
﹁そ⋮それは!私が無くしたと思っていた、お母様の形見の首飾り
⋮﹂
マルガは驚き嬉しそうに赤いルビーを受け取る。
﹁このマルガの形見のルビーはかなり汚れていて、装飾も傷んでい
たからね。俺が直しておいたんだ﹂
123
﹁こんなに綺麗に⋮まるで⋮お母様に貰った時の様⋮﹂
目を潤ませて喜んでいるマルガに
﹁これね、ちょっと手を加えたんだ。これをここに⋮﹂
マルガから赤いルビーを取り、首に付けられているチョーカーの鎖
を繋ぐ部分に赤いルビーをペンダントのトップの様に付ける。
赤い豪華なチョーカーに美しい赤いルビーは良く合っている。
それを解ったマルガは目を潤ませて喜んでいる。
﹁うん、更に可愛くなったね。凄く似合ってるよマルガ﹂
そう微笑むと、マルガはまた涙を流して俺に抱きつく。俺も愛おし
くてギュッとマルガを抱きしめる
﹁マルガは俺だけの物⋮絶対に手放さないからね⋮﹂
俺の言葉に何回も頷くマルガ。その顔は歓喜に染まりきっていた。
﹁はい⋮私はご主人様だけの物です⋮永遠に⋮﹂
そんなマルガは俺の胸に顔を埋め泣いていた。
俺はマルガを腕の中に抱きながら、満ち足りた幸せと、愛おしさ、
それに征服感を感じ、それに浸っていた。
マルガは⋮誰にも渡さない⋮そう心に誓った。
124
愚者の狂想曲 3 超美少女マルガ︵後書き︶
☆
125
愚者の狂想曲 4 方針決定しました!
﹁これからの方針を決定します!﹂ 宿泊している宿屋の部屋で、天に指をさす。我が生涯に一片の悔い
無し∼!と、世紀末っぽく言ってみた。パチパチパチとマルガが笑
顔で拍手している。フフフ、今の俺に死兆星は見えないぜ!
俺はテーブルの上に、地球から持って来た物達を並べ始める。そし
て、配線を済ませ、電源を入れる。画面が光り出し、見慣れた画面
が映りだす。それを見たマルガは驚きの表情をする。
﹁ご⋮ご主人様⋮こ⋮これは何なんですか!?﹂
その表情と言ったら⋮マルガは驚いている顔も可愛いね!
﹁これはね⋮パソコンと、プリンターだ。俺が生まれた世界、この
世界とは別に存在する異世界⋮地球って所の代物だ﹂
﹁パソコン?異世界?地球!?﹂
マルガは訳が解らなくなって、完全に目が泳いでしまっている。
俺はマルガに、全ての事を話した。地球の事、この世界に飛ばされ
た事、マルガと逢う前の事、そして種族の事も⋮。
俺はマルガに永遠の奴隷の誓をさせる時も何も言わなかった。何故
ならば、言う必要はないと思ったのだ。何があろうとも、マルガを
永遠に俺だけの物に、永遠に俺の奴隷にしたかった。
マルガはそれに答え俺に全てを捧げ永遠に奴隷になると誓った。
それが全てなのだ。他にどんな理由があろうとも関係ない。それに⋮
﹁マルガは話を聞いて、俺の奴隷になった事を後悔してる?﹂
俺がそう言うと、フルフルと首を横に振って
126
﹁いえ!私はご主人様にどのような理由や事情があろうとも、私は
ご主人様の奴隷です﹂
予想通り迷う事無くそう言って微笑むマルガ。何故かマルガならこ
う言ってくれると思っていた。
マルガを抱き寄せキスをして頭を優しく撫でると、赤くなって微笑
み尻尾をブンブン横に振っている。
うん、マルガはやっぱり可愛い!
そんな事をしみじみ考えていると、マルガはパソコンを覗き込んで
﹁所で⋮ご主人様話しの続きなんですが⋮﹂
パソコンと俺を交互に見ながら、ウズウズしているマルガ。パソコ
ンに興味津津らしい。
﹁ああ!ごめんね。これはね、色々なことの出来る魔法の箱って感
じかな?﹂
俺はマルガに説明を始める。
アノ変なゲームの設定でこっちに持ってこれたものが何点かある。
このパソコンとプリンターもその中の一つだ。
ただ、違う所は、こっちに持って来た物は全て魔法の掛かったマジ
ックアイテムに変化しているのだ。
パソコンに関しては、理屈や理由は解らないが、地球と繋がってい
て、普通にインターネットに接続ができる。パソコンに詳しく無い
ので分からない所が多いが、使えるので良しとしている。しかも、
電池が減らない。つまり、電源がいらない。プリンターも同じだ。
プリンターに入っている紙やインクが減らない。勝手に満タンに戻
るのだ。
これによって、俺はこっちの世界にいながら、パソコンを通じてだ
が地球と接点を持っているのである。それと、マルガは気がついて
いないが、パソコンの画面の文字と音声は、こっちの言葉に変換さ
れている。どんな神変換機能だよ⋮とりあえずツッコんでおこう。
127
こんな感じで、説明するとマルガは感嘆の声を上げてパソコンを見
ている。
マルガに説明も終わったことなので作業に戻る事にした。
﹁それでご主人様は、パソコンで何をなさっているのですか?﹂
マルガは俺に寄りかかりながらパソコンを覗き込む。くう⋮可愛い
やつめ!後でいっぱい⋮ゲフンゲフン⋮
﹁んとね、これはこの街に着いてからの収支を表につけているんだ。
こうやって記録しておくと、忘れないし、きっと役に立つ時が来る
んだ。今までの行商での取引や、ダンジョンでの収入なんかも記録
してある。この街に着いてから結構使ったから、忘れない内に記録
しておこうと思ってね﹂
そう言うとマルガは何か考えて
﹁この街でたくさん使ったっていうのは、わ⋮私にですよね?⋮お
幾ら位使ったのですか?﹂
そう言えば、合計で幾らだったかな?表にも打ち込みたいし⋮えっ
と⋮
﹁たしか⋮あのむっさい男からマルガを買うのに金貨20枚、マル
ガの治療費が銀貨15枚、薬代7日間分で金貨7枚、宿屋に部屋を
もう一つ借りたのと、迷惑料と、シーツや布団も買取になった分で
銀貨27枚⋮﹂
思い出しながら、マルガに使ったお金を言っていくと、マルガは目
を丸くして慌てだした。
﹁ご⋮ご主人様すいませんでした!わ⋮私一杯ご奉仕致しますので
⋮﹂
そう言って、足元に平伏して、足の甲に何度もキスをする。俺はマ
128
ルガの脇に手を入れて立たせる。
﹁マルガは気にしなくてもいいよ﹂
そう言ってマルガの額に軽くキスをする。
﹁し⋮しかし⋮﹂
マルガは金額の大きさから責任を感じてしまったのであろう。俯い
て黙ってしまった。
ま∼マルガは真面目だからな⋮。
庶民の平均日給は銀貨2枚。年収は金貨7枚程度。税金で約5割近
く持っていかれるから、金貨3枚と銀貨50枚程度が使えるお金だ。
家族3人なら贅沢しなければ暮らしていける。金貨50枚でそこそ
この家が建つ。マルガには既に金貨38枚弱は使っている。普通奴
隷にこれだけのお金を使いはしない。なので余計に気にしているの
だろう。
﹁きゃ⋮﹂
マルガが可愛い声を上げる。
俺は椅子に座りながらマルガを抱きかかえ、お姫様抱っこの状態で
膝の上に乗せた。
﹁いいんだよ。そのお陰でマルガが生き残れたんだから。⋮そんな
に気になるんなら⋮﹂
そう言ってマルガの顎を掴む
﹁今夜も一杯⋮奉仕してくれればいいよ⋮﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮﹂
顔を赤くして微笑んで居るマルガ。
マルガに口付けをして、舌をマルガの口の中に入れる。マルガの暖
かくて柔らかい舌を堪能する。
129
マルガもギュッと抱きしめてきて、必死に俺に舌を絡めてくる。ム
クムクと俺のモノが大きくなる。
これ以上すると止まらなくなるね!此処は夜まで我慢だ!何とか強
引に欲望を押さえ込こむのだ!
マルガは俺の膝の上に座ってニコニコしている。ううう⋮我慢でき
るかな⋮
﹁と⋮とりあえず、これからの事を考えよう。俺の今の収入源は、
行商とダンジョン等の探索で得た財宝やらの売却で得た収入と、冒
険者ギルドでの仕事をこなして報酬を貰っているんだ。この3つが
大きな収入源なんだ﹂
マルガは話を聞いてコクコクと頷いている。膝の上で座りながら頷
く仕草可愛ゆす!
﹁今から決めたい事はマルガをどうするかなんだよね。行商は一緒
に出来るけど、ダンジョンに入る時や、ギルドの仕事をしている時
にどうするか。⋮俺としてはマルガと一緒に居たいし、一人置いて
行くのも心配だけど⋮マルガはどうしたい?﹂
マルガは暫し考える。そして、ギュっと抱きついてきて
﹁私はいつもご主人様と一緒に居たいです!﹂
だめだ⋮可愛すぎる!今夜は寝かせないからねマルガ!
とりあえず、可愛いマルガの頬にキスをして話を進める。
﹁じゃ∼マルガも一緒にダンジョンやギルドの仕事を一緒にしよう。
よく考えたらその方がいいね。ダンジョンやギルドの仕事は危険な
ものもあるけど、俺と一緒に居れるし、マルガも戦闘スキルを身に
つければ保身もしやすくなるし⋮って事は、冒険者ギルドがあって、
ラフィアスの回廊のある、港町パージロレンツォがいいな﹂
130
﹁港町パージロレンツォ⋮ですか?﹂
マルガは小首をかしげて聞いてくる
﹁うん。マルガは知らないかもだけど、港町パージロレンツォは初
心者御用達のダンジョン、ラフィアスの回廊ってのがあってね。冒
険者ギルドに訓練場もあって、初心者はそこで戦闘スキルを身につ
ける事が出来るんだ。俺も初めはそこでレベルを上げたり、スキル
を身につけたりしたんだ。それに港町パージロレンツォはこのフィ
ンラルディア王国屈指の大都市だから、色んな物も売っていたりす
るし、マルガも見聞が広がると思うよ﹂
そう説明すると、目を輝かせて
﹁ご主人様!私楽しみです!﹂
ニコニコしながら言うマルガの頭を優しく撫でてやると、尻尾をパ
タパタして喜んでいる。
﹁行き先は決まったけど、マルガの装備も整えないといけないから、
売れそうな物を仕入れて港町パージロレンツォに行きたいな⋮﹂
俺はアイテムバッグから、金の入った袋を取り出す。今の所持金は
⋮金貨11枚、銀貨34枚と銅貨56枚。普通に生活するなら3年
は暮らせるお金だけど、行商の維持費や、一級奴隷になったマルガ
の人頭税と装備代、商品の仕入代、それと生活費⋮。それらを考え
ると、決して安心して良い額ではない。
マルガに結構使ったことを改めて確認する。ま∼後悔はしてないん
だけどね!
季節は春先⋮フム⋮あの村にによってから行くのがいいかも⋮
﹁よし!港町パージロレンツォに向かう前に、港町パージロレンツ
ォの北西にある、イケンジリの村に行く事にするよ﹂
﹁直接港町パージロレンツォに行かずに寄り道されるのですか?﹂
131
﹁うん。前に港町パージロレンツォに言った時に同行者から聞いた
んだけど、イケンジリの村は小さな村だど、春先は質の良い美味し
い山菜が多く取れるみたいなんだ。その山菜は港町パージロレンツ
ォでも人気みたいでね。イケンジリの村は港町パージロレンツォか
ら荷馬車で2日程。鮮度の高い山菜を仕入れて、港町パージロレン
ツォで売ろう。しかも春先は、熊と鹿が結構狩れるみたいだから、
その辺も欲しいね。マルガもイケンジリの村で、美味しい山菜や、
熊と鹿の肉も食べれるよ﹂
そう説明すると、お口から涎が出そうなニマニマ顔で
﹁ご主人様∼。私楽しみです∼﹂
ウットリしながら言うマルガ。⋮もうあれだね⋮食べてるね⋮妄想
で食べちゃってるよね⋮一足先に⋮
イケンジリの村に着いたら、一杯食べさせてあげよう。
妄想に浸っているマルガをこっちの世界に呼び戻して準備をさせる。
﹁じゃ∼出かけよう!﹂
俺とマルガは行商の準備をしに市場にと向かった。
俺とマルガは市場に向かっている。
マルガはガリアス奴隷商店の番頭のラングリーから貰ったメイド服
を着ている。
もともとむっさい男に三級奴隷として働かされていた時に、針仕事
ばかりやらされていたのが功を成したのか、裁縫はかなりの技術を
習得していた。メイド服も自分でサイズ直しをするぐらいなのだ。
紺色を基調とし、白いフリルを可愛くも上品に編み込み、膝上5㎝
の膝丈のフリルスカートからは、小さなリボンのついた白いニーソ
132
タイプのストッキングが、黒いガータベルトで止められている。そ
の足元には花の飾りのついた紺色の革靴で引き締められている。そ
して首元に光る、一級奴隷の証の赤い宝石のついたチョーカー。マ
ルガ⋮可愛すぎるよ!
そんな可愛く上品なメイド服を完璧に着こなしている美少女マルガ。
彼女は差別されやすい亜種でワーフォックスだが、それ以上に可愛
さが上回っているのだろう、道行く男共がマルガを目で追っている
のが解る。むうう⋮なるべくマルガを一人で歩かせ無いようにしよ
う⋮
そんなモヤモヤした心の俺を、知ってか知らずか、俺の腕を組んで
嬉しそうに歩いているマルガ。
﹁ご主人様どうかなされましたか?﹂
無意識にマルガを見ていたのだろう。マルガは俺の視線に気が付い
たのか、俺を不思議そうに見ている
﹁そのメイド服よく似合ってて可愛いなって見てただけだよ﹂
ちょっと慌てて言うと、パアアと嬉しそうな顔をして
﹁ありがとうございます!ご主人様!﹂
マルガは顔を赤らめて微笑んでいる。
今日のマルガはどことなく上機嫌だ。メイド服を着てお出かけして
いるからだけではないであろう。
マルガはこの間迄奴隷の最下層、三級奴隷だったのだ。
いつも、人々に苛まれ、虐待され、薄汚れた、最低の存在⋮
しかし、今は一級奴隷になって、人として生きる権利を保証され、
誰の目も気にしなくて良くなったのだ。
体は清潔で、甘い匂いのする石鹸の薫りを漂わせ、可愛い女の子ら
しいメイド服に身を包み、誰の目を気にせずに俺と歩く事が出来る。
それを証拠に軽く鼻歌を歌いながら、マルガはワーフォックス独特
133
の毛並みの良い金色の尻尾を、楽しげに揺らしている。
俺と視線が合うと、ニコっと極上の微笑で返してくれる。
マルガのその微笑みを見ていると、さっきまでの心のモヤモヤが無
くなるので不思議だ。
﹁所でご主人様。市場では何を買われるのですか?﹂
ニコニコ微笑むマルガを抱きしめたくなる。しかし、野郎どもの視
線が痛いので此処は我慢⋮ううう⋮
﹁えっとね、まずはマルガの私物かな?下着とか寝衣とか普段着と
かね。マルガに必要な物を買う。特に、旅の服装は一式揃えよう。
そのメイド服じゃ行商の旅は不向きだからね﹂
俺の言葉を聞いて、マルガは自分のメイド服を見ている
﹁このメイド服じゃ⋮だめなんですね⋮﹂
マルガはメイド服のスカートの裾を両手でつかみ、広げてみせる。
うは!何そのラブリーな仕草!⋮今夜はメイド服プレイ決定⋮ゲフ
ンゲフン⋮
﹁うんメイド服で旅をする人もいるけど、そういう人達は何処かの
貴族やらの侍女で、きちんと護衛がいて、馬車も屋根付きで、野宿
するにしても、テントを張ったりとか装備が違うんだよね。俺達は
そんな事できないから、きちんと装備を整えないとダメなんだ。だ
から、そのメイド服は町とかで滞在している時に着たらいいよ﹂
そう言うと、少し残念そうにしていたが、旅には必要な事だと言っ
たら、解りましたと頷くマルガ。
マルガとそんな感じで暫く歩いて行き、一件の衣料商に到着する。
此処の衣料商は品物はなかなかで、価格もリーズナブルだと評判の
衣料商なのだ。
衣料商の店に入ると、一人の男が俺達に近寄ってきた。
134
﹁いらっしゃいませ⋮お!これはこれは葵様!お久しぶりでござい
ます﹂
そう言って笑顔で頭を下げる一人の男。この男はこの衣料商の店主
のモリス。
以前、この店の評判を聞いて、この店で結構な数の衣料を買ったの
だ。
そこから付き合いだして、行商で良い布や糸が手に入ったらこのモ
リスと取引したりしている間柄だ。
﹁久しぶりですねモリスさん。元気そうで何よりです﹂
笑顔で挨拶を交わし、握手する俺とモリス。そんな、モリスは隣に
立っているマルガを見てニヤニヤしている
﹁葵様も奴隷を持つようになられましたか⋮しかも一級奴隷⋮これ
でもう葵様は一角の立派な商人ですな﹂
嬉しそうに言うモリス。
﹁いえいえまだまだですよ。いつも勉強させてもらってます﹂
気恥ずかしそうにそう言うと、うんうんと頷くモリス
﹁相変わらず謙虚ですな葵様は。して、今日はどのような要件で?
また良い布や糸が手に入りましたか?﹂
﹁いえ、今日はこのマルガの衣料を買いに来ました﹂
モリスに事情を説明する。モリスは頷く。
﹁じゃ∼まずは普段着から持って来ましょうか。ちょうど良いもの
が入った所なので﹂
そう言って奥に向かうモリス。しばらくすると沢山の衣料をかかえ
て帰ってきた。
135
その中にマルガの着ているメイド服と同じものがあった
﹁これって⋮マルガの着てる奴と同じだよね?﹂﹂
﹁そうでございますね。そのメイド服も当店で作られたものですか
ら﹂
﹁なるほど、じゃ∼そのメイド服のセットは替えで貰うよ。マルガ
は普段着をとりあえず2着選んで﹂
俺がそう言うと、マルガは目を輝かせて
﹁い⋮いいんですか!?私が選んでも!?﹂
﹁いいよ。好きなの選んで﹂
そう微笑むと、マルガは嬉しそうに服を手にとって、色々吟味して
いる。
かなり嬉しいみたいで、マルガの金色の尻尾は激しく振られている。
女の子の買い物は時間がかかる。マルガもそれに漏れ無く、沢山の
服を自分に合わせたり、比べたりと悩んでいるが、実に楽しそうで
あった。そして、悩みぬいて一着目を選んだ
﹁ご主人様!これどうですか?﹂
そう言って俺に見せたのは、クリーム色のフリルの付いたブラウス
に、薄い朱色の膝下のスカートであった。一見地味に見えるが、美
少女のマルガのライトグリーンの髪と瞳に良く似合っていた。
﹁うんよく似合ってるよ﹂
そう言うと嬉しそうにパタパタ尻尾を振っているマルガ
﹁もう一着はご主人様が選んで下さい﹂
マルガはどうやら俺に一着選んで貰いたい様だったので、選ぶ事に
した。
俺が選んだのは、可愛い花柄のアクセントのある、淡いピンクのワ
136
ンピースだ。可愛い少女らしさを出してくれると思ったのだ。マル
ガは俺の選んだワンピースを見てニコニコしていた。
﹁では、そちらの2着に合う靴を用意しましょう﹂
そう言って用意してくれるモリス。可愛い茶色の女性用の革靴と、
ワンピースに合う可愛いサンダルを用意してくれた。流石モリスは
服飾のプロ。センスも良い。
﹁で、下着と寝衣なんだけど⋮﹂
俺はモリスに耳打ちすると、フフフと笑って
﹁葵様も⋮好きですな。解りました。では旅で使う服を用意しまし
ょう﹂
モリスは、店の中にある服を用意してくれた。
﹁此方は女性用で、丈夫な布や革を使ってまして、問題ないかと。
あと外套も暖かく、防水も良いものを使っております﹂
品物を見てみるとモリスの言う通りなかなかの品だった。モリスの
進めてくれた物に決めた。
﹁ああそれから、櫛と手鏡もお願いするよ﹂
それを聞いたマルガは更に目を輝かせた。三級奴隷だったマルガに
は一生持つことはかなわないと思っていたのであろう。マルガは両
手を胸に組んで目をキラキラさせていた。
可愛い⋮お金が入ったらまた何か買ってあげよう。⋮頑張れ俺!⋮
やれば出来る子なんだ!⋮ううう⋮
一応全て選び終わったので、会計をしてもらう
﹁では⋮メイド服セットが銀貨20枚、マルガさんが選んだ服が銀
貨10枚、葵様が選んだ服が銀貨12枚、靴とサンダルで銀貨5枚、
137
外套が銀貨16枚、旅用の服のセットが2セットで銀貨40枚、あ
と、下着と寝衣、各3着ずつで銀貨12枚、櫛が銀貨2枚、手鏡が
銀貨6枚⋮合計で金貨1枚と銀貨23枚ですね。⋮葵様と私の付き
合いですから⋮靴下を三足と、カチューシャをおまけして⋮金貨1
枚と銀貨13枚でどうでしょうか?﹂
むうう⋮流石に普通の庶民が着るものより、結構良い品物を選んで
いるとはいえ、金貨1枚と銀貨13枚か⋮
銀貨10枚値引きと、靴下三足とカチューシャ付きなら妥当だな。
モリスの提示に納得して、ふとマルガを見ると、ワナワナして固ま
っていた。
⋮きっと、価格に驚いたんだろうな。普通の庶民がよく着ているも
のなら、この四分の一の価格にもならないだろう。今日買ったのは
庶民が言う所の一張羅位の品だから。その分物が良いんだけど。
俺は固まっているマルガの肩を引き寄せ、ポンポンと頭を軽く叩く。
マルガは申し訳なさそうにしていたが、優しく頭を撫でると、目を
潤ませて微笑んでいた。
モリスに代金を払う。
﹁じゃ∼服は宿屋の方に届けておいてくれる?﹂
﹁解りました。そうさせて貰います。本日も有難うございました﹂
俺とモリスは笑顔で挨拶をして店を出た。
﹁ご⋮ご主人様!ありがとうございました!﹂
そう言って、足元で平伏して、足の甲に何度もキスをするマルガ。
慌ててマルガの脇に両手を入れて立たせる。美少女のマルガに今ソ
レをされたら⋮ほら⋮野郎の視線が痛い⋮ううう⋮でも⋮ちょっと
⋮快感!⋮ゲフンゲフン⋮
﹁いいんだよ。必要なものだしね。それにどの服もマルガに似合っ
てたよ﹂
138
マルガの頭を撫でながら言うと、マルガは目を潤ませて嬉しそうに
微笑む。
こんなに喜んでくれるならこっちも嬉しいかも?⋮むうう⋮美少女
にやられそう⋮すでにやられてる?
とりあえず次の目的を果たす事にした。
﹁ご主人様。次は何処に行かれるんですか?﹂
マルガは更に上機嫌だ。先ほどおまけして貰った、フリルのついた
カチューシャを、頭につけてあげたのだ。メイド服によく似合って
いて可愛い。
マルガの金色の尻尾は、ネコがいたら間違いなく飛びつかれるよう
な、楽しげな動きで揺れている。
鼻歌の方も絶好調!フンフンフ∼ン♪
そんなマルガを見てると、こっちまで幸せになる。大きな出費だっ
たけど良かった良かった。
﹁今から行くのは、このラングースの街で懇意にしている、リスボ
ン商会だ。次の目的地のイケンジリの村で売れそうな物を仕入れよ
うと思ってね。移動が決まったら、必ず商品を仕入れるんだ。荷馬
車には常に利益の上がる物を載せとかないとね。今は荷馬車は空だ
から﹂
﹁なるほどです。で、どんなものを仕入れられるんですか?﹂
﹁う∼ん。イケジリンの村は小さな村だけど、農耕と狩猟でそこそ
こ活気があるって聞いてるから、農具と、鏃⋮後は塩かな?﹂
﹁なるほど∼。一杯売れるといいですねご主人様!﹂
ニコニコしながら言うマルガに癒される。可愛ゆす!マルガ!
139
﹁きっと大丈夫だよ。イケンジリの村には余り行商人が行かないみ
たいだからね﹂
そう言うと、マルガが訳を聞いてきた。
イケンジリの村は港町パージロレンツォから荷馬車で2日。小さな
村なので、訪れる行商人も限られている。なので村の人は、外の物
が欲しければ自分で行かなければならない。しかし、いくら治安が
割りと良いフィンラルディア王国であろうと、盗賊や魔物が全く居
ないと言う訳ではない。現に、この世界に来て半年の俺でも、盗賊
に6回、魔物は4回遭遇している。全て撃退出来たのは、俺が冒険
者で戦闘スキルをもっているからだ。
イケンジリの村は小さく人も少ない。戦闘スキルを持っている人も
少ないであろう。
村の守備もあるので、戦闘スキルを持つ人は行商に出れない可能性
が高い。
護衛も付けずに行商に出るなど無謀を通り越して、自殺行為である。
なので村に来てくれる行商人は、彼らにとって非常にありがたい存
在である。
そこに、彼らの欲しそうなものを持っていけば、有利に取引できる
とマルガに説明する。
﹁ご主人様は色々考えているんですね!私感心しました!﹂
マルガの目はキラキラ光っている。⋮まじで?⋮そんな事言われる
と調子に乗っちゃうよ俺!
⋮ちなみにこれは行商の初歩だからねマルガちゃん。一緒にお勉強
しようね。色々と!
そんな事を考えながら、マルガと話していると、石造りの割と大き
な建物が見えてくる。
入り口には鎧を着た兵士が4人護衛している。その入口には沢山の
人が出入りしていた。
140
﹁こんにちわ。リスボン商会にようこそ。今日はお取引でしょうか
?﹂
入り口の男が話しかけてきた。リスボン商会の受付だ。
﹁ええ。今日は仕入れに来ました。ギルゴマさんは居ますか?﹂
﹁ギルゴマのお客様でしたか。彼は今別件で接客中です。しばらく
お待ち頂ければ彼も手が空くと思います。待合室で暫くお待ちくだ
さい﹂
受付に案内されて、リスボン商会の待合室で待つ事となった。マル
ガと紅茶を飲みながら待っていると、扉がノックされた。
﹁どうもおまたせしました。葵さんお久しぶりですね﹂
軽やかに俺の前に立つ男。リスボン商会のギルゴマだ。彼には幾度
もお世話になっている。特に行商を始めた頃には色々教わったのだ。
当然商売なので、手厳しくはやられているが、今でも頭は上がらな
い。
﹁こんにちわギルゴマさん、お久しぶりですね。相変わらずお忙し
そうで。商売は順調そうですね﹂
﹁いえいえ、まだまだですよ。もっと精進しないとね﹂
笑顔で挨拶を交わす俺とギルゴマ。当然、その目にはマルガが入っ
ていた。
﹁一級奴隷ですか⋮葵さんも商人としても、冒険者としても一角に
なられたのでしょうねー﹂
俺を見る目が一瞬冷たく光る。そしてにこやかに笑うギルゴマ
﹁ま⋮まあまあかな?﹂
一瞬ギクッとなっている俺を見てフフフと笑うギルゴマ
141
﹁そうですか、そうですか。それは何よりです。ですが、過ぎた欲
は身を打ち滅ぼすと言います。酒、麻薬、博打、そして女⋮私はそ
れで身を滅ぼした人を沢山見てきました。葵さんはどうなんでしょ
う?﹂
マルガを流し目で見て、俺の方を向き微笑むギルゴマ。ギクギクと
なる俺
﹁い⋮いや∼。俺は大丈夫ですよ。多分⋮﹂
ぎこちなく笑う俺を見て、ニヤっと笑うギルゴマ
﹁そうですか。私はてっきり、御寵愛されている、その可愛い一級
奴隷さんに、かなりお金を使って散財してしまったのではと、心配
してしまいましたよ﹂
そう言ってニコッと笑うギルゴマ。
貴方は見てたんですか!その通りなんですが⋮何か汗が出て来たよ⋮
﹁いや∼。ほんの少し?ですよ?﹂
﹁そうですか、やはり散財してしまわれましたか。貴方という人は
⋮﹂
そう言って軽いため息を吐くギルゴマ。あれ?俺はほんの少しって
言ったのに⋮ううう⋮見ぬかれている⋮
俺の困惑する顔が楽しいのかクククと笑うギルゴマ。くうう⋮この
人怖いよ⋮
そんな俺とギルゴマのやり取りを見ていたマルガが、俺の横に来て
ギュット腕を掴み
﹁ご主人様は悪く有りません!沢山お金を使ったのは私のせいです
⋮ご主人様を責めないで下さい!﹂
ギルゴマに向かってそう言ったマルガは、ギルゴマをウウウと唸っ
て見ている。尻尾が少し逆立っていた。
142
その様子を見たギルゴマは、今日一番の面白いものを見たと言った
感じに笑い出した
﹁アハハハ。これは失礼しましたねお嬢さん。別に葵さんを責めて
いる訳では有りませんので、許して下さいね﹂
ギルゴマは、綺麗にお辞儀をして、にこやかにマルガに謝罪する。
﹁い⋮いえ⋮私も少し言い過ぎました⋮すいません﹂
きっと謝られるということに慣れていないのであろうマルガは、ぎ
こちなく微笑む。
﹁なるほど︰良い奴隷を買われたみたいですね。見た目だけでは無
いですか⋮。相変わらず、物を見る目と、良いものを選択するとい
うのは鈍っていないようですね。少し安心しました﹂
そう言って優しく微笑むギルゴマ。⋮何とか怒りはおさまったかな
?そう思ってニヘラと笑うと
﹁⋮少しだけですので⋮。気を緩めませんように葵さん⋮それに、
何度も言いましたが、貴方はすぐに顔に出る癖があります。そんな
顔に書いてますって言う様な事では、大きな商談はまだまだ出来ま
せんね﹂
ギクギクギク!なるべく出さないようにしてるけどこの人の前では
出ちゃうんだよなー
⋮マルガちゃん⋮君は何自分の顔を触っているの?大丈夫!本当に
顔に書いてある訳じゃないよ!
﹁そ⋮それはギルゴマさんの前だけですよ!俺だって他ではちゃん
としてますよ?それなりに行商だって重ねてますし!﹂
そうだそうだ!俺がんばってるもん!やれば出来る子って、死んだ
じっちゃが言ってたもん!
143
﹁一級奴隷を持てる位にと言いたいのですか?ま⋮いいでしょう。
早く葵さんも大きな商談を、私に持ちかけてくれる様になって下さ
い。貴方を買っている私を悲しませないで下さいね﹂
そう言って微笑むギルゴマ。くうう⋮本当ギルゴマさんは苦手だ⋮
ううう⋮
ギルゴマは俺の顔を見て楽しんでいるようであった。
﹁今日は仕入れに来られたと言ってましたね。では小さい取引を始
めましょうか﹂
くううう⋮小さいって言われた!いつか大きな取引持って来て、驚
かせてやる!ううう⋮泣きたい⋮
俺は港町パージロレンツォとイケンジリの村に行く理由と、今日仕
入れに来た品物を伝える。
﹁なるほど⋮確かにマルガさんが冒険者として戦闘スキルを身につ
ければ、選択肢はグッと広がりますね。それに、確かにイケンジリ
の村に行く頃合いは良い時ですね。しかし、先にイケンジリに私の
知り合いの行商人が向かってますね﹂
ぐは!先を越されたか⋮確かに俺も行商人から聞いた話だからなー。
諦めるか⋮
そんな俺を見てまたフフフと笑うギルゴマ
﹁また顔に出てますよ!ったく⋮何度言えば⋮。ま∼彼は貴方と品
物はかぶりません。知り合いは、イケンジリの村に、魚の塩漬けと
干物を行商に行くと言ってました。元々港町パージロレンツォに帰
る途中だったみたいです。港町パージロレンツォでは魚は売れませ
んからね。そしてこの街よりかイケンジリの村の方が高く売れます
から。帰る途中に行商と言った所でしょう﹂
そう言って微笑むギルゴマ。そうか⋮それならこっちも商売出来る
144
な⋮良かった。
しかし、次の瞬間、ギルゴマはちょっと不安そうな顔をして
﹁ただ⋮彼はイケンジリの村に行って、港町パージロレンツォで取
引を終えたら、また此方に戻ってくると言っていたのですが⋮まだ
戻ってきてないんですよね。もうとっくに戻ってきても良いはずな
んですがね。そこが気がかりですね。他の行商人も彼を見かけては
いないみたいなので⋮﹂
そう言って暫く考えて、俺の方をちらりと見る
﹁俺はきっちりと準備をして行くことにするよ。俺も冒険者の端く
れなんで、自身の装備は怠らないよ。取引を終わらせてまた此処に
来るよ﹂
俺の目を見てうんうんと頷くギルゴマ
﹁⋮商人の約束は絶対ですからね?約束を守らないと怒りますから
ね。⋮では、取引と行きましょうか。農具、鏃、塩でしたね。予算
は幾らですか?﹂
﹁う∼ん。金貨5枚分って所かな?どれくらいいけそう?﹂
﹁そうですね⋮農具は鉄製で一つ銀貨10枚、鏃は一つ銅貨50枚、
塩は小麻袋で銀貨3枚と言う所ですね﹂
う∼ん。高いような気がする⋮俺を見てニコニコしているギルゴマ。
⋮ムウ⋮
﹁ちょっと高いね全体的に。塩はともかく、鉄物は高いね。それは
冬の相場だよ﹂
﹁⋮高いと言う理由は何ですか?﹂
ニヤッと笑うギルゴマ。⋮怖いよこの人⋮助けてママン⋮
﹁鉄物は冬場と夏場が高い。理由は冬は寒いからみんな薪を暖炉に
145
使いたいから、鉄を溶かす分まで回りにくいし、鉄鉱石が取れる山
は雪で覆われることが多い。なので生産力が落ちる。夏は薪の心配
はないけど、暑さで鉄鉱石の生産力と、鉄を打つ職人の体力が持ち
にくいので生産力が落ちる。奴隷を使っても、奴隷が死ぬから、奴
隷代もかかるしね。しかし今は春先。これから暑くなるまでは、生
産力を落とさずに生産できるしね。塩は夏場が天気が良くて暑いか
ら、塩田での生産力は上がるけど、冬場に比べれば、今は日も長く
なったし安くなるからね﹂
俺がそう説明するとうんうんと頷きニコッと笑う。また試されたの
かな?⋮ううう⋮
﹁⋮なるほど。では、いくら位をお望みですか?﹂
﹁農具は一つ銀貨6枚、鏃は一つ銅貨20枚、塩は小麻袋で銀貨2
枚って所かな?﹂
それを聞いたギルゴマの目が冷たく光る
﹁それは安すぎですね。此方としては、農具一つ銀貨7枚、鏃は一
つ銅貨30枚、塩は銀貨2枚と銅貨50枚が限界ですね。取引の量
から考えてこれが限界です﹂
フム⋮春先の相場の価格になってきたね。俺が何か他に交渉の手段
がないか考えていると、珍しくギルゴマから条件を提案してきた
﹁葵さん⋮もし私の条件を飲んでくれるなら、葵さんの提示した価
格でお売りしますがどうでしょうか?﹂
﹁どんな条件なんです?﹂
﹁⋮先程も言いましたが、一足先にイケンジリの村に向かった知り
合いの行商人の事です。彼の近況を確認して頂きたいのです。彼は
此方に来ると言ってまだ来てません。こんな事は今までありません
でしたからね。彼は昔から私たちの商会と懇意にしている行商人で
して、小さな村にも行商に回ってもらえる数少ない行商人なのです
146
よ。彼を心待ちにしている、小さな村の人は多いはず。なので、彼
の近況が知りたくてね。葵さんがイケンジリの村に行けば、きっと
近況が解ると思うのです。近況が解れば人伝いか、手紙で私に知ら
せてくれれば結構です。どうですか?﹂
なるほど、どうせイケンジリの村に行くのだから、その行商人の近
況は解るだろう。行く人の少ない村だけに頼める人も少ないって訳
か⋮
﹁解りました。イケンジリの村で彼の近況を聞いて、港町パージロ
レンツォに着いたらすぐに、此方に手紙を出しましょう。近況が解
らなくても出すようにします。これでいいですか?﹂
﹁ええ、それで結構です。只の杞憂なら良いのですがね。では、葵
さんの提示した価格で取引をしましょう。割り振りはどうしますか
?﹂
﹁えっと⋮農具が金貨1枚分、鏃が金貨2枚分、塩が金貨2枚分で
お願いします。明日の昼過ぎにこの町を出発しますので、午前中に
商品を取りに来ます﹂
﹁解りました。ではその様に準備しておきましょう。私は明日の午
前中は忙しいので、他の者が対応します。⋮葵さん、貴方も先ほど
の約束を守って下さいね?﹂
そう言ってギルゴマは少し真剣な目をする。ギルゴマの気持ちが心
地よい
﹁ええ解ってますよ。ギルゴマさんとの約束は守りますよ。俺も十
分に準備して行きますので﹂
そう言って笑うと、顔を緩ませるギルゴマ。俺達は挨拶を済ませ、
商会を後にするのであった。
147
時刻は昼過ぎ、俺とマルガは小腹が空いて来たので、露天で蜂蜜を
塗ったパンと果実ジュースを買い、広場で食べながら休憩していた。
﹁先程のギルゴマさんは、何か怖い人でしたね﹂
マルガは口に蜂蜜をつけながら、蜂蜜パンを美味しそうにかぶりつ
いている。
口に付いている蜂蜜を舐めて上げたい⋮むうう⋮蜂蜜プレイか⋮そ
れも中々⋮ゲフンゲフン⋮
﹁まあ、やり手の商人さんだからね。俺も彼には頭が上がらないよ。
今も商売の事を良く教えてもらってるからね。でも、基本優しい人
だよ﹂
そう言ってマルガの頬についている蜂蜜をペロっと舌で舐めとると、
顔を赤くして、俺に顔を近づけるマルガ。その口はわずかに開いて
居る。これはキスをおねだりする時に顔だ。
まって⋮マルガちゃん!此処はちょっと人が多いからキスは流石に
⋮ちょっと調子に乗りすぎたかな⋮
﹁後で一杯マルガの舌を堪能させてもらうから、今は我慢してね﹂
そう言って頬に軽くキスをすると、赤くなった顔をコクコクと頷か
せているマルガ。尻尾が嬉しそうに揺れている。むうう⋮可愛い⋮
俺が我慢出来ないかも⋮何処かの路地裏で、マルガを後ろから犯し
て⋮ゲフンゲフン⋮そのプレイも次回にしよう⋮
何とか欲望を抑えこみ、先ほどのギルゴマとの話を思い出していた。
先にイケンジリの村に向かった行商人はまだ戻ってきていない。そ
の行商人はギルゴマの話通りの人物なら、何かあった可能性が高い。
準備は入念にしていった方がいいか⋮
色々と準備する事を考えてふと気になった事を思い出した。
俺は、美味しそうに蜂蜜パンと、果実ジュースを食べているマルガに
148
﹁ねえマルガ。マルガのネームプレート見せて﹂
マルガはハイと返事するとネームプレートを俺に差し出す。良く考
えたら、まだ詳しくマルガのネームプレートの中身を見ていなかっ
た。これからの準備にも関わってくるので、しっかりと把握してお
く事にしたのだ。
﹁ネームプレートオープン﹂
そうするとネームプレートは開かれていく。通常は持ち主以外は開
けないのだが、主人は自分の所有している奴隷の情報を見る事が出
来る。奴隷側からは主人の情報を見る事は出来無いが。
俺はマルガのネームプレートじっくりと見ていく。⋮どれどれ⋮
﹃名前﹄ マルガ
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ワーフォックスハーフ
130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63
﹃年齢﹄ 13歳
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
149
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
あおい
そら
葵 空 遺言状態 所
フムフム⋮やっぱりレベルも1で、戦闘職業も無しか⋮取得スキル
はどんな感じかな⋮俺は取得スキルの星印を選んで、項目を開く。
﹃現取得スキル 合計3﹄
﹃アクティブスキル 計1﹄ 裁縫LV25、 ﹃パッシブスキル 計1﹄ ワーフォックスの加護︵身体能力向上、
高嗅覚、高聴力︶ ﹃レアスキル 計1﹄ 動物の心
取得スキルは合計3つか⋮裁縫のレベル高いな!流石はずっとやら
されていた事だけはあるね。
ワーフォックスの加護⋮ワーフォックスの種族である能力を指して
いるっぽいね。身体能力向上、高嗅覚、高聴力か⋮
しかし驚いたな⋮まさかマルガがレアスキル持ちだったとは⋮
レアスキルと言うのは、別名ギフトとも呼ばれていて、生まれ持っ
た才能、天からの授かりものと言われるスキルである。種類は様々
だが、非常に強力で、有力な力を秘めたスキルが多いらしい。レア
スキル持ちはその力の強さから、国やら貴族、その他から重要視さ
れ、引く手数多といった感じだ。
マルガの元の持ち主のあのむっさい男は、きっと俺と同じようにそ
んな物を持っていないと決めつけていたのであろう。知っていれば
もっと高く売った事だろう。ある意味金貨20枚で買えたのは幸運
か?
150
俺は霊視で人の能力をネームプレート以上に見ることが出来るから、
沢山見てきたけど、レアスキル持ちを見たのはマルガが初めてだ。
それほどレアスキル持ちは少ないと言う事だ。
﹁マルガは、動物と話す事が出来るのかな?﹂
俺の問に、首をフルフルと横に振る。
﹁喋れないんですけど、意志を疎通してる感じでしょうか。その動
物さんが何を考えているか解ります。こっちの思ってる事も伝える
事が出来ます。でも、邪悪な思念を持っている魔物とか動物さんは
意思の疎通をさせることは出来ません。昔、三級奴隷だった時は、
ネズミさんと心を通わせて、和んでいました﹂
そう言って、軽く微笑むマルガ。
ネズミと心を通わすって!なんか捕まったお姫様っぽい事してたん
だねマルガ。⋮可愛ゆす!
⋮しかし、今は戦闘職業には就いてないけど、フォックスの加護と
動物の心は使い方によっては、戦闘でも役に立つかも知れないな。
そんな事をブツブツと言って考えていた俺に、マルガが顔を近づけ
てきた
﹁ど⋮どうしたのマルガ!?﹂
ちょっとびっくりしてマルガを見る。キスなら帰ってからいっぱい
するよ?
しかし、マルガの顔はキスをして欲しい時の顔じゃなく、何かウズ
ウズしている
﹁私⋮ご⋮ご主人様の⋮ネームプレートを見てみたいです⋮﹂
なるほど⋮好奇心ですね。解ります。
マルガの目線は俺の顔とネームプレートを行ったり来たりしている。
尻尾も絶賛フリフリ中!
151
ワーフォックスの特徴なのか、マルガは好奇心旺盛だ。可愛いんだ
けど!
﹁解ったいいよ見せて上げる。ネームプレートオープン!﹂
そう言ってネームプレートを開くと、マルガは俺に体を密着させて、
ネームプレートを覗き込む。
Marks
そんなに可愛い仕草すると、押し倒しちゃんだからね!⋮ゲフンゲ
フン⋮
そら
そんなマルガと一緒に自分のネームプレートを見る。
あおい
﹃名前﹄ 葵 空
﹃LV﹄ LV25
﹃種族﹄ ヴァンパイアハーフ
168㎝ 体重 59㎏
﹃年齢﹄ 16歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ タッスルマークスマン︵Tussle
man︶
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク ブロンズ、
152
所属チーム無し
マルガ、 遺言状態 所有
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹃その他3﹄ 取得財産、 一級奴隷
者死亡時奴隷解放
俺のネームプレートを見てパアアと表情が明るくなるマルガ
﹁ご主人様は私と3歳違いなんですね!レベルも25ですし、登録
も済ませて立派です!﹂
キラキラした目で俺を見るマルガ。
よせやい!照れるじゃ無いか!調子に乗っちゃうよ僕ちゃん!⋮ち
なみに、レベル25やら、これ位の登録してる奴は、ゴロゴロいる
からねマルガちゃん!⋮一緒に勉強しようね!手取り足取り⋮ムフ
フ⋮
マルガはネームプレートを見ながらまだソワソワしていた。どうや
ら、取得スキルも見たい様だ
あれですか?ご主人様の総てを知りたいんです!知ってるのは私だ
けなんです!的な、独占欲ですか?
くうう⋮可愛いやつめ⋮今夜は本当にいっぱい可愛がるの決定です!
ソワソワしているマルガをもっと見ていたかったが、可哀想なので
素直に見せる
﹃現取得スキル 合計14﹄
﹃アクティブスキル 計7﹄ 古武術LV24、 種族能力解放L
V1、 雷操作︵能力開放時のみ使用可能︶、 眷属付与、 闇魔
法LV1、 銃剣術LV24、 射撃技術LV24
153
﹃パッシブスキル 計4﹄ ヴァンパイアハーフの加護︵限定不老
不死、身体能力上昇、大強闇属性耐性、弱光属性︶、 精密射撃、
火器の知識、 タッスルマークスマンの魂 ﹃レアスキル 計3﹄ 闘気術LV24、 霊視、 魅了
マルガは俺の取得スキルを見て驚いている。
﹁何から聞けば良いのか解らない位すごいです⋮スキルも知らない
物ばかりですし、しかも⋮レアスキルを3つもお持ちなんて⋮私聞
いた事有りません。⋮もし良かったら説明してくれませんか?﹂
マルガの尊敬の眼差しで俺を見る。
ムハッッハ!もっと見るが良い!お代官様は満足じゃ!ほれほれ、
もっと近う寄れ⋮ア∼レ∼と帯びをグルグルと外して⋮ゲフンゲフ
ン⋮
まあ、スキルに関しては良いものが有るのは解っている。だから今
迄生きてこれたんだからね。
マルガがまたソワソワしているので説明する事にした
﹁まずアクティブスキルは、任意に発動させるタイプのスキルだね。
使うと決めて初めて効力が発揮する。パッシブスキルは常時発動し
ているスキルだね。マルガだとワーフォックスの加護のお陰で、い
つも身体能力やら、耳がよく聞こえたり、匂いがよく解ったりする
だろ?そんな感じ。レベルの表示が有るのはレベルが上がると効力
が強くなるタイプのスキルね。使うたびに上がって行くけど、使わ
ないと全然上がら無いからね。パッシブスキルにある、タッスルマ
ークスマンの魂は、俺が戦闘職業に付いている事で、パッシブスキ
ルとして発動してるんだ。ナニナニの魂と言ったパッシブスキルを
持っているのは戦闘職業に就いている者だけ。その効果は、その戦
闘職業に関するスキルの効果が上昇するんだ。だから、戦闘職業に
154
就いている人は強いって事だね。細かいスキルの内容は、港町パー
ジロレンツォで見せてあげるよ﹂
そう説明するとウンウンと頷き
﹁楽しみにしてますご主人様!⋮私も強くなって、ご主人様を守り
たいです!﹂
マルガは腕にキュっと抱きついて言う。ムハ!可愛いこと言ってく
れるじゃないですか!本当に可愛いんだからマルガちゃんは!
俺はマルガを抱きしめて優しく頭を撫でる
﹁マルガは、俺が守るよ⋮。だから無茶な事はしないでね?﹂
その言葉を聞いたマルガの目が潤んでいる。マルガは俺の胸に顔を
埋めて気持ち良さそうにしていた。
﹁さ!おやつも食べ終わった事だし、帰って明日の出発の準備でも
しようか!﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
マルガは元気よく笑顔でそう答えた。このままマルガと一緒に居れ
る事を幸せに感じていた。
155
愚者の狂想曲 5 ラングース出立
仕入れと買い物を済ませた俺とマルガは、宿屋に帰ってきた。まだ
夕方前だが、明日の出発の為に準備を始めたのだ。マルガは宿屋に
帰ってきて、届いていた自分の服を、カバンの中に綺麗に整頓して
いっている。俺もアイテムバッグを開き、戦闘用の装備を手入れし
ていく。
そこに、鞄を整理し終わったマルガが、好奇心が湧いたのか、傍ま
で見に来た
﹁ご主人様それは戦闘用の装備ですか?﹂
マルガは物珍しそうに、並べられた装備を見ている。ほんと、好奇
心旺盛だねマルガちゃんは!
﹁マルガも港町パージロレンツォについて、冒険者ギルドできちん
と戦闘職業についたら、装備を買ってあげるからね。それまでは我
慢してて﹂
マルガはハイと返事をしてニコニコしている。もう⋮可愛いんだか
ら!
マルガを抱きしめ軽く唇にキスをする。赤くなって微笑むマルガ
俺はアイテムバッグから、一振りの短剣を取り出しマルガに渡す。
刃渡り20㎝位の短い短剣だ。
﹁マルガはそれを持っておいて。その短剣ならマルガでも使いやす
いだろうから。ま∼念の為にって感じだけど。腰につけておくとい
いよ。旅をするのにも役に立つしね﹂
マルガに短剣を渡すと、鞘から抜いて、短剣をじっと見つめ
156
﹁これでご主人様をお守りします!﹂
ムムムと目をキツくして短剣を掲げて言うマルガ。⋮それで守れる
位の敵なら、俺が簡単にやっつけちゃうけどね!見てて可愛いので、
このまま見ていよう!
俺がマルガを見てムフフとなっている時に、マルガは一振りの剣を
見る。
﹁これがご主人様の武器ですか?﹂
マルガは鞘に入った刃渡り45㎝位の剣を手に取る
﹁ま∼武器っちゃ武器だね。それはマチェット﹂
マルガからマチェットを受け取り、鞘から引き抜く。刃渡りは45
㎝程度だが、重厚感のある頑丈なマチェットだ。
﹁この、刃の背中に付いているのは⋮ノコギリですか?﹂
﹁うん、これを買った時に、鍛冶屋でつけてもらったんだ。そのお
陰で、結構大きな木でも切れる様になったよ。このマチェットの主
な用途は、木を切ったり、草を払ったりが主な使い方かな?こいつ
は結構重宝してるよ﹂
そう説明して、セレーションブレード付きのマチェットを鞘に戻す。
装備の手入れも終わり、旅の準備も出来た。窓の外を見ると、そろ
そろ夜の帳が降りてくる所だった。
俺はマルガと一緒に夕食を取りに食堂に向かった。
隣を俺の腕を組んで歩くマルガは上機嫌だ。尻尾もフリフリ、鼻歌
ルンルン♪
一級奴隷になって初めての食堂なのだ。今迄三級奴隷だったので、
食堂での食事は避けていた。マルガに偏見や差別を与えたくなかっ
たからだ。
しかし、今は一級奴隷。大手を振って食堂で、テーブルで夕食が食
157
べれるのだ。今日は、出発の前祝いだし、一杯食べさせてあげよう。
俺とマルガが向かっているのは、このラングースの町で一番人気の
ある食堂だ。
リーズナブルな価格に、美味しい料理、店の中も広く、沢山の客が
入れる様になっている。
俺はマルガを連れて店の中に入る。店の中は沢山の人が楽しそうに
食事をしている。
﹁わああ⋮﹂
マルガが感動の声を上げている。今迄入ることは許されず、外から
様子を眺めるのが精一杯だった。
それが、何時でも来れて、気軽に自由に食べる事が出来るのだ。
感動しているマルガの手を引いて、空いていた10人がけのテーブ
ルの端に座る。
マルガは回りをキョロキョロ見渡しながら、嬉しそうにしている。
そんなマルガに微笑んで、俺は店員を呼ぶ。10代位の女性の店員
が俺達の元にやって来た
﹁いらっしゃいませ!何にしましょう?﹂
﹁今日のおすすめって何かな?﹂
﹁今日のおすすめは、ブルリ魚の塩焼きと、羊と芋のシチュー、ボ
スル肉の蒸し焼きです﹂
﹁じゃ∼それ3つを2人分ずつと、パンと果実ジュースと野菜のサ
ラダも2人分お願いします﹂
注文すると、店員はお辞儀をして戻っていく。
この世界には色々な生物がいる。魚のブルリはアロワナに近い淡水
魚で、この世界では良く食べられているポピュラーな魚だ。ボルス
は豚に近い肉質の動物だ。此方も数が多く、良く食べられている。
でも、地球で居た動物も普通にいる。馬、豚、牛、羊、犬、猫、鶏⋮
158
平たく言うと、地球に居た生き物プラス、この世界の生き物がいる
って感じなのだ。
植物も同じ。キャベツ、レタス、トマト、きゅうり⋮見慣れたもの
も多く有る。
只、運搬に冷凍やら、保温が難しく、保存がしにくい。生産地が近
い場所じゃないと、新鮮な物や、加工していない物は食べれない。
大体、塩漬けか干した物が主流である。野菜は特別難しく、生産条
件が厳しい物じゃなければ、大体揃うんだけどね。生産地ならだけ
ど。
暫く待っていると、店員が料理を持って来た。テーブルの上に並べ
て行かれる料理。
どの料理も美味しそうな匂いを漂わせている。その匂いを嗅いだマ
ルガは口から涎が出そうになっている。
﹁ご主人様美味しそうです∼﹂
マルガはテーブルに並べられている料理に、目が釘付けになってい
る。そんなマルガを微笑ましく思い、笑みがこぼれる。
﹁さあマルガ食べよう!﹂
﹁ハイ!ご主人様!いただきます!﹂
マルガは料理に襲いかかった!
ボスル肉の蒸し焼きはかぶりつかれた!!マルガはボスル肉の蒸し
焼きを頬張っている!
マルガは連続攻撃を放った!
羊と芋のシチューと焼いたパンはモリモリ削られていく!マルガの
頬も一杯になっている!
マルガ会心の一撃!
ミス!!ブルリ魚の塩焼きは、マルガのフォークからポロロンとテ
ーブルに転げ落ちた!
マルガは涙目になっている!ウウウ⋮と唸って、テーブルにポロロ
159
ンと落ちたブルリ魚の塩焼きの様子を伺っている!
﹁マ⋮マルガ⋮料理は逃げないから、ゆ⋮ゆっくり食べようね⋮﹂
このまま放っておいたら、何処迄格闘するのか面白い所ではあるが、
周りの人がマルガを面白そうに見ていて恥ずかしい!ここで一度ブ
レイクさせないと!
マルガは俺の言ったことに気付き、顔を赤くしながら
﹁ご主人様すいません⋮余りに料理が美味しかったもので⋮﹂
モジモジしながら言うマルガ。周りの人も笑っている。更に赤くな
ってモジモジするマルガ
﹁ハハハ。可愛いお嬢さんですね。食べっぷりも良いし﹂
そう言って、対面に座っていた男女が話しかけてきた。にこやかに
微笑む男女。
﹁今日はごちそうみたいだけど、何かのお祝いかい?﹂
女性がそう訪ねてきた
﹁ええ⋮まあ⋮そんな所ですかね?明日この町を出て、港町パージ
ロレンツォ方面に行商に向かうんですよ。この子は俺の奴隷になっ
て初めての行商なんで、ちょっとした前祝いみたいなもんです﹂
俺は微笑みながら言うと、ニコッと笑う女性
﹁そうなのかい。お嬢ちゃん良いご主人様に出会えて良かったね∼﹂
そう言って、マルガに微笑む女性にマルガは満面の笑みで
﹁ハイ!私、ご主人様に出会えて、凄く幸せです!﹂
そう言い切るマルガ。周りの人は笑っている。ううう⋮マルガ⋮気
持ちは凄い嬉しいけど⋮恥ずかしいよ∼。まさか⋮何かのプレイで
160
すか!?俺もモジモジしてしまった。
とりあえず、マルガの口に付いていたパンくずを取ってあげて、話
をそらす事にした
﹁えっと⋮貴方がたは冒険者の様ですが⋮何処かに向かう旅の途中
ですか?﹂
恥ずかしげに苦笑いして言う俺
﹁私達は確かに冒険者だけど、旅ではないの。行商人の護衛で此処
まで来たの。私達は港町パージロレンツォから来て、貴方達とは反
対の方向のルブジリアン王国に向かう予定よ﹂
なるほど⋮冒険者は行商人の護衛もよく引き受ける。
この世界で行商人は、規模にもよるが、大抵1∼3人の護衛を付け
て行商を行なっている。
護衛を付けず行商や旅など自殺行為。無謀も良い所だ。
そう言えば、この冒険者達は、行商人の護衛で、港町パージロレン
ツォから来たと言っていた。
調度良い。ギルゴマの知人の行商人の事を聞いてみるか。
﹁そうなんですか。それと、聞きたい事が有るんですけど⋮﹂
俺は2人の冒険者に事情を話す。暫く考え込んでいたが
﹁う∼ん。貴方の言う様な特徴の行商人は見てないわねー。ごめん
なさいね﹂
﹁いえ、そんな﹂
﹁ま∼最近はまた少し物騒になってきたからね∼﹂
﹁どういう事ですか?﹂
俺は2人の冒険者に理由を聞いてみる。
﹁東方の6年前に滅びた大国、元グランシャリオ皇国領で、またい
161
ざこざが有ったらしくてさ。その残兵やら敗戦兵やらが軍から逃げ
出して、あちこちの国で悪さをしてるらしいよ。このフィンラルデ
ィア王国にも、流れて来てるみたいでさ、憲兵が取締をしてるんだ
けど、被害が増えてるって。被害が収まるまで暫く時間がかかるか
もだってさ﹂
なるほど⋮ひょっとしたら、そいつらにやられた可能性もあるのか⋮
﹁とりあえず、貴方達も港町パージロレンツォの方に向かうなら、
気を付ける事だね。あの街は良くも悪くも人が集まる街だから﹂
﹁ええ。気をつけます。ありがとうございます﹂
﹁なんか食事時に、湿っぽくなっちゃたね﹂
﹁いえ、貴重な情報たすかりますよ﹂
俺達は笑いあいながら、食事を進めるのであった。
俺とマルガは食堂での夕食を済ませ、宿屋に向かって帰っている。
﹁ご主人様ごちそうさまでした!ものすごく美味しかったです!﹂
マルガは満足気にそう言って微笑んでいる。うん良い顔だね!癒さ
れる!
俺はマルガの頭を優しく撫でる。マルガは満面の笑みで微笑んで返
してくれる。
﹁そか。それは良かったね。俺もあの店の料理は美味しいから好き
なんだよね﹂
マルガは、あの料理をぺろりとたいらげて、デザートの果物までペ
ロリとたいらげていた。
この小さな体のどこに入るのか不思議ではあった。量だけなら俺と
162
同じ位食べている。
ま∼マルガが喜んでいるんだからいっか!太るような様子もないし。
健康第一だよね!うんうん!
俺がそんな事を考えて歩いていると、マルガが声を掛けてきた
﹁ご主人様⋮聞きたい事があるのですが良いですか?﹂
うん?なんだろ?好奇心マルガちゃん。何でも答えてあげよう!知
ってる事だけ!
﹁うん?いいよ。何が聞きたいの?﹂
﹁⋮なぜ、ご主人様は、私に優しくしてくれるのですか?﹂
そう言って、マルガはライトグリーンの透き通るような瞳を、静か
に向けている。
え!?何!?どうしたの!?俺何かした!?どうしたのマルガちゃ
ん!?
いきなり何かのフラグですか!?⋮鼓動が早くなってきた!⋮ムムム
﹁⋮そ⋮それは、マルガが大切だからだよ?﹂
疑問形になったが⋮うん、嘘ではない!マルガは可愛いし、俺にと
ってはかなり大切だ。離したく無い程に
﹁な⋮なぜ⋮大切なんですか?﹂
マルガは俺に一層近づき、その瞳を俺に向ける。ライトグリーンの
綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
オオウ⋮ツッコんできちゃったよ⋮斬り込んできちゃうよマルガち
ゃんが!どうしちゃったの?
ムウウ⋮どんなフラグかは解らないが⋮此処は正直にいこう⋮
﹁そりゃ⋮マルガは可愛いし、俺に尽くしてくれるし⋮﹂
それにエッチだし!⋮こんな可愛いマルガちゃんを、大切にしない
163
訳無いじゃん?
そんな俺の答えを聞いて、ライトグリーンの透き通るような瞳が一
瞬揺れる
﹁理由は⋮それだけですか⋮﹂
そう呟いて、儚げに一瞬視線をそらすマルガ
﹁マ⋮マルガ⋮﹂
そのマルガの表情になんとも言えない気持ちが湧いてきた
﹁⋮⋮変な事聞いてすいませんでしたご主人様。さあ、帰りましょ
う!﹂
そう言ってマルガは俺の手を引っ張って、ニコっと笑って前を歩き
始めた。
何故か少し寂しそうな背中が、俺の何かを刺激する。
﹁キャ⋮﹂
少し驚いて声を上げるマルガ。俺は後ろからマルガを抱きしめてい
た。無性にマルガをそうしたくなった。
マルガを後ろから抱きしめながら、マルガの優しく甘い匂いを堪能
する。
﹁マルガは⋮俺の奴隷なんだから⋮ずっと手放す気は無いからね⋮
マルガは俺の物⋮解ってるよね?﹂
マルガの耳元でそう囁き、マルガの可愛い、少し尖った耳に優しく
キスをする
﹁⋮ハイ⋮ご主人様⋮私は⋮ご主人様の物です⋮永遠に⋮﹂
マルガは抱きしめている俺の腕をギュッとつかみ、振り返って俺に
キスをする。マルガの柔らかく甘い舌が俺の口の中に入ってきた。
164
マルガの舌に俺も絡めながら、マルガの舌を十分に堪能する。
十分にマルガのキスを堪能し終わって、顔を離した時にマルガの顔
が目に入る。
その顔はいつものマルガに戻っていた。頬を赤く染めて、嬉しそう
に俺を見ている。
﹁⋮マルガ⋮帰ろう﹂
そう言って微笑むと、ハイ!と嬉しそうに返事をするマルガ。
マルガは俺に腕組みしながら、ニコニコしている。
マルガの毛並みの良い金色の尻尾が、夜空を照らす輪っかのかかっ
た青い月の優しい光の中、楽しげに揺れていた。
俺とマルガは宿屋の宿泊している部屋に戻って来ていた。
明日の出立の準備は既に出来ているので、部屋の中で、マルガと他
愛のない話をしながら休憩していた。
夜も深まって来たので、そろそろ体を拭こう。
俺が体を拭く準備をしようとしたら、マルガに止められた
﹁ご主人様そういう事は私がします!ご主人様はゆっくりしていて
下さい!﹂
マルガは両手を腰に当てて、少しお説教モードで俺に言う。
どうやら俺が色々マルガにする事は、マルガに取っては嬉しい事で
はあるが、主人にされてばかりでは、奴隷として立つ瀬が無いとの
事らしい。
なので雑用は、余程の事が無い限り、全てマルガがすると言う事に
なった。
マルガも言い出したら聞かないね⋮いじらしい所も可愛い!
165
マルガは、桶と体を拭く布を用意してくれた。そして、石鹸水で布
を絞り
﹁ではご主人様の体を拭かせて下さい﹂
そう微笑むマルガ。マルガは俺の服を脱がせてくれる。
そして、丹念に俺の体を、拭いていってくれる。
両腕に、両足、背中や胸も。そして、最後に俺のモノを優しく手に
取る。
マルガは、優しく石鹸水を絞った布で拭いてくれる。マルガの手が
気持ちよくて、俺のモノはムクムクと元気になっていく。それを見
て、顔を赤らめて微笑むマルガ
﹁う⋮うう﹂
思わず声が漏れた。マルガが俺のモノを咥えて、舌と口の中で丹念
に愛撫してくれる。
マルガの柔らかい舌と、暖かい口の中が気持ちいい。
﹁ご主人様の⋮美味しいです⋮﹂
マルガは目をトロンとさせながら言って、俺のモノを再度口に咥え
愛撫する。
マルガが可愛くて、マルガの口の中が気持ち良くて、もう我慢出来
なかった。
﹁マ⋮マルガ⋮出すよ⋮マルガの口の中に⋮一杯出すよ⋮﹂
俺の声にマルガは、モノを咥えながら何度も頷き答える。マルガの
頭を両手で抑え、マルガの顔に腰を振る。その瞬間に、俺のモノか
ら快楽と共に、白い精液がマルガの口の中に飛び出す。
マルガは、俺のモノに吸い付き、最後の一滴まできちんと吸い取る。
マルガの口から俺のモノを抜くと、ヌロロと引く糸が艶かしく光っ
ている。
166
マルガは口を開けて、波々と口の中に注がれた精液を俺に見せる
﹁マルガの口気持良かったよ。ご褒美の俺の精子⋮よく味わって飲
むんだよ﹂
そう言うとマルガは頷き、口の中でクチュクチュ味わってから、コ
クコクと飲み込んでいく。
そしてマルガは、きちんと飲みましたと解るように確認出来るよう
に、俺に口の中を見せる。
それを確認してマルガの頭を優しく撫でると、赤くなって微笑んで
いる。尻尾もパタパタ振っていた。
﹁じゃ、今度はマルガの体を拭こうね⋮﹂
石鹸水の桶で、布を浸し、綺麗に絞って、マルガの体を引き寄せる。
マルガの服を優しく脱がしていく。恥ずかしそうにしているマルガ
が可愛らしい。
すべての服を脱がすと、マルガの玉の様な白い肌の、華奢だが女の
子らしい柔らかい体が姿を表す。
マルガの可愛く、美しい体に見蕩れながら、マルガを拭いていく。
右腕、左腕を優しく拭いていく。当然拭くだけではない。
拭きながらマルガの脇の下や首筋を舌で念入りに味わい愛撫もする。
マルガが身悶えるのが愛らしい。
舌と布で丹念に愛撫しながら、全身を綺麗にしていく。
マルガは、舌が気持ち良いのか、時折甘い吐息を上げる。
そして、全身を綺麗にし終わった時には、マルガの秘所はヌルヌル
になっており、内腿に雫が滴り落ちていた。
﹁マルガも綺麗になったね⋮。マルガも気持ち良かった?﹂
ニヤっと笑ってマルガに聞くと、恥ずかしそうに赤らめた顔で
﹁はいご主人様⋮気持良かったです⋮綺麗にして下さってありがと
167
うございます⋮﹂
そう言って俺の手を取って、指を口に入れて、舌を絡めて舐めるマ
ルガ。
マルガは、俺の指を舐めながら、トロンとした透き通るようなライ
トグリーンの瞳を揺らせて
﹁ご主人様⋮私⋮私⋮﹂
切なそうに呟き、身を悶えさせるマルガ。俺はマルガを抱きかかえ、
ベッド迄連れて行き、優しくベッドに寝かせる。
﹁今日はね、マルガの血を貰いながらするからね﹂
そう告げると、マルガは一瞬ピクっと体を強張らせる
﹁⋮大丈夫。死んだり、アンデットになったりしないから。傷跡も
残らないからね。⋮多分だけど、気に入ってくれると思うよ⋮﹂
そう言って、軽く額にキスをすると、ニコっと微笑みながら
﹁私はご主人様だけの奴隷です⋮ご主人様の好きになさって下さい
⋮それが私の望みですから⋮﹂
そう言って微笑み、俺にキスをするマルガ。う∼ん可愛すぎる!
俺の種族はヴァンパイアハーフ。ヴァンパイアの始祖と人間のハー
フだ。
色々な能力があるが、月に3回血を吸わないと死んでしまう。マル
ガに会うまでは、娼館の女をレアスキルの魅了で操って、その女か
ら血を貰っていた。
魅了で操られている最中は、自意識はなく、記憶も無い。血を吸い
終われば、何も覚えていないその女を抱いて、娼館から帰ると言っ
た感じで過ごしていた。
168
それと、ヴァンパイアに血を吸われたからと言って、死ぬ事は無い。
最後まで血を吸いきったら死んでしまうかも知れないが。俺はヴァ
ンパイアハーフなので、血を吸う量も少なくて済む。
もう一つは、同じく血を吸われたからと言って、ヴァンパイアには
ならない。
同族や下僕のアンデットを作る時は、眷属の力を使って、別の方法
がきちんとあるのである。
ヴァンパイアは、数がとても少ない闇の稀少種族だけ有って、憶測
や伝説だけが先走っている状態だ。
実際に、出会ったり、戦ったりした事のある者は、ほぼ皆無だろう。
俺は少し震えていたマルガを優しく抱きしめると、マルガは安心し
たのか、震えは止まっていた。
マルガに優しく微笑むと、マルガも極上の微笑みで返してくれる。
そんな可愛いマルガにキスをする。可愛い口を開かせ、舌を滑り込
ませる。
マルガの柔らかく暖かい舌を、心ゆくまで味わい堪能する。マルガ
も同じように、俺の舌を味わっている様に、舌を絡めてくる。
マルガの舌を堪能しながら、マルガの柔らかい、こぶりの可愛らし
胸を愛撫する。
﹁う⋮ふ⋮っん⋮﹂
マルガの吐息がどんどん甘くなる。マルガの感じて立って来た乳首
を、入念に弄ぶ。
身をよじりながら感じているマルガ。可愛いピンク色の乳首を舌で
味わいながら、マルガの秘所を指で愛撫する。マルガの秘所は既に
糸を引くほど、甘い膣蜜で光り輝かせている。
マルガのその膣蜜を味わうべく、俺はマルガの下腹部に顔を埋める。
﹁っは⋮ん⋮っん⋮﹂
169
マルガの秘所を舌で味わう。可愛い膣の中に舌を滑り込ませると、
蜜を出しながら、キュっと舌を締め付けるマルガ。マルガの蜜を味
わいながら、クリの方も舌で弄ぶ。マルガは、身悶えながら、俺の
頭を両手で抑えて、秘所に宛がう。余程気持ち良いのか、マルガは
腰をくねらせ、俺の顔にもっとしてとおねだりする様にこすりつけ
てくる。俺はおねだりしてくるマルガが可愛くて、目一杯マルガの
秘所を愛撫する。洪水のように蜜を流すマルガの体が小刻みに震え
だす
﹁ご⋮ご主人様⋮わ⋮私⋮変です⋮な⋮な⋮何か⋮き⋮ます!﹂
マルガはピクンピクンと体を震わせ始める。俺は愛撫を強め、マル
ガの秘所を弄ぶ。
その瞬間、マルガは体を大きく震わすて
﹁ご⋮ご主人様ー!⋮んっ⋮ん⋮っん⋮あああ!!!﹂
マルガの体は大きくはじけて、大きな吐息を吐く。その後小刻みに
震えているマルガ。
桜色に火照った体を大きく揺らして息をしていた
﹁ご⋮ご主人様⋮わ⋮私⋮どうなったのですか?﹂
マルガは目を虚ろにしながら、グッタリしている。
﹁それはね、イクって言って、女の子が絶頂を迎えた時に味わえる
感覚だよ。⋮凄く気持ち良かったでしょ?﹂
﹁はい⋮とても気持ち良かったです。⋮あんなの初めてです⋮﹂
頬を赤らめて言うマルガにキスをして
﹁それは良かったね。これからもっと気持ちよくなるよ。それと、
次からはイク時は、イキますってきちんと言ってからイク様にね⋮
解った?﹂
170
そう言うと、恥ずかしげにコクッと頷くマルガ。
そんなマルガに俺は覆いかぶさった。足を開けさせ、秘所を突き出
させる。
﹁じゃ∼マルガの可愛い膣穴を堪能させてもらうね﹂
﹁はい⋮マルガのココを、ご主人様ので一杯にして下さい﹂
マルガは足を両手で持って、秘所を俺に差し出している。そんな可
愛いマルガにキスをする。
﹁⋮初めては痛かったでしょ?マルガの初めての顔を見たかったか
ら、優しくしなかったけど⋮今日は血を吸いながらだから、痛みを
感じないからね⋮凄く気持ちよくしてあげる⋮﹂
そう言って、俺のモノをマルガの秘所に押し当てる。マルガにキス
をして、その唇を首筋まで持っていく。そして、蜜液で煌めいてい
るマルガの膣に、一気に入っていくと同時に、首筋から血を吸う。
﹁っんはああああああああ!!!﹂
マルガは大きな声を上げ、体を捩れさせた。その口からは、激しく
甘い吐息を漏らしていた。
その表情は快楽に溺れて恍惚に浸っていた。
ヴァンパイアに血を吸われると、SEX似た強い性的快感が得られ
る。この快感が忘れられなくてわざわざヴァンパイアに、血を吸わ
れる事を望む者も多々居る。
今のマルガは全身が性感帯のようになっている。何をされても気持
ち良いだろう。
昨日処女を奪ったばかりで、まだ膣にモノを入れられるのは痛いは
ずだが、俺が腰を振るとマルガは甘い吐息を撒き散らせながら、俺
のモノを可愛い膣で味わっているのが解る。
﹁ご⋮ご主人様!⋮き⋮昨日と⋮全然⋮違います⋮私⋮私⋮﹂
171
身を悶えさせながら、甘い吐息混じりに言うマルガ
﹁膣の中も気持ち良いでしょ?血を吸いながらしたらこうなるんだ。
⋮もう、マルガの可愛い膣は、俺のモノを気持ち良いものとして認
識したはずだよ。今度からは、血を吸わないでも気持ち良いからね﹂
そう聞かされたマルガの顔は歓喜に染まる
﹁う⋮嬉しいで⋮す!ご⋮ご主人様!⋮マルガ⋮ご主人様ので⋮も
っと⋮気持よくなりたいです⋮﹂
そう言ってマルガは俺にキスをする。舌を滑り込ませてきて、俺の
舌を堪能するように舐めている。
腰をくねらせ、もっとしてとおねだりするマルガ。
﹁解ってるよ⋮。じゃ∼マルガを一杯犯して気持ちよくしてあげる
ね﹂
俺はマルガの腰を掴み、マルガの体を激しく揺さぶり、腰を叩きつ
ける。激しく出入りする俺のモノを、マルガの可愛い膣は喜ぶよう
に蜜を垂らしてキュっと締め付けてくる。
マルガは恍惚の表情に浸り、俺のモノを激しく求める。
﹁ご⋮ご主人様!き⋮気持ち良いです!ご主人様のが⋮気持ち良い
です!﹂
マルガは体中を桜色に染めて、玉のような汗を全身に身に纏い、光
り輝いていた。
そんな、甘い吐息を辺りに撒き散らすマルガは、女神以上に可愛く、
艶かしく映った。
俺の心はマルガに囚われている様であった。もっとマルガが欲しい
⋮身も心も全部⋮隅々まで⋮
﹁マルガ⋮好きだよ⋮﹂
172
自然と口から零れる様に呟いた俺。そう⋮俺は⋮マルガが好きなん
だ⋮奴隷としてだけじゃなく、一人の女の子として⋮
俺がマルガを好きになっていた事に自覚していると、マルガは目を
潤ませながら
﹁ほ⋮本当⋮ですか?⋮ご主人様は⋮私の事が⋮マルガの事が⋮好
きなんですか?﹂
か細く、何かを求めるように聞き返してくるマルガ
﹁うん⋮マルガが好き⋮大好き⋮﹂
その言葉を聞いたマルガは、大粒の涙を流し、ギュっと抱きついて
﹁私もご主人様が好き!大好き!ご主人様が大好きです!﹂
マルガは何か溜まっていたものを吐き出す様に言うと、キスをして
きた。
舌を俺に入れ、俺の唾液を飲み、味わい堪能し、自分の体に染み付
けるように、飲み込んでいく。
そんな情熱的なキスをしてくるマルガに、俺は更に欲情してしまっ
た。
マルガの体を激しく上下させながら、胸に唇を這わせ、マルガの可
愛いピンクの乳首に吸い付く。
身を悶えさせながら、腰をくねらせ、俺を求めるマルガ。
マルガの可愛い乳房に牙を立て、乳首を舌で弄びながら、乳房から
も血を吸う。
﹁あうっん⋮っっん⋮はあ⋮﹂
マルガは更に甘い吐息を上げる。マルガの体は小刻みに震えだした。
俺は、マルガの俺のモノで快楽に浸っている顔をもっと見たくなっ
て、激しくマルガの可愛い膣を、俺のモノで犯していく。
マルガの体は、何度もピクピクと踊りだしてきた
173
﹁ご⋮ご主人様⋮また⋮来ます!また⋮私⋮﹂
我慢できなくなってきたマルガは、甘い猫なで声で言う
﹁いいよマルガ。一杯イッていいよ⋮可愛いイッてる顔を俺に見せ
て﹂
俺はそう言うと、マルガの体を激しく上下に揺さぶる。マルガの秘
所はピクピクと小刻みに痙攣をはじめる。マルガの甘い吐息が大き
く弾けた
﹁ご主人様!イ⋮イキます!ご主人様イッちゃいます!⋮んはああ
あああ!!!﹂
大きく体をのけぞり絶頂を迎えるマルガ。膣がキュっと俺のモノを
きつく締め付ける。その快感に、俺も絶頂を向かえ、マルガの小さ
な膣に精をぶちまける。俺は、満足してモノをマルガの可愛い膣か
ら引き抜くと、ヌロロロと糸を引いて居る。マルガの可愛い膣から
は、注がれた俺の精液が溢れて流れ出していた。
﹁ご⋮ご主人様の⋮熱い精液が⋮私の中で暴れてます⋮気持ち良い
⋮﹂
マルガは恍惚の表情で、嬉しそうにそう言うと、俺にキスをする。
﹁ご主人様⋮ご主人様の精液を、私の膣に下さって有難うございま
した﹂
マルガは目をトロンとさせながら幸せそうに言う。その余りにも可
愛い顔に我慢出来なくなり、ギュっとマルガを強く抱きしめる
﹁マルガ⋮好きだよ⋮俺だけのマルガ⋮大好きだよ⋮﹂
その言葉に、また涙ぐみながら
174
﹁私も大好きです⋮ご主人様に好きと言ってもらえて夢みたいです
⋮マルガは幸せです⋮﹂
ギュッと抱きついて、涙を流しているマルガ。優しく頭を撫でると、
頬を赤らめて嬉しそうに俺を見る
そんな可愛い顔は反則です!もう、お兄さん許しませんYO!
﹁俺も幸せだよマルガ⋮﹂
そう言いながら、マルガを抱きかかえて、
﹁まだまだ寝かせないからね⋮今日は一杯マルガを犯すからね﹂
その言葉にマルガの透き通るようなライトグリーンの瞳は、淫靡な
光に染まり、歓喜に満ちていた
﹁ハイ⋮ご主人様⋮マルガを一杯犯してください⋮ご主人様の精液
で⋮マルガを一杯にしてください﹂
マルガは両足を広げ、秘所を両手で広げる。マルガの可愛い秘所か
らは、先ほどの俺の精液で艶かしく光っている。我慢できなくなり、
一気にマルガに入って犯す俺。
その夜、何度もマルガと肌を合わせ、好きな気持ちを確認しあうよ
うに求め合って、そのまま眠りについた。
﹁スウースウー﹂
心地良い息が俺の胸元に感じる。腕の中で心地良さそうに眠ってい
る、天使の様な寝顔の美少女のものだ。女の子独特の肌の柔らかさ
と、甘く優しい匂いが、寝ぼけた俺の頭をゆっくりと覚ましていく。
窓の方を見ると、春先の優しい日差しが射し込んでいる。
昨日マルガを心ゆくまで犯した後に、そのままマルガを抱きしめて
175
寝てしまったのを思い出した。
腕の中のマルガは、一糸纏わぬ格好で、その可愛く綺麗な体を、俺
に任せて寝ている。
その天使の様なマルガの唇に優しくキスをする。
﹁ん⋮うん⋮﹂
マルガは可愛い目をゆっくり開けて、ぱちくりさせる。そして、俺
の顔を見つけて、満面の微笑を俺にくれる。その微笑みに心が拐わ
れそうになる。
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
マルガはそう言って俺にキスをする。マルガの柔らかくて暖かい舌
が、俺の口の中に滑りこんでくる。
俺は抱きしめながら、マルガの舌と口の中を十分に堪能する。いつ
もの朝の挨拶だ。
十分にマルガを堪能し終え、顔を離す
﹁マルガおはよう﹂
微笑みながら言うと、頬を赤らめてニコっと笑うマルガ。当然、俺
の下半身も、元気におはよう状態で大きくなっている。それを感じ
たマルガは、両手で優しく俺のモノを掴み、艶かしく光るライトグ
リーンの瞳を向けて
﹁ご主人様の⋮朝の精子をお口にください⋮﹂
そう言って、マルガは俺の下腹部まで顔を埋めていく。
そして、可愛い口で俺のモノを愛撫し、咥えていく。マルガの暖か
い口の中で、マルガは舌を動かし、吸っていく
﹁マルガの舌と口の中⋮気持ちいいよ⋮﹂
マルガの頭を撫でながら言うと、マルガは優しく微笑む。
176
朝の過敏な時にマルガの口でして貰っているので、あっという間に
達してしまった。
マルガの口の中に精を放出すると、マルガはコクコクと精を飲み干
していく。
すべて飲み終わった所で、マルガは口を開けて飲みましたと解るよ
うに俺に見せる
マルガをキュッと抱き寄せる
﹁マルガ⋮好き⋮可愛かったよ⋮﹂
そう言うとマルガは顔を赤く染めて、満面の笑みで
﹁ありがとうございます⋮私も大好きですご主人様⋮﹂
ギュッと抱きついてくるマルガ。2人はそうやって暫くベッドの中
で抱き合っていた。
落ち着きを取り戻した俺とマルガは、宿屋の主人から朝食を貰い、
食べ終えて着替える事にした。
勿論、俺もマルガも旅用の準備をする。昨日の準備のお陰で、手際
よく進んでいく。
﹁ご主人様どうでしょうか?﹂
マルガは着替え終わって、俺に確認を求めてきた。
﹃頭﹄ リボン付きカチューシャ
﹃体﹄ 膝上レザーワンピース、膝上ドロワーズ
﹃腕﹄ レザーグローブ
177
﹃足﹄ 膝上レザーロングブーツ
﹃武器﹄ 黒鉄の短剣
﹃背中﹄ フード付き防水レザーケープ
﹃その他﹄ ウエストバッグ
うんうん、しっかりと装備できている。
マルガの装備は、女性の旅人がよく着ている、旅のセットだ。
丈夫な皮で出来た服で、膝上ドロワーズを履かせているので、下着
も見えないし、暖かいだろう。
﹁いいんじゃない?似合ってるよ。外套はまだ暑いだろうから、脱
いでおくといいよ﹂
そう言うとハイと返事をして微笑むマルガ。
そんな、マルガは俺の装備を見てソワソワしている。
はいはい。好奇心旺盛なマルガちゃんは知りたいんですよね。解っ
てますよ。
黒鉄のケトルハット 俺の装備は⋮
﹃頭﹄
﹃体﹄ 黒鉄のブリガンダイン、レザーギャンベソン、レザートラ
ウザーズ
﹃腕﹄ 黒鉄の半手甲、フィンガーレスレザーグローブ
﹃足﹄ 黒鉄のグリーブ、ジョッパーブーツ
178
﹃武器﹄ セレーションブレード付きの黒鉄マチェット
﹃背中﹄ フード付き防水レザークローク
﹃その他﹄ 容量15アイテムバッグ、ウエストバッグ
﹁ご主人様格好良いです!﹂
俺の装備を見たマルガは嬉しそうに言う。
そう!?やっぱり似合ってる!?またまた調子に乗っちゃうよ?し
まいにゃ踊るかもよ!?
俺の装備は、この世界で安価で手に入る、黒鉄の普通の装備だよ!
こんな装備ごろごろいるからね!
重装備のフルプレートじゃなくて、動きやすい装備だから、防御も
そんなに高くないよ!
とりあえず、お金が貯まったらマルガと俺の装備も良い物に変えよ
う!
俺とマルガは荷物を持って部屋を出る。宿屋の主人に挨拶をして、
宿代を支払う。
宿屋の裏手にある、馬小屋迄行き、荷物を積み込む。馬を荷馬車に
繋いで、御者台にマルガと一緒に座る。
﹁じゃ∼、リスボン商会に、荷物を取りに行こう﹂
ハイと微笑んで返事をするマルガ。リスボン商会に荷馬車で揺られ
ながら向かっていると、
﹁ご主人様、この荷馬車を引っ張ってくれている、お馬さんの名前
は何て言うのですか?﹂
どうやらマルガは馬を見た時から気になっていたらしい。
﹁な⋮名前!?えっと⋮⋮う⋮馬⋮かな⋮?﹂
179
な⋮名前なんて考えても居なかった。いつも、よしよしとか、ご苦
労さんしか言った事無いし⋮
そんな、どもっている俺に何かを感じたマルガは
﹁⋮もしかして⋮ご主人様⋮このお馬さんに、名前をつけてあげて
いないのですか?﹂
マルガは、ジ∼∼∼っと俺を見てくる。
ううう⋮視線が冷たい⋮マルガちゃんにそんな目で見られたら⋮新
しい世界に目覚めちゃうよ!?
マルガはレアスキルで動物の心を持ってる位だから、動物に優しく
しないと怒られちゃう感じ!?
でも⋮マルガ動物のお肉は美味しそうに一杯食べるのに⋮って言っ
たら、嫌われそうだから辞めておこう!
しかし、半年も旅をして来た、相棒に近い馬に名前を付けてないの
も、可哀想だよね。
そんな事を考えながら、ふとマルガを見たら、ウウウと俺を見ている
うは!やばす!怒っちゃってる!どうしよう⋮そうだ!
﹁も⋮もし良かったら⋮マ⋮マルガが名前を付けてあげてくれない
?馬もその方が喜ぶだろうし!﹂
苦し紛れだったかな⋮。そんな事を思いながらマルガを見ると、パ
アアと表情を明るくして
﹁え!わ⋮私がお馬さんの名前を付けてもいいんですか!?﹂
目をキラキラさせて嬉しそうに言うマルガ
イエス!苦し紛れだったけど、何とか機嫌は直った様だ。フ∼良か
った良かった。
﹁うんいいよ。マルガが付けてあげて﹂
そう言って微笑むと、マルガはハイ!と嬉しそうに返事をして、名
180
前を考え始めた。
腕を組んで、あれこれ考えている様だ。一生懸命なマルガ可愛いね!
そんな感じで俺がニンマリしていると、
﹁名前決まりました!﹂
マルガは、ハイ!と右手を挙げて元気よく言う。可愛すぎる⋮マル
ガちゃん
﹁はいマルガ。どんな名前でしょうか?発表して下さい!﹂
俺が微笑みながら言うと、マルガはニコっと微笑み
﹁このお馬さんの名前は⋮リーズ・アダレイド・アナ・リーラ・ド
ランスフィールド・ジョーハンナ・ジラ・キンバリー・カドガン・
アマンダ・キャスリン・パーマー・ブルブリルです!﹂
右手の人差し指を立て、得意げな顔で言うマルガ
﹁はええ!?リーズ⋮アダ⋮﹂
﹁リーズ・アダレイド・アナ・リーラ・ドランスフィールド・ジョ
ーハンナ・ジラ・キンバリー・カドガン・アマンダ・キャスリン・
パーマー・ブルブリル、ですよご主人様!﹂
マルガはプクッと頬を膨らませて、拗ねたように言う。拗ねたマル
ガも可愛す!⋮それはおいといて⋮
馬の名前なげ∼∼∼よ!
何それ!?初めのリーズとかで手一杯だよ!リーズ・アダレイド・
アナ・リー⋮って!心の中で舌噛んじゃったよ!
これからずっとその名前で呼ばないとダメなの!?お兄さんちょっ
と⋮いや、かなり自信ないよ!?
それに人前で言ったら、きっと俺と同じように、他の人からツッコ
ミ頂いちゃうよ!?
⋮⋮見た目は可憐で、ものすごく可愛く誰もが振り返る美少女で、
181
性格も優しく素直で凄くいい子なのに⋮
欠点なんて無いと思ってたけど、こんな所でマイナス修正されてい
たとは⋮流石はマルガちゃん!
そんな俺を見て、しびれを切らしたマルガは
﹁ご主人様!ちゃんと名前を言ってあげて下さい!﹂
﹁えっと⋮リーズ・アダレ⋮﹂
勿論⋮言えるわけは無いですよ⋮そんな長い名前⋮覚えきれません!
マルガは俺にどうしても馬の名前を言わせたいのか、リスボン商会
に着くまでの道中、何十回と名前を俺に復唱させる。
喉が痛い⋮カラカラだ⋮もう、復唱しすぎて、逆に解らなくなって
きた⋮
涙目になりながら、復唱していると、リスボン商会が見えてきた。
やった!これで、この復唱拷問から解放される!
喜びを隠しながら、俺とマルガは荷馬車から降りる。マルガは、ム
ムムと言った感じで俺を見ている。
いや!ほら!もうリスボン商会に着いたからね?馬の名前はまた今
度!ゆっくり覚えさせて⋮
とりあえず、名前の決まった馬に
﹁これからもよろしくな!リーズ・アデレ⋮⋮と⋮兎に角よろしく
⋮﹂
世界一名前が長いであろう俺達の馬に、挨拶がわりに首を撫でると
﹁ブルル⋮﹂
馬に溜め息をつかれた様な気がした⋮泣いていいですか?⋮ううう⋮
そんな肩を落としている俺の手を引きながら、マルガはリスボン商
会の受付の所まで連れてきた。
何とか気を取り直して、受付に挨拶をして用件を伝える
182
﹁昨日ギルゴマさんに注文した商品を受け取りに来ました﹂
﹁お伺いしております。では荷馬車の方を、商品搬入口迄、まわし
てください﹂
俺は指定された商品搬入口迄荷馬車を移動して、そこの担当と話す
﹁葵様、商品は此方になります。農具が金貨1枚分、鏃が金貨2枚
分、塩が金貨2枚分です﹂
﹁確かに確認しました﹂
俺は商品を確認して、代金を支払う。リスボン商会の奴隷が商品を、
俺の荷馬車に積んでいく
﹁有難うございました。また次回も宜しくお願いします﹂
﹁いえ、此方こそ。ギルゴマさんに宜しくお伝え下さい﹂
取引も終わり、挨拶も済ませ、リスボン商会を出た頃には、お昼に
なっていた。
時間も丁度よいので、昼食を取ってから町を出る事にした。
荷馬車で昨日の食堂まで移動する。中に入ると、昼食時だけあって、
そこそこお客が入っている。
空いている席に座り、テーブルの上に置いてあるメニューを手に取
り、マルガに渡す。
﹁マルガ好きなの食べていいよ。今日から暫くは旅になるから、良
いもの食べれないから、一杯食べたら?﹂
﹁ハイ!解りましたご主人様!﹂
マルガは目をキラキラさせて嬉しそうに献立表を見ている。
ムムムと献立表と睨めっこしながら見ているマルガ。
そんなに献立表を見てると、献立表に穴が開いちゃうよ?今迄食べ
た事がない料理ばっかりだから悩むのは解るけどね!此れから一杯
食べさせてあげるからね!
マルガをムフフと見ながら微笑んでいると、マルガはメニューから
183
目を離し
﹁ご主人様決まりました!﹂
なにか一大決心でもしたかの様に、俺に語りかけてくるマルガ。
そんな必死に言うマルガに、笑いをこらえながら、店員に注文をす
る。
マルガが注文したのは、羊と芋のシチューと焼いた鶏肉を挟んだサ
ンドイッチだった。
俺も同じ物を頼み、サラダと果実ジュースもついでに頼む。
暫く待っていると、店員が料理を運んできた。テーブルに並べられ
る料理を見て、マルガはまた涎を垂らしそうになっている
﹁じゃ、食べようかマルガ﹂
﹁ハイ!頂きますご主人様!﹂
マルガは相変わらず、料理を嬉しそうに頬張っている。マルガに昨
日、慌てずに食べる様に言っているので、今日は昨日みたいにはな
っていない。まあ、あの格闘も可愛かったけどね!
俺も料理を食べながら、マルガを見て幸せな気持ちになっていると
﹁ご主人様。イケジリンの村って、此処からどれ位何ですか?﹂
料理を食べながら言うマルガ。
お!ちょっとは余裕が出てきたのかな?感心感心!
﹁このラングースの街からだと、荷馬車で10日って所かな?﹂
その言葉を聞いたマルガは、少し顔を引き締める。
初めての行商だし、少し緊張してるのかな?マルガは真面目だから⋮
﹁まあ、途中で川も有って水も補給出来るし、道も平坦だから割り
と楽かな?魔物も数が少ない。盗賊系だけ注意してれば、特に問題
ないよ﹂
184
そう言って、マルガの頬に付いていた、パンくずをペロっと舌で取
る。
マルガは顔を赤く染めて、俺に顔を近づける。その口はわずかに開
いて居る。いつものキスをおねだりする時の顔だ。
うは!またですかマルガちゃん!可愛いんだけど、此処は食堂で、
他人が多いからね!⋮また調子に乗りすぎちゃったね⋮反省⋮
再度マルガに、後で一杯マルガの舌を堪能させてもらうから、今は
我慢してねって言うと、赤くなった顔をコクコクと頷かせているマ
ルガ。尻尾が嬉しそうに揺れている。
ほんと可愛いんだからマルガちゃんは⋮町を出たら⋮一杯しようね!
俺とマルガは、昼食を食べ終え、食堂を出た。
そして荷馬車に乗り込む。そして馬のリーズ︵以下省略!︶の手綱
を握る。
その横にはマルガが俺の顔を見て微笑んでいる。
俺はマルガの手も一緒に握り
﹁じゃ∼行こうか!﹂
マルガに微笑みながら言うと
﹁ハイ!ご主人様!行きましょう!﹂
マルガは眩しいくらいの笑みを見せてくれる。
2人は微笑み合い、晴れ渡る空の下、ラングースの街を後にした。
185
愚者の狂想曲 6 追憶のワーフォックスの少女︵前書き︶
マルガ視点の物語です。
186
愚者の狂想曲 6 追憶のワーフォックスの少女
私は塔と呼ばれる建物の中に、生まれてからずっと居る。
なぜ塔の中で居なければならないのかは知らない。お母様や、他の
大人達が、此処から⋮塔からは出てはいけないと、言われているの
です。
でも、この塔の中では、私は自由に動き回れます。何も叱られたり
もしません。
塔の中には本が沢山あるし、お母様が文字やお勉強を教えてくれる
ので、私は不満に思った事は有りません。
お母様は忙しい人で、たまにしか逢えませんが、私と一緒の時はと
ても優しくしてくれます。
私はお母様が大好きです。私を優しく撫でてくれるお母様が。微笑
んでくれるお母様が⋮
この塔に居る他の大人の人達は、私とお母様の事を、良く思ってい
ない事は解っています。
私達を見る目や、接する態度で解ります。
私とお母様は人間族とは違い、亜種と呼ばれている種族で、ワーフ
ォックスと言う種族です。
別名、狐族とも言われ、エルフさんやドワーフさん、ワーキャット
さん達に比べ、数が凄く少ない種族らしいです。
その中でも私は、人間族とワーフォックスとのハーフとの事。更に
数は少ないと聞いています。
お父様が人間族で、お母様がワーフォックス。お父様には、今迄会
った事はありません。
お母様も、お父様の事は何も教えてくれません。なので、私もお父
様の事は聞かない方が良いと思っていて、聞く事はしません。お母
187
様の困った顔を見たくはありませんから⋮
塔の中での生活は、穏やかでした。
塔から出る事は出来ませんが、たまに来てくれる優しいお母様と、
楽しい時間を過ごす事が出来ましたから。
私は、優しく微笑んでくれるお母様と、このまま過ごせれば良いと
思っていました。
しかし、その望みは、儚くも打ち砕かれてしまいます。
私が7歳になったばかりの日でした。
私はいつもの様に、塔の中で本を読んでいました。すると塔の外か
ら、大きな爆発音が聞こえ、地響きが塔全体を揺らします。それと
同時に、沢山の人々の声が聞こえ、塔の外は大変な事になっている
のが解りました。
私は怖くて、部屋の隅で丸くなっていました。塔の外は更に騒がし
くなり、人々の悲鳴や、剣をかち合わせている音、それに爆音⋮。
塔の部屋の高くにある窓から、とても嫌な匂いがしました。
そんな時、塔の扉が開き、誰かが走り込んで来ました。私は恐怖で
その場を動く事は出来ませんでした。部屋の隅で膝を抱えて震えて
いる私に、その侵入者は、優しく私を抱きかかえました。
﹁マルガ⋮無事でしたのね⋮良かった⋮﹂
私を抱きかかえてくれたのは、お母様でした。私は安堵して、お母
様にしがみつき、泣いていました。
そんな私を優しく撫でながら、お母様は
﹁マルガ、此処から一緒に逃げます。これにすぐに着替えて﹂
お母様はそう言うと、私に男物の長袖の服と、長いスラックスを渡
して来ました。
私はお母様の言われた通りに、急いでそれに着替えました。それを
確認したお母様は、懐から何かを取り出しました。
188
それは豪華な装飾のついた、綺麗な赤い石のネックレスでした。
お母様は、その綺麗な赤い石のネックレスを、私の首にかけて、
﹁マルガ⋮これは、お父様と私が、貴女の為だけに作った物よ。き
っと何時か⋮貴女の役に立ってくれるわ。だから、無くさないで、
大切に持っていなさいね﹂
そう言って、お母様は、綺麗な赤い石のネックレスを、私の服の中
に、キチンと入れてくれました。
﹁さあマルガ!逃げますよ!﹂
お母様はそう言うと、私の手を引っ張って、廊下を走って行く。そ
して、塔の一つの部屋に入り、扉に鍵をかける。
そこは、この塔で唯一暖炉がある部屋で、私は冬になると、いつも
この部屋で過ごしていた。
お母様は、私の手を引っ張って暖炉まで来ると、暖炉の中に腕を入
れ、暖炉の上部の方で何かを探している様でした。
そして、何かを探し当てた様で、お母様の顔に安堵の表情が見えた。
お母様が探し当てたのは、先に輪っかの付いた鎖でした。
お母様はその輪っかの付いた鎖を、力いっぱい引っ張ると、大きな
音を立てて、暖炉が左に移動した。
その暖炉の後ろから、地下に降りる階段が現れました。
私はこの部屋のこんな仕掛けが有る事に驚いていると、私の手を引
っ張って、その地下に降りる階段を、降り始めます。
地下の階段の壁は、清潔で綺麗でした。そして、ほんのり光ってい
るので、明かりがなくても、通路を進むことが出来ました。
長く長く続く通路⋮
私はお母様に手を引っ張られて、かなりの距離を走りました。
すると、通路の先に扉が見えてきました。その扉の中に入ると、上
に登る梯子がありました。
189
﹁さあマルガ、これを登るわよ。私に付いて来てね﹂
そう言うとお母様は梯子に登り始めました。私もお母様の後に続い
て登って行きます。
お母様は、途中で何度も下を見て、私の無事を確認しながら、登っ
て行きました。
梯子を登り切ると、そこは小さな部屋でした。
お母様は、その小さな部屋の壁を調べ、出っ張っているレンガを発
見すると、それに触りました。
レンガは壁に入って行き、それと同時に音を立てて、壁が左右に開
きました。
小さな部屋から出ると、そこはかなり使われていないとすぐに解る
様な、埃っぽい小屋でした。
﹁追手が来ない内に、早く此処から離れましょう﹂
お母様はそう言うと、再度私の手を引っ張って、埃っぽい小屋から
出ました。
そして、小屋から出た私は、その光景に目を奪われました。
高い塔が何棟かある、城塞で囲まれた街は、沢山の煙を上げて燃え
上がっています。
その空には飛竜らしきものに乗った兵士達が、街に向かって魔法で
攻撃しています。
此処からでも、町の人々の逃げ惑う声や、悲鳴が聞こえます。
その中で、街の中心にある大きな建物が、炎に包まれ大きな音を立
てて、崩れ落ちました。
﹁イタ⋮﹂
私は思わず声を上げました。お母様が私の握っている手を、強く握
っていたのです。
お母様の顔を見ると、悲しそうな顔をして、涙を流していました。
190
﹁お⋮お母様?﹂
私が声をかけると、涙を流しながら私を見て、ギュッと私を抱きし
めました。
私は訳が解ら無くて、困惑していると、お母様は、涙を拭いて
﹁さあマルガ行きましょう。早く此処から離れないと﹂
お母様は私にそう告げると、また私の手を引いて、走り出しました。
燃え盛る街から離れ、私とお母様は森の中をひたすら走りました。
私は初めて見る塔の外の森の様子を見ながら走りました。
しかし、私は塔の中でも走る事など無かったので、すぐに息切れを
してしまいます。
﹁マルガ頑張って。一刻も早く国境に向かって、この国から離れな
いと駄目なんです。走り慣れない森の中なのは解っていますが、頑
張ってね⋮マルガ⋮﹂
お母様は悲しそうな顔で私に言います。私はお母様の悲しそうな顔
を見たく無かったので、微笑みながら頷きます。
お母様は私に微笑んで、国境に向かって再度走り出しました。
途中で何回も息切れする私の心配をしながら、お母様は必死でした。
かなりの距離を走った様に感じます。もう、街も見えませんし、声
も聞こえません。
私とお母様は、息を切らしながら走っていました。その時、お母様
は何かに気が付かれた様で、ワーフォックスの特徴でもある、少し
毛の生えた耳をピクピクと動かし、何かの音を聞いている様でした。
そして、苦悶の表情を浮かべ
﹁そ⋮そんな⋮もう此処まで追手が追いついてきているなんて⋮只
の追手では無さそうですね⋮﹂
お母様の鬼気迫った顔に、私まで体が強張ってしまいます。
191
私のその顔を見たお母様は、私の頭を優しく撫でて
﹁マルガ⋮貴女はどんな事をしても守って見せます。お父様とも約
束しましたしね。⋮せめて、あそこ迄逃げ切れたら⋮﹂
そう言うとお母様は、私の手を取って、再度走り出しました。
お母様は回りの気配を耳で感じながら走っています。その表情は、
刻一刻と悪くなって行きました。
そんな時、森が開けました。眼の前に入ってきたのは、大きな崖で
した。
対岸までは100m位はありそうです。崖の下は、見えないくらい
の深さです。落ちればどうなるか⋮
私がそんな事を考えていたら、お母様の耳がピクピクと動き、今迄
で一番きつい顔をしました。
そして、何かを決心したような顔で
﹁マルガ⋮貴女は彼処に見える橋を渡りなさい﹂
お母様はそう言うと、一本の吊り橋に指を指しました。
その吊り橋は、馬車も通れるくらいの大きさの橋で、他に橋らしき
ものは有りませんでした。
私は、何か不安な感じがして、お母様に抱きついて
﹁橋を渡るならお母様と一緒が良いです⋮私一人は⋮嫌です⋮﹂
私はそう言うとギュッとお母様にしがみつきました。
お母様はそんな私に優しく微笑んで
﹁大丈夫ですよ。マルガが橋を渡ったら、私も行きますから﹂
そう微笑んで私の頭を優しく撫でてくれました。私は頷き橋の前ま
でお母様と来ました。
そして私は吊り橋の向こう側迄走り出しました。お母様は橋の手前
で、私が渡り終わるのを待っています。
192
私は橋を渡り終えて、お母様の方を見ました。その瞬間、私の体は
凍りつきました。
橋の向こう側では、黒い装束を着た6人位の男がお母様を取り囲も
うとしていました。
﹁お母様!﹂
私は思わず叫んでしまいました。その声に気が付いた黒い装束を着
た3人の男達が、吊り橋を走って私の所に来ようとしました。
その時に、お母様は胸元から何かを取り出し、吊り橋に向かって投
げつけました。その瞬間、
﹁ドオオオン!!!﹂
大きな爆音と共に、すごい煙が立ち上がりました。
私は、その爆風に飛ばされてしまい、尻餅を着いて座り込んでしま
いました。
そして、落ち着いてきて、吊り橋の方を見ると、馬車も通れるよう
な大きな吊り橋は、崩れ落ちていました。私は絶望しました。此処
には橋は、これ1つしか無いのです。お母様が取り残された⋮
﹁お母様ー!!!﹂
私の声を聞いたお母様は、黒装束の男達に捕まって抑えつけられて
いました。
﹁お母様待ってて!!橋を探してすぐにそっちに行くから!助けに
行きますから!﹂
私は叫びました。お母様の元に行きたい!私は必死でした。
そんな私にお母様が髪を振り乱して
﹁マルガ来ないで!!そのまま逃げなさい!こっちに帰ってきては
駄目!早く!逃げて!!﹂
193
お母様のその取り乱した声が、私を更に不安にさせます。
﹁お母様と離れるのは嫌!お母様と一緒じゃなきゃ嫌ー!!﹂
私は、力のかぎりそう叫びました。お母様と別れるなんて、考えら
れない。
身から涙が知らぬ間に出ていました。そんな崖の淵で叫ぶ私に
﹁お願いマルガ!私とお父様の気持ちを無駄にしなで!貴女が此処
で捕まってしまったら、貴方を逃すと約束した私は、お父様に顔向
け出来無いわ!お願い!マルガ逃げて!そして生き延びて!﹂
私はお母様の、身を切られる様な悲痛な叫びを聞いて、どうして良
いか解らずに立ち尽くしてしまいました。
その時、私の頬を何かがかすめていきました。私は驚いて振り返る
と、後ろの木に弓矢が刺さっていました。対岸から、黒装束の男達
が、私に向かって矢を放っているのです。
次々に私に襲いかかる弓矢。私は恐怖に身を支配されたしまいまし
た。
怖くて動けなくなっている私に、響く声がありました
﹁マルガ!逃げなさい!貴女は生きて!!!﹂
そのお母様の声に、私は我を取り戻しました。ゆっくり立ち上がり、
お母様を見ると、その表情は見えないはずなのに、何故か私に微笑
んでくれてるような気がしました。
﹁わあああああああ!!!﹂
私は駆け出しました。その崖から離れ、反対側の森の中に、精一杯
の力で走りました。
無我夢中で、その場を離れて行きます。
﹁お母様⋮お母様ー!!!﹂
194
私はそう叫びながら、嗚咽混じりに、暗い森の中を只走るのでした。
お母様と別れてから4日が立ちました。もうどれ位あの崖から離れ
たのかも解りません。
無我夢中で、お母様から言われた通りに、逃げ続けています。
途中で何回も転び、沼地に落ちてしまったせいで、髪の毛は勿論、
全身真っ黒に汚れてしまいました。
川も無く、喉もカラカラ⋮。何も食べていないので、歩くのにも力
は有りません。
私は、此のまま死ぬのかなと、考え始めていた時に、少し離れた所
で、何かの音がします。
恐る恐るその音の方にゆっくりと近づいていくと、何台かの馬車が
止まっています。
その馬車の傍には、薪があり、そこには美味しそうに焼かれている
魚が有りました。
私は空腹の余り、その焼かれている魚に飛びつき、食べ始めました。
焼かれた魚はとても美味しく、無我夢中で食べていました。
魚を全部食べ終わった時に、何者かの声がしました。
﹁なんだ⋮おめえ⋮あ!俺の魚食いやがったのか!こいつめ!﹂
そう言ってその男は、私の両腕をしっかりと握り捕まえました。
私は身動きが取れません。その男は大きな男で、力がとても強かっ
たのです。
﹁この汚ねえガキめ!⋮まあいい、お前みたいな小汚いガキでも幾
らかにはなるか⋮おい!こいつも、檻に入れておけ!﹂
そう大きな男が言うと、3人の男が私をしっかりと掴み、馬車まで
195
連れて行きました。
その馬車の荷台には、檻があり、その中には何人もの男女が檻の中
で、手枷を付けられていました。
私は恐怖し、抵抗しましたが、抵抗むなしく手枷を付けられて、檻
の中に入れられてしまいました。
檻に入れられて震えている私をよそに、大きな男は、怒鳴るような
声で
﹁おい!お前等出発するぞ!早く用意をしねえか!﹂
そう言って手に持っている鞭で、男の人を殴っています。殴られて
いる男は、慌てて準備を始めました。そして準備が整ったのか、馬
車の一団は出発しました。
私は手枷を付けられ、檻の中で、此れからどうなるのか不安でたま
りませんでした。
あの大きな男に連れ去られてから、一週間が立ちました。
私は、あの男の三級奴隷と言うやつにさせられてしまいました。
あの大きな男は、私が居た街の近くで、街から逃げてきた者達を捕
まえ奴隷にして、売ったり、働かせたりしているみたいです。人攫
いと言うやつでしょう。
一度奴隷にされてしまえば、もう自由は有りません。私も最初は奴
隷なんかになりたくないので、抵抗しようと思いました。
しかし、その気持ちはすぐに消されてしまいました。
私と同じ様に、抵抗しようとした、その青年の結末を見てしまった
為に⋮
青年は20歳位でしょう。元気もあって力もありそうな青年は、三
級奴隷にされて、解放を望み、あの大きな男に、詰め寄りました。
196
しかし、その次の瞬間⋮
その青年は、大きな男の護衛の2人の男に剣で体を貫かれて、大量
の血を流しています。苦しそうに顔を歪める青年。
そんな青年に大きな男は近づき、腰から剣を抜き、青年の頭を掴み、
その剣で青年の首を一瞬で切り落としました。青年の首の無くなっ
た体から、大量の血が吹き出ています。
大量の返り血を浴び、青年の切り落とした首を掴み上げて、此方に
見せる大きな男
﹁これで俺様に逆らったらどうなるか解ったな!お前等は俺様の奴
隷だ!お前達には何の権利も自由も意志もない!ただ俺様の物で、
俺様の自由に出来る所有物だけだって事だ!俺様に一瞬でも逆らっ
たら、瞬時にこいつと同じ目に会う。すぐに処分するからな!解っ
たかゴミどもが!﹂
そう私達に怒鳴りつけると、青年の血だらけの首を、此方に投げつ
けました。
私は余りの恐怖に体が動かなくて、失禁してしまいました。あんな
簡単に、人を何も考えていない様に、ゴミの様に殺すこの男に、私
は只々恐怖に支配されていました。
もう逃げられない⋮逆らえない⋮私は恐怖と絶望に染まっていまし
た。
あの青年が殺された日から、一週間が立ちました。
私は再度馬車に乗せられて、山間にある高い塀に囲まれた大きな施
設に連れてこられました。
そこはとある貴族が運営する、繊維関係の労働場だと言う事です。
私達、あの大きな男の奴隷は、各地の労働場に出稼ぎに出される事
197
になりました。
私は力もなく、まだ歳も満たないので、繊維関係の力を使わない、
主に女の人がする針仕事をさせられると教えられました。
この施設は、貴族が運営しているのですが、此処の施設には奴隷し
かいません。
この施設の管理者は男の一級奴隷。
施設側の仕事や警備をするのが男女の2級奴隷が数十人程度。
そして最後に、この施設で労働する、私達三級奴隷男女が数百名。
私はこの労働場で本格的に働かされる事になりました。
此処での生活は、熾烈を極めました。
朝は日の出と共に起こされ、朝食を取ります。朝食は自分専用の木
のボウルの様な皿とコップに、管理側の奴隷の2級奴隷が、入れて
行ってくれます。
木の皿に入れられたソレは、食物と呼ぶには疑わしい物です。
味は非常に不味く、変な匂いがして、ジャリジャリしており、何の
食物か解らない物でした。
しかし、食事はこれしかなくて、これを食べないと、たちまち死ん
でしまいます。
食事は一日一回の朝食のみ。この皿に入れてくれる食物と、コップ
一杯の水のみ。
その唯一の食事を食べ終わると、すぐに作業場に連れて行かれて、
作業開始です。
休憩はなく、作業時間の終わる夜までずっと働かされます。作業中
は2回までトイレに行く事を許されます。2回以上は行かせてもら
えず、作業が終わり、牢獄に戻されるまではトイレは出来ません。
もし、漏らしたり、商品を汚したり、失敗をしようものなら、鞭で
何回も叩かれて、罰を与えられます。その罰のせいで、死んでしま
う人が居るくらいです。命がけで作業しないと、死の可能性がある
のです。なので、死なない為に、細心の注意をして作業していまし
198
た。
そんな感じでやっとの思いで夜になり、一日の作業が終わると、自
分の房の牢獄に戻されます。
そこは大部屋で、一部屋20人位の男女が入れられ住まわされてい
ます。
部屋の高いところに鉄格子の付いた窓が一つ、トイレも部屋の隅に
一つ有るだけです。
掃除される事の無いその房は、大変汚く、異臭が漂っています。
トイレは汲み取り式で、たまにしか糞尿が取り除かれないので、よ
く糞尿が溢れかえっていました。
そんな環境の牢獄が唯一の安らげる場所なのですが、気の滅入る事
がすぐに始まります。
同じ牢獄の女の奴隷達が、同じ牢獄の男の奴隷達に、集団で犯され
始めるのです。
管理側の二級奴隷も、その事については放置している様で、全く感
知していない様でした。
奴隷の女達は、沢山の男に犯され、泣き叫ぶ者、諦めてされるがま
まになる者、逆にその快楽に溺れる者と様々でした。その犯されて
いる女達の声が、あちこちの牢獄から聞こえ、木霊して、異様な音
になって聞こえています。
私はその光景を、いつも牢獄の隅で、静かに見ていました。私も女
の子なので、犯される可能性があるので、極力目立たない様に、全
てが終わるまで、牢獄の隅でじっとしているのです。
そして、夜も遅くなり、男の奴隷達も疲れて女の奴隷を犯すのをや
めて眠り始めます。
その時になってやっと女の奴隷達は、ゆっくり出来るのです。言わ
ば犯される事も仕事かもしれません。男の奴隷の欲求不満を、女の
奴隷を犯させる事で抑えているみたいに⋮
私は、身の安全が確保出来た事に安堵して、明日の朝出される、臭
199
くて不味い朝食を食べる事と、変な虫の混じっている水を飲むのを
楽しみにして、今日も空腹と疲労の中、眠りにつくのでした。
あの住んでいた塔から出て6年が経ちました。歳も13歳になり、
少し大きくもなりました。
私は今もあの大きな男の三級奴隷として、連れてこられたこの施設
で、なんとか生き延びています。
この施設の牢獄での生活は熾烈で、大体の奴隷は1∼3年で死んで
しまいます。
男は働かせ過ぎで死ぬ事が多く、女は男に犯され妊娠し、途中でほ
ぼ流産するのですが、その時に病気にかかって死ぬ者が多い。
今この牢獄で私が一番の古株である。色々な人が入ってきては死ん
で、また入ってくるの繰り返し。
変わらないのは、夜に犯される女の奴隷達の、卑猥で悲壮な声の木
霊だけです。
この世界は男は15歳で成人、女は13歳で成人なので、私も何時
犯されてもおかしくない様な歳なのですが、私は小柄であり、此処
に連れてこられた時から、男だと思われていて、男の奴隷服を着て
いるせいもあって、今迄犯された事が無い。見た目もひどく汚れて
いて、男の子にしか見えない。なので生き残れていると思っていま
す。影も薄いので、私の事を古株だと思っている人もいないようで
す。きっと私の事など興味は無いのでしょうが⋮
今の私には希望というものは無い。
今の自分の置かれている三級奴隷と言う立場を良く理解しているの
です。これも、生き残れた理由であると思います。
200
奴隷になると、首に奴隷の紋章が刻まれます。この奴隷の紋章には、
とある効力があるのです。
一つは、主人に危害を加えられないように、危害防止の効力がある。
例えば、奴隷が主人にナイフを持って殺そうと、主人を刺そうとす
ると、魔法の効力によって、金縛りに勝手になってしまうのです。
その金縛りを解くには、主人しか出来ません。なので、奴隷は主人
に対して絶対に危害は加えられないのです。
もう一つは、殺害の効力です。
主人は自分の所有している奴隷なら、何処からでも奴隷を殺すこと
が出来る魔法を使う事が出来ます。
どんなに離れていても、奴隷を殺す魔法さえ唱えれば、一瞬で殺し
たい奴隷を、殺す事が出来るのです。なので、奴隷にされた者は、
ほとんど逃亡したりはしません。逃亡した所で、すぐに魔法で殺さ
れてしまうのですから⋮
奴隷が生き残るには、主人の為に役に立ち、絶対服従するしか無い
のです。
なので、今の私には希望というものは無い。もう、死ぬまで自由の
無い、三級奴隷として生きて行く事しか無いのですから。
そんな私でも、時折は昔の事を思い出したりします。
あの時以来、離れ離れのお母様⋮生きていられるのかさえ解らない
お母様。
お母様に逢いたい⋮叶わぬ願いと知りながら、つい思ってしまいま
す。
私はお母様から貰った、黒くなってしまったネックレスを握りなが
ら、お母様の唯一望まれた約束を果たしています。
﹃⋮貴女は生きて⋮﹄
私はこの言葉だけを頼りに生きてきた様に思います。勿論、死ぬ事
201
が怖いのもありますが⋮
こんな状況にあって、まだ生きたいと思う私は、きっと馬鹿なのだ
と思います。
しかし、その約束も、もう果たせないかもしれません。
今の私は、フラフラで、目もぼやけ始め、体に力も入りません。原
因は、此処3日程何も食べていないからです。
ついこの前入ってきた男の奴隷に目を付けられてしまい、3日程食
事と水を、毎朝その男の奴隷に奪われてしまっているのです。
もともと、栄養のある食物では無いので、わずかの期間その食事を
抜いてしまうと、たちまち死に近づいていきます。私は怖くてその
男の奴隷に歯向かう事が出来ず、俯くしか有りませんでした。
もうダメかも知れない⋮そう思った時でした。
﹁おい!そこの三級奴隷!こっちに来い!﹂
施設側の仕事をしている二級奴隷が、私を呼びます。罰を与えられ
る様な事をしたのかと思い、萎縮しながら行くと、
﹁お前は今日迄だ。ここから出される。迎えが来るらしいから、つ
いて来い﹂
私は理由は解らないが、とりあえずついていく。暫くフラフラしな
がらついていくと、この施設にある門の近くにある建物に連れて行
かされた。
﹁ここで待っていろ。もうすぐ迎えが来るらしいから﹂
そう告げて、二級奴隷は部屋から出ていく。
私はフラフラになりながらも、此処から出れる事に歓喜した。
このままあそこに居たら、間違いなく死んでいたと思うからです。
少なくとも、此処より生き残れる可能性が上がったと思ったのです。
こんな事を考えながら待っていると、部屋に男たちが入ってきた。
私はその男を見て、忘れていた恐怖が蘇り、体を支配するのを感じ
202
た。
そこには、6年前に私を無理やり三級奴隷にした、大きなあの男の
顔がありました。
﹁まさか、あの時の生き残りが残ってたとな。お前は運がイイな。
お前を売りに行くから、此処とはおさらばするぞ。オイ!﹂
そう私に告げると、横に居た大きな男の奴隷が私の首に鎖をつけた。
そして、そとに止まっていた鉄の檻の付いた馬車に載せられる。ま
るで、6年前のあの時の様に。
私はまた不安になりながら、身をまかせるしか有りませんでした。
馬車に乗せられてから3日が経ちました。
その間に、野菜の屑や、草を食べさせられ、一日一回のコップの水
を貰う事で、何とか生き残れていました。聞いた話では、今日の昼
頃には、私が売られる街の奴隷館に到着するとの事です。
お腹が空きすぎて、フラフラするので、眠りながらその時を待つ事
にしました。
どれ位寝ていたのかは解りませんが、馬車が止まった事を感じて目
を覚ましました。それと同時に飛んでくる叫び声
﹁おら!お前等!とっとと馬車から降りろ!グズグズしてると、処
分しちまうぞ!﹂
大きな男はそう叫ぶと、鎖を強引に引っ張ります。馬車から引きず
るように下ろされた、私を含め5人の男女の奴隷は、レンガ作りの
割と大きい建物の前に連れてこられた。
入り口には鎧を着た門番が4人、腰に剣をさげている。幾人もの人
が出入りしている。
203
私はその建物に有る看板を読み上げる
﹁ガリアス奴隷商店⋮﹂
小声でそう呟く。どうやら此処に私達を売るつもりらしい。
大きな男は私たちの鎖を引きずりながら、中に入っていく。中には
沢山の人が居ました。
皆が良い服を着ているのが解る。裕福な人が多いのだと解ります。
大きな男に引きずられながら歩いている時に、不意に目眩が私を襲
ってきました。急に目の前が真っ暗になって、私は床に倒れてしま
った。そんな私に大きな声を出す大きな男
﹁おら!なに寝てるんだよ!さっさと起きねえか!この犬っころが
!!﹂
そう言って、倒れている私の腹を蹴り飛ばす。余りの痛さに、苦し
くて声が出せません。その時、私の胸元から、何かが転がって行く
のが見えました。その転がった物を拾って見ている大きな男
﹁あん?なんだこりゃ∼?小汚ねえ石ころだな∼?﹂
小さな黒くなった石のようなものを見つめる。私は自分の胸元を見
ると、蹴られたショックで紐が切れて、お母様の形見のネックレス
が無くなっていました。そして、その大きな男に持たれているのが
ソレであると解りました。
﹁それは!か⋮返して!そ⋮それは大切な物なんです!﹂
ソレは大事なお母様の形見!お腹を蹴られて、痛いし苦しいけど、
必死で返してとお願いする私に
﹁何口答えしてるんだよ!犬っころの奴隷の分際で!!﹂
そう怒鳴り散らし、怒りの形相で、私を激しく蹴ってきます。その
ものすごい激痛に、私の意識は無くなりそうになります。体のあち
204
こちを蹴られ、血が出てきています。
私は余りの痛さと恐怖に、何も考えられなくなっていました。体の
芯から震えているのを感じます。
蹴られる度に、意識が飛んでいきます。⋮此のまま殺される⋮怖い
⋮死にたくない⋮誰か⋮誰か⋮
﹃⋮誰か私を助けて!!﹄
私は心の底から嘆願した。無意識に手を伸ばす。
そしてソレは⋮⋮ほぼ偶然に近い事だったと思う。
視界に他とは明らかに違う色が映ったので、偶然そこに視線が行っ
たのだと思います。
私の視線の先には、見た事の無い、黒髪に黒い瞳の少年が居ました。
その少年と視線が合うと、一瞬⋮少年の黒い瞳が、真紅に光った様
な気がした。
﹁もうやめろ!それ位で良いだろう!それ以上その子に暴力を振る
うな!!﹂
椅子から立ち上がりそう叫んだ黒髪に黒い瞳の少年⋮青年かな?⋮
蹴られて視界が定まりません。
黒髪の少年の様な青年は、大きな男と言い合いを始めました。
私は蹴られすぎて、意識が徐々に遠のいて行っているので、何を言
ってるのか、解らなくなっていました。懸命に、話の内容を聞こう
と努力している私。しかし、次の瞬間
﹁ボキ!﹂
っという乾いた嫌な音と共に、私の顔に激しい衝撃が突き抜けまし
た。
その後体が全く動かなくなってしまいました。体の感覚がほとんど
有りません。
205
体中がピクピクと痙攣しているようにも感じるのですが、ソレすら
も解らなくなってきました。
視界が徐々に暗くなります。私は完全に意識を失ってしまいました。
そこは暗くて、寒い世界でした。
私は何処とも解らない所を、漂って居る様な感じに包まれていまし
た。私はどうなってしまったのかを考え、思い出していきます。
そして、大きな男の暴力で意識を無くした所迄は、思い出しました。
そして、今の状況を考え
﹁⋮私⋮死んじゃったのかな⋮﹂
そう呟き、三角座りをして、両手で膝を抱えていると、頭上に一筋
の暖かい光が私に射しました。
私はソレを見上げ、その光の方に向かって行きます。
上に上に⋮まるで何かに引き寄せられる様に、私の体はその光に向
かって進んで行きます。
そして、その光に手が届いた瞬間、私の目にうっすらと人影が見え、
私に口付けをしている様に見えます。その人影に、何か神々しい物
を感じました。
﹃⋮黒い⋮天使様⋮?﹄
私は思わず心の中で呟きました。私の目に映ったその黒い天使は、
とても優しい眼で私を見ていました。
そう⋮まるで⋮お母様が、私を見ている時の様な瞳⋮
私はその瞳に包まれる様に、ゆっくり意識が遠のいていきました。
206
﹁う⋮うん⋮﹂
体の怠さと、痛さに目が覚める。どうやら眠っていたようです。視
界が定まらず、頭はボーっとしています。私はどうなってしまった
のか考えていると、声が聞こえました
﹁お!起きたか?大丈夫か?痛い所は無いか?﹂
その優しい声の方を向くと、黒髪に黒い瞳の男の人が椅子に座って
居ました。心配そうに私を見ています。
﹁え⋮えっと⋮貴方は⋮誰ですか?⋮此処は何処でしょうか?﹂
私は今の現状がどうなっているのか解らなくて、辺りを見回します。
頭もスッキリして、視界も回復してきました。そんな私に、
﹁此処は、俺が宿泊している宿の部屋だ。そして俺は、お前の新し
い主人だ﹂
その黒髪に黒い瞳の青年は、ニコっと微笑み私に告げます。私は何
がどうなっているのか解らずに、困惑していたのか、その表情を読
み取った黒髪に黒い瞳の青年は、此れまでの事を説明してくれまし
た。
私は、その内容を聞いて、思わず絶句してしまいました。
この私の新しいご主人様は、あの大きな男の暴力から救ってくれた
だけで無く、お医者さんに迄連れて行ってくれたと言うのです。そ
の結果、死にかけの私は助かり、今こうしてベッドの上に、寝かさ
れて居ると言うのが現況らしいのです。
私は身分の低い三級奴隷。それだけの事をして貰って更に、今こう
してベッドに寝ている。
207
その様な事が決して許されないと理解している私は、急いでベッド
から降りようとして、体中に走る痛みで、身を捩れさせてしまいま
した。
私の新しいご主人様は、そんな私を心配そうな顔で見つめ、ベッド
に寝る様に促されて、挙句に、奴隷にとっての絶対である﹃命令﹄
を使って迄、私を寝かせ様とします。
私は何故三級奴隷である私に、その様な事をするのか理解不能でし
たが、ご主人様の﹃命令﹄は絶対。
逆らえばすぐに処分されてしまいます。私がその命令に従うのを確
認したご主人様は、﹃夕食を取って来る﹄と、言って部屋から出て
いきます。
その夕食と言う言葉に、私のお腹が反応してしまっています。困っ
た物です。
ご主人様は、私の分とおっしゃられていました。私の分⋮つまり、
あの労働場の様な、ジャリジャリしたとても不味い食べ物⋮。でも
私は、三級奴隷。ソレを食べなければ、生きてはいけないのです。
むしろ、理由は解りませんが、これだけして貰って尚、食べ物を頂
けるですから、ご主人様にとても感謝しなければならないと、心の
底からそう思っていました。
暫く待っていると、ご主人様が帰って来られました。
その瞬間、とても良い匂いが、私の鼻を刺激します。ソレはとても
美味しい物だと解る匂いを、醸し出していました。
でも、ソレは私達三級奴隷の食べる物では無いのを、私は知ってい
ます。
私が食べて良いのは、ジャリジャリしたとても不味い食べ物⋮
ご主人様が持ってきたソレは、私達が決して手を付けてはいけない
物なのです。
﹃きっと⋮あれはご主人様が召し上がる分⋮私の分は有るのかな?﹄
208
とても良い匂いに刺激されている私は、卑しくも、ジャリジャリし
たとても不味い食べ物を、探してしまいます。
ご主人様は、ご自分の食事を、ベッドの傍のテーブルに置かれると、
私をベッドの背もたれに、もたれかけさせ、私を抱かえる様にして
座る。
私はこんな見た目ですが一応女の子。一瞬こんな私を犯すのかな?
と、思っていると、余りにも予想外の事が、目の前で起こります。
﹁ほら。あ∼んして。あ∼ん﹂
目の前には、ご主人様が召し上がる食べ物であろう物が、スプーン
一杯に掬われ、私の口元に出されて居るのです。私は、意味が解ら
なくなって、暫くボーっと、そのスプーンに掬われたソレを見つめ
ていました。そんな私に軽く溜め息を吐くご主人様は、
﹁⋮お前は体が痛くて自分で食べれないだろう?だから、体が動く
ようになるまで、俺が食べさせてやる。解った?ほら、あ∼んして。
あ∼∼ん﹂
ご主人様は、あ∼んと言って、口を開かれています。どうやら、コ
レを私に食べろとおっしゃっている様です。
でも此れは、私などが決して口にして良い物では無い。
しかし、ご主人様は、そんな私に構う事無く、ソレを食べる様に促
します。
﹃⋮この食べ物に⋮毒でも入って居るのかな⋮﹄
私の心の中で警鐘が、鳴り響いています。
私は最下級の三級奴隷。三級奴隷には人権は無く、武器の試し斬り
や、娯楽の為に殺されると言う事も多々あります。
私は、この食事に毒が入っていて、ご主人様は、私が苦しみながら
死んで逝くのを、嬉しみたいのかも知れないと、思ったのです。
ですが、私には拒否権はありません。この﹃命令﹄に近い状態で、
209
ご主人様のなさる事を断れば、どのみち処分されてしまいます。私
は覚悟を決めました。
口を開いて、そのスプーンに掬われているソレを、口の中に入れま
した。
そして、ソレを口に入れた瞬間、私を今までに無い衝撃が、体を突
き抜けます。
なんとも言えない濃厚な味、ジャリジャリする事など全く無く、そ
れどころか、口全体に暖かく染み入って来ます。柔らかいお肉と野
菜のその味と言ったら⋮
私はこの時に食べさせて貰った、野菜と羊の肉のシチューの味は、
一生忘れる事は無いでしょう。
そんな固まっている私を心配されたご主人様が、慌てていらっしゃ
います。
﹁え!?ど⋮どうしたの!?シチュー熱かった!?それとも体に合
わなかった!?﹂
﹁い⋮いえ⋮違うんです⋮その⋮余りにも美味しくて⋮私⋮こんな
美味しいもの⋮生まれて初めて食べました!﹂
﹁そうかそれなら良かった。じゃ∼冷めない内に、全部食べちゃお
うな。ほら、あ∼んして。あ∼ん﹂
ご主人様はそうおっしゃると、感動している私に、次々と食べ物を
口に運んで食べさせてくれます。
香ばしい匂いのする、少し焼かれた柔らかいパン、喉を清流に包み
込む様な、甘く味わいのある、喉越しの良い果実ジュース、そして、
お肉と野菜のシチュー⋮
私は次々と運ばれてくる神様の食べ物を、どんどん食べていきます。
その素晴らしく美味しい味だけでは無く、きっと、私の体がソレを
求めて居るのを、本能で感じていました。
ご主人様は、私の食べている姿を見て、とても優しい目をして私を
見て、微笑んでいます。
210
時折、頭をヨシヨシと撫でてくれるその手が、私をとても暖かくし
てくれます。
そう⋮まるで⋮お母様の様な⋮
食事を食べ終わった私はその事を思っていると、何かが私の両目を
流れていきます。
﹁ちょ!ちょっと!どうしたの!?何処か痛くなった!?﹂
私が泣いているのを心配されたご主人様は、凄く慌てていらっしゃ
います。
こんな⋮三級奴隷の私に、こんな事までして下さった上に、何故⋮
こんなに、優しくしてくれるのだろう⋮
私の事を心配されている、ご主人様の瞳は、優しさで満たされてい
る⋮
﹁いいえ⋮何処も痛くはありません⋮私⋮人からこんなに優しくさ
れた事が無くて⋮それが嬉しくて⋮嬉しくて⋮﹂
涙ながらにそう言う私の頭を、ポンポンと優しく叩くご主人様の手
が心地良い。
﹃⋮あの食事に、毒が入って居るかもしれないだなんて⋮こんなに
優しい目をされる、ご主人様がするはずが無い。⋮私は⋮最低⋮で
す⋮﹄
そんな事を思い、私が泣いていると、ご主人様は何も言わずに、ず
っと頭を優しく撫で撫でしてくれます。
ソレがとても嬉しくて、ありがたくて、自然に笑みが浮かびます。
そんな私に、眩しい微笑みを私に向けてくれます。
﹃黒い天使様⋮﹄
私は神々しく見えるご主人様を、見つめてしまいます。私はどの様
な顔で、ご主人様を見ていたのかは解りませんが、ご主人様は相変
211
わらず、その優しい微笑みを私に向けてくれています。
そうして、落ち着いてきた私に、ご主人様が薬の入ったカップを私
に差し出します。
私は今度は迷う事無く、その差し出された薬を、コクっと飲みます。
その瞬間、その薬の余りの苦さに、思わず飲むのを躊躇ってしまい
ます。
そんな私にご主人様は、私のおでこにピシっと、指を弾きます。軽
い痛みを覚えて、おでこをさすっている私に、この薬は大変良く効
いて、物凄く高価な物だから、必ず全て飲む様にと﹃命令﹄されま
す。
私は諭すように、私の事を心配されているのが解る、ご主人様の事
を思い、一気に飲んでいきます。
そんな私を見て、少し楽しんでいらっしゃる様に見えたのは、私の
心の中の秘密にしようと思っています。
私は、この優しいご主人様と、此れからどの様に生活をしていくの
か、この時は全く解っていませんでした。
私がご主人様に買われて早7日。私にとても優しくしてくれるご主
人様のお陰で、体は元気になり、前よりも体中に力、生命力が溢れ
ているのを感じます。
朝、昼、夜と、あの美味しい料理を食べさせてくれるだけでなく、
オヤツ?と、呼ばれる物迄食べさせてくれます。
当然、こんなに食べた事の無い私は、とても幸せに思っています。
まるで⋮夢の様⋮
そんな優しい私の新しいご主人様は、美味しい料理を私にくれるだ
けではなく、色々一緒に遊んでもくれます。
212
元気の出て来た私の為と言って、運動もさせてくれるんです。
今迄した事の無い変な踊りの様な﹃ラジオタイソウ?﹄なる事を、
私と一緒にしてくれます。体を拭く布を丸めて、お互いに投げ合う
﹃キャッチボウル?﹄も、楽しくて大好きです。
そのお陰で、私は体に力が溢れて居るのを感じられる様になれたの
です。
私の新しいご主人様は、本当に優しくしてくれます。
夜寝る時には、今迄見た事の無い綺麗な、真っ白な羊皮紙の様な物
に書かれた物語を読んでくれます。
﹃モモタロウ?﹄﹃カグヤヒメ?﹄﹃シラユキヒメ?﹄﹃サルカニ
ガッセン?﹄⋮
ご主人様の読んでくれる物語を、楽しく聞かせて貰って、私は柔ら
かいベッドで眠るのです。
私が寝たのを確認して、微笑みながら私の頭を撫で撫でして部屋を
出て行かれます。その後ろ姿が、とても愛おしい⋮
私がこの事を知っているのは、寝たふりをしてチラッと何時も見て
いるからです。
そのご主人様の顔が大好きな私は、そうするのが癖になっちゃって
居る事は、私だけの秘密です。
私はご主人様と一緒に居るのが好き。ご主人様と一緒に遊ぶのが好
き、とても楽しい。
私とご主人様は、当然、別々の部屋で寝ています。身分の低い三級
奴隷と一緒に寝るなど、聞いた事はありません。
しかし、私は一人でいる時は、何時もご主人様の事を考えてしまっ
ています。
今日はどんな料理を食べさせてくれるのかな?どんな楽しい事で、
一緒に遊んでくれるのかな?どんな、面白い物語を読んで、寝かせ
てくれるのかな⋮。
私は何時も、ご主人様がその扉から入って来るのを、心待ちに楽し
213
みに待っているのです。
そんな事を考えていると、今日もその優しい微笑みを携えながら、
その扉から部屋に入って来るご主人様。
私は我慢出来無くなって、すぐにご主人様に近寄って行き、朝の挨
拶をします。
ご主人様の足元で平伏して、ご主人様の足の甲に、何度も口付けを
します。
三級奴隷が良くする挨拶ですが、私は今迄した事は在りませんでし
た。前の主人である、私を攫った大きな男は、私に関心が無かった
ので、その様な事をさせませんでした。
普通であれば、足にキスをするなど、嫌に思うのでしょうが、それ
が新しい私の優しいご主人様に出来るのであれば、私は喜んでしま
す。いえ⋮むしろしたいのが、私の本音なのでしょう。
そんな私をご主人様は、優しく抱きかかえあげ、ニコっと優しく微
笑んでくれます。
その顔を見て、私は何時も幸せに包まれるのです。
そんなご主人様がまずする事は、私の糞尿の始末です。
この部屋にはトイレは無く、何処か別の場所に有るのですが、ご主
人様からこの部屋から出ない様に言われているのです。なので、私
は尿瓶と言う物に、ソレらをするのです。
本来なら逆に、三級奴隷である私がその様な事を、しなければいけ
ないのですが、ご主人様は、ニコっと微笑みながら、嫌な顔ひとつ
せず、ソレらを処理してくれます。
私はとても申し訳なく思うのと、恥ずかしく思うのとで、何時も俯
いてしまうのですが、優しいご主人様は、クスっと少し笑って、ソ
レらを持って部屋から出て行かれます。
そして、暫くすると、綺麗に洗われた尿瓶と、した後にお尻を拭く
布を、そっと部屋の隅に置かれます。私は感謝の言葉を述べ、再度
214
平伏して、ご主人様の足の甲に、何度もキスをします。
そして、また優しく私を抱きかかえて、ニコっと微笑んでくれるご
主人様。ソレを、心から喜んで見ている私⋮。ほんと、癖になっち
ゃってます。
部屋に来られたご主人様は、今日は何時もと違う事をおっしゃられ
ました。
﹁今日は体を洗いに川に行きます!﹂
指を窓の外を指し、私に告げるご主人様の顔は、とても自信有り気
で楽しそうです。
私もそんなご主人様に、パチパチと拍手をしていると、何か考えら
れている様な、呆れている様な表情を私に向けます。
﹃ズ∼∼∼∼∼ン⋮﹄
私は今、落ち込んでいます。すっごく、すっごく⋮
私は体を洗いに行くのは、ご主人様だけと思っていたのです。
三級奴隷である私は、長い間体を拭くとか、洗うと言った事をして
いません。三級奴隷にその様な事をする水が、勿体無いからでしょ
う。
そんな私にご主人様は、﹃体を洗いに行くのは、君が主で、君はも
のすごく汚くて、ものすごい悪臭をはなっているんだよ。だから綺
麗にしに行くんだ﹄と、言われました。
ガーンと来ました。すっごく、すっごく⋮
私は長い間、汚いままだったので、自分の匂いが解らなかったので
215
す。
よく自分の体を見れば、黒くなってくすんでいるし、髪の毛もバリ
バリです。よく考えたら、そういう事が有っても可笑しくは在りま
せん。
私は、きっと今迄ご主人様が我慢してくれていたと思うと、恥ずか
しいやら、情けないやら、やりきれないやら、申し訳ないやらで、
沢山の感情が湧いてきます。
そんな私に、ニコっと笑い﹃気にする事は無い。此れから凄く綺麗
に、良い香りにしてあげる﹄と、優しく言ってくれます。そんな優
しいご主人様の微笑みに、また私は見蕩れてしまいます。
暫く体を洗う川に向かって居ると、ご主人様が、何故三級奴隷にな
ったのか、聞いてこられました。
私は少しためらいながら、ゆっくりと今まであった事を説明してい
きます。
大好きなお母様と離れ離れになった事、前の主人である大きな男に
捕まって、三級奴隷にされた事、過酷で熾烈な労働場で、何とか6
年間生き抜いた事、そして、ご主人様に買って頂いた事⋮
そんな事を説明していると、何故か自然と涙が流れていました。
そんな私の涙を指で拭いてくれ、優しく頭を撫でてくれるご主人様。
ご主人様に出会えた事が嬉しくて、何だか涙が止まりませんでした。
それでも優しく頭を撫で続けてくれるご主人様⋮大好きです⋮
﹁此処が今回のミッション遂行の目的地、ジルレー川です!!﹂
川に到着した私達。ご主人様が嬉しそうに言って、川に指をさして
います。
私も何だか嬉しくなって、パチパチと拍手すると、ご主人様も何だ
か嬉しそう。
ご主人様は川辺に、色々な物を並べていかれます。どうやらそれで、
私の事を綺麗にするらしいです。
216
先に、虫下しと言うお薬を、ご主人様と一緒に飲みました。ソレを
飲むと、死んだ虫がお尻の穴から、出てくるらしいです。私がその
事で恥ずかしそうにしていると、なんだかちょっと楽しげなご主人
様。意地悪なのです⋮。
色々ご主人様の説明を聞いて、いよいよ体を洗う事になりました。
ご主人様が服を全部脱ぎさって、素っ裸になられました。
どういう訳か、私はご主人様の裸を、直視する事が出来ません。何
故か⋮胸が⋮ドキドキして、顔が熱くなります。
今迄男の人の裸など、沢山見て来ているはずなのに⋮私どうしちゃ
ったんだろ⋮
そんな私を見て楽しそうなご主人様は、私の汚く汚れた男物の奴隷
服を、一気に脱がしました。
私は、この汚れた体を、ご主人様に見られたくなくて、思わず胸と
性器を両手で隠してしまいます。
ご主人様は、呆れた様な、少し可笑しそうな微笑みを浮かべ、川辺
に立たせます。
川の水を掛けられ、少し冷たく感じましたが、すぐに背中の気持ち
良さが勝ってきました。
ご主人様が私の背中を丁寧に洗ってくれます。私は気持ち良いので、
ご主人様にそのままお任せする事にしました。⋮本当に私って、奴
隷失格です⋮
そして背中を洗い終わり、私の前に立つご主人様は、私の手をどけ
て、胸を洗っていかれます。
ご主人様に、胸を見られているのと、その洗い方が気持ち良いのと
で、何だか体が火照って来ます。
乳房の先の乳首が、少し固くなっているのが自分で解ります。恥ず
かしい⋮
ご主人様は、そんな私を不思議そうに見ながら、どんどん私を洗っ
217
ていかれます。
そして、上半身が終わり、下半身に移ろうとされて、私の手をパッ
とどけたご主人様が、カチっと音がしそうな位、固まってしまいま
した。私は自分の性器がよほど醜いのかと、恥ずかしく、情けなく
なって俯いてしまったのですが、頑張って視線をご主人様に戻すと、
ご主人様は何処か上空を眺めています。私も釣られて空を見ると、
鳥が輪を書いて、飛んでいます。
それを見たご主人様は深呼吸されて、再度私の性器を見ます。そし
て、驚きの表情をされて、私に衝撃の言葉を掛けられました。
﹁君は男の子だよね?﹂
その言葉に、私は何か鈍器で頭を殴られた様な衝撃を受けました。
なんだろう⋮凄く悲しい⋮ご主人様にそう言われる事が⋮女の子と
して見て貰えない事が悲しいし、寂しい。私の体は、自然とワナワ
ナと震えていました。そして何とか声を絞り出します。
﹁私は女の子です⋮﹂
﹁えええええええええええ!!!﹂
私のかすれる声を聞いて、ご主人様が大きな声を上げて驚かれます。
薄々気がついていましたが、やっぱり私の事を男の子だと思ってい
たみたいで、私は少し泣きそうになっているのでした。
﹁マ⋮マルガ?⋮君はマルガって言うのかな?﹂
﹁ハ⋮ハイ!私はマルガです!﹂
私の名前を呼んでくれる、大好きなご主人様。私の事をネームプレ
ートで確認された様です。
218
私の事を男の子だと思っていた事に謝罪までしてくれます。私は恐
れ多くて、仕方が無い事を伝えると、苦笑いをして、私の体を洗う
事を告げられます。
私は、今までの分を取り戻すかの如く、頭や体を何回も洗われてい
ます。
体の痒かった所が無くなり、石鹸や頭洗いの液の、良い香りが鼻に
入って来ます。
そんな、アワアワになっている私を抱えて、ご主人様は少し深い所
に、一緒に飛び込みます。
私の体と頭を包んでいた泡は、一瞬で流されます。水中から浮かび
上がった私とご主人様は、水面で再会を果たします。
そして、私を見られたご主人様は、再度固まってしまいました。
私は自分の顔がよほど醜くなっているのかと、再度ガーンとなる所
だったのですが、ソレが起きたせいで、出来ませんでした。
何だかお尻の穴がムズムズします⋮そしてお尻を見ると、何かが出
てきていました。
﹁ご⋮ご主人様⋮何か⋮お尻がムズムズします⋮﹂
恥ずかしさの余り、顔の熱くなっている私を見て、ギュっと私の腰
を引き寄せるご主人様。
わたしはご主人様の裸が目の前に有り、思わず抱きついて、しがみ
ついていました。
ご主人様の裸⋮ご主人様の胸⋮暖かい⋮
ご主人様は私の腰を掴みながら、次々と虫の死骸を、私のお尻の穴
から、引き抜いていかれます。
その感覚に、私は身を悶えさせます。息も荒くなり、ソレをご主人
様に見られているせいで、顔も熱々です。そんな私を見ていたご主
人様が、
﹁マルガ⋮目を閉じちゃダメ⋮こっちを向いて俺を見て⋮﹂
219
私の顎を掴み、艶かしい声で私に命令されます。私は必死にご主人
様の瞳を見つめます。私とご主人様の吐息が交じり合って、私はボ
ーっとしてきます。その次の瞬間、私に驚く事が起きました。
﹁う⋮んん⋮﹂
私は微かな声を上げます。ソレは、ご主人様が私にキスをなさった
からです。
ご主人様の柔らかく、暖かい舌が、私の口の中に入ってきます。そ
の気持ち良さに、私もご主人様の舌を欲し、舌を絡めて行きます。
すると、私の胸の下辺りに、何かをご主人様が擦りつけてられます。
ソレは、大きくなった立派なご主人様の性器でした。ソレを見た私
は、歓喜に染まっていました。
﹃私に⋮欲情なさっている?こんな私を⋮女の子として、見て下さ
っている!?﹄
私の心は喜びで満たされます。胸の奥が、まるで魔法で焼かれた様
に、熱せられています。
私のお腹に、切なそうに性器を擦りつけているご主人様⋮もっと、
気持良くさせてあげたい⋮
私はご主人様のモノを優しく握ります。すると、ご主人様は、私の
口の中を、舌で味わっていきます。
もっと私を味わって欲しい⋮私も⋮ご主人様を⋮味わいたい⋮
心の奥から湧き上がるその欲望を、私は止める事が出来ませんでし
た。
私は、あの過酷な労働場で、女達が男達に犯されるのを、6年間毎
晩見ていたので、男の人がどうしたら気持ち良いのか、多少は心得
ているつもりです。私はご主人様と舌を絡めながら、ご主人様のモ
ノを愛撫していきます。ご主人様は、私の口を吸いながら、次々と
虫の死骸を、お尻の穴から引きぬいていきます。その感じも合わさ
220
って、私の性器は、滴るように濡れているのが解ります。
気持ち良さそうなご主人様を感じていると、ご主人様がピクっと身
悶え、私の胸に、ご主人様の子種⋮精液が飛び散ります。そのご主
人様の精液の香りに、私のお腹が熱くなります。
私のお尻から、全ての虫を取られたご主人様は、私の胸に飛び散っ
ている、ご主人様の精液を指ですくい、私の口の中に入れられます。
その瞬間に、私は嬉しさに身を包まれる。
﹃精液って⋮変な味⋮でも⋮ご主人様の子種だと思うと⋮とても美
味しい⋮もっと⋮欲しい⋮もっと⋮私の体の中に、ご主人様の精を
取り入れたい⋮﹄
私は、その欲求を抑えられず、全ての精液を口に含み、それをコク
コクと味わいながら、呑み込みます。そして、私の口の中に精液が
残っていないのを、確認したご主人様は、至高の表情を浮かべる。
﹁可愛かったよマルガ⋮﹂
微笑みながら言われるご主人様に、私の全てが鷲掴みにされた様で
した。
ギュッとご主人様に抱きつくと、ご主人様もギュっと抱き返してく
れる。
私はその幸福に身を包みながら、きらめく川の中で、ご主人様と抱
き合っていました。
私とご主人様は、宿の部屋に帰ってきていました。
川で再度ご主人様に綺麗にして貰って、一杯キスもして貰えた私は、
密かに上機嫌でした。
221
帰りに、髪まで切って貰えて、しかも上等なメイド服迄貰っちゃう
なんて⋮この幸せを、誰に告げれば良いのでしょうか?
今も美味しい夕食をご主人様と一緒に食べている。汚く無くなって、
石鹸の香りのする私は、ご主人様の部屋に来ている。
私は、ニコニコしていたのでしょうか、ご主人様が優しく撫で撫で
してくれます。気持ち良いのです。
その時、メイド服をくれた奴隷商の言っていた事が気になり、ご主
人様に全てを話して貰いました。
その内容に私は驚愕して、ご主人様に平伏をして、足の甲に何度も
キスをする。
こんな私の為に⋮嬉しさと申し訳なさが私の心の中で、グルグルと
渦巻いて居ました。
そんな私を優しく抱きかかえ、ベッドの隣に座らせるご主人様。
﹁マルガ大切な話があるんだ。俺の話を聞いて、マルガに何方か選
んで欲しいんだ﹂
いつになく真剣なご主人様にドキっとしながら、静かに私は頷きま
す。
﹁マルガ⋮君には2つの道を選ばせてあげよう。二つの道というの
は、このまま俺の奴隷として、永遠に俺に服従するか、奴隷から解
放されて自由に生きるかだ﹂
そのご主人様の言葉を聞いて、一瞬目の前が真っ暗になりました。
私⋮やっぱり⋮捨てられるの?
心の奥がキュンとなり、目に涙が自然と湧いてくるのを感じます。
﹁そ⋮それは、どういう事でしょうか?⋮やっぱり私の事がお邪魔
なので捨てると言う事でしょうか?﹂
私は必死になんとかご主人様に理由を尋ねました。するとご主人様
はゆっくりと首を横に振り、
222
﹁そうじゃないよ。⋮俺はマルガ自身の意思を俺に見せて欲しいだ
けなんだ。自分の意思で俺に永遠の服従を誓うのか、自由を選ぶの
か。奴隷から解放されて自由を選ぶなら、多少のお金も持たせてあ
げる。もう惨めな思いもする事は無い。⋮マルガ。君はどうしたい
?君の意思を教えて﹂
私はご主人様の話を聞いて、とても驚きました。
私は三級奴隷⋮もう二度と、解放される事は無いと思っていたのに、
ご主人様は開放しても良いと、しかも、お金まで持たせて、自由に
してくれると言っている。
私は余りの事に、考えがまとまりませんでしたが、ご主人様が私の
顎を掴み
﹁さあ⋮選んで⋮。永遠の服従か⋮自由か⋮﹂
吸い込まれる様な黒い瞳に、私が映し出されている。それを見た私
は、不意に有る事に気がついた。
﹃自由になったら⋮ご主人様とはどうなるの?一緒に居られるの?
⋮いえ⋮奴隷じゃなくなった私は、きっとご主人様と別れる事にな
る⋮⋮⋮嫌⋮そんなの嫌!⋮ご主人様と離れるなんて⋮絶対に嫌!﹄
私の心の底から、絞り出されるかの様なその感情が、私の体中を駆
け巡る。
その時に、私はやっと気が付きました。
私は、ご主人様の事が好き⋮一人の女の子として、ご主人様を好き
になっている⋮ご主人様を一人の男性として、大好きなんだ!
それを心と体で実感できた私は、もう迷う事は無かった。
﹁私は⋮ご主人様の奴隷として⋮生きて行きたいと思います!﹂
﹁本当にいいの?もう二度と奴隷から解放してあげないよ?﹂
﹁はい⋮私はご主人様の奴隷になりたいです⋮﹂
223
﹁今日⋮川でした様な事をいっぱいされるんだよ?それ以上の事も
⋮いいの?﹂
﹁はい⋮私の体で良ければ⋮何時でも好きな様に使って下さい⋮﹂
私の決意を感じられたご主人様が、私に至高の命令をくだされた。
﹁⋮じゃあ⋮此処で誓えマルガ⋮﹂
﹁私⋮マルガは⋮ご主人様に全て⋮身も心も捧げます⋮私は永遠に
ご主人様の奴隷です⋮﹂
私には迷いは一切無かった。奴隷からの開放より、ご主人様と一緒
に居られる事の喜びが、体中を支配しているからです。
﹁解った⋮マルガは⋮俺の奴隷だ⋮永遠に⋮もう⋮離さないからな
!﹂
﹁はい⋮私の全てはご主人様の物です⋮永遠に⋮﹂
私はこの夜、私の全てをご主人様に捧げれる事に、喜びを感じてい
た。
﹁う⋮うん⋮﹂
私はベッドでご主人様に抱き寄せられて、キスをしている。
ご主人様の舌が、私の口の中で滑らかに動いている。私はご主人様
の舌を味わい、同じ様に舌を絡める。ご主人様の手が、私の服に手
をかけます。私をゆっくりとベッドに寝かせ、服を脱がそうとして
くれています。私はいよいよだと思い、思っている事を素直に言お
うと思いました。
224
﹁ご主人様⋮私はこういう事をするのが⋮初めてでして⋮ご主人様
にきちんとご奉仕できないかも知れません。⋮きっとご主人様に喜
んで頂けるご奉仕が出来る様に頑張りますので、私に失望なさらな
いでくださいませ⋮﹂
私が恐縮しながら言うと、ご主人様は驚いた様な顔をされて、その
後、瞳に喜びの色を浮かべる。
﹁ううん⋮逆に嬉しいよ⋮マルガの初めてをすべて奪う⋮解った?﹂
﹁はい⋮ご主人様に、私のすべての初めてを捧げます﹂
私にキスをするご主人様を抱きしめながら、私は今迄犯されなかっ
た事に喜びを感じていた。
﹃ご主人様に、私の初めてを貰って頂ける⋮嬉しい⋮﹄
私が喜びに浸っていると、ご主人様は何かを用意されています。
私は気になって聞いてみると、﹃今後のお楽しみ﹄と、言われて、
詳しくは教えて頂けませんでした。
そんな私にご主人様はキスをされて、服を脱がしてくれます。私は
裸になって恥ずかしくしていると、ご主人様が、キスをしてくれて、
私の体を愛撫していかれます。
﹁ご⋮ご主人様⋮き⋮気持ち良い⋮です⋮﹂
私のその声を聞いて、嬉しそうに私を更に愛撫してくれるご主人様。
私の秘所は、自分でも解る位に、濡れているのが解ります。それを
見て嬉しそうなご主人様。
﹁ほらマルガ⋮。マルガの大切な所はこんなになってるんだよ?﹂
﹁とっても⋮気持よくて⋮恥ずかしいです⋮﹂
きっと私の顔は真っ赤になっているのでしょう。熱さで解ります。
体も火照っていて、その気持ち良さに、頭がボーっとしてきます。
そんな私にご主人様は、立派なモノを私の口の前に出されます。
225
﹁さあマルガ⋮その可愛い口で、俺のモノに奉仕するんだ⋮﹂
﹁解りました⋮ご主人様⋮﹂
私はご主人様のモノを味わえる喜びを感じながら、口に咥えて舐め
ていきます。
ご主人様の味を感じながら、気持ち良さそうなご主人様を見て、幸
せな気持ちに包まれている私。
もっと⋮気持良くして上げたい⋮
更に念入りに激しく、ご主人様の立派なモノを愛撫していると、ご
主人様の体が、ピクっと強張ります。その瞬間、私の口の中に、ご
主人様の子種が、口の中いっぱいに広がります。
私は、ご主人様のモノから、残っている子種を吸いだすと、口を開
けてご主人様に見せる。
それを見たご主人様に、子種を頂く許可を貰った私は、味わいなが
ら、コクコクと飲み込んでいく。
ご主人様の精を味わって幸せを感じている私に、ご主人様は愛撫で
答えてくれる。
私の秘所やお尻の穴まで、丹念に愛撫をしてくれるご主人様。
その余りの気持ち良さと、ご主人様にしてもらえる喜び、恥ずかし
さ、申し訳なさが、体中を駆け巡り、私を更に興奮させます。私の
秘所は、まるで洪水にあったかの様になっていました。
﹁マルガの処女を奪うからね⋮。優しくはしない⋮全力で犯すから
ね⋮一生に一度の⋮マルガの処女の喪失している時の顔を存分に見
たいから⋮さあ⋮おねだりしてごらん⋮﹂
そう言って、私ににキスをされるご主人様に、私は両足を開いて、
両手で秘所を広げる。
﹁ご主人様⋮マルガの処女を捧げます⋮存分に奪って下さい⋮﹂
﹁ああ⋮解った⋮﹂
226
いよいよ⋮ご主人様に⋮私の初めてを貰ってもらえる⋮
私が喜びに支配されていると、ご主人様のモノが、誰も入った事の
無い、私の中に中にと入ってくる。
﹁イッ⋮は⋮んっうん⋮﹂
私は痛みを感じ、少し声を出す。ふと、視線を下に移すと、ご主人
様のモノを根本まで入れている、私の秘所が見える。それを見て、
喜びが体全てを支配する。
﹁⋮マルガの処女膜を破ったよ⋮。俺のモノを咥えちゃったね⋮﹂
﹁はい⋮ご主人様に私の処女を奪って貰えて⋮嬉しくて幸せです⋮﹂
私は嬉しさの余り、涙を流してしまった。そんな私の表情を見て、
嬉しそうなご主人様は、
﹁マルガ⋮此れから全力で動くから⋮その初めての表情をもっと俺
に見せて⋮﹂
﹁ハイ⋮ご主人様⋮私の初めての全てを見て下さい⋮﹂
そう言い終わると、ご主人様は全力で私を犯し始める。私の体に、
身を切り裂く痛みが駆け巡る。
処女を喪失した破瓜の傷み⋮ご主人様に奪って貰えた喜びの痛み⋮
私は労働場で、沢山の男達に犯されている女達を見てきました。女
性達の表情も良く覚えています。
苦痛、快感、悲愴、屈辱⋮。様々な感情を篭めた表情で犯されてい
ました。
私も、その様な感情を持って、その様に犯され、全てを無くすのだ
と思っていました。
でも現実は違った⋮
私はご主人様に、初めてを奪って貰え、犯される事に喜びを感じて
いる。
好きな人に、処女を捧げ、全てを犯される事が、こんなにも嬉しい
227
事だったなんて⋮
身を切る痛みさえ、喜びを感じる為の、1つの要因にしかなってい
ない。私の秘所に出入りしている、ご主人様の立派なモノには、私
の愛液と破瓜の血が付いて、艶かしく光っている。
私はそれを見て、至高の気分に浸る。
﹃ああ⋮私の愛液が⋮私の破瓜の血が⋮ご主人様の立派なモノを汚
している⋮﹄
私の心は完全にご主人様に囚われている。力一杯私を犯すご主人様
が愛おしい。
犯されながら私がキスをせがむと、ご主人様は艶かしい微笑みを湛
え、私の口の中に舌を入れてくれる。私は、上と下の口を、ご主人
様に犯される事に、喜びを感じていると、ご主人様の体が、少し震
えてくる。
﹁マ⋮マルガ!出すよ⋮マルガの可愛いアソコの中に、一杯精液出
すからね!﹂
﹁ハイ!私の⋮私の中に沢山注いでください!﹂
私は、快感に染まっているご主人様の表情を見て、ギュッとご主人
様にしがみつく。
すると次の瞬間、ご主人様は大きく体を強張らせる。ご主人様の立
派なモノから、勢い良く子種が、私の膣の中に、沢山注がれる。私
はソレを感じ、ご主人様をきつく抱きしめる。
﹃熱い⋮膣の中が⋮ヤケドしちゃいそう⋮私の中に⋮ご主人様の子
種が⋮染みこんでいく⋮嬉しい⋮﹄
私はご主人様に、焼印の様な精を注がれて、至高の幸福に、身を包
まれていた。
﹁マ⋮マルガ⋮出したよ⋮マルガの可愛い膣に一杯⋮精子出してあ
228
げたよ⋮﹂
﹁ご主人様⋮マルガに精を注いで頂いて、ありがとうございます⋮﹂
私はご主人様の言葉に、お礼を言うと、優しくキスをしてくれるご
主人様。
ご主人様の舌を味わい、ご主人様にも私の舌を味わって貰う。
﹁これでマルガは俺だけの物だからね⋮﹂
﹁はい⋮マルガはご主人様だけの物です⋮ご主人様専用です⋮ご主
人様の物になれて⋮私⋮幸せです﹂
心の底から出た私の感謝の言葉を聞いたご主人様は、ギュっと私を
抱きしめてくれる。
私もご主人様をきつく抱き返す。何度もキスをしてくれるご主人様
が、とても愛おしい⋮
私とご主人様は、抱き合ったまま、そのまま眠ってしまいました。
私は、暖かい何かに包まれている。
その居心地の良さは、まるでお母様に包まれている様です。
そして、優しく何かに顔を撫でられた私は、光を感じて、目を少し
ずつ開ける。
するとそこには、私を慈しむ様に、微笑みを向けているご主人様の
顔を見つける。
そんな私の頭を優しく撫でてくれるご主人様⋮。そんな愛おしいご
主人様にギュっと抱きつく。
﹃ご主人様⋮暖かい⋮ああ⋮なんて⋮幸せなんだろう⋮﹄
私は一頻り幸せを噛みしめて、ご主人様に挨拶をする。
229
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
私はそう言って、ご主人様にキスをする。ご主人様の口の中に舌を
忍ばせる。ご主人様は入れた私の舌に、舌を絡めて味わってくれる。
私もご主人様をタップリと味わ合わせて貰って、お互い顔を離しま
す。
﹁マルガおはよう﹂
ニコっと微笑むご主人様に見蕩れていると、ご主人様のモノが大き
くなっているのが解った。
﹁ご主人様辛そうです⋮。此方も毎朝ご奉仕致します⋮﹂
私はご主人様のモノを咥え愛撫をします。ご主人様が少し体を悶え
させています。
ご主人様の顔を見ると、とても気持ち良さそうに、私がご主人様の
モノを咥えているのを見ています。
私はそのご主人様の顔を見て、また心が鷲掴みにされた様な感覚に
囚われ、ご主人様のモノに奉仕するのにも力が入ります。すると、
ご主人様は、体を強張らせて、私の口の中に精を注いでくれます。
私はご主人様の精を全て吸出し、口の中で、ご主人様のモノと一緒
に味わい、コクコクと飲み込んで行きます。最後に、私の口の中を
確認したご主人様は
﹁マルガ⋮可愛かったよ⋮﹂
﹁ありがとうございます⋮ご主人様⋮﹂
黒く吸い込まれそうな瞳を私に向け、ニコっと微笑むご主人様に抱
きつく。
ご主人様も優しく私を、抱き返してくれます。
﹃ああ⋮本当に幸せ⋮ご主人様⋮大好きです⋮﹄
230
私とご主人様は暫くの間、そうやって抱き合っていました。
暫くベッドの中で抱き合っていた、私とご主人様ですが、今日は何
処かに出かける予定があるとの事で、私とご主人様は、朝食を食べ
て、宿屋を後にしました。
まだ男物の奴隷服を来ている私ですが、綺麗にした事で、もう男の
子には見えないねと、ご主人様にいって貰えた。それに喜んでいる
と、1軒目の目的の場所に就いた様です。
そこは、宝石や細工品を売るお店で、店構えも大変綺麗にされてい
た。
その店の前で暫く待っていると、ご主人様が帰ってこられる。
﹁ご主人様おかえりなさい!﹂
﹁待たせたねマルガ。じゃ∼行こうか﹂
私に微笑むご主人様。そして次の目的地に歩き出すご主人様の腕に、
思い切って抱きついてみました。
実は外に出てから、ずっとそうしたかったのです。ご主人様とくっ
ついて居たい⋮
怒られるかな?と、思ったのですが、ご主人様は嬉しそうな微笑み
を私に向けてくれる。
﹃⋮やりました!作戦成功です!﹄
私は心の中で作戦の成功を喜んで、ふとご主人様を見ると、ご主人
様も何だか嬉しそう。
そんなご主人様を見て、幸せに包まれている私は、ご主人様に付い
て行く。
暫く一緒に歩いていると、大きな石造りの立派な建物が見えて来ま
した。入り口には沢山の鎧を来た兵隊が警護しています。その兵隊
達の間を、沢山の身なりの良い人々が出入りをしていました。
231
﹁ご主人様⋮此処はどこですか?﹂
私は身分の低い三級奴隷。この様な身分と地位の高い人が来る様な
所には、一番縁遠い人種。私は辺りを見回して、その事を感じ戸惑
っていました。
すると、ご主人様は、何時もの様にニコっと微笑んで
﹁此処はラングースの町唯一の役場だよ。色々な公的手続きをする
所だよ﹂
﹁や⋮役場ですか!?﹂
ご主人様の返答に、思わず大きな声を出してしまいました。
役所⋮三級奴隷である私が、役所に連れて来られる⋮その理由は1
つ⋮
私はその事を考えだし、今迄幸せに浸っていた自分が、とても悲し
くなってきました。
そんな私をご主人様は気にしていない様で、私の手を引いて、役所
の中にどんどん入って行かれます。
そして、1つの受付の前で歩みを止めるご主人様が、私にニコッと
微笑みながら、
﹁此処が奴隷の財産管理をしている公証人の受付だ﹂
私はそれを聞いて、目の前が真っ暗になりました。
役所に奴隷を連れて来て、奴隷の財産管理をしている公証人の所に
来る理由は⋮
﹃ソレは、不要になった奴隷を処分する時⋮﹄
私はさっき迄浮かれていた自分が、恥ずかしかった。私はご主人様
に気に入られ、喜んで貰って居るとばかりだと思っていた。でも⋮
ソレは違った⋮
ご主人様は、私を処分なさる為に、此処に連れて来た⋮それが事実。
私がそんな事を思っていると、私に此処で待つ様に言い、ご主人様
232
は受付の方に歩いて行かれる。
そんなご主人様の後ろ姿を見ながら、ご主人様に気に入って貰えな
かった自分が許せなかった。
短い間だったけど、ご主人様と一緒に居られた楽しい時の思い出が、
頭の中一杯に広がっています。
すると自然と目に涙が浮かんできました。涙を必死に堪え、ご主人
様が戻ってこられたので、最後の感謝を伝えようと、ご主人様に近
づく。
﹁ご主人様⋮今迄有難うございました⋮こんな私に色々して下さっ
た事感謝しています。ご主人様のご期待に答えられなかった私を、
お許し下さい⋮﹂
私はご主人様の足元で平伏して、足の甲に何度もキスをします。
そんな私を見て慌てられるご主人様は、両脇に腕を入れて私を立た
せ、少し申し訳なさそうな顔をする。
その顔を見た私は、涙を我慢出来そうに無い位に堪えていました。
すると私を見たご主人様は、私をギュッと抱きしめ、額に優しくキ
スしてくれます。
﹁マルガ心配させちゃってごめん。マルガの思ってる様な事じゃな
いよ?﹂
そう言って、何時もの優しい微笑みを、私に向けてくれるご主人様。
私はどういう事なのか解らずに戸惑っていると、私の優しく頭を撫
でながら
﹁マルガ、何も心配しなくていいから、あの公証人の所に行って来
て﹂
そう言って、公証人を指さすご主人様。私は、ご主人様を信じて、
公証人に向かいます。
途中で不安になって、何度もご主人様に振り返ります。その都度ご
233
主人様は、優しい微笑みを私に向けてくれるのです。
何回かその様な事を繰り返し、公証人の前に来ると、私を見た公証
空の所有している、三級奴隷だな?ネームプレート
人は、フンと鼻で言うと
﹁お前が、葵
を見せろ﹂
そう淡々と告げる公証人。私は頷き、公証人に言われるままネーム
プレートを差し出します。
﹁ウム。間違いないな。では、そこでじっとして立っていろ。動く
なよ?﹂
公証人は私に右手を額にかざします。
そして、何やら呪文の様な言葉を発すると、掌から光が出て、私を
包みます。
私はその光に若干の恐怖を感じながら見ていると、その光は私に吸
い込まれ消えていきます。
何が起こったのか解っていない私に、その表情を見た公証人は、再
度フンと鼻で言うと
﹁これで終わりだ。奴隷の階級変更は無事完了した。ネームプレー
トで確認する事だな﹂
そう言って公証人は、私にネームプレートを返却してきました。
私は戸惑いながらネームプレートを受け取ると、ご主人様の所に戻
って来ました。
そんな私を見て、少し悪戯っぽい微笑みをするご主人様は、
﹁マルガ⋮ネームプレートを、開いて見て。そして、自分の身分の
所を見てよ﹂
私は戸惑いながら、ご主人様の言われた通りに、ネームプレートを
開き、確認をする。
234
﹁⋮身分 一級奴隷 所有者
葵
空 遺言状態 所有者死亡時
奴隷解放⋮⋮え!?⋮わ⋮私が⋮一級奴隷!?﹂
思わず声を上げてしまいます。それほど予想外の事だったのです。
一級奴隷はごく一部の者しかなれない、奴隷階級。人権も普通の人
の様に保証されているし、差別される事も無い。しかし、高額な人
頭税が掛かるので、余程の事が無い限り、選ばれる事は無いのです。
しかも、三級奴隷から、一級奴隷になるなど⋮聞いた事が在りませ
ん。
私は見間違えかと思い、何度もネームプレートを見直します。目を
擦ってはネームプレートを見て、また目を擦って、ネームプレート
見る。
そんな私を見て楽しげなご主人様は、優しく私の頭を撫でてくれま
す。
﹁マルガを一級奴隷にした。三級奴隷のままなら、他の人に気軽に
殺されちゃう可能性が有るからね﹂
﹁な⋮なぜ⋮私なんかを、一級奴隷になされたのですか?﹂
私は自分の身に起きている事が信じられず、ご主人様を見ていると、
私をギュッと抱きしめるご主人様は
﹁言ったでしょ?もう離さないって⋮マルガは俺だけの物、他の誰
にも触らせないし、どうこうさせる気はない⋮大切なんだマルガが
⋮。もう一度聞くよ⋮マルガは誰の物?俺の大切なマルガは誰の物
?﹂
ご主人様に抱かれながら、耳元で囁かれたその言葉に、私の体は歓
喜に支配される。
ご主人様が、私を大切だと言ってくれている⋮私を⋮私を⋮
﹁私はご主人様の物です!私はご主人様の為にあります!私の全て
235
はご主人様の物です!﹂
私はそう叫んで、ご主人様の胸に顔を埋め、嗚咽をあげて泣きだし
てしまいました。もう我慢出来ませんでした。
そんな私をギュッと抱いて、優しく頭を撫でてくれるご主人様は、
ポケットから何かを取り出しました。
﹁これは、奴隷が首に付けれる唯一のアクセサリー。奴隷専用のチ
ョーカーだよ﹂
奴隷は、奴隷の証である首の輪っかの様な奴隷の紋章を、隠しては
ならないと言う奴隷法があります。
しかし、国が認める形式の首飾りなら付けることが出来ます。何故
なら、この美しいチューカーも、奴隷だという事が解るように、赤
い色をして、その先端には、鎖を繋ぐ飾りが付いているからです。
﹁マルガ⋮これはね⋮俺がマルガに付ける首輪だ。マルガが俺の物
だと言う証⋮さあ⋮マルガ⋮言ってご覧⋮俺に⋮おねだりするんだ
⋮﹂
ご主人様に顎を掴まれている私は、その吸い込まれそうな黒い瞳に、
歓喜の瞳を向ける。
﹁ご主人様⋮その首輪を私につけて下さい⋮私がご主人様の物であ
ると言う証明に⋮﹂
私が首をご主人様に差し出すと、ご主人様はゆっくりと優しく、そ
の奴隷専用の豪華な赤い革のチョーカーを、首に付けてくれました。
﹁マルガ⋮可愛いよ。よく似合っている⋮﹂
﹁私にご主人様の証の首輪をつけて頂いて、ありがとうございます
⋮﹂
ご主人様の可愛いと言う言葉と、ご主人様の物になれた事の嬉しさ
で、きっと私の顔は、ニマニマしていたと思います。
236
そんな私を見てクスッと笑うご主人様は、もう一つのポケットから
何かを取り出します。
﹁じゃ∼きちんと言えたマルガにご褒美を上げないとね﹂
そう言って、もう一つのポケットから何かを取り出します。ソレを
見た私は、思わずご主人様の手を取って見てしまいます。
﹁そ⋮それは!私が無くしたと思っていた、お母様の形見の首飾り
⋮﹂
ご主人様の手の中には、あの奴隷館で無くしたと思っていた、お母
様の形見の石が握られて居ました。
どうやらあの時に、ご主人様がコレを拾って居てくれた様なのです。
私の驚いている顔を、楽しそうに見ているご主人様は
﹁このマルガの形見のルビーはかなり汚れていて、装飾も傷んでい
たからね。俺が直しておいたんだ﹂
﹁こんなに綺麗に⋮まるで⋮お母様に貰った時の様⋮﹂
お母様の形見の石を見て、目を潤ませている私に、ご主人様は
﹁これね、ちょっと手を加えたんだ。これをここに⋮﹂
私から赤いルビーを取り、首に付けられているチョーカーの鎖を繋
ぐ部分に、赤いルビーをペンダントのトップの様に付けてくれまし
た。それを、手で触りながら、私が嬉しさを噛み締めていました。
﹁うん、更に可愛くなったね。凄く似合ってるよマルガ﹂
ご主人様がそう言って、私の頭を優しく撫でてくれます。私はまた
我慢出来無くなって、ご主人様に抱きついて、胸の中で泣いてしま
いました。そんな私を、ギュッと抱きしめてくれるご主人様が愛お
しい。
237
﹁マルガは俺だけの物⋮絶対に手放さないからね⋮﹂
﹁はい⋮私はご主人様だけの物です⋮永遠に⋮﹂
ご主人様の言葉に、私は全身全霊で、今ある気持ちの全てを言葉に
乗せる。
もう嬉しすぎて、涙が止まりませんでした。私が泣いている間、ず
っと抱きしめて、頭を優しく撫でてくれるご主人様。
暫くそうして私が泣き止む迄待ってくれたご主人様は、私の涙を指
で拭いてくれます。
そして、私とご主人様は役所を出て外に出てきました。
外は春先の暖かい日差しが眩しくて、先程まで泣いて目を腫らして
いる私には、少し刺激が強く目を細めてしまいます。そんな私を見
て、クスッと笑うご主人様は
﹁⋮マルガ⋮帰ろうか﹂
ニコッと微笑んで、私の手を優しく握ってくれるご主人様の手を、
私はギュッと握り返します。
﹁ハイ!ご主人様﹂
力いっぱい返事する私を見て、またクスッと笑うご主人様に、手を
引かれる私。そんな私は、正に幸せの絶頂の中に居ました。
﹃⋮見てくれていますかお母様。マルガは今こんなに幸せです。⋮
あの時、私を助けてくれてありがとう⋮お母様﹄
私は首に付けられた形見の石を握りながら、心の中でそう呟いて、
ふと、ご主人様を見ると、何時もの優しい微笑みを私に向けてくれ
る。春先の暖かく眩しい光に輝らされたその微笑みはとても神々し
く、私の瞳に映りました。まさに、黒い天使様⋮
﹃私は⋮この黒い天使様の傍を離れない⋮この黒い天使様と一緒に
行くんだ⋮何処までもずっと⋮﹄
238
心の中でそう誓った私は、ご主人様に手を引かれて、帰って行くの
でした。
239
愚者の狂想曲 7 イケンジリの村への旅路
パカパカガチャガチャ
季節は春先、暖かい陽の光と、爽やかで春の匂いのする、心地良い
風が吹いている。
辺りの木々や草花も、春の優しい日差しを浴びて、喜ぶ様に色づい
ている。
そんな光景を見ながら、楽しそうに金色の毛並みの良い尻尾を揺ら
し、軽く鼻歌を歌って居る美少女が
﹁ご主人様∼。荷馬車の上は気持ち良いですね∼﹂
俺に腕組みをして、軽くもたれかかっているマルガの顔は、実に楽
しそうである。
﹁そうだね∼。今は春先で季節も良いから、旅や行商をするには最
適かもしれないね﹂
俺が微笑みながら言うとニコっと笑って頷くマルガ。
俺とマルガは、ラングースの街を出て、イケジリンの村に向けて、
荷馬車で街道を進んでいる。
街道と言っても、地球の様なアスファルトで舗装された道ではない。
俗に言う田舎道というやつだ。
舗装をされていない畦道に近いが、人の往来の多い街道は、大きな
石や障害物は取り除かれている為、荷馬車を進めるには問題は無い。
﹁荷馬車の揺れもなんだか気持ち良いですし、心地良くて眠たくな
って来てしまいそうです⋮って⋮私ったらご主人様が、荷馬車を操
ってくれているのに⋮すいません⋮﹂
マルガは少し気まずそうに言うと、お詫びの印とばかりに、俺の手
240
の甲に何度もキスをしてくる。
俺はマルガの頭を優しく撫でながら
﹁いいよそんな事気にしなくてさ。この荷馬車は、元々客馬車用の
キャリッジタイプを、荷馬車に作り直して貰った物で、板バネも良
いのを使ってるから、衝撃も少ないし乗り心地は良いでしょ?﹂
﹁ハイ!他の荷馬車みたいに、ガタガタしませんし!それに、この
御者台に敷いてある柔らかい敷物も有りますから、お尻も痛くなり
ません!﹂
そう言って嬉しそうに、綿と麻で出来た敷物をパフパフ叩いて言う。
﹁うん。だからこの荷馬車に乗っていると、半年乗っている俺でも、
気持ち良くなって眠たくなる時が有るくらいだからね。しかも、春
先で、今日は天気も良いし暖かい。マルガが眠たくなっても不思議
じゃないよ。眠たくなったら、何時でも寝てくれていいよ?﹂
微笑みながらそう言って、マルガの額にキスをする。するとマルガ
は、顔を赤く染めて、俺に顔を近づける。ライトグリーンの美しい
瞳が艶かしく光る
﹁ご主人様⋮ご主人様の⋮キスが欲しいです⋮﹂
マルガのその口はわずかに開いて居る。いつものキスをおねだりす
る時の顔だ。
﹁うん⋮街を出たら一杯するって約束したしね⋮俺もしたかったし
⋮﹂
そう言いながら、マルガの顎を掴み、柔らかい唇にキスをする。
マルガは甘くて柔らかい舌を、俺の口の中に滑りこませる。マルガ
の舌をたっぷり堪能する。マルガも舌を俺に絡ませ、気持ち良さそ
うに味わっている。
2人共十分にキスを堪能して顔を離す。マルガは頬を赤らめて嬉し
241
そうだ。
そんなマルガは、キュっと俺の腕を掴んで、顔をくっつけて
﹁私⋮ご主人様に⋮どんどん⋮甘えてしまいたくなってます⋮奴隷
失格ですね⋮﹂
マルガは上目遣いで俺を見る。申し訳なさと、甘えたい気持ちが、
透き通る様なライトグリーンの綺麗な瞳の中で、折り重なり揺れて
いた。
⋮ううう!可愛すぎる!その上目遣いは、俺の保護欲と支配欲が掻
き立てられちゃうYO!
マルガの顎を掴み、顔を近づける
﹁いいよ⋮一杯甘えて⋮おねだりしていいよ⋮好きな子に甘えられ
るのは⋮嬉しいからさ﹂
そう言ってマルガの唇に優しくキスをすると、ライトグリーンの透
き通るような綺麗な瞳を潤ませながら、更にギュっと抱きついてき
たマルガは
﹁⋮ご主人様⋮好き⋮大好きです⋮マルガは⋮幸せです⋮﹂
頭をグリグリ俺の胸に擦りつける。マルガの柔らかい体の感触と、
甘い石鹸の香りがとても心地良い。
﹁俺も⋮大好きだよマルガ⋮﹂
我慢出来無くなった俺も、マルガを抱きしめる。再度顎を掴み、マ
ルガの口の中を堪能すべく、キスをして、口の中に舌を入れていく。
マルガも嬉しそうにソレを受け入れ、喜んでいる。
十分にキスを堪能して顔を離し、マルガと微笑み合っていると
﹁ブルル⋮﹂
世界一名前が長いであろう、馬のリーズ︵名前を覚え中!︶に、呆
242
れた様な溜め息を付かれた気がした。緩やかに揺れる荷馬車の上で、
マルガと俺は顔を見合わせて、恥ずかしそうに笑った。
﹁そうなんですか!ソレはすごいですね∼!﹂
﹁アハハ!ソレはご主人様らしいですね!﹂
﹁え⋮ご主人様もそんな所が⋮フフフ⋮﹂
﹁もう⋮そんな事言ってはダメですよ!﹂
世界一名前が長いであろう馬のリーズ︵名前は努力してるよ?︶に、
溜め息と言うツッコミを頂いてから、マルガはこんな感じで一人で
喋っている。
むうう⋮これは⋮なんだろう?
パッと見は、マルガが独り言を言っている様にしか見えないけど⋮
は!あれか!実は、俺に見えない第三者とコンタクトをしているの
か!?
それとも、裸の王様みたいに、バカには見え無い人と喋っているの
!?それなら俺は見えない⋮ゲフンゲフン⋮
と⋮とりあえず、この状況を打破しよう!やれば出来る子を見せて
やる!⋮本当にバカには見え無い人と喋っていた時は⋮逝こう⋮何
処か遠くに⋮ううう⋮
﹁マ⋮マルガ⋮。さっきからさ、誰とお話してるの⋮かな?﹂
あうう!声がうわずっちゃった!オラ⋮恥ずかしい⋮
俺がドキドキして聞くと、ニコっと微笑んで、
﹁ああ!すいませんご主人様。リーズ・アダレイド・アナ・リーラ・
ドランスフィールド・ジョーハンナ・ジラ・キンバリー・カドガン・
243
アマンダ・キャスリン・パーマー・ブルブリルとお話してました!﹂
﹁へ!?馬のリーズ︵覚えてませんが何か?︶と喋ってたの!?﹂
﹁そうですよ。それとご主人様、リーズ・アダレイド・アナ・リー
ラ・ドランスフィールド・ジョーハンナ・ジラ・キンバリー・カド
ガン・アマンダ・キャスリン・パーマー・ブルブリルですからね!﹂
マルガはムムムと俺を見て、馬のリーズ︵本当努力してます⋮︶の
フルネームを言わせ様とするが、とりあえず後でまた覚えるからと、
話を続けさせた。名前もとりあえずは、愛称と言う事でリーズで納
得して貰った。うううと唸っているマルガも可愛いね!
﹁と⋮とりあえず、馬のリーズと喋っていたって事?﹂
﹁そうです。正確には、意思の疎通をしていたと言った方が正しい
ですけど﹂
どうやら、マルガの持っているレアスキルの動物の心で、馬のリー
ズと話というか、意思の疎通をしていたらしい。俺は意思の疎通と
聞いて、何処迄出来るのか興味が湧いた
﹁意思の疎通ってさ、何処迄解るものなの?ひょっとして、馬のリ
ーズの思っている気持ちとかも、解っちゃったりするの?﹂
﹁はい解りますよ。リーズの考えてる事や、思っている事、此方の
考えも伝えたり出来ますから。特に、お馬さんは知性が高い動物で
すから、結構会話的に、意思の疎通が出来たりします﹂
マルガは、人差し指を立てて、得意げに言う。
結構会話的に、意思の疎通が出来る!?⋮って事は、本当にお話出
来るって事と同じじゃないの!?
それって⋮結構凄い事なんじゃ⋮地球だと、その力を解明したら、
間違いなくノーベル賞ものだよ!⋮増々興味が出てきちゃったよ!
﹁⋮マルガさっきはリーズと何話してたの?﹂
﹁えっと⋮ご主人様が魔物や野盗に襲われた時に、全部倒して凄か
244
った∼とか、野宿する時に、リーズと一緒に寝る時は、リーズに抱
きついているとか、⋮夜中に寝ている時に、おトイレをしようとし
て、寝ぼけてズボンを下げずにしてしまって、びしょびしょになっ
ちゃった話とか⋮、あと、行商に行かない時に、会いに来てくれ無
い時が有るから、捨てられるかと思う時があるとか⋮ですね﹂
そう言って気まずそうに微笑むマルガ。
ちょ⋮ちょっと!そんな具体的に解っちゃうの!?
俺はハッとなって馬のリーズに視線を向けると、此方に少し振り返
って、ニヤっと笑った気がした。
⋮馬!リーズ怖す!⋮寝ぼけて、やっちゃった話まで聞かれちゃっ
た⋮ガク⋮
⋮って、そんな事よりも、聞きたい事がある⋮
﹁かなり驚いてるんだけど、馬のリーズにも、人間的思考があるっ
て事!?﹂
そうこれが聞きたかった。そんな俺の質問に、キョトントしてマル
ガは言う
﹁勿論ありますよ?お馬さんは賢い動物ですからね。ですから人間
や私達とこうやって生きていけるんですよ﹂
さも当然の様に言うマルガ
﹁⋮って事は、馬のリーズには自分の意志もあって、色々考えて人
間に従って居るって事!?﹂
そう思うよね?だって、人間だってわざわざ使われて、使役された
いと思わないもんね。
ソレを聞いたマルガは、ん∼っと口に人差し指を当てて考え
﹁⋮ご主人様の言われているものとは違いますね。リーズは人間⋮
245
ご主人様や私達亜種の事を、家族だと思っているんです。ですから、
使役されているとは、思っていないんですよね。家族の言う事を聞
いているって言う所ですね。なので、嫌がって使役されている訳で
は無く、家族の為に役に立っていると思っているんですよ。まあで
もたまに、機嫌が悪くてしたくない時もあるのは、人間と同じです
ね。⋮生き物を奴隷として扱い殺すのは⋮人間と一部の亜種ぐらい
のものですよ⋮。基本動物さんは、優しいし、必要以上の事はしな
いものですから⋮﹂
そう言って儚げな表情をするマルガ。
⋮確かにそうだ。動物の世界に奴隷なんて無いし、自分達の食料に
する以上に、殺したりもしない。
同族を喜んで殺すのは人間と一部の亜種って事か⋮
そんな俺の表情を見たマルガはニコッと笑って
﹁でも、リーズはご主人様の事が好きだって言ってますよ。いつも
優しくしてくれるし、寝る時も一緒だし、体も洗ってくれるし、好
物も貰える⋮ご主人様は、リーズに好かれてますよ﹂
そう言って微笑むマルガ
馬!!いや、馬のリーズ!そんな事を思ってくれていたのね⋮うう
う⋮
荷馬車を引く馬を買いに行った時に、優しそうで、気が合いそうだ
ったのを買っただけだったけど、実際従順で、気性も優しく大人し
い馬なのは、半年一緒にいて解ってたけど⋮良い馬じゃないか!
お父さん嬉しいよ⋮良い子に育ってくれて⋮あ⋮馬のリーズの方が
年上か?⋮ムウウ⋮負けてる?
﹁そっか⋮それは嬉しいな﹂
俺がそう言ってマルガに微笑むと、ニコっと微笑んで頷くマルガ。
馬のリーズは俺の言葉が解らないので、黙々と指示通り荷馬車を引
っ張っている。
246
﹁ねえマルガ。リーズにね、いつもありがとうって思ってるよって、
伝えて貰える?これからも一緒にやって行こうねって﹂
俺の言葉を聞いたマルガはニコっと微笑み、馬のリーズに目を向け
る。
その瞬間、リーズに何も指示してないのに、荷馬車の速度が上がっ
て、ガクンとなってビックリした。
俺が驚いている横で、マルガはクスクスと楽しそうに笑いながら
﹁ご主人様の気持ちが解って、リーズったら張り切っちゃってるみ
たいですね﹂
﹁⋮リーズに無理しないように伝えてよマルガ﹂
苦笑いしながら俺が言うと、クスっと笑って頷くマルガ。
少し速度の上がった荷馬車に揺られる俺とマルガは、微笑み合って
いた。
﹁スウースウー﹂
俺の膝の上で、気持ち良さそうに寝息を立てているマルガ。その顔
はとても幸せそうだ。
暫く俺に腕組みしながら、楽しそうにはしゃいで居たマルガだった
けど、春先の暖かい日差しと、荷馬車の心地良い揺れが、マルガの
眠気を誘ったみたい。コクコクと首を縦に振りながら、眠気と格闘
していたのが可哀想だったので、俺の膝枕に寝かせてあげたのだ。
凄く気を使ってダメですって言ってたけど、引き寄せて膝枕をして
あげたら、嬉しそうにそのままになった。その後すぐに寝息を立て
ちゃったのには、笑っちゃったけど。我慢してたんだねきっと。
ネコも日向ぼっこしながら寝るのが好きだけど、ワーフォックスの
247
マルガも似た様なものなのかな?
マルガの場合は、ハーフのワーフォックスだけど、やっぱりお昼寝
は好きなんだろうね。
﹁ムニャムニャ⋮ご主人様⋮大好きです⋮﹂
ブホ⋮寝言でそんな可愛い事言ってくれちゃったら、起きたらいっ
ぱい可愛がるしか無くなっちゃうじゃないか!可愛すぎますよマル
ガちゃん!
俺はマルガの幸せそうな寝顔を見ながらニマニマしながら荷馬車を
進める。
そこそこの時間が立って空を見あげれば、夕刻に近い時間になって
きている。日が傾きかけていた。もう暫くすれば夜の帳も降りてく
るだろう。
俺は、今夜の野営の場所を決めて、荷馬車を止める。街道沿いの森
の傍に決めた。
ここなら、風の影響も受けにくい。街道にも出やすいし、何かあっ
たら逃げやすい。
場所も決まった事なので、膝の上で寝ているマルガを起こす
﹁マルガそろそろ起きてくれる?﹂
そう言って優しく揺さぶると、目を擦りながら軽く欠伸をして
﹁ご主人様すいませんでした⋮ご主人様の膝枕⋮気持良かったです
⋮﹂
顔を少し赤らめてはにかむマルガ。ニコっと微笑むと、尻尾をパタ
パタさせて嬉しそうだ。
そんな可愛い事言われたら、嬉しいじゃないか!またしてあげるね!
﹁今日は此処で野宿するよ。夜になる迄に準備しちゃうから﹂
248
﹁解りましたご主人様。⋮どんな準備をするのですか?﹂
マルガはずっと三級奴隷で居たので、野宿などの日常的な事は、解
らない事が多い。
この行商を経て、色々覚えて貰うつもり。
﹁えっとね、まずテントを張って、薪に使う薪拾いかな。それが終
わったら、夕食の準備だね﹂
﹁解りましたご主人様!私は薪を拾ってきます!﹂
ハイ!と右手を上げ、元気に言いうと、張り切って森の中に行こう
とするマルガ。
そんなマルガの手を引っ張って止める。アワワとバランスを崩しな
がら止まるマルガ。俺の顔を見て、キョトンとしている
﹁一人で森の中に入ってはダメ。と言うか、旅中は一人で行動しち
ゃダメ。それと、俺から10m以上離れたらダメだからね?﹂
俺はマルガに説明を始める。
この世界は、危険に満ちている。地球でも森の中には、熊やら狼な
どの肉食獣が居るけど、此方の世界はそれプラス魔物や野盗が居る
のだ。
そう言った獣や魔物、野盗の類は、一人になる時を狙って待ってい
る事が多い。
なので作業の効率を上げる為に、手分けして作業する事が、出来る
だけの人数が居る時は良いが、人数が少ない時は、効率を下げてで
も安全を優先して、団体行動する事が基本なのだ。決して1人で行
動してはならない。
例えば、薪を拾うにしても、一人は薪を拾う係、一人は周辺の警戒
と、最低2人以上での行動をしなければ、命を落としかねないのだ。
俺の説明を聞いて、コクコクと真剣な顔で頷くマルガ。
249
﹁じゃ∼一緒に薪を拾いに行こうか﹂
俺の言葉にマルガはハイ!と元気に返事をする。本当に素直で良い
子だよマルガちゃんは!
馬のリーズを荷馬車から外し、木にくくりつける。その後に、俺と
マルガは森の中に入っていく。
春先だけ有って森の中は色とりどりに茂っている。
俺は腰に下げていた、セレーションブレード付きの黒鉄マチェット
を、鞘から引き抜く。
そして、次々と枝を切っていく。それを見たマルガは、枝を拾い集
めようとしていた。
﹁マルガは作業しなくていいよ。マルガは周辺の警戒をして欲しい﹂
﹁で⋮でも⋮ご主人様に、きつい事をさせては⋮私は本当に役立た
ずです⋮﹂
マルガは申し訳なさそうに少し俯く。あ⋮きっと勘違いしてるねマ
ルガちゃんは
﹁マルガちょっと違うよ。別にマルガが役に立たないと言う事じゃ
ないよ?それぞれの得意な事に専念した方が良いって事﹂
俺の話に小首を傾げるマルガ。マルガは仕草の一つ一つが可愛いね
!⋮やられちゃってるよ俺!
マルガはワーフォックスハーフ。パッシブスキルで、ワーフォック
スの種族である能力を出せる、フォックスの加護のスキルを持って
いる。いわゆる種族スキルだ。
このスキルの能力は、身体能力向上、高嗅覚、高聴力。
マルガは半径200m以内なら、匂いや音で、生き物の大体の気配
を探り、察知出来るのだ。
本来動物が持っている、危険察知能力というやつだ。
マルガはハーフなので200m位だが、純粋のワーフォックスなら
250
400mはいけるらしい。
俺もヴァンパイアハーフなので、種族スキルであるヴァンパイアハ
ーフの加護を持っている。
このスキルの能力は、限定不老不死、身体能力上昇、大強闇属性耐
性、弱光属性。
限定不老不死は読んで字の如く、限定的な不老不死だ。俺は基本老
けない。不老だ。永遠の16歳ってやつ?何処かのアイドルみたい
だけど!
それに完全な不死ではない。超自己再生能力を超える攻撃を受けた
場合や、首と体を切り離される又は、頭を完全に潰されるなどをす
れば死んでしまう。
それと、俺は始祖の闇の眷属なので、闇属性の攻撃は効かない。無
効化出来るのだ。
しかし逆に、光属性の攻撃には倍ダメージを食らってしまう。光属
性怖すぎます!
そして最後は、身体能力上昇。俺は、種族能力解放をしなくても、
通常状態で一般的成人の約3倍の身体的能力を、意識的に出す事が
出来る。
なので半径25m∼30m以内なら、相手の気配でかなり詳しく察
知する事が可能なのだ。
俺は25m∼30m以内なら、マルガより詳しく察知出来るが、検
索範囲ならマルガには遠く及ばない。もし、森の中で鬼ごっこをし
たとすれば、俺はマルガを捕まえる事は難しいだろう。俺がマルガ
を察知するより、マルガの方が早く俺を察知出来るからだ。
こう言った周辺察知能力は、戦闘職業に就いている人も持っている
事がある。
何方が早く見つけるか又は、隠れきれるかは、双方の実力や、レベ
251
ル、スキルレベルによって決まる。
当然俺やマルガに見つからず、近寄る事も逃げれる奴もいるって事。
実力の世界なのだ。
俺はマルガにその事を説明して、広範囲の検索はマルガの方が優れ
ているから頼むんだよと言ったら、さっきまでの浮かない表情が、
パアアと明るくなって、嬉しそうに金色の尻尾をフリフリしながら
﹁わ⋮私がんばります!必ずご主人様のお役に立って見せます!﹂
胸の前で両拳を握って、オーと叫ぶマルガ。どうやらやる気になっ
てくれたようだ。良かった良かった
﹁じゃ∼俺は枝を切って薪を作るから、マルガは引き続き周辺の警
戒を頼むね﹂
﹁解りました!任せて下さいご主人様!﹂
マルガはそう言うと、辺りをキョロキョロ見回しながら、小さく尖
った可愛い耳をピクピクと動かして、時折スンスンと匂いを嗅ぐよ
うに、鼻を動かしている。
その余りに必死に警戒してます!って感じのマルガが可愛すぎて見
蕩れてしまう。
必死のマルガ可愛いよ!まるで子猫が何かを探してるみたいで!ラ
ブリーだ!癒される!
そんなニマニマした俺の視線に気が付いたマルガが
﹁⋮ご主人様余り見ないでください⋮恥ずかしいです⋮﹂
マルガは顔を赤くしてモジモジしながら言う。
﹁ご⋮ゴメン!⋮余りに必死なマルガが可愛かったからつい⋮﹂
俺のそんな苦笑いに、更にモジモジしているマルガ。
そんな可愛いマルガを見ていると、作業がどんどん遅くなるので、
252
なるべく見ないように薪を作っていく。目標の量の薪もたまり、木
製の背負子に薪を縛り付け背負う。そして、荷馬車まで戻る事にす
る。
﹁ご主人様⋮重たく有りませんか?﹂
俺に言われた通り、周辺を警戒しながら、申し訳なさそうに言うマ
ルガ
﹁大丈夫だよ。マルガが辺りを警戒してくれているおかげで、俺も
気が楽だしね﹂
微笑みながら優しく頭を撫でると、嬉しそうな顔をして、パタパタ
尻尾を振っているマルガ。
荷馬車迄戻ってくると、長めのロープで木に縛り付けていた馬のリ
ーズが、春先の新芽の柔らかい草を美味しそうに食べていた。マル
ガ曰く、春先の新芽の草は美味しいとリーズが言っているとの事。
俺は薪を縛った背負子を降ろし、荷馬車にくくりつけている木の棒
を外していく。
﹁ご主人様。次は何をするのですか?﹂
俺のしている事が気になるんだね!好奇心一杯のマルガちゃんは!
﹁えっとね次は雨風を凌ぐ簡易のテントを張るから手伝って﹂
そう言って、馬のリーズを縛り付けている木に向かう。そして、そ
の木を元にして、棒を組んで骨組みを完成させていく。マルガも一
緒に手伝ってくれる。
﹁ご主人様。リーズもこの中に入るんですか?﹂
﹁うん。行商に出る時は一緒に寝てるからね。リーズは賢いから、
大人しくこの中で一緒に寝てくれるよ。この中だとリーズも雨に濡
れないから。それに、春先でも夜はまだまだ寒いから、リーズと一
253
緒に寝たら暖かいから気持ち良いよ﹂
﹁それは良いですね!私お馬さんと寝るの初めてなんで楽しみです
!﹂
マルガはリーズの首を優しく撫でながら言うと、リーズも何処か嬉
しそうにしているように感じる。
やっぱり、意思の疎通が出来てるからなんだろうね。マルガのレア
スキルは色々応用が効きそうだ。
俺とマルガは、骨組みにテント用の布を張って、骨組みにしっかり
と結びつけ、テントを張り終わる。
簡易式のテントではあるが、入り口は布できちんと開閉出来る様に
なっており、物見窓迄有る。
嵐の様な強風には耐えれないが、そこそこの雨風を防げて、ちょっ
とした暖も取れるなかなか便利なテントだ。
﹁ご主人様!このテントなかなか良いですね!私気に入っちゃいま
した!﹂
マルガはテントの入り口から顔だけヒョッコリ出して嬉しそうにし
ている。まるで遠足に来ている学生の様に楽しげだ。
﹁気に入ってくれて良かったよ。じゃ∼俺は夕食の用意をするから、
マルガはリーズに水をやってくれる?﹂
マルガに微笑みながら言うと、ハイ!と元気良く返事をする。マル
ガは荷馬車の水樽から桶に水を汲み、リーズに水を飲ませている。
リーズの首を撫でているマルガの表情に癒される。
そんなマルガを見ながら、夕食の準備をする。
夕食の献立は、野菜のシチューと、焼いた豚の塩漬けの肉を、軽く
焼いたパンにチーズと一緒に挟んだ物だ。
行商に出る時は、保存のきく食物を持って行くのが慣習である。
肉や魚の塩漬けや干物、蜂蜜やチーズ等の腐りにくい物、野菜は腐
254
りにくい根系の芋類、パンはロングライフブレッド系の物が多い。
ある程度手入れをして保存しておけば、一ヶ月は腐る事無く美味し
く食べられる。
夕食の下拵えも出来たので、薪に火を付ける。
薪に鍋に入れたシチューをかけ、その回りに、豚の塩漬けの肉とパ
ンを串に刺して焼いていく。
辺りには料理の美味しそうな匂いが漂っている。
俺が調理していると、いつの間にか俺の隣に来て、美味しそうなそ
の匂いに、鼻をピクピクさせているマルガ。
﹁ご主人様∼。美味しそうです∼﹂
目を輝かせ、口から涎の出そうなマルガは、尻尾をパタパタさせて
いる。
そんな可愛いマルガを微笑ましく思いながら
﹁もう少しで出来るから、マルガは食器の用意をしてくれる?﹂
そう言うと、ハイ!と嬉しそうに右手を上げて、ピュ∼っと荷馬車
に食器を取りに行くマルガ。
ほんとマルガは食べるのが好きだね!ま∼今迄食べれなかった反動
かもしれないけど。
マルガは、自分の分と俺の分の食器を綺麗に並べると、右手にナイ
フ、左手にフォークを持って、ご主人様準備万端ですよ!と言わん
ばかりに、ブンブン尻尾を振って嬉しそうに座って待っている。
そんなマルがが可笑しくてプっと笑うと、恥ずかしそうに顔を赤く
して、はにかむマルガに癒されながら、出来た料理を皿に入れてい
く。
﹁さあマルガ食べようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!頂きます!﹂
チャキーンとフォークとナイフを構えて、料理に襲いかかるマルガ。
255
アグアグと実に美味しそうに食べている。マルガの頬に付いている
パン屑を取ってあげると、ニコニコしている。
﹁ご主人様の料理美味しいです∼﹂
﹁ありがとね。ま∼ほとんど味付けは出来てる物なんだけどね﹂
﹁それでも、ご主人様が作ってくれたと思うと美味しく感じます!﹂
可愛い事を言ってくれちゃいますねマルガちゃんは!
﹁でも、行商中や旅に出て移動中の時は、メニューが限られるんだ
よね。朝、昼、夜はきちんと別メニューにするけど、毎回同じロー
テーションなのは我慢してね﹂
﹁私は全然構いません。こんなに美味しい料理を毎回食べれるんで
すから!﹂
ニコっと笑うマルガの頭を優しく撫でる。マルガは本当にそう思っ
ているんだろうけど、俺は仕方なくって言った感じなんだけどね。
本当はマルガの言う様に、食べれるだけマシって事の方が大切なん
だろうけど、俺は飽きちゃうよ⋮我慢を覚えよう⋮ウウウ⋮
﹁まあ⋮道中で、獣の肉や、木の実や野菜、魚なんかが手に入った
ら、その都度食べさせてあげるよ﹂
﹁ハイ!楽しみにしてますご主人様!﹂
マルガは嬉しそうに微笑むと、尻尾を楽しげに揺らしている。
手に入ったら、ちょっと気合入れて美味しく調理して、食べさせて
あげるよマルガちゃん。
俺がそんな事を考えてニマニマしていたら、マルガは思い出した様に
﹁そういえばご主人様、あの荷馬車に積んである4つの水瓶なんで
すが、鉄製ですよね?あんな立派な水瓶は始めて見ました﹂
マルガは口に料理を頬張りながら言う。モグモグ。
256
﹁うん。鉄製じゃないんだけどね。あの水瓶は青銅製の特注品なん
だ﹂
﹁青銅製⋮ですか⋮。壊れにくいからですか?﹂
﹁ソレもあるけど、別の意味の方が大きいんだ﹂
﹁どんな意味なんですか?﹂
﹁うんとね、俺の居た元の世界の言葉なんだけど、銅壺の水は腐ら
ないって言ってね⋮﹂
俺は可愛く首を傾けるマルガに微笑みながら説明をする。
この世界に来て旅に出る時に、一番びっくりさせられたのが、水の
事だった。
地球の日本じゃ水何て水道をひねれば出るし、コンビニでも売って
いるし、日持ちのする災害用の水なんてものも売っている。
しかし、この世界にそんな物は無い。
なので、竹や木の水筒、木樽や水瓶に水を入れて行くのだが、日持
ちしないのだ。つまり腐る。
水がこんなに腐りやすい物だとは思わなかった。水で不自由した事
が無かったから余計に思う。
行商を始めた半年前は、まだ夏で非常に暑かった。町を出て、3日
で水が腐ってしまって、また町に戻ったのは苦い思い出だ。水がな
ければ、旅なんて出来ない。俺はヴァンパイアハーフで、限定不老
不死だけど、食べなかったり、水を飲まなかったりしたら、普通に
餓死します。
そこで地球にインターネットで繋がっているマジックアイテムのパ
ソコンで、色々調べて対策をした結果がコレなのだ。
まず、水瓶を青銅製の銅瓶にした。銅には強い殺菌作用がある。銅
壺の水は腐らないって言われる所以だ。
そして、その銅瓶を特殊な板バネ入りの、よく揺れる台座の上に、
倒れないように設置した。
257
遠洋航海する船の水は、
それは、銅瓶に入れた水を良く揺れる様にしたかったのだ。
揺れる水や動きのある水は腐りにくい。
船が揺れるから腐らず長持ちしたって話もある位だ。
この荷馬車は、良い板バネを使っているので、衝撃が少なく、揺れ
が少ない。なので、揺れる台座の上に乗せて、わざわざ揺れやすく
しているのだ。よく水が揺れて動くように。
そして最後は、水の入った銅瓶に、陶磁器の破片を入れている。陶
磁器の水も腐りにくいのだ。
この3つの対策をしたお陰で、真夏に行商に出ても、一ヶ月は水が
腐らなくなった。
季節が良ければ、2ヶ月近くは持つだろう。まあ⋮その分、初期投
資は高かったけどね!命の水には変えられません!
そんな俺の説明に、マルガは感心した顔を向けて
﹁あの青銅製の水瓶にそんな秘密があったなんて⋮ご主人様は色々
ご存知なんですね∼。私尊敬しちゃいます!﹂
キラキラした眼で見つめられると照れちゃうよマルガちゃん!港町
パージロレンツォに着く迄に、色々教えてあげるよ!手取り足取り
色々と⋮ゲフンゲフン⋮
そんな俺とマルガが微笑み合う中、その来訪者は茂みの中から現れ
た。
﹁ガサガサガサ⋮﹂
俺とマルガが夕食を食べて座っている場所から、少し離れた左前方
の茂みが突然揺れた。
俺は瞬時に、セレーションブレード付きの黒鉄マチェットの柄を握
り、いつでも鞘から抜けるように身構えた。マルガを見ると、マル
258
ガも黒鉄の短剣の柄を握り、緊張しながら身構えていた。
俺とマルガは、夕食を食べてリラックスしているとは言え、周辺の
警戒は怠っていない。
マルガの検索範囲は半径200m、俺は半径30m、この範囲内に、
人や狼クラスの危険な野獣や魔物は居なかったはず。
ソレを抜けて来たのであれば、かなり手練の人物か、気配の消せる、
厄介な野獣や魔物である。
何時でも戦闘出来る体勢で、警戒していた俺とマルガの前に、その
来訪者は姿を表した。
﹁ク∼ク∼﹂
と言うか弱い鳴き声と共に、小さい狐の様な容姿の小動物が、茂み
からヒョッコリ首だけだして此方を見ていた。その小動物を見たマ
ルガは、俺に抱きつき、指をさしながら
﹁ご主人様!見てくださいアレ!か⋮可愛いです∼!﹂
俺とその小動物を交互に見ながら、目を輝かせていた。女の子はや
っぱり可愛いのが好きなんだね∼。
﹁えらく可愛い来訪者だな。白銀キツネの子供か⋮道理で気配が解
らなかったはずだ﹂
もうすっかり警戒心もとけている俺とマルガは、顔を見合わせて微
笑んでいた。
気配は生命力と、質量の大きさに比例する。生命力が多く質量の大
きい者は、気配が大きいのである。
簡単に言うと、富士山位の大きさのドラゴンは、気配を隠すのが難
しい位に気配が多く見つけやすいが、逆に顕微鏡でしか見えない位
の微生物の気配は、探すのが出来無い位に気配が無い。感じられな
い。
259
この白銀キツネの様な小動物や、小さな昆虫迄感じ取れる位に、常
に最大の気を張り巡らせて周囲を警戒する事も出来るが、ものすご
く疲れるし、長時間持たない。余程緊急事態の時以外は、警戒ラン
クを若干下げて、休養するのがベターなのである。
俺とマルガは、自分達に害を及ぼす可能性のある、狼レベル位の大
きさの気配迄を感じれる様に警戒していた。なので、この白銀キツ
ネは傍までやって来れたのだ。
﹁ほら⋮おいで!怖く無いし、痛い事はしないから⋮﹂
マルガは白銀キツネに微笑みながらそう言うと、両手を白銀キツネ
に広げて、手招きしている。
白銀キツネは少し警戒していたが、ゆっくりとマルガ迄近寄る。マ
ルガはそっと優しく白銀キツネを抱き寄せ胸に抱く。胸に抱かれた
白銀キツネは、何処か気持ち良さそうに、大人しく抱かれていた。
そんな光景に、心を和ませられる。
﹁しかし、警戒心の強い白銀キツネが、人間の傍まで寄って来るな
んて珍しいね﹂
この白銀キツネと言う動物は、白っぽい銀色の毛並みで、キツネと
リスを合わせた様な容姿を持つ。大人でネコ位の大きさになる。白
銀キツネの毛皮は非常に良く、貴族や王族、商人に人気が高く、襟
巻きや手袋の素材とされている。警戒心の高い事も重なって、結構
貴重なのだ。
俺がそんな事を考えていると、マルガはレアスキル、動物の心で意
思の疎通をしたみたいであった
﹁⋮ご主人様⋮この子⋮2日も何も食べていないみたいです⋮どう
しようもなくお腹が空いている時に、良い匂いがしたので我慢出来
無かったって⋮それで来たみたいです⋮﹂
マルガは白銀キツネの頭を優しく撫でながら、俺を見る。その綺麗
260
なライトグリーンの瞳は、俺に何かを言いたげに揺れていた。
⋮きっと、ちょっと前の昔の自分と重ね合わせたんだね⋮
この世界に手を差し伸べてくれる人は本当に少ない。皆自分の事で
精一杯。ま⋮そこは地球でも同じか⋮
この行商に出るにあたって、十分に準備はして来てるから食料も余
裕はあるが、わざわざ野良の動物に食料を恵んでやる様な、無駄な
事はしたく無いのが本音。そう⋮本音ではあるが⋮
こんな可愛いおねだりに、勝てる奴など男ではない!少なくとも、
俺には勝てませんね!
俺は荷馬車から、切った干し肉を2つほど持って来て、マルガに渡
す。
﹁この干し肉をその白銀キツネにあげて﹂
﹁ハイ!ご主人様!ありがとうございます!﹂
マルガは嬉しそうに返事をすると、干し肉を白銀キツネに食べさせ
る。白銀キツネは干し肉を美味しそうにクチャクチャと食べている。
余程お腹が空いていたのか、あっという間に食べ終わった白銀キツ
ネは、マルガにお礼を言う様に、マルガの頬をペロっと舐めた。
﹁ウフフ⋮くすぐったいですよ﹂
マルガは嬉しそうに白銀キツネに言うと、頭を優しく撫でている。
白銀キツネも気持ち良さそうに、マルガの胸に頭を擦りつけている。
小動物と戯れる美少女って絵になるよね⋮可愛すぎる!
﹁そう言えば、その白銀キツネはまだ子供みたいだけど⋮その子の
親とかどうしたのかな?はぐれちゃったとかなのかな?﹂
俺のそんな疑問に、マルガは白銀キツネにレアスキルの動物の心で
確認すると
﹁⋮母親は2日位前から動かなくて、ずっと眠っているみたいだっ
261
て言ってます⋮﹂
マルガは不安そうに言うと、俺と顔を見合わせている。お互い頭に
浮かんでいるものが同じだと表情で解った。
エサも上げた事だし、このまま放っておけば良いと思うんだけど、
マルガの顔を見ると、子供の白銀キツネが心配で堪らないと言った
顔をしていた。
﹁マルガは暗闇でも目が見える?﹂
俺の質問にキョトンとしながらマルガは
﹁いいえ。私はハーフのワーフォックスなので、夜目は効かないん
です⋮ソレがどうかしたのですかご主人様?﹂
マルガは可愛い首を傾げながら言う
﹁じゃ∼荷馬車にランタンが積んであるから持って来て﹂
﹁ランタン⋮ですか?﹂
マルガは薪を見ながら聞き返してくる。今は夜だが、薪を焚いてい
るのでこの辺りは明るい。なのでこの上ランタン迄要らないと思っ
て居るのだろう。
﹁その白銀キツネの親の状態を見に行くからさ。森の中は真っ暗だ
からマルガは見えないでしょ?ランタンが有ればマルガも見えるし
さ﹂
ソレを聞いたマルガは、嬉しそうな顔をして、ハイ!と元気よく返
事をして、テテテと荷馬車にランタンを取りに行く。
﹁じゃ∼マルガ。その白銀キツネの子供に、母親の所まで案内する
様に伝えて﹂
マルガはコクっと頷くと、白銀キツネの子供を見つめる。すると、
白銀キツネの子供はテテテと歩き始める。俺とマルガは、白銀キツ
262
ネの子供の後を付いて行くと、500m位来た所で、何かが横たわ
っているのが見えた。その横たわっている物に白銀キツネの子供は
近寄ると、甘える様に体を擦りつけている。
﹁⋮やっぱり⋮﹂
﹁⋮はい⋮﹂
俺とマルガは顔を見合わせていた。2人の予想通り、この白銀キツ
ネの母親は死んでいる。
この白銀キツネの子供は、まだ自分の親が死んだ事を理解していな
いのであろう。親を必死に揺り動かしているその姿か、少し痛々し
い。
それを見ていたマルガは、そっと優しく白銀キツネの子供を抱きか
かえる。白銀キツネの子供は親を気にしながらも、マルガに抱かれ
て気持ち良さげだった。
﹁⋮ご主人様。この白銀キツネの親を、埋めてあげても良いですか
?﹂
寂しそうに俺を見るマルガ。
マルガもお母さんと生き別れになってるから、きっと放っておけな
いだろう⋮
﹁うん⋮いいよ﹂
俺がそう言うと、俺に白銀キツネの子供を預けて、腰から黒鉄の短
剣を引き抜き、穴を掘り始める。
暫く待っていると、掘り終わったみたいで、その穴に白銀キツネの
親の亡骸を入れる。
そして、俺から白銀キツネの子供を受け取ると、穴に入っている母
親の白銀キツネの傍に寄る。
﹁⋮貴女のお母様はね⋮死んじゃったの。だから埋めてあげて、寝
263
かせてあげようね⋮﹂
マルガはそう言うと、母親の亡骸に土を掛けていく。
母親とマルガの顔を、交互に見つめていた白銀キツネの子供は、土
をかけ終わるまでジッとしていた。
そして、完全に土に埋まったその上に、マルガは小さな石を墓標代
わりに乗せる。
それをジッと見ていた白銀キツネの子供は、その小さな墓標の匂い
をクンクンと嗅ぐと、マルガの胸の中に飛び込んだ。白銀キツネの
子供は、小さな頭をマルガの胸に、グリグリと擦りつけていた。
そんな白銀キツネを優しく抱きしめるマルガ。その瞳は微かに潤ん
でいた。
﹁じゃ⋮その白銀キツネを連れて、野営場所に戻ろうか。戻ったら、
名前を付けてあげよう﹂
その言葉を聞いたマルガは、ハッして俺の方に向き直る。
﹁⋮連れて行きたいんでしょ?ま∼その白銀キツネが加わった所で、
大してお金も掛からないしさ﹂
そう言って微笑むと、ダダダと俺の傍まで駆け寄って来て、ギュっ
と胸にしがみ付くマルガ。
﹁ご主人様⋮ありがとうございます!﹂
ニコっと満面の微笑みを向けるマルガは、俺の頬に軽くキスをする。
それを見ていた、マルガの胸に抱かれている白銀キツネの子供は、
真似をする様に、俺の頬をペロっと舐める。
それを見て、俺とマルガは顔を見合わせて笑う。
﹁この子ったら⋮この子にも、ご主人様の気持ちが解った様ですね﹂
﹁ハハハ。可愛いね。じゃ∼そろそろ帰ろうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
264
元気良く返事をするマルガの手を引いて、俺達は野営場所まで帰る
のだった。
野営場所に帰って来た俺とマルガは、食事の片付けをして、馬のリ
ーズをテントの中に入れて、寝る準備をしている。
マルガは、体を拭く用意をしてくれている。その後をチョコチョコ
付いて行く、白銀キツネの子供のルナが可愛らしい。
因みに、この白銀キツネはルナと俺が名付けた。額に三日月の様な
模様が有ったので、それにちなんでつけたのだ。
マルガは、私が付けます!って、言ってたけど、馬のリーズの名前
も覚えきれていない俺に、さらにこの白銀キツネの名前を覚えるな
んて、考えただけで目眩がするよ。
半ば強引に俺がつけた名前を、幸いマルガが気に入ってくれて良か
った⋮マルガに名前を付けさせる時は、本当に注意しないと⋮俺の
1bitの頭が、パンクしちゃうよ!
そんな事を思いながら、準備していると、マルガも体を拭く準備が
出来た様だった。
﹁では⋮ご主人様⋮体を拭かせて貰いますね⋮﹂
マルガは顔を若干赤くさせながら、両手で石鹸水の入った桶と布を、
俺の足元まで持って来て、布を石鹸水に浸す。服を脱がしてくれ、
丹念に俺の体を、拭いていってくれる。両腕に、両足、背中や胸も。
そして、最後に俺のモノを優しく手に取る。
﹁う⋮うう﹂
265
思わず声が漏れた。マルガが俺のモノを咥えて、舌と口の中で丹念
に愛撫してくれる。
マルガの柔らかい舌と、暖かい口の中が気持ちいい。もう我慢出来
無くなった俺は、マルガの顔に腰を振り、マルガの可愛い口の中に
精を注ぎ込む。
コクコク音をさせて、飲み込んでいくマルガ。そして、口を開けさ
せ、全て飲みましたの確認をすると、ニコっと微笑み嬉しそうにし
ている。
﹁じゃ∼次はマルガを綺麗にして上げようね﹂
俺はマルガをぐいっと引き寄せると、マルガの服を脱がして行く。
恥ずかしそうに顔を赤らめているマルガは、その美しい体を、俺の
前に曝け出していた。その美しい幼女の女体に、俺のモノはピクピ
クと大きく反応している。
俺はゆっくりと嬲る様に、マルガを拭いて行く。右腕、左腕⋮拭き
ながらマルガの脇の下や首筋を舌で念入りに味わい愛撫もする。マ
ルガが身悶えるのが愛らしい。舌と布で丹念に愛撫しながら、全身
を綺麗にしていく。マルガは、舌が気持ち良いのか、時折甘い吐息
を上げ身悶えている。
俺はマルガの右足を持ち、綺麗に拭い行く。そして、綺麗に拭き終
わった可愛く小さな右足に舌を這わせる。ピクっと身を捩れさせる
マルガ。
﹁ご⋮ご主人様⋮その様な所⋮ダメ⋮です⋮﹂
﹁⋮マルガの足も可愛いよ⋮もっとしてあげる﹂
俺はマルガの足の指の間に舌を這わせ、丹念に舐めて愛撫をしてあ
げると、俺の舌が気持ち良いのと、ご主人様に足を愛撫して貰って
いる、嬉しさと、恥ずかしさ、申し訳なさが織り交ぜになった、艶
めかしい目を俺に向けて居る。俺はその表情をもっと見たくなって、
266
両足を舌で愛撫してあげる。左手で両足を抱え上げ舐めて、右手で
マルガのヌレヌレになっている秘所を愛撫すると、足の可愛い指を
キュっと強張らせて、快楽に溺れているマルガが、堪らなく可愛か
った。
そんなマルガも我慢出来無くなったのか、俺を見ながら甘い吐息を
吐き
﹁ご主人様⋮もう⋮私⋮私⋮﹂
喉の奥から切なそうな声を上げ、おねだりをするマルガ。その甘い
吐息に誘われ、マルガの口を蹂躙する。舌を可愛いマルガの口の中
に捩じ込み、マルガを味わう。マルガも必死に抱きつきながら、俺
の舌を堪能していた。
そんな俺も我慢出来無くなって、マルガにお尻を向けさせる。可愛
いワンちゃんの様な格好になっているマルガが、とてもいやらしく
見える。
そんなマルガの腰を持ち、お尻を優しく撫でながら、ヌレヌレに煌
いているマルガの秘所に、俺のモノを持って行く。そして、バック
から、マルガの秘所を一気に犯す。
﹁はうううっつんん!!!﹂
一気に挿入されたマルガは、膣をピクピクと吸い付けさせながら、
激しく身悶えている。
甘い吐息を上げるマルガを、どんどんバックから突き上げる。マル
ガの柔らかく可愛いお尻の弾む音が、パンパンと良い音をテントの
中に響かせる。
﹁ご⋮ご主人様⋮き⋮気持ち⋮良いです!﹂
甘い吐息を撒き散らしながら、声を途切れさせるマルガは、可愛い
お尻をもっと突いて欲しいのか、グイグイと可愛いお尻をつき出し
てくる。俺はそんなおねだりに、マルガの可愛いお尻の穴に指を入
267
れて、膣と一緒に動かして犯してあげる。
その快感に、身を悶えさせているマルガは、早くも小刻みに体を震
えさせる。
﹁ご⋮ご主人様⋮私⋮私⋮イッちゃいます⋮イク⋮イク⋮イ⋮イキ
ます!ご主人様イッちゃいます!⋮んはあああああ!!!﹂
大きく身を弾けさせるマルガは、大きな声を上げて絶頂を迎える。
その膣の締め付けに、俺も同じ様に絶頂を迎え、マルガの膣に精を
注ぎ込む。脈打つ俺のモノから、全てを吸い取る様に膣をキュンキ
ュン締め付けるマルガが愛おしくて、ギュッと抱きしめる。
﹁ご⋮ご主人様⋮精を注いで頂いて⋮ありがとうございます⋮﹂
瞳をトロンとさせながら、息の荒いマルガからモノを引き抜くと、
ヌロロロと糸を引いている。
マルガのピンクの膣からは、俺の精が、トプトプと流れ出している。
それを見て、俺のモノは再度大きくなっていた。
マルガを此方に向かせ、俺はマルガに覆いかぶさり、一気にマルガ
の膣に挿入する。
﹁んはああっつあ﹂
まだ絶頂の余韻に浸って居たマルガは、大きく身悶える。
﹁⋮まだまだ休憩させないからね⋮今日も一杯犯してあげるからね
⋮マルガ﹂
﹁⋮はい⋮一杯犯して下さい⋮ご主人様に⋮犯されたいです⋮﹂
マルガは妖艶な表情を浮かべながら、俺の口に吸い付く。マルガの
柔らかい舌が、俺の口の中に入ってくる。
俺はそれに答え、マルガを満足するまで犯して、眠りにつく。こう
して初めての野宿の夜は過ぎて行くのであった。
268
愚者の狂想曲 8 忍び寄る影
ラングースの街を出て、イケジリンの村に向かって早9日。
俺とマルガを乗せた荷馬車は、順調にイケンジリの村に向かって進
んでいる。
初めは何も解らなかったマルガも、大分と旅に慣れてきた様で、野
宿の準備も手際よく出来る様になり、周囲の警戒や雑用もそつなく
こなせる様になっていた。
そんなマルガは俺の膝を枕にして気持ち良さそうに眠っている。
﹁スウースウー⋮ムニャムニャ⋮﹂
時折可愛い寝息を立てるマルガの胸には、新しく扶養家族?になっ
た白銀キツネの子供のルナが、抱かれながら眠っている。主人であ
るマルガの傍を、片時も離れたがらない甘えん坊な白銀キツネの子
供。
しかし、この白銀キツネの子供のルナと、馬のリーズは非常に役に
立ってくれている。特に寝てる時は。
此処まで来る途中で、盗賊や魔物には出くわさなかったが、夜寝て
いる時に狼と熊に襲われそうになった。
でも、マルガのレアスキルの動物の心で心を通わせられているルナ
とリーズは、いち早くその気配に気づき、俺とマルガを起こしてく
れた。そのお陰で、襲われる前にマルガのレアスキルの動物の心で、
狼と熊に帰る様に伝える事が出来て、事無きを得た。
俺とマルガは、寝入ってしまったら、周辺の警戒が出来ない。
今迄は馬のリーズが気配を感じると起き上がるので、それで起きる
事が出来て対応していたが、今は更にルナも居ているので夜の安全
は格段に上がったと思う。まあ、それもこれも、マルガのお陰なん
だけど。
269
そんな事を思いながら、寝ているマルガの頭を優しく撫でていると
﹁ムニャムニャ⋮ご主人様⋮もう食べれません∼﹂
可愛い口をモゴモゴさせながら、嬉しそうな顔で寝言を言いながら
眠っている。
きっと、夢の中でも一杯食べてるんだね!何を食べてるんだろう⋮
気になる!イケンジリの村に着いたら、一杯好きな物食べさせてあ
げるからね!
そんなマルガをニマニマして眺めながら、荷馬車は春の暖かい日差
しの中を進んで行くのだった。
時刻はお昼。この世界の太陽が一番高い所にあるので、それくらい
だろう。
ラングースの街からイケンジリの村迄は、荷馬車で10日位である
が、天候も良かった為に、予定より1日早くイケンジリの村に着け
そうであった。今日の夕方位には到着出来るだろう。
何事も無くイケンジリの村に着けるであろうと安堵していると、お
腹の虫がグ∼と鳴った。
その音に寝ていたマルガがピクっと反応した。
﹁う⋮うん⋮。今⋮何かの動物さんの鳴き声が⋮﹂
眠気眼を擦りながら、マルガは辺りをキョロキョロ見回している。
﹁ご⋮ごめん、起こしちゃったね。⋮お昼だし、お腹が空いて来ち
ゃって⋮﹂
俺が苦笑いしてそう言うと、フフフと口に手を当てて、可笑しそう
に笑うマルガ
270
﹁調度良いから、この辺で休憩して昼食にしようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
夢の中で何か食べていた余韻があるのか、マルガは元気良く嬉しそ
うに返事をして、金色の毛並みの良い尻尾を、パタパタと振ってい
る。マルガはほんと可愛ゆすな∼。
そんなマルガに癒されながら、街道沿いに荷馬車を止めようとした
時だった。
命令もしていないのに、急に馬のリーズが歩みを止めてしまった。
﹁ご主人様。此処で休憩なさるのですか?﹂
マルガは不思議そうに俺を見ている。
それもそのはず、荷馬車が止まったのは街道の真ん中。幾ら人通り
の無い街道とはいえ、街道の真ん中に荷馬車を止めて、休憩をして
昼食を取ろうとは思わない。
﹁いや⋮俺は何も命令してないんだけど、勝手にリーズが止まっち
ゃって⋮﹂
俺がそうマルガに説明している時に、マルガの胸に抱かれていた白
銀キツネのルナが、マルガの胸から飛び出して、馬のリーズの頭の
上まで駆けて行った。
馬の上に可愛い小動物が乗っている光景は、普段なら微笑ましい光
景だろうけど、今回は少し違った。
馬のリーズも、白銀キツネのルナも、耳をピクピクと動かして、何
かを聞いている様であった。
明らかに、何かに警戒している動物の姿がそこにあった。
﹁どうしたんだろうね⋮﹂
俺はそう呟くと、マルガと顔を見合わせる。マルガも可愛い首を傾
げて俺を見る。
271
﹁マルガ⋮ちょっとお願い出来る?﹂
俺のその言葉で理解したマルガは、レアスキルの動物の心で、リー
ズとルナにどうしたのか確認をする。すると、マルガの表情がきつ
くなった。
﹁⋮ご主人様⋮この先に、複数の何かの気配を感じるって、リーズ
とルナが言っています﹂
マルガは緊張した面持ちでそう言った。
﹁マルガは⋮何か聞こえたり、臭いがしたりするかい?﹂
﹁いえ⋮私は⋮今は感じません。ご主人様はどうですか?﹂
﹁いや⋮俺も感じないね⋮﹂
2人共、現時点では気配を感じてはいない様であった。
俺は兎も角、マルガが気配を感じないと言う事は、最低200mは
離れているという事になる。まあ、余程気配を消す事に長けている
者であるならば別だと思うけど、リーズとルナが気配を感じれるな
ら、俺もマルガも感じ取れる相手だと見て良い。なので、距離的な
理由だと結論づけた。
野生の動物は、何㎞先の音や匂いを感じれる動物もいる。亜種も普
通の人間に比べれば凄い能力を持ってはいるが、動物に勝てる程で
は無い。
﹁どうしますかご主人様?﹂
マルガは心配そうに俺を見る。俺はマルガの頭を優しく撫でると、
少しだけその表情を緩ませる
﹁とりあえず⋮イケンジリの村に此方から向かう街道はこれしか無
い。この街道から逸れて森の中や整地されていない所を、荷馬車で
行くのは無理だしね⋮此処で引き返せば、何事も無く安全に済むだ
272
ろうけど、お金は稼げない⋮﹂
しばし考えてマルガを見る。マルガは心配そうに俺を見て、腕をギ
ュっと掴んでいた。
﹁⋮このままイケンジリの村に向かう﹂
俺はそうマルガに告げる。そして、マルガに話始めた。
この世界は危険に満ちている。野盗、魔物、猛獣が闊歩する世界。
国の統治者が対策を練って対応してはいるが、手が回っていないの
が現状である。
なので、戦闘職業を持つ冒険者や行商人が、重宝されているのであ
る。
危険を犯して、商人が商品を運ぶからこそ、品物が高く売れるのだ。
例え多少の危険や、問題があろうと、それを乗り越えないと利益は
上がらない。この世界の経済はこの様にして支えられているのであ
る。俺の話を真剣な面持ちで聞いているマルガ。
﹁この先にキツイ事があるかも知れないけど⋮覚悟は良いかな?マ
ルガ⋮﹂
俺のその言葉に、腰に付けている短剣をギュっと握りながら
﹁ハイ!私は何処までもご主人様と一緒に行きます!﹂
マルガのライトグリーンの綺麗な瞳は、しっかりとした意志を秘め
て俺を見ていた
﹁⋮じゃ行こう。マルガは最大限の警戒をして。もし、何か気配を
感じたら、すぐに言ってね﹂
﹁ハイ!解りました!﹂
マルガはそう返事をすると、可愛い耳を小刻みに動かしながら、必
死に周辺の気配を探っている。当然俺も周辺に最大限の警戒をしな
273
がら、速度を落としてゆっくりと荷馬車を進めていく。
どれ位来ただろうか、ゆっくりとした速度で進んでいるので、時間
は掛かっているが、まだ400m位だと思う。その時、マルガが俺
に伝えて来た
﹁ご主人様!前方の方に⋮何か居ます!﹂
マルガのその声に、俺は荷馬車を止める。止まって静かになった荷
馬車の上で、マルガは気配を探っていく
﹁カチャカチャとした鉄の擦れる音⋮詳しくは聞き取れませんが⋮
何かを話す声⋮恐らく人です⋮3人⋮いえ!4人です!﹂
﹁その気配は何処からするの?﹂
﹁あの先に見える、この街道をはさんだ大きな岩陰からです。左右
に2人ずつ⋮あの2つの岩陰に居ると思います!﹂
そう言って、前方を見るマルガ。俺もそちらの方に目を向けると、
200m位前方にそれらしき2つの岩が、街道を挟んであった。そ
の岩陰に2人ずつ隠れているか⋮
この街道は障害物もなく見晴らしが良い。街道を行く荷馬車の方が
発見されやすい。どうやら今回は、先に此方が発見された様だ。
問題は⋮それが野盗の類の待ち伏せか⋮ただ単に此方が何者か解ら
ないので、警戒して身を隠している者達なのか⋮
とりあえず、俺が感知できるギリギリの所まで行って対応するか⋮
俺は荷馬車から降りて、リーズの轡を引いて歩く事にした。マルガ
には何時でも逃げ出せる様に、荷馬車で手綱を握らせている。
少しずつ、岩陰に近づいていく荷馬車。そこで俺の感知範囲に入っ
た。
﹃確かに⋮4人⋮岩陰に2人ずつだな。それに⋮この感じは⋮﹄
274
俺は2つの岩陰より30m位離れた所で荷馬車を止めた。
そして、荷馬車の前に立ち、腰に下げていた、セレーションブレー
ド付きの黒鉄マチェットを鞘から引き抜き、岩陰の方に向ける。
﹁おい!そこの岩陰に隠れている4人!出てこい!そんな殺気を漂
わせていたら、バレバレだぞ!﹂
俺がそう叫ぶと、少しの間をおいて、カチャカチャと装備の音をさ
せて、岩陰から4人の男が姿を表した。
その姿は薄汚く、その手には、黒鉄のロングソードやハンドアック
スが握られていた。
一目で野盗と解る風貌であった。
﹁へへへ⋮良く俺達の事が解ったな!お前も、戦闘職業に就いてい
るみたいだな﹂
その4人の中のリーダーらしき少し大柄な男が、一歩前に出て話す。
﹁⋮出来れば、このまま何事も無く、此処を通して欲しいんだけど
⋮﹂
俺の言葉に、4人の男達は、大きな笑い声を上げる。
﹁お前この状況を解って言ってるのか!?俺達がお優しい牧師様に
でも見えるってか?﹂
﹁⋮間違っても見えないな⋮﹂
俺がそう返答すると、4人のリーダーらしき男は薄汚く笑いながら
﹁なら、俺達がこの後どうするか解るよな?大人しくした方が、そ
の後の苦痛も少なくて済むぜ?心配するな!一瞬で楽にしてやるか
らよ!﹂
4人のリーダーらしき男がそう言って笑うと、残りの3人も下品な
笑い声を上げる。その時、荷馬車から誰かが飛び降りた
275
﹁貴方達なんかに、私のご主人様を傷つけさせはしません!﹂
俺の前に立ち、腰から黒鉄の短剣を抜いて構えるマルガ。それを見
た4人の男達が色めき始め、その顔を歓喜に染める
﹁おいおい!かなり上等な女じゃねえか!こんな所で、こんな犯し
たくなる女に会えるなんて運がいいぜ!﹂
﹁ああ!ちょっと歳は幼いが、そこがまたそそられるな!﹂
﹁へへへ⋮擦り切れる迄犯してやるよ⋮﹂
﹁おい!犯す順番はどうするよ?公平に行こうぜ!﹂
男達は、超美少女のマルガを見て、卑猥に発情した目線で、獲物を
手に入れた喜びに浸っている様であった。
﹁私の全てはご主人様の物なんです!だ⋮誰が!貴方達なんかに!﹂
そんなマルガの叫びを聞いたリーダーらしき男は、ニヤッと哂い
﹁あはは!すぐにそのご主人様って奴を殺して、犯してやるから待
ってるんだな!⋮うん?お前⋮奴隷か?フフフ⋮こりゃいい!此れ
からは、俺達がお前のご主人様だ!まあ∼多少無理な事するかも知
れねえが、すぐに、そこのご主人様の事なんか、忘れる位の事をし
てやるよ!﹂
リーダーらしき男の卑猥な顔を見たマルガは、恐怖に囚われたのか、
肩を震わせ小刻みに震えている。
しかし、震えながらも、俺の前から退く事はしようとしない。震え
る剣先を、4人の男達に向けていた。
そんないじらしいマルガの肩に優しく手を置くと、ピクっとなって
俺の方に振り返るマルガ
﹁ダメだよマルガ⋮荷馬車から降りてきちゃ⋮﹂
﹁で⋮でも!私ご主人様をお守りしたくて!﹂
276
マルガは震えながらも、必死で俺の前に立ち続けようとする。そん
な愛らしいマルガの頭を優しく撫でる
﹁⋮大丈夫。マルガは心配しなくていいよ。それに、マルガには指
一本触らせないから安心して﹂
マルガはそれを聞いて、嬉しそうに涙目になっていた。マルガを後
ろに回し、再度前に出る
﹁⋮俺の可愛い奴隷に手出しはいけないな∼。折角、両手を切り落
とす位で、命は助けてやろうと思ってたのに⋮もう、容赦は出来な
いよ?﹂
俺はセレーションブレード付きの黒鉄マチェットを、男達に向ける。
﹁はあ!?お前が俺達に勝てるとでも言うのか!?そりゃ∼大きな
間違いだぜ坊主!自惚れ過ぎだ!﹂
高笑いしながらリーダーらしき男が言う。
﹁ハハハ!こんな所で野盗になんかに身を落とした奴に、俺は負け
ないよ?一瞬で終わらせてやるよ﹂
ニヤっと笑いながら俺が言うと、リーダーらしき男から笑みが消えた
﹁⋮お前⋮楽に死ねると思うなよ?⋮オイ!﹂
その掛け声と共に、4人の男達はじわじわと俺との間合いを詰めな
がら包囲してくる。
俺はレアスキルの霊視で、4人の男達の能力を視る。
﹃レベルが高い順から⋮LV22、LV17、LV15、LV14
か⋮。戦闘職業は全員戦士⋮。特殊なスキルやレアスキルも持って
いないな⋮﹄
心の中で、4人の男達の能力を呟いた。初級の冒険者や兵隊クラス
277
の力だと判断できる。
大方、町で聞いた、脱走兵の成れの果てと言った所だろうと、判断
した。
そんな事を考えていた俺に、リーダーらしき男は
﹁さっき迄の威勢はどうした?一瞬で終わらせるんじゃなかったの
かよ?﹂
俺を包囲し終えて、勝ち誇った顔で言うリーダーらしき男。他の男
達も、余裕の表情で俺を見ていた。
﹁⋮ああ⋮そうだったな。じゃ∼終わらせるとしようか!﹂
そう言い放った俺の目が一瞬妖しく真紅に光る。その次の瞬間、
﹁ぐふ⋮ぐああ⋮ゲフッ⋮﹂
呻き声を上げながら、口から大量の血を吐くリーダーらしき男。
その胸からは、ロングソードの剣先が見える。背中からロングソー
ドで心臓を貫かれていた。
微かな声を上げて、大量の血を流しながら地面に倒れるリーダーら
しき男。
残りの男達は、何が起こったのか解っていなかった。4人の男達の
内の1人が、リーダーらしき男を背中からロングソードで刺し殺し
たのだ。
そのリーダーらしき男を刺し殺した男が、別の男に襲いかかる。そ
して、刺し殺した男は、別の男を羽交い絞めにして抑えつけた。
﹁お⋮おい!やめろ!お前一体何してやがるんだ!何やってるのか
解ってるのか!?﹂
羽交い締めにされている男がそう叫ぶが、刺し殺した男は虚ろな目
をして離そうとしなかった。
278
﹁お前何見てるんだよ!早くこいつを離してくれ!﹂
羽交い締めにされている男が別の男に助けを求める
﹁あ⋮ああ!!解った!!﹂
そう返事をして助けに入ろうとする。
﹁おいおい!俺の事を忘れてんじゃないの!?﹂
そう告げると、俺は瞬時に助けに入ろうとしている男まで間合いを
詰めた。男が俺の方に振り向いた瞬間、セレーションブレード付き
の黒鉄マチェットの一閃が男を襲う。
羽交い締めにされている仲間を助けようとした男は、一瞬で首をは
ねられた。大量の血が首の無くなった体から噴き出て、噴水の様に
なっている。そして、血を吹き出しきった体は、糸の切れた人形の
様に地面に崩れ落ちた。
﹁さあこれで、まともなのはお前だけになったな﹂
俺がセレーションブレード付きの黒鉄マチェットに、付いていた血
を払いながら言うと、混乱した男が
﹁な!一体どうなってるんだ!?﹂
羽交い締めにされながら困惑した表情の男
﹁⋮なに⋮ちょっとその男は俺が操ってるだけさ﹂
﹁なんだと!お前⋮メイジか!くそう⋮こんな所で、魔法の使える
奴に出くわすなんて!﹂
﹁ま⋮メイジでは無いけど、魔力はあるよ。⋮相手が悪かったな﹂
俺の言葉に、顔を歪ませる羽交い締めにされている男。俺のレアス
キルの魅了で、仲間の一人の自意識を奪い、操り人形にしていたの
だ。
男は必死に逃げ出そうとしているが、がっちり抑えつけられて、動
279
く事が出来無い様だ。
俺はゆっくりとマルガの元に戻る。血だらけの死体を見て固まって
いるマルガに
﹁マルガ⋮もう終わったから、安心していいよ⋮﹂
そう言って優しく頭を撫でると、ピクっとなって、我に返ったマル
ガ。
﹁ご⋮ご主人様!!﹂
マルガはギュッと抱きついてきた。体はまだ微かに震えていた。
マルガは三級奴隷として過酷な生活環境で生き抜いてきて、非道な
事や他人が死ぬ所、無残な死体なども沢山見て来ている思うけど⋮
女の子だもんね⋮やっぱり怖いよね⋮
マルガが落ち着く迄、胸の中に抱きながら、優しく頭を撫でていた。
暫くそうしていると、マルガも落ち着いてきたので、マルガから離
れて、羽交い締めにされている男の側に行く
﹁さて⋮後は⋮お前達の始末だけだな⋮﹂
俺のその感情のこもっていない言葉に、羽交い締めにされている男
の表情は青ざめる
﹁ま⋮まて!ゆ⋮許してくれ!わ⋮悪かった!﹂
﹁ハハハ⋮何を今更⋮﹂
俺はセレーションブレード付きの黒鉄マチェットの剣先を、男に向
ける。そして、ギルゴマから頼まれていた行商人の事を思い出し、
聞いて見る事にした。
﹁お前達は⋮少し前にラングースの街から来た行商人の事を襲った
か?﹂
﹁い⋮いや!知らねえ!俺達は2日前に、港町パージロレンツォか
280
ら此処に来たばかりなんだ!そんな行商人なんて知らねえ!﹂
その答えに、俺とマルガは顔を見合わせる。俺とマルガは、こいつ
らがギルゴマの知り合いの行商人に何かをしたと思っていたのだ。
そこにマルガは何かに気付いた様に言う。
﹁ご⋮ご主人様。ご主人様のレアスキルで操っている男の人に聞く
事は出来無いんですか?﹂
﹁うん⋮出来無いんだよね⋮﹂
俺のレアスキルの魅了は、自意識を奪い操り人形とするスキルだが、
そこに情報的記憶は含まれ無い。魅了の仕組みは、自意識︵自己や
記憶︶を奪い、そこに活動する為の必要な情報を、スキルを使う側
が与えている事で、操っているのである。操っている者の記憶の操
作は出来無いのだ。なので、情報を聞き出す等の行為も出来無いの
である。
俺は男の目の前まで剣先を持って行く。
﹁本当に⋮知らないんだな?﹂
﹁ああ!本当だ!信じてくれ!﹂
必死に俺にそう言う男。どうやら本当に知らない様だ。
﹁⋮そうか⋮。なら、もうお前に用は無い﹂
俺がそう言い放った瞬間、ボキっと乾いた音がした。
羽交い締めにされていた男は、俺に操られている男に、首の骨を折
られて絶命した。地面に崩れ落ちる男
﹁さて⋮余り期待は出来無いけど、こいつらどれ位持ってるのかな
⋮﹂
俺は死体になっている3人の体と、羽交い締めをしていた男の体を
調べる。道具袋らしき物からお金を抜き取って行く
281
﹁⋮4人分で銀貨55枚と銅貨13枚か⋮しけてんな∼﹂
俺はアイテムバッグからお金の入った袋を取り出し、お金を自分の
袋に入れる。
﹁マルガ、こいつらの使っていた武器を、荷馬車に積んでくれる?
町で売っちゃうから﹂
呆然として俺を見ていたマルガは、我に返った様で、慌てて4人の
男の装備を荷馬車に積んでいく。
黒鉄のロングソード2本と、黒鉄のハンドアックス2本を、荷馬車
に積み終わったマルガは、俺の元に帰って来た。そして、俺と操ら
れている男を見て困惑している。
﹁ご⋮ご主人様⋮操っている男の人に、何をさせているんですか?﹂
﹁ああ⋮この街道はまた通るから、死体を街道からどけさせている
んだ。死体なんて、見ていて気持ちの良いものじゃないし、荷馬車
で通るのに邪魔になるしね。ああやって街道の外に捨てておけば、
狼や熊のエサにでもなるだろうしさ﹂
そう説明して、操っている男に3人の死体を街道から投げさせる。
ゴミの様に捨てられる死体に、表情を強張らせるマルガ。
﹁さて、街道の掃除もしたし⋮荷馬車に乗ろうか﹂
俺の言葉に、静かに頷くマルガ。荷馬車に乗り込み、俺は手綱を握
る。
﹁時間取っちゃったけど、この先の川辺で遅めの昼食にしようね﹂
そう言って荷馬車を出発させた。マルガは黙ってコクっと頷いてい
た。ゆっくりと進みだす荷馬車
﹁ボキ!﹂
荷馬車の後ろから乾いた嫌な音がした。街道から外れた草むらで、
282
操られていた男が、俺の指示通りに、自分の首の骨を両手で折った
音だ。ゆっくり崩れるように草むらに倒れる絶命した男。
俺達を乗せた荷馬車は何事も無かったかの様に、春の優しい日差し
の中を進んで行った。
荷馬車は小川の傍で止められている。
この小川は深くなく川幅も狭いが、湛えられている水は透き通って
いて、陽の光を浴びて美しく輝いている。馬のリーズや、白銀キツ
ネのルナは、その小川の水を美味しそうに飲んでいた。
そんな光景を見ながら、俺は昼食の準備をしている。辺りには料理
の美味しそうな匂いが漂っている。
昼食は、豚の塩漬けの肉を焼いた物と、芋と干した野菜を水で戻し
た、コンソメ風の味付けのスープと焼いたパンだ。自分で調理して
いるので何だが、結構美味しく出来ていると思う。
その出来た料理を、マルガが綺麗に並べた木製の食器に入れていく。
準備も出来たので、昼食を食べる。
﹁さあマルガ食べようか﹂
俺が微笑みながら言うと、軽く俯きながら小さな声で
﹁⋮頂きます⋮ご主人様⋮﹂
そう言って返事はしたが、食事に手を付けて食べようとしないマル
ガ。
何時もなら、元気よく頂きますをして、尻尾をブンブン振りながら
嬉しそうに食べるんだけど⋮
やっぱり⋮さっきの野盗の事を、何か思ってるのかな⋮。俺は食べ
ていたスープを置く。
283
﹁マルガ⋮どうしたの?⋮さっきの野盗の事で何か思ってるの?﹂
俺のその言葉に、少し体を反応させて、俺の方を見るマルガ
﹁いえ⋮その⋮あの⋮﹂
マルガは言いにくそうに口篭る。ライトグリーンの透き通るような
瞳を少し揺らしていた。
﹁⋮俺のやった事が気に入らなかった?⋮それとも⋮俺の事が⋮嫌
いになった?﹂
その言葉に、マルガはパっと此方を向いて慌てながら
﹁いいえ!そんな事はありません!ご主人様の事を⋮嫌いになんて
なりません!﹂
しっかりと言い切るマルガの瞳に見つめられて、ドキっとしてしま
った俺。
超美少女のマルガに、こんな可愛いことを言われたら、照れちゃう
よ。顔が熱いYO!
そんな俺を見て、マルガも顔を赤くして俯いている。優しくマルガ
の頭を撫でると、なんとも言えない嬉しそうな顔で微笑で、尻尾を
フワフワと左右に振っている。そんなマルガを見ると、俺まで微笑
んでしまう。
マルガの機嫌?も直った事だしどうしたのか聞いてみる
﹁じゃ∼どうしたの?﹂
﹁はい⋮確かに、野盗達に対応したご主人様と、何時ものご主人様
との違いにビックリしちゃったのは⋮事実です⋮﹂
マルガは申し訳なさそうに俺を見る。
﹁ご主人様は⋮何時も優しいですから⋮﹂
284
そう言ってギュッと腕に抱きつき、ニコっと微笑むマルガ。
﹁まあ⋮彼奴等を殺したのは、やらないとこっちがやられるっての
もあるけど、生かして逃がしてやると、危険な事になるかもしれな
いしさ﹂
彼奴等は、2人殺された時点で戦意を喪失していた。彼処で命を取
らずに逃してやっても良かったのかもしれない。
しかし、彼奴等を生きて逃したせいで、彼奴等は他の行商人や旅人
を襲っていたかも知れない。人間なんてなかなか変われるものじゃ
ない。憶測だが、きっと彼奴等はまた同じ事をするだろう。しかも、
今度はもっと用心深くなり、長く被害を出し続ける事になるだろう。
そして、一番の理由は報復。逆恨みもいい所だが、ああいう奴等は
根に持つ事が多い。仲間を増やされて、逆襲なんてされたら、たま
ったものではない。だから俺は、やれる時にきっちり殺す事にして
いる。自分の身を守れるのは、自分しか居ない。だから俺は殺す事
に躊躇はしない。自分の身を守る為に。
俺の話を聞いていたマルガは、静かに聞いて頷いている。
﹁それにさ、俺が彼奴等を捕まえて国軍に引き渡した所で、彼奴等
は死罪になるだけ出しさ。結果彼奴等は、野盗をした時点で、ああ
なる運命だったのさ﹂
この世界の法律は国によって違いがあるが、犯罪に対しては似てい
る所が多い。野盗や殺人を犯した者の刑罰は死刑である。治安を守
る為に、処罰はきつい。それでも数は減らないのが現状ではあるが。
殺人に対しては、殺しても罪に問われない場合もある。
それは、襲われたり、仕掛けられたりした時は、相手を殺しても罪
に問われ無いのだ。
自分の身を守る為に、相手を殺しても罪にはならない。正当防衛は
285
存在するが、過剰防衛は存在しない。なので襲った相手は、殺され
ても文句は言えない。殺されたくなかったら、そういう事をするな
と言う事だ。
もう一つは、敵討ち。どんな理由があるにせよ、家族や恋人、友人
等を殺した相手に復讐する為に殺す事は罪に問われない。それと同
時に敵討ちされる側も、してくる者を殺しても罪にはならない。治
安に直接関係ない敵討ちは、当人同士の問題として、関知しないと
いうのがこの世界の慣習の様になっているのであろう。この2つ以
外は殺人罪となり罪に問われる。
俺は静かに話を聞いているマルガを見る。
﹁⋮本当はさ、彼奴等を片手を切り落とす位で、命は助けてやろう
と思ったんだけどさ⋮彼奴等は⋮マルガを犯そうとしたから、感情
の抑えがきかなくなっちゃってさ⋮﹂
俺はそう言うと、マルガをギュっと抱き寄せる。
俺は野盗達がマルガを犯そうとしてる事が許せなかった。マルガが
俺の他に汚されるのが怖かった。
今迄は俺一人の旅だったから、多少の危険があっても怖くはなかっ
た。
しかし、今はマルガが俺の傍にいる。あの時、マルガが他の奴に汚
される事を想像しただけで⋮堪らない気持ちになった。
なので、彼奴等に容赦はしなかった。報復の危険も完全に消し去り
たかった。
﹁マルガは⋮俺だけの物⋮解ってるよね?⋮他の奴に何か絶対に汚
させない⋮マルガを汚して良いのは俺だけなんだ⋮。もし⋮マルガ
が他の奴に汚されたら⋮俺はマルガを可愛がる自信が無いんだ⋮マ
ルガが他の奴に汚されたら⋮俺は⋮マルガを⋮捨てるかも知れない
286
⋮﹂
その言葉を聞いたマルガは、ギュッ抱きついてきて
﹁私はご主人様以外の人に、汚されたりはしません!港町パージロ
レンツォに着いたら、きちんと戦闘職業に就いて、強くなります!
いっぱい頑張って、ご主人様もお守りしますから、私の事を捨てな
いで下さい!もし⋮私が⋮ご主人様以外の人に汚されてしまったら
⋮私は自分の命を断ちます!﹂
マルガは綺麗なライトグリーンの瞳に一杯の涙を浮かべながら、こ
れ迄見た事の無い取り乱し様で、俺にそう叫んだ。
その必死なマルガに、さっき迄の心のつかえが消えてゆく。
﹁ゴメンねマルガ⋮変な事言っちゃって⋮意地悪なこと言ってゴメ
ン⋮俺もマルガを安心して守れる様に強くなるよ⋮大好きだよマル
ガ⋮﹂
腕の中で微かに震えるマルガを、ギュッと抱きしめる。
マルガは俺の言葉に、最大限の微笑みで返してくれる。ううう⋮可
愛い⋮
本当に⋮どうかしてる。起こっても居ない事に、こんなに心を乱さ
れるなんて⋮
俺の中のマルガの大切さが、ほんと大きくなっているんだなあ⋮
頼りないご主人様でゴメンねマルガ!⋮反省⋮ウウウ⋮
そんな事を考えながら、腕の中のマルガの頭を優しく撫でていると、
落ち着きを取り戻したマルガは
﹁いえ⋮いいんです⋮私も⋮ご主人様が大好きです⋮﹂
そう言って、まだ涙を浮かべている瞳で、優しく微笑んでくれるマ
ルガ。そのマルガの微笑に癒される
﹁マルガ⋮マルガは優しいから、人を殺したりとか、そういう事は
287
したくないのかも知れないけど、自分の身が危ない時や、何かの危
険がある時は、迷わず殺して欲しい。もし⋮マルガに何かあったら
って考えると⋮堪らないんだ。俺の為にも⋮マルガの為にも約束し
てくれるかい?﹂
何時になく真剣な俺の顔を見て、マルガも真剣に応えてくれる
﹁はい⋮私もご主人様を守る為⋮私自身を守る為に⋮人を殺す事に
迷いません!⋮大好きなご主人様のお傍に居られる様にがんばりま
す!お約束します!﹂
マルガはそう言って、俺の胸をギュッと掴んでいた。そんなマルガ
を優しく抱きしめる。
﹁ありがとねマルガ⋮。じゃ∼約束の記念にイケンジリの村で無事
に取引を終えたら、港町パージロレンツォで、マルガの欲しい物を
一杯買ってあげるね﹂
その言葉を聞いたマルガは、フルフルと首を横に振る
﹁いいです⋮どうしてもと、ご主人様が言うのであれば⋮今⋮キス
が欲しいです⋮﹂
マルガは小声でそう言うと、小さく可愛いピンク色の唇を、俺の唇
に重ねる。マルガの甘く柔らかい舌が俺の口の中に滑りこむ。俺は
口の中のマルガの舌を優しく堪能する。マルガは必死に舌を絡め味
わっていた。すると俺のパオーンチャンが元気になって来た。それ
に気が付き、小さく柔らかい手で優しく握ってくれるマルガ。
﹁ご主人様のが⋮こんなに⋮私⋮ご主人様のが⋮欲しいです⋮﹂
目をトロンとさせて、甘い吐息混じりに囁いてくるマルガが可愛す
ぎる。
今は昼過ぎだが、マルガを此処で一杯堪能してしまったら、しなく
て良い野宿を、またしなくてなはらない。ここは⋮我慢だ!
288
﹁後もう少しで、イケンジリの村に着けるから⋮夜に一杯⋮ベッド
の上でマルガを味あわせて貰うから⋮今は一緒に我慢してくれる?﹂
そう言うと、顔を真赤にしてコクコクと頷くマルガ。そんな可愛い
マルガを見ていると、自然と笑顔になってくる。マルガもニコニコ
しながら、金色の尻尾を嬉しげに揺らしていた。そして、恥ずかし
げにモジモジしながら、
﹁じゃ⋮ご主人様⋮夜まで我慢しますから⋮あ∼ん⋮して下さい⋮﹂
﹁あ∼ん?あ∼んって?﹂
﹁⋮前に看病してくれた時みたいに⋮ご主人様に⋮昼食を食べさせ
て⋮欲しいんです⋮﹂
ブホ⋮あ∼んってそれですか!⋮改めてそう言われると、俺まで恥
ずかしいよ!
マルガは頬どころか、耳まで赤くして俺を見つめる。
そんな可愛すぎる顔で、上目遣いで見ないで!本当に我慢出来なく
なるから!
俺はなんとか平常心を保ちつつ、マルガの食べていた食器に手を伸
ばす。
そして、スプーンでスープを掬い、マルガの小さな可愛い口の前に
持っていく。
﹁じゃ⋮マルガ⋮あ∼んして﹂
その声を聞いたマルガは、瞳をキラキラと輝かせて嬉しそうに
﹁あ∼∼ん!!﹂
小さい可愛い口を、目一杯開けて待っている。その可愛く開かれた
口に、スプーンに掬われたスープを入れると、パク!っと元気良く
食べるマルガ。うんうん、何時ものマルガが食べている時の感じだ。
289
﹁ご主人様!とても美味しいです!﹂
マルガは幸せそうな顔でニコっと微笑む。マルガの尻尾は嬉しそう
にブンブン振られている。
そんな可愛いマルガの頬に優しくキスをする。
﹁ご主人様⋮もっと⋮あ∼んして下さい⋮﹂
物欲しそうに言うマルガにドキっとしてしまう。
﹁うん!一杯食べさせてあげるからね!じゃ∼あ∼んして!あ∼ん﹂
﹁あ∼∼ん!!﹂
マルガは再度可愛い口を精一杯開ける。俺は料理を次々にマルガの
可愛く小さな口に運んでいく。
マルガは満面の笑みで美味しそうに食べている。モグモグモグ。
そんな2人の横から
﹁ク⋮ク∼﹂
﹁ブルルルル⋮﹂
明らかに溜め息の様な鳴き声を上げる、馬のリーズと白銀キツネの
ルナ。
その声に恥ずかしくなって、思わず顔を見合わせて、赤くなる俺と
マルガ。
﹁じゃ⋮食べて、後片付けしたら、出立の準備しようか⋮﹂
﹁そうですね⋮ご主人様⋮﹂
気恥ずかしく思いながら、すべての料理を、あ∼んで食べさせてあ
げた俺。嬉しそうなマルガ。
マルガのこの顔が見れるなら、何でもしちゃうよ僕チャン!⋮完全
に美少女にやられてるね⋮アハハ⋮
食べ終わって、後片付けも済ませ、準備も出来た。俺とマルガは荷
馬車に乗り込む。マルガの腕の中には、甘えん坊の白銀キツネのル
290
ナが気持ち良さそうにしている。俺はそれを見ながらニマニマして
いる。
﹁じゃ∼出発しようか!﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
俺はリーズの手綱を握る。リーズは元気良く荷馬車を引っ張り出し
た。
イケンジリの村迄もう少し。宿に着いたら、一杯可愛がるんだから
ね!
そんなエッチな妄想に浸っている俺を乗せた荷馬車は、一路イケン
ジリの村に向かって行く。
そんな俺達を、500m位離れた小高い丘から、望遠鏡で見ていた
男が居た。
﹁どうやら行ってしまった様ですね。あの街道は一本道。行き先は
恐らくイケンジリの村で間違いないと思いますが、此処で処分しな
くて宜しかったのですか?﹂
望遠鏡を見終えた男に、そう告げる女性の声。男が振り返ると、そ
こには身長170cm位の、褐色の肌にダークブラウンの髪をかき
上げ、艶かしく張りのあるプロポーションの20代中頃の美しい女
性が目に入る。
﹁ああ、今は行かせて問題は無いねカチュア。俺達は奴等と合流し
て、アイツと会わないといけないからな﹂
男がカチュアと呼ばれた女性にそう告げると、クスっと軽く笑って
カチュアが
﹁そうですか。ギルスがそう言うならそうしましょう。まあ⋮ギル
スと私なら、アレ位の相手⋮簡単に処分出来ると思いますしね﹂
291
ニコっと微笑むカチュアに、ククっと笑うギルス
﹁さあ⋮どうかな?まあ⋮俺もそう思うが、ちょっと気になった事
が有ってな﹂
﹁なんですか?貴方ほどの人が気になる事なんて⋮﹂
カチュアはギルスの肩に寄り添いながら、艶かしい微笑みをギルス
に向ける。そんなカチュアのダークブラウンの髪を触りながらギル
スは
﹁ああ⋮さっき奴等が野盗に襲われていた時なんだが⋮少し様子が
変だった﹂
﹁どんな感じだったのですか?﹂
﹁⋮野盗との戦闘が始まると思ったら、野盗同士が仲間割れをして、
同士討ちを始めたんだ。そしてあの男が戦場を支配して勝った⋮。
何故野盗達は仲間割れをして、同士討ちを始めたんだ?あんな事し
なければ、勝てたかもしれないのに⋮﹂
ギルスは顎に右手を添えて考えている。その様子を可笑しそうに眺
めていたカチュアは
﹁それはやっぱりあれじゃないですか?報酬の取り分で揉めたとか
⋮そんな所でしょう?﹂
ギルスに顔を近づけ、寄り添うカチュアの肩を軽く抱き寄せるギル
スは
﹁取り分で揉める事は解るが⋮そんな事をするのは、手に入れてか
らだろ?戦闘中にする事か?﹂
﹁有るんじゃないですか?何でもあの行商人は、とびきり可愛い美
少女を共に付けていたらしいですからね。その美少女を目の前にし
て、性欲が抑えきれ無くなったんじゃありませんか?あんな野盗の
考えている事なんて、みんな同じですからね。ギルスも喜ぶ位の美
292
少女だったのでしょう?﹂
流し目でギルスを見ながらカチュアそう言うと、マルガの事を思い
出したのか、クククと笑いながらギルスは
﹁そうだな⋮アノ美少女は確かにとびきりだったな。あれは男なら
犯したくなっても不思議じゃない。しかし⋮戦闘中にそんな事する
かな⋮⋮するかもな⋮あの野盗達は、LVも低そうだったし、阿呆
な面構えの奴等ばっかりだったしな﹂
野盗達の事を考えながら、呆れた感じで言うギルスを見て、フフフ
と口に手を当てて笑っているカチュア
﹁しかし、あの行商人の連れていた美少女は本当に可愛かったな⋮
少女趣味の無い俺でも犯したくなる位に⋮いっそ行商人から奪って、
俺専用の性奴隷にでもするか⋮﹂
そんな事をブツブツと言っていたギルスの頬を、カチュアが抓った。
﹁イテテテテ!!﹂
﹁ギルスには私が居るじゃありませんか。それとも⋮私ではご不満
ですか?﹂
カチュアの冷たい視線に、背中がゾクっとするギルスは、苦笑いを
しながら
﹁解ってるって!俺はお前⋮カチュアだけだって!﹂
その言葉を聞いたカチュアの顔に笑みが戻る。
﹁解っていれば宜しいのです。解っていれば﹂
﹁ったっく⋮お前は本当嫉妬深いんだから⋮まっ⋮そんな所も⋮可
愛いんだけどな⋮﹂
そう言うとカチュアの顎を掴み、カチュアの唇に吸い付くギルス。
カチュアはギルスに抱きつきそれに応えていた。
293
﹁さて俺達もこんな所で無駄に時間を過ごしている場合では無いな。
カチュア行くとするか!﹂
﹁そうですね。計画通りに実行いたしましょう﹂
2人は用意してあった馬に乗り、目的地まで走っていく。
春先の優しい季節、柔らかい日差しが辺りを包む中、俺とマルガの
知らない所で、大きな何かは動き出していた。
294
愚者の狂想曲 9 イケンジリの村
時刻は夕刻に向かっている。空を見上げると、太陽がかなり傾いて
きていた。地図によると、イケンジリの村はもうすぐ、後少しで到
着出来るだろう。野盗の襲来と言うちょっとした?ハプニングにみ
まわれはしたが、今度こそ無事此のままイケンジリの村に着けるで
あろう。
春先で暖かい日が続く今日この頃ではあるが、夕刻に近づいてくる
と、流石に肌寒く感じる。マルガも同じように思っているのか、華
奢で柔らかい体を、俺にもたれかけて居た。
﹁ウフフ⋮ご主人様の体⋮暖かいです∼﹂
俺の体にギュッと抱きついているマルガは上機嫌だった。さっきの
事で俺もマルガもお互いの距離を少し縮めれたのかも。その証拠に、
マルガの表情は幸せです!ご主人様!と言わんばかりの、ニマニマ
顔だ。そんなマルガを見ていると、俺までニマニマしてしまう
﹁マルガも柔らかくて暖かいよ﹂
そう言うと、金色の毛並みの良い尻尾は、嬉しげに振られていた。
﹁もう少しでイケンジリの村だ。村に着いたら、一杯美味しい物食
べようね﹂
﹁ハイ!ご主人様!私楽しみです!﹂
目をキラキラと輝かせて、涎の出そうな顔でコクコク頷くマルガに、
思わず笑ってしまう。マルガも恥ずかしそうに、小さな舌をペロっ
と出して苦笑いしていた。
そんな穏やかな時間を荷馬車の上で過ごしていた2人だったが、次
の瞬間一変する。
295
それは同時だった。馬のリーズ、白銀キツネのルナ、そしてマルガ⋮
2匹と1人?は同時に体を強張らせた。その様子に俺は先程の野盗
の襲来を思い出す。
俺は荷馬車を止め様子を聞く事にした。
﹁マルガ⋮どうしたの?⋮ひょっとして⋮また何かの気配を感じた
?﹂
俺は少し緊張しながら聞く。当然、俺も周辺の感知LVを上げて警
戒を始める。
そんな俺を見たマルガは、少し強張りながら
﹁いえ⋮野盗とかの気配ではありません⋮動く気配では⋮﹂
マルガはそう言うと、可愛い鼻をクンクンとさせて、何かの匂いを
嗅いでいる様であった
﹁じゃ⋮何の気配を感じるの?﹂
﹁はい⋮これは⋮血⋮森の中から、少し血の匂いがします。しかも、
この血の匂いは、さっきの野盗と同じ⋮人間族の血の匂いです﹂
そう言うと、森の中を指さし、緊張した表情で、森の方を見つめる
マルガ。
﹁血の匂いか⋮。俺には解らないけどマルガが言うなら、そうなん
だろうね。マルガ⋮動きのある気配は感じる?﹂
﹁いえ⋮感じません。リーズもルナも、血の匂いだけで、動きのあ
る気配は感じていない様です。ご主人様はどうですか?﹂
﹁いや⋮俺も感じないね﹂
周辺に動きのある気配は感じられない。余程の手練以外はそんな事
出来無いであろう。こんな特に利益の上がりそうに無い所に、そん
な手練が居る可能性は低い。居て精々先ほどの野盗クラスだろう。
そんな事を考えて、危険度は低いだろうと考えた。俺は荷馬車を街
296
道の端に止める。
﹁ご主人様?﹂
﹁⋮その血の匂いがするのは、この先の森の中なんだよね?﹂
﹁はい。此処から⋮100m程、森の中に入った所です﹂
100mか⋮割りと近いな⋮
﹁マルガ⋮その血の匂いのする所迄、案内して。様子を確認しよう﹂
そう言うと、コクっと静かに頷くマルガ。俺とマルガは荷馬車から
降りて、その血の匂いのする森の中に入って行く。俺はセレーショ
ンブレード付きの黒鉄マチェットを鞘から抜いて、何時でも戦える
準備をしている。マルガも、黒鉄の短剣を鞘から抜いて、戦えるよ
うに警戒していた。
周囲の警戒をしながら、森の中を進んで行くと、俺の感知範囲に入
った。
﹃確かに⋮血の匂いを感じるけど⋮これは⋮﹄
俺は、その匂いを感じる方に進んで行く。マルガもキョロキョロ警
戒しながら、俺の後を付いて来ていた。
そして、その匂いの元にたどり着いて、ソレを見た時に、マルガの
顔は歪む。
そこには、人らしき者の、複数の腐乱した死体が転がっていた。死
体にはハエが沢山たかっており、ウジ虫も沢山湧いている。体は獣
や鳥に食われたのか、バラバラになって、あちこちに散乱していた。
どれ位の期間が立っているかは不明だが、一部白骨化している事か
ら、そこそこ時間は立っている事を思わせる。
﹁これは⋮酷いですね⋮﹂
腐臭漂う死体を見ながら、目を細めるマルガ。
297
﹁だね⋮でもこれは、獣や鳥に食い荒らされたからかもね。しかし
⋮これは⋮凄いな⋮﹂
﹁どうしたんですかご主人様?﹂
﹁⋮マルガこれ見てよ﹂
俺が指さすものを見て、マルガも目を丸くしていた
﹁これ⋮黒鉄製の胸当てか何かですよね?それが⋮こんなに綺麗に
⋮﹂
俺とマルガが見ているのは、黒鉄で出来たハーフプレートメイルだ
った。そのハーフプレートメイルは肩から斜めに綺麗に斬られて、
真っ二つになっている。俺とマルガが驚いているのは、その切断面
だ。
その切断面は非常に綺麗で、まるで鏡の様に光を反射していて、指
で触ってもツルツルしている。
﹁この斬り方は、恐らく剣による物⋮黒鉄製のハーフプレートメイ
ルを、こんなに綺麗に斬れるなんて⋮今の俺じゃ無理だね﹂
切り口を見ながら、冷静に判断をする。習得しているレアスキルの
闘気術を使っても、此処まで綺麗に斬る事は、今の俺には出来無い。
それはつまり、この黒鉄製のハーフプレートメイルを斬った人物は、
俺より実力が上と言う事が容易に解る。その言葉にマルガが反応する
﹁つまり⋮コレを斬った人は⋮ご主人様より⋮強い人だと言う事で
すか!?あの野盗達を簡単にあしらったご主人様なのに⋮﹂
マルガは困惑気味で俺を見る
﹁あの野盗達は、初心者レベルの奴等だよ。魔法も使えなかったし
ね。それに魅了で奇襲ぽく先制も出来たから、簡単にあしらえただ
けだよ。もう少しレベルが高くて、賢い奴等だったら危なかったよ。
⋮俺より強い奴なんか、この世界にはゴロゴロ居るよ﹂
298
俺の話を聞いて、戸惑いの表情になる。ムウウ⋮マルガのそんな顔
は見たくないのだ⋮
﹁⋮俺も頑張って、これくらい出来る様になるから、そんな顔しな
いで⋮﹂
そう言ってマルガの頭を優しく撫でると、ハイ!と嬉しそうに返事
をするマルガ。
本当にがんばろう!今迄少しサボリ気味だったしね!⋮昔みたいに
修行しなくちゃ!
そんな事を考えながら、もう一つの死体を見ると、此方の切り口は、
少し雑に切れていた。
﹁⋮この切り口は⋮こっちは⋮魔法で切られているな⋮﹂
﹁魔法で鎧も切れるのですか!?﹂
﹁うん。風系の魔法なら、こんな感じに斬る事が出来るね。ちょっ
と前にパーティーを組んだ仲間に、風の魔法を使える奴が居てさ。
ソイツが放った魔法で、こんな感じに敵が斬られてたのを思い出し
たんだ﹂
でも、この切り口は、パーティーを組んだ奴より、遥かに綺麗な切
り口だ。実力もアイツより上なのが解る。
この死体の奴をやったのは、手練の剣士と手練の魔法使い⋮又は、
魔法を使える魔法剣士か⋮
実力もさることながら、圧倒的にこの死体のやつらを殺したのが解
る。勝負は一瞬で幕を引いたのであろう。殺された現場である周囲
は、戦闘の後が殆ど無いといって良かったからである。
俺が死体を分析していると、マルガが声を上げる
﹁ご主人様!これを見て下さい!﹂
マルガが興奮気味に声高に俺に告げる。そして、マルガの指さす方
を見ると、少し離れた所に、食い散らかされた腐敗している腕らし
299
き物が見える。
﹁この死体の腕に千切れ掛かっている青いスカーフ⋮これって⋮ギ
ルゴマさんが言っていた、知り合いの行商人さんが、何時も付けて
いるって言っていたスカーフと、特徴が似てませんか!?﹂
俺とマルガは、ギルゴマからその行商人の特徴を聞いていた。その
中に、右腕に何時も青いスカーフを巻いていたと言うのがあった。
ソレは彼のトレードマークであると言う事を聞いていたのだ。その
腐敗した腕も右腕であった。
﹁確かに⋮特徴のスカーフに酷似しているね﹂
俺は辺りを再度見渡す。バラバラになっている死体を良く観察する。
頭は獣に持って行かれたのであろう、2つ無くなっている。体のあ
ちこちも食い散らかされてバラバラだ。
しかし、右手だけは、3本有るのが確認出来た。残っている体のパ
ーツを確認すると、此処に散らばっている死体は3人分だと言う事
が解った。
死体の体には、ハーフプレートメイルが2つ、革製のラメラーアー
マーが1つ。武器は無かった。
ギルゴマの知人の行商人は、何時も同じ親しい傭兵の戦士2人を、
護衛として雇っていたらしい。
革製のラメラーアーマーは動きやすく、防御力は低いが軽い事もあ
って、スカウトやハンターと言った軽業を扱う戦闘職業者に、好ま
れて愛用されている。
ギルゴマの知人の行商人は、俺と同じく戦闘職業に就いていたらし
い。その戦闘職業はスカウト。
此処に転がっている腐乱した死体は、戦士と思われる2人の死体と、
軽業系の戦闘職業の死体。
そして、右腕にちぎれかかった、青い色のスカーフ⋮
300
﹁間違いないな⋮﹂
﹁では⋮﹂
﹁ああ⋮この腐乱した死体達が⋮ギルゴマさんの言っていた行商人
のパーティーだろう﹂
変わり果てた姿となっている、行商人のパーティー。マルガの瞳は
少し揺れていた。
同じ行商人が、この様な姿になっているのだ。俺達も何時同じ目に
会うか解らない。
マルガは腰に付けている黒鉄の短剣を、ギュっと握っている。そん
なマルガの肩を優しく叩くと、緊張した顔が緩むのが解る。
俺は、腐乱した右腕から、ちぎれかかった、半分血に染まっている
青いスカーフを取る。
﹁⋮港町パージロレンツォに着いたら、このスカーフと一緒に、ギ
ルゴマさんに手紙を送ろう﹂
俺の言葉に、静かに頷くマルガ。スカーフをアイテムバッグにしま
っていたらマルガが
﹁では⋮この行商人さん達の荷馬車は、取られてしまったのでしょ
うか?﹂
﹁ああ多分ね。この死体には、金目の物が残されていないし、武器
も無くなっているからね﹂
その言葉を聞いて、ああ!なるほど!と、納得の声を上げるマルガ。
俺がさっきの野盗から、金目の物と、武器を奪った事を思い出した
のであろう。
俺もそうだが、倒した奴からは、金目の物を全て頂くのは、この世
界ではごく普通の事だ。お金や荷馬車、積み荷は勿論の事、相手の
使っていた武器はお金になる。武器は壊れにくいからだ。
301
防具は戦闘の結果、使い物にならなくなり、材料代位にしかならな
いが、武器はそのまま持って行ける事が多い。なので、この様な場
面では、金目の物や武器が無くなっている事が多い。
﹁この行商人を襲った相手は、荷馬車や積み荷は勿論の事、金目の
物は全部奪って行ったんだろうね﹂
﹁なるほど⋮何処かで売って、お金に変えちゃうんですね﹂
﹁多分そうだろね⋮。さあ、此処には用はない。荷馬車に戻ろう﹂
俺の言葉にコクっと頷くマルガ。俺達は荷馬車に戻る事にした。荷
馬車に戻りながら俺は考えていた。
ギルゴマから聞いた情報では、アノ行商人のパーティーは戦士2人
がLV35位、行商人本人はLV30位と言っていた。中級者のチ
ョイ下と言ったLVだ。
そんな3人と俺が普通に戦えば、勝てるだろうが、楽な事ではない。
それを、あんな一方的圧勝で幕を引く人物⋮戦いにすらなっていな
い処刑に近い勝負⋮
そんな奴が、悪意を持って、行商人を殺し、略奪行為をしているの
だ。
背中に冷たいものを感じる。そんな奴が、この辺に居るという事実。
俺の体を恐怖が包みこむ。
﹃絶対に⋮遭遇したくない相手⋮いや、避けるべき相手だねこれは
⋮絶対に戦っちゃダメな相手だ﹄
心の中でそう呟く。足早に荷馬車に戻って来た俺とマルガは、荷馬
車に乗り込む。
﹁マルガ。此処からイケンジリの村迄は、最大限の警戒で頼むよ。
リーズやルナにもそう伝えて。俺も最大限に警戒するから。兎に角
いち早く、イケンジリの村に到着しよう﹂
俺の少し強張った顔に、マルガも若干緊張しながら頷く。
302
俺とマルガを乗せた荷馬車は、何時もより早い速度で、イケンジリ
の村に向かって走りだした。
辺りは夕焼けの美しい朱色に染まっている。空には一番星が輝きだ
した。もうすぐ夜の帳が降りてくるだろう。普段なら肌寒さも一層
感じるのだろうが、今の俺とマルガは、その肌寒さを感じている余
裕は無かった。ギルゴマの知人の行商人の成れの果てを見た事で、
俺達も同じ危険が有るという思いが、口に出さずとも感じられる。
そんな中、最大限の警戒で、足早に荷馬車を走らせている。
その時、マルガが少し大きな声を上げる
﹁ご主人様!見て下さい!村が見えます!﹂
指を差しながら、嬉しそうに言うマルガ。その先には、灯りのつき
始めた家々が見える。
﹁本当だね。やっとイケンジリの村に着いたね!﹂
顔を見合わせて、微笑み合う俺とマルガ。当然そこには無事に村ま
で着けたという安堵感が含まれている。
俺とマルガを乗せた荷馬車は、村の門らしき物をくぐり、村の中に
入っていく。聞いた話では、イケンジリの村は、100人弱の小さ
な村であるらしい。確かに家々も、ラングースの町の民家に比べた
ら、質素で小さく感じる。そんな村を横目にしながら、村の中央の
広場に来た所で、ソレは目に入った。
﹁ご⋮ご主人様⋮此処は普通の村って話ですよね?﹂
﹁ああ⋮そのはずなんだけど⋮何かあったのかな?﹂
303
俺とマルガはソレを見て困惑の表情をしている。
到着した村の広場には、上等な大きなテントがいくつか張られてい
た。かなり上等な馬車も何台か止められていて、沢山の鎧を着た兵
士達がそれらを護衛する様に立っていた。
その中の一部の兵士が、俺達の荷馬車に気が付き、近寄ってきた。
﹁おい!お前達は何だ?⋮この村の者ではないな!何者だ!﹂
威圧感のある声で、俺とマルガに問い正す兵士。その手に握られて
いる、ハルバートが俺とマルガに向けられる。
﹁お⋮俺達は、行商人です!このイケンジリの村に行商に来たんで
す!﹂
何事か解っていない俺は、慌てながらとりあえずそう返答した。
﹁行商人だと?⋮野盗の類ではないと言うのだな?﹂
﹁はい!違います!本当に行商に来ただけです!﹂
そんな返答をしている間に、俺とマルガを乗せた荷馬車は、兵士達
に取り囲まれていた。その騒ぎに、村の人々が家から出てきて、様
子を見に来始めた。そして、その中から、一人の老人が、俺達の前
に現れた
﹁どうなされましたか兵士様方?何かありましたかな?﹂
人当たりのよさそうな老人が兵士達にそう告げる。そして、何か考
える様な眼で俺とマルガを見ている。
﹁いや、何者か解らないこの者達が村に入って来たのでな。何者な
のか此れから取り調べをしようとしていた所だったのだ﹂
ハルバートを俺達に向けながら、若干強張った口調で言う兵士。
﹁お⋮俺達は、このイケンジリの村に、行商に来ただけです!﹂
304
俺はその老人にそう告げると、パッと表情を緩める老人。
﹁ほほう⋮この村に行商とな⋮﹂
そう呟きながら、俺達の荷馬車の荷台を覗き込み、積み荷を見てい
る老人
﹁フムフムなるほど⋮確かに行商人の様じゃの⋮。兵士様方、この
者達は、私の家で対応させて頂きます。それで宜しいでしょうかな
?﹂
穏やかに兵士達にそう告げると、俺達に向けられていたハルバート
を降ろし、
﹁⋮貴方がそう言うのであれば、仕方無いですな。この者達は、貴
方にお任せするとしましょう﹂
口調も平常に戻った兵士。その兵士に微笑む老人
﹁有難うございます兵士様﹂
﹁いや⋮私達は、主人であるアロイージオ様の命令に従っているだ
けに過ぎません。⋮もし、この者達が、何か危害を加える様な事が
有れば、すぐに此方に報告下さい。剣の錆にしてやりますので﹂
﹁ハハハ⋮その時は、お願いします兵士様﹂
サラリと怖い事を言われたが、兵士達は俺を睨みながらも、自分の
持ち場に帰って行った。
立ち去った兵士達を見ながら、軽く溜め息を吐く老人が
﹁さ⋮行商人様方、此方の方に荷馬車をまわしてくだされ﹂
俺は老人の言われるまま荷馬車をまわす。そして一件の家の前で荷
馬車を止める。その家は、他の家より大きく、立派であった。老人
にその家に案内され入っていく。その家の中は、小さな村とはいえ、
なかなか豪華であった。案内されるまま部屋に通され、テーブルの
305
席に座る。暫く座って待っていると、老人が紅茶の入ったティーカ
ップを2つ持って来てくれた。
﹁さあ、どうぞお召し上がりくだされ﹂
笑顔でいう老人。俺とマルガは顔を見合わせて、紅茶を頂く。紅茶
を飲んだマルガはピクっと体を反応させる
﹁わあ∼この紅茶⋮美味しいです∼﹂
ニコニコ顔で嬉しそうな顔で言うマルガ。尻尾も嬉しそうに揺れて
いる。その表情を見た老人も嬉しそうに
﹁ハハハ。そうかそれは良かった。この村で採れる紅茶なのです。
お口に合って何よりですな。⋮こんな可愛いお嬢さんをお供に連れ
て行商とは、なかなかの幸せ者ですな﹂
笑いながら言う老人に、苦笑いをする俺。
﹁有難うございます。⋮さっきは助けて貰ったばかりか、こんなに
美味しい紅茶迄ご馳走になって⋮。えっと⋮﹂
あおい
そら
﹁ああ!これは申し遅れましたの。私はこのイケンジリの村の村長
で、アロイスと言います﹂
﹁村長様でしたか!これは失礼を。僕は行商をしています、葵 空
といいます。こっちは僕の奴隷で、マルガと言います﹂
﹁ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくで
す!﹂
マルガは元気にそう言うと、ペコリと可愛い頭を下げる。それに微
笑むアロイス村長
﹁しかし⋮さっきは驚きました。あの兵士さん方は、どう言った方
なのですか?﹂
﹁あの方々は、フィンラルディア王国、モンランベール伯爵家が三
306
男、アロイージオ様のお連れの兵士様方なのです﹂
﹁え!?あの有名なモンランベール伯爵家の方々なのですか!?﹂
思わず声を上げてしまった。オラ恥ずかしい⋮
フィンラルディア王国は大国であり、領土も大きくオーストラリア
より若干小さい位の領土があり、約50近くの貴族がいる。その中
でも、六貴族と呼ばれる特に有力な貴族がいて、フィンラルディア
王国の国政に深く関わっている。モンランベール伯爵家はその六貴
族の中の一つなのだ。
﹁そうです。何でも、ご公務で港町パージロレンツォに向かう途中
で、この村にご休憩にお立ち寄りなさったみたいでしての。別に悪
気があって、葵殿にきつく当たった訳では無いと思います。モンラ
ンベール伯爵家の護衛の方ですから、少しでも危険があるかも知れ
無いと思ったのでしょうな。仕事に忠実な兵士様方なだけの事と思
ってくだされば宜しいかと。それに、この村に滞在してるアロイー
ジオ様は、気さくでお優しい方ですからの﹂
そう説明してくれるアロイス村長。その時、後ろの扉が開き、何人
かが部屋の中に入ってきた
﹁父さん行商人さんが来られたみたいですが、エドモンさんがこら
れたのですか?﹂
俺達が振り向くと、身長180㎝位、20代半ばの男が立っていた。
ムウウ⋮なかなかの男前だな⋮身長も高いし⋮俺とは違うね!⋮う
うう⋮
この世界は、俺みたいな、黒髪に、黒い瞳の典型的な日本人の容姿
の人はいない。と言うか、見た事が無い。地球で言う北欧人や西洋
人、中東系がほとんどだ。
俺は身長も168㎝で高くもないし、顔の作りも中の中!不細工で
307
も無ければ、男前でも無い。
特徴がないのが特徴という、どこかの量産型の様な表現がしっくり
と来る、標準的日本人なのだ。
なんかさ⋮外人って格好良く見えるよね!⋮べ⋮別に⋮羨ましいわ
けじゃないんだからね!⋮ウウウ⋮
⋮⋮男前に生まれたかった⋮神様は不公平だYO!
そんなネガティブな事を考えていた俺と、紅茶を美味しそうに飲ん
でいるマルガと視線が合う。
うん?どうしたのですか?ご主人様?と、言う様な感じで可愛い首
を傾げて、微笑んでくれるマルガ。ああ⋮マルガ⋮癒される。マル
ガは、そのなかなか男前の青年には興味が全く無さそうであった。
だよね!これ位の男前なら、ラングースの町にも一杯たしね!どっ
て事ないよね!
マルガは俺を好きって言ってくれたんだ!それだけでイイジャマイ
カ!
そうやって、容姿で負けている事を何とかごまかした。そして⋮何
故か涙が出た⋮ガク⋮
﹁兄さん違うわよ。エドモンさんじゃないわ。別の行商人さんよ﹂
そのなかなか男前な青年の横から、俺と歳の変わらなそうな、可愛
い感じの女の子が現れる。
﹁えっと⋮﹂
俺が困惑していると、軽く溜め息を吐きながらアロイス村長が
﹁これ!お客様の前じゃぞ2人共。すいませんな葵殿。ほれ!挨拶
をせんか﹂
呆れながらアロイス村長が言うと、苦笑いしながら2人が、俺の前
に来た。
308
﹁始めまして。僕はそこの村長の孫で、この村の副村長をしていま
す、エイルマーと言います。よろしく﹂
﹁私もアロイスお祖父様の孫で、エイルマーお兄様の妹、リアーヌ
と言います。よろしくね﹂
そら
2人共笑顔で挨拶してくれる。
あおい
﹁僕は行商をしています葵 空と、いいます。こっちは僕の奴隷で、
マルガと言います﹂
﹁ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくで
す!﹂
マルガは微笑みながらそう言うと、再度ペコリと可愛い頭を下げる。
﹁これは⋮非常に可愛いお嬢さんですね。葵さんは幸せ者ですね。
羨ましい限りですよ﹂
エイルマーが男前スマイルで俺にそう言う。男前に羨ましいと言わ
れると⋮ちょっと嬉しいね!
先ほどのネガティブ値が少し下がった気がした。
﹁エイルマー兄様⋮そんな事を言っていたら、私がお兄様の許嫁の
メラニーさんに言いつけちゃいますよ?﹂
﹁え!?何言ってるんだリアーヌ!僕は只、素直な感想を言っただ
けで、やましい気持ちは無いよ!﹂
﹁へえ∼どうだか∼﹂
ニヤニヤ笑っているリアーヌ。頭をかきながら、苦笑いのエイルマ
ー。
なんだよ!エイルマーにも女いるんじゃないかよ!これが⋮紳士の
お伊達というやつか⋮
なかなかの男前だし、女がほっとく訳ないか⋮うわあああん!
なかなかの男前の紳士的な態度に、再度ネガティブ値は上昇した!
309
そんな俺達のやり取りに、また軽く溜め息を吐いているアロイス村
長。
﹁しかし、この小さな村に良く行商に来てくれたものです。この村
に来てくれる行商人様は、ほんのひと握りですからの。最近は何時
も来てくれていた行商人様も、まだ来てくれていませんのでな。ど
うしたものかと、考えておった所でしての﹂
﹁その何時も来てくれて居た行商人と言うのが、エドモンさんなん
ですか?﹂
﹁おや?エドモンさんをご存知でしたか。今彼は、どうしておるの
か解りますかな?﹂
アロイス村長の言葉に、俺とマルガは顔を見合わせ、困惑する。
行商人エドモン⋮その名は知っている。ギルゴマの知人の行商人で、
森の中で無残に殺され、腐敗した死体になっていた行商人⋮。
俺は真実を伝える前に、確認したい事があった。
﹁えっと先に聞きたいのですが、最近僕達以外に⋮他に行商人が、
この村に来た事はありませんか?﹂
﹁いや⋮最近はまったくですの。春になってからは、葵殿方が最初
の来村された行商人様ですの﹂
俺はその言葉に若干の安心感を覚える。どうやらエドモン一行を殺
した犯人は、殺害現場に近いこの村に奪った品物を売る事無く、他
の街に向かったと言う事だ。殺害されてから日にちも経っている。
この村よりかなり離れている可能性の方が大きい。つまり、その殺
した犯人と出くわす可能性は低いと考えた。
﹁そうですか⋮解りました﹂
俺が何かを考えているのに気が付いたアロイス村長は、
﹁どうかされましたか葵殿?何か⋮心配事でもおありですか?﹂
310
﹁ええ⋮実は⋮﹂
俺は、知り得た全てを話し始めた。ギルゴマに近況を依頼された事、
途中で野盗に襲われたが、そいつらは犯人ではなかった事、そして
⋮何者かに襲われて死んでいた事⋮
彼のトレードマークだった、血に染まった青いスカーフを見せ、俺
の話を聞いた一同は、悲しみの表情を浮かべる
﹁そんな⋮酷い⋮優しい行商人様でしたのに⋮﹂
﹁そうだな⋮村人にも慕われていたからな⋮﹂
﹁行商には危険がつきものなのは解っておるが⋮そうか⋮エドモン
殿がのう⋮﹂
ギルゴマの話の通り、行商人のエドモンと言う人物は、良き行商人
だったのであろう。アロイス村長達は、彼の死を悼んでいる様であ
った。
﹁⋮エドモンさんを殺した犯人は、もう遠くに行ってしまっている
可能性が高いですが、一応注意をして頂いた方が良いかも知れませ
ん﹂
﹁そうじゃの⋮明日にでも村人に注意を促しておくか。それと、モ
ンランベール伯爵家御一行様にも、お伝えしておこう。まあ⋮沢山
護衛の居るモンランベール伯爵家御一行様に、何かしようと思う奴
など居らぬとは思うがの。念の為にな⋮﹂
俺は村長の話に肯定して頷く。その時、後ろから声がした。
﹁本当はエドモンさんを殺したのは、お前達じゃないのか?﹂
その声に振り返ると、20歳位の青年が、入り口の壁に持たれなが
ら、きつい目をして俺を見ていた。
﹁ハンス!何を言っておるのじゃ!葵殿に失礼じゃろ!﹂
アロイス村長が一喝するが、気に留める様な素振りを一切見せずに、
311
俺とマルガの傍に来た。
﹁だっておかしいじゃないか。俺はここ数日、街道を通ているが、
エドモンさんの死体を見かけなかったんだぜ?一体、エドモンさん
の死体を、何処で見つけたんだ?﹂
﹁それは街道から100m程森の中に入った所です﹂
﹁⋮100mも森の中に入った所の死体を、良く見つけれたものだ
な!⋮お前達が殺して、そこに捨てたんだろう?﹂
きつい目を更にきつくさせて、俺を見るハンス。そんな俺とハンス
のやり取りを聞いていたマルガは、バン!っとテーブルを叩き立ち
上がった。
﹁ご主人様は殺してなどいません!エドモンさんの死体は、街道で
私が匂いで見つけました!ご主人様は、何も悪い事はしていません
!ご主人様を⋮野盗と同じにしないで下さい!﹂
目をキツくして、声高にハンスにそう叫ぶマルガ。金色の毛並みの
良い尻尾が、ボワボワに逆立っていた。ウウウっと唸っているマル
ガを見たハンスは、軽くたじろいていた。
﹁⋮見ての通り、このマルガは亜種で、ワーフォックスと人間のハ
ーフなんです。ですから、音や匂いに敏感でして、そのお陰で、見
つける事が出来たんです﹂
そう言って、気の立っているマルガの頭を優しく撫でると、あうう
⋮と言った感じで大人しくなったマルが。軽く肩を抱いてあげると、
気まずそうに苦笑いをしていた。
﹁そういう事じゃ。葵殿が犯人なら、モンランベール伯爵家御一行
様の居る今この時に、疑われる様な話はせんじゃろう?﹂
﹁ふん!どうだか!⋮この村の奴等は、甘い奴らが多すぎる!モン
ランベール伯爵家御一行様は兎も角、一見の行商人の言う事を全て
312
信じて、後になって泣く事にならない様に、願いますよ!﹂
そう言い放って、部屋から出ていくハンス。そのハンスの後ろ姿を
見て、深い溜め息を吐くエイルマー
﹁⋮弟のハンスが失礼な事を言ってすいません葵さん﹂
そう言って頭を下げるエイルマー。
﹁いえ⋮お気になさらずに。僕も気にしてませんので。ハンスさん
も、村の為を思って言ってくれているのでしょう?良い弟さんをお
持ちですね﹂
﹁⋮そう言って貰えるとありがたいです﹂
俺の言葉に、笑顔でそう言うエイルマー。その横でリアーヌも微笑
んでいる。
﹁フム⋮葵殿もなかなかの行商人様の様ですな﹂
そう言って微笑むアロイス村長
﹁いえいえ⋮まだまだ駆け出しですね。手痛い目に一杯合ってます
しね﹂
苦笑いしながらそう言うと、笑っている一同。ふとマルガを見ると、
ニコっと微笑んでいる。
そんな場も和んできた所で、アロイス村長が
﹁ま∼商談の話は明日と言う事で、今日はゆっくり休んで下さい。
泊まれる所を手配しましょう。本当なら、この家に泊まって頂くの
ですが、今空いている部屋は、モンランベール伯爵家御一行様がお
使いしているので空きがありませんのでの。⋮そうじゃ、ゲイツの
家なら、もう一部屋空いておったはずじゃ。お部屋は一部屋で宜し
かったかの?﹂
その問に、マルガは下を向いて赤くなっている。
313
いやいやマルガさん。そこで赤くなって俯いちゃうと、余計に⋮
ほら⋮エイルマーさんが変な咳払いをして、リアーヌさんが顔を赤
くしちゃってるじゃないですか⋮
俺まで恥ずかしくなってきちゃったよ⋮顔が熱い⋮
そんな俺達を見て、フフフと笑うアロイス村長
﹁まあ∼若いという事は良い事ですな!いかんいかん⋮じじ臭い事
を言ってしまったの。さあ!エイルマーよ。葵殿達を、ゲイツの家
迄案内して、ゲイツに事情を説明してやってくれ﹂
俺を含め、皆が苦笑いしていた。⋮ううう⋮
俺とマルガはアロイス村長とリアースさんに挨拶を済ませ、その場
を後にした。
外に出ると、辺りはすっかり夜の帳が降りていた。気温も下がって、
肌寒く感じる。
俺とマルガは、ランタンを持って先導してくれている、エイルマー
の後を着いて行っている。
普段なら、村の広場とはいえ、ランタンが無いと暗くて歩けないの
だろうが、今はモンランベール伯爵家御一行様がテントを立てて、
警護をしやすくする為に、あちこちに沢山の篝火が立てられ、昼間
ほどではないが、辺りは明るかった。
マルガは寒いのか、俺の腕にキュっとしがみついて歩いている。マ
ルガの体も暖かいので俺も気持ち良い。そんなマルガの肩には、甘
えん坊の白銀キツネの子供のルナがヒョッコリ乗っている。
その様子にニマニマしながら歩いていると、不意に呼び止められた。
314
﹁オイ!お前達!ちょっとこっちにこい!﹂
その声に振り返ると、少し大きめのテントから、上等な鎧を身に纏
った、30代半ばの男が出て来た。
俺達は、その男の方に歩いて行く。すると、俺を上から下まで見て、
フンと鼻で言うと、
﹁⋮お前が報告にあった行商人だな?お前は挨拶もせずに、此のま
ま通り過ぎるつもりだったのか?﹂
威厳たっぷりと、俺をきつく見ながら言う男。俺達は顔を見合わせ
て、困惑していると、
﹁俺様は、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5
番隊、隊長のハーラルトだ!﹂
男はそう名乗った。相手は貴族付きの、騎士団の隊長。俺も丁寧に
挨拶をしよう。
﹁えっと⋮僕は⋮﹂
﹁良い!お前の名前などに興味はない!﹂
吐き捨てる様に言うハーラルト。⋮挨拶しろって言ったから、そう
しようとしたのに⋮
俺がそう言う風に憤っていると、ハーラルトはエイルマーに向かって
﹁お前は⋮確かこの村の村長の孫だったな?﹂
﹁はい、村長のアロイスの孫で、副村長のエイルマーです﹂
﹁ウム。お前はもう良い、下がるが良い。俺様はこの行商人と話が
ある﹂
﹁で⋮ですが⋮﹂
﹁下がれと言っているであろう?﹂
エイルマーを睨みながら言うハーラルト。その威圧的な言い方に、
これ以上食い下がってはマズイと感じたのであろう。俺に一件の家
315
を指さす。彼処が恐らく目的のゲイツと言う人の家なのであろう。
俺がソレに頷くと、エイルマーは指をさした家に向かって歩いて行
った。
﹁えっと⋮ハーラルト様⋮僕に話しとは何でしょうか?﹂
俺が気まずそうにそう聞いているのに、ハーラルトは興味が無いと
言った感じだ。俺は更に憤る。
すると、ハーラルトは少し近づいて来て、視線を俺の隣に落とす。
﹁フム⋮報告通りの一級奴隷だな⋮﹂
ハーラルトは、マルガを舐める様に見つめると、ニヤっと卑しい哂
いを浮かべる。その表情に、俺もマルガも冷たいものを感じる。
﹁お前は自ら行商人と名乗り、村長の元で話をしたらしいが、お前
がまだ、野盗や我が主を狙う暗殺者で無いと証明出来た訳では無い。
⋮だから、俺様が直々に取り調べてやる﹂
そう言うと、きつく冷たい目をしながら、先ほどの卑しい哂いを浮
かべるハーラルト
﹁ぼ⋮僕は行商人です!野盗や暗殺者ではありません!﹂
俺の必死の訴えに、再度フンと鼻でいうハーラルト
﹁だから簡単にソレを調べてやろうというのだ﹂
﹁ど⋮どうやってですか?﹂
困惑している俺を見て、ニヤっと嗤うハーラルトは、
﹁なに⋮簡単な事だ。お前の隣にいる、真面目そうなその一級奴隷
の少女から、簡単に聴取するだけだ。まあ⋮簡単にとは言っても聴
取だ。多少の時間は掛る。その少女からの聴取が終わり次第、お前
の元に返してやる。それで、お前の容疑は晴れるかもしれん。俺様
316
の慈悲に感謝するんだな!﹂
そう言って、卑しい哂いを浮かべるハーラルト
﹁いえ!聴取なら僕が受けます!なぜ、このマルガなのですか?﹂
俺のその問いに、表情をきつくするハーラルト
﹁先ほども言ったであろう?その少女が、お前より真面目そうに見
えるからだ。なので、その少女から話を聞けば、お前の事はすぐに
解るであろう?⋮それとも⋮両方同時に、詳しく取り調べて欲しい
のか?折角俺様の慈悲で、簡単に聴取を済ませてやろうと、思って
いるのだがな⋮詳しく調べられれば、あらぬ所から、不利な証言が
出るやも知れぬぞ?﹂
そう言って俺に近づき、きつい顔を更にきつくし、高圧的に俺にそ
う言うハーラルト
﹁なに⋮心配するな。何もこの一級奴隷の少女を殺したりはせん。
簡単に聴取したら、お前の元に返してやるから、安心するが良い﹂
ハーラルトは卑しく哂い、俺を嗜める様に言う。その雰囲気に、俺
はハーラルトが何を言いたいのかが解った。
﹃⋮クソ⋮そういう事か⋮﹄
俺は唇をギュっと噛む。無意識に握り拳に、力が入る。
ハーラルトは⋮こいつはつまり⋮聴取と言う名目で、美少女のマル
ガを陵辱したいだけなのだ。
好きなだけ陵辱したら、俺の元に返してやると、言っているのだ。
はなから、俺の事などどうでも良かったのであろう。マルガだけが
目的だったのだ。
貴族の中には、このハーラルトの様に、権力を傘にして、したい放
題する輩は多いと聞く。旅に出ると、女が抱けないので、宿泊して
317
いる町や村で、行きずりの女を調達するなのどは、よく聞く話だ。
通常なら、娼館の娼婦などで済ます奴も多いらしいが、このイケン
ジリの村は小さく、当然娼館や娼婦などは居ない。
なら、村人から女を調達したい所であろうが、此処は自分の主人の
収めている領地ではない。自分の権力の及びにくい、他の貴族の領
地で好き勝手な事はかなりやりにくい。そんな事をすれば、貴族間
で大きな問題になる。
それに、このイケンジリの村の領主は、善政をしく事で有名な、港
町パージロレンツォを収める領主、フィンラルディア王国、バルテ
ルミー侯爵家だ。しかも、バルテルミー侯爵家は、モンランベール
伯爵家と同じく、有力な権力を持ち、国政に深く関わっている六貴
族の内の一つ。そんな六貴族同士の争いになりかねない事は、こい
つには流石に出来無いであろう。
そこで、俺が連れているマルガに目を着けたのだ。
確かにマルガは、滅多に居ないクラスの美少女だけど、理由はそれ
だけでは無いだろう。
俺は根無し草の行商人。この領地の人間ではない。この国に一応籍
は置いて、税金も払っているが、特定の住居もなく、身元の保証が
出来無い。行商人といえば聞こえは良いが、地球で言う所の、住所
不定の自称商売人と言った感じなのだ。そんな俺などには、理不尽
な無茶が出来る。いくらでも、権力を使って、冤罪をかぶせる事が
出来ると、ハーラルトは言っているのだ。
それを利用して、難癖を付けて、俺にマルガを娼婦として差し出せ
と言っているのだ。
﹃⋮何が聴取だ⋮何が⋮マルガの方が真面目に見えるだ⋮そんな事
⋮お前勝手な都合だろうが!﹄
そう思いながら、怒りがこみ上げて来る。しかし⋮どうする?俺に
318
は守ってくれる、組織や機関、組合などは無い。冒険者ギルドには
登録しているが、ソレじゃ身元の証明なんかには当然ならない。
俺は今迄1人で来たから、税金の安い今の生活を選んでいるが、こ
ういう時の後ろ盾は何も無い。
﹃せめて⋮商組合にでも入れていれば⋮こんな事にはならないんだ
けど⋮﹄
そう後悔するも、現実は入れていないのである。
商組合に入るには、商組合の厳しい審査をクリアしなければならな
い。保証金を商組合に入れ、きちんと登録出来た者だけが、商組合
員となれるのだ。
行商人でも、商組合に入っていれば、商組合が身元の保証をしてく
れる。大きな取引も出来るし、この様な理不尽な要求も、商組合員
なら受けにくい。
商組合員に何か理不尽な事をすれば、商組合と対立してしまう。経
済の根幹部分を支えている商組合と、わざわざ揉めたい貴族などい
ない。不利益しか被らないからだ。
﹃今は⋮無い事を思っていても仕方が無い⋮どうやって、この場を
切り抜けるかだ!﹄
そう考えて、対策を考える。しかし、普通の話し合いでは到底収ま
ら無いだろう。
アロイス村長に相談するか?⋮いや⋮今日来たばかりの行商人の願
いを聞いてくれるだろうか?
もし聞いてくれて、俺の身を擁護する側に回ってくれたとしても、
相手は貴族。
恐らく⋮後ろ盾の無い俺に、適当な冤罪を掛けるだろう⋮そうなる
と、冤罪でも俺は罪人になってしまう。いくらアロイス村長でも、
罪人の肩を持つわけには行かない⋮
そうなると⋮正攻法の話し合いでは、埒があかないと言う事だ。
319
﹃って事になると⋮不法な事で対応するしか、選択肢は無いよな⋮﹄
不法な事⋮いくつか考えられるが⋮
まずは、賄賂⋮
幾らかの金を握らせて、無かった事にして貰う。でも賄賂には問題
がある⋮
一つ目の心配は、こいつはあの有名な六貴族お抱えの騎士団の、そ
れも隊長だ。こいつが納得するだけの賄賂を渡さないとダメだ。し
かし、俺の今の手持ちは金貨6枚程度⋮。この村での仕入れや維持
費、生活費などもいるから、賄賂を渡せても、精々金貨3枚迄が限
度だ。それ以上払ってしまうと、行商が出来無くなってしまう。大
貴族の騎士団の隊長が、金貨3枚で納得してくれるだろうか⋮確か
に金貨3枚は大金だけど、微妙な金額のラインだ⋮。
二つ目の心配は、賄賂自体が、不法な事だと言う事だ。
一応、国は賄賂を禁止している。渡す側も、受け取る側も罰せられ
る。しかし、お金の魅力に勝てる人間は少なく、賄賂は横行してお
り、しかも、取締も緩く、賄賂関係で捕まる奴など殆ど居ない。
これが通常時なら賄賂を渡して終了なのだろうが、こいつの目的は
マルガを陵辱する事。
賄賂を持ちかけた時点で、ハーラルトは俺を捕まえるかもしれない。
そうなれば、わざわざ冤罪をかける事無く、俺を捕まえて、マルガ
を自由に出来るだろう。その上、俺の財産は全て持って行かれる可
能性も高い。
こう考えると、賄賂は今は危険度が高いと思う。他の方法を考える
が、不法な方法では、結局ハーラルトに捕られる可能性があるので、
危険度が高いと判断した。
320
﹃と、なれば⋮最後の方法しか残されていないよな⋮﹄
最後の方法⋮それはこの村から逃げるか、力でハーラルトと戦うか
である。
しかし、逃げるにしても、戦うにしても問題は山積みだ。この騎士
団は、今この村に、ハーラルトを入れて40人位居るのである。そ
れだけの人数を相手にしなければならない。
しかも兵士のLVは、さっき興味本位で霊視で視てみたら、大体L
V30後半からLV50弱だった。
中級∼中級上の兵隊クラス。そして、ハーラルト本人は隊長だけあ
ってLVが高い。LV62⋮上級クラス。兵士達もそうだが、ハー
ラルトもなかなか厄介な、戦士系のスキルを持っている。
まともに戦えば、マルガを守りながらなど、到底無理である。まと
もに戦ってはいけない事を理解する。
となれば⋮この村より逃げるの一択。
このハーラルトの隙を突いて、馬のリーズで、この村より逃走する。
荷馬車と積み荷は放棄するしか無いであろう。荷馬車を引いてなど、
とても逃げ切れそうにない。荷馬車と積み荷を失う事は、多大な痛
手ではあるが、仕方が無い。マルガが陵辱される事など、俺には我
慢出来無い⋮。
﹁どうした?黙りこんで。お前はどうするつもりなのだ?﹂
勝ち誇った顔で、威圧的に言うハーラルト。その顔はより一層、卑
しい哂いに満ちていた。
そのハーラルトの表情を見て、怒りで俺の顔はきっと歪んでいたの
だろう。マルガがそんな俺に、何か決心した様な眼で、
﹁⋮ご主人様⋮私⋮聴取に⋮モググ⋮﹂
俺はマルガの口を手で塞いだ。俺に口を抑えられて、ビックリして
いるマルガ。俺はマルガからそんな言葉を聞きたく無かった。なの
で話の途中で口を塞いだ。
321
⋮俺はマルガが汚されたら、好きでいられる自信はない。恐らく、
マルガを捨てるであろう。
そして、汚され俺に捨てられたマルガは、きっと自分の命を断つで
あろう。
野盗との戦闘が終わって、荷馬車の上でマルガが言った言葉を思い
出す。
﹃私はご主人様以外の人に、汚されたりはしません!港町パージロ
レンツォに着いたら、きちんと戦闘職業に就いて、強くなります!
いっぱい頑張って、ご主人様もお守りしますから、私の事を捨てな
いで下さい!もし⋮私が⋮ご主人様以外の人に汚されてしまったら
⋮私は自分の命を断ちます!﹄
こんな可愛い事を言ってくれるマルガを、手放せる訳が無い。俺の
覚悟は決まった。
横目に馬のリーズの方を見ると、荷馬車から外されて、木に縛り付
けられていた。あれなら、紐をほどけば、すぐに走って逃げれるだ
ろう。後は全力で逃げるのみ⋮
だけど⋮こいつだけは⋮ハーラルトだけは許さない。俺を追い込ん
だのだ。こいつだけは⋮殺す!
アイツを使って⋮確実に⋮
﹁ええ!俺がどうするかなんて、最初から決まってるんですよ!﹂
そう言って、右手をゆっくりと上げていく。そして、人差し指をハ
ーラルトに向ける。まるで何かを持って居る様に⋮。ハーラルトは、
それを見て困惑の表情をしている。
﹃一瞬で終わらせる⋮死ね!!ハーラルト!!﹄
そう心の中で叫んで、実行しようとした時だった。まるで春風に誘
われたかの様に、美しい声が流れてきた。
322
﹁もうその辺で宜しいのではなくて?ハーラルト様﹂
美しく透き通る様な声の方に俺達は振り向くと、一人の女性がそこ
に立っていた。
この世界独特の、土星の様にリングの付いた青い月の優しい光の下、
その女性は光り輝いて見えた。
323
愚者の狂想曲 10 金色の妖精 エルフのリーゼロッテ
美しく透き通るような声で、話しかけてきた女性が、此方に近づい
て来た。
月明かりと、篝火が折り重なった、なんとも言えない綺麗な光の中、
姿を表した女性に目を奪われる。
光り輝く金髪の綺麗な髪を春風になびかせ、白雪の様な白く柔らか
そうな肌を、上品なワンピースで隠し、月の女神と見紛う美しい顔
立ちに、華奢だが豊満さを感じさせるスタイル。その美しい金色の
髪と同じ色の透き通るような瞳が、此方に向けられている。春風に
揺れる髪から、長く尖った綺麗な耳が見えた。
﹁エ⋮エルフの女神⋮?﹂
思わず小声で呟いた俺。そんな俺の声に、にこやかに微笑むエルフ
の女性。
﹁リーゼロッテ殿!こ⋮こんな所で、何をなさっておられるのです
か?﹂
少し慌てたように言うハーラルト。その言葉を聞いた、リーゼロッ
テと呼ばれたエルフの女性は、涼やかに微笑みながら
﹁いえ⋮何やら声が聞こえたので、来てみましたの。すると、ハー
ラルト様が、そちらの行商人様を取り調べしていたみたいなので⋮
ご忠告をと思いまして﹂
﹁こ⋮この⋮わ⋮私に⋮ちゅ⋮忠告⋮ですか?い⋮いかような事で
しょう?﹂
リーゼロッテの言葉を聞いて、明らかに不服そうな感じを、顔に表
324
すハーラルト
﹁いえ⋮何でもそちらの行商人様は、この村の村長アロイス様が、
対応する事になっていると聞きましたが?﹂
﹁その様ですが、小奴らが、野盗や我が主人に危害を加える者では
無いと言う、証明にはなりませんな。それに、取り調べなら、村の
長より、私達軍属の方が適しているでしょうしな!﹂
ニヤっと哂いながら、リーゼロッテに言うハーラルトは、見下した
ように言う。しかし、そんな言葉に微笑みながらリーゼロッテは話
を続ける。
﹁ええそうでしょう。取り調べなら、栄えある、モンランベール伯
爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊、隊長のハーラルト様の
方がきっと適任でしょうし、ハーラルト様直々にお調べになられま
したら、この方達の素性や目的も、お解りになられる事でしょう﹂
そう言ってニコっと微笑むリーゼロッテ
﹁そうです!解って頂ければ良いのです!なに⋮私も何も小奴らが、
野盗や暗殺者だとは決めつけていません。それを証明する為に、直
々に取り調べをしようと言うのです。騎士団は誇り高く、慈悲深く
なければいけません。私もそう思って行動しているのですよ。小奴
らの身の潔白を証明させてやる為にもです﹂
これ以上無い様な、卑しい哂いを浮かべながら、ハーラルトは言う
﹁ええそうでしょう。私もそう思いますが⋮ですが⋮﹂
﹁なんですか!言いたい事は言って頂いて結構です!﹂
もうすぐ手に入るマルガという美少女の獲物を目の前にして、余計
な話をするリーゼロッテを、鬱陶しそうに言うハーラルト。リーゼ
ロッテはそれにも微笑みながら、話を続ける。
325
﹁村や町の長は、その土地を収める領主が選任されている事は、ご
存知だと思います﹂
﹁⋮ええ。知っていますとも。むしろ知らぬ方が、おかしいですな
!﹂
吐き捨てる様に、イライラしながら言うハーラルト
﹁では⋮選任された長は、選任された村や街に限り、領主の代理権
を持つこ事もご存知ですよね?﹂
﹁無論だ!そんな事は初歩の初歩だ!それが⋮どうしたというので
すか!?﹂
苛立ちが限界に近づいているハーラルトは、声高に言う。
﹁では⋮そちらの行商人様は、先程言った通り、アロイス村長様が
対応する事になっていますね?と、言う事は、この行商人様は、ア
ロイス村長の管理下に有るという事になりますね?﹂
﹁そうだ!だが、この村は小さく、村長も軍属では無い為に、この
私が直々に調べたほうが適任であろうと、言う事なのですよ!この
村の為にもなりますしな!﹂
﹁そうです。アロイス村長は軍属ではありませんから、判断に困る
でしょう。つまり⋮判断出来無い⋮。そういう時はどうなると思い
ますか?﹂
にこやかにそう言うリーゼロッテに、目をきつくしながら
﹁⋮何が言いたいのですか?リーゼロッテ殿⋮﹂
静かだが、重みのある声で言うハーラルト
﹁⋮選任された長が判断出来無い事は、選任した者が対応する事に
なります。つまり⋮アロイス村長を選任した、この土地の領主であ
る、バルテルミー侯爵家当主様に、判断して貰うしか無いのです。
しかし、アロイス村長は、判断出来無くても、そちらの行商人様を、
326
アロイス村長の管理下に置くと宣言してしまっています。アロイス
村長は、代理権を持つこの村の長。アロイス村長が言った事は、そ
のままバルテルミー侯爵家当主の言葉となります。つまり、そちら
の行商人様は、バルテルミー侯爵家当主管理下の人物になります﹂
そこまで話を聞いたハーラルトは、だんだん自体が飲み込めてきた
様だった。
﹁そちらの行商人様が、どういう人物かの判断はしかねる為に、領
主の判断になりますが、代理権の発動により、そちらの行商人はア
ロイス村長の管理下⋮バルテルミー侯爵家当主管理下の人物。そう
宣言してしまっている以上は取り消せません。良くも悪くもですけ
れども。判断出来無い事と、代理権の発動は別の事ですからね﹂
そう説明してニコッと微笑み、話を続けるリーゼロッテ。ハーラル
トは黙って聞いていた。
﹁つまり、今回の事は簡単に言うと、バルテルミー侯爵家当主管理
下の人物を、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団に、
調べさせて欲しいと言う事になります。そうなると、必要になる事
があります⋮そう⋮この行商人様を調べるには⋮バルテルミー侯爵
家当主の許可が必要になるのです。アロイス村長は判断出来かねる
状態ですからね。もし⋮許可も取らずに無断で取り調べをしてしま
ったら⋮どうなる事でしょう⋮しかも此処は、モンランベール伯爵
家領でなく、バルテルミー侯爵家領⋮﹂
その言葉を聞いて、ハーラルトの血の気が引いていく。
貴族というのは、誇りと名誉を重んじる。それ故に貴族なのだ。
無断でそんな事をしたら、バルテルミー侯爵家は誇りと名誉を傷つ
けられたとして、報復に出るだろう。
モンランベール伯爵家は、非礼を働いてしまった事実から逃げれな
いので、謝罪する事になる。
327
当然、モンランベール伯爵家は誰かに責任を取らせる⋮それはハー
ラルトにだ。
お互い膨大な権力を持つ六貴族同士。その責任を取らされるとなれ
ば、この世のものとは思えぬ地獄を味わう事になるであろう。
﹁い⋮いや⋮わ⋮私は⋮別に⋮﹂
その事を想像したのか、顔を蒼白にさせるハーラルト。その顔を見
て涼やかに微笑むリーゼロッテ
﹁ええ解っていますとも。ハーラルト様はこの村の為、主であるア
ロイージオ様の為に、取り調べしようとしていた事は解っています
わ。ですが⋮今からその許可を取るとなると⋮一度アロイージオ様
にご相談してもよろしいですか?﹂
﹁いや!アロイージオ様には、私がご相談しておきましょう!﹂
慌てながら、即答するハーラルト。
﹁そうですか。ではお願いします。ですがハーラルト様も、責務で
取り調べまでなさろうとしたのに、残念ですね。⋮そうですわ!良
い事を思いつきましたわ!﹂
﹁ど⋮どんな事ですか?﹂
﹁この村にいる間、私がこの行商人様方を、監視いたしますわ。私
は客分ですから、モンランベール伯爵家様にはご迷惑をお掛けしま
せんし、何か有ればアロイージオ様とハーラルト様に、報告させて
頂きます。幸い、私の宿泊している家と、同じみたいなので﹂
そう言って指をさすリーゼロッテ。その先には、エイルマーの居る
家を指していた。
﹁宜しいですか?ハーラルト様﹂
﹁⋮解りました。そう致しましょう。お願いいたしますリーゼロッ
テ殿﹂
328
そう力なく言うハーラルトに、ニコっと微笑むリーゼロッテは
﹁では、早速、監視を開始し、宿泊先に戻らせて貰いますね。失礼
しますハーラルト様。良き夢を﹂
﹁⋮ええ、良き夢を⋮リーゼロッテ殿⋮﹂
そう言って微笑むリーゼロッテに、脱力しながら言うハーラルト。
﹁では行きましょうか行商人様方﹂
そう言って、俺とマルガの手を引っ張って、エイルマーの待つ家に
向かうリーゼロッテ。
俺は戸惑いながら引っ張られていく。ふと視線に気がついて振り向
くと、ハーラルトが口惜しそうに俺とマルガを見ていた。
こうして俺とマルガは、リーゼロッテによって、窮地を救われたの
だった。
﹁えっと⋮リーゼロッテさん?﹂
俺とマルガを引っ張って歩いているリーゼロッテは歩みを止める
﹁はい?どうかされましたか?行商人様﹂
此方に振り返り、ニコっと微笑むリーゼロッテ。その可愛さにドキ
っとする。
﹁え⋮えっと、先程は有難うございます。助かりました﹂
﹁いえ。私は一般的な事を言っただけですので、お気になさらない
で下さい。私が監視するという名目で一緒にいますから、恐らくも
う何事も無いとは思いますが、私達がこの村にいている間は、行動
329
には注意して下さいね﹂
﹁ええ、そうする事にします﹂
俺の返答に微笑みながら頷くリーゼロッテ。
あおい
そら
﹁そういえば、まだ自己紹介をしていませんでした。僕は葵 空と
いいます。こっちは僕の奴隷で、マルガです﹂
﹁ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくで
す!﹂
マルガは元気にそう言うと、ペコリと可愛い頭を下げる。
﹁2人共よろしくね。⋮⋮マルガさんは、葵さんの一級奴隷なんで
すか⋮。マルガさん、一級奴隷になると言う事は、どんな気持ちに
なるのですか?﹂
リーゼロッテは静かにそう言うと、マルガを見つめていた。突然言
われたマルガは、う∼んと可愛い口に人差し指を当てて、
﹁私はご主人様の一級奴隷になれて、とても幸せです!ご主人様は、
一杯優しくしてくれますから!﹂
マルガは満面の笑みでリーゼロッテにそう告げる。マルガの尻尾は
楽しげに揺れていた。
マルガちゃん⋮その気持ちは嬉しいけど、そんなにはっきり言われ
ると、オラ恥ずかしいよ⋮
そんなマルガの言葉に、意外そうな目で俺を見つめるリーゼロッテ。
そして、一瞬足元に視線を落とし、
﹁そうですか⋮。あら!私ったら⋮。変な事聞いてごめんなさいね。
さあゲイツさんの家に行きましょう。エイルマーさんも待っていま
すし﹂
俺とマルガは、リーゼロッテの後についていく。そして一件の家の
前に来た所で、エイルマーが近寄ってきた
330
﹁葵さん!大丈夫でしたか?心配しましたよ!﹂
﹁心配かけてすいませんエイルマーさん。此方のリーゼロッテさん
のお陰で、何事も無く済みました﹂
﹁そうですか!それは良かった!さあ!中に入りましょう。葵さん
の事は話をしてありますので﹂
エイルマーの案内でゲイツの家に入っていく。その家は村長ほどで
はないが、なかなか立派な家であった。
家の中には、夫婦とその子供らしき少年が、俺達を見て微笑んでいた
﹁どうもこんばんわ。私はゲイツと言います。此方は妻のメアリー。
そして息子のマルコです﹂
﹁こんばんわ。妻のメアリーです。よろしくおねがいしますね﹂
﹁こんばんわ!マルコです!よろしく兄ちゃん!﹂
俺とマルガもゲイツ家族に挨拶をする。なかなかフレンドリーで、
優しそうな家族だ。此れならゆっくり宿泊できるだろう。
﹁今夕食の準備をしていますので、葵さん方もリーゼロッテさんも、
部屋でおくつろぎ下さい。用意が出来ましたら、呼びに行かせて貰
いますので。マルコ。葵さん達を部屋までご案内して﹂
ハ∼イ!と元気良く返事をするマルコ。俺とマルガはマルコについ
ていく。その部屋は、リーゼロッテの部屋の隣らしい。マルコに部
屋の中に案内されて入ると、こじんまりした部屋であるが、ゆっく
りと出来る部屋の作りをしていた。俺は案内してくれたマルコに、
﹁マルコ。これを渡しておくよ﹂
俺はアイテムバッグから、お金の入った袋を取り出し、マルコに銀
貨10枚を渡す。マルコはそれを見て、目を丸くしていた
﹁今日から3日位泊めて貰う事になるから、宿代だって言って、ゲ
331
イツさんに渡してくれるかな?﹂
﹁でも⋮3日でこんなに貰って良いの?﹂
﹁うん。その代り、お願いがあるんだ。食事の事なんだけど、イケ
ンジリの村で取れる、美味しい物を沢山食べさせて欲しいんだ。お
願い出来るかな?﹂
﹁解ったよ葵兄ちゃん!任せといて!﹂
そう元気良く言うと、マルコはピュ∼っと走って部屋から出て行っ
た。
﹁これで、イケンジリの村の特産品を、一杯食べる事が出来るよマ
ルガ。約束してたからね。イケンジリの村に着いたら、一杯美味し
い物を食べさせて上げるって。﹂
その言葉を聞いたマルガは、目を輝かせて
﹁ありがとうございます!ご主人様!私嬉しいです!﹂
そう言ってギュっと抱きついてくるマルガを、優しく抱き返す。マ
ルガの優しく甘い香りが俺を包み、華奢だが柔らかく暖かいその体
に、安らぎを感じる。そして、ハーラルトとの事を思い出して
﹁本当に、リーゼロッテさんには感謝しないといけないね⋮﹂
﹁はい⋮でも何故、私に聴取しようとしたのでしょうか⋮ご主人様
の方が詳しく色々話せると思うのですが⋮﹂
そう言ってマルガは、う∼んと考えて、可愛い首を傾げていた。
そうか⋮どういう事か解ってなかったんだ。⋮聴取に行かせなくて
本当に良かった。
マルガの事だ。俺の命を奪うとか言われて脅されたら、俺の為に体
を差し出していただろう。
そして、汚されたマルガは自ら⋮考えただけで、悪寒が体中に走る。
しかし、今回はリーゼロッテさんのお陰で事無きを得たけど、美少
332
女のマルガに目をつける輩は多い。此れからの事も有るし、きちん
と話をしておこう。
俺はハーラルトが、マルガにしようとしていた事を説明した。マル
ガはそれを聞いて、困惑していた。
﹁マルガはとっても可愛いから、そういう事を考えて、狙う輩が多
いんだ﹂
﹁⋮ご主人様に可愛いと言って貰えるのは嬉しいのですが、私はご
主人様の言う様に⋮そんなに良いのでしょうか?﹂
マルガは手鏡を出して、自分の顔を見だした。そして、う∼んと唸
っていた。
マルガちゃん⋮ひょっとして⋮自分が滅多にいないクラスの美少女
だって解ってない!?
マルガは長い間、自分の姿を見ないで生活してきた。劣悪な環境で
6年も汚く、男の奴隷と見間違える位に。俺に買われてから、やっ
と女の子らしく、手鏡で自分の顔を見てオシャレも出来る様になっ
た。今はそれが楽しくてしかたがなくて、他の人と比べてどうとか
考えていないのかも知れない。
﹁マルガはリーゼロッテさんを見てどう思う?﹂
﹁リーゼロッテさんは凄い美人さんです!あんなに綺麗な人は初め
て見ました!﹂
﹁他の人から見たら、マルガもリーゼロッテさんと同じ位美人で可
愛いんだよ﹂
マルガはその言葉を聞いて、顔を真赤にして、手鏡で自分の顔を何
度も見ながら、アワアワしていた。
俺は決してお世辞を言っているのでは無い。確かにリーゼロッテは
超がつく美少女だけど、マルガもそれに勝るとも劣らない、超がつ
く美少女だ。この二人に差はない。好みの問題であろう。
333
﹁ほ⋮本当ですか?⋮ご主人様から見て、私はリーゼロッテさんみ
たいに⋮可愛く見えますか?﹂
﹁うん⋮見えるよ。マルガは本当に美人さんで可愛いよ﹂
その言葉に耳まで真っ赤にして、嬉しそうな顔を向けるマルガの尻
尾は、ブンブン振られていた。
﹁だから⋮何かされない為にも、常にそういう事をされるかも知れ
ないと、注意して欲しいんだ﹂
俺の言葉に、コクっと静かに頷くマルガ。
﹁ハーラルトみたいに、権力を傘に言う事を聞かそうとする奴も居
る。⋮たとえ、俺の命を奪うと言われても⋮絶対に体を差し出すな
んて事しないでね﹂
﹁で⋮ですが!ご主人様の命が掛かっているなら⋮﹂
その言葉を指で塞ぐ。マルガはうううと唸って俺を見ている。
﹁その気持ちは嬉しいけど⋮絶対にダメ。これは﹃命令﹄だから⋮
逆らう事は許さないからね?﹂
その言葉を聞いて、瞳を激しく揺らしているマルガを、ギュっと抱
きしめる。
﹁マルガの事大好きなんだ⋮約束だからね﹂
﹁ご主人様⋮私も大好きです!﹂
マルガはギュっと抱きついてきて、俺の唇に吸い付くようなキスを
する。マルガの暖かく柔らかい舌が、俺の口の中を堪能するように
動く。俺もマルガの舌を優しく味わい、舌を絡める。
その時、バンっと勢い良く扉が開いた
﹁葵兄ちゃん!夕食の準備が出来たよ!﹂
334
そこにはマルコとリーゼロッテの姿があった。俺とマルガは、キス
をしながら横目でそれを確認する。
﹁バタン⋮﹂
静かに扉はしまった。俺とマルガは、ササっと離れる。マルガは恥
ずかしそうに俯いていた。扉の外から声が聞こえる
﹁リーゼロッテ姉ちゃん!葵兄ちゃんとマルガ姉ちゃんがキスして
たよ!凄いね!﹂
﹁仲の良い2人はそう言う事をするものなのです。それより、部屋
に入る時は、ちゃんとノックしないとダメでしょ?﹂
﹁そうだね、オイラ何時もの癖で⋮まだ、葵兄ちゃんとマルガ姉ち
ゃんキスしてるかな?﹂
いやいや。流石にもうやめてるよ!それに、声まる聞こえですから
!エッチなキスを少年に見せつけて、欲情する様な趣味は、まだあ
りません!⋮先の事は解らないけど⋮エロくてごめんね!
﹁そう言う時の為に、扉をノックするのでしょう?﹂
﹁あっそっか⋮﹂
﹁コンコン⋮﹂
﹁はい⋮どうぞ⋮﹂
再度開かれる扉。
﹁あ⋮葵兄ちゃん⋮ゆ⋮夕食の準備できたから!し⋮下で待ってる
ね!﹂
顔を真赤にして、ピュ∼っと走り去ったマルコ。リーゼロッテは涼
やかに微笑んでいた。
﹁2人は仲が宜しいのですね﹂
﹁ええ⋮まあ⋮﹂
335
俺が苦笑いをすると、クスっと笑うリーゼロッテ。マルガは顔を赤
くして軽く俯いていた。
そんな気まずい3人は、特に会話も無く食卓に向かう。そして、食
卓についた時に、マルガは声を上げる。
﹁うわあ∼。凄いです∼﹂
マルガは目をキラキラ輝かせて嬉しそうに言う。テーブルの上には、
此れでもかと言う程の、イケンジリの村で採れる美味しそうな料理
が並んでいた。その美味しそうな匂いに、俺もマルガも思わず微笑
み合っていた。
﹁これは凄いご馳走ですね。熊と鹿の肉を焼いた物に、山菜の入っ
たシチューに、パイの包み焼き⋮他の料理も、この村で取れる美味
しい物ばかりですね﹂
リーゼロッテが少し驚きながら言うと
﹁ええ!葵さんから宿代として結構な額を頂きましたので!ご希望
に答えようと思いまして、妻が腕を奮って作りました!﹂
ニコニコ笑いながら、ゲイツが言うと、微笑む妻のメアリー。
﹁ささ!冷めない内に食べて下さい!﹂
﹁ええそうさせて頂きます!﹂
俺達はテーブルの席につき、食事を始める。
﹁頂きます!!﹂
チャキーンとフォークとナイフを構えたマルガは、怒涛の勢いで料
理に襲いかかる。まるで両手が分身する勢いだ。
﹁ごしゅじんしゃま∼。ものすごくおいひいれす∼﹂
マルガは頬に一杯料理を頬張っている。まるで、リスが頬袋に食物
336
を溜め込んでいる様になっていた。
その様子に、皆が笑っている。マルガも恥ずかしそうに照れていた。
﹁そんなに美味しそうに食べて貰ったら、嬉しいですね。作った甲
斐がありましたわ﹂
﹁この村は小さな村だが、山と森に囲まれていて、山の幸が豊富だ
からな!食物の美味しさなら、そんじょそこらの村や町には負けね
えさ!﹂
そう言って笑うゲイツ夫妻。俺もその料理に舌鼓を打つ。そんな俺
とリーゼロッテの視線が合う
﹁そう言えば、リーゼロッテさんは、どれ位この村に滞在するんで
すか?﹂
﹁本当は、もう出発する予定だったのですが、アロイージオ様がこ
の村を気に入ってしまいましてね。出発は、明後日になると思いま
す。葵さんはどれ位滞在なさるのですか?﹂
﹁一応3日位を予定してます。まあ∼明日のアロイス村長との行商
の話次第ですけどね﹂
その話に、興味津々なマルコが食いついた。
﹁葵兄ちゃん!オイラに行商の話を聞かせてよ!﹂
﹁マルコは行商に興味があるの?﹂
﹁うん!オイラはエドモンさんや、葵兄ちゃんみたいな行商人にな
りたいんだ!﹂
元気一杯に、目を輝かせて、興奮気味にマルコは言う。そんなマル
コにゲイツが軽く溜め息を吐いて、
﹁またお前はそんな事を言って。お前はまだ11歳だぞ?せめて成
人になる15歳になった時に、きちんと考えたらいいじゃないか﹂
﹁成人の15歳になってからじゃ遅いよ!早い人じゃ10歳から弟
337
子入りして、15歳で師匠の元で行商を始める人もいるんだ!オイ
ラもそうなるんだ!﹂
﹁まあまあ、あなたもマルコも落ち着いて。マルコもその話は、何
度もしたでしょう?せめて成人になる15歳になってから、また話
し合いましょう﹂
﹁嫌だ!オイラは絶対に行商人になるんだ!15歳なんか待たない
!諦めさせようとしても、無駄なんだからね!﹂
そう叫んで、テーブルから立ち、ピュ∼っと二階に走り去ったマル
コ。その姿にゲイツ夫妻は溜め息を吐く。
﹁いや⋮お見苦しい所を、お見せしまして申し訳ありませんね﹂
申し訳なさそうにゲイツが言って、頭を摩っている。俺は苦笑いし
ながら
﹁いえいえい。子供の頃は、騎士や冒険者、行商人などの旅や冒険、
強い者に憧れるものですよ﹂
﹁⋮まあ、アイツの気持ちも解らないのでは無いのですがね。この
村の若者も、マルコの様に何人か出て行ってしまう者も居ます。し
かしその大半は、便りが無く帰って来なかったり、結局お金を稼げ
なくても、安定が一番だと帰って来て、村で農耕や狩りなどをして
暮らすものが殆どです。確かに、見聞を広めると言う事は大切だと
は思うのですが⋮親としては⋮ね⋮﹂
そう言ってなんとも言えない様な、表情を浮かべるゲイツ。
一攫千金を夢見て、冒険者や行商人になる者は多い。しかしその大
半はゲイツの言う通り、魔物や野盗、野獣等に襲われて、死んでし
まったり、体に後遺症が残って引退したり等、多々ある事である。
なので、冒険者や行商人は、入れ替わりが激しい。その中でやって
いける者は、ほんの一握り。それでも、お金の稼げる冒険者や行商
人を目指す人は多いのである。ハイリスク、ハイリターンは、人間
338
の欲望を刺激するのであろう。
﹁⋮僕もその中の一人なんで、なんとも言えませんが、親御さんと
しては複雑な気持ちになりますよね﹂
﹁葵さんはまだ成人して間もない様なお歳に見えますが、言う事は
しっかりしていますな!流石は、その歳で行商をなさっている方と
言う訳ですかな﹂
﹁ハハハ。お世辞としても嬉しいです。僕も勉強中でなんで、大き
な事は言えないんですけどね﹂
そう言って苦笑いする俺に、一同は笑っていた。
﹁湿っぽい話は此処までにして、残りの料理も食べて下さい。残し
てしまっては勿体無いですからな!﹂
﹁そうですね。こんな美味しい料理を残してしまったら、バチが当
たりますね﹂
そんな事を言って笑い合いながら、食事を進めるのであった。
夕食を食べ終わった俺とマルガは、部屋に戻って来た。俺がテーブ
ルに着くと、マルガは貰ってきてくれた紅茶を入れてくれる。それ
を椅子に座りながら、マルガと一緒に飲む。
﹁本当に夕食は美味しかったですねご主人様!私⋮いっぱい食べ過
ぎちゃって、お腹が張っちゃってます。この紅茶もそうですが、イ
ケンジリの村の食物は美味しいですね!﹂
マルガは幸せそうに言うと、毛並みの良い尻尾を嬉しそうに振って
いた。
339
﹁だね。俺も美味しくて一杯食べちゃって、マルガと一緒でお腹が
張ってるよ﹂
苦笑いする俺を見て、アハハと笑うマルガ。
本当にマルガは良く食べていた。多分俺よりもパクパクいっちゃっ
てたもんね。こんな華奢な体の何処に入るのか不思議だ。そして、
こんだけ食べているのに、一向に太る気配もないし⋮。これが噂の
育ち盛りと、言う奴なのかな?
そんな事を考えながらマルガを見ていたら
﹁ク∼ク∼﹂
マルガの膝の上で伸びながら抱かれている、甘えん坊の子狐のルナ
が、変な鳴き声を上げる
﹁もう⋮ルナったら⋮ルナも食べ過ぎたみたいで、お腹が痛いって
言ってます﹂
そう言いながら、ルナを撫でて笑っているマルガ。
そう言えば、テーブルの下で、別の木の皿に料理を入れて貰ってた
っけ。白銀キツネは雑食みたいで何でも食べる。あの料理が余程美
味しかったのか、パクパク食べていた様な気がする。
ペットは飼い主に似るって言ってたけど、どうやら本当の様だ。白
銀キツネのルナも良く食べる。狐コンビ?がお腹を張らしているの
が可笑しくて、プっと吹いてしまうと、
﹁⋮何か⋮変な事を⋮思ってませんか?ご主人様⋮﹂
マルガがジ∼∼っと俺を見ている。その膝に抱かれている、白銀キ
ツネのルナもジ∼∼っと俺を見ていた。
﹃本当によく似ている!やばい⋮笑ってしまいそうだ!﹄
必死で体を震わせながら、なんとか笑うのを我慢した。マルガは可
340
愛いほっぺたをプクっと膨らませて、若干拗ね気味に俺を見ていた。
あ⋮ちょこっと拗ねちゃった?拗ねてる所も可愛いんだけど!
ちょっと、このまま見ていたい所だったけど、マルガに機嫌を直し
て貰おう!
﹁そうだ!マルガに良いモノを見せてあげるよ!﹂
その言葉に、マルガの可愛い耳とがピクっと反応する
﹁何ですか?ご主人様!﹂
好奇心旺盛なマルガは、その言葉に目を輝かせる。
フフフ⋮可愛いキツネちゃんが、大きな釣り針に掛かりましたね!
このまま、釣り上げてくれよう!
俺はアイテムバッグからパソコンを取り出し、テーブルの上に置く。
そのテーブルをベッドまで持って来て、俺とマルガはベッドに座る。
マルガの膝の上には、モソモソと白銀キツネのルナが、眠たそうに
抱かれていた。
﹁ご主人様⋮此れは確か⋮パソコンとか言う魔法の箱ですよね?ま
た、お仕事されるのですか?﹂
﹁ううん違うよ。今日はね⋮このパソコンの色々出来る所の一面を
見せてあげるよ﹂
そう言って、パソコンを立ち上げる。聞きなれた音がしてパソコン
が立ち上がる。そして、見慣れた画面が見えてくる。
﹁何時見ても、パソコンと言うのは不思議な箱ですね∼﹂
﹁今日はね、もっとビックリさせてあげるよ!﹂
俺は画面にショートカットしているアイコンをクリックする。イン
ターネットに繋がって、ページが表示される。その画面を見たマル
ガの眼の色が変わる。
341
﹁ご主人様!コレ何ですか!可愛い女の子やら⋮何かで出来た⋮大
きそうなモノが動いています!﹂
マルガの瞳はソレに釘付けになっていた。余りの食いつき様に、こ
っちの釣竿が折れちゃいそう!
俺がマルガに見せているのは、アニメが視聴出来るサイトだ。有料
サイトではあるが、俺の銀行口座には、まだ3000万円弱残って
いる。ネットで支払えるので問題無し!このサイトはほとんどのア
ニメが見れるので、結構人気があるサイトなのである。ちなみに、
マルガの言った大きいのは、ロボットアニメのロボット。またそれ
は説明してあげるからね!マルガちゃん!
マルガの驚き様に十分満足した俺は、更にサイトの画面を切り替え
る。
フフフ⋮マルガちゃんもっと驚かせてあげるからね!盛大に釣り上
げてあげよう!
切り替わった画面を見たマルガの瞳は見開かれる。
﹁皆さんこんにちわ∼♪﹂
パソコンの画面に、アニメの少女が出て来て、元気にそう告げると
﹁こ⋮こんにちわです!﹂
マルガはびっくりして、慌てて正座をしながら、画面に出て来たア
ニメの少女に、ペコリと可愛い頭を下げ、挨拶をし返す。膝に抱か
れていた、白銀キツネのルナが、何事かと起きていた。
パソコンの画面に、正座して挨拶をする美少女に、必死で笑いを堪
えながら様子を見ていると、
﹁マジカル美少女キュアプリム!はっじまるよ∼ん♪﹂
﹁ご主人様!何か始まるみたいですよ!?﹂
アニメの少女のその声に、俺の袖をクイクイと引っ張りながら、パ
342
ソコンの画面と俺の顔を、行ったり来たりしながら見ているマルガ。
そんな盛大に釣り針に掛かってくれるマルガに
﹁ほら、パソコンの画面を見て﹂
﹁わああ⋮﹂
俺の言葉に画面を見たマルガは声を上げる。アニメのオープニング
が始まったのだ。アニメの少女が動き、軽快な主題歌が、それを臨
場感有るものに変えていく。
マルガは、アニメの少女に釘付けになり、主題歌の音楽に合わせな
がら軽く鼻歌を歌い、体を軽く左右に揺らしていた。
﹁ご主人様⋮凄いです⋮綺麗な音楽や歌⋮。それに可愛い女の子が、
パソコンの中で動いています∼﹂
パソコンの画面に瞳を丸くしながら言うマルガ。
﹁歌が終わったら、劇みたいなものが始まるよ﹂
﹁ほ⋮本当ですか!?﹂
その言葉の後に、主題歌が終わり、本編が始まった。
俺がマルガに見せているのは、大体小学生が見る、マジカル美少女
キュアプリムと言う、魔法少女が悪と闘いながら、成長していくお
話だ。
キャラの可愛さと、見やすいストーリーで、日本では中々の人気で、
グッズ等も沢山販売されていた。
俺は興味が無い分野だけど、マルガには此れ位で丁度良いと思って
見せたが、かなり気に入ってくれたみたいだ。
本編が始まると、食い入る様にアニメを見ている。アニメの少女と
同じ様に、一喜一憂のリアクションをしているのが面白い。
時折キャっとか、プリムちゃん頑張って!とか、叫ぶマルガを、ニ
マニマしながら見ている俺と、その都度ピクピクと眠りから起こさ
れている、白銀キツネのルナ。
343
そんな感じでマルガを見ていると、エンディングの歌が流れだして、
アニメは終わった。
﹁ご主人様!!この劇、凄く面白かったです!!!﹂
﹁良かったね。ま∼劇というかアニメって言うんだけね﹂
﹁アニメ⋮というのですか?しかし⋮不思議です∼。このパソコン
と言う箱の中で、プリムちゃんがあんなに元気に動き回るのですか
ら﹂
そう言って、パソコンをあちこちから見て、う∼んと腕組みしなが
ら不思議そうに画面を見るマルガ
﹁あれは書いた絵が動いている様に、見えて居るんだけどね﹂
﹁あれが絵なのですか!?⋮本当にご主人様の居た世界は凄い所だ
ったんですね∼﹂
マルガは感嘆しながらパソコンを見ている。
﹁次の話も有るけど見る?﹂
﹁ハイ!是非見たいですご主人様!﹂
嬉しそうに瞳を輝かせるマルガ。尻尾は回転して飛んで行くんじゃ
ないの?と言った感じだ。
次の話を用意して上げると、またベッドの上で正座して、パソコン
の画面を見ている。
﹁皆さんこんにちわ∼♪﹂
﹁ハイ!こんにちわですプリムちゃん!﹂
そう言って、微笑みながら可愛い頭を、ペコリと下げて挨拶をする
マルガ。
⋮毎回挨拶するつもりなのマルガちゃん?ちょっと可愛いすぎるん
だけど!
344
結局、マルガは4話を連続で見て、今は5話目に入っている。
白銀キツネのルナは、マルガが大きなリアクションをするので、驚
いて寝れなさそうだったので、俺の膝の上で寝かせてあげている。
しかし、マルガもお腹が一杯だったのと、興奮し過ぎで疲れたのか、
首をコクコクとして、眠気と格闘していた。すると我慢出来無くな
って、コテっと俺に持たれて眠ってしまった。
﹃疲れて寝ちゃったよマルガちゃん!明日はまた5話から見せてあ
げるからね!﹄
そんな可愛いマルガを、ベッドにそっと寝かしてあげる。ついでに
ルナもマルガの隣に寝かせる。
狐コンビ?がムニャムニャ言って、気持ち良さそうな寝息を立てて
いるのに、ニマニマしていると、羊皮紙で張られた窓の外に、人影
が見えた。
この家には、珍しくベランダみたいな物がある。この部屋からもそ
こに出れる扉が付いている。
俺は狐コンビを起こさない様に、静かに扉まで行き、ベランダに出
た。
そこには、この世界独特の土星の様にリングの付いた青い月の優し
い光の下、美しい金髪の美少女が、夜空を見ていた。その美少女が
俺に気がついて、此方をに振り向く。
﹁あら⋮美少女との楽しい時間は終わりましたの?﹂
リーゼロッテはそう言って、悪戯っぽく微笑む。リーゼロッテの小
悪魔的な微笑にドキドキしていたのと、俺とマルガの事を見ていた
のかな?と、疑問に思ったのが顔に出てしまっていたのか、リーゼ
ロッテはクスクスと口に手を当てて、面白そうに笑う。
﹁あれだけ楽しそうなマルガさんの声が聞こえたら、見なくてもす
345
ぐに解りますよ﹂
﹁アハハ。騒がしくしてすいません﹂
苦笑いしながら言うと、リーゼロッテは微笑み、軽く首を横に振り
﹁いいのですよ。聞いてるこっちも楽しくなる様な⋮マルガさんの
幸せそうな顔が浮かぶ様な⋮そんな声でしたもの﹂
優しい微笑を俺に向けてくれるリーゼロッテ。その顔に、再度見蕩
れてしまう。
ムウウ⋮本当に美少女だ。本当にマルガと勝るとも劣らない。マル
ガは幼女系の美少女だけど、リーゼロッテはファッションモデル系
の美少女だね。身長も165㎝位ありそうだし、胸も豊満で、大人
っぽいし⋮
エルフは、美形が多いって聞いた事があるけど、みんなリーゼロッ
テの様に超美形揃いなのだろうか?
俺がそんな事を考えていたら、リーゼロッテはクスっと笑い
﹁そんなに見つめられたら、恥ずかしいですわ。私の顔に何かつい
てますか?﹂
どうやら俺はリーゼロッテの顔をずっと見つめていたらしい。思わ
ず気恥ずかしくなる
﹁あ⋮すいません。リーゼロッテさんが、余りにも綺麗だったもの
で⋮つい⋮﹂
﹁あら⋮葵さんも、意外とお口がお上手なのですね﹂
少し驚きながら、リーゼロッテは言う。
ううう⋮意外って言われた!まあ⋮俺は、不細工でも男前でも無い、
特徴のない、没個性の見た目ですからね!上品な口説き文句も言え
ませんしね!⋮でもね!エロイ事なら、そんじょそこらの奴には負
346
けない自信があるのですよ!どうだ!アハハハハ!⋮⋮あれ⋮何故
だろう⋮涙が止まらないや⋮ガク⋮
そんな感じで俺が苦笑いしていると、少し夜空を眺めながらリーゼ
ロッテが
﹁でも⋮いいですねマルガさんは⋮とても幸せそう⋮。葵さんにと
っても大事にされて⋮優しくされて⋮。羨ましいですわ﹂
そう言いながら儚げに微笑むリーゼロッテ。女神の様な美少女の儚
げな姿に、心を囚われそうになる。
﹁マルガが幸せかどうかは、マルガにしか解らない事なんで、俺に
はなんとも言えませんが、リーゼロッテさんはとびきりの美人さん
なんだし、今迄男達から、沢山求愛されて来たでしょう?美人のリ
ーゼロッテさんに声をかける位の男達なら、男としての自信に満ち
溢れている人も多いでしょうし、羨ましいって事は無いのでは?リ
ーゼロッテさんなら凄い幸せを手に入れられそうですが⋮﹂
俺は素直な気持ちをリーゼロッテに話すと、より一層儚げな顔をし
て、
﹁⋮葵さん。見えている物が⋮思っている事や、考えている事が全
てでは無いのですよ?﹂
そう言って優しく微笑むリーゼロッテに、どういう事なのか聞こう
とした時、リーゼロッテが俺に近づいて来た。リーゼロッテの甘い
匂いにクラっとくる。
﹁葵さん⋮一つ聞かせてもらっても良いですか?﹂
﹁ふえ?な⋮何でしょう?﹂
リーゼロッテにドキドキしていた俺は、情けない声を上げてしまっ
た。オラ恥ずかしい⋮穴があったら、入れたい!⋮もとい、入りた
い⋮
347
そんな俺に、リーゼロッテは少し真剣な眼で
﹁マルガさんに、ハーラルト様が、取調べをしようとした時に⋮葵
さん⋮私が止めに入らなければ⋮貴方は、どうなさろうとしていた
のですか?﹂
そう言って、流し目で俺を見るリーゼロッテ。その瞳の色は、何か
確信めいた光に包まれている。
﹁⋮もし、リーゼロッテさんの助けがなければ、俺は⋮ハーラルト
様を殺していたと思います﹂
俺の真っ直ぐな言葉に、若干瞳をピクっと反応させていたが、すぐ
にリーゼロッテが、
﹁⋮やはりそうですか⋮。幾らマルガさんを守る為とは言え、ハー
ラルト様を殺してしまうと、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ
紫彩騎士団、第5番隊の40人近くを相手にする事にもなったはず。
失礼ですが、葵さんに勝てる相手では無いと思います。それでも⋮
マルガさんを守る為に、ハーラルト様の提案を断るつもりだったの
ですか?﹂
少し瞳のきつくなったリーゼロッテに
﹁ええ、そのつもりでした。まあ⋮戦って僕一人ならまだしも、マ
ルガを守りながらは無理だとは思っていたので、逃げる事に専念し
ようとは思ってましたけどね。ハーラルト様の提案は、全く受ける
気はありませんでしたね﹂
迷い無くそう言う俺に、リーゼロッテは更に瞳をきつくして
﹁⋮まあ運良く逃げ切れたとしましょう。しかし、その後はモンラ
ンベール伯爵家だけが敵になる訳ではありません。モンランベール
伯爵家は、大国フィンラルディア王国の大貴族、六貴族の中の一つ。
348
今度はフィンラルディア王国自体が敵になっていたでしょう。そう
なればどんな事になるか、容易に想像出来る事ですよね?それでも
⋮マルガさんを守る為に⋮そうしたと⋮言うのですか?﹂
リーゼロッテは少し口元に笑みを浮かべて、俺に言う。
﹁そうです⋮たとえそうなろうとも、ハーラルト様の提案は受けま
せん。マルガを渡す気にもなりませんね﹂
﹁⋮そんなの只の自暴自棄。無謀や無茶を通り越して、只の自殺行
為ですわ⋮只一夜⋮マルガさんと貴方が、我慢すれば良い事でしょ
うに⋮そんな事⋮愚者の行為ですよ?﹂
リーゼロッテは呆れながら俺にそう言い、軽く溜め息を吐く。
﹁それでも⋮自暴自棄でも⋮例え愚者の行為でも、僕はそうしてい
ました。⋮僕はマルガが汚されてしまったら、好きでいられる自信
はありません。恐らく捨ててしまうでしょう。マルガにもこの話は
言っていて、マルガも汚されてしまったら、自ら命を断つとまで言
ってくれるんですよ﹂
俺の話を静かに聞いているリーゼロッテ。
﹁あそこで、ハーラルト様の提案を受けていたら、マルガは汚され、
自ら命を断っていたでしょう。⋮そんな事⋮許さない。マルガは僕
だけ物なんです。ハーラルト様の好きにはさせません﹂
﹁ですが!!!﹂
俺の話を聞いて、反論しようとしたリーゼロッテの唇に、優しく人
差し指を添え、口を塞ぐ。
﹁勿論リーゼロッテさんの言う通り、きっとひどい目に合う確率の
方が高いでしょう。と言うか、そっちの方が現実でしょうね。でも
ねリーゼロッテさん⋮それでも⋮例え⋮大国フィンラルディアを相
手にしようとも、魔国が相手であろうとも、全世界の人が敵に回っ
349
たとしても、俺とマルガがそう望むなら、俺は気にしません。全部
相手にします。俺は⋮大好きなマルガを守る為なら、世界中の人を
喜んで殺します。大好きなマルガを守る為なら⋮どんな犠牲も厭い
ません。この体の動く限り⋮どんな手を使っても⋮大好きなマルガ
を守る為ならね﹂
そう言って微笑むと、静かに話を聞いていたリーゼロッテの瞳は、
激しく揺れていた。
﹁まあ⋮結局はリーゼロッテさんに助けて貰ったお陰で、そう言う
愚者と呼ばれる行動を取らなくて済んだのですがね﹂
そう言って苦笑いする俺を見て、フっと笑い、土星のような青い月
をを見上げてリーゼロッテは
﹁⋮本当に⋮羨ましい⋮﹂
リーゼロッテは極小さい声でそう囁く。
﹁何か言いました?リーゼロッテさん?﹂
聞き取れなかった俺はリーゼロッテにそう言うと、少し背伸びをし
た様な、悪戯っぽい笑みを向けて
﹁いいえ!何も言ってませんわ∼。⋮それより⋮そんな事を私に言
って、良かったのですか?私は仮にも貴方を監視する様に、許可を
貰った者なんですよ?こんな事を⋮ハーラルト様や、アロイージオ
様にご報告したら⋮貴方はどうなってしまうのでしょうね?そんな
事は考えなかったのですか?﹂
リーゼロッテはニヤっと微笑みながら言う。
﹁いいえ。リーゼロッテさんはそんな事しませんね﹂
﹁あら⋮何故そう思うの?﹂
リーゼロッテは悪戯そうな微笑で、顔を近づけてきた。リーゼロッ
350
テの吐息が俺の顔にかかる様に感じる。魅惑的に映るリーゼロッテ
に、早くなってしまった鼓動を何とか鎮めさせ、
﹁そ⋮それは、きっとリーゼロッテさんは、俺がしようとしていた
事を気がついていた上で、助けてくれたと思ったからです。それに、
今こうして、気さくに話してくれているでしょう?それは、今は敵
意がないと言う事。先の事は解りませんし、どういった思惑が有る
のかは解りませんが⋮それに⋮一番の理由は⋮﹂
﹁一番の理由は?﹂
リーゼロッテが可愛く首を傾げる。その凶悪な可愛さに、思わず負
けそうになっちゃうYO!
﹁リーゼロッテさんが優しい人だからです。貴女はそんな事はしな
い﹂
﹁⋮断言しますわね。その根拠は何処から来るのかしら?﹂
﹁根拠はありません⋮そう心から思うからです﹂
﹁つまり⋮勘と言うわけですか?﹂
﹁ええ!勘です!﹂
自信たっぷりにそう言う俺に、プっと吹き出して笑うリーゼロッテ。
﹁勘だなんて、もっと理論の有る理由は無いのですか?﹂
面白そうに笑うリーゼロッテ。
﹁でも何故か信じれると思う勘なんですよ。だから大丈夫ですよ﹂
そう言って優しく微笑むと、リーゼロッテの瞳が、再度揺れた。
そして、キュっと俺の胸を掴み、微かに震えている。さっき迄、女
神のような気品に満ちあふれていた美少女が、覇気も無くなり、小
さくなってしまったかの様に感じる。そして下から見上げ、俺を見
るリーゼロッテの金色の透き通る様な瞳は、何時かのマルガの様に、
何かに縋り付くような瞳をしていた。
351
﹁葵さん⋮私⋮実は⋮﹂
そうリーゼロッテが言いかけた時に、後ろの扉がガチャっと開かれ
た。それに振り返る俺とリーゼロッテ
﹁ご主人様やっぱり此処でしたか。起きたらご主人様が居なくて⋮。
そしたら、此処からご主人様の声が聞こえたもので⋮﹂
マルガが寂しそうな顔で言う。その胸には、白銀キツネのルナを抱
かえていた。ルナはまだ眠っているのか、まるで人形の様に、手足
がプランプランしていた。
﹁ゴメンねマルガ。心配かけちゃって﹂
﹁いえ⋮もう見つけちゃいましたし﹂
そう言ってニコっと微笑むマルガ。むうう⋮可愛い⋮
そしてマルガは俺の隣にいるリーゼロッテを発見して、
﹁あ!リーゼロッテさん!こんばんわです!﹂
マルガは笑顔で元気良くリーゼロッテに言うと
﹁はい、こんばんわですマルガさん﹂
いつの間にか俺から離れた所に居るリーゼロッテが微笑みながら言
う。その様子は何時もと変わらない感じであった。
﹁さて、可愛いキツネさんが葵さんを迎えに来た事ですし、お邪魔
虫は退散いたしますわね。葵さんとのお喋り楽しかったですわ﹂
そう言って、自分の部屋の扉に向かうリーゼロッテ
﹁あ⋮あの!リーゼロッテさん!﹂
思わず呼び止めてしまった。さっきリーゼロッテが、何を言いたか
ったのかが、凄く気になったからだ。そんな、俺の声にリーゼロッ
352
テは振り向き
﹁葵さん⋮おやすみなさい。⋮良き夢を⋮﹂
そう言って涼やかに微笑むリーゼロッテ。その微笑みは、まるで空
気の層で遮断されたかの様な⋮何かの見えない膜が有って近づけな
い様な感じがした。
﹁リーゼロッテさんも⋮良き夢を⋮﹂
リーゼロッテの二の句を告げさせない雰囲気に、結局此れしか言え
なかった。俺の言葉に、儚げに微笑むリーゼロッテの背中は、何故
か寂しそうに見えた。そんな、困惑している俺を不思議に思ったマ
ルガは
﹁ご主人様どうかされましたか?何か心配事でもおありですか?﹂
マルガは心配そうに俺を見つめる。そんなマルガの頭を優しく撫で
ながら
﹁ううん、何もないよ。さあ、俺達も部屋に帰ろうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
俺の前を嬉しそうに、尻尾を揺らしながら歩くマルガの後を、俺は
歩く。
しかし俺は、リーゼロッテの消えた扉を、何故か見つめてしまうの
だった。
部屋の中に戻って来た、俺とマルガ。そして、マルガの胸の中でプ
ランプランしている寝ているルナ。俺は部屋の中に入って、若干の
353
肌寒さに、ブルっと身を震わす。美少女のリーゼロッテと話をして、
若干緊張していたのが、解れたのかも知れない。夜も更けて来た事
なので、寝る準備をする。
﹁マルガ。もうすぐ寝るから、寝衣に着替えたら、体を拭く準備を
してくれる?﹂
﹁ハイ!ご主人様!少々お待ち下さい!﹂
元気にそう言うマルガの顔は、嬉しそうに若干赤くなっている。
俺とマルガの間では、﹃体を拭く﹄と言う事は、つまり、﹃エッチ
な事をするよ﹄と言う、合図みたいなものになってしまっている。
当初は、当然そのままの意味だった。ただ体を拭くだけの行為。で
も、あんな可愛い美少女のマルガと、体を拭いたり、拭かれたりす
ると、普通の状態で居れる方がどうかしてると思う。
拭き合っている最中に前戯が始まり、お互い盛り上がって、すぐに
エッチな事になってしまう。
ある意味、自然な流れだと思うんだよね。
マルガは石鹸水の入った桶と、体を拭くタオルの様な布を用意し終
わって、俺の後ろで着替えだした
﹁スルスルスル⋮﹂
マルガが服を脱いで、着替える音がする。寝衣に着替えているので
あろう。俺はその着替えている所は見ない。そして、マルガも着替
え終えて、準備が整う迄、俺に声を掛け様とはしない。
それは何故かと言うと、マルガが着ている寝衣は、ラングリーの町
の衣料商の店主のモリスから買った特別品なのだ。
どんな寝衣かと言うと、例を1つ上げれば、まず胸は隠されていな
い。全部見えていたり、シースルーのスケスケであったりしている。
下のパンツも、マルガの可愛い割れ目の部分に切れ目が入っていて、
354
脱がさすにマルガの秘所を堪能出来る様になっている。
つまり、マルガに買ってあげた寝衣はすべて⋮愛玩用の性奴隷専用
のエッチな寝衣なのである。
寝衣は何時もマルガが選んで着ている。俺はそれを楽しみに待って
いるのだ。だから、マルガから声が掛る迄は見ないのである。まあ
⋮楽しみにしているのは、俺だけじゃないんだけどね。
﹁ご主人様⋮お待たせしました。準備が整いました⋮﹂
マルガの声が背中からする。俺はゆっくりと振り返り、マルガをそ
の瞳の中に映し、歓喜に浸る。
今日のマルガの着ている寝衣は、黒のシースルーでスケスケの可愛
いフリルの付いた、前開きの胸の所に、レースのリボンで止められ
た可愛いベビードールの上に、それとお揃いの黒のシースルーでス
ケスケの可愛いフリルとリボンの付いた、秘所からお尻の穴まで切
れ目の入った、オープンショーツタイプのパンツだ。華奢で細い綺
麗な足には、太ももの根本までの網タイツを履き、首には俺の奴隷
の証である、赤い豪華な革のチョーカーと形見のルビーの宝石⋮美
少女のマルガに非常に良く似合っている。
﹁マルガ⋮今日も可愛いよ⋮﹂
そう言って微笑むと、マルガは顔を赤くさせて嬉しそうに微笑む。
マルガの毛並みの良い金色の尻尾は嬉しそうにフワフワしている。
恐らくマルガも、俺のこの言葉が聞きたくて、用意が出来る迄は俺
に声を掛けないのだと思う。
両手で石鹸水の入った桶と布を、俺の足元まで持って来て、布を石
鹸水に浸すマルガ。
その光景に、可愛く着飾ったマルガを蹂躙出来る事の喜びから、俺
のモノは既に大きくなって、脈打っている。マルガが、布を絞って
いる時に、出しっぱなしになっているパソコンが目に入った。
355
今日は久々のベッドでの行為であるし、可愛く艶やかに着飾ったマ
ルガを、目一杯堪能したい。
そんな事を考えて、以前に﹃ある事﹄をしたのを思い出し、それを
利用する事にした。
﹁マルガちょっと待ってくれる?﹂
そう言って、パソコンの乗ったテーブルを、再度ベッドの傍まで持
って来る。そして、フォルダーを開き、準備を整えた。此れからの
マルガの反応が楽しみで、思わず口がニヤッとしてしまう。
マルガは、テーブルに載せられたパソコンを見て
﹁ご主人様⋮またプリムちゃんを見せてくれるのですか?﹂
マルガは、プリムちゃんは見たいけど、俺とのエッチな時間も無く
したくないと言った、複雑な表情で俺を見る。
﹁ううん⋮もっと良いもの見せてあげるよ⋮さあ、此方においで⋮
体を拭いてあげるから﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮マルガの体を隅々まで拭いて下さい⋮﹂
そう言って、顔を赤くして恥ずかしそうに、俺に体を預けるマルガ。
俺はマルガの後ろから抱く様に傍まで連れて来ると、パソコンの画
面が見える様に座らせる。そして、クリックを押す。
﹁さあマルガ⋮パソコンの画面を見てみて⋮﹂
俺の言葉にマルガの視線は、パソコンの画面に向かう。そして、マ
ルガは驚きの表情をする。
﹃ご主人様⋮私はこういう事をするのが⋮初めてでして⋮ご主人様
にきちんとご奉仕できないかも知れません。⋮きっとご主人様に喜
んで頂けるご奉仕が出来る様に頑張りますので、私に失望なさらな
いでくださいませ⋮﹄
356
そこには、俺とマルガが映って喋っていた。
﹁こ⋮此れは⋮ご主人様!どういう事ですか?﹂
﹁此れはね⋮マルガの始めてを奪った時に、録画⋮つまり映像とし
て記憶させた物なんだよ﹂
﹁そういえば、あの時ご主人様が何かしていましたけど⋮これを?﹂
﹁うん⋮マルガの初めてを奪った所を、残しておきたかったからさ﹂
そう、俺がマルガの初めてを奪った時に、色々セッティングしてい
たのは此れだ。
俺は、マルガの初めてを奪う時に、録画機能付きデジカメで、ハメ
撮りしていたって事なのです。
此方に持ってこれた、パソコンやデジカメは全て魔法具、マジック
アイテムに変化してて、能力も何故か上がっている。なので、画像
もかなり鮮明で、音声も非常に綺麗だった。
そのパソコンの画面を見て、耳まで真っ赤にしているマルガ。
﹁どう⋮思い出す?マルガの初めてを奪った時の事⋮﹂
そう言いながら、マルガの体を優しく拭いていく。マルガは何時も
より、身を悶えさせている。
﹁⋮んっはあ⋮﹂
甘い吐息を吐くマルガ。俺は次々マルガの体を愛撫しながら拭いて
いく。
﹃ほらマルガ⋮。マルガの大切な所はこんなになってるんだよ?﹄
﹃とっても⋮気持よくて⋮恥ずかしいです⋮﹄
パソコンの中の俺とマルガは愛撫しあっている。それを見ているマ
ルガの目は艶かしい色に染まっていた。
357
﹁あんな事言っちゃってるねマルガ⋮あの時も気持ち良かった?⋮
今はどうかな?﹂
﹁⋮あっ⋮あん⋮﹂
そう言いながらマルガの可愛いピンク色の乳首を、軽く捻ると、甘
い吐息混じりの声を上げるマルガ。
俺はマルガの反応を楽しみながら、マルガを拭いていく。
﹃さあマルガ⋮その可愛い口で、俺のモノに奉仕するんだ⋮﹄
﹃解りました⋮ご主人様⋮﹄
画面の中で、俺のモノを咥えている姿を、見ているマルガ
﹁マルガの可愛い口に⋮俺のモノが刺さってるみたいだね⋮あの時
の俺のモノは美味しかった?﹂
マルガの体を拭きながら、左手の指を、マルガの可愛い口の中に入
れる
﹁はい⋮ご主人様のアソコはとっても美味しかったです⋮﹂
そう言って、体を拭かれて居る快感に身を悶えさせながら、俺の指
を舌で舐め回すマルガ。
吸ったり、舌でペロペロと舐めたり、まるで俺のモノを愛撫する様
に舐めるマルガ。
マルガの体を拭き終わったので、今度は俺の体を拭いて貰う。当然、
俺の体を拭かせながら、マルガの瞳は、パソコンの画面に向けさせ
る。画面を見ながら俺を拭くマルガは、俺の硬く大きくなって脈打
っている俺のモノに手をかける。
﹁ご主人様⋮ご主人様の此処を⋮お口で味わっても宜しいでしょう
か?﹂
マルガは綺麗なライトグリーンの瞳をトロンとさせながら、俺にお
ねだりをする。
358
﹁いいよ⋮但し⋮パソコンの画面を見ながら、俺のモノを味わうん
だ。マルガの可愛い秘所は、今日は自分で触っちゃダメだからね?﹂
俺の言葉に、身悶えながら、俺のモノを口に咥えて舐めるマルガ。
マルガの暖かい口の中や、柔らかい舌が、俺のモノを刺激する
﹁マルガ⋮マルガの口の中⋮気持ち良いよ⋮﹂
﹁ありがとうございますご主人様⋮私嬉しいです⋮﹂
そう言って、俺のモノを更に愛撫するマルガ。玉や裏スジの方まで、
丹念に舌や口で舐め回している。
﹃マルガ⋮マルガの処女膜舌で舐めてあげるね⋮﹄
﹃は⋮はい⋮ありがとうご⋮ざいます⋮﹄
俺がマルガの秘所に口をつけ、処女膜を味わっている場面が映り出
されている。
﹁あの時の⋮マルガの処女膜の味は、美味しかったよ。今も覚えて
る﹂
そう言って、俺のモノを咥えるマルガの頭を優しく撫でると、目を
潤ませて、嬉しそうな表情をするマルガ。
﹁そろそろ⋮マルガの処女を奪う場面が来るね⋮。あの時のマルガ
の顔は可愛かった⋮一生に一度の顔⋮﹂
その言葉にマルガは、俺のモノから口を離し、キュっと可愛く柔ら
かな小さな手で、俺のモノを掴み
﹁ご主人様!もう⋮私⋮もう⋮ご主人様のが⋮﹂
喉の奥から搾り出したような、艶めかしい声でそう言って、俺を見
つめるマルガ。俺はマルガを目の前に立たせる。マルガの可愛い秘
所から溢れでた愛液が、両太ももにまるで宝石の様に、キラキラ光
359
りながら流れでて垂れていた。
﹁今日はマルガの可愛い秘所を、一度も触ってないのに、もうこん
なにしちゃったの?マルガはヤラシイね。初めての時の場面を見て
⋮興奮しちゃった?﹂
俺の言葉に、恥ずかしそうに身悶え、顔を更に赤くするマルガ。更
にマルガの秘所から愛液が流れ出す
﹁じゃあマルガ⋮いつもの様におねだりして﹂
﹁ご主人様⋮ご主人様のモノで、私のココを一杯犯してください⋮
ご主人様ので満たして下さい﹂
そう言って、可愛いピンク色の秘所を両手で広げるマルガ。マルガ
の可愛い膣口は、パクパクと俺のモノを咥えたそうに、開いたり閉
じたりしている。膣口から出ている愛液が、俺の性欲を増加する。
﹁きちんと言えたね。ご褒美に、マルガの可愛い膣に、一杯入れて
犯してあげるね﹂
そう言って、マルガを抱きかかえ、胡座を書いて座っている俺の上
に、背中を向けさせ、背面座位の様に座らせる。勿論、パソコンの
画面をマルガに見せる為だ。
﹃マルガお前の処女を奪うからね⋮。優しくはしない⋮全力で犯す
からね⋮一生に一度の⋮マルガの処女の喪失している時の顔を存分
に見たいから⋮さあ⋮おねだりしてごらん⋮﹄
いよいよマルガの初めてを奪う所に来た
﹁ほら⋮もうすぐだよ⋮マルガの初めてを奪う所が来るよ⋮﹂
そう言って、俺のモノを、マルガの可愛い膣口につける。マルガは、
身悶えながらモジモジしている。
360
﹃ご主人様⋮マルガの処女を捧げます⋮存分に奪って下さい⋮﹄
﹃ああ⋮解った⋮﹄
画面の中の俺のモノが、いよいよ処女だったマルガの秘所に入る。
それと同時に、俺も一気にマルガの可愛い膣に、奥まで挿入する。
﹃﹁イッ⋮は⋮んっうん⋮﹂﹄
パソコンの中のマルガと、俺に背面座位で犯されているマルガは、
同時に艶かしい声を上げる。マルガの可愛い膣は、俺のモノを喜ぶ
ように、キュキュと絞めつけてきた。甘い吐息混じりに、身を悶え
させ、更に愛液を泉のように滴らせるマルガ。辺りに甘い吐息をま
き散らしていた。
﹁マルガの膣気持ち良いよ⋮ヌレヌレで⋮暖かくて⋮キュっとして
⋮全て吸われそうだよ⋮﹂
﹁ご主人様!私も気持ち良いです!ご⋮ご主人様のが⋮私を犯して
幸せです!﹂
﹁じゃ∼今日は⋮子宮の奥まで犯してあげるよ!﹂
そう言い放った俺は、ぐりっとモノをマルガの奥に突き刺す。コン
コンとマルガの子宮口に当たり、マルガの子宮を開かせ、子宮の中
を犯していく。マルガはまるで池の鯉の様に、口をパクパクさせて
いた。余りの快感に、言葉にならない様であった。どんどん溢れて
くるマルガの愛液が暖かく俺を満たしていく。激しくマルガの体を
上下させると、マルガは、艶かしい声を出し、更に甘い吐息を撒き
散らす。
そんなマルガは、焦らし過ぎたのと、子宮の奥を犯されているのと
で、一気に高ぶって来たのであろう。体が小刻みに震えだした。
﹁ご⋮ご主人様⋮私⋮もう⋮私⋮﹂
イクのを必死で我慢しているマルガ。そんな可愛いマルガに
361
﹁いいよ⋮一杯イカせてあげる⋮さあ⋮おねだりしてご覧!﹂
﹁ご主人様!私の子宮をもっと犯して、イカせて下さい!子宮をご
主人様の精液で汚して下さい!お願いします!﹂
﹁良く言えたね⋮じゃ∼イカせてあげる!﹂
俺は左手で乳首をギュっと摘み、右手で、可愛く膨らんだクリトリ
スをキュっと摘み、一気に激しくマルガの体を上下に揺さぶり犯す。
マルガの体は、快感に押し流されそうで限界に来ていた。
﹁ご主人様!イキます!イカせて頂きますう!あああ!⋮っんはあ
あああああああ!!!﹂
マルガは大きな吐息を吐き、大きく体を仰け反らせて絶頂を迎えた。
それと同時に、俺はマルガの子宮に直接精液を染みこませる。マル
ガの膣はキュンキュンと俺のモノから、精液を吸い取っていた。
俺の体を激しい快楽が突き抜ける。
﹁ご⋮ごしゅじんしゃまの⋮精液が⋮私の子宮に染み入ってきます。
暖かいです⋮﹂
マルガは放心状態になりながら、時折体をピクっと痙攣させて、快
楽の余韻に浸っていた。
﹁マルガ⋮今日も可愛くて⋮気持良かったよ⋮好きだよマルガ⋮﹂
﹁私も⋮ご主人様が大好きです⋮今日も一杯犯して、精液を注いで
くれてありがとうございます⋮﹂
そう言って、俺の方に振り向き、キスをしてくるマルガ。マルガの
暖かく、柔らかい舌を十分に堪能し、マルガに俺の唾を流し込み飲
ませると、嬉しそうに喉をコクコクと鳴らしながら飲んでいる。
そんなマルガに再度、性欲が復活するのが解る。マルガの膣の中で
ムクムクと大きくなる俺のモノ。
﹁マルガ⋮今日はまだ⋮寝かせないからね⋮﹂
362
そう言って今度は抱き合う様に、正面座位の格好で向かい合う。ギ
ュっとマルガを抱きしめると、同じ様に抱き返してくるマルガ。
﹁はい⋮一杯マルガを犯して下さい⋮私はご主人様だけの⋮奴隷な
のですから⋮﹂
満面の微笑を俺に向け、キスをしてくるマルガ。マルガの舌が俺の
口の中を味わっている。
俺はマルガの全てを蹂躙し、味わう為に、マルガを犯していく。マ
ルガの幸せそうな瞳は、歓喜に染まっていた。
俺とマルガは、気持ちを確かめ合う様に、何度も求め合い、与え合
って、眠りに着くのであった。
363
愚者の狂想曲 11 商談と動き出した悪意
チッチッチッチー
沢山の小鳥の囀りが、忙しそうに聞こえてきた。
その声に、目を覚ました俺は、徐々に目が覚めて来て、瞳に光が入
ってくる。羊皮紙を張った窓を見ると、今日も晴天の様だ。
ふと胸元に目を落とすと、可愛く艶かしい寝衣を着て、乙女の柔肌
を俺に味あわせる様に、体を俺に預けて眠っている美少女が目に入
る。
﹁スウースウー﹂
何時もと同じ様に、とても気持ちの良さそうな寝息を立てて眠って
いる、愛しい美少女。
久しぶりのベッドで眠って居るのも、理由の一つかも知れない。
そんな俺とマルガの間に、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが挟
まって寝ている。
何時も寝る時に、スルスルと俺とマルガの間に入って来て、気持ち
良さそうに眠るのだ。
狐コンビ?の可愛い寝顔を、此のまま見ていたい所であるが、今日
は午前中に、アロイス村長の所に行く約束をしている。優しくマル
ガの額にキスをすると
﹁う⋮うんん﹂
眠気眼を擦りながら、瞳をぱちくりさせているマルガは、俺の顔を
見つけて、満面の笑みで
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
そう言って、可愛い唇を俺に捧げる。マルガの甘く柔らかくて、暖
364
かい舌が、ニュルっと俺の口の中に忍び込んできた。マルガの舌を
十分に堪能する。マルガも同じ様に俺の舌を堪能している。そのご
褒美に、俺の唾を沢山飲ませて上げると、コクコクと喉を鳴らして、
嬉しそうに飲み込んで行くマルガ。
お互い十分に堪能しあって、顔を離すと、目を覚ました白銀キツネ
のルナが、俺の顔とマルガの顔を小さな舌でペロっと舐めた。俺と
マルガは顔を見合わせて微笑む。
﹁ルナも⋮おはよう﹂
そう言って、白銀キツネのルナにチュっとキスをするマルガ。ルナ
も何だか嬉しそうに見える。
その時、マルガの手が、朝の生理現象とマルガのキスで大きくなっ
ている、俺のモノを優しく掴む
﹁⋮ご主人様は⋮ゆっくりしていて下さいね﹂
そう言って優しく俺にキスをすると、俺の体にキスをしながら、俺
のモノまで顔を持って行き、モノを可愛い口に咥え始める。マルガ
の暖かい口の中に包まれて、至高の幸福に包まれる。
﹁マルガの可愛いお口⋮気持ち良いよ⋮﹂
マルガの頭を優しく撫でると、嬉しそうに、俺のモノを舌で愛撫す
るマルガ。そんな可愛いマルガの愛撫に、一気に快感が高まる。マ
ルガの口の中に、精液を流し込む。マルガは残っている精液を全て
吸出し、俺に口を開けて見せる。マルガの可愛い口の中には、波々
と俺の精液が注がれている。
それに俺が頷くと、コクコクと美味しそうに飲み込み、口を開けて、
全て飲みましたの確認を求めるマルガの顎を引き寄せ、キスをする。
﹁マルガ⋮今日も気持ち良かったよ﹂
﹁ありがとうございますご主人様﹂
365
そう言って嬉しそうに微笑みながら、尻尾をフワフワ振っていた。
﹁じゃ∼今日は、午前中にアロイス村長の所に行く約束があるから、
着替えて用意しようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
元気良く返事をするマルガ。俺とマルガは、準備する事にした。
着替え終わって、準備も出来た俺とマルガは、下の食卓まで降りて
いく。そこには、既に起きていた、リーゼロッテとマルコが、テー
ブルに就いていた。
﹁リーゼロッテさん、マルコおはよう。今日も良い天気だね﹂
俺が微笑みながらそう言うと、
﹁お⋮おはよう!あ⋮葵兄ちゃん!﹂
何故か、俺と目を合わそうとしないマルコ。その顔を赤くして、軽
く俯いていた。
﹁おはようございます葵さん⋮はあ⋮﹂
少しげんなりした感じで、俺の顔を見つめ、ぎこちない微笑を向け
るリーゼロッテ。
なにこれ⋮一晩で一体何があったの?俺が戸惑っている横で、マル
ガが2人に
﹁おはようございます!リーゼロッテさんに、マルコちゃん!﹂
元気一杯に挨拶するマルガに
366
﹁はい、おはようございますマルガさん﹂
何時もと同じ微笑みで挨拶をするリーゼロッテ。
﹁おおおお⋮おはよう!マルガ姉ちゃん⋮﹂
俺の時よりも更に顔を赤くして、俯いているマルコ。本当に⋮何が
あったんだ?
そんな事を考えていた俺に、
﹁お!起きてきたな!おはようさん!葵さんにマルガちゃん!﹂
﹁おはようございます。葵さんにマルガさん﹂
ゲイツ夫妻が微笑みながら、挨拶をしてくれる。俺とマルガも挨拶
をする。
むうう?此方は昨日と変わりないな⋮増々解らなくなってきた!
そんな悶々としている俺と、ニコニコしているマルガに、朝食を出
してくれるゲイツ夫妻。
今日の朝食は、鹿と熊の薫製肉と、春野菜のシチュー、焼きたての
パンに、たっぷりの蜂蜜と、バターを塗った物と、果実ジュースだ。
此方も、イケンジリの特産品をたくさん使った、品揃えだ。とても
良い香りが、食卓を包んでいる。
マルガちゃん⋮涎が出そうだよ!お口はきちんと閉じていようね!
マルガの絶賛フリフリ中の尻尾を見ながら、少し心の中でツッコん
でおいた俺。
﹁さあ!たんと食べておくれ!﹂
笑顔で言うゲイツに、皆が微笑みながら頷く
﹁頂きます!﹂
元気一杯に、一番最初に口火を切ったのは、当然マルガである。両
手が、昔のアニメの様に、6本に見える位の勢いで、朝食に襲いか
367
かっている。昨日と同じく、頬がリスの様に膨らんでいる。その顔
は、とても幸せそうで、皆を和ませるには十分な効力を発揮してい
た。
﹁本当にマルガさんを見ていると、此方まで幸せな気持ちになるわ
ね﹂
ゲイツの妻のメアリーが微笑む。その横でゲイツが頷いていた。
﹁そういえば、葵さんは今日、村長と行商の話しをするんだっけか
?﹂
﹁ええ。午前中にですね。朝食を食べ終わって、少し休憩をしたら、
向かおうと思ってます﹂
その言葉に興味を持ったリーゼロッテとマルコ。
﹁なら私も付いて行こうかしら⋮私は一応、葵さんの監視役ですか
ら﹂
﹁オイラも行きたい!実際に行商の話しをしてる所なんて、滅多に
みれないからさ!ねえ!いいでしょ?葵兄ちゃん!﹂
微笑みながら言うリーゼロッテと、せがむ様に言うマルコ。
﹁リーゼロッテさんは兎も角、マルコおめえは、葵さんの邪魔にな
るかもしれねえからダメだ﹂
﹁えええ!本当邪魔なんかしないからさ!お願い!葵兄ちゃん!﹂
必死に頼んでくるマルコに、可愛さを覚えてしまった。
﹁まあ⋮邪魔をしないなら、別にかまいませんよ。と言っても、余
り派手な商談じゃないから、マルコが、がっかりしなければいいけ
どね﹂
俺が苦笑いをすると、嬉しそうな声で
368
﹁やった!ありがとう葵兄ちゃん!俺大人しくしてるから、よろし
くね!﹂
喜びながら、俺の手を握り、ブンブンと振るマルコ。
﹁すいませんね、葵さん。マルコ迷惑かけるんじゃねえぞ!﹂
﹁うん!解ってるよ!本当に大人しくしてるよ!﹂
﹁葵さん、宜しくお願いしますね。さあ、冷めない内に、料理を食
べて下さい﹂
俺達は朝食を終え、休憩がてら、村を散策する事にした。ゲイツの
家から出ると、春の暖かく、柔らかい光が俺達を包む。
﹁う∼ん!良い天気で気持ち良いですねご主人様!﹂
マルガは気持ち良さそうに、伸びをしながら言う
﹁だね∼。この村も良い所だし、ゆっくり出来るね﹂
﹁でしょ?皆良い人ばっかりだから、オイラも大好きなんだ!﹂
マルコが得意げに言うと、マルガも微笑みながら頷いていた。
﹁そうですね。貴族のアロイージオ様も、気に入られる位ですしね﹂
そう言って微笑むリーゼロッテ。俺は昨日のリーゼロッテの事を思
い出して居た。
﹁ねえマルガ。馬のリーズを預けっぱなしになってるから、様子を
見て来てくれない?もし、腹を空かせてたり、喉を渇かせていたり
したら、上げて欲しいんだ。いいかな?﹂
﹁ハイ!了解です!ご主人様!﹂
マルガは元気にそう言うと、右手の掌を下にして、斜めな感じで額
に当てる。良く日本の自衛隊や、警察官がやっている挙手の敬礼だ
と思う。
そう言えば、マジカル美少女キュアプリムの主人公プリムちゃんが、
369
同じ様な敬礼をしていたな。
それを真似てるんだね。また今日も見せてあげるからね!
﹁マルコもマルガと一緒に行ってやってくれる?マルガの護衛って
事でさ。もしマルガだけで、リーズの世話がきつそうなら、少し手
伝って上げて欲しいし。お願い出来る?﹂
﹁任せといてよ葵兄ちゃん!マルガ姉ちゃんの護衛とお手伝いバッ
チリしてみせるからさ!﹂
小さな胸をドンと叩いて、気合を入れているマルコ
﹁じゃ∼2人共よろしく頼むね﹂
﹁﹁は∼い!﹂﹂
声を揃えて返事をしたマルガとマルコは、元気にピュ∼っと馬のリ
ーズ目掛けて駆けていく。
そこには俺とリーゼロッテが残されていた。俺はリーゼロッテの方
を見ると、ニコっと微笑むリーゼロッテ。
﹁リーゼロッテさん。あそこに座りません?﹂
俺の指さした所には、丸太を半分に切った、ベンチらしき腰掛けが
あった。
﹁そうですね。天気も良いですし、日向ぼっこでもしましょうか葵
さん﹂
そう言って、いつも通りの微笑を俺に向けるリーゼロッテ。俺とリ
ーゼロッテはベンチの腰掛ける。
春のやわらかな日差しが、リーゼロッテの美しい金髪を、キラキラ
輝かせていた。
﹃ほんと⋮美人さんだよね⋮リーゼロッテさんは⋮﹄
リーゼロッテに見蕩れながら座っていると、クスっと笑うリーゼロ
370
ッテ。
﹁どうしました葵さん?﹂
﹁あ!⋮いえ⋮また見蕩れてしまいました﹂
正直にそう言うと、クスクスと笑うリーゼロッテ。
﹁それはありがとうございます。こんな私で良ければ、好きなだけ
見てやって下さい﹂
そう言って微笑むリーゼロッテ。
ま∼では遠慮無く、隅々まで見させて頂きます!って、言いたい所
だけど、そんな事言ったら、それこそ本当に、騎士団に捕まっちゃ
いそうだよね!此処は我慢だ!
﹁リーゼロッテさん⋮昨日の事なんですけ⋮﹂
﹁そう言えば葵さんは、まだアロイージオ様にお会いしてませんで
したね?﹂
俺の話を遮って、リーゼロッテが聞いてくる
﹁ええ⋮そういえばまだですね。昨日はハーラルト様の事もありま
したし、時間が時間でしたからね﹂
﹁そうですね。今日時間の有る時に、アロイージオ様にご挨拶に行
きましょうか﹂
﹁でも⋮僕は、ただの行商人ですから、会って貰えるかどうか⋮﹂
﹁大丈夫ですよ。私がご紹介させて貰いますから。それに、アロイ
ージオ様は優しい方で、誰とでも分け隔てなくしてくださる方です
から﹂
そう言って微笑むリーゼロッテ。まあ⋮貴族に会ってどうとは思わ
ないけど、万が一に気に入って貰えれば、何か美味しい取引にあり
つけるかも知れない。此処はリーゼロッテに任せよう。
371
﹁そうですか。じゃ∼よろしくお願いします。それから、昨日の事
なんですけ⋮﹂
﹁葵さんは、イケンジリの村を出たら、何方に向かわれるんですか
?﹂
リーゼロッテは微笑みながら俺に聞いてくる。
﹁え⋮えっと⋮この村を出たら、港町パージロレンツォに向かいま
す。マルガを戦闘職業に就かせて、ラフィアスの回廊で、一緒に財
宝を稼ぎながら、マルガのLV上げですかね﹂
﹁なるほど。マルガさんが戦闘職業に就いたら、色々出来ますもの
ね﹂
﹁そうですね。所で、リーゼロッテさん。昨日の事なんですけ⋮﹂
﹁思い出しましたけど⋮﹂
また俺の話を遮るリーゼロッテ。明らかに意図的にそうしているの
が解る。
﹁リーゼロッテさん。話を逸らさないで下さい。僕は昨日の事を聞
いてるんです!﹂
俺のその声に、少し瞳を揺らしているリーゼロッテ。
﹁リーゼロッテさんには、マルガを助けて貰った恩があります。何
か心配事があるなら言って下さい。僕にどれだけの事が出来るか解
りませんが、力になりたいと思ってます﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテは俯いてしまった。
﹁リーゼロッテさん⋮教えて貰えませんか?﹂
俺はリーゼロッテの肩に、そっと手を置く。リーゼロッテは少しピ
クっと体を反応させた。そして、ゆっくりと、その置かれた俺の手
を握り、
372
﹁⋮葵さんって⋮意外と女の子を口説くのが上手だったりします?﹂
﹁ふええ!?﹂
リーゼロッテの予期せぬ言葉に、変な声を上げてしまった。オラ⋮
また恥ずかしい声を⋮
俺が、女の子を口説くのが上手だって!?ないない!此方の世界に
来るまで居た地球でも、年齢イコール彼女いない歴の僕ちゃんです
よ?ええ!20年間彼女なんかいませんね!童貞もエッチなお店で
捨てちゃった位ですから!ある意味マルガが初めての彼女っぽいも
のです!そんな俺が、女を口説くのが上手な訳無いじゃん!
俺がアタフタしているのを、可笑しそうにしながら、肩に乗せられ
ていた俺の手をどけて、
﹁大丈夫です!昨日はちょっとした考え事があっただけです。もう
解決したので大丈夫ですよ﹂
そう言ったリーゼロッテは、何処か吹っ切れた様な、清々しい顔を
していた
﹁⋮本当ですか?﹂
俺の真剣な眼差しを見て、軽く溜め息を吐きながら
﹁意外と、心配性でもあるんですね。⋮生きていれば、落ち込む事
など、一度や二度はあります。昨日はたまたまそういう時だっただ
けですよ。⋮心配してくれてありがとう⋮でも、もう本当に大丈夫
ですから﹂
リーゼロッテは眩しい微笑みを俺に向ける。そのあまりの可愛さに、
ドキっとしてしまう。
俺の瞳を見るリーゼロッテの瞳は、揺れてはいなかった。どうやら、
ただの杞憂だったらしい。
﹁解りました。でも、僕はリーゼロッテさんに借りがあります。も
373
し、何かあれば力になりますので、言って下さいね﹂
﹁ええ!解りましたわ。覚えておきます﹂
そう言うリーゼロッテの微笑は、今まで見た中で一番優しさを感じ
るものだった。そんな二人に、声がかかる。
﹁ご主人様∼。リーズのお世話終わりました∼﹂
嬉しそうに、馬のリーズの傍で手を降るマルガ。楽しそうにピョコ
ピョコ飛んでいた。そんなマルガを見てクスッと笑いながら
﹁ほら、貴方の可愛いキツネさんが呼んでますわよ。アロイス村長
の所に行くんでしょ?私達も行きましょう﹂
俺とリーゼロッテは、マルガとマルコの元に歩き出す。
﹁あ!それから⋮可愛いキツネさんを御寵愛されるのは構いません
が、夜はもう少し、静かにした方が良いですよ﹂
俺はその言葉に、朝のリーゼロッテとマルコの、俺とマルガに対す
る反応を思い出す。
俺の部屋はリーゼロッテと、マルコの部屋に挟まれていたよな⋮つ
まり⋮あの時の声が筒抜けだった訳か⋮
俺が気恥ずかしくしていると、クスっと笑うリーゼロッテ。
俺は苦笑いしながら歩き出す。リーゼロッテも俺の後を歩いていた。
この時、リーゼロッテの前を歩く俺は、リーゼロッテが瞳を揺らし
て、俺の背中を見ていた事には、気が付かついてはいなかった。
此処はイケンジリの村より少し離れた所にある坑道である。
100年位前には金が掘れたのだが、掘り尽され廃坑になって、捨
374
てられてかなりの時が経つ。
今では近隣の者も近寄らない廃坑に、その者達は居た。
﹁お頭!お帰りなせえませ!お疲れ様でごぜえます!﹂
体格の良い30代の男がそう言うと、二人の男女が現れた。
﹁手はずはどうだベルント。万事上手く行ってるか?﹂
﹁へえ!明日の準備は、出来ていやす!﹂
その言葉に、満足そうな、お頭と呼ばれた男
﹁此方の交渉も上手く行った。ま∼予定より高くはついたが、彼奴
等も、明日の昼前には、到着するだろう。これで、すべての手はず
は整った。他に報告する事は無いかベルント?﹂
﹁へえ⋮そうですね⋮あ!そう言えば⋮﹂
そう思い出す様に言うベルント。その報告を聞いたお頭と呼ばれた
男は
﹁⋮それは確かか?ベルント﹂
﹁へえ⋮あの女は此方の完全な手足でごぜえやすから、報告には間
違いはねえはずです﹂
ベルントの言葉を聞いて、顎に手を当てて暫し考える、お頭と呼ば
れた男。
﹁まずいな⋮今あの村には、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ
紫彩騎士団、第5番隊の護衛40名と、旅の行商人が居たな⋮。行
商人は兎も角、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の40名と、ま
ともにやりあうのは、少々骨が折れるし、少し危険だな。かと言っ
て、放っておく訳にも行かないか⋮﹂
更に暫し考えている、お頭と呼ばれた男
375
﹁作戦を変更する。カチュア、例の結界魔法陣はすぐに使えるか?﹂
その声に、ダークブラウンの髪の、艶かしく張りのあるプロポーシ
ョンの20代中頃の美しい女性が現れる
﹁ええ!準備に4刻︵4時間︶貰えれば、何時でも使える様に出来
るわ。⋮ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊と事を構えるのギルス
?﹂
カチュアの問に、軽く溜め息を吐きながらギルスは
﹁ああ。本当は放っておいて、立ち去って貰いたい所だったんだが、
余計な事をしてくれた奴が居てね。手を出したく無い相手だが仕方
がない。作戦の詳細を伝える﹂
ギルスはそう告げると、カチュアとベルントに作戦を指示する。
﹁解ったわギルス﹂
﹁此方も了解ですお頭!﹂
二人の返事に、頷きながらギルスが
﹁主力のうち、ホルガーはあっちの護衛に回してるから、合流出来
るとして⋮あの3人は別の取引に行かせてるから間に合わないか⋮
此方は、俺とカチュアとホルガー。そしてベルントの部隊か⋮ま⋮
なんとかなるか﹂
対応の算段が出来たのか、含み笑いをしているギルスに
﹁お頭⋮例の件なんですが⋮5人程なんとかなりませんかね?部隊
の奴等も、ここんとこご無沙汰なんで﹂
ベルントが手を擦りながら、卑しい笑いを浮かべて言うと
﹁⋮ったく、仕方ねえなあ∼。ま⋮先に裏切ったのはアイツだし⋮
作戦は明日で完了⋮いいだろう、5人なら許す。もうすぐ来るアイ
376
ツに注文でもするんだな。しかし⋮﹂
﹁へえ!わかってやすよお頭!例の2人には手をつけるなってのは、
わかってやすから、ご安心を﹂
﹁ならいい。俺とカチュアは、魔法陣の設置場所を決めて、準備を
してくる。後の事は頼んだぞベルント﹂
そう言って、廃坑を出ていくギルスとカチュア。暫くして、2人と
入れ違いで廃坑に入ってくる人物が居た。
﹁お!来たな。今日は早いじゃないか﹂
ベルントが卑しい哂いを浮かべながら言うと、現れた男は顔を歪めて
﹁今日は此方もやる事が多いんだ。明日の準備もあるからな﹂
きつい目をして、ベルントに言う男
﹁ハハハ。そうだったな。まあいい⋮此方も準備は出来ているしな。
今日は別にお前に話がある﹂
ベルントは男に話し始める。ベルントの話を聞いた男は、激しく顔
を歪め
﹁そ⋮そんな!それじゃ約束が違うじゃないか!俺は約束守ってく
れる条件で、お前達に協力をしてるんだ!﹂
激しく言い立てる男に、ニヤっと哂いながらベルントは
﹁なに⋮ちょっとした変更だよ。計画に変更は付き物。この話が聞
けないなら⋮どうなるか解るよな?﹂
そのベルントの言葉に、俯く男。
﹁わ⋮解った⋮。女5人と⋮そいつを連れて来たら良いんだな?﹂
ベルントを睨みながら言う男。ベルントはニヤニヤ哂いながら
377
﹁ああ!そうだ!今日の夜迄に連れて来い。まあ心配するな!変更
は此処までだ。後はお前との約束通りだからよ﹂
﹁本当だな!﹂
﹁ああ本当だ﹂
その言葉を聞いて、納得行かないが、仕方無いと言う様な表情の男は
﹁俺は帰る。連れて来るにしても、準備がいるしな。⋮そっちの手
も借りたい﹂
﹁解ってるって。此方から5人程、お前に貸してやろう。⋮オイ!﹂
ベルントが合図をすると、5人の男が傍まで来た。
﹁こいつらを連れて行け。それと、これもな﹂
そう言って、男に小瓶を2つ渡すベルント
﹁それは、眠りの煙が入った小瓶と、即効性の睡眠薬だ。それをど
う使うかは、お前に任せる。それがありゃ∼やりやすいだろ?﹂
その2つの小瓶を受け取る男。
﹁じゃ∼俺は帰る。お前達は俺について来てくれ﹂
男がそう言うと、5人の男達はその後をついて行く。
﹁へへへ。今夜はお楽しみだぜ野郎共!﹂
ベルントのその声に、おお!と喜びの声を上げる、部隊の男達。作
戦は着々と進められていた。
378
﹁葵殿お待ちしておりました。さあどうぞどうぞ﹂
﹁では失礼します﹂
アロイス村長の言葉に、俺達はテーブルに着く。約束していた通り、
アロイス村長の元に、行商の話をしに来たのだ。
この世界の商談は、小さな村では、村長が対応する事が多い。ラン
グースの町位の規模になると、商会や商店に直接話しをするのが一
般的だが、小さな村では、その様な、商会や商店が無い場合が多い
ので、村を治めている長に話をするのが慣習になっている。村の長
は取引した商品を、村の者に売ったり、交換したり、貸し出したり
するのである。
アロイス村長の隣には、副村長のエイルマーが座っている。俺の側
には、マルガとリーゼロッテ、そしてマルコが座っていた。
﹁マルコとリーゼロッテさんの同席を許して頂いてありがとうござ
います﹂
﹁いえいえ良いのです。リーゼロッテさんは、一応葵殿の監視役と
言う名目がありますしの。ま∼マルコは⋮どうせ葵殿に無理を言っ
たのですじゃろ?村の者が迷惑をかけますの﹂
﹁いえ!マルコの家には宿泊させて貰ってますし、マルコも大人し
くしているって約束してくれていますから﹂
俺の言葉に、嬉しそうな顔をして座っているマルコ。マルガとリー
ゼロッテが、マルコを見て微笑んでいる
﹁そう言っても貰えるとありがたいですじゃ。では、商談を始めま
しょうか。まず、葵殿はどんな物を、この村に売って頂けるのです
か?﹂
﹁えっと⋮鉄製の農具、鍬と鋤、鎌等が合計16点。黒鉄の鏃が1
000個。最後に塩が、小麻袋で100袋ですね﹂
379
品揃えを聞いたアロイス村長と、エイルマーは顔を見合わせて微笑
んでいた。
﹁それは良いですね。鉄製の農具、鏃、それに塩。私たちの村に欲
しい物ばかりですな!これからの季節は、農耕や狩りも盛んになり
ますし、塩は保存用と味付けと何にでも使えますしの﹂
その言葉を聞いた俺は、なかなかの好条件で取引出来るだろうと思
い、心の中でほくそ笑む。
﹁葵殿は、どんな物が欲しいのかの?出来れば、物々交換でお願い
したいのじゃがな。ご覧の通り、この村は小さな村じゃ。資金の蓄
えは少ないのです。全てとは言いませんが、どうですじゃろ?﹂
アロイス村長は言いにくそうに俺に告げる。
﹁ええ良いですよ。資金として出せるお金は、どれ位ですか?﹂
﹁そうですな⋮大体金貨3枚と言った所で、お願いしたいのですが﹂
﹁と言う事は、残りは物々交換でと、言う事ですね?﹂
俺の言葉に頷くアロイス村長。
フム⋮俺の商品の仕入れ値は金貨5枚。金貨3枚の現金回収と、物
々交換した物と、追加で欲しい物を荷馬車に乗せるか⋮妥当な線か
な?
行商で難しいのは、どれだけ効率良く、利益の出る物を荷馬車に積
めるかである。一番良いのは、かさばらず、重たくなく、利益の上
がる物。これが一番である。積みたくない物はその逆の物。
馬で荷馬車を引かせるので、馬が引ける重量を超える物は積めない。
その辺を計算しなければ、利益は上がらない。今回、積んで来た重
量位が、馬のリーズが引ける限界。馬のリーズは、足は早くはない
が、丈夫で力のある品種の重種馬だ。なので、これだけの重量を引
けるのである。
380
﹁その条件で良いですよ。そして欲しい物は、まずは、鹿と熊の塩
漬けの肉、それと毛皮。それからやっぱり、この村で採れる、山菜
ですね。僕はこの後に港町パージロレンツォに向かう予定です。こ
の村から、港町パージロレンツォ迄は、荷馬車で2日。なので、新
鮮な山菜をと考えています。他に何かおすすめはありますか?﹂
﹁そうですな⋮後は蜂蜜と、耕している野菜ですかの。まあ、村で
作った、籠や笊、放牧している牛の乳と、チーズとバター。鹿の角
もありますな﹂
アロイス村長がおすすめの品を教えてくれる。
ふんふん⋮野菜は聞いている感じ、此処じゃなくても取れる物だな。
港町パージロレンツォの近くの村でも作っているから、利益が上が
らない。籠や笊も同じだな。牛の乳とチーズやバターも、港町パー
ジロレンツォの近くで作っている村があった。乳製品は、チーズを
除いて腐りやすい。チーズは人気があるけど、供給も多いから、儲
からないな⋮って事は⋮蜂蜜と鹿の角かな?
蜂蜜は栄養価も高く、美味しいし、何より腐りにくい。需要が高く、
供給は割りと少なめだから、儲けが出る。鹿の角は、薬の材料にも
なるし、工芸品にもなる。数も少ないから儲けも出やすい。
﹁その中でしたら、蜂蜜と鹿の角を頂きます﹂
﹁では、さっき葵殿が言った物に、蜂蜜と鹿の角でよろしいですか
な?﹂
俺が頷くと、微笑んでいるアロイス村長と、エイルマー。
﹁では、此処からは価格の話をしましょうか。葵殿は、幾らでそち
らの品物を売ってくださるのですか?﹂
アロイス村長が少し慎重に言う。流石に価格の話になると、慎重に
なるよね。俺は考えていた価格を提示する。
381
﹁鉄製の農具16点で、金貨2枚と銀貨55枚。黒鉄の鏃が100
0個で金貨4枚。塩が、小麻袋で100袋で金貨4枚、合計、金貨
10枚と銀貨55枚で、どうでしょうか?﹂
俺の提示した価格に、アロイス村長とエイルマーは顔を見合わせて、
困惑している。そして、暫く2人は考えて、
﹁葵殿⋮その⋮もう少し⋮なんとかなりませんかの?﹂
アロイス村長が困った顔で俺を見る。その返答を予想していたので
説明をする事にした。
﹁⋮ここ最近は、この辺も物騒ですしね。此処に来ていた行商人の
エドモンさんもあの様な目にあってしまっています。その様な事が
あれば、此処に来る行商人も、さらに少なくなるでしょう。ですか
ら、この価格はそう言った意味で、適性だと思いますが?﹂
この村は、もともと行商人の来る事の少ない村だ。そんな村に向か
う行商人が、手練の野盗に襲われて、無残に殺され、略奪されてい
るのだ。そんな手練の野盗が出る所など、避けたいと思うのが普通
であろう。
しかも、この村はそこまで利益の上がる様な所ではない。利益の上
がりにくい、尚且つ危険となれば、増々行商人は来ない。つまり、
俺が今年最初で最後の、行商人になる可能性もあるのだ。
考え込んでいるアロイス村長とエイルマー。
﹁やはり⋮そうなりますよの。⋮危険なのは解っておりますが、本
当にこれ以上は無理ですかの?﹂
﹁危険度を考えると無理ですね⋮⋮と、言いたい所なんですけど、
僕達はアロイス村長にも助けて貰ってますし、それに⋮﹂
俺はマルガを見ると、マルガはニコっと微笑んでいた。
382
﹁マルガはこの村が好き?またこの村に来たい?﹂
﹁ハイ!この村の人も優しいですし、食べ物も美味しいですから、
また来たいです!﹂
ニコニコと微笑みながら言うマルガ。
﹁こんな感じで、マルガもこの村を気に入っているみたいなんで、
僕としても、エドモンさんの代わりではありませんが、またこの村
に行商させて貰う事を考えて⋮鉄製の農具16点で、金貨1枚と銀
貨35枚。黒鉄の鏃が1000個で、金貨2枚と銀貨50枚、塩が、
小麻袋で100袋で、金貨2枚と銀貨50枚、合計、金貨6枚と銀
貨35枚でどうですか?﹂
その価格を聞いたアロイス村長とエイルマーは表情を明るくする。
﹁ええ!その価格なら、此方からお願いしたい位です!﹂
﹁では、価格はそれで行きましょう。金貨3枚は払って頂けると言
う事なので、残り金貨3枚と銀貨35枚分を、現物で頂くと言う事
で言いですか?﹂
﹁ええ!それでお願いします葵殿﹂
笑顔で答えるアロイス村長。
﹁では葵様、どの品をどれ位ほしいのですかな?﹂
﹁そうですね⋮鹿の角が金貨1枚分、熊と鹿の毛皮も金貨1枚分、
熊と鹿の塩漬け肉が銀貨55枚分、春の山菜も銀貨40枚分、蜂蜜
が銀貨40枚分って所でしょうか﹂
﹁解りました。此処からは私が説明しますね﹂
そう言ってエイルマーが、羊皮紙を何冊かテーブルの上に出した。
どうやら在庫表の様だ。
﹁まずは⋮鹿の角ですが、金貨1枚分だと、大人の鹿の角で17本
383
と半分、熊と鹿の毛皮は金貨1枚分で、熊が5枚、鹿が10枚、熊
と鹿の塩漬けの肉は、塩漬け樽込の小樽で、銀貨55枚分だと、熊
が5樽、鹿が10樽、蜂蜜も小樽で、銀貨40枚分だと10樽、山
菜は、中樽で7樽⋮こんな感じですね﹂
説明を終えるエイルマー。
フムフム⋮。この価格は⋮俺にとっては、お買い得な価格だね。若
干安く設定されている所が良い。この価格なら問題は無いと判断し
た。
﹁価格はそれで結構です。しかし、一発でこの価格を提示してくる
とは思いませんでしたけど﹂
苦笑いの俺の言葉に、得意げな顔でエイルマーは
﹁ええ!葵さんが、良い価格で売って下さったので、此方も、此れ
からの事を考えて、そうさせて頂きました。出来れば長いお付き合
いをさせて頂ければと、思いましたので﹂
そう言って微笑むエイルマー
﹁此方こそ、宜しくお願いします﹂
俺とエイルマーは笑顔で握手を交わす
﹁あ!葵さん。山菜だけは、何時も採りたてしか置いてませんので、
明日1日待ってくださいね。村の手の開いている者で、集めさせま
すので﹂
﹁ええ。かまいませんよ。一応明後日まで滞在しようと、思ってい
たので﹂
俺は笑顔で承諾する。
﹁それじゃ∼商談も終わった事じゃし、もうお昼じゃ。昼食を食べ
ましょう﹂
384
そう言ってアロイス村長が、手をパンパンと叩くと、孫娘のリアー
ヌと村の女の人が料理を持って現れた。テーブルの上は、次々と美
味しそうな料理が、並べられていく。料理の美味しそうな匂いに、
約一名は、過剰に反応していた。
﹁ご主人様∼美味しそうです∼﹂
口から涎が出そうになっているマルガは、獲物に飛びつく前のネコ
の様に、尻尾をフリフリしていた。
﹁おお!そんなに楽しみにしてるのに、待たせてははイカンの!さ
さ!食べてくだされ!﹂
その声を聞いたマルガは、とても嬉しそうに、ナイフとフォークを
チャキーンとさせて
﹁頂きます∼∼∼!!﹂
ものすごい勢いで料理を頬張るマルガに、一同が笑う。俺達は楽し
く昼食を過ごしていた。
昼食を楽しく済ませ、休憩もした事なので、先ほどの商談で決まっ
た、俺の荷馬車の積み荷を、村に納品する事にした。アロイス村長
は、孫のエイルマーに後の事を一任した様で、エイルマーの指示の
元、村人数人がエイルマーを手伝いに来ていた。
﹁エイルマーさん、それぞれの数はどうですか?﹂
﹁農具は数が少ないので、確認は終わりました。塩の小麻袋の方も、
もう少しで終わります。鏃の方は数が多いので、もう少し時間を下
385
さい﹂
俺とエイルマーがそんなやり取りをしていると、俺の傍にマルコが
やって来た。その顔は、何時もの穏やかな顔ではなかった。
﹁マルコどうしたの?そんな思いつめた様な顔して﹂
俺の問に、マルコは何かの覚悟を決めた様な顔で
﹁葵兄ちゃん!オイラを、葵兄ちゃんの弟子にしてくれ!﹂
﹁弟子だって!?﹂
突然そう言うマルコに、驚いているのは俺だけではない。エイルマ
ーや手伝いに来ている村人、そして俺の傍にいるマルガも、一様に
マルコの言葉に驚いていた。
﹁なに突然そんな事言ってるんだ?葵さんが迷惑だろ?お前はまだ
11歳じゃないか。成人もしていないのに、葵さんに弟子入りして、
付いて行こうって言うのか!?﹂
エイルマーのその言葉に、キッと目をきつくして
﹁エイルマーさんは黙ってて!オイラは葵兄ちゃんと話しをしてる
んだから!﹂
マルコのその剣幕に、たじろくエイルマー。とりあえず、訳でも聞
いてみよう。
﹁⋮なんで俺に弟子入りしたいの?﹂
﹁だって、葵兄ちゃんてさ、その歳でもうしっかりしてるしさ!﹂
そりゃー俺は見た目16歳だけど、中身は20歳って言う、年齢詐
称疑惑のあるアイドルと同列だからね!
﹁理由はそれだけなの?﹂
﹁ううん!葵兄ちゃんは優しそうだし!さっきの取引でもそうだっ
386
たし、マルガ姉ちゃんにもそうだし﹂
俺は優しくないな∼。さっきの取引も、本当は最初の値段で売るつ
もりだった。当初はこの村では一時的に利益を挙げれれば良いと思
ってた。しかし、助けて貰ったのは確かだし、アロイス村長やエイ
ルマーが仕切るこの村に恩を売っておけば、小さいながらも良好な
取引が出来るし、今後の事を考えて、良好な関係を築ける所があっ
た方が良いと思っただけだ。優しさからではない。商売上の利益の
為だ。
マルガに優しいのは⋮大好きだからさ!言わせんな⋮恥ずかしい!
って感じなのです!
﹁う∼ん⋮他の理由は無いの?﹂
﹁あるよ!一番の理由はね、ビビビって感じたんだ!﹂
﹁ビビビ!?﹂
﹁うん!ビビビだよ!理由は解らないけど、葵兄ちゃんに弟子入り
して、付いて行きたいって思ったんだ!﹂
自信一杯に言うマルコ。
ビビビって感じたって⋮俺は何か電波を出してますか?え!?出し
てそう?電波な青年か⋮ううう⋮
﹁それってさ⋮ただの勘じゃないの?﹂
﹁そうだよ!勘だよ!昔さ行商人のエドモンさんが言ってたんだ!
行商人にとって、直感は大切だって!﹂
ドヤ顔で言うマルコは、自信に満ち溢れていた。
オオウ⋮此処でエドモンさんか。エドモンさん⋮貴方なんて言う置
き土産を、残してくれるんですか⋮
﹁勘ってさ⋮もっと納得の出来る理由は無いの?﹂
俺が呆れながら、軽く溜め息を吐くと、
387
﹁だって、そう思ったんだからしょうがないだろ!理由なんか知ら
ない!でも、そう思った直感ってやつを信じたいんだ!﹂
マルコは真剣な目でそう言う。その目にはゆるぎは無かった。そん
なマルコに困惑していると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。振
り返ると、リーゼロッテが可笑しそうに笑っていた。
﹁リーゼロッテさん⋮ど⋮どうしたんですか?﹂
﹁いえ⋮マルコさんが言った様な事を、以前私に言った人が居まし
てね。似ているなと思ったら、可笑しくて﹂
⋮ああ⋮居ましたね⋮そんな奴。リーゼロッテもこんな気持ちだっ
たのか⋮オラ恥ずかしい!
しかし⋮ムウウ⋮直感ね⋮
﹁と⋮とりあえず、直感の話はおいといて、マルコは行商の事は聞
いただけで、詳しく知らないでしょ?﹂
﹁だから葵兄ちゃんに弟子入りして、色々覚えたいんじゃないか!
何もしないままなら、全然覚えられないよ!﹂
うん、そうだね。子供に正論を説かれてしまったね!さて⋮どうし
たものか⋮
俺がそう考えていると、マルコは
﹁葵兄ちゃんに、見て欲しい事があるんだ!此方に来て!﹂
そう言って俺の手を引っ張って、連れて行こうとするマルコ
﹁こ⋮こら!葵さんを連れて行くな!まだ商品の確認中なんだぞ!﹂
エイルマーがそう告げるが、言う事を聞きそうにないマルコは、グ
イグイと俺を引っ張っていく
﹁エイルマーさん商品の方はお任せします。すぐに戻って来ますか
ら﹂
388
そう苦笑いしながら俺が言うと、呆れながら笑っているエイルマー。
俺はマルコに引っ張られながら、村の傍の林まで連れて来られた。
俺の後ろからひょこひょこ付いて来たマルガも、辺りを見回してい
る。
﹁こんな所に連れて来て、どうしようって言うの?﹂
俺の問に、指をさしながらマルコは
﹁あの木を見て!﹂
マルコがさした木を見ると、何かの的がついた木が見える。それを
俺が確認したのを見たマルコは、俺の手に、何かを渡す
﹁これって⋮釘かな?﹂
俺の手に渡された物は、長さ5cm位の短い釘だった。
﹁葵兄ちゃん。それを、彼処の的めがげて投げてみてよ﹂
﹁こ⋮この釘を⋮あの的に!?﹂
俺は少し戸惑った。此処からあの木迄は、恐らく40m近くある。
その木に付いている、小さな的に当てるのも、投擲スキルを持って
いない俺には難しいし、何より、俺が手に持っているのは、5cm
のただの釘だ。投擲用の投げやすい物ではない。そんな困っている
俺を見てニヤッと笑うマルコは
﹁どうしたの葵兄ちゃん?出来無いの?﹂
マルコは冷やかす様に俺を見る。
ムウウ!子供にここまで言われたら、やるしか無い!大人の威厳を
保つためにも!
俺は釘を一本握り、ゆっくりと構える。そして集中して、釘を的め
がけて投げ放つ。
389
﹁コン!﹂
俺の投げた釘は、的の外の方を辛うじて射ていた。
﹁ご主人様すごいです∼!﹂
マルガはパチパチと俺に拍手している。
やっぱり?投擲スキルも持って無いのに当てちゃったからね!やっ
ぱり俺は⋮やれば出来る子!
まあ⋮当たったのはマグレだけどね!もう一回やって当てれる自信
はありません!
でも、兎に角当たったのだ!これで大人のメンツは守られたはず!
俺がそう思って安堵していると
﹁へ∼流石葵兄ちゃん!俺がビビビと感じただけの事はあるね!﹂
マルコは嬉しそうに言う。
マルコよ⋮兎に角ビビビはやめてくれ。電波は出してないつもりだ
から!
﹁じゃ∼今度はオイラの番だね!﹂
そう言って、軽い感じで構えるマルコ。その次の瞬間、
﹁コンコン!﹂
2つの音がする。的を見ると、2つの釘が、的の中心近くに刺さっ
ている。俺とマルガは目を丸くしながら
﹁今の2本投げたよね?しかも両手で同時に﹂
驚きながら俺が言うと、ヘヘヘと笑い得意げな顔で
﹁うん!オイラ両方の手で投げれるんだ!一杯練習したからね!で
もね、これだけじゃないんだよ!見てて!葵兄ちゃん!﹂
そう言ったマルコは、軽いステップを踏む。
390
﹁ハ!!!﹂
マルコは横に飛びながら、釘を的に投げつける。その釘はコン!と
音をさせて、的の中心近くを射抜く。
マルコは次々と的にめがけて投げていく。しかも、横に跳んだり、
転がりながら投げたり、走りながら投げたりと、動きのある中で、
正確に的を射抜いていく。
その光景に、俺もマルガも目を丸くして見るしか無かった。
﹁どう!葵兄ちゃん!なかなかのもんでしょ!﹂
マルコは得意げな顔で、俺に微笑みかける。
﹃オイオイ⋮この投擲⋮十分に戦闘に使えるレベルのものじゃない
か!?﹄
思わず心の中で呟いた俺。俺達は的のある木迄、近寄って行く。マ
ルコの投げた釘は、一本も外れる事無く、ほぼ的の中心を射抜いて
いた。俺は刺さっている釘を一本引き抜く。そして、その釘をじっ
くりと見る。
﹃こんな投擲用でもない、投げにくい釘を、此処まで投げれるなん
て⋮うん?この釘⋮﹄
俺が釘を見て何かに気が付いたのを、マルコも気が付いた様で
﹁その釘さ、家を建てる時とかに使う、長い釘だったんだけど、練
習している内に短くなっちゃってさ﹂
家を建てる時に使う長釘は、20cm近くある。それが、こんなに
短くなるまで⋮
俺は霊視で、マルコを見る。そしてビックリしてしまった。
﹃LVは1で、戦闘職業にも就いていないけど、投擲術がLV25
391
って!11歳でこれは高すぎでしょ!﹄
思わず心のなかでツッコんでしまった。
﹁マルコは誰に、投擲術を習ったの?﹂
﹁オイラ5歳の時に、行商人のエドモンさんから習ったんだ!それ
から今迄、ずっと練習してたんだ!﹂
そう言えば、行商人のエドモンさんは、軽業をメインとして戦う戦
闘職業のスカウトだったっけ。
きっと⋮5歳の時から、ずっと練習していたんだろう。じゃないと
此処までスキルLVは上がらない。その努力の影が、短くなった釘
から見て取れる。
﹁葵兄ちゃん!オイラちっちゃい頃からずっと行商人になる為に頑
張って来たんだ!だからお願い!オイラを弟子にしてくれ!いや!
して下さい!お願い葵兄ちゃん!﹂
そう言って頭を下げるマルコ。それを見ていたマルガは、なんとも
言えない顔で俺を見ていた。
﹁⋮マルコは本当に凄いよ。なりたい一心でここまで頑張ったんだ
ね﹂
マルコは11歳。俺が11歳の頃なんか、家で教えていた古武術は
練習していたけど、ゲームやらテレビ、他の遊びも沢山やって遊ん
でいたし、何になりたいかなんて、まったく考えても居なかった。
今も行商人をしてはいるが、マルコほどの目標を持ってやっている
訳ではない。
本当に凄いと思うよマルコ⋮でも⋮
俺がそんな事を考えていたら
﹁じゃ!俺を弟子にしてくれる!?﹂
﹁⋮それは出来無いな﹂
392
﹁な⋮なんでなの!?﹂
マルコは必死に俺の腕を掴みながら言う。
﹁理由はね⋮俺は今、マルコを弟子にする理由が無い。俺も商売人
だ。利益の上がる事を優先させたい。今はマルガもいるし、手は間
に合っている。無駄に経費をかけて、利益を減らす事は無いだろ?
マルコは凄い投擲術を持っているけど、それだけじゃ、俺の利益に
見合うかどうかは、疑問だね﹂
俺の話に、下を向いて俯くマルコ。そんなマルコを、悲しそうに見
つめるマルガ。そして、俺の方を見て、例のおねだりするような眼
で俺を見る。
ううう⋮マルガにその眼をされると⋮ツライ⋮
﹁ご主人様⋮どうしても⋮ダメなのですか⋮?﹂
マルガはきっとマルコがいっぱい頑張って来た事を感じているのだ
ろう。
俺の懐柔には届かなかったけど、マルガの懐柔には成功していた様
だ。マルガの目がウルウルしている。
﹁マルガ姉ちゃん⋮﹂
2人は瞳をウルウルさせながら、俺を見ている。
なにこれ⋮なんか俺悪者みたいじゃね?なんか追い込まれてる様な
気が⋮ムウウ⋮ど⋮どうしよう⋮そ⋮そうだ!
﹁じゃ∼一つ条件を出そう﹂
その言葉に、マルガもマルコも表情を明るくさせる。
﹁なんなの!その条件って!﹂
﹁簡単な事さ、マルコの両親の許可を得られれば、一緒に連れって
ってやるよ﹂
393
﹁ほ⋮ほんと!?父さんと、母さんから許可をもらったら、弟子に
してくれる?﹂
マルコの瞳は真剣そのものだった。
﹁うん。約束する。許可が貰えれば弟子と言うか、一緒に連れて行
くよ﹂
その言葉に、瞳を輝かせるマルコ
﹁解った!約束だよ!今から父さんと、母さんに許可を貰ってくる
!﹂
そう言ってマルコはピュ∼っと、家に向かって走って行った。そん
なマルコを嬉しそうに見つめるマルガ。
﹁ご主人様⋮ありがとうございます!﹂
嬉しそうに俺に言うマルガ
﹁⋮まだ、お礼を言うのには早いよ﹂
﹁どういう事ですか?﹂
マルガは可愛い首を傾げて言う
﹁ま⋮家に行ってみたら解るよ﹂
そういって苦笑いをする俺。俺とマルガは、ゲイツ夫妻の家に向か
う。そして、近くまで来た時に、扉がバタンと開いて、マルコは泣
きながら走り去ってしまった。
﹁やっぱりね⋮両親の許可が貰えなかったんだね﹂
その言葉を聞いて、ムウウと言った感じで俺を見るマルガ
﹁ご主人様⋮こうなる事が解っていたんですね!﹂
ギクっとなっている俺を、ちょっと頬を膨らませながら、少しご立
394
腹のマルガちゃん。
俺が苦笑いしていると、マルコが走り去った方を寂しそうに見なが
ら、
﹁私⋮ちょっとマルコちゃんの事見てきます。良いですかご主人様
?﹂
﹁⋮いいよ。但し、この村からは出ないようにね。⋮行ってらっし
ゃい﹂
俺がそう言うと、マルガはニコっと微笑み、マルコが走り去った後
を追いかけて、テテテと走りだした。
﹁葵さんも色々大変ですね﹂
後ろから声を掛けられた。振り向くとリーゼロッテがクスっと微笑
みながら立っていた。
リーゼロッテの言葉に苦笑いしていると
﹁朝に約束していた、アロイージオ様との面会の許可が出たわ。今
からだけど、どうします?﹂
﹁マルガはマルコの所だから、俺だけ行く事にします。その前にエ
イルマーさんに、納品した積み荷の事だけ確かめさせて下さい﹂
俺とリーゼロッテは、エイルマーのもとに向かい確認した後、アロ
イージオに面会する為に、滞在しているテントに向かって歩き出し
た。
村の広場には、モンランベール伯爵家の大きなテントが、幾つか張
られている。その中で一番立派なテントの前に来た。テントの入口
395
には、兵士が4人警護しており、テントの周りも沢山の兵士が警護
していた。その入口の兵士にリーゼロッテが
﹁アロイージオ様に面会予定の、行商人の葵様を連れて来ました。
アロイージオ様にお取次ぎを願います﹂
﹁解りました。暫くお待ち下さい﹂
そう言って兵士はテントの中に入って行く。暫く待っていると、兵
士がテントから出て来た。
﹁さ、どうぞお入り下さい。アロイージオ様が、中でお待ちです﹂
俺とリーゼロッテがテントの中に入ると、豪華な鎧や剣が飾る様に
置いてあり、床には綺麗な絨毯が敷かれている。その奥の中央に、
豪華なソファーに腰をかけている人物がいる。その横には、昨日の
ハーラルトが、顰めっ面で俺達を見ていた。リーゼロッテが俺をソ
ファーに座っている人物の元に連れて行く。
﹁アロイージオ様、此方がお話しした行商人の葵様です﹂
﹁ど⋮どうも!初めましてアロイージオ様。行商人をしている葵
空と言います﹂
そう言って頭を下げると、ハハハと笑うアロイージオ
﹁いいよいいよ。そんなに仰々しくしなくても。僕の事は知ってい
るかもしれないが、一応自己紹介しておくよ。フィンラルディア王
国、モンランベール伯爵家の三男、アロイージオ・イレール・オラ
ース・モンランベールだ。よろしく葵殿﹂
そう言って微笑むアロイージオ。茶色の髪に、茶色の瞳。切れ長だ
が優しそうな綺麗な顔。年頃は、20歳前半。座っているから解ら
ないが、恐らく身長も180cm位あるだろう。はっきり言って美
青年だ。
女性からみたら、まず放っておかないタイプだ。エイルマーも男前
396
だけど、アロイージオには勝てないな。
当然俺なんかは、蚊帳の外!って感じだけどね!貴族で、美男子と
か⋮神様は本当不公平だよね!
俺がそんなくだらない事を考えていると、アロイージオが
﹁昨日は済まなかったね。ハーラルトが君の事を疑ってしまった様
で。このハーラルトは真面目なんで、職務に忠実に行動しただけな
んだよ。悪く思わないでやってくれたまえ﹂
そう言って微笑むアロイージオ。
真面目で、職務に忠実ねえ⋮チラっとハーラルトを見ると、きつい
目で俺を見ていた。
﹁まあ君の事は、アロイス村長や、副村長のエイルマー殿、リーゼ
ロッテさんから聞いているよ。君が悪い人ではないのは解ってるか
ら、ら安心してくれたまえ﹂
微笑むアロイージオに、若干、安堵する。アロイス村長やリーゼロ
ッテが言う様に、どうやらややこしい感じの人ではなさそうだ。
﹁君も取引が上手く行ったみたいで良かったね。アロイス村長やエ
イルマー殿は、良い人なので、これからも良い取引が出来ると、思
うしね﹂
﹁ええ!此れからも懇意にさせて頂こうと、思っています。アロイ
ージオ様もこの村をお気に入られたと、聞きましたし﹂
﹁ああ!僕は、王都ラーゼンシュルトや、港町パージロレンツォ、
そして、モンランベール伯爵家の領地である、工業都市ポルトヴェ
ネレみたいな、人の多い街が苦手でね。このイケンジリの村の様に、
長閑でゆったりしている所が好きなんだ。こんな感じの所で、花と
か愛でながら過ごすのが、夢なんだよ﹂
そう言って微笑む、美男子アロイージオ。
そうですか⋮花ですか⋮美男子には似合いそうですね∼。
397
﹁はあ∼明日には、この村を発って、ゴミゴミした港町パージロレ
ンツォに、行かなきゃならないと思うと、気が滅入るよ。誰か変わ
ってくれないかな∼。僕はもう暫く、この村に居たいよ﹂
溜め息を吐きながら言うアロイージオに、ハーラルトが
﹁アロイージオ様!今回の任務はご公務ですぞ!滅多な事を言うも
のではないかと、思われますぞ!﹂
ハーラルトが少し顔を顰めて言う。
おおう⋮ハーラルト⋮まともな事も言えるのか⋮ま、腐っても騎士
団の分隊の隊長だしね。
﹁解ってるよハーラルト。だから明日出発するだろう?は∼僕の安
住の地は何処にあるんだろう⋮僕は美味しい食べ物と、美しい女性、
綺麗な花華に囲まれていたいだけなのにね∼﹂
ちょっと何処か遠くを見つめるアロイージオ。
何気に贅沢な事を言っているな。そんな事よっぽど努力して勝ち得
ないと無理だっての。
この人⋮見た目も美男子だし、人は悪くないけど⋮箱入り娘ならぬ、
箱入り男の様な感じがする⋮
きっと、大貴族の六貴族の内の一つに生まれ、何不自由なく暮らし
てきたんだろうな∼。羨ましい⋮
俺がその様な疑惑を思い、何気にリーゼロッテの方に視線を向ける
と、ササっと視線を躱すリーゼロッテ。
やっぱりか⋮とりあえずこれ以上、甘えん坊の美男子の三男と話を
しても、利益は上がらなさそうだな。
つけ込むにしても、傍にハーラルトがいるし、無理っぽい⋮この辺
で切り上げるか。
398
﹁折角お時間を作って頂いたのですが、アロイージオ様の時間を、
これ以上私ごときに使って頂くのも恐縮ですし、私の連れ合いも心
配するでしょうから、私はこの辺で御暇させて頂きます﹂
そう言って、微笑みながらお辞儀をする俺に
﹁そうか⋮僕は構わないが、連れ合いの方が心配されては困まるね。
色々行商の話を聞きたかった所ではあるが、また次回の機会にしよ
う﹂
アロイージオはそう言って微笑む。挨拶も終わって、アロイージオ
のテントから出ると
﹁アロイージオ様は、良い人だったでしょう?﹂
そう言って意味有りげに微笑むリーゼロッテ
﹁そうだね∼。良い人ではあったね﹂
俺の苦笑いに、クスクスと笑うリーゼロッテ。その時、後ろから声
を掛けられた。
﹁葵さん。少し宜しいですか?﹂
声のする方に振り返ると、アロイス村長の孫で、エイルマーの弟で
あるハンスが立っていた。
﹁葵さんに折り入ってお話があるのですが、お時間を頂けませんか
?﹂
にこやかに微笑むハンス。最初のきつかった印象とはまるで違う感
じに戸惑ってしまった。
﹁ええ、構いませんよ。えっと⋮どこで、お話しします?﹂
﹁では、ゲイツさんの、葵さんが宿泊している部屋で、宜しいです
か?﹂
399
﹁ええ⋮構いませんよ﹂
俺の肯定の言葉に、ニコっと微笑むハンス。
﹁では、私は、マルガさんでも探しに行って見ますね﹂
﹁あ!お願い出来るリーゼロッテ?﹂
俺はリーゼロッテにマルガの事を任せ、ハンスと一緒にゲイツの家
に帰って来た。
﹁私はメアリーさんに、紅茶を貰って来ますので、葵さんは、部屋
でお待ち下さい﹂
俺はハンスに促されて、部屋まで戻って来た。暫く待っていると、
ハンスが紅茶を2つ持って、部屋に入って来た。紅茶をテーブルに
置き
﹁すいませんね葵さん。わざわざ時間を作って頂いて﹂
﹁いえ、それは構いませんが、折り入ってお話とは、何ですか?﹂
すこぶる気になる。初めがあれだけに特に⋮
ハンスは気持ちを落ち着かせて
﹁いえ⋮さっき祖父と兄のエイルマーから、商談の話を聞きました。
良くして頂いたと、祖父も兄も感謝していました。それで⋮初めて
会った時に、酷い事を言った事を、謝罪したくて⋮葵さん⋮すいま
せんでした⋮﹂
そう言って、深々と頭を下げるハンス
﹁いや⋮もういいですから、頭を上げて下さい﹂
俺はハンスの頭を、元に戻させる。申し訳なさそうな顔をするハンス
﹁私は⋮この村を何としても守りたいんです。ですから⋮この村を
守る為なら⋮なんでもします。葵さんにはご迷惑をお掛けしました
400
けど⋮﹂
そう言って苦笑いするハンス
﹁いえ⋮大切な物を守りたい気持ちは、良く解りますよ。僕だって
そうですからね﹂
そういう事か⋮ハンスの気持ちは良く解る。ある意味俺に一番似て
いるのかもしれない。
初めにあんな事を言われたのは、同族嫌悪されていたのかもしれな
いね。
﹁そう言って貰えるとありがたいです。ささ!せっかくの紅茶が冷
めてしまいます。メアリーさんが、折角葵さんにと、入れてくれた
ものですし﹂
微笑むハンスに、俺も自然に笑みが浮かぶ
﹁そうですね!では冷めない内に頂きます!﹂
俺は紅茶を頂く。本当に此処の紅茶は、なかなか美味しい。
﹁この村の紅茶は美味しいですね﹂
微笑みながら言う俺に
﹁ええ。皆紅茶が好きですからね。作るのも力が入っているのでし
ょう﹂
そう言って微笑むハンスの顔が⋮徐々に⋮ダブって⋮あれ⋮?
俺はそのままテーブルに、頭をあずけて眠ってしまう。
﹁⋮悪いね⋮﹂
ハンスは険しい顔でそう言うと、ベッドに俺を寝かせて、部屋から
出ていく。
401
眠っている俺は、これから起きる事を、知る由もなかった。
402
愚者の狂想曲 12 モンランベール伯爵家一行全滅! 攫われ
たマルガ
﹁ほらもう泣き止んでマルコちゃん﹂
﹁だって!父さんや母さんは、一方的に駄目だって言って、オイラ
の話を全く聞いてくれないんだもん!﹂
マルコは瞳から、悔し涙を流しながら、肩を震わせている。マルガ
はマルコの頭を優しく撫でながら、
﹁それは、ギルスさんもメアリーさんも、マルコちゃんの事が心配
なのですよ﹂
﹁そ⋮それは解ってるけどさ⋮でも⋮オイラは行商人になりたいん
だ!﹂
﹁⋮まだ、ご主人様と私はこの村に居ますから、その間にじっくり
とお話してみると、良いですよ﹂
マルガは微笑みながら言うと、マルコは泣きながらコクっと頷く。
﹁こんな所にいらっしゃったのですね﹂
その声にマルガとマルコが振り向くと、リーゼロッテが微笑みなが
ら立っていた。
﹁そろそろ夕刻になります。一度家迄帰りましょう﹂
リーゼロッテの言葉に、マルガもマルコも頷いて、3人はゲイツの
家に戻る事にした。
ゲイツの家迄戻って来たら、家の前でハンスが立っていた。
﹁あらハンス様。もう葵さんとお話は終わったのですか?﹂
﹁ええ。終わりました。ま⋮話といっても、私が最初会った時の事
を、謝罪させて頂いただけなんですけどね。祖父やエイルマー兄さ
403
んの言う通り、葵さんは良き行商人でした。笑って許して頂けまし
た﹂
リーゼロッテにそう言って、微笑むハンス。そんなハンスに微笑み
ながらリーゼロッテは
﹁それは良かったですね﹂
﹁ええ!⋮マルガさんにも、嫌な思いをさせて、申し訳無いと思っ
ています﹂
ハンスはマルガに頭を下げる。マルガは少し慌てながら
﹁いえ!私も気にしていませんから!此れからもよろしくですハン
スさん!﹂
マルガは嬉しそうにハンスに言うと、ハンスは微笑みながら
﹁そう言って貰えるとありがたいです。良き行商人様とは、懇意に
させて頂きたいですしね﹂
ハンスのその言葉に、嬉しそうな顔をするマルガ。そんなやり取り
を見守っていたリーゼロッテが
﹁マルガさんも良かったですね。では、家に入りましょうか﹂
﹁ああ!言い忘れてました。葵さんは少しお疲れの様で、寝かせて
欲しいとの事です。今はベッドでお休になられています。夕食は部
屋のテーブルに置いておいて欲しいと言ってました﹂
﹁そうですか、葵さんも色々大変そうですし⋮﹂
そう言ってリーゼロッテがマルガとマルコを見ると、気まずそうに
顔を見合わせて、苦笑いしているマルガとマルコ。
﹁それから私が此処で待っていたのは、マルガさんに少し手伝って
頂きたい事が、有ったからなんですよ﹂
﹁私にですか?﹂
404
マルガは可愛い首を傾げて、ハンスに言う
﹁ええ。葵さんの許可も頂きました。ま∼手伝いと言っても、夕食
迄ですので、すぐに終わります﹂
﹁そうですか。ご主人様の許可が有るなら、私は大丈夫です。それ
で、どんな事をすれば良いのですか?﹂
マルガはニコっと笑ってハンスに言うと、
﹁手伝いの内容は、歩きながらでもお話ししますね。私について来
て下さい﹂
﹁解りましたです!では行きましょうハンスさん!﹂
マルガは元気に言うと、ハンスの後について行き、リーゼロッテと
マルコは家の中に入っていく。
マルコは、まだギルスとメアリーに話をするのは嫌だったらしく、
ピュ∼っと自分の部屋に帰って行った。リーゼロッテは、ギルスと
メアリーに挨拶をして、自分の部屋に帰ろうとした時に、葵の事が
気になったので、部屋に立ち寄る事にした。
﹁コンコン。葵さん⋮お身体は大丈夫ですか?﹂
扉の前でノックして、そう告げるが返事は帰って来ない。リーゼロ
ッテは、そっと扉を開けて部屋の中に入る。すると、ベッドで気持
ち良さそうに、寝息を立てる葵が目に入った。
﹁あらあら⋮靴を履きっぱなしで寝るなんて⋮よっぽど眠たかった
のかしら⋮﹂
リーゼロッテは、葵の靴を脱がすと、ベッドの下にきちんと並べて
置いた。そして、きちんと布団を葵にかけるリーゼロッテ。
﹁⋮意外と寝顔も可愛いのですね。元々、童顔だからかしら?⋮フ
フフ⋮気持ち良さそうに寝ちゃって⋮﹂
405
葵の寝顔を見ながら微笑むリーゼロッテ。ゆっくりと優しく、葵の
顔を撫でる。
﹁そんなに⋮無防備で寝ていると⋮悪戯されちゃいますよ?葵さん
⋮﹂
ゆっくりと、葵の顔に近づいてゆく。優しく葵の頬を撫でながら、
額に唇を持って行き、そっとキスをする
﹁⋮私ったら⋮何をしてるんでしょう⋮。こんな事をしても⋮何も
変わらないのに⋮﹂
リーゼロッテは少しギュっと拳を握る。揺れる瞳で葵を見ながら、
﹁⋮私も夕食まで、部屋でゆっくりさせて貰いましょう⋮。葵さん
⋮ゆっくり休んでくださいね﹂
葵の頬を優しく撫でながら言うと、踵を返して、自分の部屋に戻っ
て行った。
マルガはハンスの後をついて行っている。マルガの肩には、甘えん
坊のルナが、チョンと乗っかって居た。
﹁所でハンスさん。私は何をしたら良いのですか?﹂
マルガは後ろを歩きながら言うと、ハンスが立ち止まり、マルガに
振り返って
﹁それはですね、明日、モンランベール伯爵家御一行様が、この村
を出立されるのはご存知ですよね?﹂
406
﹁はい!知ってます。明日出立して、港町パージロレンツォに、向
かわれるんですよね?﹂
﹁そうです。それで、明日の別れに、この村で何か出来ないかなと
思いましてね。こっそり、何か贈り物的な物をと、思っているんで
すよ﹂
﹁わあ!それは良いですね!﹂
マルガは楽しそうに言うと、尻尾を軽く振っていた。
﹁ええ。ですから、何が良いか一緒に考えて、準備も手伝って欲し
いのですよ。マルガさんの他に、村の女性5人にも、お願いしてい
ます。他の5人も、私の話に賛同してくれています。ほら、彼処で
す﹂
そう言ってハンスが指さす方を、マルガが見ると、女性5人が楽し
げに話をしていた。
﹁じゃ∼皆さん待ってますので、行きましょうか﹂
﹁はい!ハンスさん!﹂
ハンスとマルガは、5人の女性の元に歩き出す。ハンスとマルガに
気が付いた女性の一人が
﹁あら!ハンスさん待ってましたわよ!今も皆で、何が良いか、話
をしていた所なのです﹂
楽しげに言う女性。マルガも好奇心から、ワクワクしていた。そん
な中、ハンスが懐から、一つの小瓶を懐から取り出した
﹁これは私が作った香水なんですよ。これも明日のお別れの時に、
アロイージオ様に献上しようと思っているのですが、初めて作った
物でしてね⋮出来の良さが解らないのです。なので、女性の方に、
出来栄えを評価して頂こうと思いましてね﹂
香水と聞いた女性達は色めき立ち、興味津々で小瓶を見ている。
407
﹁是非、その香水の香りを嗅いで見たいですわ!﹂
一人の女声がそう言うと、他の女性も頷いている。マルガも香水と
聞いて、尻尾を楽しげに揺らしていた。
﹁では皆さん。近くに集まって下さい﹂
ハンスのその言葉に、5人の女性とマルガは、小瓶の直ぐ側まで集
まる。
﹁蓋を開けるので、香水の香りを、目一杯嗅いでくださいね﹂
そう言ってハンスは小瓶の蓋を開ける。女性たちとマルガは、小瓶
から流れ出す香りを、目一杯吸い込んだ。その瞬間、5人の女性と
マルガは、パタパタと地面に倒れて行く。それを冷たい目で見つめ
るハンスは、何かの合図の様に、右手を高く上げる。暫くすると、
茂みから5人の男達が現れた。
﹁ハンス⋮上手くやるじゃねえか!﹂
男は卑猥に哂いながらそう言う。ハンスはキュっと唇を噛みながら、
﹁早く⋮連れて行け!見つかってしまうぞ!﹂
吐き捨てる様に言うハンスに、哂いながら
﹁ハハハ、そうしよう。⋮こいつが、行商人の連れている奴隷の亜
種か⋮こりゃ∼確かに絶品だな!ま⋮とりあえず⋮今日はこいつら
でお楽しみか⋮へへへ⋮﹂
ニヤッと笑う男達は、5人の女性とマルガを担ぎ、夜の茂みに消え
て行った。
﹁⋮すまん⋮﹂
ハンスはきつく拳を握り、村に帰って行くのであった。
408
﹁リーゼロッテ姉ちゃんどうだった?葵兄ちゃん起きそう?﹂
マルコの問に、軽く溜め息を吐いて、横に首を振りながら、
﹁ダメですね。完全に寝入ってしまっていますね。いくら起こして
も、起きませんでした﹂
呆れながら言うリーゼロッテに、一同が笑う。
﹁葵さんは良いとして、マルガさんはどうしたのですか?まだ帰っ
て来ていない様ですが⋮﹂
﹁ああ!マルガ姉ちゃんなら、今日は村長さんの所のリアーヌ姉ち
ゃんの所に泊まるんだって。なんでも、意気投合して、友達になっ
たとかって。ハンスさんがさっきそう伝えに来たよ。今頃女の子同
士で、盛り上がってるんじゃないの?﹂
笑いながらマルコが言うと、なるほどと言った感じのリーゼロッテ。
﹁とりあえず、食事が冷めちゃうから食べちゃおう。葵兄ちゃんに
は、テーブルに置いておけば良いんじゃない?﹂
マルコの言葉に、一同が頷く。食事をはじめるリーゼロッテ達。
食事を終えたリーゼロッテは、葵の分の食事をテーブルに起き、自
分の部屋に帰って来て居た。
寝衣に着替えベッドに入る。寝転がりながら、羊皮紙で張られた窓
に、視線を移す。月の灯りが、羊皮紙越しに、美しく映っていた。
﹁⋮いよいよ明日⋮この村を出立する⋮か。覚悟を決めて⋮此処ま
409
で来たはずなのに⋮どうしても⋮葵さんとマルガさんの顔が、頭か
ら離れない⋮葵さんの優しい瞳が⋮マルガさんの幸せそうな笑顔が
⋮﹂
リーゼロッテはそう呟くと、自分の体を抱く様に、キュっと小さく
なっていた。
﹁もう⋮寝ましょう⋮私には手の届かないものなのだから⋮﹂
リーゼロッテは瞳を揺らしながら、小さく呟くと、無理やり眠りに
つくのであった。
翌朝、準備の整った、モンランベール伯爵家一行は、イケンジリの
村を出立しようとしていた。
﹁何もおもてなしは出来ませんでしたが、また御用の際にはお立ち
寄り下さい。アロイージオ様﹂
アロイス村長は笑顔でそう言うと、
﹁ええ!また必ず寄らせて頂きますよ。私はこの村を気に入ってま
すのでね﹂
笑顔で答えるアロイージオ。その横で、リーゼロッテがキョロキョ
ロしながら立っていた。そこにマルコがやって来て
﹁駄目だ!やっぱり起きないよ葵兄ちゃん。何回も起こしたんだけ
ど、起きる気配無し!リーゼロッテ姉ちゃんの出立だって言うのに
⋮マルガ姉ちゃんも居ないし⋮何処に行ったんだろ⋮﹂
マルコが憤っていると、リーゼロッテが微笑みながら
﹁よっぽど疲れていたのかも知れませんね。マルガさんも、もう葵
さんの所に行っているかも知れません。マルコさんが2人に、よろ
しく伝えておいて下さい﹂
410
﹁解った!リーゼロッテ姉ちゃん元気でね!﹂
﹁マルコさんもお元気で﹂
2人は挨拶を交わす。皆がそれぞれに挨拶を終わらせて、いよいよ
出立の時が来た。沢山の豪華な馬車が列を作り、その周囲にラウテ
ッツァ紫彩騎士団、第5番隊の40名が警護につく。その先頭にい
るハーラルトが、声を高らかに叫ぶ
﹁それでは出立する!全体進め!﹂
その掛け声と共に、モンランベール伯爵家一行は移動を開始する。
モンランベール伯爵家一行は一路、港町パージロレンツォに向けて
進みだした。
イケンジリの村を出て、モンランベール伯爵家一行は、順調に街道
を進んでいた。
客分であるリーゼロッテは、アロイージオと一緒の馬車に乗ってい
る。何時もなら、和気藹々と話をしてくれるリーゼロッテが、窓の
外を見つめ、儚げな表情をしているのが気になるアロイージオ。
﹁どうなされました?イケンジリの村を出てから、浮かぬ顔をして
いますが⋮﹂
アロイージオはリーゼロッテにそう言って微笑む。
﹁え⋮すいません⋮アロイージオ様。私その様な顔をしていました
か?﹂
申し訳無さそうにリーゼロッテが言うと、フフフと笑いながらアロ
411
イージオが
﹁そうですね。心此処にあらずと、言う様な感じでしたね﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテは、気まずそうに
﹁すいません⋮少し考え事をしていたもので﹂
儚げにリーゼロッテが言うと、何か心当たりの有りそうなアロイー
ジオは
﹁ひょっとして⋮葵殿の事を考えていたのですかな?﹂
人の心理を読む事に長けていない、アロイージオからのまさかの言
葉に、思わず動揺してしまったリーゼロッテ。
﹁おや⋮本当に葵殿の事を、考えていらっしゃったのですね﹂
その言葉に、恥ずかしそうに俯くリーゼロッテ。その表情を見て、
意外そうな感じのでアロイージオは
﹁リーゼロッテさんみたいな美人が、葵殿の様な人を好みだとは、
思いもよりませんでしたね。確かに⋮黒い髪に黒い瞳と言うのは、
見た事の無い色と取り合わせですが⋮葵殿は⋮とりわけ顔立ちが良
いという感じでは無かった様な気が⋮﹂
葵の事を思い出して、顎に手をつけて考えていたアロイージオに、
目をキツくしてリーゼロッテは、
﹁そんな事はありません!葵さんは笑うと可愛いですし、優しい目
をしてくれもします!真剣な時は、その黒い瞳に吸い込まれそうに
なりますし、顔も童顔で可愛い感じですが、悪くはありません!そ
れに、葵さんの魅力は、そんな上辺だけのものじゃないと、思いま
す!﹂
一気に捲し立てる様に言うリーゼロッテに、茫然とするアロイージ
412
オ。そのアロイージオの表情を見て、自分が何を言ったのか、気が
付いたリーゼロッテは、アタフタと取り乱しながら
﹁す⋮すいませんアロイージオ様!い⋮今の言葉は⋮忘れて下さい
!﹂
気恥ずかしそうに頭を下げるリーゼロッテを見て、可笑しそうに笑
うアロイージオ
﹁ハハハ。いいのですよ。しかし⋮何時も冷静沈着なリーゼロッテ
さんが、その様に取り乱されるとは⋮葵殿の事が⋮好きなのですか
?﹂
その優しく語りかける様な、アロイージオの言葉に、少し顔を赤ら
め俯くリーゼロッテ。
﹁今日の出立の折には、体調不良で寝込まれていたらしいですが、
彼も港町パージロレンツォに向かうと、言っていました。すぐに逢
えるでしょう﹂
そう言って優しく微笑むアロイージオに、儚げな笑顔でしか返せな
かったリーゼロッテ。
﹁本当にそんな事になれれば⋮良かったのですけれど⋮﹂
聞こえ無い様な、微かな声で呟くリーゼロッテ。
そんな、モンランベール伯爵家一行を、少し離れた所から、身を隠
しながら眺めている者達がいた。
﹁ギルスのお頭、準備は出来ていやす。何時でもご命令くだせえ!﹂
右手にバトルアックスを持ち、バンディットメイルに身を包んだ男
が言う
413
﹁よし!奴等が例の場所まで来たら、カチュアが結界魔法陣を発動
させる。その後は一気に包囲して、やってしまえ。但し例の2人に
は手を出すなよ?無傷で捉えろよ?ベルント﹂
ギルスの言葉に、ニヤッと笑うベルント。
﹁へえ!解っていやすよ。奴等にも徹底させていやすから、大丈夫
でさ!﹂
そうやって、身を隠していると、モンランベール伯爵家一行が、そ
の場所に入った。
その瞬間、辺りに魔力が立ち込める。その魔力に、ラウテッツァ紫
彩騎士団、第5番隊、隊長のハーラルトが敏感に反応する
﹁なに!!魔力だと!?全員迎撃態勢をとれ!敵が近くにいるぞ!﹂
ハーラルトがそう叫ぶと、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の4
0人の兵士達が、馬車を守る様に陣形を組もうと、動こうとした。
だが、それは実行される事は無かった。
﹁もう遅いわ!パラライズフィールド!!!﹂
その女性の声が聞こえるやいなや、膨大な量の魔力が、モンランベ
ール伯爵家一行を包み込む。
﹁ぐああああ!!﹂
声を上げるラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達は、体が麻
痺して動けなくなってしまっていた。
﹁こ⋮こんな所に⋮け⋮結界魔法陣だと!?﹂
茫然自失気味に、叫ぶハーラルト。
次々に体を麻痺させて、動けなくなって行く、ラウテッツァ紫彩騎
士団、第5番隊の兵士達。
そんな動けないモンランベール伯爵家一行を、取り囲む集団が居た。
414
それぞれが武装している。その中で、唯一動けるハーラルトは、剣
を抜き、身構えていた。
そのハーラルトを見て、集団の中から男と女が前に出てきた。
﹁おいおい∼。一人動ける奴がいるじゃんかよ﹂
その声に、振り向くハーラルト。そこには、不敵に笑うギルスとカ
チュアが立っていた。
﹁恐らく⋮マジックアイテムを持っているのでしょう⋮状態異常を
防ぐ物を⋮﹂
﹁ヒュ∼。そんな物、金貨30枚は軽くする物だろ?流石ラウテッ
ツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長様ともなると、良いモン支給され
てんな∼。うらやましいぜ﹂
カチュアの言葉に、呆れながら言うギルス。その2人を見て、睨み
つけながらハーラルトが
﹁これは貴様らの仕業だな!フィンラルディア王国、モンランベー
ル伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団に、こんな事をして、どうなる
か解っておるのか!﹂
激しく言い立てるハーラルト。そのハーラルトを見て、小馬鹿にす
る様に笑うギルス。
﹁ハハハ!俺達をどうしてくれるって言うんだ?隊長さんよ∼﹂
﹁⋮すぐに解らせてやる!私を本気にさせた事を、後悔するのだな
!﹂
ギルスの言葉に、激昂しているハーラルトはそう叫ぶと、体全体に
力を入れ始める。すると、ハーラルトの体の周りに、淡黄色に光る、
オーラの様なものが現れる。
﹁ほお⋮気戦術の身体強化か⋮ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊
415
の隊長様なんだ⋮使えて当然か⋮﹂
気戦術⋮魔力の無い者が、唯一魔法を使える者や、強力な魔物と戦
う為の手段である。体内の気の力を増幅させ、身体の能力を上げた
り、攻撃力を上げたり出来る戦闘術である。習得には厳しい修行と、
才能が必要で、上級者でないと習得出来無いと言われている。
﹁気戦術の身体強化は、五感は勿論の事、身体のあらゆる力を何倍
にも強化出来る。初級者が中級者に勝つ事はあるが、初級者と中級
者が上級者に勝つ事は、余程兵力差が無いと有り得ぬ。結界魔法陣
で、騎士団の動きを封じた様だが、俺様を封じれなかったのが失敗
だったな!俺様なら、この様な野盗崩れ30人位など、一瞬で殲滅
してくれよう!﹂
ハーラルトはギルスを睨みつけて、そう言い放つ。
﹁⋮ギルス。私は結界魔法陣を発動中なので、戦えません。この隊
長さんはギルスにお任せしても、宜しいですか?﹂
﹁ああ!かまわねえよ?もとより俺が倒そうと思っていたからな。
カチュアは結界魔法陣に力を注いでくれ﹂
カチュアにそう告げると、ハーラルトの前に立つギルス。そして不
敵に笑い、
﹁隊長さんの相手は俺がしてやるよ!﹂
﹁⋮若造が調子に乗りおって!⋮まあ良い。貴様を倒して、そこの
女を殺せば、この忌々しい結界魔法陣は消えるであろう?ラウテッ
ツァ紫彩騎士団、第5番隊に手を出した事を⋮後悔させてやろう!﹂
﹁さて⋮そんなにうまく行くかな?﹂
ギルスが腰につけている剣を鞘から引き抜く。それに答える様に、
ハーラルトは身構える。
お互い睨み合っていたが、先に動いたのはハーラルトであった。も
の凄い速さで、一瞬で間合いを詰めるハーラルト。
416
﹁はあああ!!﹂
掛け声とともに、空を切り裂く様に、振り下ろさせる剣。それと同
時に、爆音が響く。
﹁ドガガガガ!!﹂
振り下ろされた剣の空圧で、地面が陥没していた。まるで地面を切
り裂いたかの様だった。
﹁ほお!地裂斬か!なかなかやるじゃねえかよ隊長さんよ!﹂
その斬撃を躱したギルスはニヤっと笑っていた。
﹁⋮まさか、今の斬撃を躱すとはな。だが⋮まぐれはそう続かぬぞ
!﹂
﹁へ!まぐれかどうか⋮試してみな!﹂
ギルスは剣の切っ先をハーラルトに向けて言い放つ。ハーラルトは
再度身構えると、ギルスに斬りかかった。その風のように速い剣の
切っ先が、ギルスに襲いかかる。
﹁ギャリリリン!!﹂
激しい金属音が聞こえる。それは、ハーラルトの斬撃を、ギルスが
剣で受け止めた音だった。
﹁な⋮なにい!?気戦術で強化された、私の地裂斬を、受け止めた
だと!?﹂
﹁ふん!それだけじゃないぜ?﹂
驚愕しているハーラルトの腹部に蹴りを入れるギルス。ハーラルト
はグフっと唸り声を上げて、蹴り飛ばされた。ヨロヨロと立ち上が
ったハーラルトは、ギルスを見て再度驚く
417
﹁き⋮貴様も⋮気戦術が使えるのか!?﹂
そこには、ハーラルト同様に、淡黄色に光る、オーラの様なものに
身を包むギルスの姿があった。
﹁気戦術や身体強化が使えるのは、何もお前だけじゃないってこっ
た!﹂
ハーラルトに不敵に笑うギルス。ギルスの纏っている、淡黄色に光
る、オーラの様なものは、ハーラルトのものに比べて、大きく、力
強く、輝きも強かった。
﹁さあ、これで終わりじゃないだろう?隊長さんよ!﹂
﹁当然だ!こんなもの、ダメージの内に入らぬわ!﹂
ハーラルトはきつい目をして言い放った。再度体制を立てなおして、
身構えるハーラルト。それを見て、楽しそうに笑うギルス
﹁そうじゃねーと楽しくないからな!じゃ∼今度は此方からも行く
ぜ!隊長さんよ!!﹂
そう言い放ち、疾風のごとく、間合いを詰めるギルス。その鋭い剣
先がハーラルトに襲いかかる。激しい金属音が、辺りに鳴り響く。
剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が美しく舞い散っている。
何十手と斬り合いをしている2人だが、ハーラルトはギルスの斬撃
を受けるので手一杯で、反撃出来る程の余力は全く無かった。
﹁流石にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長様だな。俺の剣
を此処まで受ける奴は、そうそう居ないからな!﹂
﹁ふん!こ⋮此れ位⋮俺様には、なんでもないわ!ラウテッツァ紫
彩騎士団、第5番隊を舐めるな!﹂
﹁そうか⋮なら⋮もう一段⋮上げてみようか!﹂
そう言い放ったギルスの目が光る。先程とは比べ物にならない速さ
で、間合いを詰めるギルス。その速さから繰り出される斬撃を、ハ
418
ーラルトは躱し切れないでいた。瞬く間に、体のあちこちを斬られ
るハーラルトの体からは、鮮血が流れ出す。フルプレートメイルの
斬られた箇所から、滴り流れていた。
そして、ついに片膝をつき、蹲ってしまったハーラルト。苦悶の表
情でギルスを見つめる。
﹁ぐ⋮魔法で強化された、このフルプレートメイルを、こうも簡単
に切り裂くとは⋮﹂
﹁⋮俺が使っている剣は、ちょっとした名剣でな。使い手次第で、
マジックアイテムも簡単に切り裂く事が出来るんだよ﹂
その言葉を聞いたハーラルトは、更に顔を歪める。そんなハーラル
トを見たギルスは、剣を肩に担いで、トントンと楽しげに剣を揺ら
し、
﹁フム⋮剣の腕も中々。修羅場もそれなりに熟しているのが解る。
経験もそれなりに積んでいるな。殺すのには惜しいな⋮。オイ!隊
長さん!どうだ?俺の部下にならないか?隊長さんじゃ俺には勝て
ないのが解っただろ?無駄に命を捨てる事は無いと思うぜ?﹂
その言葉を聞いたハーラルトは、フラフラと血を流しながら、立ち
上がる。
﹁は⋮馬鹿げた⋮事を⋮。俺様は腐っても、栄えある、ラウテッツ
ァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長だ!それに⋮主人であるアロイージ
オ様に、拾われた恩義もある!そんな事は⋮出来ぬな!﹂
フラフラになりながらも、身構えて剣先をギルスに向けるハーラル
ト。その目は、揺るぎない決意の光を放っていた。ソレを見た、ギ
ルスは、軽く溜め息を吐き、
﹁⋮なるほど⋮。伊達にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長
なんかしてねえって事だな。いいだろう⋮その騎士道精神に敬意を
419
評して、俺も本気でやってやるよ⋮﹂
その表情を真剣なものに変えて行くギルス。その表情を見たハーラ
ルトはギュっと唇を噛む。
ギルスの気勢が高まり、体を包んでいる淡黄色に光るオーラは、輝
きが増す。
それは一瞬の事だった。ハーラルトの体を、一迅の風が吹き抜ける。
それと同時に、斬り込んでいたギルスの体は、剣を振り切った形で
止まっていた。
﹁気戦術⋮瞬迅⋮斬⋮﹂
ギルスのその囁きと同時に、ハーラルトの体は、胸の辺りから綺麗
に真っ二つになって崩れ落ちた。その死体からは、大量の血が吹き
出していた。それを流し目で見ているギルス。
﹁た⋮隊長⋮﹂
苦悶の表情で、ハーラルトの死体を見つめる、ラウテッツァ紫彩騎
士団、第5番隊の兵士達。
﹁さあ!これで動ける者は誰も居なくなった!野郎ども、例の2人
以外は、残りは皆殺しだ!やってしまえ!﹂
そのギルスの声に、わあああ!と歓喜の声を上げる、ベルントの部
下の兵隊達。その声にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達
は、恐怖に染まっていた。身動きの取れない、無抵抗なラウテッツ
ァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達に次々と襲い掛かる。皆が一刀の
元に命を奪われ行く。断末魔の叫び声が辺りに響き渡る。
程なくして、そこには命を奪われ全滅した、ラウテッツァ紫彩騎士
団、第5番隊の無残な姿があった。
﹁よし!野郎ども!金目の物は全て奪え!死体は森の中の見えない
所に捨てて来い!地面の血は、上から土をかけて隠せ!﹂
420
ギルスがそう叫ぶと、兵隊達は指示通りに動いて行く。次々と金目
の物を奪い、死体を森の中に運んで、打ち捨てている。手際よく、
戦闘の跡を消して行く兵隊達。
そんな兵隊達を横目にしながら、ギルスとカチュアは、一台の豪華
な馬車の前に来た。
﹁この馬車がそうか?例の2人が乗っている馬車か?﹂
ギルスの問に、頷き答えるベルントとカチュア
﹁そうみたいですね。ですが、此処に乗っているのが、件のモンラ
ンベール伯爵家の三男、アロイージオなら、さっきの隊長みたいに、
状態異常を防ぐマジックアイテムを、持っている可能性は高いです
ね﹂
カチュアの言葉に、フムフムと頷くギルス。そしてニヤッと笑って
﹁よし!ベルント!この馬車の扉を開けろ!﹂
﹁え⋮俺ですか!?﹂
﹁お前以外にベルントって奴が居るか?さっさと開けろ!﹂
その言葉に、渋々扉に手を掛けるベルント。中から飛び出してきて
も良い様に、身構えながら、一気に扉を開けた。その開かれた馬車
の中には、男女2人居て、2人共身動きが出来無くなっていた。
その様子にあっけにとられる、ギルスとカチュア
﹁⋮お前が、モンランベール伯爵家の三男、アロイージオか?﹂
ギルスの問に頷く、アロイージオ。
﹁そうだ⋮私がフィンラルディア王国、モンランベール伯爵家三男、
アロイージオだ⋮﹂
身動きの取れないアロイージオは、顔を蒼白にしてそう答えた。
421
﹁お前⋮貴族のお坊ちゃんだろ?状態異常を防ぐ、マジックアイテ
ムとか持ってなかったの?﹂
﹁有ると思うが⋮何処の鞄の中だったか解からん⋮﹂
﹁⋮装備品はきちんと装備しないと、持ってるだけじゃ効果を発揮
しません。世界の常識ですよ?﹂
何処かの世界の村人Aの様な口調で言うギルス。アロイージオは気
まずそうに俯いている。
﹁ほんと⋮噂通りの貴族の坊ちゃんだな。まあ⋮此方も噂通りだけ
どな!﹂
そう言って、ニヤっと笑うギルスの視線の先には、リーゼロッテが
いた。
﹁噂通りの美女のエルフだな⋮可愛いお姫様∼格好良い王子様が迎
えに来ましたよ∼﹂
ギルスは胸に手を当てて、軽くお辞儀をしながら、ニヤニヤしてリ
ーゼロッテに言うが、リーゼロッテはきつい目でギルスを睨みつけ
るだけであった。そんなリーゼロッテにフっと笑い、
﹁気の強い女だな⋮俺は気の強い女⋮好きだぜ?どうだ?俺の女に
なるか?﹂
リーゼロッテの顎を掴み、顔を近づけるギルス。その言葉にも一向
に反応せずに、只々ギルスを睨みつけるリーゼロッテ。そんなギル
スを後ろから、抓るカチュア
﹁イテテテ﹂
﹁何をしているんですかギルス?また⋮詳しくお話しないとダメな
んでしょうか?﹂
冷ややかな目で、ギルスを抓っているカチュア。
422
﹁解ってるって!ちょっとした冗談だよ!冗談!⋮ったっく⋮本当
に嫉妬深いんだから⋮﹂
﹁何か言いましたか⋮ギルス?﹂
﹁何も言ってねえよ∼。ベルント!とりあえずこの2人を縛ってお
け!アジトに連れて帰るぞ!﹂
そう言われたベルントは、アロイージオとリーゼロッテを、後ろ手
に縛り上げる。
﹁さあ野郎ども!アジトに引き上げるぞ!﹂
ギルスのその声に、勝鬨の様な声を上げる兵隊達。ギルス達は意気
揚々とアジトに帰って行った。
羊皮紙の張られた窓から、暖かい日差しが射し込んでいる。その日
差しが俺の網膜に、チカチカと刺激を与える。
﹁う⋮うん⋮ん⋮﹂
俺はゆっくりと瞼を開ける。徐々に視界がくっきりとしてくる。
﹃寝過ぎなのだろうか?⋮今日は何だか頭がぼやっとする。疲れが
溜まってたのかな?﹄
そんな事を思いながら、体を起こし、ふと視線を体に向けると、服
を着たままの姿だった。
﹁俺⋮服を着たまま寝てたのか⋮﹂
何故服を着たまま寝ていたのか気になって、昨日の事を思い出して
みた。
423
﹁確か⋮部屋に帰って来て⋮ハンスさんと話してて⋮あ⋮そこから
急に眠たくなって、寝ちゃったんだ!﹂
昨日の事を何とか思い出した俺。ふとベッドの下を見ると、靴が綺
麗に並べてあった。
﹁ああ⋮きっと話しの途中で寝ちゃった俺を、ベッドに寝かせてく
れた上に、靴まで脱がしてハンスさんが並べてくれたのか⋮ハンス
さんに悪い事したな∼。後で謝っておくか﹂
話の途中で勝手に寝てしまったと言う失態に、反省をしている俺は、
いつもの朝のアレが無い事で、マルガが居ない事を思い出した。
﹁マルガ⋮何処行ったんだろ?何時も俺の隣にいるのに⋮﹂
そう疑問に思う俺は、部屋の中を見渡す。羊皮紙の張られた窓を開
けると、太陽が高い位置にある。どうやら昼過ぎの様だ。テーブル
の上には、食事が用意してあった。
﹁きっと寝ていて起きない俺を置いて、先にご飯食べちゃったんだ
ね!マルガお腹空かせていたのかも⋮ごめんねマルガちゃん!ま∼
ご飯を食べさせて貰って、マルコとかと遊んでいるだろうけど!﹂
とりあえずお腹の空いていた俺は、勝手にその様に思い込み、テー
ブルにある昼食?を頂く事にした。
﹁うん。冷めてても美味しいね!お腹も空いているから、余計に美
味しく感じるのもあるんだろうけど﹂
俺はパクパクと食事を食べてゆく。ほんと結構お腹空いてたんだよ
ね!
あっという間に食事を食べ終えて、タバコに火をつけ、一服してい
ると、何かが頭を過る。
424
﹁なんか⋮大事な事を、忘れている様な気がするな∼。なんだった
っけ?﹂
そんな事を考えながら、タバコを吸っていると、窓の外から、騒が
しい声が聞こえて来た。その声に誘われる様に、窓から外を見て、
忘れていた事を思い出した。
﹁村の広場にあった⋮テントがない⋮あ!今日はリーゼロッテさん
達が出立する日じゃなかったっけ!?﹂
俺は忘れていた、大事な事を思い出して、急いで家の外に飛び出る。
テントが無いと言う事は、出立の準備が終わったと言う事。急いで
村の入口に向かうと、大勢の人が集まって話をしていた。
﹁すいません!もう、モンランベール伯爵家御一行様は、出立され
ましたか?﹂
少し息の荒い俺の声に、真っ先に食いついたのはマルコだった。
﹁葵兄ちゃんやっと起きたんだね!﹂
﹁うん。所で、もうモンランベール伯爵家御一行は出発しちゃった
?﹂
﹁それどころじゃないんだよ葵兄ちゃん!﹂
俺の問に、甲高い声でそう叫ぶマルコの顔は、鬼気迫るものがあっ
た。俺はそんなマルコに戸惑いながら、
﹁ど⋮どうしたのマルコ?きちんと説明して﹂
慌てているマルコを落ち着かせ、訳を聞いてみる。
﹁葵兄ちゃんが寝ている間に、モンランベール伯爵家様達は出立し
ちゃったんだけど、そのモンランベール伯爵家様達が、この先の街
道で襲われて⋮全滅しちゃったらしいんだよ!﹂
﹁はええ!?あの⋮ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を率いる、
425
モンランベール伯爵家御一行様が全滅!?﹂
思わず変な声を上げてしまった。それ位、マルコの話は、突拍子も
無い事だった。
イヤイヤイヤ⋮有るはずないだろ?あのハーラルト率いる、ラウテ
ッツァ紫彩騎士団、第5番隊40人居た兵士達が全滅!?40人近
く居た兵士達は、LV30後半からLV50弱の中級∼中級上の兵
隊クラス。隊長であるハーラルトなんかは、LV62の上級クラス。
そんな奴等を相手に出来る奴等は、間違いなく、国軍クラス。しか
も、組織力を持った奴等ぐらいしか⋮相手に出来るはずがない⋮そ
れを全滅って⋮
困惑している俺に、マルコは話を続ける。
﹁葵兄ちゃんが、信じられないと思う気持ちは解るけど、あの人の
話を聞けば、理解して貰えると思うよ﹂
そう言って指をさすマルコ。その先には、沢山の人集りが出来てい
る。その中に鎧を着た兵士の様な男性が、地面に項垂れる様に座り
こんで居た。
俺はその人集りの方に、マルコと一緒に歩いて行く。そして、俺に
気が付いたアロイス村長が
﹁おお。葵殿。良い所に来られましたの。大変な事になっておるの
じゃ!﹂
アロイス村長も、かなり狼狽していた。
﹁とりあえず、先にこの兵士様の話を聞いてくだされ﹂
アロイス村長の言葉に、俺は兵士に話を聞いてみた。兵士は項垂れ
ながらも、俺に話をしてくれる。
﹁私達は、朝にこの村を出立しました。そして、港町パージロレン
426
ツォに向かって、街道を順調に進んでいました。でも、昼近くにな
った時でした。盗賊の集団に、待ち伏せをされて、攻撃を受けたの
です﹂
﹁しかし⋮ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊様位の兵士さん方な
ら、そんじょそこらの、盗賊の集団なんかに、引けをとらないはず
では?﹂
俺のもっともな意見に、周りの村人達も頷いていた。
﹁ええ、普通の状態で有ったなら、盗賊の集団などに、遅れは取ら
なかったでしょう。しかし、罠を張られていたんです。⋮結界魔法
陣で、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊のハーラルト様と、私を
除く兵士が、麻痺させられて、身動きが取れなくなってしまったん
です。﹂
項垂れながら言う兵士の言葉に、更に困惑し、驚いてしまった俺。
け⋮結界魔法陣!?結界魔法陣って言ったら、トラップに良く使わ
れる、設置型の魔法陣。その領域に入って来た者に、等しく魔法効
果を与えるって聞いた事がある。
しかし、すぐに使える様な物ではなく、準備にも時間が掛かり、上
級の能力の高い魔法使いが居ないといけないし、魔法陣に使う触媒
も大変高額な物で、最低でも家が2軒は建てれる位高額だと聞いて
いる。その分、威力は強大で、凄まじいらしいけど⋮
そんな事を考えていた俺に、話を続ける兵士
﹁兵士が麻痺させられて、動け無くなったので、最後の砦である、
ハーラルト様のみが戦う事になったのですが⋮そのハーラルト様も
⋮その盗賊の集団の頭みたいな人物に⋮殺されてしまいました⋮﹂
﹁ええ!?あのハーラルト様が!?ハーラルト様も何かの魔法を掛
けられていたのですか!?﹂
﹁いえ、ハーラルト様は、状態異常を防ぐマジックアイテムを持っ
427
ていましたので、結界魔法陣は効きませんでしたが⋮その盗賊団の
頭らしき男に⋮一方的に⋮最後は⋮体を⋮上下⋮真っ二つにされて
⋮﹂
そう言って、嗚咽混じりに泣き出す兵士。
オイオイオイ!!⋮隊長のハーラルトは、LV62の上級クラスだ
ぞ!?厄介なスキルも持っていたのに、それを倒す!?真正面から
戦って⋮それも一方的に!?最後は真っ二つだって!?そんな事出
来る奴がこんな所に居るのか!?
その時、ふとイケンジリの村に来る迄に見た、ある事を思い出す。
⋮いや⋮居る⋮あの人達をやった奴なら⋮エドモン一行をやった奴
等が戻って来てるなら⋮あり得る⋮
そして俺は、一番気掛かりに、なっている事を聞く事にした。
﹁兵隊様、リーゼロッテさんはどうなったか解りますか?﹂
﹁リーゼロッテさんとアロイージオ様は、盗賊の集団に縛られて連
れて行かれました。その後、盗賊の集団が立ち去ってから、この村
に逃げて来たので、そこから先は解りません⋮﹂
力無く言う兵士。リーゼロッテは殺されずに連れて行かれたのか⋮
とりあえず生きているって事だ。
﹁私は運が良かった⋮。私は最後尾⋮殿を馬に乗って努めてました。
魔法陣の発動に驚いた馬が、大きく飛び上がり、私を森の中の茂み
に飛ばしたお陰で、私は魔法陣に麻痺させられる事なく、盗賊の集
団に見つかる事なく生き延びれました⋮。しかし⋮皆が殺されてい
く中⋮私は何も出来ませんでした⋮それが悔しくて⋮﹂
﹁いや⋮そんな状態だと、何か出来る人の方が少ないじゃろう。貴
方が生き残って、此処に帰ってくれたお陰で、わしらも手を打てた
のじゃからの⋮﹂
428
そう言って、泣いている兵士を慰める、アロイス村長。
﹁手を打ったって⋮何かしたんですか?﹂
俺の問に、マルコが此処ぞとばかりに
﹁えっとね、エイルマーさんとハンスさんが、村の足の速い馬で、
港町パージロレンツォの守備隊に助けを求めに行ってるんだ!あの
馬なら、一晩走れば、港町パージロレンツォに着けるからね!しか
も、街道を行くのではなく、地元の人しか知らない道だから、危険
も低いからね﹂
なるほど⋮確かに、早馬なら一晩で、港町パージロレンツォに着け
るだろう。そこから守備隊が此方に急いで向かって、更に1日⋮。
合計2日待つ事になる⋮か。微妙な日数だ⋮。
盗賊の事だ、超美少女のリーゼロッテを、間違いなく犯すだろう。
しかも、結構な人数⋮30人位は居たと言っていた。30人に連続
で何回も、2日間犯され続けたら、命に関わる。
陵辱されるのは防げないとしても、せめて命だけは助けたい⋮
俺が戦って勝てる相手では無いのは、十分解っている。なんとか盗
賊団を出し抜いて、リーゼロッテを助けれないものか⋮
とりあえず、マルガと一緒に相談して、助ける算段を考えてみよう。
﹁所でマルコ。マルガが見当たらないんだけど、何処に居るか知ら
ない?﹂
俺のその問いに、集まっていた人々が、困惑の表情を浮かべ、俺を
見ていた。俺が訳が解らないで居ると、アロイス村長が言いにくそ
うに、
﹁マルガさんも⋮居なくなってしまったのか⋮﹂
﹁え⋮ど⋮どういう事ですか!?﹂
429
アロイス村長の言葉に、体に寒気が走る。
﹁⋮先程解った事なのじゃが、村の者⋮女ばかり、6人程居なくな
ってしまったんじゃ。村の中や村の周辺を手分けして探してみたの
じゃが、見つかりませんでした。何処に行ってしまったのか⋮﹂
その言葉を聞くやいなや、俺は走りだしていた。周辺の警戒LVを
最大限に上げる。
この村は小さな村だ。俺の感知範囲は約30m。俺が走りながら感
知すれば、例え何処かに監禁されていようと、見つける事が出来る。
だが、村じゅうを走り回っても、それらしい気配は、感知出来なか
った。
つまり、この村には、マルガは居ないと言う事だ。俺はさっきの人
集りに戻って来た。
﹁マルコ!マルガを見たのは、何時が最後だか、覚えてる?﹂
﹁え⋮えっと⋮昨日の夕方に、オイラの家の前で、話したのが最後
だよ。その後、ハンスさんにお手伝いを頼まれて、一緒に行っちゃ
ったから。それから、見てないよ﹂
﹁マルガはハンスさんに、お手伝いを頼まれたの?﹂
﹁あれ?知らないの?ハンスさんは、葵兄ちゃんに、許可を貰った
って言ってたけど⋮﹂
俺が、ハンスさんに、マルガを手伝わせる許可を出しただって!?
そんな許可を出した覚えはない!
その時、昨日ハンスが来た時の事を思い出した。俺は、ゲイツ夫妻
の家に走り出す。
﹁葵兄ちゃん!どこ行くんだよ!﹂
マルコの問いかけに答える事無く、宿泊させて貰っている部屋に帰
って来た。そして、食器の置かれたテーブルに向かう。そのテーブ
430
ルの上には、さっき食べた食器と、昨日ハンスが持って来た、飲み
かけの紅茶が入ったカップが置いて有った。俺は、昨日ハンスが持
って来た、、飲みかけの紅茶が入ったカップを霊視で視る。俺の瞳
が紅く妖しく光る。
﹁やっぱり⋮この紅茶の中には、強力な、即効性の睡眠薬が入って
いる⋮﹂
俺のレアスキルである霊視は、人の能力を視れるだけではない。物
質の状態や詳細も、見抜く事が出来るのだ。物質の構成から、人体
に影響が有るのか迄、視る事が可能。
この、紅茶の中には、睡眠薬が溶かしてあった。
﹃何故⋮ハンスは俺に睡眠薬を飲ませて、眠らせたんだ?恐らく⋮
マルガを連れ去ったのもハンスと見て、間違い無いだろう。でも⋮
理由が解らない⋮何故⋮﹄
そんな事を考えていると、部屋にマルコが入って来た。
﹁葵兄ちゃんさっきからどうしたのさ!﹂
俺は、昨日の事と、この紅茶の事、そして、恐らくマルガを連れ去
ったのはハンスである事を伝える。
あからさまに、困惑しているマルコ
﹁葵兄ちゃんの話は解ったけど⋮どうしてハンスさんが⋮ハンスさ
んは、村の事を大事に考える様な人なのに⋮。マルガ姉ちゃんを連
れ去って、どうしようって言うのかな⋮﹂
﹁それは俺にも解らない。マルガに何か、如何わしい事をしようと
しているのか⋮それとも、何か他の理由が有るのかはね。でも、マ
ルガを連れ去った事は事実だ﹂
俺はそう答えて、アイテムバッグを開き、戦闘装備を取り出す。そ
れを見たマルコは
431
﹁葵兄ちゃん、そんな物出してどうする気なの?﹂
﹁マルガはこの村には居ない。ハンスさんも既に港町パージロレン
ツォに、向かってしまっているのなら、追いついて問いただすにも
時間が掛かる。2日経てば、港町パージロレンツォから守備隊が来
るのなら、俺はこの村の周辺を探した方が、効率的に考えても良い
からね﹂
そう説明して、武具を装備して行くと、マルコが
﹁⋮なら、オイラもマルガ姉ちゃんを探すの手伝うよ!オイラもマ
ルガ姉ちゃんに優しくして貰ったし、心配なんだ!﹂
﹁駄目だ!まだ村の周辺に、モンランベール伯爵家御一行様を全滅
させた奴等も居るんだ。危険だから俺だけで行く﹂
﹁でも、葵兄ちゃんは、この村の周辺の事知ら無いでしょ?でも、
オイラなら、この村の周辺の事も詳しいし、マルガ姉ちゃんが居そ
うな所迄、案内出来ると思うんだ!﹂
そう力説するマルコ。
確かに⋮。俺が闇雲に走り回るより、村の周辺に詳しいマルコの案
内が有った方が良い。俺の感知範囲は約30m。マルガの200m
には遠く及ばない。マルコの助力が有れば、助かるけど⋮まだ、盗
賊の集団が居る。危険な目に合わせる訳には⋮
﹁葵兄ちゃんが、オイラの事を心配してくれてるのは解るけど、オ
イラだってマルガ姉ちゃんが心配なんだよ!危険な事や、危ないと
思ったらすぐに逃げるから、オイラも手伝わせてよ!﹂
マルコはそう告げると、俺の手を掴み、真剣な眼差しで俺を見つめ
る。
﹁解ったよマルコ。絶対に危険な事がありそうな時は、俺を置いて
でも逃げてね﹂
432
﹁解ってるって!約束は守るよ!じゃ∼オイラは何をしたらいい?﹂
﹁俺の馬のリーズに、荷馬車に積んである、鞍を付けて来て﹂
﹁解った!行ってくる!﹂
マルコはそう言うと、ピュ∼っと走り去った。俺の方も、戦闘武具
を装備して行く。装備し終わって、外に出ると、家の前まで馬のリ
ーズを連れて来て待っているマルコ
﹁手際が良いねマルコ﹂
﹁当たり前じゃん!葵兄ちゃんの弟子になるんだから、此れ位はね
!﹂
俺の苦笑いを見て、マルコはニコっと微笑んでいた。俺は馬のリー
ズに乗り、前にマルコを乗せる。そのまま、村の出口まで行くと、
アロイス村長はまだ兵士と話していた。馬に乗っている俺を見つけ
るアロイス村長
﹁アロイス村長!マルガを探してきます!﹂
﹁き⋮危険ですぞ葵殿!﹂
﹁すいません⋮こればっかりは⋮行かせて貰います!﹂
そう言って俺は馬のリーズの合図を送り走り出す。
﹁葵殿!くれぐれも気をつけてくだされ!﹂
アロイス村長の声が後ろから聞こえていた。マルガ⋮きっと助ける
から⋮待ってて⋮
俺とマルコを乗せた、馬のリーズは村を出て走って行くのだった。
433
2頭の馬が、街道から外れた獣道を、身を隠すように走っていた。
それは、盗賊団の事を、港町パージロレンツォの守備隊に報告し、
助けを求める為に、走っている。その内の一頭に乗っている男が叫ぶ
﹁兄さん!止まって!誰か居るみたいだ!﹂
その声に、馬を止めるエイルマー。そして辺りを見回しながら、
﹁ハンス何処に居るんだ?﹂
小さな声で言うエイルマーに
﹁馬に乗っていると見つかるかもしれない。馬から降りて、立ち去
るまで待とう。兄さん此方に来て﹂
その言葉に、素直に従うエイルマー。そして、ハンスの傍迄やって
来て、
﹁それで⋮何処に居るんだ⋮ハンス?﹂
﹁彼処を見て兄さん﹂
ハンスはそう言うと、森の方を指さす。エイルマーがその指の先を
見つめたその時、ハンスがエイルマーの腹部に、拳をめり込ませた。
﹁グフ!⋮な⋮なに⋮を⋮するんだ⋮ハ⋮ンス⋮﹂
唸り声を上げ、ハンスに問いかけながら、意識を失うエイルマーは、
そのまま地面に倒れてしまった。意識の失っているエイルマーを抱
きかかえるハンス。
﹁⋮ごめん兄さん⋮ごめん⋮﹂
ハンスは懺悔する様に意識のないエイルマーに言うと、馬にエイル
マーを乗せ、自らもその馬に乗る。
﹁今は⋮これしかないんだ⋮﹂
434
そう小さく呟いて、馬を走らせていくハンス。
ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させて、意気揚々とアジ
トに帰って来た、ギルス達。
﹁よし!奪った物は、いつもの様にまとめておけ!後で分けるから
な!馬と馬車も、奥に置いておけ!﹂
ベルントのその声に、兵隊達は奪って来た物を運んで行く。
﹁イケンジリの村の襲撃は夕刻!それまでは待機してろ!ま∼腹が
減ってるから、まずは飯だろうがな!﹂
ベルントのその言葉に、ドッと笑いが起きる。それを横目に、ギル
スとカチュアは、縛られている、リーゼロッテとアロイージオを引
っ張って、奥の方に連れて行く。そこには、服をボロボロに破かれ、
半裸になった女性5人が、悲壮な面持ちで座らされていた。リーゼ
ロッテはその女性達を見て目を細める。
﹁お前達もそこに座りな。そこの女達も、イケンジリの村の女だ。
ソイツらみたいになりたく無かったら、大人しく座ってろ﹂
ギルスの言葉に、何も言わず、半裸の女性の傍に座る、リーゼロッ
テとアロイージオ。その時、リーゼロッテの目に、見た事のあるラ
イトグリーンの綺麗な髪の毛をした少女が、横たわっているのが目
に入った。
慌ててその少女に近寄るリーゼロッテ。その少女は、リーゼロッテ
のよく知っている少女、マルガであった。マルガを見たリーゼロッ
テは、表情を一変させる。
435
﹁貴方達!この少女にも、酷い事をしたの!?﹂
リーゼロッテの激昂した言い様に、ギルスは少し意外そうに
﹁なんだ?その亜種の嬢ちゃんと知り合いか?﹂
﹁そんな事は聞いてないわ!この子に何かしたのか、聞いているの
よ!﹂
激しくギルスを睨むリーゼロッテ。ギルスはそれを可笑しそうに見
つめていた。
﹁その亜種の少女には、手を付けていないわ。睡眠薬で眠っている
だけよ。エルフの貴女同様、私達の貴重な商品なのだから﹂
ギルスの横からカチュアが、淡々とした口調で言う。リーゼロッテ
は黙って睨んでいる。そんな、2人を可笑しそうに見ているギルスが
﹁そういうこった。お前達は見目がすこぶる美しい。だから、奴隷
商に売って、俺達の資金にする事にした。だから、大人しくしてる
事だな。さもないと、隣の女達見たいにな目にあって貰う。うちの
野郎どもは、女に飢えてるからな。容赦はないぜ?全ての穴にぶち
込まれ、出されて⋮その横の女達を見たら、よく解るだろう?﹂
ギルスがニヤっと笑いながら言う。リーゼロッテは横目に女達を見
たら、茫然自失で虚ろな目をして、精気を無くして、俯いていた。
そこに、卑猥な笑みを浮かべて、ベルントがやって来た。
﹁お頭∼そこのエルフの女は解りやすが、そっちの亜種の少女は、
処女じゃないんでしょ?だったら、奴隷商に売る迄、俺達に遊ばせ
てくだせえよ∼。処女じゃないなら、そんなに高く売れないでしょ
?﹂
マルガを舐めるように見て、舌なめずりをするベルント
436
﹁ば∼か。これだけの器量がある美少女なら、たとえ処女じゃ無く
ても、一級奴隷として結構な金額で売れるんだよ。それに、お前達
に遊ばせたら、即効で他の女達見たいに、壊してしまうだろう?そ
んな事になったら、商品価値が下がって、高く売れないだろうが!﹂
呆れながら言うギルス。ガハハと笑っているベルント。
﹁それより、この貴族の坊ちゃんの体を調べてくれベルント。例の
物を持ってるか、確認してくれ﹂
ベルントはギルスに言われた通り、アロイージオの体を調べ始める。
すると、豪華な上着の内ポケットに何かを発見したらしく、それを
取り出すベルント。
﹁お頭!例の物って言うのは、これの事ですかい?﹂
それは、直径10cm弱の、装飾された青銅のメダルであった。メ
ダルの中心には、鷹が羽ばたく姿が装飾されている。それをベルン
トから受け取り、マジマジと見つめるギルス
﹁やっぱり⋮間違いないな⋮﹂
キッと若干目をキツくして、ギュっと青銅のメダルを握り締めるギ
ルス。そして、アロイージオを見つめメダルを見せながら
﹁貴族の坊ちゃん⋮お前これがどんな物か知ってるよな?﹂
﹁いや⋮全く知らない。とある人物から、預かった物だ。どういっ
た物なのかは知らない﹂
アロイージオの瞳を見つめるギルスは、アロイージオが嘘を言って
いない事を感じ取る。
﹁まさか、本当に知らないとはな⋮お前⋮本当に、筋金入りの箱入
りの坊ちゃんだな⋮ったっく⋮﹂
盛大に溜め息を吐くギルス。
437
﹁まあいい!ベルント!俺とカチュアは、奴等を迎えに行く。そう
言う約束だからな。⋮奴が来たら、手はず通りに頼む。⋮まあ∼約
束は守ってやると、伝えてくれ。行くぞカチュア!﹂
青銅のメダルをベルントに渡し、カチュアと共にアジトを出て行く
ギルス。
﹁まあ、そこで大人しくしてるんだな﹂
リーゼロッテとアロイージオにそう告げると、飯を食べている兵隊
達の元に向かったベルント。
﹁いや∼大変な事になりましたね∼﹂
﹁⋮そうですね。何とかしないと⋮﹂
こんな所に来て迄、呑気なアロイージオに軽く溜め息を吐きながら、
眠っているマルガの傍に行き、マルガを揺さぶる
﹁マルガさん、起きて下さい。マルガさん﹂
リーゼロッテの声と揺さぶりに、体をピクっとさせるマルガ。
﹁う⋮んん⋮。ご主人様おはようございます∼﹂
寝ぼけ眼を微かに開いて、起きようとした時に、後ろ手に縛られて
いたのを知らなかった為に、ポテっと転けてしまうマルガ
﹁テテテ⋮﹂
その痛みに、目が覚めて、頭も回転しだしたみたいだ。
﹁起きましたかマルガさん。大丈夫ですか?﹂
﹁はれ?リーゼロッテさん?あれ?私⋮なんでこんな所に⋮確か⋮
ハンスさんのお手伝いを、していたはずなのに⋮あれれ?﹂
マルガは今自分の置かれている状況が飲み込めず、辺りを見回し、
438
可愛い首を傾げていた。
﹁マルガさん、落ち着いて聞いて下さいね。マルガさんは、そこの
女性方と一緒に、攫われて来たんです﹂
リーゼロッテは此れまで有った事を、マルガに説明する。マルガは
顔を蒼白にして、今自分の置かれている状況を飲み込めた様っであ
った。微かに震えているマルガに、縛られながらも、そっと寄り添
うリーゼロッテ。リーゼロッテの暖かさに、少し震えの収まるマル
ガ。そんな、マルガの胸に、小さい何かが飛び込んで来た。
﹁ル⋮ルナ!無事だったんですね!﹂
ルナはその声を聞いて、嬉しそうにマルガの膝に、頭をグリグリさ
せていた。そんなルナに、表情を和らげるマルガ。
﹁なんだ、亜種の少女も起きたのか!﹂
その声に振り向くと、飯を食べ終わったベルントと、兵隊が5人立
っていた。ベルントは、膝下のルナを見て
﹁また帰ってきやがったのか。その白銀キツネは、捕まえようとし
たら逃げるし、かと言って、お前の傍から離れねえし、よっぽど懐
かれてるんだな﹂
フンと鼻で笑っているベルントに、後ろに立っている兵隊が
﹁ベルントさん。そんな事より、女達を連れてっていいですかね?
飯も食べ終わったし、襲撃までまだ時間があるみたいなんで﹂
半裸の女達を見ながら、舌なめずりをしている。
﹁ったく、襲撃に行くまでだぞ?ほら!連れて行け!﹂
その声に歓喜の表情を浮かべる兵隊達は、5人の女達を捕まえ、引
きずりながら、中央まで連れていく
439
﹁いや∼∼!!やめてください!助けて!!﹂
女達は口々にそう叫ぶが、その声に興奮すら覚えている兵隊達には、
効果は無かった。女達は次々と、組み伏せられて、犯されて行く。
﹁ハハハ。この女、いきなり入れられて、よがってやがるぜ!やっ
ぱり女はいいな!﹂
﹁オイ!俺にもやらせろよ!ぶっこみたくて我慢できねえよ!﹂
﹁なら尻の穴に入れてやれ!オラ!2本刺しだ!﹂
﹁じゃ∼俺は口を犯そうか!これで3本刺しだな!﹂
女達は一度に複数の男達の相手をさせられ、呻き声を上げながら犯
されている。
﹁ひ⋮酷い⋮やめてあげて下さい!﹂
マルガがベルントを睨めつけながら、言い放つ。そんなマルガを嘲
笑いながら
﹁そりゃ無理だ。あの女達は、もう俺達の玩具だからな。な∼に、
あの女達もそのうち慣れてくるさ!気持良くて、もっと∼ってな!
それとも、お前があの女達と、変わってやるか?ま⋮お頭からの命
令で、お前達には手を出す事は出来無いがな!奴隷商に売られる迄、
大人しくしてるんだな!﹂
マルガに卑しい嗤いで言うベルント。マルガはベルントをキッと睨
んでいた。
﹁そう言えば、お前は既に奴隷だったな。⋮って事は、村を襲撃し
た時に、お前の主人の行商人をきっちり殺して奴隷解放してから、
再度奴隷にして売り飛ばすって事か。めんどくせえな!﹂
そう言って嗤うベルントに、逆上したマルガは
440
﹁私の大切なご主人様に、手出しなんかさせません!﹂
そう言い放つと、ベルント目掛けて飛びかかった。そして、右腕に
目一杯の力で噛み付いた。
﹁イテテテテ!離しやがれ!この亜種が!﹂
そう言って、マルガを投げ捨て、振りほどく。ベルントの手からは、
血が流れていた。
﹁このアマ⋮。へ!お前の大切なご主人様って奴を、殺すのが楽し
みになってきたぜ!お前の目の前で、いたぶりながら殺してやる!
お前の泣き叫ぶ姿を見るのが、今から楽しみだぜ!﹂
﹁ご主人様は、貴方の様なクズには負けません!私も今から楽しみ
です!きっと貴方は、私のご主人様の逆鱗に触れて、その牙で無残
に殺される事でしょう!クズにお似合いの死に方なのです!﹂
そう言い放ったマルガはきつく睨みつける。ベルントの表情はみる
みる変わっていく。背中に担いでいたバトルアックスを手に取り
﹁この亜種が!舐めやがって!ぶった切ってやる!!﹂
激昂したベルントは、マルガ目掛けて、バトルアックスを振り下ろ
す。マルガは動く事が出来ずに、キュっと目を閉じていた。
﹁ドガ!﹂
大きな音をさせて地面に叩き付けられる、バトルアックス。動けな
いマルガに、リーゼロッテが体当たりをして、避けさせたのだ。し
かしその時に、バトルアックスの刃で左肩を切った様で、血が流れ
出して居た。
﹁リーゼロッテさん!﹂
マルガはリーゼロッテに近寄り、傷を見る。そこそこ深いのか、血
が手の甲迄流れていた。
441
﹁こいつ!余計な事をしやがって!お前も一緒に殺してやる!﹂
激昂しているベルントは再度バトルアックスを振り上げる。それを
見たリーゼロッテが
﹁こんな事、貴方がしても良いのですか?私達は商品なんでしょう
?その貴重な商品を殺してしまったら、さっきのお頭と呼ばれた男
はどう思うのかしら?きっと貴方に何かの罰を与えるでしょうね。
⋮あの男に殺されるかも⋮?﹂
ベルントを睨みながら言うリーゼロッテ。
﹁そ⋮そうですよ!ベルントさん!お頭の許可無く殺しちまったら、
大目玉をくらいやすぜ!此処は⋮やめておいたほうがいいでやす!﹂
傍で見ていた兵隊がそう言うと、グッっと唸り、ゆっくりバトルア
ックスを下ろす。
そして、マルガにゆっくりと近づき、その右手を振り上げる。
﹁バシイイ!﹂
ベルントに左の頬を力いっぱい殴られたマルガは、飛ばされて地面
を転がり蹲っている。
それを見て心配したリーゼロッテがマルガに近寄ると、左頬を赤く
腫らして、口から少し血が出ているマルガ。余程痛かったのか、体
を震わせながら、瞳に零れそうな涙を浮かべていた。
﹁ふん!俺はあの女の所に行ってくる!ソイツらを見張っておけ!﹂
そう言い放って、傍に転がっていたバケツを蹴っ飛ばして、アジト
の奥に消えてゆくベルント。
リーゼロッテは何とかマルガに体を寄せて、マルガを起こす。
﹁⋮酷い腫れ⋮。マルガさん大丈夫ですか?﹂
442
﹁私は大丈夫です。リーゼロッテさんこそ大丈夫ですか?あの⋮す
いません⋮私のせいで⋮﹂
﹁いいのですよマルガさん。でも、あまり無茶な事はしないで下さ
いね﹂
シュンとなっているマルガに、血を流しながらも、優しく言うリー
ゼロッテ。
そんな2人の元に、逃げていた白銀キツネの子供のルナが帰って来
た。ルナも心配だったのか、マルガの膝にスリスリしている。それ
を見て少し微笑むリーゼロッテ。
﹁⋮本当に良く懐いている、白銀キツネですね。人に懐かないので
有名な白銀キツネなのに﹂
﹁ルナは特別なんです!私の友達ですから!﹂
そう言って少し微笑むマルガ。そして、マルガはルナに顔を近づけ
て、小さな声で、
﹁ルナ⋮お願い⋮此処を出て、ご主人様を探して此処に連れて来て。
ご主人様なら、きっと何とかしてくれると思うから⋮。今はルナに
しか出来ない事なの。お願い出来る?﹂
そうマルガがルナを見ながら言うと、ルナは全速力で、アジトの外
に向かって走り出した。
﹁おい⋮見張ってろって言われたけど⋮白銀キツネは別にかまわね
えよな?﹂
﹁⋮当たり前だろうが!あんな白銀キツネほっときゃいいのさ!﹂
﹁だよな⋮﹂
苦笑いしている見張りの兵隊。
﹁⋮これで、ルナがご主人様を連れて来てくれます。きっとご主人
様が何とかしてくれるから、大丈夫ですよリーゼロッテさん!﹂
443
﹁マルガさん⋮一体⋮あの白銀キツネの子供に何をしたの?﹂
困惑気味のリーゼロッテに、ニコっと微笑むマルガ。
白銀キツネの甘えん坊ルナは、俺を探す為に、必死で野山を走るの
であった。
444
愚者の狂想曲 13 盗賊団との激闘
俺とマルコは、馬のリーズに乗って、マルガを探す為に、森の中を
走っている。
﹁マルコ。この村の周辺で、最低6人位の女の人を隠せる所を優先
的に頼む!﹂
﹁それって⋮ハンスさんは、マルガ姉ちゃんの他に、あの6人の女
の人も連れてったって事?﹂
﹁恐らくね。皆眠って居た時に、居なくなってる事と、直前にハン
スさんに会ってる事を考えるとね﹂
俺の話に、なるほどと頷くマルコ。
﹁しかし、本当にハンスさんが、マルガ姉ちゃん達を連れて行った
理由が解ら無いね﹂
﹁ああ、俺もそれが1番解らない所なんだ﹂
そう、理由が解らない。ハンスは、特段マルガに興味があった様に
は見えなかった。
マルガに興味のある男は、大体顔に出ている。男特有の目線であっ
たり等、解りやすいのだ。
それに、他の女性を5人攫っている。その事も引っかかる。合計6
人もの女性をどうするつもりなのか⋮
﹁葵兄ちゃん!アレが最初の山小屋だよ!﹂
マルコが指をさす方を見ると、小さな山小屋が見える。
﹁彼処は狩りをする時の中継地点なんだ。6人位なら入れるし、暖
炉なんかもあるしね﹂
445
俺とマルコは山小屋の近くまで行く。俺の感知範囲である30m以
内に入っても、気配はなかった。居ないとは思うが、セレーション
ブレード付きの黒鉄マチェットを鞘から引き抜き、山小屋の中を確
認するが、やはり誰も居なかった。
﹁どうやら、此処ではなさそうだ。マルコ他の場所を頼む﹂
﹁じゃ∼次は、西の山小屋に行ってみよう!﹂
再度馬のリーズに乗り、森の中を走って行く。
マルガ⋮何処なんだ⋮
拐われてから、半日近くは経っているが、朝までハンスは村に居た
事を考えれば、まだそう遠くには、連れて行かれていない可能性の
方が高い。
酷い事をされていなければ良いけど⋮。もしマルガが汚されていた
ら⋮俺は⋮
そんな事を考えると、握っている手綱に力が入ってしまう。
⋮無事で居て欲しい⋮そう思いながら、マルコが知っている、マル
ガがいそうな場所を探すが、発見出来無かった。
﹁此処にも居ないんだ⋮って事になると、一番遠い川向うの山小屋
が最後だけど⋮彼処は、モンランベール伯爵家御一行様達が襲われ
た所に近いんだよね⋮﹂
﹁⋮つまり、盗賊の集団に、会う可能性が高いって事だね?﹂
マルコは静かに頷き肯定する。
﹁とりあえず傍まで行こう。マルコは危なくなりそうなら、馬のリ
ーズと待機して貰う。その子屋に行ってみよう﹂
マルコは頷き、その小山まで案内してくれる。
モンランベール伯爵家一行を全滅させた盗賊団。あのラウテッツァ
紫彩騎士団、第5番隊、隊長のハーラルトを、一方的に倒した頭が
446
いて、大きな結界魔法陣を、発動出来るだけの力を持った上級のメ
イジもいる。
出来ればそんな奴等を相手にしたくはない。考えるだけで、悪寒が
する。今向かっている山小屋は、その盗賊団と遭遇する可能性が高
い。
もし、盗賊団が、マルガ達の存在に気がついて、攫われてしまって
いたら⋮
マルガは陵辱されずにいるだろうか⋮そんな盗賊の集団に⋮特に頭
とメイジに勝てるだろうか⋮
そんな事を、頭の中でグルグルと考えていたら、件の山小屋に就い
た様で有った。
﹁此処にも居ないんだ⋮山小屋は此処で最後なんだけど⋮﹂
﹁他に、隠せれそうな場所はないのマルコ?﹂
﹁う∼ん。ちょっと思い出してみる!﹂
マルコは必死に思い出している。その時、横の茂みが揺れる
﹁ガサガサガサ﹂
その音に、咄嗟に腰につけていた、セレーションブレード付きの黒
鉄マチェットを鞘から引き抜く。
そんな警戒している俺とマルコの前に現れたのは、見覚えのある、
可愛く小さな甘えん坊、白銀キツネのルナであった。
﹁ルナ!﹂
俺の声を聞いたルナは、タタタと走って来て、俺の胸の中に、勢い
良く飛び込んで来た。そして、小さな頭を、俺の胸にグリグリして
擦りつけてくる。
﹁お前無事だったんだな!今迄何処に居たんだ?﹂
俺はそんな事を言いながら、ルナの頭を撫でていると、ルナは何か
447
言いたそうに、俺を見つめている。
そう言えばルナは何故こんな所に居るんだ?白銀キツネのルナは、
主人であるマルガの元を、片時も離れたがらない甘えん坊。って事
は⋮マルガがこの近くに居るのか!? でも、俺の感知範囲30m以内には、マルガらしき気配はない。つ
まり、ルナだけで彷徨っていたと言う事。ルナは、例えマルガに何
か有っても、マルガの傍から離れる事は無いだろう。
そのルナが一匹で行動する⋮俺はそこに、マルガの意図があると確
信した。
﹁ルナ。お前のご主人様は何処だ?マルガの居所を知っているね?﹂
俺の言葉に反応したのか解らないが、ルナは胸から飛び出すと、テ
テテと5m位離れて此方を振り返って見ている。まるで、付いて来
て欲しいとでも言っている様だった。
俺はマルコを抱え上げ、馬のリーズに乗せる。俺もリーズに乗り手
綱を握る。それを見たルナはタタタと走りだした。俺はルナの後を
について、リーズを走らせる
﹁あ⋮葵兄ちゃん!何処に向かって走ってるの?﹂
﹁恐らくルナは、マルガの居場所を知っている。ルナの後を付いて
行くと、きっとマルガに辿り着ける!﹂
﹁ほ⋮本当なの?白銀キツネの子供に、そんな事が出来るの!?﹂
﹁ああ!マルガと白銀キツネのルナは特別な関係なんだよ!﹂
俺の得意そうに笑い顔に、戸惑っているマルコ。
ルナは、先を走りながらも、俺達が付いて来てるか、時折此方を振
り返りながら、走っている。
これで、マルガに辿り着ける!⋮マルガ待っててね⋮すぐに行くか
ら!
俺は必死に、ルナの後を付いて行くのだった。
448
﹁も⋮もうやめて⋮くだ⋮さい⋮﹂
﹁ヘヘヘ!ほら!口が開いてるぞ!﹂
﹁ムグ⋮むうんん⋮﹂
﹁ハハハハ!こいつだんだんと、口でするのが上手くなってきてや
がるぜ!﹂
男達に犯されながら、口に男の物を、無理やり咥えさせられている
女性。
残りの女性も、この女性と同様に、口、膣、尻の穴に、男のモノを
放り込まれ、苦しそうに喘いでいる。マルガとリーゼロッテ、そし
て、アロイージオは、目を細めて、それを眺めていた。
恐らく、村の襲撃が始まるまで、女達を犯し、楽しむのであろう。
そんな事を、3人が考えていた時に、アジトに馬に乗った人が入っ
て来た。マルガ達は、その馬に乗っている人物の顔を見て、驚愕す
る。
﹁ハ⋮ハンスさん!な⋮何故此処に!﹂
マルガ達がハンスに戸惑いの表情を向けていると、アジトの奥から
声がした
﹁そりゃ∼こいつが、俺達の仲間だからだ!﹂
そう言いながら、ハンスの方に向かうベルント。驚いているマルガ
達を見て、ニヤッと嗤い、
﹁何も驚く事は無いぜ?亜種の少女や、そこの5人の女達を連れて
来れたのも、こいつのが手引きしたからだからな!﹂
﹁ど⋮どういう事ですか!?ハンスさん!﹂
449
マルガは戸惑いながら叫ぶが、ハンスは返事をしなかった。ハンス
は、馬に乗せて来た男を、地面に下ろす。
﹁あん?なんだ∼この男は?﹂
ベルントが、男を足で小突きながら言うと
﹁これは⋮俺の兄⋮副村長のエイルマーだ。村を脱出して、港町パ
ージロレンツォの守備隊に助けを求めようとしたので、気を失わせ
て此処に連れてきた﹂
ギュっと拳を握らせて、淡々というハンス
﹁なるほど⋮約束を守ったって訳だな?﹂
ベルントはニヤニヤしながらハンスに言うと、ハンスは何も言わず
に、ベルントをきつい目をして見つめているだけであった。
﹁まあいい。こいつが副村長ね⋮使えるか?おい!こいつを縛って、
水をかけて起こせ!﹂
ベルントの命令に、兵隊がエイルマーを後ろ手に縛る。そして、バ
ケツに汲んだ水を、エイルマーの頭に掛ける。ビクっと体を悶えさ
せるエイルマー。
﹁ゲホッ!ゲホホ!⋮グッゲホ!﹂
むせながら意識を取り戻すエイルマー。そして、身動きが取れなく
なっているのに気が付いた
﹁な⋮なんだ?何が⋮。此処は⋮どこだ?﹂
キョロキョロ辺りを見回すと、兵隊達に犯されている女達が目に入
り、それが、居なくなった村の女達だと解り絶句しているエイルマ
ー。
450
﹁ここは、盗賊団のアジトで、エイルマーさんも、あの女性達も、
私達も、攫われて、捕らえられてしまったんですよ﹂
その声にエイルマーが振り向くと、マルガ、リーゼロッテ、アロイ
ージオが、同じように縛られて、座らされている。そして、自分が
今どの様な状況に居るか理解したエイルマー。
﹁兄さん⋮済まない⋮こうするしか⋮無かったんだ⋮﹂
エイルマーが振り返ると、ハンスが俯きながら、立っていた。
﹁ハンス!!これは一体どういう事なんだ!?なぜこんな事をして
いるんだ!答えろ!ハンス!!﹂
困惑の表情を浮かべて、声高にハンスに問いかけるエイルマー。
﹁それは、こいつが、俺達と取引をしたからだ!﹂
エイルマーにニヤっと笑いながら言うベルント
﹁取引だと!?何の事だ!ハンスはお前達と、一体どんな取引をし
たんだ!﹂
﹁それはな、お前達イケンジリの村人を生かす事を条件に、お前達
村の人間を、全て俺達の奴隷にさせて、絶対服従させると言う取引
だ﹂
﹁なぜ⋮そんな取引を⋮﹂
ハンスを見るエイルマー。ハンスは握った拳に力を入れて
﹁仕方無かったんだよ!村人を守る為には!⋮⋮俺は少し前に、た
またま、このアジトに向かう盗賊達を見つけたんだ。様子を窺う為
に後をつけたら、気が付かれて捕まって、此処に連れて来られた。
その時に、こいつらの目的を聞かされた。それは、村人を全員殺し
て、イケンジリの村を乗っ取ると言うものだった。当初、こいつら
にとって必要なのは、イケンジリの村と言う器だけだった。しかし、
451
村人を奴隷にして、働かせる事で、この村でのこいつらの生活や、
収入もある程度維持出来るのではないかと、俺が提案した。だから
殺すよりも、奴隷にして働かせる代わりに、村人の命は奪わないで
欲しいってね⋮﹂
顔を歪めながら言うハンス。そんなハンスに、瞳を揺らしてエイル
マーは
﹁じゃ⋮なぜ、俺が港町パージロレンツォに向かうのを、止めてこ
んな事をしたんだ?港町パージロレンツォから守備隊が来るまで待
てなかったのか?﹂
﹁⋮今日の襲撃の時に、村人が1人でも減っていたら、皆殺しと言
う約束だったんだ。港町パージロレンツォからの守備隊が来る迄、
早くても2日⋮その間に村は全滅さ⋮。だから兄さんを、港町パー
ジロレンツォに、行かせる訳には行かなかったのさ⋮﹂
俯きながら言うハンスに、やりきれない気持ちでハンスを見るエイ
ルマー。そんな2人を見て卑しい哂いを浮かべるベルントが
﹁ま∼此れから俺達が奴隷としてお前達を生かせてやる!感謝する
んだな!だが⋮一つだけ、変更があるんだハンス﹂
そう言って、ハンスの傍に寄るベルント。その言葉を聞いて、顔を
きつくするハンス
﹁そんな!約束が違うじゃないか!これ以上の変更は無いって言っ
ていたじゃないか!﹂
﹁ああ⋮本当ならそうなんだがな⋮。お前⋮俺達が襲う予定に無か
った、モンランベール伯爵家一行を、何故襲撃したかの理由を知っ
てるか?﹂
ニヤっと哂いながらハンスに言う。ハンスは目をキツくして
﹁⋮そんな事は⋮知らない⋮﹂
452
﹁⋮これを見ても知らないと言えるのか?﹂
ベルントは懐から、何かを取り出して、ハンスの足元に投げつけた。
それは、直径10cm弱の、装飾された青銅のメダルであった。メ
ダルの中心には、鷹が羽ばたく姿が装飾されている。
その青銅のメダルを見たハンスは、一筋の汗を流す。同じく青銅の
メダルを見たアロイージオは
﹁そ⋮そんなメダルを手に入れる為に⋮我がモンランベール伯爵家、
ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を、全滅させたのか!?そのメ
ダルに⋮そんな価値が有るとは思えないが⋮﹂
考える様に言うアロイージオ
﹁貴族の坊ちゃんは知らねえのさ!このメダルの重要性がな!この
メダルはな、﹃沈黙の守護﹄って言ってな、このメダル自体は、素
材も青銅で価値は無いが、バルテルミー侯爵家には、重大な意味が
ある。このメダルは、バルテルミー侯爵家に助けを求めるって言う
意味のメダルなのさ。もし、俺達がこのメダルを奪わずに、バルテ
ルミー侯爵の元に渡っていたら、このメダルを見たバルテルミー侯
爵は、きっとこの村に何かあったと思い、すぐに守備隊を村に派遣
していただろう。だから、それを阻止する為に、モンランベール伯
爵家一行を襲撃したのさ!﹂
きつい目をしながら、ハンスを見ているベルント。ハンスは、軽く
溜め息を吐きながら
﹁⋮それが何なんだ?私と何か関係があるのか?﹂
﹁お前このメダルを、港町パージロレンツォの領主、バルテルミー
侯爵に献上品だといって、渡して貰える様に、そこの貴族の坊ちゃ
んに渡しただろ?内緒でこっそり渡して欲しいとか言ってな!﹂
﹁しょ⋮証拠は有るのか!﹂
﹁証拠か⋮そこの貴族の坊ちゃんに、拷問して吐かせても良いんだ
453
が、貴族の坊ちゃんは大事な人質だからな。なるべく手荒な事はし
たくねえ。⋮オイ!こっちにこい!﹂
ベルントがそう叫ぶと、アジトの奥から、一人の女声が現れた。そ
の女性を見て、ハンスもエイルマーも同時に声を上げる。
﹁﹁メラニー!!﹂﹂
ハンスと、エイルマーがその女性を見て驚いていると
﹁こいつにな、お前の事を監視させていたんだ。どんな細かい事で
も報告しろってな﹂
メラニーを引き寄せて、肩を抱くベルント
﹁何故だ!何故君が、そんな男の言いなりになっているんだ!﹂
そう言って、ひどく狼狽しているエイルマーの顔を見て、何かに気
が付いたベルント
﹁⋮ほう⋮そうか⋮なるほど。お前が、この女の許嫁の男か?噂は
聞いてたぞ。この女からな!﹂
﹁貴様⋮メラニーに何をした!答えろ!﹂
﹁何って⋮俺はこの女⋮メラニーの初めてを奪って女にした、初め
ての男だからな!﹂
そう言ってメラニーをきつく抱く。そう言われたメラニーは、両手
で顔を抑え、
﹁やめて!!こ⋮この人の⋮エイルマーの前で⋮そんな事言わない
で⋮﹂
そう叫んで、泣き崩れるメラニー
﹁この女はいいぜ!村の近くで攫って、犯してやったんだ!それで、
犯された事を秘密にするのと、お前を殺さないと言う条件で、そこ
454
のハンスの監視をさせていたのさ!﹂
﹁貴様あああああああ!!!!﹂
その言葉に発狂したエイルマーが、ベルントに飛びかかろうとする
が、兵隊達に押さえつけられた。
﹁ま∼そうキリキリするなよ。たまになら、このメラニーを抱かせ
てやってもいいんだぜ?俺は心が広いからよ!このメラニーも喜ぶ
だろうしな!﹂
そう言って、メラニーの両腕を掴み、身動きの取れない様にして、
スカートを捲し上げる。そして、パンツを一気に引き下げる。
﹁ほら見ろよ!こいつの恥ずかしい所を!俺がついさっき中に出し
てやった、精子が流れ出てるだろ?タップリと出してやったからな
!﹂
﹁うおおおおおお!!!!﹂
そう言って卑猥な笑みを浮かべながら言うベルント。エイルマーは
発狂しながら叫び声をあげ、動こうとするが、押さえつけられて動
けなかった。
﹁ハンス⋮そういう訳で、お前がそのメダルを、貴族の坊ちゃんに
渡して居たのは、知っていたんだ。まさか自分が、村の中で監視さ
れていたなんて、解らなかっただろう?﹂
そう言って、メラニーをエイルマーの方に放り投げ、ハンスの傍ま
で行くベルント。
﹁⋮お頭からの伝言だ。﹃約束は守ってやる﹄だそうだ。良かった
な∼﹂
そうハンスに告げて、腰に付けていたロングソードを引き抜き、一
気にハンスの胸を貫く。呻き声を上げ、胸から夥しい血を流すハン
ス。心臓を一突きにされていた。
455
﹁これが最後の変更だ。﹃裏切り者はいらねえ!﹄だそうだ。欲を
かかなきゃ、助かったものを⋮﹂
ベルントは、ロングソードを引き抜くと、ハンスはダラっと脱力し
て地面に倒れる。ハンスの体の回りに、血溜まりが出来て行く。
﹁ハンスーーー!!!﹂
エイルマーが涙を流しながら、名前を叫ぶが、ハンスは既に事切れ
ていた。
﹁き⋮貴様!殺す!!!メラニーだけじゃなく、ハンスまで!!!
!﹂
ギリリと歯ぎしりしながら、エイルマーがベルントに言い放つ。そ
んなエイルマーを嘲笑いながら、
﹁ま∼そうキリキリするなって言ってるだろ?此処からは、エイル
マー?だったか?お前と取引してやる﹂
﹁と⋮取引だと!?﹂
﹁そうだ!エイルマーおめえが、ハンスの代わりに、此れから村の
事を管理するって言うなら、そこのメラニーをおめえに返してやろ
う。勿論俺も、もう手はださねえ。俺達が村人を管理するより、お
めえが管理した方が、村人も安全だと思うんだがな。ま∼裏切った
ら、村人も殺すし、メラニーもおめえも、殺しちまうがな!どうす
る?﹂
ベルントの話を聞いて、エイルマーは、顔を激しく歪めている。そ
して、死んでいるハンスに目をやって、涙を浮かべて泣きながら
﹁本当だな⋮メラニーを俺に返し、村人の命も取らないと約束して
くれるんだな?﹂
ギリっとベルントを睨むエイルマー。ベルントは卑しい哂いを浮か
456
べながら
﹁ああ。約束してやるよ﹂
﹁解った⋮取引に⋮応じる⋮﹂
力なく小さく呟いたエイルマーに、メラニーが抱きついた。
﹁ごめんなさい⋮私⋮ごめんなさい⋮貴方に私が汚された事を、知
られたくなくて⋮貴方が殺されたくなくて⋮私⋮﹂
大粒の涙を流しながら、そう言うメラニーに、
﹁ううん⋮君の事を、気が付けなかった僕を許してくれ⋮メラニー﹂
涙を流しながらメラニーに答えるエイルマー。そのやりとりを見て
いた、マルガ、リーゼロッテ、アロイージオの3人も、やりきれな
い表情で2人を見ていた。
そんな鬱屈した雰囲気の中、何かがマルガの元に走り寄ってきた。
それはマルガの大切な、小さな友達だった。
その小さな友達、白銀キツネのルナと目を合わせたマルガが、歓喜
の表情に染まる。
﹁どうやら⋮私が貴方に予言した事が、此れから貴方に、起こる様
ですね!﹂
ベルントをキッと睨みながら、不敵に笑うマルガの視線の先には、
黒髪に黒い瞳の少年が立って居た。
﹁マルコ。ルナは何処に向かって走っているか、予想出来る?﹂
﹁う∼ん。この先はビブルレ山の方角だね。あ⋮そう言えば、ビブ
457
ルレ山には、オイラ達も近づかない、何百年前に捨てられた廃坑が
あるよ!そこは大きい廃坑らしいから、6人の女性を隠す位、余裕
だと思う!﹂
なるほど⋮マルコの話なら、確かに行けそうだ。近くの人も近寄ら
ない廃坑なら、隠すのには打って付けだ
﹁やっぱり!ほら!廃坑が見えてきた!﹂
マルコの声に前を見ると、山の麓近くに、洞窟の入り口の様な物が
見える。俺は、馬のリーズの速度を落として、近くの森の中で馬の
リーズを止める。ルナも俺が止まったのに気がついて、近寄ってき
た。
﹁マルコは此処でリーズと待機していてくれ。時間が経っても俺が
帰って来なかったら、リーズに乗って、港町パージロレンツォの守
備隊に報告してきてくれ﹂
﹁でも、港町パージロレンツォにはエイルマーさんとハンスさんが
向かっているはずだけど?﹂
﹁そうだけど、マルガ達を攫ったハンスさんと一緒なんだろ?ひょ
っとしたらハンスさんが何かやって、エイルマーさんが港町パージ
ロレンツォに、着けない可能性もある。解った?﹂
俺の言葉にコクっと頷くマルコ。
俺はゆっくりと、廃坑の入り口に近寄って行く。警戒LVはMAX
状態。半径30m以内には脅威は感じない。俺の動きに合わせる様
に、ルナが付いてきている。本当に賢い白銀キツネだ。入り口に見
張りは居ない様だ。
俺は気配をなるべく消しながら、廃坑の奥に入って行く。どうやら、
此処に誰かが居るのは確かな様だ。
沢山の足跡に、廃坑の壁には、篝火の後、馬の足跡や馬車の轍まで
ある。注意深く奥に進むと、広い空間が見えてきた。そこは、天井
458
が少し地上につながっていて、光が差し込んでいて明るかった。そ
の光の中で、40人近い人の気配がする。もっと近寄って見て、俺
は息を呑んだ。
その広い空間には、沢山の兵隊の様に武装した男達が、数人の女達
を犯している。
俺は直感で、こいつらが、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫
彩騎士団、第5番隊を全滅させた盗賊団だと思った。犯されている
女は5人。兵隊達の数は30人位。逃げて来た、生き残りのラウテ
ッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士の言っている内容と合致する。
兵隊達の様子を見ていた俺の横で、ルナがソワソワしたような感じ
で、俺の顔と、広間の方を何度も見ていた。
俺はルナの視線の先の方を見ると、そこにはマルガとリーゼロッテ、
アロイージオが居た。
﹃マルガ!無事に生きている!リーゼロッテさんも!良かった⋮﹄
心の中で安堵する俺。しかし、どうする?こいつらはラウテッツァ
紫彩騎士団、第5番隊を全滅させた盗賊団。あのハーラルトを殺っ
た奴や、結界魔法陣を発動させれる上級のメイジも居る。
﹃とりあえず、霊視でどれ位の奴等なのか、視てみよう﹄
俺は広間に居る盗賊団を、次々と霊視で視てゆく。
LV30からLV40台迄の、戦士系しか居ない⋮。あのハーラル
トを殺った奴や、結界魔法陣を発動させれる上級のメイジは、確認
出来ない。つまり此処には居ない。
何処かに出かけている可能性が高い。助けるなら、ややこしい奴等
が居ない今がチャンス!
俺は、ルナの体をポンポンと軽く叩き、マルガの元に戻るように、
少し前にやると、ピュ∼っとマルガの元に走って行った。ルナとマ
459
ルガは顔を見合わせている。そして、マルガが俺の方を見た。
その顔は、なんとも言えない嬉しそうな顔だった。俺はゆっくりと、
広間の中に入って行く。
すると、マルガの傍にいた男が、マルガの視線の先の俺を発見して、
此方に歩いて来た。
﹁お前⋮何者だ?此処に何しに来たんだあ∼?﹂
その男は、俺を上から足元迄見て、嫌らしい哂いを浮かべている。
その男の行動に、女を犯していた男達も、此方に振り向いていた。
﹁此処に何をしに来ただって?そんな事決まってるじゃないか⋮俺
の奴隷と、知り合い達を返して貰いに来た﹂
俺がそう告げると、可笑しそうに嗤う男
﹁アハハハ!そうか!お前がこの亜種の少女のご主人様か!こいつ
はいい!探す手間が省けたってえもんだ!まさか、お前の方から、
ノコノコやって来るとはな!お前を殺して、この亜種の少女を、俺
達の奴隷にしてやるよ!オイ!オメエら!﹂
その声に、女を犯していた男達も、その男の傍に集まって来た。広
間の入り口に居る俺を、取り囲む様に、移動を始める。
﹁おめえも、俺達の奴隷になるなら、命は助けてやってもかまわね
えんだがな。どうする?それとも、この人数相手に、その腰につけ
ている、剣⋮いやマチェットか?それで、俺達と戦おうって気じゃ
あるめえ?どう考えても、おめえに勝ち目はねえぞ?﹂
きつい目をしながら、俺に卑しい哂いを向ける男。その言葉に、マ
ルガは心配そうに俺を見つめていた
﹁そうだな⋮普通に戦ったら、まず無理だね。でも⋮此処からは普
通の戦いじゃない⋮お前達は⋮一方的に俺に殺されて終了だ!﹂
460
俺のその淡々とした言葉に、男の傍にいる兵隊が
﹁ベルントさん!こいつ舐めてやすぜ?殺しちまってもいいですか
?﹂
﹁ああ。こいつも現実が解ってないみてえだからな。さっさと殺っ
ちまえ!﹂
ベルントは、俺をギラっとした目で見ながら、部下の兵隊にそう告
げると、3人の剣を持った、武装した兵隊が俺の前に出て来た。
﹁へへヘ。切り刻んで殺してやる。行くぞ!﹂
そう言い放って、3人の兵隊は、剣を構えて飛び掛かって来た。
しかし、3人の剣先は、俺には届く事は無かった。
﹁ガオン!ガオン!ガオン!﹂
3つの爆発音の様な、乾いた音が、アジトの広間に響き渡り、木霊
する。
斬り掛かった3人の兵隊達は、頭に風穴を開けて、血を流しながら
地面に倒れ絶命した。
一瞬の出来事に、誰もがその場を動けないでいた。
それは俺が両手に持っている、あるモノによって、もたらされた結
果であった。
ソレは特殊なカタチをしていた。特徴の有る容姿をしている短剣の
柄の部分には、細い筒の様な物と、引き金、撃鉄、弾倉の様な物が
ある。その細い筒の様な物の穴からは、煙が微かに出ていた。その
両手に握られているソレは、短剣と拳銃が、融合した様な容姿をし
ていた。
﹁この銃剣2丁拳銃が、俺の真の武器、グリムリッパーだ。S&G
社製、ベルギアンボウイナイフスタイルピストル。別名、回転式リ
461
ボルバーナイフだ。グリムリッパーっていうのは、俺がこの2丁に
つけた名前ね﹂
そう、俺は、あの変なゲームを起動させた時、この2丁拳銃で遊ん
でいた。その後、この世界に飛ばされる時に、両手に持っていた。
そして、そのままこの世界に持って来てしまった、イレギュラーな
品物である。
この世界に持ってこれた物は、衣料以外は全てマジックアイテム、
魔法具になっている。この2丁拳銃も例外なく、マジックアイテム
になっていた。
魔法で強化され、魔力や気力、そう言った精神的エネルギーを弾に
変換して、発射する事が出来る。精神的エネルギーが尽きるまで、
弾を撃つ事が出来る魔法拳銃だ。ナイフ部分も、強化されており、
非常によく斬れる。
しかも、この銃剣二丁拳銃は召喚武器と呼ばれる物で、通常時は、
自分の体の中に収納出来る。武器と契約する事により、武器と融合
する事によって、自在に召喚出来る様になるのだ。
﹁な⋮なんだあその武器は!?只の⋮短剣じゃないのか!?や⋮野
郎ども!一斉にやってしまえ!﹂
ベルントのその掛け声とともに、兵隊達は一斉に襲い掛ってきた。
﹁ちょっと急いてるから、即効で終わらす!!﹂
俺は気勢を上げる。俺の体は、薄紅色のオーラで包まれる。兵隊達
の攻撃を、瞬時に躱し、兵隊達の頭に、銃剣2丁拳銃のグリムリッ
パーの銃撃を、次々と入れていく。
﹁ガガガオン!ガガオン!﹂
連続の銃声が、兵隊達の声に混じって聞こえている。その銃声がす
る度に、兵隊達は頭や心臓を撃ち抜かれて絶命して行く。兵隊達は、
462
一瞬で殺される仲間を見て、恐怖し後退りする。
そこには、15人近い兵隊達の死体が転がっていた。
﹁なんなんだその武器は!?しかも⋮お前から出ているオーラは⋮
気戦術の身体強化か!?クソ!お頭の居ない時に、上級者の相手と
はな!﹂
ベルントや兵隊達は、顔を歪めている。俺は一歩前に出て
﹁⋮さっきも言ったけど、急いでるから、とっとと終わらせる。今
度は此方から行くぞ!﹂
銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを構え、次々と射撃して行く。兵隊
達はその顔を恐怖に染めながら、頭を撃ち抜かれて絶命する。辺り
には血を流して倒れている兵隊の死体の山となっていた。
そして、最後にベルントのみとなった。その顔を蒼白にして、俺を
見るベルント。
﹁ひ⋮た⋮助けて⋮くれ!お⋮俺は、お頭の命令で、やっただけな
んだ!﹂
顔を引き攣らせているベルントの頭に、銃声と共に風穴が開く。ベ
ルントは頭から血を吹き出し倒れて絶命した。
﹁だから、急いでるって言ったろ?お前の言葉なんか、聞いている
時間は無いの﹂
最後のベルントが死んだ事で、兵隊達は全滅した。
俺はマルガの元に小走りに向かう。そして、後ろ手に縛られている
縄を斬る。
﹁ご主人様∼∼!!!﹂
そう叫んでギュッと俺に抱きつくマルガ。マルガの暖かく柔らかい
体が、俺を包み込む。
463
ふとマルガの顔を見ると、左頬が赤く腫れ上がっている。
﹁⋮マルガ、左頬大丈夫?それに⋮変な事されなかった?﹂
﹁ハイ!大丈夫です!マルガは変な事はされていません!ご主人様
∼会いたかったです∼﹂
瞳に涙を溜めながら、俺の胸に顔を埋めるマルガ。優しく頭を撫で
てあげると、涙目になりながら、ニコっと微笑んでいる。良かった
⋮マルガが汚されなくて⋮本当に良かった⋮
そんな俺とマルガを見ていたリーゼロッテが
﹁意外と⋮お強いんですね葵さんは。ちょっとビックリしました﹂
﹁ハハハ。リーゼロッテさんも大丈夫ですか?酷い事されませんで
した?﹂
﹁私とマルガさんは、奴隷商に売られる予定だったみたいで、酷い
事は一切されていません﹂
ニコっと微笑むリーゼロッテだが、肩から血が流れている。
﹁ご主人様、リーゼロッテさんが、私を庇ってせいで、怪我を⋮﹂
マルガはそう言ってシュンとなっている。俺はマルガの頭を撫でな
がら
﹁またリーゼロッテさんに、マルガを助けて貰ったみたいですね。
本当にありがとうございます﹂
そう言って微笑むと、リーゼロッテも同じように微笑んでくれてい
る。俺は、アイテムバッグから、傷薬と包帯を取り出す。
﹁マルガ。この傷薬と包帯で、リーゼロッテさんの傷を、治療して
あげて。リーゼロッテさん、マルガに治療して貰ったら、マルガの
左頬に薬を塗ってやってくれますか?俺は他の人の縄を切って来ま
すから﹂
464
リーゼロッテは頷き、マルガは、ハイ!と右手を上げて返事をする
と、俺から傷薬と包帯を受け取って、リーゼロッテの治療を始めた。
俺は縛られている、アロイージオの所に行くと、そこにはエイルマ
ーと数人の女性が震えていた。
﹁やっぱり、エイルマーさんも、捕まっていたんですね﹂
俺はそう言って、エイルマーの縄を斬る。エイルマーは複雑な表情で
﹁やっぱりと言う事は、弟のハンスの事を⋮﹂
﹁ええ、僕を睡眠薬で眠らせたのはハンスさんですからね。そのハ
ンスさんと一緒に向かったと、聞いていましたのでね。さ!アロイ
ージオ様も、縄を切ります!﹂
アロージオの縄を切っている時に、ハンスの死体が目に入ってきた。
その事に気がついたエイルマーが、此れまでの事を説明してくれる。
その表情は、悲しみに染まっていた。
それを聞いて、部屋でハンスから聞いた言葉を思い出す。
﹃私は⋮この村を何としても守りたいんです。ですから⋮この村を
守る為なら⋮なんでもします﹄
あの言葉は、もう既に後に引けない者の言葉だったのであろう。全
てを掛けた言葉⋮
﹁とりあえず、話は此処を出て、村に帰ってからにしましょう。こ
の盗賊団の頭が帰って来ない内に、急いで此処から脱出します。皆
さん馬車に集まって下さい!﹂
俺の言葉に、一同は馬車に集まる。
﹁葵殿のその武器が有れば、この盗賊団の頭も倒せるんじゃないの
かい?﹂
アロイージオのその言葉に、一同も頷き肯定しているが、俺だけは
465
首を横に振り
﹁いえ、無理です。勝てないと思います。僕にはハーラルト様を圧
倒して倒すと言う事は出来ません。出来たとして、奇襲、奇策でで
すね。まともにやりあったとして、勝てるかどうかです。そんなハ
ーラルト様を圧倒して倒す奴に、僕なんかじゃ勝てませんよ﹂
﹁と言う事は⋮この盗賊団の頭は、かなりの凄腕なのですね?﹂
﹁ええ。リーゼロッテさんの言う通りです。きっと、かなりの手練
ですね﹂
その言葉に、一同の顔色が変わる。ハーラルトを圧倒できる相手な
んかと、戦うなんて、マジで御免被りたい。命がいくつあっても、
足りないよ。一刻も早く、この場から立ち去りたい。
﹁ですから、此処から脱出して、エイルマーさんには早馬で、港町
パージロレンツォの守備隊に報告して、兵を村に送って貰って下さ
い。その間僕達は、村で防御線を張って、守備隊が来る迄、守ると
言うのが一番です﹂
俺の提案に、一同が頷いた。そして、各々が馬車と早馬に移動を開
始した時だった。アジトの入り口の方に気配を感じた。それと同時
に声がする
﹁オイオイ∼なんだこりゃ?ちょっと迎えに行ってる間に、何があ
ったんだ?﹂
その声に振り向くと、3人の男女が立っていた。
20代後半、身長180cm位の、グレーの髪に、切れ長の男前の
顔に、体格は普通だが、戦闘を数多くこなしていると解る男が中心
に居て、その左には、身長170cm位の、褐色の肌にダークブラ
ウンの髪、艶かしく張りのあるプロポーションの20代中頃の美し
い女性、その右には、身長200cmを軽く超えているであろう巨
466
躯に、筋肉の塊の様な鍛えられた体、その背中には、大きな斧をぶ
ら下げている。
その3人は、辺りを確認する様に見回している。そして、左の女性が
﹁どうやら⋮ベルントの隊は全滅している様ですねギルス﹂
﹁そんな事言われなくったって、見りゃ∼解るよカチュア。⋮うん
?﹂
そんな会話をしていた、ギルスが、俺の視線に気がついて、
﹁なんだ行商人じゃねえか。なんでこんな所に居るんだ?⋮なるほ
ど⋮これをやったのはお前の仕業か?﹂
ニヤっと嗤うギルスに、背中に冷たいものを感じた。その瞬間、俺
は無意識に、2丁拳銃のグリムリッパーを召喚して、ギルスに向け
て発砲していた。
﹁ガガガオン!﹂
三発の銃声が鳴り響き、魔法弾が高速でギルスに襲いかかる。しか
し、その三発の魔法弾は、ギルスに届く事は無かった。
﹁バシィィン!!﹂
ギルスを庇う様に、一歩前に出たカチュアの、突き出された左手か
ら、黄緑色の障壁の様な物が発生して、その障壁に魔法弾が弾かれ
てしまった。
﹁あっぶね∼!今のはまともに食らってたら、流石の俺でも、やば
かったな!ありがとよカチュア﹂
﹁良いのです。私は貴方の剣であり、盾でも有るのですから﹂
﹁でも良く、マジックシールドで防いだな。あの一瞬で判断したの
か?﹂
﹁いいえ。全滅している死体に残っている傷からです。どの遺体も、
467
魔法痕が残っていたので、敵は魔法か何かの使い手だと、判断して
いただけです﹂
﹁は!抜かりはねえてか!流石俺のカチュアだな!﹂
ギルスの言葉に、妖艶な微笑で答えるカチュア。そして、再度前に
出てくるギルスが哂いながら、
﹁いきなりやってくれるじゃねえか行商人。その武器⋮剣みたいな
のがついてるけど、拳銃ってやつか?﹂
﹁恐らく⋮マジックアイテムでしょう。拳銃から発射された弾は、
魔力属性でした。きっと、魔力か何かを魔法弾に変換して、撃ち出
して居るのでしょう﹂
﹁しかも、何も持って無かった行商人の手に、いきなり現れたよな
?って事は⋮召喚武器か!うほ!良いもん持ってるじゃんかよ行商
人!﹂
そう言って嗤うギルス。
解っていたけど、こんな簡単に防がれてしまうとは⋮。俺が無意識
に発砲したのは、きっとこいつらに恐怖を感じたからだ。無意識に
恐怖を排除したかったんだと思う。とりあえず⋮こいつらの情報を
得よう⋮
俺は霊視で3人の能力を視る。そして、戦慄する。
﹃⋮ギルスと呼ばれる男が、LV97、戦闘職業はアサルトバスタ
ー、カチュアと呼ばれた女が、LV86、戦闘職業はアークセージ、
巨躯の男が、LV72、戦闘職業がソリッドファイター⋮3人共、
スキルもかなりヤバイものが揃ってる⋮﹄
体の芯から、震え出す様な、悪寒がする。
どうする⋮こんな高LVの上級者を、3人も相手にするのは無理だ
!な⋮何か手を考えなければ⋮間違いなく、殺される。どうすれば⋮
俺がその様なことを思案していると、ギルスが一歩前に出て
468
﹁ま∼兎に角、行商人!お前の後ろに居る奴等は、俺達の物だ。返
して貰う。それに、お前のその召喚武器も、金になるから、貰うと
しようか﹂
﹁⋮そう言われて、はいそうですかって、簡単に渡せるほど、人間
は出来てないね!﹂
ギルスの言葉に、俺が身構えながら言うと、クククと哂いながら
﹁だよな!⋮カチュア、ホルガー!こいつは、俺だけでやる。手を
出すなよ?﹂
ギルスの言葉に、頷くカチュアとホルガーと呼ばれた巨躯の男。
とりあえず、3人同時に相手をしなくて済むのか?⋮俺にとっても、
そっちの方が良い。この3人と同時に戦うなど、無謀すぎる所だっ
たし。そんな俺の思考を読み取ったかの様にギルスは
﹁おいおい∼。俺だけが相手だからって、安心してて良いのか?一
対一だからって、お前が俺に勝てる保証はないんだぜ?﹂
ギルスはニヤっと哂いながら俺を見ている。
確かにそうだ。一対一の勝負でも、俺の方が、かなり分が悪い。実
力差がありすぎる。どうする⋮
初めの⋮無意識で撃った魔法弾は、女のメイジに邪魔されなければ、
こいつに当たっていて殺れたのでは?まともに、殺り合うのはマズ
イ。やはり、一撃必殺を狙って、チャンスに賭けるしか無い!
俺は覚悟を決めて、ギルスと対峙して、身構える。そんな俺を見て、
ギルスは楽しそうに哂い
﹁しかし⋮全く予想外だったぜ。お前がベルント達を全滅出来る、
力と武器を持っていたとはな!彼奴等みたいに、先にお前を殺して
おけば良かったな!﹂
﹁奴等みたいに⋮それはエドモンさん達の事か?﹂
﹁うん?そうか⋮知っていたんだったな。その通りだ。彼奴等には、
469
俺達の部下になる様に提案したんだが、断りやがったからな。だか
ら、始末した﹂
冷たい目でそう言い放つギルス。
⋮やっぱりコイツらが、エドモン一行を殺った奴等なのか。出来れ
ば、こうやって対峙はしたくなかったな⋮
﹁どうした?掛かってこないのか?折角一対一のサシの勝負なんだ
ぜ?それとも臆したのか?﹂
﹁うるさい!すぐにその口を開けなくしてやるよ!﹂
俺はそう叫んで、グリムリッパーを構える。乾いた銃声と共に、4
発の魔法弾が発射され、ギルスに襲いかかる。
﹁キィン!キィン!キィン!キィン!﹂
金属と魔法弾の衝突する、綺麗な音が鳴り響く。ギルスの体からは、
淡黄色に光るオーラが、体を包んでいて、その右手には一振りの剣
が、鞘から抜かれて握られてる。魔法弾は、その剣によって、弾き
飛ばされていた。
﹁この剣は、ちょっとした名剣でな。名前をフラガラッハと言う。
昔に何処かの魔女が鍛えて、どこぞの英雄が使っていたって言われ
てるらしいが、そんな事は俺には興味はねえ。だが、コイツは風の
魔法で、強化をされているマジックアイテムだ。己の力量に合わせ
て、力を貸してくれる回答者。俺が使うコイツの切れ味は、一味違
うぜ?⋮ま∼お前のマジックアイテムの、その拳銃には劣るだろう
がな﹂
ギルズはそう言って哂いながら、剣を肩に担いで、トントンと楽し
げに剣を揺らし、
﹁どうした?もう終わりか?所詮、良いマジックアイテムを持って
いても、宝の持ち腐れなのか?﹂
470
﹁だまれ!﹂
俺はそう叫ぶと、グリムリッパーを、次々と撃って行く。けたたま
しい銃声が響き渡り、何十発もの魔法弾がギルスに襲いかかる。
﹁うほ!こりゃ∼数が多いな!﹂
そう言いながら、魔法弾をフラガラッハで弾き、魔法弾を躱してゆ
く。そして、アイテムバッグらしき物から、何かを出した。
﹁バシィィン!!﹂
激しい金属音が鳴り渡る。ギルスがアイテムバッグから出したのは、
直径60cm位の、ラウンドシールドだった。そのラウンドシール
ドで、グリムリッパーの魔法弾を防いだのだ。
﹁このラウンドシールドも、魔法で強化された物だ。ま∼このフラ
ガラッハや、お前の拳銃とは、比べ物にならない品だけどな。でも、
魔法弾を防ぐにゃ∼十分みたいだな﹂
俺の悔しそうな顔を見て、ニヤっと笑っているギルス。
﹁確かに、お前のその拳銃の、魔法弾の速さは凄い。気戦術の身体
強化を使って、身体能力と五感を上げている俺でも、全て見切るの
は難しい。でもな、撃つ瞬間の気や、筋肉の動き、タイミングを読
む事と、フラガラッハとラウンドシールドで、全ていなす事が出来
る。⋮で、お前はどうする?﹂
ギルスの目が冷たく光る。俺は背中に冷たいものを感じる。
確かに、此のままじゃ埒が開かないのは解っている。だか⋮今はこ
れしかない!
俺は再度、グリムリッパーを構える。そして、魔法弾を次々とギル
スに、撃ち込んで行く。
﹁⋮またそれか。いや⋮遠距離タイプのお前には、此れしか無いか
471
⋮﹂
ギルスは魔法弾を、フラガラッハとラウンドシールドでいなしなが
ら、俺に一気に間合いを詰めてきた
﹁もう飽きて来た事だし、一気に終わらせて貰うぜ!じゃあな!行
商人!﹂
名剣フラガラッハを振り上げて、斬撃の体制に入った。そして、一
気に振り下ろされる名剣フラガラッハ。
気戦術で攻撃力の上がった、名剣フラガラッハの剣先が俺に迫る。
﹃掛かった!此れでも喰らえ!﹄
心の中で、歓喜混じりに叫ぶと、俺は一気に気勢を上げる。俺の体
は、薄紅色の輝くオーラで包まれる。
﹁な⋮なにいィー!!﹂
ギルスは驚き戸惑いの声を上げるが、もう遅い。完全に俺の間合い
に入った!
俺は、闘気術で身体強化をされ、闘気を刃に十分に蓄えた、銃剣2
丁拳銃のグリムリッパーを振るう。
﹁迦楼羅流銃剣術、奥義、雪月花!!!﹂
闘気術で高められた気を、一気に爆発させる。俺の体を包む薄紅色
の輝くオーラは輝きを増し、グリムリッパーの剣先から、薄紅色に
輝く三段の斬撃波が、ギルスに襲いかかる。
﹁く⋮くそったれー!!!﹂
断末魔に近い叫び声を上げるギルス。その次の瞬間、
﹁ギャリィィィィン!!!﹂
甲高い金属の斬れる音が鳴り響く。そこには、ガラガラと音を立て
472
て地面に落ちる、3つに斬られたラウンドシールドの姿があった。
暫くの沈黙の後、その男は話しだした。
﹁やってくれたな行商人⋮まさか⋮俺が斬り込んで行く所を、狙っ
て待って居たとはな⋮正直驚いたぜ!﹂
鋭い眼光に、光を宿らせ、静かに力強く言うギルス。その視線に、
体が凍りそうになる。
﹁あの斬撃波を、あんな躱し方をするお前の方が、どうかしてると
思うけどな!﹂
ギルスの迫力に気圧されながら俺が応える。ギルスに雪月花の斬撃
波を避けられた⋮。
ギルスはあの瞬間、雪月花の斬撃波を、このままじゃ躱せないと理
解し、瞬時にシールドアタックを放って、雪月花の斬撃波を躱した
のだ。
通常、シールドアタックは、盾で相手を弾き飛ばす技であるが、気
戦術で強化されたシールドアタックを空撃ちし、その時に出る空圧
を利用して、後方に跳躍して、雪月花を躱したのだ。
しかも、雪月花の斬撃波を弱める為に、ラウンドシールドを我が身
の代わりに、投げ捨てた。そのお陰で、ギルスの体には、わずかし
か雪月花の斬撃波は届かなかった。
恐らくマジックアイテムであるハーフプレートに、僅かに傷がつい
ただけで終わってしまった。
﹁そのお前の体を包み込む、薄紅色の輝くオーラ⋮どうやら、気戦
術系のスキルみたいだな。身体強化も出来ると⋮。なるほど⋮遠距
離タイプの攻撃しか出来無いと思わせ、俺が一気に勝負を決める為
に近づいた所を⋮か。あの無駄な銃撃も、俺にそう思わせる為のも
の⋮。は!その歳であの状況の中、こんな事を実行するなんて、な
473
かなかどうして、大した策士だなお前は!こんなに、ヒヤリとさせ
られて、楽しませて貰ったのは、久しぶりだぜ!﹂
ギルスは鋭い目をしながらも、楽しそうにそう言うと、名剣フラガ
ラッハの剣先を俺に向け
﹁さあ!続きを楽しもうぜ、行商人の少年よ!此処からが楽しい所
なんだからよ!その気戦術もどきのスキルを使って、全力でかかっ
てこい!﹂
死刑宣告に近いその言葉に、思わず嫌な汗が背中を伝う。ギュっと
グリムリッパーを握る。
最大の罠は失敗に終わった。此処からは、真正面にぶつかって行く
事になる⋮絶望が頭を過る。
﹁クソが!﹂
吐き捨てる様に俺は言うと、闘気術で強化された能力を使って、一
気に間合いを詰める。グリムリッパーの2本の刃で、ギルスに斬り
つける。
﹁は!流石に速ええな!さっきとは、段違いだぜ!﹂
口元に哂いを浮かべながら、グリムリッパーの刃を躱して行くギル
ス。その躱した先に、俺は魔法弾を撃ち込んで行く。
﹁おお!剣術だけじゃなく、銃撃も出来るんだったな!その拳銃は
!﹂
そう言って口元に哂いを浮かべながら、名剣フラガラッハで、魔法
弾を弾くギルス。
﹁なるほど⋮。拳銃に付いている短剣と、銃撃による射撃か。お前
の就いている戦闘職業は、かなり特殊なもんだな。遠距離と近距離
を得意とする、戦闘職業か⋮面白いな﹂
474
面白そうにニヤっと嗤うギルス。
﹁もっと見たいな⋮俺も此処からは本気だ!今度は此方から行くぞ
!﹂
そう叫ぶと、ギルスの体を包んでいた、淡黄色に光るオーラが、輝
きを増す。闘気術で強化された、俺の動体視力でも、やっと捕らえ
られる位の速さで、間合いを詰めてくるギルス。
俺も再度気勢を上げる。俺の体を包む薄紅色の輝くオーラは輝きを
増し、闘気術で高められた気を、一気に爆発させ、グリムリッパー
の剣先から、薄紅色に輝く三段の斬撃波が、ギルスに襲いかかる。
﹁迦楼羅流銃剣術、奥義、雪月花!﹂
俺の流派の奥義を放つが、薄紅色に輝く三段の斬撃波の先には、ギ
ルスの姿は無かった。
﹁⋮大技ってのはな、使う時に隙が出来やすいんだ。さっきみたい
に、此処ぞと言う時以外は使うもんじゃねえな!!﹂
俺の後ろから声が聞こえる。その声に、振り向くやいなや、名剣フ
ラガラッハの剣先が目の前に迫る。
﹁グッ!!!﹂
そのギルスの斬撃を、危機一髪躱したが、肩口に一刀、致命傷では
ないが入れられてしまった。肩から、血が溢れ流れ出す。
﹁へ!完全にじゃなくても、良く今の斬撃を躱せたな!さあ⋮次は
どうする?これでもう終わりか?﹂
﹁ま⋮まだまだだ!!!﹂
俺は叫びながら、闘気術を全開にして、ギルスに斬り掛かり、銃撃
を放ってゆく。
そこから数十手打ち合うが、当然、地力で劣る俺が、ギルスに一撃
475
を加える事は出来ずに居た。
ギルスからの一方的な攻撃によって、俺の体からは、至る所から鮮
血が流れだしていた。
余りの斬られ様に、ダメージが蓄積して、片膝をついて蹲ってしま
った。そんな真っ赤に血に染まる俺を見て、マルガが悲愴の声を上
げる
﹁ご主人様!!!!﹂
マルガはそう叫んで、俺の傍に走り寄ろうとしたのを、言葉で止め
る。
﹁マルガ来ないで!お願いだから⋮そこで待ってて⋮﹂
鮮血で染まっている、力なく微笑む俺を見て、マルガの目に涙を溜
めながら俺を見ていた。
﹁⋮技の威力も、武器の威力も、申し分ない。だが⋮お前には⋮経
験が足りてないな。武器とスキルに依存して、助けられている⋮ま
だまだ、使いこなせていないな﹂
﹁は!ぬかせ!⋮そんな事はな⋮はなから解ってんだよ!﹂
フラフラになりながら、何とか立ち上がる事が出来た俺を見て、呆
れた様に、軽く溜め息を吐くギルスが、
﹁は∼。まだ立てるのかよ。普通そんだけ斬られりゃ∼出血が多す
ぎて、死ぬかも知れねえってのによ。身長も高くないし、体も筋肉
が有る訳でもなく細身だし、そんな体の何処に、それだけの力が有
るって言うんだ?﹂
剣を肩に担ぎ、トントンと揺らして、呆れているギルス。
そう、俺が何とか立てているのは、ヴァンパイアハーフの力、ヴァ
ンパイアハーフの加護、限定不老不死の力の超回復お陰だ。そこら
476
じゅう体を斬られてはいるが、表面上の傷は回復している。ただ、
斬られすぎて、回復がダメージの量に追いついていないのだ。純血
の始祖のヴァンパイアなら、いくら斬られ様が関係ないかも知れな
いが、俺は回復量を超える攻撃をされれば、死んでしまう。このま
ま、斬られ続ければ、いずれ回復量を超えて、殺されてしまう。ま
実力も経験もすべて相手の方が上⋮先ほどの、
さに、時間の問題だ。
だが⋮どうする?
最大の罠をも躱してしまう手練。
もう一度罠を張ろうにも、十分警戒はしているだろうし、もう一度、
罠を張るとしたら、よっぽど解らない、とんでもない罠じゃないと
ダメだろう。何か⋮ないのか⋮この状況を一変させる様な何かが⋮
それか⋮やっぱり⋮アレしか残されてないのか⋮
そんな事を考え、身構えている俺を見て、ニヤっと哂い、顎に手を
当てて考えながらギルスが
﹁フム⋮経験もLVもまだまだ足りないが⋮スキルと武器の力を合
わせれば⋮ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の、あの隊長と同等
か⋮。殺すには惜しいか⋮?﹂
そう呟いて、俺を見つめるギルスが
﹁おい!行商人の少年!どうだ?俺の部下にならないか?お前じゃ
∼俺には勝てないのは、十分に解っただろ?もし、俺の部下になる
なら、お前の奴隷の亜種の少女は、手を付けず、お前の物のままに
してやる。お前も、奴隷じゃなくて、俺達の仲間として扱ってやろ
う。勿論、俺の部下だから、俺の命令には従って貰うが、お前の行
商や、利益には手を付けないと、約束してやろう。良い条件だと思
うがどうだ?無駄に命を散らせる事は無いだろう?﹂
剣を肩に担いで、トントンと楽しげに剣を揺らし、諭すように言う
ギルス。
477
⋮甘言⋮その言葉が頭に浮かぶ。確かにその条件なら、これ以上俺
は命を掛けなくて済む上、マルガも俺の物のままでいられる。しか
も、行商での利益も守ってくれると、約束すると言っている。
当然、部下になるので、命令は有るだろうが、こんな所で死ぬより
も、遥かにマシだ。
今⋮俺に出来る最後の事は⋮まさに最後の切り札、種族能力解放だ
けだ。
ヴァンパイアハーフの始祖の力を開放し、その力で戦う事だ。だが、
大きな問題がある。
一つ目は、一番重要な事。その力を使って、このギルスと言う男と、
残りの2人に勝てるかどうか、解らない事だ。
俺はこの世界に来て半年、幸運にも、此処まで追い詰められた事は
無かった。マジックアイテムの2丁拳銃グリムリッパーと、スキル
と3種類のレアスキルで乗り越える事が出来た。なので、1番の攻
撃力を秘めている可能性のある、種族能力解放のスキルを、一度も
使った事が無いのだ。なので、どの様な効果が有るのか、どれ位の
強さが有るのか、全く理解していない。その力で、この男と、残り
の2人を倒せれば良いが、もし、倒せなかったら、俺の命はまず無
い。俺は死に、マルガは何処かの奴隷商に売られ、他の男に汚され
続けるしかなくなる。
二つ目は、目撃者が多い事だ。種族能力解放する事により、俺が魔
物とのハーフ、魔族である事がバレてしまう事。
この世界の人や亜種の大半は、魔物、魔族を敵として認識している。
完全に違う生き物として、認識されているのだ。そんな、魔物と取
引したい奴など、この世には居ないだろう。
このギルスと言う男に、もし勝てたとして、村人のエイルマー達や、
魔物を嫌うエルフのリーゼロッテ、そして、大貴族のアローイジオ
478
が、どういった対応をするかが、解らない。
この人達が、国や教会などに、俺の事を密告すると、俺は討伐され
る側の人間になりかねない。
世界から追われる様な事は避けたいので、この人達を口封じの為に、
殺さなければならならい。
今の俺には、俺の正体を知って尚、俺に忠誠を誓って、俺を好きと
言ってくれるマルガしか、信じられる者などいないのだ。
そうなると、種族能力解放を使って、口封じの為に殺してしまうよ
りか、ギルスとの取引に応じ、奴隷にされてしまうかもしれないが、
生きている方がましであろう。危険を犯して種族能力解放をするメ
リットがまるで無い。
﹁どうした?まだ考えているのか?お前の安全と、奴隷の亜種の少
女の安全も確保できてる上に、行商で利益も上げれるんだぜ?村の
奴等だって、ま∼たまに、雇った兵隊に犯されるかもしれないが、
その他はいつもと同じ様に、生活をさせてやるつもりだ。お前が心
配する事は無い。そこの貴族の坊ちゃんは、モンランベール伯爵家
から、しこたま身代金をふんだくったら、薬で記憶を消して、モン
ランベール伯爵家に帰してやるつもりだ。そこのエルフの美女だけ
は、恐らくかなりの金になるから、奴隷商に売る事になるが、どっ
かの金持ちに買われて、普通の生活よりましな生活が出来るだろう
さ。お前が心配する事は、何も無いはずだが?﹂
俺を見ながら不思議そうに言うギルス。
確かにギルスの言う通りだ。俺が此処で無駄に命を掛ける理由は無
い。多少の理不尽はあるが、力ある者は理不尽を通すもの。力が無
い自分が悪いだけなのだ。アローイジオや、村の人達の顔を見ると、
その取引を受ける事に、仕方が無いと言った感じの表情で、俺を見
ていた。力なき者にとって当然の顔だろう。
俺は、理解力の高いリーゼロッテも、同じような表情で、取引を肯
479
定するだろうと思って、リーゼロッテに視線を向ける。しかし⋮そ
こには⋮
⋮必死に助けを求め縋り付く様な⋮金色の透き通る瞳を揺らしてい
る、リーゼロッテの姿があった。
まるで、何時かのマルガの様なその瞳⋮
リーゼロッテのその顔を見た俺は、なぜか血が滾って居た。理由な
んか解らない。
嫌だ⋮リーゼロッテのこんな顔は見たくない。リーゼロッテには笑
顔が良く似合うんだ。優しく、余裕のある微笑が、スラリとした超
美少女のリーゼロッテには似合うんだ。何時も強気で、凛としてて、
そして、たまに見せる、優しい微笑みが似合ってるんだ⋮
俺は⋮嫌だ⋮リーゼロッテを奴隷商なんかに売らせない⋮他の奴に
渡す位なら⋮いっそ俺が⋮
そんな感情が、俺の中を渦巻き、大きくなる。リーゼロッテは⋮渡
さない!
﹁もし⋮俺が⋮お前の取引を⋮断ったらどうなる?﹂
﹁はああ?こんな好条件を出してるのに、断ろうってのか!?⋮そ
の時は、いつぞやの行商人よろしく、お前にも死んで貰うだけだ!
解ってると思うが、お前が俺に勝てる事は、まず無い。万が一に、
俺を倒せたとしても、その後は、カチュアとホルガーになぶり殺し
にされるだけだな!ま∼俺が、お前に負けるなんて事は、世界がひ
っくり返りでもしなけりゃねえけどな!お前が、俺より優れている
のは、そのしぶとさだけだろうしな!それだけ斬られて、まだ動け
るのだけは、褒めてやるよ!﹂
ギルスは冷たい目をしながら、嗤っていた。
480
そうだろう⋮それは解っているが⋮マルガも大切だけど、リーゼロ
ッテの事を諦めるつもりもない!
しかし、どうする⋮コイツに勝つ事は、今の俺には⋮コイツの言う
通り、しぶとさのみ勝っているだけだ⋮
俺はそう考えていた時、何かが引っかかった。
﹃俺が唯一勝っている部分は、しぶとさだけ⋮﹄
心の中で、もう一度そう呟いた時、体中に電撃が走ったかの様な、
感覚にとらわれる。
﹃ある!あるじゃないか!種族能力解放を使わずに、俺が唯一勝っ
ている部分で、アイツを倒す方法が!﹄
俺の心は歓喜にとらわれる。若干の心配要因もあるが、それは仕方
ない。今より遥かに、希望的な展開になるかもしれないからだ。
俺は決意した顔で、一歩前に出る。ギルスはニヤッと嗤って、俺の
言葉を待つ
﹁俺は⋮お前達と取引はしない!俺はお前達3人に勝って、俺は俺
だけの道を歩む!!﹂
俺の言葉を聞いたギルスは、静かに冷たい目を俺に向けていた。
俺は、リスボン商会の恩師、ギルゴマによく言われる事がある。
﹃何度も言いましたが、貴方はすぐに顔に出る癖があります。そん
な顔に書いてますって言う様な事では、大きな商談はまだまだ出来
ませんね﹄
そんな言葉を思い出す。今の俺はきっと、隠そうと思っても、顔に
出ているだろう。
だって⋮口元がニンマリしているのを、俺自身が解っているからだ。
戦いはこれから⋮俺は⋮このまま、進み続ける!!
481
俺とギルスは、静まり返るアジトの広間で、睨み合っていた。
482
愚者の狂想曲 14 決着!
﹁取引を断る?⋮それは⋮本気で言っているのか?﹂
静まり返っているアジトの広間で、ギルスは凍る様な瞳で俺を見つ
めて言う。周りで見ている、マルガリーゼロッテは勿論の事、村の
人々も驚きの表情で俺を見ていた。
﹁ああ!本気だ!俺は、お前と取引をしない!俺はお前達3人に勝
って、俺の道を進む!﹂
グリムリッパーの剣先を、ギルスに向けて、不敵に笑う俺を見て、
盛大に溜め息を吐くギルス。
﹁⋮ったっく、最近の若い奴らは、身の丈を超える野心を、抱きす
ぎだな。お前LVの奴が、俺達3人に勝つなんて、夢のまた夢なの
によ。正に愚者のやる事だぜ?ちょっとは、使えそうな奴だと思っ
たが、違った様だな!﹂
剣を肩に担いで、トントンと剣を揺らし、見下す様な冷たい目で俺
を見ているギルス。
﹁愚者で結構!⋮そんなお前達は、その愚者にやられるんだ!俺の
切り札でな!﹂
俺はグリムリッパーを構え、再度、闘気術を展開させる。俺の体は、
薄紅色の輝くオーラで包まれてゆく。
﹁言葉で言っても、解らねえ様だな⋮。なら⋮きっちりその体に教
え込むのが、大人の役目ってな!﹂
ギルスも気戦術を展開する。淡黄色に光るオーラがギルスを包み込
む。
483
﹁もう、容赦はしねえ⋮覚悟するんだな!﹂
そう言い放つと、もの凄い勢いで間合いを詰めてくるギルス。
﹁俺も、本気だ!ただではやらせないね!﹂
俺は高速で間合いを詰めて来るギルスの少し前の足元に、グリムリ
ッパーの魔法弾を、多数撃って行く。
﹁ガガガガガガガオン!!!﹂
けたたましい銃声が鳴り響き、地面に撃ち込まれた魔法弾は、沢山
の砂煙を巻き上げ、一瞬視界を悪くする。それと同時に、ギルス目
掛けて、多数の石や砂と一緒に、飛んでくるものがあった
﹁なにいい!!地面から魔法弾だと!?﹂
地面に撃ち込んだと思われた魔法弾が、地面で跳ねて、複数ギルス
に向かっていた。俺はグリムリッパーの魔法弾の威力を弱めて、斜
めから撃ち込んで、地面で弾を跳弾させたのだ。
﹁そいつは跳弾だ!で⋮此方が俺の切り札だ!!!﹂
俺は一気に気勢を高める。体を包む、薄紅色の輝くオーラが光り輝
く。
﹁くらえ!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!﹂
跳弾した魔法弾を避ける為に、動きの止まったギルスに、グリムリ
ッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が襲いかか
る。余りの射撃の連射で、銃声が獅子の唸り声の様に、爆音となっ
て、辺りに響き渡っていた。
﹁これが狙いだったのか!!!﹂
顔を歪める、ギルスであったが、流星嵐の様な魔法弾が当たる直前
484
に、気戦術の淡黄色に光るオーラが光り輝き、一瞬でギルスの姿が
消える。
﹁気戦術⋮瞬迅⋮斬⋮!﹂
その呟きは微かなものだった。俺の左後方から、物凄い殺気を感じ、
俺は無意識に跳躍してその場を離れた。その後、風の様な物が俺の
胸辺りを掠めて行った。その次の瞬間、俺の胸が、黒鉄のブリガン
ダイン事斬れて、大量の血が胸から吹き出す。そして、風が吹き抜
けた先に、名剣フラガラッハを、振り切った体制のギルスの姿が目
に入った。俺は片膝をついて蹲る。
﹁ご主人様ー!!!もうやめて下さい!!﹂
マルガは可愛い瞳から、涙を流しながら俺に叫ぶ。その隣で、リー
ゼロッテが激しく瞳を揺らしている。
﹁まさか⋮まだあんな手を持っていやがったとはな。言うだけの事
はあったな。しかも、無意識で殺気を感じ取り、俺の技⋮瞬迅の斬
を躱し、その程度の傷で、済ますとは⋮素直に褒めてやるよ﹂
大量の血を流して蹲る俺に向き直り、鋭く光る眼光を向けるギルス。
﹁だが、俺の瞬迅の斬を躱したとはいえ、それは即死を避けただけ
の事。その傷は、致命傷に近い。もうお前に、戦うだけの力は無い
だろう?⋮最後の機会をやろう。俺の部下になれ。悪い様にはしな
い。最後の切り札も、俺には通じなかった。もう十分に戦っただろ
う?これ以上愚者の様な行為をするのは、辞めるんだな﹂
再度俺に諭すように言うギルス。俺は、血を流しながら、フラフラ
しながら立ち上がった。
その俺の姿を、目を細めて見ているギルスに、
﹁⋮何時まで⋮上からモノ言ってんだよ⋮ザコが⋮﹂
485
﹁⋮なに?﹂
﹁何時まで、上から物言ってんだって、言ってんだよ!!このザコ
が!!﹂
ギルスを激しく睨みながら、俺は雄叫びの様な声を、ギルスに吐き
かける。
﹁俺に、部下になれだって?ふざけた事を!俺はな、誰の部下にも
ならねえよ!ましてや⋮俺より弱いザコの部下になんか、願い下げ
だ!お前は俺より⋮弱い!﹂
﹁⋮この俺が⋮お前より⋮弱いだと⋮?﹂
﹁ああ!弱いね!何故なら、俺はこの通り、まだこうしてお前の前
に立っているからな!お前の、ネコを撫でる様な剣技では、俺は殺
せねえなあ∼!俺はまだ生きている⋮俺の鼓動は脈々と打っている
ぞ?俺を殺したきゃな、俺の心臓でも、一突きにでもする事だな!
解ったか!調子に乗ったザコが!!﹂
嘲笑う様に、胸を叩きながら、言い放つ俺を見て、ギルスは今迄見
た事の無い、凍る様な目付きで俺を見て
﹁⋮お前の言いたい事は良く解った。そんなに死にたいのなら⋮一
瞬でそうしてやろう⋮﹂
ギルスは淡々とそう言うと、名剣フラガラッハの剣先を、静かに俺
に向ける。ギルスを包んでいた、気戦術の淡黄色に光るオーラが、
眩い光を放っている。
そして、それは⋮一瞬の出来事であった。
目の前で、名剣フラガラッハを構えていたはずの、ギルスの姿が消
える。その後に吹き抜ける風⋮
﹁トン⋮﹂
微かに、胸に何かを感じる。ふと視線を胸元に下ろすと、ギルスが
名剣フラガラッハを、俺の左胸、心臓に、柄の部分まで、深々と突
486
き刺していた。背中に視線をやると、俺の体を突き抜けている、名
剣フラガラッハの剣先が見えた。
﹁気戦術⋮瞬迅⋮突⋮﹂
ギルスは静かにそう呟く。それと同時に、夥しい流血が、俺の左胸
と背中から、まるで噴水の様に吹き出した。
﹁ゴ⋮ゴフォ⋮﹂
俺は口から大量の血を吐く。気管に血が入り、呼吸も出来ない。体
が痙攣を始め、そして、糸の切れた人形の様に、俺の首は項垂れ、
事切れる。
﹁いやーーーー!!!ご主人様ーーーー!!!!!﹂
マルガは両手で顔を抑えながら、嗚咽混じりに叫ぶと、膝から崩れ
落ちてしまった。リーゼロッテは綺麗な透き通る様な、金色の瞳に
涙を溜めながら、
﹁貴方達⋮許さない⋮何時か必ず⋮貴方達の首に、牙を立てて⋮さ
しあげます!﹂
リーゼロッテは、一筋の涙を流しながらも、決してギルスから目を
逸らさずに、静かにそう告げる。そんなリーゼロッテに、フッっと
少し寂しそうに笑うと
﹁そんな事出来る訳ねえだろ?お前はそこの亜種の少女と一緒に、
奴隷商人に売られ、どっかの金持ちのジジイの慰み者になる運命な
んだからよ!﹂
マルガと、リーゼロッテを見ながら、吐き捨てる様に言うギルス。
﹁この世な、力なんだよ!力が全て!力の無いお前達は、俺の言う
通りにしか出来無いんだよ!そうじゃないと、この行商人の少年み
487
たいに、死んじまうんだよ!⋮力が支配するこの世界がな⋮ひっく
り返る事なんか⋮ねえんだよ!﹂
そう声高に叫ぶギルスに、マルガとリーゼロッテは、きつく睨みな
がら、涙を流していた。
アロージオや村の人々は、目の前で、刺殺されている、行商人の少
年を見て、全てを諦めた様で有った。
ギルスの言葉を最後に、広いアジトの広間は、静寂に包まれた。ま
るで全ての終わりを告げる様に⋮
それを理解したギルスが、行商人の少年の死体から剣を抜こうと考
え、振り向こうとした時だった。
﹁そうかな⋮?﹂
呟く様な、何処か聞き覚えのある声が、聞こえるはずの無い方向か
ら聞こえる。ふと、その声のする方にギルスは振り返る。そして、
驚愕の表情を浮かべる。
﹁世界は意外と簡単に、ひっくり返るものかもよ?﹂
﹁うわあああ!!!﹂
瞳を真紅色に光らせている、俺の顔を見て、俺の声を聞いて、初め
てその顔を恐怖に染め、声を上げるギルス。それと同時に、死んで
いると思っている俺の体から、薄紅色のオーラが光り輝き、包み込
む。
﹁迦楼羅流銃剣術、奥義、雪月花!!!﹂
闘気術で高められた気が、グリムリッパーの剣先に宿り、薄紅色に
輝く三段の斬撃波が、ギルスに襲いかかる。
﹁グッハアア⋮!﹂
無意識に気戦術の防壁を張った、ギルスであったが、超至近距離か
らの雪月花の三段の斬撃波を、完全に防ぐ事は出来無かった。左手
488
の手首を切断され、胸を十字に深く斬りつけられ、唸り声を上げな
がら、壁に叩き付けられた。地面で大量の血を流しながら、蹲って
いるギルス。
﹁ご主人様!!!!﹂
マルガのなんとも言えない、喜びの声が聞こえる。チラっとマルガ
を見ると、可愛く大きな瞳が、涙でグシャグシャになりながら、喜
びの表情を浮かべている。それにちょっと、吹き出しそうになる。
﹁本当に可愛いんだからマルガは⋮。おら!ギルス!世界がひっく
り返った瞬間だ!咄嗟に気戦術でダメージを減らして、即死は免れ
た様だが、その傷は確実に致命傷!これがトドメだ!!!﹂
俺は声高らかに、そう宣誓する様に叫ぶと、2丁拳銃のグリムリッ
パーを、蹲っているギルスに向ける。
そして、魔法弾を撃とうとした時に、素早くギルスの前に立ちはだ
かる人影が居た。
﹁マジックシールド!!!﹂
ギルスを庇う様に前に立ち、魔法障壁効果のある、マジックシール
ドを張り巡らせ、魔法弾の攻撃からギルスを守っているカチュア。
その行動に、思わず瞳が歓喜に染まる。
﹁予定通りの行動をしてくれて、ありがとよ!﹂
俺はそう叫び、2丁拳銃のグリムリッパーを腕を伸ばして、前方で
2丁を合わせる。闘気術の薄紅色のオーラが光り輝く
﹁迦楼羅流銃剣術、奥義、迦楼羅咆哮!!!!﹂
前方で2丁合わせられた銃口から、何かのレーザーの様な太い光線
が、渦を巻きながら、超高速で発射される。その超高速の渦を巻く
虹色の光線は、マジックシールドを突き破り、カチュアの右胸に、
489
大きな風穴を開ける。それは、一目見て致命傷だと解る傷であった。
﹁グウ⋮﹂
小さな唸り声を上げて、地面に伏せて、撃ち抜かれた右胸を押さえ
るカチュア。
﹁これで2人目!最後は⋮﹂
その続きを発しようとした時、強烈な殺気と、気の力を感じ、左に
力一杯跳躍する。
﹁ドッッガガガン!!﹂
俺がさっき迄立っていた地面は、大きな音を立てて、地響きと共に
激しく陥没していた。それは巨躯の男、ホルガーと呼ばれた男が、
巨大なバトルアックスを振り下ろしていた結果だった。
ホルガーは瞬時に体制を立て直すと、俺目掛けて跳躍してきた。そ
の両手には、巨大なバトルアックスを大きく振りかぶっている。
俺は避けようとしたが、まだ胸に、名剣フラガラッハが刺さったま
まで、思う様に力が出ない。
俺は咄嗟に、壁際で蹲っている、ギルスとカチュアに、グリムリッ
パーの銃口を向け、数発発砲する。
それに気が付いた、ホルガーは、気戦術を使って、一瞬で2人の前
に立ち、グリムリッパーの魔法弾を、巨大なバトルアックスで弾き
飛ばす。それを確認して、ゆっくりと俺は体制を立て直す。
﹁へ!あんな残虐な事を平気でするお前達なのに、仲間は大切です
ってか?﹂
俺のその言葉に、表情を一切崩さずに、俺を睨みつけるホルガー
﹁⋮これは全て⋮お前の計算の上での事だったのだな?﹂
﹁⋮計算通りとは?﹂
490
﹁ギルスの意表を付いて、大技で仕留める為に演技をして⋮死んだ
ふりをして、避けられない至近距離で攻撃出来る様にし、その後、
ギルスを庇って、カチュアがマジックシールドを張る事を予測して、
マジックシールドを貫通する攻撃を放ち、カチュアを行動不能にし、
そして、その2人を俺が庇うと解っていて、あの状況で、俺の攻撃
を避けようともせず、2人に銃口を向け、発砲した⋮。その胸に剣
が刺さっているのに平気なのは、どんな細工が有るか俺には解らな
いが⋮大したものだな⋮行商人の少年よ!﹂
冷静に淡々と話すホルガー。
まあ⋮大体その通りだね。唯一の計算外は、ギルスのやつが俺の胸
に、余りにも深く、この剣を⋮柄の部分まで突き刺してくれたって
事だな。こんなに深く刺されたら、グリムリッパーの召喚を解除し
て、両手で剣を引き抜かないと、抜けやしない!そんな事、この巨
躯のホルガー相手にしたら、その隙に一瞬でやられるよ!クソ⋮ギ
ルスの奴を、挑発しすぎたかな⋮?⋮反省!⋮ガク⋮
﹁ま∼お前の言った通りだね。ギルスの奴をやった時点で、俺の賭
けは成功していたんだ。ギルスがやられれば、必ずその女が、真っ
先に助けに入るのも解っていた。その女はギルスの女なんだろ?愛
する男に必ず身を捧げるって解っていた。そして、その女は頭の回
転が速いから、きっと、俺がグリムリッパーの魔法弾での追撃を、
予測する事も解っていた。その女は、一切無駄な事をしそうにない
タイプだからな。後は⋮お前だけだった。だがそれも俺の予測通り
だったな。お前達は、そこで死んでいる兵隊達とは何か違う、絆み
たいなものを感じた。コイツらとは違う⋮もっと深い絆をな。だか
ら、お前が2人を絶対に庇うと確信していた﹂
胸の剣は、ヴァンパイアハーフの超回復のお陰なのは秘密だけどね
!しかし⋮マジで苦しい⋮
ホルガーは俺をキッと睨み、そして、軽くカチュアに振り返る。
491
﹁カチュア。お前と、ギルスを回復するのに、どれ位かかる?﹂
﹁⋮今は応急処置の治癒魔法を、2人同時にかけている段階よ⋮。
本格的に回復する迄には、まだかなり時間が掛るわ⋮お願い出来る
?ホルガー﹂
﹁承知した。此処は俺が何としても守る!お前は治癒魔法に専念し
ろ!﹂
2人の前に立つホルガーは、巨大なバトルアックスを掲げ、身構え
ている。
っち⋮やっぱりあの女、治癒魔法を使えたか。此方は、ぎりぎり超
回復でもっている状態。一刻も早く剣を抜きたいが、この状態では
抜けやしない。かと言って時間を与えすぎると、折角行動不能にし
た、ギルスとカチュアが復活しやがるし⋮そうなったら、今度こそ
終わりだ。早めに決着を着けないと⋮
﹁お前にそれが出来るのか?2人を守りながら、俺と戦うって事を
な。確かにお前の方が、LVも経験も上だろうが、俺にも通常じゃ
ない攻撃力がある。それに、まだ切り札を持っているかもしれない
ぜ?﹂
俺のその言葉に、初めて顔を歪ませるホルガー。
俺にこれ以上の策は無いけど、コイツには少しでも焦ってもらわな
いと。俺の力が尽きる前に⋮倒す!
﹁じゃ∼此方から行く!﹂
俺は闘気術を展開する。光り輝く薄紅色のオーラが、俺の体を包む。
そして一気に、気勢を高める
﹁くらえ!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!﹂
グリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が、
何百という花が咲き乱れる様に、ホルガーに襲いかかる。
492
それを見たホルガーは、気戦術で気勢を上げる。力強く淡黄色に光
るオーラが、ホルガーの体を包む。
﹁気戦術、坊壁陣!﹂
ホルガーの周りに、淡黄色に光るオーラの光が、盾の様に集まりだ
す。
﹁ギャリリリリリリリリリリ!!!﹂
何百と言う魔法弾が、気戦術の盾に、衝突して行く。その衝突の余
波で、辺りに砂煙が舞い上がる。
全ての魔法弾の衝突が終わり、砂煙が晴れて来た時に、傷ひとつ付
いていない、ホルガーの気戦術の盾が見えた。
﹃オイオイオイ⋮アレだけの魔法弾を食らって、無傷かよ⋮クソ⋮﹄
そう心の中で呟いて、再度構え直そうとした時に、膝に力が入らな
くて、跪いてしまった。
﹁⋮どうやら⋮貴様も限界に近い様だな⋮。このまま守りに徹して
いれば、ギルスもカチュアも、いずれ回復する。それまでにお前の
方が、力尽きそうだな﹂
そう言ってニヤっと嗤うホルガー。
確かにヤバイ⋮。思ったよりもダメージが蓄積している。奥義クラ
スの技も、使えて後1回が限界だろう。ギルスの奴め⋮剣という足
枷を最後に付けやがって!此れがなければ、もっと楽に戦える予定
だったのにな!
名剣フラガラッハが刺さっている所の体の細胞と心臓が、斬られて
は、再生を繰り返し、かなりの痛みと苦痛を伴い、気持ちが悪い⋮
出血も止まっていないし、このままでは、どんどん超回復の回復値
を削られて、全く動け無くなるのも近いだろう。一気に片を付けな
493
いと!
俺はフラフラしながら立ち上がり、2丁拳銃のグリムリッパーを構
える。
﹁一気に勝負を付けさせて貰う!﹂
﹁⋮今のお前に⋮出来るかな?﹂
俺とホルガーは激しく睨み合い対峙する。俺は闘気術を使って、瞬
時にホスガーに跳躍する。
そして、後少しで間合いに入ると言った所で、膝の力が抜けて、バ
ランスを崩し、蹲ってしまった。
﹃しまった!思ったよりも、超回復が削られていたのか!足に⋮ち
⋮力が⋮入らない!﹄
ホルガーに視線を戻すと、嬉々とした表情で、巨大なバトルアック
スを振り上げていた。
﹃あの巨大なバトルアックスで、頭を割られたら、超回復のある俺
でも即死は必死!避けたいけど、足に力が入らなくて、動けない!
クソ!ここまで来て、俺は終わってしまうのか!?ここまで追い込
んだのに⋮あと一歩で、手が届くのに!な⋮何か無いのか!?何か
!!!!﹄
俺のそんな心の叫びも虚しく、ホルガーは今まさに、巨大なバトル
アックスを振り下ろそうとしていた。俺はホルガーを睨み、キュッ
と唇を噛む。ホルガーの殺気が大きくなり、巨大なバトルアックス
が振り下ろされる瞬間、何かがホルス目掛けて飛んで来た。
﹁グアアアア!!!﹂
全く予期せぬ所からの攻撃に、ホルスは為す術が無かったであろう。
ホルスの右目には、細い釘の様な物が刺さって、血を流しながら、
唸り声を上げる。それと同時に声が聞こえた。
494
﹁葵兄ちゃん今だ!今が好機だよ!やっちゃええええええ!!!!﹂
声の方に振り向くと、アジトの広間の入り口で、ホルガーに投擲を
したマルコが、声高に叫ぶ。
﹁ああ!マルコがくれた好機を逃す訳にはいかないね!!!!﹂
俺はそう叫んで、闘気術の気勢を高める。薄紅色のオーラが光り輝
く。そして、2丁拳銃のグリムリッパーの銃口をホルガーに向ける。
﹁これで終わりだ!!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!﹂
マルコの投擲によって、右目を潰され、隙を作った無防備なホルガ
ーに、2丁拳銃のグリムリッパーから射撃された、何百と言う流星
嵐の様な魔法弾が、何百という花が咲き乱れる様に、襲いかかる。
﹁ぐぎゃああ!!!!﹂
断末魔の叫び声を上げるホルス。その巨躯の体に、何百と言う魔法
弾を浴びて行く。ホルガーの巨躯の体は、魔法弾に撃ち抜かれ、肉
片になって、血を撒き散らしながらグシャっと地面に崩れ落ちた。
﹁やっったああああああ!!!葵兄ちゃんの勝ちだ!!﹂
アジトの広間の入り口で、勝鬨の様な声を、嬉しそうに上げている
マルコ。
俺はゆっくりと、足に力を入れて、フラフラしながらも、何とか立
ち上がった。そして、残されたカチュアとギルスの前にゆっくりと、
足を引きずりながら歩いて行く。
﹁どうやら俺の勝ちの様だな!ギルスは気絶中、お前も辛うじて、
応急処置の治癒魔法が使える程度。俺もギリギリだけど、まだ、グ
リムリッパーでお前達2人を、魔法弾で撃ちぬく力は残っている。
勝負あったな!﹂
495
俺はそう告げると、ギルスとカチュアに、銃剣2丁拳銃のグリムリ
ッパーの銃口を向ける。カチュアは、俺を睨みつけながら、
﹁助けて⋮と、言っても、助けてはくれなさそうね。⋮本当に私達
を倒すなんて⋮貴方一体⋮何者?﹂
俺を睨みながらも、静かに言うカチュアの問に、満面の笑顔で
﹁俺は旅の行商人!それ以上でも、それ以下でもないね!商人は、
自分の利益を最優先にする。その、利益を守る為なら、なんでもす
るんだよ。覚えておくんだな!﹂
俺のその言葉に、フッと軽く笑い
﹁そう⋮私達は、騎士や傭兵でもない、行商人に負けたのね。フフ
フ⋮でもね、行商人の少年さん。この次に会った時は、この様には
なら無い事を、覚えておきなさい﹂
﹁はあ?お前達に、この次なんか無いよ?俺はそうやって、逆恨み
されるのなんか嫌だから、対峙した野盗や盗賊は、きっちり殺す事
にしてるから﹂
その言葉を聞いて、フフフと嗤うカチュア
﹁そう、良い心がけね。でもね⋮次からは、すぐにそれを実行する
事ね﹂
そう言ってニコっと微笑むカチュアは、胸に付けていた、ネックレ
スの飾りの宝石のトップを、握り締める。次の瞬間、まばゆい光が
発せられ、俺は視界を奪われる。
﹁さよなら⋮行商人の少年。次に会う事があったら、油断なくきっ
ちり貴方を殺して上げるわ。楽しみにしてなさい﹂
そう言い残して、まばゆい光に包まれたギルスとカチュアは、一瞬
で消えてしまった。
496
﹁ええええ!?ちょ⋮消えちゃいましたけど!?﹂
俺がキョロキョロ辺りを見ながら、驚き困惑していると
﹁恐らく⋮転移のマジックアイテムを使ったのでしょう。物凄く高
価な品らしいですけど、一瞬で、遥か遠くまで移動できるマジック
アイテムらしいです。もう、この周辺にはいないでしょう。探すの
は不可能ですね﹂
リーゼロッテが、そう言ってエルフの博学を披露してくれた。転移
って聞いた事あるけど、本当に出来るんだな⋮魔法世界⋮怖す⋮
俺は、脅威が無くなった安心からか、一気に力が抜けて、その場で
蹲ってしまった。
﹁ご主人様ー!!!!!﹂
マルガが、泣きながら物凄い速さで、俺まで走り寄って来た。
﹁ご主人様!大丈夫ですか!?す⋮すぐに、手当をしないと!!﹂
俺の胸に刺さっている、名剣フラガラッハと、そこから流れ出てい
る大量の血を見て、マルガの顔は蒼白になっていた。俺は、慌てて
アワワとなっている、マルガの頭を優しく撫でる
﹁だ⋮大丈夫だから。今はこれ位じゃ死なないから安心して﹂
その言葉を聞いて、綺麗なライトグリーンの瞳に、涙を一杯浮かべ
て、安堵の表情を浮かべるマルガ
﹁一体どうやったら、剣が心臓に刺さっているのに、死なずに動け
るのですか?﹂
﹁だよね!どういう仕掛けになってるのか、教えてよ葵兄ちゃん!﹂
いつの間にか傍に来ていた、リーゼロッテとマルコが、興味ありげ
に刺さった名剣フラガラッハを見つめていた。
497
﹁その説明は置いておいて、とりあえず⋮マルガとリーゼロッテさ
んとマルコで、この剣抜いてくれない?今気が付いたけど、俺じゃ
剣を全部引き抜くには、手が届か無いっぽいから﹂
俺が苦笑いしながら言うと、3人は頷いて、俺の胸に刺さっている、
名剣フラガラッハの柄を3人で握る。
﹁ウ⋮クウウウウ!﹂
柄を握った振動が響き、思わず痛さで声を上げてしまった。
誰だよ!心臓には痛覚がないって言った奴は!めっちゃ痛いんです
けど!まあ⋮心臓じゃなくて、他の部位が痛いんだろうけどさ!
麻酔⋮してほちい⋮衛生兵!衛生兵はどこですか∼?⋮居ないのは
解ってますよ⋮おちっこチビリそう⋮ガク⋮
﹁では、ゆっくりと抜きますね﹂
﹁いや!一気に行って∼∼!!﹂
間髪入れずそう言った俺のその言葉に、3人はキョトンとしていた。
だってさ!ガムテープとか、顔に張られたやつを剥がす時ってさ、
ゆっくりだと、痛いのが長く続くじゃん?オラそんなのやだ!痛い
のは一瞬だけが良い!
俺のビビリな感じを汲み取ったのか、3人は顔を見合わせ、名剣フ
ラガラッハの柄に力を入れる。その瞬間だった。
﹁オロロロ!﹂
胸に刺さっている名剣フラガラッハの柄に、力を入れられた事で、
俺の口から血が流れだした。
マルガは再度蒼白になって、アワワとなっていたが、大丈夫だから
と、続けさせた。再度、3人は名剣フラガラッハの柄に力を入れる。
﹁オロロロロロロ!!﹂
498
やっぱり口から血が出ちゃう俺。それを見たリーゼロッテがパッと
横を向き、体を小刻みに震わせている。
﹁リーゼロッテさん⋮もしかして⋮笑ってません?﹂
俺がジ∼∼∼っとリーゼロッテを見つめると、コホンと軽く咳払い
をして、
﹁そんな事はありませんよ。こんな時に、私がこんな事で笑うなん
て、ありえませんわ﹂
そう言って微笑むリーゼロッテは、視線を合わせてはくれなかった。
﹁本当に⋮?﹂
﹁勿論です。まあ⋮昔、お腹の仕掛けを引っ張ると、口から水を吐
く玩具を、少し思い⋮出しました⋮けど⋮プププ﹂
そう言って、再度横を向いて、小刻みに体を震わせているリーゼロ
ッテ。
やっぱり笑ってるじゃん!!プププっての聞こえちゃいましたよ?
リーゼロッテさん!
そうです!私が変な玩具です!とか、おじさん風に言った方が良か
ったですかね∼∼∼???
非の打ち所が無いと思われていた、リーゼロッテさんにも、マルガ
同様、こんな所でマイナス修正されていたとは⋮意外とSなんです
ね⋮リーゼロッテさん⋮
俺達は気を取り直して、どうにか名剣フラガラッハを胸から抜く事
に成功した。抜く瞬間まで、リーゼロッテさんは、俺を見ない様に
してたのは、俺だけの心の中に留めておこう⋮ウウウ⋮
そして、名剣フラガラッハの無くなった、胸の傷から、大量の血が
流れ出るが、忽ち胸の傷が塞がって、出血も止まってしまった。そ
499
れを見たリーゼロッテとマルコは驚愕している
﹁ど⋮どういう事なんですか?魔法も使っていないのに、傷がこん
なに早く塞がるなんて⋮﹂
﹁葵兄ちゃん凄い!ねえねえ!どんな仕掛けなの!?教えてよ葵兄
ちゃん!﹂
俺が2人に追求されてるのを見たマルガは、アタフタしながら
﹁え⋮えっと!そ⋮それはですね!⋮そう!⋮アレです!マ⋮マジ
ックアイテムです!マジックアイテムを使ったので、回復出来たの
ですよ!です!﹂
アワワとなりながら、必死で俺を庇う為に、ウソの説明をするマル
ガ。
ああ⋮可愛い⋮アワワマルガに癒される⋮
﹁ま∼そういう事です。マジックアイテムですね﹂
そう言って苦笑いする俺は、マルガの頭を優しく撫でる。マルガは
嬉しそうに、尻尾を揺らしていた。
暫く、体力が回復するまで蹲っていた俺は、回復して来たので、皆
の所に3人と一緒に戻る。
﹁凄いですね⋮私のラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させ
た、アノ集団を、一人で撃退してしまうとは⋮感服しましたよ葵殿﹂
アロイージオが、感嘆した表情で、俺を見ている。村人も同じ様な
表情だった。
﹁いえ⋮彼奴等が油断してくれて、俺の思惑通りに、動いてくれた
から、たまたま勝てただけですよ。もし最初から、本気で3人で攻
撃されるとかされていれば、勝負は一瞬で決まり、俺はそこの巨躯
の男みたいに、肉片になって死んでいた事でしょう。⋮運が良かっ
500
ただけですね﹂
俺が苦笑いしながら言うと、首を軽く横に振り、
﹁それでも、その結果をもたらせたのは、葵殿の功績です。本当に
ありがとう葵殿﹂
﹁いえ⋮まだお礼を言って貰うには、早いですね。えっと⋮メラニ
ー?さん。ちょっと質問良いですか?﹂
俺の言葉に、少し緊張気味のメラニーが、エイルマーと一緒に、俺
の前に来た。
﹁あ⋮あの⋮なんでしょうか⋮?﹂
﹁あ⋮別に、貴女に何かしようとか、思ってません。貴女は、脅さ
れてこいつらの手先になっていた。って事は、こいつらの、大体の
兵力や動向、予定とか解りませんか?この後の対策を練りたいので、
教えて欲しいのです。こいつらの他に⋮まだ兵力は有りますか?﹂
﹁えっと、兵隊達は、ここに居るのが、全部だと聞いています。た
だ⋮先程の⋮転移したお頭達の仲間が、まだ3人程居るとは聞いて
います﹂
その言葉に一同の顔が蒼白になる。
オイオイオイオイ!!あんなクラスの奴等が、まだ3人も残ってる
の!?
やっとこさ、3人を撃退出来た所なのに、これ以上あれ位のクラス
を相手にして、勝てる自信は無い。
どうする⋮どうする⋮何か手を、至急考えないと!
顔を蒼白にし、深刻そうな俺を見て、気まずそうに言うメラニー
﹁あの⋮その3人は、遠くの街か何処かに取引中とかで、此処に来
るのは7日は掛るって言ってました。⋮言うのが遅くて⋮すいませ
ん﹂
苦笑いをして、頭を下げるメラニー。
501
﹁なるほど!7日掛るのなら、この村に港町パージロレンツォから
守備隊が来る方が早いですね﹂
守備隊の方が早く着ける事に、皆が頷き、安堵していた。
﹁って事は、馬でエイルマーさんに、港町パージロレンツォに守備
隊を呼んで来て貰って、俺達はその間、村で防衛戦を張って、村を
守っています。⋮メラニーさんの話では、もう、兵隊達は居ないと
の事ですが、護衛も付けずに、港町パージロレンツォに向かうのは
危険かもしれませんけど⋮エイルマーさんよろしいですか?﹂
エイルマーは暫し目を閉じ、覚悟を決めた様な表情で
﹁ええ!私が行きます!元々そのつもりでしたしね。それに私は此
れでも副村長ですからね。村の危機とあれば、なんでもします!﹂
そう言って、死体になっているハンスを、淋しげに見て居るエイル
マー。
﹁⋮そうですか⋮。ではお任せします。それから⋮村の女性の方⋮
こっちに来てくれますか?﹂
俺に呼ばれ、5人の村の女性が、俺の元に集まって来た。
﹁貴女達に集まって貰ったのは、僕が、貴女達と取引をしたいから
です﹂
﹁わ⋮私達と⋮取引ですか?﹂
俺の思いもよらない言葉に、戸惑っている女性達。
﹁ええ取引です。僕は今の貴女達が、とっても欲しがる物を持って
いるんです﹂
俺はアイテムバッグから、小さな羊皮紙で包まれた物を取り出した。
502
こおろし
﹁そ⋮それは⋮なんですか?それが、私達の欲しがる物⋮なんです
か?﹂
﹁はいそうです。これは⋮子卸の薬です⋮﹂
その言葉を聞いた女性の顔が、一変する。
こおろし
子卸の薬⋮つまり、堕胎させ、妊娠させない為の薬である。この薬
を飲めば、妊娠している女性は堕胎し、妊娠前なら、中で出しても
妊娠しないと言った薬なのだ。以前、とある商人から、どうしても
金がいるからと言われて、10個程安く買った物っだ。
﹁その顔を見ると、この薬の効果は知っているみたいですね。⋮貴
女達は、あの男達に、何度も精を、注がれてしまった。貴女達は⋮
この死んでいる野盗達の⋮どれかの子供を宿している可能性があり
ます。そんな汚されて生まれた子供を、貴女達は愛する事が出来ま
すか?貴女達の愛するご主人は、生まれたその子供を愛してくれる
と思いますか?貴女達の愛する子供さんは、生まれたその子供と仲
良くしてくれるでしょうか?恐らく⋮答えは難しいでしょう。男な
ら特に、他の男の種なぞ望ま無いでしょうしね。どうですか?この
薬⋮欲しくはありませんか?﹂
女性達は俺の掌にある薬を見て、瞳を揺らしている。
﹁欲しいです!是非売って下さい!お幾らなのですか?﹂
﹁はい。お売りしましょう。一つ、金貨10枚でお売りしましょう﹂
その価格に、一同が唖然としていた。特に女性達は、顔を蒼白にし
ていた
﹁き⋮金貨10枚!?⋮わ⋮私達には⋮そんな大金⋮とてもありま
せん⋮も⋮もっと⋮お安く売っては頂けませんか?﹂
﹁出来ませんね∼。この薬は、金貨10枚の価値がある物ですから。
特に⋮貴女達には必要な物でしょう?﹂
503
俺の拒絶の言葉に、女性達は、顔を蒼白にして、俯いていた。
﹁では⋮こうしましょう。僕の出す条件を聞いて頂けるのであれば、
この薬は差し上げましょう。どうですか?﹂
﹁⋮どんな⋮条件なのですか?﹂
女性達は、どんな条件を言われるのか気になっているのか、それぞ
れが戸惑いの表情をしている。
﹁もう、貴女達は、ほとんどの事を知っていると思いますが、ハン
スさんが貴方達にした事は許せる事では無いのは解っています。僕
も大切な奴隷に手を出した、ハンスさんを恨んでいます。もし、彼
が生きていたなら、僕が彼を容赦無く殺していたでしょう。ですが
⋮ハンスさんのお陰で、貴女達は今生きていられる事も解っていま
すよね?もし⋮ハンスさんがこいつらと取引をしなければ、僕が此
処に来るずっと前に、貴女達は勿論の事、貴女達の愛するご主人さ
んや、子供さんは死んでいました。言わば、ハンスさんに、貴女達
の愛する、ご主人さんや、子供さんは助けられたと、言う事になり
ます﹂
俺の言葉を黙って聞いている女性達。
﹁僕の出す条件は、此処であった事は、誰にも話さないと言うのが、
条件です。貴女達は、誰にも汚されていない。つまり、捕まって人
質にされただけで、何もされなかったと言う事にして下さい。貴女
達の中には、愛する人に、ウソを付く事が嫌な人がいるかも知れま
せん。ですが、全ての真実を話す事が、全ての幸せに繋がるとは思
えません。真実を言ってしまったら、さっき言った様に、今まで通
り、幸せな家庭生活を送る事は難しいでしょうからね﹂
女性達は顔を見合せて、俯いている。
﹁貴方達は、今生きています。家に帰れば、此れから何十年と、愛
504
する人と幸せな日々を送れるでしょう。ハンスさんがした事を許す
必要はありません。僕も許す気はありませんからね。ですが⋮彼は
そうするしか無かった⋮村の人を守る為には⋮。その事だけは、頭
の隅に置いてやって下さい﹂
胸を貫かれて死んでいるハンスを見ながら、なんとも言えない表情
をしている女性達。
﹁さあ、貴女達はどうしますか?真実を言って、全てを受け入れて、
きつい日常と向かい合いながら、生きて行くのか、それとも、僕か
らこの薬を取って、此れからも幸せに生きるのか⋮。選んで下さい﹂
女性達は、戸惑いの表情を浮かべるが、暫く考えた後、何かの決意
をしたかの様に、俺の掌の上にある、羊皮紙に包まれた薬を取って
行く女性達。無言だが、そこに取引が成立した事を、理解する。
これで⋮多少なりとも、村の内部が荒れる事は無くなるだろう。
イケンジリの村は小さな村。村長の息子が、如何に村を守る為だと
言えど、村の女性にこの様な事をしたとなれば、その責任をアロイ
ス村長は取らされるし、アロイス村長の人格なら、自分から責任を
取ってしまうかも知れない。当然エイルマーも、その積を一緒に負
うだろう。
アロイス村長や、エイルマーが仕切っていないイケンジリの村など、
何の利益もない。
今後の事も考えて、良好な関係を築ける、アロイス村長やエイルマ
ーが、村を仕切って貰わないとね。
﹁それと、エイルマーさんと、メラニーさんも来て下さい﹂
俺に呼ばれたエイルマーとメラニーがやって来た。俺はエイルマー
に、羊皮紙に包まれた薬を渡す
﹁葵さん⋮この薬は⋮﹂
505
﹁ええ、さっきの女性達の渡した物と同じ、子卸の薬です。メラニ
ーさんにも必要でしょ?﹂
手渡された薬を見ながら、エイルマーとメラニーは顔を見合わせて、
言いにくそうに
﹁⋮私は、ベルントに脅されていたとは言え、ハンスさん同様、大
変な事をしました。⋮こんな私にも、その薬を頂けると言うのです
か?﹂
﹁⋮そうですね。直接とは言いませんが、貴女もマルガの誘拐に関
わって居たと言えば、そうかも知れません。マルガが誘拐されるの
を知っていて、僕に教えてくれなかったんですからね﹂
罪の意識からか、瞳を逸らして俯くメラニー。その隣でエイルマー
がメラニーの肩を抱いている。
﹁ですが、結果的に、マルガは汚されずに済み、マルガを攫ったハ
ンスさんは死に、それを指示いていた奴等も居なくなりました。僕
は、今回の事はこれで、自分の中で幕を引こうと思っています。決
して、ハンスさんを許す訳には行きませんが⋮彼の気持ちも解りま
すしね。そして、メラニーさんの気持ちも⋮但し、先程の村の女性
達と同様、女性達が汚された事は、内密にして貰いますけどね﹂
そう⋮ハンスとメラニー⋮この2人は⋮俺に似ている。大切な物の
為なら、どんな物をも犠牲にしてしまう⋮正に愚者⋮。もし、俺が
ハンスやメラニーと同じ立場だったなら、きっと同じ事をしていた
だろう。
俺とハンスやメラニーに、大した差はない。ただ、偶然今の位置に
居たと言うだけだ。
2人のした事は許せないが、2人はもう十分に、その分の罰は受け
ている。もう⋮それで十分だ⋮。
506
﹁メラニーさんはもう十分に、辛い目にあった。これ以上は僕は望
みません。ですから、この薬を飲んで、もう一度エイルマーさんと、
幸せになって下さい。⋮マルガも⋮それでいいかな?﹂
﹁ハイ!私はご主人様がそれで良いなら、私には問題ありませんで
す!⋮メラニーさんも、エイルマーさんに、一杯幸せにして貰って
下さい!﹂
満面の笑顔でマルガが言うと、メラニーは両手を顔に当てて、涙を
流している。そんなメラニーを、包み込む様に抱きしめているエイ
ルマー。マルガはそれを見て、嬉しそうに俺に腕を組んできた。優
しくマルガの頭を撫でると、ニコっと微笑んで、金色の毛並みの良
い尻尾を、フワフワ揺らしている。
﹁葵さん⋮本当にありがとう⋮﹂
エイルマーとメラニーは深々と頭を下げる
﹁ま∼此れからも、行商でお世話になりますからね。また、良い取
引をお願いします﹂
﹁此方こそ!﹂
俺とエイルマーが、笑顔で握手していると、何やら真剣な顔をした
マルコが、俺の傍に来た。何か心配事でもあるのか気になった。
﹁どうしたのマルコ?何か気になってる事でもあるの?﹂
﹁⋮オイラ⋮オイラを、葵兄ちゃんの、本当の弟子にして!﹂
真剣な面持ちで、俺を見るマルコ。俺は軽く溜め息を吐いて、呆れ
ながらマルコに
﹁だから⋮ご両親の許可が⋮﹂
﹁オイラは真剣なんだ!葵兄ちゃんも、真剣にオイラの話を聞いて
!﹂
俺の言葉を遮って、そう言うマルコは、一段と真剣な顔になった。
507
﹁⋮オイラ今迄さ⋮只漠然と、行商人に憧れていたんだ。自由に世
界を旅出来る事を、素敵な事だと、楽しいだろうなって、そう思っ
ていただけだったんだ。でもさ⋮ハンスさんやメラニーさんの話を
聞いて、これじゃダメだって思ったんだ。今はね、村の役に立ちた
い!遣り方はまずかったかも知れないけど、村の為に命を掛けたハ
ンスさんみたいに⋮。ううん⋮本当は、そんな大きい事じゃなくて、
大切な人を、守れる力と知恵が欲しいんだ!その上で、村の役に立
てればって、思ってる。だから⋮お願いします!なんでもするから、
オイラを⋮葵兄ちゃんの弟子にして下さい。お願いします!﹂
マルコは声高にそう告げると、土下座して頭を地面に付けている。
ムウウ⋮その真っ直ぐな気持ちは解るけど⋮どうしよう⋮
俺がマルコを見て困惑しているのを、感じ取ったマルコが、何かを
考えニヤっと笑う
﹁それに⋮葵兄ちゃんは、俺を弟子にしないといけないんだよ?解
ってるよね?﹂
﹁はへ!?どういう事!?﹂
マルコの思いもよらない言葉に、また変な声を出してしまった俺。
⋮オラ恥ずかしい⋮うう⋮
﹁オイラが、あのでっかい男に、投擲で攻撃しなかったら、葵兄ち
ゃんは、今生きていないんだよ?きっとマルガ姉ちゃんやリーゼロ
ッテ姉ちゃんも、ひどい目に合う事になってたと思うんだよね。言
わば、オイラは、葵兄ちゃんに貸しがあるんだ!もし、オイラを弟
子にしないなら、貸しはお金で払ってもらうよ?すごい金額になっ
ちゃうけど、今の葵兄ちゃんに払える?﹂
不敵な笑みを浮かべながら立ち上がったマルコは、俺の傍まで近寄
ってきて
508
﹁お金が払え無いなら、オイラにその分を投資して!一杯勉強して、
強くなって、投資に見合う様になるから!それとも⋮命の恩人に、
恩を仇で返す様な事をするの?葵兄ちゃん?﹂
ニヤニヤと笑うマルコに、言葉を無くしていると、マルガとリーゼ
ロッテが楽しげに
﹁それは仕方ないですね∼。大きな借りを作っちゃいましたねご主
人様∼。﹂
﹁そうですね。心配しなくても、葵さんはそんな事しませんよ。ね
∼葵さん?﹂
マルガとリーゼロッテは、楽しげに俺を見て、微笑んでいる。そん
な、マルガとリーゼロッテを見て嬉しそうにしているマルコが、再
度真剣な顔をする。
﹁葵兄ちゃん!お願いします!俺を弟子にして下さい!﹂
真剣な面持ちでそう言って、深々と頭を下げるマルコ。そんなマル
コを見て、マルガとリーゼロッテは、ジィ∼∼∼∼∼っと、解って
ますよね?と、言わんばかりの視線を投げかけてくる。
ううう⋮マルガとリーゼロッテの視線が痛い!美少女2人が、追い
込みを掛けて来ちゃうよ⋮うう⋮
﹁ったく⋮投資なんて言葉何処で覚えたのやら⋮⋮通常のお給金は
出せない。食事や宿は同じ様に手配して上げる。何かで儲けが出た
時は、その都度相談。利益配分は俺が決める。行商上の俺の指示は、
絶対に守ってもらう。いいね?﹂
観念した様に言う、俺のその言葉を聞いた、マルコは、目一杯の笑
顔を浮かべて
﹁それじゃあ!!オイラを弟子にしてくれるんだね!葵兄ちゃん!﹂
﹁但し!きちんとご両親を説得して、許可を貰わないとダメ。それ
509
が出来無いと連れて行かない﹂
﹁解ってるよ!オイラもきちんと解ってもらって、出立したいから
さ!﹂
マルコは喜びながら、よし!と言って、両手の拳に力を入れている。
﹁やっぱり、ご主人様は優しいです∼。ご主人様大好きです!﹂
マルガがピョンと俺の腕に抱きつき、微笑む。俺が苦笑いしながら
﹁俺は優しくないよ。てか、殆ど脅迫ぽかったのは、気のせい?﹂
﹁美女2人にそんな事して貰えるのですから、幸せですね葵さんは﹂
俺がその言葉に憤っていると、マルガ、リーゼロッテ、マルコが嬉
しそうに俺を見ていた。
俺は溜め息を吐いて、気を取り直すと、
﹁よし!此処を出る前に、戦利品を集めるよ!マルガは武器を一箇
所に集めて、マルコは死体から、お金を集めて。俺はあっちの馬車
を見てくる。マルガは周辺の警戒も忘れないでね﹂
俺の言葉に、ハイ!と元気に右手を上げて、テテテと走って武器を
集めだすマルガ。マルコは死体からお金を集めるのに戸惑っていた
﹁此れ位で、戸惑っているようじゃ、投資しても無駄かな?﹂
ニヤっと笑いながら言った俺に、キッと目をキツくして、
﹁こ⋮これくらい出来るよ!任せといて!﹂
マルコは、死体を漁り始めた。そんなマルコを微笑みながら、馬車
の所まで行く。
そこには、モンランベール伯爵家の馬車が数台と、盗賊団が使って
いたであろう荷馬車があった。
その近くには、モンランベール伯爵家の綺麗な馬と、盗賊団の馬で
あろう、リーズと同じ丈夫で力のある品種の重種馬だ。荷馬車の方
510
も、細かい作りは荒いが、丈夫に出来ている。
フム⋮この荷馬車と馬は、なかなかいいな。俺は荷馬車に馬をつな
ぎ、広間の中央に誘導する。
﹁この荷馬車と馬を貰う事にしたから、この荷馬車に武器を積んで
ねマルガ。マルコも終わったら、マルガを手伝って﹂
﹁ハイ!了解です!ご主人様!﹂
﹁任せといて!葵兄ちゃん!﹂
2人は元気に返事をすると、指示通りに荷馬車に武器を積んでゆく。
俺はアロイージオの所に行き、
﹁えっと、アロイージオ様。とりあえず、村の人を連れて帰る為に、
モンランベール伯爵家様の馬車をお借りして良いですか?﹂
﹁ああ、構わないよ。存分に使ってくれたまえ﹂
アロイージオから承諾を貰ったので、モンランベール伯爵家の馬車
一台と、馬を一頭借りる事にした。その馬車も、荷馬車の隣に並べ
て止める。マルガとマルコは武器を荷馬車に積み終わったみたいだ
った。
﹁それじゃ、さっき言った通り、エイルマーさんは港町パージロレ
ンツォに、僕達は村で防衛戦を張りましょう。では行きましょうか。
村の人と、アロイージオさんは、この馬車に乗って下さい。少し狭
いかも知れませんが、我慢して下さい。マルコは荷馬車を、俺はモ
ンランベール伯爵家様の馬車を、マルガは外のリーズに乗ってね﹂
皆はそれぞれの馬車に移動する。その時、村の女性達の格好が気に
なった。女性達は、メラニーを除いて、服を破られていて、半裸状
態だった。体も、土で汚れているし、何より、性器は、男達の精液
にまみれている。
﹁女性の方は、そのままの格好で帰ったら、乱暴されたとすぐに解
511
ってしまいますね⋮。服も破れちゃってますし⋮﹂
俺が考えて居ると、何かを思い出したアロイージオが
﹁それでしたら、あの馬車に、土産に買った、女性の服が積んであ
ったはずです。それをさし上げましょう﹂
アロイージオはそう言って、一台の馬車を指さす。俺と女性達はそ
の馬車に向かい、服を拝借する。かなり上等な服で、少し女性達は
喜んでいる様であった。
﹁体の方は、村に帰る途中で、川に寄り道しましょう。隅々まで綺
麗に洗いましょうね。特に、性器の方は、マルガに手伝わせますの
で﹂
俺がそう言うと、マルガは両手をニギニギと、開いたり閉じたりして
﹁ご主人様直伝の洗い方で、隅々まで綺麗にしちゃいます!﹂
そんな笑顔のマルガを見て、若干引き気味で、苦笑いしている女性
達。
俺達はそれぞれの馬車や馬に乗り、廃坑を出る。
﹁エイルマーさん、気をつけて下さいね﹂
﹁ええ!葵さんも村をよろしく頼みます!﹂
笑顔で挨拶を交わし、俺達は川に向かい、イケンジリの村に向かう
のであった。
此処は、イケンジリの村から遠く離れた、山間にある寂れた教会で
ある。
この世界で、一番広く信仰されている、女神アストライアを崇める、
512
ヴィンデミア教の教会であったのだが、打ち捨てられて、かなりの
年月が経つのか、礼拝堂は朽ちて荒んでおり、人が長年手入れをし
ていない事が容易に伺える。その礼拝堂で、一人の男が目を覚ます。
﹁う⋮うん⋮﹂
﹁目が覚めましたか?ギルス﹂
その優しい声に、ギルスはぼやけた頭を覚ましてゆく。そして、ゆ
っくりと辺りを見回し、そこが廃坑のアジトで無い事を理解する。
﹁カチュア⋮此処は⋮ランポールのアジトか?⋮イツツ⋮﹂
ギルスは、体を起こそうとして、痛みで身を捩れさせる。
﹁まだ⋮動かないで下さい。先程、治療が終わったばかりですので。
後1日は、体を動かすのはキツイでしょう﹂
カチュアは諭す様にそう言うと、ギルスを膝の上に再度寝かせる。
ギルスはそれに逆らう事なく、その柔らかい膝に、頭をもたれかけ
た。
﹁何故俺達が、此処に居るんだ?俺は一体どうなった?﹂
﹁⋮私が、転移の首飾りで、このアジトまで、貴方と共に転移しま
した⋮﹂
静かにゆっくりと語るカチュアに、此れまでの事を思い出して、軽
く溜め息を吐くギルス。
﹁って事は⋮俺が⋮負けたのか?﹂
﹁⋮はい。貴方だけでなく、私やホルガーも、負けてしまいました
わ﹂
カチュアが、ギルスが気を失った後の事を説明して行く。その内容
に、キュっと唇を噛むギルス
513
﹁そうか⋮ホルガーがな⋮。まんまとあの行商人の少年に、嵌めら
れたって所か⋮﹂
﹁傷が回復したら、報復に出ますか?﹂
カチュアのその凍る様な声と瞳に、ククッと可笑しそうな声を上げ
るギルス。そんなギルスに、不満そうな顔を向けるカチュアが
﹁⋮何が可笑しいのですか?﹂
﹁いや⋮お前が珍しく⋮先の事を考えないていない様な事を、言う
から可笑しくてさ。⋮そんなに、愛する俺を傷つけられたのが、我
慢出来無かったのか?﹂
茶化す様に言うギルスを、軽く抓るカチュア
﹁イテテ⋮﹂
﹁私だって、たまにはそういう時もあります﹂
少し膨れている、カチュアの顔を触ろうと、ギルスが左手をカチュ
アの顔に持って行こうとして、左手の手首より先が無くなって居る
のが目に入った。
﹁⋮斬られた手首を一緒に転移する暇はありませんでしたので﹂
少しそっぽを向きながら、拗ねる様に言うカチュアに、
﹁⋮心配させて、悪かったなカチュア﹂
﹁いえ⋮貴方を守りきれなかった、私が悪いのです⋮﹂
カチュアが優しくギルスの頭を撫でる。その手を右手でギュッと握
るギルス。
﹁⋮今は報復はしない。あの村の奴等は、きっと港町パージロレン
ツォのバルテルミー侯爵家に、助けを求めている。俺達が体制を整
えている間に、バルテルミー侯爵家は自分の騎士団を領地に派遣し
て、守備を強化しているだろう。バルテルミー侯爵家は、その辺の
514
貴族とは一味も二味も違うからな。それに、バルテルミー侯爵家お
抱えの、ウイーンダルファ銀鱗騎士団は、化物揃いで有名だ。そん
な化物騎士団を相手になんかしたくねえしな。ほとぼりが冷めるま
では、手が出せ無いだろう﹂
ギルスの言葉に静かに肯定して頷くカチュア。
﹁しかし⋮あの行商人の少年⋮何者だったんだろう?俺の剣は、確
かに心臓を貫いていたはずだ。あの状態で生きていられる訳が無い﹂
﹁そうですね⋮魔法を使った様な感じはありませんでしたので、恐
らく何かのマジックアイテムを使ったと思うのですが⋮﹂
﹁そんなマジックアイテム有るのか?俺の知ってる物で心当たりが
あるのは、身代わりの人形位しか思いつかないけど、あれって確か
⋮物凄い金額のマジックアイテムだったよな?﹂
﹁そうですね、軽く金貨1000枚はする代物ですね。本人の代わ
りに、1回だけ身代わりになってくれるマジックアイテム。死すら
も、身代わりにしてくれるとか⋮。でも、そんな高価な品を持てる
様な財力は無さそうでしたね⋮﹂
ギルスとカチュアは顔を見合わせながら考えていた。
﹁あの行商人は、戦った感じ、LV30弱位だと思う。そんな奴が、
身分不相応な強力な召喚武器に、気戦術系のスキルを持ち、尚且つ、
身代わりの人形クラスの高価なマジックアイテムも持っていたと⋮
ったく、謎だらけだな﹂
ギルスが溜め息を吐きながら言うと、カチュアも同じ様に頷く。
﹁で⋮此れからどうしますかギルス?﹂
﹁そうだな⋮。イケンジリの村の奴等やバルテルミー侯爵家の連中
は、俺達を敗戦兵か脱走兵の集団と思っているだろうから、俺達に
辿り着ける様な手がかりは一切掴めないだろう。俺達の、本当の目
的には、気付けないだろうさ。その辺は安心して良いだろう⋮俺達
515
の作戦はまだ始まったばかりだ。港町パージロレンツォに近いあの
村を、手に入れられなかったのは痛手だが⋮仕方無い。とりあえず、
俺達は、あの方の御命令を忠実にこなして行くだけだ。とりあえず、
あの村に向かう事にする。此処から近いしな。あの3人はどうなっ
てる?﹂
ギルスの問に、涼やかな微笑みを浮かべるカチュアが
﹁あの3人は、早馬の伝令を出して、呼び戻しました。暫くすれば、
此方に帰って来るでしょう﹂
﹁流石仕事が速いなカチュア!後の段取りは任せた!﹂
ギルスが痛む体をゆっくりと起こす。その体を背中から、優しく抱
く様に支えるカチュア
﹁⋮しかし、あの行商人の少年のお陰で、かなりの損害が出たな。
名剣フラガラッハも奴に取られちまったしな。幸い、貴族の坊ちゃ
んから巻き上げた、金貨が100枚程あったのが、唯一の救いか?
それでも、こっちが大赤字なのは変わらないけどな﹂
軽く貯め息を吐くギルスに。クスっと笑うカチュアが
﹁とりあえずは、左手の義手を作りましょう﹂
﹁⋮そんな物無くったって、お前を十分に満足させてみせるぞ?試
してみるか?﹂
ニヤッと笑うギルスの、頬を抓るカチュア
﹁イテテ⋮﹂
﹁それよりも早く体の方を回復して下さい。その話はそれからです﹂
﹁ああ!解ってるよ。じゃ、お言葉に甘えて、もう一休みさせても
らうか。明日には行動を開始する。よろしく頼むカチュア﹂
ギルスがカチュアの膝の上に再度頭を預けると、その頭を優しく撫
でながら頷くカチュア。
516
新たな脅威は、静かに、小さく芽吹く事になる。誰も知らない内に
根を張り、少しずつ侵食して行く。
来る時に、その花がどの様に咲き乱れる事になるのかを、この時は
知る由も無かった。
517
愚者の狂想曲 15 帰って来たイケンジリの村にて
﹁ご主人様!村が見えてきました!﹂
馬のリーズに乗って、俺の乗っているモンランベール伯爵家の馬車
の隣で、嬉しそうに指をさしているマルガ。
屋根付きの豪華な箱馬車なので、後方は見えないが、後ろの荷馬車
から、マルコの嬉しそうな声が聞こえる。
俺達は、川で女性達を綺麗にした後、すぐにイケンジリの村を目指
して戻って居た。
勿論、マルガも俺も、警戒をしながら帰って来たが、途中で何かに
襲われると言った事は無く、無事に村に着けた事に、皆が一様に安
堵感を漂わせて居た。
村の門らしきモニュメントを通り、村の広場に到着すると、一台の
割りと作りの良い馬車が広場に止まっており、そこにアロイス村長
が、数人の男達と話をしている様であった。そんなアロイス村長が、
俺達の馬車に気がついて、小走りに近寄って来た
﹁葵殿!よくぞご無事で!おお!他の方もご無事なのですか!﹂
馬車を止め、降りてくる面々を見て、嬉しそうな顔をするアロイス
村長。
﹁何とか無事です。後でご報告させて貰います。所で⋮後ろの方達
は⋮﹂
﹁ああ!この方達は、西都エディンバラから来られた公証人様と、
護衛の兵士様ですじゃ﹂
西都エディンバラ⋮港町パージロレンツォや工業都市ポルトヴェネ
518
レと同じく、大都市として有名な町である。フィンラルディア王国
の西側に位置し、港町パージロレンツォ同様、交易や商業を中心と
した大都市であり、西側の守備も務める要所である。バルテルミー
侯爵家やモンランベール伯爵家と同じく、強大な力を持つ六貴族の
内の一つ、クレーメンス公爵家が治める町でもある。
アロイス村長に紹介された男達が、俺の前にやって来た。身なりの
良い文官を中心に、鎧を着た兵士が3人、文官を警護する様に立っ
ている。
﹁私は西都エディンバラからやって来た、公証人だ。この村で、と
ある人物と待ち合わせをしている。もうすぐしたら、この村にやっ
て来ると思うので、待たせて貰っておる﹂
身なりの良い文官は、ニヤっと笑い、俺達を憐れむ様な眼差しで見
ている。その身なりの良い文官の雰囲気に、俺はどういう事か理解
するのに、時間は掛からなかった。
﹃なるほど⋮あの盗賊団の手引きで、この村の人々を⋮奴隷にする
為に呼ばれた公証人⋮か﹄
一般人が初めて奴隷になる時は、公証人が主人と奴隷に魔法で奴隷
契約を結ばせる。そして奴隷には首に、首輪の様な奴隷の紋章が刻
まれる。ネームプレートにも身分が刻まれ、奴隷になるのだ。
初めの一回目は必ず公証人が行うのである。初めの奴隷契約は、公
証人以外出来無い様に法律で決まっている。それを破ると厳しく処
罰︵処刑︶される。
通常は役所に赴き、公証人に奴隷の契約をして貰うのだが、役所が
無い村や、役所のある町から遠い場所で、奴隷の契約や、商売の契
約に立ち会って貰う時は、役所に申し立て、手数料を払えば、その
場所まで公証人を派遣してくれるのだ。
519
そんな公証人が、あの盗賊団が村を襲う時に、その現場に居ると言
う状況が指し示すものは⋮この村の人々を奴隷として契約させる為
に、あの盗賊団に呼ばれ、派遣されて来たのであろう。
この国でも人攫いや、強制的に一般人を奴隷にする事は、禁止され
ていて、その様な事をすれば罰せられる。
役所の中であれば、他の役人の目もある事から、理由無しに無理や
り奴隷に契約させる事は難しいが、この様に、派遣先であれば、担
当の公証人の判断次第で、幾らでも奴隷の契約をする事が出来る。
公証人に賄賂でも渡しておけば、見て見ぬふりをして、奴隷契約を
行う公証人などいくらでも居る。
今回も、あの盗賊団に賄賂でも貰って、この村の人々を、奴隷とし
て契約するつもりで居たのだろう。
しかし、その盗賊団は、もう全滅している。頭のギルス達も逃げ、
エイルマーが港町パージロレンツォに、救援を求めに行っていて、
明後日には助けの守備隊がやってくる。この公証人の出番は無いの
だ。
﹁そうですか。公証人様方はこの村で待ち合わせを⋮。ですが、こ
の村の近くで、盗賊団が出ましてね、今村の人が、港町パージロレ
ンツォの守備隊に、救助を求めに向かっているんですよ。一応盗賊
団は、僕達で壊滅させたのですが、お待ちになっている方が、無事
に此処まで就けると良いですね﹂
俺のその言葉に、驚き顔を見合せている、身なりの良い公証人と兵
士達。その驚き様で、俺の推理は当たっていた事を確信する。
﹁そ⋮それは、本当の事なのですかな?﹂
﹁ええ!本当の事です。私が証人ですからね﹂
俺の後ろから出て来たアロイージオが、公証人達に言う。
520
﹁えっと⋮貴方は⋮﹂
﹁私は、フィンラルディア王国、モンランベール伯爵家が三男、ア
ロイージオ・イレール・オラース・モンランベールだ。よろしく﹂
その名前を聞いた途端、公証人達の顔色が変わる。アロイージオに
片膝を付いて跪く、公証人達。
﹁此れは、失礼を!⋮と言う事は、先程のお話は、本当と言う事な
のですね?アロイージオ様﹂
﹁ああそうだよ。盗賊団は全滅。盗賊団の頭は逃げたし、もう此処
には戻って来れないと思うよ。此処で待ち合わせしている人が、無
事だといいね﹂
アロイージオの言葉を聞いた公証人達は、慌てる様に立ち上がると、
﹁そ⋮そうですね、私達は、待ち合わせをしている者が心配なので、
途中まで迎えに行ってみます。でわ、失礼します!﹂
﹁いや!村の外は、まだ完全に安全と言う訳では⋮﹂
立ち上がって、自分達の馬車に向かう公証人達を、心配して止めよ
うとしているアロイージオの肩を優しく掴み、
﹁行かせてあげて下さい。余程、待ち合わせの人が心配なのでしょ
う。それに、あの人の護衛の方は、強いお方達なので、心配は無い
ですよアロイージオ様﹂
そう言ってアロイージオに微笑むと、少し心配そうに頷くアロイー
ジオ。
アロイージオは解っていないが、この公証人達が、あの盗賊団に襲
われる事は無い。仲間と言っても過言ではないのだから。予定外の
盗賊団の全滅と言う結果に、早くこの場から立ち去りたい気持ちで
一杯であろう公証人達は、そそくさと馬車に乗り込むと、挨拶をし
521
て村から出立してしまった。
不思議そうに公証人を見ている、アロイージオとアロイス村長。
﹁⋮とりあえず、此れまでの事を説明したいので、アロイス村長の
家で、説明させて下さい。村の女の人は、それぞれの家に帰って、
ゆっくりして下さいね﹂
女性達は頷くと、それぞれの家に帰って行く。残ったメンバーで、
アロイス村長の家に行き、此れまでの事情をアロイス村長に説明す
ると、その表情を険しいものに変えるアロイス村長。
﹁そうか⋮ハンスがその様な事を⋮。葵殿、マルガさん、本当に申
し訳なかったですの﹂
アロイス村長は深々と頭を下げ、謝罪をする。そんなアロイス村長
の頭を上げさせ
﹁もう終わった事ですから。それにハンスさんも亡くなってしまっ
てますしね。⋮ハンスさんの亡骸は、荷馬車の方に乗せて来ました
ので、後ほど⋮﹂
感謝しますと言い、アロイス村長は静かに頭を下げる。
﹁兎に角、エイルマーさんが港町パージロレンツォから守備隊を連
れて帰ってくる間、村で防衛戦を張って、守備を固めましょう。メ
ラニーさんの話では、もう盗賊団の人員は居ない様ですが、もし、
メラニーさんの知らない兵隊が居たら厄介ですからね﹂
俺の提案に、一同が賛同する。アロイス村長は、村の人々を集めて、
盗賊団が襲撃してくる可能性がある事を説明して、防衛戦を張る様
に伝える。
イケンジリの村の人口は100人弱。女子供をアロイス村長の家と、
その両隣の家に集め、残りの男達で、交代しながら夜通し警戒する
事となった。皆がそれぞれの役割に分担して、手際よく防衛戦を張
522
って行く。
そんな中、リーゼロッテが、食事を持って俺とマルガの所にやって
来た。
﹁葵さんもマルガさんも、此れを食べて下さい﹂
リーゼロッテが持って来たのは、羊の塩漬け肉を焼いた物を、野菜
と一緒にパンに挟んだ、物だった。
その美味しそうな匂いに、マルガは可愛い鼻をピクピクとさせて、
嬉しそうにしている。
﹁マルガ、食べようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!いただきます!﹂
マルガは、食事を受け取ると、可愛い口を目一杯開けて、パンを頬
張っている。モグモグと実に幸せそうだ。
﹁所で、葵さんは夜の警護を担当すると聞きました。日中はマルガ
さん、夜は葵さんなんですね﹂
﹁ええ、そうです。僕は夜目がききますので、その方が良いと思い
まして。マルガも感知範囲なら、この村に居る誰よりも広いですか
らね。一応僕とマルガが別れて警戒する事になってます﹂
感知範囲の広いマルガと、今現状で、この村で1番戦闘力の有る俺
は、別れた方が良いだろうとの事で、日中はマルガ、夜間は夜目の
きく俺と、別れて警護する事になったのだ。
﹁この食事を食べ終わったら、夜まで寝かせて貰います。マルガ⋮
何かあったら、すぐに起こしてね﹂
﹁ハイ!交代の夜迄、一杯警戒して頑張っちゃいます!任せて下さ
いご主人様!﹂
マルガは、ムムムと顔を真剣にして、胸に握った拳に力を入れてい
る。俺とマルガは食事を終え、少し休憩している時に、マルコがや
523
って来た
﹁あ!やっぱり此処だったんだねマルガ姉ちゃん!オイラと一緒に、
夜まで見回りだから、頑張ろうね!﹂
﹁うん!じゃ∼ご主人様行ってきます!﹂
﹁気をつけてねマルガ。無茶しちゃダメだよ﹂
俺の言葉に頷くと、マルコに連れられて、村の警護に行ったマルガ。
俺が手を振ると、同じく嬉しそうに、手を降っている。
﹁とりあえず、葵さんも夜まで、お休みになられたらどうですか?﹂
﹁そうですね。そうさせて貰います﹂
リーゼロッテのその言葉に甘えて、俺は丸太で作られた腰掛けに寝
そべろうとした時、俺の体は、フワっと引き寄せられた。
そして、ゆっくり優しく、柔らかい感触の膝の上に、頭を寝かせら
れた。
俺は女の子座りをしているリーゼロッテに引き寄せられ、膝枕をさ
れているのだった。
﹁あ⋮あの⋮リーゼロッテさん?﹂
﹁はい?どうかしましたか?葵さん?﹂
俺の問いかけに、問いかけで答えるリーゼロッテの顔は、優しい微
笑で俺を見ていた。俺の戸惑う顔を、面白げに見てニコニコしてい
る。
﹁いや⋮リーゼロッテさんに、こんな事して貰って⋮いいのかなと
⋮﹂
﹁私の膝枕では⋮ご不満ですか?﹂
少し寂しそうに言うリーゼロッテに、ドキっとしながら慌てて
﹁いえ!凄くいいです!柔らかくて気持ち良いですし!﹂
524
﹁そうですか。それは良かったです﹂
俺の返答に満足したのか、嬉しげな顔をしているリーゼロッテ。
オオウ⋮本当に⋮このままでいいのかな!?リーゼロッテさんの微
笑みが、可愛すぎる⋮
てか⋮リーゼロッテさんの肌⋮綺麗ですべすべで、柔らかいな⋮。
手に吸い付く様だ。肌もマルガに勝るとも劣らないね。
﹁もっとくつろいでくれて良いですよ葵さん⋮﹂
リーゼロッテのその言葉に、鼓動が早くなる。
マジですか?そんな事言われたら、ちょっと大胆になっちゃいます
よ!?後悔しても知らないんだからね!
俺はリーゼロッテの方に顔を向け、リーゼロッテの柔らかいお腹に
顔を埋め、腰をギュっと抱きしめる。リーゼロッテの華奢で細い腰
の抱き心地は最高だった。マルガとは違う、甘く優しい香りが俺を
包み込む。
﹁うん⋮﹂
リーゼロッテが少し吐息の混じった声を、微かに上げる。その声に、
何故か少し興奮してしまった。
う∼ん。気持ち良い⋮マルガとは違う、大人の感触だ⋮抱いていて
気持ち良い。もっと色々したくなる⋮
俺は、ゆっくりと、リーゼロッテのカモシカの様な綺麗で細い足を、
ゆっくり撫でてゆく。
太ももからゆっくりと、つま先まで。その足の指も、軽くマッサー
ジする様に触る。足の指の間に、俺の指を入れると、少しピクンと
なった。やりすぎたかな?と思い、リーゼロッテの顔を見る。
﹁どうかしましたか葵さん?﹂
リーゼロッテのその顔は少し赤くなっていた。気持ち良さそうに微
笑みながら言うリーゼロッテに、再度鼓動が早くなる。
525
⋮そんな顔されたら⋮もっと⋮したくなるよ?リーゼロッテさん⋮
俺はリーゼロッテの太ももに、何度もキスをしながら、再度リーゼ
ロッテの足を触ってゆく。リーゼロッテは少し、何度もピクンと身
を捩らせているが、明確な拒否は一切なかった。その事が気になっ
て、再度リーゼロッテの顔を見ると、何故か幸せそうな顔で、
﹁ゆっくりとくつろいで下さいね。夜迄⋮私の膝の上で⋮﹂
綺麗な金色の瞳を揺らしながら、顔を少し赤らめているリーゼロッ
テの表情に、俺の心は囚われそうになる。そんな俺の頭を、ゆっく
りと撫でてくれるリーゼロッテ。その撫でてくれるのがとても気持
ち良くて、疲れが溜まって、お腹も膨れていた俺は、リーゼロッテ
の膝の上で、あっという間に眠ってしまう。
膝の上で寝ている俺を、慈しむ様に、優しく寝かせてくれるリーゼ
ロッテ。
﹁⋮本当に、意外と寝顔も可愛いのですから⋮﹂
リーゼロッテの唇が、俺の額にキスをする。
俺は、夜の交代の時間まで、リーゼロッテの膝の上で、夢見心地で
過ごしたのであった。
エイルマーが港町パージロレンツォに、救援を求めに行って2日目
の昼前の事だった。
通常の予定で有れば、今日の夕方位に救援の守備隊が到着するはず
だったのだが、ソレは予想外の早さで現れた。
﹁ご主人様起きて下さい!空から竜が一杯来ちゃいました!﹂
526
﹁ふええ!?空から竜!?﹂
また変な声を出してしまった⋮オラ恥ずかしい⋮
マルガは俺を起こすと、テントから引っ張って、俺を外に連れ出し
た。マルガは空を指さす。マルガの指す空を見ると、15匹位の空
飛ぶ竜が、イケンジリの村の広場に降りようとしていた。
銀色の綺麗な鱗に、頭や心臓に、鎧を付けられていて、背中に鞍の
様な物を付け、人を乗せている。ドラゴンにしては小柄?なのか、
大きさは7m位、翼を広げて18m位だと思う。ワイバーン種だ。
その先頭の、銀色のワイバーンから、一人の女性と、男が降りて来
て、俺達の方にやって来た。
﹁葵さん!村は無事だったんですね!良かった⋮﹂
﹁エイルマーさんも、無事だったみたいで良かったです!﹂
お互いの無事を喜び合う俺とエイルマー。そんな俺達を見ていた女
性が、近寄って来る。
銀色のかなり豪華な鎧に身を包み、綺麗な赤毛の髪を靡かせ、純白
のマントを揺らしながら、やって来た。
綺麗な顔立ちの、キリっとした目付きだが、女性らしい美しさもあ
る美女だ。20代前半、身長も俺より高く、170cmは有るだろ
う。その威厳に満ちた佇まいから、相当に身分の高い人物だと伺え
る。
そんな女性が、俺を上から下まで見て、フンフンと頷いている。
﹁エイルマー殿。此方が件の行商人で宜しいのですか?﹂
凛とさせる綺麗な声を響かせ、エイルマーに問う美女の騎士。エイ
ルマーは頷きながら
空
と言います﹂
﹁はい。此方が私達を救ってくれた行商人の葵さんです﹂
﹁ど⋮どうも⋮。行商をやっています葵
エイルマーの紹介に、美女の騎士に挨拶をすると、その威厳の有る
527
顔を、ニコっと親しみやすい笑顔に変える美女の騎士が
﹁そうか!よくぞこの村を助けてくれました!貴方のお陰で、沢山
の領民の命が守られました!心より感謝します!﹂
そう言って、深々と頭を下げる、美女の騎士。俺は慌てて、美女の
騎士に頭を上げて貰うと、ニコっと笑う美女の騎士が
﹁自己紹介がまだでしたね。私はフィンラルディア王国、バルテル
ミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団の副団長を務めています、
イレーヌ・エメ・プレオベールです。よろしく!﹂
胸に手を当てて、綺麗にお辞儀をするイレーヌ。
うほ!エイルマーさん凄い人を連れてきちゃったね!六貴族のバル
テルミー侯爵家のお抱え騎士団の副団長とか、そんじょそこらの貴
族より、身分が高いんじゃないの?
俺がアタフタしていると、俺の後ろから優しく肩に手を置くリーゼ
ロッテが
﹁葵さん、挨拶は終わった様ですし、イレーヌ様をアロイス村長と
アロイージオ様の所に、ご案内されてはどうでしょうか?﹂
﹁そ⋮そうだね。イレーヌ様、ご案内いたします﹂
リーゼロッテの助け舟に乗っかった俺は、何とかそう告げると、ク
スっと微かに笑うイレーヌ。そして、表情を引き締めなおして、
﹁ウイーンダルファ銀鱗騎士団、銀竜部隊は、この村を警護せよ!
上空と地上より監視をし、敵を発見次第、容赦なく排除せよ!﹂
その凛とした綺麗な声に、規律正しく待機していた、銀色のワイバ
ーンに乗っていた竜騎士達は、行動を開始する。一糸乱れぬその行
動の早さに感服する。
﹁では、案内を頼みます葵殿﹂
528
その顔を再度親しみのある笑顔に戻すイレーヌ。その切替の早さに
も戸惑いながら、俺はアロイス村長と、アロイージが居る家に、イ
レーヌを案内する。家の中に入り、2人が居る部屋にノックをして
入って行く。
部屋に入ると、イレーヌはアロイージオに駆け寄り、
﹁おお!アロイージオ様!よくぞご無事で!エイルマー殿から話を
聞いた時は、我が主人も大層心配しておりました!﹂
﹁此れはイレーヌ殿。お久しぶりですね。そこの葵殿のお陰で、こ
の様に何とか無事です﹂
アロイージオとイレーヌは握手をして、無事を喜んでいる。そこに
アロイス村長が
﹁イレーヌ様お久しぶりでございます。救援に来て頂いて、ありが
とうございます﹂
﹁いえ、アロイス村長殿、礼には及びません。我らは領民を守るの
が役目。お気になさらないで下さい﹂
アロイス村長の言葉に、笑顔で言うイレーヌ。
﹁では早速で恐縮ですが、アロイス村長殿、アロイージオ様、今の
状況と、過程を教えて頂けますか?﹂
アロイス村長とアロイージオは、今迄あった事をイレーヌに報告し
て行く。その内容を聞いたイレーヌの顔が歪む。
﹁フム⋮アロイージオ様の護衛役の、モンランベール伯爵家、ラウ
テッツァ紫彩騎士団、第5番隊が全滅ですか⋮。敵はかなりの手練
だったのですね。⋮やはり、元グランシャリオ皇国領であった、内
戦の残兵や敗戦兵でしたか?﹂
﹁はい。盗賊団は皆、元グランシャリオ皇国領で戦っていた、ラコ
ニア南部三国連合の正規軍の焼印を、防具に刻んでいました。現地
529
で盗賊団の死体を、確認して貰えれば解って貰えるかと﹂
俺の追加の説明に、肯定をするイレーヌ。
﹁しかし⋮気になる事も少しあるのですが⋮﹂
﹁葵殿⋮どんな事か、説明してくれませんか?﹂
俺は、イレーヌに、気になっている事を説明する。
まず、あのギルス達の強さだ。いかに元ラコニア南部三国連合の正
規軍だったとしても、あのクラスになってくると、部隊長クラスだ。
30人近く居た兵隊達なら兎も角、あのギルス達のクラスが、何故
わざわざ盗賊団などしていたのだろう。ギルス達の実力なら、他で
もっと良い稼ぎ口もあるだろうに⋮
もう一つは、持っていた物が高価過ぎる事。名剣フラガラッハも去
る事ながら、結界魔法陣や転移のマジックアイテムを使うなど、金
目当ての盗賊がする事なのか疑問に思う。
その事をイレーヌに説明すると、
﹁フム⋮確かに、葵殿の言う事も解りますね。ま⋮その者達が逃げ
ているので、今となっては解り兼ねますが、後で来る兵を廃坑に向
かわせた時に、もう一度良く調べさせましょう﹂
イレーヌの回答に、俺は静かに頷く。
﹁私達は、エイルマー殿の報告を受けて、領地内の全ての町や村に、
兵を送っています。騎士団も活発に監視しますので、今後この様な
事が起こる事は、無いと思います。今日の夕方には、この村にも常
駐する騎士団の兵士達が到着します。此れからは安心して生活をし
て下さい﹂
流石善政をしく事で有名なバルテルミー侯爵家だ。仕事が早い。そ
のイレーヌの言葉に、アロイス村長もエイルマーも安堵の表情を浮
かべる。
530
﹁今日は此れからアロイージオ様を先に、我が主がいる港町パージ
ロレンツォに、私のシルバーワイバーンに乗って、一足先にお連れ
する様に言われています。宜しいですかな?アロイージオ様﹂
﹁はい。私はそれで結構ですが⋮もう一人、モンランベール伯爵家
の客分である、このリーゼロッテさんも一緒に宜しいですか?私は
リーゼロッテさんを、港町パージロレンツォにあるモンランベール
伯爵家の別邸にお連れする事になっていますので。リーゼロッテさ
んもそれで宜しいでしょうか?﹂
アロイージオの言葉に、暫く考えたリーゼロッテが
﹁私は⋮この葵さんに、港町パージロレンツォに送って貰おうと思
います。葵さんも港町パージロレンツォに向かわれる様ですし﹂
﹁⋮そうですか。それでは葵殿、リーゼロッテさんを宜しくお願い
します﹂
リーゼロッテは俺の腕を掴みながら言うと、その言葉に肯定するア
ロイージオ。俺はいつの間にか、リーゼロッテを、港町パージロレ
ンツォに送る事になっていた。少し戸惑っている俺に、
﹁私と一緒に港町パージロレンツォに行くのは、ご不満ですか?﹂
リーゼロッテの少し寂しそうな顔に、胸が少しキュっとする
﹁いえ!全然いいですよ!マルガも喜ぶだろうし。ね?マルガ﹂
﹁ハイ!リーゼロッテさん、港町パージロレンツォ迄、ご一緒しま
しょう﹂
マルガは嬉しそうにそう言うと、リーゼロッテの手を握っている。
リーゼロッテもマルガに嬉しそうに微笑み、頷いていた。それを微
笑ましく見ていたイレーヌは
﹁では話は決まりましたね。アロイージオ様は私と一緒にと言う事
531
で。それから、葵殿。港町パージロレンツォに着きましたら、バル
テルミー侯爵家の官邸迄、お越しください。我が主人が貴方に面会
を希望されています﹂
﹁私のモンランベール伯爵家の別邸にも来てくれたまえ。リーゼロ
ッテさんの件もありますが、私を助けて貰ったお礼もしたいのでね﹂
イレーヌとアロイージオは俺にそう告げると、一同に挨拶をして、
部屋から出て行く。イレーヌとアロイージオを見送る為に、俺達も
部屋から出て来た。
村の広場には、立派なシルバーワイバーンが大人しく待っている。
﹁ウイーンダルファ銀鱗騎士団、銀竜部隊、1番員から5番員迄は、
私と同行してアロイージオ様を、港町パージロレンツォ迄お送りす
る。残りの銀竜部隊10員は、騎馬隊の到着迄村の警護、騎馬隊と
合流後は、予定通り、近隣の村の警護に当たれ!以上!﹂
凛とした綺麗な声でそう告げるイレーヌ。銀竜部隊が命令通りに動
いてゆく。
俺はかなり訓練された、ウイーンダルファ銀鱗騎士団、銀竜部隊に
興味が出て、どれ位の強さが有るのか気になったので、ちょっと霊
視で視てみる事にした。
﹃うは!15人の兵隊さん達のLVは80代前半から後半、全員上
級者クラスか∼。スキルも凄いものを持っているし、流石だね。兵
隊さんでこのクラスだと⋮副団長のイレーヌさんはどれ位なんだ?﹄
俺はイレーヌに霊視をしようとして見つめる。そして、詳しく視よ
うとした瞬間、バチチと頭の中で鳴り響き、霊視が解除された。俺
がその衝撃に軽く頭を抑えていると、フフフと笑っているイレーヌが
﹁葵殿。どんなスキルや魔法なのかは解りませんが、無暗に使う物
ではないですよ?私は此れでも、一応乙女だと思っていますので、
その辺も考えて下さいね﹂
532
俺を面白そうに見ているイレーヌに、苦笑いをする俺。
ムウウ⋮まさか霊視を見抜き、阻止されるとか凄いね。あの盗賊団
のギルスですら、そんな事されなかったのに。まあ⋮阻止される前
に、イレーヌのLVだけは視れたけど⋮
イレーヌのLVは、脅威のLV185。
上級者どころか、マスタークラスを飛び越え、ハイマスタークラス。
化物クラスだ。
さしものギルス達も、体制を立て直して、やって来たとしても、返
り討ちにあうだけであろう。
それだけの実力を秘めている。流石はバルテルミー侯爵家、ウイー
ンダルファ銀鱗騎士団と言った所だ。
﹁では、私達は港町パージロレンツォに向かいます﹂
﹁アロイージオ様、イレーヌ様、お気をつけて﹂
アロイス村長が、皆を代表してそう言うと、ニコっと微笑むイレー
ヌは、シルバーワイバーンの手綱を引くと、瞬く間に上空に飛び上
がった。それに続き、お供の兵士のシルバーワイバーンも5匹飛び
上がる。
イレーヌとアロイージオは上空で此方に手を振ると、港町パージロ
レンツォに向かって飛んでいった。
﹁フム⋮行ってしまわれましたの。警護の騎士団様方も来てくれた
し、これでもう全て安心ですの。明日には予定通り、葵殿と取引し
た品物を揃えましょう。⋮色々有りましたし、全てが元通りと言う
訳には行きませんが⋮この村も、何時もの日常を取り戻して行く事
でしょう﹂
アロイス村長はそう言うと、静かに目を閉じる。
孫であるハンスの死、ハンスが村の女性やマルガにした事を、思っ
533
ているのであろう。
当初、ハンスが女性達やマルガにした事を、内密にする予定だった
が、エイルマーが村の長が知らないと言うのは都合が悪いと言うの
で、アロイス村長とエイルマーが、此れからもこのイケンジリの村
を仕切るならと言う条件で、俺は承諾をして、全てを話したのだ。
そして、ハンスの亡骸は、この村に俺達が帰って来たその日に、村
の墓地に埋葬された。村の警戒中と言う事で、葬儀はごく小さいも
ので終わった。ハンスがした事を知っているのは、ごく一部の当事
者達のみで、アロイージオやリーゼロッテも、口裏を合わせてくれ
た事により、ハンスは盗賊団に殺された、ただ一人の村での被害者
と言う事で村人には理解され、ハンスの死は村人に悲しまれている。
﹁では、私とエイルマーは明日の事と、此れからの村の事を相談し
ないといけませんので、行かせて貰います﹂
そう言って、家の中に入って行くアロイス村長とエイルマー。
その2人の⋮此れからの日常と、向き合う覚悟を決めている背中を
見つめているマルコが、キュっと握り拳に力を入れる。
﹁オイラ⋮此れから、父さんと母さんに、話をしてくる!だから⋮
しっかり見てて葵兄ちゃん!﹂
マルコは真剣な眼差しをしながら、自分の家に向かって歩き出した。
俺とマルガ、リーゼロッテはマルコの後をついて歩く。そして家の
前に来て、大きく深呼吸をするマルコは、勢い良くその扉を開けた。
そこにはマルコの両親、ゲイツとメアリーが、昼食の準備をしてい
た。俺達に振り返り、笑顔を向ける夫妻。
﹁おう!マルコ帰ったか!葵さん達も一緒だな。もう少しで昼食が
出来るから、テーブルに就いて待ってて下さい﹂
笑顔でそう言うゲイツに、マルコは一歩前に出る。そして、再度深
534
呼吸をして、ゆっくりと話しだす。
﹁父さん、母さん、大切な話が有るんだ。聞いて欲しい﹂
静かに語るマルコを、流し目で見ながら、軽く貯め息を吐くゲイツ
﹁⋮葵さんの弟子になって、行商に付いて行くって話しなら、昨日
もしたはずだ。駄目だ。お前にはまだ早い﹂
﹁違うんだ!きちんと話を⋮﹂
﹁だまれマルコ!⋮葵さんすいませんね。マルコがご迷惑を掛けち
ゃって﹂
強引にマルコの話を遮る様に言うギルスに、相手にされていないマ
ルコは、俯きギュっと唇を噛んでいる。
﹁いえ⋮お気になさらずに。初めての弟子の、一世一代の交渉なん
で、迷惑とは全然思ってませんので﹂
﹁葵兄ちゃん!﹂
微笑みながらゲイツに答える俺を見て、嬉しそうに此方を見るマル
コ。その言葉を聞いたゲイツの目がきつくなる
﹁葵さん⋮それはどういう意味でしょうか?まさか本当に⋮マルコ
を弟子になさる気ですか?﹂
﹁そうですね。マルコがゲイツさん達に了解を得られればって、条
件を付けましたけど、その条件をきちんと達成出来るのであれば、
僕はマルコを連れて行っても良いと思っています﹂
そう言って微笑む俺を見て、マルコは嬉しそうな顔をする。そんな
マルコを見て、一層瞳をきつくするゲイツは
﹁⋮葵さんはもう成人されて、まだお歳はお若いですが、立派に行
商を生業として生活されている良識のある方だと思っていましたが
⋮まさか⋮11歳の子供が言う事を、真に受けられるのですか?﹂
535
﹁そうですね⋮マルコは確かにまだ子供です。ですが⋮言葉の意味
の解らない子供であれば、叩いて、押さえつけて教えるのも、親の
役目かも知れませんが、マルコはもう話して解らない様な歳では、
ありません。その事は既にゲイツさんも感じておられるのでは?な
らば、正面から話し合って、親の経験から、マルコを説き伏せてみ
てはどうですか?マルコの話を聞かずに、押さえつける事はもう出
来無いでしょうしね﹂
俺の話を静かに聞いていたゲイツは、う∼んと唸り声を上げ、暫し
考えていたが、軽く貯め息を吐き
﹁解りました⋮確かに葵さんの言う事も一理あります。とりあえず、
話だけは聞いてみましょう﹂
ゲイツの言葉に、沈んでいた顔が晴れてゆくマルコは嬉しそうだ。
﹁俺がしてやれるのは此処までだからねマルコ。後はマルコ次第。
許可を貰えなかったら、連れて行かないのは本当だからね?﹂
﹁うん!解ってる!ありがとう葵兄ちゃん!﹂
マルコはグッと胸の前で両手の握り拳に力を入れて、ゲイツの方を
向く。そして、静かに大きく深呼吸をして、ゆっくりと話しだした。
﹁オイラは今迄、ただ行商人に憧れて⋮ただ世界を見てみたくて、
父さんと母さんに、行商人になりたいって言っていただけだと思う。
けど⋮今は違うんだ!﹂
﹁⋮何がどう違うんだ?きちんと説明してみろ﹂
ゲイツの言葉に、ゆっくりと説明を始めるマルコ。
マルコは、ここ数日起こっていた盗賊団が、村を脅かしていた事を
説明し始めた。
初めに、この話は此処だけの話にして欲しいと、ゲイツ夫妻に了承
を貰い、村の女性達やメラニーが陵辱された事は伏せて、ハンスが
536
この村の為に、命を掛けて、どんな犠牲を出してでも村を守ろうと
していた事を話す。
その内容に、顔を見合わせる、ゲイツとメアリー夫妻。
﹁ハンスさんが村の事を考えて、その様な事をしたのは解った。で
もそれが、お前とどういう関係があるんだ?﹂
当然疑問に思うゲイツの言葉を解っていたマルコは、
﹁⋮オイラね、葵兄ちゃんが盗賊団の頭と戦ってる時に、入り口付
近で隠れて見ていたんだ。その時、盗賊団の頭が言ったんだ⋮。﹃
この世はな、力なんだよ!力が全て!力のないお前達は、俺の言う
通りにしか出来ないんだよ!﹄ってね。オイラもそう思った⋮きっ
とそれが事実なんだろうって。でも同時に、とても悔しかったんだ
⋮何も出来無い自分に⋮守れない自分が⋮嫌だったんだ﹂
﹁⋮お前の言いたい事は良く解る。でも、だからと言って、お前が
ハンスさんの真似をする必要はないだろう?﹂
諭すように言うゲイツに、真剣な眼差しを曇らせないマルコは
﹁でも父さん、次に今回見たいな事が有ったら、どうするの?また
⋮ハンスさんみたいな人を犠牲にして、自分達だけ安全な所で、今
回みたいにほっと安心しているだけなの?今回は本当に葵兄ちゃん
が居たからこれ位の被害で済んだけど、次にこんな事があったら、
凄い事になるかも知れないよ?それに、次はハンスさんみたいな人
も居ないかも知れないんだよ?﹂
﹁そ⋮それは⋮そうだが⋮﹂
マルコの言葉に、思わず口籠もるゲイツは戸惑っていた。
﹁オイラはね、葵兄ちゃんの弟子になって、色々な力と知恵をつけ
たいんだ!大切な物を守れないで、ただ見ているだけじゃ嫌なんだ
!大好きな父さんや母さん、この村の人の力になれる様に、守れる
537
様になりたいんだ!父さんや母さんの言っている事も良く解ってる
!でも⋮オイラを信じて、今は行かせて欲しいんだ!お願いします
!父さん!母さん!﹂
マルコは一気に言うと、土下座をして頭を床に擦り付ける。恐らく
こんな真面目に真剣な思いを、今迄聞いた事が無かったであろうゲ
イツは、複雑な表情で瞳を揺らしていた。そして、俺の方を向き
﹁葵さん⋮貴方はどうしてマルコを弟子にしても良いと思ったので
すか?﹂
﹁いや⋮純粋に凄いな∼と思いましてね﹂
﹁⋮凄いとは?﹂
﹁ええ⋮僕がマルコと同じ歳の頃は、遊ぶ事しか考えてませんでし
た。それなのに、小さい時から、投擲の練習を欠かさずして、今は
大切な物を守りたいって、頑張ろうとしてるんですからね。僕は善
人ではありませんが、そんなのを見せられたら、少しは何かしたく
なっても、可笑しくは無いでしょう?﹂
その言葉を聞いたゲイツは、静かに俺を見ている。そんな2人を見
ていたメアリーが、ゲイツの傍まで来る
﹁あなた⋮マルコを行かせてあげましょう。この子の気持ちは⋮本
物よ⋮﹂
﹁だが!しかし⋮﹂
メアリーの言葉を聞いて、再度口籠もるゲイツの肩に、優しく手を
添えるメアリーは
﹁葵さんの言う通り、もうマルコを押さえつける事は出来無いわ。
あなただって、マルコの気持ちを聞いて、説き伏せる事は難しいと
思っているのでしょう?私達の子供を信じてあげましょう⋮﹂
優しい口調で、諭す様にゲイツに言うメアリー。ゲイツは腕を組ん
で、暫く思案すると、俺の方を再度見て
538
﹁⋮もし、葵さんの弟子になるとして、葵さんはマルコの事を守っ
て頂けますか?マルコの安全を保証して貰えるのでしょうか?﹂
﹁それは⋮お約束出来ませんね﹂
思いもよらない俺の言葉を聞いて、表情をきつくするゲイツ
﹁行商や冒険には、危険が満ち溢れています。今回の件もそうです
が、ギリギリの所で生死を分ける事なんて言うのは多々あります。
そんな中で、身の安全を守るなんて事を、約束するなんて事は出来
無いんですよ。⋮僕もまだ勉強中で、此れから色々学んで行かない
といけない身です。僕はマルコを弟子じゃなくて、旅の仲間として
迎えるつもりです。勿論、僕の指示には従って貰いますけどね。僕
と一緒に行く中で、マルコが何を学ぶのかは、マルコ自信に任せよ
うと思っています。その中で、もしマルコが死んでしまっても、僕
は責任を負うつもりはありません﹂
ゲイツと同じ様に、表情のきつくなっている俺を、黙って見ている
ゲイツ
﹁⋮行商や冒険は自己責任が基本です。行商で損をしたり、冒険で
危険な目に合ったからと言って、それを人の所為にしている様では、
やっていけないでしょう。自分で考え、自分自身で責任を取らなけ
ればいけないのです。⋮きっとマルコもそう言う覚悟を決めて、ゲ
イツさんとメアリーさんにお願いしているのだと思いますよ﹂
俺は静かに語ると、それを聞いていたゲイツは軽く溜め息を吐きな
がら、
﹁⋮なるほど、確かにそうですね。しかし⋮実の親に、そういうキ
ツイ事を平然と言われるとは⋮。少しは安心させる事を言ってくれ
ても良いのでは?﹂
﹁⋮言い難い事やキツイ事も、言うべき所では言う。出来ない約束
539
はしないと言うのは、商売をする者にとっては大切な事なんです。
そこに甘えがあってはならない。それがのちに、信用にも繋がる⋮。
と、まあ偉そうに言いましたけど、僕に商売を教えてくれた人の言
葉なんですけどね。僕は、まだまだ修行中ですから、良く怒られて
いますけど﹂
苦笑いしている俺を見て、フッと笑うゲイツは、
﹁⋮良き人に教えを乞うていらっしゃいますね。確かに⋮葵さんの
言う通りですな﹂
そう言って静かに目を閉じ沈黙するゲイツ。暫くそうして居たが、
ゆっくりと瞳を開け、土下座をしたままのマルコに向き直り
﹁⋮20日∼30日置きに必ず手紙を送ってくる事⋮そして⋮また
必ず元気に帰って来る事⋮約束出来るかマルコ?﹂
優しく語りかける様に言うゲイツの言葉に、ガバっと頭を上げるマ
ルコは
﹁うん!約束する!オイラ言われた通りにするし、一杯勉強して、
強くなって帰って来る!絶対に元気で帰ってくるよ!﹂
﹁⋮なら行って来なさい。父さんと母さんは⋮お前を信じる。父さ
んと母さんの信用を、裏切る様な事をしたら許さないからな﹂
﹁解ってる!ありがとう父さん!﹂
マルコはガバっと起き上がり、ゲイツの胸に飛び込んで泣いている。
それを優しく迎えるゲイツの顔は、大切な息子を認め、巣立って行
くその姿を慈しむ様に、嬉しさと寂しさ、心配が折り重なった複雑
な表情ではあったが、しっかりとマルコを受け止め胸に抱く姿は、
何処かの聖堂に飾られている絵の様に、威厳と慈悲に満ち溢れてい
た。
﹁葵さん⋮自己責任でと言う事は解っていますが、マルコは私達の
540
大切な子供⋮また此処に元気に帰って来れる様に、力を貸してやっ
て下さい。⋮マルコの事を宜しくお願いします﹂
﹁ええ⋮僕も極論を言わせて貰っただけです。旅の仲間になったの
ですから、出来得る限りの事はさせて貰います﹂
マルコを抱きしめるゲイツの横で、深々と頭を下げる妻のメアリー
の心からの願いの声に、俺がそう答えると、目に涙を浮かべながら
微笑んでいる。そんなメアリーにも優しく抱かれていたマルコは、
涙を袖口で拭くと、俺の前までやって来た。
﹁葵兄ちゃん!きちっと承諾を貰えたから、約束通り、オイラを弟
子にしてくれるよね?﹂
﹁そうだね。ま∼弟子と言うよりかは、旅の仲間として迎えるよ。
条件は前に言った通り。いいね?﹂
﹁うん!じゃ∼此れからヨロシクね!葵兄ちゃん!﹂
﹁うんよろしくねマルコ﹂
俺が掌をマルコに向けると、少し飛び上がって、掌を打ち付けハイ
ッタッチをするマルコの顔は、とても輝いていた。マルガとリーゼ
ロッテも微笑み合っている。
﹁葵さんはこの村を何時出立される予定ですか?﹂
﹁えっと⋮商品が揃うのが明日なんで、明後日の朝に出立しようと
思っています﹂
ゲイツの問に俺がそう答えると、フンフンと頷いているゲイツは、
﹁じゃ∼今からはマルコの出立祝いに、美味しい物を更に一杯出し
ましょう!準備しますので、テーブルに掛けて待っていて下さい﹂
ゲイツのその言葉に、マルガが涎の出そうな顔で、ニマニマしてい
たのは言うまでも無い。そんなマルガを楽しげに笑っている一同。
マルガはテヘっと笑い、可愛い舌をペロッと出している。
俺達は豪華な食事を、心ゆくまで楽しんだ。
541
騎士団の到着した村は平穏を取り戻し、夜の帳が降りた村の広場に
は、数本の篝火が焚かれ、騎士団が交代で村の警備をしている。
昼食に引き続き、豪華で楽しい晩餐も終わり、俺とマルガは部屋に
帰って来て居た。
テーブルに並べられた料理を、パクパクと食べていたマルガと白銀
キツネの子供のルナは、ベッドの上で、お腹を膨らませて実に満足
そうに腰掛けている。
﹁はあ∼今日もご夕食、とっても美味しかったです∼。お腹一杯で
す∼﹂
プクっと膨れたお腹を摩りながら、満足そうなマルガの膝の上には、
同じ様にお腹を膨らませている白銀キツネのルナが、眠たそうに目
をショボショボさせている。
そんなキツネコンビが可笑しくて、ププっと思わず吹いて笑ってし
まうと、マルガはプクっと可愛い頬を膨らませる
﹁ご主人様⋮また何か意地悪な事考えてませんか?﹂
ちょっとウウウと唸りながら拗ねているマルガが、ジ∼∼∼∼と俺
を見てくる。金色の毛並みの良い尻尾を、機嫌の悪いネコの様に、
ベッドにペンペンと軽く叩きつけている。
うは!拗ねてるマルガ可愛ゆす!可愛く膨らませてる頬を、突っつ
きたくなるよ!
このまま拗ねマルガを堪能していたい気もあるが、可哀想なのでや
めておこう。
542
そろそろ機嫌を直して貰う為に、釣り餌投入なのです!
﹁マルガ⋮マジカル美少女キュアプリムちゃんの続き見る?﹂
その釣り餌に、ピクっと耳を動かすマルガ。どうやらHITの予感
です。
﹁ハイ!プリムちゃん見たいです!﹂
ハイ!と右手を上げて元気良く言うマルガの尻尾は、嬉しそうにブ
ンブン振られている。
そんな盛大に釣り針に掛かってくれるマルガが可愛すぎて、思わず
ニマニマしていると、ハっと何かに気が付いたのか
﹁何か⋮ご主人様に誤魔化されている気がします∼﹂
ハウウと言った感じで言うマルガは、プリムちゃんは見たいけど、
俺の釣り餌にこのまま食いついて良いのか、迷っている。マルガの
尻尾が奇妙な動きをしているのが面白い。
此処でマルガ魚を逃がす訳にはいかない!最後の追い込みです!
俺はハウウとなっているマルガを、優しく抱きしめ頭を撫で、マル
ガの柔らかい感触を存分に楽しむ。
﹁ご主人様ずるいです⋮﹂
可愛く拗ねる様にそう言うが、しっかりと俺の体を抱き返してくる
マルガが愛おしい。
口に軽くキスをして、ギュっと抱きしめると、嬉しそうに俺の胸に
顔を埋めるマルガ。尻尾が嬉しげにフワフワと揺れていた。
﹁じゃ∼用意するから待っててね﹂
﹁ハイ!解りましたご主人様!﹂
ニコニコ顔に戻ったマルガを見てニマニマしながら、俺はアイテム
バッグからパソコンを取り出し立ち上げる。テーブルをベッドの傍
543
まで移動させて、その上にパソコンを乗せる。マルガはベッドの上
できちんと正座をして用意してくれるのを待っていた。
特に正座する様に言っては居ないんだけど、マルガは何時もこの体
制で待っている。俺と違って、根が真面目なんだよね。そんなマル
ガの頭を優しく撫でると、ニコっと微笑見が帰って来る。ホント可
愛ゆすな∼。
用意し終わって、動画サイトを開く。見慣れた画面が出て来て、始
まった。
﹁皆さんこんにちわ∼♪﹂
﹁ハイ!こんにちわですプリムちゃん!﹂
そう言って、微笑みながら可愛い頭を、パソコンの画面の中のプリ
ムちゃんに、ペコリと下げて挨拶をするマルガ。
本当に毎回きちんと挨拶してるよね!マジで可愛すぎるんですけど!
そんなマルガを見てニマニマしていると、画面の中のプリムちゃん
が元気良く始まりを宣言する。
﹁マジカル美少女キュアプリム!はっじまるよ∼ん♪﹂
﹁ハイ!今日もよろしくですプリムちゃん!﹂
何がよろしくなのかは、あえて突っ込まないでおこう!だって可愛
いんだもん!それでOKです!
マルガを見ながらニマニマしていると、主題歌が流れだし、本編が
始まった。
前回と同じ様に、食い入る様にアニメを見ているマルガ。アニメの
少女と同じ様にに、一喜一憂のリアクションをしているのが面白い。
時折キャっとか、プリムちゃん頑張って!とか、叫ぶマルガを俺は
ニマニマ顔で見ているのである。俺の膝に抱かれている白銀キツネ
のルナも、今回は起こされずにスヤスヤ気持ち良さそうに寝ている。
今回は5話から見て、8話が終わった頃に、コテっと俺に頭を持た
544
れかけて、眠ってしまったマルガ。
再度キツネコンビが、ムニャムニャ寝ているのを微笑ましく思いな
がら、椅子に腰掛けてタバコを吸っている時に、羊皮紙張りの窓の
外に人影が見える。
俺は静かに立ち上がって、ゆっくりと扉を開けて外に出ると、そこ
には、金色の妖精が、儚げな顔をして、この世界独特の土星の様に
リングの付いた、青い月の優しい光の下立っていた。
その金色の妖精は、俺に気が付き、ニコっと優しい微笑みを向ける。
﹁あらあら、もう美少女キツネさんとの、楽しい時間は終わりまし
たの?﹂
この世界独特の土星の様にリングの付いた、青い月の優しい光を浴
びて、何処か幻想的にも見える金色の妖精は、悪戯っぽい微笑みを
浮かべて俺を見ていた。
その微笑みに俺は息をするのも忘れて見蕩れていると、口に手を当
ててクスクスと笑う、金色の妖精。
﹁また⋮私の顔に⋮何か付いてますか葵さん?﹂
﹁は!?え⋮いえ!な、何も付いて無いです!﹂
思わず声がうわずっちゃったよ!⋮オラ恥ずかしい⋮
そんな俺を、楽しそうに見ているリーゼロッテが、俺の隣まで近寄
ってくる。リーゼロッテの甘い匂いに、クラっとする。
﹁今日もマルガさんは楽しそうでしたね⋮羨ましいわ⋮﹂
儚げに青い月を眺めるリーゼロッテの姿が、俺の心をギュっと掴む
様な感覚に囚われる。
そんな俺の視線に気がついたリーゼロッテが、俺の方に向き直る。
﹁⋮葵さん、お聞きしたかった事があるのですが⋮どうしてマルガ
さんを、奴隷から開放してあげないんですか?あんなに好きで、大
545
切にしている女の子なら、奴隷から開放してあげて、普通の恋人と
して、一緒に居た方が宜しいのではなくて?﹂
リーゼロッテは透き通る様な、美しい金色の瞳を俺に向ける。
﹃⋮その事は、今迄何回も、考えた事はある。あるけど⋮したくな
いんだ⋮﹄
俺はその理由を言うべきかどうか悩んでいたが、俺に向けられてい
る、透き通る様な美しい金色の瞳は、全てを受け入れてくれる様な、
輝きを放っていた。
その瞳に、宥められたかの様に、俺は自然と話しだしていた。
﹁はい⋮その事は今まで何度も考えました。でも⋮そうする事は⋮
出来無いんです⋮﹂
﹁⋮どうしてですか?マルガさんの事が、大好きなんでしょう?﹂
﹁はい⋮大好きです。大好きだからこそ出来無いんですよ﹂
俺の言葉を聞いて、不思議そうに俺を見るリーゼロッテ。
そのリーゼロッテの表情を見て、一瞬言うかどうか躊躇ったが、最
後まで言う事にした。
﹁俺は⋮マルガが大好きです。それこそ、何を犠牲にしても良い位
に。でもそれと同じ位、マルガを他の奴が汚す事を嫌っています。
マルガが他の奴に汚される、他の奴に心を開く、他の奴に⋮身を捧
げるなんて事は⋮考えられないんですよ⋮そんな事は許さない⋮﹂
静かに俺の話を聞いていたリーゼロッテは、静かに目を閉じる。
﹁マルガを⋮他の奴に渡したくは無い⋮絶対に。マルガは俺だけの
物⋮俺だけを好きでいないと駄目なんです。マルガの全ては俺だけ
の物⋮誰にも渡さない⋮﹂
黙って俺の話を聞いていたリーゼロッテは、ゆっくりと瞳を開ける。
546
﹁⋮だから⋮奴隷から開放しないのですか?ずっと手元に置いてお
く為に⋮﹂
﹁⋮はい。恋人だと、誰か他の人を好きになって、俺の手から離れ
て行くかもしれませんからね⋮﹂
俺は静かにこの世界独特の、土星の様にリングの付いた青い月を眺
める。
その青い月は非常に美しく、無限に広がる様な夜空に天高くにある
青い月は、俺を見下す様に優しい光を湛えていた。
﹁⋮本当は解っているんです。マルガをそんな方法で縛り付けても、
全てが手に入らない事も。⋮俺は、アロイージオ様やエイルマーさ
んの様に、美男子や男前ではありません。見た目も普通、身長も高
く無いし、特に賢い訳でも無い。ましてや大金持ちや、権力を持っ
ている訳でもありません。⋮俺は怖いんです。こんな特に取り柄の
無い俺に、何時まで好きと言ってくれるのか⋮。超美少女のマルガ
なら、もっと凄い男が此れから言い寄って来る事が、容易に想像出
来ますからね﹂
俺はリーゼロッテに視線を戻すと、先程と同じ様に、全てを受け入
れてくれる様な、透き通る様な美しい金色の瞳を、俺に向けてくれ
ている。その美しい瞳に、何処か癒される⋮
﹁⋮汚い三級奴隷だったマルガを偶然手に入れて自分の物にし、そ
れを良い事に、世話を焼き恩を売り、マルガを逃げ無い様にしただ
けなんですよ。マルガはそれを勝手に勘違いして、好きと言ってく
れているんです。そんなマルガの気持ちを利用して、好き勝手やっ
て居るんですよ俺は。⋮本来なら⋮高嶺の花であるはずのマルガに
ね⋮﹂
儚く微笑む俺に、リーゼロッテはすぐ横まで体を寄せる。リーゼロ
ッテの柔らかい肩の感触が心地良い。
547
﹁⋮俺は最低でしょ?﹂
﹁⋮そうですね⋮最低ですね﹂
苦笑いする俺に、優しい微笑みを湛えながら、キツイ言葉をサラリ
と奏でるリーゼロッテ。
しかし、俺はキツイ事を言われている筈なのに、何故か心が苦しく
ならない。
きっとその理由は、リーゼロッテの透き通る様な美しい金色の瞳が、
そんな俺の全て包み込む様な、優しい光を放っていたからであろう。
暫く見つめ合っていた俺とリーゼロッテであったが、リーゼロッテ
が口に手を当ててフフフと笑い出した。
﹁や⋮やっぱり⋮変ですよね⋮﹂
﹁ま∼確かに変ではありますね。でも⋮葵さんは大切な事を見落と
していますよ?﹂
﹁ど⋮どんな事ですか?﹂
俺の困惑する顔が楽しいのか、クスクスと笑うリーゼロッテは、何
処か愉しげだった。
﹁⋮最低であり、最高でもある⋮世の中には、そんな事も有るのか
も知れませんよ?﹂
﹁はえ!?ど⋮どう言う意味ですかリーゼロッテさん?﹂
﹁さあ∼?そのうち可愛いキツネさんが、教えてくれるかも?﹂
変な声を上げて、更に困惑している俺を見て、より一層、愉しげな
顔をしているリーゼロッテ。
暫く可笑しそうにクスクス笑っていたリーゼロッテは、夜空の星々
を見て、ハァ∼っと大きな溜め息を吐く
﹁⋮本当にマルガさんが羨ましいですわ。葵さんにそこまで思われ
ているなんて⋮。あの盗賊団の頭相手に、取引を断り、命を掛け、
全てを捨てて助けちゃう位ですものね。私はあの時、盗賊団の頭の
548
取引を、葵さんが受け無かった事が理解出来ませんでしたが、よう
やく今納得出来ましたわ﹂
にこやかに微笑むリーゼロッテの言葉に、俺は若干の違和感を感じ
た。なので、その違和感を訂正する事にした。
﹁いえ⋮違いますよ?あの取引を受けても、マルガは俺の物のまま
でいられたんです。そりゃ∼多少の理不尽は有るでしょうが、力無
き者はそれに従うのが宿命です。俺はその宿命に従うつもりで最初
は居ました。俺はあの時マルガさえ無事ならそれで良かった。⋮本
心は、マルガの為に、イケンジリの村の人を、切り捨てるつもりで
いましたしね﹂
俺の話を聞いて、困惑した表情を浮かべるリーゼロッテ。
﹁で⋮では何故、あの盗賊団の頭の取引を断ったのですか?﹂
﹁それは⋮あのギルスの取引を承諾しようとした時に⋮リーゼロッ
テさんの瞳を見てしまったからです⋮﹂
そう⋮あの時、俺はマルガさえ無事ならそれで良いと思っていた。
あんな化け物のギルス達3人に、歯向かう事の無謀さなど、頭の悪
い俺でさえ解る。
あれだけ優遇してくれた取引を、危険を犯して反故にするなど、何
時もの俺なら絶対にしない。
それをしてしまったのは、あの時⋮リーゼロッテの⋮必死に助けを
求め縋り付く様な⋮金色の透き通る瞳を揺らしている、リーゼロッ
テの姿を見たからだ。
⋮まるで、何時かのマルガの様なその瞳⋮
それを見て、俺は血の滾りを我慢出来無くなったんだ⋮
俺とリーゼロッテは見つめ合っていた。
リーゼロッテは俺の言葉に、何か思い当たる節でもあるのか、金色
の透き通る瞳を、激しく揺らしていた。
549
﹁俺は嫌だった⋮リーゼロッテさんが奴隷商に売られて⋮何処か他
の奴の慰み者にされるのが許せなかった⋮他の奴の慰み者にされる
位なら⋮いっそ⋮俺が!﹂
俺はきっと無意識だったのだと思う。
吐息の掛かる位近くに居たリーゼロッテの、柔らかく華奢な白い手
を、強く握っていた。
そんな俺に対して、リーゼロッテからの明白な拒絶はなく、何処か、
何かを求める様な瞳で俺を見るリーゼロッテ。その金色の透き通る
瞳を、激しく揺らしていた。
﹁では⋮私の為に⋮取引を断ったと⋮私の為に命を掛けたと⋮。そ
⋮そんな⋮マルガさんを見る様な瞳で⋮わ⋮私を見てくれるのです
か?あ⋮葵さんは⋮私の事が⋮好き⋮なのですか?﹂
﹁⋮解りません。俺はマルガの事が大好きです。でも⋮それと同じ
位に⋮リーゼロッテさんに惹かれて居る自分も居ます⋮だから⋮あ
の時⋮ギルスとの取引を断った⋮リーゼロッテさんを⋮渡したくは
無かったから⋮﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテは、今までに見た事の無い位、その
金色の透き通る瞳を、激しく揺らしている。
そして、その瞳が、何処か嬉しさに包まれて行き、リーゼロッテの
顔が俺に迫る。
春風に誘われた、金色の美しい髪が、俺の顔を撫でる。リーゼロッ
テの甘い髪の香りに俺は囚われる。
﹁⋮ん⋮うん⋮﹂
微かに声を出す、俺とリーゼロッテ。
リーゼロッテの柔らかい唇が、俺の唇と重なっている。
それは優しいキス⋮唇と唇が優しく触れ合うだけの⋮高貴で⋮慈し
む様な⋮そんなキスだった。
550
どれ位の時間そうしていたのかは解ら無い。一瞬の様な、永遠とも
感じる。
自然と顔を離した、俺とリーゼロッテは、只々見つめ合っていた。
暫く見つめ合っていた俺とリーゼロッテだったが、リーゼロッテは
一瞬瞳を下に向け、
﹁葵さん⋮私の話を⋮聞いてくれますか?﹂
掠れる様に小さく呟くリーゼロッテに、俺は静かに頷く。
﹁⋮私は⋮港町パージロレンツォに着いたら、とある貴族の殿方の
物にならなければいけないのです。その為に⋮港町パージロレンツ
ォにある、モンランベール伯爵家の別邸まで、向かう途中の旅路だ
ったのです﹂
言いにくそうに話すリーゼロッテの言葉を聞いて、俺は一瞬目の前
が真っ暗になった。
どれ位そうしていたかは解らないが、微かに気を取り直した俺は、
﹁そ⋮それは、何処かの貴族と⋮結婚すると言う事ですか?﹂
﹁⋮そうですね。そんな感じですね﹂
力なく微笑むリーゼロッテの表情に、俺は堪らない気持ちが沸々と
湧いてくる。
﹁リーゼロッテさんは⋮その結婚を⋮望んでいるのですか?リーゼ
ロッテさんは、その貴族の人を好きなのですか?﹂
﹁⋮いえ、望んではいませんし、その人とも、まだ会った事は無い
んです﹂
﹁なら!そんな結婚辞めてしまえばいいじゃないですか!﹂
俺はリーゼロッテの手を握り、少し声高に言うと、金色の透き通る
瞳を、激しく揺らして居たリーゼロッテだったが、握っている俺の
551
手をギュっと握り返し、
﹁此れは私の居た村で、決まった事なのです。私もそれを承諾して
此処に居ます。⋮もし、私が辞めてしまったり、逃げてしまえば、
村に多大な被害が出てしまうのです。⋮ですから⋮辞める事は出来
ませんし、私も辞める事や逃げる事は望みません﹂
その俺の言葉に対する明確な拒否とは裏腹に、俺の手を握っている
リーゼロッテの手は、微かに震えていた。
この世界には望まぬ結婚を強要される女の人など、星の数ほど居る
であろう。
それがまかり通る世界であり、変え難い事実だ。リーゼロッテもそ
れに巻き込まれた内の一人。
リーゼロッテはそれを逃れられ無い宿命として、受け入れ様として
いる。
そんな微かに震えている金色の妖精が、堪らなく切なくて、リーゼ
ロッテをきつく抱きしめる。
リーゼロッテもその気持ちを打ち消す様に、俺をギュっと抱きしめ
る。リーゼロッテの柔らかい体に包まれる⋮
その快感に、俺は自然とリーゼロッテに接吻をしていた。
リーゼロッテの口の中に舌を忍び込ませ、リーゼロッテの舌を見つ
け、味わう。リーゼロッテも同じ様に俺の舌に、甘く柔らかい舌を
絡めてくる。微かに身を悶えさせるリーゼロッテが、とても愛おし
く感じる。
心ゆくまでお互いを感じ合った俺とリーゼロッテは、顔を離す。リ
ーゼロッテは嬉しさと切なさが折り重なった、金色の美しい透き通
る瞳を、揺らしている。
そして、ギュっと俺の胸にしがみつき
﹁私は⋮処女で居ないといけません。ですが⋮葵さん⋮私が⋮他の
552
人の物になる前に⋮私は思い出が欲しい。⋮私に⋮葵さんとの思い
出をくれませんか?私の処女以外を⋮他の全ての初めてを⋮葵さん
に貰って欲しい﹂
悲しさと艶めかしさが交じり合うその瞳に、俺の心は鷲掴みにされ
る。
俺はリーゼロッテに手を引かれて、リーゼロッテの寝室に入って行
くのであった。
553
愚者の狂想曲 16 マルガとリーゼロッテはライバル!? ﹁う⋮んんっん⋮﹂
微かに声を上げ、身を捩れさせるリーゼロッテ。
リーゼロッテの寝屋に入った瞬間、心の底から沸き上がる気持ちを
押さえつける事が出来無かった。
リーゼロッテの細く華奢な腰をギュっと抱き寄せ、その薄い唇に吸
い付き、舌を忍ばせたのである。リーゼロッテの甘く柔らかい舌を
味わいながら、そのままベッドに倒れこむ、俺とリーゼロッテ。
キスをしながらリーゼロッテのマルガとは違う豊満な体を触ってい
く。
﹁あ⋮うん⋮﹂
リーゼロッテの柔らかく、大きな胸を鷲掴みにすると、リーゼロッ
テは少し甘い吐息をあげる。
そんなリーゼロッテに興奮しながら、胸を愛撫する。
﹁リーゼロッテ⋮こうやって胸を揉まれるのは⋮初めて?﹂
﹁はい⋮初めてです⋮。因みに⋮キスも、先ほどが初めてです⋮﹂
﹁そうなんだ⋮キスと胸の初めてを貰っちゃったんだね⋮嬉しいよ
⋮リーゼロッテ﹂
俺はリーゼロッテのキスと胸の初めてを奪えた事に歓喜する。そん
な俺を見ているリーゼロッテも嬉しそうに、金色の美しい透き通る
瞳を、艶めかしい色に染めている。
そのリーゼロッテの表情に我慢出来無くなり、リーゼロッテの服を
強引に脱がして行く。
それと同じ様に、リーゼロッテも俺の服を脱がしていく。そして、
リーゼロッテの服を全て脱がし終わった俺は、リーゼロッテを只々
554
眺めていた。
﹁リーゼロッテ⋮綺麗だ⋮凄く⋮可愛いよ⋮﹂
一糸纏わぬ女神の様な金色の妖精を見て、心の底から絞りでた俺の
言葉に、リーゼロッテは顔を真赤にして、金色の美しい透き通る瞳
を、喜びの色に染めている。
﹁これから⋮リーゼロッテの初めてを奪っていくからね!﹂
俺はもう我慢の限界にきていた。女神の様な金色の妖精に覆いかぶ
さると、その美しく豊満な体を味わって行く。
﹁こうやって、手の指を舐められるのは⋮初めて?﹂
﹁はい⋮葵さんが初めてです⋮﹂
﹁脇の下はどう?舌で舐められるのは初めて?﹂
﹁あ⋮んっん⋮はい⋮初めてです⋮﹂
﹁綺麗な足の指だね⋮一杯舐めてあげる⋮足の指を⋮舐められるの
も初めて?﹂
﹁はうんっんん⋮はい!足の指を舐められるのも、葵さんが初めて
です!﹂
リーゼロッテの綺麗な足の指を、執拗に舌を絡めて舐める俺を感じ
て、リーゼロッテは身悶えながら、艶めかしく染まっている金色の
美しい透き通る瞳で俺を見ている。
リーゼロッテの足の指を十分に堪能した俺は、その豊満で美しい胸
に吸い付く。
﹁っあ⋮んっんん⋮﹂
甘い吐息をあげ、身を悶えさせるリーゼロッテ。その豊満な胸を愛
撫しながら、その先にあるピンク色の乳首を口の中に含み、舌で味
わい弄ぶ。硬くなっている乳首を舌で転がし、吸い付くと、リーゼ
ロッテはその美しい体を身悶えさせて、その快楽に浸っている。
555
その姿が愛おしくて、乳首をコリっと少し噛むと、ピクっと体を強
張らせて、甘い吐息をあげるリーゼロッテ。
リーゼロッテの体中を舌で舐めて愛撫している俺は、再度口に吸い
付き、舌を味わう。
同じ様に俺の舌を味わうリーゼロッテ。
俺は、胡座をかいて座り、ベッドに寝ているリーゼロッテの目の前
に、俺のモノを持って行く。
リーゼロッテの体を味わっていた俺のモノは、大きくなって、ピク
ピクと脈打っている。
そんな俺のモノを艶かしく染まった、金色の美しい透き通る瞳で見
ているリーゼロッテ。
﹁男の人の大きくなっているモノを⋮見るのも初めて?﹂
﹁⋮はい、葵さんが初めてです⋮﹂
﹁⋮嬉しいよ。じゃ∼リーゼロッテのその可愛い口の初めても、貰
うからね⋮﹂
俺はそう告げると、リーゼロッテの美しい顔を掴み、口を開けさせ
る。
その薄い唇に、ねじ込む様に、俺はモノを入れていく。リーゼロッ
テの暖かく、ニュルっと絡み付いてくる舌が俺のモノを刺激して、
堪らない快感が俺を包み込む。
﹁そう⋮もっと舌を絡めて⋮。時折強く吸ったり、サオを舌だけで
舐めたりもするんだよ。きちんと両手も使って⋮そう⋮玉の方も舐
めるんだ。⋮きっちり仕込んであげるからね⋮リーゼロッテ﹂
何時も勝気で、凛としていて、男に媚びる姿が想像出来無い超美少
女のリーゼロッテが、俺のモノに服従したかの様に、舌でモノに奉
仕している姿に、激しく性欲を掻き立てられる。
その快感に俺のモノもピクピクと、リーゼロッテの口の中で脈打っ
ている。
556
俺はリーゼロッテを女の子座りにさせ、その前に立ち、顔の前に硬
く大きなモノを持っていく。
﹁次は⋮その豊満な胸も使って、俺のモノに奉仕するんだ。胸で俺
のモノを挟むんだ﹂
俺の言葉に素直に従うリーゼロッテ。
リーゼロッテの豊満で、マシュマロの様に柔らかい胸が、俺のモノ
を優しく包み込む。
その感触に、思わずクラっとする。
﹁胸を上下に擦りつけたり、強く挟んだりするんだ。先っぽを口で
咥えて、口と舌で愛撫もするんだ﹂
リーゼロッテのパイズリに、体中がその快感に包まれている。
胸の小さいマルガでは味わえぬ、豊満な胸のリーゼロッテだから得
られる快感に浸っていると、体中の快感が、俺のモノに集中してい
く。
﹁リーゼロッテ!出そうだ!もっと激しく愛撫するんだ!﹂
俺の言葉を聞いたリーゼロッテは、胸と口を使って、俺のモノを強
く刺激する。
その瞬間、俺の体を突き抜ける快感が走り、勢い良く精が発射され
る。
俺は女神の様に美しい金色の妖精の顔に、精をぶちまける。
絶頂に達した余韻に浸りながら、その金色の妖精の女神の顔に飛び
散っている精を見て、至高の気持ちに支配される。
﹁リーゼロッテの美しい顔が⋮俺の精で犯されているみたいだね。
綺麗だよリーゼロッテ。⋮顔に精をかけられるのも初めて?﹂
﹁⋮はい、顔に精をかけられるのも⋮葵さんが初めてです⋮﹂
俺の精の香りに、金色の美しい透き通る瞳をトロンとさせているリ
557
ーゼロッテが愛おしい。
俺は顔中に塗りつけられている精を指で拭い、次々とリーゼロッテ
の口の中に入れていく。
顔中に飛び散っていた精を綺麗に全て指で拭い、リーゼロッテの口
の中に入れ終わると、俺はリーゼロッテの口を開けさせる。そこに
は、並々と湛えられている俺の精を、口の中に貯めている、女神の
様な金色の妖精の姿があった。
﹁リーゼロッテ⋮それが俺の精だよ。口の中で何度も味わいながら、
飲み込むんだ。飲み込んだら、飲みましたと解る様に、俺に口を開
けて見せるんだ⋮いいね?﹂
俺の言葉にコクっと頷くと、クチュクチュと口の中で俺の精を味わ
っているリーゼロッテ。十分俺の精を味わったリーゼロッテは、コ
クコクと喉を鳴らして、俺の精を飲み込んで行く。そして、全て飲
み込見込みましたと、マルガと同じ様に、俺に口を開けて確認させ
るリーゼロッテの姿に、ゾクゾクと支配欲が掻き立てられ、性欲が
湧き上がり、ムクムクと復活を果たす俺のモノ。
﹁じゃ⋮今度は、リーゼロッテを味あわせて貰うよ﹂
俺はリーゼロッテを体の上に乗せ、シックスナインの体制に入る。
俺の目の前にリーゼロッテの綺麗な秘所が迫る。リーゼロッテの秘
所は既にヌレヌレで、滴るように煌く愛液を、太ももまで流れ出さ
せていた。俺はそんなリーゼロッテが堪らなく愛おしくなり、その
滴っている愛液を綺麗に舐めて味わっていく。
﹁リーゼロッテの処女膜を舌で味わうからね。⋮処女膜を舌で味あ
われるのも⋮初めて?﹂
﹁⋮はい。処女膜を舌で、味あわれるのも⋮葵さんが初めてです﹂
その言葉を聞いて、歓喜に染まっている俺は、リーゼロッテの秘所
に口を付け吸い付く。
558
リーゼロッテは体を悶えさせ、真っ白な体を、赤く染めていく。辺
りに甘い吐息を撒き散らし、その快楽に浸っている。
俺はリーゼロッテの秘所を口と舌で愛撫しながら、リーゼロッテの
まだ誰も入った事の無い膣に、舌を滑り込ませる。ピクっと体を捩
れさせるリーゼロッテを感じながら、リーゼロッテの処女膜を舌で
味わう。
﹁⋮リーゼロッテの処女膜⋮とても美味しいよ⋮味わってあげる⋮﹂
リーゼロッテの処女膜を味わいながら、リーゼロッテのお尻の穴を
触り、指を入れていく。
﹁ウウン!﹂
処女膜を味あわれているのと、ピンク色の綺麗なアナルに指を入れ
られている快感に、激しく身を悶えさせ、快楽に染まっている金色
の妖精。
﹁リーゼロッテ、口がサボってるよ?きちんと俺のモノを、口で奉
仕するんだ﹂
﹁はい、葵さん⋮口で奉仕しますね﹂
リーゼロッテは処女膜を味あわれながら、俺のモノを口に含み奉仕
していく。
俺は舌で、クリトリスやお尻の穴、膣の中に有る儚い処女膜を、代
わる代わる愛撫する。
そのたびに、体を大きく身悶えさせ、甘い吐息を撒き散らし、俺の
モノを口の中で味わっているリーゼロッテ。
普段の強気で凛として居るリーゼロッテからは、想像のつかないで
あろうこの艶めかしく、恥ずかしい格好をさせられているリーゼロ
ッテの姿に、性欲が高まっていく。
それと同時に、リーゼロッテも、体をピクピクと小刻みに震え出さ
せた。
559
俺は処女膜を舌で味わいながら、お尻の穴に左指を入れ、右指で可
愛く硬くなったクリトリスを掴む
。より一層、体を快楽に支配されていくリーゼロッテが愛おしくて、
激しく愛撫してしまう。
処女膜、アナル、クリトリスの3点を激しく愛撫されているリーゼ
ロッテの体は、ビクビクと大きく痙攣しだす。
﹁あ⋮葵さん⋮私⋮何か来ます!⋮何か⋮来ます!!!⋮うんんっ
つんんんんんはああ!!!!﹂
リーゼロッテはそう声高に俺に告げると、激しく体を強張らせ、絶
頂を迎える。
俺の体の上で、クテっと絶頂の余韻に浸っているリーゼロッテ。
﹁それが女の子の絶頂だよ。とても気持ち良かったでしょ?﹂
﹁これが絶頂⋮とても気持ち良かったです⋮葵さん⋮﹂
俺はリーゼロッテを体の上から降りし、リーゼロッテを仰向けに寝
かせ、その上に覆いかぶさる。
﹁次からは絶頂を迎える時は、きちんとイクって言うんだよ?⋮勝
手にイッちゃダメだからね?﹂
俺が悪戯っぽい微笑みを湛えながら言うと、優しくクスっと微笑む
リーゼロッテは
﹁はい⋮次からはイク時は葵さんにお伝えします。葵さんの許可無
くイキません。これで良いですか葵さん?﹂
艶かしい金色の美しい透き通る瞳で俺を見るリーゼロッテ。
俺はもう我慢の限界に来ていた。モノをリーゼロッテの膣口に持っ
て行き、リーゼロッテの愛液を、俺のモノに塗りたくる。俺のモノ
はリーゼロッテの滴っていた愛液で、キラキラとしている。
560
﹁葵さん⋮私は処女で居ないといけません⋮ですから⋮こちらの穴
で⋮葵さんを感じさせて下さい﹂
そう言って、俺のモノを優しく掴むと、お尻の穴に俺のモノを導く
リーゼロッテ。
﹁解ってるよ⋮リーゼロッテのお尻の穴の初めてを奪うからね!﹂
俺は導かれたリーゼロッテのアナルに、今迄我慢していた性欲を吐
き出す様に、一気に奥まで挿入する。
﹁くはっつあああんんん!!﹂
一気に乱暴にアナルに挿入された事で、リーゼロッテは大きく体を
捩れさせ、口を池の鯉の様にパクパクさせている。俺はその口に吸
い付き、舌をリーゼロッテの口の中にねじ込ませる。リーゼロッテ
の舌を舐めまわし味わい、強引に腰を振って、リーゼロッテのアナ
ルを犯していく。
﹁うふううふう⋮んんふうん⋮﹂
俺に口を陵辱されているリーゼロッテは、艶めかしい吐息を撒き散
らしながら、俺の舌を味わっている。そんなリーゼロッテが堪らな
く可愛くて、アナルを犯すのにも力が入る。
パンパンと乾いた、心地の良い音が部屋中に響き渡って居る。
俺はリーゼロッテとの結合部分を見ると、リーゼロッテの綺麗なア
ナルを、強引にこじ開けて犯している俺のモノが目に入る。
その上のリーゼロッテのピンク色の秘所は、洪水が起こったかの様
に、煌く愛液を垂れ流して、俺のモノと、リーゼロッテのアナルを
潤していく。
そのリーゼロッテの誰も入った事の無い膣口は、俺のモノを心の底
から欲しがる様に、口を開けたり、閉じたりと、咥えたそうにパク
パクさせている。
561
﹃ああ⋮リーゼロッテの膣に入れたい⋮リーゼロッテの処女膜をぶ
ち破って、味わいたい⋮リーゼロッテの子宮の奥を無理やりこじ開
けて犯したい⋮リーゼロッテの子宮に⋮俺の精子の味を覚えさせた
い﹄
俺の心の中で、沸々と渦を巻く様に、その感情が高まっていく。
しかし、ソレをする事は出来無い。リーゼロッテの処女は、誰か他
の男の為に捧げられるのだ。
リーゼロッテはもうすぐ他の男の物になってしまう⋮
俺のじゃなく他の男に処女を捧げ、俺以外の味を覚えてしまうんだ⋮
嫌だ⋮嫌だ嫌だ⋮リーゼロッテの全てを犯したい⋮リーゼロッテ⋮
俺はその気持ちと、リーゼロッテのアナルからの快楽に、身を包ま
れて、堪らない気持ちになる。
でも、今ここでリーゼロッテの処女を奪うと、俺を信用して心を開
いてくれているリーゼロッテを裏切る事になる。リーゼロッテは俺
を信用して、ここまでさせてくれているのだ。
俺の心の中で、激しい葛藤が、どす黒く渦巻いていき、リーゼロッ
テを更に激しく乱暴に犯してしまう。
処女以外の全ての初めては俺の物⋮しかし、一番大切な処女膜は他
の男の物⋮
ソレ以外は手に入るのに、何故か全てがダメになる様なこの感覚に、
俺は体を縛られる。
俺はクリトリスをギュット虐める様にきつく掴み、激しく愛撫しな
がら、リーゼロッテのアナルを激しく犯す。そんな激しい愛撫に、
リーゼロッテは激しく体を悶えさせ、甘い吐息を、より一層、俺に
嗅がせる様に、辺りに撒き散らす。
余りの快楽に、リーゼロッテの体は、小刻みに震えだした。
562
﹁葵さん!私⋮また来ます!⋮葵さんの逞しいモノで⋮私⋮イキま
す!葵さん!イカせて貰います!﹂
リーゼロッテは玉のような汗を、体中に光り輝かせながら、声高に
そう叫ぶと、ビクビクっと、体を激しく強張らせる。
﹁イキます!葵さん!!!!イクっつ!!!!!んふうんんははは
はははああああ!!!﹂
この世の全ての快楽を引き受けたかの様に、大きく体を弾けさせ絶
頂を迎えたリーゼロッテのアナルは、ギュウギュウと俺のモノを締
め付ける。俺もその快楽に身を任せ、リーゼロッテのアナルの中に、
ありったけの精をぶちまけ注ぎ込む。
全身を快感と脱力感が襲い、リーゼロッテの上に覆いかぶさる。
リーゼロッテは絶頂を迎えた余韻に浸って、虚ろな金色の美しい透
き通る瞳を俺に向ける。
﹁葵さんの精が私の中に⋮熱い⋮染みこんでいってますよ。⋮嬉し
い⋮﹂
リーゼロッテは金色の美しい透き通る瞳を歓喜に染めると、俺にキ
スをする。
リーゼロッテの甘く柔らかい舌が、俺の口の中に入ってきて、俺の
舌を味わっている。
そんなリーゼロッテが愛おしくて、リーゼロッテの口の中に、俺の
唾を流し込んで上げると、嬉しそうにして、コクコクと俺の唾を呑
み込み、体の中に取り入れ、染み込ませている様だった。
リーゼロッテのその様子を見て、リーゼロッテのアナルの中で、ム
クムクと大きく復活する俺のモノ。
﹁⋮まだまだ、終わりじゃ無いよリーゼロッテ。リーゼロッテの処
女以外の初めては、俺が全て犯すんだ⋮休ませないからね?﹂
俺は、エルフの特徴で有る綺麗で長く尖った耳を甘咬みしながら言
563
うと、ギュっと俺を抱きしめるリーゼロッテの金色の美しい透き通
る瞳は、歓喜に染まっていた。
﹁はい⋮葵さん。私の処女以外の全ては、葵さんの物です。私の心
も⋮葵さんに捧げます⋮好きで⋮葵さん⋮﹂
そう言って、涙を流すリーゼロッテを抱きしめ
﹁俺も⋮好きだよリーゼロッテ。⋮処女以外の全ては⋮心も全て俺
の物だからね⋮一生⋮忘れる事が出来ない様に、体に教えて⋮刻ん
であげる⋮﹂
俺は、リーゼロッテの涙を舌で舐めると、リーゼロッテにお尻を突
き出させて、犬の様な格好をさせる。そのリーゼロッテのいやらし
い格好に我慢出来無くなった俺は、バックから一気にアナルに挿入
する。
﹁うんっはあああ!!!﹂
絶頂の余韻に浸っているリーゼロッテを激しく犯す俺。
この夜、何度もリーゼロッテ犯し、その体に俺の記憶を刻みつける
のであった。
チッチッチッチー
沢山の小鳥の囀りが、忙しそうに聞こえて来る。
その声に、若干の鬱陶しさを感じながら目を開けると、羊皮紙の張
られた窓から、暖かい日差しが差し込んでいる。
ふと、視線を胸元に落とすと、腕の中に寝ている、一糸纏わぬ格好
564
で豊満な胸を、俺に味あわせている金色の妖精。その柔らかく抱き
ごたえのある豊満な体を、無防備に俺に捧げているリーゼロッテが、
とても愛おしい。昨日、リーゼロッテを抱いて、そのまま寝てしま
った事を、今更ながら思い出す。
俺は腕の中にある、女神の様な金色の妖精の、豊満な胸を鷲掴みに
して、その薄い唇に吸い付き、舌を忍び込ませる。その先に、リー
ゼロッテの甘く柔らかい舌を見つけ、その味を堪能する。
﹁ふうん⋮んっん﹂
口の中に入ってきた俺の舌で目を覚ましたリーゼロッテは、俺がキ
スをしているのに気が付き、金色の美しい透き通る瞳を喜びに染め、
両手を俺を俺の肩に回し、ギュっと俺を抱きしめる。
リーゼロッテも俺の舌を堪能している様であった。
お互い十分に堪能して顔を離すと、女神の様なエルフは、満面のほ
ほ笑みを俺に向けてくれる。
﹁葵さん、おはようございます﹂
﹁⋮おはようリーゼロッテ﹂
見つめ合って暫く微笑み合うが、俺はマルガの事を思い出して、ガ
バっと起き上がると、ソレを理解したリーゼロッテが、優しく俺の
肩に手を乗せる。
﹁そのままで帰ってはダメですわ。今すぐ体を拭く準備をするので、
少し待って下さいね葵さん﹂
ニコっと微笑むリーゼロッテに、苦笑いしている俺を見て、少し愉
しげな顔をするリーゼロッテ。
俺はリーゼロッテの用意してくれた、石鹸水の入った桶で布を絞る
と、自分の体を拭いていく。
昨日リーゼロッテを抱いたまま寝ているので、その時の匂いがきっ
とついているだろうと思ったので、念入りに拭いていく。リーゼロ
565
ッテも同じ様に、もう一枚の布で、俺の背中を拭いていってくれる。
そのリーゼロッテの背中越しに感じる、豊満な胸の感触や、柔肌に
刺激されて、朝の敏感になっている俺のモノは、ムクムクと大きく
なってしまった。
ソレを感じたリーゼロッテは、悪戯っぽい微笑みを浮かべ、俺のモ
ノを優しく握り締める。
﹁此方も⋮鎮めてさしあげましょうか?葵さん﹂
﹁いや⋮そっちは⋮﹂
俺が言葉を苦していると、何かに気がついた勘の良いリーゼロッテ
は、
﹁⋮なるほど⋮。そういう事ですか。⋮毎朝マルガさんに⋮羨まし
いですわ⋮マルガさんが⋮﹂
そう言って、キュっと少し力を入れて、俺のモノを握るリーゼロッ
テの顔は、淋しげで、愉しげだった。
俺はそのリーゼロッテの表情に心がキュっとなり、リーゼロッテを
抱きしめる。
﹁リーゼロッテ好き⋮。リーゼロッテの心は俺だけの物だからね⋮
誰の物になろうとも⋮ずっと⋮﹂
﹁はい⋮私の心は⋮葵さんに差し上げました⋮例え処女を⋮他の男
に捧げても⋮心は葵さんだけの物⋮好きです⋮葵さん⋮﹂
リーゼロッテも同じ様にギュっと抱き返してくれる。
﹁さあ⋮可愛いキツネさんの元に帰ってあげて。起きて葵さんが居
なかったら、きっと可愛いキツネさんは、寂しがり、悲しまれます
わ﹂
﹁うん⋮ありがとうリーゼロッテ。⋮また、後でね﹂
﹁はい、また後でです葵さん﹂
566
ニコっと満面の笑みを浮かべるリーゼロッテに、後ろ髪を引かれな
がら、俺はマルガの寝ている部屋に帰っていく。
﹁⋮本当に⋮マルガさんが⋮羨ましい⋮﹂
俺の出ていった扉を見て、瞳を揺らして居るリーゼロッテだった。
自分の部屋に帰って来た俺は、ベッドに近づく。
そのベットには、胸に白銀キツネの子供、甘えん坊のルナを胸に抱
き、幸せそうに寝息を立てて眠っている、愛しいマルガの顔に、何
処か癒される。
昨日まで、防衛戦を張って、警戒をしていた事で、精神的にも肉体
的にも疲れていたのであろう、昨日は一度も起きなかった様だ。そ
の緊張が溶けて、その反動が出ているのだと思う。
その気持ち良さそうに寝ているマルガの、緩やかにウエーブの掛か
った、綺麗なライトグリーンの髪に手櫛を入れて、その感触を味わ
っていると、ううんと、微かに声を出し、眠気眼を擦りながら目を
覚ますマルガは、パチクリと可愛く大きな瞳を俺に向ける。
そして、ニコっと微笑み。
﹁ご主人様⋮おはようございます∼﹂
そう言って、可愛い唇を俺に重ね、甘く柔らかい舌を俺に忍び込ま
せる。
リーゼロッテとは少し違う甘さを俺に味合わせるマルガは、俺のモ
ノが大きくなっているのに気がついて、キュっと俺のモノを優しく
掴む。
567
﹁ご主人様⋮ご主人様のココ⋮味あわせて下さいです∼﹂
そう言うと俺の服を脱がし、パンツを降ろして、俺のモノを口に咥
え様とした時、マルガはそのまま固まってしまった。
そして、スンスンと可愛い鼻をピクピクさせる。俺のモノの匂いを
嗅いでいる様であった。
俺に視線を移すマルガは
﹁ご主人様のココから⋮何時もと違う匂いがします⋮私のじゃない
⋮愛液に匂い⋮それに⋮これは⋮リーゼロッテさんの匂いです。⋮
ご主人様⋮リーゼロッテさんを⋮抱かれたのですか?﹂
ライトグリーンの透き通る様な綺麗な瞳を揺らしながら見ている。
俺はそれにどう応えて良いか解らずに居ると、何かを感じ取ったマ
ルガは、俺の大きくなっているモノをパクっと咥えだした。
マルガの暖かく柔らかい舌が、俺のモノを刺激して行く。両腕を俺
の腰に回し、ギュットしがみついて、顔だけで俺のモノを愛撫する
マルガは、何時もより激しかった。
﹁私が一番ご主人様の気持良くなる所を知っているんです!私が一
番ご主人様に奉仕できるんです!私が一番ご主人様の事が大好きな
んです!私が一番ご主人様に全てを捧げて居るんです!﹂
そう叫びながら、俺のモノを激しく愛撫するマルガ。
その激しさに、朝の生理現象で敏感になっているのと、先程のリー
ゼロッテとの間で、お預けを食らっていた事も相まって、瞬く間に
マルガの可愛い口の中に、精を注ぎ込む。
口の中に一杯に注がれた俺の精を、何時もなら俺に見せて、そこか
ら味わって飲み込むのだが、今日は一気に口の中に注がれた精を、
コクコクと喉を鳴らして飲み込むと、尿道に残っている精子を残ら
ず吸い取ってくれるマルガ。
全ての精子を吸い取り味わって飲み込むと、更に俺のモノを愛撫し
568
だすマルガ。
﹁どうですかご主人様?気持ち良かったですか?⋮マルガは、ご主
人様の事を、これだけ気持よくさせる事が出来ます⋮これからもっ
と上手くなって、もっともっとご奉仕出来る様になりますから⋮私
の事を捨てないで下さい!﹂
そう言いながら、ライトグリーンの透き通る様な綺麗に、はち切れ
んばかりの涙を浮かべ、必死に泣くのを我慢しながら、俺のモノに、
心から奉仕しているマルガ。
﹁な⋮何言ってるのマルガ!?俺がマルガにそんな事するはず無い
だろう!?﹂
マルガからの、余りにも予想より外れた言葉を聞いて、俺が狼狽え
ていると、
﹁だって⋮リーゼロッテさんみたいな美人に、私なんかが勝てる筈
ありません⋮。リーゼロッテさんは大人ですし、体つきも私と違っ
て、胸も大きいですし⋮スタイルも良いし⋮きっと私は⋮捨てられ
る⋮﹂
もう我慢出来ずに泣き出しそうなマルガをギュっと抱きしめる。
﹁そんな事はしないよ⋮俺はマルガが大好きだもん﹂
﹁⋮ほんとですかご主人様?﹂
﹁うん⋮大好きだよマルガ⋮﹂
そう言うとギュっと抱きついてくるマルガは、泣きながら涙を流し
ている。
⋮これは⋮きっと⋮マルガの嫉妬⋮
ご主人様の俺に直接言えない自分の気持ちを、違う形で表現してい
るのだ。
569
心の底から俺に捨てられるとは、思っていないはずだと思う。
その言葉を言う事によって、俺がきっとこう言ってくれる⋮前の様
に私を選び、助けてくれる⋮
その言葉を待って、聞きたかったんだと思う。
そんなマルガの⋮可愛い嫉妬⋮
﹁⋮俺はマルガが一番大好きだよ。他に好きな人が出来ても⋮マル
ガが一番好き。マルガ以上は好きにならない⋮だから⋮許してくれ
る?﹂
こんな俺に、こんな可愛い嫉妬をしてくれる、マルガが堪らなく愛
おしかった。
マルガの頭を優しく撫でながら言うと、ライトグリーンの透き通る
様な綺麗を、歓喜に染めて俺にキスをするマルガ。マルガの甘く柔
らかい舌が、俺の全てを欲する様に、口の中を舐めまわし、味わっ
ている。
そんなマルガがまた堪らなく愛おしくて、マルガの口の中に、舌と
一緒に、一杯の唾を飲ませてあげる。
マルガは、ギュっと俺に抱きついている力を強くし、俺の唾をもっ
と!もっとくださいご主人様!と、言わんばかりに、俺の口に吸い
付き、俺の舌と唾を味わい飲み込んでいく。
俺はマルガの気持ちが落ち着くまで、マルガが満足するまで、ずっ
と舌と唾を味あわせて上げている。
どれ位そうしていたかは解らないが、満足したのか、俺から顔を離
すマルガの顔は、幸せに満ち足りていた。俺もその顔を見て、幸せ
に満たされる。
﹁大好きだよ⋮マルガ⋮﹂
﹁私も⋮大好きです⋮ご主人様﹂
顔を見合わせて、微笑み合う俺とマルガ。
570
そして、満足してくれたマルガは、少し瞳を揺らしながら
﹁ご主人様⋮ご主人様は、リーゼロッテさんの事が好きなのですか
?﹂
﹁⋮うん好きだね⋮﹂
その言葉を聞いて、シュンとして伏目がちになるマルガに、慌てな
がら
﹁当然マルガの次にって事だよ!?俺の一番はマルガだから!﹂
俺のその言葉を聞いて、パアアと嬉しそうな表情をするマルガの顔
は、耳まで赤くなっていた。嬉しそうに、金色の毛並みの良い尻尾
を、フワフワ揺らしている。
そんな可愛く解りやすいマルガが可愛くて、またギュっと抱きしめ
ると、マルガモ同じ様に抱き返してくれるのが愛おしい。
﹁では⋮リーゼロッテさんを奴隷にするか、恋人にでもなされるつ
もりなんですかご主人様?﹂
﹁⋮ソレは⋮出来ないんだよマルガ⋮﹂
俺はリーゼロッテが、港町パージロレンツォに着いたら、とある貴
族と結婚するみたいだと伝える。
﹁それは⋮避けれない事なのですかご主人様?﹂
﹁⋮うん。リーゼロッテがの望んでいない以上は⋮俺には何も出来
無いよ⋮﹂
儚く微笑む俺を見て、心配そうに俺を抱きしめ、頭を撫でてくれる
マルガ。
きっとリーゼロッテに嫉妬して居るだろうに、ソレよりも俺の事を
心配してくれているマルガが⋮可愛い⋮
﹁だから⋮港町パージロレンツォに着くまで、リーゼロッテとの思
571
い出を作りたいんだ⋮今日の夜は⋮マルガを一杯味あわせて貰うか
ら⋮いいかな?﹂
その言葉に、少し複雑な表情をして、尻尾を奇妙な動きで揺らして
いたマルガだったが、俺の胸にコテっと頭をつけて、グリグリと擦
り付けると、
﹁今日の夜に⋮一杯私を可愛がって⋮犯してくれるのなら⋮いいで
す⋮ご主人様の為になるなら⋮私って、いじらしいですかご主人様
?﹂
﹁⋮いやらしい?﹂
﹁いじらしいです!⋮ご主人様⋮意地悪です∼﹂
少し頬を膨らませて、拗ねマルガに変身したマルガの頭を撫でてい
ると、グ∼っと、マルガのお腹の虫が鳴った。顔を赤くして恥ずか
しそうなマルガ。
﹁⋮とりあえず、着替えて朝食を食べに行こうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
ニコっと笑うマルガの頭を優しく撫でると、金色の毛並みの良い尻
尾がフワフワ揺れていた。
俺とマルガは着替えて、準備をするのであった。
俺とマルガは、着替え終わって食卓に降りてくると、マルコとリー
ゼロッテが座って待っていた。
リーゼロッテは俺を見て、いつも通りに微笑むが、昨日や今朝の余
韻がある俺は、若干気恥ずかしくなって視線を外してしまった。そ
572
れを少し可笑しそうに見ているリーゼロッテ。そんな俺とリーゼロ
ッテを、ムウウと言った感じで見ているマルガ。
﹁おはよう!葵兄ちゃんに、マルガ姉ちゃん!﹂
元気一杯に言うマルコに、俺が挨拶をすると、クスっと笑うリーゼ
ロッテは、何処か愉しげに
﹁葵さん、マルガさんおはようございます﹂
ニコっと微笑むリーゼロッテに、少しドキっとしながら、ぎこちな
く挨拶をし返す俺。それを見ていた、マルガは、更にムウウと、俺
とリーゼロッテを見ている。
﹁リーゼロッテさんおはようございます!﹂
腰に手を当てて、背伸びをして言うマルガのつま先は、プルプルと
震えている。そんなマルガを見て何かを感じたのか、リーゼロッテ
がクスっと笑っている。
﹁はい、おはようございますマルガさん﹂
少し愉しげなリーゼロッテに、対抗意識を燃やして、複雑な表情を
しているマルガの尻尾は、奇妙な動きをしていた。そんなマルガと
リーゼロッテを不思議そうに見ているマルコ。
﹁と⋮とりあえず、朝食を食べようか﹂
マルガとリーゼロッテを見ていた俺は、何となく気まずくなって、
食卓にマルガを座らせると、何時もより背筋をピンとして椅子に座
っているマルガ。
どうですか?私もお淑やかですか?少し身長が高く見えませんか?
と言う、期待の篭った視線を、チラチラと送ってくるマルガがとて
も可愛くて、思わずプっと吹いてしまったら、可愛い頬をプクっと
膨らませて、拗ねマルガに変身してしまった。
573
ありゃりゃ!拗ねマルガなっちゃった!可愛いから見ていたいけど、
機嫌を直して貰おう!
隣に座っているマルガの耳元に顔を近づけ
﹁マルガが⋮一番可愛いよ⋮大好きだよ﹂
囁く様にマルガに言うと、顔どころか耳まで真っ赤にしているマル
ガ。嬉しそうに金色の毛並みの良い尻尾をフワフワさせている。俺
の顔を見てニコニコ微笑むマルガを見て、癒される。
どうやら、機嫌を直してくれた様だ。良かった⋮
すると、そこに調度良く、メアリーが料理を食卓に運んできてくれ
た。その美味しそうな匂いに、マルガの瞳はキラキラしていいる。
﹁いただきます!﹂
元気良く言うマルガは、右手にナイフ、左手にフォークをチャキー
ンと構え、料理に襲いかかる。
何時もの嬉しそうなマルガを見て、俺がニマニマしているとマルコ
が、
﹁ねえ葵兄ちゃん。明日の朝、イケンジリの村を出発で良いんだよ
ね?﹂
﹁うん。今日、エイルマーさんから、今日の昼過ぎに商品を納品し
て貰えるからね。マルコも村の人に挨拶するでしょ?準備もしっか
りとしておいてねマルコ﹂
﹁うん!解ってるよ葵兄ちゃん!﹂
ニコっと笑うマルコを見ているゲイツ夫妻は、
﹁今日の夜は、マルコの出立祝の最後の晩餐ですから、今までより
気合を入れて料理を作りますので、楽しみにしていて下さいね﹂
﹁ハイ!楽しみです∼﹂
口をニヘラと開けて、呆けているマルガに、皆が笑う。マルガは、
574
可愛い舌をペロっとだして、気恥ずかしそうにしていた。
朝食を食べ終わり、俺達は丸太を切った腰掛けに座って休憩して居
ると、マルコが村の人の挨拶を一時切り上げて戻ってきた。
﹁挨拶はもういいの?マルコ﹂
﹁ううん。まだ!今、手の空いている人は、葵兄ちゃんに納品する、
山菜を取りに行っているみたいだから、帰ってからにしようと思う
んだ﹂
ニコっと笑って言うマルコ。
﹁じゃ∼皆でちょっと、荷馬車の所に行こうか﹂
俺の言葉に、皆がついてくる。
そして馬のリーズと荷馬車の傍までやって来ると、その横には、盗
賊団から奪った、リーズと同じ丈夫で力のある品種の重種馬の雄の
馬と、細かい作りは荒いが、丈夫に出来ている荷馬車があった。
俺は盗賊団から奪った馬と、荷馬車の前にマルコを連れてくる。
﹁マルコ⋮今日から、この馬と荷馬車はマルコに任せるから。この
馬と荷馬車はマルコがきちんと管理してね。積荷はは俺が当分決め
るけど、一人で出来そうなら、全てを任せるつもりだから﹂
﹁⋮って事は⋮オイラの荷馬車と馬って事だよね?﹂
﹁うん。そうだよ﹂
﹁オイラの馬と荷馬車⋮ヤッター!﹂
俺の言葉に、体を震わせて喜びながら叫ぶと、軽く飛び上がって嬉
しそうにしているマルコ。
﹁マルコちゃん良かったね!﹂
﹁ありがとう!マルガ姉ちゃん!﹂
マルガとマルコは、軽く飛び上がって、ハイタッチをして喜び合っ
ている。
575
そんな2人の横で、薄いブルーの膝上のワンピースを着て、サンダ
ルを履いている、清楚で可愛いリーゼロッテの姿が目に入る。俺と
視線が合うと、ニコっと極上の微笑みを向けてくれるリーゼロッテ。
﹁じゃ∼マルガ。マルコに、荷馬車の事を教えてあげてくれる?注
意事項や手入れの仕方をじっくりとね。それからマルコはこの雄馬
に名前をつけてあげて。いいかな2人共﹂
﹁﹁は∼い!﹂﹂
俺の言葉に声を揃える、マルガにマルコ。
﹁じゃ∼俺はリーゼロッテ少し手伝って貰う事があるから、一緒に
来てくれる?﹂
俺はリーゼロッテの返事を聞かずに、その柔らかく美しい手を握り、
少し強引に引っ張って行く。
どんどんそのまま歩いて行き、村から少し外れた、林の中にリーゼ
ロッテの手を引いて歩いて行く。
﹁あ⋮葵さん。何処迄行かれるのですか?こんな、人気の無い林の
中で、私に手伝って欲しい事があるのですか?﹂
リーゼロッテは若干戸惑いながら俺にそう言うが、俺は特に返事を
せずに、少し大きな木を背にして、リーゼロッテを立たせる。
そしてリーゼロッテの腰を抱きしめ、女神のように美しい顔を見な
がら、その薄い唇に貪る様にキスをする。リーゼロッテの口の中に
舌を捩じ込み、リーゼロッテの口の中を犯す様に、舌を絡めていく。
リーゼロッテの味を堪能した俺は顔を離す。リーゼロッテは顔を赤
らめながら、
﹁あ⋮葵さん⋮どうしたのですか?﹂
﹁⋮可愛いリーゼロッテを見ていたら⋮我慢出来無かったんだ⋮﹂
そう言って、リーゼロッテの首元に舌を這わせ、その豊満な胸を鷲
576
掴みにすると、体を捩れさせて、甘い吐息をあげるリーゼロッテ。
﹁ここじゃ⋮誰かに見られるかも知れません⋮それに⋮マルガさん
とマルコさんが、何時私達を探しに来るか⋮﹂
﹁大丈夫だよ⋮。マルガにはしっかりとマルコに教える様に言って
あるから、かなり時間が掛るよ。ソレに、此処からじゃ、村の人に
は見えないしね。⋮こうやって⋮外で⋮犯されるのも⋮初めて?﹂
その初めてと言う言葉を聞いたリーゼロッテは、金色の美しい透き
通る瞳を艶かしい色に染める。
﹁はい⋮外で⋮この様に犯されるのも⋮葵さんが初めてです⋮﹂
その言葉を聞いた俺は歓喜して、リーゼロッテを抱きしめる。そし
てリーゼロッテの足元にしゃがみ、その綺麗な足を軽く持つ。
﹁本当に綺麗な足だね⋮また⋮足の指舐めてあげる⋮﹂
そう言って、リーゼロッテのサンダルを脱がせ、リーゼロッテの美
しい足の指に舌を這わせる。
﹁⋮んっはんん⋮﹂
リーゼロッテは身悶えながらも、俺が足の指を舐めているのを、艶
かしく嬉しそうな瞳で見ている。
そのリーゼロッテの表情にゾクゾクさせられた俺は、その舌を、ふ
くらはぎ、太ももと舐めながら上げていき、リーゼロッテのパンツ
まで到着させる。
リーゼロッテは余程気持ち良かったのか、パンツを愛液で湿らせて
いた。その匂いを嗅ぐ俺。
﹁い⋮いや⋮嗅がないで⋮葵さん⋮私⋮恥ずかしい⋮ですわ⋮﹂
﹁とてもいい匂いだよリーゼロッテ。リーゼロッテのいやらしい香
りがするよ⋮ずっと⋮嗅いでいたい﹂
577
俺はパンツに吐息を当てながら、パンツの香りを堪能する。そして、
パンツをおろし、そのリーゼロッテのピンク色の秘所に貪りつく。
ワンピースのスカートの中に、完全に頭を入れている俺の頭を、身
を悶えさせながら、甘い吐息を吐いて、撫でているリーゼロッテ。
﹁⋮リーゼロッテの処女膜⋮美味しいよ⋮こんなに愛液が出てきて
る⋮気持ち良いリーゼロッテ?﹂
﹁はい⋮葵さんに私の処女膜を舐めて貰って⋮気持ち良いです⋮﹂
リーゼロッテは言葉に出す事で、性欲が高まったのか、更に愛液を
泉の様に、湧かせていた。
そんな可愛いいリーゼロッテの、処女膜、クリトリス、アナルを、
入念に舌で舐めて味わうと、リーゼロッテが堪らなさそうに、
﹁葵さん⋮葵さんの逞しいアレを⋮入れてください⋮私⋮切ないで
す⋮﹂
何時も強気で、凛としているリーゼロッテからの、か弱きおねだり
に、俺の支配欲がゾクゾクと刺激される。
﹁解ったよリーゼロッテ。その気に手をついて、俺にお尻を向ける
んだ﹂
俺の言う通りに、お尻を向けるリーゼロッテ。
俺はワンピースをめくり上げ、リーゼロッテの白いお尻を堪能する
ように触り、リーゼロッテの可愛いアナルに、一気に挿入する。
﹁はっつあああんんん!!﹂
リーゼロッテが艶かしい吐息混じりの声をあげる。後ろから容赦な
く突き上げられる、リーゼロッテの白く柔らかいお尻が、喜んでい
る様に、パンパンと乾いた音をさせている。
リーゼロッテの秘所からは、愛液が洪水の様に流れだし、太ももに
流れてきて、光っている。
578
リーゼロッテのクリトリスを刺激しながら、犯し続けていると、刺
激に耐え切れなくなったリーゼロッテの体は、早くも痙攣を始める
﹁リーゼロッテ⋮もうイッちゃいそう?﹂
﹁はい⋮もう⋮私⋮我慢できません⋮葵さん⋮イカセて⋮ください
⋮﹂
リーゼロッテは白く柔らかいお尻を、俺のモノに押し付けて、フリ
フリしている。
﹁じゃ∼イカセてあげる!﹂
その声と共に、俺はリーゼロッテの豊満な胸に、可愛く乗っている
乳首をキュット摘み、クリトリスをギュウっと掴み引っ張りながら、
激しく腰を叩きつける。すると、リーゼロッテの体は、ビクビクと
強張り、
﹁イキます!葵さん!!!!イクっつ!!!!!んふうんんははは
はははああああ!!!
大きな声を上げて、ビクっと体を仰け反らせて絶頂を迎えるリーゼ
ロッテ。キュウっとアナルを締め付けるその快感に、俺もリーゼロ
ッテのアナルの中に、ありったけの精を注ぎ込む。俺の体を、快感
が突き抜ける。俺とリーゼロッテは、息を切らしながら、その甘い
吐息に誘われる様に、キスをする。
リーゼロッテのアナルからモノを引き抜くと、ヌロロと精子が糸を
引いていて、イヤラシイ。
俺はすぐにリーゼロッテのパンツを履かせてあげる。そして、アナ
ルを摩りながら、
﹁今日はアナルに俺の精を入れて過すんだよ。精を入れたまま⋮皆
の前に行くのも⋮初めてでしょ?﹂
﹁はい⋮葵さんの精子を入れたまま⋮皆の前で⋮普通の顔をするの
579
も⋮初めてです⋮﹂
﹁うん⋮可愛いよリーゼロッテ。じゃ∼俺のモノを⋮口で綺麗にし
て⋮﹂
そう言って、リーゼロッテの顔にモノを持って行き、少し強引に、
その口に咥えさせる。
リーゼロッテは、モノについていた精を綺麗に舐めとり、尿道に残
っていた精も、教えた通りに、残らず吸い出し、飲み込んでいく。
そして、俺に向かって見える様に口を開け、飲みましたの確認を求
めるリーゼロッテ。
その余りの可愛さに、俺は心をキュっと囚われる。
﹁可愛かったよリーゼロッテ。好き⋮だよ﹂
﹁私も大好きです⋮葵さん⋮今日も思い出を⋮ありがとう⋮﹂
俺達は、互いに手に入らないものを感じながら、只々ギュっと抱き
合っていた。
時刻は昼過ぎ。部屋で出立の準備をしていた俺とマルガは、商品が
揃ったとエイルマーが呼びに来たので、荷馬車まで向かう事にした。
荷馬車まで来ると、アロイス村長とエイルマーの隣に、リーゼロッ
テとマルコも一緒にいた。
どうやらリーゼロッテとマルコは、アロイス村長とエイルマーに挨
拶をしている様であった。
俺に気がついたアロイス村長はニコっと微笑む。
﹁あ∼葵さん来たようじゃな。商品が揃いましたので、確認をお願
いします﹂
580
﹁はい解りました。じゃ∼商品を確認しながら積み込んでいきます
ね。マルコも手伝ってくれる?﹂
﹁解ったよ!お愛兄ちゃん!﹂
俺とマルコは、商品を確認しながら、荷馬車に商品を積んで行く。
ソレを見ていたマルガは、リーゼロッテの傍に近寄り、
﹁ご主人様!商品の確認と積み込みが終わる迄、リーゼロッテさん
と一緒に、村を散策してきて良いですか?﹂
﹁うんいいよ∼。但し、村の外には出ない様にね。マルガ、リーゼ
ロッテ気を付けてね∼﹂
俺の言葉にニコッと微笑むマルガは、リーゼロッテの手を引いて、
広場の方に歩いて行く。
村の広場にある、丸太を切った腰掛けまで、リーゼロッテを連れて
来たマルガは、リーゼロッテをその丸太の腰掛けに座らせ、その横
にマルガも座る。
その何時もと少し違う様子を感じ取っているリーゼロッテは、クス
っと少し笑って
﹁マルガさん。ここに私を連れて来て、どうするのですか?何か⋮
お話があるのですか?﹂
その少し楽しそうなリーゼロッテを見て、ムウウと唸っているマル
ガは
﹁⋮リーゼロッテさんから⋮ご主人様の精の香りがします⋮それも
⋮新しい⋮。私がマルコちゃんに、色々教えている間に、ご主人様
から⋮注いで貰ったのですか?﹂
﹁⋮やっぱり、ワーフォックスのハーフであるマルガさんには、解
ってしまいますよね。⋮そうです。マルガさんの言う通りです﹂
リーゼロッテの答えに、ハウウ∼と少し複雑な表情をしているマル
ガ。尻尾ががクニャクニャ象形文字の様になっている。
581
そんなマルガを見て、ますます楽しそうな顔をするリーゼロッテを
見て、ムムムと体制を立て直すマルガ。
﹁リーゼロッテさんは⋮ご主人様の事が⋮好きなんですか?﹂
﹁フフフ。いきなり核心を聞かれるんですねマルガさん。⋮もし⋮
私が葵さんを好きと言ったら⋮どうなさるつもりなのですか?﹂
少し悪戯っぽく言うリーゼロッテに、真剣な顔をするマルガは
﹁ご主人様の事が好きなら、ご主人様の傍に居てあげてください!
ご主人様は⋮リーゼロッテさんの事が好きだと、言ってました。リ
ーゼロッテさんが傍に居ないと、ご主人様が寂しそうで、可哀想な
のです!﹂
マルガの真剣な言葉に、少し予想と違う言葉が帰って来たリーゼロ
ッテは、若干戸惑う。
﹁⋮マルガさんは⋮私が葵さんの事が好きで、葵さんが私の事が好
きでも、構わないのですか?﹂
﹁ご主人様は、私が1番だと言ってくれました!ご主人様は、他に
好きな人が出来ても、私以上には好きにならないと、言ってくれま
した!なので、1番の私は、1番ご主人様に好きと思われている私
は、全然平気なのですよ!﹂
得意げな顔で、腰に手を当てて、エッヘン!と、言った感じのマル
ガを見て、クスクスと笑っているリーゼロッテ。そんなリーゼロッ
テを見て、またムムムと唸るマルガ。
﹁なにが可笑しいのですかリーゼロッテさん!﹂
﹁あらあらすいません。怒らないでくださいねマルガさん﹂
そう言ってマルガを優しく抱きしめるリーゼロッテに、ウウウと少
し唸りながらも、キュっと抱き返すマルガ。声とは裏腹に、マルガ
尻尾は愉しげに、フワフワ揺れていた。
582
﹁⋮リーゼロッテさんには、2回も命を助けて貰ってます。⋮初め
は複雑な気持ちでしたけど、ご主人様が、私の事を1番だと言って
くれましたし、ご主人様の寂しい顔を見るのも嫌⋮。私もリーゼロ
ッテさんなら、良いと思っています⋮。どうしても⋮何処かの貴族
さんの、お嫁さんにならないとダメなのですか?どうしても断れな
いのですか?どうしても⋮ご主人様の傍に、一緒に居られ無いので
すか?﹂
マルガは瞳を揺らしながらリーゼロッテに言う。それを見たリーゼ
ロッテは、マルガの頭を優しく撫でながら、
﹁⋮マルガさんありがとう。⋮でも、私の事は決まった事で、どう
しても避けれ無い事なの。葵さんの傍には⋮マルガさんが居てあげ
て﹂
﹁で⋮でも!﹂
マルガの言葉を遮る様に、優しくマルガの唇に指を置くリーゼロッ
テ。
﹁⋮マルガさんは⋮優しいのですね。私は葵さんの傍に居れません。
なので葵さんは⋮マルガさんが幸せにしてあげてください。私は⋮
葵さんから⋮沢山の思い出を頂きました⋮それでもう⋮十分です﹂
儚く微笑みリーゼロッテを見て、キュっと強くリーゼロッテを抱く
マルガ。
そんなマルガを慈しむ様に、只々優しく頭を撫でてあげるリーゼロ
ッテ。
2人は優しく吹く春風の中、暫く抱き合っていた。
583
今俺とマルガは、部屋でゆっくりとくつろいでいる。
辺りはすっかり夜の帳も降り、夜空に満面の星々達が輝いている。
明日はいよいよイケンジリの村を出立すると言う事で、ゲイツ夫妻
が大量の特産品の料理を作ってくれて、ちょっとしたパーティーの
様になっていた。
エイルマーとアロイス村長、リアーヌも来てくれた事で、けっこう
長い時間晩餐を楽しんでいた。
そろそろ夜も更けてきた事なので、マルガに体を拭く用意をして貰
うおう。
﹁マルガ⋮そろそろ⋮体を拭く用意をしてくれる?﹂
﹁ハイ!ご主人様!暫くお待ち下さい!﹂
マルガは顔を赤らめて、嬉しそうに用意を始める。金色の毛並みの
良い尻尾をパタパタとさせていた。
明日から2日間、ベッドでゆっくりとマルガを可愛がってあげる事
が出来無いから、今日はタップリと可愛がって上げるからねマルガ
ちゃん!
俺がその様にエッチな妄想に浸っていると、用意の終わったマルガ
の声がかかる。
﹁ご主人様用意が出来ました﹂
その声に振り返って、マルガを見て、俺は歓喜に染まる。
今日のマルガは、ほぼ全裸なのだが、所々に革のベルトでアクセン
トをつけていて、可愛く体を縛られている様に見え、俺の性欲が掻
き立てられる。ひも状のパンツも、マルガの可愛いピンク色の秘所
を隠しきれていないチラリズムが、グっとくる。
﹁⋮今日もとっても⋮可愛いいよマルガ⋮此方においで⋮﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮﹂
584
マルガは俺からの褒め言葉に、顔を赤くして喜びながら俺の傍に来
る。
そして、石鹸水の入った桶で布を絞り、俺の体を拭こうとした時に、
俺にキュっと抱きついてきた。
﹁マルガ⋮どうしたの?⋮何かあったの?﹂
マルガの頭を優しく撫でながら言うと、マルガはおねだりする様な
瞳を向けて
﹁ご主人様⋮マルガを⋮昨日リーゼロッテさんを抱かれたのと同じ
様に抱いてください⋮﹂
マルガのおねだりをしている瞳には、どの様に他の女を抱いたのか
気になる、独占欲と嫉妬心が織り交ぜられていて、そんな可愛いお
ねだりに俺は当然勝てなかった。
﹁うん⋮いいよ⋮昨日リーゼロッテを抱いた様に⋮マルガを抱いて
あげる⋮﹂
そう言うとマルガを抱え上げ、ベッドに寝かせる。
俺はリーゼロッテにした様に、貪る様なキスをマルガにする。
マルガの舌と口の中を陵辱し、十分に味わったら、マルガの白魚の
様な、。柔らかく白い小さな可愛い手の指を、丹念に舐めていく。
その舌をマルガの脇の下迄持って行き味わい、その舌を今度は足の
指に持っていく。マルガの足の指も小さく可愛い。とても柔らかく、
舌で転がして舐めてあげると、ご主人様の俺にして貰っている嬉し
さからか、自らの秘所を我慢出来ずに触っていた。俺に足の指を舐
められ、自分でクリトリスを触って、甘い吐息をあげるマルガが、
とても艶かしい。
﹁マルガ⋮自分でクリトリスを触っちゃダメじゃない。⋮リーゼロ
ッテは我慢してたよ?﹂
585
﹁すいませんご主人様⋮ご主人様に⋮足の指を舐めて貰えて⋮嬉し
くて⋮気持良くて⋮我慢できませんでした⋮﹂
そう言って、俺の手を取り、お詫びとばかりに、俺の指を口に入れ
舐めて愛撫しているマルガ。
﹁いいよ⋮じゃ∼ココから⋮いつも通りでいいかな?マルガ⋮﹂
﹁ハイ⋮何時もの様に⋮ご主人様の立派なモノで⋮私を犯して下さ
い⋮﹂
そう言って、両足をM字開脚で開き、秘所を両手で広げる。マルガ
の膣口は、俺のものを咥えたそうに、パクパクさせながら、煌く愛
液を光らせて、俺を誘っていた。
俺はリーゼロッテの処女を奪い、膣や子宮を犯す事が出来無かった
悔しさを思い出し、マルガの可愛いピンク色の膣口に、モノを持っ
て行くと、我慢出来ずに、一気に子宮の奥まで突き刺した。
﹁うんはっはんあああんんんん!!!﹂
マルガはいきなり奥の奥まで犯された快感が体中に走った様で、温
かいオシッコを俺に注いでいた。
﹁フフフ。マルガのオシッコ⋮温かいよ⋮いきなりでビックリしち
ゃったんだね⋮可愛いよ⋮﹂
﹁ああ⋮ご主人様に⋮私の⋮オシッコが⋮オシッコが⋮﹂
マルガは余りの快感と、俺にオシッコを掛けてしまった、申し訳な
さと、嬉しさが体の中で交じり合って、とてつもない快感に包まれ
ている様であった。
そんなマルガが可愛くて、マルガの口にキスをして犯し、体を激し
く揺さぶって、マルガの秘所を犯していく。
﹁マルガ⋮可愛いよ⋮今日も子宮の奥まで犯して上げるからね⋮一
杯⋮一杯⋮汚してあげる!﹂
586
マルガの上と下の口を陵辱しながら、激しく腰を振ってマルガを犯
すと、昨日、マルガをイカセて上げなかったので、快感が我慢でき
なかったのか、もう限界まで来ている様であった
﹁ご主人様!私⋮もう⋮もう⋮我慢⋮出来⋮ま⋮せん!⋮イカせて
ください⋮ご主人様∼﹂
喉から搾り出される様な、猫なで声で、可愛く鳴くマルガに、性欲
が掻き立てられる。
﹁いいよ!マルガを一杯犯してイカせてあげる!﹂
俺はマルガの上と下の口を犯しながら、乳首とクリトリスをギュウ
っと虐める様に、強くひっはりながら、激しく腰を振り、子宮口を
無理やりこじ開け、突き上げる。
﹁ご主人様!イキます!!!!!イク∼∼∼!!!うんんはあああ
あああああ!!!!﹂
マルガは大きな甘い吐息を吐いて、体を大きく弾けさせる。それと
同時に、マルガはキュンキュンと俺のモノを膣で締め上げ、精子を
欲しがる。その快感に、子宮の奥に染み付く様に、精を注ぎ込む。
俺の体を快感が突き抜け、子宮に注ぎ込んだ快感と支配欲が、俺の
体を突き抜ける。
ソレを喜んでいるマルガの艶めかしい瞳が、俺の欲望を増大させ、
またムクムクと、マルガの中で大きくなる、俺のモノ
﹁マルガ⋮昨日の分まで一杯犯すからね⋮﹂
﹁はい⋮一杯犯してください⋮マルガをご主人様で⋮満たしてくだ
さい⋮﹂
マルガは歓喜に染まった瞳で、俺に激しくキスをする。
マルガの舌が俺を味わっている。
587
その夜も、マルガを何度も犯し、味わって、眠りにつくのであった。
翌朝、準備の整えた俺とマルガ、リーゼロッテとマルコは、それぞ
れの荷馬車に乗って、村の出入口迄来ていた。一緒に港町パージロ
レンツォに帰る、交代の騎馬隊の騎士団も数名一緒なので、港町パ
ージロレンツォまでは安全に旅をできるであろう。
出入口には、沢山の村人と、アロイス村長、エイルマー、リアーヌ、
ゲイツ夫妻が見送りに来ていた。
﹁⋮葵さん。また⋮必ず、このイケンジリの村に来てくだされ。私
達はまた葵さんに会える事を、楽しみにしとりますのでの﹂
﹁はい、ありがとうございますアロイス村長。エイルマーさんとリ
アーヌさんもお元気で﹂
﹁葵さんも、お元気で。旅の無事を祈っています﹂
俺達は挨拶をして、握手を交わしていると、その横でマルコが、少
し泣きそうな顔で、ゲイツ夫妻と話しをしていおる。その俺の視線
に気がついたゲイツ夫妻が近寄ってきた。
﹁葵さん⋮マルコの事⋮頼みます⋮﹂
﹁はい⋮できる限りの事はさせて頂きます﹂
ゲイツ夫妻と挨拶を交わし、いよいよ出立の時が来た。
﹁では!皆さんお元気で!﹂
その声とともに、俺は馬のリーズの手綱に合図を出す。俺とマルコ
の荷馬車は、ゆっくりと進みだす。
588
俺達を乗せた荷馬車は、一路、港町パージロレンツォを目指すので
あった。
589
愚者の狂想曲 17 港町パージロレンツォ
色々あったイケンジリの村を出て2日。俺達の荷馬車は順調に港町
パージロレンツォ向かっていた。
俺達と一緒に港町パージロレンツォに戻る騎馬隊の護衛も居る事も
あってか、道中で何かに襲われるといった事も無く、もうすぐ港町
パージロレンツォに到着出来るだろう事に安堵する。
そんな俺の荷馬車の御者台には、右側にマルガが俺の膝枕で気持ち
良さそうに、胸に白銀キツネのルナを抱きながら寝息を立てて眠っ
て居て、左側には俺に寄り添ってマルガと同じく、気持ち良さそう
に寝息を立てて眠っているリーゼロッテが居る。2人の柔らかい乙
女の柔肌を感じ、優しく甘い匂いに包まれている。
そう⋮はっきり言って⋮幸せです!間違いなく!もうね⋮美少女最
高!
美少女2人を侍らかして居る様に見える俺を、港町パージロレンツ
ォに一緒に向かっている騎馬隊の人達も、最初は羨ましそうに嫉妬
の目で見られていたけど、流石に2日目になってくると、呆れてい
るのか此方を見なくなっていた。ま∼当然と言っちゃー当然だろう
けどさ。ちょっと⋮優越感です!たまにはいいよね?
でも⋮リーゼロッテは、港町パージロレンツォに就いたら、どこぞ
の貴族様と結婚しちゃうんだよな⋮
このまま、マルガと一緒に連れ去りたい⋮そして⋮全てを奪いたい
⋮俺だけの物にしたい⋮
しかし、リーゼロッテがそれを望んでいない以上、俺は何も出来な
い⋮
胸を有刺鉄線で締め付ける様な苦しみが突き抜け、一瞬体の感覚が
590
自分の物じゃない様な錯覚に見舞われる。何とか早まる鼓動を無理
やり押さえつけ、ふと左の肩口に視線を落と、気持ち良さそうなリ
ーゼロッテの美しい寝顔が目に入る。
深く溜め息を吐きながら、リーゼロッテの美しい顔を優しく撫でて
いると、うんんと言って目を覚ます。金色の透き通る様な瞳が俺を
見つめ、虜にされる様な微笑を向ける
﹁あら⋮私ったら⋮また寝ちゃってたのですね﹂
まさに女神と見まごう微笑で俺を見るリーゼロッテに、見蕩れながら
﹁い⋮いいよ。春先で陽気も良いし、気持ち良いからね。マルガも
この通りだし⋮﹂
俺の膝の上で、気持ち良さそうに寝ているマルガに視線を落とすと、
クスクスと口に手を当てて、上品に笑うリーゼロッテ。
﹁そうですね。キツネさん達も気持ち良さそうですもんね。⋮⋮私
も⋮膝枕をして欲しかったですが⋮それも出来無かった様ですね⋮﹂
リーゼロッテの瞳は淋しげに前方に向けられる。そちらに視線を移
すと、街道の両端に建物が見えて来た。
港町パージロレンツォの郊外町に差し掛かって来たのだ。
荷馬車を進めると、街道の両側に、宿屋や酒場、色んな商店が軒を
並べている。沢山の人々が行き交い、人々の賑やかな声が、街に到
着した事を実感させる。
その喧騒に、耳をピクッとさせるマルガは、眠たそうに可愛く大き
な目を擦ると、パチクリさせながら俺を見る。
﹁お⋮マルガ起きたんだね﹂
﹁ハイ!⋮ご主人様の膝枕⋮気持ち良かったです!﹂
嬉しそうに言うマルガの尻尾は楽しげにフワフワ揺れている。相変
わらず可愛いよマルガちゃん!
591
そして、周りを見渡し、沢山の建物や人々を見て、パっと俺に向き
直り
﹁ご主人様!港町パージロレンツォに就いたのですか?﹂
﹁もう少しかな?此処は港町パージロレンツォの郊外町、通称ヌォ
ヴォ。港町パージロレンツォの市門や市壁の外に有る町なんだ﹂
﹁郊外町⋮ですか?﹂
マルガは可愛い頭を傾げながら俺に聞いて来る。
郊外町と言うのは、この港町パージロレンツォの様に巨大な都市の、
市門や市壁の外に作られて居る町の総称である。都市の市門や市壁
の中で居住出来無い人間、つまり、住民登録をしていない、市民権
の無い者達が多く住む町なのだ。市民権を持つ住民の都市の中での
生活は、守備隊によって警護され安全に生活出来、法律によって保
護もされている。しかし、その代償に、年収の5割近い税金を収め
なければならない。その税金を支払って尚、生活を出来る者達のみ
が、都市の中で生活出来るのだ。郊外町に住む者達は、その多額の
税金を払えない者が多く住む町。貧困層が多い。大都市に仕事にあ
りつく為に集まって来て、そう言う人々が集落を作り、出来た町が
郊外町だ。
マルガにそう説明しながら荷馬車を進めていると、辺りの視界が開
ける。そして、眼前に迫る物に目を丸くしているマルガ。
﹁わああ⋮﹂
感嘆の声を漏らすマルガの目に映っている物こそが、俺達の目的地、
港町パージロレンツォだ。
港町パージロレンツォ⋮フィンラルディア王国の六貴族、バルテル
ミー侯爵家が治める人口約35万人が暮らす大都市だ。郊外町であ
592
るヌォヴォの人々を合わせると、50万人位は居るであろう。異国
に繋がるムーロス海に面し、沢山の船が出入港出来る様に、完備さ
れた港を備え、交易と商業を中心に発展した商業都市だ。すぐ傍に、
冒険初心者御用達ダンジョンである、ラフィアスの回廊もあり、様
々な人々が集まる大都市である。
市門と市壁に囲まれたその巨大都市を見て、開いたままになってい
るマルガの口に指を入れると、ネコの様にアウンと言って、ピクっ
と体を反応させるマルガが面白い。可愛い口をモゴモゴさせている。
﹁⋮ご主人様⋮意地悪です∼﹂
﹁いや⋮余りにも開いちゃってたから⋮つい⋮﹂
楽しそうに微笑む俺を見て、ウウウと少し唸り、恥ずかしそうに見
つめる拗ねマルガの頭を優しく撫でると、此れ位じゃ誤魔化されま
せんよご主人様?と、言わんばかりに、頭をグリグリして擦りつけ
て来るマルガが可愛すぎる。
﹁ほら⋮2人で戯れていないで、私達も荷馬車用の市門に並びまし
ょう﹂
リーゼロッテが少し呆れる様に言う。俺とマルガは顔を見合わせて
気恥ずかしそうに頷く。此処まで一緒に来た騎馬隊に挨拶をして別
れ、荷馬車を専用の市門に向かわせると、数台の荷馬車が順番を待
っていた。俺達もその最後尾に回り、荷馬車を就ける。その様子を
見ているマルガは
﹁ご主人様、ここで何をなさるのですか?﹂
﹁俺達は港町パージロレンツォの住人じゃ無いから、此処で通過税
と滞在税、あと関税を払うんだよ﹂
﹁町に入って取引や宿泊するだけで、お金や税金が掛るのですか!
?﹂
593
マルガが戸惑いながら疑問の声を上げる。
今まで行った、ラングースの町やイケンジリの村は小規模に属する
町や村で、通過税や滞在税、関税を徴収していなかった。小規模の
町や村でその様なものを徴収すると、人が寄ってこなくなる可能性
があるからだ。通過税や滞在税、関税を徴収しない代わりに、沢山
の人に来て貰って、お金を落として行って貰った方が儲かるのだ。
実際、通過税や滞在税、関税を取るのは、そこそこ発展した大きな
都市のみである。
俺の説明に納得したマルガは、なるほど∼と頷いていた。
暫く待っていると、俺達の順番が回って来た。俺とマルコの荷馬車
を、市門迄寄せると、担当の文官と護衛の兵士が近寄って来た。
盗賊団から奪った荷馬車に乗っているマルコも降りて来て、俺の傍
に来る。
俺は文官と兵士に一礼して話をする。
﹁どうも、こんにちわ。港町パージロレンツォに行商と、60日位
の滞在を考えています﹂
俺がそう伝えると、俺の横に居る美少女のマルガとリーゼロッテが
当然目に入り、少し機嫌の悪そうな文官はフンと鼻で言うと、
﹁⋮そうか。用件は解った。人が3名に、一級奴隷が1名。荷馬車
が2台、馬が2頭だな?﹂
文官の問に頷くと、手に持っている羊皮紙を見て、何やら計算をは
じめる。それが終わると、此方に再度振り向き
﹁通過税は⋮人が3人で、銀貨6枚、一級奴隷は銀貨1枚、荷馬車
が2台で銀貨1枚、馬2頭で銀貨1枚、計銀貨9枚。それと滞在税
が、1人1日銅貨10枚で60日だから、3人分で銀貨18枚。一
級奴隷は銀貨3枚、馬2頭で銀貨1枚と銅貨50枚、荷馬車2台で
594
銀貨1枚と銅貨50枚の、計銀貨24枚。合計、銀貨33枚だ﹂
﹁高っけ∼∼∼!!銀貨33枚って⋮普通に生活したら、30日以
上は暮らせる金額だよ!﹂
マルコは呆れながら溜め息混じりにそう言うと、その横でマルガも
コクコクと頷いていた。
そんな2人を見て、目をきつくする文官の前に立つ俺。
﹁⋮すいませんね文官様。この子達は初めてこの町に来たものでし
て⋮後で良く言っておきますので許してやって下さい。金額も当然
それで結構ですので﹂
苦笑いしながら俺が言うと、フンと言って表情を緩める文官
﹁解れば良い⋮。此処での手続きが終わったら、向こうで関税の手
続きをするんだな﹂
﹁まだお金取る気なの!?﹂
マルコが思わず口に出した言葉に、マルガもまたコクコクと頷いて
いる。再度文官の表情がきつくなる。俺はマルコとマルガの傍に行
き、軽くチョップをお見舞いする
﹁アイタ!﹂
﹁ハウウ!﹂
マルコとマルガは可愛い声を出して、頭を摩って居る。少し怒られ
てシュンとなっているマルガとマルコの頭を優しく撫でながら
﹁⋮本当にすいません⋮ハハハ⋮﹂
俺の苦笑いしている顔を見て、ハーっと深く溜め息を吐く文官は呆
れ顔だった。
そんな俺達を見ていたリーゼロッテが文官に近づく
﹁文官様。私がこの町に来たのは、モンランベール伯爵家の客分と
595
して、モンランベール伯爵家の別邸にお伺いする事なのです。です
から、通過税は解るのですが、滞在税をどうしたら良いのか⋮﹂
リーゼロッテの問に、何かを思い出した様な顔をする文官が
﹁モンランベール伯爵家に客分としてですか?⋮失礼ですが、ネー
ムプレートを確認させて下さい﹂
文官の言葉に、ネームプレートを差し出し見せるリーゼロッテ。そ
のネームプレートを見た文官の顔色が変わる。
﹁貴方達のネームプレートも見せてくれますか?﹂
文官が俺とマルガ、マルコのネームプレートを提示する様に求める
ので、リーゼロッテと同じ様に、ネームプレートを見せる3人。そ
れを確認した文官は、暫く此処で待って居て欲しいと言い残し、市
門の文官達の詰所に向かう。
暫く待っていると、少し身なりの良い文官と一緒に、先程の文官は
帰って来た。恐らく、先程の文官の上官だと伺える。そんな上官の
文官は、俺達を見てフンフンと頷いている。
そして、再度ネームプレートを提示する様に求める、上官の文官。
確認し終わって、ネームプレートの返却を受けると、親しみのある
笑顔を向ける上官の文官。
﹁貴方達の事は、我が領主から伺っております。丁寧に対応する様
にと指示を受けております。貴方達からは一切、通過税と滞在税は
頂くなとの事です。関税に関しては、今回は無料にせよとの事です。
次回から港町パージロレンツォに入る時は、関税のみで結構です﹂
そう告げると、部下のさっき迄俺達と話していた文官に、俺達の手
続きをする様に指示を出す、上官の文官。
俺達の戸惑いの顔を見て、少し愉快そうな表情をして
﹁⋮もし、何か不服が有るなら、直接我が領主に申し立て下さい。
596
領主も貴方達に会いたがっております。貴方達が到着した事は此方
から伝えておきますので、暫くしてから向かわれれば宜しいでしょ
う。此れはこの港町パージロレンツォの地図になります﹂
そう言って、一枚の羊皮紙を俺に手渡し、先程と同じく親しみの有
る笑顔を浮かべこう告げた。
﹁港町パージロレンツォにようこそ!私達は貴方達の来町を、心よ
り歓迎します!﹂
俺達はやや戸惑いながら手続きを済ませ、通過滞在許可証を貰い、
港町パージロレンツォの中に荷馬車を進めるのであった。
港町パージロレンツォの市門を通り抜け、少し小腹の空いて来た俺
達は、休憩がてら何か食べる事にした。露天で蜂蜜パンと果実ジュ
ースを買い、広場の隅に荷馬車を止め、休憩する。
﹁蜂蜜パンは何処で食べても美味しいですね∼ご主人様∼﹂
﹁そうだね。果実ジュースも美味しいからホッとするよね﹂
﹁オイラの村でも良く食べたけど、この港町パージロレンツォにも
他に美味しい物あるのかな?﹂
﹁此れから葵さんが一杯食べさせてくれますよ。ね?葵さん﹂
﹁ハハハ⋮頑張るよ⋮﹂
リーゼロッテが悪戯っぽく言うのを、俺が苦笑いしていると、マル
ガとマルコはアハハと笑っていた。
﹁でも、大都市って色々お金が掛るんだね。オイラの村じゃあんな
お金掛からないのに⋮﹂
597
マルコは蜂蜜パンを齧りながら少し納得が行かない感じで言う。マ
ルガも同じ様にウンウンと頷きながら、蜂蜜パンを頬張っている。
俺は口の周りに蜂蜜をつけてベトベトになっているマルガの口を、
指で綺麗にしてあげると、ニコっと微笑むマルガの頭を撫でながら
﹁確かにお金の掛る事だけど、良い事だってあるんだよ?﹂
﹁どんな事なんですかご主人様?﹂
俺の言葉にマルガは可愛い首を傾げている。マルコもどんな事なの
か気になっている様だ。
﹁この港町パージロレンツォの住民じゃない、住民登録をしていな
い、市民権も持ってない者でも、町の市門で税金を払って、通過滞
在許可証を発行して貰えたら、通過滞在許可証の有効期間中は、市
民権を持っている住民と同じ様に扱ってくれるんだ﹂
﹁って事は、此処の住民と同じ様に、法律で守られて、守備隊の人
も助けてくれるって事?﹂
﹁そう言う事だね。もし、通過滞在許可証の有効期間中に何か有っ
たら、守備隊だけじゃなく、騎士団も動いてくれるよ。お金を払う
事によって、安全を買っていると思えばいいかな?確かにお金を払
う事は勿体無い部分もあるけど、全てを考えて払った方が得かどう
かも、きちっと考えないとダメなんだ﹂
その説明を聞いたマルガとマルコは、なるほど∼と言って、腕組み
しながら頷いている。
﹁ま⋮この言葉も、俺に行商の事を教えてくれた人の言葉なんだけ
どね﹂
﹁へえ!葵兄ちゃんのお師匠さんか∼。ならオイラの師匠の師匠に
なるんだね!一度会って見たいな∼﹂
﹁行く機会があれば紹介してあげるよ﹂
マルコはその言葉に、ヨシ!と言って嬉しそうにしている。その隣
598
りのマルガが
﹁私は⋮ギルゴマさん苦手です∼﹂
果実ジュースの入っている木のコップの縁を、カリカリと齧りなが
ら、ウウウと唸っているマルガの頭を優しく撫でると、小さい舌を
ペロっと出してはにかんでいる。
可愛いマルガに思わず微笑むと、ギュッと腕組をしてくるマルガの
顔は、とても幸せそうだ。
そんな俺とマルガを静かに見ていたリーゼロッテは、すっと立ち上
がった。そして俺の方に向き直る。
﹁じゃ⋮そろそろ、モンランベール伯爵家の別邸まで、送って頂け
ますか?葵さん⋮﹂
何処か吹っ切れた様に言うリーゼロッテの顔を見た俺は、きちんと
視線を合わせる事が出来無かった。
﹁も⋮もう少し⋮ゆっくりしようよ。な⋮何なら、夕食を一緒に食
べてからでも⋮﹂
俺が少し口籠りながら言うのを遮る様に、俺の唇にそっと優しく人
差し指を添えるリーゼロッテは、ゆっくりと首を横に振り、優しく
微笑む。
﹁短い間でしたけど、葵さん達とご一緒出来て楽しかったです。私
にとって、忘れられない思い出になりました。⋮もうそれだけで十
分です⋮﹂
リーゼロッテは静かに優しくそう告げると、俺の両手をしっかりと
取って立たせた。そして、手を引いて荷馬車迄来ると、御者台に俺
を乗せるリーゼロッテ。それを見たマルガとマルコも急いで荷馬車
に乗り込む。
599
﹁さ⋮行きましょうか⋮葵さん⋮﹂
笑顔で言うリーゼロッテの言葉に、俺は手綱を握る事が出来無いで
居た。
そんな俯いている俺を感じて、手綱を俺の手に取らせ、一緒に手綱
を握るリーゼロッテ。
そして、リーゼロッテが馬のリーズに手綱で合図を送ると、荷馬車
はゆっくりと進みだした。
無言で進んでゆく荷馬車に揺られながら、手綱と一緒に握られてい
るリーゼロッテの手は、柔らかく暖かい筈のに、何故か冷たく感じ
る。それがひどく嫌だった。
﹃このまま到着すると、リーゼロッテは他の奴の物になってしまう
⋮いっそ此のまま⋮攫ってしまって、あの盗賊団がしようとした遣
り方で奴隷にしてしまえば、リーゼロッテはマルガ同様俺だけの物
に⋮﹄
その様な事を考えていたら、左手に大きく豪華な石造りのお屋敷の
門が見えてきた。
綺麗な装飾のある丈夫そうな鉄の門の前には、鎧を着た兵士が10
人、ハルバートを持って警護している。俺達の荷馬車がその門の前
に止まると、一人の兵士が近寄って来た。
﹁此処はモンランベール伯爵家様の別邸だ。何か用なのか?用が無
ければ早々に立ち去るが良い﹂
何者か解らない俺達を見て、キツイ表情で淡々と告げる兵士に、荷
馬車から降りたリーゼロッテは、涼やかな微笑を兵士に向ける。
﹁私はモンランベール伯爵家様の客分として、此方に来る様になっ
て居ましたリーゼロッテと言います。どなたかお解りになられる方
はいらっしゃいませんか?﹂
600
リーゼロッテがそう告げると、暫し待つ様に言って、兵士は石造り
の立派な屋敷に入って行った。
暫くすると、兵士は一人の執事服を着た男と一緒に帰って来た。
そして、執事服を着た男は、リーゼロッテと俺達を見て、フムと頷
く。
﹁貴方がリーゼロッテ様ですか?そして⋮そちらが葵様で宜しかっ
たでしょうか?﹂
俺とリーゼロッテが肯定して頷くと、ネームプレートを確認したい
と言うので、俺とリーゼロッテはネームプレートを提示する。
﹁確かに確認いたしました。私はモンランベール伯爵家、此方の別
邸で執事をしております、アニバルと申します﹂
執事のアニバルは綺麗にお辞儀をする。それを見て、リーゼロッテ
も綺麗に挨拶をしている。俺とマルガとマルコも慌てて挨拶をする
と、少し表情を和らげるアニバル。
﹁貴方達の事は、我が主人と、アロイージオ様より伺っております。
葵様につきましては、後日、日程を調整して、我が主人とアロイー
ジオ様との面会をさせて頂きたいと思います。葵様はどれ位の期間、
この港町パージロレンツォに滞在なさるつもりですか?﹂
﹁えっと⋮約60日位は滞在する予定です﹂
執事のアニバルにそう伝えると、その期間中に、執事のアニバルの
方から、面会の日程を伝えると告げられ了承をする。
﹁では、葵様よろしくお願いします。リーゼロッテ様は、別邸の中
の方にお入り下さい﹂
執事のアニバルにそう告げられ、頷くリーゼロッテ。そして、別邸
の中に入って行こうと歩み始める。
601
﹁リーゼロッテ!!!﹂
思わず出た俺のその声に、歩みを止めるリーゼロッテ。そして、俺
に振り返る。リーゼロッテのその淋しげな表情を見た俺は、リーゼ
ロッテの傍まで走り寄った。
﹁リーゼロッテ⋮俺⋮﹂
そう呟いた俺に、リーゼロッテはギュっと俺を抱きしめる。リーゼ
ロッテの柔らかい肌の感触と、甘く優しい匂いが俺を包み込む。俺
もリーゼロッテが愛おしくて、ギュっと抱き返すと、リーゼロッテ
の柔らかい唇が、俺の唇に迫り、優しくキスをする。
﹁⋮葵さんの事は、ずっと忘れません⋮ありがとう⋮さようなら⋮﹂
そう小さく俺の耳元で囁くと、パッと体を離すリーゼロッテ。俺は
リーゼロッテの言葉に、頭が真っ白になっていた。
﹁マルガさんもマルコさんもお元気で﹂
﹁リーゼロッテさんも⋮お元気で⋮﹂
﹁リーゼロッテ姉ちゃん⋮﹂
少し涙目になっているマルガとマルコにニコっ微笑むと、リーゼロ
ッテは勢い良く踵を返し、屋敷に向かって歩み出す。それが目に入
った俺は堪らなくなってリーゼロッテに手を伸ばそうとするが、そ
れを予期していたリーゼロッテはスルリと俺の手を躱して、屋敷の
中に入って行った。
﹁リーゼロッテ姉ちゃん⋮振り返らなかったね⋮﹂
寂しそうにそう呟くマルコ。マルガはリーゼロッテの入って行った、
豪華な屋敷の扉と、項垂れている俺を交互に見て、ギュッと拳を握
って居た。
俺は自分の手から、零れる様にすり抜けて行ったリーゼロッテの事
を思い、ただ扉を見つめるだけだった。
602
俺達を乗せて居た荷馬車は今、港町パージロレンツォの領主である
バルテルミー侯爵家の官邸の前に止められている。
モンランベール伯爵家の別邸の前で、茫然自失になって居た俺を、
マルガとマルコが荷馬車に乗せて、此処まで連れて来たのだ。
﹁ご主人様⋮大丈夫ですか?﹂
そう言って俺の顔を覗き込むマルガの顔は、ひどく心配そうで悲し
そうだった。マルガのその顔を見て、血の気が戻って来るのを感じ
る。
﹃マルガに⋮こんな顔させちゃダメだよね⋮頼りないご主人でゴメ
ンネ⋮マルガ⋮﹄
心の中でそう呟き、マルガをギュッと抱きしめる。するとマルガは
小さく可愛い手で俺の頭を優しく撫でてくれる。それがとても心地
良く、目を瞑って暫くそうしていると
﹁ご主人様⋮元気を出してください⋮。私じゃリーゼロッテさんの
代わりには、なれ無いかも知れませんが、精一杯頑張りますので⋮﹂
そう優しく言うマルガは、優しく俺にキスをする。
﹁イッツ⋮﹂
﹁あ!ゴメン!⋮痛かった?﹂
マルガが可愛い声を上げ、首をフルフルと横に振りニコっと微笑む。
どうやら、マルガの気持ちが嬉しくて、強く抱きしめすぎた様だっ
た。
603
﹁⋮マルガはリーゼロッテの変わりじゃないよ。マルガは俺の大切
なマルガだよ。誰の代わりでもない。マルガは俺の一番だよ﹂
それを聞いたマルガは、涙で瞳を揺らしている。そんな可愛いマル
ガを再度抱きしめる。マルガの柔肌と、ずっと嗅いでいたい様な甘
い香りに、心が安らいでゆくのが解る。
そして、ゆっくりと体を離す俺とマルガ。
﹁マルガ⋮ありがとね。マルガのお陰で元気が出たよ。⋮もう大丈
夫だから心配しないでね﹂
マルガの頭を優しく撫でながら言うと、涙目になりながらも、ニコ
っと極上の微笑みを帰してくれる愛しいマルガ。それを見ていたマ
ルコは、ちょっとホっとした様な顔で
﹁ほんとに大丈夫?⋮荷馬車に乗せる時なんか、心を何処かに落と
しちゃったみたいに元気無かったけど⋮﹂
﹁ハハハ⋮ゴメンゴメン。もう大丈夫だよマルコ。さあ!港町パー
ジロレンツォの領主であるバルテルミー侯爵家当主様にご対面と行
こう!﹂
俺の言葉に、マルガはハイ!っと元気良く右手を上げて、マルコも
同じく元気に返事をする。
⋮リーゼロッテの事を簡単に忘れれる訳は無いけど、せめて⋮マル
ガとマルコの前では、いつも通り居れる様にしないとダメだね⋮
俺達は案内係りの後をついて、バルテルミー侯爵家の官邸の中に入
って行く。官邸の中には、真っ赤な美しい絨毯が敷かれており、壁
や天井の装飾も、今迄見た事の無い様な豪華な装飾がされている。
目に入る全ての物が高級品と解る。流石はフィンラルディア王国の
六貴族。権力だけじゃなく、資産も莫大なのだろう。ふと横を見る
と、マルガとマルコは、キョロキョロと辺りを見回し、瞳を真ん丸
604
にして、開いた口が塞がらないと言った感じだ。
正に田舎者のお上りさん状態で案内役について行くと、一際大きく
装飾の豪華な美しい扉の前で歩みを止める。案内役に暫く待つ様に
言われ、案内役は扉の中に入って行く。
暫く待っていると、案内役が出て来て、中に入る様に言われる。俺
達は案内役が開けてくれた扉を通り、その部屋の中に入る。結構広
いその部屋は、どうやらこの官邸の接見室の様だった。
一層美しく、豪華な絨毯が敷いていて、その奥に大きめの豪華な机
があり、その席に座っている人物が
﹁良く来たな。もっと此方に来たまえ﹂
その男の言われるままに近寄ってゆく。その男は、年齢は40代中
頃であろうか。立派な髭を蓄え、眼光の鋭い偉丈夫だ。短い言葉だ
ったが、その中に何か威厳を感じさせる声であった。
その男に気を取られていたが、ふと横に視線を移すと、見知った顔
を見つける。
﹁イレーヌ様!﹂
俺は思わず声を出してしまった事に、恥ずかしさを感じていると、
ニコっと親しみのある微笑を向けてくれるイレーヌ。それを見て、
少し眼光を弱める偉丈夫の男。
﹁イレーヌの事は既に知っているんだったな。私がこの港町パージ
ロレンツォの領主であり、バルテルミー侯爵家当主でもある、ルク
レツィオ・シルヴェストロ・バルテルミーだ﹂
そら
威厳に満ちたその言葉に、身の引き締まる思いを感じながら挨拶を
する。
あおい
﹁初めましてルクレツィオ様。僕は行商をしています、葵 空と言
605
います。此方は、僕の一級奴隷のマルガと、旅の仲間でマルコと言
います﹂
﹁は⋮初めましてルクレツィオ様!わ⋮私はご主人様の一級奴隷を
やらせて貰っているマルガです!宜しくです∼﹂
﹁オ⋮オイラ!⋮じゃなくて!ぼ⋮僕は、イケンジリの村出身のマ
ルコです!初めましてルクレツィオ様!宜しくです!﹂
ぎこちない挨拶をする俺達3人を見て、イレーヌは口に手を当てて
クスクスと笑っている。しかし、3人の気持ちは伝わった様で、フ
フと少し楽しそうに笑うルクレツィオも、表情を緩める。
﹁ウム。堅苦しい挨拶はここまでにしよう。まずは我が領民を守っ
て頂いた事に礼を述べよう。良く領民を守ってくれた。感謝する。
それと、モンランベール伯爵家のアロイージオ殿を助けてくれた事
も、同じく感謝する﹂
軽く頭を下げるルクレツィオに、アタフタしている俺達3人。フィ
ンラルディア王国の、しかも六貴族の当主であるルクレツィオが、
平民に頭を下げるなどまず無い事であろう。それをいとも簡単に、
純粋に感謝の念だけで行えるこのルクレツィオは、評判通りの人物
だと伺える。
アタフタしている俺達を見て、少し愉快そうな顔をするルクレツィ
オ。
﹁とりあえず、イレーヌやアロイージオ殿から事態の詳細は聞いて
いるが、葵殿からも直接聞きたい。詳細を話して貰えるか?﹂
俺達はルクレツィオに、イケンジリの村であった事を詳細に伝える。
俺の言葉を静かに目を閉じて聞いているルクレツィオ。
﹁フム⋮。イレーヌとアロイージオ殿からの報告に間違いは無い様
だな⋮よく解った。葵殿に今回来て貰ったのは、我が領民を守って
頂いた事の礼を、させて貰おうと思ってな﹂
606
ルクレツィオはそう言うと、イレーヌに合図をする。イレーヌは懐
から袋を取り出し、俺に手渡した。
その袋を開けてみると、金貨が入っていた。俺やマルガ、マルコが
目を丸くして驚いていると、
﹁それが今回の謝礼だ。金貨20枚入ってある。それと、この町に
入る時に知ったと思うが、今後この港町パージロレンツォに入る時
に掛る通過税と滞在税は、葵殿の一行からは頂かぬゆえ、ゆっくり
とこの港町パージロレンツォでくつろがれると良いであろう﹂
そう言ってフフっと笑うルクレツィオ。その隣で、イレーヌも同じ
様に微笑んでいた。
﹁あ⋮ありがとうございますルクレツィオ様。でも⋮こんなにして
貰っても良いのですか?金貨だけじゃなくて、通過税と滞在税の免
除もして貰って⋮この町の住民でもないのに⋮﹂
﹁何かまわぬよ。それだけの事をしてくれたのだからな。ま⋮そん
なに気になるなら、この町の住民になってくれても良いのだぞ?お
前達なら歓迎しよう﹂
僅かに口元を上げてニヤっと笑うルクレツィオ。
﹁い⋮僕はまだ修行中の身ですので、暫くは此のままでいようかと
⋮﹂
﹁⋮そうか、それは残念だ。その気になった時は、いつでも申請す
るが良い﹂
﹁はい、ありがとうございますルクレツィオ様﹂
俺の返答にフムと頷くルクレツィオ。
面会してからそこそこの時間も経って来た事だし、迷惑にならない
内にそろそろ引き上げるとしよう。
﹁では、僕達はそろそろ御暇させて頂きます。ルクレツィオ様もお
607
忙しいでしょうし、ご迷惑かと思いますので﹂
﹁フムそうか⋮気を使わせて済まぬな。そう言えば、葵殿はどれ位
この町に滞在する予定なのだ?﹂
﹁えっと⋮とりあえずは60日位を予定しています。マルガとマル
コは、まだ戦闘職業にも就いて居ませんので、明日職業訓練所で戦
闘職業に就かせて、暫くは職業訓練所でレベルを上げさせ様と思っ
てます﹂
俺がそう説明すると、ウム頑張るが良いと言って頷いているルクレ
ツィオ。
俺達はルクレツィオに、丁寧にお礼と挨拶をして接見室から出て行
った。
そんな俺達と入れ違いで、奥の扉から接見室に入って来る人影が居
た。その入って来た2人はルクレツィオの机の直ぐ側まで移動する。
その内の1人の少女が、ルクレツィオの机の上に、腰を掛けて座る。
﹁あれが⋮噂の行商人の少年?何か⋮想像と違うわね∼。もっとル
クレツィオやマティアスみたいな偉丈夫だと思っていたのに⋮。身
長は私より少し高い位、体つきもとりわけ良い方でも無く、覇気も
なくそこら辺に居る様な平民にしか見えなかったし⋮。本当にあの
頼りなさそうな行商人の少年が、あのモンランベール伯爵家、ラウ
テッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させた盗賊団を、一人で壊滅
させた人物なの?﹂
懐疑心の塊の様な目をルクレツィオに向ける少女。そんな少女に軽
く溜め息を吐きながら、一緒に入って来たもう一人の男が
﹁ルチア様⋮人を見た目だけで判断してはならないと思いますよ﹂
﹁そりゃ∼そうだけどさ。⋮マティアス貴方は、あの行商人の少年
を見て、盗賊団を壊滅させた人物に見えた?﹂
﹁⋮見えませんでしたね。ですがそれが、彼の全てでは無いと言う
608
事なのかも知れませんよ?﹂
マティアスの言葉に、腕組みをしながらま∼ね∼と軽く言うルチア。
﹁ルチア様の気持ちも解りますが、報告は正しいものでした。実際、
廃坑で死んで居た盗賊団は皆、元グランシャリオ皇国領で戦ってい
た、ラコニア南部三国連合の正規軍の焼印を、防具に刻んでいまし
た。それに、アロイージオ殿や、村長や副村長の話しも聞いていま
す。その内容は、さっきの行商人の少年と、全く同じものですしな﹂
ルクレツィオの言葉に、少しイタズラっぽい笑みを浮かべるルチアは
﹁本当にそうなのかしら?廃坑で死んでいた盗賊達は兎も角、アロ
イージオと村長達が口裏を合わせて、過大に言っている可能性もあ
るわよ?敵が強かったから、負けたんだって言い訳しやすい様にね﹂
ニヤニヤしながら言うルチアに、否定し軽く首を横に振るルクレツ
ィオ。少しムっとしているルチア
﹁それはないでしょう。現にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊は
全滅しているのです。それだけの敵が居た事は事実。それにイケン
ジリの村の村長と副村長はその様な事が出来る人物ではありません。
それはアロイージオ殿にも言える事ですからね﹂
﹁でもアロイージオって、あの箱入り息子で有名な奴でしょ?自分
の騎士団を全滅させられて面目が立たないから、口裏を合わせて貰
ってるんじゃないの?﹂
﹁ルチア様!言葉が過ぎますぞ!モンランベール伯爵家のご子息の
事を、その様に言われては⋮﹂
ルチアの言葉を諌める様に、マティアスが言うと、はいはい∼とま
た軽く言うルチア
﹁アロイージオ殿についても、真実を言っているでしょう。彼はル
チア様もご存知の通り、箱入りの世間知らず。彼に面目を保つとか、
609
対面を気にすると言う様な知恵はありません﹂
﹁アハハ!確かにルクレツィオの言う通りね!彼にはそんな事を考
える知恵はなさそうね!﹂
ルクレツィオの言葉に、面白そうにコロコロとお腹を抑えて笑って
いるルチア。そんな2人を見ているマティアスは盛大に溜め息を吐
いて、呆れている。
﹁って事は⋮報告の件は事実だとして⋮中級者の集団の盗賊団30
名に、LV97戦闘職業アサルトバスター、LV86戦闘職業アー
クセージ、LV72戦闘職業ソリッドファイター⋮か。ねえ、イレ
ーヌ。バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団の副団長
の貴女なら、一人で戦って勝てると思う?﹂
突然話をふられて、若干戸惑っていたイレーヌだったが、コホンと
軽く咳払いをして、
﹁そうですね⋮。勝てるとは思いますが、楽な事では無いのは確か
です。きっとかなり苦戦を強いられると思います。マ⋮マティアス
様なら、余裕なのでしょうけど⋮﹂
イレーヌはそう言うと、尊敬の眼差しでマティアスを見ている。そ
れを見たルチアはニヤっと悪戯っぽい笑みを浮かべる
﹁そりゃ∼マティアスは変態騎士だもの。そんな奴等なんか簡単に
一蹴しちゃうのは解ってるわよ。この変態に勝てる奴を、この世界
で探す方が難しいわよ。ね?変態騎士さん?﹂
ニヤニヤしながら言うルチアに、呆れているマティアス。
﹁マ⋮マティアス様は変態ではありません!マティアス様は我ら騎
士の誇りであり、憧れです!そ⋮それに、優しくて⋮格好良くて⋮
素敵ですし⋮﹂
﹁なになに?優しくて、格好良くて、素敵で⋮その後は∼?﹂
610
ルチアはイレーヌに顔を近づけて、囁く様に続きを聞こうとするが、
イレーヌは顔を真赤にしながら、両手の人差し指をチョンチョンと
合わせながら、チラチラとマティアスを恥ずかしげに見ている。
そんなイレーヌの視線に、意味の解っていないマティアスは首を傾
げていた。
﹁⋮イレーヌ頑張りなさい⋮。敵はかなりの強敵よ⋮応援してるわ
⋮﹂
﹁はい⋮ありがとうございますルチア様⋮私めげずに頑張ります!﹂
涙目になっているイレーヌの頭を、よしよしと撫でているルチア。
意味が解らず首を傾げたままのマティアス。そしてそんな3人を見
て、手を顔に当てて、ハーっと溜め息を吐き呆れているルクレツィ
オ。
ルチアはイレーヌから離れると、ルクレツィオ達に向き直り
﹁でも、あの行商人の少年気になるわね⋮。よし!決めたわ!﹂
そう言って腰に手を当てて、自信たっぷりにニコっと微笑むルチア
に、ルクレツィオ、マティアス、イレーヌは、嫌な予感を感じ取っ
ていた。
﹁ど⋮どうしたのですか?ルチア様﹂
少し顔の引き攣っているマティアスが聞くと、その顔を小悪魔の様
にニヤニヤさせているルチアは
﹁あの行商人の少年は、明日職業訓練所に行くって言ってたわね?
だから私も行く事にするわ!私が、あいつの事を、確かめて上げる
!ルクレツィオ!マティアス!イレーヌ!此れから私が言うものを
準備して頂戴!⋮当然拒否権は無いからね?﹂
ニヤーと微笑むルチアに、盛大な溜め息を吐く、ルクレツィオ、マ
ティアス、イレーヌ。その顔は、もう既に諦めムードであった。
611
﹁マティアス⋮ルチア様の事を頼んだぞ⋮﹂
﹁任せて下さい!ルチア様は命に変えても、私がお守りしますので
!﹂
﹁マティアス様⋮頑張ってください⋮﹂
接見室の真ん中で、ドヤ顔でアハハと声高らかに笑っているルチア
を見ながら、3人は項垂れていた。
バルテルミー侯爵家の官邸を後にした俺とマルガとマルコの3人は、
昼食を取る為に食堂に来ていた。
ちょうどお昼時と言う事もあり、食堂は沢山の人で賑わっている。
マルガもマルコも、人の多さに戸惑っている様だった。そんな俺達
は、空いている10人掛けのテーブルの隅に、何とか座る事が出来
てホッとしていた。
﹁本当に凄い人の多さですね∼ご主人様∼﹂
﹁だね∼。俺も最初この町に来た時は、面食らったもんだよ﹂
﹁それ解るよ葵兄ちゃん。こんなに多い人、どっから湧いてくるの
かって思っちゃうよね﹂
マルガとマルコは、相変わらず辺りをキョロキョロと、興味津々で
見回している。
﹁とりあえず、献立表を見て食べる物を決めよう。此処の食堂の品
物なら、何頼んでもいいから、好きなの食べるといいよ﹂
なんでも食べて良いと聞いて嬉しそうなマルガとマルコは、献立表
612
を引っ張り合いながら見ている。あれもこれもと言い合いながら選
んでいるが、2人共実に楽しそうだ。かなり悩んだ挙句決まった物
を、店員に注文して行く。
マルガもマルコも成長期なのか、非常によく食べる。量自体は俺と
そんなに変わらないだろう。
注文も終わり、少し落ち着きを取り戻したマルガとマルコ。
﹁でも、謝礼で金貨20枚なんて大金貰えるなんて凄いですねご主
人様﹂
﹁だよね!しかも、税金もずっと無料なんでしょ?﹂
﹁そだね。ま∼死ぬか生きるかって所だったから、なんとも言えな
い部分もあるけど、装備を整えるには十分な資金になるから助かる
ね﹂
実際、官邸に招待された時に期待はしていたが、思っていたより金
額が多かったのが嬉しい誤算だった。この資金と、イケンジリの村
から積んできた商品を売れば、十分に装備も整えれるだろう。
そんな事を考えていた俺達のテーブルに、注文した昼食が運ばれて
来た。
マルガは右手にナイフ、左手にフォークをチャキーンと構えて、店
員さんに、早く早く!と言わんばかりに尻尾をブンブン振っている。
急かされている店員さんも苦笑いしていた。
﹁﹁いただきます!﹂﹂
並べ終えられた料理を前に、目を輝かせているマルガとマルコは声
を揃えて言うと、料理達に襲いかかる。
もりもり削られていく料理。マルガとマルコの頬は一杯になってい
る。実に幸せそうに食べるマルガとマルコ。
ま∼俺はロリであって、ショタじゃないけど、マルコの様な無邪気
な少年は割りと好きだったりする。
マルコが居る事で、多少の出費は掛るだろうけど、マルガも嬉しそ
613
うだし、この子達のこの笑顔が見れるなら、ま∼いいかって気にな
るね。
マルガとマルコを見てニマニマしながら、俺も昼食を食べ始める。
﹁ご主人様、昼食を食べ終わった後はどうするのですか?﹂
﹁そうだね⋮まずは積んできた商品を売ろう。鮮度が関係する物も
あるからね。その後は、冒険者ギルドに登録と、役所で商取引の許
可申請と、最後に職業訓練所に行って、戦闘職業を決めてって感じ
かな?﹂
﹁マルガ姉ちゃん良かったね!これでマルガ姉ちゃんも、一端の冒
険者や行商人と同じ事が出来るね!﹂
自分の事の様に喜んでくれるマルコに、嬉しそうにありがとうと言
うマルガの尻尾は、フワフワ振られている。そんなマルガを見て、
マルコはニコニコしている。
﹁マルガだけじゃないよ?マルコの登録も一緒にするんだよ?﹂
﹁えええ!?オイラも手続きしてくれるの!?﹂
﹁当たり前だよ。マルガにしてあげる事は、余程の事を除いて、マ
ルコにもしてあげる。2人共一緒に勉強して、一緒に強くなって行
ったらいいよ﹂
マルコはその言葉を聞いて、瞳を潤ませながら嬉しそうにコクっと
頷いている。マルガも嬉しそうにマルコの頭を優しく撫でてあげて
いる。マルガはマルコの面倒を良く見てやっている。きっと弟が出
来た様な気持ちなのだろう。マルコの方も姉が出来た様に思ってい
るのか、マルガの手伝いを積極的にやっている。そんな2人に癒さ
れる。
﹁とりあえず昼食を食べて、少し休憩したら取引をしに商会に向か
おう。料理が冷めない内に、全部食べちゃおうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
614
﹁うん!葵兄ちゃん!﹂
嬉しそうに元気良く返事をして、料理を美味しそうに頬張るマルガ
とマルコ。
俺達は昼食を済ませ、商会に向かうのだった。
昼食を済ませた俺達は、商会に向けて荷馬車を進めている。
沢山の荷馬車や人々が賑わう町を見て、また開いたままになってい
るマルガの口に指を入れ様と、マルガの可愛い口に持って行くと気
づかれたみたいで、持ってこられた俺の人差し指をパク!っと咥え
るマルガ
﹁しょうなんろも、同じ手にはかかりまへんよご主人しゃま∼﹂
俺の人差し指を咥えながら喋るマルガはモゴモゴと言うと、嬉しそ
うにチューチューと人差し指に吸い付いている。
うは!チューチューマルガが可愛すぎる!今夜もまた可愛がるんだ
からね!
そんなマルガを見てニマニマしている俺に、フフフと可愛く笑うマ
ルガ。
﹁ご主人様。此れから行かれる商会はどういう所なんですか?﹂
﹁えっとね、此れから行く商会は、ラングースの街にもあったリス
ボン商会の港町パージロレンツォ支店だよ﹂
俺に商売の事を教えてくれたギルゴマが、初めて港町パージロレン
ツォに行くと言った時に、リスボン商会の港町パージロレンツォ支
店に紹介状を書いてくれた。その時より付き合いをしている。
マルガにそう説明していると、件のリスボン商会の港町パージロレ
615
ンツォ支店が見えて来た。
リスボン商会はフィンラルディア王国の中でも中堅の商会。取引も
なかなかに活発だ。それを証拠に、沢山の商人らしき人々が、荷馬
車に商品を沢山積んで、商会の前に並んでいる。
その中に俺達も混じり列に並んでいると、リスボン商会の受付が俺
に話掛けて来た。
﹁こんにちわ。今日はどう言った用件でしょうか?﹂
﹁はい、今日は商品を売りに来ました。何時も僕を担当してくれて
いる、リューディアさんはいらっしゃいますか?﹂
﹁リューディアですね。リューディアは今他の取引をしています。
荷馬車を商品搬入口迄こちらで回しますので、商品搬入口の商談室
で暫くお待ち頂く事になりますが、よろしいですか?﹂
俺は頷き、受付の言う通りに荷馬車から降りる。マルコも俺とマル
ガの傍までやって来た。
受付はそれを見て3人の三級奴隷を呼ぶ。受付の男の傍までやって
来て足元で平伏している三級奴隷達は、受付の男の指示を受けて、
俺とマルコの荷馬車を商品搬入口迄回して行く。その残りの1人の
三級奴隷が、商品搬入口の商談室まで案内してくれた。
﹁此方で暫くお待ち下さい。今お飲み物をお持ちしますので﹂
三級奴隷は俺達の足元で平伏しながら言うと、忙しそうに小走りに
立ち去って行った。
商品搬入口の商談室で、三級奴隷が持って来た紅茶を飲みながら待
っていると、コンコンと商談室の扉がノックされ、一人の女性が部
屋の中に入って来た。
その女性は、20代中頃の身長は俺と同じ位で、肌色は日本人に近
く、髪の毛の色もダークグレーだが、顔立ちは西洋人で、きつめの
顔立ちではあるが、なかなかの美人だ。
そんな、なかなかの美人が、ニコっと微笑む。
616
﹁葵!久しぶりだな!元気にしてたか?﹂
﹁リューディアさんもお忙しそうでなによりですね﹂
﹁当たり前だ!私はこの支店で一番の売上を誇る、売り子交渉人な
のだからな!﹂
﹁流石リューディアさん。師匠のギルゴマさんも喜んでいるでしょ
うね﹂
それも当たり前だ!と、得意顔で笑うリューディア。俺とリューデ
ィアは微笑み握手を交わす。
﹁ご主人様⋮この方は⋮﹂
﹁ああ!言い忘れていたね。この人はリューディアさん。ギルゴマ
さんの一番弟子さんで、このリスボン商会の港町パージロレンツォ
支店で、何時も俺の担当をしてくれている人なんだ﹂
俺がそうマルガに説明すると、横で聞いていたリューディアが、俺
のほっぺたを抓る。
﹁イテテテ!﹂
﹁それだけじゃないだろう?お前は私の姉弟弟子だろうが!その辺
もきちんと説明しないか!ったく⋮ギルゴマ師匠の弟子と言う自覚
をもっと持てと、何時も言っているだろう?﹂
ほっぺたを摩っている俺に、少し説教気味で腕組みしながら言うリ
ューディアは、そんな俺を戸惑いながら見ているマルガとマルコに
視線を落とす。
﹁で⋮この子達は何なんだ?何かの商談で雇っているのか?﹂
﹁い⋮いや⋮。こっちの亜種の女の子は俺の一級奴隷でマルガ。そ
っちの少年は、旅の仲間のマルコ。今は3人で旅をしてるんだ﹂
そう言って、マルガとマルコを見ると、姿勢を正してマルガとマル
コがリューディアの方を向き
617
﹁は⋮初めまして!わ⋮私はご主人様の一級奴隷をさせて貰ってま
すマルガと言います!よろしくです!﹂
﹁オイラは、葵兄ちゃんの弟子をしてます、イケンジリの村から来
たマルコです!よろしくです!﹂
マルガとマルコは少し緊張気味に自己紹介すると、可愛い頭をペコ
リと下げている。
それを聞いたリューディアは、ポカンと口を開けて暫く呆けていた
が、ハっと我を取り戻して俺に向き直り
﹁はああああ!?葵の一級奴隷に、弟子だって!?⋮お前⋮姉弟子
である私でさえ、奴隷や弟子なんて持っていないのに、そんな私を
差し置いて⋮弟弟子のお前がか!?⋮へえ⋮ほんの少し見ない内に、
随分偉く立派になったもんだな?え∼葵ちゃんよ∼そこんとこ、ど
う思ってるのかな∼?﹂
﹁あ⋮いえ⋮そ⋮その件につきましては⋮少し反省もしてたり⋮し
てなかったり⋮﹂
﹁ああん!?なんだって!?﹂
﹁ハイ!とっても反省してます!姉弟子であるリューディアさんを
差し置いて、一級奴隷や弟子を持ってしまった事、大いに反省して
います!﹂
リューディアは俺の言葉を聞いてか聞かずか、俺の頬を両手で引っ
張って、まるで何処まで頬が伸びるか試している様に、ミョイ∼ン
と引っ張っている。そんな痛がっている俺を見て、マルガはテテテ
と小走りで近寄ってきて
﹁私のご主人様をいじめないで下さい!﹂
ムウウと少し唸って、リューディアに言うマルガの尻尾は、少し逆
立っている。
リューディアはマルガに視線を移すと、両手を俺の頬から離して、
618
マルガをギュっと抱きしめた。
マルガは突然抱きしめられて、そのまま固まっている。
﹁可哀想に⋮あんたみたいな凄い美少女が、葵みたいな出来損無い
で、見た目もぱっとしない奴の奴隷にされちゃうなんて⋮酷い事さ
れてないかい?﹂
何か酷い事をさらっと言われた気がするよママン!⋮泣いて良いで
すか?⋮ウウウ⋮
リューディアはそう言いながら、マルガの頭を優しく撫でている。
マルガはハッと我を取り戻して、アワワとなりながらリューディア
に言う。
﹁い⋮いえ!私は自分からご主人様の奴隷になったんです!そ⋮そ
れに、ご主人様はとっても優しくしてくれますし⋮﹂
﹁クウ∼可愛いじゃないか∼健気だねえ∼。もし、理不尽や変な命
令を言う様なら、私にすぐに言うんだよ?私が葵のアソコを鋏でち
ょん切ってお仕置きしてあげるからね﹂
何気に怖い事を言われてる!なんかアソコガ痛い様な気がして、思
わずアソコを押さえちゃったよ⋮
マルガは優しく撫でてくれるリューディアに、戸惑いながら嬉し恥
ずかしいと言った感じの顔をしている。
﹁そっちの少年も、葵の口車に乗せられちゃったんだね∼。こき使
われて可哀想に⋮﹂
﹁い⋮いや⋮オイラが無理を言って連れて来て貰ってるんだ!オイ
ラ行商の事や、色々知って力を蓄えたいから。だ⋮だから、騙され
て付いて来たわけじゃないよ﹂
瞳を輝かせて居るマルコに、フっと優しく微笑むリューディアは、
マルガとマルコを優しく抱きしめる
619
﹁⋮お前達は良い子だねえ⋮。もし⋮何か有ったら、すぐに私に言
うんだよ?葵は私の弟弟子。あんた達も私の弟や妹みたいなものな
んだから。⋮葵⋮この子達をしっかり守ってやるんだよ?酷い事し
たら、私が只じゃ置かないからね﹂
﹁⋮うん、解ってるよリューディアさん﹂
俺の微笑みながらの言葉に、ウンウンと頷くリューディアの表情は、
優しく見守る聖女の様だった。
﹁よし!時間を無駄にする訳にも行かないし、ちっちゃな取引を開
始しようか!﹂
そう言ってニヤっと笑うリューディアは、俺の顔を見てすこぶる楽
しそうだった。
ウウウ⋮リューディアさんにもちっちゃいって言われた!ほんと何
時か大きい取引を持ってきて驚かせてやる∼∼∼!!
俺達は商談室を出て、荷馬車に向かう。
﹁葵、今回はどんな物を仕入れてきたんだい?﹂
﹁えっとね⋮鹿の角が17本と半分、熊と鹿の毛皮が、熊が5枚、
鹿が10枚、熊と鹿の塩漬けの肉が、熊が5樽、鹿が10樽、蜂蜜
が10樽、そして最後は山菜が7樽。山菜は中樽で、あとは小樽だ
ね﹂
その説明を聞いて、ふうんと小声で言うと、俺達の荷馬車の積み荷
を確認してゆく。
そして、羊皮紙を一枚取り出し、商品を確認しながら計算をしてい
っている。暫くリューディアの検品を待っていると、フンフンと頷
きながら、満足そうな顔で此方に振り返るリューディア。
﹁⋮流石はイケンジリの村の品物だね。鮮度は良いし、質も中々﹂
好感触のリューディアが、書き込んだ羊皮紙を俺に見せ説明をはじ
める
620
﹁まず鹿の角は、金貨1枚と銀貨65枚、熊と鹿の毛皮が、金貨1
枚と銀貨45枚、熊と鹿の塩漬けの肉が、銀貨90枚、蜂蜜が銀貨
85枚、山菜が銀貨80枚、合計、金貨5枚と銀貨65枚って所だ
ね﹂
リューディアが提示した値段に、思わずう∼んと唸ってしまう。い
きなりこっちの理想の価格を提示してくるとは⋮
俺の仕入れ値は、金貨3枚と銀貨35枚。金貨5枚と銀貨65枚の
売値なら、金貨2枚と銀貨21枚の儲け。此れ位の儲けなら十分納
得出来る。
そんな俺の顔を見たリューディアは、口元を上げニヤっと笑う
﹁葵⋮ギルゴマ師匠にも言われてると思うが、顔に出すぎだぞ?そ
んな事だと、これで満足ですってのが、手に取る様に相手に解って
しまうぞ﹂
﹁いや∼余りにも理想的な価格だったからつい⋮﹂
﹁ハハハ。ギルゴマ師匠は何時も吹っ掛けるからな。あれはギルゴ
マ師匠なりの、お前に対する教え見たいなものだ。私もさんざんや
られているからな﹂
リューディア苦笑いしながら俺に言う。
確かにギルゴマは、何時も取引の時に、初めにこっちに若干不利な
条件を突きつけてくる。その条件を通常のものに戻す為には、納得
の行く理由を説明して、証明しなければならない。納得の行く説明
をしなければ、そのままの条件で取引をするか、辞めるかの選択に
なってしまう。俺も納得の行く説明を出来ずに、若干不利な取引を
何度もさせられて、悔しい思いをしていたりするのだ。
ま∼俺の為にそうしてくれているのは解ってるんだけどさ。でも⋮
説明出来無い時の、ギルゴマのあの顔と言ったら!思い出すだけで
悔しくなるよ!
621
リューディアの苦笑いにも、きっと俺と同じ気持が含まれているで
あろう。
﹁ま∼そういう事はギルゴマ師匠が葵にしてくれるだろうから、私
は現状お前に提示できる適正価格ってやつを教えてるつもりだ。役
に立ってるだろう?﹂
﹁⋮うん。何時も感謝してるよリューディアさん﹂
﹁お前は私の弟弟子なんだ。私に出来うる事はしてやるつもりだ﹂
そう言って俺の頭をポンポンと優しく叩くリューディア。そんなリ
ューディアに自然と微笑んでしまう。
マルガもマルコもそんな2人を見て、ニコニコ微笑んでいる。
﹁じゃ∼葵、取引成立でいいか?﹂
﹁うん、取引成立でお願いするよ﹂
俺の言葉にニコっと微笑むリューディアは、取引成立の証明である
羊皮紙を出す。俺はそこに署名して、取引を成立、終了させた事を
示す。それを確認したリューディアは、三級奴隷を呼んで、俺の荷
馬車から商品を降ろして行く。俺はリューディアから、商品の代金
を貰い、アイテムバッグにしまっていると
﹁葵⋮気になっていたんだが、もう一台の馬車に積んである武器は
どうするんだ?そこそこ量もありそうだけど﹂
﹁ああ!その武器は何処かの武器屋に売ろうと思ってるんだ。売っ
たお金で、鍛冶屋に頼みたい事もあるから⋮何処か良い武器屋知ら
ない?﹂
﹁ならリスボン商会が経営している武器屋に行くといいだろう。彼
処の武器屋なら、鍛冶屋も一緒にやっているから、ちょうど良いと
思う。私の紹介と言えば、良い取引が出来ると思うしな。場所を教
えてやるから行ってみろ﹂
俺は頷いて武器屋の場所を教えて貰う。その間に荷馬車から商品が
622
降ろされて、荷台は綺麗サッパリ空っぽになっていた。無事に取引
を終えて、そろそろ次に向かおうとした時に、ハっとリューディア
が、何かを思い出した様だった。
﹁葵!待ってくれ!ギルゴマ師匠から私に連絡があってな。この町
に着いたら、ギルゴマ師匠宛の手紙は王都ラーゼンシュルトの支店
の方に送ってくれとの事だ﹂
﹁王都ラーゼンシュルト?ギルゴマさん取引可何かで、王都ラーゼ
ンシュルトに向かってるの?﹂
﹁いや⋮ギルゴマ師匠は、王都ラーゼンシュルトに配置換えされて、
次のリスボン商会、王都ラーゼンシュルト支店の、支店長に任命さ
れたんだ﹂
﹁ええ!?ギルゴマさんが、王都ラーゼンシュルトの支店の長にな
るの!?﹂
思わず大きな声を出してしまった。それ位リューディアの言葉は大
きなものだった。
リスボン商会は、フィンラルディア王国の中でも中堅の商会。この
国にも沢山の支店を抱え、大手商会には及ばないが、上から数えた
方が早い位の力を持った商会である。
しかも、王都ラーゼンシュルトは、このフィンラルディア王国の中
で1番大きな大都市である。そんな、大都市の支店長と言ったら、
リスボン商会でもかなり地位を固めた人物でないとなれない。
﹁大体おかしかったのだ。ギルゴマ師匠程の人が、ラングースの街
の一売り子交渉人として扱われてる事自体がな。やっと本来の居る
べき所に収まったと言った所だな﹂
﹁そうなんだ⋮でも何故そんな事になってたの?﹂
﹁⋮まあ、リスボン商会の中でも色々あってな﹂
そう言って苦笑いするリューディア。
623
ま∼リスボン商会位の規模の商会なら、商会内でも色々権力争いも
あるか⋮。恐らくそんな所だろう。
俺がそんな事を考えていると、俺の表情を見て、俺がなんとなくそ
の事理解したと思ったのか、リューディアはフっと笑っている。
﹁所で葵。ギルゴマ師匠に何か頼み事でもされていたのか?﹂
﹁あ⋮うん。ま∼リューディアさんになら話しても問題無いか⋮﹂
俺はイケンジリの村であった事を説明する。その話を聞いて顔を歪
めるリューディア。
﹁そうか⋮エドモンさんがな⋮良き行商人だっただけに残念だな﹂
﹁リューディアさんエドモンさんを知ってるの?﹂
﹁まーな。私の担当していた行商人でもあったし、彼の人柄は信用
に値する人物だったから、私も懇意にさせて貰っていたんだよ﹂
少し儚げに微笑むリューディアは、視線を少し宙に向ける。きっと
エドモンさんの事を思っているのだろう
﹁⋮葵。ギルゴマ師匠には、私からエドモンさんの事を、手紙で伝
えておくよ。⋮エドモンさんの形見の品⋮渡して貰えるか?﹂
俺は静かに頷き、アイテムバッグから、千切れかかった、血に染ま
っている、青いスカーフをリューディアに渡すと、それがエドモン
さんの物だと理解したリューディアは、ギュっとスカーフを握りし
めていた。
そして、スカーフをポケットにしまうと、俺の傍まで来て、俺をギ
ュっと抱きしめる。
いきなりの抱擁に俺が戸惑っていると、優しく俺の頭を撫でながら
﹁お前も良く生き残れたね。何度も言うが、お前は私の弟弟子なん
だ。余り無理な事をするんじゃないよ?何が何でも生き延びて、ま
た元気な顔を見せに来るのが、お前の役目でもあるんだからな?﹂
624
﹁⋮うん、解ってる。⋮ありがとねリューディアさん﹂
俺の言葉に、ウンウンと頷くリューディアは、優しい微笑みを俺に
向けてくれる。その微笑みはとても心を優しく包んでくれている感
じがする。
俺は一人っ子だけど、実際に姉が居たらこんな感じなのかな⋮
そんな事を思いながら、体を離す俺とリューディア。
﹁さあ!取引も終わった事だし、お前達も次の目的を果たしな!﹂
﹁そうするよリューディアさん。ではまた次の取引で﹂
﹁ああ!いつでも待ってるよ!マルガもマルコも、元気で顔を見せ
においでよ!﹂
﹁﹁ハイ!リューディアさん!﹂﹂
リューディアの言葉に、声を揃えて元気に返事をするマルガとマル
コ。そんな2人を見て、顔を見合わせて微笑む俺とリューディア。
俺達は挨拶を済ませ、リスボン商会、港町パージロレンツォ支店を
後にした。
625
愚者の狂想曲 18 登録手続き
リスボン商会、港町パージロレンツォ支店を後にした俺達は、リュ
ーディアが紹介してくれた、リスボン商会が経営している武器屋に
来ていた。
マルコの荷馬車2号に積まれている武器の数は、様々な種類の物が
あったが、合計で43本あった。
それに加え、盗賊団の頭のギルスから奪った名剣フラガラッハと、
その手下の巨躯の男、ホルガーが使っていた、巨大なバトルアック
スがあった。それらを品定めしていた武器屋の店主が、俺達に振り
返る。
﹁いや∼なかなかの数だね。買取価格だが⋮まず、沢山ある黒鉄の
Cランクの武器だが、一本銀貨8枚、43本合計で、金貨3枚と銀
貨44枚。それと、この大きなバトルアックスは、Bランクのマジ
ックアイテムだな。買取価格は金貨3枚。そして、最後のこの剣だ
が⋮これはかなりの物だな!これほどの武器は、この大都市、港町
パージロレンツォでも、そうそうお目に掛れない。Aランク上のマ
ジックアイテムだ。買取価格は⋮金貨150枚と言った所だな!総
合計は、金貨156枚と、銀貨44枚でどうだ?﹂
にこやかに言う武器屋の店主が提示した金額に、紅茶を出して貰っ
て飲んでいた、俺とマルガとマルコの3人は、同時にプーっと紅茶
を吹き出した。マルガの膝の上で抱かれていた白銀キツネのルナは、
俺達に驚いて飛び上がる。
﹁﹁﹁金貨156枚と銀貨44枚!?﹂﹂﹂
余りの大金に、思わず3人で声を揃えてしまった。白銀キツネのル
626
ナの顔は、俺達3人を急がしそうに見て動いている。
﹁き⋮金貨156枚って、は⋮蜂蜜パンなら何個食べれるんですか
ご主人様!?﹂
﹁ど⋮どれくらいだろう!?蜂蜜パン1個、銅貨7枚位だから⋮え
っと⋮えっと∼﹂
﹁と⋮兎に角一杯山ほど食べれるよ!葵兄ちゃんにマルガねえちゃ
ん!﹂
何故か物の価値を蜂蜜パンで換算するマルガに、真面目に答え様と
する俺に、ツッコミを入れるマルコ。
マルガは山ほど食べれると聞いて、﹃お腹一杯で破裂しちゃいます
∼﹄と、言いながら、カクカクした壊れかけのロボットの様な変な
動きで、アワアワしている。マルガの尻尾も奇妙な動きをしていた。
俺はそんなマルガに、﹃大丈夫!破裂する前に食べるのを辞めれば、
破裂しないよ!それに一度に全部食べる必要は無いよ!?﹄と、再
度真面目に言う。
マルコは、﹃と⋮兎に角、蜂蜜パンから離れようよ!⋮羊の肉のス
ープ大盛りで話をしない?﹄と、冷静なのかどうなのか解らない、
更に話がややこしくなる様な爆弾を投下する。
﹁落ち着くのだ皆の衆!とりあえず、一度深呼吸をしよう!﹂
俺の言葉に、ウンウンと頷くマルガとマルコ。俺達は大きく深呼吸
をする。
ス∼ハ∼。ス∼ハ∼。ス∼∼∼ハ∼∼∼。うんうん、落ち着いてき
た!
マルガとマルコも、俺と同じ様に、落ち着きを取り戻した様だった。
名剣フラガラッハが、良いマジックアイテムである事は、霊視して
解っていたが、まさかA上ランクのマジックアイテムだったとは⋮。
627
俺が一番多くお金を持ったのは、金貨60枚が最高だ。
それも、この世界に持って来れた、ダイアの指輪を売った時に得た、
金貨60枚が最高だった。
その金貨60枚も、色々買って、半分近くになったのを、半年間頑
張って、やっとマルガを買える様に迄になったのだ。
マルガのお母さんの形見のルビーの金貨50枚の査定にも驚いたけ
ど、その3倍の価格。
金貨156枚もあれば、家を買って、慎ましく生活し、贅沢をしな
ければ、住民登録をして市民権を得て、税金で半分払ったとしても、
15年は働かずに生活出来るだろう。それだけの大金なのだ。
﹁ご主人様。Aランクのマジックアイテムと言うのは、こんなに高
額で取引される物なのですか?﹂
落ち着きを取り戻してきたマルガは、俺に質問をして来た。それを
聞いていた武器屋の主人が、俺の代わりに説明をしてくれる。
武器や防具には、それぞれランク付けがある。一般的にはCからS
迄のランクが知られている。
Cランクは、一般的な材料で作られ、魔法で強化されていない物。
一般的に広く出回っていて、初心者から中級者、一般の兵士達が持
つ武器である。安価な黒鉄製の物が殆どで、価格は銀貨10枚から、
高くて銀貨30枚程度。
Bランクは、一般的な材料で作られ、魔法で強化された物である。
Cランクの物を、魔法で強化しただけと思って差し支えはない。魔
法で強化されているので、切れ味や防御力は、Cランクを軽く凌ぐ。
兵隊の隊長格や、上級者が主に持つ装備。価格は金貨3枚から、高
くて金貨15枚。
628
Aランクは、特殊な材料を名工が鍛え上げ、上級な特殊魔法で強化
され、作られた物だ。当然BランクやCランクなどとは比べ物にな
らない、一線を越えた性能を秘めている。滅多に出る品物では無い
らしく、持っているのは貴族や、力のある騎士団の幹部クラスなど、
ごく一部の者に限定される。価格は金貨100枚から、高い物で、
金貨200枚。
Sランクは、世界に滅多に現存しない幻の材料を、天使や悪魔、妖
精や精霊と言った、人や亜種以上の力を持った者達が作ったとされ
る物である。国宝級の物ばかりであり、当然所有しているのは王族
等である。
伝説や物語に語られる様な物ばかりで、価格は最低でも金貨100
0枚はすると言う。高いものは、価格が付けられないと言う事らし
い。
その説明を聞いているマルガとマルコは、目を丸くして、A上ラン
クである名剣フラガラッハを見つめていた。
ちなみに、俺の持っている召喚武器の銃剣2丁拳銃のグリムリッパ
ーは、Sランクのマジックアイテムらしい。
以前ギルゴマに鑑定して貰った時に、Sランクであると判明した。
確かに威力は凄いし、現にあのギルスが操る名剣フラガラッハを、
受け止めても傷ひとつ、ついてはいなかった。
そして、俺が通常時にグリムリッパーを使わないのにも、そこに理
由がある。
Sランクのマジックアイテムになると最低金貨1000枚の価値は
ある。それを主立って使うと、Sランクのマジックアイテムを持っ
ていると噂され、きっと奪いに来る輩がいると、ギルゴマに注意さ
れたのだ。
629
しかも、このグリムリッパーは召喚武器。召喚武器は持ち主と武器
との間で、魂の契約をする。
魂の契約をする事で、体の一部として、召喚が出来る様になるのだ。
当然使う事が出来るのは、契約をした本人意外は使えなし、契約の
解除は、本人が死亡した時のみなのである。
なので、Sランクのマジックアイテムのグリムリッパー目当てに、
俺の命を狙う奴等が増える事を防ぐ為に、ここぞと言う時以外は、
使わない様にギルゴマに言われているのだ。だから普段は、普通の
剣を使っている。
﹁で、どうするんだ?提示した金額で、売ってくれるのか?﹂
戸惑って困惑していた俺達を見ていて、軽く呆れながら聞いてくる
武器屋の店主。俺達は気恥ずかしく苦笑いしていた。
﹁あ⋮えっと、このフラガラッハは売らないでおきます。俺が使お
うと思っているので﹂
﹁⋮そうか⋮それは残念だが、仕方無いな!じゃ∼それ以外だと買
取価格は、金貨6枚と銀貨44枚なるが、それでいいか?﹂
﹁ええ、それでお願いします﹂
俺が肯定して頷くと、武器屋の店主は取引成立の証明である羊皮紙
を出す。俺はそこに署名して、取引を成立、終了させた事を示す。
それを確認した武器屋の店主が、三級奴隷を呼んで、マルコの荷馬
車2号から商品を降ろして行く。
﹁それから、追加で作って貰いたい物があるのですが﹂
俺は武器屋の主人に説明をする。
作って貰いたかったのは、マルコの荷馬車2号に、俺の荷馬車と同
じ、行商中に水が腐らない様に、青銅製の銅瓶を4つ程注文したか
ったのだ。取り付けも含めて、武器屋の主人にお願いする。ついで
に、名剣フラガラッハの鞘も作って貰う事にした。武器屋の主人は、
630
俺の荷馬車に積まれている青銅製の銅瓶を参考にして、見積りを立
ててゆく
﹁そうだな⋮青銅製の銅瓶4つと、取り付けを含めて⋮銀貨60枚
って所だな。その名剣の鞘は、銀貨3枚もあれば、普通のやつは作
れるだろう。先程の取引の分から、差し引きして⋮金貨5枚と銀貨
85枚を支払おう﹂
俺は頷き、武器屋の店主から、代金を貰う。
﹁じゃ∼品物は出来上がったら付けに行くから、宿が決まったらこ
っちに教えてくれ﹂
俺達は武器屋の主人に挨拶をして、次の目的地に向かう為に、荷馬
車に乗り込んだ。
時刻は日中過ぎ、武器屋で少し時間をかけすぎた様だった。
次の目的地である、港町パージロレンツォの役所に、商取引の許可
申請をする為に向かっている。
﹁でもご主人様。取引でお金が儲かって良かったですね!港町パー
ジロレンツォの領主様からも、謝礼として金貨20枚も貰えていま
すし!﹂
マルガが俺に寄り添いながら、可愛い微笑みを俺に向けてくれる。
自分の事の様に喜んでくれるマルガが愛おしすぎる!
﹁そうだね∼。今回はかなり儲かったね。こんなに一気に収入が増
えたのは初めてだよ﹂
631
その言葉を聞いて、嬉しそうにしているマルガの尻尾はフワフワ楽
しげだ。
確かに儲かった。謝礼として金貨20枚、リューディアとの取引で、
金貨5枚と銀貨65枚、武器屋の主人との取引で、金貨5枚と銀貨
85枚。元手の掛かった物もあるが、それを除いても大収穫だ。こ
の利益の他に、名剣フラガラッハも手に入れている。
ま⋮あれだけの事があって、命を掛けてギリギリだったんだしって
感じもある。
俺はギルス達相手に、次は勝てる気が全くしない。もし、ギルス達
に次に会う事があれば、今度はあの捨て台詞通りに、油断無く、一
瞬で切り刻まれて死ぬだけであろう。
正に、行商や冒険はハイリスク、ハイリターンな事を実感する。
今日は富豪だが、明日には一文無しなんて事は、平然と起こりうる。
⋮俺はもう一人じゃないんだから、マルガやマルコの為にも、気を
引き締めないと。
俺はそんな事を考えながら、馬のリーズの手綱をギュッと握り締め
ていると、マルガがクイクイと俺の袖を引っ張る。
﹁ご主人様!港町パージロレンツォの役所と言うのは、彼処ですか
?﹂
マルガは、建物を指さしながら、見つけましたよご主人様!偉いで
すか?褒めてくれますか?と、言った感じで、期待の篭った瞳で俺
を見ている。そんなマルガを微笑ましく思い、優しく頭を撫でると、
嬉しそうに微笑むマルガ。当然、尻尾はブンブンです。はい。
﹁そうだね。多分あれが港町パージロレンツォの役所だね﹂
マルガの指さした建物はレンガ作りの大きく豪華な建物で、フィン
ラルディア王国と、バルテルミー侯爵家の旗を高らかに掲げている。
その装飾の施された、丈夫そうな門の前には、10名近い鎧を着た
632
兵士が護衛している。そんな兵士達の間を、沢山の人々が出入りし
ている。
俺達は邪魔にならない所に荷馬車を止めて、兵士に少しのお金を渡
し、荷馬車を見ていて貰う様に頼み、役所の中に入って行く。役所
のロビーに入った、マルガとマルコは、人の多さに目を回しそうに
なっていて、そんな2人を見て、思わずプっと笑ってしまう。そん
な俺に若干、不貞腐れているマルガとマルコは、少し拗ね気味で、
可愛いほっぺたをプクっと膨らませていた。
﹁と⋮兎に角、目的の商取引の許可申請を受付している、公証人が
居る所まで行こうか﹂
苦笑いしている俺を見て、仕方ありませんね!許してあげます∼!
的な、雰囲気を醸し出しているマルガとマルコを連れて、商取引の
許可申請を受付している、公証人が居る所まで来ると、そこには1
00人以上の人が並んでいて、あっけに取られているマルガとマル
コ。
﹁こ⋮こんなに人が並んでいるんだね⋮葵兄ちゃんこれ全部、商取
引の許可申請を受付を待っている人なのかな?﹂
﹁多分そうだね。それだけ、行商や商売を始めたい人が多いんだよ﹂
﹁なるほどです∼。でも、何故商売を始めるのに、許可がいるんで
すか?﹂
人の多さにげんなりしつつもマルガが聞いてきた。
このフィンラルディア王国に限らず、商売を始めるのに、許可が必
要な国は多い。
許可を取らずに、個人で取引が出来る数量が、その国や領地によっ
て決まっているのである。
許可を得ずに個人で取引出来る最大の量は、一番小さいカートタイ
プのキャリアーが限度。水瓶2つを乗せると、何も積めなくなって
633
しまう程度の物だ。
それで商売をしている人もいるが、そういう人々は遠出をせずに、
近くで採れたり作った物を、近くの村や街に売る程度。大きくお金
は稼げずに、その日の日銭を稼ぐので精一杯の量が限界だ。
許可を得ると、その制限が緩くなり、荷馬車の大きさに関わらず、
荷馬車2台迄を使って、行商や商売を行う事が出来る様になる。店
は1軒迄構える事が出来る。
それ以上の数の荷馬車や店を構えるには、商組合の入会が必須にな
ってくる。
商組合に入ると、その制限が無くなり、何台でも荷馬車を使う事が
出来、店も何件でも構える事も可能なのである。
﹁ま∼後は、税金の徴収をしやすくしたり、禁止されている物を取
引していないか監視したり、申請に来た人物が悪い奴じゃないかを、
確認したりする為って名目も有るんだけどね﹂
俺の説明に、なるほどと頷いているマルガとマルコ。
﹁でもね、それはあくまでも名目さ。現実は違うんだけどね﹂
﹁それはどういう事なんですか?ご主人様﹂
﹁マルガとマルコ。列の前を見て。数は少ないけど、2人で一緒に
並んでいる人がいるでしょ?﹂
俺が視線を前方に移すと、数は少ないが、2人で並んでいる人が居
る事に、気がつくマルガとマルコ。
そして、一人で並んでいる人の大半が、この今並んでいる受付で、
申請して帰るのに対し、2人で並んでいる人は、隣の受付に移動し
て行くのが解る。
﹁葵兄ちゃん、あれはどういう事なの?それと、隣の受付では何を
してるの?﹂
マルコは不思議そうに俺に言うと、マルガもウンウンと同じ様に頷
634
いている。
﹁何⋮すぐに解るよ﹂
俺の含み笑いを見て、戸惑いながら顔を見合せているマルガとマル
コ。結構な時間待って、やっと後3人迄来た所で、前の話し声が聞
こえてきて、それを聞いていたマルガとマルコは
﹁し⋮申請して許可が降りるまで、最低90日も掛るの!?﹂
﹁まあね。最低90日だから、もっと掛る可能性も有るって事なん
だけどね﹂
その言葉に、すぐに許可を貰えて、俺と同じ事が出来ると思ってい
たマルガとマルコは、シュンとしている。そんな2人の頭を優しく
撫でながら、大丈夫だからと言うと、キョトンとした顔をしている
マルガとマルコ。そして、いよいよ俺達の順番が回ってきた。受付
の公証人の前に3人で立つと、公証人は俺達を見て若干眉をピクっ
と上げる。
﹁こんにちわ、商取引の許可申請の手続きをお願いします﹂
﹁⋮解った。ネームプレートを出せ。それと、この羊皮紙に必要事
項を書け﹂
そう言って羊皮紙を俺の前に出す公証人
﹁あ、僕が商取引の許可申請の手続きをしに来たのでは無いんです。
この子達2人の商取引の許可申請の手続きをお願いします﹂
俺がそう説明して、マルガとマルコを公証人の前に出すと、公証人
は眉をピクピクと動かし少し呆れながら、軽く貯め息を吐く。
﹁亜種の一級奴隷の少女に、成人前の少年か⋮まあいい、2人共ネ
ームプレートを出せ。そしてこの羊皮紙に必要事項を書け﹂
淡々と流れ作業の様に言う公証人の言われるまま、マルガとマルコ
635
はネームプレートを公証人に渡す。マルガは羊皮紙に必要事項を書
いていく。マルコはまだ字が書けないので、マルガが代わりに記入
して行く。ネームプレートを見て、羊皮紙に書かれたのを確認した
公証人は
﹁では、では手続き費用、2人分で銀貨20枚を支払え﹂
俺はアイテムバッグから銀貨20枚を取り出し、公証人に渡す。銀
貨を確かめる公証人。
﹁確かに銀貨20枚。これで商取引の許可申請の手続きは終わりだ。
後は此方で、お前達に許可を与えて問題ないか審査する。最低90
日は掛かる。審査結果や審査状況は別の受付で聞く事が出来る。以
上だ。次﹂
そう言って、俺達を帰らそうとする公証人の前に、俺は再度立つ。
﹁待って下さい公証人様。僕はこの2人の紹介者として、一緒に来
ました﹂
その言葉を聞いた公証人は、ピクっと眉を動かし、俺を少しきつい
目で見る
﹁紹介者?⋮ネームプレートを見せてみろ﹂
公証人の言われる通りに、俺はネームプレートを提示する。公証人
は俺のネームプレートを見て
﹁フム⋮確かに、紹介者に必要な、商取引許可登録済の者の様だな。
それで、お前はこの2人を推薦し紹介すると言うのだな?﹂
﹁はい。この2人は真面目で、善なる者です。商取引許可が貰えれ
ば、きっと良き商人になる事を、商取引許可登録済の者として、証
明します﹂
俺は公証人にそう告げると、右手の拳を少し開け、その手の中に握
636
っている物を公証人に見せる。
それを見た公証人の表情が一変する。ニヤっと口元を上げ少し笑うと
﹁⋮なるほど⋮お前は良き商人の様だな。良き商人であるお前が推
薦し、紹介するのであれば、間違いはないだろう﹂
﹁ありがとうございます公証人様﹂
俺と公証人は、笑顔で右手で握手を交わす。すると、書き込まれた
マルガとマルコの羊皮紙に、バン!と少し大きな音を立てて、判子
らしきものを押す。
﹁此れを持って、隣の受付に行け。その後は隣で説明してくれる。
以上!次!﹂
公証人はマルガとマルコに判子の押された羊皮紙を渡すと、次の申
請者の対応を始める。
判子の押された羊皮紙を渡されたマルガとマルコは、訳が解らずに
戸惑っていた。
そんなマルガとマルコを連れて、少し人気の少ない場所まで移動す
る。
﹁ねえ葵兄ちゃん!オイラ達の羊皮紙に判子押されて、隣の受付に
行けって言われたけど、どういう事なの?﹂
﹁それはね、マルガとマルコが、審査に合格したって事だよ﹂
﹁でもご主人様。審査には最低90日掛るのではないのですか?﹂
﹁普通はね。でも商取引許可登録済の者が紹介、推薦して、それを
公証人が認めれば、特例として、審査を合格した事にして貰えるん
だよ﹂
俺はマルガとマルコに説明をする。
通常であれば、最低90日以上の審査期間がある。しかし、最低9
0日であって、どれ位の期間が実際に掛るかは解らない。でも、商
取引許可登録済の者が、紹介し推薦すれば、特例が認められる。
637
だが、商取引許可登録済の者が紹介が推薦しただけじゃ、許可は貰
えない。
俺はあの公証人に、賄賂を提示して、あの公証人がその金額で納得
したので、許可が貰えた事を説明する。それを聞いて困惑している
マルガとマルコ
﹁わ⋮賄賂って⋮それって⋮不正じゃん!﹂
マルコの言葉に、ウンウンと頷くマルガ。
﹁確かにね。でもあの方法以外で、商取引許可は降りないんだよ﹂
﹁え⋮どういう事なのですか?ご主人様﹂
﹁そのままの意味だよ。賄賂を渡さないと、よっぽどの事が無い限
り、商取引許可は降りない。回りを見てみてよマルガにマルコ。沢
山の人がいるだろう?こんな沢山の人が1日に全部商人になったら、
どうなると思う?﹂
俺の質問に、う∼んと唸って居るマルガとマルコ。唸っている様子
も微笑ましい。そんな中マルガが、ハイ!と右手を上げて
﹁商人さんが一杯になります!﹂
﹁そうだね。商人さんが一杯になると、取引は活発になるかもしれ
ないけど、数が余りにも多くなると、商人どうしの潰し合いや過度
の競争、その中で商人として普通の取引で生活出来無くなった商人
は、きっと不正行為に走る。取引禁止の品や、商人を装った野盗と
かね。そうなると、治安が悪くなるだろう?そんな事にならない為
に、申請者を篩いに掛けて、賄賂を渡してくる人のみに、商取引許
可を降ろしているんだよ﹂
﹁じゃ⋮賄賂を渡さなかった人達は⋮ずっと待ってもは商取引許可
は降りないの?葵兄ちゃん﹂
俺は静かに頷くと、憤っているマルガとマルコ
638
﹁ご主人様の言う事は解りますが⋮その事を知らな人や、お金を持
っていない、賄賂を渡せない人達が可哀想です∼﹂
﹁ま∼ね。この事を公表しないのは、申請者をもっと篩いに掛けた
い目的もあるんだ。それと、申請に来た初対面の奴を、信用するの
は難しいだろ?だから賄賂を渡す事で、これだけのお金を出せるだ
けの人物であると言う事を、証明しているんだよ。ちなみにこの方
法は、この国も、善政をしく事で有名な、バルテルミー侯爵家も黙
認している。大ぴらに言ってないだけでね﹂
それを聞いて更に憤っているマルガとマルコ
﹁ま∼不正は悪い事だけど、それが全てに悪い方に向かうとは限ら
ないって事だね。重要なのは、それがどんな理由があってそうされ
ているのかきちんと理解し、その中でいかに行動すれば最善の結果
が出せるかを考えないとダメって事なんだよ。自分で考え、責任を
もって行動する。此れが自己責任の基礎なんだ﹂
俺の話を黙って聞いていたマルガとマルコは、真剣な面持ちで、コ
クっと静かに頷いている
﹁ま∼偉そうに言ったけど、この言葉も、ギルゴマさんの受け売り
なんだけどね。俺も勉強中だし﹂
俺の苦笑いを見て、アハハと楽しそうに笑うマルガとマルコ
﹁所で、ご主人様。あの公証人様に、幾ら位の賄賂を渡されたので
すか?﹂
﹁⋮金貨2枚だよ﹂
﹁き⋮金貨2枚!?高っけ∼!!﹂
﹁まだ安い方だよ。通常なら、紹介者に払う手数料が、申請者1人
に対して金貨1枚。あの公証人に払う賄賂が、一人銀貨50枚が今
の相場かな?本当なら、金貨3枚掛かっていたんだからね﹂
それを聞いたマルガとマルコは、顔を見合わせながら、少し呆れて
639
いる様であった。
﹁じゃ∼あの公証人に渡す賄賂は、金貨1枚で良かったんじゃない
の?葵兄ちゃん﹂
﹁うんそうなんだけどさ⋮マルガは亜種、マルコは成人前の少年。
申請に歳は関係ない事になってるけど、慣行で成人していないうち
はって、風潮があるからね。マルガは⋮言い難いけど、亜種は一部
を覗いて、差別を受けているだろう?亜種の行商人が少ないのは、
その辺なんだよ。だから、賄賂を相場の2倍払ったんだ。金貨2枚
で足りるか心配だったけど、結果許可は降りたから良かったよ﹂
俺がそう言って微笑むと、マルガとマルコは、顔を見合わせて、申
し訳なさそうに俺を見る。
﹁そうなんだ⋮オイラ達のせいで、余計にお金掛かっちゃったんだ
ね⋮金貨2枚⋮行商1回分の利益位のお金使わせちゃってごめんね
⋮葵兄ちゃん﹂
そう言うとマルコはシュンとして俯いている。その隣でマルガも同
じ様にシュンとなって俯いてしまった。
﹁⋮別にいいよ。マルガは俺の大切な一級奴隷だし、マルコには投
資してあげるって約束したしね。こんな事で、気を使わなくていい
よ﹂
そう言って優しくマルガとマルコの頭を撫でてあげると、少し涙目
になって、嬉しそうにしているマルガとマルコが、なんだか愛おし
い。
﹁さあ!彼処の受付に行って、きちんと商取引許可を貰っておいで
!﹂
そう言って微笑むと、満面の笑みのマルガはマルコは
640
﹁ハイ!ご主人様!行ってきます!﹂
﹁うん!行ってくるよ葵兄ちゃん!﹂
元気良くそう返事をすると、嬉しそうにテテテと走って受付に向か
って行く。暫く待っていると、ニコニコしながらマルガとマルコは
帰って来た。
﹁おかえり。マルガもマルコも、ネームプレートを開いてみて﹂
俺の言葉にマルガとマルコはネームプレートを開く。
﹃名前﹄ マルガ
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ワーフォックスハーフ
そら
葵 空 遺言状態 あおい
130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63
﹃年齢﹄ 13歳
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
所有者死亡時奴隷解放
641
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
と、出ている。マルコの方も、
﹃名前﹄ マルコ
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ 人間族
145㎝ 体重 40㎏ ﹃年齢﹄ 11歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ イケンジリ
﹃その他1﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
と出ていた。
﹁無事に商取引許可を登録出来た様だね。これで、マルガもマルコ
も、俺と同じ事が出来るよ。おめでとうマルガにマルコ﹂
﹁﹁やった∼∼!!﹂﹂
嬉しそうに声を揃えて言うマルガとマルコは、軽く飛び上がって、
642
ハイタッチをしている。
そして、マルガとマルコは、自分のネームプレートを見て、ニマニ
マした顔をして、お互いのネームプレートを見せ合っては、またニ
マニマした顔をするというのを繰り返している。
マルガもマルコも、そんなに見つめていたら、ネームプレートに穴
が開いちゃうYO!
心の中でこっそりツッコミを入れておいた俺は、マルガとマルコの
頭を撫でながら
﹁じゃ∼次に向かおうか!﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
﹁うん!葵兄ちゃん!﹂
俺達は、港町パージロレンツォの役場を出て、荷馬車に乗り込んだ。
俺達は次の目的地、港町パージロレンツォの冒険者ギルドに向かっ
ている。
空を見ると、日がかなり傾いてきている。役場では結構な時間待た
された事もあって、もう既に夕刻に近かった。町の人々も、そろそ
ろ夕食の支度を始めるのか、露天や商店に、女性が買い物をしてい
る姿が多く見られる。
少し肌寒くなって来たのを感じながら、荷馬車を進めると、港町パ
ージロレンツォの冒険者ギルドが見えて来た。風格のある古めの大
きな建物であるが、レンガ作りのその建物の風格も相まって、少し
威厳の感じられる作りになっている。その入口の両側には、右側に
冒険者ギルドの創設者である、勇者クレイオスの銅像と、左側には
その勇者クレイオスの妻にして、一番の使者であった使徒エウリュ
643
ビアの銅像が立てられている。
俺達は荷馬車を道の端に止め、兵士にお金を渡して、荷馬車の番を
頼むと、大きな2英雄の銅像を眺めながら、冒険者ギルドに入って
ゆく。そのロビーに入った時、マルガとマルコは感嘆の声を出す。
この町に来てから、人の多い所は見て来たが、冒険者ギルドの人の
多さには勝てないであろう。
役所や官邸は人間族が多い。町中を歩いていると、亜種もいるが、
数は少ない様に感じる。
しかし、この冒険者ギルドには、沢山の種類の亜種が忙しそうに出
入りしていて、マルガやマルコが今迄見た事の無い様な、亜種の種
族が沢山いる。
好奇心旺盛なマルガはキョロキョロしながら実に楽しげで、マルコ
も興味津々で辺りをキョロキョロしている。そんな2人にムフフと
なっている俺は、2人を連れて目的の受付のある所まで来た。
そして、そこに並んでいる人々の多さを見て、盛大に溜め息を吐い
たマルガとマルコ。
﹁こ⋮これ⋮全部、冒険者に登録に来ている人なの葵兄ちゃん?﹂
﹁うんそうだよ。冒険者ギルドの登録は、手数料だけ払えば、誰だ
って出来るからね。だから、人が多いんだよ﹂
﹁沢山の列がありますし、一つの列に150人は並んでいますよね
⋮凄いですご主人様∼﹂
呆れながら目を丸くしているマルガとマルコを連れて、列の最後尾
に並ぶ。
﹁ここに居る人全員が冒険者になって、戦闘職業に就くんですかご
主人様?﹂
﹁だろうね∼。冒険者ギルドに登録すると、仕事を受けれるし、こ
の港町パージロレンツォのすぐ傍には、冒険初心者御用達のラフィ
644
アスの回廊もあるからね。ラフィアスの回廊を探索すれば、普通に
働くよりも沢山のお金が手に入るしね。ま∼命がけな事だから、そ
れ位の見返りが無いと、やってられないかもしれないけどね﹂
苦笑いする俺を見て、確かにと頷いているマルガとマルコ
﹁でも、儲かるって言っても、どれ位儲かるものなの葵兄ちゃん?﹂
﹁う∼んそうだね∼。ま⋮標準的な6人パーティーを組んで、一日
ラフィアスの回廊の一階を探索して、戦闘したとして⋮一人頭、大
体銀貨6枚位の儲けかな?﹂
﹁ええ!?一日銀貨6枚も儲かるの!?普通に働いている人の3倍
はあるよね?﹂
﹁確かにね。地下二階や地下三階を探索すれば、5倍から8倍、銀
貨10枚から銀貨16枚は儲かるね﹂
マルガとマルコは顔を見合わせて、凄いね∼と言い合っている。
﹁でも、地下に行くほど敵は強くなるし、死ぬ確率も高い。怪我も
するだろうし、休養も長めに必要だったりもするからね。確かに、
元手も少なく儲けられるけど、毎日沢山の人がラフィアスの回廊で
死んだり、怪我で冒険者を引退する人も一杯居る。その事も忘れて
はダメだね﹂
俺の話を聞いて、静かに頷くマルガとマルコ。ほんと素直なんだよ
な∼この2人。
そして、かなりの時間待ってやっと俺達の順番が来た。
﹁えっと、この子達の冒険者ギルドの登録をお願いします﹂
俺がそう言うと、マルガとマルコのネームプレートの提示を求めら
れる。それを確認した受付。
﹁では、登録料一人銀貨10枚頂きます﹂
俺がアイテムバッグからお金を取り出し渡すと、お金を確認してい
645
る受付
﹁確かに頂きました。これで登録は終わりです。後で確認して下さ
い。では、冒険者ギルドの事を簡単に説明します﹂
そう言って説明をしてくれる受付。
冒険者ギルドに登録した冒険者には、ランクが付けられている。
初めての登録時は、一番下のランクのアイアンである。ランクは一
般的に下から、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチ
ナ、ダイアモンド。
上のランクの方が、報酬の良い依頼を受けれる。当然依頼の難易度
も上がる。
ダイアモンドの上には、レインボーダイアモンドと言うランクも有
るのだが、それぞれの所属している国と、その国の冒険者ギルドの
両方に認められた者のみに、与えられる最高の高貴なランクである。
現在はフィンラルディア王国には、レインボーダイアモンドのクラ
スの人は2人しか居ないらしい。
昇格は、依頼をこなして貰えるポイントを、規定量満たした上、冒
険者ギルドが審査し合格すれば、上のランクに昇格出来る。
説明を聞いているマルガとマルコは、コクコクと頷いている。
﹁これで説明は終わりですが、もし解らない事があれば、一階の受
け付けで聞いて下さい。それから、チームを組織されるなら、その
登録も可能です。何処かのチームに入ったり、作ったりしたら、ま
た此方にお越しください。登録いたしますので﹂
説明が終わって、ネームプレートの返却を受けるマルガとマルコ。
俺達は少し人気のない壁際まで来て、マルガとマルコのネームプレ
ートを確認させる。
﹃名前﹄ マルガ
646
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ワーフォックスハーフ
あおい
そら
葵 空 遺言状態 所
130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63
﹃年齢﹄ 13歳
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃その他2﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹃その他3﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
と、なっている。マルコの方も、
﹃名前﹄ マルコ
﹃LV﹄ LV1
647
﹃種族﹄ 人間族
145㎝ 体重 40㎏ ﹃年齢﹄ 11歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ イケンジリ
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
と、なっていた。
マルガもマルコも嬉しそうに、ニマニマしながらネームプレートを
見ている。そんな2人の頭を撫でると、ニコっと極上の笑みを返し
てくる。そんな2人にニマニマしていると、昼刻の6の時を告げる
鐘の音が聞こえてきた。
この港町パージロレンツォの様な大都市では、時刻を告げる鐘の音
が鳴る。
この世界は、地球と同じ様な時間で存在していて、一日の長さも地
球とほぼ変わらないだろう。
648
時刻を告げる鐘の音は、地球で言う午前6時に、その日最初の時刻
を告げる鐘が鳴る。
そして、その日の終わりは、地球で言う所の午後6時が最後なので
ある。夜は鳴らさない。
1刻置き︵1時間置き︶に鐘は鳴らされ、合計で12回鳴らされる。
ちなみに、朝刻は午前、昼刻は午後を指す。
朝刻1の時︵午前6時︶、朝刻2の時︵午前7時︶、朝刻3の時︵
午前8時︶、朝刻4の時︵午前9時︶、朝刻5の時︵午前10時︶、
朝刻6の時︵午前11︶が、朝刻︵午前︶をさしている。
昼刻0の時︵午後12時︶、昼刻1の時︵午後1時︶、昼刻2の時
︵午後2時︶、昼刻3の時︵午後3時︶、昼刻4の時︵午後4時︶、
昼刻5の時︵午後5時︶、昼刻6の時︵午後6時︶をさす。
昼刻の6は、地球で言う午後6時と言う事だ。
﹁もう昼刻の6の時になってしまったね﹂
﹁そうだねー。結構並ぶのに時間掛かっちゃったもんね葵兄ちゃん﹂
﹁ご主人様。此れからどうされるのですか?﹂
﹁とりあえず今日は此処までにして、宿を取って、夕食を食べに行
こう。戦闘職業は、明日職業訓練所に行く事にしよう﹂
俺達は、冒険者ギルドを出て、以前泊まっていた事のある宿屋に向
かう。
辺りは夜の帳がそろそろ降りて来るだろう。町を行き交う人々も、
足早に家路に向かっていた。
そして荷馬車を進めて行くと、一件の宿屋が見えてきた。その宿屋
の前まで行くと、宿屋の受付が椅子に座っていた。俺達を見つけて、
椅子から立ち上がった受付は、声を掛けてきた。
﹁お兄さん宿泊かい?﹂
﹁うん、そうなんだ。60日位の宿泊を考えてるんだけど、2人部
屋1室と、1人部屋1室開いてる?それと、馬2頭と、荷馬車2台
649
もね﹂
俺がそう伝えると、受付は羊皮紙を見て、
﹁大丈夫だよ。2人部屋1室60日間で、銀貨30枚。1人部屋1
室60日間で、銀貨18枚。馬2頭と荷馬車2台、60日間で、銀
貨24枚。合計72枚だね。前金で貰えるなら、銀貨65枚に負け
るけど、どうする?﹂
﹁じゃ∼前金で払うから、銀貨65枚でお願いするよ﹂
俺の言葉に、にこやかに笑う受付は、俺から銀貨65枚を受け取る
と、部屋の鍵を渡して来た。
﹁荷馬車と馬は、馬車場と馬小屋に回しておくよ﹂
そう言うと受付は三級奴隷を呼ぶ。足元に平伏している三級奴隷に
荷馬車を移動させる様に命令している。
俺は1人部屋の鍵をマルコに渡し、受付に後の事を任せ、近くにあ
る食堂に向かう。
俺達が向かっている食堂は、以前から俺が利用していた食堂で、価
格も良心的だが、味も中々で人気の有る食堂だ。
食堂の中に入ると、沢山の冒険者や商人、旅人達が酒を飲みながら、
楽しそうに食事をしている。
その様子を見て、好奇心旺盛なマルガは、嬉しそうにキョロキョロ
している。マルコも同様だ。
ちょうど空いていた4人掛けのテーブルに座り、おすすめの品を3
人分と、白銀キツネのルナの分を注文する。出された水をゴクっと
飲んで、俺達は一息付いていた。
﹁今日は色々行ったから、マルガもマルコも疲れたんじゃない?﹂
﹁そうだねー。結構待たされたから、そう言う意味で少し疲れたか
もだよ葵兄ちゃん﹂
﹁私もマルコちゃんと一緒ですご主人様﹂
650
人の多さにも、行列にも少しゲンナリしている、マルガとマルコは、
軽く溜め息を吐いて、苦笑いを浮かべていた
﹁ま∼大都市だからね。人が多いのは仕方無いよ。慣れる事だね。
明日はいよいよ戦闘職業に就けるね﹂
﹁そうなんだけど⋮オイラ、どんな戦闘職業が良いのか、悩んじゃ
っててさ。葵兄ちゃんから見て、オイラはどんな戦闘職業に就いた
ら良いと思う?﹂
﹁私も知りたいです!私にはどんな戦闘職業が良いですか?ご主人
様!﹂
マルコはう∼んと悩みながら、マルガはハイハイ!と右手を上げて
アピールしながら聞いてくる。
﹁う∼んそうだね∼。マルコは魔力が無いから、武器で戦う戦闘型
が良いと思うんだけど⋮﹂
﹁え!?オイラ魔力無いの!?⋮そうか∼やっぱり魔力は無いか∼﹂
俺の言葉に軽くショックを受けて、項垂れているマルコ。そんなマ
ルコの頭を撫で撫でしているマルガ。
以前、マルコを霊視した時に、マルコガ魔力が無い事を知っていた
のだ。
この世界で、魔法を使える者の人口は少ない。つまり魔力を持つ者
が少ない。
全人口の割合で言えば、20%程度しか魔法を使える者は居ない。
5人に1人の割合だ。
しかも、魔力を持つ子供は、遺伝では無く、無作為に生まれてくる
らしい。両親が魔力を持っていなくても、生まれる事もあれば、両
親が魔力を持っているのに、魔力が無い子が生まれたりもする。
魔法は実に様々な用途がり、純粋に戦争や魔物と戦う為の、攻撃や
防御と言った魔法。魔法具を作る為に使う製造魔法。傷を癒したり、
651
病気を直したりする癒しの魔法。契約事やルールを守らせる為の制
約魔法。
他にも色々あるが、代表的な所はこんな感じだ。
魔法は実に色々多用されているから、魔法を使える人⋮魔力を持つ
人は良い職業に就いて居る。
なので、家族に1人魔法を使える子がいたら、生活は保証されると
さえ言われている。
それ位、魔力を持つ人は重宝されているのだ。
俺は項垂れているマルコに、
﹁そんなに落ち込む事は無いよ。確かに魔力があると、一般の職業
や、戦闘職業に幅が出来るかもしれないけど、魔力が無くても、し
っかり勉強や修行、LV上げや、スキルのLVの上げをきちんとす
れば、一流と呼ばれる者になる事は可能だからね。それを証拠に、
あの殺されそうになった盗賊団の頭のギルスは、魔力を持たない奴
だった。魔力を持たなくても、あれだけ強くなれるって事さ﹂
俺の言葉に、パアアと表情を明るくするマルコを見て、マルガもホ
ッとしている。
﹁じゃ∼オイラは戦闘型のどんな職業が良いと思う?葵兄ちゃん﹂
﹁そうだね⋮マルコはまだ11歳で、此れから成長して行く事も考
えて、戦士系が良いと思う。だけどマルコは、結構高い投擲スキル
を持っているから、軽業を使うスカウトもいいかもね﹂
﹁スカウトって言ったら、エドモンさんと同じ職業だよね?具体的
にどんな戦闘職業なの?﹂
﹁スカウトはね、軽業を使う職業で、素早さを生かした攻撃をする
のが特徴だね。でも、一番の特徴は、ダンジョンで取得した宝箱や、
トラップの罠を解除したり、周辺を警戒したりと言った、特殊なス
キルを覚えられる。パーティーには必ず1人は欲しい職業だね﹂
652
マルコは腕組みしながら、う∼んと悩んでいた。
﹁じゃ∼私はどんな戦闘職業が良いですかご主人様!﹂
マルガは、ハイハイハイ!と右手を上げて、さっきより猛アピール
してくる。そんな可愛いマルガの頭を優しく撫でる。嬉しそうなマ
ルガの尻尾は、パタパタと振られている。
﹁マルガは、一番難しいね。種族スキルのワーフォックスの加護が
あるから、身体能力が若干強化されている筈なんだけど、元々の力
が弱いから、強化されていても、大きな力を出せていないんだと思
う﹂
マルガは元々力がない。華奢な13歳の少女なのだ。力がなくて当
然だ。
マルガの身体能力向上のスキルは、自分の身体能力を、1.5倍位
に上げてくれる能力。
普通の成人男性の力を1とすると、マルガの力の強さは、0.3位
だろう。そこに身体能力のスキルの効果が加わっても、0.45。
強化されても、普通の成人男性に及ばない。
それを聞いたマルガは、シュンとなって俯いてしまった。
﹁何も力だけが全てじゃないよ?恐らくだけど、マルガは力が無い
代わりに、俊敏性は高いと思う。早さを生かした戦い方をすれば、
補えるよ﹂
マルガは俺の言葉に、パアアと表情を明るくする。
マルガは力は無いが、俊敏性はなかなかの物だ。それが解ったのは、
行商中の野営の時だ。
テントを張っている時に、骨組みが外れてマルガ目掛けて倒れたの
だが、マルガは素早く躱して、俺の傍まで来ていた。
その時に、俊敏性に関しては、一般成人の男性より、優れていると
解ったのだ。
653
﹁じゃ∼私も、俊敏性を生かした、スカウトが良いのですかご主人
様?﹂
﹁そうだね∼。折角の長所を生かさない手はないよ⋮﹂
そう言いかけた所で、ふとある事を思い出した。
そう言えば、俺はマルガが魔力を持っているのか知らない。レアス
キルを持っているのは解っているけど、俺はマルガを霊視で見た事
が無い。
ネームプレートを見れていたので、魔力まで気に留めていなかった。
ネームプレートでは、魔力を持っているかどうかは解らない。俺は
マルガを霊視してみる。そしてビックリする。
ちょ⋮マルガ⋮魔力持ってるじゃん!
レアスキル持ちで、魔力もあって、超美少女のマルガ⋮
あの時、金貨20枚でマルガを買ったけど⋮本当なら、かなりの高
額で取引されていたかもしれない。
一級奴隷の相場は金貨15枚から50枚。だがそれは何の能力のな
い、普通の美女の場合だ。
レアスキル持ちで、魔力もあって、超美少女のマルガなら、亜種で
あっても、ひょっとしたら⋮金貨数百枚と言う金額が、ついていた
かもしれない。当然俺には、高嶺の花過ぎて、手が出せたかったで
あろう。
そんな事を染み染み思いながらマルガを見ていると、どうしたので
すかご主人様?と、言う様な顔をして、可愛い首を傾げている。
﹁どうやら、マルガには魔力があるみたい。だから魔法系の戦闘職
業も良いかもしれないね]
﹁ほ⋮本当ですか!?私に⋮魔力が⋮﹂
﹁え∼!⋮マルガねえちゃんいいな∼﹂
嬉しそうにしているマルガに、羨ましそうに言うマルコ。
654
﹁でも、マルガの敏捷性を生かさないのは勿体無いから、戦闘と魔
法を両方使える戦闘職業を、選んだほうが良いかもね﹂
﹁そんな戦闘職業あるんだ葵兄ちゃん﹂
﹁うん。だけど、普通の戦闘職業に比べて、LVが上がりにくいっ
て言う難点も有るけどね﹂
そう説明していたら、先程注文した料理が運ばれてきた。その美味
しそうな匂いに、マルガもマルコも、料理に目が釘付けになってい
た。マルガは涎が出そうな顔で、お決まりの、右手にナイフ、左手
にフォークをチャキーンと構え、はやく!はやく!と、尻尾を扇風
機の様に振り回している。
それを見て、俺とマルコが顔を見合わせて笑っていると、恥ずかし
そうに、可愛い舌をペロっと出しているマルガ。
﹁⋮とりあえず食べようか。戦闘職業は、明日訓練所に行ってから
決めよう。じゃ∼頂きますっと!﹂
﹁ハイ!いただきます!ご主人様!﹂
﹁うん!いただきます!葵兄ちゃん!﹂
嬉しそうに夕食を食べている、マルガとマルコを、ニマニマしなが
ら見ている俺も料理を食べる。
楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎて行くのであった。
宿屋に帰って来た俺達は、それぞれの部屋に戻って来て居た。マル
コは1人部屋。俺とマルガは当然2人部屋だ。1人部屋は3帖位の
広さで、2人部屋であるこの部屋は6帖位の広さだが、備え付けの
収納やテーブルに椅子もあり、ベッドも2つあるので、生活をする
655
には何も問題は無い。俺とマルガは、1人用ベッドをピッタリとく
っつけて、簡易のダブルベッドの様にしている。その理由は勿論、
マルガと一緒に抱き合いながら眠る為なのだ。
そんなベッドに腰を掛け、マルガの入れてくれた紅茶を、マルガと
一緒に飲んでいる。
﹁今日は色々ありがとうございましたご主人様﹂
﹁ううん⋮。マルガもマルコも、大切だからね。俺に出来る事はな
んでもしてあげるよ﹂
その言葉を聞いたマルガは、ギュっと俺の腕を掴み、嬉しそうにニ
コっと微笑んでいる。
そんなマルガに癒される俺は、もっとマルガの喜ぶ顔が見たくなっ
た。
﹁⋮マルガ、マジカル美少女キュアプリムちゃんの続き見る?﹂
ニコっとしてそう言うと、マルガは瞳を輝かせて嬉しそうな顔をす
る。
しかし、今日のマルガは、少し俺の予想を超えていた。
マルガは一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべると、視線を外し、切な
そうな表情を浮かべて俺を見る
﹁⋮ご主人様。ご主人様は、本当に私に優しくしてくれますね⋮。
私は⋮ご主人様にどんな事をお返ししたら良いのでしょう⋮。今日
だって⋮リーゼロッテさんと別れて、ご主人様はきつかったのです
よね?それなのに⋮私達の事を気にかけて⋮﹂
マルガは俺の胸に顔を埋め、キュっと抱きしめてくる。マルガのそ
の気持が嬉しくて、俺もマルガをギュっと抱きしめる。
確かにリーゼロッテと別れてきつかった。心が締め付けられている
のは、今も同じだった。
656
なるべくリーゼロッテの事を考え無い様にしていたつもりだったけ
ど、解っていたけど、どうやらその気持を完全に隠し切る程の度量
は無かった様だ。
マルガの事だから、きっと俺の事を思い心配し、ずっと俺の表情を
隠れて見ていたんだろうと思う。
その俺の事を考えて、想ってくれるマルガが、堪らなく愛おしい。
マルガを抱きしめるのにも力が入る。
﹁⋮ごめんねマルガ⋮心配させちゃったね。大好きだよマルガ⋮﹂
心の底から出るその言葉に、マルガは瞳を潤ませながら、抱きしめ
てくれる。
その優しさに包まれていると、マルガは顔を俺に向け、可愛いピン
クの唇を俺の唇に重ねる。
マルガの甘く柔らかい舌が、俺の口の中に入って来て、俺の舌を心
地良く味わう様に、舌を絡めてくる。
﹁⋮私も大好きですご主人様。今日は⋮私をリーゼロッテさんだと
思って、私を抱いて⋮犯して下さい。リーゼロッテさんみたいに、
胸も大きくありませんし、体つきも違いますが⋮せめて⋮﹂
そう言って、更に激しく俺の口の中で舌を絡めるマルガ。そんなマ
ルガが、金色の妖精のリーゼロッテとダブって見えた。
﹁リーゼロッテ⋮﹂
微かに呟く様に言った俺の言葉に、優しく微笑み頷くマルガ。
そのマルガを見た俺は、我慢が出来無くなっていた。
俺は強引にマルガの服を脱がせて行く。マルガの口の中を舌で蹂躙
し、体中に舌を這わせて、味わう様に舐めて行く。唇、白く折れそ
うな細い首、可愛く尖った耳、白魚の様な細く柔らかい指先、綺麗
で真っ白な脇の下、可愛く膨らんだ、サクランボの付いている胸、
華奢で柔らかく、小さな足の指⋮
657
俺はマルガの全身を味わい舌を這わせると、マルガは身を捩れさせ
ながら、俺の舌を喜んでいた。
マルガの秘所は既にヌレヌレになっていて、煌く愛液が、喜びを表
している様に、光っている。
俺はマルガの腰を抱え上げ、マルガの秘所に吸い付く様に口を付け
る。
﹁あっ⋮んんっん⋮﹂
桜色に体を火照らせているマルガは、甘い吐息を上げる。
俺はマルガの膣に舌を入れ、マルガの膣を舌で犯していく。マルガ
の愛液を味わい、マルガの膣を十分に舌で味わっていると、キュキ
ュっと舌を締め付けてくる、可愛いピンク色のマルガの膣に、更に
性欲が掻き立てられる。
マルガの膣を堪能して、その舌をマルガのお尻の穴に持って行く。
マルガの可愛い菊の穴に舌をねじ込む。マルガは更に見を捩れさせ
て、愛液を煌めかせている。
もう俺は我慢出来無くなり、大きくなった俺のモノを、マルガのお
尻の菊の穴に持って行く。
﹁ご⋮ご主人様⋮そこは⋮﹂
﹁⋮今日はリーゼロッテの代わりだよね?リーゼロッテとはこっち
でしかしてないんだ。⋮此処も、男の人を喜ばせる為にある穴なん
だよ⋮。マルガにも⋮それを教えてあげる⋮﹂
そう言って、マルガを正常位で寝かせ、マルガの愛液を俺のモノに
付ける。
ヌルヌルと気持ちの良いマルガの愛液が、俺のモノを包み込み、艶
かしく光らせる。
俺はマルガのお尻の菊の穴に、モノを持って行き、一気に挿入する。
﹁⋮あっ⋮んんんんっ﹂
658
マルガは今迄感じた事の無い感覚に囚われて居るのか、口を池の鯉
の様にパクパクさせている。
その表情に、リーゼロッテの面影が重なり、俺は激しく腰を振り、
マルガのお尻を犯していく。
部屋中にパンパンと乾いた心地の良い音が響く。そのたびに、マル
ガは身を捩れさせ、甘い吐息を辺りに撒き散らす。
﹁マルガ⋮どう?お尻の穴を初めて犯された気分は⋮リーゼロッテ
も⋮気持ち良さそうにしていたよ?⋮もっと犯すからね!﹂
俺はリーゼロッテと重なるマルガと、マルガのお尻の穴を初めて犯
す興奮で、激しく腰を振ってしまう。マルガは切なそうにしながら、
お尻の穴をキュっと、何度も締め付け、俺のモノを刺激する。
そんな可愛いマルガをもっと感じたくて、マルガの小さく膨らんで
いるクリトリスを、指でキュっと掴む。その瞬間、マルガは、体を
激しく悶えさせる。
﹁ご⋮ご主人様!⋮き⋮気持ち良いです!⋮もっと⋮もっと⋮もっ
と⋮犯して⋮下さい!﹂
マルガも我慢出来無くなって来ているのであろう。腰を自分から振
って、可愛くおねだりする姿が、とてもイヤラシイ。
﹁解った⋮もっと犯してあげる!リーゼロッテの様にね!﹂
俺は更に激しく腰を振る。それと同時に、可愛く硬くなっているマ
ルガのクリトリスをキュっと何度も掴みいたぶる。マルガは、玉の
様な汗を全身に纏い、ピンク色に輝く宝石の様に光っていた。
そんなピンク色の宝石は、快楽の深淵に居るのか、可愛い秘所から
ピュピュと少しずつ潮を吹き始める。その直後、大きく体を、弾け
させるピンクの宝石。
﹁ご主人様!イ⋮イキます!ご主人様イッちゃいます!⋮んはああ
659
あああ!!!﹂
大きく体を弾けさせて、甘い吐息混じりに叫ぶマルガ。絶頂を迎え
たマルガは、俺のモノを急激に刺激する。その刺激に耐え切れずに、
マルガのお尻の中に、ありったけの精を注ぎ込む。
それを感じたマルガは、恍惚の表情を浮かべ、幸せそうに瞳を潤ま
せていたが、何処か体を悶えさせている。
﹁ご⋮ご主人様⋮私⋮何だか切ないです⋮出来れば⋮此方の方も⋮
一杯犯して下さい⋮﹂
そう言って、可愛いピンク色の秘所を、両手で広げるマルガ。
そのマルガの可愛いピンク色の膣は、俺のモノを咥えたくて仕方無
い様に、パクパクとまるで誘っている様であった。
俺はマルガのお尻の穴からモノを引く抜くと、お尻の穴からは、先
程注いであげた俺の精が溢れて出てきていた。それを見た俺のモノ
は、ムクムクと復活をする。
﹁可愛いおねだりに答えてあげるね⋮﹂
俺は我慢出来無くなって、一気にマルガの可愛い膣に、モノを捩じ
込み犯す。
﹁んはああああ!!!﹂
マルガは今迄我慢していたものを吐き出す様に、艶めかしい吐息を
上げる。
ギュっと両足を俺の腰に絡みつかせ、自らも腰を振っている。そん
な、愛おしいマルガに、目一杯腰を振ってあげると、恍惚の表情を
浮かべ、キスをせがむマルガ。
俺の舌がマルガの口の中に入ると、マルガはそれを味わう様に、舌
を絡めてくる。
余りにも可愛いので、俺の唾も一緒に飲ませてあげると、コクコク
と俺の口に吸い付いて、唾を美味しそうに味わっているマルガに、
660
更に性欲が掻き立てられる。
マルガの顔を両手で抑え、透き通る様なライトグリーンに瞳を見つ
めながら、激しく腰を振ると、その瞳は突かれる度に、歓喜の色に
染まっていく。その直後に、マルガの体は小刻みに震え出す。
﹁ご⋮ご主人様!わ⋮私⋮また⋮また⋮﹂
﹁いいよマルガ。一緒に⋮﹂
その言葉を聞いたマルガは、嬉しそうに艶かしい瞳を俺に向ける。
俺は一気に腰を振り、マルガの子宮の奥を激しく犯すと、マルガの
体は大きく弾ける。
﹁んんはははああああ!!!﹂
再度大きな吐息を上げ、絶頂を迎えるマルガの子宮の奥に、タップ
リと染み込む様に精を注ぐ。
俺はその快楽に身を預ける様に、マルガに覆いかぶさる。マルガも
激しく息をしている。
﹁ご⋮ご主人様⋮気持ち良かったです⋮私は⋮リーゼロッテさんの
代わりになれましたか?﹂
そう言って覆いかぶさる俺に優しくキスをして、ギュっと抱きしめ
るマルガ。
他の女の子を思いながら、目の前の女の子を犯すと言う、最低な行
為をされているのに、俺を思って受け入れてくれるマルガに、心を
激しく揺さぶられる。
俺はマルガを体の上に乗せて、抱きしめながら優しくキスをする。
﹁うん⋮十分にリーゼロッテの代わりになってくれたよ。でも⋮此
処からは、大好きなマルガとして、犯したい。とっても大好きなマ
ルガを犯していい?﹂
俺がキスをしながら言うと、目に涙を浮かべて、嬉しそうに微笑む
661
マルガ。
﹁ハイ!マルガを犯して下さい!⋮私はご主人様だけの物⋮大好き
です⋮ご主人様⋮﹂
マルガはそう言うと、俺にキスをして、舌を忍ばせてくる。俺もそ
れに答え、マルガの舌を味わう。
﹁大好きなマルガ⋮今日も一杯犯しちゃうからね!﹂
口元の緩んでいる俺を見て、ニコっと微笑むマルガ。
俺とマルガは、その夜何度も求め合って眠りにつくのであった。
662
愚者の狂想曲 19 襲来! ピンク色の髪のお嬢様
チッチッチッチー
沢山の小鳥の囀りが、忙しそうに聞こえてきた。
その声に、目を覚ました俺は、徐々に目が覚めて来て、瞳に光が入
ってくる。羊皮紙を張った窓を見ると、今日も晴天の様だ。
﹁スウースウー﹂
何時もと同じ様に、とても気持ちの良さそうな寝息を立てて眠って
いる、愛しい美少女。
俺の事を最優先に考え、行動してくれる、愛おしい美少女⋮
昨日はマルガが可愛過ぎて、少しやり過ぎた様な感じがする。何時
もなら眠たさは残っていないが、今日は少し眠たく感じる。
今日は職業訓練所に行って、戦闘職業を決めないといけないし、マ
ルガにも起きて貰おう。
優しくマルガの額にキスをすると
﹁う⋮うんん﹂
眠気眼を擦りながら、瞳をぱちくりさせているマルガは、俺の顔を
見つけて、満面の笑みで
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
そう言って、可愛い唇を俺に捧げる。マルガの甘く柔らかくて、暖
かい舌が、ニュルっと俺の口の中に忍び込んできた。マルガの舌を
十分に堪能する。マルガも同じ様に俺の舌を堪能している。
そんなマルガを堪能している俺のモノは、当然大きく膨らんでいる。
それを感じているマルガの手が、俺のモノを優しく掴む。
663
﹁ご主人様⋮今日も御奉仕しちゃいますね﹂
嬉しそうにニコっと微笑んだマルガは、パクっと可愛く俺のモノを
咥え、舌で味わって行く。
そんな可愛いマルガの愛撫に、一気に快感が高まる。マルガの口の
中に、精液を流し込む。マルガは残っている精液を全て吸出し、俺
に口を開けて見せる。マルガの可愛い口の中には、波々と俺の精液
が注がれている。
それに俺が頷くと、コクコクと美味しそうに飲み込み、口を開けて、
全て飲みましたの確認を求めるマルガの顎を引き寄せ、キスをする。
﹁マルガ⋮今日も気持ち良かったよ﹂
﹁ありがとうございますご主人様﹂
そう言って嬉しそうに微笑みながら、尻尾をフワフワ振っていた。
朝食を済ませた俺達は、町中をブラブラ散策しながら、冒険者ギル
ドの隣にある、職業訓練所に向かっていた。マルガは俺に腕組みし
ながら、嬉しそうに金色の毛並みの良い尻尾をフワフワ揺らしてい
る。
軽く鼻歌を歌いながら、視線が合うとニコっと可愛く微笑むマルガ
が可愛すぎる。
そんな俺とマルガを見ていたマルコは、軽く貯め息を吐く
﹁⋮ほんと、葵兄ちゃんとマルガ姉ちゃんって、仲良いよね∼﹂
﹁なになに?羨ましいの?寂しいなら⋮マルコ専用の、女の三級奴
隷でも、買って上げようか?﹂
﹁べ⋮べつに、い⋮いいよ!オイラは!﹂
664
俺がニヤっと嗤いながら言うと、マルコは僕ちゃんな部分を抑えな
がら、恥ずかしそうに言い返してくる。
ククク⋮ういやつめ⋮。
そんな俺とマルコを見ながら、フフフと可笑しそうに笑っているマ
ルガ。
﹁所でマルコは、どんな戦闘職業に就くか、考えた?﹂
﹁うん⋮一応は。色々考えてね、すっごい悩んだんだけど⋮オイラ
はスカウトになろうと思う﹂
﹁スカウトか∼。何故スカウトにしようと思ったの?﹂
﹁昨日葵兄ちゃんから話を聞いてね、戦闘だけじゃなく、色んな役
に立つスキルを覚えられそうだしさ﹂
マルコは腕組みしながら色々考えて居る様だった。
﹁マルガ姉ちゃんは、どうするの?﹂
﹁うん⋮私はご主人様が薦めてくれた、戦闘と魔法が両方使える戦
闘職業にしようと思ってるよ﹂
﹁そっか∼。マルガ姉ちゃんは、魔力があるからな∼﹂
昨日から若干拗ね気味のマルコに、苦笑いしている俺とマルガ。
そんな事を喋っていると、件の職業訓練所に到着した。
冒険者ギルドの横に建てられている職業訓練所は、冒険者ギルドに
比べて、比較的新しい建物だ。
敷地の大きさも、冒険者ギルドの3倍位あり、本館以外に、大勢の
人が訓練出来る訓練場が、幾つか備えられている。
初めて冒険者ギルドに登録した初心者は、この訓練場で経験を積ん
で、ある程度LVを上げてから、ラフィアスの回廊に探索をしに行
くのが、通例になっている。
俺達は職業訓練所の中に入って行き、とある受付の前まで行く。
665
﹁葵兄ちゃん。此処の受付は何なの?﹂
﹁此処は戦闘職業のスカウトの受付だよ。ここで手続きすると、ス
カウトの基本スキルを身につける事が出来るんだ﹂
俺はそう説明すると、マルコに受付の前まで行かせる。
﹁え⋮えっと、スカウトになりたいのですが!﹂
若干緊張気味に言うマルコに、受付の女性がフフフと笑っている。
﹁はい解りました。では手続き費用の銀貨10枚を頂きます﹂
にこやかに言う受付の女性に、俺は銀貨10枚を支払う。それを確
認した受付の女性は、
﹁確かに頂きました。では、彼処の男性の受付に話をして下さい﹂
そう言って受付の女性が指をさしていた男性の前に移動する。
﹁此処はスカウトになる為の魔法陣だ。スカウトになりたいなら、
そこの魔法陣に入るが良い﹂
その男性の言葉に、若干緊張気味に頷くマルコは、ゆっくりと魔法
陣の中に入って行く。
それを確認した男性は、何かの魔法の詠唱を始めた。すると、魔法
陣が光出し、マルコを包み込む。
マルコはその光を見つめながら、魔法陣の中に立っていると、その
光はマルコの中に吸い込まれ、消えていった。
﹁よし!終わりだ。これでお前は、今日からスカウトだ﹂
その男性の言葉を聞いて、魔法陣から出るマルコ。俺とマルガはマ
ルコの傍まで行く
﹁どうマルコ。スカウトになった気分は?﹂
俺がマルコにそう聞くと、両手の握り拳を、胸の前で開いたり閉じ
666
たりしながら、
﹁解る⋮オイラに力が備わったのが解る!今迄感じなかった力を感
じるよ!﹂
マルコは興奮気味にそう言うその顔は、とても嬉しそうだった。
﹁良かったねマルコ。じゃ∼ネームプレートを開いて見せてみて﹂
俺の言葉に、マルコはネームプレートを開く。マルガも興味津々で、
マルコのネームプレートを覗きこむ。
﹃名前﹄ マルコ
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ 人間族
145㎝ 体重 40㎏ ﹃年齢﹄ 11歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ スカウト
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ イケンジリ
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
667
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹁きちんとスカウトになっているね﹂
﹁良かったねマルコちゃん。おめでとう!﹂
﹁ありがとうマルガ姉ちゃん!﹂
﹁取得スキルも開いてみてよマルコ﹂
俺の言葉に、取得スキルも開く。
﹃現取得スキル 合計7﹄
﹃アクティブスキル 計3﹄ 投擲術LV25、 罠解除LV1、
鍵解除LV1、 ﹃パッシブスキル 計4﹄ 周辺警戒LV1、 斥候術LV1、 俊敏性上昇、 スカウトの魂 ﹁おおお!新しいスキルが6つも増えてるよ葵兄ちゃん!﹂
﹁流石はスカウトだね。戦闘型の中でも、特殊なスキルを覚えられ
るんだね﹂
﹁マルコちゃん凄いです∼﹂
マルガがニコっと微笑みながら言うと、マルコは照れくさそうにモ
ジモジしていた。
スカウトは、罠の解除は勿論の事、周辺警戒や、斥候など、素早い
動きを生かした、補助も心強い戦闘職業だ。ダンジョンの探索や、
旅をしている時には、そのスキルの恩恵を凄く感じると思う。
パーティーには必ず1人は欲しい職業だし、軽業の得意なマルコに
は合っているのかも。
俺がそんな事を思っていると、マルガとマルコは、魔法陣を興味深
668
げに見つめていた。
﹁しかし、この魔法陣は凄いね!一瞬でスカウトの力を、身に付け
る事が出来るんだから﹂
そんな事を言うマルコを見ていた男性は、ハハハと笑いながら
﹁凄いだろうこの魔法陣は。この魔法陣はかなり特殊な魔法で構築
されていてな、スカウトを極めた人の記憶を元に作られている。な
ので、一度に複数のスキルを身につける事が可能なのだ。この他の
スキルを身につけたい時は、スキルを持っている人に教えを請うか、
別のこの様な情報記憶魔法陣を利用すれば覚えられる。此れからも、
スカウトとして、頑張るが良い﹂
﹁ハイ!ありがとうございます!﹂
男性に微笑みながらお礼を言うマルコ。男性もウムと頷いている。
﹁じゃ∼次はマルガの番だね。移動しようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
マルコがスカウトになったのを見て、自分も戦闘職業に就く事が出
来るのが嬉しいのだろう。元気良く返事するマルガの顔は、期待感
で満たされている。
俺達は、マルガに戦闘職業に就かせるべく、受付に向かう。暫く歩
いて行くと、目的の受付に到着した
﹁ご主人様。此処は何の職業の受付なのですか?﹂
﹁此処はまだ職業の受付ではないんだ。此処はね、魔力を調べる受
付なんだ﹂
﹁魔力を⋮調べる?﹂
マルガは可愛い頭を傾げると、マルコと顔を見合わせていた。
この世界の魔力を持つ人は、魔法を使う事が出来る。
669
魔法には、火、水、土、風、光、闇の6つの属性があり、属性によ
り力関係が存在する。
火は水に強く、水は土に強く、土は風に強く、風は火に強い。闇は、
火、水、土、風に強く、光に弱い。光は、闇に強く、火、水、土、
風に弱い。
火、水、土、風は、一般的に精霊四属性と呼ばれ、人間族や亜種族
が使う事が出来る。
光は神族と呼ばれる神の血を引いている種族が使い、神族の洗礼と
祝福受け、神に信仰を捧げる、ごく一部の人間族や亜種族も、使う
事が出来る。
闇は魔族、悪魔が使う魔法で、魔族や悪魔と契約した、人間族と亜
種族も使う事が出来る。非常に非人道的な物が多くあり、人間族や
亜種族が主に使う精霊四属性全てに強い事と、神や神族、人間族や
亜種族の敵対者である、悪魔や魔族が使う事もあって、忌み嫌われ
ており、法律で一般人の使用の禁止がされている。
もし、許可を得ず闇魔法を習得して使う事があれば、国や教会に捕
らえられ、異端者として異端審問に掛けられ、罰せられる。
﹁此処では、マルガがどの属性の魔力があるか調べれるんだ。そし
て、素質のある属性の魔法を覚える事が出来るんだよ﹂
俺がマルガにそう説明していると、受付の女性がウンウンと頷きな
がら話しかけてくる
﹁そちらの方の言う通りです。魔力のある人間族や亜種族の方は、
精霊四属性のどれかの属性の素質があるんです。一般的に、魔法を
使える人の総称は、メイジと言われますが、その中でも、精霊四属
性を戦闘で使う人は、細かく分類されているんですよ﹂
受付の女性はマルガに説明をしてくれる。
魔力を持つ人間族や亜種族は、素質によって、使える属性が違う。
670
1つの属性しか使えない人もいれば、4つ全て使える人もいる。メ
イジの中でランク付けがされているのだ。
1つの属性を使えるメイジの事を、ウヌスウァテス。2つの属性を
使えるメイジの事を、デュアルソーサラー。3つの属性を使えるメ
イジの事を、トレスウォーロック。そして4つ全て使える人の事を、
クアッドウィザードと言う。
複数の属性を使えると、違う属性同士を混合させて、強力な魔法を
使う事が出来る。
しかし、複数の属性を使える者は少なく、複数の属性を使える者は、
貴重な存在として重宝がられている。
﹁では此方の水晶に触れて下さい。そうすればどの属性に素質があ
るのか、解りますので﹂
受付の女性に促されて、マルガは水晶に手をかざす。すると、水晶
が光り輝き、水色と黄緑色の2色の光が、浮かび上がってきた。そ
の綺麗な色に、マルガは見蕩れている様であった。
﹁どうやらお嬢さんは、精霊四属性のうち、水属性と風属性の2つ
に、素質がある様ですね。水と風のデュアルソーサラーと言う事に
なります﹂
﹁良かったねマルガ。2つの属性が使えるみたいで﹂
﹁ありがとうございますご主人様!﹂
マルガは嬉しそうに微笑んでいる。マルコもマルガに良かったね!
と言って微笑んでいる。
﹁では、あちらの魔法陣に行って下さい。水と風の属性の、魔法を
覚える事が出来ますので﹂
女性の受付が教えてくれた魔法陣に行き、マルコ同様に水と風の魔
法を習得したマルガは、テテテと走って俺の元に戻ってきた。
671
﹁ご主人様!私、水と風の魔法を、使える様になりました!﹂
嬉しそうに言うマルガは、ご主人様!私賢いですか?褒めてくれま
すか?と、顔に出る様な雰囲気で、ブンブン尻尾を振っている。俺
はマルガの頭を優しく撫でて、良かったねと言うと、ハイ!と、満
面の笑みを浮かべている。
﹁じゃ∼次は戦闘職業の受付に移動しよう﹂
ハイ!と右手を上げて元気に返事をするマルガ。俺達は、マルガの
戦闘職業の受け付けまで移動する。
そして、受付のある場所まで来て、歩みを止めると、マルガはキョ
トンとした顔で
﹁ご主人様どうしたのですか?﹂
﹁いや⋮此処に受付があるんだけど、魔法戦士系は大きく分けて、
3種類あるんだよ﹂
魔法戦士⋮つまり、戦士型と魔法型を両方習得して、使う事の出来
る戦闘職業だ。
その種類は、大きく分けて3種類あるのだ。
1つ目は、普通の戦士の様に、重装備をして、剣や盾、鎧を着て戦
う、魔法戦士型。
2つ目は、格闘術を身に着けて、爪やナックルで戦う、魔法闘士型。
3つ目は、スカウトやハンターと言った、軽業を使い、魔法も使う、
魔法軽業型。
それぞれ特徴があるが、マルガにどれが合うか悩んでいたのだ。
俺の話を聞いてたマルガは、ハっと何かを思いついた様に、俺に向
き直る。
﹁ご主人様は確か、格闘術系のスキルを身につけてましたよね?﹂
﹁うん⋮俺の生まれた家は、代々古武術を継承してきているからね﹂
﹁でしたら、ご主人様が私に格闘術を、教えてくれるって言うのは
672
どうですか?私は力がありませんので、思い装備はキツイでしょう
し、マルコちゃんみたいに、何かの道具を使って投擲するよりも、
そのままの手や足を使って戦う方が、私に合っている感じがします
し⋮どうでしょうか?﹂
確かに⋮マルガの敏捷性を失わず、魔法を生かすとしたら、魔法闘
士型が最善かも知れない。
格闘術は、俺が教えれば良いし、マルガもワーフォックスの特徴を
活かしやすいかも知れない。
俺が思案していると、どうですかご主人様?だめですか?と、少し
不安げに見つめているマルガ。
そんなマルガの頭を撫で撫でしながら
﹁⋮マルガの提案通りにしよう。良く考えたらその方が良いしね﹂
それを聞いたマルガは、パアアと表情を明るくする。
﹁じゃ∼受付に行こうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
元気に返事をするマルガに、ニマニマしながら、目的の受け付けま
で来る。
﹁あ⋮あの!マジックウォーリアーになりたいのですが!﹂
マルコ同様、若干緊張気味に言うマルガを見て、ククっと笑う受付
の男は
﹁解った。では手続き費用の銀貨10枚を頂こう﹂
俺は銀貨10枚を支払う。それを確認した受付の男性は、
﹁確かに頂た。では、彼処の男性の受付に話掛けてくれ﹂
そう言って受付の男性が指をさしていた受付の前に移動する。
673
﹁此処はマジックウォーリアーになる為の魔法陣だ。マジックウォ
ーリアーになりたいなら、そこの魔法陣に入るが良い﹂
その男性の言葉に、若干緊張気味に頷くマルガは、ゆっくりと魔法
陣の中に入って行く。
それを確認した男性は、何かの魔法の詠唱を始めた。すると、魔法
陣から光出し、マルガを包み込む。
マルガはその光を見つめながら、魔法陣の中に立っていると、その
光はマルガの中に吸い込まれ、消えていった。
﹁よし!終わりだ。これでお前は、今日からマジックウォーリアー
だ﹂
その男性の言葉を聞いて、魔法陣から出るマルガ。俺とマルコは、
マルガの傍まで行く
﹁どう?マジックウォーリアーになった感想は?﹂
﹁⋮す⋮凄いです!私に今まで無かった力を感じます!これが⋮戦
闘職業⋮マジックウォーリアー⋮﹂
そう言って、感嘆の表情を浮かべ、可愛い両手を、ニギニギしてい
るマルガ。
そんなマルガに、おめでとう!と、マルコガ言うと、ありがとねマ
ルコちゃん!と、ニコっと笑っている。
﹁じゃ∼ネームプレートを開いて見せてくれる?﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
マルガは元気に麦手を上げて返事をして、ネームプレートを開いて
見せてくれる。
﹃名前﹄ マルガ
﹃LV﹄ LV1
674
﹃種族﹄ ワーフォックスハーフ
あおい
そら
葵 空 遺言状態 所
130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63
﹃年齢﹄ 13歳
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ マジックウォーリアー
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃その他2﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹃その他3﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹁うんうん。きちんとマジックウォーリアーになれてるね。良かっ
たねマルガ﹂
﹁ハイ!ありがとうございますご主人様!﹂
﹁ね∼ね∼。取得スキルも見せてよ∼マルガ姉ちゃん!﹂
せがむマルコに、はいはい、と少しお姉さんぶっている、可愛いマ
ルガは、取得スキルの項目を開く。
675
﹃現取得スキル 合計10﹄
﹃アクティブスキル 計4﹄ 裁縫LV25、 格闘術LV
水魔法LV1、 風魔法LV1、 1、
﹃パッシブスキル 計5﹄ ワーフォックスの加護︵身体能力向上、
高嗅覚、高聴力︶ 力上昇、 俊敏性上昇、 魔力上昇、 マジッ
クウォーリアーの魂
﹃レアスキル 計1﹄ 動物の心
﹁すげ∼。スキルいっぱいあるねマルガねえちゃん!﹂
﹁ありがとうマルコちゃん!﹂
ニコニコ笑い合っているマルガとマルコに癒されていると、お昼を
告げる、昼刻の0の時の鐘が鳴っていた。
﹁とりあえず、昼食を食べて、昼からは訓練場の方で、ちょっと訓
練してみようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
﹁うん!葵兄ちゃん!楽しみだよ!﹂
俺達は楽しそうに、昼食を取る為に、行きつけの食堂に向かう。
そんな俺達の後ろ姿を見つめる人物が居た事を、この時はまだ知ら
なかった。
﹁⋮見つけた。昼から訓練場で、訓練ね∼。⋮フフフ楽しみだわ!﹂
楽しそうに笑っている女性の横で、男性が少し眉をひそめていた。
676
昼食を食べ休憩もした俺達は、職業訓練所に戻ってきていた。
先程、戦闘職業の登録を行った本館の横の路地を通り、その奥にあ
る訓練場に向かって歩いている。
訓練場に近づくにつれて、沢山の人々の声が聞こえてくる。その声
は、この安全な町中の訓練場の中で無ければ、戦争か何かが始まっ
たのかと勘違いしそうな、荒々しさを感じ取れる声であった。
そのまま、その声のする方に歩いて行くと、視界が開ける。それを
見たマルガとマルコは、目を輝かせる。
﹁﹁わああ⋮﹂﹂
感嘆の声を上げるマルガとマルコ。
そこには、球場の様に広い訓練場に、何百人もの人々が、訓練して
いる姿が目に入っていた。
それぞれが、訓練用の武器を手に取り、訓練に励んでいた。俺達も
その中に入って行く。
俺とマルガとマルコが訓練場に入ると、訓練をしている男達が、マ
ルガを眼で追っている。
ムウウ⋮此処は荒くれ者の多い訓練場だから、なるべくマルガを1
人にしない様にしないと⋮
そんな俺の気持ちを全く知らないマルガは、マルコと実に楽しそう
に、訓練している人達を見ている。
俺達は訓練場の隅の方に空いている場所を見つけ移動する。
﹁ご主人様!凄いですね!これだけの人が、この訓練場で訓練して
いるんですね!﹂
﹁ま∼俺も初めて来た時は、マルガやマルコとと同じ様に思ったよ﹂
﹁皆ここで訓練して、ある程度までLVとスキルを上げたら、ラフ
ィアスの回廊に行くんだね﹂
677
﹁だろうね。俺達もLVとスキルを上げたら、ラフィアスの回廊に
入る予定だから、しっかりと訓練しようね﹂
そう言って微笑むと、ハイ!と元気良く返事をするマルガとマルコ
﹁じゃ∼まずは⋮それぞれどの武器を、使って行くか決めよう﹂
﹁それって⋮得意武器を決めるって事?﹂
﹁そうだね。武器は同じ種類の物を使った方が、良いんだよ。スキ
ルとして身につくし、スキルLVも上がって行くからね﹂
なるほど∼と頷くマルガとマルコを微笑ましく思いながら、話を進
める。
﹁とりあえず、マルコから行こうか。マルコは中距離の投擲スキル
は結構高いから良いとして、投擲も出来て、近接戦闘も出来る武器
を選んだ方が良いね﹂
﹁そうか⋮例えばどんな武器なの?葵兄ちゃん﹂
﹁そうだな∼。細身で片手で振れる片手剣、若しくは短剣がいいね。
両手持ちの武器だと、投擲する時に、隙が出来て危なそうだからね。
それと左手は腕に付けるタイプの小型の盾、バックラーなら問題な
く投擲も出来ると思うから良いかもね。片手剣も短剣も、剣術スキ
ルで上手くなって行くから、好きなのを選べば良いと思うよ﹂
マルコは俺の言葉を聞いて、なるほどと頷き、片手剣にするか短剣
にするか悩んでいる。
﹁じゃ∼私はどんなのが良いですかご主人様!﹂
ハイハイハイ!と、右手を上げて、猛アピールをしてくるマルガ。
余りの猛アピールに、思わずプっと笑ってしまうと、少し頬を膨ら
ませて、拗ねマルガに変身してしまった。
﹁ゴメンゴメン。マルガには、格闘用の爪かナックル、格闘用のす
ね当てと肘当てがいいね。ナックルは打撃力が居るから、早さで切
678
り裂くタイプの爪がいいかもだね﹂
マルガもなるほどと頷き、少し考えて居る様だった。
﹁どれにするか決まったら、彼処の受付に行けば、訓練用の武器を
貸して貰えるからね﹂
マルガとマルコは暫く考えていたが、決まった様で、2人でテテテ
と受付に走って行った。
そして、受付から訓練用の武器を借りて帰って来た、マルガとマル
コ。俺はそれを見てフンフンと頷く。
﹁マルコは⋮片手剣とバックラーか。マルガは爪に、すね当てと肘
当てね﹂
マルガとマルコは嬉しそうに顔を見合わせて笑っている。そんな2
人を微笑ましく思いながら
﹁よし!じゃ∼今日は基礎を教えるからね!まずはマルコからね﹂
﹁うん!よろしく葵兄ちゃん!﹂
元気よく返事をするマルコに、まずは剣の振り方を教える。
﹁まず、上段構えから、振り下ろす練習ね。まずは剣に慣れないと
ダメだしね﹂
俺はマルコに上段構えから、剣を振り下ろすのを教えて行く。ぎこ
ちなく構えるマルコに、丁寧に教えて行く。マルコも必死に頑張っ
て覚えようとしている。もともと、頑張り屋だから、練習は真面目
に取り組んでいる。
﹁じゃ∼それを右手で100回、左手で100回、両手で100回
やってみようか。そのが終わったら休憩をして、また同じ様にする。
今日は素振りばっかりするからね﹂
﹁そうなの?あの人形みたいな奴で、練習しないの?﹂
679
﹁あの練習用の人形に斬りつける練習は、もう少し後だね。基礎を
しっかり身に着けておかないと、変な癖がついたり、型ガ悪いと、
先で伸び悩んだりするからね。基礎は大事なんだ﹂
俺の言葉になるほど∼と頷き、素振りを始めるマルコ。
﹁じゃ∼次はマルガね。マルガも今日は素振りだからね﹂
﹁ハイ!ご主人様!私頑張ります!﹂
両手につけている、練習用の格闘爪を、オーとあげて気合を入れて
いるマルガ。そんな可愛いマルガにニマニマしながら
﹁じゃ∼まずは、突きから練習しようか。マルガには俺の流派の古
武術を教えるから、頑張ってね﹂
﹁ハイ!お願いします!ご主人様!﹂
マルガに突きを教えて行く。元々ワーフォックスの血を引いている
だけあって、体を使うのに適していたのか、なかなか呑み込みの早
いマルガに、若干驚きながら教えて行く。
﹁マルガも、右で100回突いたら、今度は左で100回ね。終わ
ったら休憩して、また同じ事を繰り返してね﹂
ハイ!と元気良く右手を上げて返事をするマルガも、練習を始める。
﹁ほら!2人共!肩に力を入れたり、肩を上げてはダメ!力が逃げ
たり、肩を痛めたりするから、注意する様に。それから、腕だけで
振ってはダメ。腰を使って、しなる様に!そうしないと、早さは出
ないし、威力も上がらないからね﹂
ハイ!と素直に返事をするマルガとマルコは、一生懸命に練習をし
ている。
これだけ真面目に練習すれば、割と早くにモノになるかも知れない
ね。呑み込みも、俺と違って早そうだし⋮抜かれちゃったらどうし
よう!
680
俺がそんな事を思いながら、暫くマルガとマルコの練習を見ている
と、何者かが俺達に近づいて来た。
﹁ふ∼ん。意外と、きっちり教えるじゃない。人は見かけによらな
いのね∼﹂
若い女性の声が後ろから聞こえて来た。俺が後ろを振り返ると、少
女と男性が立っていた。
その少女は、俺と同じ位の歳だと思う。腰まで伸びているピンク掛
かった美しい金髪のロール髪に、少しキツメな印象の綺麗な瑠璃色
の大きな瞳。マルガに引けをとらない白く柔らかそうな肌。綺麗だ
が、どこか可愛さも感じさせる、美しい顔立ちに、少し華奢な印象
を受けるが、しっかりと女性を主張しているプロポーション。リー
ゼロッテより少し低い位⋮身長は160位であろう。
そこには、マルガやリーゼロッテに、勝るとも劣らない超美少女が、
仁王立ちしていた。
俺はその超美少女に見蕩れていたのか、マルガがテテテと走って来
て、俺の腕にギュっと抱きついた。
ムムムと俺を見ているマルガに、苦笑いしている俺を見て、フフっ
と笑うピンクの髪の美少女が
﹁心配しなくても、貴女のご主人様を取ったりしないわ可愛いキツ
ネちゃん。キツネちゃんのご主人様は、私の趣味じゃないから∼﹂
パリパリ⋮あれ⋮何かが聞こえる。ああ!俺のガラスのハートにヒ
ビが入った音か∼。わああああん!
これだけの美少女に、はっきり言われると、見た目がパッとしなと
解っていても、かなりショックなんですけど!!
﹁えっと⋮貴女はどちら様ですか?お⋮俺達に何か用ですか?﹂
681
﹁用が有るから来たに決まってるでしょ!?用が無ければ、貴方み
たいなパッとしない奴の所になんか、来るはず無いじゃない!﹂
バリバリバリ⋮あれ⋮何かの衝撃が⋮。ああ!俺のガラスのハート
が、真っ二つに割れた衝撃か∼。うわあああああん!!
この子、凄い豪速球投げてくるよ!俺じゃとても取りきれないよ!
⋮誰か⋮たちけて⋮
俺が、ピンクの髪の美少女の言葉に項垂れていると、マルガはよし
よしと頭を撫で撫でしてくれる。
ああ!可愛いマルガちゃん!オラこの子苦手だよ!たちけてマルガ
ちゃん!
﹁貴女達は、なんなんですか!いきなり失礼です!私のご主人様を
これ以上侮辱するなら、私が許しません!!﹂
少し甲高い声で、ピンクの髪の美少女に言い放ったマルガの尻尾は、
ボワボワに逆立っていた。
俺はマルガの後ろで、よしよしと頭を撫でられながら、マルガに抱
かれている。
そんな俺とマルガを見て、盛大な溜め息を吐く、ピンクの髪の美少女
﹁⋮そんなパッとしない男のどこが良いのかしら⋮キツネちゃんは、
かなりの美少女だと思うのに⋮キツネちゃんなら、もっと良い男が
見つかりそうなのにねえ⋮﹂
﹁そんな事大きなお世話です!それに、貴女なんかに、ご主人様の
良さは解りません!﹂
ああ!癒される!可愛い事を言ってくれるマルガちゃん大好きだよ!
キッと睨みつけるマルガを見て、呆れているピンクの髪の美少女
﹁まあいいわ∼。人の趣味にとやかく言っても仕方無いしね∼。そ
れに、そんな事どうでもいいし﹂
どうでもいいのかYO!2つに割れた俺のガラスのハートはどうし
682
てくれるんだよ!⋮ウウウ⋮泣きたい⋮
﹁とりあえず自己紹介してあげるわ!私はルチア。そして、後ろに
居てるのが、私の共のマティアスよ﹂
﹁マティアスだ。よろしく頼む﹂
ピンク色の美少女の後ろから、一歩前に出る男。
身長は190を少し超えている。フード付きのローブを身に纏って
いるので余り見えないが、体つきはかなり良いと思う。訓練された
体であると思われる。それを証拠に、立ち方に全く隙が無い。顔に
はこの世界には珍しい、縁の太い大きな眼鏡をかけていて、フード
をすっぽりと被っている事もあって目立たないが、切れ長のかなり
の男前だと伺える偉丈夫だ。
﹁それで、そのルチアさんにマティアスさんは、私のご主人様に、
一体何の用なのですか!﹂
マルガはウウウと唸りながらルチアに言うと、ニヤっと口元を上げ
少し微笑むルチア
﹁⋮ここじゃ静かに話が出来無いから、場所を変えましょう。静か
に話せる場所を用意してあるから﹂
そう言って、ルチアは俺達について来る様に言うと、さっさと歩き
始めた。
俺達は困惑しながら顔を見合わせて、ルチアの後をついて行く。合
同訓練場を出て、ルチア達の後をついて行くと、ドーム型の建物に
ついた。その中に入っていくルチア達の後を追って、俺達もその建
物の中に入って行く。建物の中に入ると、そこは直径40m位の、
屋内型の小型の訓練場だった。
﹁此処は特別訓練場よ。この建物は、魔法で強化した材料で作られ
ているから、少々の事じゃ破壊出来無い様になっているの。此処な
683
ら誰の目にも気にせずに、色んな事が出来るのよ﹂
ルチアがニヤっと笑ってそう言い終わると、入ってきた入り口の扉
が閉まり、ガチャンと音がした。
マルコがテテテと走って扉まで行き、扉を開けようとするが、ガチ
ャガチャと音を立てるだけで、扉は開かなかった
﹁この扉⋮開かないよ葵兄ちゃん!﹂
﹁そりゃそうでしょ、鍵を掛けたんだから、開くはず無いじゃない﹂
マルコを見ながら、楽しそうに言うルチア。俺とマルガは顔を見合
わせて困惑していた。
﹁え⋮えっと⋮。俺達をこんな所に連れて来て、一体何の話をしよ
うと言うのですか?﹂
俺達の困惑している顔を楽しそうに見ながらルチアは
﹁⋮聞いた話なんだけど、貴方⋮イケンジリの村で、モンランベー
ル伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させた盗賊団
を、一人で壊滅させたって言うのは⋮本当の事なのかしら?﹂
流し目で俺を見るルチア。
⋮あの話は、ここに居る俺とマルガとマルコ、イケンジリの村人、
モンランベール伯爵家、バルテルミー侯爵家しか知らない話しだ。
それに、イケンジリの村が襲われた事を、もし知っている人が居た
としても、俺が盗賊団を壊滅したって事は、一部の人しか知らない
はず。報復をされたら堪らないので、それぞれに俺がやったと言う
事は口止めしてあるので、一般には広がっていない⋮。なのに何故
こいつらは知っているんだ?
﹁⋮誰からその話を聞いたの?﹂
﹁誰だっていいでしょう!?私が貴方に質問しているのよ!早く答
684
えなさいよね!﹂
イラっとした感じで俺を睨むルチア。
⋮こいつら何者なんだ?此処にはイケンジリの村人はマルコしか居
ない。モンランベール伯爵家、バルテルミー侯爵家も、話がついて
いるから、わざわざこの様に、聞いてくる事は無いだろう。
その時、俺はふと思い出した事があった。
そういえば⋮確か⋮盗賊団の頭のギルスには、他にまだ3人の仲間
が居るって、メラニーさんは言っていたな。まさか⋮こいつらが、
その言っていた残りの仲間なのか!?
俺の背中に、嫌な汗がどっと滲む。ギルスクラスの奴が⋮2人目の
前にいるかもしれないと思ったからだ。
俺はマルガと、俺達の元に帰って来たマルコを、俺の後ろにやる。
マルガとマルコは訳が解らずに、キョトンとした顔をしている。
﹁⋮それを聞いて、どうしようと言うんだ?⋮あんた達一体何者だ
!﹂
俺はそう言い放って、いつでも戦闘態勢に入れる様に身構える。さ
っき迄のと違う、殺気立っている俺の雰囲気を感じたマルガとマル
コは、顔を見合わせて戸惑っている。
﹁へえ⋮そんな顔も出来るのね⋮意外だわ﹂
殺気立っている俺を見て、きつい目をしながらも笑っているルチア
は、ニヤっと口元を上げる。
﹁その様子を見てる限り、どうやら本当の様ね⋮。心配しないで。
何も貴方達を殺そうなんて考えていないから。私達は、貴方の思っ
ている様な者じゃないわ﹂
﹁じゃ、何が目的なんだ!﹂
685
﹁まあ⋮簡単に言うと、私は⋮貴方と手合わせをしてみたかったの。
だから、此処に連れてきたのよ﹂
﹁は!?俺と手合わせ!?な⋮何の為に!?﹂
ルチアの思いもよらない言葉に、戸惑っている俺を見て、楽しそう
な表情のルチアは
﹁興味があったのよ。あのモンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫
彩騎士団、第5番隊を全滅させた盗賊団を、一人で壊滅させたって
言う人物が、どれほどの実力を持っているのかね。それとこの話は、
バルテルミー侯爵家当主のルクレツィオ卿から聞いた話しよ。どう
?これで納得したわよね?じゃ∼手合わせを始めましょうか﹂
﹁ちょ⋮ちょっと待ってよ!確かに、俺達の敵じゃないのは解った
し、話もバルテルミー侯爵家のルクレツィオ様から聞いたってのも
解ったけどさ、俺が、お前と手合わせをしないといけない理由は無
いだろう?﹂
そんな俺の戸惑いの言葉を聞いて、盛大に貯め息を吐くルチアは、
呆れながら
﹁貴方ほんと馬鹿なの!?まだ状況が解ってないの!?よくそんな
ので、行商なんてやってるわね。呆れてものが言えないわ∼﹂
両手を軽く上げて、お手上げだわと、言った感じのルチア。
ガシャ∼ン!⋮あれ⋮何か崩れ去る音が⋮ああ!俺のガラスのハー
トが、木っ端微塵になった音か∼。うわああああん!
馬鹿って言う奴が、馬鹿なんだYO!馬鹿って言われたらそう言え
って、死んだじっちゃが言ってたモン!⋮もうほんと⋮この子どう
にかして下さい⋮
﹁貴方が、私の手合わせを受けないと、此処から出してあげないわ
よ?さっきも言ったけど、この特別訓練場は、魔法で強化した材料
で作られているから、少々の事じゃ破壊出来ない様になっているわ。
686
私が、鍵を開ける様に言わない限りは、貴方達は此処から出られな
いの。解った?﹂
ニヤっと微笑むルチアは、楽しそうに俺を見る。
﹁じゃ⋮俺がお前と手合わせをしたら、此処から出してくれるんだ
な?﹂
﹁そうね出してあげる。それに、もし、私に勝ったら、特別に凄い
ご褒美も用意してあるわ﹂
その特別な凄いご褒美と聞いて、命の危険も無くなった事を感じた
マルコとマルガは、俺の両袖を引っ張りながら、
﹁葵兄ちゃん!凄いご褒美くれるんだって!どんなご褒美だろうね
!﹂
﹁ご主人様!あんな態度の悪い女の子なんかやっつけちゃって下さ
い!⋮そして、物凄いご褒美を、頂いちゃいましょう!﹂
その特別な凄いご褒美が気になるマルガとマルコは、ねーねーとせ
がむ様に言ってくる。
そんな戸惑う俺を、クスクスと笑いながらルチアが
﹁どうやら、貴方の共は、了解してくれた様ね。で⋮貴方はどうす
るの?﹂
﹁⋮解ったよ!やればいいんでしょ!やれば!⋮凄いご褒美きっち
り貰ってやるからな!﹂
﹁ええ!私に勝てれば、涙を流して喜ぶ様なご褒美を用意してある
から、安心しなさい∼﹂
ルチアはニヤっと微笑みながら、アイテムバッグから、一本の槍を
取り出した。
﹁この槍は、魔法で強化されたBクラスのマジックアイテムだけど、
刃を研いでいない訓練用の槍よ。これで突かれても、怪我はしても、
687
死ぬ事は無いわ。ま∼怪我をしても、共のマティアスが、上級の治
癒魔法を使う事が出来るから、たとえ瀕死になっても、全快出来る
から安心して﹂
ルチアは取り出した槍を、楽しそうにクルクル回しながら言う。
﹁それはありがたいけど、俺の武器はどうしたらいいの?俺にも訓
練用の武器を貸して欲しいんだけど⋮﹂
それを聞いたルチアは、フッと笑う
﹁⋮貴方の武器は、貴方の体の中にあるでしょう?召喚武器だった
かしら?それを使いなさい∼﹂
﹁で⋮でも!俺の武器の事を聞いているなら、その威力も聞いてる
だろう?俺の武器は、訓練用じゃ無いよ?怪我だけじゃ済まないか
もしれないよ!?﹂
﹁大丈夫よ。例え死にかけても、マティアスの治癒魔法が有れば、
後遺症も残らないし、死ぬ事も無いわ。それに、そんな事、貴方が
心配する事じゃないの﹂
ルチアはそう言うと、クルクルと槍を回して構える。
﹁それは、貴方が私に攻撃を当てれればって話だもの!貴方は私に
攻撃を、当てる事が出来るかしら?﹂
ニヤっと笑うルチアに、ご主人様やっちゃって下さい!とか、葵兄
ちゃんやっちゃえ!と、可愛い仲間が応援してくれている。
流石に、此処まで言われたら、やるっきゃないよね!俺のガラスの
ハートを砕いてくれたお仕置きをしてやる!
俺は両手に、銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを召喚する。それを見
たルチアは、目を細める。
﹁なるほど⋮確かに召喚武器ね⋮。短剣と拳銃がくっついた様な武
器か⋮初めて見るわね。貴方そんな高価な武器、何処で手に入れた
688
の?﹂
ルチアの問に、俺の秘密を知られる訳には行かないので、適当な理
由を述べる。
﹁こ⋮これは⋮俺の家に代々伝わって来たのを、引き継いだだけだ
よ!﹂
﹁家?貴方の家は、そんな高価な武器を持っている様な、高貴な家
なの?﹂
﹁い⋮色々あるんだよ!俺にも!﹂
﹁ま⋮いいわ!興味ないし∼﹂
興味が無いなら聞くなYO!!!
ほんとこの子と話してると、俺のガラスのハートが、いくつ有って
も足りないよ!
ま∼かと言って、銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを全力で使ったら、
大きな風穴開けちゃって、回復云々より即死しちゃうから⋮威力を
絶対に死なない、ゴム弾位まで威力を落とそう。
この召喚武器、銃剣2丁拳銃のグリムリッパーは、精神や魔力を、
魔法弾に変換して弾を発射する。精神や魔力が続く限り弾を出す事
が可能で、魔法弾の威力も、俺の意志で自由に変えられる。戦車の
装甲を貫く様な威力にも、暴徒鎮圧用の、殺傷力の無いゴム弾位に
落とす事も可能なのだ。
﹁所で貴方⋮LVは幾つなの?﹂
﹁⋮俺のLVは25だよ﹂
﹁LV25!?⋮良くそんなLVで、盗賊団を殲滅出来たわね。ま
∼それを補う何かがあるんだろうけどさ。⋮ちなみに、私はLV1
5よ。そんなに変わらないわね﹂
﹁LV15!?⋮よくそれで、自信満々に、俺と手合わせしたいと
か、言ったものだよ﹂
689
呆れている俺を見て、あからさまにムカっと言う顔をしているルチ
ア。
その顔を見て、ちょっとだけ胸がスっとした事は、内緒にしておこ
う。言ったらきっと逆上しそうだし!
俺はゆっくりと、銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを構え、銃口をル
チアに向ける。
﹁⋮一瞬で終わっても、文句とか言わないでね﹂
﹁⋮言ってくれるじゃない⋮﹂
槍をクルリと回し、構えるルチア。その瞳は静かに俺を見据えてい
る。
この子⋮綺麗な構えをしてるな⋮何気に隙の無い構えだし。LV1
5だけど、余程センスがあるのかもしれない。でもまあ⋮やられち
ゃって貰いましょう!そして、ご褒美を貰って、退散と行こう!
俺はルチアの右肩と、槍を持っている左手に標準を合わせる。
そして、静まり返っている特別訓練場に、乾いた破裂音が鳴り響く。
﹁ガオン!ガオン!﹂
けたたましい音を木霊させながら発射された魔法弾は、ルチア目掛
けて高速で飛んで行く。
魔法弾を撃ち終わった俺は、勝利を確信して、銃剣2丁拳銃のグリ
ムリッパーを下げようとしたその時、綺麗な音が聞こえて来た。
﹁キイン!キン!﹂
その美しい金属音は、ルチアが高速で向かって来た、魔法弾を撃ち
落とした音であった。
俺は信じられなくてルチアに視線を戻すと、ルチアの体からは、淡
黄色に光るオーラが発せられ、体を包み込んでいる。
﹁まさか⋮気戦術!?﹂
690
﹁⋮正解⋮よ!﹂
驚愕している俺を見て、ニヤっと笑ってそう言うと、気勢を高める
ルチアは、一気に俺に間合いを詰めてきた。
﹁今度はこっちの番よ!でりゃああああ!﹂
槍を振り上げて、叩きつける様に振り下ろすルチア。
気戦術相手に、何のスキルも使わないなど無理だと判断した俺は、
瞬時に闘気術を展開させる。俺の体は、薄紅色の輝くオーラで包ま
れてゆく。
﹁ゴガガガガ!!﹂
激しい音をさせて、地面に叩き付けられるルチアの槍。床も魔法強
化されていなければ、今頃陥没していただろう。
何とか闘気術を発動させて、ルチアの槍を躱した俺であったが、ル
チアは俺が槍を躱すのを予期していた様で、俺の跳躍と一緒に並走
して跳躍している。
﹁遅いわよ!くらいなさい!でりゃあああああ!!!﹂
俺を間合いに捉えているルチアは、連続で突きを放って来た。俺の
眼前に、5つに見える槍先が迫る。何とか4つを躱したが、残りの
1つは左肩に入れられてしまった。刃先は無いといえど、気戦術で
強化された突きを受けて、激しい痛みが肩に襲いかかる。
そんな俺に追撃しようとしたルチアに、俺は迎撃で右手に持ってい
る銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを射撃する。3発放たれた魔法弾
を、槍で躱し、間合いを取るルチア。
俺とルチアは離れて対峙していた。
﹁あらあらどうしたの?左肩なんか抑えちゃって。⋮一瞬で終わら
せるんじゃなかったの?﹂
槍をクルクル回しながら、嬉しそうにニヤっと笑うルチア。マルガ
691
とマルコは、驚きの余り、口を開けたままであった。俺は左肩を抑
えながら、
﹁⋮てか、LV15で気戦術なんて、使えるのかよ!⋮お前もっと
上級者だろ!﹂
﹁私は本当にLV15よ。それなら、貴方だって、LV25で、気
戦術に近いスキルを使えてるじゃない。⋮一緒だと思うけど?﹂
ニヤニヤ笑うルチアは、得意げな顔で俺に言う。
いやいやいや。俺が使えるのは、この世界に飛ばされた時に、貰っ
た力だからだ。普通にこの世界に生活している奴で、LV15で気
戦術を使える奴なんて、聞いた事が無い。いくら早くてもLV40
だろ普通。
俺はルチアを霊視して見る事にした。そして、その内容を見て、驚
愕する。
﹃LV15。此処に嘘はない。しかし⋮持っているスキルがおかし
いだろ!?⋮槍術スキルLV25、気戦術LV25、火魔法LV2
0、風魔法LV20、土魔法LV20、水魔法LV20⋮LVとス
キルの差が、何故こんなにあるんだ!?普通の鍛錬じゃないな此れ
は⋮しかしそれよりも⋮レアスキル⋮天賦の才能﹄
俺は心の中でそう呟く。
LVより、スキルが高いのは、実践でLVを上げるよりも、鍛錬ば
かりして、スキルが上がってしまった結果だろう。マルコみたいに、
実戦経験は無いけど、鍛錬ばかりして、スキルがLV25になって
るとか、特異な例もある。きっと、この子もこのタイプだ。だがそ
れよりも、気になる事がある。
この子の持っているレアスキル⋮天賦の才能だ。
天賦の才能⋮その能力は読んで字の如く、どんな物事にも天賦の才
能の力を発揮し、習得の早さ、応用力、到達点の高さ、全てにおい
692
て、常人のソレを凌ぐ才能を見せるスキルである。
恐らくこの子がLV15なのに気戦術を習得して居るのは、このレ
アスキル、天賦の才能のお陰だろう。
簡単に言えば、この子は超天才。しかも、どんな物事にもその才能
を発揮する超天才。
なるほど⋮この子はチートなんですね。解ります。はい。
俺が考えているのを楽しそうに見ているルチア。
﹁どうしたの?もう終わりなの?やっぱり、見た目通りパッとしな
いわね∼。良いのは、キツネちゃんと、その召喚武器だけなのかし
ら?﹂
ガリガリガリ!⋮あれ⋮何か潰れる音が⋮ああ!俺のガラスのハー
トが、塵になった音か⋮うわあああん!
もうね、本当にお仕置きしてやる!俺のエロさを思い知れ!⋮もと
い、怖さを思い知れ!
超回復で全快した左肩をぐるりと回す。うん。痛みも、後遺症も無
いね。全く問題無し!
そんな俺を見て、少し驚いているルチア。
﹁⋮確かに私の持っている槍には刃は無いけど、気戦術で強化され
た突きをまともに受けたら、骨折してても良いはずなのに、何とも
無い訳!?⋮見た目より、随分と打たれ強いのね﹂
﹁ハハハ。以前、同じ様な事を言われた事があるよ﹂
俺は苦笑いしながら、身構える。それを見たルチアも、クルリと槍
を回して身構える。
﹁ちょっと本気で行くから、失神しても恨むなよ?覚悟はいいか?﹂
﹁⋮あら、奇遇ね。私もちょうど同じ事を、言おうとしていた所な
のよ。貴方こそ覚悟はいいかしら?﹂
暫く睨み合う俺とルチアだが、先に動いたのはルチアだった。何か
693
を高速で詠唱し始める。
それを見た、お供のマティアスが叫ぶ
﹁ル⋮ルチア様!その魔法は危険です!下手すれば、相手が焼け死
んでしまいますよ!﹂
﹁そうならない様にするのが、マティアスの役目でしょ!それに、
もう止められないわ!﹂
そう言うルチアの掌に、赤と黄緑の光が輝く。
﹁貴方も焼け死な無い様に、上手く避けなさいよ!ファイアースト
ーーム!!!﹂
俺にそう叫んだルチアの掌から、猛烈な勢いで、炎が嵐の風に乗っ
て吹き荒れながら迫ってくる。
火と風の上級混合魔法の、ファイアーストームだ。
﹁うっはあ!﹂
思わず声が出る。俺はその炎の嵐から逃げる様に、壁際に跳躍する。
俺のすぐ鼻先を炎の嵐は通りすぎて行く。そんな俺が安堵した瞬間
だった。その炎の嵐のすぐ後ろから、俺目掛けて跳躍していたルチ
アの槍が、俺目掛けて突き出され様としていた。
﹃やばい⋮この体制じゃ⋮避けれない!﹄
一瞬やられるのを覚悟した俺であったが、背中に迫っている訓練場
の壁を見て、ニヤっと笑いがこみ上げる。
﹁これで終わりよ!くらいなさい!でりゃああ!!!﹂
ルチアの気戦術で強化された槍先が俺に迫る。俺は、訓練所の壁に、
銃剣2丁拳銃のグリムリッパーの銃口を向け、射撃する。
﹁ガガガガガオン!﹂
694
けたたましい発射音と共に、複数の魔法弾が発射される。
﹁何処に向かって撃ってるのかしら!私はこっちよ!﹂
﹁いや!此れでいいんだよ!﹂
俺は射撃と同時に、体をくねらせる。すると、壁に当って跳ね返っ
た魔法弾が、ルチア目掛けて襲いかかる
﹁えええ!?壁に弾が跳ね返って来るの!?﹂
瞬時にそれを理解する、超天才のルチアは、一瞬で槍を扇風機の様
に回転させ、跳弾した魔法弾を弾いていく。そして、俺の追撃を恐
れ、一瞬距離を取る。俺はその隙を見逃さなかった。
﹁ちょっと痛いかも知れないけど、死なないから許せよな!﹂
俺は銃剣2丁拳銃のグリムリッパーの銃口をルチアに向ける。俺の
体を包んでいる、闘気術の薄紅色のオーラが光り輝く。
﹁これで終わりだ!!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!﹂
俺の追撃を恐れ、距離を取った隙の出来たルチアに、銃剣2丁拳銃
のグリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾
が、何百という花が咲き乱れる様に、襲いかかる。その光景を見た
ルチアの顔から血の気が引いて行き、蒼白になる。
﹁キャアア!!﹂
短く可愛らしい悲鳴を上げるルチア。その直後、
﹁ギャイリリリリリリイイイ﹂
何かに何百と言う魔法弾が衝突する音が、辺りに響き渡る。衝突の
衝撃で煙が発生し、視界が途切れる。
全ての魔法弾の衝突が終わり、煙が晴れて視界が回復すると、そこ
には、ルチアの前に立ち塞がる様に立っているマティアスが、掌を
695
前に突き出して立っていた。
俺は瞬時にマルガとマルコの方を向く。訓練場の反対側の壁際から、
俺の事を心配そうに見ている。
確か⋮この男の人⋮マルガ達と、同じ所に立っていたはず。それな
のに、今はルチアの前に立ち塞がって、俺の奥義を片手で防いだの
!?
⋮全く見えなかった⋮いや、気配さえも感じなかった。何者なんだ
ろ⋮この人⋮
俺がその様な事を考えマティアスを見ていると、当のマティアスは
何事も無かったかの様に、地面にへたり込んでいるルチアの方に振
り返る
﹁ルチア様⋮お怪我はありませんか?﹂
そう言って優しくルチアに手を差し伸べるマティアス。その手を取
って立ち上がるルチア
﹁大丈夫よ!まったく⋮あれだけ手を出さない様に、前もって言っ
て置いたのに⋮でも⋮ありがとうマティアス﹂
﹁いえ⋮ルチア様が無事で有れば、私はそれで良いのです﹂
気恥ずかしそうに言うルチアを、優しく見守る様に言うマティアス。
そんなルチアとマティアスを見ていた俺の元に、マルガとマルコが
走り寄って来た。
﹁ねえねえ!結局どうなったの?彼処からじゃ、はっきり見えなく
てさ!﹂
﹁そうです∼。でも、マティアスさんが、間に入ったという事は解
ったので、勝負はご主人様の勝ちですか?﹂
マルガとマルコは、ねーねーどうなったのか教えてー!と、せがむ
様に、俺の手を取って聞いてくる。
696
﹁勝負は私の負けよ!⋮悔しいけど、貴方の実力を認めてあげるわ
!﹂
ルチアがフンっと言いながらも、俺の勝利宣言をしてくれた。
﹁って事は⋮凄いご褒美を貰えるって事だね!やったね!葵兄ちゃ
ん!﹂
﹁ご主人様!おめでとうございます!凄いご褒美楽しみですね!﹂
マルガとマルコは、軽く飛び上がって、ハイタッチをして喜んでく
れている。そんな2人の頭を優しく撫でると、ニコっと満面の微笑
みを返してくれる。俺もそれを見て、思わず微笑む。
そんな俺達を見て、フンと言いながら、ルチアが俺の前に来た
﹁勝負は貴方が勝ったのだから、約束通り、ご褒美を上げないとね
!物凄いご褒美は⋮此れから、貴方達がこの町にいる間、私の訓練
相手に、貴方を指名してあげるわ!どう!凄いご褒美でしょう?﹂
ルチアはいかにも当然!と、言わんばかりのドヤ顔で仁王立ちして
いた。
﹁へええ!?なにそれ!?﹂
﹁それだけじゃないわよ?朝、昼、夕食付きよ!しかも、その食事
は、私の行きつけの、貴族や商家が多く利用する、高貴な者しか入
れないレストランテと呼ばれる食堂なのよ?感謝しなさいよね!﹂
困惑している俺に、更にドヤ顔で言うルチア。
﹁訓練は、朝刻の4の時から初めて、昼刻の5の時までみっちりや
るからね。でもきちんと昼食や休憩も取ってあげるから、心配しな
いで。余り詰めすぎるのも、体に悪いみたいだし!﹂
アハハハと笑って仁王立ちしている、ルチアに
697
﹁いあいあいあ!それって、俺達が、お前の訓練相手にさせられる
って事なのか!?それが、凄いご褒美なのか!?﹂
﹁そうよ?他に何があるっていうの?私と一緒に訓練出来るなんて、
身に余る光栄でしょ?﹂
さも当然の様に言い切るルチア。
いいいいいややややややああああああ!!!!!!!
嫌すぎる!ムリムリムリムリ!!無理すぎる!!
コイツと、この町に居る60日間、ずっと一緒に訓練なんかしたら、
俺のガラスのハートは、顕微鏡で見ないと発見出来ない位に、粉々
にされちゃうよ!⋮やばい⋮悪寒がしてきた⋮
そんなクラクラしている俺の傍で、マルコが
﹁それが、ご褒美なの∼?何か期待して損しちゃったな∼﹂
つまらなさそうに言うマルコに、眉をピクっと動かすルチア
﹁何言ってるの?さっきも言ったけど、最高級のレストランテの料
理を、毎日、朝昼夕と食べれるのよ?あのレストランテの味は、フ
ィンラルディア王国で、5本の指に入る名店って言われているの。
その味と言ったら、この私でも認めている位なんだから!しかも、
おかわり自由で食べさせてあげるわよ?﹂
それを聞いた、約2名の耳がぴくりと動く。
﹁その辺の事を⋮もっと詳しく⋮﹂
マルコとマルガは、ルチアの話に聞き入っている。その顔は、涎が
垂れそうな、幸せな顔をしていた。
﹁ま⋮オイラはいいかな?どうせ訓練する予定だったし∼﹂
﹁わ⋮私も⋮マルコちゃんと一緒かな?みっちり訓練すれば、ご主
人様の役にも立ちそうですし⋮﹂
698
何処か上の空と言った表情のマルガとマルコは、ニヘヘヘと、口を
開けて惚けている。
もうあれだね⋮食べてるね⋮一足先に⋮豪華な料理を食べちゃって
るね⋮美味しそうな顔しちゃって⋮
俺は懐柔されたマルガとマルコを見て、気が遠くなるのを感じてい
た。
﹁お⋮俺は、嫌だからな!お前とずっと訓練なんて!誰もがお前に
靡くと思うなよ!﹂
何とかこの状況を打開しようと、精一杯の力で言ってみた!オラ頑
張った!
それを聞いたマルガとマルコは、凄い料理が食べれなくなったのを
理解し、シュンとなっている。
ウウウ⋮マルガとマルコにそんな顔されるのはツライけど、此処は
俺のガラスのハートの存亡の危機なのだ!我慢してね!マルガにマ
ルコ!
そんな俺の言葉を聞いた、ルチアの表情が険しくなる
﹁こ⋮この私の誘いを⋮断るって言うの⋮?﹂
﹁そうだね!誰もがお前の言う事を聞くと思ったら、大間違いなん
だよ!﹂
そう言い放つと、かなりショックを受けたのか、二三歩後ずさりす
ると、少し瞳に涙を浮かべるルチア。
フン!俺のガラスのハートを砕いた罰だね!いい気味ですよ!は∼
スッキリした!
そんな事を思っていると、涙目のルチアは、コロンと地面に寝転ん
で、背中を向ける。
﹁もう嫌⋮みんな死んじゃえばいいのよ⋮﹂
そう言って、ふて寝しているルチアを見て、ダダダとマティアスが
699
ルチアに駆け寄る
﹁ルチア様!どうか思い直しを!とんでもない事になりますぞ!﹂
﹁⋮嫌よ!私の誘いを断ったんだもん⋮もう⋮扉⋮開けてあげない
⋮﹂
少し聞き捨てのならない言葉が聞こえてきた。何か嫌な予感がする。
﹁ルチア様!何卒、御考え直しを!﹂
﹁嫌よ!!マティアスも私の共なら覚悟を決めなさい!⋮200年
後に開けてあげる⋮生きていたらね﹂
それを聞いたマティアスは、何か覚悟を決めた様な表情をする。嫌
な予感が増大する。
俺はマティアスの傍まで近寄る。
﹁マ⋮マティアスさん⋮どうしたのですか?﹂
﹁⋮貴方達には申し訳ないが⋮どうやら、あの扉は200年後にし
か開かない様です⋮﹂
マティアスは苦悶の表情で俺に返答する。
﹁いやいや。200年後とか冗談ですよね?たかが扉を開けるだけ
なのに。マティアスさんが、外の護衛に開ける様に言えば、開きま
すよね?﹂
なんだろう⋮鼓動が早くなってきた⋮嫌な予感しかしない!
﹁⋮いいえ。私ではあの扉を開けてはくれません。ルチア様が命令
されて初めて開かれるのです。例え、どの様な事があれど、あの扉
を開ける様に命令出来るのは、ルチア様のみ!その、ルチア様が2
00年後と言われるのなら⋮200年後なのです⋮﹂
﹁ま⋮まさか⋮。ほ⋮本当⋮なの?﹂
俺の微かに呟く様な言葉に、静かに頷くマティアス。
700
いいいいいいやややややああああああああ!!!
俺の魂がそう叫んでいる。俺はマティアスに詰め寄るが、マティア
スは、﹃もう無理です諦めて下さい﹄と、しか返答してくれない。
﹃主人の命令は絶対なのです!﹄と、無駄で余計な忠誠心を遺憾な
く発揮しているマティアス。だめだ!この人使えないYO!
そんな俺と、マティアスのやり取りを見ていたマルガとマルコが、
事態が飲み込めたのか、俺に詰め寄ってきた。
﹁葵兄ちゃん!オイラ達、此処から出れないの!?200年間此処
で居ないとダメなの!?200年此処に居たら、骨になっちゃうよ
!﹂
マルコは必死に俺に訴えかける。確かに骨になるのは嫌だよね!ど
うしよう!
﹁ご主人様!私はご主人様と一緒なので問題は無いですが⋮200
年間、蜂蜜パンを食べれなくなるのですか!?それは⋮寂しいです
∼﹂
瞳をウルウルさせているマルガ。いやいやマルガちゃん。生命の危
機だからね?⋮ほんと、蜂蜜パンが大好きなんだね。
マルガとマルコが、ねーねーどうなるんですかご主人様!?と、言
った感じで、縋り付いている。
ムウウ⋮仕方無い⋮此処は俺が⋮何とかしないと⋮
俺は、マルガとマルコを落ち着かせて、ルチアの傍まで近寄る。俺
が近寄っているのに気が付いているはずなのに、背中を向けて、寝
転がっているルチア。
﹁あの⋮ルチアさん?﹂
返事がない⋮只の屍の様だ!
いあいあ。屍ではない。不貞腐れて寝転がっている、美少女だから。
701
﹁あの⋮すっごく可愛くて、美しくて、清楚なルチアさん。少しこ
っちを向いて、話をしませんか?﹂
﹁⋮何よ?なんか用?﹂
めんどくせええええええええ!!
この子めんどくさいよママン!しかし⋮此処はぐっと我慢だ!皆の
為に、俺が頑張らないと!
﹁と⋮兎に角、扉を開けてくれませんか?﹂
﹁嫌よ!﹂
プイッと再度背中を向けるルチア。
即答ですか!ムウウ⋮段々とコイツの事が解ってきた⋮
はあ⋮やっぱりあれしか無いよね⋮
﹁すっごく可愛くて、美しくて、清楚なルチアさん。もう少し、話
をしませんか?﹂
﹁⋮何?まだ、なんか用?﹂
再度プイっと振り向くルチアの顔は、プクっと頬が膨れている。
お拗ねになられているんですね!解ります。
﹁いあ∼。この町に居る間、ルチアさんと一緒に訓練したいな∼っ
て、思って⋮アハハ﹂
﹁⋮ほんと?﹂
﹁うんうん!すっごく可愛くて、美しくて、清楚なルチアさんと、
一緒に訓練したいな∼﹂
﹁ほんとにほんと?嘘ついたら、酷い事するわよ?﹂
此れ以上、酷い事ってなんだろう⋮?もう寒気しかしないよ。
﹁嘘じゃないよ!俺はルチアと訓練したい!一緒に訓練しようルチ
ア!﹂
702
俺が思い切ってそう叫ぶと、それを聞いたルチアの表情がパアアと
明るくなる。
﹁そうよね!当然よね!この美しく、可愛いく、清楚な、超美少女
のルチア様と、一緒に訓練したくないやつなんか居ないわよね!解
ればいいのよ!解れば!﹂
そう言って、ハハハハと、腰に手を当てて、ドヤ顔で高らかと笑う
ルチアを見て、俺は力が入らなくなって、膝から崩れ落ちた。
﹁じゃ∼明日から、訓練を開始するからね!朝刻の3の時に、迎え
に行くから。昼刻の5の時まで、みっちり私がしごいてあげる!喜
びなさい!﹂
とても、嬉しそうな顔のルチアを見て、何だか涙が出て来た。
﹁ね、涙を流して喜ぶ様なご褒美だったでしょ?⋮嘘ついて、逃げ
出したら、地の果て迄追い詰めるから﹂
とても怖い事を言い残して、マルガとマルコの手を引っ張って、入
り口に向かうルチア。
ゴゴゴと、訓練所の扉の開かれる音がした。どうやら天の岩戸は開
かれた様です。
それを見て、項垂れている俺を、優しく起こしてくれるマティアス。
ポンポンと優しく肩を叩いてくれる。
﹁⋮マティアスさんも、きっと苦労してるんでしょうね⋮﹂
﹁ええ⋮もう泣きたい位に⋮﹂
そんな会話を交わす、マティアスの視線は、はるか遠くを見つめて
いた。
こうして、俺達とルチアは、一緒に訓練する事になったのだった。
703
愚者の狂想曲 20 囚われの金色の妖精
ルチアと訓練する事になって、25日が経っていた。そして今日も、
けたたましく部屋の扉が叩かれる
﹁葵∼!!起きろ∼!そして鍵を開けろ∼!﹂
扉をドンドンと叩きながら言うルチア。
﹁わわわ!今開けるから、扉をドンドンしないで!﹂
俺は慌てて扉の鍵を開ける。すると勢い良く開けられる部屋の扉の
向こうに、呆れ顔のルチアがお供のマティアスと立っている
﹁ったく⋮毎朝毎朝⋮私が起こさないと、起きないんだから!さっ
さと用意しなさいよね!何時ものレストランテで待ってるから!﹂
そう言い残して、スタスタとレストランテに向かうルチアとマティ
アス。
台風の襲来の様なルチアが立ち去り、俺の横で寝ていたマルガが、
目を覚ます。
﹁おはようございますご主人様﹂
そう言って、眠気眼を擦りながら、俺の傍まで来ると、ニコっと極
上の微笑みを俺に向け、優しく口付けをしてくるマルガ。マルガの
柔らかく、甘い舌を堪能すると、マルガは大きくなっている、俺の
モノを優しく掴む。
﹁ご主人様のココ⋮頂いちゃいます∼﹂
そう言って、可愛い口を、頑張って開いて、俺のモノを咥えるマル
ガ。余りの気持ち良さに、早々、マルガの口の中に、精を注ぎこむ
704
と、コクコクと美味しそうに、クチュクチュ味わうマルガを抱きし
める
此れが、ここ最近の俺達の日常である。
毎朝、朝刻3の時に、ルチアが俺達を起こしに来る。ルチアと会う
前は、なんとなく起きて、一日を始めると言う、習慣が見に付いて
いた為、朝きちっと起きるって言う事を、地球に居ていた時ぶりに、
行なっている。
俺とマルガは着替えて用意すると、マルコの部屋に迎えに行く。マ
ルコは、ルチアが起こさずとも、起きているみたいで、俺とマルガ
が迎えに行く頃には、準備を整えて待っている。
﹁おはよう!葵兄ちゃんにマルガ姉ちゃん!﹂
﹁おはようマルコ﹂
﹁おはようマルコちゃん!﹂
俺達は笑顔で挨拶をして、ルチアとマティアスの待つ、何時ものレ
ストランテに向かう。
そして、レストランテの中に入ると、ルチアとマティアスは先に朝
食を食べている。
﹁やっと来たわね。全く⋮何時も何時も⋮。ま、いいわ!葵達にも
同じ物を﹂
呆れながらルチアが言うと、執事服をビシっと着た店員が、俺達の
分の朝食を持って来てくれる。
﹁﹁いただきます!﹂﹂
﹁は∼い。召し上がれ∼﹂
声を揃えて、頂きますをする、嬉しそうなマルガとマルコを見て、
フっと笑って返すルチア。
ニコっと笑うマルガとマルコは、出された朝食を、モリモリ食べて
705
行く。
﹁何時見ても、貴方達の食べっぷりは凄いわね∼。それだけ嬉しそ
うに食べてくれたら、此処の料理人も幸せだわ﹂
﹁だって、此処の料理、物凄く美味しいんだもん!﹂
﹁ですよね!私も美味しくて我慢出来ません!﹂
マルガとマルコは、モグモグ食べながら、頬を一杯に膨らませてい
る。
確かにここの料理は、凄く美味しい。流石フィンラルディア王国で、
5本の指に入ると言われているだけはある。地球並みに美味い料理
に、俺も舌鼓を打つ。そんな俺達を見て、満足そうなルチア。
﹁なあルチア∼。毎朝部屋の扉叩きながら叫ぶのやめてくれない?
ご近所迷惑だし∼﹂
﹁葵が起きてないからでしょ!葵が私が来る時までに、起きていれ
ばそんな事はしないわよ!﹂
食後の紅茶を飲みながら、呆れているルチア。
ルチアは何時も口が悪いが、意外と面倒見は凄く良い。
朝起こしに来るのも、本来なら、一級奴隷が真っ先に主人を、起こ
さなければならないのを知っているのに、起きるのが苦手なマルガ
には、何も注意はしない。きっと、俺とマルガの関係を、主従関係
だけでは無いと、理解してくれている。
訓練でも、マルガとマルコを良く見てくれるし、教えてあげてくれ
ている。レアスキルの天賦の才能を持ってるだけあって、実力もあ
るし、教え方も非常に上手い。本当に超天才。
そんな良くしてくれるルチアを、マルガとマルコも慕っているので
ある。
﹁ルチアも、何処かの貴族のご令嬢かなんかだろう?少しはお淑や
かにしたら?﹂
706
軽く溜め息を吐く俺に、ニヤっと笑うルチアは
﹁なに?葵ってそんな女が好みだったの?キツネちゃんは大人しい
けど、そんなタイプじゃ無いじゃない。それに、そんな女つまらな
くてすぐに飽きるわよ?﹂
ニヤニヤ笑いながら、紅茶を飲むルチア。俺の横で、背筋をピンと
伸ばし、パクパク食べていたのを、急にゆっくりと食べるマルガ。
どうですか?お淑やかですか?可愛いですか?と、褒めて褒めてオ
ーラ全快のマルガの頭を優しく撫でると、ブンブンと金色の毛並み
の良い尻尾を、振っているマルガが愛おしい。
﹁ほんと、キツネちゃんはそんなに可愛いのに、葵の何処が、そん
なに良いのやら⋮﹂
呆れているルチアに、ムウウと唸りながら、ルチアに何か言おうと
するが、口に優しく指を置かれる。
﹁解ってるって!﹃ご主人様の悪口はやめて下さい!ご主人様は魅
力的です!﹄でしょ?もう、何百回と聞いたわ﹂
ルチアが呆れながら言うと、コクコクと頷くマルガ。モグモグ。口
は動いている。
何百回とそんな事言う方もどうかと思いますが?と、心の中でルチ
アにツッコミを入れておいた俺。
俺のガラスのハートも、言われ過ぎたせいか、若干壊れにくくなり、
強化ガラスのハート位には、レベルUPしたように思う。いや∼人
間って、適応するんだね∼。
﹁そう言うルチアって、どんなタイプの男の人が好きなの?﹂
俺のその言葉に、う∼んと、人差し指を唇に当てて考えるルチア。
超美少女だけ有って、その仕草は可愛らしい。あくまで、仕草だけ
!ここ重要!
707
﹁特に無いわね∼。男の人を好きになった事無いから、解らないわ﹂
﹁なんだよ。偉そうに言うから、恋愛経験豊富かと思ったら、誰と
もそういう関係になった事無いんじゃん。⋮変な男に引っ掛から無
い様に、注意しないとダメだね﹂
﹁フン!葵も私と大して変わらないんじゃないの?何故かそんな気
がするのよね∼﹂
ニヤ∼っと小悪魔の様に笑うルチア。
ギクギクギク!ほ⋮本当に、コイツは人の心を見抜くのがうまい!
どうせオラは、モテナイですよ!ええ!知ってますよ!没個性です
よ!パッとしない見た目ですよ!
そんな俺を楽しそうに見ているルチア。クウウ⋮この小悪魔め⋮
﹁ま∼私みたいな、美人で、可愛くて、清楚な美女が本気になれば、
恋の1つや2つ、簡単よ!﹂
﹁そうだね∼お淑やかになったら出来るかもね∼﹂
﹁フン!お淑やかなだけの女なんか、掃いて捨てるほど居るわよ!
それこそ個性が無いわよ!﹂
﹁ま∼槍をブンブン回しながら突撃してくる、お嬢様よりかはまし
かと⋮﹂
俺の言葉に、ピクっと眉を動かすルチア。紅茶を飲んでフンと言う
と、
﹁私はこれでも人気あるんだからね!葵には何故か、私の魅力が解
らないみたいだけど!﹂
少し拗ね気味に言うルチア。
確かにルチアは良くモテテいる。最低1日1回は、男が告白に来て
いる。
これだけの美少女なのだ。男が放っておく訳がないのは当然ちゃ∼
当然なのだ。
708
しかし、マティアスが追い払うのと、ルチアが相手にしないのとで、
みんな撃沈している。
そして、マルガにもルチア同様に来るのだが、マルガの首元を見て、
俺の一級奴隷であると解ると、俺を激しく睨みつけて、何処かに行
ってしまうのが日常なのだ。
﹁ま⋮まあ⋮確かに美人だし、人気があるのは解かるけど⋮﹂
﹁なになに?解るけど?その続きは?﹂
ルチアが顔を近づけて、ニコっと笑う。ルチアの甘い匂いが、俺の
嗅覚を刺激する。
そんな俺に何かを感じたマルガが、ギュっと俺の腕に抱きつく。そ
れを見て、呆れ顔で戻っていくルチア。そんな俺達を見て、盛大に
貯め息を吐くマティアスが
﹁しかし、ルチア様を筆頭に、マルガ嬢やマルコ坊、葵殿も訓練を
頑張っているので、かなりLVも上がったのではないですか?﹂
その言葉に、皆が自分のネームプレートを確認する。
﹁そう言えばそうね。キツネちゃんとマルコ。ちょっとネームプレ
ートを見せてみて﹂
ルチアの言葉に、素直にルチアにネームプレートを渡す、マルガと
マルコ。
﹃名前﹄ マルガ
﹃LV﹄ LV12
﹃種族﹄ ワーフォックスハーフ
﹃年齢﹄ 13歳
709
﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
そら
葵 空 遺言状態 所
あおい
130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63
﹃戦闘職業﹄ マジックウォーリアー
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃その他2﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹃その他3﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹁ふんふん。LV12ね∼。なかなか上がってるじゃない﹂
﹁ホントだ!マルガ頑張ったね!﹂
﹁ハイ!ありがとうございます!ご主人様!﹂
12、
嬉しそうにしているマルガの頭を優しく撫でる。ルチアは、取得ス
キルも、マルガに開かせる。
﹃現取得スキル 合計10﹄
﹃アクティブスキル 計4﹄ 裁縫LV25、 古武術LV
水魔法LV12、 風魔法LV12、 710
﹃パッシブスキル 計5﹄ ワーフォックスの加護︵身体能力向上、
高嗅覚、高聴力︶ 力上昇、 俊敏性上昇、 魔力上昇、 マジッ
クウォーリアーの魂
﹃レアスキル 計1﹄ 動物の心
﹁へえ∼ちゃんとスキルも上がってる⋮って⋮キツネちゃん!レア
スキル持ちなの!?﹂
ルチアは驚きの声を上げている。
レアスキルの所だけ秘密モードにしておいて良かった⋮。
レアスキルと言うのは、別名ギフトとも呼ばれていて、生まれ持っ
た才能、天からの授かりものと言われるスキルである。種類は様々
だが、非常に強力で、有力な力を秘めたスキルが多いらしい。レア
スキル持ちはその力の強さから、国やら貴族、その他から重要視さ
れ、引く手数多といった感じだ。
﹁どんなレアスキルかは、秘密にしてあるから解らないけど⋮キツ
ネちゃんがね∼﹂
まじまじとマルガを見るルチアに、若干照れているマルガ。気恥ず
かしそうに、尻尾をパタパタさせている。
俺もマルガの取得スキルを見る。うんうん。順調にLV上がってる
ね。格闘術LV1だったのが、俺が教えた古武術のせいで、古武術
LV12に変わってる⋮そういう変化もあるのか⋮
そんな事を考えていたら、ルチアは、マルコのネームプレートを見
ている。
﹃名前﹄ マルコ
﹃LV﹄ LV15
711
﹃種族﹄ 人間族
145㎝ 体重 40㎏ ﹃年齢﹄ 11歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ スカウト
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ イケンジリ
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹁マルコも順調に上がってるわね﹂
﹁マルコ頑張ってたもんな!﹂
﹁うん葵兄ちゃん!﹂
﹁私より3もLV高いです∼﹂
若干ウウウとなっているマルガの頭を撫で撫でする。マルガはマル
コより上級職だから、LVの上がりが、マルコに比べて遅い。ま∼
仕方無い事なんだけどね。
ルチアはマルコに取得スキルも開かせる。
﹃現取得スキル 合計8﹄
712
﹃アクティブスキル 計4﹄ 投擲術LV25、 罠解除LV15、
鍵解除LV15、 剣術LV15
﹃パッシブスキル 計4﹄ 周辺警戒LV15、 斥候術LV15、
俊敏性上昇、 スカウトの魂 ﹁スキルも順調に上がってるわね。でも、流石スカウトだけ有って、
有用なスキルが多いわね∼﹂
﹁それが良かったから、スカウトになった様なもんだからね!﹂
ニコっと笑って言うマルコを見て、軽く頭をポンポンと叩いている
ルチアも、微笑んでいる。
﹁さ∼最後は葵のネームプレートね。見せて葵﹂
ルチアはにこやかに、俺にネームプレートを提示させる
﹁い⋮いや⋮俺はいいよ⋮﹂
﹁いいから見せて。今すぐ﹂
﹁だ⋮だから⋮俺のは⋮いいって!﹂
﹁⋮葵⋮今此処で貴方がネームプレートを見せないと、貴方にこれ
からの人生の半分を、後悔するような事をしちゃうかもよ?﹂
その言葉にゾクっと来た俺は、ネームプレートをルチアに提示する。
﹁わ⋮解ったよ!み⋮見せるから、後悔させるような事はしないで
!﹂
泣きそうになっている俺を見て、ニヤっと笑うルチア。⋮ホント小
悪魔だよ!あんた!
﹁ったく⋮手間とらせるんじゃないわよ。早く開きなさい!﹂
せかすルチア。俺は深くため息を吐いて、ネームプレートを開く。
713
俺のネームプレートを初めて見るマルコとルチアは、覗きこむ様に
そら
Marks
見つめている。マルガも2人に負けない様に覗きこむ。
あおい
﹃名前﹄ 葵 空
﹃LV﹄ LV27
﹃種族﹄ ヴァンパイアハーフ
168㎝ 体重 59㎏
﹃年齢﹄ 16歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ タッスルマークスマン︵Tussle
man︶
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク ブロンズ、
所属チーム無し
マルガ、 遺言状態 所有
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹃その他3﹄ 取得財産、 一級奴隷
者死亡時奴隷解放
714
﹁ふ∼ん。LV27か∼。やっぱり、実戦に出ないと、此れ以上の
上がりはキツイわね。⋮うん?葵⋮貴方、種族が秘密になってるけ
ど、貴方見たまんまの人間族じゃないの?何かのハーフなの?﹂
やっぱり気がついたか⋮秘密モードにしておいて良かった⋮
この世界は魔族を敵対視している。俺が闇の種族、ヴァンパイアの
血を引く魔族だって解ったら、どうなるか解らない所だった。
﹁ま⋮俺にも色々あるんだよ!﹂
﹁ふ∼んま⋮いいわ!貴方のあの拳銃を使う、遠近攻撃職業は、タ
ッスルマークスマンって言うのね⋮初めて聞いたわ。こんな職業も
あるのね∼﹂
種族の事は、軽く流してくれた様で安心した。そんなホっとしてい
る俺に、ニヤっと笑うルチアは。
﹁じゃ∼次は取得スキルを見せて!﹂
微笑むルチア。しまった!ルチアの本命はこっちだったか!俺が渋
っていると
﹁何⋮?後悔したいの?﹂
流し目で言うルチア
﹁し⋮したくない!したくないです!﹂
俺はルチアの脅しに屈服してしまった。仕方無く見せる事にした。
﹃現取得スキル 合計14﹄
﹃アクティブスキル 計7﹄ 古武術LV27、 種族能力解放L
V1、 雷操作︵能力開放時のみ使用可能︶、 眷属付与、 闇魔
法LV1、 銃剣術LV27、 射撃技術LV27
715
﹃パッシブスキル 計4﹄ ヴァンパイアハーフの加護︵限定不老
不死、身体能力上昇、大強闇属性耐性、弱光属性︶、 精密射撃、
火器の知識、 タッスルマークスマンの魂 ﹃レアスキル 計3﹄ 闘気術LV27、 霊視、 魅了
﹁ふ∼ん。殆ど秘密にしてるから、内容は解らないけど⋮取得スキ
ル合計14か⋮なかなか多いわね。⋮うん?⋮うんん!?ちょ⋮ち
ょっと!葵⋮貴方もレアスキルを持ってるの!?し⋮しかも3つも
!?私でさえ、レアスキルは1つなのに!どういう事!説明しなさ
いよ!﹂
ルチアが怒涛の勢いで、詰問してくる。
うははは!失敗した!秘密モードにしても、数は解っちゃうんだっ
た!ど⋮どうしよう!
俺がルチアに胸を掴まれて、揺さぶられているのを見て、ルチアを
止めてくれるマティアス。
﹁ルチア様。レアスキルは生まれつきのもので、神からの贈り物。
ギフトのようなものです。なぜ持っているかは、葵殿とて解りはし
ませんでしょう。たまたま、葵殿は3つ持って生まれた。そういう
事です﹂
マティアスがそう言ってルチアを止めてくれた。良かった∼。マテ
ィアスGJ!
﹁わ⋮解ってるけどさ∼。私でさえレアスキルは1つなのに、釈然
としないわ∼﹂
超天才のルチアの気に触った様だったが、何とかごまかせそう!
苦笑いしている俺を、流し目で見ているマティアスは
﹁ま、レアスキルを3つ持っている者など私も初めてですけどね﹂
716
俺を見ながら言うマティアス。その瞳は、何かを考えている様で、
思わずギクっとなってしまった。
﹁そ⋮そういえば!ルチアのレアスキルってどんなスキルなの?﹂
俺はルチアのレアスキルは知っているが、話を変えようとギクシャ
クしながら言うと
﹁貴方⋮自分が秘密で見えなくなってるのに、私にソレを言わせる
訳?⋮そんなに私のレアスキルを聞きたいの?﹂
俺はキョドりながらウンウンと頷くと、ルチアはフフフと笑い
﹁私のレアスキルは⋮この美貌よ!美しいでしょ?﹂
そう言って綺麗に髪の毛をかき上げ、可愛くポーズを取るルチア。
お前のレアスキルは、天賦の才能だろうが!どれだけ、美貌に自信
があるんだよ!
﹁⋮ソウデスネー。ソレハスゴイレアスキルデスネー﹂
﹁なによ⋮その棒読みは⋮﹂
キッと睨むルチア。でも、ルチアのした、髪をかきあげる仕草を可
愛いと思ってしまった俺も、釈然としない気持ちになる。
﹁⋮ついでにお淑やかになるレアスキルも持って生まれればよかっ
たのに⋮﹂
本音が小さく呟きで出てしまった俺を、キッと見据えるルチアが
﹁葵⋮何か言った∼?後悔したいなら何時でも言ってね∼﹂
睨んでくるルチアに、ビクっとなりながら
﹁い⋮いえ!何も!﹂
どもる俺を、まだ見ているルチア。苦笑いすると、ハ∼っと溜め息
717
を吐いている。そんなやり取りをしてる時に、朝食を食べ終わった
俺達に、食後の紅茶が出される。俺はその紅茶を呑みながら、ふと、
マティアスに目をやった
﹃そういえばマティアスって⋮何者なんだろ?ルチアのお供兼護衛
なのは解っている⋮マティアスってめちゃめちゃ強いけど⋮ちょっ
と⋮霊視してみるか⋮﹄
俺はマティアスを霊視してみようとした瞬間、バチチと頭の中で鳴
り響き、霊視が解除された。俺がその衝撃に軽く頭を抑えていると、
﹁葵殿⋮食事中のレストランテで、魔法を使うのはマナー違反です
ぞ。何の魔法かは解りませんが⋮﹂
俺が霊視している事を、見ぬくマティアス。
﹁え?葵って魔法使えるの?ま∼あの拳銃の弾は魔法弾だし使えて
もいいのかな?﹂
追求してこようとするルチア。俺は少しキョドりながら、
﹁ま⋮まさか!ちょっとしたスキルだよ!ご⋮ごめんねマティアス
⋮あはは⋮はは﹂
ドキドキして言う俺を見て、フっと笑うマティアス。
やっぱり、マティアスはかなりの実力者だ!何も見れなかったけど、
イレーヌさんクラスなのは間違い無いと思う。⋮くわばらくわばら⋮
﹁わかれば宜しいのです﹂
と言って、静かに紅茶を飲むマティアス。殺されなくて良かった⋮
安堵していたら、ルチアが何か追求してこようとしていたのを感じ
たので、ルチアより先に俺が喋る
﹁あのさ!明日の朝刻中なんだけど、ちょっと用事があるから、訓
718
練出来無いから﹂
ギクシャクしながら俺が言うと、それを聞いたルチアがキッと睨んで
﹁何!?どういう事!朝刻の訓練出れないなんて!貴方にそんな権
利があると思っているの!?﹂
真顔でさも当たり前の様に、俺の人権を侵害してくるルチア
﹁い⋮いや!明日の朝刻の5の時に、人に会うんだよ!ちょっと呼
ばれててさ!﹂
俺はルチアに説明をする。
昨日ルチア達との夕食を終えて、部屋に戻ると、モンランベール伯
爵家の使いの者が、扉の前に立っていて、以前約束した、モンラン
ベール伯爵家当主と、アロイージオとの面会の日時を、教えられた
のだ。
﹁⋮なら仕方無いわね⋮。本当は納得出来無いけど我慢してあげる。
貴方に会うために時間を取っているであろう相手の人に免じてね!﹂
フンと言うルチア。俺の人権は一体何処にあるのだろう⋮悲しくな
ってきた⋮ウウウ⋮
﹁そんな事言わなくてもいいじゃん。俺達は休日も会ってるんだぜ
?少しの時間位、許してよ﹂
プイっと横を向いて若干拗ねているルチア。
俺達は、5日に1日は、休暇として休んでいる。
しかし、俺達と一緒じゃない日の次の日のルチアは、機嫌が悪かっ
たのでマティアスに聞いてみると、俺達と一緒じゃなかったので、
きっと寂しかったのでは?と、マティアスが言っていた。
それ以降、休暇の日も、俺達と一緒にいるルチアは、それから機嫌
が悪くなるのは無くなった。なんやかんやで、マルガやマルコ、俺
の事はどうか知らないが、一緒に居ると楽しいらしい。
719
﹁とりあえず明日の事は解ったけど、出かける前に、朝食を食べる
時間はあるでしょ?朝食は一緒に食べなさいよね!﹂
プリプリ言うルチアは、頬を膨らませている。拗ねられたんですね。
解ります。
﹁⋮ホント素直じゃないんだから⋮寂しいって素直に言えば、可愛
いのにさ⋮﹂
﹁なんか言った!?﹂
﹁いいえ別に∼﹂
小声で言った俺の本音が聞こえたのか、顔を赤らめているルチアを、
マルガもマルコも、ニコニコして眺めていた。
翌日、俺達はモンランベール伯爵家の使いの者の後をついて、モン
ランベール伯爵家の別邸に向かっている。
朝食を一緒にとったルチアは、若干拗ね気味だったけど、昼刻の訓
練は一緒にすると約束したら、﹃仕方無いわね!早く行って、帰っ
て来なさいよね!﹄と、寂しさ全開で待っていると言っていた。
とりあえず、面会して、終わったら速攻でルチアの元に戻ろう。ル
チアが寂しがるしね。
そんな事を考えていると、モンランベール伯爵家の別邸に到着した。
使いの者は、俺達を屋敷の中に案内しようと、歩み始めるが、俺の
足は入り口で止まってしまった。
﹃そう言えば⋮此処で、リーゼロッテと別れたんだよな⋮﹄
そう、此処には出来るなら来たく無かったと言うのが本音だ。
720
此処に来ると、俺の手の中から滑り落ちて行った、金色の妖精、リ
ーゼロッテの事を、どうしても思い出してしまう。
もう、別れてから26日が経っている。リーゼロッテはとっくにど
こぞの貴族様の物になっているんだろう。その事を思うと、今でも
心が軋む。
ルチアに会ってからは、ルチアのキャラが濃いせいと、毎日ほぼ訓
練で、リーゼロッテの事を思い出す回数は減っていた。また、それ
で良いとさえ思っていた。
しかし、別れたこの場所に立つと、腕の中で抱いていた、甘い吐息
を上げる、艶かしい色に染まった、金色の妖精の、感触から体温ま
でが、実にリアルに蘇る。
そんな事を思い、握り拳に力が入っていた俺に、優しく抱きついて
くるマルガ。
﹁ご主人様⋮大丈夫ですか?﹂
少し寂しそうにも、悲しそうにも見える、その複雑な心の中を写し
ている瞳を、俺に向けて揺らしているマルガの頭を、優しく撫でる。
﹁ゴメン⋮もう大丈夫だから﹂
俺のその顔を見て、静かに頷くマルガ。
﹁⋮ご案内させて貰っても、よろしいですか?﹂
使いの者が、俺達を待って居た。
﹁あ⋮はい。⋮お願いします﹂
俺のその言葉を聞いて、モンランベール伯爵家の別邸の中に、案内
してくれる。
モンランベール伯爵家の別邸の中に入ると、綺麗な赤い、高級そう
な絨毯が敷いて有り、天井を飾る、シャンデリアが、光り輝いてい
721
る。豪華な屋敷を、使いの者の後に付いて行くと、一際豪華な扉の
前で止まる。
そして、使いの者は、ノックして部屋の中に入ってゆく。暫く待っ
ていると、以前会った、この別館の執事をしている、アニバルが出
て来た。
﹁ランドゥルフ様がお会いになります。どうぞ、こちらに﹂
丁寧に案内され部屋の中に入って行くと、部屋の奥に豪華なソファ
ーに座っている、50台の男性が、キツイ眼光を俺達に向けていた。
その両端には、鎧を着た、威厳の有る騎士と、アロイージオが立っ
ていた。
﹁ご主人様、葵様御一行をお連れしました﹂
﹁ウム、下がるが良い﹂
そう言われて、後方に下がる執事のアニバル。豪華なソファーに腰
をかけている男性は、目の前に居る、俺達3人を上から下まで、品
定めする様に見ると、少しフンと言って
﹁良く来たな。私がモンランベール伯爵家当主、ランドゥルフ・シ
ュッセル・モンランベールだ。⋮今回は、息子のアロイージオが世
話になった。礼を言おう﹂
空
そう言って、ほんの僅かに瞳を下げる、ランドゥルフ。その眼光の
光は、鋭く、厳しかった。
﹁い⋮いえ!とんでもありません。私は行商をしています、葵
と言います。こっちが僕の一級奴隷のマルガ、そっちが、旅の仲間
のマルコと言います﹂
﹁は⋮初めまして!ランドゥルフ様!わ⋮わたしはご主人様の、一
級奴隷をしています、マルガと言います。よろしくです!﹂
﹁は⋮初めまして!ランドゥルフ様!ぼ⋮僕は⋮イケンジリの村か
722
ら来た、マルコと言います!よろしくお願いします!﹂
マルガもマルコも、かなり緊張しながら、可愛い頭を下げて挨拶を
する。それを見て、少しフンと鼻で言うとランドゥルフが
﹁挨拶はもう良い。私も忙しい身でな、用件を済まさせて貰おう﹂
そうランドゥルフが言うと、目で合図する。先程、下がったアニバ
ルが、俺達の前に立ち、袋を俺に手渡す。
﹁金貨20枚入って居る。今回の礼だ。受け取るが良い﹂
その袋を手渡された俺は、綺麗にお辞儀をして、
﹁ありがとうございますランドゥルフ様。しかし、この様な大金頂
いてもよろしいのですか?﹂
﹁構わぬ。これで、お前には貸し借りは無しと、言う事だ。その為
の金なのだからな﹂
ランドゥルフは瞳を更にキツくして、俺達を見つめる。
⋮なるほど⋮。ランドゥルフはこの金を最後に、モンランベール伯
爵家には関わるなと、言っているんだ。これ以上何かを欲しても、
何も与えぬし、何も知らない。つまり、俺達と関わりたくは無いと、
言っているのだ。
モンランベール伯爵家は、大国フィンラルディア王国の、有力な大
貴族、六貴族の内の1つ。その力の庇護に肖りたいと言う輩は、そ
れこそ星の数ほどいるだろう。ランドゥルフは当然そういう輩をた
くさん見てきた。その沢山の中の1人が、俺達と言う事なのであろ
う。ふと、アロイージオを見ると、申し訳なさそうに俺達を見つめ
ていた。
﹁解りました。確かに受け取らせて頂きます﹂
他に何も言わずに、綺麗に頭を下げる俺を見て、ほう⋮と言った顔
723
をするランドゥルフ
﹁しかし、不運であったわ。アロイージオ様を護衛していたのが、
モンランベール伯爵家の新造部隊で、訓練中であった、モンランベ
ール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊だった事がな!第
5番隊で無ければ、盗賊の集団などに、遅れをとるなど⋮ましてや
全滅などは無かったのだがな!お主も、よもや⋮ラウテッツァ紫彩
騎士団の実力が、第5番隊程度とは思っておらぬよな?﹂
ランドゥルフの左に立っている、豪華な鎧を着た、威厳のある騎士
が、俺を睨みながら言う。
﹁こやつは、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、団
長のコルネリウスだ。まあ⋮こやつの言った通りだ。不運にも、新
造で訓練中であった第5番隊が守備中の、不幸な出来事であったと、
言う事だ﹂
ランドゥルフがそう言うと、得意げな顔をしている、団長のコルネ
リウス。
⋮本当に新造部隊だったのか⋮。そう言えば、隊長のハーラルトは、
アロイージオが、どこぞの酒場で拾ってきたと言っていたな。まだ、
騎士団を持たされて居なかったアロイージオの為に、新造された所
をやられた訳か⋮。
そして、これ以上ラウテッツァ紫彩騎士団を侮辱するなら、容赦は
しないと言った所だろう。本当にバルテルミー侯爵家や、ウイーン
ダルファ銀鱗騎士団とは、真逆の印象を受けるね。ま∼バルテルミ
ー侯爵家が、特別なだけなのかも知れないけど。
俺は静かに頷き
﹁はい。良く理解しております。栄えある、モンランベール伯爵家、
ラウテッツァ紫彩騎士団様は、大国フィンラルディア王国を支え、
724
守護する、栄光有る騎士団。その事は、フィンラルディア王国の民
で有れば、周知の事実。疑う余地はありません。僕も偶然助かった
様なもので、バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団に
助けて貰った事で、事なきを得た事を良く解っております﹂
そう言って綺麗にお辞儀をすると、フっと軽く笑うランドゥルフ。
そして、ランドゥルフが何かを話そうとした時に、コンコンと扉が
ノックされ、誰かが入って来た。
﹁失礼しますご主人様。リーゼロッテ、只今帰りました﹂
その透き通る様な美しい声に、全身が逆立つ様な感覚に囚われ、俺
は無意識に、後ろに振り返る。
そこには、俺の手の中から消えて行った、金色の妖精が、真赤な美
しい豪華なドレスで着飾って立っていた。
﹁リーゼロッテ!!﹂
俺はどんな顔をしていたのかは解らない。ただ、心の奥から搾り出
される様に、ただ名前を呼んでいた
。そんな俺を見て、一瞬何とも言えない嬉しそうな光を宿した瞳で
あったが、その光はすぐに失われてしまった。
﹁あ⋮葵さん⋮﹂
触れれば、崩れ落ちそうな、微かな声を出すリーゼロッテ。俺は、
無意識にリーゼロッテの傍まで近寄っていた。そして、その瞳に入
った、ある物を見て、電撃が体中に走ったかの様に、動けなくなっ
た。
﹁リ⋮リーゼロッテ⋮その首⋮その首に付いている⋮その⋮紋章は
⋮何なの?﹂
俺は、リーゼロッテの首に付いている、その紋章をよく知っている⋮
リーゼロッテの首に付けられている、赤い輪っかの様な紋章⋮それ
725
は一級奴隷を示す紋章であった。
﹁アロイージオ様!!これはどう言う事なんですか!!!﹂
俺は振り返り、アロイージオにそう叫んでいた。俺の声を聞いたア
ロイージオは、申し訳なさそうに
﹁い⋮いや葵殿⋮僕も知らなかった事なのだよ。此処について、初
めて解った事なんだ﹂
﹁でも!リーゼロッテは、何処かの貴族に嫁いで幸せになって居る
はずなのに!何故ですか!!﹂
俺がアロイージオに叫ぶのを聞いて、無礼を働いたと思った、団長
のコルネリウスは、俺を捕まえようと、歩みだそうとしたが、ラン
ドゥルフによって、無言で止められる。その場に留まった団長のコ
ルネリウスは、激しく俺を睨みつけていた。
﹁そこの一級奴隷のリーゼロッテは、とある村から私が、金貨50
0枚で買い取った物だ﹂
簡潔に俺の知りたい情報を与えてくれるランドゥルフ。それを聞い
た俺は狼狽しながら、
﹁それは、どういう事なのですか⋮?ランドゥルフ様?﹂
辛うじてそう声の出た俺を見て、フーと大きく溜め息を吐くランド
ゥルフ。
﹁何やら話が拗れている様だな。⋮いいだろう。リーゼロッテ!昼
刻の6の時迄時間をやろう。一級客間にて、きちんと話をし、別れ
を告げるが良い。葵殿もそれが終われば、此処に戻る必要は無い。
以上だ!﹂
そう言ってランドゥルフは、執事のアニバルに指示を出す。俺達は、
アニバルに連れられて、接見室を後にした。
726
執事のアニバルに連れられて、連れてこられた部屋は、豪華な部屋
だった。
部屋の中心に大きく、豪華な装飾のついたベッドが置かれており、
甘い香りのする香が焚かれている。
マルコはアニバルに部屋の外で待つ様に言われ、その部屋の中には、
俺とリーゼロッテ、マルガの3人のみとなっていた。
そして、部屋の中で無言で黙っていた、リーゼロッテは、スルスル
と赤く豪華なドレスを脱いでゆく。
﹁リーゼロッテ何してるの?﹂
俺のその声に、ピクっと体を反応させる。リーゼロッテ。
﹁私の今の主人はランドゥルフ様です。その主人が、貴方に最後の
お別れをきちんと言うようにと、気を使ってくれたのでしょう。こ
の部屋を使って良い⋮つまり⋮それは、膣以外の所を使っても良い
から、きちんとせよとの事です。この部屋はそう言う為の部屋なの
です﹂
そう言って、ドレスを脱いでいくリーゼロッテ。
﹁そんな事を聞いているんじゃない!!一体どうなってるのか聞い
ているんだリーゼロッテ!!﹂
俺はリーゼロッテの腕をつかんでそう叫ぶと、ドレスを脱ぐのをや
めさせる。そして、リーゼロッテの顎を掴み、こちらに顔を向けさ
せると、リーゼロッテの瞳は、涙を浮かべ、激しく揺れていた。
﹁リーゼロッテ⋮﹂
727
その瞳を見た俺は、思わずリーゼロッテを抱きしめてしまった。リ
ーゼロッテもきつく俺を抱きしめる。そんなリーゼロッテの頭を優
しく撫でると、涙を流して泣き始めた。あの女神の様に、神々しく
凛としたリーゼロッテの姿は、何処にも無く、そこには、只々肩を
震わせて泣いている、か弱い美少女の姿しか無かった。
俺はリーゼロッテが落ち着くまで、胸の中に抱きしめ、頭を優しく
撫で続ける。暫くそうしていたリーゼロッテは、少し落ち着いてき
て、俺に顔を向ける。俺は指でリーゼロッテの涙を拭き、リーゼロ
ッテを椅子に座らせる。マルガが、置いてあった紅茶を3人分入れ
てくれた。マルガから紅茶を受け取った、リーゼロッテは、ゆっく
りとそれを飲む。
﹁⋮リーゼロッテ。一体何があったのか⋮話してくれるね?﹂
俺の言葉に静かに頷き、全てを話しだすリーゼロッテ。
リーゼロッテの住んでいた村は、この町より遥か東方の、エルフの
住む国と、フィンラルディア王国の国境近くにあったらしい。
リーゼロッテの両親は、父が人間族、母がエルフで、2人は恋をし
てリーゼロッテが生まれた。リーゼロッテ達は、フィンラルディア
王国のとある村で、静かに暮らしていたらしい。
そして、父が死に、エルフの母も他界し、身寄りの居なくなったリ
ーゼロッテは、村の村長に引き取られて、暮らしていった。村人は、
イケンジリの村の人々の様に優しく、イケンジリの村同様小さな村
だったが、幸せに暮らしていたらしい。
﹁しかし去年、村に大変危険な伝染病が流行り、村は存亡の危機に
陥ってしまったのです﹂
そう言って目を伏せながら、説明を続けるリーゼロッテ。
その伝染病は、この世界では、致死率の高い、死の病として恐れら
728
れているのだが、早期に、特効薬を飲めば、すぐに治せる病気とし
ても知られている。
しかし、その薬は大変高価な事もあり、富裕層しか治す手段の無い
病気としても知られていた。
村が危機に陥っている事を知った、その村の領主は、多大な費用を
払う事を嫌がり、村を魔法で燃やし、人々を殲滅する事で、伝染病
の鎮圧をしようと考えた。
それを危惧した、村の村長は、かねてより友人であった、モンラン
ベール伯爵家当主、ランドゥルフに助けを求めた。ランドゥルフは
すぐに、村人全員分の薬を用意して、村に向かわせたのだが、その
村の領主である貴族が、モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフ
の支援を断ったらしい。
﹁このフィンラルディア王国には、50に近い貴族が居て、それぞ
れが、派閥を形成しています。モンランベール伯爵家と、村の領主
である貴族は、相反する派閥の者同士だったのです﹂
説明を続けるリーゼロッテ。
モンランベール伯爵家の支援を嫌がった領主は、村を焼く準備を整
えた。それを防ぎたいランドゥルフは、一計を案じた。それが、村
から上級亜種である、リーゼロッテを買取り、その代金として、薬
を渡すと言った物だったらしい。その結果、村は無事に助かり、事
なきを得た。
その代償として、リーゼロッテは売られ、アロイージオに連れて来
る様に段取りが取られたと言うのが、大体の理由だった。
﹁私は村を守りたかった⋮。皆が優しくしてくれた、あの村を⋮。
私は喜んで身を売る事にしたんです﹂
それを聞いたマルガは、目に涙を貯めて、リーゼロッテに抱きつく。
リーゼロッテも少し涙ぐみながら、マルガを優しく抱きしめていた。
729
﹁何故⋮言ってくれなかったの?﹂
﹁言っても仕方無かったでしょう?葵さんに、金貨500枚なんて
言う大金⋮だせましたか?﹂
少し寂し気な⋮冷たい視線を俺に向けるリーゼロッテ。
﹁でも⋮私は⋮過ちを犯しました⋮葵さんの事を⋮思ってしまった
⋮好きになってしまった⋮。だから⋮本当の事は⋮言えませんでし
た⋮大好きな葵さんに⋮心配を掛けたく無かったから⋮﹂
視線をそらし、涙ぐみながら、金色の透き通る様な綺麗な瞳を、激
しく揺らすリーゼロッテ。
確かに⋮俺には、金貨500枚なんて言う大金は持っていない⋮名
剣フラガラッハを売ったとして、やっと金貨200枚が関の山だろ
う。金貨500枚なんて、夢のまた夢の金額である。
俺は自分の無力さ加減に、思わずギュっと拳を握る。
そんな俺を見て、優しく微笑むリーゼロッテは、俺を再度抱きしめ
る。
﹁私は⋮明日オークションで売られます。なので、前と同じ様に、
処女のままで居なくては行けません。それ以外の所で有れば、何処
を使っても結構です⋮最後に⋮前と同じ様に⋮私に⋮葵さんの思い
出を下さい⋮﹂
リーゼロッテはそう言って、俺の唇にキスをする。リーゼロッテの
甘く、柔らかい舌が、俺の口の中に滑りこんできた。リーゼロッテ
の甘い味のする舌を絡め、味わう。
俺はリーゼロッテを味わいながら、このまま売られてゆくリーゼロ
ッテの事を、耐えられないでいた。
リーゼロッテは明日のオークションで売られて、他の奴の物になっ
730
てしまう⋮
嫌だ⋮リーゼロッテを渡したくない⋮リーゼロッテを俺の物に⋮何
か⋮無いのか⋮何か!!!!
俺の心の中で、どす黒い様な感情が、沸々と湧いてきて、体中を支
配する。
そんな鬱屈とした心の俺は、ふと、接見室で見たある物を思い出し、
電撃が走ったかの様な感覚に囚われる。
﹃ある!⋮いや⋮あるかも知れない!蜘蛛の糸より細い可能性だけ
ど⋮アレを使えば⋮交渉に出来る!﹄
俺は勢い良くリーゼロッテから、体を離す。
リーゼロッテは訳が解らず困惑している。そして、俺は情事を傍で
見ていたマルガに近寄り、マルガを抱きしめる。いきなり抱きつか
れたマルガも、訳が解らず戸惑っている。俺はそんなマルガの耳元
で、小さい声で囁く
﹁マルガ⋮大好きだから、此れから言うお願いを、聞いてくれるか
い?﹂
マルガは静かに頷く。俺はマルガの耳元で、その内容を話す。
話をすべて聞いたマルガの瞳は、激しく揺れていた。そして、ゆっ
くりと、俺とリーゼロッテを見て、静かに目を閉じる。そして再び
開かれたその瞳は、今までに見た事の無い、強い意志が秘められて
いた
﹁⋮ご主人様。私はご主人様の一級奴隷です。私の全てはご主人様
だけの物。ご主人様がそうしたいのなら⋮私も従います!﹂
力強くそう言ってくれるマルガを、優しく抱きしめる。マルガも優
しく抱き返してくれる。
731
﹁マルガ!リーゼロッテにドレスを着せてあげて!﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
右手をハイ!と上げて、元気良く返事をするマルガは、赤いドレス
をリーゼロッテに着せてゆく。
戸惑いながら、なすがままになっているリーゼロッテ。そして、ド
レスを着せられたリーゼロッテは、右手を俺に引かれ、左手をマル
ガに引かれて、部屋から出て行く。リーゼロッテは戸惑いながら
﹁あ⋮葵さんに、マルガさん⋮一体何処に行くのですか?﹂
その問いに、俺とマルガは、声を揃えて、笑顔で言う。
﹁﹁取引ですよ!!﹂﹂
リーゼロッテは訳も解らず、俺とマルガに、引っ張られて行くので
あった。
俺とマルガは、リーゼロッテを引っ張ったまま、先程の接見室の前
まで、戻って来ていた。部屋の外で合流したマルコも一緒だ。そし
て、部屋の入口に居た、執事のアニバルに魅了を掛ける。アニバル
の自意識を奪った俺は、扉を開けさせ、接見室の中に入って行く。
そこで執事のアニバルに掛けていた魅了を解き、解放する。キョロ
キョロして、困惑している執事のアニバル。
そこに、部屋の中に入って来た、既に用の済んでいる俺達を発見し
て、顔を顰めるランドゥルフ。
﹁確か私は⋮もう此処に戻る必要は無いと、葵殿に伝えたはずだが
?﹂
732
俺をきつく見ながら言うランドゥルフ。その横で、団長のコルネリ
ウスが、警戒した面持ちで俺を見ていた。恐らく、何かすればすぐ
に捕らえるつもりなのだろう。
そんなランドゥルフと、団長のコルネリウスを見据えて、笑顔で話
す俺。
﹁ええ!先程の事とは別件でして。僕は取引に来たんです。ランド
ゥルフ様と取引をする為に戻って来ました﹂
その言葉を聞いた、ランドゥルフは更に、顔を歪める。
﹁この⋮モンランベール伯爵家当主であるこの私と、旅の一商人で
あるお前とか?﹂
﹁そうです!﹂
﹁馬鹿も休み休み言え!お前ごときが、ランドゥルフ様と取引など、
100年早いわ!﹂
団長のコルネリウスが俺を叱咤するように言うと、ランドゥルフが
それを諌める様に止める。
﹁⋮取引は良いが、私が納得するだけの、モノは用意しているので
あろうな?つまらぬモノで侮辱するなら、例えアロイージオの恩人
とはいえど、庇いきれぬが⋮いいのか?﹂
﹁はい!結構です!﹂
威圧感のある低い声で言うランドゥルフを、正面に見据え、微動だ
にしない俺を見て、フムと頷くランドゥルフ。
﹁解った⋮その取引とやらを、言ってみろ﹂
肩肘をつきながら、俺を見据えるランドゥルフ。とりあえず、取引
の話を聞いて貰える様だ。俺は先程から考えていた事を話しだす
﹁ランドゥルフ様は、ダンジョンでの秘宝を集めるのが趣味だと、
733
風の噂で聞いた事が有ります。そしてこの部屋に、飾られているの
も、多くはダンジョンより手に入れた秘宝が多いのではありません
か?﹂
﹁⋮フム確かに。ここに飾られているのは、ダンジョンより手に入
れた秘宝が多く有る。それがどうしたのだ?﹂
﹁はい。ランドゥルフ様は、ラフィアスの回廊の大魔導師、アーロ
ンの伝承を、ご存知でしょうか?﹂
俺の話を聞いて、アレか?と思い出すランドゥルフ
﹁その伝承と言うのは、300年前に、ラフィアスの回廊に、大魔
導師アーロンが秘宝を隠したと言う、あの伝承か?﹂
﹁そうです。その伝承です。300年経った今でも発見できず、幻
とされている秘宝です。⋮もし、大魔導師アーロンの秘宝なら、幾
らで買って頂けますか?﹂
その言葉を聞いて、フムと考えているランドゥルフはニヤっと笑い。
﹁⋮幾らで買って欲しいのだ?﹂
﹁⋮はい。僕はこの一級奴隷のリーゼロッテとの、物々交換を希望
します!﹂
その言葉を聞いて、予想していたと思わせる笑みを浮かべるランド
ゥルフ。リーゼロッテは自分が取引の対象になっている事に、驚い
ている。
﹁その一級奴隷のリーゼロッテは金貨500枚で買った。しかし、
明日のオークションに出せば、かなりの高額で売れるだろう。滅多
に出ないエルフの奴隷であって、レアスキルと魔力を持ち、しかも
この美貌で処女だ。頭も良く、性奴隷にも警護にも使える奴隷など、
滅多に居らぬからな。恐らく、金貨700枚位では売れるであろう。
その⋮大魔導師アーロンの秘宝は、金貨700枚に匹敵する程のモ
ノなのか?﹂
734
ランドゥルフはきつい目をしながらも、ニヤっと口元を上げて笑う。
俺は、極めて涼やかな顔で
﹁さあ?どうでしょう。それは解り兼ねます﹂
﹁⋮どういう事なのだ?﹂
俺の返答を聞いて、困惑しているランドゥルフ。俺はニコっと微笑み
﹁理由はまだ、大魔導師アーロンの、秘宝を発見していないからで
す。此れから手に入れる予定ですから﹂
﹁貴様!どういう事なのだ!実際の商品も無く、手に入れていない
架空の商品を、売りつける気であったのか!?﹂
団長のコルネリウスが激怒しながら言うのを、再度諌めるランドゥ
ルフ。
﹁詳しい説明はあるのだろうな?﹂
先程より、威圧感の有る言葉を投げかけてくるランドゥルフ。俺は
涼やかに微笑みながら、話を続ける。
﹁はい。確かに今はまだ、大魔導師アーロンの秘宝は手元にありま
せん。それは事実です。ですが、話は此処からが、本番です。僕が
提案したいのは、僕が大魔導師アーロンの秘宝を探しに行く60日
間の間、リーゼロッテの事を売らないで欲しいのです。そして、無
事アーロンの秘宝が手に入れば、その秘宝と、リーゼロッテを物々
交換して欲しい。此れが一番目の提案です﹂
俺の話を聞いて、クククと嘲笑うランドゥルフ。
﹁私がその様な取引を、受けると思うか?﹂
﹁いえ、全く思っていません。何故なら、300年間誰も探せなか
った秘宝が見つかるのか、そして見つかった所で、金貨700枚の
価値があるのか、それをわざわざ60日も待って、何の特があるの
735
か⋮と、言った所でしょう﹂
﹁良く解っているではないか⋮で、その話の続きはなんだ?﹂
少し楽しそうに笑うランドゥルフ。俺もにこやかに微笑む
﹁はい。当然話の続きがあります。では、話の前に見て貰いたいモ
ノが有ります﹂
俺はそう言って、左手に銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを一丁だけ
召喚する。それを見た、ランドゥルフの眉が、一瞬反応する。
﹁この武器は、銃剣拳銃と言う武器です。名前はグリムリッパー。
ま∼僕がつけた名前なんですけどね。見て貰った通り、この武器は
召喚武器。Sランクのマジックアイテムです﹂
そう言って、テーブルの上に、グリムリッパーを一丁置く。ランド
ゥルフは、執事のアニバルに、目で合図を送ると、アニバルはテー
ブルに置かれている、グリムリッパーに、魔法を当てる。
﹁間違いなく、Sランクのマジックアイテムです﹂
そう報告して後ろに下がるアニバル。その言葉に目を丸くする、団
長のコルネリウス
﹁で⋮このSランクのマジックアイテムを、どうしようというのだ
?﹂
﹁はい。御存知の通り、Sランクのマジックアイテムは、国宝級。
価格は最低でも金貨1000枚はする代物。しかも、このグリムリ
ッパーは、滅多に無いタイプの武器。魔力や精神力を魔法弾に変換
して撃ち出す事の出来る武器です。威力はアロイージオ様から何か
聞いているでしょう?僕が、盗賊団を殲滅出来たのは、このマジッ
クアイテムのお陰です。しかも⋮このマジックアイテムは、魔力が
無くても、精神力があれば弾が出せますので、誰でも使う事が出来
ます。これだけの代物⋮オークションに出せば、幾らになるか⋮金
736
貨1200枚か⋮1500枚か⋮﹂
それを聞いた、ランドゥルフは、指をトントンとさせながら、少し
苛立っている様であった
﹁だからそれをどうしたいのだ!﹂
﹁はい。僕は此れを、先程の条件に付けたいと思います。僕が出す
条件は、大魔導師アーロンの秘宝を探しだす60日間の猶予が欲し
い事、もし、秘宝が見つかったら、リーゼロッテと交換して欲しい
事、そして⋮もし60日間の間に、秘宝が見つからない時は、この
Sランクのマジックアイテムと、リーゼロッを交換して欲しい事で
す﹂
俺が条件を提示すると、ニヤっと笑うランドゥルフ。
﹁ウム。確かに魅力的な条件だ。だが⋮召喚武器は、次の契約をし
ようとすれば、今の所有者が死ななければ、新しい所有者と契約出
来ぬ。そこはどうするのだ?﹂
きつい目をして、俺を見つめるランドゥルフ。俺は涼やかに微笑み
ながら
﹁はい。60日間の間に、秘宝を見つけられない時はの条件は、S
ランクのマジックアイテムと、リーゼロッテとの交換。その時は⋮
僕が自ら命を断ち、新しく契約が出来る状態に、させて頂きます﹂
涼やかに言う俺のその言葉を聞いた、リーゼロッテの顔色が変わる。
﹁葵さん!貴方何を言っているのか、解っているのですか!?もし、
60日間で見つからない時は、貴方は死ななければならないと、自
分から言っているのですよ!?﹂
﹁その通りですが、何か問題でも?﹂
﹁大有りです!私はその様な事を望みません!マルガさん!貴女か
らもなにか言って上げて下さい!﹂
737
リーゼロッテは、とり乱しながら、俺とマルガに叫ぶ。マルガは静
かにリーゼロッテの方を向き
﹁私は⋮全てをご主人様に任せました!ご主人様がなさる事が、私
の全てであり、私の望む事なのです!﹂
しっかりとした、決意の篭った瞳でリーゼロッテを見ているマルガ。
﹁そういう事です。それに今のリーゼロッテに、その様な事を言う
資格はありません。だって、今の貴女は、何の権利も持たいない、
只の商品なのですから。商品である貴女がどう思おうが、その気持
ちに関係無く、取引されるのです。それが⋮貴女が望んだ、結末で
す﹂
俺のその言葉を聞いて、絶句しているリーゼロッテ。俺は視線をラ
ンドゥルフに戻す。
﹁どうされますかランドゥルフ様。この取引をお受けになられます
か?勿論、僕は逃げない様に、公証人の制約魔法契約で、先程の条
件を約束させて貰います﹂
その言葉を聞いたランドゥルフは、フフフと楽しそうに笑って
﹁いいだろう!その条件で取引してやろう!﹂
ニヤっと口元に笑みを浮かべているランドゥルフ。俺はそれを涼や
かな笑顔で見ながら
﹁此処までが2番目の提案です﹂
そう言って、ニヤッと口元を上げて笑う俺。その言葉を聞いたラン
ドゥルフは、更に面白そうな顔をする。
俺は残りのもう一丁のグリムリッパーを召喚し、テーブルの上に置
く。それを見た団長のコルネリウスは、口を開けたまま、ただそれ
を眺めていた。
738
﹁当然此れも、Sランクのマジックアイテムです。先程のグリムリ
ッパーは2丁拳銃。2つあるのです。僕は此れも取引の材料にしま
す。此れから提案するのが、3番目の提案です﹂
﹁⋮その3番目の提案⋮話してみよ﹂
面白そうに言うランドゥルフ。俺は話を続ける
﹁では続きを。僕はこの2丁目のグリムリッパーを追加で、取引に
出します。内容はこうです。60日間、大魔導師アーロンの秘宝を
探す期間を頂く。もし、秘宝が見つかったら、リーゼロッテと物々
交換して貰う。もし見つからない時は、この2丁のSランクのマジ
ックアイテムとリーゼロッテを物々交換して貰う。そこに、金貨5
00枚持参した時も、リーゼロッテを金貨500枚で売って頂く。
当然期間は60日﹂
俺の話を静かに聞いているランドゥルフ
﹁つまり、2の条件に、60日間の期間中に、僕が金貨500枚を
用意出来た時も、リーゼロッテを売って頂くと言う条件を付ける代
わりに、Sランクのマジックアイテムを2つにすると言う事ですね﹂
それを聞いて、顎に手を当てて考えているランドゥルフ
﹁僕がこの条件をつけたのは、僕も一応商人ですからね。いかなる
可能性も考えたい。60日間の期間が過ぎれば、僕は死ななければ
ならないのです。可能性は少しでも上げたい。当然、僕もまだ死に
たくはありませんからね﹂
そして、一歩前に出て、ランドゥルフにきつく睨む様に俺は言う
﹁言うなれば此れは一種の賭け。60日間の間に、僕が金貨500
枚を用意出来るか、それとも、大魔導師アーロンの秘宝を見つける
事が出来るか⋮。出来れば、金貨500枚か、アーロンの秘宝。出
739
来なければ、国宝級のSランクのマジックアイテムが2つ。300
年間誰も発見出来ていない、秘宝か、一商人である僕が、金貨50
0枚もの大金を用意できる、可能性が高いか⋮﹂
ニヤっと笑う俺を、正面から見据えるランドゥルフ。
﹁⋮60日間の期間の間に、お前が金貨500を用意するか、大魔
導師アーロンのの秘宝を発見出来るか⋮出来ない時は⋮国宝級のS
ランクのマジックアイテムを2つか⋮フフフ⋮アハハ。面白い!や
ってみよ!60日間で、お前が何処迄出来るか見てやろう!その取
引⋮受けてやろう!!﹂
高笑いをしながらランドゥルフは言う。
﹁取引成立ですね。ではお約束通り、公証人の制約魔法契約で、先
程の条件を約束させて貰います﹂
俺の言葉を聞いたランドゥルフは、執事のアニバルに、準備をさせ
る。
特殊な魔法で出来た羊皮紙に、先程の条件が書き込まれて行く。そ
して、書き込まれた内容を、双方が確認して、署名する。すると、
執事のアニバルは、魔法の詠唱を唱える。羊皮紙が光り出し、その
羊皮紙が、俺、ランドゥルフ、公証人契約をした執事のアニバルの
体の中に吸い込まれて行く。
﹁無事に制約魔法契約が完了しました﹂
ウムとランドゥルフが頷くと、執事のアニバルは後ろに下がって行
く。
﹁無事に取引の契約はなされました。ランドゥルフ様⋮﹂
俺がランドゥルフに言いかけた所で、右手でランドゥルフに制され
る。
740
﹁お前の言いたい事は解っておる⋮アニバル!明日のリーゼロッテ
のオークションの出品予定を取り消せ!リーゼロッテは既に売約済
み!リーゼロッテを売約済みの部屋に移し、60日間一般の来客と
して扱う様に!⋮これで良いのであろう?﹂
ニヤッと笑うランドゥルフに、ニコッと笑って頷く俺。
俺とマルガ、マルコは、リーゼロッテの傍に行く。激しく瞳を揺ら
し、目に涙を浮かべているリーゼロッテ。
﹁えっと⋮なんか、こんな事になっちゃったけど、何とかするから
心配しないでね!リーゼロッテ姉ちゃん!﹂
マルコがリーゼロッテに言うと、ウンウンと頷いて居るマルガが
﹁⋮きっと60日間の間に何とかします。きっとリーゼロッテさん
が喜ぶ形で迎えにきますので、ご主人様の事は私達に任せて下さい
ね、リーゼロッテさん﹂
リーゼロッテの手を握って、マルガは優しく微笑んでいる。
俺はリーゼロッテに近づき、耳元で囁く
﹁俺は絶対にリーゼロッテを手に入れる。⋮だから⋮ちょっとだけ
待っててねリーゼロッテ﹂
その俺の言葉を聞いた、リーゼロッテは、膝から崩れ落ちて、嗚咽
をあげて、泣きだした。俺は蹲っているリーゼロッテを、優しく抱
きしめる。
﹁期間は60日!楽しみに待っているぞ!行商人の少年!葵よ!﹂
声を上げて、面白そうに笑っているランドゥルフ。
こうして、俺達のリーゼロッテ奪還作戦は始まった。
741
愚者の狂想曲 21 ラフィアスの回廊
モンランベール伯爵家の別邸を後にした、俺とマルガとマルコの3
人は、ルチア達と合流して、約束をしていた昼刻からの訓練を終え、
何時ものレストランテで夕食を食べている。
﹁は∼今日も、訓練良く頑張ったわね∼。まあ∼朝刻は、貴方達が
居なかったから、思う様に訓練出来なかったけど!﹂
まだ少し拗ねている様子のルチアに、俺もマルガもマルコも、フフ
と笑っている。それを見たルチアは、少し気恥ずかしそうに、食後
の紅茶を飲んでいる。
﹁でも、午前中の用事って何だったの?ま∼話せない様な事なら別
にいいけどさ﹂
少し気になっているルチアは、紅茶を飲みながら聞いてくる。俺は
ルチアに向き直ると、真剣な目でルチアを見る。それを見て、何時
もと違う俺の雰囲気に、戸惑っているルチア
﹁な⋮なによ⋮﹂
﹁ルチア⋮俺達、明日から訓練に行けないんだ。⋮悪いねルチア﹂
その言葉を聞いたルチアは、キッっと俺を睨むと、
﹁はあ!?何言ってくれちゃってる訳?あんたにそんな権利がある
と思ってるの!?それに、何故出来無いのよ!きちんと理由を説明
しなさいよね!﹂
﹁とある理由でラフィアスの回廊に、大魔導師アーロンの秘宝を、
探しに行く事になった﹂
声高に怒っているルチアにそう話すと、不機嫌な顔を、更に不機嫌
742
にして、
﹁ラフィアスの回廊の大魔導師アーロンの秘宝ですって?確か30
0年前の伝説か伝承に出てくるアレ?あんた自分が何言ってるのか
解ってる訳?﹂
不機嫌な顔を、呆れさせて紅茶を飲むルチア。
﹁確かに、ラフィアスの回廊に大魔導師アーロンが、秘宝を隠した
と言う伝承は残ってはいますが、300年間誰にも発見されていな
くて、夢物語として言われている様な、空想の物ですよ?私も、当
時は探してみた事は有りましたが、見つかりませんでしたし﹂
マティアスがそう言うと、ウンウンとルチアが頷いている。
﹁そうよ、あそこは初心者や日銭稼ぎの冒険者が多く行く所だから、
回廊も調べつくされているしね。冒険者ギルドで回廊MAPが、売
っている位なんだから。そんな調べつくされた所に、秘宝なんてあ
る訳無いでしょ?﹂
呆れながら言うルチアは、軽く溜め息を吐いている。
﹁だけど⋮それでも俺は⋮探さなければならないんだ!﹂
いつになく真剣な俺の雰囲気を感じ、戸惑っているルチアは
﹁ちょ⋮ちょっと落ち着きなさいよ!何故探しに行かなきゃいけな
いのか、きちんと説明して!﹂
俺を宥める様に言うルチアに、リーゼロッテの事を説明する。それ
を聞いたルチアは、深い溜め息を吐いて、きつい目をして俺を見る。
﹁⋮つまり簡単に言うと⋮そのエルフの一級奴隷を買いたいけど、
お金が無い。その代わりに、大魔導師アーロンの秘宝を探しだして、
交換するって事よね?﹂
743
俺がそれに頷くと、ルチアは盛大に溜め息を吐いて、呆れながら
﹁馬鹿じゃないの貴方?そんな高価なエルフの一級奴隷を、上級に
も届かないLVの、一行商人である貴方が、欲しがるの事自体がど
うかしてるわ。諦めなさい∼。身の程を知るべきだわ!﹂
吐き捨てる様に俺に言うと、何食わぬ顔で紅茶を飲むルチア。
﹁そんな事は解ってるさ!だから秘宝を探すんじゃないか!﹂
声高に言う俺を流し目で見て、あからさまに不機嫌な顔をするルチ
アは
﹁そんな夢物語を大きな声で堂々とまあ⋮それに、唾を飛ばさない
でくれる?性奴隷の一級奴隷を欲しがる様な、色狂いの貴方の唾で
妊娠したらどうするのよ!﹂
両手で自分の体を抱きしめながら言うルチアは、変出者でも見る様
な眼で俺を見ている。俺は慌てながら、
﹁ちょ⋮何言ってるの!?つ⋮唾で妊娠する訳無いだろ!?﹂
﹁葵殿!ルチア様になんて破廉恥な!妊娠などこの私がさせません
!﹂
﹁だだだ⋮だから!妊娠する訳無いでしょ!?マティアスさんも落
ち着いて!﹂
ルチアの言葉に、過剰に反応したマティアスが、剣を抜く勢いで俺
に言ってくる。
ちょっと!マティアスさん落ち着こう!この人、めちゃくちゃ強い
けど、少し頭がアレなんだよな⋮。
それに⋮マルガちゃん。なに口をあ∼んって開けて待ってるの?唾
じゃ妊娠しないからね?何時も唾上げてるでしょ?妊娠してないで
しょ?
ふと視線をマルガの膝に移すと、マルガを真似して、白銀キツネの
744
甘えん坊のルナも同じ様に口を開けている。
いやいや。ルナも俺の子供欲しいの?そこまで飼い主に似なくてい
いんだよ?
そんな心の中でツッコミを入れている俺を見て、ルチアは再度貯め
息を吐き
﹁⋮兎に角、そんな夢物語みたいな事諦めたら?時間の無駄よ!﹂
﹁夢物語でもなんでも、俺はやるの!⋮やるしかないんだ!﹂
﹁ど⋮どういう事?﹂
俺はランドゥルフと交わした、取引の内容を、詳細にルチアに説明
する。それを聞いたルチアの表情は一変し、俺の手を掴み、勢い良
く立ち上がった。
﹁イテテ!どうしたんだよルチア!﹂
﹁どうもこうも無いでしょうが!貴方自分で何をしたか解って言っ
てるんでしょうね!?大魔導師アーロンの秘宝なんか、有る訳無い
!見つからない!それに、60日間で金貨500枚なんて大金、貴
方なんかに稼げる訳無いでしょう!?⋮今ならまだ許して貰えるか
もしれない。私が口利きをして上げるから、そんな取引⋮取りやめ
て貰うわ!﹂
怒涛の如く言い立てるルチアの手を振りほどき、ルチアと対峙する
﹁嫌だ!俺は取引を続行する!﹂
そう言い放つ俺の胸ぐらを両手でギュウウっと掴むルチア。その顔
は怒りに染まっている。
﹁キツネちゃん!貴女はどうなの!60日間で、秘宝なんか絶対に
見つからない!金貨500枚なんて大金、絶対に稼げない!此のま
まじゃ、貴女の大切なご主人様は、死んじゃうのよ!?キツネちゃ
ん⋮貴女本当にこれでいいの!?﹂
745
俺を掴みながら、マルガに声高に言うルチアを見て、ギュっと握り
拳に力を入れているマルガが
﹁⋮私は、ご主人様の提案を受け入れました。私の全てはご主人様
の物⋮ご主人様の望みが、私の望み。それに⋮私はリーゼロッテさ
んに、2回も命を助けて貰ってます。私もリーゼロッテさんには、
ご主人様の傍にいて欲しいのです。それにリーゼロッテさんと、約
束しました。必ず喜ぶ方法で迎えに行くって﹂
マルガは決意の瞳でそう言うと、ニコっと満面の笑みをルチアに向
ける。
それを見て聞いたルチアは、キュっと唇を噛み、両手を俺の胸ぐら
から離す。
﹁⋮なによ皆して⋮。私が悪者みたいじゃない⋮﹂
そう小さく呟いて、俯いてしまったルチア。俺はルチアの肩にそっ
と手を置き
﹁ルチア⋮心配してくれてありがとう。その気持ち⋮とても嬉しい
よ﹂
黙って俺の言葉を聞いていたルチアは、呟く様に言う
﹁⋮私も⋮行く⋮﹂
﹁うん?なにか言ったルチア?﹂
﹁私もラフィアスの回廊に、大魔導師アーロンの秘宝を、一緒に探
しに行くって言ってるのよ!!﹂
顔を俺に向け、キッと俺を見ながら、声高に言うルチア。その言葉
に、一同が驚いている。
﹁ル⋮ルチア様!本当なのですか!?﹂
﹁本当よマティアス。異論は認めないわ!﹂
746
その言葉を聞いたマティアスは、口をポカンと開けていた。
﹁で⋮でも、俺⋮ルチアとマティアスさんに、報酬とか渡せないよ
?見つけた秘宝だって、リーゼロッテと交換に使うから渡せないし
⋮﹂
﹁いいわよ!そんな物いらないわ!ま∼報酬は貸しって事で、何時
か返して貰うわ!﹂
そう言って笑うルチアは、俺にきちんと向き直る。そして真剣な目で
﹁⋮金貨500枚を、貴方に貸せない訳じゃない。でも、性奴隷の
一級奴隷を買うと言う理由で、そのお金を動かすには、私の﹃誇り﹄
が許さない。貴族のお金は血税なの。民の税金で私達は生活をして
いる。その血税を、私的に⋮自分の欲の為に使うには、少し大きい
額だわ。私はそう思っているの。だから⋮お金を貸して上げる事は
出来無いの。⋮悪いわね﹂
少し視線をそらすルチア。俺はルチアを此方に向かせる。
﹁⋮ルチアって、何も考えてなさそうで、意外と思慮深いよな。結
構良い領主さんになるかも?﹂
﹁な⋮なによそれ!あ⋮貴方なんかに言われたく無いわよ!﹂
アタフタしながら、戸惑っているルチアに、マルガもマルコも微笑
んでいる。
﹁改めて頼むよ⋮ルチア⋮秘宝を探すの手伝ってくれない?﹂
その言葉を聞いたルチアは、腰に手を当てて、仁王立ちしながら、
﹁仕方無いわね!貴方がそこまで、私にお願いするなら、聞いてあ
げるわ!さ∼忙しくなるわよ!とりあえず、明日、ラフィアスの回
廊に入る為の装備を、各々整えておく事!明後日から、ラフィアス
の回廊の探索を開始するわ!期間は60日しか無いんだからね!絶
747
対に秘宝を見つけるわよ!解った?﹂
﹁﹁ハイ!!﹂﹂
ルチアの言葉に、マルガとマルコは右手を上げて、元気良く声を揃
えて返事をする。
﹁ありがとね⋮ルチア﹂
﹁フン!あくまでも貸しだからね!何時か利子を付けて返して貰う
から、覚悟しなさいよ!﹂
﹁ハハハ⋮その時はお手柔らかに⋮﹂
俺が苦笑いしているのを見て、アハハと笑っているマルガとマルコ。
そんな俺達を、盛大な溜め息を吐いて見守るマティアス。
﹁貴方には最後まで付き合って貰うからね。マティアス﹂
その言葉を聞いたマティアスは、フフっと軽く笑って、
﹁ええ。それが私の役目ですからね⋮﹂
静かに目を閉じながら言うマティアス。
こうして、俺達のラフィアスの回廊の探索は始まった。
今日はこのメンバーで初めて、ラフィアスの回廊を探索する日だ。
昨日のうちに、俺とマルガとマルコの装備と道具を揃えて、今はル
チアとマティアスとの待ち合わせである、港町パージロレンツォの
郊外町、通称ヌォヴォのラフィアスの回廊に伸びている街道の入口
に、向かっている。暫く歩いて行くと、待ち合わせの場所である、
客馬車の乗合所で、ルチアとマティアスが待っていた。俺達に気が
748
ついたルチアは、キッと俺を睨み、
﹁遅い!この私を待たせるなんて、良い度胸ね!﹂
﹁あれれ?ほぼ約束の時間通りじゃなかったっけ?﹂
﹁私と待ち合わせしたら、最低1刻前には、来ていないとダメでし
ょうが!﹂
﹁⋮何処の国の法律ですかそれは⋮﹂
呆れている俺に、ギャーギャーと怪獣の様に、言ってくるルチア。
マルガとマルコはそれを見て、面白そうに笑っている。それを見守
っていた、マティアスが溜め息を吐きながら、
﹁これで全員揃いましたな。此処から馬車に乗って、ラフィアスの
回廊に向かいます。最後に各自の装備を確認しましょう﹂
マティアスが言う様に、装備を確認して行く。それをルチアがチェ
ックして行く。
﹁じゃ∼まずオイラからね!﹂
黒鉄のケトルハット マルコが嬉しそうに装備を見せる。
﹃頭﹄
﹃体﹄ 魔法銀のブリガンダイン︵Bランク︶、レザーギャンベソ
ン、レザートラウザーズ
﹃腕﹄ 魔法銀のバックラー︵Bランク︶、レザーグローブ
﹃足﹄ 黒鉄のグリーブ、革靴
﹃武器﹄ 魔法銀のクリス︵Bランク︶、黒鉄のスローイングダガ
ー10本、黒鉄のスティレット
749
﹃背中﹄ フード付き防水レザークローク
﹃その他﹄ ウエストバッグ
﹁ふんふん、きちっと装備出来てるわね!でも⋮魔法強化されたB
ランク装備が3つね⋮中々奮発したじゃない葵。結構したんじゃな
いの?﹂
﹁まーね!一人頭、10金掛ければね!お陰で、お金はかなり減っ
ちゃったけどね﹂
﹁ありがとね葵兄ちゃん!﹂
マルコは嬉しそうに俺に言うとニコっと微笑んでいる。
﹁じゃ∼次は私です∼!﹂
レザーキャップ マルガが、ハイハイ!と、右手を上げて、嬉しそうにアピールして
いる。
﹃頭﹄
﹃体﹄ 竜革のスタデッドレザーアーマー︵Bランク︶、膝上レザ
ーワンピース、膝上ドロワーズ
﹃腕﹄ 黒鉄の半手甲、フィンガーレスレザーグローブ
﹃足﹄ 格闘用魔法銀のグリーブ︵Bランク︶、革靴
﹃武器﹄ 魔法銀の両爪︵Bランク︶、黒鉄の短剣
﹃背中﹄ フード付き防水レザーケープ
750
﹃その他﹄ ウエストバッグ
﹁なるほど、俊敏性を失わずに、攻撃できる様な装備で揃えたのね﹂
﹁ハイ!鎧も革で、見た目より重くなくて、動きやすいです!爪と
蹴りで、攻撃しちゃいます∼!﹂
フンフンと少し鼻息の荒いマルガの頭を、ルチアは優しく撫でてあ
げている。
そして、俺の前に来たルチアは
﹁じゃ∼葵見せて﹂
﹁え!?俺!?﹂
﹁⋮他に葵って言う、パッとしない、男の子が居る?﹂
黒鉄のケトルハット ですよね∼。いませんよね∼。うわあああん!
﹃頭﹄
﹃体﹄ 魔法銀のブリガンダイン︵Bランク︶、レザーギャンベソ
ン、レザートラウザーズ
﹃腕﹄ 黒鉄の半手甲、フィンガーレスレザーグローブ
﹃足﹄ 黒鉄のグリーブ、ジョッパーブーツ
﹃武器﹄ 名剣フラガラッハ︵Aランク︶、銃剣二丁拳銃グリムリ
ッパー︵Sランク︶
﹃背中﹄ フード付き防水レザークローク
﹃その他﹄ 容量15アイテムバッグ、ウエストバッグ
751
﹁ふうん⋮武器だけは、超一流ね。武器だけは。見た目はパッとし
ないけど﹂
ですよね∼。解ります∼。うわああああああん!⋮本当⋮2回も言
わなくても、いいじゃないか!
﹁そう言うルチアは、どうなんだよ!﹂
忍耐の兜︵Bランク︶
﹁フフフ見たい?仕方ないわね!見せてあげるわ!﹂
﹃頭﹄
﹃体﹄ 白氷の鎖かたびら︵Aランク︶、高級膝上レザーワンピー
ス、高級膝上ドロワーズ
﹃腕﹄ 魔法銀のガントレット︵Bランク︶、高級フィンガーレス
レザーグローブ
﹃足﹄ 魔法銀のグリーブ︵Bランク︶、高級レザーブーツ
﹃武器﹄ 切り裂きの戦斧︵Bランク︶、魔法銀のスティレット︵
Bランク︶
﹃背中・首﹄ 退魔のマント︵Bランク︶、状態異常防止タリスマ
ン︵Aランク︶
﹃その他﹄ 容量20アイテムバッグ、ウエストバッグ
﹁どう?なかなかの物でしょう?﹂
﹁すげ∼!殆ど高級品だ!﹂
﹁ルチアさん、格好良いです∼!﹂
マルガとマルコが、ルチアを見て、キャキャとはしゃいでいる。ル
752
チアは、ま∼ね∼と、言いながら、髪をかきあげている。
﹁くううう。お金に物を言わせるとは⋮﹂
﹁負け惜しみにしか、聞こえないわよ葵?﹂
うわあああん!⋮何時か大金を稼いで、見返してやる!
﹁本当は、胸当て系が良かったんだけど、この白氷の鎖かたびらは
Aランクの防具で、防御力を失わずに動けるし、火炎のブレスに対
しては、絶大な防御効果を得られるからね。だからこれにしたわ﹂
Aランクの防具とか、初めて見たよ!⋮金持ちめ⋮
﹁でも意外だったよ。ルチアなら、フルプレート系にするかと思っ
てたんだけど﹂
﹁武器を威力のある、重い、切り裂きの戦斧にしてるから、早く振
れるように、回避しやすく、動きを早く出来る様に、フルプレート
系は避けたのよ。それにガッチガチの戦士系は後ろに居てるでしょ
う?﹂
ルチアの言葉に、マティアスを見ると、光り輝く白銀のフルプレー
トに身を包み、豪華で高価そうな装備を、全身に纏っている。まる
で、何処かの英雄のような装備だ。それを着て、威風堂々と立って
いた。その装備なら⋮グランド・ドラゴンとでも、戦えそうだね⋮
﹁た⋮確かに⋮装備の名前は知らないけど、きっともの凄い装備な
んだろうね⋮﹂
俺が苦笑いをしていると、マルガとマルコも、目を丸くして、口を
開けてマティアスを見ている。
﹁ま∼初心者御用達のラフィアスの回廊で、そんな超超超上級者の
様な装備をしているのは、マティアス位のもんだけどね﹂
そう言って呆れているルチアに、一歩近寄ってマティアスが
753
﹁私はルチア様の護衛です。何時いかなる時でも全力です!﹂
自信満々に言うマティアス。本当に⋮めちゃめちゃ強いんだけど⋮
頭がね⋮残念!
装備の確認の終わった俺達は、客馬車に乗り込む。客馬車に揺られ
る事、約1刻、ラフィアスの回廊の入り口が見えて来た。俺達は客
馬車から降りて、ラフィアスの回廊の入り口に立つ。
何か久しぶりだな⋮他のパーティーで来た事を思い出すね。
そんな事を思っていたら、俺達の前にマティアスが出て、
﹁ダンジョンに入ったら、私の指示に従って貰います!ダンジョン
に入ってまず優先する事は、死なない事。必ず生きて帰る事を、最
優先にして行動して下さい!﹂
その言葉に、俺、マルガ、マルコが頷く。ルチアも辛うじて頷いて
いる。
それが少し気になって、小声でルチアに言う
﹁ルチア⋮マティアスさんは一番の経験者で、一番強いんだから、
いいと思うんだけど⋮何か、心配事でもあるの?﹂
﹁⋮すぐに色々解るわよ⋮﹂
何か謎めいた事を言うルチア。
俺達はマティアスを先頭に、ラフィアスの回廊に入っていく。
ラフィアスの回廊⋮約300年前に、大魔導師アーロンが作ったと
されるダンジョンだ。
ダンジョンは人間族や亜種族が作れる様な物では無い。詳しくは解
っていないが、ダンジョン自体が、巨大な高ランクの、マジックア
イテムの様な物になっているらしく、ダンジョンの壁や床、天井、
石像などの装飾品を含め、どんな事をしても破壊出来無い様に作ら
れて居る。
754
当然作り方など解らず、大多数が謎でもある。一説には、神や魔神、
そういった者達が作ったと言われる位なのだ。人間族や亜種族も研
究はしているのだが、魔法で強化された壊れにくい素材を作るので
精一杯と言った所だ。
それとダンジョンの中には、召喚された魔物や魔族が闊歩し、それ
らが倒されると、何処かから自動召喚されて、補充される。なので、
ダンジョン内の魔物や魔族の総数は、常に一定に保たれているらし
い。
何の為に作られたか、どうやって作ったのか、目的は何なのか、全
てが解っていない。
この、ラフィアスの回廊を作ったとされている、大魔導師アーロン
も、一説には神の様な存在であったと伝えられている。
﹁やっぱりダンジョンに入ったら、薄暗いんだね∼。ほんの少し先
しか、見えないよ﹂
マルコが、目をショボショボさせて言うと、フフフと笑うマティア
スは
﹁心配ご無用!オールライト!﹂
そういって、何かの魔法を唱えると、辺りはまるで外に居るかの様
に、明るくなった。
﹁凄いです∼!遠くまで見渡せて、まるで、普通に外に居てるみた
いに明るいです∼﹂
マルガは、わあああと、感動しながら辺りを見渡している。
﹁照明呪文を唱えました。パーティーのみ有効ですが、これで地上
並みに見る事が出来ます。それと、常時守備力を上げるガードアッ
プも、掛けておきますね﹂
そう言って待た魔法を掛けてくれるマティアス。防御力が、魔法効
755
果で上がっているのが解る。
流石は上級者マティアス!以前来た時は、俺は暗闇でも見えるけど、
他の奴等は、松明や、ランタンを持ちながら、探索してたもんね。
これはかなり楽そうだ。
そんな事を思っていると、マティアスは俺達の方を向いて、
﹁先頭は私。右が葵殿。左がルチア様。マルガ嬢とマルコ坊は、抜
けてきた敵を倒して下さい。マルガ嬢とマルコ坊は、一緒に戦って
下さい﹂
﹁﹁ハイ!マティアスさん!﹂﹂
マティアスの指示に、元気良く返事をする、マルガとマルコを見て、
ウンウンと頷いているマティアス。その中でルチアだけが、頷いて
いなかった。
﹁ホントどうしたのルチア?﹂
﹁ま⋮初めはそれで行ってみましょう﹂
そう言って、マティアスの言う通りに隊列を組むルチア。俺は不思
議に思いながらも、隊列につく。
﹁マルガにマルコ。他のメンバーも周辺警戒してるけど、一番の感
知能力があるマルガは、特に周辺の変化を気にしてね。マルコもね。
﹂
俺の言葉にウンウンと頷く、マルガにマルコ。
﹁さあ!お喋りはそこまでにして、行きますよ!気を引き締めて下
さい!﹂
一同が頷き、いよいよラフィアスの回廊の探索が始まる。
ダンジョンといっても、ここ、ラフィアスの回廊は初心者が多い。
つまりは探索している人が多いという事だ。良く他の冒険者パーテ
ィーとすれ違う。でも中には、法律で禁止されている、ダンジョン
756
内での盗賊行為、つまりは、ダンジョンで他のパーティーに襲われ
る事もある。なので、冒険者と言っても安心してはいけない。自分
のパーティー以外は、基本危険であると認識しないと、痛い目にあ
う。
暫くラフィアスの回廊を進んで行くと、マルガが可愛い耳をピクピ
クさせる。何かが聞こえる様だ。
﹁皆さん!前方から⋮何か来ます!⋮数が多いです⋮7⋮8⋮9⋮。
恐らく10体位の何かです!﹂
マルガの言葉を聞いた俺達は、身構えながら進んで行く。
すると前方から、ガチャガチャと装備の音をさせながら、それは現
れた。
そこには、剣と盾で武装した、犬の様な顔で直立歩行した、毛むく
じゃらの魔物がいた。大きく開かれた口には、獰猛な牙があり、涎
を垂れ流している。
﹁ご主人様!犬が武器を持って、直立に立ってます!﹂
﹁あれは、コボルトだね⋮数が多いね⋮11匹か⋮﹂
魔物も此方を発見して、嬉しそうに、ニヤっと大きな口を開けてい
る。
﹁コボルトは低級の獣系魔物ですが、動きが素早く、力も強い。マ
ルガ嬢とマルコ坊は注意して下さい!﹂
マティアスの言葉に、静かに頷くマルガとマルコ。
﹁では、さっき言った作戦の通りで!先頭は私、右は葵殿!左はル
チア様!マルガ嬢とマルコ坊は、抜けてきた敵のみを、一緒に攻撃
!無理はせずに落ち着いて倒して下さい!﹂
俺達は頷き、戦闘態勢に入り、身構える。
757
﹁では!行きます!﹂
そう言って、一瞬でコボルトの群れの中に飛び込んでいくマティア
ス。あの重装備でもの凄い速さ。
跳躍したのが見えなかった⋮。マルガとマルコは、初めて闘う魔物
に、緊張した面持ちで身構えていた。そして、2人は作戦通り、抜
けてきた敵を倒そうと待っている。すると⋮
﹁フン!他愛もない。ま∼所詮はコボルトか!﹂
そう言って、一人でコボルト11匹を、一瞬で滅多切りの肉片に変
えたマティアス。
﹁あ⋮あれれ?も⋮もう終わちゃった⋮?﹂
戦闘の終わった事を理解したマルコが、拍子抜けと言った感じで言
うと、その隣で、マルガもウンウンと頷いている。
﹁やっぱり⋮﹂
小さく呟いて、ルチアがツカツカとマティアスの方に歩いて行く
﹁おお!ルチア様!敵は全滅させました!﹂
ニコニコして言うマティアス。それを見たイラッとした感じのルチ
アが
﹁そうね!全滅させちゃったわね!﹂
甲高い声で言って、マティアスの腹に蹴りを入れる
﹁グフ!﹂
マティアスは12のダメージを受けた!
﹁マティアス!貴方はほんと何考えてるのよ!貴方が本気で戦えば
こうなるのは解っているでしょう!確かにパーティーを組んでるか
758
らLVは上がっていくけど、それじゃ、スキルが上がらないのよ!
この探索は、秘宝を探す為のものだけど、ついでに、私と葵、キツ
ネちゃんとマルコの訓練も兼ねているのよ!貴方が全部倒しちゃっ
たら、訓練にもならないでしょうがあああ!!﹂
ご立腹のルチアがマティアスに怒っている。
﹁いいいいやでも!ルチア様の安全を考えれば、私が先頭に立って
⋮﹂
と言いかけた時に、またルチアの蹴りが、マティアスに入る。マテ
ィアス7のダメージ!
﹁そんな事はいいのよ!この、ラフィアスの回廊は、冒険者ギルド
でダンジョンMAPが売っていて、出てくるモンスターさえ、網羅
されている位の初心者ダンジョンなのよ!貴方の出番はそれ以外が
出てきた時のみよ!もっと臨機応変にやって!﹂
怒濤のように怒るルチア。シュンとなるマティアス。それを見てい
る俺とマルガとマルコは、ちょっと可哀想な眼で、マティアスを見
ていた。
﹁これからは、私が指揮をとるから!前衛は私が真ん中!右がキツ
ネちゃん!左がマルコ!中間にサポートの葵!後衛がマティアスね
!マティアスは回復呪文のみ使用!余程の敵が出て来る迄は手出し
無用!もし⋮それ以外で攻撃したら、私が貴方を攻撃するからね!﹂
まだ怒りが収まらないルチア。ハイと小さく言って、更にシュンと
なって子犬の様になっているマティアス。そんなマティアスを見て、
俺とマルガとマルコは、必死に笑いを堪えていた。
﹁ったく⋮本当に教えるのが下手なんだから。自分さえ強かったら
良いってもんじゃないのよ⋮﹂
呆れながら言うルチア。
759
実は訓練場で俺とルチアは、マティアスに手合わせをして貰った事
がある。当然2人とも、一瞬でやられてしまった。しかも何故やら
れたか解らない位に全力で。あれでは確かに練習にならない。
ルチア曰く、マティアスは、教えるのが凄く下手で、手加減が出来
無いとの事。なので、あれだけ強いのに、練習相手にはならないら
しい。俺達を見つけていなければ、どうなっていたかとか言ってい
た。その意味がよく解った俺でした。
﹁さあ!行くわよ葵!キツネちゃん!マルコ!﹂
そう言って歩き出すルチア
﹁あ⋮うん⋮﹂
名前さえ呼んで貰えなかったマティアスの事を気にかけながら、俺
達は探索を再開した。
俺はちょっとマティアスの事が気になって、少し振り返ってみた。
すると、怒られた子犬がシュンとなってついて来ていた。もう我慢
出来るか自身が無い位、笑いを堪えていた俺。
マルガとマルコを見ると、同じ様に笑いを堪えて歩いている。俺達
はなるべくマティアスを見ない様に心掛ける。本当に、めっちゃめ
ちゃ強い人なんだけど⋮頭がね⋮アレなんで⋮
そんな事をしていると、再度マルガが何かの気配を感じた。
﹁右前方です!ガチャガチャした音⋮武器を持っています!数は⋮
8⋮9⋮10⋮11位です!﹂
その言葉に戦闘態勢に入る俺達。
すると、それはガチャガチャと音を鳴らしながらやって来た。それ
は剣と盾を持ったガイコツであった。
﹁ご主人様!骨です!人の骨が動いています!﹂
﹁うん。あれはアンデッドの魔物だね。スケルトンファイターだ。
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数が多いな⋮注意してね2人共﹂
俺の言葉に、マルガとマルコは静かに頷く。
﹁じゃ∼行くわよ皆!私がまず特攻するから、キツネちゃんと、マ
ルコは、バラけた所を倒してね!葵は、キツネちゃんと、マルコの
支援を!マティアスは回復ね!行くわ!﹂
ルチアは左右にフェイントを入れながら、スケルトンファイターの
群れに向かっていく。
﹁でりゃああ!﹂
気合の入った声を上げるルチア。その振るわれた切り裂きの戦斧で、
スケルトンファイター1体をバラバラにする。それが終わると、す
ぐさま回転を利用して2匹目も粉々にするルチア。重量のある切り
裂きの戦斧を、力任せに振るうのではなく、遠心力や重心の移動、
物理法則を緻密に計算、肌で感じて、切り裂きの戦斧を、自由自在
に扱っている。俺には出来ない芸当だ。さすが天賦の才能のレアス
キル保持者と言った所だ。
﹁流石ルチア。じゃ∼俺達も行こうか!マルガ!マルコ!﹂
﹁﹁ハイ!﹂﹂
そう元気良く返事したマルガとマルコも、スケルトンファイターに
向かって跳躍する。
﹁やああああ!!!﹂
俺に教わった通り、左右にフェイントを入れながら、スケルトンフ
ァイターに向かうマルガ。
スケルトンファイターの剣戟をスルリと躱し、懐に入ったマルガの
魔法銀の両爪が、スケルトンファイターを切り裂く。胴体から真っ
二つに斬られた、スケルトンファイターは、地面に崩れ去る。
761
﹁やりましたーー!ご主人様見ててくれましたか!﹂
嬉しそうに手を振るマルガ。しかし、その後ろから、別のスケルト
ンファイターが、マルガに襲いかかる。
﹁ザシュ!﹂
名剣フラガラッハで、頭のてっぺんから真っ二つになったスケルト
ンファイター。それを見て、少し驚いているマルガ。俺はマルガに
軽くチョップをお見舞いする
﹁ハウウ!﹂
﹁戦闘中は油断しちゃダメ。倒したと思っても生きている時も有る
から、十分に注意する事!解った?﹂
﹁はい∼。ご主人様∼﹂
少しシュンとしているマルガの頭を、優しく撫でる俺
﹁でも、さっきの攻撃は、中々良かったよ。この調子で、倒しちゃ
え!﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
右手を上げてハイ!と元気良く言うと、行っくぞ∼と、言って、別
のスケルトンファイターに襲いかかるマルガ。マルガの魔法銀の両
爪で切り裂かれるスケルトンファイター。
ふとマルコを見ると、2匹のアンデットファイターに囲まれて、苦
戦していた。
俺は一気に跳躍して、名剣フラガラッハで、片方のスケルトンファ
イターを切り裂き倒す。
それを見たマルコは、もう片方を魔法銀のクリスで切り裂き倒す。
﹁戦闘中は、常に回りを良く見る事。今みたいに囲まれちゃうから
ね﹂
﹁うん!解ったよ葵兄ちゃん!﹂
762
﹁じゃ∼残りも倒そうか!﹂
﹁うん!﹂
マルコも別のスケルトンファイターに斬りかかって行く。
﹁キツネちゃんもマルコも、中々やるじゃない!﹂
﹁だね!俺達も負けていられないよ?﹂
﹁フン!誰に言ってるの?そんな事⋮解ってるわよ!﹂
ニヤっと、笑いながら、次々とスケルトンファイターを倒して行く
ルチア。
う∼む。流石ルチア。天賦の才能は伊達じゃないね。実際、訓練場
でも、初めは勝てたが、今は10回やれば4回は負ける。成長が楽
しみな超天才戦乙女。
そして、スケルトンファイターも残り、3匹となって、ルチア、マ
ルガ、マルコが、一気に殲滅をしようとした所で、スケルトンファ
イターが光の渦に包まれる。
﹁ぐあああ!﹂
唸り声を上げて、スケルトンファイターは消滅してしまった。後ろ
を振り返るルチア。そこにはギクっとなっているマティアスがいた。
﹁い⋮いや∼。何もする事が無くて⋮攻撃はダメと言われましたが、
アンデットの呪いを解く位なら⋮いいかな∼っと思いまして⋮﹂
苦笑いしながら言うマティアス。それを聞いたルチアがついにキレた
﹁マ∼∼ティ∼∼∼∼ア∼∼∼∼ス∼∼∼∼!!!﹂
そう叫んだルチアは、マティアスにドロップキックを放った!マテ
ィアスは30のダメージ。老人や子供ならやばそうな攻撃だ。
﹁呪いといたら、LVも上がらないし、スキルも上がらないでしょ
うが∼∼!﹂
763
怒りまくっているルチア。マティアスは、ルチアに正座させられて、
説教されていた。
俺とマルガ、マルコはもう我慢出来無くなって、腹を抱えて声を出
して笑っていた。マティアスは、俺達を恨めしそうに見ていたが、
笑いを止める事は出来無かった。俺達の笑いが終収まって来た頃に、
お説教も終わった様であった。
﹁⋮次何かしたら⋮貴方に呪いをかけるから⋮﹂
睨みながら、マティアスに言うルチア。もう、ハムスターみたいに
なっているマティアス。そこに、さっきのスケルトンファイターが
持っていた宝箱があったのを忘れていた。
﹁なに?宝箱開けるの?この辺のモンスターは良いの持ってないわ
よ?﹂
﹁いや、アイテムよりも、罠解除とか、その辺のスキルを伸ばした
いからさ﹂
俺が言うと、なるほどと言うルチア。マルコは宝箱を慎重に調べて
いる。敵が落とす宝箱には、大抵罠が仕掛けられている。それを技
能で調べて、解除するのがスカウトの仕事でもある。マルコは初め
ての宝箱なので、慎重に罠を調べる。何回も調べなおして結論を言う
﹁毒針ですね﹂
マルコより先に、答えを言うマティアス。罠を見抜く魔法を唱えて
いたみたいだった。
﹁なんなら私が罠も解除しましょうか!魔法で!﹂
そう言った所で、ルチアに胸ぐらを掴まれたマティアス
﹁もう⋮回復以外は⋮するな∼∼∼!!﹂
耳元で叫ばれたマティアスは、フラフラになっていた。さすがにマ
764
ルガとマルコも、可哀想な物を見る目でマティアスを見ていた。
本当に本当、マティアスはめちゃめちゃ強い!⋮頭は⋮アレ過ぎで
すが⋮
﹁⋮マルコ⋮罠を解除して⋮﹂
疲れた様にいうルチア。マルコは苦笑いして、宝箱の毒針の罠を解
除する。
﹁っと⋮解除成功!﹂
安堵のマルコ。ウンウンと頷くルチア。指を咥えて、ハムスターの
様になっているマティアス。そのハムスターの頭を、よしよしと撫
でてあげているマルガ。そこにはそんな光景があった。
宝箱の中身は、壊れた武器と、少々の銅貨だった。
﹁やっぱり、この辺じゃこんなもんよね﹂
﹁ま∼な。でも練習になるから、出たらどんどん開けていくね﹂
俺が言うと、頷くルチア。俺達4人は更に探索を続けるのであった。
今日は探索初日、1階のみの探索として、今日は帰る事になった。
結局、魔物と結構戦ったが、俺達4人がダメージを受ける事は殆ど
無かった。ダメージを受けたのは、ルチアに攻撃されたマティアス
のみという結果だった。それも装備の効果で歩いている内に体力が
回復していたマティアス。俺達の、初めての探索はこんな感じで幕
を閉じた。
765
ラフィアスの回廊を探索し始めてから、既に31日が立っていた。
期日迄残り約半分。俺は焦りを感じていた。60日間の期間に、大
魔導師アーロンの秘宝を見つけるか、金貨500枚を用意するか⋮。
今現在は、その両方、どちらも出来ていない状況だ。
手持ちの資産は、名剣フラガラッハを、売ったとして、金貨180
枚位。残り金貨320枚。とてもじゃないが、普通の行商や、ダン
ジョンでの財宝だけでは、貯まる金額ではない。
冒険者ギルドの仕事も、それだけの報酬が貰える物もあるが、ラン
クがダイヤモンドクラス、内容もとても達成出来る様な物では無か
った。
そんな、何の進展も無い俺達は、今日もダンジョンに篭っている。
そして、今は地下3階にある、ラフィアスの回廊の名物、5つ有る
休憩スポットの1つ、亀竜の泉と言う、井戸の傍で休憩をしている。
﹁は∼何時飲んでも、この亀竜の泉の水は冷たくて、美味しいわね﹂
水を呑みながら言うルチア。マルガやマルコも、美味しそうにその
水を飲んで、休憩している。
﹁そうだな∼﹂
俺も水を飲みながら言う。
﹁葵⋮貴方暗いわよ?そりゃ∼これだけ探しているのに、全く見つ
からないどころか、手がかりさえ見つからないのは、解かるけど⋮
まだ期日は、半分有るんだし、諦めずに頑張るわよ﹂
ルチアが優しくそう言ってくれる。俺はありがとうと言って、水を
飲む。
﹁でもさ∼。大魔導師アーロンの秘宝って、何処に有るんだろうね。
はっきり言って、全フロアの壁と床を、見落としなく探しつくして
766
るよね。本当見落としは無いって、断言出来る位探してるし⋮﹂
マルコが泉に持たれながら、両手で頭を抱え、軽く溜め息を吐いて
いる。
﹁そうですね∼。私もこのラフィアスの回廊なら、地図を見なくて
も、どこからでも帰れる様に、なっちゃいましたし⋮﹂
マルガは俺に寄り添いながら、可愛い頭を俺に持たれかけている。
﹁私も同行をした身として、見落としは無いと言って過言では無い
と思う。フロアや壁には何も無いといっていいと思う﹂
此方も水で喉を潤しながら言うマティアス。
そうだ、調べ尽くした。本当に良く調べた。しかし、手がかりさえ
無い。やっぱり⋮伝承だけなのか⋮
そんな事が頭をよぎり出す。期日も半分過ぎた⋮此処は、最悪のケ
ースも考えて置かないとダメだね⋮
﹁なあ⋮ルチア。ちょっと話が有るんだけど、あっちで2人だけで
いいかな?﹂
﹁⋮別にいいわよ。行きましょうか﹂
俺とルチアは、少し離れた壁向こうに歩いて行く。そして、2人だ
けになった事を確認して
﹁なあルチア⋮﹂
﹁⋮なによ﹂
﹁もし⋮期間中に、秘宝が発見出来無い、金貨500枚が貯まらな
かった時の事なんだけどさ⋮﹂
﹁⋮なによ。はっきり言いなさいよね﹂
ルチアは、少しキツメの目をして、俺を見ている。俺はゆっくりと
話しだす。
767
﹁うん。もしね⋮ダメだった時は、俺の財産を、マルガ、リーゼロ
ッテ、マルコに、きちんと3等分して、分けて上げて欲しいんだ。
名剣フラガラッハを売れば、金貨150枚にはなる。手持ちの金貨
も、約30枚。それを、皆に分けてやって欲しい。⋮出来るなら、
マルコには、行商の良い師匠を付けてやって欲しい。マルガとリー
ゼロッテには、安全に暮らせて、働ける所を、紹介してやって欲し
い。ルチアは信用できるし、お願いしたいんだけど⋮ダメかな?﹂
静かに目を瞑って聞いていたルチアは、ゆっくりと瞳を開ける。
﹁⋮なにそれ。まるで何処かの爺さんの遺言みたいな事⋮﹂
﹁茶化さないでルチア。⋮ルチアにならお願い出来ると思って、言
ってるんだ﹂
俺の真剣な眼差しを見て、覚悟を感じ取ってくれたのか、フンと鼻
で言って、
﹁⋮解ったわよ。約束してあげる﹂
﹁ほんと?﹂
﹁但し!貴方も私に約束しなさい!期日の最後の最後まで、諦めな
いって!解った?﹂
俺の胸に拳を当てて、きつい目をして言うルチア。それに、ルチア
らしさを感じ、思わず微笑んでしまう。
﹁な⋮何よ⋮可笑しな事言った?﹂
﹁⋮ううん。ルチアらしいなって思ったらつい⋮﹂
﹁なにそれ!失礼ね!﹂
少し膨れているルチアを此方に向かせる。
﹁⋮ありがとねルチア。最後まで頑張って見るよ。言い出したのは
俺だしね!きちんと責任を取らないとね!﹂
﹁⋮当たり前でしょ!そんな事!⋮でも、余り、塞ぎこんでいる所
768
を、キツネちゃんやマルコには、見せない事ね。あの2人は、貴方
が思ってるよりずっと、貴方の事を心配してるんだから⋮﹂
そう言って、トンと俺の胸を軽く叩くルチア。静かに頷く俺を見て、
フンと鼻でいうルチア
﹁さあ戻りましょうか。余り時間をかけたら、心配するしね﹂
﹁そうだね⋮﹂
歩き出そうとしたルチアに、
﹁なあルチア⋮﹂
﹁⋮何よ?﹂
﹁⋮お前って、良い女だよなって思ってさ﹂
それを聞いたルチアの顔が赤くなる。
﹁な⋮何言ってんのよあんたは!そ⋮そんなの当たり前でしょうが
!むしろ、今迄気が付かない、貴方がどうかしてるのよ!だから、
馬鹿で、見た目パッとしなくて、モテないのよ!!﹂
ルチアは、捲し立てるように言ってくる。
あれれ?俺なんか変な事言った?普通に褒めただけなんだけど⋮褒
めるだけで罵声されちゃうの俺!?
一体どんな過酷な星の下に、生まれたんですかオラは⋮
⋮ああ⋮癒されたい⋮そうだ!マルガちゃんだ!俺のマルガをギュ
ッとして、癒されよう∼。
今行くからね∼マルガちゃ∼ん!
俺はフラフラしながら、マルガのいている泉に戻って行く。
そんな俺の後ろ姿を見て、ハ∼っと深い溜め息を吐くルチア
﹁⋮此処に来て、金の無心かと思いましたが⋮遺言だったとは⋮﹂
影に隠れて気配を消していたマティアスが、ルチアの元に歩いてく
769
る。
﹁葵に、そんな知恵ある訳無いでしょ?前に私が言った﹃誇り﹄の
話を信じきっているんだから。本当に馬鹿なんだから⋮﹂
視線を落として、寂しそうに言うルチア。そんなルチアを優しく見
守るように微笑むマティアスは
﹁ですが⋮そんな葵殿だからこそ、気に入ったのでしょう?マルガ
嬢もマルコ坊も、非常に真っ直ぐです。あの人達と居るルチア様は、
今まで見ていた中で、一番幸せそうでしたからね﹂
優しく言うマティアスの言葉を、黙って聞いていたルチアは、マテ
ィアスに向き直る。
﹁マティアス。もし期日が近づいて、何も進展が無かったら、金貨
500枚用意して頂戴。私がランドゥルフ卿に、直接話を付けるわ﹂
﹁それは⋮ランドゥルフ卿も驚かれるでしょうね。ルチア様自ら取
引されると解ったら﹂
その事を想像して、楽しそうにしているマティアスは、フフフと笑
っている。
﹁しかし⋮﹃誇り﹄は宜しいのですか?﹂
﹁フン!誰も救えない﹃誇り﹄なんか、薪にくべて燃やした方がま
しよ!それに⋮あれは⋮﹂
﹁ええ⋮解っていますとも。多額のお金を、何時でもルチア様から
貰える⋮つまり、そう言う﹃人﹄にされたく無かったのでしょう?
なので、適当な理由を言った。葵殿達とは⋮今までの様に⋮楽しく
居たかったから⋮﹂
優しく言うマティアスの言葉を聞いて、寂しそうに俯くルチア。マ
ティアスはフフっと軽く笑って、
770
﹁⋮王都ラーゼンシュルトで、ルチア様を砂糖菓子よろしく、集っ
てくる奴等の事が嫌で、この町に来たルチア様に、貢がせるとは⋮
葵殿は、将来凄い商人になるかもしれませんな﹂
楽しそうに言うマティアスに、フンと鼻でいうルチアは
﹁とりあえず、そうなって貰う為に、気合いれて来ようかしら。あ
いつ馬鹿だから、私の軽口でフラフラになってたしね!﹂
そう言うと、右手をブンブンと回して、泉に帰って行くルチア
﹃ルチア様が気合を入れたら、余計にフラフラになりませんか?﹄
そう、心の中で疑問に思ったマティアスであったが、口には出せな
かった。
ああ∼癒し⋮癒しは何処ですか∼。
俺はフラフラしながら、亀竜の泉に戻ってきた。
癒しの∼マルガちゃん∼何処ですか∼。
フラフラしながら探していると、マルガとマルコが泉のほとりで、
何かをしていた。
俺は癒しマルガの傍に歩いて行き、後ろからギュっと抱きしめる。
﹁キャ!!﹂
可愛声を上げるマルガは、驚いていたが、俺だと解って、安堵して
いた。
﹁ご⋮ご主人様⋮ど⋮どうしたのですか?﹂
﹁うん⋮今⋮癒されオーラ補充中です﹂
771
そう言ってマルガを抱きしめていると、よしよしと頭を撫でてくれ
るマルガが愛おしい。
は∼∼∼癒される∼。壊れかけの、強化ガラスのハートが復活して
きたよ!
マルガに癒されて、元気になった所で、何をしていたのか気になっ
た。
﹁所で、何してたの?﹂
﹁うん。この泉にあるこの銅像さ、何の魔物なのかなって、マルガ
姉ちゃんと言ってたんだ﹂
﹁そうなんですご主人様。こんな魔物、ご主人様は、見た事ありま
すか?﹂
マルガは、俺の頭を撫でながら聞いてくる。撫で撫で。
﹁そうだね∼。見た事無いね。ま⋮俺の知ってる、これに近い物は
あるけど、多分別物だね﹂
﹁その似ている物って、何なんですか?﹂
﹁うん⋮此れに似てる、玄武っていう、伝説上の生き物を知ってい
るだけなんだけどね﹂
このラフィアスの回廊の地下3階には、有名な休憩スポットが5つ
有る。
今居ている此処は東の亀竜の泉。西には大鷹の泉。北には狼の泉。
南には竜の泉。そして中央には、一角獣の泉がある。
この5つの泉で、冒険者たちは喉を潤し、休憩して、また探索を開
始するのだ。
俺は最初、この亀竜が玄武に似ていたので、何か関係があるのか調
べてみたが、玄武は北を守護する四神。此処は東。いとも簡単に玄
武説は無くなったと、言う訳だ。
772
確かに形は似ている。大きな亀に、脚の長い亀に蛇が巻き付いた感
じの物が付いている。
この世界の人達も、その姿を形容して、亀と竜、つまり、亀竜と呼
んで居るのだろう。
俺がそんな話を、マルガとマルコにしていると、ルチアとマティア
スが近寄ってきた。
﹁貴方⋮何してるの?﹂
マルガに抱きついて、いい子いい子して貰っていた俺を、何か汚い
物を見る様な眼差しで見つめてくるルチア。
うわあああん!この子の視線が怖いよ!視線恐怖症になっちゃうY
O!あ⋮でも⋮ゾクゾクと⋮気持ち良さも⋮駄目だ!オラはS!ゾ
クゾクさせられたら駄目ジャマイカ!頑張れ俺!
﹁えっとね、この銅像ってなんの魔物なのか、話してたんだ!﹂
マルコの言葉に、フンフンと頷くルチア。俺とは視線を合わせてく
れなかった。⋮泣きたい⋮ううう⋮
﹁そうね∼。こんな魔物は聞いた事も、見た事も無いわね∼。マテ
ィアス⋮貴方はある?﹂
﹁いえ⋮ありませんね。私もそこそこ伝承や、伝説には詳しいので
すが、この銅像に合う物は知りませんね﹂
その言葉を聞いた俺は、若干の違和感を感じる。
俺やマルガ、マルコならいざ知らず、この博識の超天才美少女のル
チアや、経験豊富なマティアスが知らないなんて⋮よっぽど珍しい
のかな?
﹁ま∼実際に居ないものを、空想だけで作ったって物もあるから、
知らない物があっても、不思議じゃないわ﹂
ルチアがそう説明する。確かにそうだよな。そんな物もある。むし
773
ろそうだろう。
﹁じゃ∼もう暫く休憩したら、探索を開始しましょうか。⋮解った
?変態!﹂
ルチアはジト目で俺を見ながら言う。
ついに直球で変態ときましたか!あはははは!もうどうにでもなれ
∼∼!
こんな事を思っていたら、少し喉が乾いてきた。
﹁マルガ⋮水貰える?﹂
﹁あ!ちょっと待ってて下さい!お水汲んできますので!﹂
そう言って、俺の水筒を持って、少し離れた井戸に水を汲みに行っ
てくれるマルガ
﹁⋮葵⋮女の子に、あんな事させていいの?﹂
﹁え!?いや⋮あはは﹂
俺を相変わらずジト目で見ながら言うルチアに、苦笑いしていると、
マルガが戻ってきた
﹁ハイ!ご主人様お水です!﹂
ニコっと微笑むマルガに再度癒される。俺はマルガが汲んでくれた
水を飲んでいると、マルガは亀竜の銅像を見ながら、何かを考えて
いた。そして、亀流の銅像に、持っていた水筒の水を掛ける。
その後に、う∼んと唸って、テテテと走って井戸に戻り水を汲み、
また戻って来る。再度亀竜の銅像に、持っていた水筒の水を掛け、
またう∼んと唸って、テテテと走って井戸に水を汲みに行くと言う
のを繰り返している。
﹁葵⋮キツネちゃん何してるのかしら?﹂
﹁⋮さあ⋮?何かの⋮運動?﹂
774
﹁⋮貴方におかしな事されて、変になったんじゃないの?﹂
ジト目で言うルチア。
いやややややああああ!マルガちゃんゴメンネ!頼りないご主人様
を許して!
俺は、亀竜の銅像に水筒の水を掛けて、水攻めプレイ?している、
マルガの傍に行く
﹁マ⋮マルガ⋮何してるの?﹂
ちょっと声が上ずっちゃった!オラ恥ずかしい!
﹁えっと⋮この亀竜さんの銅像が、汚れているので、お水で流して
いるのですが、全然綺麗にならないんです∼﹂
そう言ってう∼んと、可愛い小首を傾げて居るマルガ可愛ゆす!
ふと、亀竜の銅像を見てみると、土や、埃でかなり汚れている。
うん汚い!確かに、水でも掛けてやりたくなるのも解る。マルガは
優しくて、真面目だしね。
そしてなんとなく、亀竜の銅像を見ていた時に、おかしな事に気が
ついた。
﹃あれ?⋮この亀竜の銅像⋮水に濡れた気配が全く無い?⋮確かさ
っき⋮何回もマルガが水を掛けていたはずなのに⋮﹄
俺は不思議に思い、亀竜の銅像の足元を見てみると、全く水に濡れ
ていなかった。
﹁⋮マルガ⋮もう一回、水筒に水汲んできてくれる?﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
俺の言葉に、マルガはテテテと走って、水を汲みに行ってくれる。
それを見たルチアが、俺の傍にやって来た
﹁⋮葵、貴方⋮またキツネちゃんに、井戸の水汲ませて!重いんだ
775
から、貴方がやって上げなさいよね!﹂
プリプリ怒っているルチア。すると、マルガが水を汲んで帰ってき
た。
﹁ハイ!ご主人様!﹂
ニコっと笑う可愛いマルガから、水筒を受け取る。まだ俺にプリプ
リ怒っているルチアに
﹁ルチア⋮﹂
﹁何よ!!﹂
﹁ちょっと⋮此れ見て⋮﹂
俺はそう言うと、亀竜の銅像に、水筒の水を掛ける。それを見たル
チアは、イラっとした感じで、
﹁だから⋮何なのよ!﹂
﹁今⋮俺は、この亀竜の銅像に水を掛けたよな?﹂
﹁ええそうよ!だから何!﹂
﹁良く見て⋮この亀竜の銅像⋮水に濡れてない⋮﹂
﹁はあ!?水に濡れてないって、どういう⋮﹂
ルチアはその先を言いかけて、言葉を発せられなかった。
今確かに水を掛けたはずの亀竜の銅像は、水に濡れた形跡が全くな
かった。
﹁な⋮なにこれ⋮どういう事!?﹂
俺とルチアとマルガは、顔を見合わせて困惑していた。そして、こ
の亀竜の銅像が気になったので、霊視で視てみる事にした
﹃⋮ック。やっぱり視えないか⋮。ダンジョンが巨大なマジックア
イテムだというのは、本当に間違いないのかもね﹄
俺は心の中でそう呟く。実は、最初の予定では、とっくに秘宝は見
776
つかる予定であった。
その理由は、俺には霊視があるからだ。霊視は物の本質を見極め、
その物がどんな物で出来ているかまで、視る事が出来る。なので、
ダンジョンで、隠し扉や、何かの仕掛けがあれば、きっと魔法を使
っているから、霊視で見抜けると、思っていたのだ。ところが、ダ
ンジョン自体が、巨大なマジックアイテムであった場合、既に魔法
で何かされている所を、更に細かくは視れない。いや視れなかった。
なので、今迄全く何も手がかりが掴めないで、来ていたのである。
考え事をしている俺にルチアは
﹁葵どうしたの?何か解った?﹂
その声に現実に戻された俺
﹁いや⋮解らない。でも、この亀竜の銅像はおかしい。だって、掛
けた水は何処に行ったんだ?﹂
その様な事を話していると、マティアスとマルコも傍によってきた。
そして、亀竜の銅像に、水を掛けても、水が消える話をしたら、同
じ様に考え込んでいる。
﹁つまり⋮この亀竜の銅像は、水を消す、水を吸う、水を隠す、等
の事を、何らかの方法でしているって事よね?﹂
冷静に分析する、超天才美少女のルチア。
この亀竜の銅像は触れる。すると汚れが手につく。埃や砂が、亀竜
の銅像にあるって事は、土系には反応していないという証拠。その
時、何かが頭の中を駆け抜ける。
﹁玄武は⋮水の属性の四神⋮﹂
ふと、その言葉が出た。そして、電撃が走ったかの様に
﹁マルガ!この亀竜の銅像に、水魔法を掛けてみて!﹂
777
俺がそう叫ぶと、ハイ!と言って、水魔法の詠唱を始める。そして、
亀竜の銅像に魔法を放つ
﹁ウォーターボール!﹂
水の弾を魔法で放つ、水属性の攻撃魔法だ。勢い良く放たれたウォ
ーターボールは、亀竜の銅像に当たると、口の部分に吸い込まれる。
すると、亀竜の銅像は、水色と、黒の光を放ちながら、光り出した。
﹁ビンゴ!!!やっぱりそうか!!!﹂
光り輝く亀竜の銅像に目を取られている一同は、俺の声に反応する。
﹁葵!一体どういう事なの!?﹂
﹁水色と黒色の光⋮間違いない!こいつはやっぱり玄武の銅像だっ
たんだ!﹂
俺は異世界の地球の話はしないで、俺の故郷に、あると言う前提で、
玄武の話をする。
﹁玄武は、水の属性を持ち、黒の色を持つ四神!そして⋮。マルガ
!ラフィアスの回廊の地図を貸して!﹂
その言葉に、ウエストバッグから、ラフィアスの回廊の地図を取り
出し、俺に渡す。そして位置を確認する。
﹁玄武は水の属性を持ち、黒の色を持つ。そして、守護しているの
は⋮北!此処は東だから⋮﹂
俺はそう言って、2色に光り輝く、亀竜の銅像に手を掛けて、時計
回りに、右に像を回す
﹁ゴゴゴゴゴ⋮﹂
土の擦れる音をさせて、亀竜の銅像を回すと、ガチャっと音をさせ
て、動かなくなった。その直後、光り輝いていた、光が消える。辺
778
りに静寂が戻る。
﹁い⋮一体どうなっているんですか!?ご主人様!﹂
﹁そうよ!葵何か解ったんでしょ!?早く教えなさいよ!﹂
マルガとルチアが、ねえねえと聞いてくる。
﹁うん。この玄武はね、四神と言って、東西南北を守る神様みたい
な物なんだよ。俺の故郷では、結構有名な神様で、この玄武は水を
司り、黒の色を持ち、北を守護する神様で知られているんだ。俺も
初めて見た時は、玄武だと思ったんだけど、この場所が東にあった
から、北を守護する玄武では無いと、勝手に思い込み、空想の魔物
⋮只の飾りの銅像だと思っていたんだ﹂
俺の説明にピンきた超天才美少女ルチアは
﹁⋮なるほど⋮。だから、葵は銅像を回したのね。玄武が本来守護
すべき場所⋮北の方向に合う様に、右に回して、北に向けた。そう
したら、北を向いた亀竜の銅像は、光を止めて、動かなくなった⋮
と、言う事ね!﹂
俺は肯定して頷く。
﹁きっと他の像も、この亀竜と同じ原理だろう。東西南北に像があ
り、その中央にもある⋮間違いない!﹂
その言葉を聞いたルチアは、装備を整え始める
﹁みんな!装備をしなおして!それぞれの銅像に出立するわ!﹂
皆がルチアに頷くと、準備を始める。そして準備の整ったのを確認
したルチアは
﹁葵。次は何処に行く?﹂
﹁そうだね。今は東だから、南の竜の泉に行こう!﹂
779
皆が俺の言葉に頷き、南の竜の泉に向かう一同。
﹁四神の種類は、玄武、白虎、青竜、朱雀。そして中央の黄竜。此
れがその種類だ﹂
﹁なるほど⋮それぞれが、違う場所に置かれていたから、気が付か
なかったのね。しかも、私やマティアスでさえ知らない神様である
四神。⋮きっとその先に⋮何かあるわね!﹂
ニヤっと笑うルチアにコクっと頷く俺。
説明をしながら歩いていると、件の竜の泉に到着した。
﹁青竜は、東を守護し、緑の色を持ち、木を司る神様。⋮うん?木
!?この世界に、木の属性なんか無いよね!?﹂
戸惑っている俺のその言葉を聞いて、何かを思い出した、超天才美
少女のルチア
﹁待って葵。木の属性は無いけど、木を育てる魔法があるわ!木を
育てる魔法は、水と土の混合魔法!キツネちゃんが水の魔法を、私
が土の魔法を唱えるわ!やってみましょう!﹂
﹁ハイ!解りました!ルチアさん!﹂
元気良く返事をするマルガ。ルチアの指示の下、マルガとルチアは
水と土の魔法を唱える
﹁ウォーターボール!﹂
﹁アースクラッシュ!﹂
唱えられた2つの魔法は、竜の銅像目掛けて、飛んでゆく。そして、
魔法が当たった瞬間、竜の銅像が、緑と茶色の光を出して、光り輝
く。それを見たルチアはニヤっと口元を上げて笑う。
﹁どうやら当たりみたいね!﹂
﹁流石はルチアだね!﹂
780
﹁当然でしょう!?誰にものを言ってるのよ!誰に!﹂
腰に手を当てて、ドヤ顔でアハハと声高に笑っているルチアに、マ
ルコとマルガも笑っている。
﹁えっと、青竜は東を守護で、此処は南だから⋮﹂
﹁さっきと同じ、右回しよ!﹂
ニヤニヤ笑うルチアに、苦笑いする俺。
俺は右に竜の銅像を回して行く。ゴゴゴゴと音を立てて、動く銅像
は、ガチャっと音をさせて動かなくなった。そして光も消えて、戻
って来る静寂⋮。
﹁葵の言う通り⋮間違いなかったわね!﹂
ルチアの言葉に、皆が頷く。
﹁さあ!どんどん行くわよ!葵次は?﹂
﹁西の大鷹の泉!﹂
﹁了解!﹂
俺達は西の大鷹の泉に向かう。途中で出て来た魔物を一瞬で全滅さ
せて、足早に大鷹の泉に向かう。
そして、大鷹の泉に到着する。俺は銅像を知らべる。
﹁此れは朱雀の銅像だな。朱雀は南を守護し、赤の色を持ち、火を
司る四神﹂
﹁じゃ∼此処は私ね!火の魔法は私しか使えないし、火は私の一番
得意な属性だし!﹂
得意げな顔のルチア。
そうですか火ですか⋮燃え上がるんですね。解ります。ルチアに似
合い過ぎてて⋮怖いよママン!
ルチアは魔法の詠唱をはじめる。
781
﹁ファイアーボール!﹂
放たれた、炎の弾は勢い良く、朱雀の銅像に当たる。
すると、朱雀の銅像は、赤と朱色の色で光り出し、輝く。
俺は銅像の傍まで行き、
﹁えっと⋮朱雀は南を守護で、ここは西だ⋮﹂
﹁さっきと同じ右回しよ!いい加減気づきなさいよね!﹂
ですよね∼。馬鹿でゴメンネ!わああああんん!
気を取り直して、朱雀の銅像を、右に回す。ゴゴゴゴと音を立てて、
動く銅像は、ガチャっと音をさせて動かなくなった。そして光も消
えて、戻って来る静寂⋮。
﹁じゃ∼次は東西南北最後の北ね!﹂
皆が頷き、北の狼の泉に向かう。当然途中の魔物は瞬殺、足早なの
は言うまでもない。
皆が皆、この先に隠されているであろうモノを、口に出さずとも理
解している。
そんな期待を皆が胸に抱きながら、東西南北最後の北の狼の泉に到
着した。
俺は銅像を調べる。
﹁此れは白虎の銅像だね。白虎は、西を守護し、白の色を持ち、金
を司る。⋮うん?金!?﹂
﹁大丈夫よ葵!金は錬金の金。土と火の属性で行けるわ。火は私、
土はマティアスね﹂
﹁解りましたルチア様﹂
ルチアとマティアスは、火と土の属性魔法を唱える
﹁ファイアーボール!﹂
﹁アースクラッシュ!﹂
782
唱えられた2つの魔法は、白虎の銅像目掛けて飛んでいく。すると、
当たると同時に、白と金色に光り出し、輝き出す。
俺は銅像まで行き、
﹁えっと、白虎は西を守護し、此処は北だから⋮﹂
﹁⋮葵⋮わざとやってるの?右って解ってるよね?﹂
ジト目のルチアに、威圧される。
いえ!本気なんです!馬鹿なだけなんです!ごめんね!うわあああ
んんん!ほんと悲しいよ⋮ううう⋮
気を取り直して、白虎の銅像を、右に回す。ゴゴゴゴと音を立てて、
動く銅像は、ガチャっと音をさせて動かなくなった。そして光も消
えて、戻って来る静寂⋮。
﹁これで、全ての東西南北は終了ね。後は⋮﹂
﹁ああ!中央の黄竜!四神の中心的存在のみ!﹂
俺達は、中央の一角獣の泉に向かう。
﹁いよいよかな?﹂
マルコは期待で我慢出来無いと言った感じだ。
﹁だね!きっとある!300年間眠り続けたモノがね!﹂
﹁そうね⋮これで何もなければ、私が呪ってやるわ!﹂
ルチアの言葉に、一同が笑う。距離も近い事もあって、中央の一角
獣の泉に到着する。
その銅像を調べている時に、マルガはふと疑問に思ったのか
﹁ご主人様∼。ご主人様の話では、中央は黄竜さんて言う、竜の神
様なんですよね?この銅像⋮どう見ても竜には見えないんですが⋮
どちらかと言うと⋮ユニコーン⋮お馬さんの様な気が﹂
マルガは可愛い首を傾げている。マルガの頭を優しく撫でながら、
783
﹁うん。正解。コイツは多分麒麟だね。一角獣の別名もある神様だ
ね﹂
﹁じゃ∼黄竜さんとは違うんですか?﹂
﹁うん。この中央はね、時代によって、黄竜だったり、麒麟だった
りするんだ。多分この仕掛を作った人の時代の中央は、麒麟だった
んだね﹂
俺の説明を聞いて、なるほど∼と頷くマルガ。
﹁黄竜の守護は中央。土を司る神﹂
﹁じゃ∼最後も私が行くわ!最後の仕掛けを動かせるなんて、楽し
そうだし!﹂
ニコニコしているルチアに任せ、見守る一同。
ルチアが土の魔法の詠唱を始める。
﹁アースクラッシュ!﹂
唱えられたの魔法は、麒麟のの銅像目掛けて飛んでいく。魔法が当
たると同時に、光り出し、輝き出す。
すると今までと違い、銅像はそのまま地下に沈んでいく。そしてそ
こに、地下に降りる階段が現れた。
その階段を見た、一同の瞳は、輝き出す。
﹁⋮300年間誰にも発見されなかったはずね。私やマティアスが
知らない神様に、バラバラに配置された銅像。一つの魔法だけでな
く、組み合わせもあり、しかも銅像を回転させないと駄目⋮ほんと、
よく作ったものね。呆れてものが言えないわ!﹂
盛大に貯め息を吐くルチアに、一同が笑う。
﹁でも、この奥に有るんですよね!大魔導師アーロンの隠したと言
われる秘宝が!﹂
784
マルガは尻尾をフリフリしながら、興奮気味に言う。
﹁そうだねマルガねえちゃん!やったね!﹂
マルガとマルコは、軽くジャンップして、ハイタッチをしている。
﹁それは大魔導師アーロンの秘宝を手に入れてからにしましょう!
まだ先があるようですしね!﹂
マティアスの言葉に、皆が頷く
﹁そうだね!じゃ∼お宝とご対面と行こうか!皆!﹂
﹁﹁﹁オー!!!﹂﹂﹂
俺の言葉に、皆が勝鬨の様な声を上げる。
俺達は中央に出現した、宝に通じる階段を降りて行くのであった。
785
愚者の狂想曲 22 悪魔と秘宝と吸血鬼
コツコツコツ。
複数の階段を降りる足音が、静まり返ったダンジョンに響き木霊し
ている。
俺達は、一角獣の泉に出現した、地下に降りる階段を下っている。
皆がこの先に有るであろう、300年間誰も発見出来無かった、大
魔導師のアーロンの秘宝を、発見出来る事を想像している。
その為か、周囲の警戒は怠っていないが、皆が皆、足早に奥に奥に
と進んでいく。
階段を下り終わると、そこは広い通路になっていた。
その広い通路を、警戒しながら進んでいく。何故かそこは、非常に
清潔で、土や埃は勿論、蜘蛛や蟻といった、昆虫さえ居ない、不思
議な通路であった。
﹁この通路って、凄い綺麗だよね。300年前に作られたって、言
わなきゃ解らない位綺麗だよね﹂
俺の言葉に、通路の壁を摩りながらルチアが
﹁⋮多分、この通路は、ロジックレンガで出来て居るのよ﹂
﹁ロジックレンガ!?なにそれ?﹂
﹁ロジックレンガはね、特殊な材料を混ぜて、魔法で作っているレ
ンガなの。そのレンガの特性は、虫や苔、土や埃、そう言った物が
一切つかない。永遠にね。でも、作るのに材料も高いし、魔法も使
うから、非常に高価なのよ。普通のレンガの30倍はする価格なの﹂
そう言えば、少し噂程度で聞いた事がある。ギルゴマから聞いた記
憶が。
786
﹁それって⋮秘密通路専用レンガって呼ばれてる奴?﹂
﹁⋮流石は商人の端くれね。その通りよ。つまり⋮そんな高価で貴
重なレンガを、こんなに膨大に使って、広い通路を作るって事は、
この先にはとっても大切な何かが有るって事よ!﹂
嬉しそうな顔をするルチアに、俺まで微笑んでしまう。
そのロジックレンガで出来た広い通路を、500m位進んだ所で、
大きな空間に出る。そこは、天井まで軽く100mはあり、広さは
300mはある様な所だ。俺達は、その大きな広間に入って行く。
﹁広い所ね∼。こんな所がラフィスの回廊に有ったなんて驚きね﹂
回りを見ながら言うルチア。皆が頷く。
﹁本当だな∼。巨大なドームみたいだよな﹂
俺も見回しながら言う
﹁いよいよ⋮最後⋮秘宝に近づいてきたのかもしれないわね!﹂
﹁そうですね。本当に秘宝があれば、私達は、名前を残す事になる
でしょう﹂
マティアスの言葉に、皆が食いついた。
﹁そうなんですか?マティアスさん?そんな事になったら、わ⋮私
はどうしたら良いのでしょうか!?﹂
その事を想像して、オロオロしているマルガが可愛らしい!
﹁きっと有名人になるね!オイラの名前も、出たりするのかな?﹂
﹁当然よ!葵も、マルコも、キツネちゃんも、皆有名になるわね!﹂
ルチアの言葉を聞いたマルガとマルコは、ルチアにぶら下がりなが
ら、ヤッター!と喜んでいる。
﹁それだけでは無いでしょう。300年間その存在を知られていな
787
かった、新しいMAP。それにそこに眠っていた秘宝。その事を冒
険者ギルドに報告すれば、多額の報奨金も貰えるでしょう﹂
﹁まじですか!マティアスさん!﹂
俺の問に、頷くマティアス。俺とマルガとマルコは、3人でハイタ
ッチをする。
﹁じゃ∼早く秘宝を頂いて帰ろう!﹂
俺の言葉に皆が頷く。そして、広間の中央近くに来た時に、それは
突然起こった。何処からともなく、声が聞こえ、広間に木霊する。
﹁勇気のある者よ、知恵のある者よ、力のある者よ。よくぞここま
でたどり着いた。秘宝はあの扉の奥だ﹂
威厳のある謎の声がそう告げると、入ってきた入り口の反対側の奥
の扉が光る。
その扉に釘付けになる一同。だがそれだけではなかった。
﹁これが、最後の試練だ!これ試練を乗り越えれば、扉は開かれん
!いざ、乗り越えてみせよ!﹂
威厳のある謎の声がそう告げると、入ってきた入口が閉まった。
﹁な!閉じ込められたって言うの!﹂
﹁ルチア様!葵殿!広間の中央を見てください!﹂
指をさして言うマティアス。指された広間の中央に、魔力の渦が召
喚される。そしてそこから、大きな姿のモノが召喚され姿を表す。
それを見た、マティアスが声を上げる。
﹁グ⋮グレートデビルとグレートデーモンだと!?﹂
顔をきつくしながら言うマティアス。その魔力の渦から、巨大な二
種類の悪魔が姿を表したのだ。身の丈をはるかに超え、まるで巨人
族のような巨大な悪魔。15mはある大きさだ。
788
﹁そんな強力な上級悪魔が、このラフィスの回廊に現れるなんて!﹂
ルチアの顔が歪む。俺達は瞬時に隊列を整える。
﹁此処は私が指揮を取ります!先頭は私、右は葵殿、左はルチア様、
マルガ嬢とマルコ坊は、自ら攻撃せずに、一緒に行動を!サポート
だけして下さい!それ以上は危険です!﹂
マティアスの指示に、皆が従う。俺達が隊列を整え、戦闘準備をし
て身構えていると、魔法陣から、まだ何か召喚される様だった。
﹁なにか来ます!﹂
マティアスがそう叫ぶと、魔力の渦から、俺とそう変わらない大き
さの人間ぽいモノが出て来た。それが出てきた所で、魔力の渦は消
え去った。
そして、出て来た人間ぽいモノが前に歩き出すと、巨大な悪魔、グ
レートデーモンとグレートデビルが、その人間っぽいモノの為に、
道を開ける。先頭に来た、人間ぽいもの。
そいつは、緑色を基調とした鮮やかな洋服を来たピエロであった。
右手には金色の装飾のある錫杖を持ち、フラフラと揺れながら立っ
て居た。そして此方を見て、耳まで裂ける口を開きニヤっと笑う。
寒気がする微笑を此方に向けるピエロ。そのピエロが
﹁⋮久しぶりに、解放されて⋮出てこれたと思えば⋮この様な所と
はな。しかし⋮この我を、召喚魔法陣で呼び出す事が、出来る者が
おるとは驚きだ﹂
ピエロはそう言うと、此方を再度見て、クククと笑う
﹁召喚したのはお前達では無いな⋮力が弱すぎる⋮﹂
そう言って辺りを見回すピエロ。そして、魔法陣の跡を見て、一瞬
で状況を理解したらしく、寒気がする微笑を此方に向けるピエロ。
789
﹁なるほど⋮。此処から出れるのは、召喚された者か、召喚魔法陣
を発動させた者の何方かのみ⋮か﹂
そう言って俺達を見るピエロ。
﹁つ⋮つまり、私達か、あの召喚された魔物の、何方かしか出れ無
いって事!?﹂
﹁そういう事だ人間の女。⋮面白い。久々の狩りでも楽しもうか!
!﹂
寒気がする微笑を此方に向けるピエロはそう言うと、右手に持って
いる金色の装飾のある錫杖を、天に掲げる
﹁我は、ルキフゲ・ロフォカレ!お前達の光を避け、闇に落として
くれよう!﹂
気持ちの悪い声を、広間一杯に響かせるピエロ。その名前を聞いた
マティアスとルチアの顔が蒼白になる。
﹁グッ!!ここに来てルキフゲ・ロフォカレだと!?﹂
﹁ルキフゲ・ロフォカレって⋮あの伝説の超上級悪魔の!?古文書
や物語に出てくる、伝説の地獄のピエロの!?﹂
﹁そうです!!古文書や物語に語られ、その力は、四属性精霊であ
る、四属性守護神に近いと、言われてる地獄のピエロ!そこに、上
級悪魔の、グレートデーモンとグレートデビルです!﹂
ルチアとマティアスのやり取りを聞いて、俺とマルガとマルコは、
とんでもない相手と対峙していると、理解出来た。マルガもマルコ
も、顔を蒼白にしている。
﹁これは、私達では無理です!撤退します!﹂
﹁で⋮でも!入り口は閉まってるわよ!?マティアス!どうする気
なの!?﹂
790
﹁ルチア様を守る為に頂いた、この転移のマジックアイテム、転移
飛翔の首飾りを使います!皆さん!私に近寄って下さい!﹂
マティアスの声に、皆が集まる。マティアスはそれを確認して、転
移飛翔の首飾りを握り締める。
﹁転移飛翔の首飾りの効果発動!我等を転移せよ!﹂
マティアスがそう叫ぶと、転移飛翔の首飾りは光るが、暫く光って、
輝きを失った。
﹁な!?ど⋮どういう事だ!?﹂
狼狽しているマティアスを見て、クククと笑っているルキフゲ・ロ
フォカレ
﹁無駄だ!この部屋には、転移禁止の結界が張られておる。この部
屋も破壊出来ぬであろう。つまり⋮何方かが死ぬまでは⋮出れぬと
言う事だ!!﹂
そう言い放った、ルキフゲ・ロフォカレは、その姿を消すと、一瞬
で俺達の目の前に現れる。
﹁⋮お前が一番強そうだな。私はお前と遊ぶとしよう!﹂
そう言ってマティアスの胸ぐらを掴んだルキフゲ・ロフォカレは、
マティアスを反対側の扉の方に、高速で投げる。ドガガと、大きな
音を立てて、地面に激突するマティアス。
驚いている俺達を尻目にしながら、ニヤっと寒気のする哂いを向け
るルキフゲ・ロフォカレ
﹁他の奴等は、お前達の好きにするが良い﹂
そう言い残して、地面に蹲っているマティアスまで、一瞬で距離を
詰めるルキフゲ・ロフォカ。
それを聞いた、グレーとデーモンとグレートデビルが、雄叫びを上
791
げる。
﹁葵!キツネちゃん!マルコ!隊列を組んで!ルキフゲ・ロフォカ
はマティアスに任せましょう!私達の相手は、コイツらよ!﹂
ルチアの指示に、俺達は隊列を組む。すると、グレートデモンと、
グレートデビルが、俺達に襲いかかってきた。
﹁ぐおああああ!﹂
2匹の巨大な上級悪魔から放たれる、雄叫びだけで、体が竦む。そ
の中で、グレートデーモンが、物凄い早さで迫ってきた。その迫力
に、全員が萎縮してしまう。
﹁ゴガガガガン!!﹂
激しい音を立てて、地面に撃ち込まれる、グレートデーモンの拳。
気戦術で強化された技より、威力は高いであろう。それを見て俺達
の表情は蒼白になる。
﹁ちょ!なんでコイツら、こんなに大きいのに、こんなに早いんだ
よ!﹂
﹁はあ!?当たり前でしょ!?体の大きい魔物の方が、動きが早い
のよ!﹂
﹁な⋮なんだって!?﹂
俺の理解を超える事を言うルチア。
﹁考えてみなさい!私達と蟻なら、どっちが早く動いている?私達
は、蟻から逃げるのは容易いけど、蟻は私達から逃げるのは難しい
でしょ?例外もあるけど、簡単に言うと、そういう事よ!﹂
そう説明してくれるルチア。確かに、同じ大きさにしたら、蟻の方
が早いが、そのままなら、客観的に見て、人間の方が早い。それを
可能にする筋力や体があれば⋮
792
くそ⋮強力な上に、動きも早い⋮此れが上級悪魔か!
その間も、グレートデーモンとグレートデビルの猛攻は続く。何と
か躱せているが、一撃でも、貰おうものなら、確実に致命傷どころ
か、即死だ!
﹁キツネちゃん!前に練習した、合体魔法をやるわよ!﹂
﹁ハイ!ルチアさん!﹂
﹁葵とマルコは私達を援護して!﹂
﹁﹁解った!﹂﹂
俺達はルチアの指示通りに動く、俺がグレートデビルを、マルコが
グレートデーモンの注意を引き、惹き付ける。すると、ルチアとマ
ルガの魔法の詠唱が終わる。
﹁葵!そいつから離れて!﹂
ルチアの声を聞いた俺は、跳躍してグレートデビルから離れる。そ
れを見た、ルチアとマルガは魔法を同時に放つ。
﹁﹁ファイアーハリケーン!!﹂﹂
ルチアとマルガが放ったのは、合体魔法だ。マルガが風の魔法、ル
チアが火と風の混合魔法を唱え合わせた、炎と風の合体上級魔法だ。
ファイアーストームより激しい炎の嵐が、畝りながら物凄い勢いで
グレートデビルに迫り包み込む。
しかし、その激しい炎の嵐に包まれた、グレートデビルの体が黒く
光ると、炎の嵐はジュウウと、激しい音を立てて、消え去った。そ
れを呆然と眺める、俺とルチアとマルガ。その魔法を見て距離を取
るグレートデビルと、グレートデーモン。マルコは俺達の傍まで帰
ってきた。
﹁な!?消えちゃったけど、どうなってるの!?﹂
﹁⋮上級悪魔の一部には、闇属性を使って、精霊四属性魔法を無効
793
化出来る奴がいるのよ!﹂
精霊四属性は、闇属性に弱い。それを破ろうとすれば、倍近い、物
凄い魔力が必要なのだ。
﹁な⋮なんだんだよ!!コイツら!!!!﹂
マルコが狼狽しながら思わず口走る
﹁仕方無いわ!グレートデビルやグレートデーモンの相手をしよう
としたら、上級者6人がパーティーを組んで、きっちり装備をして
戦って、やっと勝てる位の強さの魔物だから!それが2匹居てるん
だもの!覚悟を決めるしか無いわ!﹂
ルチアの言葉に、俺達は絶望を感じる。
﹁ク⋮クソが!﹂
俺は銃剣二丁拳銃のグリムリッパーで、グレートデーモンを射撃す
る。乾いた音が鳴り響き、4発の魔法弾が、高速でグレートデーモ
ンに迫る。
﹁バシイイイ!!﹂
激しい音をさせて、グレートデーモンの体を直撃するが、少し緑色
の血を流すだけで、深いダメージを与えている様では無かった。
﹁無駄よ葵!彼奴等の体は、Aランクのマジックアイテムの防具並
なの!貴方の奥義クラスの技じゃないと、殺せないわ!﹂
俺はそれを聞いて、苦悶の表情を浮かべる。すると、グレートデー
モンが、その巨体を瞬時に俺達に近づける。そして、大きな口を開
ける。
﹁危ない!みんな!私の後ろに下がって!﹂
甲高い声で言うルチアの指示に従い、ルチアの後ろに身を寄せる。
794
その次の瞬間、グレートデーモンの大きく開けられた口から、物凄
い勢いで、炎が吐き出された。
﹁ファイアーブレス!?﹂
俺のその言葉をかき消す様に、その業火は俺達を包み込む。それを
見て、ニヤっと笑うグレートデーモン
﹁イヤラシイ笑いね!不愉快だわ!﹂
業火の中から声が聞こえる。そして、業火の中に淡黄色に光るオー
ラが発せられる。
その業火が消えると、そこにはルチアのAランクの防具である、白
氷の鎖かたびらの効果で、グレートデーモンのブレスに耐え切った
俺達の姿があった。
それを見たグレートデーモンは、顔を歪める。ルチアはニヤッと笑
い、
﹁此れでも喰らいなさい!でりゃああああ!﹂
気戦術で強化された力を使って、切り裂きの戦斧をグレートデーモ
ンに投げつける。
﹁グガガアアアアアア!!!﹂
物凄い声を上げて、唸るグレートデーモン。切り裂きの戦斧が、グ
レートデーモンの右目を潰していた。
﹁今よ葵!この隙しか無いわよ!﹂
﹁ああ!解ってる!﹂
俺は闘気術を展開させる。俺の体は、薄紅色の輝くオーラで包まれ
てゆく。瞬時にグレートデーモン迄間合いを詰める。そして光り輝
く、銃剣2丁拳銃のグリムリッパー。
795
﹁喰らえ!!迦楼羅流銃剣術、奥義、雪月花!!!﹂
闘気術で高められた気が、グリムリッパーの剣先に宿り、薄紅色に
輝く三段の斬撃波が、グレートデーモンに襲いかかる。
﹁グアアアアグギュル!!﹂
断末魔の呻き声を上げて、3つに斬られてグチャっと崩れ落ちるグ
レートデーモン。夥しい緑色の血が辺りに飛び散っている。
﹁やった!!!グレートデーモンを、倒した!﹂
マルコの喜ぶ声が聞こえる。だか、次の瞬間、その声は悲壮な物に
変わる。
俺の背後に一瞬で間合いを詰めた、グレートデビルが、俺に向かっ
て、その巨大な拳を振り下ろしていた。
﹁パキュウウウ﹂
実に嫌な音がした。グレートデビルの拳に、まともに殴られた俺は、
激しく地面に叩き付けられる。
激しい痛みが全身を駆け巡る。両手足があらぬ方向を向いていた。
骨が粉々なのだろう。首の骨も折れているのか動かせない。魔法銀
のブリガンダインが、バラバラに砕け散っている。だが、魔法銀の
ブリガンダインのお陰で、死なずに済んだ。もし此れがなければ、
超回復の有る俺でも、回復値の限界を超えて即死していたであろう。
﹁いやあああああああ!!!ご主人様!!!!﹂
マルガが悲壮な叫び声を上げて、俺に跳躍して近寄る。
﹁ご主人様!大丈夫ですか!!!﹂
瞳に一杯涙を貯めて言うマルガが、血だらけの俺を抱きかかえる。
﹁大丈夫⋮マ⋮マルガ。急いで⋮先に両手を治癒魔法で⋮回復させ
796
て⋮﹂
口から血を吐きながら、ルチア達に視線を移すと、ルチアとマルコ
が、グレートデビル相手に苦戦している。
それを見たマルガは、ハイ!と返事をして、治癒魔法を俺の両手に
掛けてくれる。
その間も、グレートデビルの猛攻は止まらず、ルチアとマルコがや
られるのは、時間の問題だ。
マルガもそれを肌で感じ、目一杯の力で回復してくれる。
﹁ご主人様!治りました!﹂
﹁じゃ∼俺を抱き起こして﹂
俺はマルガに背中から抱きかかえられる。その間もルチアとマルコ
は追い詰められる。そして、ついにマルコがグレートデビルの猛撃
に、捕まろうとしていた。その巨大な拳が、マルコに迫る
﹁ひ⋮いやだあああ!!﹂
マルコは両手を前に突き出して、悲壮な叫び声を上げる。
その声に喜びの表情を浮かべる、グレートデビルは、嬉々として拳
を振り下ろす。その直後、物凄い早さで、グレートデビルに向かっ
て飛んでゆくものがあった。その虹色に輝く、渦を巻くビームの様
な光線が、グレートデビルの肩口を貫き、腕を切断する。
﹁グオオオオン!!!﹂
苦しそうな声を上げるグレートデビル。
﹁迦楼羅流銃剣術、奥義、迦楼羅咆哮⋮ルチア!!!今だ!!!﹂
俺の叫び声を聞いたルチアは、俺を見てニヤっと笑い口元を上げる
﹁フン!やるじゃない!褒めてあげるわ葵!﹂
一気にグレートデビルに間合いを詰めるルチアの体は、淡黄色に光
797
るオーラに包まれる。
﹁喰らいなさい!気戦術!戦斧大車輪!﹂
輝きの増した淡黄色に光るオーラが、ルチアの体を包み込み、切り
裂きの戦斧を回転させながら、グレートデビル目掛けて、高速で飛
んでいく。
﹁ザシュウウウ!!﹂
ルチアの切り裂きの戦斧が、グレートデビルの首を跳ね飛ばす。首
の無くなった、巨大な体からは、大量の緑色の血が、噴水の様に吹
き出す。
﹁ズウウウン﹂
大きな音を立てて、崩れ落ちる、首の無くなったグレートデビルの
体。
それを見て、放心状態になっているマルコが、ボソっと囁く⋮
﹁か⋮勝った⋮倒した!?﹂
﹁ええ!何とかね!﹂
地面にへたり込んでいるマルコをルチアが起こすと、マルコは涙を
浮かべて、ルチアに抱きつく。
﹁流石⋮ルチアだな⋮でもまさか、斧を回転したまま、突っ込んで
行くとは思わなかったけど﹂
超回復とマルガの治癒魔法のお陰で、ある程度回復した俺は、ルチ
ア達の傍に来ていた。
﹁フン!あの技の威力はすごいのよ!⋮貴方動けるの?﹂
﹁⋮7割って所かな?﹂
﹁そう⋮相変わらず打たれ強いわね。じゃ∼マティアスの援護に行
798
きましょう﹂
ルチアはそう言って、視線をソコに移すと、マティアスとルキフゲ・
ロフォカレが、戦っていた。
その戦いは、俺達のものと、次元が違い、目に捕らえるのがやっと
であった。
俺達は隊列を組んで、その傍までやって来ると、ルキフゲ・ロフォ
カレが此方を見て、
﹁ほほう⋮あいつらを倒したのか。ククク⋮思ったよりはやるのだ
な﹂
寒気がする微笑を此方に向ける地獄のピエロ。
﹁皆さん良くご無事で!加勢に行けなくてすいません﹂
マティアスが申し訳なさそうに言う。
﹁何言ってるのよ。貴方がルキフゲ・ロフォカレを抑えてくれてい
たから、何とかなったのよ﹂
﹁だね。此処からは、俺達も戦いに加わるよ﹂
俺の言葉に、マルガとマルコもコクっと頷く。しかし、マティアス
は首を横に振る。
﹁いえ⋮このルキフゲ・ロフォカレは、私しか相手を出来ないでし
ょう。コイツ相手に、皆さんを庇いながら闘う事は出来ません。お
気持ちは嬉しいですが⋮此処は私に任せて下さい﹂
そう言って、ルキフゲ・ロフォカレの前に立つマティアス。それを
見て嬉しそうに笑うルキフゲ・ロフォカレ
﹁やはりお前か⋮後ろの奴等がいれば、邪魔になると判断したか。
⋮その通りなのだがな﹂
寒気がする微笑を此方に向ける地獄のピエロ。
799
﹁⋮お前の相手は私だけで、十分だと言うだけだ!﹂
﹁⋮クク。戯言を⋮﹂
そのやり取りが終わるやいなや、マティアスの体が、俺達の傍から
消える。その直後、
﹁ガキイン!﹂
金属の打ち合う音がするが、マティアスと、ルキフゲ・ロフォカレ
の姿を捕らえる事は出来なかった。
﹁な⋮なんなの⋮この⋮戦い⋮こんなの⋮こんなの⋮﹂
マルコが体を震わせながら、狼狽えている。そのマルコに優しく頭
を撫でるルチアは
﹁良く見ておく事ね。此れが最強クラスの戦いよ。今の私達じゃ、
絶対に手が届かない⋮次元の違う戦いよ﹂
そのルチアの言葉に、体を震わせながらもコクっと頷くマルコ。
マルガも体を震わせながら、ギュッと俺にしがみついている。
俺やルチアも、気戦術や闘気術で、五感を強化させているが、マテ
ィアスとルキフゲ・ロフォカレとの戦いの大半を、目に映す事が出
来無いでいた。
﹁ねえ⋮ルチア姉ちゃん⋮もし⋮マティアスさんが負けたら⋮どう
なっちゃうの⋮?﹂
皆がそれを考えていたが、口には出せなかった。この戦いは、俺達
の全てが掛かっているのだ。
﹁⋮大丈夫。マティアスは負けないわ﹂
そう言うルチアではあったが、その顔には、何時もの余裕は無く、
険しかった。
800
激しく打ち合う金属音のみが響き渡る中、何時からか、その状況が
変わってくる。
金属音と一緒に、赤い物が飛び散り出した。次第にその量は増えて
いき、辺りに真赤な花を咲かせている様に、広がっていた。そして、
広間に響き渡る大きな音がした。
﹁ドガガガン﹂
その音の先に、地面に叩き付けられ、純白のフルプレートを、鮮血
で染めて蹲っているマティアスの姿が見える。
﹁マティアス!!﹂
そう叫んで、マティアスの傍まで行こうとしたルチアを、右手を出
して止めるマティアス
﹁こ⋮来ないで⋮下さい⋮ルチア様⋮﹂
フラフラしながら、辛うじて立ち上がったマティアスは、鮮血を流
しながらルキフゲ・ロフォカレに剣を構える。
﹁⋮惜しいな。お前クラスが後2人程いれば、私を倒せたかも知れ
ぬのにな。彼処の奴等では、お前一人分にもならぬだろう?⋮クク
ク﹂
寒気がする微笑を此方に向けるルキフゲ・ロフォカレは、体をユラ
ユラしながら立っている。
ルキフゲ・ロフォカレは、マティアスと戦っていたにも関わらず、
ダメージを負っている様子は無かった。
﹁⋮飽きてきた事であるし、そろそろ終わりにしようか。此処を出
て、もっと多くの悲鳴を聞きに行く事にしよう﹂
そう言ったルキフゲ・ロフォカレは、ニヤっと、耳まで裂けた口で
笑と、その姿が消える。
801
次の瞬間、俺達の目に入ってきたものに、俺達は目を離す事が出来
なかった。
﹁グフウ⋮﹂
唸り声を上げるマティアス。その腹には、ルキフゲ・ロフォカレの
持っている、金色の装飾のある錫杖が、貫かれて居る。そこから大
量の鮮血が流れだす。ルキフゲ・ロフォカレは、マティアスを蹴り
飛ばし、俺達の目の前に、見せつける様に横たわす。
﹁マティアス!!!!﹂
ルチアは悲壮な面持ちで、マティアスを抱きかかえる。口から血を
吐き、ぐったりとしているマティアス。腹部からも、夥しい血が流
れ出ている。
﹁キツネちゃん!私と一緒に、治癒魔法を掛けて!﹂
﹁ハイ!ルチアさん!﹂
ルチアとマルガは、マティアスに治癒魔法を掛けていく。
﹁死なないでマティアス!お願い!!﹂
悲愴な叫びを上げ、マティアスに治癒魔法を掛けるルチア。それを
見て、嬉々とした表情を浮かべているルキフゲ・ロフォカレ。
﹁ククク心配するな。すぐにお前達も、同じ目に合わせてやる﹂
寒気がする微笑を此方に向ける、ルキフゲ・ロフォカレ。
その言葉に、皆が顔を蒼白にし、絶望を感じる。そして、ゆっくり
と、此方に近づくルキフゲ・ロフォカレ。
﹁い⋮いやだ⋮く⋮来るな⋮来るなー!!!﹂
マルコは悲壮な声を上げ、その場に蹲ってしまった。それを見て、
更に喜びの表情をするルキフゲ・ロフォカレ。
802
その中で、俺は先頭に出る。それを見たルキフゲ・ロフォカレが、
歩みを止める。
﹁なんだ?私が怖くないのか?それとも、お前ごときが、何か出来
ると思っているのか?﹂
﹁いや⋮思っていない。だけど、ただ殺されるってのも癪だから、
やれる事は全て、やってみようかなって思ってさ﹂
そう言って、ルチア達の方を振り返る。
﹁ルチア⋮此れから起こる事は、出来れば見て欲しくない。マルコ
も、マティアスさんもね﹂
﹁あ⋮葵⋮何言ってるの?﹂
困惑した顔をしている、ルチアにマルコにマティアス
﹁そしてマルガ⋮此れから起こる事を見ても、嫌いにならないでね﹂
﹁私はご主人様の事を嫌いにはなりません!どんな事が有っても!﹂
目に涙を浮かべながら、可愛い事を言ってくれるマルガ。
俺は覚悟を決める。もうあれしか無い。どうなるかは自分でも解ら
ないし、どうにもならないかもしれない。なにせ初めてなのだから
⋮。俺は静かに目を閉じる。
﹃出来れば⋮見られたくなかったな⋮でも⋮もうコレしか残ってい
ない⋮やるしか無い!!!!﹄
俺は静かに目を開ける。
﹁種族能力解放!!!!﹂
俺の叫びと同時に、もの凄い魔力の渦が俺を包み込む。
日本人特有の黒かった髪が、みるみる滴る血のように真紅に変わり、
黒い瞳は、まるで闇夜のネコの如く、真紅に妖しく光る。両手の爪
803
が、鋼鉄をも引き裂ける様に、鋭く伸びる。
そして、口元から牙がちらりと覗く。強大な魔力が辺りに充満する。
な⋮なんだこれ⋮ち⋮力が⋮湧いてくる⋮闇が⋮俺を強⋮くする⋮
闇が⋮俺を⋮包み込む⋮此れが⋮種族能力開放⋮か!!!!
﹁おああああああああああああああ!!!!﹂
産声に似た雄叫びが、全てを震わせる様に木霊する。そこには明ら
かに人間じゃない人外の者が、凄まじい妖気を放ち立っていた。
﹁な⋮なに⋮これ⋮﹂
﹁葵兄ちゃん⋮どう⋮なった⋮の?﹂
ルチアとマルコが、余りの出来事に、我を忘れていた。
﹁マ⋮マルガ嬢⋮此れは⋮どういう事なんですか!?﹂
少し回復してきたマティアスが、マルガに聞くと、キュっと唇を噛
むマルガ
﹁ご主人様は⋮魔族とのハーフなんです。ヴァンパイアの始祖と人
間のハーフ。ヴァンパイアハーフなんです﹂
マルガのその言葉に、皆が驚愕の表情を浮かべる。
﹁どういう事だ!?その力は、始祖の力⋮。あのお二方が、人間と
子を成したなど、聞いていないぞ!どういう事なのだ!?﹂
初めて表情を歪めるルキフゲ・ロフォカレ。その声に、気がついた
ヴァンパイアは、ルキフゲ・ロフォカレを瞳に映す。そして、妖し
くニヤリと笑い。
﹁俺は闇の眷属⋮夜の帝王の力を引き継ぎし者⋮不死者の力⋮とく
と味わえ!!!﹂
804
そう叫んだヴァンパイアは、大きな雄叫びを上げる。その雄叫びで、
全てが震えている様であった。
ヴァンパイアは一瞬で、ルキフゲ・ロフォカレの眼の前に行くと、
雷を纏った長く伸びた爪で、斬りかかる。
﹁ギャリイイン!!﹂
激しい金属音がして、ルキフゲ・ロフォカレの持っていた、金色の
装飾のある錫杖は4つに斬られ、バラバラになって地面に散らばっ
た。
﹁ぐうう!!﹂
少し唸り声を上げて、後方に跳躍するルキフゲ・ロフォカレに、同
じ様に跳躍していたヴァンパイアが迫る。
﹁ぐぎゃああ﹂
ヴァンパイアの右の爪が、ルキフゲ・ロフォカレの脇腹をかすめる。
その時に、肉も一緒にえぐっていた。お互いに距離を取る、ヴァン
パイアとルキフゲ・ロフォカレ。
﹁どうした?俺を殺すんじゃなかったのか?﹂
﹁⋮確かに、その力は⋮あのお二方と同じ始祖の力。だが⋮﹂
そう言ったルキフゲ・ロフォカレの姿が一瞬で消える。その直後、
右後方から、凄まじい殺気を感じ振り返ると、ルキフゲ・ロフォカ
レの拳がヴァンパイアの目の前に迫っていた。
咄嗟に両腕でガードをするヴァンパイア。ガードしたヴァンパイア
の両腕に、激しい衝撃が走る。
しかし、拳はガード出来たが、次の蹴りは躱せなかったらしく、ヴ
ァンパイアは腹を蹴られて、壁に激しく叩き付けられた。
腹部の肉を蹴り抉られているヴァンパイアは、フラフラ立ち上がる。
血を吹き出し、腸の出ていたその腹部の傷は、瞬く間にシュウウと
805
音をさせて、治ってしまった。それを見て呆れているルキフゲ・ロ
フォカレ
﹁⋮どう言う理由で、貴様がその力を使えて居るかは知らぬが⋮お
前はソノ力を、まだ完全に開放出来ぬ様だな。今のお前の力は、せ
いぜい先程の騎士の2倍程度であろう。まあ⋮回復力だけは、流石
だと言っておこうか﹂
全てを凍らせる様な嗤いをヴァンパイアに向ける、ルキフゲ・ロフ
ォカレ。
﹁フン!なにせ、この力を使うのは、俺自身も初めてなんでね!⋮
だが⋮これで、全く戦え無い訳じゃない事は解ったけどな!﹂
ヴァンパイアはそう叫ぶと、ルキフゲ・ロフォカレ目掛けて飛んで
いく。雷を纏った長く、鋭く伸びた爪で、ルキフゲ・ロフォカレに
襲いかかる。それを、楽しそうにニヤッと嗤うルキフゲ・ロフォカレ
﹁ガシイイイイン!!!﹂
ヴァンパイアの雷を纏った爪を、片手で受け止めるルキフゲ・ロフ
ォカレ
﹁⋮確かに⋮ソノ力は厄介ではあるが⋮まだ、私の方に⋮分がある
様だな!!!﹂
そう言い放つと、ヴァンパイアの腹部に、高速で3発の拳をめり込
まさせる。
その衝撃に、ヴァンパイアは地面に叩き付けられ、抉られた腹部か
ら、内臓が飛び出している。
フラフラと立ち上がったヴァンパイアの腹部は、シュウウと音をさ
せて回復してしまった。
﹁流石は闇の不死者の王。普通の攻撃では、全て回復してしまうの
806
だな﹂
﹁⋮打たれ強いのが取り柄っていうのも、なんかやだけど⋮お前相
手なら、非常にありがたく思うね!﹂
ヴァンパイアは再度高速でルキフゲ・ロフォカレに向かっていく。
高速で闘う、ヴァンパイアとルキフゲ・ロフォカレの戦いを見てい
るリチア達は、只々ソレを見ているだけしか出来なかった。
﹁す⋮凄い⋮。葵兄ちゃん凄いよ!!!!﹂
﹁ですね!あの、ルキフゲ・ロフォカレとまともに戦えるんですか
ら!﹂
興奮気味に言うマルガとマルコ。ソレを見ていた、治癒魔法をルチ
アとマルガから受けているマティアスが
﹁⋮しかしまだ、ルキフゲ・ロフォカレの方が強い⋮。ソレを証拠
に葵殿は、最初の一撃以来、ルキフゲ・ロフォカレにダメージを与
えられないでいます。如何に不死者の王と言えど、何処かに限界が
あるはず。⋮それが、来た時に⋮どうなるか﹂
そのマティアスの言葉を聞いた、マルガとマルコは顔を蒼白にして、
狼狽えながら2匹の悪魔の戦いを見ている。
﹁⋮そうね。確かにあの状態の葵でも、きついのは事実ね。⋮でも、
此処には、まだ貴方が居る⋮でしょ?﹂
ルチアがマティアスを見ながら、ニヤっと小悪魔の様な微笑みを湛
えると、フっと笑うマティアス。
﹁⋮そうですね。私はルチア様を守護する騎士ですからね﹂
マティアスはルチアとマルガの回復魔法を受けて、自分で魔法が使
えるまでに回復した様であった。
それを見て、ニヤっと小悪魔の様に笑い、ヴァンパイアに視線を送
るルチア。
807
﹁⋮いい加減しつこいな⋮。攻撃してもこうも回復されては、攻撃
するのも馬鹿らしくなるな﹂
﹁⋮だったら、諦めて、魔界かどこぞに帰ってくれてもいいんだけ
ど?俺は止めないよ?﹂
﹁ハハハ。面白い事を言う。⋮だが、我も闇の眷属。人間の血肉を
1つも啜らぬまま帰るのは、少々誇りが許さぬのでな﹂
﹁⋮ッチ。余計な誇りをお持ちで⋮厄介な事だな!!﹂
そう叫んだヴァンパイアは、高速でルキフゲ・ロフォカレに斬りか
かるが、それを上回る動きで躱すルキフゲ・ロフォカレは、少し距
離をとった。
そして、全てを腐らせる様な醜悪な笑みを浮かべると、耳まで裂け
た大きな口を開ける。
その口から灼熱のブレスを、ヴァンパイアに向かって吐き出した。
全てを焼きつくす灼熱のブレスがヴァンパイアに襲いかかる。
﹁うはああっつ!!!﹂
思わず声をあげるヴァンパイア。その横を灼熱のブレスが通りすぎ
ていく。
﹁この我の灼熱のブレスを躱すとはな。⋮我の灼熱のブレスは全て
を焼きつくす。この灼熱のブレスをまともに食らえば、いかな不死
者の王と言えど、その回復が間に合わず、全てを焼きつくされるで
あろう﹂
﹁⋮ほんとに余計なモノばかり持ってるな!⋮空気読まないと、女
の子に嫌われちゃうよ?﹂
﹁ハハハ。⋮お前は本当に面白いな!!!﹂
ニヤっと寒気のする哂いを浮かべ、ヴァンパイアに殴りかかるルキ
フゲ・ロフォカレ。
ソノ攻撃を何とか躱したヴァンパイアに、耳まで裂けた大きな口を
808
開け、灼熱のブレスを吐くルキフゲ・ロフォカレ。
﹁グウウウ!!!﹂
その灼熱のブレスに、右腕を焼かれたヴァンパイア。余程強烈に焼
かれたのか、回復するのに明らかに時間が掛かっている様であった。
それを見て、愉快そうな顔をしているルキフゲ・ロフォカレ。
そこからルキフゲ・ロフォカレの猛攻は、休みを知らなかった。次
々と攻撃され、灼熱のブレスを躱し切れないヴァンパイアは、着実
にダメージを溜めて行っている様で、動きが明らかに悪くなってい
た。
﹁ハハハハ!流石の不死者の王も、手詰まりか!⋮そろそろ、決着
を付けさせて貰おうか!﹂
嘲笑う様にヴァンパイアに言うルキフゲ・ロフォカレ。ギュッと唇
を噛むヴァンパイア。
﹁これで最後だ!不死者の王よ!我が煉獄の炎で、焼きつくされる
がよい!﹂
全てを狂わせる様に言い放ったルキフゲ・ロフォカレは、耳まで裂
けた大きな口を開けると、今迄より激しい灼熱のブレスを吐き出す
ルキフゲ・ロフォカレ。
それを見たヴァンパイアは、何を考えたのか、ソノ煉獄の業火に自
ら飛び込んだ。
ヴァンパイアは灼熱のブレスを避ける事無く、その中をルキフゲ・
ロフォカレ目掛けて跳躍していた。
ヴァンパイアは体中を焼かれ、溶かされ、骨があちこちから見えて
いる。肉の焼ける嫌な匂いを漂わせながら、ルキフゲ・ロフォカレ
の体に掴みかかる。
それを不思議そうに見つめるルキフゲ・ロフォカレ。
809
﹁⋮何のつもりだ?わざわざ我の灼熱のブレスを食らって、どうし
たかったのだ?我に攻撃も出来ずに、しがみ付くのがやっとの様に
見えるが。それだけ焼かれれば、しばらくは回復せぬであろう?﹂
﹁⋮俺の力は⋮マティアスさん2人分だったよな?3人分有れば⋮
お前を倒せるんだっけ?﹂
ニヤっと妖しく笑う俺を見たルキフゲ・ロフォカレは、激しく顔を
歪める。
ヴァンパイアに両腕ごと抱きつかれているルキフゲ・ロフォカレの
背後から、回復したマティアスが剣を突き出して迫っていたのだ。
背中越しに殺気を感じるルキフゲ・ロフォカレは、ヴァンパイアを
振りほどこうとしたが、出来なかった。
﹁な⋮何故だ!あれだけ焼かれて回復していない瀕死のお前を、何
故振りほどけぬのだ!!﹂
﹁そりゃ∼俺の両腕は、全くの無傷だからな!!!﹂
ヴァンパイアは灼熱のブレスに体を包まれる瞬間、自らの両腕を、
引きちぎって妖力を使って見えない位置に投げ捨てていた。それを、
ルキフゲ・ロフォカレのブレスの吐き終わりを見計らって、抱きつ
く瞬間、妖力で引き寄せて、超回復でくっつけたのだ。ルキフゲ・
ロフォカレは灼熱のブレスで視界を奪われ死角になって見えなかっ
たであろう。それを利用したのだ。
必死で振りほどこうとするルキフゲ・ロフォカレだったが、無傷の
ヴァンパイアの両腕は、ルキフゲ・ロフォカレを押さえつけるには、
十分な力を有していた。そして、背後から高速でマティアスが迫る。
﹁マティアスさん!!!俺ごとコイツを貫いて!!!!!!﹂
﹁承知した!!!!!!!!﹂
マティアスの孤高の叫び声の後、ソノ白刃がヴァンパイアごとルキ
フゲ・ロフォカレを貫いた。
810
﹁グフウウウウ⋮﹂
﹁⋮グフッ⋮どうだ?不死者の王もなかなかのもんだろう?﹂
口から血を吐きながら妖しく笑うヴァンパイアを見て、心臓を貫か
れ、夥しい紫色の血を噴き出しながら、断末魔の力を見せつけるル
キフゲ・ロフォカレ。
﹁ぐがああああああああ!!!!﹂
全てを拒否する様な叫び声をあげるルキフゲ・ロフォカレは、信じ
られない力で、ヴァンパイアを振りほどき、マティアスに強烈な蹴
りを食らわせる。
強烈な蹴りを食らったマティアスは、地面に激しく叩き付けられる。
しかし、断末魔の力も最後だった様で、ルキフゲ・ロフォカレはフ
ラフラと体を揺らして居るだけだった。
﹁いい加減しつこいんだよ!俺が言えた義理じゃないけどな!消え
ろ!ルキフゲ・ロフォカレ!!!﹂
ヴァンパイアはそう叫びながら、右手に雷を帯びた、鋭く伸びた爪
を、高速でルキフゲ・ロフォカレに振るう。
﹁パアアアアアアアンンン!!!﹂
乾いた音が、辺りに響き渡り、ルキフゲ・ロフォカレの頭は吹き飛
ばされた。
頭を失った、ルキフゲ・ロフォカレは、糸の切れた人形の様に、フ
ラフラと体を揺らしながら、地面に倒れ事切れた。ヴァンパイアの
焼きただれて、溶かされていた体は、ゆっくりとシュウウと音をさ
せて、全快していた。そして、処刑場の様だった広間は静寂に包ま
れる。
﹁おあああああああああああああ!!!!!﹂
勝鬨の様な雄叫びをあげるヴァンパイア。その声に、呆然と見てい
811
た者達が、我に返る。
﹁か⋮勝ったの⋮?オイラ達⋮あの化け物に⋮勝ったの?﹂
﹁⋮うんマルコちゃん。私達が勝った⋮生き残った⋮生き残った!
!!﹂
茫然自失としているマルコに、涙ぐみながらマルガが言うと、血の
気の戻ってきたマルコも、涙を溜めながらウンウンと頷く。
その横に、マティアスを抱きかかえながら寄って来た、ルチアに気
がついたマルガとマルコは、ルチアに抱きついて、生きている事の
喜びを、噛み締めて居る様であった。
そこに、真紅の髪の毛を揺らし、妖しく真紅に瞳を光らせているヴ
ァンパイアが戻ってきた。
﹁⋮まさか、あんな遣り方で、ルキフゲ・ロフォカレを押さえつけ
るなんて、思いもよらなかったわ﹂
﹁⋮ルチアが視線を俺に向けた時、何が何でもって言う目をしてた
からさ﹂
﹁ま∼馬鹿な貴方にしては、咄嗟に良く思いついたはね。よくやっ
たわ。特別に褒めてあげる﹂
ニヤッと笑うルチアと、コンと軽く拳を合わせる、俺とルチア。
その光景に、日常が戻ってきたと感じたマルガとマルコが傍に近寄
ろうとした瞬間、回復したマティアスがルチアを少し突き放し、俺
に剣を向ける。
そのマティアスの瞳は、獲物を狩る光に包まれていた。
﹁マ⋮マティアス!貴方一体何をしてるの!?﹂
戸惑っているルチアに、鋭い眼光を向けるマティアス
﹁⋮確かに、ヴァンパイアである葵さんに助けられて、今私達は生
きています。その事には感謝しましょう。しかし、葵さんは闇の眷
812
属の魔物。全ての人間族や亜種族の敵である魔族です。私はルチア
様を守護する為に此処に居ます。ルチア様の脅威になるかも知れな
いモノは⋮全て私が排除します﹂
凍るような視線を俺に投げかけるマティアス。
そんな、マティアスと俺の間に、ルチアとマルガが立ちはだかる。
﹁マティアスさん止めてください!ご主人様は魔族の血を引いてい
ますが、半分は人間です!ご主人様はルチアさんに危害を加える様
な事はしません!!﹂
可愛い瞳に一杯の涙を溜めながら、必死にマティアスに訴えかける。
そんな、マルガの頭を優しく撫でるルチアは、マティアスの剣先ま
で近寄ると
﹁⋮剣を下ろしなさいマティアス﹂
﹁ですが!!!ルチア様!!!﹂
﹁私の命令が聞けないの?⋮私への忠誠は、嘘だったのかしら?﹂
ルチアの静かだが威圧感のある言葉に、グッと声を上げて、剣をゆ
っくりと下ろすマティアス。
それを見たマルガとマルコは、安堵の表情を浮かべる。
﹁⋮ありがとうマティアス﹂
﹁⋮いえ。私はルチア様の騎士ですから⋮﹂
少し表情の和らいだルチアは、俺に振り返る。
﹁⋮葵。一体どう言う事なのか、きちんと説明してくれるわよね?﹂
流し目で俺を見るルチアに、静かに頷くと、フっと笑うルチアは、
コホンと軽く咳払いをして、視線を外す。
﹁⋮とりあえず⋮何か服を着てくれない?何処を見て良いか解らな
いから﹂
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珍しく言葉を濁すルチアに、何となく視線を下に落とすと、俺のパ
オーンちゃんが、コンニチワしていた。
﹁僕は⋮何故全裸なのでしょうか⋮?﹂
﹁ルキフゲ・ロフォカレのブレスを、全身に浴びたからでしょうが
!!!やっぱり馬鹿なんだから!﹂
プリプリ怒っているルチアの声が、広間に木霊していた。
ルキフゲ・ロフォカレの、灼熱のブレスを食らった俺は、装備の全
てが焼け消えた。ただ、アイテムバッグは、熱風に飛ばされて、焼
かれずに済んだみたいで、マルガが匂いを嗅いで、見つけてくれた。
良かった⋮此れが燃えちゃったら、大痛手だった。お金も名剣フラ
ガラッハも入っていたし⋮それにパソコンとかも⋮
そんな安堵している俺に、ソノ異変は訪れた。
俺の体を覆っていた魔力が消えてゆく。その直後、体に激しい疲労
感が襲い、俺は蹲ってしまった。髪の毛も瞳の色も元に戻り、長い
爪も無くなって、そには全裸のパッとしない日本人の少年の姿があ
った。
﹁ご⋮ご主人様!大丈夫ですか!?﹂
マルガが、アワアワマルガに変身して、俺に抱きつく。
﹁どうやら、力が尽きた様ですね。見た目も元に戻りましたし、あ
の凄まじい妖力も、全く感じませんしね﹂
﹁とりあえず、服!服を着て葵!話はそれからよ!﹂
冷静に俺に語るマティアスに、少しイラっとしているルチアと、私
814
は構いませんよ?むしろ此のままでも言いですよ?みたいに、俺に
抱きついているマルガ。
そんなマルガに、思わずエッチな事を、しそうになるが、ルチアに
殺されそうなので我慢しよう!
その様なアホな事を思っていると、体に力が入らなくて動くのがき
つい事に気がついた。
﹃種族能力解放が終わってからは、魔力はすっからかんどころか、
超回復も殆ど機能していないし、力は入らないし⋮此れじゃ一人で
立つ事も出来ないよ⋮ウウウ﹄
俺はマルガに、替えの服をアイテムバッグから取り出して貰い、着
せて貰っている。
服を着終わった俺を見て、真っ先に、さも当然の様に、予測してい
た事が起こる。
﹁⋮葵説明して。きちんと、皆に解る様に。解ってるわよね⋮葵?﹂
俺の直ぐ傍で、説明を求めるルチア。そのルチアの瞳は、色んな気
持ちが篭められていて、俺の全てを見透かす様な色だった。
﹁⋮うん。もう隠せないし、全てを話すよ⋮でも⋮信じて貰えるか
どうかは、解ら無いけどね﹂
﹁どういう事?﹂
俺は皆に全ての話をする。居世界の地球の事、何故か飛ばされて、
この世界に来た事を含め、全てを皆に説明する。俺の話を聴き終わ
った皆は、口を開けて、固まっていた。
﹁⋮葵。その話を⋮信じれって言うの?⋮貴方が馬鹿なのは解って
るけど、そんなごまかす様な事は、言わないと思っていたんだけど
?﹂
懐疑心の塊の様な瞳を見けるルチア。マティアスとマルコもルチア
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の言葉に頷いている。
そんな皆を見て、マルガはバッと立ち上がる。
﹁ご主人様が言っている事は本当です!ご主人様は嘘を言っていま
せん!ご主人様を信じて上げてください!そ⋮そうです!ご主人様
!プリムちゃんです!プリムちゃんの映る、パソコンです∼!あれ
なら、きっと皆さん解って貰えると思います!﹂
マルガは俺の手を握り、パソコンです!プリムちゃんです!といっ
た感じで、尻尾をブンブン振っている。
確かに⋮パソコンなら⋮。見せる情報を限定して見せるか⋮
俺はアイテムバッグから、パソコンを取り出す。そしてパソコンを
立ち上げると、何時もの画面が浮かび上がる。ソレを、目を丸くし
て見ている、ルチア、マティアス、マルコ。
﹁此れは、俺の世界の物で、パソコンって言うんだ。このパソコン
で、元いた地球って所を見せてあげるよ﹂
俺はパソコンで、インターネットに繋いで、地球の様子が解る、画
像や、動画サイト、地図などを見せる。
空飛ぶ飛行機、蟻塚の様に群生している高層ビル。人がゴミの様に
写っている、通勤ラッシュの地下鉄の光景。そこには、ルチア達の
想像を超えた世界が映し出されていた。
それを見たルチア達は、放心状態で、只々パソコンの画面を見つめ
ていた。
﹁す⋮凄い⋮此れが⋮貴方の居た世界⋮地球⋮なの?﹂
﹁うん⋮そうだよ。この世界にある魔法は無いけど、それを補うだ
けの文明があるんだ﹂
微かに声を出せたと言った感じのルチアは、パソコンの中の映像を、
瞳を輝かせて見つめている。
マティアスやマルコも同じ様に、パソコンの画面を見つめていた。
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﹁俺が何故、この世界に飛ばされたかは解らない。当然理由なんて
解らない。何故ここに居るのかも。だけど⋮俺はこうしてこの様に
ここに居る。⋮それが動かせ用の無い事実なんだ﹂
俺の真剣は瞳を見て、ルチア、マティアス、マルコは暫く顔を見合
わせていたが、その中で、マルコが口火を切った。
﹁オイラは葵兄ちゃんを信じるよ!⋮葵兄ちゃんは悪い奴じゃない
し、信じれるしさ!それにこうやって、きちんと見せて、説明もし
てくれたんだしさ!﹂
マルコがニコっと俺に微笑みながら言うと、マルガが﹃ありがとね
マルコちゃん!﹄と言って、マルコの頭を微笑みながら撫でている。
それを見て、フフと軽く笑うルチアが
﹁⋮そうね!こんなモノ見せられたら、信じるしか無いわよね﹂
﹁ルチア⋮﹂
ルチアは楽しそうな瞳を俺に向けて静かに頷く。そして、マティア
スに向き直り、
﹁⋮マティアス。貴方もこれで文句は無いでしょ?﹂
﹁⋮私はルチア様がそれでいいなら⋮私に異論はありません﹂
そう言ってルチアに軽く微笑むマティアスを見て、フフフと笑うル
チア。
だが、マティアスは俺に視線を向けると、再度表情をきつくする。
﹁⋮しかし、葵殿が魔族だと言う事⋮しかも、人に害をなす、ヴァ
ンパイアで有る事実は消せません。⋮葵殿。貴方は⋮今迄⋮何人の
人々を、食料として食して来たのですか?⋮つまり⋮殺してきたの
ですか?﹂
凍る様な眼差しを俺に向け、激しく睨むマティアス。その言葉に、
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ルチアも表情を強張らせる。
﹁⋮葵。その辺はどうなの?⋮説明⋮出来る事なの?﹂
﹁いや⋮俺は誰も食料としては殺して無いよ!?﹂
﹁⋮ヴァンパイアは、人の血を吸って殺すって、何かの文献で見た
事があるけど⋮どういう事?﹂
﹁いや⋮どうもこうも⋮﹂
俺はヴァンパイアハーフの種族の特徴を、事細かに説明する。人の
血を吸っても死なない事、アンデットにならない事、その他包み隠
さず説明する。マルガを手に入れてからは、マルガから血を貰って
いる事を説明すると、マルガも懸命に皆に説明してくれる。実際に
血を吸われているマルガの話に、真実味を感じてくれたのか、ルチ
アもマティアスもマルコも、安堵感に包まれている様であった。
﹁⋮随分と、文献と違うわね﹂
﹁ヴァンパイアは、魔族でも希少種だと聞きます。私でさえ、葵殿
が初めてですからね。文献も全てが正しいとは限りませんしね﹂
マティアスの追加の説明に納得したルチアは、ニヤっと小悪魔の様
な微笑みを浮かべる。
﹁⋮マティアス。貴方⋮葵が危険人物じゃなかったの?﹂
﹁⋮私は何も、葵殿が全て悪いとは言っていません!⋮ただ⋮ルチ
ア様の護衛であり⋮﹂
ニヤニヤ笑いながら言うルチアに、言葉尻を小さくするマティアス
は、コホンと軽く咳払いをして、
﹁葵殿!すまなかった!本来なら、真っ先にルチア様を助けて頂い
た礼をせねばならぬ所、きつい事をして言ってしまって⋮﹂
マティアスはそう言うと、深々と頭を下げる。その余りにもの潔良
さに、思わずプっと笑いがこみ上げる。本当に⋮マティアスらしい⋮
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﹁いいんですよマティアスさん。マティアスさんはルチアの護衛な
んだし、ルチアの事を最優先に考えただけでしょ?俺がマティアス
さんの立場なら、同じ事をしていましたよ﹂
微笑みながら俺が言うと、フフっと優しい微笑みを向けるマティア
スは、ありがとうと言う。
それを見ていたルチアはうんうんと頷くと、勢い良く立ち上がった。
﹁話は落ち着いた様だし、とりあえずは、この話の続きは、帰って
からにしましょう。勿論、秘宝を貰ってからね!!﹂
ルチアの微笑みながらの言葉に、皆が此処に来た目的を思い出す。
そして、この奥に眠る秘宝の事を思い、瞳を輝かせる。
﹁ほら⋮肩を貸してあげるから、立ちなさい。1人じゃ⋮立て無い
んでしょ?﹂
﹁ありがとうルチア⋮﹂
俺はルチアとマルガに両肩を抱えて貰って立ち上がる。それを見て
いるマティアスとマルコは微笑み合っていた。
そして、俺達が入り口と反対側の光り輝く扉を目指そうとした時、
美しい宝箱を見つめる。
﹁これって⋮さっきの集団のやつだよね?﹂
﹁その様ですね。さっきの集団の奴なら、かなり良い物が入ってい
るかもしれません﹂
﹁そうなの!?じゃ∼ちゃちゃっと開けちゃいましょう!マルコよ
ろしく!﹂
﹁解った!すぐに調べる!﹂
マルコが入念に罠を調べる。そして、罠を言おうとした時に
﹁爆発の罠ですね﹂
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マルコが言う前に、また魔法で調べていたマティアス
﹁マティアス⋮貴方ね∼﹂
溜め息を吐きながらルチアが言うと、マルガもマルコも笑っている。
マルコは、慎重に罠を外す。そして、宝箱を開ける。
﹁えっと⋮爪の様な物が2つ、此れはローブかな?それと、小型の
盾が1つ⋮後は⋮すごい!金貨が10枚位入ってるよ!﹂
嬉しそうに言うマルコ。マルガも、わああと、嬉しそうに声を出し
ている。
﹁良かったじゃない。装備は武器屋で鑑定して貰いなさい。じゃ∼
さっさと、葵のアイテムバッグにしまって、彼処に行きましょう﹂
俺のアイテムバッグにそれらをしまい、光り輝く扉に向かう一同。
そして、扉の前まで来て、その光っている扉を軽く触ると、ゴゴゴ
と音を立てて、扉は開いた。
﹁⋮いよいよね!﹂
ニンマリするルチアに、皆も同じようにニンマリして頷く。
俺達は、部屋の中に入っていく。その部屋は、20帖位の小さな部
屋だった。その中央に台座の様な物がある。
﹁あれ?何もないの?ここまであんなに苦労したのに!?﹂
﹁いえ、あの台座まで行ってみましょう。私の推測が正しければ、
あの台座の中に秘宝があると思います﹂
﹁そう!じゃ∼行ってみましょう!﹂
ルチアに頷き、俺達は台座の前までやってきた。その台座には、丸
い水晶の様な物が付いている
﹁この水晶に触るみたいですね。そうすれば、封印が解かれるはず。
820
葵殿⋮やってみてください﹂
﹁まさか⋮罠って事は無いよね?さっきも、ひどい目にあったし﹂
心配そうに言うルチア。それを聞いて、マルガもマルコも不安そう
な顔をする。
﹁罠の可能性は少ないと思います。あの声は、最後の試練と言って
いましたしね。まあ、注意はしておきましょう﹂
マティアスの言葉に頷き。俺はゆっくり水晶に触れる。すると水晶
が光り輝く。そして、また声が聞こえる
﹁勇気のある者よ、知恵のある者よ、力のある者よ、よくぞすべて
の試練を乗り越え、此処にたどり着いた。そなたらの偉業を称え、
これを授ける。持って行くが良い﹂
言い終わると、台座にあった水晶が光の中に消える。そして、台座
の中央が開き、何かが上がってくる。
﹁こ⋮これは⋮﹂
上がってきたソレを見て、声を上げるマティアス。そこには、四方
15㎝位の、ハート型の綺麗なピンク色に光り輝く、宝石が出て来
た。余りにも美しいその宝石を見て、わああと言って、マルガもマ
ルコも目を丸くして、感動している。
﹁これは⋮水晶?それともダイヤなのかな?⋮大きいね∼。色も綺
麗で、光り輝いているし。これが秘宝か∼﹂
俺はヒョイとその宝石を手に取って見る。その宝石は、何か神聖な
力も感じる。マルガとマルコも綺麗だね∼と、嬉しそうな表情をし
ている。その宝石を見て、何かを考えていたルチアは
﹁葵!ちょっと見せて!﹂
声高に言うルチア。俺は頷いて、ルチアに秘宝を渡す。その秘宝を
821
マジマジと見るルチア
﹁この輝き⋮この形に、この魔力⋮やっぱり⋮間違い無いわね⋮伝
承通り。これは⋮伝説の秘宝、真実の心ね﹂
宝石を見ながら、目をきつくしているルチア。
﹁なにそれ?真実の心?﹂
﹁はい。今から約500年位前の伝承なんですが、とある国が、敵
対している帝国に攻め入られたんです。兵力差は10倍以上。誰し
もが諦めた時に、その国の王女が、ある秘宝を使って、皆の魔力を
増幅させ、敵国の帝国の兵を、一瞬で消し去ったらしいのです。そ
の時に使われた秘宝と言うのが、真実の心と言われています。その
後の所在は行方不明になっていたのですが⋮。こんな所に有ったと
は⋮﹂
マティアスの説明に、この宝石が物凄い物だと皆が理解する。
﹁ひょっとしたら、大魔導師アーロンは、その王女と血の繋がりが、
有ったものかもしれないわね﹂
秘宝を見ながら言うルチア。マティアスも頷いている。
﹁じゃ∼この宝石って物凄い価値が有るの?ルチア姉ちゃん﹂
﹁⋮そうね⋮どれ位の価値があるか解らない位に⋮﹂
それを聞いたマルガとマルコは、軽くジャンプしてハイタッチして
いる。それとは対照的に、ルチアとマティアスは顔を見合わせて、
何かを考えて居る様であった。
﹁とりあえず此処を出て、早くランドゥルフ様に渡そう﹂
﹁⋮まあ∼持っていくのは明日以降にしましょう﹂
﹁なぜ?早く持って行きたいんだけど?﹂
ルチアの言葉に、俺が不満そうにしていると、軽く溜め息を吐いて
822
﹁葵の気持ちは解ってるわ。でも、ランドゥルフ卿だって忙しいの
よ?今日行ってすぐに会えると思っては無いでしょ?それに葵だっ
て、一人で歩け無い位消耗してるじゃない。期日迄まだ30日近く
ある。休養して、動ける様になったら、先に面会の予定を都合して
貰って、そこからでいいんじゃないの?﹂
諭す様にルチアに言われる。
﹁確かにそうだね⋮どうかしてた。リーゼロッテは既に安全なんだ
しね。ルチアの言う通りにするよ﹂
﹁そうしなさい!﹂
苦笑いして俺が言うと、フっと笑っているルチア。
﹁それから、その真実の心だけど、マティアスに持たせておいてい
いかしら?﹂
﹁マティアスさんに?﹂
﹁もし取られたりでもしたら、大変でしょ?マティアスに持たせて
いたら、安全だと思うけど?﹂
確かに⋮動けなくて、力も出せない俺より、マティアスさんの方が
安全だ。マルガとマルコを見ると、ウンウンンと頷いている。
﹁そうだね。じゃ∼お願いするよ﹂
﹁任せておいてくれ葵殿!命に変えても守る!﹂
大げさな⋮でもマティアスは本当にそうするんだろうね。何か解り
ます。
﹁じゃ∼此処を出て、葵はすぐに休養ね。レストランテから食事を
運ばせるわ。キツネちゃんとマルコは、私と一緒に食事ね。葵もそ
れでいいでしょ?﹂
﹁うん。じゃ∼ルチア⋮悪いけどよろしく頼むよ﹂
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俺達はラフィアスの回廊から出て、港町パージロレンツォ迄戻って
きた。
﹁じゃ∼葵を部屋に連れて行ったら、昼刻の6の時に、キツネちゃ
んとマルコはレストランテにね。私もとりあえず、休養するわ。じ
ゃ、また後で﹂
俺達はそこで別れ、俺とマルガとマルコも、宿屋迄帰って行く。そ
の後ろ姿を見つめるルチア。
﹁⋮マティアス⋮緊急連絡用の水晶って持って来てたよね?﹂
﹁はい。私達の部屋にあるはずですが﹂
﹁じゃ⋮私は部屋に戻って、お母様に連絡するわ。マティアス貴方
は、冒険者ギルドに行ってアガペトに会って、報告して頂戴。彼処
はとても危険な場所だから、早急に対処して貰わないと、入ってき
た初心者が、皆全滅してしまうわ。あの大広間の召喚の罠は随時さ
れるみたいだし。それに、あんな強力な魔物が外に出たらって考え
ただけで、寒気がするしね﹂
ルチアの指示に、頷くマティアス。
﹁じゃ∼後で合流ねマティアス﹂
マティアスと別れたルチアは、宿泊している部屋に帰ってきた。そ
して、部屋の隅に置かれた鞄から、1つの水晶を取り出した。それ
をテーブルの上に置いて、ルチアは魔法の詠唱を始める。すると、
水晶が光り出した。
﹁そこに、誰かいませんか?﹂
ルチアの問いかけに、身なりの良い男の姿が写出される。
﹁これはルチア様。御機嫌麗しゅう御座居ます﹂
﹁挨拶はいいわ。此処にお母様を呼んで来て。急用なの﹂
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﹁は⋮はあ⋮しかし⋮今は確か、会議中だったはずです。しばし⋮﹂
その男の対応に、イラッとしたルチアは
﹁私が至急呼んでいると伝えて!今すぐに此処に連れて来て!﹂
ルチアが声高に言うと、慌てながら返事をして駆けていった男。暫
く待っていると、40代後半位の、綺麗で豪華なドレスで着飾った、
美しい女性が水晶の前に現れた。
﹁お久しぶりね、愛しいルチア。元気そうで何よりですわ。こうし
て会えるのは嬉しい事だけど、今は会議中なの。終わってからお話
を聞かせて貰ってもいいかしら?﹂
ニコっと美しい微笑みをルチアに向ける女性。ルチアは女性に一礼
して、
﹁すいませんお母様。しかし、至急お母様と相談させて頂きたい事
案がありまして。それには、お母様の協力も必要となりまして、連
絡しました﹂
﹁⋮何かしら?言ってご覧なさい﹂
少し目を細くする女性に、ルチアは説明を始める。そして、ルチア
の話を聞いた女性は、綺麗な装飾のついた扇子を口元に当てて、楽
しそうにフフフと笑う。
﹁本当にルチアさんは面白い事をしてくれますね。私の3人の子供
の中でそんな事をするのは、ルチアさん位なものです。やっぱり、
一番下の子は、自由奔放ですわね﹂
ルチアを慈しむ様に微笑む女性に、少しバツの悪そうに、苦笑いす
るルチア。
﹁解りました。ルチアさんの好きな様にしなさい。段取りは解りま
したので、全て用意しましょう﹂
825
﹁ありがとうございます!お母様!﹂
女性の言葉に、嬉しそうにするルチア。
﹁でも⋮ルチアさん。余り無茶な事はしないで下さいね。幾らマテ
ィアスを付けているとは言え、彼にも限界はあるのですから﹂
﹁はい⋮反省をしています⋮﹂
少しシュンと俯くルチアに、フフフと笑う女性
﹁じゃ⋮私は会議に戻るわね。さよなら愛しいルチア﹂
﹁はい、お母様もお元気で!﹂
ルチアが話を終えると、マティアスが戻ってきた。
﹁ルチア様。此方は全て手はず通りになりました﹂
﹁ありがとねマティアス。こっちもお母様から許可を貰ったわ。後
は葵に話をしてからね﹂
ルチアの言葉に頷くマティアス
﹁ほんと⋮アイツと居ると⋮退屈しないわね﹂
嬉しそうに言うルチアに、マティアスは微笑んでいた。
826
愚者の狂想曲 23 帰って来た金色の妖精
ラフィアスの回廊から帰ってきた俺は、何とか普通に体を動かして
も、痛くない位まで回復していた。
種族能力解放を使ってから既に4日、まだ魔力は半分弱しか回復し
ていないし、超回復も半分位しか機能していない。全快するには、
後2日は掛るだろう。
そんな俺は、ルチア達の待つレストランテに、昼食を取る為に向か
っている。俺の横で、ニコニコしながら腕組みしているマルガに癒
されながら、レストランテに入って行くと、ルチアとマティアスが
待っていた。
何時もの席に座ると、俺達に料理を運んでくれる店員。
﹁どう葵?体の調子は﹂
﹁うん。だいたい半分弱回復したって所かな?完全に回復する為に
は、後2日って所だね。とりあえず、動ける様になって良かったよ﹂
苦笑いしている俺に、ウンウンと頷くマルガとマルコ
﹁回復するのに結構掛かるのね。あの力って、具体的にどんな感じ
なの?﹂
﹁うん⋮一度使うと、3日は完全に戦闘不能、身動きが辛うじて出
来る程度。後は少しずつ回復して行って、6日で完全回復。だけど、
能力開放する為に必要な妖力が戻るには、90日近く掛かるみたい。
だから、能力開放の再使用までは90日。能力を開放していられる
時間は、約半刻︵約30分︶位。今は使った事でLV2になってる
から、能力は上がってると思うけど、回復時間や開放していられる
時間は変わって無いみたいだね﹂
﹁⋮なるほど。いつでも使える様な力じゃないのね。大きな力には
827
代償が必要⋮か。ま∼あんな、四属性精霊である四属性守護神に近
い⋮対抗出来る様な力をいつでも使えたら、貴方も精霊になっちゃ
うしね﹂
ルチアは紅茶を飲みながら言うと、マルガとマルコが食いついた。
﹁ご主人様、四属性守護神って何なのですか?﹂
マルガが可愛い首を傾げて居る。マルコも隣でウンウンと頷いてい
る。
﹁四属性守護神っていうのは、各属性の精霊の長であり、それぞれ
の国の王家と契約して、国を守護している精霊なんだよ﹂
﹁正確には、火、水、土、風、光、闇の、6種類の精霊が居るんだ
けどね。それぞれの精霊は、1精霊で、一般兵士10万人分の兵力
と、同等と言われているの。それだけ強力な力を持って居るって事
ね﹂
ルチアの説明に、口をポカンと開けて居るマルガとマルコ。
﹁その精霊と契約しているのは⋮何処の国なんですか?ご主人様﹂
﹁えっとね⋮まずは、風の精霊を守護神に持つこの国、フィンラル
ディア王国、土の精霊を守護神に持つ、ヴィアンメディル共和国、
火の精霊を守護に持つ、アルゴス帝国、水の精霊を守護神に持つ、
グランシャリオ皇国、光の精霊の守護神を持つ、神聖オデュッセリ
かな﹂
ア、そして、闇の精霊を守護神に持ち、人間族や亜種族の敵である
魔族の国、魔国アウラングゼーブ
﹁ま∼その内、グランシャリオ皇国は、6年前に滅びちゃって、水
の精霊の守護神は、地下に封印されたままになってるらしいけどね。
その他の国は、言わずと知れた大国。精霊の守護がいかに重要か解
るでしょ?﹂
俺とルチアの説明を聞いて、ウンウンと頷くマルガとマルコ。
828
﹁⋮葵、貴方も、あの力は、無暗に使わない事ね。見られたら大変
って言う事も有るけど、その力を目当てに、何かしてくる輩も居な
いとは限らないから。⋮解ってるわよね?﹂
ジトで言うルチアに苦笑いしていると、軽く溜め息を吐いて、本当
に大丈夫かしら?と、わざと小声で、呟く様に言って、紅茶を飲む
ルチア。
﹁所で、昨日の朝刻にランドゥルフ卿の使いの者が来てたみたいだ
けど、ランドゥルフ卿との次の約束は、どうだった?﹂
﹁うん、明日の朝刻の5の時になったよ﹂
﹁あら、意外と早く会えるのね、良かったじゃない。明日のランド
ゥルフ卿との取引は、私も同行するからよろしく∼﹂
ルチアがニヤっと笑って、紅茶を飲んでいる。なんだろう⋮嫌な予
感が⋮しちゃう!
俺はアタフタしながら
﹁べ⋮別にいいよ!俺とマルガとマルコだけで大丈夫だよ?﹂
﹁⋮大丈夫!?何が大丈夫なのよ!今回はたまたま上手く行ったけ
ど、本当なら、貴方大変な事になってたのよ!?貴方達だけ行かせ
て、またとんでもない取引を、約束しないか私が監視しないと、オ
チオチ寝てられないのよ!﹂
ルチアの尤もな意見に、シュンとなっている俺の頭を、苦笑いしな
がらヨシヨシと頭を撫でてくれるマルガ。マルガに癒された所で、
気になっている事を聞いてみた。
﹁あのさ⋮ルチアにマティアスさんマルコ⋮皆俺に⋮いつも通り接
してくれるけどさ、何故⋮俺の事⋮教会に⋮密告したり⋮しないの
?﹂
俺の少しか細い問に、ルチアもマルコもマティアスも、顔を見合せ
ている。
829
﹁何故そんな事しなくちゃいけないの?﹂
﹁だって⋮俺は⋮魔族と⋮﹂
俺が言いかけた所で、ルチアの人差し指が、俺の唇に触れ遮られた。
﹁⋮こんな所で、その話はしないで。それに⋮そんなつまらない事、
私達はしないわよ﹂
﹁⋮何故?﹂
﹁何故って⋮葵は葵でしょ?何も変わらないわ。⋮確かに、初めは
驚いたけど、私達の脅威になる存在じゃ無いじゃない。なら私達に
は問題は無いわ。⋮そんな事、貴方が気にする事じゃないの⋮馬鹿
ね⋮﹂
そう言っルチアは何時もと変わらない様子で、紅茶を飲んでいる。
マティアスもマルコもウンウンと頷いて、微笑んでいる。その暖か
さが、とても心地良く、少し目頭が熱くなる。
﹁あ⋮ありがとう⋮皆⋮﹂
﹁フン!何を今更⋮。ま∼本当の理由は、可愛いキツネちゃんが、
こんなに慕ってるなら、悪い奴じゃ無いってってのが本音ね!でも
⋮可愛い超美少女のキツネちゃんを、誑かしてるって言う理由でな
ら、教会に密告してあげてもいいけど?﹂
﹁いえ⋮勘弁して下さい⋮﹂
俺の気まずそうな顔を見て、楽しそうなルチア。皆もアハハと笑っ
ている。
﹁⋮でもね葵。その事も、此処に居る者と、貴方がご執心している、
エルフの女の子以外は、絶対に言っては駄目よ?解ってるわよね?﹂
﹁⋮うん。解ってる﹂
﹁⋮ならいいわ。⋮手間かけさせないでよ?﹂
ジト目で言うルチアに、苦笑いをしている俺を見て、マルガとマル
830
コはアハハと笑っている。
﹁で⋮この後は、冒険者ギルドに、行ったらいいんだっけ?﹂
﹁そうよ。貴方が動けない間に、冒険者ギルドと話をしてあるから。
詳しくは、冒険者ギルドに行ってから、話をしましょうか﹂
ルチアの言葉に頷き、昼食を終えた俺達は、冒険者ギルドに来てい
た。どうやら、今回の件の話をしたいらしい。俺達は冒険者ギルド
の、今迄行った事の無い、本館の最上階に来ていた。ルチアの案内
で、少し豪華な扉の前に来ると、
﹁ここよ。入るわよ!アガペト!﹂
そう言って、ノックもせずに部屋に入っていくルチア。俺達は少し
戸惑いながら、ルチアの後をついて部屋に入って行く。
その部屋は、沢山の本が置いてあり、色んな場所のダンジョンで、
手に入れたであろう物が、飾られている。
その部屋の奥に、背の低い机があり、そこに一人の背の低い老人が
居た。
﹁此れはルチア様。相変わらずですな﹂
﹁いいじゃない∼。私と貴方の仲なんだから﹂
苦笑いを浮かべている、背の低い老人にの頭をポンポンと叩いてい
るルチア。俺達が戸惑っていると、
﹁此方の人達が、件の方々なのですかな?ルチア様﹂
﹁そうよ。このパッとしない行商人が葵、この可愛い美少女キツネ
ちゃんが、このパッとしない葵の、何故か一級奴隷をしているマル
ガ。そして、パッとしない葵に弟子入りしてしまったマルコよ﹂
クウウウウ!!!俺達の紹介に、ルチアの悪意を感じる!!主に俺
への悪意ですが!
パッとしないって、3回も連呼しやがって!ちくちょう!⋮ウウウ⋮
831
そんなルチアの紹介に、苦笑いしている背の低い老人に、俺達は挨
拶をする。
﹁とりあえず座って下さい。私は、この冒険者ギルト、港町パージ
ロレンツォ支部の長をしています、ドワーフ族のアガペト・ロデス・
バレーラと言います。よろしく﹂
アガペトの挨拶に、俺達も頭を下げる。アガペトは話を続ける。
﹁では、今回の件の事を説明しましょう。まずは、大魔導師アーロ
ンの秘宝の発見、おめでとうございます﹂
﹁﹁ありがとうございます!﹂﹂
マルガとマルコガ声を揃えて、嬉しそうに言うと、ニコっと微笑ん
でいるアガペト。
﹁ホホホ。元気が宜しいですな。それで、今後の対応なのですが、
まず、大魔導師アーロンの秘宝発見の発表は、此方の準備が整い次
第、発表とさせて頂きます。報告を聞きますと、秘密通路にある奥
の大広間には、魔物を呼ぶ魔法陣のトラップがあるみたいですな。
しかも、かなり強力な魔物を呼ぶ魔法陣。準備をせずに、発表して
しまいますと、何も知らない冒険者が殺到して、いらぬ被害が出て
しまう事が、安易に予想出来ますからな﹂
﹁確かに⋮アレはきつかったです﹂
苦笑いをしている俺を見て、マルガとマルコもウンウンと頷いてい
る。
﹁ですから、あの銅像の下から出て来た階段を、魔法で強化した鉄
格子で封印し、ギルドの許可を与えた者のみ、秘密通路の奥に入れ
るようにします。秘密通路の入退室を管理出来れば、何かあっても
すぐに解りますからな。ですから、銅像の階段を、魔法の鉄格子で
封印が終わるまでは、発表は致しません。今は、冒険者ギルドの関
832
係者が、一日中交代で、銅像の階段を、監視、警護している状態で
す﹂
確かに、それをしてからの発表が、一番良いだろう。他の皆を見る
と、同じ様に頷いている。
﹁理解して頂けた様で良かったです。それと次に、発見した秘宝の
事ですが、ルチア様とマティアス様に聞きますと、秘宝の所有権は
葵さんだと聞いたのですが、間違い有りませんか?﹂
﹁え⋮ええ⋮。そうだと思いますけど⋮﹂
﹁葵の言う通りよ。私達は報酬は貰わないと言う条件で、同行して
いたしね。秘宝の所有権は葵よ﹂
﹁⋮ありがとうルチア﹂
﹁ま∼この貸しは、利子を付けて返して貰うわ。近々ね!﹂
﹁お⋮お手柔らかに⋮﹂
苦笑いをしている俺を見て、ニヤニヤ笑っているルチア。そのニヤ
ケ顔怖いんですけど!
⋮ひょっとして、とんでもない子に、貸しを作っちゃったのかもし
れない⋮
少しその事を考えて、寒気がしてブルっとなっていると、苦笑いを
しながら話を続けるアガペト。
﹁なるほど。では、秘宝の所有者である葵様に、お願いがあります。
秘宝の真実の心は、非常に価値のある宝石であるのと同時に、凄い
力を持ったマジックアイテムでもあります。それこそ、他国がそれ
を欲して、戦争を仕掛けて来る位に。それほど危険な秘宝でもあり
ます。なので、葵様には、発見された秘宝は、価値のある宝石では
あったが、それだけだったと言う事にして欲しいのです﹂
﹁つまりは⋮秘宝の正体である真実の心の存在を隠して、別の物で
あった様にすればいいのですね?﹂
俺の言葉に肯定して頷くアガペト。
833
確かに、ルチアやマティアスが言っていた様な、とてつもない兵器
なら、その力を得ようと戦争になっても可笑しくはない。地球でさ
え核の問題で戦争になる事だってあるのだ。こんな未発達な世界な
ら尚更だろう。
﹁それでいいですよ。その件は、アガペトさんにお任せします。マ
ルガもマルコもそれでいいよね?﹂
﹁私はご主人様が良ければ、問題ありません!﹂
﹁オイラも葵兄ちゃんに、任せるよ﹂
﹁ありがとうございます﹂
そう言って頭を下げるアガペトに、ニコっと微笑んでいるマルガと
マルコ。アガペトも微笑んでいた。それを見守っていたルチアが、
俺の方を向く。
﹁それでね、私から葵にお願いしたい事があるのよ﹂
﹁うん?何?出来る事ならなんでもするよ?﹂
﹁ま∼見た目のパッとしない所を直してとか言う、無理な事じゃな
いから、安心して﹂
そうか∼それなら安心だ∼。って、なんでやねん!思わず一人で乗
りツッコミしたわ!
そうですか⋮俺の見た目のパッとしないのは、直せないんですね⋮
ウウウ⋮神様恨みますYO!!
俺がズーンと項垂れているのを、ニヤニヤしながら見ているルチア
は、
﹁それでね、その真実の心は、葵に所有権が有るじゃない?で⋮お
願いなんだけど、真実の心を、私に売ってくれない?﹂
﹁へ?どういう事?﹂
﹁⋮さっきも説明したけど、この秘宝、真実の心は非常に危険なマ
ジックアイテム。こんな物の存在が外に漏れたら、コレを欲して戦
834
争にもなりかねない物なのは解ってくれたでしょ?此れがもし悪意
のある者に渡ったらどうなると思う?﹂
ルチアはきつい目をして俺に問う。
﹁⋮それは⋮目も当てられない様な事になるだろうね。人も一杯死
にそうだ。考えたくないね﹂
苦笑いする俺。マルガとマルコも想像して、顔を歪めている。マテ
ィアスも頷いている。
﹁そういう事。でね、私がこの宝石を買い取って、フィンラルディ
ア王国に献上して、フィンラルディア王国の王都ラーゼンシュルト
にある、フィンラルディア王家の王宮、ヴァレンティーノ宮殿の地
下の、天使の封印の間に、厳重に保管、封印して貰う事にしたいの
よ﹂
なるほど⋮大国フィンラルディア王国、最大の都市であり、最大の
防御力を誇る王都ラーゼンシュルトなら、この国で一番安全って事
か。その中でも、ヴァレンティーノ宮殿の警備は、この国の何処よ
りも厳重だって、聞いた事がある。そこの地下なら、まず手は出せ
ないだろう。
俺がルチアの提案に、考えていると、俺を見ていたルチアは話を続
ける。
﹁貴方のご執心のエルフの一級奴隷が、買える価格が金貨500枚。
私に売ってくれるなら、金貨500枚に、さらに金貨50枚を付け
るわ。金貨550枚で買い取るけど、どう?﹂
ルチアの提案に、出して貰っていた紅茶を、吹き出しそうになる。
横を見ると、マルガとマルコも同じ様だった。
﹁俺はリーゼロッテを買える金貨500枚有れば、なんでも良いと
言えばそうだけど、そこに金貨50枚も付けてくれるの!?そりゃ
835
∼ありがたいけど、ルチアは損したりしないの?﹂
﹁私はこの真実の心を、フィンラルディア王家に、有利に取引する
から大丈夫よ。ま∼貴方が直接、単身でフィンラルディア王国と商
談してもいいけどね﹂
ニヤッと笑うルチア。コイツはきっと俺がどう言うか解ってて言っ
てるんだろうな⋮ムキー!
﹁いや⋮ルチアの言う通りでいいよ。その秘宝は危険過ぎる。それ
に、なんの繋がりもない俺が、王家と交渉なんかしたら、殺されち
ゃうかも知れないしさ。俺もその秘宝は封印した方が良いと思うし
ね﹂
苦笑いしている俺に、満足そうな笑みを向けるルチア。マルガとマ
ルコもウンウンと頷いている。
﹁じゃ∼取引成立ね!はい!金貨550枚!﹂
そう言って、アイテムバッグから金貨の入った袋を取り出し、ドン
!とテーブルの上に置くルチア。
その重量感と存在感に、俺もマルガもマルコも、目が点になってい
た。暫くボーっとなっていたが、気を取り直して、俺とマルガとマ
ルコは金貨を数えて行く。それをニコニコしながら見ているルチア。
﹁確かに金貨550枚。でも⋮何時もこんな大金持ち歩いてるの!
?⋮ルチア⋮何処の御嬢様なんだよ⋮﹂
﹁フフフ⋮私が本気になったらもっとすごいわよ?ま∼それが本当
に必要な事ならだけどね!﹂
俺達の呆れ顔を見て、楽しげにドヤ顔で笑っているルチア。
﹁さて、私の話はこれで終わりよ。アガペトはまだ、葵達に話があ
るでしょ?﹂
﹁そうですな。私からは、秘宝の発見者として、発表して良いかと、
836
今回の大発見に対しての報奨の話ですな﹂
アガペトの話を聞いて、若干2名の耳が、ピクピクと動いて居るの
を、俺は見逃さなかった。
﹁わ⋮私⋮有名になっちゃうんですか∼ど⋮どうしましょうご主人
様!この服で恥ずかしくないですか!?﹂
﹁オ⋮オイラも、こ⋮心の準備が!イケンジリの村とかにも、伝わ
ったら嬉しいな!ま∼手紙にも書くけど!﹂
若干2名は、想像しただけで、既に浮き足立っている。その嬉し恥
ずかしの顔と言ったら⋮こっちまで思わず微笑んでしまう。同じよ
うにアガペトも微笑んでいる。
﹁ハハハ。マルガさんとマルコさんは、公表する方向で良い様です
な。葵さんもそれでよろしいですかな?﹂
﹁はい、お願いします﹂
俺も二つ返事で応える。
有名になる事で、ギルドでの信頼や、商売上での信頼に繋がるのな
ら、顔を売っておいて損は無い。
マルガとマルコをとりあえず落ち着かせながら、苦笑いして言う俺
を観て、ニコニコしているアガペト。
﹁それと、今回の偉業に対する報奨なのですが、まず報奨金として、
金貨20枚。そして、葵さん、マルガさん、マルコさんの、冒険者
ランクを、2階級特進とさせて貰います。但し、特進につきまして
は、少し此方の試験をさせて頂きますので、此方の準備が整い、葵
さん達の都合が合えばと、言う事で。期限は付けませんので、安心
して下さい﹂
それを聞いたマルガとマルコは、顔を見合わせて喜んでいる。
﹁じゃ∼これで、全部話しは済んだわね。明日、朝食を食べて休憩
837
してから、モンランベール伯爵家の別邸の別邸に向かいましょうか。
帰るわよ皆﹂
俺達はアガペトと挨拶をして、冒険者ギルドを後にした。
翌日、朝食を取って、休憩も終わった俺達は、時間通りにモンラン
ベール伯爵家の別邸迄来ていた。
モンランベール伯爵家の別邸の門迄行くと、そこには、執事のアニ
バルが待っていた。
執事のアニバルと挨拶を交わし、豪華なモンランベール伯爵家の別
邸の中に入っていく。
そして、接見室の前で少し待ち、執事のアニバルの案内で接見室に
入って行くと、部屋の奥の豪華なソファーに、ランドゥルフが肘を
ついて座っていた。その左側には、ラウテッツァ紫彩騎士団、団長
のコルネリウスが立っていて、その右側には、アロイージオが申し
訳なさそうな顔をして立っている。
俺達がランドゥルフの前に行くと、きつい目をして俺を見ながら、
﹁⋮ずいぶん早くに、私の前に来るのだな。まだ期日は半分弱残っ
ていると言うのに。⋮それに今日は、前に見ていない者もおる様だ
が⋮﹂
そう言って、ルチアとマティアスを、値踏みする様に見ているラン
ドゥルフ。
﹁此方は僕の仲間で、ルチアとマティアスと言います。この港町パ
ージロレンツォで知りあって、一緒に訓練したり、ラフィアスの回
838
廊に探索に行ったり、休暇も一緒に過ごしたりと、仲良くさせて貰
ってます﹂
俺がそう紹介すると、一歩前に出て、綺麗にお辞儀をする、ルチア
とマティアス。
そして、ランドゥルフを見て、ニヤッと笑うルチアを見て、きつい
目をするランドゥルフ。
﹁ご機嫌麗しゅう御座いますわ、ランドゥルフ卿。私はルチアと申
します。此方は、私の共をしています、マティアスです﹂
﹁マティアスです。ルチア様の共をさせて頂いています﹂
俺やマルガ、マルコとは違う、何処か高貴な気品を、感じさせる2
人の立ち振る舞いに、ランドゥルフの眉がピクっと動く。そして、
ルチアとマティアスの顔を、食い入る様に見ている。
﹁⋮ルチア殿に、マティアス殿か⋮。気のせいかも知れぬが⋮何処
かでお見受けした様な⋮﹂
そう言いながら、まじまじとルチアとマティアスを見ているランド
ゥルフに、ルチアは小悪魔の様な微笑を浮かべる。その次の瞬間、
ランドゥルフの表情が一変する。肩肘をつきながら横たわっていた
ソファーから、ガバっと立ち上がるランドゥルフは、何かに気がつ
いた様であった。
﹁ま⋮ま⋮まさか!?あのルチア様と、マティアス殿なのですか!
?⋮ま⋮間違いない!ルチア様に、マティアス殿ではありませんか
!⋮何故その様な格好をして⋮一体何をされているのですかお二方
は!?﹂
ルチアとマティアスを見て、狼狽しているランドゥルフ。それを楽
しそうに眺めるルチアは、
﹁今の私達は、この行商人の葵の仲間で、一介の冒険者としてここ
839
に居るの。それ以上でも、それ以下でも無いと、思って貰えるかし
ら?﹂
小悪魔な笑みを浮かべるルチアを見て、ハア∼と深い溜め息を吐き、
ソファーに座り直すランドゥルフ。
﹁⋮どういった意図があるのか解り兼ねますが、ルチア様がそう言
われるのであれば、そう対応させて頂きましょう﹂
﹁助かるわ∼。ランドゥルフ卿﹂
俺とマルガとマルコは、訳が解らずに、困惑の表情を浮かべている。
一方、小悪魔の笑みを浮かべるルチアを見て、半ば呆れ顔のランド
ゥルフは、話を続ける。
﹁⋮横道にそれたが、葵殿が期日前に、私の元に来ると言う事は、
大魔導師アーロンの秘宝を見つけたか、金貨500枚を用意する事
が出来たかの、何方かと思って良いのかな?﹂
﹁はい、金貨500枚用意出来ました。なのでリーゼロッテの、引
渡しをお願いしようと思いまして、今日は伺わせて頂きました﹂
俺はアイテムバッグから、金貨500枚の入った袋を取り出し、テ
ーブルに置くと、執事のアニバルが金貨を数えて行く。暫く待つと、
数え終わった執事のアニバルが
﹁確かに金貨500枚で御座います﹂
そう言って、後ろに下がる執事のアニバル。ソレを聞いたランドゥ
ルフは、フンと鼻で言うと
﹁良く一行商人である葵殿が、30日位の間に、金貨500枚を稼
ぐ事が出来ましたな。何処からかの、資金の援助でも有りましたの
かな?﹂
そう言って、目を細めてルチアを見るランドゥルフ。その言葉に、
俺は少しカチンと来ときたが、リーゼロッテを手に入れさえすれば、
840
もう用は無いし会う事も無いだろうと思って、聞き流そうとしたら、
若干一名がその言葉に噛み付いた。
﹁ご主人様は、誰にもお金を借りていません!その金貨は、ラフィ
アスの回廊で、皆で力を合わせて、大魔導師アーロンの秘宝を見つ
けて、それを売って得たお金です!ご主人様は楽をして得たお金を、
此処に出して居るのではありません!﹂
マルガは必死にそう言うと、ウウウと少し唸って、金色の毛並みの
良い尻尾を逆立てている。
俺はマルガの気持ちが嬉しくて、優しく頭を撫でると、落ち着いて
きたのか、ハウウと可愛い声を出して、気まずそうにしている。そ
の思いもよらぬ者からの言葉に、呆気に取られているランドゥルフ
の顔を見て、可笑しそうに眺めていたルチアが
﹁そのキツネちゃんの言う通りよ。葵達はラフィアスの回廊で、大
魔導師アーロンの秘宝を見つけたのよ﹂
﹁で⋮ですが⋮そんな大発見なら、冒険者ギルドから、何か発表さ
れそうですが⋮﹂
﹁少し事情があってね。準備が整い次第、冒険者ギルドから、発見
者名と共に、発表されるわ。私とマティアスも同行していたので、
保証するわよ﹂
ルチアのその言葉を聞いランドゥルフは、戸惑っている。
﹁ま∼その大魔導師アーロンの秘宝は、私が買い取らせて貰ったけ
どね。ランドゥルフ卿には、金貨500枚でも良かったみたいだっ
たし﹂
ニヤッと微笑んでいるルチアに、軽く貯め息を吐くランドゥルフ。
﹁そうなのですか⋮解りました。ルチア様とマティアス殿が言うの
であれば確かな事でしょう。⋮しかし⋮まさか⋮本当に大魔導師ア
841
ーロンの秘宝を見つけるとは⋮。フフフ⋮﹂
少し笑いながら目を閉じたランドゥルフは、ゆっくりと瞼を上げる
と、
﹁アニバル!リーゼロッテを連れて来い!葵殿にリーゼロッテを引
き渡す!﹂
﹁かしこまりましたランドゥルフ様﹂
執事のアニバルは一礼をして、部屋から出ていく。暫く待っている
と、そこには、赤いドレスで着飾った、女神とみまごう金色の妖精
が居た。俺と視線が合うと、嬉しそうに瞳を潤ましている。俺も思
わず微笑んでしまう。リーゼロッテを見たルチアは、
﹁これが、噂の葵がご執心している、エルフの女の子なの?⋮ふう
ん⋮確かに美少女ね!﹂
少し気に食わなさそうに言うルチアを気にせず、ランドゥルフは話
を続ける。
﹁では葵殿、ネームプレートと、制約魔法契約の羊皮紙を出して頂
こう﹂
ランドゥルフの指示に従い、ネームプレートと制約魔法契約の羊皮
紙を提示する。すると、ネームプレートが光り、リーゼロッテの所
有権が俺に移る。それと同時に、契約の履行された、制約魔法契約
の羊皮紙が燃えて、消滅する。それを各々が確認する。
﹁これで取引は完了だ。葵殿ネームプレートを確認してくれ﹂
そら
ランドゥルフの言葉に頷き、俺はネームプレートを開く。
あおい
﹃名前﹄ 葵 空
﹃LV﹄ LV35
842
﹃種族﹄ ヴァンパイアハーフ
168㎝ 体重 59㎏
﹃年齢﹄ 16歳
﹃性別﹄ 男
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ タッスルマークスマン︵Tussle
man︶
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
Marks
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク ブロンズ、
所属チーム無し
リーゼロッテ、 遺言状態
マルガ、 遺言状態 所有
﹃その他2﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹃その他3﹄ 取得財産、 一級奴隷
者死亡時奴隷解放
﹃その他4﹄ 取得財産、 一級奴隷
所有者死亡時奴隷解放
﹁確かに。確認しました﹂
俺はきちんとリーゼロッテの所有権が、俺に移った事を確認する。
そして、瞳を潤ませて俺を見ているリーゼロッテの傍まで行く
843
﹁リーゼロッテ、今君の所有権は俺にある。⋮リーゼロッテにもマ
ルガ同様に、選ばせてあげる﹂
そう言って少し深呼吸する俺。そして、ゆっくりと話しだす。
﹁⋮君には2つの道を選ばせてあげよう。二つの道というのは、こ
のまま俺の奴隷として、永遠に俺に服従するか、奴隷から解放され
て自由に生きるかだ。自分の意思で俺に永遠の服従を誓うのか、自
由を選ぶのか。奴隷から解放されて自由を選ぶなら、多少のお金も
持たせてあげる﹂
俺の言葉を黙って聞いているリーゼロッテは、静かに目を閉じる。
﹁さあ⋮選んで⋮。永遠の服従か⋮自由か⋮﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテは、ゆっくりと瞳を開け、俺を見る
とクスクスと笑い出した。
俺が困惑している顔を見て、楽しそうな顔をしたリーゼロッテは
﹁⋮私には好きな人が居ます。その人は随分と変わっていて、商人
なんかしているのに、大切な物の為なら、全てを簡単に投げ出しち
ゃう様な、困った人なんです。そんな困った人には、私の様な者が
ついて居てあげないと、きっと駄目になってしまいます﹂
ゆっくりと俺の傍に来たリーゼロッテは、俺の頬に手を添える。
﹁しかも、恋人は奴隷にしたいと言う、困った趣味も持っているん
です﹂
ニコっと微笑みながら、顔を近づけるリーゼロッテ。
﹁そんな困った人は、私が傍に居ないと、駄目だと思いませんか?﹂
吐息を感じる距離まで迫るリーゼロッテ。
844
﹁俺も⋮好きな子が居てさ。その子は何時も強情で、助けて欲しい
くせに言い出せなくて、ホントは泣きたいのに、我慢して凛と微笑
んだりしている、困った女の子なんだ。そんな女の子には、俺みた
いな奴がついててあげないと、駄目だと思うんだ﹂
俺はギュッと、リーゼロッテの腰を引き寄せる。リーゼロッテの透
き通る様な金色の美しい瞳に、俺の姿が写っている。
﹁そんな困った女の子は、俺が傍にいて、素直にしてあげないと駄
目だと思うんだよね﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテがフフフと笑う。
﹁私を傍に置いて、奴隷にしたいのでしょう?素直に言えば、すぐ
になってあげますよ?﹂
﹁リーゼロッテこそ、俺の傍に居たいんでしょ?素直に言えば、す
ぐに俺の物にしてあげるよ?﹂
それを聞いて、クスクスと笑うリーゼロッテは、幸せそうな顔を俺
に向けると、
﹁⋮好きです⋮葵さん。私を貴方の奴隷にして下さい⋮﹂
﹁⋮俺も好きだよリーゼロッテ。俺の奴隷にしちゃうけどいい?﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテは、綺麗な金色の瞳を潤ませながら、
静かに頷く。
俺は愛しいリーゼロッテを胸に抱きしめる。リーゼロッテも、今迄
我慢していた分を、取り返すかの様に、強く抱き返してくる。リー
ゼロッテの甘い香りが、俺を優しく包み込む。
﹁⋮お帰り⋮リーゼロッテ。もう⋮離さないからね⋮﹂
﹁はい⋮もう⋮離さないで下さい。ただいまです⋮葵さん⋮﹂
リーゼロッテはそう言うと、俺の胸の中で、嗚咽混じりに泣いてい
る。リーゼロッテの頭を優しく撫でると、瞳から涙を流しながらも、
845
ニコっと極上の微笑みを見せてくれるリーゼロッテがい愛おしい。
﹁は∼暑い暑い。何かしら?此処は火山の中なのかしら?⋮全く⋮
少しは人目を気にしなさいよね!﹂
ルチアが俺とリーゼロッテを見ながら、盛大に溜め息を吐いて、呆
れている。
俺とリーゼロッテは、顔を赤らめて、気恥ずかしそうに、顔を見て
いた。
﹁葵はもう此処に用は無いでしょ?話も終わったなら、もうすぐ昼
食だし、先に何時ものレストランテに行ってて﹂
﹁ルチアは一緒に行かないの?﹂
﹁私は少し、ランドゥルフ卿と、話があるから、先に行ってて﹂
俺が頷くと、マルガとマルコが俺とリーゼロッテの傍まで小走りに
近寄ってきた。
﹁リーゼロッテさんおかえりなさいです!﹂
﹁はい、ただいまですマルガさん。マルガさんにも迷惑を掛けてし
まいましたね﹂
﹁いいのです!私もリーゼロッテさんには、2回も命を助けて貰っ
て居るんですから!⋮でも、ご主人様の一番は私です。リーゼロッ
テさんは2番ですからね!﹂
ちょっと複雑そうな表情で、アワアワしているマルガの頭を、優し
く撫でるリーゼロッテ。
﹁解ってますよマルガさん。私が2番で、マルガさんが1番。私は
それで満足ですよ﹂
クスっと笑いながらマルガに言うと、気恥ずかしそうにハウウと小
さく声を出すマルガ。そんなマルガをリーゼロッテはギュっと抱き
しめている。マルガもニコッと微笑み、同じ様に抱き返している。
846
﹁マルコさんにも迷惑かけましたね﹂
﹁ううん!オイラもイケンジリの村では、リーゼロッテ姉ちゃんの
世話になったしさ!それにリーゼロッテ姉ちゃんのお陰で、物凄い
冒険が出来たんだ。後で一杯聞かせて上げるね!﹂
﹁はい、楽しみにしてますねマルコさん﹂
ニコッと笑うマルコの頭を撫でているリーゼロッテ。俺もその光景
に心を和ませられる。
﹁さあさあ!貴方達は帰りなさい!そういう事は外でしなさい﹂
ルチアの言葉に俺達は苦笑いしていた。ランドゥルフも、溜め息を
吐いて、呆れ気味だ。
俺達は、ランドゥルフに向き直り、綺麗にお辞儀をし、挨拶をして、
謁見室から退出した。
﹁全く⋮仕方無い人達なんだから⋮﹂
葵たちの出て行った扉を眺めながら、嬉しそうにフフフと笑うルチ
ア。そんなルチアを見て、溜め息を吐くランドゥルフは、
﹁しかし、ルチア様。これは一体どういう事なのですが?ルチア様
が、関与しているのであれば、すぐにあの奴隷はお渡ししたんです
がね。当然対価は頂きますが﹂
﹁ま∼その件に関して、私が知ったのは、ランドゥルフ卿と葵が、
既に取引の契約を済ませた後だったのよ。それに、葵達は私とマテ
ィアスの素性は知らないの。何処かの貴族のご令嬢としか、思って
ないの。だから、秘宝を探しに、わざわざラフィアスの回廊に行っ
たって訳﹂
﹁なるほど⋮それで⋮行ったラフィアスの回廊で、本当に秘宝を見
つけなさったのですか。流石はマティアス殿と言った所ですかな?﹂
ランドゥルフはマティアスを見ながら言うと、フっと笑ってマティ
847
アスは
﹁⋮私などの力は、ほんの少しです。ランドゥルフ卿は、葵殿の力
を軽く見過ぎですな﹂
﹁そういう事ね!⋮それから葵達は、私がもう既に唾をつけてるか
ら、手を出さないでね?無いとは思うけど、儲け損なった分を取り
返すとか、Sランクのマジックアイテムを狙うとか⋮そう言う人が、
居無いとも限らないから﹂
ルチアがニヤッと微笑みながら、ランドゥルフ卿を見る。その瞳は
冷たく笑っては居なかった。それを見たランドゥルフは、フフっと
笑い
﹁⋮ルチア様にそこまで言わせるのですかあの行商人は⋮⋮まあ、
結果的に私も、金貨200枚以上安く、リーゼロッテを買われてし
まった訳ですがね﹂
フンと、鼻で言うと、少し気に食わなさそうな顔をするランドゥル
フ。
﹁私もフィンラルディア王国の六貴族の誇りを持っています。ルチ
ア様が言われる様な事は、無いと誓いましょう﹂
﹁あらそう⋮なら安心ね。じゃ∼ランドゥルフ卿もお忙しいでしょ
うから、私達も帰らせて貰うわ。お邪魔したわねランドゥルフ卿﹂
﹁いえ⋮お気になさらずに。お気をつけてお帰りになられて下さい。
ルチア様、マティアス殿﹂
互いに挨拶を交わし、部屋から出ていくルチアとマティアス。落ち
着きを取り戻し、何時もの日常に戻っている謁見室。ランドゥルフ
は、まだ右で固まっている、アロイージオに視線を向ける。
﹁⋮一行商人であり、平民の葵殿が、どの様な経緯であのルチア様
を懐柔したかは解らぬが⋮アロイージオよ。お前の言う通り、あの
848
行商人を、全滅したラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長に任
命して、手元に置けば良かったかも知れぬな⋮。ま⋮過ぎた事だが
な﹂
フっと笑うランドゥルフに、気まずそうに笑う事しか、出来無いで
居るアロイージオだった。
モンランベール伯爵家の別邸から帰って来た俺達は、俺達の合流し
たルチアとマティアスらと一緒に、何時ものレストランテで昼食を
食べていた。
﹁⋮おかしいわ!世の中にこんな事があって、良い筈が無い!﹂
ルチアは俺を見ながら、少し声高に言う。ルチアのその瞳には、俺
の右側に超美少女のマルガが腕に抱きつき、左側には超美少女のリ
ーゼロッテが腕に抱きついている、そんな光景が映し出されていた。
﹁⋮マティアス。私達は今、世にも珍しい世界の神秘と言う奴を、
見ているのかもしれないわよ?﹂
﹁⋮こんな身近な所で、世界の神秘が見れて良かったねルチア。見
学料貰っても良い?﹂
マティアスに真顔で言うルチアに、少しの権利を主張してみた俺。
﹁ほんと⋮こんなパッしない奴の何処が良いのかしら。キツネちゃ
んやエルフちゃん位の超美少女なら、もっと良い男が、居てそうな
物なのにねえ∼﹂
そう言って呆れながら紅茶を飲むルチアに、ムムムとなって、何か
を言おうとしたマルガの口に、優しく人差し指を置くルチア。
849
﹁解ってるってキツネちゃん。﹃ご主人様の悪口はやめて下さい!
ご主人様は魅力的です!﹄でしょ?もう、何千回と聞いたわよ﹂
ルチアが呆れながら言うと、コクコクと頷くマルガ。モグモグ。昼
食は美味しい様である。
もう何千回って回数になっちゃったんだね∼。俺の強化ガラスのハ
ートも、防弾ガラスまでLVUPする筈だね!⋮って、いい加減諦
めて下さいルチアさん!マルガちゃんは頑張ってね!
そのやり取りを見ていたリーゼロッテは、楽しそうにフフフと笑う
と。
﹁私もマルガさんと、同じ意見ですね。葵さんは私達に取っては⋮
何よりも⋮誰よりも魅力的ですから﹂
リーゼロッテはそう言うと、頭を俺の肩にコテっと、もたれかけさ
せる。
ブホ!⋮やばい!⋮リーゼロッテが可愛すぎる!か⋮顔が熱い⋮
そんな俺を見たルチアは、盛大な溜め息を吐いて
﹁葵⋮なに鼻の下を伸ばしてるのよ⋮。まるで、港町パージロレン
ツォの市壁みたいになってるわよ﹂
﹁そんな、何十㎞の長さに伸びているなら、ルチアを囲んで、通過
税でも取ろうかな﹂
﹁そんな変態の壁に囲まれる位なら、裸になって野山で寝てる方が
安全な気がするわ⋮﹂
考えただけで、寒気がしますって言う顔をしているルチア。
俺を一体、どんな度合いの変態だと思っているんだ!そんなLVの
低い変態じゃないぜ!⋮ゲフンゲフン⋮
﹁所で葵、貴方此れからどうするつもりなの?﹂
﹁うん?どうするとは?﹂
850
﹁だって貴方、そのエルフちゃんを手に入れちゃったでしょ。だか
ら今後どう行動するのかなって思ってさ﹂
ルチアは紅茶を飲みながら言う。
確かにそうだ。当初の目的は、マルガを戦闘職業に就けて、ある程
度LVを上げるのだけが目的だったけど、マルガもLV25、マル
コも既にLV29だ。俺もLV35に上がっていいる。リーゼロッ
テ奪還の為に、ラフィアスの回廊に篭りまくったのが功をなして、
予定よりかなり早く目標を達している。
﹁そうだな∼。俺はもうラフィアスの回廊じゃLVUPは見込めな
い。当面は、リーゼロッテを戦闘職業に就かせて、LVを上げると
して、港町パージロレンツォにはまだ、30日位は滞在するかな?﹂
﹁なるほど⋮後30日ね⋮。その後はどうする予定なの?﹂
俺がルチアの言葉に考えていると、リーゼロッテがニコっと笑いな
がら
﹁もう人も4人になって、荷馬車も2台あります。私やマルガさん
の人頭税も掛りますし、出費も多くなるでしょう。今回は特別儲か
った様ですが、こんな事はそうそう在りません。普通の行商や、L
Vの低いダンジョンを探索するだけでは、もう実入りが少なくなっ
てしまでしょう。此処はそう言った意味を踏まえて、もう一段階、
前に進む事を提案します﹂
それを聞いたルチアがニヤッと笑う。
﹁さすがは⋮上級亜種のエルフちゃんね、賢しいわ。貴女が居れば、
馬鹿の葵もランドゥルフ卿とした様な取引も、しなくて済みそうね﹂
﹁はい。あの様な取引は、今後私が二度とさせません﹂
ルチアの言葉にニコっと微笑むリーゼロッテは、苦笑いしている俺
の腕をギュっと抱いている。
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﹁ま∼リーゼロッテの言う事は尤もだね。今回儲けれたのは、本当
に運が良かったからだしね⋮。って事は⋮そろそろ、何処かの町で
住居登録をして、何処かの商組合に入る時期なのかな⋮﹂
﹁私もそうした方が良いと思います葵さん。税金は多くなりますが、
その分出来る事が多くなるので、可能性は広がりますね﹂
リーゼロッテの言葉に俺も頷く。マルガやマルコもウンウンと言っ
た感じだ。それを聞いていたルチアが、
﹁じゃ∼この辺で、貴方に貸した借りを、利子を付けて返して貰お
うかしら﹂
ルチアは、小悪魔の様な微笑で、俺を見る。その微笑みに寒気が走
る。
背中に⋮変な汗が出ちゃってるよ!此れが噂に聞く、蛇にアソコを
舐められた蛙!⋮もとい睨まれた蛙!
ルチアは俺のキョドっている顔を見て、至極愉しそうだ。
﹁王都ラーゼンシュルトで、住民登録して、商組合に入って、私の
専任商人になって貰うからよろしく!﹂
﹁へえ!?俺が、ルチアの専任商人!?﹂
また変な声を出してしまった⋮恥ずかしい。
貴族には、自分の配下に近い商人達が居る。それが専属商人であっ
たり、専任商人だ。
専属商人は、その貴族のみに仕え、その貴族が指示する物のみを取
引する商人だ。
専任商人は、その貴族のみに仕えるのは一緒だが、その貴族が指示
する物以外に、自分で他の物を取引しても良いと言った商人。
専属商人は、当主クラスの貴族に仕える者に多く、専任商人は、当
主以外の貴族に仕える者が多い。
しかし、何方も貴族に認められ、貴族の力になるべく選ばれている
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ので、世界の情報、知識、知恵を豊富に持ち、貴族にも意見出来る
様な、極一部の歴戦の商人がなれる、商人達の一種の憧れでもある。
﹁で⋮でも⋮ルチアは、俺なんかでいいの!?俺は自分で言うのも
なんだけど、まだまだ勉強中だし⋮﹂
俺がアタフタしながら、困惑していると、少し背線を下にさげるル
チアは、
﹁そんなの解ってるわよ!そんな事は⋮別に良いのよ!勉強して覚
えたら良いだけじゃない!⋮⋮私ね⋮明日、王都ラーゼンシュルト
に帰る予定なの⋮﹂
﹁え!?本当に!?そんな急に!?﹂
俺だけじゃなく、他の皆も顔を見合わせて驚いて、戸惑っていた。
そんな俺達を見て、フっと笑うルチア。
﹁うん。例の秘宝を届けないといけないのも理由なんだけど、もと
もと、此処に来たのも修行の為って言う名目だったのよね。目的は
十分達成してるから、一度家にも帰らないと駄目なのよ﹂
淋しげに言うルチア。その表情を見た俺は、ルチアが何を言いたい
のかを、すぐに理解した。
しかし、そんな俺の心を読むルチアは、フンと、鼻で言うと、
﹁此れはあくまでも、貴方に貸した借りを返して貰う為なんだから
ね!調子に乗らないでよね!﹂
そう言って横を向くルチアの頬は、プクっと可愛らしく膨れている。
ありゃ⋮お拗ねになられたんですね。解ります。
そんな少し拗ね気味のルチアを見て、他の皆はクスクスと声を殺し
て笑っている。
その声を聞いて、少し顔の赤いルチア。ほんと⋮素直じゃ無いんだ
から⋮
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﹁⋮当然⋮拒否権や異論は認めてくれないんでしょ?﹂
俺のその言葉を聞いたルチアは、パアアと表情を明るくする。
﹁当たり前じゃない!貴方の人権は、私の掌の中にしか無いんだか
ら!当然ね!﹂
腰に手を当てて、ドヤ顔で嬉しそうに笑うルチア。
そうですか⋮まるで、何処かの大仏の、掌で踊らされている、石猿
みたいなんですね。⋮ムッキー!
そんな事言ってると、何時か俺の如意棒が火を噴くぜ!?⋮ルチア
なら折りそうで怖いけど⋮ウウウ⋮
そんな感じで、股間を抑えている俺を、汚いものを見る目で見てい
るルチア。他の皆が、アハハと楽しそうに笑っている。
﹁⋮と、言う事になりますと、王都ラーゼンシュルトで、家を買う
か、借りるかしないといけませんね⋮﹂
リーゼロッテは軽く顎に手を当てて、考えている。ルチアはリーゼ
ロッテが何を考えているのかが解っている様で
﹁エルフちゃん心配しなくても大丈夫よ!貴方達の住む家は私が用
意して上げるわ。私に心当たりがあるから。そこは大きな建物で、
馬小屋や馬車置き場もあるからね。しかも、そこなら家賃は無料よ
!そして⋮大きな湯浴み場迄付いているんだからね!﹂
腰に手を当てて、ドヤ顔で笑っているルチア。その話を聞いて、若
干2名が耳をピクピクさせていたのを、俺は見逃さなかった。
﹁⋮大きな湯浴み場って⋮何処かの貴族みたいだね!泳げたりする
のかな∼!気持ち良さそうだな∼!﹂
﹁⋮大きな湯浴み場でご主人様と⋮あんな事やこんな事⋮ウフフフ
フ⋮﹂
854
マルガとマルコは、口をニヘラと開けて、惚けている。
もう入ってるね!⋮もう泳いじゃってるね!⋮一足先に入っちゃっ
てるね!気持ち良さそうな顔だね2人共!
⋮因みに、マルガちゃん。それは俺が思う事だからね?嬉しいけど
さ!
そんな2人と微笑ましく、フフフと笑いながら見ていたリーゼロッ
テは、ルチアの方を向き、
﹁しかし⋮何か⋮怪しい香りが若干するのは、気のせいでしょうか
?﹂
﹁⋮きっと、気のせいよ⋮エルフちゃん﹂
少し目を細めているリーゼロッテに、小悪魔の様な微笑みを返すル
チア。お互い、フフフと含み笑いを浮かべている。
﹁家の方の問題は無いけど、食費や税金は面倒見れないから、そこ
は頑張りなさいよね!﹂
﹁解ってるよ。しっかり稼ぎますよ!﹂
俺の苦笑いに、一同が笑っている。
﹁とりあえず、そこの家は抑えて有るんだけど、手直しやら、他の
準備もあるから、60日位空けてくれたら助かるわ﹂
﹁⋮となると、此処で30日リーゼロッテのLVを上げるとして⋮
港町パージロレンツォから、王都ラーゼンシュルト迄は、荷馬車で
30日だからちょうど良いね﹂
そう言って俺が頷いていると、何かが引っ掛った。
﹁⋮家は抑えてあるって⋮俺の返事を聞く前に、抑えちゃってたの
ルチア!?﹂
﹁はあ!?そんなの当たり前でしょ!?先の事を読んで、常に先手
を取って行くのが、物事の基本でしょ!?⋮貴方⋮そんな事も解ら
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ない何て⋮﹂
顔に手を当てて、はあ∼と大きく貯め息を吐き、呆れているルチア。
本当ゴメンネ!馬鹿でゴメンよ!どうせ俺は、見た目だけじゃなく
て、頭もパッとしませんよ!
俺がそんな感じで項垂れていると、優しく頭を撫でてくれる、マル
ガとリーゼロッテ。
﹁大丈夫ですよご主人様!誰でも得手不得手は有るって、教えてく
れたのはご主人様じゃないですか﹂
﹁そうですよ。そんな葵さんの足りない部分は、私が埋めますから、
安心して下さいね﹂
ニコっと微笑みながらマルガとリーゼロッテが癒してくれる。
ああ∼!マルガにリーゼロッテ!ありがとう!癒されちゃったよ僕
ちゃん!⋮⋮⋮⋮⋮って。
⋮あれ?⋮良く考えたら、馬鹿なのは否定してくれていない様な気
が⋮まあいっか!アハハ!⋮泣きたい⋮
﹁さ∼話も決まったし、明日はちゃんと遅れずに見送りに来なさい
よ!﹂
ルチアは、俺に釘を刺す様に言うと、他の皆と楽しげに話していた。
ま∼この時は、王都ラーゼンシュルトで、あんな事になってるとは、
夢にも思わなかったんだけどね。
宿屋に帰って来た俺達は、それぞれの部屋に戻り、ゆっくりとくつ
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ろいでいる。
宿屋の主人に無理を言って、リーゼロッテの分の追加料金を支払い、
ベッドも1つ追加して貰った。
当然、そのベッドも、俺とマルガのベッドにピタっとくっつけられ、
3人で一緒に寝れる様になっている。6帖のこの部屋に3つのベッ
ドはかなりスペースを取るが、リーゼロッテとマルガと一緒に寝れ
るのであれば、そんな事は気にもならない。
リーゼロッテとマルガはベッドに腰を掛けながら、紅茶を飲んで楽
しそうに話をしている。
ふと羊皮紙の張られた窓の外に視線を移せば、この世界独特の土星
の様にリングの付いた、青い月の優しい光が射し込んでいる。
そんな優しい月の光と、揺らめく蝋燭の灯りが交じり合う部屋で、
綺麗な透き通る様なライトグリーンの瞳と、綺麗な金色の瞳と視線
が合った。
その美しく吸い込まれそうな瞳は、俺を見つけて嬉しそうな色をし
て微笑む。
﹁葵さんどうしたのですか?私の顔に何かついてますか?﹂
﹁ムウウ⋮ご主人様!私も見て下さい!﹂
リーゼロッテは楽しそうに俺に言い、マルガは少し拗ねマルガに変
身している。
﹁いや⋮リーゼロッテが傍にいて、マルガも傍にいると思ったら⋮
何だか嬉しくなっちゃってさ﹂
どんな顔をして言ったのかは解らない。心の底からそう思った事を
口にした。
それな俺を見たリーゼロッテとマルガは、俺にギュっと抱きついて
きた。
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﹁そんな求められる様な瞳をされたら⋮襲っちゃいますよ?葵さん
⋮﹂
﹁そうです!リーゼロッテさんの言う通りです。その瞳は反則なの
です∼﹂
マルガとリーゼロッテは、とても嬉しそうな顔をして微笑むと、頭
を俺の胸に埋めている。
マルガとリーゼロッテの甘い匂いが俺を包み込む。2人の超美少女
の柔肌がとても心地良い。
俺もマルガとリーゼロッテを抱きしめると、2人共幸せそうな顔で
俺に微笑んでくれるのが愛おしい。
﹁⋮ご主人様。そろそろ体を拭く用意をしましょうか?﹂
マルガは顔を赤らめて、モジモジしながら上目遣いで聞いてきた。
体を拭く⋮つまりエッチな事をしましょうと言う、マルガの可愛い
おねだりなのです。
当然、こんな可愛いおねだりに勝てる訳は無いし、むしろ嬉しい位
なのでマルガにお願いすると、ハイ!と、嬉しそうに返事をして、
金色の毛並みの良い尻尾をフワフワ揺らしながら、用意に取り掛か
る。
そんな俺とマルガを見ていた勘の良いリーゼロッテは、この後の事
を思っているのか、若干顔を赤らめている。
﹁どうしたの?リーゼロッテ。⋮顔が赤いみたいだけど?﹂
﹁⋮葵さんって、意外と意地悪なのですね﹂
俺がニヤっと微笑んで言うと、顔を赤らめながらも、嬉しそうに微
笑むリーゼロッテ。
そんな俺とリーゼロッテの後ろで、石鹸水の入った桶と布の用意の
終わったマルガが、スルスルと服の擦れる音をさせて着替え始める。
俺とリーゼロッテの見え無い所で着替えているマルガが、今日はど
の様な寝衣で楽しませてくれるのか、俺は心待ちにしていると、マ
858
ルガから声が掛る。
﹁ご主人様⋮用意が出来ました⋮﹂
恥ずかしそうなその声に俺とリーゼロッテが振り向く。そのマルガ
の可愛さに俺は歓喜していた。
淡いピンク色のシースルーのビスチェを纏い、それとお揃いの淡い
ピンク色のシースルーのオープンショーツ。真っ白なフリルで可愛
く飾られていて、幼女体型のマルガに良く似合っていて、俺の性欲
が掻き立てられる。華奢で綺麗な足には、太ももの中頃までの白い
タイツをガータベルトで繋ぎ、首の俺の奴隷の証である、赤い豪華
な革のチョーカーと形見のルビーの宝石が、強いアクセントとなっ
て、光り輝いている。
﹁今日も可愛いよマルガ⋮。とても良く似合ってるよ﹂
﹁ありがとうございますご主人様⋮﹂
俺の感想を聞いたマルガは、顔を赤らめながら近づいて来て、俺に
キュット抱きつく。
俺もマルガを優しく包み込む様に抱くと、艶めかしい微笑みを湛え
て嬉しそうにしていた。
﹁ほんと⋮マルガさん可愛いですわ⋮﹂
マルガのエッチな寝衣を見て、少し羨ましそうに言うリーゼロッテ
を引き寄せる。
﹁⋮リーゼロッテにも明日一杯買ってあげる。⋮リーゼロッテが着
たら、マルガみたいに可愛く着こなせると思うよ。楽しみにしてて
ね﹂
俺はリーゼロッテの耳元でそう囁くと、リーゼロッテのエルフの特
徴である、長く伸びた耳を甘噛みする。ピクっと軽く身を悶えさせ
るリーゼロッテは、嬉しそうに俺に微笑んでいた。
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そんなリーゼロッテを見て、今日俺の一番欲しかった初めて⋮リー
ゼロッテの処女を奪える事に、喜びを噛み締めながら、マルガを引
き寄せ、俺のしたい事を耳打ちすると、ニヤっとマルガらしからぬ
悪戯っぽい微笑みを浮かべている。
﹁ご主人様、それは楽しみです∼﹂
リーゼロッテは自分を見て、ニヤニヤ笑っている俺とマルガに、少
し苦笑いしながら
﹁葵さんにマルガさん⋮一体何を企んでいるんですか?﹂
﹁﹁秘密ですね!﹂﹂
声を揃えてニヤニヤしながら言う俺とマルガに、更に苦笑いしてい
るリーゼロッテ。
俺はアイテムバッグから、ソレを取り出すと、マルガに使い方を説
明する。
元々使いやすいソレに加えて、マルガも物覚えが俺なんかより良い
ので、すぐに使い方を覚えてくれた。
﹁どうマルガ。綺麗に録れてる?﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
﹁じゃ∼よろしくねマルガ﹂
俺の言葉に、ハイ!っと元気良く返事をして、ソレを構えている。
俺はリーゼロッテを優しく引き寄せ、此方を向けさせる。
﹁リーゼロッテ⋮。今日⋮リーゼロッテの残されて、奪えなかった
処女を、奪っちゃうけど良い?﹂
﹁はい⋮私の処女を⋮貰って⋮奪ってください⋮葵さん⋮﹂
俺が優しくキスをしながら言うと、金色の美しい透き通る瞳を潤ま
せながら、嬉しそうに頷くリーゼロッテ。その微笑みがとても愛お
しい。
860
俺はリーゼロッテの服を脱がせていく。リーゼロッテも俺の服を脱
がしてくれる。お互い脱がせ合って、一糸纏わぬリーゼロッテの美
し体を見て、性欲が高まる。
この女神の様なリーゼロッテを犯せる⋮前に奪えなかった⋮処女を
奪える⋮全てを⋮手に入れれる⋮
そんな喜びに浸っていた俺を見て、嬉しそうなリーゼロッテが俺に
キスをして、舌を忍び込ませてきた。リーゼロッテの柔らかく甘い
舌が、俺の口の中を堪能して、舌を絡めている。
俺もリーゼロッテの舌を味わい堪能しながら、リーゼロッテの豊満
な胸に手を掛け、鷲掴みにする。
﹁前に教えた様に、俺に奉仕するんだリーゼロッテ。⋮まずは胸で、
俺のモノにね﹂
﹁はい⋮葵さん⋮﹂
金色の美しい透き通る瞳を、艶めかしい色に染めているリーゼロッ
テは、ベッドの上で立っている俺の前で膝を折り、その美しく豊満
な胸で、俺のモノを挟み込み、先っちょを口と舌で舐めて愛撫して
いる。リーゼロッテの胸と口の感触は素晴らしく、俺はリーゼロッ
テの頭を優しく撫でてあげると、嬉しそうな微笑みを浮かべるリー
ゼロッテ。
﹁⋮リーゼロッテさん綺麗です⋮。ご主人様の立派なモノを胸と口
で⋮奉仕する姿⋮﹂
ソレ⋮つまりデジカメを使って、リーゼロッテの﹃初めてを奪う﹄
所を、録画しているマルガの綺麗な透き通る様なライトグリーンの
瞳は、艶かしく光っている。
﹁そうでしょマルガ。でも綺麗なだけじゃないんだよリーゼロッテ
は。ほら⋮こうすると⋮﹂
861
﹁うんっはあんんん!!﹂
俺はパイズリをしてくれているリーゼロッテの両方の乳首を、両手
でキュっと摘んでコリコリと力を入れている。快感に身を捩れさせ
るリーゼロッテ。
﹁リーゼロッテ休んじゃダメだよ?俺に乳首を掴まれながら⋮きち
んと胸で奉仕しないと⋮﹂
﹁⋮葵さんの⋮意地悪⋮﹂
リーゼロッテは少し拗ねながらも、俺に言われた通り、乳首を摘ま
れながら、胸で俺のモノを奉仕する。胸上下に動かすたびに、俺に
掴まれている乳首が引っ張られて、快感が体を走る。
その快楽に身悶えながら、必死に胸と口で俺に奉仕するリーゼロッ
テにゾクゾクと性欲が高まる。
俺は、リーゼロッテの頭を掴み、強引に腰を振る。リーゼロッテの
豊満な胸と口で奉仕されている俺のモノは、急激に快感が高まり、
我慢出来無くなって絶頂を向かえ、リーゼロッテの美しい顔と胸に、
精子をぶちまけてしまう。余りの気持ち良さに、口元がほころぶ俺。
﹁リーゼロッテさん⋮ご主人様の精を一杯かけて貰って⋮いいなあ
∼﹂
リーゼロッテをデジカメで撮影しながら羨ましそうに言うマルガ。
﹁マルガも後で一杯可愛がってあげるから⋮今はリーゼロッテの可
愛い所を⋮一杯録画してあげてね﹂
﹁はい⋮リーゼロッテさんの⋮イヤラシイ所を、一杯録画しちゃい
ます∼﹂
嬉しそうに、艶めかしい瞳をリーゼロッテに向け、デジカメで録画
していマルガ。
俺は、リーゼロッテの顔や胸に飛び散っている精を指で拭うと、綺
麗に全て、リーゼロッテの口の中に入れていく。リーゼロッテの開
862
かれている口の中には、波々と精が湛えられている。
﹁リーゼロッテ。前に教えた通りに、よく味わってから飲むんだよ
?﹂
俺の言葉にコクっと頷くリーゼロッテは、俺の精子を口の中でクチ
ュクチュと音をさせて味わうと、コクコクと喉を鳴らして、飲み込
んでいく。そして、全て飲み終わったリーゼロッテは、飲みました
と解る様に、俺に口を開けて確認させる。
﹁リーゼロッテさん⋮ご主人様の精子⋮美味しそう⋮。とてもイヤ
ラシイ顔になってますよ⋮リーゼロッテさん⋮﹂
﹁マルガさん⋮ソノ道具⋮ひょっとして⋮﹂
﹁そうだよ。この道具は、映像を記憶出来る道具なんだ。今日リー
ゼロッテの初めてを奪う所全部、残してあげるからね⋮﹂
俺の言葉を聞いたリーゼロッテは、今も撮られている事に恥ずかし
さを覚えているのか、顔どころか、エルフの特徴である長く尖った
綺麗な耳迄、真っ赤にしている。
﹁フフフ⋮リーゼロッテさん⋮真っ赤っ赤なのです∼可愛いのです
∼﹂
マルガが悪戯っぽく言うのを、更に恥ずかしそうにしているリーゼ
ロッテ。
﹁大丈夫だよリーゼロッテ。もっと恥ずかしい事をしてあげるから
⋮﹂
俺はリーゼロッテをぐいっと引き寄せると、ワンワンスタイルでお
尻を俺に向けさせる。
リーゼロッテの秘所は既にヌレヌレなっており、洪水の様に流れ出
ている、煌く愛液が、両太ももに滴っている。
俺にお尻を向けて、四つん這いになっているリーゼロッテのお尻に、
863
俺は顔を持っていく。
﹁あ!あっんんはあんんっっん⋮﹂
リーゼロッテが艶かしくお尻を振り、身を悶えさせ、気持ち良さそ
うに甘い吐息をあげる。
俺はリーゼロッテの秘所に顔をつけ、タップリと愛撫してあげてい
る。
﹁リーゼロッテの処女膜⋮美味しいよ⋮﹂
﹁⋮嬉しい⋮うはっあはんんんっん⋮﹂
リーゼロッテは更に身悶えて、甘い吐息をあげる。俺はリーゼロッ
テの処女膜を堪能し、可愛くヒクヒクしているアナルも舌で舐めて
あげ、クリトリスを指でキュっと摘んで上げると、マルガに恥ずか
しい所を録画されている興奮もあってか、小刻みに体を震わすリー
ゼロッテ。
﹁葵さん⋮私⋮もう⋮我慢⋮出来ません⋮﹂
﹁⋮いいよ。一杯イカせてあげる!﹂
俺は再度リーゼロッテの膣に舌を忍ばせ、処女膜を味わいながら、
左手でアナルニ指を入れて動かしてあげ、右手で可愛く膨らんでい
るクリトリスを、キュウウっと虐めてあげると、泉のように愛液を
溢れさすリーゼロッテの体は、ビクっと強張り
﹁葵さん!イキます!イカせて貰いますね!葵さん!!⋮うはああ
あんんんっっんんんん!!!﹂
リーゼロッテは大きく体を弾けさせて、ベッドにクタっと伏せてし
まう。
体を揺らして息をして、真っ白い肌を紅潮させて、金色の透き通る
様な美しい瞳をトロンとさせていた。
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﹁⋮リーゼロッテの絶頂の全部を録画しちゃいました∼。リーゼロ
ッテさん⋮気持ち良さそう⋮とても綺麗で⋮可愛かったですよ﹂
マルガがデジカメで録画しながら言うと、顔を真赤にして微笑んで
いるリーゼロッテ。
俺はリーゼロッテを仰向けにして、上に覆いかぶさる。そして、我
慢出来無い位に大きくなっているモノを、リーゼロッテの膣口に持
って行き、滴って居る愛液をモノに塗りつける。
俺のモノは、リーゼロッテの愛液によって、艶かしく光っている。
﹁リーゼロッテ⋮リーゼロッテの処女を奪うからね。マルガ同様、
優しくはしない⋮全力で犯すからね⋮一生に一度の⋮リーゼロッテ
の処女の喪失している時の顔を、存分に見たいから⋮さあ⋮おねだ
りしてごらん⋮﹂
その俺の言葉に、金色の透き通る様な美しい瞳を歓喜に染めたリー
ゼロッテは、両足を開いて、両手で自身の秘所を広げる。
﹁葵さん⋮私の処女を捧げます⋮私の処女を⋮奪ってください⋮﹂
﹁うん⋮リーゼロッテの処女を⋮貰う⋮奪うからね⋮﹂
俺はリーゼロッテの足の間に腰を入れていく。リーゼロッテの秘所
の入り口に俺のモノを持って行くと、リーゼロッテは体を一瞬強張
らせる。
俺はリーゼロッテの愛液で光っているモノを、リーゼロッテの誰も
入った事の無い膣に、捩じ込んでいく。リーゼロッテは、キュッと
足の指を強張らせている。ミチミチと音を立てているリーゼロッテ
の秘所に、グイグイとモノを入れていく。そして、亀頭が入った所
で一気に奥まで貫く。
﹁イッッ⋮はんん⋮んっああうん⋮﹂
リーゼロッテは少し甲高い声を上げて、身を強張らせる。
俺のモノはリーゼロッテの処女膜を突き破って、リーゼロッテの大
865
切な秘所の一番奥に到達している。リーゼロッテの膣の中は、初め
ての男を向かえ入れた喜びを表す様に、ピクピクと俺のモノを刺激
する。その快感に俺は歓喜する。
﹁リーゼロッテの処女を奪ったよ⋮俺のモノで、女になっちゃった
ね⋮リーゼロッテ﹂
﹁はい⋮葵さんに⋮処女を奪って貰えて⋮女にして貰えて⋮とても
⋮嬉しいですわ⋮﹂
そう言って、俺の首に両手を回し、キスをしてくるリーゼロッテ。
リーゼロッテの甘く柔らかい舌が、俺の口の中を味わっている。俺
も舌を絡め味わうと、嬉しそうな表情のリーゼロッテーが愛おしい。
﹁リーゼロッテ⋮此れから全力で動くから⋮その初めての表情をも
っと俺に見せて⋮﹂
﹁はい⋮存分に見て、私を味わって⋮感じてください⋮葵さん⋮﹂
リーゼロッテはそう言うと、全てを任せる様に、ギュっと抱きつい
てきた。
俺もリーゼロッテを抱きしめながら、腰を動かし始める。
﹁あ!!⋮うっっはんんあんん﹂
リーゼロッテが涙を流しながら、声を上げる。そのリーの表情に、
ゾクゾクとした俺は、容赦なく腰を振り続ける。辺りにはパンパン
と、乾いた心地良い音が鳴っていた。
﹁リーゼロッテの秘所⋮ご主人様のモノを美味しそうに咥えちゃっ
てます⋮。ご主人様のモノに⋮破瓜の血と⋮愛液をこんなにつけて
⋮リーゼロッテさん⋮羨ましいです⋮﹂
マルガはデジカメで録画しながら言うと、リーゼロッテは恥ずかし
そうにしながら、キュっと膣を締め付け、俺のモノを刺激する。俺
はリーゼロッテの口に吸い付き、上の口と舌の口を同時に激しく犯
866
していると、俺の体に快感が集まってきて、我慢出来無くなってき
た。
﹁リーゼロッテ出すよ!リーゼロッテのまだ誰も出した事の無い子
宮の奥に精を!いっぱい注ぐからね!﹂
﹁はい!私の子宮に、葵さんの精子で⋮焼印を押してください!葵
さんの物で有るという証明に!﹂
リーゼロッテはそう叫ぶと、俺に抱きつき、キスをせがむ。
俺はリーゼロッテの口に吸い付き、舌をねじ込ませる。リーゼロッ
テを味わいながら、激しく腰を振ると、リーゼロッテの膣は、全て
を受け入れる様に、キュンキュンと俺のモノを締め付ける。
俺は我慢出来無くなって、強引にねじ込んだ子宮に、ありったけの
精子を注ぎ込む。激しい快楽が俺を突き抜ける。リーゼロッテの上
の口に沢山の唾を飲ませてあげながら、下の口の子宮に精子を染付
ける様に飲ませてあげると、リーゼロッテは透き通る様な金色の美
しい瞳を、艶かしく歓喜の色に染めて、涙を流していた。
﹁リーゼロッテ⋮一杯出してあげたよ⋮リーゼロッテの子宮に⋮俺
の印を⋮染み込ませたからね⋮﹂
﹁はい⋮葵さんの熱い精が⋮焼印の様に、私の子宮に染み入ってま
す⋮葵さんの物になれて嬉しい⋮﹂
涙を流しているリーゼロッテに優しくキスをする。
そして、リーゼロッテの可愛い膣から俺のモノを引き抜くと、ヌロ
ロロと精と愛液が糸を引いて、とてもイヤラシク見える。
﹁リーゼロッテさんの秘所から⋮ご主人様の精が溢れています⋮﹂
﹁マルガ⋮。リーゼロッテの初めてを、きちんと録画出来た?﹂
﹁はい。上手く撮れました。⋮でも、上手く撮れすぎて、私も⋮ご
主人様∼﹂
デジカメを持ちながら、艶かしく切ない声をあげるマルガ。
867
そのマルガの秘所は既にヌレヌレで、リーゼロッテ同様、太ももま
で滴らせて、モジモジしている。
俺はリーゼロッテを横に寝かせ、マルガをぐいっと引き寄せる。
﹁頑張ったマルガにご褒美を上げないとね﹂
俺は用の無くなったデジカメを、返して貰ってテーブルに置くと、
マルガを抱き寄せる。
俺とリーゼロッテの行為を見て、欲情していたのか、マルガのクリ
トリスや乳首は、既にコリコリになっていた。
﹁マルガ⋮可愛いよ。じゃ∼まずは、俺のモノを、ソノ可愛い口で
綺麗にして﹂
﹁⋮はい、ご主人様﹂
マルガは嬉しそうに言うと、リーゼロッテの愛液と、破瓜の血と、
俺の精液がついたモノを口に咥え、舌と口で舐めとっていく。
﹁⋮ご主人様の立派なモノから⋮リーゼロッテさんお愛液と⋮破瓜
の血の味がします⋮﹂
﹁リーゼロッテの最初で最後の味だから、マルガも良く覚えていて
あげて﹂
俺の言葉に、艶めかしい瞳で、コクっと頷くマルガを見て、リーゼ
ロッテは耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうにしていた。
俺は綺麗になったモノを確認して、マルガを上に抱きかかえ、正面
座位の格好にする。
そして、マルガの可愛い膣口にモノを持って行くと、嬉しそうにパ
クパクと膣口を開いたり閉じたりさせているマルガが愛おしい。
﹁じゃ∼マルガに⋮ご褒美をあげるね!﹂
俺はそう言って、一気にマルガの可愛い膣に、モノを捩じ込む。
868
﹁うはああんっつうんんん!!!﹂
マルガはいきなり子宮の奥に、俺のモノを捩じ込まれた快感に、口
をパクパクさせて、小刻みに震えている。俺はそんなマルガに、性
欲が掻き立てられ、マルガの体を激しく揺さぶり、腰をグイグイと
マルガの秘所に押し当てて犯していく。
マルガは、恍惚の表情を浮かべ、俺がマルガを犯すたびに、甘い吐
息を辺りに撒き散らす。
﹁⋮マルガさん⋮気持ち良さそう⋮﹂
回復してきたリーゼロッテが、気持ち良さそうなマルガを見て言う。
﹁⋮今日はリーゼロッテの初めての表情が見たかったから、目一杯
犯したから痛かっただろうけど、明日は、とても気持ち良くなる事
を、リーゼロッテにもしてあげる。この⋮マルガの様にね!﹂
俺はそう言いながら、マルガを激しく犯すと、マルガは少しオシッ
コを流して、口から涎を流しながら、俺のモノに犯される快楽に浸
っていた。
俺はマルガの可愛く流れている涎を舐めとり、マルガの口に吸い付
き、マルガの上の口も一緒になって犯すと、マルガの体は小刻みに
震えてきた。
﹁ご主人様!私も⋮もう⋮ダメです⋮もう⋮もう⋮イカセて⋮くだ
さい⋮﹂
透き通る様なライトグリーンの綺麗な瞳を、艶かしく切なそうにし
ているマルガに、ゾクゾクと性欲が高まる。
﹁いいよマルガ!いっぱいイカせてあげる!俺の精を子宮で飲み込
みながら、イクんだ!﹂
俺はマルガの体を激しく揺さぶり、マルガの子宮をコンコンと抉じ
開け犯す。
869
マルガはソノ快楽に耐え切れなくなって、大きく体を弾けさせる。
俺も同時にマルガの子宮の奥の奥に、精をし見つける様に注ぎ込む。
﹁ご主人様!イキます!イカセて頂きます!!!!!イク!!!⋮
うはああんはああああんん!!﹂
マルガは大きな甘いと吐息をまき散らすと、ビクビクと体を痙攣さ
せながら、俺に力なく体を預ける。
ソノ瞳はトロンとしていて、俺に精を注ぎ込まれた喜びからか、至
高の表情を俺に向けるマルガ。
﹁マルガ⋮今日も可愛かったよ⋮﹂
そう言って優しくキスをすると、クテっとなりながらも、俺に可愛
らしい微笑みを向けてくれるマルガ。
俺は、マルガからモノを引き抜くと、俺の精子でヌロロと糸の引い
ているモノを、リーゼロッテの口の前に持っていく
﹁さあリーゼロッテ。今度はリーゼロッテが、オレのモノを綺麗に
するんだ。その⋮可愛い口で⋮存分に味わって⋮﹂
俺のがそう言うと、リーゼロッテは金色の透き通る様な美しい瞳を、
艶かしく光らせ、俺の精子とマルガの愛液まみれになっているモノ
を、口の中に咥え、口と舌で舐めとっていく。
リーゼロッテの何時もから想像の付かない、ソノ従順プリに、俺の
性欲と支配欲がゾクゾクと掻き立てられる。
俺はリーゼロッテの顎を掴み、ソノ金色の透き通る様な美しい瞳に
命令する。
﹁まだまだ寝かせないからねリーゼロッテもマルガも。一杯犯して
あげる⋮﹂
﹁はい⋮一杯犯してください葵さん⋮私はもう⋮貴方だけの⋮奴隷
なのですから⋮﹂
870
歓喜に染まった瞳で俺を見ながら、両足を開いて、両手で秘所を広
げるリーゼロッテ。
先ほど注いであげた俺の精子がトププと流れ出ていて、イヤラシイ。
俺はリーゼロッテに跨り、一気に犯していく。犯される事に、喜び
を感じているリーゼロッテ。
俺はマルガとリーゼロッテを心ゆくまで犯し、蹂躙して、その夜は
眠りにつくのであった。
871
愚者の狂想曲 24 ルチア出立!戯れの日常
なんだろう⋮凄く柔らかいモノに⋮包まれている⋮
凄く幸せな気分だ⋮心が癒される⋮
その気持ち良さに目が覚めると、右側に艶かしい寝衣で、乙女の柔
肌を感じさせてくれているマルガの、気持ち良さそうな寝顔があり、
左側には、一糸纏わず全裸で、その豊満な胸を味あわせてくれてい
るリーゼロッテが、気持ち良さそうに寝息を立てている。
﹃そうだ⋮昨日マルガとリーゼロッテを、心ゆくまで犯して⋮味わ
って、そのまま寝ちゃったんだ⋮﹄
そして、昨日のマルガとリーゼロッテの可愛い姿を思い出し、俺の
性欲が高まってくる。
マルガの可愛い口に舌を滑り込ませ、口を抉じ開けて、マルガの舌
を蹂躙する。それと同時に、リーゼロッテの豊満な胸を鷲掴みにし
て、その感触を堪能する。
﹁ふ⋮んんんっんん﹂
﹁あん⋮んんん﹂
マルガとリーゼロッテが、艶かしい声を上げて、眠りより目を覚ま
す。
俺に味あわれているのに気がついたマルガとリーゼロッテは、その
瞳に喜びの色を湛える。
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
﹁葵さん⋮おはようございます⋮﹂
マルガとリーゼロッテの、女神と見まごうその微笑みに、俺の心の
全ては、攫われていく。
872
﹁⋮おはよう⋮マルガ、リーゼロッテ。今日も可愛いよ⋮﹂
そう言って、マルガとリーゼロッテに交互にキスをする。
マルガとリーゼロッテの口の中に舌を入れ、甘く柔らかい舌を味わ
い、堪能する。
俺と同じ様に、可愛い舌で俺を味わっている、マルガとリーゼロッ
テ。
そのイヤラシイ表情に、朝の敏感な俺のモノは、ピクピクと反応し
ている。
それに気がついたマルガとリーゼロッテは、俺のモノをキュっと優
しく握ってくれる。
﹁ご主人様⋮此方もご奉仕させて頂きますね⋮﹂
﹁私も⋮葵さんにご奉仕したいですわ⋮﹂
﹁じゃ⋮リーゼロッテさん⋮一緒に、ご主人様に⋮ご奉仕しましょ
う⋮﹂
艶かしい声でリーゼロッテにそう告げたマルガは、俺の下腹部に顔
を持って行き、俺のモノを口に咥える。その温かく、柔らかい舌の
感触が、俺の体を突き抜ける。
﹁ありがとうマルガさん⋮じゃ⋮私も⋮﹂
瞳をトロンとさせて、マルガ同様、俺の下腹部に顔を持っていくリ
ーゼロッテ。
マルガが離した俺のモノを口に咥え、口と舌で、俺のモノを刺激し
ていく。
その快感に、思わず身を捩れさす俺。
﹁マルガとリーゼロッテ。2人で俺のモノに奉仕して⋮﹂
俺の言葉に、ライトグリーンの透き通る様な美しい瞳と、金色の透
き通る様な綺麗な瞳は、喜びの色に染まっていく。
873
マルガとリーゼロッテは、2人で俺のモノに奉仕していく。
代わる代わる口に咥えては、竿をや玉を舐め、俺のモノは全てを舐
め回されている。
マルガとリーゼロッテの頭を優しく撫でながら、その強烈な快楽に
浸っていると、朝の敏感な俺のモノは、すぐに絶頂に達してしまっ
た。
﹁マルガ!リーゼロッテ!出そうだ!しっかりと、その可愛い顔で、
受け止めて!﹂
俺の少し声高な声が聞こえた瞬間、マルガとリーゼロッテの綺麗で
可愛い顔に、俺の精がほとばしり、汚す。
マルガとリーゼロッテの顔は俺の精子で、白く彩られていた。
﹁ご主人様の精⋮私⋮この香り⋮大好きです⋮﹂
﹁私も⋮葵さんの精の香りを嗅ぐと⋮下腹部が⋮キュンとしちゃい
ますわ⋮﹂
その艶かしい女神達の表情に、俺の性欲は更に高まる。
﹁じゃ∼ご褒美に、顔についた俺の精を、お互いに綺麗に舐めあう
んだ。全て味わって⋮﹂
俺の許可に、マルガとリーゼロッテは、喜びに染まり、お互いの顔
についた俺の精を、舐め合っている。ソノ女神の⋮艶めかしさと言
ったら⋮
全ての精を綺麗に舐めとったマルガとリーゼロッテは、俺に口を開
けて見せている。
その口の中に、波々と湛えられている俺の精を見て、至高の幸福に
染まる俺。
﹁じゃ∼よく味わって、飲み込むんだ⋮マルガ⋮リーゼロッテ﹂
俺の許可を貰い、嬉しそうに、クチュクチュと俺の精子を味わって
874
いるマルガとリーゼロッテは、コクコクと喉を鳴らして、飲み込ん
でいく。
そして、飲みましたと俺に確認させる為に、口を開いて見せるマル
ガとリーゼロッテ。
その姿があまりにも愛おしくて、ギュっと2人を抱きしめると、同
じ様に抱き返してくれるマルガとリーゼロッテ。
﹁マルガにリーゼロッテ⋮凄く気持ち良かったよ⋮可愛かった2人
共⋮ありがとね⋮﹂
マルガとリーゼロッテに交互にキスをしながら言うと、ニコっと微
笑んでいる。
そんな2人を見ていたら、俺のモノが一瞬で復活した。
それを見て、艶かしい表情をして、俺のモノを優しく掴むマルガと
リーゼロッテ。
﹁ご主人様⋮私⋮私⋮﹂
﹁私も⋮葵さんの⋮逞しいモノが⋮﹂
マルガとリーゼロッテは艶かしい瞳で、俺におねだりをする。
うわあああ!こんな可愛いおねだりされたら止まらなくなるよ!
今日はルチアの見送りだし、マルガとリーゼロッテを堪能して行け
なかったって、ルチアに知れたら、鋏で俺のパオーンちゃん切っち
ゃいそうだし、此処は我慢だ∼∼∼!!!⋮ウウウ⋮
﹁今日は⋮ルチアの見送りがあるから⋮夜迄我慢してくれる?﹂
俺の残念そうな顔が面白かったのか、クスクスと笑っているマルガ
とリーゼロッテ。
そんな2人に苦笑いしながら、交互にキスをする。
俺達は用意する事にした。
875
俺達は朝食と準備を済ませ、港町パージロレンツォの郊外町ヌォヴ
ォの外れにある、ステュクス川の船着場に向かっている。
ステュクス川は王都ラーゼンシュルトの傍にある、ロープノール大
湖より流れて来ている大河で、川幅500mのステュクス川は、港
町パージロレンツォと王都ラーゼンシュルトを繋ぐ航路として、沢
山の船が行き来している。
その沢山の船を見て、マルガとマルコは嬉しそうにはしゃいでいる。
俺とリーゼロッテはそんな2人を微笑ましく思い、顔を見合わせて
微笑む。すると、少し不機嫌な声が聞こえて来た。
﹁⋮本当に何度もこの私を待たせるなんて、良い度胸ね!﹂
そこには少し頬を膨らませて、若干拗ねているルチアが仁王立ちし
ていた。
﹁だから⋮時間通りに来てるつもりだけど?﹂
﹁私と待ち合わせしたら、最低1日前には、来て待っていないとダ
メでしょうが!﹂
﹁⋮何処の宗教の教えですかそれは⋮﹂
呆れながら言う俺に、プリプリ怒っているルチア。マルガとマルコ
とリーゼロッテは、何時ものその光景に笑っている。
﹁所でルチアさん。お供のマティアスさんが見えない様ですが⋮﹂
﹁ああ、今荷物を積み込んでいるのよエルフちゃん﹂
俺とは全く違う穏やかな笑顔を、リーゼロッテに向けるルチア。そ
んなルチアに、マルガとマルコも挨拶をすると、ルチアは2人の頭
を撫でて、優しく微笑んでいる。
そんな軽い迫害をルチアから受けていると、マティアスが俺達の元
876
に帰って来た。
﹁ルチア様準備が整いました。何時でも出航出来るとの事です﹂
﹁ありがとうマティアス﹂
ルチアがマティアスに労をねぎらう様に言うと、見守る様な微笑を
ルチアに向けているマティアス。
﹁でも流石にお嬢様だよな∼。陸路じゃなく、航路で王都ラーゼン
シュルトに行く辺りは﹂
﹁そんなの当たり前でしょ?私は葵みたいな暇人じゃ、な・い・の
!⋮お解り?﹂
ニヤっと笑うルチアに呆れている俺を見て、他の皆が笑っている。
﹁でも、船旅っていいね∼ルチア姉ちゃん!船って早いんでしょ?﹂
﹁そうね∼。旅馬車なら、この港町パージロレンツォから王都ラー
ゼンシュルト迄は、27日から30日掛かるけど、魔法船なら10
日から12日で付けるわね。その分、料金は高いけど、圧倒的に時
間を短縮出来るのが利点よね﹂
マルガとマルコが、おお∼っと感動している横で、得意げな顔のル
チア。
魔法船は通常の帆船に、風を起こすマジックアイテムである、風の
魔法球を数個取り付けて、それを動力にして進む船である。風があ
る時や、流れに逆らわなくて良い時は、通常の帆で運行し、風が無
い時や、流れに逆らわないといけない時に、風の魔法球を使ってい
る事が多い。
それぞれの属性の魔法球は、素材も高価で、魔法で作る品で消耗品
でもある為に結構高価で、安いもので金貨3枚から、高いもので金
貨10枚。
877
しかし、色々の状況で使えるので、価格が高くても、なかなか人気
の品なのである。
﹁葵、予定は解ってると思うけど、きっちり60日後に、王都ラー
ゼンシュルトだからね?それまでにしっかり準備をして来るのよ?
⋮遅れたりしたら⋮どうなるか解ってるわよね?﹂
﹁⋮解ってるって。大体60日位で王都ラーゼンシュルトに就くよ
うにするよ﹂
﹁大体じゃないの!私が60日と言ったら、60日なんだからね!﹂
﹁⋮はいはい⋮﹂
プリプリ言うルチアに、溜め息を吐きながら適当に返事をしている
俺。そんな俺とルチアを、一同が微笑みながら見ている。
暫くプリプリしていたルチアだったが、急に淋しげな表情をして、
俺の傍に近寄る。
ルチアの香水の良い香りが、俺の嗅覚を刺激して、一瞬ドキっとす
る。
﹁⋮ねえ葵。もし⋮もし私がね⋮エルフちゃんみたいに、窮地に陥
ったりしてたら⋮葵⋮助けてくれたりする?﹂
視線を僅かに逸らして、俺にだけ聞こえる様に囁くルチア。ルチア
の瑠璃色の美しい瞳は、微かに揺れている。
こんなか細いルチアを見た事の無い俺は、一瞬戸惑ったが、そっと
ルチアの肩に手を置き
﹁⋮助けるに決まってるじゃん。ルチアが居なかったら、リーゼロ
ッテは俺の傍に居れなかったんだしさ。それに⋮俺達、仲間だろ?﹂
ルチアの耳元で小声で言うと、瑠璃色の美しい瞳は、強く輝き出す。
﹁そっか⋮。仲間ね⋮仲間か⋮フフフ⋮﹂
微かにそう呟くと、嬉しそうに微笑むと
878
﹁ま∼当然よね!貴方の首輪は、私がしっかりと握ってるんだから
!﹂
アハハとドヤ顔で笑うルチア。
なるほど⋮オラは飼い犬なんですね!ワンワン!⋮悲しい⋮
何時かバター犬に出世?して、可愛い声出させてやる!もう⋮舐め
まくってやるんだからね!
そんなエロアホな事を考えていたら、ボ∼∼っと、魔法船の出航の
合図である、法螺笛が鳴り響く。
﹁魔法船が出航するみたいね。じゃ∼皆60日後に、王都ラーゼン
シュルトで!﹂
﹁ハイ!ルチアさん。また王都ラーゼンシュルトで!﹂
﹁ルチア姉ちゃん元気でね!﹂
マルガとマルコがそう微笑むと、嬉しそうに、マルガとマルコの頭
を優しく撫でているルチア。
﹁エルフちゃん。私が居ない間、しっかり葵の事、管理してあげて
ね﹂
﹁はいルチアさん。葵さんの事は、私に任せておいてください﹂
ニコっと微笑むリーゼロッテに、フフっと微笑むルチア。
ルチアとマティアスは魔法船に乗り込む。魔法船は徐々に速度を上
げて、桟橋を見る見る離れて行った。
﹁ルチアさん行っちゃいましたね⋮﹂
﹁またすぐに逢えますよマルガさん﹂
﹁そうだよマルガ姉ちゃん!今度会う時までに、もっと色々勉強し
て強くなって、ルチア姉ちゃんを、驚かせてやろう!﹂
﹁マルコの言う通りだね。俺達も今出来る事をしよう。とりあえず、
冒険者ギルドと訓練場に行って、リーゼロッテの戦闘職業を決めて、
879
そこから役所に行こう﹂
俺の言葉に頷き、一同は冒険者ギルドに向かうのであった。
そんな俺達を、離れていく魔法船から見ているルチア。
﹁短い様な、長い様な⋮そんな感じでしたね。港町パージロレンツ
ォでの時間は﹂
﹁⋮そうね。でも、葵達のお陰で、退屈しなくて済んだけどね﹂
離れていく港町パージロレンツォを見ながら、フフと嬉しそうに笑
うルチア。
﹁しかし⋮驚きましたよ。ルチア様が葵殿を、専任商人にされると
聞いた時は。本気なのですねルチア様?﹂
﹁当たり前でしょ?私が、アノ葵を逃がす訳無いじゃない。⋮あん
な進んだ文明からやって来て、色んな知識を持っているであろう葵
を、他の奴に渡す様な馬鹿な真似はしないわ。大きな代償がいるけ
ど、限定的に四属性守護神に、対抗し得る力も持っているんだしね。
⋮精々私の為に、働いて貰わないとね﹂
小悪魔の様な瞳で、マティアスに微笑むルチア。それを見たマティ
アスはフフっと軽く笑うと、
﹁⋮本当にそれだけの理由ですか?別の理由の方が大きいと思うの
は⋮私の気のせいでしょうか?﹂
優しくルチアに微笑むマティアスを見て、少し顔を赤らめ、フンと
そっぽを向くルチア。
﹁王都ラーゼンシュルトに就いたら、忙しくなるわよマティアス。
覚悟しておいてね!﹂
﹁はい、解っておりますとも。ルチア様がソノ覚悟をしているので
あれば、私はそれに従うのみです﹂
880
フフと笑うマティアスを見て、ニコっと微笑むルチアは、瑠璃色の
綺麗な瞳を輝かせ、王都ラーゼンシュルトの方角を見つめていた。
ルチアを見送った俺達は、冒険者ギルドで、リーゼロッテの登録を
済ませ、訓練場に来ていた。ルチアの計らいにより、何時も訓練し
ていた、小型の特別訓練場を、港町パージロレンツォに滞在する3
0日間、レストランテと同じ様に、使える様にしてくれたのだ。
訓練場に来たのは、リーゼロッテの戦闘職業を決める前に、リーゼ
ロッテの運動能力や、どんな事が得意なのかを知るために、此処に
来ているのであった。
﹁とりあえず、リーゼロッテーの戦闘職業を決めたいと思うんだけ
ど、リーゼロッテーは何か得意な武器とかある?﹂
﹁いえ⋮私は全く今迄戦った事はありません。魔力が有るのは解っ
て居ますが、どの属性の適応があるのかも解りません﹂
﹁リーゼロッテ姉ちゃんも魔力あるのか∼。いいな∼﹂
﹁私はハーフエルフですからね。だから魔力があるんですよ﹂
﹁そうなんですか?リーゼロッテさん﹂
マルガは可愛い首を傾げながら、リーゼロッテに聞いている。マル
コも興味がある様で、リーゼロッテにせがんでいた。そんな2人に
優しく説明するリーゼロッテ。
エルフ族が何故、上級亜種と呼ばれているか。その理由は、エルフ
族は全ての者が魔力を持っているからだ。他の亜種族は人間族と同
じ様に、ランダムで魔力を持つ子が生まれてくるのだが、エルフ族
は生まれてくる子供全てが魔力を持って生まれてくる。
881
しかも、それだけでなく、エルフ族との間に、人間族や他の亜種族
が子を成せば、その子供も魔力を持って生まれてくるのだ。
魔力を持つ人は貴重な存在。魔力を持つ子供欲しさに、エルフと婚
姻したがる輩は多い。
しかも、他の上級亜種族である、ドワーフ族や、ホビット族、ノー
ム族とは違い、美形が多い事も、人気が高い所以であろう。
﹁でも、リーゼロッテさんが、ハーフエルフだったとは、初めは全
く解りませんでした﹂
﹁エルフ族と人間族との間に子が出来れば、見た目はエルフ族にし
か見え無いんですよ。自分から告げるか、ネームプレートを見せな
ければ、見分けは付きません﹂
マルガの頭を優しく撫でながら微笑むリーゼロッテ。
﹁そういう事だね。とりあえず、リーゼロッテの適性も知りたいし、
リーゼロッテのネームプレート見せてくれる?﹂
俺の言葉に、ニコっと微笑んでネームプレートを開いて見せてくれ
るリーゼロッテ。
マルガとマルコも興味津々で、ソレを覗きこむ
﹃名前﹄ リーゼロッテ・シャレット
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ハーフエルフ
﹃年齢﹄ 18歳 ﹃性別﹄ 女
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﹃身体﹄ 身長
そら
葵 空 遺言状態 所
あおい
165㎝ 体重 47㎏ B84/W54/H74
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃その他1﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹁てか、リーゼロッテって、俺より年上だったの!?﹂
﹁そうですよ。私は葵さんが2つ下なのは知っていましたけど﹂
ニコッと微笑み、俺に持たれながら、コテっと頭をあずけてくる。
リーゼロッテ可愛いよ!
その横で、マルガが自分の胸を両手で抑えながら、ムウウっと唸っ
ている。
あれだね⋮リーゼロッテと比べちゃったんだね⋮確かにリーゼロッ
テは、スーパーモデル級のプロポーションだしね。
でも⋮マルガちゃんみたいな⋮幼児体型が⋮一番⋮オラはロリ⋮お
っと!誰か来た様だ!
﹁リーゼロッテさんは、ラストネームをお持ちなんですね﹂
﹁はい。エルフは皆、ラストネームを持っているんです。葵さんの
主人側のネームプレートには、ファーストネームしか表示されませ
んけどね。ラストネームを代々引き継いでいくのが、エルフの習わ
しなんですよ﹂
883
マルガは可愛い胸を両手で抑えながら、なるほど∼っと頷いている。
もうそろそろ、両手を胸から離そうねマルガちゃん!お話に夢中に
なってるのは、解ってるけど!
﹁じゃ∼リーゼロッテ姉さん。取得スキルも開いてくれる?﹂
﹁もう⋮そんな風に呼ばないでください⋮意地悪ですね⋮葵さん⋮﹂
俺がニヤッとしながら言うと、若干頬を膨らませて、わざと拗ねた
17、
様に見せるリーゼロッテは、ニコっと微笑む。当然、興味津々なマ
ルガとマルコも覗き込んでいる。
﹃現取得スキル 合計5﹄
﹃アクティブスキル 計3﹄ 細工LV18、 調合LV
薬師LV18 ﹃パッシブスキル 計1﹄ エルフの加護︵高感応力︶
﹃レアスキル 計1﹄ 器用な指先
﹁ふんふん。細工と調合に薬師か⋮リーゼロッテ得意なの?﹂
﹁はい、私はレアスキルの、器用な指先と言うのを持っています。
私は、指先を使う事が凄く得意で、指先で物を作る細工や、薬草、
薬を混ぜ合わせて、薬を作ったりするのが得意なんです。これらは、
エルフであった、母から教えて貰った事なんですけどね﹂
リーゼロッテの言葉に、オオ∼とマルガとマルコは感心していた。
細工と調合に薬師⋮かなり役に立ちそうだ。
細工は色んなアクセサリーを作れるし、調合は回復系のみならず、
戦闘で役に立つアイテムも作れる。
薬師にいたっては、魔法で回復出来無い、病気や特殊な毒、マルガ
884
を助けてくれた、アノ凄く苦い薬なんかも、薬師が作っている。
しかも、そこにレアスキルである、器用な指先を持っている。
器用な指先の効果は、指先で繊細な事が出来る事は勿論の事、指先
を使うものであれば、なんでも天才級に出来、習得の早さ、到達点、
応用力、全て一般人を凌駕するだろう。
指先番、ルチアみたいなものか⋮すごいな⋮。
確か⋮リーゼロッテに肩を揉まれたり、頭を撫でられたりすると、
気持良すぎてすぐに眠たくなっちゃうもんね。
そして⋮モノを指先でして貰ってる時の、アノ快感と言ったら⋮流
石のマルガも及ばない。
あの気持ち良さも、このレアスキルの恩恵だったのか⋮
俺が染み染みとエロイ事を考えていると、興味津々のマルガは、
﹁このパッシブスキルの、エルフの加護︵高感応力︶ってどんな効
果なんですか?﹂
﹁はい、此れはエルフ特有の能力ですが、私達エルフは、自然の力
や邪悪なモノのを、感覚で感じる事が出来るのです。例えば、森の
木がどの様な気の流れをしているとか、川の水がどれ位綺麗で汚れ
ているとか、邪悪な霊の様なモノの気配も、敏感に感じる事が出来
るんですね﹂
リーゼロッテの説明に、オオ∼っと瞳を輝かせて、感嘆しているマ
ルガとマルコ。
そうか⋮エルフは体の強さは人間族と変わらないけど、そう言う魔
力や、自然との対話力に関しては、ずば抜けて高いモノを持ってい
るんだろう。
寿命も人間より長く、200年近く生きるし、容姿端麗。知識は豊
富だし⋮やっぱりエルフは凄いね。
885
しかし、長寿であるから、子供を作る事を強く望まない事もあって、
個体数は少なく、高貴なプライドを持っている事もあって、人間族
を見下しているところも有るとか⋮
処女だったリーゼロッテをオークションに出せば、金貨700枚で
売れると言っていた事は本当かも⋮
俺がその様な事を考えていると、優しい微笑みを俺に向けるリーゼ
ロッテが、
﹁それで私は、どの様にしたら良いのですか葵さん?﹂
﹁ああ!ごめんごめん。とりあえずは、リーゼロッテの適正でも見
てみようか。リーゼロッテは女の子だし、マルガ同様、思い武器は
持て無いだろうから、軽く振れる、片手剣の中でも特に軽い、レイ
ピアやエストックから行ってみよう。マルガ、一緒に訓練用の武器
を用意してあげて﹂
俺の言葉に、ハイ!と元気良く右手を上げるマルガは、テテテと走
って、訓練場の隅っこにある、訓練用の武器の入った箱から、訓練
用のエストックとレイピア、そして自分が使う訓練用の爪を持って
きた。
それを、マルガから受け取るリーゼロッテ。マルガも訓練用の爪を
装備する。
俺は準備が整った事を確認して、マルガとリーゼロッテに
﹁じゃ∼とりあえず、リーゼロッテはマルガに攻撃してみて。攻撃
は全力でしてねリーゼロッテ。マルガは攻撃せずに、躱すだけね。
受けるのも禁止ね﹂
﹁ハイ!解りました!ご主人様!﹂
元気に返事をするマルガをみて、リーゼロッテが若干戸惑っていた。
﹁でも葵さん。如何に練習用の武器でも、力一杯に攻撃したら、凄
い怪我をしてしまうかも知れませんけど⋮﹂
886
リーゼロッテは可愛いマルガを攻撃するのを、躊躇っている様であ
った。
﹁大丈夫。今はマルガが治癒魔法を使えるし、すぐに怪我は回復出
来るよ。それに⋮マルガはもう、あの時のマルガじゃないよ?あの
⋮盗賊団に捕まって、何も出来ずに⋮アジトで震えていたマルガと
はね﹂
俺の言葉を聞いて、パアアと嬉しそうな表情をするマルガの尻尾は、
ブンブンと振られている。
﹁そうなのです!私も少しは強くなったのですよリーゼロッテさん
!⋮リーゼロッテさんの攻撃は私には当たりませんので、存分にか
かってきてくださいです!﹂
マルガは両手を腰に当て、エッヘンと言った感じでリーゼロッテに
言うと、リーゼロッテも吹っ切れた様で
﹁解りました。全力で攻撃します!マルガさん、痛くても許して下
さいね﹂
﹁ハイです!リーゼロッテさん。何時でもどこからでも、かかって
きてくださいです!﹂
身構えるリーゼロッテに、ピョンピョンと軽く準備体操代わりのス
テップを踏むマルガ。
﹁はああ!﹂
リーゼロッテは掛け声とともに、マルガに斬りかかるが、マルガは
スルリとリーゼロッテの攻撃を躱し、軽いステップを踏んでいる。
それに驚いているリーゼロッテ。
﹃う∼ん。やっぱりマルガの敏捷性は凄いね。今の俺のLVは35。
マルガがLV25。多分俺と同じLVに追いつく頃には、早さや敏
887
捷性に関しては、マルガの方が早く、高くなっているだろう。獣人
系の亜種の特性だねきっと﹄
その様な事を感じながら、リーゼロッテとマルガの手合わせを見て
いると、リーゼロッテは早くも息が上がってきている。マルガは当
然、息も切れなければ、いつも通りと言った感じだ。
そんなリーゼロッテは少し悔しかったのか、キュっと表情を強張ら
せると、再度マルガに斬りかかって行く。しかし、当然、マルガに
は擦める事すら出来ないでいた。
﹃う∼∼ん。リーゼロッテは明らかに、動きが悪いね。マルガやマ
ルコはもっと、出来た様な⋮⋮あ⋮﹄
俺はその様な事を思いながら、ふと、自分の大きな間違いに気がつ
いた。
そうか⋮元々、マルガやマルコは、運動神経が良かったんだ。つま
り素質があった。
マルコは、小さい時から、投擲の練習をして、野山を走りながら練
習もしていたらしいし、運動神経も発達していて、筋力もそこそこ
有る。
マルガは、厳しい生活環境で生きてきたが、今は元気になっている
し、ワーフォックスの血を引いているから、力は無いが先天的に俊
敏性は高く、運動神経は良いのだろう。
それに比べリーゼロッテは、今迄普通の村の少女として暮らしてき
たのだ。
エルフは魔力や、感応力と言った部分は高いが、その他は人間と能
力的には、特に変わらない。
つまり⋮リーゼロッテこそが、普通の少女の姿なのだ。
ソレを今迄、理解出来無かったのは、きっと傍にルチアがいたから
888
だ。
アノ超天才美少女を見ていると、マルガやマルコが普通の子供に見
えてしまう。ルチアの天才ぶりに埋もれていただけで、実際はマル
ガもマルコも、普通より結構素質が高かったんだ。
それに、物覚えも俺なんかより早いし、頑張りやさんだし、強くな
るのも早い。
その事に気がついた俺が、ふと手合わせの方に視線を戻すと、リー
ゼロッテが大きく肩で息をしていた。
﹁はい、そこまで!リーゼロッテもマルガもお疲れ様!﹂
﹁ハイ!お疲れ様です!リーゼロッテさん!ご主人様!﹂
右手を上げてハイ!と元気良く、お疲れ様をするマルガに比べて、
ハアーハアーと肩で息をしているリーゼロッテは
﹁お⋮お疲れ⋮様です⋮マルガさん⋮葵さん⋮﹂
息を整えながら言うリーゼロッテ。俺はマルコに水を汲んで来て貰
い、マルガとリーゼロッテに水を飲ませてあげると、やっと落ち着
いたリーゼロッテが
﹁マルガさん凄いですね。あんなに早く動けるなんて、結局マルガ
さんに、擦める事すら出来ませんでしたし﹂
その言葉を聞いたマルガは、嬉しそうにパタパタと尻尾を振ってい
た。
﹁ま∼マルガもマルコも、ラフィアスの回廊で﹃適正な命のやり取
り﹄を、沢山してLV上がったからね。俺は、もうラフィアスの回
廊じゃLV上げるのはきついけど﹂
俺の言葉に嬉しそうなマルガとマルコ。
この世界の経験値とLVの関係性は、少し変わっている。
889
如何に自分の強さと適正な相手と、命のやり取りをしたかの﹃回数﹄
でLVが上がっていくのだ。
その﹃回数﹄が経験値なのだ。
なので、普通のRPGの様に、経験値を沢山持っている敵を倒した
らLVが上がるとか、強い敵を倒すと、一気にLVが上がるとかと
言う事は無い。
自分とほぼ同等の強さを持った敵と、どれだけ命のやり取りをした
か、どれだけ命を掛けてきたか⋮
適正に多く命を掛けて、多くの﹃回数﹄を稼いだ者のみ強くなれる。
自分の適正より弱い敵を倒してLVを上げようとすると、膨大な数
の命のやり取りと、膨大な時間が掛るのも此れが理由だ。
LVに関しては、命を掛けない訓練でも多少は上げる事が出来る。
しかし、訓練で上げれるLVは、職業によって差はあるが、大体L
V15位まで。
それ以上訓練だけで、上げ様とすれば、膨大な訓練時間がいるので
ある。
それに比べ、スキルは訓練でも上げる事が出来る。
訓練さえすれば、スキルは上がっていくのだ。
実戦経験︵LV︶は、訓練ではかなり上げにくいが、生き死にに関
係しないスキルは、訓練や練習だけで上がって行く。
マルコがLV1なのに、投擲LV25のスキルを持っていたり、ル
チアがLVより高いスキルLVを持っていたりしたのも、この事が
理由だ。
リーゼロッテも水を飲んで、休憩して落ち着いてきたのを見ていた
マルコが
﹁ねえ葵兄ちゃん!リーゼロッテ姉ちゃんには、もっと軽い短剣が
890
良いんじゃない?短剣なら、もっと振り回されずに、やれると思う
んだけど﹂
﹁うん⋮そうだね∼。とりあえずリーゼロッテには魔力があるから、
マルガ見たいに魔法戦士系じゃなく、魔法職一本に絞っても良いか
もね。今日一日考えてもいいかな?予定としては、王都ラーゼンシ
ュルトに出立する30日間で、マルガ、リーゼロッテ、マルコのL
Vを、俺のLVに近い所迄上げたいんだよね﹂
﹁そうなの?葵兄ちゃんが、LV高く出来る様に行動した方が、良
いんじゃないの?アノ力だってあるしさ﹂
マルコは不思議そうにしながら言うと、その横でマルガもウンウン
と頷いている。
そんなマルガとマルコの頭を優しく撫でながら、首を横に振り、
﹁それじゃダメなんだよ。俺一人が出来る事なんて、たかが知れて
いるよ。素直に事実を言うと、アノ盗賊団の頭のギルス達や、今回
のアノ悪魔達に勝てたのは、本当に運が良かっただけなんだ。あい
つらは、集団戦をしなかった。いや⋮選ばなかった事により、敗戦
したんだよ﹂
﹁集団戦⋮ですか?ご主人様﹂
﹁うん集団戦。盗賊団の頭のギルス達にしても、アノ悪魔達にして
も、もし、集団戦をされていれば、俺は盗賊団の頭のギルス達には
嬲り殺され、アノ悪魔達にも、俺達は負けていたと思うよ﹂
俺はマルガやマルコに説明する。
盗賊団の頭のギルス達に勝てたのは、俺の思惑通りに動いてくれた
から。1対1で初めにギルスと勝負出来たからだ。だから勝てた。
アノ悪魔の集団、ルキフゲ・ロフォカレ、グレートデビルとグレー
トデーモンにしてもそうだ。
初めにルキフゲ・ロフォカレがマティアスと、一対一で戦ってくれ
たから、なんとかグレートデビルとグレートデーモンを倒せて、種
891
族能力開放を使った俺とマティアスで何とか倒せたのだ。
初めから、ルキフゲ・ロフォカレ達が集団戦をしていれば、俺達は
今此処にこうして居ないだろう。
﹁ルキフゲ・ロフォカレ達が連携して攻撃していれば、如何に俺が
種族能力を開放して、マティアスさんと戦っても、マルガやマルコ、
ルチアを庇いながら闘うなんて事、まず無理だ。その様な事をして
いると、あっという間にやられていたと思うよ。初めに戦っていた、
マティアスさんの言葉を思い出して見て。マルガにマルコ﹂
俺のその言葉に、あの時の戦いを思い出している、マルガにマルコ。
﹃いえ⋮このルキフゲ・ロフォカレは、私しか相手を出来ないでし
ょう。コイツ相手に、皆さんを庇いながら闘う事は出来ません。お
気持ちは嬉しいですが⋮此処は私に任せて下さい﹄
マティアスの言葉を思い出したマルガとマルコは、顔を見合せてい
る。
﹁あの言葉は、俺達じゃマティアスさんと集団戦が出来無い。つま
り、連携して攻撃出来無い事を知っていたんだよ。集団戦は、ただ
数が多ければ良いって訳じゃ無い。連携が取れて初めて成立するん
だ。1足す1が、3や4にならないと意味が無い。ましてや、1足
す1が、−1や−3になってしまったら、本末転倒も良い所なんだ
よ﹂
俺の言葉を黙って聞いている、マルガとマルコは、色々考えながら
腕組している。
﹁一人が幾ら強くても、集団戦で、連携されれば、容易く討ち取ら
れる。⋮確かに、俺の種族能力開放は、思ってたより強かった。あ
のマティアスさんの倍の力があったのだから。でも、再使用迄は9
0日も掛かって、3日間は完全に戦闘不能な上、身動きがやっとの
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状態。完全に戦える様になるまで6日も掛る。何時でも使える様な
力じゃ無い。正に諸刃の剣⋮﹂
﹁⋮そんな時に敵に襲われたら⋮葵さんを守りながら、敵と戦わな
いといけない。不安定要素の高い力を求めるより、皆のLVを近づ
けて、何時でも連携で力の出せる集団戦に、重きをおいた方が、安
定して、継続的に力が出せる⋮その方が安全であり、確実である。
と、言う事ですね葵さん﹂
頭の回転が早く、理解力の高いリーゼロッテの言葉に、微笑みなが
ら頷く俺。
﹁一人だけ強い奴が居てもダメ、一人だけ弱い奴が居てもダメ。如
何に皆で連携して、大きな力が出せるか⋮それが集団戦、つまり⋮
パーティーで闘うって事なんだよ﹂
その言葉を聞いたマルガにマルコは、グッっと握り拳に力を入れて、
互いに顔を見合わせて頷くと、
﹁私、皆さんときちんと連携出来る様に頑張ります!ご主人様!﹂
﹁オイラも!皆で力を合わせて、物凄い力を出せる様に、修行する
よ!﹂
気合の入った言葉で、フンフンと鼻息の荒いマルガとマルコの頭を
優しく撫でると、ニコっと輝く様な微笑みを向けてくれる。そんな
俺達を見ていたリーゼロッテは、フフフと嬉しそうに笑うと、
﹁とりあえずは、私が一番頑張りませんといけませんね。マルガさ
ん、もう一度武器を変えて、手合わせして貰ってもも良いですか?
私も早く皆さんに追いついて、きちんとパーティーで戦える様にな
りませんと、いけませんからね﹂
リーゼロッテは微笑みながら言うと、マルガモ嬉しそうに応えてい
る。
俺達は再度、訓練を開始するのであった。
893
特別訓練場で訓練を終えた俺達は、昼食を取り、役所でリーゼロッ
テの商取引の許可申請を終え、燃え尽きた俺の装備を買うのと、ラ
フィアスの回廊で拾った装備を鑑定して貰う為に、武器屋に向かっ
ている。
﹁ズ∼∼∼∼∼ン﹂
何時かのマルガの様に、体中から擬音を発しているリーゼロッテ。
あの後、武器を短剣に持ち替えたり、色々試してみたのだが、リー
ゼロッテはどうやら、元来、運動神経が余り良くないらしく、良い
結果が得られなかった。
頭の回転が早く、賢しいハーフエルフのリーゼロッテも、こと運動
に関しては、普通の女の子だったと言う事だ。
責任感の強いリーゼロッテは、ショックを受けた様で、俺の隣を歩
く姿も、何時もの凛とした雰囲気が感じられなくなっている。そん
なリーゼロッテを、心配そうに見つめるマルガとマルコ
﹁リーゼロッテさん。まだ戦闘職業にも就いてなくて、初めてだっ
たんですから⋮気を落とさないでくださいです∼﹂
﹁そうだよリーゼロッテ姉ちゃん!一杯練習すれば、きっと何とか
なるよ!﹂
マルガとマルコは、リーゼロッテに微笑みながら優しく言うと、少
し元気が出たリーゼロッテは、マルガとマルコの頭を撫でている。
﹁マルガとマルコの言う通りだよリーゼロッテ。体を使う事が苦手
でも、リーゼロッテは魔力が有るからね。魔法職一本でも十分にや
894
っていけるから、そんなに心配する事無いよ?﹂
俺の言葉に、嬉しそうに微笑むリーゼロッテは、ギュっと組手に抱
きつき、頭をコテっと俺にもたれかけさせる。
そんな可愛いリーゼロッテにドキっとしながら歩いて居ると、何時
ものリスボン商会が運営している武器屋に到着した。
﹁よう!いらっしゃい!今日はどうしたんだい?﹂
武器屋の主人が、挨拶をしながら話しかけてきた。
﹁今日はちょっと色々欲しい物があってさ。それを買いに来たんだ﹂
﹁おお!この間、沢山買ってくれたのに、また買ってくれるのかい
?ありがたいね∼﹂
﹁まあ⋮俺の装備が全て壊れちゃったんで⋮﹂
﹁ええ!?アノ魔法銀のブリガンダインもかい!?⋮どんな魔物と
戦ったんだ?ラフィアスの回廊に、アノ魔法銀のブリガンダインを
壊せる様な魔物いたっけ?﹂
武器屋の主人が困惑しているのを見て、苦笑いしている俺。
﹁とりあえず、他にも欲しい物があるから、用意してくれる?﹂
﹁解ったよ。で、何が欲しいんだ?﹂
﹁えっと⋮まずは俺の装備だね。魔法銀のブリガンダインと、黒鉄
のケトルハット、黒鉄の半手甲、フィンガーレスレザーグローブ、
黒鉄のグリーブ、ジョッパーブーツ、フード付き防水レザークロー
ク、ウエストバッグかな﹂
俺の注文に、装備を用意してくれる店主。
﹁これでいいかい?﹂
﹁ええ。それから、容量10のアイテムバッグを、3つ欲しいんだ﹂
﹁おおお!アイテムバッグを3つもかい?えらく景気の良い話だね
!何か儲かった様だね﹂
895
﹁ええまあちょっとね⋮アイテムバッグいけそうですか?﹂
﹁ああ!任せときな!﹂
主人は俺の注文の通り、容量10のアイテムバッグを用意してくれ
る。容量10のアイテムバッグは一番安く、出回っている為、結構
な種類があった。
﹁じゃ∼マルガにリーゼロッテ、マルコ。この中から、好きなの1
つずつ選んでくれる?﹂
﹁ええ!?私達が選んでも良いのですかご主人様!?﹂
﹁うん。皆に1つずつ、持たせ様と思っていたからさ。アイテムバ
ッグがあると、何時でも装備を出せるし、大切な物も持って歩ける
からね。ずっとそうしようと思っていたんだ﹂
﹁でも⋮アイテムバッグはかなり高額な物⋮良いのですか葵さん?﹂
リーゼロッテが若干心配そうに尋ねる。
確かに、アイテムバッグは高額だ。特殊な空間魔法を封じ込め、あ
る程度の大きさの物なら、亜空間に保存して何時でも取り出せると
言う、ネームプレートに並ぶ、とんでもアイテム。
この世界の今の技術力を駆使しても、此れ以上の物は作れないらし
いが、それでも凄い力を持ったアイテムである事には違いない。高
額であるが、需要も高い為、数多く作られている。
人気のマジックアイテムなのだ。
﹁いいんだよ。安全と便利さを買えるんであればね。それに、お金
のある今しか出来ないしさ。好きなの選んで皆﹂
俺の言葉に、嬉しそうに飛びついたのは、マルガとマルコ。まさか、
自分達が、高価なアイテムバッグを持たせて貰えるとは思ってもみ
なかったのであろう。
う∼∼んと悩みながらも、あれやこれや言いながら選んでいるマル
ガとマルコは実に楽しそうだ。
896
リーゼロッテもそれを見て微笑むと、自分の分のアイテムバッグを
選んでいく。
﹁私は此れにします!ご主人様!﹂
﹁オイラはこれ!﹂
悩みぬいた挙句2人が選んだのは、マルガはハート型の可愛い女性
用のアイテムバッグ。マルコは鷹の模様の入った、男の子らしい物
だ。因みにリーゼロッテが選んだのは、花柄の気品のあるアイテム
バッグだ。
﹁じゃ∼とりあえず此れを貰える?﹂
﹁ああ!解ったよ!今合計を出すね!﹂
店主は、品物の計算をはじめる。
﹁魔法銀のブリガンダインが、金貨3枚。黒鉄のケトルハット、黒
鉄の半手甲、黒鉄のグリーブ、がそれぞれ銀貨15枚。フード付き
防水レザークロークは銀貨16枚。、フィンガーレスレザーグロー
ブは銀貨6枚、ウエストバッグはおまけしとくよ!此処までで、合
計金貨3枚と銀貨67枚。そこに、容量10のアイテムバッグが3
つ、1つ金貨12枚だから、金貨36枚。総合計金貨39枚と銀貨
67枚だね!﹂
にこやかに価格を言う武器屋の主人の言葉を聞いて、マルガとマル
コが固まった。
﹁そ⋮そんなに⋮アイテムバッグは高いのですかご主人様?﹂
カクカクとした変な動きで言うマルガがとても可愛い!マルコも同
じ様にカクカクしている。
﹁ま∼ね。アイテムバッグ自体が、良いマジックアイテムだからね。
俺の容量15のアイテムバッグは金貨20枚だったからね﹂
897
俺の苦笑いに、まだ固まっているマルガにマルコ
﹁勿論⋮まだまだおまけして貰うけどね!その前に、武具の鑑定も
お願いするよ。その料金も含めて、交渉しようね店主!﹂
俺の言葉に苦笑いしながら、先日アノ悪魔達の宝箱から取得した、
武具と金貨10枚を出す。
それをじっくりと調べて、魔法で鑑定していく店主。
その顔は、驚きに満ちていた。
﹁おいおい⋮何処でこの武具を手に入れたんだい?この武具3つ全
て⋮Aランクの武具だぞ!?﹂
主人は俺に驚きの声を上げ、感嘆している。Aランクの武具は、こ
の港町パージロレンツォでも、滅多に見かけない代物。それが3つ
もあるのだ。名剣フラガラッハも俺達が持っている事を知っている
主人は、只々口を開けて俺を見ていた。
とりあえず主人にこっちの世界に帰ってきて貰い、武具の内容を聞
く。
﹁まずは、この2つ有る爪だが、コイツは大熊猫の双爪だな!Aラ
ンクの武器で、土属性の魔法で強化されてるな。コイツをつければ、
そこそこ力も上がるだろう。そして、この小さい盾だが、コイツも
Aランクの防具だ。風妖精のバックラーだな!風の魔法で強化され
ていて、多少の魔法の攻撃や、弓矢などは、風で跳ね返すだろう。
良い盾だな!﹂
それを聞いたマルガとマルコは、高く売れると思ったのだろう。嬉
しそうに良かったね∼っと言い合っている。
俺は、その大熊猫の双爪と、風妖精のバックラーを手に取る。
﹁はいマルガ。この大熊猫の双爪は、マルガが使って。そして、風
妖精のバックラーはマルコね﹂
898
俺がそう言いながら、マルガとマルコに手渡すと、キョトンとして
いる。
﹁⋮この武具は売らない。マルガとマルコに使って貰らう。きっと
役に立つから⋮﹂
そう言って微笑むと、マルガとマルコは瞳を潤ませながら、
﹁ほ⋮本当に、こんな高価な武具を⋮私が使ってもよろしいのです
か?ご主人様﹂
﹁ウンウン。Aランクのマジックアイテムなら⋮金貨何百枚になる
んじゃ⋮﹂
嬉しさを隠しながら、俺に遠慮して聞き返す、マルガにマルコ。
﹁さっきも言った通り、きっと役に立つ。マルガとマルコのね﹂
そう言いながら優しくマルガとマルコの頭を優しく撫でると、2人
は俺に飛びついてきた。
﹁私この武具で、必ずご主人様の役に立ちます!ありがとうござい
ますご主人様!﹂
﹁オイラも、きっと葵兄ちゃんと、マルガ姉ちゃん、リーゼロッテ
姉ちゃんの役に立つよ!ありがとう!﹂
グリグリと頭を擦りつけてくる、可愛いマルガとマルコの頭を撫で
ながら微笑むと、2人は武具を見せ合って、とても嬉しそうにキャ
キャとはしゃいでいる。そんなマルガとマルコに微笑んでいると、
﹁良かったな、嬢ちゃんに坊や。で、話の続きなんだが、この最後
のローブは⋮此れはAランクの防具だが⋮呪われた代物だな⋮。常
闇のローブ。闇属性で強化された物で、自分の気配を消せたり、精
霊四属性に耐性があったりするが⋮呪われているから⋮装備出来ん
な。⋮魔族なら装備出来るが⋮。うっかり装備したら、教会に行っ
899
て光属性の魔法で、呪いを解いてもらわないとな。⋮此れは買取価
格も⋮観賞用だから安いぞ?﹂
その言葉を聞いて、ニヤっと笑う俺を見て、その表情で理解した、
頭の回転の早いリーゼロッテが
﹁そちらのローブも、持って帰りますわ。高く売れないなら、飾っ
ておきます﹂
そう言って、にこやかに微笑むと、常闇のローブを俺に手渡すリー
ゼロッテ。
俺のアイテムバッグに、早々となおしてしまった。本当に⋮回転が
早いねリーゼロッテ。
俺は半分魔族の血が入っている。その血のお陰で、呪われた品でも
装備出来る。
それをアノ会話で、一瞬にして理解したのだリーゼロッテは。本当
に回転が早い⋮
俺とリーゼロッテが微笑み合っていると、少し不思議に思いながら
も、主人は話を続ける。
﹁じゃ∼最後の、この魔金貨10枚は、金貨14枚で買わせて貰う
よ。それでいいかな?﹂
﹁そ⋮そんなに高く売れるんですか!?その⋮金貨⋮﹂
マルガは魔金貨10枚が、金貨14枚になった事に驚いている。
この世界の金貨は、5ヶ国金貨と呼ばれており、大国5つが共同で
作り、監視、管理して作っている。
5ヶ国金貨や銀貨、銅貨は魔法で作られていて、金銀銅の含有量が
決められている。
この魔法は強力で、奴隷契約魔法や、ネームプレートに使われてい
る、制約魔法と同じで、複製出来ない。水につける事で、文様が浮
かびだし、それで本物かどうか簡単に区別出来る。
900
地球では偽紙幣の規制はイタチごっこだが、この世界は魔法でソレ
が完全に封じ込まれていて、偽金貨などは出回っていない。本当に
魔法は凄いよね!
そして、この5ヶ国金貨は、地球で言うところの18金で作られて
いるのだ。
魔金貨は、魔物が持っている金貨を指し、何処の世界の物かは解ら
ないが、24金で作られている。
金は多額の関税がかかるが、魔金貨には掛からない。なので高額で
売れるのだ。
しかし、数は少なく、滅多に手に入る物でも無いのだが。
俺がソレを説明すると、マルガモマルコも、なるほど∼っと頷いて
いた。
﹁じゃ∼鑑定代も含めて、交渉しようか﹂
俺のニヤっとした笑いに、ドキっとしていた店主だったが、マルガ
の持っている大熊猫の双爪を見て、何かを思い出したのか、ニヤっ
と笑う。
そして、武器の積まれた箱を、ガサガサしだし、ある物を取り出し
て、マルガの頭につけた。
俺はそれを見て、時間が止まってしまった。
﹁ムハハハハハッ!!!!こ⋮此れは!!!!﹂
﹁フフフどうだい?お前さん好みだろう?﹂
ニヤニヤしながら言う店主。
マルガの頭には⋮可愛いパンダの耳が取り付けられていた。
ワーフォックスのハーフであるマルガの耳は、人間族と同じ位置に
付いている。
なので、別の亜種族とは違い、頭の上に耳が付いている訳では無い
のだ。
901
何時か⋮ネコミミをマルガに付けて⋮エッチッチーな事をプレイし
ようと思っていたけど⋮
こんな所で、パンダの可愛い耳コスに出会えるとは!!!!!
俺がハアハアしながらマルガを見ていると、ニヤニヤと笑う店主
﹁どうだ?凄いだろう?この大熊猫の耳はBランクの装備でな。水
の魔法で強化されていて、多少気配に敏感になれる。ま∼防御力は、
普通のレザーキャップと変わらんがな。どうだ?﹂
主人の説明に、俺はマルガに大熊猫の双爪も付けさせる。
﹁ムハハハハハ!!!!﹂
な⋮なんなのこの可愛さ!ヤバイ!!!
キツネちゃんなのに、パンダ装備って!!!このギャップと、アン
バランスさがなんとも!!!!
幼女体型の超美少女のマルガに似合い過ぎてて、怖いよママン!!!
俺がその様にハアハアしていると、リーゼロッテが溜め息を吐きな
がら
﹁店主。ソノ大熊猫の耳は売れ残りでしょ?冒険者は男の人が多い
し、女性も成人が多いですから、売れなかった⋮のでしょう?﹂
リーゼロッテの流し目に、ギクっとなっている店主は苦笑いをしな
がら
﹁ま⋮ま∼その通りなんだがな。でも⋮ご主人はかなり喜んでいる
ようだけど?﹂
俺のハアハアっぷりに、再度溜め息を吐くリーゼロッテ。
そんなハアハアしてマルガを見ている俺を見て、マルガは嬉し恥ず
かしと言った表情をして
﹁似合いますか?ご主人様。私⋮可愛いですか?﹂
902
そう言って、可愛くポーズを取るマルガ。
﹁うん!最高です!もうね⋮可愛すぎる!﹂
ハアハアしている俺を見て、嬉しそうに金色の毛並みの良い尻尾を
ブンブン振っているマルガ。それを見て、顔に手を当てて、少し呆
れているリーゼロッテー。
﹁此れだけじゃないんですよね?主人﹂
マルガにハアハアして役に立たなくなった俺の代わりに、リーゼロ
ッテが交渉をしてくれている。
強敵のリーゼロッテに交渉相手が変わった事で、ギクっとなってい
る主人だったが、ハアハアしている俺を見て、また何か思い出した
のか、ある物を取り出した。そして、それをリーゼロッテに付ける。
それは、防具では無かったが、赤い豪華な革で出来ていて、その横
に蝶の細工が施してある、一級奴隷専用のチョーカーだった。
気品高い蝶の飾りのついたチョーカーは、凛としているリーゼロッ
テに、凄く似合っていた。
﹁リーゼロッテ⋮すごく綺麗だよ。凄く似合ってる⋮﹂
俺がリーゼロッテに見惚れながら言うと、顔を赤くして嬉しそうな
リーゼロッテ。
そんな俺とリーゼロッテを見て、ニヤっと笑う店主
﹁このチョーカーもおまけだ。どうだ?﹂
﹁此れで結構です!﹂
二つ返事をしてしまった俺に、呆れているリーゼロッテー。
﹁⋮主人。上手くやりましたね⋮﹂
﹁アハハ。俺も商売が長いからな!相手が何を好むか、すぐに解る
よ!﹂
903
笑っている主人に、流し目を送りながらも、嬉しそうに首のチョー
カーを摩っているリーゼロッテは、内心で凄く喜んでいるのが解っ
た。
﹁じゃ∼鑑定は、1つ銀貨3枚で、銀貨9枚!此れはおまけしてや
ろう!それら全部で、39枚と銀貨67枚!魔金貨の買取が金貨1
4枚。差し引き、金貨25枚と銀貨67枚でどうだ?﹂
﹁⋮はい、それで、お願いします⋮﹂
マルガを見てハアハアしながら、リーゼロッテを見惚れながら言う
俺に、満足そうな表情な店主。
リーゼロッテとマルコは顔を見合わせて、苦笑いしていた。
俺は店主に料金を支払い、品物を受け取る。
マルガもマルコもリーゼロッテも喜んでくれた様で、それを見てい
る俺もニマニマしてしまう。
すると、マルガが、何かを見つけた様で、俺の袖を引っ張りながら、
﹁ご主人様⋮あれはなんですか?﹂
マルガの指さす方を見ると、人形の様な物が2体転がっていた。
俺も不思議に思い、店主に問掛ける
﹁店主。アノ人形の様な物は何なの?﹂
俺の問いかけに、ああ∼っと軽く溜め息を吐きながら、ソノ人形の
様な物をテーブルの上に置く。
それは、何かの鉄製の2体の人形だった。鉄製でも、細工は素晴ら
しく、フリルの付いたゴシック人形と言った所だ。
﹁こいつはな、Aランクの武器なんだが、使える者が居なくて、俺
がこの店に勤めだした前からの売れ残りらしい。ざっと40年は売
れていない物なんだ﹂
﹁そんなに!?Aランクなら結構な価格になるでしょ?﹂
904
﹁まあそうなんだがな。この双子人形は魔力を使って操るんだけど、
上手く操れる人が居ないんだ。しかも、召喚武器で、一度契約しち
まったら、死ぬまで他に売れないからな。観賞用にするには少し気
味が悪いだろう?だから40年間も売れ残ってるんだよ﹂
はあ∼っと溜め息を吐く店主。
俺は少し興味が出てきた。ふと横を見ると、マルガも興味津津だっ
た。
﹁主人⋮ちょっと触っても良い?﹂
﹁ああいいよ。ただし、余り指を動かさないでくれよ?大暴れしち
まうからな﹂
店主の注意を聞いて、2つ有るリングを手につける。
すると指先から、魔力の糸が出て、2体の人形に繋がる。準備出来
た様だ。
慎重に、少しずつ指を動かすと、カタカタと2体の人形が動いて、
パタっと倒れてしまった。
﹁難しいね店主。此れは⋮売れないのが解るよ﹂
﹁だろう?強力な武具らしいんだが、使える人がねえ∼﹂
﹁ハイハイ!私もやってみて良いですか?﹂
マルガの猛アピールにプっと吹きながら、いいよと言うと、嬉しそ
うにリングを手にはめるマルガ。
しかし、俺と同じ様に、カタカタと動いて倒れて、起き上がらす事
すら出来無かった。
それを見てシュンとしているマルガの頭を優しく撫でると、可愛い
舌をペロッと出してはにかむ可愛いマルガ。
そんな俺とマルガを見ていたリーゼロッテが興味が出たのか、
﹁わたしもやってみてよろしい?主人﹂
﹁ええ。どうぞどうぞ﹂
905
店主の言葉に微笑むと、リーゼロッテはリングを手に取ろうと、触
った瞬間
﹁キャ!!!﹂
少し可愛い、驚いた声を出すリーゼロッテ。
﹁ど⋮どうしたのリーゼロッテ。大丈夫?﹂
﹁ええ⋮このリングを触った瞬間、体中に電撃が走ったもので⋮﹂
リーゼロッテは困惑しながら、2個のリングを両腕にはめていく。
そしてリーゼロッテの指先から、魔力の糸が伸び、2体の人形に繋
がる。
﹁では動かしてみますね﹂
リーゼロッテはそう言うと、指先を動かし始める。
すると、2体の人形は、まるで生きているかの様に動き出した。
クルクル回ってお辞儀をしたり、走って少し飛び上がったり、2体
がバラバラに動いていて、まるで普通の子供がはしゃいでいる様に
感じれる位の動きだった。
﹁す⋮凄いな!ソノ人形をそこまで操れる人を、初めて見たよ!﹂
驚きながら言う店主は、それを呆然と見つめる。俺はその時ふと思
い出した事があった。
﹁リーゼロッテ⋮ちょっとネームプレートを見せてくれる?﹂
﹁ネームプレート⋮ですか?﹂
俺の言葉に、不思議そうな顔をしていたリーゼロッテだが、素直に
見せてくれる。そして、そのリーゼロッテのネームプレートを見て、
俺の考えが核心に変わる。
﹁店主。この人形貰うよ。金貨10枚で良い?﹂
906
﹁金貨10枚!?この人形は、Aランクのマジックアイテムで、強
力な物なんだ。そんな価格じゃ売れないよ﹂
﹁でも、40年間売れ残ってるんだろ?なんか俺の奴隷が、そこそ
こ遊べるみたいだし、買ってあげても良いけど?﹂
その言葉に、う∼∼んと唸っている店主
﹁いや⋮せめて金貨50枚は欲しいな。40年間売れ残ってるにし
てもさ。それにそこのエルフさんは、結構扱えているみたいだしな﹂
﹁金貨50は高すぎだね∼。いくら内の奴隷が扱えていると言って
も、余興で見せれる程度のもんだろ?戦闘に使えるかは疑問だね。
それに金貨50は高いね金貨15枚。此れなら買って上げてもいい
よ?それとも、また40年間、不良在庫として抱える?今金貨15
枚で売った方が、売上になるんじゃない?﹂
俺の言葉を聞いた主人は、俺をチラッと見る。そして、軽く貯め息
を吐き、
﹁だめだな。金貨25枚が限度だ。此れ以上は無理だね﹂
﹁そうか⋮なら諦めるよ。買い物も済ませた事出し、そろそろ帰ろ
うか﹂
そう言って皆を帰らす様に言うと、主人の眉はピクっと動く。
そして帰ろうと出口に向かう所で、店主が声を掛けてきた。
﹁金貨20枚!﹂
﹁高い金貨15枚﹂
﹁ムウウ⋮金貨17枚!﹂
﹁ダ∼メ。金貨15枚﹂
そのやり取りを聞いていたリーゼロッテはクスっと笑うと
﹁では間を取って、金貨16枚ではどうでしょう?﹂
その言葉を聞いた店主は、ハア∼っと深い溜息を吐く
907
﹁金貨16枚、これでどうだ?﹂
﹁金貨16枚⋮買った!﹂
俺のニコっと笑う顔を見て、若干呆れている店主。
﹁商談成立ですね﹂
ニコッと笑うリーゼロッテを見て、俺と店主は苦笑いしていた。
﹁良い買い物したね﹂
﹁よく言うよ。一杯買った上に、不良在庫を買ってあげたんだよ?
感謝して欲しいよ?﹂
俺の微笑みを見て、フフフと笑う店主。
ソノ人形の代金を払い、店主に挨拶をして、店から出る。
そして、道の隅に移動すると、リーゼロッテが
﹁葵さん上手く行きましたね﹂
フフっと可笑しそうに笑うリーゼロッテー。
﹁そうだね!こんなリーゼロッテに合うAランクのマジックアイテ
ムの武器が、金貨16枚だからね!しかも、覚醒職業付きなんだか
ら、此れ以上の物は無いね!﹂
そう言って微笑み合っている俺とリーゼロッテに、マルコが不思議
そうに
﹁ねえねえ、覚醒職業って何?金貨16枚も使って、この売れ残り
の人形に価値が有るの?﹂
マルコの言葉に、マルガもウンウンと頷いている。
﹁そうだね。じゃ∼説明してあげる。まずはリーゼロッテー。ネー
ムプレートを開いて、見せてあげて﹂
908
俺の言葉に、微笑み頷くリーゼロッテは、ネームプレートを開く。
﹃名前﹄ リーゼロッテ・シャレット
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ハーフエルフ
あおい
そら
葵 空 遺言状態 所
165㎝ 体重 47㎏ B84/W54/H74
﹃年齢﹄ 18歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ ドールマイスター
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃その他2﹄ 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、
所属チーム無し
﹃その他3﹄ 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し
﹁ええ!?リーゼロッテ姉ちゃんの戦闘職業が、ドールマイスター
ってのになってる!﹂
909
﹁ご⋮ご主人様!此れはどう言う事なんですか!?﹂
マルガとマルコが、ねえねえと縋る様に聞いてくる。
﹁これは、覚醒職業だね。とある条件、状況、環境、資質、経験、
技能等のそれらが揃った時に、ほんの極僅かだけど、特殊な戦闘職
業を開花させる人がいるんだよ。それを、覚醒職業って言うんだよ﹂
そう、リーゼロッテがリングに触った時、電気が流れた様な感覚が
あったと言っていた。
以前ギルゴマから、そう言う事もあると、何かの時に話を聞いてい
た。
それを思い出して、リーゼロッテのネームプレートを見た時に、ド
ールマイスターとなっていたのを見て、核心したのだ。開花したの
は、リーゼロッテのレアスキル、器用な指先があった事だからだろ
うと想像している。
﹁じゃ⋮この人形⋮リーゼロッテ姉ちゃんにとっては、絶対に居る
ものだったの?﹂
﹁そういう事。でもこの人形、40年間売れていないとはいえ、A
ランクのマジックアイテムだからさ、ちょっとリーゼロッテと演技
を⋮ね﹂
そう言って微笑むと、ニコっと微笑みリーゼロッテは
﹁それをすぐに解ったので、人形を操るのを、戦闘では使えないだ
ろう位まで、落としましたの。あれ以上、上手に操れたら、価格を
高くされてしまうかもしれませんでしたから﹂
﹁そう。アノ店主にそれに気がつかない様にね。Aランクのマジッ
クアイテムは、相場は金貨100枚から200枚だからね。40年
間売れ残っていてくれて、助かったよ﹂
それを聞いたマルガとマルコは、口をポカンと開けていた。
910
﹁とりあえず、取得スキルも見せてくれる?﹂
﹁はい⋮葵さん﹂
リーゼロッテは取得スキルも見せてくれる。
﹃現取得スキル 合計8﹄
﹃アクティブスキル 計4﹄ 細工LV18、 調合LV
薬師LV18、 人形劇LV1
17、
﹃パッシブスキル 計3﹄ エルフの加護︵高感応力︶、 ドール
の知識、 ドールマイスターの魂
﹃レアスキル 計1﹄ 器用な指先
﹁凄いです!スキルが新しく追加されてます!﹂
興奮気味に言うマルガの頭を優しく撫でる。
﹁人形劇に、ドールの知識、ドールマイスターの魂か⋮良し!また
ちょっと、訓練場に行こう!どんな物か見てみたいしね!﹂
俺の言葉に、再度特殊訓練場に移動する。
﹁じゃ∼今度はマルコ。練習用の武器を持ってきて。リーゼロッテ
は、その2体の人形と契約をしてね﹂
俺の言葉通りに、マルコは武器を取りに行き、リーゼロッテは2体
の人形と契約をする。
店主に貰った、契約の方法の書いた羊皮紙通りに契約の手順を踏む
と、2体の人形が輝きだし、リーゼロッテの体の中に吸い込まれる。
それを武器を取ってきたマルコと、俺の隣にいるマルガは、目を丸
くして見つめていた。
911
﹁リーゼロッテ⋮契約出来た?﹂
﹁はい⋮葵さん⋮よく解ります⋮アノ人形達が⋮私の体の一部にな
った事が⋮此れが召喚武器⋮﹂
感動しながら、両手を見つめるリーゼロッテ。
﹁じゃ∼マルコ。リーゼロッテと手合わせしてみようか﹂
﹁うん!リーゼロッテ姉ちゃんの人形が、どんな事出来るのか楽し
みだ!﹂
マルコは軽いステップを踏みながら、片手剣とバックラーを構える。
リーゼロッテはマルコから離れた場所に立ち、2体の人形を召喚す
る。
﹁おいでなさい!私の可愛い人形達!﹂
その言葉に、俺の銃剣2丁拳銃のグリムリッパーの様に、一瞬で現
れる2体の人形達。
ソノ人形達は、空中に、フワフワ浮いていた。
﹁ええ!?ソノ人形って、空中に浮けるの!?﹂
﹁はい。魔力で操っていますからね。因みに⋮この子たちの名前は、
白い方がローズマリー。赤い方がブラッディーマリーです﹂
そうリーゼロッテが言うと、空中でクルリと回り、綺麗にお辞儀を
する、ローズマリーとブラッディーマリーの2体の人形。それはま
るで、生きているかの様な動きだった。
﹁じゃ∼手合わせを始めようか。リーゼロッテもマルコも準備は良
い?﹂
俺の言葉に頷くリーゼロッテとマルコ
﹁では⋮始め!!﹂
俺の言葉が終わるやいなや、ローズマリーとブラッディーマリーの
912
2体の人形は、高速でマルコに向かって飛んでいく。そしてマルコ
の傍で、別々に別れ、違う方向から攻撃をはじめる。
﹁うわあああ!﹂
マルコは声を出して、何とかローズマリーとブラッディーマリーの
攻撃を躱している。
そして、一瞬距離を取るマルコ。
﹁早いねリーゼロッテ姉ちゃん!避けるので必死だったよ!﹂
マルコは驚きながら言うと、ニコっと微笑むリーゼロッテは、
﹁ありがとうマルコさん。でも⋮ローズマリーとブラッディーマリ
ーは、こんな事も出来るのですよ?﹂
そう言ってニコっと微笑むと、ローズマリーとブラッディーマリー
の両腕が開き、そこから剣が出てきた。それを見てゾッとした表情
をするマルコ
﹁此れがこの子たちの武器です。両手の双剣⋮怪我はさせない様に
操りますので⋮行きますよマルコさん!﹂
リーゼロッテはそう言うと、ローズマリーとブラッディーマリーを、
常に反対側からマルコを攻撃させる様に、イヤラシイ攻撃をするリ
ーゼロッテ。
ソノ人形の早さと、2体の人形から同時に、死角から攻撃される事
で、避けるのが精一杯であった。
﹃ムウウ⋮凄い。流石はAランクのマジックアイテムだ。早さは勿
論の事、あんな死角からの攻撃ばかりされたら、動きが掴めないね。
ま⋮リーゼロッテが賢しいって事なのかもしれないけど⋮﹄
マルコは、ローズマリーとブラッディーマリーの2体の人形に翻弄
されて、浮き足立っている。
913
﹁マルコ!相手は人じゃないよ!相手は只の武器!﹂
俺がマルコにそう叫ぶと、ハっとした顔をするマルコ。
その背後から、ローズマリーとブラッディーマリーが襲いかかる。
それを回転しながら避けるマルコは、
﹁リーゼロッテ姉ちゃん!ごめんね!!﹂
そう叫んだ直後だった。リーゼロッテが可愛い声をあげる
﹁キャッ!!!﹂
リーゼロッテは声を上げ、地面に蹲ってしまった。リーゼロッテの
足元には、4つの練習用の、刃の無い投擲ナイフが落ちていた。
マルコは、ローズマリーとブラッディーマリーの攻撃を躱した瞬間、
回転しながらリーゼロッテに見えない位置から、投擲でナイフを4
本リーゼロッテに向かって投げていた。
リーゼロッテは見えなかったナイフに、両肩と両手を射られて蹲っ
てしまったのだ。
ローズマリーとブラッディーマリーは、ガチャンと音をさせて、地
面に落ちていた。
﹁はい!そこまで!マルガ、リーゼロッテを回復させてあげて﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
ハイ!と元気良く返事をして、テテテとリーゼロッテの傍に行き、
リーゼロッテを治癒魔法で回復しているマルガ。するとマルコが俺
の元に帰って来た
﹁お見事だねマルコ。アノ攻撃を躱しながら、4つも投げるのは流
石だね﹂
﹁葵兄ちゃんの言葉が無かったら、やられてたかも。相手は武器。
倒す相手はリーゼロッテ姉ちゃんって事に、気がつけたからさ!﹂
914
ヘヘヘと照れながら笑うマルコの頭を優しく撫でると、ニコっと微
笑んでいる。
そこに、回復の終わったマルガとリーゼロッテが帰って来た。
﹁流石はマルコさん。全く見えませんでしたわ﹂
﹁オイラだってヒヤヒヤだったよリーゼロッテ姉ちゃん!﹂
微笑み合っているリーゼロッテとマルコ。
﹁リーゼロッテは、如何に攻撃しながら、自分を守れるかを、考え
ながら練習だね﹂
﹁はい葵さん。良い教訓になりました﹂
マルガとマルコの頭を撫でながら言うリーゼロッテ。
その時、昼刻の6の時を告げる鐘が鳴った。
﹁おお!もうそんな時間なんだね。明日、リーゼロッテの魔法の適
性を調べるとして、今日はもうレストランテに夕食を食べに行こう
か﹂
﹁ハイ!ご主人様!私⋮お腹ペコペコです∼﹂
可愛い声を上げながら、お腹を擦るマルガに、一同が笑う。可愛い
舌をペロッと出して、はにかむ可愛いマルガに癒される。
俺達は訓練場を後にして、レストランテに向かうのであった。
レストランテで夕食を食べた俺達は、それぞれの部屋に帰ってきて
いた。当たりはすっかり夜の帳が下り、夜空を星星が彩っている。
部屋でくつろぎ、紅茶を飲みながら、楽しそうなマルガとリーゼロ
915
ッテを見て、俺は朝我慢していた欲望が、沸々と沸き上がってきた。
﹁マルガ⋮そろそろ⋮体を拭く準備をしてくれる?﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮﹂
そう言って、準備をはじめるマルガの顔は、赤くなっている。
オレの隣に座っているリーゼロッテも、顔を赤らめている。
いつもの様に、俺に隠れて着替えているマルガの、スルスルと言う
着替える音が、なんともじわりと、性欲をかきたてる。暫く、リー
ゼロッテの肩を抱き、エルフ特有の長くて綺麗な耳を、甘咬みして
楽しんでいた俺の背後から声が掛る
﹁ご主人様⋮用意が出来ました⋮﹂
その声に振り向くと、マルガの可愛い姿が目に入り、俺を歓喜に染
める。
今日のマルガは、足首まで有るシースルーのローブの様な物をはお
り、紐のようなものを体に巻きつけただけで、胸や秘所は丸見えだ。
その体に巻き付いている紐と、首につけている赤いチョーカーが、
なんとも言えない淫靡は姿を醸し出している。
﹁今日も可愛いよマルガ⋮こっちにおいで⋮﹂
俺が手を差し伸べると、嬉しそうに尻尾をパタパタさせて、俺の手
を掴むマルガ。
グイっと引き寄せると、マルガの顎を掴み、マルガの口の中に舌を
捩じ込んでいく。
マルガの可愛い口の中を犯しながら、舌先で見つけたマルガの舌を、
十分に堪能する。
そして、同じ様に引寄さた、リーゼロッテの顎を掴み、リーゼロッ
テの口に吸い付き、舌を忍ばせると、マルガとのキスを見て我慢し
ていたのか、俺の舌に絡めてくるリーゼロッテの舌が、甘く柔らか
い動きで俺の舌を味わっている。
916
﹁今日はね、リーゼロッテからも血を貰う。いいかな?﹂
俺がそう言うと、静かに微笑み頷くリーゼロッテ。
俺はリーゼロッテにも、全てを打ち明けている。魔族を激しく嫌う
エルフの血を引くリーゼロッテだが、俺の説明を聞いても、パソコ
ンの画面を見せても、瞳を一切揺れさせる事は無く、ただ、﹃そう
ですか﹄と、優しく微笑むだけで、他に何も言わなかった。
マルガ同様、そんな事はどうでも良いと言う気持ちが、その微笑み
から読み取れるリーゼロッテが愛おしくて、ギュっと抱きしめてし
まった程だ。
今も静かに微笑みながら、何の嫌悪感も示さないリーゼロッテが愛
おしくて、ギュっと抱きしめていると、マルガがギュっと抱きつい
てきた。
﹁ご主人様⋮マルガも⋮ギュっとしてください⋮﹂
瞳を揺らして、凶悪な可愛さで上目遣いをするマルガに我慢出来無
くなって、リーゼロッテ同様、ギュッと抱きしめると、嬉しそうに
キュっと抱き返してくれるマルガも愛おしい。
﹁今日ね⋮マルガがリーゼロッテの体を拭いてあげて⋮﹂
俺がニヤッとしたがら言うと、意図が解ったマルガは、悪戯っぽい
微笑みを浮かべると、
﹁はい⋮リーゼロッテさんを綺麗にしちゃいますね⋮ご主人様﹂
艶かしい微笑みを湛えると、リーゼロッテの服をゆっくりと脱がし
ていくマルガ。
美少女が美少女の服を脱がす行為を見て、俺のモノは既にピクピク
と大きくなっている。
程なくして、一糸纏わぬ、美しい体をさらけ出すリーゼロッテの裸
体に見惚れていると、マルガが石鹸水を絞った布でリーゼロッテの
917
体を拭いていく。
﹁マルガ⋮きちんと口も使ってリーゼロッテを拭いてあげるんだよ
?﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮﹂
俺の言葉に、顔を赤くしているリーゼロッテと、マルガ。
﹁⋮んんあっはん⋮マルガさん⋮そこ⋮気持ち良いです⋮﹂
マルガに脇の下を舐められながら、体を拭かれているリーゼロッテ
は、体を捩れさせながら、マルガの舌を感じている。
﹁リーゼロッテもマルガを綺麗にしてあげて⋮勿論、舌も使ってね
⋮﹂
俺の言葉に、その金色の透き通る様な綺麗な瞳を、艶かしい色に染
めるリーゼロッテは、もう一枚の石鹸水を絞った布でマルガを拭き
ながら、舌を使ってマルガを舐めて行く。
﹁⋮っつっっはんん⋮リーゼロッテさんの舌⋮気持ち良いです⋮﹂
マルガもリーゼロッテの舌のに脇腹や胸の周りを舐められて、身を
捩れさせている。
﹁もう大体綺麗になったね。布は使わずに⋮舌だけでお互いを綺麗
にするんだ﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテとマルガは、抱き合って、お互いの
体に舌を這わせている。
俺とは違う女性の舌使いに、体を捩れさせて、甘い吐息を吐くマル
ガとリーゼロッテ。
その2人の、ライトグリーンと金色の女神の美しさと、艶めかしさ
は、今迄見た物の中で、一番美しかった。
我慢出来無くなった俺は、2人の女神を強引に引き寄せる。
918
マルガの口に吸い付き蹂躙して味わい、リーゼロッテの口に吸い付
いては蹂躙して味わう。
交互に味わえる喜びに浸り、今度はリーゼロッテとマルガの顎を掴
み、互いにキスをさせる。
﹁⋮うんん⋮マルガさんの舌⋮甘いわ⋮とても柔らかくて⋮気持ち
良いですわ﹂
﹁⋮あんん⋮リーゼロッテさんの舌も甘いです⋮柔らかくて、優し
い動きで⋮私も気持ち良いです⋮﹂
互いに舌を舐め合っているマルガとリーゼロッテを見て、我慢出来
無い俺は、その間に入っていく。
﹁3人でキスをしよう⋮ほら⋮舌で味わって⋮﹂
俺が舌を出すと、マルガとリーゼロッテの顔が近づき、俺の舌を2
人で吸い始める。
3人でキスするのが、こんなにも気持ち良いものとは知らなかった
俺は、暫く我を忘れて、マルガとリーゼロッテを堪能する。
すると、マルガとリーゼロッテは俺のピクピクと脈打っているモノ
を掴み、優しく愛撫する。
﹁ご主人様⋮私⋮もう⋮﹂
﹁私も欲しいです⋮葵さん⋮﹂
俺の物を掴みながら、可愛くおねだりするマルガとリーゼロッテに、
心を鷲掴みにされた俺は、リーゼロッテをベッドに優しく寝かせる。
﹁マルガ⋮今日はリーゼロッテからね。昨日初めてを奪った所だし、
血を吸うのも初めてだから⋮いい?﹂
﹁はい⋮先にリーゼロッテさんの血を吸って上げてください。リー
ゼロッテさんにも、ご主人様のモノを、気持ちの良いモノだと⋮膣
に解らせてあげてくださいです⋮﹂
919
そう言って優しくキスをするマルガ。
俺は仰向けになっているリーゼロッテに覆いかぶさる。
﹁リーゼロッテ。初めては痛かったでしょ?初めての処女喪失の顔
が見たかったから、優しくしなかったけど⋮今日からは⋮俺のモノ
を⋮気持ちの良いモノだと⋮膣と子宮で解らせてあげる﹂
そう耳元で囁いて、リーゼロッテの膣口にモノを持っていく。
そして、一気に根本まで、抉じ開ける様にリーゼロッテの膣の中に
入っていきながら、リーゼロッテの首元に牙をつきたて、血を啜る。
﹁っんはああああああああ!!!﹂
リーゼロッテは大きな声を上げ、体を捩れさせた。その口からは、
激しく甘い吐息を漏らしていた。
その表情は快楽に溺れて恍惚に浸っていた。
ヴァンパイアに血を吸われると、SEX似た強い性的快感が得られ
る。この快感が忘れられなくてわざわざヴァンパイアに、血を吸わ
れる事を望む者も多々居る。
今のリーゼロッテは全身が性感帯のようになっている。何をされて
も気持ち良いだろう。
昨日処女を奪ったばかりで、まだ膣にモノを入れられるのは痛いは
ずだが、俺が腰を振るとリーゼロッテは甘い吐息を撒き散らせなが
ら、俺のモノを可愛い膣で味わっているのが解る。
﹁葵さん!昨日と⋮全然違います!!!気持ち良い⋮気持ち良いで
す葵さん!﹂
身を悶えさせながら、甘い吐息混じりに言うリーゼロッテ。
﹁膣の中も気持ち良いでしょ?血を吸いながらしたらこうなるんだ。
⋮もう、リーゼロッテの可愛い膣は、俺のモノを気持ち良いものと
して認識したはずだよ。今度からは、血を吸わないでも気持ち良い
920
からね﹂
そう聞かされたリーゼロッテの顔は歓喜に染まる。
﹁嬉しい⋮葵さんのモノをそう認識した、私の膣と子宮が⋮喜んで
います!!!もっと⋮葵さん⋮もっと⋮欲しいです!﹂
﹁うん!一杯犯してあげるリーゼロッテ!!﹂
俺はリーゼロッテの腰を掴み、リーゼロッテの体を激しく揺さぶり、
腰を叩きつける。激しく出入りする俺のモノを、リーゼロッテの可
愛い膣は喜ぶように蜜を垂らしてキュっと締め付けてくる。
リーゼロッテは恍惚の表情に浸り、俺のモノを激しく求める。
俺はリーゼロッテの豊満な胸に口を持って行き、その乳房に牙を立
て、血を吸いながら、乳首を転がしていく。
﹁ううんんんん!!!!﹂
その強い快感がリーゼロッテに襲いかかっているのか、激しく身を
悶えさせるリーゼロッテ。
その透き通る様な金色の美しい瞳を、快楽に染めて、俺のモノを欲
しがり、自分から腰を振っている可愛いリーゼロッテ。
﹁リーゼロッテさん綺麗です⋮ご主人様に犯されて⋮凄く⋮気持ち
良さそう⋮﹂
マルガの喉から絞り出した様な声が聞こえる。マルガは、我慢出来
無くて、自らクリトリスを触り、快楽に浸っている。
俺はマルガとリーゼロッテに、膣には俺以外を入れる事を禁止して
いる。
なので、自らも膣の中に指を入れる事は出来無いのだ。マルガとリ
ーゼロッテの膣の中を味わえるのは俺だけ⋮
﹁葵さん⋮私⋮また⋮来ます⋮私⋮﹂
血を吸われながらが初めてのリーゼロッテは、もう我慢の限界だっ
921
た様で、モノを咥えている腰を擦りつけながら、おねだりしてくる。
﹁解ったよリーゼロッテ!思いっきりイカせてあげる!﹂
俺はリーゼロッテの腰を掴み、激しく叩きつけ犯す。リーゼロッテ
は甘い吐息を撒き散らしながら、俺の口に吸い付き、舌を舐め回し
ている。俺もリーゼロッテの舌を味わいリーゼロッテに唾を飲ませ
ながら、激しく犯すと、リーゼロッテの体が小刻みに震え、一気に
弾ける。
﹁葵さんイキます!イカせて貰います!!!イク⋮イク!!!!﹂
俺の舌を味わい、唾を美味しそうに飲みながら叫んだリーゼロッテ
は、絶頂に達する。
あまりにも膣がキュンキュンと締め付けるので、俺もそのまま快楽
に身を任せ、リーゼロッテの子宮の奥の奥に、染みつける様に、精
を注ぎ込む。
リーゼロッテは下の口から精子を注がれ、上の口から俺の唾を飲ま
され、両方の口で、俺を堪能している。
リーゼロッテを十分に堪能した俺は、膣からモノを引き抜くと、ヌ
ロロロと糸を引いて、とてもイヤラシイ。それを見ていたマルガは、
もう我慢出来無かったのであろう。俺のモノに吸い付く様に、口に
咥えるマルガ。
﹁⋮ご主人様の精液と⋮リーゼロッテさんのイヤラシイ愛液の味が
します⋮美味しい⋮﹂
丹念に舐めまわすマルガの愛撫で、忽ち元気になる俺のモノ。
俺はリーゼロッテを横に寝かせ、その隣にマルガを寝かせる。
マルガの膣口にモノを持って行くと、マルガの可愛い膣口は、パク
パクと口を開けていた。
そんな可愛いマルガの膣口にモノを押し当て、乱暴に、一気に捩じ
込む様に入っていく。
922
それと同時に、首元に牙を立て、細く折れそうな首から血を啜る。
﹁うはあああああんはああああ!!!!﹂
マルガは大きな声を上げ、一瞬で恍惚の表情を浮かべるマルガ。
マルガも血を吸われている快感と、俺のモノで犯されている快楽の
2つに襲われ、全身を桜色に染めて、俺のモノを求めていた。
﹁ご主人様!!!気持ち良いです!!!マルガは⋮気持ち良いです
!!﹂
マルガは犯されながら、両足をギュっと俺の腰に絡め、俺の全てを
受け入れ様としている。
﹁マルガさん⋮可愛い⋮マルガさんの可愛い膣が⋮こんなに拡がっ
て⋮葵さんのモノを美味しそうに⋮﹂
少し回復してきたリーゼロッテが、瞳をトロンとさせながら、マル
ガを見つめている。
﹁そうでしょ?マルガは可愛いんだよ⋮だから⋮リーゼロッテもマ
ルガを可愛がってあげて⋮﹂
俺の言葉に、小悪魔の様な、艶かしい微笑みを浮かべるリーゼロッ
テは、俺とマルガの繋がっていいる部分に顔を持って行き、出入り
している俺のモノと、マルガの可愛い膣口を、舌で舐め回していく。
﹁うはあああんんっつんん!!!リ⋮リーゼロッテさん!!!リー
ゼロッテさんの舌が!!﹂
俺に犯され、リーゼロッテの舌で秘所を愛撫されていいるマルガは、
激しく身を悶えさせる。ぴくぴくと体を小刻みに震え出させる。リ
ーゼロッテと俺の情事を見て、自分で慰めていたマルガは、ずっと
我慢していたのか、快楽に飲み込まれ様としていた。
923
﹁ご主人様!イキます!!!!イカせて頂きます!!!!ご主人様
⋮大好き!!!!!!!﹂
マルガは甘い吐息を撒き散らしながらそう叫ぶと、体を大きく弾け
させる。
マルガの可愛い膣がキュウウっと俺のモノを締め付ける。リーゼロ
ッテの舌で、一緒に舐められている事もあって、激しい快感が俺の
体を走り、マルガの可愛い子宮に直接精を注ぎ込む。
大きく肩で息をしている俺とマルガに抱きつくリーゼロッテ。
俺はマルガの膣からモノを引き抜くと、そのままリーゼロッテの頭
を抑え、リーゼロッテの口の中にモノを含ませる。
﹁リーゼロッテ⋮綺麗にして⋮そして味わって。綺麗にしたら、ま
たリーゼロッテを犯して上げるから﹂
俺の言葉に歓喜の表情を浮かべるリーゼロッテは、俺のモノについ
ていた精液と、マルガの愛液を味をうと、俺に両足を広げて、綺麗
な秘所を両手で広げる。
リーゼロッテの膣口からは、先程の俺が注いだ精が、トププと流れ
ていた。
そんなリーゼロッテが堪らなく可愛くて、一気にリーゼロッテに入
って犯していく。
﹁うはああんんんっはんん!!!﹂
大きく身を捩れさすリーゼロッテ。そして乳首に牙を立て、血を啜
りながら、リーゼロッテの乳首を堪能する。
﹁まだまだ寝かせないからね⋮マルガにリーゼロッテ。一杯血を吸
いながら、犯してあげる﹂
その言葉に、マルガもリーゼロッテも、喜びの表情を浮かべる。
俺とマルガ、リーゼロッテは、何度も激しく求め合い、犯し、眠り
につく。
924
俺達の港町パージロレンツォでの日々は、幸せに包まれて過ぎてい
くのであった。
925
愚者の狂想曲 25 追憶の金色の妖精 ︵前書き︶
リーゼロッテ視点のお話です
926
愚者の狂想曲 25 追憶の金色の妖精 ﹁リーゼロッテ⋮僕だって君との事は考えている。だが、ハーフエ
ルフである君の事を許して貰えるには、まだまだ時間が掛るんだ。
⋮それを解って欲しい﹂
﹁⋮解っていますわオーレリアン。貴方の立場が解らない程、私は
馬鹿じゃないつもりです﹂
﹁⋮良かった。賢い君の事だ。きっと解ってくれると、思っていた
よ⋮﹂
オーレリアンは優しく呟くと、私の肩に両腕を回そうと伸ばします。
その両腕を躱した私に、オーレリアンは戸惑いの顔を向けます。
﹁⋮今日はもう帰ります。なんだか疲れたみたい⋮﹂
﹁リーゼロッテ!僕は君の事を愛している!それは本当だ!﹂
村に歩き出す私の背後から、オーレリアンの声がしましたが、私は
振り返らずに、そのまま村に向かいます
﹁明後日も此処で待ってる!君に逢いに来るからね!﹂
ソノ声にも振り向きたくない私は、村に向かって足早に歩きます
此処は、フィンラルディア王国の外れ、エルフ族が統治する国であ
るアールヴヘイムとの国境近くにある、小さな村セルネ。人口10
0人弱の小さな村ですが、両親を無くした私を引き取ってくれた村
長をはじめ、温かい人達が暮らす小さな村です。
私の父は人間族。母はエルフ族。昔、森の中でケガをした母を、父
が助けた事により、2人は恋に落ちた。
元来、人間族を下等な種族であると、見下しているエルフ族にとっ
927
て、人間族との婚姻は、喜ばれるものではありません。両親に反対
された母は、駆け落ち同然で、父の元に嫁ぎました。
そして、父と母は愛を貫き結ばれ、私が生まれました。私は優しい
父と母、村の人達に囲まれて、すくすくと大きくなって行きました。
しかし、私が8歳の時、父が狩りの途中で、崖から転落して死んで
しまいました。
悲しみの染まっていた私を、優しく癒してくれる、母や村人。そん
な母も、私が12歳の時に、流行病でこの世を去ってしまいました。
失意の底に沈んでいた私を、村の長であるルイゾン村長が、私を引
き取って育ててくれました。
村の人も優しくしてくれたお陰で、私の心の傷も癒え、幸せに過す
事が出来ました。
純血のエルフである、オーレリアンと出会ったのは、ちょうど母を
病気で無くした頃。
私が母の死を悲しみ、一人で森の中を彷徨っている時に、たまたま
森で遊んでいたオーレリアンが、私を見つけて慰めてくれたのが最
初です。
優しくしてくれるオーレリアンに好感を覚えた私は、歳も近い事も
相まって、すぐに仲良くなりました。
それからは、度々森の中で一緒に遊び、その月日の中でお互いに好
意を持つ迄に至りました。
オーレリアンは身長も180cmあり高く、容姿も端麗で、性格も
優しく、非の打ち所の無い人です。
別にそう言う所だけが好きになった理由ではありませんが、気に入
っているのも確かです。
しかし、オーレリアンはエルフ族の中でも高貴な家の生まれ、行く
行くはエルフ首長会に名を連ねる事になる人。卑しい人間との間に
928
生まれた、ハーフエルフである私との恋愛関係など、彼の家は望ん
でいないのです。
私も18歳。エルフは長寿で200年近く生き、ハーフエルフであ
る私もまた長寿ですが、人間の世界で生活している私は、そろそろ
結婚を考えたらと、村の人によく言われます。
その事をオーレリアンに話をしたら、結婚して欲しいとオーレリア
ンから言われました。
私もオーレリアンの事が好きだったので、その言葉を信じ、オーレ
リアンに全てを任せる事にしました。
しかし、彼の家はハーフエルフである私を歓迎する訳は無く、結婚
の話は脆くも頓挫してしまいました。オーレリアンとこの話をする
様になって、早2年。
彼の事は好きなのでしょうが、一向に進まぬ話に、私は戸惑いを覚
えているのも事実でした。
オーレリアンの家の事も考えれば、時間が掛るのも理解できる。私
達エルフは長寿だし、時間もある。
でも⋮私の心の中が晴れる事はありませんでした。
そんな時に、あの出来事が起こったのです⋮
﹁ルイゾン村長!大変です!!!﹂
私と食事を取っていたルイゾン村長の元に、村人がけたたましく扉
を開いて入って来ました。
﹁どうしたのじゃ?とりあえず落ち着いて話してみよ﹂
﹁そ⋮それが!!!!ブドルイの一家が、病で倒れたのですが、そ
の症状が⋮キンキケ病にそっくりなのです!!!﹂
﹁な⋮なんじゃと!?﹂
村人の話を聞いた、ルイゾン村長と私は、驚愕してしまいます。
929
キンキケ病⋮伝染病の一種で、感染してから潜伏期間は短く、すぐ
に発症して、症状を出します。
発症してからは光熱が続き、そのまま治療せずに放っておけば、約
40日前後で死に至る危険な伝染病です。自然治癒はする事は無く、
治療しなければ、死んでしまう病です。
感染率も高く、一人の発症者が出ると、忽ち広がっていく、厄介な
伝染病でもあります。
しかし、唯一の救いは、特効薬を飲めさえすれば、3日位で完治す
る伝染病。
でも、その特効薬は非常に高価で、富裕層しか直せない、伝染病で
も知られています。
私とルイゾン村長は、村人に連れられて、ブドルイの一家の家に向
かいます。
そこには、高熱を出し、苦しんでいる一家の姿が有りました。
ブドルイの一家の症状を見た、ルイゾン村長の顔色が変わります。
﹁この赤い斑点に、高熱⋮間違いないの⋮キンキケ病じゃ⋮﹂
その苦悶の顔を見つめる私も、事の大きさが理解出来ました。
﹁ど⋮どうしますか村長!﹂
﹁と⋮とりあえず、ブドルイの一家の家には近寄るな!村人にもそ
う伝えよ。キンキケ病は、すぐに伝染る。村の皆に感染ってしまっ
ては⋮村はおしまいじゃ⋮﹂
ブドルイの一家を見捨てる様なその発言に、私は一瞬戸惑いました
が、村中にキンキケ病が広がってしまったら、それこそ一大事。特
効薬を買うにしても、資金の蓄えの少ないこの村では無理な事。
私と村人は村長の言葉に頷き、ブドルイの一家の家に、水と食料を
置き、その場を立ち去りました。
930
しかし、事態は私達が思っているより、深刻に進んでいきます。
翌朝には、数件の家の者達が、キンキケ病に発症してしまいました。
既に、キンキケ病は、村に広がっていたのです。
その事を理解したルイゾン村長は、この村の領主であるチェルソ男
爵に救援を求める為、使いの者を立てる事にしました。
私と村の数少ない戦闘職業に就いている人が使者に選ばれ、チェル
ソ男爵の住む街、ベルブルスに向かう事になりました。
ベルブルスの町は、このセルネの村より早馬で2日。
私と護衛の村人は、ベルブルスの町に急ぎ向かい、領主の館に到着
しました。
門番にセルネの村から来た事を伝え、ルイゾン村長からの書状を渡
すと、暫く待つ様に伝えられ、門の外で待っていると、一枚のルイ
ゾン村長宛の書状を手渡されました。
私達はその書状を持ち、急ぎ村に帰ります。
その間も、キンキケ病は進行していた様で、次々と村人達が病にか
かり、倒れて行きました。
私は、チェルソ男爵から託された書状を、ルイゾン村長に渡します。
そのチェルソ男爵からの書状を読んだルイゾン村長の顔は、苦悶に
歪みます。
﹁なんと慈悲の無い事をお考えなのだ!チェルソ男爵は!!!﹂
手紙をギュっと握り締めるルイゾン村長は、その顔を怒りに染めて
いました。
私が理由を問いただすと、チェルソ男爵は、此れ以上の被害の拡大
を防ぐ為に、村を魔法で焼き払い殲滅する。一人も村からは出さな
い。但し、ルイゾン村長の家族のみは、ベルブルスの町に避難を認
める。手紙の内容は、この様なものでした。
931
チェルソ男爵は、キンキケ病の村人に掛る特効薬の費用を出すのが、
嫌だったのでしょう。
この村は小さな村。領民100程度の被害で、多額の出費と、伝染
病が抑えられるのなら、その方が良いと判断したのでしょう。
領民の生活は領主に左右されます。領主の判断は絶対。
善政しく名高い大貴族も居ますが、この領地の領主、チェルソ男爵
はどうやら違った様です。
ルイゾン村長は、苦悶の表情を浮かべながら、手紙を蝋燭で燃やし、
机から一本の短剣を取り出し、それを私に手渡しました。
﹁その短剣は、昔私と共に冒険をした、とある方から頂いた物じゃ。
私の数少ない親友と呼べる方からの⋮。リーゼロッテ!その方の所
に、書状を書くので、行って貰えるか?﹂
私は静かに頷き、ルイゾンソ村長の書状を携え、護衛の者と共に、
村を出立しました。
私達が向かっているのは、フィンラルディア王国の大貴族である、
六貴族、モンランベール伯爵家が治める大都市、工業都市ポルトヴ
ェネ。
色んな工業を中心とした工業都市にある、モンランベール伯爵家の
館に向かっています。
大都市に目を奪われながらも、モンランベール伯爵家の館に到着し
た私達は、門番に話をします。
何者か解らない私達の事を、最初は取り合ってくれなかった門番で
すが、私が門番に、モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフ卿の
親友からの使いである事を説明し、この短剣をランドゥルフ卿が見
てくれれば解ると説明し、ここで貴方がランドゥルフ卿に伝えなけ
れば、貴方はソノ大きな罰を受けるであろう事を説明すると、渋々
932
ではあるが、門の中に短剣を持って入って行きました。
暫く待っていると、戻ってきた門番から、館に入る様に言われ、執
事服を来た男性が、私達を館の中に案内してくれました。
館の中は、今までに見た事の無い、豪華な作りで、美しい装飾品だ
らけでした。
まるで⋮何処かの神様が住んでいる様な場所⋮
その様な事を思いながら、一際豪華な扉の前まで案内されると、執
事服の来た男の案内で、部屋の中に入っていきます。
そこはどうやら、この館の接見室の様で、赤く豪華な絨毯の敷かれ
た、大きな部屋でした。
その一番奥に、豪華な椅子に座る一人の男性が居ました。
男性は歳の頃は50台だが、その眼光はとても鋭く、衰えている様
な印象は全くありません。
逆に歳を取るたびに、磨き続けられた印象を受ける偉丈夫でした。
その鋭い偉丈夫が、その口を開きます。
﹁私がモンランベール伯爵家当主、ランドゥルフだ。この短剣⋮確
かに私の友人である、ルイゾンに授けたの物だ。お前達はルイゾン
の使いの者なのだな?﹂
全てを射抜く様な、鋭い眼光に、一瞬躊躇いそうになりましたが、
私は心を落ち着かせて、丁寧に挨拶をして、ルイゾン村長からの書
状を、ランドゥルフ卿に手渡します。
その書状を読んだランドゥルフ卿の眼光は、一層きつく光ります。
﹁この⋮書状に書かれている事は⋮真実なのだな?﹂
その短い言葉の中に、恐ろしいまでの威厳を感じながら静かに頷く
と、顎に手を当てて、何やら考えているランドゥルフ卿。そして、
呟く様に、
933
﹁⋮まずいな⋮﹂
その顔は、顰めっ面で、決して良い事を考えている表情では無いと
気が付きました。
﹁ラ⋮ランドゥルフ様⋮﹂
﹁うむ解っておる。確かに私はルイゾンの友人であり、助けてやる
のも吝かで出は無い。だが⋮ルイゾンの村が、チェルソ男爵領⋮つ
まり、アーベントロート候爵に属する者だと言うのがな⋮﹂
﹁そ⋮それは、どういう事なのですか?ランドゥルフ様⋮?﹂
私の問いかけに、手紙をギュっと握り、一際鋭さを増す眼光のラン
ドゥルフ卿。
ランドゥルフ卿は、静かですが、重みのある声で、説明をしてくれ
ます。
このフィンラルディア王国は大国で、50に近い貴族が居て、それ
ぞれが、派閥を形成しています。モンランベール伯爵家と、村の領
主であるチェルソ男爵は、相反する派閥の者同士だったのです。
そのチェルソ男爵が組みしているのが、アーベントロート候爵家。
アーベントロート候爵家は、このモンランベール伯爵家と同じく、
大きな力を持った六貴族の内の1つ。話し方から、アーベントロー
ト候爵家とは、友好的な関係では無い事が、容易に想像出来ました。
﹁つまり⋮同じ力を持った六貴族同士の問題がお有りなのですね?﹂
﹁貴様!!!ランドゥルフ様に対して、失礼であるぞ!!!﹂
﹁よい!!⋮私の簡単な説明だけで、全てを理解したか。流石はエ
ルフ。なかなかに賢しいな﹂
私の言葉に憤慨した共を、一瞬で押さえつけたランドゥルフ卿は、
鋭い眼光を向けながら、ニヤッとその口元をあげる。
暫しの沈黙の後、顎に手を掛けていたランドゥルフ卿は、私を値踏
みする様に見ると、
934
﹁⋮全く手が出せ無い訳でも無い。が⋮それにはエルフ⋮お前の協
力が必要になる。⋮お前は、村の為に⋮ルイゾンの為に⋮なんでも
する覚悟はあるか?﹂
私の事を今までで一番きつい瞳で見るたランドゥルフ卿。
その凍る様な瞳に、余程な覚悟が居ると、瞬時に解りました。私は
静かに目を閉じます。
私の事を⋮優しく支えてくれた村人達⋮何時も支えてくれた⋮ルイ
ゾン村長⋮
ソノ瞳の中を、今迄の事が過ぎって行きます。何時でも私に笑顔を
くれた人達⋮
私は⋮助けたい⋮村人を⋮ルイゾン村長を⋮ごめんなさい⋮オーレ
リアン⋮
ゆっくりと瞳を開けた私は、もう迷いはありませんでした。
﹁はい!私は村の為、ルイゾン村長の為に、全てを捧げます!如何
様な事も、お受けします!﹂
私のはっきりとした口調と眼差しに、覚悟を感じ取ってくれたので
しょう、ランドゥルフ卿はフっと軽く笑い、私にネームプレートを
見せる様に言いました。
私は全て包み隠さず、秘密にしないでランドゥルフ卿に見せます。
﹁ほう⋮レアスキル持ちか⋮持っているスキルも有用だ。見た目は
エルフの中でも飛び抜けているし⋮頭の回転も早いか⋮﹂
私にネームプレートを返却するランドゥルフ卿は、ニヤっと悪魔の
様な微笑みを浮かべます。
ソノ表情に、身が凍りそうになりますが、しっかりとランドゥルフ
卿を見返すと、
﹁⋮まず、キンキケ病の特効薬を、村人分揃え、すぐに村に向かわ
935
せる﹂
﹁ですが⋮チェルソ男爵様が、素直にランドゥルフ様の支援を受け
てくれるか⋮﹂
﹁フフフ。本当に賢しいなエルフよ。その通りだ、まず断るであろ
う﹂
﹁では⋮どうなさるおつもりなのですか?﹂
私の問いかけに、身も凍る様な眼光を向けて、ニヤっと笑うランド
ゥルフ卿は
﹁うむ。そこで、村からお前⋮つまり上級亜種であるエルフのお前
を、買う事にする。魔力を持つエルフ族の奴隷など、滅多に居らぬ。
しかも、レアスキルを持ち、有用なスキルもあり、尚且つ、容姿端
麗のエルフの中でも、飛び抜けて居るであろうその美貌。村からお
前を買えば、村人分の特効薬の費用は捻出出来るであろう。それに
⋮お前は、男を知らぬであろう?処女は更に高く売れるからな﹂
ランドゥルフ卿に男を知らない事を、簡単に見破られた恥ずかしさ
もあったが、私はある程度予測していたその答えに、たじろく事は
無かった。
﹁フフフ。私の話を聞いて、その顔が出来るとは⋮気も強いのだな
エルフよ。私はチェルソ男爵に使いの者を送り、話をしよう。だが、
私からの支援ははきっと断られる。だから、村に帰るお前には、お
前を買う事の、売買契約書を、私の直筆入りで2通持たせる。後は、
ルイゾンの直筆があれば、契約成立に出来る様にな。これで問題無
く、村に代金として特効薬を渡す事が出来る﹂
ランドゥルフ卿はニヤっと笑いながら言う。
しかし、私にはその事で起こりうる懸念があった。私はソレをラン
ドゥルフ卿に、問いかける。
﹁ですが⋮ランドゥルフ様。その様な事をして、チェルソ男爵は黙
936
っておられるでしょうか?﹂
私の問に、面白そうな表情をするランドゥルフ卿
﹁そこまで賢しいと、見上げたものだなエルフよ。普通になにもせ
ず事を進めれば、お前が心配する様な事も起き、ルイゾンは窮地に
立たされるであろう。だが、この私がそうはさせぬ。まず、村の長
には、その村に限り、領主の代理権があたえられておる。簡単に言
えば、代理権を持つるルイゾンが、誰にお前を売ろうが、関係ない﹂
﹁ですが⋮﹂
私の話を片手で遮るランドゥルフ卿はフっと笑うと
﹁先にルイゾンと私が契約してしまえば文句は言えぬ。それに、同
じ事をしようとすれば、それも問題になる。私の策を鵜呑みにする
様な低能と思われるだろうし、しかも、一度は村を焼く決断を、し
ているのであろう?よく考えずに、利益を削る行為をしているのだ。
ま⋮村にお前が居る事など、知らぬであったろうがな。恥の上塗り
になる様な事は出来ぬ様に、私が導く。それに⋮報復などは出来ぬ
よ。村の長の選任は、その領主、つまり、チェルソ男爵がしておる。
ルイゾンのした事は、そのままチェルソ男爵の責になる。何か問題
を起こせば、選任したチェルソ男爵の責ともなる。その様な恥を、
外部には言いたくはなかろう?チェルソ男爵は、何も無かったかの
様に振る舞うだろう。ルイゾンにも、この件は、他言しない様に書
状に書く。チェルソ男爵にもな。約束を違える様であれば⋮と、チ
ェルソ男爵に伝えれば、なんとでもなる。お前が心配する事は無い。
私がやる事をな!﹂
威厳の有る声で言うランドゥルフ卿の顔は、獲物を狩る光に包まれ
ていました。
ランドゥルフ卿は、大きな力を持つ六貴族。この様な事も、星の数
ほど経験しているでしょう。
だから、今でも六貴族のままで、モンランベール伯爵家は居られる
937
と感じました。
﹁それに、チェルソ男爵程度の小物、アーベントロート候爵家から
切り離すなど造作も無い。ま⋮多少の時間が掛るから、村を救うの
には間に合わぬがな。チェルソ男爵は領地も少なく、収入も少ない。
アーベントロート候爵家からしたら、数合わせの様な者⋮相手にな
らぬわ!﹂
その言葉と眼光に、若干の恐れを感じながら、頷いていると、
﹁だが⋮お前は庇いきれぬぞエルフよ?お前を庇護すれば、いかな
チェルソ男爵でも、気分が悪い。私とルイゾンとの関係もあるしな。
お前を買った後は、後腐れなく転売する事になる。資金の回収もし
たいしな。⋮それでも⋮お前は良いと言うのだな?﹂
静かにゆっくりと低い声で言うランドゥルフ卿に、覚悟の決まって
いる私は頷きます。
﹁フフフ⋮それでも尚⋮揺るがぬか⋮。本来なら、お前の様な奴は
手元に置いて、やりたい所なのだがな。縁がなかったな。妾にする
にしても⋮私の家は、亜種族に種はやらぬ﹂
そう言って静かに目を閉じるランドゥルフ卿は、
﹁至急キンキケ病の特効薬を、村人分用意せよ!そして、すぐに村
に向かわせるのだ!書類もすぐに用意せよ!チェルソ男爵に使いを
送るのだ!!﹂
ランドゥルフ卿がそう指示を出すと、瞬く間に行動を開始するお供
達。
﹁⋮来年の春、お前を迎えに行く使いを送る。⋮それまでに別れを
済ませておけ﹂
私の方を見ずに、そう言ったランドゥルフ卿。
938
こうして私は、ランドゥルフ卿の支援を受けて、提案を飲むこ事に
したのでした。
村に戻ってきた私は、全てをルイゾン村長に話します。
その内容を聞いたルイゾン村長は、私に抱きつき、涙を流します。
﹁すまぬ⋮リーゼロッテ。お前に⋮全てを背負わせてしまって⋮﹂
﹁いいのです⋮私はこの村が好きです⋮この村とルイゾン村長の為
になるのなら⋮後悔はしません﹂
私に抱きついているルイゾン村長は、力なく頷く。
程なくして、ランドゥルフ卿の思惑通りに事が進んだのか、村にキ
ンキケ病の特効薬が届き、村は存亡の危機を回避する事が出来まし
た。
当然、村人は私が売られる事は知らず、その事を知っているのは、
ごく一部です。ランドゥルフ卿の指示通りに、私達は動いていまし
たから。
そこから私は、迎えの来る春まで、短い、つかの間の自由を堪能す
る事にしました。
そんな自由の時間はあっという間に過ぎていき、いよいよ明日に、
ランドゥルフ卿の使いの者が到着して、私を連れて行きます。
私は最後の心残りになっている人物に逢っています。
﹁リーゼロッテ⋮どうしたんだい?元気が無い様だけど⋮﹂
優しく私の頬を撫でながら、オーレリアンは言います。
939
﹁ねえ⋮私との結婚の話はどうなりました?﹂
﹁そ⋮その件は⋮まだ少し時間が欲しい⋮﹂
言葉を濁すオーレリアンの感じから、まだまだ良い方向に向かって
いないのが解ります。
﹁⋮そう、オーレリアンの立場を考えたら、当然ですわね﹂
﹁⋮ごめんよリーゼロッテ⋮﹂
そっと優しく肩を抱いてくれる、オーレリアン。その暖かさが、私
の気持ちを激しく揺さぶります
﹁⋮ねえ、何処か2人だけで⋮生活しない?何もかも捨てて⋮二人
だけで遠くに行きません?﹂
私のその言葉を聞いた、オーレリアンの表情が曇る。
﹁そ⋮それは出来無いよリーゼロッテ。君も解っているだろう?僕
は親を引き継いでエルフ首長会に名を連ねる事なる。それを⋮避け
る事は出来無いよ⋮﹂
その顔には、私に解って欲しいと言う様な表情が浮かんでいた。
﹁⋮そうですね。ちょっと言ってみただけですわ。オーレリアンの
立場は良く解っているわごめんなさい﹂
﹁いや⋮いいんだ。賢い君なら、解ってくれていると、信じている
から﹂
そう言って優しく微笑むオーレリアン。
賢い私なら⋮か⋮
その言葉が、私自身を、激しくしめつけます。
﹁そろそろ、村に帰りますわ。また明後日逢いましょうオーレリア
ン﹂
微笑みながらの私の言葉に、優しく微笑むオーレリアンは
940
﹁ああ!明後日また楽しみに、此処で待っているよ﹂
その言葉に、胸が再度締め付けられる。
私は勢い良く踵を返し、村む向かって歩き出す。
﹁さよなら⋮オーレリアン。今迄⋮ありがとう⋮﹂
私を連れ去って⋮欲しかった⋮
その言葉は春の優しい風に誘われ、何処かに流されてしまった。
﹁君がリーゼロッテさんかい?僕は君を迎えに来る様に言われてい
るアロイージオだ。これから、港町パージロレンツォの旅路、よろ
しく頼むよ﹂
私を迎えに来たのは、モンランベール伯爵家の三男、アロイージオ
様でした。
なんでも、公務で港町パージロレンツォに向かう途中で、私を迎え
に行く様に言われた様です。
綺麗な顔立ちのその優男の馬車に乗り、私は一路、港町パージロレ
ンツォに向かうのでした。
旅路の中で、アロイージオ様との会話で、どの様な人物で有るかは、
すぐに解りました。
私の事は何も知らず、客分として迎えに行く様に言われて居た様で
す。
この箱入り感一杯のアロイージオ様は、悪い人ではない。きさくに
誰とでも話をする優しい人だ。
迎えに来てくれた人が、この様な人で良かった。
要らぬ詮索はしないし、普通の会話を楽しめる、アロイージオ様で
941
良かったと思います。
港町パージロレンツォに就くまでのあいだ、気が楽でいられますか
ら⋮
﹁今日はこのイケンジリの村で宿泊するよ﹂
アロイージオ様がそう私に告げます。
このイケンジリの村は、私の居たセルネの村に、凄く似ていました。
100人程の人口、優しい人々、少し違うのは、食べ物が豊富にあ
り、美味しいと言う事でしょうか。
私は故郷のセルネの村に似ている、イケンジリの村で、つかの間の
安らぎを感じています。
そんなイケンジリの村を、アロイージオ様が気に入った様で、予定
より長く、この村に滞在する事になりました。
私は密かに、少しでも自由に居られる時間が増えた事に喜びを覚え、
村でゆっくりとしている時でした。夜の帳が降り始めた時でした。
村の広場で何やら騒々しい声が聞こえてきます。その声につられて、
外に出てみると、一台の荷馬車に人が集まっていました。
﹁お⋮俺達は、行商人です!このイケンジリの村に行商に来たんで
す!﹂
荷馬車の御者台に座っている、黒髪の青年?が、兵士達と何やら言
い合っています。
どうやらこの村に行商に来た商人らしいのですが、間が悪いのか、
モンランベール伯爵家の三男、アロイージオ様が滞在中に来てしま
って、疑われて居るのでしょう。
その様な事を思って居ると、アロイス村長が、荷馬車に歩いて行き
ます。
﹃あのアロイス村長は人格者。あの人が行けば、話は付きますね﹄
私がその様に思っていると、案の定、話はついた様で、荷馬車は村
942
長の家に向かっていく。
その内容を副村長のエイルマーさんから聞いた私は、特に気にする
事も無く、アロイージオ様の元に戻ります。
暫くして、夜も更けてきた事なので、私も宿泊先の家に戻ろうとし
た時でした。
何やら言い争う様な声が聞こえてきたので、そちらに向かうと、モ
ンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊、隊長の
ハーラルト様と、先程の行商人の黒髪の少年?が話をしています。
私は木陰に隠れながら話を聞いていると、どうやら、ハーラルト様
が、あの行商人の連れている少女を、聴取名目で、娼婦に差し出せ
と言っている様でした。
確かハーラルト様は、何処かの酒場で、騎士団を辞めて落ち込んで
いた所を、アロイージオ様に拾われて、今の地位に居ると言ってい
ました。元々実力のある人らしく、新造の第5番隊の長に任命され
たらしいです。
なんでも⋮女癖が悪くて、半ば解雇同然で騎士団を追われたとか⋮
仕事は真面目にして、拾われたアロイージオ様に、恩義を感じてい
て、忠誠心は高いのでしょうが、例の女癖だけは、治らなかった様
ですね。本当に⋮男の人は⋮
そのような事を思いながら見ていると、行商人の黒髪の少年の目が、
みるみる光を増していきます。
その光は、とても危険な光を宿しており、これからする事を暗示し
ている様な危険な光でした。
﹃まさか⋮一夜、あの奴隷の少女を、娼婦として差し出すだけで良
いのに、全てを投げ出してしまうのですか!?な⋮何を考えて!!﹄
私は心の中では警鐘が鳴り響いています。そして、黒髪の行商人の
少年の瞳の輝きが最高になります。
943
ゆっくりと右手を上げ、ハーラルト様に向けます。
それに寒気がした私は、飛び出していました。
﹁もうその辺で宜しいのではなくて?ハーラルト様﹂
思わず声を掛けた私に、皆が振り返ります。
その時に奴隷の少女と視線が合いました。
﹃亜種ですが⋮凄く可愛い美少女ですわね。⋮これなら女好きのハ
ーラルト様が、欲しがるはずですわ﹄
内心、溜め息混じりの気持ちを抱えながら、その奴隷の少女の顔を
見ると、心配そうで放っては置けませんでした。話の内容は、聞い
ていたので理解はしています。
﹃ハーラルト様には悪いですが、此処は私の気持ちを⋮優先させて
貰いますわ!﹄
私はハーラルト様と話し始めます。私は、母や父、そして村長であ
ったルイゾンから色々教えを受けています。この話の流れを如何に
自分に持っていくかなど、容易い事。
相手は、あのランドゥルフ卿では無いのだから⋮当然、程なくして、
私に軍配が上がります。
﹁ええ解っていますとも。ハーラルト様はこの村の為、主であるア
ロイージオ様の為に、取り調べしようとしていた事は解っています
わ。ですが⋮今からその許可を取るとなると⋮一度アロイージオ様
にご相談してもよろしいですか?﹂
﹁いや!アロイージオ様には、私がご相談しておきましょう!﹂
慌てながら、即答するハーラルト様。これ以上は刺激しない方が良
いけど、何も手を出させない為に、私が監視するという名目で、そ
の場を連れ出しました。
944
空と
手を引いて暫く歩いていると、黒髪の行商人の少年に呼び止められ、
お礼を言われます。
私が気にしない様に言うと、自己紹介を始めました。
﹁そういえば、まだ自己紹介をしていませんでした。僕は葵
いいます。こっちは僕の奴隷で、マルガです﹂
﹁ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくで
す!﹂
笑顔で挨拶をする2人に好感を覚えながら、マルガさんと言われた
一級奴隷の美少女の首にある、奴隷専用のチョーカーが目に入り、
私の口は自然と開いていました。
﹁2人共よろしくね。⋮⋮マルガさんは、葵さんの一級奴隷なんで
すか⋮。マルガさん、一級奴隷になると言う事は、どんな気持ちに
なるのですか?﹂
私は心のままに聞いていたと思います。何時もの私なら、絶対にこ
んな事は聞かなかったはず。
でも⋮知りたかった。一級奴隷になると言う事が、どういう事なの
か。
私はもうすぐ、誰か知らない男の人の物になって、同じ様に、性奴
隷の一級奴隷にされる。
それがどの様な事なのか⋮知りたかったのです⋮
しかし、帰って来た答えは、私の予想とは全く違うものでした。
﹁私はご主人様の一級奴隷になれて、とても幸せです!ご主人様は、
一杯優しくしてくれますから!﹂
満面の笑顔で言う、美少女のマルガさんは、嬉しそうに尻尾を振っ
てました。
その幸せそうな顔と言ったら⋮正に幸せの中で生きていますと言う
感じでした。
945
そこに、微塵の虚偽が無いと確信した私は、葵さんを見てしまいま
す。
そこには、先程の鋭い瞳をしたのとはまるで別人の、頼りなく苦笑
いをしている少年の姿が有りました。
﹃見た目も普通⋮先程の瞳は鋭かったけど⋮見間違いだったのかし
ら?こんな少年の何処が良いのかしら?﹄
私は心の中でそう思いながらも、宿泊させて貰っているゲイツ夫妻
の家に、2人を連れていきます。
事の次第を説明して、挨拶をして、葵さんとマルガさんの仲の良さ
?を少し見せられ、楽しく夕食を終えた私は、部屋に帰って来てく
つろいで居ました。
一人の部屋はとても暗く感じられ、堪らなくなった私は、外に出て
夜空を眺めていました。
﹃とても綺麗な夜空⋮殺伐として⋮輝いていて⋮とても美しい⋮﹄
夜空の星々を見ながら、目を細めていると、どこからか、凄く幸せ
そうな声がします。
何か⋮聞いている此方まで⋮幸せになってしまう様なその声⋮
その声に誘われる様に視線を移すと、どうやら隣の部屋の、マルガ
さんの声が聞こえている様でした。
ふと、葵さん達の部屋の、羊皮紙の張られた窓を見ると、少し隙間
がありました。
私はその笑い声に誘われる様に、その隙間から、部屋の中を覗いて
しまいました。
そこには⋮私の想像を超えたモノが映し出されていました。
一級奴隷のマルガさんの、幸せの絶頂に居る様な笑顔、それを全て
を慈しむ様に、マルガさんを見ている優しい葵さんの瞳。
それは先程の鋭い眼光でもなく、情けない笑い目でも無い、只々優
しい黒い瞳でした⋮
946
その慈しむ優しい瞳に、私の心は揺さぶられます。
﹃あんな瞳で見つめられたら⋮女の子はたまったもんじゃありませ
んわね⋮アノ凄い美少女のマルガさんが、葵さんの事を大好きだと
言うのも⋮頷けますわね⋮﹄
私は軽く溜め息を吐いて、その光景に別れを告げます。その優しい
光景は、今の私には刺激が強く、心が締められてしまうからです。
私は静かにその場所から離れると、夜空を無心で眺めていました。
暫く夜空を眺めていると、背後からカチャっと音がしました。
振り返ってみると、そこには葵さんが微笑みながら立っていました
﹁あら⋮美少女との楽しい時間は終わりましたの?﹂
私の言葉に、苦笑いしている葵さんに、思わず笑いがこみ上げてき
て、悪戯っぽくなってしまいます。
﹁そんなに見つめられたら、恥ずかしいですわ。私の顔に何かつい
てますか?﹂
私の言葉に、顔を赤くする葵さん。性奴隷の一級奴隷を持っている
のに、意外と可愛い所があるのに、思わず微笑んでしまいます。
﹁でも⋮いいですねマルガさんは⋮とても幸せそう⋮。葵さんにと
っても大事にされて⋮優しくされて⋮。羨ましいですわ﹂
思わず本音を言っていました。何故かこの葵さんには警戒心を抱か
ずに話せます。
この人の持っている雰囲気かしら?それとも⋮先程の瞳を見たから?
私がその様な事を思って居ると、
﹁マルガが幸せかどうかは、マルガにしか解らない事なんで、俺に
はなんとも言えませんが、リーゼロッテさんはとびきりの美人さん
なんだし、今迄男達から、沢山求愛されて来たでしょう?美人のリ
947
ーゼロッテさんに声をかける位の男達なら、男としての自信に満ち
溢れている人も多いでしょうし、羨ましいって事は無いのでは?リ
ーゼロッテさんなら凄い幸せを手に入れられそうですが⋮﹂
葵さんが真剣に私に言ってくれました。
話し方が意外としっかりしている葵さんに戸惑いつつも、私は応え
ます。
求愛や好きになった事は有る⋮もう昔の事にしてしまった⋮オーレ
リアンとの事⋮
﹁⋮葵さん。見えている物が⋮思っている事や、考えている事が全
てでは無いのですよ?﹂
そう⋮全てが、見えているものばかりではない。
私は葵さんの隣に移動して、気になっていた⋮心に引っかかって居
た事を聞く事にしました。
﹁マルガさんに、ハーラルト様が、取調べをしようとした時に⋮葵
さん⋮私が止めに入らなければ⋮貴方は、どうなさろうとしていた
のですか?﹂
これが気になっていました。アノ瞳の激しさは普通じゃない。私は
確信を持って、葵さんを見ていると
、フっと軽く笑う葵さんは、
﹁⋮もし、リーゼロッテさんの助けがなければ、俺は⋮ハーラルト
様を殺していたと思います﹂
予想通りの言葉に、思わず唾を飲み込んでしまいます。止めておい
て良かった⋮そんな安堵感が私を包むのと同時に、腹立たしさが湧
いて来ました。
﹁⋮やはりそうですか⋮。幾らマルガさんを守る為とは言え、ハー
ラルト様を殺してしまうと、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ
948
紫彩騎士団、第5番隊の40人近くを相手にする事にもなったはず。
失礼ですが、葵さんに勝てる相手では無いと思います。それでも⋮
マルガさんを守る為に、ハーラルト様の提案を断るつもりだったの
ですか?﹂
至極当然な事を、きつい口調で告げる私を見て、何事もなかったか
の様に、何時もと変わらぬ感じで、
﹁ええ、そのつもりでした。まあ⋮戦って僕一人ならまだしも、マ
ルガを守りながらは無理だとは思っていたので、逃げる事に専念し
ようとは思ってましたけどね。ハーラルト様の提案は、全く受ける
気はありませんでしたね﹂
全く迷いなく言い切る葵さんに、私のいらだちは膨れて行きます。
﹁⋮まあ運良く逃げ切れたとしましょう。しかし、その後はモンラ
ンベール伯爵家だけが敵になる訳ではありません。モンランベール
伯爵家は、大国フィンラルディア王国の大貴族、六貴族の中の一つ。
今度はフィンラルディア王国自体が敵になっていたでしょう。そう
なればどんな事になるか、容易に想像出来る事ですよね?それでも
⋮マルガさんを守る為に⋮そうしたと⋮言うのですか?﹂
私の口元が上がっているのが解ります。たとえ、見栄を張っている
にしても、此処まで言われれば、流石に違う感情が見れるだろう⋮
つまり、嘘で有る事を実感出来るだろうと思ったのです。
﹁そうです⋮たとえそうなろうとも、ハーラルト様の提案は受けま
せん。マルガを渡す気にもなりませんね﹂
﹁⋮そんなの只の自暴自棄。無謀や無茶を通り越して、只の自殺行
為ですわ⋮只一夜⋮マルガさんと貴方が、我慢すれば良い事でしょ
うに⋮そんな事⋮愚者の行為ですよ?﹂
余りに言い切る葵さんに、私は呆れてしまいました。何処迄⋮見栄
を張れば気が済むのか⋮
949
そんな私に葵さんは話を続けます。
﹁それでも⋮自暴自棄でも⋮例え愚者の行為でも、僕はそうしてい
ました。⋮僕はマルガが汚されてしまったら、好きでいられる自信
はありません。恐らく捨ててしまうでしょう。マルガにもこの話は
言っていて、マルガも汚されてしまったら、自ら命を断つとまで言
ってくれるんですよ。あそこで、ハーラルト様の提案を受けていた
ら、マルガは汚され、自ら命を断っていたでしょう。⋮そんな事⋮
許さない。マルガは僕だけ物なんです。ハーラルト様の好きにはさ
せません﹂
﹁ですが!!!﹂
私は流石に我慢出来無くなって、言い返そうとした時に、私の唇に
優しく人差し指を添え、口を塞ぐ葵さんは、
﹁勿論リーゼロッテさんの言う通り、きっとひどい目に合う確率の
方が高いでしょう。と言うか、そっちの方が現実でしょうね。でも
ねリーゼロッテさん⋮それでも⋮例え⋮大国フィンラルディアを相
手にしようとも、魔国が相手であろうとも、全世界の人が敵に回っ
たとしても、俺とマルガがそう望むなら、俺は気にしません。全部
相手にします。俺は⋮大好きなマルガを守る為なら、世界中の人を
喜んで殺します。大好きなマルガを守る為なら⋮どんな犠牲も厭い
ません。この体の動く限り⋮どんな手を使っても⋮大好きなマルガ
を守る為ならね﹂
そうはっきりと言い切る葵さんの瞳は、何者にも揺るぎない、強い
信念と決意がが篭められていました。
その黒く吸い込まれそうな瞳に、思わず心が攫われそうになります。
﹁まあ⋮結局はリーゼロッテさんに助けて貰ったお陰で、そう言う
愚者と呼ばれる行動を取らなくて済んだのですがね﹂
さっき迄の雰囲気を打ち消す様に、優しく微笑むその葵さんの顔に、
950
何故か癒される私。
﹁⋮本当に⋮羨ましい⋮﹂
本音だったのでしょう。喉から搾り出された、魂に近いその言葉に、
私は今までの感情を理解しました
﹃そうか⋮私は⋮マルガさんが羨ましかった⋮私には得られなかっ
た⋮そういう人が居るから⋮﹄
私はそれを認めたくなかったから、こんな事を言ったのでしょう。
誰もが自分の身が可愛い。立場も必要⋮その上で守れるなら、守り
たい。
それが普通だと思っていたから、葵さんに苛立った。
それより上の⋮求める心が有ると⋮認めたくなかったから⋮
﹃そう⋮私には無かった⋮﹄
確かに私は⋮オーレリアンの事が好きだったと思う。でも⋮彼は⋮
そうしてはくれなかった。
この葵さんの様に、全てを捨てて迄、マルガさんを、触らせたくな
い、奪われたくない、連れ去ってでも愛し合いたい⋮その様な事は
してくれなかった。
私はあの時⋮本当は攫っていって欲しかった。でも⋮彼はそうして
くれなかった。
確かに、オーレリアンと、葵さんでは立場も何もかも違う。
でも⋮もし、葵さんが同じ立場なら、私を連れ去ってくれた様に思
う。理由は解りませんが、きっと葵さんなら、そうしていたと思え
てしまう⋮きっと葵さんなら⋮
そのような事を思っていると、私を現実に戻す声がかかりました。
﹁何か言いました?リーゼロッテさん?﹂
その葵さんの苦笑いを見て、意外と可愛いと思ってしまった私は、
951
沸々と湧き上がる感情がありました。
そう⋮嫉妬⋮私には手に入らなかった幸せ⋮
葵さんの優しい表情を見て、悪戯したくなった私は、
﹁いいえ!何も言ってませんわ∼。⋮それより⋮そんな事を私に言
って、良かったのですか?私は仮にも貴方を監視する様に、許可を
貰った者なんですよ?こんな事を⋮ハーラルト様や、アロイージオ
様にご報告したら⋮貴方はどうなってしまうのでしょうね?そんな
事は考えなかったのですか?﹂
それからの軽口の言い合いは、楽しいものでした。
葵さんは挙句の果てに、勘だなんて言われるものですから、思わず
久しぶりに声を出して笑ってしまいました。ですが、次の瞬間、私
の時間は止められます。
﹁でも何故か信じれると思う勘なんですよ。だから大丈夫ですよ﹂
静かに優しくそういった葵さんの瞳は、先程の吸い込まれそうな黒
い瞳で私を見ていました。
思わずその瞳に見蕩れてしまいます。何者にも動じない様な⋮救っ
てくれる様な⋮
﹃⋮私も⋮救ってくれるの?⋮マルガさんを見る様な瞳で⋮見て貰
えたら⋮どんな⋮気持ちに⋮﹄
私は我を忘れて、葵さんの胸に縋り付いていました。
﹁葵さん⋮私⋮実は⋮﹂
そう言いかけた時に、後ろの扉がガチャっと開かれた。それに振り
返る私と葵さん。
﹁ご主人様やっぱり此処でしたか。起きたらご主人様が居なくて⋮。
そしたら、此処からご主人様の声が聞こえたもので⋮﹂
952
そこには寂しそうに葵さんを見つめる、マルガさんの姿がありまし
た。
私は葵さんから離れ、マルガさんに挨拶をして、先に自分の部屋に
帰ります。
アノ2人が部屋に入っていく姿を見たくは無かったから⋮
しかし、部屋に帰って来た私を待っていたのは、酷いモノでした。
マルガさんと葵さんは、そう言う関係なのは知っています。その声
が⋮こちらにも⋮
幸せそうなマルガさんの甘い声が、私の心を掻き毟ります。咄嗟に、
布で耳に栓をして、毛布を頭から被ります。
その事によって静かになった私の心の中に、ふと浮かび上がるモノ
が有ります。
﹃あんな⋮黒く吸い込まれそうな瞳で抱かれたら⋮愛されたら⋮ど
んなに気持ち良いのだろう⋮﹄
そんな事を思ってしまった私は、激しく首を横に振り、体を自分で
抱きしめます。
﹃もう寝ましょう⋮私には関係の無い事なのだから⋮私には⋮手に
入ら無かったモノなのだから⋮﹄
心の中でそう呟きながら、無理やり眠りに就くのでした。
翌朝、少し寝不足気味の私は、葵さんにげんなりした顔を見せてし
まった反省をしながら、港町パージロレンツォに就くまでの短い自
由の時間を楽しむ事にしました。
葵さんに、取引の前に、話があると言われた時はドキっとしました。
予想通り、意外と敏感な葵さんは、昨日の話の続きがしたかった様
953
で、私に聞いてきます。
再度その透き通る様な、黒い瞳に吸い込まれそうになりながらも、
心の中で必死に抵抗した事もあって、葵さんには、気付かれずに済
みました。
本当に意外と敏感なんですから⋮
楽しい時間は、あっという間に過ぎていき、葵さんにマルコさんが
弟子になりたいと言い出す事を、微笑ましく思いながら、時間が過
ぎて行きました。
そして、いよいよ、私達が出立する時が来ました。
最後に葵さんとマルガさんに挨拶出来無かった事が心残りでしたが、
逆に逢えなかった事で、私の心を締め付ける事も無くなった事に、
安堵感も感じていました。
そんな私達の乗った馬車は出立します。
静かな車内で、アロイージオ様が口を開きます。
﹁どうなされました?イケンジリの村を出てから、浮かぬ顔をして
いますが⋮﹂
アロイージオ様の何気ない優しい言葉に、若干の鬱陶しさを感じな
がら会話をしていると、
﹁ひょっとして⋮葵殿の事を考えていたのですかな?﹂
思わず息が止まってしまいました。このアロイージオという人は、
人の心の動きに鈍感な、箱入り感が強かったからです。私が戸惑っ
ていると、
﹁リーゼロッテさんみたいな美人が、葵殿の様な人を好みだとは、
思いもよりませんでしたね。確かに⋮黒い髪に黒い瞳と言うのは、
見た事の無い色と取り合わせですが⋮葵殿は⋮とりわけ顔立ちが良
いという感じでは無かった様な気が⋮﹂
954
何気に悪気なく、サラっと言うその言葉に、私は感情を抑える事が
出来ませんでした。
﹃貴方に何がわかると言うの!?あの葵さんの何を!!!﹄
心の中で、湧き上がる気持ちが、言葉に出てしまいます。
﹁そんな事はありません!葵さんは笑うと可愛いですし、優しい目
をしてくれもします!真剣な時は、その黒い瞳に吸い込まれそうに
なりますし、顔も童顔で可愛い感じですが、悪くはありません!そ
れに、葵さんの魅力は、そんな上辺だけのものじゃないと、思いま
す!﹂
私は全ての感情をアロイージオ様にぶつけた所で、自分が何を言っ
ているのか理解して、顔から火が出そうな位、恥ずかしくなって俯
いてしまいました。
そんな私に、まるで罰を神が与えた様な言葉が降ってきます。
﹁ハハハ。いいのですよ。しかし⋮何時も冷静沈着なリーゼロッテ
さんが、その様に取り乱されるとは⋮葵殿の事が⋮好きなのですか
?今日の出立の折には、体調不良で寝込まれていたらしいですが、
彼も港町パージロレンツォに向かうと、言っていました。すぐに逢
えるでしょう﹂
全く悪気のないアロイージオ様の言葉に、絶望と、困惑が混じって
いました。
﹃私が⋮葵さんの事が好き⋮?⋮いえ⋮確かに笑うと可愛いですし
⋮黒い瞳に吸い込まれそうにもなりますし⋮あの優しい微笑みに癒
されますし⋮って⋮私⋮葵さんの良い所しか浮かんできませんわね
⋮私⋮葵さんに⋮惹かれてい⋮る?﹄
そう自覚した瞬間、絶望の雨が私に降り注ぎます。
955
﹃そう思った所で⋮何もかも遅すぎます⋮もう⋮私は⋮﹄
﹁本当にそんな事になれれば⋮良かったのですけれど⋮﹂
小さく呟いて、どうにもならない事だと、今更ながら自分に言い聞
かせている自分がとても嫌でした。
そんな私達を乗せた馬車に異変が起きます。魔力が充満し、私とア
ロイージオ様は身動きがとれなくなりました。
それと同時に、馬車の外で、怒号が飛びかい、戦闘が始まりました。
沢山の悲鳴が聞こえ、それが少なくなり、やがて聞こえなくなりま
した。
そして、馬車の扉が開けられ、身動きの取れない私達の前に、男が
現れました。
﹁⋮お前が、モンランベール伯爵家の三男、アロイージオか?﹂
そう言う、偉丈夫の盗賊風の男。その男の言葉の雰囲気に、私達が
賊に襲われた事がすぐに解りました。
﹁噂通りの美女のエルフだな⋮可愛いお姫様∼格好良い王子様が迎
えに来ましたよ∼﹂
おどけて言うその男に、私は何も言い返さず見つめていると、私達
は後ろ手に縛られ、馬車から降ろされました。
そこには、見るも無残な姿になっている、モンランベール伯爵家、
ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士たちの姿がありました。
それを目を細めて見ている私達は、何処かに連れて行かれます。
それがあの様なことになるとは今は解っていませんでした。
盗賊団のアジトに連れてこられた私達は、そこによく知っている女
956
の子がいるのに気がついて、私は逆上してしまいます。
﹃マルガさんが何故此処に!?この子は汚されたら⋮自ら命を断っ
てしまう様な子なのに!!!﹄
怒りが止めれない私は、思わず叫んでしまいます
﹁貴方達!この少女にも、酷い事をしたの!?﹂
﹁その亜種の少女には、手を付けていないわ。睡眠薬で眠っている
だけよ。エルフの貴女同様、私達の貴重な商品なのだから﹂
﹁そういうこった。お前達は見目がすこぶる美しい。だから、奴隷
商に売って、俺達の資金にする事にした。だから、大人しくしてる
事だな。さもないと、隣の女達みたいにな目にあって貰う。うちの
野郎どもは、女に飢えてるからな。容赦はないぜ?全ての穴にぶち
込まれ、出されて⋮その横の女達を見たら、よく解るだろう?﹂
その男と女の言葉に、心の中で安堵します。
﹃良かった⋮何もされてないみたいで⋮本当に良かった⋮﹄
心の中で呟いた私は、盗賊団の頭と呼ばれている男と、アロイージ
オ様とのやり取りを聞きながら、暫く様子を見ていました。
この人達は⋮普通の盗賊じゃない⋮傭兵の様な⋮
その様な事を思い観察していると、男達が立ち去ります。私はマル
ガさんの傍に行き、起こします。
﹁マルガさん、起きて下さい。マルガさん﹂
﹁う⋮んん⋮。ご主人様おはようございます∼﹂
可愛い声をあげるマルガさんに、現状を説明すると、顔を蒼白にし
ています。そこに先程の男が帰って来ました。そして、村の女達を
連れていき、犯し始めます。
それに噛み付いたマルガさんが、男と言い合いを始めました。
957
﹁私の大切なご主人様に、手出しなんかさせません!﹂
﹁このアマ⋮。へ!お前の大切なご主人様って奴を、殺すのが楽し
みになってきたぜ!お前の目の前で、いたぶりながら殺してやる!
お前の泣き叫ぶ姿を見るのが、今から楽しみだぜ!﹂
﹁ご主人様は、貴方の様なクズには負けません!私も今から楽しみ
です!きっと貴方は、私のご主人様の逆鱗に触れて、その牙で無残
に殺される事でしょう!クズにお似合いの死に方なのです!﹂
マルガさんの言葉に激昂した男は、マルガさんに斬りかかります。
私は咄嗟にマルガさんに体当たりをして、避けさせましたが、私は
肩を斬られてしまい、血が流れ出します。
﹁こんな事、貴方がしても良いのですか?私達は商品なんでしょう
?その貴重な商品を殺してしまったら、さっきのお頭と呼ばれた男
はどう思うのかしら?きっと貴方に何かの罰を与えるでしょうね。
⋮あの男に殺されるかも⋮?﹂
私の言葉に殺すのを諦めた男は、マルガさんを激しく殴って、奥に
行きます。
マルガさんを見ると、可愛い顔を大きく腫らして、瞳に一杯の涙を
浮かべていました。
これだけ腫れているのです。相当痛かったでしょう。
私がマルガさんに注意をしていると、マルガさんが白銀キツネをみ
つめ、白銀キツネは走り去っていきます。
この時にした事が、明暗を分けていたのを知る事になるのは、ずっ
と後の事になります。
村人の女の人が犯されている中、見覚えの有る男の人が入ってきま
958
す。それはハンスさんでした。
馬に乗せてきた、気絶しているエルマーさんが意識を取り戻すと、
話の全容が見えてきました。
﹃村を守る為⋮私と⋮同じ理由⋮﹄
そう呟きながら、事態を見ていると、盗賊団を裏切っていたハンス
さんが殺され、エイルマーさんが取引を引き継ぐ様になっていまし
た。
そんな鬱屈とした雰囲気の中、白銀キツネが帰ってきます。
そして、マルガさんの視線の先には、黒髪に黒い瞳の少年が立って
いました。
その少年がツカツカとこちらにやって来ます。そして、ニヤッと笑
い、
﹁お前⋮何者だ?此処に何しに来たんだあ∼?﹂
﹁此処に何をしに来ただって?そんな事決まってるじゃないか⋮俺
の奴隷と、知り合い達を返して貰いに来た﹂
男の問に、恐怖を感じていなさそうな葵さんに戸惑いながら、事態
を見守っていると、戦闘が始まります。
しかし、次の瞬間、予想を超えた事が起こります。
召喚武器で、盗賊団を殲滅した葵さんの姿があったのです。
召喚武器は、最低でAランククラスの武器。非常に強力なモノが多
いと聞いていましたが、葵さんがソレを持っていた事は、余りにも
予想外でした。
﹁ご主人様∼∼!!!﹂
﹁⋮マルガ、左頬大丈夫?それに⋮変な事されなかった?﹂
﹁ハイ!大丈夫です!マルガは変な事はされていません!ご主人様
∼会いたかったです∼﹂
959
マルガさんが、力一杯抱きつく姿に、微笑ましく思うのと、嫉妬心
が入り乱れている私は、何とか無理やりソレを押さえつけて、微笑
みます。
﹁意外と⋮お強いんですね葵さんは。ちょっとビックリしました﹂
﹁ハハハ。リーゼロッテさんも大丈夫ですか?酷い事されませんで
した?﹂
﹁私とマルガさんは、奴隷商に売られる予定だったみたいで、酷い
事は一切されていません﹂
﹁ご主人様、リーゼロッテさんが、私を庇ってせいで、怪我を⋮﹂
﹁またリーゼロッテさんに、マルガを助けて貰ったみたいですね。
本当にありがとうございます﹂
﹁マルガ。この傷薬と包帯で、リーゼロッテさんの傷を、治療して
あげて。リーゼロッテさん、マルガに治療して貰ったら、マルガの
左頬に薬を塗ってやってくれますか?俺は他の人の縄を切って来ま
すから﹂
葵さんの顔を見て、やっと安堵できた私達に、さらなる不幸が舞い
降ります。
﹁オイオイ∼なんだこりゃ?ちょっと迎えに行ってる間に、何があ
ったんだ?﹂
どうやら盗賊団の頭が帰って来た様です。
葵さんは盗賊団の頭と戦いを始めます。ですが、手練の盗賊団に為
す術は無さそうでした。
しかし、そんな葵さんに、面白そうな表情で、盗賊団の頭は、とん
えもない事を言い出します。
﹁おい!行商人の少年!どうだ?俺の部下にならないか?お前じゃ
∼俺には勝てないのは、十分に解っただろ?もし、俺の部下になる
なら、お前の奴隷の亜種の少女は、手を付けず、お前の物のままに
960
してやる。お前も、奴隷じゃなくて、俺達の仲間として扱ってやろ
う。勿論、俺の部下だから、俺の命令には従って貰うが、お前の行
商や、利益には手を付けないと、約束してやろう。良い条件だと思
うがどうだ?無駄に命を散らせる事は無いだろう?﹂
その言葉を聞いた葵さんは、固まっています。
当然でしょう。葵さんがここに居るのは、きっとマルガさんのみの
為。
私達はついで⋮そう⋮マルガさんの⋮ついでなのだから⋮
その事を思うと、胸がキュウっと締め付け始めます。
私を見てはくれないであろう、その黒く吸い込まれそうな瞳。
私を見てくれても、どうにもならない現実。
何も出来無い私の現状⋮決意して決別したはずの⋮私の心⋮
それらが渦を巻き、私の心の中を支配して、一色に塗りつぶして行
きます。
﹃きっと⋮葵さんは取引を受けるでしょう⋮1番の目的である、マ
ルガさんの安全が、守られて居るのですから⋮私も⋮葵さんに⋮助
けて貰いたかった⋮﹄
そう心の中で呟いた時、一瞬葵さんと、視線が合いました。
すると、葵さんの黒く吸い込まれそうな瞳は、一瞬、闇夜のネコの
様に真紅に光った様な気がしました。
その暫く後、葵さんはとんでも無い事を言い出します。
﹁俺は⋮お前達と取引はしない!俺はお前達3人に勝って、俺は俺
だけの道を歩む!!﹂
私はその言葉を信じられなくて、唖然としていると、再度盗賊団の
頭の男と、戦いをはじめる葵さん。
しかし、やはり、手練の盗賊団の頭の方が強く、瞬く間に追い詰め
られていく葵さんに、私の心は、もうやめてと叫び始めます。
そのすぐ後でした。今でもその光景は忘れません。もう見たくない
961
ものですから⋮
葵さんの体、心臓をを一突きにして、ニヤッと嗤う盗賊団の頭の顔
が目に入り、大量の血を流して、事切れる葵さん。
﹁いやーーーー!!!ご主人様ーーーー!!!!!﹂
マルガさんは両手で顔を抑えながら、嗚咽混じりに叫ぶと、膝から
崩れ落ちてしまいました。
私は、心の中で、何かが壊れたかの様な錯覚に囚われます。
体か自分の物じゃない感覚に囚われ、瞳から何かが流れだしました。
﹃⋮涙⋮。オーレリアンと別れる時や、ルイゾン村長と別れた時で
さえ出なかった涙⋮ああ⋮そうか⋮私の好きな人が死んだから⋮私
⋮悲しいんだ⋮葵さんの事が⋮好きだったんだ⋮﹄
ソレを理解した私の心の中に、ある感情だけが支配します。
﹁貴方達⋮許さない⋮何時か必ず⋮貴方達の首に、牙を立てて⋮さ
しあげます!﹂
私の全ての言葉でした。許さない⋮たとえ⋮性奴隷に身を落として
も⋮必ず⋮必ず⋮何時か!!
私の言葉を聞いた盗賊団の男は嘲笑いながら
﹁そんな事出来る訳ねえだろ?お前はそこの亜種の少女と一緒に、
奴隷商人に売られ、どっかの金持ちのジジイの慰み者になる運命な
んだからよ!この世な、力なんだよ!力が全て!力の無いお前達は、
俺の言う通りにしか出来無いんだよ!そうじゃないと、この行商人
の少年みたいに、死んじまうんだよ!⋮力が支配するこの世界がな
⋮ひっくり返る事なんか⋮ねえんだよ!﹂
吐き捨てる様に言う、盗賊団を只々睨みつけている、私とマルガさ
ん。
そこに全ての終わりを告げる様な沈黙が訪れ、私とマルガさん以外
962
がソレを受け入れ様とした中で、驚くべき事が起きます。
﹁そうかな⋮?世界は意外と簡単に、ひっくり返るものかもよ?﹂
﹁うわあああ!!!﹂
死んだと思っていた葵さんが、盗賊団の頭を攻撃して、戦闘不能に
しました。
﹁ご主人様!!!!﹂
マルガさんが此れ以上無い位の微笑みを、涙ながらに浮かべていま
す。その表情を見て、私も同じ様に、嬉しさが体中を支配します。
そこからの葵さんの戦闘とマルコさんのお陰で助かった私達は、無
事に村に帰ってくる事が出来ました。ま⋮葵さんの、剣を抜く時の
⋮あの⋮プププ⋮
村に帰ってきた私達は、葵さんを中心として、防御線を張る事にな
りました。マルガさんは昼、葵さんは夜を担当される様です。
私はなんとなく葵さんの傍を離れたく無かったのでずっと一緒にい
ました。
食事をとったマルガさんは、見回りに行かれ、私と葵さんの2人だ
けになりました。
私は2人だけの今の状況が嬉しくて、つい悪戯をしちゃいます。
﹁あ⋮あの⋮リーゼロッテさん?﹂
﹁はい?どうかしましたか?葵さん?﹂
私は寝転が労としている葵さんを、グイっと引っ張って、私の膝枕
の上に寝かせます。
963
﹁いや⋮リーゼロッテさんに、こんな事して貰って⋮いいのかなと
⋮﹂
﹁私の膝枕では⋮ご不満ですか?﹂
私はマルガさんの様な、少し低い膝枕が良いのかと思って、少し悲
しくなりましたが、次の言葉で、ソレも消し飛びます。
﹁いえ!凄くいいです!柔らかくて気持ち良いですし!﹂
﹁そうですか。それは良かったです﹂
嬉しそうに顔を赤らめて、恥ずかしそうにしている葵さんを可愛く
思いながら、
﹁もっとくつろいでくれて良いですよ葵さん⋮﹂
少しの本音を言葉に乗せてみました。すると葵さんは、私のお腹に
顔を埋め、腰をギュっと抱きしめます。私のお腹に葵さんの吐息が
かかり、少しこそばく感じ声を出してしまいます。
﹃私の匂い⋮大丈夫かしら⋮香水をつけているから⋮大丈夫よね⋮﹄
そんな事を考えながら、葵さんに少しでも抱かれて居る気持ち良さ
に、我を忘れてしまいそうになります。そんな私の事を知ってか知
らずか、葵さんは私の足を触っていきます。
太ももからゆっくりと、つま先まで。その足の指も、軽くマッサー
ジする様に触れられます。足の指の間に、葵さんの手の指を入れら
れて、少し身を捩ってしまいます。
﹃気持ち良い⋮他の男の人に触られていると思うと、嫌悪感しかし
ないでしょうが⋮葵さんだとこんなに⋮気持ち良いの?﹄
私はその気持ち良さに身を任せていると、顔の赤い嬉しそうな葵さ
んは、次々と私を気持ち良くしていきます。
太ももに何度もキスをしてくれます。その唇の柔らかい感触が、私
964
をゾクっとさせます。
﹃葵さんの唇⋮柔らかい⋮もし⋮あの黒く吸い込まれそうな瞳で⋮
キスされたら⋮どうなるんだろう?﹄
そんな事を考えながら、葵さんに身を任せていると、顔の赤い葵さ
んと視線が合います。
﹁ゆっくりとくつろいで下さいね。夜迄⋮私の膝の上で⋮﹂
私はそう告げると、葵さんの頭を撫でてしまいました。すると、葵
さんは気持ち良さそうに、寝息を立ててしまいました。私はソレを
残念に思ってしまいます。
私のレアスキル、器用な指先が、この時は少し鬱陶しく思いました。
﹃もう少し⋮葵さんにして欲しかった⋮葵さん⋮貴方は⋮私を初め
て泣かせた、初めての男なのですよ?⋮気持ち良さそうに寝ちゃっ
て⋮﹄
心の底から残念に思う私に、その可愛い寝顔を見せている葵さんに
癒される私。
﹁⋮本当に、意外と寝顔も可愛いのですから⋮﹂
私は愛おしいその寝顔に、優しくキスをする。
私は膝の上で、葵さんを感じながら、夜迄過すのでした。
港町パージロレンツォから騎士団が到着しました。
これで何者にも怯えなくて済む事でしょう。その安堵感が村中を包
んでいます。
葵さんは、騎士団の副団長に報告をして、アロイージオ様は一足先
965
に港町パージロレンツォに向かわれる事になりました。
私は僅かな時間でも、葵さんとご一緒したくて、葵さんに連れて行
って貰う事になりました。
⋮どうにもならない事なのに、矛盾した行動をしている私⋮
その事を思うと胸が軋みますが、今は⋮それに身を委ねたい⋮
安全になったイケンジリの村で、ゆっくりと確実に、その時間は過
ぎていきます。
夕食を食べえた私は、やはり一人で部屋にいるのが耐えれなくて、
ついつい外に出てしまいます。
当たりはすっかり夜も更け、何時も見上げている月が私を照らして
います。
今日も、マルガさんの楽しそうな声を聞きながら、私はその夜空を
眺めて居ました。
どれ位そうしていたかは解りませんが、後ろに人の気配を感じます。
振り返ると、そこには葵さんが立っていました。葵さんは、少し顔
を赤くして、また私の顔を見つめています。それが少し可笑しくて
ついつい笑っちゃいます。
﹁あらあら、もう美少女キツネさんとの、楽しい時間は終わりまし
たの?﹂
私の声に恥ずかしそうな葵さん。私はそんな葵さんに癒されながら、
ずっと気になっていた事を聞いてみました。
﹁⋮葵さん、お聞きしたかった事があるのですが⋮どうしてマルガ
さんを、奴隷から開放してあげないんですか?あんなに好きで、大
切にしている女の子なら、奴隷から開放してあげて、普通の恋人と
して、一緒に居た方が宜しいのではなくて?﹂
此れが聞きたかったのです。あれだけ好きなのに⋮何故⋮
私の言葉に、戸惑いつつもゆっくりと話してくれる葵さん。
966
﹁はい⋮その事は今まで何度も考えました。でも⋮そうする事は⋮
出来無いんです⋮﹂
﹁⋮どうしてですか?マルガさんの事が、大好きなんでしょう?﹂
﹁はい⋮大好きです。大好きだからこそ出来無いんですよ﹂
少し意味の解らない私は、聞き返してしまいます。
﹁俺は⋮マルガが大好きです。それこそ、何を犠牲にしても良い位
に。でもそれと同じ位、マルガを他の奴が汚す事を嫌っています。
マルガが他の奴に汚される、他の奴に心を開く、他の奴に⋮身を捧
げるなんて事は⋮考えられないんですよ⋮そんな事は許さない⋮﹂
ゆっくりと静かに語ってくれる葵さん⋮ああ⋮そうなんですね⋮
私はゆっくりと葵さんの話しを聞いていきます。
どれだけマルガさんの事を好きなのか⋮愛しているのか⋮そして⋮
失う事を恐れて居るのか⋮
その言葉一つ一つが、羨ましく、輝かしく感じる。
そんな風に思って貰えるマルガさんが⋮羨ましい⋮
﹁⋮汚い三級奴隷だったマルガを偶然手に入れて自分の物にし、そ
れを良い事に、世話を焼き恩を売り、マルガを逃げ無い様にしただ
けなんですよ。マルガはそれを勝手に勘違いして、好きと言ってく
れているんです。そんなマルガの気持ちを利用して、好き勝手やっ
て居るんですよ俺は。⋮本来なら⋮高嶺の花であるはずのマルガに
ね⋮﹂
儚く微笑む葵さんを抱きしめたくなる感情を抑え、葵さんが欲して
いるであろう言葉を囁きかける。
﹁⋮俺は最低でしょ?﹂
﹁⋮そうですね⋮最低ですね﹂
私の言葉に、優しく微笑む葵さん。でも⋮葵さんは⋮解っていない。
967
マルガさんがどう思っているのか⋮何が必要で、要らないのか⋮そ
して⋮気づいていない⋮
﹁や⋮やっぱり⋮変ですよね⋮﹂
﹁ま∼確かに変ではありますね。でも⋮葵さんは大切な事を見落と
していますよ?﹂
﹁ど⋮どんな事ですか?﹂
葵さんの戸惑う顔が面白い。ついつい悪戯心が出てしまいます。
﹁⋮最低であり、最高でもある⋮世の中には、そんな事も有るのか
も知れませんよ?﹂
﹁はえ!?ど⋮どう言う意味ですかリーゼロッテさん?﹂
﹁さあ∼?そのうち可愛いキツネさんが、教えてくれるかも?﹂
私は葵さんの戸惑う顔が可笑しくて、クスクスと笑ってしまいます。
本当に可笑しい⋮こんなことをしている自分も⋮そうなりたいと思
っている浅はかな自分も⋮
出来れば⋮私が教えて上げたかった⋮貴方の良さと悪さ⋮そして愛
おしさを⋮
そんな叶わぬ夢をみる私は、滑稽すぎて自分で呆れて、大きは溜め
息を吐いてしまいます。
﹁⋮本当にマルガさんが羨ましいですわ。葵さんにそこまで思われ
ているなんて⋮。あの盗賊団の頭相手に、取引を断り、命を掛け、
全てを捨てて助けちゃう位ですものね。私はあの時、盗賊団の頭の
取引を、葵さんが受け無かった事が理解出来ませんでしたが、よう
やく今納得出来ましたわ﹂
微笑みながら言う私。
そう⋮私にもそうして欲しかった⋮その気持の混じった言葉を羅列
する。
しかし、葵さんから帰って来た言葉は、私の予期していたものでは
968
無かった。
﹁いえ⋮違いますよ?あの取引を受けても、マルガは俺の物のまま
でいられたんです。そりゃ∼多少の理不尽は有るでしょうが、力無
き者はそれに従うのが宿命です。俺はその宿命に従うつもりで最初
は居ました。俺はあの時マルガさえ無事ならそれで良かった。⋮本
心は、マルガの為に、イケンジリの村の人を、切り捨てるつもりで
いましたしね﹂
その言葉に、私は困惑します。
確かに⋮マルガさんの安全は守られていた⋮
葵さんはマルガさんが助かれば、それで良かったはず⋮では⋮何故⋮
疑問の大きくなる私は問いかけます。
﹁で⋮では何故、あの盗賊団の頭の取引を断ったのですか?﹂
﹁それは⋮あのギルスの取引を承諾しようとした時に⋮リーゼロッ
テさんの瞳を見てしまったからです⋮﹂
その言葉に、私の全ての時間は止められてしまいます。
そして、あの時の事を思い出します。
﹃きっと⋮葵さんは取引を受けるでしょう⋮1番の目的である、マ
ルガさんの安全が、守られて居るのですから⋮私も⋮葵さんに⋮助
けて貰いたかった⋮﹄
私はあの時思った事を思い出し、葵さんと瞳が合った事を思ってい
ると、
﹁俺は嫌だった⋮リーゼロッテさんが奴隷商に売られて⋮何処か他
の奴の慰み者にされるのが許せなかった⋮他の奴の慰み者にされる
位なら⋮いっそ⋮俺が!﹂
葵さんが、私の手を握ります。その暖かさが、私の全てを温めてく
れる様な感じがしました。
969
﹁では⋮私の為に⋮取引を断ったと⋮私の為に命を掛けたと⋮。そ
⋮そんな⋮マルガさんを見る様な瞳で⋮わ⋮私を見てくれるのです
か?あ⋮葵さんは⋮私の事が⋮好き⋮なのですか?﹂
﹁⋮解りません。俺はマルガの事が大好きです。でも⋮それと同じ
位に⋮リーゼロッテさんに惹かれて居る自分も居ます⋮だから⋮あ
の時⋮ギルスとの取引を断った⋮リーゼロッテさんを⋮渡したくは
無かったから⋮﹂
葵さんの言葉を聞いた私は、心の全てが、その黒く吸い込まれる様
な瞳に、奪われていくのを感じました。
﹃私の事が⋮好き?⋮葵さんも?⋮私の為に戦ってくれたのですか
?⋮私の⋮私の⋮為に⋮﹄
私はもう止まれませんでした。ただ感情の赴くままに、葵さんに顔
を近づけていきます。
﹁⋮ん⋮うん⋮﹂
私は葵さんにキスをしています。その唇を慈しむ様に⋮私の為に戦
ってくれた愛おしさを込めて⋮
長く長くただ優しいキス⋮葵さんの暖かさが、唇から全身に広がっ
て行く感じがします。
自然と顔を離した私と葵さんは、只々見つめ合っていました。
﹁葵さん⋮私の話を⋮聞いてくれますか?﹂
静かに頷いてくれる葵さん。私は静かに話し始めます。
﹁⋮私は⋮港町パージロレンツォに着いたら、とある貴族の殿方の
物にならなければいけないのです。その為に⋮港町パージロレンツ
ォにある、モンランベール伯爵家の別邸まで、向かう途中の旅路だ
ったのです﹂
970
少し違う⋮本当の事は全部言えない⋮何処が誰かの性奴隷になるな
んて⋮葵さんの前では⋮絶対に言いたくない⋮
﹁そ⋮それは、何処かの貴族と⋮結婚すると言う事ですか?﹂
﹁⋮そうですね。そんな感じですね﹂
結婚じゃない⋮私は⋮私は⋮
﹁リーゼロッテさんは⋮その結婚を⋮望んでいるのですか?リーゼ
ロッテさんは、その貴族の人を好きなのですか?﹂
﹁⋮いえ、望んではいませんし、その人とも、まだ会った事は無い
んです﹂
﹁なら!そんな結婚辞めてしまえばいいじゃないですか!﹂
葵さんの黒く吸い込まれそうな瞳が、必死に私に訴えかけます⋮
葵さんなら⋮私を奪ってくれる?私を何処か遠くに⋮
ダメ⋮それはダメ⋮
葵さんはただの一商人。オーレリアンの様に、力の有るエルフでは
無い⋮
オーレリアンに同じ事をされても、迷惑は掛けますが最終的には多
額のお金を払うだけで済む話⋮
それを出来る力があり、尚且つ財力がある。ソレを葵さんに望んで
はダメ⋮オーレリアンとは違うのですから⋮
葵さんは真実を言うと⋮後の事を切り捨てて、きっと私を連れ去っ
てくれる。
だからダメ⋮マルガさんの幸せを奪う様な事は出来無い⋮でも⋮私
は⋮
﹁此れは私の居た村で、決まった事なのです。私もそれを承諾して
此処に居ます。⋮もし、私が辞めてしまったり、逃げてしまえば、
村に多大な被害が出てしまうのです。⋮ですから⋮辞める事は出来
ませんし、私も辞める事や逃げる事は望みません﹂
971
これでいい⋮私は⋮もう売られる性奴隷なのだから⋮葵さんの幸せ
を⋮マルガさんの幸せを⋮壊せない⋮
でも最後に⋮売られて⋮誰か他の人の性奴隷になる前に⋮葵さんと
の⋮絆が欲しい⋮オーレリアンじゃ無い⋮本当に愛した人との⋮思
い出が⋮
そんな私を見透かす様に、激しいキスをしてくれる葵さん。私はそ
れに包まれ、至高の幸せを感じる。
﹁私は⋮処女で居ないといけません。ですが⋮葵さん⋮私が⋮他の
人の物になる前に⋮私は思い出が欲しい。⋮私に⋮葵さんとの思い
出をくれませんか?私の処女以外を⋮他の全ての初めてを⋮葵さん
に貰って欲しい﹂
私は葵さんの手を取る。そして私の寝室まで連れていく。
葵さんも抵抗は無く。ただ私に手を引かれるだけでした。
﹁う⋮んんっん⋮﹂
寝室に入った瞬間、葵さんが激しくキスをしてくれます。
私をきつく抱きしめてくれて、私の口の中で、葵さんの舌が、私の
舌に絡み付いています。
私は全てを吸われている様な感覚に囚われながら、葵さんを求めま
す。
そのままベッドに倒れ込んだ私と葵さんは、私の体を愛撫していか
れます。
﹁リーゼロッテ⋮こうやって胸を揉まれるのは⋮初めて?﹂
﹁はい⋮初めてです⋮。因みに⋮キスも、先ほどが初めてです⋮﹂
972
﹁そうなんだ⋮キスと胸の初めてを貰っちゃったんだね⋮嬉しいよ
⋮リーゼロッテ﹂
私の言葉に、嬉しそうにその黒い瞳で見てくれる葵さん。私はその
黒い瞳の前に、支配される喜びを感じます。
葵さんは私の服を強引に脱がせ、私も強引に葵さんの服を脱がせて
いきます。
私は葵さんの裸体に見惚れながら、葵さんも私の体を見て嬉しそうに
﹁リーゼロッテ⋮綺麗だ⋮凄く⋮可愛いよ⋮﹂
その言葉を聞いた私は、顔が熱くなり、体中が熱せられるのを感じ
ていました。
﹃好きな人に⋮綺麗と言われるだけで⋮こんなに嬉しいなんて⋮﹄
そんな喜びに浸っている私に、葵さんは更に私を喜ばせる事を言い
ます。
﹁これから⋮リーゼロッテの初めてを奪っていくからね!﹂
そういった葵さんは、私の体全てを味わい、慈しむ様に愛撫してく
れます。
﹁こうやって、手の指を舐められるのは⋮初めて?﹂
﹁はい⋮葵さんが初めてです⋮﹂
﹁脇の下はどう?舌で舐められるのは初めて?﹂
﹁あ⋮んっん⋮はい⋮初めてです⋮﹂
﹁綺麗な足の指だね⋮一杯舐めてあげる⋮足の指を⋮舐められるの
も初めて?﹂
﹁はうんっんん⋮はい!足の指を舐められるのも、葵さんが初めて
です!﹂
私の体中に、葵さんに味わって貰えている喜びが駆け巡っています。
こんなにも⋮こんなにも⋮好きな人の愛撫が気持ち良いなんて⋮
973
その時ふと、マルガさんの可愛い甘い声を思い出します
﹃きっとマルガさんも⋮同じ気持ちだったのでしょうね⋮嬉しい⋮
マルガさんと同じ様に⋮ソレを味わえるなんて⋮夢の様⋮﹄
葵さんが次々と私の体を味わっていきます。私はそんな葵さんが、
堪らなく愛おしくて、ギュっと抱きしめてしまいます。そんな私に、
優しい微笑みと、黒く吸い込まれそうな瞳で見てくれる葵さん⋮愛
おしい⋮
﹁男の人の大きくなっているモノを⋮見るのも初めて?﹂
﹁⋮はい、葵さんが初めてです⋮﹂
﹁⋮嬉しいよ。じゃ∼リーゼロッテのその可愛い口の初めても、貰
うからね⋮﹂
葵さんは私の顎を掴み、立派なモノを私の口の中に、葵さんの本当
の味が広がります。
それが愛おしくて、私は舌と口を使って、葵さんのモノに奉仕しま
す。
﹁そう⋮もっと舌を絡めて⋮。時折強く吸ったり、サオを舌だけで
舐めたりもするんだよ。きちんと両手も使って⋮そう⋮玉の方も舐
めるんだ。⋮きっちり仕込んであげるからね⋮リーゼロッテ﹂
葵さんは気持ち良さそうに、その黒い瞳を艶かしい色に染めて、私
を仕込んでいきます。
﹃ああ⋮もっと教えて欲しい⋮葵さんの⋮して欲しい事全て⋮して
上げたい⋮﹄
私は葵さんに言われるがまま、奉仕していきます。
胸を使って、葵さんのモノに奉仕して、先っぽを口と舌で奉仕しま
す。
すると葵さんの立派なモノが、ピクピクと強張ります
974
﹁リーゼロッテ!出そうだ!もっと激しく愛撫するんだ!﹂
私は言われるままに、奉仕すると、葵さんは体を強張らせて、絶頂
を迎えられる。
私の顔や胸に、葵さんの子種がほとばしります。
その葵さんの子種の香りに、私の下腹部は熱くなります。
﹁リーゼロッテの美しい顔が⋮俺の精で犯されているみたいだね。
綺麗だよリーゼロッテ。⋮顔に精をかけられるのも初めて?﹂
﹁⋮はい、顔に精をかけられるのも⋮葵さんが初めてです⋮﹂
私は葵さんの子種を全て口の中に含むと、それを味わって飲み込み
ます。
その嬉しそうな葵さんの表情が愛おしい⋮
﹁リーゼロッテの処女膜を舌で味わうからね。⋮処女膜を舌で味あ
われるのも⋮初めて?﹂
﹁⋮はい。処女膜を舌で、味あわれるのも⋮葵さんが初めてです﹂
葵さんの言葉に、私の膣が喜んでいるのが解ります。
私の吐息を感じながら、葵さんはどんどん味わっていかれます。
﹁⋮リーゼロッテの処女膜⋮とても美味しいよ⋮味わってあげる⋮﹂
私は処女膜を味あわれながら、幸せに浸っていきます。
私も葵さんの立派なモノを再度奉仕しながら、葵さんに味あわれま
す。その行為に私の快感は高まっていきます。
そんな高まっている所に、葵さんはお尻の穴に指を入れ、クリトリ
スを激しく愛撫します。
その快感が、体中を駆け巡り、そして何かが迫ってきます。
﹁あ⋮葵さん⋮私⋮何か来ます!⋮何か⋮来ます!!!⋮うんんっ
975
つんんんんんはああ!!!!﹂
私の体は大きく弾け、それと同時に、ものすごい快感が、体中を駆
け巡り、爆発します。
その余韻に浸って、まだ体を痙攣させている私に、
﹁それが女の子の絶頂だよ。とても気持ち良かったでしょ?﹂
﹁これが絶頂⋮とても気持ち良かったです⋮葵さん⋮﹂
葵さんに、女の喜びである絶頂を仕込まれた事に、至高の喜びを感
じる私に、葵さんは立派なモノに、私の愛液を付けていきます。
﹁葵さん⋮私は処女で居ないといけません⋮ですから⋮こちらの穴
で⋮葵さんを感じさせて下さい﹂
﹁解ってるよ⋮リーゼロッテのお尻の穴の初めてを奪うからね!﹂
私の言葉に、葵さんのモノが私のお尻の穴に迫ります。
﹁くはっつあああんんん!!﹂
私はその衝撃に、声を出してしまいます。葵さんの立派なモノが、
私のお尻の穴を、力一杯犯していきます。
それと同時に、私の気持ちの良い所全てを愛撫してくれる葵さん。
それを喜び、私の膣は、嬉し涙を流す様に、愛液を滴らせます。
﹃ああ⋮私の膣が⋮喜びの声を上げている⋮葵さんに処女を捧げた
い⋮お尻の穴じゃなくて⋮膣を犯して貰いたい⋮でも出来ない⋮あ
ああ⋮犯して貰いたい⋮犯して⋮﹄
その背徳の感情も相まって、私の快感はどんどん高まっていきます
﹁イキます!葵さん!!!!イクっつ!!!!!んふうんんははは
はははああああ!!!﹂
私は再度絶頂を迎え、それと同時に葵さんが、お尻の穴に子種を注
ぎます。
976
﹁葵さんの精が私の中に⋮熱い⋮染みこんでいってますよ。⋮嬉し
い⋮﹂
心の底から湧きでたその言葉に応える様に葵さんは艶かしく微笑むと
﹁⋮まだまだ、終わりじゃ無いよリーゼロッテ。リーゼロッテの処
女以外の初めては、俺が全て犯すんだ⋮休ませないからね?﹂
﹁はい⋮葵さん。私の処女以外の全ては、葵さんの物です。私の心
も⋮葵さんに捧げます⋮好きで⋮葵さん⋮﹂
﹁俺も⋮好きだよリーゼロッテ。⋮処女以外の全ては⋮心も全て俺
の物だからね⋮一生⋮忘れる事が出来ない様に、体に教えて⋮刻ん
であげる⋮﹂
私は葵さんに好きと言って貰えた喜びと、言えた喜び、そして、も
っと葵さんに仕込まれる喜びに打ち震えていました。
私はこの夜、葵さんの全てを刻み付ける様に、葵さんに犯され、包
まれて眠りにつきました。
翌朝、葵さんに抱かれながら目を覚まします。
その事の喜びに浸っていると、葵さんはマルガさんの事が気になる
のでしょう、何処か落ち着かないといった感じでした。
私は葵さんの体を拭き、葵さんを元の場所に帰らせます。
そして一人になった部屋で、昨日の事の喜びに浸っていました。
今は⋮この喜びに浸っていたい⋮今だけは⋮
私も用意をして、食卓まで向かうと、マルガさんと葵さんがやって
977
来ました。
そのマルガさんの表情と雰囲気で、全てがバレて居るのがすぐに解
りました。
私にライバル心を燃やす、可愛いマルガさん⋮本当に可愛い⋮
外に出た私達は、マルガさんがマルコさんに荷馬車のことを教えて
いる間に、葵さんに外で犯して貰いました。その背徳感と刺激を仕
込まれた私は、また喜びに染まっていました。
そかし、昼すぎに、やっぱりマルガさんにバレたらしく、呼び出さ
れてしまいました。
自分のした事とはいえ、恥ずかしさと申し訳無さが、心の中を埋め
尽くしていますが、ソレを表情には出せませんでした。⋮私もやっ
ぱり女なのですね⋮
しかし、私の予想を超える事を言うマルガさん。
﹁ご主人様の事が好きなら、ご主人様の傍に居てあげてください!
ご主人様は⋮リーゼロッテさんの事が好きだと、言ってました。リ
ーゼロッテさんが傍に居ないと、ご主人様が寂しそうで、可哀想な
のです!﹂
私の戸惑いをよそに、話を続けるマルガさん。
﹁⋮マルガさんは⋮私が葵さんの事が好きで、葵さんが私の事が好
きでも、構わないのですか?﹂
﹁ご主人様は、私が1番だと言ってくれました!ご主人様は、他に
好きな人が出来ても、私以上には好きにならないと、言ってくれま
した!なので、1番の私は、1番ご主人様に好きと思われている私
は、全然平気なのですよ!﹂
可愛くエッヘンとしているマルガさんが、とても可愛らしく、愛お
しい⋮
その可愛さに思わず抱きしめてしまいます。戸惑いながらも抱き返
978
してくれるマルガさんの、可愛さと言ったら⋮此れは男の人ならた
まらないでしょうね⋮
その時に気が付きました。
﹃⋮私は、マルガさんの事を愛している葵さんに惹かれた⋮あの優
しい瞳でマルガさんを見る葵さんに⋮﹄
口には出せませんでしたが、その気持を抱きしめる事で、なんとか
許して貰おうとする私
﹁⋮リーゼロッテさんには、2回も命を助けて貰ってます。⋮初め
は複雑な気持ちでしたけど、ご主人様が、私の事を1番だと言って
くれましたし、ご主人様の寂しい顔を見るのも嫌⋮。私もリーゼロ
ッテさんなら、良いと思っています⋮。どうしても⋮何処かの貴族
さんの、お嫁さんにならないとダメなのですか?どうしても断れな
いのですか?どうしても⋮ご主人様の傍に、一緒に居られ無いので
すか?﹂
﹁⋮マルガさんは⋮優しいのですね。私は葵さんの傍に居れません。
なので葵さんは⋮マルガさんが幸せにしてあげてください。私は⋮
葵さんから⋮沢山の思い出を頂きました⋮それでもう⋮十分です﹂
そう十分です。もう⋮一生分の思い出を、葵さんとマルガさんから
頂きました。
私とマルガさんは、暫くその場で抱き合っていました。
イケンジリの村をでて、もう2日。港町パージロレンツォに到着し
た私達は、町の中で休憩をしています。楽しそうにじゃれあう葵さ
んとマルガさんを見て、私の心は吹っ切れた様に感じました。
979
﹁じゃ⋮そろそろ、モンランベール伯爵家の別邸まで、送って頂け
ますか?葵さん⋮﹂
﹁も⋮もう少し⋮ゆっくりしようよ。な⋮何なら、夕食を一緒に食
べてからでも⋮﹂
﹁短い間でしたけど、葵さん達とご一緒出来て楽しかったです。私
にとって、忘れられない思い出になりました。⋮もうそれだけで十
分です⋮﹂
私は葵さんの手を引っ張って、モンランベール伯爵家の別邸まで連
れていきます。
荷馬車に乗っている時も、最後に感じられる葵さんの温かみを刻み
こむ様に、しっかりと味わいます。
そしてモンランベール伯爵家の別邸まで到着し、葵さんと別れる時
がやって来ました。
館に入っていく私を、葵さんが呼び止めます。
その悲しい声に、私の体は引き裂かれそうになります。
﹁⋮葵さんの事は、ずっと忘れません⋮ありがとう⋮さようなら⋮﹂
私の最後のキスと、最後の言葉を聞いた葵さんの表情は、今でも忘
れません⋮二度と
私は勢い良く踵を返し、葵さんの手を躱し、館の中に入ります。
そして、その冷酷な扉が閉まった瞬間でした。
私は膝から崩れ落ちて、床に蹲りました。
﹃もっと⋮強い女の子だと思っていましたが⋮だめですね⋮私は⋮
葵さん⋮﹄
床に蹲り、口に両手を当てて、必死に声を殺しながら嗚咽している
私を見て居る執事のアニバルさんは、何も言わずに、ただ私が泣き
止むまで待っていてくれました。
980
泣き止んだ私を、執事のアニバルさんが起こしてくれて、私はラン
ドゥルフ卿の待つ部屋に向かいます。接見室に入った私は、ランド
ゥルフ卿との再開を果たします。その横には、もう此処に連れられ
てきた理由を知っているであろう、アロイージオ様が立っていまし
た。その顔をとても寂しそうでした。
先ほどまで嗚咽して、泣いていた私の腫れた目を見て、フンと言う
ランドゥルフ卿は
﹁約束通り来たか。大体の事は、アロイージオから聞いている。だ
が、お前は売られる事を選んだ。もう変えられぬ。諦めよ﹂
その余りにも清々しく、冷たい死刑宣告に、微笑みながら頷くと、
フっと軽く笑うランドゥルフ卿は
﹁お前は次のオークションで売る事にした。その方が高く売れるで
あろうし、チェルソ男爵にも、お前を公式に手放したと解るからな﹂
静かに頷く私に、話を続けるランドゥルフ卿は、
﹁そこの一級奴隷が、お前の教育係だ。オークションが行われるま
でに、色々教える様に言ってある。以上だ。下がれ﹂
そう言って静かに目を閉じるランドゥルフ卿。
私はその一級奴隷の女性の後に付いて行く。私にあてがわれた部屋
まで来ると、
﹁私はイルベルよ。貴女はリーゼロッテね?オークションの日まで
に、色々教えるからよろしくね﹂
私を見て、少し気に食わなそうにしている、イルベルと名乗った一
級奴隷。
私はオークションの日までに、彼女から実に色々な事を教わった。
奴隷としての立ち振舞、礼儀作法、言葉使い、そして⋮一番の御役
981
目である、性奴隷としての、男の喜ばせ方⋮私はソレを淡々と覚え
ていきました。
私の心は、あの扉が閉まった瞬間、凍りついたのです。もう何も動
じる事はありませんでした。
そして、奴隷の契約をし、私の首には、赤い輪っかの様な一級奴隷
を示す紋章が刻まれました。
それを見ても私の心は、何も感じません。私の心は、全て葵さんに
捧げたのですから⋮
月日のたつのは早いもので、いよいよ明日、私はオークションに掛
けられる事になりました。
ランドゥルフ卿の指示で、私によく似合う赤い豪華なドレスが完成
したので、着せて貰って、ランドゥルフ卿に確認して貰おうと、ラ
ンドゥルフ卿の部屋に入った時でした。
凍っていたはずの私の心が、溶かされます。だって⋮そこには⋮も
う逢えないと思っていたアオイさんが居たからです。
﹁リーゼロッテ!!﹂
﹁あ⋮葵さん⋮﹂
微かに声を出し合う私と葵さん。そして近寄ってきた葵さんは、私
の首元で、見つけてはいけないモノを見つけてしまいます。
﹁リ⋮リーゼロッテ⋮その首⋮その首に付いている⋮その⋮紋章は
⋮何なの?﹂
私の一級奴隷を示す紋章を見て、激しく瞳を揺らす葵さん。
﹁アロイージオ様!!これはどう言う事なんですか!!!﹂
﹁い⋮いや葵殿⋮僕も知らなかった事なのだよ。此処について、初
めて解った事なんだ﹂
﹁でも!リーゼロッテは、何処かの貴族に嫁いで幸せになって居る
982
はずなのに!何故ですか!!﹂
﹁そこの一級奴隷のリーゼロッテは、とある村から私が、金貨50
0枚で買い取った物だ﹂
﹁それは、どういう事なのですか⋮?ランドゥルフ様?﹂
﹁何やら話が拗れている様だな。⋮いいだろう。リーゼロッテ!昼
刻の6の時迄時間をやろう。一級客間にて、きちんと話をし、別れ
を告げるが良い。葵殿もそれが終われば、此処に戻る必要は無い。
以上だ!﹂
私がついた嘘がバレてしまいました。私は執事のアニバルさんに連
れられて、とある部屋に、葵さん達と一緒に案内されます。
その部屋は、来客を性奴隷を使ってもてなす部屋でした。
この館には、来客をもてなす専用に性奴隷の一級奴隷が数名居ます。
私に色々教えてくれたイルベルもその1人です。私は、葵さんをも
てなす為に、服を脱ぎます。
﹁リーゼロッテ何してるの?﹂
﹁私の今の主人はランドゥルフ様です。その主人が、貴方に最後の
お別れをきちんと言うようにと、気を使ってくれたのでしょう。こ
の部屋を使って良い⋮つまり⋮それは、膣以外の所を使っても良い
から、きちんとせよとの事です。この部屋はそう言う為の部屋なの
です﹂
﹁そんな事を聞いているんじゃない!!一体どうなってるのか聞い
ているんだリーゼロッテ!!﹂
葵さんの顔は、悲愴に染まっていました。私は耐え切れなくなり、
涙が出てきます。
そんな私を葵さんは優しく抱きしめてくれます。
私は真実を全て葵さんに話します。言えなかったことも含めて⋮
﹁何故⋮言ってくれなかったの?﹂
983
﹁言っても仕方無かったでしょう?葵さんに、金貨500枚なんて
言う大金⋮だせましたか?でも⋮私は⋮過ちを犯しました⋮葵さん
の事を⋮思ってしまった⋮好きになってしまった⋮。だから⋮本当
の事は⋮言えませんでした⋮大好きな葵さんに⋮心配を掛けたく無
かったから⋮私は⋮明日オークションで売られます。なので、前と
同じ様に、処女のままで居なくては行けません。それ以外の所で有
れば、何処を使っても結構です⋮最後に⋮前と同じ様に⋮私に⋮葵
さんの思い出を下さい⋮﹂
私は本当に最後であろう事を思い、葵さんとの思い出を貰おうと必
死に葵さんにキスします。
しかし、葵さんはわたしとのキスをやめ、マルガさんに何かを伝え
ると、私にドレスを着せて、手を引いて部屋から出ていきます。
困惑している私に、葵さんとマルガさんは声を揃えます
﹁﹁取引ですよ!!﹂﹂
再度接見室に戻ってきた私達は、葵さんとランドゥルフ卿との話を
聞いていました。どうやら葵さんは、ランドゥルフ卿と何かの取引
をしたい様でした。
その内容を聞いていき、私は戸惑ってしまいます。
どうやら葵さんは、私とアーロンの秘宝を取引したいらしいのです。
しかし、秘宝は持っていない。どうするのか聞いていると、葵さん
がとんでも無い事を言い出します。
それは、60日間の期間の間に、秘宝が見つからなければ、自ら命
を断ち、葵さんの召喚武器で、私と交換すると言うものでした。
984
﹁葵さん!貴方何を言っているのか、解っているのですか!?もし、
60日間で見つからない時は、貴方は死ななければならないと、自
分から言っているのですよ!?﹂
﹁その通りですが、何か問題でも?﹂
﹁大有りです!私はその様な事を望みません!マルガさん!貴女か
らもなにか言って上げて下さい!﹂
私は思わず声を荒げます。
そんな事⋮私は望まない!!葵さんが死ぬなんて、考えられない!
!!マルガさんが不幸になる!!
私はマルガさんにも止めて貰おうとしましたが、ソレはかないませ
んでした。
﹁私は⋮全てをご主人様に任せました!ご主人様がなさる事が、私
の全てであり、私の望む事なのです!﹂
私には出来無かった、しっかりとした言葉を、私に投げかけるマル
ガさん。そんなマルガさんを見て、ニコっと微笑む葵さんは、私を
キツク見ながら、
﹁そういう事です。それに今のリーゼロッテに、その様な事を言う
資格はありません。だって、今の貴女は、何の権利も持たいない、
只の商品なのですから。商品である貴女がどう思おうが、その気持
ちに関係無く、取引されるのです。それが⋮貴女が望んだ、結末で
す﹂
その言葉に絶句しました。
そう⋮私が望んだ事⋮望んだ結果⋮だけど⋮そこに葵さんとマルガ
さんは入っていないのですよ⋮?
私位は目の前が真っ暗になって、ただ呆然と立ち尽くしている間に
も、話は進んでいきます。
985
﹁取引成立ですね。ではお約束通り、公証人の制約魔法契約で、先
程の条件を約束させて貰います﹂
葵さんの聞きたくない言葉が、耳に刺さります。正気を取り戻して
きた私に、何時かの様なランドゥルフ卿の咆哮が耳に入ります。
﹁お前の言いたい事は解っておる⋮アニバル!明日のリーゼロッテ
のオークションの出品予定を取り消せ!リーゼロッテは既に売約済
み!リーゼロッテを売約済みの部屋に移し、60日間一般の来客と
して扱う様に!⋮これで良いのであろう?﹂
その言葉に、ニコっと笑いながら頷く葵さん。それに呆然としてい
る私のもとに、葵さん達がやって来ます。
﹁えっと⋮なんか、こんな事になっちゃったけど、何とかするから
心配しないでね!リーゼロッテ姉ちゃん!﹂
﹁⋮きっと60日間の間に何とかします。きっとリーゼロッテさん
が喜ぶ形で迎えにきますので、ご主人様の事は私達に任せて下さい
ね、リーゼロッテさん﹂
マルコさんとマルガさんが優しくそう言ってくれます。そして、最
後に葵さんが渡しに近寄り耳元で囁きます。
﹁俺は絶対にリーゼロッテを手に入れる。⋮だから⋮ちょっとだけ
待っててねリーゼロッテ﹂
その言葉を聞いた私は、力が入らなくなり、膝から崩れ落ちて、嗚
咽をあげて、泣きだしました。葵さんは蹲っている私をを、優しく
抱きしめてくれます。
﹁期間は60日!楽しみに待っているぞ!行商人の少年!葵よ!﹂
その言葉に、強い瞳の光を向けている葵さんは、私に微笑んで部屋
を出ていかれます。
そんな私に笑いながらランドゥルフ卿は、
986
﹁なかなかおもしろい男を捕まえたなリーゼロッテ。どういう結果
が出ようと、60日が経過して、取引がなされれば、お前は自由だ。
部屋に戻るが良いリーゼロッテ。イルベル案内してやれ﹂
私はイルベルに手を引かれて、来客用の部屋に来ていた。
そして、激しく落ち込んでいる私に、そっと優しく手を置いてくれ
るイルベル。
﹁貴女の事は気に入らなかったけど、見直したわ。あんな良い男を
虜にするなんて﹂
﹁それは⋮何故ですか?悪い事ではないのですか?﹂
力なく言う私に、キョトンした顔をするイルベルは
﹁はあ!?貴女⋮そんなに綺麗な容姿をしてるのに、肝心な事が解
ってないわね。⋮ああいう男はね、自分の女を選ぶ時、見た目だけ
で選んで無いのよ。その女の事が本当に好きな時にだけ、全てを投
げ出せる男なのよ。そんな男に好かれている貴女は、きっと、私に
は解らなかった、良い魅力が有るのよ。私はランドゥルフ様の指示
で、色んな男に抱かれてきたわ。だから解るの﹂
そう言って、今までに見せなかった、微笑みを私に向けてくれるイ
ルベル。
﹁そんな顔しちゃダメよ。運が逃げるわ。もう後戻り出来ないなら、
今はあの男を信じて、笑顔でいなさい。きっとそれを、あの男も望
んでいるわよ?解った?﹂
優しく言ってくれるイルベルに、私は抱きついていた。
﹁ありがとう⋮イルベル⋮私⋮私⋮﹂
﹁⋮解ってるっていったでしょ?⋮もう﹂
そう言いながらも泣いている私を優しく抱きしめてくれるイルベル。
987
私は今まで溜まっていたモノを吐き出すかの様に、イルベルの胸で
泣き続けるのでした。
コンコン部屋がノックされる。
食事を持ってきてくれたイルベルが、部屋に入ってくる
﹁また、お祈りしてるの?そんなにお祈りしたら、貴女が体を壊さ
ないか心配だよ﹂
呆れているイルベルに、苦笑いをする私。
葵さんと別れてから30日、私は毎日、起きている時はずっと葵さ
んの為に、天に向かって祈っていました。
この何も出来ない、自分の歯がゆさに、力のさなに、堪らなく嫌気
がさす。
でも、何時もイルベルが支えてくれた。彼女が居なければ、私は此
処で衰弱していたかもしれない。
葵さんからの連絡もなく、ただ待つか出来ない私⋮今日もイルベル
からの食事を貰い、ただ祈る⋮
そんな日々を繰り返していた私の元に、イルベルが走りながら部屋
に入ってきた。
﹁リーゼロッテ!!!あの男から連絡があったらしいわよ!4日後
に、此処に来るらしいわ!!期日はまだまだ残ってる!きっと、良
い報告よ!!!﹂
ソレを聞いた私は、イルベルに抱きついていました。
ああ⋮神様⋮感謝します⋮葵さんが無事⋮良かった⋮感謝します⋮
私はイルベルに抱きつながら泣いていました。
988
そこからの4日間の長い事⋮私はこの4日間も一生忘れません。
正に何百年にも感じる4日間を過ごし、いよいよ葵さんと対面する
日がやって来た。
そんな私の元に、イルベルがやって来ます。その手には、私がオー
クションの時に切る予定であった、真赤な豪華なドレスを持ってい
ました。
﹁ランドゥルフ卿がリーゼロッテに着せてやれって。色々あったけ
ど、貴女への手向けだと思うわ。最後に幸せを勝ち取れた貴女への
ね。幸せになりなさいリーゼロッテ⋮﹂
﹁ありがとうイルベル⋮﹂
私はイルベルの胸で泣きながら、その喜びに体を支配されていまし
た。
そんな私に優しく微笑みながら、ドレスを着せてくれるイルベル。
そして、私の背中をバンと叩くと
﹁私は貴女の事が羨ましくないわよ?私は今の生活で、満足してい
るからね。⋮さあ、行きましょう。あの男が待っているわ﹂
﹁ありがとう⋮イルベル⋮﹂
﹁ほら!もう泣かないの!せっかく綺麗にお化粧したんだから!あ
の男に見せて、惚れなおしてあげなさい﹂
静かに頷く私はイルベルに手をひかれ、接見室に入る。
そこには、待ち焦がれた、最愛の人が立っていた。自然と私の瞳に
涙が浮かんできます。
葵さんはランドゥルフ卿トネームプレートをあわせている。
私の所有権を写しているのでしょう。それが終わると、葵さんが近
くに寄って来ました。
私は飛びつきたいのを我慢して、葵さんの指示を待ちます。
﹁リーゼロッテ、今君の所有権は俺にある。⋮リーゼロッテにもマ
989
ルガ同様に、選ばせてあげる﹂
何時になく真剣な葵さんの顔を見て、静かに頷く私。
﹁⋮君には2つの道を選ばせてあげよう。二つの道というのは、こ
のまま俺の奴隷として、永遠に俺に服従するか、奴隷から解放され
て自由に生きるかだ。自分の意思で俺に永遠の服従を誓うのか、自
由を選ぶのか。奴隷から解放されて自由を選ぶなら、多少のお金も
持たせてあげる﹂
私はソレを静かに目を閉じて聞いています。
﹁さあ⋮選んで⋮。永遠の服従か⋮自由か⋮﹂
私はゆっくりと目を開けます。そして葵さんの顔を見て、思わずお
かしくなってしまいます。
葵さんが困惑した顔をしているのにも、拍車が掛かってしまいます。
﹃私がどうするかなんて⋮決まっています。今度は⋮間違わない⋮
自分から⋮掴みとる!!﹄
﹁⋮私には好きな人が居ます。その人は随分と変わっていて、商人
なんかしているのに、大切な物の為なら、全てを簡単に投げ出しち
ゃう様な、困った人なんです。そんな困った人には、私の様な者が
ついて居てあげないと、きっと駄目になってしまいます﹂
私はゆっくりと、葵さんのそばに寄り、その愛おしい頬に手を添え
る。
﹁しかも、恋人は奴隷にしたいと言う、困った趣味も持っているん
です﹂
私は葵さんの黒い瞳に吸い込まれる様に、顔を近づける。
﹁そんな困った人は、私が傍に居ないと、駄目だと思いませんか?﹂
990
私の問いかけに、フフフと楽しそうに笑う葵さんは
﹁俺も⋮好きな子が居てさ。その子は何時も強情で、助けて欲しい
くせに言い出せなくて、ホントは泣きたいのに、我慢して凛と微笑
んだりしている、困った女の子なんだ。そんな女の子には、俺みた
いな奴がついててあげないと、駄目だと思うんだ﹂
葵さんはそう言うと、私の腰をギュっと抱き寄せる。その黒い瞳に
私が写り込んでいます。その⋮幸せそうな⋮私の姿が⋮
﹁そんな困った女の子は、俺が傍にいて、素直にしてあげないと駄
目だと思うんだよね﹂
楽しそうに微笑む葵さん。
私は⋮素直になります⋮貴方が⋮好きなんですから⋮
﹁私を傍に置いて、奴隷にしたいのでしょう?素直に言えば、すぐ
になってあげますよ?﹂
﹁リーゼロッテこそ、俺の傍に居たいんでしょ?素直に言えば、す
ぐに俺の物にしてあげるよ?﹂
その言葉に、体中に喜びが走ります。
﹁⋮好きです⋮葵さん。私を貴方の奴隷にして下さい⋮﹂
﹁⋮俺も好きだよリーゼロッテ。俺の奴隷にしちゃうけどいい?﹂
やっと言えた⋮素直な私の気持ち⋮やっと⋮やっと⋮
私はしっかりと葵さんを抱きしめると、葵さんも抱き返してくれる。
その暖かさに、今迄凍っていたものが全て、溶かされている様でし
た。
﹁⋮お帰り⋮リーゼロッテ。もう⋮離さないからね⋮﹂
﹁はい⋮もう⋮離さないで下さい。ただいまです⋮葵さん⋮﹂
その言葉に、私のすべての細胞が喜んでいるのを感じます⋮
991
涙が止まらない私は、葵さんの胸の中で、ひたすら泣いていました。
﹁は∼暑い暑い。何かしら?此処は火山の中なのかしら?⋮全く⋮
少しは人目を気にしなさいよね!﹂
女性が、茶化すように言いますが、今の私には関係の無いことでし
た。
私の全ては葵さんのモノ⋮私は葵さんが大好きなのです⋮ソレ以外
は⋮何も要らない⋮
帰って来た、私をマルコさんも、マルガさんも暖かく迎えてくれま
した。
私は至高の幸福を感じながら、皆に挨拶をして、部屋を出ていく瞬
間、ランドゥルフ卿と視線が合いました。
そこには何時もの厳しい凍る様な瞳はなく、優しい瞳を私に向けて
くれていました。
私はソレに瞳で合図をすると、フっと軽く笑うランドゥルフ卿。
部屋から出た私は、何時かの様に右手を葵さんに引かれ、左手をマ
ルガさんに引かれて、館を後にします。
﹃私はもう⋮決してこの手を離さない⋮たとえ世界を敵に回しても
⋮この愛しい2人を⋮今度は私が守ってみせる!!!﹄
私は総心の中で、誓います。
季節はもうすぐ初夏。今年の夏も熱くなる事を感じながら、この人
達と一緒に歩ける事に幸せを感じていました。
﹃きっと守ってみせる⋮きっと⋮﹄
そう心の中で、何度も囁きながら、幸せの家路につく私は、自然と
微笑んでいた。
992
愚者の狂想曲 26 王都ラーゼンシュルト
季節は初夏。
優しかった日差しも、その光を見て、鬱陶しく思う季節がやってく
る。
俺達の服装も、半袖に変わり、荷馬車の御者台の上で、そよぐ風の
心地良さを感じている。
30日間滞在した港町パージロレンツォを、出立して既に30日。
今日の昼近くには、ルチアとの約束通り、王都ラーゼンシュルトに
到着出来るだろう。
そんな荷馬車に揺られている俺の右側には、マルガが気持ち良さそ
うに、俺の膝枕で可愛い寝息を立てていて、左側には、俺のパソコ
ンで調べ物をしている、勉強家のリーゼロッテが、難しい顔をして
いた。
穏やかに進む荷馬車であったが、先頭を行く俺の荷馬車の馬のリー
ズが、俺の命令も無しにその歩みを止める。ガクンとなったその衝
撃で、マルガが可愛く大きな瞳を擦りながら目を覚ます。
﹁ご主人様⋮昼食ですか?﹂
少し寝ぼけているのか、ちっちゃな可愛い口をモゴモゴさせている。
そんな可愛いマルガの頭を優しく撫でながら、俺が馬のリーズの頭
に視線を移すと、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが、ちっちゃ
な耳をピクピク動かし、馬のりーズと一緒に、何かの音を聞いてい
る様であった。
それを見たマルガは目を細める。
993
﹁赤旗ですねご主人様。私は感知出来ませんので、最低200m以
上離れています。ルナもリーズも、気配を感じていますので、間違
いは無いと思うです﹂
それを聞いたリーゼロッテは、自分のアイテムバッグにパソコンを
なおし、赤い布を先に括り付けた竹棒を掲げる。
それを、後ろからついてきている、荷馬車2号から見ていたマルコ
が、乗っていた馬のラルクルから飛び降り、俺達の御者台の傍に来
る。
﹁赤旗が上がったって事は、賊だよね葵兄ちゃん?どれ位いそう?﹂
﹁いや、まだマルガの感知外の距離だね。いつも通り、隊列を組ん
で、微速前進しようか﹂
俺のその言葉を聞いた、マルガとリーゼロッテは荷馬車から降り、
マルコも隊列を組む。
マルガとマルコは、アイテムバッグから、自分達の武器を出し装備
し、それを確認したリーゼロッテが
﹁では、いつも通り、マルガさんが右前方、マルコさんが左前方、
私が中央後方。行きますよ皆さん!﹂
リーゼロッテのその言葉に、静かに頷くマルガにマルコ。
俺達は警戒しながらゆっくりと、前進して行く。
荷馬車には俺が乗っていて、その前方に、逆三角形で隊列を組んで
いる、マルガ、リーゼロッテ、マルコ。
俺の乗っている荷馬車の後ろからは、無人の荷馬車を馬のラルクル
が引っ張って、ついてきている。
無人なのにぶつからずついてこれるのは、マルガのレアスキル、動
物の心で、俺の乗っている荷馬車にぶつからない様についてきてね
と、馬のラルクルとマルガが意思疎通させているから、出来る所業
だ。
994
暫く、警戒しながらゆっくりと前進して行くと、マルガが右手を上
げ、2本の指を立てている。
2本⋮つまり、200m以内に感知したと言う合図だ。当然それを、
リーゼロッテやマルコも理解している。更に暫く進んで行くと、俺
の感知範囲に入った。
俺は、岩陰や木陰に隠れている者達の気配をよんで、皆に伝える。
﹁皆止まって。戦闘態勢をとって﹂
歩みを止めた荷馬車の上から、俺がそう指示を出すと、マルガ、リ
ーゼロッテ、マルコは身構える。
それを確認した俺は、前方に向かって叫ぶ。
﹁おい!出てきたらどうだ?殺気が隠しきれていないぞ?﹂
辺りに俺の声が響くと、暫くして、ガチャガチャと装備の擦れる音
をさせながら、10人近い男達が現れる。その男達の姿は薄汚れて
おり、その手には、ハンドアックスやロングソードが握られている。
一目見て、素行の良さそうな者達では無いと解る。その男達の顔は、
卑しい嗤いを浮かべていた。
﹁⋮こんな、王都ラーゼンシュルトに割りと近い所で、野盗行為か
?よく憲兵に殺されなかったねお前ら﹂
俺の言葉に、ローブを纏った男が嘲笑いながら
﹁俺達は、この望遠鏡で見て、襲う相手をきっちり選んでいるから
な。憲兵が近くに居たら、すぐ解るんだよ﹂
﹁へ∼良い物持ってるね。俺も欲しかったんだよね。ソレ⋮俺にく
れない?﹂
﹁ハハハ。面白い事を言うな。⋮これからお前の全てが、俺達に奪
われると言うのに﹂
995
卑しい嗤いを浮かべる、ローブを纏った男。
﹁葵さん⋮冗談はそれ位にして⋮﹂
﹁うん、解ってるよ。今調べる﹂
リーゼロッテの言葉を遮って、欲している情報を得る為に、俺は霊
視で男達を視る。
﹁LVが高い奴から、45、30、22、20が3人、19が2人、
18、17だね。計10人。45の奴は、魔法が使えるよ。風のウ
ヌスウァテスだ。少し厄介なスキルもある。気を付けて﹂
その情報を、頭に叩き込む、マルガ、リーゼロッテ、マルコの3人。
そして、身構えているマルガが、男達に語りかける。
﹁出来れば、このまま此処を通して貰えませんか?こんな所で、大
切な命を殺し合いに使う事は、無いと思うのです。貴方達も野盗行
為⋮人の命を奪う事なんか止めて、普通に⋮仕事をする事は出来無
いのですか?﹂
諭す様に言うマルガの言葉を聞いて、男達の高笑いが、辺りに響く。
﹁アハハハ!この状況で、面白い事を言うじゃねえか嬢ちゃん。で
もな、お前にそんな事を言っている暇が無いのが解らねえのか?⋮
お前達は、俺達に殺され、嬢ちゃんとエルフの女は、この場で俺達
が犯しまくってやるからよ。お前みたいな超上玉、滅多に手に入ら
ないだろうからな!﹂
卑猥に発情した眼差しで、マルガとリーゼロッテを見ている男達。
﹁無駄ですわマルガさん。盗賊行為⋮人を殺し、奪い犯す⋮それに
染まってしまった人達に、何を言っても⋮﹂
﹁⋮残念です⋮﹂
マルガはリーゼロッテの言葉に、キュっと唇を噛むと、何時でも戦
996
える様に、軽いステップを踏み始める。
﹁では、葵さん。いつも通り⋮お願いしますわ﹂
﹁ああ⋮解った!﹂
リーゼロッテのその言葉を聞いた荷馬車の上の俺の瞳が、一瞬妖し
く真紅に光る。
その瞬間、男達の中の1人が、別の男を手に持ったロングソードで、
心臓を貫いた。夥しい血を流しながら、地面に倒れ事切れる男。
﹁お⋮お前!何してるんだよ!﹂
男達は取り乱し、俺に操られている男を見ている。
その、戦闘開始の合図を見逃さなかった2人が、男達に飛び掛る。
﹁やああああ!!!﹂
﹁たああああ!!!﹂
マルガとマルコは、男達に飛びかかると、大熊猫の双爪と魔法銀の
クリスで、瞬く間に切り倒す。
2人の男達は、大量の血を流しながら地面に倒れる。
それを見て、驚きながら身構える男達に、襲いかかるマルガとマル
コ。
﹁遅いです!﹂
マルガは男の攻撃をスルリと躱すと、大熊猫の双爪で男の腹部を切
りつける。腸を垂れ流して、絶命する男。そんなマルガの背後から、
別の男が斬りかかる。
しかし、その剣先は届く事は無かった。マルコが投擲ナイフを4本、
その男に向かって投げつけて居たのだ。顔面に4本の投擲ナイフを
受けて、痙攣しながら事切れる男。
瞬く間に5人の仲間が殺された男達は戦慄する。
997
﹁き⋮貴様ら!!!!!﹂
逆上した、残りの5人の男達が叫ぶ。その中で、リーダーらしきL
V45の風のウヌスウァテスが、距離を取り、魔法を唱える。
﹁エアブレイド!!!﹂
風属性の、斬撃効果のある攻撃魔法だ。その風の刃がマルガに迫る。
﹁グフウ⋮﹂
マルガに掴まれた男が、マルガの盾にされてエアブレイドによって
引き裂かれ、絶命する。
﹁こんな密集している所に、魔法を放つなんて⋮全く連携がとれて
ませんね!﹂
マルガは男を離し、別の男に斬りかかる。
﹁だね!LVもバラバラだし、そんな事じゃ、大きな力は出せない
よ!﹂
マルコも別の男に斬りかかる。
浮き足立っている男達は、マルガとマルコに斬り殺される。
﹁そうですわ!集団戦は数だけでは勝てません!おゆきなさい!私
の可愛い人形達!﹂
リーゼロッテに一瞬で召喚された、ローズマリーとブラッディーマ
リーは、男に向かって別々の方向から斬りかかり、両腕の双剣で斬
り殺す。男は事切れて、地面に倒れる。
そこには、一瞬の戦闘で、9人の男達が絶命していて、残りはリー
ダーのLV45の風のウヌスウァテスのみとなっていた。
﹁お⋮お前達⋮一体⋮﹂
﹁集団戦は数じゃない。如何に連携を取れるかだ。お前達の様に、
998
LVもバラバラの只数を集めた位じゃ、俺達には勝てないよ。⋮実
力を見誤ったな﹂
荷馬車の上から語りかける俺の言葉に、顔を蒼白にする、LV45
の風のウヌスウァテスの男
﹁わ⋮解った⋮降伏する。だから⋮﹂
﹁ああ解ってる⋮心配するな。俺はお前とは違い優しいからさ﹂
リーダーらしき男の言葉を遮る、俺の言葉を聞いて、リーダーらし
き男の顔は安堵していた。
﹁お前を捕まえて、憲兵に引き渡す。此処は王都ラーゼンシュルト
に近いからな。丁度いいし﹂
俺がニヤッと笑いながら言うと、その顔を、激しく歪める、リーダ
ーらしき男。
この国の法律で、略奪行為をした者の刑罰は死刑。憲兵に引き渡さ
れたら、間違いなく処刑される。
﹁貴様∼∼∼!!!﹂
逆上したリーダーらしき男が、魔法を唱える。エアブレイドが高速
で俺に迫るが、マルコが俺の前に素早く立つと、バックラーでエア
ブレイドを弾き飛ばす。
﹁なにい!?﹂
﹁この風妖精のバックラーに、そんな程度の魔法は効かないよ!く
らえ!!!﹂
マルコは素早く投擲ナイフを4つ投げつける。
それを、気戦術クラスの動きで素早く躱す、リーダーらしき男。リ
ーダーらしき男は、黄緑色の風の様なものを纏っていた。それを見
たリーゼロッテが目を細めながら、
999
﹁⋮エアムーブですか⋮﹂
﹁そうだ!俺は風のメイジだからな!エアムーブは、気戦術並の早
さを出す事が出来る!魔法を使える者が、貴重だと言われるのが、
此れが理由だろ!﹂
ニヤっと見下す様な嗤いを向けるリーダーらしき男。
﹁それは⋮良かったね!﹂
マルコは更に投擲ナイフを投げつける。それを、素早く躱したリー
ダーらしき男の背後に、何者かが迫る。
それに気が付き、振り返るリーダーらしき男の顔が蒼白になる。
そこには、リーダーらしき男と同じ、黄緑色の風の様なものを纏っ
たマルガがいたからだ。
﹁き⋮貴様も⋮エアムーブを!?﹂
﹁貴方だけが⋮エアムーブを使える訳では⋮ないのですよ!﹂
マルガは叫びながら、大熊猫の双爪で斬りかかる。
何とかマルガの攻撃を躱したリーダーらしき男は、脇腹に傷を受け
て動きが鈍った。
顔を歪めるリーダーらしき男が、地面に着地した瞬間だった。
その隙を待ち構えていた、リーゼロッテの2体の操り人形、ローズ
マリーとブラッディーマリーが、別々の方向からリーダーらしき男
を斬りつける。
﹁グハッ⋮﹂
一瞬だけ唸り声を上げたリーダーらしき男は、ローズマリーに双剣
で心臓を貫かれ、ブラッディーマリーの双剣で首を跳ねられていた。
大量の血を流しながら、地面に倒れる男。
﹁貴方の方がLVが高く、1対1であったなら、私達の誰かに勝て
たかもしれませんが、連携の取れる私達にとって、貴方は敵はあり
1000
ませんわ﹂
ローズマリーとブラッディーマリーを、自分の傍でフワフワ浮かせ
ているリーゼロッテ。
リーダーらしき男の死によって、戦闘の終了を確認した俺は、
﹁お疲れ皆。流石だね、マルガ、リーゼロッテ、マルコ。見事な連
携だったよ﹂
俺の言葉に嬉しそうな3人。
﹁ま∼訓練場と、ラフィアスの回廊でLV上げまくったしね!﹂
﹁そうなのです!私もLV33。マルコちゃんもLV35。リーゼ
ロッテさんも既にLV30です。頑張った結果なのです!﹂
マルガはフンフンと少し鼻息を荒くしながら言うと、マルコもウン
ウンと頷く。
﹁そうですね。あれだけきっちり連携の訓練をすれば、多少の事は
乗り越えれそうな気がしますわね。⋮油断は禁物だとは思いますけ
ど﹂
マルガとマルコの頭を優しく撫でているリーゼロッテ。マルガとマ
ルコは嬉しそうに、リーゼロッテに微笑んでいる。
﹁ま∼ね。LVも皆近づいて、連携で大きな力を、出せる様になっ
てきたもんね。じゃ∼とりあえず、コイツらの武器は、マルコの荷
馬車2号に乗せて、死体を調べて、金目の物を頂こうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
﹁解ったよ葵兄ちゃん!﹂
マルガとマルコは元気に返事をすると、俺の指示通りに動いていく。
﹁リーゼロッテ⋮また悪いんだけど、ローズマリーとブラッディー
マリーで、死体を街道の外に捨ててくれる?﹂
1001
﹁いいですよ葵さん。葵さんの命令なら⋮なんでも聞きますよ?﹂
﹁⋮何時も助かってるよ⋮リーゼロッテ﹂
微笑む俺の顔を見て、ニコッと微笑むリーゼロッテは、あさり終わ
った死体から、街道の外に打ち捨てていく。
そして、全てが終了して、戻ってきた3人。
﹁お金は⋮全員で銀貨63枚、銅貨が97枚。あんまり持ってなか
ったね葵兄ちゃん﹂
﹁だね∼。ま⋮金が無いから、野盗なんてやってるんだろうけどさ﹂
﹁でも⋮ご主人様。最近野盗に襲われる回数が、多くないですか?﹂
マルガが此処までの道のりを思い出して、う∼んと唸っている。
確かに多い⋮。港町パージロレンツォを出立して30日。今回を含
めて7回も襲われている。
マルガと出会った頃に比べると、かなり回数が多くなっている。
港町パージロレンツォを出立する前に、野盗が多くなっているのは
聞いていたが⋮。
やっぱり、元グランシャリオ皇国領で戦っている、ラコニア南部三
国連合の正規軍と、反乱軍ドレッティーズノートとの闘いが、激し
くなっているからなのだろう。
なんでも、反乱軍ドレッティーズノートとの闘いで、ラコニア南部
三国連合の正規軍は敗戦続きだとかで、ラコニア南部三国連合が多
くの兵を、元グランシャリオ皇国領に送っているのだそうだ。
﹁葵さん、さっきのリーダーのメイジの男も、ラコニア南部三国連
合の正規軍の焼印を、防具に刻んでいました﹂
﹁⋮やっぱりそうなんだ。ほんといい迷惑だよね﹂
俺の考えているであろう事を先読みして、情報を提供してくれる、
頭の回転の早いリーゼロッテに苦笑いしながら応える。そんな俺の
傍に、マルガが寄ってきて
1002
﹁ご主人様!さっき欲しがっていた、望遠鏡を渡しておきますね!﹂
﹁お!壊れてなかったんだね!望遠鏡は此れ位の物でも、そこそこ
するからね。儲けもんだね﹂
そう言いながら、マルガの頭を優しく撫でると、ニコっと微笑みな
がら、尻尾をパタパタさせている。
﹁じゃ∼もうちょっとで王都ラーゼンシュルトだから、行こうか!﹂
俺の言葉に皆が頷く。
俺達は荷馬車に乗って、再度王都ラーゼンシュルトに向かうのであ
った。
時刻は昼近くになり、初夏と言えど、日差しが強く感じる。
若干の暑さを感じながら、荷馬車を進めている。
﹁ご主人様!本当にこの望遠鏡は良く見えますね∼!﹂
先程の野盗達から奪った望遠鏡を覗きこんで、キャキャとはしゃい
でいるマルガ。
余程面白いのか、さっきからずっとこの調子だ。
﹁ま∼その望遠鏡なら倍率5倍位かな?ちょっとした距離を見るに
はちょうど良いかもね﹂
マルガの頭を優しく撫でながら微笑むと、嬉しそうにしているマル
ガ。
その反対側では、リーゼロッテがパソコンを開いて、カタカタと、
1003
キーボードを打ち込んでいる音がする。
﹁リーゼロッテも飽きないね∼。そんなにパソコン面白い?﹂
﹁はいとっても。このパソコンと言う魔法の箱は、凄すぎますわ葵
さん。インターネットで、葵さんの居た地球での知識が勉強出来る
のですから。しかも⋮その知識の凄い事⋮﹂
リーゼロッテはそう言いながら、パソコンで調べ物をしている。
リーゼロッテが戻ってきてからは、パソコンはほとんどリーゼロッ
テが使っている。
元々勉強家で、頭の賢いリーゼロッテは、すぐにパソコンに興味を
持ち、俺が教えてあげたら、すぐに使いこなせる様になった。
今では、行商の収支や、日常のお金の出入りまで全て、リーゼロッ
テは把握している。
それをパソコンできちんと記録してくれている。その作業の早い事
⋮。
すぐにブラインドタッチも出来たし⋮オラ、ブラインドタッチ出来
ないのに⋮やっぱり頭の差ですね⋮
そんな、ちょっと黄昏れている俺の袖を引っ張る、望遠鏡をのぞき
込んでいたマルガが
﹁ご主人様!町です!町が見えてきました!﹂
嬉しそうに前方を指さすマルガの言葉に、俺もリーゼロッテも視線
を移す。
街道沿いに、沢山の商店や、家々が見えてきた。王都ラーゼンシュ
ルトの郊外町、ヴェッキオに差し掛かって来たのであろう。
沢山の人々の賑わう声、行き交う荷馬車、街道の両側に軒を並べる
様々な商店、それを興味津々で見つめるマルガは嬉しそうだ。
﹁葵さんも、王都ラーゼンシュルトに来るのは初めてなんですよね
1004
?﹂
﹁うん初めて。今までは港町パージロレンツォ周辺を行商していた
からね。噂では色々聞いているけど、郊外町でこれだけ大きいんだ
から、王都ラーゼンシュルトはどれ位大きいか、楽しみだね﹂
俺の言葉にニコッと頷くリーゼロッテ。
王都ラーゼンシュルトはフィンラルディア王国最大の大都市。この
郊外町でさえ、港町パージロレンツォの郊外町、ヌォヴォの倍は軽
く有るだろう。
そんな光景を眺めながら、広い街道を進んで行くと、辺りが開ける。
そして、その目に入って来た強大な威厳の有るモノに、俺達は目を
奪われる。
﹁わああ⋮﹂
﹁おおお⋮﹂
﹁これは⋮凄いですね⋮﹂
感嘆の声を上げ、固まってしまった、俺とマルガとリーゼロッテ。
俺達の目の前に聳える巨大都市こそが、目的地、王都ラーゼンシュ
ルトだ。
王都ラーゼンシュルト⋮フィンラルディア王国最大の都市にして、
フィンラルディア王家が居を構える、王宮、ヴァレンティーノ宮殿
を中心に、円の様に広がる巨大な町を、数十kmにおよぶ城塞で取
り囲んでいる城塞都市だ。
人口約70万人、郊外町のヴェッキオに住む人を加えれば、約10
0万人位になるだろう。
高さ15mの強固な城塞は、上部を人が歩いて警備出来る様になっ
ており、港町パージロレンツォの様な市壁とは違い、その守備力は、
フィンラルディア王国随一と、言われている。
広さも港町パージロレンツォの約5倍近くあり、様々な公的機関が
揃い、大国の中心として、その役割を果たしている。
1005
また、すぐ傍にある、地球のバイカル湖より少し小さい大きさの、
ロープノール大湖より、豊富で綺麗な水を都市の中に引いており、
その生活水準も高い。
ロープノール大湖より伸びる、無数の大河を航路とし、国中と繋が
る事で、繁栄してきた湖岸都市としても有名だ。内陸にある王都ラ
ーゼンシュルトが、発展、繁栄してきたのも、此れが所以であろう。
まさに、大国フィンラルディア王国の、力の象徴とも言える巨大都
市なのである。
俺達は暫く、その圧倒的な存在感を放っている、巨大都市に放心状
態になっていたが、リーゼロッテが逸早く我を取り戻し、荷馬車専
用の城塞門に荷馬車をまわす様に、指示してくれた。
沢山並んでいる荷馬車達の最後尾に並び、暫く待っていると、鎧を
着た兵士2人と文官がやって来た。
超美少女のマルガとリーゼロッテを見て、少し意外そうに俺を見る
文官に
﹁こんにちわ。えっと⋮王都ラーゼンシュルトに住民登録と居住を
しに来ました。手続きをお願い出来ますか?﹂
俺が挨拶をしながら言うと、俺を見て、マルガ、リーゼロッテに視
線をやり、最後に傍に来ていたマルコを見ると、フムフムと頷く文
官が
﹁違ったら申し訳無いが、行商人の葵どのですかな?﹂
﹁はい⋮そうですが⋮﹂
俺はネームプレートを提示すると、内容を確認した文官は、
﹁やっぱりそうでしたか!聞いていた特徴と一致しておりましたの
でな。貴方達が到着したら、知らせる様に、伝言を受けています。
それと、通過税と滞在税は、王都ラーゼンシュルトに住民登録と居
1006
住すると言う事なので、頂きません。限定条件通過滞在許可証を発
行します。1ヶ月以内に、住民登録と住居の決定をしてください。
1ヶ月を超えてしまうと、その分の通過税と滞在税を、頂く事にな
りますので、注意してください。では、呼んできますので、暫く、
お待ちください﹂
文官の説明を聞き頷く。どうやら、誰かが此処に来る様だ。俺達は
邪魔にならない所に荷馬車を止める。
市門や城塞門にいる文官や兵士は、入出管理や、関税の徴収だけで
なく、伝言料を支払えば、この様に伝言を伝えてもくれる。内容に
よって金額は変わるが。
﹁⋮因みに、どんな特徴って聞いてました?﹂
﹁確か⋮﹃凄い美少女のワーフォックスの少女と、同じくエルフの
凄い美少女を一級奴隷にして、共に少年を連れている、パッとしな
い黒髪に黒い瞳の行商人﹄と、⋮あ⋮﹂
文官は俺の顔を見て、気を使っていそうな苦笑いを浮かべている。
⋮なるほど。そんな、悪意︵主に俺への!︶のある、特徴を言うの
は、あの子しかいませんよね。なんとなく解ります!
少し黄昏れながら待っていると、俺達の後ろから誰かやって来た。
足音からして2人。
俺はきっと、例のブンブン娘と、ハムスターの騎士だと思い、一言、
言ってやろうと勢い良く振り向いて、言葉を吐こうとして、吐けな
かった。
そこには、何処かの学校の制服の様な服を着た、俺より少し歳の若
い、14歳位の少年と少女が立っていた。
紺色の上品なブレザーの様な服には、清潔感のある白いレースが、
強いアクセントになっている。
1007
膝上までのニーソを履き、清楚な革靴を履いている少女。少年もブ
レザーの制服で、よく似合っている。それを見事に着こなしている
少年と少女。
少年は結構な美少年で、少女も、マルガやリーゼロッテには及ばな
いが、結構な美少女だ。
そんな少年少女は俺の顔を見て、フンフンと頷きながら、
﹁貴方が葵さんですね?﹂
俺は頷き、ネームプレートを見せると、顔を見合わせて頷く少年少
女は、
﹁私はフィンラルディア王国、フェリシー子爵家次女、コンスタン
チェ・ジョエル・ムニエ・フェリシーです。こっちは、フィンラル
ディア王国、フェヴァン伯爵家三男、カミーユ・レオナール・エル
キュール・フェヴァンです。コンスタンチェとカミーユと、呼んで
くだされば結構です﹂
﹁初めまして。カミーユです﹂
ニコっと微笑みながら挨拶をする、コンスタンチェとカミーユに、
俺達も挨拶をする。
そんな2人に、少し困惑している俺は
﹁所で君達は⋮﹂
﹁私達は、マティアス様より、貴方達の住む場所まで案内する様に、
言いつかっている者です﹂
俺の問に、ニコっと微笑みながら答えるコンスタンチェ。
﹁とりあえず、ご案内したいのですが、もう関税の手続きは済みま
した?﹂
﹁あ⋮まだですね﹂
﹁では、待って居ますので、関税の手続きをしてきてください﹂
1008
コンスタンチェの言葉に、関税の受付迄荷馬車を回す。
そして、関税担当の文官に、挨拶をする。
﹁この街で、取引の予定はあるか?﹂
﹁えっと、考え中ですね。街を出る時に、取引した商品の後関税を
支払う事でお願いします﹂
﹁ウム、了承した。では、では積み荷を確認する。アイテムバッグ
に商品があるなら、それも提示してくれ﹂
俺は文官の言葉に頷く。
関税には支払い方に2通りある。それが、前関税と、後関税だ。
町に入るだけでは、関税は掛からない。
その町で実際に取引する商品にのみ、関税が掛けられるのだ。なの
で、町に入るだけで関税が掛かり、沢山の町に入るだけで、商品や
お金が無くなってしまうと言う事は無い。
前関税は、町で取引する商品の関税を、先に払う事。
後関税は、町で取引した商品の関税を、町を出る時に支払う事。
街に入る時は、商品の品や数を全て調べられる。それを記した羊皮
紙を渡されるのだ。
勿論、町側の方も管理していて、町を出る時に、積み荷をチェック
される。
なので、商品を町の中で売れば、すぐに解ってしまうのである。
暫く待っていると、俺達の荷馬車の積み荷を確認した文官が、俺に
積み荷の内容を書いた羊皮紙を渡す。それを受け取り、文官に挨拶
をして、コンスタンチェとカミーユの元に戻る。
﹁ごめんね待たせちゃって﹂
﹁いえ良いですよ。では私達の後をついて来てください﹂
コンスタンチェの言葉通りに、俺達は荷馬車に乗り込み、コンスタ
1009
ンチェとカミーユの後をついていく。王都ラーゼンシュルトの華や
かな街並みを見ながら、ゆっくりと荷馬車を進め、2人に暫く付い
て行くと、大きな門の前で歩みを止める、コンスタンチェとカミー
ユ。
そして、俺達に振り返り、
﹁ここが、貴方達の住む家がある所です﹂
ニコっと微笑むコンスタンチェに、困惑する俺、
﹁え⋮この中に、俺達の住む家があるの!?でも⋮此処は⋮﹂
﹁ご主人様⋮此処は⋮何処なのですか?﹂
そんな戸惑っている俺とマルガに、ニコっと微笑むコンスタンチェ。
﹁此処はフィンラルディア王国が、世界に誇る学び舎、伝統と由緒
正しき学院、聖グリモワール学院です!﹂
少し得意げなコンスタンチェ。
聖グリモワール学院は、フィンラルディア王国、王都ラーゼンシュ
ルトにある、最高の教育、研究機関だ。その名前はかなり有名で、
世界中からこの聖グリモワール学院に入学を希望する者が集まる。
学術的な事だけではなく、戦闘に役立つ技術や魔法等も学べ、この
学院を卒業した者達は、重要な要職につき、それぞれの分野で活躍
しているらしい。
誰もが入学出来る事はなく、王族や貴族、商家等の、権力と財力が
ある者か、厳しい試験を乗り越えた、才能あふれる者しか、その門
は開かれない。正に至高の学び舎なのだ。
俺のその説明に、聖グリモワール学院の広大な敷地を見て、目を丸
くしているマルガ。
1010
﹁とりあえず、私達の住む所迄、案内して貰いましょうか葵さん﹂
戸惑っている俺の肩に、優しく手を置きながら言うリーゼロッテ。
そんなリーゼロッテに、苦笑いをしながら
﹁そ⋮そうだね。とりあえず、住む所迄、案内してくれる?コンス
タンチェ﹂
﹁解りました!では、此れをお渡ししておきます。それは、この聖
グリモワール学院の入出許可証です。皆さんの分ありますので、そ
れぞれお持ちください﹂
俺達は入出許可証を貰うと、アイテムバッグになおし、コンスタン
チェとカミーユの案内されるままに、後をついていく。
そんな俺達の傍を、学徒達が通りすぎて行く。
ムウウ⋮か⋮可愛い。
着ている制服が可愛いのもあるけど、女生徒達の可愛い事⋮美形が
多いし⋮めっちゃ好みだ⋮
そんなニヘラとした顔で、女生徒を見ている俺を見て、ムウウと言
った感じで、ギュっと腕に抱きつくマルガの頬は、少し膨れていた。
﹁そんなに⋮あの制服が良いのですか葵さん?⋮夜に⋮着て差し上
げましょうか?﹂
﹁そうです!マルガも着ますのです!﹂
リーゼロッテが悪戯っぽく言い、マルガは少し拗ねマルガになりな
がら言う。
オオウ⋮マルガとリーゼロッテの制服姿⋮やばい!可愛すぎる!!
制服を着たまま⋮あんなコトや、こんなコト⋮是非やってみたい!
荷馬車の上で、マルガとリーゼロッテに抱きつかれながら、ハアハ
アしている俺に、困惑しながら話しかけてくるコンスタンチェ。
1011
﹁着きました。此処が貴方達が居住する事になる、宿舎です﹂
苦笑いしながら言うコンスタンチェに、現実に戻された俺は、その
建物を見て、少し声をあげる。
﹁おお⋮凄い立派な建物ですね⋮﹂
﹁そうですねご主人様!まるで何処かの、貴族様のお屋敷みたいで
す!﹂
﹁そうですわね⋮古い建物ですが⋮しっかりとした作りに、格調の
高い雰囲気⋮良い建物ですね﹂
それの素直な感想に、マルガもリーゼロッテも頷いて嬉しそうにし
ている。
俺達の目に写っているのは、3階建ての立派な、品のあるレンガ作
りの大きな宿舎だった。
まるで地球で言う所の、世界遺産の様に威厳のある建物に、心を奪
われる。
﹁で⋮僕達の部屋は、何階になるんですか?出来れば、2室程お願
いしたいのですが﹂
﹁そうですね。それと、此処の宿舎は、学生はいるのですか?その
辺もお聞きしたいですわ﹂
その俺とリーゼロッテの問に、ニコッと微笑むコンスタンチェは
﹁いえ、その様な心配は要りません。だって、この宿舎全てが、貴
方達に貸し出される物なのですから。この宿舎は、貴方達専用です。
好きな様に使ってくれとの、学院長の指示です﹂
﹁﹁﹁ええ!?この宿舎全部を、貸して貰えるんですか!?﹂﹂﹂
俺とマルガ、マルコは一斉に声をあげる。
それはそうだろう。この宿舎は3階建てで、部屋数も何十部屋とあ
る大きさだ。
1012
しかも此処は、格式高く、伝統と由緒ある、聖グリモワール学院。
そんな聖グリモワール学院の中の、それも、結構大きい宿舎一棟を、
無償で貸して貰えるとは、全く思っていないからだ。
そんな戸惑っている俺とマルガ、マルコを見ながらリーゼロッテが
﹁⋮本当にルチアさんは、とんでも無い物を、用意してくれました
ね。とりあえずは、この学院の、話の解る方と、お話してからでし
ょうか?可愛い少年少女さん?﹂
リーゼロッテが涼やかな微笑みでコンスタンチェとカミーユに告げ
ると、リーゼロッテの頭の回転の早さに驚いている2人は、
﹁そ⋮そうですね。この後に、この聖グリモワール学院の学院長と
会って貰います。詳しくは学院長とお話してください。私達も一緒
に付いて行きますので。では、荷馬車を止めてください。案内しま
すので﹂
コンスタンチェの指差す方を見ると、宿舎の隣にそこそこ大きい、
屋根付きの馬小屋と、馬車置き場があった。
その馬小屋と馬車置き場も、俺達が使って良い様で、荷馬車を止め、
馬小屋にリーズとラルクルを繋ぎ、戻って来ると、コンスタンチェ
とカミーユの案内のもと、学院長の所に向かう。
沢山の学生や、素晴らしい作りの建物、綺麗に手入れされた、木や
芝生、美しい彫刻を眺めながら歩いて行くと、一際大きい建物に到
着した。
﹁この建物が、学院長のが居る本館になります。では、行きましょ
うか﹂
コンスタンチェの言葉に、頷きついていく。そして、その本館の最
上階について、豪華な扉の前に来た。
その扉にノックをするコンスタンチェ。
1013
﹁アルベルティーナ学院長、コンスタンチェです。件の行商人、葵
様をお連れしました﹂
﹁解りました。お入りなさい﹂
その声に、部屋の中に入っていく。その部屋は沢山の書物に囲まれ
ており、様々な魔法の品、調度品や装飾品が並べられている。その
奥の立派な机に座って居る。女性の前に行くと、ニコっと微笑む女
性。
歳の頃は20代後半、マティアスと同じ位の歳であろうか?ダーク
ブラウンの綺麗な髪と瞳をした、優しい雰囲気のある、少しふくよ
かな女性であった。
﹁ようこそいらっしゃいましたね葵さん。私がこの聖グリモワール
学院の学院長を努めています、フィンラルディア王国、ティコッツ
ィ伯爵家当主でもある、アルベルティーナ・マリザ・ティコッツィ
です。貴方を歓迎しますわ葵さん﹂
優しく微笑むアルベルティーナ。
﹁どうもよろしくお願いします。僕の事はご存知みたいなので、僕
の連れを紹介します。こっちが僕の一級奴隷をしている、マルガと
リーゼロッテ。そっちが、旅の仲間のマルコです﹂
﹁どうもです!ご主人様の一級奴隷をさせて貰っているマルガです
!よろしくお願いしますです!﹂
﹁オ⋮オイラは、葵兄ちゃんの弟子をしてますマルコです!ヨロシ
クお願いします!﹂
若干緊張しながら、可愛い頭を下げるマルガとマルコに、フフフと
笑っているアルベルティーナ
﹁私も葵さんの一級奴隷に就かせて頂いて貰っている、リーゼロッ
テと申します。以後お見知りおきを﹂
綺麗にお辞儀をするリーゼロッテに、優しく微笑むアルベルティー
1014
ナ。
﹁噂通りの凄い美少女さんを、共に連れているのですね。ルチア様
から色々聞いては居ますが、楽しそうですわね﹂
﹁ルチアから色々ですか⋮どんな色々ですか?﹂
﹁あら⋮聞きたいのですか?﹂
﹁⋮いえ、辞めときます。なんか、何処かが壊れてしまうかもしれ
ませんから⋮﹂
そう、主にオラのガラスのハートがね!⋮ルチアめ⋮逢ったら、ち
ょっとお仕置きしてやる!
そんな苦笑いしている俺を見て、楽しそうに笑っているアルベルテ
ィーナに、リーゼロッテが
﹁では、挨拶も終わった事ですし、お話をさせて頂きましょう葵さ
ん。アルベルティーナ学院長も、お忙しい身で御座いましょう?私
達に貴重な時間をさいて頂くのも、恐縮ですわ﹂
涼やかに微笑みながら、アルベルティーナを見るリーゼロッテ。そ
のリーゼロッテの表情に、フっと軽く笑うアルベルティーナ。
﹁まず、あの様な素晴らしい宿舎一棟を、私達に無償で貸して頂け
る事に、感謝をさせてください﹂
綺麗にお辞儀するリーゼロッテ。釣られて俺とマルガ、マルコも礼
を述べる。
﹁ですが、一介の行商人である私達に与えるモノとしては、過分に
感じます。宿舎の1室を借りるだけならまだしも⋮。此処は普通の
所ではありません。世界中にその名を馳せる、歴史と伝統、由緒正
しき聖なる学び舎、聖グリモワール学院なのですから。そこに、ど
の様な理由があるのかと思いまして﹂
リーゼロッテの涼やかな微笑みを、真正面から優しく見返す、アル
1015
ベルティーナ。
確かに俺も気になっていた。過分すぎる。それは感じていた。⋮此
処はリーゼロッテに任せよう。
俺と瞳で合図をするリーゼロッテは、俺から許可を得た事を確信す
ると、話を進める。
﹁もし、私達に都合の悪い事が有るのなら、他の宿泊先や、家を探
さなければなりませんので﹂
涼やかにニコっと微笑むリーゼロッテを見て、クスっと少し軽く笑
うアルベルティーナは、
﹁⋮流石にエルフさんは、賢しいですね。ですが、その様に釘をさ
さなくても、構いませんよ?さっき言われた様に、無償でアレをお
貸しします。ですが⋮リーゼロッテさんの言われる通り、全くの無
条件では無いのも事実ですわ﹂
﹁⋮ソノ条件と言うのは⋮一体どんな事なのでしょう?﹂
涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、優しく微笑むアルベルティー
ナは
﹁その条件と言うのは、貴方達に、この学院や生徒の為になる品物
を、仕入れ、販売して欲しいと言うのが条件です。その行為を対価
として頂くと言う形を、とらせて貰いたいのです﹂
﹁⋮つまり、簡単に言うと⋮この聖グリモワール学院の、職員にな
れと⋮言う事でよろしいのでしょうか?﹂
リーゼロッテの言葉に、フフっと笑うアルベルティーナ。
﹁本当に頭の回転の早い方ですね。是非この学院の生徒に欲しい位
ですわ。リーゼロッテさんの言う通りです。私は貴方達を、職員と
して迎えようと思っています。ですが、普通の職員ではありません。
1016
客分職員として迎えるつもりです﹂
﹁客分職員⋮それはどの様な、ものなのでしょうか?﹂
少し目を細めるリーゼロッテを、楽しそうに見るアルベルティーナ
は、
﹁つまり普通の職員では無いと言う事ですね。何処が違うかという
と、私は貴方達の行動を制限しません。
いつも通り、冒険や行商をしてくれれば結構です。その中で見つけ
た、又は、仕入れた品物の中で、学院や生徒達に役に立つモノを売
ってくれれば良い⋮そう言う事ですね。ですから、貴方達に、職員
としての給金は支払いません。その代わりに、無償であの宿舎一棟
を貸し出すと、言う事ですね﹂
﹁⋮なるほど。賃金の代わりに⋮あの宿舎一棟ですか⋮ですが⋮﹂
そう言って俺の顔を見るリーゼロッテ。
リーゼロッテの言いたい事は解っている。それでもまだ過分だろう。
しかも、一介の行商人にソレをする理由が無い。俺は、リーゼロッ
テに話を続けさせる様に、瞳で合図をすると、リーゼロッテはアル
ベルティーナに向き直る。
﹁それでも⋮まだ過分に感じるのですが?それに、一介の行商人で
ある私達に、その様な事をされる理由も解りません﹂
直球をアルベルティーナに投げかけ、涼やかに微笑むリーゼロッテ
を見て、フフっと軽く笑うアルベルティーナは、
﹁ソレに関しては⋮ルチア様からの指示⋮お願いだからですね。い
かな私でも、ルチア様のお願いや指示を、無下にはとても出来ませ
んので。その件は、直接ルチア様に聞かれるのが宜しいでしょう。
もう暫くしたら、此方にお見えになられるみたいですし。それから、
あの宿舎は、作りはとても良いですが、新しく宿舎を別の所に作っ
1017
たので、取り壊す予定でしたの。ですから、貴方達がそこまで気に
なさる事は無いのですよ。私達も取り壊す予定の物を、有効活用し
ていると思っていますので。この学院は色々な可能性を探す場所で
もあります。その為の投資だと思っていますの﹂
そう言って優しく微笑むアルベルティーナ。
﹁で⋮どうしますか?私の提案を断られますか?﹂
優しく語りかけるアルベルティーナ。リーゼロッテも俺に向き直り、
瞳で合図をしてくる。
⋮話は此処までだな。アルベルティーナがどう言った経緯で俺達を
受け入れたかは、此れ以上はアルベルティーナから聞き出せないだ
ろう。あとは、ルチアから直接聞いた方が早い。
それに、確かに良い条件だ。俺達の行動に制限無しで、あの宿舎を
無償で使えるのはありがたい。
しかも、この聖グリモワール学院で商売も出来る。今は人も増えた
し、収入を増やせる選択肢は多い方が良い。断る理由は無いし、此
のまま話を進めよう。
俺の表情で考えを読み取ったのか、俺の顔を見てニコっと微笑むリ
ーゼロッテに苦笑いをしながら、
﹁あの宿舎は、僕達の自由にさせて貰っても良いんですよね?﹂
﹁はい、構いません。如何に手を加えられ様が、私は咎めません。
好きに使って頂いて結構です。貴方達が使わないのであれば、取り
壊すしかないモノですからね。しかし、学院や生徒に危険の及ぶ事
は避けてくださいね?﹂
﹁ええ⋮それは。その様な事はしませんので﹂
苦笑いしながら言う俺を見て、ニコっと微笑むアルベルティーナ
﹁では、契約成立で宜しいですね?﹂
1018
﹁はい、お願いします﹂
俺の言葉にウンウンンと頷くアルベルティーナは、何かを取り出し
た。
﹁此れは、客分職員証明書です。皆さんの人数分有ります。先程お
渡しした、入出許可証と交換に、此れをお渡ししますね﹂
俺達は言われた通りに交換して、客分職員証明書を受け取る。
﹁これで貴方達は、この聖グリモワール学院の正式な職員です。そ
れと此方が、学院規則です。後で一応目を通しておいてください﹂
その羊皮紙を受け取った時、グ∼っと、可愛い音が鳴った。ふと、
音のした方を見ると、マルガが顔を赤くして、恥ずかしそうにモジ
モジしていた。
﹁ああ、此れはいけませんね。もう、昼食の時間でしたわね。我慢
させてしまったら、可愛いキツネさんが可哀想ですわね。コンスタ
ンチェとカミーユ。葵さん達を、食堂に案内してあげて。私が食事
を御馳走させて頂きますから。後の食事は、食堂の料理長と葵さん
が直接お話しをしてください。此処の食堂の食事は、なかなかの物
ですよ?満足出来ると思います﹂
その言葉を聞いたマルガは、ニヘラと涎の垂れそうな、嬉しそうな
顔をすると、
﹁ご主人様∼私⋮楽しみです∼﹂
ニヘニヘ顔のマルガの頭を優しく撫でると、可愛い舌をペロっと出
して、はにかむ可愛いマルガ。
俺達はアルベルティーナに挨拶をして、部屋から出ていく。
そんな静寂の戻ったアルベルティーナの座っている机に、一瞬で女
性の姿が現れる。
1019
そこには、艶かしいプロポーションの、美しい女性が姿を現して、
アルベルティーナの机に腰を掛けていた
﹁私がずっと目の前に座っていたのに、全く気が付かなかったわね、
あの子達。意外と、大した事無かったはね﹂
﹁いえ、メーティス統括理事の気配と姿を消せる魔法、ミラージュ
コートを見破れる様な上級者は少ないだけでしょう?⋮本当に悪趣
味なんですから⋮﹂
呆れる様に、溜め息を吐くアルベルティーナ。そんなアルベルティ
ーナに悪戯っぽく微笑むメーティス。
﹁ですが⋮あの行商人の少年が、異世界⋮﹃地球﹄とか言う、凄く
文明の進んだ世界から、やって来た様には見えませんでした。ルチ
ア様の言う様な、力も感じませんでしたし⋮﹂
﹁⋮なんでも、開放する事で力を出せるらしいから、通常時は感じ
れないらしいわよ?あのマティアスが言う位なんだから、間違いな
いんじゃない?ルチアやマティアスが、私に嘘なんてつかないわよ
アルベルティーナ。それに、いろんな国を旅して、見聞してきた私
でも、あの様な、黒い髪に、黒い瞳の取り合わせを持つ人種なんか、
見た事無いしね。﹂
メーティスの言葉に、少し考えているアルベルティーナ。
﹁⋮確かにそうですが⋮。それから、ルチア様にマティアス殿です
よ、メーティス統括理事。きちんとした言葉使いで、お願いします﹂
﹁いいじゃない、此処には私達しか居ないんだから。それにマティ
アスやルチアは、私の魔法の弟子よ?師匠が弟子の事を、呼び捨て
にしたって良いじゃない。かたい事言わないの﹂
フフフと笑っているメーティスに、少し呆れているアルベルティー
ナ。
1020
﹁兎に角、アノ少年達は、私達で監視しましょう。危険な事になら
ない様にね。準備はしてあるのでしょう?アルベルティーナ﹂
﹁まあ⋮メーティス統括理事のご指示通りにしています。それに、
この聖グリモワール学院の関係者だと解れば、もし情報が漏れたと
しても、そう簡単に手は出せませんからね﹂
﹁当たり前ねそんな事。私の目の黒いうちは、この聖グリモワール
学院を、どうこうさせるつもりもないしね。アノ行商人の少年にし
てもね﹂
ニヤっと笑うメーティスの瞳は冷たさを纏っていた。
﹁とりあえずは、こっちに問題は無いとして⋮あっちがどうなるか
ね﹂
﹁そうですね。あちらは私達では、どうする事も出来ませんからね。
ルチア様に任せるしか⋮﹂
﹁そうね⋮。あっちはルチアに任せましょう。自分で言い出した事
なんだから、ルチアにさせればいいのよ﹂
﹁⋮えらく冷たいのですね。弟子なのでしょう?﹂
﹁弟子だからこそよ。甘やかす訳にはいかないわ。貴女もよく解っ
ているでしょう?﹂
ニヤニヤ微笑むメーティスに、呆れ顔のアルベルティーナは、
﹁ええ、良く解っていますよも。私も貴女の弟子なのですから!⋮
ハア∼﹂
溜め息を吐くアルベルティーナを見て、楽しそうなメーティス。
﹁じゃ私は、会合が有るから行くわ。後の事はよろしくねアルベル
ティーナ﹂
﹁解ってます。いってらっしゃいませメーティス統括理事﹂
ニコっとアルベルティーナに微笑むと、部屋から出て行くメーティス
1021
﹁⋮ま、私に出来る事をしましょうか⋮﹂
深い溜息を吐きながら、自分の業務に戻るアルベルティーナは、少
し呆れ顔だった。
アルベルティーナ学院長と別れた俺達は、コンスタンチェとカミー
ユの案内で、生徒達が食事を取る食堂にやって来ていた。広い講堂
の様な食堂に、マルガとマルコも、わああと声を上げている。
コンスタンチェとカミーユの指示で席に座ると、食堂の使用人らし
きメイドが、台車を押しながら俺達の所にやってきて、料理を並べ
ていってくれる。その料理は、港町パージロレンツォのレストラン
テには及ばないが、結構高級な物だと伺える。そんな、美味しそう
な料理の匂いに、マルガは可愛い鼻をピクピクとさせている。そん
なマルガに、一同が微笑んでいる。
﹁じゃ∼折角だから頂こうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!いただきます!﹂
嬉しそうに頂きますをすると、右手にナイフ、左手にフォークをチ
ャキーンと構え、料理に襲いかかっているマルガ。ふと、足元に視
線を落とすと、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナも、木の皿に料
理を入れて貰って、アグアグと料理にかぶりついている。そんなマ
ルガとルナのキツネコンビの食べっぷりに癒されている。
﹁そう言えば、コンスタンチェとカミーユは、この学院を卒業した
らどうするの?やっぱり自分達の領地に戻るの?﹂
﹁いえ!私達は、此処を卒業したら、バルテルミー侯爵家、ウイー
1022
ンダルファ銀鱗騎士団に入って、ルクレツィオ様のお役に立つつも
りです。私の家もカミーユの家も、騎士団を持っているのですが、
兄達が全てしてくれていますので。ルクレツィオ様の元で色々学ぶ
つもりです﹂
﹁そうですね。僕も色々ルクレツィオ様から教えを請う様に、父か
ら言われています。ルクレツィオ様は素晴らしい方ですから﹂
カミーユに言葉に、頷くコンスタンチェ。
なるほど⋮バルテルミー侯爵家と、フェリシー子爵家、フェヴァン
伯爵家は、同じ派閥の貴族って事か⋮
ま∼善政をしく、あの人格者のルクレツィオ様なら、良くしてくれ
るのは解っているし、預ける側も安心と言った所か。じゃないと、
貴族の坊ちゃんやご令嬢が、他の貴族の騎士団なんかには入らない
よな。
そんな事を考えながら、食事を済ませた俺達は、食後の紅茶を飲ん
でいた時だった。
食堂に居た学生達が、ざわざわと騒ぎ始める。そして、誰かが俺達
の傍にやってきた。
﹁此処に居ましたか葵殿。しばらくぶりですな﹂
その聞き覚えの有る声に振り向くと、そこには、純白の光り輝く様
なフルプレートに身を包み、純白のマントを靡かせている、威厳の
有る騎士が立っていた。
茶色掛かった綺麗な金髪に、キリッとした瞳、身長は190cmを
少し超える偉丈夫だ。
切れ長のかなりの男前は、俺達を見て優しく微笑んでいる。
その偉丈夫の男前を見た生徒達の殆どが、その騎士に向かって片膝
をつき、挨拶をしている。
当然、コンスタンチェやカミーユも同じ様に、片膝をついて挨拶を
している。
1023
その光景に俺達が戸惑っていると、リーゼロッテがにこやかに微笑
みながら、
﹁マティアスさんこんにちわですわ。やっぱり、フード付きのロー
ブとあの眼鏡が無いと、随分と雰囲気が変わりますね﹂
﹁まあ⋮私の姿は、目立ちますからね。あの時はそうさせて貰って
ました﹂
微笑むマティアスに、ニコっと微笑むリーゼロッテ。
﹁ほ⋮本当に、マティアスさんだ!ローブと眼鏡が無かったから、
オイラ全く解らなかったよ!﹂
﹁本当です!私も解らなかったです∼。マティアスさんこんにちわ
です!﹂
マルコとマルガは、無邪気にマティアスに挨拶をしている。そんな
マルガとマルコを見て、嬉しそうに微笑むマティアス。周りは、マ
ティアスとの挨拶を終えて、椅子に座りなおしている。
﹁えっと⋮マティアスさんなのは解ったけど⋮一体⋮マティアスさ
んは⋮何者なんですか?﹂
戸惑いながら聞く俺の問に、コンスタンチェが驚きながら、
﹁ええ!?葵さんはマティアスさんが、どう言った方か知ら無かっ
たんですか!?私は⋮マティアス様から葵さんを迎えに行く様に、
言われたので⋮てっきり知っているのかと⋮﹂
困惑しているコンスタンチェに、苦笑いしている俺を見て、カミー
ユが説明してくれる。
﹁マティアス様は、フィンラルディア王国、女王親衛隊である、ア
ブソリュート白鳳親衛隊副団長にして、フィンラルディア王国の最
高位の騎士の称号である、クーフーリンの称号を持つ、至高の騎士
1024
です﹂
﹁﹁﹁えええええ!?﹂﹂﹂
その説明に、俺もマルガもマルコも驚きの声をあげる。その俺達の
表情に、少し苦笑いしているマティアスは、表情を引き締め直すと、
﹁私はフィンラルディア王国、バルテルミー公爵家長男、マティア
ス・オイゲン・ウルメルスバッハ・バルテルミー。ルクレツィオは
私の父だ﹂
マティアスが微笑みながら言う。
いやいやいや。色々突っ込みどころ多いだろ!?
100歩引き下がって、マティアスがあのバルテルミー公爵家の長
男なのは良しとしよう。
もともと、何処かの貴族か何かだと思ってたから。
でもマティアスが、あのフィンラルディア最強と呼び声高く、各国
でも超有名な、女王親衛隊である、アブソリュート白鳳親衛隊副団
長!?しかもクーフーリンの称号を持つ騎士!?
確かに⋮出鱈目な強さを持った人だとは思っていたけど⋮此処まで
とは⋮
マティアスの顔を見ながら呆けている、俺とマルガとマルコの後ろ
から、再度聞き覚えの有る声が聞こえる。
﹁そういう事ね。その件は置いといて、とりあえず、きちんと約束
通り来た事は、褒めてあげるわ﹂
その声に振り向くと同時に、周りが騒然となり、食堂に居た全員が、
片膝をついて頭を下げている。
そこには、淡い桃色の豪華な装飾のされたドレスに身を包まれ、光
り輝く宝石を上品につけている、ピンク色の髪をした超美少女が立
っていた。正に、女神と見紛う美しさと威厳に、思わず我を忘れる。
そんな俺を見て、楽しそうに小悪魔の様な微笑みを向ける美少女は、
1025
﹁どうしたの葵?いかに私が綺麗だからって、見惚れすぎじゃない
の?﹂
その声に、少し我を取り戻した俺は、微かに声を出す。
﹁ルチア⋮なの?どうしたの⋮そんな綺麗な格好して⋮﹂
﹁貴様!ルチア王女様に向かって、なんと無礼な!頭が高い!控え
ろ下郎!﹂
﹁ええ!?お⋮王女様!?﹂
俺の言葉に共が激昂していうと、ルチアは手を軽く共の前に出し
﹁いいのよ。彼はちょっと混乱しているだけだから﹂
ニヤっと笑うルチアが俺の傍にやってくる。俺達が狼狽しているの
を見たマティアスが口を開く。
﹁この方は、フィンラルディア王国、第三王女、ルチア・ベルティ
ーユ・ローズリー・フローレンス・フィンラルディア様。第三王位
継承権を持つ、フィンラルディアの王女様です﹂
﹁﹁﹁えええええええええ!!!!﹂﹂﹂
マティアスのその説明に、俺もマルガもマルコも同時に声を上げる。
広い講堂の様な食堂に、俺達の声が響く中、ルチアは小悪魔の様に
微笑んでいた。
1026
愚者の狂想曲 27 ヴァレンティーノ宮殿
﹁きっちりとした説明は、あるんだよなルチア?﹂
﹁そうね∼。私のこの美しさについてなら、教えてあげてもいいわ
よ?﹂
ルチアの小悪魔の様な微笑みに、呆れている俺。
何時もはルチアが俺に言うであろう言葉を、今回は俺が言っている。
あの後、落ち着いて話が出来る所でと言う事になって、ついさっき
我が家になった俺達の宿舎に、ルチアとマティアスを連れて戻って
きていた。
何処かの貴族の屋敷並にある宿舎の感動を、噛みしめたい所ではあ
ったが、それどころでは無くなった。
とりあえず、話しが出来てゆっくり出来る、応接室に移動したのだ。
初めは一杯の護衛の兵士達も入って来ようとしたが、ルチアの一喝
で、護衛の兵士達は、渋々宿舎の玄関の外で待機している。ルチア
の指示で、コンスタンチェとカミーユは同行していた。
﹁⋮まさかルチアが王女様だったとはね。マティアスさんも、女王
親衛隊副団長とか⋮通りで強いはずだよね﹂
﹁マティアスは兎も角、私が王女でも、不思議じゃないでしょ?こ
んなに美しいんだし∼﹂
﹁⋮なんかこの国の行く末が不安になってきた⋮他の国に⋮移住を
考えた方が⋮﹂
﹁なんでよ!?喧嘩売ってるの?売ってるのね!良い度胸ね!﹂
呆れながら言う俺に、プリプリ言うルチア。その何時もの光景に、
マルガとマルコの緊張も解け、アハハと笑い出した。それを見た俺
とルチアは、顔を見合わせて苦笑いをしていた。
1027
﹁てかさ⋮ルチアが王女様なら、俺達もきちんとした話し方や、接
し方した方がいいよね?﹂
﹁公式の場や、他に目がある時以外は⋮今迄通りでいいわよ⋮今更
でしょ?﹂
少し、恥ずかしそうに言うルチアは、若干顔を赤くして俯いている。
そんなルチアに、嬉しそうなマルコとマルガが飛びついた。
﹁何か驚いて遅くなったけど、ルチア姉ちゃんまた会えて良かった
よ!﹂
﹁そうですね!私も驚いちゃいましたけど、ルチアさんも元気そう
で良かったです!﹂
﹁フフ⋮ありがとね。キツネちゃんにマルコ⋮貴方達も元気そうで
嬉しいわ﹂
ルチアに抱きついているマルガとマルコの頭を、優しく撫でている
ルチアの顔は幸せそうだった。
﹁とりあえず、ルチアが王女様なのは解ったけど⋮ルチア⋮お前さ、
あの時、港町パージロレンツォで何をしてたの?事もあろうに、一
国の⋮しかも、大国フィンラルディア王国のお姫様がさ。良く許可
がおりたものだね﹂
﹁港町パージロレンツォに居た理由なんて⋮貴方に関係無いでしょ
!許可だってきちんとお母様に貰ったわよ!マティアスを護衛に付
けるって事でね。私にも色々あったのよ!﹂
そう俺に言ったルチアは、頬をプクッと膨れさせていた。
ありゃ⋮拗ねられたんですね。解ります。
こうなったルチアに、これ以上聞き出すのは無理か。また次回にし
よう。
俺がその様な事を考えていると、リーゼロッテがルチアに微笑みな
1028
がら
﹁港町パージロレンツォの件は良いとして、物凄い住居を用意して
貰えて、感謝しますわルチアさん。この宿舎にも、色々使い道があ
りそうですしね。人が増えても大丈夫ですし、倉庫、作業場として
も、有効に利用出来ますから﹂
﹁流石はエルフちゃんね。葵と違って、先の事がきちんと見えてる
わね。貴女が葵の傍に居ると思うえば、安心して寝ていられそうね﹂
リーゼロッテとルチアは、お互い含み笑いをしながら、微笑み合っ
ている。
その含み笑いに、少しゾクっとしたものを感じながら、俺は話を続
ける。
﹁とりあえず、俺達は何をしたら良いの?前に専任商人になってっ
て言ってたけどさ。初めはルチアの専任商人になるのは、構わなか
ったけど、王女様の専任商人ともなれば⋮﹂
俺の少し言葉を濁した言葉に、ルチアは少し寂し気で真剣な眼差し
を俺に向ける。
﹁ええ⋮その事なんだけど、今反対されているわ﹂
﹁そりゃ∼そうでしょ﹂
当然だ。俺達とルチア達の直接的な関係は別として、大国の王女様
の専任商人ともなれば、得られる利益も半端ない。その美味しい利
権を、どこぞの馬の骨とも解らない俺に、むざむざ渡す様な奴は居
ないであろう。
﹁でも⋮ルチアさんは、それ位で引き下がらなかった⋮お話の続き
が有るのでしょう?﹂
﹁⋮本当に頭の回転が早いわねエルフちゃん。勿論その通りよ。私
はそれ位じゃ引き下がらないわ﹂
1029
リーゼロッテの涼やかな微笑みを見て、小悪魔の様に笑うルチア
﹁葵やエルフちゃんの言う通り、王家に繋がりのある、貴族や商家
達が猛反対してるわ。まあ、王族や六貴族の専属商人や専任商人は、
無関税特権が与えられるから、仕方無いんだけどさ﹂
軽く溜め息を吐くルチアを見て、俺の服の袖を引っ張るマルガは
﹁ご主人様∼。無関税特権って何なのですか?﹂
可愛い子首を傾げて、う∼んと唸っている可愛いマルガの頭を撫で
ながら
﹁無関税特権と言うのは、簡単に言うと、関税が掛からない権利を
貰えるって感じかな?﹂
﹁関税⋮税金を払わなくていいのですか?ご主人様﹂
﹁そう、葵の言う通りよキツネちゃん。王族や六貴族の専属商人や
専任商人はね、無関税特権が与えられるの。六貴族の専属、専任商
人は、2つの品物に対して無関税特権が与えられ、王族の専属、専
任商人も、2つの商品に対して無関税特権が与えられ、この国の最
高指導者であるお母様、女王の専属商人は、3つの商品に対して無
関税特権が与えられているの。無関税特権を与えられるのは、それ
ぞれ1人迄だけどね﹂
人差し指を立てながら、少し得意げに言うルチアの話を、なるほど
∼と頷きながら聞いているマルガとマルコに癒されながら、
﹁しかも、その無関税特権を与えられた商品の、取引量に制限は無
いらしいよ。つまり、好きなだけ、取引しても、関税は掛からない
と言う事なんだ。関税が掛からないと、その分高く売る事も出来る
し、他より安く売っても、儲けを出す事が出来る。それが、如何に
有利か解るでしょ?﹂
俺の言葉に、おお∼っと言いながら、ウンウンと頷くマルガにマル
1030
コ。
ふと視線を足元に落とすと、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが、
マルガを真似して首を縦に振っていた。⋮ほんとにルナも解ってる
の?食べ物の話じゃないよ?本当にマルガちゃんに似てきたね!
﹁ま∼制限が無いと言っても、他の取引に与える影響も甚大だから、
年に2回話し合われる会議で、無関税特権を持っている物同士が、
互いに話し合って、影響の出ない様に取引量を決めてるんだけどね。
それでも、莫大な利益を上げる事が出来るのは、確かな事ね﹂
ルチアの説明を聞いて、う∼んと唸りながら頷いているマルガとマ
ルコ。
﹁⋮で、そんな権利を貰えるルチアさんの専任商人に、葵さんがな
る事を嫌がっている人達は、どの様な事を仰ってられるんですか?﹂
ニコっと微笑むリーゼロッテを見て、フフっと軽く笑うルチアは。
﹁本当に賢しいわね。当然、私が専任商人に葵を指名している事に
は反対だけど、私の意志も邪険には出来ない。だから⋮ある事が決
まったの﹂
﹁その⋮ある事と言うのは⋮何なのですかルチアさん?﹂
目を細めているリーゼロッテに、少し苦笑いしながらルチアは、
﹁それはまだ解らないの。とある人物が、葵か貴族や商家達の推挙
する商人の、どちらかを選ぶと言う事になったのよ。どんな条件が
出されるかは、その場で発表されるらしいわ﹂
ルチアの言葉に、なるほどと頷く一同。
﹁所で、その発表される日って何時なの?俺も行かなくちゃダメだ
ろうし、出来れば先に言って欲しいんだけど﹂
﹁そうね。貴方にも都合があるわよね。その日は今日よ。今日の昼
1031
刻6の時。今言ったから大丈夫よね?今から用意して、王宮に向か
うわよ﹂
﹁ええ!?今日の昼刻の6の時なの!?⋮俺達が今日就いてなかっ
たら、どうしていたんだよ⋮﹂
﹁ばかねえ⋮貴方が私との約束を、破る訳無いと解ってたからよ!
マティアス!﹂
ルチアはマティアスに声をかけると、マティアスはアイテムバッグ
から、大きな鞄を数個取り出した。
﹁この鞄の中には、ちょっとした服が入っているわ。葵とマルコの
服は新調したけど、キツネちゃんとエルフちゃんの服は、私の持っ
ている物で、昔着ていたやつを持ってきたわ。この鞄ごと全部上げ
るから、着替えたら学院の外に馬車を待たせてあるから、それに乗
って王宮に来るといいわ。女の子の方はコンスタンチェが着替える
のを見てあげて。葵とマルコはカミーユにね。じゃ、私は先に王宮
に戻るから。また後でね﹂
ルチアはそう言い残して、マティアスと帰って行った。
﹁⋮本当に台風みたいな女の子なんだから⋮。とりあえず、着替え
て準備をしよう。俺とマルコは隣の部屋で着替えるよ。カミーユお
願い出来る?﹂
﹁ええ!結構ですよ﹂
俺とマルコ、カミーユは隣の部屋に着替えに行く。
﹁全く⋮ルチアには毎回やられるよね。カミーユも苦労してるんじ
ゃないの?﹂
﹁いえ⋮僕はそれほどでも。と⋮言うか、バルテルミー公爵家の方
々以外で、あんなに砕けたルチア様を見たのは初めてなので、驚い
ているのが本音です。余程⋮貴方達の事を信用しているのでしょう
ね﹂
1032
﹁ほんと?あのルチアなら、美少年のカミーユの事、イジリ倒して
ると思ったんだけど⋮﹂
俺の美少年という言葉に、若干顔を赤らめているカミーユ。
オオウ⋮恥じらってるよ貴族の坊ちゃんが!マルコみたいだ⋮マル
コ2号⋮ういやつめ⋮
そんなアホ事を思いながら、カミーユに手伝って貰って着替え終わ
った。
マルコが着ているのは、緑色のジャケットに合わせた、爽やかな正
装だ。俺の方は茶色を基調にした、落ち着いた物だった。
﹁マルコよく似合ってるよ。ルチアなかなか良いのをくれたね﹂
﹁うん!そうだね!葵兄ちゃんも、良く似合ってるよ!﹂
﹁2人共良くお似合いですよ﹂
カミーユの言葉に、若干の照れを感じている俺とマルコの元に、コ
ンスタンチェがやってきた。
﹁皆さんも用意出来たみたいですね。マルガさんとリーゼロッテさ
んも用意できました﹂
そういったコンスタンチェの後ろから、マルガとリーゼロッテが姿
を現す。
マルガは淡いピンクの花柄の、フリルのついた可愛いドレスと赤い
靴だった。幼女体型のマルガにとても似合っている。
リーゼロッテは薄いブルーのドレスに、白いレースが品良くつけら
れており、編み型のハイヒールを履いて、凛としたリーゼロッテの
雰囲気に良く似合っている。
﹁2人共⋮とても良く似合っているよ⋮﹂
﹁ありがとうございますご主人様!ご主人様も良く似合っています
!﹂
﹁そうですね。葵さんもマルコさんも、とても良く似合っています
1033
ね﹂
俺がマルガとリーゼロッテに見惚れながら言うと、マルガとリーゼ
ロッテも顔を赤くして嬉しそうだった。
﹁では、皆さんの準備も整いましたし、王宮に向かってください。
馬の世話は、学院の者にしてもらえる様、私から言っておきますの
でご安心してください﹂
﹁たのむよコンスタンチェ。じゃ∼皆行こうか!﹂
俺の声に皆が頷き、学院の外に待たせている馬車に向かうのであっ
た。
俺達は、ルチアの用意してくれた馬車で、王都ラーゼンシュルトの
王宮、ヴァレンティーノ宮殿に向かっている。馬車の窓から楽しそ
うに外の風景を見ているマルガの膝の上には、気持ち良さそうに白
銀キツネのルナが抱かれている。そんなマルガを俺とリーゼロッテ
は微笑み合いながら見ていた。
﹁あ!葵兄ちゃん!王宮が見えてきたよ!﹂
マルガと同じ様に窓から眺めていたマルコ、嬉しそうに指をさす。
﹁わああ⋮﹂
それを見たマルガは感嘆の声を上げる。
街の中心に聳えるソレは、初夏の日差しを浴びて、光り輝いている
様に、眩しく映る。
純白のレンガで作られた、埃1つ無さそうな真っ白。何者にも汚さ
1034
れぬ純白。
幾つかの塔の様な物の真ん中に、金色の宮殿が見える。その素晴ら
しい装飾がされた壁や屋根が、威厳を漂わせている。
数々の彫刻が、ここに来るものを、見下す様に、称える様に、その
無機質な瞳を俺達に向けていた。
この全ての中心にあるかの様に思わされる、大国フィンラルディア
王国の王家の住まわれる世界。
そう⋮これが王都ラーゼンシュルトの王宮、ヴァレンティーノ宮殿
だ。
俺達を乗せた馬車は、厳重に管理された正門をくぐり、王宮の入り
口に到着した。
そして、俺達が馬車から降りた時だった。
俺達の横に、俺の荷馬車の2.5倍はあろうかと言う大きさの、鋼
鉄で出来た箱型タイプの荷馬車が止まった。
それを見たマルガとマルコがソレに食いついた。
﹁ご主人様凄いです!鋼鉄の大きな馬車です!硬そうなのです!﹂
﹁だね!マルガ姉ちゃん!それに、馬じゃなくて、牛よりでっかい
魔物が、馬車を引いてるよ!﹂
興奮気味のマルガとマルコを見て、微笑み合う俺とリーゼロッテ。
﹁あれは鋼鉄馬車だ。恐らく魔法で強化されたマジックアイテム型
の荷馬車だね。それと、あの鋼鉄馬車を引っ張っている大きな牛の
魔獣はストーンカだね。ストーンカは非常に丈夫で、力もあるから、
重いものを引くのに使われる。アノ鋼鉄馬車はかなりの重量だから、
普通の馬じゃ引けないんだろう。ま⋮どちらも高額だから、乗って
いる人は少ないけどね﹂
﹁なるほど∼。でも魔獣も、人間の言う事を聞くのですねご主人様﹂
﹁うん。一部の魔獣だけだけどね。ウイーンダルファ銀鱗騎士団の
1035
乗っていたワイバーンもその一種だね。数は少ないけど、人間に調
教が出来る魔獣が居るのも確かだね﹂
俺がマルガとマルコにそう説明していると、その鋼鉄馬車から人が
降りてきた。
リーゼロッテの様に綺麗な金髪と、透き通る様な金色の瞳、色白の
肌に、少しつり目の知性を感じさせる甘い顔立ち。薄い唇は上品に
閉じられている。年の頃は20代前半、身長180cm位のスラリ
とした、その佇まいは気品に満ちていた。そこには、今迄見た事の
無い様な、綺麗な男性が立っていた。
その美青年の後ろから、3人のかなりの亜種の美女が降りてきた。
その3人の首元には、赤い輪っかの様な紋章がついている。どうや
ら、この美青年の所有している一級奴隷の様だった。
俺がその一行に目を奪われていると、俺視線に気がついた美青年は
こちらに振り向き、俺達を見て、ほう⋮と言った表情をしている。
その美青年は、俺に軽く微笑むと、王宮に入って行った。
ムウウ⋮凄い美青年だった。男の俺でも見惚れる位に。
マティアスやアロイージオも男前や美男子だったけど、アノ男には
勝てないな。
まさに超美青年。もし、地球に居たら、間違いなくトップスターだ
ね。ハリウッドもビックリだよ。
﹁ご主人様⋮どうかされましたか?﹂
﹁先程の男の人と、知り合いなのですか葵さん?ずっと見てました
けど﹂
固まっていた俺に、不思議そうに語りかけるマルガとリーゼロッテ。
オオウ⋮マルガもリーゼロッテも、アノ超美青年を見て、なんとも
思わなかったのか⋮
1036
俺に優しく微笑んでくれるマルガとリーゼロッテに癒されながら、
案内役について王宮の中に入っていく。
﹁まあ⋮流石はヴァレンティーノ宮殿ですわね。なんて美しいんで
しょう⋮﹂
珍しく感嘆の声を出すリーゼロッテ。
純白の何者にも汚される事を許さぬ、その色に包まれた王宮の中は、
見事なまでの装飾がされていて、数々の彫刻や装飾品達が、俺達を
迎えている。塵1つ、埃1つ感じさせない清潔感を漂わせ、純白の
大理石の床には、真赤で豪華な絨毯が敷かれている。
そのフワフワとした感触の真赤な絨毯の上を歩きながら、キョロキ
ョロしながら案内役に付いて行くと、大きな広い応接間の様な空間
に出た。そこには沢山の人々がソファーに座って、楽しげに話をし
ている。
どうやらここは、王宮に用の有る者達の、合同の待合室みたいであ
った。俺達も、その中のソファーの一角に腰を下ろす。
﹁では⋮暫くこちらでお待ちください﹂
そう言って、案内役は何処かに行ってしまった。
﹁ご主人様∼。このヴァレンティーノ宮殿は凄い所ですね∼。真っ
白ですごく綺麗で⋮まるで神様が住んでいるみたいなのです∼﹂
﹁ホントだよねマルガ姉ちゃん!オイラこんな綺麗な建物見た事無
いよ⋮﹂
﹁俺もだよマルガにマルコ。ヴァレンティーノ宮殿の中がこんなに
も美しい所だなんて⋮﹂
田舎のお上りさん状態でキョロキョロしている3人を、フフと笑っ
て見ているリーゼロッテ。
そんな感じでキョロキョロしていると、先程の美少年一行を発見し
た。
1037
また俺の視線に気がついたのか、俺の方を見て、フフっと微笑むと、
こちらにやって来た。
そして、俺達の前に来た、美青年は、俺やマルガ、リーゼロッテを
見て楽しそうに微笑むと、美しい声を発する。
﹁君達もこの宮殿に用があるのかい?見た所商人の様だけど、何か
の取引かい?﹂
優しく微笑む美青年に、少し緊張しながら、
﹁ええまあ⋮そんな所ですかね⋮﹂
俺の苦笑いを見て、楽しそうに微笑む美青年。そして、マルガとリ
ーゼロッテを見て、少し目を細めると、
﹁君は素晴らしい一級奴隷をお持ちだね。その美貌⋮なかなかお目
に掛かれるものではないね﹂
﹁あら⋮お上手ですわね。でも、貴方のお持ちの一級奴隷さん達も、
美しいと思いますが?﹂
リーゼロッテが涼やかな微笑みを美青年に向ける。その後ろに居る
3人の亜種の美女の一級奴隷は、超美少女のリーゼロッテに、美し
いと言われ、まんざらでもなさそうだった。
確かに美女だ。マルガやリーゼロッテには及ばないけど、色も白い、
スタイルも良い、それに美女。
この美青年が凄すぎて影に隠れがちだが、地球なら十分女優として
通用するレベルだろう。
﹁まあ⋮僕の奴隷だからね。でも⋮君の一級奴隷には、見劣りして
しまう⋮そこで相談なんだが、君の持っている亜種の一級奴隷とエ
ルフの一級奴隷を売ってくれないか?そうだね⋮金貨600枚出そ
う。どうかな?﹂
にこやかに微笑む美青年の言葉に、マルガが心配そうに俺の腕に抱
1038
きつく。そんなマルガの頭を優しく撫でながら
﹁この一級奴隷達を売る気は無いんですよ。申し訳ないですが⋮﹂
苦笑いしながら言うと、少し気に食わなさそうな顔をした美青年は、
﹁なら、金貨700枚に、この3人の一級奴隷も付けるよ。価値的
には金貨1000枚近くになると思うけどどうだい?僕は別に処女
じゃなくても構わないんだ。僕が調教しなおせば良い事だしね。そ
れに、君の持っている一級奴隷は、僕にこそ似合うと思うんだ。こ
の条件で売ってくれないかな?﹂
そう言って再度微笑む美青年は、俺の肩に手を置く。
確かに、この美青年の傍に、マルガやリーゼロッテが居たら、物凄
く絵になって、地球なら映画でもやろう物なら、大ヒット間違い無
し!だろうけど、他の奴に、マルガとリーゼロッテを渡す気は、さ
らさら無い。
﹁すいませんが⋮それでもダメですね。この一級奴隷のマルガとリ
ーゼロッテは、幾らお金を積まれても、手放す気はありません。申
し訳ないですが﹂
俺はニコっと微笑みながら、置かれた手をどけると、目を細くする
美青年。その言葉を聞いた、亜種の美女3人の一級奴隷も、驚いて
いた。
美青年は共の3人の亜種の美女の一級奴隷の内の一人に、飲み物を
持ってくる様に言うと、
﹁そんなに頑なにならなくても、良いじゃないか。もう少し、話を
しよう﹂
そう言って、色々条件を出してくる美青年に、げんなりしながら断
っていると、飲み物を持った亜種の美女の一級奴隷が戻ってきた。
そして、飲み物を美青年に渡そうとした時、手が滑って飲み物が床
1039
に落ちてしまった。
それを見た美青年の表情が変わる。その顔を見た、亜種の美女3人
の一級奴隷の顔が蒼白になる。
﹁す⋮すいません!ヒュアキントス様!すぐに、別の物をお持ちし
ます!﹂
少し震えている美女の一級奴隷が震えながら言うと、その亜種の美
女の一級奴隷に、パンと平手打ちをする美青年。そして、残りの亜
種の美女の一級奴隷にもパンと平手打ちをする。
強く叩かれた美女の一級奴隷3人は床に蹲る。その光景にそこに居
る者がこちらを振り向くが、その叩かれた者が一級奴隷であった事
を理解し、主人が罰を与えたのだろうと言う感じで、再度楽しく話
しだした。
﹁⋮こんな所で私に恥をかかせるとは⋮お前達は帰ったらお仕置き
だ。覚悟しておけ!﹂
キツイ目で3人の美女の一級奴隷を見ている美青年に、マルガは止
めに入ろうとしたのを、リーゼロッテが止める。
そこに、案内役がやってきて、俺達を呼びに来た。どうやら、部屋
に案内してくれる様であった。
﹁す⋮すいませんが、僕たちは行かせて貰いますね﹂
﹁見苦しい所を見せたね。奴隷の話は、諦めないよ?待た次回話を
空です﹂
しよう。君の名前は?﹂
﹁僕は葵
﹁僕はヒュアキントスだ。用が終わったらよろしく﹂
強引にそう言うと、ヒュアキントスは自分の席に帰って行った。そ
れに呆れながら、案内役についていく俺達。
﹁先程の男性は、なんかやな感じなのです!あんなに激しくぶつな
1040
んて⋮可哀想です⋮ご主人様なら⋮あんな事はしません!﹂
そう言って可愛い頬を膨らませるマルガの頭を、優しく撫でるリー
ゼロッテは、
﹁それは違いますわよマルガさん。アレが本当の主人と奴隷の姿な
のですよ。一級奴隷は、人権を与えられ差別なく暮らせますが、主
人には絶対服従。葵さんは特別私達に優しくしてくれますけどね﹂
そう言って微笑むとリーゼロッテは俺の腕にキュっと抱きつく。
﹁そうですね。私ご主人様の一級奴隷で良かったです⋮ご主人様⋮
大好きなのです⋮﹂
そう言いながら顔を赤くして、反対側の腕に抱きつくマルガ。マル
ガとリーゼロッテの甘い匂いにクラっとしながら、乙女の柔肌を感
じていると、前から2人の女をに抱かれている男が、廊下の端に立
っていた。
そして、同じ様にマルガとリーゼロッテに抱かれている俺を見て、
気に食わなさそうな顔をする男性。
その男性は20代後半位、緑色の長めの綺麗な髪に、キツ目の印象
を受ける緑色の瞳。身長はマティアスより少し低いくらいだろうか、
190cm弱。細身のスレンダーな筋肉質な感じで、切れ長のマテ
ィアスと同じ位の男前だ。
その男前が俺に声を掛けてきた。
﹁お前⋮何者だ?随分と良い女を連れているじゃないか﹂
そう言ってニヤっと笑いながら、近寄ってきた男前は、マルガの前
まで来ると、綺麗にお辞儀をして、ニコッと優しくマルガに微笑む。
﹁私の名は、ヴァーユ・エエカトル。一応この国で伯爵の地位を貰
っている者だ。よろしく可愛いお嬢さん﹂
そう言って、気品ある動作で、マルガの手を取ると、その甲にキス
1041
をして挨拶をするヴァーユ。
そして、リーゼロッテに向き直り、
﹁此方も非常に美しいエルフさんだね。よろしく美しきエルフ姫﹂
そう言いながら、リーゼロッテの手を取って、同じ様に手の甲にキ
スをするヴァーユ。
ニコっと優しく微笑むヴァーユは、マルガの顎を掴み、顔を近づけ
る。
﹁本当に可愛いね君達は。どうだい?あっちで一緒に楽しく話でも
しないかい?﹂
優しく語りかけるヴァーユに、マルガは戸惑いながら、少し顔を赤
らめた。
そのマルガの表情を見た俺の血が、一気に沸き上がり、アツくなっ
た。
﹁俺の奴隷に触れるな!!﹂
俺は少し声高に叫び、ヴァーユの手を握りつけて、マルガの顎から
離させる。
ヴァーユは俺に腕をギリギリと音がする位に握られながら、俺を見
てククっと笑う。
﹁⋮なんだ?嫉妬か?恋愛は自由な物だろう?⋮この美女達はお前
の一級奴隷らしいが、恋愛も禁止しているのか?⋮見た目通りの細
人だな⋮﹂
﹁だまれ!!﹂
ヴァーユの言葉に、激昂した俺は声高に叫び、握っているその手に
力が入り、ギリギリと音がしていた。それを、見ているヴァーユが
目を細める。
1042
﹁俺がお前の事を知らないのは当然だが、お前⋮俺の事を知らない
のか?ヴァーユ⋮この名前に、聞き覚えが無いのか?﹂
凍る様な瞳で俺を見るヴァーユの表情を見て、リーゼロッテが止め
に入ろうと俺に手を伸ばすが、俺の瞳を見て、その手をひっこめる
リーゼロッテ。マルガもマルコも、困惑していた。
﹁お前の名前なんか知らないな。お前の事なんかに興味はない。こ
れからもずっとな!俺が通るのに邪魔だからどいてくれるか?優男
!!!﹂
俺の嘲笑いながらの言葉に、その瞳に怒りの色を浮かべるヴァーユ。
言ってしまった⋮相手はこのフィンラルディア王国の伯爵。
言ってはいけない事だと理性では解っているが、本能に近い気持ち
がソレを上回っている。
この血の滾りのままに⋮
そんな一触即発の状態の俺達の後ろから、声をかける者がいた。
﹁貴方達こんな所で、何をしてるの?邪魔なんだけど?﹂
その女性の声に振り返ると、そこにはルチアとマティアスが立って
いた。
﹁おお!可愛いルチア。いつも美しいね君は。いや⋮こいつが、俺
に失礼な事をするので、ちょっとお仕置きをしようと思ってただけ
なんだ﹂
﹁お仕置き?⋮私には、貴方が葵の奴隷達に、ちょっかいを出した
様にしか見えなかったけど?失礼なのは貴方じゃないのヴァーユ卿
?﹂
ヴァーユに微笑んでいるルチアの瞳は、笑ってはいなかった。
﹁ち⋮違うよルチア!ちょっとこの女性達に、挨拶していただけさ。
それを、この男が⋮﹂
1043
﹁⋮まだ言うのヴァーユ?貴方の女癖の悪さには、なんとも思わな
いけど、これ以上私の客人である葵を侮辱するなら、私が相手よ?
⋮それとも、またお母様に、ご報告した方が良いかしら?﹂
ニヤっと小悪魔の様に微笑むルチアの顔を見て、ゾっとした表情を
浮かべるヴァーユ。
﹁わ⋮解ったよルチア。だから、アウロラに言うのだけは⋮本当に
君は、アウロラに似てるね⋮﹂
﹁⋮解ればいいわ﹂
ルチアの冷たい言葉に、苦笑いを浮かべるヴァーユは、俺に振り向
くと
﹁⋮命拾いしたな細人の少年。次は無いと思え⋮﹂
そう小声で吐き捨てる様に言うと、美女を引き連れて、立ち去って
行ったヴァーユ達。
そのヴァーユの後ろ姿を見ている俺を見て、ルチアが盛大に溜め息
を吐く
﹁葵⋮貴方、なんて言う目をしてるの?そんな殺気を辺りにまき散
らして⋮私がここをたまたま通らなかったら、どうしていたつもり
なのよ﹂
﹁⋮そんなの解ってるだろ?ルチア⋮﹂
ルチアに振り返る俺の表情を見て、顔に手を当てるルチア。
﹁貴方アイツが誰だか解ってるの?⋮あのまま戦っていたら、今の
貴方じゃ、嬲り殺しにされていたわよ?アイツはね、普通の貴族じ
ゃないの。アイツは人間でもない。アイツはね、このフィンラルデ
ィア王国の、四属性精霊である四属性守護神、風の精霊長、風神の
ヴァーユよ﹂
その言葉に、一同が驚く。
1044
﹁でも、人間の容姿をしてたよルチア姉ちゃん!とても、四属性守
護神、風の精霊長とか言うものには見えなかったけど⋮﹂
マルコガ困惑しながら言うと
﹁四属性守護神、風の精霊長位にもなると、人間の容姿も持ってい
るのよ。歳はとらないけどね。どの国の四属性守護神も同じよ。そ
れと、国の守護者だから、爵位も与えられているの。ま∼領地を与
えられている訳でもないし、飾りだけの伯爵だけどね。でも、長年
に渡り、このフィンラルディア王国を守ってきた、力のある四属性
守護神だから、その発言力は、なかなかのモノなのよ﹂
その説明を聞いたマルガもマルコも頷いている。
説明をしたルチアは俺の顔を見ると、軽く貯め息を吐き
﹁貴方がキツネちゃんとエルフちゃんを大切に思っているのは解っ
てるから⋮少し頭を冷やしなさい葵。そして、いつもの冷静な貴方
に戻るのよ。⋮私は用があるからもう行くわね﹂
そう言って、何事も無かったかの様に、ルチアとマティアスはスタ
スタと立ち去って行く。
取り残された俺達に戸惑っていた案内役は、顔を引き攣らせながら、
部屋まで案内してくれた。
その部屋は来客用の客室で、気を使ってマルコの分の2室用意して
くれていた。
俺はその綺麗な客室に入るなり、マルガを掴み、壁に手をつかせる。
そして、淡いピンクの花柄の、フリルのついた可愛いドレスのスカ
ート部分を捲し上げ、尻を出させて、レースのパンツを無理やり引
き下ろし、熱り立ったモノをマルガの膣に、一気に捩じ込む。
﹁うんんんっつんん!!!﹂
声を上げるマルガ。一気に子宮に届く奥まで挿入された事で、ガク
1045
ガクと脚を震わせている。
そんなマルガにゾクゾクと性欲が高まる。俺はマルガの尻に腰をぶ
つけていく。
辺りにパンパンと、乾いた心地良いマルガの可愛いお尻の音が鳴り
響く。
そんなマルガは、甘い吐息を上げている。
﹁マルガ⋮さっきのはなんだい?⋮顔を赤くさせていたね?どうい
う事なの?﹂
﹁いえ!わ⋮私は!!あんん!!﹂
俺はマルガを後ろから激しく犯す。マルガの膣はみるみる愛液を滴
らせていた。
﹁口答えは⋮許さないよ?⋮マルガは⋮アイツの事を⋮好きになっ
ちゃった?マルガは、ああいう奴が好みなの?﹂
﹁ち⋮違います!わ⋮私が⋮好きなのは⋮ご主人様だけです!!﹂
俺に後ろから犯されて、快感に染まりながら、必死に訴えかけるマ
ルガ。
俺はマルガの口の中に指を突っ込み、強引にこっちに顔を向けさせ
る。マルガの可愛い口から、甘い唾液が蜜の様に垂れていた。
﹁じゃ⋮なぜ、顔を赤くさせたのかな?⋮悪い子だ⋮そんな子は⋮
お仕置きだね!﹂
こちらに顔を向けさせたまま、マルガを後ろから激しく犯していく。
マルガは口の中に入れられている俺の指を、舌で舐めながら、許し
を乞うて居る様だった。
そんなマルガに、ゾクゾクとした性欲を感じ、犯すのにも力が入る。
そのたびに、マルガの可愛く柔らかいお尻が、俺のモノを迎える様
に、心地の良い感触を伝えてくる。
余りに激しく犯していたのか、マルガの体が小刻みに震えだし、瞬
1046
く間に体を仰け反らせ、絶頂を迎える。
﹁ごしゅじんしゃま⋮ヒィキましゅ⋮ヒィかしゃて⋮いただきまし
ゅ!!⋮ふんんはんんんん!!!﹂
マルガは口に指を入れられたままそう叫ぶと、俺の指をチュウっと
吸い付き、したの可愛い膣がキュンキュンと俺の物を締め付ける。
その快楽に俺も絶頂を迎え、マルガの子宮に、直接精を注ぎ込む。
マルガの可愛い膣から俺のモノを引き抜くと、ヌロロと精と愛液が
糸を引いていて、艶かしかった。
﹁お仕置きしているのに、イッちゃうなんて、悪い子だねマルガは
⋮ほら⋮俺のモノを綺麗にするんだ﹂
﹁ご⋮ごめんなさいです⋮ご主人様⋮マルガを許して下さい⋮﹂
俺はそう言って、床で絶頂の余韻に浸っている、涙ぐんでいるマル
ガの顎を掴み、その可愛い口に、精液と愛液にまみれたモノを捩じ
込む。
それを、言われた通りに、体をピクピクと軽く痙攣させながら、綺
麗に舐めとり、飲み込んでいくマルガ。俺はそのマルガの姿を見て、
征服感に満たされる。
綺麗にして貰ったモノをなおし、ズボンを上げる俺は
﹁リーゼロッテ。マルガの後始末を頼むよ⋮俺は⋮ちょっと⋮外の
空気を吸ってくる⋮﹂
俺はそう言い残して、部屋を出ようとすると、リーゼロッテが抱き
ついてきて、耳元で囁く。
﹁葵さん⋮マルガさんは、アノ男に心を奪われた訳ではありません
わ。ただ⋮ちょっと驚いただけ。アノ紳士的な態度に、戸惑っただ
けですわ。ああいう口説き文句に慣れている私は兎も角、マルガさ
んは慣れていなかった。ただ⋮それだけですわ。マルガさんが⋮葵
1047
さん以外の人に、心を奪われるなんて、ありえません。マルガさん
は葵さんだけの物⋮身も心も全て⋮捧げてますわ。それは⋮解って
上げてくださいね葵さん⋮﹂
﹁うん⋮解ってる。後は頼むねリーゼロッテ﹂
俺はリーゼロッテの優しい抱擁から離れると、その部屋を後にした。
ゴロゴロゴロ⋮
俺は綺麗に手入れされた、バラ園の芝生の上に寝っ転がっている。
あの後部屋から出た俺は、廊下を歩いていて、窓から美しく咲いて
いるバラを見つけ、建物の3階から飛び降りた。戦闘職業に就いて、
身体能力の高い俺には造作も無い事だった。
そして、白い柵で覆われているのを飛び越え、このバラ園の香りに
誘われ、蜜蜂の様にフラフラと舞い降りた。
その後、さっきの事を考えて、激しい自己嫌悪に苛まれながら、バ
ラ園の芝生の上をゴロゴロ転がっているのだ。
﹁リーゼロッテの言う通りなんだよな⋮あのマルガが⋮俺以外に心
を許すはずがない⋮ソレは解ってるんだけど⋮﹂
そう解っている。でも、どんな理由があったとは言え、マルガが俺
以外の男に赤くなったのが許せなかった。絶対に⋮
本当は解っている。俺っだってルチアが傍によると、たまにその甘
い香水の香りにドキっとなったり、他の美女が不意に傍に来ると、
少しはドキっとしたりもする。
でもそれだけだ。心を奪われた訳ではない。ちょっとした驚きの様
1048
なモノだ。
頭ではそう理解しているのだが、本能がソレを許してくれない。
マルガの全ては俺だけの物⋮その嫉妬心が、ソレを許容してくれな
い。
そのどす黒い嫉妬心が、チクチクと俺の心に突き刺さり、いやらし
く刺激する。
﹃全く⋮アノ水を零した3人の一級奴隷の美女を、殴ったヒュアキ
ントスと変わらないよな⋮ハア⋮﹄
ゴロゴロゴロ⋮
そんな事を考えながら、綺麗な芝生の上で、ゴロゴロしている俺。
少しゴロゴロし過ぎで疲れた。こんな自分に笑え、為息を吐きなが
ら大きく深呼吸をする。
するとバラ園のバラ達ののとても良い香りが、俺の嗅覚を刺激する。
その優しさと、香りを楽しんでいると、不思議と心が落ち着いてく
る。
﹃そう言えば⋮バラの香りは、鎮静効果もあったっけ⋮良い香りだ
な⋮﹄
俺はその香りに癒されながら、目を瞑って仰向けに寝ていた。⋮あ
あ⋮落ち着く。
どれ位そうしていたかは解らないが、そんな俺に声を掛ける女性が
居た。
﹁あらあら、気持ち良さそうね。羨ましいですわ﹂
優しく語りかけるその声に目を開けると、そこには、40代後半の、
とても美しい女性が立っていた。
頭にメイドさんが良く被る帽子をつけ、上品なメイド服の様な作業
着を着て、微笑みながら立っていた。格好からするに、このバラ園
1049
の手入れをしている、使用人といった感じだった。
﹁あ⋮すいません。このバラ園が余りにも綺麗で、ついつい入っち
ゃいました。すぐに出て行きますね﹂
俺はそう言って体を起こすと、女性はフフフと笑って、俺が立ち上
がるのを止める。
﹁いいのですよ。私もこのバラ園が大好きなので、その気持は解り
ますわ。ここのバラ達の手入れをすると、私も元気になる位ですか
ら﹂
そう言いながら、俺の隣に座る、美しい女性。俺の顔を見てニコニ
コしている。
﹁あ⋮なんかソレ解ります。ほんと良いバラ園ですね。このバラ達
を、こんなに綺麗に手入れして咲かせるなんて⋮俺尊敬しちゃいま
すよ﹂
﹁まあ。ソレはありがと。嬉しいわ﹂
フフフと笑っている女性に、どこか癒される俺も微笑んでいた。
﹁でも⋮綺麗に咲かせて上げるのは難しくて⋮。この宮殿の土は、
ある程度入れ替えて良い物にしてるんですが⋮﹂
少し寂しそうに言う女性の表情に、軽く心が傷んだ俺は
﹁なるほど⋮肥料とかはどうしてるんですか?後⋮殺虫剤とかも⋮﹂
﹁肥料ですか?肥料は⋮山の枯葉や土を定期的にですね。殺虫剤は
どういった物か解りませんが⋮﹂
その女性の言葉に、フムフムと頷く俺。
なるほど⋮枯葉⋮つまり腐葉土だろうね。殺虫剤は解らないか。殺
虫剤は科学製品だけでなく、天然で取れる物を代用出来たはず⋮
1050
俺は記憶を頼りに、話しだす。
﹁肥料は、もっと色々試した方が良いですね。意外とこんな物が肥
料になるの?って言う物が、沢山あるんです。例えば⋮人糞や、牛、
鳥のフンを発酵させた物とかね﹂
﹁え⋮人糞や、牛、鳥のフンが、肥料になるのですか!?﹂
﹁ええ!俺の居た故郷では、良く使われてますよ。特に牛と鳥はね。
人間の人糞も、凄く良い肥料なんですが、体の寄生虫の卵が広がる
可能性もあるので、水洗いをして食べる様な物には適さないんです
けどね。でも、口に入れないなら、良く作業の後に消毒すれば、非
常に良い肥料になりますね。殺虫剤の方は、にんにくや香辛料、エ
ールや珈琲も効果があるんですよ。薄めたりしないとダメですけど
ね﹂
俺の言葉に、感嘆して聞いている女性は、フフフと笑うと
﹁凄く色々知っているのですね。驚きましたわ。今度試してみます
わね﹂
﹁ええ!そうしてください!﹂
俺の言葉にフフフと可笑しそうに笑う女性。俺も自然と微笑んでい
た。
﹁でも、驚いたといえば、ここ最近では1番はルチア王女が1番ね﹂
﹁へ!?あのルチアの事でですか?﹂
あ!王宮の使用人に王女を呼び捨てにしちゃった!
俺がその事で気まずそうにしていると、フフと軽く笑い
﹁大丈夫ですよ。私は誰にも口外したりしませんから。いつもの様
にしてくれてかまいませんよ?﹂
﹁そうですか⋮助かります。⋮でルチアがどうかしたのですか?﹂
俺はてっきり、あのブンブン娘が、王宮で何かやらかしたのかと思
1051
い、後でソレをネタに、ルチアをイジってやろうと思っていたのだ
が、その計画が実行される事は無かった。
﹁ルチア王女はね、以前この王宮に居ていた時とは、別人の様に瞳
を輝かせているわ。前のルチア王女は、何処か子供ぽかった⋮と、
言うのかしらね。あの人は、とても頭の良い人だけど、少しでも気
に食わない事があると、すぐにそっぽを向いて辞めてしまって、周
りを困らせていたの。そう言う子供っぽさがあったのです。ルチア
王女は頭が良い。でも⋮頭が良いからこそ、すぐに見なくても良い
物が解ってしまうの。自分に蟻の様に集ってくる、人々の考えが⋮
すぐに解ってしまうのね。だから⋮この王都ラーゼンシュルトから
出た⋮﹂
少し切なそうな顔をする女性。
﹁そうか⋮だからルチアは港町パージロレンツォに居たのか⋮バル
テルミー公爵家なら、余計な奴の面会は取り次がないだろうし﹂
﹁⋮まあ、正確には、港町パージロレンツォに逃げた⋮が、正解か
もしれませんがね。でも、港町パージロレンツォから、帰って来た
ルチア王女は、別人の様になっていた。気に食わない事でも、投げ
出さなくなったし、擦り寄ってくる人達にも、顔色一つ買えずにあ
しらえる様になっていたの。子供っぽさも無くなって⋮一体、港町
パージロレンツォで、何を得たのかしら⋮﹂
そう言ってニコニコと微笑む女性。
あの完璧主義に見えるルチアがね⋮子供っぽかったか⋮信じられな
いな。
そんな事を思いながら、俺はふと、初めてルチアと逢った時の事を
思い出す。
﹃⋮嫌よ!私の誘いを断ったんだもん⋮もう⋮扉⋮開けてあげない
⋮﹄
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頬をふくらませ、少し涙ぐみながらふて寝して、子供の様な事をし
ていたルチアの姿を思い出す。
⋮確かに子供っぽかった。アノ姿が⋮今迄ここに居たルチアの本当
の姿だったのか⋮
でも、アレを最後に、子供っぽさなど、微塵も感じなかったんだけ
どな⋮ずっと一緒に居たから、解らなかったのかな?
俺がそんな事を思っていると、楽しそうに微笑む女性は
﹁さあ、お話はここまでにしましょう。私もバラ達の世話をしなけ
ればなりません。貴方も大切な人の元にお戻りなさい。此処は一応、
立入禁止区画ですからね。誰かに見つかったら、大変ですから﹂
そう言ってニコっと微笑む女性は俺を立たせる。それにニコっと微
笑む俺を見て、何故か女性が俺に抱きついてきた。戸惑っている俺
の耳元で、囁く様に、
﹁これからも⋮あの子を守ってあげて。あの子もそれを望んでいる
わ⋮可愛いあの子を⋮貴方達で支えてあげてね﹂
﹁え⋮それは⋮どう言う⋮﹂
まるで優しい詩でも語る様にそう言うと、俺の背中を優しく叩き
﹁ほら、誰か来てしまうかもしれませんよ。また別の所で会いまし
ょう。黒い蜜蜂さん﹂
﹁ええ⋮また!では行きますね﹂
女性の微笑みに癒されながら、俺は柵を飛び越える。そして、部屋
に戻っていく。
そんな俺の後ろ姿を、優しく見守っていた女性の後ろから声がする。
﹁まさか、あの細人の少年が、ルチアの連れて来た行商人だとは、
思っても見なかったよ﹂
1053
木陰に立っていた男が姿を現す。
﹁あらあらヴァーユ。そこに居たの?気が付かなかったわ﹂
﹁よく言うよ。君は僕が近寄っているのを、初めから気がついて居
ただろアウロラ﹂
少し呆れ顔のヴァーユにフフフと笑うアウロラ。
﹁でも、俺の気配も読めぬ、力も無いあんな細人の行商人の何処が
良いのか⋮全く、ルチアと言い、君と言い、男の趣味は、考えなお
した方が良いと思うよ?﹂
﹁あらそう?⋮貴方が、あの行商人の少年を嫌うのは、あの人に、
雰囲気が似ているからではなくて?﹂
悪戯っぽく微笑むアウロラに、苦虫を潰した顔をするヴァーユ。
﹁フン!そんな事しらないね!﹂
﹁あらそう。でも⋮あの少年の奴隷には、ちょっかいを出したそう
ね。貴方の女癖の悪さは知ってますけど、私の可愛いルチアが目を
掛けている少年に手出しをするのは、許せませんね⋮﹂
﹁な⋮何故その事を!?ルチアめ!言わないと約束したのに!﹂
狼狽しながら言うヴァーユに、フフフと可笑しく笑うアウロラは
﹁あの子からの伝言よ。﹃私は言わないとは約束してないわよ?勘
違いしないでくれる?﹄だそうよ。ルチアの頭の回転の早さには、
流石の貴方も型なしね。じゃ⋮お話をしましょうか⋮ヴァーユ﹂
にこやかに優しく話すアウロラの瞳は、まさに絶対零度であった。
﹁いや⋮まってアウロラ⋮俺が悪かった⋮だから⋮﹂
﹁ウフフ歳かしら?貴方の声が聞こえないわ⋮ウフフ﹂
ゆっくりとヴァーユに近づくアウロラ
1054
﹁ひいいい!!﹂
その断末魔?の叫び声に近い声を最後に、バラ園は静寂に包まれる。
アウロラの静かなる、大災害の様な言葉の雷が、ヴァーユに落とさ
れていた事を、ヴァレンティーノ宮殿に居る人々は知る由もなかっ
た。
コツコツコツ
廊下を歩く俺の足音。その音は、とある扉の前で止められる。
それは俺がさっき出てきた、俺達の部屋だ。この中にマルガとリー
ゼロッテが居る。
先程の事を思い出して、部屋に入れずに立ち尽くしていた。
﹃もういい!もう入る!ここに立ち尽くしている自分が嫌だ!入る
!﹄
そんな風に心の中でで決着を付けて、勢い良く扉を開けて部屋に入
っていく。
﹁おかえりなさい葵さん。外の空気はどうでしたか?﹂
優しく俺に微笑んでくれるリーゼロッテ。その微笑みに癒されてい
ると、か細い声が聞こえてきた。
﹁⋮おかえりなさいですご主人様⋮﹂
恐る恐る俺に言うマルガの瞳は、赤く少し腫れていた。それはきっ
と、俺が部屋から出て行ってから、ずっと泣いていたと、すぐに理
解するのに十分な光景だった。
1055
﹁マルガ⋮﹂
そう呟いて、俺は自然とマルガを抱きしめていた。マルガの甘い香
りが俺を包み、その柔肌が俺を優しく迎えてくれた。
﹁マルガ⋮意地悪しちゃったね⋮ゴメン⋮﹂
その言葉を聞いたマルガは、ギュっと俺を強く抱きしめると、微か
に声を出して泣きだした。
﹁ごめんなしゃいごしゅじんしゃま∼。私あの時⋮驚いちゃって⋮
私は⋮ごしゅじんしゃまだけでしゅ∼。他の人に心を奪われたりし
ましぇんから⋮私を捨てないでくだしゃい∼﹂
可愛い瞳から、大粒の涙をポロポロ流している、愛しいマルガをギ
ュっと抱きしめる。
﹁イツッ⋮﹂
マルガがかすかに声を上げる。俺はマルガの可愛く尖った耳の裏に、
小さく噛み付いたのだ。その傷から少し血が流れだす。
﹁この傷は牙で噛んで無いから治らない。それに治させない。この
小さな傷は⋮マルガが俺の物だという印⋮マルガは俺だけの物⋮離
さないからね⋮﹂
俺はマルガの小さな傷から出ている血を、綺麗に舐めとりながら囁
くと、マルガが俺の顔を掴み、俺の唇に吸い付く。マルガの柔らか
い舌が、俺の口の中に入ってくる。マルガの甘く柔らかい舌を舐め
ながら絡ませる。余りに俺を味わうマルガが愛おしくて、暫くお互
いに味わっていた。
そして、心ゆくまで味わった俺とマルガは、自然と顔を離す。
﹁私はご主人様だけ大好きです⋮もっと一杯⋮ご主人様の印を付け
てください⋮ご主人様の物だと解る様に⋮﹂
1056
﹁じゃ⋮今日の夜に一杯マルガにつけるね⋮﹂
俺のその言葉を聞いたマルガのライトグリーンの綺麗な瞳は、喜び
の色に染まっている。
そんな愛おしいマルガをギュっと抱きしめていると、マルガは可愛
い頭を俺の胸に、グリグリ擦りつけて嬉しそうに俺を見る。そんな
マルガに優しくキスをすると、金色の毛並みの良い尻尾を、嬉しそ
うにパタパタさせていた。
﹁はあ⋮良かったですわ。仲直り出来たみたいで。さっき迄マルガ
さんが泣き止まないので、私もルナさんも、心配してた所なんです
から﹂
優しくそういうリーゼロッテの足元には、主人のマルガと同じ様に、
尻尾を振っているルナがちょこんと座っていた。
﹁ゴメンネ。リーゼロッテにルナ﹂
﹁いいえ、いいのですよ葵さん。それだけマルガさんの事を好きな
のは解っていますから。でも⋮ちょっと羨ましいかしら⋮そんなに
愛されているんですもの。もし⋮私が⋮同じようにしたら⋮葵さん、
嫉妬してくれますか?﹂
少し淋しげに言うリーゼロッテの表情に、堪らなくなった俺は、リ
ーゼロッテを引き寄せ抱きしめる。
﹁ウッッン⋮﹂
少し声を出すリーゼロッテー。俺はリーゼロッテのエルフの特徴の
綺麗な尖った耳に、マルガと同じ傷をつけた。
﹁その傷も治してあげないから。その傷も⋮リーゼロッテが、俺の
物だと解る印だからね⋮﹂
リーゼロッテの少し滴っている血を舐めながら囁くと、金色の透き
通る様な綺麗な瞳を歓喜で染めるリーゼロッテ。
1057
﹁では⋮私も夜に⋮葵さんの印を一杯⋮刻んで貰います⋮いいです
か葵さん?﹂
﹁うん⋮リーゼロッテも大好き。手放す気は無いからね。リーゼロ
ッテも、マルガも夜に一杯⋮ソレを解らせてあげる﹂
俺はマルガとリーゼロッテを抱きしめながら、暫く3人で抱き合っ
ていた。
コンコン。
部屋の扉がノックされる。返事をすると扉が開いた。
そこには、綺麗なドレスを着たルチアと、純白のフルプレートを纏
っているマティアスが立っていた。
﹁葵⋮そろそろ時間だから行くわよ﹂
俺達はルチアの言葉に頷いて、部屋を出ていく。合流したマルコも
一緒になって、ルチアの後をついていく。
﹁葵。どんな条件が出されるか解らないけど、例え、貴方が私の専
任商人になれなかったとしても、あの宿舎は返さなくても良いから
ね。私が根回ししといたから⋮心配しないで﹂
﹁ありがとうルチア。ま⋮なるべくなれる様に頑張るよ。俺も商人
だ。利益をむざむざ捨てる様な事はしたくないしね﹂
﹁そう⋮なら⋮頑張りなさい!﹂
俺の言葉に嬉しそうに言うルチアは、フンと機嫌良く言うと、俺の
前を歩いて行く。
1058
暫く歩いて行くと、とても豪華な扉の前にたどり着いた。
﹁この奥に、私のお母様で、フィンラルディア王国女王が居るわ。
⋮行くわよ葵﹂
静かに頷く俺を見て、部屋に入っていくルチア。その後について、
俺達も入って行く。
そこは豪華な大広間で、真赤な綺麗な刺繍のされた絨毯が敷かれ、
その奥に、黄金の玉座がある。
伏目がちに、その前まで行き、片膝を就いて頭を下げる。すると、
その黄金の玉座に座っている女性が声をかけてきた。
﹁面を上げなさい行商人少年﹂
短い言葉だったが、威厳のある声に、面を上げると、そこには見覚
えのある顔が俺の瞳に入ってきた。
そこには、先程バラ園で会った、綺麗な女性が、素晴らしいドレス
と、王冠を身に着けて、黄金の玉座に座っていた。
﹁え⋮あの⋮﹂
俺が言葉をつまらせて居るのを、クスクスと笑った女王は、透き通
る声で俺に告げる。
﹁良く来ましたね。私がフィンラルディア王国、女王のアウロラ・
エーヴ・レティシア・フィンラルディアです。貴方達の事は、ルチ
アさんから聞いているから、紹介は無用です﹂
そう言って、悪戯っぽく微笑む、女王アウロラ。俺は先程の会話を
思い出し、汗がどっと滲んできた。
それを見た、アウロラは綺麗な装飾のついた扇子を口元に当てると、
楽しそうにフフフと笑っている。
1059
﹁緊張する事は、何もありませんよ葵。貴方はここにルチアさんの
専任商人候補として、呼ばれたのです。いつも通りで結構ですわ﹂
ニコっと微笑むにアウロラ、落ち着きを取り戻した俺。それを見た
アウロラは静かに頷き、話を続ける。
﹁では、話を続けましょう。ルチアさん。貴方はこの行商人の少年
を、自分の専任商人にしたいのですね?﹂
﹁はい!お母様!私はこの葵を、私の専任商人にしたいと思ってい
ます﹂
しっかりとアウロラに自分の意見を述べるルチア。
﹁それは承服出来かねますな。このどこの馬の骨とも解らぬ素性の
者を、王家の⋮ルチア様の専任商人にするなど⋮他の国や、貴族達
の良い笑い物に、なる事でしょう。とても、納得できませぬな!﹂
そこには、かなりの身なりの良い人物が立っていた。
﹁納得は到底無理ですか?ジギスヴァルト宰相﹂
﹁はい。私は別の者をルチア王女様の専任商人に、推挙したいと思
っております﹂
﹁では⋮その者をここに﹂
﹁は!⋮入ってこい!﹂
そう声高に指示を出すと、何人かの人がやって来た。そして、それ
を見たお互いが、意外な顔をする。
そこには、先程俺にマルガとリーゼロッテをしつこく売る様に行っ
て来た超美青年、ヒュアキントスと、お供の3人の美女の一級奴隷
達が居た。そして、俺を見たヒュアキントスはニヤッと微笑む。
﹁お初にお目にかかりますアウロラ女王陛下。私は、ヒュアキント
ス・ナルシス・モントロンです。ド・ヴィルバン商組合、統括理事
である、レオポルドが次男に御座います﹂
1060
そう言って、片膝をつきながら、気品を漂わせ、アウロラに挨拶を
する。ヒュアキントス
﹁⋮なるほど。フィンラルディアディア王国で、一二を争う、大商
組合の⋮モントロン家の、レオポルドの息子ですか⋮。噂は聞いて
います。なんでも、天才的な商才を持っており、その若さで大きな
取引を何度も任せられているとか﹂
﹁お褒め頂き光栄に御座いますアウロラ女王陛下﹂
その甘い笑顔を、アウロラに見せるヒュアキントス。それを見た、
ジギスヴァルト宰相は、ニヤリと笑う。
﹁このヒュアキントスは家柄も問題無く、実力も経験もそこの一行
商人とは違います。是非このヒュアキントスを、ルチア王女様の専
任商人に。良き判断を願います﹂
ジギスヴァルト宰相はアウロラに頭を下げる。
﹁困りましたね。両方引けぬと言うのであれば、予定通り、アルバ
ラードに決めて貰いましょうか。入りなさいアルバラード﹂
アウロラの声に、一人の男性が入ってきた。40代後半の、アウロ
ラと歳の近い男だった。俺と同じ黒い髪を持つが、瞳は金色。身長
は180cm弱位の、細身の優男だった。
そのアルバラードを見た、ジギスヴァルト宰相とヒュアキントスは、
目を細める。
アルバラードは俺達を見て軽く微笑むと、片膝をついてアウロラに
挨拶をする。そして俺とヒュアキントスの前に立つ。
﹁アウロラ女王陛下から話を聞いています。知ってる者も居ると思
いますが、一応自己紹介をしよう。私はアウロラ女王陛下の専属商
人をしている、アルバラードです。私が此度の件を任せられました。
もう貴方達の事は理解しているので自己紹介は不要です﹂
1061
そう言って、俺達を互いに見るアルバラード。そしてニヤっと微笑
むと、
﹁私は今回、貴方達に、取引勝負をして貰おうと思います。ここに、
金貨100枚ずつ用意しました。この金貨100枚だけをを使って、
ここより東方の国、バイエルントに向かい、そこで品物を仕入れて、
持ち帰る。どちらの持ち帰った商品が、高く売れて利益が出せるの
か。それを競って頂きましょう。商品を買い取るのは私。平等に不
正なく、相場の価格を着けさせて頂きます。その勝者を、ルチア王
女様の専任商人にと言う事にします。宜しいですか?アウロラ女王
陛下?﹂
アルバラードの言葉に、フフっと笑うアウロラは
﹁ええそれで構いませんわアルバラード。それでお願いします﹂
ニコっと微笑むアウロラ。それに頷くアルバラード。
﹁この国での不正は一切してはいけません。発覚次第、不合格とさ
せて頂きます。期限は20日。良いですか?2人共﹂
なるほど⋮どちらが多くの利益を出せるかの勝負か⋮同じ金貨10
0枚のみの勝負なら、財力は関係ない。
俺がその言葉に頷くと、ヒュアキントスがアルバラードに語りかけ
る。
﹁お話は良く解りました。ですが⋮ここは勝負をもっと面白くする
為に、提案がございます﹂
﹁言ってみてください﹂
アルバラードの言葉に、ニヤっと笑うは、
﹁先程の条件に、お互いの持っている、一級奴隷を掛けましょう。
私が勝てば、葵殿の持っている、亜種とエルフの一級奴隷を貰う。
1062
葵殿が勝てば、私の持っている、この3人の一級奴隷を引渡しまし
ょう。どうですか?葵殿﹂
ニヤっと笑いながら言うヒュアキントス。俺はその言葉を聞いて、
一気に体温が下る。
いやいやいや。その条件はないな。俺はマルガとリーゼロッテを取
引の対象になんか、もうする気はない。すぐに断ろう。
そう思って言葉を発しようとした時に、先にヒュアキントスが口を
開いた。
﹁まさか、私の提案を断るつもりはないですよね?勝負に勝てば、
大きな利益を上げれるのです。通常、この様な予期せぬ話が入る事
は多々あります。それを自分の利益に出来てこそ、一流の商人。こ
こで断れば、自分から無能であると、公言する様なもの⋮まさかそ
の様な醜態を晒しませんよね葵殿?﹂
ニヤッと微笑むヒュアキントス。
しまった⋮コイツ俺がきっと即答出来ないのを知ってて、先に言葉
を吐きやがった。
俺がこれから何を言っても、言い逃れにしか聞こえないだろう。ど
うする⋮どうする⋮
俺がそう考えている所に、さらに追い打ちが掛る。
﹁確かに⋮突然の大きな商談をこなせない様では、専任商人など務
まりませんね。それを勝ち得てこそ、一流。ヒュアキントス殿の話
は一理あります。どうなさるのですか葵殿?﹂
アルバラードの言葉に、俺は更に追い込まれる。
相手は歴戦で、天才的商才を持つと言われているヒュアキントス。
俺なんかが太刀打ち出来るかどうかなんて解らない。何も他に条件
1063
が無くて、負けてもデメリットが無いなら話は別だが、負ければマ
ルガとリーゼロッテを同時に失うなんて、考えられない。
俺はチラっとルチアの顔を見ると、軽く溜め息を吐いて、瞳を瞑っ
ていた。きっと、俺がその条件を飲まずに、この勝負自体を降りる
であろう事を、理解しているのであろう。
俺が勝負を降りようとした時、ヒュアキントスはニヤっと微笑む。
﹁勝負自体を降りるつもりではないでしょうね?貴方がその様な事
をすれば、推挙したルチア王女様の、目が間違っていたと、言う事
になってしまうのですよ?まさか⋮ルチア王女様に恥をかかす様な
事を、しないでしょうね?それとも⋮やっぱり下賎の者は、その程
度なのでしょうか?見た目と同じ⋮矮小な存在なのでしょうか?﹂
ヒュアキントスの嘲笑う様な言葉に、若干一名が、その言葉に噛み
付いてしまった。
﹁貴方にご主人様の何が解るんですか!ご主人様は立派な商人です
!貴方なんかよりずっと⋮ずっとです!貴方みたいな酷い人に、ル
チアさんの専任商人なんか務まるはず無いのです!きっと汚い事を、
ルチアさんに押し付けるに決まっています!貴方はそう言う人です
!最低な人なんです!﹂
そう言い切ったマルガの尻尾は、ボワボワに逆立っていた。ウウウ
∼と唸りながら、激しくヒュアキントスを睨みつけていた。
不味いと思った。そしてその言葉を取り消そうと思った時に既に遅
かった。
﹁そこまで言われるのなら、勿論勝負を受けて、その言葉を証明し
てくれるのですよね?それとも、貴方は奴隷の管理も出来ない様な
間抜けですか?貴方も下賎なら、その奴隷である、その亜種の少女
も知能が低いですね。なんと愚かな、奴隷なのでしょう﹂
くだらぬものを見下す様な視線を投げかけるヒュアキントス。
1064
俺はその言葉を聞いて、一気に血が滾ってしまった。目の前が真っ
赤になる位に⋮
﹁取り消せ⋮﹂
﹁は?なにか言いましたか?﹂
﹁取り消せって言ってんだよ!﹂
俺はもう止められなかった。俺の殺気立っている雰囲気を感じ取っ
たリーゼロッテは、俺が襲いかからないか心配だったのか、俺の肩
を抑えていた。
﹁マルガに言った事を取り消せ!お前にマルガの何が解る!お前の
様な奴が⋮何も知らないお前が⋮マルガの事を侮辱なんかしてるん
じゃねえよ!⋮やってやる⋮。お前の様な奴に、ルチアもマルガも
リーゼロッテも渡さない!お前から全て奪い取ってやる!根こそぎ
な!!!!﹂
俺の激昂した言葉を聞いたヒュアキントスはニヤリと微笑む。
﹁では、契約成立でいいのですね?﹂
﹁ああ!それでやってやる!首を洗って待っているんだな!﹂
まだ怒りの収まらない俺を押さえながら、リーゼロッテがヒュアキ
ントスに、
﹁ですが、この取引は私達のほうが利益が少ないですわ。私達とそ
この奴隷3人では釣合いません。私達の方が、魔法も使え、レアス
キルを持ち、尚且つ、戦闘職業にもついています。そこの3人は、
魔法も使えなくて、レアスキルも無さそうですし、ましてや戦闘な
んて出来ないでしょう?﹂
リーゼロッテの言葉に、目を細めるヒュアキントス
﹁では⋮どうしろと?﹂
1065
﹁その3人の一級奴隷の他に、私達が勝ったら、貴方の鋼鉄馬車も
つけて貰います。そして、葵さんとマルガさんに、先ほどの謝罪を
して貰います。まさか⋮大きな商談の些細な交渉事を、断るなんて
事いたしませんわよね?断れば無能を示すのですから⋮﹂
リーゼロッテは涼やかに微笑みながら言うと、ヒュアキントスの顔
がきつくなる。
商人にとって、店や荷馬車は、自分のシンボルでもある。
ヒュアキントスの乗っている鋼鉄馬車も、彼のトレードマークの様
な物だ。それを奪われる事は、皆に恥を晒す事になる。そんな事に
なれば、すぐにその話は広がって、彼は笑いものになるだろう。
表情をきつくしながらも、ニヤっと笑うヒュアキントスは
﹁解りました。その条件を飲みましょう。待っていなさい亜種の少
女に、エルフの女。すぐに手に入れて、今日の事を後悔する位に⋮
調教して上げますから⋮﹂
凍るような瞳で微笑むヒュアキントスを、涼やかは笑みで見返すリ
ーゼロッテとマルガ。
﹁そんな事は俺がさせない。なぜなら俺がお前の全てを奪ってやる
のだからな!﹂
俺の言葉を聞いて、俺をキツク睨むヒュアキントス。
﹁契約は成立した!2日後に、勝負を開始する!詳しい取り決めは、
羊皮紙を渡す。それを見て禁止事項を覚えるのです!両者に幸あれ
!﹂
アルバラードが闘いの鐘の様な言葉を、俺達に投げかける。
こうして、俺達とヒュアキントスの、ルチア専任商人決定戦は、幕
を開けてしまったのだった。
1066
愚者の狂想曲 28 執着心と言う名の毒と仕組まれた罠
ここは、翌日の俺達の客室。
昨日、専任商人の権利を掛けて、契約をしてきた俺は、この客室に
帰ってすぐに、事の重大さに血の気が引いた。
至極当然であろう。専任商人権だけじゃなく、そこに⋮マルガとリ
ーゼロッテを掛けてしまったのだから⋮
何故こんな事をした?何故こんな事になった?何故もっと上手く立
ち回れなかった?何故専任商人権を捨てれなかった?何故⋮何故⋮
何故⋮⋮⋮
その様な気持ちが、昨日から頭をグルグル駆け巡っている。
そして一番の何故は⋮
﹃何故⋮我慢できなかったか⋮﹄
この言葉に尽きる。これしか無い。
いつもの⋮いや⋮以前の俺なら、すぐに取引を辞めていただろう。
実際昨日も、途中までは、取引を止めるつもりであった。ルチアも
瞳を閉じ、俺の気持ちを察し、取引を止める事を肯定してくれてい
た。それなのに⋮
﹁葵さん、食後の紅茶が入りましたわ。飲んでくださいね﹂
リーゼロッテは何時もと変わらない雰囲気で、俺に紅茶を渡してく
れる。
俺のすぐ隣では、俺に腕組みをしながら、膝の上に白銀キツネの子
供、甘えん坊のルナ抱いているマルガが、俺と同じ様に紅茶を飲ん
でいた。
﹃このいつもの光景が⋮見れなくなってしまうかもしれない⋮﹄
1067
その気持ちが胸を刺し、思わずギュっと拳に力が入る。
その時、俺達の扉がノックされ、部屋に人が入ってくる。ルチアと
マティアスだった。
お互いに挨拶をし合う中、ルチアは俺の座っている、ベッドの迄来
ると、何も言わずに俺の隣に座る。
リーゼロッテがルチアに紅茶を手渡すと、ありがとうと言って、黙
って紅茶を飲んでいる。
暫く黙って、俺の隣にただ座って紅茶を飲んでいたルチアであった
が、静かにその口を開く。
﹁⋮葵⋮ごめんなさい⋮こんな事になるなんて⋮予想もしてなかっ
た⋮本当に⋮ごめんなさい⋮﹂
初めて聞いたルチアの謝罪だった。いつも勝気なルチアらしからぬ
その言葉⋮
﹃違う⋮ルチアのせいじゃない⋮俺のせいだ⋮全て俺の責任⋮﹄
そう⋮全ては俺の浅はかさから来ている結果だ。
あの時⋮ヒュアキントスの言葉に我慢出来なかった。あの言葉を聞
いた俺は、目の前が真っ赤になる位に血が上り、激昂していた。マ
ルガを侮辱したヒュアキントスが⋮只々許せなかった。
その感情の赴くままに行動してしまった。実際、暴言に近い事を言
っていた事すら、微かにしか覚えていない位、頭に血がのぼってい
た。
そして、それに都合の良い理由もつけた。
ルチアの事も諦められない。それに勝てば、儲けもでる。商人にと
って利益は必要だと⋮
それは事実だが、俺の本心では無かったはず⋮俺は自ら、泥沼には
まって行ったのだ。
1068
それに比べヒュアキントスは、俺と玉座の前で対面した時、一瞬で
俺への対策を考えていたのだろう。
俺がマルガやリーゼロッテを、普通の一級奴隷の様に思っていない
事も、当然理解していた。
だから、アノ条件を提示した。
俺が降りれば、何もせずに専任商人になれ、飲めば勝った時に、欲
しがっていたマルガやリーゼロッテが手に入る。どっちに転んでも、
いいように。
誤算はリーゼロッテが追加で条件をつけた事だろう。アノ条件を聞
いた時だけ、目を細めていた。
ルチアを目の前に、ルチアの名誉を傷つける事に二の足を踏む事も
知っていた。
俺とルチアが、金銭的な繋がりだけでは無い事も感じていただろう。
じゃないと俺みたいな一介の行商人を、ルチアが推挙しないと解っ
ていたはずだ。
そして、極めつけは、どちらを選ぶかの決定権を持っていた、アル
バラードの言葉だ。
アルバラードは何も勝負させる必要は無いのだ。女王のアウロラか
らこの件を一任⋮つまり委任され、代理権を持っている。好きな方
を、自分の気分で専任商人に決めれる権利を持っているのだから。
ヒュアキントスの言葉に、一理あると言ったからは、それを受けな
いと、アルバラードはそれを理由に、勝負させずに決めていただろ
う。それだけの意志は感じられた。
あそこでヒュアキントスの提案を受けない訳には行かなかった。ど
んな理由が有るにせよ、ドライに利益をあげれなければ、商人とし
て失格だからだ。
ある意味、避けれない交渉を、こっちのデメリットだけではなく、
1069
利益を上げる提案をしたリーゼロッテの頭の回転の早さは、たいし
たものであろう。
それに⋮アルバラードとヒュアキントスが、通じていた可能性もあ
る。いや⋮その可能性の方が高い。
ヒュアキントスの提案にすぐさま否定しない所も⋮まあ⋮考え出し
たらきりがないが⋮恐らくは⋮
そんな事をしていたヒュアキントス相手に⋮俺は何をしていた⋮?
﹃本当に自分の浅はかさに、反吐が出る⋮﹄
大きな溜め息を吐きながら、俺は飲んでいた紅茶をテーブルに置く
と、マルガの腕を振りほどき、ベッドに仰向けに寝転がり、静かに
瞳を閉じる。
俺は瞳を閉じながら、マルガと会ってからの事を考えていた。
﹃いつからだろう⋮俺がこんなにも冷静でいられなくなったのは⋮﹄
ふと、その言葉が心に浮かぶ。
俺は地球で20年生きて、特に何もなく、ちょっと喧嘩が強い位の、
普通の学生だった。
見た目も普通、頭も普通、全てが普通づくし。当然、大切な人も居
ない、恋人や彼女も居ない生活だった。
だが俺は、それを特別、不幸に思った事はなかった。
そりゃそうだ、地球のほとんどの人が﹃普通の人﹄なのだから。
普通に生活して、普通に死んでいく。特に歴史を動かす訳でもなく、
﹃何かの役に立ったはず﹄と言う自己満足を抱えて、死んでいく人
が殆どなのだ。明確に﹃歴史を動かした﹄なんて人は、70億人の
内、数える程であろう。まさに、神が与えた因果の様に⋮
1070
俺はそう思って生活してきた。俺は普通の人。何も特別でもなく、
完璧でもない。それが﹃普通﹄なのだ。
昔は、喧嘩をする事はあっても、ここまで何かに執着し、後先考え
ずにキレる事は無かった。
﹃普通﹄の感情を持って、生活してきたはずだった。
﹃しかし、マルガに出会ってからの俺はどうだ?俺は何故⋮こんな
に執着しているんだ?﹄
ふと心の底から沸き上がる疑問。
俺は今までに、後先を考えず、マルガやリーゼロッテを優先してき
ている。それは⋮何故だ⋮?
大好きだから?そりゃそうだ。マルガもリーゼロッテも大好きだ。
いや⋮それ以上に⋮愛しているだろう。
初めにマルガを買った時も、後先考えず、大量の金貨を払い、マル
ガとリーゼロッテが攫われた時も、後先考えず、助けようとした。
リーゼロッテがオークションで売られそうになった時もだ。
自らの命を掛けて、後先考えず可能性の低い事に、身を投じている。
そして極めつけは今回だ⋮怒りに身を任せ、そのまま事を進めてい
る⋮後先どころか、何も考えずに、怒りにその身を燃やしてしまっ
た⋮
こんな事は﹃普通﹄では無い。明らかに異常だ。いつもの俺ではな
い。
まるで⋮何かに、取り憑かれてしまったかの様に⋮
そんな事を思っていると、左手に温かい感触が伝わる。
ふと瞳を開けてソレを見ると、マルガが俺の左手を両手で握り、心
配そうな面持ちで俺を見ていた。
その、暖かさに癒されながら、俺もマルガの両手を握り返す。
するとマルガは嬉しそうな顔をして、金色の毛並みの良い尻尾を、
1071
フワフワわせている。
﹃こんな愛おしいマルガを⋮もし失ってしまったら⋮﹄
その様な絶望と、嫌悪感が体を包んだ時だった。俺はいつかのソノ
感覚と、シンクロしている自分に気がついた。そして⋮全てを理解
する。
﹃⋮ああ⋮そうか⋮だから俺は⋮こんなに執着してしまったのか⋮﹄
俺は、心の中で結論をつぶやく。
俺はこの世界に飛ばされる前、18歳の時に両親を飛行機事故で無
くし、天涯孤独の身となってしまった。あの感覚は、今でも覚えて
いる。一瞬で大好きな⋮大切な人が居なくなる、あの感覚⋮
今も思い出すだけで、絶望感が体中を支配する。拭えない悲しさと
寂しさ⋮孤独感⋮
決して消える事の無い⋮トラウマ⋮
その後、時間とともに、その傷も癒えてきているとばかり思ってい
た。
なんとか楽しい日常を取り戻し、﹃普通﹄に生活をする事によって⋮
でも実際は違った。いや⋮違っていたんだ。
その傷は毒の様に、知らず知らずに体中を駆け巡り、じわじわと侵
していた⋮
その毒は体の中で、俺の﹃普通﹄を、侵していたんだ。
﹃俺は⋮大切な何かを奪われる⋮失う事が怖い⋮なくすのが怖い⋮
大好きで大切だった、父さんと母さんを⋮失う様な⋮アノ感覚を⋮
二度と味わいたくなかったんだ⋮﹄
そう⋮だから執着した。
1072
大好きなマルガやリーゼロッテを、両親と同じ様に失う事が怖かっ
たのだ。
その毒はより大きく体を侵し、汚される事が⋮許せない位にまで成
長していた。
無意識に成長した毒は、更に成長を続けた。見えない心の奥底で⋮
だから⋮止まれなかったんだ⋮その燃え上がる感情を、消す事が出
来なかった。
俺は⋮大切なモノを手に入れる代わりに、毒に侵され⋮その瞳をど
んどん曇らせていっていたんだ⋮
だから⋮いつもの⋮いや⋮以前の俺の様に、冷静でいられなくなっ
たんだ⋮
﹃そう⋮俺は執着心に毒された一種の野獣。俺の普通は⋮もう毒さ
れていたんだな⋮﹄
思わず口元が緩む。自分自身に呆れ、またその毒の恐ろしさに、絶
望する。
理由が解った今でも、その毒は消えてくれない。当然だろう。
今もマルガとリーゼロッテを汚そうとする奴の事を考えただけで、
心の底から、毒の炎が激しく燃え上がる。
だけど⋮理由が解って⋮ソノ毒が消えないものだと解っても⋮俺に
はやらなければならない事がある。
﹃俺は進む⋮この毒を抱えながら⋮毒に侵されながら進んでやる!
!!!﹄
俺はこの毒と共存してやる。
今までは、自分の身を焼く事しか出来なかったこの毒の炎を、大切
な⋮愛おしいマルガやリーゼロッテを守る為⋮手放さない為の力に
⋮毒を糧にしてでも⋮進み続ける!!
俺はベッドに起き上がり座る。そして、その手を伸ばす。
1073
﹁マルガ⋮リーゼロッテ⋮こっちにおいで⋮﹂
俺のその手を見て、マルガはニコっと微笑みながら、リーゼロッテ
は優しい微笑みを湛えながら俺の手を取る。そんな愛おしいマルガ
とリーゼロッテをギュット抱きしめる。
それを感じたマルガとリーゼロッテも、ギュと俺を抱き返してくれ
る。マルガとリーゼロッテの甘い香りに包まれ、その柔肌が俺を暖
かく包み込んでくれる。
﹁大好きだよ⋮マルガにリーゼロッテ。絶対に手放なさないからね
⋮﹂
俺の突然の言葉に、一切の揺るぎを感じさせないマルガとリーゼロ
ッテは
﹁私もご主人様が大好きです⋮ずっと傍に置いてくださいね⋮﹂
﹁私も大好きですよ葵さん⋮私を二度と手放さないでくださいね⋮﹂
マルガとリーゼロッテは、最高の微笑みを俺に向けてくれている。
﹃毒よ⋮もうお前に、俺の身を焼かせてはやらない⋮お前は俺の⋮
前に進む為の⋮力になって貰う!主導権は俺だ!﹄
俺はゆっくりと、マルガとリーゼロッテの体から離れる。そして、
大きく深呼吸をする。
うん、大丈夫。空気が美味しいね!俺は進まなくちゃね!不細工で
も⋮汚れていようとも⋮前に進む!
そして俺は勢い良く、ベッドから立ち上がり、皆に振り向く。
﹁マルガ!昨日の取り決めが書いた、羊皮紙を出して!今から、皆
でそれを確認する!﹂
そのいつもと同じ俺の雰囲気を感じたマルガの瞳は、喜びの色を湛
1074
えながら、少し潤んでいた。
﹁ハイ!ご主人様!すぐに用意しますのです!﹂
元気良くハイ!と右手を上げて、テーブルの上に羊皮紙を用意する
マルガ。
﹁ルチア⋮さっき言った言葉だけど、あれはルチアのせいじゃない。
俺の責任だから。ルチアが気にする事は何もないし、俺もこのまま
では終わらない﹂
その言葉に、ルチアの表情はみるみる明るくなる。そして、ルチア
の肩に手を置きながら、
﹁俺はルチアの事も諦めるつもりはない。俺も商人だしね。勝って
大儲けしてやるさ!﹂
俺の微笑みながらの言葉に、フンと元気良く言うルチアは
﹁⋮なんか吹っ切れた様ね葵。いつもの貴方の瞳の色ね。ま∼貴方
は馬鹿だから、仕方ないけどさ!﹂
そう言いながら、嬉しそうな表情のルチアに、ルチアらしさを感じ
る。
﹁よしまずは、取り決めの内容を確認しよう。リーゼロッテ読み上
げてくれる?﹂
﹁解りましたわ葵さん﹂
そう言って、テーブルの取り決めの羊皮紙を読み上げるリーゼロッ
テ。
﹁まずは⋮商品を仕入れるお金は、渡した金貨100枚のみで、そ
れ以上のお金は使用禁止。金貨100枚以外の、お金に変わる、関
わる取引事由も認めない。その中には、関税や通過税、滞在税等の
1075
税も含む。その他の旅費についてはこの限りではない﹂
﹁なるほど⋮仕入れるお金や、税の支払いは、この金貨100枚の
中でしなさいって事ね。食費やその他は自分のお金を出しても良い
訳ね。これは資産の少ない、貴方には有利ね﹂
﹁確かにね。でもそれだけ実力の出やすい勝負でもあるって事でも
あるけどね。後は⋮お金に変わる取引事由も認めない⋮つまり、後
でお金を払うから、金貨100枚で、200枚分売ってくれと言う
様な取引も認めないと言う訳か⋮品物に関しては、本当に金貨10
0枚でなんとかしないとダメなんだね﹂
俺の言葉に、頷くルチア。
﹁次に、フィンラルディア王国内での、不正行為は一切禁止。厳正
に審査する﹂
﹁つまり⋮賄賂や税金を払わないのは、ダメって事ですかご主人様
?﹂
﹁そうだね。それを含めて、厳重に監視するって事だろうね﹂
マルガの頭を優しく撫でながら言うと、嬉しそうにパタパタ尻尾を
振っている。
﹁しかし、バイエルント国内に入れば⋮どうなるかわかりませんわ
ね葵さん﹂
﹁うん。ま⋮俺が想像するに、そこは商人の適性を見ているのかも、
知れないだけかもだけどね﹂
﹁適性って⋮どういう事なの?葵兄ちゃん﹂
マルコの問に、フフっと笑うリーゼロッテは
﹁恐らくですが⋮どれだけの不正をするか⋮を、見たいのかも知れ
ませんわね。勝負には直接関係ありませんが、あえてバイエルント
を外す事により、その商人の本質は見えますからね。どちらが勝つ
にせよ、それを見極める様にしておけば、対応はしやすい。言うな
1076
れば⋮餌でしょうね﹂
それを聞いたマルガにマルコは、なるほどと頷く。
﹁でも注意は必要ね。相手はあの天才的商才のあると言われるヒュ
アキントス。油断は出来ないわ。きっと何か仕掛けてくる。⋮注意
してね葵﹂
﹁うん⋮解ってる﹂
ルチアの言葉に頷く俺。
﹁まだ続きがありますわ皆さん。バイエルントへの移動手段は、用
意した魔法船を使うものとする。それ以外の移動手段は禁止。バイ
エルント国内は各自の荷馬車を使うものとする﹂
﹁バイエルント迄は、魔法船で移動して、バイエルント国内は荷馬
車でと、言う事ですかご主人様?﹂
﹁だね。フィンラルディア王国内は、魔法船に荷馬車を積み込みす
るだけだね。これもある意味公平かな?﹂
俺の言葉にウンウンと頷くマルガとマルコ。
﹁最後は⋮推薦者は、いかなる理由があろうと、勝負に加担しては
いけない。これが最後ですわね﹂
リーゼロッテの説明にルチアの顔が歪む。
﹁どうしたのルチア姉ちゃん?何か不味い事でもあるの?﹂
﹁大有りね。一見平等の様に見えるけど、葵とヒュアキントスじゃ
差があるわ。人脈、権力、財力どれをとっても、全てヒュアキント
スの方が上。つまり、本人の持っている力だけで、勝負しないとい
けない﹂
﹁ですが⋮優遇をして貰う事も出来ませんわ。それをしたら、契約
上で平等では無くなってしまいますから﹂
﹁そうねエルフちゃん。⋮厄介だわ﹂
1077
リーゼロッテの言葉に、腕組みしながら、渋々頷くルチア。
﹁仕方ないよ。本来なら、力を持った商人が、対決の場にいなけれ
ばいけなかったのだから。それにいつも対等な相手と、取引出来る
訳じゃない。むしろ不公平があって当然だよ。今の俺からしたらね﹂
俺の言葉に、渋々納得しているルチア。
﹁さて⋮詳しい内容も解った事だし⋮とりあえず情報を集めるか。
ルチア聞きたいんだけどさ⋮アルバラードとヒュアキントスが、通
じている可能性は⋮あるよな?﹂
俺のその言葉に、思い当たる節のあるルチアは
﹁⋮あるわ。アルバラードはお母様の信用のおける専属商人だけど、
今回、私の側には回ってくれなかった。理由は解らないけど⋮﹂
﹁なるほど⋮ですから、ヒュアキントスの提案を、支持したのでし
ょうね。⋮今回、勝負という形にしてくれたのは⋮ルチアさんの尽
力のお陰かもですわね。形上、公平にする為に勝負にした。こうす
れば、ルチアさんを無下にした訳では無くなりますからね﹂
リーゼロッテの言葉に、そうねと、小さい声で言うルチア。
やっぱりか⋮アノ話の流れは、おかしかったからな。ま⋮確かに一
理あるし、商人としては正解だが。
アルバラードには、隙を見せれないな。注意しないと。
でも⋮アウロラ女王は、何故アルバラードに全権を任せたんだ?そ
して、何故アルバラードは、ルチアの敵に回ったか⋮
アウロラ女王は俺に、ルチアを頼むと言っていた。しかし、そのア
ウロラ女王が信用する、アルバラードは、向こうに回っている。ど
ういう事なんだ?⋮ダメだ⋮情報が少なすぎる。
アウロラ女王に直接聞いても、教えてくれないだろうし⋮とりあえ
ずこの件は後回しか。
1078
﹁次はバイエルントの情報を知りたいな。俺は行った事もないし、
噂も知らない。特産品や利益が上がる物を、詳しく知っておかない
といけないし﹂
﹁バイエルントは、高速魔法船で6日程よ。バイエルントの大まか
な事は、この羊皮紙を見て。一応、役に立ちそうな物を、書き留め
ておいたから﹂
そう言ったルチアの羊皮紙を、リーゼロッテが受け取り、目を通し
ている。
﹁一番重要な所だけど⋮あのヒュアキントスって、どんな奴なの?
大手の商組合、ド・ヴィルバン商組合の、統括理事かなんかの息子
みたいだけど⋮そんなに凄い奴なの?﹂
﹁そうね。実力だけなら、私も認めているわ。彼のお陰で、幾つも
の商会の支店や、商組合の支店が、息を吹き返した位だからね。し
かも、その遣り方も、全く無駄は無いわね。商才は天才的ね。でも
⋮欲しい物は、何が何でも手に入れる様な所もあるらしいわ。今回
のキツネちゃんやエルフちゃんの様にね﹂
確かにアノしつこさは異常だ。まあ∼商人らしいと言えばそうだけ
ど。
﹁解った。出発は明日だからきちんと準備するよ。俺達はちょっと
出かけるから、皆用意して﹂
俺の言葉に準備を始める一同。
﹁葵⋮私は取り決め上、これ以上の力は貸せないわ⋮﹂
﹁⋮解ってるよルチア。俺も出来るかぎりの事はやるつもりだしさ。
むざむざ、マルガとリーゼロッテを渡す様な事はしないよ。当然ル
チアの事もね﹂
ルチアの肩に手を置くと、それをギュッと握り返してくるルチア。
1079
俺達は準備をして、部屋を出て行くのであった。
準備をして部屋から出て来た俺達は、王都ラーゼンシュルトの街並
みを見ながら、大きな通りを歩いている。
﹁ご主人様∼。これから何処に行かれるのですか?﹂
マルガは俺に腕組みをしながら聞いてくる。
﹁今向かっているのは、リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店
だよ。港町パージロレンツォで仕入れた、塩と香辛料の取引ついで
に、情報を得ようと思ってね。それに、このリスボン商会の王都ラ
ーゼンシュルト支店には、今、ギルゴマさんとリューディアさんが
居るからね。2人から情報を得られればありがたいしさ﹂
﹁なるほどです!リューディアさんに会うのは久しぶりなので、嬉
しいのです!ギルゴマさんは⋮苦手ですけど⋮﹂
﹁だね!リューディアさん優しいもんね!オイラも嬉しいよ!ギル
ゴマさんは葵兄ちゃんの師匠さんだから、オイラ会うの楽しみだよ
!﹂
﹁嬉しそうですわねマルガさんとマルコさんも。確か葵さんから聞
いた話ですと、葵さんの師匠さんと姉弟子さんらしいですね。私も
楽しみですわ﹂
マルガとマルコに、微笑みかけるリーゼロッテ。
港町パージロレンツォの売り子公証人であったリューディアは、ギ
ルゴマの計らいで、王都ラーゼンシュルト支店に移動になったのだ。
この王都ラーゼンシュルトには魔法船で先に到着している。
1080
俺は2人から得られる情報を、活用しようと思っていた。
暫く歩いて行くと、少し大きなレンガ作りの建物が見えてくる。割
りと新しい作りのその建物は、リスボン商会の象徴、象のシンボル
が入った旗を高らかに掲げ、沢山の荷馬車や商人達が、忙しそうに
商会に出入りしている。その数の多さから、繁盛しているのが容易
に想像できる。
そのリスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の入り口に行くと、
一人の男が近寄ってきた。
﹁どうも。本日はどう言った御用でしょうか?﹂
﹁えっと、取引の予約に来ました。リューディアさんかギルゴマさ
んは居らっしゃいますか?いつも他の町で、担当して貰っていまし
たので﹂
その言葉を聞いた受付の男は、少し眉を動かす。
空と言います。名前を言って貰えれば解ると思い
﹁ギルゴマ支店長と⋮リューディア副支店長にですか?⋮貴方のお
名前は⋮?﹂
﹁あ!僕は、葵
ますので﹂
俺の言葉を聞いた受付の男は、少し疑いの目で俺を見ながら、建物
の中に入っていく。
暫く待っていると、受付の男が帰って来た。そして、俺を見てニコ
っと微笑み、
﹁お待たせしました!ギルゴマ支店長とリューディア支店長が、今
からお会いになるとの事です。ご案内しますので、こちらにどうぞ
!﹂
対応の良くなった受付の男に苦笑いしながら付いて行くと、割りと
作りの良い扉の前で止まる。
1081
﹁ギルゴマ支店長。葵様をお連れしました﹂
﹁はい。入って貰って下さい﹂
その懐かしい声に、部屋の中に入って行くと、沢山の書類の置かれ
た、作りの良い大きな机に、見覚えのある顔を見つける。その横に
は、ニコっと微笑むリューディアの姿があった。
﹁そろそろ私の所にやって来る頃だと、思ってましたよ葵さん。お
久しぶりですね﹂
その涼やかで、全てを見抜いてしまいそうな瞳を、嬉しそうに緩ま
せるギルゴマ
﹁お久しぶりですギルゴマさん。それにリューディアさんも。お元
気そうで何よりです﹂
﹁ああ!お前もな葵!そして、マルガもマルコも元気そうだな!﹂
笑顔で挨拶をするリューディアとギルゴマを見て、マルガとマルコ
はリューディアに飛びつく。
﹁リューディアさんお久しぶりです∼。逢いたかったです∼﹂
﹁オイラもだよリューディアさん!逢いたかったよ!﹂
﹁そうかそうか!お前達は可愛いね∼。ホレホレ!﹂
リューディアはマルガとマルコを抱きしめながら、2人の頭をワシ
ャワシャと撫でている。キャキャと嬉しそうに喜んでいるマルガと
マルコ。
﹁マルガさんお久しぶりですね。私には⋮挨拶をしてくれないので
すか?﹂
ギルゴマがニヤッと微笑むと、ぎこちない表情をするマルガは
﹁あ⋮あう⋮ギ⋮ギルゴマさんも、お久しぶりなのです∼。元気そ
1082
うで良かったです∼﹂
少しリューディアの後ろに隠れながら、ぎこちなく言ったマルガを
見て、面白そうな顔をしているギルゴマ。マルガの尻尾は、奇妙な
動きでカクカクしていた。
﹁ギルゴマ師匠!オ⋮オイラは、葵兄ちゃんの弟子をさせて貰って
ますマルコです!よろしくです!﹂
緊張しながらも、元気良く言ったマルコを見て、フフと嬉しそうに
笑うギルゴマは
﹁貴方の事は、リューディアさんから聞いています。葵さんの弟子
になったそうですね。葵さんを見て、きっとどこかにあるだろう、
砂粒程の良い所を探しだして、自分の身に付けるのですよ?﹂
ニコっと微笑むギルゴマに、照れながら微笑むマルコ。
何となく酷い事を言われたギルゴマに、苦笑いしている俺を見て、
リーゼロッテが前に出る。
﹁初めましてギルゴマさんに、リューディアさん。私は新しく葵さ
んの一級奴隷になったリーゼロッテでございます。ご覧の通り、エ
ルフの血筋の者です。よろしくお願いします﹂
そう言って微笑み、気品のあるお辞儀をする知的なリーゼロッテを
見て、ほう⋮と言った顔をするギルゴマ。
﹁葵⋮お前⋮また⋮新しい一級奴隷だと?⋮ギルゴマ師匠の弟子で
⋮お前の姉弟子で⋮リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の副
支店長を務める私でさえ⋮まだ持ってないのに⋮本当に⋮良い度胸
だよな葵ちゃん⋮今回も説明は⋮あるんだろうね?﹂
リューディアは俺に近寄ると、俺の頬を両手で引っ張って、ミョイ
∼ンと人間の限界を試す様に、引っ張る。それを見て、可笑しそう
に笑っている、マルガにマルコ。
1083
そんな、俺とリューディアを見て、ニヤッと笑うギルゴマは、
﹁まあまあリューディアさん許してあげましょう。なにせ葵さんは、
ルチア王女様の専任商人の選定戦を、安っぽい挑発に乗って、受け
てしまう位、力をつけたのですから。そんな安っぽい葵さんは、さ
ぞや儲かっているのでしょうからね﹂
ニヤニヤと微笑むギルゴマの瞳は冷たく、笑ってはいなかった。俺
がその言葉を聞いて狼狽えていると
﹁何を狼狽えているんですか葵さん?私は曲がりなりにも、このリ
スボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の長ですよ?私の情報網を、
甘く見ないで欲しいですね﹂
ギルゴマの一瞬ギラッと光り輝く瞳に、ゾクッとしたものを感じな
がら、
﹁はい⋮怒りに我を忘れて⋮安っぽい挑発に、乗ってしまいました
⋮﹂
俺のその言葉を聞いたギルゴマは、盛大に溜め息を吐くと、右手で
顔を押さえる。
﹁貴方は何をしているんですか⋮。その一級奴隷である、マルガさ
んやエルフのリーゼロッテさんは、貴方にとって、大切な者なので
しょう?全く⋮貴方という人は⋮﹂
呆れ顔のギルゴマを見て、心配そうに俺を見るリューディアは
﹁でもどうするんだい葵?このマルガやリーゼロッテの事を⋮。も
し負けたら、この2人は、あのヒュアキントスの物になってしまう
んだろ?何故そんな事になってしまったんだよ。いつものお前らし
くない⋮﹂
リューディアは寂しそうに俺に言う。俺はキュッと唇を噛みながら、
1084
﹁⋮俺は昔⋮両親を一瞬で亡くしています。その時の気持ちを引き
ずっていて、大切なモノを失う事や⋮汚される事に、過剰に反応し
てしまう様になっていたみたいなんです。自分でも気が付かなかっ
た事なんですがね⋮﹂
﹁なるほど⋮そこを上手く突かれたのですね葵さん。⋮色々思い当
たる節はありますが、これからどうするのですか?そして⋮またそ
こを突かれたらどうするつもりなのですか?相手はあの天才ヒュア
キントス。私も彼の噂は良く聞きます。そんな人を相手にすれば⋮
必ず同じ弱点を突いてきますよ?﹂
静かに語るギルゴマに、俺は静かに暫き目を閉じる。そして、見開
きギルゴマに語りかける。
﹁俺は今迄、我を忘れて、その身を焦がして来ました。今も⋮その
気持は消えていません。マルガやリーゼロッテを汚そうとした奴は、
許す事は無いでしょう。⋮でも⋮もう我を忘れたりはしません。そ
の気持を⋮前に進む力に使います。マルガやリーゼロッテを守る⋮
手放さいない為に﹂
俺の言葉に、嬉しそうに抱きつくマルガとリーゼロッテの頭を優し
く撫でる。その愛おしい微笑みに思わず微笑んでしまう。
それを見たギルゴマはフフっと笑い
﹁なるほど⋮きちんと自分の気持ちを理解し、利用出来る様になっ
た訳ですか⋮。貴方も少しは成長したのですかね﹂
その言葉に、俺が苦笑いをしていると、少し目を細めるギルゴマは
﹁少しだけですので。それと成長したと言っても、ほんの微々たる
もの。本当の自分を知るなんて事は、とっくの昔にしておかなけれ
ばいけなかった事。浮かれない様に。⋮それに、また顔に出てます
よ葵さん。本当に何度言えば⋮﹂
1085
そう言って軽く溜め息を吐くギルゴマ。再度苦笑いする俺。
﹁とりあえず、選定戦の事を知っているなら話が早いよ。バイエル
ントの詳しい情報が欲しいんだ﹂
俺のその言葉を聞いた、ギルゴマはフフッと鼻で笑うと、
﹁貴方は私を誰だと思っているのですか?最初に言いましたでしょ
う?そろそろ、貴方が来る頃だと。⋮リューディア、例のモノを葵
さんに﹂
﹁はい!ギルゴマ師匠!﹂
ギルゴマの言葉を聞いたリューディアは、俺の手に複数の羊皮紙を
手渡す。
﹁それは、ここ最近の、このリスボン商会の王都ラーゼンシュルト
支店で、バイエルントからの品物を取引した商談表を書き写した物
だ。取引した商人の名前は書いていない。だが、それを見たら、バ
イエルントからの商品がどれ位で取引されているのかが、かなり解
る様になっている。それとこれは、バイエルントと、その周辺の地
図だ。きっと役に立つ﹂
それを俺の手から受け取ったリーゼロッテの瞳が、キラリと光る。
﹁これは凄いですね⋮バイエルントからの品物が数量ごとに⋮これ
を見たら、何が高値で取引されているか、一目瞭然ですわね﹂
金色の透き通る様な綺麗な瞳を、輝かせているリーゼロッテを見て、
フフっと笑うギルゴマは
﹁それは良かったです。貴方の様な利口そうなエルフさんに見て貰
えて。それと⋮その資料は、読み終わったら、全て焼却して下さい。
絶対に、他者に渡る事が無い様にお願いします﹂
そりゃそうだ。これを見たらリスボン商会の王都ラーゼンシュルト
1086
支店にいくらで売れるか一目瞭然だ。こんな内部資料を渡したとな
れば、大変な事になる。
リーゼロッテはその羊皮紙の束を、自分のアイテムバッグにしまう
と、
﹁これは私が責任をもって処分しますわ。ご安心下さい﹂
ニコっと微笑むリーゼロッテを見て、フフッと笑うギルゴマは、
﹁貴方に任せていれば、安心そうですね。葵さんじゃ少し心配です
からね﹂
ニヤッと笑いながら、俺を見るギルゴマに苦笑いする。
﹁私が出来る事はここまでです。後は貴方が自分の力で何とかしな
さい。そして、専任商人をもぎ取って、再び私とリューディアの前
に来るのです。解りましたか?﹂
優しく微笑みながらも、キツイ目をするギルゴマの瞳を、正面から
見返し、
﹁うん解ってる。必ず、もぎ取ってくる。そして、また皆でここに
来るよ﹂
﹁⋮商人の約束は絶対ですからね?﹂
﹁うん⋮解ってる⋮ありがとうギルゴマさん⋮﹂
お互いに微笑み合う俺とギルゴマ。それを嬉しそうに見ているリュ
ーディアと、一同。
﹁それから、荷馬車の塩と香辛料を売りたいんだけど良い?﹂
それを聞いたリューディアは、顎に手を当てしばし考え
﹁葵。塩と香辛料は、バイエルント国内で売る方が良い。バイエル
ントは内陸で、岩塩の取れない国なんだ。だから、塩が高値で売れ
1087
るし、香辛料も人気がある。それに、何かの役に⋮立つかもしれな
いだろ?﹂
ニヤッと笑うリューディアに頷く俺。
﹁じゃ∼葵さんも準備をしなさい。私も暇ではありませんからね。
もう行きなさい﹂
ギルゴマの言葉に頷き、挨拶をして、俺達は部屋を出ていく。
俺達の出て行った扉を見つめ、ハア∼と溜め息を吐くギルゴマ
﹁ギルゴマ師匠どうしたのですか?﹂
﹁いえ⋮まさか、あの時に感じていた懸念が、当たってしまうとは、
思ってなかったもので﹂
そう言って、寂しそうな顔をするギルゴマ
﹁あの時⋮と言われますと?﹂
﹁ええ⋮。ラングースの町で、葵さんが初めて⋮マルガさんを連れ
てきた時の事なんですけどね。その時、私は葵さんを見て、何か少
し違和感を感じたのですよ。今までとは違う⋮何か⋮瞳が曇ってい
るかの様な感じがしましてね。そこで少し葵さんに苦言を呈してい
たのですが⋮懸念通りになってしまった。ま⋮それは克服したみた
いですけどね﹂
ギルゴマの話を聞いていた、リューディアは
﹁ギルゴマ師匠!私達に出来る事はまだあるはずです!葵の為に⋮
出来る事が!﹂
切なそうにギルゴマを見るリューディア。そのリューディアの頭を
優しく撫でるギルゴマは、
﹁⋮確かに、他に出来る事はありますが⋮貴女も解っているでしょ
うリューディア?⋮私達はまだ⋮ド・ヴィルバン商組合と事を構え
1088
る事は出来ません。今はまだ⋮です﹂
そのギルゴマの言葉に、キュッと唇を噛むリューディア。
﹁それにこれは⋮葵さん自身が乗り越えなければいけない壁なので
す。大手の商会や、大手の商組合を相手にすると言う事が、どうい
う事なのかをね。これは、葵さんが商人として、これからやってい
く為には、避けて通れない事⋮﹂
﹁ですが⋮それでは⋮﹂
ギルゴマの言葉に、言葉を濁すリューディア。
﹁⋮石を積むのです﹂
﹁石⋮ですか?ギルゴマ師匠⋮﹂
ギルゴマの言葉に、キョトンとしているリューディア。
﹁そうです。石を積み上げるのですよリューディア。崩されても、
蹴られても、汚されても、恥かしくても、不細工でも⋮石を積み続
ける。何度も何度も積み上げ続ける⋮。そうやって、崩されながら
も、石を高く積み上げた者のみが、先に進む事が出来るのです。例
え今⋮石を崩されたとしても⋮今の葵さんなら⋮石を積み上げて行
くでしょう。それを、見守ってあげるのです。解りましたかリュー
ディア?﹂
ギルゴマの言葉に、静かに頷くリューディア。
﹁まあ⋮この私と約束しましたので、もぎ取って来なければ許しま
せんけどね﹂
ニヤッと笑うギルゴマを見て、フフフと笑うリューディア。そんな
リューディアを見て、軽く溜め息を吐くギルゴマは
﹁それから⋮私の事は、支店長と呼ぶ様にと、いつも言っているで
しょう?全く⋮﹂
1089
﹁だって⋮葵達や、2人だけで居る時は、良いじゃありませんかギ
ルゴマ師匠﹂
少し拗ねる様に言うリューディアの額に、優しくキスをするギルゴ
マ。嬉しそうに頬を赤らめているリューディア。
﹁葵さん⋮あの時の様に⋮必ずもぎ取って来るのですよ⋮﹂
﹁きっと何とかしますよねギルゴマ師匠!なんたって、私達の弟子
なんですから!﹂
﹁⋮そうですね。そうでないと困りますね﹂
フッ笑うギルゴマ。それを見て微笑むリューディア。
﹁そう言えば⋮キリクがあの商会にいましたね⋮リューディア、今
すぐに手紙を書きますので、今日出航する高速魔法船のビルリウス
に渡して貰えますか?キリクに渡して欲しいと言えば解りますから﹂
その書かれた手紙を持って、部屋を出ていくリューディア。
ギルゴマは少し溜め息を吐いて、いつもの業務に戻っていくのであ
った。
ここは、とある高級な宿屋。
その中でも、一番高級な部屋で、複数の影が交じり合っていた。
﹁ほら!どうした!もっと腰を振らないかミーア!この役立たずの
ワーキャットが!﹂
﹁す⋮すいません!ヒュアキントス様!すぐに⋮ご奉仕します!﹂
そう言って、お尻をヒュアキントスの股間に擦りつけている、ワー
キャットのミーアと呼ばれた少女。
1090
あどけなさの残る可愛い童顔の顔を歪めている。肩に掛からないシ
ョートの紫色の綺麗な髪を振り乱し、茶色の大きな瞳を苦痛で潤ま
せている。そんなミーアの腰を持ち、強引に腰を可愛いお尻に叩き
つけるヒュアキントス。部屋の中に、パンパンと乾いた悲愴な音が、
鳴り響いていた。
﹁ええい!つまらぬ!役立たずが!﹂
吐き捨てる様に言うヒュアキントスは、ミーアを床に投げ捨てる。
ドッと床に倒れこむミーア。
﹁シノン!役立たずのミーアの代わりに、お前が奉仕しろ!私を喜
ばせろワーラビット!﹂
﹁はい!ヒュアキントス様!﹂
慌てながら、ミーアと同じ様に、お尻をヒュアキントスの股間に擦
りつけて、腰をふるワーラビットのシノンと呼ばれた少女。
ヒュアキントスに腰を掴まれ、肩より少し伸びた強く紫色掛かった
黒髪を振り乱し、可愛さの残る綺麗な顔を歪ませ、日本人に近い肌
色の肌から、玉の様に汗を流す。その髪の毛と同じ紫の瞳には、か
すかに涙を浮かべていた。
﹁まだまだだぞ!もっと激しく腰をふらぬか!このグズが!﹂
そう言って、手に鞭を取り、シノンの尻に打ち込む。
﹁ハンンン!!﹂
﹁ほらほらどうした!もっと喜びの声をあげぬか!﹂
そう言いながら、鞭を打ち込んでいくヒュアキントス。シノンは苦
痛に耐えながら、必死にヒュアキントスの股間に腰を振っている。
﹁グズが!一向に役に立たぬ!﹂
そう言ってシノンも床に投げ捨てるヒュアキントス。ミーアと同じ
1091
様に床に打ち捨てられて、ミーアと抱き合いながら、かすかに震え
ているシノン。
﹁最後の仕上げはお前だステラ!最後まで奉仕せよ!ワーウルフの
お前が頑張れねば、また罰を与えるぞ?﹂
﹁はい!ヒュアキントス様!すぐにご奉仕致します!﹂
少し震えた声で言うステラと呼ばれたワーウルフの少女は、他の少
女達と同じ様に、ヒュアキントスに可愛いお尻を擦り付ける。少し
大人びた大人しめの美しい顔を引き攣らせて、必死に腰を振り、少
し銀色掛かった黒髪を振り乱し、銀色掛かった紫の瞳に涙を浮かべ
るステラ。
﹁ほらもっとだ!もっと腰を振れ!クククいいぞ!こうすればもっ
と良くなるか?﹂
﹁グッツウウウッツ﹂
ヒュアキントスは卑しい微笑みを称えると、ステラの細い首を両手
で締め上げる。その苦しさに、顔を歪めながらも、必死に腰を振る
ステラ。
﹁イクぞ!激しく奉仕せよ!﹂
それに頷くステラは必死に奉仕する。首を締められて、意識を朦朧
とステラがさせる中、ヒュアキントスが絶頂を迎える。
そして、精を出し終えたヒュアキントスは、ステラを床に投げ捨て
る。ステラの秘所から、ヒュアキントスの精が滴っていた。
ゴホゴホと咳き込みながら、蹲っているステラに、ミーアとシノン
が近寄る。
その床に蹲り、震えながら自分を見ている美少女の姿に、喜びを感
じているヒュアキントス。
﹁ほら!何を休んでいる!さっさと、俺の高貴なモノを、綺麗にせ
1092
ぬか!﹂
その声を聞いた、ミーア、シノン、ステラの3人は、ヒュアキント
スのモノを口で綺麗にしていく。
﹁全く⋮お前達は仕事はそこそこ出来るが、夜の奉仕は3人で1人
前なので困るな。まあ⋮あの葵とか言う行商人の少年の一級奴隷⋮
ワーフォックスの少女と、エルフの女が手に入れば、お前達になど
夜の奉仕はさせぬがな。あの2人にさせる。あの美しい生意気な2
人を、一からきっちり調教しなおしてやる⋮楽しみだ⋮﹂
そう言って、ベッドから立ち上がったヒュアキントスを見て、平伏
するミーア、シノン、ステラの3人。
﹁﹁﹁今日もご奉仕させて頂き、ありがとうございましたヒュアキ
ントス様!!﹂﹂﹂
3人が声を揃えて、床に頭を擦りつけていた。それを見て、フっと
軽く笑うヒュアキントスは、
﹁ウム。あの2人が手に入っても、お前達は一級奴隷のままにして
やっても良い。良き仕事をするのだぞ?﹂
﹁﹁﹁はい!ありがとうございます!ヒュアキントス様!!!﹂﹂﹂
声を揃え、平伏しながら返事をする3人
﹁ウム。子卸の薬は、皆きちんと飲んでおけ。お前達ごときに、私
の高貴な種はやらぬ。もし、俺の子を宿そうものなら、力を使って
すぐに処分してしまうからな。きっちり飲んでおけよ﹂
﹁﹁﹁はい!承知しております﹂﹂﹂
﹁ウム。では私は寝室に戻る。後片付けをしておけ!﹂
﹁﹁﹁はい!かしこまりましたヒュアキントス様!おやすみなさい
ませ!良き夢を!!﹂﹂﹂
その声を聞いて、3人の美少女の一級奴隷たちの部屋を出るヒュア
1093
キントスは、自分の寝室に戻る。
部屋の中に入り、バスローブの様な物を羽織りながら、豪華なソフ
ァーに腰を下ろし、グラスにワインを注ぐ。
暫く豪華なソファーに座りながら、美酒に酔いしれていたヒュアキ
ントスの寝室の扉が開く。
すると部屋の中に一人の男性が入って来た。その男性は、豪華なソ
ファーでくつろいでいるヒュアキントスの傍まで近寄る。
太陽の様に燃える様な赤み掛かった金髪に、その燃える様に赤い瞳、
男と思えぬ白い肌、気品を漂わせる美しい顔立ち。身長はヒュアキ
ントスより少し低い位か。そのヒュアキントスに勝るとも劣らない
美男子の顔を見て、嬉しそうな微笑みを向けるヒュアキントス。
﹁お帰りアポローン。待っていたよ﹂
優しく語りかけるヒュアキントスに、ニコっと微笑むアポローンは
﹁ただいまヒュアキントス。君の言う通り、全て手はず通りになっ
たよ。全て予定通りだよ﹂
﹁いつもすまないねアポローン。助かってるよ﹂
﹁僕は君の使者だからね。君の命令とあらば、なんだってするよ?﹂
ニコっと微笑むアポローンを見て、豪華なソファーから立ち上がっ
たヒュアキントスは、アポローンに抱きつく。そして、アポローン
の唇に、吸い付くようなキスをするヒュアキントス。
﹁そんな言い方はやめてくれアポローン。僕は君の為に全てを実行
してるのだから﹂
﹁そうだったね。⋮でも、君は女の方が良いのではないのかい?さ
っき迄⋮あの亜種の一級奴隷達に奉仕させていた様だけど?﹂
その言葉を聞いて、再度アポローンの唇にキスをするヒュアキント
ス。
1094
﹁僕が愛してるのは君だけだよアポローン。僕にとって女達は⋮綺
麗な使い捨ての洋服と同じさ。それだけの価値しか無い。只僕を引
き立たせる物でしかないよ﹂
﹁意地悪を言ったねヒュアキントス。ごめんよ﹂
ニコっと微笑むアポローンに優しく微笑むヒュアキントス
﹁これで、もうすぐ⋮あのルチア王女の専任商人になって近づける
様になる。そして、他の女達の様に、僕の魅力で、第三位王位継承
権のあるルチア王女の心を奪い、僕に跪かせてみせるよ。そうなれ
ば僕も王族。その先で他の兄弟達を蹴落として、ルチア王女を王位
につかせる。その後ルチア王女を人知れず⋮始末すれば⋮僕がこの
国の全てを握る事になる。そうなれば⋮君を何時も隣において、天
高く光る太陽の様に、光り輝かせて上げるからねアポローン。それ
まで⋮暫く我慢しておくれ⋮﹂
﹁⋮僕は君と一緒に居れるだけで⋮良いけどね。でも、君が望むな
ら⋮僕はなんでもするよ⋮﹂
﹁可愛い事を言ってくれるじゃないかアポローン。今日も寝かせな
いよ⋮﹂
ヒュアキントスはアポローンを抱き寄せると、そのままベッドに雪
崩れ込む。
﹁フフフ⋮楽しみだよ⋮全てが美しい僕と君の物になる日が⋮﹂
こうして選定戦前の最後の夜は、更けていくのであった。
1095
今日は、選定戦の開始日だ。
準備の出来た俺達は、それぞれの荷馬車に乗り、取り決めの魔法船
が停泊している、、ロープノール大湖の桟橋まで来ていた。
俺達が乗り込むのは、アルバラードが用意した高速魔法船。それで
バイエルントに向かう事になった。
高速魔法船に近づいた時、文官と兵士達がやってきて、俺達のネー
ムプレートを確認する。
﹁確かに葵殿一行であると確認しました。荷馬車を高速魔法船に搬
入して下さい﹂
その言葉に、高速魔法船に荷馬車を乗せようとした時だった。俺達
の右側から、2匹のストーンカに引かれた鋼鉄馬車と、作りの頑丈
そうな、2台の大きな荷馬車がやってきた。
それを見て、目を丸くしているマルコ
﹁すごいね葵兄ちゃん!鋼鉄馬車1台に、大きな丈夫そうな荷馬車
が2台。しかもそれぞれが、2頭のストーンカで引っ張ってるよ﹂
﹁本当です∼。あんな大きな荷馬車なら、沢山の商品が積めますし、
2匹のストーンカさんなら、もの凄い重量を引っ張れそうなのです
∼﹂
マルガの言葉に、ウンウンと頷いているマルコ。その一行を、目を
細めて見ているリーゼロッテ。
すると、荷馬車を操っていた、亜種の一級奴隷が、係りの者と話を
している。
ひと目でそれが、ヒュアキントス一行である事を、皆が理解してい
た。
高速魔法船に荷馬車を積み込み暫くすると、高速魔法船はゆっくり
と桟橋を離れ、みるみる速度を上げ、一路、バイエルントに向かっ
て進み出す。
1096
高速魔法船で一段落した俺達は、甲板に出てきていた。
結構な速度で進む、高速魔法船の心地良い風を感じながら、その移
りゆく景色を皆で眺めていると、背後に複数の気配を感じた。それ
に、振り返ると、そこにはヒュアキントスと3人の亜種の美少女達
が立っていた。
﹁これはこれは、葵殿。良く逃げ出さずに、この高速魔法船に乗り
込めましたね。僕はてっきり、もう既に何処かに消えてしまったと
思っていましたよ。まあ⋮逃げ出しても、君のその2人の一級奴隷
は、契約放棄とみなして、僕の物にするつもりでしたけどね﹂
ニヤっと微笑むヒュアキントス。その言葉を聞いて、若干一名が噛
み付こうとしたが、それを予期していた俺は、その一名を優しく止
める。
﹁ご⋮ご主人様⋮﹂
俺に優しく止められたマルガの頭を優しく撫でると、落ち着いてき
たのか、気まずそうにしながらも、嬉しそうに尻尾をフワフワさせ
ていた。
﹁そんなくだらない事を言いに来たの?意外と天才様も暇なのかな
?⋮大商組合の御曹司も大した事はないね﹂
ニコっと微笑みながらの俺の言葉に、きつい表情をするヒュアキン
トス。少し顔に傷のある亜種の3人の美少女の一級奴隷達は、その
言葉に恐れを感じて居る様であった。
﹁⋮言ってくれるじゃないか。だがしかし、僕と君とでは全てが違
う。そう⋮全てがね。今から楽しみだよ。低能だが、その見た目だ
けは素晴らしい、君の亜種の一級奴隷とエルフの一級奴隷を調教出
来るのがね。くだらない考えなど二度と起こさない様に⋮君の事な
ど、一瞬で忘れさせる位、調教してあげるよ。低能で愚かで⋮浅は
1097
かな君の奴隷にね!!﹂
ニヤ∼ッといやらしく笑うヒュアキントスに、激しい毒の炎が、俺
の体を激しく包み込む。
俺はツカツカとヒュアキントスの傍まで歩み寄ると、顔に傷のある
亜種の一級奴隷の頬に触る。
﹁酷い事を⋮ま⋮俺も人の事は言えないが⋮﹂
﹁何がおかしい?粗相をした奴隷を、主人が躾けただけだろう?そ
れに、君が気にする事では無いはずだが?﹂
ヒュアキントスの言葉を軽く流し、その亜種の一級奴隷の美少女の
頬を優しく撫でながら、
﹁もうちょっとだけ我慢しな。すぐにこの暴君から、君達を開放し
てあげる。だから⋮もうちょっとだけ⋮待っててね⋮﹂
そう言って優しく微笑むと、その亜種の一級奴隷の美少女は、顔を
少し赤らめて俺を見ていた。
その、一級奴隷の美少女を見たヒュアキントスが、激昂する。
﹁ミーア!貴様何を顔を赤らめている!僕はそんな命令を出しては
いないぞ!﹂
そう言い放って、懐から鞭を取り出して、ミーアと呼ばれたワーキ
ャットの美少女に向かって、鞭を振り下ろす。
それを見たミーアは体を竦めて、その罰に恐れていたが、ソレが実
行される事は無かった。
何故なら、俺がヒュアキントスの腕を掴み、ソレを阻止したからだ。
﹁君⋮何をしているんだ?﹂
﹁何って⋮当たり前の事をしてるんだけど?﹂
﹁あ⋮当たり前の事だと!?﹂
﹁そう当たり前の事。その3人の亜種の一級奴隷達は、俺のマルガ
1098
やリーゼロッテと同様、掛けの対象にされている物⋮つまり商品だ。
契約している以上、お前は商品を安全に、その品質を落とさない様
に管理しなければならない義務がある。⋮専任商人選定戦中は、こ
の3人の亜種の美少女達には、危害を加えないで貰おうか。俺の一
級奴隷になる、この3人に、これ以上傷を付けるな。その品質を落
とすのなら、契約不履行で、報告させて貰う。それがどう言う事を
意味するのか、天才様なら解るよな?﹂
俺の嘲笑う言葉を聞いたヒュアキントスの顔が歪む。グッと、声を
出して、ゆっくりと鞭を持った手を
静かに下ろす。
﹁解って貰えて何よりです天才様。じゃ⋮僕は暇じゃありませんの
で、この辺で失礼しさせて貰いますね﹂
そう言って客室に帰っていく俺の後ろ姿を、激しく睨みつけるヒュ
アキントス。
﹁そうそう⋮。後、鋼鉄馬車も大切に扱ってね。それも俺の物にな
るのだから⋮汚さないでくれよ?こっちはマルガとリーゼロッテを
大切に扱って、管理するから。では⋮﹂
俺の軽い言葉に、キツイ目で見つめるだけのヒュアキントスを甲板
に残し、俺達は客室に戻って行く。
甲板に取り残されたヒュアキントスは、顎に手を添える。
﹁⋮もう挑発には乗ってこないか⋮流石に気がつくか。⋮まあいい。
もう既に⋮事は成っている。後はただ待つだけなのだからな。もう
すぐ⋮その全てが⋮﹂
流れ行く景色を見ながら、口元を上げ、微笑んでいるヒュアキント
スであった。
1099
﹁やっとバイエルントに到着しましたねご主人様!﹂
マルガが俺に腕組みをしながら、嬉しそうに尻尾をフワフワさせて
いた。
高速魔法船で6日、俺達はバイエルント国に上陸していた。
ここはバイエルント国の割りと小さな町、アッシジ。人口3万人位
の町だ。
この町の周辺には、小さな村が存在するのみで、他のこれ位の規模
の町には、荷馬車で10日位掛るらしい。選定戦の期日は20日、
高速魔法船で往復12日掛かるので、バイエルント国内に滞在出来
るのは8日。実質この町で商品を仕入れる事になるだろう。
リーゼロッテは既に頭の中に記憶させている、この町の周辺や、特
産物、利益の高い物の事を考えながら、
﹁とりあえず、すぐ傍にある商会から、足を運んでみましょうか葵
さん﹂
﹁だね。リーゼロッテ、利益率の高い品物は、前に聞いた物でいい
のかな?﹂
﹁はい。このアッシジの町で、一番利益が上がるのは、黒鉄と果実
酒、それに毛皮ですね。次いで、山で取れる果物系、山菜、干し肉、
ですね。鉱石系は黒鉄の他に、金や銀も採れますが、金や銀は関税
が高すぎるので、論外でしょう。黒鉄、果実酒、毛皮をメインに、
交渉しましょう﹂
リーゼロッテの言葉に頷く俺達は、一番近い商会に向かっていた。
少し小さい、ラングースの町の様な街並みに、懐かしさを感じなが
ら進んで行くと、一件の商会に到着した。
俺は荷馬車を降りて、受付の男に向かう。こちらに気がついた受付
1100
の男は、俺達を見て、少し眉を動かす。
﹁すいません。商品を仕入れたいのですが、良いですか?﹂
﹁ええ!結構ですよ!ささ!どうぞどうぞ!﹂
俺達は案内されるまま、商談室に入る。
﹁今日はどんな物を、お望みですか?﹂
﹁黒鉄、果実酒、毛皮が欲しいんだ。予算は金貨100枚。お願い
できますか?﹂
その言葉を聞いた男は、あ∼っと言いながら、残念そうに顔に手を
当てる。
﹁今、黒鉄、果実酒、毛皮は10日程前から品切れ中なんだ!結構
人気のある品物だからね。でも、果実や山菜、干し肉なら沢山ある
よ!儲けも出しやすいから、金貨100枚分も買ってくれるなら、
価格も相談に乗るけどね。どうだろう?﹂
ニコニコしながら言う男。
俺とリーゼロッテは顔を見合わせる。リーゼロッテが首を微かに横
に振る。俺もリーゼロッテと同じ気持ちであった。
﹁悪いけど出直すよ。また来るかも知れないから。その時はよろし
く﹂
俺達は男に挨拶をして、荷馬車に乗り込み、商会を後にする。
﹁やっぱり、人気商品は品薄なのかな?﹂
﹁そうですね葵さん。とりあえず、次の商会に行ってみましょう﹂
リーゼロッテの言葉に頷き、別の商会に足を運ぶ俺達。
そして商会の男と話すが、黒鉄、果実酒、毛皮は品切れであった。
再度荷馬車に乗り込み、別の商会に向かう俺達。
1101
﹁やっぱり人気なのですねご主人様∼。ここも品切れでしたし∼﹂
﹁だね。ま⋮儲けの出る物は人気があるからね。他の商会もまだ沢
山あるし、他を当たってみよう﹂
﹁そうですねご主人様!﹂
嬉しそうにしているマルガの頭を撫でると、ニコっと微笑んで金色
の毛並みの良い尻尾をブンブン振っていた。
そして、3件目の商会にやって来た。そこで受付の男と話すが、こ
こでも黒鉄、果実酒、毛皮は品切れだった。それを残念そうにして
いる俺達。その中でリーゼロッテだけが、目を細めて、何かを考え
ていた。
﹁ここでも品切れですねご主人様∼﹂
﹁仕方無い。他の商会を回ろう﹂
俺の言葉に一同が頷き、4件目の商会に入った時だった。受付の男
が、俺達をまじまじと見つめている。そして、その受付の男と一緒
に商談室に入る。
﹁今回は、どの様な物を仕入れたいのでしょうか?﹂
﹁えっと⋮黒鉄、果実酒、毛皮なんですが⋮ありますか?﹂
その言葉を聞いた男は、軽く溜め息を吐くと、
﹁申し訳無いですが⋮黒鉄、果実酒、毛皮は品切れですね﹂
その言葉に、マルガとマルコは残念そうな顔をしている。そして、
俺達をマジマジと見る受付の男は
﹁貴方は⋮ひょっとして葵さんですか?﹂
俺はまだ自己紹介もしていないのに、名前を呼ばれた事に戸惑って
いると、
﹁私の名前は、キリクと言います。リスボン商会、王都ラーゼンシ
1102
ュルト支店長、ギルゴマさんとは、ちょっとした知り合いで、昔大
変お世話になった恩人なんですよ﹂
﹁え!?そうなんですか!?﹂
﹁はい。それでギルゴマさんから手紙を頂きまして⋮貴方達の事は
知っていたのですよ﹂
苦笑いしながら言うキリク。そして、その表情を引き締めて、小声
で話しだす。
﹁この話は、ここだけにして欲しいのですが⋮貴方達が欲している、
黒鉄、果実酒、毛皮は、手に入らないでしょう。10日前に、この
町の全ての黒鉄、果実酒、毛皮が予約済み⋮売却予定だからです﹂
﹁え⋮それはどういう事なのですか!?﹂
思わず声を上げてしまった。キリクは俺に静かにする様に言うと、
話を続ける。
﹁全てお話する事は出来ません。ですが、先ほどの品物が全て、こ
の町に無いのは事実です。⋮詳しい取引相手などは言えませんが、
その、大口の取引をしてくれた人達から1日前より、いい遣ってい
る事があるのです﹂
﹁⋮それは、どんな事なのですか?﹂
リーゼロッテが目を細めながら聞き返す。
﹁それは⋮黒髪に、黒い瞳をして、亜種の美少女とエルフの美少女
を一級奴隷にして、もう一人子供を共にしている、行商人の少年が
来たら、果物、山菜、干し肉を薦めて売ってくれと、言われていま
す。理由は知りませんが、大口のお客の言う事なので、その一行が
来たら、私も言うつもりでした。⋮ですが、ギルゴマさんから手紙
を頂きまして、もし、貴方達が来たら、言える範囲で良いので、協
力してやって欲しいとお願いされました。なので⋮こうやって、内
密に話をさせて貰ってます﹂
1103
キリクの話を聞いた俺達は顔を見合わせ、困惑する。
﹁とりあえず、貴方達に売れるのは、果実、山菜、干し肉⋮。他の
商品もありますが、黒鉄、果実酒、毛皮は諦めて下さい﹂
キリクの言葉に戸惑ったが、今は少し考えたい。
﹁とりあえず、出直します。貴重な情報、ありがとうございます﹂
﹁いえ⋮良いのです。ギルゴマさんの頼みなのですから。⋮この事
は⋮絶対に内密にお願いします﹂
そう俺達に釘をさしたキリクと、挨拶をして別れる。
俺達は町の広場の隅に荷馬車を止め、集まっていた。
﹁どうしよう葵兄ちゃん!この街中の、黒鉄、果実酒、毛皮が売り
切れで手に入らないなんて!﹂
﹁そうなのです!全て買われてしまってます!私達には少しも手に
入らないかもなのです!﹂
マルガとマルコは、顔を見合わせながら、困惑していた。
その中で、ハア∼ッと大きく溜め息を吐くリーゼロッテ。リーゼロ
ッテは俺に向き直り、金色の透き通る様な美しい瞳に、何かの核心
を秘めた光を放ちながら、
﹁やられましたね葵さん。私達は⋮どうやら⋮出来レースの上を進
まされて居るだけの様ですわ﹂
﹁できれーす?リーゼロッテさん、それはどんな食べ物なのですか
?﹂
マルガは可愛い小首を傾げながら、う∼んと唸っていた。
俺は地球の勉強をしていたリーゼロッテの、その余りにも解りやす
い言葉に、全てを理解するのにさして時間は掛からなかった。
﹁そうか⋮そう言う⋮事⋮だったのか⋮﹂
1104
力なくそう呟いて、石段に座り込む。それを心配そうに見つめる、
マルガにマルコ。
﹁どういう事なのですかご主人様?﹂
﹁⋮全て仕組まれていたんだよマルガ。専任商人選定戦も⋮何もか
もね⋮﹂
俺はマルガに説明を始める。
今思い返してみれば、おかしい所だらけであった。
商人としては、一応筋が通っているとは言え、ヒュアキントスの言
葉を、すぐに容認したアルバラード。
全ての決定権を持つアルバラードは、最初から選定戦など、どうで
も良かったのだ。
この選定戦をしたのは、ルチアへの配慮のみ。無下に扱っていない
と言う事を証明するだけの茶番だったのだ。
俺が出された条件を飲まなければ、力不足と勝手に決めつけ、排除
する。
如何に立ち回ろうとも、決定権を持つのはアルバラード。彼の気分
次第でどうとでもなる。
彼にはそれだけの権限が、女王から与えられているのだ。彼の失敗
は委任した女王の失敗になる。彼の言葉を簡単に流せないのも、こ
れが理由だ。
たまたまヒュアキントスが、マルガとリーゼロッテを欲しただけで、
それ以外は全て予定通り。
あそこで、奴隷を商談に持ちだしたヒュアキントスも、普通にドラ
イに考えれば、利益を上げる交渉をしただけの事。何も可笑しくは
ない。奴隷は資産。はなから商品なのだ。むしろ商品に感情を持っ
ている、俺こそが﹃普通﹄ではないのだから。別に法律的にも、慣
1105
習的にも可笑しくない。
そして、条件を飲んで選定戦に出たとしても、一番利益の上がる物
は手に入らない。
一番利益の上がる物は、当然ヒュアキントスが全て抑えている。し
かも10日前から。
選定戦の契約前なら、何をしていても問題は無い。契約期間外だか
らだ。
そしてそれを知らない俺達は、四苦八苦した挙句、2番めに利益の
上がる品物を取引して、アルバラードの前に出し、僅かながら負け
る。あくまでも接戦したかの様に見せて⋮
そう⋮全てはルチアを諦めさせる為の茶番。仕組まれた出来レース⋮
俺達の出番は、はなから予定されていたものだったのだ。
俺の話を聞いて、絶望的な顔をする、マルガとマルコ
﹁じゃあ⋮何をしても⋮オイラ達は負ける事が決まっていたの⋮?
葵兄ちゃん﹂
﹁そんな酷い⋮対等の勝負どころか⋮全て決められていたなんて⋮﹂
﹁そう⋮全ては決まっていたんだ。俺達が王都ラーゼンシュルトに
就く前からね﹂
その言葉に顔を蒼白にさせるマルガとマルコ。
﹁そうしたらさ、何故全ての品物を、ヒュアキントスは押さえなか
ったのかな?﹂
﹁それが彼の凄い所なんだよマルコ。俺の居た世界には⋮窮鼠猫を
噛むって言葉があってね⋮﹂
俺はマルコに話を続ける。
人間というものは、追い詰めると、何をしでかすか解らない生き物
1106
なのだ。
例えるならば、悪徳金貸しが解りやすいだろうか。
素人や三下、知性の低い奴らは、その対象、つまり、金を貸してい
る人間を、とことん追い込み、簡単に自殺や、弁護士団体に駆け込
ませてしまう。
そうなると、もう利益は上げれない。それと、自分の身に危険も回
ってくる。
しかし、一流の者や、頭の良い物は、そのギリギリのラインで、一
瞬力を抜く。
つまり、対象者に、思いきりさせないのだ。
もう少し我慢すれば⋮逆らうと怖い⋮ギリギリ生きていられる⋮
そういった恐怖を維持し続けさせ、一線を越えないように管理をす
る。
それが、差なのだ。細く長く、とれる時に取り、危ない時は一瞬希
望を与える。
長く長く安全に絞りとる⋮そのバランスが取れる⋮それが一流であ
り、賢い者の選択なのだ。
﹁もし、金貨100枚分で、金貨10万枚分の商品を提示したら、
あの頭の回転の早いルチアが黙っていると思う?今も、ルチアは疑
っているのに、そんなもの出したら、すぐに解っちゃうよ。この選
定戦自体が、全て仕組まれた事だってね。そんな阿呆な事を、天才
的商才のあるヒュアキントスは絶対にしない。この選定戦は、あく
までもルチアの為の物。そんな阿呆な奴を、誰も推薦しないって事
さ。絶妙なバランスをとれる⋮ヒュアキントスだから選ばれて居る
んだよ﹂
俺の言葉に静かに頷くマルガにマルコ。
﹁そういう事ですわ。頭の回転が早いルチア様が、文句の言えない
1107
様な、絶妙なバランスで、勝ちをもぎ取って行くでしょう。あくま
で取り決めの中で勝負したかの様に見え、文句が言えない⋮又は、
言い難い、絶妙なバランスを⋮それが出来るのでしょうね⋮ヒュア
キントスと言う人は。まさに天才ですね﹂
リーゼロッテの言葉に静かに頷く俺。
﹁恐らく、この町以外は、買い占められていないだろう。実質、こ
の町にいられるのは8日。小さな村で取引したら、金貨100枚分、
余程高額で、取引されている金や銀以外は、すぐに品が無くなる。
そうなれば、あちこちの村を移動する事になる。そんな事してたら、
すぐに期限が迫って、終了さ。それもきっと織り込み済みだと思う。
ヒュアキントスと言う男ならね﹂
俺の言葉に頷くリーゼロッテ
﹁実際俺達も、あのキリクの言葉が無かったら、気がつけなかった
だろう。少し怪しむが、無いなら他の商品で何とか対応等、そっち
に気が行っていただろうしさ。この町は大きくない。商品が無くな
る事も、多々有る事だしね﹂
マルガとマルコはなるほどと頷く。
﹁そして、彼の取引の品は恐らく黒鉄。大きく丈夫な荷馬車に、か
なりの重量を引ける、ストーンカを2頭ずつ。あれは、かなりの重
量を引くという事⋮﹂
リーゼロッテはそう言うと、静かに目を閉じる。
﹁とりあえず、期限は8日しか無い。二手に分かれて、この町すべ
ての商会を回ろう!新しく商品が入ってきている可能性もある。ま
ずは⋮この町を調べ尽くそう!﹂
俺の言葉に、皆が頷く。
1108
こうして俺達は、アッシジの町を駆けまわるのであった。
1109
愚者の狂想曲 29 奔走!
﹁リーゼロッテ、そっちはどうだった?﹂
﹁ダメです。条件は一緒ですわ葵さん。黒鉄、果実酒、毛皮は全く
在庫無しの一点張り。どの売り子交渉人さんも、果実や山菜、干し
肉を薦めてきます﹂
﹁そっちもか。俺達も全く同じだよ﹂
俺達は、俺とマルガ、リーゼロッテとマルコの二手に別れて、アッ
シジの町を奔走していた。
しかし、キリクから聞いた通り、全ての黒鉄、果実酒、毛皮は売り
切れ。行く先々の商会では、果実や山菜、干し肉ばかりを薦めてく
る。
ここまで同じ事ばかり言われると、ヒュアキントスの徹底ぶりに、
思わず感服したくなる。
俺達がキリクの言葉を聞いていなければ、これだけ薦められると、
取引交渉で何とかしようと考えて居たかもしれない位だ。
﹁とりあえず、もう一度商会を当たってみよう。ここは時刻の鐘が
鳴らない町だけど、日が傾きかけたら、ここに再度集合で﹂
俺の言葉に頷く一同は、二手に別れて商会に向かう。俺達は商会を
まわり続けるが、結果は同じであった。
そんな俺達の希望の光りが消える様に、天高く輝いていた太陽が沈
んでいく。
俺とマルコは、先程の広場に戻る。そこには残念そうに首を横にふ
る、リーゼロッテ達が居た。
その顔を見れば、結果を聞かずとも、全ては理解出来た。
1110
﹁⋮もうすぐ夜の帳も降りるし宿をとって、明日にしよう。商会も
閉まっちゃったしさ﹂
俺の声に静かに頷く一同。俺達は宿を取り、明日の為に、早く就寝
するのであった。
翌日、俺達は昨日と同じ様に、二手に別れて回りきれていなかった
商会を当たっていた。
しかし、思う様な成果もなく、途方に暮れながら、広場の片隅に荷
馬車を止めていた。
﹁ほんと、どこの商会に行っても、黒鉄、果実酒、毛皮は売り切れ、
そして、果実、山菜、干し肉ばかり薦められるよ。これだけ、どこ
に行っても同じ事ばかり言われると、流石に呆れちゃうよね﹂
﹁そうなのです∼。私もご主人様と行った商会でも、全く同じだっ
たのです﹂
マルガとマルコは、顔を見合わせて、溜め息を吐いていた。
﹁それだけ、きちんと根回しが出来ているのでしょう。ヒュアキン
トスの手腕ですわね﹂
﹁そうだね。しかし⋮参ったな。ヒュアキントスに勝つには、最低
でも同じ利益の上がる商品を、金貨100枚分用意しないとダメだ。
果実、山菜、干し肉等では、間違いなく負ける。ヒュアキントスの
事だ、もし、同じ利益の上がる商品を金貨100枚用意しても、ギ
リギリで勝ちを持って行くかも知れないからね。それだけの商品は、
確保しているだろうからさ﹂
俺の言葉に、う∼んと唸っているマルガとマルコ。
﹁どこかで狩りをしたり、ラフィアスのダンジョンじゃないけど、
お金の儲かりそうな所で利益を上げるとかはダメなの?﹂
﹁それはダメですわマルコさん。金貨100以外のお金に変わる取
1111
引事由は認めないのですから、狩りや冒険で得た利益では、無効に
されてしまいます。この金貨100枚のみを使って、利益を上げる
を勝負なのですから⋮﹂
リーゼロッテの言葉に、残念そうにしているマルガとマルコ。
﹁そう考えると⋮あの取り決めさえも⋮仕組まれていたんだろうな
⋮﹂
俺の言葉にすぐさま理解した、頭の回転の早いリーゼロッテが、軽
く溜め息を吐く。
﹁⋮そうですわね葵さん。あの取り決めは、一見、平等の様に見え
ますが、全ての商品を取り決め期日前に押さえているヒュアキント
スには、関係の無いお話ですからね⋮あの取り決めは⋮むしろ⋮私
達に対する、足枷なのでしょうね﹂
そうだ、それしか無い。
俺達やルチアの目も、同じ金貨100枚のみを使って、利益を上げ
るこの取決めに、財力が関係無くなる事を安堵していた。
でも実際は違った。既に商品を手に入れているヒュアキントスとは
違い、俺達は同じ商品を金貨100枚分取引したとしても、負ける
可能性があるのだ。それだけの商品はヒュアキントスは押さえてい
る。
後はヒュアキントスの天才的バランスで、こちらの僅か上の商品を
提示して終わりだ。
恐らく⋮俺達の行動も、何処かで監視しているだろう。きっと⋮そ
の取引内容さえも⋮
﹁⋮私が勉強している葵さんの世界、地球の情報を利益に変えよう
にも、取り決めに触れてしまいますしね⋮打つ手が⋮ありませんわ
ね﹂
金色の透き通る様な美しい瞳を僅かに外らすリーゼロッテ。
1112
そう⋮俺もその事は考えていたが⋮取り決めが邪魔をする。
金貨100枚以外の、お金に変わる、関わる取引事由も認めない⋮
言い換えれば、金貨100枚以外の条件をつけて、取引してはなら
ないと言う事。
金貨100枚のみにて、取引をしなければならないのだ。
地球の情報を、条件につける事も出来ない。
そして、そこに輪をかけて、俺の推薦者であるルチアの手を借りれ
ないのが、更に痛い。
ルチアなら、何か感じている部分もあったのかもしれないが、その
ルチアが手出し出来ないのだ。
ルチアが最初に条件を聞かされていれば、あのルチアの事だ、きっ
と何らかの手を打ってくれたはず。
だが、それをあえてその場で発表すると言う形にして、ルチアに情
報を一切与えず、頭の回転が早く、王女と言う権力を持つルチアを
封じた⋮
﹁あの取り決めも何もかも⋮ヒュアキントス達の罠⋮あくまでも、
平等に見せかけ安堵させ、その実は、俺達に足枷をつける事が目的
だった⋮完璧な出来レースだね﹂
その絶望に近い言葉に、マルガにマルコも、顔を歪ませている。
﹁兎に角、今はもうその罠の中に居る。その中で何が出来るかを見
極めよう。どこかに、抜け道があるかも知れなしさ﹂
俺の言葉に皆が頷く
﹁そうですね葵さん。⋮で、どうしますか?﹂
﹁リーゼロッテ、この町の周辺の地図を見せてくれる?﹂
﹁⋮この町を捨てて、他の場所に移動する⋮と、言う事ですか葵さ
1113
ん?﹂
﹁うん⋮もうこの町に居ても、果実、山菜、干し肉しか手に入らな
いと思う。ここは、買い占められていない可能性のある、近隣の村
に目を向けるしか無い。移動時間を考えて、段取り良くまわる方法
を考えよう。ヒュアキントスの事だ、織り込み済みかもしれないけ
ど⋮この町に居るよりかは、ほんの極僅かだけど、可能性があるか
もしれないし﹂
俺の言葉に頷くリーゼロッテは、このアッシジの町の周辺の地図を
広げる。
それを食い入る様に見つめる俺達。
﹁この町の周りには、10の村が有るんですねご主人様﹂
﹁だね⋮だけど、俺達がこのバイエルントに居れる期間は、もう7
日。それを考えたら、全ての村には回れない。効率良く、多くの村
をまわれて、利益の良い品物が買えるであろうルートを⋮﹂
この地図によると、このアッシジの町の周辺には、10の村が存在
している。
1つの村は500人位の規模の村、残りはイケンジリと同規模の村
が東西南北に点在している。
その村の特産品を考え、期日である7日間の間に、出来るだけ多く
の村をまわり、このアッシジの町に戻って来なければ、間に合わな
い。
﹁まずは、この町より一番近い、マルタの町に行きましょう。マル
タの町は荷馬車で1日。夜も交代して荷馬車を進めれば、明日の朝
には就けるでしょう。マルタの村から、時計回りにまわれば、5つ
の村をまわる事が出来ます。交代で夜も荷馬車を進み続ける事にな
りますが、夜に目が見える葵さんと、レアスキルの動物の心を持つ
マルガさんが、夜に荷馬車を進めれば、さして難しい事は無いでし
1114
ょう。まあ⋮馬のリーズさんとラルクルさんには、かなり無理をし
いてしまいますが⋮﹂
﹁いや⋮仕方ないよリーゼロッテ。それが一番多く村をまわれて、
商品を手に入れる可能性が高いんだから。恐らく⋮このアッシジが
選ばれたのも、緻密な計算の上だろうしさ﹂
俺の言葉にリーゼロッテが静かに頷く。
このアッシジの町は人口3万人の町。商品を全ておさえて不自然に
見えないギリギリの規模の町だ。これ以上大きな町になると、全て
の商品をおさえるには、資金も掛かるし、不自然に見える。
しかも、ここより期日内にまわれる村も限られる。その事も計算に
入れて、周辺に小さな村しかない、このアッシジの町が選ばれてい
るのであろう。そう⋮全ては仕組まれた事⋮
﹁よし!じゃ∼食料と水を補給して、すぐにマルタの村に向かおう
!⋮ヒュアキントスが折込み済みかも知れないが⋮このまま何もし
ない訳にはいかないしね。じゃ∼すぐに準備して出立しよう。皆少
し辛い旅路になるけど、我慢してね﹂
俺の言葉に皆が頷くと、それぞれの荷馬車に乗り込み、準備をする
為に移動を開始する。そして、アッシジの村を出て、マルタの村に
向かう為に出立するのであった。
そのアッシジの町を出立する、俺達の荷馬車の後ろ姿を、影から眺
めている男が居た。
その男は、葵達がアッシジの町を出た事を確認すると、足早にアッ
シジの町の中に戻って行く。
そして、このアッシジの町で一番大きい商会の中に入って行き、一
番良い客室らしき部屋の扉の前で止まる。その、扉をノックして入
っていく男。
1115
﹁ご報告致しますヒュアキントス様。例の一行が、この町を今出ま
した﹂
﹁そうか⋮ククク⋮町を出たか。どうやら、予想通り、黒鉄、果実
酒、毛皮を求めている様だな。この町で品が無いので、周辺の村に、
それらを求めて⋮か。だが⋮それも無駄な事。昼夜問わず荷馬車を
進めたとして、多くまわれても、5つの村が限度。この町より近く
一番大きい村、カナーヴォンは金しか取れぬ金鉱の村。金など関税
が高すぎて、黒鉄、果実酒、毛皮を超える利益を出す事など不可能。
となると、小さな村々をまわるしか無い。だがそれも⋮ククク⋮全
て無駄な足掻きだと、知る事になるだろうさ﹂
ヒュアキントスは果実酒を飲みながら、その顔に冷徹な微笑みを湛
えていた。
その、顔を見た、3人の亜種の美少女達がゾっとしたのか、体を寄
せて少し震えていた。
それを見たヒュアキントスは、ニヤッと卑しい微笑みを浮かべると
﹁⋮お前達には、選定戦中は躾が出来ぬからな。勝ちが決まってい
るこの選定戦で、つまらぬ契約不履行等で、つまずく訳には行かな
いからな。心配するな⋮。選定戦が終われば、今までの分⋮きっち
りと解る様に躾けてやる。二度とこの僕の指示を、間違わない様に
な!﹂
その凍る様な笑いを浮かべるヒュアキントスを、只々震えながら恐
怖を感じて震えている事しか出来ないでいる、亜種の3人の美少女
達だった。
1116
時刻は翌日の早朝。
俺達は昼夜問わず荷馬車を進め、一番最初の村である、マルタの村
の近くまで来ていた。
日の明るさを感じたリーゼロッテとマルコが、荷台より顔を出す。
﹁葵さんおはようございます。無事に夜に荷馬車を進めれましたね﹂
﹁うん。お陰でもうすぐ村に就くよ﹂
﹁じゃ∼村に就くまで、リーゼロッテ姉ちゃんとオイラが交代する
から、少しでも休んでてよ﹂
﹁解ったよマルコ。リーゼロッテもお願いするね﹂
俺とマルガは、リーゼロッテとマルコに交代して貰い、俺の荷馬車
の荷台で、村に就くまで少し眠る事にした。
俺のすぐ横で、俺に抱きつきながら嬉しそうな顔をするマルガの頭
を優しく撫でる
﹁ご主人様⋮気持ち良いです∼﹂
﹁マルガも気持ち良いよ。村に就くまでもう少し。夜の移動に備え
て、少しでも睡眠をとっておこう﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
尻尾を嬉しそうにパタパタさせていたマルガは、俺の腕の中で気持
ち良さそうにすると、眠たかったのか、すぐに寝息を立てて、眠り
始めた。
その表情に癒されながら、俺もマルガの甘い香りと、乙女の柔肌を
感じながら、眠りにつく。
リーゼロッテはそんな俺達の会話を聞いていたのか、少し口元を緩
めながら荷馬車を進める。
暫く3刻︵3時間︶程、荷馬車を進めると、街道の両端に沢山の果
樹が見えてきた。
その沢山の果樹を、目を細めて眺めると、顎に手を当てて、何かを
考えているリーゼロッテ。
1117
﹁葵さん、マルガさん起きて下さい。マルタの村に到着しましたわ﹂
リーゼロッテのその優しい声で目を覚ました俺とマルガ。
マルガは寝足りないのであろう、可愛く大きな透き通る様なライト
グリーンの綺麗な瞳を、ショボショボさせていた。
そんなマルガの頭を優しく撫でながら辺りを見回すと、複数の村人
達が俺達を見ていた。
その中から、一人の高齢の男性が近寄って来た。
﹁私は、このマルタの村の長である、クラークと言います。⋮貴方
達は⋮﹂
﹁ああ!すいません!僕は行商をしている葵と言います。この村に
行商に来ました﹂
その言葉を聞いて、俺達の荷馬車の品物を見るクラーク村長は、表
情を明るくする。
﹁そうでしたか!それはそれは。交渉の準備をしますので、私の家
にどうぞ!﹂
俺達はクラーク村長の言われるまま、その後に付いて行く。
村の大きさや人口はイケンジリの村と同じ位なのだろうが、どこと
なく寂れている。村人もどことなくだが、元気がなく、顔色も良く
ない様な気がした。
そんな村を眺めながら付いて行くと、家の中に案内される。
荷馬車を止め、クラーク村長の家に入って行くと、応接室の様な部
屋に通された。
イケンジリの村のアロイス村長の家と比べると、小さいし、かなり
質素だった。
応接室で、結構な時間待たされ、マルガが我慢出来無くなったのか、
コテッと可愛い頭を俺にもたれかけさせて、眠ってしまった時だっ
1118
た。扉がノックされて、二人の男達が入って来た。
そのノックの音と、人の気配にビクッとなって慌てているマルガに、
プッと吹いてしまう。
マルガもはにかみながら、可愛い舌をペロッと出していた。
﹁お待たせしました。では交渉を始めさせて頂きます。まず何を売
って頂けますか?﹂
﹁えっと⋮売りたいのは塩と香辛料。そして、別で、黒鉄、果実酒、
毛皮を金貨100枚分、有るだけ売って欲しいのですが⋮﹂
﹁つまりは⋮塩と香辛料の代金とは別に、黒鉄、果実酒、毛皮が欲
しいと、言う事なのでしょうか?﹂
﹁そうですね。そう理解して貰えたらありがたいです﹂
その言葉に、複雑な表情をするクラーク村長
﹁⋮すいませんが⋮黒鉄、果実酒、毛皮は、売れる分がこの村には
ありません。この村の特産品は、果実や果実酒なのですが⋮その⋮﹂
﹁⋮今年は不作で⋮思う様に収穫出来無かったのでしょう?クラー
ク村長﹂
リーゼロッテの言葉に、ピクっと反応するクラーク村長。俺は少し
驚いてリーゼロッテを見ると、話しだすリーゼロッテ。
﹁先程、この村に来る途中で見た果樹達の元気が、よろしくありま
せんでした。私はエルフの血を引いていますので、植物の状態を感
じる事が出来ます。あの果樹達では、その体に沢山の実をつける事
は出来ないでしょう。違いますかクラーク村長?﹂
リーゼロッテの言葉に、大きく溜め息を吐くクラーク村長
﹁そちらのエルフの女性の言う通りです。ここ最近、この周辺の村
々では、不作が続いていまして、村も厳しい生活を強いられていま
す。この村の周辺は、狩りをするにも獲物が少なく、果樹を育てて
1119
いる周辺以外は、土が細いので作物の育ちも良くありません。黒鉄
もこの周辺では採れませんので、果実や果実酒がこの村の資金源な
のですが⋮それが⋮﹂
少し伏目がちに語る、クラーク村長。
なるほど⋮村の人達が元気がなく顔色が悪かったのは、不作で資金
がなく、食べるのに精一杯だからだったんだ。恐らく⋮まともに食
事も取れていないであろう。なんとか飢えを凌いでいると言った所
か。
﹁なので、黒鉄、果実酒、毛皮はお売りする事は出来ません。です
が⋮貴方達の商品である、塩や香辛料は、内陸であるこのバイエル
ントでは、かなり人気の品。是非私達に売って頂きたいのです﹂
﹁話は解ります⋮ですが、失礼ながらに言わせて頂くと、この村に
私達の商品である、塩や香辛料の代金として支払う、資金や物々交
換出来る品物が、おありなのですか?とてもその様には⋮見えませ
んが⋮﹂
リーゼロッテの少しきつい言葉に、やや俯くクラーク村長が、その
重たい口を開く。
﹁ええ⋮エルフさんの言う通りです。私達の今の村では、資金的に
も、品物的にも、代金と呼べる物を、出す事は出来ません。なので
⋮こちらを条件とさせて頂きたいと思います。⋮ほれ⋮入って来い﹂
そのクラーク村長の言葉を合図に、6人程の、14歳から20代中
頃の女性が入って来た。
その女性達は、俺達の前に来て軽く頭を下げると、横一列に並ぶ。
﹁この⋮6人の娘達の中から⋮3人を代金として支払いたいと思い
ます。それで⋮2台の馬車に積まれている、塩と香辛料を、物々交
換して頂きたいのです。勿論⋮お金で買って頂いても構いません。
1120
どうか⋮よろしくお願いします﹂
そう言って頭を下げる、クラーク村長。その言葉に、俺とリーゼロ
ッテは顔を見合わせる。
俺はその6人の女性達をマジマジと眺める。
う∼ん。この6人⋮交換するにしても⋮顔立ちがね⋮ギリ一級奴隷
として売れると言った感じか?
だが、一級奴隷として売れても、最低の価格なのは間違いない。普
通より少し可愛いと言った感じだな。恐らく時間が掛かったのも、
相談をしていたのであろう。そして、この村で、見目の良い女性を
ここに連れて来たと、言う訳か⋮
﹁この中で⋮処女じゃない人は下がってください。嘘はつかない様
に、お願いします。後で必ずバレますので、酷い目にあいますよ?
では⋮お願いします﹂
俺の言葉に顔を見合わせる女性達は、少し戸惑いながらも、俺の言
う通りに動く。
そこには14歳位の少女3人が残っていた。
﹁なるほど⋮この3人ですか。解りました暫く考えさせて下さい。
どこか別の部屋をお借りして宜しいですか?それと、代金を支払い
ますので、朝食を用意して頂けませんか?﹂
﹁解りました。では2階の部屋をお使い下さい。朝食も持って行か
せますので。この3人の少女達は、性格も良く優しい娘達です。き
っと貴方の役に立つと思います。是非良き返事を⋮﹂
俺はその言葉に、考えますと答え、人数分の朝食代を支払うと、案
内された部屋に入る。
﹁ご主人様⋮どうされるのですか?あの⋮少女達を⋮買われるので
すか?﹂
1121
マルガは複雑な表情で、俺の腕にしがみつき、可愛く大きな瞳を揺
らしていた。
﹁⋮ここで、あの少女達を⋮買うか、塩や香辛料で物々交換しない
と、村人が飢えて死んでしまう人が出るかも知れません⋮いえ⋮も
う出ているのかも⋮﹂
リーゼロッテも自分の事を思い出しているのであろう。その金色の
透き通る様な瞳を揺らしながら、マルガの頭を優しく撫でている。
﹁そうだね。こんな小さな村、見捨てる領主は多いからね。ほんと、
バルテルミー候爵領の領民は恵まれているよね。ま⋮殆どが、ここ
の領主と同じなのが普通なんだけどさ﹂
﹁そうなんだ⋮オイラの居たイケンジリの村は⋮小さな村だけど、
色々恵まれていたんだね葵兄ちゃん。オイラ生まれてから、食べ物
で困るなんて⋮経験した事ないもん⋮﹂
﹁ま∼イケンジリの村の周辺は、土地も良いし、獲物も沢山居るか
らね。イケンジリの村と、このマルタの村では、生活水準が違いす
ぎるね﹂
俺の説明に、マルガもマルコも顔を見合わせ、俯いている。
﹁ですが⋮どうするのですか葵さん?私達の荷馬車に積んで来てい
る、塩や香辛料の仕入れ値は金貨10枚。当然それを売れば、金貨
10枚以上のお金になります。あの少女達と交換するには⋮﹂
そう、最低金貨14枚以上で売ろうと思っていた塩や香辛料と、あ
の3人の少女達では、釣り合いが取れない可能性がある。もう1人
か2人追加して貰う必要があるかもしれない。
それをして、儲けが出るかも疑問だ。小さな村だから、行商人自体
少ないかも知れないが、他の行商人が来ていると予測出来る。
当然、同じ様に、村の娘を売る話をしている可能性が高い。それで、
売れ残っているのであれば⋮利益は見込めない可能性が高い。それ
1122
を利益の出る様に交渉するかどうか⋮
﹁それに⋮私達の目的は⋮ここで⋮あの少女達を買う事が、目的で
はありません。私達の目的は⋮選定戦に勝てる商品を得る事⋮﹂
少し拳をキュッと握るリーゼロッテ。その瞳は揺れている。
その通りだ。俺達がこの村に、何かしてやる様な余裕はない。俺達
は選定戦に勝てる品物を手に入れる為に、頑張っているのだ。
それを有利に運べるかもしれないので、塩や香辛料を売らずにここ
まで来たのだ。
この村を助ける為に、持ってきている訳では無い。
塩や香辛料と物々交換しないで、仕入れ値と同じ金貨10枚で買っ
てやる事も出来る。
しかし、今の俺達の手元の金は、約金貨20枚。ここで、3人の少
女を買ってしまえば、選定戦に有利に持っていける様に使える資金
が乏しくなり、かなり不安が残る。そんな事はとても出来ない。
あの少女達が、マルガやリーゼロッテの様に、確実に儲かるクラス
の美少女なら兎も角、下手したら、原価を切るかもしれない3人を、
買うのも難しい。資金回収がしにくい⋮
俺達に、そんな交渉をしている時間は無い。この村に俺達の必要な
物が無いのなら、早々に立ち去って、次の村を目指さないといけな
い。この村を見捨てて⋮
﹁リーゼロッテ言い難い事を言ってくれてありがとう。それは良く
解っているよ。⋮食事休憩をしたら、この村で何も取引せずに、別
の村に向かう﹂
俺の言葉に、一同が寂しそうな顔をする。
﹁俺達は、何としても選定戦に勝たないといけない。今は無駄な事
1123
をしている余裕は一切出来ないんだ。⋮まずは、俺達の問題が解決
出来て、それで余裕があるなら⋮その時考えよう﹂
俺の言葉に、瞳を揺らしながら静かに頷く一同。
その時、コンコンと俺達の部屋の扉がノックされる。どうぞと言う
と、先程の3人の少女が、俺達の食事を持ってきてくれた。それを
テーブルの上に置いてくれる。
その食事は、俺達が旅をしている時に食べている食事より、遥かに
質素であった。食事を寂しそうに見つめ、顔を見合せている、マル
ガにマルコ。
すると、食事を置き終わった内の1人の少女が、俺の前に来た。そ
して、何かを差し出す。
﹁この⋮この金貨を差し上げますので⋮是非私達を買って下さい!
この村を⋮助けて下さい!﹂
少し震えながら、一枚の金貨を俺の手に渡す少女。俺はその金貨を
見て、少し溜め息を吐きながら、
﹁⋮よく考える事にするよ。暫く待ってくれないかな?この金貨は、
とりあえず貸して貰っておくね。参考にしたいからさ﹂
そう言って、優しく微笑みながら、彼女達の退出を促す俺。
俺の言葉に、深々と頭を下げながら、お願いします!と言って、部
屋から出ていく3人の少女達。
そのいたいけな3人の少女達を、寂しそうに見つめる、マルガ、リ
ーゼロッテ、マルコ。俺は再度溜め息を吐く。
﹁所でご主人様⋮その金貨貰えるって事は⋮利益的にどうなのです
か?⋮⋮あれ?この金貨⋮何時もと見ている金貨と違う様な⋮﹂
そう言って、俺の手から、渡された金貨をとって、マジマジ見つめ
ながら、う∼んっと唸って可愛い小首を傾げているマルガ。
1124
﹁それは、俺達がいつも使っている金貨と違う物だよ。それはこの
バイエルント国で使われている、自国金貨。俺達が何時も使ってい
るのは、大国5つが共同で、監視、管理して作っている5ヶ国金貨。
全くの別物なんだ。その自国金貨は、このバイエルント国内で使わ
れている金貨だね﹂
﹁どう⋮違うのですかご主人様⋮﹂
マルガとマルコが興味津々で聞いてくる。
自国金貨は、その国で作っている、自分の国の金貨だ。
この世界には、色々な国があり、当然、その国ごとに、自国の通貨
が発行されていた。
しかし、数多の戦争で、国が滅び、そして新しい国が出来る。その
たびに、新しい通貨が発行され、また滅びて無くなる。これを長い
歴史の中で繰り返してきた。
しかし、各属性の精霊の長であり、それぞれの国の王家と契約して、
国を守護している精霊、5種類の守護神をそれぞれに持つ国達が、
どんどん国を大きくしていった。
そして、長く続く戦乱の中で、その守護神を持つ大国同士が、研究
し、話し合いで契約をして出来たのが、この5ヶ国金貨だ。
それまでは、常に新しい通貨が国ごとで発行され、それが出回って
いたが、金や銀、銅の配分がそれぞれの国ごとで違い、それに輪を
かけて、その国が公表している配合と違う金貨や偽物も横行してい
た為、通貨の価値はバラバラで、通貨としての信用をなくしかけて
いた。
そこで、大国同士が話し合いで作ったのがこの5ヶ国金貨だ。
この5ヶ国金貨や銀貨、銅貨は魔法で作られていて、金銀銅の含有
1125
量が決められている。
この魔法は強力で、奴隷契約魔法や、ネームプレートに使われてい
る、制約魔法と同じで、複製出来ない。水につける事で、文様が浮
かびだし、それで本物かどうか簡単に区別出来る。
今までの通貨とは違い、その信用度は全くの別物。皆がこぞって5
ヶ国金貨を使い出した。
その信用度の高さ、滅ぼされにくい守護神を持つ、5大国が作って
いる事もあって、5ヶ国金貨は、瞬く間に世界中に広がっていった。
その説明に、なるほどと頷くマルガにマルコ。
﹁でもさ⋮自分の国で金や銀、銅がが取れる国は、嫌がったんじゃ
ないの葵兄ちゃん?﹂
﹁凄く良い質問だねマルコ。そう⋮嫌がった国もあった。だけど⋮
そんな国は全て滅ぼされた。5大国が共同で行った⋮金貨戦争によ
ってね﹂
﹁き⋮金貨戦争?なにそれ?﹂
﹁5ヶ国金貨を認めない⋮又は支持しない国々を、5大国が同盟を
組んで、徹底的に滅ぼす、属国にする、5ヶ国金貨を使う様に約定
を交わす⋮そういう事をしたのですよ﹂
リーゼロッテの説明に、マルガもマルコも、口を開けていた。
従わない国々を5大国は許さなかった。
徹底的に容赦なく、5ヶ国金貨を使う様に強要した。それに従わな
かった沢山の国々は、この世界の地図から消え去った。
その強大な5大国の前に、様々な国がひれふして行った。そして、
5大国周辺の国々は、5ヶ国金貨を通貨として自国で使う事になっ
た。こうして、5ヶ国金貨は広がったのだ。
﹁それにそれだけじゃない。金や銀、銅の取れる国は、5大国に金
や銀、銅を輸出しなければならない義務もつけた。5大国に平等に、
1126
金や銀、銅が輸入されている。その理由は⋮5ヶ国金貨や銀貨、銅
貨を、もっと世界に広める為にね。なので、世界の金や銀、銅の関
税が、他の物に比べて、ずば抜けて高いのもそれが理由ね。5大国
以外に、金や銀、銅を取引しにくくしたんだよ。それも強要したん
だ5大国は。ま⋮このお話は、何百年と前の話だけどね。今は割り
と温厚な国柄で知られるフィンラルディア王国も、昔は怖かったと
言う事だね。だから、金より、5ヶ国金貨の方が価値が高くなって
しまったんだね﹂
マルガにマルコは、顔を見合わせて、只々呆れている様であった。
﹁恐らく⋮そんな昔ですが、天才が居たのでしょうね。地球で言う
所の⋮世界通貨⋮国際通貨として5ヶ国金貨を認めさせようとした
人が居たのですから⋮その意味の重要性の解る人が居たのには驚き
ですね﹂
地球の勉強をパソコンでしているリーゼロッテが、感心しながら言
う。俺のそれに頷く。
﹁でも、今も全く自国金貨を作って居ない訳じゃないんだ。数はそ
の国によって取り決めされているけど、調度品、鑑賞品名目で、ほ
んの極僅かに、作っている国もあるらしいよ。そんな国も今は滅多
には無いけどね。だから自国金貨を知らない人も多いんだ。数が少
ないし、今じゃ滅多に見かけないしね﹂
﹁そうなんですか∼。じゃ∼お金として使えないんですねご主人様
∼﹂
残念そうに言うマルガの頭を優しく撫でると、嬉しそうな顔をして、
尻尾をフワフワさせている。
﹁そんな事は無いよマルガ。一応お金だから、使えるよ?但し、5
ヶ国金貨と違って、信用も低いし、価値も低いから、凄く安くなっ
ちゃうけどね﹂
1127
﹁なるほど∼。そう言えば、昔にラフィアスの回廊で見つけた、魔
金貨は高く売れましたよね?どうしてですか?ご主人様﹂
﹁魔金貨もね5ヶ国金貨同様の、魔法で作られている、金貨だから
だよ。元々、この5ヶ国金貨の強力な魔法は、魔金貨を研究して出
来たらしいよ。その方法は5大国で厳重に管理されていて、外に漏
れる事は無いらしいけどね。だから魔金貨は高く売れるんだよ。5
ヶ国金貨は鋳潰す事は禁止されているけど、自国金貨や魔金貨はお
金だけど、鋳潰す事は禁止されていない。そうする事によって、自
国金貨や魔金貨は、どんどん駆逐されていくから、5大国にとって
も都合がいいからさ﹂
ニコッと微笑む俺の言葉に頷くマルガは、
﹁なるほどなのです∼。一枚の5ヶ国金貨で、自国金貨が一杯にな
るのなら、見た目は凄いお金持ちになった気がするのに⋮残念です
ご主人様∼﹂
その余りにも残念そうなマルガの顔を見て、プッ吹くと、可愛い頬
を膨らませて、拗ねマルガになってしまった。
﹁アハハごめんごめんマルガ。まあ⋮本当にそうだよな∼。金貨が
一杯になったら、嬉しいよね∼﹂
そう言いながら、渡された自国金貨を、右手の親指で、ピンと弾く。
空中でクルクルと回転しながら、落ちてくる自国金貨。
﹁コン!コココン⋮ゴロゴロ⋮﹂
自国金貨は、空中から床に落ちて、音を出して転がった。それを、
慌てて拾ってくれるマルガ。
﹁ご主人様∼お金を大切に扱わないとダメなのです∼﹂
まだ少し拗ねマルガになりながら俺に言うマルガは、俺の表情を見
て戸惑っていた。
1128
﹁ご⋮ご主人様⋮ど⋮どうなされたのですか?﹂
心配そうに俺の顔を見るマルガに
﹁マルガ!この自国金貨、まだ作っているのか、どこで作っている
のか、さっきの少女に聞いてきて!今すぐ!﹂
俺の言葉に、ハイ!と元気良く返事をして右手を上げるマルガは、
テテテと走って部屋から出て行く。
﹁どうしたのですか葵さん?そんな事を聞いて、どうするつもりな
のですか?﹂
リーゼロッテとマルコは不思議そうな顔で、俺を見ていた。
﹁いや⋮いけるかもしれないんだ!あのヒュアキントスさえ注意し
てなかった方法で、取り決めを守ってなお、莫大に利益を上げる方
法が!﹂
﹁葵さん落ち着いて下さい⋮兎に角⋮その方法を教えて下さい﹂
興奮気味に話す俺を宥めながら言うリーゼロッテ。俺はリーゼロッ
テとマルコに、今考えている事を説明する。
俺の話を聞いた、リーゼロッテとマルコは、瞳を輝かせる。
﹁確かに⋮その方法なら⋮取り決めを守ってなお、莫大な利益を上
げる事は出来ます。この利益は、ヒュアキントスにしてみれば予想
外の金額。それが出来るのなら⋮﹂
﹁だよねリーゼロッテ姉ちゃん!まだ色々条件がいるけど、それを
何とか出来るなら!﹂
リーゼロッテとマルコが顔を見合わせて、瞳を輝かせている中、マ
ルガが部屋に戻ってきた。
﹁ご主人様聞いて来ました∼﹂
1129
﹁どうだったマルガ!どこで作ってるって?今も作ってるの?﹂
俺の声高の声に戸惑っているマルガは
﹁え⋮えっと⋮この村より、2日程行った、カナーヴォンの村です﹂
﹁あそこか!確か地図に乗ってたね!確か金が採れる村で、500
人位の村だったよねリーゼロッテ?﹂
﹁そうですわ葵さん。十分に期日に間に合いますわ葵さん﹂
微笑み合う俺とリーゼロッテに、言いにくそうにマルガは言う。
﹁ですが、今は作って居ないそうです。120年位前に、もう作る
のをやめちゃったらしいんですよ。120年も経っているんで、作
れる許可を持った人も、もう死んじゃって居ないだろうって。だか
ら、新しく作るのは、無理みたいですねご主人様﹂
少し苦笑いしながら言う、マルガの言葉に、一気に体温が下がり、
ガクッと力が抜けてしまった俺。
そりゃそうだ⋮俺が考えつく様な事なら、あの天才ヒュアキントス
が気が付かない訳は無い。
120年も前に、作るのを止めているなら、その時の名残の自国金
貨しか手に入らないだろう。
それじゃ⋮ダメなんだ⋮
この国の事をよく調べて、選んだヒュアキントスだ。全て理解済み
か⋮
俺の余りにも項垂れている姿を見て、マルガとマルコが心配してい
る中、リーゼロッテが俺を立たせる。
﹁葵さん。至急カナーヴォンの村に急ぎましょう﹂
﹁え!?だって⋮カナーヴォンの村は、もう自国金貨を作ってない
んだよ?120年も前に⋮許可を持っていた人も、とっくに死んで
いるだろうし⋮やめてるなら、行ったってしょうが無いと思うけど
1130
⋮﹂
その俺の言葉を聞いたリーゼロッテの瞳が、キラリと光る。
﹁それは人間の時間軸でのお話ですわ葵さん。カナーヴォンの村は、
昔から上級亜種であるドワーフが住んでいると、ギルゴマさんから
頂いた羊皮紙に書いてありました。上級亜種は、皆が寿命が長く、
200年近く生きます。上級亜種のドワーフの中に、許可を持った
人がいたら、まだ生きて居る可能性があります。低い可能性ですが﹂
その言葉を聞いた、俺と、マルガとマルコの瞳は輝く
﹁確かにそうだ!可能性は無い訳じゃないね!この村の周辺は不作
で、商品がない可能性が高い。無駄に時間を取って、終了かも知れ
ない。それに同じ商品を揃えられても、元々、勝ち目が少ないんだ。
どうせなら、勝てる方に行動する方が良いね!﹂
俺の言葉に、ニコっと頷くリーゼロッテ。
﹁皆出立の用意をして!朝食は荷馬車で進みながら取ろう!一刻も
早く、カナーヴォンの村に向かおう!﹂
俺の声に、皆が頷く。そして、1階に降りると、3人の少女達とク
ラーク村長が、神妙な面持ちで俺達を見ていた。
俺はクラーク村長に近寄る。
﹁どうでしたか?お話の結果は。先程の条件で納得して頂けますで
しょうか?﹂
﹁⋮いえ。暫く保留させて下さい。理由は言えませんが、僕達はや
らなければならない事があって、カナーヴォンの村に向かわなけれ
ば、なりません。そのカナーヴォンの村での事が上手く行ったら、
先程の条件で、取引させて頂きます。それまでは⋮保留です⋮﹂
その俺の言葉に、項垂れているクラーク村長と、3人の少女達。
1131
この人達の気持ちは解るが⋮今はその余裕が無い。塩や香辛料、お
金も全て、選定戦の為に使いたいのが本音だ。自分の事で手一杯な
のに、人を救ってやる事なんて出来ない。俺は神様でも善人でもな
い⋮
自分為の利益を追求する、商人なのだから⋮
﹁すまないね⋮﹂
そう小声で言って、少女の1人に、自国金貨を返却する。
その少女は何か言いたそうに、瞳を潤ませていたが、俺はそれを見
ない様にして荷馬車に乗り込む。
﹁もし!カナーヴォンの村での事が上手く行ったら、是非⋮是非お
願いします!﹂
訴えかける様に言うクラーク村長に、頷く俺
﹁はい。約束しましょう。カナーヴォンの村で全てが上手く行った
ら⋮ここに再度立ち寄らせて貰います﹂
そうとだけ告げて、俺達の馬車は、一路カナーヴォンの村を目指し
て進みだす。
﹁お願いしますぞ!どうか⋮カナーヴォンの村で、上手くいきます
様に、私達も祈っていますから!﹂
荷馬車の背中越しに聞こえる、クラーク村長の言葉に、ギュッ手綱
を握る俺は、少し荷馬車の速度を上げるのであった。
1132
マルタの村を出て、約1日と少しが経った。
昼夜問わず交代で荷馬車で進み続け、食事を取る以外は、馬のリー
ズとラルクルの様子を見ながら、進んで来た。そのお陰で、もうす
ぐカナーヴォンの村に到着出来るだろう。
昼に近いのか、初夏の暑い日差しを浴びながら、俺とマルガは荷台
で仮眠を取っていた。
﹁葵さん!カナーヴォンの村が見えてきましたわ!﹂
その声に、俺もマルガも目を覚まし、前方を見る。そこには、沢山
の寂れた、誰も住んでいないのが容易に解る家々が並び、それを眺
めながら進んで行くと、生活感のある家々が見えて来た。
昔はアッシジの町の様に、そこそこ人数が居た町の名残がある。ど
ういった理由で寂れてしまったかは解らないが、俺達は村の中心近
くに有る宿屋に部屋を取り、荷馬車を預ける。
﹁じゃ二手に別れよう。俺とマルガ。リーゼロッテとマルコね。自
国金貨を作れる権利を持った職人さんが居たら教えて。何か解った
ら、この宿屋に集合しよう﹂
俺の言葉に頷く一同は、二手に別れて、カナーヴォンの村で聞き込
みを開始する。
辺りをキョロキョロ眺めていたマルガは、興味津々で見回しながら、
﹁この村は⋮亜種族さんが多いですね∼ご主人様。見ている感じ、
全員が亜種族の人ですね。ドワーフ族さん、ホビット族さんに、ノ
ーム族さん⋮。私の様な獣系の亜種族さんも沢山居ます。まるで⋮
亜種族さんの村の様ですね﹂
﹁本当だねマルガ。元々は人も沢山居たんだろうけど、この様子じ
ゃ、人間族は居るのかって感じだね。何かあったのかな?﹂
俺とマルガはそんな事を言いながら、顔を見合わせていた。そして、
手頃な亜種族の村人を見つけて、声を掛ける俺
1133
﹁すいません⋮ちょっと良いですか?﹂
俺の声に振り返る、ドワーフ族の男は、俺を見て顰めっ面をして、
何処かに立ち去ってしまった。
その態度に、固まっている俺
﹁マルガ⋮俺何か⋮気に障る様な⋮事した様に見えた?﹂
﹁いえ⋮特には⋮普通に挨拶をしただけの様に、見えるですよご主
人様﹂
俺とマルガは顔を見合わせて、困惑しながらも、別の亜種族の男に
話しかける。
﹁あの⋮すいません。少しいいですか?﹂
なるべく丁寧に話しかけたのだが、その話しかけたノーム族の男も、
俺を見て、見下した様な眼差しを向けると、どこかに行ってしまっ
た。
﹁⋮上級亜種って⋮本当に人間嫌いなんだね⋮なんか軽くショック
だよ﹂
俺の苦笑いしながらの言葉に、ハイ!と手を上げるマルガは、
﹁じゃ∼私が聞いてみるのです!ご主人様は、後ろで待っていてく
ださいね!﹂
フンフンと少し鼻息の荒いマルガは、歩いているドワーフの男に話
しかける
﹁すいません!少し聞きたい事があるのですが、いいですか?﹂
﹁うん?どうした嬢ちゃん何か聞きたい事でも⋮﹂
そう言いかけた所で、マルガの首の一級奴隷の証を見て、俺を激し
く睨みつけるドワーフ族の男
1134
﹁⋮こんな可愛い嬢ちゃんを奴隷なんぞにしやがって⋮本当に、人
間は最低だな!﹂
俺にそう吐き捨てる様に言うドワーフ族の男は、足早に立ち去って
行った。
﹁すいませんご主人様∼。失敗しちゃいました﹂
そう言ってシュンとしているマルガ。
﹁いや、違うよマルガ。俺が傍に居たからだね。マルガには普通に
話してくれてたから。俺は少し離れた所からマルガを見ているから、
マルガ聞いてくれる?﹂
マルガの頭を優しく撫でながら言うと、ハイ!と元気良く右手を上
げるマルガは、フンフンと少し鼻息が荒かった。
俺はマルガの安全を守れる距離に少し離れて、身を隠しながらマル
ガを見ていた。
マルガは1人で村人に話しかけている。どうやら、俺と一緒に居た
時の様な事はおきらずに、普通に話が出来ている様であった。暫く、
そのホビット族の男と話していたマルガであったが、そのホビット
族の男が、軽く首を横に振っている。その直後、マルガが可愛い頭
をペコリと下げていた。
どうやらホビット族の男は知らない様であった。
それから結構な時間、マルガは聞き込みをしてくれるが、成果は無
さそうだった。
空を見ると、日が大分と傾いてきた。俺はマルガの傍に行くと、俺
の気配に気がついたマルガは、俺に向き直ると、軽く首を振る。
﹁ダメですねご主人様。皆さん120年前の事なんで、解らないと
言ってます。今ここに居てる、亜種族さんは、自国金貨を作るのを
1135
やめた、120年前より後に生まれた人が、多いみたいですね。少
し年配の方を見つけて、お話を聞かないとダメですね﹂
﹁そうだね∼。でも⋮ドワーフ族や、ノーム族の歳の見分け方なん
か、俺解らないかも⋮ドワーフ族もノーム族も⋮顔中髭だらけ出し
さ。皆同じ歳に見えちゃうよ。ホビット族や他の獣系の亜種族は、
見分けやすいけどさ﹂
﹁それは私も同じなのですご主人様∼。私もドワーフさんやノーム
さんの歳は解りません。同じ人に2回声を掛けて、ちょっと恥ずか
しい時もあった位なのです∼﹂
少し恥ずかしそうに、可愛い舌をペロッと出すマルガの頭を優しく
撫でると、嬉しそうに尻尾をパタパタさせている。
﹁とりあえず、日も大分傾いて、時間も結構経ったから、一度宿屋
の前に帰ろうか﹂
俺の言葉に頷くマルガの手を引いて、集合場所の宿屋の前に帰って
くると、リーゼロッテとマルコが待っていた。俺とマルガを見つけ
て、嬉しそうにマルコが手を振っていた。
﹁リーゼロッテ、マルコお疲れ様。何か解った?こっちは何も情報
は得られなかったけど﹂
それを聞いたマルコがニカっと微笑む。
﹁居たよ葵兄ちゃん!結構な歳になっちゃってるけど、自国金貨を
作る許可を持っている、ドワーフの爺ちゃんが生きてるって!﹂
﹁本当なの!?そうなの!?⋮よし!早速、そのドワーフの爺ちゃ
んの所に行こう!でもよく解ったね2人共﹂
﹁結構、お歳をめされている方ばかりに、声を掛けましたからね。
ま⋮それでも知らない人や、忘れてしまった人の方が多かったです
が﹂
そう言ってニコッと微笑むリーゼロッテ。
1136
﹁ひょっとしてリーゼロッテって⋮ドワーフ族やノーム族の、大体
の歳とか解っちゃうの?﹂
﹁はい。私も上級亜種のエルフの血を引いて居ますからね。一目見
ただけで、何となく歳は解ってしまいますわ。葵さんやマルガさん
マルコさんも、見慣れてくれば、見分けがつく様になりますよ﹂
そう言って優しく微笑むリーゼロッテに、マルガとマルコがおお∼
!っと、感心していた。
﹁そうなんだ。リーゼロッテがいてくれて⋮本当に助かるよ﹂
﹁私は役にたってますか葵さん?﹂
﹁うんとっても。いつも感謝してるよ﹂
そう言うとニコっと嬉しそうにして、少し顔を赤らめている愛しい
リーゼロッテ。
リーゼロッテの案内で、その許可を持っているドワーフの所まで移
動する。
﹁でもさ⋮何故この村には、亜種族しかいないんだろう?なんか人
間族が居たっぽい形跡もあるけど⋮﹂
﹁その事も聞きましたわ葵さん。確かにこの村にも、120年位前
には、沢山の人間族も住んでいたらしいですわ。でも⋮金貨戦争の
煽りを食らって、この国⋮バイエルントも、自国金貨の製造をやめ
ました。それに伴って、金貨の製造で栄えたこの村⋮いえ⋮元町は、
どんどん人間族が立ち去って行ったらしいですわ。5大国は殆どが
人間族。それもあって、この元町でも、人間族と亜種族の対立が起
こったらしくて⋮。なので今は殆どが亜種族だけらしいですわ。村
長は領主から決められた、人間族が派遣されているらしいですけど、
村人とは当然折り合いが悪い様で⋮﹂
少しさみしそうに言うリーゼロッテ。
ハーフのリーゼロッテにとって、人間族と亜種族の対立は見たくな
1137
いのかもしれない。
リーゼロッテの母親と父親も、駆け落ち同然だったらしいし⋮
しかし、これでこの村の事は少し解ったな。120年前の金貨戦争
の煽りか⋮
そこに輪をかけて、上級亜種の人間嫌いが、重なったのか⋮なるほ
ど⋮
そんな事を考えながら歩いて行くと、古い民家にたどり着いた。流
石にドワーフ族の家だけ有って、全体的に少し小さい。
リーゼロッテはその少し小さい扉をノックする。
﹁すいません。どなたか居らっしゃいませんか?﹂
リーゼロッテの澄んだ綺麗な声が辺りに響く。暫く待っていると、
割りと若い、ホビット族の少年が、扉から出てきた。
﹁はい?なんか用?﹂
﹁こちらに、ドワーフ族のヴァロフさんがいらっしゃると聞いて来
ました。少しヴァロフさんに、用が有るのですが⋮取り次いで貰え
ますか?﹂
その言葉に、解ったと言ったホビット族の男は、部屋の中に入って
行く。
暫く待っていると、部屋の中に案内された。そこには1人のドワー
フが居た。
そのドワーフは俺達を見て、フンと鼻を鳴らすと、気に食わなさそ
うに、テーブルに就いた。
﹁このワシに⋮なんの用だエルフの娘?何やら⋮気に食わぬ人間族
もおる様だが⋮﹂
そう言いながら俺とマルコをキッと睨むヴァロフ。
それを涼やかな微笑みで見返すリーゼロッテは、
1138
﹁お忙しい所お邪魔しますわヴァロフさん。私はリーゼロッテ。こ
ちらが私の主人で葵さん、こちらの人間族の子供がマルコさん、こ
っちのワーフォックスの少女はマルガさんです。よろしくですわ﹂
リーゼロッテの言葉に、俺達も挨拶をする。それを見て、再度フン
と鼻を鳴らすヴァロフは、
﹁そんな挨拶な良い!早く要件を言え!﹂
﹁はい。ヴァロフさんは、このバイエルント国の⋮自国金貨を作る
許可をお持ちとか⋮。私達に、是非その自国金貨を作って欲しいの
です﹂
それを聞いたヴァロフは目を細めてリーゼロッテを見る。
﹁今時自国金貨だと?そんな価値の低い物を欲しがってどうする気
なんだエルフの娘?確かに私は、この町⋮いや⋮この村最後の、通
貨製造許可を持っている。そして、自国通貨を作るのを止めている
が、試験的に作る分は作る事も出来る。今は全く作っていないので、
国で定められている、数も作れるだろう。だが⋮お前の主人の人間
族がそれをやめさせ、5ヶ国金貨を使う様に仕向けたはずだろう?
それを⋮今更⋮﹂
そう言って皮肉そうに笑うヴァロフ。
﹁その辺の事は、金貨戦争時に生まれて居なかった私達には、事情
が分かり兼ねますが⋮私達は自国金貨が必要なのです⋮理由は今は
言えません。ですが⋮お受け頂けるのであれば、それ相応の報酬も、
お支払い致します﹂
﹁その報酬って⋮いくら位なんだ?エルフの姉ちゃん?﹂
横に居たホビット族の男が、リーゼロッテに語りかける。
リーゼロッテは俺の顔を見る。俺はリーゼロッテに言っておいた金
額を伝える様に、眼で合図をする。
1139
その合図を見て、軽く頷くリーゼロッテは、
﹁自国金貨を作って頂ける報酬として、金貨10枚出させて頂きま
す⋮どうでしょうか?﹂
﹁き⋮金貨10枚!?﹂
横に居たホビット族の男が、驚いている。その金額を聞いて、ニヤ
っと笑うヴァロフは
﹁自国金貨を作るだけで、金貨10枚とは、随分と報酬が良いな。
いや⋮良すぎる。そんな仕事は、大体良い仕事ではない。⋮悪いな、
気が乗らねえ。帰って貰おうか﹂
キツイ目で俺達を見るヴァロフ。
﹁⋮その様な、危ない仕事ではありません。まあ⋮普通の仕事では
無いのは確かですが⋮。ヴァロフさんには迷惑を掛けません。どう
かお願いできませんか?﹂
﹁⋮それでもダメだな。まあ⋮帰ってくれ﹂
﹁そこを何とか⋮なりません⋮﹂
﹁しつこいぞ!エルフの娘!お前も上級亜種の端くれだと思ったか
ら、話だけは聞いてやったんだ!これ以上はなにもせん!とっとと
帰れ!おい!﹂
そう言い放つと、隣に居たホビット族の男に、俺達を外に出させる
様に言う。
ホビット族の男は、俺達を家の外に出し、扉を閉める。
﹁⋮まあ運が無かったなエルフの姉ちゃん。姉ちゃんが、人間の一
級奴隷なんかじゃなければ、作ってくれたかもしれねえけどな﹂
そう言って、軽く溜め息を吐く、ホビット族の男。
﹁それは⋮やはり人間族を嫌って居るからですか?﹂
1140
﹁まあ⋮そうなんだろうけどよ。俺はなんとも思ってないけどよ、
あのヴァロフ爺さんは、金貨戦争のまっただ中で生まれてるからな。
人間族には言いたい事も山ほどあるんだろうさ。それに加え⋮息子
のバスラーが、人間族と強引に結婚して、この村を出て行っちまっ
たからな⋮余計なんだよ。しかも、その息子のバスラーは⋮娘が生
まれたその翌年⋮死んじまったっらしいからな。また人間族にやら
れた⋮と、思ってるんだよ⋮ヴァロフ爺さんは⋮﹂
そう教えてくれる、ホビット族の男
﹁この村で一緒に暮らす事は出来なかったんですか?﹂
マルガが寂しそうに言うと、軽く溜め息を吐くホビット族の男は
﹁まあ⋮この村は⋮殆どが人間族を嫌っている。その中で差別され
ながら生きていくのは無理だろうさ。商売はするが⋮ソレ以上⋮は
な。だから、ヴァロフ爺さんは反対した。ヴァロフ爺さんも、人間
族の多い他の村なんか、行きたくないし、話は平行線になって⋮ソ
レで、バスラーは出ていったのさ﹂
その言葉に、一同が寂しそうにしていた。
﹁じゃ∼その出ていったバスラーさんは、人間族の女性と、何処に
行っちゃったの?遠くに行ったの?﹂
﹁いや⋮バスラーもやっぱり、ヴァロフ爺さんの事が心配だったん
で、ここから2日程の村で住む事にしたんだが⋮ヴァロフ爺さんは、
バスラーと会う事は無かった。バスラーが訪ねてきてもな。そうこ
うしている間に⋮バスラーは死んじまったのさ﹂
その言葉を聞いて、皆が悲しんでいた。
﹁じゃあ⋮その奥さんと、娘さんは⋮まだその村で生活してるの?﹂
﹁さあ⋮どうだろうな?何回かヴァロフ爺さんに逢いに来てたけど、
追い返しちまったからな。今はどうなっているか解らないね﹂
1141
俺の問いに応えて、軽く溜め息を吐くホビットの男
﹁⋮本当はヴァロフ爺さんも、許してやりたいはずなんだ。孫娘を
⋮抱いてな。時折さ⋮バスラーが被っていた帽子を手に取って、悲
しそうな顔をしてるんだ。事情が事情だけに、金貨戦争を知らねえ
俺達が立ち入れる問題じゃねえけど⋮だけどさ⋮もうよ⋮﹂
そう言って寂しそうな顔をする、ホビット族の男。
﹁⋮その奥さんと、娘さんが居る村はどこ?﹂
﹁ああ⋮たしか⋮ここより1日ちょっと行った⋮コジャドの村だ﹂
﹁そうか⋮色々ありがとう﹂
俺がお礼を言うと、ヘっと笑って家に入っていくホビット族の男。
﹁葵さん⋮どうしますか?ヴァロフさんには、何としても私達の為
に、自国金貨を作って貰わないと⋮﹂
﹁うん解ってるリーゼロッテ。⋮俺に考えがある。恐らくは⋮作っ
て貰える﹂
俺の言葉に戸惑っている、マルガとリーゼロッテとマルコ。
俺はその事を考え、少し自分の唇を噛み締めていた。
1142
愚者の狂想曲 30 天才と愚者
﹁ご主人様∼。ヴァロフさんに自国金貨を作って貰える事が⋮出来
るのですか?﹂
マルガが俺を見ながら、可愛い小首を傾げている。
﹁うん多分ね。だけどその為には⋮コジャドの村に、行かなければ
いけない。残りの期日は5日。昼夜荷馬車を進めるとして⋮往復2
日。そうすると⋮残り3日。期限一杯だけどね。リーズとラルクル
には頑張って貰おう。とりあえず、荷馬車に戻って、すぐに出発す
る﹂
﹁ですが⋮コジャドの村に行ってどうなさるんですか葵さん?ヴァ
ロフさんの亡くなった息子さんの奥さんと娘さんに、お願いして貰
うのですか?でも⋮﹂
そう言って言葉を濁すリーゼロッテ。俺はリーゼロッテに向き直り
﹁多分普通に話したらダメだろうね。でも⋮ここからは少し強引に
行く。コジャドの村はマルタの村に割りと近い。恐らく⋮コジャド
の村もマルタの村同様、不作で苦しんでいる可能性が高い﹂
俺の言葉に、頭の回転の早いリーゼロッテは、全てを理解した様で、
﹁なるほど⋮そう言う事ですか⋮。確かに、少々強引ですね﹂
﹁うん。だけど、俺達に迷っていたり、躊躇している様な時間は残
されていない。⋮俺達も後には引けないんだ。やれる事はなんでも
するよ﹂
俺の瞳を見ていたリーゼロッテは静かに頷く。
﹁じゃ∼急いで移動するよ皆!﹂
1143
俺の声に頷く一同。荷馬車に急いで戻り、それぞれの乗り込み、コ
ジャドの村に向かう。
昼夜交代で荷馬車を進め、翌日の昼過ぎにコジャドの村に到着する
事が出来た。
コジャドの村も、マルタの村と同じ位の大きさの村だ。村の家々も
同じ様に質素で、その村人もどことなく元気が無く、顔色は悪かっ
た。
それを目を細めて見ているリーゼロッテ。マルガとマルコも顔を見
合せている。
そんな俺達の傍に、1人の男が近寄って来た。俺達を見て、荷馬車
の積み荷を見た男は、ニコニコしながら近寄って来た。
﹁ひょっとして⋮行商人の方ですか?﹂
﹁ええ、そうです。この村に、行商に来ました﹂
その言葉を聞いた男は、ニカっと笑うと
﹁それはそれは!私の家に案内しますので、こちらにどうぞ!﹂
笑顔の男に付いていき、家の中に案内される。その家の中は質素で
あったが、マルタの村クラーク村長の家よりマシな感じがした。テ
ーブルについた俺達と男。
空です。こっちの一級奴隷達は僕の奴
﹁私は春よりこの村の長をしている、デッセルと言います﹂
﹁僕は行商をしている。葵
隷で、マルガにリーゼロッテ。そっちは一緒に旅をしているマルコ
です﹂
俺の紹介に皆が挨拶をしている。デッセルは挨拶をしながら、マル
ガとリーゼロッテを見てニヤっと笑う
﹁葵殿は⋮とても美しい奴隷をお持ちですね。羨ましい限りですよ﹂
1144
﹁いえ、それほどでも﹂
﹁ハハハ。謙遜なされますな。では、話を戻させて貰います。葵殿
はこの村に何を売って頂けますか?﹂
﹁塩と香辛料ですね。それをお金か物々交換でと思っています﹂
それを聞いたデッセル村長は、少し安堵の表情をして、ニヤっと笑
うと、
﹁そうですか。出来れば⋮物々交換でお願いしたいのですが⋮よろ
しいですか?﹂
﹁ええ、それは構いませんが⋮何と物々交換して欲しいのですか?﹂
俺の言葉を聞いたデッセル村長は、マルガとリーゼロッテを見て少
しニヤッと笑いながら
﹁はい、この村は収入が少なく、今年は不作でしてね。出来れば⋮
村の見目の良い娘3∼4人位と、交換してくれれば、ありがたいの
ですが﹂
そう言って、ニコニコしながら言うデッセル村長。
おいおい⋮何の躊躇も無く、笑顔で娘を交渉に出すのかよ⋮
恐らく⋮マルガとリーゼロッテを見て、俺が女好きだと思ったんだ
ろうけど。
しかし、それを解って尚、何の戸惑いも無く交渉に出すか⋮
クラーク村長は、その顔に身を切る様な表情を浮かべていた。本当
ならこんな事はしたくないと。
だが村人を助ける為、その様な決断をしなければならなかった。村
の危機を救う為に⋮
その気持が解っていたからこそ、あの3人の少女達も、村の為に買
って欲しいとまで言ったと思う。
ま⋮俺にとってはありがたいか⋮まさに渡りに船⋮
1145
﹁ええ結構ですよ。ですが⋮僕は見ての通り、既に美女の奴隷を持
っています。この村に、この2人以上の美少女が居るとは思えませ
ん﹂
﹁それは⋮そうかも知れませんが⋮﹂
マルガとリーゼロッテを見ながら、どうしようか思案しているデッ
セル村長
﹁只の見目の良いだけの女はいりません。ですからここは⋮趣向を
変えましょう﹂
﹁と⋮いいますと?﹂
﹁この村に⋮未亡人の女性はいませんか?しかも、小さな子供の居
ている親子。その中から、気に入った親子を買いましょう﹂
その俺の言葉を聞いたデッセル村長は、いやらしく微笑む。
﹁⋮なるほど。普通の遊びでは、満足されないのですな。親子共々
⋮手篭めにですか。フフフ⋮解りました。何人かその様な者達が居
ますので連れてきます。暫しお待ち下さい﹂
ニヤッと微笑むデッセル村長は、そう言い残して部屋から出て行っ
た。
﹁⋮葵さんは⋮そう言う趣味もあったのですか?﹂
﹁そうなのです!私は⋮どうしたら⋮そうです!私も子供を!ご主
人様の子供と一緒に⋮﹂
﹁リーゼロッテ⋮知ってて聞かないでくれる?それから⋮マルガは
落ち着こうね?﹂
俺の呆れながらの言葉に、リーゼロッテはクスッと笑い、マルガは
アワアワしていた。マルコも苦笑いして、それらを見ていた。
マルガの頭を優しく撫でながら待っていると、村の外が少し騒がし
1146
く感じる。
耳の良いマルガに聞くと、何やら無理やり人を連れてこようとして
いるみたいであった。
その騒がしさが近づいて来て、俺達の部屋の前でとまる。そして、
部屋の扉がノックされ、デッセル村長が入ってきた。
﹁お待たせしました葵殿。条件に合う親子を連れて来ましたので、
品定めの方を。おい!連れてこい!﹂
そうデッセル村長が告げると、部屋の中に3組の親子が男達に連れ
られて、部屋に入って来た。
女の子の子供はそれぞれ6歳∼7歳位であろうか。無理やり連れて
来られたからか、その瞳に涙を浮べている。それを心配そうに、抱
きしめている母親。その姿が実に痛々しい。
﹁この親子達が、葵殿の条件に合う親子かと。ささ!どうぞ、品定
めの方を﹂
﹁そうさせて貰います﹂
ニヤっといやらしく笑うデッセル村長の言葉に頷き、俺はその3組
の親子の、女の子の子供を霊視する。
ドワーフは上級亜種。生まれてくる子供は、全て魔力を持って生ま
れて来る。
ドワーフと人間が子を成せば、エルフとは違い、見た目は人間にし
か見えないらしい。しかし、上級亜種のドワーフの力は全て引き継
ぐとの事。
ドワーフのヴァロフの息子と結ばれた親子の名前は聞いていないが、
その子供を霊視すれば、すぐに解る。
﹃居た⋮この女の子、魔力があって、ドワーフの種族スキルを持っ
ている。この子で間違いないな﹄
1147
俺は対象の親子を発見出来た事を、リーゼロッテに視線で合図をす
ると、軽く頷くリーゼロッテ。
﹁では、デッセル村長。我が主人が気に入った親子と話がしたいみ
たいなので、私達とその親子だけにして貰ってもよろしいですか?
話が終われば、呼びに行かせて貰いますので﹂
﹁ええ!結構ですよ!では、条件に合わなかった者達と私達は、一
度退室します。是非、良き返事を﹂
いやらしく笑いながら、他の親子達と一緒に、部屋を出て行くデッ
セル村長達。
その部屋に残された親子2人は、俺を見て少し震えていた。
﹁君達⋮親子の名前は?﹂
俺の言葉に少しピクッとなりながら、俺に語る母親。
﹁わ⋮私の名前はレリアです。この子は⋮エマです﹂
﹁レリアさんに、エマちゃんね。⋮レリアさんは、ドワーフの旦那
さん、亡くなられたバスラーさんの奥さんでよかった?﹂
﹁な⋮何故それを!?﹂
俺の言葉に、戸惑うレリア。それを見て、間違いないと思い、俺と
リーゼロッテは顔を見合わせて頷く。
﹁デッセル村長から聞いていると思うけど、俺は君達を買う事にす
る。その意味は⋮解るよね?﹂
俺の言葉に、キュッと唇を噛み、娘のエマを抱いて、少し震えなが
ら頷くレリア。
そんな震えている親子の前に、マルガがテテテと小走りに近寄り、
﹁大丈夫ですよレリアさんにエマちゃん!ご主人様は、酷い事はし
ませんから!優しくしてくれるのです!﹂
1148
そう言って、ニコっと微笑み、エマの頭を優しく撫でるマルガ。
﹁ほ⋮ほんと?お母さんやエマに、酷い事したりしないの?﹂
﹁大丈夫ですよエマさん。葵さんはそんな事しません。ね、葵さん
?﹂
俺を見ながら、ニコっと釘を刺してくるリーゼロッテに苦笑いしな
がら、
﹁マルガやリーゼロッテの言う通り、レリアさんが心配する様な事
はしないから、安心してくれていいです。でも⋮それだけでは無い
のも事実ですけどね﹂
﹁それは⋮どう言う事ですか?﹂
俺の言葉に、安堵しながらも、若干戸惑っているレリア。
﹁その話は、荷馬車で移動しながらしますわレリアさん。私達には
時間がありませんので﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。詳しくは荷馬車で移動しながらで。
マルガ、あの村長さん呼んで来てくれる?﹂
﹁ハイ!解りました!ご主人様!﹂
マルガは元気良く返事をして、テテテと走って扉から出て行く。
暫く待っていると、マルガが部屋に帰って来た。マルガの後ろから
デッセル村長が顔を出す。
﹁デッセル村長。この2人を買う事にするよ﹂
﹁おお!有難うございます!では早速⋮荷馬車の積み荷を降ろさせ
て貰いますね﹂
﹁いえ⋮この2人はお金で買わせて貰います。⋮2人で金貨10枚
でよろしいですか?﹂
その言葉を聞いたデッセル村長は、少し顔を顰める。
金貨10枚より、積み荷の方が、価格が高いと感じているのであろ
1149
う。それを見抜いているリーゼロッテは
﹁⋮金貨10枚ではご不満ですかデッセル村長?この2人は、当然、
娘なんかより価値が劣ります。それを我が主人は、戯れで買ってや
ろうと言うのです。価格は金貨10枚でも高い位かと思います。こ
れ以上の高額を望まれるのであれば⋮どうなされますか葵様?﹂
﹁そうだね。リーゼロッテの言う通りだね。金貨10枚で買えない
なら興味はないね。またにするよ。手間をとらせてすいませんでし
たねデッセル村長﹂
俺とリーゼロッテの言葉を聞いたデッセル村長の顔色が変わる。
﹁いえ!これ以上の高額など望みません!金貨10枚で結構です!﹂
慌てながら言うデッセル村長に、俺とリーゼロッテは見つめ合い頷
く。
﹁では取引成立ですね﹂
俺は笑顔でそう言うと、アイテムバッグから、金貨10枚を取り出
して、代金を支払い、取引完了の羊皮紙に、それぞれが記入をする。
そして、取引を終えた俺達は挨拶をして、荷馬車に乗り込む。
﹁さあ!またカナーヴォンの村に向かおう!時間がないから⋮急ぐ
よ!﹂
俺の声に頷く一同。
俺達とレリアとエマを乗せた荷馬車は、再度カナーヴォンの村に向
かって、速度を上げるのであった。
1150
コジャドの村を出て昼夜問わずに荷馬車を進めている。
空を見上げると、太陽が天高く光り輝いている。もうすぐ、カナー
ヴォンの村に到着出来るだろう。
﹁アハハ。マルガお姉ちゃんおもしろ∼い!ルナちゃんも∼!﹂
レリアの娘エマが、マルガと白銀キツネの子供ルナと、キャキャと
楽しそうに遊んでいる。
当初、俺達の事を怖がっていたエマであったが、優しいマルガとリ
ーゼロッテ、白銀キツネのルナのお陰ですっかり心を許した様で、
まだ1日位しか経っていないのに、すっかり友達になったみたいで
あった。それを見て、俺とレリアは顔を見合わせて微笑んでいた。
﹁すっかり打ち解けましたねエマは。子供は友達になるのが早いで
すね﹂
﹁そうですね。エマも葵さん達が悪い人では無いと、解ったのでし
ょう﹂
﹁⋮まあ、善人でも無いですけどね。レリアさん達には、きつい事
をさせるのですから﹂
﹁それは⋮仕方ありません。私達は葵さんに買われたのです⋮それ
に⋮私も葵さんの案に、乗ったのですから⋮﹂
そう言って、キャキャと遊んでいるエマを、淋しげに見つめるレリ
ア。
﹁⋮上手く行くでしょうか?﹂
﹁⋮ええ、上手く行かせます。俺達の命運も掛かっていますからね。
カナーヴォンの村に就いたら、説明通り、お願いしますね﹂
俺の言葉に静かに頷くレリア。俺達を乗せた荷馬車は、寂れた廃墟
を通り抜け、カナーヴォンの村に到着した。この間宿泊予定だった
1151
宿屋に金を払い荷馬車を止める。
俺は予定していた通り、リーゼロッテに金貨を渡し、商品を仕入れ
てきて貰う。
この村の人は人間族を嫌っているので、取引の交渉は、リーゼロッ
テとマルガに任せる事にした。
暫く待っていると、リーゼロッテとマルガが帰って来た。
﹁どう?上手く取引出来た?﹂
﹁ハイ!ご主人様に言われた通り、取引出来ました!﹂
﹁流石は鉱山の村、アッシジの町より安く買えましたよ葵さん﹂
満足そうなリーゼロッテとマルガから商品を受け取り、整理をして
スペースの空けているアイテムバッグに商品をしまう。
そして俺達は予定通り、ヴァロフの家の近くまで来た。
俺はマルガと手を繋いで歩いているエマの傍まで行き、膝を折る。
俺の顔を見てニコっと微笑むエマ。
﹁じゃ∼エマ。さっき俺が話した通りに、きちんと出来る?﹂
﹁うん!エマ葵お兄ちゃんの言われた通りに出来るよ!エマ賢いも
ん!﹂
そう言ってニコっと微笑むエマは、マルガみたいにエッヘンをして
いた。そんな、エマの頭を優しく撫でながら、
﹁解ったよエマ。じゃ∼じっとしててね﹂
俺はエマの耳元に手を当て、そして離す。エマはニコっと笑って、
俺の手とレリアの手を握る。
それに微笑みながら、ヴァロフの家の前まで行き、リーゼロッテが
扉をノックする。
﹁すいません。ヴァロフさんは居らっしゃいますか?﹂
リーゼロッテの綺麗な声が辺りに響くと、ガチャッと音をさせて扉
1152
は開かれた。その扉から、この間のホビット族の男が顔を出す。
﹁なんだ⋮あんた達また来たのか?何回来ても、あのヴァロフ爺さ
んの気は変わらないと⋮﹂
そう言いかけた所で、レリアとエマに気がついて、目を丸くするホ
ビット族の男
﹁お久しぶりです、サビーノさん⋮﹂
﹁お久しぶり、レリアさん。⋮まさか、レリアさんをここに連れて
来るとは⋮﹂
少し呆れた様な、感心した様な顔を、俺に向けるサビーノは、軽く
溜め息を吐くと、
﹁⋮ちょっと待ってな﹂
そう言って家の中に入って行く。暫く待って居ると、サビーノの声
が掛る。
俺達はヴァロフの家の中に入って行くと、ヴァロフが椅子に座って
顰めっ面をして居た。
﹁⋮お前達もしつこいな⋮。何度来たって、俺の気持ちは変わらね
えと⋮﹂
そう言いかけた時に、俺達の後ろに居た、レリアとエマに気がつい
たヴァロフ。
﹁お⋮お前⋮何故⋮そいつらと一緒なんだ?﹂
﹁お義父さん!私は⋮﹂
﹁お前にお義父と、呼ばれる謂れは無え!とっとと帰りやがれ!お
前達もだ!何度来たって、俺は自国金貨なんか作る気は無え!諦め
るんだな!﹂
キツイ目をして声高に俺達に叫ぶヴァロフ。その声を聞いて、瞳を
1153
揺らしているレリア。
﹁⋮皆少し外で待っててくれる?サビーノさんも良いですか?﹂
俺の言葉に静かに頷き、皆は外に出て行く。それを流し目で見てい
るヴァロフ。
﹁⋮お前も帰れと言ったはずだが?﹂
﹁まあまあ、少しで良いんで、俺の話を聞いて下さい﹂
そう言ってニコっと微笑む俺を見て、きつい目で睨むヴァロフ
﹁実は⋮この貴方の孫であるエマと、息子さんの奥さんであったレ
リアを連れて来たのは、ヴァロフさんに聞いて欲しい事があったか
らなんです﹂
﹁⋮何を聞いて欲しかったんだ?﹂
俺の言葉に、きつい目を変えずに聞き返すヴァロフ。
﹁ええ、実はレリアさんとこのエマは、僕がコジャドの村から金貨
で買いました。つまり、僕は2人の主人になります﹂
﹁買った⋮だと!?﹂
その言葉を聞いたヴァロフは、一層きつい目をする
﹁ええ。なんでもコジャドの村は、ここ最近不作みたいでしてね。
どうしてもと言われましてね。僕もコジャドの村の危機に心を痛め
まして、買わせて頂きました﹂
﹁へ!何が心を痛めてだ!ワシに自国金貨を作らせる為に、わざわ
ざ買って、連れて来ただけだろうが!﹂
俺に声高に叫ぶヴァロフに、ニコっと微笑みながら
﹁そうですよ。俺達はヴァロフさんに、是が非でも自国金貨を作っ
て貰わなければ、ならないんです。その為なら、なんでもします﹂
1154
﹁ガハハ!残念だったな小僧!ワシはそいつらがどうなろうが知っ
たこっちゃねえ!あの女はな⋮ワシの息子を⋮バスラーを奪いやが
ったんだ!あの⋮金貨戦争の様にな!俺は絶対に、人間の言いなり
なんかにはならねえ!解ったか!﹂
吐き捨てる様に言うヴァロフに、ニコッと微笑む俺は
﹁⋮そうですか。なら⋮仕方ありませんね﹂
俺はそう言うと、エマを少し前にやる。そして少しだけ下がり、ア
イテムバッグから黒鉄の短剣を取り出すと、頭上に振りかぶる。そ
れを流し目で見るヴァロフ。
﹁⋮お前⋮何をする気だ?﹂
﹁いえ⋮ヴァロフさんが自国金貨を作ってくれないと言うので、腹
いせに、このエマを殺そうと思いましてね﹂
微笑みながら黒鉄の短剣を振り上げている俺を見て、ギョっとした
顔をするヴァロフ。
﹁ワシが自国金貨を作らない腹いせに殺すだと!?﹂
﹁ええ、そうです。貴方が自国金貨を作ってくれなければ、この子
はもう必要ない。当然、貴方の息子、バスラーさんが愛したあの女
も殺します。必要ありませんからね。これは僕が殺したんじゃない。
貴方がそうさせたんです。つまり、貴方が殺したんです﹂
﹁な⋮何を訳の解らな事を言っている!﹂
﹁何も訳の解らない事は無いですよ?俺達にはどうしても、貴方の
作る自国金貨が必要なのです。それがなければ⋮俺達は終わりです。
それなのに、貴方は作ってくれないと言う。腹いせに、殺したくな
ったって不思議じゃないでしょう?﹂
微笑みながら言う俺の冷たい目を見て、きつい目で睨みつけるヴァ
ロフは
1155
﹁⋮人を殺せば罪になるぞ?俺が密告すればお前は犯罪者だ!﹂
﹁いえ、その心配はいりません﹂
そう言って、左手で懐から1枚の羊皮紙を取り出す。
﹁これは、三級奴隷契約書です。これには、レリアとエマの名前が
書いてあります。つまり⋮レリアとエマは、役所に登録はしてませ
んが、既に三級奴隷であると言う事です。この三級奴隷契約書が有
れば、殺したとしても罪にはなりません。貴方も長く生きているな
ら、三級奴隷がどう言った存在か解っているでしょう?﹂
ニヤッ笑いながら言う俺を見て、更にきつい目で俺を見るヴァロフ。
﹁流石は汚い人間族だな!金貨戦争時代から、何も変わっちゃいね
え!同じ種族を奴隷になんかにしやがって!反吐がでるぜ!﹂
﹁ハハハ。そんな事俺は知りません。俺はねヴァロフさん、貴方が
どう人間族を嫌おうが、嫌悪しようが、差別していようが、知った
事じゃないんですよ。貴方が如何に金貨戦争で、人間族に酷い事を
されてきたかも、全く興味はありません。僕は商人です。僕の関心
事は、貴方が俺達の為に、自国金貨を作る事のみ。それ以外は、別
にどうでも良いんですよ﹂
俺の感情の篭っていない声に、瞳を揺らしているヴァロフ。
﹁知ってます?頭を剣で貫かれたらどうなるか。ビクッとなってね、
小刻みに痙攣するんですよ。ピクピクとしながら、大量の血を頭か
ら流しながら事切れます。まるで虫の様にね﹂
俺の言葉に、更に瞳を揺らすヴァロフ。
﹁それにしても⋮貴方に似てますねエマは。ヴァロフさんと同じ、
茶色の髪の毛に、茶色い瞳。見た目は人間族で顔立ちも母親似です
が、間違いなく貴方の血を⋮貴方の息子さんのバスラーさんの血を
引いて居る。ま⋮ヴァロフさんには、関係の無い事でしたね。では
1156
⋮﹂
そう言って右手で振り上げている、黒鉄の短剣を強く握り締める。
それを見た、ヴァロフは戸惑いの声を出す。
﹁ま⋮まさか本当に⋮自分と同じ種族のそんな幼い少女を⋮頭を刺
して⋮殺すの⋮か?﹂
﹁ハハハ何を今更。貴方は人間族がどう言ったものか、金貨戦争を
通じて、その身で体験して良く知っているでしょう?俺はその汚い
人間族と同類。する事は⋮⋮同じですよ!!!!!﹂
俺は嘲笑いながら声高にそう叫び、頭上に振り上げていた黒鉄の短
剣を、エマの後頭部めがけて一気に振り下ろす。
黒鉄の短剣の冷たい刃は、エマの全てを破壊するかの様に、高速で
迫る。
その時、部屋中にけたたましい声が響き渡る。
﹁やめろ!!!!その子に手を出すな!!!!﹂
その声を聞いた俺は、黒鉄の短剣をとめる。黒鉄の短剣の刃は、エ
マの後頭部、2cm位でとめられていた。
﹁⋮何故とめるのですか?ヴァロフさんには、関係の無い事でしょ
う?﹂
﹁黙れ小僧!!それ以上、その子に何かするつもりなら、ワシが許
さねえ!!!!やめねえと、魔法をぶっぱなすぞ!!!!﹂
そう叫んだヴァロフの右の手の平が、茶色に光っている。恐らく土
系の攻撃魔法であろう。
俺とヴァロフは暫く睨み合っていたが、激しく俺を睨みつけるヴァ
ロフが先に口を開いた。
﹁⋮お前の言う通り⋮自国金貨を作ってやる!!だから⋮その子に
手を出すな!!!﹂
1157
﹁⋮本当に、俺達の為に⋮自国金貨を作ってくれるのですか?﹂
﹁ああ!!そうだ!!!ワシはお前達人間族の様な事はしねえ!約
束は守る!だから⋮その子には⋮手を出すな!!﹂
その瞳に、全ての人間族を恨む様な色を湛えて、俺に叫ぶヴァロフ
を見て、満面の微笑みをする俺は、
﹁そうですか!それは良かったです。では⋮﹂
俺はそう告げると、黒鉄の短剣を素早くアイテムバッグになおし、
エマの肩をポンポンと叩く。その合図に俺に振り返ったエマは、ニ
コっと微笑む。
その可愛いエマの両耳に手をやり、耳の穴の中に入っていた物を取
り出す。
﹁お⋮お前⋮何をしているんだ?﹂
﹁は?何って⋮エマの耳にしていた耳栓を取ったのですけど?﹂
﹁み⋮耳栓!?﹂
俺の言葉を聞いて、戸惑っているヴァロフ。集中力が削がれたのか、
魔法が消えてしまっている。
﹁そう耳栓です。こんな可愛い女の子に、こんな酷い話なんか聞か
せる訳にはいかないでしょう?常識で考えて下さいよヴァロフさん﹂
俺は軽く貯め息を吐きながら呆れると、エマの両脇に手を入れて、
抱きかかえる。
そして、抱きかかえたままヴァロフの傍に行き、ヴァロフの胸にエ
マを強引に抱かせる。
ヴァロフは自分の胸の中に来た、小さな来訪者に戸惑いながら、そ
の両手でエマを胸に抱く。
﹁え!?おっ⋮と⋮﹂
﹁ヴァロフさんしっかり抱いて下さいよ?落として可愛いエマに、
1158
怪我をさせないで下さいよ?﹂
俺の言葉に戸惑いながら、ああっと言って、しっかりとエマを胸に
抱くヴァロフ。
俺はエマの耳元に顔を持って行き、
﹁エマ∼。このお爺ちゃんはね∼エマの本当のお爺ちゃんなんだよ
∼。お父さんのお父さん。エマだけのお爺ちゃんなんだよ∼﹂
﹁ほ⋮ほんと!?この人が⋮エマのお爺ちゃんなの!?⋮嬉しい!
エマにもお爺ちゃんがいたんだ!!﹂
ニコっと満面の笑みを浮かべるエマは、嬉しそうにギュッとヴァロ
フの胸に抱きついている。
﹁アハハ!お爺ちゃん毛むくじゃらでおもしろ∼い!﹂
﹁こ⋮こら!髭を引っ張るな!痛いから!﹂
キャキャとはしゃぎ、嬉しそうにヴァロフに甘えるエマに、オロオ
ロしているヴァロフ。
﹁⋮ヴァロフさん。俺は貴方が今迄人間族に、どれだけ酷い事をさ
れてきたかは解りませんし、その気持を全て解ってあげる事は出来
ません。金貨戦争で人間族に酷い事をされたのも、息子さんのバス
ラーさんが人間族のレリアさんと結ばれた事で、死んでしまったの
も真実でしょう。ですが⋮貴方の腕に抱かれている、貴方の血を⋮
大切な息子さん、バスラーさんの愛を受けた、小さな命⋮エマがこ
こにいるのも事実。貴方は⋮その両手で拾える物まで⋮また捨てて
しまうのですか?﹂
俺の言葉に、激しく瞳を揺らすヴァロフ。俺はそれを見てニヤっと
微笑むと、エマの肩を3回ポンポンと叩く。すると、俺との打ち合
わせ通りの言葉を、ヴァロフに投げかけるエマ。
﹁お爺ちゃん大好き∼!いっぱいいっぱい大好き∼!!!﹂
1159
エマの満面の笑顔で言われたヴァロフの顔が、みるみる赤くなり、
口を開けて呆けていた。
その顔を見たエマがシュンとする。
﹁お爺ちゃん⋮エマの事⋮嫌い?﹂
可愛い瞳に、涙を浮かべるエマを見て、これ以上無い位に慌てるヴ
ァロフは
﹁違うぞ!そんな事は無い!そんな事は無いぞ!﹂
﹁じゃ∼エマの事好き∼?﹂
その言葉を聞いて、更に顔を赤くして、オロオロしているヴァロフ
は、俺の楽しそうな顔を見て、気に食わなさそうにフンと言い、エ
マの顔をマジマジと眺める。
﹁⋮この瞳⋮バスラーの小さい時にそっくりじゃ。この少し癖のあ
る茶色の髪も⋮小さいのう⋮だが⋮暖かい⋮﹂
﹁ねえ!お爺ちゃんエマの事好きなの?嫌いなの?どっち∼?﹂
エマの頬を撫でながら見ていたヴァロフに、我慢出来無くなったエ
マが拗ねる様にせがむ。
そのエマを見て、初めて見せる優しい微笑みを湛えるヴァロフは、
﹁ああ⋮好きじゃ。バスラーの娘なんじゃ⋮ワシの⋮可愛い孫なん
じゃから⋮﹂
﹁ほんと!?嬉しいお爺ちゃん!エマもお爺ちゃんの事大好き∼!﹂
ニコっと微笑むエマは、ギュッとヴァロフの胸にしがみ付く。それ
を、自らの意志で拾い上げる様に抱き返すヴァロフの肩が少し震え
る。それを見た、エマが慌てながら
﹁お爺ちゃんどうしたの!?なぜ泣いてるの?どこか痛いの?﹂
エマは心配そうにしながらヴァロフに言うと、軽く首を横に振るヴ
1160
ァロフ。
﹁ちょっと待ってお爺ちゃん!私が痛く無くなるおまじないしてあ
げる!﹂
そう言って、ちっちゃな手の平を擦り合わせ、それをヴァロフの両
頬に当てる。
﹁これね、お母さんから教えて貰ったんだ!お母さんもお父さんに
教えて貰ったんだって!このおまじないしたら、すぐに痛くなくな
るからね!﹂
そう言って、何度も手を擦り、ヴァロフの両頬に当てるエマを、ギ
ュッと抱きしめるヴァロフ。
﹁お爺ちゃんどうしたの?まだ痛い?﹂
﹁いいや。もう⋮痛くないよエマ。お前のお陰でな。それに⋮その
まじないは、ワシがバスラーに教えたものじゃ。本当に⋮良く効く
まじないじゃ⋮もう⋮痛くないよ⋮エマ﹂
肩を震わせ、エマを抱きしめながら嗚咽しているヴァロフ。エマは
心配しながらも、ヴァロフに抱かれながら、ヴァロフの頭を優しく
撫でている。
俺はそれを見て、入り口の扉に向かい、扉を開けて、声をかける。
﹁皆もういいよ。家に入って来て﹂
俺の声に、皆が家の中に入ってくる。そして、腕の中にエマを抱い
て泣いているヴァロフを見たレリアが前に出る。
﹁お義父さん⋮私⋮﹂
エマを胸に抱き泣いているヴァロフを見て、瞳に涙を浮べているレ
リアが力なく言うと、軽く首を横に振り
1161
﹁良いのじゃもう⋮良いのじゃ。⋮ワシこそすまなかった。ワシが
⋮許してやれば⋮バスラーは死なずに済んだのやも知れぬ⋮﹂
﹁それは違います!お義父さんのせいではありません!それに彼か
ら⋮言われている事もあります﹂
﹁なんじゃ?バスラーから⋮何か言われておるのか?﹂
﹁はい⋮彼が息を引き取る間際⋮﹃お父さんを恨まないであげて。
お父さんは本当は優しい人だから。いつかきっと解ってくれる。だ
から、その時が来たら、お父さんにエマを抱かせて上げて欲しい。
僕達の子供のエマを﹄そう言って、息を引き取りました。私はずっ
と⋮彼の言葉通りにしてあげたかった⋮﹂
泣きながら語るレリアに、ヴァロフはエマを片手で抱きながら、レ
リアに近づく。
﹁つらい思いを⋮させてすまぬなレリア。エマを育ててくれて⋮感
謝しておる﹂
﹁いいえお義父さん。私も⋮お義父さんのお気持ちを解って上げれ
ずに勝手をしてしまって、すいません﹂
そう言って顔に両手を当てて泣いているレリアの肩に、そっと優し
く手を添えるヴァロフ。
﹁お母さんもお爺ちゃんも、どこか痛い?またエマがおまじないし
てあげる!﹂
そう言って再度ちっちゃな手を擦り、それをレリアとヴァロフに交
互に添えるエマ。それを見て、顔を見合わせて微笑み合うヴァロフ
とレリア。
その3人の暖かい光景を見て、マルガもマルコも瞳に涙を浮かべて、
微笑み合っている。
暫くそうしていたヴァロフは落ち着いてきたのか、エマを膝の上に
チョコンと座らせて、気に食わなさそうに俺を見ると、
1162
﹁全く⋮本当に人間族は酷い事をする⋮全部解っていて、あの様な
事をするのだからな﹂
﹁まあ⋮否定はしませんね。僕達も必死ですしね﹂
そう言ってニコっと笑う俺を見て、フフッと軽く笑うヴァロフは、
﹁さっきも言った通り、お前達に自国金貨を作ってやる。だから⋮
頼みがある﹂
﹁自国金貨を作る報酬ですか?﹂
﹁まあ⋮そう思ってくれても良い。⋮レリアとエマの事を頼みたい。
本当はこの村で暮らせれば良いのじゃが、この村は知っての通り、
人間族が嫌いで、差別をしておる。この村では、レリアもエマも、
きっとつらい目に合ってしまう。だから⋮お前が安全に暮らせて、
幸せに居れる場所を用意してやって欲しい⋮﹂
﹁それは大丈夫ですよ。つい最近、王都ラーゼンシュルトに、沢山
の人が住める家を、手に入れた所なので安心して下さい。レリアと
エマには、僕の仕事を手伝って貰うつもりです。生活もきちんと保
証しますよ。勿論、危険な事は、もうさせませんので。なんなら、
ヴァロフさんも一緒に、王都ラーゼンシュルトに来ますか?部屋は
余ってますから。まあ⋮何かの仕事をして、頂くかも知れませんが﹂
俺の言葉を聞いたヴァロフは、フフッと笑うと、軽く首を振り、
﹁いや⋮それは出来ぬ。ワシはまだ⋮全ての人間族への恨みを捨て
きれぬ。王都ラーゼンシュルトなんぞの、沢山の人間族の居る所に
は⋮まだ⋮﹂
そう言って言葉を濁すヴァロフ。
﹁⋮そうですか。ま∼それで良いと思いますよ。いきなり全てが変
わるなんて事ありえませんからね。でも⋮気が変わったら、何時で
も来て下さい。それから⋮僕も追加で条件をつけます﹂
﹁な⋮何をする気じゃ?﹂
1163
俺の言葉に、嫌な顔をするヴァロフに、
﹁俺の追加条件は、エマとレリアに手紙を定期的にヴァロフさんに
書かせるので、その返事をきっちり遅れずにする事。そして、たま
にこっちに遊びに来る事ですね。あ⋮遊びに来るのは難しいですか
?引き込んでしまっているドワーフのお爺ちゃんには?﹂
ニヤっと笑う俺を見て、キッときつい目をするヴァロフは、
﹁馬鹿にするでない!それ位の事、誇り高きドワーフなら簡単な事
じゃ!﹂
﹁なら、安心ですね。良かったねエマ∼。お爺ちゃん新しいお家に
遊びに来てくれるって!﹂
﹁ほんと!やった∼!お爺ちゃん待ってるね!お爺ちゃん大好き∼
!﹂
満面の笑顔で抱きつくエマを、嬉しそうにデレっとして抱きしめる、
幸せそうなヴァロフを見て、思わずププっと吹いてしまった。そん
な俺を流し目で見るヴァロフは、ハ∼ッと大きな溜息を吐き、表情
をいつもの様に戻すと、
﹁それから小僧。約束通り自国金貨を作ってやるが、お前の期待に
は応えてやれぬ所があるかも知れぬぞ?﹂
﹁それは⋮どういう事ですかヴァロフさん?﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテが、目を細めてヴァロフを見る。
﹁お前達は⋮通貨製造許可の詳しい内容は知らぬ様なので⋮そこが
心配での﹂
﹁その詳しい内容と言うのは、どんなものなのですか?﹂
俺の言葉に頷くヴァロフは説明をしてくれる。
﹁通貨製造許可は、特殊な制約魔法で契約をしている。その内容は、
1164
まず、年間に作れる自国金貨の数じゃ。通貨製造許可を持つ者は、
年間に作れる自国金貨の量が決まっておる。金貨戦争のお陰で、年
間に作れるその数はもの凄く減らされてしまった。しかし、年間に
作れる量は、作らなければ蓄積していく。ワシは120年間、自国
金貨を作っていない。なので、120年分の量を、一気に作る事が
出来るので、恐らく数は問題は無いじゃろう。じゃが⋮問題は⋮自
国金貨の質だ⋮﹂
﹁自国金貨の⋮質ですか?ヴァロフさん﹂
マルガが可愛い小首を傾げながら聞き返す。
﹁そうじゃ。自国金貨の質じゃ。バイエルント国の指示で、バイエ
ルント国の自国金貨に含まれる、金の含有量は決まっておるのじゃ。
決まっている金の含有量を下げて、自国金貨を作る事は⋮ワシには
出来ぬ。その様に、制約魔法で契約しているからな。小僧も商人な
ら、制約魔法がどの様なモノなのかは、知っておろう?﹂
制約魔法は、取り決めを3人で契約する魔法儀式だ。
契約当事者である2人と、立ち会う公証人の間によって、契約され
る。
特殊な魔法で出来た羊皮紙を使い、契約する。契約した特殊な羊皮
紙は、体の中に召喚武器の様に吸い込まれ効力を発揮する。
その時に、条件をつければ、それも実行される。
例えば今回の様に﹃規定の金の含有量を、下回って作ってはならな
い﹄と、特約的なモノをつけると、それに反した行動を取ろうとす
ると、体が動かなくなって、出来なくなってしまうのだ。
約束事をきちんと、強制的に守らせる制約魔法契約は、その信用性
の高さから、重要な取引や、約束を守らせたい時に使う。その分、
掛かるお金も、かなりの高額なってしまうが。
﹁小僧よ。お前がワシに自国金貨を作らせたいのは⋮金の含有量を
1165
下げて、安く自国金貨を作り、それを通常の自国金貨として売り⋮
その差額を儲けようと考えているのではないのか?⋮小僧には借り
がある。だから、出来る事はしてやりたいが⋮制約魔法で契約した
事は曲げれぬ⋮金の含有量を下げて作る事はな﹂
ヴァロフは少しキュッと唇を噛みながら俺に言う。
しかし、ソレを聞いた俺を含め、マルガやリーゼロッテ、マルコは
ニコニコしている。
その表情に戸惑いの色を見せるヴァロフ。
﹁大丈夫ですよヴァロフさん。俺はそんな普通の事を、しようと思
っていません。俺はこれのみを使って、自国金貨を作って欲しいの
です﹂
そう言って、アイテムバッグから、リーゼロッテに仕入れて貰った
商品を見せる。
床に置かれた、その商品を見たヴァロフの口元が、ニヤッと釣り上
がる。
﹁アハハ!そうか!その手があったか!なるほど⋮ソレならば、金
の含有量などは関係無いな!⋮全く⋮人間族はやり方が汚いな!﹂
そう言って声を出して笑うヴァロフ。
﹁それと、もう一つ問題が有りますヴァロフさん。私達には時間が
ありません。この商品を使って、自国金貨をすぐに作って貰いたい
のです。どれ位お時間が掛かりますか?﹂
リーゼロッテの言葉に、フンと鼻を鳴らすヴァロフは
﹁エルフの娘よ。誰に物を言っている?ワシは誇り高きドワーフだ
ぞ!鍛冶仕事をさせたら、わしらドワーフの右に出る者なぞおらぬ
!3刻⋮3刻︵3時間︶で作ってやる!お前達はここで待っておれ
!サビーノ!至急隣の炉に火を焚け!すぐに仕事にとりかかるぞ!﹂
1166
そう言って、腕をブンブンと回しながら、商品を抱え上げ、家を出
ていくヴァロフ。
ソレを楽しそうに見つめるザビーノは
﹁まあ暫く待ってるんだな!あのヴァロフ爺さんは、この村が町だ
った頃から、最高の鍛冶職人と言われて来た人だ。口に出した事は、
絶対にやり遂げるからよ!﹂
そう言って、同じ様に家を出ていくサビーノ。
そこから、3刻弱、ヴァロフの家で待っていると、汗だくになった
ヴァロフとサビーノが戻ってきた。
そして、抱えてきた箱をドン!と置く。ソレを見た俺達の瞳は、光
り輝く。
﹁時間前に作ってやった。⋮これもついでに持っていけ小僧!﹂
そう言って、1枚の羊皮紙を俺に手渡す。ソレを一緒に見ていたリ
ーゼロッテの瞳がキラリと光る。
﹁流石はドワーフのヴァロフさん。ここまで理解してくれて居ると
は⋮﹂
﹁当たり前だエルフの娘!ワシは約束した仕事は、全力でする!そ
れがドワーフの誇りだ!﹂
得意げに笑うヴァロフに、ニコっと微笑むリーゼロッテ。
そして、ヴァロフはエマの傍に近寄ると、自分の首に掛けていたネ
ックレスを外し、エマの首につける。
﹁その首飾りは、誇り高きドワーフである事の証でもある。持って
いてくれるか?﹂
﹁うん!ずっと持ってる!大切にするねお爺ちゃん!王都ラーゼン
シュルトの新しいお家で待ってるから、絶対に遊びに来てね!絶対
だよ?お爺ちゃん!﹂
1167
﹁⋮ああ⋮解っておる。きっと遊びに行くから⋮待っておれ。⋮レ
リアに小僧⋮エマの事を⋮頼んだぞ﹂
ヴァロフの言葉に静かに頷く、レリアと俺。
﹁なら、お前のなすべき事をしてくるのじゃ!お前はワシに大層な
講釈をたれたのだからな。ワシにこれだけの事をさせておいて、負
けましたは許さんからな!﹂
﹁⋮ええ。解ってます。必ず目的を果たします!﹂
俺のニコっと微笑む顔を見て、気に食わなさそうにフンと鼻を鳴ら
すヴァロフ。
挨拶を済ませた俺達は準備を整えて、カナーヴォンの村を後にする
のであった。
﹁葵さん、マルタの村の村が見えてきました﹂
リーゼロッテに声に、目を覚ます。俺の横で寝ていたマルガも、可
愛く大きな瞳を擦りながら、ショボショボさせている。そして、マ
ルタの村を見て、嬉しそうにするマルガ
﹁マルタの村に着きましたねご主人様!﹂
﹁うん。クラーク村長と約束したからね。事が成ったら、必ず来る
って。商人の約束は絶対。⋮と、ギルゴマさんが言ってるしね﹂
苦笑いしながら言う俺を見て、嬉しそうにするマルガ。
俺達は村の中に荷馬車を進めると、ちょうど作業をしていたクラー
ク村長が俺達を発見して、嬉しそうに近寄って来た。
1168
﹁⋮約束通り⋮取引に来ました。取引しますか?﹂
俺の言葉に涙ぐむクラーク村長は、
﹁はい!是非お願いします!暫くお待ち下さい!﹂
そう言って小走りに去って行く。暫く待っていると、例の3人の少
女達が、俺の前にクラーク村長と一緒にやって来た。3人の少女達
も、俺を見て嬉しそうに微笑んでいる姿が、心に刺さる。
﹁約束通り、貴女達3人を買いに来ました。取引は、貴女達3人と、
この2台の馬車に積まれている、塩と香辛料全部。条件はこれで良
いですか?﹂
﹁おお!全てですか!これで⋮村は救われます!有難うございます
!でも⋮本当に全ての商品と、交換して貰っても良いのですか?﹂
﹁ええ。この村で⋮その3人の少女達から、情報を貰わなければ、
僕達の事は成りませんでしたからね。その分の情報料も入れてます﹂
ニコっと微笑む俺を見て、涙ぐみながら、握手をしてくるクラーク
村長。
俺は、クラーク村長から離れ、3人の少女達の前に行く。
﹁これから君達に自由は無い。全て主人である俺の物になります。
それに、恐らく⋮君達を奴隷商人に売る事にもなると思います。資
金の回収もしたいのでね。それでも⋮売られる覚悟はありますか?﹂
俺の淡々とした口調に、ギュッと握り拳に力を入れている3人の少
女は、揺るぎのない光を放った瞳で俺を見て、静かに頷く。
﹁解りました⋮半刻︵30分︶時間を与えます。早急に支度をして、
家族に別れを告げてきて下さい﹂
俺の言葉に頷く3人の少女は頷き、それぞれの家に向かって駆けて
いく。
1169
﹁ではその間に、クラーク村長には、商品の納品を。皆大急ぎで商
品を降ろして!時間がないよ!﹂
俺の言葉に一同が頷く。そして、全ての商品を降ろし終わったと同
時に、3人の少女達が、荷物鞄を抱えて帰って来た。3人の少女達
の目はそれぞれが赤く腫れている。きっと泣きはらしたのであろう。
﹁ではこの羊皮紙に署名して下さい。契約終了の署名を⋮﹂
俺の言葉にクラーク村長、3人の少女達が署名をする。それを確認
したリーゼロッテが頷き、羊皮紙をアイテムバッグにしまう。
﹁では⋮皆荷馬車に乗り込んで!期限までもう時間がない!荷馬車
も軽くなったし、速度を上げて行くよ!﹂
﹁葵殿⋮感謝します。それから⋮お前達⋮すまない⋮本当に⋮許し
てくれ⋮﹂
﹁いいえクラーク村長様。私達は村を救える事に誇りを感じていま
す。⋮村をよろしくお願いします﹂
﹁ああ⋮必ず!約束する!﹂
涙ぐみながら、最後の別れをする、クラーク村長と、3人の少女達。
それを見てリーゼロッテとマルガは、ギュッと唇を噛んでいた。
﹁では出立します。クラーク村長お元気で!﹂
﹁ええ⋮皆さんも⋮﹂
身を切る様な表情で、俺と3人の少女を見つめるクラーク村長を残
し、荷馬車は一路アッシジの町に向かって、進み出だした。
﹁本当にすまない⋮お前達の気持ちは⋮決して無駄にはしない⋮有
難う⋮娘達よ⋮﹂
そう力なく呟いたクラーク村長は、村の中に帰って行った。
1170
﹁遅い⋮あいつらは⋮一体何をしているんだ!﹂
ヒュアキントスがイライラしながら、アッシジの町の高速魔法船の
停泊している桟橋で立っていた。
その様子を見て、とばっちりを食らいたくない、3人の亜種の美少
女達は、身を寄せ合って少し震えていた。
辺りは日が傾き、空が赤くなって来ている。期日迄に王都ラーゼン
シュルトに戻るには、遅くても日が沈む迄に出航しなければ、間に
合わないのだ。
﹁ええ!もう出航せよ!時刻までに帰ってこれぬ、あいつらが悪い
のだ!アルバラード殿には、僕が説明する!出航せよ!﹂
その声に、乗組員が準備を始めた時だった。荷馬車が2台、かなり
の速度でやって来た。
それを見て、キッと睨むヒュアキントスは
﹁遅いぞ!時間も守れぬ様では、商人として失格だぞ!﹂
﹁時間ギリギリだったけど、期限は守れたじゃないか。⋮それに、
そんな事⋮お前に言われたく無いけど?色々してくれたみたいだし
?﹂
俺のきつい目を見て、ニヤッと口元を上げるヒュアキントスは、俺
達の荷馬車を見て、唖然とする。
﹁荷馬車には⋮何も無く⋮女を5人だと!?ククク⋮アハハハ!負
けを感じて、その亜種とエルフの一級奴隷の代りでも買ってきたの
か?それとも、その女5人が、金貨100枚分の商品なのか?﹂
1171
嘲笑うヒュアキントスに、ニヤッと笑う俺は
﹁さあな。それは最終の商品の提示の時のお楽しみだな。もう、何
も出来ないし、移動で疲れたから、俺達は休ませて貰うよ﹂
荷馬車の積み込みの終わった俺達はそう告げると、用意してくれて
いる客室に戻る。
それを流し目で見ているヒュアキントス。
﹁一体⋮どういうつもりだ?あいつらが町を出て、商品を仕入れる
事も織り込み済みだが⋮。荷馬車に商品は無く⋮女5人⋮何を考え
ている?まあ⋮フィンラルディア王国に入って、関税を払う時に解
るか。それに⋮あいつらには⋮何も出来なかったはずだしな。おい
!帰るぞお前達!ボサっとするなよ!﹂
そのヒュアキントスの声に、返事をしてヒュアキントスに付いて行
く、亜種の美少女3人。
こうして俺達を乗せた高速魔法船は、フィンラルディア王国に向か
うのであった。
俺達を乗せた高速魔法船は、何事も無く、無事にフィンラルディア
王国に帰っていた。
甲板からそれを眺めていた俺達は、フィンラルディアの懐かしい風
に吹かれて居た。
徐々に速度を落とす高速魔法船は、ガクンと軽い揺れを起こして、
桟橋に停泊した。作業員が高速魔法船に、丈夫な橋の様な板を設置
していく。準備が整ったのか、係りの者が俺達を呼びに来た。
1172
﹁準備が終わりました。商品の関税を支払って、ヴァレンティーノ
宮殿に向かって下さい。貴方達の到着は既に知らせてあります。皆
様がお待ちになって居らっしゃいますので、速やかに行動を始めて
下さい﹂
その言葉に頷いた俺達は、それぞれの荷馬車に乗り込み、関税を支
払う受付に行くと、ヒュアキントスが既に手続きに入っていた。
2匹のストーンカに引かれた、大きく丈夫な鋼鉄馬車と荷馬車には、
予想通りの沢山の黒鉄が積まれている。
そして手続きの終わったヒュアキントスの馬車達は、ヴァレンティ
ーノ宮殿に向けて進みだした。
俺達はその後に、関税の受付まで荷馬車を寄せる。すると、今回の
選定戦の為だけの関税の役人が近寄ってきた。
﹁では関税を支払って貰います。取り決め通り、フィンラルディア
王国内では、いかなる不正行為も禁止です。不正行為は失格を意味
します。それは、貴方もヒュアキントス殿も同じです。彼からも関
税をきちんとお支払い頂いておりますので。では、商品をお願いし
ます﹂
そう言って、商品の提示を求める係の者に、ニコっと微笑みながら
﹁関税の掛る物は、一切積んでいません。なので、関税をお支払い
する事は出来ません﹂
俺の言葉に、ピクッと眉を上げる係の物は
﹁確かに⋮荷馬車には、女性しかいませんが⋮もし、アイテムバッ
グ等に商品を入れて、関税を逃れたとしても、不正行為で、失格に
なってしまいますが⋮それでも宜しいのですね?﹂
少し眼差しのきつい係の者に、ニコっと微笑む俺は、
﹁ええ、それで結構です﹂
1173
その言葉を聞いた係りの者は、軽く溜め息を吐き
﹁ではもう⋮何も言いますまい⋮お通り下さい﹂
呆れた様に言う係の者に挨拶をして、俺達もヴァレンティーノ宮殿
を目指す。
バイエルントとは違う、王都ラーゼンシュルトの華やかで豪華な街
並みを眺めながら荷馬車を進めると、純白の、何者にも汚される事
を許さぬ、まるで天人が住んでいるかの様な、眩い王宮が見えてき
た。
門で手続きを終えた俺達は、宮殿の玄関に荷馬車を止める。そして、
荷馬車を預け、案内役に付いて行くと、謁見の間の扉の前で、ヒュ
アキントスが待っていた。
﹁なんだ⋮早かったじゃないか。そんなに関税の手続きに時間が掛
からなかったのか?⋮こっちは、数えるのに、そこそこ時間が掛か
ったんだがね﹂
ニヤっと微笑むヒュアキントス。
﹁その答えは⋮すぐに解るよ﹂
ニヤっと笑う俺を見て、流し目で俺を見るヒュアキントス。
﹁ではお二方、女王様の前に行きますよ﹂
案内役に言われながら、謁見の間に入って行く、ヒュアキントス一
行と俺達。
豪華な大広間に、真赤な綺麗な刺繍のされた絨毯が敷かれ、その奥
に、黄金の玉座がある。
伏目がちに、その前まで行き、片膝を就いて頭を下げるヒュアキン
トス一行と俺達。
すると、綺麗で透き通る、気品の良い声が聞こえてきた。
1174
﹁良く戻りました。ヒュアキントスに葵。その他の者もです。面を
上げなさい﹂
アウロラ女王の声に、面を上げる。アウロラ女王は俺にニコっと微
笑み、その横を見ると、綺麗なドレスで着飾ったルチアが、心配そ
うな顔で俺を見ていた。
すると、俺とヒュアキントスの前に、アルバラードが近寄って来た。
﹁選定戦の期日までに、よくぞ戻りましたね。ヒュアキントス殿も
葵殿も、取り決めによる違反は無かったと、報告を受けています。
なので、互いの仕入れた商品で、利益の高い者が、ルチア様の専任
商人と言う事になります。宜しいですか?2人共﹂
アルバラードの言葉に静かに頷く。
﹁では、仕入れた商品の羊皮紙を提出して下さい。⋮まずは、ヒュ
アキントス殿から﹂
﹁はい、アルバラード殿﹂
ヒュアキントスはアイテムバッグから、羊皮紙の束を取り出すと、
アルバラードに手渡す。
それを1枚ずつ確認していくアルバラード。
﹁フム⋮ヒュアキントス殿が仕入れたのは⋮金貨100枚分の黒鉄
ですか。関税もきちんと金貨100枚から支払っていますね。しか
も⋮なかなか上手く交渉しましたね。これは良い利益が期待出来る
でしょう﹂
﹁ありがとう御座います、アルバラード殿﹂
ニヤッと俺を見て笑うヒュアキントス。
﹁では⋮葵殿。貴方の商品の羊皮紙を見せてくれますか?﹂
﹁えっと、僕の商品はこちらです。見て貰った方が早いので、出し
ますね﹂
1175
俺はアイテムバッグから、複数の木箱を取り出す。その重量のある
木箱を、ドスンと床に置いていく。
不思議そうに俺の行動を見ている一同に、俺はその木箱の一つを開
けて、中身を見せる。
﹁これが僕の仕入れた商品です。ご確認下さい﹂
俺の言葉に真っ先にそれを見たヒュアキントスが、呆気にとられる。
﹁こ⋮これは⋮バイエルントの自国金貨か?これが⋮君の商品なの
か?﹂
﹁そうだけど?何か文句でもある?﹂
俺の出した大量のバイエルントの自国金貨を見たヒュアキントスは、
声を上げて笑う
﹁アハハハ!バイエルントの価値の低い自国金貨を、金貨100枚
分も仕入れたのかい君は!?確かに通貨には関税は掛からない。だ
が、価値の低いバイエルントの自国金貨を、金貨100枚分仕入れ
ても、通貨を両替しただけの事。量は増えて居る様に見えるが、こ
こにある大量の自国金貨はどこまでいっても、金貨100枚分の価
値しか無い!いや⋮それどころか、下手をしたら、金貨100枚の
価値を切るかもしれない。これだけのバイエルントの自国金貨が、
まだ残っていた事には驚くが、何を考えているんだ君は?﹂
そう言って、可笑しそうに笑うヒュアキントスに、ニヤっと笑う俺
は、
﹁確かに⋮天才様の言う通り、これが普通の自国金貨なら、どこま
で行っても金貨100枚分の価値にしかならないし、下手したら原
価を切るだろう。だけど⋮この自国金貨は、只の自国金貨ではない
!﹂
俺の言葉を聞いたヒュアキントスは、何かを瞬時に理解したのか、
1176
俺にキツイ目を向ける。
﹁なるほど⋮金の含有量を下げ、バイエルントの自国金貨に見える
様に手を加え、その差額を利益として献上するつもりか?それとも
⋮この偽のバイエルントの自国金貨を、本物と言い張るつもりなの
か?⋮君は重要な事を見落としている。このバイエルントの自国金
貨が本物なら、確かに関税は掛からないが、偽物なら、金の加工品
として、関税が掛る。そこはどう説明するつもりなんだ?﹂
ヒュアキントスの冷静な分析に、思わず口元が上がる。
﹁まあ⋮普通なら天才様の説明通りでしょう。でも、このバイエル
ントの自国金貨は、間違いなく本物。しかも⋮純金で作られたバイ
エルントの自国金貨だ!﹂
俺の話を聞いたヒュアキントスが、激しく狼狽する。
﹁な⋮なにを言ってるんだ君は!?新しく⋮こんなに沢山の自国金
貨を作れる訳が無いだろう?自国金貨を作れる許可を貰った者には、
それぞれ、年間に自国金貨を作れる総数は決められている!その量
は微々たるものだ!こんなに大量の、自国金貨を作れる許可を持つ
者など、存在しない!それはどこの国でもだ!許可を持つ者は、制
約魔法で契約させられていて、違法は出来ないはず!例えこの自国
金貨が純金で出来ていようとも、偽物であれば、金の加工品、つま
り、装飾品として関税がかかる!そこはどう説明するつもりなんだ
!﹂
声高に叫ぶヒュアキントスに、静かに語る俺。
﹁それはな天才様⋮生きていたんだよ⋮カナーヴォンの村に⋮通貨
製造許可を持つ人がな!﹂
﹁そんなはずはない!あのカナーヴォンの村は、120年も前に、
自国金貨を作る事をやめているんだ!120年も前の人が生きてい
1177
る訳がない!それにそんな報告は⋮﹂
その先を言おうとして、咄嗟に口を塞ぐヒュアキントス。俺はニヤ
ッ笑い
﹁報告は⋮受けていないだろ?天才様。お前は全て報告を受けて、
あのバイエルントを選んだ。しっかりと下調べをして、資料を見た
んだろうが⋮120年前のバイエルント国の人事なんか全て解るは
ずは無い。このしっかりと管理しているフィンラルディア王国なら
まだしも、当時金貨戦争で、侵略を受け、動乱の中にあったバイエ
ルントが、きちんと把握出来ている訳が無いだろう?そこに輪をか
けて⋮120年間放置された。そこに、許可を持つ人が生きている
なんて、思わないだろうさ。事実、120年間カナーヴォンの村で
も、自国金貨は作られていなかったのだからな!忘れられて当然だ
!﹂
俺の言葉を聞いて、何かを言い出そうとしたヒュアキントスを、右
手で制止する。
俺はアイテムバッグから、1枚の羊皮紙を取り出す。
﹁これは、この自国金貨を作ってくれた、カナーヴォンの村の通貨
製造許可を持つ、ドワーフが書いてくれた、証明書だ。勿論、この
自国金貨が全て本物と言う証の為にね。もし、この羊皮紙だけで信
用出来ないなら、ここに来て、アウロラ女王陛下の前で、本物だと
証言してくれるそうだ!これで、この自国金貨が、本物だと解った
だろう!﹂
その羊皮紙を見つめるヒュアキントスの顔が蒼白になる。
﹁まさか⋮120年も前の許可を持つドワーフが生きているなんて、
夢にも思わなかったろ?残念だったな天才様﹂
俺に肩を叩かれたヒュアキントスは、只々項垂れていた。
1178
﹁アルバラードさん。理由は聞いて頂いた通りです。僕の仕入れた
商品は、金貨99枚分の純金。今はバイエルント国の自国金貨の姿
をしていますが⋮これで完了です﹂
そう言って、懐から1枚の金貨を取り出し、それアルバラードに手
渡す。
﹁その金貨1枚で、この純金のバイエルントの自国金貨は鋳潰せま
す。これでちょうど金貨100枚!そしてこれが、純金を金貨99
枚分仕入れた羊皮紙です﹂
それを受け取り確認するアルバラード。
﹁金の関税は売買価格の4倍か、フィンラルディア王国で定める、
相場を元にした規定の関税の内、どちらか高い方になります。ここ
にあるのは⋮金貨99枚の4倍の価値のある金⋮金貨396枚分の
金と同等の価値を持ちます。⋮どちらが、利益が高いか⋮誰が見て
も解りますよね?アルバラードさん?﹂
激しく睨む俺を見て、フフッと楽しそうに笑うアルバラード。
そこに楽しそうな綺麗な声が、辺りに響く。
﹁フフフ。そう言う事だったのですか。貴方のお陰で、合点が行き
ましたわ﹂
口元に上品に、美しい装飾のある扇子を当て、楽しそうに言うアウ
ロラ女王
﹁合点⋮と言われますと⋮?﹂
﹁それは、このフィンラルディア王国で、予想外の金の動きが、こ
こ10年位有るのですよ。まあ⋮量は多くないので、ダンジョンで
発見される魔金貨が、最近多く取引されたのかと思いましたが⋮こ
の様は方法で、関税を逃れていましたのね﹂
﹁なるほど⋮それは、なかなか厄介な相手でございますね。アウロ
1179
ラ女王陛下﹂
俺の言葉に、嬉しそうに微笑むアウロラ女王は
﹁何故⋮そう思うのですか?﹂
﹁理由は⋮このフィンラルディア王国の文官様が、詳しく調べるの
を躊躇う又は、気にはなるが別の理由を付けたくなる様な微妙な所
で金を密輸し、それを誰にも言わずに⋮自分だけ利益を10年間出
しているのです。かなりの切れ者でしょうね﹂
﹁⋮確かにそうね。すぐに協議する事にしましょう。当然、今回は
貴方に何の咎もありません。全て合法なのですから﹂
そう言って再度楽しそうにフフフと笑う、アウロラ女王は、
﹁アルバラード。どちらが勝ったのか、きちんと告げて上げなさい﹂
﹁はい、解りました。アウロラ女王陛下﹂
アウロラに一礼したアルバラードは、こちらに振り返る。
﹁今回のルチア様の専任商人選定戦は、純金を金貨99枚を仕入れ
た、葵殿の勝利とする!よって、ルチア様の専任商人は、葵殿に決
定した!全ては厳正に行われた結果!異議異論は認めぬゆえ、双方
心する様に願います﹂
その勝利宣言を聞いた、若干2名が声を上げる。
﹁やった∼!葵兄ちゃんの勝ちだ!﹂
﹁そうです!ご主人様が勝ったのです!やったのです∼!!﹂
満面の笑顔で、軽く飛び上がって、ハイタッチをしている、マルガ
にマルコ。
それを見て、微笑み合っている俺とリーゼロッテ。ふと、視線に気
がついて、そちらを見ると、ルチアが嬉しそうに、瞳に涙を浮かべ
ていた。それに、瞳で合図をすると、フン!と嬉しそうにソッポを
向くルチア。
1180
そんな俺達を見ながら傍にヒュアキントスが近寄ってきた。
﹁ネームプレートを出せ⋮﹂
力なく言うヒュアキントスに言われるままに、ネームプレートを差
し出すと、ネームプレートが光り始める。そしてその光が消える。
﹁これで約束通り、あの3人の亜種の一級奴隷は君の物だ。鋼鉄馬
車は、明日君の元に届ける﹂
そう言って、立ち去ろうとするヒュアキントスを、リーゼロッテが
呼び止める
﹁まだ⋮約束は終わっていませんわよ?⋮葵さんとマルガさんへの
⋮謝罪を忘れていますわ﹂
涼やかに微笑むリーゼロッテを見て。キュッと唇を噛むヒュアキン
トスは、再度俺の前に来ると
﹁君を侮辱してすまなかった。許してくれ。そこの亜種の一級奴隷
の少女にも謝罪する﹂
そう言って、俺とマルガに軽く頭を下げるヒュアキントスは、アウ
ロラ女王に挨拶をして足早に立ち去る。その後ろから、ジギスヴァ
ルト宰相がヒュアキントスを追って行く。
﹁なんだよあいつ⋮あんな軽い謝罪だけしちゃってさ!﹂
納得のいかなさそうなマルコとマルガがウンウンと頷いている。そ
んな2人の頭を優しく撫でながら
﹁⋮あれでいいよ。⋮アイツは絶対に勝てる勝負で負けたんだ。ア
イツを推薦した者達から、この世の物とは思えぬ仕打ちを受けるだ
ろうさ⋮﹂
﹁そうですね。どれほどの物になるか⋮解らない位に⋮﹂
1181
俺とリーゼロッテの言葉に、静かに頷きながら、ヒュアキントスの
出て行った扉を眺めているマルガとマルコ。
﹁さあ!これで全ては終わりました!ルチア。後は貴女がが良く、
教えて上げなさい﹂
﹁ハイ!お母様!﹂
嬉しそうに返事をするルチアを、俺達は微笑みながら眺めていた。
﹁おい!待たぬかヒュアキントス!﹂
謁見の間から出た、ヒュアキントスを呼び止めるジギスヴァルト宰
相。
それに振り返るヒュアキントス。
﹁この様な失態をしでかすとはな!⋮お前の父である、レオポルド
殿に話があると、伝えておけ!覚悟は出来ているんだろうな⋮ヒュ
アキントス!﹂
激しくヒュアキントスを睨むジギスヴァルト宰相を、何の感情も持
たぬ瞳で見つめるヒュアキントスは、
﹁解りました。父にその様に伝えておきます⋮ジギスヴァルト宰相
様﹂
その返事を聞いて、怒りに身を染めながら立ち去っていく、ジギス
ヴァルト宰相。
そこに1人の、燃えるような赤い髪を靡かせた美少年が、ヒュアキ
ントスに近づく。
その美少年に、力なく微笑むヒュアキントスは、
﹁ごめんよアポローン。君の為に勝ちたかったのだけど⋮僕は負け
てしまったよ⋮﹂
そんなヒュアキントスをそっと抱きしめるアポローンは、
1182
﹁気にする事はないさヒュアキントス。僕は何時でも君の傍に居る
⋮、またやり直せば良いだけさ。君は天才だ。これまで負け知らず
で、勝ち進んできた。ちょっと位寄り道しても⋮大丈夫だよ﹂
﹁有難う⋮優しいアポローン﹂
空。その名前は二度と忘れない。今度は僕が勝ちを
そんなアポローンを抱き返すヒュアキントス。
﹁行商人⋮葵
もぎ取る⋮覚悟するんだね﹂
遠くなった謁見の間の扉を激しく睨みつけるヒュアキントス。
こうして、俺達のルチア専任商人選定戦は、幕を閉じたのであった。
1183
愚者の狂想曲 31 取り戻した日常
ルチアの専任商人選定戦が終わり、ルチアの計らいで、その日は王
宮に宿泊させて貰った。
客室に宿泊した俺達は、今までの疲れもあって、夕食が終わり、体
を拭き終わった時点で、ベッドに雪崩れ込み、泥の様に眠ってしま
った。
あの気丈なリーゼロッテでさえ、気が緩んだのか、すぐに寝てしま
った位だ。
翌朝、そんな俺達は準備を整えて、来客用の食堂に顔を出すと、そ
こには既に旅をして来た仲間達が座ってた。皆が挨拶をしている中、
俺はそれを感慨深く思いながら、食卓に就く。席につくと、俺達の
食事を、侍女らしき女性が並べてくれる。それを見たマルガが、涎
のでそうな顔で、右手にナイフ、左手にフォークをチャキーンと構
え、尻尾をブンブン振っていた。
﹁とりあえず⋮皆食事を食べながらでいいから、自己紹介しようか。
マルガやリーゼロッテ、マルコは最後でいいから、ヒュアキントス
の一級奴隷だった3人から自己紹介してくれる?ネームプレートは
俺に渡してね﹂
﹁﹁﹁はい!葵様!!﹂﹂﹂
綺麗にそう声を揃える、亜種の3人の美少女達。
この3人の亜種の美少女は、凄く主従関係を気にする。昨日、最初
夕食を食べる時も、マルガやリーゼロッテの様に、一緒に食べよう
とはしなかった。あのヒュアキントスから、主従関係を徹底的に教
えこまれているんだと思う。
なんとか俺と居る時は、マルガやリーゼロッテの様に、普通にして
1184
てくれて良いよって言って、やっと一緒に食事を取る事が出来た位
だ。まあ⋮これが本来の奴隷の姿かも知れないけど、そんなのオラ
息が詰まっちゃう!
﹁では私から自己紹介をさせて頂きます。葵様に皆様、私は純血の
ワーウルフで、名をステラと申します。歳は16歳で御座います。
以後、よろしくお願い致します﹂
そう言って、綺麗にお辞儀をするステラ。
少し大人びた大人しめの美しい顔、少し銀色掛かった、肩に届くか
届かない位の長さの、艶の良い黒髪、銀色掛かった大きな紫の瞳、
華奢だが女の子らしく、胸もルチアより少し小さい位の、なかなか
のスタイル。純血のワーウルフの特徴である、銀色の触り心地の良
さそうな、フカフカな犬の様な耳が、頭の上についている。その小
尻には、マルガと色違いの、銀色の毛並みの良い尻尾をフワフワさ
せている。時折、ピクピクと動かせる耳が、何となく可愛く見え、
マルガやリーゼロッテには及ばないけど、かなりの美少女。何処か
の何十人と居る、国民的な英語三文字に数字が付きそうな、アイド
ルクラスかな?
﹃ふんふんステラね。気性が荒いと言われるワーウルフなのに、凄
く落ち着いてるね。上品というか⋮良識の持ち主だねきっと。他の
亜種の美少女達の視線を見るに、このステラが3人のリーダーっぽ
いし⋮﹄
俺はステラを見ながら、ステラのネームプレートを開く。
﹃名前﹄ ステラ
﹃LV﹄ LV1
1185
﹃種族﹄ ワーウルフ
そら
葵 空 遺言状態 所
あおい
154㎝ 体重 42㎏ B73/W53/H76
﹃年齢﹄ 16歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃ふむふむ。取得スキルもっと⋮﹄
続いて取得スキルも開く。
﹃現取得スキル 合計2﹄ ﹃アクティブスキル 計1﹄ 家事LV30 ﹃パッシブスキル 計1﹄ ワーウルフの加護︵身体能力向上、高
嗅覚、高聴力︶
なるほど、ワーウルフの加護は、マルガと同じだけど、純血だから、
能力も高そうだね。
戦闘の経験はなさそうだけど、秘書的な事は凄く出来そうだ。
1186
レアスキルは無いし、魔法は使えないみたいだけど、家事LV30
!高いな!
家事をきちんとスキルで覚えている人は、貴族や王族等の、侍女を
する人に多い。
しきたり、作法、礼節⋮そう言ったものを基準に、生活の世話をす
る人のスキルだ。
マルガやリーゼロッテも、普通の生活をする分の家事は覚えている
が、このスキルの家事とは別物。
きちんと教育を受けた人のみ習得できるスキル。
流石は、御曹司のヒュアキントスに仕えていただけの事は有るね。
﹁ステラは音や匂いに敏感なの?﹂
﹁はい、さようで御座います葵様。私は400m以内であれば、気
配を感じる事が出来ます﹂
﹁凄いのです!私の倍も感知範囲があるなんて!流石は純血さんな
のです!﹂
ステラの言葉に、瞳をキラキラサせているマルガを見て、若干恥ず
かしそうに顔を赤くしているステラ
﹁ステラは座ってね。じゃ∼次は⋮ミーア?お願い﹂
﹁はい、葵様。私の名はミーアです。ワーキャットハーフで、歳は
13歳です。よろしくお願いします﹂
そう言って、可愛い頭をペコリと下げるミーア。
あどけなさの残る可愛い童顔の顔、肩に掛からないショートの紫色
の綺麗な髪、可愛く大きな茶色の瞳、色の白い肌に、マルガと同い
年とは思えない、少し発育の良い柔らかそうなプロポーション、ワ
ーキャットハーフの特徴である、細く柔らかそうな紫色の毛並みの
尻尾を、お尻でチョコチョコさせている。こちらもマルガやリーゼ
ロッテには及ばないが、大人数の国民的アイドルなら、なんとか7
1187
?には、入れるだろう。それ位の可愛さを備えている。
﹃結構⋮モジモジしてるのが、なんか可愛いね!マルガと違って、
大人しめの引っ込み思案さんなのかも。何か⋮保護欲が⋮掻き立て
られる⋮﹄
そんな事を思いながら、ミーアのネームプレートを開く。
﹃名前﹄ ミーア
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ワーキャットハーフ
そら
葵 空 遺言状態 所
あおい
144㎝ 体重 38㎏ B73/W50/H72
﹃年齢﹄ 13歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
﹃じゃあ⋮取得スキルもっと⋮﹄
俺はミーアの取得スキルも開く。
1188
﹃現取得スキル 合計2﹄ ﹃アクティブスキル 計1﹄ 家事LV28 ﹃パッシブスキル 計1﹄ ワーキャットの加護︵身体能力向上、
高嗅覚、高聴力︶
マルガに似ているね。ワーキャットの加護も、ハーフだから同じ位
だろうし。
耳もマルガと同じで、人間族と同じ所についている。そして少し尖
っている。
マルガは過酷な幼少時代を過ごして来たので、同い歳の子に比べる
と発育は幼い感じだけど、ミーアは逆に発育が良いね。クラスの中
に居た、発育が良くてエロく見える女の子っぽい。
発育が良いのに、引っ込み思案な所が⋮オラのロリを刺激しちゃう
YO!
俺の視線に、モジモジしているミーアを座らせる。
﹁じゃ∼最後は⋮シノン?自己紹介してね﹂
﹁あ!はい⋮葵様⋮﹂
ぎこちなく返事をしたシノンは、ステラの腕の裾を握りながら、
﹁私はシノンと言います。ワーラビットハーフで、歳は⋮15歳で
す。よ⋮よろしくお願いします﹂
少しぎこちなく頭を下げるシノンは、ずっとステラの腕の裾を握っ
たままだった。
肩より少し伸びた強く紫色掛かった黒髪、可愛さの残る整った綺麗
な顔、日本人に近い肌色の柔らかそうな肌、髪の毛と同じ綺麗な紫
1189
の瞳、割と華奢な印象を受けるが、それを打ち消す豊満な胸、ハー
フなので、マルガやミーアの様に、耳は人間族と同じ所に付いてい
るが、柔らかそうなお尻には、モフモフっとした白い毛並みの良い、
丸っこい可愛い尻尾がちょこんと付いている。
﹃オオウ⋮いたいけな少女に似合わない⋮その胸はなんですか!⋮
でかい⋮きっと⋮僅かだけどリーゼロッテより大きい!大人しさに
アンバランスな胸がまた⋮﹄
それの視線を感じてか、キュッとステラの腕の裾に力を入れている
シノンは、丸っこい可愛い尻尾をピクピクさせている。
なんか⋮悪戯したくなる!オラのSっ気が刺激されちゃうよ!とり
あえずネームプレートを⋮
﹃名前﹄ シノン
﹃LV﹄ LV1
﹃種族﹄ ワーラビットハーフ
156㎝ 体重 46㎏ B85/W56/H87
﹃年齢﹄ 15歳 ﹃性別﹄ 女
﹃身体﹄ 身長
﹃戦闘職業﹄ 無し
﹃取得スキル﹄ ☆
﹃住民登録﹄ 無し
1190
﹃その他1﹄ 身分 一級奴隷 所有者
有者死亡時奴隷解放
あおい
そら
葵 空 遺言状態 所
﹃ちょっと肉付きの良い、柔らかさがなんとも⋮ウサギちゃんらし
い⋮オラ狼になっちゃいそう!﹄
そんなアホな事を思いながら、取得スキルも開く。
﹃現取得スキル 合計2﹄ ﹃アクティブスキル 計1﹄ 家事LV27 ﹃パッシブスキル 計1﹄ ワーラビットの加護︵身体能力向上、
高嗅覚、高聴力︶
ふんふん。ステラやミーアと同じだね。家事LVも高い。
本当に、この3人は、家事LVが高い。余程、きちんと教えこまれ
ているのであろう。
﹁ステラ、ミーア、シノンは、全く戦闘とかした事無いんだよね?﹂
﹁はい。私達は、取引のお手伝いが、主な仕事でしたので。戦闘や
警護は、専門の傭兵を何時も雇っていました﹂
ステラの説明に頷く俺。そこに、朝食を食べ終わって、紅茶をマル
ガに入れて貰って飲んでいたエマが立ち上がった。
﹁じゃ∼次はエマがあいさつする∼﹂
ニコっと微笑むエマを、皆が微笑みながら見ている。
﹁エマは∼お母さんの子供で∼6歳で∼ドワーフのヴァロフお爺ち
ゃんが、お爺ちゃんで∼それから、それから∼牛乳が好き!﹂
1191
元気一杯に挨拶するエマに、皆が癒される。そのエマを優しく撫で
ながらレリアが席を立つ。
﹁エマの母で、レリアと言います。葵さんに買われました。よろし
くお願いします﹂
そう言って、きちんと挨拶をするレリアを見て、皆が俺に視線を向
ける。
オオウ⋮なんだろうこの視線⋮いやいや、いくら俺でもこの親子に、
何かやましい事をする位、飢えてる訳じゃないよ?それにドワーフ
のヴァロフ爺さんと約束したし。皆解ってるよね?
少し疑問に思いながらも、軽く咳払いをして、俺は残りの3人に声
を掛ける。
﹁じゃ∼残りの3人、挨拶をしてくれる?﹂
﹁﹁﹁はい!葵さん!﹂﹂﹂
声を揃えて返事をする3人の少女は、ペコリと頭を下げて挨拶をし
ていく。
﹁私はルイーズです!マルタの村出身で15歳です!葵さんに買わ
れてここに来ました!よろしくお願いします﹂
﹁私はアンリです!ルイーズと同じマルタの村出身で14歳です!
ルイーズと同じく葵さんに買って頂いてここに居ます!よろしくお
願いします!﹂
﹁私はジュネです!2人と同じマルタ村の出身で14歳です!私も
葵さんに買って貰ってここに居ます!よろしくお願いします!﹂
そう言って、挨拶をする3人の少女達。
うん、凄く普通の見た目。普通よりちょい可愛い位の感じだ。クラ
スに居たら、そこそこ人気があるかも?と、言った所だろう。
1192
見た目も普通なら、能力も普通。レアスキルも無く、魔法も使えな
い。性格が優しく、責任感の強い、思いやりのある女の子達だ。
そんな3人の挨拶が終わった時、誰かが来客用の食堂にやって来て、
俺に声を掛けた。
﹁⋮何か、女の子が一気に増えたのは⋮気のせいじゃ無いわよね葵
?貴方の色狂いに文句を言う訳じゃないけど、程々にしておきなさ
いよ?﹂
盛大な溜め息と共に聞こえるその声に振り返ると、そこには呆れた
顔をしたルチアとマティアスが立っていた。
それを見た亜種族の3人の美少女達は、片膝をついて頭を下げる。
3人の少女達やレリアにいたっては、平伏して頭を床につけていた。
そんなレリア達を不思議そうに指を咥えて見ているエマを、必死に
平伏させようとレリアが手を伸ばしている。
﹁皆、ここには俺達しか居ないから、ルチアやマティアスさんにそ
んな事しなくても大丈夫だよ﹂
﹁ですが葵様⋮この御方達は⋮フィンラルディア王国のルチア王女
様に、アブソリュート白鳳親衛隊副団長のマティアス様。ご無礼が
あっては⋮﹂
﹁そうです葵さん。平民の私達がこのヴァレンティーノ宮殿に宿泊
させて頂いているだけで恐れ多いのに、ルチア王女様や、騎士様が
目の前に⋮﹂
俺の言葉を聞いても、ルチアとマティアスに頭を下げ続ける一同。
﹁大丈夫ですよ皆さん!ルチアさんは、とても優しい方ですから!﹂
﹁そうだよ皆!ルチア姉ちゃんは優しいよ!だから大丈夫だよ!﹂
﹁そうですね。ルチアさんは良い方ですわね。葵さんの言う通り、
私達の他に誰も居ないなら、普通に接した方が、ルチアさんも寛げ
ますよ。ねえルチアさん?﹂
1193
マルガとマルコの頭を優しく撫でながら、リーゼロッテがルチアに
微笑むと、フッと軽く笑うルチアは
﹁キツネちゃんやエルフちゃん、マルコの言う通りよ。他に誰も居
ない時は、葵達と同じ様に接して頂戴。さ⋮もう、頭を上げて楽に
して﹂
ルチアの言葉に戸惑いながらも、ルチアの言う通りにする一同。
﹁そうそう。ルチアに気なんて使ってたら疲れちゃうから、俺達だ
けしか居ない時は普通でいいよ﹂
﹁⋮葵⋮貴方だけは、私に平伏してくれてもいいんだけど?﹂
﹁残念ながら、俺にはそう言う趣味がないんだよね∼。ごめんね∼
ルチア﹂
ニヤッと笑う俺を見て、気に食わなさそうにフンと鼻を鳴らすルチ
アは、エマを見つけて、ダダダと近寄り、ギュッとエマを抱きしめ
る。
﹁何この子!?可愛いじゃないのよ!名前はなんて言うの?﹂
﹁あう⋮名前はエマだよ?お姉ちゃんは誰なの?﹂
﹁私はルチアよ。よろしくねエマ!﹂
嬉しそうにエマに頬ずりするルチア。エマは嬉しそうにキャキャと
はしゃいでいる。
﹁ルチアお姉ちゃんも、葵お兄ちゃんの奴隷なの?エマとお母さん
は、葵お兄ちゃんに買われたんだ!﹂
﹁エマ!ルチア様に、なんて失礼な!すいませんルチア様!﹂
笑顔で楽しそうに爆弾を投下したエマに、頭を擦りつけてルチアに
平伏しながら、謝罪を続けるレリアをそっと立たせるルチア。
﹁良いのよレリア。エマは何も解ってないんだから。それに、こん
1194
なに可愛いエマに、何かしたりしないから安心しなさい﹂
そう言って微笑むルチアを見て、ホッと胸を撫で下ろしているレリ
ア。それを見ていた、エマがギュッとルチアに抱きついた。
﹁ルチアお姉ちゃん凄く綺麗∼。まるで、どこかのお姫様みたい∼。
ねえねえ!エマとお友達になってくれる∼?﹂
満面の笑みで言う、エマの言葉を聞いたルチアの顔が、デレッとな
る。
﹁勿論よエマ!お友達になりましょう!﹂
﹁やった∼!!ルチアお姉ちゃん大好き∼!!﹂
キャキャとはしゃぎながらルチアに抱きつくエマを、デレデレとし
た顔で抱き返す嬉しそうなルチア。それを見ているマルガやマルコ
も、顔を見合わせて微笑んでいた。
そんなルチアが、エマを胸に抱きながら、俺に向き直り、
﹁でも⋮葵には、きちんとこれまでの事を、説明して貰うわよ?ど
ういう経緯と理由で⋮この可愛いエマを買ったのかね。⋮きちんと
説明しないと、貴方を奴隷にして、これからの人生、ずっと平伏し
っぱなしにしちゃうわよ?﹂
﹁わ⋮解ってるって!全部話すから!!﹂
微笑んでいるが目の笑っていないルチアに、ゾクッとしたものを感
じながら、これまでの事を説明する。
3人の村の少女達から自国金貨の情報を得て買った事、エマやレリ
アを買った事で、ドワーフのヴァロフ爺さんに自国金貨を作って貰
えた事、全ての経緯と理由をルチアに説明する。
俺の話を、エマを膝の上に乗せて抱きながら、聞いていたルチアの
顔が歪む。
﹁そう⋮やっぱり、そんな事になってたのね。あのヒュアキントス
1195
の事だもの、きっと何かしていると思っていたけど、そこまで用意
周到にやっていたとはね⋮﹂
﹁まあ⋮俺達が王都ラーゼンシュルトに来るまでに、結構な時間が
あったからね﹂
俺の言葉に、ま∼ねと小さい声で言うルチア。
﹁⋮まあ、なんにせよ、勝ちをもぎ取れたんだ。マルガやリーゼロ
ッテも無事だったんだし、良かったよ﹂
俺の微笑む顔を見て、嬉しそうにフンと言うルチアは、膝の上に抱
いているエマの頭を優しく撫でていた。
﹁とりあえず、ルチアの専任商人にはなれたけど、俺はこれからど
うしたら良いのルチア?﹂
﹁葵殿には、来年の春までに、専任商人の特権である、無関税特権
の権利が与えられる商品を、2品選定して貰いたい﹂
エマを抱いているルチアを優しく見守っていたマティアスが、俺に
そう告げる。その言葉を聞いたリーゼロッテが軽く顎に手を添えな
がら、
﹁今は夏⋮来年の春⋮ですか。少し期間が空くのですね﹂
﹁それは仕方無い事なのよエルフちゃん。無関税特権を持つ専任商
人が取り扱う商品は、他の取引に多大な影響を与えるものだから。
前に話した年に2回行われる、無関税特権を持つ者達で行われる会
議、特権者取引会議で話し合って取引量を決めてから、行われるも
のなの。そして、今年の2回目の特権者取引会議はもう既に終わっ
ているわ。次の特権者取引会議は来年の春。それまでは無関税特権
を行使出来ないのよ﹂
ルチアの説明に、成る程と頷く一同。
﹁と⋮なれば、当面は他の事で利益を上げないといけないと言う事
1196
になりますね葵さん?人も増えましたし⋮どうなされますか?﹂
リーゼロッテの言葉に、考えこむ俺。
リーゼロッテの言う通りだ。
すぐに大きな利益の上げれそうな、無関税特権を行使出来る商品の
利益が望めない以上、当面の資金を稼ぐ必要がある。
今⋮手持ちのお金は⋮金貨11枚程度。3人の村の少女や、エマや
レリアを買った事で、大きな出費をしてしまった。必要経費だった
としても、資金の回収もしたいのが本音だ。
そうなると、まず考えられるのは、人件費の削減。
エマやレリアは、ヴァロフ爺さんと約束したので、売る事は出来な
い。
だとすると、売る事の出来る、3人の亜種の美少女達と、村の少女
達の3人を、奴隷商に売る事が1番良いと思う。資金の回収も出来
て、人件費の削減も出来るし一石二鳥だ。
亜種の3人の美少女達はそこそこの価格で売れるだろうし、3人の
村の少女達も、あの塩や香辛料の原価と利益分にはならないだろう
が、3人の亜種の美少女達を一緒に売れば、利益を出す事が出来る
だろう。
そんな事を考えながら、亜種の3人の美少女達と、村の少女3人を
見ると、キュッと少し握り拳に力を入れていた。恐らく、俺の考え
ている事を、うっすらと予測しているのであろう。
それを見ていたマルガがテテテと俺に小走りで近寄って来た。
﹁え⋮えっと、ご主人様!ステラさんやミーアさん、シノンさんは
とても優秀ですし、ルイーズさんやアンリさん、ジュネさんも、と
ても優しい方達なのです!きっと、ご主人様の役に立ってくれると、
思うのです!﹂
1197
綺麗な透き通る様なライトグリーンの瞳を、揺らしながら俺に訴え
かける必死なマルガ。
マルガはこの王都ラーゼンシュルトに帰って来るまでの間に、何度
も俺に村の少女達の良さを必死にアピールしていた。
きっと俺に、村の少女達を奴隷商に売って欲しく無かったのだろう。
3人の亜種の美少女達の事も、昨日からそわそわしながらアピール
していた。
マルガは奴隷商に売られると言う事がどういう事か、身にしみて解
っている。過酷な生活をしてきているからだ。
この優しい少女達を、そんな環境に放り込みたくないのであろう。
ムウウ⋮マルガのこんな可愛く必死なおねだりを無下にはしたくは
無いんだけど⋮
もし、全員売らないとしたら、生活費だけでも結構掛かる。
それ以上に、一級奴隷の人頭税を年末までに支払わないと、没収さ
れてしまう。
一級奴隷の年間の人頭税は、1人金貨5枚。今俺の所有している一
級奴隷はマルガやリーゼロッテを入れて5人。
人頭税だけで、何もしなくても金貨25枚もの大金が消し飛んでい
く。2年人頭税を払ったら、家が買えちゃう位の額だ。
まあ⋮なんとか⋮行商しまくって、このままやって行く事は⋮ギリ
ギリ可能なラインだけど⋮
そうなると、無関税特権の商品を仕入れる、又は、開発すると言う
軍資金を、来年の春までに稼ぐ事は到底不可能になる。
折角の大金を稼げるチャンスを逃したくも無い。さて⋮どうしたも
のか⋮
そんな思案している俺を見て、リーゼロッテが少し言い難そうに、
1198
﹁⋮葵さん、ステラさんやミーアさん、シノンさんを奴隷商に売る
時には注意が必要かもしれません﹂
﹁注意?⋮注意と言うと?﹂
﹁はい⋮この3人は、今まであのヒュアキントスの一級奴隷でした。
この3人はヒュアキントスの仕事を、色々手伝って来ていると思い
ますわ。ですから⋮外に知られたく無い情報も⋮この3人は知って
いるでしょう。そんな状況下の中で⋮この3人を売れば⋮﹂
少し伏目がちに俺にそう告げるリーゼロッテ。
⋮確かにリーゼロッテの言う通りだ。
今、この状況下で、3人の亜種の美少女達を売れば、間違いなく始
末されるであろう。
この3人の安全が保証されているのは、あくまでも俺の手の内にい
るからだ。
もし今、俺の周りに何か有れば、疑われるのはヒュアキントス達。
そんな馬鹿な事はしない。
だけど、俺の手から離れてしまえば、俺と直接の関係が無くなった
と瞬時に判断し、直接の情報源である3人の亜種の美少女達を奴隷
商から買い取って、ドライに始末してしまう事だろう。
俺には関係が無いと言えばそれまでだけど⋮
マルガの可愛いおねだりを無下にはしたくないし、この3人も殺さ
れてしまうのは⋮気が引ける部分もある。
そうなれば⋮手持ちの資金を増やして、行商の取引量を上げ、利益
を増やす方法が1番になる。
3人の亜種の美少女を売らないとなれば、村の3人の少女達を売っ
て、資金の回収をする。
3人の村の少女達には悪いが、奴隷にされても、3人の亜種の美少
女の様に、いきなり始末される事は無い。
後は⋮売られた先の新しい主人に、どれ位気に入って貰えるかは、
1199
本人次第。
頑張って貰って⋮俺は資金の回収をするのが⋮1番かな?
﹁リーゼロッテはどう思ってるの?﹂
﹁⋮私は⋮葵さんの判断に、全ておまかせしますわ﹂
そう言って、ニコっと優しい微笑みを俺に向けるリーゼロッテ。そ
の優しい微笑みを見て、俺は再度思案する。
オオウ⋮ここに来て⋮リーゼロッテもおねだりか⋮
リーゼロッテは頭の回転が極めて早い。普通なら俺に、全ての少女
達を売る事を、きっと提案しているであろう。だがそれをしなかっ
た⋮全ては俺に任せると言った。
リーゼロッテも一時は売られそうになった時がある。その気持を理
解しているのであろう。
マルガはいつも解りやすい直接的なおねだりをするけど、リーゼロ
ッテは自分から余り言わない傾向がある。それは俺を思っての事な
のだ。
だから、こんな感じのおねだりを、いつもリーゼロッテはするのだ。
本当に俺が売る決断をしても、俺に対して悪い事は思わないだろう
けど⋮
本当に⋮素直じゃないんだから⋮リーゼロッテも⋮
俺は盛大に溜め息を吐いて、3人の亜種の美少女達と、3人の村の
少女達に向き直る。
俺の視線を感じ、少し震え瞳を激しく揺らしている、3人の亜種の
美少女達と、3人の村の少女達。
﹁⋮俺は君達の誰も⋮奴隷商に売らない事にするよ﹂
その声を聞いた、3人の亜種の美少女達と、3人の村の少女達は、
1200
嬉しそうに瞳に少し涙を浮かべて安堵していた。同じくして、俺の
言葉に、喜びながら抱きつく者が居た。
﹁ご主人様∼!!大好きです∼!!やっぱりご主人様は優しいので
す!﹂
物凄い勢いで俺に飛びついたマルガを胸に抱きしめて、少し蹌踉め
いてしまった俺。
マルガは満面の微笑みで俺を見ている。そんな愛おしいマルガの頭
を優しく撫でると、金色の毛並みの良い尻尾を、ヘリコプターの様
に回転させていた。
そんなに尻尾を回転させたら、本当に飛んでいっちゃうよマルガち
ゃん?
そして⋮ルナも同じ様に、尻尾を回さなくていいんだよ?マルガち
ゃんと一緒に飛びたいの?本当にマルガちゃんが大好きなんだねル
ナは!
そんな俺とマルガの傍にリーゼロッテが近寄って来て、
﹁⋮でも、葵さん。資金はどうなさるおつもりですか?﹂
﹁うん⋮資金は、名剣フラガラッハを売る事にするよ。アレを売れ
ば、金貨150枚位にはなるしさ。資金の問題も、解決するでしょ
?﹂
﹁本当に良いのですか?名剣フラガラッハは、滅多に手に入らない
Aランクのマジックアイテム。アレクラスのマジックアイテムは⋮
この先に⋮手に入らないかもしれませんよ?﹂
﹁⋮いいよ。リーゼロッテも本当は⋮そうして欲しかったんじゃな
いの?﹂
俺のその言葉を聞いたリーゼロッテは、ギュッと俺の腕に抱きつき、
金色の透き通る様な綺麗な瞳を、嬉しそうに輝かせて、俺の腕にコ
テっと顔を寄せ、凶悪に可愛い幸せそうな顔を俺に向ける。マルガ
もそれを嬉しそうに見ていた。
1201
確かに、大っぴらに使えない、俺の本当の武器である、召喚武器、
銃剣2丁拳銃のグリムリッパーの代わりに役に立ってくれている、
名剣フラガラッハを手放すのは、痛手といえば痛手だけど⋮
こんなに可愛いマルガとリーゼロッテの、切ないおねだりを無下に
は出来ないし⋮
それに⋮こんな愛おしいマルガとリーゼロッテの、幸せな顔が見れ
るなら⋮金貨以上の価値はあるね。
⋮ほんと、商人失格だね俺は⋮反省⋮
そこに、もう一人の頭の回転の早い美少女が、意外な声を上げる。
﹁ふ∼ん。葵にそれだけ考えさせて、あの剣を売らせても良いと思
わせる娘達なのね﹂
﹁そうなのですルチアさん!皆さん優しくて、真面目で⋮それから、
それから⋮﹂
3人の亜種の美少女達と、3人の村の少女達の事を、ルチアに必死
にアピールするマルガを見て、ププッと可笑しそうに笑うルチアは、
﹁葵、相談なんだけど、この村の3人の少女達を⋮私に売ってくれ
ない?﹂
ルチアの言葉を聞いた俺は、少し固まってしまった。
﹁⋮ルチア。男を近寄らせなかったのは⋮そう言う事だったの?⋮
まさか⋮ルチアが⋮同性愛⋮﹂
﹁違うわよ!!!色狂いの貴方と一緒にしないでくれる!?﹂
俺の言葉を遮り、必死になって、顔を赤くしてプリプリ怒っている
ルチア。
こんなに取り乱すルチアを初めて見た俺達は、必死に声を殺して笑
っていた。それを見て、更に顔を赤くするルチアは、
1202
﹁⋮ったく、貴方の頭の中を、いつかまともにしてあげたいわ!﹂
﹁まあまあ、落ち着こうよルチア。所で、俺からこの3人の村の少
女達を買ってどうしたいの?﹂
まだ少し笑いを我慢している俺を見て、すこぶる気に食わなさそう
なルチアは、フンと言うと
﹁この3人の少女達には、私の専属の侍女にしようと思うの﹂
﹁﹁﹁えええ!?私達3人を、ルチア様の専属の侍女でにすか!?﹂
﹂﹂
ルチアの声を聞いた、ルイーズ、アンリ、ジュネが驚きの声を上げ
る。
そりゃ驚くのも無理は無い。
王族や大貴族の侍女になると、まず余程の事が無い限り、普通の平
民がなれるものでは無いからだ。
王族や大貴族の侍女には、どこかの貴族や、地位や権力のある家の
者、そう言った所の娘達じゃないと、なれないのが慣習だ。
なので、王族や大貴族の侍女クラスになると、普通の人よりよっぽ
ど身分が高かったりするのである。
侍女自体が、なかなかなれない職業でもあるのに、普通の平民であ
るこの3人の村娘達が、いきなり大国フィンラルディア王国の、王
女の専属侍女に選ばれたりすれば、声を出して驚くのも解る。
﹁どう言った事なのルチア?今もどこぞの貴族のご令嬢が、専属の
侍女としてルチアに仕えて居るんじゃないの?﹂
﹁⋮ええ、確かに居るわ。でも⋮私はこの娘達がいいの。この3人
は、葵やキツネちゃんが庇いたくなる位の娘達なんでしょ?だから
⋮﹂
少し言葉を濁すルチア。
1203
そうだった。ルチアは⋮この伏魔殿、ヴァレンティーノ宮殿内では、
気を許せる人は⋮ほんの僅かしか居ないんだったな⋮それこそ、そ
れが嫌で⋮港町パージロレンツォに逃げる位に⋮
確かに、このルイーズ、アンリ、ジュネなら信頼出来るだろう。
大切な村を⋮人を守る為に、その身を投げ出せる位、優しさと覚悟
を決めれる娘達なのだから。
きっとルチアの事に親身になってくれる。それは安易に想像出来る。
しかも、ルイーズ、アンリ、ジュネなら⋮ルチアの重要な情報も、
外に漏らす事は無いだろう。
例え⋮大金を積まれたとしても⋮信念を貫ける強さもある。
そう考えると、色んな思惑で、送り込まれたルチアの専属侍女より、
遥かに信用出来るだろう。
﹁⋮成る程。俺はそれでいいよ。ルチアにこの娘達を買って貰えれ
ば、名剣フラガラッハを売らなくても、なんとか出来そうだしさ。
ルイーズ、アンリ、ジュネはどうしたい?このまま俺の所に居ても
良いし、ルチアの専属侍女になるも良し。好きな方を選んでいいよ﹂
俺の言葉に、かなり戸惑っているルイーズ、アンリ、ジュネ。
暫くコソコソと話し合って、ルイーズが代表で俺の前に来る。
﹁私達3人は⋮ルチア王女様の専属侍女になりたいと思います!そ
うすれば⋮恩人である葵さんに、ご無理をお掛けすることにもなり
ませんし⋮﹂
覚悟の決まった瞳で俺を見るルイーズ、アンリ、ジュネ。
﹁だそうだよルチア。マルガもリーゼロッテも⋮それでいいよね?﹂
﹁ハイ!ルチアさんの傍なら、ルイーズさん、アンリさん、ジュネ
さんも安心ですし!﹂
﹁そうですね。確かにルチアさんの傍なら、多少の事があっても安
1204
全でしょうし。ですが⋮今の専属侍女さん達が⋮黙っているのです
か?﹂
リーゼロッテの涼やかな微笑みに、ニヤッと微笑むルチアは
﹁心配しなくても大丈夫よエルフちゃん。専属侍女を自分で選ぶ位
の権限は与えられているし、それに逆らったからと言って⋮そこま
で目くじらを立てる奴は居ないわ。私に限ってはね﹂
そう言って含み笑いをするルチアを見て、同じ様に含み笑いをする
リーゼロッテ。
確かに以前のルチアなら⋮気分で嫌!とか我儘を言って、すぐに専
属侍女を解任していたんだろう。
それこそ無理強いをして、ルチアに嫌われてしまったら、元も子も
ない奴らは、今迄沢山の専属侍女を用意してきたんだろうな⋮それ
を利用すると言う事か⋮
ま⋮今のルチアなら、色々根回しも出来るだろうし、そっちはルチ
アに任せるか。何か有れば言ってくるだろうし。
﹁じゃ∼話は決まったし、取引しようかルチア。幾らでこの娘達を
買って⋮﹂
﹁金貨15枚でいいわよね葵?﹂
俺の言葉を遮って、価格を告げるルチア。
ムウウ⋮金貨15枚。俺の理想としていた金額を一発で出すか。
あの積んでいた塩と香辛料の仕入れ値は金貨10枚。俺は金貨14
枚から15枚で売る事を考えていた。
恐らく以前、俺のした話を思い出して、一瞬でその利益を逆算した
のだろう。
ルチアの条件に合うこの娘達を、もっと高く売りつける事も可能か
もしれないけど⋮
1205
俺もこの金は絶対に必要。ルチアに買われなければ、名剣フラガラ
ッハを売らないとダメ。
クウウ⋮こいつは本当に俺の考えを読みやがって!ちくちょう!
﹁⋮解った。金貨15枚でいいよ﹂
﹁取引成立ね。マティアス!﹂
その言葉に、マティアスがアイテムバッグから、金貨15枚を取り
出し、俺に渡す。俺は以前書いて貰った、ルイーズ、アンリ、ジュ
ネの直筆入りの羊皮紙をマティアスに手渡す。
それをマティアスから受け取ったルチアはニコっと微笑むと、
﹁じゃ∼取引完了ね葵﹂
﹁⋮ソウデスネー。オカイアゲ、アリガトヤシター﹂
﹁⋮何よ、その棒読みは⋮﹂
ジト目で言うルチアに呆れている俺を見て、マルガとマルコが笑っ
ている。
﹁これで貴女達は、私の専属侍女よ。しっかりと教育を受けて貰う
わ。初めはキツイけど⋮がんばれるかしら?﹂
﹁﹁﹁はい!私達はルチア様の為に頑張ります!!﹂﹂﹂
声を揃えて言うルイーズ、アンリ、ジュネに、嬉しそうに頷くルチ
ア。
﹁貴女達には信頼も期待もしてるわ。頑張ってね。それから⋮住む
場所は、このヴァレンティーノ宮殿の侍女専用の部屋があるから安
心して。休暇もきちんと与えるから、故郷にも帰る事が出来るし、
お給金はそこらの侍女より、かなり多いと思うから、家族にもお金
を送る事も十分に出来ると思うわ﹂
ニコっと微笑むルチアの言葉を聞いて、パアアと表情を明るくする
ルイーズ、アンリ、ジュネ。
1206
それをニコニコしながら見ているマルガにマルコ。
﹁じゃ∼話も済んだ事だし、俺達も自分の家に帰るとするか∼﹂
俺の声に皆が頷く。
﹁そうね、それがいいわ。また時間が出来たら、私も行くわ﹂
﹁⋮来る時は、何か手土産よろしくルチア∼﹂
﹁そうね∼貴女の色狂いが治る、薬草でも持って行くわ∼﹂
ニヤっと笑う俺に、ニコっと微笑むルチア。
俺達は帰る準備をしようとして、部屋に移動しようとした時に、ル
チアが何かを思い出した様だった。
﹁ああ!そう言えば、言うのを忘れていたわ。葵が今回した、合法
な金の密輸だけど⋮アレもう出来ないから﹂
﹁ええ!?もう?どういう事!?﹂
﹁ま∼まだ発令されるには、ほんの少しの調整が必要だけど、大方
の取り決めは決まったの﹂
そう言いながらニコっと微笑むルチア
﹁それは⋮どの様な事なのですかルチアさん?﹂
﹁えっとねエルフちゃん。まずは⋮偽物の自国金貨は、全て金の装
飾品として関税が掛る。ここまでは一緒なんだけど、自国金貨を鋳
潰す時は、自国金貨を鋳潰す許可のある、国が管理する鍛冶屋のみ
になるわ。それ以外の所で鋳潰す事は出来ない。罰せられる。それ
に、それぞれの国で決まっている以上の、含有率の金銀銅は、その
割合に応じて関税が掛る様にしたわ。これで全て解決。元々、数の
少ない自国金貨だから、すぐに駆逐出来るわ。自国金貨なんて、普
通の通貨としての価値は、殆ど無いしね。魔金貨は5ヶ国金貨同様、
複製出来ないから、対象外だけどね﹂
ルチアの説明になるほどと頷く一同。
1207
﹁この取決めは、他の5大国にも伝えられるわ。同盟上、全ての国
で同じ法令が制定されるでしょう。もう、自国金貨で利益を出す事
は出来無いわよ?﹂
﹁⋮まあ∼もっと前に知ってたなら兎も角、今はもう諦めてるよ。
あんなに堂々と、女王陛下の前で金の密輸をしたんだ。それは承知
してるよ﹂
俺の苦笑いを見て、フフッと軽く笑うルチア。
﹁でも⋮貴方も注意しなさい葵。数は少ないと思うけど、今迄ソレ
で利益を上げていた奴らの報復も考えられるから。まあ⋮頭の良い
奴みたいだし、報復なんて利益の上がらない事に、力を使わない可
能性の方が高いかもだけどね﹂
﹁⋮うん、注意するよルチア﹂
俺の返事を聞いてウンウンと頷くルチア。
﹁それから、3日後に、このヴァレンティーノ宮殿で晩餐会が開か
れるの。当然、私の専任商人である葵達も出席して貰うから。人数
は後で使いの者を向かわせるから伝えてね﹂
﹁晩餐会!?⋮それって⋮どれ位の規模なの?﹂
﹁ん∼ま⋮ちょっとした物って感じかしら?人数が決まったら、晩
餐会用の衣装を運ばせるわ。葵もこれから、色んな舞踏会や晩餐会、
夜会に招かれる事もあると思うから、慣れておけば良いわ﹂
ルチアの言葉に戸惑っている俺をよそに、若干3名︵1名増加︶が、
パアアと表情を明るくする。
﹁ご主人様!!!晩餐会って、凄く美味しい物が出るのですよね!
?私⋮楽しみです∼!!﹂
﹁だよねマルガ姉ちゃん!オイラも楽しみだよ!!﹂
﹁エマは?エマも行ってもいいの?エマも、ばちゃんかいに、い∼
1208
き∼た∼い∼。ねえねえ!いいでしょ∼?﹂
3人がねえねえと言う様に、俺の傍に寄っている。その足元にはル
ナが擦り寄って居た。
﹁皆心配しなくても大丈夫よ。きちんと準備してあげるから﹂
ルチアの言葉に、ヤッターと言って、ルチアに抱きつく、マルガ、
マルコ、エマの3人。
ルチアも嬉しそうに、優しく頭を撫でていた。
﹁まあ⋮平穏に過ごせれば良いのですけどね⋮﹂
﹁今度は大丈夫よエルフちゃん。それに⋮今回はエルフちゃんもし
っかり葵を管理してくれそうだし﹂
再度ルチアとリーゼロッテは、お互いを見て含み笑いをしていた。
﹁と⋮とりあえず、人数が決まったら、使いの人に教えるよ。じゃ
∼俺達は家に帰るね﹂
﹁そう、また遊びに行くわね﹂
ニヤッと微笑むルチアに、軽く身震いしながら、俺達はヴァレンテ
ィーノ宮殿を後にするのであった。
帰る準備を整えた俺達は、挨拶をしてヴァレンティーノ宮殿を後に
した。
そして、新しく我が家になった、フィンラルディア王国が、世界に
誇る学び舎、伝統と由緒正しき学院、聖グリモワール学院の中にあ
る、宿舎の前についていた。
1209
そして、眼前に格調高く聳える宿舎を見て、エマとレリアが感嘆の
声を上げる。
﹁こ⋮この大きい建物が⋮私とエマの新しい家になるのですか葵さ
ん?﹂
﹁うん、そうだよ。ま∼沢山部屋があるらしいけど、まだ全然見れ
て無いのだけどね﹂
﹁すごい∼!!こんなに大きなお家に住めるなんて∼!エマ嬉しい
!!﹂
エマはキャキャとはしゃぎながら、マルガとマルコと楽しそうにし
ている。エマの頭の上にチョコンと乗っている白銀キツネの子供、
ルナも何故か得意げだ。
﹁とりあえずは葵さん。宿舎の中に入る前に⋮アレを見てみましょ
うか﹂
リーゼロッテの言葉にソレを見ると、そこには大きな鋼鉄馬車が玄
関前に止められていた。
俺達は鋼鉄馬車の前まで行くと、当然の様に、若干3名がテテテと
走り寄って行く。
約束通り、ヒュアキントスが届けてくれたのであろう。
﹁ご主人様!鋼鉄馬車です!凄いのです!硬そうで、大きくて⋮凄
い馬車なのです!﹂
﹁だよねマルガ姉ちゃん!この鋼鉄馬車なら、今までの荷馬車より、
一杯商品も積めるよね!﹂
﹁すごい∼!カチカチ馬車おおきい∼∼!!!﹂
嬉しそうにキャキャとはしゃいでいる、マルガにマルコ、エマを見
て微笑む一同。
俺達も鋼鉄馬車に近寄る。
1210
ムウウ⋮本当に凄そうな鋼鉄馬車だ。
大きさだけで言えば、俺の乗っている荷馬車の3倍はある。
俺が感動しながら鋼鉄馬車を見ていると、3人の亜種の美少女達が
近寄って来た。
﹁葵様。もしよろしければ、私がこの鋼鉄馬車のご説明をしましょ
うか?﹂
ステラが軽くお辞儀をしながら俺にそう告げる。
﹁うん、お願いステラ﹂
﹁かしこまりました葵様。この鋼鉄馬車は、皆様の予想通り、普通
の鋼鉄馬車ではありません。全て魔法で強化した素材でつくられて
いまして、この鋼鉄馬車自体が、Aランクのマジックアイテム並の
強度を誇ります。ですから、少々の魔法の攻撃や、斧や剣、弓矢の
攻撃などは、効きません。板バネも上質な魔法強化物を使って居ま
して、乗り心地は、王女様の乗る馬車にも引けを取りません﹂
その説明に、一同がオオ∼と感嘆の声を上げる。まあ⋮エマは解っ
てないだろうけど、何故か驚いている。
﹁では中を見て下さい﹂
ステラの言葉に鋼鉄馬車の中を見る。
すると、荷台も3倍近くあるが、実際の荷台の大きさは2.5倍程
で、残りは間仕切りがしてあって、そこには人が宿泊や、乗れる様
に絨毯が敷かれ、長椅子の様な物も付いている。
﹁この部屋は、宿泊や人がゆったりと乗る為のスペースです。この
鋼鉄馬車の内部には、水の魔法球と、火の魔法球が取り付けられて
います。なので、暑い時や寒い時は、魔法球を使って、温度を調節
できますので、どこでも快適に進める事が出来ます。勿論、荷台に
も魔法球の効果があるので、鮮度は保ちやすくなります﹂
1211
ステラの説明に、再度オオ∼と感嘆の声を上げる一同。⋮エマはま
た解ってなよね?解ります。
そして⋮ルナちゃん。君も口を開けてク∼と鳴いているけど、食べ
物の話じゃないよ?
﹁とりあえず、凄い馬車なのは解ったよステラ。ありがとうね﹂
俺が微笑みながら礼を言うと、何故か気恥ずかしそうに、頷くステ
ラ。
その時、リーゼロッテが珍しく渋い顔をしているのが気になった。
﹁どうしたのリーゼロッテ。何か気になる事でもあるの?﹂
﹁ええ⋮葵さん。私⋮失態を犯してしまいましたわ﹂
そう言って、少し悔しそうにするリーゼロッテ。
﹁この鋼鉄馬車⋮とても素晴らしい物で、価値の高い物ですが⋮す
ぐには使えませんわ﹂
﹁え!?リーゼロッテどうして?﹂
﹁だって⋮このかなりの重量のある鋼鉄馬車を引けるモノが、私達
には⋮居ませんわ﹂
﹁⋮あ⋮﹂
リーゼロッテの言葉に、皆が短い声を出して顔を見合わせる。
そうだ!この鋼鉄馬車⋮凄い良い物だけど、重量が重すぎて、馬の
リーズやラルクルだけでは、とても引けない。
この鋼鉄馬車に人を乗せて、そこに更に商品を積んで引けるモノな
ど限られる。
ストーンカクラスの力の有る魔獣じゃないと、とても引けない。
馬を沢山繋げて引っ張るてもあるけど、馬用の水が沢山いるから、
実用的ではない。
1212
﹁⋮ストーンカって⋮一匹⋮幾ら位するのかな?﹂
﹁確か⋮金貨20枚はするかと⋮﹂
俺の言葉に、申し訳なさそうにミーアが俺に教えてくれる。
それを聞いたマルガにマルコが驚きながら、
﹁金貨20枚!!大変ですご主人様!お金が一杯いるのです!﹂
﹁ストーンカってそんなに高いの!?﹂
マルガとマルコは、口をぽかんと開けながら、只々鋼鉄馬車を眺め
ていた。
﹁条件にストーンカを付けなかった私の失態ですね﹂
﹁いやリーゼロッテのせいじゃないよ。俺も冷静じゃなかったしさ。
⋮まあ、この鋼鉄馬車は使わずに、売ると言う方法もあるし、とり
あえずは、馬車置き場に停めておこう﹂
俺の言葉に頷く一同は、俺達の荷馬車を馬車置き場に停め、馬のリ
ーズとラルクルを鋼鉄馬車に繋ぐ。
そして、合図を出すと、ゆっくりと動き出す鋼鉄馬車。
丈夫で力のある品種の重種馬である、リーズとラルクルをもってし
ても、ゆっくり引くのがやっとと言う感じだ。
ムウウ⋮丈夫だけど、凄い重量だね、この鋼鉄馬車は。
それに条件で付けなかったとして、ストーンカをつけない事に、ヒ
ュアキントスの少しの嫌がらせを感じるね。まあアイツは⋮今はそ
れどころじゃないかもしれないけどさ。
ストーンカ⋮金貨20枚⋮どこかから⋮お金降ってこないかな⋮ガ
ク⋮
なんとか鋼鉄馬車を馬車置き場に停め、馬小屋にリーズとラルクル
を繋ぎ、いよいよ格調高い宿舎の中に入る。
1213
﹁わあああ!!!すごく大きいよ∼!!﹂
嬉しそうにキャキャとはしゃいでいるエマ。その頭の上で何故か得
意げなルナ。
﹁とりあえず、まずはこの宿舎を散策しようか。部屋数がどれくら
い有るか、どんな部屋が有るか、皆で手分けして調べよう。じゃ∼
3階は俺とマルガ。2階はリーゼロッテとマルコ。1階はステラ、
ミーア、シノンの3人ね。エマとレリアさんは、調べ終わるまで、
適当に遊んでいて下さい。﹂
﹁すいません葵さん。お言葉に甘えさせて貰います﹂
﹁エマここで一杯お母さんと遊んでるから、みんないってらっしゃ
い∼﹂
そう言って手を振るエマに皆が癒された所で、それぞれ分担して宿
舎を調べていく。
俺と2人で3階に向かうマルガは、俺と腕組みをしながら、上機嫌
で鼻歌を歌いながら、嬉しそうに尻尾をフワフワさせている。
﹁ご主人様∼。本当にこの宿舎は大きのです∼﹂
﹁本当だね∼。部屋数もかなり有るよね﹂
俺とマルガはキョロキョロしながら3階を散策していく。
造りは古いが、綺麗に装飾された焼きレンガで作られた建物は、夏
だというのに、少しひんやりしている。恐らく、壁が分厚いのであ
ろう。外の気温をある程度和らげているのが解る。
俺とマルガは1室1室見て回る。きちんと、家具もつけられている。
ベッドにテーブルに椅子。クローゼットにソファーが1つ。暖炉も
あり、小さな机まである。どうやら8帖位のこの部屋が、普通の部
屋の造りらしい。
そして、廊下の一番奥の角部屋に入ると、そこは大きな部屋で、2
0帖位の大きさがあった。
1214
﹁ここは広い部屋だね﹂
﹁そうですね∼ご主人様∼。⋮あ!この部屋は、魔法球が取り付け
られています!﹂
マルガの指をさす所を見ると、そこには水の魔法球と、火の魔法球
が取り付けられていた。
水の魔法球は、温度を下げる効果を出す事が出来る。火の魔法球は
温度を上げる効果を出す事が出来る。部屋につけられているこれら
は、言わば温度調節の為の物、つまり、エアコンの様な物だ。
消耗品で価格はかなり高いけど、このクラスの魔法球なら、毎日使
っても、5年は効果を得られるだろう。
﹁よし!この部屋は俺達の部屋にしよう!気温も調節出来るから、
過ごしやすいし、広いからね!﹂
﹁それは凄いです∼!私嬉しいのです∼!﹂
そう言って俺に抱きつくマルガの頭を優しく撫でると、嬉しそうに
尻尾を振っているマルガ。
俺とマルガは3階を散策し終わって1階に戻ると、皆が戻って来て
いた。
﹁皆どうだった?3階は⋮普通の部屋が15室に、普通の部屋が3
つ分位ある部屋が一つ。合計16室だったよ﹂
﹁2階も同じでしたわ葵さん。大きな部屋には、魔法球が取り付け
てありました﹂
﹁と言う事は、2階と3階で⋮個室が30部屋に、魔法球付きの大
きな部屋が2つか。結構部屋は一杯あるね∼。1階はどうだった?﹂
﹁はい。1階は⋮普通の部屋が3つ、会議室の様な部屋が4つ、応
接室が1つ、調理場が1つに、倉庫が4つ、そして⋮大きな湯浴み
場が3つですね。会議室や応接間には、それぞれ魔法球が取り付け
1215
られていました。当然湯浴み場にも、湯を沸かす火の魔法球が取り
付けられています﹂
それを聞いた、若干3名が、飛び上がって喜ぶ
﹁広い湯浴み場で⋮ウフフ⋮楽しみなのです∼﹂
﹁大きな湯浴み場なら泳げるよね!?なんか⋮どこかの貴族様みた
いで嬉しいよ葵兄ちゃん!﹂
﹁エマも泳ぐ∼!お母さんと一緒に泳ぐ∼!!﹂
マルガにマルコ、エマの3人は嬉しそうにキャキャとはしゃぎ、や
っぱりエマの頭の上で何故か得意げなルナ。それを見て微笑み合う
俺とリーゼロッテ。レリアも嬉しそうなエマを見て、幸せそうだっ
た。
﹁じゃ∼部屋割りを決めようか。俺とマルガとリーゼロッテは同じ
部屋でいいとして⋮あ⋮部屋は一杯開いてるから、皆勝手につかっ
て貰おうか。俺の部屋は3階の一番奥の角部屋、大きな部屋にする
から﹂
﹁じゃ∼エマは∼お母さんと一緒の部屋にする∼!いい?葵お兄ち
ゃん!﹂
勿論!エマを1人で寝かせるのは気が引ける!レリアにしっかりと
管理して貰わないと!
﹁うん、いいよ。マルコは空いてる部屋を適当に選んで。ステラ、
ミーア、シノンもそれぞれ勝手に部屋を選んでね﹂
その俺の言葉を聞いた、ステラ、ミーア、シノンは顔を見合わせる
と、申し訳なさそうに俺に言う。
﹁あの⋮葵様。出来れば⋮私達は3人同じ部屋でお願いします﹂
﹁え!?何故?部屋を広く使えた方が良いんじゃないの?﹂
﹁いえ⋮私達3人は⋮小さな頃からずっと3人一緒でした。なので
1216
⋮一緒の部屋の方が⋮落ち着くのです﹂
ステラが気まずそうに言うので、俺は苦笑いしながら
﹁その辺はステラ、ミーア、シノンに任せるよ。部屋は一杯空いて
るから、好きにして。それから⋮ステラにミーアにシノン。前も言
ったけど、そんなに気を使わなくていいよ。俺達はもう仲間なんだ。
今は俺の手から離れたら危険だろうけど、頃合いを見計らって、奴
隷から解放してあげるよ。その頃には、俺も色々な品物を取引出来
る様になるつもりだから、君達を売らなくても、十分に利益はだせ
そうだしさ。今暫く我慢してくれればいいよ。その間だけ、俺の仕
事を手伝って貰えたらいいから。解った?﹂
そう言いながら、ステラとミーア、シノンの頭を優しく撫でると、
3人は瞳を潤ませながら黙って頷いていた。
それに優しく微笑むと、ステラ、ミーア、シノンの3人は、初めて
見せる優しい微笑みを俺に返してくれた。
﹁後は⋮湯浴み場3つを分けて⋮この学院の料理長に、俺達の食事
を幾らで作って貰えるか交渉するだけかな?﹂
俺が考えながら言うと、ヨワヨワしく右手を上げて、引っ込み思案
のミーアが俺に言う。
﹁あ⋮あの⋮葵様。もし、よろしければその交渉を、私達3人に任
せて貰えませんか?﹂
ミーアは俺を真剣な瞳で見ていた。俺はミーアに近づき、
﹁じゃ∼ミーア達にお願いするよ。交渉出来たら、俺達の部屋に報
告に来てね﹂
そう言って微笑みながらミーアの頭を優しく撫でると、嬉しそうに
瞳を輝かせるミーア。
1217
﹁はい!葵様!ミーア達にお任せ下さい!﹂
何処か嬉しそうなミーアは、ワーキャット独特の、細く柔らかそう
な紫色の毛並みの尻尾を、チョコチョコさせていた。
それに微笑むと、少し気恥ずかしそうに、顔を赤くしているミーア
に少しドキッとしてしまった俺。
﹁じゃ⋮お願いして、皆適当に解散で⋮﹂
苦笑いをしている俺を、少し楽しそうに見ているミーア達を残して、
俺は部屋に戻るのであった。
部屋に戻った俺達は、それぞれの荷物を部屋に運び、整理をしてい
た。
皆もそれぞれ決まった部屋に行き、同じ様に整理している事であろ
う。
今日は皆で話し合って、ゆっくりとする事にして、明日、皆が必要
な物を買いに行く事になった。
ミーア達が料理長と交渉してくれた結果、生徒に出している食事と
同じ物を、普通の食堂で食べる様な価格で、俺達も食べる事が出来
る様に交渉してくれた。また挨拶に行った時にでも、良くしてくれ
た料理長に礼を言っておこう。
そんなゆっくりしていた俺達は、ミーア達が持ってきてくれた夕食
を食べ、これからこの世界に来て初めての湯浴み場、つまり、お風
呂に向かう為に準備を終えて、1階の俺達専用の湯浴み場の入り口
に来ていた。
この湯浴み場は3つ有り、どうやら元々、男子生徒用、女子生徒用、
1218
そして、宿直の職員用の3つだったらしい。
そして、俺の権限︵我儘︶で、職員専用の湯浴み場は、俺達専用に
して、他の湯浴み場は、そのまま男子用と女子用に分けたのだ。
やっぱりさ⋮好きな女の子と一緒に湯浴み場⋮お風呂なんだから⋮
誰にも邪魔されたくは無いのです!
そんな事を考えながら、湯浴み場に入っていく、俺とマルガとリー
ゼロッテ。
湯浴み場も更衣室も全てレンガ造りの風格あるその造りに、顔を見
合わせて微笑み合う俺とマルガ、リーゼロッテ。
小型の桶に石鹸、頭洗い液、それに体を洗う為に持ってきた布に、
歯を洗う歯木と房楊枝、ミントやアイリスを粉末にして作っている
歯磨き粉を持ってきて居た。
小型の桶に入ったそれらを置いて、更衣室で服を脱いでいく。
スルスルスルと、後ろで聞こえる、マルガとリーゼロッテの服を脱
ぐ音に、少しドキドキしながら脱ぎ終わり振り返ると、そこには、
一糸纏わぬ、女神の様な美少女2人が、その美しい女体を俺に晒し
ていた。
少し恥ずかしそうに、モジモジしているマルガと、ニコっと微笑み
ながらも、顔を赤くしているリーゼロッテ。そんな2人が可愛くて、
思わず俺も微笑んでしまう。
﹁じゃ∼湯浴み場に入ろうか!﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
嬉しそうに返事をしたマルガは、俺の右腕にしがみつく様に、体を
密着させる。その反対にはリーゼロッテが俺の腕に抱きつく。
マルガとリーゼロッテの乙女の柔肌の感触を味わいながら、湯浴み
場の扉を開けて、その中に入って行くと、マルガが喜びの声を上げ
る。
1219
﹁わああああ⋮大きな湯浴み場なのです∼﹂
マルガの感動の声に俺とリーゼロッテも頷く。
その湯浴み場は、広さは25帖位であろうか。大きな風呂に、体を
洗うスペースも大きく作られており、火の魔法球で、程良く暖めら
れたお湯が、かすかに湯気を湛えている。グリフォンを象った銅像
の口からは、火の魔法球で暖められたお湯が流れ出ている。
綺麗に装飾された壁や床、天井を見ているだけで、何処かのお金持
ちになったかの様に錯覚してしまう。
そんな光景を見て、マルガは我慢出来なかったのであろう。ウズウ
ズしながら、金色の毛並みの良い尻尾を、ブンブン振っていた。
﹁マルガ湯の中に、入ろうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
嬉しそうに返事をしたマルガは、テテテと走って、湯の中に飛び込
んで行った。
ドボンと音をさせて飛び込んだマルガは、その気持ち良さに、口元
がニマニマになっていた。
﹁ご主人様!ものすごく気持ち良いです!ご主人様も早くです∼!﹂
余りに嬉しそうに誘うマルガに、俺とリーゼロッテは微笑み合いな
がらマルガの元に向かう。
そして、湯の中に入ると、その余りの気持ち良さに、俺まで口元が
緩む。
ふとリーゼロッテを見ると、珍しくリーゼロッテも同じ様に、口元
を緩ませて微笑んでいた。
もの凄く気持ち良い⋮
こうやって、湯船につかるなんて、地球に居てた時以来だよ。
この世界の水は貴重で、蛇口をひねれば、すぐに水が出るわけでも
1220
ない。
すぐ傍にある、ロープノール大湖からの豊富な水を、町に引きこん
で居るからこそ出来るのだろう。
そんな事を思いながら湯につかっていると、リーゼロッテが俺に体
を寄せてくる。
リーゼロッテの豊満な胸や、その絹の様な乙女の柔肌を、俺に余す
こと無く味あわせてくれるリーゼロッテ。俺がリーゼロッテの顔を
見ると、ニコっと優しく微笑み、俺の唇に吸い付くリーゼロッテを
抱きしめる。
リーゼロッテの柔らかく甘い舌が、俺の口の中に滑りこんできた。
リーゼロッテの舌を味わいながら、リーゼロッテの豊満な胸を鷲掴
みにすると、少し身を悶えさせながら、ピクっと体を反応させてい
る。
そんな抱き合っている俺とリーゼロッテの傍に、バシャバシャと音
をさせながら、何かが泳いできた。
﹁ムウウ⋮ご主人様にリーゼロッテさん⋮ずるいです∼。私も⋮ご
主人様と⋮キスしたいです⋮﹂
俺とリーゼロッテが抱き合っているのに気がついたマルガは、シュ
ババと泳いできていたのだ。
﹁マルガが余りに気持ち良さそうに泳いでたからさ。マルガをのけ
者にしてた訳じゃないよ?⋮おいで⋮マルガ﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮﹂
嬉しそうに、透き通る様なライトグリーンの瞳をトロンとさせなが
ら、俺の胸に抱きつくマルガの口に吸い付く。
マルガの顎を掴み、強引に舌をねじ込むと、俺の舌を美味しそうに
味わいながら、必死に舌を絡めて味わっているマルガが愛おしい。
唾を一杯飲ませて上げると、コクコクと嬉しそうに喉を鳴らすマル
1221
ガ。
その反対からは、リーゼロッテが俺の耳や頬、首筋を丁寧に、唇と
舌で舐めていて、ゾクゾクとした快感が俺の体を走る。
当然、俺のモノは既に大きくなっていて、ピクピクと脈打っていた。
そんな俺のモノを、嬉しそうに優しく握るマルガとリーゼロッテ。
﹁ご主人様⋮今日は⋮一杯して欲しいです⋮﹂
﹁私もですわ葵さん⋮葵さんの⋮モノで一杯⋮﹂
﹁⋮解ってるよ、マルガ、リーゼロッテ。今迄選定戦で可愛がって
上げれなかった分、一杯可愛がってあげる。⋮今日は折角の湯浴み
場だから⋮色々⋮仕込んであげるからね⋮﹂
俺のその言葉に、艶かしい瞳で俺を見るマルガとリーゼロッテを、
湯から出して、床に柔らかい布を敷く。
﹁じゃ∼俺はここに寝転がるから⋮マルガとリーゼロッテは⋮愛し
あいながら⋮体に泡を一杯付けて⋮﹂
俺の言葉に、赤くなりながら頷くマルガとリーゼロッテ。
マルガとリーゼロッテは俺に言われた通りに、石鹸を泡立て行く。
そして、その泡で互いの体を洗い合う、マルガとリーゼロッテ。女
神の様な美しい2人は、身を悶えさせながら、お互いの体を洗い合
っていく。マルガは余りの気持ち良さに我慢出来なくなったのか、
リーゼロッテの可憐な唇に吸い付く。それを優しく慈しむ様に、ア
ワアワになっているマルガを抱きしめ、マルガと舌を絡めているリ
ーゼロッテ。
お互いに胸を洗い合い、乳首を刺激しあって、その華奢な手がそれ
ぞれの秘所に伸ばされる。
甘い吐息を上げながら、白い泡に包まれた2人の女神は、お互いの
クリトリスを愛撫しあっていた。
﹁マルガさん⋮とても⋮お上手ですわ⋮﹂
1222
﹁リ⋮リーゼロッテさんも⋮とても⋮気持ち良いです⋮﹂
2人の女神の、余りにも艶かしく、淫らなその姿に、俺も我慢がで
きなくなってきた。
﹁じゃ∼マルガにリーゼロッテ。その体中についた泡で、体を使っ
て俺を綺麗にして﹂
その言葉を聞いた2人の女神は、その艶めかしさを、より一層際立
たせて俺にその女体を味合わせる。
﹁体をの全てを使って、オレを洗うんだ。勿論⋮3人でキスしなが
らね﹂
そう言って、マルガとリーゼロッテの顎を強引に掴み、オレの口元
に持ってくると、オレの口に吸い付くマルガとリーゼロッテ。マル
ガとリーゼロッテの舌を味わいながら、2人に体で奉仕させる。
﹁そう⋮泡まみれの胸を使って⋮オレの腕を⋮秘所に擦り付けて洗
うんだ﹂
俺の指示に、嬉しそうに頷くマルガとリーゼロッテ。
リーゼロッテトマルガの胸の感触が、俺の体を柔らかく包む。両足
に挟まれた、両手を必死に両足で挟み込み、秘所を擦り付けるマル
ガとリーゼロッテは、クリトリスを刺激されて気持ち良いのか、膣
から蜜の様に愛液を滴らせている。
そんな快楽に浸る、マルガとリーゼロッテは、空いている手を使っ
て、俺のモノを泡まみれの柔らかい手で刺激していく。
マルガとリーゼロッテに体中で奉仕され、3人でキスし合いながら
の愛撫に、久々の行為であった事も手伝って、我慢が出来なくなっ
てきた。
﹁マルガ、リーゼロッテ。イキそうだ!その可愛い口で⋮受け止め
1223
るんだ!﹂
俺はマルガとリーゼロッテの頭を強引に下腹部に持って行くと、俺
のモノに吸い付くマルガとリーゼロッテ。2人の口と舌で瞬く間に
絶頂を迎えた俺は、マルガとリーゼロッテの女神の様に美しい顔に、
俺の精をぶちまける。俺の体に激しい快楽の波が押し寄せ、マルガ
とリーゼロッテは、俺の精の香りを楽しむ様に、切なそうな顔で俺
を見ていた。
﹁気持ち良かったよ⋮マルガにリーゼロッテ。さあ⋮顔に付いてい
る俺の精を⋮舐め合って綺麗にして飲み込むんだ﹂
俺の許可にコクッと嬉しそうに頷くマルガとリーゼロッテは、お互
いの顔に飛び散っている、俺の精を舌で舐めとっていく。
﹁⋮俺の精を⋮口移しで⋮渡し合って⋮十分に味わってから飲み込
んでね﹂
俺の言葉にニコっと微笑むマルガとリーゼロッテは、綺麗に舐めと
って、口の中にある俺の精を、口移しをしながら、何度も互いに味
わっている。その艶かしい光景に、俺のモノはすぐに復活をはたす。
それを見たマルガとリーゼロッテは、口に含んでいた俺の精を、味
わいながらコクコクと飲み込んで、再度石鹸で泡立てた泡を体中に
塗り、俺の元に戻ってくる。
俺はその光景に、幸福感で満たされながら、下にリーゼロッテを仰
向けに寝かせ、その上にマルガを俯けに、リーゼロッテと抱き合う
様に、マルガをリーゼロッテの上に乗せる。
マルガとリーゼロッテは、我慢できなかったのか、俺に膣口を両手
で広げ、おねだりをする。
﹁ご主人様⋮ご主人様の立派なモノで⋮マルガを⋮犯して下さい⋮﹂
﹁私も⋮葵さんの立派なモノで⋮全てを犯して⋮貰いたいですわ⋮﹂
2人の女神の、余りにも愛おしいおねだりに、俺の性欲は一気に高
1224
まる。
﹁解ったよ⋮マルガにリーゼロッテ。今日は⋮2人同時に侵してあ
げる⋮まずは⋮マルガからね!﹂
俺はそう言うと、マルガの腰を掴み、バックから一気に奥まで挿入
する。
﹁うはあああんんんっつうんん﹂
マルガは大きく体を仰け反らせて、俺のモノによる快楽に身を染め
ていく。湯浴み場に、パンパンと乾いた心地良い音が響き渡る。
﹁マルガ気持ち良い?⋮もっと犯してあげる!﹂
﹁ハイ!ご主人様!もっとマルガを犯して下さい!﹂
﹁いいよ!一杯犯してあげる!リーゼロッテ、マルガを下から⋮気
持よくさせてあげて﹂
﹁はい⋮葵さん⋮﹂
俺の言葉にゾクゾクと体を震わせるマルガに、俺はバックから激し
く犯し、リーゼロッテが下から、マルガの胸や、クリトリスを刺激
していく。
﹁す⋮凄いです!!私⋮気持ち良いです!!!﹂
甘い吐息混じりに叫ぶマルガはの膣は、俺のモノをキュッと締め付
ける。
﹁じゃ∼次はリーゼロッテだよ。一杯犯してあげる﹂
俺はマルガの可愛い膣から物を引き抜くと、マルガの愛液のついた
ままのモノを、一気にリーゼロッテに捩じ込んでいく。
﹁うはんんんんんあんん﹂
リーゼロッテも大きく体を仰け反らせ、俺のモノに犯される喜びを、
1225
体中で感じていた。
﹁リーゼロッテさん⋮ご主人様に犯されて⋮とても気持ち良さそう
です⋮綺麗⋮﹂
﹁そうでしょマルガ⋮だからマルガも⋮リーゼロッテを可愛がって
上げて⋮﹂
﹁はい⋮解りましたご主人様⋮﹂
艶かしい声で返事をするマルガは、リーゼロッテの胸を愛撫し始め、
その小さな口で、リーゼロッテの舌に吸い付いている。
リーゼロッテも俺に犯され、マルガの愛撫が気持ち良いのか、身を
悶えさせながら、どんどんその快楽に浸っていく。
﹁じゃ∼交互に⋮犯してあげる⋮気持ち良いよ⋮﹂
俺の声に、ゾクゾクとした表情をさせるマルガとリーゼロッテ。
俺はリーゼロッテの膣からモノを引き抜くと、マルガに一気に挿入
する。
その一気に貫かれ犯される快楽に、マルガの体は、激しく身悶える。
そしてまた引き抜き、今度はリーゼロッテの膣に一気に挿入すると、
リーゼロッテも同じ様に、俺に一気に貫かれる喜びに、打ち震えて
いた。
俺はマルガとリーゼロッテの膣を交互に犯す。マルガの膣を暫く味
わっては、リーゼロッテの膣を味わう。マルガにすぐ挿入して、リ
ーゼロッテにすぐに挿入する。
繰り返し交互に犯される、マルガとリーゼロッテは、膣口をパクパ
クさせながら、俺のモノを来るのを待っている様であった。
繰り返し焦らされるマルガとリーゼロッテは、もう我慢できなくな
ってきたのか、両手で秘所を広げて、俺のモノを求め始める。その
可愛いおねだりに、俺の支配欲が増大する。
﹁⋮今日はどちらから⋮イカせて⋮俺の精を注ぎ込んで欲しい?﹂
1226
﹁最初はマルガさんからで⋮お願いしますわ葵さん﹂
﹁リーゼロッテさん⋮ありがとうです⋮﹂
﹁そのかわり⋮マルガさんも⋮後で私を一杯愛してくださいね﹂
艶かしく微笑むリーゼロッテに、嬉しそうに微笑むマルガは、舌を
絡ませながら、リーゼロッテの口に吸い付く。その光景に性欲が掻
き立てられた俺は、激しくバックからマルガを犯し始める。
﹁ふんんんんんう﹂
リーゼロッテとキスをしているマルガは、声にならない甘い吐息を
撒き散らせながら、俺のモノによる快楽に、身を任せている。マル
ガの腰を掴み、マルガの柔らかいお尻に激しく腰を振る俺は、マル
ガのクリトリスをキュッと掴む。
マルガは、ピクピクと小刻みに震え出す。リーゼロッテに胸も愛撫
されている事もあって、瞬く間に絶頂を迎えるマルガ。
﹁ご主人様!イカせて貰います!!!⋮イキます!!イクっつ!!
!!ご主人様大好き!!!﹂
そう叫んだマルガは、激しく体を硬直させて、絶頂を迎える。その
刺激で、キュンキュンと締め付けるマルガの膣の奥の奥、子宮に直
接精を注ぎ込む。俺の体に、激しい快楽が突き抜ける。
マルガは、リーゼロッテの上で、クテっとなって、恍惚の表情を浮
かべていた。
﹁マルガさんの⋮絶頂の顔⋮可愛かったですわ⋮﹂
優しくマルガにキスをするリーゼロッテは、マルガを抱きしめる。
俺はそれを見て、再度復活したモノをヌロロとマルガの可愛い膣か
ら引く抜くと、今度は一気にリーゼロッテの膣に捩じ込んで行く
﹁うはんんんん!!!!﹂
リーゼロッテも激しく身を悶えさせて、俺のモノによる快楽に身を
1227
染める。
俺はリーゼロッテを激しく犯しながら、マルガの耳元で囁く。
﹁今度はマルガが⋮リーゼロッテを可愛がってあげて⋮俺も一杯リ
ーゼロッテを犯してあげるから⋮﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮﹂
艶かしく返事をしたマルガは、激しく犯されているリーゼロッテに
愛撫を始める。
リーゼロッテの豊満な胸に吸い付き、乳首を舌で転がすマルガは、
リーゼロッテのクリトリスも同時に愛撫している。
﹁葵さん!マルガさん!私⋮気持ち良いです!﹂
﹁リーゼロッテさん本当に綺麗なのです⋮もっと一杯気持よくして
あげますね﹂
マルガは更に強くリーゼロッテに愛撫をしていく。そのいやらしい
光景に我慢出来なくなった俺は、リーゼロッテを激しく犯しながら、
マルガを抱きしめ、マルガの体を舌で味わいながら、リーゼロッテ
を犯していく。
余りにも激しく、強い快楽に身を任せていたリーゼロッテは、切な
そうに身をピクピクさせてきた。
﹁葵さん!私⋮私も、イカせて頂きます!!!!⋮イク⋮イキます
葵さん!大好きです!!!﹂
そう叫んだリーゼロッテは、大きく体を仰け反らせながら、絶頂を
迎え、それと同時に絶頂を迎えた俺は、リーゼロッテの子宮にも、
直接精を染みこませる。
激しく息をしているリーゼロッテに、優しくキスをするマルガ。
﹁リーゼロッテさんのイク顔も綺麗でしたのです⋮可愛いのです⋮﹂
﹁⋮嬉しいですわマルガさん⋮﹂
1228
恍惚の表情を浮かべながら、嬉しそうに微笑むリーゼロッテ。
俺はマルガとリーゼロッテの顎を掴み、マルガとリーゼロッテの舌
を味わい、3人でキスをする。
﹁今迄我慢してたから、今日は一杯マルガとリーゼロッテを可愛が
ってあげる﹂
﹁はい⋮ご主人様⋮一杯犯して下さい⋮﹂
﹁私も⋮もっと葵さんに⋮犯して欲しいですわ⋮﹂
2人の女神は、両手で自分の秘所を広げる。その女神の膣口から、
俺が注ぎ込んだ精液が滴り、愛液と交じり合って、キラキラ光って
いた。
﹁うん⋮一杯犯してあげる⋮大好きだよ⋮マルガ⋮リーゼロッテ﹂
俺の言葉に、これ以上無い微笑みで返してくれるマルガとリーゼロ
ッテ。
俺達は、初めての湯浴み場で、幾度も体を求め合い、愛しあうので
あった。
1229
愚者の狂想曲 32 新しい日常と3人の亜種の美少女
涼しい⋮
季節は夏なのに、ひんやりと冷たさを感じる。
その涼しさと、両腕に感じる乙女の柔肌の暖かさが、なんとも言え
ない心地良さを俺に与えてくれていて、何時まででも寝ていられる
様な、錯覚に囚われてしまいそうになる。
そう、ここは俺達の新しい新居、フィンラルディア王国が、世界に
誇る学び舎、伝統と由緒正しき学院、聖グリモワール学院の中にあ
る、割と大きな宿舎。
水と火の魔法球が取り付けられた部屋は、すこぶる居心地が良く、
常にエアコンを掛けている状態なので、汗一つかかずに熟睡出来る
程だ。
ふと広い部屋の窓に目を向けると、夏の日差しが目に眩しい。
この宿舎の窓は、羊皮紙張りの窓の外側に、この世界では割りと高
額なガラスの窓が付いている。
羊皮紙張りの窓は、日本で言うと障子位の明るさだが、ガラスは割
りと透明度が高く、夏の眩しい日差しが、これでもかと射しこんで
いた。
俺は両側に眠る、艶かしい寝衣に身を包んだ女神達にキスをする。
可愛い口を抉じ開けられ、舌を滑りこまされ、味合われているのに
気がついた女神達は、最高の微笑みを俺に向けながら、俺の瞳に自
分の姿を写す。
﹁ご主人様⋮おはようございます⋮﹂
1230
﹁葵さん⋮おはようですわ⋮﹂
﹁ク∼?クク?﹂
若干一名?、俺には何を言っているか解らなかったが、きっと挨拶
をしてくれていると納得した。
﹁おはよう、マルガにリーゼロッテ。今日も良い天気だよ﹂
俺の言葉に、窓を見てニコッと微笑むマルガとリーゼロッテ。2人
に微笑んでいる俺の頬を、ペロッと舐める、白銀キツネの子供、甘
えん坊のルナ。
﹁ルナもおはよう﹂
ルナ撫でると、どこか気持ち良さ気だった。
そんな俺を見ていたマルガとリーゼロッテは、俺に抱きつき、その
柔らかい乙女の柔肌を感じさせながら、朝の生理現象で大きくなっ
ている、俺のモノに優しく手を伸ばす。
﹁ご主人様⋮ご奉仕させていただきますね⋮﹂
﹁葵さんは⋮ゆっくりしていて下さい⋮﹂
リーゼロッテにゆっくりとベッドに寝かされた俺は、リーゼロッテ
にキスをされる。
リーゼロッテの甘く柔らかい舌が、俺の口の中を味わっている。俺
もリーゼロッテを味わい舌を絡める。マルガは、俺のモノを口の中
にふくみ、柔らかい舌とちっちゃな口で、俺のモノを愛撫していく。
﹁気持ち良いよ2人共⋮﹂
俺はリーゼロッテの豊満な胸を鷲掴みにしながら、マルガの頭に手
を添えて、マルガの口に向かって腰を軽く振る。
リーゼロッテの甘いキスを味わいながら、マルガの口と舌をモノで
味わう。
その幸福感から、俺は瞬く間に絶頂を迎え、マルガの可愛い口の中
1231
に、大量の精を注ぎ込む。
全ての精を、俺のモノから吸い出したマルガは、リーゼロッテに抱
きつくと、そのままリーゼロッテにキスをする。
マルガとリーゼロッテはキスをしながら、口移しに俺の精を、何度
も渡し合って、俺の精を味わう。
そして十分に俺の精を味わった、マルガとリーゼロッテは、コクコ
クと喉を鳴らして、精を飲み込み、全部飲みましたの確認を俺にさ
せる為、俺に口を開けていた。
﹁マルガ、リーゼロッテ。今日も気持ち良かったよ⋮﹂
代わる代わるマルガとリーゼロッテにキスをして、2人をギュッと
抱きしめて、その余韻に浸っていた。
着替え終わって、会議室の一つを食堂にする事にした部屋に向かう
と、そこには既に皆が座って朝食を食べていた。
﹁皆おはよう∼﹂
皆と挨拶を交わすと、ミーアが俺とマルガ、リーゼロッテの分の朝
食を持ってきてくれる。
その料理はなかなかで、生徒達が食べている物と、全く同じ物らし
い。
﹁じゃ∼食べようか﹂
﹁ハイ!ご主人様!いただきます!﹂
マルガは尻尾をブンブンと振り回しながら、朝食に襲いかかってい
る。
1232
その足元で、ミーアに入れて貰った朝食を、木の皿でマルガの様に
アグアグ食べているルナ。
そんな2人?の幸せそうな光景を見て、俺とミーアは微笑み合って
いる。
﹁そう言えば葵さん。今日は皆に必要な物を、買いに行かれるんで
したよね?﹂
﹁うん。朝刻中は買い物して、昼食をとってゆっくりしたら、一度
皆で、今後の方針を決めよう。人も増えたし、この宿舎の手入れも
あるしね。決めたい事は山積みだし﹂
リーゼロッテは俺の言葉に頷き、食事を食べている。
﹁でも、この食事さ、結構な材料を使って作っているのに、価格は
そこら辺の普通の食堂並って、かなりお得だよね。ステラ、ミーア、
シノンが交渉してくれたお陰かな?﹂
俺の言葉に、弱々しく右手を上げるミーアは
﹁あ⋮あの葵様、その交渉が上手く行ったのは、この学園の事情も
あったのです﹂
﹁事情?どんな事情なの?﹂
俺が首を傾げながら聞くと、ステラが一歩前に出て
﹁この聖グリモワール学院に通われている生徒様方、特待生又は、
厳しい試験を受けて入った方以外は、その殆どが、どこかの国の王
族や貴族、商家等の名家のご出身の方々ばかりで御座います。です
ので、その方々の口に入れる物に関して、失礼の無い様にしている
らしいのです。ですから上等な物を作っていると。それに作る量も、
常に多く余る様に作っているみたいなのです﹂
﹁常に多く余る様に?⋮何か⋮勿体無いね⋮﹂
俺の言葉に、朝食を頬張っているマルガがコクコクと頷く。それを
1233
見たミーアは、少し恥ずかしそうに
﹁な⋮なんでも、料理が余る事は問題無いですけど、足らないと大
きな失礼に当たるらしくて⋮﹂
﹁それはそうでしょうね。名家の人達の御機嫌を損ねる訳には、い
かないでしょうから﹂
リーゼロッテの言葉に頷くミーア
﹁そうです。ですから大量に余っている物を、安く仕入れたと、言
った所です﹂
ステラの言葉に、なるほど∼と一同が頷いている。
﹁⋮多額の学費を払っている人達の多い、聖グリモワール学院らし
いちゃらしいか。名家さん達は凄いね﹂
苦笑いしている俺を見て、皆がアハハと笑う。
朝食も食べ終わり、食後の紅茶を飲みながら、皆の予定を立ててい
く。
﹁じゃ∼皆の予定を聞いて、買い物に行こうか。朝刻中、何か用事
のある人いる?﹂
俺の言葉に、リーゼロッテが手をあげる。
﹁私はここ最近の取引の整理がしたいですわ葵さん。それと、昼刻
の会議で方向性を決めるのであるのなら、それについて幾つかシミ
ュレーションしたい事もあります。その資料も用意したいのですが﹂
﹁しみゅれ∼しょんってどんな食べ物なの?エマ解らない∼。マル
ガお姉ちゃん知ってる∼?﹂
﹁私も知らないんですよエマちゃん。リーゼロッテさん、しみゅれ
∼しょんと言うのは、どんな蜂蜜パンなのですか?﹂
エマとマルガのねえねえ攻撃を、優しい微笑みでサラリと躱してい
1234
るリーゼロッテ。
エマが食べ物だと勘違いしているのは、良しとしよう!
マルガちゃん⋮蜂蜜パンになっちゃったんだね!最近食べてなかっ
たもんね!本当に蜂蜜パン大好きなんだね!今日は一杯食べさせて
あげるから待っててね!
﹁リーゼロッテはしたいようにして。その方が俺も助かるし。他に
用事のある人はいない?﹂
俺の言葉に、皆が首を横に振る。その中にルナまで首を振っている
のに、プッと吹いてしまった。
﹁それじゃ∼俺が決めちゃうね。エマとレリアさん達は、マルガと
マルコと一緒に買い物で。ステラ、ミーア、シノンは俺と一緒に買
物ね。マルガにお金を渡しておくよ﹂
俺はマルガに金貨を2枚渡す。それを受け取って目を丸くしている
マルガとマルコ。
﹁エマとレリアさんの分だけじゃなくて、マルガとマルコも必要な
物を買ってね﹂
﹁ハイ!ご主人様!それで、どんな物を買ったら良いのですか?﹂
﹁う∼んとね、まずは日用品。それから衣料類一式ね。今、マルガ
やリーゼロッテの着ている様な、メイド服も2着ずつね。普段着も
揃えてあげて﹂
俺の言葉に、ハイ!と右手を上げて、元気良く返事をするマルガ。
﹁後は、蜂蜜パンと果実ジュースも一杯食べて良いから、ゆっくり
買い物してくるといいよ﹂
その言葉を聞いた、マルガにマルコ、エマは飛び上がって喜んでい
た。
1235
それを嬉しそうに見つめるレリアは俺に気がついて、嬉しそうに微
笑む
﹁それから皆。買い物が終わったら、役所で住民登録も済ませて来
てね。その手続費用も金貨2枚有れば、買い物しても十分に足りる
と思うから﹂
俺の言葉に頷く一同。
﹁じゃ∼買い物に行こうか。リーゼロッテ、お留守番よろしくね。
リーゼロッテも準備が出来たら、役所に住民登録しておいてね﹂
﹁はい葵さん。皆さんいってらっしゃい﹂
にこやかに微笑むリーゼロッテに見送られて、俺達は買い物をする
為に、王都ラーゼンシュルトの町に繰り出した。
﹁いや∼やっぱり、王都ラーゼンシュルトは大きな町だよね∼﹂
王都ラーゼンシュルトの町に繰り出した、俺とステラ、ミーアとシ
ノンの4人は、王都ラーゼンシュルトの、華やかで立派な街並みを
眺めながら、歩いている。
﹁そうですね葵様。流石はフィンラルディア王国の王都と言った所
でしょう﹂
若干後方から、お固い言葉が帰ってくる。
それに振り返ると、俺の僅か後方を、きちんと付いて来ている、ス
テラ、ミーア、シノン。
﹁⋮何故後ろを歩くのですか?﹂
1236
﹁私達は、葵様の一級奴隷です。主人の前を歩くなど⋮出来ません
⋮﹂
キリっとした感じで言うステラに、ミーアはどことなくモジモジし
ながら俺を見ていて、シノンはステラの腕の裾を少し掴みながら、
俺を見ていた。
オオウ⋮ここでも、主従関係ですか。言われればその通りだけど、
この状態で俺が喋ると、軽く独り言を言っている様に見えちゃわな
い?まあ⋮きちんと、返事をしてくれるだろうけどさ。
俺がわざわざこの3人と買い物に来たのは、親睦を深める為!
熱りが覚めたら、奴隷から解放してあげようと思っているけど、そ
れまでは仲間なんだしさ。楽しく行きたいよね?なので⋮最終奥義
発動なのです!
﹁そうか⋮主人の後ろをね⋮じゃ∼ステラ、ミーア、シノン、命令
です。俺の横を歩く事!解った?﹂
俺のその言葉を聞いた、ステラ、ミーア、シノンは、顔を見合わせ
て困惑していたが、奴隷にとって主人の﹃命令﹄は絶対。戸惑いな
がらも、俺の横に歩み寄るステラ、ミーア、シノン。
それに、満足した俺はステラ、ミーア、シノンに微笑みかけると、
どことなく恥ずかしそうにしている3人。
そんな感じで、日常の世間話をしながら歩いて行くと、初めの目的
地である、衣料店に到着した。
﹁俺は外で待ってるから、ゆっくりと選んで買ってくるといいよ。
お金は渡してあるやつを使えば足りると思うから﹂
﹁はい、かしこまりました葵様﹂
﹁手鏡や櫛、後欲しい物があったら、好きなの買ってくればいいか
ら。因みにこれも﹃命令﹄なのでよろしく﹂
俺のその言葉と微笑みを見て、ミーアとシノンが嬉しそうに顔を見
1237
合せている。
この3人は、王宮で奴隷の所有権を引き継いだので、何も荷物を持
っていなかった。
当然、彼女達の持っていた荷物が、ヒュアキントスから届けられる
はずもなく、着の身着のまま俺の物になってしまったから、何も持
っていないのだ。
﹁じゃ∼いってらっしゃい。それと、服はメイド服に着替えてきて
ね﹂
そう言って軽く手を振ると、嬉しそうにしているミーアとシノンに、
俺に礼を言うステラ。
そんな3人は、衣料店の中に入っていった。その後姿を見つめなが
ら、軽く溜め息を吐く俺。
﹃本当に良く教育されてるよね。熱りが覚めるまでと言っても、最
低1年位は期間がいるだろうし⋮ヒュアキントスの色んな取引現場
に一緒にいたのなら、どれだけ期間が経とうとも、俺の手から離れ
た瞬間に、消される事も考えられる。ある意味、腹心的な娘達だっ
たと思うし。そう考えれば、奴隷から解放するにしても、俺の傍、
つまり、最低でも俺の元で働いて貰った方が安全な気がする。そう
考えると⋮今後の事を考えて、もっと親睦を深めておいた方が良い
か⋮﹄
俺はそんな事を考えながら、タバコを吹かしていた。
女の子の買い物は時間がかかる。俺は日陰に腰を降ろし、晴れ渡る
夏空をボーッと眺めていた。
この国の夏は暑いが、日本程ではない。
コンクリートジャングルである日本の様な、ヒートアイランド現象
の様なものが無いし、湿度が割りと低いからだろう。
1238
この大都市、王都ラーゼンシュルトはレンガ造りの建物が殆どだが、
電気もなく、文化レベルの低い都市は、人工排熱が無い。
なので、日陰に入ると、涼しい風を感じ、気持良くて眠ってしまい
そうになる位だ。
そんな日陰で涼んでいると、ステラ、ミーア、シノンが帰って来た。
その両手には大きな荷物鞄が重たそうに持たれている。俺に﹃命令﹄
された通り、必要な物と、欲しい物を買ってきたのであろう。
﹁葵様、お待たせ致しました。ご命令通り、欲しい物と必要な物を
買わせて頂きました。有難う御座います﹂
ステラが堅苦しく俺に頭を下げると、ミーアとシノンも両手に荷物
を持ちながら、少しふらつき気味に頭をペコリと下げる。
﹁もうお礼はいいから、その両手に持っている、荷物鞄を貸して。
俺のアイテムバッグに入れるから﹂
そう言って、ステラ、ミーア、シノンの荷物鞄を取ろうとすると、
ステラが俺の前に立ち
﹁一級奴隷である私達の鞄を、主人である葵様に持たせるなど、恐
れ多くて出来かねます。私達の荷物は、私達で運びます﹂
さも当然の様に言うステラの言葉に、ミーア、シノンも頷いている。
﹁⋮いいよ。とりあえず、その荷物鞄を貸して。これも﹃命令﹄だ
から﹂
その言葉を聞いたステラ、ミーア、シノンは、再度顔を見合わせて
困惑していたが、﹃命令﹄には逆らう事が出来ず、渋々と言った感
じで俺に荷物鞄を手渡した。俺はそれをアイテムバッグにしまう。
﹁さあこれで歩きやすくなったでしょ。⋮それにしても⋮﹂
1239
俺はそう言って、ステラ、ミーア、シノンをマジマジと見つめる。
黒を基調としたメイド服は、どことなくシックな感じがするのだが、
膝上5㎝の膝丈のフリルスカートからは、赤い花柄のついたニーソ
タイプのストッキングが、黒いガータベルトで止められている。上
品で気品漂うフリルが強いアクセントになっていて、美少女のステ
ラ、ミーア、シノンにとても良く似合っていた。
﹁ステラ、ミーア、シノンとても可愛いよ。良く似合ってるね﹂
俺の素直な感想に、ステラ、ミーア、シノンの顔が赤くなる。その
なかで、ステラが気恥ずかしそうに軽く咳払いをすると、
﹁有難う御座います葵様。所で次は、どちらに向かわれるのですか
?﹂
﹁そうだね∼。服や日用品は買えたから、後は役所に住民登録に行
くだけかな?まあ⋮まだまだ約束の時間まではあるし⋮その前に、
あそこで休憩しない?﹂
そう言って俺が指差す方を見るステラ、ミーア、シノン。そこには、
蜂蜜パンを売っている露天が見える。
それを見て、嬉しそうな顔をしている、ミーアとシノン。そんな2
人を見て、少し咳払いをするステラの視線を感じたミーアとシノン
が、怒られたとシュンとしている。
﹁葵様が蜂蜜パンをご所望なら、私が買って参ります﹂
そう言って、露天に歩き出すステラの手を握って止める俺。
﹁いいよ。俺が買いに行って来るから。3人はここで待ってて﹂
﹁ですが⋮﹂
﹁因みにこれも﹃命令﹄です!﹂
ステラの言葉を﹃命令﹄で遮った俺は、困惑しているステラをおい
1240
て、露天に歩き出す。
露天で蜂蜜パンと、果実ジュース買い、ステラ、ミーア、シノンの
元に戻って来た。
﹁はい、これ食べて﹂
俺はステラ、ミーア、シノンに、それぞれ蜂蜜パンと果実ジュース
を渡す。
それを渡された、ミーアとシノンの口元が緩んで、嬉しそうだった。
﹁﹁葵様!頂きます!﹂﹂
﹁はい∼召し上がれ∼﹂
声を揃えて嬉しそうなミーアとシノンに微笑みながら言うと、ミー
アとシノンは美味しそうに蜂蜜パンを頬張って、果実ジュースで喉
を潤している。
満足そうなミーアとシノンを見ていると、なんだか微笑ましくなっ
てきた。
﹁ミーア、シノン美味しい?﹂
﹁﹁はい!葵様!とっても美味しいです!﹂﹂
声を揃えて返事をする嬉しそうなミーアとシノン。
﹁私⋮蜂蜜パンをずっと食べてみたかったんです。思ってた通り凄
く美味しくて⋮﹂
少し恥ずかしそうに言う引っ込み思案のミーアの言葉に、蜂蜜パン
を美味しそうに頬張っている、シノンがウンウンと嬉しそうに頷い
ている。
そうか⋮ヒュアキントスの侍女的な事をしていたステラ、ミーア、
シノンは、結構良い食事を食べさせて貰って居たかも知れないが、
蜂蜜パンの様な庶民の食べ物は、食べさせて貰えなかったのだろう。
1241
ヒュアキントス自体が大商家の御曹司だし、庶民の食べ物なんか口
にしなかったんだろうね。
一級奴隷は財産を持つ事が出来るが、それは仕える主人によっても
変わるし⋮
ヒュアキントスの事だ。ステラ、ミーア、シノンの3人に、給金は
勿論の事、お小遣いなんて上げて無かっただろうし。
そう考えると、ある意味二級奴隷や三級奴隷の様な扱いを受けてい
たのかも知れない。
﹁⋮そう、良かったね。蜂蜜パンと果実ジュースは、俺の周りの子
達は皆好きだしね。ミーアとシノンも、マルガ達と同じ様に、一杯
食べさせてあげるから、いつでも言ってね﹂
俺はそう言いながら、ミーアとシノンの口についていた蜂蜜を指で
拭いながら微笑むと、屈託の無い無邪気な微笑みを俺に向け、
﹁﹁はい!有難う御座います葵様!﹂﹂
声を揃えて微笑みながら返事をするミーアとシノン。
マルガやリーゼロッテには及ばないが、その無邪気な微笑みは、男
心をくすぐるには十分な威力を秘めていた。
俺は初めて心から微笑んでくれているミーアとシノンの頭を優しく
撫でると、マルガの様に尻尾を嬉しそうにフワフワさせ、顔を赤ら
めて気恥ずかしそうにしていた。
そんな俺とミーア、シノンを見ていた、上品に蜂蜜パンと果実ジュ
ースを食べていたステラは
﹁⋮葵様、余りミーアとシノンを、甘やかさないで下さい。私達は
あくまでも葵様の一級奴隷であり、葵様にお仕えする奴隷なのです。
ですから⋮﹂
その先の言葉を言おうとしたステラを遮って、ステラの口の端にほ
んの僅かについていた蜂蜜を指で拭う。
1242
ステラはハッなって、口元を手で拭いながら、顔を赤らめる。
﹁まあ⋮ステラの言う事は尤もだけど⋮俺は君達に、そんな事を特
に望んでいないんだよね。君達は少し先で奴隷から解放するつもり
でいるしね。普通に接してくれた方が良いんだけど?﹂
その言葉を聞いた、ミーアとシノンは嬉しそうに目を潤ませている。
しかし、ステラは少し考え、表情をきつくすると
﹁⋮葵様が、私達の事を気にしてくださって居るのは、重々理解し
ています。本当に有難く思っています。ですが⋮それは私達が⋮特
に葵様が私達の事を、お気に召されていないだけの事なのではあり
ませんか?つまり⋮居ても居なくても⋮同じと言う事⋮なのではあ
りませんか?﹂
ステラの言葉を聞いた、ミーアとシノンは、顔を見合わせて寂しそ
うにしていた。
ムウウ⋮確かにそうなんだけどね。
確かに、ステラ、ミーア、シノンは美少女だ。スタイルも良く、男
から見たら、犯したくなっても不思議ではない。
昔の俺ならステラ、ミーア、シノンを犯して、調教して、自分の好
きな様にしていたかもしれない。
でも⋮今はそんな気持ちは、実の所、余り無かったりもするのだ。
それは一重に、俺の事を大好と言って、全てを捨てて一緒にいてく
れる、マルガやリーゼロッテが居るからであろう。
俺もマルガやリーゼロッテが大好きだし、それに幸せを感じている。
そしてそれに、満たされているのだ。
そりゃ∼俺も男だし冗談では、エッチッチーな妄想をして、言う事
も有るだろうけど、でも実際にリアルで少女達を陵辱出来うるこの
世界に身を浸すと、そんな妄想は吹っ飛んでしまう。
1243
何故そう思うかの理由は簡単、妄想だと誰も傷がつかないが、実際
にソレを行うと、必ず傷を負う人が出来てしまうのだ。
ステラ、ミーア、シノンにしても、きっとヒュアキントスに酷い事
をされてきたのであろう。
そうやって行く事でしか生きていけない者に対して、どうこうしよ
うとは今の俺は考えていない。
俺は善人では無いけど⋮そこまでステラ、ミーア、シノン対して行
う気もない。
その理由は、ステラ、ミーア、シノンを犯したとしても、マルガや
リーゼロッテを犯す様な気持ち良さは得られないと思っているし、
ゾレが事実であると思うからだ。
大好きな女の子を犯す気持ち良さを知ったら⋮他の事は⋮特にどう
でも良くなっちゃうんだよね⋮
確かに、ステラ、ミーア、シノンは非常に優秀な侍女クラスに躾け
られているから、役に立つのかもしれない。
でも⋮心の底から俺に仕えてくれている、マルガやリーゼロッテに
は、いろんな意味で及ばないであろう。
マルガやリーゼロッテは、俺の為なら⋮きっとその生命さえ投げ出
そうとするだろうし、優秀さで言えばステラ、ミーア、シノンは、
地球の勉強をパソコンでしている頭の賢いリーゼロッテには、3人
がかりでも太刀打ち出来ないだろうしね。
俺はステラ、ミーア、シノンには、3人の安全を考慮して、俺の従
業員として働いてくれるだけで良いのが本音だ。
﹁まあ⋮ステラの言いたい事は解ったよ。でもステラ、ミーア、シ
ノンに興味が無い訳じゃないよ?君達は美少女で可愛いし、男なら
どうかしたくなると思うよ。でも、今の俺はソレを望んでいない。
君達が優秀である事も解ってるよ。だから⋮君達は、君達の幸せを
1244
考えて欲しいんだ。解った?﹂
俺の言葉を聞いた、ミーアとシノンは嬉しそうに俺に微笑みながら
頷くが、ステラはどこか納得の行かなそうな顔をしていた。
﹁⋮この話はこの辺にして、そろそろ役所に住民登録に行こうか﹂
俺の微笑みながらの言葉に、はい!と元気良く返事をした、ミーア
とシノンは、嬉しそうに俺の傍に来て一緒に歩き出す。
ソレを見ているステラは、何かを考えながら、少し離れて俺達の横
を歩くのだった。
買い物と、役所での住民登録を済ませた俺達は、宿舎の1階にある
4つ有る会議室の一つに集まっていた。
﹁皆買い物や、住民登録は上手く行った?﹂
﹁ハイ!ご主人様!買い物も、住民登録も、全て上手く行きました
!蜂蜜パンも一杯食べました!﹂
ハイ!と元気良く右手を上げて、幸せそうに報告するマルガに癒さ
れる。
﹁オイラも買い物と住民登録を済ませて、一杯食べさせて貰ったよ
!ありがとね葵兄ちゃん!﹂
﹁エマも∼!エマも一杯洋服とか買って貰ったよ∼!後ね∼一杯蜂
蜜パン食べた∼!お腹一杯∼!﹂
﹁本当に色々すいません葵さん﹂
レリアは嬉しそうにそう言うと、エマの頭を優しく撫でている。そ
れを見て微笑見合っているマルガとマルコ。
1245
﹁そうかそれは良かったよ。こっちもステラ、ミーア、シノンの買
い物も済んだし、住民登録もした。リーゼロッテも住民登録をした
様だし、予定通りこれからどうするかを、話し合おうか。リーゼロ
ッテお願いするね﹂
﹁はい葵さん解りましたわ﹂
そう返事をしたリーゼロッテは話し始める。
﹁では、始めます。まず⋮当面の問題は、私達の収入をどうするか
ですわ。普通に行商を繰り返すだけで、なんとか私達一級奴隷の人
頭税を支払う事は出来ますが、色んな諸経費を考えると、ギリギリ
の所。その様な事では、来年から始められる、無関税特権を行使で
きる2品の仕入れや開発に掛ける資金が、とても足りません。まず
は収入面の話からしたいと思いますが⋮どうですか葵さん?﹂
そう説明したリーゼロッテが、俺に答えを求めている。
そうなんだよね∼本当に一級奴隷の人頭税は高い。
マルガとリーゼロッテの人頭税位ならとは思っていたけど、今はス
テラ、ミーア、シノンが居る。
計5人で、年間金貨25枚。はっきり言って大金だ。
ステラ、ミーア、シノンの奴隷の階級を下げて、人頭税の安い、二
級奴隷や三級奴隷にする手もある。
でも⋮そうすれば⋮きっと美少女であるステラ、ミーア、シノンは、
町に出た瞬間に男達に攫われて、どこかで犯されまくる事だろう。
下手をすれば殺されるかもしれない。
二級奴隷や三級奴隷は、人頭税が安い代わりに、人権が守られてい
ない。
つまり、他の奴でも、金さえ主人に払えば、何をしても許される存
在なのだ。
1246
そんな状況下に、美少女であるステラ、ミーア、シノンを放り込め
ば、どの様な事になるかなど、火を見るより明らかだ。
一級奴隷であるからこそステラ、ミーア、シノンの安全は守られて
いる。ヒュアキントスの件もあるし、当分は一級奴隷から外せない
だろう。
﹁そうだね。リーゼロッテの言う通り俺も考えていた。でもステラ、
ミーア、シノンを一級奴隷から階級を下げる事を考えていない。安
全上の理由からね﹂
俺の言葉を聞いたミーアとシノンは、嬉しそうに瞳に涙を浮べてい
る。ステラは感謝の言葉を述べ、深々と俺に頭を下げていた。
﹁では⋮収入を上げる事が、目下の最重要課題になりますわね葵さ
ん。年末まであと半年。私達の人頭税だけで金貨25枚。今の私達
の所持金は、今日買い物をした分を差し引いて、金貨23枚程度。
このままでは、人頭税にも足りません﹂
リーゼロッテの言葉を聞いたエマは、口をポカンと開けながら、
﹁金貨25枚もお金掛るの∼?金貨25枚あったら∼蜂蜜パンどれ
位食べれる∼?﹂
﹁きっとお山みたいに食べれるのですよエマちゃん!凄いのですよ
!﹂
ウンウンと頷きながら言うマルガの言葉に、オオ∼と声を上げるエ
マ。
本当にマルガもエマも、蜂蜜パンの虜だね!また一杯食べさせてあ
げるからね!
﹁まあリーゼロッテの言う通りだね。俺達には収入を上げる事しか
無いのが現状だね﹂
﹁はい。大金を入手する手段も色々考えましたが、それに伴う危険
1247
度が高そうなので、今はその時期ではないと判断しました。なので、
ここは一つ、このフィンラルディア王国が、世界に誇る学び舎、伝
統と由緒正しき学院、聖グリモワール学院で商品を売出し利益を上
げる事に、着手してはどうかと考えました﹂
リーゼロッテの言葉に頷く一同。
この王都ラーゼンシュルトに就いて色々有ったので有耶無耶になっ
ていたが、この寮を借りる賃料代わりに、このグリモワール学院で
役に立つ商品の販売を約束していた。
この学院は世界中から生徒が集まっている、大きな学院。しかも、
金持ちが多い。
これを利用しない手は無いであろう。
﹁そうだね。この学院での売上を元に、資金を増やしていく手が、
1番手っ取り早いね。なにせ俺達は一応、このグリモワール学院の
客分職員だしね。まずはその方向性で行こう﹂
俺の言葉を聞いたリーゼロッテは微笑みながら頷くと、1枚の紙を
俺に手渡してきた。
それはいつもこの世界でお目にかかっている羊皮紙ではなく、パソ
コンとプリンターを使ってプリントアウトした、この世界にはまだ
存在していない地球の紙であった。
﹁そこに私が考えている、この学院で売り出す商品をリストアップ
してみました。目を通して貰えますか葵さん?﹂
俺はリーゼロッテから手渡された地球のA4の紙数枚を見て、その
内容に感嘆する。
なるほど⋮そう来たか。頭の回転の早いリーゼロッテらしい項目だ。
確かに地球の知識や情報は、莫大な資産になる事なのは、安易に想
像出来る。
1248
地球でも産業革命が起こった事により、急激に人口が増えた位なの
だ。俺達はそれだけの情報量を確かに抱えている。
しかし、それと同時に、大きなリスクもある。
如何にフィンラルディア王国の王女ルチアの専任商人で、ルチアの
協力が得られ様とも、俺達のその情報の価値を知る者が他に現れた
ら⋮その情報をめぐって、きっと大きな戦争になる。当然俺達の安
全も、保証されないだろう。
フィンラルディア王国が大国で強国であっても、他にも強国と呼ば
れる国は、多数存在する。
そんな国々を一気に相手をしてしまえば、いかにフィンラルディア
王国であっても、ひとたまりも無いであろう。守護神を持つ国も他
にもある。
同盟を結んでいるとはいえ、地球の歴史を紐解けば、同盟や契約、
約束事など、利益や野望の前には簡単に崩れ去るのが世界の理。そ
れだけの情報を俺達は抱えているのだ。
まさにパンドラの箱⋮なのかもしれない。欲望の詰まった⋮
リーゼロッテのリストアップしてくれた商品は、その事情を見事に
クリアしている。
急激な知識ではなく、その一歩手前の⋮疑われにくい商品の項目だ。
この商品全てを開発、売り出しをしても、ソレが地球の知識である、
つまり、どこかの異世界の知識だとは疑われにくい商品だ。流石は
リーゼロッテと言った所であろう。
﹁⋮相変わらず凄いセンスだねリーゼロッテ。少し羨ましいよ﹂
俺の苦笑いに、ニコッと嬉しそうに微笑むリーゼロッテ。
﹁とりあえず、リーゼロッテの上げてくれた商品の中で、学院に合
いそうな物から。わら半紙に鉛筆。それに算盤。他にも一杯リスト
1249
を上げてくれているけど、多くは手を付けられないから、まずはこ
の辺からでいいと思う﹂
俺の口から発せられる、聞いた事の無い商品に、ステラ、ミーア、
シノンが顔を見合わせて困惑している。
マルガとマルコは、﹃美味しい食べ物だったらいいね∼﹄と言って、
口をニヘラと開いていた。
エマに至っては、もう既に難しい話だったらしく、話の最初の方で
コクコクと首を揺らして、半分寝ていたのに気がついたレリアが膝
に抱き、その上でスヤスヤ眠ってしまっている。
そんな光景を見たリーゼロッテは楽しそうにクスっと笑うと、
﹁ではその3品を売り出す事で話を進めてよろしいでしょうか葵さ
ん?﹂
﹁うん問題ないよ。話を続けてくれるリーゼロッテ?﹂
俺の言葉に頷くリーゼロッテは、話を続ける。
﹁まずは⋮どの商品も、売り出されていない商品です。なので、仕
入れる事は出来ませんので、独自に開発出来る、施設や人員、資金
の援助を得なければなりません﹂
﹁と、なると⋮やっぱりどこかの商組合に入って、資金を融資して
貰った方が良さそうだね﹂
﹁私もそう思いますわ葵さん。確かに、元手の掛からない、情報を
売る事も考えられますが⋮売る相手が色々な事情で限られてしまい
ます。それに、私達も利益を上げるには、商組合への入会は必須だ
と考えます﹂
俺とリーゼロッテが頷いていると、マルガは可愛い小首を傾げながら
﹁ご主人様⋮商組合と言うのは、具体的にどの様なものなのですか
?﹂
﹁オイラも知りたい!商組合は具体的にどんな事をしているの?﹂
1250
マルガとマルコが、ねえねえとせがむ様に聞いてくる。
﹁商組合の事であれば、私がご説明しましょうか?﹂
﹁そうだね。あのヒュアキントスは大手の商組合、ド・ヴィルバン
商組合の、統括理事の息子みたいだし。そのヒュアキントスに仕え
ていたステラ達なら、商組合の事も詳しそうだし﹂
﹁解りました葵様。では説明させて頂きます﹂
そう言って、説明をしてくれるステラ。
この世界には、国に許可を得た、商組合が複数存在する。
それぞれの国で定める商取引法で決められていて、商取引許可を持
つ者が会員になる事が許され、商組合に入会する事によって、荷馬
車の台数の制限が無くなったり、店を多数持てたり出来るのだ。
商売を手広くするには商組合の入会が必須条件になってくる。
それと、他に重要な役割を果たしている。それは、資金の貸し出し
だ。商組合員は商組合から、交渉で資金を貸し出して貰えるのだ。
商組合員は商組合にお金を預けている。それは大金を持ち歩くのが
危険だからだ。
商組合員になると、銀行のキャッシュカードと、ネームプレートが
融合した様な魔法で出来た産物、商組合会員証が発行される。
この商組合会員証を持っていると、同じ商組合であれば、どこの国
や場所の商組合だろうと、お金を引き出す事が出来る。
魔法によって作られている会員証は、ネームプレートの財産管理と
同じ様に、お金の出し入れが全ての商組合の支店に書き換えられる。
複製も作れない、ネームプレート級のとんでもアイテムなのだ。
つまり⋮商組合は簡単に言うと、地球で言う所の銀行に近いものな
のだ。
大きな商組合になると、大貴族や、大商家、王族、果ては国自体に
1251
お金を貸していたりするので、大変力を持っていたりする。
あのヒュアキントスが強大な権力を行使出来たのも、父親が大手商
組合、ド・ヴィルバン商組合の、統括理事をしていたから。
全ての権力者と、商人に深く関わっている商組合は、この世界の経
済の根幹部分を支えている。
しかし、商組合にも色々あって、大小様々な商組合があり、潰れて
しまったり、合併や吸収されてしまう商組合も有るのは事実だ。
潰れてしまったりすると商組合に預けていたお金は帰ってこない。
地球では、例え潰れてしまっても、限度額はあるが預金が戻って来
たりするが、この世界では、それは保証されていない。潰れてしま
ったら、泣き寝入りになるのだ。
なので、大手商組合や、力のある商組合に人気が集まるのだが、そ
う言う商組合は、厳しい審査を受け、多額の保証金を商組合に入れ
ないと入れない。
しかも、商組合は1つしか入会を許さないと言う法律もあって、商
組合選びは難しい。
小さい商組合等は、審査を緩くして、沢山の商売人を集めている所
もあるが、そう言う商組合に入る様な商人は儲けが低く、余程数を
集めなければならないので、顧客の取り合いが激しく、競争の末、
潰れてしまう商組合が多かったりする。
力の有る商人や貴族、商家や王族は、全て大手の商組合や、力のあ
る商組合に入会しているので、小さな少組合は、小さな商売をして
いる商人のみを会員にしている所が多いのだ。
当然、小さな商組合では、多額なお金は借りれない。資金力の差も
あるが、貸し出す相手の信用性も低いので、貸せるお金も少ないの
が現状。
1252
小さな商組合は、信用度も低いので、その商組合に入会しているか
らと言って、信用してくれはしない。この様な事もあって、商組合
選びは商人にとって、かなり大切なのだ。
ステラの説明に、なるほど∼と頷くマルガにマルコ。因みにエマは
既に夢心地です。はい。
﹁⋮とりあえずは、商品を開発するのに色々と助力が欲しいし、商
組合選びもある事だから⋮ルチアやギルゴマさんに相談してみよう。
ギルゴマさんはもう、ルチアの専任商人に俺がなったのを知ってい
るだろうけど、きちんと俺お礼を言いたいしさ﹂
俺の言葉に頷く一同。
﹁ではこの件は、ヴァレンティーノ宮殿で開かれる晩餐会後に話を
してみませんか葵さん?﹂
﹁晩餐会後?前じゃダメなの?﹂
﹁どう言う人物か聞かずに会えば、初めは先入観なく、その人物を
感じる事が出来ます。その後に、ルチアさんやギルゴマさんにその
人の事を聞けば、違いも良く解る事だと思いますわ。それも勉強だ
と私は思っています﹂
そう言って、にこやかに微笑むリーゼロッテに、俺は苦笑いをしな
がら
﹁相変わらず抜け目がないね。リーゼロッテが傍に居てくれて嬉し
いよ﹂
﹁葵さんにそう言って貰う事が、何よりも嬉しいですわ﹂
﹁⋮でも、無理しちゃダメだからねリーゼロッテ。解ってるよね?﹂
﹁はい⋮解ってますわ葵さん﹂
そう言って嬉しそうに微笑む可愛いリーゼロッテ。
1253
﹁じゃ∼残りは⋮この宿舎の事だね。この宿舎は大きいし⋮とりあ
えずは、レリアとステラ、ミーア、シノンの4人で、清掃や手入れ
をしてくれる?無理しない範囲でやってくれればいいからさ。マル
ガとリーゼロッテ、マルコは俺と一緒に行商や冒険に行く事になる
から、この宿舎の事は4人に任せるよ﹂
俺の言葉を聞いたステラが俺に向き直ると、
﹁葵様。宿舎の管理は解りましたが⋮私達には他にも出来る事が有
ります。他の事も一級奴隷として、お手伝いをしたいのですが?﹂
﹁うん、今はその気持だけ貰っておくよ。ステラ達には、また別の
事をして貰うから﹂
俺の言葉を聞いたステラは少し唇をかんだ様に見えた。しかし、そ
れは一瞬で、すぐにいつもの表情に戻っていた。
﹁じゃ∼ある程度の話は決まった事だし、解散しようか。それから
⋮ヴァレンティーノ宮殿で開かれる晩餐会は全員出席にしといたか
ら。またルチアの使いの人が、色々してくれるみたいだから覚えて
おいてね﹂
俺の言葉に頷いた一同は、それぞれ夕食まで自由に過すのだった。
夕食を食べ終わった俺達は、4つ有るうちの会議室の1つを、皆で
寛げる部屋として使う事にして居た。水と火の魔法球がついた元会
議室であった部屋は、夏でも涼しいし、皆は喜んで使っている。
その寛ぎの間でゆったりと過ごした、俺とマルガ、リーゼロッテの
3人は、俺達の広い部屋に戻って来ていた。夜も更けてきた事だし
1254
そろそろ、湯浴みでもして、ゆっくりとベッドで、マルガとリーゼ
ロッテを可愛がってあげたいのです!まあ⋮湯浴み場でも⋮勿論し
ますけど!我慢出来る訳ありません。
﹁マルガ、リーゼロッテ。そろそろ⋮湯浴み場に行かない?﹂
俺は若干嬉しさを我慢しながら言うと、少し予想と違う言葉が返っ
て来た。
﹁私とリーゼロッテさんは準備をしてから、湯浴み場に向かいます
ので、ご主人様は先に入っていて貰えますか?﹂
少しソワソワしながら言うマルガの事を不思議に思いながらも、俺
は言われるままに一足先に湯浴み場に向かう。
ひょっとしたら⋮何か準備をしているのかも!マルガとリーゼロッ
テの事だから⋮俺の為に⋮エッチッチーな準備を⋮
そんなエロい妄想をして、ニヘラと笑いながら湯船に浸かって居る
と、誰かが俺達専用の湯浴み場に入ってきた。
俺はエッチッチーな準備をしたマルガとリーゼロッテが入ってくる
のだと思って、湯浴み場の入り口の方に振り返り、そこに居る子達
を見て、俺は固まってしまった。
なぜなら暖かいお湯の湯気に微かに包まれた、一糸纏わぬ姿で立っ
ているステラ、ミーア、シノンの姿がそこにあったからだ。
﹁あれ!?何故ここにステラ、ミーア、シノンが居るの?ここは俺
達専用の湯浴み場のはずだけど⋮あ!ひょっとして俺、女湯の方に
間違えて入っちゃった!?﹂
﹁⋮いいえ、ここは葵様方専用の湯浴み場で、間違いは御座いませ
ん。私達がここに入って来たのです﹂
美少女の裸体を俺に見せつけるステラが、さも当然と言うその言葉
に、俺は困惑をする。
1255
﹁はえ!?自分たちの意志で、この湯浴み場に来たの?⋮そんなに
こっちの湯浴み場に入りたいなら、言ってくれれば良かったのに⋮
言ってくれれば、時間をずらして入ったよ?と⋮とりあえず、俺は
上がるから、ゆっくりしていくといいよ﹂
俺はそう言い残して、湯船から上がり、体を洗うときに使っている
布でパオーンちゃんを隠して湯浴み場を後にしようとすると、ミー
アとシノンに両腕を掴まれ止められる。
﹁え?どうしたのミーアにシノン。何故俺を止めるの?それに君達
は⋮裸だし、俺に見られたら恥ずかしいでしょ?﹂
俺の言葉を聞いて、顔を赤くしながらも首を横に振り、俺の腕を離
そうとしないミーアとシノン。
﹁私達は、葵様の一級奴隷です。今夜は私達が湯浴み場で葵様にご
奉仕させて頂きます。これは、マルガ様やリーゼロッテ様の許可も
得ました﹂
俺はその言葉を聞いて、部屋でソワソワしていたマルガのことを思
い出した。
そうか⋮この事を知っていて、黙っていたんだ。マルガとリーゼロ
ッテは。
でもおかしい⋮マルガもリーゼロッテも、このような事を簡単に快
諾する様には感じないけど⋮
俺はそこに、マルガとリーゼロッテの何らかの意図が有ると思い始
めていた。
﹁⋮俺は君達に、夜の奉仕や湯浴み場での奉仕なんか、命令してな
いけど?﹂
俺は少しきつい表情をステラに向けると、それを見たミーアとシノ
ンは少し体を強張らせていたが、ステラは何くわぬ顔で俺を見返す
と、
1256
﹁はい、ご命令は受けては居ませんが、夜のご奉仕や湯浴み場での
ご奉仕は、ご命令など受けずとも、一級奴隷なら進んで行わなけれ
ばならない事。つまり当たり前の事なのです葵様﹂
そう言って、俺に近づき、俺の手を引いて、湯浴み場の床に敷いた
柔らかい布の上に俺を座らせる、ステラ、ミーア、シノン。
﹁私達は葵様の一級奴隷。この宿舎の清掃だけしているのであれば、
二級奴隷や三級奴隷にも出来る事。私達は一級奴隷なのです。葵様
に私達の価値を知って貰いたいのです﹂
﹁だからこんな真似してるって言うの?ミーアとシノンもそれでい
いの?﹂
俺が両腕に抱きついて離さない、真っ裸で俺に乙女の柔肌を感じさ
せているミーアとシノンに告げると、顔を赤くしながらも、コクコ
クと頷くミーアにシノン。
﹁その2人も私の話を納得しています。そして、私達も、一級奴隷
としてこれまで生きてきた誇りも有ります。それを葵様に⋮認めて
貰います﹂
﹁そんな誇りなんかの為に⋮自らの身体を差し出すと言うの?もっ
と、自分の体は大切にした方が良いと思うけど?﹂
﹁私達は⋮そうやって生きてきたのです⋮それを⋮今更変える事な
ど⋮出来ません⋮﹂
﹁⋮俺も男だよ?君達みたいな美少女にこんな事されて⋮我慢出来
ないかも知れないよ?﹂
﹁構いません⋮それが私達が⋮望んだ事なのですから⋮﹂
恥ずかしそうに顔を赤くして言うミーアの可愛さに、思わずドキッ
としてしまう。
﹁そうです。ではご奉仕させて頂きますね葵様⋮﹂
1257
ステラの言葉を合図に、一糸纏わぬ美少女達は、その手に石鹸を泡
立てていく。それで俺の体の隅々まで洗っていくステラ、ミーア、
シノン。その動きの無駄の無さと言ったら⋮
まさに完璧な連携で、俺をマッサージしながら洗っていく。その気
持ち良さに、眠たくなってくる位だ。
当然、美少女にそんな事をされている事もあって、俺のモノはムク
ムクと元気になっていた。それを見たミーアとシノンは若干顔を赤
らめながら、俺のモノを綺麗に優しく、その柔らかい手で洗ってい
ってくれる。
その優しい刺激に、俺のモノは快楽に浸りたくてピクピクと脈打っ
ていた。
﹁私達のご奉仕はどうですか?気持ち良いですか?﹂
懸命に体を洗ってくれるステラの言葉に、俺は何かが引っかかって、
俺の元気だったモノはシュンといつも通りのパオーンちゃんに戻っ
てしまった。
それを見たステラ、ミーア、シノンの顔が困惑に染まる。
﹁葵様、私達のご奉仕は気持よくなかったのでしょうか?﹂
恐る恐ると言った感じでシノンが俺に言葉をかける。
﹁いや気持よかったよ⋮﹂
﹁では何故⋮﹂
ステラが戸惑いの表情で俺に言う。
﹁君達がしている奉仕は、君達がヒュアキントスにしていた奉仕だ
ろ?それを考えたら⋮なんかつまらなくなってさ﹂
その言葉を聞いたステラ、ミーア、シノンの3人の顔が蒼白になる。
﹁⋮ほかの男に調教された私達では⋮永遠に⋮葵様にご奉仕で喜ん
1258
で頂ける事は出来ないと言う事なのですか?﹂
ステラが先程の自信をなくしたかの様な、力のない声で俺に語りか
ける。
その表情に、俺は眠っていた支配欲が沸々と湧いてくるのを感じて
いた。
﹁ううん。そんな事は無いよ。⋮俺が今回だけ⋮調教しなおしてあ
げる⋮もう⋮今夜は許して上げないから覚悟してね﹂
そう言いながら、右側から俺を洗っていたミーアの顎を掴み、顔を
引き寄せミーアの唇に吸い付く。
ミーアの口を舌で抉じ開け、ミーアの口の中を味わい、舌を絡みつ
かせる。
ミーアは体をピクっと反応させながらも、俺の体に抱きついて、必
死に俺の舌に応え様と舌を絡みつかせてくる。
そんな可愛いミーアを味わいながら、俺は違和感を感じていた。俺
はミーアから口を離し
﹁ミーア⋮ひょっとして⋮君はキスするの⋮初めてなの?﹂
﹁⋮はい。私は今初めて男の人とキスをしました⋮﹂
そう言って顔を赤らめながら、瞳をトロンとさせているミーア。
俺はヒュアキントスにきっちり調教されていると思っていたので、
少し戸惑っていると、オドオドしながらシノンが俺に告げる
﹁ヒュアキントス様は⋮私達の体に口をつける事はありませんでし
た。何時も私達が奉仕をするのみでしたので⋮﹂
その言葉を聞いて、ヒュアキントスの事を想像してみた。
たしかにやりそうだ⋮アイツは一方的に奉仕させるだけで、この子
達を本当に可愛がった事など無いのであろう。なんて可哀想な⋮
﹁そうなんだ、じゃ∼3人はキスするのも初めてだったんだね﹂
1259
俺の言葉に頷く3人。その表情を見た俺は、ゾクゾクと性欲が体を
支配してきているのを感じていた。
﹁そうなんだ⋮それは嬉しい誤算かな?じゃ∼シノンの初めても貰
っちゃうからね﹂
俺はそう言うと、シノンの顎を掴み、ミーアと同じ様に、その可愛
い唇に吸い付く。
シノンの口を抉じ開け、その中に舌を滑り込ませる。その先で発見
した、甘くて柔らかいシノンの舌を、蹂躙する様に味わっていく。
シノンも同様に、俺に左側から抱きつき、必死にオレの舌に絡みつ
かせている。シノンの舌を十分に堪能して顔を離すと、ミーアと同
じ様に、顔を赤くさせて瞳をトロンとさせているシノン。
﹁どうだったシノン初めてのキスは?﹂
﹁はい⋮気持良くて⋮なんだか⋮体が熱くて⋮フワフワします⋮﹂
﹁そう良かった⋮嬉しいよ。ミーアにシノン⋮またキスしていい?﹂
俺の言葉に、恥ずかしそうに頷くミーアとシノン。俺はそんな可愛
い2人に代わる代わるキスをしていく。
ミーアの柔らかく甘い舌を味わっては、シノンの舌を味わい、俺の
唾液を飲ませる。コクコクと喉を鳴らして俺の唾液を飲み込むミー
アとシノンに、俺の支配欲が掻き立てられる。
﹁じゃ∼3人でキスしようか﹂
俺はミーアとシノンの顎を掴み、俺の顔の前まで持ってこさせると、
その可愛い口を開かせ、舌を出させる。その光景に性欲が止まらな
くなり、俺とミーアとシノンは3人で抱き合ってキスを始める。
その余りの気持ち良さに、俺のモノはすっかり元気になっていた。
それを感じたミーアとシノンが嬉しそうな表情を浮かべる。
﹁3人でのキスはどうだったミーアにシノン?﹂
1260
﹁はい⋮とても気持ち良かったです⋮﹂
﹁私もキスがこの様に気持ちの良いものだとは⋮思いもよりません
でした﹂
恥ずかしそうに顔を赤らめているミーアとシノン。
﹁じゃ∼もっと気持ち良く⋮調教してあげる⋮﹂
俺は右手でミーアを抱きしめ、左手でシノンを抱きしめると、まず
はミーアの胸に口を就ける。
﹁っんあん⋮﹂
短い声を上げるミーア。俺はミーアの胸に舌を這わせて味わう。マ
ルガと同い年とは思えない位に発達した胸を弄びながら、ミーアの
可愛い乳首を舌で転がす様に丹念にいたぶると、右側から俺にギュ
っと抱きつきながら、その気持ち良さに体を捩れさせていた。
その反応を十分に堪能した俺は、シノンの豊満な胸にむしゃぶりつ
く。
﹁ああん⋮っん﹂
シノンも短く可愛い声を上げながら、俺の愛撫に身を悶えさせてい
る。リーゼロッテより僅かに大きいその豊満な胸を味わっていると、
左側からギュッ俺に抱きつくシノン。
少し肉付きの良い柔らかい乙女の肌が、俺を包み、性欲がどんどん
高まっていく。
そんな俺達3人の艶かしく愛し合っている姿を見ていたステラは、
戸惑いながらも、激しく瞳を揺らしていた。
﹁どうしたのステラ?俺に奉仕してくれるんじゃないの?﹂
﹁はい⋮ご奉仕致します葵様﹂
﹁じゃ⋮ステラは正面から⋮おいで⋮﹂
俺の言葉を聞いたステラは、顔を若干赤らめながら、俺の正面から
1261
抱きつく。
そんなステラの顎を掴み、当然の様にその口を抉じ開け、ステラの
口の中を味わう。
普段は良識を持ち、しっかりとしたイメージのあるステラではある
が、始めてのキスはぎこちなく、俺に調教欲を掻き立てさせる。
ステラにキスを教えこむように、丹念にステラの口の中を舌で味わ
い蹂躙していく。俺の唾液を流し込むと、ミーアとステラ同様に、
喉を鳴らして飲み込んでいくステラは、その瞳をトロンとさせて、
どことなく気持ち良さげであった。
﹁ステラ⋮始めてのキスは⋮どうだった?﹂
﹁はい⋮き⋮気持良かったです﹂
﹁そか⋮じゃもっと気持ちよくなろうね﹂
俺はステラの胸に吸い付くと、俺をギュッ抱きしめる両手に力が入
る。
始めて口で愛撫されているステラは、ミーアやシノン同様に、身を
捩れさせてその快楽に必死に抗おうとしている様だった。
﹁3人とも可愛いよ。もっと気持の良い事を仕込んであげるから⋮
お尻を俺の顔の前につき出して、四つん這いになるんだ﹂
その言葉を聞いたステラ、ミーア、シノンの顔は一層赤くなる。主
人である俺の命令に、顔を見合わせて恥ずかしがっていた3人は、
言われるままに俺にお尻を向ける。そして俺は、その光景に、至高
の喜びを感じる。
目の前には、全ての恥ずかしい所を、俺に見せている、美少女たち
の可愛いお尻が3つ並んでいるのだ。膣口は恥ずかしさからか、パ
クパクと口を開けたり閉じたりしており、恥ずかしい所を全て見ら
れて興奮しているのか、3人の膣からは蜜の様に愛液が滴っている。
俺は我慢できなくなり、たまらずにミーアの秘所に貪りつく。
1262
﹁あはあんん!!!﹂
声高に甘い吐息を上げるミーア。俺はミーアの膣を舐め、クリトリ
スを舌で刺激してあげると、ワーキャット独特の細い尻尾を軽く痙
攣させながら、その快楽に身を任せるミーアの膣口から、どんどん
愛液が滴ってくる。そして、ミーアのおしりの穴に舌を伸ばした時
に、ミーアが声を上げる
﹁葵様!その様な所⋮幾ら⋮葵様の物になって、全てを綺麗にした
といっても⋮そこは⋮﹂
俺はミーアの言葉に少し違和感を覚え、ミーアの秘所をじっくりと
見ると、膣口から膣内にかけて、赤くすれた様に、微かに腫れてい
た。
ふと、シノンやステラの秘所を見ると、ミーアと同じ様に、少し赤
く腫れている。
俺はこの子達が、俺の為にここまでしてくれていた事に感動する。
﹃この子達⋮俺の物になった時から⋮ずっと丹念に、自分の秘所を
隅々まで洗っていたんだ。それこそ膣の奥の奥、子宮まで綺麗に洗
い流す勢いで、秘所を何度も何度も洗ったのだろう。何度も洗って、
洗いすぎて⋮少し赤く腫れちゃってるんだ⋮それは一重に俺に満足
の行く奉仕をする為⋮なんか⋮可愛いな⋮﹄
俺は秘所を赤く腫らしている3人の気持が堪らなく嬉しくなって、
その赤く腫らしている膣を、優しく癒す様に愛撫していく。
右手でミーアの洗いすぎた秘所を優しく愛撫して、左手でシノンの
清潔にしすぎた、赤くなっている膣を愛撫してあげ、口と舌で、ス
テラの俺に満足して貰う為に頑張って何度も洗って赤く晴らしてい
る膣を癒す様に舌で味わっていく。
俺に可愛いお尻を向けてワンワンスタイルで身を悶えさせ、初めて
感じているであろう、口での愛撫を、抵抗なく受け入れていた。
1263
﹁葵様!私⋮気持ち良いです!こんなの始めてです∼!!﹂
引っ込み思案のミーアが、我を忘れたかの様に、甘い吐息混じりの
声を上げる。
﹁私もです葵様!葵様の指使いが優しくて⋮気持良くて⋮なんだか
⋮心が暖かくなります∼﹂
そう言いながら甘い吐息を吐くシノンは、ワーラビットの特徴であ
る、白くて丸い短い尻尾を、ピクピク動かしている。
﹁ステラも⋮気持ち良い?それとも俺の口と舌の愛撫じゃ不満かな
?﹂
﹁いえ!その様な事はありません!葵様に愛撫して貰って⋮とても
⋮気持が良いです⋮﹂
可愛い腰をくねらせながら、俺の愛撫に身を悶えさせているステラ
は、その膣口から湧き水の様に愛液を滴らせていた。
俺はそんなステラ、ミーア、シノンが可愛くなり、愛撫するのにも
力が入る。
3人のクリトリスをギュッと刺激していくと、ステラ、ミーア、シ
ノンの体はピクピクと痙攣を始める。
俺はそれを感じて、より一層愛撫を激しくすると、3人は同時に甘
く、高い声を上げる。
﹁﹁﹁うはあああああああああんん!!!!﹂﹂﹂
声を揃えて、体を大きく仰け反らせたステラ、ミーア、シノンは、
絶頂を迎える。
恐らく今迄、絶頂など感じた事は無かったのであろう。その体を大
きく揺らしながら、大きく息をして、絶頂の余韻に浸っているステ
ラ、ミーア、シノン。
1264
﹁どうだったステラ、ミーア、シノン?初めて感じた⋮絶頂の気分
は?﹂
俺はステラ、ミーア、シノンの可愛いおしりにキスをしながら言う
と、かろうじて声の出せたミーアが俺の問に答える
﹁こんなに⋮気持ちの良い事だとは⋮お⋮思ってもみませんでした
⋮有難う⋮御座います⋮葵様﹂
肩で息をしながら言うミーアの言葉に、頷いているステラとシノン。
﹁そうなんだ。それは嬉しいね。じゃ∼もっとその体に仕込んであ
げる⋮﹂
俺はそう言うと、ぐいっとミーアの腰を掴みあげ、俺のモノを一気
に奥まで挿入する。
﹁にゃはああああああん!!!﹂
ネコの様な甘い声をあげるミーア。先程の絶頂の余韻もあってか、
膣は愛液でヌルヌルで、その可愛い膣をキュンキュンと締め付けて、
俺のモノを迎え入れて刺激する。
俺は強引にミーアの顔をこちらに向けさせ、キスをしながら、バッ
クからミーアの可愛いお尻に腰を叩きつけていく。
﹁どうミーア気持ち良い?﹂
﹁はい!葵様のモノはとても気持ち良いです!⋮こんなの⋮初めて
です!﹂
快楽にまみれたその瞳をトロンとさせながら、必死に俺に舌を絡ま
せる、いじらしいミーア。
そんな可愛いミーアに俺はどんどん性欲が高まり、パンパンと乾い
た心地の良い音が湯浴み場に響き渡る。
﹁ミーア。次はイク時はね⋮イクってきちんと言うんだよ?それと
1265
⋮イカセて欲しかったら⋮俺におねだりするんだ⋮いいね?﹂
俺の言葉を聞いたミーアは、顔を更に真赤にさせながら、俺のモノ
での快楽と、口と両手で愛撫されている刺激も相まって、早くも体
を痙攣させ始める。
﹁葵様!私⋮また来ちゃいます∼!私を⋮ミーアをイカせて下さい
!お願いします!﹂
喉の奥から絞り出したかの様な猫なで声に、俺は激しくミーアを犯
していく。
﹁葵様イキます!イカせて頂いきます!⋮うん⋮はああああにゃあ
あんんん!!﹂
再度大きく体を仰け反らせたミーアは、大きな声を上げて絶頂を迎
える。その絶頂の余波でキュンキュンと膣を締め付けてくる気持ち
良さで、俺も絶頂を迎え、ミーアの子宮の奥の奥に、染み込ませて
覚えこませる様に、精を注ぎ込む。
前のめりにピクピクと痙攣して、余韻に浸っているミーアの膣から
モノを引き抜くと、ヌロロロと俺の精子とミーアの愛液がいやらし
く糸を引いていた。
ミーアの恍惚の表情に満足した俺は、シノンを仰向けにさせ、その
上に覆いかぶさる。
﹁シノンも調教しなおしてあげる。今日の事が忘れられなくなる様
に⋮﹂
俺はそう言うとシノンの豊満な体を抱きしめながら、一気にシノン
の膣に挿入する。
﹁うはああああんん!!!!﹂
ミーア同様に甘い声をあげるシノン。ウサギちゃんの様な豊満な体
を、俺に味合わせる様にギュッと抱きしめるシノンを、どんどん犯
1266
していく。
シノンの豊満な胸に顔を埋め、その先に申し訳なさそうに付いてい
るピンク色の乳首をカリッと少し噛むと、ピクっと身体を悶えさせ
て、愛液を溢れさすシノン。
シノンの口にキスをしながら、激しく腰を振って、乳首と胸を愛撫
していくと、ミーアとの情事を見ていて我慢出来無くなって居たの
か、シノンの身体も小刻みに震え出す。
﹁シノンもイク時はちゃんと言うんだよ?可愛くおねだり出来たら
⋮一杯イカせてあげる﹂
その言葉を聞いたシノンはその瞳に喜びの表情を浮かべる。
大人しめのミーアに似た、少し人に頼りがちな、保護欲を掻き立て
られるシノンに我慢できなくなり、激しく愛撫すると、シノンも快
楽の頂に近づいて居た。
﹁葵様!私もいっちゃいます∼!シノンも⋮シノンも葵様ので⋮一
杯イカせて欲しいです∼!﹂
その余りにも保護欲を掻き立てられるおねだりに、俺は更に激しく
腰を振る。
そして、豊満なシノンの乳首をカリッと噛んだ時だった。シノンは
身体を大きく仰け反らせながら、甘い吐息混じりの大きな声をあげ
る。
﹁葵様!シノンはイッちゃいます∼シノン⋮シノンは⋮イッちゃい
ます∼!!⋮あんんはんんんあああ!!﹂
ギュッ俺に抱きついたシノンは、快楽の絶頂を迎え、その波に全て
を委ねていた。
シノンが余りにも膣をキュンキュン締め付けるので、俺も我慢でき
ずに、シノンの体に記憶させる様に、奥に精を注ぎ込む。
1267
﹁シノン可愛かったよ⋮﹂
そう言って優しくキスをすると、嬉しそうに涙目で微笑んでいるシ
ノン。
俺はシノンの膣からモノを引き抜く。ミーアの愛液と、シノンの愛
液、そして俺の精子が混じって、いやらしく糸を引いているモノを、
ステラの目の前に持っていく。
それを見たステラは、瞳をトロンとさせて、俺のモノを口に含み、
味わい綺麗にしていく。
﹁ステラ⋮俺の精子は美味しい?﹂
﹁はい⋮葵様の精子は⋮とても美味しいです⋮﹂
﹁じゃ⋮ステラにも味あわせてあげる﹂
俺はステラを強引に引き寄せると、上に乗せて、下から一気に突き
上げる。
﹁クウウウウウん!!!﹂
まるで狼の様な甘い声をあげるステラ。ワーウルフで有る彼女の象
徴でも有る、頭の上についた耳と、銀色の毛並みの良い尻尾を、激
しく振っている。
愛撫されながらの挿入が余程気持が良いのか、自ら腰を振り、俺の
モノを可愛い膣で味わっている、可愛いステラ
﹁ステラ⋮そんなに腰を振っちゃって⋮いつもとは随分と違うね?﹂
俺の言葉に顔を真赤にしているステラの耳は、申し訳なさそうにフ
ニャっとなっていた。
そんなっ可愛いステラを抱き寄せ、抱き合いながら、騎乗位でステ
ラを犯していく。
ミーアとシノンとの情事をみて、余程焦らされていたのか、その快
楽に染まるステラがとても可愛く見えた。胸やクリトリスを愛撫し
て、激しく腰を振り、口に吸い付きステラの上の口と下の口を同時
1268
に犯していくと、ステラも小刻みに震えだした。
﹁ステラ⋮解ってると思うけど⋮イク時はきちんと言う事⋮そして
⋮おねだりしないとイカせて上げないよ?﹂
﹁ですが⋮主人様におねだりなど⋮﹂
快楽に身を委ねながらも、あくまでも主従関係にこだわるステラに
少しお仕置きをする。
俺は腰を振るのを止め、ステラの体を触るのを止める。それに寂し
そうな、切ない表情をするステラは、腰をモジモジとさせて、俺の
モノに犯されたがっていた。
﹁ステラ⋮可愛くおねだり出来たら⋮すぐに可愛がってあげるけど
⋮どうする?﹂
俺の言葉を聞いて、より一層モジモジと腰を動かしているステラは、
その瞳をトロンとさせながら俺に抱きつく。
﹁葵様⋮どうかその立派なモノで⋮私を最後まで犯してイカせて下
さい。お願いします⋮﹂
俺に抱きつき耳元で俺にだけ聞こえる様に言ったステラの顔は、火
がつきそうな位に真っ赤になっていた。
﹁そんなに可愛くおねだりするなら⋮一杯イカせてあげる!﹂﹂
俺は再度激しくステラを下から突き上げる。沢山焦らされたステラ
は、その快楽にもう何も考えられないと言った表情で、俺に抱きつ
き、激しいキスをしてくる。
ステラの甘くて柔らかい舌を堪能しながら下から激しく突き上げる
と、我慢の限界に達したステラの体は大きく仰け反る。
﹁葵様イカせて頂きます!葵様のモノでイキます!葵様⋮葵様ー!
!!!!﹂
1269
そう叫びながら絶頂を迎えたステラを抱き寄せ、口に吸い付きなが
ら、俺も絶頂を迎える。
ステラの子宮に直接精を注ぎ込み、キスをしながら俺の唾液をステ
ラに飲ませる。
上の口と下の口から、俺に注ぎ込まれているステラは、恍惚の表情
で俺の上でクテッなって、絶頂の余韻に浸っていた。
俺はゆっくりとステラを上から降ろして、ミーアとシノンの横に寝
かせる。
﹁3人共ゆっくりとこの湯浴み場を使うといいよ。俺は少し湯に浸
かってから部屋に戻るから。⋮余りそこで寝てると、夏とは言え風
邪を引いちゃうから気を付けてね﹂
俺の言葉に、かすかに頷くステラ、ミーア、シノン。
俺は湯に浸かって汗を流し、そのまま着替えて部屋に戻る事にした。
俺はこの時にステラ、ミーア、シノンを犯した事で、3人のこれか
らを大きく左右する事になるとは、この時はまだ解っていなかった。
1270
愚者の狂想曲 33 生産準備と晩餐会
今日はヴァレンティーノ宮殿で、晩餐会が開かれる日だ。
俺達は全員出席する事にしたので、人数的に荷物を宿舎に運ぶより、
王宮で着替えた方が早いだろうとルチアの使いの者の提案で、昼刻
1の時︵午後1時︶位に迎えの馬車をよこしてくれる事になった。
晩餐会までは、王宮の客室で寛ぐ事にした。夜に開かれる晩餐会ま
で時間もあるし、ルチアと相談したい事もあったので丁度良い。
﹁マルガもリーゼロッテも準備出来た?﹂
﹁ハイ!準備出来ました!ご主人様!﹂
﹁私も準備出来ましたわ葵さん﹂
俺達の広い部屋で、可愛いメイド服に着替え終わったマルガにリー
ゼロッテ。
いつもと同じ様に、俺に微笑んでくれている。
﹃う∼ん。本当に何時も通りだ⋮その何時も通りが⋮逆に⋮﹄
俺はマルガとリーゼロッテを見つめながら、心の中でそう呟く。
この宿舎に住む様になってから3日。
初めての日以外は、あの獣人美少女3人娘のステラ、ミーア、シノ
ンが、湯浴み場で奉仕してくれる。
ステラ、ミーア、シノンには、そんな命令をしていないのに、奉仕
をやめようとしないし、マルガやリーゼロッテも、何故かその事に
対して何も言わない。それどころか、昨日の湯浴み場は大変な事に
なっていた。
俺とマルガ、リーゼロッテが湯浴み場に入り、湯船に浸かって居る
1271
と、例の獣人美少女3人娘のステラ、ミーア、シノンが、さも当然
の様に一糸纏わぬ姿で入って来て、マルガやリーゼロッテが居るの
にも関わらず、俺に奉仕を始めたのだ。
獣人美少女3人娘のステラ、ミーア、シノンの可愛さに勝てる訳も
なく、そのままエッチッチーな事をしている俺達を、マルガはお風
呂の縁をカリカリと噛み、ウウウと唸りながら見ていて、リーゼロ
ッテは涼やかな微笑みを湛えながら、情事にふける俺達を見ていた。
ルナは気持ち良さそうに湯船をスイスイ泳いでいたのには笑ったけ
ど。
兎に角、どう言う事なんだろう?
マルガやリーゼロッテは、俺が他の女の子とのエッチッチーな事を
しているのを、どう思ってるんだろう?
俺が他の女の子とエッチッチーな事をしているのを見て、エッチッ
チーは気分になってるんだろうか?
そんな高等なプレイ、オラでも目覚めていないのに、オラより先に
大人の階段を登っちゃったの?マルガちゃんに、リーゼロッテちゃ
ん!?
まあ⋮湯浴み場から部屋に帰ってからの、マルガとリーゼロッテの
おねだりの可愛さと言ったら凄かったけど⋮
可愛すぎて、一杯犯しちゃったから、軽く寝不足気味なオラなので
す。
﹁ねえマルガ、リーゼロッテ。何故、湯浴み場でステラ、ミーア、
シノンが俺に奉仕しているのを、黙って見ているの?マルガやリー
ゼロッテは⋮それでいいの?﹂
俺は直球をマルガとリーゼロッテに投げかけてみた。
すると、マルガは慌てながらアワアワマルガになって、リーゼロッ
テはいつもと変わらぬ優しい微笑みを湛えている。
1272
﹁あ⋮えっと⋮その事は⋮あの⋮その⋮どうしても⋮言わないと⋮
ダメですか?﹂
マルガは両手の人差し指をチョンチョンと合わせて、俺をチラチラ
と見ながら、言い難そうにモジモジしている。俺への忠誠の気持と、
俺に対しての大好きな気持、そこに、何かの理由で俺に対して言え
ないもどかしさが折り重なって、いつもよりアワアワマルガになっ
ている。
俺は余りにもアワアワしているマルガが可笑しくなって、プッと吹
いてしまうと、恥ずかしそうにモジモジしている。
﹁⋮もういいよマルガ。どうしても言い難い事なら、無理に言わな
くてもさ﹂
俺はマルガの頭を優しく撫でながら言う。
まあ⋮俺には解らないが、何か言えない理由が有るんだろう。
マルガやリーゼロッテが、俺に不利益な事をする事は、絶対にあり
えない。
マルガとリーゼロッテにどんな思惑が有るかは解らないけど、2人
がそうしたいなら、そうさせてあげよう。
⋮マルガとリーゼロッテは何時も俺の事を考えてくれてるんだ。こ
れ位の隠し事、2人にさせた所で、バチは当たらないと思うし。
そんな俺の言葉を聞いたマルガは、ギュッと俺に抱きつくと
﹁ご主人様大好きです!やっぱり、ご主人様は優しいのです∼!﹂
満面の微笑みで俺に嬉しそうに抱きついているマルガは、尻尾をブ
ンブン振っている。
﹁⋮やっぱり、私達の葵さんですわね。私も大好きですわよ葵さん﹂
リーゼロッテが反対側の腕に抱きつき、俺の頬に優しくキスをする。
1273
﹁まあ⋮リーゼロッテやマルガの考える事なら、俺は問題無いと思
うしさ。俺も大好きだよマルガ、リーゼロッテ﹂
マルガとリーゼロッテの乙女の柔肌を感じて、その男を誘う様な甘
い香りに包まれて幸せを感じる。
﹁とりあえず、皆待ってるし、1階の寛ぎの間に行こうか﹂
俺の言葉に、微笑みながら頷くマルガとリーゼロッテと一緒に、1
階の寛ぎの間に向かう。
すると、寛ぎの間の前で、獣人美少女3人娘のステラ、ミーア、シ
ノンが待っていた。
俺達を見つけて、近寄ってくる3人。
﹁﹁おはよう御座います葵様∼﹂﹂
声を揃えて挨拶をしてくる、ミーアにシノン。
ミーアは恥ずかしそうに俺の腕を握り、シノンも恥ずかしそうに、
モジモジしながら俺の服の袖を掴んでいる。その可愛さに、思わず
ドキッとしてしまう。
﹁おはようミーア、シノン。今日も可愛いね﹂
俺は優しくミーアとシノンの頭を優しく撫でると、ミーアもシノン
も尻尾を軽く揺らしながら、頬を少し赤らめていた。その中で、軽
く咳払いをするステラは、俺の前に立ち、深々と頭を下げる。
﹁葵様おはよう御座います。今日は葵様に是非見て貰いたい物があ
って、ここで待っていました﹂
綺麗にお辞儀をしたステラは、懐から数枚の羊皮紙を取り出し、俺
に差し出す。
﹁これは、私達が考えた、学院で売り出したらどうかと思われる品
を、書き綴った物です。是非、葵様に見て頂きたくて⋮﹂
1274
ステラは真剣な眼差しで、俺に数枚の羊皮紙を手渡す。俺は手渡さ
れた羊皮紙の内容を確認する。
その数枚の羊皮紙は、酷くヨレヨレになっていた。恐らく何度も何
度も書き直す為に、洗ったのだろう。
﹃なるほど⋮確かに良く考えられている。でも⋮良く考えられてい
るが⋮地球の勉強をして、地球の知識を持っているリーゼロッテに
は⋮遠く及ばないね。それは仕方の無い事だけど⋮﹄
俺は羊皮紙に目を通すと、それをリーゼロッテに手渡す。リーゼロ
ッテも同じ様にその数枚の羊皮紙に目を通していた。
﹁ありがとねステラ、ミーア、シノン。参考にさせて貰うよ﹂
俺はミーアと、シノンの頭を優しく撫でながら言うと、ミーアとシ
ノンは嬉しそうに尻尾を振っていた。
そして、リーゼロッテに目で合図をすると、軽く頷くリーゼロッテ
は、その数枚の羊皮紙をアイテムバッグにしまう。
それを見たステラは、少し唇をキュッと噛み締めていたが、すぐに
いつもの表情に戻る。
﹁⋮よろしくお願いします葵様⋮﹂
そう言って、寛ぎの間に入って行こうとするステラの後ろ姿が気に
なって、思わずステラの手を握り引き止めた。
﹁⋮どうなされたのですか葵様?﹂
ステラは少し戸惑いながら俺を見る。
﹁⋮いや⋮その⋮ステラもそのメイド服似合ってて⋮可愛いなって
⋮﹂
俺は気恥ずかしく少し頭をかきながら言うと、少し顔を赤らめてい
るステラは、軽く咳払いをすると
1275
﹁あ⋮ありがとう御座います葵様⋮﹂
少し視線を外しながらも、若干嬉しそうなステラを見て、何となく
ホッとした俺
﹁じゃ皆と合流して、ヴァレンティーノ宮殿に向かおうか。そろそ
ろ迎えの馬車も来る事だし﹂
俺の言葉に頷く一同。俺達は用意を済ませて、ヴァレンティーノ宮
殿に向かうのであった。
ヴァレンティーノ宮殿に到着した俺達は、来客用の食堂で昼食も済
ませ、それぞれに与えられた客室に別れて、ゆっくりと寛いで居た。
晩餐会迄はまだかなりの時間がある。時間に近づいたら、侍女や執
事が俺達の準備をしてくれるみたいなので、安心して寛ぐ事が出来
る。
客室でマルガとリーゼロッテと、他愛のない話をしていると、扉が
ノックされ人が入ってきた。
扉の方に視線を向けると、そこには綺麗に着飾ったルチアと、純白
のフルプレートに身を包み、純白の高貴なマントを靡かせているマ
ティアスの姿があった。
﹁よく来たわね葵。今日はゆっくり寛いで、楽しんで行きなさい﹂
﹁⋮フィンラルディア王国の中枢、ヴァレンティーノ宮殿で行われ
る晩餐会で、寛げるか少し疑問だけどね﹂
俺が苦笑いしながら言うと、フフッと軽く笑うルチアは
1276
﹁大丈夫よ。今回は選定戦の時の様な事は無いわ。定期的に親睦を
深める事で行われる、定例晩餐会、夏の会だから。確かに、私の専
任商人になった貴方に近づこうと、人は寄って来るかもしれないけ
どね。それは避けれない事だから、葵の方で慣れて貰うしかないわ
ね﹂
﹁確かにルチアさんの言う通りですわね。こう言う催しにも、私達
は慣れて行かないと行けませんし。そう言う意味では、丁度良かっ
たのかも知れませんね﹂
ルチアの説明に、涼やかに微笑むリーゼロッテ。互いにゾクっとす
る様な含み笑いを浮かべている。
﹁とりあえず葵は、いつも通りにしていれば大丈夫よ。⋮前の選定
戦の時の様に、我を忘れなければね﹂
﹁解ってるよルチア。俺だってその事はきちんと考えてるからさ﹂
﹁ま⋮エルフちゃんも色々考えてくれてそうだし、安心出来そうね﹂
﹁はい。もう二度と、あの様な事はさせませんので、安心して下さ
いルチアさん﹂
リーゼロッテの微笑みながらの言葉に、フフッと楽しげに微笑みル
チア。
﹁それとさルチア。ちょっと相談があるんだけどさ。今って時間有
る?﹂
﹁時間なら有るわよ。何なの?言ってみなさいよ﹂
﹁じゃ∼まずは、これを見て欲しい﹂
俺はアイテムバッグから、3つの物を取り出し、テーブルの上に置
く。
それを興味有りげに見つめる、ルチアとマティアス
﹁何これ⋮1つ目は⋮これは羊皮紙かしら?⋮ううん⋮違うわね。
1277
羊皮紙よりゴワゴワしてるし、材質が違いそうね。2つ目は⋮黒い
物が木の板の間から出てるけど⋮。最後の⋮この木で出来た、ジャ
ラジャラした木の細工は何?初めの羊皮紙もどきは兎も角、あとは
何に使う物なの?﹂
ルチアはテーブルに並べられた3品をマジマジと見つめながら、何
に使うのかを考えている様であった。
﹁それは、わら半紙と鉛筆、最後のジャラジャラした木の細工は、
算盤と言う物なんだよ﹂
﹁わら半紙に鉛筆、それに⋮算盤ね⋮。これが私にお願いしたい事
に繋がるの?﹂
﹁うん。ルチアは当然知ってると思うけど、俺はグリモワール学院
内で、商売を許可されているだろ?この3つの商品を、グリモワー
ル学院で売りだそうと思ってるんだ﹂
俺の説明に、ふ∼んと声をだすルチア。
﹁とりあえず、この商品の説明をしてくれる?これはどんな物なの
?﹂
﹁うん。じゃ∼初めはこのわら半紙から説明するよ。これは羊皮紙
の様に、物を書いたりする物なんだけど、素材は羊皮紙の様に動物
の革じゃなく、植物⋮藁から出来ているんだ﹂
﹁え!?このわら半紙って言うのは、藁から出来てるの!?﹂
俺の説明に、驚いているルチア。
俺達は昨日、ルチアに見せる試作品を、宿舎で作っていたのだ。
わら半紙に、鉛筆に、算盤。皆で手分けして作ったので、大した難
しさもなく、意外と早く作れた。
鉛筆の芯だけは、鍛冶屋で焼いて貰って、水で冷やして油につけた
りしたが、それ以外は概ね手際よく出来たのだ。
まあ⋮器用な指先のレアスキルを持つリーゼロッテが、殆どやって
1278
くれたのは言うまでもないけど。
﹁うん。このわら半紙は、藁から出来ているんだ。ある特殊な作り
方があるんだけどね。それは試作品だからゴワゴワしてるけど、色
んな調整をしてやれば、割りと綺麗な紙まで持っていけるよ﹂
俺の説明に、再度マジマジとわら半紙を見つめるルチア
﹁しかも、そのわら半紙は、理屈的には、羊皮紙の10分の1以下
の価格で、大量に作る事が出来るんだ。まあ⋮羊皮紙の様に丈夫じ
ゃないし、水には弱いけど、価格の安さと量産性では、羊皮紙には
負けない。羊皮紙は洗って何度も使うけど、このわら半紙は使い捨
ての、気軽に使える物と、考えていいね﹂
俺の説明に、頭の回転の早いルチアは、瞳をキラリと光らせる。
﹁凄いじゃない葵!このわら半紙が普及すれば、色々な事が出来る
わね!他の商品も早く説明しなさいよね!﹂
少し興奮気味のルチアが、俺にねえねえとせがむ。
﹁わ⋮解ってるから落ち着いてルチア。じゃ∼次はこの鉛筆ね。こ
れは物を書く物なんだ﹂
俺は鉛筆を手に取って、わら半紙に文字を書いていく。それを見た
ルチアは再度驚く。
﹁何これ!?インクもつけずに文字が書けるの!?﹂
﹁うん。この鉛筆はね、文字を書くこの黒い芯を、黒鉛と粘土を混
ぜて作ってるんだ。黒鉛は手に墨みたいにつくでしょ?それを利用
して、文字を書ける様にしているんだ。鉛筆の芯が折れたり、無く
なったら、木の部分を削ると、また芯が出てくるから、書く事が出
来る。手軽に使えるって感じだね﹂
説明を聞いて、俺の手から鉛筆を奪い取ったルチアは、わら半紙に
1279
鉛筆で文字を書いて、感動している。
そして、最後に残された算盤を見て、瞳をキラッと輝かせるルチアは
﹁最後の⋮この算盤?これの説明を、早くしなさいよね葵!﹂
算盤を手に持ち、ジャラジャラさせながら言うルチアが可笑しくて
プッ吹くと、プクッと頬を膨らませるルチアを宥めながら
﹁ごめんごめん。この最後の算盤は、実際に使っている所を見て貰
った方が早いね。リーゼロッテ、マルガ、お願い﹂
﹁ハイ!解りましたですご主人様!﹂
﹁了解ですわ葵さん﹂
リーゼロッテが椅子に座り、テーブルの上で算盤を構える。
﹁じゃ∼これから数字を言っていくから、ルチアは数を足して行っ
て。リーゼロッテも算盤を使って同じ事をするから。じゃ∼マルガ
お願いね﹂
﹁ハイ!ご主人様!リーゼロッテさんもルチアさんも準備は良いで
すか?﹂
マルガの声に頷くリーゼロッテにルチア。
﹁では行きます!⋮ご破算で願いましては∼1958673也∼3
96859也∼﹂
マルガは予め練習用に用意していた数字を、早口で言っていく。そ
れをパチパチと算盤を指で弾いていくリーゼロッテと、腕組みをし
ながら頭の中で数を足していくルチア。早口で言うマルガと、結構
な数を足していくルチアは、次第に表情に余裕がなくなってくる。
そして、マルガが最後まで数字を言い切り、結果を発表する時が来
た。
﹁じゃ∼ルチアにリーゼロッテ、答えを発表してくれる?﹂
1280
その言葉に、若干顔を引き攣らせているルチアと、ニコッと微笑む
リーゼロッテ。
﹁答えは⋮195867490283よ⋮﹂
珍しく瞳の泳いでいるルチアは、小さな声で言う。
﹁リーゼロッテの答えは?﹂
﹁195867585637ですわ葵さん﹂
﹁マルガ⋮正解は?﹂
﹁正解は195867585637ですご主人様!リーゼロッテさ
んが正解です!﹂
その言葉を聞いて、明らかに不機嫌そうな顔をするルチアはフンと
鼻で言うと、マジマジと算盤を見つめる。
﹁この算盤って物凄いわね。私も計算は得意な方だけど、あんなに
早く言われた数字を足していくのは流石にキツイわ。これって⋮誰
でも使える物なの?﹂
﹁うん。きちんと練習すれば、誰にでも使えるよ。この算盤は計算
補助器具って物で、独特の珠算って言う計算の仕方があるんだ。凄
く慣れた人なら、実際に算盤を使わずに、頭の中に算盤を想像して
計算しちゃう位なんだ。俺はこの算盤と、計算の仕方をセットで売
りだそうと思ってるんだ﹂
﹁確かに凄いわねこの算盤は。計算補助器具ね⋮﹂
ルチアは腕組みをしながら、算盤を指で軽く弾いている。
まあ⋮あの計算で、途中までついてきていたルチアにはビックリだ
けどね。流石は天賦の才能のレアスキルの持ち主。リーゼロッテも
短い期間で算盤を完全に使いこなせているのも、レアスキルの器用
な指先のお陰。⋮本当にレアスキルは凄いね⋮
1281
﹁とりあえず、算盤の凄さも解ってくれたと思うけど、この3つの
品⋮ルチア的に見てどう思う?﹂
﹁⋮素晴らしいの一言ね。どれもこれも、今までにこの世界に無か
った物。わら半紙は色んな使い方が出来きそうだし、鉛筆も簡単に
文字が書けるのがいいわね。算盤に至っては⋮その計算方法が色ん
な学問で生かされそうだし⋮どれも売りだせば、もの凄く売れる可
能性が有るわね。後は⋮どれ位売り出せるかと、その有用性を訴え
られるかね﹂
﹁ま∼ね。とりあえずは、グリモワール学院での売上を見て、広め
て行くのがいいかもね。広めるのにはアテがあるから、そこに頼め
るかも知れないしね。でも、問題があって、ルチアに協力をして欲
しくてさ﹂
その言葉を聞いたルチアは、小悪魔の様な微笑みを湛えると
﹁ふ∼ん。葵が私に協力ね∼。⋮どんな事なの?﹂
﹁うん、この3つの品物は、なかなか良い物だと解って貰えたと思
うけど、俺達にはこれらを量産出来る施設や資金が無いんだ。俺は
まだ商組合にも入って無いから融資も受けれないしね。だから、そ
の辺を協力して貰えないかと思ってさ﹂
俺の言葉を聞いたルチアは、考えながらフンフンと頷くと
﹁つまり⋮私に融資して貰って、その3つの品物を作るた為の生産
場を作りたいって事?﹂
﹁ちょっと違うんだよね。確かに、この3つの品物を作る生産場を
作って貰いたいんだけど、俺はその生産場を自分の物にしたい訳じ
ゃないんだ﹂
﹁生産して自分で売りたいんじゃないの?じゃあ⋮どうしたいの?﹂
少し意外な言葉を聞いたルチアは、不思議そうな顔で俺を見つめて
いた。
1282
﹁俺はね、この3つの商品に関しては、生産者じゃなくて、販売者
になりたいんだ﹂
﹁⋮と言う事は⋮私に生産場を任せて、貴方は販売での利益だけを
上げたいって事?﹂
﹁そういう事。理由は⋮一応こちらの世界で作れてもおかしくない
物を選んでいるけど、俺達が開発者だって事は、秘密にして貰いた
いんだ﹂
理由を聞いたルチアは、腕組みをしながら俺を見ると
﹁⋮なるほど。なるべく情報源が貴方達だって事は隠したい訳ね﹂
﹁そうなんだ。このわら半紙や鉛筆、算盤は世界中に広まって行く
と思う。それこそ製造法を知ったら、あちこちで大量に作られる事
になると思うんだよね。そうなると、莫大な利益が生まれる。じゃ
あ、その莫大な利益を生み出したのは誰って事になるでしょ?﹂
﹁⋮確かにね。貴方の持っている情報の貴重さを隠したい訳ね⋮そ
の方が安全ね。解ったわ。葵の提案を受けてあげる﹂
フフッ笑うルチアは俺に少し近づいて
﹁でも葵はどこで儲けるつもりなの?﹂
﹁俺はルチアから、優先的に3つの商品を、優先的に、少し相場よ
り安く仕入れれる権利を貰う。取引量や価格はその時の相場を見て
相談する。わら半紙や鉛筆は消耗品だからね。安定して利益が上げ
れそうだしさ﹂
俺の言葉を聞いたルチアは、フフッと可笑しそうに笑うと
﹁解ったわ。その条件で行きましょう。でも⋮私だけじゃ怖い所も
有るわね⋮マティアス、この話にバルテルミー侯爵家も噛む事は出
来るかしら?﹂
﹁そうですね⋮利益の上がる物で、ルチア様との共同であれば、父
も賛同すると思います﹂
1283
﹁解ったわマティアス。葵もそれでいいかしら?﹂
﹁うん構わないよ。むしろバルテルミー侯爵家が話に加わってくれ
るなら、色々と助かりそうだしさ﹂
俺の言葉にウンウンと頷くルチアとマティアス。
﹁初めは、グリモワール学院内部だけで販売して、動向を見ながら
外に流して行こうと思う。生産場の規模や生産量は、ルチアに任せ
るよ。最低、グリモワール学院で売れて少し余る位の量が有れば、
とりあえず俺は利益を上げれるからさ﹂
﹁解ったわ。その辺はバルテルミー侯爵家と話をするわ。で、この
3つの商品を作るのに、どんな物がいるの?それと、製造法も知り
たいわ。この算盤は見たままで作れるけど、わら半紙と鉛筆は、解
らないしね﹂
ルチアのその言葉を聞いたリーゼロッテが、アイテムバッグから数
枚の紙を取り出す。そして、その数枚の紙をルチアに手渡す。
﹁それに、3つの商品の詳しい製造法が書いてあります。どれも難
しい物ではありませんので、説明しますね﹂
リーゼロッテの言葉に頷きながら、ルチアは手渡された紙を見なが
ら説明を聞いていく。
わら半紙も鉛筆もこの世界の技術でも、少しも難しくなく作る事が
出来る。
わら半紙は、ます、藁を出来るだけ細かく切る。その切った藁を鍋
に入れ、草木灰から作れる、灰の上澄み液で煮て繊維を解す。解し
た繊維を洗って、繊維を網で濾して乾燥。これで完成だ。
重曹の代わりに草木灰の上澄み液で煮ているので、多少時間が多く
掛かるが、草木灰は重曹に比べ手軽に手に入る。重曹など作ろう物
なら、大きな工場が必要になるしね。
1284
﹁それと、この藁を煮た液体は、川に流さないで下さい。自然を破
壊してしまう恐れがあります﹂
﹁じゃ∼どうすればいいの?﹂
﹁はい、残った液体は、そのまま煮詰めて下さい。そうすると、残
りカスだけになります。それを集めて焼いていくと、ガラスが出来
上がります﹂
﹁ええ!?植物の灰からガラスが出来るの!?﹂
﹁うん。ま∼副産物だけど、しっかりとしたガラスが出来る。わら
半紙を量産したら、そこそこの量のガラスも取れるから、出来たガ
ラスを売って、また藁や草木灰を仕入れれば、原価を下げれると思
うよ﹂
﹁いい事ずくめじゃない!藁と草木を燃やした灰なんて、いくらで
もあるし、ここは水も豊富にある。そこにガラスまで出来るなんて
⋮﹂
瞳を輝かせるルチアに、リーゼロッテが鉛筆の作り方を説明してい
く。
鉛筆は芯さえ作れれば、さして難しくはない。
その芯も、この世界に大量にある、黒鉄を作る時に使う、黒鉛を粘
土と混ぜて、高温で焼き上げ水で冷やし、油につければ、芯は出来
上がりだ。後は削った木に芯を挟み込んで、木を膠で接着すれば完
成。この世界には鉄を作る技術もあるし、魔法もある。俺達も昨日
作ってみて、意外と簡単に作れたのでビックリした位だ。
﹁算盤は見たままだから、職人さんに頼めばすぐに出来るよ。わら
半紙も鉛筆も、質を研究しながら作っていくと、早く、良い物が作
れる用になるしさ﹂
﹁解ったわ。後はバルテルミー侯爵家と話をしてやってみるわ。⋮
40日時間をくれる?生産場を作って、人や物を用意して、作り方
も教えこまないとダメだからね﹂
1285
﹁いいよ。後⋮もう一つお願いが有るんだ﹂
俺の言葉に、なに?と聞き返すルチアの前に、少しモジモジしなが
らマルガは立つと、ルチアに少しヨレヨレの紙を手渡す。
﹁それはマルガからのルチア達へのお願いが書いてあるんだ。出来
ればその通りにしてやって欲しい﹂
マルガから手渡された紙を見て、ルチアとマティアスが優しく微笑
み合う。
マルガの渡した紙には、二級奴隷や、三級奴隷の扱いについて書い
てある。
食べ物は栄養のある、普通の食べ物を与えてあげる事。暴力はなる
べく与えないで欲しい事。
女の奴隷達が犯されずに、安全に暮らせる事。衛生的に暮らせる様
にしてやって欲しい事。
昔はマルガも、生産場で三級奴隷として働かされてきた。その時の
辛さは、骨身にしみて解っている。
なので、こうして欲しいと、俺におねだりしていたのだ。
﹁解ったわキツネちゃん。原価は上がるけど、この様にするから安
心しなさい﹂
﹁ありがとうですルチアさん!﹂
ルチアに嬉しそうに抱きつくマルガの頭を、優しく撫でているルチ
ア。
﹁これで話は全て決まりましたね。後の細かい所は、随時相談でよ
ろしいですかルチアさん?﹂
﹁ええ構わないわよエルフちゃん。マティアスもそれで問題ないで
しょう?﹂
﹁そうですね。細かい打ち合わせはまたしないとダメでしょうが、
1286
とりあえずは、これで問題は無いかと﹂
ルチアの言葉に頷くマティアス。
﹁じゃ∼私は早速打ち合わせと、用意を始めるから。貴方達も夜の
晩餐会まで、ゆっくりとしておきなさい﹂
﹁お言葉に甘えて、そうさせて貰うよ﹂
ルチアと挨拶を交わし別れた俺達は、晩餐会までゆっくりと過すの
であった。
時刻は夕暮れ。真夏の眩しい太陽は大きく傾き、その色を朱色に染
め鮮やかな夕焼けが空を彩っている。侍女たちのお陰で準備の出来
た俺達は、晩餐会の会場に向かうために部屋を出ようとしていた。
﹁マルガもリーゼロッテも凄く可愛いよ﹂
俺の言葉に、頬を赤らめているマルガとリーゼロッテ。
この晩餐会用に、ルチアが用意してくれたドレスを見事に着こなし
ている。
マルガは、淡いピンクのフリルのついた可愛いドレスだ。幼女体型
のマルガに非常に良く似合っている。
リーゼロッテは鮮やかな水色の、気品の有るドレス。凛としている
リーゼロッテの雰囲気と、綺麗な金髪と合っていて、超美少女のリ
ーゼロッテを引き立たせていた。
俺は右にマルガ、左にリーゼロッテに腕組みをされ、案内役につい
て部屋を出ると、そこには皆が待っていた。俺に腕組みしているマ
1287
ルガとリーゼロッテを見て、ミーアとシノンが近寄ってきた。
﹁葵様⋮この⋮ドレス⋮私に似合っていますか?﹂
﹁私もこのドレス⋮おかしくはありませんか?﹂
ミーアは少しモジモジしながら言い、シノンは俺の服の裾を少し掴
みながら聞いてくる。
ミーアが着ているのは、朱色のドレスだ。少し大人しめのデザイン
だが、ミーアの顔立ちによく似合っていて、ミーアの可愛らしさが
前面に出ていてよく似合っている。
シノンの方は、クリームっぽい白のドレスで、豊満な胸も強調され
たデザインになっていて、それなのに、シノンの大人しめの、保護
欲を掻き立てられる雰囲気とのギャップに、男は堪らないであろう。
シノンも良く似合っている。
﹁ミーアもシノンも良く似合っているよ﹂
﹁﹁有難う御座います葵様!﹂﹂
声を揃え嬉しそうにしているミーアとシノンの後ろに、少し恥ずか
しそうに立ってるステラ。
﹁⋮ステラもそのドレス⋮良く似合ってるよ﹂
﹁あ⋮有難う御座います⋮葵様⋮﹂
恥ずかしそうに若干赤くなっているステラが着ているのは、淡い紫
色のシックなデザインのドレスだ。
元々落ち着いているステラの雰囲気に合っていて、知的な感じがよ
り一層強く強調されているが、それを純血のワーウルフの特徴であ
る、頭の上についた耳と、銀色のモフモフとした毛並みの良い尻尾
の可愛さが絶妙なバランスを出していて、その魅力に引き寄せられ
そうになる。
﹁ねえねえ∼エマは∼?エマのドレスは似合ってる∼?﹂
1288
俺がステラに見蕩れていると、俺の服の裾を握って、ねえねえと聞
いてくるエマ
﹁エマもとっても良く似合ってるよ﹂
﹁ほんと∼?エマうれしい∼!!﹂
そう言って嬉しそうにキャキャとはしゃいでいるエマ。
エマは真っ赤なフリフリの白いレースのついた、可愛いドレスを着
ている。
その少し後ろで、グリーンの落ち着いたドレスを着ているレリアが
申し訳なさそうに立っていた。
﹁平民であるこの私が⋮ヴァレンティーノ宮殿の晩餐会に出席出来
るなんて⋮夢の様ですわ﹂
﹁だよね!オイラも初めてだから緊張しちゃってるよ!﹂
レリアの横に立ちマルコは、俺と色違いの礼服を着ている。
﹁ま∼俺も晩餐会なんて初めてだから、マルコと一緒だよ﹂
苦笑いしている俺を笑っている一同。
俺達は案内役の後を付いていき、今夜開かれる晩餐会の会場までた
どり着いた。
その建物を見て、マルガとマルコ、エマが声を上げる
﹁すごい豪華なのです∼﹂
﹁うん!綺麗な彫刻も一杯あるし!﹂
﹁すご∼い!おおきい∼!﹂
マルガ、マルコ、エマの3人はキャキャとはしゃぎながら、その会
場を見つめている。
﹁この会場は、迎賓や来賓をもてなす為の建物、バッカス宮ですわ﹂
﹁そうか⋮ステラ達は、このバッカス宮に来た事があるんだね﹂
1289
﹁はい⋮ヒュアキントス様の一級奴隷だった時に⋮何度か連れてこ
られました﹂
言い難そうに俺に言うミーア。
﹁なるほどね。御曹司のヒュアキントスは招待客だったって訳ね⋮﹂
俺の苦笑いに、同じ様に苦笑いをしているミーアとシノン。
﹁と言う事は、ステラさん達は、今日ここに来る人達と、ある程度
面識はあると言う事ですね?﹂
﹁はいリーゼロッテ様。私達は、一度会った人の顔と名前は忘れな
い様に、教育を受けていますので、安心して頂ければ宜しいかと﹂
少し得意げに言うステラに、優しく微笑みながらリーゼロッテが
﹁そうですか。それは心強いですわね。葵さんの傍で、来ている人
を説明してあげてくださいね﹂
﹁わ⋮解りましたリーゼロッテ様﹂
優しく微笑みかけるリーゼロッテに、少しきつい目をするステラ。
﹁と⋮とりあえず、中に入ろうか。案内して貰えますか?﹂
俺の言葉に、ハイと返事をする案内役は、俺達を連れてバッカス宮
に入って行く。
バッカス宮の中に入ると、綺麗な彫刻がいくつも飾られており、フ
カフカの真っ赤な絨毯が敷かれ、その細部までが、きめ細やかな細
工がされている。
それをキョロキョロ眺めながら俺達は歩いて行くと、かなり広い空
間に出る。
その目に入ってきた光景に、思わず我を忘れる。
3階までの吹き抜けには、沢山の金の装飾のされたシャンデリアが
輝き、豪華な装飾のされた柱が、威厳を漂わせながら立っている。
1290
床には豪華な刺繍の施された、フカフカの絨毯が敷かれ、その上に
は、上等な料理の並んだテーブルが数多く並べられていた。
綺麗な弦楽器の音楽が流れ、その音楽を聞きながら、2000人以
上は軽く居る人達が、楽しそうに会話をして、料理を食べ、ワイン
を飲んでいる。
元々広大な広さを誇るヴァレンティーノ宮殿でも、面積的には1番
大きな建物かも知れない。
女王が座るであろう玉座が小さく見える位なのだから。沢山の人が
居ても、狭く感じない。
俺は何処かの映画のワンシーンを思わせるその光景に見蕩れている
と、案内役が軽く咳払いをする。
それに気がついた俺は、気恥ずかしく思いながらも、案内役の後に
付いて行く。
﹁こちらが、葵様方のお席になります。こちらでお寛ぎ下さい。料
理の方は、そこの侍女達に申し付けくだされば、お持ちいたします
ので﹂
そう言って、綺麗にお辞儀をして、俺達の元を去っていく案内役。
俺達は、真っ白なテーブルクロスの敷かれた、テーブルに就くと、
すぐに沢山の料理が運ばれてくる。
それを見た、マルガ、マルコ、エマが喜びの声をあげる
﹁凄いのですご主人様!物凄く美味しそうな料理が一杯なのです!﹂
﹁これもう食べていいの葵兄ちゃん!?﹂
﹁エマも食べたい∼食べていいの葵お兄ちゃん?﹂
3人はまるでお預けを食らっている犬の様に、ねえねえと俺に聞い
てくる。
﹁食べて頂いて結構かと思います。フィンラルディア式の晩餐会や
1291
夜会、舞踏会では、主催者は遅れて姿を表すのが慣習となっていま
す。その間、招待された来賓方は、料理やお酒、音楽を聞きながら、
寛ぐのが通例ですので﹂
ステラの言葉を聞いた、お預け犬3匹?は、瞳を輝かせて俺を見る。
﹁⋮では、遠慮なく頂いちゃってください﹂
﹁﹁﹁いただきます!!﹂﹂﹂
声をを綺麗に揃えたマルガ、マルコ、エマの3人は、料理に飛びつ
く勢いで食べていく。
その幸せそうな顔を見て、俺とリーゼロッテが微笑み合う。
﹁俺達も食べようか。リーゼロッテもレリアさんも料理を頂きまし
ょう﹂
﹁そうですわね、折角のお料理ですし﹂
﹁私が⋮バッカス宮のお料理を食べれるなんて⋮夢の様です⋮﹂
レリアは少し涙ぐみながら、料理を食べ始める。リーゼロッテもレ
リアと一緒に料理を食べていく。
﹁ステラ、ミーア、シノンも好きな様に料理を食べなさい。これは
﹃命令﹄です﹂
その言葉を聞いたミーアとシノンは、パアアと表情を明るくして、
嬉しそうに料理を食べ始める。
そんな2人を少し呆れながら見ているステラも料理を食べ始める。
﹁しかし⋮ルチア王女様の専任商人になった葵様が、この様な席に
案内されると言うのは⋮納得出来ません﹂
﹁何故?この席はダメなの?﹂
﹁葵様、このバッカス宮の玉座の方を御覧ください﹂
ステラの言葉に、女王が座るであろう玉座に目を向ける。
1292
バッカス宮のこの大広間の一番奥には、全てを見渡せるであろう、
少し高台になっている玉座の下には、6つの大きなテーブルが並ん
でいる。中央は開いており、沢山の人々がダンスをしても十分な広
さがある。
中央をの除き、その6つのテーブルを順に、綺麗にテーブルがこち
らまで並べられている。
中央付近の椅子の無いテーブルには、立食用の食べ物屋飲み物が置
かれ、壁際には長椅子が置かれていて、気軽に座れる様になってい
る。
ちなみに俺達の席は、入り口を入ってすぐ右の一番奥の隅っこ。少
し離れた通路に行くと、すぐにトイレに行ける所に席がある。
﹁この大広間の席順は決まっています。女王陛下の玉座のすぐ下に
は、六貴族の皆様方が座り、その後に、有名な貴族様方が順々に座
る様になっています。貴族の皆様方のすぐ後には、商家や名家の方
々が席をとられています。本来ならルチア王女様の専任商人である、
葵様の席はそちら。貴族の方の次になります。この大広間で言うと、
真ん中よりかなり玉座よりの中央付近に無いといけないはず⋮﹂
そう説明して、少しキュッと唇を噛むステラ。俺は人物の説明をし
て貰う為に、隣に座って貰っているステラの頭を優しく撫でながら、
﹁いや⋮多分ステラが思ってる様な事だけで、この席が決まった訳
じゃないと思うよ?﹂
﹁で⋮ですが⋮﹂
﹁すぐに解りますわよステラさん﹂
少し納得の行かないステラに、優しく言う、俺の右隣りに座ってい
るリーゼロッテ。
すると暫くして、料理を一杯食べて、飲み物も一杯飲んだであろう
エマがモジモジし始める。
1293
﹁お母さん∼エマおトイレに行きたい∼﹂
その声を聞いたレリアは、侍女の案内でエマとレリアをトイレに案
内する。
﹁私も⋮行こうかな⋮﹂
﹁オイラも⋮﹂
恥ずかしそうに小声で言うと、エマとレリアと一緒にトイレに向か
うマルガとマルコ。
﹁ね?トイレが近い方が良かったでしょ?ルチアもきっと俺達が本
当に寛げる様に、この席にしてくれたんだよ。確かに体裁的に見た
らアレかもしれないけど、俺達は別に気にしないしさ﹂
トイレに向かうエマ達を見て、クスっと可笑しそうに笑うステラは
﹁⋮その様ですね﹂
力の抜けた、優しい微笑みを俺に向けるステラ。そんなステラの頭
を優しく撫でていると、辺りが少しザワザワと騒がしくなる。
その喧騒に俺達が振り向くと、数人の人達が俺達の席に近づいて来
た。
﹁久しいな行商人の少年、葵よ。いや⋮今はルチア様の専任商人の、
葵殿と呼んだ方が良いのか?﹂
そこには眼光の鋭い50台の男性が、俺に声をかけていた。
﹁ラ⋮ランドゥルフ様!?﹂
俺は驚きながら、慌てて挨拶をする為に席を立とうとして、ステラ
とリーゼロッテに肩を押さえられる。俺がリーゼロッテとステラに
戸惑っていると、優しい男の人の声がする。
1294
﹁晩餐会やテーブルに就いている時の挨拶は、座りながら頭を下げ
るのが礼儀なんだよ葵殿﹂
苦笑いしながらも、優しく微笑みかける美男子。
﹁アロイージオ様ではないですか!お久しぶりです!﹂
﹁お久しぶりだね葵殿にリーゼロッテさん﹂
﹁お久しぶりですわアロイージオ様﹂
俺が戸惑いながら挨拶している中で、にこやかに美しく挨拶をする
リーゼロッテとアロイージオ。
﹁⋮リーゼロッテもどうやら息災であった様だな﹂
﹁はい⋮お陰様で。お久しぶりで御座いますランドゥルフ卿﹂
リーゼロッテの優しい微笑みながらの言葉に、フッと目元を緩める
ランドゥルフ。
テーブルに残されている、ステラ、ミーア、シノンも、ランドゥル
フとアロイージオに挨拶をしている。
﹁なるほど⋮この一級奴隷達が、あのド・ヴィルバン商組合、統括
理事である、レオポルドの息子から奪った一級奴隷か⋮相変わらず
楽しそうな生活を送っている様だな⋮葵よ﹂
﹁え!?⋮まあ⋮そこそこ⋮でしょうか?﹂
疑問形になりながらもニヘラと笑う俺を見て、フフッと楽しそうに
笑うランドゥルフ。
すると、再度ザワザワと辺りが騒ぎ始め、誰かが近づいてきた。
﹁随分と楽しそうに会話をしているではないかランドゥルフ卿。私
も話に混ぜてはくれまいか?﹂
その声に振り返ると、見覚えのある40代中頃の立派な髭を蓄え、
眼光の鋭い偉丈夫が立っていた。
1295
﹁ル⋮ルクレツィオ様!?﹂
俺は驚きながらも、頭を下げると、クスクスと言う笑い声が聞こえる
﹁葵殿は相変わらずですね。元気そうで良かったわ﹂
その声に振り向くと、ルクレツィオの護衛できているウイーンダル
ファ銀鱗騎士団の副団長のイレーヌが楽しそうに立っていた。
﹁ルクレツィオ様もイレーヌ様もお元気そうでなによりです﹂
俺の言葉に、フフッと優しく笑うルクレツィオと、楽しそうなイレ
ーヌ。
俺はルクレツィオとランドゥルフを交互に見ながら、
﹁えっと⋮ランドゥルフ様とルクレツィオ様は⋮﹂
俺の言い難そうな言葉に、楽しそうな顔をするルクレツィオは
﹁私とランドゥルフ卿は、子供の時からの友人なのだ﹂
﹁⋮誰が友人だ!只の腐れ縁だろう?ルクレツィオ卿!﹂
ルクレツィオの言葉に、呆れながら嫌な顔をするランドゥルフ。そ
れを見てアハハと笑っているルクレツィオ。
オオウ⋮この真逆の印象を受ける2人が、友人だったとは⋮
喋り方からして、かなり親しい様に感じるな。
俺がその様な事を思いながら、マジマジとルクレツィオとランドゥ
ルフを眺めていると、
﹁所でルチア様から聞いたが、例の件、進める事にした。全て任せ
るが良い﹂
例の件⋮きっとルチアとバルテルミー侯爵家と一緒に売り出す、3
品の生産場の事だと理解した俺は、
1296
﹁はい!有難う御座いますルクレツィオ様!尽力しますので宜しく
お願いします!﹂
俺の言葉を聞いて、ウンウンと頷くルクレツィオ。それを見たラン
ドゥルフが不機嫌な顔をする。
﹁なんだ?また何か面白い事をするつもりなのか葵?﹂
﹁え⋮いや⋮ちょっと⋮﹂
﹁そう詰め寄るものではないと思いますぞランドゥルフ卿。今回は、
私が少しルチア様に力をお貸しするだけの事。そうだな葵殿?﹂
﹁はい!ルクレツィオ様の言う通りです!﹂
ぎこちなく言う俺に、ずいっと顔を近づけるランドゥルフは
﹁⋮お前は予想に反して面白い事をする男だ。この私から、安くリ
ーゼロッテを買った事も然り、アウロラ女王の目の前で、堂々と合
法で金の密輸をしたり⋮お前は面白い⋮﹂
そう言って、凍る様な瞳でニヤッと微笑むランドゥルフに、背筋が
ゾクッする。
﹁まあ⋮次は私の所に面白い話を持って来い!今度は本気で相手を
してやるのでな!﹂
﹁はい!⋮き⋮機会があれば⋮﹂
ニヘラと笑う俺を見て、ククッと楽しそうなランドゥルフ。
そこにトイレに行っていた、4人が帰ってきて、ランドゥルフとル
クレツィオを見て、マルガとマルコは、カチッと音がするくらい固
まっている。
﹁﹁お⋮お久しぶりです⋮ルクレツィオ様!ランドゥルフ様!﹂﹂
カチカチになりながらも、可愛い頭をペコリと下げるマルガとマル
コ。
ルクレツィオは優しく微笑み、ランドゥルフはウムと声を出す。
1297
﹁ね∼ね∼このオジちゃん達は誰なの∼葵お兄ちゃん?お友達なの
∼?﹂
トイレから帰って来た元気一杯のエマが、ルクレツィオとランドゥ
ルフに向かって爆弾を投下した。
その言葉に辺りが騒然となる。マルガは咄嗟に、自分の後ろにエマ
を隠し、マルコと一緒に、ペコペコと頭を下げ、必死に謝罪する。
俺も立ち上がり謝罪しようとした時に、アロイージオの後ろに居た
ラウテッツァ紫彩騎士団、団長のコルネリウスがツカツカとエマの
前まで行き、膝を折る。
﹁あの方々は、この栄えあるフィンラルディア王国に貢献されてい
る、とても立派な方々だ。領地は違うとはいえ、あの方々のお陰で、
お前達は安全に生活ができておる。それにオジちゃんはダメだ。バ
ルテルミー侯爵家当主のルクレツィオ様とモンランベール伯爵家当
主のランドゥルフ様だ。解ったか?﹂
﹁うん!エマわかった∼!いつも守ってくれてありがと∼るくれっ
ちお様にらんどぅ∼ふ様∼﹂
そう優しく言ってエマの頭を撫でるコルネリウス。
そして、可愛い頭をペコリと下げるエマを見て、フフッと優しい微
笑みをエマに向けるランドゥルフ。
それを、楽しげに見つめるルクレツィオの視線に気がついたランド
ゥルフは
﹁⋮私の顔に⋮何かついているかルクレツィオ卿?﹂
﹁いいや、何もついてませんなランドゥルフ卿?﹂
疑問に疑問で返すルクレツィオに、フンと鼻で言うランドゥルフ。
そして、アロイージオの傍に戻って来たコルネリウスにイレーヌが
﹁⋮随分とお優しいのですねラウテッツァ紫彩騎士団、団長のコル
1298
ネリウス殿は﹂
﹁当たり前だ!国民や領民に慈悲深く接するのが、騎士団の役目で
あろう?忘れたか小娘!﹂
﹁そうでしたね。流石はラウテッツァ紫彩騎士団、団長のコルネリ
ウス殿﹂
きつくイレーヌを見ているコルネリウスに、ニヤニヤしながら微笑
んでいるイレーヌ。
そんな2人を見て、軽く溜め息を吐くランドゥルフは、
﹁⋮ではそろそろ行かせて貰う。また会おう行商人の少年葵よ!﹂
そう言って、豪華なマントを靡かせながら立ち去って行くランドゥ
ルフ。
それを少し愉快そうに見ていた、ルクレツィオは、
﹁本当に相変わらずだなランドゥルフ卿は。では私もそろそろ行か
せて貰おう。後の話は、私から使者を送るので、その者と話をして
くれ﹂
俺達は皆と挨拶をして別れる。その直後、椅子に倒れかける様に座
り込むレリア。
﹁おか∼さんどうしたの?どこか痛い?またおまじないする?﹂
﹁だ⋮大丈夫よエマ。ちょっと余りの事に、どうしようかと思った
だけだから﹂
大きな溜め息を吐きながら、マルガから貰った水をグイッと飲むレ
リア。それを見た俺達は苦笑いをし合っていた。
そして、六貴族2人が居なくなって平和になって落ち着いた俺にス
テラが
﹁⋮驚きました。ルチア様やマティアス様以外に、ランドゥルフ様、
ルクレツィオ様、アロイージオ様までとお知り合いだったとは⋮あ
1299
の口ぶり⋮リーゼロッテ様とも何かあったのですか?﹂
﹁⋮昔の事ですわ⋮もう過ぎ去った昔の事⋮﹂
そう言って、嬉しそうに俺の腕に抱きつき、コテっと頭をもたれか
けさせる、可愛すぎるリーゼロッテ。俺達は食事を再開しながらゆ
っくりしていると、何やら俺達の周りで喋り声が聞こえて、沢山の
人々の視線を感じる。
﹁なんだろ⋮なんか人の視線を感じるんだけど⋮﹂
﹁それは仕方ない事で御座います葵様。六貴族である、バルテルミ
ー侯爵家当主ルクレツィオ様と、モンランベール伯爵家当主ランド
ゥルフ様が、この様な末席に自ら足を運ぶなど、まずありえない事
でしょうから﹂
﹁それはそうですわね。私達がどの様な人物か、噂をしたり、見て
みたくなっても、不思議ではありませんね﹂
リーゼロッテの言葉に頷くステラ。
まあ⋮確かにそうだよな。あの2人がここに来る⋮と言うか、知り
合いな事自体がおかしな事だもんな。噂になっても仕方ないか⋮
軽く溜め息を吐きながら、皆と食事をとっていると、一人の男が近
寄ってきた。
その男は、40台後半だが、なかなかの男前で、スラリとした上品
な男であった。その男は、俺をマジマジと見つめると、顎に手を当
てて、フムと頷く。
﹁えっと⋮俺に⋮何か用ですか?﹂
その男にぎこちなく聞くと、俺から視線を外し、感情の篭っていな
い声を出す。
﹁⋮ヒュアキントスの一級奴隷をやめた途端、私には挨拶は無しか
?ステラ、ミーア、シノン?⋮随分と偉くなったものだな﹂
その声を聞いたステラ、ミーア、シノンの3人は、軽く震えながら
1300
バッと立ち上がり、その男に深々と頭を下げながら、
﹁﹁﹁ご機嫌麗しゅう御座います!!レオポルド様!!!﹂﹂﹂
一糸乱れぬ挨拶をする、ステラ、ミーア、シノンの3人。
その名前を聞いた俺は、ステラ、ミーア、シノンの怯え方に納得す
る。
﹁⋮ステラ、ミーア、シノン、そこまで畏まる必要は無いよ?すぐ
にテーブルに就いて、普通に食事を再会しなさい﹂
﹁で⋮ですが⋮葵様⋮﹂
﹁これは﹃命令﹄です。座って気楽に食事を再開しなさい﹂
俺の優しく宥める様な命令に、戸惑いながらも命令に従い、食事を
再会するステラ、ミーア、シノン。
﹁⋮俺の奴隷に、勝手に命令しないで貰えませんか?この奴隷達は、
勝負に負けた、貴方の息子から所有権を奪い取って、既に俺の物な
ので﹂
にこやかに言う俺の言葉に、少し眉をピクッとさせるレオポルド。
﹁なかなか言うではないか。私をド・ヴィルバン商組合、統括理事
である、レオポルド・セザール・ダヴィド・モントロンと知っての
事と理解して良いのかな?﹂
﹁そうですね。あの天才的商才を持つヒュアキントスの父上でもあ
る事を理解していますよ?⋮今彼は何をしているのですか?この晩
餐会には、招待されていない様ですが?﹂
にこやかに微笑む俺を見て、フフッと笑うレオポルド。
﹁流石にあれだけの事を堂々とするだけの事は有る様だね葵殿は。
少し普通とは違う様だ。あのヒュアキントスが破れてしまうのも不
思議では無いのかも知れませんな﹂
1301
﹁その様な事はありませんよ。たまたま勝てただけですよ﹂
﹁⋮たまたまですか。ハハハ!たまたまでヒュアキントスは負けた
のですな!﹂
可笑しそうに笑うレオポルドに、俺は若干戸惑う。
﹁いやいや増々気に入った!今までのことは済まなかったね葵殿。
謝罪させて貰おう﹂
そう言って、深々と頭を下げるレオポルド。再度辺りがザワザワと
し始める。
﹁いえ⋮もう済んだ事なので。俺も何も思っていませんから﹂
﹁そうか⋮そう言って貰うと助かるよ﹂
ニコッと隙のない笑顔を見せるレオポルド。
﹁今回の件は、全て息子のヒュアキントスに任せていたとは言え、
一度葵殿に会って謝罪したかったのだよ。お互い商売人だ。忘れて
くれとは言いませぬが、遺恨を残さない様にしたくてね﹂
そう言って、再度、深々と頭を下げるレオポルド
﹁いえ⋮本当にもう結構ですから。気にしないで下さい﹂
﹁感謝します葵殿。では、皆さんの邪魔をするのも心苦しい。私は
この辺で失礼させて貰いましょう﹂
そう言って立ち上がったレオポルドは、皆に綺麗にお辞儀をする。
﹁そうそう⋮もし、葵殿が商組合に入られていないなら、是非私達
の商組合、ド・ヴィルバン商組合に入会に来て下さい。葵殿なら、
幹部クラスで迎え入れましょう。融資もその辺の商組合には真似出
来ない額を用意させましょう。ド・ヴィルバン商組合、統括理事と
してお約束します。是非お考え下さい。では⋮失礼⋮﹂
再度深々と頭を下げて、自分の席に帰っていくレオポルド。
1302
﹁⋮息子であるヒュアキントスとは随分と違う感じがするね葵兄ち
ゃん﹂
﹁そうですね⋮少なくとも、酷い事は言いませんでしたね﹂
ヒュアキントスとは対照的に、物腰の柔らかそうなレオポルドに戸
惑っているマルガにマルコ。
﹁⋮まあ、見た目だけを信じちゃダメっぽいかもだけどね⋮﹂
俺はまだ少し身体を強張らせているステラの頭を優しく撫でる。
﹁ステラ、ミーア、シノンは、既に俺に所有権があり自由の身に近
い。何も心配しなくてもいいし、あの親子に恐怖をする必要もない。
何か有ったら、俺が君達を守るから⋮安心して﹂
宥める様に言う俺の言葉に、涙ぐんで居るステラ、ミーア、シノン。
マルガとマルコもミーアとシノンに、大丈夫だよ!と優しく言って
微笑んでいた。
そんな和んでいる、俺達のテーブルで、不自然な声が聞こえる。
﹁そうよ∼。あんな奴、信じちゃダメよ∼。アイツはろくな奴じゃ
ないんだから∼﹂
俺の隣からした声に振り向くと、隣に座っていたはずのリーゼロッ
テと俺の間に、いつの間にか自然と入り込んで、椅子に座って料理
を食べながら喋っている女性が居た。
艶かしいプロポーションの、美しい女性だ。歳の頃は⋮20代後半
位。美しい赤み掛かった金髪に、柔らかそうな肌。その妖艶な顔立
ちは、マルガやリーゼロッテにも引けを取らないであろう。
太ももの付け根までスリットの入った、美しい刺繍の入った黒のド
レスを着て、その美しい足を見せびらかす様に組んでいる。
その美女に見蕩れていると、妖艶な男を誘う様な微笑みを俺に向け
1303
る美しい女性。
﹁な∼に?坊やは私に見惚れてるの?可愛いじゃない∼﹂
そう言いながら、俺に抱きつく美しい女性を見て、若干一名がテテ
テと席を立って走り寄ってきた。
﹁あ⋮貴女はどちら様なのですか?ご主人様とはどういった関係な
のですか!?﹂
アワアワマルガになっているマルガを見て、クスっと笑う美しい女
性。
﹁私はこの葵ちゃんの恋人よ?﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁ええええええええええ!?﹂﹂﹂﹂﹂﹂
一同が声を上げる。当然その中に、俺も入って居るのは言うまでも
ない。
それを楽しそうに見ている、美しい女性は、俺に顔を近づけ、
﹁私の名前はメーティス。よろしくね葵ちゃん﹂
そう言って、頬に軽くキスをするメーティスと名乗った美しい女性。
アワアワマルガが、更にアワアワしていて、俺も皆も戸惑っている
中、女性が指をさす。
﹁ほら!この栄えあるフィンラルディア王国の女王陛下のお目見え
よ!皆起立して!﹂
メーティスの言葉に起立をする俺達。辺りを見回すと、同じ様に起
立していた。
そんな戸惑っている中で始まる、アウロラ女王の挨拶。俺はこの謎
のメーティスという女性に腕組みされながら、晩餐会はまだ終らな
い事を、頭の中で考えていた。
1304
愚者の狂想曲 34 晩餐会の終わりと新しい依頼
七色に光り輝く、巨大なステンドグラスの光を背に、純白の天使が
着飾る様な国宝級の刺繍の入ったドレスを少し靡かせ、沢山の宝石
を身につけ、真紅の豪華なマントを身に纏い、その頭上には全てを
照らす様な光を放つ、大きな宝石を散りばめた、金の王冠がその威
厳を皆に知らしめているアウロラ女王。
﹁皆さん、今宵は良く定例晩餐会、夏の会に来てくれました。今回
も無事に夏の会を開けた事を神に感謝し、皆の健闘を讃えたいと思
います。今宵は、ゆっくりと寛いで行って下さい。そして、これか
らも、フィンラルディア王国の繁栄の為に力を合わせて行きましょ
う!フィンラルディア王国に幸あれ!﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁フィンラルディア王国に幸あれ!!!﹂﹂﹂﹂﹂
アウロラ女王の、威厳のある綺麗な声が、バッカス宮に響き渡ると、
それに応える様に、バッカス宮の全員の人が、手に持つワイングラ
スを高らかに掲げ、声を上げる。
そして、手に持つワインを飲み干した人々は、ワイングラスをテー
ブルに置き、拍手を始める。
その何千人もの人々の拍手の音が、バッカス宮を揺らす様に響き渡
っていた。
﹁流石はアウロラね∼。この有力者達の塊の中で、一切、その光を
失わずに、威厳を示せるんだから﹂
俺に腕組みしながら、少し嬉しそうな、優しい微笑みを浮かべなが
ら言うメーティス。
﹁⋮年上の、しかも女王陛下を呼び捨てにしちゃ不味いでしょ?﹂
1305
﹁フフフ、葵ちゃんも同じ事を言うのね﹂
俺の呆れながらの言葉に、何故か楽しそうなメーティス。
俺達は席に座り、再度豪華な晩餐に舌鼓を打ち始めると、さも当然
の様に俺の隣の席で、食事とワインを美味しそうに味わっているメ
ーティス。
﹁⋮あの⋮いつまで、この席に居るつもりなんですか?それと⋮ど
ちら様なのでしょうか?﹂
少し呆れている俺に、妖艶で楽しそうな微笑みを向けると、
﹁そんな寂しい事言わなくったっていいじゃない葵ちゃん∼。⋮そ
れとも、私の事が嫌い?﹂
その艶かしい身体を俺に擦り付けて来るメーティスに、少しドキッ
となっていると、席の後ろから声がした。
﹁やっと見つけましたよメーティス統括理事!勝手に何処かに行か
ないで下さい!﹂
少しご立腹の、その声に振り向くと、少しふくよかな、20代後半
でダークブラウンの綺麗な髪と瞳をした、優しい雰囲気の女性が立
っていた。
﹁あら、見つかっちゃった?アルベルティーナも真面目なんだから﹂
﹁貴女が不真面目すぎるんですメーティス統括理事!⋮本当に仕事
は出来るのに⋮全く⋮﹂
何やらブツブツと愚痴をこぼしているアルベルティーナ。それを可
笑しそうに見ているメーティス。
俺は戸惑いながらアルベルティーナを見て
﹁アルベルティーナ学院長⋮このメーティスと言う女性とは、お知
り合いなんですか?﹂
1306
﹁お知り合いも何も⋮この方は、我がグリモワール学院、統括理事
にして、ヴァルデマール侯爵家当主である、メーティス・アントワ
ネット・エメ・ヴァルデマールです﹂
アルベルティーナの説明に、一同が驚く。その様子を楽しそうに見
ているメーティス。
﹁そういう事なの葵ちゃん。だから、私と葵ちゃんは恋人関係なの。
解った?﹂
﹁⋮いえ、若干、最後の部分は解りませんでしたが、メーティスさ
んがどう言った人物であるかは良く解りました﹂
俺の呆れた顔を見て、楽しそうにデザートを俺の口の前に持ってく
るメーティス。
その妖艶なメーティスに持ってこられたデザートを頬張る俺。もぐ
もぐ。
﹁⋮なるほど、貴女があの有名な﹃暁の大魔導師﹄の2つ名を持つ、
グリモワール統括理事のメーティスさんでしたとわ﹂
﹁そうですね。私もメーティス統括理事とは初めてお会いしますの
で解りませんでした﹂
リーゼロッテとステラは、顔を見合わせながら少し呆れたいた。
﹁とりあえず私の自己紹介も終わった事だし、私がこの会場に来て
いる人達を教えてあげましょう﹂
そう言って玉座の方を向くメーティス。
﹁女王のアウロラや王女のルチア、アブソリュート白鳳親衛隊副団
長のマティアスの事はもう知ってるででしょ?﹂
﹁ええ、知ってますけど⋮この様な晩餐会の会場で、アウロラ女王
陛下やルチア王女、マティアス副団長の事を、呼び捨てにしたら不
味いのでは?﹂
1307
俺は周りを気にしながらメーティスに言うと、妖艶な美しい顔を、
クスッと悪戯っぽくする。
﹁大丈夫よ葵ちゃん。このテーブルの周りに、風の魔法で薄い空気
の層を作って音を遮断しているから。他の者には、私達の話は全く
聞こえないわ。私に気配を感じさせないで近づける奴なんて、そう
そう居ないしね。それに、アウロラやマティアス、ルチアは私が魔
法を教えた弟子なんだから、本来なら呼び捨てにしたっておかしく
ないのよ?﹂
楽しそうなメーティスに、盛大な溜め息を吐いているアルベルティ
ーナ。
ふ∼んそうなんだ∼⋮って⋮
えええ!?どういう事!?
ルチアが魔法の弟子だって事は良しとしよう。
でも、マティアスやアウロラ女王はおかしいだろ?
メーティスの見た目は、どう見ても、26歳∼27歳位にしか見え
ない。
マティアスより歳下だろうし、アウロラ女王からしたら、ずっと歳
下のはず。
それなのに、魔法を教えたって事は⋮このメーティスは見た目通り
の歳じゃ無いと言う事か?
ぱっと見は人間族にしか見えないけど⋮何かのハーフなのか?
俺はメーティスを霊視しようとして、レアスキルを発動させると、
バチチと軽い電気ショックの様なものが、頭の中で起こる。霊視を
防がれたのだ。
暁の大魔導師と言う2つ名を持つ位だ。LVも凄く高いのだろう。
俺の今の実力じゃ、霊視出来ないって事か⋮
1308
﹁葵ちゃん∼おいたはダメよ∼?女性には秘密にしておきたい事も
あるの﹂
そう言って妖艶な微笑みを湛えるメーティスは、再度、俺の口にデ
ザートを持ってくる。
メーティスに持ってこられたデザートを頬張る俺。もぐもぐ、うん、
林檎は美味しいね!
﹁横道に逸れたけど、アウロラのすぐ下の6つの席に座っているの
が、このフィンラルディア王国の最有力貴族である六貴族が座って
居る席ね。右端から、バルテルミー侯爵家のルクレツィオ、モンラ
ンベール伯爵家のランドゥルフ、ハプスブルグ伯爵家のアリスティ
ドね。そして反対側が、クレーメンス公爵家のフェルディナン、ア
ーベントロート候爵のパストゥール、そして最後は、フィンラルデ
ィア王国の宰相でもある、ビンダーナーゲル伯爵家のジギスヴァル
ト宰相よ﹂
メーティスの説明に、皆がテーブルの方に視線を向けている。エマ
はデザートに首ったけだ。
﹁そして、その次に爵位順に貴族様方の席が並んで居ます。まあ⋮
その席順も、とある理由から決まって居ますが﹂
﹁とある理由?それはどんな理由なのステラ?﹂
俺がステラにそう聞くと、クスっと微笑むメーティスは
﹁そう言えば、そこの3人娘さん達は、ヒュアキントスのお供で定
例晩餐会に来た事があったのよね。葵ちゃん、席順はね、派閥に関
係しているのよ﹂
そう言って説明してくれるメーティス。
どうやら六貴族の中にも、派閥が存在するらしい。
バルテルミー侯爵家とハプスブルグ伯爵家は同じ派閥らしい。クレ
1309
ーメンス公爵家とビンダーナーゲル伯爵家も同じ派閥みたいだ。
モンランベール伯爵家とアーベントロート候爵は、独立した派閥を
持っているとの事。
それぞれの派閥で協力関係が異なり、力関係が存在している。
﹁その派閥と爵位順で席は並んでいるの﹂
﹁じゃ∼メーティスさんとアルベルティーナ学院長さんの席はどこ
なのですか?﹂
メーティスに可愛い小首を傾げながら聞いているマルガ。
﹁私のヴァルデマール侯爵家とアルベルティーナのティコッツィ伯
爵家の席は、バルテルミー公爵家とハプスブルグ伯爵家の列に並ん
でいるわ。まあ別に、私達はその派閥じゃ無いのだけどね﹂
﹁そう⋮メーティス統括理事とアルベルティーナ学院長は、私と同
じアウロラ女王陛下直轄になりますからね。派閥には属していない
のですよ﹂
メーティスの言葉に被せる様に説明するその声に振り向くと、黒髪
に金色の瞳の、優男風の男前が立っていた。
﹁あら、アルバラードじゃない。お久しぶりね﹂
﹁⋮メーティス統括理事は、私が近づいているのを知っていたでし
ょう?⋮相変わらず食えない御人だ﹂
メーティスの言葉に若干呆れているアルバラード。
アルバラードは俺の前に立ち、甘い微笑みを俺に向ける。
﹁⋮選定戦ぶりだね葵殿。私の事は覚えているかな?﹂
﹁ええ、覚えていますとも。アウロラ女王陛下の専属商人のアルバ
ラード殿﹂
忘れるはずがない。コイツのお陰で、随分と不利な勝負をさせられ
たのだから。
1310
﹁⋮そうかそれなら良いんだ。折角だらか、きちんと自己紹介をし
ておこう。私はデルヴァンクール子爵家の当主、アルバラード・デ
ュ・コロワ・デルヴァンクールです。よろしく葵殿﹂
そう言って綺麗にお辞儀をして、俺に握手をするアルバラード。
やっぱりこのアルバラードも、貴族様だったのか。
ま∼アウロラ女王の専属商人になれる位だから、身分も関係してく
るのが普通だろうけどさ。
俺がそんな事を考えながらアルバラードと握手していると、リーゼ
ロッテが涼やかに微笑みながら
﹁聞きたかったのですが、何故アルバラード卿は選定戦でルチアさ
んの敵に回る様な事をなされたのですか?どこの派閥にも属さない、
アウロラ女王陛下の直轄であるはずのアルバラード卿が。本来なら、
ルチアさんの方に力をお貸しになるのが普通だと思いますが?﹂
リーゼロッテが俺の聞きたかった事を、直球で聞いてくれる。
リーゼロッテの言葉を聞いたアルバラードは、フフッと面白そうに
微笑むと
﹁⋮それはね、王族の専任商人になるのは、実力のある者がなるべ
きだと判断したからだよ﹂
リーゼロッテに優しく微笑みながら、手に持ったワインをクイッと
飲むアルバラード。
﹁確かに私はアウロラ女王陛下直轄の者。ルチア王女の要望も解っ
ていました。しかし、それだけで、王族の専任商人になれる様な事
は、あってはいけないと思ったのですよ。知っての通り、王族の専
属商人や専任商人は、無関税特権と言う特権を得られます。その権
利は莫大な利益をもたらせ、各方面に色々な影響を与えます。そん
1311
な特権を持つ専任商人に、商人を初めて1年にも満たない葵殿は、
適当ではないと判断したのですよ。そんな実力を伴わない者が、そ
んな特権を得れば、国が荒れる原因にもなりかねませんからね﹂
﹁だから⋮ジギスヴァルト宰相側⋮ヒュアキントスの側に回ったと
言う事なのですか?﹂
﹁そう言う事です。彼らは曲がりなりにも、このフィンラルディア
王国を支えてきた者達。ヒュアキントス殿の実力も確かな物でした
からね。なので、彼らの話に力を貸したのですよ﹂
優しい微笑みをリーゼロッテに向けながら言うアルバラード。
﹁商人は利益に厳しくなくてはいけません。そうしないと成り立ち
ませんからね。そう言った理由で、葵殿を排除しようと思ったので
すよ。葵殿はルチア王女の専任商人になれなくとも、ルチア王女に
お力をお貸しすると思いましたので。まあ⋮予想外だったのは、ヒ
ュアキントス殿が葵殿の一級奴隷さん達を欲した事と、その勝負を
葵殿が受けてしまったと言う事ですね﹂
フフッ笑いながら俺を見るアルバラード。
ええ!自分を見失って、とんでも無い取引をしてしまいましたよ!
⋮チクチョウ⋮
でもこれで、何故アルバラードがヒュアキントスの側に回ったか良
く解った。
アルバラードはアウロラ女王の直轄の者。別に、ジギスヴァルト宰
相の派閥に組した訳ではなかった。
純粋に国の事を考え、俺より実力のあるヒュアキントスを選んだだ
け。
ルチアの力には、専任商人じゃなくてもなれるだろうと判断したの
だろう。
﹁⋮相変わらずイヤラシイ事をするわね貴方は。やっぱり、貴方と
1312
は合いそうにないわ﹂
メーティスは流し目でアルバラードを見ながら、俺の口にデザート
を運んでくる。もぐもぐ。野いちごも美味しいね!
﹁暁の大魔導師であるメーティス卿にその様な事を言われるとは⋮
褒め言葉と受け取って宜しいのでしょうか?﹂
﹁⋮別に、褒めて無いわよアルバラード卿?﹂
嫌な物でも見る様な眼差しをアルバラードに向けているメーティス
を、何事もない様な微笑みで見返しているアルバラード。
﹁まあ⋮私の予想に反して、葵殿は勝たれた。あの逆境の中を勝ち
抜く実力を示された葵殿を、私は歓迎したいと思っていますよ。こ
れからは良き関係を築いて行きたいものですね﹂
﹁そうですね⋮その様になれば良いですね﹂
苦笑いしている俺を、フフッと笑って見ているアルバラード。
﹁なんだか楽しそうね。私も混ぜてくれない?﹂
その声に振り向くと、真っ赤な燃える様な美しいドレスで着飾った
ルチアがマティアスと立っていた。
﹁あらルチア。他の人との挨拶は良いの?﹂
﹁別に良いですわメーティス先生。どうせくだらない事ばかり言っ
てくる人達ばかりなんだし﹂
盛大に溜め息を吐くルチアに、テテテと走り寄る者がいた。
﹁ルチアお姉ちゃんとってもきれい∼。ルチアお姉ちゃんて、やっ
ぱり本物のお姫様なんだね∼﹂
そう言って微笑むエマを、デレッとした顔で抱き寄せるルチア。
﹁エマは可愛い事言ってくれるんだから!ほらほら!﹂
1313
エマを抱きながら、エマをコチョコチョしているルチア。エマは嬉
しそうにキャキャとはしゃいでいる。ルチアはステラから席を譲っ
て貰って俺の隣に座り、膝の上にエマを座らせる。
﹁はあ∼落ち着くわ∼。玉座の近くって、息苦しいったら⋮﹂
﹁ルチア様、その様な事を言われては⋮﹂
﹁大丈夫よマティアス。メーティス先生が風の魔法でこのテーブル
を包んでいるんだから。声なんか聞こえないわよ﹂
﹁それはそうですが⋮﹂
軽く溜め息を吐くマティアスは、周りを気にしながら呆れている様
であった。
俺も周りを見回してみると、沢山の人々が俺達のテーブルに視線を
向けて、何か話している様であった
﹁六貴族の2人だけではなく、グリモワール学院のメーティス統括
理事さんやアルベルティーナ学院長、アウロラ女王陛下の専属商人
のアルバラード卿や王女であるルチアさんまでが、この末席に来て
いるのです。注目されても不思議ではありませんわね﹂
リーゼロッテは周りを見回しながら、ニコッと俺に微笑む。
﹁でも、それだけで、他の人はこの席に来ようとしないけど⋮何故
だろうね葵兄ちゃん?﹂
マルコは不思議そうに俺を見ながら言うと、フフと笑うルチアは
﹁それはメーティス先生がこの席に居るからよ。メーティス先生は
好き嫌いが激しいから、他の貴族や商家もタジタジなのよ﹂
﹁⋮余計な事は言わなくていいのルチア﹂
少し不貞腐れながら言うメーティスは、クイッとワインを飲み干す。
﹁しかもメーティス卿は六貴族並の発言力を、アウロラ女王陛下か
1314
ら与えられていますからね。どの派閥にも属さない、アウロラ女王
陛下直属の者。皆、メーティス卿に目をつけられたくないのでしょ
うね﹂
楽しそうに言うアルバラード。
﹁そう言えば、アルバラード卿はここで何をしているの?﹂
﹁私は葵殿と親睦を深めようと思いましてね。同じ特権を持つ商人
同士ですからね﹂
﹁フン!今更って感じがしない訳でも無いけどね!﹂
﹁ルチア王女には、選定戦後に何度も説明したではありませんか﹂
﹁解ってるわよ!﹂
プリプリ怒っているルチアに、苦笑いをして居るアルバラード。
そんな俺達の元に、見覚えのある少女達が近寄ってきた。
﹁ルチア王女様。アウロラ女王陛下の準備が整われたとの事です﹂
﹁あらそう。ありがとうルイーズ﹂
そこには、豪華なメイド服を着て、礼儀正しくルチアに伝言を告げ
る、ルイーズ、アンリ、ジュネの3人
﹁ルイーズ、アンリ、ジュネ元気そうだね﹂
﹁はい!ルチア様は優しくして貰えますし、私達は幸せです!﹂
俺の言葉に、満面の笑みで微笑む3人を見て嬉しそうなマルガにマ
ルコ。
﹁お母様の準備が整ったのなら、葵を案内して上げてくれる?﹂
﹁﹁﹁はい!ルチア王女様!﹂﹂﹂
声を揃えて返事をする3人は、俺をテーブルから立たせる
﹁え!?俺⋮どこかに行かなければいけないの?﹂
﹁お母様が葵とお話がしたいみたいよ。粗相のない様に、注意しな
1315
さいよ?﹂
俺はルチアの言葉に少し戸惑いながら、ルイーズ、アンリ、ジュネ
に案内されて付いて行く。
バッカス宮の階段を登って行き、最上階まで来た。
そこは展望台の様になっていて、そこに1人アウロラだけが立って
いた。
﹁アウロラ女王陛下、葵様をお連れしました﹂
﹁解りました。貴女達はルチアの元に戻りなさい﹂
アウロラの言葉に、綺麗にお辞儀をして立ち去るルイーズ、アンリ、
ジュネ。
俺は1人取り残され、少し緊張をしていると、クスクスと可笑しそ
うなアウロラが
﹁何も緊張しなくても良いのですよ?こちらに居らっしゃい﹂
﹁はい、ではお言葉に甘えさせて頂きますアウロラ女王陛下﹂
俺は苦笑いしながらアウロラの側に行くと、ワインの入ったグラス
を俺に手渡すアウロラ
﹁お酒は飲めるのかしら?﹂
﹁はい⋮少しですけどね﹂
俺は手渡されたワインを口に運ぶ。少し甘く、ほろ苦い、濃厚な葡
萄酒が口の中に広がる。
お酒の飲み慣れて居ないと解る俺の飲み方に、クスクスと笑うアウ
ロラに、少し顔の赤くなる俺。
﹁と⋮所で、アウロラ女王陛下。僕にどの様な御用なのでしょうか
?﹂
声の少し上ずっている俺に優しく微笑みかけるアウロラは
1316
﹁⋮葵さん、あちらを見てみて下さい﹂
そう言って指をさすアウロラ。
そこには巨大都市、王都ラーゼンシュルトの町が広がっていた。
このバッカス宮の展望台はビル7階位の高さがある。ここから町を
見れば、ロープノール大湖まで一望出来る。
夜の暗闇に、人々の生活を感じさせる明かりが宝石の様に輝き、俺
の目には眩しく映る。
﹁⋮綺麗ですね。優しい光が沢山⋮まるで夜空を写した様ですね﹂
﹁あら⋮意外と上手く言いますね。少し驚きましたわ﹂
俺が気恥ずかしそうにしていると、綺麗な装飾のついた扇子を、口
元に当ててクスクスと笑うアウロラ
﹁私も⋮この光景が好きなのですよ⋮この光景を守る為に、私は女
王として責務を果たしています﹂
﹁それは大変凄い事だと思います。僕には到底真似出来ませんね﹂
苦笑いをする俺を見て、意外そうな顔をするアウロラ
﹁あら何故?貴方はこの世界より随分と文明の進んだ世界⋮地球と
言う所からやって来たのでしょう?色々な知識を持っているでしょ
うに⋮﹂
その言葉を聞いた俺は、一気に血の気が引いていく。
そんな俺を見て、再度楽しそうな顔をするアウロラは
﹁そんなに心配する事ではありません。私は貴方に何かしようなど
とは思っていませんわ。ルチアさん同様、貴方に何かを強要したり
しませんから﹂
そう言って優しく微笑むアウロラを見て、少し安堵する俺
﹁貴方の事は、選定戦前に、ルチアさんから全て聞いています。貴
1317
方の事を私に言ったルチアさんを責めないで上げてくださいね。ル
チアさんにも出来る事に限界が有ります。あの子は賢い子だから、
それをすぐに理解して、ごく少数の信用の出来る人物に協力を仰い
だのです﹂
なるほど⋮そりゃそうだ。ルチアにも出来る事と、出来ない事があ
る。
﹁そのごく少数と言うのは⋮他に誰がいるんですか?﹂
﹁それは、私とアウロラ、後は⋮アルベルティーナだけよ﹂
その声に振り向くと、艶かしい微笑みを湛えながら、ワイングラス
を持った美女が立っていた。
﹁メーティス先生は呼んだつもりはありませんでしたけど?﹂
﹁かたい事言わないのアウロラ。それとも⋮私に聞かれたら⋮不味
い様な話でもしたかったの?﹂
悪戯っぽく微笑むメーティスを見て、少し呆れ顔のアウロラ。
﹁私が葵さんをここに呼び出したのは⋮葵さんがこれからどうしよ
うと考えているのか知りたかったのです。地球と言う進んだ世界か
らきて、ルチアの専任商人になった葵さんが、何をしたいのか気に
なりましてね﹂
アウロラは少し真剣な表情で俺を見る。メーティスもワインを味わ
いながら、流し目で俺を見ていた。
﹁俺が⋮これからしたい事ですか?﹂
俺は若干戸惑いながら、気持を整理する。
俺のしたい事⋮愛するマルガやリーゼロッテと幸せに暮らせる事。
仲間になった、マルコ、エマ、レリアや、ステラ、ミーア、シノン
を守れれば十分。
1318
あ!ルナやリーズ、ラルクル達もだね。
後は⋮商売である程度儲けを出せて、楽しく過ごせたら⋮それだけ
で⋮
﹁俺は大切な人達と、楽しく幸せに暮らせればそれで良いですね。
商売で程よく儲けが出せればって感じで⋮﹂
俺の苦笑いしながらの言葉に、アウロラとメーティスは顔を見合わ
せてキョトンとしていた。
﹁貴方⋮自分が持っている知識が、どれほど凄いものか解っていて、
それを言っているの?﹂
﹁ええ、そうですよメーティスさん。知っているからこそ、俺は普
通に生活がしたいのです﹂
俺の言葉に、不思議そうな顔をしているメーティス。
﹁僕は何も⋮どこかの国の王様や、物語に語られるような英雄にな
りたい訳じゃないんです﹂
俺はゆっくりと気持ち話す。
そう⋮そんな事は望まない。
確かに俺は、この世界を一変させるかも知れない知識を持っている。
でも、それを実行していけば、きっと避けれない悲劇も沢山味わう
事が、容易に想像出来る。
俺のせいで沢山の人が死ぬかもしれないし、不幸にもなるかもしれ
ない。
そんな事になれば、愛するマルガやリーゼロッテも危険な目に遭う
し、エマやマルコ、レリアにステラ、ミーア、シノンにだって危険
が及ぶかもしれない。俺はそんな事耐えれない。仲間が幸せに過ご
せるだけで良い。王様や英雄なんて者は、なりたい奴にならせてお
けば良いのだ。
1319
俺の言葉を聞いたアウロラは軽く溜め息を吐く
﹁葵さんの言う事は解りますが⋮少しもどかしさも感じますわね﹂
﹁それは仕方の無い事よアウロラ。貴女はこの国を治める女王で、
葵ちゃんは普通の商人だもの。背負っている物も違うだろうし、生
き方も違って当たり前よ﹂
メーティスの言葉に、そうですわねと、苦笑いをするアウロラ
﹁でも葵ちゃん、どうしても困った事態になった時は⋮貴方の知識
⋮﹃科学の力﹄と言うものを貸して欲しいのは事実よ。それは協力
して貰えるのかしら?﹂
﹁そうですね⋮情報をこちらで精査して、適当と判断した時は、対
価と引換にと言う事であれば﹂
その言葉を聞いたメーティスはフフと可笑しそうに微笑み
﹁対価と引換ね⋮その時は、安くして上げてね葵ちゃん﹂
﹁努力します﹂
苦笑いをしている俺を見て、楽しそうなメーティス。
﹁⋮今日、葵さんとお話が出来て良かったですわ。私もそろそろ晩
餐会に戻らなければなりません。一足先に、葵さんは戻ってくれま
すか?﹂
﹁はい、解りました。僕もアウロラ女王陛下とお話出来て良かった
です﹂
俺は綺麗にお辞儀をして立ち去ろうとすると、後ろから声を掛ける
アウロラ
﹁それから⋮ルチアさんの事も⋮宜しくお願いしますわね﹂
﹁⋮勿論です。ルチアは⋮俺の大切な仲間ですから﹂
1320
俺の微笑みを見て、フフフと楽しそうに笑うアウロラ。俺は皆が待
つ晩餐会の会場に戻るのだった。
﹁⋮欲のない人物⋮なのかしら?﹂
﹁⋮違うんじゃない?彼の望む物が、野心家達の望む物と違うって
事じゃないのかしら?﹂
アウロラの問に、応えるメーティス。
﹁どこか⋮雰囲気がキャスバルに似ているわね葵ちゃんは﹂
﹁あら、メーティス先生もそう思います?私もそう思ってましたの。
あの雰囲気や考え方⋮まるでそこにキャスバルが居る様で⋮どこか
悪戯したくなっちゃいますわ﹂
葵の立ち去った入り口を見つめながら、悪戯っぽく言うアウロラ
﹁本当に仲が良かったわよね、貴方とキャスバルは。アウロラが唯
一愛した男性ですもんね﹂
﹁ええ、フィンラルディア王国の無能の王と言われ様とも、私にと
っては最高の人でした。きっと私とキャスバルの子供達も、王とし
てではなく、父親としてキャスバルの事を愛していたと思いますわ﹂
どこか懐かしむ様に言うアウロラは、満天に輝く夜空の星々を見つ
めていた。
﹁キャスバルが亡くなって、もう7年ですもんね。月日が経つのも
早いものね﹂
アウロラの横でワイングラスに口をつけるメーティス。
﹁きっとルチアさんも⋮キャスバルと同じ雰囲気と考え方を持つ葵
さんを、気に入ったのだと思いますわ。ルチアさんは素直じゃない
ので、認めようとはしないのでしょうけど﹂
﹁そうかもね。昔、素直じゃなかったアウロラの様にね﹂
1321
メーティスの言葉に、気恥ずかしそうに微笑むアウロラ。
﹁出来れば⋮何事も無く⋮幸せに過ごして欲しいのですけどね。メ
ーティス先生⋮私の子供達と、葵さん達の事⋮宜しくお願いします
わね﹂
﹁任せておいて。可愛い愛弟子のアウロラのお願いだもの。頑張っ
ちゃうから﹂
夜空に捧げる様に、ワイングラスを合わせるアウロラとメーティス。
その美しいグラスの音が、微かに聞こえる晩餐会の人々の声に交じ
り合っていった。
﹁⋮もう少しゆっくりして行く?﹂
﹁そうしましょうかメーティス先生﹂
にこやかに微笑み合うメーティスとアウロラ。
こうして俺達の初めての晩餐会は、過ぎていくのであった。
翌日、晩餐会から戻って来た俺達は、グリモワール学院にある俺達
の宿舎でゆっくりとしていた。
﹁安定した収入を得られる予定は立ちましたが、それまでに何か収
入を得たい所ですね葵さん﹂
宿舎の寛ぎの間でゆっくりしている中、リーゼロッテが口を開く。
﹁そうだね∼。何か無いかな?約30日位ある事だしね。どこかに
1322
行商でも行こうか?﹂
﹁そうですね⋮では、少し考えてみましょう﹂
リーゼロッテはそう言って、アイテムバッグから紙を取り出し見て
いる。
恐らくこの王都ラーゼンシュルト周辺で利益を上げれる商品と、行
商ルートを考えてくれて居るのであろう。そんな俺とリーゼロッテ
を見ていたマルガが、何かを思い出した様に
﹁ご主人様!私に良い案が有ります!﹂
ハイハイ!と、右手を上げて猛アピールをしてくる可愛いマルガの
頭を優しく撫でる。
﹁はい!マルガさん。発表して下さい!﹂
﹁ハイ!私は、冒険者ギルドのアガペトさんが言っていた、冒険者
ランクを上げるお仕事を受けるのが良いと思います!﹂
フンフンと鼻息の荒いマルガは、元気一杯に発表した。
その言を聞いて、俺とリーゼロッテは顔を見合わせる。
﹁マルガその案いいね!最近色々有ったから、その話をすっかり忘
れていたね!﹂
﹁そうだね葵兄ちゃん!冒険者ギルドのあの話なら、何処の冒険者
ギルドでも良いって事だったし、仕事を達成すれば、冒険者として
のランクも上げれるし、同時に報酬も貰えるから都合も良いし﹂
マルコの言葉にウンウンと頷くマルガは嬉しそうだ。
﹁確かにマルガさんやマルコさんの言う通りですね。期間はそこそ
こありますから、丁度良いかも知れません﹂
リーゼロッテはマルガとマルコの頭を優しく撫でながら言うと、照
れ笑いしているマルガとマルコ。
1323
﹁葵様⋮冒険者ギルドで何かお仕事を受けられるのですか?﹂
ステラが紅茶を入れてくれながら俺に聞いてくる。
俺達は以前、ラフィアスの回廊で見つけた事に対しての報奨を、一
部受け取っていなかったのだ。
それは、冒険者ランクの2階級特進。
但し、試験があるみたいなので、ある程度皆のLVを合わせて、尚
且つ何も予定の無い時にと思っていて後回しにしていた。
今回は皆のLVも整っているし、期間もある。それに仕事を達成し
たら、報酬も貰える。
今の俺達には丁度良いのだ。
﹁俺達はちょっと前に、ラフィアスの回廊で新しいMAPを発見し
て、宝石も見つけたんだ。まあ見つけた宝石はもう売っちゃって無
いけど、冒険者ランクの2階級特進の条件はまだ有効なんだ﹂
﹁では⋮あの300年間誰も発見出来なかったラフィアスの回廊の
秘宝を見つけたのは⋮葵様達だったのですね。発見の情報は得て居
ましたが、発見者の名前までは聞き及んでいませんでした﹂
そう言って少し驚きながら見ている、ステラ、ミーア、シノン
実際はそんなものなのかもしれない。
港町パージロレンツォと、王都ラーゼンシュルトはそこそこ距離も
離れているし、この世界にはまだ、新聞や瓦版と言った、情報媒介
が存在していない。
国や冒険者ギルドの発表は、掲示板を人々が見て、口コミで広がっ
ていくというのが慣習だ。
発見の情報はこの王都ラーゼンシュルトまで伝わっているが、発見
者までは伝わっていないのかもしれない。俺達は特に有名じゃない
しね。
1324
でも、港町パージロレンツォに居てる時は、結構凄かったりしたの
だ。
発表されてからは、マルガやマルコは、色んな人から声を掛けられ
る様になっていたし、俺も町を歩けば、色々聞かれたりもした。
小さな女の子から花束を貰った時の、マルガとマルコのデレデレ顔
と言ったら⋮
なので、港町パージロレンツォでは俺達はそこそこ有名人だったり
するのだ。
﹁とりあえず、冒険者ギルドに行ってみようか。用事のある人はい
る?﹂
俺の言葉に手を挙げるリーゼロッテと3人の亜種の美少女達。
﹁私は少し用事がありますの。冒険者ギルドの件は、葵さん達にお
任せしますわ﹂
﹁私達も、宿舎の清掃と、皆様方の買い出しに行かせて貰いたく思
います葵様﹂
リーゼロッテとステラの言葉を聞いて、頷く俺。
﹁解ったよ。リーゼロッテとステラ達は、自分の遣りたい事を優先
してくれていいよ。じゃ∼マルガとマルコ一緒に行こうか﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
﹁解ったよ葵兄ちゃん!﹂
嬉しそうに返事をするマルガとマルコの頭を優しく撫でながら、
﹁あ⋮それから⋮明日皆で⋮ロープノール大湖に泳ぎに行こうと思
ってるから、買い出しに行くなら、皆の分の水着も買ってきてくれ
るステラ?﹂
その言葉を聞いたマルガとマルコは軽く飛び上がって、ハイタッチ
をして喜んでいる。
1325
﹁ご主人様!私楽しみです∼!﹂
﹁オイラも!一杯泳いで遊びたいよ!﹂
キャキャとはしゃいでいるマルガとマルコ。レリアと一緒に散歩に
出かけているエマも居たら、凄く喜んでいたかもしれない。
﹁私も⋮初めてなので⋮楽しみです﹂
﹁私も⋮泳ぐの⋮気持良さそうです∼﹂
ミーアとシノンも嬉しそうにしている中、ステラだけが若干、顔が
引き攣っていた。
﹁どうしたのステラ?何か心配事でもあるの?﹂
﹁い⋮いえ!なんでも御座いません葵様!﹂
珍しく慌てているステラに首を傾げる俺
﹁と⋮とりあえず、一緒に持っていく、食べ物や飲み物も一杯買っ
て来て。あ⋮でも⋮重くて持てないか⋮﹂
﹁大丈夫ですわ葵さん。ステラさん達と買い出しの時間を合わせて、
私も一緒に行きますから。私のアイテムバッグに入れれば、重くあ
りませんから﹂
﹁じゃ∼頼むよリーゼロッテ﹂
俺は皆に挨拶をして、冒険者ギルドに向かうのであった。
俺とマルガ、マルコの3人は、冒険者ギルドの王都ラーゼンシュル
ト支店に向かって歩いている。
1326
季節は真夏だが、影を歩けばそこまで暑くない。
昔の日本人もこの様な涼しさがあったからこそ、涼のとり方も風流
な物が流行ったりしたのであろう。
その様な事を思いながら歩いていると、冒険者ギルド、王都ラーゼ
ンシュルト支店が見えてきた。
港町パージロレンツォにある冒険者ギルドより大きなその建物は、
創りは古いが素晴らしいレンガ作りの建物であった。
冒険者ギルドの象徴である、勇者クレイオスの銅像と、左側にはそ
の勇者クレイオスの妻にして、一番の使者であった使徒エウリュビ
アの銅像が立てられている。
俺達は巨大なその銅像を眺めながら冒険者ギルドに入って行くと、
沢山の人々が居て賑わっていた。
﹁冒険者ギルドはどこに来ても活気がありますねご主人様!﹂
﹁そうだね∼。色々な人達が冒険者ギルドには入ってくるからね。
人の集まる町の冒険者ギルドは、どこも賑わっているよね﹂
色んな人種の人々が行き交うのを、楽しそうに見ているマルガとマ
ルコの手を引きながら、俺は冒険者ギルドの受付の前に来た。
﹁こんにちわ!冒険者ギルドにどの様な御用でしょうか?﹂
受付の女性が微笑みながら聞いてきた。
﹁えっと⋮仕事を受けに来たのには間違いはないのですが⋮僕達は
少し特殊でして。とりあえず、この書状を見て貰えますか?﹂
俺はそう言って、アイテムバッグから1枚の書状を出し、受付の女
性に手渡す。
その書状は、アガペトが書いてくれた、冒険者ランクを2階級特進
1327
させる条件と、理由が書かれた書状だ。本来なら港町パージロレン
ツォの冒険者ギルドで行えば良いのだが、ルチアとの約束で王都ラ
ーゼンシュルトに向かう事が決定していたので、アガペトに相談し
たらこの書状を書いてくれた。
アガペト曰く、この書状を見せれば、どこの冒険者ギルドでも、同
じ様に扱ってくれると言っていた。
なので俺は説明するよりも書状を見せた方が早いと思ったのだ。
その書状を見た受付の女性は、書状と俺達を見返しながら、
﹁ご⋮ご用件は解りました。私では解り兼ねますので、暫くここで
お待ちください﹂
そう言い残して、書状を持って奥に行く受付の女性。暫く言われた
ままに待っていると、受付の女性が帰ってきた。
﹁葵様お待たせしました。解る者が対応しますので、こちらに来て
下さい。ご案内します﹂
そう言って案内してくれる受付の女性の後に付いて行く。
冒険者ギルド、王都ラーゼンシュルト支店の最上階に来た俺達は、
立派な造りの扉の前まで案内される
﹁アベラルド支店長、葵様をお連れしました﹂
﹁ウム、入って頂きなさい﹂
その声に部屋の中に案内される俺達。沢山の書物や武具に囲まれた
その部屋の奥に、少し背の高い、ガッチリとした感じの40代後半
の男性が立っていた。
﹁ようこそ来られました。私が冒険者ギルド、王都ラーゼンシュル
トシュルト支店の長を務めていますアベラルドです﹂
そう言って軽く頭を下げるアベラルド。
1328
﹁僕は葵
コです﹂
空。こっちは僕の一級奴隷のマルガと、旅の仲間のマル
﹁ご主人様の一級奴隷をしていますマルガです!よろしくです!﹂
﹁オイラはマルコです!葵兄ちゃんの弟子をしています!よろしく
です!﹂
元気一杯に挨拶をするマルガとマルコを見たアベラルドは、表情を
緩める。
﹁ハハハ、元気があって宜しいですな。要件はアガペトからの書状
を拝見させて頂きましたので解ります。どうぞ、そちらにお座りく
ださい﹂
それ達は薦められるまま、広いソファーに腰を下ろす。
﹁では、まず葵さん達のネームプレートを拝見させて貰ってよろし
いですかな?﹂
俺達は頷き、アベラルドにネームプレートを提示する。
当然、見られたくない項目は秘密モードになっているが、俺達の身
分を証明するには、何も問題はない
﹁確かに拝見しました。間違いなく葵様ご一行で有る事を確認しま
した﹂
そう言って俺達にネームプレートを返却するアベラルド。
﹁冒険者ランクを2階級特進させる試験を受ける方は、こちらにい
らっしゃる方達のみで宜しいのですか?﹂
﹁いえ、もう一人居ます。出来ればその子も一緒に受けさせて欲し
いのですが﹂
﹁結構ですよ。書状には、葵様ご一行と書かれていますので﹂
その言葉にマルガとマルコは嬉しそうに顔を見合わせる。
1329
﹁では⋮試験の内容ですが⋮どの仕事で⋮試験とするか⋮﹂
そう言いながら、顎に手を当てて考えているアベラルド。暫く考え
込んでいたが、何かを思い出した様に俺達に向き直る
﹁そう言えば、マリアネラに任せた依頼に、応援の要請が来ていま
したね。その応援に行って貰うのも良いかも知れません﹂
﹁それは⋮どんな依頼なんですか?﹂
俺の言葉にフムと頷くアベラルド。
﹁ええ、葵様方は、ここ数年起こっている、郊外町で横行している
人攫いの件はご存知ですかな?﹂
﹁郊外町での⋮人攫いですか?﹂
﹁そうです。元々治安の悪い郊外町ですが、ここ数年、頻繁に郊外
町で人が攫われて居るのです。まあ⋮元々市民権の無い者達が多く
住む所なので、放置していたのですが、どうやら組織的に人を攫っ
ている集団が居るみたいでしてね。そいつらの目的を一緒に探って
欲しいのです﹂
アベラルドの言葉に、少し不安そうなマルガにマルコ
﹁ご主人様⋮郊外町と言うのは⋮そんなにも危険な所なのですか?﹂
マルガは少し瞳を揺らしながら、俺に聞いてくる。
この王都ラーゼンシュルトや港町パージロレンツォの様な大都市の
周りには、都市の中で住めない人々、つまり、多額の税金を払えず、
市民権を持てない人々が数多く生活をしている。
そう言う人々が集まって出来た町が、郊外町なのだ。
当然、税金を満足に払えない人々は、騎士団に守って貰える事もな
く、日々その生命を危険に晒しながら生きている。
1330
強姦、殺人、誘拐は日常茶飯事。郊外町に住んでいる者達は特にそ
れを特別と思っては居ない。
それ位治安の悪い町なのだ。
だが、都市に通じる大通りに面する場所に住んでいる者達や商店は、
税金を多少は収めていたり、商店等は、都市に住む人が経営してい
たりするので、警護して貰えたりしている者達もごく一部だが居る。
しかし、大半は、毎日を命がけで生活する者達が殆ど。
俺も皆には、郊外町には絶対に1人で行かない事と、もし、何かの
用事で行く事がある時は、戦闘職業に就いている、マルガ、マルコ、
リーゼロッテや俺の同行を求める様にしているのである。
俺の説明に、表情を暗くする、マルガにマルコ。
﹁マルガさんにマルコさんが暗い顔をされるのも解らなくはないで
すが、これはある意味仕方の無い事なのですよ﹂
苦笑いしながら言うアベラルド。
﹁それは⋮どういう意味なのですか?﹂
﹁それはねマルガ、もし、騎士団が税金を払わない奴らを同じ様に
助けたら、都市の中に住む人々は、税金を払わなくなっちゃう可能
性があるからだよ。お金を払わずとも、市民権を得た状態と同じな
ら、誰も税金なんて払いたくなくなるでしょ?﹂
俺の言葉に、少し俯くマルガ。
マルガは優しいからね⋮
この郊外町の問題は、昔から取り上げられては、流されてきたのだ。
大都市に仕事にありつく為に集まってくる貧困層を如何に解消する
かは、何時も議題に上がっているらしい。
しかし、税金の取り立てをしようにも、取り立てる金が無かったり、
人の入れ替わりも激しかったりするので、きちんとした人の管理も
1331
出来ていないのが現状だ。
しかも、貧困層といっても、毎日生活するお金や品物を、仕入れた
り、働いたりもするので、経済的にも役に立っている。人口も結構
なものなので、その経済効果も無視出来ない所まで来ていて、完全
に駆逐出来ない要因にもなっている。
増え続ける郊外町の人々をどうするかは、それぞれの大都市では頭
を抱えているのが現状だ。
それと、無法地域に見える郊外町にも、一応の支配者は存在する。
非合法ではあるが、郊外町を治めるというか、支配している者⋮つ
まりマフィアの様な存在の者達だ。
その者達は、非合法ではあるが、税の取り立てと言う名目で、その
土地の領主から、郊外町の支配を許されている。取り立ての難しい
税を、国に変わって取り立てる代わりに、支配を許されているのだ。
その者達のお陰で、郊外町は崩壊せずに、成り立っているとも言え
る。
﹁⋮今回の依頼は調査のみ。戦闘になる様な事は、先に依頼を受け
ているマリアネラのパーティーが担当しますので、比較的安全に行
動できると思います。それと、危険を感じたなら、いつでも戻って
頂いて結構です。その内容を聞いて、私が合否を判定します。報酬
は⋮金貨20枚。どうされますか?﹂
アベラルドの言葉に、心を動かされる。
戦闘なしで、危険を感知したら撤退しても良いのか⋮
それで金貨20枚に、冒険者ランクの2段階UPか⋮魅力的だな。
﹁解りました。その条件でお受けします﹂
俺の言葉にニコッと微笑むアベラルド。
1332
﹁そうですか。それでは5日後に、先遣しているマリアネラ達のパ
ーティーと合流と言う事で伝えておきます。詳しい内容は、追って
書状を届けさせますので﹂
﹁ハイお願いします﹂
俺達はアベラルドと握手を交わし、冒険者ギルドを立ち去る。
しかし、この依頼が、後にとんでも無い所に繋がっていようとは、
この時は想像すらしていなかった。
俺は、触れてはいけない領域に、踏み込んでしまった事を、後にな
って激しく後悔する事になるのだった。
1333
愚者の狂想曲 35 真夏の湖水浴!
晴天!!
まさにその言葉が似合う様な、雲ひとつ無い快晴だ!
真夏の太陽は、自信ありげに眩しく光輝いている。いつもはソレを
鬱陶しくも思うのだが、今日に限っては嬉しく思えたりする。
今日は、皆でロープノール大湖に、湖水浴に出かける日なのです!
この王都ラーゼンシュルトが有るのは、フィンラルディア王国の内
陸。だけどすぐ傍に、地球のバイカル湖より少し小さい大きさの、
ロープノール大湖がある。
小さな国ならすっぽりと入ってしまうであろう巨大なこの湖は、豊
富に水を湛え、沢山の魚介類は、皆の生活を支えている。
この世界は文明が進んでおらず、その湛える水も非常に綺麗。その
ままその水を飲んでも、お腹など壊したりはしない。
どこかの南の島のリゾート地の様に、澄み渡った水を堪能出来る。
昨日、湖水浴の準備をしてくれた、リーゼロッテや獣人美少女3人
娘、ステラ、ミーア、シノンのお陰で、すぐに出かけることが出来
る。
俺達は出かける準備をして宿舎の食堂に降りていくと、もう皆が朝
食を始めていた。
﹁皆∼おはよ∼﹂
皆と挨拶を交わすと、ステラが俺に朝食を持ってきてくれる。それ
をお礼を言って受け取り、食べ始める。
そして、若干2名の嬉しそうな奇行に皆の視線が集まる。
1334
﹁⋮マルガもエマも⋮ロープノール大湖に着くまで、浮き輪は外し
ててね。そのままじゃ、朝食も食べにくいし、歩きにくいでしょ?﹂
俺の言葉を聞いたマルガとエマは俺に向き直ると
﹁え∼外さないとダメなの∼?葵お兄ちゃん∼﹂
﹁私も外さないとダメですかご主人様∼?﹂
そのマルガとエマの残念そうな声に、皆が声を殺して笑っている。
昨日の買い出しでリーゼロッテが、初めて泳ぐ子が意外と多いので、
木製の浮き輪を数個買ってきてくれた。軽く浮力のある木材を、ド
ーナツの様に円状に組み合わせた安価な浮き輪ではあるが、浮き輪
としての機能は、十分に備えている。
しかし、軽い木材で作ってあるといっても、地球の空気で膨らます、
塩化ビニールで出来た浮き輪とは違い、少し重量もあるし、木製な
ので変形もしない。
マルガとエマは、その木製の浮き輪をつけたまま、悪戦苦闘しなが
ら朝食を食べているのだ。
その姿はとても微笑ましく可愛いものだけど、そんな事しながらロ
ープノール大湖に行ったら、行くまでに疲れちゃうよ!
﹁うん、マルガもエマも、浮き輪はしまいなさい﹂
﹁はい∼ご主人様∼﹂
﹁わかったよ∼葵お兄ちゃん∼﹂
シュンとしながら、渋々浮き輪を外し、エマの浮き輪と一緒にアイ
テムバッグに自分の浮き輪をしまうマルガ。それを見て、肩を震わ
しながら笑いを堪えている一同。
﹁本当に⋮浮き輪をつけたまま行くって聞かなかったから、良かっ
1335
たですわ葵さん﹂
﹁仕方ないですよレリアさん。エマもマルガも初めての湖水浴で、
嬉しいのでしょうから﹂
苦笑いしながらの俺の言葉に、フフッと笑っているレリア。
マルガとエマは気恥ずかしそうに照れ笑いをしている。
﹁じゃ∼準備も整っている事だし、朝食を食べ終わったら、ロープ
ノール大湖に向かおうか﹂
俺の言葉に嬉しそうに頷いているマルガとエマは、邪魔だった浮き
輪と言う足枷が無くなった事で、朝食が何時も通りに食べられる様
になったので、パクパクと朝食を食べていく。
食べ終わったら湖水浴に行けると言う言葉に、嬉しさを隠しきれて
いない様だった。
それを微笑ましく思いながら朝食を終え、宿舎を出て馬車置き場に
皆で向かう。
俺の荷馬車1号の長柄を、2頭引きの物に交換して、馬のリーズと
ラルクルを繋ぐ。
初めはリーズだけで良いと思っていたけど、マルガがラルクルが寂
しがります!と、少しご立腹で俺におねだりするので、結果、一家
全員?で、湖水浴に出かける事になった。
皆が荷馬車に乗り込む。俺とマルガ、リーゼロッテはいつも通り御
者台に、他の皆は荷台に人を乗せる時に使う柔らかい敷物を敷いて、
その上に座って貰う。
俺の荷馬車は、元々客馬車用のキャリッジタイプを、荷馬車に作り
直して貰った物で、板バネも良いのを使ってるから、衝撃も少ない
し乗り心地は良い。荷台で寝ていられる位だ。
俺は皆が荷馬車に乗ったのを確認して、荷馬車を進める。
1336
そこそこの人を乗せてはいるが、丈夫で力のある品種の重種馬のリ
ーズとラルクルは、いつもより軽い荷馬車を、事も無げに引いてい
く。
そんなリーズの頭の上には、何故か得意げな顔をした白銀キツネの
子供、甘えん坊のルナがキリッと言った感じで立っている。
﹁今日は良い天気ですねご主人様∼﹂
﹁だね∼。湖水浴日和だね∼﹂
﹁本当ですわね。これだけ良い天気ですと、泳ぐのも気持ち良いで
しょうね﹂
その言葉に、若干1名がヒョッコリと顔を出す。
﹁ほんと∼?エマたのしみ∼!﹂
﹁これエマ!動いている荷馬車の上で走ったら危ないでしょう?﹂
エマの腰に両手を回すレリア。エマは両手足をバタバタさせながら
キャキャとはしゃいでいる。
﹁でも、葵兄ちゃん、ロープノール大湖のどの辺に泳ぎに行くの?﹂
﹁マルコ様、ご心配なさらずとも大丈夫で御座います。この王都ラ
ーゼンシュルト周辺の事は、私達が詳しいですから﹂
マルコの問に、応えるステラ。
俺達が目指している場所は、ステラが教えてくれたロープノール大
湖で、比較的安全に泳げる場所なのだそうだ。町の人も泳ぎに行く、
軽い湖水浴場の様な所らしい。
そこは遠浅で、湖の大きな魔物も入り込みにくく見晴らしも良い為、
泳ぐにはもってこいの場所みたいなのだ。
俺はステラの教えてくれた通りに荷馬車を進める。
王都ラーゼンシュルトを出て、郊外町のヴェッキオを通り抜け、暫
1337
く荷馬車を進めると、俺達の目にロープノール大湖が目に入ってき
た。
それを見て若干3人が嬉しそうに声を上げる。
﹁ご主人様!ロープノール大湖に着きました!﹂
﹁やっぱりいつ見ても大きな湖だよね!﹂
﹁エマおよぎたい∼もう泳いでもいい∼?﹂
マルガにマルコ、エマが我慢出来なさそうに言う。
﹁ステラが教えてくれた場所までもう少しだから待っててね﹂
﹁﹁﹁は∼い!!!﹂﹂﹂
声を揃えて元気良く返事をするマルガにマルコ、エマの3人。
俺はリーゼロッテと顔を見合わせて、微笑み合いながら荷馬車を進
める。
湖岸線沿いに暫く荷馬車を進めると、大きな美しい砂浜が見えてき
た。人がまばらだが少し居て、楽しそうに泳いでいるのが見える。
﹁ここがステラの言っていた所で良いのかな?﹂
﹁はい葵様。この場所で御座います﹂
そのステラの言葉に、若干3名が色めきだっているのは、言うまで
もない。
俺は荷馬車を砂浜ギリギリまで寄せて止める。
﹁じゃ∼まずは着替え用にする為の野営テントを2つ建てようか﹂
俺の言葉に、皆が荷馬車に積んである、何時も野営の時に使ってい
るテントの部品を荷馬車から降ろしていく。そして、テントの軸の
木の棒を降ろした時に、若干1名が驚きの力を見せる。
﹁葵お兄ちゃん∼この木の棒もっていったらいいの∼?﹂
1338
そう言いながら、軸の木の棒4本を楽々と脇に抱えるエマ。
﹁えええ!?エマ⋮重くないの!?﹂
﹁全然おもくないよ?葵お兄ちゃん﹂
キョトンとした顔で平然と言うエマ。それを見て、俺と同じ様に驚
いている皆。
﹁大丈夫だと思いますよ葵さん。エマはドワーフの血を引くハーフ
ドワーフ。いつもは危ないから使わせない様に言っていますが、エ
マは⋮物凄く力が強いのです﹂
そう言いながら苦笑いしているレリア。
オオウ⋮あんなちっちゃい身体なのに、力が強いのか!流石ハーフ
ドワーフ。
力の強いドワーフ族の血を、色濃く引き継いでいるんだね。
まあ⋮魔力も引き継いで居るみたいだし、これ位の力を出せても当
然なのかも⋮
俺達は感心した様にエマを見つめていると、得意げそうに微笑んで
いるエマ。
﹁じゃ∼エマ。疲れない様に運んでくれる?無理はしなくて良いか
らね?﹂
﹁は∼い!﹂
元気良く返事をしたエマは、設置場所に軸の木の棒をテテテと運ん
でいく。
エマの予想外の助力もあり、あっという間に設置出来た2つのテン
ト。
﹁そっちは女性専用の更衣室にして、こっちは男性様ね。じゃ∼皆、
水着に着替えようか﹂
1339
俺の言葉に皆が別れてテントの中に入っていく。
俺とマルコは着替え終わって外に出る。男性は着替えるのが楽で早
いからね!
暫く待っていると、女性用のテントから、次々と人が出てくる。
そして気恥ずかしそうに近寄ってきたマルガが
﹁ご主人様どうですか?変じゃありませんか?﹂
少しモジモジとしているマルガ。
マルガが着ているのは、一般市民がよく着るタイプの水着だ。
スポーツブラの様な上に、スパッツの様な下。素材は綿で出来てお
り、紐で縛ってとめるタイプの水着である。
今回は特別にそれぞれに水着を買ってあげる時間がなかったので、
女性は皆同じの水着を着用している。しかし、体にフィットする様
に作られたその水着は、スタイルの良い彼女達に良く似合っている。
﹁マルガ良く似合っているよ。可愛いよ﹂
﹁ありがとうございます!ご主人様!﹂
顔を少し赤らめながら言うマルガの尻尾は、嬉しそうにフワフワ揺
れている。
その中で、リーゼロッテとエマが、水辺に商売用に使うパラソルの
様な大きな日傘を波打ち際に立てて、何かを水につけていた。
﹁リーゼロッテとエマは、何をしてるの?﹂
﹁ええ、果実ジュースと蜂蜜パン、果物を、ロープノール大湖の水
で冷やしておこうと思いまして﹂
そう言いながら、果実ジュースの入った樽と蜂蜜パンと果物の入っ
た木の箱を、流されない様に縛って冷やしているリーゼロッテとエ
マ。
ここでもエマの活躍で、結構重い果実ジュースの入った樽をやすや
1340
すと移動出来たのは言うまでもない。
それを涎のでそうな顔で見ているマルガは、ハッと我を取り戻し、
何かを思い出した様であった。
皆を集めだしたマルガは、皆を横一列に並べると、その前に立つ。
そして、腰に可愛い手を当てて、仁王立ちしているマルガは、軽く
咳払いをする。
﹁コホン!では⋮泳ぐ前に、準備運動をしちゃいます!ご主人様直
伝!ラジオタイソウ?なのです!﹂
右手を上げて元気良く宣誓するマルガ。ふとマルガの右の足元に視
線を落とすと、やっぱり何故か得意げな顔をした、白銀キツネの子
供、甘えん坊のルナがキリッと立っていた。
﹁チャン!チャチャ!チャチャチャチャ!チャ∼ン!チャチャ!チ
ャチャチャチャ!チャチャチャチャチャチャチャチャ!チャチャチ
ャチャチャ∼ン!背伸びの運動なのです!ハイ!!﹂
マルガはとこがで聞いた事のある音楽を口ずさみながら、体操を始
める。
オオウ⋮こうやって皆でラジオ体操とか、いつぶりだろう?
昔、小学校の頃に、夏休みに朝早起きして、町内のラジオ体操に参
加した時いらいかも!
結局、続かなくて、途中で終わったスタンプ帳⋮なつかしす⋮
そんな事を考えながら、ふと周りを見てみると、マルガの動きを見
て、真剣にラジオ体操している皆。
⋮皆真面目なんだよね∼。ホント⋮
その中で、俺はある人物?に、目が釘付けになっていた。
⋮ルナちゃん!
1341
やってる⋮ラジオ体操⋮やっちゃってる!
きちんと身体を曲げる様に頭を下げてるし⋮ジャンプする所はきち
んと飛んで、両足を広げてる!
両手を左右に振って、ライダーの変身みたいな所も、きちんと尻尾
を振ってる!
深呼吸までしてるし!!!
⋮君はどこまで賢いんですか!本当にマルガちゃんに似てきたね!
もうチビマルガちゃんだね!
ルナに見惚れながらラジオ体操は終わってしまった。
ルナはマルガの足元で、謎のドヤ顔でフンフンしていた。
﹁準備運動も終わった事だし、もう水の中に入って良い?マルガ姉
ちゃん?﹂
﹁エマも∼!エマもはいりたい∼!﹂
ねえねえと言った感じでマルガに言い寄るマルコとエマを見て、少
しお姉さんぶった顔でフフフと笑うマルガ。
﹁まだですよ!マルコちゃんにエマちゃん!まだ、神聖な儀式が終
わっていません!﹂
そう言って、ロープノール大湖に振り返ると、口に両手を当ててマ
ルガが、
﹁ヤッホ∼∼∼∼!!!!﹂
ロープノール大湖の水平線に向かって叫ぶマルガ。
﹁⋮それが、神聖な儀式なの?マルガ姉ちゃん?﹂
﹁そうなのです!こう言う見晴らしの良い所では、﹃ヤッホー﹄と
叫ばなくては、いけないんです!﹂
両手を腰に当てて、ドヤ顔のマルガ。ルナも勿論ドヤ顔だ。
1342
そう言えば⋮昨日見たマジカル美少女キュアプリムで、プリムちゃ
んがヤッホーってやってたね⋮
マルガちゃん⋮真似しちゃってるんだね⋮
でも⋮微妙に?いや、かなり?、使い方間違ってるよ!?マルガち
ゃん!
俺がそう心の中でツッコミを入れていると、3人の叫ぶ声がする。
﹁﹁﹁ヤッホ∼∼∼!!!﹂﹂﹂
マルコにエマは、マルガを真似して、ロープノール大湖の水平線に
向かって叫んでいる。
﹁⋮おかしいですね∼﹃ヤッホ∼!﹄と叫べば、﹃ヤッホ∼!﹄と、
帰ってくるはずなのです⋮﹂
マルガはう∼んと唸りながら、可愛い子首を傾げている。それを見
て、マルコにエマ、ルナまで首を傾げていた。
その時、俺の隣に居る超美少女の肩が震える。俺はふと、その超美
少女に視線を向ける。
﹁⋮湖に向かって⋮﹃ヤッホ∼﹄って⋮木霊は返って来ませんよ⋮
3人共⋮プププ﹂
肩を震わせ、必死に声を殺しながら、笑っているリーゼロッテ。
⋮入っちゃったね⋮リーゼロッテのさんのツボに、入っちゃったね!
凄く楽しそうだね!⋮きっと、本当の事は、教えて上げない様な気
がする!
こういう時のリーゼロッテさんは、Sなんですよね!オラ知ってま
す!
﹁マルガ、このロープノール大湖は広いから、﹃ヤッホ∼﹄が帰っ
1343
てくるのに時間が掛るんだよ﹂
﹁そうなんですか!ご主人様!?﹂
﹁た⋮多分ね⋮﹂
﹁﹃ヤッホ∼﹄が返ってくるまで⋮どれ位掛るのですかご主人様?﹂
﹁ふへ!?⋮え⋮えっと⋮明後日⋮位?⋮かな?﹂
﹁明後日ですか!?⋮ムムム⋮流石は物凄く大きいロープノール大
湖なのです∼!!﹂
俺の言葉に、腕を組んで感心している、マルガにマルコ、エマの3
人。ルナはドヤ顔のままだった。
その言葉を聞いて、更に肩を震わせている、金色の妖精の超美少女。
﹁⋮リーゼロッテ⋮笑いすぎだから⋮﹂
﹁⋮はい⋮す⋮すいません葵さん⋮プププ﹂
まだ必死に声を殺して笑っているリーゼロッテ。
俺はなんとか、湖に向かって﹃ヤッホ∼﹄を繰り返そうとするオチ
ャメさん達を、こちらに向かせる。
﹁と⋮とりあえず、水の中に入ろうか﹂
俺はマルガとエマに、木製の浮き輪をつけさせる。
﹁じゃ∼水の中に、行って来なさい!﹂
﹁﹁﹁は∼い!いってきます∼﹂﹂﹂
嬉しそうに声を揃えたマルガ、マルコ、エマの3人は、勢い良くロ
ープノール大湖に飛び込んでいく。
ドボンと音をさせて飛び込む3人。その水飛沫が、真夏の太陽の下、
虹を作っている。
﹁気持ち良い∼∼∼∼!!!!湖水浴最高だよ!!!﹂
﹁本当ですねマルコちゃん!!冷たくて気持よくて⋮最高なのです
!!!﹂
1344
﹁エマも∼∼!!エマもきもちいいよ∼∼!!プカプカつめたいお
水にうくのがきもちいい∼!!﹂
マルガにマルコ、エマの3人は、それぞれに喜びの声を上げ、キャ
キャとはしゃいでいる。
﹁じゃ⋮私も泳いできますね葵さん﹂
ツボにはまって笑っていたリーゼロッテは、どうやらいつも通りに
戻った様で、マルガ達の元に泳いでいく。
﹁レリアさんも行っちゃってくださいね﹂
﹁⋮でも⋮私はもう⋮そんな歳じゃありませんし⋮﹂
﹁レリアさんは十分にお若いですよ。それに、マルガ達が泳いでい
る所は、深さ1m位の浅瀬です。エマは浮き輪がないと危険ですが、
レリアさんなら問題はありませんよ﹂
俺の言葉に、若干赤くなっているレリア
﹁おか∼さんこっちにきて∼!!いっしょにおよごう∼!!はやく
∼!!!﹂
エマが満面の笑みでこちらを見て手を振っている。
﹁ほら⋮エマも呼んでますし⋮﹂
﹁では⋮お言葉に甘えて⋮行ってきます﹂
照れくさそうに微笑むレリアは、エマの元に泳いでいく。それを笑
顔で迎える、嬉しそうなエマ。
それを微笑ましく見送っていると、ふと視線が気になって、その視
線の先に向き直ると、木製の浮き輪をつけた3人の獣人美少女達が、
モジモジしながら俺を見ていた。俺はその可愛い美少女達に近寄る。
﹁ステラ、ミーア、シノン何してるの?早く一緒に泳いじゃいな。
俺を待つ必要や、命令を待つ必要は無いよ?﹂
1345
その言葉を聞いた、ミーアとシノンの表情が、パアアと明るくなる。
﹁あ!それから、あそこに果実ジュースと蜂蜜パン、果物が冷やし
てあるから、欲しくなったら勝手に飲んだり食べたりしてね。一杯
買ってきてるから、沢山食べても大丈夫だから﹂
そう言って、ミーアとシノンの頭を優しく撫でると、嬉しそうに尻
尾を振って頷く2人
﹁じゃ∼泳いできちゃいなさい!﹂
﹁﹁はい!葵様!行ってきます!!﹂﹂
声を揃えて、元気一杯嬉しそうに返事をしたミーアとシノンは、テ
テテと走ってマルガ達の元に泳いでいく。それを戸惑いながら見つ
めているステラ。
﹁ステラどうしたの?ステラも行かないの?﹂
﹁あ⋮いえ⋮私は⋮﹂
いつもと違う、歯切れの悪いステラ。
﹁ほら!泳ぎに行こう!行くよ!﹂
﹁ちょ⋮あ⋮葵様!!﹂
俺は何故か戸惑っているステラの手を引いて、マルガ達のいる波打
ち際までステラを引っ張ってくる。
ステラは戸惑いながら俺に手を引かれて、
﹁あ⋮葵様、ま⋮待って下さい⋮あ!!!!﹂
足元のおぼつかないステラは、言葉の最後に短い声をあげる。
その直後、自分の足に絡まったステラは、勢い良くつまずいて、俺
の手を振りきって、前方に飛び出す。浮き輪をスッポーンと脱ぎ捨
てたステラは、水飛沫を上げてロープノール大湖に飛び込んだ。
1346
﹁わわわわわわ!!!アブブブ!お⋮溺れる⋮アプププ⋮あ⋮葵様
⋮た⋮たすけ⋮﹂
ステラは水面でバチャバチャしながら、アプアプして溺れていた。
俺は慌ててステラの傍に近寄り、ステラを抱きかかえる。ステラは、
まさに藁をも掴む勢いで、俺にしがみついた。
﹁だ⋮大丈夫ステラ!?﹂
﹁ブハ⋮ハアハア⋮はい⋮なんとか大丈夫です葵様⋮﹂
肩で息をしているステラは、少し涙ぐみながら、俺にしがみついて
いた。
﹁ステラ、ここは1m位の深さしか無いから、足がつくよ?ゆっく
り立ってみて﹂
﹁は⋮はい⋮葵様⋮﹂
俺の言葉に、おっかなびっくりと言った感じのステラは、ゆっくり
とロープノール大湖に降り立つ。
身長154cmのステラの胸の下辺りで水は止まっている。それを
見て、あからさまに安堵の表情をするステラ。
﹁ね?大丈夫でしょ?﹂
﹁そ⋮そうですね⋮葵様⋮﹂
やっと落ち着きを取り戻したステラは、顔を若干赤らめている。そ
んな俺達を見て、皆が近寄ってきた。
﹁ステラ姉ちゃんって、もしかして、泳げないの?﹂
マルコが悪気なく直球をステラに投げつける。ステラはガーンと言
った感じで軽く落ち込むと
﹁はい⋮私⋮泳げないのです。私⋮昔に、川で溺れた事がありまし
て、それ以来、泳げないのです﹂
1347
シュンとしているステラに、ニコッと微笑むエマが
﹁じゃ∼さ∼葵お兄ちゃんに、およぐのおしえてもらったら∼?そ
したら、およげるようになるよ∼ステラお姉ちゃん∼﹂
ニコニコしながらエマが言うと、皆がウンウンと頷く。その俺達の
前を、犬かきならぬ、キツネかき?でスイスイと泳いでいる、白銀
キツネの子供、甘えん坊のルナ。そんなルナを、羨ましそうな感じ
の視線で見つめるステラ。
﹁そうだね⋮折角の機会だし、泳ぐの教えるよ。てか、初めて泳ぐ
子って結構いたよね?きちんと泳ぎ方知らない人、手を上げてみて﹂
俺の言葉に手をあげる一同。
﹁えっと⋮マルガにエマ。そして、ステラ、ミーア、シノンか。マ
ルコやリーゼロッテ、レリアさんは泳げるみたいだから⋮泳げない
人に、少し俺が教えようか﹂
皆が俺の言葉に頷く中で、マルガが申し訳なさそうに手をあげる。
﹁どうしたのマルガ?﹂
﹁えっと⋮ルナが私に⋮泳ぎ方を教えてくれるって⋮言うんです⋮﹂
モジモジしながら、俺とルナのどちらに教えて貰ったら良いか悩ん
でいるマルガ。
えええ!?ルナに泳ぎ方教えて貰うって!?どういう事!?
ルナとマルガが、レアスキルの動物の心で、意志の疎通が出来るの
は解ってるけど⋮
ルナに泳ぎ方教えて貰ったら⋮どうなっちゃうんだろう!?
俺がそんな事を考えながら、マルガとルナを交互に見ていると、誰
かの視線を感じる。
その視線の方に振り向くと、金色の透き通る様な美しい瞳を、キラ
1348
キラさせている、金色の妖精の美少女の姿が目に入ってきた。
⋮あれだね、期待しちゃってるね⋮リーゼロッテさん!
今度はどんな面白い事を、マルガとルナがしてくれるか期待しちゃ
ってるでしょ!?
そして、また、プププと笑いたいんですね。解ります。
さっきの余韻があるのかな?こういう時のリーゼロッテさんはSな
んです!オラ知ってます!
﹁じゃ⋮じゃ∼マルガはルナに教えて貰ってね﹂
﹁ハイ!ありがとうございますご主人様!﹂
嬉しそうに言うマルガの尻尾は、ブンブンと振られている。その言
葉に、若干1名が食いついた。
﹁エマも∼∼!エマもマルガお姉ちゃんといっしょに、ルナちゃん
からおよぎかたおそわりたい∼!!﹂
エマが満面の笑みでおねだりをしてくる。その声を聞いた、金色の
妖精の美少女の瞳が、より一層キラキラしているのを、俺は見逃さ
なかった。
さらに期待しちゃってるでしょリーゼロッテさん?
マルガとルナに、エマが加わった事でどんな事になるのか⋮楽しみ
で仕方がないって顔になっちゃってますよ?リーゼロッテさん!
まあ⋮ダメだった時は、俺が泳ぎ方を教えれば良いだけだし⋮任せ
よう⋮
オラもどうなっちゃうのか、気になってきちゃったし!
﹁解ったよエマ。マルガとエマはルナから泳ぎ方を教えて貰ってね。
⋮リーゼロッテ、マルガとエマ、ルナの事よろしく⋮﹂
﹁はい解ってますわ葵さん。私が危なくない様に、見てますから﹂
1349
キラキラ瞳を輝かせている楽しそうなリーゼロッテ。
まあ⋮この浅瀬と、これだけ人がいる中で、どうにかなる方が難し
いけどね!
ステラ、ミーア、シノンにレリアは、ルナに教えて貰うと言う言葉
の意味が解ってない様で困惑していたけど、また今度マルガのレア
スキルの事を教えてあげよう。
﹁じゃそう言う事で。ステラ、ミーア、シノンは俺が教えるよ。じ
ゃ∼別れて、少し練習してみようか﹂
俺達は別れて、泳ぎの練習を始める。
﹁ステラは兎も角、ミーアとシノンは水が怖いとかは無いんだよね
?﹂
﹁はいありません葵様﹂
﹁私も大丈夫です葵様﹂
ミーアとシノンの言葉に頷く俺。
﹁じゃ∼ミーアとシノンは浮き輪を外して。ステラは浮き輪をつけ
たままで良いからね。まずは、ミーアから行こうか。ステラ、シノ
ンは、ミーアに教えているのを見ててね﹂
俺の言葉に頷くステラにシノン。
俺はミーアに近づいて、両手を優しく握る。
﹁まず、泳ぎの基本である、バタ足ってのを教えるね。俺が手を引
きながらゆっくりと後退するから、それに合わせて足で水を蹴って、
前に進む練習ね。やってみようか﹂
﹁はい!葵様!﹂
嬉しそうに返事をしたミーアはゆっくりと俺に手を引かれながら、
バタ足を始める。
1350
﹁そうそう!上手だよミーア!顔をつけて、息継ぎの練習もしてね
!﹂
﹁はい!解りました葵様!﹂
顔をつけたり、あげたりして、息継ぎも難なくこなすミーア。
やっぱり獣人系は運動神経が良いね!マルガもそうだったけど、教
えてあげると、すぐに出来ちゃう!
この分なら、今日中に余裕で泳げる様になっちゃうかも!オラとは
大違いだよ!⋮ウウウ。
俺は何回か同じ事をして、ミーアを立たせる。
﹁ミーア上手いね!そんな感じで十分だよ!﹂
﹁本当ですか?葵様!﹂
﹁うん。今度は1人で練習してみて。もう俺が居なくても、1人で
出来ると思うから。無理しなくて良いから、きつくなったら、立つ
様にしてね﹂
﹁はい!解りました葵様!﹂
嬉しそうに言うミーアは、ワーキャットの特徴である、細く柔らか
そうな紫色の毛並みの尻尾を、お尻でチョコチョコさせている。そ
んなミーアは1人でバタ足の練習を始める。
﹁じゃ∼次はシノンね。ミーアと同じ様にゆっくりと引っ張るから、
バタ足の練習からね﹂
﹁はい!葵様!よろしくお願いします!﹂
嬉しそうに返事をしたシノンの両手を優しく握り、ゆっくりと後退
しながら引っ張っていく。
それに合わせてバタ足をするシノン。
﹁シノン上手だよ!その調子で、息継ぎの練習もしようか!無理は
しなくて良いからね!﹂
﹁はい!葵様!やってみます!﹂
1351
ミーアと同じ様に、息継ぎの練習もするシノン。
オオウ⋮おっとりしてそうなシノンも、運動神経は良いんだね!
教えた事をすぐに出来る様になっちゃってるし!
この分だと、シノンも今日中に泳げる様になれるね!
﹁もう十分だね!シノンもミーアと同じ様に、1人で練習ね。バタ
足が完璧に出来る様になったら、本格的に次の泳ぎ方教えてあげる
から、頑張ってね!﹂
﹁﹁はい!解りました葵様!私達頑張ります!﹂﹂
嬉しそうに声を揃えて返事をするミーアとシノンは、顔を見合わせ
て微笑み合っていた。
﹁じゃ∼最後はステラね。ミーアとシノンと同じ事をするからね。
ステラは浮き輪を外さなくても良いから、そのままでやってみよう
か﹂
﹁は⋮はい!わ⋮解りました葵様!﹂
緊張した面持ちで言うステラ。俺はステラの両手を優しく握り、同
じ様にゆっくりと引っ張りながら後退して行く。
ステラはぎこちないながらも、足をバシャバシャさせて、必死にバ
タ足をしていた。
﹁うんうん、なかなかいいよステラ。次は顔を水につけて、息継ぎ
の練習をしてみようか!﹂
﹁は⋮はい!わ⋮解りました!葵様!﹂
必死な感じで言うステラは、恐恐顔を水につける。するとすぐに、
その場で立ってしまった。
﹁プハ!す⋮すいません!葵様!﹂
申し訳なさそうに深々と頭を下げるステラ。
1352
﹁い⋮いいよ!気にしないで!練習すれば出来る様になるからさ!﹂
俺は優しくステラの頭を撫でながら言うと、少し表情の緩むステラ。
﹁解りました!頑張ります!﹂
そう言って俺の手をにぎるステラ。俺は再度ゆっくりとステラの手
を引いて、バタ足の練習をしながら、息継ぎの練習をするが、何度
も息継ぎの所で失敗して立ってしまうステラ。
ムウウ⋮ステラは純血のワーウルフ。
俺達の中では、1番運動神経が良いはずなんだけどな⋮
バタ足は結構出来てて、息継ぎで失敗するって事は⋮やっぱり水が
怖いのかもしれない。
その恐怖心が、本来出せるはずの運動神経を、激しく邪魔してるの
か⋮
さて⋮どうしたものか⋮
俺がそんな事を考えながら、ステラを見ていると、嬉しそうな声が
俺にかかる
﹁ご主人様∼!!見て下さい!私泳げる様になっちゃいました!﹂
﹁わたしもだよ∼!!みてみて、葵お兄ちゃん!﹂
俺はマルガとエマの嬉しそうな声に振り向くと、そこには、両手足
をチョコチョコとさせながら、犬かきで泳いでいるマルガとエマの
姿があった。
だよね!そうなるよね!
白銀キツネのルナに、泳ぎ方教えて貰ったら、犬かきになっちゃう
よね!
余りに予想通りすぎて⋮逆にびっくりしちゃったよ!
1353
﹁そ⋮そうだね!お⋮泳げる様になって良かったね⋮﹂
その言葉に、嬉しそうに満面の笑みをしているマルガとエマは、白
銀キツネの子供、甘えん坊のルナの後ろを、犬かきで泳いでスイス
イとついていっている。当然、ルナはドヤ顔でした。
まあ⋮後で⋮俺がきちんと泳ぎ方を教えるか⋮
そんな事を思っていると、マルガとエマが顔を見合わせながら、
﹁じゃ∼エマちゃん!私とレリアさんの所まで、競争しましょうか
!﹂
﹁うん!きょうそうする∼!エマがんばる∼!﹂
そう言って微笑むエマの頭を優しく撫でているマルガ。
レリアの所までは50m位。競争するには少し長い気はするが、ぼ
ちぼち楽しみながら行くには良い距離なのかな?
そんな事を思いながら、マルガとエマに
﹁じゃ∼俺が合図をしてあげるよ。用意はいいかな?﹂
﹁ハイ!ご主人様!﹂
﹁うん!葵お兄ちゃん!﹂
元気一杯に言うマルガとエマを微笑ましく思いながら、合図を言う
俺。
﹁行くよ!始め!﹂
その俺の言葉を合図に、信じられない光景を見せるマルガとエマ。
始めの言葉を聞いたマルガとエマは、まるでジェットエンジンを搭
載しているかの様な水飛沫を上げて、物凄い早さでレリアの元に進
み始める。そして、あっという間に、レリアの元にたどり着いたマ
ルガとエマ。
いやいやいやいや!!!ありえないから!
なにそれ!?それ⋮本当に⋮犬かきなの!?犬かきジェットなの!?
1354
オリンピック選手もびっくりの早さなんですけど!!!!???
そんな水飛沫を上げる犬かきなんて見た事ないよ!?次元が何次元
も違うんですけど!?
200m自由形、金メダルが犬かきなんて事になったら、水泳界が
ひっくりかえっちゃうよ!!??
俺が口を開けてぽかんとしていると、何事も無かったかの様な感じ
のルナが、ドヤ顔でスイスイと泳いでマルガの元に向かっていく。
オオウ⋮ルナ師匠凄す⋮もう⋮俺が教えれる事は⋮何も無いね⋮
俺がそんな感じで少し黄昏れていると、誰かの視線を感じる。俺が
その視線に振り向くと、肩を震わせて、プププと声を殺して笑いの
ツボにハマっている、金色の妖精の美少女の姿が目に入った。
うわあ⋮凄く楽しそうですね∼リーゼロッテさん!
もう瞳がキラキラしてて眩しいですよ?⋮幸せそうな顔しちゃって⋮
俺がそんな感じで苦笑いしていると、もう一人の黄昏れている美少
女が、囁く様な声を出す。
﹁皆さん凄いですね⋮﹂
ワーウルフの特徴である、頭の上についた、銀色の触り心地の良さ
そうな、フカフカな犬の様な耳を、フニャンとさせて、尻尾をすぼ
めているステラ。
違うからね!ステラちゃん!
あれは特別なんだから!あれは⋮そう!次世代!次世代の何かなん
だよ!俺にも解らないけど!
あんなジェット犬かきなんて、出来る子の方がおかしいんだから!
﹁ス⋮ステラが気にする事は無いよ?俺達は俺達の練習をしよう?﹂
ステラの肩にそっと手を置くと、俺の手をギュッと握り返すステラ
1355
は、嬉しそうに微笑む。
﹁はい⋮有難う⋮御座います⋮葵様⋮﹂
少し顔の赤いステラは、銀色の毛並みの良い尻尾をフワフワさせて
いた。
﹁うん!とりあえず⋮ステラは⋮その浮き輪を取っちゃおうか﹂
﹁ええ!?う⋮浮き輪をですか!?﹂
俺の言葉に、ビクッとなっているステラ。俺はステラを宥めながら
言う。
﹁俺が思うに、ステラは運動神経は問題ないと思うんだ。でも、小
さい時に川で溺れた経験から、水の中が怖いと言う思いが強くなっ
て、それが、本来出せるはずの運動神経を邪魔しちゃってるだけだ
と思うんだよね。だから、泳ぎ方より先に、水への恐怖さえ無くな
ったら、ミーアやシノンの様に、すぐに泳げる様になると思うんだ
よね。だから⋮頑張ろう?﹂
その俺の言葉を聞いたステラは、決意した瞳を向けると、浮き輪を
外し、俺に手渡す。
俺は浮き輪を笑顔で受け取り、アイテムバッグにしまう。
﹁じゃ∼ゆっくりと両手を引くから⋮無理しなくて良いからね?﹂
﹁はい⋮有難う御座います⋮葵様⋮﹂
嬉しそうにはにかむステラの可愛さに、少しドキッとなる。
﹁じゃ⋮行くよ?﹂
少しぎこちなく言った俺は、ゆっくりとステラの手を引いて、後退
して行く。それに合わせて、バタ足をするステラ。しかし、顔を水
につけた途端、すぐに立ち上がってしまう。
1356
﹁すいません葵様⋮﹂
﹁いいよ気にしないで。俺はずっとステラの両手を握って離さない
から⋮安心して良いよ?溺れそうになっても、俺がすぐに助けるか
ら⋮ステラは⋮何も心配しなくて良いんだよ?﹂
ステラの頭を優しく撫でながら言うと、ステラは俺の胸に抱きつい
て、ギュッと俺にしがみつく。
そのステラの乙女の柔肌にドキッとなりながら、優しく頭を撫で続
けると、ステラはゆっくりと顔を俺に向ける。
﹁私⋮頑張ります!だから⋮葵様⋮もう少し⋮私に力を貸して貰え
ますか?﹂
﹁勿論!俺の力なんかで良ければ!﹂
俺の言葉に、可愛い微笑みを向けるステラにドキドキしながら、俺
は再度ステラの両手を優しく握り、ゆっくりと引っ張って、後退し
て行く。
ステラはバタ足をしながら、水に顔をつける。しかし、今度は立ち
上がること無く、顔をつけたままバタ足をしている。
﹁そう!良い感じだよステラ!次は顔を上げて、息継ぎ練習だよ!﹂
俺の言葉に、水に顔をつけながら頷くステラは、水から顔を上げて、
息継ぎをする。そして、再度水に顔をつけ、バタ足をして再度息継
ぎをする。俺は暫く進んで、ステラを立たせる。
﹁やったねステラ!出来てたよ!良かったね!﹂
﹁はい!有難う御座います!葵様!﹂
ステラの満面の微笑みはとても可愛く見え、どこか癒される感じが
した。
俺とステラは何度も同じ練習をする。ステラも慣れてきた様で、ど
んどんスムーズにバタ足が出来る様になっていた。
1357
﹁もうかなり出来る様になったねステラ!じゃ∼最後に1人でバタ
足をしてみようか!﹂
﹁わ⋮私一人でですか!?⋮で⋮出来るでしょうか⋮﹂
あからさまに不安な表情をするステラ。俺はステラの肩にそっと手
をおいて、
﹁大丈夫、俺がここで待ってるから。ステラに何かありそうなら、
すぐに助けに行くから⋮だから⋮やってみよう?﹂
﹁⋮葵様が⋮待っていてくれるんですか?⋮私を?﹂
ステラはそう呟いて、ギュッと握り拳に力を入れると
﹁解りました!私は葵様に向かって進みます!見ててくださいね!
葵様!﹂
決意の瞳で言うステラに微笑む俺。
俺はステラから10m位離れる。ステラは一人でバタ足で俺の所ま
で来るのだ。
ステラは、覚悟を決めて、一人で補助なしでバタ足を始める。
ゆっくりではあるが、俺に向かって、必死でバタ足をするステラ。
息継ぎを何度もして、ゆっくりゆっくり、しかし、確実に俺の傍に
来るステラ。そしてついに俺の両手が、ステラの両手に重なる。
ガバッと水面から立ち上がるステラは、嬉しかったのか、俺にギュ
ッ抱きつき。
﹁私やりました!葵様!泳ぐ事が出来ました!﹂
﹁うん!泳げたね!よく頑張ったねステラ!おめでとう!﹂
俺も嬉しくなって、ステラを抱き寄せる。それと同時に、ミーアと
シノンが近寄ってきた。
﹁ステラ姉姉おめでとうです∼!﹂
﹁ステラ姉さんおめでとうですの!﹂
1358
ミーアとシノンも嬉しそうに俺とステラに抱きつく。
﹁ありがとうね⋮ミーアにシノン。私嬉しいわ⋮﹂
そう言って微笑み合っているステラ、ミーア、シノン。俺は、その
喜びを感じるのと同時に、少し感じた違和感を口にする。
﹁ステラ姉姉に⋮ステラ姉さん?⋮何時もステラの事を⋮そうやっ
て呼んでるの?ミーア、シノン?﹂
﹁はい⋮私達だけの時はいつも⋮﹂
恥ずかしそうに言うミーアに頷くシノン。ステラは少し恥ずかしそ
うにしていた。
﹁なら⋮俺の前でも普通に呼べばいいよ。その方が楽でしょ?﹂
﹁ですが⋮﹂
﹁いいよ⋮ステラが泳げた記念と言う事でね﹂
俺の言葉に、プッと笑うステラ。
﹁解りました。そう⋮させて頂きますね葵様⋮﹂
嬉しそうに俺に抱きつくステラ。そして俺に視線を合わせる。
その距離は、ステラの甘い吐息を感じる程近く、その薄く可愛い唇
が1cm先にあった。
俺はその時に、3人に抱きつかれている事を思いだし、ステラ、ミ
ーア、シノンの、乙女の柔肌に包まれ、彼女たちの甘い香りに、ク
ラッとするのを感じ、ステラの唇に思わす吸い付いてしまう。
ステラの甘く柔らかい口の中を味わい、堪能すると、俺のパオーン
ちゃんが大きくなっていた。
他の子達には、ミーアとシノンの死角になっていて見えないとはい
え、これ以上してしまったら、止まらなくなる⋮
俺は、ステラ、ミーア、シノンから離れようとすると、美少女3人
1359
は、俺のモノが大きくなっているのに気がついた様で、優しく俺の
モノを握り、摩っていく。その気持ち良さに、俺の身体がゾクゾク
とする。
﹁これ以上されたら⋮止めれ無くなっちゃうよ?﹂
﹁⋮良いですよ⋮私達は葵様の⋮一級奴隷なのですから⋮﹂
顔を赤くしてそう呟くステラの可愛さに、俺は我慢ができなくなっ
た。
俺はアイテムバックから浮き輪を取り出し、ステラにつける。そし
て、ミーアとシノンにその浮き輪につかまる様に指示を出して、ス
テラ達を沖に引っ張っていく。
﹁ちょっと泳ぎの練習で、沖の方に行ってくるから、皆で遊んでて
ね∼﹂
そう他の皆に言い残して、俺はステラ達と一緒に、どんどん沖の方
に行くのであった。
俺はステラ達を250m位沖に連れてきていた。
当然足は届かない深さ。しかし、ステラの浮き輪があるので、ミー
アもシノンも苦には全く思っていないのが解る。
これだけ皆から離れれば、匂いや音に敏感なマルガの感知範囲外だ
し、他の子達からも、何をしているのかはっきりとは解らないだろ
う。その中で、ミーアが少し戸惑いながら
﹁葵様⋮この様な沖に来て⋮ここで練習ですか?﹂
1360
辺りをキョロキョロして見回すミーアの顎を優しく掴み、その唇に
貪りつく。ミーアの可愛い口を抉じ開け、舌を滑り込ませる。ミー
アの甘い口の中を堪能して、その舌に俺の唾液を流し込ませ、ミー
アに飲ませる。ミーアはそれを味わいながら、コクコクと喉を鳴ら
して飲み込んでいく。
﹁ごめん⋮ステラ、ミーア、シノンの可愛さに⋮もう⋮我慢が出来
ないんだ⋮﹂
俺は喉から絞り出したような声を出すと、ミーアの腰を掴み、水着
の下をスルリと降ろし、ミーアのお尻に俺の腰をうずめていく。
﹁うにゃはははああああ!﹂
猫の様な甘い声を上げるミーア。俺はミーアの膣に強引に大きくな
ったモノをねじ込んだ。
ミーアの膣は、俺のモノを喜ぶように迎え入れ、ピクピクと俺のモ
ノを刺激する。
ミーアの柔らかいお尻の感触にゾクゾクと性欲が高まっていく。
ステラの浮き輪にしがみついて、バックから俺に犯されて、艶かし
い表情に染まっていくミーアを見ているステラとシノンは、どんど
ん顔を紅潮させていく。
﹁見て⋮ステラにシノン⋮ミーア⋮気持ち良さそうでしょ?﹂
﹁はい葵様⋮ミーア⋮とても気持ち良さそうです⋮﹂
﹁ミーアいいな⋮私も葵様に⋮犯して欲しい⋮﹂
可愛い事を言うシノンが、俺の口に吸い付き、甘く柔らかい舌を、
俺の口の中に忍ばせてくる。
シノンを味わいながら、バックからミーアを犯している俺は、どん
どん性欲が高まる。
ミーアのお尻の感触を味わいながら、シノンの豊満な胸に顔を埋め、
水着の上から乳首に吸い付く。
1361
冷たい水の味と、シノンの硬くなった乳首を味わいながら、シノン
の水着の上をずらし、直接その豊満で柔らかい、マシュマロを舌で
味わう。
﹁あ⋮うんん﹂
短い声を上げるシノンは、ギュウッと俺を抱きしめ、その豊満な胸
に、俺の顔を埋めさせる。
それに幸せを感じ、ミーアを犯すのにも力が入る。ミーアの柔らか
いお尻の穴に指を入れ、膣と同時に犯すと、嬉しそうな猫なで声を
上げるミーア。
﹁ステラ⋮ミーアとシノン可愛いでしょ?﹂
﹁はい⋮とっても⋮気持ち良さそうで⋮可愛いです⋮﹂
ミーアとシノンは、ロープノール大湖の水面で、真夏の太陽の光を
受けて、キラキラと輝いている。
果てしなく広がる様な水平線と、澄み渡る青空、美しく透き通る様
な水に包まれた彼女達は、まさに人魚姫さながらの可愛さを俺に見
せつけている。 俺は、ステラの顎を軽く掴み、目の前に持ってくる。
﹁ステラ⋮ステラにキスして欲しい⋮良い?﹂
﹁⋮はい⋮葵様が⋮望むのであれば⋮﹂
そう言って、俺の口に吸い付くステラ。ステラの甘くなめらかな舌
が、俺の口の中を味わっていく。
俺はステラにも唾を飲ませると、ステラは俺の顔を両手で優しくつ
かみ、しっかりと味わいながら飲み干していく。その可愛さに、ミ
ーアを激しく後ろから犯し過ぎたのか、ミーアの身体が小刻みに震
えてくる。
﹁あ⋮葵様!ミ⋮ミーア⋮イッちゃいそうです!⋮ミーアを⋮ミー
1362
アをイカせてくださいまし!﹂
﹁うん!解ったよ!⋮一杯イカせてあげるからねミーア!﹂
俺はそう言うと、ミーアの顎を掴み強引にこちらに向かせ、その口
に吸い付く。
そして、バックから可愛いお尻に腰を激しく叩きつけながら、ミー
アのクリトリスをギュッと握り締める。
すると今迄焦らされて我慢出来なかったミーアは、身体を大きく仰
け反らせる。
﹁ミーアイッちゃいます!!⋮イク⋮イキます葵様!にゃはあああ
あああん!!﹂
大きく猫の様な声を上げるミーアは絶頂を迎える。水中で繋がって
いる事で、キュキュとスレた感じになっているミーアの膣は、俺の
モノをキュンキュンと締め詰める。
その刺激に、俺の体中に快楽が押し寄せ、ミーアの子宮に直接精を
染付ける様に注ぎ込む。
ステラの浮き輪に掴まって、クテっと絶頂と俺に精を注がれた余韻
に浸っている、幸せそうなミーアを見て、また、ムクムクと性欲が
復活する俺。
﹁じゃ∼次はシノンね⋮シノンを犯したい⋮いい?﹂
﹁はい⋮シノンを犯して下さい!﹂
そう言って、俺の腰に、既に水着を降ろしている、可愛いく柔らか
いお尻を擦りつけてくるシノン。
俺は我慢出来なくなり、シノンの豊満な胸を鷲掴みしながら、シノ
ンの可愛い膣に一気に捩じ込んでいく。
﹁あはうあんんんんん!!﹂
ビクッと身体を捩れさせるシノンは、甘い吐息を、広大なロープノ
ール大湖に撒き散らす。
1363
俺は艶かしい色に染まっていく、可愛いウサギちゃんをバックから
激しく犯していく。
シノンの豊満で、マシュマロの様な胸の上に、恥ずかしそうについ
ている乳首を、キュッっと両方つねると、シノンの膣からは、甘い
蜜がどんどん滴っていく。水中での行為で、水が膣の中に入ってい
く中、その愛液と水が交じり合い、キュキュと音を立てそうな感触
を、俺に味あわせ、楽しませてくれるシノン。
俺はシノンの項に舌を這わせながら、
﹁ステラ⋮可愛いシノンに⋮キスをしてあげて⋮﹂
﹁はい⋮葵様⋮﹂
俺の命令に、艶かしい表情のステラは、シノンの顔を両手で優しく
はさみ、その可愛い口に吸い付いている。ステラとシノンが、イヤ
ラシク舌を舐め合っているのを見て、我慢できなくて俺の舌もそこ
に加わる。
俺とステラ、シノンは3人でキスをして、互いの舌を味わう。
ステラとシノンの舌に、俺の唾液を乗せてあげると、それを味わい
飲み込む。そしてもっと欲しいと言う様に、再度舌を出して、俺の
唾をおねだりする、ステラとシノンの可愛さに、ゾクゾクと性欲が
掻き立てられ、シノンを犯すのに力が入ってしまう。
その激しさに、ロープノール大湖の水面が揺れていて、そこに反射
した真夏の太陽の光が、より一層、キラキラと人魚姫達を輝かせる。
その美しさに、俺は我を忘れて、快楽のままにシノンを犯していく
と、シノンも我慢出来なくなった様だった。
﹁葵様!シノンも⋮イキたいです!シノンも⋮シノンも⋮﹂
﹁解ったよシノン!可愛くおねだり出来たから⋮一杯イカせてあげ
るよ!﹂
俺はそうシノンの耳元で呟くと、シノンは至高の表情を俺に見せる。
俺にバックから可愛いお尻を叩きつけられ犯され、クリトリスをギ
1364
ュウと掴まれたシノンは、ステラにその豊満な胸を、両手で責めら
れて、もう限界がきていた様だった。
シノンも大きく身体を弾けさせて、絶頂を迎える。
シノンの可愛い膣は、俺の精を全て吸い取る様に、キュンキュン締
め付け、その膣の暖かさと柔らかさを俺にこれでもかと味合わせる。
俺は我慢できなくなり、シノンの子宮に、白い焼印を大量に放つ。
その熱い焼印に、身を捩れさせ、快楽に染まり、恍惚の表情で、シ
ノンに抱きついているステラ。その顔は何処か幸せそうで、手放し
たくなくなるほど、可愛いものだった。そんなステラの表情に、俺
の限りない性欲は復活し、ステラの腰を、無意識に掴んでいた。
﹁ステラ⋮可愛いステラを⋮犯したい⋮一杯⋮ね⋮﹂
俺の言葉に、顔を赤くして、嬉しそうに頷くステラに、俺は正面か
ら足を開かせ、そこに腰を鎮めていく。
﹁うはんんんんん!!!﹂
ステラを正面座位に近い格好で抱きしめ、それと同時にステラの膣
めがけて、激しく腰を振っていく。
ステラは、俺にキスをおねだりしながら、必死に俺にしがみつく。
俺はステラの口を陵辱しながら、上と下の口を同時に犯せる幸せに、
身を包まれていた。
ステラの胸に舌を這わせ、首、脇の下、項、次々味わう様に舌を這
わせると、ステラはそれに応える様に、膣をキュンキュンと締め付
けてくれる。
今迄ミーアとシノンの行為を見せられて、焦らされていたステラは、
甘い蜜を滴らせ、その喜びを俺に伝えてくる。
﹁ステラ⋮可愛いよ⋮この綺麗なロープノール大湖に住む、人魚み
たいだよ﹂
その言葉に、顔を真赤にするステラは、俺をギュウウときつく抱き
1365
しめ、自ら腰を振り、俺のモノを可愛い膣で味わっていく。俺もそ
の快楽に染まっていき、激しくステラを犯すと、ステラは我慢の限
界を迎える。
﹁葵様!私を⋮葵様のモノで⋮イカせてください!葵様のモノで⋮
私はイキたいのです!﹂
﹁可愛くおねだりが言える様になったねステラ。嬉しいよ。一杯イ
カせて上げる!最後は4人でキスしながらイキたい。ミーア、シノ
ンもおいで⋮﹂
その言葉に、ミーア、シノンが俺の目の前に、可愛い舌を出しなが
ら、その口を捧げてくる。
俺はステラ、ミーア、シノンと舌を絡ませながら、3人を同時に味
わう。ステラを激しく犯すと、ステラの身体が大きく仰け反る。俺
はそれを強引に押さえつけ、4人でキスしたまま、ステラの絶頂を
目の前で感じる。
﹁葵しゃま⋮ヒキます⋮ヒィク⋮うはあああああんん!﹂
俺達に押さえつけられ、目の前でイキ顔を見られているステラは、
恥ずかしさも相まってか、今までで1番膣をキュンキュンと締め付
け絶頂を迎える。その刺激に俺は堪らなくなって、ステラの全てを
奪う様に、ステラの子宮に直接焼印を刻み付ける。その熱い精は、
ステラの子宮一杯に広がり、ステラはその快楽に、恍惚の表情を浮
かべていた。浮き輪を抱きながらクテっとなって、余韻に浸ってい
る、ステラ、ミーア、シノンの額に、優しくキスをして行く。
﹁ステラ、ミーア、シノン⋮とっても可愛かったよ。ありがとね3
人共﹂
その言葉に、ミーア、シノンは最高級の微笑みを俺に向けてくれる
中、ステラだけが、その綺麗な銀色掛かった大きな紫の瞳から涙を
流す。俺はアタフタしながらステラを見つめ
1366
﹁え!?どうしたのステラ!?も⋮もしかして⋮俺に犯されるのが
⋮嫌だった?﹂
俺のその表情を見たステラは、軽く首を横に振り、ニコッと微笑むと
﹁いえ⋮違います葵様。私は⋮今の状況が嬉しくて⋮悲しいだけな
のです﹂
少し矛盾した言葉を優しく俺に語りかけるステラ。その表情はとて
も穏やかで、何か憑き物がおちたかの様だった。
﹁え⋮それは⋮どういう事なの?﹂
俺の心配そうな顔を見て、クスッと笑うステラはゆっくりと話しだ
す。
﹁私は⋮こんな幸せで、楽しい事があるなんて、今迄思っても見な
かったのです。私は⋮いえ、私達は⋮小さい頃から一級奴隷でした。
だから⋮こんなに満ち足りたり、楽しい事、安らげる事など⋮無い
と思っていたのです﹂
その言葉を聞いたミーアとシノンも頷いている。
﹁でも⋮私達は葵様に会えた。葵様はとても優しく私達にしてくれ
た。でも、私は⋮それが信じられなくて、リーゼロッテ様とマルガ
様が羨ましかったから⋮リーゼロッテ様とマルガ様に、酷い事を言
ってしまっただけでなく、2人様に勝負を挑んだのです﹂
﹁マルガとリーゼロッテに勝負?⋮それはどんな勝負なの?﹂
﹁それは⋮どちらが、葵様の役に立ち、葵様に認められるか⋮そし
てどちらを選んで貰えるかの勝負です﹂
言い難そうにステラが言うと、シュンとしているミーアとシノン。
俺はその言葉を聞いて、マルガがアワアワしていた事を思い出す。
1367
﹃そうか⋮マルガやリーゼロッテは、この事を隠していたのか⋮ま
あ、俺がマルガやリーゼロッテ以外を選ぶはずがないと解っている
と思うけど、俺の耳には入れたくは無かったわけか⋮﹄
俺がそれを思い出していると、その先を語りだすステラ。
﹁しかし結果は⋮リーゼロッテ様が言われた通りになりました。私
達は葵様に満足した事を提案出来ず、認められず⋮私達のおねだり
ばかり⋮葵様は聞いてくれて⋮それが申し訳なくて⋮情けなくて⋮﹂
そう言って視線を外すステラ。
﹁⋮因みに⋮リーゼロッテにはなんて言われたの?﹂
﹁⋮言えません⋮﹂
﹁へ!?何故?﹂
﹁⋮私にも女の意地と言うものがあります⋮﹂
そう言って俯くステラ。ミーアとシノンも同じ様に俯いている。
﹁⋮じゃ∼その事はもう聞かないけど、何故そんな勝負を⋮。君達
は暫くしたら、俺が開放して自由にしてあげるって、言ってたのに﹂
﹁⋮それが私達には⋮いえ⋮私だけ⋮許せなかった。何もせずに、
与えられるだけなんて⋮私は⋮自分自身が許せなかったのです。た
とえ⋮自由が遠のいたとしても⋮私は自分の力で⋮それを勝ち取り
たかった﹂
そう言って儚げに微笑むステラ。
なんて誇りの高い女の子なんだろう⋮
ステラはワーウルフでありながら、落ち着いた感じがあったけど、
その誇りは⋮間違いなくワーウルフのものなんだろう。
俺は良かれと思って彼女達に言ったけど、それは彼女達の誇りを傷
つける結果になっていたのかもしれない。俺の言葉は⋮今迄必死に
1368
なって生き抜いてきた、彼女たち全てを、否定するものであったの
かもしれない。俺はステラの頬を触りながら
﹁ごめんねステラ。そんなつもりは無かったんだ。只純粋に⋮君達
の事を思って⋮﹂
俺のその言葉にニコッと微笑むステラは、軽く首を横に振り、
﹁いいのです。今は葵様の事が⋮良く解りますから⋮すごく近くに
⋮﹂
そう言って、俺の手を握りながら、優しく微笑むステラ。
﹁⋮なにか吹っ切れました。葵様にすべてを話して⋮﹂
そう言ってフフッと笑うステラは
﹁⋮明日、ここを出て行こうと思います。勝負に負けたら出ていく
と、リーゼロッテ様とマルガ様に約束しましたので﹂
その言葉に激しく動揺しているミーアとシノンは、大きな瞳に涙を
浮べている。
﹁葵様⋮お世話になりました⋮そしてありがとうございました﹂
そう言って俺に優しいキスをするステラ。
﹁⋮初めて人を好きになったのかも知れません。⋮それが葵様で良
かった⋮﹂
﹁私も⋮葵様が⋮﹂
﹁シノンもです⋮﹂
そう言って、ミーアとシノンも俺に優しく、キスをしてくれる。
俺は、そのステラ、ミーア、シノンの表情を見て、胸が締め付けら
れる。
そして、無意識に、彼女達3人を抱きしめていた。それに軽く戸惑
1369
っている3人。
﹁嫌だ⋮嫌になった。君達を手離したく無くなった。可愛い君達を
ずっと⋮好きでいたい。俺だけの物にしたい。だから⋮最後に⋮も
う一度⋮俺にチャンスをくれないか?﹂
俺の言葉に激しく瞳を揺らしているステラ、ミーア、シノンは静か
に頷く。
﹁君達もマルガやリーゼロッテの様に選ばせてあげる。⋮君達には
2つの道を選ばせてあげる。二つの道というのは、このまま俺の奴
隷として、永遠に俺に服従するか、奴隷から解放されて自由に生き
るかだ。自分の意思で俺に永遠の服従を誓うのか、自由を選ぶのか。
奴隷から解放されて自由を選ぶなら、多少のお金も持たせてあげる﹂
俺は静かにステラ、ミーア、シノンを見つめる
﹁俺の物になったら、もう解放はしてあげない。俺だけの物にして、
俺以外には触れさせないし、心も開かせない。全て⋮俺だけの物に
したい⋮多分⋮ううん、好きになったと思う⋮ステラ、ミーア、シ
ノンの事が﹂
その言葉に、大きく可愛い瞳を、涙で揺らしているステラ、ミーア、
シノン。
﹁⋮やっぱりだめかな?こんな俺じゃ?﹂
﹁﹁﹁そんな事はありません!!!﹂﹂﹂
いつかの様に、声を揃えて否定する、ステラ、ミーア、シノン。
﹁私達の気持は⋮決まっていますが⋮リーゼロッテ様とマルガ様が
⋮どう言うか﹂
そう言って、俯くステラに、同じ様にシュンとなっているミーアに
シノン。
1370
俺はそんな3人の頭を優しく撫でながら
﹁それは心配しなくても良いんじゃないかな?﹂
﹁え⋮ですが⋮勝負は⋮﹂
﹁大丈夫⋮それは引き分けだから⋮﹂
そう言って微笑む俺を見て、キョトンとしている、ステラ、ミーア、
シノン。
﹁引き分け?﹂
﹁うん。俺は結果的に、ステラ、ミーア、シノンの可愛い魅力に負
けて、ずっと手元⋮一緒に居たいと思わされたけど、俺にはどちら
かなんて選べないし、どっちも好きなんだもん﹂
その言葉を聞いて、あっけにとられているステラ、ミーア、シノン
﹁俺がどちらか選ばなければ、勝負の結果なんてでないしね。この
ままずっと膠着状態でも良いしね∼。答えさえ出さなければなんと
でもなるし⋮それに⋮﹂
﹁それに⋮なんですか?葵様?﹂
俺の言葉に首を傾げるステラ、ミーア、シノン。
﹁そんな契約は無効だと、君達やリーゼロッテ、マルガの主人であ
る俺が﹃命令﹄すれば、勝負事態、無かった事に出来るしね。主人
の命令は絶対。絶対の前に、契約という未確定な約束事なんか消し
飛んでしまうしね。⋮何か、リーゼロッテにその様な事言われなか
った?﹂
俺の言葉を聞いたステラ、ミーア、シノンは、何かを思い出した様
に頷く。
﹁そういえば⋮リーゼロッテ様がその様な事⋮言われてましたね⋮﹂
﹁やっぱり⋮なんて言ってたの?﹂
1371
﹁言えません∼女だけの秘密です!﹂
少し拗ね気味に言う可愛いステラにクラッとする。その俺の顔を見
て、楽しそうなステラ、ミーア、シノン。
﹁⋮じゃあ、もう一度聞くね⋮君達には⋮﹂
﹁﹁﹁私達は、葵様の物です!葵様に全てを捧げます!好きです葵
様!﹂﹂﹂
俺の言葉を遮って、声を揃えるステラ、ミーア、シノンは、凄く楽
しそうだった。
﹁え⋮あ⋮﹂
﹁最後位は⋮葵様に勝ちたいのです。これも女の意地なのですよ葵
様?﹂
ニコニコと可愛く微笑むステラ、ミーア、シノンの美しい顔は、水
面に煌めく光と相まって、俺の瞳に眩しく写った。そして、真夏の
日差しに雪が溶けた様に、なんだか可笑しくなって、俺とステラ、
ミーア、シノンは、声を出して笑い合っていた。
﹁じゃ∼とりあえず、皆の所に戻ろうか!冷やしておいた、果実ジ
ュースや果物、蜂蜜パンが丁度良い頃合いになってるだろうしさ!﹂
﹁私は∼果実ジュースと果物が食べたいです葵様!﹂
﹁シノンは∼果実ジュースと蜂蜜パンが良いです∼!﹂
ニコニコしながら俺に抱きつくミーアとシノンの可愛さは、リーゼ
ロッテやマルガに匹敵するほどに感じた。そんな照れている俺を見
て、クスクスと笑うステラjは
﹁私は全部食べたいですわ葵様!﹂
﹁あ∼!それはずるいです∼ステラ姉姉∼!﹂
﹁そうなのです∼シノンも食べたいです∼ステラ姉様∼﹂
若干拗ねているミーアとシノンを見て、クスクスと笑っているステ
1372
ラ。
﹁よし!じゃ∼皆で全部食べよう!それにまだまだ湖水浴は始まっ
たばかりだしね!一杯遊ぶよ!ステラ、ミーア、シノン!﹂
﹁﹁﹁ハイ!葵様!一杯遊びます!﹂﹂﹂
嬉しそうに声を揃えるステラ、ミーア、シノン。
俺とステラ、ミーア、シノンは、1つの浮き輪に寄り添いながら、
皆で手を繋ぎ、覚えたてのバタ足で、マルガ達の元に帰っていくの
であった。
1373
愚者の狂想曲 36 追憶の亜種族3人娘︵前書き︶
ステラ、ミーア、シノン視点の物語です
1374
愚者の狂想曲 36 追憶の亜種族3人娘
﹁ほらほらどうしたね!さっさと私に奉仕しないか!﹂
体重100kgはあろうかと言う、ふくよかすぎる化粧の濃い50
台の女性。
この傲慢な女性こそが、私達の主人。私達の神⋮
割りと大きな商会を自らの力で起こし、ここまで上り詰めた商才の
ある人物。
私と同じ亜種族である、ワーキャットのハーフであるミーアと、ワ
ーラビットのハーフであるシノン。そして、純血のワーウルフであ
る私、ステラ。
私達3人は今、傲慢な醜き女神の奉仕をさせられています。
﹁ほら!もっとしっかりとお舐め!私を早くイカせないと、また朝
食抜きにするよ!﹂
鞭を片手に私達に奉仕をさせる傲慢な醜き女神は、私達を鞭で打ち
ながら私達の奉仕で絶頂を迎える。
そして、その醜い身体を、私達に綺麗にさせて、自分の寝室に帰っ
ていく。
私達は部屋の片付けをして、自分達の部屋に帰り、身体を綺麗にし
て眠りにつく。
これが、私達の日常であり、私達の世界⋮
私、ミーア、シノンは、それぞれ小さい時に、人攫いに攫われ、奴
隷商に売られた者達です。
しかし、幸いな事に、私達は普通の者よりも見目が良かった為、一
1375
級奴隷として売られる事になりました。
この世界の奴隷法で決まっている、二級奴隷や三級奴隷と言った、
最低より酷い生活をしている者達よりは、随分とマシと言える生活
なのかも知れません。
でも、人権を認められている一級奴隷でも、主人の前では絶対服従。
主人の﹃命令﹄には、どんな理不尽な事でも、応えなければいけま
せん。
それが奴隷に身を窶した者の宿命なのです⋮
私は10歳の時に、傲慢な醜き女神に買われてここに来ました。
しかし、買われたのは私だけではなく、私と同じ亜種族の血を引く
2人も一緒でした。
それが、ミーアとシノンだったのです。ミーアが7歳、シノンが9
歳。
歳も近い事もあり、私達はすぐに親しくなりました。
私達は、まず、この館のメイド長から、色んな知識を学ばされまし
た。
文字に数字、一般教養から、様々な法律⋮
そして、1番大切な、主人に対する、生活を補佐する為の家事スキ
ル⋮最後は⋮主人に対する夜の奉仕の仕方⋮
館のメイド長から、奴隷の事を、嫌というほど教育された私達は、
日々淡々と主人の役に立つ為の教育を受けていきます。
そして、一級奴隷として教育を受けて、1年が経とうとした頃でし
た。メイド長が部屋に来て、私達に告げます。
﹁お前達は今日の夜から、我らが主人であるデボラ様に、夜のご奉
仕を始めて貰います。今までに学んだ事を、ご主人様に披露して、
喜んで貰えるのです。感謝しなさい﹂
1376
﹁﹁﹁はい!有難う御座います!ドリー様!﹂﹂﹂
メイド長のドリーに声を揃えて返事をして、綺麗に深々とお辞儀を
すると、フムと頷いて部屋を出ていくドリー。
﹁⋮ステラ姉姉⋮ついに私達も⋮主人様に奉仕させられるのですね
⋮﹂
﹁⋮シノンきちんと出来るか心配なのです∼﹂
ミーアとシノンが、心配そうな声を出します。私は2人の頭を優し
く撫でながら
﹁大丈夫よミーア、シノン。きちんと覚えた事を奉仕すれば良いだ
けよ。私達はその為に一杯勉強してきたのですもの。きっと⋮うま
くいくわ﹂
私のその言葉に、安堵の表情を見せるミーアにシノン。
私もこの時は、怖かったのですが、1番年上である私は、彼女達を
不安にさせる訳にはいかなかったのです。
引っ込み思案のミーアに、少し人に依存してしまいがちな、大人し
い性格のシノン。
私の事を慕って、頼ってくるミーアにシノンの事を、私も実の妹の
様に感じていたのです。
﹃私が⋮この子達の為に⋮しっかりしないと⋮﹄
私は心の中でそう呟きながら、ミーアとシノンの手を握ります。
その手を優しく握り返してくれる、ミーアとシノンの暖かさが、私
を怖さから遠のかせてくれます。
そして、いよいよ⋮主人であるデボラ様に初めて、夜の奉仕をする
時がやって来ました。
私、ミーア、シノンがデボラ様の部屋の中に挨拶をして入って行く
1377
と、シースルーの寝衣に身を包んだ、デボラ様が居ました。
デボラ様は私達を見て、卑しい笑いをその顔に浮かべると、楽しそ
うに私達を手招きする。
﹁フフフよく来たね。今日からお前達には、夜の奉仕をして貰うか
らね。しっかり奉仕をするんだよ!﹂
﹁﹁﹁はい!デボラ様!﹂﹂﹂
声を揃えて返事をする私達を見て、ニヤッと微笑むデボラ様は、私
達に奉仕をさせていく。
﹁どうしたね!もっと舐めるんだよ!さっさとおし!﹂
そう言って、ミーアの顔を自分の股間に押さえつけるデボラ様。ミ
ーアは必死にデボラ様の秘所に奉仕をして行く。
デボラ様は女性で有るにも関わらず、男性には興味が無い様で、女
性に奉仕をさせる事で快感を得ると言う性癖の持ち主でした。
別にそれをどうとは、私達は思っていません。私達は主人に絶対服
従の、一級奴隷なのですから⋮
﹁ほら!ステラにシノンも私に奉仕するんだよ!﹂
そう言って、私とシノンにも同時に奉仕をさせるデボラ様。
私達3人は必死にデボラ様に奉仕をして行く。
しかし、その奉仕を気に入らなかったデボラ様は、イラッとした感
じで、私達を弾き飛ばします。
私達は床に倒れこみ、少し震えながら、デボラ様を見ると、その顔
は何かに取り憑かれたかの様な表情をしていました。
﹁まどろっこしい奉仕だね!⋮そうか、お前達はまだ処女だったね
⋮それじゃ満足な奉仕は出来ないね。⋮フフフ良い事を思いついた
よ⋮﹂
1378
そう言って立ち上がったデボラ様は、机の引き出しから、幾つかの
短い木の棒と小瓶を取り出します。
それを持ったデボラ様が私達に近づき、イヤラシク微笑みます。
﹁これで、お前達を女にしてやるわ!さあ⋮こっちにくるんだよ!﹂
そう言って、シノンの腕を掴み、シノンを押さえつけます。
床で四つん這いの体制で押さえつけられたシノンは、デボラ様に小
瓶の液体を秘所に塗られます。
それに冷たそうにしているシノンの表情が、次の瞬間一変します。
﹁きゃはううううう!!!﹂
悲鳴に近い声を上げたシノン。
それはデボラ様が、短い木の棒をシノンの初めての秘所に、一気に
捩じ込んだからです。
﹁あははは!これでお前も一人前の女だね!ホレホレ!この棒は、
気持ち良いだろう?﹂
笑いながらデボラ様は、シノンの秘所を木の棒で犯していきます。
何度も無理やり出し入れている木の棒で、シノンの秘所は真っ赤に
なり、破瓜の血を流していました。
その痛みに、泣きながら許しを請うステラの声を聞いて、恍惚の表
情をしているデボラ様。
私はその表情を見て、
﹃あ⋮悪魔⋮﹄
そう心の中で呟いてしまいました。
その間にも、木の棒で犯されているシノンは、次第にぐったりとし
て、声を出さなくなって来ました。
それを見てつまらなさそうな顔をするデボラ様は、シノンを投げ捨
てると、私の身体を同じ様に押さえつけます。
1379
﹁次はお前だよステラ!女にしてあげるよ!﹂
そう言って私の秘所に、冷たい液体を塗り、一気に私の秘所に、木
の棒を捩じ込みます。
﹁はううううう!!!﹂
情けなく声を上げてしまう私。
その余りの痛さに、声を出さずにはいられませんでした。
体中に広がるその痛みは、今迄感じた事のない激しい痛みで、私は
無意識にデボラ様から逃げ出そうと、力を入れますが、体重100
kgはあろうかと言う巨漢のデボラ様の前では、赤子も同然。私は
抑えこまれたまま、激しく木の棒で犯されていきます。
どれ位犯されていたかは解りませんが、気が遠くなるのを感じた所
で、私は床に投げ捨てられて、開放されました。
微かに意識のある私は、デボラ様を見ると、1番歳下のミーアが、
私やシノンと同じ事をされていました。
激しい痛みに泣き叫ぶミーアを、嬉々として木の棒で犯していくデ
ボラ様。
ミーアはその激しい攻めに耐え切れなくなって、すぐにグタっとし
てしまいます。
それを見てつまらなさそうなデボラ様は、ミーアも床に投げ捨てま
す。
私は床を這いながらミーアの傍に行き、ミーアを抱え上げます。シ
ノンも傍に寄ってきて、私にギュッと抱きつきます。
震えながらデボラ様を見ている私達を見て、イヤラシイ微笑みを浮
かべるデボラ様は
﹁これでお前達は女になった。明日からは十分な奉仕が出来るだろ
1380
うさ!⋮この私がお前達の初めての相手をしてやったんだ!礼くら
い言ったらどうなんだい!﹂
﹁⋮はい⋮有難う御座います⋮デボラ様⋮﹂
かろうじて声の出せた私の言葉を聞いて、フンと鼻で言うデボラ様
は、
﹁⋮まあいいさ。部屋の片付けをきちんとしておくんだよ!﹂
吐き捨てる様に言うデボラ様に返事をすると、何事もなかったかの
様に部屋を出ていかれました。
﹁ス⋮ステラ姉姉⋮きょ⋮今日の⋮奉仕は⋮終わった⋮の?﹂
ぐったりとして意識朦朧としているミーアが、微かに声を出し私に
問いかけます。
﹁⋮大丈夫よミーア。今日の奉仕は終わったわ⋮﹂
﹁⋮そうなんだ⋮良かった⋮﹂
涙ぐみながら安堵の表情をするミーアは、そのまま意識を失ってし
まいます。
一番歳下の、まだ10歳にも達していないミーアの秘所からは、私
とシノン同様、破瓜の血が流れ出ていました。
その傍らには、私達の処女を奪った、男性の性器を模したあの木の
棒が放置されています。
私達の破瓜の血で赤く光る、その無機質な木の棒を見てシノンが
﹁⋮ステラ姉様⋮私達⋮ずっと⋮このままで⋮生きていかないと⋮
ダメなの⋮?⋮私⋮嫌⋮こんなのなら⋮死んだ方がましだよ⋮﹂
私にしがみつきながら、微かに震えながら、嗚咽しているシノン。
その絶望に染まった泣き声が、陵辱の間に響いています。
﹁⋮シノンそんな事を言ってはダメ。私達よりもっと酷い扱いを受
1381
けている、二級奴隷や三級奴隷もいるのよ?⋮私達は夜の奉仕さえ
我慢すれば、普通の人と同じ生活をして、生きて行く事が出来る。
だから⋮私達は一級奴隷として、生き抜いていくの⋮それが私達の
世界で⋮私達の闘いなの⋮﹂
私自身に言い聞かせる様にシノンに言う私に、しがみつく様に抱き、
泣いているシノン。
﹃この子達と一緒に⋮生き抜いてみせる⋮必ず⋮﹄
私はミーアとシノンを胸に抱きながら、心の中でそう誓うのでした。
月日が立つのは早いもので、私は15歳になりました。シノンも1
4歳、一番歳下のミーアも12歳で、もうすぐ成人を迎えます。
私達はデボラ様の一級奴隷として、日々精進する日々を送っていま
した。
色んな知識を吸収し、私達はいつの間にかデボラ様の片腕として、
その力を認めて貰える様になり、沢山の重要な商談を任せられる迄
に至っていました。
そう⋮処女を奪われた日に誓った通り、私達は一級奴隷として生き
抜いていました。
どこまで続くのか解らない、私達の小さな闘いの事を思うと、心が
締め付けられますが、それでも、立ち向かう事を辞めてしまえば、
全てが終わってしまう⋮
私を頼りにしてくれている、ミーアとシノンの為にも、私がしっか
りしないと⋮
1382
それを胸に、私は前に進んでいました。
そんなある日の事、私達に大きな出来事が起こります。
それは、私達の主人であるデボラ様の商会が、何者かによって乗っ
取りにあってしまったのです。
私達もデボラ様の片腕として、商会の仕事に携わっていましたが、
その者は、デボラ様や私達が気付かない様な、絶妙な駆け引きで、
デボラ様の全てを奪っていったのです。
そう⋮その人物こそが、ヒュアキントス様だったのです。
私達の主人であるデボラ様は、ドリオース商組合と言う中堅の商組
合に属していました。
しかし、ヒュアキントス様の父上様が統括理事をされている大手の
商組合、ド・ヴィルバン商組合に目をつけられ、ドリオース商組合
の稼ぎ頭であったデボラ様を失脚させる為に、ヒュアキントス様が
画策されたらしいのです。
一瞬にして全てを奪われ、項垂れているデボラ様を横目に、目の覚
める様な、美少年が私達の眼の前に来ます。
美しい光り輝く様な金髪に、透き通る様な金色の瞳、色白の肌に、
少しつり目の知性を感じさせる甘い顔立ち。薄い唇は上品に閉じら
れ、年の頃は20代前半、身長180cm位のスラリとした、その
佇まいは気品に満ちていました。
その美青年はニヤッと口元を上げて笑うと、
﹁⋮このデボラの財産は、全て僕の物になった。デボラの一級奴隷
である君達の所有権も、当然僕の物だ。⋮お前達の事は良く理解し
ている。お前達はなかなか見目も良いし、仕事も出来る。奴隷商に
売らずに、僕の傍で仕事を手伝って貰う。解ったな?﹂
その言葉に返事をする私達を見て、フンと鼻でいうヒュアキントス
1383
様。
私達はヒュアキントス様が用意していた馬車で連れられて、ヒュア
キントス様の住まわれている館まで連れて行かれます。
﹁私達⋮どうなってしまうのでしょうステラ姉姉⋮﹂
﹁シノンも心配です⋮ステラ姉様⋮﹂
不安そうに言うミーアとシノンの手を握る私は、
﹁⋮大丈夫よミーア、シノン。私達は出来る事をするだけよ。今ま
でも⋮そうやってきたでしょう?﹂
私の言葉に静かに頷くミーアにシノン。
こうして私達の主人は、デボラ様からヒュアキントス様に変わった
のでした。
﹁ほらどうしたシノン!もっと尻を振って奉仕しないか!﹂
﹁はい!ヒュアキントス様!﹂
主人であるヒュアキントス様の股間に、お尻を擦り付けて奉仕をし
ているシノン。
その足元には、満足した奉仕を出来なかったミーアが、ムチで打た
れて蹲っています。
﹁ええい!まどろっこしい!﹂
そう言って右手に持たれていた短鞭でシノンを打つヒュアキントス
様。
1384
﹁ステラ!お前が最後まで僕に奉仕するんだ!満足した奉仕が出来
なければ⋮どうなるか解っているな?﹂
キツイ目で私を睨むヒュアキントス様に、返事をして奉仕をする私。
私の奉仕に満足されたヒュアキントス様は、私の中に精を放たれま
す。
そして奉仕の終わった私を床に投げ捨てるヒュアキントス様。
﹁⋮お前達は仕事は出来るが⋮夜の奉仕は3人で一人前だな。⋮こ
れからきっちりと僕が仕込んでやる。解ったか?﹂
﹁﹁﹁はい!ヒュアキントス様!﹂﹂﹂
声を揃えて返事をする私達を見て、フンと鼻でいうヒュアキントス
様は部屋から出ていかれます。
ヒュアキントス様は、私達、いえ、女性の事を、好いてはいらっし
ゃいません。
どうやらいつも一緒に居られる、男性のアポローン様のみ愛してい
らっしゃる様でした。
私達に夜の奉仕をさせるのは、10日の内に、1回か2回。
アポローン様と交う事の出来ない時に、私達に夜の奉仕をさせる様
です。
毎日夜の奉仕をさせられていたデボラ様の時に比べると、奉仕の回
数は減りましたが、デボラ様以上に私達の苦しみながらの奉仕を所
望されるヒュアキントス様への奉仕は、私達の心を荒ませていきま
す。
そんな私達は、今迄一級奴隷として生き抜いてきたその誇りのみを
頼りに、日々を生きていた様に思います。
そして、ヒュアキントス様の一級奴隷になって約1年が経とうとし
た時でした。
1385
ヒュアキントス様の色々な仕事を手伝っていた私達の元に、珍しく
嬉しそうなヒュアキントス様が姿を表します。
﹁フフフ。ついに大きな好機を得た。これで⋮僕も⋮﹂
そう口ずさんで楽しそうなヒュアキントス様は、私達に説明をして
くれます。
その内容は、このフィンラルディア王国の第三王女、ルチア王女様
の専任商人に、ヒュアキントス様が推薦されたとの事でした。
しかし、もう一人の候補者が居て、その内のどちらかが選ばれると
の事らしいのですが、ヒュアキントス様はご自分が選ばれる事に、
何かの算段があるらしく、その表情は全てを手に入れたかの様な感
じでした。
事実、物事は全て、ヒュアキントス様の思惑通りに運んで行きまし
た。
その手伝いをさせられている私達でさえ、ヒュアキントス様の指示
に感嘆させられてしまう程でした。
全て仕組まれた、ルチア王女の専任商人選定戦⋮
少しの情報も得られないであろうルチア王女は、きっと何も用意が
出来なかった事でしょう。
当然、この抜け出せない罠の中に飛び込んでくる、もう一人の候補
者も⋮
ヒュアキントス様の指示の下、全ての準備が整いました。
そして、いよいよ選定戦の事がアウロラ女王陛下の下、アウロラ女
王陛下の専属商人であるアルバラード様より、選定戦の事が両者に
伝えられる日になりました。
私達はヒュアキントス様と一緒にヴァレンティーノ宮殿に向かいま
す。
ヒュアキントス様のシンボルである鋼鉄馬車を操りながら、ヴァレ
1386
ンティーノ宮殿に到着すると、2台のみすぼらしい荷馬車が止まっ
ていました。
その余りにも、このヴァレンティーノ宮殿に似つかわしくない2台
の荷馬車が、何故ここにいるのか気になりましたが、それ以上に気
になる事がありました。
黒髪に黒い瞳の行商人らしき少年の連れている、一級奴隷の容姿の
素晴らしい事⋮
まるでどこかの女神や妖精の様な、美しい一級奴隷を2人も連れて
いたのです。
それを見たヒュアキントス様の瞳の色が変わります。
この表情をされたヒュアキントス様は、何かを欲した時。
それはきっと、あの女神の様な一級奴隷を自分の物にしたいと思わ
れたのだとすぐに解る表情でした。
﹁⋮ステラ。あの者達の素性を調べろ。⋮僕はあの一級奴隷達が気
に入った。あの様な一級奴隷は⋮僕にこそふさわしい⋮そうだろ?﹂
ヒュアキントス様の言葉に頷くと、フフと笑ってヴァレンティーノ
宮殿に入って行かれるヒュアキントス様の後について、私達も入っ
ていきます。
そして、ヒュアキントス様が王宮の大待合室で座られている時でし
た。
例の女神の様な一級奴隷を連れた、黒髪に黒い瞳の行商人の少年が、
私達と割りと近い所に座りました。それを発見したヒュアキントス
様が、嬉しそうにその黒髪に黒い瞳の行商人の少年の一行のもとに
向かわれます。私達も当然、その後を付いていきます。
﹁君達もこの宮殿に用があるのかい?見た所商人の様だけど、何か
1387
の取引かい?﹂
﹁ええまあ⋮そんな所ですかね⋮﹂
黒髪に黒い瞳の行商人の少年と他愛のない挨拶を交わすヒュアキン
トス様。
﹁君は素晴らしい一級奴隷をお持ちだね。その美貌⋮なかなかお目
に掛かれるものではないね﹂
﹁あら⋮お上手ですわね。でも、貴方のお持ちの一級奴隷さん達も、
美しいと思いますが?﹂
月の女神の様なエルフの一級奴隷の言葉に、若干浮ついてしまった
私達。
それに少しの気恥ずかしさを感じながらヒュアキントス様の話を聞
いていきます。
﹁まあ⋮僕の奴隷だからね。でも⋮君の一級奴隷には、見劣りして
しまう⋮そこで相談なんだが、君の持っている亜種の一級奴隷とエ
ルフの一級奴隷を売ってくれないか?そうだね⋮金貨600枚出そ
う。どうかな?﹂
﹁この一級奴隷達を売る気は無いんですよ。申し訳ないですが⋮﹂
即答に近い黒髪に黒い瞳の行商人の少年の言葉に、私は内心驚いて
いました。
実際、この黒髪に黒い瞳の行商人の少年には大金だと感じたからで
す。
それなのに⋮即答で断るなんて⋮
しかし、ヒュアキントス様も諦める気は無い様で、
﹁なら、金貨700枚に、この3人の一級奴隷も付けるよ。価値的
には金貨1000枚近くになると思うけどどうだい?僕は別に処女
じゃなくても構わないんだ。僕が調教しなおせば良い事だしね。そ
れに、君の持っている一級奴隷は、僕にこそ似合うと思うんだ。こ
1388
の条件で売ってくれないかな?﹂
﹁すいませんが⋮それでもダメですね。この一級奴隷のマルガとリ
ーゼロッテは、幾らお金を積まれても、手放す気はありません。申
し訳ないですが﹂
それでも、即答に近い黒髪に黒い瞳の行商人の少年の言葉に、私達
は勿論の事、ヒュアキントス様ですらあっけにとられていました。
その時、ヒュアキントス様に飲み物を持ってくる様に言われていた
シノンが帰って来ました。
そして、飲み物をヒュアキントス様に手渡そうとした時に、誤って
床に落としてしまいました。
その失態に、みるみる表情の変わるヒュアキントス様
﹁す⋮すいません!ヒュアキントス様!すぐに、別の物をお持ちし
ます!﹂
シノンの顔は蒼白になっていました。
ヒュアキントス様はシノンに近づくと、シノンに平手打ちをします。
それと同時に、私やミーアにも同じ様に平手打ちをします。その痛
さと衝撃に、私達は床に蹲ってしまいました。
﹁⋮こんな所で私に恥をかかせるとは⋮お前達は帰ったらお仕置き
だ。覚悟しておけ!﹂
その言葉に、私達は恐怖を感じます。
私達はそうそうミスはしませんが、それでもミスを犯す時はありま
す。
その時の⋮ヒュアキントス様の仕置は苛烈で⋮その事を思うと、身
震いがします。
その中で、黒髪に黒い瞳の行商人の少年に、案内役が近寄ってきま
す。
1389
﹁す⋮すいませんが、僕たちは行かせて貰いますね﹂
﹁見苦しい所を見せたね。奴隷の話は、諦めないよ?また次回話を
空です﹂
しよう。君の名前は?﹂
﹁僕は葵
﹁僕はヒュアキントスだ。用が終わったらよろしく﹂
苦笑いをしながら立ち去っていく、葵と名乗った少年を見ているヒ
ュアキントス様。
そんな私達の元にも案内役がやって来ました。
﹁⋮行くぞお前達!﹂
ヒュアキントス様の言葉に恐怖を感じながら、その後を付いていき
ます。
先程の失態で気の立っているヒュアキントス様は、私達を別室で待
機させて、何やらアポローン様とお話をされている様でした。
﹁ごめんなさい⋮ステラ姉様⋮ミーアちゃん⋮﹂
水を床に落としたシノンが、塞ぎ込みながら私とミーアに言います。
﹁いいのですよシノン姉姉。仕方のない事⋮なのです﹂
﹁そうよシノン。ミーアの言う通りよ。失敗は誰にだって有るわ﹂
﹁でも⋮私のせいで⋮ステラ姉様やミーアちゃんにまで迷惑が⋮﹂
﹁私達はいつも一緒でしょ?そんな事⋮気にしないでいいのよ?﹂
そう言ってシノンを抱きしめると、少し涙ぐんでいるシノン。ミー
アも微笑みながら頷いていた。
確かに、あの様な失態をした私達を、ヒュアキントス様はきつく躾
けられるでしょう。
私達は⋮ヒュアキントス様の一級奴隷⋮逆らう事は出来ません⋮
それでも生きる為には⋮避けれない事⋮
1390
暫く別室で待っていると、侍女が私達を呼びに来ました。
どうやらヒュアキントス様が、アウロラ女王陛下の前に行かれる様
でした。
案内役に付いて行くと、大きな扉の前で待たされます。
すると、別の侍女が、私達を扉の中に案内します。
そこは豪華な大広間で、真赤な綺麗な刺繍のされた絨毯が敷かれ、
その奥に、黄金の玉座がありました。
そして、そこで意外な再会が有りました。
そう、先程の葵と名乗った行商人の少年がいたのです。
その葵少年の一行を見たヒュアキントス様は全てを悟られたのでし
ょう。
ニヤッと微笑むヒュアキントス様。その顔は、何かを考えられた時
の顔でした。
案の定、予定されていた選定戦に加え、葵少年の一級奴隷達を賭け
の対象にしてしまいました。
全ての話の出来上がっているこの場で、葵少年が何か出来るはずが
ないのは解っていましたが、ワーフォックスの一級奴隷の少女の為
に、そこまで怒る理由が、この時は私達には解りませんでした。
こうして、選定戦は始まったのでした。
ここは選定戦の舞台になるバイエルント国。
私達は今アッシジの町で1番大きい商会に滞在しています。
このバイエルントに来る為に乗ってきた高速魔法船の船上で、ヒュ
アキントス様と葵少年の話の中で、私達の事を傷つけない様に取り
決めがされたので、私達は別室で待機する様にヒュアキントス様か
1391
ら仰せつかっているのでした。
﹁⋮あの⋮葵と言う行商人の少年は、この選定戦で負けてしまうの
ですよね?ステラ姉姉⋮﹂
ベッドに座り、足をブラブラさせながら、寂しそうに言うミーア。
ミーアは高速魔法船の船上で、葵少年に罰を受けるのを助けて貰っ
ている。
優しく引っ込み思案のミーアは、その事をずっと思っていたのを私
は知っていました。
﹁そうね⋮この選定戦は全てヒュアキントス様の手の上での出来事。
全て仕組まれた事なのは知ってるでしょ?⋮どんなにあの少年が頑
張っても⋮利益の一番高い商品を全て押さえているヒュアキントス
様には勝てないでしょうね﹂
私の言葉に伏目がちに頷くミーア。
﹁でも⋮あの葵さんの一級奴隷の2人は⋮とても幸せそうでしたね。
⋮私達も⋮葵さんの一級奴隷になったら⋮優しくして貰えるのでし
ょうか?﹂
﹁きっと優しくしてくれると思いますよシノン姉姉!私⋮葵さんの
瞳に見つめられましたけど⋮とても優しい瞳をされてました!﹂
引っ込み思案のミーアが珍しく自分の意見をはっきり言うのに少し
驚きましたが、私は宥める様にミーアとシノンに言います。
﹁⋮でも、その様な事は、ありえないのも解ってるでしょミーアに
シノン?私達の主人はヒュアキントス様であって、あの葵少年では
ないわ﹂
私の言葉にシュンとしているミーアとシノン。
私も酷い事を言っているのは解ってますが、変に夢を見て、後から
くるヒュアキントス様の躾に耐えられなくなってしまうのが怖かっ
1392
たのです。
そんなバイエルントでの滞在期間も過ぎ、フィンラルディア王国に
帰る時がやって来ました。
葵少年一行は、アッシジの町での取引を諦め、この周辺で取引を考
えた事は聞かされていましたが、帰りの荷馬車には女性が5人⋮
この時は葵少年が何を取引したのか解りませんでした。
そして、フィンラルディア王国に戻り、王都ラーゼンシュルトのヴ
ァレンティーノ宮殿に戻って来た私達と葵少年の一行は、アウロラ
女王陛下の前で、仕入れた商品の報告を、アルバラード様にします。
当然、金貨100枚で最高の利益の上がる黒鉄を仕入れているヒュ
アキントス様は、意気揚々とアルバラード様に報告します。
元々、全て仕組まれているこの選定戦で、ヒュアキントス様に勝て
る事などありえない事なのです。
しかし⋮私達の予想は大きく外れてしまいます。
葵少年は、バイエルント国の自国金貨を純金で作り関税を逃れ、ア
ウロラ女王陛下の前に堂々と差し出したのです。金の関税は高く設
定されています。その利益は莫大。
まさかの事態に、流石のヒュアキントス様も為す術はなく、選定戦
の勝敗は、葵少年に上がります。
あのデボラ様すら及ばなかった、天才的商才を持つと自他共に認め
るヒュアキントス様を破るこの少年の事が、私達は信じられないで
いました。
選定戦が終わり、私達はヴァレンティーノ宮殿の客室で、今夜は宿
泊させて貰う事になりました。
その客室で、呆然としながら紅茶を飲んでいるミーアとシノン。
1393
﹁⋮葵さん⋮勝ってしまわれましたね⋮﹂
﹁ですね⋮シノン姉姉⋮葵さん⋮勝ちましたね⋮﹂
紅茶を飲みながら、ぼそぼそと呟く様に言うミーアにシノン。
﹁ダメよミーアにシノン。きちんと葵様と呼ばないと。今の私達の
ご主人様は、葵様なのですから﹂
私の呆れながらの言葉に、あからさまに表情を明るくするミーアに
シノン。
﹁そ⋮そうでした!私達の⋮ご主人様は葵様なのでしたね!ステラ
姉姉!﹂
﹁そうなんです∼ミーアちゃん!﹂
嬉しそうに言うミーアとシノン。
﹁喜びすぎよミーアにシノン。⋮確かに、葵様は優しいのかも知れ
ないわ。でも⋮それはあの女神の様な美しさを持つ、マルガ様とリ
ーゼロッテ様のみかもしれない。私達が葵様に気に入って貰えるか
どうかは⋮別の話よ⋮﹂
私の言葉を聞いたミーアは、バッと椅子から立ち上がり、私とシノ
ンの手を引っ張って、どこかに連れて行こうとします。
﹁ミ⋮ミーア!私達をどこに連れて行こうとしているの?﹂
困惑している私とシノンに、瞳を輝かせているミーアは
﹁湯浴み場ですよ!葵様に気に入って貰える様に⋮身体を隅々まで
綺麗にするのです!﹂
引っ込み思案のミーアは、たまに凄い行動力を見せる事がある。
それはきっと、優しくして貰った葵様に対して、何かお返しがした
いと思っているのだと、直感で解りました。
1394
﹁解ったわミーア。主人である葵様に喜んで貰えそうな事を準備す
るのは、一級奴隷としての勤めでもあるものね。侍女さん達にお願
いしてみましょう﹂
私の言葉に嬉しそうな顔をするミーア。シノンもどこか嬉しそうに
していました。
⋮その湯浴み場で、ミーアに隅々まで洗われる事になるとは思って
もみませんでしたけど⋮
⋮侍女さん達から、あの場所に塗る傷薬を貰うのは、今まで生きて
きた中で、1番恥ずかしかったかも知れません⋮
翌日、新しい主人である葵様の住まわれる場所に帰る事になりまし
た。
そこはグリモワール学院内にある、大きな風格のある宿舎でした。
どう言った経緯で、このグリモワール学院の宿舎一棟を借りれる事
になったのかは解りませんでした。
恐らくルチア王女様との話し合いでと言う事は感じていました。
ヒュアキントス様から届いていた鋼鉄馬車の説明をして、宿舎に入
ります。
宿舎の散策も終わり、部屋決めも終了した時に、葵様からとんでも
無い事を言われます。
それは、私達を奴隷から解放してくれると言うのです。
その言葉を聞いた私達は、思わず舞い上がってしまいます。
今迄夢に見てきた、奴隷からの解放が、目の前に迫っているのです。
喜ばずに入られませんでした。
その中で、ミーアは、弱々しく手を上げ、食事の交渉を私達にさせ
1395
て欲しいと、葵様に言っていました。
きっと、葵様の為に、何か役に立ちたかったのでしょう。
葵様に優しく頭を撫でられているミーアの顔は、幸せそうでした。
今思えば、ミーアは最初から葵様に惹かれて居たのかも知れません。
私達は部屋決めで決めた部屋でゆっくりとしています。
紅茶を飲みながら、ゆったりとしている中で、ミーアが口を開きます
﹁やっぱり⋮葵様は優しかった。私達を奴隷から開放しても良いな
んて⋮﹂
﹁そうですねミーアちゃん。シノンもそう思います﹂
ミーアとシノンは、自分の身に降り掛かった幸運に、信じられない
と言った感じで喜び合っています。
﹁確かに葵様は優しい方でした。でも、解放はまだ少し先の事。あ
の葵様の事ですから、話を途中で変えたりはしないでしょう。です
から⋮私達はその間、葵様の一級奴隷として、葵様に喜んで貰える
様に、行動しましょう﹂
﹁そうですねステラ姉姉!少しでも葵様に何かお返ししたいですも
のね!﹂
﹁シノンもステラ姉様の考えに賛成なのです∼。開放されるまで一
級奴隷として、葵様に一生懸命お仕えしたいです﹂
嬉しそうに言うミーアとシノン。
﹁じゃあ明日から、葵様への奉仕を初めましょう﹂
私の言葉に、嬉しそうに微笑みながら頷くミーアにシノン。
﹁では、葵様に⋮気に入って貰える奉仕が出来る様に⋮湯浴み場に
行きましょう!ステラ姉姉!シノン姉姉!﹂
嬉しそうに言うミーアに、若干顔を引き攣らせる、私とシノン。
1396
またミーアに隅々まで洗われてしまう⋮
その事を一瞬で理解した私とシノンは、侍女に貰った傷薬を持って、
湯浴み場に向かうのでした。
翌日、朝刻の1の刻︵午前6時︶の鐘の音が鳴る前に目を覚ます私
達3人は、それぞれ準備をして、部屋を出ます。
まず、会議室の1つを食堂に変更した部屋の清掃を始めます。
葵様に寛いで貰える様に、丁寧に掃除をして、他の皆さんの分の椅
子をきちんと並べます。
そして、昨日交渉をした、料理長の所に、皆さんの分の食事を取り
に行きます。
料理が冷めないように、かまどに火を起こし、その上にシチューの
入った鍋をかけます。
全ての用意をして、少しゆっくりとしていると、徐々に皆さんが食
堂に集まって来ました。
レリアさんにエマさん、そしてマルコさんが、私達の用意した朝食
を食べ始めます。
程なくして、葵様とマルガ様、リーゼロッテ様が食堂に姿を表しま
した。
笑顔で挨拶を交わす、ミーアとシノンをよそに、私の心は何故か曇
っていました。
﹃何故⋮一級奴隷であるはずのマルガ様やリーゼロッテ様は⋮朝の
準備もしないのかしら⋮﹄
そう疑問に思いながらも、皆さんの朝食を配ります。
それをお礼を言って受け取る3人に少し戸惑いながらも、料理長と
1397
の交渉の件を報告し、葵様から一緒に買い物に行くと言われ、準備
を整えて、宿舎を後にしました。
﹁いや∼やっぱり、王都ラーゼンシュルトは大きな町だよね∼﹂
﹁そうですね葵様。流石はフィンラルディア王国の王都と言った所
でしょう﹂
王都ラーゼンシュルトの街を歩く私達に、隣に歩く様に命令されま
す。
葵様は本当に優しい⋮
その微笑みを見ていると、どこか癒される感じがします。
しかも、心遣いも良く、衣料店では私達の必要な物は、何を買って
も良いといってくれた上に、手鏡や櫛まで買ってくれます。
その上、私達の買ってきた買い物の荷物まで、面倒を見てくれたり
します。
その時ふと、朝の準備をしなかったマルガ様とリーゼロッテ様の事
を思いだしました。
﹃葵様は奴隷に優しすぎる⋮きっとマルガ様やリーゼロッテ様も、
葵様の優しさに慣れてしまって、本来の一級奴隷としての役目を見
失われて居るに違いない⋮私達も注意しないと⋮﹄
私は葵様に喜んで貰える奉仕が出来る様に、一級奴隷の本分を忘れ
ない様に心がける事にしました。
そんな中葵様は、休憩と言われ、私達に蜂蜜パンと果実ジュースを
買ってくれました。
それを幸せそうに食べている、ミーアとシノン。
﹁⋮葵様、余りミーアとシノンを、甘やかさないで下さい。私達は
あくまでも葵様の一級奴隷であり、葵様にお仕えする奴隷なのです。
ですから⋮﹂
1398
私の言葉にハッとしているミーアとシノンは少しシュンとしていま
した。
﹁まあ⋮ステラの言う事は尤もだけど⋮俺は君達に、そんな事を特
に望んでいないんだよね。君達は少し先で奴隷から解放するつもり
でいるしね。普通に接してくれた方が良いんだけど?﹂
﹁⋮葵様が、私達の事を気にしてくださっているのは、重々理解し
ています。本当に有難く思っています。ですが⋮それは私達が⋮特
に葵様が私達の事を、お気に召されていないだけの事なのではあり
ませんか?つまり⋮居ても居なくても⋮同じと言う事⋮なのではあ
りませんか?﹂
思わず本音が出てしまいます。
本当に手放したくない物は、手元に置いておきたいもの⋮
言い換えれば、私達は必要とされていない。⋮何故かその事に、私
は苛立ってしまっていたのです。
少し困惑して考えていた葵様は、苦笑いしながら
﹁まあ⋮ステラの言いたい事は解ったよ。でもステラ、ミーア、シ
ノンに興味が無い訳じゃないよ?君達は美少女で可愛いし、男なら
どうかしたくなると思うよ。でも、今の俺はソレを望んでいない。
君達が優秀である事も解ってるよ。だから⋮君達は、君達の幸せを
考えて欲しいんだ。解った?﹂
葵様の優しさに触れたミーアとシノンは嬉しそうな顔をしていまし
たが、私の心のなかのモヤモヤは、何故か膨らんでいくのでした。
宿舎に戻って来た私達は、葵様の会議に参加させて貰いました。
リーゼロッテ様の提案された商品がどの様な物なのかは解りません
でした。
わら半紙、鉛筆、算盤⋮
数多くの取引に関わってきた私達でさえ知らない商品⋮
1399
それを知っているリーゼロッテ様は、やはりエルフの博識の持ち主
なのでしょう。
その間にも会議はどんどん進んでいき、私達が何も発言しないまま
に、私達は宿舎の清掃掛かりと言う事で話が終わろうとしていまし
た。
私は若干の焦りを感じ、葵様に発言します。
﹁葵様。宿舎の管理は解りましたが⋮私達には他にも出来る事が有
ります。他の事も一級奴隷として、お手伝いをしたいのですが?﹂
そう、優しい葵様の為に、私達はもっとお役に立ちたい。
宿舎の清掃など誰にも出来る事。私達は曲がりなりにも、一級奴隷
として厳しい教育を受けてきました。
それを葵様の為に使いたい⋮
しかし、葵様から帰ってきた言葉は、
﹁うん、今はその気持だけ貰っておくよ。ステラ達には、また別の
事をして貰うから﹂
苦笑いをしながら言う葵様。
それは明らかに私達の力を必要としていない言葉でした。その言葉
に私は思わず唇を噛み締めてしまいます。
﹃葵様に⋮私達の気持ちを解って欲しい⋮一体どうすれば⋮﹄
その様な事を考えていた時に、ふとある事を思いつきました。
﹃そう⋮葵様に信用されている、マルガ様とリーゼロッテ様を観察
すれば⋮葵様の役に立つ方法が見つかるかも⋮﹄
そう思った私は、マルガ様とリーゼロッテ様を観察し始めます。
葵様にどの様な奉仕をされるのか⋮
期待しながらマルガ様とリーゼロッテ様を観察しますが、私の予想
1400
とはかなり違うものでした。
マルガ様は奉仕するより、おねだりの方が多く感じられ、リーゼロ
ッテ様は気がきくのですが、特にそれ以上の事はしていない様でし
た。
それはまるで⋮恋人と一緒にいるかの様な光景でした。
葵様もそれに何も言わない所か、それをニコニコしながら喜んでい
る様に見えました。
私はそれを見て、心の底から、何かが湧き上がって来ました。
﹃⋮葵様は、マルガ様とリーゼロッテ様の美しさだけに囚われてい
るんだわ⋮。それに加え、マルガ様やリーゼロッテ様は、葵様の優
しさにつけこんで⋮一級奴隷である事を忘れている⋮﹄
私は我慢できなくなり、葵様がトイレに行った隙に、マルガ様とリ
ーゼロッテ様を、別の会議室に呼び出しました。私と一緒について
きた、ミーアとシノンは困惑した表情を浮かべています。
﹁⋮私とマルガさんに話とは⋮どの様な事なのでしょうかステラさ
ん?﹂
涼やかに微笑む、月の女神と見紛うエルフのリーゼロッテ様の美貌
に、私の心は更に掻き立てられます。
﹁マルガ様やリーゼロッテ様は⋮葵様が優しい事を良い事に、好き
放題、やり過ぎなのではありませんか?﹂
私のキツイ言葉に、ミーアとシノンは更に戸惑っています。
﹁シノン姉姉⋮それは言い過ぎ⋮﹂
﹁言い過ぎじゃないわミーア!少し黙ってて!﹂
いつもと違うキツイ剣幕の私に、ミーアはそれ以上何も言いません
でした。
1401
﹁私達は一級奴隷なのですよ?マルガ様にリーゼロッテ様。⋮その
事はお解りですよね?﹂
私の言葉に、何かを感じたのか、リーゼロッテ様は優しい微笑みを
湛えながら
﹁⋮そうですね。私達は葵さんの一級奴隷ですね。それで⋮ステラ
さんは私とマルガさんにどうして欲しいのですか?﹂
﹁もっと葵様に尽くしてあげて下さい!一級奴隷として!⋮私が言
うのもどうかと思いますが、葵様はお優しい方です。その優しさに
つけ込むなんて最低です!一級奴隷としての誇りはないのですか!﹂
私のきつい言葉に、マルガ様はシュンとされていましたが、リーゼ
ロッテ様はクスクスと笑い、優しい微笑みを私に向けていました。
私はその微笑みが、見下された様に感じられ、怒りが押さえられま
せんでした。
﹁⋮解りました。マルガ様、リーゼロッテ様、勝負をしましょう﹂
﹁勝負?それは何なのでしょう?﹂
﹁それはどちらが葵様の一級奴隷としてふさわしいかです!どちら
が、葵様の役に立ち、葵様に認められるか⋮そしてどちらを選んで
貰えるかの勝負です!﹂
私の言葉を聞いた他の皆は、驚いていましたが、その中でリーゼロ
ッテ様は、優しい微笑みを崩さぬまま私に言います
﹁⋮そんな勝負、成り立たない可能性の方が高いですが⋮﹂
﹁それは⋮どういう事ですかリーゼロッテ様?﹂
﹁そうですね⋮それは⋮葵さんだから?かしら?﹂
楽しそうに言うリーゼロッテ様の訳の解らない言葉に、私の苛立ち
は更に膨らみます。
1402
﹁と⋮兎に角、私達が勝ちましたら、マルガ様とリーゼロッテ様に
は一級奴隷として、葵様に今以上、奉仕をして貰う事を約束して貰
います!⋮私達が負けましたら、ここから出ていきます。それで良
いですねマルガ様、リーゼロッテ様?﹂
キツイ剣幕の私の言葉に、初めて少し顔を真剣にしたリーゼロッテ
様は暫し考えると、再度優しい微笑みを私に向けます。
﹁⋮解りました。ステラさんがそうしたいのなら、それでかまいま
せんわ﹂
﹁リーゼロッテさん!でも⋮﹂
﹁大丈夫ですよマルガさん。何も心配しなくても﹂
マルガ様がアワアワしながらリーゼロッテ様に何か言おうとしたの
を、優しくとめるリーゼロッテ様。
﹁ではそれで!今日から湯浴み場では、私達が葵様に奉仕させて貰
います!マルガ様とリーゼロッテ様は、寝所で夜の奉仕をして下さ
い!﹂
﹁解りましたわステラさん﹂
まだ優しい微笑みを私に向けているリーゼロッテ様に、苛立ちを隠
せない私は
﹁では、宜しくお願いします!マルガ様!リーゼロッテ様!行くわ
よ!ミーア、シノン!﹂
そう吐き捨てる様に言った私は、ミーアとシノンの手を引っ張って、
自分たちの部屋に帰ろうとした時、後ろからリーゼロッテ様の声が
かかります
﹁余り無理をしないでくださいねステラさん。きっと、ミイラ取り
がミイラになるのだと思いますが⋮﹂
﹁みいら?なんですかそれは?﹂
1403
﹁そうですね⋮葵さんは優しいと言う事でしょうか?﹂
どこか楽しげで、訳の解らないリーゼロッテ様の言葉に、私はカチ
ンと来ましたが、何も言わずに部屋に帰って行きました。
部屋に帰ってきた私は、ベッドにドカッと座ります。
﹁本当に一級奴隷として最低だわ!マルガ様にリーゼロッテ様は!﹂
怒りの収まらない私は、思わずそう言ってしまいます。
﹁ステラ姉姉の気持は解りますけど⋮あの女神と妖精の様な美貌を
持ったマルガ様とリーゼロッテ様に勝負だなんて⋮﹂
﹁そうですよステラ姉様∼。それに⋮負ければ⋮ここから出ていく
なんて⋮﹂
そう言ってシュンとしているミーアにシノン。
﹁大丈夫よミーアにシノン。確かにマルガ様やリーゼロッテ様は、
女神や妖精の様な、素晴らしい美貌の持ち主だけど、私達は一級奴
隷として、厳しい教育を受けてきているわ!そんな私達が、負ける
はずないわ!きっと葵様に解って貰える!私達は⋮今迄、一級奴隷
として生きてきた誇りが有るわ!そうでしょう?ミーア、シノン﹂
﹁そうですね!ステラ姉姉!﹂
﹁そうなのです∼!シノンも一杯頑張ってきましたのです∼!﹂
私の言葉に賛同してくれるミーアとシノンの頭を優し撫でると、い
つもの微笑みを向けてくれるミーアとシノン。
﹁では、湯浴み場の奉仕の為に、今から湯浴み場に身体を洗いに行
きましょう!﹂
私とシノンの手を引っ張るミーア。
私とシノンは顔を見合わせて、若干顔を引き攣らせる。
また⋮ミーアに隅々まで⋮洗われる⋮
私は残り少ない、侍女から貰った傷薬を握りしめ、ミーアとシノン
1404
と一緒に、湯浴み場に向かうのでした。
夜になり、いよいよ葵様に湯浴み場で奉仕する時がやって来ました。
さきに湯浴み場で身体を洗い合った︵主にミーアに洗われました︶
私達は、さきに一人で湯浴み場にいる葵様の元に向かいます。
暖かい湯気に包まれた湯浴み場に入って行くと、一人で湯船に浸か
っている葵様が、私達を見て驚かれています。
﹁あれ!?何故ここにステラ、ミーア、シノンが居るの?ここは俺
達専用の湯浴み場のはずだけど⋮あ!ひょっとして俺、女湯の方に
間違えて入っちゃった!?﹂
﹁⋮いいえ、ここは葵様方専用の湯浴み場で、間違いは御座いませ
ん。私達がここに入って来たのです﹂
私の言葉に動揺を隠せない葵様。
﹁はえ!?自分たちの意志で、この湯浴み場に来たの?⋮そんなに
こっちの湯浴み場に入りたいなら、言ってくれれば良かったのに⋮
言ってくれれば、時間をずらして入ったよ?と⋮とりあえず、俺は
上がるから、ゆっくりしていくといいよ﹂
苦笑いしながら出て行こうとする葵様を、ミーアとシノンが両腕を
掴んで止めます。
﹁え?どうしたのミーアにシノン。何故俺を止めるの?それに君達
は⋮裸だし、俺に見られたら恥ずかしいでしょ?﹂
﹁私達は、葵様の一級奴隷です。今夜は私達が湯浴み場で葵様にご
1405
奉仕させて頂きます。これは、マルガ様やリーゼロッテ様の許可も
得ました﹂
私の言葉に、少し何かを考えていた葵様は、少しキツイ目をされて
私達を見ます。
﹁⋮俺は君達に、夜の奉仕や湯浴み場での奉仕なんか、命令してな
いけど?﹂
葵様の少しキツイ言葉に、ミーアとシノンは少し身体をピクンとさ
せていましたが、ここで引くわけには行きません。私達はマルガ様
やリーゼロッテ様に勝負を挑んでいるのですから。
﹁はい、ご命令は受けては居ませんが、夜のご奉仕や湯浴み場での
ご奉仕は、ご命令など受けずとも、一級奴隷なら進んで行わなけれ
ばならない事。つまり当たり前の事なのです葵様﹂
ミーアとシノンは、湯浴み場の床に敷かれた、柔らかい布の上に、
葵様を座らせます。
﹁私達は葵様の一級奴隷。この宿舎の清掃だけしているのであれば、
二級奴隷や三級奴隷にも出来る事。私達は一級奴隷なのです。葵様
に私達の価値を知って貰いたいのです﹂
﹁だからこんな真似してるって言うの?ミーアとシノンもそれでい
いの?﹂
ミーアとシノンは恥ずかしそうに頷いています。それも当然、私達
は葵様のお役に⋮ご奉仕がしたいのですから。
﹁その2人も私の話を納得しています。そして、私達も、一級奴隷
としてこれまで生きてきた誇りも有ります。それを葵様に⋮認めて
貰います﹂
﹁そんな誇りなんかの為に⋮自らの身体を差し出すと言うの?もっ
と、自分の体は大切にした方が良いと思うけど?﹂
1406
﹁私達は⋮そうやって生きてきたのです⋮それを⋮今更変える事な
ど⋮出来ません⋮﹂
﹁⋮俺も男だよ?君達みたいな美少女にこんな事されて⋮我慢出来
ないかも知れないよ?﹂
﹁構いません⋮それが私達が⋮望んだ事なのですから⋮ではご奉仕
させて頂きますね葵様⋮﹂
私の言葉を最後に、葵様に奉仕を始める、ミーアとシノン。
私も葵様に気持ちよくなって貰う為に、一生懸命奉仕を始めます。
しかし、初めは気持ち良さそうにしていた葵様は、突然寂しそうな
顔をします。
その理由を聞いてみると、
﹁君達がしている奉仕は、君達がヒュアキントスにしていた奉仕だ
ろ?それを考えたら⋮なんかつまらなくなってさ﹂
﹁⋮ほかの男に調教された私達では⋮永遠に⋮葵様にご奉仕で喜ん
で頂ける事は出来ないと言う事なのですか?﹂
私は目の前が真っ暗になってしまいました。ミーアとシノンも同じ
だったでしょう。
﹁ううん。そんな事は無いよ。⋮俺が今回だけ⋮調教しなおしてあ
げる⋮もう⋮今夜は許して上げないから覚悟してね﹂
葵様が艶めかしくそう言うと、私達にキスをしていってくれます。
今までの主人は、私達の身体には口をつけようとはしなかったので、
その優しく甘いキスに、私達の心と体は、どんどんほぐされていき
ます。
﹃キスが⋮こんなにも気持ちの良いものだったなんて⋮﹄
私達は4人でキスをし合いながら、その甘い快楽に、どんどんはま
っていきます。
1407
﹁3人とも可愛いよ。もっと気持の良い事を仕込んであげるから⋮
お尻を俺の顔の前につき出して、四つん這いになるんだ﹂
葵様の言われるままに、お尻を葵様に向けます。
私達の恥ずかしい所を全て葵様に見られている恥ずかしさから、思
わずモジモジしてしまいます。
そんな私達に、葵様は口で丁寧に愛撫をしてくれます。
私達の膣口やクリトリス、お尻の穴に至るまで、全てを舌と口で味
わわれる葵様。
私やミーア、シノンは、その気持ち良さと、主人に舐めて貰ってい
る、嬉しさと恥ずかしさ、申し訳なさが心のなかで入り乱れ、快感
がどんどん高まっていきます。
﹁葵様!私⋮気持ち良いです!こんなの始めてです∼!!﹂
﹁私もです葵様!葵様の指使いが優しくて⋮気持良くて⋮なんだか
⋮心が暖かくなります∼﹂
ミーアとシノンが甘い吐息混じりの声を上げます。
﹁ステラも⋮気持ち良い?それとも俺の口と舌の愛撫じゃ不満かな
?﹂
﹁いえ!その様な事はありません!葵様に愛撫して貰って⋮とても
⋮気持が良いです⋮﹂
本音でした。こんなに気持ち良く、心の暖まる事など味わった事は
ありませんでした。
私達は葵様の愛撫に、快感が我慢出来なくなってしまいます。
﹁﹁﹁うはあああああああああんん!!!!﹂﹂﹂
声を揃えて絶頂を迎える、私、ミーアシノン。
初めて感じる絶頂の快感は、私達の体の全てを痺れさせる様に、私
達を包みました。
1408
﹁どうだったステラ、ミーア、シノン?初めて感じた⋮絶頂の気分
は?﹂
﹁こんなに⋮気持ちの良い事だとは⋮お⋮思ってもみませんでした
⋮有難う⋮御座います⋮葵様﹂
ミーアが幸せそうな顔で、肩で息をしながら言います。
﹁そうなんだ。それは嬉しいね。じゃ∼もっとその体に仕込んであ
げる⋮﹂
﹁にゃはああああああん!!!﹂
ミーアが甘い猫の様な声を上げます。
葵様がミーアを後ろから犯しているのです。
ミーアは甘い吐息を辺りにまき散らしながら、葵様に犯して貰って
いる事を、喜んでいました。
今までの主人の奉仕は、只の苦痛でしか無く、何も感じないどころ
か、痛いだけでした。
しかし、葵様に犯されているミーアの表情は、幸せの絶頂にいるか
の様に見え、その初めて見る艶かしいミーアの顔を見ていると、私
の下腹部はどんどん熱くなっていくのが解ります。
ミーアは葵様に犯され絶頂を迎えます。
その気持ち良さそうな顔と言ったら⋮
同じ様に、葵様に犯されるシノンも、その快楽に身を委ね、幸せそ
うな顔で葵様に犯され絶頂を迎えはてていきます。
そして、葵様は、ミーアとシノンを犯したモノを私の眼の前に持っ
てきます。
私はそれを口に含み、味わいます。
ミーアの愛液と、シノンの愛液、葵様の精液が交じり合ったその味
は、私をどんどん高めていきます。
1409
﹁ステラ⋮俺の精子は美味しい?﹂
﹁はい⋮葵様の精子は⋮とても美味しいです⋮﹂
﹁じゃ⋮ステラにも味わわせてあげる﹂
そういった葵様は、私を上に乗せて、騎乗位で私を犯していきます。
﹁クウウウウウん!!!﹂
思わず声が出てしまいます。
葵様のモノが私を犯すたびに、物凄い快楽と幸福感が、私の身体を
突き抜けていきます。
私は我慢できずに、もっと葵様を求めてしまいます。
﹁ステラ⋮そんなに腰を振っちゃって⋮いつもとは随分と違うね?﹂
その言葉に、恥ずかしくなった私は、体中が熱くなります。
余りの気持ち良さと幸福感に、私は自ら腰を振り、葵様のモノを味
わってしまっていた様なのです。
﹁ステラ⋮解ってると思うけど⋮イク時はきちんと言う事⋮そして
⋮おねだりしないとイカせて上げないよ?﹂
﹁ですが⋮主人様におねだりなど⋮﹂
私の言葉を聞いた葵様は、悪戯っぽい表情をされると、私を犯すの
を止められます。
﹁ステラ⋮可愛くおねだり出来たら⋮すぐに可愛がってあげるけど
⋮どうする?﹂
ニコニコと微笑む、悪戯っぽい葵様。
﹃⋮もっとして欲しい⋮もっと葵様に⋮犯して欲しい⋮﹄
心の底からの声でした。
﹁葵様⋮どうかその立派なモノで⋮私を最後まで犯してイカせて下
1410
さい。お願いします⋮﹂
喉から絞り出すかの様な私の言葉に、艶かしい表情をする葵様は、
﹁そんなに可愛くおねだりするなら⋮一杯イカせてあげる!﹂
葵様が力一杯私を犯します。その快楽に我慢できなくなった私は、
たちまち絶頂を迎えます
﹁葵様イカせて頂きます!葵様のモノでイキます!葵様⋮葵様ー!
!!!!﹂
恥ずかしくも我慢できなくなった私は、大きな声を上げて絶頂を迎
えます。
その快楽といったら⋮この世の全てが幸福に包まれるかの様な感じ
でした。
﹁3人共ゆっくりとこの湯浴み場を使うといいよ。俺は少し湯に浸
かってから部屋に戻るから。⋮余りそこで寝てると、夏とは言え風
邪を引いちゃうから気を付けてね﹂
私達をゆっくりと寝かせて、優しく頭を撫で、慈しむ様なキスを3
人にしてくれる葵様は、湯船に浸かって湯浴み場を後にします。
私達は絶頂の余韻が収まるまで布の上で寝て、それから湯浴み場で
身体を綺麗にしてから、部屋に戻って来ました。
そして、ミーアの入れてくれた紅茶を飲みながら、それぞれのベッ
ドにボーッとなって腰をかけていました。暫く静寂が続きましたが、
ミーアがそれを破ります。
﹁凄かった⋮です⋮﹂
ボソッと呟く様に言ったミーア。その言葉に全てが詰まっていると、
私とシノンは感じていました。
﹁そうなのです∼!葵様に犯して貰ったら⋮物凄く気持ち良くて⋮
1411
幸せで⋮嬉しくて⋮﹂
﹁そうですシノン姉姉!もう⋮幸せすぎて⋮堪らなかったのです!﹂
嬉しそうにはしゃいでいるミーアとシノン。
本当にその通りでした。それ以外何もありません。
あんなにも⋮凄くて、気持よくて、心が暖まるなんて⋮
﹁⋮これじゃ⋮どちらが奉仕されたか解らないわね⋮﹂
呆れる様に言った私の言葉に、アハハと笑うミーアとシノン。
﹁では、これはどうでしょう?会議で一応、売り出す物は決まって
しまってますが、私達も何か提案してみたらどうでしょうか?﹂
シノンがニコッと微笑みながら言う言葉に、私とミーアの瞳が輝き
ます。
﹁それは良い案だわシノン!ミーア!羊皮紙とペンを用意してくれ
る?﹂
﹁はい!ステラ姉姉!﹂
私達は今まで経験してきた取引の経験を活かせる様な提案をする為
に、葵様の役に立てる提案をする為に、夜遅くまで蝋燭の灯を照ら
し続けるのでした。
今日は晩餐会に来ています。
以前、ヒュアキントス様のお供で、定例晩餐会に来たことのある私
達は、お役に立てる事を喜んでいました。
葵様の交友の広さにも驚きながら、晩餐会で葵様のお手伝いが出来
ないか、ずっとお側で見ていましたが、私達に出来る事は特になく、
1412
晩餐会も終わってしまいます。
晩餐会前に手渡した、私達が考えた、売り出す商品を書いた羊皮紙
も、どうやら葵様の気には止まらなかった様で、私達はどうしたも
のかと、考え込んでいました。
そんな中で、晩餐会の終わった翌日、当面の収入を考えられている
葵様は、冒険者ギルドのお仕事を受けられる様になりました。
300年間発見されていなかった、ラフィアスの廻廊の秘宝の発見
者が葵様達だった事に再度驚きながら、私達は明日の湖水浴の準備
に取り掛かります。
買い物には私達の他に、あのリーゼロッテ様も一緒です。
﹁リーゼロッテ様、本日は貴重な時間をさいて頂きすいません﹂
私は普通に言ったつもりだったのですが、どうやらその口調は無意
識にきつかったのか、ミーアとシノンが若干困惑していました。
そんなミーアとシノンを楽しげに見て微笑んでいるリーゼロッテ様は
﹁いえいえお気になさらずに。私達は既に仲間。葵さんの一級奴隷
なのですから、仲良くしましょう?﹂
優しく微笑まれるリーゼロッテ様の顔を見て、私は何かが沸き立っ
てきます。
﹁⋮それから、湯浴み場での葵さんに対しての奉仕はどうでしたか
?この間はずいぶんと気持ち良さそうでしたけど?﹂
リーゼロッテ様がニコニコしながら私達に言います
﹁凄く良かったです∼!﹂
﹁シノンも同じなのです∼!﹂
﹁あら、それは良かったですね。ミーアさんにシノンさん﹂
嬉しそうに言うミーアとシノンの頭を優しく撫でながら、優しい微
1413
笑みをミーアとシノンに向けているリーゼロッテ様。
そんな嬉しそうなミーアとシノンに、私は軽く咳払いをすると、苦
笑いをしているミーアにシノン。
﹁確かに、葵様に犯されるのは、気持良くて、心が暖まりました。
でも、葵様も、私達の事を、喜んでいただけて居ると思います。マ
ルガ様やリーゼロッテ様はどうなのでしょうか?葵様に満足して貰
えているのでしょうか?﹂
私のキツイ言葉にも、表情を崩さないリーゼロッテ様は
﹁さあ⋮それはどうでしょう?マルガさんと私の事は、葵さんにし
か解らない事ですからね。私とマルガさんは、葵さんに犯されて幸
せですが﹂
悪びれる事無く言うリーゼロッテ様に、再度カチンときましたが、
私は何事もない様な感じで
﹁⋮そうですね、では買い物を続けましょう﹂
それだけを伝えて、淡々と明日の湖水浴の準備を整えていくのでし
た。
翌日、まさに真夏にふさわしい晴天でした。
湖水浴にはもってこいの日なのでしょうが、泳げない私は少し憂鬱
でした。
皆さんの準備もでき、荷馬車に揺られて、私がお教えしたロープノ
ール大湖の泳ぎやすい場所に到着します。
皆さん楽しそうに泳ぐ準備を初めますが、私の不安が消える事はあ
りませんでした。
マルガ様のラジオタイソウ?と言う準備運動をして、神聖な儀式?
﹃ヤッホー﹄も終わった様で、いよいよ泳ぐ時が来ました。
皆が泳ぎに行く中、一人取り残された私を見つけた葵様が、
1414
﹁ステラどうしたの?ステラも行かないの?﹂
﹁あ⋮いえ⋮私は⋮﹂
私は戸惑いながら言うと、私の手を引っ張る葵様
﹁ほら!泳ぎに行こう!行くよ!﹂
﹁ちょ⋮あ⋮葵様!!ま⋮待って下さい⋮あ!!!!﹂
私は浮き輪をつけていて、慣れない事と、水の中に入る不安感から、
足がもつれてしまい、勢い良くロープノール大湖に飛び込んでしま
います。
﹁わわわわわわ!!!アブブブ!お⋮溺れる⋮アプププ⋮あ⋮葵様
⋮た⋮たすけ⋮﹂
私は驚きの余り、溺れてしまいます。無意識に葵様に助けを求め、
それにすぐ応えて、私を助けてくれる葵様。
私は必死に葵様にしがみついてしまいます。
﹁だ⋮大丈夫ステラ!?﹂
﹁ブハ⋮ハアハア⋮はい⋮なんとか大丈夫です葵様⋮﹂
苦しかったけど、葵様に助けて貰えた嬉しさもあった事は秘密にし
たいです⋮
﹁ステラ、ここは1m位の深さしか無いから、足がつくよ?ゆっく
り立ってみて﹂
﹁は⋮はい⋮葵様⋮﹂
﹁ね?大丈夫でしょ?﹂
﹁そ⋮そうですね⋮葵様⋮﹂
ロープノール大湖に立った私は、思わず安堵してしまいます。
﹁ステラ姉ちゃんって、もしかして、泳げないの?﹂
1415
マルコ様が核心を突く事を言われます。勿論悪気は無いのは解って
いますが、葵様に知られてしまった事に、恥ずかしさと申し訳無さ
が、私の心のなかでグルグルになっていました。
﹁じゃ∼さ∼葵お兄ちゃんに、およぐのおしえてもらったら∼?そ
したら、およげるようになるよ∼ステラお姉ちゃん∼﹂
エマ様の提案で、私達は葵様に泳ぎを教えて貰う事になりました。
水が怖くないミーアやシノンはすぐに葵様の言われる事を出来る様
になりますが、水の怖い私は、何故か顔を水につけると、バタ足が
出来無くなってしまいます。
そんな中で、マルガ様とエマ様は、ルナ様に教えて貰った、ジェッ
ト犬かき?なる泳ぎ方で、物凄い早さで泳いでいます。
﹁皆さん凄いですね⋮﹂
私は自分が情けなくなって、俯いてしまいますが、葵様は私に優し
く言ってくれます
﹁ス⋮ステラが気にする事は無いよ?俺達は俺達の練習をしよう?﹂
その言葉が私の心をポアッと暖かくしてくれます。
﹁はい⋮有難う⋮御座います⋮葵様⋮﹂
優しく微笑む葵様の顔を見ると、なんだか直視できなくなります。
﹁うん!とりあえず⋮ステラは⋮その浮き輪を取っちゃおうか﹂
﹁ええ!?う⋮浮き輪をですか!?﹂
葵様の言葉に思わず身体が強張ってしまいます。
﹁俺が思うに、ステラは運動神経は問題ないと思うんだ。でも、小
さい時に川で溺れた経験から、水の中が怖いと言う思いが強くなっ
1416
て、それが、本来出せるはずの運動神経を邪魔しちゃってるだけだ
と思うんだよね。だから、泳ぎ方より先に、水への恐怖さえ無くな
ったら、ミーアやシノンの様に、すぐに泳げる様になると思うんだ
よね。だから⋮頑張ろう?﹂
優しく宥める様に言ってくれる葵様の言葉で、私も覚悟を決めます
﹁じゃ∼ゆっくりと両手を引くから⋮無理しなくて良いからね?﹂
﹁はい⋮有難う御座います⋮葵様⋮﹂
優しい葵様にドキドキしながら、私は必死に泳ぐ練習をします。
何度も失敗する私に、何度も励ましてくれる優しい葵様。
私は葵様の気持に応える為に、必死で練習をします。それでも失敗
してしまう私は、なんだか悲しくなって来ました。
﹁すいません葵様⋮﹂
申し訳なさすぎる私は、心の底から謝罪します。
そんな私の頭を優しく撫でてくれる葵様は、
﹁いいよ気にしないで。俺はずっとステラの両手を握って離さない
から⋮安心して良いよ?溺れそうになっても、俺がすぐに助けるか
ら⋮ステラは⋮何も心配しなくて良いんだよ?﹂
真夏の太陽に混じって聞こえてきたその言葉は、私の心の隅々まで
照らす様に染み入ってきました。
私は思わず葵様に抱きついてしまいます。葵様の暖かい体温が、私
を優しく暖めてくれます。
﹁私⋮頑張ります!だから⋮葵様⋮もう少し⋮私に力を貸して貰え
ますか?﹂
﹁勿論!俺の力なんかで良ければ!﹂
その葵様の笑顔の眩しいこと⋮
私は全てを忘れて、葵様に手を引かれながら、必死にバタ足をしま
1417
す。
﹁そう!良い感じだよステラ!次は顔を上げて、息継ぎ練習だよ!﹂
私は返事をして、葵様の言われるがままに、必死に息継ぎをします。
葵様に握られている手が、私に何かの力をくれている感じがします。
そして、ついに私は息継ぎも出来る様になりました。
﹁やったねステラ!出来てたよ!良かったね!﹂
﹁はい!有難う御座います!葵様!﹂
葵様に出来る所をやっと見せれた私は、思わず微笑んでしまいます。
﹁もうかなり出来る様になったねステラ!じゃ∼最後に1人でバタ
足をしてみようか!﹂
﹁わ⋮私一人でですか!?⋮で⋮出来るでしょうか⋮﹂
葵様の言葉に不安になる私。
﹁大丈夫、俺がここで待ってるから。ステラに何かありそうなら、
すぐに助けに行くから⋮だから⋮やってみよう?﹂
﹁⋮葵様が⋮待っていてくれるんですか?⋮私を?﹂
こんな私を待っていてくれる⋮
その言葉を聞いた私は、もう何も迷う事はありませんでした。
﹁解りました!私は葵様に向かって進みます!見ててくださいね!
葵様!﹂
私は少し離れた所から、必死に葵様の元に向かいます。
途中で怖くなって、立ってしまおうと何度も思いましたが、葵様の
元に行きたい私は、無我夢中で泳ぎ続けます。そしてついに、私の
手と葵様の手が重なります。
﹁私やりました!葵様!泳ぐ事が出来ました!﹂
1418
﹁うん!泳げたね!よく頑張ったねステラ!おめでとう!﹂
私は余りにも嬉しくて、葵様に抱きついてしまっていました。
そんな私をギュッと抱いてくれる葵様。その暖かさと、優しい瞳に、
私の心は囚われてしまいます。
﹁ステラ姉姉おめでとうです∼!﹂
﹁ステラ姉さんおめでとうですの!﹂
﹁ありがとうね⋮ミーアにシノン。私嬉しいわ⋮﹂
ミーアとシノンも私を抱きしめてくれます。
その時、ふと周りの視界がひらけます。
楽しく遊ぶ、マルガ様やエマ様、それを楽しそうに見ている、幸せ
そうなリーゼロッテさまとレリア様。気持ち良さそうに泳ぐルナ様
も⋮
そこには、今迄私達が夢に見ていた、何の偽りもない、幸せな光景
が広がっていました。
そして、大切なミーアとシノン。それに、優しい葵様に抱かれてい
る私。
一級奴隷である私達に、幸せが広がっているのを感じて、私はギュ
ッと葵様を抱きしめ葵様を見ると、私の唇に葵様が吸い付かれます。
葵様の舌が、私の口の中を味わっています。私はその幸福感に、必
死で葵様に舌を絡め、縋り付く様に葵様を求めてしまいます。
すると、葵様の立派なモノが大きくなっていました。
私達はそれに気がついて、優しく触ります。
﹁これ以上されたら⋮止めれ無くなっちゃうよ?﹂
﹁⋮良いですよ⋮私達は葵様の⋮一級奴隷なのですから⋮﹂
その話を聞いた葵様は、アイテムバッグから浮き輪を取り出し、
﹁ちょっと泳ぎの練習で、沖の方に行ってくるから、皆で遊んでて
1419
ね∼﹂
そう他の方に言って、私に浮き輪をつけて、ミーアとシノンを浮き
輪につかまらせ、どんどん沖に連れてゆかれるのでした。
﹁葵様⋮この様な沖に来て⋮ここで練習ですか?﹂
かなり沖に来たのを感じたミーアが、葵様に問うと、ミーアの口に
吸い付く葵様。
ミーアの口の中を蹂躙している、艶かしい葵様を見ていると、私ま
でして欲しくなります。
﹁ごめん⋮ステラ、ミーア、シノンの可愛さに⋮もう⋮我慢が出来
ないんだ⋮﹂
﹁うにゃはははああああ!﹂
水面で後ろから葵様に犯されるミーアは、甘い吐息を辺りに撒き散
らします。
激しく犯される勢いで水面が揺れ、反射した光がキラキラと、艶か
しいミーアを輝かせていました。
﹁見て⋮ステラにシノン⋮ミーア⋮気持ち良さそうでしょ?﹂
﹁はい葵様⋮ミーア⋮とても気持ち良さそうです⋮﹂
﹁ミーアいいな⋮私も葵様に⋮犯して欲しい⋮﹂
シノンの犯して欲しいの言葉に、嬉しそうな葵様は、シノンの胸に
吸い付きながら、ミーアを後ろから犯しています。その幸せそうで、
気持ち良さそうなミーアとシノンの表情に、私も我慢が出来なくな
っていました。
1420
﹁ステラ⋮ミーアとシノン可愛いでしょ?﹂
﹁はい⋮とっても⋮気持ち良さそうで⋮可愛いです⋮﹂
﹁ステラ⋮ステラにキスして欲しい⋮良い?﹂
﹁⋮はい⋮葵様が⋮望むのであれば⋮﹂
本当は⋮私が葵様にして欲しいだけ⋮
私は葵様とキスをしながら、必死に股間を葵様の足に擦りつけ、葵
様の足で気持ち良くなってしまいます。
﹁ミーアイッちゃいます!!⋮イク⋮イキます葵様!にゃはあああ
あああん!!﹂
葵様に犯されてたミーアが絶頂を迎えます。
﹁じゃ∼次はシノンね⋮シノンを犯したい⋮いい?﹂
﹁はい⋮シノンを犯して下さい!﹂
シノンも葵様に犯され、甘い吐息を辺りに撒き散らします。
﹁ステラ⋮可愛いシノンに⋮キスをしてあげて⋮﹂
﹁はい⋮葵様⋮﹂
私にキスをされるシノンは、恥ずかしそうに私の舌を迎えるように
口を開けます。
私とシノンがキスをしているのを、艶かしい表情で見ている葵様は、
一緒にキスをしてくれます。
3人でキスをしながら、葵様の唾液を飲ませて貰い、またキスをす
る⋮
シノンは私と葵様の愛撫に、瞬く間に絶頂を迎えます。
﹁葵様!シノンも⋮イキたいです!シノンも⋮シノンも⋮﹂
﹁解ったよシノン!可愛くおねだり出来たから⋮一杯イカせてあげ
るよ!﹂
その言葉で、葵様におねだりするシノンは、私に胸を愛撫され、葵
1421
様に後ろから犯され、あっという間に絶頂を迎えます。クテッとな
ったシノンは、浮き輪にしがみつきながら、ロープノール大湖の水
面に浮かびながら、絶頂の余韻に浸っていました。
﹁ステラ⋮可愛いステラを⋮犯したい⋮一杯⋮ね⋮﹂
待ち望んだその言葉に、顔が熱くなります。
静かに頷くと、葵様は正面から私を抱きしめ、私の両足を広げて、
そのまま私の膣にモノをねじ込まれます。
﹁うはんんんんん!!!﹂
自然と声が出てしまう私。
頭の芯まで響く様な快楽が、私の身体を支配します。
葵様は私の体中を舌で愛撫してくれます。その気持ち良さに、私の
膣や子宮が喜んで居るのが解ります。
﹁ステラ⋮可愛いよ⋮この綺麗なロープノール大湖に住む、人魚み
たいだよ﹂
葵様の言葉に顔が真っ赤になります。
私は嬉しさの余り、葵様を欲してしまい、自ら腰を振り、葵様を求
めてしまいます。
﹁葵様!私を⋮葵様のモノで⋮イカせてください!葵様のモノで⋮
私はイキたいのです!﹂
﹁可愛くおねだりが言える様になったねステラ。嬉しいよ。一杯イ
カせて上げる!最後は4人でキスしながらイキたい。ミーア、シノ
ンもおいで⋮﹂
我慢出来ない私のおねだりに、4人でキスをしながら、わたしを犯
してくれる葵様。
その気持ち良さにもう我慢出来ない私は、瞬く間に絶頂を迎えます。
1422
﹁葵しゃま⋮ヒキます⋮ヒィク⋮うはあああああんん!﹂
葵様に顔を押さえつけられ、ミーアやシノン、葵様にイク顔を見ら
れながら、絶頂を迎えます。
その快感に私は得も言えぬ幸福感に包まれていました。
﹁ステラ、ミーア、シノン⋮とっても可愛かったよ。ありがとね3
人共﹂
そう言って優しくキスをしてくれる葵様。
真夏のロープノール大湖の水面はキラキラ美しく、私はまさに幸せ
の中に居るのが実感出来ました。
すると⋮何故か自然と涙が流れでてしまいました。
それを見た葵様は、困惑しながら私を見ます。
﹁え!?どうしたのステラ!?も⋮もしかして⋮俺に犯されるのが
⋮嫌だった?﹂
﹁いえ⋮違います葵様。私は⋮今の状況が嬉しくて⋮悲しいだけな
のです﹂
そう⋮私は⋮嬉しい⋮葵様に色々して貰って⋮
でも⋮葵様は私達を認めてはくれなかった⋮それが悲しい⋮
﹁え⋮それは⋮どういう事なの?﹂
﹁私は⋮こんな幸せで、楽しい事があるなんて、今迄思っても見な
かったのです。私は⋮いえ、私達は⋮小さい頃から一級奴隷でした。
だから⋮こんなに満ち足りたり、楽しい事、安らげる事など⋮無い
と思っていたのです﹂
私の言葉に、ミーアもシノンも頷いている。
﹁でも⋮私達は葵様に会えた。葵様はとても優しく私達にしてくれ
た。でも、私は⋮それが信じられなくて、リーゼロッテ様とマルガ
様が羨ましかったから⋮リーゼロッテ様とマルガ様に、酷い事を言
1423
ってしまっただけでなく、2人様に勝負を挑んだのです﹂
そう⋮今思えば⋮なにもしないと勝手に思い込みたかったのかもし
れない⋮
見えない所で、マルガ様やリーゼロッテ様も、葵様に奉仕していた
のは解っていたはずなのに⋮
本当は、葵様に認めて貰えて、ご寵愛されている2人が羨ましかっ
ただけ⋮
﹁マルガとリーゼロッテに勝負?⋮それはどんな勝負なの?﹂
﹁それは⋮どちらが、葵様の役に立ち、葵様に認められるか⋮そし
てどちらを選んで貰えるかの勝負です﹂
私の言葉を聞いた葵様は、何か少し考えていました。
﹁しかし結果は⋮リーゼロッテ様が言われた通りになりました。私
達は葵様に満足した事を提案出来ず、認められず⋮私達のおねだり
ばかり⋮葵様は聞いてくれて⋮それが申し訳なくて⋮情けなくて⋮﹂
そう⋮私達は⋮何も役に立てなかった。でも⋮葵様は私達のおねだ
りはなんでも聞いてくれた。
﹁⋮因みに⋮リーゼロッテにはなんて言われたの?﹂
﹁⋮言えません⋮﹂
﹁へ!?何故?﹂
﹁⋮私にも女の意地と言うものがあります⋮﹂
﹃ミイラ取りがミイラになる⋮この言葉の意味は解りませんが、き
っと言ってしまえば、葵様には意味が解る様な気がします。だから
⋮言えません⋮﹄
﹁⋮じゃ∼その事はもう聞かないけど、何故そんな勝負を⋮。君達
は暫くしたら、俺が開放して自由にしてあげるって、言ってたのに﹂
1424
﹁⋮それが私達には⋮いえ⋮私だけ⋮許せなかった。何もせずに、
与えられるだけなんて⋮私は⋮自分自身が許せなかったのです。た
とえ⋮自由が遠のいたとしても⋮私は自分の力で⋮それを勝ち取り
たかった﹂
そう⋮優しい葵様に、一級奴隷としての私達を認めて貰いたかった⋮
それで自由が遠のくのであれば⋮それでも構わなかった⋮
私達の事を⋮もっと知って欲しかった⋮
﹁ごめんねステラ。そんなつもりは無かったんだ。只純粋に⋮君達
の事を思って⋮﹂
﹁いいのです。今は葵様の事が⋮良く解りますから⋮すごく近くに
⋮﹂
今はよく解ります⋮葵様の言う事も⋮
﹁⋮なにか吹っ切れました。葵様にすべてを話して⋮明日、ここを
出て行こうと思います。勝負に負けたら出ていくと、リーゼロッテ
様とマルガ様に約束しましたので。葵様⋮お世話になりました⋮そ
してありがとうございました﹂
私が葵様に別れのキスをすると、同じ様にミーアとシノンも葵様に
キスをしています。
﹁⋮初めて人を好きになったのかも知れません。⋮それが葵様で良
かった⋮﹂
﹁私も⋮葵様が⋮﹂
﹁シノンもです⋮﹂
そう⋮本当はこの言葉が言いたかったのだと思いました。
一級奴隷の私なんかがおこがましいですが⋮
マルガ様やリーゼロッテ様の様に、扱って欲しかった⋮それが全て⋮
私は全てを葵様に打ち明けられた事で、心が軽くなっていると、葵
様が私達を抱きしめます。
1425
﹁嫌だ⋮嫌になった。君達を手離したく無くなった。可愛い君達を
ずっと⋮好きでいたい。俺だけの物にしたい。だから⋮最後に⋮も
う一度⋮俺にチャンスをくれないか?
その言葉に、私の体の全てが攫われそうになります。きっとミーア
やシノンも同じ気持だったでしょう。
こんな⋮役に立っていない私達を⋮マルガ様やリーゼロッテ様の様
に⋮好きと⋮
静かに頷く私達に葵様は
﹁君達もマルガやリーゼロッテの様に選ばせてあげる。⋮君達には
2つの道を選ばせてあげる。二つの道というのは、このまま俺の奴
隷として、永遠に俺に服従するか、奴隷から解放されて自由に生き
るかだ。自分の意思で俺に永遠の服従を誓うのか、自由を選ぶのか。
奴隷から解放されて自由を選ぶなら、多少のお金も持たせてあげる﹂
静かに見つめる葵様。その黒い瞳に吸い込まれそうになります。
﹁俺の物になったら、もう解放はしてあげない。俺だけの物にして、
俺以外には触れさせないし、心も開かせない。全て⋮俺だけの物に
したい⋮多分⋮ううん、好きになったと思う⋮ステラ、ミーア、シ
ノンの事が﹂
その言葉に、喜びが沸き上がってきます。初めて聞く、私達を必要
⋮いえ⋮離したくないと言う⋮その気持⋮
それがこんなにも嬉しいなんて⋮
しかし、私達は、マルガ様とリーゼロッテ様に約束してしまってい
ます。
﹁私達の気持は⋮決まっていますが⋮リーゼロッテ様とマルガ様が
⋮どう言うか﹂
﹁それは心配しなくても良いんじゃないかな?﹂
1426
﹁え⋮ですが⋮勝負は⋮﹂
﹁大丈夫⋮それは引き分けだから⋮﹂
そう言って説明を始めてくれる葵様。
確かに、勝敗のカギを握る、私達の主人である葵様なら、どうとで
も出来る話。
その時リーゼロッテ様の言葉を思いだします。
﹃⋮そんな勝負、成り立たない可能性の方が高いですが⋮﹄
﹃そうですね⋮それは⋮葵さんだから?かしら?﹄
リーゼロッテ様のこの言葉は、きっと全て見通した言葉だったので
しょう。
完敗です⋮悔しいですけど⋮
﹁そういえば⋮リーゼロッテ様がその様な事⋮言われてましたね⋮﹂
﹁やっぱり⋮なんて言ってたの?﹂
﹁言えません∼女だけの秘密です!﹂
絶対に言いませんから!⋮特に⋮葵様には言いたくない⋮知って欲
しくない⋮
私の顔を見て、笑っている、ミーアとシノンを見ると、気まずそう
に苦笑いをしていました。
﹁⋮じゃあ、もう一度聞くね⋮君達には⋮﹂
﹁﹁﹁私達は、葵様の物です!葵様に全てを捧げます!好きです葵
様!﹂﹂﹂
当然の答えです。
私達にはもう⋮何も迷いはありません。
﹁え⋮あ⋮﹂
﹁最後位は⋮葵様に勝ちたいのです。これも女の意地なのですよ葵
様?﹂
1427
私達の笑顔の言葉に、苦笑いをしている葵様。
照れているのも意外と可愛かったりして⋮
﹁じゃ∼とりあえず、皆の所に戻ろうか!冷やしておいた、果実ジ
ュースや果物、蜂蜜パンが丁度良い頃合いになってるだろうしさ!﹂
﹁私は∼果実ジュースと果物が食べたいです葵様!﹂
﹁シノンは∼果実ジュースと蜂蜜パンが良いです∼!﹂
ミーアとシノンが嬉しそうに言います。
﹁私は全部食べたいですわ葵様!﹂
﹁あ∼!それはずるいです∼ステラ姉姉∼!﹂
﹁そうなのです∼シノンも食べたいです∼ステラ姉様∼﹂
拗ねるように言うミーアとシノン。私と葵様は、顔を見合わせて微
笑み合います。
﹁よし!じゃ∼皆で全部食べよう!それにまだまだ湖水浴は始まっ
たばかりだしね!一杯遊ぶよ!ステラ、ミーア、シノン!﹂
﹁﹁﹁ハイ!葵様!一杯遊びます!﹂﹂﹂
私達は声を揃えて返事をします。
そして、覚えたてのバタ足で、岸まで戻ってきた私は、リーゼロッ
テ様の元に向かいます。
私に気がついたリーゼロッテ様は、いつもの優しい微笑みを私に向
けてくれます。
私もその微笑みに負けじと、最高の微笑みで返します。
﹁あら⋮笑顔が素敵ですわねステラさん。何か良い事でも有りまし
たか?﹂
﹁ええ!ありました!最高に幸せな気持です!﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテ様は、少し考え、そして、いつもの
優しい微笑みを向けてくれます。
1428
﹁⋮そうですか。それは良かったですねステラさん﹂
﹁⋮はい。⋮それから、リーゼロッテ様⋮申し訳ありませんでした﹂
私はそう言って、深々と頭を下げる。
酷い事を言った⋮
あの葵様の事、きっとマルガ様やリーゼロッテ様にも、人に言えぬ
様な事があったに違いない。
それなのに⋮
﹁私は⋮﹂
リーゼロッテ様に気持ちをお話しようとすると、私の唇に、そっと
優しく人差し指を置かれるリーゼロッテ様
﹁⋮何も言わなくて⋮良いのですよステラさん。⋮これから同じ一
級奴隷として仲良くやって行きましょう﹂
全てを見通した様な、金色の透き通る様な美しい瞳は、優しさに満
たされていました。
それを見て私は、全てを悟るには時間がかかりませんでした。
﹃⋮ああ⋮やっぱり敵わないな⋮悔しいけど⋮完敗です⋮リーゼロ
ッテ様⋮﹄
心の中でそう呟きましたが、声には出しませんでした。私も女なの
です。
﹁解りました。でも⋮これだけは言わせて下さい﹂
﹁はい?なんですか?﹂
少し首を傾げるリーゼロッテ様。
私は、リーゼロッテ様の近くにより、耳元で囁きます
﹁⋮ロープノール大湖の水面で、葵様に犯して貰いました。水面は
1429
キラキラ輝いていて、とても美しく、その水平線に吸い込まれそう
になりました。澄み渡る青空も気持ち良くて⋮最高でした﹂
ニコニコしながら言う私の言葉に、始めて眉をピクッとさせるリー
ゼロッテ様。
﹁しかも、葵様に﹃ステラ⋮可愛いよ⋮この綺麗なロープノール大
湖に住む、人魚みたいだよ﹄と、言っていただきました。もう⋮最
高です。リーゼロッテ様も葵様におねだりしてみてはどうですか?﹂
私のニコニコした言葉を聞いて、あっけにとられていたリーゼロッ
テ様は、フフフと笑うと楽しそうに私を見て、
﹁はい、是非そうさせて貰いますわステラさん﹂
﹁ええ!そうしてください!﹂
自信満々の私と楽しそうなリーゼロッテ様は、微笑み合っていまし
た。
当然、その後葵様が、マルガ様とリーゼロッテ様を連れて、ロープ
ノール大湖の沖に行かれたのは言うまでもありません。
﹁おーい!リーゼロッテにステラー!良い感じに果実ジュースや果
物が冷えてるよ!蜂蜜パンも冷えててなんか良い感じになってるか
ら、早くこっちに来て、一緒に食べよう!﹂
葵様が手を振りながら、私とリーゼロッテ様を呼ばれます。
﹁行きましょうかリーゼロッテ様﹂
﹁そうですわねステラさん﹂
私はリーゼロッテ様の手を引いて、葵様の元に向かいます。
季節は真夏。
焼ける様な強い日差しは、私達の何かを焼いてしまったのかも知れ
ません。
1430
始めての湖水浴はまだ始まったばかり。
一杯葵様に⋮おねだりしてみようかな⋮
その様な事を考えながら、幸せな時間を皆で過ごせる事に、私は喜
びを感じていました。
途中でミーアやシノンも合流して、皆で手を繋ぎます。
﹃この幸せが続くなら、私はなんだって出来る⋮私は⋮いえ⋮私達
は⋮﹄
そんな事を思っている私は、皆に混じって微笑んでいました。
1431
愚者の狂想曲 37 郊外町ヴェッキオ
甘い香りと柔らかい感触⋮
そのえも言われぬ心地良さに目を覚ます。
ふと体の周りに視線を移すと、艶かしい寝衣に身を包んだ、美少女
達の可愛い寝顔が見える。
右腕には、頭の上についている、ワーウルフの特徴である、銀色の
触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳を、時折ピクピクと
させながら、幸せそうなステラが寝ていて、左腕には、その豊満な
胸を俺に感じさせながら、月の女神と見紛う美しい寝顔を俺に見せ
ているリーゼロッテが、気持良さそうに寝息を立てていた。俺のお
腹辺りには、両側からミーアとシノンが抱きつきながら寝ている。
そして、俺の上には、布団の様に覆いかぶさり、俺の胸にギュッと
しがみついているマルガが、可愛い口をモゴモゴさせて、夢の中で
何かを食べているんだろうなと、想像がつく様な幸せな顔をして、
寝息を立てていた。
ステラ、ミーア、シノンを本当に俺の一級奴隷として手放さないと
決めた日から、ステラ、ミーア、シノンは俺達の部屋で一緒に寝る
事になった。この広い部屋に縦横にくっつけて並べられた6つのベ
ッドの上に、俺達は寝ている。
ステラ、ミーア、シノンには、俺の本当の秘密を全て話した。
異世界の地球から来た事も、種族の事も、今まであった事全て⋮
初めは、口をあんぐりと開けて聞いていたステラ、ミーア、シノン
だったけど、パソコンで地球の映像を見せてあげたら信じてくれた。
それでも驚愕の表情は変わっていなかったけど、俺への気持は変わ
らなかったみたいで、俺達と一緒に居たいと言ってくれたのが嬉し
1432
かった。もう離してあげないんだからね!
暫く乙女達の甘く柔らかい抱擁に包まれていた俺は、身動きが出来
ない事に気がついて、どうしようかと思って首を動かしていると、
その気配にマルガが目を覚ました。マルガは可愛く大きな瞳に俺を
写すと、最上級の微笑みを俺に向けてくれる。
﹁ご主人様⋮おはようございますです∼﹂
﹁マルガおはよう∼﹂
微笑みながらマルガに言う言葉に、俺に乙女の柔肌を感じさせてい
た美少女達が、一斉に目を覚ます。
﹁葵さんおはようですわ﹂
﹁リーゼロッテおはよう∼﹂
﹁﹁﹁葵様。おはよう御座います∼﹂﹂﹂
﹁ステラ、ミーア、シノンおはよう∼﹂
リーゼロッテと声を揃えて挨拶をするステラ、ミーア、シノン。
その乙女達の艶かしい寝衣を着ている姿に、朝の敏感になっている
俺のモノが反応する。
それに気がついている、艶かしい寝衣を着ている乙女達は、いつも
の奉仕を始める。
﹁ご主人様⋮朝の奉仕をしちゃいますね⋮﹂
マルガはそう言うと、俺の口に吸い付き、その小さな口から俺の口
の中に舌を滑り込ませる。
マルガの甘い舌が俺の口の中を味わう。それを合図に、他の乙女達
が俺に奉仕を始める。
ステラ、ミーア、シノンの3人は俺の下腹部に顔を埋めると、俺の
モノを交互に口の中に含み、俺のモノに奉仕して行く。
1433
ステラ、ミーア、シノンの息のあった奉仕に、ゾクゾクと性感が高
まっていく。
俺はリーゼロッテを抱き寄せ、マルガと一緒に3人でキスをする。
マルガの小ぶりの可愛い胸と、リーゼロッテのマシュマロの様な豊
満な胸を両手で感じながら、マルガと、リーゼロッテに舌を絡め、
唾液を飲ませてあげる。
それを幸せそうに飲み込むマルガとリーゼロッテの嬉しそうな顔に
幸せを感じていると、ステラ、ミーア、シノンに口で奉仕されてい
る俺のモノが、その快感で一気に限界に達する。
勢い良く飛び出した俺の精を、顔で受け止めるステラ、ミーア、シ
ノン。
美しい顔を俺の精で犯した事に喜びを感じていると、顔についた俺
の精を、互いに舐め合っているステラ、ミーア、シノンは、口移し
に俺の精を渡し合って味わっていた。
﹁皆気持ち良かったよ⋮ありがとね﹂
俺のその言葉に嬉しそうな表情を浮かべる、艶かしい乙女達。
それを見て、また俺のモノはムクムクと大きくなる。それを、優し
く握るマルガは、切なそうな顔で
﹁ご主人様⋮また⋮大きくなっちゃいましたです⋮もっと奉仕をし
ますか?﹂
口を少し開けて、いつものキスをおねだりする様な顔をしているマ
ルガ。
﹁今日は朝刻に、依頼の件で冒険者ギルドに行かないとダメだから、
また夜に⋮ね?﹂
マルガに優しくキスをしながら言うと、顔を赤くしてコクコクと頷
きながら、金色の毛並みの良い尻尾を、フワフワさせていた。
1434
﹁では、今日の朝食掛かりは私とミーアなので、皆さんは暫くした
ら、食堂に降りてきてくださいね﹂
微笑みながら言うステラ。皆がステラの言葉に頷き、用意をして部
屋を出るのであった。
暫くして着替え終わって、準備を整えた俺達は食堂に降りていくと、
先に食堂に来ていたレリア、エマ、マルコが朝食を始めていた。
﹁皆おはよう∼﹂
俺は皆に挨拶を済ませ、メイド服に身を包んだステラとミーアから
朝食を貰い食べ始める。
皆の食事を貰いに行くのは、交替制でと話が決まった。
ステラとミーア、マルガとリーゼロッテ、レリアとエマ、マルコと
シノンが交代で貰いに行っている。
まあ今は宿舎の清掃と管理は、ステラ、ミーア、シノンとレリアに
まかせているけど、ステラ、ミーア、シノンには他にやって貰いた
い事があるから、その内に再度決めなおさないと⋮
そんな事を考えながら朝食を食べていると、リーゼロッテが口を開
く。
﹁葵さん、今日の朝刻の5の時︵午前10時︶に、冒険者ギルドで
したよね?﹂
﹁うん、あってるよリーゼロッテ。先行して依頼を受けているパー
ティーと顔合わせするらしいからね﹂
1435
俺とリーゼロッテの言葉に、アグアグと朝食を頬張っているマルガが
﹁ご⋮ごちゅじんしゃま、ちゃきにいらいをうけていりゅひほたち
は、どんなひほなのれしょうね?﹂
﹁⋮マルガ、口の中のモノをきちんと食べ終わってから話そうね?﹂
俺の微笑みながらの言葉に、顔を赤らめ恥かしそうに頷くマルガを
見て、皆がアハハと笑っている。
﹁でも⋮葵様。この間、依頼の内容を少し聞きましたが、危険じゃ
ないのですか?﹂
皆の朝食を配り終わって、テーブルに就いて朝食を食べていたステ
ラが心配そうに言う
﹁⋮まあね。でも、どんな依頼にも危険はつきもの。だから報酬が
貰える訳だしね。それに、今回は調査のみだから、危ないと感じた
時点で、手を引こうと思うから大丈夫だよ。それで報酬が金貨20
枚と冒険者ランクの2段階昇格。なかなかの好条件だから逃したく
はない気持もあるしね﹂
﹁葵様のお話は解りますが⋮無理はしないでくださいね?﹂
﹁解ってるよステラ。心配してくれてありがとね﹂
ステラの頭を優しく撫でながら言うと、ワーウルフの特徴である、
銀色の触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳を、ピクピク
とさせて嬉しそうにしている。
﹁朝食を食べ終わって、休憩したら冒険者ギルトに向かうから、マ
ルガとリーゼロッテとマルコは準備してね﹂
﹁はい!解りましたです!ご主人様!﹂
﹁解ったよ葵兄ちゃん!﹂
﹁了解ですわ葵さん﹂
元気良く返事をするマルガとマルコの頭を優しく撫でているリーゼ
1436
ロッテ。
﹁後の事はステラ達にまかせるから、宜しく頼むね﹂
﹁﹁﹁ハイ葵様!私達に任せて下さい!﹂﹂﹂
声を揃える獣人美少女3人娘、ステラ、ミーア、シノン。俺達は朝
食を済ませ、休憩をして宿舎を後にした。
王都ラーゼンシュルトのレンガ造りの豪華な街並みを見ながら、冒
険者ギルドの王都ラーゼンシュルト支店に到着する。
冒険者ギルドの象徴である、勇者クレイオスの銅像と、左側にはそ
の勇者クレイオスの妻にして、一番の使者であった使徒エウリュビ
アの銅像の間をくぐり、受付に話をすると、客室に案内してくれた。
案内役に出して貰った紅茶を飲みながら待っていると、コンコンと
部屋の扉がノックされる。
それに返事をすると、部屋の中に3人の人物が入ってきた。
短く整えられた濃い茶色かかった髪に、鳶色の瞳。年頃は20代中
頃の、リーゼロッテより少し背の高い、キツメの印象だがなかなか
の美女。
その美女の後ろには、身長130cm位の、長い髭を蓄え、大きな
鼻をした杖を持ったノーム族の男と、身長190cm位の直立に立
っているトカゲの様な、かなり体つきの良い男が居た。
その3人は座っている俺達の傍までやって来る。そして、先頭の美
女が俺達を見て値踏みをする様な眼差しで見ながら、口を開く。
﹁あんた達が、アベラルド支店長の言っていた、応援の依頼を受け
た者でいいのかい?﹂
﹁はいそうです﹂
俺の返事を聞いた美女は、俺達を見て少し軽く溜め息を吐く。
1437
﹁⋮そうかい。私はこのパーティーのリーダーでマリアネラ。こっ
ちのノーム族がヨーラン、そっちのワーリザードがゴグレグだ﹂
空。こっちのワーフォックスの子が俺の
マリアネラの言葉に、軽く挨拶をするヨーランとゴグレグ。
﹁それはどうも。僕は葵
一級奴隷のマルガで、そっちのエルフも俺の一級奴隷のリーゼロッ
テ。この子は俺の仲間のマルコです﹂
﹁ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくで
す!﹂
﹁葵兄ちゃんの弟子をやっているマルコです!よろしく!﹂
﹁同じく葵さんの一級奴隷をしていますリーゼロッテです。皆様よ
ろしくおねがいしますわ﹂
元気良く挨拶をするマルガにマルコ。そして、涼やかに微笑んでい
るリーゼロッテ。
それを見て、少し気に食わなさそうな顔をする、ノーム族のヨーラ
ンとワーリザードのゴグレグ。
﹁⋮とりあえず挨拶も終わった事だし、私達も座らせて貰うよ﹂
そう言って同じ様にソファーの腰を下ろす、マリアネラ、ヨーラン、
ゴグレグの3人。
マルガとマルコは、ワーリザードのゴグレグに熱い視線を送ってい
る。
あれだね⋮興味津々なんだね2人共⋮
ワーリザードは見た目大きなトカゲが直立して立って居るようにし
か見えないもんね。
ワーリザードの事を知らない人が見たら、魔物にしか見えないだろ
うし⋮
硬い鱗に全身覆われ、その顔はまさにトカゲ!恐竜の様な顔立ちに
1438
牙が口元から見える。
筋肉の塊の様な体つきに、太く割と長い肉付きの良い尻尾⋮まさに
トカゲの尻尾!
でも、知性があって、普通の魔物とは違い、他の種族と共存出来る
ので、魔物とはされていない種族。
戦闘力も高く、魔法も使えるので、多くの戦場で活躍していたりす
る種族なのだ。
﹁オレの顔になにかついているか?﹂
マルガとマルコの熱い視線に、何か言いたそうな顔で言うワーリザ
ードのゴグレグ
﹁あ!す⋮すいません!つい!﹂
﹁う⋮うん!ごめんなさい!ゴグレグさん!﹂
気まずそうに言うマルガとマルコの言葉に、フンと鼻でいうゴグレ
グ。それを見て軽く呆れ顔のマリアネラが
﹁じゃ、話をしようかい。お前達はアベラルド支店長から、依頼の
内容は聞いているかい?﹂
﹁はい少しですが。なんでも、郊外町で行われている、人攫いの調
査だとか⋮﹂
﹁少しは聞いている様だね。そう、今回の依頼は、郊外町で頻繁に
発生している、人攫い達の目的をさぐる事。お前達には、その手伝
いをして貰う﹂
マリアネラの言葉に頷く俺達。
﹁その手伝いとは⋮どの様な事なのでしょうか?マリアネラさん﹂
リーゼロッテが涼やかに微笑みながらマリアネラに言うと、紅茶を
飲みながらマリアネラは
1439
﹁お前達の大体の戦闘LVは聞いている。戦闘は私達がやるから、
お前達には主に情報収集をして欲しい。私達の雑務と理解して貰っ
た方が良いかもね﹂
マリアネラの言葉に頷く一同。
﹁まあ、お前達が戦闘に巻き込まれる事は今の所無いと思うけど、
準備はしておいておくれよ?やつらも今は、人を攫っている現場で
しか襲っては来ないが、何時襲ってくるかもしれないからね﹂
﹁解りましたわマリアネラさん注意しますわ。それと⋮その相手は
どれ位の強さの人達なのですか?﹂
﹁バラバラだね。LV20位の初級者の者もいれば、LV40位の
中級者もいる。一番多いのはLV40∼50台の中級者だね。ただ、
必ず最低4人パーティーで動いてるね﹂
リーゼロッテの問に応えるマリアネラ。
﹁なるほどです。後、マリアネラさんの方で、そいつらの情報は何
か得られているんですか?﹂
その俺の言葉に、顔を曇らせるマリアネラ。
﹁それがさ⋮今の所、何も掴めてないのが現状なのさ。奴らの情報
は一切ない。奴らを生け捕りに出来れば、何らかの情報が得られる
んだろうけどさ⋮﹂
﹁何故生け捕りに出来ないのですか?﹂
﹁奴らはそれぞれに、腕に火の魔法球を用いたマジックアイテムの
腕輪をつけさされていてさ。そいつの効果で、殺されたり、生け捕
りにされたり、気絶させられたりすると、マジックアイテムが発動
して、全てを燃やしてしまうのさ。残りは灰しか残らない。だから
奴らからの情報は何も得られていないのさ﹂
マリアネラの説明に、マルガとマルコがゾッとした様な顔をしてい
る。
1440
﹁そこまで徹底しているのですか相手は。常にパーティーを組んで
行動している事を見ても、組織的に訓練された者達の様に感じます
わね﹂
リーゼロッテの言葉に一同が頷く。
﹁本当に⋮その人達の目的は何なのでしょうねご主人様?﹂
﹁そうだね∼。ま⋮人攫いの目的なんかは、普通に考えたら奴隷商
に売って金を稼ぐのが目的だと思うけどね﹂
その言葉にマルガは瞳を揺らしている。
マルガもあのむっさい男に攫われて、三級奴隷にされちゃった過去
を持ってるからね⋮
﹁普通に考えたら、坊やの言う通りだね。郊外町は元々治安の悪い
所だ。殺人や強姦、人攫いなんか日常的に行われている。別に今更
驚く事じゃないさ。只、奴らが絡んでいる人攫いは、数が多いって
事かね﹂
﹁数⋮ですか?どれ位の人が、そいつらに攫われているんですか?﹂
﹁私達が調査している感じだと⋮1日に、多い時で100人位。少
ない時でも30人位は攫われて、連れ去られているね﹂
マリアネラの言葉を聞いたマルガとマルコは驚きの表情をしていた。
この王都ラーゼンシュルトの人口は100万人位。その内で、郊外
町であるヴェッキオに住む人達は約30万人強だと言われている。
1日に30人から100人位攫われると、10日で300人から1
000人。30日で900人から3000人が攫われている事にな
る。
地球で言う所の一ヶ月で、郊外町であるヴェッキオの人口の、約1
%が攫われている事になる。
多い時のみではないにしても、かなりの人が攫われている事が解る。
1441
﹁まあ、それでも大都市に仕事にありつく為に集まってくる人の方
が多いから、今迄誰も気が付かなかったのかもしれないけどさ。そ
れでも結構な人数が攫われている事が解るだろう?﹂
マリアネラの言葉に俺達は頷く。
﹁でも、それだけの人数を毎日攫っているのであれば、人目につか
ずに攫った人達を運び出すのは難しいと思うのですが⋮﹂
﹁私もそう思って、郊外町の荷馬車を監視してるんだけど、数が多
いからね。全て見れる訳じゃないのが現状さ﹂
﹁そこで私達の出番と言う事ですわねマリアネラさん。私達がその
辺の調査する⋮と、言う事ですね?﹂
リーゼロッテの言葉に、フフと軽く笑うマリアネラ。
﹁物分かりが良いね。流石は上級亜種のエルフってところかね?⋮
直接人を攫っている者達は、私達が追い詰める。お前達には、その
辺を含めて、私達の手伝いをして欲しいって事だね。なんとか奴ら
の尻尾を押さえる事が出来れば、その目的も解ると思うからね﹂
マリアネラの言葉に、なるほどと頷いているマルガにマルコ。
﹁とりあえず、昼から私達と一緒に、郊外町のヴェッキオに調査に
行ってみるか?色々と教えておきたい事もあるしね﹂
﹁ええ、お願いします﹂
﹁じゃ∼昼食を取って、郊外町ヴェッキオの東の入り口で待ち合わ
せしようか﹂
マリアネラの言葉に頷く一同。俺達は挨拶を済ませ、冒険者ギルド
を後にするのであった。
1442
昼食を取った俺達は、郊外町ヴェッキオの東の入り口を目指して歩
いている。
王都ラーゼンシュルトは、その巨大な町の周りをぐるりと鉄壁の城
塞が取り囲んでいる。
王都ラーゼンシュルトには東西南北に計4つの入口があり、その門
をくぐらなければ町の中には入れない様になっている。
その東西南北の4つの大門には、大きな街道が備わっており、各地
に枝分かれして繋がっているのである。
王都ラーゼンシュルトを囲む様に広がっている郊外町ヴェッキオは、
その大きな街道を町の入口に出来ているのだ。
王都ラーゼンシュルトの東の大門をくぐり抜けると、辺りが開ける。
そして、約200m位離れた所に、郊外町であるヴェッキオの町並
みが見えている。
﹁いつも思うのですが、何故王都ラーゼンシュルトの城塞の周りに
は、建物が立ってないのですかご主人様?﹂
マルガは辺りを見回しながら、う∼ん唸って可愛い首を傾げている。
﹁それはね、法律でそう決まっているからだよ。城塞の周辺200
m以内には、いかなる建物も建ててはいけないって言う法律がある
んだ。港町パージロレンツォも市壁の周りには建物が建ってなかっ
たでしょ?﹂
俺の言葉に、そう言えばと言った感じのマルガにマルコ。
﹁でも何故そんな法律を作ってるの?﹂
﹁それはですねマルコさん、防災と町の守備の事を考えて、そう決
1443
められているのですよ﹂
マルコの問に応えるリーゼロッテ。
文明の進んでいないこの世界には、当然消防車などの、大量に水を
撒ける機械は存在しない。
なので火事が起きた時は、水を貯めた樽を積んだ馬車で、人が水を
撒いたりする。
当然それだけでは、火は消える事はないので、火が広がらない様に、
周りの燃えそうな建物を壊したりして、火が広がらない様にするの
が、この世界の常識なのだ。
しかも、郊外町のヴェッキオは、王都ラーゼンシュルトの城塞の中
の町の様にレンガ造りの建物とは違い、火に弱い安価な木造の建物
が多い。一旦火の手が上がると、瞬く間に広がってしまうのだ。
その広がった火の手を避ける為に、城塞の200m以内には建物を
建ててはいけないのだ。
そうする事によって、守られている。
それと王都ラーゼンシュルトの守備の面も考えられている。
城塞のすぐ傍に建物があると、侵入者は身を隠しやすいが、城塞の
200m以内は身を隠せる様な物は一切無く、城塞の上からだと見
晴らしよく監視出来る様になっている。
これによって、王都ラーゼンシュルトに不正に侵入する者を、簡単
に見つける事が出来るのだ。
もう一つは、大軍で敵に攻められた時に、周りの郊外町が障害物に
なって、攻められるルートが限定され、守りやすいのと、郊外町に
被害が出ても、その被害が王都ラーゼンシュルトまで及ばない事。
そんな理由で、城塞の200m以内には、一切の建物を建ててはい
けない事になっているのだ。
1444
そのリーゼロッテの説明を聞いて、マルガとマルコは顔を歪めてい
る。
﹁つまり⋮郊外町は、王都ラーゼンシュルトに被害が及ばない様に
⋮﹂
﹁まあ⋮仕方無い事だよマルガ。元々郊外町であるヴェッキオは、
正式に認められた町ですらないんだ。税金を払えずに市民権を持た
ない、不法者が集う集落。そう言う位置づけだからね。まだ、そこ
に住めて生活出来るだけマシな方なのさ﹂
優しくマルガの頭を撫でながら言うと、マルガは瞳を揺らしながら、
俺の腕にギュッと抱きつきながら歩いていた。
暫く歩いていると、マリアネラ達と約束をしていた場所である、郊
外町ヴェッキオの東の入り口に到着する。すると、そこにはマリア
ネラ達が既に先に来て待っていた。
俺達に気がついたマリアネラ達が俺達の傍にやって来る。そして、
マルガとリーゼロッテを見たマリアネラは軽く溜め息を吐く。
﹁約束通りに来たのはいいけど⋮ワーフォックスのマルガと、エル
フのリーゼロッテだった?あんた達はその格好でヴェッキオに行く
のかい?﹂
マリアネラは少し呆れながら言う。
マルガとリーゼロッテは、以前に買った可愛いメイド服に身を包ん
でいる。
このメイド服は見た目の可愛さも良いが、作りも良く丈夫に出来て
いて動きやすく、このまま戦闘が出来る位なのだ。
元々、主人に使えるメイドが着る服であるので、その様に作られて
いるのである。
1445
﹁確かに動きやすくて、戦闘も出来るのだろうけどさ、あんた達が
がこれから行こうとしているのは、無法者達が数多く住む、郊外町
なんだ。あんた達みたいな凄い美少女が、そんな可愛いメイド服な
んか来て郊外町に入ったら、格好の的にされちゃうんだよ。女って
だけで犯そうとしたり、攫って奴隷商に売りつけようとする男達が、
わんさかといる所なんだから。まあ、戦闘職業に就いているあんた
達なら簡単に追い払えるかもしれないけど、余計な仕事を増やさな
い様にしておくれよ?﹂
マリアネラの呆れながらの言葉に、一同が謝罪する。
﹁ま⋮今日は私達と一緒だし、大丈夫だと思うけどね。とりあえず、
郊外町の中に入って、見回りと情報収集でもしてみようかね﹂
マリアネラの言葉に頷き、その後を付いて行く俺達。
郊外町のメインストリートである、王都ラーゼンシュルトに繋がる
大きな街道から外れて一度郊外町の中に入って行くと、そこは先程
まで見ていた光景とは、全く違う景色が広がっていた。
寂れた木造の家々は所々壊れていて、腐っている所もある。色んな
木の板なので補修して有るのは良い方で、大方ほったらかしになっ
ていた。
密集して立てられている家々のせいで日当たりも悪くジメッとして
いて、コケの様な物も至る所に生えている。
当然、雑草などもほったらかしになっていて、トイレが家に作られ
ていないのか、糞尿が辺りに投げ捨てられていて、悪臭を放ってい
る。
その上ゴミが捨てられていて、それに大量の見た事の無い変な虫が、
大量に群がって、蠢いているのがとても気持ち悪い。
その匂いと光景に、顔を歪めているマルガにマルコ。流石のリーゼ
1446
ロッテも顔を歪めていた。
そんな郊外町のヴェッキオの中を眺めながら歩いて行く。
その中で生活している人々は、三級奴隷の様に薄汚れた格好をして
いる人ばかりで、満足に食べ物を食べていないのか、痩せこけてい
る人が多い。
俺達を見て、ひと目で郊外町の者ではないと解るのか、俺達を見る
その瞳は、妬みや羨望、そして、略奪の光に満ちていた。
その狂気に近い瞳の光に、マルガは何かを思い出したのか、少し震
えながら俺に抱きついていた。
俺は優しくマルガの頭を撫でると、その表情に安堵の色を漂わせて
いる。
﹁⋮ここは大街道から見える郊外町の表情とは、全く違う所だから
ね。大街道から見えている郊外町の景色なんて、ほんの上っ面だけ
さ。これが⋮郊外町の本当の姿だよ﹂
そう言って何事もないかの様に俺達の前を歩くマリアネラ達。
俺も港町パージロレンツォの郊外町、ヌォヴォには取引で何度か行
った事はあったけど、それはメインの街道に近い所のみだった。
ギルゴマから郊外町の危険性を聞いていた俺は、郊外町の内部には
立ち入らない様にしていたのだ。
こうやって、郊外町の内部に入ったのはこれが初めて。
初めて見た郊外町の内部を見て、マルガではないが劣悪な環境で生
活をしている人々がいる事を、改めて感じていた。
そして、暫く歩いていると、俺達の周りに、20人位の薄汚れた男
達が姿を表した。
その目には、可愛いメイド服を着ている、超美少女のマルガとリー
ゼロッテ、そして、先頭を歩いているマリアネラの姿を写している
1447
ようであった。
その顔は卑猥な表情に染まっていて、明らかにマルガやリーゼロッ
テ、マリアネラを集団で陵辱する事に楽しみを感じている色であっ
た。
それを見て、盛大に溜め息を吐くマリアネラ。
﹁お前達何の用だい?⋮って聞いた所で、目的は解りきってるけど
さ。⋮全くめんどくさい奴らだよ。ゴグレグ!頼むよ﹂
﹁⋮解った﹂
マリアネラの言葉に応えるワーリザードのゴグレグは、男達の前に
出る。
そして大きく息を吸い込むと、それを一気に吐き出した。
﹁ウォーターブレス!﹂
そう叫びながら、男達に向かって無数の水の玉を吐き出すゴグレグ。
高速で放たれた水の玉のブレスは、次々と男達を直撃していく。そ
の威力に男達は蹲って動けなくなる者や、気絶してしまっている。
それを見た男達は、顔を蒼白にさせていた。
﹁⋮今のは手加減してやった。これ以上、俺達の前に立ち塞がるの
なら⋮容赦はしない﹂
静かに重みのある威圧感たっぷりのゴグレグの言葉に、まるで蜘蛛
の子を散らす様に逃げ出す男達。
﹁これで解ったろ?次からここに来る時は、男に近い格好をする事
だね。余計な手間が増えるだけだからさ﹂
マリアネラの言葉に、苦笑いをして頷く俺達を見て、軽く溜め息を
吐いているマリアネラ。
俺はマリアネラ達の事が気になって、どれ位の戦闘力が有るのか霊
視してみる事にした。
1448
﹃⋮おお、なるほど。パーティーのリーダーであるマリアネラはL
V65のスカウトレンジャー。ノーム族のヨーランはLV60のハ
イプリースト。ワーリザードのゴグレグはLV63のマジックウォ
ーリア。皆上級者で、スキルも良い物を持っている。なかなかの戦
闘力を持っているね﹄
俺がマリアネラ達を霊視していると、声が掛かる。
﹁さあ、もう少し町を見て回るよ。ついておいで﹂
マリアネラの言葉に、俺達は再度マリアネラ達の後をついて、町を
観察して行く。
相変わらず、俺達に狂気に近い視線を投げかける、郊外町の住人を
見ながら進んで行くと、割りと大きな建物が見えてくる。
そこは、この郊外町には珍しくレンガ造りの建物で、多少汚れては
いるが、きちんと清掃をされているのか、他の建物達とは違い、異
臭もする事は無かった。
その建物の中に入っていくマリアネラ達。俺達も後に続いて中に入
っていく。
建物の中に入ると、そこは沢山の長椅子が規則正しく並んでいる。
その一番奥には、この郊外町にはふさわしくないステンドグラスの
小型の窓があり、そのステンドグラスからの七色の光に照らされた、
女神アストライアの像が神々しく祀られていた。
郊外町の中にあって、その清潔感と清楚感、慈悲の微笑みを湛える
女神像に、どこか癒される様な表情を浮かべているマルガとマルコ。
そんなマルガとマルコを見て、フッと軽く微笑むマリアネラ。
﹁ここはどこなのですか?ご主人様?﹂
マルガが少し困惑しながら俺に聞いてくる。隣でマルコもウンウン
と頷いていた。
1449
﹁ここは女神アストライアを信仰している、ヴィンデミア教の教会
さ。お前達も名前位は知っているだろう?﹂
俺の代わりに応えてくれたマリアネラの言葉に頷いているマルガに
マルコ。
この世界には色んな宗教があるが、1番多く信仰されているのが、
この女神アストライアを崇める、ヴィンデミア教だ。
その聖地は5大国である、光の精霊の守護神を持つ大国、神聖オデ
ュッセリア。
神聖オデュッセリアに降り立った女神アストライアは、神聖オデュ
ッセリアの初代教皇である、マハトマに、光の精霊の守護神を授け、
魔物を撃退し、神聖オデュッセリアの地を平和に導いたらしい。
それ以後、女神アストライアを信仰する宗教国家として、神聖オデ
ュッセリアは繁栄してきたのだ。
﹁この教会はね、食べる物に困っている郊外町の者達に、無償で食
べ物を恵んでいる教会なんだよ。東西南北にある、4つの教会のお
陰で、どれ位の者が飢えて死なずに済んでいるか⋮。だから、郊外
町に住む者はヴィンデミア教を信仰している者が多くて、この教会
も皆に好かれているから、この無法者達が多い中で、ここだけは唯
一安全な所なんだよ。誰もこの教会には手を出さない﹂
その話を聞いて、マルガとマルコは瞳を揺らして感動している様で
あった。
﹁だからお前達も何か有ったら、東西南北にある、教会に逃げ込む
んだ。余程の事が無い限り、教会が襲われる事はない。教会を襲う
奴は、郊外町に住む住民全員を敵に回す様なものだからね。そんな
事をしたら、この郊外町では生きてはいけない。解ったね?﹂
マリアネラの言葉に頷く俺達。それを見てフッと笑うマリアネラ。
1450
﹁じゃ∼この教会の神父を紹介しておくよ。お∼い!ジェラードい
るんだろ?出てきておくれよ﹂
講堂一杯に響くマリアネラの声に反応する様に、奥の扉が開かれる。
その扉から、礼服を来た男が俺達の前にやってきて、マリアネラを
見て呆れた顔をする。
年頃はマリアネラと同じ位、恐らく27歳位。グレーの髪に、優し
い顔立ちのなかなかの美男子だ。
身長も180cm位ある、スラリとした細身の男は、綺麗な声を講
堂に響かせる。
﹁そんなに大きな声を出さなくても、聞こえるよマリアネラ。⋮全
く、君は相変わらずだね﹂
﹁そう言うなよジェラード。今日はお前に紹介したい奴らが居てさ﹂
そう言って俺達をジェラードの前にやるマリアネラ。俺達を見たジ
ェラードは優しい微笑みを俺達に向ける
﹁これはこれは、良く私達の教会に来ましたね。こんなに美しい女
性の方に会えるなんて光栄ですよ﹂
その言葉に、嬉しそうにしているマルガと、涼やかな微笑みを湛え
ているリーゼロッテ。
﹁なんだい?ジェラードも他の奴みたいに、このの美少女達に欲情
でもしてるのかい?は∼男ってこれだから嫌なんだよ!﹂
少し、拗ねている様な感じのマリアネラの言葉に、慌てているジェ
ラードは
﹁そ⋮そんなことな無いですよマリアネラ!私は素直に感想を述べ
たまでの事。女神アストライアに仕える私が、その様な事を考える
1451
はずないでしょう!?﹂
﹁へ∼どうだか∼?﹂
そう言ってプイッとソッポを向くマリアネラに、苦笑いをしている
ジェラード。
﹁所でこの人達が私に紹介したい人で良いのかなマリアネラ?﹂
﹁ああ、そうだよ。今こいつらには私の仕事を手伝って貰っている
のさ。この郊外町で動く事が多くなるから、何かあった時は、助け
てやって欲しい﹂
まだ若干拗ねている様なマリアネラの言葉に、フムフムと頷くジェ
ラード。
﹁なるほど⋮解りました。マリアネラの頼みです。聞かないわけに
空です。こっちは僕の一級奴隷のマルガで、そっちも僕
はいかないでしょう。私はこの教会の司祭で、ジェラードと言いま
す﹂
﹁僕は葵
の一級奴隷のリーゼロッテ。こっちは仲間のマルコです﹂
﹁初めまして!ご主人様の一級奴隷をさせて貰っていますマルガで
す!よろしくです!﹂
﹁オイラは葵兄ちゃんの弟子をしているマルコです!よろしく!﹂
﹁私も葵さんの一級奴隷、リーゼロッテと言います。よろしくお願
いしますわ﹂
俺達の挨拶を聞いて、優しい微笑みを向けてくれるジェラード。
﹁そうですか。宜しくお願いします。マリアネラの仕事を手伝って
いるとの事ですが、余り無理をなさらぬ様に。マリアネラはすぐに
無茶をするので、私も困っているのですよ﹂
そう言いながら軽く溜め息を吐くジェラード。
﹁な⋮何言ってるんだよジェラード!わ⋮私は何時もまじめに行動
1452
してるよ!﹂
少し顔の赤いマリアネラが、珍しく慌てて言い返している。
﹁またその様な事を⋮私は貴女が初めて子の教会に来た、15年前
の事を忘れてはいませんよ?命からがらにこの協会に倒れこんでき
た貴女を、介抱したのは私なのです。それからと言うもの、冒険者
などになって、危険に飛び込んでいくのですから⋮﹂
呆れるように言うジェラードの言葉に、ばつの悪そうな顔をしてい
るマリアネラ。
﹁ま⋮話は解りました。所で貴方達はお腹の方は好いてはいません
か?もし空いているのであれば、少し施しの朝食が余っていますの
で、召し上がられますか?﹂
普段なら食べ物と聞いたら飛びつくマルガとマルコであったが、ま
だ昼食を食べてそれほど時間も経ってはいない。さすがのマルガと
マルコも、顔を見合わせて苦笑いをしていた。
﹁私やコイツらも昼食を済ませたばかりなんだよ。ジェラードの作
る食べ物はなかなか美味いけど、流石に腹が一杯な所には入らない
だろうさ。また⋮食べれない奴に施してやりなよ﹂
優しく言うマリアネラの言葉に、ニコッと微笑むジェラード。
﹁そうですねそうしましょう。ですがこれだけは覚えておいて下さ
い。私は女神アストライアの下で加護される事が出来ます。貴方達
が困っているなら、ここにいつでも来なさい。女神アストライアは
何時いかなる時でも、その門を開いていますので。きっとあなた達
の力になってくれるでしょう﹂
その優しい言葉に、瞳を輝かせて感動しているマルガとマルコを見
て、少し嬉しそうなマリアネラ。
1453
﹁所で、貴女の仕事の方は上手く行っているのですかマリアネラ?﹂
﹁いや⋮それが⋮全く手がかりがつかめなくてさ⋮﹂
そう言って、少し俯くマリアネラ。そんなマリアネラの肩に優しく
手を置くジェラード。
﹁この郊外町で頻繁に起こっている⋮集団人攫い。危ないと思った
らすぐに逃げてくださいねマリアネラ。私も出来る限りの情報は集
めていますので⋮ここに飛び込んで来た時の様に、無理はしない様
に⋮﹂
﹁⋮解ってるってジェラード。私もあんたには感謝してるんだ。だ
からこの依頼を引き受けたんだしさ。私達も無理はしないから⋮心
配しないで⋮﹂
そう言って少し顔を赤らめるマリアネラ。
﹁そうですか、それなら良いのです。では、私は奥で用があるので
失礼しますね。マリアネラも何か解ったら私に知らせて下さい。私
も何か解ったら、すぐにマリアネラに報告しますので﹂
﹁ああ!解ってるって!任せといてよ!ジェラード!﹂
嬉しそうに返事をするマリアネラを見て、優しく微笑むジェラード
は、俺達にきちんと挨拶をして奥の扉に消えていった。
﹁ジェラードさん良い人なのです!私感動しちゃいました!﹂
﹁オイラもだよ!この郊外町の為に頑張ってる人って凄いよね!﹂
そのマルガとマルコの言葉を聞いたマリアネラは、ニコッと嬉しそ
うな顔をする。
﹁ま∼アイツは信用のできる奴さ。私も昔助けて貰ってから、ずっ
とジェラードの事を見てきたけど、昔っから何も変わらないアイツ
の事は、私の誇りでもあるからね﹂
そう言って、ジェラードの消えた扉を嬉しそうに見つめるマリアネ
1454
ラ。
﹁それに女神アストライアを信仰している、ヴィンデミア教も凄い
のです!恵まれない人達に施しで食べ物を無償で与えるなんて⋮﹂
そう言ってひとみをうるうるさせているマルガ。
マルガは6年間、三級奴隷として、過酷な生活を余儀なくされてい
た。それこそ、栄養失調になるくらいにまで。きっと、それを思い
出しているのであろう。
﹁そうかいそうかい!お前もヴィンデミア教を気に入ったのかい!
なら今度、ジェラードから女神アストライアの象を貰ってやるよ!
世間では色々変な事を言う奴も多いけど、私は間違いなくジェラー
ドは皆の助けになっていると思っているからね!﹂
﹁私もそう思いますです!マリアネラさん!﹂
嬉しそうに尻尾を振っているマルガの頭を、ワシャワシャと撫でて
いるマリアネラ。
それを見て、ヨーランとゴグレグもフッと微笑んでいた。
﹁じゃ∼とりあえず外に出て、町を見まわってみようか!﹂
﹁はい!マリアネラさん!﹂
﹁オイラも頑張るよ!マリアネラ姉ちゃん!﹂
マルガとマルコの声を聞いて嬉しそうなマリアネラは、腕を回しな
がら教会を出る。
それについて外に出た俺達。
すると、マリアネラが何かを思い出した様で、
﹁あ!すまない!ちょっとジェラードに渡す物があったのを忘れて
いたよ!﹂
そう言って気恥ずかしそうに、教会の中に入っていくマリアネラの
姿を、少し嬉しそうに見つめている、ヨーランとゴグレグ。
1455
﹁マリアネラさんなんの用事だったのでしょう?﹂
マルガは可愛い首を傾げている。
﹁恐らく⋮この間の依頼で貰った報酬の一部を、寄付するのだろう。
ヴィンデミア教は大宗教と言っても、出来る事に限界がある。マリ
アネラは少しでもジェラードに協力したいのであろう﹂
そう言ってフフと笑うゴグレグの言葉に、瞳を潤ませているマルガ
とマルコ。
その時、そんな感じで教会の外で待っていた俺に、何か小さいもの
がぶつかった。
俺は少しよろめき、そのぶつかった相手を見ると、いつかのマルガ
の様な、かなり汚れている少年?が
尻もちをついていた。
﹁ごめんね僕。大丈夫だった?どこも怪我はない?﹂
俺はそう言って、その汚い少年を抱き起こすと、服についた砂を手
で払ってやる。
その少年はギラギラした瞳で俺を見て
﹁怪我はどこも無いから⋮大丈夫だから⋮私に触らないで。それに
私は女の子⋮﹂
そう言って、プイッとソッポを向く汚い少年の様な女の子
﹁それは悪かったね。じゃ∼俺の腰から奪った、アイテムバッグを
返してくれる?人の物を奪う気持が解らない訳じゃないけど、それ
は俺の物なんだ﹂
俺のその言葉を聞いて、ギョッとした顔をする汚い少年の様な少女。
1456
この汚い少年の様な少女は、俺に向かって走ってきて、ぶつかりざ
まに、歳に不相応な手癖で、俺のアイテムバッグを奪っていたのだ。
普通の戦闘職業に就いていない奴ならば、まんまと盗られていたで
あろう。
俺はその汚い少年の様な少女の腕を掴みながら言うと、一瞬で俺の
景色がぐるりと回る。
そして、ドスンと音をさせて、俺は地面に投げつけられていた。
俺を投げ終わった汚い少年の様な少女は、今が好機と、走って逃げ
ようとしたが、それは叶わなかった。
その理由は、一瞬で召喚した、リーゼロッテの召喚武器である、2
体の人形、ブラッディーマリーーとローズマリーに、首元と心臓に
隠し腕の双剣を突きつけられて抑えこまれていたからだ。
﹁貴女にどんな理由があるのかは知りませんが、私の主人である葵
さんの物を盗む事は許しません。命が欲しければ⋮葵さんのアイテ
ムバッグを返しなさい﹂
涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、ギュッと唇を噛む汚い少年の
様な少女。
この汚い少年の様な少女との出会いが、この先で大きな意味を持つ
事になろうとは、この時は夢にも思っては居なかった。
1457
愚者の狂想曲 38 因縁
﹁いてて⋮﹂
汚い少年の様な少女に投げられてしまった俺は、マルガに手を引か
れて立ち上がった。
リーゼロッテの召喚武器、ブラッディーマリーとローズマリーに隠
し腕の双剣で抑えこまれている汚い少年の様な少女は、ギラギラと
した瞳で口惜しそうに俺を見ていた。
ムウウ⋮油断していたとはいえ、マルガより小さい身長120cm
位のこんな華奢な女の子のどこに、こんな力が有るのか⋮
そんな事を考えていると、汚い少年の様な少女を押さえ込んでいる
リーゼロッテが、涼やかに微笑みながら
﹁⋮もう、逃げられないのは解っているでしょう?早く葵さんのア
イテムバッグを返しなさい﹂
リーゼロッテの淡々とした言葉に、ギュッと唇を噛む汚い少年の様
な少女は、渋々と言った感じで、懐から俺のアイテムバッグを出し
た。それを取り上げ俺に渡すリーゼロッテ。
俺がリーゼロッテからアイテムバッグを貰い、腰に装備しなおして
いると、教会の中からマリアネラが戻って来て、リーゼロッテの2
体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーに抑えこまれている、
汚い少年の様な少女を見て、キョトンとした顔をしていた。
﹁一体何があったんだいあんた達?えらく物騒な事になってるみた
いだけど?﹂
﹁この少女が、葵さんからアイテムバッグを盗んだのです。もう、
1458
返して貰いましたけど﹂
ニコッと微笑むリーゼロッテを見て、少し呆れた顔をするマリアネ
ラ。
マリアネラは汚い少年の様な少女の前に行くと、軽く溜め息を吐き
﹁⋮アイテムバッグを返して貰ったのなら、この少女にはもう用は
無いよね葵?﹂
﹁うん、そうだね﹂
﹁だそうだ。もう行きな⋮﹂
そう言って、優しく汚い少年の様な少女の肩をポンと叩くマリアネ
ラ。
リーゼロッテの召喚武器、ブラッディーマリーとローズマリーの拘
束から解かれた汚い少年の様な少女は、人形達を見ながら後ずさり
をする。その光景は、心を開かない野生動物の様な動きに見えた。
俺はそんな汚い少年の様な少女の傍に行き、アイテムバッグから銀
貨1枚を取り出し、汚い少年の様な少女に差し出す。
﹁⋮このアイテムバッグは渡せないけど⋮これを持って行って⋮﹂
俺の差し出した1枚の銀貨を見た汚い少年の様な少女は、ギュッと
唇を噛むと、俺の手から銀貨を引ったくって、ダダダと走って郊外
町の中に消えて行った。
﹁⋮悪く思わないでやってくれ葵。あいつらも生きるのに必死なん
だ。あの歳で⋮この郊外町で生きて行くには⋮ね﹂
﹁⋮解ってますよマリアネラさん﹂
俺の言葉に、フッと微笑むマリアネラ。
﹁じゃ∼とりあえず、また町を捜索してみようかね﹂
マリアネラの言葉に頷き、俺達は郊外町ヴェッキオの捜索を再開す
1459
るのであった。
翌日、俺達は再度郊外町ヴェッキオを捜索する準備を整えて、寝室
を後にする。
朝食を取るために食堂に向かうと、レリアとエマが朝食を持ってき
てくれる。
皆と挨拶を交わし、朝食を受け取る。
﹁はい!葵お兄ちゃん!ちょうしょくどうぞ!﹂
﹁ありがとねエマ﹂
エマの頭を優しく撫でると、エヘヘと嬉しそうにしているエマ。
﹁今日も郊外町ヴェッキオの捜索に行かれるのですよね葵様?﹂
朝食を食べながら、ステラが心配そうに俺に言う。ミーアとシノン
も同じ表情で俺を見つめている。
﹁うん、昨日はマリアネラさん達との顔合わせが主だったけど、今
日からは俺達だけで捜索する事になっているからね﹂
﹁⋮そうですか。ヴェッキオは治安の悪い所。何事も無ければ良い
のですが﹂
﹁俺達も冒険者の端くれだ。きっちりと準備をして捜索をするから
⋮。それに、危険と判断したら、すぐに手を引くつもりだから、安
心してステラ⋮﹂
ステラの頭を優しく撫でながら言うと、銀色の触り心地の良さそう
な、フカフカな犬の様な耳をピョコピョコさせて嬉しそうにしてい
た。
1460
﹁それと、私とステラ姉姉、シノン姉姉の3人で、昔の伝を頼って、
商売で取引していた人達にも、それとなく郊外町ヴェッキオで起き
ている、集団人攫いの事を聞いてはみたのですが⋮何も情報は得ら
れませんでした﹂
少し申し訳なさそうに言うミーアの頭を優しく撫でながら
﹁ありがとね3人共。その気持だけで嬉しいよ。でも、無理はしな
いでね?ステラ、ミーア、シノンは戦闘職業に就いていないんだし
さ。聞き込みもこの王都ラーゼンシュルトの中だけにしてね。この
王都ラーゼンシュルトの中は騎士団や、守備隊がわんさかいるから、
滅多な事は出来ないけど、郊外町ヴェッキオはそうじゃないから。
俺達の留守中に何か有ったら、すぐに騎士団や守備隊に言って守っ
て貰ってね﹂
俺の言葉に頷いている、ステラ、ミーア、シノンの3人。
﹁⋮でも、ステラさん達の商売でのお知り合いでも情報が流れてい
ないとなると⋮余程情報操作に長けている、又は、機密を守れる組
織と言う事になりますね葵さん﹂
リーゼロッテが紅茶を飲みながら言う言葉に、マルガやマルコも頷
いていた。
⋮確かに。真面目なステラ、ミーア、シノンの事だ、きっと今迄取
引した事のある商人に、かたっぱしから声を掛けてくれたのだと思
う。
それでも、特に情報を得られないと言う事は、リーゼロッテの言う
通り、余程用心深く行動している相手だと思って良い。
あれだけの数の人を攫っておいて、一切の情報を流さない⋮か。
俺は暫く考えて、とある人物の事を思い出す。
1461
﹁⋮皆、今日は特別な予定とかはないかな?﹂
俺の言葉に、顔を見合わせている一同。
﹁私達は特に何も様はありませんわ葵様﹂
﹁私もです葵さん﹂
﹁エマも∼!エマもなんにもようじないよ∼!﹂
﹁ククク∼!!﹂
若干1名?︵1匹︶と、エマちゃんが用事の無いのは解ってるよ!
ルナはマルガちゃんと一緒に捜索してるでしょ?食べ物の話だと思
っちゃったの?
﹁その様な事を聞いてどうなさるのですか葵さん?﹂
﹁いや⋮ちょっと、皆でギルゴマさんの所に行こうと思ってさ。選
定戦の時から会ってなかったしね。情報を聞くついでに、皆を紹介
しておこうと思ってさ。俺の手伝いで、ギルゴマさんに会う事も増
えるだろうしさ﹂
﹁そうですね。それがいいかも知れませんね。リスボン商会の王都
ラーゼンシュルト支店の長、ギルゴマさんなら、何かの情報を得て
いるかも知れませんしね﹂
リーゼロッテの言葉にマルガもマルコもウンウンと頷いている。
﹁葵様はギルゴマ様とお知り合いなのですか?﹂
ステラが俺に聞いているのを、頷きながら見ているミーアにシノン。
﹁ギルゴマさんは、商売での葵さんのお師匠様に当たる御人なので
す。選定戦でも、ギルゴマさんのお陰で貴重な情報を得られたので
すよ﹂
リーゼロッテの説明に、驚きの表情を浮かべるステラ、ミーア、シ
ノンの3人。
1462
﹁ステラ達も、ギルゴマさんとは面識があるの?﹂
﹁はい。以前ヒュアキントス様の一級奴隷だった時に、取引で何回
かお会いした事はあります。ギルゴマ様の事はヒュアキントス様か
ら色々聞いていました。あのヒュアキントス様が商売上で認めてお
られる数少ない人物でもありましたので﹂
まあ、リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の長だもんねギル
ゴマさんは。
色んな繋がりもあるか⋮
﹁じゃ∼新しい主人って事で、紹介もしなくちゃね。皆とりあえず、
出かける準備をしてくれる?準備出来たら、寛ぎの間に集合で﹂
﹁わ∼い!やった∼!みんなでおでかけだ∼!﹂
嬉しそうにキャキャとはしゃぐエマの頭の上には、何故か得意げな
顔をした白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが鼻をフンフンとさせ
てシャキーンと立っている。
そんなエマとルナを微笑ましく感じながら、皆が準備を始めてくれ
る。
暫く寛ぎの間で待っていると、準備の出来た皆が集まってきた。
﹁皆集まった事だし、出かけようか﹂
俺達は皆でゾロゾロと歩きながら、リスボン商会の王都ラーゼンシ
ュルト支店に向かう。
昨日見た郊外町ヴェッキオとは違いすぎる華やかな街並みを眺めな
がら歩いて行くと、少し大きなレンガ作りの建物が見えてくる。割
りと新しい作りのその建物は、リスボン商会の象徴、象のシンボル
が入った旗を高らかに掲げ、沢山の荷馬車や商人達が、忙しそうに
商会に出入りしている。その数の多さから、繁盛しているのが容易
に想像できる。
そのリスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の入り口に行くと、
1463
一人の男が近寄ってきた。
﹁これはこれは葵様。ようこそいらっしゃいました﹂
受付の男がニコニコしながら俺に話しかけてきた。
以前は、俺の事を誰か解っていなかったが、俺がこの支店の長であ
るギルゴマと知り合いと解ると、急に愛想が良くなったこの受付の
男。
でも、1回見ただけで顔と名前と、どういった人物で有るかを覚え
る辺りは、流石は商人と言った所であろうか。
﹁今日も取引ですか葵様?﹂
﹁あ、今日はちょっとギルゴマさんに用事がありまして。ギルゴマ
さんはいらっしゃいますか?﹂
﹁ギルゴマ支店長なら、支店長室にいらっしゃると思いますので、
ご案内します﹂
笑顔の受付の男はそう言うと、俺達をリスボン商会の王都ラーゼン
シュルト支店の中に案内してくれる。そして、支店長室まで案内し
てくれる受付の男は、割りと作りの良い扉にノックをする。
﹁ギルゴマ支店長、葵様が面会にいらっしゃってます。お通しして
も宜しいですか?﹂
﹁はい、入って貰って下さい﹂
その懐かしい声に部屋の中に入って行くと、豪華な広い机で沢山の
書類を眺めているギルゴマが、俺の方を見てフッと微笑む。その横
には、リューディアが嬉しそうに俺を見ていた。
﹁これはこれは。ルチア王女様の専任商人になられた葵様ではあり
ませんか。随分と遅い登場ですね。さぞや大きなご商談で忙しかっ
たのでしょうね﹂
﹁それはそうでしょうギルゴマ支店長。葵殿は無関税特権を2つも
1464
持つ大商人なのです。もう、私達の様な矮小な存在とは、話もした
くないのでしょう﹂
﹁⋮もう、いい加減に許してくれませんか?ギルゴマさんにリュー
ディアさん?﹂
俺の申し訳なさそうな顔を見て、プッと吹き出す楽しそうなリュー
ディア。マルガとマルコもアハハと笑っていた。そんな、マルガと
マルコはリューディアに飛びつき抱きつく。
﹁お前達も元気そうで良かったよ。葵に酷い事されてないかい?﹂
﹁大丈夫なのですリューディアさん!ご主人様はいつも優しいので
す!﹂
﹁オイラは元気だよ!リューディアさん!﹂
﹁そうかいそうかい!お前達は本当に可愛いね!﹂
そう言って、マルガとマルコの頭をワシャワシャと撫でているリュ
ーディアと、楽しそうにはしゃいでいるマルガにマルコ。
﹁⋮マルガさん。やっぱり今回も、私には挨拶は無いのですか?﹂
﹁あう⋮ギルゴマさんも、元気そうで良かったです∼﹂
リューディアの影に隠れながら、ぎこちなく挨拶をするマルガを見
て、楽しげな顔をしているギルゴマ。
﹁それから、選定戦の時は貴重な情報や、キリクさんに助力をお願
いして頂いてありがとうございました。あの情報や、キリクさんの
助力がなければ、きっと私達は負けていましたわ﹂
﹁良いのですよリーゼロッテさん。私に出来る事をしたまでですの
で﹂
涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、フフと可笑しそうに笑ってい
るギルゴマ。
その中で、ステラが一歩前に出て、ギルゴマの前に立つ。
1465
﹁ギルゴマ支店長お久しぶりで御座います﹂
﹁⋮貴女達は確か、ヒュアキントス殿の一級奴隷をしていた方達で
すね。今は葵さんの一級奴隷をされているのですね﹂
﹁はい!私達も葵様のお側で、ずっとお仕えしていきますので、よ
ろしくお願いします!﹂
ステラの後ろから元気良く言ったミーアと一緒に頭を下げているシ
ノン。
ステラも気恥ずかしそうに微笑むと、ギルゴマに頭を下げていた。
﹁⋮なるほど、また良い人材を手に入れたようですね葵さん﹂
﹁はい、僕もそう思います﹂
俺の言葉を聞いて、嬉しそうにしているステラ、ミーア、シノンの
3人。
﹁所で葵、後ろのご婦人と可愛い女の子はどちら様なのだ?﹂
レリアとエマを見ながら言うリューディアに、テテテとエマが近寄り
﹁私はエマだよ!お母さんといっしょに、葵兄ちゃんに買われたん
だ!今はいっしょにせいかつしてるんだよ!﹂
ニコッと微笑みながら元気一杯に言うエマの言葉に、口をポカン開
けて呆けているリューディア。
そして、俺にツカツカと近寄ってきたリューディアは、俺の頬を両
手で引っ張る。
﹁イテテテ!﹂
﹁イテテテじゃないよ葵!可愛いマルガや美しいリーゼロッテだけ
じゃ飽きたらず、可愛い獣人の3人娘の他に、こんな親子まで⋮。
姉弟子である私でさえ⋮一人も奴隷や弟子は居ないのに⋮一体どう
言う事なんだろうね葵ちゃん∼?⋮このままお前の頬を、ロープノ
ール大湖の端から端まで届く様に、引っ張ってやってもいいんだよ
1466
?﹂
﹁いや!別に不順な動機で、レリアさんとエマを買った訳じゃない
んだよ!﹂
俺とリューディアのいつものやり取りを見て、楽しそうに笑ってい
るマルガにマルコ。
リューディアはリーゼロッテから、レリアとエマを買った経緯を聞
いて、渋々納得してくれた様であった。
﹁まあ確かに選定戦で、アウロラ女王陛下の目の前で、堂々と合法
的な金の密輸をしたのですから、何か色々あったとは思っていまし
たが⋮その様な事があったのですね﹂
リーゼロッテの話を聞いて、楽しそうな顔をしているギルゴマ。
﹁まあどちらにせよ勝てて良かったね葵。⋮ここに来るのは遅かっ
たけどさ﹂
﹁ギルゴマさんとリューディアさんの事だから、きっと俺が伝える
より先に、勝敗の情報を掴んでいると思ってたからさ﹂
﹁まあ⋮それはそうだけどね﹂
俺の苦笑いを見て、フフと微笑むリューディア。
﹁所で葵さん。今日は一体どの様な要件があってここに来たのです
か?私達に選定戦での事を報告に来ただけでは無いのでしょう?﹂
何かの核心を秘めているかの様な、光を瞳に宿らせているギルゴマ
に苦笑いをしながら、
﹁ええ、ギルゴマさんの言う通りなんですけどね。実は今、冒険者
ギルドの依頼を受けてて、その事で話があったのですよ﹂
俺はギルゴマとリューディアに、冒険者ギルドの依頼の内容を話す。
その内容を聞いたギルゴマとリューディアは顔を見合わせていた。
1467
﹁⋮確かに、葵の言う通り、私達も郊外町のヴェッキオで起きてい
る、人攫いの事は噂では聞いた事はある。だけど、私達も他の商人
達と同じ様に、噂程度の事しか解らないね﹂
﹁リューディアの言う通りですね。私もその件に関しては、噂程度
しか解りませんね。その様に、大勢の人が毎日攫われているのであ
れば、どこかの奴隷商なりが、羽振りが良くなった等の噂が立つも
のですが、この王都ラーゼンシュルト周辺で、その様な噂も聞きま
せんし⋮その話は本当の事なのですね葵さん?﹂
﹁うん。俺より先に依頼を受けていた冒険者は、俺達よりLVも高
い上級者達だし、得ている情報も、実際に襲われているのを聞き込
みして逆算していると思うから、その情報に間違いは無いと思うよ﹂
俺のその言葉に、顎に手を当てて、何かを考えているギルゴマ。
﹁情報通のギルゴマさんやリューディアさんの網にも掛からないと
言う事は⋮相手は余程用心深いようですね葵さん﹂
リーゼロッテの言葉に頷く一同。
﹁まあ⋮攫った人達を、このフィンラルディア王国から連れ去って、
別の国で売っているのかもしれないけどね。そうなると、流石に私
達でも解らないからね﹂
﹁それはそうでしょうねリューディア様﹂
リューディアの言葉に納得している、ステラ、ミーア、シノンの3
人。
﹁ですが、それだけの人を乗せた荷馬車や檻馬車が、毎日どこかに
向かえば、それだけで噂はたつもの。その様な噂も聞かれていなの
ですかリューディアさん?﹂
﹁そうだね∼。そんな噂も入ってきていないね。確かにリーゼロッ
テの言う通り、毎日それだけの奴隷を乗せた馬車が通れば、それだ
けで噂はたつ様なものだけど⋮﹂
1468
リーゼロッテの言葉に、両手を組みながら考えこむリューディア。
﹁一体、攫われた人達は、どこに行っちゃたのでしょうねご主人様﹂
﹁そうだよね∼マルガ姉ちゃん。まるで攫われた人が消えちゃった
みたいだよね﹂
﹁⋮消えちゃったか⋮。確かにそうだね﹂
俺はう∼んと唸りながら、可愛い小首を傾げているマルガの頭を優
しく撫でていると、話を聞いて黙って考えていたギルゴマが口を開
く。
﹁⋮確かこの依頼の報酬は、金貨20枚と、冒険者ランクの2階級
特進でしたよね葵さん?﹂
﹁うん、そうだけど⋮それがどうかしたの?﹂
﹁⋮葵さん、少し色々とおかしいと思いませんか?﹂
﹁おかしい?まあ⋮確かに、報酬は他のものより良いのは事実だけ
ど⋮﹂
考え込んでいる俺を流し目で見ているギルゴマが話を続ける。
﹁まあ、葵さんも感じている通り、まず、報酬が高すぎます。調査
だけの依頼で、しかも危険を感じた時は、撤退しても良い。その内
容で金貨20枚の報酬は高すぎです。葵さんの昇級試験を兼ねてい
て、冒険者ランクの高い、その先に依頼を受けている人達の冒険者
ランクから言ってもです﹂
⋮確かに俺もそれは感じていた。
だけど、先に依頼を受けているマリアネラ達の冒険者ランクはゴー
ルドクラス。
ゴールドクラスともなれば、依頼の内容次第では、もっと高額な報
酬が貰える時があるから、特別気にはしていなかったのが事実。恐
らくリーゼロッテやステラ達も俺と同じ様な感覚でいたに違いない。
1469
﹁それと、その依頼をしている、依頼主は誰なのですか葵さん?﹂
﹁いや⋮今回の依頼は、依頼主の名前は明かされていないんだ﹂
俺の言葉を聞いて、再度顎に手を当てて、何かを考え始めるギルゴ
マ。
冒険者ギルドの依頼人は、依頼主の名前を公表するか、秘密にする
かを選べるのである。
簡単に言うと、例えば、ネコを探すと言った依頼の時は、公表する
依頼主が多い。
探していますと言う事を公言する事によって、沢山の情報が依頼主
に入るかもしれないからだ。
逆に、人に知られたくない場合は、秘密にする事が多い。
それは依頼主に、公表する事によって何らかのデメリットがある場
合である。
今回なら、依頼主の安全を考えて公表していないのであろう。
﹁でも、依頼主の公表なんて、こんな依頼の時は明かされない事の
方が多いと思うけど?﹂
﹁それはそうなのですが、私が引っかかっているのは、何故依頼主
は、郊外町で起きている、人攫いの情報や目的を知りたかったので
しょうか?私はそれが引っかかっているのです。考えてみて下さい
葵さん。郊外町は元々治安の悪い、無法者達が多く住む町。それこ
そ、殺人、強姦、人攫いが日常的に行われている町なのです。そん
な町で人攫いが横行しようと、それはきっと何処かの奴隷商に売っ
て、利益をあげようと考えているのであろうと、思うのが普通です。
その様な、日常的な事を、わざわざ大金を支払って、裏付けを取ろ
うなどとする人は居ない。それが多くの人が攫われていようともで
す﹂
ギルゴマの言葉にハッとなって顔を見合わせる俺達。
1470
⋮確かにそうだ。
この依頼の依頼主は、何故大金を支払ってでも、人攫いの目的を知
りたかったのだろうか?
ギルゴマの言う通り、郊外町では、人攫いなど日常的に行われてい
るし、目的など普通に考えれば、奴隷商に売って利益を出す事位し
か、思い当たらないのが普通だ。
考え込んでいる俺達を見ながら、話を続けるギルゴマ。
﹁それに、先程リーゼロッテさんが言われた通り、人や奴隷を多く
乗せた荷馬車や檻馬車が毎日見受けられるなら、何処かの奴隷商や
商会なりが、その商売のルートを探ろうと調査を依頼する事がある
かも知れません。ですが、今回は違います。その様な沢山の人を積
んだ荷馬車や檻馬車が見かけられている訳ではありません。よしん
ば見かけられていると仮定しても、調査の依頼をするのは、その商
売のルート、つまり、誰が取引主で、何処の誰が利益を上げている
かを調べるのが普通です。解りきっている﹃人攫いの目的﹄などを、
大金を支払って調べる理由とは⋮一体、何なのでしょうね?﹂
全てを見通すような瞳で俺を見つめるギルゴマ。
ギルゴマさんの言う通りだ。
依頼主は一体何が知りたいのだろう?
普通に考えたらギルゴマさんの言う通り、商売ルートの調査が依頼
になるはず。
解りきっている人攫いの目的など、調べるはずがない。
﹁確かに、奴隷商売と言うのは、儲かる部分もあります。私達リス
ボン商会でも奴隷は扱っていますからね。ですが、奴隷法で定めら
れている、﹃攫われたり、無理やり奴隷にされた者を買ってはいけ
ない﹄と言う法律が一応あります。まあ⋮賄賂やその他の方法でど
1471
うにでもなる話ですが、他の商会のやっかみで密告されたりする可
能性もあるので、大ぴらに堂々と買えないのも事実。私の知る限り、
攫われた人を奴隷にして、毎日それだけの大量の奴隷の取引をして
いる商会など、この王都ラーゼンシュルト周辺ではありません﹂
﹁それはつまり⋮攫われた人達は、奴隷商に売られずに⋮どこかに
囚えられている⋮と言う事でしょうかギルゴマさん?﹂
﹁それは解りません。先程リューディアが言った通り、他の国で取
引されているのかも知れませんからね﹂
リーゼロッテの言葉に、軽く両手を上げるギルゴマ。
﹁ですが、その様な人を沢山乗せた荷馬車や檻馬車は見かけられて
いない⋮どういう事なのでしょうね葵様﹂
﹁そうだねステラ。とりあえず、もう一度マリアネラさん達に会っ
て、その事も話をしてみるよ。それを聞く事で、何かが見えてくる
事もあるからね﹂
俺の言葉に頷くステラ。そんな俺達を見ていたギルゴマが
﹁まあ⋮多少危険かもしれませんが⋮情報が得られる可能性が無い
訳でもありません⋮﹂
﹁それは⋮どの様な事なのでしょうかギルゴマさん?﹂
ギルゴマの言葉に、少し目を細めるリーゼロッテが問い返す。
﹁それには葵さんに約束して欲しい事があります。それを、守って
くれるのであれば⋮﹂
﹁⋮どんな事を守れば良いのですギルゴマさん?﹂
﹁いえ、簡単な事です。その依頼の内容通り、危険を感じたら、す
ぐに手を引く。この条件を飲めるのであれば⋮ですね﹂
﹁それは、約束できますよギルゴマさん。俺も皆の安全を考えたい
ですし、無茶な事はしないつもりで居ますから﹂
﹁⋮本当ですか?⋮貴方はすぐに無茶をしてしまう癖がありますか
1472
らね。信じて良いのですね?﹂
きつく俺を見るギルゴマの瞳を、真正面から見据える俺を見て、軽
く溜め息を吐くギルゴマ。
﹁⋮まあ、今の貴方の周りには優秀な人材が沢山居ますから、その
人達を信じてみますか⋮﹂
﹁⋮俺はそんなに信じられないのですか⋮ギルゴマさん?﹂
﹁ハハハ。貴方のその部分だけを信じるのは、天と地がひっくり返
っても出来ませんね﹂
﹁ええ!?そんなに!?﹂
﹁貴方と私が出会った件も含め、私なりに考えた結論ですが?﹂
ニヤニヤと笑うギルゴマに、ププと笑いを堪えているリューディア。
﹁危険と感じれば、私が責任をもって、手を引くように進言します
わ。なので安心して下さいギルゴマさん﹂
﹁まあ、リーゼロッテさんが言われるのであれば⋮安心してもよさ
そうですね﹂
俺を見ながらニヤニヤしているギルゴマ。
ギルゴマさんめ⋮あんなに楽しそうな顔しちゃって⋮ウウウ⋮
俺の少し項垂れている顔を楽しそうに見ながら、何かを羊皮紙に書
き込んでいくギルゴマは、書き終わった羊皮紙をくるくると丸め紐
で結って、その結び目に松脂らしきものを垂らし、それにリスボン
商会の焼印を入れる。
﹁これを持って、この地図に書かれた所に行って、バルタザールと
言う人物に会いなさい。そうすれば⋮何か解るかもしれません﹂
そう言って、地図と丸めた羊皮紙を俺に手渡すギルゴマ。俺はそれ
をアイテムバッグに入れる。
1473
﹁解っていると思いますが⋮商人の約束は絶対ですからね葵さん?﹂
﹁うん、解ってる。⋮俺が今迄で約束を破った事があった?﹂
﹁⋮まあ、無いですがね。信じてますからね葵さん﹂
﹁⋮ありがとうギルゴマさん﹂
俺達は挨拶をして、リスボン商会、王都ラーゼンシュルト支店を後
にするのであった。
リスボン商会、王都ラーゼンシュルト支店を後にした俺達は、ギル
ゴマの言っていた人物に会う為に、郊外町ヴェッキオに向かってい
た。
ステラ達やレリアとエマには、一足先に宿舎に帰って貰った。
危険な郊外町に行く事もあるし、ひょっとしたらマリアネラが言っ
ていた、人攫いのパーティーに出くわして戦闘になるかもしれない
と感じたからだ。
戦闘の出来ないステラ達やレリア達を守りながら戦闘をする事は出
来ない。なので帰って貰ったのだ。
﹃私も行く∼!﹄と、駄々をこねていたエマも、﹃帰りに皆で、蜂
蜜パンと果実ジュースを一杯食べていいよ?﹄と言うと、ニコニコ
顔で帰っていったのには、皆が笑っていたけど。
本当に蜂蜜パン凄す⋮ある意味最終兵器だね⋮
そんな事を考えながら歩いていると、郊外町の入口に差し掛かって
きた。
この大街道とは違う風景が、郊外町の奥に広がっている⋮
そう思いながら、郊外町の中に入ろうとすると、大街道に面してい
る、食堂屋の店の路地に置かれたゴミ箱を、ガサガサと漁っている
1474
小さな者が目に入ってきた。
よく見るとそれは、昨日俺のアイテムバッグを盗もうとした、汚い
少年の様な少女だった。
俺はなんとなくその汚い少年の様な少女が気になって、傍まで近寄
る。
そんな俺の気配に気がついた汚い少年の様な少女は、俺をチラッと
見て、何事もないようにゴミ箱を漁っていた。
﹁⋮無視は酷いと思うんだけど?お兄さん傷ついちゃうな∼﹂
俺の言葉に一切耳をかさない汚い少年の様な少女は、一心不乱にゴ
ミ箱を漁っていた。
そして、汚い少年の様な少女はゴミ箱から、食べ残しと思われるパ
ンの切れ端を見つける。
それは、一目見ただけで、少し腐りかけているパンの切れ端であっ
たが、それを嬉しそうに腰につけている麻袋の中に入れる汚い少年
の様な少女は、俺の視線を感じ、ギラギラした瞳を向ける。
﹁⋮まだ居たの?ゴミを漁っている人が⋮そんなに珍しい?﹂
﹁⋮ううん、そんな事は無いよ﹂
﹁⋮じゃ何?ゴミを漁っている私を見て⋮優越感にでも浸りたい?﹂
﹁そういう訳じゃないけど⋮ゴミ箱を漁って、店の人に怒られない
か少し心配になっただけ﹂
俺のその言葉を聞いた汚い少年の様な少女は、再度ゴミ箱を漁り始
めると、
﹁⋮大丈夫。私はゴミ箱を漁っても怒られない。私はゴミ箱を漁っ
ても汚さないし⋮それに⋮﹂
﹁それに?﹂
﹁私は朝早くに⋮この店の周りを掃除してる。だから、私がゴミ箱
を漁っても怒られない﹂
1475
そう言って、また一心不乱にゴミ箱を漁っている汚い少年の様な少
女。
⋮なるほど。ゴミ箱を漁らせて貰う代わりに、朝早くに店の周りを
綺麗に掃除している訳か⋮
ゴミ箱を漁っても汚さない上に、店の周りの掃除をしてくれる。
店側からしたら、怒るほどの事では無いと言った感じになるのだろ
う。
この店も郊外町の一部。そこに生きている者の事は理解している。
その中で、礼儀をわきまえるのなら⋮か。
この汚い少年の様な少女は、この劣悪な環境の郊外町の中で、たく
ましく生きていると言う事か⋮
その様な事を思っていると、俺の袖をクイクイと引っ張る者が居た。
それに振り返ると、瞳を揺らしながらマルガが俺を見つめていた。
マルガちゃんも、ひどい環境で暮らしてきたからね⋮
きっとこの汚い少年の様な少女を、放ってはおけないのかもね⋮マ
ルガちゃんは優しいから。
俺はマルガの頭を優しく撫でながら、とある露天に視線を向けると
嬉しそうな顔をして、テテテとその露天に走っていくマルガ。
暫くすると、その手に蜂蜜パンを持ったマルガが帰ってきた。そし
て、それを俺に手渡す。
﹁ねえ君、これ食べない?﹂
そう言って、蜂蜜パンを目の前に差し出すと、涎の出そうな顔をし
て、ガバッと俺の腕から蜂蜜パンを奪い取る汚い少年の様な少女。
そのちっちゃな口を目一杯開けて、甘い香りのする蜂蜜パンに齧り
付こうとして、その口を閉じる。
そして、半ば奪い取った蜂蜜パンを、先程の麻袋の中に入れる汚い
1476
少年の様な少女。
﹁ええ!?今食べないの?折角の蜂蜜パンなのに⋮﹂
俺の言葉に、ギラギラした瞳の色を、少し和らげる汚い少年の様な
少女は、
﹁⋮このパンは、帰ってから仲間と一緒に食べる⋮だから⋮今は食
べない⋮﹂
﹁仲間?﹂
﹁そう、私の3人の仲間。その日得られた食べ物は、皆で平等に分
ける決まり⋮﹂
そう言って再度ゴミ箱を漁ろうとする汚い少年の様な少女。
﹁⋮じゃ∼後3個、その仲間の子達の分も買ってくるから⋮それ食
べちゃいなよ?﹂
その言葉に、バッと俺に振り返る汚い少年の様な少女。
﹁⋮何故、貴方の物を⋮盗もうとした私に⋮そこまでするの?⋮何
が目的なの?﹂
俺に猜疑心の塊の様な瞳を向ける汚い少年の様な少女。
それはマルガちゃんがおねだりするからだよ!
って言っても、この汚い少年の様な少女には解らないよね⋮
さて⋮どうしたものか⋮
そうだ⋮この子達は、郊外町に住んでいる。この子達ならひょっと
して⋮
﹁いや、君に少し頼みたい事があってね﹂
﹁頼みたい事?⋮それは何?﹂
﹁うん、俺は今、冒険者ギルドの依頼で、郊外町の事を調べている
1477
んだ。その手伝いをして貰えないかと思ってね。勿論、仕事の報酬
はきちんと払うよ?﹂
その言葉を聞いた汚い少年の様な少女は、ピクッと身体を反応させ
る。
﹁私に仕事を?どんな仕事なの?﹂
﹁うん、君は今、この郊外町で頻繁に行われている、集団人攫いの
事を知ってるかな?﹂
その言葉を聞いた汚い少年の様な少女は、少し身体を強張らせなが
ら頷く。
﹁⋮知ってる。私達が今⋮1番怖い相手。それがどうしたの?﹂
﹁今俺達は、その人攫い達の事を調べているんだ。で、少しでも情
報が欲しいんだよ﹂
﹁⋮だから、この郊外町に住んでる私に⋮その事を調べて欲しいの
?﹂
﹁まあ⋮そうなんだけど、調べる必要はないんだ﹂
﹁⋮どういう事?﹂
汚い少年の様な少女は話が見えないのか、困惑した表情で俺を見つ
めていた。
﹁ちょっと変な説明になっちゃったけど、自分で調べる必要は無い
のは本当。ただ、普通に生活していて、その人攫い達の情報が入っ
た時にだけ、俺に報告して欲しい。それでいいんだ﹂
そう、それだけでいい。普通に生活をしていて、何か聞いたり見た
りした事を教えてくれるだけで。
自分達から何かアクションを起こさなければ、狙われる事も無いし
安全だろう。
汚い少年の様な少女は暫く考えて、俺に向き直る。
1478
﹁仕事の内容は⋮解った。それで⋮駄賃は幾らくれるの?﹂
﹁そうだね⋮一日銅貨50枚でどう?毎日支払うと言う条件で﹂
その金額を聞いて、表情を明るくする汚い少年の様な少女。
この世界の市民権を持つ人の1日の平均賃金は銀貨2枚。税金で半
分持っていかれるから、銀貨1枚が手取り収入になる。
1日銀貨1枚で、家族3人が贅沢をしなければ、十分に暮らせてい
ける金額なのである。
当然、郊外町に住んでいる者達はもっと低い金額で生活をしている。
1日銅貨50枚貰えるのであれば、仲間3人がお腹一杯食べても十
分に足りる金額なのである。
﹁解った⋮その仕事引き受ける﹂
﹁契約成立だね!﹂
空。商人をしてる﹂
俺の微笑みながらの言葉に、少し気に食わなさそうな顔をする汚い
少年の様な少女。
﹁じゃ∼自己紹介だね。俺は葵
﹁私は⋮ナディア﹂
﹁ナディアか⋮良い名前だね!よろしくねナディア!﹂
俺が笑顔で右手を差し出すと、渋々と言った感じでその手を取り握
手をするナディア。
﹁自己紹介も終わった事だし、早速お願いしたい事があるんだ。俺
達はここに行って、ある人物に会おうと思っているんだけど知って
る?﹂
俺はそう言いながら、アイテムバッグからギルゴマから貰った地図
を取り出し、ナディアに見せる。
ナディアはちっちゃい手で地図を取り見つめると、顔を強張らせる。
1479
﹁⋮空。⋮本当に⋮ここに行く気なの?﹂
﹁うん、そうだけど?何かまずいの?﹂
﹁⋮空が行きたいのなら⋮案内する﹂
言葉少なげにそう言うナディアは、俺達の前を歩き始める。
俺は少し不思議に思いながらも、ナディアの後を付いて行く。
﹁葵さん、上手くやりましたね。ナディアさんに援助する為に、わ
ざわざ頼まなくても良い仕事を頼んで、理由をつけた﹂
﹁まあ⋮この依頼を受けている間だけだけどね。これで良かったマ
ルガ?﹂
﹁ハイ!ありがとうございますご主人様!﹂
俺の右腕にギュッと抱きつくマルガは、金色の毛並みの良い尻尾を、
嬉しそうにフワフワと揺らしている。
﹁⋮どうしたの?行かないの?⋮置いていくよ?﹂
﹁ああ!ごめん!すぐに行くよ!﹂
俺達はナディアの後をついて、郊外町の中に入って行く。
寂れた汚い郊外町を見ながら、ナディア後を歩いて行くと、郊外町
ヴェッキオには似つかわしくない、強固なレンガ造りの建物が見え
てきた。
3階建てのその建物は、何か独特の雰囲気を醸し出していた。
窓はあるが全て鉄格子で覆われ、外部からの侵入が難しい様に作ら
れている。入り口の鉄の大きな扉の周りには、薄汚れた男達が、そ
れぞれ武装をして10数名警護している様であった。
ナディアはその建物から少し離れた所で、その歩みを止める。
﹁⋮あそこが⋮空の行きたかった所﹂
そう言って指を差すが、その建物に近寄ろうとはしないナディア。
俺は少し不思議に思って、ナディアに聞いて見る事にした。
1480
﹁⋮ナディア。あの建物は⋮一体何なの?﹂
﹁⋮あの建物は⋮この郊外町ヴェッキオを支配している、バミュー
ダ旅団の頭領⋮バルタザールが住んでいる所﹂
そう言って顔を強張らせているナディア。
ナディアの説明に、俺達も思わず顔を強張らせる。
俺達は、この郊外町ヴェッキオの支配者、バルタザールに会おうと
していた事を、この時始めて気がついたのだった。
俺達は今、この郊外町ヴェッキオを実効支配している、マフィアの
ボス、バルタザールに面会しようと建物の前まで来ていた。
そんな俺達に気がついた警護の薄汚れた男達が、俺達を取り囲む様
に立ち塞がる。
その手や腰には、バトルアックスやロングソードを装備している。
この男達は、薄汚れた、一見すると野盗の様な風貌ではあるが、そ
の立ち振舞の隙の無さから、この男達全員が上級者である事が、容
易に理解出来る。
﹃今日はマルガもリーゼロッテも男装させてて良かった⋮超美少女
のマルガとリーゼロッテに興味をもたれたら、たまったもんじゃな
かったね⋮﹄
思わず心の中でそう呟く。
昨日のマリアネラの忠告通りに、今日はマルガとリーゼロッテには
男装をさせているのだ。
1481
頭から深く帽子を被らせ、顔も見えにくい様にしている。ぱっと見
は男性にしか見えない。
まあ⋮歩き方はそのままなので、見る人が見たら解るであろうが、
超美少女である事は隠せているので、成果は出ていると思う。
そんな事を思っていたら、警護の中のひとりの男が声を掛けてきた。
﹁貴様ら、ここに何の用だ?ここがどこか⋮解ってるんだろうな?﹂
冷たい目をした男が、ドスの利いた低い声で、俺達に語りかける。
空と言います。ここにいらっしゃるバ
周りの男達も、何かあれば一瞬で俺達に襲いかかれる様に、軽く武
器に手をかけていた。
﹁⋮僕は商人をしている葵
ルタザールさんに面会する為に、ここに来ました。⋮これを、バル
タザールさんに渡して貰えれば、解ると思います﹂
そう言ってギルゴマに渡された、丸められた羊皮紙を男に手渡す。
その丸められた羊皮紙を見た男は、ピクッと眉を動かす。
﹁⋮解った。暫くここで待ってろ﹂
そう言って、丸められた羊皮紙を持って建物の中に入って行く男。
その間も、全く隙を見せない男達に感服しながら暫く待っていると、
先程の男が帰ってきた。
﹁⋮お頭がお前達にお会いになるそうだ。⋮変な事は考えるなよ?﹂
それは、何かあればすぐさま殺すと言わんばかりの、殺気を帯びた
言葉だった。
その言葉に頷き、男の後をついて建物の中に入って行く。
建物の中は、まるでどこかの貴族の館の様な豪華さであった。
埃や汚れ等は一切無く、綺麗に掃除されているのが解る。床に敷か
れた絨毯もフカフカで、天井から吊り下げられているシャンデリア
1482
や装飾品は、ここが郊外町ヴェッキオの奥深くにある事を忘れさせ
る程であった。
それらを眺めながら歩いて行くと、かなり豪華な扉の前に連れてこ
られる。
﹁お頭、例の者達を連れてきました﹂
﹁⋮解った。入れていいぞ﹂
その声に扉を開ける男。その男に薦められるまま部屋の中に入って
いく。
その部屋は、甘い香りのする香が焚かれており、少し薄暗い雰囲気
であった。
床には真っ赤な絨毯が敷かれ、警護の兵が規律正しく両側に並んで
立っていた。
その中央の一番奥には、巨大なソファーに鎮座して、多数の裸に近
い美女を両側に侍らかしている、髭面の偉丈夫が葉巻をふかしなが
ら俺達を見て、ククッと笑う。
﹁⋮よく来たな。俺がバミューダ旅団の頭領、バルタザールだ﹂
上半身裸の筋肉の塊の様な偉丈夫の身体には無数の戦傷があり、数
多の戦場を潜り抜けてきた事が想像出来る。身長は座ってはいるが、
200cm近いであろう。
モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフ卿とは違う色の、冷徹な
瞳を俺達に向けていた。
空です。商人をしています。この者達は、僕の仲間で
その光は殺人者を越え、殺戮者の様な無慈悲な光を湛えていた。
﹁⋮僕は葵
す﹂
俺がそう言うと、きちんとお辞儀をする、マルガ、リーゼロッテ、
マルコの3人。
1483
俺の他は詳しく紹介しない事にした。マルガやリーゼロッテは男装
させているし、超美少女のマルガやリーゼロッテに興味を持たれた
ら、たまったものではないからだ。
﹁⋮お前達の事は、リスボン商会のギルゴマ支店長からの紹介状で
解っている。なんでも、少し前に行われた、ルチア王女の選定戦で
勝利をして、ルチア王女の専任商人になったらしいな﹂
﹁はい⋮その様な事も有りましたね﹂
﹁⋮その様な事⋮か。ククク、なかなか面白い事を言うな葵殿は﹂
そう言って口元を軽く上げ、楽しそうに笑っているバルタザール。
﹁それで葵殿は⋮どういった要件で、ここに来た?ギルゴマ支店長
と同じく、商売の話でもしに来たのか?ギルゴマ支店長には儲けさ
せて貰っているからな。葵殿もそうしてくれるのか?﹂
楽しそうに俺を見るバルタザール。
﹁⋮いえ、今回は商売の話ではありません。少し、バルタザールさ
んに聞きたい事があってここに来ました﹂
﹁⋮商売ではなく⋮聞きたい事?⋮どの様な事だ?﹂
少し流し目で俺を見るバルタザールは、指をトントンとさせながら
聞き返してくる。
﹁はい、僕の聞きたい事は⋮今この郊外町ヴェッキオで起きている、
集団人攫いの事なのです﹂
その言葉を聞いたバルタザールは、ピクッと眉を動かす。
﹁⋮集団人攫い?﹂
﹁はい、毎日沢山の人が、この郊外町ヴェッキオで攫われていると
思うのですが、バルタザールさんはご存じないのでしょうか?﹂
俺の直球の質問に、顎に手を当て、クククと笑いながら
1484
﹁集団人攫いね∼。この郊外町ヴェッキオでは、殺しや犯し、攫い
なんてものは、いつもの事だからな。どれがどれか解らねえな﹂
両側の美女を抱きながら高笑いをしているバルタザール。抱かれて
いる女達も楽しそうに微笑んでいた。
﹁では知らないと?⋮この郊外町ヴェッキオを支配している、バミ
ューダ旅団が知らないと言うのは、可笑しいのではありませんか?
⋮それとも、バミューダ旅団でも解らない組織に、この郊外町ヴェ
ッキオが侵されていると言う事なのでしょうか?⋮ソレを許してい
ると?﹂
男装をして、深々と帽子を被っているリーゼロッテが、辺りに涼や
かな声を響かせる。
そのリーゼロッテの言葉を聞いたバルタザールの表情が一瞬できつ
くなる。
俺は右手でリーゼロッテを制止して、バルタザールに向き直ると、
先程のきつい表情を緩め、楽しそうに
﹁⋮なかか言うじゃねえか。男装をしているがお前女だな?帽子を
深く被ってはいるが、かなりの器量持ちと見た。⋮いいねえ∼そそ
られる。気の強い女は特にな。⋮良い女は強い男に従うべきだと、
思わんかね葵殿よ?﹂
顎に手を当てて、クククと楽しそうに笑いながら俺を見るバルタザ
ールの瞳は、何か獲物を狩る光に包まれていた
﹁⋮ソレは僕には解り兼ねますが、この者が言った通り、バミュー
ダ旅団が知らない組織に、この郊外町ヴェッキオで好き勝手されて
いるのでしょうか?﹂
俺は強引に話を戻すと、一瞬で凍り付く様な瞳を俺に向けるバルタ
ザール。
1485
﹁⋮まあ、よそ者がこの郊外町ヴェッキオで、何かをしている事は
知っている⋮が、それは、この郊外町ヴェッキオを治めるこのバミ
ューダ旅団が考える事。葵殿には関係の無い話だな﹂
二の句を告げさせない様な、威圧感たっぷりのその言葉に、身体が
凍りつきそうになる。
﹁⋮そうですか、それはそうですね﹂
﹁⋮そういう事だ。まあ∼その件に関しては、バミューダ旅団は関
与していないとだけ言っておこう。他に何か⋮聞きたい事はあるか
?﹂
重みのある静かな声で語るバルタザール。
﹁いえ、他にはありません。ありがとうございました。⋮バルタザ
ールさんもお忙しいでしょうから、僕達はこの辺で失礼させて頂き
ます﹂
﹁そうか、次は商売の話でもしに来てくれ葵殿。無関税特権を持つ
葵殿との取引⋮楽しみしている﹂
﹁ええ⋮その時は是非。では失礼します﹂
俺達は挨拶をして、部屋から出ていく。そして、俺達の居なくなっ
た部屋に声が響く。
﹁これで良かったのか?﹂
そのバルタザールの言葉を聞いて、奥の柱の陰から、一人の青年が
姿を現す。
綺麗な金髪と、透き通る様な金色の瞳、色白の肌に、少しつり目の
知性を感じさせる甘い顔立ち。薄い唇は上品に閉じられている。年
の頃は20代前半、身長180cm位のスラリとした、その佇まい
は気品に満ちていた。その美青年が口を開く。
1486
﹁ええ、あれで十分ですバルタザール殿﹂
﹁⋮しかし、あいつがお前を破り、ルチア王女の専任商人になった
奴だとはな。あんな細人の様な小僧に負けるとは⋮訛っちまったん
じゃねえのかヒュアキントスよ?﹂
楽しそうに笑うバルタザールに、フッと微笑むヒュアキントスは
﹁⋮彼を侮っては行けませんバルタザール殿。⋮見た目の雰囲気だ
けで彼を判断すると、痛い目に合いますよ?﹂
﹁へえ⋮お前にそこまで言わせるんだなヒュアキントスよ。まあ⋮
天才的商才を持つお前を破る位なんだ。そりゃ∼力も有るんだろう
けどな!﹂
ガハハと笑っている楽しそうなバルタザールは、ワインの入ったグ
ラスを手に取り、一気に飲み干す。
﹁⋮それより、例の件⋮他の者に知られてきているんじゃねえのか
?⋮大丈夫か?﹂
﹁⋮だから僕が呼ばれているのですよ。それが答えです﹂
そう言って微笑むヒュアキントスを見て、楽しそうにクククと笑う
バルタザール。
﹁確かにな!⋮だが、お前はあの少年と縁がある様だな?⋮また選
定戦の様に負けるのか?﹂
ニヤニヤしながら言うバルタザールに、涼やかな感情の篭っていな
い瞳を向けるヒュアキントス。
﹁⋮さあどうでしょう?⋮ただ、僕も今度は全力です﹂
﹁⋮本気になった天才の反撃か⋮面白い!まるで物語みたいだな!
⋮その因縁、見させて貰うぞヒュアキントス!﹂
楽しそうに言うバルタザール。
1487
空!﹂
ヒュアキントスは葵たちの出て行った扉を見つめ、ギュッと拳に力
を入れる。
﹁⋮今度は僕が⋮すべてを奪う。⋮覚悟するんだね⋮葵
冷徹に染まった瞳を、歓喜に染めていくヒュアキントス。
俺達の知らない所で、その何かは確実に動き出して行くのであった。
1488
愚者の狂想曲 39 謎と疑問
バルタザールとの面会を済ませた俺達は、屋敷の外の出てきていた。
真夏の太陽の眩しさに少し目を細め、手を庇がわりにしながら館か
ら離れると、俺達に走り寄ってくる小さな者が居た。
﹁⋮良く無事に⋮出てこれたね空⋮﹂
それは薄汚れた服を身に纏った、少し驚きの表情を浮かべている、
汚い少年の様な少女ナディアであった。
﹁⋮まあ、少し話をしに行っただけだからね。それに、知り合いの
書状もあったから﹂
﹁⋮そう⋮なるほど⋮﹂
小さく呟く様に言ったナディアは、俺に少しきつい目を向けていた。
﹁所で、帰らずに俺の事待っててくれたんだねナディア。嬉しいよ﹂
﹁⋮だって⋮まだ今日の仕事の報酬を⋮貰ってない⋮﹂
俺の微笑みながらの言葉に、気に食わなさそうな顔をするナディア
は、ちっちゃな手を俺に差し出す。
俺はアイテムバッグから、約束の銅貨50枚を取り出しナディアに
渡すと、それを腰につけている麻の袋にしっかりと入れている。
﹁⋮明日からは、昼過ぎに今日会った食堂屋の路地で待ち合わせで
いいかな?﹂
﹁⋮解った﹂
コクッと頷いたナディアは、挨拶もせずにテテテと走って郊外町の
中に消えて行った。
それを苦笑いしながら、顔を見合わせて見送っている俺とマルガ。
1489
﹁⋮これからどうしますか葵さん?﹂
﹁そうだね⋮マリアネラさん達と合流するまで、予定通り情報を集
めながら町を捜索しようか﹂
俺の言葉に頷く一同は、郊外町を捜索すべく歩き出す。
昨日とは違い、マルガもリーゼロッテも男装をして、帽子を深く被
っているお陰で、人の視線も俺達には特に集まっていない様に感じ
る。
俺とマルコも、いつも行商に出る時の格好なので、パッと見は一介
の冒険者の一行にしか見えないのもその理由の1つなのかもしれな
い。
汚く寂れた郊外町を見ながら、町を探索していく。
マルガやルナには、警戒LVを上げて貰っている。何か人の悲鳴や、
襲われている気配を感じたならば、すぐに言って欲しいと打ち合わ
せしているのである。
マルガは半径200m、ルナは恐らくその倍近い範囲の気配をさぐ
れるので、悲鳴や戦闘、人が襲われていそうな気配を感じれば、す
ぐにその現場に駆けつける事が出来るだろう。
﹁しかし⋮ご主人様、本当に沢山の人が攫われているのでしょうか
?﹂
﹁うん?何故そう思うの?﹂
﹁だって⋮人を攫ったはずなのに、その人達は消えちゃったみたい
に⋮﹂
﹁そうだよね∼マルガ姉ちゃん。オイラもそう思うよ﹂
マルガとマルコが顔を見合わせて、ね∼と言い合いながら首を傾げ
ている。
1490
﹁マリアネラさんの情報は確かだと思いますから、余程用心深く人
を攫っているのでしょう。ここに住んでいるナディアさん達も、1
番怖い相手と言う位ですから﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。警戒しながら、町を捜索してみよ
う﹂
俺の言葉に頷くマルガにマルコ。
俺達は周囲を警戒しながら、郊外町ヴェッキオを捜索して行く。
時に歩いている郊外町に住人や、何かの作業をしている人に聞いて
はみるが、人攫いの事は知って入るが、皆が詳しくは知らないのが
現状だった。
そして、郊外町を捜索して3刻︵3時間︶位した時であった。
マルガの横をトテテと歩いていた白銀キツネの子供、甘えん坊のル
ナが歩みを止める。
そのちっちゃな耳をピクピクと動かし、何かの音を聞いている様で
あった。
それを見たマルガが、レアスキルの動物の心で意思の疎通をすると、
少し緊張した面持ちで俺を見る。
﹁⋮ご主人様!ルナが何かの悲鳴の様な声が聞こえたと言っていま
す!﹂
﹁それはどの辺なのマルガ?﹂
﹁私は何も感じませんが⋮えっと⋮ここから東に行った所らしいで
す!﹂
ルナとレアスキルの動物の心で意思の疎通をしているマルガが言う。
マルガが何も感じないという事は、最低ここより200m離れてい
ると言う事か⋮
﹁とりあえず、その場所に向かってみよう。皆武器を出して、装備
1491
しておいてね﹂
俺の言葉に頷くマルガにマルコは、アイテムバッグから武器を取り
出し装備する。
そして、ルナの後について、その気配を感じた場所まで走っていく。
先程の場所から350m位来た所で、数人の人が地面に倒れている
のが見えた。俺達はその倒れている人達の傍に近寄る。
﹁⋮皆さん⋮殺されていますね⋮﹂
そう言って、顔を歪めるマルガ。その言葉にウンウンと頷き、同じ
様に顔を歪めているマルコ。
﹁⋮恐らく⋮人攫いの現場にたまたま居合わせたのでしょう。口封
じの為に殺されたと見れますね﹂
リーゼロッテも少し目を細めながら、その殺された人達を見ていた。
﹁マルガ、何か気配を感じる?敵の気配とか、攫われた人達の気配
とか﹂
﹁⋮いえ、感じません。ルナも感じられないようです﹂
そう言いながら、可愛い耳をピクピクと動かしている、マルガとル
ナ。
ムウウ⋮先程の場所から、ここまで走ってくるのに、そう時間が経
っている訳じゃないんだけどな⋮
その短い時間に、この目撃者達を殺して、人を攫って行ったって事
か⋮
ひょっとしたら、まだこの辺に潜んでいるか、逃亡している最中か
もしれないけど、ここは沢山の人が住む郊外町の内部。
悲鳴や叫び声はその中でも際立って気配を感じるけど、気配を消し
ながら、恐らく気絶させられているであろう攫われた人達を運ぶ、
人攫い達の気配までは特定出来ないね⋮
1492
マルガやルナは広範囲の感知は出来るけど、俺や周辺警戒のパッシ
ブスキルを持つマルコの様に、詳しくは感知出来ない。沢山の人達
の気配に紛れているであろう人攫い達の気配を、特定は出来ない。
俺やマルコはソレが出来るが、有効範囲は30m位。
俺やマルコが気配を感じていないという事は、周囲30mには居な
いという事⋮
﹁⋮やはり、相手は人を攫う事に長けた集団ですわね葵さん。私達
が到着する間に、目撃者達を一刀のもとに殺し、そして、攫った人
を気絶させて気配を消し、攫って行ったのですから﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。辺りは戦闘の後がそれほどない。
一方的に人攫い達が事を成し遂げて行った事が解るしね﹂
俺の言葉に、辺りを見回して頷いているマルガにマルコ。
﹁⋮葵さんどうしますか?﹂
﹁そうだね⋮もうすぐマリアネラさん達との約束の時間だと思うか
ら、合流場所に向かおうか。⋮ここには⋮何も残されて居ないみた
いだしね﹂
人攫い達は当然の様に、この現場に何も情報を残しては居なかった。
ソレを見ても手際の良さが伺える。
﹁⋮じゃ、行こうか﹂
俺の言葉に静かに頷くマルガにマルコ。
俺達はその場を後にして、マリアネラ達との待ち合わせである、郊
外町ヴェッキオの東にあるジェラードが司祭を務める、ヴィンデミ
ア教の教会に向かっていた。
そして、教会の傍に来てみると、沢山の人々が教会の周りで、何か
を食べている。
1493
俺達はソレを眺めながら教会の中に入って行くと、マリアネラ達が
椅子に座り、ジェラードから紅茶を貰って飲んでいる所であった。
マリアネラは教会に入ってきた俺達に気が付き、ニコッと微笑む
﹁よう!葵!他の皆も!﹂
マリアネラ達に挨拶をする一同。
﹁教会の外に沢山の人がいましたが、あれはなんなのですか?﹂
﹁あれはこの教会に、施しの食べ物を貰いに来た人達です。先程、
今日の分の施しを終えた所なのですよ﹂
そう言いながら、俺達に紅茶を入れてくれるジェラード。
﹁さっきまでは、もっと沢山の人が居たんだけどね。今日の分の施
しが無くなったから、みんな何処かにいっちゃったみたいだけど﹂
紅茶を飲みながら言うマリアネラの言葉に頷くジェラード。
﹁⋮本当はヴィンデミア教を信仰する全ての人に、施しをしてあげ
たいのですが⋮予算にも限りがありますからね⋮﹂
そう言って寂しそうな顔をするジェラード。
﹁ジェラードさんは良く頑張ってられると思います!施しの食べ物
を貰っている人も、きっとジェラードさんに感謝してると思うので
す!﹂
﹁そうだよジェラードさん!他の人だって、今日は食べれなかった
けど、明日は食べれるかもしれないんだしさ!マルガ姉ちゃんが言
う通り、皆感謝してると思うよ!﹂
マルガとマルコの言葉を聞いて、優しい微笑みを浮かべるジェラー
ド。
マルガとマルコはマリアネラに頭を撫でられながら、照れくさそう
に微笑んでいた。
1494
﹁この子達の言う通りだよジェラード。あんたが気にする事じゃな
いよ﹂
﹁⋮ありがとうマリアネラ。それに、マルガさんにマルコさん﹂
嬉しそうにしているマルガとマルコを見て、何かを思い出したジェ
ラードは、上着のポケットから何かを取り出して、マルガとマルコ
の前に差し出した。
﹁あの⋮これは?﹂
﹁これは、ヴィンデミア教の神である、女神アストライアを模した
木彫りの像です。マリアネラからマルガさんとマルコさんが欲しが
っていると聞きましたので、私が作りました。これを、マルガさん
とマルコさんに差し上げます。これは紐で結べるようになってまし
てね⋮これをこうやって⋮﹂
そう言って2つの木彫りの女神像を紐で通し、ネックレスの様にす
るジェラードは、それをマルガとマルコの首に優しくつけていく。
﹁良く似あってますよマルガさんにマルコさん﹂
﹁ありがとです!ジェラードさん!﹂
﹁オイラもありがとう!ジェラードさん!﹂
﹁良かったね!マルガにマルコ!﹂
﹁﹁はい!マリアネラさん!﹂﹂
マリアネラの言葉に嬉しそうに声を揃えて返事をするマルガにマル
コは、首にかけて貰った女神アストライアの木彫りの像を互いに見
せ合って、キャキャとはしゃいでいた。
﹁すいませんねジェラードさん。大切な女神像を貰っちゃって良か
ったのですか?﹂
﹁良いのですよ葵さん。女神アストライアは慈悲深い神であります。
それに、心の真っ直ぐなマルガさんやマルコさんに持って貰えるの
1495
であれば、女神アストライアも喜ばれる事でしょう﹂
そう言うジェラードの優しい微笑みは、まるでどこかの美術館や聖
堂に飾られている絵の様に、慈悲に満ち溢れていた。
地球でも宗教のせいで沢山の人が死んだりしている。
冷静に考えれば、宗教の事で殺し合うなど、なんて悲しく無駄な事
だとすぐ解るのだが、それに盲目的にハマっている人達にはそれが
解らない。まるで命より、宗教の教えの方が重いかの様に⋮
だが、全ての宗教を信仰している人が、その様な事を思っている訳
ではない。
このジェラードの様に、人々の助けにその宗教を役立てている人も
確かに居る。
その心を感じて、きっとマルガヤマルコもその小さな心を動かされ
ているのだろう。
その気持ちを感じている様なマリアネラは、マルガとマルコの頭を
優しく撫でながら、俺に振り向く。
﹁所で葵。今日の捜索はどうだった?﹂
﹁ええ⋮その件なのですが⋮﹂
俺はマリアネラの問に、さっき見た事を伝える。マリアネラは眉間
にシワを寄せながら
﹁⋮そうかい、またやられちまったんだね。こっちは1つの集団を
撃退したけど、もう1つは葵達と同じ様に、攫われた後だったね﹂
﹁マリアネラさんのパーティーの追跡も逃れる様な者達もいるので
すね﹂
﹁⋮ここ最近の奴らは、LVの低い者を使っていないのかもしれな
いね。私達の事の力を知っている見たいで、やり方が上手く、巧妙
になっている気がするね﹂
腕組みをしながら、考えているマリアネラ。
1496
ここは身を隠す場所には事をかかない郊外町。
ひょっとしたら、上級者であるマリアネラ達の感知範囲外から、マ
リアネラ達の事を監視している奴らが居てもおかしくはない。
﹁奴らの情報が少ないのは、その手際の良さもあるけど、目撃者を
残さない事もあるんだよね。現場には情報も残さないし⋮﹂
少し呆れながら言うマリアネラ。
﹁⋮なるほど⋮他に何か情報は無いのですかマリアネラさん?﹂
﹁今の所は無いねリーゼロッテ。あんた達の方はどうだった?﹂
マリアネラの言葉に、リーゼロッテがギルゴマさん達と話した内容
を説明してくれる。
中堅の商会、リスボン商会の支店の長である情報通のギルゴマでさ
え、それは噂程度でしか認識していなかった事。
王都ラーゼンシュルト周辺で、沢山の攫ってきたと予想される奴隷
を、毎日大量に買って取引している様な奴隷商の噂はない等を、マ
リアネラに報告する。
﹁そうかい、あのリスボン商会の支店長でさえ、その情報は持って
いないんだね⋮それに、奴隷商の情報もないか⋮﹂
腕組みをしながら考えているマリアネラ。
﹁リスボン商会のギルゴマ様ですか⋮。葵さんはギルゴマ様と面識
が有るのですか?﹂
﹁葵さんはギルゴマさんの商売上での弟子なのですジェラードさん。
なので色々懇意に協力して頂いているのです﹂
リーゼロッテの説明に、少し驚いているマリアネラとジェラード。
1497
﹁ジェラードさんもギルゴマさんの事を知っているのですか?﹂
﹁はい。ギルゴマ様は、このヴィンデミア教の教会に寄付をしてく
れている方ですからね。リスボン商会の支店の長になられてからは、
度々この教会に寄付をしてくれているのですよ﹂
微笑みながら言うジェラード。
なるほど、リスボン商会はこの郊外町ヴェッキオでも商売をしてい
る。
この郊外町ヴェッキオを実効支配している、バルタザールとも商売
上での付き合いがあるみたいだし⋮
その郊外町で抵抗なく商売をする為の根回しとして、きっとこのヴ
ィンデミア教の教会に寄付をしているのであろう。ヴィンデミア教
はこの郊外町ヴェッキオでも、沢山の信者がいる。
それを見越しての⋮か。
﹁それから、この郊外町を支配している、バミューダ旅団の頭領、
バルタザールにも会ってきたよ﹂
﹁え!?この郊外町ヴェッキオの支配者のバルタザールとかい!?
⋮良く無事で帰って来れたね﹂
俺の言葉に、驚きながら呆れているマリアネラ。
﹁ギルゴマさんに紹介状を書いて貰いましたからね。葵さんはギル
ゴマさんの弟子であると同時に、ルチア王女様の専任商人でもある
のです。バルタザールさんも葵さんに対して、滅多なことは出来な
いでしょう﹂
﹁なるほど⋮最近ルチア王女様に、新しい専任商人がついたって話
は聞いていたけど⋮それが葵だったとはね⋮人は見かけによらない
ものだね∼﹂
俺をマジマジと見つめて感心しているマリアネラに、苦笑いをして
いる俺
1498
﹁⋮で、バルタザールに会って、何か情報は得られたのかい?﹂
﹁う∼ん⋮どうだろう?﹂
俺はバルタザールとの面会での事を話す。初対面であった事に加え
て、デリケートな話だっただけに、深くは突っ込めなかった事をマ
リアネラに告げる。
﹁⋮集団人攫いに関しては⋮バミューダ旅団は関わっていない⋮か。
本当なのかね?﹂
﹁どうでしょうか?その真意は解りませんが、バルタザールさんは
その人攫い達を﹃よそ者﹄と言っていました。それは、人攫いの集
団が、この郊外町に住む者の仕業じゃないと言う事を、表している
と思います。バミューダ旅団はこの郊外町を支配しています。何ら
かの情報を持っていたとしても、おかしくはありません﹂
リーゼロッテの説明に、ま∼ねと言って頷くマリアネラ。
﹁そう言えばマリアネラさん、そのバミューダ旅団なんですが、そ
の人攫い達に対して、何か対処をしているですか?﹂
﹁そうだね⋮バミューダ旅団の見回りは多く見かけるけど、まだ人
攫い達と戦闘をしたって話は聞かないね。死体を処理したりはして
いるみたいだけどね﹂
顎に手を当て思い出しながら言うマリアネラの言葉に、若干の違和
感を覚える俺。
ムウウ⋮これだけ沢山の人を攫われておいて、まだ人攫い達と戦闘
をしていないのか⋮
マフィアの様な組織は、自分の縄張りを守るのが当たり前である。
それは、自分たちの利益を守る事に繋がるからだ。
それなのに、よそ者の人攫い達を、血眼に探しまわるのでもなく、
戦闘もしないか⋮
1499
﹁まあ、私達でさえ、発見しにくい相手だからね。LVの低い奴の
多い見回りクラスの奴らに、発見出来ていないだけかもしれないけ
どさ﹂
﹁マリアネラのさんの言う事も解りますが⋮何か少し⋮ひっかかり
ますね葵さん﹂
﹁⋮そうだねリーゼロッテ。バルタザールはバミューダ旅団の関与
はないと言っていたけど、その真意は解らない。バミューダ旅団の
事はギルゴマさんに言って、少し商売の方から調べて貰おうか。特
に奴隷取引の件を中心に﹂
﹁⋮そうですね、それが良いかもしれませんね葵さん﹂
俺の言葉に頷いている、リーゼロッテとマリアネラ。マルガにマル
コも頷いている。
﹁それからマリアネラさん。この依頼の依頼主なんですけど、今回
は依頼主は明かされていないけど、マリアネラさんは依頼主の事を
知ってたりします?﹂
﹁いや⋮私も依頼主の事は聞かされていないんだ。⋮この依頼はね、
仕事を探している私達に、冒険者ギルド、王都ラーゼンシュルト支
店の長、アベラルド支店長から直に話を貰ったからね。私が仕事を
探して見つけて、依頼を受けた訳じゃないんだ。⋮それがどうかし
たのかい葵?﹂
俺の問に不思議そうな顔をしているマリアネラに、ギルゴマから指
摘された事を話す。
﹁⋮なるほどね。確かに解りきっている人攫いの目的が依頼になる
のはおかしな話だね﹂
﹁そうですね。ギルゴマさんの言う通り、通常であるならば、誰が
利益を上げているのか、その商売のルートを調べるのが普通ですわ。
それに大金を支払う意味とは⋮何なのでしょう?﹂
1500
リーゼロッテの言葉に、再度腕組みをして考えているマリアネラ。
その時、同じ様にう∼んと唸りながら、可愛い小首を傾げていたマ
ルガがボソッと呟く様に囁く。
﹁ひょっとして⋮依頼主さんは⋮人攫い達が攫った人達を、奴隷商
に売ってはいないと思っているのでしょうか?﹂
口に人差し指を当てながら、小さく呟いたマルガの言葉に、皆が一
斉に振り向く。
﹁はう!?皆さんどうされました!?わ⋮私⋮変な事言いましたで
しょうか!?﹂
皆の驚きの視線に、アワアワマルガになっているマルガは、アタフ
タしている。
﹁いや!違うよマルガ!⋮そうか⋮それは考えれば⋮﹂
﹁そうですわね葵さん⋮確かにそう考えれば、この依頼の﹃人攫い
の目的を調べる﹄事は、不思議じゃなくなりますね﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。そう考えれば辻褄が合うね﹂
顔を見合わせて頷いているリーゼロッテとマリアネラ。
マルガの言う通り、そう考えれば、辻褄が合う。
だが⋮それはそれで問題がある。
その問題は、依頼主は人攫いの目的が、攫った人達を奴隷商に売っ
て利益を上げる事では無いと知っていた事になる。
それはつまり、依頼主は人攫いの集団の事を、ある程度知っている
と言う事に繋がってくる。
情報通のギルゴマさんですら知らなかった、その集団の事を知って
いる人物⋮
依頼主は一体⋮
俺がその様な事を考えていると、紅茶を飲みながらマリアネラが、
1501
﹁とりあえず、葵達の方は、引き続き攫われた人達の調査を頼むよ。
特に荷馬車関係だね。人攫い達の目的や、依頼主の事は解らないけ
ど、実際に攫われた人は沢山居るんだ。それが、霧の様に消えるな
んて事は、余程高価な転移系のマジックアイテムを、毎日複数使わ
なければ出来ない事。そんな超莫大な費用を使って、何の取り柄も
力もない、この郊外町の人々を攫うのに、使うはずがないからね﹂
﹁マリアネラさんの言う通りですわね。攫われた人がこの郊外町に
居るのかの調査も必要ですが、恐らくどこかに連れ去られていると
見た方が無難ですしね。⋮まだ、色々と解らない事はありますが、
まずは、依頼の﹃人攫いの目的﹄を調べる事が、私達の仕事でもあ
りますからね﹂
マリアネラとリーゼロッテの言葉に頷く一同。
そんな俺達を見て、優しい微笑みを浮かべているジェラードが
﹁皆さん、仕事熱心なのは良い事ですが、余り無理をしないでくだ
さいね?⋮折角こうやって、ここで出会えたのです。それはきっと、
女神アストライアのお導きだと私は思っています。また、こうやっ
て、紅茶を飲みながら、楽しい話でもしたいですしね﹂
﹁解ってるってジェラード!心配してくれるのは嬉しいけど、私達
だって昔の私達じゃないんだ。葵たちだって、良く考えて行動をし
てくれてるみたいだしさ。そうそう、そんな事にはならないよ﹂
﹁⋮本当ですか?⋮マリアネラが言うと、どこか信憑性に欠ける気
がするのですが?﹂
﹁な⋮何言ってるんだよジェラード!﹂
顔を赤らめながら少しプリプリと怒っているマリアネラを見て、楽
しそうな表情を浮かべるジェラード。マルガやマルコも楽しそうに
2人を見つめていた。
﹁私は少し出かける用事がありますので、これで失礼させて貰いま
1502
すね﹂
そのジェラードの言葉に、少し心配そうなマリアネラが
﹁出かけるのかい?⋮なんなら、私達がその場所まで護衛してやろ
うか?﹂
﹁⋮大丈夫ですよマリアネラ。出かけるといっても、すぐ傍ですか
ら﹂
優しくマリアネラの頭を撫でているジェラードの言葉に、少し顔を
赤らめているマリアネラ。
﹁では、皆さん失礼しますね﹂
そう言って、教会を出ていくジェラード。
﹁じゃ、そろそろ夕食になるので、僕達も帰りますね﹂
﹁ああ!お疲れさん!明日も宜しくお願いするよ葵!﹂
俺達はマリアネラ達と挨拶を交わして、教会の外に出ると、真夏の
太陽は大きく傾きかけていて、その眩しい光を朱色に染めて、美し
い夕焼けを見せてくれている。
俺達はその美しい夕焼けを見ながら、グリモワール学院内の我が家
に戻ろうと、王都ラーゼンシュルトシュルトに向かって歩き出す。
そして、いつもの様に郊外町の入り口に来た所で、けたたましい声
に皆が振り向く。
﹁ちくしょう!離しやがれ!﹂
鎧を着た数名の男に、羽交い締めにされている男が、悲壮な叫び声
を上げる。
﹁ええい!うるさい!黙れ下郎が!﹂
そう言って叫ぶ鎧を着た男は、羽交い締めにされている男の腹部を
1503
殴りつける。
殴られた男は気絶したのか、グタッとなって、鎧を着た男達に両方
から抱えられている。
その光景を見たマルガとマルコは、少し顔を強張らせていた。
﹁ご主人様⋮あれは何をしているのですか?﹂
﹁あれは、罪を犯した者を、ここより2日位離れた所にある監獄、
バスティーユ大監獄に移送しようとしてるんじゃないかな?あの鎧
を着た人達は、フィンラルディア王国の守備隊だしね﹂
﹁悪い事をした人達を⋮牢屋にですか?﹂
可愛い首を傾げて居るマルガの頭を優しく撫でながら、説明をする。
この国で法を犯した者は、現行犯以外は裁判で裁かれる。その裁判
で有罪になった者は、罰を受ける為に監獄に送られるのだ。
そこで、処刑、労役、監禁、様々な事が法に則って行われている。
現行犯で捕まって、裁判をせずに刑の決まっている者達も、同じ様
に送られている。
処刑などは、捕まった時にされるのではなく、こう言った監獄で行
われるのが、フィンラルディア王国の慣習となっているのである。
俺の説明を聞いて、なるほどと頷いているマルガにマルコ。
﹁⋮恐らく野盗行為でもしたのでしょう。あの捕まっている男の人
の皮の鎧には、ラコニア南部三国連合の正規軍の焼印がありました
から﹂
﹁なるほど⋮そうかもしれないね﹂
リーゼロッテの言葉に頷く俺
﹁⋮ご主人様、前も説明してくれましたけど、本当にラコニア南部
三国連合の正規軍の残兵や敗戦兵は多いですね∼﹂
﹁だよねマルガ姉ちゃん!オイラ達が港町パージロレンツォから王
1504
都ラーゼンシュルトに来るだけでも、結構野盗に襲われたもんね。
その殆どが、ラコニア南部三国連合の正規軍の残兵や敗戦兵だった
し﹂
マルガとマルコは顔を見合わせて、ね∼と言い合っている。
﹁まあ⋮ラコニア南部三国連合の正規軍が、反乱軍ドレッティーズ
ノートとの戦で、敗戦続きらしいからね。大量の兵士がいろんな国
に流れて、問題になっているらしいし﹂
﹁そんなに⋮その反乱軍のドレッティーズノートと言うのは強いの
ですか?﹂
﹁みたいだね。なんでも⋮ここ2年位の間に、そのリーダーが変わ
ったらしいんだ。それからの反乱軍
ドレッティーズノートは負け知らずらしいよ?余程凄いリーダーが
指揮をとっているんだろうね﹂
俺の説明を聞いたマルガとマルコは、感心しながら凄いね∼と頷い
ている。
﹁ま⋮ラコニア南部三国連合の正規軍や反乱軍ドレッティーズノー
トの話は兎も角、バスティーユ大監獄に送られたら、あの男は処刑
されるね。あくまで、野盗行為をして捕まっていた場合だけど﹂
﹁⋮何か⋮怖い場所なのですね⋮バスティーユ大監獄と言うのは⋮﹂
マルガは少し身震いをしながら、金色の毛並みの良い尻尾をショボ
ンとすぼめていた。
﹁まあ∼監獄だからね。しかも、バスティーユ大監獄は普通の監獄
とは違って、色々な大罪人も牢屋に入れているみたいだしね。その
守備は物凄く厳しくて、ヴァレンティーノ宮殿の警護に引けを取ら
ないと言われている位の、要塞の様な監獄らしいからね。オレも実
際に見た訳じゃないけど⋮あの馬車を見たら解るんじゃないかな?﹂
俺はそう告げると1台の馬車を指さす。その指のさされた方を振り
1505
向くマルガにマルコ。
そこには1台の黒塗りの箱馬車が止まっていた。
その荷台の部分には、フィンラルディア王国の紋章がしてあって、
馬車の四方にはフィンラルディア王国の旗を高らかに掲げていた。
ストーンカ2匹に引かれているその馬車は、ヒュアキントスから奪
った鋼鉄馬車と同じような作りをしており、その姿はまるで装甲車
の様な物々しさがあった。
﹁⋮凄く硬そうで丈夫そうな鋼鉄馬車なのです∼。私達の鋼鉄馬車
より、丈夫そうに見えるですよご主人様∼﹂
﹁だよね!マルガ姉ちゃん!あんなに丈夫そうな鋼鉄馬車に、重た
いものを引けて、丈夫なストーンカ2匹で引っ張るなんて⋮﹂
マルガとマルコは少し呆れたような感嘆の声を上げていた。
﹁マルガとマルコがそう思うのは無理もないかもね。あの鋼鉄馬車
は罪人を乗せる馬車だから、物凄く丈夫に作られているらしいよ。
俺達の鋼鉄馬車も丈夫だけど、あの黒塗りの鋼鉄馬車、通称﹃監獄
馬車﹄の丈夫さにはとても敵わないよ﹂
﹁⋮なぜその様に、丈夫に作られているのですか?﹂
﹁それは、罪人の仲間たちが、移送中に襲ってこないとも限らない
からですわマルガさん。戦闘になった時に、武器での攻撃や魔法で
の攻撃をしのげる強さがないと、すぐに壊れて罪人が逃げちゃいま
すからね。そうならない様に、窓も一切ない、魔法で強化された鉄
の箱の様な作りをしているのですよ監獄馬車は﹂
俺とリーゼロッテの説明を聞いて、なるほど∼と頷いているマルガ
にマルコ。
﹁ラコニア南部三国連合の正規軍や反乱軍ドレッティーズノートと
の闘いが激化して、流れこんできた残兵や敗戦兵が法を犯して捕ま
1506
って、バスティーユ大監獄に送られる事が増えているらしいから、
守備隊も大変だろうね﹂
俺の苦笑いの言葉に、ウンウンと頷くマルガにマルコ。
﹁俺達もあの監獄馬車に乗らないで済む様に、法を守って生活をし
なくちゃね﹂
﹁そうですわね葵さん。注意しましょうね?﹂
﹁ふへ!?俺!?俺は⋮大丈夫だと思うよリーゼロッテ?多分⋮﹂
﹁⋮まあ、そうならない為に、私達が葵さんの傍に居て、しっかり
と力になりますわ]
﹁⋮宜しくお願いします⋮﹂
俺の苦笑いの言葉に、アハハと笑っているマルガとマルコ。リーゼ
ロッテも優しく微笑みかけてくれている。俺達はそんな事で笑い合
いながら、宿舎に戻っていくのであった。
翌日、俺達は朝刻中︵午前中︶から、郊外町の捜索に乗り出してい
た。
郊外町の入り口に着た俺達は、まず小さな協力者と合う為に、大街
道に面した食堂屋の路地に向かう。
そして、路地に入った俺達を、いつもの気に食わなさそうな顔をし
た、汚い少年の様な少女、ナディアが迎えてくれる。
﹁やあナディア、今日も約束通りきてくれたんだね﹂
﹁⋮それが仕事⋮当たり前⋮﹂
そう言ってプイッとソッポを向くナディアに、顔を見合わせて苦笑
1507
いをしている俺とマルガ。
﹁⋮それは良い心がけですわねナディアさん。所で、人攫い達につ
いて、何か解った事や、気がついた事、知っている事はありません
か?﹂
リーゼロッテがニコッ微笑みながら言うと、気に食わなさそうな顔
をしたナディアが
﹁⋮少し⋮解る事もある⋮だからそれを⋮今日教える﹂
﹁何?その解る事って言うのは?﹂
そのナディアの言葉が気になった俺がナディアの傍に近寄った時で
あった。
後ろのゴミ箱が勢い良く倒れ、それと同じ様に、複数の小さな者が
こちらに転がってきた。
﹁イタタ!ちょっとヤン!押さないでって言ったでしょ!?﹂
﹁だって⋮あの男の人が、ナディアに近寄ろうとしたから、心配に
なって⋮﹂
﹁イテテ⋮とりあえず、ヤンもコティーも落ち着いてよ!﹂
﹁貴方だって落ち着いてないじゃない!トビには言われたくないわ
よ!﹂
俺達の前に転がってきた、汚い格好をした少女1人と少年2人は、
ギャーギャーと言い合いを始める。
それを見たナディアは、軽く溜め息を吐いて、その3人の少年少女
の前に立ち、可愛い手を腰に添える。
﹁何故⋮出てきちゃったの?⋮あそこで黙って⋮見ている約束だっ
たのに⋮﹂
﹁だって⋮私達心配だったんだもん。ナディアは力は強いし用心深
いけど、それだけじゃ⋮﹂
1508
﹁そうだよ!コティーの言う通り、あんな仕事で、1日銅貨50枚
も貰えるなんて、危ないと思うしさ!﹂
﹁大人は汚い奴ばっかりなんだ!騙されちゃダメだよ!﹂
3人の汚い少年少女、コティー、トビ、ヤンが、心配そうにナディ
アを見つめていた。
﹁⋮大丈夫。皆が心配する事はないよ⋮この人達は大人だけど⋮今
までの大人とは⋮少し違う感じがするから⋮﹂
そのナディアの言葉を聞いたコティー、トビ、ヤンが、懐疑心の塊
の様な瞳を俺に向ける。
﹁ナ⋮ナディア、とりあえず、その子達は誰なの?﹂
﹁⋮この子達は⋮私の仲間のコティー、トビ、ヤン⋮﹂
そう言って軽く聞き流してしまいそうな紹介をするナディア。
そう言えば⋮3人の仲間が居るってナディアが言っていたね⋮この
3人がそうなのか⋮
俺がそんな感じで、3人を見ていると、コティーが俺の前に立ち
﹁ナディアは力が強いんだから、変な事したら投げ飛ばされちゃう
んだからね!﹂
少し頬を膨らませながら言うコティーと言う少女。
うん、もう投げ飛ばされちゃったけどね!べ⋮別に、オラが悪い事
したわけじゃないけど!
そんな苦笑いをしている俺を見かねてか、リーゼロッテがコティー
の傍に近寄り膝を折る。
﹁大丈夫ですよコティーさん。葵さんはそんな事をする人じゃあり
ませんわ。私が保証します﹂
そう言って、コティーのちっちゃな手を取り、優しく微笑むリーゼ
1509
ロッテ。
そのリーゼロッテの微笑みを見たコティーは、少し顔を赤らめて、
ポーっと言った感じでリーゼロッテを見つめていた。
あれだね⋮女神と見紛うリーゼロッテさんスマイルにやられちゃっ
てるね!
まあ∼あの女神の微笑みを見たら、何故か癒されちゃんだよね⋮
あんな小さな女の子のハートまで射止めちゃうなんて⋮リーゼロッ
テさん恐ろしす!
﹁と⋮とりあえず、どの様な経緯で仕事を頼んだか説明するよ﹂
俺は苦笑いをしながら、3人の少年少女達に説明を始める。
初めは懐疑心の塊の様な瞳をしていたコティー、トビ、ヤンの3人
も、次第にその色を消していく。
﹁⋮あのジェラード神父様の知り合いなんだ⋮それと、あのマリア
ネラさんとも⋮﹂
﹁うん、もともとこの依頼も、マリアネラさんの応援で受けた依頼
なんだ。コティーはジェラードさんも、マリアネラさんも知ってる
の?﹂
﹁⋮うん、食べ物がなくて、お腹が空いてどうしようも無い時に、
ジェラード神父は食べ物をこっそり分けてくれたりしてくれる、優
しい人だもん。それに、マリアネラさんには、昔襲われそうになっ
たのを助けて貰ったの⋮﹂
そう言って少し嬉しそうな顔をするコティー。トビとヤンも、俺達
への疑いを消してくれた様な顔をしていた。
まあ⋮ナディアだけは、まだ気に食わない顔をして、プイッとソッ
ポを向いていたけど。
﹁解ってくれて良かったよ。仕事の内容は解ってくれたかな?﹂
1510
俺の言葉に素直に頷いている、コティー、トビ、ヤンの3人。
﹁それで、その人攫いの情報があるなら、教えて欲しいんだけど⋮
ナディアは何かしってるって言ってたね?どんな事なの?﹂
俺の言葉に、何故か気に食わなさそうな顔をしているナディアは、
渋々と言った感じでそのちっちゃな口を開く。
﹁⋮人攫いの情報かどうかは解らない⋮でも、人攫い達は⋮大体同
じ所で⋮人を攫ってる⋮﹂
ナディアの言葉に顔を見合せる、俺とリーゼロッテ。
﹁と言うことは、人攫い達は同じ場所で、日や時間を変えて、同じ
場所で人を攫っているって事!?﹂
﹁⋮うん、空の言う通り⋮。だから私達は⋮一度でも人が攫われた
場所には⋮近寄らない様にしてるの﹂
ナディアの言葉に、ウンウンと頷いているコティー、トビ、ヤン。
﹁ナディアさんその攫われている場所というのには、何か共通点の
様なものはありますか?﹂
リーゼロッテの言葉に首を傾げながら、う∼んと考えているナディ
ア。
その話を聞いていたコティーが、何かに気がついた様に口を開く。
﹁そう言えば⋮宿屋や娼館⋮酒のある食堂屋に繋がっている通りで
⋮人が攫われているかも?﹂
なんとなくと言った感じのコティーが説明をしてくれる。
﹁それは、この郊外町の人が多く利用する所だよね?﹂
﹁ううん、違うよ?この町の人は皆お金がないから、そんな所に行
く人は大体、新しくこの町に来た人か、この町で安く過ごしたいと
1511
言う、他の町の人や旅の人が多いかも?﹂
首を傾げながら、トビが説明してくれた。
﹁⋮もしかして、人攫いの集団は、この町に来た新しい人達を狙っ
て攫って居るのかも知れませんね葵さん﹂
﹁⋮この郊外町ヴェッキオに新しく来た人を狙ってか⋮。その理由
はなんだろうね?﹂
﹁それは解りませんわ葵さん。ですが、何かの意味は有るのかも知
れませんね﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。⋮とりあえず、その人の攫われて、
ナディア達が近寄らない場所や路地を、この地図に全て書き込んで
くれない?﹂
俺はマリアネラから貰っていた、この郊外町ヴェッキオの地図を見
せる。
その地図に、自分たちが近寄らない、危険だと思う場所に印をつけ
ていくナディア達。
暫くキャアキャアと騒ぎながら、地図に書き込んでいくナディアを
含め4人の少年少女であったが、全てを書き終えた様で、その声も
静かになっていく。
その書き込まれた場所を見て、リーゼロッテが顎に手を当てながら
﹁⋮確かに⋮旅の冒険者や商人、そして、この町に来たばかりの人
が行きそうな通りに繋がる路地に、印が集中している様に感じます
ね﹂
﹁⋮そうだねリーゼロッテ。⋮本当に⋮人攫いの集団は、新しい人
を中心に攫っているのかも?﹂
﹁でも⋮ご主人様、その理由は何なのでしょうね﹂
﹁⋮解らない。今日、マリアネラさん達と合流する時に、この地図
を見せて、話をしてみよう。何か解るかもしれないしさ﹂
1512
俺の言葉に頷く一同。そんな中で、俺にちっちゃな手が差し出せれ
る。
俺がそれに気がつくと、やっぱり気に食わなさそうな顔で、俺を見
つめているナディアの顔が見える。
﹁⋮報酬だよね?﹂
﹁⋮うん⋮﹂
俺は苦笑いをしながら、アイテムバッグからどうか50枚を取り出
しナディアに手渡すと、腰につけた麻袋にしっかりと入れるナディ
ア。
﹁色々と解らない事が多いけど、とりあえず時間までまた町を捜索
しよう。特に荷馬車や檻馬車に人や奴隷が積まれている時は注意し
よう﹂
俺達はナディア達に挨拶をして別れ、再度郊外町ヴェッキオの捜索
に向かうのであった。
1513
愚者の狂想曲 40 人攫いとの接触
ナディア達と別れた俺達は、郊外町ヴェッキオの捜索をしている。
相変わらずの薄汚れた、不衛生な街並みや人々を眺めながら、皆が
それぞれ今得ている情報を整理している様な面持ちをしていた。
沢山の人々を攫っている目的は何なのか?
攫われた人々はどこに居るのか?どうやって連れ去っているのか?
人攫いの集団の事を知っていそうな、依頼主は誰なのか?何故ソレ
を調べているのか?
そして⋮この件で⋮誰が利益を上げているのか⋮
皆口には出さないが、きっと俺と同じ様な事を考えているのであろ
うと、雰囲気がソレを物語っていた。
﹁ご主人様∼。連れ去られた人達は、沢山の荷馬車や檻馬車に分け
られて、何処かに連れ去られている可能性もあるのですよね?﹂
﹁そうだね、マルガの言う通りだね。一度に沢山の人々を動かすの
は、皆の注意を引くからしていないのかもね﹂
﹁⋮このヴェッキオにも、奴隷商は数多くあります。その奴隷商に
分けて奴隷を売っていたり、攫った人を、目立たない様な人数で運
び出しているのかもしれませんしね﹂
﹁でもさ⋮別々に売られていたり、運ばれていたりしてもさ、元を
たどれば同じ所に行くと思うから、やっぱり噂は立っちゃうと、オ
イラは思うんだけど⋮﹂
マルコの腕組みをしながらの言葉に、頷いている一同。
確かにマルコの言う通り、別々に売られていたり運ばれていたとし
ても、出元は同じなのだからそこで噂が立つ。
1514
更に解り難く、出元も複数に分けたとしても、奴隷商に売る量や運
び出す馬車の数は、攫った人達の分多くなるから、最近奴隷取引が
活発だとか、少ない奴隷を乗せた馬車を沢山見かける等の噂は立つ。
どの様に工作をしても、人口30万人強を誇るこの郊外町ヴェッキ
オの人々の目を、欺く事は出来ないであろう。
だが、人攫いの集団は、どの様な方法かは解らないが、皆の目を欺
いて、ソレを実行している。
もし、何かの噂が立っていれば、この郊外町とも取引のある、情報
通のあのギルゴマの耳の入っていないはずはない。
しかし、その情報通のギルゴマでさえ、噂程度でしか認識をしてい
なかった⋮
﹁とりあえず、ナディアさん達からの新しい情報もありますから、
人攫い達が人を攫っている場所を中心に、捜索してみましょう﹂
考え込んでいた俺の肩にそっと手を置き、優しく微笑みかけてくれ
るリーゼロッテ。
﹁⋮そうだね。リーゼロッテの言う通り、ナディア達から教えて貰
った場所を中心に捜索しようか﹂
俺の言葉に頷く一同は、ナディア達が教えてくれた、人攫い達が良
く人を攫っていると言う場所を中心に捜索を始める。
マルガやルナには警戒LVを上げて貰っている。
マルガとルナは、そのちっちゃな耳をプクピクと動かし、辺りの音
を注意深く探ってくれている。
マルガの足元を歩くルナは、まるでマルガの親衛隊の様にキリッと
言った感じで得意げに歩いていた。
﹁ご主人様∼。ここにも人攫い達はいない様ですね∼。ルナも特に
1515
それっぽい気配は感じないと言っているのです∼﹂
﹁みたいだね。⋮別の場所を捜索してみようか﹂
俺の言葉に、ヴェッキオの地図を広げてくれるリーゼロッテ。
皆でその地図を見ながら、印のつけられた場所を中心に捜索をして
行く。
結構な時間が経って、今日の捜索の場所も、後1箇所位見て回れる
位にまでになっていた。
今日も何も情報が得られなかった事に、若干の悔しさを感じながら、
地図を覗きこむ。
﹁⋮今日はもう時間もないから、後1箇所見て回ったら、教会でマ
リアネラさん達と合流して報告をしよう﹂
﹁では、いつもの教会に程近い、この場所を捜索してみてはどうで
しょうか葵さん?﹂
そう言って地図を指さすリーゼロッテ。
その場所はジェラードの教会から程近い場所にある十字路だった。
十字路を右に行けば娼館があり、北に行けば旅人の憩いの場である
酒場街がある。
酒を飲んだ冒険者や旅人達が、酔に任せて女を買いに娼館に向かう
のに良く通るであろうと伺える場所だ。
理由は解らないが、人攫い達はこの郊外町に新しく来た人を中心に
攫っている可能性もある。
その予想が正しいなら、この十字路は人攫い達の格好の場所だとも
言える。
﹁そうだね。この十字路なら教会にも近いしいいね。今日はこの十
字路を最後に捜索して、いつもの教会に向かおうか﹂
俺の言葉に頷く一同は十字路に向かう。
その途中も道行く荷馬車に気を配りながら、十字路にさしかかろう
1516
とした時に、警戒LVを上げていたマルガが声高に叫ぶ。
﹁ご主人様!十字路の方から、微かな人の悲鳴が聞こえます!﹂
﹁解った!皆武器を装備して!十字路に急ぐよ!﹂
俺達はそれぞれに装備を整え、全力で十字路に向かって走る。
そして、十字路に入った時、数人の男が人を攫おうと襲いかかろう
としていた所であった。
﹁その人達を離すのです!﹂
威勢よく言い放ったマルガの言葉に、人攫い達がこちらに振り向く。
その一瞬の隙を突いて、人攫いに捕まっていた一人の女性が、こち
らに向かって駈け出した。
当然、ソレを見逃すはずのない人攫いは、瞬時に間合いを詰めて、
短剣を振りかぶり女性に襲いかかる。
﹃ギャリリリン!﹄
火花を散らしながら、金属が激しく撃ち合う音が十字路に響き渡る。
ソレは人攫いの短剣での一撃を、俺の名剣フラガラッハで受け止め
た音であった。
俺と人攫いが鍔迫り合いをしているのを見て、俺の背中に回り込み
ギュッと俺の背中にしがみつく女性。余程恐怖を感じているのか、
震えながら余りに強く俺に抱きつく女性に、動きを鈍らせられる。
﹁マルガ!リーゼロッテ!マルコ!お願い!﹂
俺の叫びに、跳躍して俺の所に来るマルガにマルコ。
﹁やあああああ!﹂
﹁たあああああ!﹂
マルガにマルコは気合の声を上げながら、俺と鍔迫り合いをしてい
る人攫いめがけて、大熊猫の双爪と魔法銀のクリスで斬りつける。
1517
それを跳躍してすんでで躱す人攫いの男。しかし着地地点を予測し
た、リーゼロッテの召喚武器、2体の人形、ローズマリーとブラッ
ディーマリーが、隠し腕の双剣で人攫いの男に襲いかかる。
﹃ギャリン!ギャギン!﹄
激しい音をさせて、ローズマリーとブラッディーマリーの隠し腕の
双剣は弾かれた。
それは他の人攫いの男達が、ローズマリーとブラッディーマリーの
双剣を、弾き飛ばした音であった。
俺達と人攫いの男達は少し距離を取り身構え様子を伺っている。
﹁皆隊列を組んで!﹂
俺の言葉に、いつもの隊列を組む俺達。
﹁もう怖がる事はありませんから、葵さんの背中から離れて下さい。
じゃないと戦えませんから﹂
リーゼロッテは震えながら俺にしがみつく女性に優しく語りかける。
そのリーゼロッテの優しい微笑みと声に我を取り戻した女性は、俺
の背中から両手を離す。
そして、リーゼロッテは女性を最後列である自分の後ろに回す。
﹁貴方達の目的は何なのですか!人を攫って⋮一体どうしようと言
うのですか!﹂
マルガは大熊猫の双爪を構えながら、人攫いの男達に叫ぶが、その
答えは返っては来なかった。
﹁当然素直に教えてくれるはずはありませんわね。⋮葵さんお願い
します﹂
俺の後ろからのリーゼロッテの言葉に、俺は人攫いの男達を霊視す
る。
1518
のハイ
﹁LVの高い順から⋮LV60ソリッドファイター、LV54、L
V53のマジックスカウトが2人、そして最後はLV50
プリーストが1人の計4人!﹂
俺の霊視をした敵の情報を聞いた、マルガ、リーゼロッテ、マルコ
の表情が強張る。
俺達の平均LVは約33。中級者と言った所だ。
いかに港町パージロレンツォで連携の特訓をして、ラフィアスの廻
廊でLVを上げたと言っても、この人攫い達とまともに集団戦を行
うのには無理がある。
俺がどうしようか思案していた時、人攫いの集団が一斉に跳躍を始
める。
俺達はソレに身構え、攻撃に備えていると、予想もしていなかった
所から呻き声が上がる。
﹁ぐふうう⋮﹂
僅かな悲鳴に近い声を上げて、人攫い達の刃にかかる、郊外町の住
人。
そこには人攫い達の狂刃に掛かって、一刀のもとに斬り殺された、
5人の男女の死体が転がっていた。
夥しい血を流し、絶命している郊外町の住人を見て、ギュッと唇を
噛むマルガとマルコ。
﹁な⋮なんて酷い事を!﹂
﹁何の罪もない人を⋮殺しちゃうなんて!﹂
マルガにマルコがその瞳に怒りの炎を燃やしている。その中で、冷
静にソレを見ていたリーゼロッテが静かに口を開く
﹁⋮不味いですね葵さん。この人攫い達は、かなり訓練されていま
1519
す。私達よりLVも高いです。恐らく集団戦で戦う事も訓練されて
いる様に見えます﹂
リーゼロッテは表情をきつくしながら言う。
リーゼロッテの言う通りだ。
俺達より先に郊外町の住人を殺したのは、目撃者を確実に殺す為で
あろう。俺達と戦闘が始まれば、その間に目撃者に逃げられるかも
しれない。
俺達の戦闘の構えから大体の戦闘LVを判断し、自分達の方が上で
あると一瞬で判断して、先に殺したのだ。
その判断や、一瞬でソレを行動に移せるのは、常に訓練をして、パ
ーティーのリーダーが統率している証拠⋮
﹁⋮集合場所の教会まで後退戦をする!こっちには女性も居る。守
りながら戦うのは無理がありすぎる!教会まで逃げるよ皆!﹂
俺の言葉に、敵を見ながら教会に向かって走りだす俺達。
先頭は女性の手を引きながら、リーゼロッテが走って行く。ソレを
守る様にして、俺達も走りだした。
当然、人攫いのパーティーが黙って逃走を許してくれるはずは無か
った。
瞬く間に間合いを詰めて、襲い掛かってくる人攫いのパーティー。
その内の1人が、先頭を走るリーゼロッテ目掛けてロングソードを
振り下ろす。
﹁そうはさせません!エアムーブ!﹂
そう叫んだマルガの身体が、黄緑色の風の様なものを纏う。
風の移動強化魔法のエアムーブの効果により、気戦術クラスの素早
さでリーゼロッテに振り下ろされているロングソードを、大熊猫の
双爪で弾き返すマルガ。激しい金属音をさせ、火花を散らしている。
マルガと鍔迫り合いをしている人攫いの男に、黒金のスローイング
1520
ダガーを投擲するマルコ。
その投擲を他の男が短剣で弾き、そのままマルコに斬りかかる。
﹁俺の事も忘れないで欲しいね!﹂
俺はそう叫びながら、マルコに斬りかかろうとする男に、名剣フラ
ガラッハを振り下ろす。
それに気がついた人攫いの男は、マルコを蹴り飛ばし、後方に跳躍
して躱す。
俺はマルコを起こし、体制を整えさせる。
﹁マルコ大丈夫!?﹂
﹁う⋮うん!腹を蹴られただけだからなんとか⋮﹂
少しむせているマルコは魔法銀のクリスの切っ先を、人攫いのパー
ティーに向けて身構え直す。
それを見て、少し気に食わなさそうな目をしていた、人攫いの男の
1人の手の平が光りだす。
﹁ファイアーボール!!﹂
勢い良く放たれた火属性の魔法は、鍔迫り合いをしているマルガに
向かって一直線に飛んでいく。
動きの取れないマルガはそれに気がついて、顔を歪ませるが、ファ
イアーボールがマルガを直撃する事は無かった。
﹁ウインドウブレード!!﹂
リーゼロッテの召喚武器、2体の人形、ローズマリーとブラッディ
ーマリーから放たれた、風属性の魔法が、火属性のファイアーボー
ルを切り裂き消滅させたからであった。
それを見たマルガと鍔迫り合いをしていた男は、マルガから離れ、
自分のパーティーに戻って隊列を組み直していた。
1521
﹁リーゼロッテさんありがとうございます!﹂
﹁無事で良かったですわマルガさん。唱えられた魔法が風属性に弱
い火属性で良かったですわ。私は風と土属性の魔法しか使えません
からね﹂
そう言って微笑むリーゼロッテ。
﹁とりあえず逃げるよ!教会までもう少しだ!﹂
俺の言葉に、一斉に走り出す一同。
そんな俺達を見て、マジックスカウトの2人の男とハイプリースト
が魔法を放つ。
﹁ファイアーボール!!﹂
﹁アースクラッシュ!﹂
﹁ライトボール!!﹂
先程魔法で消されたのを瞬時で理解しているのであろう3人のマジ
ックスカウト達は、別々の属性の魔法を唱える。これでは属性の強
弱関係で消し去る事は難しい。
だが、そんな俺達の最後尾を走るマルコは不敵な笑みを浮かべる。
﹃バシュウウウウンン!!﹄
圧縮した空気が放出される様な音がすると、放たれた3つの違う属
性の魔法は、あらぬ方向に弾き飛ばされる。
それは、Aランクのマジックアイテムである、マルコの風妖精のバ
ックラーの効果であった。
﹁それ位の魔法なんか、この風妖精のバックラーには効かないよ!
!﹂
マルコが風妖精のバックラーで魔法を弾き飛ばしたのを見て、驚き
の表情をする人攫いのパーティー。
1522
﹁流石マルコ!良い判断だね!さあ!走るよ!﹂
俺の声に嬉しそうなマルコは、魔法攻撃を弾きながら教会に向かっ
て走りだす。
魔法攻撃は強いが、上位の魔法を使おうとすれば、長く詠唱が掛か
る。
この様な移動しながらの闘いでは、素早く詠唱の出来る、下位の攻
撃魔法が良く使われる。
しかし、下位の魔法攻撃は全てマルコの風妖精のバックラーにより
弾き飛ばされる。
それに業を煮やした人攫いの中の1人が、高速でマルコに跳躍する。
フェイントを入れながら迫るマジックスカウトの短剣が、マルコに
振り下ろされる。
何とか魔法銀のクリスでその斬撃を受け止めたマルコの腹に、3発
の拳をめり込ませるマジックスカウト。
マルコはその衝撃に弾き飛ばされ、地面で蹲る。そこにマジックス
カウトの追撃が迫る。
﹁マルコさんはやらせません!﹂
リーゼロッテの叫びとともに、2体の人形ローズマリーとブラッデ
ィーマリーが隠し腕の双剣で斬りつけるが、それを紙一重で躱しマ
ルコに迫る。
﹁しつこいね!マルコはやらせないって言ったろ!﹂
俺は叫びながら名剣フラガラッハで、マジックスカウトの短剣を弾
く。
俺と鍔迫り合いをしているマジックスカウトの後方から、リーゼロ
ッテの2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーが高速で切
りつけた。
それを感じたマジックスカウトは咄嗟に距離を取ろうと離れた瞬間
1523
であった。
乾いた爆発音の様な音が辺りに鳴り響く。
﹁迦楼羅流銃剣術、虎砲三弾!﹂
一瞬で左手に召喚された銃剣拳銃グリムリッパーから、通常より3
倍程威力の高い魔法弾が放たれる。
予想外の魔法の詠唱と比べ物にならない早さの魔法弾に、身体を撃
ちぬかれるマジックスカウトは、大きな風穴を3つ空けて、大量の
血を流しながら地面に崩れ去る。
人攫いのパーティーは、マジックスカウトの体に隠れて銃剣拳銃の
グリムリッパーが見えなかったであろう。驚きの表情で俺を見てい
た。
当然、それも計算して、グリムリッパーを使っている。このSラン
クの召喚武器、銃剣2丁拳銃グリムリッパーを知られるのは良くな
い事だと解っているからだ。
俺は瞬時にグリムリッパーの召喚を解除して、皆に向き直ろうとし
た時だった。
死亡したマジックスカウトの左手が光り出し、激しい炎が死体を包
み込み、一瞬で死体を焼いて、全てを炭にしてしまった。
それを見てゾッとした様な顔をしている、マルガにマルコ。
﹁皆!もうすぐ教会だ!急ぐよ!﹂
俺の言葉に我を取り戻したマルガにマルコは、全力で教会に向かっ
て走り出す。
自分達より戦闘LVが低いと思っていた俺に、一瞬で仲間がやられ
たのを見ている人攫いたちのパーティーは、斬り込んで来る事は無
く、遠距離から魔法で攻撃を始めるが、マルコの風妖精のバックラ
ーの効果の前に、全て防がれていた。
警戒して攻撃の和らいだ事もあって、俺達は教会のある広場まで逃
1524
げてこれた。
﹁さあ、この教会の中に入って下さい﹂
連れてきた女性を教会の中に入れるリーゼロッテ。女性は戸惑いな
がらも教会の中に入って行く。
そして教会を背に、俺達と人攫いのパーティーは向かい合って対峙
する。
﹁どうしますか葵さん?1人倒したとはいえ、この3人を相手にす
るのは⋮﹂
俺の後方で身構えているリーゼロッテが言葉尻をすぼめる。
⋮確かに、この3人相手でも、今の俺達で相手をするのにはキツイ。
いかに皆がAランクのマジックアイテムを装備しているとは言え、
LV差を埋めれる程には至っていない。
ここは⋮名剣フラガラッハから、銃剣2丁拳銃グリムリッパーに切
り替えて、一気に片をつけるべきか⋮
俺はそう思い、名剣フラガラッハを鞘にしまおうとした時だった。
少し離れた屋根の上から声がする。
﹁なんだい、戦闘の気配を感じて来てみれば葵達じゃないか。中々
楽しそうだね∼私達も仲間に入れてくれるかい?﹂
その声に皆が振り向くと、ニヤッと口元を上げ不敵に笑っているマ
リアネラの姿があった。
﹁マリアネラさん!﹂
嬉しそうに叫ぶマルガの顔を見て、フフッと優しく微笑むマリアネ
ラ。
﹁⋮この教会の近くで事を起こすなんて良い度胸だねお前達⋮覚悟
1525
は⋮出来てるんだろうね!!﹂
そう叫んだマリアネラは一瞬で人攫いのパーティーに間合いを詰め
る。
高速で迫るマリアネラはフェイントを織り交ぜながら、1番LVの
高いソリッドファイターに斬りかかる。
マリアネラの高速の剣技に押されるソリッドファイターを支援すべ
く、マジックスカウトがマリアネラに斬りかかろうとした時、後方
から魔力を感じた。
﹁マリアネラはやらせん!ウォーターブレス!!!﹂
ワーリザードのゴグレグが、マリアネラに斬りかかろうとするマジ
ックスカウト目掛けて、全力のブレスを吐き出した。
以前見たものとは比べ物にならない威力の無数の水の玉が、マジッ
クスカウトに襲いかかる。
そのブレスをまともに受けたマジックスカウトは、体中を水の玉で
撃ちぬかれ絶命する。
それを見た人攫いのリーダーであろうソリッドファイターは、胸か
ら何かを取り出し地面に投げつけた。
その瞬間、大きな音と同時に大量の煙が発生し、周囲の視界が閉ざ
される。
俺達は身構えながら身を守っていると、徐々に煙が消え去り視界が
戻って来た。
そこには人攫いの姿はなく、少し呆れた顔をしながら頭をかいてい
るマリアネラの姿があった。
﹁⋮ッチ、撤退用の煙玉か⋮まんまと逃げられちまったね。マルガ
は何か気配を感じるかい?﹂
﹁⋮いえダメですマリアネラさん。さっきの玉が破裂した時に出た
大きな音のせいで、耳が上手く聞こえません﹂
そう言って金色の毛並みの良い尻尾をすぼめ、シュンとしているマ
1526
ルガ。
そんなマルガの傍に近寄り優しく頭を撫でるマリアネラ。
﹁⋮そうかい、それなら仕方ないね。私達も気配を感じないし、も
う奴らを探すのは難しいね。とりあえず戦闘も終わった様だし、教
会の中に入って話でもしようかい﹂
マリアネラの言葉に頷く俺達は、教会の中に入っていくのであった。
教会の中に入った俺達は、マリアネラが入れてくれた紅茶を飲んで
いた。
その紅茶を飲みなながら、皆が落ち着きを取り戻したのをみたマリ
アネラが、軽く貯め息を吐きながら
﹁しかし、危なかったね。私達の居ない所で、上級の人攫い達に出
くわすなんて﹂
﹁⋮そうですね。マリアネラさん達が来てくれて助かりましたよ。
こっちは人攫い達を1人倒すのがやっとでしたからね﹂
俺が紅茶を飲みながら苦笑いしていると、ヒュ∼と口を鳴らすマリ
アネラ
﹁上級の奴を1人倒したのかい!?大成果じゃないか!葵達もなか
なかやるね。流石はルチア王女の専任商人ご一行って所かい?﹂
微笑みながらのマリアネラの言葉に、嬉しそうにしているマルガと
マルコ。
1527
﹁所で、この女性は誰なんだい?葵たちの仲間かい?﹂
そう言って紅茶を飲みながら、先程俺達が助けた女性に目を向ける
マリアネラ。
落ち着きを取り戻し紅茶を飲んでいた女性が、俺達に向き直る。
﹁この女性は、人攫い達に攫われそうになったのを助けたのです﹂
﹁そうかい。良かったね攫われずに済んで﹂
﹁はい!助けて頂いて有難う御座います!﹂
女性は飲んでいた紅茶を椅子に置き、立ち上がって深々と頭を下げ
ている。
﹁マリアネラさん、今迄人攫いから助けた人は、どうなさっている
のですか?﹂
﹁うん?どうって言うと?﹂
﹁はい、あの人攫い達は、自分達の情報を残さない様に、マジック
アイテムで自らを燃やしてしまう様な者達。しかも、今迄目撃者は
全て殺しています。ですから、マリアネラさんが今迄助けた人達は、
その後どうなったのかと思いまして﹂
リーゼロッテの問に紅茶を飲んでいるマリアネラが、そのカップを
椅子に置く。
﹁⋮正直、その後どうなったのかは解らないんだ。私達が助けた人
達は、一応安全を考えてこの町からすぐに出る様に言って来た。こ
の郊外町に住む者の大半は市民権を持っていない。騎士団や守備隊
に助けて貰う事が出来ないからね。私達もずっと見ている訳には⋮
いかないからね﹂
﹁⋮なるほど。ひょっとしたら⋮後で始末されている可能性もある
と⋮﹂
リーゼロッテの言葉に、寂しそうに頷くマリアネラを見て、話を聞
いていた女性の顔が蒼白になる。
1528
そして、悲壮な面持ちで走り寄ってきた女性は、俺の足にしがみつ
く。
﹁お願いです!私を助けて下さい!私はお金もないので、この町か
ら出る事も出来ません!このままじゃ⋮殺されてしまう⋮お願いで
す!なんでもしますから、私を助けて下さい!﹂
泣きながら俺の足にしがみつく女性。
俺が戸惑っていると、マルガとマルコが俺の傍に近寄ってくる。
﹁ご主人様⋮何とかならないのですか?﹂
﹁この町から出れないなら、本当に殺されちゃうかもしれないよ葵
兄ちゃん!﹂
マルガとマルコは瞳を揺らしながら俺を見つめている。
ムウウ⋮どうしよう。
本音を言うなら、余計なお金を使いたくは無いのだけど⋮
こんな真っ直ぐに俺を見つめるマルガヤマルコを、無下に出来る様
な事は⋮俺には出来きません!
まあ⋮レリアとエマにはやって貰いたい事があるし、ステラ、ミー
ア、シノンにもやって貰いたい事がある。あの大きな宿舎を見て貰
う人が必要になる⋮か。
﹁解ったよマルガにマルコ。この女性を俺達の宿舎のメイドさんと
言う事で雇って住んで貰う。それなら安全だし、生活も出来る。そ
れでいいかな?﹂
俺の苦笑いしながらの言葉に、表情を明るくするマルガにマルコ。
﹁貴女もそれで良いですか?住む所と食費は僕が見ます。仕事の内
容は、主に僕達が住んでいる宿舎の清掃や雑用。お給金はまた相談
しましょう。どうですか?﹂
1529
﹁はい!それでお願いします!宜しくお願いします!﹂
空と
女性は泣きながら俺の足にしがみつき、何度も頭を下げる。俺は女
性を抱え上げ、指で涙を拭いてあげる。
﹁では自己紹介でもしましょうか、俺は商人をしています葵
言います。貴女は何と言う名前なのですか?﹂
﹁私はユーダと言います!歳は25歳です!宜しくお願いします!﹂
そう言って深々と頭を下げるユーダに、マルガとマルコガ近寄る。
﹁私はマルガです!良かったですねユーダさん!﹂
﹁オイラはマルコ!よろしくねユーダさん!﹂
﹁はい!よろしくお願いしますマルガさんにマルコさん!﹂
嬉しそうにマルガとマルコに挨拶をしているユーダ。
そんな3人をフフと笑いながら見つめているリーゼロッテが、俺の
傍に来て腕を組む。
﹁余計な経費をかけちゃったかなリーゼロッテ?﹂
﹁⋮いえ、いずれ宿舎の管理をしてくれる方を雇わねばと思ってい
ましたので、丁度良かったと思います﹂
﹁そう、なら良かった。⋮何か嬉しそうだねリーゼロッテ?﹂
﹁そうですか?﹂
嬉しそうに金色の透き通る様な瞳を俺に向け、腕組みをしているリ
ーゼロッテの頭を優しく撫でる。
﹁どうやら話はまとまった様だね。今日はユーダさんも居るから私
達が王都の中まで護衛してやるよ﹂
﹁それは心強いですね。⋮あ⋮そう言えば今日の報告がまだでした
ね﹂
俺は今日ナディア達から教えて貰った情報をマリアネラ達に伝える。
1530
﹁⋮なるほどねえ。人攫い達は日時を変えて大体同じ場所でね⋮。
新しく来た人を中心に攫っている⋮か﹂
﹁まあ、可能性の話ですけどね。確証はありませんが⋮﹂
﹁まあね。でも今日だって、この地図に書かれた所を捜索して、あ
いつらに行き当たったんだろ?成果じゃないか﹂
﹁情報は何も得られませんでしたけどね﹂
苦笑いしている俺を見て、フフと笑うマリアネラ。
その時、教会の扉が開かれ、1人の男が教会に入ってきた。
﹁やっと帰ってきたみたいだねジェラード。どこに行ってたんだい
?﹂
﹁少し用事がありましてね。これでも私はヴィンデミア教の司祭な
のです。意外と忙しいのですよ?﹂
人差し指を立てながら得意げに言うジェラードに、マルコもマルガ
もアハハと笑っている。
﹁所でこちらの女性は?﹂
﹁ああ、ユーダさんは⋮﹂
マリアネラがさっき迄の事をジェラードに説明してくれる。それを
聞いたジェラードは微笑みながら
﹁良かったですねユーダさん。きっと女神アストライア様のお導き
です﹂
﹁はい!有難う御座います!ジェラード神父!﹂
嬉しそうに言うユーダに、ウンウンと頷いているジェラード。
﹁じゃ∼私達は葵たちを送ってくるよ。後でまたここに戻ってくる
ねジェラード﹂
﹁解りました。マリアネラも無理をしないでくださいね?﹂
﹁わ⋮解ってるって!﹂
1531
気恥ずかしそうに言うマリアネラに、優しく微笑むジェラード。マ
ルガとマルコも嬉しそうに2人を見つめていた。
﹁行くよ葵!﹂
俺達はマリアネラに護衛されながら、宿舎に戻っていった。
マリアネラ達に護衛して貰って宿舎に戻って来た。
途中で襲われる事もなく戻ってこれた事に若干安堵していた。
マリアネラ達と挨拶をして別れ、宿舎の中に入り寛ぎの間に向かう
と、皆の楽しげな声が聞こえてきた。
﹁何か楽しそうだね皆﹂
﹁あ!葵お兄ちゃん!おかえりなさい∼!﹂
﹁おかえりなさい葵さん﹂
﹁﹁﹁葵様おかえりなさいませ!!﹂﹂﹂
エマが元気一杯に笑顔で迎えてくれる。レリアやステラ、ミーア、
シノンも満面の笑みで俺達を迎えてくれる。その中で若干1名だけ
が、ムスッした雰囲気を醸し出していた。
﹁⋮ルチア来てたんだ﹂
﹁⋮何よ?⋮来てたら⋮悪いの?﹂
かなり不機嫌な声で返事をするルチアが俺に振り向く。
何故か解らないが、両頬をプクッと膨らませていた。
ありゃりゃ?お拗ねになられているんですね。解ります。
1532
⋮ムウウ⋮何故、ルチアは拗ねているんだろう?
⋮俺⋮何かしたかな⋮
俺がそんな疑問感じ、心当たりを探していると、俺の隣に静かに近
寄ってきたマティアスが俺に耳打ちをする。
﹁⋮葵殿。少し前に⋮皆さんで湖水浴に出かけられませんでしたか
?﹂
﹁あ、うん行ったよ。それがどうかしたの?﹂
﹁⋮その湖水浴にルチア様をお誘いになられて居ないでしょう?⋮
ですから⋮﹂
﹁ええ!?⋮だって⋮ルチアはフィンラルディア王国の王女様です
よ?そんな簡単に⋮普通の人が泳ぐ所なんかに誘えないですよ?﹂
俺の言葉を聞いて、軽く貯め息を吐くマティアス。
﹁⋮普通なら葵殿の言う通りでしょう。⋮ですが、相手はルチア様
なのです﹂
﹁マティアス∼何をコソコソと話をしてるのかしら∼?﹂
両頬をプクッと膨らませているルチアの言葉に、苦笑いをするマテ
ィアス。
﹁はあ∼いいわよね∼どこかの誰かさんは皆と湖水浴に行っちゃっ
て。私を差し置いて、皆で楽しむなんて⋮随分と偉くなったものよ
ね∼。⋮何か全部どうでも良くなって来ちゃったわ⋮﹂
エマを膝の上に抱き、エマの髪の毛をイジイジとしているルチア。
エマはそれがこそばゆいのか、キャキャとはしゃいで楽しそうにし
ている。ルチアのその言葉を聞いた皆が、俺に一斉に振り向く。
え⋮何この視線⋮
オラに一体何を期待して居るのですか皆さん?
1533
特にマルガちゃんとマルコちゃん!その﹃解ってますよね?﹄的な
熱い視線は何ですか?
うは!ルナちゃんまで俺に熱い視線を送ってる!
⋮ムウウ。ここはやっぱりオラがなんとかするしかないのですね。
解ります。
﹁⋮ねえルチア﹂
返事はない!只の幼女の髪をイジイジしている銅像の様だ!
いあいあ銅像は幼女の髪をイジイジしたりはしない。てか銅像でも
ない。
のけ者にされて拗ねている、超美少女の王女様だから。
﹁⋮可愛くて清楚なルチアさん﹂
﹁⋮何?何か用?﹂
頬をプックプクに膨らませているルチアが、不機嫌に返事をする。
コイツは本当に可愛いとか清楚とか言う言葉が好きだな!
⋮まあ⋮可愛いのは認めるけど!⋮クヤチイ⋮
﹁今度さ皆でまた湖水浴にでも出かけようと思うんだけど、是非ル
チアにも来て欲しくてさ﹂
苦笑いしながらの俺の言葉に、一瞬、物凄く瞳を輝かせたルチアは、
すぐにその輝きを潜める。
﹁⋮私に来て欲しいの?﹂
﹁うん!やっぱり綺麗な湖には、美女が似合うからさ!ルチアが来
てくれたら皆も喜ぶし!﹂
﹁⋮ホントにホント?⋮嘘ついたら、二度とロープノール大湖から
出さないわよ?﹂
なるほど!そして、人魚姫伝説ならぬ、人魚男伝説が始まるのです
1534
ね!
﹁うん!俺達と一緒に湖水浴に行こうルチア!﹂
その言葉を聞いたルチアはガバッと立ち上がり、腰に手を当て
﹁仕方ないわね!貴方がそこまで言うなら湖水浴に行ってあげるわ
!感謝しなさいよね!﹂
ドヤ顔でアハハと高笑いをするルチアを見て、マルガもマルコも嬉
しそうに笑っている。
﹁やった∼!またこすいよくに行けるんだ∼!﹂
﹁そうよエマ!一杯楽しみましょうね∼!﹂
エマを抱きながら嬉しそうなルチア。
あんなに嬉しそうな顔しちゃって。
⋮本当に素直じゃないんだからルチアは。
俺がそんな感じで苦笑いしていると、ステラがクスクスと笑いなが
ら紅茶を入れてくれた。
とりあえず落ち着いて皆が座って紅茶を飲んでいると、当然の様に
ルチアがその人物を発見する。
﹁⋮所で葵、この女性はどちらなの?⋮貴方⋮また⋮﹂
﹁ち⋮違うよ!色々合って、この宿舎の管理と雑務をして貰う為に
雇ったメイドさんなの!﹂
俺の必死の訴えに、まだ懐疑的な視線を俺に向けているルチア。
﹁何よ色々って?﹂
﹁いやさ、ルチアは覚えていると思うけど、俺達が冒険者ギルドか
ら2階級特進の試験を受けれるってのがあったろ?﹂
﹁ああ∼あのラフィアスの回廊の時のやつね。それがどうかしたの
1535
?﹂
﹁今その件で、冒険者ギルドから依頼を受けているんだ﹂
﹁へ∼そうなの。どんな依頼なの?﹂
ルチアは興味があったのか俺に聞き返してくる。俺は今受けている
依頼の内容を話す。
するとルチアは飲んでいた紅茶をプーッと吹き出す。
﹁ゴホゴホ!﹂
﹁だ⋮大丈夫ルチア?﹂
珍しく粗相をするルチアを不思議に思いながら、口を拭くナプキン
の様な布をルチアに渡すと、それで口を拭いているルチア。
﹁どうしたのルチア?﹂
﹁な⋮なんでもないわよ!⋮それより、依頼の話をもっと聞かせて
頂戴﹂
少し真剣な目をするルチアを不思議に思いながら、今まであった事
を含め、ルチアに依頼の話を説明する。
落ち着きを取り戻したルチアは、再度紅茶を飲みながら、テーブル
の上で指をトントンとさせて何かを考えて居る様であった。
﹁⋮そんな事がね。なるほど⋮﹂
﹁まあまだ、調査中だから、なんとも言えないけどね。解らな事や
疑問も多いし﹂
﹁⋮だけど⋮何か危険そうな依頼だし、他のに変えて貰えば?﹂
﹁でも、報酬が良いからね。危険を感じた時は、手を引いても良い
みたいだし﹂
﹁⋮そう﹂
小声でそういったルチアは、何かを考えながら紅茶を飲んでいる。
﹁まあ郊外町での事は色々あるしね。元々不法者が集まる町って言
1536
う位置づけだし﹂
そのルチアの言葉を聞いたマルガが、ルチアに近寄る。
﹁それは解るのですが⋮フィンラルディア王国として、郊外町に住
む人を、安全に暮らせる様には出来ないのですかルチアさん?﹂
綺麗なライトグリーンの瞳を、少し揺らしながらルチアに語るマル
ガ。
そんなマルガの頭を優しく撫でるルチア。
﹁⋮フィンラルディア王国、いえ⋮お母様も郊外町に住む人達には
心を痛めてられるわ。それで、少しでも郊外町に住む人々を救う為
に、多額の国費を割いて居たりもするの。最初は貴族にも猛反発さ
れていたけど、お母様が話をして、議会で承認されてもいるのよ。
それでも、数多く住む、郊外町の人々を救いきれて居ないのが現状
なのよ⋮﹂
寂しそうに言うルチアの表情を見て、更に瞳を揺らすマルガ。
﹁でもお母様は、それで諦めた訳じゃないわ。郊外町の人々を救う
べく新たに議案を議会に提出したの﹂
﹁それはどんな議案なのですかルチアさん?﹂
﹁⋮下級市民制度よエルフちゃん﹂
﹁下級市民制度?﹂
ルチアの言葉に、少し首を傾げるリーゼロッテ。
﹁そう下級市民制度。簡単に言えば、今の国民を税金の支払いによ
って、上級市民と下級市民に分けて扱うって事ね。今の郊外町に住
む人達は、無法者扱いで、法的には何も守られては居ないわ。だか
ら、殺されたりしても、郊外町の人なら罪に問われない。税金を支
払っていないから、市民権が無い状態だからね。平たく言うと、郊
外町の人々は国民扱いじゃないのよ。非国民。だから、郊外町の事
1537
は、バミューダ旅団の様な奴らに管理して貰って、その許可と引換
に、税の取り立てをして貰っているのが現状なの。お母様はそれを
変えたいのよ。すべての人を国民として扱い、法の下で保護する。
そうすれば大手を振って郊外町の人々を守れるからね﹂
﹁⋮なるほど、ですがその下級市民制度も色々と問題があるのでは
?⋮例えば⋮差別とか⋮﹂
ルチアの説明にリーゼロッテが質問を投げかける。
確かにアウロラ女王の気持は解るけど、リーゼロッテが言う様に、
全ての国民を上級市民と下級市民に分けると、きっと差別が始まる
であろう。
それは地球の歴史が物語っている。島国の同一民族国家である日本
でさえ、その差別はあった。
今も傷跡を深く残す差別が⋮
﹁それはエルフちゃんの言う通りよ。でも、今の郊外町に住む人を
救うには、まずフィンラルディア王国の国民であると認定しなけれ
ばならないのよ。それが出来て始めて国として手を差し伸べれるの
⋮﹂
寂しそうな表情のルチアを見て、リーゼロッテもその金色の透き通
る様な瞳を揺らす。
そりゃそうだ。
自国の民でもない者を救おうとする国など、この世界には存在しな
いであろう。
地球でさえ色々と有る問題なのだ。
確かに地球では救おうと言う動きが有るのは確かだが、それは国同
士の外交としての策略も噛んでいる。心からその国を救おうとする
国など、どれほど有るのか⋮
1538
﹁⋮すいませんでしたルチアさん﹂
﹁いいのよエルフちゃん。エルフちゃんの言ってる事も、尤もな事
だもの。色々と問題のある下級市民制度だけど、現状これ以上の、
郊外町に何かを出来る案は存在しないのは確かな事よ。お母様もき
っと⋮その事を解っていらっしゃるわ⋮﹂
大国フィンラルディアの国政の頂点に立つアウロラ女王⋮
善王と言われ支持の高いアウロラ女王⋮か。
﹁でも、他の貴族とかには反対されていないの?﹂
﹁勿論猛反対している貴族は居るわ。数年前に、郊外町の人を救う
為に、国費の一部を割く事を、強引に承認させた事もあるしね。そ
の時は、渋々他の貴族も納得したけど、今回は⋮ね﹂
﹁そうなのですか⋮どの貴族が反対されているのですか?﹂
ステラがルチアに紅茶を入れながら質問する。
﹁えっとねオオカミちゃん。まずお母様の議案に賛成してくれてい
るのは、バルテルミー侯爵家とハプスブルグ伯爵家。反対している
のが、クレーメンス公爵家とビンダーナーゲル伯爵家。アーベント
ロート候爵とモンランベール伯爵家はまだどちらの立場を示すかは、
解らない。お母様、女王も1票の議決権があるわ。他の議決権を持
つ六貴族のうち、3つの貴族が賛成してくれれば議案を通せるのだ
けどね⋮それが難しいのよ﹂
ステラにそう説明するルチア。残念そうにしているマルガにマルコ。
フィンラルディア王国の国政を支える、強大な権力を持った六貴族
にも派閥がある。
その力関係もあるし、様々な諸事情もある。一筋縄では行かないの
が普通か⋮
﹁⋮ま、この話はここまでにしましょう。葵も十分に注意して依頼
1539
をするのよ?﹂
﹁解ってるよルチア⋮ありがとう﹂
俺の言葉に、、フンと鼻を鳴らすルチア。
﹁じゃ∼2日後に湖水浴に行くから!馬車で迎えに来るから、きち
んと準備してなさいよね!﹂
嬉しそうに言うルチアに皆が喜んでいる。
俺は、その光景を見ながら、少し癒されているのであった。
1540
愚者の狂想曲 41 それぞれの思いと思惑
今日はルチア達と湖水浴に行く日だ。
出かける準備をして食堂に降りると、皆が俺達を迎えてくれる。
﹁皆おはよ∼﹂
皆に挨拶をしてテーブルに就くと、ユーダが朝食を持ってきてくれ
た。
新しく俺達の仲間になったユーダは、皆に暖かく迎えられ、嬉しそ
うにしている。
この宿舎の管理や清掃だけでなく、食事もきちんと用意してくれて
いる。
交替制でそれらをしていたマルガやステラ達も、ユーダが全部する
と言って聞かないので、少しの手伝いをする位でユーダに任せてい
た。
きっと、助けて貰った事を思って、頑張っているんだろうね。
良い人をメイドさんとして雇えたのかも知れない⋮
そんな事を考えながら朝食を食べ始めると、約2名の奇行に皆の視
線が集まっていた。
﹁⋮マルガにエマ。浮き輪を外しなさい。そして、何か服を着なさ
い﹂
俺の呆れながらの言葉に、皆が声を殺して笑っている。
マルガとエマは水着を着て、腰に浮き輪をつけて、朝食を悪戦苦闘
しながら食べているのだ。
﹁はい∼ご主人様∼﹂
1541
﹁わかったよ∼葵お兄ちゃん∼﹂
シュンとしながら渋々浮き輪を外し、水着の上から服を着始めるマ
ルガにエマ。
その余りの残念そうなマルガとエマの表情を見ている一同は、肩を
震わせながら声を殺して笑っている。
﹁でも⋮本当に私もご一緒させて貰って良かったのでしょうか葵さ
ん。あのルチア王女様とマティアス様とご一緒させて貰えるなんて
⋮。それに私は⋮人攫い達に狙われているかもしれませんし⋮﹂
そう言って、少し不安そうに気まずい顔をするユーダ。
﹁大丈夫だよ。ルチアとマティアスさんはそんな事気にしないよ。
ユーダさんはもう俺達の仲間みたいなものだし。それに、王都ラー
ゼンシュルトの外に出ると言っても、ルチアの護衛があちこちに居
るだろうし、あのマティアスさんも一緒ですからね。人攫いごとき
じゃ何も出来ないよ﹂
﹁葵さんの言う通りですわユーダさん。心配する事はありませんわ﹂
俺とリーゼロッテの微笑みながらの言葉を聞いて、嬉しそうに安堵
の表情をしているユーダ。
﹁そう言えば葵様、マリアネラ様達や、ナディア様達もご一緒され
るのですよね?﹂
﹁うん、そうだよステラ。親睦を深めるのに丁度良いと思ってさ﹂
今回の湖水浴にマリアネラ達とナディア達を誘っていたのだ。
マリアネラ達は﹃ま∼たまには休暇も必要だね﹄と、了承してくれ
た。
コティー、トビ、ヤンの3人は喜んでいたけど、ナディアは気に食
わなさそうな顔で﹃美味しい物を⋮食べさせてくれるなら行く⋮﹄
と、言っていたのには苦笑いをしてしまったけど。
1542
﹁皆で湖水浴はきっと楽しいのです!﹂
﹁だよねマルガ姉ちゃん!前に行った時も、すっごく楽しかったも
んね!﹂
﹁そうなの∼みんなでいくと、たのしいの∼!﹂
﹁これエマ!食事中に騒がないの!﹂
レリアが苦笑いをしながら優しく見守る中で、マルガにマルコ、エ
マの3人が、ね∼と言い合ってキャキャと嬉しそうにはしゃいでい
る。
﹁私も楽しみです∼葵様∼﹂
﹁そうです!私も楽しみです!皆で泳いで遊ぶのも楽しみですが⋮
また、美味しい物を冷やして食べるのも⋮﹂
﹁きっと美味しい物をルチアが一杯持ってきてくれると思うよミー
ア。シノンも冷やした果物大好きだものね﹂
﹁﹁楽しみです葵様!!﹂﹂
声を揃えて嬉しそうにしているミーアとシノンの頭を優しく撫でる。
﹁朝食を食べて準備が出来たら、迎えの馬車に乗り込もうか﹂
俺の言葉に嬉しそうに返事をする一同は、食事を終え準備をして迎
えの馬車に乗り込む。
今回は人も多いし、ユーダの護衛の事も考えて、ルチアが迎えの馬
車を用意してくれた。
俺達が乗る馬車の前後には、上級の守備隊の馬車が護衛をしてくれ
ている。
上級の守備隊は、戦闘職業に就いている犯罪者鎮圧にあたる者達で、
厳しい訓練を受け、LVも高い戦闘集団だ。これでは人攫い達も、
うかつに手を出せないであろう。
そんな俺達を乗せた馬車は王都ラーゼンシュルトを出て、マリアネ
1543
ラ達とナディア達との待ち合わせ場所まで向かう。すると、俺達の
乗っているのと同じ馬車が1台とまっていた。
俺達が馬車から降りていくと、声が掛かる。
﹁よう葵!今日は宜しく頼むよ!﹂
その声に振り返ると、淡い緑色のワンピースを着たマリアネラの姿
があった。
短く整えられた濃い茶色かかった髪と、鳶色の瞳に良く似合ってい
るそのワンピースを、夏風に靡かせていた。
﹁何か⋮いつもと雰囲気が違いますねマリアネラさん﹂
﹁ご主人様の言う通りです!凄く綺麗なのです!﹂
﹁うん!良く似合ってるよマリアネラさん!﹂
﹁ありがとうマルガにマルコ﹂
嬉しそうにマルガとマルコの頭をワシャワシャと撫ででいるマリア
ネラ。
そんな中で約1名が、当然の様にとある人物達に興味を示す。
﹁おおお∼!!おっきなトカゲさんなの∼!それにヴァロフお爺ち
ゃんみたいな、もじゃもじゃ∼!﹂
エマが瞳を輝かせて、ワーリザードのゴグレグとノーム族のヨーラ
ンの傍に近寄る。
興味津々なエマは我慢出来なかったのか、ゴグレグに飛びつき抱き
ついた。
﹁すごいの∼!おっきな歯がいっぱいなの!お肌もカチカチなの!﹂
興奮気味に話すエマは、ゴグレグの顔をペチペチと叩いている。
ゴグレグは突然の来訪者に、戸惑いの表情を浮かべながら固まって
いた。
1544
﹁⋮お前は俺の事が⋮怖くないのか?﹂
﹁なぜ∼?こわくないよ∼?﹂
エマは嬉しそうにキャキャとはしゃぎながら、ゴグレグの首にブラ
ンブランとぶら下がっている。
それを見たレリアが、ゴグレグの元に小走りに近寄る。
﹁す⋮すいません!これエマ!そんなにぶら下がったら、ご迷惑で
しょ!﹂
﹁ええ∼だめなの∼トカゲさん∼?﹂
ぶら下がりながら振り返る、エマの残念そうな顔を見たゴグレグは、
キラリと瞳を光らせる。
﹁⋮大丈夫だ。問題ない!﹂
﹁だって!おかあさん!﹂
自信満々な表情のゴグレグに、ぶら下がっているエマを見て、何度
も頭を下げているレリア。
オオウ⋮ゴグレグさん⋮
意外と子煩悩?なんですね!子煩悩リザードと呼んでも良いですか?
そんな阿呆な事を考えていると、小さな集団がテテテと俺に近寄っ
てきた。
﹁きょ⋮今日は⋮よろしく⋮﹂
ぎこちなく俺に言うコティー。トビとヤンも同じ様にぎこちなくし
ていた。
﹁どうしたの?何か⋮気になる事でもあるの?﹂
﹁えっと⋮私達⋮その⋮汚れているから⋮﹂
そう言って軽く俯くコティー。同じ様にトビとヤンも俯いていた。
1545
ああ⋮そうか⋮
この子達は昔のマルガみたいに汚れているから、ソレを気にしてい
るんだろう。
ルチアが用意してくれた馬車は、普段貴族が乗る様な豪華な馬車で
はないが、少し裕福な人が乗るであろう客馬車クラスではある。
きっと、こんな良い馬車に乗った事が無いこの子達は、気を使って
いるんだろう。
すると何かを感じたリーゼロッテが、コティーの傍に行き膝を折る。
﹁大丈夫ですよコティーさん。貴方達を綺麗にする物を色々と持っ
て来ましたから。ロープノール大湖に着きましたら、綺麗にしてあ
げますわ﹂
リーゼロッテがコティーの頭を撫でながら言うと、少し瞳を潤ませ
て嬉しそうに頷くコティー。トビとヤンも嬉しそうに頷いていた。
ソレを嬉しそうに見ているマルガとマルコの横を通り過ぎ、ナディ
アが俺に近寄る。
﹁⋮今日は⋮美味しい物⋮一杯食べさせてね⋮﹂
﹁解ってるよ。約束したしね﹂
俺が苦笑いしながら言うと、やっぱり少し気に食わなさそうな顔を
しているナディアが、コクコクと頷く。
﹁⋮何か、私抜きで楽しそうね!﹂
若干不機嫌なその声に振り向くと、少し頬を膨らませているルチア
とマティアスが立っていた。
ルチアとマティアスの出で立ちは、港町パージロレンツォで初めて
会った時と同じ物だった。
﹁⋮何か懐かしいねその格好﹂
﹁仕方ないでしょ!いつもの格好じゃ目立ちすぎるじゃない!﹂
1546
まだ少し俺にだけプリプリしているルチア。
﹁マティアスさんもその格好の方がオイラは好きだな!﹂
﹁そうなのです!そっちの方が、マティアスさんらしいのです!﹂
﹁それは⋮褒め言葉なのですか?マルガ殿にマルコ殿?﹂
少し苦笑いをしている、フード付きのローブと、この世界には珍し
い、縁の太い大きな眼鏡を掛けているマティアス。アハハと笑って
いるマルガにマルコ。
﹁葵この人達は誰なんだい?﹂
﹁ああ!この2人が馬車を出してくれているんだ。紹介するよ、俺
の仲間のルチアとマティアスさん﹂
俺がマリアネラをルチアに紹介すると、ニヤッと俺をチラ見するル
チアは
﹁仕方なく成り行きで、パッとしない葵の仲間になっていますルチ
アです。よろしく﹂
その紹介を聞いたマリアネラが、俺を一瞬見てプッと吹いた。
﹁⋮葵、なかなか楽しい仲間を持ってるね。私はマリアネラ、あっ
ちのワーリザードがゴグレグで、ノーム族がヨーラン。よろしくね
ルチアさん、マティアスさん﹂
少し楽しそうなマリアネラと挨拶をしているルチアとマティアス。
いつもパッとしないと、紹介でつけやがって!
そんな事⋮言われなくったって知ってるもん!どうせ量産型モ○ル
スーツですよオラは!
いつか﹃機体の性能の差が、戦力の決定的違いでないことを教えて
やる!﹄と言っていた、仮面をつけた赤色の好きな人みたいになっ
てやる!⋮チクチョウ⋮
1547
そんな感じで俺が少し黄昏れていると、ワーリザードのゴグレグに
肩車をされているエマが高らかに宣誓する。
﹁みんなでこすいよくにいくの∼!﹂
楽しげにゴグレグに肩車されているエマの頭の上には、何故かドヤ
顔の白銀キツネの子供甘えん坊のルナがキリリと立っていた。
﹁⋮すいませんねゴグレグさん﹂
﹁⋮かわまぬ﹂
何故か少し得意げなゴグレグ。
流石は子煩悩リザード!⋮意外と良いコンビなのかな?
そんな事を思いながら、俺達はルチアが用意してくれた馬車にそれ
ぞれ乗り込み、ロープノール大湖に向かうのであった。
﹁ロープノール大湖です∼!﹂
ロープノール大湖に到着し、喜びの声を上げるマルガは、嬉しそう
にテテテと走って、波打ち際に駆け寄る。その後を嬉しそうにマル
コとエマが追いかける。
﹁﹁﹁ヤッホ∼∼∼!!!﹂﹂﹂
声を揃えてヤッホ∼と叫んでいるお茶目3人組を見て、瞳をキラキ
ラさせているリーゼロッテ。
﹁⋮葵、あれは何してるの?﹂
﹁⋮マルガ曰く﹃神聖な儀式﹄らしいよ?﹂
1548
俺の苦笑いの言葉に、プッと軽く吹いて楽しそうに笑うルチア。
﹁じゃ∼とりあえず準備しちゃおうか﹂
﹁そうね。馬車に必要な物を積んできたから、皆で降ろしちゃって﹂
ルチアの言葉を聞いて皆が馬車に集まる。
そして荷物専用の馬車の積荷を見たマルガやエマ、マルコが喜びの
声を上げる。
ルチアの言った馬車には、これでもかと言う位、沢山の果物や飲み
物、そして、王宮で出される日の様な料理の数々が積まれ、辺りに
とても良い匂いを漂わせていた。
﹁こ⋮これ⋮本当に私達も⋮食べちゃって良いの?﹂
コティーが口から涎を垂れそうな顔で言うと、コクコクと頷いてい
るトビとヤン
﹁当然よ!皆で食べる為に持ってきたのだから!﹂
そのルチアの声を聞いたコティー、トビ、ヤンは、瞳を輝かせる。
﹁その前に、コティーさん達は身体を綺麗にしましょう。トビさん
とヤンさんは葵さんとマルコさんに身体を綺麗にして貰って下さい。
ナディアさんとコティーさんは私が綺麗にしますわ﹂
﹁あ!エルフちゃん、私も手伝うわ﹂
﹁ではお願いしますわルチアさん。他の方は着替えて準備をして下
さい﹂
リーゼロッテの指示に皆が従う。
リーゼロッテとルチアに手を引かれて、ナディアとコティーは波打
ち際に建てられた簡易の衝立の様な物の中に入る。
あれならば人目を気にせずに裸になれるし、隅々まで綺麗に出来る
だろう。
1549
俺とマルコは水着に着替え、男用の衝立の中でトビとヤンの身体を
綺麗に洗っていく。
⋮こうやって2人と洗っていると、昔物凄く汚れていたマルガを洗
って上げた事を思い出すよ。
あの時はマルガを男の子だと思っていたんだよね⋮
まだこの世界に来て、それほど月日が経った訳では無いけど、凄く
長く感じる⋮
そんな事をしみじみと感じながら、昔マルガを洗って上げた時に使
った、石鹸などを使い2人を洗っていると、大きな声が聞こえた。
その声に身体の綺麗になったトビとヤン、着替え終わっている俺と
マルコが外に出ると、リーゼロッテ達が入っていた衝立が勢い良く
飛び上がり、ダダダと何かが俺の方に走ってきて、ぶつかった。
﹁イテテ⋮﹂
俺は何かにぶつかって尻餅をつく。そしてふと胸に視線を落とすと、
透き通った水のように綺麗なライトブルーの髪に瞳、肌は日本人に
近いが白く柔らかい、1人の少女が胸の中でぶつかった衝撃に首を
振っている。
その少女の顔は幼いのだが、大人好きする様な顔立ちをしていて魅
力的で、鼻の上に少しあるソバカスが可愛さを引き立たせていた。
そこには、マルガやリーゼロッテには及ばないが、ステラ達クラス
の美少女、もとい、美幼女が蹲っていた。
﹁もう!ナディアどこ行くの!?こっちにいらっしゃい!﹂
デレっとしたルチアが両手をニギニギしながら近寄ってくるのを見
て、ゾゾゾとした顔をしているナディアが俺にしがみつく。
1550
﹁い⋮いったいどうしたの?﹂
﹁私が抱きつこう⋮もとい、抱擁しようとしたら逃げちゃったの!﹂
ルチアがナディアを見て、ニヤニヤしている。
ルチアは意外と子供好きだからな⋮
ナディアを猫可愛がりしようとして、ナディアに嫌がられたんだね⋮
そんな事を考えながら、俺は立ち上がりナディアを起こすと、俺を
盾にする様に隠れていた。
それに苦笑いしていると、ふとナディアの頭に何かが出ているのが
目に入ってきた。
ナディアの頭には、2本の角の様な者が髪の毛の間から少し顔をの
ぞかせていた。
俺はそれが気になって触ると、ナディアがキッと俺に振り向く。
﹁⋮角に⋮気安く触らないで⋮﹂
﹁ご⋮ごめん⋮﹂
ウウウと唸っているナディアに苦笑いしていると、リーゼロッテが
クスクスと笑いながら近寄ってきた
﹁ナディアさんはどうやら鬼族、オーガ族の血を引いている様です
ね﹂
リーゼロッテの言葉に少し気に食わなさそうな顔をするナディア。
鬼族、通称オーガ族は、マルガ同様に希少亜種族として知られてい
る。
マルガのワーフォックス族以上に数が少ないらしい。
その特徴は、見た目は人間族と変わらないらしいが、身体能力がワ
ーリザード同様高いらしい。
特に力は物凄く、力自慢のドワーフ族でさえ及ばないと言われてい
る程なのだ。
1551
しかし、魔族の血を色濃く引き継いでいるのか、気性がとても荒く、
この世界の人々は魔物に1番近い亜種族であると、忌み嫌われてい
たりするのだ。
﹁⋮私が鬼族だからって⋮何か文句でもある?﹂
キッと俺を睨むナディア。その目には野生の狼の様な光を漂わせて
いた。
﹁何も問題は無いわよ!!ほら!﹂
俺を睨んでいたナディアの隙を突いて、ルチアがナディアをギュッ
と抱きかかえる。
﹁ほれほれ!可愛いんだから!﹂
ルチアはナディアを抱きしめながらデレデレとした顔をしていた。
当のナディアは、ルチアの胸に抱かれて、顔を頬ずりされまくって
いるせいか、グテッとなって項垂れている。
その余りにもナディアを猫可愛がりしているルチアを見て、アハハ
と笑っているマルガにマルコ。
﹁皆準備も出来た事だし、泳いじゃおうか!﹂
﹁﹁﹁は∼い!!!﹂﹂﹂
俺の言葉に元気良く返事をした、マルガ、マルコ、エマが、ロープ
ノール大湖に飛び込んでいく。
その後を見守る様にレリアとリーゼロッテが付いて行く。
﹁じゃ∼私も行ってくるわね!﹂
﹁私達も行ってくるよ﹂
ルチアとマリアネラ達も皆の元に泳いでいく。
それを微笑ましく思いながら砂浜に座って見ていると、ステラが果
実ジュースを入れてくれた。
1552
﹁あれ?ステラは行かないの?ミーアやシノンも行っちゃったよ?﹂
﹁私はまた、葵様に泳ぎを教えて貰いたいです。ですから葵様が泳
ぐ時にご一緒します﹂
微笑みながら俺の横に座るステラの頭を撫でているユーダが近づい
てきた。
﹁本当に皆さん仲が宜しいですね﹂
ユーダが微笑みながら俺を見ていた。そして、皆を見て少し儚そう
な表情をするのが気になった。
﹁ユーダさんどうかされましたか?﹂
﹁⋮いえ、皆さんを見ていたら、生き別れた主人と娘の事を思いだ
しまして⋮﹂
そう言って寂しそうに苦笑いをするユーダ
﹁ユーダ様、ご家族がいらっしゃったのですか?﹂
﹁⋮はい。少し前に生き別れてしまって⋮行方が解らなくなってし
まったのです﹂
﹁それは⋮例の人攫いに攫われたとか?﹂
﹁いえ、この町に来る前の事です﹂
そう言って、空を見上げるユーダ。
この王都ラーゼンシュルトの周辺には沢山の村がある。
割りと治安が良いと言われているフィンラルディア王国でも、全て
を守りきれている訳では無い。
当然、周辺の村でも人攫いはあるだろうし、魔物や野盗も居る。
恐らくご主人と子供と生き別れて、生活に困りこの町に来たのだろ
う。
その事を感じたのか、ステラは俺の腕にギュッとしがみつき、その
1553
瞳を揺らしていた。
﹁冒険者ギルドに依頼をしましょうユーダさん﹂
その言葉を聞いたユーダは、キョトンとした顔で俺に向き直る。
﹁冒険者ギルドに依頼⋮ですか?﹂
﹁そうです。冒険者ギルドに、ユーダさんのご家族を探して貰う依
頼をしましょう。冒険者ギルドに依頼をすれば、何か手がかりが掴
めるかもしれません。依頼料は俺が出しますので、心配しないでく
ださいね﹂
俺のその言葉を聞いたユーダは、一瞬戸惑いの色を見せたが、満面
の笑みで俺を見ると
﹁はい⋮お願いします葵さん⋮ありがとう⋮﹂
そう言いながら瞳に涙を浮かべ、深々と頭を下げている。
﹁⋮やっぱり、葵様は優しいですね﹂
嬉しそうな顔をしているステラは、毛並みの良い銀色の尻尾をフワ
フワさせて、俺にもたれかかる。
その乙女の柔肌と、柔らかい胸の感触にパオーンちゃんが反応する。
今日はルチア達が居るから、ロープノール大湖の沖でステラやマル
ガ達を犯すのは難しい。
ムウ⋮我慢出来るかな⋮
そんなエッチッチーな事を考えていたら、マルガの嬉しそうな声が
掛かる。
﹁ご主人様∼!ご主人様も一緒に泳ぎましょう∼!﹂
両手を振ってニコニコしているマルガ。その横でゴグレグに肩車さ
れているエマも、おいでおいでしていた。
1554
﹁⋮葵様行きましょうか!﹂
﹁そうだね!ユーダさんも行きましょう!﹂
﹁⋮はい!﹂
俺はステラとユーダの手を引いて、皆の元に向かうのだった。
時刻は昼刻の2の時︵午後2時︶。
少し遊び疲れた俺達は、砂浜に敷かれた大きな布の上で、ルチアの
用意してくれた料理や果物を食べながら休憩していた。
﹁本当に皆で湖水浴は楽しいのです葵様∼﹂
﹁そうです!シノン姉姉の言う通りです!楽しいです葵様!﹂
ミーアとシノンは、蜂蜜パンを美味しそうに食べながら、ニコニコ
と微笑み合っている。
﹁そうだね。でも、流石に俺はちょっと疲れたけど。まあ⋮まだま
だ元気な子も、いるみたいだけど﹂
俺の視線の先に皆が注目する。
そこには、エマを肩車して、マルガとマルコを背中に背負い、両腕
にトビとヤンをしがみつかせながら、ロープノール大湖をジェット
スキーの様に泳ぐ、子煩悩リザードの姿があった。
子煩悩リザードにしがみついているエマ達は、キャキャと嬉しそう
にはしゃいでいた。
﹁⋮なんかゴグレグさんに悪い気がしてきた⋮﹂
1555
﹁気にする事は無いよ葵。ゴグレグは身体能力の高いワーリザード。
しかも水の中だから疲れないだろうしさ﹂
﹁そう言えばワーリザードは水中で息も出来るのよね。水中での彼
らは、絶対の力を持つって言われる位だものね﹂
﹁そうだねルチアさん﹂
ルチアの言葉に頷いているマリアネラ。
俺が感心しながらルチアとマリアネラの話を聞いていると、俺の横
にチョコンと座るコティーとナディアが、俺の手をクイクイと引っ
張る。
﹁うん?どうしたのコティーにナディア?﹂
俺がコティーに向き直ると、少しモジモジしているコティーと、や
っぱり気に食わなさそうなナディアが俺の顔を見ていた。
﹁⋮あのね⋮ありがとね﹂
﹁うん?何が?﹂
﹁⋮私達みたいな浮浪児に良くしてくれるから。身体も綺麗にして
くれただけじゃなくて、水着もくれた上に、こんな美味しい食べ物
まで⋮﹂
小声でモジモジしながら気恥ずかしそうに言うコティー。
﹁⋮気にする事はないよ。今日は楽しんでいってね﹂
﹁うん!そうする!﹂
﹁⋮美味しい物⋮もっと頂戴⋮﹂
満面の笑顔で言うコティーと、少し気恥ずかしそうに、ちっちゃな
手を俺に差し出すナディア。
それを見ていた嬉しそうなミーアとシノンは、2人に果実ジュース
を入れてあげていた。
﹁休憩したら私が遊んであげるからね!﹂
1556
﹁⋮それは⋮いい⋮﹂
両手をニギニギとしているルチアを見て、少しげんなりしているナ
ディア。皆がアハハと笑っている。
﹁楽しそうですね皆さん。私も混ぜてはくれませんか?﹂
周辺を見回りに出ていたマティアスが、水着姿で帰ってきた。
ステラに果実ジュースを貰うマティアスは、真夏の日差しがキツイ
のか、かけていた眼鏡を外す。
その眼鏡を掛けていないマティアスの顔を見たマリアネラが、少し
首を傾げる。
﹁⋮うん?⋮どこかで⋮見た様な⋮﹂
マティアスの顔をマジマジと見つめていたマリアネラは、ハッとな
って表情を変える。
﹁ひょ⋮ひょっとして⋮マティアスさんは⋮あの⋮アブソリュート
白鳳親衛隊副団長のマティアス様ですか?﹂
恐る恐ると言った感じで言うマリアネラを見て、少し首を傾げるマ
ティアスは
﹁確かにそうですが⋮どこかでお会いしていましたか?﹂
マティアスのその言葉を聞いたマリアネラは、バッとルチアに向き
直る。
﹁ひょ⋮ひょっとして⋮こちらのルチアさんは⋮あの⋮第三王女で
あられる、ルチア王女様?﹂
﹁そうだよ?何を今更言ってるのマリアネラさん?﹂
俺のその言葉を聞いたマリアネラは、コチンと俺の頭を叩く。
﹁イテテ!﹂
1557
﹁イテテじゃないよ葵!何故もっと早く言わないんだい!﹂
慌てながらそういったマリアネラは、ルチアとマティアスに片膝を
つきながら頭を下げる。
一緒に座っていたコティーが、カチッと音がする位固まっていた。
﹁し⋮知らぬ事とは言え、数々の無礼、お許し下さい!﹂
慌ててそう言ったマリアネラの肩に手を置き、マリアネラを座らせ
るルチア。
﹁いいのよ気にしないで。葵達と居る時は普通にしててくださって
結構ですマリアネラさん﹂
﹁で⋮ですが!﹂
まだ戸惑っているマリアネラの肩にそっと手を置くリーゼロッテ。
﹁ルチアさんの言う通りにしてあげて下さい。ルチアさんもその方
が落ち着くみたいなので﹂
リーゼロッテの言葉に、まだ戸惑って居たマリアネラではあったが、
普通に座りなおして、俺に向き直る。
﹁⋮葵、情報はきちんと、伝えておくれよ?﹂
﹁その辺はなんとも説明しがたいと言うか⋮﹂
俺とマリアネラのやり取りを見ていた皆がアハハと笑う。
﹁まあエルフちゃんの言う通り、普通にして下さいマリアネラさん﹂
﹁そうそう、ルチアなんかに気を使ってたら、疲れるだけですよマ
リアネラさん﹂
﹁⋮葵、貴方だけは、私の足が置ける様に、ずっと頭を下げてくれ
てても良いのだけど?﹂
﹁俺にはそう言う趣味はないんだよね∼ごめんねルチア﹂
少しプリプリしているルチアと、呆れ顔の俺を見て、苦笑いをして
1558
いるマリアネラにコティー。
その中で、あからさまに不機嫌な声がルチアに投げかけられる。
﹁⋮いい気なもの⋮私達からお金を取ってるくせに⋮﹂
ルチアを蔑ました瞳で見るナディア。そのナディアの瞳を見たルチ
アは、激しく瞳を揺らしていた。
﹁ちょ⋮ちょっとナディア!何言ってるの!?﹂
﹁⋮コティーは⋮黙ってて⋮﹂
慌てながらナディアを止めようとしたコティーは、ナディアの迫力
に負けて、出したその手を引っ込める。
﹁⋮貴方達権力者が私達を⋮こんな生活に追い込んだ⋮私達が⋮ど
んな思いで毎日生きているか⋮知ってる?﹂
きつくルチアを睨みつけるナディア。
﹁⋮確かに、全ての国民に満足の行く事を出来ていないかも知れま
せんが、ルチア様やアウロラ女王陛下は、日々国民のために頑張っ
ていらっしゃいます﹂
﹁⋮そんな事⋮信じられない。⋮貴方達も⋮ゴミを漁る生活をして
みると⋮いい!﹂
マティアスの言葉を聞いたナディアはそう叫んで立ち上がり、手に
持っていた蜂蜜パンをマティアスに投げつける。
そして、トビ達の元に走り去ろうとしたナディアの手を掴むルチア。
﹁待ってナディア!⋮私の話を⋮﹂
﹁⋮気安く⋮触らないで!﹂
ルチアの言葉を遮る冷たいナディアの声に、身体を強張らせてその
手を離すルチア。
ナディアはキッとルチアを睨んで、トビ達の元にテテテと駈け出し
1559
ていく。
﹁ごめんなさいルチア王女様!ナディアの事許して上げて下さい!
⋮ナディアも今迄色々つらい事があったから⋮。待ってよナディア
!﹂
コティーは何度もルチアに頭を下げると、ナディアを追いかけて行
く。
それを、瞳を激しく揺らして、切なそうに見つめるルチア。
﹁⋮ルチア。大丈夫?﹂
ルチアの肩にそっと手を置くと、ギュッと握り返してくるルチア。
﹁⋮私なら大丈夫よ葵。そうよね⋮実際に努力しているだけじゃダ
メよね。結果が今のままじゃ⋮﹂
そう言って寂しそうに俯くルチア。
﹁⋮何としても、下級市民制度を議会で承認して貰って、早く郊外
町の人々に手を差し伸べられる様に⋮﹂
ルチアはそう呟きながら、握り拳に力を入れる。
﹁⋮いきなり全てを変えれる事何か出来る奴なんていないよ。お前
はお前のやりたい事をすればいいよ。⋮解ってるだろルチア?﹂
そう言ってポンと背中を叩くと、ルチアの両手が俺の頬に伸ばされ
る。
﹁イテテテ!﹂
俺の両頬を引っ張るルチア。その瞳はどこか嬉しそうに見えた。
﹁⋮貴方にそんな事言われる様じゃ、私もまだまだね!⋮⋮ありが
とね葵⋮﹂
1560
﹁うん?最後何か言った?﹂
﹁⋮色狂いも程々にしなさいって言ったのよ!変態!﹂
俺の頬を楽しげに引っ張るルチアを見て、マティアスがフフと微笑
んでいた。
﹁では、まだ時間もありますし、また湖水浴でも楽しみましょうか﹂
リーゼロッテの言葉に、皆が頷く。
俺達は湖水浴を楽しんで、帰路につくのであった。
そこは豪華な造りの館だった。
沢山ある部屋の1つにその男達は集まっていた。
﹁⋮あの例の⋮行商人達が何やら嗅ぎまわっているみたいだが⋮首
尾はどうなっているヒュアキントス?﹂
﹁はい、万事上手く運んでいます。全て私達の思う通りに動いてい
ますのでご安心を﹂
金色の美しい髪を揺らしながら、綺麗にお辞儀をして頭を下げるヒ
ュアキントス。
それを見た豪華な身なりをした男は、ワインを飲みながらフンと鼻
を鳴らす。
﹁今度は⋮選定戦の様な失態は許さぬぞ?今度あの様な失態をすれ
ば⋮どうなるか解っておろうなヒュアキントス?﹂
豪華な身なりをした男は、きつくヒュアキントスを睨みつける。
﹁ハハハ。その辺はヒュアキントスも良く解っていると思います。
1561
今回はあの様な事は無いと、私が保証しましょう﹂
ソファーに腰を掛けながら、ヒュアキントスを見つめる40代後半
の上品なスラリとした男が、涼やかに微笑みながら言う。
﹁⋮まあ、貴方がそう言うなら⋮。やっぱり自分の息子の事が心配
なのかねレオポルド殿?﹂
ニヤッと口元を上げ笑う豪華な身なりをした男。それを見たレオポ
ルドはフフと笑う。
﹁いえ、我がド・ヴィルバン商組合の名を汚す様な事は無いと言う
事です﹂
そのレオポルドの言葉に、ククッと笑う豪華な身なりをした男。
﹁この件の立案者であるレオポルド殿が、そう言われるのであれば
安心か⋮。しかし⋮例の行商人が動いていると言う事は⋮ルチア王
女にも何かの情報が入っていると見た方が良いか⋮﹂
顎に手を当てながら考えていると、ヒュアキントスが一歩前に出る。
﹁いえ、私が得ている情報ですと、今回、例の行商人⋮葵達が依頼
を受けたのは、只の偶然の様です。冒険者ギルドで昇進の試験を兼
ねて出された依頼が﹃人攫い達の目的を探る﹄と、言うものだった
様です。葵達からルチア王女には、重要な情報は入っていない様で
す﹂
ヒュアキントスの言葉に、フムと頷く豪華な身なりの男。
﹁⋮そうか。先に依頼を受けている冒険者達も、あやつらとは関係
の無い者達の様だった。まあ⋮攫わせている者達には、炎で自身を
焼きつくすマジックアイテムである﹃自滅の腕輪﹄をつけさせてい
るから、情報は得られないであろうが⋮気を抜くなよヒュアキント
ス?﹂
1562
頷く豪華な身なりの男の言葉に、頷いているヒュアキントス。
﹁だが、あいつらは実際動き出しているんだろ?現に港町パージロ
レンツォを筆頭に、工業都市ポルトヴェネレや農業都市ヴェローナ
辺りの郊外町では、かなりの数の者達がやられてる。今回の﹃人攫
い達の目的を探る﹄と言う依頼を冒険者ギルドに出したのも、恐ら
くあいつらだ。依頼主も発表されていないし、冒険者ギルドから情
報は得られてはいねえが、間違い無いと思うぜ?﹂
身長200cmを超えている、ガタイの良い偉丈夫の言葉にレオポ
ルドが振り向く。
﹁ですからヒュアキントスに事を当たらせているのですよバルタザ
ール殿﹂
﹁ハハハ。そうだったな!俺はてっきり選定戦での失態の責任を取
らされていると思ってたけどなレオポルド殿?﹂
﹁⋮まあ、ソレも事実ではありますがね﹂
フフッと笑うレオポルドを見て、クククと可笑しそうに笑っている
バルタザール。
﹁兎に角、行商人達や冒険者達の動向、そして、他の郊外町の情報
収集は、引き続きバルタザールに任せる﹂
﹁解ってますよ。俺達バミューダ旅団は約定通りに動かさて貰うよ﹂
バルタザールの言葉に、フフと笑って頷く豪華な身なりの男。
﹁では、私達も引き続きあいつらの動向を、探るとしましょう﹂
﹁そうしてくれレオポルド殿。そちらの方が重要だからな。⋮くれ
ぐれも、生産量を落とさない様に、お願いしますぞ?﹂
﹁解っていますとも。では私達も戻らせて貰います。行くぞヒュア
キントス﹂
ニヤッときつい目をしていやらしく笑う豪華な身なりの男に、挨拶
1563
をするレオポルドとヒュアキントスは部屋から出て歩き始める。
﹁⋮何も見えていない俗物が、偉そうに⋮﹂
歩きながらヒュアキントスが小声で呟く。それを聞いたレオポルド
がフフッと笑う。
﹁⋮私達には崇高なる目的がある。あの方達の志の為に行動すれば
良いのだ﹂
﹁⋮そうでしたね父上﹂
レオポルドの言葉に頷くヒュアキントス。
﹁だが、今回は失敗は許されぬぞヒュアキントス?今度失敗すれば
⋮流石の私でも庇いきれぬぞ?﹂
﹁良く解っていますよも父上。僕に任せて下さい﹂
﹁⋮なら良い。全てお前に任せる﹂
レオポルドの言葉に、静かに頷いているヒュアキントス。
俺達の知らない所で、闇はさらなる動きを見せ始めるのであった。
1564
愚者の狂想曲 42 見え始める影
ルチア達やマリアネラ達、ナディア達と湖水浴を楽しんだ俺達は、
宿舎に帰ってきていた。
夕食を取り、湯浴み場で湯に浸かり、その気持ち良さを皆で感じて
いた。
﹁今日は凄く楽しかったです葵様!﹂
﹁そうです∼ミーアちゃんの言う通りなのです葵様∼!﹂
一緒に湯に浸かっているミーアとシノンが、顔を見合わせながら嬉
しそうにしていた。
﹁ミーアとシノンの言う通りです。ルチア様が持ってきてくれた食
べ物も、大変美味しかったですし﹂
ミーアとシノンの頭を優しく撫でているステラ。
﹁本当にありがとうですご主人様∼!!﹂
嬉しそうにそう言ったマルガは、俺の胸に飛び込んできた。
マルガの一糸纏わぬ乙女の柔肌が、俺の胸にその感触を楽しませて
いる。
その極上の柔肌を感じる様にギュッとマルガを抱きしめると、嬉し
そうにギュッと抱き返してくれる愛しいマルガ。
ふとマルガの体に視線を落とすと、真夏の日差しに焼かれたのか、
少し日焼けをして、水着の跡がついていた。
﹁マルガ少し日に焼けた?﹂
その言葉を聞いたマルガは急にアワアワマルガになって
1565
﹁ご主人様は、日焼けして黒くなった私がお嫌いですか?﹂
瞳をウルウルとさせて言うアワアワマルガを見てプッと吹いてしま
うと、今度は拗ねマルガに変身してしまった。
﹁ごめんごめん。日焼けして黒くなったっていっても、ほんの僅か
だよ。マルガは元々色が白いしすぐに元に戻るよ﹂
少し頬をプクッとさせているマルガの頭を優しく撫でると、エヘヘ
と言った感じで小さい舌をペロッと出してはにかんでいる。
マルガもそうだけど、皆少し日焼けをしているね。皆元々色白だか
ら、少しの日焼けでもよく解る。
水着で隠された部分はいつもの様に白く、隠されていない部分は少
し小麦色⋮
その女神たちの一糸纏わぬ女体の美しさと、夏にだけ味わえる日焼
けの水着の跡を見て、俺の瞳は艶かしく光る。
﹁⋮あ⋮うん⋮﹂
少し甘い吐息混じりの声を上げるマルガ。
俺は両手を腰に回し、マルガの小さく可愛い胸の上に申し訳なさそ
うに付いている乳首に吸い付いていた。
日焼けをしたマルガの水着の跡に指を這わせて、乙女の柔肌を十分
に堪能しながら、マルガの乳首を舌で転がす。マルガはギュッと俺
にしがみつき、俺に乳首を味わって貰える喜びに浸って居る様であ
った。
﹁⋮葵さん、葵さんのココがこんなに立派になってますわ⋮﹂
そう言いながら俺のモノを優しく握るリーゼロッテが、俺にその豊
満な胸を感じさせる様に抱きついてくる。
﹁⋮リーゼロッテも少し日焼けをしたね。水着の跡がよく解るよ﹂
1566
﹁水着の跡は⋮お嫌いですか?﹂
﹁ううん⋮かわいいよリーゼロッテ⋮﹂
俺はリーゼロッテを引き寄せ、その豊満な胸に舌を這わせる。
マシュマロの様な手に余る豊満な胸を堪能しながら、リーゼロッテ
のピンク色の乳首に吸い付くと、金色の透き通る様な瞳を艶かしい
色にしているリーゼロッテ。
そんな俺とマルガ、リーゼロッテを見ていた、ステラ、ミーア、シ
ノンの3人が俺の傍に近寄る。
﹁私の日焼けの跡はどうですか葵様⋮見てくれますか?﹂
﹁葵様∼私も日焼けの跡を見て欲しいのです∼﹂
ミーアとシノンが切なそうな顔をしながら、俺の目の前に下半身を
持ってきた。
胸と同様に日焼けの跡を残している、ミーアとシノンの下半身は、
水着の跡がくっきりと残っていて、その白色と小麦色の肌色が、鮮
やかなコントラストをなしていた。
俺は眼前に持ってこられたミーアとシノンの可愛い下腹部に我慢が
出来なくなって、ミーアとシノンの秘所に吸い付いた。
﹁ふあ⋮ニャはん⋮﹂
﹁はう⋮うんん⋮﹂
俺に交互に秘所を舐められているミーアとシノンは、お互い抱き合
いながら、俺に秘所を舐められる快感を味わっていた。
暫くミーアとシノンの秘所を交互に味わっていた俺の頭を、誰かが
掴み、強引にキスをしてくる子がいた。
俺の口の中に、甘く柔らかい舌を忍び込ませ、俺に味わって欲しい
かの様に、唾も一緒に送り込んでくる。俺はそれを堪能して、同じ
様に唾を飲ませて上げると、嬉しそうに味わいながら、喉を鳴らし
て飲み込んでいる。
1567
﹁今夜も⋮皆でご奉仕します葵様⋮﹂
俺から顔を離し、求める様におねだりする様に言うステラは、銀色
の尻尾を物欲しそうに揺らしていた。
﹁⋮うん、今日も皆を味あわせて⋮﹂
その言葉を聞いた女神達は、その乙女の柔肌を俺に感じさせながら、
湯船から俺を引っ張りあげると、柔らかい布の上に俺を座らせる。
すると女神達は石鹸を泡立て初め、それでお互いを洗い始める。
女神達は隅々まで洗いアワアワになると、俺の体に乙女の柔肌をこ
すりつける。
﹁葵さん⋮綺麗にしてさしあげますわ⋮﹂
リーゼロッテのその言葉を皮切りに、艶めかしい瞳をしている女神
達が、その柔肌の全てを使って、俺を洗っていく。
ミーアとシノンは足に縋り付く様に洗い始める。ステラとリーゼロ
ッテは両腕を秘所に挟んで腰を振りながら洗ってくれる。
﹁ご主人様⋮気持良いですか?﹂
マルガは俺に抱きつきながら、アワアワになった華奢な身体を使っ
て、俺に抱きつきながら洗ってくれる。
﹁マルガ⋮気持ち良いよ⋮﹂
俺がそう言うと、顔の赤いマルガは俺に顔を近づけ、そのちっちゃ
な口を開け俺の口の中に舌を忍び込ませてきた。
先程のステラとのキスを見ていて嫉妬したのか、同じ様に唾を忍び
込ませて俺に味わわせるマルガ。
その可愛さに俺は思わずマルガを抱きしめて、ステラと同じ様に、
マルガに唾を飲ませてあげると、それを口の中で味わって、喉を鳴
らして飲み込んでいくマルガ。
1568
﹁⋮では、今日はマルガさんから奉仕しですわね﹂
少し悪戯っぽく言うリーゼロッテはステラに視線を送ると、何かを
感じたステラが楽しそうに頷く。
そして、リーゼロッテとステラはマルガを両側から抱え上げると、
マルガを大股開きで俺に見せる様にする。
﹁は⋮はう⋮恥ずかしいです⋮リーゼロッテさん⋮ステラさん⋮﹂
俺に秘所を見られている事に欲情しているマルガの秘所からは、キ
ラキラと蜜の様に、愛液が流れ出していた。
﹁大丈夫ですよマルガさん。ねえ葵さん?﹂
﹁⋮うん、リーゼロッテの言う通り⋮可愛いよマルガ﹂
その言葉を聞いたマルガは、真っ赤になりながら両手で顔を隠す。
それと反比例をして、マルガの秘所は物欲しそうにパクパクと口を
開いたり閉じたりしていた。
﹁ではマルガ様⋮存分に葵様に味わって貰ってくださいね﹂
悪戯っぽいステラがフフフと微笑むと、リーゼロッテと一緒に俺の
いきり立つモノの上に、マルガを降ろした。
﹁はううううううんんん!!!﹂
甘い吐息混じりの甲高い声を上げるマルガ。ステラとリーゼロッテ
に、俺のモノを入れられたマルガは、膣をキュッと嬉しそうに締め
付けてくる。
﹁本当にマルガの膣は気持ち良いね。何回犯しても⋮一向に緩くな
らない⋮。まるで初めての時の様だね﹂
その言葉を聞いたマルガは、歓喜の表情を浮かべると、俺の口に吸
い付きながら、可愛い腰を振り、俺のモノをヌルヌルの蜜を溢れさ
せている膣で感じていく。
1569
俺もそんな可愛いマルガに応える様に、力一杯下からマルガを犯す
為に腰を突き上げる。
突き上げるたびに甘い吐息を辺りに撒き散らすマルガを見て、ミー
アとシノンが切なそうな声を上げる。
﹁私にも⋮ご奉仕させて下さい葵様⋮﹂
﹁私も⋮葵様に味わって貰いたいです∼﹂
ミーアとシノンは俺にキスをしながらおねだりしてくる。
﹁じゃ⋮シノンは俺の顔の上に⋮その可愛いお尻を持ってきて⋮。
ミーアは⋮俺とマルガの繋がっている所を⋮口で奉仕して⋮﹂
その言葉を聞いたミーアとシノンは歓喜の表情をすると、シノンは
俺の顔の上に腰を下ろし、俺に秘所を味わって貰うかのように腰を
振り、ミーアはマルガを犯している俺のモノと袋を舌で味わい奉仕
をして、マルガの膣を犯しているモノもその舌で味わっていた。
﹁マルガ様⋮葵様のモノを⋮こんな可愛い膣で咥え込むなんて⋮可
愛すぎます﹂
﹁うんんんん!﹂
ミーアに恥ずかしい事を言われながら、舌でお尻の穴を舐められて
いるマルガは、身体をピクつかせながら、更に甘い吐息を撒き散ら
す。
﹁ステラにリーゼロッテ。マルガを気持ち良くさせてあげて。シノ
ンは⋮ステラとリーゼロッテの秘所を⋮気持よくさせて﹂
俺の言葉に頷く女神達は、俺の上でその艶めかしい姿を隠すこと無
く見せてくれる。
俺に秘所とお尻の穴を舐められ、舌を入れられているシノンは、身
体をピクピクとさせながら、両手を使って、必死でステラとリーゼ
ロッテの秘所に愛撫をしている。
1570
そのシノンの愛撫に秘所から蜜を滴らせているステラとリーゼロッ
テは、マルガの胸に口をつけると、マルガの可愛い乳首に吸い付き、
舌でマルガの乳首を弄ぶ。
そのリーゼロッテとステラの愛撫に我慢できなくなったマルガは、
シノンに抱きつきキスをしていた。
俺は下からマルガを犯し、シノンの秘所とお尻の穴を下で味わい吸
い付きながら、ミーアの柔らかい舌で袋を愛撫されている気持ち良
さに浸りながら、女神達の艶めかしい姿を見て、至高の幸福を感じ
ていた。
すると、俺に下から力一杯犯され、ステラとリーゼロッテに胸を愛
撫されているマルガの体は、小刻みに震えだし、何かを求める様な
甘い吐息を吐き始める。
﹁ご主人しゃま⋮ヒキましゅ⋮ヒカせていただきましゅ!!!!﹂
シノンとキスをしながら声高に叫ぶマルガの体は、大きく弾ける。
マルガの絶頂の影響で、マルガの膣はキュウウウと俺のモノを刺激
する。
俺はその快感に、欲望を全て送り込むかの様に、マルガの子宮に直
接種付けするかの様に、精を注ぎ込む。
それと同時に、俺に秘所とお尻の穴を下で犯されていたシノンや、
シノンに秘所を愛撫されていたステラとリーゼロッテが同時に絶頂
を迎える。
﹁﹁﹁うんんんんんんん!!!!!﹂﹂﹂
声を揃え絶頂を迎えるリーゼロッテ、ステラ、シノンの3人は抱き
合いながらその余韻に浸っていた。
俺はそれを至福の気持で見つめていると、精を注がれたマルガを俺
の上から降ろしたミーアが、マルガの秘所に顔を埋める。
1571
﹁葵様の精をこんなに注いで貰って⋮溢れちゃってますよマルガ様
⋮﹂
そう言って、マルガの可愛い膣に口をつけ、俺の精子をマルガの膣
から吸い出すミーア。
口の中一杯に俺の精子を含んだミーアは、クチュクチュとそれを味
わうと、マルガにそのままキスをして、俺の精子を口移しに飲ませ
ている。
﹁マルガ様⋮葵様の精は⋮美味しいですね⋮﹂
﹁⋮はい⋮ご主人様の子種は⋮とても⋮美味しいのです⋮﹂
そういったマルガは、再度俺の精子をミーアに口移ししている。マ
ルガとミーアは何度も俺の精子を口移ししながら味わって居る。
俺はその光景に我慢出来無くなって、ミーアの腰を掴み、一気に後
ろからミーアの膣にモノをねじ込み犯す。
﹁ウニャアアアアアン!!!!﹂
猫の様な甘い声を上げるミーア。
﹁⋮皆まだまだ一杯犯すからね⋮皆を一杯味わわせて⋮﹂
ミーアを後ろから力一杯犯す俺の言葉を聞いて、女神達が妖艶な喜
びの表情を向ける。
﹁まずはミーアからね⋮一杯犯してあげる⋮みんなもミーアを気持
ち良くさせてあげて⋮﹂
俺の言葉に、女神達は妖艶な表情でミーアを愛撫し始める。そのあ
まりの快感に激しく身を捩れさせているミーア。
俺は女神達を心ゆくまで犯し味わい、その日は眠りにつくのであっ
た。
1572
ルチア達と湖水浴を楽しんでから早15日。
俺達は特に情報を得られないまま、郊外町の捜索に繰り出す日々を
送っていた。
暑かった真夏の日差しも少し陰りを見せ始め、夜はその肌寒さに季
節の移ろいを感じる。
そんな中、俺達はマリアネラ達と郊外町ヴェッキオを、いつもの様
に捜索していた。
﹁最近は人攫い達も見つかりませんねご主人様∼﹂
マルガが残念そうに金色の毛並みの良い尻尾を、ショボンとさせな
がら言う。
﹁そうだよねマルガ姉ちゃん∼。荷馬車や檻馬車を見かけては調べ
ているけど、人攫い達と全く関係の無い人達の物ばかりだったし⋮﹂
マルコが半ば諦めムードを漂わせながら言う言葉に、マルガが頷い
ている。
﹁⋮ここは身を隠す所には困る事の無い郊外町。私達の事をマルガ
さんの感知範囲外から監視している可能性もありますわね。なにせ
相手は、自身の証拠を全て燃やし、消し去ってしまう程の訓練され
た相手ですからね﹂
﹁リーゼロッテの言う通りかもね。あたし達の方も、人攫い達との
接触が減っているんだしさ。マルガには及ばないけど、ゴグレグだ
ってワーリザードで、感知範囲は100m位あるんだけど、なかな
か人攫い達を見つけられないからね﹂
マリアネラの言葉に頷くリーゼロッテ。マルガにマルコも頷いてい
た。
1573
確かに最近、人攫い達を見つける事が出来ない。
マリアネラにしても、撃退している数が激減している。
俺達にはマルガのレアスキル、動物の心で意思の疎通の出来る、白
銀キツネの子供ルナも居る。
ルナの感知範囲は400m。詳しく感知は出来ないが、人の悲鳴や
戦闘の気配は、この沢山の人が生活している郊外町の中でも感じら
れる。
しかし、ルナの感知に掛かって現場に走って向かっても、既に人攫
い達が事を成し遂げた後ばかりで、直接人攫い達と接触出来る事や、
何かの情報を掴めるに迄には至っていなかった。
なので今回は、感知範囲の広い俺達と一緒に捜索したいとマリアネ
ラが言ってきたので、共同で捜索に当たっているのだ。
まあ⋮実際に人攫い達と接触出来たとしても、前みたいに上級者の
パーティーであったなら、今の俺達では苦戦は確実。
マリアネラ達と一緒なら、そこそこの上級者の人攫い達と接触をし
ても、撃退できるし安心だ。
その様な事を考えながら捜索に当たっていると、ルナが歩みを止め
て、ちっちゃな耳をピクピクとさせる。
それを見たマルガは、レアスキルの動物の心で意思の疎通をして俺
に振り返る。
﹁ご主人様!ルナが気配を感じました!私は何も感じていませんの
で、最低200mは離れています!﹂
﹁マルガどこから気配を感じてるって言ってるんだい!?﹂
﹁ここから東の方ですマリアネラさん!﹂
マルガの言葉を聞いたマリアネラは、武器を装備しながら
1574
﹁私達は別方向から回りこむ!葵達はそのまま向かっておくれ!﹂
﹁解ったよマリアネラさん!﹂
俺の了承の言葉に頷いたマリアネラ達は、跳躍して向かって行く。
﹁俺達も現場に向かうよ!皆武器を装備して!﹂
俺の言葉に武器を装備するマルガにマルコ。俺達は気配の感じた方
に全力で駆け出す。
﹁今回は絶対に尻尾を掴んでやるんだ!﹂
﹁そうですねマルコちゃん!﹂
走りながら気合を入れているマルガとマルコに、頷いているリーゼ
ロッテ。
そして、現地にたどり着いた俺達は、地面に転がっている2つの死
体を見て渋い表情になる。
﹁⋮今回も、また人攫い達が事を成し遂げた後の様ですね葵さん﹂
殺されている、恐らく目撃者であろう死体を見つめながら言うリー
ゼロッテの言葉に、落胆の色を隠せないマルガにマルコ。
﹁仕方ないよマルガにマルコ。⋮そう言えば、マリアネラさん達の
方はどうだったんだろう?﹂
﹁そうだね葵兄ちゃん。人攫い達を回りこんで追うって言ってたけ
ど⋮﹂
マルコが辺りをキョロキョロ見回していると、マルガとルナが同時
にピクッと身体を反応させる。
﹁ご主人様!この近くで戦闘の気配を感じます!﹂
﹁葵さん、きっとマリアネラさん達ですわ。人攫い達を回りこむ事
に成功したのでしょう﹂
﹁その場所に行ってみよう!皆行くよ!﹂
1575
俺達はマルガを先頭に、気配を感じた場所迄走って行くと、数人の
者達が戦闘を繰り広げていた。
﹁葵!来たのかい!﹂
人攫いの内の1人と鍔迫り合いをしているマリアネラが、俺達に気
が付き振り向く。
ゴグレグとヨーランも同じ様に人攫い達と対峙していたが、俺達に
気がついている様だった。
﹁俺達も加勢します!皆!隊列を組んで!﹂
俺の言葉にいつもの様に隊列を組むマルガ、リーゼロッテ、マルコ。
それを見た人攫いの内の1人が、攫った人を抱えたまま走りだした。
﹁葵!ここは私達で十分だから、アイツを追ってくれ!﹂
﹁解りました!いくよ皆!﹂
マリアネラの言葉に走りだした俺達の前に、人攫いが立ちはだかる。
﹁お前の相手は私だって言ってるだろ!﹂
高速で跳躍してきたマリアネラに蹴りを入れられる人攫いの男は、
地面に飛ばされる。
﹁行け!葵!﹂
﹁はい!﹂
マリアネラの言葉に再度走り出す俺達は、逃げている人攫いの背後
を捉える。
﹁お行きなさい!私の可愛い人形達!﹂
リーゼロッテの召喚武器、ローズマリーとブラッディーマリーの2
体の人形が、高速で人攫いの背後に迫り、両腕の隠し腕の双剣で斬
りつけた。
1576
それを紙一重で躱した人攫いの男は、逃げ切れないと判断して攫っ
た人を放り投げる。
放り出された女性は空を舞い地面に激突する所で、エアムーブを発
動させたマルガにギリギリで助けられた。
﹁女性に酷い事をして!﹂
マルガは気絶している女性を地面にそっと横たえながら、激しく人
攫いの男を睨んでいた。
﹁逃げ切る為に攫った人を放り投げたのでしょうが⋮甘かったです
ね。観念して貰いましょうか﹂
リーゼロッテは涼やかな笑みを浮かべると、人攫いの男の背後に、
ローズマリーとブラッディーマリーを回らせ退路を断たせる。
俺は名剣フラガラッハを引き抜きながら、人攫いの男を霊視する。
﹁LV65のスカウトハンターだ。厄介なスキルも持っているから
気をつけて皆!﹂
俺の言葉に頷くマルガとマルコは、武器を構えながら跳躍する。
﹁行きます!やあああ!﹂
﹁許して欲しいなら今のうちだよ!たあああ!﹂
マルガにマルコは気合の声を上げながら、スカウトハンター目掛け
て跳躍する。
マルガとマルコは連携のとれたフェイントを織り交ぜながら、スカ
ウトハンターに斬りかかる。
スカウトハンターは、右手の短剣でマルガの大熊猫の双爪を弾き、
左手のバックラーでマルコの魔法銀のクリスを防ぎ、後方に跳躍を
する。
しかし、それを当然の様に予測していたリーゼロッテの二体の人形
が、スカウトハンターの後方から、着地した瞬間に斬りかかる。
1577
﹁グウウ!﹂
唸り声を上げるスカウトハンターは、背中を大きく斬りつけられ動
きを鈍らせる。
﹁流石リーゼロッテ!これで終わりだ!﹂
俺は動きの鈍ったスカウトハンターを名剣フラガラッハで斬りつけ
る。
スカウトハンターは辛うじて俺の斬撃を躱すが、右腕を名剣フラガ
ラッハに切断される。
そして距離を取り、体制を立て直すスカウトハンター。
﹁⋮もうやめてはどうですか?如何に上級者である貴方でも、連携
の取れる私達4人相手ではキツイでしょう?それに、右腕は切断さ
れ、背中には深い切り傷⋮今降伏するなら、治療してあげますよ?﹂
リーゼロッテが両側にローズマリーとブラッディーマリーをフワフ
ワと浮かせながら言う言葉に、ニヤッと口元に笑みを浮かべるスカ
ウトハンターの身体が、淡黄色に光るオーラに包まれる。
次の瞬間、気戦術で身体強化をしたスカウトハンターが、高速でマ
ルガ目掛けて飛びかかった。
﹁マルガはお前なんかにやらせない!﹂
俺は闘気術を発動させ、高速でマルガに向かうスカウトハンターの
前に立ちはだかる。
﹁⋮グフウ⋮ゲフ⋮﹂
口から血を吐きながら、微かに唸り声を上げるスカウトハンターは、
俺の名剣フラガラッハに胸を貫かれていた。
しかし、死の恐怖を感じていなさそうなスカウトハンターは、寒気
のする様な笑みを俺に向けると、残っている左腕で俺の胸ぐらを掴
1578
む。
その光景を見ていたリーゼロッテが何かに気が付き、俺に向かって
叫ぶ。
﹁葵さんマルガさん逃げて下さい!その男は、自滅のマジックアイ
テムを使って、2人を道連れにするつもりです!﹂
滅多に見せない様な狼狽した面持ちで叫ぶリーゼロッテ。
俺は咄嗟にマルガを後方に突き飛ばし、俺とスカウトハンターから
遠ざける。
それと同時に、俺の胸ぐらを掴んでいるスカウトハンターの左腕が
光りだす。
﹁いやーー!!ご主人様ーーー!!!﹂
俺に突き飛ばされて地面で蹲っているマルガが、瞳に涙を浮かべ、
左手を伸ばしながら叫ぶ。
俺とスカウトハンターの身体が光に包まれ、炎に包まれる事を覚悟
した時に、その異変は現れた。
俺とスカウトハンターを包んでいた光は、全てを焼きつくす炎を召
喚する事無くその光を失う。
それを見たスカウトハンターが、茫然自失の声を上げる。
﹁そ⋮そん⋮な⋮馬鹿⋮な⋮﹂
微かに声を出すスカウトハンターは、口から血を吐きながら絶命し
て事切れる。
俺は掴んでいた左手を離すと、地面にドサッと崩れ落ちるスカウト
ハンター。
それを見ていた約1名が、物凄い早さで俺に抱きついた。
﹁ご主人しゃま∼無事でよかったでしゅ∼!!﹂
瞳に一杯の涙を浮かべながら、涙声で言うマルガが、グリグリと可
1579
愛い頭を胸に擦りつけてくる。
﹁ごめんねマルガ。心配させちゃって。マルガは大丈夫?﹂
﹁はい!私は大丈夫です!ご主人様!﹂
瞳をウルウルとさせながら、ギュッとしがみつくマルガの頭を優し
く撫でる。
﹁しかし⋮どうして光が消えちゃったんだろうね葵兄ちゃん!まあ、
助かったからそれで良かったのだけどさ﹂
マルコがスカウトハンターの死体を見ながら、不思議そうに首を傾
げていた。
﹁⋮ひょっとしたら⋮葵さんの種族の特性である﹃呪い無効﹄の効
果のせいかも知れません﹂
リーゼロッテが顎に手を当てながら言う。それを聞いた落ち着きを
取り戻したマルガがリーゼロッテに聞き返す。
﹁どういう事なのですかリーゼロッテさん?﹂
﹁はい、元々こう言った自滅する様なマジックアイテムの効果⋮つ
まり魔法は、闇属性、又は呪いの効果を流用して作られている事が
多いのです。葵さんはヴァンパイアの始祖の血を半分持っている魔
族のヴァンパイアハーフ。葵さんは呪われている装備も、呪われる
事無く装備出来ますわ。ですから﹃呪いを無効﹄にする特性を持っ
ていたとしても、なんら不思議ではありません﹂
リーゼロッテの説明を聞いたマルガにマルコは、確かにと言い合い
ながら頷き合っていた。
⋮そう言えば、スカウトハンターの左腕が光り出した時、無意識に
その左腕を掴んでいた。
その時に、自滅のマジックアイテムに触れていたのかも知れない⋮
1580
﹁それを証拠に、このスカウトハンターにつけられている自滅のマ
ジックアイテムは、まだその効力を持ったままですわ。恐らく⋮効
果の取り消しと言う形で、元に戻ったのでしょう。この自滅のマジ
ックアイテムを装備しなおさない限り、死んでいようが、気絶して
いようが、その効果が発動される事は無いでしょう。⋮葵さんの魔
族の血の方が、呪いより強かったと言う事でしょうね﹂
リーゼロッテの説明を聞いたマルガとマルコが、おお∼と、感嘆の
声を上げる。
﹁凄いのです!流石はご主人様なのです∼!﹂
﹁葵兄ちゃん凄いね!﹂
マルガとマルコは羨望の眼差しで、キラキラした瞳を俺に向ける。
え!?マジ!?俺って凄い!?
そんなキラキラした瞳で見つめられたら、オラ調子に乗って木にで
も登っちゃうよ!?
そんな感じでデレデレしている俺を見て、口に軽く手を当てて、ク
スクスと笑っているリーゼロッテが
﹁マルガさんもマルコさんもその辺にしておいて、とりあえずは、
この人攫いの死体を調べましょう。ここでは危険かも知れませんか
ら、いつもの集合場所であるジェラードさんの教会にその死体を運
びましょう。それで良いですか葵さん?﹂
﹁うんそれでいいよ。⋮リーゼロッテ、死体を運んで貰える?﹂
﹁解りましたわ葵さん﹂
苦笑いをしている俺を見て楽しげに微笑むリーゼロッテは、スカウ
トハンターの死体を2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリ
ーに運ばせる。
俺達はスカウトハンターの死体を運びながら、いつもの教会に足早
1581
に向かうのであった。
俺達はいつもの集合場所であるジェラードの教会にやって来た。
そして小奇麗に清掃されている大きな扉を開け中に入ると、声がか
かった。
﹁お!来たね!﹂
少し安堵して嬉しそうに言うマリアネラを見て、ニコッと微笑むマ
ルガにマルコ。
﹁マリアネラさんの方は大丈夫でしたか?﹂
﹁私達の方は、3人倒したよ。まあ⋮1人逃げられたけどね。でも、
攫われた人は無事だったよ﹂
﹁流石はマリアネラさん達ですね。あの上級者達4人相手をして、
3人倒してしまうなんて﹂
俺の言葉に気恥ずかしそうにしているマリアネラ。ゴグレグとヨー
ランはフフと笑っていた。
﹁そっちはどうだったんだい?あの人攫いには逃げられちまったの
かい?﹂
﹁いえ、倒しましたわマリアネラさん。それに倒した死体も回収し
ました﹂
そう言って、スカウトハンターの死体をマリアネラ達の足元に降ろ
すリーゼロッテ。
その人攫いのスカウトハンターの死体を見たマリアネラ達は困惑の
1582
表情をする。
﹁どうしてこの死体は残っているんだい!?いつもなら倒した時は、
こいつらは自滅のマジックアイテムで自らを全て燃やして、炭にな
ってしまうのに⋮﹂
﹁⋮きっとマジックアイテムに何かの不具合でもあったのでしょう。
なので全てを焼かれずに済みました﹂
全てを説明出来ないと理解しているリーゼロッテが、それらしい理
由をつけてくれる。
リーゼロッテの言葉を聞いて成る程と頷いているマリアネラ。
﹁それで、この死体を調べて見ようと思うんだ。何か情報が解るか
もしれないしさ。初めは現場で調べようと思ったんだけど、人攫い
達の追撃があるかも知れないし、合流場所であるこの教会ならマリ
アネラさん達が居ると思ったから、死体をそのまま持って来ました﹂
﹁良い判断だね葵。あいつらの事だ。死体が残っていると解ったら、
何をしてくるか解らないからね。ココに持ってきて正解だよ﹂
マリアネラの言葉に、少し得意げなマルガにマルコ。
﹁じゃ∼死体を調べてみようかね。皆いいかい?﹂
マリアネラの言葉に頷く一同。マリアネラは慎重に死体を調べてい
く。
血に染まった、斬られた防具を外した時、マリアネラの顔が強張る。
﹁⋮葵。この死体は⋮本当にあの逃げた人攫いの男のものなんだよ
ね?﹂
俺をきつく見るマリアネラに少し戸惑う俺。
﹁う⋮うん。この死体は本当に人攫いの死体だけど?﹂
俺の言葉にマルガやマルコ、リーゼロッテが頷く。
1583
俺の瞳に疑いが無い事を感じたマリアネラは、静かに死体を指さす。
﹁⋮皆此処を見てご覧﹂
静かに語るマリアネラの言葉通りに、指された所を見ると、左肩に
何か2つの紋章があった。
﹁これは⋮何なのですかマリアネラさん?﹂
マルガが可愛い子首を傾げながら言う。マルコも同じ様に小首を傾
げていた。
﹁これはね、﹃従属の紋章﹄と言ってね、騎士団や傭兵団、それに
属する者がつける事を義務付けられている紋章なのさ。この従属の
紋章を見ると、どこの国の騎士団や傭兵団なのか解る様になってい
るんだよ。この従属の紋章はね、魔法でつけられていて、偽造出来
ない様になっているんだよ。だから、この紋章によって、味方か敵
が瞬時に判断出来るんだね。それにこの紋章は死んでも消える事が
無いんだ。退団や追放されない限りはね﹂
マリアネラの説明を聞いて、なるほどと頷き合っているマルガにマ
ルコ。
﹁その隷属の紋章がどうかされたのですかマリアネラさん?﹂
﹁ああ、有るね。大有りだよリーゼロッテ。だって⋮この隷属の紋
章の1つは⋮フィンラルディア王国の上級守備隊の紋章なのだから
ね﹂
マリアネラの言葉を聞いた一同は驚きく。
﹁えええ!?この人攫いは、フィンラルディア王国の国軍のものだ
って言う事なの!?﹂
思わず大きな声を上げるマルコに、静かに頷くマリアネラ。
1584
﹁そ⋮それはどういう事なのですかマリアネラさん!人を攫って居
たのは⋮フィンラルディア王国と言う事なのでしょうか!?﹂
マルガが狼狽しながら言う。マルコもウンウンと頷いていた。
﹁それは解りませんわマルガさん。この者が賄賂でも貰って、人攫
いを手伝っていた可能性もあります。いきなり人を攫わせていたの
がフィンラルディア王国であると決めつけるには、早急すぎますわ﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。こいつだけが手伝っていた可能性
の方が高い。だって考えてみな。何の取り柄もない、この郊外町に
住む者を攫ったって、フィンラルディア王国にとって、何の利益に
もならないだろう?﹂
マリアネラの言葉に頷くマルガにマルコ。
﹁それにもしフィンラルディア王国が攫っていたとして、売る以外
に利益の上がらない人達なんだ。そんな事をしていれば、どこかの
奴隷商が儲かっている話が出る。そうなれば、あのギルゴマさんが
情報を掴んでいないはずはないしね﹂
俺の言葉に、確かにと頷くマルガにマルコ。
﹁とりあえずは⋮フィンラルディア王国の事は別として⋮このもう
一つの紋章は貴族印でよろしいのでしょうかマリアネラさん?﹂
﹁ああ、そうだろうね。リーゼロッテの言う通り、フィンラルディ
ア王国の上級守備隊にもなれば、どこかの貴族の騎士団に属してい
る奴も多いって話だしね。こいつもどこかの貴族の騎士団に属して
いるんだろうさ。この貴族印が、どこの貴族印かは解らないけどね﹂
﹁ならリーゼロッテ、この貴族印と上級守備隊印の2つの紋章を、
書きとめておいて。後で解る人にみて貰えば、どこの貴族の騎士団
か解るだろうしさ﹂
俺の言葉に頷くリーゼロッテは、2つの紋章をスケッチしだす。
レアスキルの器用な指先を持つリーゼロッテは、指先で行う事はな
1585
んでも天才的に出来る。
絵を書くのも非常に上手い。
瞬く間に、寸分たがわぬ紋章の絵を書きとめるリーゼロッテ。
﹁とりあえずはどうするのですかご主人様?この死体をフィンラル
ディア王国の守備隊に渡して調査して貰うのですか?﹂
﹁⋮いや、それは不味いと思うよマルガ﹂
俺の顔色の優れない表情を見て、困惑しているマルガ。
﹁それはどうしてですかご主人様?﹂
﹁それはですねマルガさん。もし、この死体をフィンラルディア王
国の守備隊に差し出せば、殺したのが私達であると解ってしまいま
す。私達の話を信じてくれれば良いのですが、証拠はありません。
もし、守備隊の中に、何か悪い考えを持った人がいるのなら、私達
が罪もないフィンラルディア王国の守備隊の人を殺して略奪したと、
容疑を掛ける人も居るかも知れないからです﹂
﹁そ⋮そんな⋮﹂
リーゼロッテの説明に、小さく呟きながら、瞳を揺らしているマル
ガとマルコ。
﹁リーゼロッテの言う通りだね。とりあえず、ルチアに相談してみ
よう。この貴族印の事もあるしね﹂
﹁そうですねご主人様!ルチアさんなら、きっと私達を信じてくれ
るのです!﹂
尻尾をブンブンとさせながら言うマルガの頭を優しく撫でると、嬉
しそうにしているマルガ。
﹁そうだね。葵達とルチア王女様には信頼関係が有る様だし、それ
が1番だろうね﹂
ウンウンと頷いているマリアネラ。
1586
﹁でも⋮この死体はどうしましょうか?このまま放っておけば腐っ
てしまいますし⋮﹂
リーゼロッテの言葉に、マリアネラが応える。
﹁それは大丈夫だよリーゼロッテ。ここは教会なんだ。教会にはね、
大体霊安室があるんだよ。この教会にも霊安室はある。そこに入れ
ておけば、魔法効果の施されている霊安室だから、死体が腐る事は
ないんだよ。ジェラードには私から言っておくよ。だから葵達は、
ルチア王女様と相談してくれ﹂
マリアネラの言葉に頷く一同。
﹁でも⋮ここに死体を置くのは⋮危険じゃないのですか?ひょっと
したら⋮人攫い達が⋮奪い返しにくるかもですし﹂
﹁大丈夫だよマルガ。今日から私達はこの教会に居る事にするから。
その間に、ルチア王女様とどうしたら良いか話し合ってくれ﹂
マリアネラの言葉に、はい!と、元気良く返事をするマルガ。
﹁では⋮ルチアと相談する間、お願いしますねマリアネラさん﹂
﹁ああ!まかしときな!﹂
﹁無理はしないでくださいねマリアネラさん﹂
心配げに言うマルガの頭を、嬉しそうに撫でるマリアネラ。
﹁大丈夫だよマルガ。私達はそんな簡単にやられないよ。安心しな
!﹂
その言葉を聞いて、頷くマルガにマルコ。
﹁では、ルチアと相談してきます﹂
﹁ああ!行って来な!﹂
俺達は人攫いの死体をマリアネラ達に任せて、王宮に向かう事にな
1587
ったのであった。
1588
愚者の狂想曲 43 依頼者達
今俺達は、ルチアから貰った地図に書かれている場所に向かってい
る。
昨日人攫いの内の1人を倒し、その死体の事でルチアに相談をしに
ヴァレンティーノ宮殿に赴いたまでは良かったが、当のルチアがど
こかに出かけていて不在だったのだ。
それでルチアの専属侍女をしている、ルイーズ、アンリ、ジュネに
その件を書いた羊皮紙を渡しておいたら、夕方位に3人が宿舎にや
って来て、この地図を渡されたのだ。
3人曰く、そこの場所で話を聞きたいとの事らしい。
なぜ王宮や宿舎で話をしなかったのだろうなどと、ルチアの考えを
少し疑問に思いながら、俺達は地図に書かれた場所まで歩いて行く。
﹁⋮葵さん。どうやら⋮地図に書かれた場所は、ここの様ですわね﹂
リーゼロッテの声に皆がその建物に視線を送る。
その建物は、俺達が住んでいる宿舎の様に、造りは古いが格調の高
い美しい建物であった。
柵や壁の向こうには、綺麗に手入れされている庭園が広がり、その
中心に孔雀を模した銅像のある噴水から、美しい水が湛えられてい
た。
そして豪華な装飾のされた門の横には、規律正しく並んでいる警護
の兵が、切れ味の鋭いハルバートを持ち、凛々しく立っていた。
その上には、白地に孔雀が羽を広げている旗が、風に靡いている。
1589
俺達がその光景に目を奪われていると、1人の護衛兵が近寄って来
た。
そして、俺達を一通り見て、フンフンと頷く。
﹁⋮貴方達は⋮葵様ご一行ですかな?﹂
﹁あ!はい!そうです﹂
優しく落ち着きのある護衛兵の言葉に、慌てながら返事をすると、
少し可笑しそうに笑う護衛兵。
﹁そうですか。貴方達の事は聞いています。ご案内致しますので、
こちらにどうぞ﹂
護衛兵の言われるままにその美しい館に入っていく俺達。
ヴァレンティーノ宮殿にも引けを取らない美しさと優雅を備えてい
る館の中を、キョロキョロと眺めながら歩いていたマルガが口を開
く。
﹁ご主人様⋮ここは誰のお屋敷なのですか?﹂
俺に腕組みをしながら聞いてくる可愛いマルガの言葉を聞いた護衛
兵が、俺達に振り返る。
﹁ここは、フィンラルディア王国、六貴族の内の1つである、ハプ
スブルグ伯爵家の別邸ですよお嬢さん﹂
﹁はうう!?そうなのですか!?﹂
驚きながら少し変な声を上げたマルガは、恥ずかしそうに両手で口
を抑えて赤くなっていた。
そんなマルガを見た護衛兵は、フフフと優しく笑いながら頷いてい
た。
ハプスブルグ伯爵家⋮
フィンラルディア王国で権力を持つ六貴族の内の1つであり、フィ
1590
ンラルディア王国の南に位置する大都市、農業都市ヴェローナを治
める領主でもある。
温暖な気候や、豊満な大地、澄み渡る水に囲まれ、農業を中心とし
て発展した領地でもある。
ロープノール大湖から流れ出す川を航路とし、この王都ラーゼンシ
ュルトとも繋がっている。
ヴェローナ周辺で取れる農作物は、このフィンラルディア王国を潤
している。
そして、このフィンラルディア王国の司法を取り仕切っている大貴
族としても知られている。
この世界にも裁判所の様な所があり、民民の事柄や紛争などは、裁
判所で法律に則り裁かれていたりもするのだ。
国の警護や守備も担当していて、正義の象徴である、孔雀をシンボ
ルとした紋章を掲げている。
バルテルミー侯爵家同様、善政を敷く領主として知られ、正義を貫
くその姿勢は、一切の不正を許さないと言われている。
このフィンラルディア王国の正義の代名詞といっても過言ではない
だろう。
﹁では、行きましょうか﹂
優しく語りかける護衛兵に、気恥ずかしそうに頷くマルガ。
俺達は再度護衛に案内されて後を付いて行くと、豪華な扉の前でそ
の歩みを止める。
﹁こちらになります。中に入ってください﹂
護衛兵の言われるままに、俺達は豪華な扉を開けて部屋の中に入っ
て行くと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
﹁いつもこの私を待たせるなんて、本当に良い度胸よね!まったく
1591
!﹂
少し不機嫌ないつものルチアの声を聞いた嬉しそうなマルガにマル
コが、ルチアの元に小走りに進みだして、カチッと音がする様に固
まる。
マルガとマルコの視線の先に目を向けると、50代位の偉丈夫が鋭
い眼光を俺達に向けていた。
﹁晩餐会以来だな。⋮元気そうだな葵﹂
﹁ラ⋮ランドゥルフ様もお元気そうで何よりです﹂
俺が少し苦笑いしながら挨拶をすると、フフと笑い、その手に持っ
たワイングラスを傾けている。
﹁まあまあ堅苦しい挨拶は無しにして、座ってくれたまえ葵殿﹂
その声に視線を向けると、楽しそうな顔で俺達を見つめるルクレツ
ィオとイレーヌ、マティアスの姿があった。
俺達はランドゥルフとルクレツィオに挨拶を済ませ、ソファーに座
ると、メイドがワインを入れてくれる。マルガやマルコは果実ジュ
ースを入れて貰い、それをグイッと飲み干している。
そして、軽くワインに口をつけたリーゼロッテが、綺麗な声を響か
せる。
﹁所で⋮今日は何故ルクレツィオ様やランドゥルフ様がいらっしゃ
るのでしょうか?﹂
﹁⋮私達が居たら⋮何か話しにくい事でも有るのかリーゼロッテ?﹂
﹁いえ、その様な事はありませんわランドゥルフ様﹂
ギラッとした眼光を向けるランドゥルフに、涼やかな微笑みを返す
リーゼロッテ。
それを楽しそうに見ているルクレツィオを見て、ルチアが軽く溜め
息を吐く。
そして、ルチアが口を開こうとした時に、一同の後ろから声が聞こ
1592
えた。
﹁それは私から説明させて頂きましょう﹂
その声に振り向くと、そこにはルクレツィオやランドゥルフに年の
頃の近い、赤み掛かった金髪の偉丈夫が立っていた。優しくもどこ
か清い感じのするその声の持ち主に、どこか威厳が感じられる。
その横には、同じ赤み掛かった金色の美男子が俺を値踏みする様に
見つめていた。
﹁お待たせしてすいませんルチア王女。公務が長引いてしまいまし
て﹂
﹁構わないわアリスティド卿。無理を言って時間を割いて貰ったの
は私なんだから﹂
ルチアはそう言うと頭を下げているアリスティドの肩に優しく手を
置いている。
⋮オラの時とは随分と対応が違いますねルチアさん!
まあ⋮権力を持つ六貴族とオラとじゃ、対応が違うのは解りますけ
どね!
てか⋮オラだけだった⋮ガク⋮
少し黄昏れながらアリスティドとルチアを見ていると、可笑しそう
に微笑みながら俺の前に来るアリスティド。
﹁初めまして葵殿。私はハプスブルグ伯爵家当主、アリスティド・
グザヴィエ・アルフレッド・ハプスブルグだ。私の横にいるのが長
男のマクシミリアン・ジェローム・アルセーヌ・フォルジェ・ハプ
スブルグ。歳はルチア王女や葵殿と同じ16歳。親しくしてやって
くれたまえ﹂
アリスティドの言葉に一歩前に出るマクシミリアンは、軽く頭を下
げる。
1593
﹁マクシミリアンだ。ハプスブルグ伯爵家、ヴィシェルベルジェー
ル白雀騎士団の副団長をしている。よろしく頼む﹂
少し気に食わなさそうなマクシミリアンに皆が挨拶をする。
﹁ではそろそろ⋮何故六貴族であられるお三方が、この様に集まっ
ておられるのかを⋮教えて頂きたいのですが?﹂
﹁フフフ解っていますよエルフの美しいお嬢さん﹂
リーゼロッテの涼やかな笑みを見て、楽しそうに微笑むアリスティ
ドは話を続ける。
﹁今君達は、冒険者ギルドから、人攫いの目的を探ると言う依頼を
受けていますね?﹂
﹁⋮はい、受けています。ですが⋮それがどうかしたのですか?﹂
﹁⋮その依頼を冒険者ギルドに依頼したのは⋮私なのですよ﹂
﹁え!?アリスティド様が!?﹂
少し驚いている俺に静かに頷くアリスティド。マルガとマルコも顔
を見合わせて驚いていた。
﹁しかし⋮何故⋮大貴族であるハプスブルグ伯爵家であるアリステ
ィド様が、国民と認定されていない者達が多く住む郊外町の人攫い
の事など⋮知ろうとなされたのですか?﹂
驚いている俺達の中で、平然と話を聞いていたリーゼロッテがアリ
スティドに問いかける。
確かにリーゼロッテの言う通りだ。
如何に正義を掲げるハプスブルグ伯爵家だからと言って、国民と認
定されていない郊外町に住む者の事などには、手を差し伸べるはず
がないし、手を差し伸べられない。だからバミューダ旅団の様な奴
らに、郊外町の事は任せているのだ。
1594
税金を納めていない奴らを助けたとなると、きちんと税金を払って
いる他の国民の反感を買う事になるからだ。
リーゼロッテの言葉を聞いたアリスティドは、全てを解って質問を
していると理解したのか、フフと軽く笑う。
﹁⋮なるほど、流石は上級亜種族のエルフですね。それには少し込
み入った話が関係しているのですよエルフのお嬢さん﹂
﹁それは⋮どの様なお話なのですかアリスティド様?﹂
マルガが可愛い小首を傾げながら言う。
﹁ワーフォックスのお嬢さん、私達ハプスブルグ家が、このフィン
ラルディア王国の司法と守備を担っているのはご存知かな?﹂
アリスティドの言葉にコクコクと頷いているマルガにマルコ。
﹁ウム。では、その守備に対して、私達ハプスブルグ家はフィンラ
ルディア王国の約半分位しか守備出来ていないのはご存知かな?﹂
﹁それは⋮どういう事なのですかアリスティド様?﹂
マルガとマルコは顔を見合わせて首を傾げていた。
﹁それはですね、このフィンラルディア王国には沢山の貴族が居て、
その貴族にはそれぞれ自分達の騎士団を持っているからなのですよ﹂
アリスティド、は説明を続ける。
このフィンラルディア王国には、大小合わせて約50以上の貴族が
いる。その貴族達は、それぞれ王家より領地を与えられている。
王家より与えられた領地は、領主が守る事が当然の様に義務付けら
れている。なので貴族達はそれぞれに自分達の騎士団を持っている
のだ。
ハプスブルグ家はフィンラルディア王国全体の守備の権限を与えら
1595
れてはいるが、貴族達が管理しているその領地までは干渉出来ない。
それを超えて何かをする時には、その領地を治める貴族の了承を得
なければならないのだ。
﹁まあ余程の緊急事態ならば、領地を治める貴族の了承なしに、そ
の領地で守備行動を取れるのだがね。だが、その緊急事態と言うの
は、国家の危機や貴族や民の謀反、他国の侵略等、ごく僅かなもの
しかないのだがね﹂
﹁その話は良く解りますが⋮そのお話が今回の件と、どの様な関係
がおありなのですか?﹂
アリスティドの話を冷静に聞いていたリーゼロッテが、軽くワイン
に口をつけアリスティドに告げる。
﹁ハハハ。そう急かさないでくれエルフのお嬢さん。話はここから
が本番だ。このフィンラルディア王国には沢山の貴族が居て領地が
あるのは解って貰えただろう?だが⋮領地を収めている貴族達をそ
のまま放置する事も、危険な事である事も解って貰えるかな?﹂
アリスティドの言葉にコクコクと頷くマルガにマルコ。
そりゃそうだ。
領地を与えられている貴族をそのままほったらかしにしたら、何を
しでかすか解ったものじゃない。
どこかの国と通じて謀反を起こすかも知れないし、どの様に与えら
れた領地を守備するかなんて解らない。
実際領地は、その領地を治める貴族によって、随分と違いがある。
治安の悪い領地も有れば、バルテルミー侯爵家やハプスブルグ伯爵
家の領地みたいに、善政で守られている領地もある。
まあ大半の貴族達は、自分の身と財産を守れれば良いと考える者が
多いので、バルテルミー侯爵家やハプスブルグ伯爵家の領地の様で
はないのだ。
1596
それでも、この大国フィンラルディアは、他国と比べて比較的治安
が良いと言われている。
それは一重に、アウロラ女王の尽力の賜物なのだろう。
﹁だからハプスブルグ伯爵家には、フィンラルディア王国を守護す
る為に、領地を治める貴族達を監視出来る権限が、女王から与えら
れているの﹂
アリスティドの説明に付け足すように言うルチアの言葉を聞いて、
オオ∼!と声を出すマルガにマルコ。
﹁確かにルチア王女の言われる通り、私達ハプスブルグ家は領地を
持つ貴族を監視出来る権限を与えられています。ですが⋮表立って
貴族を監視する事は⋮非常に難しいのですよ﹂
﹁それは何故なのですアリスティド様?女王様の命を受けている事
なのにですか?﹂
﹁それはですねマルガさん、貴族には誇りと名誉があるからですわ﹂
不思議そうにしているマルガの頭を優しく撫でながら言うリーゼロ
ッテ。
貴族は誇りと名誉を重んじる。故に貴族なのだ。
貴族は王族に仕える。王族はその誇りを貴族に与えている。
貴族はその名誉を胸に領地を治め、王家の為に尽力する。これが本
来の貴族の姿である。
まあ⋮本当に国や王家の為を考えて行動している貴族なんて、僅か
だろうけどさ。
この辺は地球や日本だって変わらないだろう。本当に人々の事を考
えている政治家が少ないのと同じであろう。
だが、その上っ面の誇りと名誉だけは主張する貴族の多い事。
ハプスブルグ家は貴族の監視をする権限を与えられてはいるが、表
1597
立って監視してますって訳には当然行かないであろう。
そんな事をすれば、その忠誠を疑う事にもなるし、誇りも名誉も傷
つける事にも繋がり、それが忠誠心の低下にもなる。それはフィン
ラルディア王国の国益にそぐわない事にも繋がる。
﹁⋮エルフのお嬢さんの言う通りです。ですから我々ハプスブルグ
家は、各地の領地を持つ貴族の領地や騎士団に、私達の息の掛かっ
た者を忍びこませているのです﹂
﹁つまり⋮密偵⋮間者をそれぞれに送り込んで、情報を収集してい
ると言う事ですわね?﹂
﹁⋮その通りですな。まあ⋮余り大きな声で言える事では無いのは
確かな事ですがね。ですが⋮今回はそれが関係してくるのです﹂
アリスティドの言葉に皆が静かに聞き入る。
﹁事の始まりは、とある貴族の騎士団に忍び込ませた者からの報告
によるものでした。その者からの報告によれば、その貴族は郊外町
で人を攫って、何かをしていると言うのです﹂
﹁その何か⋮と言うのは、何なのですか?﹂
﹁それは解りません。その忍び込ませていた者は⋮その事だけを私
達に報告して、行方不明になってしまったのです。それ以降⋮その
者との連絡は取れず⋮安否も不明なのですよ﹂
﹁⋮つまり⋮密偵である事がバレて⋮始末された可能性があると?﹂
﹁⋮エルフのお嬢さんの言う通りかも知れませんね﹂
それを聞いたマルガとマルコは顔を見合わせて悲しそうにしている。
﹁その貴族というのが、今回葵達が私に相談を持ちかけた、例の死
体の所属している貴族の騎士団と同じなのよ﹂
﹁なるほどね。でも⋮それは解ったけどさ⋮もう1つ聞きたいのは、
俺達とルチア、アリスティド様以外にランドゥルフ様とルクレツィ
オ様が何故ここに居るの?それが⋮﹂
1598
俺がその続きを言おうとした時に、誰かの声が掛かった。
﹁その続きは私が説明しましょう﹂
そう言ってソファーに座っているルクレツィオの横に立つ男が語り
かける。
その男は顔に大きな刀傷があり、身長もマティアス位ある屈強な男
であった。
立ち振舞からしてかなりの実力者である事が解る。バルタザールの
様な屈強のイメージではあるが、雰囲気は何処か違う様に感じられ
た。
﹁えっと⋮貴方は⋮﹂
﹁私は港町パージロレンツォの郊外町であるヌォヴォを統治させて
頂いている、アガッツァーリ旅団の団長、カモラネージです﹂
そう言って頭を下げるカモラネージ。
マルガとマルコは、郊外町を支配していると聞いて、あのバルタザ
ールを想像したのか、少し警戒しながらカモラネージを見つめてい
た。
カモラネージはそんなマルガとマルコを見て、フフと笑っている。
﹁聞いて頂いた通り、アリスティド様の配下の者から情報を得た事
は理解して頂いた事と思います。実はあの様な集団で行われている
人攫いは、数年前からあった事だったのです。私達は郊外町である
ヌォヴォの統率を取る為に、その集団人攫い達と抗争を繰り広げて
きました。その事は港町パージロレンツォの領主であるルクレツィ
オ様に報告させて頂き、郊外町の民を守る様に指示を受けておりま
した。私達もあの人攫い達の正体を突き止められないままでいたの
ですが、その時にアリスティド様のお話を聞いたのです。とある貴
族が郊外町で人を攫って⋮何かをしている可能性があるとね﹂
カモラネージの話を真剣に聞いているマルガにマルコ。
1599
先ほどまでカモラネージを警戒していたマルガにマルコは、バルタ
ザールとは違う雰囲気を感じ取ったのか、その表情は先程とは違う
ものになっていた。
﹁当然私の領地であるヴェローナの郊外町を統治させている旅団の
頭領にも話を聞いたが、王都ラーゼンシュルトや港町パージロレン
ツォ同様、数年前から人攫いが横行していたらしい。そして同じ様
に、その正体を掴めないでいた。なので私はランドゥルフ卿とルク
レツィオ卿に、今回の話を持ちかけたのだ。他の郊外町ではどうな
のかとね﹂
﹁⋮そしてその結果、どの郊外町でも⋮集団で人が攫われていたと
言う事が解ったのですね?﹂
リーゼロッテの言葉に頷くアリスティド。
﹁私がお前と初めて会った春先に港町パージロレンツォに居たのも、
それが主だった理由だ。私の領地であるポルトヴェネの郊外町を統
治させている旅団が、その貴族と何か良からぬ事をしていないかど
うかを調べる為に、わざわざ公務を作ってポルトヴェネを空にさせ
た。その間に、そこのカモラネージにポルトヴェネの郊外町を統治
させている旅団の事を調べて貰っていたと言う事だ。まあ⋮あの時
は色々とあったがな﹂
俺にそう言って、少し楽しそうな顔をしているランドゥルフ。
そうか⋮あの時リーゼロッテの件だけで港町パージロレンツォに居
た訳じゃ無かったって事か。
そりゃよく考えれば、同じ大都市である工業都市ポルトヴェネでも、
奴隷をオークションする所位あるだろう。
それをわざわざ港町パージロレンツォに来てオークションに出す様
な手間を、このランドゥルフがするはずはない。
1600
﹁まあ⋮調べた結果、その貴族とは繋がりは無かった事が解ったの
だがな。同じ様にその人攫いの集団と対立していた。後に話をして、
その人攫い達を駆逐する様に指示を出したと言う訳だ。これで私と
ルクレツィオ卿がこの場に居る理由が解っただろう?﹂
﹁ええ、良く解りましたわランドゥルフ様﹂
リーゼロッテの涼やかな微笑みを見て、フンと鼻を鳴らしながら楽
しそうにリーゼロッテを見つめているランドゥルフ。
そして、静かに腕組みしながら話を聞いて居たルチアが口を開く。
﹁貴方の事だから、大体の話の流れは解ってきたと思うわ。詳しい
話は後でするから、先に葵の報告を直に皆に聞かせて欲しいの﹂
俺はルチアに頷き、今までの人攫いの件で得た情報を皆に話す。
そして、リーゼロッテから出された、死んだ人攫いの肩に入ってい
た隷属の紋章のスケッチを見て、腕組みをするアリスティド。
﹁⋮やはり⋮メネンデス伯爵家の騎士団、モリエンテス騎士団の者
か⋮﹂
﹁その騎士団はどの様な騎士団なのですか?﹂
マルガが興味深げにアリスティドに質問する。
﹁メネンデス伯爵家はビンダーナーゲル伯爵家やクレーメンス公爵
家と同じ派閥に属する、なかなか力を持った貴族よキツネちゃん﹂
そう言ってアリスティドの代わりにマルガに説明をするルチア。
﹁ビンダーナーゲル伯爵家と言えば⋮確かこのフィンラルディア王
国の宰相である、ジギスヴァルト宰相の派閥で良かったですわねル
チアさん?﹂
﹁その通りよエルフちゃん。そして、ビンダーナーゲル伯爵家、ジ
ギスヴァルト宰相の管理している領地は、王都ラーゼンシュルト﹂
﹁ええ!?この王都ラーゼンシュルトって、王族が管理しているん
1601
じゃないのルチア姉ちゃん?﹂
ルチアの話を聞いたマルコが、驚きの声を上げる。
﹁このフィンラルディア王国は大国で、その国土も広いわ。王族は
フィンラルディア王国全体の事を考えて行動しなければならないの。
だから王族の公務は、大きな国の枠での事を考えているの。確かに、
この王都ラーゼンシュルトはフィンラルディア王国1番の大都市だ
けど、国全体から見たら1つの都市と言う事なのよ。だから王都ラ
ーゼンシュルトの管理はビンダーナーゲル伯爵家に任せて、王族は
国全体の事を考え公務に当たる。これが数百年も前から続いて来た
やり方なのよ﹂
ルチアの説明を聞いてなるほどと頷いているマルガにマルコ。
﹁⋮と、言う事は、今回の人攫いの件に関して⋮ビンダーナーゲル
伯爵家、つまり、ジギスヴァルト宰相の関与が有ると言う事なので
しょうかルチアさん?﹂
リーゼロッテの直球の言葉に、部屋全体が静まり返る。
そして、可笑しそうに笑いながらアリスティドが口を開く。
﹁ハハハ。その様な事を証拠も無しに大っぴらに言えば、侮辱罪で
すぐに処刑されてしまいますよエルフのお嬢さん。まあ、この場で
あるからそう言ったのは解っているがね﹂
﹁アリスティド卿の言う通りよエルフちゃん。私達も調査をしてい
るけど、人攫いの件に関して、ビンダーナーゲル伯爵家、つまり、
ジギスヴァルト宰相の関与の証拠は1つも無いわ。それどころか⋮
今の所、メネンデス伯爵家の関与している証拠も、何一つ掴めない
でいた位なのよ﹂
そのルチアの言葉を聞いたマルガは、ハイハイ!と右手をあげて猛
アピールをしながら、ルチアに近づく。
1602
﹁では、今回の人攫いの死体は、凄い証拠になるのでは無いのです
かルチアさん!?だって死体には、メネンデス伯爵家のモリエンテ
ス騎士団の隷属の紋章が有ったのですから!動かぬ証拠と言うやつ
なのです!﹂
フンフンと鼻息の荒いマルガの頭を、苦笑いしながら撫でているル
チアは
﹁⋮それだけじゃダメよキツネちゃん。確かにその人物自体の関与
は否定出来ないでしょうけど、モリエンテス騎士団、いいえ、メネ
ンデス伯爵家全体の関与を証明するには至らないわ。もし、今その
事を追求しても、個人のみが関与していたと言う事で処理されるだ
けよ。もっと確実な証拠を掴まなければ、無駄に終わると言う事ね﹂
﹁ハウウ⋮残念なのです∼﹂
金色の毛並みの良い尻尾をショボンとさせ、余りにも残念そうなマ
ルガを見て、皆がププッと笑う。
マルガは気恥ずかしそうにモジモジしていた。
﹁兎に角、私達のしなければいけない事は、人攫い達の目的を掴み、
そして、メネンデス伯爵家が何を行い、何を企んでいるかを掴まな
ければいけいない。その結果、フィンラルディア王国の法に触れる
のであれば、拘束して法廷でその罪を裁かなければならないと言う
事だ﹂
アリスティドの厳粛な言葉に、マルガとマルコは静かにコクッと頷
いている。
﹁葵達には、引き続き人攫い達の情報を集めて貰おう。私達には色
々なしがらみもあるし、大ぴらに動けぬ事情も多々ある。だから秘
密にして冒険者ギルドに依頼をしたのだからな。先に依頼を受けて
いる者達と協力して、調査をしてくれ。勿論、ここからの報酬は別
途支払う。幾ら欲しい?﹂
1603
ランドゥルフがそう言い、ギラッとした視線を俺に向ける。
それに苦笑いしながらも、俺は以前から考えていた欲しい物をラン
ドゥルフに告げる。
それを聞いたランドゥルフはククッと笑い、ルチアはハア∼と大き
な溜め息を吐く。
﹁⋮葵貴方ねえ⋮。本当に呆れるわ﹂
そのルチアの呆れ顔をみて、マルガとマルコがアハハと笑っている
中で、リーゼロッテが嬉しそうに瞳を揺らし、俺の腕にギュッと抱
きついていた。
その中で、ふと俺は疑問に思う事をルチアに聞いてみた。
﹁そう言えばルチアさ⋮前に俺達と話して依頼の内容を聞いた時に、
何故この事を俺達に言ってくれなかったの?そうすれば⋮﹂
俺が話を続け様とすると、マティアスが俺の傍に近寄り耳打ちをす
る。
﹁⋮葵殿。ルチア様は⋮この様な事に皆さんを、巻き込みたく無か
ったのですよ﹂
そうか⋮ルチアは国のゴタゴタに、俺達を巻き込みたくは無かった
んだ。
そう言えばルチアは、依頼を変えて貰う様にとか、辞めればと言う
様な事を言っていた。
恐らく、俺達が沢山ある冒険者ギルドの依頼から、この依頼を受け
るとは思っても見なかったのだろう。
以前マリアネラからこの依頼は、冒険者ギルド、王都ラーゼンシュ
ルト支店の長である、アベラルド支店長から直接依頼を受けたと言
っていた。
アリスティド卿達の事だから、アベラルド支店長に、信用の出来る
人物をこの依頼につけて欲しい事を、言っている事は容易に想像出
1604
来る。
そして、信用の出来るマリアネラ達が選ばれ、マリアネラからの応
援の要請に、同じく港町パージロレンツォの支店の長であるアガペ
トからの推薦状を持ってきた俺達が、その条件に合うとしてたまた
ま選ばれてしまったと言う訳か⋮
俺がそんな事を考えながらルチアを見ると、少し頬をプクッと膨ら
ませていた。
﹁⋮本当に頑固で、間が悪いんだから⋮﹂
﹁うん?何か言ったルチア?﹂
﹁何も言ってないわよ!この色狂い!﹂
そう言いながらプリプリしているルチアは、俺の傍に近寄る。
﹁⋮葵。解ってると思うけど、十分に注意してね。相手はフィンラ
ルディア王国でもなかなかの力を持った貴族。何をしてくるか解ら
ないわ。危険だと感じたら、すぐさま依頼を放棄しなさいよ。放棄
しても報酬は支払ってあげるから⋮無茶は⋮しないでよ?﹂
そう言って少し不安そうな顔をするルチア。
﹁⋮解ってるよルチア。ありがとね﹂
そう言ってルチアの肩に手を置くと、フンと言ってソッポを向くル
チア。
﹁それから葵、貴方が人攫いから外したその自滅の腕輪だけど、メ
ーティス先生に見て貰いなさい。メーティスならひょっとしたらマ
ジックアイテムから何か情報を掴めるかもしれないわ﹂
﹁解ったよルチア。帰ったらメーティスさんにこの自滅の腕輪を見
て貰う事にするよ﹂
俺の言葉に頷くルチア。
1605
﹁では打ち合わせ通りにと言う事で宜しいですかな皆さん?何か有
ればすぐに報告しあって、対処すると言う事で﹂
アリスティドの言葉に頷く一同。
﹁じゃ∼俺達は一度宿舎に帰るよ。皆と相談もしたいしね﹂
俺達は皆と挨拶を交わして部屋を後にする。
そして、宿舎のあるグリモワール学院の門をくぐり宿舎の前に来た
時に、ユーダとエマとレリアが楽しそうに鳥に餌を上げていた。
俺達に気がついたエマが元気一杯の挨拶をしてくれる。
﹁あ!葵お兄ちゃんお帰りなさい!﹂
﹁ただいまエマ﹂
エマの頭を優しく撫でると、エヘヘと可愛い微笑みを見せてくれる。
﹁鳥に餌を上げているんだね﹂
﹁あ!大切な食料を鳥に与えてはダメでしたか?﹂
少し罰の悪そうなユーダが申し訳無さそうに言う。
﹁あ!別にいいですよ。気にしないで下さい。エマも喜んでいます
し、マルガや他の皆も、結構動物好きな子が多いので。好きにして
下さい﹂
俺の言葉に、嬉しそうな顔をしているユーダ。エマもキャキャとは
しゃぎながら、鳥達と戯れていた。
﹁とりあえず皆と相談したい事があるから集まってくれる様に言っ
てくれるユーダ?﹂
﹁解りましたわ葵さん﹂
優しい微笑みを俺に向けるユーダは、小走りに宿舎に入っていく。
﹁じゃ∼俺達も宿舎に入ろうか﹂
1606
俺達は宿舎に入って行くのであった。
ここは豪華な部屋の一室。
その部屋で大きな声が上がる。
﹁ヒュアキントス!例の行商人が、我らの事を調べだしたと言うの
は、どういう事だ!﹂
怒涛に近い言葉を浴びせられるヒュアキントスは、一切表情を変え
ずに男に向き直る。
﹁はい、どうやら自滅のマジックアイテムが不具合で、人を攫わせ
ていた者の死体が残ってしまった様です。何故マジックアイテムが
発動しなかったのかは解りませんが﹂
ヒュアキントス?﹂
ヒュアキントスの言葉に、更に顔をきつくする男。
﹁⋮で、これからどうするつもりなのだ
﹁は、それはもう既に手を打ってあります。ご安心下さい﹂
そう言って綺麗にお辞儀をするヒュアキントス。
ヒュアキントスの説明を聞いた男は、少しその表情を緩める。
﹁⋮解った。その様に進めよ。くれぐれも失態の無い様にな!﹂
そう言い放った男は、豪華な部屋を足早に出ていく。
それを見て軽く溜め息を吐くヒュアキントス。
﹁⋮お前などに言われなくても、事は進んでいる。馬鹿な奴め⋮﹂
1607
空。今回は⋮僕が全て奪わせて貰うよ⋮﹂
小声でそう呟いたヒュアキントスは、窓の外に視線を向ける。
﹁⋮葵
恍惚の表情で空を見上げるヒュアキントス。
闇は更に大きな動きを見せていくのであった。
1608
愚者の狂想曲 44 人攫い達の襲撃
翌日、俺達は昨日ルチアから言われた通り、人攫いから得た自滅の
マジックアイテムを、メーティスに見て貰うた為に、グリモワール
学院の本館の最上階に来ていた。そして豪華な扉をノックする。
﹁アルベルティーナ学院長、葵です。入っても良いですか?﹂
﹁どうぞ∼。お入りになって下さい﹂
その声に扉を開けて部屋の中に入って行くと、執務机に座って書類
に目を通していた顔をこちらに向け、優しく微笑むアルベルティー
ナ。俺達は挨拶を交わし、机の傍まで行く。
﹁よく来ましたね葵さん。今日はどうしたのかしら?﹂
﹁ええ、今日はメーティスさんに用がありまして。アルベルティー
ナ学院長なら、メーティスさんがどこに居るか知ってるんじゃない
かと思いまして来ました﹂
俺の言葉を聞いたアルベルティーナは、机の端の何も無い所に視線
を向ける。
﹁⋮葵さん達はメーティス統括理事にお話があるみたいですよ?﹂
﹁⋮聞こえてるわよアルベルティーナ﹂
その声と同時に、何も無いはずの机の端に姿を現すメーティス。そ
れを見てビクッと驚いているマルガにマルコ。
メーティスは机に座りながら、艶めかしい身体を見せびらかす様に
美しい足を組み、マルガやリーゼロッテに勝るとも劣らない美しい
顔に微笑みを湛えていた。
﹁恋人の私に会いに来てくれたの葵ちゃん?嬉しいわ∼﹂
1609
﹁恋人ではありませんが⋮メーティスさんに用があって来ました﹂
﹁あら何かしら?私に用だなんて。⋮結婚の申し込み?﹂
ニコニコと微笑むメーティスは俺の傍までやって来ると、その艶め
かしい身体を味合わせる様に俺に腕組みをする。
メーティスにドキッしている俺を見たマルガは、アワアワしながら
俺に腕組みをするメーティスを引き離そうと、メーティスの腕をう
んしょと引っ張っている。
﹁冗談はそれ位にして、メーティスさんに見て欲しい物があるので
す﹂
俺とメーティスとマルガの3人を、楽しそうに見ていたリーゼロッ
テが、アイテムバックから自滅のマジックアイテムを取り出す。
マルガに俺から引き離されたメーティスは、リーゼロッテから自滅
のマジックアイテムを受け取る。
﹁このマジックアイテムの腕輪がどうかしたの葵ちゃん?﹂
﹁このマジックアイテムの腕輪の事を調べて欲しいのです。どこで
作られたとか、誰が作ったとか解ったらありがたいのですけど﹂
俺の言葉を聞いたメーティスは、少し考え俺に向き直ると
﹁それは⋮この前依頼を受けた、人攫い達の事を調べている事に、
関係する事なの?﹂
﹁あれ?俺メーティスさんに、冒険者ギルドで依頼を受けた事言い
ましたっけ?﹂
俺が思い出しながら少し考えているのを見て、ニコニコしているメ
ーティス。
﹁⋮また姿を消せる魔法のミラージュコートを使って、宿舎に忍び
込んでたのでしょうメーティスさん?﹂
﹁忍び込むだなんて⋮非道いわ。一緒にお風呂に入った仲じゃない﹂
1610
メーティスのその言葉を聞いたマルガは、猛ダッシュで俺の傍に来
る。
﹁ご⋮ご主人様!いつメーティスさんと一緒にお風呂に入られたの
ですか!?お風呂に入って何をされたのですか!?﹂
マルガはアワアワしながら、ねえねえどうなのですか!?と、俺の
腕を握り、ブンブンと上下に揺らす。
﹁マ⋮マルガ落ち着いて!いつも一緒にお風呂に入ってるでしょ!
?メーティスさんは居なかったでしょ?!?メーティスさんも適当
な事を言わないで下さい!﹂
俺の慌てながらの言葉を聞いて、そう言えばと言いながら、コクコ
クと頷いているマルガ。
﹁⋮本当につれないんだから。湯浴み場では、その子達にあんな事
をしてるくせに⋮﹂
そう言って艶かしい微笑みを向けるメーティスの言葉を聞いて、マ
ルガはボッと赤くなってモジモジして、マルコも少し赤くなりなが
ら、ボクチャンな所を押さえていた。
まさか⋮湯浴み場での事を全て見られちゃってた!?
そう言えば⋮たまに湯浴み場で、女性の衣服が一組多く脱ぎ捨てて
ある時があった。
俺はてっきりマルガ達の誰かの物だと思っていたけど⋮あれはメー
ティスさんの物だったのか!
ミラージュコートを使って⋮湯に浸かりながら⋮俺達の事を見てい
たの?⋮ウウウ⋮オラ⋮ハズカチイ!
﹁⋮今度そんな事したら、訴えますからね!それと遊びに来る時は、
ミラージュコートを使わずに、普通に来て下さい﹂
1611
﹁解ったわよ葵ちゃん∼。⋮照れ屋さんなんだから﹂
﹁て⋮照れてません!﹂
俺の慌てながらの言葉を聞いて、嬉しそうにフフフと口に手を当て
て笑っているメーティス。
俺とメーティスを見て呆れ顔をしているアルベルティーナは溜め息
を吐きながら
﹁メーティス統括理事、そろそろマジックアイテムの腕輪を見てあ
げたらどうですか?﹂
﹁⋮解ってるわよアルベルティーナ。本当に真面目なんだから⋮﹂
メーティスは小声でブツブツと言いながら、識別の魔法をマジック
アイテムの腕輪に当てる。
﹁⋮なるほどね。このマジックアイテムの名前は自滅の腕輪ね。闇
属性の呪い系の効果を持っていて、これを装備した者は、気絶、死
亡、意識を奪われる等が装備者に起こると、炎を召喚して装備者を
焼きつくす見たいね﹂
﹁そうみたいですわ。効果の方は、実際に倒した人攫い達が、全て
焼かれて炭になるのを見ていますので解ります。その自滅の腕輪の
出処がどこか⋮解りません?メーティスさん﹂
リーゼロッテの言葉に、顎に手を当てて少し考えるメーティス。
﹁⋮そうね。この自滅の腕輪は闇属性で作られているわ。知っての
通り、闇属性の魔法を扱うのには、国の厳正な許可を貰った者のみ。
一般人は使う事を許されてはいないわ。この王都ラーゼンシュルト
で、闇属性の魔法の使用許可を持っている者はそこそこ居るけど、
こんなマジックアイテムを数多く作っている者の心当たりは無いわ
ね﹂
﹁では⋮出処は解らないのでしょうか?﹂
リーゼロッテの言葉を聞いたメーティスは、自滅の腕輪を見ながら
1612
﹁⋮王都ラーゼンシュルト周辺では居ないけど⋮魔法都市カステル・
デル・モンテの魔導師達なら⋮作っている可能性が有るわね﹂
﹁⋮魔法都市カステル・デル・モンテ⋮ですか?﹂
マルガは可愛い小首を傾げながらメーティスに聞き直す。
﹁そう、魔法都市カステル・デル・モンテ。フィンラルディア王国
の六貴族の1人、アーベントロート候爵が治める大都市よ。魔法都
市カステル・デル・モンテには沢山の魔導師や魔法使い達がいて、
数多くの様々な種類のマジックアイテムが作られて、国中に売りだ
されているわ。こと魔法の技術だけを見れば、このグリモワール学
院に勝るとも劣らない技術を持っているしね。魔法都市カステル・
デル・モンテには、闇属性の魔法の使用許可を貰っている魔導師も
沢山いるし⋮その中の1人に発注している可能性は有るわね﹂
そう説明してくれたメーティスは、自滅の腕輪をアルベルティーナ
に手渡す。
﹁アルベルティーナその自滅の腕輪の事を調べておいて﹂
﹁解りましたメーティス統括理事。魔法都市カステル・デル・モン
テに住む友人に聞いてみます﹂
﹁そういう事だから、少しの間この腕輪を借りるわよ葵ちゃん﹂
メーティスの言葉に頷く俺。
﹁所でその依頼の件は、どんな感じになってるの葵ちゃん?﹂
メーティスはソファーに座り直し、美しい足を組む。
﹁ま⋮メーティスさんとアルベルティーナ学院長になら⋮話しても
もよさそうですね﹂
俺は今までの依頼に関する事を説明する。
俺の話を聞いたアルベルティーナとメーティスは顔を見合わせてい
1613
た。
﹁なるほど⋮メネンデス伯爵家がねえ⋮﹂
そう言いながら何か思い当たるふしの有りそうなメーティス。それ
を感じたリーゼロッテがメーティスに
﹁何か⋮知っている事でもおありなのですかメーティスさん?﹂
﹁⋮いえ、そうじゃないわリーゼロッテ。実はね、宿舎で貴方達の
依頼の話を聞いて、少し気になったから私も調べに行ったのよ。⋮
でもね、すぐに見つかっちゃったんだけどね﹂
そのメーティスの言葉を聞いたマルガが驚きながら
﹁ええ!?姿と気配を消せる魔法のミラージュコートを使っても、
バレちゃうのですか?﹂
マルガにマルコは顔を見合わせながら困惑していた。
﹁姿と気配を消せるミラージュコートは、確かに便利な魔法だけど、
マスタークラス、つまり、LV100以上の感知スキルを持った者
や、戦闘職業に就いている者には、魔力で感知されてしまうのよ。
郊外町の中でミラージュコートを使って姿や気配は消せても、魔力
で感知される。魔力を持たない一般市民の多い郊外町で、魔力を放
出しながら歩いている人なんて、感知出来る者からしたら不自然き
まわりないしね﹂
メーティスの説明にコクコクと頷くマルガにマルコ。
﹁私がバレちゃったから、郊外町の者に変装させた私の部下を送り
込んだのだけど⋮その部下迄バレてしまったわ。隠密組織を持つ、
ハプスブルグ伯爵の手の者でも情報を掴めない位の相手ですものね。
どんな相手かと思っていたけど⋮メネンデス伯爵家の者だったとは
ね﹂
1614
﹁そんなにメネンデス伯爵家の騎士団は、手練揃いなの?メーティ
スさん﹂
マルコの言葉を聞いたメーティスは静かに頷く。
﹁そうね。実力だけなら、六貴族のお抱え騎士団達と同じだと思う
わ。特に団長のルードヴィグは、バルテルミー侯爵家、ウイーンダ
ルファ銀鱗騎士団の副団長のイレーヌと、互角に戦える位の実力を
持っているしね﹂
﹁あのイレーヌさんとですか!?﹂
メーティスの言葉を聞いたマルガにマルコは、顔を見合わせてポカ
ンと口を開けていた。
イレーヌのLVは185だったはず。ハイマスタークラスだ。
そのイレーヌと同等の実力を持つ人物が団長の騎士団か⋮。
六貴族お抱え騎士団と同等の実力を持つ騎士団が相手じゃ、簡単に
情報が掴めないのも頷ける。
﹁⋮兎に角、腕輪の方は調べてあげるから、貴方達も注意しなさい。
まだそうと決まった訳じゃないかもしれないけど、モリエンテス騎
士団の関与があるなら⋮一筋縄では行かないわ﹂
メーティスの言葉に緊張した面持ちで頷くマルガにマルコ。
﹁解りました十分に注意しますメーティスさん。では、腕輪の件で
何か解りましたら教えてください。僕達はこれから、先に依頼を受
けている人達の所に行って来ます﹂
﹁また⋮郊外町を調査するの葵ちゃん?﹂
﹁いえ、今日は人攫い⋮モリエンテス騎士団の隷属の紋章をつけて
いた死体を、その人達と一緒にハプスブルグ伯爵家の別邸に運ぶ事
になっているんです﹂
﹁そう、解ったわ。もし、何かあったら、すぐにこのグリモワール
1615
学院に逃げ込みなさい。この学院には、私直属の部隊を常駐させて
いるから。⋮私の軍団も、六貴族のお抱え騎士団には、引けをとら
ないから﹂
そう言って優しく微笑むメーティス。マルガにマルコも安堵の表情
で微笑んでいる。
﹁解りました。では、行ってきます﹂
﹁行ってらっしゃい葵ちゃん。恋人の帰りを健気に待っているわ﹂
﹁⋮別に待っていなくていいですよ?﹂
﹁⋮本当に?﹂
その妖艶な身体を俺に重ねるメーティス。
メーティスの女体の柔らかさにドキッとなっている俺は、マルガに
ズルズルと引きずられて、理事長室を出ていくのであった。
﹁そろそろ時間だね、ゴグレグ、ヨーラン準備はいいかい?﹂
﹁ああ、問題ない﹂
﹁こちらも大丈夫じゃよマリアネラ﹂
マリアネラの言葉に頷くゴグレグとヨーラン。それを心配そうに見
つめていたジェラードが口を開く。
﹁マリアネラ⋮貴女の頼みであったのでその遺体を預っていました
が⋮葵さんの話も考えると⋮何か危険な予感がします。もう⋮その
依頼を放棄した方が良いのではありませんか?﹂
ジェラードの言葉を聞いたマリアネラは、ニコッと微笑み
1616
﹁心配してくれてありがとうジェラード。だけど、この依頼はアベ
ラルド支店長からの直々の依頼でもあるし、報酬も良いからね。き
ちんと依頼をやり遂げたいんだよ﹂
﹁貴女の気持は解りますが⋮出来れば貴女には、危険な冒険者等は
廃業して私の手伝いをして貰って、ヴィンデミア教⋮女神アストラ
イア様の為に、一緒に力になって欲しいのですがね﹂
﹁⋮解ってるってジェラード。私だって色々考えているよ。だけど
⋮もう少し⋮ね﹂
そう言って優しく微笑むマリアネラを見て、軽く溜め息を吐くジェ
ラード。
﹁解りました。⋮全く頑固なのですから貴女は﹂
ジェラードの呆れ顔を見て苦笑いしているマリアネラ。
﹁まあ、この人攫いの遺体をハプスブルグ伯爵家に運ぶだけだし、
郊外町の入り口で葵達と待ち合わせてもいるしさ。それに何かあっ
たら、王都ラーゼンシュルトの中に逃げこむしさ。流石の奴らでも、
王都ラーゼンシュルトの中では、何も出来やしないさ﹂
﹁⋮そうだと良いのですけどね﹂
少し寂しそうに言うジェラードの肩に、そっと手を置くマリアネラ。
﹁大丈夫さ⋮じゃ行ってくるよジェラード!﹂
﹁⋮行ってらっしゃいマリアネラ。貴女に女神アストライア様の加
護があらんことを﹂
ジェラードの祝福の言葉に、ニコッと微笑むマリアネラは、教会の
外に出て用意してあった馬車に人攫いの遺体を乗せる。
﹁ヨーランよろしく﹂
マリアネラの言葉に頷くヨーランは、馬の手綱を握り馬車を進める。
場所の荷台に乗っているマリアネラとゴグレグは、周辺の警戒をし
1617
ながら、いつでも戦える様に注意を払っていた。
郊外町の細い路地をゆっくりと進む荷馬車は、以前葵達が人攫い達
と戦った十字路の辺りに差し掛かった。
いつもならこの町に来た冒険者などの往来が多いこの十字路であっ
たが、今日は何故かその喧騒はなく静まり返っていた。
それを不思議に思っていたマリアネラが、辺りを見回し始めた時で
あった。
ヨーランの操る馬に、高速で何かが飛んできた。
﹁ヒヒイイン!!!﹂
高い声を上げる馬の頭に、弓矢が刺さる。
明らかに即死だと解る馬は、頭から血を流しながらドッと地面に倒
れてしまう。
﹁敵だよ!ヨーラン!ゴグレグ!﹂
マリアネラの甲高い声を聞いたヨーランとゴグレグは馬車から降り、
武器を身構える。
マリアネラも馬車から降り、武器を構え隊列を組むと、十字路のそ
れぞれの方向から、1人ずつ行く手を遮る様に人影が見えた。
﹁なんだい、いつもはこっちから探し回らないと見つけられないの
に、今日はそっちから来てくれたのかい。⋮探す手間が、省けたっ
てもんだね!﹂
マリアネラが短剣の切っ先を、人攫いらしき男に向けながら不敵に
微笑む。
そんなマリアネラを見た男は、ククッと軽く嘲笑っていた。
﹁⋮気に入らないねその笑い。⋮すぐに笑えなくしてやるよ!﹂
マリアネラは声高にそう叫ぶと、両手に短剣を構え、高速で男に向
かって跳躍する。
1618
そして、その両手の短剣で斬りつけるが、男はそれを苦もなく紙一
重で躱すと、マリアネラの腹に蹴りを入れる。
その衝撃に、呻き声を上げながら地面に飛ばされるマリアネラ。
腹を抑えながらヨーランに起こされるマリアネラは、キッと男を睨
む。
男はそんなマリアネラを楽しそうに見つめながら、右手をあげる。
それを合図に、他の男達が一斉にマリアネラ達に襲いかかる。
﹁隊列を組み直すよ!﹂
マリアネラの鬼気迫る言葉に、武器を構え直すヨーランとゴグレグ。
﹁グフッ!﹂
短い声を上げるゴグレグ。
高速で斬りつけた剣が、ゴグレグの右肩を貫いていた。
﹁この!ゴグレグから離れろ!﹂
ゴグレグに剣を突き刺している男にマリアネラが斬りかかるが、ゴ
グレグを相手にしながらもマリアネラの高速の短剣を躱すと、マリ
アネラに蹴りを入れて弾き飛ばす男。
﹁グウウ⋮しつこい!ウォーターブレス!!﹂
ゴグレグは男に向かって全力のブレスを吐きかける。
近距離のゴグレグのブレスは流石に危険だと判断したのか、ゴグレ
グに突き立てていた剣を抜き、一瞬で距離を取る男。
人攫いらしき男達は隊列を組み直すと、武器をマリアネラ達に向け
て身構えていた。
マリアネラ達も隊列を組みなおし、男達に対峙する。
﹁ゴグレグ、肩は大丈夫かい?﹂
﹁⋮かなり深いが⋮戦えぬ訳ではない﹂
1619
﹁今治癒の魔法をかける。暫く待つのじゃ﹂
ヨーランは魔法の詠唱を始めると、治癒の魔法をゴグレグの肩にか
けていく。
ヨーランの魔法で肩の傷が塞がっていくゴグレグは、グルリと肩を
回す。
﹁詠唱の短い緊急用の治癒魔法じゃから、全快とはいかんぞゴグレ
グ?﹂
﹁⋮4割回復と言った所か。助かったヨーラン﹂
ゴグレグの言葉に頷くヨーランは男達に視線を移す。
﹁しかし⋮まずいの。こやつらは今までの人攫いの奴らとは段違い
じゃ。ワシらだけでは荷が重すぎる﹂
ヨーランの言葉にキュッと唇を噛むマリアネラ。
﹁⋮だね。馬車は放棄して、積んである遺体を担ぎながら、王都ラ
ーゼンシュルトまで撤退するよ!﹂
マリアネラの言葉に頷くゴグレグは、遺体を馬車から回収しようと
跳躍して、馬車の手前で急停止する
﹁ファイアーハリケーン!!!﹂
火と風の混合上級魔法が、炎の嵐となって遺体を載せた馬車を包こ
み、全てを燃やしていく。
﹁しまった!遺体が!﹂
﹁あれではもう遺体はダメじゃ!放棄して撤退するのじゃ!﹂
ヨーランの言葉に頷くゴグレグとマリアネラ。
事も無げに混合上級魔法を1人で放った男は、再度魔法の詠唱を始
めていた。
それに危機感を感じたマリアネラ達は、全力で十字路を抜けようと
1620
駆け出すが、その先に当然の様に待ち構えていた男の追撃を受ける。
マリアネラとゴグレグを相手にして尚、余裕のある男の後ろから、
別の男がマリアネラを斬りつけた。
﹁グッ!!!﹂
短い声を上げるマリアネラは脇腹を斬られ出血していた。そんなマ
リアネラに追い打ちを掛ける男は、ロングソードを動きの鈍ったマ
リアネラ目掛けて振り下ろそうとしていた。
﹁マリアネラ!しゃがむのじゃ!﹂
ヨーランの声に咄嗟に身を屈めるマリアネラの頭上を、光属性の攻
撃魔法、ライトボールが高速で男に向かって飛んでいく。
少し顔を歪める男であったが、その男の腕が赤く光ると、その光り
に包まれた腕でライトボールを弾き飛ばした。
その次の瞬間、男はマリアネラとゴグレグに強烈な蹴りを入れる。
蹴り飛ばされたマリアネラとゴグレグは、再び十字路の中央に戻さ
れているのに気がつく。
地面に蹲るマリアネラとゴグレグの元に戻って来たヨーランは、脇
腹から出血しているマリアネラに、緊急の治癒魔法を施していた。
﹁クソ!私達をここから出さないつもりかい!﹂
﹁ここで俺達の事を⋮始末するつもりなのだろう﹂
ゴグレグの言葉に、顔を歪めるマリアネラ。
人攫いの男達は4人。それぞれが自分達よりはるかにLVが高い強
者であると言う事が、戦闘を通じてひしひしとその身に感じられる。
その絶望感にギュウウと握り拳に力を入れるマリアネラ。
﹁⋮こんな所で⋮死ぬ訳には行かないんだよ!私にはまだやりたい
事があるからね!﹂
ヨーランの緊急の治癒魔法によって、少し回復したマリアネラが、
1621
フラフラしながら立ち上がる。
そして両手の短剣を人攫いの男達に向ける。
それを楽しそうに見つめている男達は、一斉にマリアネラ達に襲い
かかってきた。
陣形を組み直しているマリアネラ達ではあったが、男達の見事な連
携に、一瞬で陣形を崩されてしまう。
マリアネラは体中を斬られ、夥しく出血し、そのマリアネラを庇っ
ているゴグレグも、腹と肩を大きく斬られ、片膝をついていた。
血を流しながら、もう殺されるのは時間の問題だと、マリアネラや
ゴグレグが感じていた時であった。
ヨーランの身体が茶色の激しい光を放つ。
次の瞬間、地面が割れると、そこから木の根の様な物が出現し、男
達4人の体中に絡みついた。
その木の根の様な物に動きを鈍らせられる男達4人。男達は木の根
を持っている武器で斬るが、瞬く間に再生し、再度男達に絡み付い
ていく。
﹁今じゃ!ワシが術でこやつらの動きを封じ込めている間に逃げる
のじゃ!﹂
﹁に⋮逃げるって⋮ヨーランはどうするつもりなのよ!﹂
鮮血を流しながら、ヨーランの言葉に動揺しているマリアネラ。
﹁ワシはこの術を発動させてるから動けん!2人で逃げるのじゃ!﹂
﹁そんなの出来ないよ!ヨーランを置いて逃げる位なら、ここで一
緒に戦って死ぬ!﹂
﹁馬鹿な事を言うでないマリアネラ!お前にはやりたい事があるの
であろう!?ならば、死んではならぬ!ゴグレグ!マリアネラを頼
む!﹂
ヨーランの声を聞いたゴグレグは静かに頷くと、血を流しながらも
1622
動けないマリアネラを抱え上げる。
﹁は⋮離せ!ゴグレグ!私はまだ戦うんだ!﹂
ゴグレグに担がれているマリアネラはジタバタと暴れるが、戦闘で
受けた傷のせいで、ゴグレグの腕力から逃れる事は叶わなかった。
﹁⋮ゴグレグ。マリアネラの事を⋮頼んだぞ﹂
﹁⋮解った。すまないヨーラン⋮﹂
ゴグレグは呟くようにそう言うと、マリアネラを担ぎながら十字路
を王都ラーゼンシュルトに向かって走りだした。
﹁いやだ!ヨーランーーーー!!!!!﹂
ゴグレグに担がれながら遠くなって行く、必死に叫び手を伸ばすマ
リアネラを、優しく見守る様な瞳で見つめるヨーラン。
﹁⋮これが噂に聞く、ノーム族の秘術、地縛りの霊樹か?最近では
使える者の居ないと聞いていたが⋮まさかお前が使えたとはな﹂
ヨーランの術に縛られながらも不敵に笑う男。
﹁ホホホ。なんじゃ口をきけるのじゃな。いつも何も言わんから、
口までマジックアイテムで封じられとると思っておったわ﹂
術を発動させながら皮肉に笑うヨーランの言葉を聞いて、ククッと
笑う男。
﹁ノーム族の秘術、地縛りの霊樹は膨大な魔力を使うと聞く。お前
LVの奴がその秘術を使える事には驚くが⋮お前は魔力量自体は、
LV相当の量しか無いと見た。⋮長くは、私達を拘束出来ぬであろ
う?﹂
ニヤッと寒気のするその笑いを見たヨーランは、ホホホと楽しそう
に笑う。
1623
﹁⋮普通の奴らであれば、この術で絞め殺す事も出来るのじゃがな。
お前たちを絞め殺すには⋮残念じゃが威力が足らぬ様じゃ。ま⋮マ
リアネラとゴグレグが、王都ラーゼンシュルトに駆け込める位の時
間は、稼ぐ事は出来るじゃろう﹂
﹁⋮己の身を犠牲にしてまで⋮あの者達を救う価値があったのか?﹂
﹁ホホホ。人を攫って何かをしておるお前等などには解るまい。⋮
マリアネラは私の娘の様なものじゃ。一緒に冒険や旅をする中で、
あの2人には実に色々な物を貰った。それだけで十分じゃ。それに、
私は長く生き過ぎた。この辺りで、幕を引くのも良いじゃろうて﹂
一切の揺るぎのないヨーランの言葉を聞いて、フッと笑う男。
﹁⋮なるほど、上級亜種であり、寿命の長いノーム族らしい卓越し
た言葉だな。⋮貴様の魔力が尽きるのが楽しみだ﹂
ギラッした瞳をして笑う男を見て、フッと笑うヨーラン。
どれ位男達を拘束していたか解らないが、ヨーランの額から汗が流
れだす。
そしてそれを合図に、ヨーランを包み込んでいた茶色の激しい光が
消え去ってしまう。
全ての魔力を使い果たしたヨーランは、その場に四つん這いになっ
て蹲る。術が消滅し、身体の自由を取り戻した男達は、一斉に手に
持つ武器で襲いかかる。
﹁⋮グフッ⋮﹂
短い声を上げ、口から血を吐くヨーラン。
ノーム族特有の小さな体には、4本のロングソードが急所に貫かれ、
夥しい血を吹き出させていた。
即死に近いその斬撃を受けて、ドッと地面に倒れるヨーラン。地面
にみるみる血だまりができていく。
1624
﹁クソが!時間をとらせやがって!﹂
男の中の1人が、既に事切れたヨーランの死体の腹を蹴り上げる。
うつ伏せだったヨーランの亡骸は、蹴られた勢いで仰向けになった。
仰向けになったヨーランの顔は、実に満足そうな顔で、一切の曇り
のない様に感じられるものであった。
そのヨーランの顔を見た苛立った男の1人が、再度ヨーランの亡骸
を蹴り上げ様として、別の男に止められる。
﹁もういいやめろ。こんな事をしている時間は無い。あちらには彼
奴等が居ると思うが、俺達もすぐに後を追うぞ﹂
リーダーらしき男の言葉に、チッと舌打ちする男は頷く。
そして、王都ラーゼンシュルトの方に向かって跳躍を始める男達。
戦闘の終わった静まり返っている、郊外町の十字路の中心で、満足
そうに天を仰ぐヨーランの亡骸には、秋晴れの少し肌寒い光が射し
ていた。
﹁今日はマリアネラさん達遅いですね∼ご主人様∼。いつもなら時
間通りに来るのに。待ち合わせの場所を間違えたのでしょうか?﹂
マルガは可愛い小首を傾げながらウ∼ンと唸って、マルコと顔を見
合わせていた。
それを見て優しく微笑むリーゼロッテ。
﹁待ち合わせの場所は、ここであってますわマルガさん。マリアネ
ラさん達にも色々と準備に時間がかかっているのかも知れませんわ﹂
﹁リーゼロッテの言う通りだね。もう暫くここで待ってみよう﹂
﹁﹁は∼い!﹂﹂
1625
声を揃えて返事をするマルガとマルコを微笑ましく思いながら、マ
ルガの頭を優しく撫でていると、リーゼロッテが辺りをキョロキョ
ロと眺めているのが気になった。
﹁リーゼロッテどうしたの?何か気になる事でもあるの?﹂
﹁⋮はい。今日はやけに辺りが静かだと思いまして⋮﹂
そう言いながらまた周りを見渡しているリーゼロッテ。
そう言えば、今日は静かだ。
いつもならこの郊外町の入り口には、様々な人の往来があり、喧騒
に包まれている。
しかし今日はその喧騒はなく、人が歩く姿さえ見当たらない。
まるでこの郊外町の入り口には、俺達しか居ない様な感じさえ漂っ
ていた。
俺もそれを不思議に思い、辺りを見渡し出した時であった。マルガ
が可愛い鼻をスンスンとさせ、耳をピクピクと動かし始めた。
﹁ご主人様!血の臭いがします!﹂
マルガのその声を聞いたと同時に、少し離れた路地から何かが飛び
出し、地面に転がった。
そして地面に蹲って居るその人影に近づいて、俺達の表情は一変す
る。
﹁マ⋮マリアネラさん!?それにゴグレグさんじゃないですか!﹂
俺は思わず驚きの言葉を上げる。マルガもマルコも同じ様に驚いて
いた。
そこには地面に蹲って、体中斬られて血だらけになっているマリア
ネラとゴグレグの姿があったからだ。
しかも、ゴグレグは微かに意識が有る状態で、マリアネラに至って
は出血が多すぎたのか、既に意識を失っている。
1626
﹁マルガ!リーゼロッテ!至急2人に治癒魔法を掛けて!﹂
﹁解りました!ご主人様!﹂
﹁了解ですわ葵さん﹂
俺の甲高い声を聞いたマルガとリーゼロッテは、マリアネラとゴグ
レグに治癒魔法を施していく。
顔色の青かったマリアネラの顔に、少し赤みがかかってくる。マル
ガの治癒魔法が効いてきたのであろう。
そして、リーゼロッテに治癒魔法を掛けて貰っていたゴグレグが微
かに口を開く。
﹁に⋮逃げろ葵殿。や⋮奴らが⋮追ってくる⋮は⋮早く⋮王都の⋮
中⋮に﹂
﹁一体どうしたんですかゴグレグさん!?﹂
ゴグレグを抱きかかえながら言う俺。
ゴグレグは今迄相当無理をしていたのか、意識を失ってしまった。
俺は何かヤバイ事になったのだと理解し、マルガ達にマリアネラた
ちを運び、王都ラーゼンシュルトの中まで撤退命令を出そうとした
時であった。民家の屋根の上から低い声が聞こえる。
﹁何故そいつらがここに居るのだ?⋮チッ⋮奴らめ⋮いらぬ仕事を
増やしてくれた様だな﹂
その声に民家の屋根の方に振り向くと、覆面を被った4人の男達が、
俺達を見下ろしていた。
男達の出で立ちを見て、あの人攫い達であると認識するのに時間は
掛からなかった。
それを理解したマルガ達は、すぐに武器をアイテムバッグから取り
出し装備し身構えていた。
俺達が陣形を組んで身構えているのを見て、ククッと笑いながら屋
根から飛び降りる男達。
1627
﹁まあ良い。どちらにしろ⋮簡単な仕事なのだからな!﹂
そう言い放った4人の内の一人の男が、一瞬でマルコに間合いを詰
める。
マルコはその早さに対応出来ず、男の蹴りをまともに食らって、民
家の壁に大きな音を立てて衝突する。地面に蹲っているマルコ。
﹁マルコちゃんをよくも!﹂
マルガは風属性の移動強化魔法であるエアムーブを発動させて、素
早く男に大熊猫の双爪で斬りかかるが、それを苦もなく躱す男は、
マルガにも強烈な蹴りを入れる。
マルガは何とかそれを大熊猫の双爪でガードしたが、マルコと同じ
様に壁に飛ばされ衝突する。
﹁マルガ!貴様!!﹂
俺は一瞬で闘気術を発動させる。俺の身体は薄紅色のオーラで包ま
れる。
身体強化をされた俺は、名剣フラガラッハで男を斬りつける。
しかし、俺の剣速に瞳をきつくする男の身体から、淡黄色に光るオ
ーラが発せられ、俺の剣先は空を切り、男の体に触れる事はなかっ
た。男は気戦術を発動させて、一瞬で仲間の元まで戻っていた。
リーゼロッテに起こされたマルコとマルガは、むせながら陣形を組
み直す。
﹁葵さん、あの人達の情報を﹂
リーゼロッテの言葉に頷く俺は男達を霊視して、背中に寒気がする
のを感じる。
﹁LV102のソリッドファイター、LV99のアサシン、LV1
00のマジックハンター、LV98のマジックスカウトの計4人!
1628
スキルもかなりやばい物を持ってる!﹂
俺の言葉を聞いたマルガにマルコは、ギュウと手に持つ武器を握り
しめ、顔を歪めていた。
あの盗賊団の頭であったギルスクラスの奴らが4人。そのすべてが
マスタークラス。
今の俺達の実力では、一瞬でやられてしまうのは明白。
俺の強張る雰囲気を感じて、マルガにマルコも緊張が走っている。
その中でリーゼロッテが俺達より一歩前に出て、綺麗な声で叫ぶ。
﹁皆さん目と耳を塞いでください!﹂
そう言い放ったリーゼロッテは、一瞬で召喚武器である2体の人形、
ローズマリーとブラッディーマリーを召喚すると、別々の方向から
人攫いの男達に向かって何かを投げつけた。
その玉の様な物が地面に触れた瞬間、激しい音と光が発せられ、辺
りを黒い煙が充満する。
﹁今です!王都迄逃げますよ皆さん!マルガさんとマルコさんは、
マリアネラさんを!私はローズマリーとブラッディーマリーでゴグ
レグさんを運びます!﹂
リーゼロッテのその指示に頷き、皆が王都に向かって全力で走り出
す。
﹁リーゼロッテ、さっきのは何?﹂
走りながらの俺の問に、同じ様に走りながらニコッと微笑むリーゼ
ロッテは
﹁あれは私が調合のスキルを使って作った、撤退用の煙玉ですわ。
こういう時の為に、用意しておいたのです﹂
﹁流石リーゼロッテ!助かったよ!﹂
1629
俺の言葉に、嬉しそうに頷くリーゼロッテ。
あの煙玉は、スタングレネードとそう変わらない威力はあった様に
思う。
如何にマスタークラスの彼らでも、あれをまともに食らったら、暫
くは追ってこれないであろう。
実力差だけではなく、こちらには戦闘不能の気絶しているマリアネ
ラとゴグレグモいるのだ。
2人を守りながら、あのマスタークラスの4人組みと戦うなんて、
無謀すぎる所であった。
リーゼロッテの起点の早さと、行動力に感謝しないと。
そんな事を考えながら走っていると、マルコが嬉しそうに声を上げ
る。
﹁見えた!王都ラーゼンシュルトの門だよ!あそこに行けば守備隊
が居るから、助かるよ!﹂
嬉しそうに叫ぶマルコを見て、皆が安堵の表情で頷く。
俺達は門の傍に有る詰所に、一目散に駆け込む。
﹁助けてください!賊に追われています!﹂
詰所の扉を開けるなりそう叫んだマルコであったが、マルコの叫び
に応える者は居なかった。
﹁あれれ!?いつもここには守備隊の人が居るのに⋮﹂
マルガが詰所の中をキョロキョロしながら首を傾げていた。
﹁そう言えば⋮門の外にも守備隊の人は居ませんでしたね⋮﹂
リーゼロッテは顎に手を当てながら、何かを考えていた。
その時、マルガがバッと俺に振り返る。
1630
﹁ご主人様!さっきの人達が、こっちに向かって来ています!早く
ここから逃げないと!﹂
マルガのその叫びを聞いた皆は詰所から出て、王都ラーゼンシュル
トの中に向かって全力で走り出す。
﹁とりあえず、グリモワール学院に向かおう!あそこなら、メーテ
ィスさん直属の兵が居る!﹂
俺の言葉に全力で走りながら頷く一同。
王都ラーゼンシュルトの町を行き交う人々は、全力で走っている俺
達を、何事かと困惑しながら見つめていた。
﹁クソ!いつもなら、沢山いるはずの、町を見回っている守備隊も
1人も居ないなんて!﹂
王都の中を走りるマルコの言葉を聞いて、コクコクと頷くマルガ。
﹁⋮兎に角、グリモワール学院に全力で向かいましょう。私達には、
彼らと対峙して、生き残る術は無いのですから﹂
リーゼロッテの冷静な言葉に、走りながら無言で頷くマルガにマル
コ。
リーゼロッテの言う通り。
俺達の今出来る事は、いち早くグリモワール学院に逃げ込む事のみ。
戦った所で、無残に殺されるだけであろう。
唯一の対抗できる手段である、俺の種族能力解放も、こんな町中の
目撃者の多い所なんかで使えるはずもない。
﹁もうすぐでグリモワール学院だ!皆頑張って!﹂
全力で走る俺の言葉に頷く一同であったが、次の瞬間、その歩みを
強制的に止められてしまう。
1631
﹁グランドブラスト!!﹂
土と風の上級混合魔法が、地面を抉りながら、俺達の後方から迫っ
てきた。
まるで地面の津波の様な岩岩が、俺達目掛けて襲いかかる。
﹃バシュウウウウンン!!!!﹄
激しい空気の様な音が辺りに響き渡り、岩の津波は大きな音を立て
て、あらぬ方向にはじけ飛ぶ。
岩の津波は、民家の壁を突き破り、大きな音をさせて崩してしまっ
た。
通行人はそれを見て、叫び声を上げながら、蜘蛛の子を散らす様に、
逃げ始める。
それはマルコが風妖精のバックラーの効果で、魔法を弾き飛ばした
結果であった。
しかしマルコはその衝撃で飛ばされ、地面に尻餅をついてへたり込
んでいた。
マルガに起こされるマルコは、すぐに体制を整える。
﹁マルコ助かったよ!﹂
﹁うん!でも、あのクラスの魔法は、この風妖精のバックラーでも
そうそう防げないよ葵兄ちゃん!衝撃で弾き飛ばされちゃうから、
連続の魔法は防ぐのは無理だよ!﹂
﹁解ったよマルコ!防げるものだけでいいよ!﹂
俺の言葉に頷くマルコは、その視線を追いついたマスタークラスの
男達に向ける。
﹁こんな町中で、堂々とやってくれるねお前等。これでも⋮喰らえ
!﹂
俺は名剣フラガラッハをアイテムバッグにしまうと、両手に銃剣2
丁拳銃のグリムリッパーを召喚する。そして、闘気術を全開に開放
1632
する。
﹁くらえ!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!﹂
薄紅色のオーラで包まれる俺の両手に握られているグリムリッパー
から、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が放たれる。
その無数の魔法弾は、地面や民家のレンガの壁に跳ね返り、あらぬ
方向に跳弾して、男達に襲いかかる。
俺は威力を緩めた百花繚乱を、角度をつけてあちこちに放ったのだ。
そして流星嵐の様な魔法弾全てを跳弾させる事により、魔法弾の弾
幕の壁を、マスタークラスの男達と俺達の間に作ったのだ。
﹁今だ!逃げるよ皆!﹂
俺の意図を理解した皆は、全力でグリモワール学院に向かって走り
出す。
マスタークラスの男達は、暫く百花繚乱で足止めされていたが、魔
法弾の消滅により、再度俺達に迫っていた。
しかし、俺達の顔には、絶望の二文字は無かった。
何故ならば、俺達はグリモワール学院の門をくぐっていたからだ。
﹁み⋮皆さんどうなされたのですか!?﹂
全力で鬼気迫る表情で走りこんできた俺達を見て、困惑の表情をす
るグリモワールの守備の兵士達。
﹁賊です!賊に追われているんです!助けてください!﹂
マルガの叫び声を聞いた守備の兵は、追ってきた4人の男の存在に
気が付き、手に持つハルバートをの切っ先をマスタークラスの男達
に向ける。
﹁ここは神聖なる学び舎グリモワール学院である!害をなすならば、
我らが排除する!﹂
1633
そう言い放った守備の兵士達は、マスタークラスの男達目掛けて戦
闘を開始する。
守備の兵士達のLVは70前後ではあるが、常に十数名待機してい
る。
流石のマスタークラスの4人でも、上級者十数名を一度に相手をし
ては、俺達にたどり着く事は難しいらしく、俺達に攻撃を加えられ
ないでいた。
それに安堵している俺達の前に、さらなる絶望が振りかかる。
俺達を追ってきたマスタークラスの4人の男達とは別に、グリモワ
ール学院の壁を飛び越えて、新手の4人の人攫いらしき男達が、俺
達の目の前に現れたからだ。
﹁そ⋮そいつらは⋮俺達を襲った奴らだ。⋮私やマリアネラでさえ
全く歯が立たなかった⋮気をつけろ⋮﹂
微かに意識を取り戻したゴグレグの言葉に、悲壮感を漂わせるマル
ガにマルコ。
俺はギュッと唇を噛み締めながら、闘気術を開放してグリムリッパ
ーを構えた時、後方の塔の上から、凍りつく様な凄まじい魔力を感
じる。
その魔力に当然気がついた、マスタークラスの男達や、新手の男達、
守備の兵士でさえ戦闘を辞めて、その魔力の発せられる方に視線を
向ける。
そこには光り輝く冷気の魔力を纏って、妖艶な美しい身体をした美
女が立っていた。
﹁この私の治めるグリモワール学院に攻め入るなんて⋮なんて身の
程知らずな⋮死んで詫びるが良い!﹂
そう言い放ったメーティスは、右手を掲げると、妖艶な凍る様な微
笑みを浮かべる
1634
﹁氷の結晶になりなさい!アイシクルテンペストフィールド!!!
!!﹂
一瞬で魔法の詠唱を終わらせたメーティスの右腕から、光り輝く冷
気が放たれる。
その冷気は7人の人攫いの男達を包み込むと、眩い光を発する。
﹃カシャリイイイイイン﹄
その瞬間、無数のワイングラスを打ち合わせたかの様な、美しく甲
高い音が辺りに響き渡る。
眩い光に視界を奪われていた俺達は、ゆっくりと瞳を開けて、その
光景に絶句する。
7人のマスタークラスの人攫いの男達は、皆が氷の柱の中で氷の結
晶にされて絶命していた。
一瞬の出来事に、皆が茫然自失でその光景を眺めている中、一瞬で
生き残りのマスタークラスの男の傍に姿を表すメーティス。
﹁⋮お前は生きて逃がしてやる。お前たちの主人に伝えなさい。今
度⋮このグリモワール学院に手を出すなら⋮この暁の大魔導師が相
手だとね﹂
凍りつく様な瞳で見つめられた男は後退りすると、学院の外に高速
で跳躍して逃げ出した。
﹁暁の大魔導師の2つ名は嘘ではありませんねメーティスさん﹂
リーゼロッテの涼やかな微笑みに、ニコッと微笑むメーティス。
そんな2人を見つめていると、氷の結晶にされた男達の身体が激し
く燃え出す。
氷の結晶にされて死亡した事によって、自滅の腕輪の効果が発動し
たのであろう。
召喚された炎は全てを燃やし尽くし、灰にしてしまった。
それを呆れ顔で見つめるメーティス。
1635
﹁私の氷を燃やすなんて⋮闇属性の呪いの炎は厄介ね。呆れちゃう
わ﹂
軽く溜め息を吐きながら言うメーティスは、俺の前に来る。
﹁とりあえず宿舎に行きましょう葵ちゃん。怪我人も居るみたいだ
し、私が治療してあげるわ﹂
メーティスの言葉に頷く俺は、皆に指示を出し、宿舎に向かうので
あった。
1636
愚者の狂想曲 45 依頼放棄
﹁さあこれで治癒魔法は終了ね﹂
マリアネラに治癒魔法を施したメーティスは、ベッドの傍の椅子に
腰を掛ける。
俺達はメーティスに言われた通り宿舎に戻り、沢山ある内の寝室の
一室に、マリアネラとゴグレグを連れて来ていたのだ。
マリアネラとゴグレグの寝ているベッドの傍で、心配そうに2人を
見つめているマルガにマルコ。
その2人の隣で、同じ様に心配そうなステラ、ミーア、シノンの3
人。
﹁メーティスさん⋮マリアネラさんもゴグレグさんも大丈夫なんで
すよね?﹂
﹁2人共大丈夫よマルガ。この女性は体中斬られていたけど、後遺
症も残らない様に完璧に治癒魔法を施したわ。私の治癒魔法なら傷
跡すら残さないからね。そっちのワーリザードの男性も、かなり深
手の傷だったけど、元々身体能力の高いワーリザード、回復力は普
通の人をはるかに超えているわ。まあ⋮かなりの重症だったから、
2∼3日は身体の痛さで、満足に戦えないかもしれないけどね﹂
メーティスの優しい言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろしているマ
ルガにマルコは、安堵の表情でベッドに寝ているマリアネラとゴグ
レグを見つめていた。
﹁しかし、一体どうしたっていうの葵ちゃん?何があったの?﹂
﹁あんな状態だったので、マリアネラさんとゴグレグさんから事情
を聞けてないけど⋮多分、ハプスブルグ伯爵家の別邸に、例の死体
を持ち込ませたくない人攫い達の襲撃を受けたのだと思います。そ
1637
れを証拠に、例の死体をマリアネラさんとゴグレグさんは、連れて
きて居ませんでしたからね。きっと、それどころでは無かったので
しょう﹂
俺の言葉を聞いて、そうねと言いながら、ベッドに視線を向けるメ
ーティス。
そんな俺とメーティスを見ていたマルガは、少し言い難い様な表情
で俺を見る。
﹁所でご主人様⋮ヨーランさんの姿が見えないのですが⋮﹂
マルガの言葉を聞いた一同は、顔を見合せる。
何があったのかを理解出来る様な、その淋しげな表情の皆を見たマ
ルガは、マリアネラとゴグレグを見ながら、瞳を揺らしていた。
﹁⋮私の⋮ヴァルデマール侯爵家の魔導師団である、エンディミオ
ン光暁魔導師団に、すぐにヴェッキオを捜索させる様に指示を出す
わ。じゃ⋮私は戻るわね﹂
そう言って椅子から立ったメーティスは部屋の扉の前まで行き振り
返る。
﹁そうそう、この宿舎や貴方達にも、エンディミオン光暁魔導師団
の護衛をつける事にするから。私の魔導師団達なら、例の奴ら相手
でも引けを取らないから安心だしね。私もいつも貴方達の傍に居ら
れる訳じゃないから﹂
﹁⋮ありがとうございますメーティスさん﹂
俺の御礼の言葉に、フフッと優しい微笑みを向けるメーティスは、
静かに部屋の扉を開け出ていった。
﹁じゃ⋮ステラ、ミーア、シノン、マリアネラさんとゴグレグさん
の事頼むね。2人の目が覚めて、何か食べれそうなら、食べさせて
あげて﹂
1638
俺の言葉にコクッと頷くステラ、ミーア、シノンの3人。
﹁あの⋮ご主人様。私も⋮マリアネラさん達を見てていいですか?﹂
﹁オイラも⋮いい?葵兄ちゃん﹂
マルガとマルコはマリアネラとゴグレグの事が心配なのか、ベッド
の傍から離れようとはしなかった。
﹁⋮いいよ。俺は1階の広間に居てるから、マリアネラさんとゴグ
レグさんが目を覚ましたら、俺に教えてくれる?﹂
﹁解りましたご主人様!﹂
﹁解ったよ葵兄ちゃん!﹂
嬉しそうなマルガとマルコの表情に癒されながら、俺とリーゼロッ
テは部屋を出る。
そして、1階の寛ぎの間に到着した時に、ダダダと走って来たエマ
が俺に抱きついた。
﹁葵お兄ちゃん∼。マリアネラお姉ちゃんとトカゲさんは大丈夫だ
った∼?﹂
ちっちゃな瞳に涙を浮べているエマは、ギュッと俺にしがみつく。
﹁⋮大丈夫だよエマ。マリアネラさんもゴグレグさんも、もう心配
ないから﹂
﹁そうなんだ!よかった∼!﹂
瞳をウルウルとさせていたエマは嬉しそうに安堵している。その可
愛い頭を優しく撫でると、エヘヘと可愛い微笑みを向けてくれるエ
マ。
﹁しかし⋮このグリモワール学院にまで追ってくるだなんて⋮余程
葵さん達の事が目障りだったのでしょうか?﹂
エマの頭を撫でている俺の傍に来るレリア。
1639
﹁⋮どうだろう?俺達の事をどう思っているかは、相手にしか解ら
ない事だからね。だけど、何かの手がかりになるかも知れない死体
を手に入れた俺達の事を、気には入ってはいないのは確かだろうけ
ど﹂
﹁葵さんの言う通りですね。でも、あの暁の大魔導師の2つ名をも
つメーティスさんが、今度この学院に手を出したら容赦はしないと、
宣言していましたからね。大国フィンラルディアのみならず、世界
にその名声を知られているエンディミオン光暁魔導師団を、相手に
したくは無いでしょう。この学院に攻め入ってくる様な事は、もう
無いと思っても良いでしょう﹂
その言葉を聞いたレリアは、エマの頭を撫でながら安堵の表情を浮
かべる。
﹁リーゼロッテの言う通りだね。それに、この宿舎や皆にも、メー
ティスさんがエンディミオン光暁魔導師団の護衛をつけてくれるら
しいから、町に出かける時も安全だと思うよ﹂
﹁それは良かったですね葵さん。⋮ですが⋮﹂
俺の傍で少し心配そうな、歯切れの悪いユーダが言葉尻をしぼめる。
﹁⋮ユーダさんの言いたい事は解ってますよ。⋮リーゼロッテ、予
定よりかなり遅れてるけど、ハプスブルグ伯爵家の別邸に向かう。
準備してくれる?﹂
﹁⋮解りましたわ葵さん。少し待っていてくださいね﹂
リーゼロッテはそう告げると、寛ぎの間から出て行く。
そして、暫く待っていると、準備の出来たリーゼロッテが帰ってき
た。
﹁ユーダさんが心配しなくても良い様にしてきますので、安心して
下さい﹂
1640
俺のその言葉に、自分が言いたくて言えなかった事が含まれている
事を感じたユーダは、申し訳なさそうに微笑む。
﹁ではちょっと行って来ますので、後の事⋮頼みますねレリアさん
ユーダさん﹂
俺の言葉に頷くレリアにユーダ。
準備の出来ている俺とリーゼロッテは、寛ぎの間を出て宿舎の外に
出ると、4人の魔道服を着た兵士が馬車の傍で立っていた。その立
ち振舞からして、かなりの実力者で有る事が解る。
﹁葵さんこちらの方々は、私達が外出する時に護衛をしてくれる、
エンディミオン光暁魔導師団の方々ですわ。メーティスさんが早速
手を回してくれた見たいです﹂
﹁そうなんだ。よろしくお願いします﹂
﹁我が主メーティス様直々の命、この命に代えても、貴方達をお護
りする事を誓いましょう﹂
その言葉に頭を下げて礼を言い、荷馬車に乗り込む。エンディミオ
ン光暁魔導師団の4人も、自分達の馬車に乗り込む。
それを確認した俺は、リーズの手綱を握り荷馬車を進める。
しっかりと俺達を護衛しながら、辺りに敵がいないかを警戒しなが
ら着いて来てくれる事に安堵感を覚えながら、俺達の馬車はハプス
ブルグ伯爵家の別邸の前まで到着した。
﹁エンディミオン光暁魔導師団方々は、館の中の客間で寛いでいて
下さい。話が終わりましたら、部屋に行かせて貰います﹂
﹁解りました葵殿。ここはあのハプスブルグ伯爵家の別邸、何も無
いと思いますが、何か有りましたら、すぐに我々に言って下さい﹂
エンディミオン光暁魔導師団の兵士の言葉に頷き、俺とリーゼロッ
テは別邸の案内役に付いて行く。
そして、部屋の中に入ると、ルチアとマティアス、マクシミリアン
1641
が俺とリーゼロッテに視線を向ける。
﹁⋮随分と遅かったじゃない葵。⋮何かあったの?﹂
いつもなら少しでも待たせるとプンプンしているはずのルチアは、
少し心配そうな表情を向ける。
﹁⋮うん、例の人攫いの奴らに襲撃されたんだ﹂
その言葉を聞いたルチアは表情をきつくする。
俺はルチア達に襲撃された内容を説明すると、顔を見合わせて何か
を考えているルチアにマティアス、マクシミリアンの3人。
そして、マクシミリアンが顎に手を当てながら口を開く。
﹁⋮マスタークラスの手練を8人か⋮解せんな⋮﹂
﹁それはどういう事なのでしょうか?マクシミリアン様﹂
マクシミリアンの言葉に疑問に思ったリーゼロッテが綺麗な声を響
かせる。
﹁それはですねリーゼロッテ殿、マスタークラスともなれば、普通
の騎士団の隊長や小隊長、傭兵団で言う所の百人長クラスの人材。
それを8人も投入する事に、疑問を感じているのですよ﹂
﹁⋮もっと詳しく説明してくれませんかマティアスさん?﹂
俺がマティアスに追加の説明を求めると、ルチアが紅茶に口をつけ
ながら
﹁それはね葵、使い捨ての出来る人攫いの遺体を取り返す為に、貴
重なマスタークラスの人材を使う事に疑問を感じているからよ﹂
﹁それは⋮このハプスブルグ伯爵家の別邸に、遺体を持ち込まれた
ら色々調べられて、何かの情報を掴まれると思ったからじゃないの
?だから、実力のあるマスタークラスの者で、俺達を襲わせた。そ
うじゃないの?﹂
1642
俺の言葉に軽く溜め息を吐くルチア。
リーゼロッテはルチアの言葉を聞いて、何か考えていた。
﹁葵、前にも言ったけどあの遺体だけじゃ、メネンデス伯爵家や、
モリエンテス騎士団の関与の証拠にならないと説明したでしょ?つ
まり、あの遺体には、それほど価値は無いのよ。例の遺体の身元を
調べたとしても、きっと尻尾を掴める様な証拠は出なかったと思う
わ﹂
﹁ルチア王女の言う通りだな。我らヴィシェルベルジェール白雀騎
士団の秘密部隊でさえ、情報を掴ませない奴らなのだ。もしもの事
を考えて、人を攫わせている者達は、使い捨ての出来る、身元を調
べられても何も証拠の出ない者達を使っているだろう﹂
﹁マクシミリアンの言う通りね。私だって、例の遺体をここに持ち
込ませる様に指示を出したのは、葵達に余計な罪が掛からない様に
手配するのが目的だった事だしね。だから、特別な護衛はつけなか
った。まあ⋮直接動けない私達には、出来る事は限られているけど
ね﹂
ルチアとマクシミリアンの説明を聞いて、疑問を深める俺。
確かにルチアとマクシミリアンの言う通りだ。
使い捨ての何も証拠の出ない遺体を回収するのに、わざわざ危険を
犯して、しかも、貴重な兵力を投入するとは思えない。
じゃ⋮相手は何を考えて⋮
俺がその様に思案していると、確信を得たかの様な、透き通る金色
の瞳をキラリと光らせるリーゼロッテが
﹁それはつまり⋮相手には他の目的があった⋮と、言う事ですわね
ルチアさん?﹂
リーゼロッテの言葉を聞いたルチアは、リーゼロッテの全てを理解
したかの様な表情を見て、キュッと唇を噛み締める。
1643
﹁リーゼロッテ⋮どういう事?何か気づいたなら⋮教えて欲しいけ
ど⋮﹂
疑問に思い首を傾げている俺に、少し言い難そうに話を続けるリー
ゼロッテ。
﹁それはですね葵さん⋮今回の襲撃は⋮例の遺体の回収と処分が目
的ではなく⋮最初から目標は私達とマリアネラさん達だったと言う
事ですわ﹂
リーゼロッテの言葉に、儚げに俯くルチア。
﹁え⋮俺達やマリアネラさん達を処分する為に、わざわざマスター
クラスを投入したって事!?でも⋮俺達やマリアネラさん達は、ま
だ特に決定的な証拠を掴んだ訳でも無はずだけど⋮唯一の手がかり
である自滅の腕輪にしたって、調べて貰っているけど、何処迄詳し
い情報を得られるかも解らないのに⋮﹂
俺の困惑している表情を見て、リーゼロッテは静かに目を閉じる。
そして、その美しい金色の瞳を開くと、ルチアを見つめながら、
﹁それは⋮警告ですわ葵さん﹂
﹁警告?警告って⋮何?﹂
更に疑問を深める俺にマティアスが
﹁⋮つまり、これ以上深入りするなら⋮ルチア様の大切にしている
者達⋮葵殿達に危害を加えると警告したかったのでしょう。葵殿の
関与により、ルチア様に繋がっている事を相手は知っているのでし
ょう。葵殿はルチア様の専任商人です。王宮で以前の選定戦の事を
知らない者など居ません。ルチア様が特別に心を開かれている葵殿
に危険を与える事によって、ルチア様にこの件から手を引かせる、
又は、これ以上何かをさせない様に、したかったのでしょうね﹂
1644
マティアスの言葉を聞いたルチアは完全に俯いてしまった。
そのルチアの傍に近寄り、そっと優しく肩に手を置くマクシミリア
ン。
そうか⋮今回の襲撃は、ルチアにプレッシャーを与える為だけに行
われたものだったって訳か。
遺体を処分したのはあくまでもついでの事であり、本当の目標はル
チア。
なるほど⋮
﹁⋮まあ、今回は警告であったので、お前達を殺すつもりは、相手
には無かったのかもしれん。先に依頼を受けていた者達は殺されて
いたかもしれんがな。だが、かなりの重症を負わされて、後遺症が
残っている位の事はされていたかもしれん。⋮運が良かったなお前
達﹂
マクシミリアンの言葉に、薄ら寒いものを感じる。
解ってはいたけど、国の厄介事に首を突っ込む事の危険性⋮
ルチアは俺に顔を向けると、その綺麗な瑠璃色の大きな瞳を揺らし
ていた。
俺はルチアの傍に近寄ると、マクシミリアンと反対側のルチア肩に
手を置き、
﹁⋮ルチア、俺達はこの辺で、この依頼を放棄する事にしたよ。今
日ここに来たのは、その事を伝え様としたかったんだ﹂
俺のその言葉を聞いたルチアは、安堵したかの様な、そして、少し
さみし気な表情を浮かべると
﹁⋮そう、解ったわ。それがいいわね。貴方の大切な人達を⋮危険
に巻き込む事は出来ないわね﹂
﹁⋮ごめんルチア。力になれなくて⋮﹂
1645
﹁⋮いいわよそんな事。貴方が気にする事じゃないわ﹂
﹁ルチア⋮﹂
ルチアの儚げな表情を見た俺は思わず言葉をつまらせてしまう。
そんな俺とルチアの間に割って入るマクシミリアンはルチアの肩を
引き寄せると
﹁これからは、ヴィシェルベルジェール白雀騎士団、副団長である
この私がルチア王女をお守りする。お前は商売に専念する事だな﹂
少し得意げに俺に言うマクシミリアンの手を振りほどくルチア。
﹁貴方の気持は嬉しいけど⋮気安く触らないでくれるかしらマクシ
ン?﹂
﹁良いではないですかルチア王女。俺達は小さい頃からの付き合い
だし、それに婚約者じゃないですかか﹂
﹁ふえ!?ルチアの婚約者!?﹂
マクシミリアンの言葉に思わず変な声を出してしまった。オラ恥ず
かしい!
ルチアは俺を見て取り乱しながら、マクシミリアンに向き直ると、
﹁誰が貴方の婚約者よ!誰が!﹂
﹁だって小さい頃に約束しましたよね。結婚してくれるって﹂
﹁それは貴方が泣きながら平伏して何度も私にお願いするからでし
ょ!それに、私が気にいる男に成ったら認めてあげるって言っただ
けでしょ!婚約なんてした覚えはないけど?﹂
﹁逆に言うと、認めて貰えたら結婚してくれるって事でしょう?⋮
僕は諦めないからねルチア王女﹂
不敵に微笑むマクシミリアンに、盛大に溜め息を吐くルチア。マテ
ィアスは苦笑いをしていた。
﹁とりあえず話は終わった見たいなので、葵殿は私が館の外まで案
1646
内しよう。詳細は後で使いの者を宿舎に回す。行くぞ葵殿﹂
﹁あ⋮はい。じゃ、またなルチア。マティアスさんも﹂
俺とリーゼロッテはルチアとマティアスに挨拶をして、マクシミリ
アンの後を付いて部屋の外に出て歩き始める。
﹁良き判断であったと言っておこうか﹂
俺とリーゼロッテの前を歩いていたマクシミリアンが、足を止めて
振り返る。
﹁⋮そうでしょうか?﹂
﹁今のままなら、ルチア王女はお前達の事が気がかりで、奴らの事
に全力で取り掛かれないかもしれんからな。お前達が手を引く事に
よって、気がかりなしに事に当たれる。それにメーティス卿のエン
ディミオン光暁魔導師団がお前達の事を守ってくれるのであれば尚
更だ﹂
マクシミリアンの言葉を聞いたリーゼロッテは涼やかな微笑みを浮
かべると
﹁⋮先程とは言葉の雰囲気が違いますわねマクシミリアン様﹂
﹁そうかな?事実を言ったまでだ。それに⋮ルチア王女の心配して
いる顔を⋮見たくは無いのでな﹂
そう言って優しい微笑みを浮かべるマクシミリアン。
そのマクシミリアンの微笑みを見て、表情を緩めるリーゼロッテ。
﹁⋮本当に、ルチアさんの事を好きでいらっしゃるのですねマクシ
ミリアン様は﹂
﹁当たり前だ!あの約束を取り付けるのに⋮どれだけ頭を地に擦り
つけた事か!僕はルチアを愛してる。小さい頃からずっとね。ルチ
ア王女の幸せは僕が守る!﹂
自信満々にきっぱりと言い切るマクシミリアン。
1647
﹁⋮葵殿は商売の方から、ルチア王女を助けてやってくれ。ルチア
王女は何故だか解らないが、葵殿達の事を気に入っている様だ。そ
れでルチア王女が喜ぶので有れば、僕もその方が良いからね。だが
⋮葵殿には、ルチア王女を渡さない。それだけはここで宣言してお
こう!﹂
そう言って俺にその不敵な美しい顔を向けるマクシミリアン。
いやいやいや!
無いから!あのブンブン突撃娘に、何かしようとか思ってませんか
ら!
まあ⋮可愛いのは認めるけど⋮
﹁いや⋮俺は別に⋮ルチアの事を、そんな対象に見てませんから!﹂
﹁本当か?じゃ⋮僕がルチア王女を奪っても良い訳だな?﹂
ニヤッと微笑むマクシミリアンの顔を見た俺は、何故か解らないが
心がざわつくのを感じていた。
﹁それはルチアが決める事なので、俺は知りません!ですが、ルチ
アは俺達の仲間でもあります。貴方とルチアの関係は知りませんが、
俺は俺なりのやり方で、仲間であるルチアの力になりたいと思って
います。それには、貴方の許可は貰いませんのであしからず!﹂
きっぱりと言い切った俺の言葉を聞いて、楽しそうに微笑むマクシ
ミリアンは、
﹁解った。そうしてくれたまえ葵殿﹂
あっさりと俺の言葉を拒否もせず受け入れるマクシミリアンに呆気
にとられる俺を見て、クスクスと楽しそうに笑うリーゼロッテはマ
クシミリアンに向き直る。
1648
﹁わざわざ葵さんに言わなくても良いでしょうに﹂
﹁騎士はいつでも正々堂々と勝負するものだ。まあ⋮秘密組織を持
つハプスブルグ伯爵家が言う事では無いのかもしれんがな﹂
少し苦笑いをするマクシミリアンに、フフと笑うリーゼロッテは、
﹁ですが⋮私は嫌いじゃありませんわ﹂
﹁美しい貴女にそう言って貰えると、嬉しいですね﹂
楽しそうにリーゼロッテに微笑んでいたマクシミリアンは俺の前に
来ると
﹁この話はここまでだ。奴らの企みは、フィンラルディア王国の正
義の象徴であるハプスブルグ家が、必ず暴いて法の下に引きずりだ
し、裁きを受けさせてみせる。アウロラ女王やルチア王女が目指す
ものを実現させる為にね﹂
清々しいまでのその思いの篭った言葉に、少し清らかな物を感じる
俺。
﹁⋮そうなると良いですね。俺もそう思いますよ﹂
﹁思うではダメだ。そうさせてみせるだ。葵殿﹂
﹁なるほど⋮確かにそうですね﹂
苦笑いしている俺に、フフと笑うマクシミリアンは、俺の肩に手を
置く。
﹁⋮先程言った事は全て事実だ。別の方面から⋮ルチア王女の力に
なってやってくれ﹂
﹁⋮解ってますよ。ルチアは俺達の仲間ですからね﹂
﹁うむ。⋮だが、ルチア王女は渡さないよ?﹂
﹁⋮しつこいですねマクシミリアン様は⋮。俺は⋮別に⋮ルチアの
事は⋮﹂
俺の憤っている言葉を楽しそうに聞いている、マクシミリアンにリ
1649
ーゼロッテ。
俺は少し悶々としながら、ハプスブルグ伯爵家の別邸を後にしたの
であった。
宿舎に帰ってきた俺とリーゼロッテは、馬のリーズと荷馬車を馬小
屋と馬車置き場に移動させ、護衛してくれたエンディミオン光暁魔
導師団の4人に礼を言って別れて、宿舎の中に入った。
するとユーダがトレイに何かを乗せて、階段を登ろうとしていた所
であった。
﹁あ!葵さんおかえりなさい!﹂
﹁ただいまユーダさん。その食べ物⋮どこに持っていくの?﹂
﹁はい、マリアネラさんとゴグレグさんが目を覚ましましたので、
少しでも食べて貰おうと思いまして﹂
﹁目を覚ましたんだ。俺達も行くよ。話したい事もあるしね﹂
俺の言葉に頷くユーダと一緒に、俺はマリアネラ達が居る部屋に向
かう。
そして、部屋の中に入ると、皆の視線が俺達に集まる。
﹁おかえりなさいですご主人様!﹂
テテテと走り寄ってきたマルガは、嬉しそうに俺に腕組みをする。
﹁ただいまマルガ。皆もこの部屋に来ていたんだね﹂
部屋にはこの宿舎に住んでいる全員が集まっていた。
皆がマリアネラ達の事を心配していたのであろう。エマに至っては、
1650
余程心配していたのか、ゴグレグの膝に頭をあずけて眠っている。
きっと、ゴグレグが目を覚ましたのを見て、泣いたんだね。
エマの目元が赤く腫れてる。今は泣きつかれて寝てしまったって所
であろう。
俺はそれを微笑ましく思いながら、マリアネラの寝ているベッド迄
近寄る。
﹁⋮マリアネラさん具合はどうですか?﹂
﹁⋮ああ、体中痛いけど⋮何とか大丈夫みたいだね﹂
儚げに微笑むマリアネラ。
﹁ゴグレグさんも大丈夫ですか?﹂
﹁⋮大丈夫だ。問題ない﹂
膝下に寝ているエマの頭を優しく撫でている子煩悩リザードを、微
笑みながら見ているマルガにマルコ。
﹁葵達には迷惑を掛けたね。助けてくれてありがとね葵﹂
﹁いえ、俺達もマリアネラさん達には助けて貰ってますし⋮気にし
ないでください。ユーダさんお願い﹂
俺の言葉にユーダは、トレイに乗せてきたスープをマリアネラ達の
膝の上に乗せる。
身体を起こして貰ったマリアネラとゴグレグは、痛々しそうにスプ
ーンに手を伸ばす。
﹁少しでも食べて下さい。メーティスさんの治癒魔法で傷は治って
ますが、栄養を取らないと治りが遅くなりますからね﹂
﹁⋮解ってるよ葵。ありがとね﹂
そう言って少しずつスープに口をつけていくマリアネラとゴグレグ。
﹁⋮マリアネラさん、俺達は例の依頼を放棄する事にしました。さ
1651
っきハプスブルグ伯爵家の別邸に行きまして、ルチアとマクシミリ
アン様にそう告げて来ました﹂
俺の言葉に皆が一斉に振り向く。
その中で静かにマリアネラが口を開く。
﹁そうかい⋮それがいいかもね﹂
﹁マリアネラさん達はどうするのですか?﹂
俺の問いかけに、キュッと唇を噛むマリアネラは
﹁⋮私は⋮依頼を続けるよ。ヨーランの敵も打ちたいからね⋮。葵、
お願いがあるんだ。前に葵達が戦った十字路に⋮ヨーランが居るは
ずなんだ。ヨーランを⋮連れて帰ってきて⋮くれないか?﹂
いつもの覇気のないマリアネラの瞳は、零れそうな涙を必死に留め
ていた。
﹁その人なら⋮私のエンディミオン光暁魔導師団が連れて帰ってき
たわ﹂
その声に振り向くと、妖艶な身体を入り口にもたれかけさせながら、
メーティスが立っていた。
﹁そうですか⋮ありがとうございます⋮﹂
﹁⋮気にしなくても良いわ。今はゆっくりと静養する事ね。でも⋮
依頼をこのまま続けるのには、私は賛成しないわね。連れて帰って
きたノーム族の男性は、満足そうな顔をしていたらしいわよ。彼は
貴女達を無事に逃がせた事に全てを掛けたのではなくて?それなの
に⋮また⋮自ら危険に身を投じるなんて。彼はそんな事を望んでは
いないはずよ?﹂
腕組みをしているメーティスの言葉を聞いたマリアネラは、ギュッ
と握り拳に力を入れると
1652
﹁⋮解っています。折角ヨーランが助けてくれた命です。ですが⋮
私も冒険者の端くれ。このまま引き下がる事は出来ません﹂
マリアネラは静かにメーティスに語りかける。
その静かな言葉に、揺るぎない意志を感じたメーティスは、溜め息
を吐く。
﹁⋮依頼を止めるのであれば、貴女達にも、暫くエンディミオン光
暁魔導師団の護衛をつけ様と思っているけど、依頼を続けるのなら、
護衛はつけれないわよ?⋮それでもいいの?﹂
﹁⋮はい、覚悟してます﹂
﹁そう⋮。解ったわ﹂
﹁すいません⋮﹂
そう言って頭を下げるマリアネラを、黙って見つめているメーティ
ス。
俺はメーティスの傍まで行くと、その華奢な腕を取り、
﹁皆は暫くここでマリアネラさん達の事を頼むよ。俺はちょっとメ
ーティスさんと話があるから行くね。ゆっくりして下さいね。マリ
アネラさんゴグレグさん﹂
俺の言葉に礼を言うマリアネラとゴグレグ。
俺はメーティスの腕を引っ張りながら、部屋を出る。
そして、2つ先の使っていない部屋にメーティスと一緒に入る。
メーティスは部屋の中をキョロキョロと見渡すと、俺に近寄り妖艶
な微笑みを浮かべる。
﹁なになに∼葵ちゃん。私をこんな所に連れ込んで⋮何する気なの
かしら?﹂
メーティスはその豊満な女体を味合わせる様に俺に身体を密着させ
る。
メーティスの柔らかさと、少し鼻にかかる甘い匂いにドキッなって
1653
しまう。
﹁な⋮なにもしませんから!﹂
﹁そうなの?つまらないわ∼﹂
悪戯っぽく、楽しそうにクスクスと笑っているメーティス。
﹁所で話が有るのでしょう?何かしら葵ちゃん?﹂
﹁はい⋮マリアネラさん達を⋮影から護衛してくれませんか?﹂
俺の言葉を聞いたメーティスは腕組みをしながら俺に振り返る。
﹁⋮私のエンディミオン光暁魔導師団は優秀な人材が揃っているわ。
だから、護衛だけをするには申し分ないけど、依頼をする上で、そ
んな事をしたら、彼女の仕事の邪魔をしちゃう事になっちゃうわよ
?この私でさえ感知される様な相手なのよ?彼女達に気づかれ無く
ても、そいつらには気づかれちゃうわ。彼女達は⋮満足に行動出来
ない結果になるわよ?﹂
﹁ええ⋮解ってます。その上でお願いしたいのです﹂
俺の言葉を聞いたメーティスは深く溜め息を吐き、流し目で俺を見
ながら、
﹁それに⋮依頼を放棄しないのは彼女の意志よ?それを無視する事
にもなっちゃうけど。もし、護衛している事が解れば⋮葵ちゃん、
貴方彼女に恨まれるかもしれないわよ?﹂
﹁それでも⋮構いません。相手は⋮次にどんな事をしてくるか解り
ません。マリアネラさん達も手練ですが、相手はその上を行く手練
の集団です。次は命の保証はありません。大切な仲間を奪われた怨
みや悲しみは解りますが⋮俺はマリアネラさん達には生きて欲しい
のです﹂
﹁⋮それは葵ちゃんの気持の押し付けよ?﹂
﹁それでもです。僕は何を思われても構いません。ですから⋮お願
1654
いします﹂
俺はそう言うと深々と頭を下げる。
それを呆れ顔で見ていたメーティスは、クスッと楽しそうに笑う。
﹁⋮本当にキャスバルに似ているわね葵ちゃんは⋮﹂
﹁はい?なにか言いました?メーティスさん?﹂
﹁いいえ∼葵ちゃんは可愛いなと思っただけよ∼﹂
そう言ってクスクスと笑っているメーティスは再度俺の腕に抱きつ
く。
﹁解ったわ。葵ちゃんの頼みだから、特別に聞いてあげる﹂
﹁ありがとうございますメーティスさん﹂
﹁いいのよ∼その内、お返しはして貰うから﹂
﹁ええ!?⋮僕に出来る事でお願いしますねメーティスさん?﹂
﹁解ってるわよ葵ちゃん∼﹂
ニコニコと微笑むメーティスに、何かゾクッとしたものを感じなが
ら、苦笑いしている俺は、皆のもとに戻っていくのであった。
ここは豪華な屋敷の一室。その中で大きな声が響く。
﹁ええい!どういう事なのだヒュアキントス!マスタークラスの人
員を7人も失うとは!﹂
男の怒号に、頭を下げるヒュアキントス。
﹁⋮どうやら、相手を深追いし過ぎて、グリモワール学院内で戦闘
1655
になったらしいです。そして、暁の大魔導師の逆鱗に触れた様です
ね。私は深追いはするなと言いつけていたのですが⋮﹂
﹁それは、私の騎士団が⋮悪いと言う事かヒュアキントス?﹂
﹁その様な事は⋮言っては居ませんよ。ですが、流石の騎士団も、
あの暁の大魔導師相手では⋮﹂
ヒュアキントスの言葉に、グウと唸る男。
﹁⋮その件はもう良い。手はず通りに頼むぞヒュアキントス!﹂
男はそう吐き捨てる様に言うと、けたたましく部屋を出ていった。
それを見て軽く溜め息を吐くヒュアキントスに、紅茶を差し出すア
ポローン。
それを微笑みながら受け取り、口をつけるヒュアキントス。
﹁とんだとばっちりだねヒュアキントス﹂
﹁フフフそうかもねアポローン。本当ならマスタークラスの彼らに
は、簡単な仕事だったはずなんだ。しかし、予想外の抵抗にあい、
しくじってしまった。このまま指示通りに出来ないで帰ってこれな
いと感じた彼らは、焦ったのだろうさ。まさか、あのグリモワール
学院内で戦闘をするなんて⋮愚かな﹂
そう言って再度紅茶に口をつけるヒュアキントス。
﹁まあ、彼らの事はどうでも良い。幸い今回は何も情報を与えられ
ないでいた様だしね。それに⋮僕達の目的は達成出来たみたいだし
ね﹂
﹁それは⋮あの葵達が、依頼をやめたと言う事かな?﹂
アポローンの言葉を聞いたヒュアキントスは、少しきつい表情をす
る。
﹁⋮そうだね。僕にとって、1番の不安要素は彼だけだ。彼は⋮僕
の想像を超える何かを持っている感じがするんだよ﹂
1656
﹁天才の君にそう言わせるとは⋮彼は凄いね﹂
﹁どうかな?ただ⋮僕の考え過ぎかも知れないけどね﹂
そう言ってフフッと笑うヒュアキントス。
﹁彼には⋮外からどう奪われるか見て貰う事にするよ。全ては僕達
の計画通りに進んでいる。心配は無いさ﹂
そう言って書類に目を通すヒュアキントス。
﹁僕は4∼5日、王都を離れる。後の事は頼んだよアポローン﹂
﹁了解ヒュアキントス。後の事は任せて﹂
ヒュアキントスはアポローンを引き寄せるとその口を吸い寄せる様
に、唇を重ねる。
﹁この仕事が終われば、こんな所に居る必要も無くなる。もう少し
我慢をしておくれアポローン﹂
﹁僕の事は気にしないでくれヒュアキントス。僕は君の為ならなん
でもするよ﹂
﹁⋮可愛いことを言ってくれるね⋮アポローン﹂
再度アポローンを抱きしめるヒュアキントス。
﹁もう少しで僕達の計画は成る。フフフ﹂
アポローンを抱きしめながら窓の外に目を向けるヒュアキントスの
瞳には、王都ラーゼンシュルトの町並みが写っていた。
1657
愚者の狂想曲 46 暗雲
人攫い達の襲撃を受け、依頼を断った日の翌日の朝、俺達は朝食を
取るために食堂に降りてきていた。
食堂の中に入ると、いつもの皆が楽しそうに朝食を食べていた。
その中で、俺達に気がついたエマが満面の笑みを見せてくれる。
﹁葵おにいちゃんおはよ∼!﹂
テテテと走り寄ってきたエマは、ギュッと俺の足にしがみつく
﹁おはよエマ、今日も元気だね。皆もおはよ∼﹂
皆に挨拶をしてエマの頭を撫でると、エヘヘと可愛い微笑みを浮か
べている。
挨拶も済ませ席につくと、ステラが朝食を持ってきてくれる。
それに礼を言い朝食を食べ始めると、ミーアとシノンがトレイに朝
食を乗せて、食堂を出て行こうとしていた。
﹁あ!ミーアおねえちゃんとシノンおねえちゃん、マリアネラさん
とトカゲさんのところにいくの∼?﹂
﹁そうですよエマさん。2人に朝食を持って行こうと思いまして﹂
﹁じゃ∼エマもいく∼!﹂
ねえねえとせがむ様に言うエマに、顔を見合わせて笑っているミー
アとシノン。
﹁じゃ∼エマさんも一緒に行きましょうか﹂
﹁うん!ありがとうミーアおねえちゃん!﹂
ヤッターと両手を上げるエマを見て、皆が笑っている。
1658
﹁エマ、マリアネラさんとゴグレグさんに無理をさせちゃいけませ
んよ?後、ミーアさんとシノンさんの邪魔をしない様にね﹂
﹁うん!わかってるよ∼お母さん!﹂
﹁ミーアさん、シノンさん、エマをお願いします﹂
苦笑いをしながら頭を下げるレリアに、いえいえと微笑みながら言
うミーアとシノン。
エマはミーアとシノンの後ろを嬉しそうに、ピョンピョンと跳ねな
がら食堂を出て行く。
それをニコニコしながら見ているマルガにマルコ。
﹁でも⋮マリアネラさんもゴグレグさんも⋮大事に至らなくて良か
ったですね。⋮ヨーランさんは残念でしたけど⋮﹂
俺に紅茶を入れながら、少し儚げに微笑むユーダ。
﹁⋮そうだね。冒険者ギルドの依頼には危険がつきもの。だから高
額な報酬が貰える。それは依頼を受ける冒険者は覚悟している事だ
けど⋮解っていても⋮ね﹂
俺の言葉に神妙な面持ちで頷いているマルガにマルコ。
﹁⋮それに今回の依頼は、特殊なものでしたしね。依頼を放棄して
良かったのかも知れませんね﹂
リーゼロッテの言葉に頷いているレリアにユーダ。
﹁⋮でも、ルチアさんはまだ、あの依頼の一件を調べているのです
よねご主人様?﹂
マルガの伏目がちに、言い難そうに言うのを見て、マルコも俯き加
減だった。
﹁⋮ルチアはあの一件を最後まで調べるつもりだろう。でも⋮皆を
危険に巻き込む訳にもいかないからね。ルチアも解ってくれている
1659
よ﹂
そう言いながらマルガの可愛い頭を撫でると、コクッと小さく頷く
マルガ。
⋮俺もマルガと同じ気持だ。
いつも勝気なルチアの儚げなあの表情は、心を締め付けない訳では
ない。
でも⋮愛するマルガ達や大切な仲間を、これ以上危険な事に関わら
せる事は出来ない。
ルチアもその事を解ってくれているから、何も言わずに放棄を認め
てくれたのだから⋮
﹁とりあえず暫くの間は、メーティスさんのエンディミオン光暁魔
導師団が宿舎の警護と、俺達が出かける時には護衛をつけてくれる。
皆、暫く我慢してね﹂
俺の言葉に頷く一同。俺はステラが入れてくれた食後の紅茶をグイ
ッと飲み干すと椅子から立ち上がる。それを見たマルガが
﹁そう言えばご主人様、どこかに出かけられるのですか?﹂
着替えの時からずっと一緒に居るマルガは、俺がどこかに出かける
つもりで居るのを感じていたのであろう。
﹁うん、ちょっとね﹂
﹁じゃ∼私もすぐに出かける準備をしますねご主人様!﹂
マルガはそう言うと、俺と同じ様に食後の紅茶を一気にグイッと飲
み干し、椅子から立ち上がった。
﹁あ⋮いいんだマルガ。今日は俺一人だけで出かけるつもりだから﹂
﹁え⋮1人で出かけられるのですかご主人様?﹂
マルガは小首を傾げながら俺を見つめる。
1660
﹁ちょっとした用事みたいなものだから、すぐに帰ってくるよ。だ
から、宿舎で寛いでて﹂
﹁はい∼ご主人様∼﹂
残念そうに言うマルガの頭を優しく撫でると、可愛い舌をペロッと
出してはにかんでいるマルガ。
﹁では、葵さんが出かける事を、護衛してくれている魔導師団の方
に伝えておきますわね﹂
﹁あ、お願いできるリーゼロッテ?﹂
俺の言葉に優しい微笑みを向けるリーゼロッテは、食堂を出て行く。
暫くして帰ってきたリーゼロッテに、護衛の人の準備が出来た事を
聞き、俺は食堂を後にする。
宿舎の外で魔導師団4人と合流し、彼らの馬車に乗せて貰う。
俺が目的の場所を言うと、馬の手綱を握り、馬車を進めてくれる魔
導師団。
彼らの馬車に暫く揺られながら乗っていると、俺の目的の場所にた
どり着いた。
そこは、郊外町ヴェッキオの入り口にある、大街道に面している、
食堂屋の店の路地だった。
俺は魔導師団の4人にここで待ってくれて居る様に伝え、路地の中
を進んでいく。
するとそこには、食堂屋のゴミ箱をガサガサと漁っている、小さな
人影が見えた。
その小さな人影は俺に気がついたのか、俺に向き直ると、少し気に
食わなさそうな顔を向ける。
﹁⋮もう⋮来ないのかと⋮思ってた﹂
澄み渡る様なライトブルーの瞳を俺に向けているナディア。
1661
﹁うん、ちょっと色々あってね。来れなかったんだゴメンネ﹂
俺の苦笑いしながらの言葉を聞いたナディアは、少し気に食わなさ
そうな顔をしながら
﹁⋮そう。それなら⋮仕方無い﹂
ゴミ箱を漁るのをやめたナディアは俺の傍に近寄ってきた。
そして、ちっちゃな手を俺に差し出す。
﹁ああ、報酬ね。昨日の分も一緒に渡すね﹂
俺はアイテムバッグから銀貨1枚を出し手渡すと、それを大事そう
に腰につけた麻袋にしまうナディア。
﹁今日はね話があって来たんだ。少し座って話しない?﹂
俺はそう言うと、ナディアを石段に腰掛けさせ、その隣に腰を下ろ
す。
﹁⋮何?話したい事って⋮﹂
﹁⋮うん、実は前に言っていた冒険者ギルドの依頼を、昨日放棄し
たんだ﹂
その言葉を聞いたナディアは、少しピクッと眉を動かす。
﹁⋮そう。じゃあ⋮私達の仕事も⋮今日迄と言う事﹂
﹁⋮うん、そういう事になるね﹂
﹁⋮解った﹂
言葉少なげにそう言ったナディアは、表情を変える事無く立ち上が
る。
そして、そのまま立ち去ろうとして、歩き始めた所で俺に振り返る。
﹁⋮最後に⋮聞きたい事が⋮あるの﹂
1662
﹁うん?何ナディア。聞きたい事って?﹂
俺が首を傾げながら聞き返すと、やっぱり気に食わなさそうな顔で
﹁⋮何故、郊外町の浮浪児である私達を⋮助ける様な事を⋮してく
れたの?﹂
そう言って、真剣な眼差しを俺に向けるナディア。
﹁私達が⋮可哀想に見えたから?⋮それとも⋮私達の気を引いて⋮
あの一級奴隷の様に⋮性奴隷にしたかった?⋮それとも⋮あの王女
様の様に⋮助けてやっていると優越感にでも⋮浸りたかったの?﹂
ナディアは俺を見据えながら、歯に着せぬ物言いをする。
俺はそれを聞いて、深く溜め息を吐く。
﹁⋮俺が君達に、頼まなくても良い仕事を頼んだのは⋮マルガがお
ねだりしたからだよ﹂
﹁⋮おねだり?﹂
そう言って困惑の表情をするナディア。
﹁そうおねだりさ。マルガは君達に何かしてあげたかったのさ。だ
から俺におねだりをした。俺はそのマルガのおねだりを聞いたって
訳さ﹂
俺の言葉を聞いたナディアは、その可愛い顔に嘲笑いを浮かべる。
﹁⋮つまり、あの一級奴隷の前で⋮良い格好がしたかったから⋮私
達を助ける様な事をした⋮と、言う事。空も⋮結局は⋮あの王女様
と一緒だったと⋮言う事﹂
そう言って、蔑む様な眼差しで俺を見つめるナディア。
﹁上から私達を助けてやっている⋮その優越感と⋮一級奴隷に良く
してやっていると言うのを⋮見せたかっただけ⋮。やっぱり⋮空も
1663
⋮私達の事は⋮何も解ってなかったんだ﹂
そう吐き捨てる様に言うナディアの瞳は、最初に逢った時の様な、
野生の動物の様な、ギラギラした瞳で俺を見つめていた。
﹁⋮そうだね、何も解っていないね。と言うか、理解する事なんて
出来ないよ﹂
俺の言葉を聞いたナディアは、更にきつく俺を睨む。
﹁⋮それは、私達の事なんて⋮考える事すら⋮無駄って事?﹂
﹁⋮ううん、違うよ?⋮いくら君達の事を考えたり、気持ちを解っ
てあげようとしても、俺は実際に君達の様な生活をしている訳じゃ
無い。生まれも境遇も違いすぎる。そんな俺が、君達の事を全て理
解してあげる事は出来ないと言ってるだけさ﹂
俺の言葉を黙って聞いているナディア。
﹁⋮そう⋮それは⋮良かったね。⋮私達の様な⋮環境に生まれなく
て﹂
﹁そうだね。良かったと俺も思う﹂
俺の返事を聞いて、キュッと唇を噛むナディア。
﹁ナディア達には酷な事だけど、世の中は⋮不公平や理不尽の塊で
出来ているんだと思う。そして⋮その中で存在してしまっている事
は⋮変え用の無い事実。しかし、その中でも⋮生きて行くしか無い
んだ。⋮だったら⋮後は⋮足掻くしかない⋮﹂
﹁⋮足掻く?﹂
ナディアは首を傾げる。
﹁⋮そう、足掻く事。所詮人間1人に出来る事なんて限られている
と思うんだ。だけど⋮少しでもその境遇に足掻く事で、何かが変わ
る時もある。僅かな確率かもしれないけどね。でも、諦めたら、何
1664
も変わらないんだきっと﹂
俺の言葉を黙って聞いているナディア。
﹁と、まあ、偉そうに言ったけど、俺には出来ない事だろうけどさ。
実際、俺がもしナディアと同じ境遇だったとしたら、同じ様に世の
中の不公平や理不尽な事を恨んでいたと思うよ。それにナディアの
様に、生き抜けていたかも怪しいね﹂
苦笑いしている俺を静かに見つめるナディア。
﹁⋮今日ここに来た本当の理由はね、きっとマルガがまた悲しい顔
をすると思ったから、ナディア達を俺の商売の手伝いをして貰おう
と思って、誘いに来たんだ。当然、俺達の住んでいる宿舎に一緒に
住んで、一緒に生活をする。そうすれば、今の様な過酷な生活をし
なくてすむから、マルガも悲しい顔をしなくて良いだろうと思って
さ。でも⋮﹂
﹁⋮でも?﹂
ナディアは一切の表情を変えずに俺に聞き返す。
﹁気が変わった。ここからは俺が正式にナディア達を誘う事にする
よ﹂
﹁⋮なぜ?あの一級奴隷に良い所を見せる為じゃなしに⋮私達を空
の商売を手伝わせる事に⋮何か利点がある?⋮商売をした事の無い
私達を⋮誘う理由は⋮無いと思う。⋮私達を⋮どうしたいの?﹂
ナディアは真っ直ぐにギラギラした野生の動物の様な瞳を俺に向け
る。
﹁⋮世の中は不公平や理不尽の塊だ。だったら、俺がナディア達に
関わると言う不公平があったって不思議じゃ無いだろ?そういう事﹂
微笑みながらの俺の言葉に、ギラギラした瞳野生動物の様な瞳を、
一瞬揺らすナディア。
1665
﹁⋮なにそれ⋮意味解らない﹂
﹁あ⋮やっぱり?﹂
俺の苦笑いの言葉に、少し気に食わなさそうな表情を浮かべている
ナディア。
﹁で、どうする?俺達の所に来る?﹂
その言葉を聞いたナディアは、一瞬天空を眺め、軽く溜め息を吐く。
﹁⋮行かない﹂
小さいながらも微かに聞き取れる様な声を出すナディア。
﹁え⋮来ないの?⋮何故?﹂
俺は少し戸惑いながらナディアに聞き返す。
ナディアは俺の方に向き直ると、しっかりと俺を見つめる。
﹁⋮足掻いてみる﹂
﹁足掻く?﹂
﹁⋮うん。空が言った。この世界は⋮不公平や理不尽の塊だって。
⋮私もそう思う。だから⋮足掻いて⋮その先に何があるのか⋮見て
やるの。私達の世界の正体を⋮見てやるの﹂
真っ直ぐに俺を見つめるライトブルーの透き通った瞳は、揺るぎの
ない意志が秘められている様に感じた。
﹁⋮そっか、解った。でも、俺は諦めが悪いからさ、気が変わった
らいつでも言ってよ。歓迎するからさ。それから⋮どうしてもお腹
が空いてダメな時は、俺達の宿舎においで。いつでもお腹一杯食べ
させてあげるから﹂
微笑む俺の言葉を聞いたナディアは、軽く溜め息を吐き呆れ顔をす
る。
1666
﹁⋮本当に⋮変な人。⋮解った﹂
小さく呟く様にそう言ったナディアは、踵を返し郊外町と対峙する。
そして、郊外町の中に歩き始めた所で、俺に振り返る。
﹁⋮明日、また⋮ここに来て﹂
そう言い残して、ナディアは何かを吹っ切るかの様に、郊外町の中
に走り去って行った。
俺はナディアの後ろ姿を見つめながら、待って貰っていた魔導師団
の元に戻り、宿舎に帰るのであった。
そこは豪華な屋敷の一室。
その部屋の扉が上品にノックされる。
﹁ジギスヴァルト様、ザビュール王都大司教様をお連れしました﹂
﹁ウム。入ってて頂け﹂
その言葉に、部屋の中に入って行く案内役の男と豪華な司祭服を着
た男。
ジキスヴァルトは司祭服の男を見て、ニヤリと笑う。
﹁これはこれは、ヴィンデミア教の王都大司教を努められるザビュ
ール殿、ようこそいらっしゃいました﹂
ジキスヴァルトの挨拶を聞いたザビュールはフフと笑う。
﹁その様に仰々しくされると、こそばゆくなりますなジキスヴァル
ト宰相﹂
1667
﹁ハハハ。そうでしたな﹂
笑い合うジキスヴァルトとザビュール。
ザビュールは豪華なソファーに腰を下ろすと、メイドが持ってきた
上等なワインを手に取り、ワイングラスを傾ける。
﹁⋮何時飲んでも、このワインは美味いですな﹂
﹁この王都ラーゼンシュルトに運ばれるワインの中でも、上等な物
ですからな﹂
そう言いながら同じ様にワイングラスを傾けるジキスヴァルト。
﹁⋮で、ヴィンデミア教をフィンラルディア王国の国教にする話は、
どこまで進んでいますかなジキスヴァルト宰相?﹂
ワイングラスを傾けながら言うザビュールの言葉に、フフと笑うジ
キスヴァルト。
﹁その話は解っていますともザビュール殿。反対している他の六貴
族の者達や、難色を示しているアウロラ女王陛下を説き伏せるには、
まだ少し時間が掛かるのですよ﹂
ジキスヴァルトの言葉に、少し流し目で見つめるザビュール。
﹁⋮まあ、その話は解りますが⋮ヴィンデミア教をフィンラルディ
ア王国の国教にする為に、貴方に尽力している我らの事情もある﹂
﹁それも解っていますとも。暫し時間を頂ければ、ヴィンデミア教
を必ずフィンラルディア王国の国教にしましょう。⋮まあ⋮それが
解っているから、私達に力を貸してくれているのでしょう?ザビュ
ール王都大司教殿?﹂
ニヤッと笑うジキスヴァルトを見て、ククッと笑うザビュール。
﹁⋮ま、そうなのですがね。では、引き続き宜しく頼みますよジキ
スヴァルト宰相﹂
1668
﹁ええ、こちらこそ。これからも、一層の協力を願いますザビュー
ル王都大司教殿﹂
笑い合いながらワイングラスを合わせるジキスヴァルトとザビュー
ル。
その美しいワイングラスの重なった音が響く中、部屋の中に入って
くる者達が居た。
部屋に入ってきた者達は、ザビュールに片膝をつくと、頭を下げて
挨拶をする。
﹁これはザビュール王都大司教殿、ご機嫌麗しゅう御座います﹂
﹁メネンデス伯爵寛いで下さい。他の者達も﹂
ザビュールの言葉を聞いたメネンデス伯爵は頭をあげる。
﹁今日は例の件の報告かメネンデス伯爵?﹂
﹁は!そうでございます﹂
そう言ったメネンデス伯爵は、複数の羊皮紙をジキスヴァルトに手
渡す。
それを見たジキスヴァルトは、ニヤッと口元に笑いを浮かべる。
﹁流石はメネンデス伯爵。彼奴らの妨害に遭いながらも、生産量は
落としてはいない様だな﹂
満足そうなジキスヴァルトの言葉に、少し得意げな表情を浮かべる
メネンデス伯爵。
﹁しかし先日、モリエンテス騎士団のマスタークラスが7人程、暁
の大魔導師にやられたと報告を受けている。⋮モリエンテス騎士団
の兵の補充の方は⋮大丈夫なのか?﹂
流し目で見つめられるメネンデス伯爵は、気まずそうに顔を歪める
中、その隣りの男が一歩前に出る。
1669
﹁ご心配には及びませんジキスヴァルト宰相。我がモリエンテス騎
士団は、これ位の事ではゆるぐ事は有りませぬ﹂
﹁⋮団長のルードヴィグがそう言うのなら安心か﹂
ジキスヴァルトの言葉に、ニヤッと笑うルードヴィグ。メネンデス
伯爵も表情を緩める。
﹁では引き続き事に当たってくれ。この調子で頼むぞ﹂
﹁は!お任せ下さいジキスヴァルト宰相﹂
威勢良く返事をして頭を下げるメネンデス伯爵とルードヴィグ。
2人はジキスヴァルトとザビュールに挨拶をすると、部屋から出て
いった。
それを流し目で見つめている、真っ赤な燃える様な髪をした美少年
を見つめるジキスヴァルト。
﹁⋮今日はヒュアキントスと一緒ではないのだなアポローンよ﹂
﹁はい。ヒュアキントスは例の件の詰めの作業の為、王都を離れて
います。商業国家連邦ゼンド・アヴェスターに段取りを伝えている
と思います﹂
アポローンの言葉に、フムと頷くジキスヴァルト。
﹁⋮そうか。彼奴らの情報は大体は得ているが、何が有るか解らぬ
からな。例の件の要であるから、ヒュアキントスとレオポルド殿に
は⋮くれぐれも失態の無き様に伝えておいてくれ﹂
﹁解りましたジキスヴァルト宰相﹂
そう言って頭を下げるアポローンを見て、イヤラシイ微笑みを浮か
べるザビュール。
﹁ホホホ。いつ見ても可愛い青年ですなアポローン殿は。⋮是非今
度2人だけで食事でもしたいものですな﹂
舌なめずりをしながらアポローンを見つめるザビュール。
1670
﹁⋮まあまあザビュール殿。このアポローンはあの大商組合、ド・
ヴィルバン商組合の統括、レオポルド殿の息子であるヒュアキント
スの従者。⋮手を出すのは不味いですぞ?﹂
﹁⋮それが解っているので口惜しくて⋮﹂
そう言いながらアポローンを卑猥な瞳で見つめるザビュール。アポ
ローンはそれに一切の表情を変えず、軽く頭を下げている。
﹁まあ、それは良いとして、ハプスブルグ家や王女達は、まだこち
らの事は何も解っておらぬのかな?﹂
﹁⋮多少は、情報を得ているらしいですが⋮どちらでも良い事です﹂
﹁⋮ほう、それはどういった事ですかな?﹂
ザビュールの問に、アポローンが説明をする。
その説明を聞いたザビュールは可笑しそうに口に手を当てて笑う。
﹁⋮なるほど、そう言う事でしたか。こちらに近づいても良し、近
づけなければ、また今迄通りでそれで良し。どちらに転んでも⋮我
らが⋮。上手く考えましたな﹂
﹁全てレオポルド様とヒュアキントスの手の中と言う事です﹂
そう言って微笑むアポローンを見て、頷くジキスヴァルトとザビュ
ール。
﹁では、この話はこの辺にして、晩餐でもいかがですかなザビュー
ル殿?ザビュール殿が気に入るであろう奴隷も用意してあります﹂
﹁⋮それはありがたいですな。⋮楽しみにしていますぞ﹂
そう言ってニヤッとイヤラシイ笑いを浮かべるザビュール。
それを涼やかな微笑みで見つめるアポローン。
﹃⋮何も知らずに愚かな⋮﹄
アポローンは2人を見つめながら、ヒュアキントスの帰りを待つの
1671
であった。
ここは王都より徒歩で4時間程歩いた所にある山中。
時刻は秋の肌寒い夜明け前、そこに4人の小さな人影が現れる。
﹁ねえ∼ナディア∼。夜中からずっと歩きっぱなしだけどさ∼こん
な所に来て⋮一体どうするつもりなの?いい加減に理由を教えて欲
しいんだけど?﹂
ブルブルと寒さに震えながらコティーが言うのを聞いて、ウンウン
と頷くトビとヤン。
﹁そうだよナディア。いい加減理由を教えてよ﹂
﹁トビとコティーの言う通りだよ﹂
トビとヤンも寒さに震えながらナディアに詰め寄る。
ナディアは平然としながらコティー達に振り返ると、
﹁⋮朝霧の石を⋮探すの﹂
﹁﹁﹁朝霧の石∼!?﹂﹂﹂
声を揃えるコティー、トビ、ヤンの3人は顔を見合せている。
﹁朝霧の石って⋮あの旅人の安全を願う宝石だろ?確か⋮リコリス
って花から、夜明け前の霧の中で花を咲かせるその時にだけ取れる
宝石だったっけ?﹂
﹁トビの言う通りね。でも、リコリス自体が滅多に見つからない上
に、夜明け前の霧の中でしか採れないから、結構高値で売れるって
1672
聞いた事あるけど⋮﹂
コティーとトビの話を聞いて、何かに気がついたヤンは
﹁そうか!あの葵さんの仕事が終わってお金が入ってこなくなるか
ら、それを見つけて売るつもりなんだねナディアは!﹂
ヤンの言葉に、なるほどと頷くコティーとトビを見て、フルフルと
首を横に振るナディア。
﹁⋮違う。朝霧の石は⋮売らない。明日⋮空に⋮あげるの﹂
そう言ってソッポを向くナディア。
それを見たコティーは、ニヤニヤしながらナディアに近寄る。
﹁何々∼?葵さんにあげるの?﹂
その余りにもニヤニヤしているコティーの顔を見たナディアは、少
し気に食わなさそうな表情をすると、
﹁⋮空には⋮色々として貰った。⋮だから⋮そのお礼。⋮それだけ
⋮﹂
珍しく言葉を詰まらせるナディアを見て、楽しそうな顔をするコテ
ィー、トビ、ヤンの3人。
﹁解ったわナディア!確かに葵さんには色々お世話になったしね。
私達に出来るお礼なんて限られてるし⋮。朝霧の石⋮探しましょう
!﹂
コティーの言葉に頷くトビとヤン。
﹁⋮ありがとう﹂
ナディアの礼の言葉に、微笑む3人。
﹁折角ここまで来た事だし、どうせなら一杯見つけて帰ろう!﹂
1673
﹁そうだねヤン!﹂
﹁じゃ∼私達の分も見つける為に、手分けして探しましょうか!リ
コリスの花は黄色い花らしいわ。朝霧の石が採れる時は、花の中心
に光が見えるんだって﹂
コティーの説明に頷く一同。
﹁じゃ∼捜索開始ね!﹂
コティーの言葉を合図に、皆がそれぞれの方向に探し始める。
秋の夜明け前、月明かりのみで探しまわる4人。口から白い息を吐
きながらも、必死で探し回る。
﹁どうだった?リコリスの花は見つかった?﹂
肩で息をしているコティーの言葉に、口から白い息を吐きながら首
を横に振るナディアとトビ
﹁⋮ダメ⋮見つからない﹂
﹁こっちもだよ。かなり見て回ったけどさ⋮﹂
ナディアとトビの残念そうな言葉に、腕組みをしながら唸っている
コティー
﹁⋮どうしようっか⋮。もうすぐ日が登っちゃうし。そうすれば朝
霧の石は消えちゃうらしいし⋮﹂
コティーの言葉に、ナディアとトビも寂しそうな顔をしていると、
後ろから声が聞こえてきた。
﹁皆∼!!あったよ!見つけたよ!リコリスの花!!﹂
そう叫びながら、口から白い息を吐きながらヤンが走ってきた。
﹁本当なのヤン!?﹂
1674
﹁うん!こっちだよ!皆来て!﹂
嬉しそうに言うヤンの言う通りに、皆は後を走っていく。すると、
少し開けた街道沿いにある、谷川に出てきた。
そしてその谷に向かって指をさすヤン。
﹁ほら!あそこを見て!﹂
ヤンの指の指す方を皆が覗き込むと、岩肌に黄色い花が咲いていて、
その花の中心が青白く光を放っていた。
﹁間違い無いわ!あれはリコリスの花ね!そして、あの中心に光っ
てるのが⋮きっと朝霧の石よ!﹂
嬉しそうに言うコティーの言葉に、少し嬉しそうに頷くナディア。
そんなナディアを見て、トビとヤンは顔を見合わせて、微笑んでい
た。
﹁でも⋮どうやってあそこまで行こうかしら⋮。何か⋮あそこまで
⋮﹂
コティーがそう言って思案していると、トビが辺りを見回して、
﹁あれ使えないかな?﹂
トビが指差す方を見ると、大きな木に蔦が何本も絡まっていた。
﹁そうね!あれを切って、繋げて縄の様に出来れば⋮あそこまで届
くかも!﹂
コティーのその声を聞いたナディアは、その木に近づくと、ちっち
ゃな手をその蔦を握り締める。
それをナディアガ引っ張ると、バリバリと大きな音をさせて、木か
ら剥がれ落ちた。
﹁流石は力持ちのナディアね!これを皆で急いで繋げましょう!日
1675
の出はもうすぐ!皆急ぎましょう!﹂
コティーの言葉に頷き、皆は必死で蔦を繋げる。そしてそれを谷に
一番近い木にしっかりと結ぶ。
﹁⋮私がこの蔦で⋮降りる﹂
﹁気をつけてねナディア。力が強いのは解ってるけど、下は流れの
激しい川。落ちたら助かるかどうか解らないわ﹂
﹁⋮解った﹂
ナディアは小声でそう言うと、蔦を使って谷に降りていく。
谷の風に身体を揺らされるナディアを見て、コティー、トビ、ヤン
の3人は不安な声を上げながら見守っていると、ゆっくりと確実に
降りていくナディアは、リコリスの花までたどり着いた。
﹁ナディア早く朝霧の石を採って!もう日が昇るわ!﹂
コティーの叫びを聞いたナディアは、必死にちっちゃな手をリコリ
スの花に手を伸ばす。
そして、陽の光がリコリスの花を照らす瞬間、リコリスの花の中心
に光る物を掴みとる。
ナディアはゆっくりと、そのちっちゃな手の平を開く。
そこには青白く光り輝く宝石が、朝日に照らされて光り輝いていた。
ナディアは朝霧の石を腰につけた麻袋にしっかりとしまうと、谷を
蔦で登っていく。
そして、皆の元に戻って来たナディアは、皆の前に朝霧の石を見せ
る。
その青白い、美しい光を発している朝霧の石を見て、おお∼!!っ
と、声を上げる、コティー、トビ、ヤン。
﹁⋮綺麗。これが⋮朝霧の石⋮﹂
﹁本当に綺麗だね⋮﹂
1676
﹁本当だね。高く売れるのが解った気がするよ﹂
トビの言葉に、アハハと笑うコティーとヤン。
﹁⋮皆⋮ありがとう﹂
嬉しそうに言うナディアの言葉を聞いて、ヘヘヘと顔を見合せてい
るトビとヤン。
﹁良かったわねナディア。⋮これで、愛しの葵さんにあげる事が出
来るね﹂
﹁⋮そ⋮そんなんじゃ⋮ない⋮﹂
少し気に食わなさそうな顔で、ブツブツと言うナディアを見て、ア
ハハと声を揃えて笑うコティー、トビ、ヤンの3人。
﹁じゃ∼朝霧の石も見つかった事だし、町に帰りましょうか﹂
コティーの言葉に頷く3人は、朝の澄み渡った空気を感じながら、
谷沿いの街道を郊外町に向けて歩き出す。
そして、皆がキャアキャアと楽しそうに暫く歩いていると、トビが
何かを見つけた。
﹁ねえねえ皆。あそこを見て﹂
トビの言う方角を見ると、街道から少し入った所に、大きな馬車ら
しきものが見える。
﹁あれって⋮国軍が使って居る鋼鉄馬車じゃない?馬車を引っ張っ
ているのはストーンカだし⋮﹂
﹁鋼鉄馬車って⋮あのバスティーユ大監獄に、罪人を運ぶ馬車だよ
ね?⋮こんな所で⋮何をしてるんだろ?﹂
そう言ってコティーとヤンが顔を見合わせていると、鋼鉄馬車の扉
が開き、何かが飛び出した。
そして、その飛び出した者は、ナディア達の方に向かって走ってき
1677
て、勢い良くコティーにぶつかった。
﹁キャア!!﹂
声を上げてぶつかった衝撃で地面に尻餅をつくコティー。
皆がそれに驚いていると、ぶつかった者がフラフラと立ち上がり、
ナディアにしがみついた。
﹁た⋮助けて!私を助けて!﹂
必死にナディアに助けを求める女性。
その女性は服はボロボロで半裸状態で、女性の性器からは大量の白
い精液が滴り落ちていた。
﹁い⋮一体⋮何があったのですか?﹂
コティーが女性にそう声を掛けた時であった。数名の男達が瞬く間
に、ナディア達を取り囲む。
それを困惑した表情で見つめるナディア達。
何故ならば、そこにはフィンラルディアの紋章の入った鎧を着た国
軍が居たからだ。
男達はナディア達を見て、首をかしげる。
﹁⋮なんだ?お前達は?﹂
﹁え⋮私達は⋮ここを通りかかっただけで⋮﹂
そう説明しているコティーを見て、飛び出してきた女性が叫ぶ。
﹁こいつらは、郊外町で私を攫った人攫いなの!﹂
その言葉を聞いたナディア達は、例の人攫いの集団の事を、瞬時に
思い出す。
そして、自分達がとんでも無い場面に出くわしてしまった事を感じ、
一斉に逃げ出そうとして走りだそうとしたが、男の1人がヤンを捕
まえ、腕を締め上げる。それに唸り声をあげるヤン。
1678
ヤンが捕まったのを見て、足を止める、ナディア、コティー、トビ
の3人。
﹁⋮余計な事を聞かれたな。お前等も⋮逃がすわけには⋮行かなく
なったな!﹂
そういった男は、目で合図をすると、ナディア達に襲いかかった。
あっという間にコティーとトビを捕まえた男達。
それを見たナディアのはキツイ表情で、男に飛びかかる。
﹁皆を⋮離せ!﹂
ちっちゃな手を振り上げ男に殴りかかるナディア。
男はそれを嘲笑いながら見ていたが、次の瞬間、男は衝撃音をさせ
て弾き飛ばされる。
ナディアに殴られた男は、木に衝突して意識を失っていた。
﹁へへんだ!ナディアは力が強いのよ!いい気味よ!﹂
そう言い放ったコティー。
ナディアも頷きながら、トビとヤンを捕まえている男に、同じ様に
殴りつける為に走っていくが、ナディアの拳を難なく避けた男は、
ナディアの腹部に激しい蹴りを入れる。
地面に飛ばされたナディアは、お腹を抑えながら、口から胃液を吐
き出す。
﹁⋮何かの亜種の様だが⋮戦闘職業にも就いていないお前に出来る
事は⋮もう無い!﹂
そう言い放った男は、蹲っているナディアを蹴り上げる。その衝撃
に、意識を失いかけるナディア。
弱り切ったナディアの首元を掴み上げる男。
﹁これで終わりだ。⋮まあ、こんなのでも、頭数に入るだろう。そ
1679
いつら3人もあそこに連れて行く﹂
男の指示に、飛び出した女も、トビとヤンも蒼白の表情を浮かべる
中、コティーがナディアを捕まえている男の腕に噛み付いた。
余りにも激しく噛まれた事により、思わずナディアを手放す男。そ
れを感じたコティーは、ナディアを目一杯の力で弾き飛ばす。
体当たりを食らったナディアは、谷底に落ちていく。
男が谷の縁まで近寄り下を見ると、激しく流れる川には、既にナデ
ィアの姿は無かった。
﹁⋮ここから落ちて、あの流の中に落ちたら、いかに亜種の子供と
いえど⋮助かる事は⋮無いか﹂
そう、呟いた男は、コティー達に振り返る。
﹁お前達も⋮あそこに一緒に連れて行く﹂
そう言って笑う男を震えながら見つめる、コティー、トビ、ヤンの
3人。
﹁ナディアごめんね。貴女だけは⋮生き抜いて見せて⋮﹂
コティーは震えながら、僅かに声を出す。
そして、コティー達を締め上げ鋼鉄馬車に乗せる男達。
逃げ出した女性も同じ様に、鋼鉄馬車に乗せられていた。
﹁⋮なあ、まだ時間あるだろ?また犯っていいよな?﹂
﹁⋮馬鹿!⋮まあ、後少しだけだぞ?⋮俺にも変われよ?﹂
﹁解ってるって!すぐに済ますよ!﹂
鋼鉄馬車の中で繰り広げられる陵辱に、震えながら固まっているコ
ティー、トビ、ヤンの3人。
女達を気が済むまで陵辱した鋼鉄馬車は、何事もなかったかの様に
1680
街道に戻り、目的地に向かうのであった。
1681
愚者の狂想曲 47 掴んだ尻尾
肌寒く感じる秋の朝、俺達が朝食を食堂で食べていると、上階から
降りてきた2人を見つけたエマが、テテテと小走りに近寄って行く。
﹁マリアネラさん、トカゲさんおはよ∼!﹂
元気一杯のエマは、ぴょんと子煩悩リザードに抱きつき、その首に
ブランブランと嬉しそうにぶら下がった。
﹁これエマ!またそんなにぶら下がって!ゴグレグさんに迷惑でし
ょう!?﹂
アタフタとゴグレグにぶら下がっているエマを下ろそうとするレリ
アに、片手を出すゴグレグ。
﹁⋮構わぬ。問題ない!﹂
キラリと瞳を光らせドヤ顔のゴグレグに、苦笑いをしながら頭を下
げるレリア。
それを微笑ましく見ているマルガもマルコも嬉しそうに笑っている。
﹁マリアネラさんおはよう。もうすっかり良くなったみたいですね﹂
﹁ああ!葵達のおかげだね。4日間治療を受けながら、美味しい物
も食べれたからね。感謝してるよ﹂
笑顔で言うマリアネラに朝食を出すステラ。それに礼を言い食べ始
めるマリアネラ。
ゴグレグもエマを膝の上にチョコンと座らせると、同じ様にミーア
から朝食を貰い食べ始める。
俺はいつものその楽しそうな光景に癒されていると、シノンが食後
の紅茶を持って来てくれた。
1682
﹁ありがとうねシノン﹂
﹁はい葵様∼﹂
ニコニコとしているシノンの頭を撫でていると、優しく微笑んでい
たリーゼロッテが口を開く。
﹁これからは、マリアネラさんとゴグレグさんも、依頼を受けてい
る間この宿舎に住む事で宜しいのですよね葵さん?﹂
﹁うん、部屋は余ってるから、それぞれ使って貰うつもり。この宿
舎は安全だからね。依頼を続けるマリアネラさん達の安全を考えれ
ば、そうするのが1番だと思うから﹂
俺のその言葉を聞いたマリアネラは、申し訳なさそうな顔を俺に向
けると
﹁⋮すまないね葵、気を使わせちゃって﹂
﹁気にしないでくださいマリアネラさん。皆もそうして欲しいと思
っていると思ったので﹂
俺の言葉を聞いた皆が、笑顔でマリアネラ達に頷く。
マリアネラは気恥ずかしそうに少し顔を赤らめると、ありがとうと
皆に礼を言う。
﹁所でマリアネラさん達は、今日から依頼を再開されるのですよね
?﹂
﹁ああ、そうだよマルガ。私もゴグレグも十分に戦えるまでに回復
したからね。とりあえずは⋮ジェラードの所に顔を出すついでに、
情報収集でもするつもりだよ﹂
﹁それなら、そこまで一緒に行きましょうか。俺も少し用事がある
ので﹂
俺の用事と言う言葉を聞いたマルガは、食後の紅茶を一気に飲み干
す。
1683
﹁では私も準備しますねご主人様!﹂
そう言って席から立ち上がろうとしたマルガの肩に手を置く。
﹁いいんだよマルガ。本当にちょっとした用事だから。宿舎でゆっ
くりしてて﹂
﹁今日も1人で出かけられるのですかご主人様?﹂
残念そうに言うマルガの頭を優しく撫でると、金色の毛並みの良い
尻尾をフワフワさせている。
﹁またすぐに帰ってくるよ。じゃ⋮行きましょうかマリアネラさん
ゴグレグさん﹂
俺とマリアネラ達は席から立ち上がり、宿舎の外に出る。そして、
宿舎の外で警護の魔法師団4人に挨拶をして、護衛を頼む。
グリモワール学院から出て、王都の華やかで豪華な町並みを眺めな
がら歩いていると、マリアネラが口を開く。
﹁しかし珍しいね。葵がマルガやリーゼロッテの供を断るなんて。
いつも何処に行くのにも一緒なのに﹂
少し不思議そうに言うマリアネラ。その横でゴグレグが軽く頷いて
いた。
﹁⋮本当は一緒に連れていきたいのですけど⋮﹂
﹁⋮何かあったのかい?﹂
俺の口篭るのを見て、マリアネラが俺に聞き返す。
﹁ええ実は⋮﹂
俺はマリアネラ達に説明を始める。
ナディアに仕事の終了を伝えてから既に3日が経っている。
1684
あの日ナディアと話をして、翌日にもう一度来て欲しいと言われた
ので、俺は約束通りにあの食堂屋の裏路地に顔を出したのだが、ナ
ディアが現れる事は無かった。
結構な時間待って来なかったので、俺は何か他の用事で来れなかっ
たと思って、その日は帰る事にした。
そして次の日も同じ様にあの食堂屋の裏路地に顔を出したのだが、
ナディアが現れる事は無かった。
俺は少し疑問に感じ、食堂屋の店員にナディア達の事を聞いてみた
ら、ここ2日程は来ていない様だと言われたのだ。
この食堂屋はナディア達にとっては重要な食料の確保先。きっと今
迄毎日この食堂屋の裏路地に来ていたに違いない。それなのにここ
2日程来ていない⋮
俺は少し心配になって、郊外町でナディア達を探しながら、住民に
ナディア達の事を聞いてみたのだが、情報は得られなかった。
王都の門番にもナディア達の事は、お金を払って伝言を頼んでいる
ので、お金が無くても後払いで王都の中に入れる様に手配をしてい
る。
グリモワール学院の門番にも伝えてあるので、通過税の払えないで
あろうナディア達でも、何か有ればお金を払わずに俺の所まで来れ
るはずなのだ。
しかし⋮まだナディア達に会えていない。
俺は今日もナディア達を探してみるつもりで、1人で出かける事に
したのだ。
俺の話を聞いたマリアネラは、少し神妙な顔つきをすると
﹁⋮そうかい、それは心配だね。あの子達は今迄あの無法の郊外町
で生き抜いてきた来た子達だ。何処が危険であるとか、そういった
ものは本能的に避けるだろうから、大丈夫だとは思うけど⋮﹂
1685
﹁俺もそう思っているんですけどね。その内ヒョッコリ顔を表すん
じゃないかって﹂
俺の苦笑いの顔を見て、フフと笑うマリアネラ。
﹁でも、それなら一緒にマルガ達も連れてきても良かったんじゃな
いのかい?﹂
﹁⋮ええ何も無ければそうしたい所なのですが⋮もし、ナディア達
に何かあったとしたら⋮﹂
俺のその言葉を聞いたゴグレグは静かに目を閉じる。
﹁⋮悲しい思いはさせたくない⋮そういう訳か﹂
﹁ゴグレグさんの言う通りです。真実を全て話す事が、良いとは思
えません。知らなくても良い事も有ると、僕は思うんですよ﹂
俺の顔を見たマリアネラは優しい微笑みを俺に向ける。
﹁⋮そうかい。マルガ達の悲しい顔を見たくは無い訳か⋮まあ⋮そ
れでも良いのかもしれないね﹂
優しくそういったマリアネラは、ポンポンと俺の肩を叩く。
そのマリアネラの優しい表情に、俺の心のつっかえていた物が少し
和らぐ様に感じた。
﹁私達もナディア達の事を探してみるよ。それに、ジェラードなら
何か情報を知っているかもしれないしさ。とりあえず教会に向かお
う葵﹂
﹁⋮そうですねマリアネラさん﹂
俺はマリアネラの言葉に頷き、ジェラードの教会に向けて再び歩き
出す。
そして、郊外町の入り口に来た所で、1人の人物が声を掛けてきた。
﹁マリアネラじゃないですか。こんな所で何をしているのですか?﹂
1686
その声に振り向くと、司祭服に身を包んだ男が優しい微笑みを浮か
べていた。
﹁ジェラード!丁度今から教会に行く所だったんだよ﹂
﹁そうなのですか。⋮所で、ヨーランさんの姿が見えない様ですが
⋮﹂
マリアネラを見ながら、少し辺りを見回すジェラード。
﹁⋮実はさ﹂
そう小声で言って、ここ数日あった事を説明するマリアネラ。それ
を聞いたジェラードの表情が曇る。
﹁⋮ですから言ったでしょうマリアネラ。冒険者などしているとい
つか危険な事になると。⋮当然、その様な事になったのですから、
もう依頼を辞め、冒険者も引退して、私の手伝いをしてくれるので
しょうね?﹂
真剣な表情のジェラードの顔を見て、一瞬瞳を揺らすマリアネラ。
しかし、ギュッと拳に力を入れると、しっかりとジェラードを見返し
﹁⋮依頼は辞めない。ヨーランを殺った奴らの尻尾を掴むまではね﹂
﹁貴女はまだそんな事を言って!﹂
マリアネラの言葉を聞いたジェラードは、きつくマリアネラに言葉
を投げかける。
マリアネラとジェラードは暫く言い合いをしていたが、かたくなに
意志を変えないマリアネラに深く溜め息を吐くジェラード。
﹁⋮兎に角往来でこれ以上話しても仕方ありませんね。教会でじっ
くりと話をしましょう﹂
呆れ顔をしながら歩き出すジェラード。その後ろを黙って歩き出す
マリアネラ。
1687
俺とゴグレグは顔を見合わせて気まずそうにすると、同じ様に2人
の後をついて歩き出す。
無言で歩くマリアネラとジェラードの後をついていくと、教会の入
り口の前に数人の男が集まっていた。
俺達はそれを不思議に思い、その傍まで近寄ってみると、1人の子
供が教会の入り口で倒れていた。
その子供は泥水を被ったかの様に体中汚れており、どこかにぶつけ
たのか身体の至る所に打ち傷や擦り傷があった。
そして髪の毛はどす黒くくすんでいた。恐らく頭かどこかを怪我で
もしたのであろう、大量の血を流し、それが固まって汚れと一緒に
なったと推測出来た。俺はその子供の傍に行き膝を折る。
﹁⋮葵その子どもと知り合いなのかい?﹂
俺を見ていたマリアネラが声をかける。その声に反応したのか、倒
れていた子供が震えながら俺に振り返る。
﹁⋮空⋮空な⋮の?﹂
血で汚れた顔をこちらに向け、微かに声を出す子供。
俺はその聞き覚えのある声に、思わず俺はその子供を抱きかかえる。
﹁ナ⋮ナディア!?﹂
俺の戸惑う声を聞いた子供は、精気を取り戻したかの様に俺にしが
みついた。
﹁空!⋮空!!﹂
俺の名前を必死に叫び、大粒の涙を流すナディア。
その涙で、固まっていた血が溶け出し、まるで血の涙を流している
様に見えた。
1688
﹁い⋮一体どうしたのナディア!?﹂
俺の胸にしがみついて泣きじゃくるナディアに戸惑う俺。そんな俺
に声をかけるマリアネラ。
﹁兎に角教会の中に入ろう﹂
﹁あ⋮うん。でも⋮ナディアは怪我をしているみたいだから、医者
に連れて行った方が⋮﹂
俺がそう言いかけた所で、後ろで見ていた魔法師団の1人が俺に近
づく。
﹁私は上級の治癒魔法が使えます。教会の中で治療しましょう﹂
その魔法師団の男の言葉に頷く俺。
俺は泣きじゃくるナディアを抱きかかえ、教会の中に入って行くの
であった。
﹁さあこれで治療は完了です﹂
そう言って治癒魔法の発動をやめる魔法師団の男。
﹁ありがとうございます﹂
﹁いえ、お気になさなないでください葵殿。貴方達の助けになる様
に、メーティス様から仰せつかっていますので﹂
そう言って微笑む魔法師団の男。
﹁しかし、身体の傷の方は傷跡も残らない様に完治しましたが、額
の傷はかなり深かった上に、暫くそのまま放置された様で⋮傷跡は
消えませんでしたけどね﹂
1689
その言葉にナディアの額を見ると、可愛い額に
ていた。
印の様な傷がつい
俺はその傷を擦りながら、治療を受けて少し落ち着いたナディアに
何があったのかを聞いてみた。
﹁ナディア⋮一体何があったの?﹂
﹁⋮コティ達が⋮コティー達が⋮攫われた﹂
﹁コティー達が!?﹂
変な声を出した俺。その言葉を聞いたマリアネラは少し目を細める。
﹁それは⋮例の人攫い達に攫われたって事かいナディア?﹂
マリアネラの言葉を聞いたナディアは、フルフルとちっちゃな頭を
横に振る。
﹁⋮解らない。でも⋮攫っていったのは⋮鋼鉄馬車に乗った⋮国軍
だった﹂
﹁﹁鋼鉄馬車に乗った国軍が!?﹂﹂
俺とマリアネラは困惑しながら同時に声をだす。
﹁⋮詳しく話してくれるかいナディア?﹂
俺の言葉に頷くナディアは、攫われた時の状況を説明する。
ナディアの説明に困惑している俺。それを聞いたマリアネラは、ギ
ラッと瞳を輝かせる。
﹁確かに⋮その鋼鉄馬車から飛び出してきた女性は、人攫い達って
言ったんだね?﹂
マリアネラの言葉にコクッと頷くナディア。
﹁でも何故⋮国軍が?﹂
﹁それは解らないね。でも⋮コティー達を攫っていったのは事実。
1690
⋮何か有るんだろうさ﹂
腕組みをしながら何かを考えているマリアネラ。
﹁それと⋮ナディア達はどうしてそんな山中まで行ったんだい?こ
の町から徒歩で結構歩く場所だろう?﹂
俺の質問を聞いたナディアは、腰につけていた汚れた麻袋から何か
を取り出し、俺に見せる。
ナディアのちっちゃな手の平の上には、汚れている小さな石がのせ
られていた。
﹁これは⋮汚れているけど⋮朝霧の石かな?これを採りに⋮その山
中まで行ったの?﹂
俺の言葉にコクッと頷くナディア。
﹁⋮この朝霧の石を⋮空に⋮あげたかったの。だから皆で⋮﹂
﹁⋮この朝霧の石を俺に!?﹂
少し戸惑う俺に話を続けるナディア。
﹁私は空に⋮お礼がしたかった。だから⋮皆に力を貸して貰った。
私達はお金が無いから⋮﹂
そう言って言葉尻をすぼめるナディア。
朝霧の石は数の少ないリコリスの花から採れる宝石だ。
見た目も綺麗で、旅人の安全を願う宝石と言う事でその名を知られ
ている。
しかし、朝方の霧の漂う中でしか採れ無いので、大人が探しても滅
多に見つかるものでは無い。
なのでそこそこの金額で売られている宝石なのである。
俺からの仕事の依頼が無くなって、またお金の無い、食うに困る生
1691
活に戻ると言うのに、高く売れる貴重な朝霧の石を⋮俺の為に⋮
俺は静かにナディアの手の平の上に乗せられている朝霧の石を手に
取る。
朝霧の石はひどく汚れていたが、汚れの隙間から、美しい青白い光
を放っていた。
その青白い光は俺の目に、とても美しく見えた。
﹁⋮ありがとねナディア。凄く嬉しいよ﹂
どんな顔をしてナディアに語りかけたかは解らないが、俺のその表
情を見たナディアは、溜まっていた何かを吐き出すかの様に涙を流
し始める。
﹁⋮空⋮お願い⋮﹂
﹁⋮うん?﹂
﹁⋮お願い⋮コティー達を⋮コティー達を⋮助けて!!﹂
大粒の涙を流しながら、身体の芯から絞り出したかの様な微かな声
をだすナディア。
誰かにしがみ付くなんて事をした事が無いであろうナディア瞳は、
涙に染まり激しく揺れていた。
そのナディアの瞳を見た俺は、身体が熱くなる感じを覚える。
﹁⋮マリアネラさん、今からハプスブルグ伯爵家の別邸に行きます﹂
﹁今から⋮ハプスブルグ家の別邸に?⋮別邸に行って⋮どうするん
だい葵?﹂
腕組みをしながら流し目で俺を見るマリアネラ。
﹁⋮攫われたコティー達を奪い返します。その為に、協力を仰ごう
と思います﹂
俺の言葉を聞いたナディアは、なんとも言えない表情を浮かべ、大
粒の涙をポロポロと流す。
1692
俺はナディアの涙を指で拭い、血で固まったバリバリの髪に優しく
手を置く。
﹁⋮大丈夫。俺が何とかするから、ナディアは心配しないで﹂
﹁⋮空!!﹂
ナディアはそう叫ぶと俺のお腹辺りにしがみつきながら泣きじゃく
っている。
﹁大丈夫、大丈夫だから⋮ね?﹂
俺にしがみ付くナディアの頭を優しく撫でながら言うと、ウンウン
と何度も頷きながら泣いているナディア。
そんな俺とナディアを見ていたマリアネラは、フフと可笑しそうに
笑う。
﹁⋮本当に物好きだね葵は﹂
﹁⋮それはお互い様じゃないですかマリアネラさん?﹂
﹁⋮そうかもね﹂
俺の言葉に楽しそうに笑うマリアネラ。
﹁そう言う事だから、今日はゆっくりと出来ない。⋮また来るよジ
ェラード﹂
静かに俺達を見つめていたジェラードは、深く溜め息を吐く。
﹁⋮解りました。ですが、私は貴女が冒険者として依頼を続ける事
を、了承した訳ではありませんからね。また⋮話をしましょう﹂
そう言って入り口の扉に向かうジェラード。
﹁どこかに出かけるのジェラード?帰ってきたばかりなのに⋮﹂
﹁⋮少し用を思いだしましてね。マリアネラまた明日来てください﹂
﹁解ったよ。気をつけるんだよジェラード﹂
1693
マリアネラの言葉に少し表情を緩めるジェラードは、軽く頭を下げ
て教会を出ていった。
﹁じゃ、とりあえず⋮ナディアを宿舎に預けて⋮そこからハプスブ
ルグ伯爵家の別邸ですね﹂
俺の言葉に頷くマリアネラとゴグレグ。
﹁⋮私も⋮行く﹂
涙で瞳を濡らして真っ赤にしているナディアが俺に語りかける。
﹁でも⋮ナディアは怪我をして、ゆっくりと静養しなくちゃダメ。
結構な怪我だったんだから﹂
﹁⋮嫌。⋮私も⋮行く!﹂
ナディアはまだ体中が痛いにもかかわらず、必死に俺の手を握り離
そうとしなかった。
﹁⋮解ったよナディア。でも、話をしたら、ゆっくりと静養する。
⋮約束出来るね?﹂
俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべるナディアはコクコクと頷く。
そんな俺とナディアを見て、クスッと微笑むマリアネラ。
﹁じゃ、とりあえず、ハプスブルグ伯爵家の別邸に向かおうか﹂
﹁そうですねマリアネラさん﹂
マリアネラの言葉に頷く俺達は、ハプスブルグ伯爵家の別邸に向か
うのであった。
1694
﹁これは葵殿。今日はどうされましたか?﹂
ハプスブルグ伯爵家の別邸の門番が優しく俺に語りかけてきた。
﹁えっと今日は⋮アリスティド様か、マクシミリアン様に面会をし
たいのですが。何も約束をしていませんが⋮面会する事は可能でし
ょうか?﹂
俺の申し訳なさそうに言う表情を見た門番は、フフと笑うと、
﹁⋮聞いて参りますので、暫く此処でお待ちください﹂
そう言って中に入っていく門番。暫く待っていると、表情の明るい
門番が帰ってきた。
﹁アリスティド様が面会を許可されました。ご案内しますのでつい
て来てください﹂
俺達は門番に礼を言い、後について別邸の中に入っていく。
護衛の魔法師団には客室で話が終わるまで待って貰い、俺達は執務
室に案内される。
﹁アリスティド様、葵殿をお連れしました﹂
﹁うむ、入って貰ってくれ﹂
その言葉に、どうぞと手を差し伸べる門番に礼を言い、扉を開けて
部屋の中に入ると、誰かが俺の腕に抱きついてきた。
ふと、抱きついてきた人物に瞳を向けると、柔らかい肌︵おもに胸
の感触︶を俺に味あわせ、甘い香水の香を漂わせる美女が微笑む。
﹁メ⋮メーティスさん!?ど⋮どうしてここに?﹂
﹁つれない事言わないの葵ちゃん。それに私だけじゃないわよ?﹂
そう言って視線を移すメーティス。
俺もその方に視線を移すと、少し呆れ顔のルチアと、苦笑いをして
1695
いるマティアスとマクシミリアンの顔が見えた。
﹁今日はどうしたのかね葵殿。急に私の館を訪れるなんて。何か急
用でもあったのかな?﹂
少し戸惑っている俺を、楽しそうに見ていたアリスティドが語りか
ける。
﹁⋮ええ実は、皆さんにお話があってここに来ました﹂
﹁⋮話?依頼を放棄した貴方が⋮何の話なの?それに⋮﹂
そういったルチアは俺の手をしっかりと握っている、薄汚れたナデ
ィアを見て戸惑っている様であった。
﹁実は⋮コティー達が攫われたんだ﹂
﹁ええ!?コティー達が!?例の人攫いに攫われたの?﹂
戸惑うルチアを見て、キツイ表情を浮かべるナディアは
﹁⋮コティー達は⋮国軍に攫われた﹂
そう静かに語るナディア。
それを聞いた一同の表情が変わる。
﹁一体どういう事なのか⋮説明してくれたまえ葵殿﹂
マクシミリアンの言葉に、俺はナディアから聞いた事を全て説明す
る。
ナディアは俺が説明している間、俺の手をギュッと握りしめ、ルチ
ア達を睨みつけていた。
俺の説明を聞いたルチアは、顎に手を当てながら
﹁⋮そう⋮そう言う事だった訳ね﹂
﹁そう言う事とは?﹂
﹁攫われた人が見つからなかった訳よ葵﹂
1696
そう言って、腕を組むルチア。
﹁どういう事?﹂
﹁王都の傍には⋮バスティーユ大監獄があるわ。バスティーユ大監
獄は王都から馬車で2日程。罪人は全て中の見えない鋼鉄馬車で運
ばれる。それに攫った人を乗せているのであれば、誰も解らないわ。
しかも最近は、元グランシャリオ領で起こっている、ラコニア南部
三国連合の正規軍と反乱軍ドレッティーズノートとの戦で、敗戦兵
やらがこの国に流れ込んできて、その一部が罪人として数多く捕ま
っているから、沢山の罪人を運ぶ鋼鉄馬車が行き来してても、誰も
不思議に思わない。それを利用していたのよ﹂
何かの確信を得たかの様なルチアの言葉に頷くアリスティド。
﹁それにバスティーユ大監獄や、各地の大都市の傍にある監獄や収
容所は、全てジギスヴァルト宰相が統括しているわ。その中で⋮何
かを⋮しているのかもしれないわね﹂
ルチアの言葉に頷くマクシミリアン。
﹁とりあえず、至急手配をして、バスティーユ大監獄を視察する事
にしましょう。情報を一切漏らさずに、突然の視察と言う様に段取
りを取ります。多少の非難はあるかと思いますが、ルチア王女の協
力が有れば⋮﹂
﹁大丈夫よマクシン。私ならね﹂
ルチアの言葉にフフと笑うマクシミリアン。
﹁ひょっとして、急に全てが解決しちゃうかもしれない?﹂
俺の言葉に、ニヤッと笑うルチアは、
﹁それはまだ解らないけど、もしバスティーユ大監獄で何かをして
いるのなら、急な視察で隠し通せるかどうか⋮ね﹂
1697
そう言って不敵に笑うルチア。そして、ナディアの傍に来て膝を折
るルチア。
﹁⋮必ずコティー達を見つけて見せるから⋮﹂
ルチアの真剣な目を見つめるナディアは、俺の手をギュッと握りな
がら静かに頷く。
﹁とりあえず、段取りの話の前に、そのお嬢さんを湯浴み場に連れ
て行って上げてください。洋服の替えもこちらで用意します﹂
アリスティドの言葉に、メイド2人がナディアの傍に来る。
ナディアは俺に戸惑いの表情を浮かべながら、俺の﹃大丈夫だから
行っておいで﹄という言葉に頷き、メイドに連れられて、湯浴み場
に向かう。
﹁じゃ、段取りの話をしましょうか﹂
ルチアの言葉に頷く一同。俺達は、この一件がナディア達の件で簡
単に解決するのだとばかり、この時は思っていた。
此処は、豪華な屋敷の一室。
そこに真っ赤な髪をした美青年に、久しぶりの微笑みを投げかける
金髪の美青年。
﹁おかえりヒュアキントス﹂
﹁ただいまアポローン﹂
そう言ってアポローンを抱きしめるヒュアキントス。
そのヒュアキントスの抱擁に微笑むアポローン。
1698
﹁ヒュアキントス、帰ってきてそうそう申し訳ないのだけど、君に
至急報告したい事があってね﹂
そう言って話しだすアポローンの話を聞いたヒュアキントスは、盛
大な溜め息を吐く。
﹁⋮全く、奴らの兵は何をしているんだ?⋮呆れて物が言えないね﹂
その言葉にフフと笑うアポローン。
﹁⋮で、どうする?﹂
﹁⋮計画を次の段階に移すよ。皆を集めてくれるかいアポローン?﹂
ヒュアキントスの言葉に頷くアポローンは、部屋を出ていく。
﹁⋮全く、使えぬ奴らばかりだ。まあ⋮それも予想の範囲内だけど﹂
そう言って窓の外を眺めるヒュアキントス。
﹁どう動こうが⋮全ては⋮フフフ﹂
そう言って華やかな王都を眺めるヒュアキントスは、口元に笑いを
湛えるのであった。
1699
愚者の狂想曲 48 躓く一歩
﹁で、具体的には、どうするのルチア?﹂
﹁そうね⋮まずはさっき言った通り、バスティーユ大監獄を抜き打
ちで視察するわ。攫われたコティー達の事もあるから、明後日には
視察出来る様に、こちらで手を回すわ。出来るわよね⋮マクシン?﹂
﹁ああ、任せてくれルチア王女。準備は全て僕が指揮をとるから安
心してくれ﹂
マクシミリアンの自信有り気な表情を見て、フフと笑いながら頷く
ルチア。
﹁そう言えば、バスティーユ大監獄や各地の大都市の近くに有る監
獄や収容所は、全てジギスヴァルト宰相が統括しているって言って
たけど⋮やっぱりメネンデス伯爵家が属する派閥⋮つまり今回の一
件には、ジギスヴァルト宰相が関わっているとみて良いのかな?﹂
俺のその言葉を聞いたルチアは、表情を険しくする。
﹁⋮そうね。確かにジギスヴァルト宰相は全ての大都市の監獄や収
容所を統括しているわ。自分では直接管理はしてはいないけど、自
分の派閥の貴族に各地の監獄や収容所を管理させている。抜け目の
無いジギスヴァルト宰相の事だから⋮知らないはずは無いと思うわ﹂
ルチアの直接的なその言葉を聞いた一同の表情が強張る。
至極当然であろう。
この大国フィンラルディア王国の有力な貴族で有る六貴族であり、
宰相を務めるジギスヴァルトが、国に背いて何かをしているのかも
しれないのだ。
1700
人を攫って何をしているのかはまだ解らないが、事と次第によって
は国を揺るがす大きな事態にもなりかねないであろう。
﹁兎に角、ジギスヴァルト宰相やメネンデス伯爵が何を行なってい
るかは解らないが、私達は正義の名の下に彼らの企みを暴き、悪し
き事を行なっているのであれば、法の下で裁きを受けさせる。まあ
⋮もしジギスヴァルト宰相が何らかの関与をしているのであれば、
女王裁判が開かれるであろうがな﹂
﹁ふへ!女王裁判ですか!?﹂
アリスティドの言葉に思わず変な声を出してしまった。オラ恥ずか
しい!
この世界にも司法制度はある。
国によってその法律や罰則、取り決めは違うが、法を犯した者は法
廷で裁かれる。
日本なら地裁、高裁、最高裁と分けられているが、このフィンラル
ディア王国も同じ様に各種事案に応じて分けられている。
国の法律に触れない民間の紛争を裁く平民法廷。
同じ様に国の法律に触れない貴族間の紛争を裁く貴族法廷。
国の法律に触れた者が裁かれる、国法法廷。
代表的な法廷はこの3つだが、その最上位に位置するのが女王法廷、
つまり女王裁判だ。
女王裁判は、最高司法議会の者数名の意見を聞き、女王が直接審判
を下す裁判だ。
最高権力であり、統治者である女王が下す審判は絶対。何者もその
審判からは逃れられない。
故に各法廷の最上位に位置づけされている。
1701
しかし、女王裁判はその審判の絶対性故に、滅多に開かれるもので
はない。
法廷の責任は全て女王の責に帰す為、間違った審判や納得の出来な
い審判、筋の通らない審判を下したなら、女王の権威の失墜にも繋
がってしまうからだ。
なので余程の事柄で無い限り、女王裁判は開かれないのである。
﹁まあ⋮過去に国王裁判や女王裁判が開かれた事はあるけど、フィ
ンラルディア王国の長い歴史を省みても、その絶対性故に数える程
しか開かれていなけどね。女王の審判は絶対。中途半端な審判は下
せないから。でももし⋮ジギスヴァルト宰相の関与があるのなら、
お母様はきっと⋮女王の名の下に、その審判をくだされると思うわ﹂
ルチアの言葉に確信を持って頷くアリスティド達。
﹁まあそれは、バスティーユ大監獄の視察で何かを見つけてからの
お話ね。それより葵ちゃん⋮貴方本当にこのままこの一件に関わる
つもりなの?以前貴方の大切な者達が危険な目に合うかもしれない
から、依頼を断ったのでしょう?ルチアにしても⋮貴方達の心配を
しなくて良くなった所だったし﹂
メーティスが腕組みをしながら俺に静かに語りかける。
俺の横に立っていたマリアネラとゴグレグも静かに俺を見つめてい
た。
そう⋮俺は愛しいマルガやリーゼロッテ、ステラ、ミーア、シノン、
大切な仲間達をこれ以上危険な目に合わせない為に依頼を断った。
ルチアもそれを解ってくれたので、俺が依頼を放棄する事に何も言
わなかった。
大切な者達に何かあるなんて事⋮俺には耐えれない。
でも⋮ナディアをこのまま見捨てる事も⋮出来ない⋮
1702
﹁⋮ここからは⋮マルガ達は関わらせません。この先は⋮俺一人だ
けで⋮事にあたります。ですのでメーティスさん⋮引き続き、マル
ガ達の護衛をお願いします﹂
﹁⋮そう、解ったわ﹂
深々と頭を下げる俺を見て、短く返事をしたメーティスは軽く溜め
息を吐く。
そんなメーティスを見ていたルチアは不安そうに俺を見つめる。
﹁今回は俺一人で事に当たるから⋮心配しないでルチア﹂
そう言ってルチアの肩に手を乗せると、その手を握り返すルチアは
﹁⋮なにも⋮キツネちゃん達だけじゃないわよ⋮貴方も⋮﹂
﹁⋮解ってるよルチア、俺も十分に注意するよ。それに俺も⋮心残
りだったしね。仲間であるルチアの力にもなりたかったしさ﹂
﹁⋮バカね本当に⋮﹂
そう言いながらもギュッと俺の手を握るルチア柔らかい手の平は、
暖かく感じられた。
﹁まあ1人でなんて寂しい事言わなくて良いよ葵。目的は一緒なの
だから、私達と一緒にコティー達の事を考えたらいいよ﹂
﹁そう言って貰えてありがたいですマリアネラさん。正直、僕一人
じゃキツイと思っていましたから﹂
苦笑いしながら頭をかく俺を見てフフと優しい微笑みを見せるマリ
アネラ。
﹁では、葵殿も引き続き加わって貰うと言う事で。バスティーユ大
監獄の視察は明後日の朝刻中︵午前中︶に入る事にしましょう。バ
スティーユ大監獄の視察には⋮ルチア王女、マティアス殿、それと
僕が向かいましょう。葵殿とマリアネラ殿達は、それとなくバステ
ィーユ大監獄に向かう鋼鉄馬車を監視して貰いたい﹂
1703
マクシミリアンの言葉に頷く一同。それを聞いていたメーティスが
俺の傍に近寄る。
﹁⋮葵ちゃん、このまま行動するというなら⋮私の魔法師団の護衛
は考えた方が良いわね。それとなく鋼鉄馬車を監視するなら、魔法
師団の護衛が足枷になる。自然に見えない可能性があるわよ?﹂
そっと耳打ちするメーティスのその言葉の意味を理解した俺。
メーティスさんには俺達だけじゃなく、マリアネラさん達も影から
護衛して貰っている。
きっとその事を指して言っているのであろう。
確かに、護衛されながら鋼鉄馬車を監視するのは不自然すぎる。
しかし、護衛をして貰わないと言う事は、それだけ身を危険に晒す
事に繋がる。
闇の魔族であるヴァンパイアの血を引き、限定不老不死を持つ俺は
兎も角、普通の人間族であるマリネラさんや、ワーリザードである
ゴグレグさんは⋮
俺がその様に思案していたら、不思議そうに俺を見ていたマリアネ
ラが口を開く。
﹁どうしたんだい葵?何か⋮気になる事でもあるのかい?﹂
﹁え⋮いや⋮ちょっと⋮。⋮やっぱり、鋼鉄馬車の監視は僕一人だ
けでする事にします。マリアネラさん達は、別の方向から奴らの動
向を探ってみてください﹂
俺のその言葉を聞いたマリアネラは困惑の表情を浮かべる。
﹁いきなりどうしたんだい葵?さっきは一緒に行動する事に了承し
てくれたじゃないか。それなのに⋮﹂
そう言って俺を寂しそうに見つめるマリアネラと俺を見ていたメー
1704
ティスが、盛大な溜め息を吐く。
﹁それは貴女達には葵の依頼で、影から私のエンディミオン光暁魔
導師団の護衛をつけさせて居るからよ。魔法師団の護衛が居たら自
然に鋼鉄馬車を監視なんて出来ないでしょう?﹂
﹁メーティスさん!﹂
俺は思わず声を荒げる。
そのメーティスの言葉を聞いたマリアネラは、当然の様に俺キツイ
視線を向ける。
﹁葵⋮どういう事なんだい?﹂
俺に詰め寄るマリアネラに言葉を濁す俺を見かねたメーティスが、
マリアネラの前にその妖艶な身体を向ける。
﹁葵はね、貴女達の事が心配だったのよ。私に貴女に何を思われて
も良いから、守ってやって欲しいと頼んだのよ﹂
メーティスのその言葉を聞いたマリアネラは、軽く俯くとそのまま
黙ってしまった。
﹁⋮マリアネラさん⋮すいません。確かに仲間であるヨーランさん
の敵を打ちたい気持は解りますが⋮俺は⋮マリアネラさん達には⋮
生きて欲しくて⋮﹂
俺はそう言うと軽く俯く。
すると、何かが俺の額目掛けて飛んできた。
﹁イテ!﹂
俺はその軽い痛みに額を擦る。
それはマリアネラのデコピンが俺の額にヒットしたからであった。
﹁⋮本当にお前は年齢の割にませているんだから。余計な事ばかり
1705
考え、気を使って⋮﹂
そう言いながら呆れ顔を浮かべるマリアネラはフフと笑い、優しい
瞳で俺を見つめる。
﹁⋮ありがとね葵。心配掛けたね﹂
﹁いえ⋮俺も⋮黙って勝手をしましたし⋮﹂
そう言って苦笑いをする俺とマリアネラを楽しそうに見つめるメー
ティス。
﹁⋮内密でって⋮お願いしましたよねメーティスさん?﹂
﹁そうね。でも、葵ちゃんは一人で魔法師団の護衛をつけずに鋼鉄
馬車を監視するつもりだったでしょ?葵ちゃんの事は理解出来るけ
ど、流石に一人は危険よ。だから言わせて貰ったわ。葵ちゃんがそ
こまでして助けたいと思う人なんだもの。言えば解ってくれると思
ったのよ。そうよねマリアネラさん?﹂
メーティスの言葉を聞いたマリアネラはフッと笑いながら頷く。
﹁そうですね。葵を一人だけ危険な目には合わせられませんね。当
然私達も葵と同行します。私達だけではキツイかも知れませんが⋮
何かの役には立てるとは思います﹂
決意の篭った瞳でメーティスに語りかけるマリアネラは俺の方に振
り返る。
﹁葵、お前の気持は十分に解ったよ。私達も十分に気をつける。必
ず生きて⋮ヨーランの敵を討つから⋮私達も同行させて欲しい﹂
﹁⋮解りました。お互い十分に注意をして監視しましょう﹂
﹁ありがとう葵﹂
俺とマリアネラが握手をしていると入り口の扉が開き、数人の人が
入ってきた。
ふとそちらに視線を移すと、湯浴み場で綺麗になって、子供用の可
1706
愛い膝丈のメイド服に身を包んだナディアが、侍女に連れられて立
っていた。
﹁ナディア綺麗になったね。その服も似合ってて可愛いよ﹂
﹁⋮本当?﹂
そう言いながら着慣れないメイド服のスカートの裾をヒラヒラさせ
ているナディアの頭を優しく撫でると、少し恥ずかしそうに顔を赤
らめている。
﹁じゃ、話は決まったわね。葵達は明日から頼むわね。視察の結果
は視察の翌日に報告するわ﹂
﹁解ったよルチア。じゃ∼今日は宿舎に戻って、明日の準備をする
事にするよ﹂
俺達はルチア達に挨拶をし、宿舎に戻っていくのであった。
ハプスブルグ伯爵家の別邸を後にした俺達は、宿舎に戻って来てい
た。
護衛してくれた魔法師団に礼を言い別れ、宿舎の中に入って行く。
ナディアはグリモワール学院の美しさに目を丸くしながらも、ちっ
ちゃな手で俺の手をしっかりと握りながら、俺の横を歩いていた。
﹁皆ただいま∼﹂
俺はそう言いながら寛ぎの間に入って行くと、若干1名が俺に飛び
ついた。
1707
﹁おかえりなさいですご主人様!﹂
嬉しそうにそう言い、可愛い頭をグリグリと擦りつけてくるマルガ。
﹁ただいまマルガ。待たせちゃってごめんね﹂
そう言ってマルガの頭を優しく撫でると、金色の毛並みの良い尻尾
をフワフワさせて、エヘヘとはにかんでいるのが可愛い。
そんな俺とマルガを見て優しい微笑みを湛えていたリーゼロッテが、
当然の様に俺の横にいる人物に気がついた。
﹁あらナディアさんじゃないですか、可愛いメイド服を着ています
わね。今日は遊びに来たのですか?﹂
そう言ってナディアの前で膝を折るリーゼロッテ。
﹁いや違うんだリーゼロッテ。今日からこのナディアはこの宿舎に
住む事になった。俺の手伝いをしてもらうつもり。皆仲良くしてあ
げてね﹂
その言葉を聞いたマルガは嬉しそうにナディアの手を取る。
﹁よろしくですナディアちゃん!これからは一緒ですね!﹂
マルガに両手を握られブンブンと振られているナディアは、少し困
惑しながらもコクコクと頷いていた。
そんなナディアとマルガを見て優しい微笑みを湛えているリーゼロ
ッテ。
﹁とりあえずもうすぐ夕食ですわ。マルガさん、ナディアさんを空
いている部屋に連れて行ってあげてください﹂
﹁はいです!リーゼロッテさん!じゃ、行きましょうナディアちゃ
ん!﹂
少しお姉さんぶっているマルガに強引に手を引かれたナディアは、
寛ぎの間から出て行く。
1708
﹁そう言えば⋮ナディアさんのお仲間であるコティーさん達は一緒
じゃないのですか葵さん?﹂
﹁え!?あ⋮コティー達は少し別の仕事があるみたいで、それが終
わったらこっちに合流するみたいだよ﹂
少しどもってしまったが、何とか普通に対応すると、リーゼロッテ
は女神の様な微笑みを俺に向ける。
﹁そうですか、解りました。その様に手配しておきますわね﹂
﹁うん宜しく頼むよリーゼロッテ﹂
少し苦笑いしながらいう俺を見て、楽しそうにクスッと微笑むリー
ゼロッテ。
その夜は皆にナディアの事を伝え、軽い歓迎会みたいな事をして眠
りについた。
そして翌日、準備の整えた俺は、マルガ達と部屋から出て、朝食を
食べに食堂に降りる。
すると先に来ていた、マリアネラ達とナディアが朝食を食べていた。
俺は皆に挨拶をしてステラから朝食を貰い食べ始める。
﹁今日も俺一人で出かけるから、皆はゆっくり寛いでてね。今日は
夕刻迄帰らないから﹂
﹁え!?今日は夕刻迄帰らないのですかご主人様∼?﹂
マルガが金色の毛並みの良い尻尾を寂しそうにプランプランとさせ
ている。
﹁ごめんねマルガ。用事が終わったらすぐに帰ってくるから待って
てくれる?﹂
﹁はい∼ご主人様∼﹂
少し拗ねマルガになっているマルガの頭を優しく撫でると、パタパ
1709
タト嬉しそうに尻尾を振ってはにかんでいる。
俺は朝食を食べ終え食堂を出てエントランスに向かう所で、誰かが
俺の袖を引っ張った。
それに振り返ると、ちっちゃな手で俺の裾を掴んでいる、子供用の
メイド服を着たナディアが立っていた。
﹁どうしたのナディア?﹂
﹁⋮私も⋮一緒に行く⋮﹂
そう言って俺の裾をギュッと握るナディア。
﹁⋮今日からマリアネラさん達と鋼鉄馬車を監視するって知ってる
でしょ?そのせいで魔法師団の護衛もつかないから、危険なのも知
ってるよね?﹂
﹁⋮知ってる⋮でも一緒に⋮行く﹂
そう言って俺の裾を離そうとしないナディア。
﹁ナディアの気持も解るけど、ナディアだってまだ身体が痛いでし
ょ?ゆっくりと静養しないと﹂
﹁⋮体は⋮もう痛くない⋮ほら⋮﹂
そう言って反対の腕をグルグルと回すナディア。
勢い良くグルグルと回してはいるが、明らかに痛さを我慢している
のか、その顔には余裕が無かった。
俺は溜め息を吐いて膝を折りナディアの顔を覗き込む。
﹁ダメ連れて行かない。宿舎でゆっくりと静養する。いいねナディ
ア?﹂
俺の諭すような言葉を聞いて、キュッと唇を噛み俯くナディア。
﹁⋮嫌⋮一緒に行く﹂
﹁ナディア⋮﹂
1710
そう言って少し俺が困惑していると、ナディアは静かに顔を上げ俺
を見つめる。
﹁⋮守られているだけじゃ⋮嫌。私も⋮何かしたい。⋮コティー達
が攫われているのに⋮私だけ安全な所で⋮ゆっくりなんで⋮出来な
い!⋮お願い空⋮一緒に連れて行って!﹂
真剣な表情で俺に言うナディア。
むうう⋮
ナディアの気持も解るけど⋮
護衛も魔法師団の護衛もいないし、もし戦闘になった時に、ナディ
アを庇いながら戦えるか不安だ。
俺がその様に思案していたら、後ろから声が掛かった。
﹁連れて行ってやりな葵﹂
その声に振り向くと、苦笑いしているマリアネラの姿が見えた。
﹁でも⋮マリアネラさん﹂
俺の困惑している顔を見て、傍に近寄り耳打ちをするマリアネラ。
﹁仕方ないよ葵。もし、無理において行ったとしても、この子は一
人でついて来ちゃうと思うよ?一人で行動させる方がよっぽど危険
だとあたしは思うよ?﹂
確かに⋮このまま宿舎において行っても、このナディアが大人しく
待っている事は無いであろう。
それなら、目の届く手元に置いておいた方が安全か⋮
﹁解ったよ。ナディアを一緒に連れて行く﹂
その言葉を聞いたナディアは、嬉しそうに俺を見つめる
1711
﹁⋮本当?﹂
﹁うん。但し、俺の言うことを絶対に聞く事!解った?﹂
﹁⋮うん⋮解った﹂
そう言ってコクコクと頷くナディアは俺の手をギュッと握る。
それを見て顔を見合わせて苦笑いをする俺とマリアネラは、宿舎を
出て王都を歩き始める。
﹁マリアネラさん、鋼鉄馬車を監視するのは解ってますけど、具体
的にどうしたら良いのでしょうかね?﹂
俺の問に少し得意げなマリアネラは
﹁それなら心配しなくても良いよ葵。昨日帰りに知り合いの食堂屋
に寄って話をつけてきた。そこはこの王都ラーゼンシュルトの留置
所の傍にある食堂やでさ、そこからなら鋼鉄馬車に囚人を乗せるの
が良く見えるんだよ。そこで食事をしながら監視って訳さ。そこは
郊外町の入口付近だし、怪しくは見られないだろうさ﹂
﹁なるほど⋮それは良いですね﹂
俺の言葉にフフと笑うマリアネラ。
俺とナディアは、マリアネラ達の後をついて歩く。暫く歩いている
と、件の食堂屋が見えてきた。
そして食堂屋の中に入り、一番すみの窓際のテーブルに腰を下ろす。
﹁⋮確かに、ここからなら良く留置所が見えますね﹂
﹁だろ?ここからなら、鋼鉄馬車にどんな囚人を乗せるのか一目瞭
然。ま⋮主人との約束で、1刻おき︵1時間おき︶に、何か食べる
ものを注文するのが条件なんだけどさ﹂
﹁それは⋮お腹一杯になりそうですね﹂
俺の苦笑いの表情を見て、アハハと笑うマリアネラ。
俺達は軽めの食べ物を注文して、窓から鋼鉄馬車を監視し始める。
ナディアは注文した食べ物をモグモグと頬張りながらも、一時も留
1712
置所から目を離そうとはしなかった。
﹁ナディア、そんなに見ていなくても、俺やマリアネラさん、ゴグ
レグさんも見ているんだから⋮。夕刻までまだまだ時間はある。疲
れちゃうよ?﹂
﹁⋮大丈夫。美味しい物を食べながらだから⋮疲れない﹂
そう言ってモグモグと食べながら、穴が空く勢いで見つめ続けるナ
ディア。
俺とマリアネラは見つめ合って苦笑いしながらも、ナディア同様留
置所を監視する。
﹁こうやって見ていると⋮特に怪しい人物を鋼鉄馬車に乗せている
気配は無いですねマリアネラさん﹂
﹁⋮そうだね。まあ、留置所は此処だけじゃないからなんとも言え
ないけど⋮あの人攫いの連中は、1日で結構な数の人を攫って居る
からね。私の予想が正しければ⋮複数の留置所に攫った人を振り分
けて、鋼鉄馬車に乗せていると思うんだ。だから⋮この留置所にも、
攫われた人が連れてこられる可能性は有ると思うんだ﹂
マリアネラの言葉に頷く一同。
ナディアは終始一切目を離さずに留置場を見ていたが、夕刻になっ
てもそれらしい人が鋼鉄馬車に乗せられる事はなかった。
﹁もう夕刻だね。今日はこの辺にしようか﹂
マリアネラの言葉にキュッと唇を噛むナディア。
俺達は成果を上げる事は出来ずに、その日は宿舎に帰る事にした。
その翌日、俺は同じ様に食堂でマルガ達に出かける旨を説明して食
堂を出た時であった。
マルガが俺を呼び止める。
1713
﹁ご主人様⋮今日も⋮出かけられるのですか?﹂
少し落ち着きのないマルガが俺に語りかける。
﹁うん、さっき言った通り、また夕刻に帰って来るから⋮待ってて
ね﹂
そう言ってマルガの頭を優しく撫でるが、いつもの様に金色の毛並
みの良い尻尾が振られる事は無かった。
﹁⋮今日もナディアさんを⋮連れて行かれるのですかご主人様?﹂
﹁あ⋮うん、ちょっと、手伝って貰ってるんだ﹂
﹁⋮私じゃ⋮お役に立てませんかご主人様?﹂
そう言って瞳を潤ませるマルガ。
﹁ち⋮違うよマルガ!あ⋮あえて言うなら、マルガの手を煩わせる
ほどでも無いってだけだよ?﹂
アタフタしながら言う俺をジッと見つめるマルガは、メイド服のポ
ケットから何かを取り出し、俺の首につける。
それは奇妙な配列で穴の開いた、木彫りの円筒のネックレスだった。
﹁それは⋮お守りです。忙しいご主人様の事を考えて、リーゼロッ
テさんが作ってくれました﹂
﹁そうなんだ⋮ありがとねマルガ﹂
俺の為に作ってくれた気持が嬉しくなって、マルガをギュッと抱き
しめると、マルガも同じ様に抱き返してくれる。
﹁じゃ、行ってくるねマルガ﹂
﹁はい⋮行ってらっしゃいですご主人様﹂
寂しそうに言うマルガに後ろ髪を引かれながらも、俺は宿舎の外に
出て、王都の町を歩き始める。
1714
﹁⋮健気じゃないかマルガもリーゼロッテも﹂
俺が首に掛けて貰った木彫りのネックレスを手に取りながら見てい
ると、ニヤニヤしながらまりアネラが口を開く。
﹁ええ⋮まあ⋮﹂
そう言いながら少し顔の赤くなっている俺を、楽しそうに見つめる
マリアネラ。
﹁そ⋮そう言えば今日は、ルチア達がバスティーユ大監獄に視察に
入る日でしたよね?﹂
﹁そうだね。突然の王女の視察。さぞやバスティーユ大監獄は大騒
ぎになっている事だろうさ﹂
そう言って不敵に微笑むマリアネラ。
﹁⋮コティー達⋮大丈夫かな⋮﹂
そう言って俺の手をギュッと握るナディア。
﹁⋮大丈夫。ルチアは約束したからね。アイツの事だから、隅々ま
できちんと視察するだろう。きっと何かの手がかりを見つけると思
うよ﹂
俺がそう言うとコクッと頷くナディア。
俺達はそのような事を話しながら、昨日来た食堂屋の収容所の見え
る席に座る。
そして、昨日と同じ様に軽めの食べ物を注文して食べながら、収容
所の鋼鉄馬車を監視していた時であった。数人の男達が食堂屋に入
ってきた。
その男達は主人の傍まで行くと、腰につけていたロングソードを引
きぬき、一気に主人の胸を貫いた。
夥しい血を流しながら、即死して床に崩れ落ちる食堂屋の主人。床
1715
にみるみる血だまりができていく。
﹁きゃああああ!!!﹂
食堂屋の女の店員が声を上げた時だった。
もう一人の男がその女性の店員の首を、短剣で跳ね飛ばした。その
首が俺達の足元まで転がってきた。
それを見たナディアの顔が、みるみる青白くなっていく。
﹁⋮随分と物騒な奴らだね。⋮食事中は静かにしなさいって、親に
言われなかったかい?﹂
マリアネラが席から立ち上がり、両手に短剣を構える。
俺とゴグレグはナディアを庇う様に立ち上がると、ゴグレグもアイ
テムバッグから武器を取り出す。
俺も腰につけていた名剣フラガラッハを引きぬき構える。
﹁私が突っ込むから、葵質はナディアを連れて、食堂屋を出るんだ
!行くよ!﹂
そう言い放ったマリアネラが、食堂屋の入り口に居た男に向かって
跳躍する。
﹃ガキイイイイイン﹄
激しい火花を散らして、男の一人と鍔迫り合いをするマリアネラ。
そのマリアネラの後ろから、別の男がマリアネラを斬りつける。
﹁マリアネラさんはやらせないよ!﹂
俺は名剣フラガラッハで男の剣を弾き飛ばすが、別の男に蹴りを入
れられ、カウンターに弾き飛ばされる。
﹁空!!!!﹂
ナディアゴグレグに抱えられながら心配そうな声を上げる。
1716
俺はフラフラと立ち上がりながら
﹁大丈夫!俺はこれくらいじゃやられないよ。ゴグレグさん!この
食堂屋の壁ごとブレスで!!!﹂
﹁承知!!!!﹂
そう言い放ったゴグレグは、大きく息を吸い込むと、ソレを一気に
吐き出した。
﹁ウォーターブレス!!!!﹂
ゴグレグの全力の無数の水の玉のブレスが、男達ごと食堂屋の壁を
吹き飛ばす。
大きな音を立てて崩れ去る食堂屋の壁。男達も何とか躱せた様であ
ったが、その威力に少し警戒をしていた。
﹁今だ!行くよ!﹂
そう言い放ったマリアネラが先陣をきって行く。
俺達は頷きマリアネラの後に続いて走り出す。
﹁くそ!あそこは郊外町の入り口だし、人を攫う場所でも無かった
はずなのにね!あいつら一体、何処から私達を監視してるって言う
んだい!本当に⋮厄介な奴らだよ!﹂
走りながら言うマリアネラに頷く俺。
﹁兎に角、こっちにはナディアもいます。あいつらも見たところ上
級者の様ですし、ここはグリモワール学院まで退きましょう!﹂
俺の言葉に頷くマリアネラ。後ろから4人の男達が俺達を追ってき
ていた。
その殺気を背中越しに感じながら、もう少しで王都の門に到着でき
ると思った時であった。
俺達の退路を経つ様に、更に4人の男達が屋根から飛び降りてきて、
1717
俺達の行く手を塞ぐ。
﹁グッ⋮こいつら⋮まるで私達が、こっちに逃げる事が解って居た
様に待ちぶせしやがって!﹂
マリアネラはギュッと短剣に力を入れる。
﹁何が何でも⋮俺達を始末したいのでしょう。でも⋮俺も只でやら
れる気は無いですけどね!﹂
﹁⋮同感だ!﹂
俺の言葉に短く言うゴグレグは、バトルアックスを振り上げて構え
る。
俺達はナディアを中心に、三角の陣を張る。
﹁兎に角何とか突破口を開くよ葵!﹂
﹁了解ですマリアネラさん!﹂
その言葉を聞いて、ニヤッと口元を上げる男達。そして、男達は一
斉に俺達に襲い掛かってくる。
俺とマリアネラ達は覚悟を決めて、男達と戦闘を始める。
必ず生き抜いて見せると心に誓うのであった。
1718
愚者の狂想曲 49 殻の中の愚者
﹁でりゃああ!!﹂
マリアネラは気合の声を上げる。
男達の一人に斬りかかったマリアネラと男は、火花を散らしながら
鍔迫り合いをしている。
その後ろからゴグレグがバトルアックスで斬りかかるが、別の男達
2人に挟撃され肩口を斬られる。
﹁ゴグレグ!﹂
﹁今行きます!ゴグレグさん!!﹂
俺は名剣フラガラッハの切先を男に向け突きを放つ。俺の突きを辛
うじて躱した男は、瞬時に距離を取る。
しかし、俺が動いた事で手薄になったナディアに、別の男が襲い掛
かる。
﹁チッ!!﹂
顔を歪めるマリアネラは、鍔迫り合いをしていた男を蹴り飛ばすと、
ナディアに斬りかかった男の前に入り、両手の短剣で連撃を加える。
マリアネラの高速の剣技に押される男は、距離を取り陣形を組み直
した。
俺達もナディアを守る様に三角の陣を組み直す。
﹁不味いね。前のマスタークラスの奴ら程じゃないけど、こいつら
もどうやら上級者。一対一なら私やゴグレグの方に分があるけど⋮
流石に上級者8人相手はキツイね!﹂
﹁それに、こちらには治癒魔法を使える者もいない。このまま攻撃
され続ければ、動けなくなるのは明白﹂
1719
ゴグレグの言葉にキュッと唇を噛むマリアネラ。
そんな俺達を嘲笑いながら見ていた男達の内、4人の男の体が淡黄
色に光る。オーラの様な物に身体を包む4人の男達。
﹁チッ!しかも気戦術持ちが4人かい!厄介だねえ!こっちも気戦
術を発動させるよ!﹂
﹁承知!﹂
マリアネラとゴグレグは体に力を入れ始めると、2人の身体が淡黄
色に光るオーラの様な物に包まれる。身体強化の気戦術だ。
先程、霊視で男達の力を見たが、この8人の男達のLVは50代後
半から60代前半。
その中で特に厄介なスキルを持つのがこの4人だ。
恐らくだがラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長であったハー
ラルトと同等の実力を持っている。
勿論マリアネラやゴグレグも同じ位の実力者ではあるが、唯一治癒
魔法をつかえたヨーランは居ない上に、人数的に不利。
それにこっちはナディアを庇いながら戦わなければいけないのだ。
﹁と⋮兎に角、何とか切り抜けて、王都を目指しましょう!﹂
俺の言葉に頷くマリアネラとゴグレグ。
しかし、当然俺達を逃がす気のない男達は、一斉に俺達目掛けて跳
躍してきた。
﹁クソ!!﹂
顔を歪めるマリアネラとゴグレグ。
マリアネラとゴグレグには、気戦術を発動させた4人の男達が襲い
かかる。
一対一なら分があるマリアネラとゴグレグも、気戦術持ちを一人で
2人ずつ相手にするのは相当キツイらしく、その顔には全く余裕は
1720
無かった。
﹁マリアネラさんゴグレグさん今行きます!﹂
俺がそう叫んだ時、俺の前に残りの2人の男が立ちはだかる。
﹁こっちは私達で何とかするから、葵はナディアを守るんだ!﹂
﹁解りました!﹂
俺は名剣フラガラッハの切先を2人の男達に向けると、精神を集中
する。
俺の身体は薄紅色のオーラで包まれる。俺のレアスキルである闘気
術だ。その俺の薄紅色のオーラを見て、顔を歪める2人の男。
﹁邪魔だ!!!道を開けろ!﹂
俺はそう叫ぶと、闘気術で強化された名剣フラガラッハで男を斬り
つける。
その斬撃を辛うじて躱す男は、距離を取る際に俺の腹に蹴りを入れ
る。
軽くたじろく俺の背後から、別の男のロングソードが迫る。
そのロングソードを名剣フラガラッハで弾くが、別の男に側方から
肩口を斬られる。
ナディアは俺の肩から流れ出す鮮血を見て、激しく瞳を揺らしてい
た。
俺のLVは35。
この2人の男のLVは58と61。
俺が何とか戦えているのは、レアスキルの闘気術のおかげだ。
気戦術以上の身体強化の出来る闘気術だからこそ、LV差を埋めて
戦えている。
しかし、気戦術を使えないとはいえ、この上級者2人を同時に相手
にするのは危険すぎる。
1721
しかもまだ後方に2人敵が残っているのだ。
ここは銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを召喚して、一気に片をつけ
るべきか⋮
そんな事を考えていた時だった。激しい金属音の後に、呻き声が聞
こえる。
その声に振り向くと、マリアネラが男に1人に、肩口にロングソー
ドを突き立てられていた。
﹁グッ!!!クソ!!!!﹂
そう叫んだマリアネラの背後から、別の男が背中を斬りつける。
まともに斬りつけられたマリアネラの背中から、鮮血が吹き出す。
﹁うおおあああああ!!!﹂
声高に叫んだマリアネラは気勢を上げる。それと同時に輝きを増す
淡黄色に光るオーラ。
マリアネラは最後の力を振り絞ると、気戦術を全開にして男に短剣
で斬りかかる。
その高速の剣技に為す術が無かった男は、マリアネラの短剣で首を
刎ねられる。
しかし、最後の力を使い切ったマリアネラに、別の男が腹にロング
ソードを突き刺し蹴り飛ばす。
マリアネラは鮮血を流しながら蹴り飛ばされ、地面に倒れこむ。
その地面にみるみる血溜まりが出来て行く。
﹁マリアネラ!!!!﹂
そう叫んだゴグレグはマリアネラの元に跳躍しようとするが、気戦
術を発動させている男から、別々の方向から斬られる。
かなり深く斬られたのか、鮮血を吹き出すゴグレグは、斬られなが
1722
らも1人の男の両腕を掴むと、超至近距離からウォーターブレスを
浴びせる。
超至近距離からウォーターブレスを浴びた男は、無数の水の玉に身
体を削られ、上半身が無くなっていた。
だが、そのゴグレグの背後から、マリアネラを倒した男が、気戦術
の気勢を上げて突きを放つ。
それを躱しきれないゴグレグは、腹を突き刺され鮮血を吹き出す。
それと同時にもう一人の男が、ゴグレグの胸にロングソードを突き
立て蹴り飛ばす。
激しく蹴り飛ばされたゴグレグは、民家の壁に激しい音をさせて衝
突すると、地面に倒れこんだ。
民家の壁には、ゴグレグの鮮血が墓標の様に滴っている。
﹁マリアネラさん!!ゴグレグさん!!!﹂
俺が悲壮な声を上げる中、マリアネラとゴグレグを倒した2人の男
が、気戦術の気勢を上げて、ナディアに向かって跳躍する。ソレを
感じて顔を青くするナディア。
﹁ナディア!!!!﹂
俺は2人の男を蹴り飛ばし、闘気術全開でナディアの元に跳躍する。
しかし、その次の瞬間、俺の身体に激しい激痛が走る。
気戦術を発動させていた2人の男のロングソードが、俺の心臓と腹
を貫いていたのだ。
﹁⋮グフ⋮﹂
短く声を出し、口から血を吐く俺。夥しい鮮血が身体から吹き出す。
﹁い⋮嫌ーーー!!!そ⋮空ーーー!!!!﹂
眼前で串刺しになっている俺を見て、悲壮な叫び声を上げるナディ
1723
アを見て、ニヤッと嘲笑う2人の男。
そして、トドメをさしたロングソードを俺の身体から引き抜こうと
して力を入れた瞬間、2人の男は眩く光り輝く薄紅色のオーラに視
界を奪われる。
﹁迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!﹂
銃剣2丁拳銃グリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の
様な魔法弾が、咲き乱れるかの様に2人の男達に襲いかかる。
至近距離からの百花繚乱の無数の魔法弾に、なす術無く断末魔の声
を上げながら身体を撃ち抜かれていく2人の男は、グチャッと肉片
になって地面に崩れ落ちていく。
2人の男を撃ち抜いた俺は、激痛に襲われ片膝をつく。
﹁空!!!空!!!!﹂
ナディアは嗚咽混じりに叫ぶと、俺の身体に抱きつく。
そして、俺の身体から出ている鮮血を見て、身体を震えさせながら
﹁空!大丈夫!?お願い⋮死なないで!!!﹂
俺の身体を掴み、狼狽するナディアの頭を優しく撫でる。
﹁だ⋮大丈夫。俺は⋮これ位じゃ⋮死なないから⋮﹂
その言葉を聞いて困惑しながらも、少し安堵の表情を浮かべるナデ
ィア。
残りの4人の男達は、一瞬で気戦術を発動させていた仲間がやられ
た事で、陣形を組み直して俺の様子を伺っていた。
かなりやばい⋮
気戦術を使える上級者の4人はもう居ないが、残り4人の上級者の
相手を、俺一人で相手をしなければならない。
それに加え、ナディアや戦闘不能になっているマリアネラとゴグレ
1724
グを、守りながら戦わなければならないのだ。
マリアネラとゴグレグの傷は、明らかに致命傷クラスだ。一刻も早
く治療しないと絶命するだろう。
時間の猶予は全く有りはしない。
しかも、俺の心臓と腹には、ロングソードが刺さったままだ。
両手のグリムリッパーを地面に置く事も出来ず、ナディアに抜いて
貰う様な悠長な事も出来ないであろう。相手は上級者なのだ。その
隙にやられてしまう⋮
速攻でこの4人の上級者達を倒し、マリアネラ達を治療する。
マリアネラ達とナディアを庇いながら、超回復が切れる前に⋮
﹃そんな事⋮今の俺に出来るはずはない⋮ここは⋮後の事を考えず、
なりふり構わず⋮種族能力を解放するしか⋮道は無い⋮か﹄
俺はそう心の中で呟き覚悟を決める。
4人の男達は顔を見合わせ、足に力を入れていた。どうやら向こう
も覚悟を決めた様であった。
俺はそれを感じ、ナディアを自分の後ろに回し、フラフラとしなが
ら立ち上がり、2丁拳銃グリムリッパーの召喚を解く。
俺の謎の行動に一瞬眉を動かす男達であったが、すぐに顔を引き締
め直すと、2人の男が俺目掛けて跳躍してきた。残りの2人の男達
は何かの魔法の詠唱を始めている。
この連携で俺を確実に仕留めるつもりなのであろう。
俺は跳躍している2人の男のロングソードを眼前にしながら、種族
能力を解放しようとした時であった。
右後方から黄緑色に光り輝く風の塊の様な物が、跳躍してきた男2
桜散華!!!﹂
人に、高速で回転しながら銃弾の様に突っ込んだ。
﹁迦楼羅流格闘術!壱式
黄緑色に光り輝く風の塊は高速で男2人に突っ込むと、男2人の身
1725
体を上下2つに切り裂いてしまった。
そして、地面に着地した黄緑色に光り輝く風の塊は俺に振り返り、
そのライトグリーンの透き通る様な美しい瞳を向ける。俺はその見
覚えのある美しい瞳を見て狼狽する。
﹁マ⋮マルガ!?ど⋮どうして此処に!?﹂
激しく困惑している俺をよそに、マルガは俺に瞬時に近寄り
﹁⋮すぐにこの剣を抜いて治癒魔法を掛けます!もう少し我慢して
下さいねご主人様!﹂
マルガはそう言うと俺の心臓と腹に刺さっている2本のロングソー
ドに手を掛ける。
しかし、暫く仲間がやられた事に呆気に取られていた残りの2人は
正気を取り戻し、俺達に向かって詠唱の終わった魔法を放とうとし
ていた。
俺はマルガを自分の後ろに庇おうとして、マルガに優しく止められ
る。
マルガはニコッと微笑み軽く首を横に振る。
その次の瞬間、聞き覚えのある美しい声が辺りに響き渡る。
﹁貴方達になどに、葵さんやマルガさんをやらせはしませんわ!お
行きなさい!私の可愛い人形達!!﹂
その美しい声が響き渡るやいなや、2人の男に高速で迫る何かは、
1人の男を別々の方向から剣を突き立てていた。
心臓と首を刺された男は鮮血を噴水の様に吹き出しながら、地面に
倒れ絶命する。
そして、主人の元に帰り、両側でフワフワと浮いている鋼鉄の2体
の人形達。
﹁ブ⋮ブラッディーマリーにローズマリー!?リーゼロッテ!?﹂
1726
俺の狼狽する声を聞いて、可笑しそうにクスッと女神の様に微笑む
リーゼロッテ。
﹁遅くなりましたね葵さん。もう大丈夫ですわ﹂
そう言ってブラッディーマリーとローズマリーを、残りの男に追撃
させるリーゼロッテ。
ローズマリーとブラッディーマリーの2体の人形の斬撃を何とか躱
した男は、体制を立て直そうとして距離を取る。
しかし、その着地地点で、何かが高速でその男の両足を貫いた。
﹁オイラの事も忘れないでよね!葵兄ちゃん!﹂
そう言い放った少年は、その手に持つ魔法銀のクリスで、男の首を
刎ね飛ばした。
﹁へんだ!オイラだってやる時はやるんだからね!﹂
そう言って得意げな顔をする少年は、俺の元に駆け寄ってきた。
﹁大丈夫だった葵兄ちゃん?﹂
﹁マ⋮マルコまで!?﹂
混乱している俺を見て、マルガとマルコは顔を見合わせて微笑んで
いた。
﹁兎に角、お話は後にしましょう。私はマリアネラさんに治癒魔法
を施します。マルガさんは葵さんに治癒魔法を掛けたら、ゴグレグ
さんに治癒魔法を﹂
﹁ハイです!リーゼロッテさん!﹂
元気良くハイと右手を上げて返事をしたマルガは、俺から剣を引き
抜くと治癒魔法を掛けてくれた。
そして、テテテと走ってゴグレグに治癒魔法を掛ける。
リーゼロッテとマルガに治癒魔法を掛けて貰ったマリアネラとゴグ
1727
レグは、両肩を抱えられながら俺達の元に戻って来た。
﹁⋮回復ありがとねマルガにリーゼロッテ。でも⋮どうしてこの子
達が此処に居るんだい葵?﹂
﹁いえ⋮俺には⋮﹂
マリアネラの言葉にどもっている俺を見て、少し楽しそうにしてい
るリーゼロッテ。
﹁⋮それは、葵さんには、私が作った遠吠えの笛が首にかかってい
るからですわ﹂
﹁ふへ!?遠吠えの笛!?ナニソレ?﹂
少し変な声を出して首を傾げる俺を見て、より一層楽しそうな顔を
しているリーゼロッテ。
﹁今朝出かける時に、マルガさんが葵さんの首に掛けた、その木彫
りの首飾りの事ですわ葵さん。その遠吠えの笛は特殊な機構をして
いまして、歩いている時の風の抵抗で、特殊な音が出るのです﹂
﹁え!?でも⋮そんな音は聞こえなかったけど?﹂
﹁それはそうですわ葵さん。その遠吠えの笛の音は、人間族には聞
き取れません。地球で言う所の犬笛と言うのに似ています。獣人系
の耳の良い亜種族でなければ、聞こえません。葵さんは特に感知能
力が高いですから、その辺も注意しながら作りましたしね。マルガ
さんですら、聞こえるか聞こえないかの品。私達の中でもはっきり
と聞こえるのは、耳の非常に良い、純粋なワーウルフであるステラ
さんのみですからね﹂
そう言い終わったリーゼロッテは路地の影の方に視線を向ける。
するとその影から3人の女性が少し申し訳なさそうに俺達の前に出
てきた。
﹁ステラ、ミーア、シノン!?﹂
1728
﹁﹁﹁葵様⋮すいません!!﹂﹂﹂
そう言って申し訳なさそうに頭を下げる、ステラ、ミーア、シノン
の3人。
﹁でも何故⋮﹂
俺がそう言いかけた所で、マルガがテテテと俺の前に出てきた。
そして、その綺麗な透き通る様なライトグリーンの瞳を俺に向ける。
﹁⋮ご主人様⋮私達は⋮マルガは、ご主人様の足手まといですか?﹂
そう言って、ライトグリーンの綺麗な瞳に涙を浮かべながら、瞳を
揺らしているマルガ。
﹁そ⋮そんな事は無いよマルガ!﹂
﹁では何故、私を置いて⋮いえ、私達を置いて、1人でナディアち
ゃん達を助けようとするのですかご主人様!!﹂
少しウウウと唸っているマルガ。尻尾が逆立ってボワボワしていた。
俺に対して初めて本気で怒っているマルガにアタフタしていると、
クスクスと笑いながらリーゼロッテが俺に近寄る。
﹁⋮きっと葵さんの事ですから、私達に何かあったら心配だと思っ
たのでしょう?ですから、私達に危険が及ばない様に1人で行動を
した。でも⋮葵さんは重要な事を忘れていますわ﹂
﹁⋮重要な事?﹂
﹁そうです重要な事。葵さんが私達の事を大切に思ってくれている
のは嬉しい事ですわ。しかし、葵さんと同じ様に⋮私達も葵さんの
事が大切なのです。そこが解ってませんわ葵さん﹂
﹁いや⋮俺だって⋮皆の事は⋮﹂
そう言いかけた所で、マルガが俺に一層近寄って叫ぶ。
﹁ご主人様は解ってません!!もし⋮私の知らない所で、ご主人様
1729
に何かあったと思うと⋮私は⋮耐えられません!私の全ては⋮ご主
人様の為にあるのですから!!!!﹂
まるで魂の咆哮の様に叫んだマルガは、我慢出来無くなったのか、
大粒の涙を流しながら俺の胸に抱きついて泣きじゃくっている。
﹁マ⋮マルガ⋮﹂
俺はたまらなく愛おしいマルガをギュッと抱きしめると、同じ様に
ギュウウと泣きじゃくりながらも抱き返してくれる。
﹁ここにいる皆だけじゃなく、きっとエマさんやレリアさん、それ
にユーダさんだって葵さんの事を大切に思って居るはずですわ。葵
さんは⋮その気持を⋮切り捨てるつもりですか?⋮たとえ困難な事
で危険な事であっても、逃げては行けませんわ葵さん。自分1人の
考えの中に⋮﹂
そう言って透き通る様な金色の瞳を静かに向けるリーゼロッテ。
その美しい金色の瞳は、全てを物語る様な、優しい光に包まれてい
た。
俺はまた⋮やってしまったんじゃないのか?
確かに俺は、マルガやリーゼロッテ、ステラにミーア、シノンの事
が命より大切だ。
だから今回の事は俺一人で解決するつもりだった。
でも、俺がマルガ達をを大切に思うのと同じ様に⋮マルガ達も俺の
事が命より大切に思ってくれているのだ。
俺はソレを感じて解っていたらこうしたのだが、彼女達にしてみれ
ば⋮裏切りにも等しい行為だっただろう⋮
﹃逃げてはいけない⋮自分一人の考えの中に⋮か﹄
その言葉が、俺の胸の奥に深く突き刺さる。如何に自分が矮小であ
ったかを思い知る。
1730
俺は胸の中でまだ泣きじゃくっているマルガの頭を優しく撫でる。
するとマルガは涙で濡らした綺麗なライトグリーンの瞳を俺に向け
る。
﹁⋮ごめんねマルガ﹂
﹁⋮許しませんです。でも⋮もうこんな事をしないと約束してくれ
るのなら⋮許さない事も⋮無いですよご主人様?﹂
そう小さく呟いてプイとソッポを向くマルガ。金色の毛並みの良い
尻尾がモジモジしながら揺れている。
余りにもモジモジしている尻尾を見て、可笑しくなってクスッと笑
ってしまう俺に気がついたマルガは、顔を赤くして頬をプクッと膨
らませて、拗ねマルガに変身してしまった。
俺は堪らなく愛おしくなって、ギュッとマルガを抱きしめる。
﹁⋮うん、約束する。もう⋮こんな事はしない。だから⋮許してく
れるマルガ?﹂
その言葉を聞いいたマルガは、大粒の涙を綺麗なライトグリーンの
瞳から、宝石の様に流す。
﹁し⋮仕方ないですから、許してあげるのですご主人様!⋮私って
いじらしいのです⋮﹂
﹁⋮イヤラシイ?﹂
﹁いじらしいです!﹂
そう言いながらも、ギュッと俺を抱きしめるマルガ。
優しくマルガの頭を撫でると、エヘヘと微笑みながら、満面の笑み
を俺に向けてくれる。
マルガの金色の毛並みの良い尻尾は、まるで何かの技の様に、ブン
ブンと回転していた。
﹁皆もごめんね⋮ありがとね﹂
1731
そう言って俺が苦笑いをすると、ステラ、ミーア、シノンが俺に抱
きついて、その美しい顔を俺の胸に埋める。
﹁私やミーア、シノンだって⋮葵様が全てです。忘れないで下さい
ね?﹂
﹁ステラ姉姉の言う通りなのですよ葵様∼。もう⋮1人でなんて許
しません∼﹂
﹁ミーアも同じです。残されるのは⋮嫌です葵様﹂
そう言って、瞳を揺らしているステラ、ミーア、シノン。
﹁⋮うん、もうしないよ。好きだよステラ、ミーア、シノン﹂
その言葉を聞いたステラ、ミーア、シノンも瞳に涙を浮かべていた。
そんな俺達を見ていたマリアネラはクスクスと笑う。俺は少し恥ず
かしくなって顔を赤らめる。
﹁⋮良い娘達を供にしてるね葵﹂
﹁⋮そうですね﹂
気恥ずかしく言う俺に、フフと笑うマリアネラとゴグレグ。
﹁ま∼葵兄ちゃんの手に追えない事は、オイラがやってあげるよ!
オイラは葵兄ちゃんの1番弟子だしさ!﹂
﹁⋮期待してるよマルコ﹂
そう言ってフフと微笑むと、任せといてよ!と言って、トンと胸を
叩くマルコ。
それを幸せそうな顔で見つめて居たリーゼロッテが、綺麗な声を響
かせる。
﹁ではマリアネラさん達にはもっと良い治療を受けて貰わないと行
けませんし、一度宿舎に帰りましょうか﹂
リーゼロッテの言葉に頷く一同。
1732
俺とマルコは両肩でマリアネラを支え、ゴグレグはリーゼロッテの
召喚人形のブラッディーマリーとローズマリーに支えられる。
それを確認したリーゼロッテは先頭を歩き始める。
﹁⋮リーゼロッテ。いつから気がついていたの?﹂
俺の言葉に振り向くリーゼロッテはクスッと笑うと
﹁⋮初めからですわ葵さん﹂
﹁初めから?﹂
﹁そう初めからです。葵さんがナディアさんを1人だけ連れてこら
れた時からですわ。葵さんはコティーさん達は別の仕事だと言って
いましたけど、そんな事はありえませんわ。ナディアさん達の絆は
きっと本物。ですから行動する時はいつも一緒のはずなのです。そ
れなのに1人だけで宿舎に移住⋮。おかしく思っても不思議じゃあ
りませんわ﹂
そう言って全てを見透かす様な、優しい瞳を俺に向けるリーゼロッ
テ。
﹁⋮ごめんねリーゼロッテ﹂
﹁⋮何も葵さんが謝る事はありませんわ。⋮それに私は誓いました
から﹂
﹁⋮誓い?何を誓ったの?﹂
俺が不思議そうに首を傾げると、そんな俺を見たリーゼロッテは楽
しそうにクスクスと微笑むと俺の傍に近寄り顔を近づける。
﹁⋮たとえ⋮世界中を敵に回しても⋮葵さんとマルガさんは私が守
ってみせると⋮誓ったのですよ﹂
俺の耳元で囁く様に言うリーゼロッテ。
顔の赤くなった俺は、少しアタフタしながらリーゼロッテを見る。
太陽の光りに照らされたリーゼロッテの微笑みは、まさに月の女神
1733
の様に神々しく、とても美しく感じられた。
そんな俺を見て、一層楽しそうな、幸せな微笑みを向けてくれるリ
ーゼロッテは勢い良く踵を返す。
﹁さあ、急いで宿舎に戻りましょう。敵の追手が来るかもしれませ
んし。それに⋮今後の事も⋮宿舎で話し合わないとダメでしょうか
らね﹂
そう言って楽しそうに先頭を歩き始めるリーゼロッテ。
俺達は顔を見合わせ微笑みながら宿舎に戻っていく。
しかし、宿舎に戻った俺達に、さらなる試練が待ち受けている事を、
この時は誰も解ってはいなかった。
1734
愚者の狂想曲 50 打たれる楔
食堂屋で襲撃された俺とマリアネラ達は、マルガやリーゼロッテ達
のお陰で助けられ、今は宿舎に向かって歩いている。
そして、王都ラーゼンシュルトの門付近に来た所で、俺達一行に気
がついた男達が駆け寄ってくる。
﹁リーゼロッテ殿!ご無事でしたか!﹂
﹁ええ、何とか無事ですわ。心配をお掛けしました﹂
そう言ってリーゼロッテの微笑む顔を見て、安堵の表情を浮かべる
魔法師団の男。
どうやらリーゼロッテの指示で、この門で待機してくれるように言
われていたらしいのだ。
魔法師団の男は両肩を支えられているマリアネラとゴグレグに視線
を向けて、眉間に皺を寄せる。
﹁⋮やはりリーゼロッテ殿の言われる通り、葵殿達は襲撃されてい
ましたか⋮﹂
﹁⋮ですね。とりあえず宿舎に戻りますので、ここからはまた護衛
をお願い出来ますか?﹂
﹁解りました。お任せ下さい﹂
そう言って胸に手をかざす魔法師団の男。
俺達は護衛の魔法師団と合流出来た事に安堵し、王都を宿舎に向か
って歩き出す。
そして暫く歩いていると、前方に男の人2人間で手を握り、ブラン
コをして貰ってキャキャとはしゃいでいる女の子が見えた。
その見覚えのある女の子が俺達を見つけて、嬉しそうにテテテと走
り寄ってきた。
1735
﹁あ!葵お兄ちゃんみつけた∼!﹂
そう言って嬉しそうに俺に抱きつくエマ。
ふと横に視線を移すと、苦笑いをしているレリアの姿が目に入った。
﹁どこかに出かけていたのですかレリアさん?﹂
﹁ええ⋮その⋮また⋮ギルゴマさんの所に⋮﹂
そう言って申し訳なさそうに微笑むレリア。それを見たレリア達を
護衛していた魔法師団の男達は、クスクスと笑っていた。
エマは以前リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店に行った時に、
ギルゴマ達と仲良くなって、ギルゴマから商売のついでにバイエル
ント国のカナーヴォンの村に立ち寄る行商人がいれば、祖父である
ドワーフのヴァロフに手紙を渡して貰える様に約束していた。
それに喜んだエマは、次々と手紙を書いては、せっせとギルゴマの
元に持って行っている。
初めはある程度、日の間隔が空いていたのであるが、最近ではほぼ
毎日手紙を書いてはギルゴマの元に運んでいる。
当然そんなにカナーヴォンの村に立ち寄る行商人は居ない。
恐らくギルゴマの手元には、日々溜まっていくエマの手紙が有るの
であろう。
その想いの詰まった手紙の束を見て、困った顔をしているであろう
ギルゴマと、苦笑いしているリューディアの顔をが、手に取る様に
浮かぶ。
その事を考え少し口元に笑いを浮かべていると、エマは両肩を支え
られているゴグレグとマリアネラの姿が目に入った。
﹁トカゲさん!マリアネラお姉ちゃん!どうしたの!?また何かあ
ったの!?﹂
1736
2人の傍にテテテと走り寄ったエマは、2人の血に染まった格好を
見て激しく瞳を揺らす。
余程心配だったのかゴグレグにギュウと抱きつき、ゴグレグの身体
のあちこちを見回していた。
﹁私達は大丈夫だよエマ﹂
﹁ウム、問題ない﹂
そう言ってエマの頭を優しく撫でる子煩悩リザード。
エマはあからさまに安堵の表情を浮かべると、エヘヘと笑いながら
瞳に涙を浮かべていた。
﹁⋮とりあえず宿舎に帰ろうか﹂
俺の言葉に頷く一同。
俺達は魔法師団の護衛の元、宿舎に向かって歩き出す。
そして、グリモワール学院の正門に来た所で、守衛の兵士達が慌た
だしく動き回っている姿が目に入ってきた。
俺達はそれを不思議に思いながら正門をくぐると、俺達に気がつい
た守衛の兵士の1人が近寄ってきた。
﹁葵殿!お戻りになられましたか!﹂
﹁はい⋮えっと⋮何かあったのですか?﹂
兵士の慌て様に、俺が戸惑いながら問い返すと、少し落ち着きを取
り戻した兵士は
﹁⋮詳しくは、葵殿達の宿舎の方でご説明します。そちらにはメー
ティス統括理事とアルベルティーナ学院長もいらっしゃると思いま
すので﹂
そう言って俺達を宿舎に行く様に促す守衛の兵士。
俺達は戸惑いながらも宿舎に戻ると、宿舎入り口の前には、沢山の
魔法師団の兵士達が集まっていた。
1737
その中から2人の女性が俺達に気が付き近寄ってくる。
﹁葵ちゃん戻ったのね﹂
﹁メーティスさんこれは一体⋮何かあったのですか?﹂
﹁⋮とりあえず宿舎の中で話をしましょう。⋮エンディミオン光暁
魔導師団は引き続き事態の調査よ!宿舎の警護も怠らないでね﹂
メーティスの言葉に、胸に手をかざし行動に移る魔法師団の男達。
俺達はメーティス達の後を続いて宿舎に入り、寛ぎの間に集合する。
そして、皆が腰を掛けたのを確認したメーティスは俺の傍に近寄り、
1枚の手紙を俺に差し出す。
﹁これは⋮何ですかメーティスさん?﹂
手紙を受け取った俺は、手紙をマジマジと見つめながらメーティス
に問いかける。
﹁⋮その手紙は、人攫い達が置いていった物だと思うわ。手紙の封
は切ってないけどね﹂
﹁え!?人攫い達が俺に!?何の為に?﹂
俺が少し困惑している中で、メーティスは申し訳無さそうな表情を
浮かべ、言い難そうに口を開く。
﹁葵ちゃんごめんなさい⋮﹂
﹁⋮メーティスさん?﹂
﹁⋮⋮ユーダさんが⋮攫われてしまったの⋮﹂
﹁﹁﹁﹁えええ!!!﹂﹂﹂﹂
メーティスの言葉に、皆が声を上げる。
﹁ど⋮どういう事なのですかメーティスさん!?﹂
俺の戸惑う言葉に、キュッと唇を噛むメーティス。それを見ていた
アルベルティーナは深い溜め息を吐く。
1738
﹁⋮護衛していたエンディミオン光暁魔導師団やグリモワール学院
の守衛の兵士達が皆⋮眠らされてしまったのよ葵さん。その隙に⋮
ユーダさんは攫われてしまったのよ﹂
﹁ですが、エンディミオン光暁魔導師団やこのグリモワール学院の
守衛の兵士さん達は、皆が上級者。その上級者を全員眠らせるなん
て事、出来るのですか?﹂
リーゼロッテの言葉に皆が頷く。
それはそうだ。
エンディミオン光暁魔導師団やグリモワール学院の守衛の兵士達は、
マスタークラスの相手とも戦える実力者だ。
そんな人達を全員眠らせるなんて事、出来るのか?
よしんば睡眠の魔法を唱えれば、全員を眠らせるだけの威力を出そ
うとすれば、その魔力で誰かに気づかれる。
ここはグリモワール学院。統括理事のメーティスを筆頭に、優秀な
人材の宝庫でもあるのだ。
その人物達に気づかれずに、広範囲の強力な魔法など使えるはずが
ない⋮
皆がその事を考えていると、メーティスが重たい口を開く。
﹁それは⋮ユーダさんから貰った食べ物を食べたからなのよ葵ちゃ
ん﹂
﹁え!?それは⋮どういう事なのですか!?﹂
﹁⋮護衛につかせていたエンディミオン光暁魔導師団やグリモワー
ル学院の守衛の兵士達の話では、ユーダさんから貰ったお菓子を食
べて、暫くした後に眠たくなって意識を失ったと証言しているわ﹂
その言葉を聞いた俺達は一層困惑の表情を浮かべる。
﹁⋮話が見えませんわメーティスさん。ユーダさんのお菓子を食べ
1739
て眠らされたのは解りましたが、そのお菓子を食べさせた張本人が
攫われているのですから﹂
リーゼロッテの言葉に、ウンウンと頷くマルガにマルコ。
﹁リーゼロッテの言う通りね。⋮意識を取り戻した兵士達に話を聞
いた所、どうやらユーダさんはそのお菓子を、このグリモワール学
院の学徒に貰ったと言っていたらしいわ。ユーダさんは気遣いの出
来る人で、いつも護衛の魔法師団や守衛の兵士達に、お世話になっ
ているからと、色々何かを作っては差し入れをしてくれていたのよ。
そこを⋮利用されたのよ⋮﹂
そう言ってメーティスは腕を組みながら説明してくれる。
そう言えば以前にユーダさんから、お世話になっている魔法師団の
人達や守衛の人達に、少しでもお返しがしたいと、何か作って上げ
たいと俺に許可を求めていた。
俺も良く気が利くユーダさんの言葉に納得して許可を与えていた。
それを利用されたのか⋮
﹁⋮つまり、このグリモワール学院の学徒達の中に⋮例の人攫い達
と内通している者が居ると言う事なのですねメーティスさん?﹂
リーゼロッテの直球の言葉に、寂しそうに頷くメーティス。
﹁この学院は、沢山の学徒が居ます。沢山の力のある貴族の家系の
者、商家、それこそ他国の王族に至るまで、様々な人達が居ます。
その中で例の者達と繋がりのある者が居たのでしょう⋮﹂
言い難そうにそう言ったアルベルティーナ。
﹁ごめんなさい葵ちゃん。私の不注意だわ⋮﹂
﹁⋮いえ、メーティスさんのせいではありませんよ。それに俺だっ
て、ユーダさんに許可を与えていましたから⋮﹂
1740
俺の言葉に、ありがとうと小さく呟く様に言うメーティス。
﹁とりあえず、その人攫いが置いていったと思われる手紙を見ては
どうですか葵さん?﹂
﹁そうだねリーゼロッテ。開けてみるよ﹂
俺はリーゼロッテの言葉に頷き、手紙の封を切る。中には1枚の羊
皮紙が入っていた。
それを広げて内容を読み、俺の表情がみるみる曇る。
﹁⋮手紙には⋮何て書いてあるのですかご主人様?﹂
俺の曇る表情を見て、心配そうに瞳を揺らしているマルガ。
俺は手紙に書かれている内容を朗読する。
﹃⋮女は預かった。これ以上深入りするのであれば、女の命は無い
と思へ。俺達はいつでもお前達を監視している事を忘れるな﹄
その手紙の内容を聞いたマルガにマルコ、エマは、瞳を激しく揺ら
していた。
﹁非常に不味いですわね葵さん。⋮どうされますか?﹂
リーゼロッテは顎に手を当てながら何かを考えていた。
﹁⋮そうだね⋮とりあえずは、今日ルチア達がバスティーユ大監獄
の視察に入っている。今日はルチア達に会えないだろう。明日また
ハプスブルグ伯爵家の別邸で会う約束をしているから、その時に、
バスティーユ大監獄の視察での事を聞いて、この件も相談するよ。
今ジタバタしても、何も始まらないだろうしさ⋮﹂
俺の言葉に、心配そうに頷く一同。
﹁今日は色々あったから、皆ゆっくりと休んで。特にマリアネラさ
んとゴグレグさんは非道い傷を負ったのですから、メーティスさん
1741
に再度、早く治る様に上級の治癒魔法を掛けて貰って下さい﹂
﹁解ったよ葵⋮﹂
そう言って頷くマリアネラとゴグレグ。
﹁⋮ナディアも身体がまだ痛いでしょ?ナディアもゆっくりと休む
んだよ?﹂
俺の手をずっと握っていたナディアは、コクコクと小さく頷く。
﹁じゃ∼解散しようか。⋮メーティスさん、アルベルティーナ学院
長、引き続き警護の方、宜しくお願いします。それから、学徒関係
で何か解ったら、俺達にも教えて下さい﹂
﹁解ったわ葵ちゃん。警護の方は皆に厳重にするように指示を出し
ておくわ。学徒の方も、今調べさせているから、何か解ったら伝え
るわね﹂
メーティスの言葉に礼を言い、頷く俺。
そして、皆が心配そうな面持ちで解散する中、白銀キツネの子供、
甘えん坊のルナがトテテと歩いて寛ぎの間を出て行く。
いつも主人であるマルガの傍を片時も離れない甘えん坊の行動を不
思議に思い、マルガをみながらルナを指さす。
﹁えっと、最近なのですが、この学院の学徒さんの中に友達が出来
たみたいなのです。最近はいつもこの時間に、その友人に会いに行
っているのですよご主人様﹂
そう言って軽く微笑むマルガ。
まあ、普通の白銀キツネは人に慣れない事で有名だが、ルナはマル
ガと特別な関係だし、俺達にも良く懐いているから、他の人間に対
しても、警戒心が薄いのかな?
そんなことを俺が考えていると、マルコが何かを思い出したかの様
に声を出す。
1742
﹁いけね!オイラ、リーズとラルクルに、ご飯と水を上げるの忘れ
てた!ちょっと行ってくるよ!﹂
そう言って苦笑いをしながら、馬小屋に向かって小走りに走って寛
ぎの間を出て行くマルコ。
それに顔を見合わせて微笑む俺とマルガ。
俺達は明日ルチアとの面会の事を考えながら、宿舎で休養するので
あった。
寛ぎの間を出たマルコは、小走りに走りながら馬小屋に向かってい
た。
そして、もう少しで馬小屋に着く所で、トテテと歩いて行く白銀キ
ツネの子供、甘えん坊のルナの姿が目に入った。
マルコは寛ぎの間で聞いたルナの友人と言う言葉を思い出して好奇
心が湧いたのか、ルナの後をこっそりと付いていく事にした。
そして、暫く少し距離を取りながら、ルナの後をついていくと、校
舎の裏にある小さな花壇の方に歩いて行く。
その小さな花壇は校舎の裏にあるが日当たりが良く、誰かが手入れ
をしているのか、真冬に関わらず美しい花を咲かせていた。
その花壇にトテテと歩いて行くルナは、その花壇に向かって膝を折
っている1人の女性の傍に行くと、女性の足元に擦り寄る。
そんなルナに気がついた女性は、ルナを嬉しそうに抱きかかえると、
頬ずりを始める。
﹁今日も来たのかい白銀キツネ?私も会いたかったよ﹂
1743
そう言ってルナを胸に抱き、嬉しそうな声を出す女性。
﹁ほら、今日もお菓子を持ってきたからお食べ﹂
そう言って懐からお菓子を取り出すと、ルナの口元に持っていく。
ルナは嬉しそうにク∼と鳴くと、女性の手の平の上にあるお菓子を
食べ始める。
﹁こら!私の手を舐めないで!くすぐったいわよ∼!﹂
嬉しそうにそう言う女性は、ルナの頭を優しく撫でていた。
マルコはその楽しそうな光景に、隠れていた事を忘れて花壇に向か
って歩き出していた。
そして女性の背後に近寄った所で、マルコの気配に気がついた女性
がマルコに振り返る。
その時、マルコは時間が止まったかの様に固まってしまった。
その女性は年の頃はリーゼロッテと同じ位であろうか?18∼19
歳位だと解る。
腰まで伸びた薄い青紫色の独特な感じの美しいブロンドの髪は、良
く手入れされているのか、陽の光を浴びて輝いていた。
決めの細かい柔らかそうな褐色の肌、リーゼロッテの様に胸は無い
が、スラリとした印象の強いスタイル。身長も高く、恐らくだが1
72cmはあるだろう。
その独特の青紫色のブロンドの隙間から、美しい銀色の瞳を覗かせ
ていた。
女性はキツメの印象はあるが、マルガやリーゼロッテ、ルチアにも
引けを取らない位の人間族の超美少女だった。
その超美少女はマルコを見て、先程までの表情を一変させる。
﹁⋮貴方、この学院の生徒では無い様だけど⋮私に何か⋮用なのか
しら?﹂
1744
キツク睨みつける様にマルコを見つめる超美少女。
マルコはその言葉にハッと我を取り戻し、アタフタと取り乱す。
﹁あ!えっとオイラはマルコです!えっと、えっと、その白銀キツ
ネの飼い主と知り合いで、たまたま見かけたので後を着いて来ちゃ
いました!ごめんなさい!﹂
そう言って慌てながら深々と頭を下げるマルコ。
その余りにも狼狽している姿が面白かったのか、その表情を和らげ
る超美少女。
﹁⋮そう、この白銀キツネの飼い主と知り合いなんだ。やっぱり、
この白銀キツネは飼われていたのね。人に懐かない事で有名な白銀
キツネがこんなにも人に懐くなんて⋮おかしいと思ってたのよね﹂
そう言って軽く微笑む超美少女に見惚れるマルコ。
﹁でも、貴女はそのルナに好かれています!ルナは貴女の事を大切
な友達だと思ってます!﹂
﹁あらそうなの?嬉しいわ。⋮でも、まるで、この白銀キツネと話
でもしたかの様な言い方ね﹂
﹁あ⋮それは⋮その⋮﹂
マルガのレアスキルの説明の出来ないマルコは、モジモジとしなが
ら超美少女にに見蕩れていた。
そんなマルコを見て、超美少女は可笑しいのか、口に手を当てて、
クスクスと笑う。
気恥ずかしさ全開のマルコは、話をそらす様に口を開く。
﹁き⋮綺麗な花壇ですね!真冬なのに綺麗な花が咲いてるし!﹂
少し声の上ずっているマルコを見て、クスクスと笑う超美少女。
﹁それは私が丹精込めて手入れをしているからよ。この花はプリム
1745
ラっていうの。真冬でも花を咲かせる花。そして、私の名前も、こ
の花と同じ名前なの﹂
﹁そ⋮そうなの!?⋮プリムラか∼良い名前だね!﹂
少し声の上ずっているマルコの言葉を聞いたプリムラは、美しい微
笑みを湛える。
﹁⋮ありがとう。私もプリムラって名前は気に入ってるわ。私の大
切なお母様がつけてくれた名前だから。マルコって名前も良いと思
うわよ。貴方にに似合ってるわ﹂
その女神の様な微笑みを湛えるプリムラに、再度見惚れて顔を赤く
して照れているマルコ。
それを可笑しそうにクスクスと笑っているプリムラ。
﹁⋮私の顔に、何かついてるかしら?﹂
余りにもプリムラに見惚れているマルコを見て、可笑しそうに言う
プリムラ。
マルコはハッと我を取り戻し、両手をブンブンと横に振る。
﹁な⋮何もついてないよ!あ⋮余りにも綺麗だな∼って⋮思って⋮
その⋮つい⋮﹂
そう言ってモジモジしているマルコ。
﹁⋮そんな風にはっきりと言われると、嬉しいけど恥ずかしいわね﹂
嬉しそうに微笑むプリムラ。再度見惚れているマルコ。
﹁プリムラさんは綺麗だし、優しそうだから、きっとお友達とかも
多いだろうね!って⋮あれ?オイラ何言ってるんだろ!?﹂
プリムラに上がっているマルコは言葉を羅列して、何を言ってるの
か解らなくなっていた。
そんなマルコを感じたプリムラは、可笑しそうにクスクスと笑うと、
1746
瞳を少し下げ、寂しそうな顔をする。
﹁⋮私に友達なんていないわ⋮。この白銀キツネのルナが初めての
友達⋮かな?﹂
そう言って寂しそうにルナを抱きしめるプリムラ。
﹁何故?そんな事は無いと思うけど!プリムラさんなら、きっと一
杯友達が出来るとオイラは思うよ!﹂
力一杯言ったマルコを見て、フフと儚げに微笑むプリムラ。
﹁⋮色々有るのよ⋮私にもね﹂
そう言って儚げに微笑むプリムラを見たマルコは、ギュウウと握り
拳に力を入れる。
﹁ならオイラと友達になってよプリムラさん!!ルナの次の⋮2番
目の友達って事で!!!﹂
そう言って強引にプリムラの手を握るマルコ。
プリムラは突然そんな事を言い出したマルコをキョトンとして見て
いたが、マルコの真剣な眼差しを見て、フフと笑う。
﹁⋮そう、私と友達になってくれるのね﹂
﹁うん!これから友達だよプリムラさん!!!﹂
そう言ってギュッとプリムラの手を握るマルコ。
そのマルコの手の暖かさに、少し嬉しそうに表情を緩めるプリムラ。
﹁解ったわ。じゃ、改めて自己紹介ね。私はプリムラよ﹂
﹁オイラはマルコ!よろしくねプリムラさん!﹂
プリムラとマルコは握手をしながら微笑み合う。その足元では、嬉
しそうなルナが、プリムラとマルコの足に、可愛い顔をスリスリと
していた。
1747
それを見て顔を見合わせて微笑み合うプリムラとマルコ。
その時であった、優しい空気を切り裂くかの様な声が、辺りに響く。
﹁おい!プリムラ!そこで何をしている!こっちに来い!!﹂
その怒鳴り声に近い声を聞いたプリムラの表情が一瞬で強張る。
マルコはその声の方に振り向くと、そこにはかなり身なりの良い中
年の男性が立っていた。
その身なりの良い男性は、激しくマルコを睨みつけていた。
その視線に、軽くたじろいてしまうマルコ。
﹁⋮今日はここまでにしましょう。貴方もルナを連れて帰って。⋮
またね⋮マルコ﹂
﹁うん⋮またねプリムラさん﹂
そう言って、ルナをマルコの胸に強引に抱かえさせると、小走りに
身なりの良い男の元に駆けていくプリムラ。
マルコは少し戸惑いながらも、プリムラに言われた通りルナを抱か
え、宿舎に向かってトボトボと歩き出した。
そして、マルコの姿が見えなくなった事を確認した身なりの良い男
は、プリムラを強引に抱き寄せる。
﹁⋮あの少年は誰だ?﹂
低いドスの聞いた声でプリムラに言う身なりの良い男。
プリムラは俯きながら小さな声を出す。
﹁⋮さあ?この学院の作業員か何かでしょう?⋮只、道を聞かれた
だけですわ﹂
﹁⋮それなら良い。⋮お前に近づく者は⋮女だあろうが容赦はせん
からな。ましてや⋮それが男で有るなら⋮﹂
そう言って、プリムラを抱きしめる両手を、胸と尻に回す身なりの
良い男。
1748
その手はまるで、プリムラを陵辱するかの様な動きであった。
﹁や⋮やめて下さいお父様!此処は⋮グリモワール学院の中なので
すから!﹂
そう言って、身を悶えさせるプリムラを見て、ニヤッといやしい微
笑みを湛える男。
﹁⋮解っておるわ。この学院の中で、お前を抱く様な事はせん。1
5日後に帰ってきた時に⋮存分に可愛がってやるからな⋮楽しみだ
よ⋮﹂
そう言って強引にプリムラの唇を奪う男。
それに抗うプリムラを見て、卑猥な表情を浮かべる男。
﹁⋮所で、例の件は上手く行った様だなプリムラ?﹂
男の両手から逃れたプリムラは、少し険しい表情を浮かべる。
﹁⋮お父様に言われた通り、例の行商人の女の使用人に、睡眠薬入
のお菓子を渡しましたわ。その後変装したモリエンテス騎士団が、
女の使用人を箱に詰め、手はず通りに連れて行きましたわ﹂
そのプリムラの言葉を聞いた男は、満足そうにウムと頷く。
﹁いつまでもあのヒュアキントスの良いようにされてはかなわぬか
らな。私達メネンデス伯爵家の為にも、あの女を有効に使わせて貰
わねばな﹂
そう言って嘲笑う男。
﹁解っていますわお父様。私もメネンデス伯爵家の当主であるお父
様の役に立てる様にするつもりです。⋮ですから⋮お母様と⋮﹂
﹁解っておるわ!その内お前の母と合わせてやる!お前は私の言う
通りにしておけば良いのだ!﹂
1749
そう言ってプリムラの顎を強引に握る握るメネンデス伯爵。
その言葉に、キュッと唇を噛みながら、メネンデス伯爵を睨みつけ
るだけしか出来ないでいたプリムラであった。
バスティーユ大監獄の視察に入った日、俺達が襲われ、ユーダが攫
われた日の翌日、俺達は約束通り、ハプスブルグ伯爵家の別邸に足
を運んでいた。
護衛の魔法師団には別室で待っていて貰らい、案内役の後をついて
執務室に入ると、俺達に気がついたルチアが声をかけてきた。
﹁よく来たわね、そこに腰掛けて﹂
言葉少なげに言うルチアの言葉通りに、椅子に腰を降ろす俺達。
当然一緒に来ていたナディアは、俺の手を握りしめながら左側に座
る。右側にはナディアと同じ様に俺の手を握るマルガが、神妙な面
持ちでルチアを見ていた。
﹁早速ですが、昨日バスティーユ大監獄の視察をして、何かコティ
ーさん達の情報に繋がる事はありましたかルチアさん?﹂
リーゼロッテの直球の言葉に、キュッと唇を噛むルチア。
﹁⋮いえ、何も⋮発見出来なかったわ。バスティーユ大監獄を隅々
まで視察したけど⋮人攫い達が運ばれた形跡や、攫われた人達はい
なかったのよ⋮﹂
その言葉を聞いたナディアは、ギュウと俺の手を握りしめながら、
激しくルチアを睨みつけていた。
1750
﹁⋮そんな筈はない⋮確かに⋮鋼鉄馬車が⋮コティー達を攫って行
った!!!﹂
そう言って甲高い声を出すナディアを何とか宥める俺。
ナディアは瞳に涙を浮かべながら俺を見つめていた。
そのナディアの言葉を聞いて、静まり返っている執務室。その中で
何かを考えていたリーゼロッテが椅子から立ち上がる。
﹁すいませんが⋮少しの間、ルチアさんとマティアスさんをお借り
しても良いでしょうか?﹂
突然のリーゼロッテの言葉に、少し首を傾げるアリスティドとマク
シミリアン。
﹁それは良いが⋮何か私達の前では話せない事なのかね?﹂
﹁いえ、そう言う訳じゃありませんわアリスティド様。理由は聞か
ないでくれたら嬉しいのですが?﹂
リーゼロッテの言葉にフムと頷くアリスティド。
﹁⋮解った。ルチア様が了承されるのであれば、私達は構わぬよ﹂
﹁私は良いわ。⋮別の部屋を借りるわねアリスティド﹂
ルチアの言葉に頷くアリスティドは、執事に俺達を別室に案内させ
る。
俺達はリーゼロッテの言葉に困惑しながらも、執事のすぐ後ろを歩
くリーゼロッテの後に付いていく。
そして、少し離れた部屋に案内される俺達。執事は軽くお辞儀をし
て部屋から出て行った。
それを確認したリーゼロッテはマティアスに向き直る。
﹁マティアスさん、この部屋に、風の魔法で、音を遮断してくれま
せんか?﹂
﹁⋮了解した﹂
1751
リーゼロッテの言葉を聞いたマティアスは、魔法の詠唱を始める。
そして右手を部屋全体にかざすと、リーゼロッテに向き直る。
﹁これで、この部屋で話している声は、他には聞こえないでしょう﹂
﹁ありがとうございますわマティアスさん﹂
涼やかな微笑みを湛えるリーゼロッテに、ウムと頷くマティアス。
﹁⋮所でエルフちゃん、別室に移動して、しかも、風の魔法で音ま
で遮断させるなんて、余程誰かに聞かれたくない話しなのかしら?﹂
ルチアは少し流し目でリーゼロッテを見つめる。
リーゼロッテは涼やかな微笑みを湛えながら、美しい声を響かせる。
﹁⋮昨日、ユーダさんが何者かに攫われました﹂
﹁ええ!?どういう事!?﹂
リーゼロッテの言葉に困惑を隠せないルチア。
リーゼロッテは昨日の事を、ルチア達に説明して行く。説明を聞い
たルチアは、顔を歪める。
﹁そう、グリモワール学院内にも刺客を送っているのね。厄介な事
だわ!﹂
﹁その件に関しては、メーティスさんが調べてくれていますが、用
意周到な相手の事ですから、その学徒の特定に至るかどうかは解り
ません﹂
リーゼロッテの言葉に、そうねと、小さく呟くルチア。
﹁で、その事は解ったけど、なぜここに連れてきたのエルフちゃん
?﹂
ルチアの言葉に頷くマルガにマルコ。
リーゼロッテは腕組みをしながら、透き通る様な金色の瞳を向ける。
1752
﹁⋮色々と⋮おかしいところが多いと思いませんか皆さん?﹂
リーゼロッテの言葉に顔を見合わせる俺達。その中でルチアだけは
顎に手を当てて何かを考えていた。
﹁⋮色々おかしいって⋮何がなのリーゼロッテ﹂
﹁今までの事を思い出して下さい葵さん。私達がこの依頼に関わっ
てからと言うもの、いつも後手を打たされています。⋮それは⋮何
故なのでしょうか?﹂
リーゼロッテの言葉に、首を傾げるマルガにマルコ。ルチアは静か
にリーゼロッテを見つめている。
﹁⋮それは⋮相手が用意周到に動いているからではないのですかリ
ーゼロッテさん?﹂
﹁そうですねマルガさん。では⋮何故用意周到に動けるのでしょう
か?﹂
リーゼロッテの再度の質問に、可愛い首を傾げて、ウ∼ンと唸って
いるマルガ。
﹁それは⋮俺達の事を⋮どこかで監視しているからかな?﹂
マルコが疑問形でリーゼロッテに言う。
﹁しかし、感知能力の高い、マルガさんやステラさん、葵さんの目
をかい潜り、ソレを実行するのは、かなりの事。なのに相手はソレ
を事も無げに実行している様に見える。ソレは何故でしょうか?﹂
その言葉を聞いて更に悩むマルガにマルコ。その横で、腕を組みな
がら静かに話を聞いていたルチアは、軽く溜め息を吐く。
﹁⋮つまり、エルフちゃんは⋮私達の中で⋮あいつらの内通者が居
ると言いたいのね?﹂
その言葉を聞いたマルガにマルコは、驚きの声を上げる。
1753
﹁ええ!?ですが⋮私達の中に⋮そんな人は居ませんですよリーゼ
ロッテさん!?﹂
﹁そうだよ!みんな良い人だし!﹂
顔を見合わせて困惑しているマルガにマルコ。
﹁⋮そうですね。ですが、現に私達は後手をいつも取らされていま
すわ。それに、今回の突然のバスティーユ大監獄の視察をしたのに
も関わらず、何も情報は得られなかった。確かに、攫われた人達が
バスティーユ大監獄に運ばれていない可能性も有りますが、状況的
に考えて、バスティーユ大監獄で何かをしていると考えた方が辻褄
が合いますわ。それなのに、突然の視察にも関わらず、何も情報は
得られなかった。これは⋮私達の情報が漏れていると、考えた方が
良いですわ。良く今までの事を⋮思い出して下さい﹂
リーゼロッテの言葉に、俺達は今までの事を思い出す。
確かに俺達はいつも後手を取らされている。
初めて、人攫いの襲撃を受けてた時も、狙いすましたかの様に襲わ
れ、退路を絶たれている。
その後の襲撃に関してもそうだ。
いつも俺達の行動を予測した動きでやられている。まるで、聞いて
いたかの様に⋮
﹁私達が襲われる時は、決まって国軍や街を守備しているはずの兵
士達も居ませんわ。ソレは⋮どこかの誰かの指示で動かされている
のかもしれません。私達の行動を知った上で﹂
リーゼロッテの言葉に、そう言えばと顔を見合わせるマルガにマル
コ。
﹁⋮だから、私達だけで話ができる様にしたかったのねエルフちゃ
1754
ん?﹂
﹁⋮そうです。ここに居る方は、私が勝手に本当に信頼出来ると思
っている人のみですので﹂
﹁⋮エルフちゃんに掛かったら、正義の象徴で有るハプスブルグ伯
爵家も信用出来ないのね﹂
﹁そういう事ではありませんわ。しかし⋮ここに居る人以上に、信
用できるかどうかは、別なのは確かですわね﹂
そう言って涼やかな微笑みを湛えるリーゼロッテを見て、小悪魔の
ような笑みを浮かべるルチア。
そのお互いの含み笑いを見て、少しゾクッとなる俺。
﹁⋮リーゼロッテの話は解った。じゃ∼ここに居る者だけで、どう
したら良いか考えよう﹂
俺の言葉に頷く一同。
﹁⋮とりあえずは、俺達の中に内通者が居ると仮定して話をすると、
これ以上、魔法師団の護衛なしに調査するのは危険が多すぎてダメ
だって事ダよねリーゼロッテ?﹂
﹁そうですわね葵さん。魔法師団の護衛が有れば安全ですが、それ
では調査に支障が出ます。しかし護衛が無いと、今度こそ命が無い
かも知れません。それに今回は、ユーダさんの命も掛かっています。
コティーさん達の事もありますから、むやみに動けません。今度動
く時は⋮確実に、相手の情報を掴める手段が無いとダメでしょう﹂
リーゼロッテは腕を組みながら少しきつい目をする。
確かにリーゼロッテの言う通り。
俺達に内通者が居て、俺達の行動が全て知られて居るのであれば、
今度こそ命は無いであろう。
それに加えユーダさんやコティー達の命もかかっている。
確実な方法でないと、命はないであろう。
1755
﹁⋮俺に1つ案があるんだ﹂
﹁⋮どんな案なの葵?﹂
﹁⋮うん、だけど、その案には、他の皆と連絡を取れる手段がない
と、成り立たないんだ。それが問題でさ⋮﹂
俺がそう言って腕組みをしている時、窓からの陽の光に照らされた、
マルガの首元に光り輝く、母の形見であるルビーが目に入ってきた。
何気にその美しいルビーの光に見惚れていた俺は、ある事を思い出
す。
﹁⋮いける。いや⋮行けるかもしれない!!!﹂
突然声高に叫んだ俺を見て、困惑の表情を浮かべる一同。俺は皆に
向き直り、
﹁この案には⋮皆の協力が必要だ。⋮皆⋮俺を信じて⋮くれる?﹂
俺の真剣な言葉に、迷いなく頷いてくれる一同。
俺はその気持に応えるべく覚悟を決める。
﹃必ず⋮ユーダさんも、コティー達も取り戻す!﹄
俺はそう心に誓い、皆に案を語るのであった。
1756
愚者の狂想曲 51 反撃の狼煙
﹁⋮で、どんな案なの葵?私達の協力が必要なのは解ったけど﹂
ルチアの問に、俺は今考えている事を話し始める。
﹁うん、さっきも言ったけど、俺達の中に内通者が居るとして、監
視されているとすると、俺達が普通にあいつらの事を調べようとし
たら、ユーダさんやコティー達の命が危険な事と、俺達自身の身の
危険もある可能性が高いのは皆感じてると思う﹂
俺の言葉を聞いて、静かに頷く一同。
﹁だから、次に行動に移す時は、必ずコティー達やユーダさんを助
けれる方法が無いと駄目だ﹂
﹁それは解ってるわ葵。でも⋮具体的にどうするつもりなの?﹂
ルチアは腕組みをしながら、指をトントンとさせて俺を見ていた。
俺は静かに目を閉じ、そしてゆっくりとその瞳を開く。
﹁⋮やつらのアジトに潜入する。やつらのアジトに潜入して、直接
コティー達やユーダさんを救出する﹂
俺の言葉を聞いたマルガにマルコは驚きの表情を浮かべ、ルチアは
眉間に皺を寄せる。
﹁⋮確かにそれが出来れば1番よ。でも、やつらのアジトも解らな
いじゃない。1番可能性が高かったバスティーユ大監獄でさえ、隅
々まで視察したけど何も情報は得られなかったのよ?﹂
﹁それにルチアさんが言った事に加え、私達はこれ以上人攫い達の
動向を探る事は出来ませんわ。アジトの場所や情報が無い上に、ユ
1757
ーダさんやコティーさんの事もありますので、私達は行動が制限さ
れています。その上、私達は内通者により監視されている可能性が
高いのですよ葵さん?とてもじゃありませんが、今から人攫い達の
アジトを探しだして、潜入出来るだけの方法が、私には思いつきま
せんが⋮﹂
ルチアとリーゼロッテは顔を見合わせながら困惑している。
俺はそのルチアとリーゼロッテの言葉を聞き、その表情を見て口元
が上がるのを感じる。
﹁⋮確かに、一見するとリーゼロッテやルチアの言う通り、俺達は
全くの手詰まりの状態だ。まさに罠に掛かって身動きの取れない獲
物の様にね。でも、それは有る一定の条件下での話だよ﹂
﹁⋮それはどう言う事なのでしょうか葵さん?﹂
リーゼロッテが金色の透き通る様な瞳を静かに向ける。
﹁⋮まず、皆少し考えてみて欲しいんだけど、やつらは俺達の全て
を監視する事は可能なのかな?﹂
俺の言葉を聞いたマルガにマルコは顔を見合わせる。
﹁それは無理だと思うのですよご主人様﹂
﹁オイラもマルガ姉ちゃんと同じだね﹂
顔を見合わせウンウンと頷き合っているマルガにマルコ。
﹁そう無理な事だ。俺達の全てを監視するなんて事出来やしない。
例えば、今マティアスさんの風の魔法で音を遮っているこの部屋の
中での話は、今この部屋の中に居る俺達にしか解らない事だ。俺達
を監視するにも限界はあるって事の証明だ﹂
俺の言葉にコクコクと頷いているマルガにマルコ。
﹁リーゼロッテも別に正義の象徴であるハプスブルグ伯爵家全員が、
1758
内通者であると思っている訳じゃないだろ?﹂
﹁はい、勿論ですわ葵さん。私が皆さんをここに連れて来たのは先
程言った通り、完全に信用の出来る人達だからですわ。別にアリス
ティド様やマクシミリアン様が内通者で有るとは思っていません。
むしろアリスティド様やマクシミリアン様は、ルチアさんの事を大
切に思っている方だと思いますわ。ですが、ハプスブルグ伯爵家が
各方面に間者を放っているのと同様に、ハプスブルグ伯爵家の事を
調べたい者達も沢山居るはず。その者達から逆に、ハプスブルグ伯
爵家のお抱え騎士団であるヴィシェルベルジェール白雀騎士団に、
間者を放たれている可能性が高いと思ったので、この様にさせて貰
ったのです﹂
リーゼロッテの言葉に、そうねと小さく呟いているルチア。
﹁俺達の情報が知られていて1番都合の悪い事は、何かの行動を起
こした時だ。人攫い達の事を調べていた時や、バスティーユ大監獄
の突然の視察にしても、こちらの情報が漏れている事で、常に後手
を取らされてしまっている。リーゼロッテも懸念しているように、
ここにいる俺達だけなら情報が漏れる事は無いんだ。つまりここに
いる俺達や、本当に信頼出来る一部の人達のみで行動できて、この
部屋の様に監視不可能な状況を作れれば、俺達の情報が漏れる事は
無いんだよ﹂
﹁⋮確かにそれはそうだけど⋮ソレをしながらヤツラのアジトを探
しだして、アジトに潜入して彼女達を助け出す方法なんて私には解
らないわ⋮どうするつもりなの葵?﹂
少し困惑しているルチアの問に、マルガやマルコもウンウンと頷い
ている。
﹁⋮それには先ほど言った﹃有る一定の条件下﹄を利用する﹂
﹁﹃有る一定の条件下﹄とはどんな事なのですかご主人様?﹂
マルガが可愛い首を傾げてウ∼ンと唸っている。俺はマルガの頭を
1759
優しく撫でながら
﹁﹃有る一定の条件下﹄⋮つまり、俺達の隠し切れていない普段の
日常や行動の事さ。人攫いの連中は、そう言った俺達の普段の日常
や行動を監視しているのだと思う。どの様に監視しているのかは解
らないけどね。やつらはソレを元に俺達の行動を把握してる。俺は
ソレを逆に利用する﹂
俺は皆に向き直り、静かに語る。
﹁⋮俺自身をやつらに攫わせる。そしてアジトに潜入してコティー
達やユーダさんを救出する﹂
俺の言葉を聞いた一同は戸惑いの表情を浮かべる。
﹁そんな事出来るはず無いじゃない葵。ユーダさんやコティー達を
攫って私達に足枷をつけたやつらにとって、貴方を攫う理由が無い
わ。攫われる前に殺されるのがおちよ?﹂
﹁ルチアさんの言う通りですわ葵さん。人攫いの連中は葵さんだと
解った瞬間に、攫うのでは無く抹殺を選ぶでしょう。それを可能に
するには、葵さんだと相手に悟られない事が出来なければいけませ
んわ﹂
﹁エルフちゃんの言う通りね。人攫いの連中に貴方だと解らない様
にする方法が無いわ。ましてや、貴方は特徴があるもの。黒髪に黒
い瞳の取り合わせなんて、私は葵しか見た事が無いわ。それとも⋮
付け毛や変装をしたり、イリュージョン系の魔法を使って、別人に
でもなるつもりなの?でも、付け毛をして変装をしても、攫われて
調べられたら解ってしまうわ。イリュージョン系の魔法を使って別
人になったとしても、相手には感知能力の高い、高LVのサーヴェ
イランスが居るはずよ。メーティス先生の上位イリュージョン系の
魔法であるミラージュコートですら見破る程の実力者がね。葵の事
を知られない様にするなんて無理よ﹂
1760
そう言いながら腕組みをするルチア。
戦闘職業サーヴェイランス⋮
スカウトの発展形の上級職業だ。
戦闘技能は高くないが、感知能力、つまり、周辺の警戒や魔力、そ
ういったものを敏感に感じ取り、見抜く能力に特化した戦闘職業で
ある。
この世界には色々な魔法が存在し、姿を別人に変えるイリュージョ
ン系の魔法も多数存在する。
しかし、この戦闘職業のサーヴェイランスはそれを見抜く事が出来
る。
大きな商談や契約事の場面では、高LVのサーヴェイランスの同行
を求められたりする事が多い。
それは当然相手がイリュージョン系の魔法で不正を働かないかを調
べる為である。
監視者の別名を持つサーヴェイランスは、魔法の存在するこの世界
では非常に重宝されており、人気の高い職業の1つなのだ。
皆はルチアの話を聞いて、当然の様に頷き俺を見ていた。
しかし俺は皆のその雰囲気を感じ、再度口元が上がる。
﹁それについては俺に考えがあるんだ﹂
俺は皆にその対策を説明すると、マルガにマルコは顔を見合わせて
驚いている。
ナディアに至っては、何を言っているのかさっぱり解らない様で、
困惑した表情を浮かべていた。
﹁魔法も使わないで⋮そんな事が本当に出来るの葵!?﹂
ルチアは驚きの声を出しながら俺に語りかける。
静かに頷く俺を見ていたリーゼロッテは、透き通る様な金色の瞳を
1761
キラリと光らせ
﹁⋮なるほど、その手がありましたか。それならば如何に高LVの
サーヴェイランスでも見抜く事は出来ませんわね﹂
フフと楽しそうに笑うリーゼロッテ。
﹁でもご主人様、ご主人様の事を相手に悟らせない方法は解りまし
たが、どの様に人攫い達に攫わせるつもりなのですか?郊外町でそ
うさせるにも⋮﹂
そう言って言葉を濁すマルガ。
そう、通常なら郊外町で俺を攫わせる事は出来ないであろう。
その理由は、先程言った様に、高LVのサーヴェイランスが向こう
にも居る事もそうだが、もう一つの理由は、恐らくやつらに手を貸
しているであろう、郊外町ヴェッキオを実効支配しているバミュー
ダ旅団の地回りの存在だ。
郊外町ヴェッキオに根を張るバミューダ旅団達は、ヴェッキオに深
く根付いている。
それ故に、そこに住む者達の事をよく見ている。そこに住む者とそ
うでない者を見分けるのに長けているのだ。
なので本来優秀であるはずのハプスブルグ伯爵家の隠密部隊や、メ
ーティスの魔法師団達の密偵達を見抜く事が出来るのだ。
その中に溶け込もうとすれば、本当にその中で生活をして生き抜い
て体をなじませるしかないのである。
﹁そこは心配ないよ。先ほど言った通り﹃有る一定の条件下﹄を逆
手に取る。今迄ヴィシェルベルジェール白雀騎士団やエンディミオ
ン光暁魔導師団の密偵の人達は、無理に郊外町ヴェッキオに溶け込
もうとしたから失敗したんだよ。俺は他所から来た冒険者としてヴ
1762
ェッキオに潜入するつもりだ﹂
その言葉を聞いたリーゼロッテはフフと笑う。
﹁⋮なるほどですわ葵さん。他所から来た冒険者であればヴェッキ
オに馴染んでいなくても不思議じゃない﹂
﹁リーゼロッテの言う通り。しかも、人攫い達はヴェッキオに来た
ばかりの人々を攫っている傾向がある。これも理由は解らないけど、
この案には都合の良い事だ﹂
俺の言葉を聞いたマルガにマルコは、確かにと言いながら頷いてい
た。
﹁でも葵、その案は確かに有用だけど、潜入する貴方と私達がいつ
でも連絡の取れる様にしないと成り立たないわ。いくら貴方でも危
険過ぎる。相手は六貴族のお抱え騎士団と近い実力を持つメネンデ
ス伯爵家の騎士団、モリエンテス騎士団。とても貴方1人で相手に
出来る相手じゃないわ。たとえ⋮限定的にソレを超える事が出来た
としてもね。しかし、ソレは出来ない事なのは解ってるわよね葵?﹂
釘を刺す様に言うルチアは俺を静かに見つめていた。
限定的に⋮
ルチアが言っているのは俺の能力の1つである種族能力解放の事を
言っているのであろう。
ヴァンパイアの始祖の力を開放する種族能力解放⋮
しかし、俺はまだその力を完全に解放できていない。
たとえ種族能力を開放したとしても、今の俺では何千人と居るモリ
エンテス騎士団を壊滅させるなんて事は出来ないだろう。
それにやつらに俺の正体を知られれば、それこそ身の破滅に繋がり
全てが終わる。
﹁うん、解ってるよルチア。だから皆に協力して貰いたいんだ。そ
1763
れによって限定的だけど俺達は連絡と取る事が出来る様になるんだ
よ﹂
﹁そんな方法が本当にあるの?相手に攫われる⋮つまり捕まるって
事は、貴方の持っている物全てを奪われてしまう事。遠距離の連絡
方として知られているマジックアイテムである結びの水晶も持って
行けない。それどころかアイテムバッグですら持って行けないのよ
?攫われた瞬間に、貴方の持っている物は全て奪われるんだから﹂
そう言って腕組みをするルチア。
﹁普通はそうだろうね。でも、俺のやろうとしている事は特に何も
必要ないんだ﹂
﹁⋮どういう事なのでしょうかご主人様?﹂
そう言って不思議そうに俺を見つめるマルガ。
俺はマルガの頭を優しく撫でながら、マルガの白く細い首に掛かっ
ている、一級奴隷を示す赤い色の豪華なチョーカーに手を持って行
く。
マルガの首元には、母親の形見のルビーが光り輝いていた。
﹁リーゼロッテ、奴隷の主人は、どこからでも自分の所持している
奴隷を殺したり、罰を与えたり出来るんだよね?﹂
﹁⋮はい葵さん。奴隷契約がなされた時点で、奴隷の主人には﹃奴
隷からの守護﹄と﹃奴隷の殺害﹄の力が備わります。その力には魔
力は一切必要ありません。誰でも使えます。﹃奴隷からの守護﹄は
奴隷が主人に危害を加えられない効力、﹃奴隷の殺害﹄はどこから
でも言霊を唱えれば任意の奴隷を殺したり、苦しめて罰を与えたり
出来る呪い。なので奴隷にされた者は、たとえ地の果てに逃げよう
とも、主人が﹃奴隷の殺害﹄の言霊を唱えれば、殺されたり罰を与
えられるので、逃げ出したりしませんからね。それがどうかしたの
ですか葵さん?﹂
リーゼロッテは少し首を傾げながら俺に言う。
1764
その可愛さに少しドキッとなりながら、話を続ける。
﹁⋮モールス信号だよリーゼロッテ﹂
﹁もーるすしんごう?それはどんな食べ物なのですかご主人様?﹂
マルガとマルコは、また美味しいものなのかな?と、顔を見合わせ
て期待値を膨らませている。
残念ながら、モールス信号は食べれないからねマルガちゃん!
ルナも美味しそうな顔をしないように!
俺がそう心のなかでツッコミを入れていると、全てを見透かす金色
の透き通る様な瞳を輝かせるリーゼロッテ。
﹁⋮なるほど、そう言う事でしたか。確かに限定的ですが、どこか
らでも連絡を取る事が可能ですね﹂
﹁どういう事なのエルフちゃん?﹂
聞きなれない言葉を聞いたルチアは、困惑の表情を浮かべる。
リーゼロッテは訳の解っていないルチア達に説明を始める。
モールス信号。
短点と長点の組み合わせだけで構成されている単純な符号を文字化
したものだ。
音だけでなく光を代用したりして、通信、つまりコミュニケーショ
ンを取る手段の1つだ。
コイツの利点は、音が届く、光が届く等の条件さえ揃えば、他に何
も設備が無くても離れた相手とコミュニケーションが取れる点であ
ろう。
その説明を聞いたルチアは感嘆の表情を浮かべる。
﹁成る程ね。船乗りや騎士団が使う旗合図に似てるわね。私達が使
っている旗合図は、主に行動を指示するものだけだけど、それを文
字に対応させる⋮か﹂
1765
﹁そうだね。俺はその世界のどこにでも届く﹃奴隷の殺害﹄の呪い
の効果を、モールス信号に変換してマルガやリーゼロッテ達に情報
を伝えようと思っているんだ。これなら俺は何も持っていかなくて
もいいからね。俺はアイテムバッグは勿論の事、ネームプレートも
置いていくつもりだから。攫われた後で俺の所持品が奪われ様とも、
関係なく皆に情報を伝えられるからね﹂
俺はそう説明すると、マルガの可愛い頬に手を添える。
﹁⋮俺の命を⋮マルガ達に預けたい。お願い出来る?﹂
俺のその言葉を聞いたマルガは、自分の頬に添えられている俺の手
をギュッと握り締める。
﹁任せて下さいご主人様!ご主人様のお命は⋮マルガがお守りしま
す!!﹂
そう言ってライトグリーンの美しい瞳に、決意の光を満たせている
マルガ。
﹁とりあえず一度試してみてはどうですか葵さん?殺害の効力では
なく罰の効力を少し発動して、感じを見てみては?﹂
リーゼロッテの言葉に頷く俺。
俺はネームプレートに書かれている言霊をゆっくりと唱え始める。
するとマルガの一級奴隷を示す、首に付けられている赤い紋章が光
りだす。
その直後、マルガは両手を首に当てて苦しみだした。
﹁グ⋮グフウウウウ⋮﹂
呻き声を上げながら床に蹲るマルガを見て、一同の表情が一変する。
﹁葵!言霊の発動を中止して!﹂
﹁あ!うん!﹂
1766
俺はすぐさま言葉の発動を中止する。
床に蹲っていたマルガは、肩で息をして可愛い瞳に涙を浮かべてい
た。
﹁ゴホゴホ⋮﹂
﹁大丈夫マルガ!?﹂
俺はマルガを抱き寄せると、苦しかったにも関わらずに瞳に涙を浮
かべながらニコッと優しく微笑む。
﹁だ⋮大丈夫なのですご主人様!これ位へっちゃらなのですよ!﹂
そう言って握り拳を俺に見せて強がっているマルガ。
それを見たルチアは少し溜め息を吐く。
﹁⋮とにかく暫くは練習しないとダメね。合図を文字化する事も必
要でしょう葵?﹂
﹁そうだね。ルチアとマティアスさんには、他の人達に内密に連絡
や準備もして欲しい事もあるし⋮。とりあえず作戦決行まで4日と
しよう。その間に俺達もモールス信号をモノにする。じゃ∼ルチア
にして欲しい、これからの段取りを説明するよ﹂
俺はルチアに段取りを説明すると、小悪魔の様な微笑みを湛える。
﹁⋮ふうん。馬鹿な貴方にしては良く考えられているわね。⋮解っ
たわ、全て任せておいて﹂
﹁リーゼロッテには例のモノを揃えて調合して欲しい。たとえやつ
らに監視されていても、その物自体はおかしな物ではないから、悟
られる事は無いと思うから﹂
俺の言葉に頷くリーゼロッテとルチアのその微笑みに、少しゾクッ
としながら苦笑いをする。
そして俺はナディアの前に行き膝を折る。
1767
﹁⋮きっとコティー達を助けるから⋮ちょっと我慢してねナディア﹂
﹁⋮うん⋮空⋮アリガト⋮﹂
そう言ってコクコクと頷くナディアは、はちきれんばかりの涙を瞳
に貯めこんで居た。
﹁じゃ∼話も決まったしアリスティド卿達の所に戻りましょう。彼
らにもやって欲しい事がある事だしね﹂
ルチアの言葉に頷く俺達は、アリスティド達がいる執務室に戻って
行くのであった。
ルチア達とハプスブルグ伯爵家の別邸で話をして既に4日。今日は
例の作戦を決行する当日。
全ての信頼出来る人々も、それぞれに俺の指示通りに動いて準備し
てくれている事であろう。
俺達も何とか﹃奴隷の殺害﹄の呪いを用いたモールス信号もどきを
無事習得するに至っていた。
これにより如何に距離が離れていようとも、マルガやリーゼロッテ
達に情報を伝達する事が出来る。
まあ⋮俺からの一方的な情報の伝達ではあるが、それを補う段取り
はきっちりと皆に説明済みだ。
攫われているコティー達やユーダさんの事を皆が心配もしている。
この作戦できっと救い出してみせる⋮
その様な事を思いながら、準備の出来た俺達が部屋の外に出ると、
ナディアが部屋の前で立っていた。
1768
﹁どうしたのナディア?﹂
俺がナディアの傍に近寄ると、物凄い勢いでナディアは俺の胸に飛
び込んできた。
﹁グフ!﹂
余りの勢いに鳩尾をナディアの頭に強襲された俺は、むせ返りなが
らよろける。
﹁⋮空⋮コティー達をお願い⋮それから⋮空も⋮死なないで⋮無事
に⋮無事に帰ってきて﹂
そう言ったナディアは、ギュウウと俺の胸にしがみつき、瞳に涙を
浮かべる。
﹁⋮解ってるよナディア。きっとコティー達を救い出して戻ってく
るから⋮俺の言った通りに出来るね?﹂
その言葉を聞いたナディアは、嬉しそうにコクコクと可愛い首を縦
に振る。
そんなナディアの頭を優しく撫でると、ギュウと俺の胸に顔を埋め、
可愛い頭をグリグリと擦りつけていた。
そんな俺とナディアを見て、顔を見合わせて微笑んでいるマルガに
リーゼロッテ。
﹁⋮じゃ、行ってくるねナディア。マルガにリーゼロッテ。ステラ、
ミーア、シノンにも言ってあるけど⋮後の事⋮頼むね﹂
﹁ハイ!任せてくださいですご主人様!﹂
﹁全て段取り良くこなしてみせますわ葵さん﹂
そう言うマルガにリーゼロッテは俺の腕にそっと顔を寄せる。
俺はマルガとリーゼロッテの柔らかい頬に軽く口づけをする。
﹁じゃ行こう!﹂
1769
俺の言葉に頷くマルガにリーゼロッテ。
俺はナディアの手を引きながら1階の食堂に降りると、先に朝食を
食べていたマリアネラが声をかけてきた。
﹁おはよう葵。今日から港町パージロレンツォのバルテルミー侯爵
家に向かうんだよね。⋮何か対策をとれれば良いのだけどね﹂
﹁⋮ええ、そうですね。その対策を考える為に、一度この王都ラー
ゼンシュルトを離れるのです。⋮俺が戻る間、皆の事宜しくお願い
しますねマリアネラさん﹂
﹁解ってるよ葵。葵が帰ってくるまでの間、私も皆の警護に当たる
からさ。⋮ヤツラの件は任せるから、安心して港町パージロレンツ
ォに行って来な﹂
そう言って微笑んでくれるマリアネラ。
隣でマリアネラの言葉に頷いているゴグレグは、膝の上ではしゃい
でいるエマの頭を撫でていた。
﹁葵様、今日は朝食はどうされますか?﹂
﹁あ、今日は朝食はいらないよステラ。すぐに出発して港町パージ
ロレンツォに向かう高速魔法船の中で食べる予定だから。⋮ステラ、
後の事頼むね﹂
俺の言葉を聞いたステラはハイと小さく返事をする。その後ろでミ
ーアとシノンもコクッと頷いていた。
﹁じゃ、皆行ってくるよ﹂
俺は皆にそう告げると、唯一人宿舎の玄関に向かって歩き出した。
そして宿舎の外に出た所で、一人の美女が俺に声をかけてきた。
﹁あら意外と早いのね葵ちゃん。愛しい奴隷ちゃん達としばしのお
別れに時間が掛かると思ったのだけど?﹂
そう言って少し楽しそうな表情を浮かべているメーティス。
1770
﹁⋮大丈夫です!﹂
﹁⋮本当に?﹂
﹁⋮多分⋮﹂
俺のか弱い返事を聞いて、フフフと悪戯っぽく笑うメーティス。
﹁とりあえず船着場に向かいましょう。途中の停泊地であるディッ
クルの町までは、私も護衛として同行してあげれるから。後は私の
魔法師団の小隊が、港町パージロレンツォのバルテルミー侯爵家ま
で護衛するから。さあ、馬車に乗りましょう﹂
そう言って俺の手を引くメーティス。
俺はメーティスに手を引かれながら、用意してくれた馬車に乗り込
む。
俺とメーティスが乗り込んだ馬車は、魔法師団に四方を護衛されな
がら船着場に向かって進み出す。
メーティスと他愛のない会話をしながら馬車に乗っていると、船着
場に到着した。
俺とメーティスは馬車から降り外に出ると、メーティスが俺にフー
ド付きのマントを掛けてくれる。
そのフード付きマントは、頭をすっぽりと覆い、口元を隠せるタイ
プのマントであった。
﹁そのマントは防寒具として使う物だけど、この件に丁度良い品物
でしょう?﹂
﹁⋮そうですね﹂
メーティスの含み笑いを見て、フフと微笑む俺。
﹁さあそれじゃ高速魔法船に乗り込みましょうか﹂
メーティスの言葉に頷き、俺達一行は高速魔法船に乗り込む。
そして、甲板に降り立った所で、出航の法螺貝が辺りに鳴り響き、
1771
徐々に速度を上げて桟橋を離れていく高速魔法船。
俺は甲板から離れていく王都を横目にしながら、用意してくれてい
る部屋に向かう事にした。
俺達が部屋の前まで来ると、メーティスがお供の魔法師団に声を掛
ける。
﹁貴方達は部屋の外で警護していて頂戴。他の者達も、高速魔法船
の船内をくまなく警護する様に伝えておいて。⋮不審な者や敵が居
たなら⋮容赦する必要はないわ﹂
メーティスの指示に、胸に手をかざし返事をする魔法師団の男。
俺とメーティスはそれに頷くと、部屋の中に入っていく。
﹁⋮メーティスさんお願いします﹂
﹁解ってるわ葵ちゃん﹂
そう言って妖艶な微笑みを湛えるメーティスは右手を上げる。
するとその掌から、黄緑色の光が溢れ、部屋全体を包み込んだ。
﹁これで大丈夫よ葵ちゃん。この部屋の中の声は外には聞こえない
わ﹂
﹁ありがとうございますメーティスさん﹂
俺がメーティスに礼を言うとフフと微笑むメーティス。
﹁これで自由に話せるのね。全く⋮色々と苦労したわ﹂
俺はその少し憂鬱そうな声のする方に視線を向けると、屈託の無い
微笑みを向けてくれる美女が居た。
﹁⋮リューディアさん突然無理を言ってすいませんでしたね﹂
﹁本当ね。エマから手紙を貰って内容を見て、ギルゴマ師匠と大急
ぎで手配したんだから﹂
そう言って苦笑いをするリューディア。
1772
この高速魔法船は、リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店が所
有する船なのだ。
俺は誰にも内緒と言う約束で、エマにヴァロフの手紙を持っていく
ついでに、ギルゴマとリューディアに手紙を書いて渡して貰ってい
たのだ。
俺からの手紙をギルゴマに渡したエマは、﹁きちんと渡したよ葵お
兄ちゃん!エマ誰にも言ってないし偉いでしょ!﹂と、ちっちゃな
両手を腰に当てて、マルガの様にエッヘンしていたのには笑ったけ
ど。
﹁⋮まあ、この魔法船で取引予定だったのを取りやめた損害は、ル
チア王女様が全額負担してくれるってお墨付きだったから、すぐに
手配出来たのだけどね﹂
﹁色々無理を言ってすいませんでしたねリューディアさん﹂
苦笑いしている俺を見て、楽しそうにワシャワシャと俺の頭を撫で
る。
﹁⋮弟弟子の頼みだもの、聞かない訳にはいかないでしょう?⋮葵
からの手紙に書いてあった通り、全て段取りを整えてあるわ。⋮も
う出てきても良いわよ﹂
リューディアは部屋の片隅に向き直りながらそう言うと、部屋の隅
に置かれていた木箱がゴソゴソと動き出し、その蓋が内側から開か
れる。
﹁プハ∼∼∼!!流石に長時間この箱の中に居るのは疲れますね﹂
ゲンナリとした声を出す少年。
その少年を見て楽しそうに笑うメーティス。
﹁確かに疲れそうねカミーユ﹂
1773
﹁ええ!だって、リスボン商会からずっとこの箱の中に居ましたか
らね﹂
そう言って苦笑いをするカミーユ。
﹁これで、ここでの役者は全て揃ったわね。葵ちゃんとカミーユは
此処で容姿を変えて入れ替わり、カミーユはこのまま葵として港町
パージロレンツォのバルテルミー侯爵家の屋敷に、葵ちゃんはこの
箱に入って、途中の停泊地であるディックルの町で、リスボン商会
が所有する別の商船で王都に戻る。これで良いのよね?﹂
﹁ええ、それで良いですね﹂
メーティスの言葉に頷く俺。
そう、俺はエマに渡した手紙にで、ギルゴマとリューディアにして
欲しい事を書いていた。
ギルゴマとリューディアは手際よくすぐに段取りを取ってくれたの
だ。
俺は此処でカミーユと入れ替わり、王都に戻って郊外町ヴェッキオ
に向かわねばならないからだ。
俺と入れ替わる人物はルチアが推薦してくれた。
バルテルミー侯爵家と同じ派閥で、親交も深く、信頼出来るフェヴ
ァン伯爵家のカミーユは、俺より歳下だけど、身長は同じくらい有
り、体つきもよく似ている。
今回の案にはもってこいの人物だった。
﹁とりあえずは途中の停泊地であるディックルの町に就く前に、俺
の容姿を変えたいと思います。リューディアさん例の物は⋮﹂
﹁ああ、リーゼロッテからきちんと届けられてるよ﹂
そう言って箱を取り出すリューディア。
俺はその箱の中に入っている物を取り出す。それを興味深げに見つ
める一同。
1774
﹁この瓶に詰まった液体で⋮魔法も使わずに⋮自由に髪の毛の色と
眉の色を変化させられるの葵ちゃん?﹂
﹁ええ、リーゼロッテが俺の指示通りに調合してくれた⋮このブリ
ーチもどきならね﹂
そう言って瓶を手に取る俺。
そう、俺はリーゼロッテに髪の毛と眉を脱色する為に、ブリーチも
どきを作らせていたのだ。
当然、地球で売っている様な、化学薬品を使った本物のブリーチで
はない。
この世界で1番強いと言われているお酒、洋服を洗う時に使ってい
る天然の洗剤、わら半紙を作る時に使っている草木灰の上澄み液を
濃縮した物⋮
特に、漂白効果の高い物を、リーゼロッテの調合スキルを使って作
って貰ったものだ。
当然どれが俺の髪の毛を1番脱色するか解らなかったので、複数用
意した。
﹁ではメーティスさん、俺の説明通りにしてくれますか?﹂
そう言ってメーティスに説明を始める。
メーティスは複数の便に入っている液体を俺の髪の毛と眉につけて
は、火と風の混合魔法で、俺に火傷を負わせない位で髪の毛と眉に
あてだす。魔法を使った高温のドライヤーだ。
俺は次々と瓶に入った液体を髪の毛につけては、メーティスの魔法
で髪の毛を温める。
それをかなりの時間繰り返えす。
当然、頭皮や髪の毛、体の事を全く考えていない物ばかりなので、
俺の頭皮や皮膚は、激しい痛みを感じる。
それに我慢しながら、6刻︵6時間︶位、それを繰り返した所で、
1775
俺の黒かった日本人特有の黒髪は、薄汚れた、昔のヤンキー?の人
達の様な、かなり汚いマッキンキンの金髪に染まっていた。
﹁⋮本当にこんな方法で⋮髪の毛の色が変わるのね。あんなに黒か
った葵の髪の毛が、今では見るも無残な⋮金髪に⋮﹂
そう言って、プププと笑いを堪えているメーティス。
﹁⋮楽しそうですねメーティスさん﹂
﹁そうね、こんな長い時間付き合わされたのだもの。それくらいは
⋮ね?﹂
そう言って笑うメーティスに呆れている俺。
﹁しかし、見事に色が変わったね葵。じゃ∼葵に言われて用意をし
た物を装備してみてよ﹂
そう言って俺に木箱を差し出すリューディア。
俺は木箱に入っている物を、次々と装備していく。
穴の開きかけた服に、古びて汚れた革の鎧のセット。
腰には使い込まれて刃こぼれのしている短剣をつけ、ボロボロの眼
帯をつける。
そこには、薄汚れた格好をした、汚い金髪のぱっとしない日本人?
の冒険者が居たが居た。
﹁⋮もう誰って感じだよ葵。その格好で真横を通られたって、葵だ
と気が付かないよ⋮﹂
﹁⋮そうですね⋮もう⋮郊外町に沢山居る冒険者にしか見えません
⋮﹂
そう言って感心したかの様な、呆れたかの様な声を出すリューディ
アとカミーユ。
その横で椅子に座り、口元を抑えて足をジタバタとさせながら、必
1776
死に笑い声を堪えて笑っているメーティス。
﹁⋮メーティスさんすごく楽しそうですね⋮﹂
﹁⋮そうね、もう誰?どこの人?って感じが⋮﹂
そう言って声を出して笑うメーティス。
暫くして生まれ変わった?俺に慣れてきたのか、皆が落ち着きを取
り戻す。
﹁カミーユは墨で髪の毛に色を付けて、メーティスさんが用意して
くれた、フード付きマントを被ってくれ。そのマントは目元しか見
えない。目元付近に墨で染めた黒い髪の毛を少し出しておけば、俺
と見分けはつかないよ。瞳の色を悟られないように、常に髪の毛で
瞳を隠すように俯いていればね﹂
俺の言葉に頷くカミーユはリューディアに髪の毛に墨をつけて黒く
してもらっていた。
﹁⋮まあ面白いやり方だけど、確かにやつらの気をそらす事が出来
るわね葵ちゃん﹂
﹁ええ、やつらは俺の特徴として1番目印にしているのが、黒髪に
黒い瞳ですからね﹂
そう言って苦笑いする俺。
俺は特に目立たない容姿をしているのを知っている。
ヒュアキントスの様に絶世の美男子でもなければ、マティアスの様
に身長が高いわけでもない。
唯一のこの世界の俺の目立つポイントは、黒髪に黒い瞳のみ。
それを変えれるのであれば、少し服装を変えるだけで、特徴を掴ま
れにくい。
﹁確かに、魔法を使ったイリュージョン系の魔法なら、私のミラー
1777
ジュコート同様に、高LVのサーヴェイランスに見破られるけど、
この方法なら⋮﹂
﹁ええ、その通りです。やつらはこんな方法で見た目を変えれる術
を知りません。なので、容姿が変わっていたら、まず魔法を疑うの
です。ですが如何に高LVのサーヴェイランスでも、俺の容姿が変
わったのを、見破る事は出来ません﹂
﹁そして、見破れなかったサーヴェイランスは、葵だと認識出来な
い⋮か﹂
そう言ってフフと笑うリューディア。
﹁まあ、余程な事がない限り俺だと解らないのは、皆が感じて貰っ
てますからね。後は俺の演技力がどこまでの物かですね﹂
そう言って苦笑いをする俺を見て、笑っている一同。
﹁ところで、この案は、宿舎の人全て知っているのかい葵?﹂
﹁⋮いえ、宿舎で知っているのは⋮俺の奴隷達とマルコのみですね。
他の人には⋮違う事を説明しています﹂
﹁⋮成る程ね、敵を欺くには⋮まず味方からって所かい?﹂
﹁後で謝ろうとも思っていますけどね﹂
そう言って儚く微笑む俺の頭を優しく撫でるリューディア。
﹁じゃそろそろ途中の停泊地であるディックルの町に就くわ。皆準
備しましょうか﹂
リューディアの声に頷く俺達。
こうして俺達の行動は密かに始まりを告げるのであった。
1778
此処は豪華な屋敷の一室。
その柔らかのソファーに座る美青年に、優しく語りかける燃えるよ
うな髪の毛をした青年。
﹁どうやら葵は王都を離れ、港町パージロレンツォのバルテルミー
侯爵家の館に向かったらしいよヒュアキントス﹂
その言葉を聞いたヒュアキントスは、眉をピクッと動かす。
﹁⋮今この時に⋮港町パージロレンツォのバルテルミー侯爵家の館
⋮ね﹂
そう言って何かを考えているヒュアキントス。
﹁ついでに報告すると、他の宿舎の者達は、いつも通りの日常を送
っているそうだ。異常はないと報告を受けているよ﹂
アポローンの言葉を聞いて、フムと頷くヒュアキントス。
﹁港町パージロレンツォのバルテルミー侯爵家の館にも監視をつけ
てくれ。何か有れば、連絡用の水晶ですぐに報告するように伝えて
くれるかい?﹂
ヒュアキントスの言葉に頷くアポローンは、浮かない顔をしている
ヒュアキントスの事が気になった。
﹁どうしたんだいヒュアキントス?君らしくもない﹂
﹁⋮いや、少し気になってね﹂
﹁それはあの葵の事かい?﹂
アポローンのその言葉に、フッと笑うヒュアキントス。
﹁⋮ルチア王女や、ハプスブルグ家の動向はどう
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