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九州大学大学院農学研究院作物学研究室
環境ストレス下の食糧・エネルギー増産を目指した「作物学」研究
はじめに
2011 年 10 月末に世界人口は 70 億人を超え、2030 年には 80 億人を突破すると予測されて
います。それに伴う食糧危機と開発途上国の飢餓問題、また逼迫する化石燃料エネルギーの
供給不足は極めてグローバルな課題です。一方で、地球レベルでの気温の上昇や乾燥、豪雨、
塩類蓄積など、著しい環境変動が起こっています。2012 年 6 月から 8 月にかけて、米国では歴
史的旱魃が起こり、トウモロコシやダイズが深刻な被害を受け、米国に輸入を頼るわが国への影
響も大きく、環境劣化に適応した作物の収量増大は喫緊の問題です。日本でも、2011 年産の
水稲の収量において、病害や虫害を含めた全被害のうち気象要因による被害は 68%を占めま
した。
作物学研究室では、イネ、ムギ、ダイズ、ササゲ、トマト、トウゴマなどの作物を対象として、環
境(温度、水、塩、風、光)ストレス適応・子実肥大・物質蓄積メカニズムを調べることにより、作物
増収やストレス耐性作物の作出と栽培技術の画期的な改良を目的としています。
研究内容
1) イネ:高温による子実の品質低下の抑制、ケイ酸蓄積
‘コシヒカリ’を親にもつ‘ヒノヒカリ’は、登録されて 20 年以上が経ち、九州でもっとも広く栽培
されている良食味品種です。しかし、福岡県で 2001 年に 61%を示した一等米比率は、2010 年
では 16%まで落ち込み、地球温暖化の影響を大きく受けています。水稲の出穂後 14 日間の平
均気温が 27℃以上で白未熟粒の発生を招き、これが品質低下に繋がることが知られています。
高温耐性品種として新たに福岡県で育成された‘ちくし 64 号’の温度特性を明らかにするため、
‘ヒノヒカリ’ と国で育成した’にこまる’を比較対象としました。出穂後 30℃で栽培した区では、
25℃区と比較して‘ヒノヒカリ’では、開花後 14 日まで乾物量の増加が促進され、水の分子動態
の指標である 1H- NMR 緩
和時間が低下し、糖の輸送
経路として働く子実の珠心
表皮が退化していました。
一方、‘ちくし 64 号’と‘にこ
まる’では、高温による影響
は小さく、珠心表皮も健全
なままでした。収量調査の
結果、30℃区における白未
熟粒発生割合は、‘にこま
る’と‘ちくし 64 号’でいずれ
1
も 4%、‘ヒノヒカリ’で 22%を示し、前者には高温耐性が認められました。社会人(福岡県職員)博
士が本成果をまとめて論文を発表した 2009 年に、‘ちくし 64 号’は‘元気つくし’として福岡県で
準奨励品種として採用されました。
さらに、糖転流への高温の影響についてスクロース輸送体(OsSUT1)・デンプン合成系遺伝子
の発現を‘ヒノヒカリ’、’元気つくし‘等を用いて解析しています。コメのデンプンは、葉での光合
成産物であるショ糖が子実へ輸送されることにより蓄積しますが、’ヒノヒカリ‘の子実や葉の細胞
膜に存在するショ糖輸送トランスポーター(OsSUT1)やデンプン合成系遺伝子の発現レベルが
開花後 14 日以内で高温により著しく発現が抑制されました。このことが、高温下での糖転流の
変動が胚乳品質低下に繋がることを明らかにしました。現在、出穂前後の高温処理が与える影
響について、登熟期の籾胚乳の水分動態である NMR 緩和時間 T1,T2 についても、調べている
ところです。以上のことから、登熟期の高温による品質低下を回避できる品種では、登熟初期の
籾水分低下や 1H-NMR 緩和時間の減少が緩やかであることが示され、同化産物の緩やかな蓄
積に伴い、乳熟期から糊熟期への正常な発達が起こっていると考えられます。
また、イネの乾燥耐性やストレス耐性に及ぼすケイ酸の効果について、調べました。低ケイ酸
蓄積品種である‘オオチカラ’とその変異体 lsi1 と‘ヒノヒカリ’を用いてクリスタルバイオレッドラク
トン染色と X 線散乱顕微鏡によ
りケイ酸蓄積量の空間的分布
を解析しました。その結果、ケイ
酸蓄積に関わらず、ケイ酸イオ
ンがシグナルとなって成長と光
合成を促進する効果があること
を明らかにしました。
今後、栽培技術の改善と分子
生物学的なアプローチを組み
合わせて、高温耐性や環境スト
レスに適応した水稲品種の育
成を目指しています。
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Phan T., Ishibashi Y., Miyazaki M., Tran T.H., Okamura K., Tanaka S., Nakamura J., Yuasa
T., Iwaya-Inoue M. (2012) “High temperature-induced repression of the rice sucrose
transporter (OsSUT1) and starch synthesis-related genes in sink and source organs at milky
ripening stage causes chalky grains”, Journal of Agronomy and Crop Science, in press.
Miyazaki M., Ito Y., Nong TH., Ishibashi Y., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2012) Effects of
temperature treatments for rice plants before/after heading stages on water status of
ripening seeds. Cryobiology and Cryotechnology, Vol. 58, p173-178.
Miyazaki M., Araki M., Okamura K., Ishibashi Y., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2012) Sugar
transport in stems of heat tolerant rice cultivar ”Genkitsukushi” functions more effectively
for maintaining high level of kernel quality. Proceeding of 7th International Joint
Symposium between Japan and Korea 2012 Vol. 9, p199-202.
Isa M., Bai S., Yokoyama T., Ma J.F, Ishibashi Y., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2010)
“Silicon enhances growth independent of silica deposition in a low-silica rice mutant, lsi1”,
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Plant and Soil, Vol. 331, p361-375.
Tanaka K., Onishi R., Miyazaki M., Ishibashi Y., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2009)
“Changes in NMR relaxation times of rice grains, kernel quality and physicochemical
properties”, Plant Production Science, Vol. 12, p185-192.
Phan T., Yuasa T., Okuda M., Tanaka S., Kurauchi E., Koda Y., Fujio T., Ishibashi Y.,
Iwaya-Inoue M. (2009) “Expression of chaperone-related genes in rice seedling under
abiotic stresses”, Proceeding of the 6th International Joint Symposium between Japan
and Korea 2009, Vol. 6, p516-519.
Funaba, M., Ishibashi, Y., Molla, AH, Iwanami K. and Iwaya-Inoue, M. (2006) Influence of
low/high temperature on water status on developing and maturing rice grains.,Plant Prod.
Sci.,Vol. 9 No. 4:347-354.
2) コムギ、オオムギ、ダイズ:発芽・休眠制御
発芽機構の研究は、作物栽培だけでなく醸造業にも直接関わってくる重要な課題です。ムギ
類の収穫期が梅雨と重なり、これにより引き起こされる「穂発芽」現象は、胚乳のデンプンが分解
され粉質の著しい低下を導きます。2011 年では、福岡県北部におけるオオムギの穂発芽発生
率は 82%に達し、多くの子実が規格外になり深刻な被害を受けました。
まず、穂発芽耐性品種である’農林 61 号‘は、穂発芽性しやすい’シロガネコムギ‘に比べて、
子実の含水率には差がみられませんが、自由水を消失する期間が 2 週間短いことを明らかにし
ました。さらに、穂発芽抑制には、活性酸素種(ROS)に拮抗的に働くアスコルビン酸(ビタミン
C)処理が顕著な効果を挙げることを示し、’農林 61 号‘は、'シロガネコムギ’に比べて、ROS の
一種である過酸化水素を分解するカタラーゼの誘導が顕著であることを突き止めました。
さらに、オオムギアリューロン細胞において ROS はデンプン分解酵素である α-アミラーゼの発
現を促進するのに対し、抗酸化剤はその発現を抑制しました。ROS は GA シグナルを負に制御
している Slender タンパク質 (DELLA リプレッサー) の分解には影響しないのに対して、その下
流で α-アミラーゼの発現誘導に働く GAMyb の発現を増加させました。さらに、ROS による
GAMyb の発現誘導は、ABA 応答性タンパク質リン酸酵素 (PKABA) の制御によることを突き
止めました。以上の結果から、
オオムギ子実において GA 応
答性 ROS が、GAMyb と PKABA
の転写調節を介して α-アミラー
ゼを誘導して発芽を調節してい
ることを明らかにしました。また、
ダイズでは、発芽におけるエチ
レン生成と ROS の作用との密
接な関係についても明らかにし
ました。本成果は、シグナル物
質としての ROS を利用した
作物栽培だけでなく、効率の
よい醸造への応用へも繋がっ
3
ていくものと期待されます。
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Ishibashi, Y., Tawaratsumida, T., Kondo, K., Kasa, S., Sakamoto, M., Aoki, N., Zheng,
SH., Yuasa, T., Iwaya-Inoue, M. (2012) “Reactive oxygen species are involved in
gibberellin abscisic acid signaling in barley aleurone cells”, Plant Physiology, Vol. 158,
No. 4, p1705-1714.
Ishibashi Y., Koda Y., SH. Zheng SH., Yuasa Y., Iwaya-Inoue M. (2012) Regulation of
soybean seed germination through ethylene production in response to reactive oxygen
species, Annals of Botany, in press
Tanaka M., Ishibashi, Y., Yuasa, T., Iwaya-Inoue, M. (2011) “Analysis of pre-harvest
sprouting during seed maturation using 1H-NMR”, Tanaka, M., Cryobiology and
Cryotechnology, Vol. 57, p87-92.
Ishibashi Y., Tawaratsumida T., Zheng S.H. Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2010) “NADPH
oxidases act as key enzyme on germination and seedling growth in barley (Hordeum
vulgare L.)” , Plant Production Science, Vol. 13, p 45-52.
Ishibashi Y., Yamamoto K., Tawaratsumida T., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2008) “Hydrogen
peroxide scavenging regulates germination ability during wheat (Triticum aestivum L.) seed
maturation”, Plant Signaling and Behavior, Vol. 3, p1-6.
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3) ダイズ、トウゴマ:脂質含量の向上
ダイズの子実には脂質、タンパク質、デンプンが含まれていますが、油脂含有量(約 20%)
の向上および機能性脂肪酸の増大やトランス脂肪酸の低減など高付加価値のダイズ品種育
成が急務となっています。また、食糧と競合しないトウゴマ(トウダイグサ科)子実は、非常に高
い粘性をもつリ脂肪酸のシノール酸を約 90%含み、ヒマシ油として高品質の潤滑油の原料に
利用されています。
そこで、トウゴマとダイズの子実特異的油脂の合成調節メカニズムとして、脂肪酸合成酵素遺
伝子とそれらの発現をマスター調節する転写因子 WRI1 が複数の分子種として存在することを
示しました。子実特異的に発現する WRI1 分子種を同定し、さらに、脂肪酸合成系遺伝子のプ
ロモーター領域に WRI1 が結合する AW-ボックスが存在することを示しました。種子発生関連
転写因子と油脂合成系酵素に対する特異的抗体を用いた免疫化学的解析と mRNA 発現レ
ベルの解析から、トウゴマの種子特異的な油脂合成調節メカニズムを明らかにしました。また、
登熟期に高温に曝されたダイ
ズ子実の油脂含有率が増加し、
これは子実肥大期の高温により
子実のサイズが小さくなることが
一因であることがわかりました。
現在、トウゴマやダイズの異なる
器官特異的に発現する WRI1
分子種のうち子実の油脂合成
に最も寄与する WRI1 候補を同
定しており、現在、油脂生産量
を増大するトウゴマやダイズの
分子育種を進めているところで
す。
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Tajima D., Ishibashi Y., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2012) Analysis of GmWRI1 regulating
fatty acid synthetic genes during soybean development. Proceeding of 7th International
Joint Symposium between Japan and Korea 2012, Vol. 9, p198.
Tajima D., Yuasa T., Ishibashi Y., Iwaya-Inoue M. (2012) Expression analysis of soybean
WRI1 homologs regulating fatty acid synthesis at the reproductive stage. Plant and Cell
Physiology, Supplement, Vol. 53. PL051(0811).
Yuasa T., Ito Y., Kaneko A., Sakamoto M., Tajima D., Hue NT., Harano K., Miyazaki M.,
Ishibashi Y., Iwaya-Inoue M. (2012) Transcriptional factors regulating expression of seed
storage oil synthesis in castor bean. Proceeding of 25th Plant Lipid Science Symposium
2012, Vol. 25, p19.
4) ササゲ、ダイズ:乾燥耐性の解析、オートファジーの制御
ササゲは、サハラ砂漠南部のサヘル地域のナイジェリアやニジェールなどで栽培され、その
子実は貴重なタンパク源となっています。子実肥大期に乾燥ストレスを受けるとダイズは、著し
い減収を招きますが、同じマメ科でアフリカ原産のササゲは影響を受けません。まず、乾燥スト
レス下のササゲの子実の糖や窒素の動態について調べたところ、これらの物質は子実に正常
に蓄積していることが明らかとなりました。乾燥ストレスにより、葉は黄化し、その窒素含量は顕著
に減少する一方で、子実の成熟は促進され正常に発達しました。このとき、葉内の窒素(主に葉
緑素の分解産物)が子実に転流していることが示されました。ササゲは、開花後の短期間で花
柄が約 30cm まで伸長する特徴をも
ちますが、乾燥ストレスにより花柄の
窒素含量が著しく増加することを明
らかにしました。糖の動態について
も、葉、花柄、子実間の窒素動態と
ほぼ同じような傾向が得られました。
以上のことから、ササゲは花柄を単
なる子実への養分の輸送経路とし
てではなく、養分貯蔵器官として発
達させることにより、乾燥に適応し
得る代謝機構を構築したと考えるこ
とができます。
また、細胞の生体膜に存在し、水分子の通り道(水チャンネル)であるアクアポリンというタンパ
ク質についても着目しています。ササゲ子実では、乾燥ストレスによりアクアポリンの一種である
PIP1, γ-TIP が早期に発現することやリン酸化が関与することを明らかにしました。また、ササゲ
の水分ストレス応答シグナルに関与する CBL 結合キナーゼ遺伝子(VuCIPK1)をクローニングし
て諸性質を明らかにしました。
一方、乾燥耐性をもたないダイズの乾燥耐性賦与には、葉に活性酸素(ROS)処理することが
効果的であることがわかりました。この処理により、葉のガラクチノールおよびミオイノシトール含
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量が増大し、光合成速度や水ポテンシャルの低下を抑制することを明らかにしました。これは、
ROS 処理によりガラクチノール合成酵素遺伝子が誘導され、ガラクチノールが浸透圧調節物質
として機能し、植物体の乾燥ストレス耐性に寄与することを示しています。また登熟期のダイズの
葉の老化は、エチレンが引き金となり、糖シグナルに応答してオートファジーが誘導されることを
明らかにしました。一方、子実が未熟のままで緑葉を維持するダイズの青立ち現象では、シンク
能力の低下がオートファジーを抑制していることを示しました。即ち、子実肥大期のダイズでは
タンパク質分解系(オートファジー)が誘導されます。細胞内タンパク質を液胞に取り込む小胞
(オートファゴソーム)の形成に関与する GmATG8c と GmATG8i が一過的に発現して葉の急激な
老化とチッ素栄養転流が誘導され、子実では両遺伝子の発現が低下してオートファジーが抑制
されました。摘葉実験から、シンク・ソースバランスを介した葉におけるオートファジーを制御する
栄養シグナルの変化により、青立ちを引き起こしていることが示唆されました。 ササゲの特異的
な乾燥耐性機構を明らかにすることで、乾燥下でも収量の落ちないダイズの分子育種を目指し
ています。
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Sakamoto T., Hashiguchi Y., Kurauchi E., Imamura M., Ishibashi Y., Muranaka S., Yuasa T.,
Iwaya-Inoue M. (2012) “Causative factors of decreasing flower number in cowpea under
drought stress during flowering stage”, Cryobiology and Cryotechnology, Vol. 58, p81-85.
Nang M.P.S.H., Yuasa T., Tanigwa H., Ishibashi Y., Okuda M., Zheng S.H., Iwaya-Inoue
M. (2011) “Leaf senescence of soybean at reproductive stage is associated with induction
of autophagy-related genes, GmATG8c, GmATG8i and GmATG4”, Plant Production
Science, Vol. 14, p141-147.
Ishibashi Y., Yamaguchi H., Yuasa T., Iwaya-Inoue M., Arima S., Zheng S.H. (2011)
“Hydrogen peroxide spraying alleviates drought stress in soybean plants”, Journal of Plant
Physiology, Vol. 168, p1562-1567.
Okuda M., Nang M.P.S.H., Oshima K., Ishibashi Y., Zheng SH., Yuasa T., Iwaya-Inoue
M. (2011) “Ethylene signal mediates induction of GmATG8i in soybean plants under
starvation stress”, Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, Vol. 75, p1408-1412.
Nang M.P.S.H., Tanigawa H., Ishibashi Y., Zheng S.H., Yuasa T., Iwaya-Inoue M. (2009)
“Nutrient starvation differentially regulates GmATG8i in soybean seedlings”, Plant
Biotechnology, Vol. 26, p317-326.
Imamura M., Yuasa T., Takahashi T., Nakamura N., Nang M.P.S.H., Zheng S.H.,
Shimazaki K.I., Iwaya-Inoue M. (2008) “Isolation and characterization of a cDNA coding
cowpea (Vigna unguiculata (L.) Walp.)calcineurin B-like protein interacting protein
kinase, VuCIPK1”, Plant Biotechnology, Vol. 25, p437-445.
Yamauchi T., Imamura M., Arimura M., Maeshima M., Matsunaga R., Yuasa T.,
Iwaya-Inoue M. (2008) “Water status related to aquaporins in cowpea plants exposed to
drought stress”, Cryobiology and Cryotechnology, Vol. 53, p87-93.
5) トマト:塩、高温ストレス耐性の獲得
トマトは、世界で最も生産量が多いナス科作物であり、わが国においてもコメに次ぐ農業生産
額 2 位の品目です。施設栽培では周年出荷するために、生育適温より厳しい温度条件下での
安定栽培が求められています。福岡県の施設栽培のトマトにおいて、温度や塩などのストレス耐
性付与により、ストレス傷害を回避し収量・品質を向上させることは、栽培技術の改善とともに大
変重要な課題です。本研究では、過酸化水素で前処理したトマト幼苗は、高温(42℃, 4h)耐性
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をもち、このとき、ガラクチノールやプロリンなどの適合溶質合成系の遺伝子が誘導されているこ
とを明らかにしました。 このとき ROS
が熱ショック応答転写因子を介してガ
ラクチノール合成酵素を誘導すること
を示しました。また、塩ストレスによるト
マト果実の糖度向上に着目し、糖代
謝制御に関わる SNF 関連キナーゼが
肥大期の果実で特異的に発現して、
塩ストレスで特異的に活性化すること
を見いだしました。ROS による耐性獲
得は、前述のダイズにおける乾燥スト
レス耐性付与だけでなく、トマトの高
温ストレスにも有効であり、ROS のシグナル物質としての応用研究のさらなる可能性を示唆して
います。
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Yuasa T., Ishibashi Y., Iwaya-Inoue M. (2012) “A flower specific calcineurin B-like
molecule (CBL)-interacting protein kinase (CIPK) homolog in tomato cultivar Micro-Tom
(Solanum lycopersicum L.)”, American Journal of Plant Science, Vol. 3, p753-763.
Yuasa T., Tomikubo Y., Inoue A., Yamauchi T., Iwaya-Inoue M. (2007) “Trehalose
metabolism-related enzymes and a novel SNF1-related protein kinase in miniature tomato
cultivar Micro-Tom (Solanum lycopersicum L.)”, Cryobiology and Cryotechnology, Vol.
53, p 13-19.
Yuasa T., Tomikubo Y., Yamauchi A., Inoue A., Iwaya-Inoue M. (2007) “Environmental
stresses activate a tomato SNF1-related protein kinase 2 homolog, SlSnRK2C”, Plant
Biotechnology, Vol. 24, p401-408.
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