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リアクションホイールのプロトモデルの研究開発

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リアクションホイールのプロトモデルの研究開発
2000 年度
卒業論文
リアクションホイールのプロトモデルの研究開発
北海道工業大学工学部
応用電子工学科
6-4-L-97-004 浅野
哲理
6-4-L-97-005
指導教員
八田
佐鳥 新
-1-
忠善
6-4-M-96-079
助教授
平野
貴弘
目次
第1章
第2章
第3章
序論
・・・・・・・5
1.1
はじめに
・・・・・・・6
1.2
人工衛星の開発手順
・・・・・・・6
1.3
研究目的
・・・・・・・8
リアクションホイールの PM 設計及び製作
・・・・・・・9
2.1
リアクションホイールとは
・・・・・・・10
2.2
リアクションホイールの概念
・・・・・・・11
2.3
リアクションホイールの PM 設計
・・・・・・・15
2.4
リアクションホイールのシステム設計
・・・・・・・19
2.5
リアクションホイールの制御
・・・・・・・24
リアクションホイールの無重力環境による機能実証試験
・・・・・・・27
3.1
無重力環境による機能実証試験の目的
・・・・・・・28
3.2
地下無重力実験センター(JAMIC)
・・・・・・・28
3.3
無重力環境による機能実証試験概要
・・・・・・・30
3.4
信頼性の向上
・・・・・・・33
3.4.1
HIT サット 1 号機について
・・・・・・・33
3.4.2
HIT サット 2 号機について
・・・・・・・36
3.4.3
フローチャートの作成
・・・・・・・41
3.4.4
信頼性の数値化
・・・・・・・45
3.4.5
JAMIC 用実験性効率向上のポイント
・・・・・・・48
3.5
3.6
HIT サット
・・・・・・・49
3.5.1
HIT サットの電気系
・・・・・・・49
3.5.2
HIT サットのシーケンス
・・・・・・・50
3.5.2.1 HIT サット 1 号機のシーケンス
・・・・・・・50
3.5.2.2 HIT サット 2 号機のシーケンス
・・・・・・・51
実験結果
・・・・・・・55
3.6.1
第 1 回実験結果
・・・・・・・55
3.6.2
第 3 回実験結果
・・・・・・・58
3.6.3
第 6 回実験結果
・・・・・・・62
3.7
考察
・・・・・・・68
3.8
結論
・・・・・・・69
-2-
第4章
第5章
リアクションホイールの耐久加速試験
・・・・・・・70
4.1
耐久加速試験の目的
・・・・・・・71
4.2
耐久加速試験の概要
・・・・・・・71
4.3
耐久加速試験の装置構成
・・・・・・・71
4.4
耐久加速試験の電気回路
・・・・・・・72
4.5
制御系のフローチャート
・・・・・・・76
4.6
試験結果
・・・・・・・78
4.7
パラメータ変動の原因究明
・・・・・・・79
4.8
結論
・・・・・・・81
CPU 放射線試験
・・・・・・・82
5.1
CPU 放射線試験
・・・・・・・83
5.1.1
シングルイベントアップセット試験について
・・・・・・・85
5.1.2
シングルイベントラッチアップ試験について
・・・・・・・86
5.2
日本原子力研究所高崎研究所の放射線試験施設
・・・・・・・87
5.3
放射線試験試験概要
・・・・・・・87
5.3.1
シングルイベントラッチアップ試験
・・・・・・・88
5.3.2
シングルイベントアップセット試験
・・・・・・・89
5.4
5.5
5.6
第6章
試験方法
・・・・・・・94
5.4.1
SEL 試験運用
・・・・・・・94
5.4.2
SEU 試験運用
・・・・・・・94
試験結果
・・・・・・・94
5.5.1
SEL 試験規定
・・・・・・・94
5.5.2
解析方法
・・・・・・・95
5.5.3
SEL 試験結果及び考察
・・・・・・・96
5.5.4
SEL CRÈME96 解析結果
・・・・・・・96
SEU 試験
・・・・・・・97
5.6.1
SEU 試験結果
・・・・・・・97
5.6.2
SEU CPU 内蔵 RAM デバイス評価
・・・・・・・97
5.7
実機搭載における CPU 内蔵 SRAM 放射線耐性評価 ・・・・・・・98
5.8
結論
・・・・・・・98
結論
・・・・・・・100
-3-
参考文献
・・・・・・・101
謝辞
・・・・・・・102
放射線試験データ
・・・・・・・103
資料 1
CPU 放射線試験 H8-SEL 試験結果
・・・・・・・104
資料 2
CPU 放射線試験 SH4-SEL 試験結果
・・・・・・・105
資料 3
CPU 放射線試験 H8-SEL
資料 4
CPU 放射線試験 H8-SEU 試験結果
・・・・・・・107
資料 5
CPU 放射線試験
SEU
CREME96 出力結果
・・・・・・・108
資料 6
CPU 放射線試験
SEU
CREME96 出力結果
・・・・・・・109
CREME96
-4-
出力結果
・・・・・・・106
第1章
序論
-5-
第1章
序論
1.1 はじめに
過去衛星は、ミッションの需要の増大やその多様化と高精度化への要求などに対応し大
型化が図られてきた。同時に、打ち上げロケットの能力も拡大し、近年では静止軌道に数
トンの衛星が打ち上げられるようになった。しかしその結果、一つの衛星開発が 10 年余
の歳月と、数百億円の資金を要するような巨大プロジェクトになってしまった。確実な成
功が求められる大プロジェクトでは、設計や開発手法が保守化し、長いリードタイムから
日進月歩の技術や社会の要請を速やかに反映するのが困難になる。本来技術の先導役を果
たすべき宇宙開発が民生用の技術進歩と比較して必ずしもその役割を果たしていないと
いう弱点が浮上した。
このような反省から、迅速に、簡単に、多数の衛星を上げることのできる小型衛星プロ
ジェクトの要請が高まった。小型衛星は、その身軽さ故に、最新の要請と技術の適用が可
能であり、早期に結果が欲しい科学探査や観測、新ミッションの予備試験、新技術の競う
上確保など広い用途にその可能性がある。
これに呼応しアメリカでは開発手法についても、従来の信頼性を最優先とする段階的開
発手法 PPP(Phased Project Planning)に代わり、ミッションに合致する目的で効率を重視
する開発手法 FBC(Faster,Better,Cheeper)の開発が進められた。
さらに打ち上げについては、小型衛星を安価で軌道上に打ち上げる手段が実現した。た
とえば大型衛星打ち上げに際して相乗りのペイロードとして、重量 50Kg クラスの小型衛
星を打ち上げる Piggyback という手法が開発され、すでにヨーロッパのアリアンロケット
を利用して、数十の相乗り衛星が打ち上げられていることは周知のとおりである。日本で
も 1986 年、1990 年に H-Ⅰロケットにより 4 機の、H-Ⅱロケットにより 1 機の衛星を打
ち上げている。さらに、2001 年には学生が考案した「鯨生体観測衛星 WEOS」が宇宙開
発事業団のプロジェクトである ADEOS-Ⅱの Piggyback として打ち上げられる計画であ
る。また、国際宇宙ステーション(ISS)やスペースシャトルを利用した小型ミッション
も可能である。
そして 50Kg クラスの小規模衛星、さらには 10Kg 以下の超小型衛星は、大学や小さな
研究組織で、比較的少人数のグループが自身のアイデアを基に、設計から、試験、運用、
成果の処理までを一貫して実施できる宇宙プロジェクトにもなり、教育・訓練に果たす役
割も大きいといえる。
1.2 人工衛星の開発手順
衛星開発ではその設計・製作試験の各段階(段階的開発 PPP)において、設計の検証の
ため開発モデルの試験やフライトさせる実機(フライトモデル)の品質を確認する認定・
品質保証試験を実施する。図 1.1 に衛星の開発手順を示す。なお、実際に作るモデルは、
-6-
開発の新規性や効率性とリスクのバランスを設定した上で決定するので、必ずしもすべて
のモデルを製作するわけではない。
衛星の開発
開発モデル DM
ブレッドボードモデル BBM
搭載機器モデル EM
サブシステム開発モデル― 姿勢制御モデル、アンテナモデル
システム開発モデル
電気モデル SEM
構造モデル SDM
熱モデル TDM
プロトモデル PM ―プロトフライトモデル PFM
フライトモデル FM
オービタルモデルOM
エンジニアリングフライトモデル EFM
図 1.1 衛星の開発手順
○ 開発モデル DM
PM・FM などの実機の詳細設計を固めるために必要なデータを取得するために、そ
れに適った開発モデルを製作し,その試験・評価を詳細設計に反映させる。また開発モ
デルは、システムや搭載機器の機能性能を試験・評価するだけでなく衛星システムや
機器のハンドリングやオペレーションの手順を検証することも重要な目的である。
○ ブレッドボードモデル BBM
搭載機器のうち、構造や電気回路を実験的に確認しデータを取得する必要のあるも
のに対して製作する。部品・材料は一般使用のものを用い、試験は電気性能や温度試
験が中心となる。
○ エンジニアリングモデル EM
BBM での検討結果に加えて、機能.性能を質量、寸法、電力などを含めて評価する
モデルで、重荷搭載機器の電気的及び機械的な設計を確立するために用いる。電気性
能や温度/熱真空試験、機械環境試験、機械検査を実施する。近年 EM は SEM に供さ
れるほか、FEM としてフライとさせることもあるので、製造/試験条件の設定・取り
-7-
扱いには注意が必要である
○ プロトモデル PM
最終設計及び製造手法を確認し、設定するためのモデルであり、打ち上げ搭載機器
および衛星システムで作成し、実飛行環境より厳しい環境条件で試験を行い、設計や
製造に隠れている瑕庇を見つけ出す。
○ プロトフライトモデル PFM
搭載機器のうち、構造や電気回路を実験的に確認しデータを取得する必要のあるも
のに対して製作する。部品・材料は一般使用のものを用い、試験は電気性能や温度試験
が中心となる。
1.3 研究目的
本研究の目的は、超小型衛星の実現させるためのキーテクノロジーである、超小型リア
クションホイールの
(1)プロトモデル(PM)の検討及び設計
(2)機能実証試験
(3)耐久加速試験
(4)リアクションホイールの制御用 CPU の放射線試験
の研究を行うことを目的としている。
-8-
第2章
リアクションホイールの PM 設計
-9-
第2章
リアクションホイールの PM 設計
2.1 リアクションホイールとは
物体の運動は重心の並進運動と重心周りの回転運動であらわされる。衛星の場合、前者
が軌道に関係し、後者が姿勢に関係する。衛星は常に何らかの外乱トルクを受けているの
で、ただ放置しているだけでは一定の姿勢を保持できない。一方、衛星ミッションの達成
には特定の姿勢、たとえばミッション機器を特定の方向(地球中心)に向くよう維持する
ことが必要になる。また、軌道制御に必要な速度増分の実現には、スラスタを特定方向に
向けることが必要になる。
衛星姿勢制御は衛星に搭載されている機器を用いた自動制御によることが多い。姿勢を
安定化する方法としては重力傾斜方式、スピン安定方式、姿勢センサとトルク発生装置を
用いる 3 軸安定方式のいずれかが用いられる。このうち、スピン安定方式には全体が一体
となりスピンする方式と、デスパンプラットフォームを持ってスピンするデュアルスピン
方式がある。今回我々が使用する 3 軸制御にはセンサとホイールを用いて構成する。
3 軸方式は現在もっとも一般的な姿勢安定方式である。3 軸方式はセンサとアクチュエ
ータの性能に依存するが、姿勢運動は安定し、精度はよい。しかしスピン安定方式に比べ
本質的に複雑で、それだけ信頼性が低くなる面がある。3 軸方式にはホイールの置き方によ
り、二つの 3 軸方式がある。一方はピッチ軸(図 2.1)に沿ってモーメンタムホイールを
置くバイアスモーメンタム方式で、他方は各軸にリアクションホイールを置くゼロモーメ
ンタム方式である。
ゼロモーメンタム方式では、リアクションホイールが衛星に加わる擾乱に応答する。例
えば、衛星が指向誤差を検出するとはじめ回転が 0 であったホイールを加速する信号が作
られ、トルクが発生する。このトルクが衛星姿勢を修正すると、α回転は他の指向誤差が
ホイールを再び加速あるいは減速するまで低速な状態に放置される。軌道をまわるたびに
擾乱が周期的に加わるときα回転は飽和しないが、擾乱が一定あるいは単調に増加しなが
ら加わるときにはα回転は上限値に飽和する。このようになると、衛星は通常スラスタを
用いて衛星にホイール速度を 0 に戻さなければならない。これをアンロードといい、一定
間隔毎に自動的に行うことができるようになっている。
バイアスモーメンタムはホイールのスピン軸が軌道面垂直になるように 1 基のモーメン
タムホイールを置き、一定速度でホイールを高速回転させる。このようなモーメンタムホ
イールの設置はジャイロ同様の動作によりロール、ヨー軸に加わる小さな擾乱を抑圧して
しまう。たとえば、ヨー軸周りの姿勢が変動する、ヨー方向のトルクがかかると、スピン
軸はヨー方向に倒れ、スピン軸は軌道垂直からずれる。これはスピン軸に垂直なロール軸
周りに一方向の回転が起きたとみなせる。つまりロール方向にトルクが加わったのと等価
であるから、スピン軸はヨー軸周りに一方向の回転をする、すなわちヨー軸周りの姿勢変
- 10 -
化は抑圧される。
バイアスモーメンタム方式はゼロモーメンタム方式に比し機構は簡単であるが、一般的
に精度は悪く、運動範囲に制約がある。
Earth
ヨー
軌道
進行方向
ロール
軌道面逆法線
ピッチ
図 2.1 衛星の標準的姿勢
2.2
リアクションホイールの概念
前述したように宇宙空間では姿勢制御を行う場合は、ジャイロのようにロータを回転運
動させることによりトルクを発生させ、角運動量保存則により姿勢制御を行う。予備知識
として角運動量、角運動量保存則、力のモーメント(トルク)を知る必要がある。
○角運動量
質量 M の物体が O を中心に半径rの円周上を回転している(図 2.2)とき
L =mvr
(2.1)
の角運動量を持つ。この L が角運動量である。よって、「運動量の変化は、加えられた力
」
積に等しい。
」つまり、「外乱がなければ、宇宙空間では L は保存する(一定する)。
- 11 -
L
右回りが上向き
v
r
M
図 2.2 角運動量発生概念
○力のモーメント
N = r×F
(2.2)
を力のモーメントと言う。力のモーメントは、いわば原点のまわりの回転力であって、回
転を引き起こす“力”これをトルクと言え単位は[N・m] である。図 2.3 にトルクの発生概
念を示す。
N
F
r
図 2.3 トルク発生概念
○角運動量保存則
図 2.4 に角運動良保存則の概念を示す。地球が太陽から受ける力や、固定点にひもで結
びつけられた質点に働く力等は、力が原点に向かっているので中心力と見なせる。この場
合、中心力 F は質点の位置ベクトルrと平行だから、力のモーメントは零になる。つまり、
「質点が中心力を受けている場合には、角運動量は保存する。」
- 12 -
F
r
図 2.4 角運動量保存則概念
○リアクションホイールの原理
宇宙空間では L 1 + L 2 = 0 (1 軸制御)の条件下で衛星の向きを A から B へ変えるため
には、ホイールを B→Aの方向へ回転させると、 L 2 が上向きに働きその反動でそれをキ
ャンセルするように L1 が下向きに働き出す(図 2.5)。
A
衛星の角運動量 L1
B
ホイールの角運動量 L2
図 2.5 衛星とリアクションホイール
つまり、衛星がA➝Bの方向へ回転を始める。衛星がちょうどBの位置に来たときにホ
イールを止めるように制御すれば、衛星はBの位置で静止する。実際の人工衛星ではホイ
ールはロール、ピッチ、ヨー軸の3方向に設置される(図 2.6)。
- 13 -
ピッチ軸
W1
W3
W2
ヨー軸
ロール軸
W1:ピッチ軸回りのホイール
W2:ロール軸回りのホイール
W3:ヨー軸回りのホイール
図 2.6 リアクションホイールの配置
リアクションホイールのスペックを決定するのにあたり、まず慣性モーメントを知る必
要がある。慣性モーメントとは時間に依存せず、回転軸が定まれば物体の形だけで決まる
物理量でこの慣性モーメントよりリアクションホイールに要求されるトルク、リアクショ
ンホイールに要求される回転数、角運動量を求めることが出来るからである。まず衛星の
姿勢の回転とホイールのトルクとの関係について慣性モーメントを用いて求める。
図 2.6 の様に衛星とリアクションホイールの軸を同じにした場合、角運動量は
L1 = I1ω1
L2 = I 2ω2
(2.3)
となる。 I 1 は衛星の慣性モーメント、ω1 は衛星の角速度である。 I 2 はリアクションホイ
ールの慣性モーメント、ω2 はリアクションホイールの角速度である。
角運動量保存則より
L1 + L2 = I1ω1 + I 2ω2 = 0
(2.4)
微分して
I1
I2
dω1
dω2
+ I2
=0
dt
dt
(2.5)
dω2
= N 2 とおくと、 N 2 はモータのトルクが発生する。よって、
dt
dω1
dω1
1
= − N2
(2.6)
I1
= − N 2 あるいは
dt
I1
dt
となる。つまり、衛星の姿勢の回転はホイールのトルクを衛生の慣性モーメントで割った
割合で増減することになる。この関係により、リアクションホイールに要求されるトルク
や回転数、角運動量を求めることが出来る。
- 14 -
2.3
リアクションホイールのPM設計
○リアクションホイールの見積もり
リアクションホイールのスペックを決定するのにあたり、まず慣性モーメントを見積も
る必要がある。慣性モーメントとは時間に依存せず、回転軸が定まれば物体の形だけで決
まる物理量でこの慣性モーメントよりリアクションホイールに要求されるトルク、リアク
ションホイールに要求される回転数、角運動量を求めることが出来るからである。まずカ
メラ衛星の姿勢の回転とホイールのトルクとの関係について慣性モーメントを用いて求
める。
○超小型衛星の慣性モーメントの見積もり
超小型衛星を現状の目標よりひとまわり大きいものとして直径 30cm の球、重量4kg
を仮定すると、慣性モーメント I は
I=
2
MR 2
5
[kg・m2]
(2.7)
より
2
2
 0.3 
kg・m2
I = × 4 ×   = 0.036 5
 2 
(2.8)
と見積もれる。
○リアクションホイールに要求されるトルクの見積もり
超小型衛星の運用では姿勢を変えるのにガスジェットではなくリアクションホイール
により行うことを想定している。その場合、リアクションホイールを駆動するモータに要
求されるトルクは姿勢のマヌーバビリティにより決定される。今、T秒間で超小型衛星の
姿勢を 360 度回転させるものとすると、それを行うのに要求される角運動量の増分 ∆L は、
∆L = I ×
[
]
2π
kg・m2 s
T
(2.9)
となる。これを駆動するのに必要なモータのトルクを N とすると、
2π
∆L
[N・m]
=I×
(T × T )
T
0.23
=
[N・m ]
(T × T )
N=
(2.10)
となる。今、マヌーバのオーダとしてT=10 秒を仮定すると、
N = 0.0023 [N・m]
(2.11)
[g・cm]
= 23 - 15 -
を得る。これより、モータの最大トルクを 23[g・cm]とした。
○リアクションホイールの重量及び形状の見積もり
アセンブリの重量を超小型衛星の重量の1割程度、形状として3個のホイールがφ150
の超小型衛星の断面に並ぶ立方体を仮定する(図 2.7)。まず、リアクションホイール1個当
たりの重量は、
1
M = × 4kg × 0.1 = 130 g
3
(2.12)
構体重量を全体の 20%、モータには東阪電子機器製 17M78-210E(28g・cm@2W)を用い
るものとし、重量を 30g とする。CPU を含む制御回路及びセンサ類の重量を 20g とすれ
ば、ロータの重量[g]は、
全重量=構体+モータ+回路+ロータ
(2.13)
200=96+30+20+X
X=54g
となる。
a
a
a
a
a
a
φ150
図 2.7 超小型衛星断面図
リアクションホイールの1辺の長さをLとすると、φ150 の断面に3個並ぶという条件
から、
2 2 ・L=150
L=53mm
(2.14)
を得る。これより、ロータの径をφ40 に決定する。
- 16 -
○リアクションホイールの回転数の見積もり
宇宙実験に要求されるホイールの最大蓄積角運動量を次の2ケースの場合について評
価し、ロータの回転数を見積もる。
(a)1000km の太陽同期軌道の周期に合わせて母船を1周する場合、周期をTa(=105
分=6300 秒)、1周当たりの角運動量の増分を ∆ Ja とすると、
2π
Ta
[Nms]
=3.6Ε−5 ∆Ja =I×
(2.15)
(b)正方形的に短周期(5 分)で母船を1周する場合、周期を Tb(=300 秒)、1周あた
りの角運動量の増分を ∆ Jb とすると、
2π
∆Jb =I×
Tb
=7.5Ε−4 [Nms]
(2.16)
母船から超小型衛星を放出後、ミッションを遂行するために 20 周の運動(20 回の実験)
をさせることを想定すると、
(a)の場合で
(b)の場合で
∆Ja ×20=7.2Ε−4 [Nms]
∆Jb ×20=1.5Ε−2 [Nms]
(2.17)
(2.18)
となる。従って、リアクションホイールに要求される最大蓄積角運動量を 0.015[Nms]
と決定される。
次にロータの最大蓄積角運動量を実現するためにロータに要求される回転数を見積も
る。ロータが理想的に円周部にのみ重量が集中しているものとすると、その慣性モーメン
トIr は
Ir= 0.05kg × (0.02m )
2
[
]
= 2Ε−5 kg・m2
(2.19)
となる。ロータに蓄積される角運動量はIr×ωであるから、これが最大蓄積角運動量
に一致する条件から回転数を求めると、7167[rpm]となる。これはモータ 17M78-210E の
仕様(最大 8300rpm)内に収まっている。ロータの回転数と角速度、蓄積角運動量の関係
を表 2.1 にまとめ、以上の検討から要求されるリアクションホイールの仕様を表 2.2 にま
とめる。図 2.8 は本研究で開発した超小型リアクションホイールである。
- 17 -
図 2.8 超小型リアクションホイールの外観
表 2.1 ロータの回転数と角速度、蓄積角運動量の関係
回転数 [rpm]
角速度 [rad/s]
角運動量 [Nms]
1000(17rps)
105
0.0021
2000(33rps)
209
0.0042
3000(50rps)
314
0.0063
6000(100rps )
628
0.013
7167(119rps)
750
0.015
8300(138rps )
868
0.017
表 2.2 リアクションホイールの仕様
構体
96[g]
モータ
30[g]
回路・センサ
20[g]
ロータ
54[g]
本体重量合計
200[g]
消費電力
Max 2[W]
最大発生トルク
30[g・cm]
最大蓄積角運動量
1.5E - 2[Nms ]
○構造素材の選定
一般的には、鉄や真鍮、アルミニウムなどがあげられるが、鉄は丈夫ではあるが比重が
重く、ホイールの仕様である 200g 内に収めるとすると板の厚さが薄くなり逆に強度が弱
くなってしまう。真鍮は鉄に比べれば比重は軽いが鉄に比べ強度が弱い。強度をだすため
に板の厚さを太くすると 200g 内に収めるのは困難である。アルミニウムは鉄や真鍮に比
- 18 -
べれば強度は弱いが比重が軽量である。よって航空関係でも使用されているアルミ合金
2017-T4 を使用した。表 2.3 にその仕様を示す。
表 2.3 2017-T4 の特性
張力強さ
(kg
3
mm
)
耐力
(kg
43.5
3
mm
)
28.0
伸び(%)
プリネルかたさ
(12.7mmφ)
(10/500)
22.0
105
○構造の設計
モータの制御用回路のスペース、モータの固定、ロータの軸受けなどを踏まえて仕様か
ら考え設計したところ、リアクションホイールの外形を支える構体の1辺の長さは 53mm、
ロータの径がφ40mm、モータの直径が 37.5mm とした。外部からの力積に耐えうる板の
厚さであるが、表 2.4 にそれぞれの板に 15G をかけた場合のたわみについてまとめる。
表 2.4 最大たわみ
板の厚さ (mm)
たわみ (mm)
0.5
3.21
1.0
0.40
2.0
0.05
注:板の寸法は、50×50(mm)
耐久性を考えてもたわみは 0.2mm 以内と設定する。よって、板の厚さ 2mm の板を用
いることする。次に板の固定方法だが、最終的には MS ネジを使うのだが BBM 設計では
平ねじを使用した。
以上のことをふまえて上蓋、側面パネル、モータ固定用中板、底蓋、ロータの設計を行
った。
○ロータの固定方法
ロータの固定方法には、部分冷却方法を用いた。これは熱膨張の逆で金属は急冷すると
収縮し、常温になると元に戻る性質を利用する方法である。急冷剤スプレーにより1部分
を瞬間的に−50℃まで冷やしモータの軸をロータの穴に挿入し固定した。
2.4 リアクションホイールのシステム設計
リアクションホイールのシステム構成図を図 2.4.1 に示す。リアクションホイールの
構成要素として、H8、モータドライバ、リフレクタ、リアクションホイール本体(モータ)
がある。
コネクタは H8、モータドライバの電源供給。また、H8 のデータ出力として使用される。
- 19 -
※1
リフレクタ
回転数
GND
モータ
Vcc
F
モータドライバ
PWM
H8
R
PWM
RS232 GND Vcc
GND
12v
コネクタ
※1 リフレクタは赤外線でモータの回転数を検出している。
図 2.9 リアクションホイールのシステム構成図
○ H8/3048
モータドライバの制御、リフレクタからの回転数をカウントする CPU として、
HITACHI 社製 H8/3048 を使用する。この CPU は車の制御用にも使用されており、機器
性能の仕様はクロック周波数 16MHz、A-D・D-A チャンネル 8ch、タイマ ITU5ch、シリ
アルポート 2ch と多機能である。この CPU の機器選定は多機能であるという理由のほか
に、宇宙放射線環境において耐性を持っているためである。これについては 5 章において
説明する。
表 2.5 H8/3048 性能仕様
駆動電圧
5V
電流
50mA
クロック周波数
16MHz
内蔵メモリ
4kbyte
A-D チャンネル
8ch、分解能 10bit
ITU タイマ
5ch
シリアル(SCI)
2ch
ウォッチドクタイマ
1ch
I/O ポート
78 本
- 20 -
図 2.10 H8/3048 の外観
○ モータドライバ
モータドライバ(BA6285FP)は入力論理(H,L)の組み合わせにより、正転、逆転、
ブレーキの3つの行動をモータに取らせることができる LSI である。これを制御するのは
H8 である。H8 からの信号で、これを簡単に制御することができる。今回はローム社の
モータドライバ LSI、BA6285FP を使用した。このモータドライバ LSI のスペックを表
2.6 に。入出力真理値表を表 2.7 に、そしてモータドライバの外形寸法を図 2.11 に示す。
表 2.6 BA6285F スペック表
Parameter
Symbol
Limits
Unit
印加電圧
Vcc
18
[V]
許容損失
Pd
1500
[mW]
動作温度範囲
Topr
-20+75
[℃]
保存温度範囲
Tstg
-55+150
[℃]
出力電流
Iout
1000
[mA]
表 2.7 入出力真理値表
Fin
Rin
OUT1
OUT2
モード
H
L
H
L
正転モード
L
H
L
H
逆転モード
H
H
L
L
ブレーキモード
- 21 -
図 2.11 外形寸法
回転数の検出は、ロータに白黒をペイントすることで光反射率の違いを検出するフォト
リフレクタを採用する。図 2.12 はロータの構造図とペイント位置、表 2.8 にフォトリフレ
クタ KR290 の仕様を示す。
表 2.8 KR290 の仕様
最大定格(Ta=25℃)
項目
記号
定格値
単位
電源電圧
Vcc
7.2
V
許容損失
Pd
150
mW
動作温度
Topr
‐10∼+65
℃
保存温度
Tstg
‐30∼+85
℃
検出距離
d
2∼6.5
mm
上面
裏面
側面
図 2.12 ロータの構造図とペイント位置
- 22 -
○PWM とは
図 2.9 にて、H8 と、モータドライバは PWM にてデータをやり取りしている。PWM と
は Pulse Width Modulation と言い、モータにパルス状の電圧を間欠的に供給する制御方
式である。この制御方式によりパルスの幅を変えて速度制御を行うことができるのである。
この方式は、コイルに蓄えられたエネルギーを利用するため、効率が高く、モータ制御回
路の低消費電力化に有効である。図 2.13 にPWM駆動原理回路を示す。
図 2.13 PWM 駆動の基本原理
一般的なパルス幅の変調方法は、発振器で生成した三角波①と、制御電圧②を電圧比較
器(コンパレータ)で比較し、その出力信号③で駆動トランジスタ Tr1 をON/OFFする。
回転数を上げたいときは、制御電圧 Vc を上げるとモータ電流 Ia は図 2.13 のように変化
しながら増加する。
出力段の動作は、 Tr1 が ON のとき電源から Ion がモータに供給され、 Tr1 が OFF に
なると、ON 時に流れていた電流と同じ方向に電流を流そうとする力が働き、フリー・ホ
イール・ダイオード D F を通して電流 Ioff が流れる。この電流を回生電流といい、 Tr1 が
OFF になっている期間は、ON 時にモータ・コイルのインダクタンス La に蓄えられたエ
ネルギーがモータに供給される。
PWM駆動は、この性質を利用して効率を上げるので、出力トランジスタの電圧ロスを
いかに抑えるかが低消費電力設計するうえで重要なポイントとなっている。また、モータ
の慣性などの関係でパルス幅の周期を短くし過ぎると逆起電力などの関係であまり良く
ない結果が出てくる。よって、モータに合わせて周期や duty 比を決める必要がある。
○ リアクションホイールの回路設計
まず、図 2.4.6 にてリアクションホイールの配線図を示す。
- 23 -
Dsub15 ピンコネクタは先にも書いたとおり、電源供給と、H8 からのデータ読み取り
用である。H8 と、モータドライバでは使用する電圧値が異なる。よって、それぞれに電
源、GND を用意した。16MHz 発信機は、H8 が動作するのに必要なため、リアクション
ホイールの回路には必要である。
モータ
L
リフレクタ
R
0.1μF
出力端子
GND
Vcc
GND
1kΩ
0.1μF
TCLK-D
OUT2
Vcc
15pF
OUT1
Rin
モータ
ドライバ Fin
RNF GND VM VCC VREF
H8
TIOC-A2
16MHz
発振器
TIOC-AO
TX
15pF
RX
Vcc
GND
100μF
0.1μF
TX
12V
RX
GND
5V
GND
Dsub15ピンコネクタ
図 2.14 リアクションホイール配線図
2.5 リアクションホイールの制御
リアクションホイールの制御は PID 制御を行っている。これから、PID 制御について
説明する。
○PID 制御とは
PID 制御はプラントへの操作量を決定するのに、偏差(目標値−制御量)に対する比例
(proportional)、積分(Integral)、微分(derivative)の 3 つの制御動作を用いる方法で、
それぞれの頭文字を取って PID 制御と言う。原理は、連続時間系のアナログコントローラ
に広く利用されてきた制御方法で、図 2.5 に示すように1台のコンピュータで数十から数
百ループを制御する DDC(Direct Digital Control)では、大部分の制御ループは PID 制
- 24 -
御方式で実施されている。
他のループの
プラントへ
目標値r(t)
ループの
目標値
ディジタル
コンピュータ
y(t)
プラント
u(k)
y(k)
センサ
他のループの
フィードバック
図 2.15 DDC の構成図
アナログコントローラにおける PID 動作では、操作量u(t)と偏差 e(t)との間にはつ
ぎの関係がある。

1
u (t ) = K P  e(t ) +
TI

t
∫ e(t )dt + T
0
D
de 

dt 
(2.20)
あるいは、ラプラス変換して


1
+ TDS  E ( s )
U ( s ) = K P 1 +
 TIS

(2.21)
ここで、 K P は比例ゲイン、 TI は積分時間、 TD は微分時間で、式(2.20)からわかるよう
に、PID コントローラの入力変数は制御系の偏差 e(t ) である。P 動作は e(t ) を K P 倍して
操作量として出力することにより、 e(t ) を減らすように制御を行う。しかし、P動作だけ
では定常偏差(オフセット)を生じる場合があり、I 動作では e(t ) が存在すれば、これを
絶えず積分して操作量として出力するので定常偏差を減らすのに有効である。D 動作は
e(t ) が増えているか減っているかの傾向、つまり e(t ) の変化を検出しており予測機能を持
っているといえる。ところが、制御系としては不安定になりやすい傾向がある。このよう
に PID 動作を制御系に取り入れることにより、落ち着きの悪い ON/OFF 制御に比べ、安
定した応答特性を得る事ができるのである。よって、マイクロサットからくる姿勢制御信
号(目標値)とフォトリフレクタの信号を処理したH8 の信号(測定値)が同じになるように
PID 動作をH8 にさせモータドライバに PWM で信号を与える予定である。
- 25 -
○ ON/OFF 制御とは
ON/OFF 制御とは制御実験用に作られたプログラムである。設定値に対して、出力が大
きければ入力を OFF にし、出力が小さければ入力を ON にする制御方式。制御実験につ
いては第 3 章にて説明する。
- 26 -
第3章
リアクションホイールの無重力環境による
機能実証試験
- 27 -
第3章
3.1
リアクションホイールの無重力環境による機能実証試験
無重力環境による機能実証試験の目的
リアクションホイールは本来宇宙空間(無重力空間)で用いられる。しかし地上での試
験では十分な評価ができない。そこで無重力試験を行いその機能の実証した。
3.2
地下無重力実験センター(JAMIC)
我々が実験を行った地下無重力実験センター(JApan MIcrogravity Center:JAMIC)
は、もっとも手軽にかつ経済的に無重力実験を行える実験手段の一つである。この実験施
設は北海道上砂川町に位置し、炭鉱閉鎖後の地下 700m を利用したもので、無重力環境を
10 秒間維持でき、この種の実験施設としては、世界的に見ても最大規模の実験施設と言え
る。
図 3.1 落下カプセル
- 28 -
図 3.2 JAMIC 施設概要
- 29 -
○ JAMIC 落下型無重力実験システムの基本性能
表 3.1 落下型無重力実験システムの基本性能
−5
微少重力レベル
10g
微少重力時間
10 秒
制動時最大減速加速度
8G
実験部環境(カプセル内)
気圧:1atm(大気圧)
温度:20∼45℃
磁場環境:4 ガウス以下
搭載可能最大重量/容積
500kg/870W×870L×918H
落下環境
大気中
制動方式
エアブレーキ及びメカニカルブレーキ
データ伝送方法
リアルタイムカラー画像伝送 2ch
双方向通信伝送システム(10Mbps)
図 3.3 カプセル内構造
- 30 -
3.3 無重力環境による機能実証試験概要
この実験は北海道工業大学機械工学科計測制御ゼミとの共同研究でとりおこなった。
リアクションホイールの機能実証を行うために、機械工学科計測制御ゼミが実験用射出
機構を、我々がキューブ状の試験機 HIT サットを開発した(図 3.4)。これはリアクショ
ンホイールの実機搭載モデルとスペックがおよそ同等で、HIT サットが無重力下でその機
能を実証することにより、リアクションホイールが実機でもその機能を実証できるためで
ある。寸法 130×130×130[mm]、重量は約 1.5[kg]、電力は 4[W]で、このサイズでの実
験は世界的に例がなく、世界初の試みといえる。
図 3.4 HIT サット 1 号機、2 号機
また、無重力落下実験を行うにあたり、HIT サットを無重力下で確実に空中放置する必
要がある。そこで、我々は同大学機械工学科と共同で射出ラック(図 3.5)を開発した。
射出ラックは 2 本のアームにより HIT サットを把持し、無重力施設からのディジタル信
号により、無重力下で放出するシステムである(図 3.6)
。
- 31 -
図 3.5 射出ラック
HITサット
ディジタル信号を感知
HITサット
図 3.6 射出ラックの概要
- 32 -
3.4 信頼性の向上
3.4.1
HIT サット 1 号機について
図が我々が開発した HIT サット 1 号機である。図に HIT サット 1 号機の回路図を示す。
リアクションホイールの動作だけを考慮し、製作した。実験日までの時間の関係と、製作
は初めての試みということもあり、各機器の故障が多かった(表 3.2)。
図 3.7 HIT サット1号機
- 33 -
レギュレータ
POWER
無線モデム
9V
GND
レギュレータ
TX
POWER
RXD1
電源起動確認
LED
TXD1CN3-31
(P5-0)
H8
9V
GND
GYRO
センサ
RX
CN1-8(TCLKA)
CN2-12(P7-0)
CN2-20(AN-GND)
GND
5V
5V
10K
CN1-31(P4-0)
5V
CN1-17
(P1-2)
POWER
12V
GND
CN1-21
(P1-6)
Moter
Driver
リフレクター
RW
図 3.8 HIT サット1号機の回路図
表 3.2 HIT サット 1 号機の不良個所と対策
日時
JAMIC1回目前日
不良箇所 H8(ソフトウェア)
詳細
リフレクタによる回転数検出のプログラミングミス
原因
入出力設定ミス
症状
実験前日から、リフレクタの出力電圧が異常をきたした。
対策
プログラミングによる入出力の再設定。
日時
JAMIC1回目
不良箇所 無線モデム
詳細
ヒューズが焼ききれる。
原因
逆電圧もしくはスパイクによるものだと思われる
症状
最終組み付け時、取り付けしようとした無線モデムから煙が出た。
- 34 -
対策
データの取得を有線でも行なう。
日時
JAMIC2 回目
不良箇所 タクトスイッチ
詳細
スイッチが ON にならなかった。
原因
長時間アームによって押さえ込まれたため、ボタン部のバネの弾性が失われた。
症状
アームが開放したのにもかかわらず、リアクションホイールが動作しなかった
対策
スイッチをマグネットスイッチに変更する
日時
JAMIC3 回目
不良箇所 モータドライバ
詳細
逆電圧による故障
原因
配線の色が統一されていなかったためによる混乱。
症状
採集組み付け時に GND 線と電源線を誤って逆に取り付けた。
対策
電源周りの配線の色を統一した。モータドライバに整流用ダイオードを入れた。
日時
JAMIC3 回目後
不良箇所 モータドライバ
詳細
モータドライバの出力電圧が小さすぎる
原因
モータドライバの 15 ピンに電圧がかかっていなかった。
症状
リアクションホイールが正常に動作せず、その原因をモータドライバと考えた。
対策
モータドライバ回路を再製作した。
表 3.3 HIT サット 1 号機の改善個所と改善理由
日時
JAMIC4 回目
改善個所 組み付け作業のシステム
詳細
フローチャートを作成し、それにしたがって行動するようにした。
改善理由 組み付け作業時の人為的ミスを防ぐため。
改善、修理を繰り返し、最終的に 1 号機の回路は以下のようになった(図 3.9)。1 号機は
改良をしても、問題点が多く(表 3.4)、各機器の故障が多かった。また、メンテナンスを
する面においても、困難であったため、信頼性を重視したまったく新しい、HIT サット 2
号機の作成に着手することとなった。
- 35 -
POWER
レギュレータ
9V
0.1μ
無線モデム
0.1μ
GND
レギュレータ
9V
0.1μ
TX
POWER
RXD1
GND
GYRO
センサ
H8起動確認
LED
TXD1CN3-31
(P5-0)
H8
0.1μ
データ吸出し用
コネクタ
RX
ドライブモード
起動確認LED
CN3-32
(P5-1)
CN2-12(P7-0)
CN1-8(TCLKA)
CN2-20(AN-GND)
GND
5V
5V
10K
CN1-31(P4-0)
5V
マグネット
スイッチ
CN1-17
(P1-2)
POWER
12V
GND
CN1-21
(P1-6)
リフレクター
Moter
Driver
RW
図 3.9 HIT サット 1 号機(後期型)の回路図
表 3.4 HIT サット 1 号機の問題点
問題点
問題点によって起きる症状
各機器が故障しやすい
故障によって、実験を行うことが不可能になる。
メンテナンスが困難
最終メンテナンス時による故障がおきやすい。
3.4.2
HIT サット 2 号機について
2 号機(図 3.10)は 1 号機における反省をいかし、メンテナンスのしやすさと、信頼性
の向上を目的として、製作された。表 3.5 に HIT サット 2 号機の改善個所を示す。図 3.11
に HIT サット 2 号機の中枢部である H8 モジュールの回路図を示す。2 号機の特徴は HIT
サットのモジュール化にある(図 3.12)。モジュール化したことにより、各要素機器が独
立したことにより、不良個所は交換することにより、修復が可能になった。また、各機器
の故障を防ぎため、保護回路も製作した。また、磁場による影響をなくすため、スイッチ
をマグネットから、フォトリフレクタを使用したものに切り替えた。メンテナンス時の混
乱を防ぐため、配線の色も統一した(表 3.6)。しかし、対策は完全ではなく、いくつか不
良個所も現れる結果となった(表 3.7)。
- 36 -
図 3.10 HIT サット 2 号機
表 3.5 HIT サット 2 号機の改善点
日時
2 号機製作時
改善個所 各要素の組み立てシステム
詳細
各要素を独立したモジュールとした。
改善理由 1.作業時の人為的ミスを防ぐ。
2.作業時間の短縮
3 モジュール取替えによる修理の簡素化。
4 各機器を個々に作業できる。
日時
2 号機製作時
改善個所 配線
詳細
モジュールからの配線に D サブ 9 ピンを使用し配線を独立。
配線の色を統一し、表にすることで配線間違いを無くした。
改善理由 配線が断線しても配線を取り替えることにより修復でき、作業時の混乱を防ぐため。
日時
2 号機製作時
改善個所 配線
詳細
モジュールからの配線に D サブ 9 ピンを使用し配線を独立。
配線の色を統一し、表にすることで配線間違いを無くした。
改善理由 配線が断線しても配線を取り替えることにより修復でき、作業時の混乱を防ぐため。
- 37 -
日時
2 号機製作時
改善個所 各要素のモジュール
詳細
保護回路を入れた。
改善理由 各要素の故障を防ぐため。
日時
2 号機製作時
改善個所 スイッチ
詳細
マグネットスイッチからフォトリフレクタに変更
改善理由 磁場による影響が発生する可能性を考慮したため。
- 38 -
GYRO
SW
無
線
9
V
H8,MD,無線
Vcc
MD
12
V
H8
9
V
外部電源
MD
内部電源
H8,MD GND
電源回路
RW
H8/3048F
PG書き込み
無線GND
無線用9v
無線
TX,RX,SG
0.1μ
0.1μ
5.6v
7805
H8電源回路
図 3.11 HIT サット 2 号機 H8 モジュール回路図
- 39 -
GYRO
センサ
ジャイロモジュール
DipSW
スイッチモジュール
9
v
H8及び無線用
9v電池モジュール
9
v
MD用
12v電池モジュール
12
v
RW
RWモジュール
リフレクタ
スロー
スタータ
保護回路
POWER
GND
RX
7805
10
0
4.7
k
TX
100μ
0.1μ
0.1μ
5.6v
入力
無線モジュール
無線モデム
スロースタータ
保護回路
図 3.12 各機器回路図
- 40 -
出力
表 3.6 配線の色の統一
GYRO-H8 Vcc
GND
SGN
赤
黒
橙
SW-内部 H8
MD
無線
青
桃
紫
外部-H8 H8
MD
青
桃
SW-外部 H8
MD
青
桃
SW-無線 Vcc
紫
外部-内部
H8 GND 黒
MD GND 黒
無線 GND 黒
RW-H8
内部-無線
GND
黒
書き込み-H8
12V
GND
5V
RXD1
TXD1
VPP
MD2
RES
赤
黒
赤
灰
茶
橙
緑
紫
MOTOR
MOTOR
REF Vcc
REF GND
REF SGN
灰
灰
青
黒
白
書き込み-無線
RXD1
灰
TXD1
茶
GND(SG) 黒
表 3.7 HIT サット 2 号機の不良個所と対策
日時
JAMIC5 回目
不良箇所 ディップスイッチ
詳細
ディップスイッチの配線が外れていた。
原因
配線とスイッチの接触不良
症状
ディップスイッチを ON にしても H8 に電源が供給されなかった。
対策
不安要素の洗い出しを徹底的にする。
日時
JAMIC6 回目まで
不良箇所 12V 電池モジュール
詳細
電力が出力されない
原因
電池とコネクタをつなぐバネ部での接触不良
症状
リアクションホイール動作せず
対策
バネの再配置
- 41 -
日時
JAMIC6 回目まで
不良箇所 12V 電池モジュール
詳細
電力が出力されない
原因
バネ部での接触不良。バネを電池の GND に接触させなかった。
症状
ディップスイッチを ON にしてもモータドライバが動作しなかった
対策
電池がバネに接触しているかどうか確かめる。
日時
JAMIC6 回目まで
不良箇所 12V 電池モジュール
詳細
電力が出力されない
原因
バネ部での接触不良
症状
ディップスイッチを ON にしてもモータドライバが動作しなかった
対策
バネを 2 重にし、最低でもどちらかが接触するようにした。
日時
JAMIC6 回目まで
不良箇所 9V 電池モジュール
詳細
電力が出力されない
原因
電池間の接触不良
症状
無線モデム電源ランプ点灯せず
対策
電池固定用ゴムを増やすことにより、電池の接触圧力を増加させた。
3.4.3 フローチャートの作成
実験場に到着後、最終チェック時に混乱が生じ、機器を破損してしまうケースが多々あ
った。そこで、誤った現場判断による機器の破損を防ぐため、作業手順をマニュアル化す
る必要性が生じてきた。我々はフローチャート(図 3.13∼16)を作り、それ以外の行動は
とらないようにした。
- 42 -
ノートパソコン
取り付け
直前組みつけ手順
無線モデム
親機取り付け
親機交換
親機の電源
ランプOK?
いいえ
はい
モリブデン
導通チェック
モリブデン
付け直し
いいえ
はい
衛星組みつけ
DV録画開始
・組み付け
OK
いいえ
モリブデン
導通チェック
(セメント
抵抗1.7Ω)
はい
網かけ(途中まで)
モータドライバ SW-ON
無線モデム SW-ON
無線
モデムランプ
点灯
いいえ
はい
予備に交換
動作確認
OK
不調
H8DipSW-ON
無線周りの
異常対処
H8
LED1コ
(赤)点灯
はい
配置の確認
いいえ
予備に交換
動作確認
ドッキング
配置の確認
OK
全電源ランプ
のチェック
・あみが引っかかっていないか
・衛星が傾いていないか
・横あみの強度は
不調
いいえ
いいえ
H8周りの
異常対処
電源チェックリスト
・録画
・H8LED(片方)
・無線モデム
・親機(無線モデム)
・DipSW
OK
網掛け最後まで
戻ってやり直し
引渡し
図 3.13 JAMIC フローチャート
- 43 -
H8周りの
異常対処
両方点灯?
0V
RW回転音が
聞こえる
はい
いいえ
いいえ
H8Box
側面はずし
電圧確認
H8Box
側面はずし
MD電圧確認
いいえ
リフレクタを遮て
電源再投入
LED片方点灯
0v
リフレクタ
を光にさらす
電池Box9V交換
いいえ
いいえ
H8Box予備
準備OK?
動作確認OK?
いいえ
30分延長依頼
H8Box整備
両方点灯
AND
RW回転音?
はい
H8Box交換
はい
いいえ
はい
12V
5V
電池Box9V交換
動作確認OK?
はい
はい
整備・
動作確認
できたか?
続行
いいえ
予備の
動作確認
実験中止か
先生に判断を
仰ぐ
OK
衛星組付けに戻る
はい
はい
中止
実験中止
図 3.14 H8 異常フローチャート1
- 44 -
いいえ
H8Box整備
いいえ
H8及びMD
電源電圧
は正常か
モータドライバ
側電圧が異常
モータドライバ
ICにクレーター
があるか
H8側電圧
が異常
異常なし
なし
ある
H8の交換
電源周りをチェック
予備モータドライバ
の用意
動作確認OK?
電源異常個所
(コネクタ等)
をチェック
・補修
いいえ
はい
電源回路の
出力は5Vか?
動作確認OK?
いいえ
電源回路の
入力は9Vか?
0V
9v
電池Boxからの
断線箇所・
ショート箇所を
チェック
予備電源回路
取り付け
はい
はい
衛星組付けに戻る
図 3.15 H8 異常フローチャート 2
- 45 -
無線周りの
異常対処
保護回路
の入力電圧
は9Vか?
入力電圧が
低い
入力電圧は
0V?
はい
出力電圧が
5V未満
0V以上
9V未満
素子にさわる
(温度をみる)
配線には触らない
保護回路の
出力電圧は
5Vか?
出力電圧が
5V以上
0V
電池Boxの交換
電池の交換
いいえ
予備保護回路
は正常動作か
はい
保護回路の交換
無線SW-ON
電源ランプ
点灯か
出力電圧
5V正常
予備保護回路
は正常動作か
いいえ
はい
いいえ
保護回路及び
無線モデムの交換
無線モデムの
使用中止
コネクタを抜いて
搭載する
はい
いいえ
衛星組付けに戻る
電池と
保護回路の両方を
確認したか
はい
図 3.16 無線モデム異常フローチャート
3.4.4
信頼性の数値化
今までの実験における機器の損失は常に我々にとって予期できぬものであった。そのた
め、適切な処理を取ることが出来ず、実験において失敗を繰り返した。そこで、各モジュ
ールが独立して機能することを確かめた上、モジュールを組み立てる作業を繰り返した。
これは試行回数を増やすことによって不具合が起こる可能性がある機器を特定し、それを
補強することによって、リアクションホイールの起動確率を 100[%]に近づけるためであ
- 46 -
る。そのため、起動確率の数値化が必要になってくる.数値化の指標として MTBF が
MTBF=
稼働時間
故障時間
[時間]
(式 3.1)
であることから、HIT サットが長時間連続使用しないことを考慮し、
MTBF≒
稼動回数
故障回数
[回] (式 3.2)
とみなして算出した。式の意味は一度故障してから、次に故障するまで何度稼動するかに
なる。また MTBF(式 3.2)が 9[回]を上回らないようであれば、実験を中止する方針で整備
を行った。
表 3.8 HIT サット 2 号機の組み付け作業による起動の可否
試行回数
HIT サットの状態
1 回目
正常動作
2 回目
正常動作
3 回目
RW 動作せず。12V の接触悪い、バネの再配置。
4 回目
正常動作
5 回目
正常動作
6 回目
RW 動作せず:12V バネがはまっていなかった。
7 回目
正常動作
8 回目
RW 動作せず:12V バネ接触不良。
9 回目
正常動作
10 回目
正常動作
11 回目
正常動作
12 回目
正常動作
13 回目
正常動作
14 回目
正常動作
15 回目
正常動作
16 回目
無線モデム動作せず:電池の接触不良。
試行回数 16 回目にて、人為的な単純ミスを含む 4 回目の故障が起きた。これを式に当
てはめると MTBF=3[回]と、目標値 9[回]に対して大幅に下回る数字になる。しかし、故
障部はすべて電源系であることから、我々は HIT サット 2 号機における不具合の発生個
所は電源部にあると特定し、電源部において徹底的な確認と修理及び補強をした。また、
電源部における確認のテストを繰り返し行った。
- 47 -
表 3.9 電源系のデバックにおける故障回数
電源系の集中デバッグ 試行回数 故障回数
1 月 16 日
30 回
2回
1 月 17 日
20 回
2回
1 月 18 日
20 回
0回
表 3.10 電池モジュール故障の対策
対策
1月16日
金具を強化した。
1月16日
バネを改良した。
1月17日
タイバンドを2重にした。
1月17日
電池固定ゴムを増やした。
これを式に当てはめると MTBF は 16.5[回]である。これは実験実行の目安であった 9[回]
をはるかに上回る数字である。起動確率にすると 94.3[%]となる。
3.4.5
JAMIC 用実験成功率向上のポイント
以上の経験から得られた、実験成功のポイントを分野別に記す。
●ハードウェア
○配線
色の統一、表記化することによる混乱の防止.をする。
絶縁対策をするなどの配線管理をする。
モジュール化することにより、断線時には配線を取り替えることによって修理する。
○各機器
過電流、過電圧、逆電圧などの対策として保護回路を作成する。
モジュール化し、不具合がおきたときには、モジュールを取り替えることによるメンテ
ナンスをする。
電池はリチウムイオン二次電池を使用したほうがよいと思われる。
電池周りは接触不良、逆電圧などの不具合が起きやすい。
各機器をモジュール化するにあたって、設計には十分な検討と、試行回数を増やすこと
による十分な信頼性を得ることが必要である。また、各モジュールの絶縁対策を怠らずに
行う事も有用である。
- 48 -
●ソフトウェア
メモリや、通信速度などの各機器の能力を考慮したプログラミングをする。
アルゴリズムを整理してからプログラムを書く。
他人が見やすいプログラミングを書く。コメントの増加によるわかりやすさを求めても
よいが、コメント無しでも他人にわかるほど整理されたプログラミングが望ましい。
●メンタル
先生と学生のコミュニケーションを互いにとる必要があった。
時間的余裕を考慮し、JAMIC には前日から行くことを進める。
フローチャートに従った行動をとる。
3.5
3.5.1
HIT サット
HIT サットの電気系
HIT サットの電気系の構成は、1 号機、2号機とも大きな違いはない。CPU、モーター
ドライバ、モータ、ジャイロセンサ、無線モデムで構成している(図 3.17)。ここで使用
する実機搭載用のものと同じものを、もしくは同等のものを用いている。ジャイロセンサ
は JR プロポ社製 G550T を使用する。
これは内部に使用されているジャイロセンサが、我々
のミッションで用いる村田製作所社製の ENC-03J であるためである。またフォトリフレ
クタ―は新光電子社製の KR290、モータードライバはローム社の BA6285FS を、無線モ
デムは八重洲無線社製の YSM-321 を用いた。ジャイロセンサのスペックを表 3.11 に示す。
表 3.11 ジャイロセンサ G550T の製品仕様
製品型番
G550T
電源電圧(V)
5
消費電力(Mw)
250
電流(mA)
50
感度調整
リモートゲインコントロール(調整不可)
- 49 -
ジャイロセ
ンサ
フォトリフレクタ
リアクションホィール
CPU
モータドライブIC
モデム
バッテリ
バッテリ
バッテリ
図 3.17 HIT サットの概略図
3.5.2
3.5.2.1
HIT サットのシーケンス
HIT サット 1 号機のシーケンス
2000 年 10 月 18 日に行った HIT サット 1 号機のシーケンスは大きく2つの段階に分け
られる。①制御モード、②データ連続送信モードである。
① 制御モード
制御モードの開始は、H8 のスイッチ投入直後である。これは、電源がボタン式タクト
スイッチであり、押されている間 OFF、離されると ON になる。アームに固定されてい
る間、タクトスイッチのボタンがアームにより押され、その間電源が OFF である。アー
ムが開放され、ボタンから離されると、電源が ON になり、プログラムが走り出す。アー
ムの開放は落下開始から 2 秒である。
制御モードで行うタスクは、A-D 変換ポートを通じてのジャイロ出力電圧の読み取り、
リアクションホイールに取り付けられたフォトリフレクタからのリアクションホイール
- 50 -
回転数のカウント、リアクションホイールの制御、ジャイロ及びリフレクタデータの無線
モデムへのデータ送信及び内蔵 RAM への書き込みである。この一連の動作には、
12.338[msec]かかる。
制御方式はシーケンス制御である。プログラム内でカウンタを設け、それにより動作を
切り替えている。1 カウントにかかる時間は、上記した動作をするため 12.338[msec]であ
る。カウンタは 1200 から開始し、900 になるまでの間右回転をかける。900 になると 600
になるまで左回転をかける。このように左右の回転切り替えを繰り返す。以下、400、200、
100 で回転の切り替えをする。カウンタが 0 になると、リアクションホイールにかかる電
圧が左右ともに 0[V]となり、制御モードを終了し、データ連続送信モードに移行する。
制御と平行して、ジャイロ電圧と、リフレクタでカウントしたリアクションホイールの
回転数をシリアルポートから無線モデムへ送信する。また、内蔵 RAM にも同様のデータ
を書き込み保存する。内蔵 RAM 容量は 4[kbyt]e であり、そのうちの 3.8[kbyte]をデータ
の保存に使用した。200[byte]あけたのは、H8 は内蔵 RAM の一部をデータのスタック領
域として使用するため、同一の領域に異なるデータが書き込まれることにより誤動作を回
避するためである。
②
データ連続送信モード
カプセル落下後の状態である。制御中、RAM に取得したデータを連続送信する。制御
中もデータ送信は行っているが、冗長度を上げる目的で、何度も繰り返し送信させている。
データの送信は、HIT サットが回収され、スイッチを OFF にするか電池が切れるまで
行われる。
3.5.2.2
HIT サット 2 号機のシーケンス
2001 年 1 月 19 日に行った HIT サット 2 号機のシーケンスは大きく3つの段階に分け
られる。①待機モード、②制御モード、③データ連続送信モードである。
① 待機モード
HIT サットがアームに固定され、落下を待つ状態である。
この間 H8 は、制御の基準となる静止状態、つまり角速度0[rad/s]の電圧をフィードバ
ックすることにより求めている。今回の実験では、停止制御の基準となる停止状態のジャ
イロ出力電圧に対する A-D 変換値は、制御中一定であるため、プログラム上に定数として
記述するのが望ましい。だが、実際には温度変化等によりジャイロの出力電圧が変化して
しまう。よって、開発環境でのジャイロの出力電圧と実験環境での出力電圧は異なる恐れ
があるため、実験環境とほぼ同じ制御直前の状態の電圧を取得するほうが精度の高い制御
ができると考えられる。そのため、この待機中のジャイロ出力電圧を設定値として取得し
- 51 -
た。ただ、一度の電圧取得では、取得した瞬間の電圧が振動などによるノイズだった場合、
正常な制御ができなくなる。このため、スイッチ投入後から、落下直前まで、取得したジ
ャイロ電圧を連続取得し、その平均値を設定値とすることが望ましいと考えた。しかし、
このプログラムはアセンブラで書かれており、除算により生ずる小数点以下の数値は全て
切り捨てられる。このため、データ取得回数を分母とすると、増加する一方の分母により、
分子は減少し続けてしまう。そこで考案したのが次の式である。
n=1
:擬似平均値=A-D データ
n=2 以上
:擬似平均値n=(擬似平均値n-1×499+A-D データ)/ 500
※n は A-D データ取得回数
この擬似平均値を繰り返し計算し、この待機モードで最後に計算した擬似平均値が制御の
設定値となる。
また、待機モードでは次の“制御モード”に移るために、アームが開いたかどうかのチ
ェックも行う。H8 はアームから開放されたことを、外壁に取り付けられたフォトリフレ
クタにより認知する。これは回転数検出に使用しているフォトリフレクタと同じ、KR-290
を使用している。アームが閉じている状態では、アームに反射した赤外線を検出するため、
出力電圧は5[V]である。アームが開放されると、赤外線が反射するアームがリフレクタの
正面から離れるため、反射物がなくなり出力電圧は 0[V]に落ちる。H8 はこの電圧の変化
を検知し、モードを変更する。
落下開始から1秒後、アームが開放される。H8 は、リフレクタの電圧が 0[V]になって
から、75[msec]間隔で 4 回、300[msec]かけて、リフレクタの出力電圧が 0[V]かどうかチ
ェックする。ここで確認回数を複数回にすることによりソフトウェア的にノイズフィルタ
の役割を果たしている。
4 回の電圧チェックで 4 回とも 0[V]ならば、H8 は制御モードに移る。
② 制御モード
このモードでは、無重力状態になり、HIT サットはアームから開放された状態である。
このモードに入ってから 2 秒間、リアクションホイールを左回転させることにより、HIT
サットが右方向に回転する。その後、静止制御を開始する。
ここで行うタスクは、A-D 変換ポートを通じてのジャイロ出力電圧の読み取り、リアク
ションホイールに取り付けられたフォトリフレクタからのリアクションホイール回転数
のカウント、リアクションホイールの制御、ジャイロ及びリフレクタデータの無線モデム
へのデータ送信及び内蔵 RAM への書き込みである。この一連の動作には、7.338[msec]
かかる。
制御方式は ON/OFF 制御である。制御基準値よりジャイロ電圧が低いと、つまり HIT
サットが右回転していると、リアクションホイールの左回転方向に電圧をかける。設定値
よりジャイロ電圧が高いと、つまり HIT サットが左回転していると、リアクションホイ
- 52 -
ールの右回転方向に電圧をかける。
制御と平行して、ジャイロ電圧と、リフレクタでカウントしたリアクションホイールの
回転数をシリアルポートから無線モデムへ送信する。また、内蔵 RAM にも同様のデータ
を書き込み保存する。内蔵 RAM 容量は 4[kbyt]e であり、そのうちの 3.8[kbyte]をデータ
の保存に使用した。200[byte]あけたのは、H8 は内蔵 RAM の一部をデータのスタック領
域として使用するため、同一の領域に異なるデータが書き込まれることにより誤動作を回
避するためである。この 3.8[kbyt]e 全てにデータが書き込まれると、制御モードを終了し、
データ連続送信モードへと移行する。
落下開始から 3.3[sec]にデータの書き込みを開始して、7.338[msec]毎に 3.8[kbyte]書き
込むと、に書き込むデータが 4[byte]なので、落下開始から 10.26[sec]になる。これは無重
力状態が終了する時刻とほぼ同じである。
③ データ連続送信モード
カプセル落下後の状態である。制御中、RAM に取得したデータを連続送信する。制御
中もデータ送信は行っているが、冗長度を上げる目的で、何度も繰り返し送信させている。
また、回収後、ノートパソコンと衛星を直接ケーブルで接続し、データを取得する目的で
も連続送信させている。
データの送信は、HIT サットが回収され、スイッチを OFF にするか電池が切れるまで
行われる。
- 53 -
各初期設定
5V
RW
リフレクタの出力電圧
0V
10秒間
(落下時間)
ジャイロからの
信号をA-D変換
A-D変換値
リフレクタからの回転数をカ
ウント
A-D変換データ、
リフレクタの信号データをシ
リアルポートから送信
右回転
停止
RW
データを内蔵RAMに
格納
無限ループ
RAMに格納したデータをシリア
ルポートから送信
図 3.18 HIT サットの制御フローチャート
- 54 -
左回転
3.6
実験結果
第 1 回試験にはシーケンス制御で行った画像の取得、第 3 回には HIT サット非動作時
のデータの取得に成功した。第 6 回実験は ON/OFF 制御を行い、この実験で得たデータ
を基に PID 制御を完成させる。第 6 回実験では動作時の画像とデータを取得した。
3.6.1
第 1 回実験結果
2000 年 10 月 18 日に行った第 1 回実験では、当時の唯一のデータ取得手段である無線
モデムが故障したため、データ取得には失敗したが、リアクションホイールの動作には成
功した。以下は取得した動画の画像である。
[落下 1 秒後]
無重力状態突入時
アームによってしっかりと HIT サ
ット 1 号機は抑えられている。
[落下 2 秒後]
無重力状態突入から 2 秒後
ディジタル信号を受け取り、アーム
が HIT サット 1 号機を開放。
- 55 -
[落下 3 秒後]
H8 がプログラムに従い、モータド
ライバに信号を送信。モータドライ
バはリアクションホイールを左回
転させる。そのことにより、HIT サ
ット自体は右回転をはじめる。
[落下 4 秒後]
右回転中
[落下 5 秒後]
- 56 -
[落下 6 秒後]
無重力状態突入から 6 秒後
リアクションホイール逆回転のた
め、HIT サット停止。
[落下 7 秒後]
HIT サットは左回転をはじめる。
[落下 8 秒後]
- 57 -
[落下 9 秒後]
左回転中
[落下 10 秒後]
10 秒後。無重力状態を脱し、落下
HIT サットの動作ををまとめる。アーム解放直後、HIT サットは右回転を始めた。その
後約4秒後、HIT サットは減速、停止し、逆回転を始めた。
3.6.2
第3回実験結果
2000 年 11 月 7 日に行った第 3 回実験では、第 6 回と同様の ON/OFF 制御を行う予定
であった。しかし配線ミスによりモータドライバに逆電圧がかかり、破損していたため、
リアクションホイールの動作には失敗したが、無線及び回収後の有線によるデータの取得
には成功した。以下は HIT サット無重力状態での映像である。図 3.19 に取得したデータ
を基に作成したグラフを示す。
- 58 -
[落下前]
落下前、アームによって固定される
HIT サット 1 号機。
[落下1秒後]
無重力状態突入から 1 秒後、アーム
が開き、HIT サットが空中に放出さ
れる。
[落下 2 秒後]
本来、HIT サットは回転をはじめる
のだが、モータドライバ故障のため、
回転せず。
HIT サットは向かって左側に流れ
ていく。この原因は気圧、マグネッ
トスイッチのためなどが考えられ
るが、断定できていない。
側面のネットにあたり跳ね返る。
- 59 -
[落下3秒後]
右下へとゆっくりと移動。
[落下4秒後]
[落下 5 秒後]
- 60 -
[落下 6 秒後]
[落下 7 秒後]
[落下 8 秒後]
- 61 -
[自由落下終了]
10 秒の無重力状態を終え、落下。
HIT サットの動作ををまとめる。アーム解放直後、HIT サットは向かって左に移動しは
じめ、側面のネット、およびアームに衝突した。その後向かって右下に向かい等角速度運
動をしながら移動した。
JAMIC_2000_11_07
GyroSignal
1.55
角速度、角加速度
8.0
7.0
1.5
6.0
1.45
5.0
4.0
1.4
3.0
角速度[rad/s]
角加速度[rad/s2]
Gyro出力[V]
1.35
2.0
1.0
1.3
0.0
1.25
-1.0
1
2
3
4
5
6
落下開始からの時間[s]
7
図 3.19 HIT サット 1 号機非動作時のデータ
3.6.3 第 6 回実験結果
2001 年 1 月 19 日に行った第 6 回実験では、リアクションホイールの動作、ならびに動
作時のデータ取得に成功した。以下は取得した動画の画像である。
- 62 -
[落下前]
HIT サットを把持しているアーム。
HIT サット 2 号機の赤い LED は
H8 が正常に動作していることを示
している.
[落下 1 秒後]
無重力状態突入から 1 秒後。アーム
が HIT サットを開放。
[落下 1 秒後]
赤い LED の隣に、制御モードに入
ったことを示す緑の LED が点灯。
HIT サットは右回転をはじめる。
- 63 -
[落下 2 秒後]
左回転中。LED の位置を確認すると、
右回転を認識しやすい。
[落下 3 秒後]
[落下 4 秒後]
無重力状態突入から 4 秒後。リアク
ションホイールによる制御で HIT
サットが停止。
- 64 -
[落下 5 秒後]
制御軸以外の動きが見られる。
[落下 6 秒後]
制御軸方向の微小回転も認められ
る。
[落下 7 秒後]
- 65 -
[落下 8 秒後]
10 秒の無重力状態を終え、落下。
HIT サットの動作ををまとめる。アーム解放直後、HIT サットは右回転を始めた。2秒
後に減速開始した。3秒後に、リアクションホイールの軸と異なる軸方向に対し等角速度
運動を開始しつつ、リアクションホイールの軸方向に対する HIT サットの回転はほぼ停
止した。
- 66 -
この実験で取得したデータを基に作成したグラフを示す。
(図 3.20、3.21)
120
回転数(絶対値)[RPS]
100
80
60
40
20
0
3
4
5
6
6
7
時間[sec]
8
8
9
10
図 3.20 リアクションホイール回転数[RPS] (絶対値)
JAMIC 01/19
電圧[V]
1.7
角速度
角加速度
3
2
1.65
1
1.6
0
-1
1.55
-2
-3
1.5
-4
1.45
1.4
3.30
-5
-6
4.28
5.27
6.25
7.23
8.22
9.20
落下開始からの時間[sec]
ジャイロセンサの電圧変動
角速度[rad/s]
角加速度[rad/s2]
図 3.21 ジャイロセンサと角速度
- 67 -
3.7
考察
第 1 回、10 月 18 日の実験に於いて、HIT サット 1 号機は、約4秒間の回転の後、逆方
向に回転を始めた。このときはデータ取得の失敗により、リアクションホイールの回転数
が分からず、どのような動作をしたのかは不明である。だが、HIT サットの回転は、他に
動作の原因となるものが考えられないため、また予定されたシーケンスと同様の動作をし
たため、リアクションホイールが回転したことにより、HIT サットが回転したと考えるこ
とが自然である。この実験結果は、リアクションホイールが無重力環境において姿勢を変
位させる可能性の裏付けとなった。
第 2 回、11 月 7 日の実験において、HIT サット 1 号機は、リアクションホイールが動作
したとは考えにくい様相を呈した。取得したデータが示す回転数も常に 0 であり、リアク
ションホイールは動作しなかったと考えられる。
ただ、今回の実験では、浮遊する HIT サットが側面の網などに当たり、角速度が変化す
る様子を捉えたジャイロセンサのデータ取得に成功している。この結果は、部分的にでは
あるが、機器の信頼性が上がり、その後の実験成功につながったといえる。
第 6 回、1 月 19 日の実験において、落下後にアームから開放された HIT サット 2 号機は、
(RW の軸方向を z 軸として)z 軸を中心にして2秒間の右回転した。その後、H8 が停止
制御に入ったと思われる時刻に HIT サットは回転をほぼ停止し、姿勢が緩やかに傾いてい
く。x、y 軸を中心とした方向の角運動については、制御していないので実験結果には問題
ない。ただ、z軸を中心とした微小回転も続いていた。取得した画像から角速度を算出し
たところ、初期回転による最大角速度は 2.3591[rad/s]、収束時の角速度は 0.1582[rad/s]で
あることが分かった。取得した回転数データは、リアクションホイールが回転していたこ
とを示しているため、HIT サットの角速度を変化させたのはリアクションホイールの動作
によるものである。
収束後の微小回転については、擬似平均値による設定値が 0[rad/s]を示す電圧ではなかっ
たことが原因と考えられる。角速度(ω)と電圧(V)の関係を求めると、以下のようになった。
ω=27.3335−16.3935V
[rad/s]
(式 3.6.1)
ここに設定値となった 1.6600[V]を代入すると、0.1202[rad/s]となる。また H8 の AD 変
換の分解能は 4.883[mV]、対応する角速度は 0.0800[rad/s]である。0.1202±0.0800[rad/s]
の範囲内に 0[rad/s]は存在しない。つまり 1.6600[V]:0.1202[rad/s]という設定値と 0[rad/s]
の差は、AD 変換による誤差の範囲を大きく超えている。これは、JAMIC 落下カプセルの
移動中に何らかの振動があり、それがノイズになったと考えられる。ここから分かるのは、
擬似平均は設定値の決定方法として有効ではないということである。平均と違い、擬似平
均はサンプリング個数によって、変動する割合が変化しない。ノイズが影響する割合は常
- 68 -
に一定である。この点は見直さなければならない。
出力電圧のオフセットが変化しないジャイロセンサを用いることが望ましいが、その場
合でも万一オフセットが変化した場合にも対応できるようなアルゴリズムを用いると、冗
長度を上げることができる。
また、設定値を十分な精度で求めることができたとしても、AD 変換誤差により、収束時
に偏差が残る可能性がある。この点は、偏差をフィードバックする、PWM による PID 制
御、また、ジャイロセンサ出力電圧のアンプによる増幅等で改善できる。
3.8
まとめ
第 1 回の実験において、初期回転の後、減速し、逆回転することができた。
第 6 回の実験において、初期回転による最大 2.3591[rad/s]の回転から、0.1582[rad/s]に
まで減速できた。このことから、リアクションホイールは無重力環境における姿勢制御の
手段として有効であることが実証された。
- 69 -
第4章
リアクションホイールの加速耐久試験
- 70 -
第4章 リアクションホイールの耐久加速度試験
4.1 耐久加速試験の目的
リアクションホイール(BBM)の耐久加速度試験の目的は、リアクションホイールのベ
アリングとモータの真空中(宇宙空間)での耐久性を検討するものである。
4.2 耐久加速試験の概要
耐久加速試験とは、真空中でも大気中と同じように、かつ正常動作するか確かめるため、
宇宙空間と同等の真空中で試験を行う。宇宙空間では 1×10
−6
[Torr]以下と超高真空である。
この超高真空を得るためにロータリポンプで補助排気されたディフュージョンポンプを使
用する。真空装置内で行われる耐久加速試験では、一般的に低速回転で一万時間以上試験
をおこなうが、今回製作したリアクションホイールは高速回転のため、それ以下の試験時
間でも十分検討を行うことができる。そこでリアクションホイールの耐久加速試験を連続
運用で行うために、自律型(無人運転型)耐久試験装置を製作した。
リアクションホイールの機械的なキーテクノロジであるモータとベアリングが、宇宙空
間でも使用可能であると言う実証をする為には、このミッションでは千時間の試験を行う
ことで十分検討できる。また千時間以上の耐久加速試験に耐えることができると、宇宙空
間でも使用が可能であるという実証になる。
4.3 耐久加速試験の装置構成
耐久加速試験の装置構成図は図 4.1 のように、ロータリポンプ、ディフュージョンポンプ、
制御・データ処理用コンピュータからなっている。
制御・データ処理用コンピュータにはデータ処理を行うために H8 が組み込まれている。
H8 は真空装置内の真空度をはじめ、リアクションホイールの回転数や電圧・電流などを計
測し、ディフュージョンポンプに流れ込む水温もモニタしている。さらに H8 は、リアクシ
ョンホイールに回転数や電流値の異常上昇など、何らかの異常を検知した際に、真空装置
やリアクションホイールの緊急停止を行うようにプログラムしている。
- 71 -
ガラス・キャップ
リアクション・ホイール
温度・回転数・各種情報
電離真空計へ
リークポート
バルブ
制御・データ処理用コンピュータ
ディフュージョン・ポンプ
図 4.1 耐久試験装置
4.4
ロータリー・ポンプ
構成図
耐久加速試験の電気回路
○OP-AMP 増幅回路
今回、温度センサに LM35D を使用する。この規格は表 4.1 のように、
計測範囲 0∼100[℃]
で、0[℃]の時0[mV]、100[℃]の時 1[V]の電圧を出力する。しかし 0∼1[V]の電圧出力で
は信号が微弱であり、また H8 内蔵の ADC の検出範囲は 0~5(v)、分解能は 10(mV)であ
るため、精度上げるために OP-AMP(TA75358P)で電圧を 5[V]に増幅させる必要がある。
OP-AMP の増幅回路は、図 4.2 のように、非反転増幅回路を用いた。非反転増幅回路は、
出力信号の極性が入力信号の極性と同じになり、増幅度を 1 倍以上に設定できる。これの
回路方程式は、次の 2 つの仮定、
1.
OP-AMP にフィードバック回路を設けると、出力電圧が有限であることから、
逆に 1 つの入力端子間の電位差は、常に 0[V]になるように決定されている。こ
れをイマジナリーショートという。
2.
OP-AMP の入力インピーダンスは非常に大きく、OP-AMP には電流が流入し
ない。
より、反転(−)入力電圧は非反転(+)入力電圧 Viに等しくなければならないから、
Vo
R1 = Vi
R1 + R2
(4.3)
となる。
この時、Viは 1[V](温度センサーの最大電圧)、Voは 5[V](増幅後の電圧)であるから、
Vo = (1 +
R2
)Vi
R1
R2=4R1
(4.4)
- 72 -
となり、R1 は R2の4倍の抵抗をとる。
R3は入力バイアス電流による誤差の影響を小さくするために入れてある。これを入れる
ことにより、過電流によるショートを防ぐ事が出来る。
また、電源端子に接続されているコンデンサは、OP-AMP の発振を防止する為のもので
ある。C1で大きなノイズの、C2で小さなノイズの対策をし、安定した電圧を設計した。
表 4.1 温度センサの規格表
AC 100V
パラメータ
LM35D
単位
計測範囲
0∼100
℃
精度
±0.6
℃
±0.8
℃
非直線性
±0.2
℃
出力
±100.2
mV/℃
AC-DC
電源
Vcc
15V
C1
10μF
R1
12kΩ
C2
0.1μF
+
LM35
R2
3kΩ
Vout
R3
100kΩ
図 4.2 OP-AMP の増幅回路
○リレー回路
図 4.3 は緊急停止リレー回路図である。これは表 4.2 の作動条件が 1 つでも異常値になる
と、ディフュージョン・ポンプ及びリアクションホイールのモータを停止させる回路であ
る。
この回路は入力電圧が 5[V]だが、ディフュージョン・ポンプの電源電圧は AC200[V]、
リアクションホイールのモータの電源電圧は 12[V]となっている為、各機器に応じた電圧
変換をさせなければならない。Ch1 をディフュージョン・ポンプ、Ch2 をリアクションホ
イールのモータとする。Ch1 では、5[V]から AC200[V]へ直接変換することが出来ない為、
リレー1 で 5[V]を AC100[V]に、リレー2 で AC100 [V]を AC200 [V]へ変換させて出力し
- 73 -
ている ch2 は、5 [V]から 12[V]への変換なので、リレー1 のみで変換することが出来る。
H8 とリレーの間にプルダウン抵抗を接続し、常に 0[V]に下げている。これにより、入力
電圧を安定させている。リレー回路は H8 の 5port の 0bit 目に接続されている。
AC 100V
H8
Port
5-0
5V
ch1
AC 200V
リレー2
リレー1
510Ω
プルダウン
抵抗
ch2
M
DC 12V
図 4.3 リレー回路図
表 4.2 リレー回路の作動条件(実験条件)
A/D ボード
項目
作動条件
ノミナル値
Ch0
電圧
10≦V≦15[V]
12V
Ch1
電流
I<360[mA]
14[mV]
Ch2
回転数
未使用
8300[rpm]
Ch3
真空度
未使用
1.4×10-6[Torr]
Ch4
ベアリング温度
T1<65[℃]
※1
Ch5
モーター温度
T2<65[℃]
※1
Ch6
キャップ内温度
T3<65[℃]
※1
Ch7
水温計温度
T4<30[℃]
※2
チャンネル
※1 時期により変動(冬期間 20[℃]夏期間 40[℃])
※2 時期により変動(冬期間 10[℃]夏期間 30[℃])
○モーターの電圧・電流測定の回路
モーターの電圧・電流測定の回路図を図 4.9 に示す。入力は 12[V]だが、A/D ボードの測
定範囲は 10[V]までの為、電圧を下げなければならない為、分圧回路を用いて、電圧(Ch0)
を測定した。
- 74 -
電流(Ch1)は、モーターと直列に抵抗R3をつなぎ、その電圧から電流を測定した。こ
れは、直接電流を検出できない為、抵抗 R3の電圧を検出させ、BASIC プログラム上で計
算させる方法である。
for
ch 1
R3
10Ω
+12V
M
R1
10kΩ
for
ch 0
R2
10kΩ
図 4.4 モーターの電圧・電流測定回路
(4)回転数測定回路
回転数の検出は、図 4.5 のようにロータの裏面に貼り付けたスリットの入った黒のシール
とフォトリフレクタを用いて検出する。フォトリフレクタは、赤外 LED とフォトトランジ
スタを組み合わせたセンサーで、赤外線の反射を検出する。黒は反射をしないため、白い
スリット部分のみ反射する。白いスリットは1回転に1回、リフレクタの上を通過し、パ
ルスを発生させる。このパルスが1秒間に何回発生したかを H8 で検出する。これを D/A
変換し、A/D ボードへ出力する。但し、ここで出力できる値は電圧のみの為、H8 で検出し
た回転数を電圧に直して出力する。この時、回転数をX、電圧をVとすると、
V=0.0193X−0.831
[V]
(4.5)
で表わされる。今度は、この A/D ボードへ出力された電圧を元の回転数に戻さなければな
らない。ゆえに、
X=
V+0.831
[Hz]
0.0193
(4.6)
で元に戻す。しかし、Xは1秒間の回転数なので、1分間に直すと、
rpm=X×60
[rpm]
(4.7)
となり、1分間の回転数を検出することが出来る。この回転数検出回路を図 4.6 に示す。プ
ルアップ抵抗は、常に 5[V]で安定させる為に用いている。
- 75 -
5V
5V
リフレクタ
5V
10kΩ
プルアップ
抵抗
H8
D/A変換
*ロータの裏面に貼り付けた
白いスリットの入った黒いシール
図 4.5 ロータの裏面
図 4.6 回転数検出回路
4.5 制御系のフローチャート
今回の耐久加速試験装置は、BASIC プログラムで制御されている。このフローチャート
を図 4.7 に示す。
まず、A/D スキャンをし、各設定を行う。次に、Ch0 から Ch7 まで順に各パラメータの
変換を行い、それぞれの値をディスプレイに出力する。この出力された値を 5 分おきにプ
リントアウトする。これを繰り返し行っている。Ch0 から Ch7 の間で異常値が出力される
と、ディフュージョン・ポンプ及びリアクションホイールが停止され、ブザーで知らせる。
それぞれの設定値は、表 4.2 の作動条件と同じで、電圧 10≦V≦15[V]、電流 I<360[mA]、
モーター温度・ベアリング温度・キャップ内温度 T<65[℃]、水温計温度 T<30[℃]となっ
ている。この停止条件はモータやディフュージョンポンプの規格を基に定めた。
- 76 -
A/Dボード
スタート
A/D SCAN
各パラメータの変換
電圧値は?
10≦V≦15
異常
正常
電流値は?
360mA
異常
正常
温度は?
65℃以下
異常
正常
水温計は?
30℃以下
異常
正常
図 4.7 耐久加速試験のフローチャート
- 77 -
リアクションホイールと
ディフュージョンポンプを
停止し、ブザーを鳴らす
4.6 試験結果
7 月 6 日 11 時 36 分 26 秒をもってリアクションホイールはその機能を停止した。そのデ
ータをグラフ化し図 4.8、図 4.9 に示す。縦軸は回転数・電流値、横軸は時間である。
回転数(rpm)
電流値(mA)
9000
160
8000
140
7000
120
6000
100
回転数
5000
80
電流値
4000
60
3000
40
2000
20
1000
0
0
0
250
500
-20
750 1000 1250 1500
Time(sec)
図 4.8 耐久試験データ(前半)
回転数(RPM)
12000
電流値(mA)
300
10000
250
8000
200
6000
150
4000
100
2000
50
回転数
0
1500
0
1750
2000
2250 2500
Time(sec)
2750
3000
図 4.19 耐久試験データ(後半)
- 78 -
電流値
4.7 パラメータ変動の原因究明
試験結果表図 4.8、4.9 から見て取れるように、1100 時間以降回転数および、電流値が著
しく変化している。そこで、各パラメータや状況から変動原因を推定した。
時間(hour)
事象
原因
130
回転数降下・電流値上昇
ベアリングのズレ
1100
回転数降下・電流値上昇
ロータとその軸受けのベアリングが落下
1300
回転数降下・電流値上昇
ロータとその軸受けのベアリングが落下
3083
回転数上昇
フォトリフレクタの異常(ノイズ)
3084
回転数降下
摩擦によるもの
3104
停止
制御プログラムによる正常停止
1100 以降
ベアリング落下に伴う回転数の変動
1100 時間以降の回転数及び電流値の変動は、ベアリングの落下でロータとベアリングと
の摩擦が原因と思われる。これはリアクションホイールを解析した際に、モータの蓋がロ
ータに融着していたためである。このためリアクションホイールの寿命を徐々に縮める事
となった。また、フォトリフレクタのノイズについてはオシロスコープで解析した結果、
真信号約 7600(rpm)上にスパイクが確認できた。このために H8 が回転数と認識してし
まい、回転数の異常上昇を招いたと考えられる。原因としては、長期運用によるフォトリ
フレクタの故障した可能性である。他の電子機器により信号線にノイズが混入したことも
考えられるが、可能性はきわめて低いと言える。
リアクションホイール加速耐久試験後に、機能を停止したリアクションホイールの解析
をした。図 4.10 に故障した後のロータを、図 4.11 にその拡大写真を示す。
図 4.10 試験後のロータ
図 4.11 ロータの拡大
- 79 -
耐久加速試験終了後にリアクションホイールを解析した結果、以下のような原因で故障
したと推測される。
リアクションホイールのダイナミクスバランスが取れておらず、そのため振動が発生し
ベアリングが落下した。これに伴いにロータとモータとの間の隙間がなくなり、それが摩
擦となった。さらにモータの上蓋が振動でロータ側に持ち上がり、モータ・ロータ間の摩
擦により、モータの上蓋がロータに融着している(図 4.11)のはその際たる現象の一つと
言える。また他の部分(整流子や構体)への影響については、ロータの一部が削れアルミ
ニウム粉が至る所に落下していた以外は変化はなかった。
ロータ
ロータ
モータ
モータ
取り外し時
取り外し時
ロータ
ロータ
モータ上蓋融着
ロータ断面(中心部拡大)
ロータ断面(中心部拡大)
上蓋が取れた
上蓋
ワッシャー
ワッシャー
モータ断面(中心部拡大)
モータ断面(中心部拡大)
図 4.11 リアクションホイ−ル試験前(左)試験後(右)のイメージ
- 80 -
図 12 正常なモータ(右)と解析したモータ(左)
4.8 まとめ
リアクションホイール加速耐久試験は、3104 時間をもって試験を終了した。故障原因と
しては、
1. ロータのダイナミクスバランスを調整していなかった為、ロータが偏心した
2. ロータの偏心のためリアクションホイールに振動が生じた
3. 振動のためベアリングが落下した
※ 以降ベアリングの落下が起因して摩擦により回転数の変動が生じ、モータに負担を
かける事となった
が挙げられる。
対策としては、まず固有振動を極力起こさない構造もしくは機構にすること、ベアリン
グを落下させない機構にすることである。具体的には、ベアリングとモータをシリコーン
樹脂で固める。これで、モータやベアリングに伝わる振動をシリコーンが吸収でき、ベア
リングを固定することで、ダイナミックバランスを最小に抑えることができる位置での固
定が可能になる。ベアリングを落下させない機構としては、ベアリングを受けるための爪
などをつけることなど簡単な設計変更で対処できる。
- 81 -
振動を抑える要素として、ダイナミクスバランスを取ることや、構体自体の固有振動を
極力抑える構造にするなどが挙げられる。
また、回転数を安定した状態でカウントするために、複数のスリットをつけて測定精度
を上げる、或いは回転数を細かく読み取る機構にする必要がある。
これらの材料を基にリアクションホイールの PM 設計の指針を得た。
- 82 -
第5章
CPU 放射線試験
- 83 -
5章
5.1
CPU 放射線試験
CPU 放射線試験
近年、人工衛星はより精度の高いミッションへの要望を高まっており、さらに高性能・
長寿命でなおかつ低コストな衛星が望まれている。それらの要求を満たす最も単純な解決
方法は、制御機器や計測器をそのまま小型化することである。これにより先に述べた要求
を全て実現可能とできるが、最近になって搭載される IC・LSI を小型化することで新たな
問題が提議されるようになってきた。それは宇宙放射線による IC・LSI への影響である。
IC・LSI に放射線があたることにより誤作動が生じた事故報告は今までも多数挙がってお
り、人工衛星を開発するにあたってはまずその放射線に強い CPU を選定する必要がある。
そこで我々はその試験をすべく日本原子力研究所高崎研究所で放射線試験を実施した。
放射線試験とは
人工衛星は宇宙放射線(捕捉放射線・太陽宇宙線・銀河宇宙線)を浴び続ける過酷な環
境の中で機能しなければならない(図 5.1)。この宇宙放射線環境下に半導体部品を曝して
おくと、その特性が次第に劣化していくことが知られている。放射線の影響を評価する方
法としては、人工衛星のミッション期間中に半導体部品に吸収される放射線のエネルギー
量に基づく「トータルドーズ(積算吸収線量)
」による方法が一般的であった。
図 5.1 宇宙放射線環境
近年の人工衛星に搭載される集積回路は、高機能化・小型化の要求に応えるために集積
度が高められており、それだけ内部に流れる電荷量が小さくなっている。そのため、荷電
粒子(例えば鉄イオン)である宇宙放射線が集積回路内を通過すると、その時に生じる電
荷量が集積回路本来の電荷量と同程度になり、入射粒子がたとえ 1 個であっても集積回路
に一時的な誤動作(ソフトエラー)や永久的な損傷(ハードエラー)を引き起こすという
現象が 1980 年頃から認識されている。このような現象を、従来のトータルドーズと区別し
- 84 -
て「シングルイベント(単発事象)
」と呼ぶ。シングルイベント現象は、発生する半導体部
品、発生機構、引き起こされる現象の違いによってシングルイベントアップセット(SEU:
Single Event Upset) 、シングルイベントラッチアップ(SEL:Single Event Latch-up)、
シングルイベントバーンアウト(SEB:Single Event Burnout)、シングルイベントゲート
ラプチャー(SEGR:Single Event Gate Rupture )などに分類される。
前述したように宇宙用の CPU は高速、低消費電力といったパラメータから選定をするの
ではなく、こうした宇宙環境におけるシングルイベント現象にどれだけ耐性が強いか、CPU
としてどれだけ安定に周辺機器を制御するかにより決定される。しかしながら我々が求め
ている民生部品の CPU は、最近こそは耐放射線設計をする傾向にあるらしいが現時点にお
いてはまだ出始めの段階であり、その性能はまだ信頼するに至っていない。よって現在市
販されている CPU を放射線試験により宇宙環境で使用できるかを評価する必要がある。し
かし全ての CPU を試験していたのでは時間とコストがかかりすぎるため、NASA や
NASDA が宇宙用 CPU として高く評価されている製品を研究の用途に合わせ選定するに至
った。その結果、独自の調査により Hitachi 製の製品は放射線環境に強いという評価により
H8 マイコンを推挙した(資料)。H8 は周辺機器用制御に有用な 32bit マイコンであり、こ
れをマイクロサットの CPU として選定し、放射線試験を行った。放射線試験の内容は CPU、
RAM の試験として代表的な SEU と SEL 試験をおこなった。
5.1.1 シングルイベントアップセット試験について
この試験は簡単に言い表すと、放射線が当たることにより ROM・RAM 等のソフトウエ
アを記録する記憶素子の状態が反転してしまう現象のことである。メモリ素子などでは、
入射した単発の荷電粒子によって誤動作が起こり、記憶されていた情報が反転(“1”→“0”
あるいは“0”→“1”)することがある。これがシングルイベントアップセット(SEU)と
いう。この時、記憶情報を反転させるのに必要な最小電荷を臨界電荷(Qc)と呼ぶ。
臨界電荷は回路パラメータに依存し、半導体部品の構造や集積度によって変化する。ま
た同一の半導体部品であっても、回路に収集される電荷は荷電粒子が誘起する電離密度に
依存し、電離密度は荷電粒子の種類やエネルギーに依存する。従って、SEU 発生頻度は入
射荷電粒子が半導体部品中で電離によって失うエネルギーに依存することになり、各々の
半導体部品について荷電粒子が電離によって失うエネルギーに対する SEU 発生頻度がわか
れば、実際の宇宙放射線環境下での SEU 発生頻度を予測できる。
図 5.2 は、荷電粒子が電離によって失うエネルギーに対する反転断面積(SEU 発生頻度)
の一例である。単位長さあたりに失うエネルギー(dE/dx)を LET(Linear Energy Transfer)
と呼び、単位は MeV/(mg/cm2)あるいは McV/μm で表す。図 5.2 の LETth は、スレッ
ショルド LET といって、荷電粒子が電離で失ったエネルギーが臨界電荷と等しくなる点で
ある。また、反転断面積は、半導体部品に照射された単位面積あたりの荷電粒子数に対し
て、SEU が何回発生したかで求める。LET が LETth を超えると、その増加に対して反転
- 85 -
断面積は急激に増加して飽和に至る。この時の反転断面積の大きさを、飽和反転断面積(σ
s)と呼ぶ。
図 5.2 スレッショルド LET と飽和反転断面積
5.1.2 シングルアップラッチアップ試験について
SEL 試験は簡単に言うと、放射線を照射することで半導体上の基盤にある回路が破壊す
るかどうかを見るための試験である。
SEL 現象とは、主に CMOS 構造のデバイスにおいて図 5.3 に示すような寄生的に形成さ
れたサイリスタ構造部位 Q、Q に荷電粒子が誘起する雑音電流が注入され、サイリスタが
ON 状態となり大電流が流れ続ける現象である。この現象が生ずると、寄生サイリスタ間(図
中①から④の間)が短絡し続けるため、電源を一旦切らない限り大電流が流れ続ける。そ
の結果、二次的にデバイス内の電極溶断、同一電源系統内電圧降下による機能障害等、重
大な結果を招くことになる。
図 5.3 バルク CMOS における寄生サイリスタ
- 86 -
5.2 日本原子力研究所高崎研究所の放射線試験施設
日本原子力研究所高崎研究所(図 5.4)(以下高崎原研)は大型照射施設や各種の加速器
により、放射線利用や環境保全、資源有効利用と言った研究を行っている研究施設である。
またイオン照射研究施設では、放射線高度利用技術の研究開発を行う日本では数少ない研
究機関の一つである。
図 5.4 日本原子力研究所高崎研究所
高崎原研の主要な施設として、3MV タンデム加速器や 3MV シングルエンド加速器、AVF
サイクロトロン、400kV イオン注入装置など加速器 6 機、コバルト 60 照射施設や食品照射
棟照射施設など照射施設 4 機から構成される。このうち今回使用した施設は AVF サイクロ
トロンで、主に耐宇宙環境材料、バイオ技術、RI の製造・利用等の研究開発に利用される。
5.3 放射線試験試験概要
本試験は SH4、H8/3048、PIC 各種の SEU 及び SEL 試験を行うことを目的としている。
試験供体は、H8/3048、ロット 2 種、PIC4 種、SH-4(QFP)とする。放射線装置にはサイク
ロトロン重イオンビームコース HE ラインに設置された“散乱ビーム照射試験装置”を使用。
線種は Ne、Ar、Kr、Xe。装置真空チャンバの到達真空度は 10-8Torr を目指す。照射ビー
ムの円直径は 30mm で、供試体を置く冶具は可動式である。
本試験の最終目標は H8/3048 及び SH4 の SEU 発生確率、SEL 発生確率を求めることで
ある。これを求めるため、放射線試験結果より得られたデータを用いて CREME96 による
解析を行った。CREME96 へ代入するパラメータは主に軌道要素、LETth[MeV/(mg/cm2)]、
- 87 -
デバイスサイズ[μm]、クリティカルチャージ[pC]である。
5.3.1 シングルイベントラッチアップ試験
散乱照射ビーム真空チャンバ内に H8/3048 をクロック 16MHz、SH-4 をクロック
162MHz で動作させ、放射線各種を照射し SEL の発生頻度を計測する。試験項目を表 5.1
に示す。
表 5.1 SEL 試験項目
SEL/month の求め方について
SEL 試験により照射時間、フルエンス、SEL 発生回
数を測定し、半導体デバイスのエラー発生率予測プロ
グ ラ ム で あ る CREME96 へ 値 を 代 入 す る こ と で
SEL/month を求める。
SEL 発生閾値の設定
SEL 判定条件
通常動作時の電流値の 2 倍
(H8 Typ.50mA⇒100mA)
SEL 試験時の環境条件
SEL 試験時の電源電圧
部品仕様書に規定されている最大推奨動作電源電
圧で行う。
SEL 時の温度
常温環境下
SEL 発生時データ取得方法
SEL 発生の閾値を超えると SEL カウントする。SEL
判定以下でもシステム暴走が起こる可能性は大いにあ
るため、電流値が絶対最大定格を上回った場合は、電
流監視装置により CPU 電源をリセットする。またソフ
トウエアでもシステムを自動復帰させるよう CPU 内部
にあるウォッチドッグタイマ(WDT)機能を利用して、
システムにリセットをかけるようシステム構築をす
る。さらに SEL 発生信号 LED や市販電流計を設置し、
SEL 発生時には制御室モニタにより視覚的にもカウン
トする。データとしては SEL 発生の時間、電流値の監
視、WDT 発生カウントが得られる。
SEL 試験後の動作試験
試験後には SEL が発生したときの影響を調べるため
に、RAM/ROM/ポート欠損/ITU/SCI などを調査し、試
験前の状態と比較することで正常動作を確認する。
- 88 -
5.3.2 シングルイベントアップセット
散乱ビーム照射試験装置真空チャンバ内に H8/3048 をクロック 16MHz、SH-4 をクロッ
ク 162MHz で動作させ、放射線各種を照射し SEU の発生頻度を計測する。試験項目を表
5.2 に示す。
表 5.2 SEU 試験項目
CPU 放射線試験から SEU
CPU 放射線試験から SEU 発生確率を求めるまでの手順
発生確率を求めるまでの手順
異なった LET を持つ重粒子イオンを同一ロットの試験デ
バイスに照射することにより、各 LET に対する反転断面
積の値を求める。
(H8/3048 で使用を考えているイオン種
は Ne、Ar、Kr、Xe の 4 種で、LET―反転断面積のグラ
フの作成を意図している。)
LET―反転断面積のグラフより飽和反転面積と LETth を
求める。
飽和反転断面積よりデバイスサイズを求める。
LETth より臨界電荷量(クリティカルチャージ量)を求め
る。
得られたデバイスサイズと臨界電荷量を CREME プログ
ラムへ代入。
結果より SEU 発生確率(Upset/day or Upset/sec)を得
る
∼計算式
反転断面積
=
反転率
フルエンス率×ビット数
=
エラー数
時間(s)
× フルエンスレート×ビット数
(cm2/bit)
=
エラー数
(cm2/device)
時間( s)
× フルエンスレート
- 89 -
飽和反転断面積と LETth はグラフにより決定する。
臨界電荷量(pC)
LETth×d×1.04×10-2(pC)
デバイスサイズ
, αsat ,d )
(x、y、z)=( αsat αsat =飽和反転断面積
d=1(μm)
SEU 試験時の環境条件
SEL に同じ
SEU 試験の前準備
SEL に同じく、CPU は工場により若干の性能差が出るた
め、ロット別に行う。
SEL 発生時データ取得方法
RAM データの反転をモニタし、反転ビット数をカウント。
詳細はアルゴリズム(図 5.6)に掲示。
SEL 試験後の動作試験
試験後に再度 RAM の内容を試験前の状態と比較するこ
とで、正常動作を確認する。
図 5.4 に SEL・SEU 計測装置の概略図を、図 5.5 に SEL・SEU 計測装置を示す。また、
SEL のアルゴリズムを図 5.6、SEU のアルゴリズムを図 5.7 に示す。SEL のプログラムは、
試供体である H8・SH-4 側は SEU プログラムを動作させた状態で CPU 内を流れる電流の
変化を見る。SEL 閾値電流は、基本的に最大絶対定格時の倍の値とする。すなわち H8 で
は 100mA である。
SH-4 については閾値が不明だったため、閾値を 1A と仮定して実験を行った。これは電
源電流のノミナルが 1A 以下である為、これ以上流れるとラッチアップが発生すると判断し
た。
SEL 試験の際の暴走時の対応としては、SEL 試験では閾値電流以外でも暴走が起こる可
能性は大いにあり、システム暴走を即座に解除しなければならない。本試験装置では CPU
の機能にあるシステム暴走を検知するウオッチドックタイマ(WDT)と電流測定器による
電源リセットの 2 重監視でシステム暴走を解除する。また、SEU 試験の際システム暴走の
対応としては、SEU は基本的に CPU の内臓 RAM の Upset 検出する試験であるため、シ
ステム暴走を即座に解消しなければならず、SEL 試験同様にシステム暴走を検地するウオ
ッチドクタイマ(WDT)と電流測定器による電源リセットの 2 重監視でシステム暴走を解
除する。
H8 の A/D 測定範囲が 0∼5V であるが、前回の放射線試験結果から定常値 50mA、ラッ
チアップの発生の際には 160mA 程度出力されるという結果が得た。このため万全を期して
100mA 以上の電流にも許容できるよう設計した。そこで OP アンプは正転増幅回路とし、
- 90 -
増幅率を 20 倍に設計した。つまり
50mA
⇒1V(定常値)
100mA ⇒2V(ラッチアップ時)
といった具合である。さらにいったんラッチアップが起こると、H8 に流れる電流が安定す
るかは不明なため、ある程度許容させる意味でもこの値に定める事となった。
また万一測定器が破損したときに備え、手動で電源をリセットするスイッチを付加した。
これは電源に電流計(アナログ)が内蔵されており、照射室から目視でき、針の振れによ
り SEL をカウントできる。これに合わせ電源にリセットをし、測定器の機能を手動で行う
ことを可能にした。
真空チャンバー
試験体
H8/3048F(SH4)
GND
5V
5V
1Ω
OP284
10KΩ
470Ω
1μF
130KΩ
0.01μF
電流測定用
H8/3048F
6.8KΩ
GND
ANO
I/O(P3-0) (P7-0)
5V
AG
図 5.4 SEL 用電流測定器
- 91 -
GND
POWER
SUPLLY
図 5.5 SEL・SEU 計測装置
- 92 -
スタート
H8、SH-4の電流値を電流測定器により監視
電流値がSEL判定閾値以上
N
Y
SEL発生カウント+1
電源リセット出力
電流値をデータ保存
図 5.6 SEL 試験フローチャート
スタート
RAMに0を書き込む
放置処理
照射時間
RAMの内容をシリ
アル送信
図 5.7 SEU 試験フローチャート
- 93 -
5.4
試験方法
5.4.1
SEL 試験運用
SEL 試験運用手順を以下に記す。
① 治具の設置
② 配線及び動作試験
③ 真空引きし、再度動作試験
④ SEL ソフトをスタンバイし、照射線種 Ar に設定、フルエンスレートの設定試し打ちを
し、レートを決定
⑤ 試験開始。SEL を数回確認後照射終了
⑥ その結果を見て、SEL が少なければ Kr、多ければ Ne にしフルエンスレートを調整す
る
5.4.2
SEU 試験運用
SEU の試験運用を以下に記す。
① 治具の設置
② 配線及び動作試験
③ 真空引きし、再度動作試験
④ SEU ソフトをスタンバイし、照射線種 Ne に設定、フルエンスレートの設定試し打ちを
し、レートを決定
⑤ フルエンスレートを決定後、SEU ソフトにフルエンスレートを代入し試験開始
⑥ 常時計算されモニタされた反転断面積がほぼ一定してきたとき、頃合を見て照射を中止
する
⑦ 照射線種を Ar に設定しフルエンスレートを決定、同様の試験を行う。
5.5
5.5.1
SEL 試験
SEL 試験規定
本試験 SEL 試験は NASDA-JEM 用解析方法に一部合わせて試験を行ったもので、これ
には「記憶エレメント数の小さい(1000 個未満)被試験部品は、10 万個以上のフルエンス、
もしくはイオンの照射ビームの 1 方向について SEU、SET、SEL が 10 個発生するまで照
射されなければならない。」とある。今回行った CPU は 1000 個以上の記憶エレメントに類
するものであるが、これは一般に 2MbitSRAM のような大容量 RAM を指すものであるた
め、CPU である H8、SH-4 は記憶エレメント数の小さい(1000 個未満)被試験部品とし
て評価した。
- 94 -
5.5.2 解析方法
CREME96 にて評価を行った※1。発生取得データ、反転断面積対 LET グラフに対して全
て最悪値を用いている。解析に使用したグラフは、図 5.8、図 5.9 である。
※ 1
CPU の SEL 評価を行うことを目的とした(明記した)ソフトウェアとい
うものは、現在のところ存在しない。SEU と SEL の発生メカニズムが異なる
のは事実だが、実際には SEL もクリティカルチャージ量や反転断面積がパラ
メータとなって影響していることもまた事実である。よって、SEU のときと
全く同様の手順に SEL の発生確率も CREME96 によって算出できるが、その
正確性については一般的な確率論として考える必要がある。
図 5.8 H8/3048 重イオン放射線試験結果
- 95 -
図 5.9 SH-4 重イオン放射線試験結果
5.5.3
①
SEL 試験結果及び考察
H8-SEL 発生時には 250mA(定常 55mA)もの大電流が流れたが、電源再投入
でシステムの正常動作を確認した。H8 では 20 回以上の SEL を確認したが全て同
じ結果を得ることができた。試験後の I/O ポート調査を行ったが故障ポートは一つ
も見当たらなかった。
②
電源の再投入のタイミングであるが、試験ではテレビモニターを見ながらの手動
カットオフであったため、検知から再投入までの時間オーダーは 1 無いし最大でも
2 秒間であったがそれでもシステムは正常に動作していた(SEU プログラムを動作
させていた)
。
③
SEL 発生条件である 100mA 以上に到達するまでの時間はナノ・マイクロ秒単位
の瞬間的なものではなく、上昇が肉眼でも確認できる数十∼数百ミリ秒単位であっ
た。
5.5.4
SEL CREME96 解析結果
資料 1、資料 2 は放射線試験結果から算出したパラメータである。これにより CREME96
結果(資料 3)は、H8/3048、SH-4 ともに最悪でも数十年に一回の確率で SEL の発生が予
測されることがわかった。
- 96 -
また、エネルギー別評価では LET<18 であれば H8/3048 はラッチアップの発生はほと
んどないと予測される。また SH4 は LET<20.2 であればラッチアップの発生はほとんど
ないと予測される。
5.6
SEU 試験
取得データ、反転断面積対 LET グラフに対して全て最悪値を用いている。解析に使用し
たグラフは図 5.8、図 5.9 である。
5.6.1
SEU 試験結果
資料 4 に CPU 放射線試験 H8 SEU 試験結果を、資料 5 に CPU 放射線試験 SH-4 SEU
試験結果を示す。
考察として次の二点が挙げられる。
①
H8-内蔵 RAM の内容を ALL=00 と ALL=FF で試験を行ったが、ALL=FF の方が
圧倒的に SEU の発生が少ないことが確認された。(資料1)
H8 は製造工場番号の違う型をそれぞれ照射したが、1つは SEU に非常に強い耐性
②
を示したが、
もう1つは照射イオンで最も弱い Ne を照射したが SEU が多数発生した。
5.6.2
SEU CPU 内蔵 RAM デバイス評価
CPU デバイス単体の評価は他の CPU で同時に試験を行った Cube-sat の PIC やμ
-Labsat の H8/3334(5∼8 カ月間に一回 SEU)のデータと比較して SEU の発生確率は高い。
しかし PIC-RAM、H8/3334-RAM は H8/3048-RAM より少なく PIC-RAM は製品を見ても
902Byte 以下であり、H8/3334 でも 2Kbyte であるため、仮に H8/3048 を PIC と同じ 902byte
とした場合 H8/3048 は、11.5 カ月に一回、H8/3334-RAM2kbyte であれば 5 カ月に一回 SEU
発生となる。つまり、使用するデータ RAM 領域が小さければ当然 SEU レートが下がるこ
とになる。このため実用上の使用を考えてデバイスの放射線耐性を予測する場合は、デバ
イス単体[SEUs/device/day]での評価よりも、むしろ RAM-bit そのものの評価であるビット
耐性[SEUs/bit/day]の方がより重要であると考える。この観点から表 5.3 から比較してわか
る通り、H8/3048 は他の宇宙用 CPU と同等の耐性を持っていることがわかる。
表 5.3 宇宙用 CPU との比較
CPU
S[SEUS/BIT/DAY]
飛行軌道
試験モード
H32
1.14E-07
高度 850km
不明
i386SX
3.84E-07
高度 850km
不明
H8/3334
4.40E-06
高度 850km
RAM ALL=0
H8/3048
2.86E-07
高度 450km
RAM ALL=0
SH-4
2.87E-07
高度 450km
RAM 00⇔FF
- 97 -
5.7 実機搭載における CPU 内蔵 SRAM 放射線耐性評価
①組込みシステムを構築するケースで考えると、μITRON、WindowsCE 等の小型リア
ルタイム OS を使用しない限りは、RAM を極端に大きく消費することは無いだろう。OS
を含まないシステムでは一般に RAM 領域を汎用レジスタと一時的なデータ保存として使
用するため、実際には1Kbyte の RAM 領域もあれば十分にシステム構築が可能である。仮
に H8/3048 で4Kbyte 中、1Kbyte のみ使用する場合は“10 カ月に一回の SEU 発生が予測
される”となり、この場合多数決論理法やプログラム冗長等のフォールドトレランスシス
テムを構築することで放射線による影響から十分に回避できるものと考える。
②大容量 RAM を使用するシステムを構築する場合は、H8 内蔵 RAM は汎用レジスタや
一時データ保管にのみ使用することを考え、放射線に強い大容量 RAM があればそれを外付
けとして使用することも健全なシステム構築する上で一つの有効な手段であると考える。
③H8-内蔵 RAM の内容を ALL=00 と ALL=FF で試験を行ったが、ALL=FF の方が圧
倒的に SEU の発生が少ないことがわかった。よってプログラムによるカウンターやレジス
タの状態、未使用 RAM の初期状態を FF にすることでよりシステムを安定に動作させるこ
とができると考える。
④RAM に長期のデータ保存する場合、H8 の場合4Kbyte の領域があるため一つのデー
タを複数箇所(3つ以上)に点在して記憶しても十分容量に余裕があると考える(内蔵 RAM
の使用条件による)。複数箇所に記憶されたデータを後に多数決によりデータを取得すれば
SEU が発生しても自己復旧という形でデータを補間することができる(データ冗長)。
⑤CPU に加える電源電圧は、高いと SEU の発生確率が高まり、低いと SEL の発生確率
が高まるという研究報告がある。しかし発生メカニズムが未だ明確ではないため、実機搭
載時には規格に準拠した電圧で実装するのが最良である。
⑥SEL・SEU 発生確率は低いものの、冗長系による情報保全やラッチアップが起きた場
合での対処が必要である。
5.8 まとめ
以上のことから次のような結論に達した。
本放射線試験により H8/3048 及び SH-4 の SEL・SEU 発生確率を求めることができた。
この結果、両 CPU とも低軌道におけるミッションでは重イオン放射線に問題なく使用でき
る耐性があることがわかった。ただし SEL・SEU 発生確率は低いものの、冗長系による情
報保全やラッチアップが起きた場合での対処が必要である
- 98 -
第6章
結論
- 99 -
第6章
結論
我々はマイクロサットの BBM 設計、超小型衛星を実現させるためのキーテクノロジーと
も言える、超小型リアクションホイールの機能実証や耐久性等を調査・検討をすべく各種
試験を行い、
これに伴い PM 設計の指針を得た。さらにリアクションホイールの制御用 CPU
や、メイン CPU で用いる H8/3048 や母衛星のメイン CPU で用いる予定である SH-4 の
CPU 放射線試験を行った。
今年度の本研究のねらいは、超小型リアクションホイールの機能実証試験や CPU の放射
線試験にあり、リアクションホイールの機能実証試験では、我々は重量 1.5kg 消費電力 4W
でキューブ状の HIT サットを開発した。このサイズでの機能実証試験は世界的に見ても例
がなく、世界初の実験に成功したといえる。また CPU の放射線試験については、マイクロ
サットの軌道要素(高度 450km)でも使用可能であることが証明できたなど、良好な試験デ
ータを得ることができ、マイクロサットの CPU や超小型リアクションホイールに使用でき
ることが確認できた。
また今後の課題として、
○ マイクロサットの PM 設計
○ マイクロサットの熱真空試験
○ マイクロサットの EMI 試験
○ リアクションホイールの実機製作
○ ATI サットの 3 軸での機能実証試験
○ 実機リアクションホイールの加速耐久試験・正反転耐久試験・機能実証試験・振動試験
○ 母衛星 BBM 設計
を同時進行で行い、開発を進めることになる。
- 100 -
参考資料
1. H8/3048 シリーズ、ハードウェアマニュアル
株式会社
日立製作所
半導体事業部統括営業本部
2. JAMIC 施設について
(株)地下無重力実験センター
3.
衛星設計コンテスト技術資料11年度版
財団法人
日本宇宙フォーラム
衛星設計コンテスト運営委員会
4. 日本原子力研究所高崎研究所による放射線試験資料
1998年10月
5.
宇宙用太陽電池・半導体素子の体放射線製の研究(その 2)
共同研究成果報告書
6.
H8 マニュアル
琴似工業高校教材
- 101 -
謝辞
本研究を行うにあたり、指導教官の佐鳥新助教授には理論、実験に終始、御助言と適切
なご指導をいただき、深く感謝いたします。
また、H8 のプログラミング、実験全般にわたり、博士1年の石川智浩氏、修士2年の長
田淳氏、また、修士1年の高田強氏にご指導、ご協力いただきました。心より御礼申し上
げます。
また、先輩である青木嘉範氏には、様々なご助言・ご指導を頂戴頂きました。心より感
謝の意を表します。
同大学機械工学科の竹澤聡助教授と研究室の皆様には、共同研究としてリアクションホ
イールの無重力実験にて、落下実験用ラックを製作していただきました。心より感謝の意
を表します。
また、リアクションホイールの製作に札幌金型様にお世話になりました。感謝の意を表
します。
地下無重力センターの方々を始め、関係各所の皆様にもお世話になりました。感謝いた
します。
最後に本研究を行うにわたり、当研究室の皆様のご協力に厚く御礼申し上げます。
- 102 -
放射線試験データ
- 103 -
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