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測量・地図作製業界における GISの現状と 簡易 GPSの利用法
地理誌叢 Vol.52 No. 2 pp.13∼23 (2011―2)
測量・地図作製業界における GIS の現状と
簡易 GPS の利用法
赤 沢 正 晃 *
2.従来の研究動向
Σ はじめに
GIS の研究の例は実に多く,高阪( 1996 )や伊
1.研究の目的
理・腰塚( 1997 )など研究者が行政 GIS の有効性
地理学の基礎資料となる地形図等に関わる「地
を紹介し,国土地理院地理情報専門委員会(1996)
理空間情報活用推進基本法」が 2007 年 8 月施行さ
や国土庁土地局土地情報課( 1997 )が市町村 GIS
れ,日本で公的に発行されるすべての地図がデジ
導入マニュアルなど行政指導の立場から行政 GIS
タル化されて供給されることになった.これにと
導入のモデル的事例を紹介している.そして町田
もなって GIS・GPS の利用推進が積極的に行われ
(1995)や桜井(1997)など大手企業の研究者も行
ている.しかし地図のデジタル化は国家事業とし
政 GIS に関する発表を行い,その内容は充実した
て 1996(平成 8 )年の測量作業規程から同じよう
ものであった.その後,行政 GIS の導入例が続々
な施策において進められたが,その時は地方公共
と発表されている.これらの事例は一時代の足跡
団体が動かなかったため,大縮尺の地図のデジタ
として大いに評価されているが,導入後の長期間
ル化は進まなかった.今回の法改正にともなう地
における運用においてどのような問題が発生し,
図のデジタル化は平板測量をなくすなど,測量・
その解決には何が必要であるかの研究はなされて
地図作製企業の技術業務を大幅に変化させる事柄
いない.次に森林における簡易 GPS を利用する
であり, 一企業の存続に大きく関わる問題であ
研究は立木ほか(2000),長谷川ほか(2004)など
る.企業のほとんどは小規模経営で,デジタル化
多数の発表がされている.その内容はメーカーの
に対応した新たな機材導入と,技術者養成のため
仕様に対して機器や使用環境が正しく機能するこ
の資金的問題が内包されており,法律制定が行わ
との証明である.しかし産業界で利用する場合,
れても地図作製を担う多くの企業にデジタル化が
日々繰り返し運用すると少しずつ問題や課題が現
浸透していないのが実状である. 本研究の目的
れ,これらを解決しなければならない.つまり安
は,地図のデジタル化に本格的に取り組みかねて
定して運用できるシステムや機器でなければ採用
いる企業の実状を捉え, GIS・GPS の利用を見越
できないのである.
した今後の展望を行う.なお,小規模企業の経営
なお,本研究では,高阪・岡部( 1996 ),小林
にプラスの効果を及ぼすであろう簡易 GPS の精
( 2002 ),田中( 2003 ),コルト( 1994 )を基に現
度と活用の有効性についても,実験を実施して検
在の事情に合った考察を行った。また,精度に関
証した.
係することは『国土交通省公共測量作業規程』及
び『−公共測量−作業規程の準則解説と運用』に
基づいて行った.
キーワード:地図作製企業,GIS,GPS
* 日本大学大学院理工学研究科地理学専攻博士後期課程
─ ─
13
地 理 誌 叢 第 52巻 第 2 号(2011)
3.研究方法と分析の進め方
2.デジタル地図市場の変化
GIS は業務の効率を向上させるためのシステム
国土交通省の用地測量が補償コンサルタント業
である. 日常の業務で運用されているシステム
務となり,埼玉県の GIS 関連業務が建設コンサル
は,データベースソフト・表計算ソフト・ワープ
タント業務や物品販売として取り扱われる例が見
ロソフトなど単体のソフトウェアをシステム化し
られる.その発注にあたり, 1 年間営業活動を行
たものが多く,比較的単純なものが主流で操作性
い特記仕様書及び見積書を提出して業務の方向性
も良く誰もが使いやすいものが多い.しかし GIS
を示した埼玉県内企業 5 社は指名されず,指名さ
システムは,これら帳票システムのデータと地図
れたのはこの業務の営業を行わず落札意志のな
システムのデータをリンクさせるため,複雑なシ
かった県内企業 1 社と,ほかは全て他県の企業で
ステムである.さらに画像ソフトや地図編集ソフ
あり, 極端な低価格で落札されるなどの例が多
トや何らかの解析ソフトも付与されることが多い
い.坂戸市においては県内企業 3 社が 1 年間営業
ので地図データの作製にはよほど注意しなければ
活動を行い,その内 1 社の特記仕様書と積算根拠
ならない.導入する担当者に地図データの知識が
を採用し,発注されたが県内企業 3 社全てが指名
ないと,運用に支障が出るはずである.そこで本
されず,県外企業のみの指名となった例もある.
研究では運用における問題点を拾い出すところか
ら始めた.簡易 GPS を国土地理院発行の 1/25,000
3.測量・地図作製企業の特徴と要求される義務
地形図の徒歩道データ更新で使用した際,不規則
表 1 は資本金階層別の登録業者数をまとめたも
な挙動のデータを取得するに至った.この現象の
のだが,測量・地図作製企業数が建設コンサルタ
原因を探るため平地の公園内に基準点を設けて検
ント業・地質調査業に比べて小規模企業の割合が
証した.これらの得られた成果から大縮尺デジタ
圧倒的に多く,顕著な特徴を読みとることができ
ル地図を効率よく作製するための小規模企業を取
る.2008(平成 20 )年調査で資本金 5,000 万円以
り巻く環境に恒常的になじめる技術的方法を見極
下の企業が実に 94.3 %で 2,000 万円以下は 81.5 %
め,小規模測量・地図作製企業の能力,つまりそ
であり,小規模企業の業界である.5,000 万円以
こに所属する技術者数・保有機器・資本力で可能
上の企業数は他業界による重複した登録であるの
となり得るシステムに導くこととする.
で事実上の割合はさらに大きな数字となる.ただ
Τ デジタル地図市場と測量・ 地図作製
企業の実態
し建設コンサルタント業界は CAD ソフト 1 本,
かつては三角定規 1 対あれば起業できたので,下
請を専業にする企業数は掌握できないほど多くあ
1.ヒアリングの対象
る.ここが測量業界との大きな違いである.
本研究では法改正に伴うデジタル地図作製と
指名参加表明の際いくつかの条件があり,特に
GIS 関連業務を対象とするため公共市場を前提と
企業がどのような業種(業務)として登録すべき
して考えた. 業界へのヒアリングを行ったとこ
かの注意を払わなければならない.最近の傾向は
ろ,業界を取り巻く環境が必ずしも好ましくない
指名競争入札・公募型入札を問わず,各種認証を
ことが分ったため,公開されている情報収集を行
取得していることと,測量専門技術認定者・情報
い本稿で検討した.
処理技術認定者の資格を有する等が義務づけられ
対象地域は埼玉県と県内地方公共団体および国
た特記仕様書が見られるようになった.現時点で
を軸として必要に応じてその他都道府県とした.
取 得 を 要 求 さ れ て い る 認 証 は, ISO9001・
ISO14001・ISO27001( ISMS )・プライバシーマー
ク等である.その他に所属する技術者の測量専門
─ ─
14
測量・地図作製業界におけるGISの現状と簡易GPSの利用法
表 1 資本金階層別登録業者数
(各年 3 月末の業者数)
区 分
個人
登録数(A)
構成比(%)
測量業
登録数(B)
2008
構成比(%)
増減数(B-A)
登録数(C)
2007
構成比(%)
建設
コンサル
登録数(D)
タント 2008 構成比(%)
増減数(D-C)
登録数(E)
2007
構成比(%)
地質
登録数(F)
調査業 2008
構成比(%)
増減数(F-E)
2007
その他
300 万円
未満
238
1.7
209
1.5
▲ 29
89
2.1
102
2.5
13
5
0.4
6
0.4
1
123
0.9
148
1.1
25
-
1,191
8.6
1,215
8.9
24
9
0.2
7
0.2
▲2
3
0.2
3
0.2
0
300 万円 500 万円 1000 万円 2000 万円 5000 万円
以上
以上
以上
以上
以上
1 億円
以上
1000 万円 1000 万円 2000 万円 5000 万円 1 億円
未満
未満
未満
未満
未満
4,371
5,412
1,768
431
361
31.5
38.9
12.7
3.1
2.6
4,287
5,277
1,754
431
362
3.1
2.6
31.3
38.6
12.8
- ▲ 135
▲ 84
▲ 14
0
1
69
1,958
1,267
363
387
1.7
47.3
30.6
8.8
9.3
74
1,900
1,229
359
371
1.8
47.0
30.4
8.9
9.2
5
▲ 58
▲ 38
▲4
▲ 16
19
519
535
174
121
1.4
37.7
38.9
12.6
8.8
19
494
526
169
119
1.4
37.0
39.4
12.6
8.9
0
▲ 25
▲9
▲5
▲2
計
13,895
100.0
13,683
100.0
▲ 212
4,142
100.0
4,042
100.0
▲ 100
1,376
100.0
1,336
100.0
▲ 40
資料:日本測量協会資料.
注1:
「その他」は社団法人,財団法人及び協同組合等である.
注 2 :建設コンサルタント及び地質調査業については,法人の場合、資本金 500 万円以上が登録要件の 1 つとなっている.
技術認定者及び情報技術認定者等さまざまな要求
費も約 300 ∼ 500 万円必要となる.
が見られつつある.これらの要求は従業員 300 人
この状況は売上高 2 億円未満規模の企業にとっ
以上の企業であれば売上高の 0.5 %未満で全て取
てはかなり難しく,特に売上高 5,000 万円程度の
得できる計算になるため,何ら問題にならない.
企業にとっては不可能でもある.
ヒアリング調査において全国的におおむね従業
員 100 人程度の企業は取得が進みつつある.しか
Υ 行政 GIS における稼働と納入企業の
実態
し首都圏周辺の各県では従業員 30 人程度,売上
高 2 億円未満の企業の割合が多く,特に埼玉県は
本来 GIS は行政の効率をよくするために導入さ
特徴的である(表 2).これらの企業は取得のため
れているはずである.GIS 導入前は多少時間を要
の費用負担が 5 %∼ 10 %以上になり, 取得の進
しても目的とする図面や資料を入手することは,
度が遅く取得率が極めて低い.
それなりにスムーズであった.しかし GIS を導入
することにより,むしろ支障が出ている例があっ
4.認証取得に対する問題点
た.
最小規模の企業では, 2003(平成 15 )年頃に
表 3 は調査内容の一部であるが,ここから読み
ISO9001 認証取得のピークを迎え,その費用は約
取れるのは次のとおりである.
200 ∼ 300 万 円 で 毎 年 の 審 査 料 が 約 150 万 円 で
①
図面の記載の不備・不十分
あった.現在は取得におよそ 150 万円,毎年の審
②
原寸の出力ができない
査に約 50 万円である. これを 3 種類 2 ヶ所の協
③
図面出力を業者に依頼しなければならない
(あり得ない高額な費用)
会加盟と数種類の専門技術認定者を育成するとな
ると 1,000 万円以上の費用がかかり,年間の維持
④
─ ─
15
担当者が更新できない
地 理 誌 叢 第 52巻 第 2 号(2011)
表 2 登録業者の都道府県別分布(主たる営業所の所在地)
(各年 3 月末の業者数)
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
山梨県
長野県
新潟県
富山県
石川県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
福井県
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
計
測量業
建設コンサルタント
地質調査業
2007
2008
2007
2008
2007
2008
増減率
増減率
増減率
業者数 構成比 業者数 構成比(20/19)業者数 構成比 業者数 構成比(20/19)業者数 構成比 業者数 構成比(20/19)
1,027
7.4 1,006
7.4 ▲ 2.0
267
6.4
262
6.5 ▲ 1.9
90
6.5
89
6.7 ▲ 1.1
185
1.3
182
1.3 ▲ 1.6
53
1.3
54
1.3
1.9
24
1.7
24
1.8
0.0
180
1.3
174
1.3 ▲ 3.3
45
1.1
45
1.1
0.0
14
1.0
15
1.1
7.1
309
2.2
303
2.2 ▲ 1.9
90
2.2
85
2.1 ▲ 5.6
29
2.1
30
2.2
3.4
191
1.4
180
1.3 ▲ 5.8
39
0.9
39
1.0
0.0
22
1.6
22
1.6
0.0
152
1.1
144
1.1 ▲ 5.3
37
0.9
36
0.9 ▲ 2.7
17
1.2
14
1.0 ▲ 17.6
324
2.3
318
2.3 ▲ 1.9
46
1.1
46
1.1
0.0
19
1.4
18
1.3 ▲ 5.3
363
2.6
362
2.6 ▲ 0.3
60
1.4
57
1.4 ▲ 5.0
9
0.7
10
0.7
11.1
224
1.6
233
1.7
4.0
51
1.2
52
1.3
2.0
11
0.8
11
0.8
0.0
236
1.7
235
1.7 ▲ 0.4
50
1.2
45
1.1 ▲ 10.0
18
1.3
15
1.1 ▲ 16.7
84
2.0
88
2.2
4.8
29
2.1
29
2.2
0.0
446
3.2 439
3.2 ▲ 1.6
474
3.4
466
3.4 ▲ 1.7
66
1.6
67
1.7
1.5
29
2.1
31
2.3
6.9
1,145
8.2 1,138
8.3 ▲ 0.6
850
20.5
817
20.2 ▲ 3.9
206
15.0
200
15.0 ▲ 2.9
541
3.9
548
4.0
1.3
80
1.9
76
1.9 ▲ 5.0
44
3.2
45
3.4
2.3
146
1.1
145
1.1 ▲ 0.7
32
0.8
33
0.8
3.1
11
0.8
10
0.7 ▲ 9.1
309
2.2
315
2.3
1.9
82
2.0
84
2.1
2.4
16
1.2
17
1.3
6.3
316
2.3
304
2.2 ▲ 3.8
66
1.6
66
1.6
0.0
15
1.1
14
1.0 ▲ 6.7
140
1.0
128
0.9 ▲ 8.6
39
0.9
36
0.9 ▲ 7.7
19
1.4
18
1.3 ▲ 5.3
141
1.0
138
1.0 ▲ 2.1
58
1.4
54
1.3 ▲ 6.9
29
2.1
28
2.1 ▲ 3.4
211
1.5
203
1.5 ▲ 3.8
65
1.6
62
1.5 ▲ 4.6
20
1.5
19
1.4 ▲ 5.0
310
2.2
309
2.3 ▲ 0.3
81
2.0
79
2.0 ▲ 2.5
26
1.9
26
1.9
0.0
478
3.4
480
3.5
0.4
126
3.0
131
3.2
4.0
39
2.8
38
2.8 ▲ 2.6
173
1.2
170
1.2 ▲ 1.7
50
1.2
48
1.2 ▲ 4.0
13
0.9
12
0.9 ▲ 7.7
134
1.0
131
1.0 ▲ 2.2
61
1.5
61
1.5
0.0
25
1.8
26
1.9
4.0
196
1.4
187
1.4 ▲ 4.6
55
1.3
49
1.2 ▲ 10.9
25
1.8
23
1.7 ▲ 8.0
234
1.7
226
1.7 ▲ 3.4
60
1.4
59
1.5 ▲ 1.7
19
1.4
19
1.4
0.0
620
4.5
604
4.4 ▲ 2.6
324
7.8
308
7.6 ▲ 4.9
83
6.0
73
5.5 ▲ 12.0
481
3.5
480
3.5 ▲ 0.2
86
2.1
83
2.1 ▲ 3.5
22
1.6
17
1.3 ▲ 22.7
226
1.6
223
1.6 ▲ 1.3
36
0.9
32
0.8 ▲ 11.1
24
1.7
25
1.9
4.2
185
1.3
182
1.3 ▲ 1.6
35
0.8
35
0.9
0.0
8
0.6
8
0.6
0.0
71
0.5
70
0.5 ▲ 1.4
31
0.7
32
0.8
3.2
12
0.9
12
0.9
0.0
141
1.0
134
1.0 ▲ 5.0
57
1.4
52
1.3 ▲ 8.8
32
2.3
31
2.3 ▲ 3.1
185
1.3
187
1.4
1.1
55
1.3
58
1.4
5.5
22
1.6
22
1.6
0.0
269
1.9
267
2.0 ▲ 0.7
97
2.3
91
2.3 ▲ 6.2
50
3.6
46
3.4 ▲ 8.0
190
1.4
180
1.3 ▲ 5.3
32
0.8
32
0.8
0.0
27
2.0
25
1.9 ▲ 7.4
159
1.1
152
1.1 ▲ 4.4
39
0.9
37
0.9 ▲ 5.1
20
1.5
20
1.5
0.0
103
0.7
98
0.7 ▲ 4.9
32
0.8
32
0.8
0.0
14
1.0
13
1.0 ▲ 7.1
194
1.4
191
1.4 ▲ 1.5
33
0.8
32
0.8 ▲ 3.0
19
1.4
20
1.5
5.3
128
0.9
121
0.9 ▲ 5.5
39
0.9
35
0.9 ▲ 10.3
18
1.3
18
1.3
0.0
640
4.6
638
4.7 ▲ 0.3
178
4.3
179
4.4
0.6
66
4.8
65
4.9 ▲ 1.5
98
0.7
93
0.7 ▲ 5.1
25
0.6
27
0.7
8.0
11
0.8
12
0.9
9.1
193
1.4
192
1.4 ▲ 0.5
35
0.8
39
1.0
11.4
18
1.3
16
1.2 ▲ 11.1
315
2.3
313
2.3 ▲ 0.6
55
1.3
57
1.4
3.6
23
1.7
20
1.5 ▲ 13.0
202
1.5
206
1.5
2.0
68
1.6
64
1.6 ▲ 5.9
13
0.9
15
1.1
15.4
285
2.1
272
2.0 ▲ 4.6
80
1.9
80
2.0
0.0
31
2.3
31
2.3
0.0
307
2.2
302
2.2 ▲ 1.6
80
1.9
79
2.0 ▲ 1.3
21
1.5
21
1.6
0.0
318
2.3
314
2.3 ▲ 1.3
132
3.2
127
3.1 ▲ 3.8
24
1.7
23
1.7 ▲ 4.2
13,895 100.0 13,683 100.0 ▲ 1.5 4,142 100.0 4,042 100.0 ▲ 2.4 1,376 100.0 1,336 100.0 ▲ 2.9
資料:日本測量協会資料.
─ ─
16
測量・地図作製業界におけるGISの現状と簡易GPSの利用法
表 3 行政 GIS 導入の問題点
表 4 簡易 GPS の観測結果
都市計画図:A3 出力図,記号・文字の表示
が小さく判読できない
道路台帳図:業者に図面出力を依頼,1 週間
後,業者へ受取に行く
道路台帳図:A3 出力図,縮小図で数字が判
KS 市
読できない
道路台帳図:図面コピー提供なし,特定の
H市
職員のみが対応
地番図:業者に依頼,15 万円
FM 市
家屋図:業者に依頼,15 万円
地番図:業者に依頼,15 万円
FN 市
家屋図:業者に依頼,15 万円
地番図:業者に依頼,10 万円
KM 市
家屋図:業者に依頼,10 万円
KW 市
以上のことから,自治体職員とシステム納入業
DGPS
リアルタイム補正
1.86
10B05
2.98
1.75
T-1
2.55
1.48
T-2
2.57
2.03
T-3
4.25
測点
後処理
補正
0.49
−
0.28
−
0.37
−
0.58
−
連続観測
3.98
6.9
5.02
7.11
6.39
7.89
7.15
8.22
(単位 m)
シットでは精度 1 / 300 は満たすものの, 7 ∼ 8 m
者ともにベースとなる地図に対する知識が低下し
の誤差が生じた. 一方簡易 GPS2 機種は, 各々
ていることが読みとれる.
2 m または 3 m 前後に収まっていた.観測方式は,
一方でこれらの GIS システムを納入する企業側
DGPS によるリアルタイム補正で,観測時間はお
はどのような意識で取り組んでいるかを知る必要
よそ 10 秒である.リアルタイム補正を行わない
があるので,問題があると考えられる例の一部を
連続観測では 5 ∼ 10 m の誤差で,簡易トランシッ
次に示す.
トと同程度となった.(表 4)
①
法務省管轄の公図データのデジタル化を海外
②
③
④
⑤
電子基準点のデータを取得し,後処理によって
で行っている.
簡易 GPS・Mapper6 の精度を向上させるサービス
地図データ・主題データ・個人データを 1 つ
がマジェラン社から開始されたので検証をおこ
のレイヤーで構築している例がある.
なった.メーカー側では 1. 0 m の精度を保証して
埼玉県の協同組合では会員に発せられる情報
いるが,今回の観測では, 0.17 m や 0.13 m の結果
は地図作製をどこに発注すると安く請け負っ
も得られたが,そのほとんどが, 0.5 m 台の値と
てもらえるというものはあるが,効率の良い
なり,平均的には 0.5 m と考えられる.簡易 GPS
地図作製の紹介はない.
は予想を上回る良い結果を得た.
地図編集ソフトを所有する企業はなく地図編
集ソフトが育たない.
2.精度と縮尺
GIS ソフトにおいても小規模企業でも手軽に
連続観測の誤差 5 ∼ 10 m, DGPS のリアルタイ
ム補正 2 ∼ 3 m,後処理補正 0.5 ∼ 1 m が,それぞれ
システム構築できるものがない.
以上の実状は小規模地図作製企業(業界) に
とって絶望的であり,一企業ごとに解決すること
はできないのである.
どの程度の縮尺の地形図に対応できるかを考える.
表 5 は縮尺毎の地形図の誤差範囲に対し,各観
測方法の誤差数値を表した.後処理補正が使える
ようになったため,扱える地形図の種類が増えた
Φ 簡易 GPS の電子平板としての活用
ことがわかる.後処理補正の観測方法はリアルタ
1.簡易 GPS の検証
イム補正と同じで,10 分以上電源を切らないこと
昨年, TS 観測に対し,簡易トランシットと簡
と,エラーを起こさず連続的に観測を行えばよい
易 GPS2 機種の比較を行った結果, 簡易トラン
ので,地形図データの取得には適している.
─ ─
17
地 理 誌 叢 第 52巻 第 2 号(2011)
表 5 観測結果における誤差
縮尺
1/500
1/1,000
1/2,500
1/5,000
1/10,000
誤差
0.25
0.7
1.75
3.5
7.0
1/25,000
17.5
後処理
参考
リアルタイム
ダイレクトに表示する機能を持つので,そのまま
連続観測
本図(1 / 5,000)上に,林道の連続データをプロッ
トすると大幅にずれているのがわかった(図 1).
参考
使用可
0.5 ∼ 0.6
GIS の背景地図として使うことができる.森林基
使用可
2.0 ∼ 3.0
こうして得られた道路データから,ずれている
参考
使用可
5.0 ∼ 10.0
(単位 m)
地形図の道路線の要点を判断し,そのすべての点
が整合するように多点補正をおこなうと,図面全
体を実測データに修正することができた(図 2).
4.GIS への入力ツール
簡易 GPS の発売当初は,個人の趣味の範囲で
の小縮尺地図へのプロットや位置の確認程度の利
用から始まった.近年では,微弱電波の受信や,
DGPS のリアルタイム補正により精度が良くな
り, 測量技術のツールとして検討できるように
なった.すべての機種ではないが電子基準点を補
足した後処理補正により,大縮尺地図への利用が
可 能 なまでに 近 づきつつある. 今 回 検 証 した
Mapper6 は, 取得データのためのデータレコー
ダ・電子野帳の機能を持ちつつ,任意の地図をイ
ンストールし,データに属性を付与し,プロット
図 1 ダイレクト入力された森林基本図
して記録するので電子平板として成立する.
Χ 登山道における簡易 GPS の精度検証
前章において市街地ではあるものの天頂がほと
んど開けている状態の検証で予測を上回る測位精
度が得られた.
図 3 は 1 / 25,000 地形図の凡例の一部であるが,
一条線で表現される 3 m 以下の車道や 1.5 m 以下
の徒歩道と地類界やシンボルで表現される地物な
どと, 1 / 1,000 以上の大縮尺地図での地下埋設物
の観測では簡易 GPS が確実に効力を発揮するこ
とが期待される.国土地理院の業務で登山道デー
タ取得の機会が得られたので Mapper6 とその上
図 2 多点変換後のラスタ地図
位機種である MapperCX の比較を行った.登山道
の様相は様々なので検証には適している. 標高
3.地図データの修正
2,000 m 位までは天頂が開けている区域もあるが,
簡易 GPS・Mapper6 は,任意の地図データを取
概ねまばらな林や密度の高い森林区間などが混在
り込み,その地図上に連続的に観測したデータを
している.標高 2,000 m 以上になると森林のよう
─ ─
18
測量・地図作製業界におけるGISの現状と簡易GPSの利用法
図 5
衛星 7 個以上時の MapperCX による観測
移動データ
(図 4 ).いずれにしても全線において後処理は有
効である.
図 3 1 / 25,000 地形図の凡例
2.MapperCX による観測
な障害となる地物はない. 地形としては尾根・
一方 MapperCX は,林内がまばらであって衛星
谷・急斜面・緩斜面などデータを取得したいほと
を 7 個以上捕らえていれば DGPS リアルタイム補
んどの条件が全路線に存在する.観測の方法は,
正データと後処理後のデータはほぼ一致していて
DGPS リアルタイム補正で移動しながらの自動取
歩行ルートをきれいにトレースしている(図 5).
得で 1 時間に 1 度程度静止取得した.
ただし 1 点だけ理解できない現象としてリアル
タイムの移動データと後処理データにおいて平行
1.Mapper6 による観測
にずれるものがあった.当時の受信状況を調べて
Mapper6 の取得データは歩行経路の左右約 1 ∼
も悪いとは考えにくく,捕らえられた衛星が 6 個
4m を変動している.しかしながら後処理後の軌
以下であったもののその全てが平行にずれている
跡は変動範囲内でスムーズなものとなっている.
のではない.ごく稀なケースである(図 6).
観測者が地形図を読みとりながら移動した位置を
考慮すると, ほぼ 2 m 前後の精度と考えられる
図 4 Mapper6 による観測移動データ
なお,黒の表示がリアルタイムで,緑の表示が
後処理後のものである.
図 6 衛星 4 ∼ 5 個時の MapperCX による観測
移動データと後処理データの差
─ ─
19
地 理 誌 叢 第 52巻 第 2 号(2011)
3.林内における簡易 GPS の精度検証
象と似てはいるがまったく同じ傾向ではなく少し
登山道データ取得で課題となったリアルタイム
違っている.しかも 3 回ともにリアルタイム移動
の移動データと後処理データで捕らえた衛星が 6
データのほうがきれいに遊歩道をトレースしてい
個以下になると平行にずれる原因を明らかにする
る.後処理を行ったデータは全て同じ傾向で遊歩
目的で行った.場所は埼玉県狭山市に所在する稲
道からのずれが生じている結果となった(図 7,
荷山公園である.この公園は赤松・黒松・桜など
図 8,図 9).
針葉樹と広葉樹の混在した自然林を模した人工林
であり低木・下草はない.周囲には街区基準点が
4.Mapper6 と MapperCX の検証結果分析
設置されており,これを基に検証を行った.
Ⅳの検証で Mapper6 の天頂が開けている場合
方法は GPS 本体に 1 / 2,500 地形図をインストー
の静止計測は表 4 と表 5 の結果により 1 / 1,000 で
ルし新設基準点の静止観測を行う.さらに遊歩道
利用できる可能性を示している.今回 MapperCX
を DGPS で移動観測し,共に後処理を施したデー
では多少の障害物があっても 1 / 1,000 で利用でき
タを比較する.移動計測は 3 回行った.当日の捕
る結果が得られたが水平誤差は数値的には限界で
らえた衛星数は 4 ∼ 5 個であった.取得したデー
あるため取得する地物を選ぶ必要がある(表 6).
タから林内の静止座標は衛星数が少なくても後処
これらの成果は全国にほぼ均等に配置されたが
理を行った方が精度は良い.
ごとく存在する小規模企業において,その強みで
次に遊歩道を周回した移動データは登山道の現
ある機動力を発揮することにより簡易 GPS が強
図 7 GPS 精度検証(リアルタイムと後処理ライン比較)
測定日 2009 年 10 月 3 日 1 回目(1 秒) [状況]衛星数:5.87 PDOP:2.89 データ数:1022 速度約 3km/h
観測場所 埼玉県狭山市 稲荷山公園内 使用電子基準点 入間
─ ─
20
測量・地図作製業界におけるGISの現状と簡易GPSの利用法
図 8 GPS 精度検証(リアルタイムと後処理ライン比較)
測定日 2009 年 10 月 3 日 2 回目(1 秒) [状況]衛星数:5.40 PDOP:3.48 データ数:539 速度約 5km/h
観測場所 埼玉県狭山市 稲荷山公園内 使用電子基準点 入間
図 9 GPS 精度検証(リアルタイムと後処理ライン比較)
測定日 2009 年 10 月 7 日 (1 秒)
[状況]衛星数:5.94 PDOP:2.64 データ数:651 速度約 5km/h
観測場所 埼玉県狭山市 稲荷山公園内 使用電子基準点 入間
─ ─
21
地 理 誌 叢 第 52巻 第 2 号(2011)
模測量・地図作製企業は日本全体の 90 %以上で,
表 6 縮尺別標準偏差
縮 尺
1/500
1/1,000
1/2,500
特に埼玉はその割合が大きい.法改正による業務
水平誤差 (m)
0.25
0.70
1.75
の移行は個々の企業努力(技術の習得)だけでは
縮 尺
1/5,000
1/10,000
1/25,000
不可能なことが分かった.しかし導入された行政
水平誤差 (m)
3.50
7.00
17.50
GIS に初歩的な欠陥のある例が多く見られるた
め,小規模企業が構成する各県の協会や組合の組
織力をもって正しい技術的なコンサルタントがで
きれば社会貢献にもつながると考えられる. ま
力な武器となり得ることを意味している.
た,大がかりな新技術で地理空間情報に参入する
Ψ おわりに
のではなく, DID 地区以外の 1 / 5,000 地形図を初
国は各産業に対して海外への進出や海外への依
め,森林測量や山地の国土調査等で簡易 GPS が
存を求め,また,日本測量協会は,企業が統合す
使用可能なことが証明された.すでに 1 機の打ち
ることや地図作製を海外にシフトさせることを勧
上げが成功している準天頂衛星・地上衛星などイ
めている.しかし,10,000 社を超える小規模企業
ンフラ整備が進めば,さらに精度・信頼性は 10
のほとんどが統合するとは考えにくく現実的では
倍増すと言われている.地図作製の大部分を海外
ない.したがって,国内で地図作製を行うための
に頼りがちな業界において,今後は全国の小規模
方法を議論しないまま,事業の受注戦略を紹介す
企業にとって良い方向に向かうであろう.
(2010 年 12 月 1 日受付)
ることは,正しい道程とは言えないと考える.
(2011 年 1 月 15 日受理)
今まで地理空間情報に携わってこなかった小規
文 献
伊理正夫・腰塚武志( 1997 )『計算幾何学と地理情報
『 GIS 電子地図革命,東洋経済印刷』
桜井博行( 1997 )
処理』共立出版.
東洋経済新報社.
『国土交通省
国土交通省大臣官房技術庁監修( 2009 )
立木靖之ほか( 2000 )林内におけるディファレンシャ
ル GPS の試用事例.日本林業学会北海道支部論
公共測量作業規程』日本測量協会.
文集,48 号,172-174.
高阪宏行( 1996 )『行政とビジネスのための地理情報
田中万里子(2003)森林地域での GPS 応用可能性調査.
システム』古今書院.
,109-114.
森林利用学会誌,18(2)
『 GIS ソースブック −
高阪宏行・ 岡部篤行( 1996 )
データ・ソフトウェア・応用事例−』古今書院.
『−公共測量−作業規程の
日本測量協会編( 2009 )
小林裕之( 2002 )SA 解除後の森林内外での単独測位と
DGPS の 比 較 試 験. 日 本 林 業 学 会 誌, 84( 4 ),
準則解説と運用』日本測量協会.
長谷川尚史ほか(2004)落葉広葉樹林における GPS 測
276-279.
位精度の季節変化.日本林業学術講演集,115 号,
国土庁土地局土地情報課( 1997 )『市町村 GIS マニュ
637.
町田 聡(1995)
『地理情報システム』山海堂.
アル』㈱ぎょうせい.
国土地理院地理情報専門委員会( 1996 )
『 ISO / TC211
『実務者のため
G. B. コルト著,村井俊治監修( 1994 )
地理情報標準化に関する資料』国土地理院企画
の地理情報システム− The GIS Book −』オー
部.
ム社.
─ ─
22
測量・地図作製業界におけるGISの現状と簡易GPSの利用法
Current State of GIS and Use of Simple GPS in Survey and Map Making Companies
Masaaki AKAZAWA*
Key words:map making company, GIS, GPS
*Graduate Stadent, Graduate School of Science and Technology, Nihon University
─ ─
23
Fly UP