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スキンケアパウダーのファンデーションへの応用:dプログラムの

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スキンケアパウダーのファンデーションへの応用:dプログラムの
技術情報2
「スキンケアパウダーのファンデーションへの応用:dプログラムの有用性」
資生堂ライフサイエンス研究センター 河合江理子
1.メークアップ化粧品:
因となる。
ファンデーションがもたらすベネフィット
特に、プロテアーゼの中でもプラスミノー
スキンケア化粧品が皮膚生理に働きかける
ゲン(plasminogen)と呼ばれる酵素は、ある
ことにより、皮膚の性状に影響を与えるのに
条件でプラスミン(plasmin)という活性型の
対して、メークアップは従来、色彩的、物理
酵素に変換される。過剰量のプラスミンは表
的な直接作用により皮膚の外観に影響を与え
皮を構成する細胞どうしの接着に必要なタン
ている。
パク質を分解するなどして表皮細胞にダメー
メークアップの中でも特にファンデーショ
ジを与えることから、肌あれの一因として考
ンには、肌色の欠点をカバーしたり、顔立ち
えられている。そして、プラスミノーゲン活
を強調したり修正することにより美しく見せ
性化系の抑制は肌あれの防止に有効であり、
る「美的有用性」、紫外線等の外部刺激から肌
プラスミンに特異的な阻害剤の肌あれ防止効
を守る「保護的有用性」、加えて、化粧行為に
果は、皮膚外観をはじめ角層水分量や経表皮
伴う安心感・満足感という「心理的有用性」
水分蒸散量(以下、TEWLと記す)を指標と
があり、それぞれ重要な機能として認識され
しても確認されている2)。
るようになってきた。特に、パウダリーファ
3.肌あれ部位に観察されるプロテアーゼに
ンデーションは使用方法が簡便であり、化粧
対する新たなアプローチ
直しがしやすい等の理由から、多くの女性に
愛用されている。しかしながら、落屑が見ら
我々は、表皮プロテアーゼと肌あれに関す
れるような皮膚表面状態が悪化した状態では、
る研究において、肌のバリア機能が一時的に
パウダリ−ファンデーションを均一に塗布す
低下した直後に、プラスミノーゲンをプラス
ることができず、かえってかさつきが目立つ
ミンに変換する酵素活性が表皮上層で発現す
など外観上の不満足を生じる場合がある。
ることを見出した。この酵素の活性は、荒れ
美的に、また心理的にも、ファンデーショ
図1 肌あれした角層から検出されたウロキナーゼ活性
ンによりもたらされる有用性を効果的に引き
出すためには、健やかな皮膚状態を維持する
ことが必要であり、正しいスキンケアはその
一翼を担う。
2.肌あれと皮膚内在性のプロテアーゼ
表皮内には多種なプロテアーゼが存在し、
正常なターンオーバーをつかさどるためにそ
れぞれがバランスを保って働いている1)。した
がって、そのバランスが崩れるとターンオー
バーに異常をきたし、肌あれを引き起こす要
−8−
図2 複合粉体の構造
た肌では表皮最外層の角質層に存在し、ウロ
キナーゼタイププラスミノーゲンアクチベー
ター(urokinase-type plasminogen activator、
以下ウロキナーゼと記す)と呼ばれる酵素で
あることを突き止めた(図1)。
そこで、肌あれを効果的に防止する方法とし
て以下のような2つの仮説を立てた。
①プラスミン発生の原因酵素であるウロキナ
ーゼの活性を抑えれば、肌あれの発生をよ
り早い段階で防止できる。
②ウロキナーゼが表皮の最外層である角質層
せた粉体である(図2)。この複合化処理技術
に存在しているのであれば、肌表面でウロ
により、ウロキナーゼ活性阻害効果は、複合
キナーゼを取り除くことにより、肌あれを
化処理前に比べて、さらに増強することがわ
防止できる。
かった(図3)。実際、ヒト皮膚を用いて人工
従来のスキンケアの多くは、有効成分が肌に
的に作成した荒れ肌に対する本粉体の効果を
浸透してその効果が発揮される。しかし、肌表
TEWLを指標として調べたところ、期待通り、
面でウロキナーゼを取り除くのであれば、有効
非常に優れたTEWL抑制効果(抗肌あれ機能)
成分の形状は、肌の上に留まってウロキナーゼ
を発揮することが確認された(図3)。
を吸着し、その活性を抑える粉体がふさわしい
肌あれの原因となる酵素の働きを抑えるに
のではないかと考えた。
は有効成分の浸透による化学的なブロックが
そこで、この仮説に基づき、約170種に及ぶ
一般的であったが、今回開発に成功した成分
粉末を評価した結果、化粧品原料のひとつであ
は、肌あれ発生の原因酵素を物理的手法で吸
る「タルク粉末」にはウロキナーゼ吸着能を有
着し、活性を抑えるというこれまでにない新
すること、また、「酸化亜鉛粉末」にはウロキ
たな発想に基づいて開発された粉末タイプの
ナーゼ活性抑制作用のあることを発見した。
肌あれ防止成分である。
さらに、2つの粉末の作用を同時に発揮する
「スキンケアパウダーt」というニックネーム
全く新しい肌あれ防止粉体の開発に取り組ん
の本成分は、デリケート肌対応のdプログラム
だ。今回開発に成功した粉体は、タルク粉末と
デーケアファンデーション(パウダリー)n に
酸化亜鉛粉末をナノオーダーレベルで複合化さ
配合されている。
図3 粉体の複合化による作用強度変化
−9−
4.dプログラム デーケアファンデーション
ンデーション以外のスキンケア化粧品を変更せ
使用試験
ずそのままお使い頂いた。
肌が敏感であると感じており、なおかつ普
その結果、連用8週間後において、対照パウ
段からパウダリーファンデーションを使用し
ダリーファンデーション塗布側はTEWLが上
ている健常女性50名に参加いただき、顔面の
昇し、肌状態の悪化が認められたのに対して、
片側にはdプログラム デーケアファンデーシ
dプログラム デーケアファンデーション塗布
ョンを連日8週間にわたって塗布し、反対側
側はTEWLの上昇が認められなかった(図4)。
には同ファンデーションからスキンケアパウ
また、参加いただいた方を対象としたアンケー
ダー t を取り除いた対照品を塗布していただく
ト調査により、dプログラム デーケアファン
という、いわゆるハーフフェイス試験を二重
デーション塗布側に対する効果実感が高いこと
遮蔽法で実施した。試験は2001年10月中旬か
が判明した(図5)。
ら12月中旬にかけて実施し、試験期間中はファ
図4 dプログラム デーケアファンデーション(パウダリ−)n 使用によるTEWL変化
図5 dプログラム デーケアファンデーション(パウダリ−)n 使用後の感想
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5.おわりに
品の代替になるものではない。しかしながら、
スキンケア化粧品には、皮膚を清潔にし、潤
本成分を配合することにより、メーキャップ化
いバランスを保ち、新陳代謝を活発にし、さら
粧品の美的あるいは心理的な効果に、さらにス
には外的環境から皮膚を守る機能を有する。d
キンケア的な作用を付加させることが可能であ
プログラム デーケアファンデーション(パウ
るという結果を得た。今後も、さらに本成分の
ダリー)n はあくまでもメーキャップ化粧品で
改良を重ね、様々な化粧品を開発したいと考え
あり、化粧水やクリームなどのスキンケア化粧
ている。
参考文献
1)Egelrud T, Lundström A: The dependence of detergent-induced cell dissociation in non-palmoplantar stratum corneum on endogeneous proteolysis, J Invest . Dermatol., 95, 456-459, 1990
2)Kitamura K, Yamada K, Ito A, Fukuda M: Research on the mechanism by which dry skin occurs
and the development of an effective compound for its treatment, J Soc. Cosmet. Chem. Jpn., 29,
133-145 , 1995
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