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平成25年度調査研究報告書 [PDFファイル/5.82MB]

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平成25年度調査研究報告書 [PDFファイル/5.82MB]
平成25年度
福島県委託事業
会津坂下町に係る地域課題調査研究
~ 地域の社会・経済構造と再生可能エネルギー ~
調査報告書
平成26年3月
特定非営利活動法人
超学際的研究機構
はじめに
本調査は,特定非営利活動法人超学際的研究機構が福島県からの委託を受け,
「知のネットワー
クを活用した復興推進事業(地域課題調査研究事業)」として実施したものである.
「地域課題調査研究事業」は,大学等の研究者や専門家等の知見を活用して,地域課題の解決
と解決に向けた市町村と研究者等の連携を促進することを目的とし,地域行政だけでは解決が困
難な課題について,研究者等を含む調査研究会を設置して解決策を検討するものである.
平成25年度は会津坂下町から応募のあった,
「再生可能エネルギーの導入」について,福島大
学,超学際的研究機構のネットワーク研究員等の研究者と福島県,会津坂下町による「会津坂下
町に係る調査研究会」を設置して調査を実施した.
「会津坂下町に係る調査研究会」
(座長 福島大学経済経営学類教授 末吉健治)では,当初,再
生可能エネルギー,とくに木質バイオマス発電の導入可能性ということで議論を開始した.検討
が進むにつれて,より総合的に地域(・社会経済)の持続可能性を考えるうえで,その手段の一
つとして上記課題を位置付ける方向に議論は収斂することになった.その際に考慮された論点は:
1.会津坂下町における地域経済の現状と課題
2.コンパクトシティの形成に向けて
3.木質バイオマス発電の導入可能性
4.電力事業導入に際しての制度的課題
である.
上記4点は,本報告書の章立てに対応するが,それぞれのポイントは以下の通りである.
1のポイントは既存の統計資料の分析から,会津坂下町の人口,産業などの実態,さらに周辺
町村との関係を把握し,地域の課題を抽出することである.2では今後のさらなる高齢化社会に
向けて,コンパクトシティの形成がコミュニティの維持にも,省エネルギー社会の構築にも有効
である点を示す.また,BDF,太陽光発電,地中熱,バイオストーブ等の既存事例の他,適宜,
先進事例を紹介する.
3では,バイオマス発電導入と電気エネルギーの地産地消に向けて,ステップ型の導入計画を
提案する.ここでは,地域の未利用資源の導入,とくに若年層の雇用創出などが課題となる.4
は,新事業導入に伴う,制度的課題をまとめたものである.
この報告書には,とくに「まとめ」は設けていないが,各章の末尾にまとめが付されており,
それらをもって全体の「まとめ」にかえたい.
会津坂下町に係る地域課題調査研究会委員名簿
所
属
研究者
福島県
会津坂下町
事務局
○:座長
氏
○末吉
藤本
川崎
中込
西山
荒井
伊東
名
健治
典嗣
興太
秀樹
茂樹
盛行
満
職
名
福島大学経済経営学類 教授
福島大学共生システム理工学類 准教授
福島大学共生システム理工学類 准教授
千葉大学大学院工学研究科 教授
福島県企画調整部企画調整課長
会津坂下町財政財務部長
超学際的研究機構 コーディネーター
目
次
第1章 会津坂下町における地域経済の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.人口・就業構造
2.産 業
3.所 得
4.財 政
5.周辺地域との結び付き
6.まとめ
(担当:末吉健治)
第2章 コンパクトシティの実現に向けて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1.本章の目的
2.会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた基本的な視点
3.会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた検討課題
(担当:川崎興太)
第3章 「バイオマス発電」導入の可能性の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
1.はじめに
2.会津坂下町の森林資源量とその特徴
3.木質バイオマス資源による発電
4.会津坂下町の森林資源の利活用について
5.まとめ
(担当:中込秀樹・市橋利夫)
第4章 小規模生活圏における電力事業成立の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
1.電力事業改革の動向
2.固定価格電力買取制度から電力自給(自立)に向けて
3.小規模生活圏における電力事業成立の条件
4.会津坂下における電力事業の成立条件と課題点
(担当:藤本典嗣)
第1章 会津坂下町における地域経済の現状と課題
1.人口・就業構造
(1)人口
会津坂下町の人口基礎統計
年
世 帯 数
人
口
総 数
2000
5,489
2001
5,485
19,426
年齢3区分別人口割合
15歳未満 15~64歳 65歳以上 出 生
人口動態(各年1.1~12.31)
男
女
9,352
10,074
16.2
57.4
26.4
164
死 亡
203
自然増減
△ 39
転 入
569
転 出
612
社会増減
△ 43
9,299
9,975
16.0
56.9
27.0
174
219
△ 45
524
634
△ 110
2003
5,481
19,054
9,188
9,866
15.6
56.9
27.4
177
196
△ 19
542
683
△ 141
2004
5,548
18,918
9,118
9,800
15.4
57.0
27.7
161
234
△ 73
548
673
△ 125
2005
5,546
18,710
8,972
9,738
14.9
57.2
27.9
141
253
△ 112
488
635
△ 147
2006
5,385
18,274
8,764
9,510
14.6
57.1
28.3
121
214
△ 93
522
627
△ 105
2007
5,376
18,046
8,642
9,404
14.2
57.1
28.7
125
228
△ 103
504
612
△ 108
2008
5,394
17,843
8,540
9,303
13.8
57.1
29.1
131
222
△ 91
462
611
△ 149
2009
5,422
17,741
8,480
9,261
13.6
57.2
29.3
115
213
△ 98
487
492
△ 5
2010
5,371
17,360
8,281
9,079
13.5
56.9
29.6
141
249
△ 108
481
539
△ 58
2011
5,378
17,168
8,209
8,959
12.9
57.8
29.3
103
243
△ 140
430
436
△ 6
資料)福島県統計年鑑各年版
2011 年における会津坂下町の人口は 17,168 人,世帯数 5,378 となっている.2000 年以降に限
ってみると,一貫して人口は減少している.近年,社会移動による人口減少は緩和されつつある
ものの,自然減は年間 100 人を超える水準となっている.
高齢化率(65 歳以上人口比率)は,2011 年で 29.3%となっており,福島県内の町村平均 28.2%
を若干,上回っている.この 10 年間で 2%程上昇しており,逆に 15 歳未満層の人口比率は 3%
程度低下している.
今後,自然減によるさらなる人口減少と,高齢化が予想され,地域社会の規模を維持していく
ためには,新たな雇用創出と高齢化に対応した暮らしのあり方・まちづくりを検討する必要があ
る.
1
(2)就業構造
会津坂下町の就業構造(2010年)
年齢(総数)
総数
人口
15歳未満 15~64歳 65歳以上
人口
人口
人口
(人)
(人)
(人)
17,360
100.0
2,342
13.5
9,878
56.9
産業3部門
15歳以上
第1次産 第2次産 第3次産
就業者数
A 農業,林
業
業
業
業
就業者数 就業者数 就業者数
(人) (人) (人) (人) (人) (人)
5,126
29.5
8,618
100.0
1,367
15.9
2,283
26.5
4,938
57.3
1,367
15.9
産業大分類別就業者数
C 鉱業,採
うち農業
(人)
B 漁業
石業,砂利採 D 建設業
取業
(人)
-
1,355
15.7
(人)
(人)
7
0.1
751
8.7
産業大分類別就業者数
R サービス
K 不動産
L 学術研
S 公務(他
M 宿泊業, N 生活関連
H 運輸業, I 卸売業, J 金融業,
O 教育,学 P 医療,福 Q 複合サー 業(他に分類
T 分類不能
業,物品賃貸 究,専門・技 飲食サービス サービス業,
に分類される
郵便業
小売業
保険業
習支援業
祉
ビス事業
されないも
の産業
業
術サービス業 業
ものを除く)
娯楽業
の)
E 製造業
F 電気・
G 情報通信
ガス・熱供
業
給・水道業
(人) (人) (人)
1,525
17.7
44
0.5
31
0.4
昼夜間
昼間人口 人口比
率
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
(人)
349
4.0
1,456
16.9
128
1.5
60
0.7
94
1.1
373
4.3
298
3.5
351
4.1
846
9.8
187
2.2
421
4.9
300
3.5
30
0.3
16,275
%
93.8
資料)国勢調査報告
2010 年の昼夜間人口比率は 93.8%となっており,通勤・通学によって約 6%の人口が流出超過
となっている.
就業構造をまず,第 1 次,第 2 次,第 3 次別にみると,第 1 次産業 15.9%(1,367 人),第 2
次産業 26.5%(2,283 人)
,第 3 次産業 57.3%(4,938 人)となっている.福島県平均が第 1 次
産業 7.6%,第 2 次産業 29.2%,第 3 次産業 60.0%となっているので,会津坂下町の就業は第 1
次産業への依存が非常に高いといえる.
つぎに,産業大分類別にみると,第 1 次産業では「農業」の比重が圧倒的に高く 15.7%となっ
ている.
「漁業」は 0 人なので,
「林業」はわずか 5 人ということになる.第 2 次産業では「製造
業」が 17.7%,次いで「建設業」が 8.7%となっている.第 3 次産業では「卸売業,小売業」が
16.9%,次いで「医療,福祉」が 9.8%となっている.
2
2.産 業
(1)農家数
会津坂下町の農家数
総農 家数
2005
販 売 農 家
兼
業
農
家
自 給的
販 売 農 家 農 家 人 口 専 業 農家
農 家
総 数 第 1 種 第 2 種
(人)
1,544
314
1,230
5,658
204
1,026
239
787
単位 戸
主 業 農 家 65歳未満の農業 準主業農家 65 歳未 満の 農業 副業的農家
専従 者が いる
専従者がいる
276
226
416
178
538
資料)福島県統計年鑑
2005 年における農家数は 1,544 戸,そのうち「販売農家」は 1,230 戸である.総世帯数は 5,546
戸なので,地域の 27.8%が農家世帯ということになる.専兼別農家数でみると,販売農家のうち
204 戸は専業農家である.兼業農家 1,026 戸のうち 239 戸が第 1 種兼業農家,787 戸が第 2 種兼
業農家である.1995 年以降,
「農林業センサス」で採用されている農家区分でみると,
「主業農家」
(農家所得の 50%以上が農業所得で,1年間に 60 日以上自営農業に従事している 65 歳未満の
世帯員がいる農家)が 276 戸で,うち「65 歳未満の農業専従者がいる」農家が 226 戸となって
いる.
(2)森林面積
会津坂下町の保有形態別森林面積
単位 ha
国 有 林
年
2010
総 数
3,055
計
民
その他
林野庁
官行造林
官公庁
所 管
計
有
公
小 計
有
県
私 有 林
林
公 社
市町村
林
財産区
小 計
会 社
寺 社 慣行共有
個人・その他
緑資源
機
構
589
589
-
-
2,466
79
29
13
37
-
2,387
47
12
686
1,642
-
100.0
19.3
%
資料)福島県統計年鑑
19.3
-
-
80.7
2.6
0.9
0.4
1.2
-
78.1
1.5
0.4
22.5
53.7
-
会津坂下町の総面積は 91.65 ㎢であり,そのうち森林面積は約 33%を占めている.福島県全体
では「国有林」42.1%,「民有林」57.9%(うち「個人・その他」29.4%)となっているので,民
有林の比率の高さ(80.7%)が会津坂下町の特徴となっている.民有林のなかでも会津坂下町で
は,私有林のうち「慣行共有」22.5%,
「個人・その他」が 53.7%を占めている.町内の未利用
資源の有効利用を考える場合,
「慣行共有」「個人・その他」所有の森林をどのように生かしてい
くのかがポイントになる.
3
(3)事業所数
会津坂下町の事業所数
年
総
電気・ガス・
鉱
業
,
情報通 運輸業, 卸 売 業 , 金融業,
数 農林漁業 採 石 業 , 建 設 業 製 造 業 熱 供 給 ・
信業 郵 便 業 小 売 業 保険業
砂利採取業
水 道 業
2009
1,072
13
2
145
86
1
8
16
319
11
%
100.0
1.2
0.2
13.5
8.0
0.1
0.7
1.5
29.8
1.0
複
合 サー ビ ス業 公
務
不動産 業, 学 術 研 究 , 宿 泊 業 , 生 活 関 連 教 育 ,
物 品 賃貸 専門・ 技術 飲
食 サー ビ ス 業, 学習支 医療,福祉 サ ー ビ ス (他に分類さ (他に分類され
業 れないも の) る も のを除く)
サービ ス業 サ ー ビ ス 娯 楽 業 援業
事
業
59
24
122
100
47
39
10
63
7
5.5
2.2
11.4
9.3
4.4
3.6
0.9
5.9
0.7
資料)福島県統計年鑑
2009 年の事業所数をみると,事業所の総数は 1,072 となっている.産業中分類別に最も多いの
は「卸売業,小売業」の 29.8%,次いで「建設業」の 13.5%となっている.その他「宿泊業,飲
食サービス」が 11.4%となっている.就業構造の上で目立っていた「医療,福祉」は 3.6%,39
事業所にとどまっている.
「製造業」も,雇用の割に域内の事業所数は少ない.
(4)製造業
製造業については,産業中分類別にみると秘匿数が多いため,ここでは 2000 年以降の基礎的
数値の推移をみる.製造業事業所数は,2000 年の 66 から 2010 年には 49 に減少している.従業
者数は年によって変動が大きく,2010 年には 1,530 人となっている.常用労働者のうち 675 人
が男,844 人が女であり,女子型の製造業の比重が高いことが推察される.製造品出荷額等の推
移を合わせてみても,近年は停滞傾向にあることがうかがえる.
4
3.所 得
会津坂下町の町内総生産(単位:百万円)
産 業
年度
総額
第一次
第二次
産業計
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
%
農業
林業
水産業
産業計
鉱業
製造業
建設業
49,032
51,112
49,226
44,724
46,241
45,350
45,677
45,007
45,090
2,595
2,352
2,426
2,334
3,026
2,435
2,217
2,422
2,350
2,527
2,287
2,336
2,252
2,931
2,355
2,184
2,392
2,326
32
51
30
28
29
30
32
29
22
36
15
60
54
65
49
1
1
1
13,774
15,289
12,756
11,267
12,012
11,202
11,602
11,421
11,420
213
144
149
125
138
85
84
82
67
8,906
8,893
8,149
6,834
7,483
7,413
7,870
8,403
9,347
4,655
6,251
4,459
4,308
4,392
3,704
3,647
2,937
2,006
100.0
5.2
5.2
0.0
0.0
25.3
0.1
20.7
4.4
産 業
第三次
産業計
電気・ガス・水
道
政府
サービス
卸・小売 金融・保険 不動産業 運輸・通信 サービス業
対家計
(控除)
民間非営利 帰属利子等
生産者
サービス
33,843
34,929
35,920
32,887
32,806
35,013
34,635
32,177
32,408
2,959
2,221
1,897
1,627
1,787
1,828
1,785
1,886
1,614
4,194
4,590
4,277
4,567
4,319
4,054
3,941
4,351
4,231
1,565
2,579
2,869
2,676
2,729
4,444
4,027
2,177
2,077
4,624
4,630
8,082
5,465
5,520
5,395
5,581
5,870
5,949
4,652
3,622
2,668
2,513
2,360
2,991
2,930
2,729
2,665
7,020
8,307
8,184
8,054
8,153
8,499
8,526
7,395
7,965
7,394
8,420
7,303
7,299
7,266
7,328
7,377
7,138
7,304
1,435
560
640
687
672
473
468
632
602
1,179
1,459
1,877
1,764
1,603
3,301
2,777
1,013
1,088
71.9
3.6
9.4
4.6
13.2
5.9
17.7
16.2
1.3
2.4
資料)福島県統計年鑑各年版
会津坂下町の町内総生産をみると,近年,停滞傾向にあり,450 億円前後で推移している.産
業大分類別にみると,2007 年では「製造業」が 20.7%と 2 割を超えている.次いで「サービス
業」が 17.7%となっているが,近年,停滞傾向にある.上述したように,就業の上では「農業」
の比重が高いが,総生産では 5.2%,約 23 億円にとどまる.
4.財 政
会津坂下町の歳入
年
度総
2004
2005
2006
2007
2008
2009
額地
方
税 地 方 譲 与税
利
交
子
付
割配
金交
当
付
株 式 等 譲渡
自
割
地 方 消 費税
所 得 割
取
金
交 付 金
交 付 金
交
動
得
付
車
交 通 安 全
地 方 特 例
税
地 方 交 付税 対 策 特 別
交 付 金 等
金
交 付 金
7,110,248
1,435,728
153,638
13,208
1,445
1,510
189,491
43,557
42,306
2,736,256
2,613
8,059,507
1,423,093
190,990
7,553
2,452
3,196
173,019
43,762
42,036
2,703,290
2,644
7,338,624
1,422,547
258,905
4,984
3,891
2,694
171,376
51,080
30,662
2,655,514
3,409
7,164,436
1,561,812
119,447
6,391
4,860
2,208
165,903
39,992
10,713
2,530,495
3,176
6,634,990
1,578,227
136,159
6,412
1,549
482
150,833
44,542
19,471
2,493,304
2,675
6,984,441
1,511,032
127,949
5,805
1,301
624
156,221
24,481
22,231
2,718,827
2,656
100.0
21.6
1.8
0.1
0.0
0.0
2.2
0.4
0.3
38.9
0.0
%
単位 千円
分 担 金 及び
使
負 担 金
21,437
用
料手
200,421
数
料 国 庫 支 出金 県 支 出 金 財 産 収 入 寄
11,128
390,256
349,284
附
金繰
80,248
3,578
入
金繰
203,245
越
金諸
284,906
収
入地
方
債
198,793
747,200
1,535,900
17,697
195,065
11,597
517,144
334,374
36,639
12,545
300,398
236,398
269,715
18,146
184,776
11,592
553,389
309,088
46,490
3,003
213,500
255,036
436,442
702,100
15,403
184,439
10,968
617,990
347,632
16,538
1,705
201,799
285,322
189,543
848,100
54,340
191,890
10,530
695,645
326,629
12,331
3,510
135,263
229,477
172,727
368,994
111,142
142,428
9,647
651,591
416,921
16,900
45,393
4,389
338,054
170,956
505,893
1.6
2.0
0.1
9.3
6.0
0.2
0.6
0.1
4.8
2.4
7.2
資料)福島県統計年鑑各年版
会津坂下町の歳入構造をみると,ほぼ 70 億円前後で推移している.2009 年では「地方交付税」
が 38.9%,
「地方税」が 21.6%を占め,この 2 税で 6 割を占めている.地方債は約 5 億円で 7.2%
となっている.
表出していないが,歳出に占める公債費は 13.0%で,福島県平均が 12.0%となっているので,
ほぼ平均的な水準にある.また,2011 年時点の実質公債費比率 15.9%(健全化基準 25.0%)で
あり,近年,改善傾向にある.
5
5.周辺地域との結び付き
(1)通勤圏・通学圏
資料)http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/shichouson_gyousei_05_seikatukeniki.pdf
資料)http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/shichouson_gyousei_05_seikatukeniki.pdf
まず,福島県内における地域間の結び付きを 2000 年段階の「通勤圏」
「通学圏」でみると,
「通
勤圏」では福島市,郡山市,会津若松市,白河市に強い中心性が認められる.浜通りでは明確な
中心性を認めがたい.これら4市の下位レベルに会津では喜多方市,中通では須賀川市,二本松
市などが位置付けられる.
「通勤圏」
でみる限り,
会津坂下町は会津若松市の通勤圏となっている.
次に「通学圏」をみると,
「通勤圏」とほぼ同様の傾向にあるが,特定の都市の中心性はより高
まる傾向にある.会津坂下町も,柳津町からの流入があるものの,会津若松市への流出となって
いる.
6
(2)購買動向
購買動向から会津坂下町と周辺地域との結び付きをみると,「会津坂下町民の購買動向」では,
「背広・スーツ」
「セーター・ブラウス」
「靴・バッグ」などの買回り品は会津若松市に流出する
傾向が高いものの,
「日用品」
「食料品」などの身の回り品は域内での購買が大勢を占める.
「会津坂下町への購買行動」をみると,
「背広・スーツ」
「家電製品」などの買回り品を除けば,
旧高郷村,西会津町,柳津町,三島町,金山町との結び付きが強い.
(3)行政の結び付き
行政の結び付きとして代表的なものに,会津若松地方広域市町村圏整備組合(会津若松市,磐
梯町,猪苗代町,会津坂下町,湯川村,柳津町,三島町,金山町,昭和村,会津美里町)がある.
この組合は,以下の7点を広域的に処理することを目的としている.
①組合市町村内の創造的,一体的な振興整備に資する地域振興事業の実施及び連絡調整
②消防(消防団に関することを除く)
③ごみ処理施設の設置,管理及び運営
④し尿処理施設の設置,管理及び運営
⑤研修(組合市町村の任命権者が行う研修を除く)
⑥介護認定審査会の設置及び運営
⑦水道用水供給施設の設置及び運営(会津若松市、会津坂下町及び会津美里町に限る)
7
6.まとめ
以上,会津坂下町の基礎統計から地域の概要をみてきた.ここから示唆される町の課題につい
てまとめると以下の通りである.
・人口動向
人口減少・域外流出が継続している.また,高齢化比率が徐々に上昇している.こうした現
状に対応するためには,域内雇用創出と同時に,高齢化社会に対応したまちづくりが必要に
なっている.
・産 業
事業所統計,町内総生産,製造業などの基本統計から産業の動向を確認すると,近年,総じ
て停滞傾向にあることが確認できる.相対的に農業の比重が高く,産業を振興するなかで,
雇用を創出していくことが求められる.
・未利用資源
私有林比率が高く,森林資源の有効利用のためにはその活用がポイントになる.そのことに
よって雇用創出,需要産業の育成がポイントになる.
・周辺地域との関係
通勤圏,購買圏,行政圏などから,会津坂下町は周辺町村に対してある程度の中心性を有し
ていることが確認できる.将来的には,町単独というよりも,より重層的な施策を講じるこ
とが必要であろう.
これらの課題を総合的に,
かつ段階的に解決する手段として,本報告書ではまちづくりの側面,
産業の側面から検討を加えた.
8
第2章 コンパクトシティの実現に向けて
1.本章の目的
●これまでのエネルギー施策の実績や現状などに鑑み(次ページ参照),会津坂下町では,固定価
格買取制度を前提として再検討する余地はあるものの,再生可能エネルギーにのみ着目し,その
活用の拡大に向けた方策を考えることは,枠組み自体に限界があると考えられる.
●むしろ,今後の町での,あるいは,都市圏域での暮らしやなりわいのあり方を構想し,その中で,
再生可能エネルギーの活用,省エネルギー化の推進,低炭素社会の形成などについて検討する必
要があるのではなかろうか.
●「コンパクトシティ」は,これらの事項を検討する上でのベースとなるコンセプトの一つとして
位置づけうるものと思われる.
●第 2 章では,こうした認識のもとに,会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた基本
的な視点を提起し,今後のその本格的な検討にあたっての課題を提起することを目的とするもの
である.
2.会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた基本的な視点
●以下に,会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた基本的な視点を示す.
【会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた基本的な視点】
〇都市構造の再編
→
中心部における都市機能の更新(公的不動産の有効利用)
→
郊外部や農山村部における土地利用計画・規制
→
空き家・空き地対策
→
高齢者などが暮らしやすいまちづくり など
〇交通・インフラ
→ 公共交通ネットワークの形成・運営
→ 中心部における歩いて暮らせるまちづくり
→ 公共交通空白地域などにおける生活の足の確保 など
〇建築
→ 太陽光などの普及促進
→
低炭素建築物の普及促進(特に公共施設) など
〇水と緑
→ 緑化の推進・促進
→
水と緑のコリドーの再生 など
〇住民協働
→ 住民の環境学習・教育の充実
→
地区単位の計画・協定・エリアマネジメント など
9
【参考:会津坂下町におけるエネルギー施策の実績等】
■太陽光関係
○会津坂下町住宅用太陽光発電システム設置費補助
補助限度額
平成 19 年度
1kW あたり 6 万円,上限 4kW で 24 万円
平成 20 年度
1kW あたり 6 万円,上限 4kW で 24 万円
平成 21 年度
1kW あたり 3 万円,上限 4 kW で 12 万円
平成 22 年度
1kW あたり 3 万円,上限 4 kW で 12 万円
平成 23 年度
1kW あたり 3 万円,上限 4 kW で 12 万円
平成 24 年度
1kW あたり 1.5 万円,上限 4 kW で 6 万円
補助件数
5件
4件
6件
3件
3件
34 件
○公共施設への導入
・平成22年度に学校給食センターに導入 4.56kW
・平成24年度に会津坂下町立東小学校に蓄電池と共に導入(パネル:20kW
総補助額
114.3 万円
90.9 万円
62.7 万円
36.0 万円
36.0 万円
194.1 万円
蓄電池:16.8kW)
■バイオマス関係
○ペレット関係
・平成19年度に温泉施設(糸桜里の湯)にペレットボイラーを導入,公共施設にペレットストーブを5
台導入(坂下南小学校3台,町民体育館1台,坂本分園1台)
・平成20年度に公共施設にペレットストーブを16台導入(町民体育
館1台,坂本分校1台,旧広瀬幼稚園4台,中央公民館1台,若宮コ
ミュニティセンター1 台,金上コミュニティセンター1 台,広瀬コミ
ュニティセンター1台,川西コミュニティセンター1台,八幡コミュ
ニティセンター1台,高寺コミュニティセンター公民館1台,農業改
善センター1台,会津西部斎苑2台)
・熱効率が悪い
○BDF関係
・平成20年度より町で家庭内廃てんぷら油の回収
・NPO法人桜の家にて廃食油の回収(町とは別に実施)及びBDF精
製・販売
平成 21 年度
平成 22 年度
平成 23 年度
平成 24 年度
廃油回収量
26,369ℓ
21,206ℓ
24,278ℓ
18,056ℓ
BDF売上量
25,510ℓ
19,100ℓ
27,030ℓ
16,280ℓ
・現在,桜の家では広田タクシー(バス)と個人数名に販売している.
・役場庁舎のボイラーと給食センター給油ボイラーにおいて,BDF燃
料と重油の混合使用を試験的に実施したことがあったが,それ以来は
使用していない.
・菜の花プロジェクト
菜の花栽培~菜種油の利用~廃食用油の回収~BDF(軽油代替燃
料)
⇒ 補助金の交付が終了したため事業も終了した.生産性がよくな
かった.食用油にはならなかった.
・BDFを農耕車で使用したことがあったが,油が漏れてホースが溶け
てしまったことがある.
・町内での需要が少ない.
会津坂下町立東小学校
糸桜里の湯
桜の家
■その他
○地中熱
会津坂下町立東幼稚園
10
・平成 24 年度に会津坂下町立東幼稚園に地中熱ヒートポンプを設置
(1)都市構造の再編
①中心市街地における都市機能の更新(公的不動産の有効利用)
●現在,会津坂下町では,以下のような課題が顕在化していることから,今年度に設立された委員
会において,地方都市リノベーション事業などの活用による公的不動産の有効利用方策が検討さ
れている.
役場本庁舎:昭和 36 年建築.事務量の増加に伴う狭隘化とあわせて,耐震性,駐車場の
①
確保等の課題がある.
② 老人福祉センター:昭和 49 年建築.商工観光部局(東分庁舎)
・教育委員会(町民体育館・
昭和 42 年建築)等の行政機能が分散していることから,効率的な行政サービスを提供する
ため機能の一元化が必要である.
平成 24 年度に終了する教育施設適正配置後の空き校舎・空き園舎の跡地の有効活用の対
③
応が求められるが,財政的な問題から耐震性の確保や補修にかかる費用等の捻出が困難であ
る.今後,遊施設の維持管理経費として年間約 200 万円が必要となる.
●厳しい経済状況の中にあって,特に地方中小都市においては,地方公共団体が先導的にまちづく
りを進めることが求められているという意味でも,今後は以下の 2 点に留意しつつ,委員会での
検討結果に基づき,公的不動産の有効利用方策を的確に展開することが重要だと考えられる.
① 町全体あるいは都市圏全体の観点からの土地利用(特に住宅の立地)と交通に関する施策
の一体的な展開
② ①の事項を踏まえた上での,中心市街地の活性化,農山村部との連携,高齢者福祉の充実
などに資する施策の総合的な展開
【我が国における中心市街地活性化にかかわる課題】
1.歩く速度を規準とした場所の計画・デザイン制度の確立(アクセルに関する課題)
●中心市街地活性化の問題
→ 自動車速度を規準とする空間を,歩く速度を規準とする場所に再構築すること
●速度政策が決定的に重要
→ 自動車交通の円滑な処理を主眼とする道路法,道路交通法,駐車場法の改正
2.土地利用規制制度の抜本的な再構築(ブレーキに関する課題)
●中活計画の認定都市でも,土地利用規制制度は積極的に活用されていないのが実態
●その背景には,以下に掲げる都市計画法制度上の根本的な問題点が存在
① 都市計画区域外における原初的な都市的土地利用規制の不在
② 市街地外において緩くなる都市的土地利用規制の論理構成
③ 都道府県の全域を対象とした都市計画に関する基本方針の欠如
3.広域単位での政策調整制度の創設(アクセルとブレーキに関する課題)
●市町村単位の中活政策の限界
●都市圏単位の垂直的・水平的な政府間調整制度の創設が必要
11
表
会津坂下町における主な公的不動産
◎小学校
2棟
全延べ床面積
14,617 ㎡
◎中学校
1棟
全延べ床面積
6,296 ㎡
◎幼稚園
2棟
全延べ床面積
2,275 ㎡
6 棟
◎コミュニティセンター
全延べ床面積
3,770 ㎡
6 棟
◎コミュニティセンター付属体育館
面積
全延べ床
3,999 ㎡
◎町民体育館
1棟
全延べ床面積
1,569 ㎡
◎中央公民館
1棟
全延べ床面積
1,910 ㎡
469 ㎡
◎中央公民館分室 1棟 全延べ床面積
◎役場庁舎
1棟
◎役場東分庁舎
◎保育所
1棟
709 ㎡
全延べ床面積
全延べ床面積
1,783 ㎡
◎学校給食センター
1棟
全延べ床面積
1,290 ㎡
◎糸桜里の湯ばんげ
1棟
全延べ床面積
1,664 ㎡
◎小林五郎美術記念館
1棟
◎老人センター
全延べ床面積
1棟
◎健康管理センター
1棟
全延べ床面積
◎旧小学校 4棟 全延べ床面積
8,522 ㎡
◎旧幼稚園 5棟
1,944 ㎡
図
241 ㎡
1,121 ㎡
全延べ床面積
全延べ床面積
会津坂下町役場
8,199 ㎡
全延べ床面積
1棟
写真
87 ㎡
ほか
写真 町民体育館
会津坂下町の市街地における公的不動産の分布
12
■参考事例:須賀川市の中心市街地における公共施設の機能更新■
〇須賀川市では,東日本大震災で市内の約半数
の家屋が全壊から一部損壊までの被害
〇中心市街地では,住宅や店舗のほか,市庁舎,
総合福祉センター,小学校が使用不能状態に
〇市庁舎跡地での再開発と総合福祉センター
跡地での開発を復興シンボル事業とした中
心市街地活性化を意図
・市庁舎跡地での再開発:福島県では 10
件目の再開発事業の都市計画決定,27
年度末の竣工予定.復興交付金と震災復
興特別交付税の活用
・総合福祉センター跡地での開発:市民交
流センターの整備.市庁舎跡地にあった
図書館と公民館を移転・機能集約
〇いずれも,プロポーザル方式によって最優秀
案を決定
図 市街地中心部の再生・活性化イメージ
出典:須賀川市(2013)
「須賀川市復興まちづくり事業計画」
右図:新庁舎の外観イメージ
下図:(仮称)須賀川市市民交流
センターの整備イメージ
出典:須賀川市ホームページ
13
■参考事例:長岡市の中心市街地における公共施設の分散集約■
○「まちなか公共サービス」の展開をコンセプ
トとして,連鎖型再開発とあわせた公共施設
のまちなか分散集約を推進
○象徴的な存在は郊外から中心市街地に回帰
してきた市役所本庁舎
○現在,市役所本庁舎は,市有地跡地開発ビル
の 1 棟,再開発ビルの 1 棟,大型空き店舗
の 1 棟(賃貸)に分散配置
○最終的には,大型空き店舗に入居している部
局を事業中の再開発ビルに移転することを
予定
○市役所のまちなか分散集約の意図は,まちの
回遊性の向上と再開発の事業成立性の向上
○再開発は,まちづくり交付金の活用
写真上:アオーレ長岡(平成 24 年 4 月オープン)
写真下:フェニックス大手(平成 23 年 9 月オー
プン)
出典:長岡市提供資料
図
中心市街地における再開発などによる公共施設の分散集約
14
②郊外部や農山村部における土地利用計画・規制
●今後,人口減少や世帯減少などに伴って,特に郊外部や農山村部では,空き家や空き地,耕作放
棄地や粗放林,そして,不在地主の増加などが予想される.
●これらに伴う負の外部影響を回避または低減する上では,地区ごとに詳細な土地利用計画を策定
し,協働管理体制を構築することが重要である.
●また,これらの前提として,地味ながらも,17 条地図を作成しておくことが重要である.
■参考事例:三春町の国土利用計画■
○三春町では,7 つの地区ごとに,徹底的な住民参加を通じて,以下の特徴を有する総合的・一元
的な国土利用計画を策定している.
①
コンパクトな都市農村空間の形成に向けた計画の志向性
② 筆単位の即地的な土地利用計画図の議決
③ 指導要綱に基づく町と住民の協働による計画の実効性の担保
表
三春町での土地利用規制の状況
土地利用規制の指定状況 登記簿面積(k㎡)
割合
三春町全域
68.80 100.0%
50.59
73.5%
白地地域
非白地地域
18.21
26.5%
用途地域及び風致地区
4.73
6.9%
農振農用地
13.10
19.0%
保安林
0.38
0.6%
注:平成17年1月1日時点の登記簿に基づく面積である
表
中妻地区の開発許容台帳(一部)
出典:三春町国土利用計画
写真 白地地域におけるスプロール
図
15
中妻地区の土地利用計画図
■参考事例:空き家・空き地への対策■
○現在,人口減少などを背景として増加しつつある空き家・空き地対策として,空き家条例や空き
地条例を制定する自治体が急増している.
8
老朽家屋等
指導
指導
判定会議
危険度判定(緊急対応の必要性)
命令
勧告
本人同意
緊急措置
費用請求
代執行
助成制度
費用徴収
自主除却
(免除規定)
老朽家屋等の適正管理に関する条例
図
和歌山県の「建築物等の外観の維持保全及び
景観支障状態の制限に関する条例」
(景観支
障防止条例)(平成 23 年 6 月 30 日公布,平
成 24 年 1 月 1 日施行)
図
建築基準法
足立区の「老朽家屋等の適正管理に関する条
例」
(平成 23 年 10 月 25 日公布,同年 11 月
1 日施行)
■参考事例:建物の間引きによる都市再生戦略■
○空き家や空き地の発生に伴う負の外部影響の回避・低減のみならず,これらをまちづくりのタネ
地として活用することも重要である.
○バルセロナでは,都心部のスラム街だったラバル地区において,建物の間引きによる公共空間の
創出や文化施設の整備などを通じて,治安の改善や交流人口の増大などを達成している.
・建物の間引きを伴う連鎖型再開発を通じ
た魅力的な公共空間の創出
・立ち退き住民への低廉な代替住宅の提供
・既存の公共建造物の再生及び新たな文化
施設等の整備
写真 建物の間引きによって創出さ
れたラバル遊歩道
16
(2)交通・インフラ
●コンパクトな都市構造を形成する上では,土地利用と公共交通に関する施策を一体的に展開する
ことが重要であり,会津坂下町においては,例えば,公的不動産の有効利用方策や住宅の立地規
制・誘導について,将来的な公共交通のあり方とあわせて検討することが重要だと考えられる.
●具体的には,公共交通に関して,少なくとも以下の 3 点について検討することが必要だと考えら
れる.
①
効果的かつ効率的な公共交通ネットワークの形成と運営
② バス停や鉄道駅などの公共交通結節点の周辺地域における歩いて暮らせるみちづくり
③
①と②の対象外となる地域の住民の通勤,通学,通院,買い物などの移動手段の確保
■参考事例:福岡市の「公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通の確保に関する条例」■
○平成 22 年 3 月に公布された議員提案条例
○公共交通空白地や公共交通不便地などにおける事業者,行政,市民の協働による生活交通の支援
○従来からのバス路線の休廃止に伴う代替交通の確保に加えて,地域主体の生活交通確保に向けた
取り組みに対する支援を明示
○公共交通(路線バスや鉄道)と福祉有償運送の統合的な運用
出典:福岡市ホームページ
図
公共交通空白地や公共交通不便地などの考え方
17
(3)建築物
●上記の「都市構造の再編」や「交通・インフラ」にもかかわるが,平成 24 年に「都市の低炭素
化の促進に関する法律(エコまち法)」が公布・施行されており,同法に基づく諸制度は,会津
坂下町においてコンパクトシティを形成する上でのツールの一つになりうるものと考えられる.
●建築物に関しては,会津坂下町の場合,用途地域内における新築建築物などについて,基準に
適合するものは低炭素建築物として認定され,税制優遇措置などが受けられる.
■都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)と低炭素建築物■
○都市機能の集約やそれと連携した公共交通機関の利用促進,建築物の低炭素化等の施策を講じる
ことにより,地域における成功事例を蓄積し,その普及を図ることを目的とする法律(平成 24
年 9 月公布・同年 12 月施行)
.
出典:国土交通省監修
(2012)「エコまち
法に基づく低炭素
建築物の認定制度
の概要」
18
(4)水と緑
●水と緑の保全・管理・活用にあたっては,行政の投資余力の低下などに鑑み,いかに住民の力を
振り向けることができるかがカギとなる.
●これまでにも,公物管理の場面では,道路のアドプト制度などが行われてきたが,本格的な人口
減少時代に入る中にあっては,私有地における水や緑の保全・管理・活用にあたっても,住民の
力を活かすという視点が重要になると考えられる.
■柏市の「カシニワ制度」■
○柏市内で市民団体等が手入れを行いながら主体的に利用しているオープンスペース(樹林地や空
き地等)並びに一般公開可能な個人の庭を「カシニワ=かしわの庭・地域の庭」と位置付け,カ
シニワへの関りを通じて,みどりの保全・創出,人々の交流の増進,地域の魅力アップを図って
いくことを目的とした制度(平成 22 年 11 月運用開始)
.
○具体的には,以下の 2 つの柱により構成される.
①
カシニワ情報バンク:みどりの保全や創出のために,土地を貸したい土地所有者,使いた
い市民団体等,支援したい人の情報を集約し,市が仲介を行う制度
②
カシニワ公開:一般公開可能な個人の庭,地域の庭を市に登録をしてもらう制度
○いずれも登録は無料である.また,カシニワ制度に登録された者に対する助成金の交付(財団法
人柏市みどりの基金による実施)を平成 23 年 4 月から行っている.
出典:柏市ホーム
ページ
19
(5)住民協働
①個人を単位とした住民協働
●個人を単位とした住民協働を進めるためのツールの一つとして,大学と連携した環境教育システ
ムの構築が考えられる.
■参考事例:長岡市の「まちなかキャンパス長岡」■
○まちなかキャンパス長岡(通称:まちキャン)
は,再開発ビルであるフェニックス大手の 3
~5 階に設けられた地域交流センターである.
○地元の高等教育機関(長岡技術科学大学,長
岡造形大学,長岡大学,長岡工業高等専門学
校)が,各校の専門性を活かした講座を開催
するほか,市民企画講座や,企業が行う講座
など,多様な講座を開講している.
○「まちなか大学」に申し込むと“学生証”が
発行され,この学生証を協力店に提示すると,
いろいろな特典・サービスが受けられる(平
成 25 年 8 月現在:99 店)
.
出典:まちなかキャンパス
長岡のホームページ
20
②地区を単位とした住民協働
●地区を単位とした住民協働を進めるためのツールの一つとして,条例に基づく協定制度,および,
これを促進するためのインセンティブ制度の創設が挙げられる.
●インセンティブ制度としては,協定に基づく環境まちづくり活動や施設設置などに対する補助の
ほか,表彰制度などの定番制度に加えて,地区公民館の廃止にかえて設立されたコミュニティセ
ンターの活動費の上積みなどが考えられる.
■参考事例:水俣市の「村丸ごと生活博物館」制度■
○制度の概要
出典:水俣市ホームページ
21
○制度の運営
・この制度の核心は,地域(特に農山村地域)が市の補助金に頼らず自分たちの地域にある資源を活
用し,自分たちの地域に誇りをもって活動することを促すことにある.制度の立ち上げ当初は,市
職員も付き添いながら地域の計画や活動の支援を行っていたが,制度創設から 10 年経った現在で
は,市は事務局の代行や国・県等の活用できる補助金・交付金等の情報提供,取組の情報発信など
を行っているのみで,基本的には市からの補助金もなく,各地区の生活博物館でそれぞれ直接運営
している(市から情報提供を受けて,活用できそうな国及び県の補助金等は利用している)
.
・これまで,対外的には市の HP 上でしか活動内容を掲載しておらず,訪問者の口コミ等で活動内容
が広まっていたが,平成 24 年度より対外向けに村丸ごと生活博物館の PR 活動を行うための PR
活動費として,約 20~30 万円程の事業費により PR 活動を実施している.
※昨年度は,熊本市内において 4 地区博物館の合同 PR イベント(物産・体験・制度紹介等)を
行った.
(H24 事業費実績 195 千円)
・本年度は,水俣市で実施される「第 33 回全国豊かな海づくり大会」の物産イベントブースにてP
R活動を行う予定.
(H25 事業費 290 千円を計上)
○制度創設後の訪問者・視察者数
【地区環境協定を締結した 4 地区の実績(平成 25 年度は 8 月 15 日現在)
】
対応
平成14年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
平成18年度
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
平成24年度
平成25年度
合 計
行政
件数
人数
20
189
9
26
32
410
2
29
6
59
13
75
5
19
8
77
21
625
8
129
14
353
3
28
141 2,019
民間
件数
人数
9
37
12
78
24
338
11
109
19
349
33
481
42
606
19
344
11
306
36
909
21
288
4
45
241 3,890
行政・民間
件数
人数
1
12
3
99
0
0
16
316
22
324
19
279
37
598
30
449
20
236
1
8
0
0
0
0
149 2,321
議会
件数
人数
2
17
8
41
8
48
7
45
2
9
4
32
3
15
2
17
23
51
0
0
3
20
2
27
64
322
教育機関
件数
人数
6
58
10
55
14
146
4
34
9
105
24
291
16
167
14
177
0
0
0
0
6
41
4
50
107 1,124
報道
件数
人数
4
8
4
5
5
18
3
3
5
19
8
11
7
25
4
21
9
21
1
1
0
0
2
6
52
138
合計
件数
人数
42
321
46
304
83
960
43
536
63
865
101 1,169
110 1,430
77 1,085
84 1,239
46 1,047
44
702
15
156
754 9,814
○制度の成果・効果
・例えば,認定地区第 1 号の頭石(かぐめいし)地区では,水俣市街地の商店街の店舗と提携し,地
元で取れる食材で,お菓子やお茶,地サイダーなどの加工品を開発・販売し,地元に還元している.
・大川地区,越小場地区では,村丸ごと生活博物館の訪問メニューのひとつでもある食めぐりから派
生した「村丸ごと春(秋)のバイキング」を年 1~2 回開催しており,市・県内外から毎回 100 人
前後の来場者がある.
・ただし,認定4地区とも高齢化率が 35%を超えており,中心的メンバーの平均年齢は 70 歳代とい
う状況のなかで,今後,この取り組みを継続していく上で,後継者となる人材の発掘が問題となっ
ている状況である.
資料:
「村丸ごと博物館」制度に関する聞き取り調査の結果と水俣市から提供していただいた資料
22
3.会津坂下町におけるコンパクトシティの実現に向けた検討課題
(1)「都市構造の再編」について
①中心市街地における都市機能の更新(公的不動産の有効利用)
以下の 2 点に留意しつつ,地方都市リノベーション事業などの活用による公的不動産の有効利
用方策について検討している委員会での検討結果に基づき,公的不動産の有効利用方策を的確に
展開すること.
1) 町全体あるいは都市圏全体の観点からの土地利用(特に住宅の立地)と交通に関する施策
の一体的な展開
2) これを踏まえた上での,中心市街地の活性化,農山村部との連携,高齢者福祉の充実など
に資する施策の総合的な展開
②郊外部や農山村部における土地利用計画・規制
人口減少や世帯減少などに伴う空き家や空き地,耕作放棄地や粗放林,不在地主の増加などに
伴う負の外部影響を回避または低減するため,以下の点について検討すること.
1) 地区ごとの詳細な土地利用計画の策定と協働管理体制の構築
2) これらの前提としての 17 条地図の作成
3) 空き家条例や空き地条例の制定,空き家や空き地の有効利用のあり方
(2)「交通・インフラ」について
公共交通について,上記の都市構造の再編に関する事項とあわせて,以下の点について検討す
ること.
1) 効果的かつ効率的な公共交通ネットワークの形成と運営
2) バス停や鉄道駅などの公共交通結節点の周辺地域における歩いて暮らせるみちづくり
3) 上記 2 点の対象外となる地域の住民の通勤,通学,通院,買い物などの移動手段の確保
(3)「建築」について
「都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)
」の活用による,低炭素建築物認定制度
の活用について検討すること.
(4)「水と緑」について
住民の力を活かした私有地における水や緑の保全・管理・活用方策について検討すること.
(5)「住民協働」について
①個人を単位とした住民協働
個人を単位とした住民協働を進めるためのツールの一つとして,大学と連携した環境教育シス
テムの構築について検討すること.
②地区を単位とした住民協働
地区を単位とした住民協働を進めるためのツールの一つとして,条例に基づく協定制度,およ
び,これを促進するためのインセンティブ制度の創設について検討すること.
23
24
第3章 「バイオマス発電」導入の可能性の検討
1.はじめに
前章までに,会津坂下町の現状と将来に向けての課題を踏まえると,今後の町づくりのあ
り方としてコンパクトシティの方向を探ることが最適な将来ビジョンであることを見てきた.
町の主な機能を町の中心街に集め,機能性に優れた住みやすい街づくりを目指すことになる.
しかし,町の中心街を囲む周辺地域の新たな整備もコンパクトシティの形成と同時にセットで
推進することが必要となる.最近の会津坂下町の土地の利用状況を耕地,森林,可住地を含む
その他の割合でみると,図 3.1 (a),(b),(c) に示す通り 2000 年と 2012 年の調査結果から
ここのところの約 10 年間ではほとんど変化がなく,さらに今後の平成 33 年頃までの見通
しにおいても,大きな変化はないものと予測している ( 資料-1,資料-2 ).したがって,会津
坂下町の土地の利用状況としては,耕地,森林,可住地を含むその他がほぼ 1/3 ずつを占め
ている状況である.この状況から,コンパクトシティの構想の推進に併行して今後の農業およ
び森林の在り方と整備に関するビジョンを描くことの必要性・重要性も窺える.特に,今後は
再生可能エネルギーの導入・活用を前提とした街づくりを考えると,現状では必ずしも十分で
はない森林の整備・活用が必須になると思われる.本章では,会津坂下町の森林整備に伴う森
林資源の活用方法を考える上で,中でも森林資源のエネルギー利用としての木質バイオマス発
電の可能性を中心に検討する.
森林資源の活用は,世界的な規模での化石資源の枯渇の見通し,また,日本においてはエ
ネルギー資源自給の限界に加えて平成 23 年 3 月 11 日の東日本大震災 ( 3.11 ) の体験か
ら地域の自立的なエネルギーの確保という観点からも見直される傾向にある.福島県は 3.11
後に「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン ( 改訂版 )」を策定し ( 資料-3 ),この中で森
林・林業・木材産業復興に向けた「再生可能エネルギーの飛躍的推進による新たな社会づくり」
を打ち出している.以上を踏まえると,会津坂下町としても森林資源の活用,特にエネルギー
資源としての活用を考えることは,県,国,世界の傾向に沿った方向であることが確認できる.
(a)
(b)
(c)
図 3.1 会津坂下町の土地の利用状況の変化と予測
25
2.会津坂下町の森林資源量とその特徴
(1) 森林資源量
ここで,会津坂下町の森林資源の現状と今後の森林資源活用に当たっての森林資源量のポ
テンシャル ( 活用可能な潜在的な資源量 ) を確認する.
1) 森林の保有形態
森林の面積は図 3.1 に示した通り,平成
22 年の調査結果では,会津坂下町の約 1/3
を占める 3056 [ ha ] となっている.この
面積はここ最近の約 10 年はほとんど変化
しておらず,また今後の 10 年程度では大
きく変化することはないという見通しであ
る.この森林を保有している形態は図 3.2
に示すように,平成 21 年の調査では,国
有林が約 19 [ % ],民有林が約 81 [ % ] と
なっている ( 資料-4 ).
2) 民有林の保有形態
民有林の保有の形態については図 3.3
に示すように,平成 21 年の調査では,県
や市などが保有する公有林はわずか約 3
[ %] に過ぎず,私有林が約 97 [ % ] を占め
ている.したがって,会津坂下町の森林はそ
のほとんどが町民により保有されている森林
であることがわかる.
3) 私有林の保有山林面積規模別の保有者数と保
有面積
平成 24 年における私有林のうち会津坂
下町の山林を保有する保有者 ( 会津坂下町
と法人を含む ) の面積規模別の保有者数お
よび保有面積を表 3.1 に示す ( 資料-5 ).こ
の表からは保有者のうちの約 10% の 135 [ 戸 ] が約 60% の面積に当たる 1077 [ ha ]
の山林を保有しており,また,山林を保有している保有者の数は 1280 [ 戸 ] であること
がわかる.これらは税務上のデータであり,前節までの森林面積などとは必ずしも整合し
ないが,傾向は示しているものと思われる.
表 3.1 会津坂下町の私有林の保有者数と保有面積
保有者数
保有面積
所有面積の範囲 保有者数 積算数 積算比率
[ ha ]
[ 戸 ]
[ 戸 ]
面積
積算面積 積算比率
[ % ]
[ ha ]
[ ha ]
[ % ]
100 ~ 50
3
3
0. 2
184
184
10. 5
50 ~ 30
2
5
0. 4
72
256
14. 6
30 ~ 20
2
7
0. 5
42
298
17. 0
20 ~ 10
14
21
1. 6
187
485
27. 6
10 ~
5
47
68
5. 3
331
816
46. 5
5 ~
3
67
135
10. 5
261
1077
61. 4
3 ~
0
1145
1280
100. 0
677
1754
100. 0
26
4) 民有林の樹種別の森林面積,材積,成長量
会津坂下町においては,森林面積の 80% 以上を民有林が占めており ( 図 3.2 ),また,
民有林のうちの約 97% を私有林が占めている ( 図 3.2 ).したがって,今後の森林の整
備・活用を考える時には,まずは民有林を対象として考えてよいものと思われる.会津坂
下町の民有林における人工林・天然林および針葉樹・広葉樹別の森林面積,材積を表 3.2 に
示す ( 資料-4 ).ここで,民有林を構成する人工林と天然林の比率や材積を表 3.2 に基づ
いて図 3.4 に示すと,民有林の面積の約 77% が天然林であるが,材積としては人工林が
約 52% を占めることがわかる.
表 3.2 会津坂下町の民有林における人工林・天然林
および針葉樹・広葉樹別の森林面積,材積
面積
[ ha ]
材積
3
[ % ]
[ m
備考
[ % ]
]
針葉樹
500 -
97. 5
-
253256 -
99. 0
-
広葉樹
13 -
2. 5
-
2668 -
1. 0
-
513
100. 0
255924
100. 0
針葉樹
258 -
13. 5
-
61822 -
26. 3
広葉樹
-
人工林
20. 8
52. 1
-
1648 -
86. 5
173633 -
73. 7
天然林
1906
100. 0
77. 3
235455
100. 0
47. 9
そ の他
47
-
1. 9
0
-
0. 0
2466
-
100. 0
491379
-
100. 0
民有林
-
※1 資料- 4 に基づ き再構成
(a)
(b)
図 3.4 会津坂下町の民有林を構成する人工林と天然林の (a) 面積,(b) 材積
27
会津坂下町の民有林における樹種別の森林面積,材積,成長量を福島県と比較して表 3.3
に示す ( 資料-4 ).表 3.3 から,会津坂下町の針葉樹と広葉樹の森林面積と材積の割合を
図 3.5 に示す.図 3.5 から,会津坂下町では民有林面積の約 67% が広葉樹であるが,材
積としては約 64% が針葉樹であることがわかる.
表 3.3 から,特に利用可能な森林資源量の把握に関係する森林面積当たりの材積量や成
長量,材積当たりの成長量などで比較すると県全体の傾向とほぼ同じ状況であることが確
認できる.
表 3.3 針葉樹・広葉樹別の森林面積,材積,成長量
会津坂下町
福島県
備考
比率 [ % ]
面積
針葉樹
[ ha ]
758
30. 7
230246
40. 9
※2
広葉樹
[ ha ]
1660
67. 3
318740
56. 7
※2
そ の他
[ ha ]
47
1. 9
13630
2. 4
※3
合計
[ ha ]
2466
100. 0
562616
100. 0
※4
3
315078
64. 1
99228101
74. 4
※4
3
176301
35. 9
34222238
25. 6
※4
3
491379
100. 0
133450339
100. 0
※4
3
4736
71. 2
1679485
80. 7
※4
3
1919
28. 8
400458
19. 3
※4
3
6655
100. 0
2079943
100. 0
※4
針葉樹
材積
[ m ]
広葉樹
[ m ]
合計
[ m ]
針葉樹
成長量
[ m ]
広葉樹
[ m ]
合計
材積/面積
成長量/面積
成長量/材積
[ m ]
針葉樹
[ m / ha ]
415. 7
-
431. 0
-
広葉樹
[ m3 / ha ]
106. 2
-
107. 4
-
3
合計
[ m / ha ]
199. 3
-
237. 2
-
針葉樹
[ m3 / ha ]
6. 2
-
7. 3
-
広葉樹
[ m3 / ha ]
1. 2
-
1. 3
-
合計
[ m3 / ha ]
2. 7
-
3. 7
-
針葉樹
[ - ]
0. 015
-
0. 017
-
広葉樹
[ - ]
0. 011
-
0. 012
-
[ - ]
0. 014
-
0. 016
-
3
合計
※1
※2
※3
※4
比率 [ % ]
: 福島県森林・林業統計書
: 福島県森林・林業統計書
: 福島県森林・林業統計書
: 福島県森林・林業統計書
(
(
(
(
資料- 4
資料- 4
資料- 4
資料- 4
)
)
)
)
よ り 再構成
の「 6 民有林樹種別森林面積、材積」 よ り 再構成
の「 5 民有林人工林天然林別面積、材積」 よ り 再構成
の「 4 民有林林種別森林面積、材積、成長量」 よ り 再構成
(a)
(b)
図 3.5 会津坂下町の民有林を構成する針葉樹と広葉樹の (a) 面積,(b) 材積
28
福島県における針葉樹と広葉樹の面積がそれぞれ人工林および天然林において齢級別
にどのように分布しているのかを図 3.6 に示した.そして,同じく福島県における森林資
源としての針葉樹と広葉樹の材積それぞれが人工林および天然林において齢級別にどのよ
うに分布しているのかを図 3.7 に示した.一方,表 3.2 を見ると,森林面積当たりの材積
量の割合は福島県と会津坂下町ではほぼ同じと考えられるので,福島県の樹種別の森林面
積当たりの材積量のデータを用いて会津坂下町の材積量を推定すると表 3.4 のようにな
り,7095 [m3] となり,表 3.2 の成長量 6655 [m3] とほぼ等しくなった.このことから,
森林内の針葉樹と広葉樹における材積の分布状態は福島県全体の傾向とほぼ同様と考えら
れることがわかる.したがって,会津坂下町の森林の人工林および天然林の中の針葉樹お
よび広葉樹のそれぞれの状況は福島県の状況と同様と考えてよいものと思われる.
(a)
(b)
図 3.6 福島県における樹種別森林面積の齢級分布の比較 (a) 人工林,(b) 天然林
(a)
(b)
図 3.7 福島県における材積の樹種別齢級分布の比較 (a) 人工林,(b) 天然林
表 3.4 樹種別の森林面積,材積,成長量
29
5) 会津坂下町の素材生産量
会津坂下町の素材生産量は平成 21 年のデータによれば,
総量 2125 m3 ( 針葉樹 292 m3,
3
広葉樹 1833 m ) となっている ( 資料-6 ).会津坂下町の素材生産量を福島県全体と比較
して表 3.5 に示す.この表から,会津坂下町の素材生産量は広葉樹由来のものがほとんど
であり,針葉樹由来がほとんどである福島県とは大きく異なっていることがわかる.
表 3.5 素材生産量 ( 平成 21 年 )
( 単位 : m3 、( % ) )
市町村名
会津坂下町
福島県
広葉樹
針葉樹
(
292
13 . 7 )
5 9 19 2 3
(
(
75.1 )
(
総計
18 3 3
86.3 )
19 6 0 4 2
24.9
)
(
(
2 12 5
10 0 . 0 )
787965
10 0 . 0
)
6) 会津坂下町の森林資源量
本報告書では,森林資源は主としてバイオマス発電のための資源として見ることになるの
で,上記までに検討した会津坂下町の森林資源がバイオマス発電に対してはどのようなポテン
シャルを有しているのかを検討する.この検討に当たっては主に資料-6 および資料-7 に基い
た.
木材は図 3.8 のような部分からなり,伐採すると解体されて丸太部分は用材となり,残り
の部分の切捨丸太,端材,末木枝条は林地残材となる.
図 3.8 木材の部位の利用イメージ ( 資料-6 )
また,丸太部分は図 3.9 に示すように,木材本来の利用が可能で品質が高く評価される A
材,それよりも利用価値がやや劣る B 材,さらに利用価値が劣る C 材および D 材 ( その
他 ) に区別される.
図 3.9 丸太部分の利用イメージ ( 資料-6 )
30
木質バイオマスを燃料とする場合の生産工程を図 3.10 に示す.木材の利用においては,
図 3.10 に示すように,森林に生育している立木から建材や製紙原料などの製品材が取り出さ
れ,その他がバイオマスとして利用可能な部分と考えられる.そして,最終的には製品材自身
も廃棄される段階においてはバイオマスとしての利用が考えられる.福島県では東日本大震災
により倒壊した家屋の廃材が大量に発生したが,これらも現時点ではバイオマスとしての利用
において量的にも大きな影響を与えるが,一時的な要素でもあるので,ここでは考慮には入れ
ないことにする.
図 3.10 木質バイオマスの発生過程と発生箇所のイメージ ( 資料-6 )
木質バイオマスの量の算定の定性的な概念を図 3.11 に示す.まずは森林における立木の
量 ( 蓄積量 ) から樹種や樹齢の分布に基づいて1年間に立木が成長する量を算定し ( 成長
量 ),成長量の90%までを資源利用できる ( モントリオールプロセス : 注-1 ) として,そ
の資源利用量に対して想定する森林資源の未利用率を乗じた量 ( 潜在賦存量で利用可能な森
林資源量から素材生産量を減じた量でもある ) を算定する.この量の燃料利用可能量がバイ
オマス利用可能量の一部となる.次に森林資源量に森林利用率を乗じた量 ( 素材生産量 ) に
素材生産事業における素材生産未利用率を乗じ,これに幹に対する枝葉の割合を乗じた量を加
えて林地残材 ( 主に ABC 材以外の部分の量 ) とし,さらには製材工場から排出される木屑
等の廃材を加えた量が素材生産における木質バイオマスの利用可能量となる.したがって,バ
イオマス利用可能量の総量は,森林資源未利用量のうちのバイオマス利用可能量に,素材生産
におけるバイオマス利用可能量を加えた量となる.
図 3.11 木質バイオマス量の算定の定性的な概念
31
会津坂下町の,主としてバイオマス発電のための資源として森林資源量を推定する場合の
前提として資料-6 および資料-7 では表 3.6 ~ 3.8 に示すような数値が提示されている.表
3.6 では素材生産事業における素材の利用率および未利用率,表 3.7 では素材生産事業によ
って発生する素材の枝葉の割合,表 3.8 では新たに産出できる素材の燃料利用への可能割合
が示されている.
表 3.6 素材生産事業における利用率・未利用率
表 3.7 素材生産事業における幹に対する枝葉の割合
表 3.8 産出木材の燃料利用の可能割合
以上の条件から,会津坂下町の森林資源量を推定する.
まず,表 3.3 より,現状の成長量は,針葉樹で 4736 [ m3 ],広葉樹で 1919 [ m3 ] である.
また,会津坂下町の現状の素材生産量は,表 3.5 より,針葉樹で 292 [ m3 ],広葉樹で 1833
[ m3 ] であり,計 2125 [ m3 ] である.したがって,
新たな素材産出の可能量は,
針葉樹 : 4736 ☓ 0.9 - 292 = 3970 [ m3 ]
広葉樹 : 1919 ☓ 0.9 - 1833 = -105 [ m3 ]
広葉樹の新たな素材産出の可能量は負となったので,以後は 0 とする.
合計 : 3970 + 0 = 3970 [ m3 ]
32
林地残材量は,
針葉樹分 : 292 ☓ 0.185 = 54.02 [ m3 ]
広葉樹分 : 1833 ☓ 0.185 = 339.11 [ m3 ]
合計 : 54.0 + 339.1 = 393.1 [ m3 ]
幹に対する枝葉の割合
針葉樹 : 292 ☓ 0.23 = 67.16 [ m3 ]
広葉樹 : 1833 ☓ 0.32 = 586.56 [ m3 ]
合計 67 + 587 = 654 [ m3 ]
したがって,林地残材総量は,
針葉樹 : 54 + 67 = 121 [ m3 ]
広葉樹 : 339 + 587 = 926 [ m3 ]
合計 121 + 926 = 1047 [ m3 ]
新たな素材産出の可能量に対する燃料利用の可能量は,
針葉樹 : 3970 ☓ 0.32 = 1286 [ m3 ]
広葉樹 : 0 ☓ 1.00 = 0 [ m3 ]
合計 1286 + 0 = 1286 [ m3 ]
以上より,会津坂下町の森林資源利用可能量は,
針葉樹 : 1286 + 121 = 1408 [ m3 ]
広葉樹 : 0 + 926 = 926 [ m3 ]
合計 : 1408 + 926 = 2333 [ m3 ]
であることがわかった.
以上の結果を表 3.9 にまとめた.
表 3.9 森林資源の現状および木質バイオマス利用可能量のまとめ
現状
成長量に依存し
た 生産量
木質バイ オマ ス
利用可能量
3
広葉樹
A
B
計
備考
※1
C
材積
[ m ]
a
315078
176301
491379
成長量
[ m /y ]
3
b
4736
1919
6655
素材の生産量
[ m /y ]
3
c
292
1833
2125
切だ し可能量
[ m /y ]
3
d
4262
1727
5990
※2
新た な 素材産出の可能量
[ m /y ]
3
e
3970
0
3970
※3
素材生産に伴う 林地残材
[ m /y ]
3
f
54
339
393
※4
素材生産に伴う 枝葉
[ m /y ]
3
g
67
587
654
※5
林地残材総量
[ m /y ]
3
h
121
926
1047
※6
新た な 素材産出の可能量
の中で 燃料利用可能量
[ m /y ]
3
i
1286
0
1286
3
j
1408
926
2333
[ m /y ]
※ 1 ※ 2 ※ 3 ※ 4 ※ 5 ※ 6 ※ 7 ※ 8 針葉樹
C = A + B
d = b * 0. 9
e = d - c
表 3. 6 に よ る
表 3. 7 に よ る
h = f + g
j = h + i
広 葉 樹 に つ い て は 、 現 状 の 素 材 生 産 量 が 成 長 量 を 上 回 っ た た め に 、 広 葉 樹 の 新 た な 素 材 産 出 量 ( B,
33
e ) は 0 と し た。
※7
(2)会津坂下町の森林資源の特徴
前節では,会津坂下町の森林の現状および木質バイオマス利用可能量を見てきたが,その
特徴は以下のようにまとめることができる.
1) 民有林が 80% 以上を占めている.
2) 民有林のうち私有林が 97% を占めている.
3) 民有林の面積の 77% を天然林が占めている.
4) 民有林の材積は 52% が人工林である.
6) 民有林の面積の 67% が広葉樹である.
7) 民有林の材積の 64% が針葉樹である.
8) 上記 3) ~ 7) の特徴は福島県全体の平均とは異なる傾向を示している.
9) 人工林や天然林の中の状況として森林面積や材積に占める針葉樹や広葉樹などの樹種
の割合,齢級の分布などは福島県全体の傾向にほぼ沿っている.
10) 素材生産量は広葉樹に偏っている.
11) 現状の広葉樹の素材生産量は広葉樹の成長量をやや上回っており,樹種の分布につい
て現状の傾向を維持するのであれば,広葉樹からの素材生産の増大は望めない.
12) 一方,針葉樹については新たな素材生産の余力が現状の広葉樹を含めた素材生産量の
2 倍程度ある.
13) 山林は保有者の 10% に当たる 135 の保有者が 60% の面積を保有している関係に
ある ( ただし,このデータは会津坂下町および法人を含んでいることと,この資料-5 と
資料-4 のデータには森林面積の捉え方に乖離があることに注意が必要 ).
以上の特徴を踏まえると,今後の森林の利活用においては,以下の点を考慮する必要があ
ることがわかる.
すなわち,1) ~ 2) の特徴から,
a) 今後の森林整備・活用を考える時には,主として民有林を対象とすればよいことがわ
かる.
また,3) ~ 8) の特徴から,
b) 今後の森林整備・活用を考える時には,面積的には天然林の整備の比重が高く,材積
的には針葉樹に依存する割合が比較的高いことがわかる.
そして,9) ~ 12) の特徴を踏まえると,
c) 針葉樹は 10 齢級 ( 林齢 46 ~ 50 年生 ) の面積や材積がピークとなっており,早
急な伐採等の整備が必要である.
d) 広葉樹は齢級の分布は針葉樹よりもばらつきが大きく,また素材産業化が浸透してい
るように思われるが,やはり 10 齢級付近の面積と材積がピークとなっており整備状況
の確認が必要と思われる.
e) 齢級の低い森林面積が小さいことから,持続的な森林資源の利活用を考える上では,
今後の森林の育成も含めた利活用計画が必要となる.
f) 広葉樹の素材生産は成長量との関係から現状以上に増加させることはできないが,針
葉樹については現状の 10 倍程度の増産は可能である.
特徴 13) からは,
g) 比較的少数の保有者が広大な面積を保有しているので,利活用の方針が定まれば町全
体としての取り組みは比較的に容易に推進できる可能性があるものと思われる.
34
3.木質バイオマス資源による発電
ここでは木質バイオマスの発電への適用について考える.木質バイオマスを発電に使用す
る場合の資源量の評価方法は資料-6 と資料-7 に詳述されている.
「3.2.1 森林資源量」
では,
「6) 会津坂下町の森林資源量」として,これらの資料に基づき,モントリオール・プロ
セスに従って森林の成長量の 90% までを資源としての利用可能量とし,この量から現状の素
材生産量を減じた値を木質バイオマス利用可能量として算出し,表 3.9 にその結果を示した.
しかし,図 3.6 や図 3.7 で示したように,現状の森林では齢級 ( 林齢 ) の分布が平坦では
なく,齢級 10 前後 ( 林齢 46 ~ 50 年生 ) に大きなピークが見られる.すなわち,伐採期
を迎えている森林資源が極端に多いことを示している.健全な森林の管理を継続することを前
提とすればモントリオール・プロセスに従うことが持続可能な森林経営につながるが,現状の
ような状況では健全な森林の管理を継続するためには,大まかな考え方ではあるが更新のサイ
クルを決めて,当面の各年ごとに蓄積されている材積の更新サイクル分の一の量の材積を切り
出し,その切り出した分に相当する植林を続けることで健全な森林経営に戻せることになるも
のと考えられる.健全な森林経営への指向を目指すことも考えて,健全な森林経営に到達する
までの過渡期は前記の考え方も選択肢としてはあるものと考えて,以下では次の四つのケース
について,木質バイオマス資源の発電への適用を検討する.
ケース 1
オーソドックスにモントリオール・プロセスに従って,木質バイオマス資源を発電へ適用
する場合
ケース 2
更新サイクルを 50 年として,既存の素材産業に抵触することなく,そして本来の木材産
業を育成しつつ,木質バイオマスとすべき低質な資源を発電へ適用する場合
ケース 3
更新サイクルを 25 年として,既存の素材産業に抵触することなく,そして本来の木材産
業を育成しつつ,木質バイオマスとすべき低質な資源を発電へ適用する場合
ケース 4
更新サイクルを 25 年として,既存の素材産業との抵触は回避するものの本来の木材産業
の育成が資源供給に追いつかず,過渡期としてとりあえず新たな供給資源をすべて発電へ適用
する場合
ケース 4 は現実の取り組みにおいては極端なケースと考えられるが,実際には更新サイク
ルの決定も含めて森林の再生計画の方針に従って森林の整備・再生・活用が図られるものと考
えられるので,こうしたいくつかのケースは方針の選択の際には目安となるものと考える.な
お,それぞれの計算過程を次節以降に示すが,その結果を表にもまとめている.ここで,計算
過程の数字と計算結果の表中の数字は厳密には一致していない場合がある.これは計算過程で
は有効数字に少し配慮した丸めた数字で表記していることがあるためである.計算過程以外の
本文中では原則としては表中の数字を表記することにする.
(1) ケース 1
このケースは,オーソドックスにモントリオール・プロセスに従って,木質バイオマス資
源を発電へ適用する場合である.
木質バイオマスを発電のために使用するとすれば,現状の発電技術においては未利用材を
チップ化して用いることになる.前節 ( 「3.2.1 6) 」) で検討した結果から,現状で新
たに発電の原料として利用可能な量は,表 3.9 の木材バイオマス利用可能量である 2333
[ m3 ] がその対象となるが,ここには現状の素材生産に伴う枝葉の量として 654 [ m3 ] が含
35
まれている.木質バイオマス発電の原料としては枝葉部分の活用は日本の現状では難しいので,
この量を減じた 1679 [ m3 ] が木質バイオマスの発電への適用可能な森林資源ということに
なる ( 針葉樹で 1341 [ m3 ],広葉樹で 339 [ m3 ] であり,大半が針葉樹である ).なお,こ
の量には,これまでに放置されてきた切り捨て間伐材の蓄積量は含めていない.資料-2 では
これを 500 [ m3 ] として考察しているが,データの精査が必要と思われる.そこで,今回の
検討ではこの放置されている切り捨て間伐材は検討の対象には含めなかった.以後は,資料-6
に基づいて検討を進める.
丸太重量はその含水率に大きく左右される.丸太重量と材積の関係を表 3.10 に示す.こ
の表でもわかる通り,伐倒直後の生材の 1 [ m3 ] 当たりの重量 [ t ] ( 比重 [ t/m3 ] ) は樹種
によりかなりばらつきがある.会津坂下町の主な樹種の分布を福島県と比較して表 3.11 に示
す.表 3.11 から会津坂下町では,針葉樹ではほぼスギが主体であることがわかる.したがっ
て,生材における比重は表 3.10 から 0.71 ~ 0.80 [ t/m3 ] である.通常の評価では湿潤基
準で 50% の含水率 ( 水分率 ) を生材の比重と仮定することが多く,資源の大半が針葉樹で
あることから,この考え方に沿って生体比重は 0.64 [ t/m3 ] と仮定する.
表 3.10 丸太重量と材積の関係
含水率 水分率
Dr y
Wet
Ba s e
Ba s e
dr y%
丸太 1 [ m3 ] 当た りの重量 [ t /m3 ]
wet %
0
33
43
54
67
82
100
122
150
186
生材推奨値
スギ
0
25
30
35
40
45
50
55
60
65
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
トドマ ツ
35
43
46
49
53
58
64
71
80
91
80
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
38
46
49
53
57
62
69
76
86
98
80
ヒノ キ
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
1.
0.
エ ゾ マ ツ カ ラ マ ツ アカ マ ツ
41
49
53
57
61
67
74
82
92
05
70
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
1.
0.
41
49
53
57
61
67
74
82
92
05
80
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
1.
1.
0.
47
55
59
64
69
76
83
92
04
19
65
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
0.
1.
1.
1.
49
57
62
66
72
78
86
96
08
23
00
※1 資料-6 による
※2 : 生材 ( 伐倒直後 ) の値
表 3.11 丸太重量と材積の関係
会津坂下町
針葉樹
広葉樹
の区別
樹種
スギ
針葉樹
面積
材積
面積
材積
面積
材積
[ ha ]
[ m3 ]
[ % ]
[ % ]
[ ha ]
[ m3 ]
[ % ]
[ % ]
244021
60. 1
77. 4
130973
75916064
56. 9
76. 5
ヒ ノ キ・サ ワラ ・ヒ バ
1
222
0. 1
0. 1
11981
1970970
5. 2
2. 0
ア カ マ ツ・ク ロマ ツ
18. 6
295
69143
38. 9
21. 9
75063
18497246
32. 6
カラマツ
7
1686
0. 9
0. 5
11056
2575628
4. 8
2. 6
そ の他針葉樹
0
6
0. 0
0. 0
1173
268193
0. 5
0. 3
759
315078
100. 0
100. 0
230246
99228101
100. 0
100. 0
0
0
0. 0
0. 0
3432
401611
1. 1
1. 2
1660
176301
100. 0
100. 0
314881
33722121
98. 9
98. 8
1660
176301
100. 0
100. 0
318313
34123732
100. 0
100. 0
2419
491379
-
-
548559
133351833
-
-
小計
そ の他広葉樹
小計
合計
※1 :
材積
456
クヌギ
広葉樹
福島県
面積
資料- 4 よ り 、再構成
以上の考察・仮定に従えば,得られる木質バイオマス発電用の森林資源は 1679 [ m3 ] で,
比重は 0.64 [ t/m3 ] であるから,資源の重量は,
1679 ☓ 0.64 = 1075 [ t ] ( 針葉樹 : 858 [ t ],広葉樹 : 217 [ t ] )
となる.資料-6 では,木部における水分率 ( 湿潤基準の含水率 ) 50% における低位発熱量
36
は針葉樹で 2010 [ kcal/kg ],広葉樹では 1890 [ kcal/kg ] としている.したがつて,針葉樹
858 [ t ],広葉樹 217 [ t ] の持つ熱量は,1 [ kcal ] = 0.00116 [ kWh ] であることを考える
と,
858000 ☓ 2010 + 217000 ☓ 1890 = 1724580000 + 410130000
= 2134710000 [ kcal ]
= 2476000 [ kWh ]
となる.
以上の前提でバイオマス発電の規模を考えると,発電過程における熱効率を 25% と仮定
すると,得られる発電量は
2476000 ☓ 0.25 = 619000 [ kWh ]
となる.この発電システムにおける稼働率を 90% とすると,年間の稼働時間は 7884 [ h ] と
なり,出力は,
619000 ÷ 7884 = 78.5 [ kW ]
となる.発電の熱効率で仮定した 25% は 5000 kW 規模の出力を持つ発電所の一般的な効率
であり,前記の通り得られた発電出力はこれよりもはるかに小さいことから,この熱効率はか
なり小さくなると考えねばならない.また,仮りに上記の通り年間 619000 [ kWh ] の電力が
供給できるとすると,会津坂下町の世帯当たりの年間の平均電力消費量は約 5400 [ kWh ] で
あるので ( 資料-2 ),約 115 [ 世帯 ] 分の電力に相当する.
以上の結果を表 3.12 (1) にまとめておく.
表 3.12 (1) 会津坂下町木質バイオマス発電に関するまとめ
( ケース 1 : 切出し可能量を成長量に依存させる場合 )
木質バイ オマ ス
利用可能量
広葉樹
A
B
計
備考
※1
C
材積
[ m ]
a
315078
176301
491379
成長量
3
[ m /y ]
b
4736
1919
6655
素材の生産量
3
[ m /y ]
c
292
1833
2125
切だ し可能量
[ m /y ]
3
d
4262
1727
5990
※2
新た な 素材産出の可能量
3
[ m /y ]
e
3970
0
3970
※3
素材生産に伴う 林地残材
3
[ m /y ]
f
54
339
393
※4
素材生産に伴う 枝葉
[ m /y ]
3
g
67
587
654
※5
林地残材総量
3
[ m /y ]
h
121
926
1047
※6
新た な 素材産出の可能量
の中で 燃料利用可能量
3
[ m /y ]
i
1286
0
1286
[ m /y ]
3
j
1408
926
2333
※7
3
k
1340
339
1680
※8
0. 64
0. 64
858
217
現状
成長量に依存し
た 生産量
3
針葉樹
体積
木質バイ オマ ス
発電利用可能量
[ m /y ]
3
比重
[ t /m ]
l
重量
[ t /y ]
m
[ kcal/kg ]
n
2010
2010
[ kcal/y ]
o
1724328637
436224672
2160553309
[ kWh/y ]
p
2000221
506021
2506242
プ ラ ント熱効率
[ % ]
q
25
プ ラ ント稼働率
[ % ]
r
90
プ ラ ント出力
[ kW ]
s
79
単位重量当た りの低位発熱量
-
1075
-
熱量
プ ラ ント仕様
※ 1 C = A + B
※ 2 d = b * 0. 9
※ 3 e = d - c
※ 4 表 3. 6 に よ る
※ 5 表 3. 7 に よ る
※ 6 h = f + g
※ 7 j = h + i
※ 8 k = j - g
※ 9 新 た な 素 材 産 出 の 可 能 量 の 中 で 燃 料 利 用 可 能 量 i に 対 し て は 枝 葉 量 は 算 出 ・ 算 入 は し て い な い 。
※ 1 0 広 葉 樹 に つ い て は 、 現 状 の 素 材 生 産 量 が 成 長 量 を 上 回 っ た た め に 、 新 た な 素 材 産 出 量 ( O, e ) は 0 と し た 。
37
(2)ケース 2
このケースは,更新サイクルを 50 年として,既存の素材産業に抵触することなく,そし
て本来の木材産業を育成しつつ,木質バイオマスとすべき低質な資源を発電へ適用する場合で
ある.
前節 ( 「3.2.1 6) 」) で検討した結果から,現状の材積は 491379 [ m3 ] である.
更新サイクルを 50 年とすると年間の切出し量は,
491379 ÷ 50 = 9828 [ m3 ] ( 針葉樹 : 6302 [ m3 ],広葉樹 : 3526 [ m3 ] )
ここから現状の素材生産量を減じると,
9828 - 2125 = 7703 [ m3 ] ( 針葉樹 : 6010 [ m3 ],広葉樹 : 1693 [ m3 ] )
この新たな切出し量から産出木材の燃料利用可能量を求めると表 3.7 により,
針葉樹 : 6010 ☓ 0.324 = 1947 [ m3 ]
広葉樹 : 1693 ☓ 1.000 = 1693 [ m3 ]
合計 : 1947 + 1693 = 3640 [ m3 ]
これらに現状の素材生産から発生する林地残材 ( ケース 1 で算出済み ) を加えれば,
針葉樹 : 1947 + 54 = 2001 [ m3 ]
広葉樹 : 1693 + 339 = 2032 [ m3 ]
合計 : 2001 + 2032 = 4033 [ m3 ]
これらの重量は,比重を 0.64 [ t/m3 ] として,
4033 ☓ 0.64 = 2581 [ t ] ( 針葉樹 : 1281 [ t ],広葉樹 : 1301 [ t ] )
となる.ケース 1 と同様に,木部における水分率 ( 湿潤基準の含水率 ) 50% における低位
発熱量は針葉樹で 2010 [ kcal/kg ],広葉樹では 1890 [ kcal/kg ] とすると,針葉樹 1281 [ t ],
広葉樹 1301 [ t ] の持つ熱量は,1 [ kcal ] = 0.00116 [ kWh ] であることを考えると,
1281000 ☓ 2010 + 1301000 ☓ 1890 = 2574237475 + 2458058400
= 5032295875 [ kcal ]
= 5837463 [ kWh ]
となる.
以上の前提でバイオマス発電の規模を考えると,発電過程における熱効率を 25% と仮定
すると,得られる発電量は
5837463 ☓ 0.25 = 1459366 [ kWh ]
となる.この発電システムにおける稼働率を 90% とすると,年間の稼働時間は 7884 [ h ] と
なり,出力は,
1459366 ÷ 7884 = 185.1 [ kW ]
となる.
この電力は会津坂下町の約 270 [ 世帯 ] 分に相当する.
以上の結果を表 3.12 (2) にまとめておく.
(3)ケース 3
このケースは,更新サイクルを 25 年として,既存の素材産業に抵触することなく,そし
て本来の木材産業を育成しつつ,木質バイオマスとすべき低質な資源を発電へ適用する場合で
ある.
前節 ( 「3.2.1 6) 」) で検討した結果から,現状の材積は 491379 [ m3 ] である.
更新サイクルを 25 年とすると年間の切出し量は,
491379 ÷ 25 = 19655 [ m3 ] ( 針葉樹 : 12603 [ m3 ],広葉樹 : 7052 [ m3 ] )
ここから現状の素材生産量を減じると,
19655 - 2125 = 17530 [ m3 ] ( 針葉樹 : 12311 [ m3 ],広葉樹 : 5219 [ m3 ] )
38
表 3.12 (2) 会津坂下町木質バイオマス発電に関するまとめ
( ケース 2 : 切出し可能量を 50 年で更新を前提にする場合 )
木質バイ オマ ス
利用可能量
広葉樹
A
B
計
備考
※1
C
材積
[ m ]
a
315078
176301
491379
成長量
[ m /y ]
3
b
4736
1919
6655
素材の生産量
[ m /y ]
3
c
292
1833
2125
更新年数
[ y ]
50
50
切だ し可能量
3
[ m /y ]
d
6302
3526
9828
※2
新た な 素材産出の可能量
3
[ m /y ]
e
6010
1693
7703
※3
素材生産に伴う 林地残材
3
[ m /y ]
f
54
339
393
※4
素材生産に伴う 枝葉
[ m /y ]
3
g
67
587
654
※5
林地残材総量
[ m /y ]
3
h
121
926
1047
※6
新た な 素材産出の可能量
の中で 燃料利用可能量
3
[ m /y ]
i
1947
1693
3640
3
[ m /y ]
j
2068
2619
4687
※7
3
k
2001
2032
4033
※8
0. 64
0. 64
現状
25年で 更新す
る 場合の生産量
3
針葉樹
体積
木質バイ オマ ス
発電利用可能量
[ m /y ]
3
-
比重
[ t /m ]
l
重量
[ t /y ]
m
1281
1301
[ kcal/kg ]
n
2010
1890
[ kcal/y ]
o
2574237475
2458058400
5032295875
[ kWh/y ]
p
2986115
2851348
5837463
プ ラ ント熱効率
[ % ]
q
25
プ ラ ント稼働率
[ % ]
r
90
プ ラ ント出力
[ kW ]
s
185
単位重量当た りの低位発熱量
-
2581
-
熱量
プ ラ ント仕様
※ 1 ※ 2 ※ 3 ※ 4 ※ 5 ※ 6 ※ 7 ※ 8 ※ 9 C = A + B
d = b * 0. 9
e = d - c
表 3. 6 に よ る
表 3. 7 に よ る
h = f + g
j = h + i
k = j - g
新た な 素材産出の可能量の中で 燃料利用可能量 i
に 対し て は枝葉量は算出・ 算入はし て い な い 。
この新たな切出し量から産出木材の燃料利用可能量を求めると表 3.7 により,
針葉樹 : 12311 ☓ 0.324 = 3989 [ m3 ]
広葉樹 : 5219 ☓ 1.000 = 5219 [ m3 ]
合計 : 3989 + 5219 = 9208 [ m3 ]
これらに現状の素材生産から発生する林地残材 ( ケース 1 で算出済み ) を加えれば,
針葉樹 : 3989 + 54 = 4043 [ m3 ]
広葉樹 : 5219 + 339 = 5558 [ m3 ]
合計 : 4043 + 5558 = 9601 [ m3 ]
これらの重量は,比重を 0.64 [ t/m3 ] として,
9601 ☓ 0.64 = 6145 [ t ] ( 針葉樹 : 2587 [ t ],広葉樹 : 3557 [ t ] )
となる.ケース 1 と同様に,木部における水分率 ( 湿潤基準の含水率 ) 50% における低位
発熱量は針葉樹で 2010 [ kcal/kg ],広葉樹では 1890 [ kcal/kg ] とすると,針葉樹 2587 [ t ],
広葉樹 3557 [ t ] の持つ熱量は,1 [ kcal ] = 0.00116 [ kWh ] であることを考えると,
2587000 ☓ 2010 + 3557000 ☓ 1890 = 5200687353 + 6723132192
= 11923819545 [ kcal ]
= 13831631 [ kWh ]
39
となる.
以上の前提でバイオマス発電の規模を考えると,発電過程における熱効率を 25% と仮定
すると,得られる発電量は
13831631 ☓ 0.25 = 3457908 [ kWh ]
となる.この発電システムにおける稼働率を 90% とすると,年間の稼働時間は 7884 [ h ] と
なり,出力は,
3457908 ÷ 7884 = 438.6 [ kW ]
となる.
この電力は会津坂下町の約 640 [ 世帯 ] 分に相当する.
以上の結果を表 3.12 (3) にまとめておく.
表 3.12 (3) 会津坂下町木質バイオマス発電に関するまとめ
( ケース 3 : 切出し可能量を 25 年で更新を前提にする場合 )
木質バイ オマ ス
利用可能量
広葉樹
A
B
計
備考
※1
C
材積
[ m ]
a
315078
176301
491379
成長量
[ m /y ]
3
b
4736
1919
6655
素材の生産量
[ m /y ]
3
c
292
1833
2125
更新年数
[ y ]
25
25
切だ し可能量
3
[ m /y ]
d
12603
7052
19655
※2
新た な 素材産出の可能量
3
[ m /y ]
e
12311
5219
17530
※3
素材生産に伴う 林地残材
[ m /y ]
3
f
54
339
393
※4
素材生産に伴う 枝葉
[ m /y ]
3
g
67
587
654
※5
林地残材総量
3
[ m /y ]
h
121
926
1047
※6
新た な 素材産出の可能量
の中で 燃料利用可能量
3
[ m /y ]
i
3989
5219
9208
3
[ m /y ]
j
4110
6145
10255
※7
3
k
4043
5558
9601
※8
現状
25年で 更新す
る 場合の生産量
3
針葉樹
-
体積
[ m /y ]
比重
[ t /m ]
l
0. 64
0. 64
重量
[ t /y ]
m
2587
3557
[ kcal/kg ]
n
2010
1890
[ kcal/y ]
o
5200687353
6723132192
11923819545
[ kWh/y ]
p
6032797
7798833
13831631
プ ラ ント熱効率
[ % ]
q
25
プ ラ ント稼働率
[ % ]
r
90
プ ラ ント出力
[ kW ]
s
439
木質バイ オマ ス
発電利用可能量
単位重量当た りの低位発熱量
3
-
6145
-
熱量
プ ラ ント仕様
※ 1 ※ 2 ※ 3 ※ 4 ※ 5 ※ 6 ※ 7 ※ 8 ※ 9 C = A + B
d = b * 0. 9
e = d - c
表 3. 6 に よ る
表 3. 7 に よ る
h = f + g
j = h + i
k = j - g
新た な 素材産出の可能量の中で 燃料利用可能量 i
に 対し て は枝葉量は算出・ 算入はし て い な い 。
40
(4)ケース 4
このケースは,更新サイクルを 25 年として,既存の素材産業との抵触は回避するものの
本来の木材産業の育成が資源供給に追いつかず,過渡期としてとりあえず新たな供給資源をす
べて発電へ適用する場合である.
前節 ( 「3.2.1 6) 」) で検討した結果から,現状の材積は 491379 [ m3 ] である.
更新サイクルを 25 年とすると年間の切出し量は,
491379 ÷ 25 = 19655 [ m3 ] ( 針葉樹 : 12603 [ m3 ],広葉樹 : 7052 [ m3 ] )
ここから現状の素材生産量を減じると,
19655 - 2125 = 17530 [ m3 ] ( 針葉樹 : 12311 [ m3 ],広葉樹 : 5219 [ m3 ] )
これら新たな切出し量を産出木材の燃料利用可能量とする.
これらに現状の素材生産から発生する林地残材 ( ケース 1 で算出済み ) を加えれば,
針葉樹 : 12311 + 54 = 12365 [ m3 ]
広葉樹 : 5219 + 339 = 5558 [ m3 ]
合計 : 12365 + 5558 = 17923 [ m3 ]
これらの重量は,比重を 0.64 [ t/m3 ] として,
17923 ☓ 0.64 = 11471 [ t ] ( 針葉樹 : 7914 [ t ],広葉樹 : 3557 [ t ] )
となる.ケース 1 と同様に,木部における水分率 ( 湿潤基準の含水率 ) 50% における低位
発熱量は針葉樹で 2010 [ kcal/kg ],広葉樹では 1890 [ kcal/kg ] とすると,針葉樹 7914 [ t ],
広葉樹 3557 [ t ] の持つ熱量は,1 [ kcal ] = 0.00116 [ kWh ] であることを考えると,
7914000 ☓ 2010 + 3557000 ☓ 1890 = 15906516096 + 6723132192
= 22629648288 [ kcal ]
= 26250392 [ kWh ]
となる.
以上の前提でバイオマス発電の規模を考えると,発電過程における熱効率を 25% と仮定
すると,得られる発電量は
26250392 ☓ 0.25 = 6562598 [ kWh ]
となる.この発電システムにおける稼働率を 90% とすると,年間の稼働時間は 7884 [ h ] と
なり,出力は,
6562598 ÷ 7884 = 832.4 [ kW ]
となる.
この電力は会津坂下町の約 1200 [ 世帯 ] 分に相当する.
以上の結果を表 3.12 (4) にまとめておく.
41
表 3.12 (4) 会津坂下町木質バイオマス発電に関するまとめ
( ケース 4 : 切出し可能量を 25 年で更新し,新たな切出し分は全量燃料化する場合 )
木質バイ オマ ス
利用可能量
広葉樹
A
B
計
備考
※1
C
材積
[ m ]
a
315078
176301
491379
成長量
3
[ m /y ]
b
4736
1919
6655
素材の生産量
3
[ m /y ]
c
292
1833
2125
現状
25年で 更新す
る 場合の生産量
3
針葉樹
更新年数
[ y ]
25
25
切だ し可能量
[ m /y ]
3
d
12603
7052
19655
※2
新た な 素材産出の可能量
[ m /y ]
3
e
12311
5219
17530
※3
素材生産に伴う 林地残材
3
[ m /y ]
f
54
339
393
※4
素材生産に伴う 枝葉
3
[ m /y ]
g
67
587
654
※5
林地残材総量
3
[ m /y ]
h
121
926
1047
※6
新た な 素材産出の可能量
の中で 燃料利用可能量
3
[ m /y ]
i
12311
5219
17530
[ m /y ]
3
j
12432
6145
18577
※7
3
k
12365
5558
17923
※8
体積
木質バイ オマ ス
発電利用可能量
[ m /y ]
3
比重
[ t /m ]
l
0. 64
0. 64
重量
[ t /y ]
m
7914
3557
単位重量当た りの低位発熱量
-
-
11471
[ kcal/kg ]
n
2010
1890
[ kcal/y ]
o
15906516096
6723132192
22629648288
-
[ kWh/y ]
p
18451559
7798833
26250392
プ ラ ント熱効率
[ % ]
q
25
プ ラ ント稼働率
[ % ]
r
90
プ ラ ント出力
[ kW ]
s
832
熱量
プ ラ ント仕様
※ 1 ※ 2 ※ 3 ※ 4 ※ 5 ※ 6 ※ 7 ※ 8 ※ 9 C = A + B
d = b * 0. 9
e = d - c
表 3. 6 に よ る
表 3. 7 に よ る
h = f + g
j = h + i
k = j - g
新た な 素材産出の可能量の中で 燃料利用可能量 i
に 対し て は枝葉量は算出・ 算入はし て い な い 。
42
(5)まとめ
以上の 4 ケースの結果を表 3.13 にまとめる.この結果を見る限り,会津坂下町の森林資
源活用による木質バイオマス発電の規模は 80 ~ 800 [ kW ] 程度であり,それほど大きくは
ないことがわかった.しかし,本来の木材としての資源と見れば,まだまだ活用の余地が大き
いことも確認できた.
表 3.13 会津坂下町木質バイオマス発電に関するまとめ ( 総括 )
現状
3
ケース 1
ケース 2
ケース 3
ケース 4
A
B
C
D
材積
[ m ]
a
491379
成長量
[ m /y ]
3
b
6655
素材の生産量
3
c
[ m /y ]
2125
成 長 量 の 90%
ケ ース
( 利用可能な 資源量の考え方 )
木材産出量
木質バイ オマ ス
利用可能量
[ y ]
e
切だ し可能量
[ m /y ]
3
f
新た な 素材産出の可能量
3
[ m /y ]
素材生産に伴う 林地残材
新た な 素材産出の可能量
の中で 燃料利用可能量
体積
重量
木質バイ オマ ス
発電利用可能量
新た な 木材産業需要開拓量
熱量利用可能量
発電プ ラ ント仕様
d
更新年数
備考
25年 で の 更 新
を 前提と し 、
素材産業を 育
成し つ つ エ ネ
ルギ ー 利用
25年 で の 更 新
を 前提と し 、
新た な 産出木
材を す べて エ
ネ ルギ ー 利用
50
25
25
5990
9828
19655
19655
g
3970
7703
17530
17530
[ m /y ]
3
h
393
393
393
393
3
[ m /y ]
i
1286
3640
9208
17530
[ m /y ]
3
j
1680
4033
9601
17923
[ t /y ]
k
1075
2581
6145
11471
[ m /y ]
3
l
2684
4062
8322
0
[ kcal/y ]
m
2134510045
5032295875
11923819545
22629648288
[ MJ/y ]
n
8931004
21055631
49890458
94684721
[ kWh/y ]
o
2476032
5837463
13831631
26250392
[ kW ]
p
79
185
439
832
電気出力
-
50年 で の 更 新
を 前提と し 、
素材産業を 育
成し つ つ エ ネ
ルギ ー 利用
※ 1 新 た な 素 材 産 出 の 可 能 量 の 中 で 枝 葉 量 は 算 出 ・ 算 入 は し て い な い 。
※ 2 l = g - i
※ 3 プ ラ ン ト の 効 率 を 25%、 稼 働 率 を 90% と し た 。
43
※1
※2
※3
4.会津坂下町の森林資源の利活用について
(1) 森林資源の活用方法
樹木の成長量は,林種,樹種によって異なり,林齢に応じて変化する.例えば国有林では,
スギ,ヒノキ,広葉樹については図 3.12 に示すような齢級に対する成長量の関係が用いられ
ている ( 資料-10,資料-11 ).
図 3.12 成長量の樹種別齢級分布
成熟した森林の一般的な活用方法の一例としては,以下のような考え方がある.
樹木が図 3.12 に示すような成長を遂げるためには,最初は高い密度 ( 単位面積当たりの
本数 ) で植林を行うが,徐々に間伐を進める必要がある.また,この間伐による効率的な成
長の促進により,更新期を迎えて最終的な伐採をするまでに得られる全材積の収量の最大化を
図ることが可能となる.そして,更新期を迎えてすべてを伐採したところに新たな植林をして
次のサイクルに入って行く.このプロセスが持続可能で健全な森林の利活用方法のひとつであ
る.この一サイクルの期間の中では,間伐材,枝,下草などが発生するが,これらは活用され
れば森林資源であり,活用されなければ廃棄物となる.そして,間伐材も含めて最終的に伐採
した樹木の中で枝などを取り払い,幹の部分が丸太原木として本来の木材として活用されるこ
とになる.伐倒した樹木を丸太原木にする際に発生する切り捨て丸太,端材,枝なども活用さ
れれば森林資源であり,活用されなければ廃棄物となる.丸太原木を製材する時には,樹皮は
剥されて製材されて木材として利活用される.したがって製材の際にも樹皮,背板,おが屑な
どが発生し,やはり活用されれば有用な森林資源であり,活用されなければ処理費用が発生す
る産業廃棄物となる.この過程の概念はすでに図 3.10 に示しているところであるが,森林資
源の利活用を考える時にはこの過程が前提であり,木材本来の利活用がなされた上で,廃棄物
となる可能性のある部分を木質バイオマス資源として付加価値を付与して活用し,廃棄物にす
る部分を極力低減することが森林資源の利活用の基本である.そして,発生する木質バイオマ
ス資源は熱利用する場合には熱効率としては 80% 以上も期待できる.しかし,発電のための
エネルギー資源として活用しようとすると,現状の木質バイオマス・ボイラーの性能の限界か
ら最善でも 25% 程度の熱効率しか期待できない.また,発電による売電を考える際にはプラ
ントの稼働率が経費に大きく影響するので,量とタイミングが常に安定している木質バイオマ
44
スの供給を考慮する必要がある.したがって,以上を考慮して木質バイオマス資源から期待さ
れるエネルギーの形態によって熱利用を優先しつつ発電を組み合わせていくという考え方で
臨むべきである.例えば,製材工場では木材の乾燥操作がどうしても必要となるが,この熱源
に発生する木質バイオマス資源を利用し,さらに余裕があれば発電を考えるというようなシス
テムを考えることになる.以上で述べてきた基本は,定性的には更新時期までの間伐の方法
( タイミングや比率など ) などには依存しない ( 定量的にはいろいろな組み合わせによる最
適化を考える必要はある ).このようなサイクルの状況を定常的に進行させることが持続可能
な林業の目標である
(2)森林資源の現状
前節で述べた持続可能な林業の目標に対して,日本における森林の一般的な現状は大きく
乖離している.すなわち,このような持続可能な林業が順調に進行している状況では,各齢級
の樹木の占有面積がほぼ等しい状況になっているはずあるが,福島県においても図 3.6 で見た
通りかなりの偏りがあり,齢級が 10 前後に大きなピークが存在している状況である.これは
第二次世界大戦前から戦中にかけての急速な木材の切り出しで不足が見込まれた木材の確保
のための戦後の急激な植林によるものである.急激な植林の増加に対して,その後に価格の低
い外国産の木材の導入などにより国産木材の利用の落ち込みから森林の手入れがほとんど行
われなくなり,放置されることによる森林の荒廃を招く結果となったものである.したがって,
一般的に多くの森林の現状は,間伐材の放置,下草刈りや枝打ちなどの放棄により森林の中に
入ることも困難な状況のところも多く,そのような森林環境では当然のことながら原木を引き
出すこともできないような荒廃林となってしまっている.
(3)会津坂下町の森林資源の利活用状
ここまで,会津坂下町の木質バイオマスを発電に利用することを前提に,会津坂下町の森
林資源の量や特徴,それらの分析結果から発生が期待できるバイオマスを発電に活用すること
を考えたときに可能となる発電量の見通しなどについて検討してきた.そして,一般的な森林
資源の利活用方法を例示し,さらに一般的な森林の現状がいかに持続可能で定常的な森林の活
用状態から乖離しているのかを示した.以上の検討を踏まえて,会津坂下町が木質バイオマス
発電を考える際の留意点と,その実現に向けて考えるべきことに触れておく.
1) 木質バイオマス発電に向けて
会津坂下町の面積の 1/3 が森林であり,今後はコンパクトシティを目指すのであれば,
当然のことながらこの森林を管理し十分に活用することが求められる.そして,まずは,
「3.
4.1 森林資源の活用方法」で見たように,木質バイオマスの利用の前提は木材産業の成
立が前提となるべきであることを認識する必要がある ( 資源としての価値が高く,この価
値を有効に活用することが森林資源利用の経済性を大きく左右する ).すなわち,森林資
源はまずは木材としての利用を考えるべきである.そして,この過程でどうしても発生し
て来る木材本来の使い方ができない部分を資源として使う工夫をしていくべきである.ま
た,現在機能し始めた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度 ( FIT : Feed-in Trif )
があるが,買い取り価格が一番高く設定されている ( 32 [ 円/kWh ] ) のは未利用資源と定
義される林地残材による発電であり,製材工場から発生する背板,端材,おが屑などは低
い買い取り価格となっており ( 24 [ 円/kWh ] ),FIT の活用の観点からはこうした条件と,
発電における熱効率は施設の規模が小さくなるとその熱効率は低下することを考慮する必
要がある.木質バイオマス・ボイラーは規模の大きいものほど熱効率が高くなり,日本の
現在の FIT ではボイラーの規模に対する制約は何もないので,大型化の傾向が強い.その
結果,日本では少なくとも 5000 [ kW ] 以上の発電能力のものになっており,それ以下の
発電規模のものは皆無である.ただし,ドイツなどでは FIT の制度上の仕組みからボイラ
ー規模が大きくなると買い取り価格が下がるので,むしろ 500 [ kW ] 程度のものが急増し
45
ているという状況もある.また,国産のバイオマス・ボイラーは含水率の高い燃料に対す
る対応が十分できず,現状では国産の装置では小規模な木質バイオマス発電を可能とする
装置がないことも考慮する必要がある.
森林資源の発電への活用については3.3節で検討したように現状の資源の活用ではそ
れほど大きな発電量は見込めない.しかし,会津坂下町が今後コンパクトシティを目指す
のであれば,町の面積の 1/3 を占める森林の整備・活用は必須である.一方,会津坂下町
における森林資源に対する需要に関する検討はここでは行っていないが,これまでの各種
の調査結果によれば ( 資料-2,資料-3 など ),それほど大きくはないことが想定される.
しかし,3.2節で見てきたように,素材生産のポテンシャルは,現状の成長量に見合う
供給量としても現状の素材生産量 2125 [ m3 ] に対して針葉樹のみであるが 3970 [ m3 ]
の余力が見込まれる ( 表 3.9 ).
また,森林資源の持続的な確保と利用を考える場合には,現状の蓄積材積と森林の特性
を考慮した更新サイクルの想定からの利用計画も選択肢としてはあるように思われる.前
節ではそうしたことを考慮して発電への利用として四つのケースを想定して可能な発電量
を試算した.また,今回は検討対象にはできなかったが,森林の中には放置されている切
り捨て間伐材もかなりの量に上っていることが考えられる.また,会津坂下町の森林の特
徴ともいえる森林を構成する人工林と天然林の割合や針葉樹と広葉樹の割合,そしてそれ
らの齢級分布を踏まえた森林の整備・活用の計画が求められる.以上を踏まえて,今後の
森林の整備・活用を考える上での留意点を以下に示す.
a) 森林の整備・活用を考えて行く上では,まずは極力正確なデータの収集による現状の
十分な把握・確認と統計的な考察が必要となる.既存の森林統計 ( 資料-4 ) と税務面か
らのデータ ( 資料-5 ) ではまだかなりの乖離がみられ,これらの情報の精査が必要と思
われる.
b) 次に森林資源の活用に際しては,森林の状況の現状 ( 下草状況や間伐の状況,切り捨
て間伐材の蓄積量など ) を把握した上で,今後の森林活用計画を踏まえた上での森林資
源の取り出しのための道路網などの整備に関する確認が必要と思われる.
c) 上記の活動とともに,まずは森林整備への取り組みが必要になるものと思われる.こ
の取組みにおいては,各地元の実情を踏まえながら,地元町民の協力を得つつ ( 森林組
合や NPO 活動団体など ),また,補助金の活用などを念頭に地道な活動が要請される
ものと思われる.( 資料-9 で紹介された千葉県における千葉大と地元団体との協力活動
などは参考になるものと思われる.これについては次節 3.4.3 3) にて紹介する.)
d) 森林資源を発電に活用することに関しては,国の政策としての FIT ( Feed-in Tariff :
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度 ) の活用は考えたいところではあるが,上
記の a) ~ c) の状況,3.3節,3.4.3 1) 節で検討した結果から,当面は町と
して自前の設備を持つことは得策ではない.しかし,福島県としては資料-6 に示されて
いるような木質バイオマス発電計画がある ( 図 3.13 ).そして,既に隣接する会津若松
市に未利用材バイオマス発電では代表的なグリーン発電会津 ( 出力 5700 kW ) が稼
働しており,また,ここへの主な燃料供給源となっているチップ化工場を有する(株)ノ
ーリンが喜多方市との境界に存在する.今後の森林資源の発電への活用においては,こ
うした県の社会的な環境を考慮しながら実際の町の産業の環境を活用しつつ,森林の整
備に伴う林業の再生のひとつと位置付けて具体化を図ることが有効のように思われる.
(株)ノーリンでの聞き取り調査でも,今後の発展への展望を描いており,協力関係を強
化することで森林・林業の整備には欠かせない要素となるものと思われる.
e) 森林資源のエネルギー利用としては,発電に比べて熱利用の方が熱効率としては高い
ことがわかっている.したがって,発電を考える場合には熱利用も可能な熱電併給を常
に考えておくことが必要であり,熱需要の掘り起こしも必要である.このための木材需
要の開拓が必要な量は表 3.13 にまとめたように現状の素材生産量に対して同等ないし
46
は最大 4 倍程度の新たな開拓が必要となる.
f) 木質バイオマス発電を考える際には,その燃料源は木材産業および熱利用との連携が
経済性に大きな影響を持つ.前記の通り,現状でも針葉樹については素材生産の余力が
確認できるので,既存の素材生産を支援しつつ林業・林業に関わる製造業の整備を考え
ることが必要と思われる.町内には(株)北越フォレスト坂下工場があり,北越紀州製紙
(株)新潟工場への製紙原料チップの供給を主な目的とした企業が存在する.ここでの聞
き取り調査では,今後の製紙業の飛躍的な拡大は期待できないものの,原料需要の要求
に応えるにはまだまだ工夫の余地があるように思われるので,ここは,d) で述べた(株)
ノーリンと共に素材産業の育成には欠かせない要素であり,有効な活用が必要と思われ
る.
g) 日本の産業構造は,東日本大震災の影響もさることながら,人口構成の変化や世界的
な資源問題の影響を受けつつ原子力発電の拡大は当面は考えられない状況の中で,日
本国内の資源問題も次第に明確となるに伴って,時間はかかるとしても本質的には農
業・林業への回帰の方向が拡大することは避けられないものと考えられる ( 資料-10 ).
したがって,再生可能エネルギーの活用としての森林資源だけではなく,林業の再生・
活性化には地道な努力が求められるものと思われる.会津坂下町は森林とほぼ同じ面
積が耕地であり,農業の維持・再生・活性化と共に林業を考えて行く必要があるもの
と思われる.
h) こうした状況の中で,特に人材の確保・育成も含めた森林の整備・活用,林業の再生・
育成・活性化を目指す展望を描く必要があるものと思われる.
図 3.13 「福島県 再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン」( 資料-11 ) 達
成に向けたバイオマス発電施設の配備計画 ( 資料-6 )
47
2) 森林整備・活用に向けて
以上の状況を考え合わせると,会津坂下町として考えて行くべき方向は,次のようにま
とめられるのではないかと考える.
a) 森林資源が十分にあるので,十分な森林資源の活用を図る場合に出てくる木材量が捌
けるだけの容量の出口,すなわち,木材市場を開拓・確保することが必要となる.こ
こには製紙原料としての木材チップも含まれてよい.
b) 上記 a) のためには,これを製材するための工場が必要である.行く行くは自前の工
場を町内に持てればよいが,物流・商流もないところでの創業は無理なので,近隣の
工場の探索が必要である.この製材を外部に委託した状況からある程度の物流が確保
できる見込みが立つ段階で自前の製材工場を考えることになるものと思われる.
c) 木材本来の利用の物流・商流を確立させると同時に,この物流過程から発生する木質
バイオマスの利活用を考える必要がある.この活用ができないと木質バイオマスは利
益を生む資源から費用がかかる廃棄物になってしまう.木材本来の利活用で得られる
利益に加えて,木質バイオマスの利活用による森林資源の付加価値の増大を図るべき
である.この木質バイオマス利用においても,現状ではその物流の規模の見通しが立
つまでは外部委託を考えざるをえない.
d) 以上の a) ~ c) の状況を作るためには,まずは森林資源を森林から出せなくてはな
らない.そのためには,林業組合や林業に魅力を感じてくれる NPO などの協力が不
可欠である.こうした組織を見出して協力関係を作れれば,まずは森林整備への糸口
がつかめることとなる.この活動については,千葉大学が地元の山武市や長生地域で
の活動がヒントになるものと思われる.この活動については次節にて紹介する.
e) 最終的なシステムの完成の形としては,会津坂下町の山林から豊富な森林資源が出さ
れ,第一義的には木材本来の材料としての市場への提供がなされ,残る林地残材や工
場からの残材が木質バイオマスとして熱利用と発電利用がなされるという状況が目標
となる.
f) こうしたシステムの完成を見ることにより,会津坂下町としては,住み心地の良いコ
ンパクトシティを完成させると同時に周辺環境としての森林整備が進み,この地域が
町の中心部に限らないリゾートゾーンとしての活用も含む森林資源の活用によるまち
づくりへの貢献も図られるものと思われる ( 次節で紹介する千葉大の取り組みは,森
林整備により森林をリゾートゾーンとしての活用も視野に入れており,一部はすでに
地元住民の手により運用が始まっている ).
g) また,東日本大震災をひとつの契機として,エネルギー・食料・水の自律的な確保に
も大きく貢献するものと思われる.
現状の日本の FIT は開始されて間もないこともあり,いろいろな問題点も表面化し始
めているところでもあり,ドイツなどの成功例を参考に少しずつ改善される可能性もある.
例えば,買い取り価格の体系の見直しにより,ボイラー出力に制約がかかってくると,小
規模で性能の良いバイオマス・ボイラーの出現もヨーロッパではすでに実現し始めている
ことを考えれば,日本の技術力を以ってすればインセンティブさえあれば不可能ではない
ように思われる.また,上記 f) で述べたように,日本全体のひとつの傾向として,身近な
自然の見直しによるローカルな自立とスロー・ライフへの傾斜が加速してくることも考え
られるので,そのための要素として木質バイオマスの活用の見直しとローカルな積極的な
活用による地域の自立と都市からの人口の回帰への方向も視野に入れておくべきではない
かと考える.
48
3) 千葉県における都市近郊小規模森林の再生と地域活性化の取り組み
これまでに述べて来たように,現状の日本の森林はかなりの荒廃が進んでおり,しかも
比較的都市に近い里山の荒廃を正常な森林環境に戻す取り組みは皆無といってよい.千葉
大学では,林野庁事業として「都市近郊小規模森林の再生と地域活性化のための丸太燃料
流通システムの構築(新たな利用システムの実証)
」という枠組みの中で「都市近郊小規模
森林の再生と地域活性化のための丸太燃料流通システムの構築」と題する検討を行ってい
る.会津坂下町の山の規模や町の中心市街地との位置関係などを考えると,この取り組み
は今後の会津坂下町の取り組みの参考となるものと考えられるので,以下に紹介する.
都市近郊の小規模森林は木材価格の低迷により放置され,そのほとんどが荒廃林となっ
ており,小規模森林は大規模な機械などが利用できず経済的な競争が困難である一方で,
里山としてその地域における多面的な機能を持っておりその環境の保全が求められている.
ここから搬出される森林資源は,木材の利用として付加価値の高い建材利用から再生可能
エネルギーとしての木質バイオマス燃料としての利用などが考えられている.しかし,小
規模林地は荒廃林が多く現状としては,最も付加価値の低い木材を利用するエネルギー利
用がほとんどとなっている.
この検討では,最も付加価値の低い木材の利用システムを構築することで荒廃林を健全
林に近づけることができると考え,加工・運搬などに手間のかからない丸太燃料に着目し,
山から搬出される丸太燃料を熱利用に用いる流通システムを構築することが目的である.
この取り組みの概念を図 3.14 (a) に示す.
図 3.14 (a) 都市近郊小規模森林における木材流通システム
49
図 3.13 (b) 事業の内容
この取り組みでは,図 3.14 (b) に示すように,山林整備(伐採・搬出)の工程,加工・
乾燥・保管・配送の工程,丸太燃料利用の工程に分けて考え,全体を通して最小ステップ
かつ効率的な最小コストでの流通を目指している.また,都市近郊小規模森林は地域に根
ざした場所がほとんどであるため,森林のある地域住民による流通システムの構築を行い,
その地域の森林の健全化,雇用の創出,バイオマス熱利用による地域活性化の達成を目指
す.
本年度は,丸太を燃料とする暖房機を温室,個人宅などをモニター施設として設置を行
った.丸太暖房機は,温風を供給する温風タイプと温水を供給する温水タイプのある暖房
機であり,韓国で実績のある暖房機を選定し設置している.
図 3.13 (c) モニター設置例 ( 花卉農家 )
図 3.14 (c) は,実際に設置したモニター施設の一例である.シクラメンの栽培を行って
いる 200 坪の温室のもともと設置されていた重油暖房機の隣に温風タイプの丸太暖房機の
送風口を設置した.この温室の中心と温室の外,重油暖房機と丸太暖房機の送風口にこの
ような温度モニターを設置し,モニター施設における稼働状況を調査している.
本事業は 3 ヵ年に亘る計画となっており,次年度以降には,伐採・搬出,丸太乾燥・加
工,配達などをチーム数,伐採地,モニター施設を増やしながら効率的な丸太燃料供給方
法を確立し,丸太暖房機性能や暖房機の利用方法の改善により丸太燃料利用方法の効率化
を行い,最終的に 3 年間で各地域に適した丸太燃料流通システムの構築を目指している.
50
5.まとめ
本章では,以下を実施した.
・ 会津坂下町における今後の町の整備に伴う森林の占める位置づけを確認し,森林の状
況を既存のデータに基づき整理した.
・ 森林状況のデータに基づき,森林資源としての木質バイオマスを発電へ活用すること
を考えたときに可能な発電電力量などの試算を行った.
・ 以上の結果を踏まえて,会津坂下町の森林資源の特徴を整理し,町や周辺の産業の実
態も考慮して,今後の森林資源の整備・活用の考え方を整理した.
その結果,以下を確認した.
・ 森林の現状を正確に把握する必要があり,そのためには精度の高いデータが必要であ
る.
・ 森林の整備・活用のためには環境整備 ( 路網整備など ) が必要である.
・ 現状の森林資源からの木質バイオマス発電をいくつかのケースについて試算したが,
燃料の潜在的な供給力から推算すると,設備的には 80 ~ 800 [ kW ] 程度の出力を有
する施設が考えられる.
・ 発電に関しては,既存の施設や事業環境を活用しつつ,燃料供給体制の整備に取り組
むことが必要である.
・ こうした木質バイオマス資源の有効活用を目指す構想を実現して行くに当たっての取
り組みの考え方の例を提示した.
・今後の森林整備を考える際には,会津坂下町の周辺の自治体との協力関係も含めて,広
域的な取り組みの方向もあるのではないかと考える.
以上のように,今後の森林資源の整備・活用の取り組みは農業も含めた町の周辺機能の整
備と位置付けたビジョンの下に推進することが望まれる.
51
資料
1) 「会津坂下町国土利用計画」会津坂下町 ( 平成25年3月 )
計画書 :
http://www.town.aizubange.fukushima.jp/Members/jyouhou/contents/shiryou/folder.201
2-10-09.6897656052/keikakusyo.pdf
説明書 :
http://www.town.aizubange.fukushima.jp/Members/jyouhou/contents/shiryou/folder.201
2-10-09.6897656052/setumeisiryou.pdf
現況図 :
http://www.town.aizubange.fukushima.jp/Members/jyouhou/contents/shiryou/folder.201
2-10-09.6897656052/genkyouzu.jpg
構想図 :
http://www.town.aizubange.fukushima.jp/Members/jyouhou/contents/shiryou/folder.201
2-10-09.6897656052/kousouzu.jpg
2) 「会津坂下町地域新エネルギービジョン」会津坂下町 ( 平成 17 年 2 月 )
3) 「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン ( 改訂版 )」福島県 ( 平成 24 年 3 月 )
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/re_zenpen.pdf
4) 「平成 22 年福島県森林・林業統計書(平成 21 年度) 」福島県農林水産部 ( 平成 23 年 3 月 )
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/shinrinkeikaku_toukeisyo22.pdf
または,
http://www.pref.fukushima.jp/forest_c/21toukeisyo/index_21_toukei.html
から「森林資源」
5) 会津坂下町調査資料
6) 「福島県木質バイオマス安定供給の手引」 ( 2013 年 3 月 ) による.)
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/ringyoushinkou_biomas_tebiki.pdf
7) 「福島県木質バイオマス安定供給指針」 ( 2013 年 3 月 ) による.)
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/ringyoushinkou_biomas_shishin.pdf
8) 「モントリオール・プロセスの概要」林野庁 ( 2010 年 6 月 )
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kaigai/pdf/100610-01.pdf
9) 朝日新聞 ( 2014 年 2 月 23 日付 朝刊 ),毎日新聞 ( 2014 年 2 月 23 日付 朝刊 ) など
10) 「美しいちばの森林づくり 森林整備による CO2 吸収量算定基準」 千葉県
http://www.pref.chiba.lg.jp/shinrin/kyuusyuu/documents/kijun.pdf
11) 森林法第7条の2の規定による「国有林の地域別の森林計画」において適用される収穫予想
表の値からの算定値 ( 別表2 )
12) 藻谷浩介著「里山資本主義」角川 ONE テーマ 21 C249 ( 2013 年 7 月 ) や藻谷浩介著「デフ
レの正体」角川 ONE テーマ 21 C188 ( 2010 年 6 月 ) など
13) 「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン」福島県 企画調整部 エネルギー課 ( 平
成 25 年 2 月)
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/act-01.pdf
注
1) モ ン ト リオ ール・ プロ セス : 1 9 9 2 年に開 催さ れた 地球 サミ ット ( 国 連 環 境 会議
( UNCED ) ) 以降,世界の持続可能な森林経営の実現に向けて,森林経営の持続可能性を客
観的に把握し評価するための「ものさし」としての「基準・指標」を作成・適用するための取
組が国際的に進展した.その取り組みのひとつとして得られた基準・指標である( 資料-9 ).
52
第4章 小規模生活圏における電力事業成立の課題
1. 電力事業改革の動向
(1)既存の電力事業と課題点
電力の安定的供給を目的とした,電力事業の地域独占が許容されるための根拠は,市場メカニ
ズムでは適切に供給しえない「公益事業」であると,戦後は一貫して捉えられてきたからである.
植草(2003)によれば,公益事業の主たるものとして,電気,ガスを挙げている.都市ガスに
関しては,より小規模な単位(都市圏,生活圏単位)で地域独占がおこなわれ,また,都市ガス
が供給されえない地域ではプロパンガス業者が供給を補完するという意味で,分散的な地域独占
が形成されてきた.対照的に,電力は,その供給において,ほぼ地方ブロック単位に編成された
という意味で,集中的な地域独占が形成されてきた.なかでも,配電に関しては完全な地域独占
が,発電に関しても,ほぼ完全に近い地域独占が,それぞれおこなわれてきた.
戦後の電力事業が,自然独占を前提として成立しているのは,
「自然独占」であり,
「規模の経
済」を根拠とする.需要量が,より大規模になればなるほど,固定費用の需要一単位に対する分
散がなされるために,大規模な生産量に応じて,固定費用が減少するという規模の経済が享受さ
れる.
経済学の観点からは,
「規模の経済」による電力事業の自然独占性が,電力事業の地域独占をも
たらす要因として捉えられる一方で,現実の電力事業を規定する法律である「電気事業法」は 1,
多岐にわたる観点から,地域独占の正当性が記述されている.総則である第一条において,
「電気
の使用者の利益を保護」
「電気事業の健全なる発展」を図り,そのための手段として「電気工作物
の工事,維持及び運用」を規制することで,
「公共の安全」
「環境の保全」を図ることを,主目的
としている.
事業法に記されている各用語は,極めて抽象的であり,その示す範囲の特定は困難であるが,
電力が,近代的な生活を営む上で全国民が享受することのできる生活必需品である「ナショナル
ミニマム」の一部として捉えられていると,ここでは解釈する.また,並行して,非排除性と非
競合性という財の性質をもつ「公共財」の面,原子力発電に代表されるように電力事業の専門性
に起因する費用や価格に関して,特に消費者の側からの情報捕捉が困難である「情報の非対称性」
の面,生産者と消費者のいずれにおいても参入・退出が困難である「完全競争市場から乖離」し
ている面なども併せて,法律上では,多岐の視点から地域独占を成立させるための根拠が記述さ
れている.
法律用語の用い方や記述にズレはあるものの,先進国においては,電力事業は,エネルギーの
国内全国民への安定的供給のために,政府による公的規制の影響を強く受け,独占事業として,
成立してきた.
しかし,
「イノベーションの進展」
「グローバル競争の進展」により,従来型の公的規制を適用
して独占を温存させたままでは,
「価格の変動に乏しく,国際水準でみて高価格に設定されやすい
こと」,
「独占型企業の経営が非効率なままであること」であり,消費者にとって不利益になると
の考えから,米国や EU など先進諸国を中心に,1970 年代以降,規制緩和の潮流が広がってき
た.実態としての経済システムは,市場経済と計画経済が入り交じった混合経済であるが,計画
経済の度合いにおいては,先進諸国の中では,フランスとならび,高い比率を占めてきた日本は,
公益事業をはじめ強固に計画経済的な側面が温存されてきた.電力事業においても,2000 年代に
入り,ようやく,自由化が進展した.
1
電力事業の規制の法的根拠となる電気事業法第一条は,
「この法律は,電気事業の運営を適正
かつ合理的ならしめることによって,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達
を図るとともに,電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保
し,及び環境の保全を図ることを目的とする.」と記され,この条文のみでは,公的規制の経済学
的根拠を明瞭に解釈することは困難である.
53
図表1
卸売市場から小売市場の自由化へのステップ
出所:電力システム改革委員会(2013 年)を一部修正.
図表1は,我が国における電力自由化の概要を示しているが,発電分野からの自由化がはじま
り,2003 年の規制緩和では,
「特別高圧産業用」である契約 KW が 2,000KW 以上,電圧 V で,
20,000V 以上の大口需要において,参入が可能となり,大規模工場,デパート,オフィスビルを
中心に,自由化が進展していった.この時点での自由化対象部門の電圧量は 26%である.2004
年からは,500KW 以上の,
「高圧 B」である中規模工場や,
「高圧業務用」でも 500KW 以上の
スーパーや中小ビルも,自由化大正となり,自由化部門は,総電力量の 40%にまであがった.2005
年の規制緩和では,小規模工場の「高圧 A」
,
「高圧業務用」で 500KW 未満のスーパーや中小ビ
ルも自由化対象となり,
「低圧」
「電灯」以外は,ほぼ自由化された.自由化部門は,総電力の 62%
にまで,膨れあがった.
自由化された部門が 60%以上になったにもかかわらず,実際の参入は数%程度にとどまってき
た.大口需要の自由化がはじまった 2000 年から,特定規模電気事業者(以下,Power Producer
and Supplier の略として PPS とする)の参入も並行してはじまった.契約電力が50kW以上
という大口の需要者に対して,一般電気事業者(一般に電気供給をおこなう既存の 10 電力会社)
が全国にはり巡らせている電線を使用しながら電力供給をおこなう事業者の参入数は,2010 年度
末まで,37 社の参入しかなかった.そのうち東北地方に所在する業者は,わずかに1社(山形県)
のみであった.
(2)東日本大震災を契機とした改革の必要性
遅々として進まなかった新規参入であるが,世界的な,規制緩和の潮流に加えて,東日本大震
災とそれを契機とした福島第一原子力発電所の事故は,新規参入のための新たな転機を生み出し
た.その結果,新規参入者は急増し,2014 年2月末までに,事業者は 142 社まで拡大した.
背景にあるのは,発電を集中させることにともなうリスクが広く認識されるようになったこと
である.原子力発電所をはじめ,一カ所に集中して発電をおこなうと,安定的な稼働が見込める
場合には,電力の安価かつ安定的な供給が可能であるが,一旦,事故が発生して,稼働が見込め
なくなる場合には,電力供給の供給は極度に不安定になる.電力供給の不安定性に加えて,原子
力発電所の事故にともなうリスクは計測が不可能な面が多く存在することも露呈した.放射性物
質の拡散に伴う避難区域は,
福島第一原子力発電所から半径 20km 以内と年間空間線量が 20mSV
を越える地域を中心に設定された.図表 2 に示される通り,このエリアは,日本の原子力発電所
が立地する地域の中では,四番目に人口数が少ない区域である.その少ない人口規模の区域です
54
ら,事故後の 3 年間で,精神的苦痛を中心とした損害賠償ですら 3.4 兆円の支払いが見込まれて
いる.最低でも,東京電力の各年度の売上高の4分の1以上は,賠償金により占められることが,
加害者の今後の事業運営において見込まれる.エネルギー政策の見直しという国民的課題よりも
前に,一公益事業の企業経営において,東日本大震災と福島第一原発事故を契機として,原子力
発電所をはじめとする集中的発電のリスクが広く認識されるようになった.
電力一単位を生み出すにあたる平均費用が,戦前と比べて,より多くの需要量(発電,送電,
配電)を生み出せば生み出すほど,逓減していく.まず,この前提条件が,原子力発電所の事故
による巨額の損害賠償をはじめとした,リスクとの兼ね合いのもとでは成立しないことが,明ら
かになった.国際的情勢をみても,発電,送電,配電のいずれにおいても,他の先進諸国の多く
の電力事業は,
「集中」から「分散」に向けての動きをとっている.いわゆる,
「地産地消」に近
い概念である.
このことを踏まえて,電力事業の自由化は,多方面から依然に増して議論されるようになり,
政府としても「固定価格買取制度」の導入をはじめ,各種の自由化策を打ち出している.ただし,
この制度は,風力,太陽光,地熱,水力(3kw 未満)
,バイオマス発電により発電された電力を,
既存の地域独占型電力会社が,一定価格で買いとるという「再生可能エネルギーの固定価格買取
制度」という時限的かつ暫定的な対応策に留まっている.次章では,この制度の課題点について
述べる.
図表2 経済的リスクとしての原子力発電(2010)
出所:星・藤本・小山(2014)を一部修正.
2.固定価格電力買取制度から電力自給(自立)に向けて
(1)固定買取制度の問題点
固定価格買取制度は,再生可能エネルギーで発電された電気を,各地方ブロックの地域独占型
の電力会社のみが,一定価格で買い取ることが保証されている制度である.ここでの,再生可能
エネルギーは,
「太陽光,水力,風力,地熱,バイオマス」が含まれる.
この固定電力買取制度は,様々な課題点を抱えている.第1に,既存の地域独占を前提とした
制度であるために,発電の中でも,さらに一部の「発電」のみの参入の容易化にしかなっていな
いという点である.
第2に,受益者とされる利用者の負担の上で成立していることである.電力会社が買い取る電
力は,電力の消費者に課せられる賦課金から捻出される仕組みであるため,結局のところ,小口
発電者同士の競争原理に基づいた制度ではないために,電気料金の引き下げにつながるものでは
なく,需要者である地域独占の制度そのものを,抜本的に変革する仕組みではない.
第3に,買取期間が,最大で 20 年間と,時限的なことである.さらに,調達価格も,毎年度
の見直しがあり,平成 24 年の太陽光発電の買取が1kwh あたり 42 円であったのが,平成 25 年
には 37.80 円に下がり,趨勢としては,参入者が増加するにつれて,買取価格は,低下すること
が見込まれる.
55
第 4 は,小売の自由化にまでつながるものではない点である.再生可能エネルギーの導入によ
る,分散型エネルギーといっても,小口の発電のみの参入容易化のために,太陽光をはじめとし
た,再生可能エネルギーのみを導入するに留まり,その後の送電,配電までは踏み込んでいない.
小口の発電を,小規模生活圏に自給自足的に供給するために,必要なことは,送電,配電,販売
の分散化,さらに,その分散化にあたり,新規参入を継続的に認める制度づくりである.
(2)垂直統合から構造分離へ
前章で述べたように,発電,送電,配電を地域独占として,特定の企業に集中させることによ
るリスクは,福島第一原子力発電所の事故により明らかになった.これまでのように発電から配
電までが特定の企業により,担われているという垂直統合型から,今後は,発電,送電,配電分
野が,
複数の企業による参入により競争的な市場とする構造分離型へ移行させることは,時代的,
国際的な要請として,求められている.この点は,経済産業省の電力システム改革専門委員会の
報告書などで強調されている点である.
その際に,既存の垂直統合が,東北地方において,どのような特色を持つのかを,市場の観点
から整理して多く.まず,第1に,需要面からみると人口密度が,相対的に低く,さらに,人口
集中型の消費地が少なく,消費地が分散していることが特色として挙げられる.東北 6 県の人口
密度は,145 人/㎢であり,また,福島県は,153 人/㎢と,東北の平均に近く,各電力会社のエリ
ア別の人口密度をみても,北海道に次いで低くなっている.また,図表3で示されるように,消
費人口で見た場合の需要も,最も密集している仙台で,ようやく全国 13 番目程度の自治体人口
である.
さらに,
各県庁所在都市や人口 20 万人以上の生活圏が,
平均距離をみると,
相互に 100km
以上の距離をもって,遠隔かつ分散的に位置している.規模として次階層に位置する人口 10 万
人以下の中心都市を中心とする生活圏は,相互に 40km 程度の距離で位置している.この観点か
らみると,福島県においては,郡山,いわき,福島,会津若松という4つの都市圏と,相双,白
河,南会津という3つの小規模生活圏をあわせた,7つの生活圏が分散的に位置している.
第2に,同じく需要において産業用発電の比率が低いことである.電力を大量消費する大口の
需要家として代表的なものである石油化学,鉄鋼などの工業地帯,工業地域であるが,これらの
工業は,市場指向型の立地であるために,消費人口が集中する地区を抱えていない東北6県では
成立が困難である.また,大規模な加工組み立て型工場が,南東北を中心に立地しているが,こ
れら加工組立型工場,病院,自治体や大学などの教育機関など大型事業所が,産業用発電として
最も規模が大きなものとなっている.
次に供給面からみた特色であるが,第1に,人口密度が低く,市場が分散的に位置しているこ
とは,発電所から消費地までの送電網,配電網の距離を長くする必要があることを意味する.ま
た,送配電の距離が長くなるほど電力ロスが生じるために,結局は,人口一人当たりの,送電,
配電費用が大きくなっていることである.
第2に,自企業で発電設備をもつ大口需要家が少ないということは,PPT の参入業者が少ない
ことを意味する.逆に競合する相手が少ないために,小口の発電による小規模生活圏に向けての
電力供給という新規事業展開では,大きなポテンシャルを秘めている.
第3に,また,福島県特有の事情として,原子力事故を機にした原子力発電所の稼働停止によ
り,地域内の基礎的な需要に応じた供給体制に戻っていることが挙げられる.図表5,図表6に
みられるように,資本集約型産業である原子力発電所が,浜通りで稼働してきたことで,福島県
の県民所得水準は,他の東北の諸県に比べて,大きく押し上げられてきた.電気事業が9割を占
める,電気・ガス・水道業の就業者一人当たりの生産額も,極度に大きく,そのことが,福島県
の人口一人あたり所得水準を押し上げてきたが,この生産額は,原子力発電事故による原発の停
止・廃止により,約 9 割程度減少した.このままでは,福島県の県民所得水準が減少することは
明らかにである.原子力発電所は,首都圏という域外へ電力を供給するために手段であったが,
これがなくなるということは,本来の地域の需要に基づいた経済活動の規模に戻りつつあるとい
うことである.
56
図表3
日本,東北における最終消費人口の分布(2010)
Zuhyo
出所:筆者作成.
図表4
福島県内の主要都市と会津地区の人口指標
自治体
福島県
福島市
会津若松市
郡山市
いわき市
白河市
須賀川市
喜多方市
相馬市
二本松市
田村市
南相馬市
伊達市
本宮市
南会津郡
下郷町
檜枝岐村
只見町
南会津町
耶麻郡
北塩原村
西会津町
磐梯町
猪苗代町
河沼郡
会津坂下町
湯川村
柳津町
大沼郡
三島町
金山町
昭和村
会津美里町
人口
面積(㎢)
2029064
292590
126220
338712
342249
64704
79267
52356
37817
59871
40422
70878
66027
31489
29893
6461
636
4932
17864
30117
3185
7366
3761
15805
24733
17360
3364
4009
28625
1926
2462
1500
22737
57
13782.76
767.74
383.03
757.06
1231.35
305.3
279.55
554.67
197.67
344.65
458.3
398.5
265.1
87.94
2341.64
317.09
390.5
747.53
886.52
986.76
233.94
298.13
59.69
395
284.08
91.65
16.36
176.07
870.51
90.83
293.97
209.34
276.37
人口密度
(人/㎢)
147.2
381.1
329.5
447.4
277.9
211.9
283.6
94.4
191.3
173.7
88.2
177.9
249.1
358.1
12.8
20.4
1.6
6.6
20.2
30.5
13.6
24.7
63
40
87.1
189.4
205.6
22.8
32.9
21.2
8.4
7.2
82.3
図表5
福島県における産業別経済指標(2010)
項目 就業者一
人当たり
総生産額
(百万
産業・業種
円)
農業
1.9
林業
3.5
水産業
5.3
鉱業
5.7
製造業
8.9
建設業
4.2
電気・ガス・水道業
50
営業余
剰・混合
所得
分配率
1.2
0.59
1.05
0.65
0.65
0.18
0.18
0.59
-0.2
0.41
-0.05
0.35
0.14
0.82
卸売・小売業
4.7
0.58
0.42
金融・保険業
11.2
0.07
0.42
116.5
8
0.07
0.6
0.93
0.36
情報通信業
14.7
0.6
0.4
サービス業
全産業
4.8
7.7
-
0.08
0.6
0.35
不動産業
運輸業
出所:内閣府『県民経済計算』を基に作成.
図表6
県民所得水準(2010)
順位
27
34
35
38
42
44
1人当た
都道府県 り県民所
得
福島県
2,586
山形県
2,464
宮城県
2,450
青森県
2,345
秋田県
2,291
岩手県
2,234
出所:内閣府『県民経済計算』を基に作成.
3.小規模生活圏における電力事業成立の条件
(1)小規模生活圏における電力事業の必要性
前章で述べたとおり,電力のナショナルミニマム化という点では,東北地方は「保護」されて
きた地域を多く抱えるという意味で,恩恵を受けてきた地域であり,地域独占体制の維持による
既存の電力事業の市場構造では,今後の自由化に伴う競争的な市場に耐えうる構図とはなってい
ない.この事実は,PPT の参入業者が,東日本大震災以前は,極度に少なかったことにみられる.
しかし,これは,図表6に示されるとおり,東北6県プラス新潟を営業範囲とする既存の送電網
を利用した場合においては,
「大規模消費地からの遠隔性」「域内需要の分散による非効率性」や
「大型発電設備を保有する企業群の不足」
「大型発電における新規参入の可能性の低さ」など,競
争的市場に耐えることのできない構図であり,あくまでも,地域独占を前提とした場合の話であ
る.
太陽光,水力,風力,地熱,バイオマスなど,地域に賦存する資源を,生活圏レベルで自給す
るという観点からみると,会津地方をはじめ,東北地方は,大きなポテンシャルを秘めている.
倉阪(2013)によると,都道府県や市町村を単位として,「再生可能エネルギー設備」の分布を
踏まえた上で,その設備によるエネルギーの供給量が,
「域内の民生・農林水産用エネルギー需要
を上回る量の再生可能エネルギーを生み出している」地域を全国で 50 市町村,抽出しているが,
この中に福島県の市町村が,柳津町,下郷町,古殿町と3町が含まれている.
また,都道府県別にみた場合の,自給率ランキングでも,福島県は,多くの発電項目で上位に
来ている.広大な県土面積を有していることを反映し,風力発電が第 8 位,地熱発電が第 5 位,
小水力発電が第 10 位,バイオマス発電が第 10 位,地熱発電が第 10 位と,いずれも人口規模順
位の第 20 位と比して,上位に位置している.日照時間の相対的な短さを反映し,太陽光発電は
第 31 位,太陽熱利用は第 31 位と,人口規模の順位に比べて低いものの,地熱発電,小水力発電,
58
バイオマス発電と,会津地方に多く賦存する土地固着型の資源を活用した地産地消型の域内完結
型の発電システムを構築するにおいては,優位性をもっている.
図表 6
東北電力管内の主要発電所と送電網
出所:東北電力 HP より抜粋.
図表 7
順位
エネルギー自給率の上位市町村(2011)
自治体名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
大分県玖珠郡九重町
長野県下伊那郡平谷村
長野県下伊那郡大鹿村
福島県河沼郡柳津町
熊本県球磨郡水上村
青森県下北郡東通村
徳島県名東郡佐那河内村
熊本県球磨郡五木村
宮崎県児湯郡西米良村
北海道苫前郡苫前町
28
35
福島県南会津郡下郷町
福島県石川郡古殿町
1136%
951%
917%
818%
787%
554%
528%
519%
506%
427%
10421
563
1160
4009
2405
7252
2588
1205
1241
3656
271.41
77.4
248.35
176.07
190.96
294.39
42.3
252.94
271.56
454.53
人口密度
(人/
㎢)
38.4
7.3
4.7
22.8
12.6
24.6
61.2
4.8
4.6
8
160%
135%
6461
6030
317.09
163.47
20.4
36.9
自給率
人口
面積
(㎢)
出所:倉坂(2013)より抜粋.
経済全体からみると,電気業が,福島県の県民一人当たり総生産額や県民所得水準を押し上げ
てきた.これが震災を機に,県民所得水準を低めている.いまのところ,除染をはじめとする公
共事業の注入により,かろうじて,これまでの所得水準を維持している.しかし,この公共事業
は,復興事業の一環であるために,時限的なものである.公共事業の投資水準が縮小すると,福
島県の県民所得水準は,下がったままになってしまう.これに対応するためには,新規産業の創
出が必要であるが,小規模生活圏における自給自足型電力供給システムの導入は,その新規産業
創出のための一環である.
59
(2)小規模生活圏における電力需要
図表8では,県別の電力使用量をあらわしている.人口一人当たりの電灯使用量について,地
域による大差はない.これは,家庭用の電力需要が,生活必需品であり,なおかつ,所得弾力性
が低いことが影響している.
市町村別の電力需要量は,公表されていないので,推計となる.図表6では,2014 年2月時の,
東北電力の電気料金を基に,福島県における電力需要を,金銭的価値に換算したものである.福
島県の人口一人当たりの電力量は,年間 2218.3kwh であり,この数値をもとに,従量電力とし
てかかる電気料金は,64,935 円である 2.単純にこの数値に人口,事業所数を掛けた場合の会津
坂下町における電力需要は,電気料金に換算すると年間に 23.9 億円程度が発生している 3.
現状の電気料金水準では,実際に支払われている額は,年間 23.9 億円程度と推測されるが,こ
の範囲内で,バイオマス発電による固定費と変動費を成立させることの可能性を考える.バイオ
マス発電所の費用構造を分析にするにあたり,現状で参考となる前例は,2010 年 12 月に設立さ
れた「株式会社グリーン発電会津」であり,会津若松市の河東町工業団地に,2012 年7月から小
規模のバイオマス発電所を稼働させている.ここでの発電量は,一般家庭用 10,000 世帯分の電
力量に相当する 5,000kW である.会津坂下町の電力需要とほぼ同程度の発電量に相当するため
に,この数値を参考とする 4.同社が,事業申請のために提出した資料を参考にした費用構造が,
図表 10 に示されている.ここでは,固定費として発電所一基の設置には,約 21 億円が計上され
ている.発電所の耐用年数は,約 30 年と見込まれているが,年間の減価償却としては 20 年と設
定した場合は,年間 2.13 億円の減価償却が見込まれている.
また,運営のためにかかる年間の変動費として,運営の管理にかかる費用としては人件費に
7,000 万円,修繕費に 8,800 万円が,木質バイオマスなど原材料にかかる費用としては燃料費に
5.0 億円が,それぞれ計上されている.変動費の合計値は,6.6 億円である.発電設備と減価償却
と変動費を合計した額は 8.73 億円である.発電所の初期投資が借り入れなどによりおこなわれる
と仮定すると,事業運営にあたり年間に要されるキャッシュフローは 8.73 億円である.
これは,発電のみにかかる費用であり,ここで発電された電力を,域内の事業所や住宅に供給
するためには,送電,変電,配電も必要となる.これについては,既存の変電設備や送電網が存
在するために,これを活用すれば,変電,送電の設備建設など新規投資をおこなう必要は生じな
いが,保守・管理に関する費用は発生する.また,販売に関する費用,また,発電から販売まで
を管理する費用も生じる.これらにかかる費用は,現状の固定価格買取制度のもとでは,既存の
地域独占型電力会社による「託送料金」として設定されているために,どの程度の費用が,会津
坂下町程度の電力需要で,バイオマス発電を用いた場合に生じるのかは,推計値でも算出するこ
とが困難である.
発電のみで要されるキャッシュフローの 8.73 億円を,会津坂下町の年間電気料金総支払額であ
る 23.9 億円から差し引いた 15.17 億円の数値を下回る水準に,送電より後方の部門にかかる維
持・管理費用が設定されることが,小規模生活圏の電力事業における,経営上の収支バランスを
とるために必須である.
東北電力の HP により,
2014 年2月末日に公共されている単価で計算した.
現実の電気料金は,
使用量,使用時間により割引があるなど多種多様であるが,ここでは,単純化のために,単一の
単価のみで計算している.
3 この数値は,県の平均値から算出した推計値であり,実際の会津坂下町における電力需要との
間には,当然ながら誤差が生じている.現状では,電力需要を,正確に金銭的価値に換算した統
計が存在しないために,ここでは,推計値を用いている.
4 現実は,送電,配電において送電網を,経由する必要があるために,距離如何によらず電力の
ロスが発生するが,ここでは,単純化のために,電力ロスについては考慮しないものとする.
2
60
図表8
県別電力使用量(2010)
県名
契約口数
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
全国計
853,000
687,000
1,233,000
646,000
656,000
1,074,000
75,765,000
人 口 一人
電 力 量 一 口 当た
当 た り電
(100
万 り 電 力量
力
量
(kwh)
kWh)
(kwh)
2,981
3,495
2170.6
2,979
4,336
2239.6
5,232
4,243
2228.1
2,438
3,774
2244.9
2,671
4,072
2285
4,501
4,191
2218.3
304,230 4,015
2375.7
出所:
「電気事業便覧」を加筆修正.
図表9
自治体名
現状
福島県
41,110,739
5,928,148
福島市
会津若松市 2,557,336
郡山市
6,862,623
いわき市
6,934,286
1,310,964
白河市
須賀川市
1,606,024
喜多方市
1,060,782
相馬市
766,208
二本松市
1,213,043
818,988
田村市
南相馬市
1,436,055
1,337,769
伊達市
637,997
本宮市
411,849
南会津郡
89,016
下郷町
檜枝岐村
8,762
只見町
67,950
南会津町
246,120
耶麻郡
414,935
北塩原村
43,881
西会津町
101,485
磐梯町
51,817
猪苗代町
217,752
340,757
河沼郡
会津坂下町
239,176
46,347
湯川村
柳津町
55,234
394,379
大沼郡
三島町
26,535
金山町
33,920
昭和村
20,666
会津美里町
313,258
電力需要の推計値(2010)
(単位:万円)
20%値上げ 40%値上げ 60%値上げ80%値上げ100%値上げ
49,332,887 57,555,034 65,777,182 73,999,330 82,221,478
7,113,777
8,299,407 9,485,036 10,670,666 11,856,295
3,068,803
3,580,270 4,091,737 4,603,204
5,114,671
8,235,147
9,607,672 10,980,196 12,352,721 13,725,245
8,321,143
9,708,000 11,094,857 12,481,714 13,868,571
1,573,156
1,835,349 2,097,542 2,359,735
2,621,927
1,927,228
2,248,433 2,569,638 2,890,843
3,212,047
1,272,938
1,485,094 1,697,251 1,909,407
2,121,563
919,449
1,072,691 1,225,933 1,379,174
1,532,416
1,455,651
1,698,260 1,940,868 2,183,477
2,426,085
982,785
1,146,583 1,310,380 1,474,178
1,637,975
1,723,266
2,010,477 2,297,688 2,584,899
2,872,109
1,605,323
1,872,876 2,140,430 2,407,984
2,675,538
765,596
893,195 1,020,795 1,148,394
1,275,993
494,219
576,589
658,958
741,328
823,698
106,819
124,622
142,426
160,229
178,032
10,515
12,267
14,020
15,772
17,525
81,540
95,130
108,721
122,311
135,901
295,344
344,568
393,792
443,016
492,240
497,922
580,909
663,896
746,883
829,870
52,657
61,434
70,210
78,986
87,762
121,782
142,078
162,375
182,672
202,969
62,180
72,544
82,907
93,270
103,634
261,303
304,853
348,404
391,954
435,505
408,909
477,060
545,212
613,363
681,515
287,012
334,847
382,682
430,517
478,353
55,617
64,886
74,156
83,425
92,695
66,280
77,327
88,374
99,421
110,467
473,255
552,131
631,007
709,882
788,758
31,842
37,149
42,457
47,764
53,071
40,704
47,488
54,272
61,056
67,840
24,799
28,933
33,066
37,199
41,332
375,909
438,561
501,212
563,864
626,515
出所:「電気事業便覧」を加筆修正.
注1:福島県の人口一人当たり電灯契約の電力消費量を,各市町村の人口に乗したものを,
電灯使用量として加算した.
注2:この数値を基に,産業用需要を主とする大口需要を含んだ電灯使用量の数値を算出
するため,市部は 3.125 を,郡部は 2.125 倍を,それぞれ乗したものを,現状の電
気料金として掲載している.
注3:現状の数値を基に,値上げ分も列記している.
61
図表 10 10000 世帯供給のバイオマス発電所(5,000kW)の費用構造
(単位:円)
建設費
2,000,000,000
廃棄費用
100,000,000
人件費
70,000,000
運転維持費
修繕費
88,000,000
変動費
燃料費
504,576,000
燃料費
燃料諸経費
600
固定費
資本費
2,100,000,000
662,576,600
出所:グリーン・サマール株式会社の資料より抜粋.
4.会津坂下町における電力事業の成立条件と課題点
前述の電力の地域的な需給バランスを踏まえた上で,会津坂下町における電力事業の成立のた
めの条件と課題点について述べる.
第1に,発電事業は,森林面積が多いことから,木質バイオマスを燃料としたバイオマス発電
に優位性を持っている点である.奥会津地区や西会津地区との,将来的な広域連携を考えると,
地熱発電,小規模水力発電などの発電事業も考慮されるが,会津坂下町を完結した自給自足の地
域単位とした場合は,5,000kW 規模のバイオマス発電所1基と予備発電により,域内の需要は,
既存の電力料金でも十分に供給できる.また,木質バイオマスにおいては,燃料の木材チップは
森林地帯の主材,間伐材を用いることから,林業への波及効果も期待される.その点は,本稿の
中込担当章で,木材チップのフローや発電総量が,緻密に算出されているが,この数値をより,
金銭的価値に換算して,小規模生活圏の経営上の成立閾値などと整合性をとることが,今後の課
題点として必要とされる.
第2に,送電,配電,変電,販売においては,現段階では自由化の対象となってなく,域内で
の維持・管理にどの程度の費用がかかるのかは明らかになっていない.しかし,地域独占型企業
により事業運営されている託送された送電以降の工程において,既存の電力料金の設定では
15.17 億円以下の費用であれば,事業収支のバランスは保てる.送電から販売までの工程は,地
域独占型企業が,基本料金を徴収することで,成立してきた事業であるが,この部分の費用構造
については,不十分である.小規模生活圏を単位として,域内完結型の送配電網を構築した場合
には,送電線のボルトは,供給や需要が小さいがゆえに,低いものを使用せざるをえない.その
ため,送電の過程において,既存の地域独占による事業と比べて,規模の経済が働かずに,実際
の維持・管理費用は,域内の収支バランスを崩す程度に費用が膨らむ可能性がある.逆に,送電
の過程は,実際の維持管理費用は,小規模生活圏でも,十分に賄える程度の水準であるかもしれ
ない.いずれにせよ,この分野の費用構造に関しては,情報公開が不十分であるために,事業成
立の可能性に関しては,結論を出すことは不可能な部分である.
第3に,今後は自由化される見込みのある送電以降の部門について,既存の地域独占型企業の
供給責任を,どこまで適用するかである.ナショナルミニマムということで,全国一律の電力供
給体制が敷かれてきた.再生可能エネルギーの発生源となるバイオマス,地熱,小規模水力など
の燃料となる資源の賦存については,会津坂下町をはじめ,東北諸県は優位性をもつものの,そ
の送電,配電,販売においては,小規模な消費地や分散した人口密度など,高費用となる可能性
があるなど課題点がみられる.会津坂下町の中心市街地からそう遠くない地域に発電設備を置い
たとしてしても,
送配電や販売にかかる維持管理費用は,
より大規模な既存の発電方式に比べて,
高費用となる.
この点に関しては,小規模生活圏での電力の域内需給バランスを保つ仕組みに対する補助・助
成が不可欠である.そのためには,中期的な観点でなく,長期的なビジョンが求められる.根拠
となるのは,事故時の社会的費用の換算困難性,保険の不在,リスクの巨額化,集中の不経済で
ある.大手会社の地域独占体制の維持による電力の安定的供給には,戦時経済体制から 60 年間
の時間を要した.基本料金の制度化による,国土全体の発送配電の設備投資の特定の地域独占企
業による集中的管理と垂直統合である.既存の電力体制の形成のために 60 年以上を要したもの
を,数年単位で変革するのは容易ではない.リスク回避のために「集中」から「分散」という理
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念のもとに,小規模生活圏が,自給自足で電力需給を均衡できる仕組みをつくるための手段とし
ての,補助・助成が不可欠である.
既存の地域独占を前提とした電力の固定価格買取制度ではなく,小規模生活圏において,賦存
する再生可能エネルギーを活用して,地域内の需要を賄える仕組み作りである.そのために手段
として,小規模生活圏が自立できるまでは,地域独占型企業が,送電,配電,販売について責任
を持つ範囲を,明確かつ段階的に示す必要がある.また,そこに関わる費用構造についても,基
本料金により整備されてきたのであるから,公開される必要がある.
「ナショナルミニマム」とし
ての電力は,制度のみにより成立してきたのではなく,基本料金の徴収による事業収支の均衡化
という,受益者の負担を根源として成立してきたのである.その点で,既存の電力事業による,
小規模生活圏における,送電,配電,販売に関わる収支構造や費用構造の詳細な公表は,大きな
課題点である.
参考文献
植草益『公的規制の経済学』NTT 出版,2003 年.
植草益編『日本の産業システム1 エネルギー産業の改革』NTT 出版,2004 年.
倉阪秀史「永続地帯研究の最新成果と政策提言」『千葉大学公共研究』第 9 巻第 1 号,2013 年.
澤田康幸編『巨大災害・リスクと経済』日本経済新聞出版社,2014 年.
資源エネルギー庁『再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック』2012 年.
電力システム改革専門委員会『電力システム改革専門委員会報告書』2013 年.
東北経済産業局『東北地域における電力市場自由化の実態調査』2006 年.
星亮一・藤本典嗣・小山良太『Fh 選書 フクシマ発 復興・復旧を考える県民の声と研究者の
提言』批評社,2014 年.
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平成 25 年度 福島県委託事業
会津坂下町に係る地域課題調査研究
~地域の社会・経済構造と再生可能エネルギー
調査報告書
平成 26 年 3 月
特定非営利活動法人 超学際的研究機構
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