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- 112 - 6.2.4 サッシメーカーによる発注契約段階の業務

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- 112 - 6.2.4 サッシメーカーによる発注契約段階の業務
建築生産におけるワークフロー分析・計画技術の研究開発
6.2.4
平成16年度報告書
サッシメーカーによる発注契約段階の業務モデル
6.2.4.1
概要
サッシメーカーが建具工事を受注する段階の業務モデルを記述する。受注する工事対象には、標
準品サッシの場合と注文品サッシの場合があるが、見積りに必要な情報を獲得し、見積り作業、折
衝・契約、受注といった基本的な構造は変わらないので、ここでは標準品サッシの場合の業務モデ
ルを記述する(表6―4)。
なお、注文品サッシの場合、発注・契約段階で建具工事に当てられる予算が決定してしまうため、
この段階で予算調整を行うのに必要な見積作業が既に行われている。すなわち、ある程度精度の高
い見積りが可能となるサッシ仕様の決定がこの段階で既に済んでいることになる。具体的に決定さ
れる仕様の内容は、例えば、開口部の大きさ(WH)、開閉方式、仕上げの選定、サッシの見付
け・見込み寸法(新型サッシの大きさ)などがある。これらの仕様は理想的には建築設計者が基本
設計段階に決定するものであるが、実際にはサッシメーカーの設計担当が中心に検討を進め、その
中で仕様が定まっていくというのが現状である。今回、この検討部分の業務モデルは、サッシメー
カーによる実施設計段階の業務モデルの前半部分に表現されている(新形方針を決定するというプ
ロセスまでがこれに当たる)。
以上のように、注文品サッシの場合、サッシメーカーによる契約前の設計協力がある程度進行し
ている。この設計は、営業設計として無償で行われているものもあれば、それ相応の対価のもとに
設計協力が行われているものまで様々である。なお、これらのサッシ設計は契約前の設計協力であ
ることから、必ずしも実際の工事受注に結びつくとは限らない。
契約後の本格的なサッシ設計は、決定された仕様の範囲(予算の範囲)で実施されることになる。
新型サッシを採用する場合は、サッシ形状を描いた新規形材図を建築設計者が承認することで製作
日数が決定し、具体的な納期が確定する。建物の竣工日やサッシ工事の日程が予め決定している場
合には、発注・契約段階に先立ってサッシ工程表が作成され、新規形材図の承認が行われることも
ある。
表6-4 サッシメーカーが建具工事を受注するときの WBS のリスト
ID
アクティビティ
A0
建具工事を受注する
A1
├ 営業活動を行う
A11
│ ├ 見積資料を確保する
A12
│ ├ 物件単位の営業方針を検討する
A13
│ └ 見積依頼書を作成する
A2
├ 積算する
A21
│ ├ 内容を確認する
A22
│ ├ 拾い出しを行う
A23
│ ├ 値入れを行う
A24
│ ├ 見積内容を確認する
A25
│ └ 見積書を作成する
A3
├ 折衝・契約する
A31
│ ├ 見積書を確認する
A32
│ ├ 一次実行予算書を作成・更新する
A33
│ ├ 折衝する
A34
│ └ 契約する
A4
└ サッシの工程管理表を作成する
A41
├ 全体工程表を確保する
A42
└ サッシの工程管理表を作成する
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6章
6.2.4.2
ワークフロー分析・計画技術の活用事例 その3
―サッシ設計プロセスモデル―
ワークフローと解説
(1)コンテクストダイアグラム
発注・契約段階において、サッシメーカーが建具工事を受注するときのコンテクストダイアグラ
ムを右上図に示す。
(2)トップダイアグラム
発注・契約段階において、サッシメーカーが建具工事を受注するときのトップダイアグラムを右
下図に示す。
サッシメーカーの受注活動は、サッシメーカーの営業担当による A1「営業活動を行う」のアク
ティビティによって開始され、見積担当の A2「積算する」のアクティビティ、営業担当の A3
「折衝・契約する」のアクティビティ、A4「サッシの工程管理表を作成する」のアクティビティ
によって構成されている。
A1「営業活動を行う」のアクティビティは、見積依頼の引き合いによって活動が開始されるこ
とから、これをコントロールとして表現している。インプットには、引き合い先より入る物件情報
があり、これをもとに物件単位の営業方針が検討され、見積作業に必要な資料の獲得、見積依頼書
の作成が営業担当の責任のもと行われる。
A2「積算する」のアクティビティでは、営業担当から見積担当への見積依頼書の受付から始ま
り、見積資料の読み込み、数量算出、価格表などを参考にした値入れ作業などによって構成され、
最終的に見積書が発行される。
A3「折衝・契約する」のアクティビティでは、見積担当から営業担当への見積書をもとに、利
益確保のための実行予算書の作成や、引き合い先との価格交渉を経て、契約に至る作業で構成され
ている。工事の受注は総合工事業者からの注文書によって確定し、サッシメーカーは注文請書を発
行する。
A4「サッシの工程管理表を作成する」のアクティビティでは、契約後に総合工事業者によって
提示される全体工程表から、工程に合わせたサッシの工程管理表の作成が行われ、これをもって以
降の実施設計段階や生産段階、施工段階の工程が管理されることになる。
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建築生産におけるワークフロー分析・計画技術の研究開発
平成16年度報告書
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6章
ワークフロー分析・計画技術の活用事例 その3
―サッシ設計プロセスモデル―
(3)A1「営業活動を行う」
サッシメーカー営業担当による営業活動は、A11「見積資料を確保する」アクティビティから開
始され、A12「物件単位の営業方針を検討する」というアクティビティによって、その後の方針が
定まり、A13「見積依頼書を作成する」というアクティビティによって見積担当への必要な資料作
成が行われる。
A11「見積資料を確保する」のアクティビティでは、引き合い先からの見積依頼がコントロール
として働く。また、見積期限が見積書提出までのアクティビティに対してコントロールとして働く。
インプットとして入ってくる物件情報には、設計図書や仕様書といった情報が中心となるが、この
段階で不足する情報もあり、営業担当は見積に必要な情報ができるだけ不足することがないよう情
報獲得に注意を払うことになる。
A12「物件単位の営業方針を検討する」のアクティビティでは、A11 で獲得した見積資料や引き
合い先との関係、物件そのものの魅力などが総合的に検討され、以降の作業を方向付ける営業方針
が決定される。注文品サッシなど、技術的な要件が検討材料として重要な引き合いになれば、この
検討には営業担当だけでなく設計担当や見積担当も加わっての方針決定となる。
A13「見積依頼書を作成する」のアクティビティでは、見積資料から見積に必要な情報を特に整
理、確認し、見積担当に対する見積依頼書を作成することになる。この際、あらかじめ見積依頼書
のフォーマットが存在し、営業担当はこのフォーマットに記述されている項目について、できるだ
け漏れのないように必要な情報を記載することになる。こうして作成された見積依頼書は、設計図
書や仕様書といった見積資料と一緒にアウトプットされる。
(4)A2「積算する」
サッシメーカーの積算担当による積算作業は、A21「内容を確認する」という見積依頼のアクテ
ィビティから開始され、A22「拾い出しを行う」のアクティビティ、A23「値入れを行う」のアク
ティビティ、A24「見積内容を確認する」のアクティビティ、A25「見積書を作成する」のアクテ
ィビティによって構成されている。
A21「内容を確認する」のアクティビティでは、営業担当からの見積依頼書がコントロールとし
て働き、見積に必要な資料の確認や見積期限などが確認される。この段階で設計図書や仕様書の内
容を確認し、不明な点があれば引き合い先にその旨を質疑書の形で問い合わせ、引き合い先からの
回答書によって不明な点が解消される。
A22「拾い出しを行う」のアクティビティでは、設計図書から見積対象の建具について、その個
数を把握し、どんな仕様のものがいくつあるかといった数量算出、仕様確認が行われる。
A23「値入れを行う」のアクティビティでは、価格表などを参照しながら、A22 で拾った製品に
ついて値段を記載していく作業が行われ、原価と営業方針によって決定された利益率を乗せた価格
の両方が設定されていく。
A24「見積内容を確認する」のアクティビティでは、これまでの作業に間違いがないか確認が行
われ、拾い忘れや値入れの誤りを確認する。問題がなければ、見積内容が次のアクティビティにア
ウトプットされ、問題がある場合は、その修正内容がコントロールフィードバックとして適当なア
クティビティに戻っていく。
A25「見積書を作成する」では、見積書のフォーマットにしたがって、見積書が作成される。
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平成16年度報告書
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6章
ワークフロー分析・計画技術の活用事例 その3
―サッシ設計プロセスモデル―
(5)A3「折衝・契約する」
営業担当による折衝・契約作業は、A31「見積書を確認する」のアクティビティ、A32「一次実
行予算書を作成・更新する」というアクティビティ、A33「折衝する」のアクティビティ、A34
「契約する」のアクティビティによって構成されている。
A31「見積書を確認する」のアクティビティでは、見積担当によって作成された見積書の内容を
確認し、その内容を完全に把握することが行われる。
A32「一次実行予算書を作成・更新する」のアクティビティでは、見積書の内容を確認しながら、
物件単位の営業方針や営業経験、製品に対する知識などから総合的に判断して、見積書の内容を調
整し、利益確保の台帳となる一次実行予算書を作成する。一次実行予算書には、原価と引き合い先
に提示される見積価格が記載され、これによって利益の確認や、物件単位の利益確保が実現される
ことになる。作成には、実行予算書のフォーマットが参照され、まず契約前に作成され、契約後に
再度この一次実行予算書に契約価格を記載することで、実際の利益確認が行われる。
A33「折衝する」のアクティビティでは、営業担当による引き合い先への見積書の提示や条件や
価格についての折衝が行われる。合意が得られるまで交渉が続き、合意が得られた時点で契約内容
と契約価格が決定する。契約内容は次のアクティビティに対してコントロールとして働き、契約価
格は A32「一次実行予算書を作成・更新する」のアクティビティにフィードバックし、契約後の
一実行予算書の作成、利益確認などが行われる。
A34「契約する」のアクティビティでは、契約内容を受けて、総合工事業者からの注文書の発行、
サッシメーカーから総合工事業者への注文請書の発行が取り交わされる。
(6)A4「サッシの工程管理表を作成する」
営業担当によるサッシの工程管理表の作成作業は、A41「全体工程表を確保する」というアクテ
ィビティから始まり、A42「サッシの工程管理表を作成する」というアクティビティによって構成
されている。
A41「全体工程表を確保する」のアクティビティによって、総合工事業者によって作成される建
築工事の全体工程表を確保する。
A42「サッシの工程管理表を作成する」のアクティビティでは、この全体工程表の工事計画にあ
わせて、建具工事の工程管理表を作成する。この際、サッシの工程管理表のフォーマットを参照し、
製品納期に関する情報などを確認しながら作成を行う。この工程管理表によって実施設計段階や生
産段階、施工段階の各業務の時間管理が行われる。
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6章
6.2.4.3
ワークフロー分析・計画技術の活用事例 その3
―サッシ設計プロセスモデル―
まとめ
ここで示した「標準品サッシを対象とした発注契約段階の業務モデル」は、基本設計段階に建築
設計者によって決定されたサッシ設計の内容から、サッシメーカーが見積書を作成し、総合工事業
者との契約に至るという流れになっている。
一方で、注文品サッシの場合は、見積書を作成するのに必要なサッシの設計が、サッシメーカー
の設計担当によってある程度進行しているのが現状である。今回、基本設計段階はあくまで建築設
計者がサッシ設計を行い、サッシメーカーによる設計行為は行われないという建て前で業務モデル
を記述しているので、ここではこの部分は表現されていない。実際の業務において発注契約に先立
って行われる設計行為は、6.2.5節で述べる、サッシメーカーによる実施設計段階の前半部分
に表現されているものと全く同じものである。
また、注文品サッシの場合、この発注契約に先立って行われる設計以降、本格的なサッシの詳細
検討が行われ、設計内容が更新されていく。この間、例えば引き合い先への図面提出時などに最新
の設計内容に対しての見積作業が実施され、サッシメーカー内の関与者間でその情報が共有され、
計画の見直し、修正などが行われている(この打ち合わせは「コスト DR(Design Review)」と
いった名称で呼ばれ、メーカーによっては DR を増やす傾向がある。例:技術的な打ち合わせであ
る「設計 DR」等)。今回の業務モデルの記述は、標準品サッシを対象としたモデルとなっている
ため、これらの随時かつ繰り返し行われる、見積作業や DR の様子が表現されていないが、注文品
サッシの業務モデルを検討する際は、繰り返し現れるアクティビティをいかに表現するかが重要に
なると思われる。
注
釈
サッシ製作に関
する用語
アルミサッシは,ビレットというアルミの塊(直径6~10インチの円柱形のもの)を熱
し,サッシの形状と同じ形状の穴のあいたダイス(金型)から押し出すことで,ある一定の
形をしたアルミサッシが成型されるという原理で製作される。このとき,押し出されたアル
ミの形材のほうをオス,ダイスのほうをメスとすると,一般的にオスのほうを指す場合は,
「形」,メスのほうを指すときは「型」の文字を使用している。
したがって本報告書では,新しく断面形状を設計した時に用いる「しんがた」という言葉
は,サッシのほうは「新形」,ダイスのほうは「新型」としている。
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