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1. 総論および前腕部留置

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1. 総論および前腕部留置
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:森田荘二郎
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
CV ポート
1 . 総論および前腕部留置
高知医療センター がんセンター長
森田荘二郎
General Statement & Forearm Method
General Director of Cancer Center, Kochi Health Sciences Center
Sojiro Morita
Key words CV Port, Forearm, Adverse events
CVリザーバー(ポート)
は,薬剤特に抗がん剤の安全
な投与ルート,輸液・高カロリー輸液の投与ルートと
して留置される機会が増えてきている。今回の技術教
育セミナーでは,CVリザーバー(ポート)の代表的な鎖
骨下静脈ルートと,上腕・前腕ルートでの,留置のコ
ツ,有害事象,管理上の留意点について取り上げた。
本稿では,まず総論として,留置ルート全般に係わ
る留置時の有害事象,前腕部留置の Tips,前腕部留置
に特徴的と考えられる使用時の有害事象,そして,留
置ルートにかかわらず使用中の有害事象早期発見のた
めの管理上の留意点について概説する。
留置時の有害事象
留置に関する有害事象としては,留置部位(血管穿
刺部位)によっても異なるが,以下に示すようなもの
1)
が報告されている 。また,挿入ルート別の利点と問
題点を表 1 に示す。
1. 動脈穿刺
超音波誘導下穿刺が普及してからは動脈穿刺の危険
性はほぼ解消されたが,手探り法やランドマーク法で
穿刺する場合には,5 ~10%と報告されている。出血
量が多くなければ,多少の痛みを伴うが自然に吸収さ
れる。血胸をきたした場合には緊急手術が必要になる
こともある。
2. 血腫形成
超音波を使わない場合は 8%と報告されている。血
腫に感染を伴い膿瘍となったり,血小板が 5 万以下の
場合,大きな血腫が形成され,気管や神経などに圧迫
症状が出現した場合には,切開・除去する必要がある。
3. 気 胸
鎖骨下静脈や内頸静脈穿刺では注意する必要があ
る。穿刺中,急に咳き込んだり,呼吸困難がみられた
ら気胸を疑う。鎖骨下静脈穿刺では 0.5~ 2%,内頸静
脈穿刺では 0.2~0.5%と報告されている。喫煙者で肺
気腫を合併していると危険性は高くなる。
症状が軽い場合には特に治療は必要ないが,症状が
強い場合には胸腔ドレナージが必要になる。
4. 神経損傷
穿刺部位により,上腕神経叢,上腕皮神経,前腕皮
神経,大腿神経や横隔膜神経に損傷を来す危険性があ
る。穿刺された神経に応じて,手先や足先に痛みが
走ったり,しびれたり,呼吸が苦しくなったりといっ
た症状がみられる。症状がみられた場合には,以降の
手技を中止すると通常はすぐにおさまる。
5. 空気塞栓
シースやカテーテルの手元が開放状態になっている
時,血管の中に空気が吸引されてしまうことがある。
頻度は 0.3%と報告されている。少量であれば特に問
題になることはないが,大量に入ってしまうと,チア
ノーゼ,呼吸数増加,血圧低下,心雑音(特徴的な洗
濯機のような音)といった症状がみられる。症状が強
い場合には,
「高圧酸素療法」の適応となる。留置中は
シースやカテーテルの開放部を指で塞いで空気が吸引
されないように注意する。
6. 胸管損傷
左鎖骨下静脈穿刺の場合,極めてまれに胸管を穿刺
することがある。リンパ液が胸腔に漏出し乳び胸水と
2)
なる。漏出が止まらない場合には,胸管の縫合・塞栓
が必要になる場合もある。
(187)53
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:森田荘二郎
技術教育セミナー / CV ポート
表 1 挿入ルート別の利点と問題点
ルート
特徴 鎖骨下静脈
合併症全般
留置時の合併症が重篤化
する場合がある
死亡例も報告されている
留置時の合併症は
ほとんどない
報告例が少なく不明
留置時の合併症は
ほとんどない
報告例が少なく
不明
可能性あり
可能性なし
可能性あり
可能性なし
可能性なし
血胸をきたす可能性あり
局所の血腫形成
血胸をきたす可能性あり
局所の血腫形成
局所の血腫形成
困難
簡単
簡単
簡単
簡単
左側穿刺の場合可能性あり
可能性なし
可能性なし
可能性なし
可能性なし
透視下穿刺が必要
気 胸
動脈穿刺
止 血
リンパ管穿刺
大腿静脈
内頸静脈
前腕静脈
上腕静脈
熟練を要す
超音波の使用が推奨される
比較的簡単
熟練を要す
超音波の使用が推奨される
直視下では容易
透視下では熟練を
要す
大関節をまたがない
Pinch-off の可能性あり
股関節をまたぐ
大関節をまたがない
肘関節,肩関節を
またぐ
肘部でカテーテル
破損の危険性あり
肩関節をまたぐ
深部静脈炎
おこさない
おこさない
おこさない
頻度が高い
可能性あり
鎖骨下
静脈内血栓
可能性あり
症状が出にくい
おこさない
可能性あり
症状が出にくい
可能性あり
症状が出やすい
可能性あり
症状が出やすい
ポート留置部
乳房の大きい肥満女性は
立位でポートの位置移動
の可能性あり
肥満例では,脂肪の
多い場所に留置する
と穿刺が困難
留置部位決定が困難
半袖の着衣で葉留
置部位が目立つ
留置部位決定が
困難
ポートの穿刺
簡単
肥満例では穿刺がや
や困難
簡単
簡単
左側留置では剤で
の穿刺がやや困難
穿刺時の恐怖感
強い
羞恥心の方が強い?
やや強い
なし
なし
留置時
血管穿刺
大関節
7. 動静脈瘻
動静脈瘻が形成されると,穿刺部位からの出血が止
まりにくく,血腫形成をきたす場合がある。カテーテ
ルを抜去し止血を行い,その後他部位からの留置を考
慮する。
留置手技の Tips
留置手技の詳細については他文献に譲り ,前腕部
留置に際しての留意点について述べる。
1. 術前に患者と伴に,デモ用のポートを用いて留置後
3)
8. 不整脈
ガイドワイヤ操作時やテーテル挿入時に,洞結節に
触ると不整脈が発生することがある。ガイドワイヤや
カテーテル挿入は透視下に行い,心臓の中に深く入る
ことがないよう操作することで避けられる。
9. 心臓,大血管穿孔
固めのカテーテルを挿入する場合や,ガイドワイヤ
操作時に盲目的な操作や不注意な操作を行った場合,
極めてまれに右心房や上大静脈を穿孔したという報告
がみられた。透視下操作,かつ柔らかいカテーテルが
使用されるようになって報告はみられなくなっていた
が,最近医療訴訟となった症例がインターネット上の
医療ニュースで報道された。
10. カテーテルが血管内に引き込まれた
手技上の問題であるが,カテーテルとポートを接続
する際,カテーテルを血管内へ押し込んでしまった症
例が報告されている
(私信)
。
54(188)
図 1 皮下トンネル内でのカテーテルのたるみ
皮下トンネルが長すぎたり,皮下ポケット部が大
きすぎたりすると,同部でカテーテルがたわみ,
カテーテル先端が逸脱してしまうことがある。
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:森田荘二郎
技術教育セミナー / CV ポート
にも違和感のない部位を確認しておくことが望まし
い。肘に荷物を持つ機会が多い職業などでは,あえ
て前腕部留置を行う必要はない。
2. 尺側静脈のすぐ外側を上腕動脈が走行するため,上
腕動脈の拍動が触れなくなるような強い駆血は行な
わず,上腕動脈の拍動を確認しながら誤って動脈を
穿刺することがないような方向を決定する。
3. 直視下に穿刺が困難な場合,あるいは痩せていて肘
部の屈曲により表在血管が折れ曲がり,滴下不良を
きたす恐れがある場合は,末梢側のルートから倍希
釈の造影剤を注入し,透視下で屈曲の影響を受けに
くい深部の尺側肘静脈を穿刺する。
4. 透視下穿刺では,血管への刺入部が肘関節より中枢
側にならないよう注意する。皮下トンネルの中でカ
テーテルが肘部をまたぐと,折れ曲がりによる破損
の原因になることがある。
5. 皮下トンネルが長すぎると,カテーテルのたるみの
原因となることがある(図 1)。適切な長さ,走行で
あるかどうか透視で確認することも必要である。
6. 術前の CT で腋窩静脈~鎖骨下静脈~上大静脈まで
の走行が確認できない症例では,穿刺針刺入後の
造影は,留置側の鎖骨下静脈の情報を知る上で重
要である。症例によっては鎖骨下静脈が閉塞してい
たり(図 2a)
,左上大静脈遺残により(図 2b)
,カテー
テルを上大静脈に進められないことがある。この
ような場合には,患者に承諾を得た上で対側に留
置する。
7. ガイドワイヤは,静脈弁や静脈壁を損傷しないよ
a
b
図 2 a : 鎖骨下静脈閉塞
50 歳代胃がん頸部リンパ節転移症例:穿刺した後にガイドワイヤが上大静脈に挿入しにくいため,穿刺部か
ら造影を行った。リンパ節転移により,鎖骨下静脈が閉塞し側副血行路が発達していたため,右側からの留
置に変更。
b : 左上大静脈遺残
左上大静脈遺残がみられる
(矢印)
。先端が留置されると血栓形成が起こりやすいため,右側への変更が必要。
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第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
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う,注意深い操作を行う。特に心臓側では,透視画
面でみえないところで操作しないよう注意する。盲
目的な操作は,静脈穿孔,心臓穿孔の原因ともなり
かねない。
8. ガイドワイヤに沿ってカテーテルを血管に挿入する
際,抵抗が感じられても力を入れて無理に押し込も
うとせず,カテーテルを血管に当て,指先で回しな
がら数回出し入れを繰り返せばすっと入ることが
多い。
9. カテーテルを皮下トンネルに通す時,最後の直線化
に際し折れ曲がりができないように注意する。同部
での折れ曲がりが破損の原因となる場合もある
(図3)
。
10.カテーテルとポートを接続する際,カテーテルが血
管内に引き込まれないように注意する。接続時には
カテーテルの位置は固定したままで,ポート接続部
をカテーテル内に押し込むように操作する。また,
カテーテルを血管から少し引き抜いた状態で操作し,
接続後に適切な位置に押し込むようにしてもよい。
11.ポートは,前腕部や上腕部は皮下脂肪が薄いため,
高さが低いものが適している。しかし,高さが低く
ても箱形に近いものはポートと皮下組織の間に dead
space が生じ,血液等の物質が貯留し感染の温床と
もなりかねない。また,
固定用の穴があいているポー
トは,皮下組織が穴に巻き付くように増殖してくる
ため,ポートの摘出に際し難渋することがある。
12.皮下ポケットの大きさが適切であれば,ポケット内
でポート反転・カテーテル逸脱をきたすことはない
ので,皮下組織への固定は行っていない。ただ,初
心者が皮下ポケットを作成すると扇型になることが
多く,ポケットの奥が予想外に広くなり,ポートの
遊びにより反転・逸脱をきたす原因となるので,ポー
トよりも二回りくらい大きな長方形が作成できる技
術を指導することが必要であろう。
13.皮下ポケットに血腫を作らないよう,ポートを留置
する前には止血の確認は厳重に行う。
前腕部留置に関連した使用中の有害事象
次に前腕部留置に特徴的と考えられる有害事象と,
4)
その対処法について述べる 。%は当院での発生頻度
を示す(n=4,514)
。
1. 滴下不良
肘部の屈曲によりカテーテルが折れ曲がり,点滴が
落ちにくくなることがある(1.8%)
。滴下が停止して
しまうと,カテーテル閉塞の原因となることもあるた
め,どのような肢位で滴下不良になるのか,患者と共
に観察しておく。また,穿刺針が抜けていても滴下不
良をおこすため,穿刺針は適宜上から押して,抜けて
いないか確認することが必要である。
2. 血栓性静脈炎
前腕部留置では,カテーテルの血管内走行距離が長
くなるため,血栓性静脈炎をきたすことがある(0.9%)
。
症状としては,カテーテルの走行する血管に沿った発
赤,硬結,疼痛がみられる。通常は湿布処置や抗炎症
剤で対応可能である。血栓性静脈炎が原因でシステム
抜去にいたる症例は,初期症例で橈骨静脈から留置し
ていた時にみられたが,尺側静脈から留置するように
して以来,経験していない。
3. 鎖骨下静脈血栓
カテーテル周囲に血栓が形成されることがある。鎖
骨下静脈血栓が生じると,留置側上肢が無痛性に腫脹
する(0.8%)
。鎖骨下静脈血栓が疑われたら,末梢静
脈からの造影で血栓の存在を確認し,認められたら
Ⓡ
抗血小板剤( プレタール 50~100 ㎎)を 4 週間ほど投与
する。
4. カテーテル逸脱
テーテル先端が体位によって位置が変わることがあ
る(図 4)。左腕頭静脈,奇静脈に先端が逸脱した場合
(0.2%)
,血栓形成が多いとの報告がみられる。位置の
修正,あるいは入れ替えが必要となる。
図 3 皮膚穿刺部でのカテーテルの屈曲
カテーテルを皮下トンネルに通す時,皮膚穿
刺部でカテーテルが折れ曲がっている(矢印)
。
破損の原因となる可能性がある。
56(190)
5. カテーテル破損・断裂
肘部で 1.2%にカテーテル破損がみられた。破損部
から薬液の漏出がおこると,漏出部に冷感,腫脹,疼
痛を訴える。また,カテーテルが破損した状態では,
圧格差によりカテーテル内に血液が逆流し血栓が形成
され,閉塞の原因となる場合もある。
さらに,破損部位でカテーテルが断裂する場合があ
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る(0.3%)
。断裂したカテーテルは早急に除去しなけ
ればならない。
6. カテーテル抜去困難
長期間留置症例で,カテーテルと血管壁が強固に
癒着をきたし,抜去困難となった症例を 3 例経験した
(図 5)
。感染を合併した 1 例は,鎖骨下静脈のカットダ
ウンにより外科的に摘出した。他の 2 例は,ポートの
み取り出し,カテーテルは無理に引っ張り出さず,そ
のまま留置しているが,特に有害事象は認めていない。
治療が終了して使わなくなった,もしくは使う頻度
が 1 ヵ月以上の間隔になる場合には(例えば月に 1 回の
受診で採血の目的だけで留置しているような場合)
,シ
ステム抜去を推奨している。
5)
有害事象早期発見ならびに予防のための留意点
留置部位にかかわらず,実際の使用にあたって,有
害事象を早期に発見する上で特に重要と考えられる項
目について述べる。
1. カテーテル先端の位置確認
6)
Forauer ら は,末梢留置の場合には,外転位から内
転位に腕の位置を変えることで,約 20 ㎜尾側にカテー
テル先端が移動すると述べているが,われわれの検討
でも上肢の外転により 18.0±12.7 ㎜(n=165)頭側へ移
7)
動する結果が得られた(図 4)
。三上ら は,気管分岐
部より約 3 ~ 4 ㎝尾側が上大静脈右心房境界部である
ことを意識して,気管分岐部より約 2 ~ 3 ㎝尾側の位
a b
図4
体位によるカテーテル先端の動き
a : 躯幹に上肢をつけた時
b : 肩の高さまで上肢を外転した時
上肢の外転により,カテーテル
先端は頭側へ移動した。
図5
カテーテルが抜けない
ポート感染が疑われた
ためシステムの抜去を
試みたが,上腕部でカ
テーテルがちぎれた。
スネアによる大腿静脈
からのアプローチでも
カテーテル抜去が困難
であったため,鎖骨を
切開しカットダウン法
で除去した。
(191)57
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:森田荘二郎
技術教育セミナー / CV ポート
置で留置するのがよいと述べている。
経過中,定期的な胸部 X 線撮影で,カテーテル先端
の位置を確認することが推奨されている。
2. 感染
(いわゆる「カテーテル熱」)
ポート埋め込み部に発赤や排膿がみられたら感染の
診断は容易であるが,留置部皮膚表面に見た目は変化
がなくとも,システムを使って点滴をしたり,薬を投
与したり,洗浄したときに発熱をきたす場合がある。
このような場合には,カテーテル内に感染をおこして
いる,いわゆる「カテーテル熱」を疑ってみる必要が
ある。
カテーテル感染が疑われたら,ポートと末梢から同
時に 2 ヵ所採血し,同時に血液培養を開始,ポート血
での培養が末梢血での培養より2 時間以上早く陽性と
なることで,カテーテル由来血液感染(catheter related
blood stream infection:CR-BSI)が診断可能と報告さ
8)
れている 。
カテーテル感染と診断されたら,早急にシステムを
抜去する。抜去して解熱したとしても,感受性のある
抗菌剤を 7 ~14 日続けて服用させることが推奨されて
いる。
3. 注入時の患者の訴え
リザーバーシステムがトラブルなく機能している場
合には,使用中患者は特に何も訴えることはない。注
入時にポート留置部,カテーテル走行部,血管貫通部
などに痛み,冷感,腫れ,違和感などを訴えたら,た
とえ注入速度を落として症状が軽快したとしても,破
損を疑い造影を行う。しかし,造影にて漏れが証明さ
れなくとも,カテーテルに小さな亀裂が生じているよ
うな場合には,造影剤の粘稠度により画像上漏れがみ
られないことがあるので,症状が続くようなら抜去を
考慮した方がよい。
4. 逆血の確認
一般的にポートからの逆血確認,採血および輸血は
カテーテルやポート内での血栓形成の原因となるので
禁忌とされてきた。しかし,著者らの検討では,点滴
が落ちていないことに気がつかず放置したり(針の抜
浅)
,カテーテル破損,断裂,ポート破損などがおこり,
カテーテル内へ血液が逆流し,血栓が形成され閉塞を
きたすことが原因という結果が得られた。つまり,管
理がきちんと行われていれば,逆流確認および採血・
輸血のルートとして使用してもシステムが閉塞するこ
1,9)
とはないことを報告した 。
米 国 輸 液 看 護 協 会(Infusion Nurses Society)か ら
発 行 さ れ て い る Policies And Procedures for Infusion
10)
Nursing には,Implanted Port の取り扱い項目の中に,
「10. Aspirate for brisk blood return to confirm patency
(著者訳;血液を吸引し,スムースに逆流してくるこ
58(192)
とで開存性を確認する)」と明記されている。
5.
「ポンピング注入」
「陽圧フラッシュロック」を励
行する
有害事象の予防,および早期に発見する上で,特に
重要と考えられる使用上のコツとしては,
「ポンピン
グ注入」
「陽圧フラッシュロック」が挙げられる(表 2)。
管理を行うにあたり,この 2 つの技術を徹底すること
9)
で,有害事象のほとんどは予防出来ると考えている 。
表 2 管理上の超重要ポイント
ポンピング注入
●
シリンジをリズミカルに押しながら注入。
■
陽圧フラッシュロック
●
ポンピング注入の最後に,洗浄液を注入しながらインター
ロックを閉じる。
■
血液のカテーテル内への逆流を防ぐ。
■
逆流防止弁付きカテーテルでも行った方がよい。
■
これだけは言いたい
前腕部留置の利点としては,鎖骨下静脈穿刺に伴う
重篤な有害事象(気胸,血気胸,縦隔血腫,リンパ管損
傷など)がみられないこと,使用時に患者の恐怖感が
少ないこと,軀幹留置よりも感染症の発生頻度が低い
こと,出血傾向のある症例でも,皮下出血程度で重篤
な有害事象をきたすことなく留置可能である点が挙げ
られる。また静脈が直視できる場合には穿刺が簡単で,
経験の浅い研修医でも,一人で安全に短時間で留置す
ることができることも大きな利点と考えられる。
前腕留置と鎖骨下静脈留置の優劣が議論される場合
があるが,重大な有害事象,例えば鎖骨下静脈穿刺の
場合にみられる気胸と,前腕留置でみられる血栓性静
脈炎との発生頻度を比べて,血栓性静脈炎の発生頻度
が高いため,前腕留置が劣っているとの報告もみられ
る。しかし,致死的な有害事象を来す危険性を持った
手技と,重篤な有害事象が皆無であるが,軽微で対応
可能な有害事象の発生頻度が高い手技との優劣を論じ
ること自体に疑問が残る。
特別な機器がなくても,誰がやっても,どこでやっ
ても,患者にとって安全で,安楽で,長期間トラブル
なく薬剤投与のルートとして使用できるかどうかが最
も重要なことであるから,フェアな目でみて患者に
とって最適と考えられるルートを選択したい。
おわりに
CV リザーバー(ポート)は,化学療法の対象患者が
安全で,安楽に,しかも確実に抗がん剤投与が受けら
れる目的で留置されることが多い。治療が完遂するま
で,有害事象の発生がなく管理するポイントとしては,
①清潔操作を厳守する,②逆血を確認する,③ポンピ
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:森田荘二郎
技術教育セミナー / CV ポート
ング注入にて洗浄を行う,④陽圧フラッシュロックを
厳守する,⑤注入中の患者の訴えに注意する,につき
る。今後は,治療に訪れる患者にできるだけ苦痛を与
えないよう,
「一患者,一来院,一穿刺」の考え方を普
及させていきたい。
【参考文献】
1)Teichgraber UK, Gebauer B, Benter T, et al: Central
venous access catheters: radiological management
of complications. Cardiovasc Inter vent Radiol 26:
321 - 333, 2003.
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ポートの使い方~安全挿入・留置・管理のために.
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4. 森田荘二郎:インフォームド・コンセントを得るた
めの究極の説明文書~中心静脈リザーバー(ポート)
を留置される患者に説明しなければいけない項目
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Radiol 11: 1315 - 1318, 2000.
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誌 26 : 169 - 174, 2011.
8. Mermel LA, Allon M, Bouza E, et al: Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of
intravascular catheter-related infection: 2009 update
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9. 森田荘二郎:中心静脈リザーバー,吉岡哲也,森
田荘二郎,齋藤博哉(編著),IVR 看護ナビゲーショ
ン.医学書院,東京,2010,p110 - 115.
10. Infusion Nurses Society: Policies and Procedures
for Infusion Nursing 4th ed., Untreed Reads, 2006.
(193)59
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:山本和宏
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
CV ポート
2 . 上腕・前腕留置型中心静脈ポート:留置方法の工夫
大阪医科大学 放射線医学教室
山本和宏
Implantable Central Venous-access Port System
of the Upperarm and Forearm :
Tips & Tricks for Port Indwelling
Department of Radiology, Osaka Medical College
Kazuhiro Yamamoto
Key words Venous access port, Peripheral arm, Implantation technique
はじめに
悪性腫瘍患者,ならびに全身状態不良患者において
は,採血・点滴のための頻回の静脈穿刺,抗癌剤の注
射処置に伴う静脈炎や薬剤漏出によって起こる皮膚障
害が少なからず経験される。その対策として欧米では
埋没型中心静脈カテーテル留置術が広く普及し我々の
施設では,前腕留置または上腕留置型中心静脈カテー
テル法を積極的に施行してきた。
この部位を我々が選択している理由は,①留置が簡
単,②留置時の手技による合併症が少ない,③穿刺時
の恐怖感・ストレスが少ない,④合併症出現時対処し
やすい,⑤術者のストレスも少ない,⑥外科的手技が不
慣れな放射線科医でもポート留置が可能,⑦報告され
ている鎖骨下留置と合併症発症確率は変わらない,で
ある。
しかし,CV ポート使用の増加に伴い,挿入時の合併
症以外に,CV ポート使用中の合併症は少なからずとも
出現する。今回,上腕・前腕留置型中心静脈ポートを
さらに広く普及するために,合併症を減らす目的で考
案した CV ポート留置時の工夫を報告する。
留置における工夫
1.前腕留置においての皮下トンネル作成の工夫;
1)
“サーフロ返し”
我々は前腕留置式中心静脈カテーテル法を積極的に
施行してきた。この方法は肘関節部での皮下浅層を
通過したカテーテルが伸展・屈曲に伴う曲げ応力がカ
テーテルの一点に集中しやすいことが問題とされて
いるが,その末梢側に作成した皮下トンネルの状態に
60(194)
てカテーテルがたわむことが問題のひとつと考えられ
る。皮下トンネル内のカテーテルのたわみの原因とし
ては皮下トンネル作成方法の問題が考えられる。皮下
トンネル作成は通常はコッヘル鉗子にて作成していた
が,コッヘル鉗子では皮下トンネルがカテーテルに対
しては広く,カテーテルの遊び横方向にできてしまう。
それが肘関節の屈曲・伸展の運動に伴い,カテーテル
留置後初期の皮下トンネルでのカテーテルのたわみに
なると考えた。
つまり,留置するカテーテルに対して,作成される
皮下トンネルが広く,これが遊びになり,カテーテル
が皮下に定着するまでにたわみの原因となり,それが
カテーテル損傷の原因の誘因となる。
ここで,皮下トンネルの遊びは,留置初期には無い
ほうがカテーテルの損傷が起こりにくいという考えか
ら 22 G カテラン針と 14 G サーフロ針を使用して皮下ト
ンネルを作成し,遊びが少ない皮下トンネルを低侵襲
にて作成することを考案した
(図 1)
。
まず,皮下トンネルはカテーテルを上大静脈に留置
後,皮下ポケットを作成し,穿刺部から皮下ポケット
側へ向かって 22 G カテラン針を皮下深部に進める。次
に皮下ポケット側から22 G カテラン針に沿わして,14 G
サーフロ針を進め,穿刺部から皮膚上に 14 G サーフロ
針先端が出ると,14 G サーフロ針の内筒針と 22 G カテ
ラン針を抜去しする。次に,カテーテルを 14 G サーフ
ロ針の外筒針内を通して皮下ポッケト部に出し,サー
フロ針の外筒針も取り去り,ポートと接続して,皮下
1)
トンネルとした
(図 2a~f)。
この方法にて,侵襲の少ない皮下トンネルが意図し
た経路を容易に作成でき,皮下トンネル内での肢位や
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:山本和宏
技術教育セミナー / CV ポート
コッヘル鉗子にて作成
A 14-G SURFLO I.V. Catheter
ポート
22G Cathelin Needle
サーフロ返しによる作成
length: 70 ㎜ , TERUMO, Tokyo, Japan
A 14-G SURFLO I.V. Catheter
22G Cathelin Needle
length: 64 ㎜ , TERUMO, Japan
図 1 前腕留置においての皮下トンネル作成の工夫;“サーフロ返し”
コッヘル鉗子にての作製とサーフロ返しによる作製
22Gカテラン針
図 2 前腕部でのサーフロ返しによる皮下トンネル作成の手順(文献 1 より引用)
14Gサーフロ
b1 c1
b2 c2
d1 e1
f
d2 e2
a
(195)61
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反対側のカテーテルとは
まだ接触していない
目的:カテーテルを180°屈曲
させたときに発生する
ひずみ
(伸び)
を検討する
反対側のカテーテルと接触
局所的な
くびれ発生
CAE(Computed Aided
Engineering)analysis
対称面
160
140
120
ひずみ[%]
180°
に
屈曲
100
80
60
40
対称性から
カテーテルの
1/4部分を
モデル化
一様な変形
20
対称面
0
0
45 90 135 180
屈曲角度[°]
反対側との接触継続
図 4 CAE における屈曲角度と応力の相関関係
解析モデル
変形図
図 3 アンスロン P-U カテーテルの Computed Aided
Engineering:CAE 解析
体位によるカテーテルのたわみ,それに伴うカテーテ
ルの損傷は減少した。
2.肘関節の可動範囲の検討:“Computed Aided Engineering(以下 CAE)解析”
(図 3)
カテーテル損傷の原因の一つに肘関節部において皮
下を走行したカテーテルが肘関節の屈曲・伸展に伴う
曲げ応力がカテーテルの 1 点に集中しやすいためと疑
われるが,アンスロン P-U カテーテルの CAE 解析で
は屈曲 100 度まではひずみが 100%以下で,特別肘関
節の集中的な負荷がかからない限り問題ないことを証
明している(図 4)。
これを参考にし,X 線写真にてのカテーテルの変形
から,カテーテルの状態を把握できることができる
2)
(図 5)。
また,もし,応力集中によってカテーテルの片側に
亀裂が生じたとしても,残った側のカテーテルは 1 枚
の板のようになるために,引き続き曲げが加えられた
としても応力は集中しにくいために,カテーテルの完
全断裂は起きない。
3.カテーテル先端移動:“肩甲骨の可動域の制限”
文献的にはカテーテル留置時にカテーテル先端の位
置に関しては,右第 3 肋軟骨,気管分岐部,鎖骨下端
2 ㎝下方まで,右鎖骨下静脈経由 12 ㎝,左鎖骨下静脈
3)
経由 15 ㎝など種々の記載がされている 。一般的には
4)
右心房境界直上の上大静脈が最適とされているが ,
CVP カテーテルの留置後,安定するまでは前腕・上腕
留置だけでなく,内頸・鎖骨下静脈カテーテルの先端
5,
6)
位置移動を減らすための工夫は報告されていない 。
62(196)
アンスロンP-U
カテーテルのCAE解析
Grade
変形の程度
(X-P)
意義
指示
0
変形なし
ー
ー
1
軽度の変形
内腔狭小化なし
不明瞭
1~3ヵ月毎の
X-P確認
2
変形
内腔狭小化あり
Fxの
可能性有
抜去
3
Fx
カテ逸脱
早急に抜去
Hinke DH, et al: Radiology 177: 353-356, 1990
図 5 カテーテル変形の分類(文献 2 より一部改変)
CAE を参考にして,X 線写真にてのカテーテルの
変形から,カテーテルの状態を把握することがで
きる。
我々は,前腕・上腕に CVP 留置後,臨床上問題とな
る程度のカテ先端移動の原因は,
1)留置直後は,カテーテルと血管穿刺部,皮下組織と
の癒着が未完成であること。
2)アンスロン P-U カテーテル(東レ・メデイカル)は,
材質がセグメントポリウレタンで,温度依存性があ
り,挿入後,体温で温められることにより柔軟性が
増す特性がある。つまり,カテーテル挿入直後と留
置後,生体にカテーテルが安定するまでには,特に
鎖骨下静脈から上大静脈にかけてカテーテルの形態
が異なること。
3)カテーテル挿入時早期の,カテーテル留置側の肘・
肩関節の運動,特に肘関節屈曲・前腕回内・肩内転・
肩甲骨挙上によるカテーテルの移動
の 3 項目を考えている。
この 3 項目に対しての理解と対策が,
“CVP ポートの
カテーテルが挿入された場合,カテーテル先端の移動
を前提に留置位置を決める必要性”を把握でき,カテー
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
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テル移動による合併症を減少させることができると考
えた。
まず,1)に関しては刺入部血管の損傷に伴い,血小
板増殖因子(platelet-derived growth factor;PDGF)の
産生に伴い,血小板が血管損傷部に凝集し,次にフィ
ブリンの形成を誘導し,刺入部血管の修復を行い,カ
テーテル・皮下組織・刺入部血管との癒着が形成さ
れる。つまり,挿入後,これが形成されるまでは,皮
下組織内のカテーテルと血管内のカテーテルの抵抗値
が違うことによるディスロケーションが起こると考え
た。このため,前腕部留置後は,2 日間は留置部位の
シーネ固定が必要と考えている。上腕留置後は固定は
施行していない
(図 6a ~図 6d)
。
次に 2)に関しては,挿入直後とカテーテルが血管内
で安定するまでは,特に鎖骨下静脈~腕頭静脈~上大
静脈上部にかけてカテーテルの形態が異なる。
鎖骨下静脈-腕頭静脈-上大静脈にかけて,血管壁
の内側
(以下 In)
,血管壁の外側
(以下 Out)
に対して 3ヵ
所でのカテーテルの走行を考えると,挿入時にはカ
テーテルは血管の外側壁に沿って走行するため,Out-
皮下
皮下
カテーテル
カテーテル
ある程度固定?
静脈
刺入部血管の損傷
→ PDGF(血小板増殖因子)の産生
→ 血小板の凝集
→ フィブリンの形成
刺入部血管の損傷
→ PDGF(血小板増殖因子)の産生
→ 血小板の凝集
皮下
カテ・組織・血管との癒着の形成
静脈
カテーテル
皮下
固定されるまでは
ズレやすい
カテーテル
静脈
刺入部血管の損傷
→ PDGF(血小板増殖因子)の産生
→ フィブリンの形成
→ 血小板の凝集
→ 刺入部血管の修復
静脈
挿入後,皮下のカテーテルと血管内のカテーテルの
抵抗値が違うためにディスロケーションが起こる
図 6 カテーテル挿入部での刺入部血管との変化
皮下組織内のカテーテルと血管内のカテーテルの抵抗値が違うためにディスロケーションが起こる。
Out-Out-Out から In-In-Out へ
Out-Out-Out から In-In-Out へ
a b
c d
SVC 壁への接触
図 7 カテーテル挿入直後から安定するまでの走行の変化
挿入直後とカテーテルが血管内で安定するまでは,特に鎖骨下静脈~腕頭静脈~上大静脈上部に
かけてカテーテルの形態が異なる。
走行形態は Out-Out-Out から In-In-Out へ。
a b c
(197)63
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Out-Out の走行形態を示す。一定期間を示すと,血管
と親和性を持つセグメントポリウレタンの性質から鎖
骨下静脈,腕頭静脈では血管内側壁に沿って走行する
ようになる。上大静脈では外側壁に沿って位置し,カ
テーテルは In-In-Out の走行形態となる傾向を示す。
このために,カテーテルの先端が移動しすぎると先端
が,上大静脈の外側壁に直角に接するようになり,フィ
ブリンシースなどが起こりやすくなるために,術前の
鎖骨下静脈から上大静脈にかけての造影にて必ず,太
さ・走行形態を確認して,カテーテルが血管に安定し
たときの状態をイメージした上でのカテーテル先端の
位置が必要と考える
(図 7a ~図 7c)
。
最後に 3)に関しては,留置後,一定期間の可動域
の制限にて,カテーテル先端移動による合併症減少に
有効と考えた。カテーテル留置側の肘・肩関節の運動
制限のなかで,特に肘関節屈曲・前腕回内・肩内転・
肩甲骨挙上を考えたが,肘関節屈曲・前腕回内・肩内
転を行った時と比し,肩甲骨挙上を行った時の方が,
カテーテルの先端移動が著明であることが明らかに
なった(図 8a ~図 8d)。我々は留置後 2 日間の留置側
・肘関節屈曲
・前腕回内
・肩内転
・肘関節屈曲
・前腕回内
・肩内転
・肩甲骨挙上
・肩甲骨挙上
a b
c d
図8
カテーテル先端の移動
肘関節屈曲・前腕回内・肩内転
を行った時と比し,肩甲骨挙上
を行った時の方が,カテーテル
の先端移動が著明である。
18G 導入針刃面形状比較
フッ素系
ポリエチレン系
優れた耐キンク性
TIF Needle(18 G)
内針外径 0.90 ㎜
刃 面 長 2.63 ㎜
サーフロー(18 G)
内針外径 0.90 ㎜
刃 面 長 3.05 ㎜
a b
c
ETFE
64(198)
ポリエチレン
図 9 穿刺針:TIF NeedleTM(テルモ)
“ブレない・逃げない穿刺感”
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の肩甲骨の挙上を制限すること,つまり,
“留置側の脇
を閉じたままにすること”によって,カテーテルの先
端の位置移動を限りなく少なくできた。
4.穿刺針:TIF Needle (テルモ)
:
“ブレない・逃
げない穿刺感”
X 線透視下静脈造影下,エコーガイド下に上肢静脈
TM
を経皮的に穿刺する時に,我々は TIF Needle を使用
する。
従来使用している SURFLO I.V.Catheter は,外針の
素材がフッ化エチレンとエチレンの共重合によって得
られるフッ素系樹脂による ETFE で,耐久性,長期留
置時の生体適合性が高いのが特徴である。
TM
一方,TIF Needle は外針の素材はエチレンの重合
によって得られる炭化水素系の汎用樹脂によるポリエ
チレンで柔軟性が高く,内針はショートベベル化による
小さい針先,刃面のバックカット形状を採用している。
これにより穿刺に関しては,より直進性に優れ,刺通
抵抗を低減することにより血管確保時の確実性が向上
し,ブレない・逃げない穿刺感を実現し,外針は柔軟
性のある素材により,キンクを防止する
(図 9a~c)
。
TM
この TIF Needle は TERUMO イントロデューサー
IIH Fr.6 にセットされている動脈穿刺用のプラスチック
導入針で硬い皮膚も切れ味良好で,術者にストレスの
ない穿刺性をもたらしてくれる。我々はカテーテル挿
入時にダイレーターをこのセットから使用するために,
通常,CVP 留置時に準備されているデバイスである。
TM
おわりに
CV ポートは,留置より管理が大事・大変である。
しかし,CV ポートを本当に知っている施設は少なく,
知ることによって合併症も減り,またはメンテナンス
することができる。
我々は,カテーテル先端,皮下トンネル内のカテー
テルの合併症を減らすために,留置後はカテーテルは
7~10)
,CV ポート留置後,一
移動することが前提の上で
定期間の可動域の制限にて,カテーテル先端移動によ
る合併症減少に有効と考えられる。患者が前腕留置の
時は,留置後 2 日間のシーネ固定と留置側の脇を閉め
る,また患者が上腕留置の時は 2 日間の留置側の脇を
閉めることでカテーテル先端の想定外の移動が制限で
き,CVP カテーテルの留置後,カテーテル先端移動,
皮下トンネル内のカテーテル移動による合併症を減ら
すことができる。
謝辞
稿を終えるに当たり,ご協力頂きました東レ・メディ
カル株式会社に深謝申し上げます。
【参考文献】
1)Kazuhiro Yamamoto, Masato Tanikake, Hiroshi
Arimoto, et al: Scheme for creating a subcutaneous
tunnel to place an indwelling implantable central venous access system in the forearm. CVIR 31: 1215 1218, 2008.
2)D H Hinke, D A Zandt-Stastny, L R Goodman, et al:
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access devices. Radiology November 177: 353 - 356,
1990.
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置. 臨床放射線 57: 215 - 225, 2012.
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continuing controversy. J Vasc Interv Radiol 14: 527534, 2003.
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J Vac Interv Radiol 21: 976 - 981, 2010.
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脈から挿入された中心静脈ポートのカテーテル先
端部の適切な位置に関する放射線学的指標. IVR 会
誌 26: 169 - 174, 2011.
7)Kim HJ, et al: Safety and effective central venous
catheterization in patients with cancer: prospective
observation study. J Korean Med Sci 25: 1748 - 1753,
2010.
8)Orme RM, et al: Fatal cardiac tamponade sa a result
of a peripherally inserted central venous catheter: a
case report and review of the literature. British journal of anaesthesia 99: 384 - 388, 2007.
9)Nazarian GK, Bjar nason H, Dietz CA Jr, et al:
Changes in tunneled catheter tip a postion when a
patients I s upright. J Vasc Interv Radiol 8: 437 - 441,
1997.
10)Forauer AR, Alonzo M: Change in peripherally inserted central catheter tip postion with abduction
and adduction of the upper extremity. J Vasc Interv
Radiol 11: 1315 - 1318, 2000.
(199)65
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:竹内義人
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
CV ポート
3 . 鎖骨下静脈経由ポート留置の入室から退室まで
国立がん研究センター中央病院 放射線診断科
竹内義人
Practice of Transsubclavian Central Venous Port Placement
Department of Diagnostic Radiology, National Cancer Center Hospital
Yoshito Takeuchi
Key words Subclavian vein, Central venous port, Image guidance
はじめに
中心静脈(CV)ポート留置法において,鎖骨下静脈経
由は最もよく行われている血管アクセス法の一つであ
る。本法のメリットは,感染性の低さ,経路上に関節
の介在がないためカテーテルの移動が少ない,ポート
を埋入する前胸部は針の固定性に優れる,などである
が,一方,気胸や血胸などの胸腔内合併症を起こしう
ることに留意すべきである。しかしながら,適切な画
像誘導法により,鎖骨下静脈アクセス特有の合併症は
1~5)
低減できる 。当院では 2006 年より鎖骨下静脈アク
セスに対して放射線診断科主導による安全管理体制を
敷き,現在では年間約 500 件のポート留置を行ってい
る。本稿では,当院で実践している鎖骨下静脈経由の
CV ポート留置手技の実際を述べる。
診療保険点数
抗がん剤・除痛目的と中心静脈栄養を目的の場合で
は異なる。すなわち頭頸部他へのポート留置の場合,前
者 16,640 点(K611)
,後者 10,800 点(K618)
である。ポー
ト抜去に関しては,抗がん剤・除痛目的のポート留置
例に限り,創傷処理(K000,筋肉臓器に達するもの・直
径 5 ㎝未満,1250 点)
で算定できる
(平成 24 年度改定)
。
接遇と態度
画像誘導下の CV 穿刺は,ややもすれば「簡単なやっ
つけ仕事」と見なしがちだが,これでは技術向上に繋
がらないばかりか,医療者として患者に対しても失礼で
ある。IVR 診療における一連の系統的な穿刺技術のな
かで,最もベーシックな技術として修練すべきである。
情報収集
患者情報はアクセスやポート留置位置を決定する上
66(200)
で欠かせない。年齢,性別,全身状態,出血傾向の有
無,原病の種類,治療歴,ポートの使用目的(抗がん療
法 / がん緩和 / 中心静脈栄養)等による一般的な項目,
ならびに職業,ライフスタイル,趣味,利き腕,胸部病
変や解剖変異などによる特殊項目を収集し,
[左 / 右]・
[鎖骨下 / 内頸 / 上腕 / 前腕静脈ほか]の組み合わせを
総合的に検討する。
心構え
研修医は,技術が未熟なため手技に一杯一杯なのは
許される。しかし,謙虚な心で患者に接し,修練に勤
しむ態度は忘れてはならない。各種機器やデバイスの
使い方は必ず事前に練習しておく。
「本番での練習」は
患者に対して無礼である。
一方,完全覚醒下の顔に近いため,指導医にとって
は手取り足取りの指導がしづらい処置である。患者の
状態を注意深く見ながら早めに交代して合併症を未然
に防ぐことが求められる。
器具の準備
患者心理として,治療が短時間で終ってほしいのは
当然である。局所麻酔とともに治療は始まる。途中で
手技がもたつくと,不快感や苦痛が加速する。挙句,
術者への不信感も募る。したがって局所麻酔前に,で
きる限りの準備を行っておく。筆者が行っている準備
内容は,ポートやカテーテル類のプライミング,ダイ
レーター曲げ,手早く交換できるようにカテーテルを
30 ㎝程度に切っておく,逆血確認には必ず 3 ㎖シリン
ジを用い穿刺針に接続しておく,持針器に糸針をセッ
トしておく,IVR 器具・切開縫合セット・薬品類の確認,
X 線透視による胸部観察である。準備しながらの四方
山話で患者の緊張をほぐす。
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
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技術教育セミナー / CV ポート
マキシマル・バリア・プリコーション
イソジンやクロルヘキシジンを用いて,片胸から頸
部まで充分広く,3 回しっかり消毒する。乾燥を待って,
滅菌ドレープで患者全身を覆う。術者は手の衛生に加
え,帽子,マスク,滅菌ガウン,滅菌グローブを着用
し,無菌操作に努める。指導医がワンポイント介助に
入る時にも,この原則を遵守する。
局麻と切開
1%キシロカイン注射液 10 ㎖を用いて局所浸潤麻酔
する。本穿刺のリハーサルのつもりで,23G 細径針の
先端をエコー映像下に観察し,穿刺経路を確認する。
皮下組織に 3 ㎖,標的血管近くに 1 ㎖,経路を戻って皮
下~皮内に 2 ㎖を注射する。穿刺予定部に 1 ㎝弱の切開
を加える。皮下組織の剥離は深く広く充分に行う。のち
に皮下トンネルへの屈曲をなだらかにするためである。
血管穿刺
リアルタイムエコー法を用い,穿刺針を長軸方向
に捉えながら標的血管を穿刺する(図 1)
。針先がみえ
ない場合にはむやみに針を動かさず,走査端子を動
かしながら針先の確認と刺入方向を調整する(swing
technique)。穿刺を確認し,抵抗なく静脈血が吸引で
きれば,J 型ガイドワイヤを挿入する。コツは,針が
血管から逸脱しないうちに素早くワイヤを挿入するこ
とである。X 線透視で観察するのはガイドワイヤに挿
入抵抗を感じてからでよい。
シース挿入
CVP キット付属のピールアウェイシースは逆流防
止機能を持たない。ダイレーター先端を前もって曲げ
ておくと,挿入後の経路を調節しやすい。挿入にあた
り,シース外套が皮膚に引っかかってささくれ立たな
いよう,皮切を大きく開ける。必ず X 線透視下に挿入
し,ガイドワイヤが折れないように注意する。ガイド
ワイヤの過信は時として重大な有害事象(縦隔,血管損
図 1 走査端子の長軸方向に沿って穿刺している。
傷)の誘因となるからである。ダイレーター先端のテー
パリングが腕頭静脈レベルに届けば,内筒を固定して
外套のみを進める。ダイレーターの芯は硬いので,組織
損傷を起こさぬよう急峻なカーブを無理して超えない。
空気塞栓の危険
内筒を抜去した瞬間,外気が血管内に吸い込まれる
ことがある(図 2)
。脱水例や咳嗽時に起こりやすい。
稀だが留置すべき有害事象である(< 5%)
。突然の呼
吸困難,血圧低下,不整脈,意識障害によって発症し,
空気塞栓症と呼ばれる。殆どは酸素投与により短時間
で軽快するが,大量吸気時や右左シャントを有する場
合には,脳・心筋梗塞を来しうる。したがって内筒を
抜去してからカテーテルをシースに挿入する時まで油
断禁物である。同様の危険な場面として,ガイドワイ
ヤやサーフロー内筒を抜去した時が想定されよう。予
防策としては,鉗子によるシースクランプ,濡れガーゼ
による外気との遮断,ハイリスク例に対するヘモス
タット・シースの使用,などが挙げられる。
挿管とシース抜去
カテーテルとガイドワイヤは心内でたわませず,下
大静脈まで挿入しておく。この時点では,カテーテル
先端の位置合わせはルーズに行っておく。シース外套
を剥いて抜去する。
ポケット作成
カテーテル刺入部の周辺をよく視触診する。3 ~ 5 ㎝
離れたところに異状なきことを確認し,大きな範囲に
局所麻酔を加える。剥離しやすいように 10~20 ㎖の局
所麻薬剤を用いる(図 3)
。ポートより 1 ㎝ほど大きく横
切開を加え,鉗子で剥離した後,両手の示指でスペー
スを確認する。ポケット内にさばいたガーゼを 1 枚挿
入して,しばらく圧迫止血しておく
(図 4)
。
トンネル作成
穿刺部からポケットまでカテーテルを導出する。簡
図 2 シース内筒を抜去する瞬間は空気塞栓のピンチ。
(201)67
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単な手順だが以下のポイントを踏まえる。すなわち,
穿刺部を十分に剥離することによって,深いところで
滑らかにカテーテルを折り返す。円弧を描くようにモス
キート鉗子を挿入して,曲線状のトンネルを作る
(図 5)
。
穿刺部に折れ癖がつかないようにカテーテルの導出は
注意深く行う(図 6)
。
ポート接続
るように調節して切断して,ポートコネクタにはめ込
む。カテーテルは滑りやすいので,ドライガーゼやゴ
ム管をはめた鉗子でカテーテルの滑り止めをする。カ
テーテル損傷の原因になるので,くれぐれも鉗子で直
接把持しない
(図 7)
。
ポートの埋入
カテーテル先端が右房に数㎝入ったところに位置す
ポリウレタン製カテーテルの折れ癖は損傷の原因に
なる,剪刃の峰をテコにして埋入する(図 8,9)
。創が
図 3 ポケット用の局所麻酔は充分に行う。
図 4 ポケット作成後は挿入ガーゼで圧迫止血する。
図 5 モスキート鉗子によるトンネル作成。円弧(矢印)
を描くように皮下組織を剥離する。
図 6 トンネル作成後
図 7 カテーテルとポートの接続。ゴム管をはめた鉗子
で滑り止めをしている。
図 8 ポートの埋入。剪刃の峰を用いている。
68(202)
第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
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窮屈な場合にはためらわず切開を延長する。
ポートの固定と縫合
ポート固定用の穴から糸を通して皮下組織と縫合固
定する従来の方法のほかに,コネクタ近くのカテーテ
ル周りの皮下組織を縫縮(中縫い)することによって
ポートを固定する方法がある。中縫い法ではポートの
固定と皮下組織への埋没を 1 回の結紮で行うことがで
きる(図 10)
。10 年来やっているが何の問題もない。最
後に,ポケット切開創を 3 箇所のマットレス縫合また
は埋没縫合,穿刺部を 1 箇所の単縫合で閉創,さらに
有鈎ピンセットで創を整え,皮下に溜まった血液をし
ぼって排除する
(図 11)
。
図 9 ポート埋入後
終了~退室
ヒューバー針でポートを穿刺し,ヘパリン製剤 10 ㎖
を注入し,注入抵抗のチェックとともに陽圧ロックす
る。カテーテル経路や異状の有無を胸部 X 線撮影で確
認する。保護テープを貼って創保護するが,出血しや
すい場合には弾性テープを用いて一晩ガーゼ圧迫す
る。患者を検査台から下ろして,無事に退室するまで
気を抜かない。
さいごに
カテーテル
鎖骨下静脈経由 CV ポート留置術の実際を述べた。
ポイントは,種々の IVR に用いられる一連の画像下穿
刺法のうち最も基本的なものと認識すること,リアル
タイムエコーにこだわること,入室から退室まで患者
接遇に手を抜かないこと,である。
糸針
皮下組織
図 10 a : 中縫い法。結紮前の様子。
b : 中縫い法のシェーマ。カテーテル周囲の
筋膜に 2 回糸を通して,W 字状に牽引し
たのちに結紮する。デバイスの固定とと
もに,組織に埋没できる。
図 11 閉創後
a
b
【参考文献】
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