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部分的二次元計算によるエンジン排気騒音の予測

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部分的二次元計算によるエンジン排気騒音の予測
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部分的二次元計算によるエンジン排気騒音の予測
Prediction ofExhaust Noisewith PartialTwo−DimensionalCalculation
*
l
幸茂 造
土 佐 陽 三*2
*
轟.一
春
征 人*4
*
▲﹁
三菱自動車工業株式会社
裕
田木 田
石高 北
技 術 本 部
エンジン排気系の最適化設計において,体積効率向上,騒音低減ばかりでなく,音質まで含めた音響特性の改善が必要となっ
ている.従来の一次元計算法は形状効果が支配的な系では実測との対応が十分でない.一方,系全体を多次元計算すると排気吐
出音の予測まで可能であるが,計算時間が長い.本研究では,管部を一次元で,分岐合流部,容積部を二次元で計算することと
し,排気吐出部に球形普響放射理論を適用するシミュレータを開発した.これにより複雑な系でも妥当な計算時間で内部脈動,
排気吐出音を高精度に予測可能となった.
Theauthorsdevelopedacomputationalmodelfortheprecisepredictionofexhaustsound.Inthismodel,thef
pipeelementsisdescribedbytheone−dimensionalfinitevolumemethodandthebranchandvolumeelementsaredescribed
byatwo−dimensionalmodel.Bysoundintensitymeasurements,itwasconfirmedthattheconventionalspheric
radiationmodelcanbeusedtopredictthesoundpressurelevelatthemeasurementlocation.Bythistreatment,
frequencyelementsofexhaustsoundpressurecanbepredictedwithmoderatecomputationalload.
表1 一次元計算法の評価
Evaluation ofトDschemes
1.は じ め に
吸排気系解析の主題は,ガスダイナミックスの進歩とともに,
体積効率の評価だけでなく音響特性の評価にまで広がってきてい
る.このため,脈動の高周波数成分を正しく記述する必要がある.
従来から広く活用されている一次元計算では分岐合流部,容積部
衝撃波管
計算スキーム
エンジン境界
圧力汲 温度波 計井時間 圧力波 計井時間
FLIC(食違い格子) ○
1.8
⊂)
FLIC(単純格子) ○∼△ ○−△ 1.4
2StepL−W
△−○
△−○
1.0
△−○
○
0.75
○
0.75
1.0
などの形状効果が支配的な系では系内脈動に関して十分な精度が
TVD
△
△
1.0
△∼○
1.0
得られない場合がある.一方,系全体を多次元モデルで記述すれ
特性曲線法
△
×
0.8
△−○
0.9
ば,系内部の脈動流と大気開放後の音響特性を高精度で予測する
ことができるが,演算時間の長さがネックになる.本報では,妥
当な計算時間で実用的な精度を実現するための一手法として,分
の差分法に対して,有限体積法であるFLIC法は積分型のスキー
岐合流部,容積部などの形状要因が流れを支配する領域を二次元
ムであるため衝撃波を含む流れに対しても安定であるが,クーラ
で,管要素に近い部分や流れのない容積部を一次元で計算するシ
ン数を差分法の約1/8程度に取る必要があることから,計算アル
ミュレータを完成させた.これを用いて,幾つかの排気系につい
ゴリズムが簡易であるにもかかわらず,計算時間は約2倍かかる.
て計算を実施し,別途行った実験結果との比較により,モデルと
二つのFLIC法のうち,庄九 密度を単位要素の中心に持ち,速
アルゴリズムの妥当性を検証した.さらに,排気吐出部の音響イ
度のみを隣接する要素の境界に持たせた食違い格子(Staggered
ンテンシティ計測を行い,吐出部の流速変動が大きくない系にお
Cell)の方が切り立った衝撃波面を捕えており,かつ,計算振動
いては従来の球形音響放射理論の通用が妥当であることを示した.
を起こさないが,計算時間が長くなる問題がある.
2.計算法に関する考察
2.1一次元部
図1(b)は4シリンダエンジンの1シリンダに分岐を持つ直管
を取付けて,分岐部から後流側の圧力脈動を計測したものと,こ
の境界条件を与えた計算結果を比較したものである.衝撃波管で
表1に挙げた幾つかの一次元圧縮流体計算スキームを評価した.
見られるような急しゅんな圧力披伝ばがないエンジンの排気系の
図1(a)は文献(1)から引用した衝撃波管の実験結果と,それに
場合は,計算精度と計算時間の両面でFLIC法が有利になる.空
対応した計算結果を示している.計算法の影響を際立たせるため,
間刻みをそろえた場合,FLIC法では時間割みを差分法の半分程
空間刻みは意図的に粗くとり,安定して解が得られる最大の時間
度に下げる必要があるが,計算アルゴリズムが簡易であるため,
刻みで計算を行った.
計算時間を差分法の約3/4に短縮できる.
従来から圧縮性流体の数値計算法として広〈用いられている
これらの検討結果から,また,次節に示す二次元計算とのつな
2Step Lax−Wendroff法は2次精度を持つが衝撃波前後に数値
ぎの容易さから判断し,一次元部には食違い格子のFLIC法を採
振動を起こしやすく,これを抑えるには適当な人工相性項を導入
用することにした.
する必要があるが,ここで行った計算ではこの項を取除いている.
2.2 二次元部
また,TVD法は通常,2次精度であるが,強い衝撃波に対して
分岐・合流部,谷積部などの多次元的な要素に対して,直交,
一時的に計算精度を1次に落とすようになっている.これら二つ
*l長崎研究所内燃機・抽槻研究推進室 *3長崎研究所振動研究墨土橋
*2長崎研究所次長
*J乗用車開発本部エンジン研究部
あるいは,「Ⅰ】筒座標系の二次元計算法として食違い格子の四角形
三菱市二l二枚報\・rOl.32 No.1(1995−1)
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¢60ヽ9024
(要素数50)
0
1
ゴ雫出
1.2
0.8
100
0
200
300
400
0
180
360
540
720
クランク角度(○)
時 間(ms)
(a)衝撃波管
(b)エンジン
図1一次元計算法の比較 食い違い格子のFLIC法は計算振動を起こさず,実測によく合う.
Comparisonofschemesforl−Delements
▼糾
▼♯2
▼♯1
▼♯
3ブローダウン
三角要素FLIC
(要素儀69)
♯3ブローダウン
‥\W‖= −.′一■ J・㌢−
(a)実験
(b)四角要素,要素数432
2
〇
(c)三角要素.要素数69
(d)三角要素,要素数18
・t・り′〝
1
〇.
(e)一次元計算
2
〇
︵巾d≡︶
只
1
出
〇
180
0
360
540
クランク角度(○)
図2 合流部の計算法による計算結果の差異 合流部を二次元計算した場合,運動量伝達が考慮され実測と良く一致する.
Comparisonofschemesforbranches(1.814cylinderengine,3000min−l,WOT)
要素,及び,単純格子の三角形要素のFLIC法を採り入れた.後
けて大気開放とし,図に示す3箇所の圧力を計測した.図2左の
者は通常の四角形要素のFLIC法を有限要素法によく用いられる
れまでにも圧縮性,非圧縮性流体の数値実験が多くなされてお
(a)は実験結果で,(b)ほ3箇所の合流部に前章で示した四角形
要素のFLIC法(3箇所合計要素数432)を適用したもの,(c),
(d)は三角形要素のFLIC法(同69,18)を適用したものである.
り(2),任意の境界形状に対して容易に要素分割できる特徴がある.
また,(e)は合流部で一つの管から分岐部に流入してきたエネル
三角形要素に展開したもので,変形FLIC法として提案され,こ
ここでは,分岐部と容積部の二つの場合について,四角形要素,
ギーが流量に応じて他の二つの管に分配されると仮定した:エネ
三角形要素のFLIC法を比較した.
ルギー等分配モデル”を使った一次元計算の結果である.合流部
2.2.1合流部の形状効果
図2のように4気筒エンジンの全筒合流部の後流に直管を取付
を二次元計算したものは,#2,#3ブローダウン中の圧力披が上
流へさかのばりにく〈,Pl,P2の圧力が低く計算されており,
三菱重工捜報 Vol.32 No.1(1995−1)
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0 180 360 540 720
︵>︶ゝ⋮竺騨有志
180 360 540 720 0 180 360 540 720
クランク角度(0)
図3 排気音圧の比較 容器部の二次元計算により実測に近い音圧波形となる.
Exhaustsoundpressurelevel(1.6[4cylinderengine,4000min−1,WOT)
2
S比(d8)=130+2馴ogy
食違い格子FLIC
特性曲鮎=
︵>︶ゝ
出岬貢姦
ハへハー\.一′ヽ/〉\ハヽ
担
2
容積:四角要素 FLIC
180
0
__」l
3600
ll
3600
l
180
l
t
180
360
クランク角度(○)
図4 一次元計算法の影響
2LW法は計算振動の影響が強く見かけ上の音圧波形を大きくしている.
Influenceofl−Dschemesonsoundpressurelevel(1.614cylinderengine,4000min−1,WOT)
実測値ともよく対応している.P3についても,一次元計算では
表2 ニ次元計算法の評価
Evaluationof2−Dschemes
仝筒合流部で上流へさかのばる側のエネルギーを実際よりも大き
く計算するため,直接到達する圧力汲を小さ〈,また,#2,#3
二次元FLIC 掲角要素
シリンダ合流部で反射して再び戻ってくる圧力披を大きく計算し
格
子
度
三角要素
構造格子 非構造格子
境界適合格子
ているが,二次元計算では実測に近い圧力波形になる.図2右は
精
○
○−△
#3シリンダでブローダウンが起こっているときの分岐部の流動
格 子 形 成
△
○
を(c)のスキームで計算した結果である.
計 算 速 度
○
△
(d)は三角形要素FLIC法で要素分割をその流出入の方向性が
記述できる最低限まで簡略化したものだが,(c)で示した密なモ
で要素数の多い形状には四角形要素FLIC法が通していることを
デルの場合と大差ない結果を得た.これは,体積効率を考えるう
確認した.
えで主要因となる各気筒のブローダウンを起源とする低い周波数
図4は,容器内の計算に四角形要素FLIC法を用い,排気管内
の大きな脈動成分の予測に関しては分岐,合流部などの必要最低
の一次元計算を食違い格子FLIC法に換えて,2Step Lax−
限の形状効果を計算に考慮しておけば十分であることを示してい
Wendroff法及び特性曲線法(定格子)を使った場合の音圧予測
る.
値である.2Step Lax−Wendroff法で予測した音圧には,実測
2.2.2 春秋部の形状効果が排気音の予測に与える影響
直管に円筒容器を付けた系をとりあげて,容積部を軸対称の四
値より強い高周波成分が含まれている.これは,図1(a)に示す
ように2Step Lax−Wendroff法の計算スキームが数値振動を起
角形要素FLIC法(要素数375),三角形要素FLIC法(同398),
しやすいためである.また,特性曲線法の場合には,容器内の軸
及び,容器内の流速を0と仮定した容積モデルで計算し,得られ
方向及び半径方向の定在彼のみしか予測音庄に含まれていない.
た開放端の流速変動から,球形音響放射モデル(3)を用いて普庄を
これは図1(a)に示すように計算精度が低いので高周波の脈動ま
求めた.計算結果を実測値と比較して図3に示す.容積モデルの
で捕えきれないためである.
場合,普庄の変動はほとんど計算されないが,二つのFLIC法で
これらの検討結果から,分岐部には少数の要素で分割した三角
は容積部の軸方向の走在披(1800当たり4−5山),半径方向の
形要素FLIC法を,容積部には四角形要素FLIC法を通用するこ
定在披(同じ期間に約4倍)が計算されている.三角形要素
とにした.表2に三角形及び四角形要素FLIC法の特徴をまとめる.
FLIC法は四角形要素FLIC法に比べて計算誤差が大きいため,
粘性が上乗せされ振動波の減衰が大きく見積もられている.また,
計算時間は,四角形要素FLIC法が約2倍速く,このような単純
3.開放端の音響放射
2.2.2項で用いた音響放射モデルの妥当性を,音響インテンシ
三菱重工技報 Vol.32 No.1(1995−1)
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300 mm
図5 音響インテンシティ計測例 管出口流速変動が小さい系では普圧分布はほぼ球形である.
Soundintensityaroundexhaustoutlet(1.614cylinderengine,WOT)
ティ計測を用いて検討した.計測は,開放端からの排気噴流の影
響を避けるため,軸方向に対して150傾けた線を基準としている.
結果を図5に示す.管端の粒子速度変動が大きい直管の場合には
なので,前節の計算ではこのモデルを採用した.
4.ま
と
め
2000rpmでは音響放射の起点らしきものが認められるものの純
排気騒音を予測する計算法として,分岐合流部,容積部などが
粋な球面とはいいがたく,4000rpm以上では完全に球面形状が
持つ多次元的な形状効果を考慮に入れた手法について検討し,次
崩れている.これは,基本的には,時間積分情報を用いる音響イ
の結果を得た.
ンテンシティ計測の問題であるが,同時に,所定の期間の積分情
(1)管部を一次元食違い格子FLIC法,分岐合流部と容積部を三
報から周波数成分を求める球形放射モデルの問題点でもある.し
角形要素,及び四角形要素の2種類の二次元FLIC法で計算す
たがって,この場合に球形音響放射モデルを使うのは適切ではな
ることによって,妥当な計算時間で系内部の脈動と排気騒音の
い.排気管の中に円筒形の拡張室を挿入した場合や生産型のマフ
予測が可能となった.
ラのように複数の拡張室と共鳴室を挿入し,脈動を減衰させ管端
の粒子速度変動を抑えた場合には,大気開放端から少し下流側に
離れた位置を起点として,ほぼ球面状に音響放射している様子が
観察された.しかし,厳密に見れば放射の仮想中心が流れ方向に
移動し,また,流れ方向に減衰しにくいという指向性があり,こ
(2)分岐合流部においては,形状効果を考慮した最低限の要素分
割でも精度良く計算可能である.
(3)容積部の計算に軸対称二次元FLIC法を通用することで,排
気騒音予測の精度を向上できる.
(4)現実の排気系のように管出口の粒子速度変動がさほど大きく
れは一般的な管端補正や温度補正では記述できない.また,管出
ない場合は,球形音響放射モデルによる音響伝ばの記述はおお
口では流れは周辺に広がる特性を持つので,無限円筒モデルで現
むね妥当である.
象を記述することもできない.さらに,この流れが管内部の流れ
に影響を与えているはずであり,開放端モデルで管端下流を記述
本研究の成果を吸排気系の設計に活用していくとともに,さら
に発展させていく.
した場合には,管端の粒子速度自体が正しく記述されない可能性
がある.これらの問題を解決するには,2.2.2項で記述した軸対
称二次元の取扱いを管出口下流の空間に拡張することが有効であ
ると考えている.前述したように,現実のマフラを使った場合に
は,管内の現象と管外の現象は独立して起こり,管外の音響伝ば
は球形音響放射モデルで記述できるという取扱いはおおむね妥当
参 考 文 献
(1)織田,嶋本,金丸 自動車技術会学術講演会,91年秋期,
No.148
(2)足立,辻村,今泉,日本機械学会論文集Vol.43No.366
(1977)
(3)西臥 鴫本,日本機械学会論文集Vol.45No.398(1979)
三菱重工技報 Vol.32 No.1(1995−1)
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