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知の共有地のエコシステムの変容

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知の共有地のエコシステムの変容
知の共有地のエコシステムの変容
-学術論文のオープンアクセス化の展開と研究成果発表の新たな意味-
<暫定版 2014 年 1 月 19 日「米国の科学政策」ホームページ掲載>
遠藤 悟
1.はじめに-本稿の基本的な考え方
本稿は、学術論文のオープンアクセス化の動向について、米国等の状況を参照しつつ報告するもので
あるが、そこで取り扱う対象は、論文のオープンアクセス化ににとどめず、ネットワーク上の研究情報
の流通の変化を視野に入れながら、研究データの取り扱いなど、研究公正性の観点も含めた。
本稿は、このように幅広い対象を扱ったこと、また、筆者の趣味である「米国の科学政策」ホームペ
ージに掲載するものとして、主に年末・年始を中心とした休日という限られた時間を利用して執筆され
たことから、取り上げた情報に偏りなどがあったり、内容の掘り下げが不十分であったりする面もある
と思われるがご容赦いただきたい。また、筆者が十分に情報を収集していないことにより、先行事例と
して紹介すべき内容を、そのような言及なしに記していることも考えられる。この点についてもご理解、
ご容赦いただければ幸いである。
2.知の共有地とそのエコシステム:本稿における検討の枠組み
2-1.中心的な観点
本稿は、
「論文のオープンアクセス化」を主要なテーマとし、関連する内容として「研究データの保存・
公開」を取り扱っている。これらのテーマについては数多くの報告がなされているが、本稿においては、
「科学研究により得られる知の価値を最も高めること」を中心的な観点として報告を行い、また、筆者
の見解を示したいと考えている。そして、この知の価値は、① 知の質の向上、② 知のオープン化、③ 公
正な研究の実践、を通して高められると考えており、本稿もこのような点を意識して執筆されている。
2-2.知の共有地の考え方
「米国の科学政策」ホームページにおいては、これまで幾度か「知の共有地(あるいは「知のコモン
ズ」
)」という言葉を用い、科学研究活動やその社会との関係性について説明してきた。本稿は、研究の
成果としての論文や研究に関するデータが、その研究を行った研究者の手から、他の研究者や広く社会
の一般の人々にオープンとなることをテーマとしたものであることから、その表題に「知の共有地」の
語を含めた。
近年、ネットワーク上を中心に、研究成果としての知はその様態を大きく変えようとしている。アカ
デミックジャーナルは依然として研究成果発表の中心的な役割を担うことが見込まれるが、その位置づ
けは変化している。また、ジャーナル以外の媒体による知の流通は急激に増加している。このような状
況は、研究の質の向上や、社会の人々への貢献が拡大する可能性を与えるものであるが、反面、研究の
質を低下させ、人々の科学への信頼を低下させるリスクも併せ持つものと考えられる。
筆者は、この知の流通に関する最近の変化を以下の観点から捉えることが可能と考える。
・科学の知の境界の変容:一般の人々の知のフロンティアへのアクセス:担い手(あるいはステー
クホルダー)の観点
1
・科学研究活動のパトロンの変容:経済による知のダイナミズム:金銭面の観点
・科学研究活動の変容:アカデミックコミュニティー自身に向けられた変化:科学研究の質と研究
公正性の観点
本稿においては、
これら 3 つの観点から海外の動向や各ステークホルダー間の関係等を取りまとめた。
2-3.研究公正性の観点
前項で 3 番目に示した科学研究の質と研究公正性の観点については、それが損なわれる恐れが生じる
いくつかの要因が考えられるが、筆者は、以下の 5 つに整理できると考える。
1) 研究者自身の未熟性
2) 研究者の善意による不正行為(危機対応など)
3) 研究者に対する評価(所属機関や資金配分機関)
4) 研究者を不正行為に導きやすい技術的環境
5) 研究者を不正行為に導きやすい社会的環境(特に経済的利益)
この中で、ジャーナルのオープンアクセス化や研究データの保存・公開と関係すると考えられるもの
は、直接的には、
「4) 研究者を不正行為に導きやすい技術的環境」である。オープンアクセス化は既存の
査読済み論文のグリーン OA による公開または掲載誌のゴールド OA への転換だけではなく、新たな研
究成果発表のメディアが形成されることを意味しており、その中にはいわゆるプレダトリー出版
(predatory publishing)によるジャーナルを含め質の低い論文が掲載される機会が増えることも考えら
れる。
現在、研究者および研究業績の評価においては、多くの場合、論文が参照される。本来この評価は、
論文そのものに対し行われるべきであり、論文が掲載されたジャーナルに基づき行われるものではない
が、質の低いジャーナルの拡大を含む研究成果発表のメディアの拡大は、研究成果に対する評価を困難
のものとしており、そこに研究公正性を損なう行為が見過ごされる環境が形成される。
研究成果発表の場の変化はまた、
「2) 研究者の善意による不正行為(危機対応など)
」をもたらす可能
性を高める。技術的環境の変化によりもたらされる研究成果発表の機会の拡大は、しばしば‐危機対応
の場合も含め‐悪意のない、しかし、従来の研究公正性の枠組みから外れる研究成果が流通する状況が
生じる。特に緊急性のある危機‐例えば激烈な自然災害や事故、あるいは大規模な流行病‐への対応の
場合は、SNS を含め研究成果の情報が急速に、かつ他の研究者(peer)による検証・評価(review)を
経ることなく流通する。
3.オープンアクセス化に関する米欧の政策動向
3-1.オープンアクセスに向けた行政の取り組み
ジャーナルを通した学術研究の展開は、一義的にアカデミックコミュニティーにより担われるもので
あり、行政の関与は限定的であると考えられる。しかしながら、行政の取り組みは学術情報の流通のみ
ならず、研究公正性を含む様々な学術研究活動に影響を及ぼすことも事実である。具体的には以下のよ
うな政策的な取り組みが考えられる。
・リポジトリでの公開の義務化など法令・規則等と通したオープンアクセス化
・政府自らによりリポジトリの設置
2
・ゴールドオープンアクセスのための財政支援
・オープンデータを通した研究公正性の向上
以下においては上記の点を念頭に、最近の米国および英国、そしてヨーロッパ(欧州委員会)の政策
動向について記す。
注:米国におけるオープンアクセス化に関する政策動向は、
「米国の科学政策」ホームページでも複数回
取り上げてきているため、併せて参照されたい。
3-2.米国
3-2-1.学術出版ラウンドテーブル報告書
下院科学技術委員会は大統領府科学技術政策室(OSTP)と協力し、「学術出版ラウンドテーブル
(Scholarly Publishing Roundtable)
」を設置した。同ラウンドテーブルは学術出版に関する現状と連邦
政府機関から資金が提供された研究の成果として学術誌に掲載された論文へのパブリックアクセスの拡
大に関する課題に関する提言について検討を行い、2010 年 1 月に報告書を提出した。
報告書は 5 項目の共有された原則と 8 項目の中心的提言の形で取りまとめられているが、その内容は
査読の重要性の認識を示し、持続性のある出版が可能な体制のもとでのオープンアクセスの拡大、また、
そのアーカイブ化や相互運用可能性などに関するものとなっている。
<報告書の内容は、附属文書を参照されたい。>
3-2-2.OSTP によるパブリックコメントの募集
OSTP は、パブリックアクセスに関するパブリックコメントの募集(Request for Information)を、
2009 年と 2011 年の2回行っている。2011 年に実施した「データ共有および学術出版へのパブリックア
クセスに関するパブリックコメント募集(2011 Requests for Information on Data Sharing and Public
Access for Scholarly Publications)
」においては、2011 年 11 月 3 日から 2012 年 1 月 12 日までの間、
(1)連邦政府が資金提供を行った研究の成果による査読済み学術出版に対するパブリックアクセス、
および(2)連邦政府の科学研究の成果のデジタルデータへのパブリックアクセス、のふたつに関する
意見の募集が行われた。
(1)については 378 件、
(2)については 118 件の意見が寄せられた。これら
については、その後の検討の参考とされた。
次章においては、各ステークホルダーにおけるオープンアクセス化や研究データの保存・公開につい
てまとめているが、その作業においてはこれらの意見を参考とした。
3-2-3.OSTP から連邦政府各省・機関に宛てた覚書に基づく検討
OSTP は、それまでの意見募集に関する回答の考慮を含めた検討の結果に基づき、2013 年 2 月 22 日
付で、同室長から連邦政府各省・機関の長に宛てて、
「政府支援による科学研究の成果へのアクセスの増
進(Increasing Access to the Results of Federally Funded Scientific Research)
」覚書を送付した。こ
の覚書においては、年間 1 億ドル以上の研究開発支出を行う各機関がパブリックアクセス計画を立案す
べきこと、また、各機関はデジタル形式における科学データへのパブリックアクセスの目標について示
すべきこと記されている。
<この内容については、「米国の科学政策」ホームページにおいて、「連邦政府資金による研究成果への
3
パブリックアクセスの展開 http://homepage1.nifty.com/bicycletour/Sci-ron.PublicAccess.pdf 」として
まとめているので参照されたい。>
3-3.英国におけるオープンアクセス化の取り組み
3-3-1.Finch レポートの出版
英国における政策動向について、筆者は必ずしも十分な知見を有している者ではないが、本稿の検討
の参考となると考えられるため、最近の動向を取りまとめた。
2012 年 6 月、Dame Janet Finch を座長としたワーキンググループ(The Working Group on
Expanding Access to Published Research Findings)による報告書「Accessibility, sustainability,
excellence: how to expand access to research publications」が発表された。そこに示された提言には、
論文加工・出版料(article processing or publishing charge: APC)を資金とするオープンアクセスやハ
イブリッドのジャーナルについて、公的資金による研究の成果の出版の支援として明白な政策が示され
るべきであるとし、リサーチカウンシルおよび他の公的資金配分機関はオープンアクセスやハイブリッ
ドのジャーナルの出版の経費に対応する手順を確立すべきことなどが示されている。
<同報告書に記された提言は、附属文書を参照されたい>
注:同ワーキンググループは、2013 年 10 月にフォローアップの報告書(A review of Progress in
Implementing the Recommendations of the Finch Report)を発表し、グリーン OA とゴールド OA の
関係の再検討、下記の RCUK を通したブロックグラントの配分等の英国政府の対応、英国の政策と他国
の政策との関係などを含む多面的な検討・評価を行っているが、ゴールド OA に関連し査読を含む十分
な論文の加工の手間をかけずにジャーナルを刊行する問題のある出版者に見られる質の低下のリスクに
ついても言及している。
3-3-2.英国政府の対応
2012 年の Finch レポートに対し、英国政府ビジネス・イノベーション・技能省(Department for
Business Innovation & Skills: BIS)は、これらオープンアクセス化とは利用者が無料で論文にアクセス
できること、また、それには経費が必要であること等について同意を示し、リサーチカウンシルが現在、
グラントの一部として直接的あるいは間接的に行っている支援を、よりオープンアクセス化に対応した
変更することを検討しているとした。
http://www.bis.gov.uk/assets/biscore/science/docs/l/12-975-letter-government-response-to-finch-repor
t-research-publications.pdf
これへのリサーチカウンシルの対応としては、RCUK が 2012 年 7 月 16 日付けでポリシーを発表し、
論文加工・出版料(APC)のための費用について、大学に対しブロックグラントの形で支出すること等
の方針を示した。そして、同年 11 月には、ブロックグラントの配分について発表した。この発表は、RCUK
は 2013 年 4 月から APC の支出として配分するという内容のもので、第 1 回配分途中の 2014 年には暫
定評価を行うとしている。リサーチカウンシルが資金配分を行った研究の成果としての論文について、
初年度にはその 45%、次年度には 50%がゴールド OA として出版され、されに 5 年度目にはその数字が
およそ 75%に達し、残りの 25%はグリーン OA となることが期待されているとしている。
<RCUK のポリシーについては、附属文書を参照されたい>
4
参考:RCUK のブロックグラント配分のアナウンスメント
http://www.rcuk.ac.uk/media/news/2012news/Pages/121108.aspx
3-3.ヨーロッパ
欧州委員会(European Commission)は、その新たな研究戦略である Horizon 2020 の下でのオープ
ンアクセス化の取り組みが示されている。また、ヨーロッパリサーチカウンシル(ERC)は、その研究
グラントを通した資金配分関係の文書として、オープンアクセスのガイドラインを示している。その内
容は論文のリポジトリを通してのオープンアクセス化を重視するとともに、研究データの保存・公開に
ついても言及している。この考え方は前述の米国で行われている検討との共通性が高いと言える。
<ERC のガイドラインについては、附属文書を参照されたい>
研究アセスメントに関するサンフランシスコ宣言
(The San Francisco Declaration on Research Assessment: DORA)
2012 年 12 月に開催された米国細胞生物学会(American Society for Cell Biology: ASCB)の年次総
会において、学術ジャーナルの編集者や出版者が会合を開催し、研究アセスメントに関するサンフラン
シスコ宣言(The San Francisco Declaration on Research Assessment: DORA)が発表された。
同宣言は、ファンディング機関、大学、その他において行われる科学研究のアウトプットに対する評
価(evaluation)を改善する喫緊の必要性があるという認識のもと発表されたもので、インパクトファ
クターをはじめとする科学アウトプットの指標について、適正な利用を呼び掛ける内容となっている。
<同宣言の内容については、附属文書を参照されたい>
4.知の共有地におけるステークホルダー
米英等の事例でもわかるように、論文のオープンアクセス化及び研究データの保存・公開については
多数のステークホルダーが関与している。そしてそれぞれのステークホルダーの関与は、必ずしも一体
的ではなく、時には利益相反の関係にある。さらには、あるステークホルダーの取り組みが、その意図
しない形で他のステークホルダーに影響を及ぼすことも考えられる。以下は筆者の整理によるステーク
ホルダーの区分とその役割である。
各ステークホルダーとその役割
行政:法令・規則等による義務的政策の実施、資金配分を通した支援、リポジトリの設置
大学等:ジャーナル購読を通した研究基盤の整備、機関リポジトリの設置、ジャーナル等の活用を通し
た研究活動の向上、研究公正性への取り組み、研究人材の育成、一般の人々へのアウトリーチ
研究者:研究活動の実施、研究成果の公表、研究公正性の実践(個人および学協会)
学協会:ジャーナルにおける質の高い論文の掲載とジャーナルの財政基盤の安定
出版者:掲載論文の質の向上、購読料または掲載料による利益の最大化(営利出版者のみ)
リポジトリ:グリーン OA における論文の公開(ゴールド OA においては補完的役割が期待される場合
あり)
、研究データの保存・公開
5
ネット上の仲介者・調整者・活動家等:データ販売等による利益の最大化(営利企業)
、研究の質の向上
のための機会の提供
一般の人々・企業:知の享受、研究成果の社会的・経済的価値への転換
4-2.それぞれのステークホルダーにおけるオープンアクセス化の意味
以下においては上記 8 つのステークホルダーに関する論文のオープンアクセス化と研究データの保
存・公開に関する意味についてまとめた。執筆にあたっては、米国におけるパブリックコメントに示さ
れた意見や自身のウェブサイト等に示された見解、そして各種報告書等の内容を参照したうえで、筆者
自身の見解を記した。
4-2-1.行政の取り組みの経緯と政策手段
2000 年の Public Library of Science (PLoS) の創設をはじめとした民間部門におけるオープンアクセ
ス化が進められる中、米国連邦政府は 2004 年に国立保健研究所(NIH)の PubMed Central を設置す
ることにより、生物医学分野における行政主導のリポジトリのシステムを構築してきた。この背景には
一般の人々、すなわち納税者の行政に向けた要望がある。この要望は、2009 年の OSTP のパブリックコ
メント(特にブログへの投稿)において多く示されているが、その大半には研究の質の維持・向上のた
めの費用といった点への考慮は示されていない。また、企業の側からも大学等からの知識の移転は産業
競争力の強化に有効であるという論点によるオープンアクセス化への期待が示されている。
議会においては、このような声を反映して、競争力強化法であるアメリカ COMPETES 法でオープン
アクセス化の促進についての条文が盛り込まれるなどの取り組みが見られるが、同時に、著作権保護の
観点からオープンアクセス化に反対する議論も展開している。
米国におけるオープンアクセス化に関する行政の取り組みは、このようなアカデミックコミュニティ
ーを超えた、幅広い社会的な関心を背景としており、具体的な政策についても多元的で複雑に入り組ん
だ選択肢の中において検討されていることがその特徴と言える。
米国連邦政府の具体的な政策は前章に記したとおりであるが、行政における論文のオープンアクセス
化、研究データの保存・公開に関する取り組みは以下のようなものが考えられる。
○ 財政支出により行われるもの
・連邦政府ファンディング機関のグラント等の直接経費により著者負担における論文の投稿を可能とす
るものである。ただし、支援対象となるプロジェクト実施期間後において執筆された論文は対象となら
ないという問題がある。また、継続的な財政基盤が必要となる研究データの保存・公開については、期
間が定められたグラントの直接経費での支出がなじまないという問題もある。
※これとは別に、行政の関与として大学に対する図書館への運営費用を含む基盤的経費支援が考えられ
るが、米国の場合は連邦政府は関与せず、州政府等の役割である。
○ 法令の規則の制定やガイドラインの設置等を通して行われるもの
・アメリカ COMPETES 再授権法セクション 103.機関間パブリックアクセス委員会(Interagency public
access committee)は、連邦政府において検討すべきことが定められているが、他のステークホルダー
に対する具体的な義務等は示されていない。議会においてはパブリックアクセス化を義務付ける法律の
制定も論議されているが、行政府においては前述の各機関における検討結果に基づく規則やガイドライ
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ン等が明らかになると考えられる。
・政府による研究者に対する具体的なオープンアクセス化に関する取り扱いは、グラント交付の要件と
して示されるが、このグラント交付の要件においては、オープンアクセス化のほかにも、研究データの
保存・公開の要件を定めるなど、研究活動全般の向上のために有効なメカニズムとなる。
○ 中核的なリポジトリの設置
NIH PubMed Central は、連邦政府機関において設置され、その後法令による公開差し控え期間の設
定を経て、中核的なリポジトリとして機能している。他の分野については 2013 年 2 月 22 日付の OSTP
室長からの書簡に基づき各機関が検討中であるが、物理学等の分野においては arXiv が既に中核的な役
割を担っており、必ずしも PubMed Central と同様の連邦政府によるリポジトリが設置されることとな
るかは未定である。いずれにせよ、リポジトリの重要性は共有されており、1) 政府自身の設置、2) arXiv
のような分野別の設置、3) 大学等の機関リポジトリの創設・拡充といった選択肢の中で連邦政府がどの
ような政策を採るかという点は注目すべきと考えられる。
英国政府におけるオープンアクセス化に向けた取り組みは前章に記したとおりであるが、上記の米国
の区分に従い考えた場合、
「財政支出により行われるもの」において、RCUK を通したゴールド OA のた
めのブロックグラントの配分がある。英国の取り組みが米国のそれと異なる背景にはゴールド OA を重
視する英国政府の考え方があるが、留意すべきことは両国の大学に対する政府の関与が異なることであ
る。米国連邦政府が行う研究支援は、各大学の財政基盤(公立大学における州等の支出、私立大学の強
固な歳入基盤)の上に多くの場合、競争的に資金配分が行われるのに対し、英国においては高等教育フ
ァンディングカウンシルとリサーチカウンシルのデュアルサポートシステムにより資金配分が行われて
いるという違いがある。RCUK のブロックグラントは、英国独自の大学に対するファンディングシステ
ムの基盤のうえに行われていることについても留意する必要がある。
4-2-2.大学等による多面的で時に相反する面が見られる取り組み
大学における論文のオープンアクセス化、研究データの保存・公開の問題は多元的であるが、以下に
おいては財政面と研究評価の面から考える。
論文のオープンアクセス化の論点は、大学の財政面ではジャーナルの購読料の高騰による図書館の費
用負担の増大であったが、著者負担によるゴールド OA の進展は大学内のジャーナルに関する費用負担
の構造を変えつつある。
2009 年の OSTP のパブリックコメント等においては、大学図書館が提出した高騰する購読料に対して
費用低減に結びつく施策として論文のオープンアクセス化を期待する意見が多く示されてきたが、
2011-12 年のパブリックコメントにおいては、その質問がより具体的となったこともあり、査読済みの原
稿の最終版の公開にかかる政策全般に関する論点が示されている。大学の意見を一般化すると、1) 連邦
政府支援により発表された論文は無料で公開されるべきこと、2) ジャーナルの出版に費用がかかること
は理解できるが、出版を通して利益を上げることは認められないこと、3) 研究の質を高めるための取り
組み(メタデータの取り扱い、著作権などを含む)も行われること、などに集約される。
米国においては、英国で見られたようなゴールド OA とグリーン OA を経済性を含め比較する論点は
示されていないため、著者負担によるオープンアクセス化の進展が大学に及ぼす影響に関する意見は余
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り見られない。著者負担によるオープンアクセスの展開に対しては、例えばハーバード大学を中心とし
た COMPACT という論文投稿のための基金の設置の取り組みなどが見られるが、大学にとっては新たな
財政負担増の要因となる。
著者負担ジャーナルへの論文投稿は研究者一般に個人の判断により行われるものであるが、大学全体
の財政の点から見ると、ゴールド OA の拡大は、
(図書館における)購読料の低減と(研究者における)
投稿料の新たな負担増という構造の変化に結びつく。ただし、このような財政にかかる構造の変化は、
研究大学の場合と、小規模大学や教育に重点を置く大学との間では異なる影響を及ぼすものと考えられ
る。
英国においては、RCUK が論文投稿料について大学等研究機関に資金配分を行うこととした。このこ
とは、研究者にとってはグラントの対象となるプロジェクト終了後も投稿のための資金が提供されるこ
とを意味するが、大学にとっては(政府から大学に配分される資金総額の規模が変わらないとすれば)
配分資金の一部が紐付きとなるという意味ともなる。
研究データの保存・公開については、論文との関連付けがひとつの論点となっているが、この取り組
みにおける大学の役割も大きいと考えられる。大学が機関リポジトリを充実させる中で、研究データの
保存・公開へのグッドプラクティスが蓄積さえるという考え方もあるが、英国におけるゴールド OA を
進展させる取り組みは、必ずしもこのような大学への期待を後押しするものではない。
論文のオープンアクセス化、研究データの保存・公開の問題に関連して大学が考慮すべき点として、
教員の評価があると考えられる。研究者の任用・昇任の判断を行う場合、その基準は研究者自身の能力
や本人の研究業績であるべきであり、論文が掲載されたジャーナルによるべきではないという認識は共
有されていても、オープンアクセス化の展開が、論文のインパクトや h-index に基づく教員に対する評
価の性格を変える潜在性のあることを認識する必要があると考えられる。
4-2-3.研究者の責務
米国 OSTP が行ったオープンアクセスに関するパブリックコメントの募集に対する意見で、一般の研
究者によるもの、すなわち論文を執筆する立場において書かれたものからは必ずしもジャーナルのオー
プンアクセス化に関する共通の意見は見出すことはできなかった。高騰するジャーナル購読料の問題は、
個々の研究者ではなく、図書館の問題として捉えられており、また、多くの研究者にとっての関心は、
グリーン OA であるかゴールド OA であるかというよりも、自身が投稿した論文が最も高く評価される
ジャーナルがどのようなものであるかといったことが、オープンアクセス化に対する研究者の関心の所
在がわかりにくくしているという理由とも考えられる。
手続き面から考えれば、グリーン OA は適切な形で査読済み論文の最終原稿をリポジトリに保存する
ことにかかる手間などが問題となり、オープン OA は投稿料の負担が問題となる。前者はリポジトリ設
置者‐自身の所属大学を含む‐の問題でもあり、後者は資金配分者‐ファンディングエージェンシーや
資金を管理する大学の問題でもある。従って、これらの点では研究者は中心的なステークホルダーでは
ないと言える。
しかしながら、オープンアクセス化は必ずしもグリーン OA のためのリポジトリの設置や、ゴールド
OA のための資金の調達といった問題だけではなく、むしろ研究の質を向上させる(あるいは低下させる)
可能性が孕むものと考えられる。
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サンフランシスコ宣言においては、個々の論文の価値をジャーナルのインパクトファクターの高低で
判断すべきではないとしているが、このことはもちろんジャーナルの編集、特に査読の質を低下させて
良いということを意味するものではない。研究者は、自身が研究成果を発表すると同時に、他の研究者
の成果を査読という形で評価し、また、査読を経て掲載された論文により次の研究へと発展させる役割
を持つ。個々の研究者においては、オープンアクセス化がこれら本質的な役割を変化させるものではな
く、むしろ(特に査読というプロセスにおいて)より重い責任が課せられることを認識する必要がある
と考えられる。
4-2-4.学協会にとってのオープンアクセス化の意味
2011-12 年の OSTP のパブリックコメントには、多数の学協会から意見が寄せられた。各学会協会は
自身の手で、あるいは商業出版者を通してジャーナルを刊行していることから、筆者が見た主要な学協
会の意見は、ジャーナルの安定的な財務基盤を通した質の確保に関するものであった。論点は必ずしも
グリーン OA とゴールド OA のいずれとすべきかというものではないが、オープンアクセス化が、論文
の受理、査読、掲載といった一連の費用に影響を及ぼすことのないような政策を求めている。
前述のとおり、米国においては既に国立保健研究所(NIH)の PubMed Central において、同研究所
の支援を受けた研究の成果論文について、査読済みの最終版の原稿を提出することが義務付けられてお
り、政策論議は、他の機関の支援による研究成果も同様の扱いとするか、また、公開差し控え期間とど
のように設定するか(分野毎に考慮することが必要か)などとなっている。
パブリックコメントは 2012 年 1 月に締め切られたものであるが、その後、ゴールド OA がジャーナル
出版においてより明確な地位を占め、また、ビジネスモデルとしても確立しつつあると考えれば、学協
会の意見は、ゴールド OA との親和性が高いと考えることもできる。
し か し な が ら 、 2012 年 12 月 の 、 研 究 ア セ ス メ ン ト に 関 す る サ ン フ ラ ン シ ス コ 宣 言
(http://am.ascb.org/dora/)の署名団体の中に学協会も多く含まれていることからも理解できるように、
近年のジャーナル出版を取り巻く環境への懸念も学協会から示されている。この宣言において問題とさ
れているものはインパクトファクターのその本来の意味を超えた利用であると言える。
オープンアクセス化の流れは学協会に対し、財務面のみならず、掲載論文の質の面でも新たな取り組
みを求めるものとなっていると言える。
なお、本稿での議論は世界中の研究者が投稿者であり同時に読者であるジャーナルのオープンアクセ
ス化に関することが中心であるが、学協会の取り組みを考える場合、筆者は筆者自身の造語である「ガ
ラパゴスジャーナル」についても検討の視野に入れるべきと考えている。ここでガラパゴスジャーナル
とは、
「独自性の高い学術研究基盤が形成された英語以外の言語を母国語とする国や地域において、母国
語において出版されるジャーナル」の意味である。ガラパゴスジャーナルを出版するような学協会にお
いても、その価値を損なうことなく、むしろ高めるためにオープンアクセス化の進展に向けた取り組み
を行うことは重要と考えられる(この点については次章において再度取り上げた)。
4-2-5.出版者の主張
OSTP のパブリックコメントにおいては、掲載論文の質を維持するために必要な財務基盤に関し、出
版者は学協会と同様の見解を示している。すなわち、出版者にとって当面の関心は NIH 以外の機関にお
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けるオープンアクセス化に関する政策であると言える。しかし同時に、出版者はハイブリッドモデルを
含む著者負担によるオープンアクセス化を展開しており、米国における将来の見通しは不透明である。
英国における RCUK をとおしたゴールド OA に対する財政支援の取り組みは、出版者にとって、財政
基盤が購読者負担という形から著者負担という形への転換を加速化させるものであるが、このことはむ
しろ歳入機会を拡大させる可能性もある。例えばハイブリッドジャーナルにおいて、著者の負担と購読
者の負担が二重に出版者に利益をもたらすのではないかという外部からの批判に対し、出版者は説明を
求められている。
また、サンフランシスコ宣言において示された、インパクトファクターの本来の意味を超えた利用へ
の批判については、出版者にとってはむしろインパクトファクターがジャーナルの質の高さの指標と見
なされるという可能性があるという点で、著者負担のジャーナルは同宣言が指摘するインパクトファク
ターの個々の研究の評価に結びつけるという問題の拡大を助長する恐れもある。
さらに、Finch レビューレポートでの言及を含め、しばしば問題が指摘されているいわゆるプレダトリ
ー出版者によるジャーナルに対しては関係各ステークホルダーの適正な対応が今後必要となると考えら
れるが、プレダトリー出版者のジャーナルについての明確な定義はない。明らかに質の確保が一定の水
準に達しないと思われるジャーナルにおいても(あるいは「(Beall’s list」に掲載されたジャーナルにお
いても)
、査読を含め、外形上は他の商業出版者と大きく異なる点はない。いわば、プレダトリー出版と
Nature Publishing の違いは特に学術面における程度の差であり、法令やガイドラインにおいて線を引く
ことは困難と考えられる。
なお、学協会のジャーナルを出版する商業出版企業も(学協会にそのインセンティブはなくても)収
入源が著者に代わることにより、従来とは異なる(時にプレダトリー出版者と共通の)経済的なインセ
ンティブが生じるという可能性も考えられる。
本稿筆者は、営利目的の出版においては、学術的価値と経済的価値が一致せず、時に学術的価値を低
下させることが出版者に経済的価値をもたらすという本来的に相反する関係が生じる可能性を念頭に置
く必要があると考えている。
ゴールド OA 出版における商業的価値と学術的価値
著者が論文掲載のための費用(一般的には APC)負担しオープンアクセス化するゴールド OA は、出
版者が商業的価値(収入の最大化)を求める場合、必ずしも学術的価値を高めることがその目的に適っ
たともとならない可能性があると考えられる。以下ではそのような問題が起こりえる可能性を考えてみ
た。
*
*
*
・商業的のゴールド OA 出版者が商業的利益を高めようとする場合、
「① 掲載論文数の増による掲載料
収入の増」
、
「② 掲載料の値上げ」
、「③ 査読を含む出版経費の削減」
、の 3 通りが考えられる。
・
「① 掲載論文数の増による掲載料収入の増」
、のためには、
「①A. 投稿数の増」、
「①B. 採択率の増」、
の 2 つが考えられる。
・
「①A. 投稿数の増」
、のためには、
「①Ai. ジャーナルの質の向上(被引用度を質の指標と見なした場合
はインパクトファクターの向上)」による研究者に向けたインセンティブの向上、「①Aii. 掲載料の値
10
下げ」
、が考えられる。また、「①B. 採択率の増」、については、「①Bi. 優れた論文が投稿されるよう
なジャーナルへの質の向上(被引用度を質の指標と見なした場合はインパクトファクターの向上)」、
「①Bii 査読の質を低下させることによる採択率の増」
、の 2 つが考えられる。
・「①Ai. ジャーナルの質の向上」および「①Bi 優れた論文が投稿されるようなジャーナルへの質の向
上」は、一見学術の質の向上に貢献すると考えられるが、インパクトファクターを指標とし、個々の
論文ではなく、
(高いインパクトファクターを持つ)ジャーナルの方に価値を置く方向に導くものであ
り、サンフランシスコ宣言に示された理念とは異なる。また、この点から学術情報サービスを行う企
業は、
(質の向上に貢献する可能性がある反面)学術的価値を損なう原因を提供する可能性がある。
・
「①Aii. 掲載料の値下げ」については、
「①Bii. 査読の質の低下」に結び付くリスクが大きい。
・
「② 掲載料の値上げ」
、は投稿数の減少に結び付くという点で、出版者の経営判断に委ねることができ
る(市場メカニズムが機能する)
。
・
「③ 査読を含む出版経費の削減」
、は査読の質を低下させる等のリスクがある。
・すなわち、商業目的の著者掲載料負担ゴールド OA は、出版者がその目的である商業的利益を高めよ
うとする限り、本来的に学術的価値と相反する可能性を孕んでいる。
・著者掲載料負担ゴールド OA が抱える潜在的問題の解決のためには、ア. 行政による営利目的の出版者
に対する指導、イ. 研究者個人の問題のある出版者のジャーナルへの論文投稿や、査読の差し控え、ウ.
アカデミックコミュニティーにおける評価(グラントの採択や任用・昇任の評価)における論文が掲
載されたジャーナルに拠る判断(特にインパクトファクターに基づく判断)の差し控え、等が考えら
れる。ア. については、出版者が問題があるか否かを判断する明確に基準は存在せず、また、直接的な
行政の介入は不適切であることから、緩やかな指導が妥当と考えられる。従って一義的な役割は、研
究者個人やアカデミックコミュニティーが担うと考えられる。
なお、研究データの保存、公開については従来の購読モデルにおいて想定されていない取り組みであ
り、論文のオープンアクセス化と並行して検討が加えられるべき課題と考えられるが、新たな財政の圧
迫要因となりかねない取り組みであることから、出版者側において推進するインセンティブは見られず、
行政による適切な政策的枠組みが示されなければ、この問題が論文のオープンアクセス化から切り離さ
れる可能性があると考えられる。
4-2-6.リポジトリの役割
OSTP パブリックコメントに示されたリポジトリの問題は、それを誰が行うべきかということである。
医学分野においては NIH が PubMed Central として連邦政府による米国における中核的リポジトリを構
築し、NIH の支援による研究成果の論文を収集しているが、物理学等については arXiv が幅広く世界の
論文を収めている。また、大学等研究機関においてもリポジトリが構築され所属教員の研究成果が公表
されている。
リポジトリは一般に、PubMed Central のような政府や国全体により構築されたリポジトリを中核的
(central)リポジトリ、arXive を代表的な例とする分野に基づくリポジトリ、そして大学等機関による
リポジトリの 3 つに区分することができるが、それぞれの優れた点や課題についても論議が展開されて
いる。米国連邦政府においては、OSTP が 2013 年 2 月 22 日付で各省・機関の長に宛てた「政府支援に
11
よる科学研究の成果へのアクセスの増進」に基づき、機関毎に取り扱いの検討が進められているが、本
稿執筆時点では今後の見通しは明らかとなっていない。この覚書の記述には、リポジトリの性格は明示
されていないが、掲載差し控え期間を 12 か月を基本とすることに加え、査読済み論文の最終版について
の相互運用可能性やメタデータへのアクセス等への言及が見られることから、米国の政策は(ゴールド
OA の拡大はあるにしても)既存の購読モデルとリポジトリの組み合わせを通したグリーン OA が引き続
き重要な役割を持つという認識に基づくものと考えられる。
この考え方は、ERC に見られるヨーロッパ委員会のものと共通性があるが、ゴールド OA を重視する
英国の政策との間には距離が見られる。英国においてリポジトリはゴールド OA を補完する役割への期
待も示されているが、その役割には研究データも含まれることも想定される。
4-2-7.様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等の役割
論文のオープンアクセス化及び研究データの保存・公開には、上記以外にも多くのステークホルダー
が存在する。その中には営利を目的とした民間企業から、各種の団体、そして個人として行動する場合
など多様であるが、本稿においては以下の事例を取り上げる。
・学術情報サービス
ジャーナルや学術論文に関するデータベースを構築し、それに基づき行われる情報の提供は、Thomson
Reuters 社や Elsevier 社がその業務の一部として行っているものが広く知られている。両者が提供する
インパクトファクターに関する情報は、購読費モデルにおいては図書館が購読契約を締結する際の参考
となるものであり、また、サイテーションに関する情報は、研究者や大学等研究機関が学術研究の動向
を知る手助けとなるものであるが、サンフランシスコ宣言が指摘する論点は、オープンアクセス・オー
プンデータの流れにおいて、これらの企業による情報の提供が、従来の意図を超えた影響を及ぼす可能
性があることを示している。
・著作権関連
著作権は論文のオープンアクセス化における主要なテーマのひとつであり、研究データの保存・公開
においても論議されている。Creative Commons により CC BY および CC0 の適用という基準が示され
ている。
・論文オープンアクセス化の推進
オープンアクセス化の推進に向け、様々な連合体、独立の団体、そして個人が活動しており、連合体
の中には行政が関与している例も見られる。
・研究データの保存・公開の推進
研究データのリポジトリについても大学に設置されたものの他、いくつもの独立したリポジトリの試
みが見られる。このような動きがどのように優れた役割を果たせるように成長するか注目する必要があ
ると考えられる。
・ジャーナルの質保証
インターネット上には個人による研究の質の向上のための取り組みなども見られるが、一例として、
いわゆるプレデタリー出版を明らかにすることを目的とした Scholarly Open Access: Critical analysis
of scholarly open-access publishing (Beall’s list)がある。
12
4-2-8.一般の人々・企業にとってのオープンアクセスの意味
米国における一般の人々、あるいは企業におけるオープンアクセスの観点は明快である。一般の人々
からは支払った税金により行われた研究の成果は人々に還元されるべきという意見が、また、企業から
は大学からの知識の移転の機会を拡大することにより起業や生産性の向上を図るべきという意見が示さ
れている。その意見には、論文の質を確保するために出版者が必要とする経費へ理解は余り見られず、
他のステークホルダー間の議論との間には論点の乖離も見られる。
4-3.ステークホルダー間の関係の整理
上述のとおり、ステークホルダー間の関係は複雑である。そのため、以下においては 2 つのステーク
ホルダー間の関係を一覧とした。もちろん、3 者間、あるいはそれ以上のステークホルダーの関係もあり
得るが、さらに表記が煩雑となると考えたため 2 者間の関係に留めた。
なお、以下の表は PDF の画面上での操作のためのリンクである。
大学等
■
研究者
■
■
学協会
■
■
■
出版者
■
■
■
■
リポジトリ
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
■
行政
大学等
研究者
学協会
出版者
リポジトリ
ネット上の仲介者・
調整者・活動家等
ネット上の
仲介者・調整
者・活動家等
一 般 の
人々・企業
行政と大学等
・行政から大学への基盤的経費の支援(大学において図書館運営、リポジトリ設置、APC 資金として支
出)
・行政から大学に対する機関リポジトリの設置に関する指導や支援
・行政から大学に対する研究データ保存・公開に関する指導や支援
・行政から大学へのゴールド OA 資金の配分(英国)
・大学から行政に対する研究の質を重視した政策の期待(特に研究大学における期待)
・大学から行政に対する論文入手費用の低減を重視した政策の期待(特に教育を重視する大学や開発途
上国の大学における期待)
行政と研究者
・行政から研究者へのグラント等による研究支援(研究者に論文投稿、PPV 論文購読等行動様式の変化
をもたらす)
・行政のグラント採択審査の評価基準における論文業績の取り扱い(研究者の論文投稿行動に変化をも
たらす)
13
・行政のグラント配分におけるオープンアクセス要件の設定(研究者の論文投稿行動に変化をもたらす)
・行政のグラント配分におけるデータマネジメント要件の設定(科学公正性を向上させる)
・研究者から行政に対する(論文投稿と入手の自由度が高まる)財政支援の期待
行政と学協会
・行政による論文の公開差し控え期間の設定(間接的に学協会の財政基盤への影響をおよぼす(質の低
下のリスク))
・行政によるゴールド OA への転換の推進(間接的に学協会の出版活動への影響をおよぼす)
・行政の学協会の出版活動に対する支援(日本の科学研究費補助金や情報発信・流通システム設置)
・行政によるガラパゴスジャーナルを出版する学協会の支援
行政と出版者
・行政による研究者(または大学等)への支援を通したゴールド OA の推進(出版者の歳入構造の変化、
新規商業出版者の参入、査読の変化をもたらす)
・行政による法令・規則を通したポジトリでの論文公開⇒出版者の歳入構造の変化(歳入減による質の
低下のリスクをもたらす)
行政とリポジトリ
・行政による法令・規則を通したポジトリでの論文公開(リポジトリの設置環境に変化をもたらす)
・行政によるリポジトリ設置者に対する資金配分(多くの場合は間接的)
行政と様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等
・直接的な関係はないが、仲裁者・調整者・活動家の取り組みは発言が政策形成に影響
行政と一般の人々・企業
・一般の人々や企業からの経済的利益等を期待したオープンアクセス化の要求
大学等と研究者
・図書館設置者としての大学と研究者の雇用者としての大学という二面性における学内資源配分の変化
・大学による研究者の任用・昇進に関する評価基準における論文業績の取り扱いの変化
大学等と学協会
・直接的な関係はないが、所属する研究者における論文執筆を通した研究活動が変化するという影響
大学等と出版者
・機関リポジトリ設置の場合の公開差し控え期間や著作権等の取り扱いの調整
・プレダトリー出版者によるジャーナルへの対応(図書館での購読、研究費での支出等)
大学等とリポジトリ
・大学自身がリポジトリを設置する場合の資源配分
・大学外へのリポジトリへの支援・協力
・研究データの保存・公開に向けた機能の設置
大学等と様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等
・大学における資源配分や研究者への評価等の決定に際しての仲裁者・調整者・活動家から提供される
情報の利用
大学等と一般の人々・企業
・一般の人々や企業からの要求による大学や所属する研究者の成果発表方法の変化
14
研究者と学協会
・研究者の学協会との関係の変化(学協会会員とジャーナル購読者が一致する状況の変化)
・オープンアクセス化が進展した場合の学協会会員以外の研究者への知識の普及
研究者と出版者
・出版者によるジャーナルの質の向上(あるいは低下)と研究者の評価の向上(あるいは低下)の関係
の変化
・ゴールド OA への掲載料負担
・著作権の帰属(研究者あるいは出版者)による論文情報の再利用の変化
研究者とリポジトリ
・リポジトリ設置者による研究者の研究活動の支援(研究データの保存・公開を通した研究公正性の向
上を含む)
研究者と様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等
・研究者に対するジャーナルに関する情報(引用情報に加え、インパクトファクターという指標を含む)
の提供(学術情報サービス)
・研究者と出版者の著作権の帰属の取り決めの支援(著作権関連)
・研究者がジャーナルについて行う判断の支援(ジャーナルの質保証)
・研究者に対するジャーナル以外の評価指標の提供(代替評価)
・研究者に対するジャーナルの質に関する情報(プレダトリージャーナルを含む)の提供(研究公正性)
・研究者間の情報交流の機会の提供(研究データ保存を含む)(SNS)
研究者と一般の人々・企業
・オープンアクセス化の進展による研究者と一般の人々・企業との間の新たな知識の流通方法の成立
学協会と出版者
・学協会自身が(非営利)出版者である場合における財政基盤およびその他の活動基盤の変化
・営利出版者の場合における学協会との受託等の関係の変化
学協会とリポジトリ
・オープンアクセス化の進展の形態により相補的関係の形成
学協会と様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等
・学協会自身が出版者である場合に、以下の「出版者と様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等」
の関係の変化
学協会と一般の人々・企業
・オープンアクセス化の進展による研究者と一般の人々・企業との間の新たな知識の流通方法の成立に
おいて生じる新たな学協会の役割
出版者とリポジトリ
・オープンアクセス化のシステムが安定的とならない場合の双方の間の対立的関係の発生(公開差し控
え期間の設定など)
・ゴールド OA における出版者によるオープンアクセスとリポジトリのそれに対する相補的な役割の形
成(データ保存・公開を含む)
出版者と様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等
15
・出版者に(経営判断の参考とされる)インパクトファクター等の情報の提供(学術情報サービス)
・著作権の(出版者にとって経営の妨げとなり得る)出版者から研究者への移転の支援(著作権関連)
・出版者(一般的にはプレデタリー出版者を含む質の劣る出版者)への経営の妨害(ジャーナルの質保
証)
・科学評価における出版者への依存の低減(代替評価)
・
(効果的に機能した場合は)質の優れた出版者の支援と質の劣る出版者への牽制(研究公正性)
・両者間のリポジトリ等の新たな補完的な機能(SNS)
出版者と一般の人々・企業
・一般の人々・企業がジャーナルの読者となるという新たな関係の形成
リポジトリと様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等
・様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等へのリポジトリの支援
・様々なネット上の仲介者・調整者・活動家の取り組みの成果を通したリポジトリの業務の向上
リポジトリと一般の人々・企業
・リポジトリから一般の人々・企業への論文の無料公開
様々なネット上の仲介者・調整者・活動家等と一般の人々・企業
・仲介者・調整者・活動家等から一般の人々・企業に向けられたジャーナルに関する情報の提供
5.論文のオープンアクセス化、研究データの保存・公開に関するいくつかの課題
以上、論文のオープンアクセス化、研究データの保存・公開について、政策動向や各ステークホルダ
ーの立場からの分析を試みた。以下においては上記の諸点を踏まえ、今後この問題に関し念頭に置くべ
きと考えられる諸点を記した。
○ 出版者が求める価値は、学術的価値と一致するのか?
前章のコラムで示したとおり、筆者は、特に営利を目的としたジャーナルの出版は、必ずしも学術的
価値を高めるという誘因が働かない可能性があると考える。プレダトリー出版者は特に学術的価値を疎
かにし、利益を追求した事業形態を持つ者ということができる。悪質な出版者は、仮に論文投稿料(ま
たは APC)が低廉であっても、アカデミックコミュニティーから批判され、投稿者もいなくなることか
ら淘汰が進むと考えられるが、問題はいわゆる中間的な(グレーゾーンの)出版者と考えられる。
再々言及しているように、論文に示された知の価値は掲載されるジャーナルによって決まるものでは
ないという理念をサンフランシスコ宣言は示しているが、これはジャーナルの価値を測ることを否定す
ることにも結び付く。ゴールド OA を通したオープンアクセス化の実現のためには、このような難しい
問題の解決が求められていると言える。
○ 知の流通形態の変化は、政府の研究支援にどのような影響を及ぼすか?
「サンフランシスコ宣言」に示された研究に関する評価を、その論文が掲載されたジャーナルのイン
パクトファクターに基づき行うべきではないという考え方は、Thomson Reuters 社を含め広く共有され
た認識である。しかい、これまで実際のグラント審査の際、レビュアーはしばしば(特に新奇な発想の
研究である場合を含め自身の専門分野と距離がある場合)、過去の業績である論文のインパクトファクタ
16
ーを参照してきたということ(そしてそのことが Thomson Reuters 社の経営に貢献してきたこと)も事
実であると言える。新たなジャーナルが刊行される中で、掲載されるジャーナルに頼らずに論文を評価
することは、レビュアーに対しより重い責任と負担を負わせることになる。
NSF は、2013 年 1 月 14 日以降適用するグラントへの申請書書式を改訂した。この改訂により申請書
の「略歴(Biographical Sketch)
」の欄における「Publications」のセクションが、
「Products」に変更
された。
「Products」には出版物(publications)、データセット(data sets)
、ソフトウェア(software)、
特許(patent)
、著作権(copyrights)他が含まれるとしており、評価の際に参照される情報の範囲が広
がった。この変更は前段の論文の評価に関することの他に、さらなる責任と負担をレビュアーに求める
ものと考えられる。
換言すれば、これらの変化に対し、レビュアーとしての研究者がその責任と負担を引き受けることが
できなければ、研究の質の低下へと結びつくリスクが生じるということである。
○ 検証されずに流通する知に対し、誰が責任を負い、また評価するのか?
研究データの保存・公開への取り組みは研究公正性を含む研究活動の向上に有効であるが、研究活動
を取り巻く環境は、研究公正性を損なう方向性に向かうリスクも孕んでいる。研究公正性を担保するた
めには、他の研究者による検証が可能であることが重要であるが、以下のような形で発表され流通する
知は検証が困難となる。
1) 適切な検証を行うことを困難にするプレダトリーパブリッシング
2) 新たな形態でネットワーク上に展開する知など、検証の手順が未だ確立されていない知
3) 検証されなくても流通することが人々に利益をもたらす場合(特に大規模な災害や流行病への緊急
の対応)
これらはいずれも検証されない知である。この対応として 1) に関しては個人の取り組みとしては
Beall’s list を挙げることができるが、突き詰めればひとりひとりの研究者の行動に委ねられる問題であ
る。2) については今後の取り組みが期待されるものであるが、例えば Altmetrics の可能性と限界を明ら
かにするのは、
(グラントの採否のための評価を行う NSF でなく)研究者の側であるべきと考えられる。
○ ガラパゴスジャーナルの知の価値はどのように高めることができるのか?
本稿では独自性の高い学術研究基盤が形成された英語以外の言語を母国語とする国や地域において、
母国語において出版されるジャーナルをガラパゴスジャーナルと呼んでいる。人文学、社会科学のみな
らず、自然科学や工学・医学の一部も自国語で水準の高いジャーナルが出版されているが、その出版の
基盤は学会会員が支払う購読料または学会費であり、学協会会員の中で閉じられた互助的な性格を有し
ているとする。そのようなジャーナルがオープンアクセス化することは、ゴールド OA の場合には論文
投稿(投稿料(APC)の支払い)への負担により、また、グリーン OA の場合には学会費(購読料)の
支払いなしに論文にアクセスできることにより、学会の基盤を危うくする場合も考えられる。
このような状況は本稿で取り上げた米英等の国々においては検討の対象とならないものであるが、他
の国(我が国も含まれる)においての検討に際しては、このガラパゴスジャーナルについて、例えば学
会における投稿資格を学会員に制限しないことなどと政府によるオープンアクセス化の支援(ジャーナ
ル公開システム設置など)が組み合わされた取り組みなどの検討も必要と考えられる。
17
○ オープンアクセス化は人々の新たな科学研究活動への参加を促進させるか?
オープンアクセス化に賛意を示す人々の中には、開発途上国の研究者や十分な購読料の支出が難しい
研究機関(教育に重点を置く大学を含む)などに論文にアクセスする機会を提供し、将来の研究者育成
に有効であるということをその理由とする者もいる。このことは間違いないが、ゴールド OA の場合に
は投稿料(または PAC)の負担が、そのような環境にいる者にむしろ障害となることも考えられる。さ
らに、ハイブリッドモデル、すなわちオープンアクセス論文と購読料論文の双方が掲載されたジャーナ
ルについては、特にそのような環境にいる者が論文を投稿する場合に購読料論文が現実的な選択肢とな
るが、その場合、自身はオープンアクセス論文ばかりを参照して研究を行い、その論文を引用して発表
するが、その投稿先は購読料論文であり、自分と同じ立場の研究者からは引用されない論文となるとい
う奇妙な状況が生まれる。このような状況は、科学的公正性を損なうひとつの要因となると考えられる。
○ 知が国境を超えて流通する中、ひとつひとつの国が採るべき政策はどのようなものか?
科学研究活動とその成果としての知は、本質的に国境を超えるが、各国の行政機関が行う取り組みは
基本的に国内を対象として行われる。論文のオープンアクセス化の必要性は広く認識されているが、多
くの国は必ずしも明確に政策が示されている訳ではない。その中で英国は明確にゴールド OA が望まし
いとし、そのためのブロックグラントによる資金配分も開始した。
このことが英国および英国以外の研究者に及ぼす影響について、英国においては、英国の研究者が英
国民の税金によりオープンアクセス化された論文を、他国の研究者は無料でアクセスすることができる
という意見がある。このことは一面において正しい。しかし、同時に特定の国の研究者の論文が、他国
の研究者の論文よりも多く(掲載差し控え期間なく)オープンアクセス化されることは、その国の研究
者の論文がより引用されやすくなるということも考えられる。穿った見方であることを承知のうえで述
べると、Elsevier 社は英国政府の委託により「International Comparative Performance of the UK
Research Base」報告書を作成したが、英国のみによるゴールド OA を促進する政策は、このような論文
に関するデータに基づく各国の研究水準の比較において自国にプラスとなるものとも言える。
6.エコシステムの変容に関するシナリオ
以上、論文のオープンアクセス化と研究データの保存・公開に関する最近の動きを知の共有地のエコ
システムという考え方から見た。各ステークホルダーの関係は複雑であり、将来の展開を予測すること
は困難であるが、以下においては 3 つのシナリオを示したうえで、筆者の個人的な提案を記した。
・第 1 のエコシステム:リポジトリとゴールド OA が併存する多様性のある出版形態のエコシステム
ゴールドオープンアクセスとグリーンオープンアクセスが混在するエコシステム。管理者はシステム
の外側から法令・規則等によりグリーンオープンアクセスを促進させる。ゴールドオープンアクセスに
対しては介入せず、アカデミックコミュニティー(研究者・研究機関)と出版者の間で形成されるもの
とする。プレダトリー出版者のジャーナルの排除はアカデミックコミュニティーの自律性に委ねられる。
オープンデータに対する行政の関与は、オープンアクセスに対する関与と親和性が高い。行政の介入の
度合いが低いため、国際的に協調的なエコシステムである。
18
・第 2 のエコシステム:行政主導によるゴールド OA を中心としたエコシステム
行政府が財政支援の枠組みを通してゴールドオープンアクセスを主導するエコシステム。グリーンオ
ープンアクセスはゴールドオープンアクセスの補完的機能として位置づけられる。オープンデータとの
親和性は低い。プレダトリー出版のジャーナルの排除は一義的にはアカデミックコミュニティーの責務
と考えられているが、行政も関与する義務が生じる。多くの国がこのメカニズムの導入が困難と考えら
れることから国際的には協調的でない。
・第 3 のエコシステム:ステークホルダーの相反するメリットが顕在化した出版形態のエコシステム
各ステークホルダーの取り組みが調和的に行われず、相互にネガティブな帰結をもたらすリスクのあ
るエコシステム。例えばプレダトリー出版が拡大し、掲載論文の質を高めようとする出版者の努力を損
ね、また、リポジトリの役割の意味が低下するといった状況である。
・もうひとつのエコシステム:各ステークホルダーが協調した多様性のある出版形態のエコシステム
上記 3 つのエコシステムのうち、特に第 3 のエコシステムに向かうことのないようにするための要件
として、筆者が考えることは以下のとおりである。ここでは、グリーン OA とゴールド OA のいずれが
望ましいかといった点に言及していない。オープンアクセス化が研究の成果としての知の価値を最も高
めるためには、制度に先立ち、各ステークホルダーの意識が重要と考えるためである。
提案
・研究者は高い科学的な公正性と自律性を持って評価を行うことが求められる。ここで評価とは、ジャ
ーナル掲載論文の査読、グラント等の配分の審査における評価、所属機関における他の研究者の採用・
昇進の審査等のそれぞれにおける評価である。
・アカデミックコミュニティーは、ジャーナルが厳格な査読を行うことに対し、高い評価を与えるべき
である。
・機関、学協会等がリポジトリを構築し、ジャーナル掲載査読済み論文、ジャーナル未掲載の論文等、
および研究データを保存し、公開することは強く奨励すべきであり、国は研究公正性の観点からも、
この取り組みを支援すべきである。なお、このことはプレダトリー出版者の排除に有効と考えられる。
・国はグラント等の支援において、その成果の論文ができる限り早い時期に無料で公開されるための取
り組みを行うべきである。その具体的な方法としては、グラントの使途の柔軟性を高め、プロジェク
ト採択期間終了後にも投稿料の支出を認めることなどが考えられる。なお、その目的は、必ずしもゴ
ールド OA の推進にかかるものばかりでなく、リポジトリをとおしたグリーン OA に関するものも含
まれるべきである。
・商業的データ提供企業の活動については、引用データ、インパクトファクターのデータの提供に関し、
アカデミックコミュニティーとの間で適切な倫理基準が策定されることが推奨される。
19
附属文書1.参照文献
<米国>
下院科学技術委員会による学術出版ラウンドテーブル報告書(2010 年 1 月)
○ 共有された原則
(1)査読は高い質と編集上の公正性を維持する点において引き続き重要な役割を果たさなければなら
ない。
(2)企業活動の発展を持続させるために適用可能なビジネスモデルが必要である。
(3)学術・科学出版はより幅広い人々と研究者コミュニティーに対しよりよい機能性を持った幅広い
アクセス可能性を持たせることができ、また持たせるべきである。
(4)持続的なアーカイヴ化と保存は信頼性の高い出版手順のための基本的な補完物である。
(5)研究の成果は創造的な再利用とそれらが置かれたサイトの間での相互運用を最大化する方法で出
版され、また維持されるべきである。
○ 中心的提言:連邦政府研究資金配分機関はその資金による研究の成果について、査読誌において出版
され次第速やかに無料で一般の人々に対するアクセスを提供することに関する明白なパブリックアクセ
スポリシーの構築・実施
(1) 連邦政府機関・科学技術政策室(OSTP)とは、全てのステークホルダーとの間で協議を行うべ
き
(2) 出版とパブリックアクセスとの間に個々の公開差し控え期間を設定すべき(公開差し控え期間は、
出版と同時~12か月の間が適当だが、より長期の場合も想定される)
(3) ポリシーは相互運用能力を高めるニーズに応えるべき
(4) 版(version)に関する「記録のヴァージョン(version of record- VoR)
」が付されるべき
(5) 非政府のステークホルダーとの間で自発的協力を通した連邦政府機関のパブリックアクセスポリ
シーの適用範囲を広げるべき
(6) 学術出版物の研究及び教育面におけるイノベーションを促進させるものであるべき
(7) 長期的デジタル保存の課題を解決する必要性に対応するものであるべき
(8) OSTP はパブリックアクセス諮問委員会を設置すべき
<英国>
Finch report の提言
○
提言
ⅰ.論文加工・出版料(article processing or publishing charge: APC)を資金とするオープンアクセス
やハイブリッドのジャーナルについて、研究(特に公的資金による研究)の成果の出版の支援として明
白な政策が示されるべきこと
ⅱ.リサーチカウンシルおよび他の公的資金配分機関は Wellsomce Trust の取り組みを参考とし、かつ
20
異なる資金配分手順に留意しつつ、オープンアクセスやハイブリッドのジャーナルの出版の経費に対応
するより効果的で柔軟な手順を確立すべきこと
ⅲ.オープンアクセス出版の支援においては、特に非商業的な目的の利用及び再利用の権利、およびテ
キストや他のコンテンツを構成・操作する最新のツールやサービスの利用に対する制限を最小限とする
こと
ⅳ.世界的なオープンアクセスへの移行の期間においては、高等教育機関や保健部門におけるアクセス
を最大化するため、これらの全機関の現行のライセンスが拡大し正当化されるための資金が手当てされ
るべきこと
ⅴ.英国の公立図書館における立ち寄り(walk-in)アクセスの議論は進展させるべきこと
ⅵ.政府、任意団体、企業は、出版者、学協会、図書館他の関係者と共に、幅広いアクセスを提供する
ためのライセンスの条件と経費について検討を行うべきこと
ⅶ.今後の大学と出版者の間のビッグディールの料金やその他の購読料の交渉においては、オープンア
クセスやハイブリッドへの移行、ライセンスの延長、出版者の歳入機会の変化等の費用が考慮されるべ
きこと
ⅷ.大学、資金提供者、出版者、学協会は引き続き学術的なモノグラフのオープンアクセスに向けた検
討を行うべきこと
ⅸ.分野を基盤としたリポジトリや機関リポジトリは発展し、特に研究データ、灰色文献(grey literature)
(本稿筆者注:テクニカル・レポート、仕様書、翻訳その他)およびデジタル保存といった点において
公式な出版に対し補完的な役割を有するべきであること
ⅹ.資金提供者によるオープンアクセス出版となっていない内容への差し控え期間の設定やその他の制
限は、APC を主な収入となっていない価値のあるジャーナルに不当なリスクを負わせることを避けるた
め、慎重に検討されるべきこと。また、規則はエビデンスやそのようなジャーナルに対する起こりえる
影響に照らして検討されるべきこと
Accessibility, sustainability, excellence: how to expand access to research publications
http://www.researchinfonet.org/wp-content/uploads/2012/06/Finch-Group-report-FINAL-VERSION.p
df
RCUK Policy on Open Access and Supporting Guidance
2. RCUK Policy on Open Access の要点
ポリシーの目的
研究への公的資金の支出が、最大の経済的・社会的見返りをもたらすためのひとつの方法はオープン
アクセスである。RCUK のオープンアクセスに関するポリシーは、査読済みの研究論文が、無料で即時
に制限なしにオンライン上でアクセス可能とすることを目的としている。その構想は、全ての利用者が
出版された研究論文を電子的なフォーマットで読み、検索し、また、全面的で適正な帰属の下で、手作
業あるいは(テキストマイニングやデータマイニングなどの)自動化されたツールを利用し(ダウンロ
ードを含む)再利用することが可能となるものである。
21
対象範囲
本ポリシーは、2013 年 4 月 1 日以降にジャーナルや学術会合のプロシーディングにおいて出版された
リサーチカウンシルが資金配分を行ったという謝辞が記された査読済みの研究論文を対象とする。
研究者に対する期待
研究者は、RCUK のオープンアクセスに関するポリシーに適合する形でリサーチカウンシルの資金配
分の謝辞を記した査読済みの論文を出版することが期待されている。
ジャーナルのコンプライアンス
RCUK は以下のいずれかの要件においてジャーナルがコンプライアンスを満たしているとする。
・ジャーナルが自身のウェブサイトで論文の最終的に出版された版への即時の無制限のアクセスを、ク
リエイティブコモンズによる帰属(Creative Commons Attribution-CC BY)ライセンスにおいて提供し、
再利用の制限なしで他のリポジトリにおいて最終版の即時の保存を認める場合。出版者への論文加工費
(Article Processing Charge- APC)への支出が含まれる。
・ジャーナルが、掲載決定された最終的な原稿を非商業的な目的において制限を設けず、一定期間内に
いずれかのリポジトリに置くことに合意する場合。出版者に対する論文加工費は配分されい。
後者の場合、科学技術工学数学分野においては RCUK はオンライン出版から最終版の採用決定された
原稿がオープンアクセス化するまでの遅延期間を 6 か月以内とする。芸術・人文学・社会科学の論文に
おいては、最大の差し控え期間を 12 か月とする。移行期間において著者へ論文加工費への資金配分が行
われない場合、より長期の差し控え期間が認められる。
RCUK は、原稿の著作権は通常著者に帰属すると考える。
論文加工料
2013 年 4 月 1 日から、リサーチカウンシルが資金配分した研究に関する論文加工費および他の出版経
費の支払いは研究機関に配分される RCUK のオープンアクセスブロックグラントで支援される。以後、
査読済み研究論文の論文加工費および他の出版経費は研究グラント申請に含めることはできない。
研究機関への期待
RCUK のオープンアクセスブロックグラントの受領要件を満たす研究機関は、機関出版基金を設置し
オープンアクセス経費や他の出版経費に関する管理と資金配分を行うことが期待される。機関はブロッ
クグラントを、RCUK のオープンアクセスポリシーを最適な形で幅広い分野において、様々なキャリア
の段階の研究者を対象として透明性のある方法により実践することが可能である。RCUK はブロックグ
ラントの主な使途は論文加工費(APCs)である。
実施およびコンプライアンス
RCUK は差し控え期間を含めそのポリシーの実施において柔軟性を認めている。実施に関するエビデ
ンスに基づくレビューが、独立した議長と様々な部署の者により 2014 年に予定されている。以後、移行
の進展に沿う形でレビューが行われる(おそらく 2016 年と 2018 年)
http://www.rcuk.ac.uk/media/news/2012news/Pages/120716.asp
22
<European Commission>
European Commission の取り組み‐Fact sheet: Open Access in Horizon 2020 の抜粋
(前略)
○ オープンアクセスに関する EC のポリシーおよび Horizon 2020 における実施内容
EC はオープンアクセスがそれ自体で完結するものではなく、ヨーロッパ研究エリア(ERA)および
その先における情報の流通を促進するツールであると考える。2008 年以降、EC は FP7 においてオープ
ンアクセスパイロットを実施してきた。EC は、加盟国とステークホルダーにおいて異なった状況やニー
ズが存在することから、オープンアクセス達成にはいくつかの方法があると認識しており、それ故、
「グ
リーン」と「ゴールド」の双方を支持する。
○ 査読済の学術出版物へのオープンアクセス
査読済みの学術出版物へのオープンアクセスは Horizon 2020 の規則と参加規程において主柱となる
原則であり、それ故関連する規定やグラント配分契約を通して実践されるものである。受領者は、(i) 出
版がアクセプトされた査読済の最終版の原稿の電子版を機械的に読み込める形で学術出版者(注:オン
ラインアーカイヴ、機関リポジトリ、分野別の中央のリポジトリなどは全て認められる選択肢である)
において保存し、(ii) 以下の手順のオープンアクセス化を行うよう求められる。
・オープンアクセス出版者については、研究者はオープンアクセスジャーナルにおいて発表するか、購
読料を徴収するジャーナルに発表し、個別の論文をアクセス可能とする(ハイブリッドジャーナル)可
能性を提供する。その場合、受領者に対する著者加工料(Author Processing Charges: APCs)は実施期
間中における支出の対象となる。グラント契約期間後に生じる APCs については、これらの経費の支出
について試行が行われる。
「ゴールドオープンアクセス」の場合、最終の出版がオープンアクセス化され
なければならない。
・セルフアーカイヴィングについては、研究者は査読済みの原稿の最終版を自身の選択に基づくリポジ
トリにおいて保存することが可能である。その場合、出版時あるいは定められた期間内にオープンアク
セス化されることを確かめなければならない。
「グリーン」オープンアクセスの場合、出版後 6 か月以内
にオープンアクセス化されなければならない。
(以下、略)
注:本ファクトシートには、
「Open access to research data」として、支援プロジェクトにより生成さ
れた研究データのアクセスと再利用を改善し最大化することを目的とした試みが併せて記されている。
https://ec.europa.eu/programmes/horizon2020/sites/horizon2020/files/FactSheet_Open_Access.pdf
Open Access Guidelines for researchers funded by the ERC (revised October 2013) の仮訳
ヨーロッパリサーチカウンシル(ERC)のミッションは全ての分野の科学、学識の優れた研究の支援
を行うことである。ERC が期待する研究の主なアウトプットは、研究者が査読済みの論文およびモノグ
ラフにおいて発表する新たな知識、発想そして理解である。
ERC はこれらへの無料のオンラインアクセスが資金配分された研究の成果がアクセスされ、読まれ、
23
その先の研究に基盤として利用される最も効果的な方法であると考える。
ERC は出版された研究のアウトプットへのオープンアクセスの原則について、そのミッションの基本
的な部分として支援を行う。
従って、ERC は以下の対応を行う。
・研究の全部あついは一部を ERC の資金配分により支援された研究の論文、モノグラフ他の研究成果出
版の電子的コピーは、出版後即座に適当なリポジトリに置くことを要求する。オープンアクセスは出来
る限り速やかに、いずれの場合も公式な出版の日から 6 か月以内に行われるべきである。社会科学およ
び人文学分野においては、12 か月までの遅延は認められる。
・ERC が資金配分を行った研究者がその出版に関し、分野毎に設置されたリポジトリを使用することを
強く奨励する。推奨されるリポジトリのリストは附属文書 1 に示した。もし適当な分野毎のリポジトリ
がない場合、研究者はその出版物を機関リポジトリまたは Zenodo といった集中型のリポジトリにおいて
利用可能とすべきである。
・ERC が資金配分を行った研究者に対し、オープンアクセス費用他該当する経費が、プロジェクト実施
期間中、ERC グラントから支払うことが可能であること理解させる。
・所属機関が、研究の全部または一部を ERC の資金配分により支援された研究の出版物のオープンアク
セス費のうち、プロジェクト終了後 24 か月間に生じたものについて負担することを奨励する。
ERC は研究データのオープンアクセスの基本的経費を支援する。このため以下の対応を行う。
・全ての資金配分を受けた研究者は、研究実施期間中に使用した全ての研究データのファイルを保存し、
そのデータを著作権、機密に関する合意、あるいは契約条項により制限されない限り他の研究者と共有
することを推奨する。
この原則を発展させるため、ERC オープンアクセスワーキンググループは、適切なプロトコールの設
置や異なる分野や部門における研究データの適切なリポジトリの明示について、フォローし参画してゆ
く。
この文書は、ERC が資金配分を行った研究者とその所属機関にガイドラインを提供するために作成さ
れた。この文書は定期的に改訂される。
附属文書 1:推奨される分野毎に設置されたオープンアクセスリポジトリ
生命科学で推奨されるリポジトリは Europe PubMed Central、物理科学と工学で推奨されるリポジト
リは arXiv である。ERC 科学評議会(Scientific Council)は現時点では推奨する社会科学および人文学
のリポジトリはない。しかしながら、これらの分野における実施手順やオープンアクセス基盤をレビュ
ーしており、将来提示することが考えられる。
<その他>
研究アセスメントに関するサンフランシスコ宣言
研究アセスメントに関するサンフランシスコ宣言(The San Francisco Declaration on Research
Assessment: DORA)は、ファンディング機関、大学、その他において行われる科学研究のアウトプッ
トに対する評価(evaluation)を改善する喫緊の必要性があるという認識のもと発表されたもので、イ
ンパクトファクターをはじめとする科学アウトプットの指標について、適正な利用を呼び掛ける内容と
24
なっている。宣言においては、一般的な提言に加え、ファンディング機関、大学、出版者、メトリクス
を提供する機関、研究者のそれぞれに向けた提言が記されているが、それらの共通したテーマは、以下
の点としている。
・ファンディング、任用、昇進の検討においてジャーナルインパクトファクターといったジャーナルに
基づくメトリクスの使用を排除する必要性
・研究が、その出版されるジャーナルに基づくのではなく、研究そのものにかかるメトリクスにより評
価(assess)される必要性
・オンライン出版によりもたらされる機会(論文における語数、図表の数、参照文献にかかる不必要な
制限の緩和、卓越性や影響に関する新たな指標の探究など)の必要性
注:インパクトファクターとは、トムソンロイター社によると「インパクトファクターとは特定の 1 年
間において、ある特定雑誌に掲載された「平均的な論文」がどれくらい頻繁に引用されているかを示す
尺 度 で 、 一 般 に そ の 分 野 に お け る 雑 誌 の 影 響 度 を 表 し ま す 。」 と さ れ て い る
( http://ip-science.thomsonreuters.jp/products/jcr/support/ )
。
以下は、DORA に記載された提言の内容である(筆者が宣言の内容に沿ってまとめたものであり、翻
訳したものではない点留意されたい)
。
<一般的な提言>
1.ジャーナルのインパクトファクターといったジャーナルを基盤とするメトリクスを、個々の研究者
における貢献、あるいは雇用、昇進、資金配分の決定における評価(assessment)において、個々の研
究論文の質の代わりの測定指標として用いるべきでない。
<ファンディング機関に対する提言>
2.グラントの申請における科学的創造性の評価(evaluate)に用いる基準において、論文の科学面に
おける質は、出版物に関するメトリクスや出版物の位置づけよりも重要であることを‐特に若手研究者
に向けて‐明示すべきである。
3.研究評価(assessment)においては、研究出版物に加え、全ての研究アウトプット(データセット
やソフトウェアを含む)の価値とインパクトや、政策や実践に影響を及ぼすことなど質的な研究指標を
含む幅広いインパクトを考慮すべきである。
<大学に対する提言>
4.雇用、テニュア、昇進に関する決定において、論文の内容は、出版物に関するメトリクスや出版物
の位置づけよりも重要であることを‐特に若手研究者に向けて‐用いる指標を明示すべきである。
5.研究評価(assessment)においては、研究出版物に加え、全ての研究アウトプット(データセット
やソフトウェアを含む)の価値とインパクトや、政策や実践に影響を及ぼすことなど質的な研究指標を
含む幅広いインパクトを考慮すべきである。
<出版者に対する提言>
6.販売促進ツールにおけるインパクトファクターの利用を大幅に減少させるべきである。インパクト
25
ファクターを高めることを取りやめること、あるいは豊かなジャーナルの業績の観点を提供する多様な
ジャーナルに基づくメトリクス(例えば、5 年間のインパクトファクター、EignFactor、SCImago、
h-index、編集委員、出版回数)が提示されることが望まれる。
7.出版物のメトリクスよりも論文の科学的内容に基づく評価(assessment)への転換を促進させるた
め、幅広い論文のメトリクスの利用が出来るようにするべきである。
8.著者(オーサーシップ)に関する実践、そして各著者の固有の貢献についての情報の提示について
奨励すべきである。
9.ジャーナルが、オープンアクセスの場合であれ、購読者負担の場合であれ、研究論文の参照リスト
における再利用の制限を撤廃し、クリエイティブコモンズパブリックドメインデディケーションのもと
利用可能とすべきである。
10.研究論文における参考文献の数の制限を撤廃または削減し、適当な場合、レビュアーに役立つよ
う、最初にその知見を報告したグループにクレジットを付与するための、主要な文献の引用を義務化す
るべきである。
<メトリクスを提供する機関に対する提言>
11.全てのメトリクスの算出に用いたデータと手法を提供することにより、開放性と透明性を持たせ
るべきである。
12.制限のない再利用を認めるライセンスのもとでデータを提供し、可能な場合、コンピューターを
通したアクセスを提供すべきである。
13.メトリクスの不適切な改変が認められないことを明らかにし、不適切な改変がどのように構成さ
れるか、また、それに対抗するためのどのような手段が取られているかを明らかにすべきである。
14.メトリクスが利用され、集計され、または比較される場合、異なる論文のタイプ(例えば、レビ
ューであるか研究論文(research article)であるか)や異なる学術分野による違いを考慮すべきである。
<研究者に対する提言>
15.資金配分、雇用、テニュア、あるいは昇進に関する決定を行う委員会に参加した場合、出版物の
メトリクスではなく、科学面の内容に基づき評価(assessment)を行うべきである。
16.適当な場合、クレジットを付与するためのレビューではなく、所見(observations)が最初に報
告された主要文献を引用すべきである。
17.個々の発表された論文や他の研究アウトプットの影響のエビデンスとして、個人的あるいはサポ
ートに関するする記述について幅広いメトリクスや指標を用いるべきである。
18.ジャーナルインパクトファクターに不適切に依存する研究評価(assessment)の手順を批判
(challenge)し、個々の研究アウトプットの価値や影響に焦点を絞ったベストプラクティスを奨励し教
育すべきである。
http://am.ascb.org/dora/
26
附属文書2.参考ウェブサイト
以下には本稿に関連したウェブサイトの URL を掲載した。なお、論文のオープンアクセス化、研究デ
ータの保存・公開に関するサイトは他にも多数あるが、以下は筆者が個人的に関心を持ったサイトであ
り、各サイトの設置者の取り組みに等についての評価に基づくものではない点、承知おきいただきたい。
1.リポジトリ
・PubMed Central
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/
米国国立保健研究所(NIH)のリポジトリ
・arXiv
http://arxiv.org/
物理科学、コンピューター科学、定量生物学、定量金融・統計学の分野における e-プリントサービス。
コーネル大学図書館に設置され、掲載は同大学の学術的な規準に基づく。
・Europe PubMed Central
http://europepmc.org/
Wellcome Trust が主導し、ヨーロッパの 24 の生命科学と生物医学分野の慈善団体や政府機関に支援さ
れた、米国 PubMed Central の欧州版。
2.オープンアクセスに向けた取り組み
・Clearinghouse for the Open Research of the United States (CHORUS)
http://chorusaccess.org/
連邦政府による研究成果である査読済みの出版物へのパブリックアクセスを拡大させるための民間部門
‐公的部門が連携した非営利団体。
・Open Archives Initiative
http://www.openarchives.org/
オープンアクセスや機関リポジトリを起源とし、効果的な研究成果の流通を促進するための相互運用可
能な標準の開発、促進を目的としたイニシアチブ。
・Compact for Open-Access Publishing Equity
http://www.oacompact.org/
所属大学の教員による著者負担のオープンアクセスジャーナルへの論文掲載のための基金。
27
Directory of Open Access Journals (DOAJ)
http://www.doaj.org/
オープンアクセス化されたジャーナルの普及や利用を促進することを目的とした団体で、質が確かめら
れたシステムを用いることにより内容が保証されたオープンアクセスジャーナルへのワンストップサー
ビスを提供している。
Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA)
http://oaspa.org/
全分野のジャーナルを対象としたオープンアクセス出版の利益を代表することを目的とし、情報交換、
標準化、モデルの向上、アドボカシー、教育、イノベーション等を実施することをミッションとした団
体。
OAPEN
http://www.oapen.org/home
主に人文学、社会科学を対象としたオープンアクセス図書について公開する団体。
3.著作権
・Creative Commons
http://creativecommons.org/
創造性や知識について、無料で適法なツールによる共有と利用を可能とすることを目的とした非営利団
体。
4.研究データの保存・公開(リポジトリを含む)
National Digital Stewardship Alliance (NDSA)
http://www.digitalpreservation.gov/ndsa/
米国連邦政府議会図書館において 2010 年に創設されたデジタル情報の長期的保存に関与する機関のコ
ンソーシアム。メンバーは大学、コンソーシアム、学協会、営利機関、政府機関など全部門。
・Zenodo
http://www.zenodo.org/
既存の大学あるいは分野を基盤としたリポジトリに含まれない多分野の研究成果であるデータと出版物
に関するリポジトリサービス。
・DRIVER: Networking European Scientific Repositories
http://www.driver-community.eu/
28
全ヨーロッパ的に結束し強固で柔軟なデジタルリポジトリの創設を目的とし、関係する専門家とオープ
ンアクセスリポジトリのネットワーク。
Alliance for Permanent Access
http://www.alliancepermanentaccess.org/
科学情報への永続的なアクセスのための持続的な組織基盤のためのヴィジョンや枠組みの開発を目的と
した連合体。
NISO/NFAIS Supplemental Journal Article Materials Project
http://www.niso.org/workrooms/supplemental
ジャーナル論文の付属資料についての、出版者における取り込み、取り扱い、表示、保存のための実施
提案の開発を目的とした NISO と NFAIS の共同プロジェクト。
・DataCite
http://www.datacite.org/
2009 年にロンドンで設置された非営利団体で、研究データへのアクセス改善、学術記録として整備され
引用可能な研究データの拡大、検証され利用可能なデータのアーカイヴィングの支援を目的としている。
・CoData
http://www.codata.org/
ICSU により 1966 年に世界規模でデータの集積、評価、普及を目的として創設された団体で、科学技術
の全分野を対象としてデータの質、信頼性、利用、アクセスに関する事項に取り組んでいる。
5.ジャーナルの質保証
Scholarly Open Access: Critical analysis of scholarly open-access publishing (Beall’s list)
http://scholarlyoa.com/
個人により設置されたいわゆるプレダトリー出版者のリストを掲載するサイト。
29
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