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肝移植後に B型肝炎の再発・発症を防ぐために

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肝移植後に B型肝炎の再発・発症を防ぐために
抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
を投与される
患者様とご家族の方へ
肝移植後に
B型 肝 炎 の 再 発・発 症 を
防ぐ た め に
監 修
京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科
教授
「抗HBs人免疫グロブリン製剤
による治療」に関する
情報につきましては、以下のウェブサイトでもご紹介しています。
「肝移植後にB型肝炎の再発・発症を防ぐために」
http://www.jbpo.or.jp/med/hbv/
BS-HBG-302D2016年5月作成
審J1511150
上本 伸二 先生
なぜ、移植後にB型肝炎になるのか
■ はじめに
我が国の肝移植は、1989年に初めて生体肝移植が行われて以来めざましい進歩を遂げ、
現在では重症肝臓病の治療法の一つとして多くの施設で行われるようになっています。
その一方で、これまでB型肝炎が原因で肝移植を受ける患者さんやB型肝炎ウイルスに
感染したことのある人から肝臓を提供されて行われる肝移植では、移植した新しい肝臓が
B型肝炎ウイルスに冒されることが少なくなく、問題となっていました。
しかし近年、その発症抑制に抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
が有効であること
肝移植について
B型肝炎など慢性の肝臓病が悪化し、肝臓の細胞が硬くなり働かな
くなる
(肝硬変、肝不全)
など重症の肝臓病の治療の一つとして肝移
植が行われています。
が認められました。抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
は、人の血中にあるB型肝炎
ウイルスを攻撃する物質
(抗体)
を集めて作られた製剤で、手術中から使い始め、定期的
に継続して使用することで、B型肝炎ウイルスから肝臓を守ることができます。
肝臓が悪くなると現れる症状
この小冊子では、
「なぜ、移植後にB型肝炎になるのか」
「移植した肝臓をB型肝炎ウ
イルスから守るためには、どうすればよいのか」
についてご紹介します。
むくみ
初期には自覚症状がほとん
どありませんが、重 症にな
ると黄疸や腹水、意識障害
などが現れます。
CONTENTS
腹水
黄疸
かゆみ
食欲不振
なぜ、移植後にB型肝炎になるのか
■ 肝移植について
2
■ B型肝炎について
3
■ 移植後にB型肝炎になるのはどのような場合ですか?
5
肝 移 植
倦怠感
体重減少
発熱
摘出
移植した肝臓をB型肝炎ウイルスから守るために
■ 抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)によるB型肝炎の再発・発症抑制
1
7
■ 手術時と手術後初期
(7日以内)
の
抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)による再発・発症抑制
11
■ 維持期の外来通院での
抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)による再発・発症抑制
13
悪くなった 肝臓
健 康な肝臓
移植
肝移植を受ける人を
レシピエントといいます。
肝臓を提供する人を
ドナーといいます。
2
B型肝炎について
B型肝炎について
B型肝炎ウイルスによって起こる肝炎で、B型肝炎ウイルスに汚染され
た血液などによって感染します。ほとんどが一過性で治癒しますが、慢
性肝炎になり肝硬変などになることもあります。
B型肝炎ウイルスについての血液検査
血液検査により、B型肝炎ウイルスに感染しているか、以前に感染していたかな
どがわかります。
B型肝炎ウイルスに感染すると、
どうして肝臓の働きが悪くなるのでしょうか?
B型肝炎ウイルス自体が肝臓を破壊するわけではありません。ウイルスが
肝臓内で増殖しはじめると、これを排除しようとする働きが体の中で起こ
ります
(免疫反応)
。その時、ウイルスとともに肝臓の細胞も破壊されてし
まい肝臓の働きが悪くなります。
HBs(エイチビーエス)抗原検査
血液検査で陽性になると、現在B型肝炎ウイルスに感染していることを
示しています。
HBc(エイチビーシー)抗体検査
血液検査で陽性になると、以前にB型肝炎ウイルスに感染したことがあ
B型肝炎が発症するしくみ
るが、現在のウイルス量はごく微量になって治癒していることを示して
います
(高感度の検査によってB型肝炎ウイルスが検出されることがあ
感 染
ります)
。
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルスが
すみついた肝臓
抗原と抗体による免疫反応について
私たちの体には、体の中に浸入してきたウイルスなどを攻撃し排除しようとす
るしくみ
(免疫)
が備わっています。
免疫
抗原
ウイルスなど、体の中に侵入
した体に害を及ぼす異物。
抗体
体の中に侵入したウイルスな
ど
(抗原)
を攻撃して排除する
もので、免疫グロブリンとも
呼ばれます。
抗原
(B型肝炎ウイルスなど)
抗体
増 殖
B型肝炎ウイルスが肝臓内で増殖
B型肝炎・肝硬変
肝臓の細胞も壊される
その他のウイルス性肝炎
肝炎ウイルスには、B型以外にA型、C型、D型、E型などがあります。
日本人の感染では、A型、B型、C型が特に多くみられます。
3
4
移植後にB型肝炎になるのは
どのような場合ですか?
移植後にB型肝炎になるのはどのような場合ですか?
次の場合、肝移植後にB型肝炎・肝硬変が発症する可能性があります。
肝移植を受ける患者さんが現在、
B型肝炎ウイルスに感染している場合
移植後
(HBs抗原陽性のレシピエント)
B型肝炎ウイルス
手術や薬によって免疫が抑えられると、
移 植
肝臓以外のところに潜んでいたB型肝炎
レシピエント
健康な肝臓
悪い肝臓をすべて取り除いても、
体の中の
どこかにB型肝炎ウイルスが潜んでいる
肝臓を提供する人がB型肝炎ウイルスに
感染したことがあるが治癒している場合
ウイルスが増殖し、新しい肝臓内に入り
込みB型肝炎・肝硬変が再発する。
移植後
(HBc抗体陽性のドナー)
休眠状態の
B型肝炎ウイルス
手術や薬によって免疫が抑えられると、
移 植
健康な肝臓
ドナーの肝臓の中のB型肝炎
ウイルスは、ドナーの免疫に
よりほとんど活動していない
5
レシピエント
レシピエントはB型肝炎ではないの
で、レシピエントの体の中にはB型肝
炎ウイルスはいない
休眠状態であったB型肝炎ウイルスが再
び活動し始め増殖し、B型肝炎・肝硬変
が発症する。
6
移植した肝臓をB型肝炎ウイルスから守るために
エイチビーエス ひと め ん えき
抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)による
B型肝炎の再発・発症抑制
抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
によるB型肝炎の再発・発症抑制
抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)を投与することにより、
肝移植後のB型肝炎の再発や発症を抑えることができます。
抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
とは
抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
は、人の血液の中に含まれるB型
肝炎ウイルスを攻撃する抗体を取り出して集めた薬です。
この薬を投与すると、肝移植後に増殖や活性化しようとしているB型
肝炎ウイルスを攻撃し、ウイルスから肝臓を守ります。
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
抗ウイルス薬と抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)の併用について
抗ウイルス薬は、ウイルスを攻 B型肝炎
撃し、体の中でウイルスが増殖 ウイルス
しないようにする薬です。
抗HBs人免疫
グロブリン製剤(静注用)
B型 肝炎ウイルスから肝臓を
守るため、必要に応じてこの
薬が、抗HBs人免疫グロブリ
ン製剤(静注用)とともに投与
されます。
7
抗ウイルス薬
8
抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
によるB型肝炎の再発・発症抑制
B型肝炎ウイルスから移植した肝臓を守る
抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)のはたらき
肝移植を受ける患者さんが現在、
B型肝炎ウイルスに感染している場合
(HBs抗原陽性のレシピエント)
B型肝炎ウイルス
抗HBs人免疫
グロブリン製剤(静注用)
投与する
移 植
ドナーの健康な肝臓
レシピエント
レシピエントから悪い肝臓を取り除
いてもレシピエントの体の中のどこ
かにB型肝炎ウイルスが潜んでいる
肝移植後も
継続的に
投与する
肝臓以外に潜んでいたB型肝炎ウイルスが活性化
しても抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)が
攻撃し、ウイルスから肝臓を守ります。
体の中に残っているウイルスを抗HBs人免疫
グロブリン製剤(静注用)が攻撃します。
肝臓を提供する人がB型肝炎ウイルスに感染したことがあるが治癒している場合
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
(HBc抗体陽性のドナー)
休眠状態の
B型肝炎ウイルス
投与する
移 植
ドナーの健康な肝臓
レシピエント
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移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
ドナーの肝臓を移植する前に抗HBs人免疫
グロブリン製剤
(静注用)を投与する
肝移植後も
継続的に
投与する
ドナーの肝臓から血液中に出てきたB型肝炎ウイ
ルスを抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)が
攻撃し、ウイルスから肝臓を守ります。
10
手術時と手術後初期(7日以内)の抗HBs
人免疫グロブリン製剤(静注用)による再発・発症抑制
手術時と手術後初期(7日以内)の抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)による再発・発症抑制
悪くなった肝臓を摘出し、健康な肝臓を移植するまでの間(無肝期)
に抗HBs
人免疫グロブリン製剤(静注用)を投与します。また、手術後、初期(7日以内)
はたくさんの抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)
を投与します。
抗HBs人免疫グロブリン
製剤(静注用)を投与
術後初期
維持期へ
抗HBs人免疫グロブリン
製剤(静注用)を投与
手術中
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
手術終了
移 植
無
摘 出
肝
期
手術中や手術直後は、出血や腹水などの量によ
り抗体の量が減少しやすい状況にあります。移植
した新しい肝臓をウイルスから守るのに必要な
抗体の量を保つため、たくさんの抗HBs人免疫
グロブリン製剤(静注用)を使用します。
手術開始
11
12
維持期の外来通院での抗HBs人免疫
グロブリン製剤(静注用)による再発・発症抑制
維持期の外来通院での抗HBs人免疫グロブリン製剤
(静注用)
による再発・発症抑制
退院後も体内にある抗HBs人免疫グロブリンの量が不足すると、ウイ
ルスの活動を抑えることができずに移植した新しい肝臓が感染する危険
があります。新しい肝臓を守るため定期的にB型肝炎ウイルスを攻撃する
抗体の量(HBs抗体価)
を測定し、十分な量を保つことが大切です。
維持期
定期的に、
HBs抗体価測定後に
抗HBs人免疫グロブリン
製剤
(静注用)
を投与
維
持
療
法
開
始
退 院
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
移植後ひとたびB型肝炎になると、病気の進
行は早く重症になるといわれています。定期
的な抗HBs人免疫グロブリン製剤(静注用)
による治療を続け、B型肝炎ウイルスから移
植した肝臓を守り、充実した生活を送ってく
ださい。
もし、倦怠感・むくみ・食欲低下
など肝 臓 病 の 症 状 が 現 れ たり、
体調の変化を感じたら、すぐに主
治医に相談しましょう。
外来通院
移
植
し
た
肝
臓
を
B
型
肝
炎
ウ
イ
ル
ス
か
ら
守
る
た
め
に
維持期の投与スケジュール例
HBs抗体価
体内の
HBs抗体価の変化
投与する
体内のHBs抗体価は
日にちがたつと
低下していきます。
目標値
手術後 1ヵ月目
13
手術後 2ヵ月目
手術後 3ヵ月目
14
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