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販売一広告モデル構築への因果関係検定

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販売一広告モデル構築への因果関係検定
93
販売一広告モデル構築への因果関係検定
(Causality test)の適:用
一ビール業界について一
野 本
明 成
:[ は じ め に
従来,マーケティング・モデルを構築するばあいには,ひとつには下記のよ
うな単一方程式型モデルが,しばしぼ採用されている。
ノカ
・St == aD+Σα2 At.i+εt (1)
i=1
・∫哲:孟期販売量
孟が’期広告費
偽:パラメタ
ら:誤差項
この型のモデルが利用されるときには,広告費が販販量に影響を与えるであろ
うことが仮定されており,それは先験的(a priori)知識にもとつくものとして
受け入れられている。
同様に,先験的知識として,販売:量と広告費の聞にフィードバックの関係が
存在するとみなされるときには,モデル構築のもうひとつの型として,つぎの
ような同時:方程式型モデルが利用される。
St=αo+Σαi At一、+Slt (2)
zニ1
・4毒=βo十ΣβノAt一ノ+ε2t
ブ=1
βゴニパラメタ
ε1te2t:誤差項
94 彦根論叢第215号
このように,マーケティング・モデルを構築するぼあいに,モデルの型の決
定については先験的知識に依存するところとなっている。
しかし,そのような先験的知識を用いることなく,販売量と広告費の問の関
係を明らかにする方法として,因果関係検定(causality test)が有効であると
2)’
考えられる。この検定は,変数間に因果関係が存在するかどうか,存在するな
らば,その方向(一方向,あるいは両方向)を明示する方法である。
この検定方法にもとずいて,販売量と広告費の因果関係を明らかにすること
により,単一方程式型,あるいは同時方程式型のマーケティング・モデルが構
築される。
そして,特に販売量と広告費について因果関係検定を行った例としては,
Ashley, et. aL〔1〕があげられる。そこでは,販売量を表わす変数として,財
への個人消費支出(personal consumption expenditure on goods)を,広告費
を表わす変数として,1人当たりの主要媒体への全国的規模の広告費(national
advertieing in皿ajor media, current dollars per capita)を使用している。
この2変数闊の因果関係についての検定の結果として,つぎのような結論が
提示されている。すなわち,集計された広告費(aggregate advertising)は,集
計された消費(aggregate consumption)の原因とはならない(does not cause)
という仮説は保持(retain)されねばならないという結論がなされている。
しかし,これまでのわれわれの先験的知識から,広告費は販売量の原因とな
りうるということが,一般的に受け入れられていると思われる。
そこで,本論文の目的は,わが国ビール産業をとりあげ,販売量と広告費の
間の因果関係検定を行い,Ash工ey, et. al.〔1)において示された結論と一致
するかどうか,一致しないならば,どのような理由でそうなるのかを考察する
ことにある。
1) 因果関係検定(causality test)は, Granger〔3〕により開発された検定方法であ
り,その内容は2節において詳述。
2)Granger〔3〕が定義した因果関係を意味し,以後,因果関係というときには,そ
の定義を意味する。
販売一広告モデル構築への因果関係検定(Causality test)の適用 95
∬ 因果関係検定
前節で述べたように,因=果関係検定は,Granger〔3)により開発された検
定方法であり,その内容は以下のようである。
まず因果関係の定義がなされており,それは,
σ2(Xにノ)くσ2(xiσ一Y)
のとき,
yはXの原因となる(Yis causing X) (3)
である。ここで,XとYは定常確率過程, Uは利用可能な過去のすべての情
報,YはYの過去の値の集合,σZ(XIU)はXの値とUを使ったXの最適予測子
(the optimum predictor)との差の分散,σ⊃(X i U−Y)はXの値とσからY
を除いた情報を使った最適予測子の差の分数を表わす。
この定義の意味するところは,すなわち,Yを含めたすべての情報を利用し
てXを説明したときに生ずる誤差が,yを除いたすべての情報にもとずいてX
を説明したときの誤差より小さいならぽ,YはXの原因となる,ということで
ある。
そこで,Granger〔3〕はこの定義にもとづいて,つぎのような検定方法を
示している。まず,瓦を説明するモデルを,
ア x, ・Σa/Xt一ゴ+ΣろゴY‘一ゴ+εt (4)
’一1 」一1
Xt :t期のXの値
Yt :彦;期のYの値
αゴ,6,:パラメタ
ε‘:誤差項
のように構成する。そして,
ろゴ=0(1’=1, ・一,m)
のとき,つまり,すべてのろノの値が0ならば,YはXの原因とならない。な
ぜな:ら,そのばあいには
σ2(XIU)=σ2(XlU−Y) (5)
96 彦根論叢 [ii ee 215 e
きう となっているからである。ここで,σは,Xの過去の値の集合XとYの過去の
値の集合Yにより構成されているものとする。
そして,すべてのろノの値が0かどうかを判定するためには,よく知られて
いるF一検定が使われるQ
したがって,すべてのろノが0であるという仮説を構成し,その仮説が検定
の結果,棄却されたときには,yはXの原因となると考えられる。逆に,上記
の仮説が棄却されなかったばあいには,YはXの原因とならないと考えるので
ある。
上述の因果関係検定がGranger〔3〕のそれであるが, Grangerの定義に
もとづいた同等な(equivalent)検定方法として, Sims〔8〕, Haugh〔5〕,
Pierce〔6〕,そしてPierce and Haugh〔7〕があげられる。
皿 データおよび結果
そこで,本節においては,わが国ビール産業における販売量と広告費の間の
関係を明らかにするために,上述の因果関係検定が適用される。
の
使用されるデータは,つぎのとおりである。まず,販売量については,わが
国ビール業界全体の販売量を昭和49年1月以降,昭和56年12月まで,96ケ月分
のデータを利用している。つぎに,広告費については,販売量と同一の期間に
ついて,キリン,アサヒ,サッポロの各社別広告費を月別に集計したデータが
用いられている。ここで,販売量については,データの都合により特にサント
リーを除外していないが,サントリーのマーケット・シェアは5∼6%程度で
あり,その影響は小さく,無視できうるものと考えられる。
因果関係検定は,データが定常確率過程であることを前提としており,そ
のために,上記のデータの自然対数にARIMA(Autoregressive integrated
5)
moving average)モデルを適用し,以下に示されるデータ変換を行った。
3)証明はGranger〔3〕参照。
4)データ収集については,(株)電通のDAS(広告統計)を利用させて項いた。
5)ARIMAモデルについては, Box and Jenkins〔2〕を参照。
販売一広告モデル構築への因果関係検定(Causality test)の適用 97
(1−kB)▽log Ut=tlt
(6)
∬彦:原データ
B:後退推移演算子(backward shift operator)
(例 (1−kB)」Ct・・ Vt−k・ Ct_t)
▽:後退差分演算子(backward difference operator)
(例 ▽Vt=」Ct一 tt_1)
7)
ttt:白色雑音(white noise)
ゐ:パラメタ
7)
臨く1
きう
種々のんの値についてデータ変換を行ったが,
鳶の値にかかわりなくCtは
定常確率過程に変換されることが示された。そして,それらの変換されたデー
タに,前節で示されたモデル(4)を適用した結果,leの値ごとに決定係数(R2)
の異なることが見られたが,因果関係については,何ら影響を与えないことが
明らかとなった。すなわち,5%棄却域にもとずいて,販売量と広告費の間の
因果関係を検定した結果,販売量は広告費の原因とはならないが,広告費は販
売量の原因となりうることが理解された。その結果を,k・=O.0,0.5,0.9の
3つのばあいについて,下記の表1に示す。
表1.仮説の検定結果
1\\齪翻
1仮説 \\ F
k==O.O
販売量≠〉広告費注) 1,40
k:=O.9
々二〇.5
倒(分布点単位:%)1
・回(分布点単位::%)・値
1分布点
1(単位:%)
24.16
!酷餅販売量・・1・・9■・…
L 7i 1 is 4Jr
5,11
1.7Jr
O, 10 1 4. 25
14.71
O.36
注)販売量≠〉広告費は,販売量が広告費の原因とならない(does nQt cause)を意味
し.また広告費≠〉販売量は広告費が販売量の原因とならないを意味する。
6) 白色雑音は,つぎのような時系列{at}をいう。
E(ao)一constanちE(ae as)一{3乏;∼二丁多)解サ)
7)制約条件であり,詳細は,Box and Jenkins〔2〕を参照。
8) ここでは,Ctを定常過程に変換することだけが必要なので,々を0.0から0.9まで
0.1きざみで変化させながらデータ変換を行った。
98 彦根論叢 第215号
このように,わが国ビール業界の販売量と広告費の間の因果関係についての
結果が,Ashley, et. al.〔1〕において得られた結果と異なっていることが明ら
かとなった。この相違は,販売量と広告費についての集計(aggregate)のレベ
ルが,上記2つのばあいについて異なっているからであろうと考えられる。本
論のばあいには1業種レベルであり,Ashley, et. al.のばあいには消費支出レ
ベルである。
これらの結果から推察されることは,たとえばビールをとりあげれば,ビー
ルがウイスキーなどの他の酒類と競争関係があるばあいには,ビールの広告費
はビールおよびウイスキーの販売量に影響するということである。逆に消費支
出のようなばあいには,他への支出と競争関係がないとすれば,消費支出への
広告費の因果関係は存在しないと考えられる。
このように,集計のレベルの相違により競争関係が推測しうると考えれば,
各レベル,たとえば,ビールの個別銘柄レベル,ビール業界全体レベル,酒類
レベル,嗜好品レベルといった種々のレベルにおいて販売量と広告費の間の因
果関係を検定することにより,競争関係にある製品の境界がある程度明らかに
することが可能となろう。たとえば,酒類が他の嗜好品との間に競争関係をも
たないとするならば,酒類という枠が競争関係にある財の1つのグループ,す
なわち競争関係の境界と考えうるであろう。そして,それにもとずいて,広告
の対象範囲を限定することが可能となりうる。
論
Iv 結
従来,先験的(apriori)知識にもとずいて,マーケティング・モデルの構造
(単一方程式型,あるいは同時方程式型)が決定されてきたが,2節で詳述し
た因果関係検定を行うことにより,それらの知識を確めつつ,モデル構造を決
定できることが明らかとなった。
そして,その検定方法をわが国ビール業界に適用した結果,販売量から広告
費への因果関係はなく,広告費から販売量へのそれは存在しうるということが
判明した。しかし,この結果は,Ashley, et. al.〔1)のそれとは異なるもので
販売一広告モデル構築への因果関係検定(Causality test)の適用 99
あり,それは販売量,広告費の集計(aggregate)のレベルに依存していると推
察される。そのことより,上述の検定方法は,競争関係にある財のグループの
境界なるものを明らかにしうると考えられる。
さらに,上記の因果関係検定を使用することは,多種の販売促進手段をもつ
個別銘柄のマーケット・シェア・モデル等を構築するばあいに有用であり,こ
れからのマーケティング・モデル構築に大きく貢献すると思われる。この例と
しては,Hanssens〔4〕があげられる。
参 照 文 献
(1) Ashley, R., C. W. J. Granger, and R. Schmalensee, “Advertising and aggregate
consumption:an analysis of caしisalitジ, Econometrica, vo1.48(July,1980), pp.1149
−1167.
(2) Box, G. E. P. and G. M. Jenkins, Time Series Analysis, Forecasting and Control,
San Francisco: Holden−Day, lnc. 1976, pp. 53−54.
(3) Granger, C. W. J., “lnvestigating causal relations by econometric models and
cross−spectral methods”, Econornetrica, vol. 37 (July, 1969), pp. 4?“4−438.
(4) Hanssens, D. M., “Market response, competitive behavior, and time series ana−
lysis”, Journal of Marketing Research, vol. 17 (November, 1980), pp, 470−485.
(5)’ Haugh, L. 1)., “Checking the independence of two covariance−stationary time
series: a univariate residual cross−corelation approach”, Journal of the American
Statistical Association, vol. 71 (June, 1976), pp. 378−385’ .
( 6 )’・ Pierce, D. A., “Relationships 一 and the lack thereof 一between economic time series,
with special reference to money and interest rates”, Journal of the American
Statistical Asseciation, vol. 72 (March, 1977), pp. 11−22.
(7) Pierce, D. A. and L. D. Haugh, “Causality in temporal systems 一 Characterizations
and a Survey”, Journal of Econometrics, vol. 5 (1977), pp. 265−293.
(s)] Sims, C. A., “Money, lncome, and Causality”, the American Economic Review,
vol. 62 (1972), pp. 540−552.
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