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畜産経営における防疫・衛生管理対策の取り組み

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畜産経営における防疫・衛生管理対策の取り組み
基
調
講
演
「畜産経営における防疫・
衛生管理対策の取り組み」
―安 全・安心な食肉生産を目指して ―
ドイツ 肉牛・養豚複合農場経営者
ハインツ=ゲオルグ・ビュッカー氏
<略 歴>
1962 年生まれ
学歴
1981 年
1981 年∼1985 年
1983 年∼1985 年
1986 年∼1987 年
1988 年∼1990 年
職歴
1985 年 8 月∼
1985 年 8 月∼
リィップシュタッド ギムナジウムにおいて大学入学資格取得
ビューレンのフォンナーメ農場において農場実習
ゾーストの農業学校と農業高等専門学校へ入学
国家農業者試験合格
兵役
KLVH ハルデハウセンとボン・ドイツ農業青年アカデミーにおいて数
ヶ月に及ぶ就農者のための農家経営研修参加
両親の農場に就農
経営譲渡を受け両親の農場を引き継ぐ
上記の他に 1993 年より地元畜産協同組合の監査役会メンバー、農業継続
教育団体の代表を務める。
農場概要
立地
海抜
土壌
農場規模
経営内容
畑作物
家畜頭数
労働力
ノルトライン・ヴェストファーレン州北部ゾースト沃野の周縁部
80m
砂質ローム土(土壌肥沃度 60-70 ポイント)
70ha
肥育牛・子牛育成・肥育豚・畑作
大麦・小麦・ナタネ・ビート・サイロ用トウモロコシ・草地
肥育牛・子牛
合計 140 頭
肥育豚 500 頭
農場主
ハインツ・ゲオルグ
農場主の父親
ハインリッヒ
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1. 農場紹介
ドイツ連邦ノルトライン・ヴェストファーレン州の小さな村ヴェッキングハウゼンに、私の農
場があります。正確にはそこをゾスター・ビュルデ地方と呼び、二千年以上も前から耕種栽培が
営まれた、とても肥沃な土壌に恵まれた地域です。
わが家は、すでに何代にも亘り続いている家族経営農家です。30 年前に両親がそれまでの標
準的な複合農家を、雄牛肥育と養豚を専門とする耕作農家に仕上げました。
1990 年に私がその農場を引き継ぎ、現在は父と共に運営しています。
我が家の経営農地面積は 70ha。その内訳は、65ha が耕作地で残りの 5ha は草地です。
耕作地では、小麦・大麦・サイレージ用コーン・甜菜・冬菜種を4年周期の輪作で栽培してい
ます。
穀類の大部分は、サイロ用コーンを肥育牛に、大麦と小麦を肥育豚にという具合に農場内で飼
料として利用しています。
小麦の一部は、食用小麦として販売しています。
甜菜は、加工用に 80km 離れた砂糖工場へ回されます。
冬菜種は、多年草原料として当地の協同組合に出荷します。
牧草は、子牛育成用の乾草にします。
150 頭の肥育牛を自家繁殖用育成牛とともに、農場で飼育しています。
500 頭肥育できる養豚は、大規模養豚農家から子豚を購入します。
農業収入の8割は畜産、2割は畑作物の販売が占めています。
2. 畜産
私の農場が肥育牛専門経営農家に発展したのは、西ヨーロッパ的な農業の合理化分業によるも
のです。
ドイツの中部山岳地帯や北海沿岸のように純粋な牧草地域では、乳牛飼育が定着しています。
その地域では、牧草を乳牛の基礎飼料としているため、酪農家では生まれた雄の子牛をそこで肥
育することができません。
ですから、私の農場はその地域から雄子牛を購入しています。
これから、皆様に次の点をお話ししたいと思います。
子牛の産地と選択
子牛の飼育方法と育成(家畜の健康管理と飼料給与)
肥育牛の飼育方法と給餌飼料
堆肥とスラリーの利用
肥育牛の健康管理と治療
牛海綿状脳症(BSE)の対応
産地保証
品質保証と記帳
市場販売
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2.1. 子牛育成
2.1.1. 子牛の産地と選択
外部から購入する雄子牛は、取り分け牛種により選択します。特に屠畜処理の際、良質な肉の
牛種を優先します。
南独アルゴイ地方の斑点牛(フレックフィー牛)の子牛と「ドイツの乳牛種」と「フランスの
肉牛(リムジンとシャロレー)
」を交配した牛を、私の農場では飼育しています。
外部購入する子牛の年齢は生後2−4週間ほどで、育成と肥育の妨げになるような健康上の欠
陥がないものがよいですし、年齢相応の骨格を持ち、関節に損傷のないことが大切です。
これらの点を、子牛購入の際にすぐに検査します。
育成時にいつも大きな一群を保つために、信頼のおける畜産業者から子牛を購入します。
2.1.2. 家畜の健康管理
大抵は一群 25 頭単位の畜舎に入った子牛は、1週間以内に買い集めます。牛はそれぞれ違っ
た出生農家から来るので、牛の健康状態も同様にとても異なります。
ですから、条件次第であるいは起こり得る発病を避けるための措置を講じなければなりません。
それぞれ病原菌の状態が違うために、呼吸器官疾患や下痢を伴う病気が最も大きな問題になり
ます。
それには、それぞれの通路の糞尿を片付け、清掃し、環境に優しい消毒薬で畜舎を殺菌します。
その狙いは、新しく購入した子牛が出来る限りストレス無しに畜舎への移動期を過ごせるよう
にすることなのです。
まず、購入したばかりの子牛を、最初の3ヵ月間は検疫ステーションで飼育し、他の家畜と接
触しないようにします。
家畜の飲水の習慣が、私にとり健康状態を観察する際の重要な規準です。一日の飲水量を十分
に摂っていない場合は、それ相応の措置をとる必要があります。
それに糞尿も、その観察規準の一つです。
担当獣医と話し合い、飲水についての健康予防策を講じます。
2.1.3. 子牛の飼料給与
4カ月齢までの子牛は哺乳バケツから、毎朝7時と夕方の5時に代用乳を授乳します。
一日当たりの哺乳量は4リットルから始まり、一最高授乳量は8リットルで終りとなります。
それに加え、初日から粗飼料に慣れるように、好きなだけ乾草を与えます。乾草は、第一胃の
機能を鍛えるのに大切です。
畜舎に移動して1週間後から、徐々に配合飼料(子牛飼養用特別飼料)の給餌量を増やしてい
きます。
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2週間後からは、飲水も好きなだけ飲めるようにしています。
3カ月齢から、徐々にコーン・サイレージの給与量を増やしていきます。
4ヶ月齢までに、牛乳から粗飼料への切り替えが終了します。
2.1.4. 子牛飼育
子牛 10 頭から 15 頭を大きな一群とし、敷き藁が十分に敷いてある畜舎で飼育します。そこに
は、とても広い運動スペースがあります。子牛用畜舎は風除けのしてある常温畜舎です。その三
方は頑丈な壁で閉鎖してあり、南側には風除けがあるだけのものです。それは、家畜は冬の非常
に低い温度でも大丈夫だからです。
子牛育成用の畜舎は古い改造家屋にあり、それは 1888 年(明治 21 年)の建造物です。
これは、大して専門的な技術も手間もかからない、簡単でコスト安の飼育方法です。
2.2. 雄牛肥育
2.2.1. 肥育牛の飼育方法
肥育牛は、6頭一群で飼育します。この6頭づつの群は、屠畜処理まで一緒にいます。体重や
体の大きさによって、大き目なボックスに入れ換えます。全スノコ式床で飼育します。
肥育牛用の畜舎は、四面を二重壁に囲まれています。新鮮な空気は、樋側から入ります。排気
は軽いため上昇し、開いている棟から外に出ます。
牛が入っているボックスの目の前には、トラクターが走行可能な飼料槽があります。牛用ボッ
クスの後ろには牛追い用の通路があります。
大型家畜は人間に危険になることもあるので、除角を3カ月齢でします。
2.2.2. 飼料給与
私の農地で生産しているサイロ用コーンが、基礎飼料になります。肥育過程の最終段階には、
牛はそれを毎日 20kg まで摂取します。
補充飼料として、大豆の粗挽きとミネラル分が入った穀物ベースの外部購入配合飼料を給餌し
ます。時折、ビール醸造の残滓である絞り粕も与えます。
一日に2回給餌を行います。コーン・サイレージを機械で牛に配分します。ペレット状の配合
飼料は牛ごとに配量し、手で与えます。手動給餌により、牛一頭づつの健康状態を同時に観察す
ることが出来ます。
飲水は、自動給水機で供給します。
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2.2.3. 家畜の健康管理と治療
ドイツ動物保護法は、患畜の治療を義務付けています。
原則として、例えば抗生物質という形で医薬品を病気予防薬として投与することはありません。
獣医のみ、必要な治療を指示することが許されています。
投与した医薬品すべてを記帳しなければなりません。
獣医は健康管理契約という形で、定期的に飼養家畜群をコントロールします。
根本的には、特に畜舎の環境状況と飼料給与の段階で、常に予防措置を改善しているため、発
病ケースが最低限まで減少していると一般に言われています。
大変喜ばしいことは、最近の何年かはこれが私の肥育牛農場でも上手く機能していることです。
それを補う意味で、一部は法で規定されている予防接種があります。その例が IBR(牛伝染性
鼻気管炎)と BHV(牛疱疹ウイルス)の予防接種です。これは牛インフルエンザに至るウイルス
感染による病気ですから、家畜群全部が冒されることも可能なのです。
オーエスキー病の予防接種も出来ます。
残念なのは、いまだに口蹄疫を予防接種で防疫する方法が全くないことです。
雄子牛を私が買い取っている酪農家では、
牛結核
牛白血病
ブルセラ病
のような人畜共通伝染病に対する国の監視プログラムを実施しています。
2.2.4. 牛海綿状脳症(BSE)
ここ十年近くわれわれ肉牛農家にとり、BSE の話題が大きな心配の種になっています。英国で
始めて発病ケースが出た後、わが国ドイツでも可能と思われる原因を最少に抑えるために、大変
な努力を払いました。私が思うには、最終的に今までに得られた認識すべてを駆使しても、この
病気とその原因は十分には分からないということです。
あらゆる予防策を講じたにも拘わらず、2000 年 11 月にドイツの牛で最初の BSE が確認され、
世間ではヒステリーに近い大騒ぎとなりました。その結果として、牛肉の消費需要が大幅に落ち
込み、立法機関は更なる一連の保護措置を実施しました。これは私の農場にとっても、甚大な収
入損失を意味していました。
一戸の農場として、われわれが対処したことは何かと言うと、
家畜の産地が決定的な要因であることから、特に英国やスイスそれに東欧諸国から来た
牛でないことに注意しました。全般的に、私たちはドイツ産の家畜のみを買い加えてい
ます。
飼料給与に関しては、EU(欧州連合)諸国内では肉骨粉の飼料給餌が全面的に禁じられ
ました。ドイツはそれに加え、動物性脂肪も投与することを禁止しています。ですから、
私たちの農場は配合飼料と代用乳を地元の検査合格業者だけから購入しています。
死亡牛には、BSE 検査を受ける法的規定があります。24 カ月齢以下の屠畜牛では、BSE
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一般検査を行いません。BSE の疑いがある時のみ検査を受けます。
2.3. 堆肥とスラリーの利用
ドイツの法律が、飼養家畜密度を規制しています。同様に、堆肥とスラリーの様な有機肥料の
貯蔵方法と利用にも法規定が設けられています。
1ha あたり最高 2.5 大型家畜単位のみを飼育することが許されているため、飼養家畜頭数を増
やせるように私の農場では農地を借りています。私が住んでいる地域ではこのような農地の需要
が大きく、それ相応に借地料も高くなっています。
また、糞尿撒布時期も法律で決まっています。例えば、水質保護地域には糞尿撒布が禁止され
ています。この結果、大きな投資をしなければなりませんでした。6ヶ月分の貯蔵容量 70 万リ
ットルのある糞尿槽を設けました。加えて、250 平米の下地をコンクリート打ちした堆厩肥貯蔵
所を作りました。
他の農場と共同で特別な糞尿撒布方式の糞尿撒布タンクを調達しました。牽引ホースにより、
糞尿を農地の植物に直接撒布するのです。これが不快な悪臭発生を減らし、栄養素が地下水へ流
入するのを防ぎます。
農場内で発生する肥料が、農場の栽培作物に十分な基本栄養素を供給します。必要に応じた糞
尿肥料を、植物成長期間に施肥します。特に、春季が主要成長期に当たります。施肥の必要性は、
作物によって違います。ですから、定期的に土壌検査をし、施肥計画を作成し、これを全て長期
に亘って記録しておくのです。
2.4. 産地保証
すでに私の話で明らかにしましたが、家畜の産地が最も重要なポイントです。
子牛が産まれた酪農家で、誕生直後に家畜識別票が取り付けられます。子牛の両耳に一つづつ、
10 桁の個体管理番号のついた耳標を装着します。これは、各家畜用に作成した通知書である家
畜パス(TBC トレース・ビーフ・カード)と繋がっています。家畜を販売する際には、この家畜
パスを添えます。
すべての移動履歴 ―すなわち家畜の売買−を、7日以内に中央データバンクに通知する義務が
あります。これにより家畜の履歴を間断なく辿ることができるのです。
この家畜パスとデータバンクは、次に来る牛肉用シールの基礎情報になります。
2.5. 品質保証と記帳
牛肉生産に携わる農業者として、私はその生産連鎖チェーンの一部であることを意識していま
す。ですから、上述の理由により子牛の移動元に関心をもっていますし、それと同じように屠畜
処理家畜がどこに行き、どうなったかも私にとって肝心なことなのです。
2000−2001 年の冬に BSE 危機が引き金となり、農業の社会価値が変わりました。最終消費者
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にとり、どこから食料が来たか、それがどのように生産されたかが、ますます大切になって来て
います。
それに対し、農業生産段階以降の加工や流通分野と共に、私は農業者としての任務を全うしよ
うと力を尽くしています。
われわれ農業者には、「優れた農法」の概念が植え付けられています。この概念は、幅広い優
れた農業教育のお陰と常に研修を受けることにより、私たち農業者が社会や専門の要請の変化に
対応することを意味しています。
この「優れた農法」の枠内で、私たちは以下の事項を間隙なく把握しています。
飼養家畜登録簿による家畜の産地
飼料の成分を明示する認定飼料製造業者による全飼料の出所
すべての発病と治療処置
必要に応じた飼料給与のために体重増加を確認
この様な経営上の自己責任管理を、例えば次のような検査のために呈示しなければなりません。
国の検査(獣医局・農業会議所)
例えば、屠畜場のような需要サイドによる民間検査
品質保証システム(QS)
経営体を認証する特別に設けられた組織
2.6. 市場販売
この様なことを背景に、屠畜用家畜の市場販売を見なければいけません。
それは私たちの農場にとっては、引取契約を結んでいる堅実なパートナーを持つべきことを意
味しています。その契約は、QS に加わることを義務付けており、私たちはすべての品質保証措
置を講じ、記録証明しなければなりません。私たちの農場の契約相手は、地域でも大規模な「ヴ
ェスト・フライシュ」屠畜協同組合です。
この QS により保証された一貫した生産ラインの一員として仕事ができるのにはメリットがあ
ります。これにより、私たちの農場は常に最新技術と現行法律のレベルを保てるのです。
中期的及び長期的に見ると、私たちの農場は認証農家として、品質保証システム・マークによ
り利益を得ます。
最終消費者は、この生産物により大きな信頼を置いています。しかし、若干のデメリットも見
過ごしてはなりません。それは家畜や飼料選択の際の柔軟さが制限されることです。また、市場
販売の機会に関しても、同様のことが言えます。
しかしながら、この QS は現在及び将来に牛肉をドイツ国内市場や欧州市場用に、また輸出用
に生産するためには必要な措置だと私は評価しています。
長期的に牛肉生産から十分な収入を確保するという私の業務上の目標は、これで確保されたと
思っています。
それと同時に、私にとって最終消費者の信頼感が大切です。最終消費者が、何時でも生産段階
を追跡できる、良質で高価値な食品を購入したという感覚を持ってくれることです。
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非常に広範囲に亘る文書記帳義務を果たすのには、とても時間がかかりますが、私の市場パー
トナーと消費者の信頼のためには、その手間も私にとって価値があることです。
ドイツには、こんな言い回しがあります。「書く者は、残る」と。
ご拝聴有難う御座いました。
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