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2014年12月

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2014年12月
富士電機技報 第 87 巻 第 4 号(通巻第 884 号)
2014 年 12 月 30 日発行 ISSN 2187-1817
2014
Vol.87 No.
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
4
2014
Vol.87 No.
4
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
低炭素社会の実現に向けて,太陽光発電や風力発電などの再生可能エ
ネルギーの普及と,そのエネルギーを効率的に利用するパワーエレクト
ロニクス技術に対する世の中の期待は非常に高まっています。この期待
に応えるため,富士電機では,環境,エネルギー,自動車,産業機械,
社会インフラ,家電製品など多くの分野に向けて,エネルギー変換効率
が高く,低ノイズで使いやすいパワー半導体製品を開発しています。
本特集では,パワーエレクトロニクス技術のキーデバイスであるパ
ワー半導体について,最新の技術および製品を紹介します。
表紙写真(左上から右周り)
SiC ハイブリッドモジュール(6 in 1 パッケージ)
,IGBT
モジュール(6 in 1 パッケージ)
,産業用 RC-IGBT モジュー
ル(2 in 1 パッケージ)
,All-SiC チョッパモジュール,SiC
ハイブリッドモジュール(2 in 1 パッケージ)
目 次
特集 エネルギー マネジメントに貢献するパワー半導体
〔特集に寄せて〕パワー半導体
― 材料科学とパワーエレクトロニクスの架け橋 ―
233(3)
木本 恒暢
〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望
234(4)
高橋 良和 ・ 藤平 龍彦 ・ 宝泉 徹
1,200 V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
240(10)
小林 邦雄 ・ 北村 祥司 ・ 安達 和哉
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュール
244(14)
梨子田典弘 ・ 仲村 秀世 ・ 岩本 進
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール
249(19)
高橋 美咲 ・ 吉田 崇一 ・ 堀尾 真史
マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT
254(24)
野口 晴司 ・ 安達新一郎 ・ 吉田 崇一
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術
258(28)
郷原 広道 ・ 齊藤 隆 ・ 山田 教文
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」
263(33)
菅原 敬人 ・ 矢口 幸宏 ・ 松本 和則
LLC 電流共振電源の回路技術
268(38)
川村 一裕 ・ 山本 毅 ・ 北條 公太
自動車用大電流 IPS
273(43)
岩水 守生 ・ 竹内 茂行 ・ 西村 武義
新製品紹介論文
1,700 V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
AT-NPC 3 レベル大容量 IGBT モジュール
― 大容量モジュール用パッケージ「M404 パッケージ」―
ディスクリート SiC-SBD
株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販
売機
小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化
略語・商標
富士電機技報 vol.87 2014(平成 26 年)総目次
277(47)
279(49)
281(51)
283(53)
286(56)
289(59)
Power Semiconductors Contributing in Energy Management
2014
Vol.87 No.
4
Contents
[Preface] Power Semiconductors––
A Bridge between Material Science and Power Electronics
233(3)
KIMOTO, Tsunenobu
Power Semiconductors: Current Status and Future Outlook
TAKAHASHI, Yoshikazu
FUJIHIRA, Tatsuhiko
1,200 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module
KOBAYASHI, Kunio
KITAMURA, Shoji
NAKAMURA, Hideyo
YOSHIDA, Soichi
ADACHI, Shinichiro
SAITO, Takashi
YAGUCHI, Yukihiro
YAMAMOTO, Tsuyoshi
TAKEUCHI, Shigeyuki
268(38)
HOJO, Kota
High Current IPS for Vehicle
IWAMIZU, Morio
263(33)
MATSUMOTO, Kazunori
Circuit Technology of LLC Current Resonant Power Supply
KAWAMURA, Kazuhiro
258(28)
YAMADA, Takafumi
3rd-Gen. Critical Mode PFC Control IC “FA1A00 Series”
SUGAWARA, Takato
254(24)
YOSHIDA, Soichi
Packaging Technology of 2nd-generation Aluminum Direct Liquid
Cooling Module for Hybrid Vehicles
GOHARA, Hiromichi
249(19)
HORIO, Masafumi
RC-IGBT for Mild Hybrid Electric Vehicles
NOGUCHI, Seiji
244(14)
IWAMOTO, Susumu
RC-IGBT Module with New Compact Package for Industrial Use
TAKAHASHI, Misaki
240(10)
ADACHI, Kazuya
All-SiC Module for Mega-Solar Power Conditioner
NASHIDA, Norihiro
234(4)
HOSEN, Toru
273(43)
NISHIMURA, Takeyoshi
New Products
1,700 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module
AT-NPC 3-level High-Power IGBT Module––
Package for High-Power Module “M404 Package”
Discrete SiC-SBD
Extremely Compact Cup-Type Beverage Vending Machines for
Japan Beverage Holdings Inc.
Product Lineup of Miniaturized Package “MiniSKiip”
277(47)
279(49)
Abbreviations and Trademarks
289(59)
Volume Contents of FUJI ELECTRIC JOUNAL vol.87, 2014
281(51)
283(53)
286(56)
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
特集に寄せて
パワー半導体
― 材料科学とパワーエレクトロニク
スの架け橋 ―
Power Semiconductors––
A Bridge between Material Science and Power Electronics
木本 恒暢
KIMOTO, Tsunenobu
京都大学 大学院 工学研究科 教授
博士(工学)
ない。むしろ,偶然とも言える現象を見逃さなかったこと
導体デバイスの進展は目覚ましく,さらなる高性能化,高
で発見につながったことが少なくない。筆者のグループで
機能化を目指して新しい半導体材料の導入が進められてい
も,浅学な筆者の計画した研究では平凡な結果が多く,好
る。近年,クリーンエネルギーの効率的生成とエネルギー
奇心に満ちた学生が現場で異常を発見し,それを大発見に
利用効率の向上が強く望まれ,太陽電池や電力用半導体素
つなげた例が多い。
子の革新に寄せられる期待が大きい。筆者は,企業にお
⑶ 常識にとらわれずに挑戦する勇気を持つ
ける研究開発を数年経験した後,大学に戻り,SiC(炭化
けい素)の研究に取り組んで 25 年が経過した。今でこそ,
その分野における技術開発の歴史の長短にかかわらず,
“常識”や“標準”が存在する。そこに,自分が十分納得
SiC は高耐圧・低損失・高速の次世代パワー半導体として
できる学理があるか。⑴とも関連するが,物理や化学に裏
注目されているが,25 年前は大学における学術的好奇心
打ちされた確固たる学理の体系化がない場合は,突破口
に頼る研究にすぎなかった。材料の研究開発には長い時間
のチャンスと考えたい。過去に,現在とは異なる制約条件
とリソースの投入が必要である。執念ともいえる研究者,
の中で“最適化”された事実が“標準”として横行してい
技術者の長年の努力が 10 年後に開花することも多い。
ることは多い。勇気を持って自分の考える解決策を提案し,
研究開発および技術開発は,常に未知への挑戦であり,
心が熱くなる仕事である。特に新しい材料開拓の要素があ
実行してほしい。
⑷ 自分の専門分野や業務内容に閉じこもらない
ると,誰にでも先端を走るチャンスがある。このような新
材料の合成や成長をテーマとしている人も,最終的なデ
材料とデバイスに関する研究および技術開発で思うところ
バイスや回路動作を学び,その材料に求められる特性を把
をいくつか述べたい。
握するべきである。逆に,デバイス作製や回路設計をテー
⑴ 現象の背景にある学理に踏み込んだ者に勝機が訪れる
マとしている人も,用いる材料の特徴や,その材料特有の
どのような泥臭い技術開発にも,必ず学理がある。筆者
問題点を把握しておくことが望まれる。材料屋,デバイス
は最初,硬い SiC 結晶の手動研磨の技を磨いたが,そこに
屋,回路屋の垣根を越えた問題点の議論は必ず前進の駆動
はせん断応力による転位導入という材料科学があった。酸
力を与える。
化膜/SiC 界面の窒化を行う場合,N2O ガスを用いる場合
少々脱線したが,パワー半導体の研究は,材料科学,半
と NO ガスを用いる場合で異なる結果が得られる理由も気
導体工学,デバイス物理,電気電子回路,電力工学などさ
相反応の化学平衡に起源があった。新しい材料を開発する
まざまな学問を横断する学際分野を提供している。これを
場合,熱膨張と熱応力,塑性変形と転位論,固体物理と電
支える技術も多岐にわたり,日進月歩の様相を呈している。
子物性論,化学反応論などの学理を見いだしてほしい。そ
今世紀,パワーエレクトロニクスとそのキーデバイスとな
こに必ず突破口のヒントがある。
るパワー半導体の研究開発は,産業的にも社会的にも重要
⑵ いつもと違うサインを見逃さない
先端的な研究開発の現場では日常のことで,たとえルー
性を増すばかりである。幸い,わが国は当該分野で強い産
業競争力を発揮しており,今後もその先導的立場を維持す
ティン的な仕事をしていても,装置・試料の不具合や人的
ることが強く期待されている。当該分野に携わる方々は,
要因により当初に予定していなかった実験となることがあ
強い自負と使命感を持ってほしい。10 年後,20 年後の社
る。そのときの結果に好奇心を持って臨むべきである。仕
会を創るのは,現在,研究や技術開発の現場で汗を流して
事の効率だけを追い求めてはいけない。科学技術の長い歴
いる方々である。研究および技術開発の醍醐味を楽しみな
史を見てもマイルストーンとなるような発見の多くは,緻
がら,材料科学とパワーエレクトロニクスの間に強固な架
密な計算と考察により(計画通りに)達成されたとは言え
け橋をかける人が一人でも多く現れることを期待したい。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
233(3)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
エレクトロニクス分野において中核的な機能を果たす半
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
パワー半導体の現状と展望
Power Semiconductors: Current Status and Future Outlook
高橋 良和 TAKAHASHI, Yoshikazu
藤平 龍彦 FUJIHIRA, Tatsuhiko
宝泉 徹
パワーモジュール
富士電機は,創業から 90 年の長い歴史の中で,エ
図
ネルギー技術を革新し,産業・社会のインフラ分野で,
に,パワーモジュール製品の応用例を示す。大
(* 4)
(* 5)
容量市場においては,SiC(炭化けい素)を用いた SBD
(* 6)
(Schottky Barrier Diode)と Si の IGBT(Insulated
広く世の中に貢献してきている。
地球温暖化を防止し,変化し続ける地球環境との調
Gate Bipolar Transistor)とを組み合わせた 1,200 V 耐
和を図り,安全・安心で持続可能な社会を実現する上
圧 SiC ハイブリッドモジュール,およびメガソーラー
で,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー
用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュールを開
の普及と,そのエネルギーの効率的な利用を支えるパ
発した。中容量市場においては,マイルドハイブリッ
ワーエレクトロニクス(パワエレ)技術に対する世の
中の期待は非常に大きい。
電 流
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
まえがき
HOSEN, Toru
このような期待の中,富士電機では,エネルギー変
換効率が高く,低ノイズで地球環境にやさしいパワー
マイルドハイブリッド車用
RC-IGBT チップ
中容量市場
HEV・EV
半導体製品を開発している。パワー半導体は,エネル
大容量市場
1,200 V 耐圧S
i
Cハイブリッドモジュール,
A
l
l-S
i
Cチョッパモジュール
電気鉄道
風力発電
ギーと環境分野の製品や,自動車,産業機械,社会イ
ンフラおよび家電製品に量産品として適用され,世の
太陽光発電
中に貢献している。
家電製品
インバータ
本稿では,パワエレ技術のキーデバイスであるパ
ロボット
(* 1)
ワー半導体について,パワーモジュール,パワーディ
(* 2)
データ
サーバ
(* 3)
スクリート,パワー IC を中心に最新の技術および製
UPS
小容量市場
品の現状と展望について述べる。
電 圧
図
(* 1)パワーモジュール
産業用
RC-I
GBT
モジュール
パワーモジュール製品の応用例
(* 3)パワー IC
(* 5)SBD
ダイオードやトランジスタといった複数のパワー素
パワー素子と制御・保護回路を一つの半導体チップ上
Schottky Barrier Diode の略である。金属と半導体と
子を一つのパッケージに搭載したものである。一つ
に集積した高耐圧 IC である。パワーエレクトロニク
の接合によって生じるショットキー障壁を利用した整
のモジュールの中の素子(通常は IGBT+逆並列接続
ス機器の小型化や低消費電力化が可能となり,産業, 流作用を持つダイオードである。その優れた電気特性
FWD)の数に応じて,1 in 1,2 in1 ,6 in1 などと呼ば
車載,
民生の各用途に応じて数十 V クラスから 1,200 V
により,SiC-SBD の FWD への適用検討が始まって
れる。パワー素子を制御する駆動回路も搭載したもの
クラスまでのものが製品化されている。
いる。少数キャリアも利用する PiN(P-intrinsic-N)
は,インテリジェントパワーモジュール(IPM)と呼
ばれる。
ダイオードと比較して,多数キャリアのみで動作する
(* 4)SiC
SBD は逆回復スピードが速く,逆回復損失も小さい。
けい素(Si)と炭素(C)の化合物である。3C,4H,
(* 2)パワーディスクリート
6H など多くの結晶の構造多形が存在し,構造によっ
(* 6)IGBT
パワー素子の IGBT や MOSFET を 1 素子,またはそ
て 2.2〜3.3 eV のバンドギャップを持つワイドギャッ
Insulated Gate Bipolar Transistor の略である。ゲー
れに逆並列にダイオードが挿入された 1 in 1 と呼ばれ
プ半導体として知られる。絶縁破壊電圧や熱伝導率が
ト部は MOSFET と同じ構造で,酸化物絶縁膜で絶
る回路から構成されるパワー半導体である。形状は, 高いなどパワーデバイスとして有利な物性を持つた
縁されたゲート部を持つ電圧制御型デバイスである。
汎用的にピンレイアウトが決まっており,TO-220 や
め,高耐圧・低損失・高温動作デバイスが実現できる
MOSFET とバイポーラトランジスタの長所を生かし
TO-3P などがある。小容量タイプの PC 電源,無停
として実用化が進められている。
電電源装置,液晶ディスプレイ,小型モータの制御回
路などに使われている。
たものである。バイポーラ動作であるため伝導度変調
を用いることができるので,インバータへの応用に十
分なスイッチング速度と高耐圧・低オン抵抗を両立で
きる。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
234(4)
パワー半導体の現状と展望
ド 車 用 RC-IGBT(Reverse-Conducting Insulated
Gate Bipolar Transistor:逆導通 IGBT)チップや新
型パッケージの技術を採用した産業用 RC-IGBT モ
現状と展望
比較したインバータ発生損失の低減率が,キャリア周
波数が高くなるにつれて 12 % から 28 % と大きくなり
(図
)
,高周波動作に有利であることを確認した(240
ジュールを開発した。そして,ハイブリッド車用の直
ペ ー ジ“1,200 V 耐 圧 SiC ハ イ ブ リ ッ ド モ ジ ュ ー ル ”
接水冷のためのパッケージ技術についても取り組んで
参照)
。
いる。
2 . 2 メガソーラー用パワーコンディショナ向け All2 . 1 1,200 V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
SiC モジュール
富士電機では,これまでに 600 V 耐圧または 1,200 V
富士電機は,松本工場において次世代半導体である
耐圧の SiC-SBD を適用した EP パッケージや PC パッ
SiC-MOSFET (Metal-Oxide-Semiconductor Field-
ケージのハイブリッドモジュール,ならびに 1,700 V
Effect Transistor)と SiC-SBD を量産しており,併せ
耐圧 SiC-SBD を適用した 2 in 1 パッケージのハイブ
てこの SiC デバイスが持つ性能を引き出す All-SiC モ
リッドモジュールを製品化してきた。
ジュールも開発している。
(
圧
現 在,FWD(Free Wheeling Diode) に 1,200 V 耐
All-SiC モジュールは,銅ピンでパワーチップに接
を適用した 2 in 1 パッケージのハイブリッ
続するワイヤボンディングレス構造と低熱抵抗絶縁基
SiC-SBD
⑴
ドモジュールを開発している。SiC-SBD チップは,独
板を適用した新型パッケージを採用している。図
立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し,富士
新型パッケージの断面図を示す。従来は,ワイヤボン
電機で量産している。IGBT チップには,富士電機製
ディングと DCB(Direct Copper Bonding)基板上の
の第 6 世代「V シリーズ」を適用している。このハイ
銅パターンによってチップと各端子間の配線を行って
ブリッドモジュールにおけるターンオン損失は,Si モ
いた。新型パッケージでは,ワイヤボンディングの代
ジュールに比べて 35 % 低減し,逆回復電流がほとん
わりに銅ピンが形成されたパワー基板によって配線を
ど発生しないため,逆回復損失はほぼ 0 であった。ま
行っている。これにより,1,200 V/100 A 定格の All-
た,SiC ハイブリッドモジュールは,Si モジュールと
SiC モジュールのフットプリントサイズは,従来パッ
セラミック基板
cosφ=±0.85,
λ=1,
j=125 ℃, GE=+15/-10 V,
銅ピン
に,
パワー基板
3 arm
o=50 Hz,
rr
f
off
on
sat
300
250
3 kHz
6 kHz
12 kHz
12 % 低減
19 % 低減
28% 低減
発生損失(W)
216.7
200
191.2
13.9
16.7
25.4
168.3
18.2
150
13.1
0.0
28.0
20.3
100
エポキシ
樹脂
206.6
174.5
0.0
14.0
36.0
6.7
(a)新型パッケージ
148.3
0.0
7.0
47.2
48.3
28.7
31.4
厚銅板
シリコーンゲル
57.9
アルミニウムワイヤ
パワーチップ
59.3
53.3
34.4
67.6
樹脂
ケース
43.7
101.1
50
101.1
77.8
77.8
38.4
0
図
DCB 基板
外部端子
38.4
銅ベース
Si
SiC
Si
SiC
Si
SiC
モジュール ハイブリッド モジュール ハイブリッド モジュール ハイブリッド
モジュール
モジュール
モジュール
インバータ発生損失の比較
(* 7)FWD
Free Wheeling Diode の略である。還流ダイオード
接合はんだ
セラミック基板
(b)従来パッケージ
図
新型パッケージの断面図
バイポーラタイプであるため,順方向電流通流時の電
化物絶縁膜で絶縁されたゲート部を持つ電圧制御型デ
圧降下を小さくできるが,その分,逆回復損失が大き
バイスである。LSI では最も一般的な構造である。ユ
ともいう。インバータなどの電力変換回路において, くなる。
ニポーラ動作であるため高速動作が可能であるが,耐
IGBT と並列に接続され,IGBT をオフした際にイン
圧に応じてオン抵抗も上昇するため低耐圧・高周波デ
ダクタンスに蓄えられたエネルギーを電源側へ還流
(* 8)MOSFET
バイスとして用いられる。
させる役割を担うデバイスである。Si の FWD では, Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor
PiN ダイオードが主流である。少数キャリアも用いた
の略である。電界効果トランジスタの一つであり,酸
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
235(5)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
( * 7)
* 8)
パワー半導体の現状と展望
現状と展望
n+
p+
エミッタ
ゲート
p ベース
IGBT
(a)All-SiC モジュール
図
FWD
電流
(b)メガソーラー用 PCS
フィールド
ストップ層
All-SiC モジュールとメガソーラー用パワーコンディ
p+ コレクタ
ショナ
n+ カソード
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
エミッタ
ケージの IGBT モジュールと比較し,約 40 % まで小
型化している。
コレクタ
また,SiC デバイスの高速スイッチングに必要不可
欠となるモジュール内部の低インダクタンス化に関し
図
RC-IGBT の概略構造
て,新型パッケージは従来パッケージから約 80 % 低
減した。その結果,新型パッケージではスイッチング
する意識の高まりの中,自動車分野においても CO2 排
損失が低減し,特に高周波数動作における損失低減に
出量低減に向けてエンジンとモータの双方を利用する
有利である。さらに,モジュールの信頼性に関しても,
ハイブリッド車(HEV)
,さらにモータのみで駆動す
樹脂封止構造を採用した新型パッケージは従来パッ
る電気自動車(EV)の普及が進んでいる。
⑵
ケージより高寿命である。
富士電機では,マイルドハイブリッド車向けのイン
この新型パッケージ技術を適用した
モ
バータへの要求である低損失化と小型化の両立に対応
ジュールを搭載し,出力容量 1,000 kW のメガソーラー
するため,IGBT と FWD を 1 チップ化した 650 V 耐
用パワーコンディショナ(PCS)を開発し,量産を開
圧の RC-IGBT を開発した。 図
All-SiC
⑷
に RC-IGBT の概略
)
。All-SiC モジュールを昇圧回路に適用
構 造 を 示 す。RC-IGBT と 従 来 の IGBT + FWD に つ
することで,PCS の変換効率として世界最高レベル
いて,パッケージ内のチップ発熱を比較したところ,
の効率 98.8 % を実現している(244 ページ“メガソー
RC-IGBT ではチップ全体に熱が行き渡っており,チッ
始した(図
ラー用パワーコンディショナ向け
All-SiC
モジュール”
プからの発熱を 50 ℃以上抑制することができた。こ
参照)
。
の 発 熱 の 制 御 に よ り,25 % 小 型 化 し た RC-IGBT で
2 . 3 新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モ
れにより,モジュール面積は 20% 低減が可能である
従来 IGBT・FWD と同程度の温度となっており,こ
(254 ページ“マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT”
ジュール
電 力 変 換 装 置 の 小 型 化 と 低 コ ス ト 化 の た め に,
参照)
。
IGBT モジュールには従来にも増して高パワー密度化
が求められている。この要求に応えるために,富士電
2 . 5 ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水
⑶
機では IGBT と FWD を一体化した産業用 RC-IGBT
冷パッケージ技術
を開発し,低熱抵抗と高信頼性を両立した新型パッ
自動車の動力制御に用いるインバータユニットは限
)と組み合わせることにより,高い信頼
られたスペースに搭載されるため,小型かつ搭載方法
ケージ(図
性を持つ小型モジュールを実現した。ワイヤボンディ
の自由度の高さと,低燃費を意識した軽量化と効率
ングエリアおよび銅パターンの面積を削減することが
向上が求められる。インバータに搭載されるパワーモ
でき,58 % もの設置面積を低減し,従来モジュールと
ジュールにおいても,小型・軽量化,高効率化が必要
ほぼ同等のインバータ損失,および大幅な IGBT 接合
であり,特に,車載用パワーモジュールでは,直接水
温度の低下を実現した(249 ページ“新型パッケージ
冷構造を用いた高放熱化やアルミニウム冷却器を用い
を採用した産業用
た軽量化が進んでいる。
RC-IGBT
モジュール”参照)
。
富士電機では,二つのモータを制御するインバータ
2 . 4 マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT
地球温暖化防止に代表される世界的な環境保護に対
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
236(6)
と昇降圧コンバータを内蔵した,車載用アルミニウム
直接水冷型インテリジェントパワーモジュール(IPM:
パワー半導体の現状と展望
図
図
「FA1A00 シリーズ」
表
臨界 PFC 制御 IC の性能比較
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷型
項 目
に,第 2 世代
軽負荷時ス
200 kHz
イッチング周 (AC240 V, 10%負荷で
波数
効率14ポイント改善)
低コス
ト
パワーグッド
信号出力機能
あ り
な し
軽負荷時安定
機能
あ り
な し
ゼロ電流検出
電圧
−4 mV±3 mV
−10 mV±5 mV
オーバー
シュート低減
機能
あ り
(オーバーシュート
電圧10 V低減)
な し
2.5 V±1.0 %
2.5 V±1.4%
−0.6 V±2.0%
−0.6 V±3.3%
の IPM を示す。第 2 世代の IPM は第 1 世代に対して,
⑸
体積を 30 %,質量を 60 % 低減している。
FA5590
高効率
Intellignt Power Module)を開発し,ハイブリッド車
に必要とされる高出力を実現した。図
FA1A00
600 kHz
安定性
高密度実装かつ高出力を実現するため,ヒートシン
クとウォータージャケットを一体化した高放熱冷却構
造と超音波接合技術,ならびに高出力と 175 ℃連続動
作を可能とする高耐熱技術を開発した。
安全性
本パッケージ技術を基に技術革新を推進することで,
車載用パワーモジュールのさらなる高効率化と省エ
基準電圧
過電流検出電
圧
ネルギーへの貢献が期待できる(258 ページ“ハイブ
リッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ
遅らせてスイッチング周波数を低減させるボトムス
技術”参照)
。
キップ機能により,効率を 14% 向上させた(AC240 V
10% 負荷)
。
パワーグッド信号出力機能を内蔵しているため,後
パワーディスクリート・パワー IC
続の電源回路において,従来は必要であった PFC 出
パ ワ ー デ ィ ス ク リ ー ト・ パ ワ ー IC の 製 品 お よ び
技術の最近の成果として,第 3 世代臨界モジュール
力電圧を監視する回路が省略でき,電源のコストが削
減できる。
PFC(Power Factor Correction:力率改善)制御 IC
また,軽負荷時安定機能を新たに追加して各種安
「FA1A00 シリーズ」
,自動車用大電流 IPS の製品化,
全性を向上させることで,消費者のニーズに応えて
および LLC 電流共振電源の回路技術がある。
いる(263 ページ“第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC
「FA1A00 シリーズ」
”参照)
。
3 . 1 第 3 世 代 臨 界 モ ー ド PFC 制 御 IC「FA1A00
シリーズ」
3 . 2 LLC 電流共振電源の回路技術
富士電機では,テレビや PC などの電子機器に必要
富士電機では,スイッチング電源分野において,
なクラス D〔高調波電流を一定以下に抑える法的規制
100 W クラスから比較的大容量の 500 W クラスまでの
〕を満足している高調波電
(国際規格 IEC 61000-3-2)
電源を,小型で薄く構成するとともに,高効率化,低
流特性を持つ低待機電力,低コストの第 2 世代臨界
ノイズ化にも優れた,LLC 電流共振電源の制御用 IC
モード PFC 制御 IC「FA5590 シリーズ」を製品化し
を製品化している。この制御用 IC では,LLC 電流共
⑺
⑹
ている。今回はさらに軽負荷時の効率を改善し,また
振方式で課題となってきた上下アーム短絡による貫通
保護機能を強化した第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC
電流に対する防止機能を内蔵し,機器のスタンバイ時
「FA1A00 シリーズ」を開発した。FA1A00 シリーズ
などの軽負荷時に,低待機電力モードで動作する。そ
の外観を 図
に,FA5590 シリーズとの比較を 表
に
示す。
軽負荷時の MOSFET のターンオンのタイミングを
のため,これまで待機時に低待機電力化するために必
要であったスタンバイ専用電源を不要にできるという
メリットがある。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
237(7)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
IPM
現状と展望
パワー半導体の現状と展望
現状と展望
Cr
T
D1
Q2
+
p
s
Co
Ro
in
Q1
D2
図
LLC 電流共振コンバータ回路
図
に,LLC 電流共振コンバータの回路図を示す。
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
回 路 は, 二 つ の MOSFET を 直 列 接 続 し た ハ ー フ ブ
リッジ回路と,共振用コンデンサ(Cr)
,トランス(T)
,
図
自動車用大電流 IPS のチップ
出力整流ダイオード(D1,D2)および出力電解コンデ
ンサ(Co)から成る(Np:トランスの一次巻線の巻数,
電流 IPS”参照)
。
Ns:二次巻線の巻数)
。LLC 電流共振コンバータで用
いるトランスは結合係数を小さくすることで,漏れイ
あとがき
ンダクタンスを大きくし,これを共振用インダクタと
パワー半導体は,産業,電源,自動車などの分野に
して利用している。
富士電機の LLC 電流共振制御 IC のスムーズな導入
おけるパワーエレクトロニクス製品にとって必要不可
のために,特に設計が難しく電源動作の鍵を握るトラ
欠なキーデバイスである。特に,近年の環境保護意識
ンスの設計例と,実際に試作したトランスを搭載した
の高まりに伴い,再生可能エネルギー分野の拡大,ハ
電源の代表特性を述べる(268 ページ“LLC 電流共振
イブリッド車や電気自動車の普及が進み,パワー半導
電源の回路技術”参照)
。
体の果たす役割は大きくなっている。
3 . 3 自動車用大電流 IPS
パワーディスクリート・パワー IC などのパワー半導
IGBT,SiC モジュール,ハイブリッドモジュール,
自 動 車 電 装 分 野 で は,
“環境”
“安全”
“省エネル
体における技術革新や高信頼性化,低コスト化,適用
ギー”をキーワードとして,排ガスの低減,安全な
分野の拡大はさらに進み,省エネルギー技術の発展に
車両制御,高度な燃焼技術による燃費向上を図って
貢献をしていくであろう。
いる。これに伴って電子システムが複雑化し,ECU
富士電機は,これからも,地球環境にやさしいパ
(Electronic Control Unit)の大規模化が進んでいる。
ワー半導体製品を開発し,安全・安心で持続可能な社
ECU は,搭載スペース捻出のためにエンジンの近く
会の実現を目指していく。
などに設置され,搭載部品の温度環境は年々高温化し
ている。このため,ECU の小型化や高温度環境での
参考文献
信頼性の向上が切望されている。これを実現するため
⑴ 木 下 明 将 ほ か.“ 高 温 で のVfを 特 徴 と し た600 V/
の,パワー半導体とその周辺保護回路,状態検出・
1,200 VクラスSiC-SBD”
. つくば市. 2010-10-21. 応用物理
状態出力回路,ドライブ回路などを一体化した,ス
学会SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第19回講
マートパワーデバイスである IPS(Intelligent Power
演.
⑵ Horio, M. et al.“Ultra Compact and High Reliable
Switch)が注目されている。
⑻
富士電機では,これに応えて大電流 IPS を開発した。
図
に,自動車用大電流 IPS のチップを示す。本製品
SiC MOSFET Power Module with 200ºC Operating
Capability”
, Proceedings of ISPSD 2012. p.81-84.
は特に,モータ制御用などの誘導性負荷や機械式リ
⑶ Voss, S.“Anode Design Variation in 1200-V Trench
レーの半導体化用途で使用されることを意識した設
. Proceeding of
Field-stop Reverse-conducting IGBTs”
計としている。低オン抵抗化,高放熱処理可能な小型
ISPSD 2008. p.169-172.
パッケージ,各種保護機能(バッテリ逆接続時の温度
⑷ Takahashi, K. et al.“New Reverse - Conducting
上昇抑制など)
,および高誘導性負荷エネルギー耐量
IGBT (1200 V) with Revolutionary Compact Package”
,
を特徴としている。本製品は,2014 年度中に市場への
Proceedings of ISPSD 2014. p.131-134.
供給を開始する予定である(273 ページ“自動車用大
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
238(8)
⑸ Gohara, H. et al.“Next-gen IGBT module structure
パワー半導体の現状と展望
現状と展望
for hybrid vehicle with high cooling performance and
high temperature operation”
. Proceedings of PCIM
Europe 2014. May 20-22, Nuremberg, p.1187-1194.
⑹ 菅原敬人ほか. 第2世代臨界モードPFC制御IC「FA5590
シリーズ」. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.405-410.
⑺ 山 田 谷 正 幸 ほ か . 第 2 世 代 LLC 電 流 共 振 制 御 IC
高橋 良和
パワー半導体の研究開発に従事。現在,富士電
機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所
次世代モジュール開発センター長。工学博士。
電気学会会員,応用物理学会会員,エレクト
ロニクス実装学会会員,日本デザイン学会会員。
「FA6A00N シリーズ」. 富士電機技報 . 2013, vol.86, no.4,
p.267-272.
藤平 龍彦
⑻ Toyoda, Y. et al.“60 V-Class Power IC Technology
電子デバイスの研究開発に従事。現在,富士
for an Intelligent Power Switch with an Integrated
電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括
Trench MOSFET”ISPSD 2013. p.147-150.
部長兼技術開発本部電子デバイス研究所長。
工学博士。電気学会会員,応用物理学会会員,
日本金属学会会員,IEEE 会員。
パワー半導体の開発,事業企画に従事。現在,
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業
統括部長。電気学会会員。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
239(9)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
宝泉 徹
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
1,200V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
1,200 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module
小林 邦雄 KOBAYASHI, Kunio
北村 祥司 KITAMURA, Shoji
安達 和哉 ADACHI, Kazuya
富士電機は,省エネルギーに貢献するインバータ用のパワーデバイスとして,1,200 V 耐圧の SiC ハイブリッドモジュー
ルの開発を推進している。このハイブリッドモジュールには,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し,富士
電 機 で 量 産 立 ち 上 げ を 行 っ た SiC-SBD(Schottky Barrier Diode) チ ッ プ を 採 用 し た。IGBT(Insulated Gate Bipolar
Transistor)には,富士電機製で最新の第 6 世代「V シリーズ」IGBT チップを採用した。300 A 品において,従来の Si モ
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
ジュールに比べて約 25 % 低い発生損失を確認した。
Fuji Electric is working on the development of a 1,200 V withstand voltage SiC hybrid module as a power device for inverters that
contribute to energy conservation. This hybrid module uses a SiC-Schottky barrier diode (SiC-SBD) chip, which has been developed jointly
with the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology and has been mass-produced by Fuji Electric. As the insulatedgate bipolar transistor (IGBT), Fuji Electric’
s latest 6th-generation“V Series”IGBT chip was adopted. For its 300 A products, the generated
loss has been reduced by approximately 25 % compared with conventional Si modules.
表
まえがき
地球温暖化を防止するために,これまで以上に CO2 な
どの温室効果ガスの削減が求められている。その削減手段
の一つに,パワーエレクトロニクス機器の省エネルギー
SiC ハイブリッドモジュールの系列
用 途
構 成
200 V系
600 V耐圧 SiC-SBD+
VシリーズIGBT
400 V系
1,200 V耐圧 SiC-SBD+
VシリーズIGBT
400 V系
1,200 V耐圧 SiC-SBD+
VシリーズIGBT
2 in 1パッケージ
690 V系
1,700 V耐圧 SiC-SBD+
VシリーズIGBT
2 in 1パッケージ
化がある。その中で重要なアイテムが,インバータを構
成するパワーデバイス,回路,制御などの技術革新によ
るインバータの高効率化である。低損失の要求が強いパ
ワーデバイスで,代表的な IGBT(Insulated Gate Bipolar
Transistor) モ ジ ュ ー ル は, 今 ま で Si( シ リ コ ン ) の
パッケージ
EPパッケージと
PCパッケージ
:開発品
IGBT チ ッ プ と FWD(Free Wheeling Diode) チ ッ プ を
用いてきた。しかし,Si デバイスの性能は,物性に基づ
く理論的限界に近づきつつある。そこで,Si の限界を超
える耐熱性と高破壊電界耐量を持った SiC(炭化けい素)
デバイスが,装置の高効率化や小型化を実現するものとし
て期待されている。
本稿では,今回系列化した 1,200 V 耐圧 SiC ハイブリッ
ドモジュール(2 in 1 パッケージ)について述べる。
製品の構成
図
SiC ハイブリッドモジュール(2 in 1 パッケージ)
富士電機の SiC ハイブリッドモジュールの系列を 表 1
に 示 す。 こ れ ま で に 200 V 系 用 の 600 V 耐 圧 SiC-SBD
ルのパッケージには,Si モジュールと同じ 2 in 1 パッケー
(Schottky Barrier Diode) や 400 V 系 用 の 1,200 V 耐 圧
ジを採用した( 図 )
。従来の EP パッケージと PC パッ
⑴
を使った EP パッケージと PC パッケージ のハ
ケージに加えて広く普及している 2 in 1 パッケージを採用
イブリッドモジュール,ならびに 690 V 系用の 1,700 V 耐
することで,従来の Si モジュールから容易に置き換える
を 使 っ た 2 in 1 パ ッ ケ ー ジ の ハ イ ブ リ ッ ド
ことができる。FWD には,独立行政法人 産業技術総合研
SiC-SBD
圧
SiC-SBD
⑵
モジュールを製品化している。これらのハイブリッドモ
究所と共同で開発して,富士電機で量産化した SiC-SBD
モジュール
チップを使用し,IGBT には,富士電機製で最新の第 6 世
ジュールを使った装置では,従来の
Si-IGBT
に比べて発生損失が約 25 % 減少する。
今回系列化した 1,200 V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュー
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
240(10)
⑶
代「V シリーズ」IGBT チップを採用した。300 A 品にお
いて,従来の Si モジュールに比べて約 25 % 低い発生損失
1,200V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
35% 小さく,逆回復損失 E rr はほぼ 0 である。ターンオフ
を確認した。
損失 E off は SiC ハイブリッドモジュールと Si モジュールと
の差がほとんどない。
特 性
⑴ ターンオン波形
3 . 1 FWD の順方向特性
に,ターンオン波形の比較を示す。SiC-SBD の逆
図
に,SiC ハイブリッドモジュールと Si モジュール
回復ピーク電流は対向アーム側の IGBT ターンオン電流に
の FWD の順方向特性を示す。ジャンクション温度 T j が
影響し,SiC ハイブリッドモジュールの E on は Si モジュー
25 ℃で定格電流 300 A における SiC ハイブリッドモジュー
ルよりも約 35 % 低い。
ルの順方向電圧 V F は,Si モジュールの V F と同等である。
⑵ ターンオフ波形
図
125 ℃での V F は,Si モジュールに比べて SiC ハイブリッ
に,ターンオフ波形の比較を示す。SiC-SBD は Si-
図
節に示すようにトー
FWD と比較してドリフト層が非常に低抵抗であるため,
タル損失は,SiC ハイブリッドモジュールが小さくなる。
過渡オン電圧が低減される。したがって,SiC ハイブリッ
ドモジュールが高くなるものの, .
ドモジュールでは,ターンオフ時のサージ電圧を低く抑え
図
に,SiC ハイブリッドモジュールと Si モジュール
⑶ 逆回復波形
のスイッチング損失の比較を示す。SiC ハイブリッドモ
ジュールのターンオン損失 E on は,Si モジュールよりも約
に,逆回復波形の比較を示す。SiC ハイブリッドモ
図
ジュールは逆回復ピーク電流がほとんどなく,E rr はほぼ
0 である。これは SiC-SBD がユニポーラデバイスである
ため,少数キャリアの注入が起きないことに起因する。
600
SiC ハイブリッド
モジュール
j=25 ℃
500
に,SiC ハイブリッドモジュールの T j が−40〜+
図
125 ℃のときの負荷短絡波形を示す。低温から高温までの
Si モジュール
25 ℃
400
F(A)
3 . 3 負荷短絡評価
Si モジュール
125 ℃
領域で問題ないことを確認した。
300
SiC ハイブリッド
モジュール
125 ℃
3 . 4 インバータ発生損失
に示すように,SiC ハイブリッドモジュールを使っ
図
200
100
0
0
1
2
3
4
j=125 ℃,
CC=600 V,
C=300 A,
g=6.0 Ω,
GE=10 nF,
S=30 nH,
GE=+15/-10 V,
lower arm
5
F(V)
0V
図
GE: 10 V/div
FWD の順方向特性
CE: 200 V/div
j=125 ℃,
GE=+15 V/-10 V,
GE=10 nF,
gon/off =6.0/6.0Ω,
0A
0V
SiC ハイブリッド
モジュール
(mJ)
C: 100 A/div
: 200 ns/div
(a)SiC ハイブリッドモジュール
on
120
off
rr
100
Si モジュール
0V
rr
off,
on,
on=28.0 mJ
CC=600 V
160
140
CP=350 A
on
80
off
CP=540 A
on=43.4 mJ
CE: 200 V/div
rr
60
GE: 10 V/div
40
20
0
図
0A
0V
0
200
スイッチング損失
400
C(A)
600
C: 100 A/div
: 200 ns/div
800
(b)Si モジュール
図
ターンオン波形
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
241(11)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
ることができる。
3 . 2 スイッチング損失
1,200V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
j=125 ℃,
CC=600 V,
C=300 A,
g=6.0 Ω,
GE=10 nF,
S=30 nH,
GE=+15/-10 V,
lower arm
CC=800 V,
GE=+15/-10 V,
j=-40 ℃
g=+3.4 /-20 Ω
-20 ℃
0℃
+25 ℃
GE : 10 V/div
GE
GE
C
0V
GE
C
CE
GE
C
CE
C
CE
CE
CEP=851 V
off=37.1 mJ
+50 ℃
C: 100 A/div
GE
+75 ℃
GE
C
CE: 200 V/div
+125 ℃
GE
C
CE
C
CE
CE
: 500 ns/div
CE:500 V/div,
(a)SiC ハイブリッドモジュール
GE : 10 V/div
図
C:500 A/div,
GE:20 V/div,
: 5 µs/div
負荷短絡波形
CEP=908 V
off=37.1 mJ
cosφ=±0.85,
λ=1,
j=125 ℃, GE=+15/-10 V,
3 arm
o=50 Hz,
C: 100 A/div
rr
f
off
on
sat
300
0A
0V
: 500 ns/div
CE: 200 V/div
250
3 kHz
6 kHz
12 kHz
12 % 低減
19 % 低減
28% 低減
216.7
(b)Si モジュール
図
発生損失(W)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
0V
GE
C
CE
0A
0V
+100 ℃
ターンオフ波形
j=125 ℃,
CC=600 V,
g=6.0 Ω,
GE=10 nF,
C=300 A,
GE=+15/-10 V,
S=30 nH, lower arm
200
191.2
13.9
16.7
25.4
168.3
150
13.1
0.0
18.2
28.0
31.4
20.3
0.0
36.0
14.0
6.7
48.3
57.9
148.3
0.0
7.0
47.2
28.7
100
206.6
174.5
59.3
53.3
34.4
67.6
43.7
C: 100 A/div
50
101.1
101.1
77.8
77.8
38.4
0A
0V
0
rr=0.0 mJ
図
38.4
Si
SiC
Si
SiC
Si
SiC
モジュール ハイブリッド モジュール ハイブリッド モジュール ハイブリッド
モジュール
モジュール
モジュール
インバータ発生損失
: 200 ns/div
CE: 200 V/div
(a)SiC ハイブリッドモジュール
あとがき
C: 100 A/div
本稿では,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で
0A
開発した SiC-SBD と富士電機の最新 Si-IGBT 第 6 世代
「V シリーズ」とを適用した SiC ハイブリッドモジュール
について述べた。本製品は,デバイス自身の大幅な損失低
減により,インバータの高効率化に大きく貢献できるもの
0V
rr=15.3 mJ
: 200 ns/div
CE: 200 V/div
(b)Si モジュール
と考える。今後,耐圧・電流容量・パッケージの系列化を
推進し,市場要求に対応していくとともに,SiC チップ製
品の適用を進め,パワーエレクトロニクス機器の省エネル
図
逆回復波形
ギー化により地球温暖化の防止に貢献していく所存である。
たインバータの発生損失は Si モジュールを使った場合に
SiC-SBD チップの開発にご協力いただいた独立行政法
比べて 12 〜 28 % 低く,キャリア周波数が高いほど低減
人 産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究
率が大きい。したがって,SiC ハイブリッドモジュールは,
センターの関係各位に謝意を表する。
高周波動作においてより有利である。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
242(12)
1,200V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
参考文献
⑴ 中沢将剛ほか.
小林 邦雄
Si-IGBT・SiC-SBDハイブリッドモジュー
ル. 富士時報. 2011, vol.84, no.5 p.331-335.
⑵ 小林邦雄ほか. 1,700 V耐圧SiCハイブリッドモジュール. 富
IGBT モジュールの開発・設計に従事。現在,富
士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部
モジュール技術部。
士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.240-243.
⑶ 木下明将ほか.“高温でのVfを特徴とした600 V/1,200 Vク
ラスSiC-SBD”
. つくば市. 2010-10-21. 応用物理学会SiC及び
関連ワイドギャップ半導体研究会第19回講演.
北村 祥司
半導体デバイスの開発・設計に従事。現在,富士
電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括部デ
バイス開発部。
感光体の開発,有機 EL の開発,IGBT モジュール
のパッケージ設計に従事。現在,富士電機株式会
社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技
術部。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
243(13)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
安達 和哉
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
特集
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モ
ジュール
All-SiC Module for Mega-Solar Power Conditioner
梨子田 典弘 NASHIDA, Norihiro
仲村 秀世 NAKAMURA, Hideyo
岩本 進 IWAMOTO, Susumu
メガソーラー用パワーコンディショナ向けの All-SiC モジュールを開発した。All-SiC モジュール用に開発した構造は,
ワイヤボンディングを使用した従来構造と比較して配線のインダクタンスを約 80 % 低減している。これにより,大幅な損
失低減が可能となり,SiC デバイスの高速スイッチングにおいて有利である。また,パワーサイクル試験による熱負荷に対
しても,従来構造と比べて高い耐量を持つ。これらの技術を適用した昇圧回路用の All-SiC チョッパモジュールを開発し,
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
メガソーラー用パワーコンディショナに搭載することで,世界最高レベルの効率 98.8 % を達成した。
An all-SiC module for mega-solar power conditioners has been developed. The structure developed for the all-SiC module has achieved a
reduction in wiring inductance of approximately 80 % from the existing structure that uses wire bonding. This allows for a significant reduction in loss, leading to an advantage in high-speed switching of SiC devices. In addition, it has shown a higher resistance to thermal load in a
power cycling test as compared with the conventional structure. We have developed an all-SiC chopper module for booster circuits by applying these technologies and integrated it in a mega-solar power conditioner, thereby achieving the world’s highest level of efficiency of 98.8 %.
まえがき
セラミック基板
銅ピン
パワー基板
低炭素社会を実現するため,再生可能エネルギーの活用
や省エネルギー化への必要性が高まっている。中でも,わ
厚銅板
れわれの生活に必要不可欠である電気を効率的に利用する
上で,電力変換技術はますます重要となっている。その電
エポキシ
樹脂
力変換において重要な役割を果たしているのがパワー半導
体である。近年,その主力であった Si(シリコン)デバ
(a)開発構造(All-SiC モジュール)
イスに代わる次世代半導体として,SiC(炭化けい素)や
GaN(窒化ガリウム)といったワイドバンドギャップ半導
シリコーンゲル
アルミニウムワイヤ
パワーチップ
DCB 基板
外部端子
体を使用したパワー半導体の研究・開発が活発に行われて
いる。中でも,SiC デバイスは産業分野をはじめ,家電製
樹脂ケース
品など身近なパワーエレクトロニクス製品への採用が進ん
でおり,ハイブリッド車(HEV)
,電気自動車(EV)な
銅ベース
ど今後ますます採用範囲が広まるものと考えられる。
接合はんだ
本稿では,SiC-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor
セラミック基板
(b)従来構造(Si-IGBT モジュール)
Field-Effect Transistor) と SiC-SBD(Schottky Barrier
Diode)を搭載した All-SiC モジュール技術と,メガソー
図 モジュールの断面図
ラー用パワーコンディショナ(PCS)への適用について述
べる。
プを搭載する絶縁基板には,従来の DCB(Direct Copper
All-SiC モジュールの特徴
Bonding)基板に代わり,厚い銅板が接合された Si3N4(窒
化けい素)セラミック基板を採用し,低熱抵抗化を図って
2 . 1 モジュール構造
図
に開発構造と従来構造のモジュールの断面図を示す。
All-SiC モジュール用に開発した構造は,従来の Si-IGBT
(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュール用と構造
いる。さらに,モジュール内部の封止材料として,従来の
シリコーンゲルに代わってエポキシ樹脂を採用し,高温動
作において高い信頼性を確保している。
図
に,新型パッケージの All-SiC モジュールと従来
が大きく異なっている。開発構造では,従来のアルミニウ
パッケージの Si-IGBT モジュールの外観写真を示す。ど
ムのボンディングワイヤに代わり,パワー基板上に形成し
ちらも定格 1,200 V/100 A のモジュールである。新型パッ
た銅ピンで配線している。これにより,大電流が流せるよ
ケージのフットプリントサイズは,従来パッケージと比較
うになり,SiC デバイスの高密度実装が可能である。チッ
して約 40% にまで小型化している。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
244(14)
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュール
⑵ 損失比較
All-SiC モジュールの低インダクタンス化の効果を確認
するため,同じ SiC デバイスを新型パッケージと従来パッ
ケージに搭載したモジュールを作製し,スイッチング試験
を行った。図
92.0 mm
34.0
mm
60.0
mm
22.0
mm
(a)All-SiC モジュール
(新型パッケージ)
に示すように,新型パッケージは従来パッ
ケージと比べてスイッチング損失が約 50 % 低減した。こ
れは,インダクタンスが低下した新型パッケージのサージ
(b)Si-IGBT モジュール
(従来パッケージ)
電圧を抑制する効果によるものである。
図
に,スイッチング周波数 10 〜 100 kHz の範囲にお
けるトータル損失の比較を示す。トータル損失はスイッ
チング損失と定常損失から成り,従来パッケージに SiC-
図 モジュール外観
MOSFET を搭載した場合の 10 kHz のトータル損失を 1
として比較している。従来パッケージでは,スイッチン
グ周波数が高くなるとスイッチング損失の増加が大きく,
⑴ インダクタンス評価
100 kHz の ト ー タ ル 損 失 は 2.2 に な る。 一 方, 新 型 パ ッ
SiC-MOSFET は現在のパワーモジュールで使われてい
ケージでは損失の増加は少なく,1.2 に留まっている。損
る Si-IGBT と比べ,高速スイッチングが可能である。し
失の内訳に注目すると,従来パッケージと新型パッケージ
かし,一般にスイッチング速度に比例してサージ電圧が増
において定常損失はほぼ同じであり,周波数依存性は見ら
大するので,ゲート信号に対するノイズの影響を小さくす
れない。また,スイッチング損失は,いずれの周波数でも
るためには,モジュール内部の配線の低インダクタンス化
従来パッケージが新型パッケージの 4 倍以上となっており,
が重要である。
周波数が高くなるにつれ,全体の損失に占める割合が増加
に,ゲート配線と主配線のインダクタンスの比較を
することが分かる。このように,モジュールの内部インダ
示す。従来パッケージのシミュレーションによって求めた
クタンスを低減させた新型パッケージは,SiC デバイスの
ゲート配線と主配線におけるそれぞれの内部インダクタン
高速スイッチングに有利であることを確認した。
図
スを 1 として比較している。まず,ゲート配線のインダク
タンスでは,従来パッケージよりも約 80 % 低減している
1.0
型パッケージでは解析と実測のそれぞれにおいて,従来
パッケージより約 80 % 低減していることを確認した。
これらの結果は,新型パッケージではパワー基板および
低熱抵抗絶縁基板を採用してモジュールを小型化すること
によって電流経路が短縮し,インダクタンスの低下に大き
く寄与していることを示している。さらに,パワー基板と
スイッチング損失(a.u.)
ことを確認した。また,主配線でも同様の評価を行い,新
0.8
V DS=600 V,I D =100A,
R g =0Ω
0.6
0.4
0.2
厚銅板を並行に配置しているので,電流経路間の磁界の相
0
互作用がインダクタンスを低下させている。
新型パッケージ
従来パッケージ
図 SiC デバイス搭載モジュールのスイッチング損失
2.5
1.0
トータル損失(a.u.)
内部インダクタンス(a.u.)
1.2
0.8
0.6
0.4
解析
実測
0.2
2.0
新型パッケージ
スイッチング損失
定常損失
従来パッケージ
スイッチング損失
定常損失
1.5
1.0
0.5
0
新型
パッケージ
従来
パッケージ
新型
パッケージ
ゲート配線
図 ゲート配線と主配線のインダクタンス
従来
パッケージ
主配線
0
10
20
40
60
80
スイッチング周波数(kHz)
100
図 トータル損失
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
245(15)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
2 . 2 低インダクタンス設計
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュール
陽光発電用 PCS は昼間の発電時は連続運転を行い,夜間
は停止する。そこで,その際のモジュールにかかる熱負荷
2 . 3 高信頼性
⑴ Δ Tj パワーサイクル試験
を検証するために,動作時のモジュール表面温度 Tc を変
パワーモジュールではデバイス動作時の温度上昇によっ
て熱応力が発生し,チップ接合部などの破壊が引き起こさ
化させる Δ Tc パワーサイクル試験も重要となる。
図
に,従来のパッケージ構造で Δ Tc パワーサイクル
れることがある。Δ Tj パワーサイクル試験は,このデバイ
試験を実施したサンプルの超音波探傷像を示す。20,000
ス動作を繰り返し行うことで,パワーモジュールの寿命を
サイクル経過後では,試験前には見られない銅ベースと
評価する信頼性試験である。
DCB 基板間のはんだ接合部において破壊が発生してお
に,Δ Tj パワーサイクル試験寿命の比較を示す。試
り,熱抵抗の上昇を引き起こして故障に至ったと考えられ
験開始温度を 25ºC とし,横軸に温度振幅 Δ Tj,縦軸に累
る。しかし,新型パッケージでは銅ベースがない構造で
積故障率 1 %〔F(t)=1 %〕となるサイクル数をプロット
あるため,従来パッケージのような故障ではなく,絶縁
したものである。実線は Si デバイスを搭載した従来パッ
基板とチップの接合部の耐久性が Δ Tc パワーサイクル試
)は
験の寿命に影響を与える。そこで,試験開始温度 25 ℃の
Si デバイスを搭載した新型パッケージにおいて検証した
Δ Tc=80 ℃条件において Δ Tc パワーサイクル試験における
寿命である。この結果から,Δ Tj=150ºC の試験条件では,
新型パッケージの熱抵抗の推移を確認した(図 )
。縦軸
図
ケージのパワーサイクル寿命であり,プロット(
の熱抵抗は,それぞれのサンプルの初期値を基準とし変動
を表している。その結果,25,000 サイクル経過後でも熱抵
そ こ で 今 回, 新 型 パ ッ ケ ー ジ に 独 立 行 政 法 人 産 業
技 術 総 合 研 究 所 と 共 同 で 開 発 し た SiC-MOSFET で あ
る IEMOS(Implantation and Epitaxial Metal Oxide
抗の変動は初期値の 7 % 以内に収まっており,増加傾向は
確認されなかった。
図
に,Δ Tc パワーサイクル試験前後のパッケージの
Semiconductor)を搭載し,Δ Tj=150ºC のパワーサイクル
チップ下接合部の超音波探傷像を示す。試験前と比較し,
試験を行った。その結果,F(t)=1 % で 50,000 サイクル
25,000 サイクル経過した後でも接合状態の変化は確認され
と Si デバイスを搭載した従来パッケージに対し,20 倍以
なかった。また,セラミック基板の割れや厚銅板の剝離も
⑴
上の寿命向上を確認することができた(図
プロット: )
。
従来パッケージでは,動作温度が高くなると,チップ電極
見られず,新型パッケージは PCS への適用に十分な耐久
性を持っていることを確認した。
とワイヤボンディングの接合部に剝離が発生するといった
⑵
破壊が生じ,寿命が低下する。一方,新型パッケージでは,
高耐熱のエポキシ樹脂で封止しており,チップ電極と銅ピ
ンの接合部において,動作時に発生する熱応力を緩和する
ことで接合部の破壊を抑制している。また,エポキシ樹脂
は,ガラス転移温度 Tg が 200ºC 以上となるものを開発し
⑶
たことにより,使用温度の範囲内で線膨張係数,弾性率な
どの機械的物性が大きく変化せず,高信頼性を実現してい
(a)試験前(0 cycle)
(b)故障時(20,000 cycle)
る。
⑵ Δ Tc パワーサイクル試験
図 従来パッケージ構造のΔT C パワーサイクル試験における超
音波探傷像
メガソーラーなどの太陽光発電用 PCS へ搭載するには,
その動作モードを把握し信頼性試験を行う必要がある。太
1.2
106
F(t )=1% line
T j min=25℃
新型パッケージ
IEMOS 搭載
パッケージ
105
104
熱抵抗(a.u.)
107
サイクル数(cycle)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
新型パッケージは従来パッケージの 10 倍以上の寿命があ
ると見込まれる。
1.1
1.0
0.9
従来パッケージ
103
0.8
0
5,000
2
10
10
50 100 125 150 175 200
チップジャンクション温度振幅 ΔT j(℃)
図 ΔT j パワーサイクル試験寿命
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
246(16)
10,000
15,000
サイクル数(cycle)
20,000
25,000
図 新型パッケージ構造のΔT C パワーサイクル試験における熱
抵抗の推移
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュール
(a)試験前(0 cycle)
(b)25,000 cycle 経過後
図 ΔT C パワーサイクル試験におけるチップ下はんだ接合部の
図
6インチ SiC ウェーハ
図
メガソーラー用パワーコンディショナ
超音波探傷像
メガソーラー用パワーコンディショナへの適用
で発電した直流電圧を PCS で交流電圧に変換し,送電し
ている。太陽光発電では,日射量の減少や温度上昇による
電圧低下が発生し,PCS の変換効率が低下する問題があ
る。解決策として,PCS に昇圧回路(チョッパ回路)を
搭載する方法がある。この方法では,交流電圧へ変換する
インバータ部への入力最小電圧を高くすることができ,入
力最小電圧の上昇に伴って交流電圧の出力も向上する。こ
こで,SiC デバイスを昇圧回路に適用することで,昇圧部
の発生損失を抑えられ,インバータ部を含む PCS 全体の
変換効率の向上が期待できる。さらに,従来の Si デバイ
All-SiC チョッパモジュールを昇圧回路に採用することで,
スでは,昇圧部はインバータ部と同程度の体積が必要で
課題であった損失増加を抑制することができ,PCS 変換
あったが,SiC デバイスを使用することで小型化できる。
効率として世界最高レベルの 98.8 % を達成した(従来機
そこで,これまで述べた新型パッケージを適用し,SiC デ
。さらに,回路の小型化も実現し,従来の配電盤
98.5 % )
⑷
バイスの特長を生かした昇圧回路用の All-SiC チョッパモ
と比較し 20% 縮小しており,輸送コストなど施工時のコ
。
ジュールを開発した(図 0 )
ストの削減にも貢献している。
All-SiC チョッパモジュールに搭載している SiC デバイ
スは,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し
あとがき
た IEMOS と SiC-SBD であり,松本工場で量産している
。図 2 に,この All-SiC チョッパモジュールを搭
(図 1 )
メガソーラー用 PCS 向けの All-SiC チョッパモジュー
載したメガソーラー用 PCS の外観を示す。大きさは 2,980
ルを開発し,Si デバイスでは困難であった世界最高レベ
×900×1,900(mm)であり,屋内型としては世界最大級
ルの 98.8 % の変換効率を達成するとともに,装置の小型
の 出 力 容 量 1,000 kW を 実 現 し て い る。 今 回, 開 発 し た
化を実現した。
今後も All-SiC モジュールをさまざまなパワーエレクト
ロニクス機器へ適用し,エネルギー利用の高効率化を図る
ことで,低炭素社会の実現に貢献する所存である。
参考文献
⑴ Nashida, N. et al.“All-SiC Power Module for Photovoltaic
Power Conditioner System,”Proceedings of ISPSD 2014.
p.342-345.
⑵ 百瀬文彦ほか. 175 ℃連続動作を保証するIGBTモジュール
のパッケージ技術. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.249-252.
⑶ Horio, M. et al.“Ultra Compact and High Reliable SiC
MOSFET Power Module with 200 ℃ Operating Capability,”
Proceedings of ISPSD 2012. p.81-84.
図
All-SiC チョッパモジュール
⑷ 藤井幹介ほか. メガソーラー向け屋外設置型高効率PCS
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
247(17)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
メガソーラーをはじめとした太陽光発電では,太陽電池
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュール
「PVI1000」. 富士時報. 2012, vol.85, no.3, p.245-249.
梨子田 典弘
パワー半導体デバイス用パッケージの研究開発に
従事。現在,富士電機株式会社技術開発本部電子
デバイス研究所次世代モジュール開発センター
パッケージ開発部。エレクトロニクス実装学会会員。
仲村 秀世
MEMS 機器の研究開発,パワー半導体用パッケー
ジの開発に従事。現在,富士電機株式会社技術開
発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発
センターパッケージ開発部。
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
248(18)
岩本 進
SiC および IGBT モジュールの開発・設計に従事。
現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事
業統括部モジュール技術部。博士(工学)
。
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール
RC-IGBT Module with New Compact Package for Industrial Use
高橋 美咲 TAKAHASHI, Misaki
吉田 崇一 YOSHIDA, Soichi
堀尾 真史 HORIO, Masafumi
富士電機は,IGBT と還流ダイオード FWD を一体化した産業用 RC-IGBT(逆導通 IGBT)を開発し,低熱抵抗と高信
頼性を両立した新型パッケージと組み合わせることにより,IGBT モジュールの大幅な小型化とパワー密度向上を達成した。
RC-IGBT は,従来の IGBT+FWD と同等の低損失化を実現し,熱抵抗の 30% 低減を達成した。RC-IGBT と新型パッケー
ジを組み合わせた新型モジュールは,従来モジュールの 42 % の設置面積で,ほぼ同等のインバータ損失と,大幅な IGBT
Fuji Electric has developed an reverse conducting IGBT (RC-IGBT) for industrial use and it integrates an IGBT and freewheeling diode
(FWD). We have combined it with a new package that achieves both low thermal resistance and high reliability to successfully realize a
significant miniaturization of the IGBT module and power density improvement. The RC-IGBT has reduced power loss to a level equivalent
to that of the conventional IGBT+FWD and achieved a reduction in thermal resistance of 30 %. The new module, combining the RC-IGBT and
new package, which has a footprint 42% that of the conventional module, realizes an almost equivalent inverter loss and a significant reduction
in the IGBT junction temperature. A comparison based on the same IGBT junction temperature shows that it operates with a 58 % larger
output current.
まえがき
近年,化石燃料の枯渇や地球温暖化を防止する観点か
IGBT
ら,エネルギー効率の改善と CO2 の削減が求められている。
FWD
その重要なアイテムの一つとして,インバータの需要が拡
大している。インバータに用いるパワー半導体として,産
IGBT 領域
業用,民生用,自動車用および再生可能エネルギーなどの
FWD 領域
広 い 分 野 で,IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)
モジュールが用いられている。
富士電機の IGBT モジュールは,1988 年に製品化して
(a)ハーフブリッジインバータ回路
(b)RC-IGBT
以来,多くの技術革新により大幅な小型化を達成し,イン
バータの小型化とコストダウンに貢献してきた。しかし,
図
ハーフブリッジインバータ回路と RC-IGBT
IGBT モジュールのさらなる小型化は,パワー密度が高ま
ることによる動作温度の上昇と信頼性の低下を招く危険性
IGBT 領域
がある。高い信頼性を保ったまま小型モジュールを実現す
FWD 領域
るためには,IGBT チップおよびパッケージの技術革新が
必要である。
n+
富 士 電 機 で は,IGBT と 還 流 ダ イ オ ー ド FWD(Free
n+
n+
n+
Wheeling Diode) を 一 体 化 し た 産 業 用 RC-IGBT(Re⑴〜⑷
verse-Conducting IGBT:逆導通 IGBT)を開発し,低熱
⑸〜⑻
抵抗と高信頼性を両立した新型パッケージと組み合わせる
フィールドストップ層
ことにより,高い信頼性を持つ小型モジュールを実現した。
p+
n+
RC-IGBT と新型パッケージの特徴
図
RC-IGBT の断面図
2 . 1 RC- IGBT の特徴
⑴ 適用回路の部品点数低減と装置の小型化
図 1 ⒜ に,PWM(Pulse Width Modulation)制 御 方 式
流すために FWD を必要としていた。今回開発した RCIGBT は,図 1 ⒝に示すように FWD を内蔵することで逆
インバータの主回路である,ハーフブリッジインバータ回
方向の電流を流すことができる IGBT 素子であり,適用回
路を示す。従来の IGBT はコレクタ−エミッタ方向にのみ
路の部品点数の低減と,装置の小型化を可能にする。
通電するスイッチングデバイスであり,逆方向の電流を
RC-IGBT は, 図
に示すようにトレンチゲート−薄
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
249(19)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
接合温度の低減を可能にする。また,同じ IGBT 接合温度で比較した場合では,58% 大きい出力電流で動作が可能である。
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール
ウェーハ型の IGBT であり,富士電機の最新製品である第
j=150 ℃,
CC=600 V,
C=100 A,
RC-IGBT (A)
RC-IGBT (B)
RC-IGBT (C)
従来 IGBT+FWD
1,000
形成するための工程と,ライフタイム制御工程を備える。
⑵ 出力特性とスイッチング波形
CE(V)
に 示 す。RC-IGBT は,1
チップで順方向(IGBT)と逆方向(FWD)の両方に電流
を出力することができる。ライフタイム制御量が異なる三
つの RC-IGBT を用意し,A,B,C として出力特性を比
g=9 Ω
300
スは従来の IGBT とほぼ同じであり,裏面の p 層 /n 層を
RC-IGBT の 出 力 特 性 を 図
GE=±15V,
1,200
250
800
200
600
150
400
100
200
50
C(A)
6 世代 IGBT「V シリーズ」に基づいている。製造プロセ
較した。制御量が小さい A の方が,IGBT 動作と FWD 動
0
作ともに動作抵抗が小さくなる。
RC-IGBT のターンオフ波形を図
を図
に,逆回復波形を図
に,ターンオン波形
0
-200
0
に示す。従来はスイッチン
200
400
600
-50
800 1,000 1,200 1,400
時間(ns)
のに対し,RC-IGBT ではスイッチング素子,還流素子と
もに
RC-IGBT
図
RC-IGBT のターンオン波形
だけでスイッチングを行っている。RC-
IGBT(B)は従来の IGBT+FWD とほぼ同等のスイッチ
j =150℃,
G E =15V( C≧0),
C(A)
CE(V)
RC-IGBT (A)
RC-IGBT (B)
RC-IGBT (C)
従来 IGBT+FWD
100
GE=±15V,
順方向
(IGBT)
600
100
400
50
200
0
-50
-200
0
RC-IGBT (A)
RC-IGBT (B)
RC-IGBT (C)
従来 IGBT+FWD
-400
-600
逆方向
(FWD)
g=9 Ω
150
0
50
-50
C=100 A,
G E =-15V( C≦0)
200
150
CC=600 V,
800
C(A)
j=150 ℃,
ング波形であり,RC-IGBT 同士の組み合わせにより従来
0
200
400
600
-100
-150
-200
800 1,000 1,200 1,400
時間(ns)
-100
-150
図
-200
-4
-2
0
2
RC-IGBT の逆回復波形
4
と同様のスイッチング動作が可能である。また,ライフ
CE(V)
タイム制御量が大きい C が,ターンオフ時の IGBT テー
図
ル電流ならびに逆回復時の FWD 逆回復電流が小さくなっ
RC-IGBT の出力特性
ている。RC-IGBT の IGBT 損失トレードオフを図
FWD 損失トレードオフを図
j=150 ℃,
CC=600 V,
CC=100 A,
GE=±15V,
1,200
g=9 Ω
に,
に示す。RC-IGBT は,従
来の IGBT および FWD と同等の損失トレードオフ特性を
300
RC-IGBT (A)
RC-IGBT (B)
RC-IGBT (C)
従来 IGBT+FWD
持っており,またライフタイム制御量により,低導通損失
の A から低スイッチング損失の C までトレードオフの調
800
200
整が可能である。
600
150
400
100
200
50
C(A)
250
1,000
CE(V)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
グ素子として IGBT,還流素子として FWD を用いている
⑶ 熱抵抗 Rth(j
-c)
の低減
表 1 に,RC-IGBT のチップ面積と熱抵抗 Rth(j-c) を示
す。活性面積を,従来の IGBT および FWD(定格 100 A)
の合計と同等にした場合,従来は IGBT および FWD は
別々のチップであったのに対し,RC-IGBT は一つのチッ
0
0
-200
0
200
400
600
-50
800 1,000 1,200 1,400
時間(ns)
プ内で共通のエッジ構造となるため,チップ面積では従来
と比較して 9 % 低減する。また,RC-IGBT は図 1 に示し
たように,IGBT 領域と FWD 領域がストライプ状に並び,
この間隔が数百 µm 程度と狭いため,IGBT 動作時にも
図
RC-IGBT のターンオフ波形
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
250(20)
FWD 領域を含めたチップ全体から放熱される。すなわち,
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール
セラミック基板
20
銅ピン
パワー基板
A
厚銅板
15
エポキシ
樹脂
10
(a)新型パッケージ
off
(mJ)
B
C
シリコーンゲル
DCB 基板
外部端子
アルミニウムワイヤ
パワーチップ
5
従来 IGBT+FWD
RC-IGBT
1.5
2.0
2.5
3.0
(V)
CE(sat)
銅ベース
接合はんだ
図
RC-IGBT の IGBT 損失トレードオフ
セラミック基板
(b)従来パッケージ
図
新型パッケージの断面図
20
A
58 % 低減
rr(mJ)
15
10
B
13.2 cm2
31.3 cm2
(a)新型パッケージ
(b)従来パッケージ
C
5
図
従来 IGBT+FWD
新型パッケージの設置面積 (1,200 V/100 A)
RC-IGBT
0
1.0
1.5
2.0
F(V)
2.5
3.0
板(絶縁基板)上の銅パターンによってチップと各端子間
の配線を行っていたが,新型パッケージでは,ワイヤボン
ディングの代わりに銅ピン,DCB 基板上の銅パターン配
図
RC-IGBT の FWD 損失トレードオフ
表
RC-IGBT のチップ面積と熱抵抗
線の代わりにチップ上部に配置されたパワー基板によって,
チップと各端子間の配線を行っている。これにより,ワイ
チップ
ヤボンディングエリアおよび銅パターンの面積を削減する
従来 IGBT+FWD
RC-IGBT
1,200 V 100 A
1,200 V
活性面積(a.u.)
IGBT:0.64, FWD:0.36
(合計:1.00)
1.00
チップ面積(a.u.)
IGBT:0.62, FWD:0.38
(合計:1.00)
0.91
IGBT:0.24, FWD:0.36
IGBT:0.17
FWD:0.18
定格
熱抵抗 R th(j-c)
(K/W)
に示すように 58 % もの設置面積の低減
ことができ,図
を実現した。
⑵ 熱抵抗 Rth(j
-c)
の低減
新型パッケージは DCB 基板の絶縁材料として,従来の
Al2O3 よりも熱伝導率の高い Si3N4 を用い,さらに DCB 基
板の両面を厚い銅ブロックとして,横方向に熱を拡散させ
ることで実効的放熱面積を拡大した。これにより,同一
チップ面積で比較して 55 % の Rth(j
IGBT と FWD がそれぞれ別のチップである従来と比較し
て放熱面積が拡大するので,IGBT 動作時に 30 %,FWD
動作時に 59 % の Rth(j
-c)
を低減した。
-c)
を低減した。
⑶ パワーサイクル寿命の向上
パワーサイクル寿命は,ボンディング接点と,チップ−
DCB 基板間のはんだ層が熱サイクルによる熱応力で破壊
することにより制約される。新型パッケージでは,従来の
2 . 2 新型パッケージの特徴
⑴ 設置面積の低減
パッケージで適用していたワイヤボンディングを銅ピン構
造に置き換えることで,ボンディング接点の弱点を解消し
に,新型パッケージの断面図を示す。従来は,ワ
た。また,従来のゲル封止に代えて,エポキシ樹脂封止を
イ ヤ ボ ン デ ィ ン グ と DCB(Direct Copper Bonding) 基
行うことで,銅ピン−チップ− DCB 基板全体を強く拘束
図
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
251(21)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
0
1.0
樹脂ケース
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール
180
106
105
j(℃)
累積故障率 =1%
ワイヤボンディング
エポキシ樹脂封止
銅ピン構造
エポキシ樹脂封止
IGBT 接合温度
パワーサイクル寿命(cycle)
107
4
10
従来構造
3
10
160
従来モジュール
140
j =119℃
120
新規
モジュール
100
102
10
50
100
200
50
125 150
Δ
80
j(℃)
0
20
40
+58%
60
79
80
100
出力電流(A)
新型パッケージのパワーサイクル寿命
図
新規モジュールの T j
する。これにより,はんだ層にかかる熱応力(ひずみ)を
に示すようにΔT j=150 ℃で比較した場合,
緩和して,図
RC-IGBT と従来のパッケージを組み合わせた場合,
RC-IGBT のインバータ損失は従来モジュールよりも 3 %
20 倍以上のパワーサイクル寿命の向上を達成した。
低く,T j は 5 ℃低減する。RC-IGBT は FWD 領域を含め
たチップ全体から放熱されるため放熱面積が大きく,従来
インバータ損失と IGBT 接合温度
の IGBT よりも Rth(j
-c)
が 30 % 低いため,T j が低減できる。
従来の IGBT+FWD と RC-IGBT,従来のパッケージ
RC-IGBT は同一活性面積の場合,従来モジュールより T j
と新型パッケージの性能を比較するために,インバータ損
が低いので,その分チップ面積を縮小することができる。
失と IGBT 接合温度 T j を比較した(図
チップ面積を 26 % 低減した RC-IGBT は,従来モジュー
)
。
ルとほぼ同等のインバータ損失と T j を達成できる。すな
わち,RC-IGBT は従来の IGBT+FWD に対し,同一パッ
従来 IGBT
+FWD
チップ
RC-IGBT
モジュール設置
面積(cm2)
チップ面積
(a.u.)
熱抵抗 R th(j-c)
(K/W)
あり,IGBT モジュールの小型化によりインバータ装置全
RC-IGBT
(ダウンサイズ)
31.3
IGBT : 0.62,
FWD : 0.38
(合計 : 1.00)
ケージで比較した場合に 26 % のチップ面積縮小が可能で
新型
パッケージ
従来パッケージ
パッケージ
体の小型化に貢献できる。
最後に,RC-IGBT と新型パッケージを組み合わせた新
13.2
規モジュールについて検討を行った。RC-IGBT と新型
0.90
パッケージの効果により,IGBT の Rth(j
0.74
-c)
が 62 % 低減し
た。これにより,従来モジュールと同等のインバータ損
IGBT : 0.24,IGBT : 0.17,IGBT : 0.21,IGBT : 0.10,
FWD : 0.36 FWD : 0.18 FWD : 0.22 FWD : 0.10
失でありながら,11 ℃以上の IGBT 接合温度が低下した。
新規モジュールと従来モジュールの,出力電流と IGBT 接
O=60 Hz,
C=8 kHz,
CC=600 V,
(実効値)
,
out=50 A
COSφ=0.9
180
合温度の関係について図
に示す。T j=119 ℃で比較し
た場合,従来モジュールの I out=50 A(実効値)に対して,
120
j
115
140
110
120
105
100
100
rr
80
95
f
60
off
90
40
on
85
20
sat
0
従来 IGBT
+FWD
RC-IGBT
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
252(22)
あとがき
本稿では,ダイオード機能を一体化した RC-IGBT と,
小型で低熱抵抗かつ高信頼性の新型パッケージについて述
べた。これにより,インバータの小型化とコストダウン
75
に大きく貢献することができると考える。今後も,IGBT
新型
パッケージ
RC-IGBT のインバータ損失および IGBT 接合温度計算
結果
を増大することができる。
80
RC-IGBT RC-IGBT
(ダウンサイズ)(ダウンサイズ)
従来パッケージ
図
新規モジュールは I out=79 A(実効値)と,58% 出力電流
j(℃)
160
IGBT 接合温度
インバータ損失(W)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
図
チップおよびパッケージの技術革新を進め,省エネルギー
社会の実現に貢献していく所存である。
参考文献
⑴ Takahashi, H. et al.“1200 V Reverse Conducting IGBT”
,
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール
MOSFET Power Module with 200ºC Operating Capability”
,
Proceeding of ISPSD 2004. p.133-136.
⑵ Satoh, K. et al.“A New 3 A/600 V Transfer Mold IPM
with RC (Reverse Conducting)
-IGBT”
, Proceeding
Proceeding of ISPSD 2012. p.81-84.
of PCIM
高橋 美咲
Europe 2006.
⑶ H. Rüthing. et al.“600 V Reverse Conducting
(RC-)
IGBT
,
for Drives Application in Ultra-Thin Wafer Technology”
IGBT モジュールの開発に従事。現在,富士電機株
式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュー
ル技術部。
Proceeding of ISPSD 2007. p.89-92.
⑷ S. Voss.“Anode Design Variation in 1200 - V Trench
Field - stop Reverse - conducting IGBTs”
, Proceeding of
吉田 崇一
ISPSD 2008. p.169-172.
⑸ Horio, M. et al.“New Power Module Structure with Low
Thermal Impedance and High Reliability for SiC Devices”
,
パワー半導体素子の開発に従事。現在,富士電機
株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モ
ジュール技術部。
Proceeding of PCIM Europe 2011.
Reliability”
, Proceeding of PCIM Europe 2012.
⑺ Ikeda, Y. et al.“Investigation on Wirebond-less Power
Module Structure with High-Density Packaging and High
Reliability”
, Proceeding of ISPSD 2011.
p.272-275.
⑻ Ikeda, Y. et al.“Ultra Compact and High Reliable SiC
堀尾 真史
パワー半導体パッケージング構造の研究開発に従
事。現在,富士電機株式会社技術開発本部電子デ
バイス研究所次世代モジュール開発センターパッ
ケージ開発部。IEEE 会員。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
253(23)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
⑹ Iizuka, Y. et al.“A Novel SiC Power Module with High
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT
RC-IGBT for Mild Hybrid Electric Vehicles
野口 晴司 NOGUCHI, Seiji
安達 新一郎 ADACHI, Shinichiro
吉田 崇一 YOSHIDA, Soichi
環境意識の高まりを背景に,ハイブリッド車や電気自動車が注目されており,中でも 1 台のモータで駆動と発電を行う
マイルドハイブリッド車の比率が増加すると予想されている。富士電機では,
マイルドハイブリッド車用の IGBT(Insulated
Gate Bipolar Transistor)モジュールの低損失化・小型化のために,IGBT と FWD(Free Wheeling Diode)を 1 チップ化
した 650 V 耐圧の RC-IGBT(Reverse-Conducting IGBT)を開発した。RC-IGBT により,従来の IGBT・FWD を超える
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
低損失化とパッケージサイズの小型化を実現した。
Hybrid electric vehicles and electric vehicles are attracting attention as people’
s environmental awareness is growing. Above all, mild
hybrid electric vehicles, in which one motor is responsible for both driving and power generation, is expected to account for a higher proportion of vehicles. To reduce the loss and size of Insulated-gate bipolar transistor (IGBT) modules for mild hybrid electric vehicles, Fuji Electric
has developed a reverse-conducting IGBT (RC-IGBT) that has a withstand voltage of 650 V, which integrates an IGBT and freewheeling diode
(FWD) into one chip. The RC-IGBT has realized a lower loss and reduced package size that surpass the conventional IGBTs and FWDs.
⑵
まえがき
型 IGBT をベースに開発したものであり,ストライプ状に
地球温暖化の防止などの環境保護に対する意識が世界的
図
交互に IGBT 領域と FWD 領域を配置した構造としている。
に RC-IGBT の概略構造を示す。
に高まる中,CO2 排出量を低減するためにエンジンとモー
マイルドハイブリッド車用の IGBT モジュールの電流容
タの双方を利用するハイブリッド車(HEV)
,さらには
量はモータ容量によって異なるものの,電源電圧 VCC は
モータのみで駆動する電気自動車(EV)の普及が進んで
300〜400 V,キャリア周波数 fsw は 5 〜 10 kHz の範囲で動
いる。
作することが一般的である。図
ハイブリッド車においては,特にマイルドハイブリッド
車が注目されている。マイルドハイブリッド車は,1 台の
に,マイルドハイブリッ
ド車用 RC-IGBT をモジュールに適用した場合のインバー
タ動作時の発生損失を示す。
スイッチング損失(Pon,Poff,Prr)が高くなるスイッチ
モータで駆動と発電を行うものである。2 台のモータで駆
動と発電を別々に行うフルハイブリッド車に比べて,構造
ング周波数が高い動作条件(10 kHz)においても,IGBT
がシンプルであることとガソリン車との価格差が抑制でき
および FWD の定常損失(Psat,Pf)が支配的であること
ることから,今後,世界的には,マイルドハイブリッド車
が分かる。定常損失を低減するために,IGBT 領域のトレ
の比率が増加すると予測されている。 富 士 電 機 で は, マ イ ル ド ハ イ ブ リ ッ ド 車 向 け の イ
ン バ ー タ に 搭 載 さ れ る IGBT(Insulated Gate Bipolar
n+
Transistor)モジュールの開発を進めている。燃費向上の
ために車載用モジュールの低損失化に加え,小型化の要
p+
エミッタ
ゲート
p ベース
求に応えるため,IGBT と FWD(Free Wheeling Diode)
を 1 チ ッ プ 化 し た 650 V 耐 圧 の
RC-IGBT(Reverse-
Conducting IGBT: 逆 導 通 IGBT) を 開 発 し た。RC-
IGBT
IGBT は家電向けの小容量チップでは実用化されているが,
FWD
電流
車載用として要求される大容量チップでは,これまで低損
フィールド
ストップ層
⑴
失化のための技術的ハードルが高く困難であった。本稿で
は,マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT およびモジュー
p+ コレクタ
n+ カソード
ルへの適用時の効果について述べる。
エミッタ
RC-IGBT 設計
コレクタ
マ イ ル ド ハ イ ブ リ ッ ド 車 用 の 650 V 耐 圧 の RC-IGBT
は,富士電機で量産しているフィールドストップ(FS)
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
254(24)
図
RC-IGBT の概略構造
マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT
CC=300 V, out=300 A(実効値),
m=0.8, cosφ=±0.85
sw=10 kHz,
out
=50 Hz,
500
1.2
400
rr
0.8
off
0.6
on
0.4
f
0.2
sat
0
図
電流(A)
発生損失(a.u.)
1.0
300
RC-IGBT
200
従来 IGBT
100
カ 行
回 生
0
0
1
2
コレクタ−エミッタ間飽和電圧(V)
3
インバータ動作時の IGBT モジュールの発生損失
IGBT の飽和電圧出力特性
ンチピッチなどデバイス表面のデザインを工夫すること
で,定常損失を決めるパラメータであるコレクタ−エミッ
⑶
タ間飽和電圧を最小限に抑えている。また,チップは厚い
ほど耐圧を確保しやすく製造も容易であるが,飽和電圧お
RC-IGBT
よび順電圧が増加して定常損失が悪化するため,できるだ
電流,電圧
け薄い方が望ましい。そこで富士電機では,早期から薄い
ウェーハに加工する技術に積極的に取り組んできた。
今 回, 最 先 端 の 薄 ウ ェ ー ハ 加 工 技 術 を 開 発 す る こ と
V CE
従来 IGBT
で,従来は不可能だった 650 V 耐圧に必要十分な厚さま
でウェーハを薄くし,低損失化を実現した。また,薄い
ウェーハの裏面へのパターニング技術と不純物層の形成技
IC
術も開発し,IGBT のコレクタ p 型層と FWD のカソード
時 間
n 型層を同一チップの裏面に形成した。IGBT と FWD の
スイッチング損失は,定常損失とトレードオフの関係にあ
図
IGBT のターンオフ特性
る。そのため,キャリアライフタイム制御を行ってトレー
ドオフの最適化を行った。
損失特性
ターンオフ損失
従来 IGBT
3. 1 電気的特性
本 節 で は, 従 来 IGBT・FWD と 活 性 面 積 が 同 じ RCIGBT の電気特性を示す。
⑴ IGBT 特性
図
に,RC-IGBT と従来 IGBT の飽和電圧出力特性を
RC-IGBT
示す。RC-IGBT では,薄ウェーハ化および表面構造の最
適化により従来 IGBT よりも低い飽和電圧を実現している。
コレクタ−エミッタ間飽和電圧
また,IGBT 領域に隣接する FWD 領域の裏面カソードで
ある n 型層へ電子が流入することにより,IGBT コレクタ
図
IGBT のトレードオフ特性
である p 型層からのホール注入が抑制されて伝導度変調
が起こりにくくなる。そのため,低飽和電圧領域におい
すくし,スナップバックを抑制するようにした。
〈注〉
て電流−飽和電圧曲線にスナップバック が起こることが
⑷
報告されている。スナップバックが発生すると飽和電圧が
図
に,RC-IGBT と従来 IGBT のターンオフ特性を示
す。RC-IGBT の方が従来 IGBT に比べてターンオフ時の
増加し,損失悪化につながる。この対策として,IGBT と
dv/dt が大きく,キャリアの排出速度が速いことが分かる。
FWD の各領域の構造を最適化して伝導度変調を起こしや
これは RC-IGBT では裏面のコレクタ p 型層とカソード n
〈注〉スナップバック:電流と飽和電圧が途中で減少した後に増加に
コレクタ p 型層に加えて,隣接する FWD 領域の裏面にあ
型層が短絡されていることにより,ターンオフ時に電子が
転じる現象をいう。
るカソード n 型層からも排出されるためである。この結
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
255(25)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
図
マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT
1.2
500
温度
高
1.0
R th(j-w)
(a.u.)
電流(A)
400
RC-IGBT
300
200
従来 FWD
100
0.8
従来 IGBT
低
0.6
0.4
RC-IGBT
(IGBT 領域)
0.2
0
0
1
2
0
0.001
3
0.01
順電圧(V)
0.1
1
時間(s)
10
100
(a)RC-IGBT(IGBT 領域)と従来 IGBT
順方向出力特性
1.2
温度
高
1.0
R th(j-w)
(a.u.)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
図
I F:150 A/div
0A
0.8
従来 FWD
0.6
低
0.4
I rp
RC-IGBT
(FWD 領域)
0.2
0V
0
0.001
V AK:100 V/div
t:200 ns/div
0.01
0.1
1
時間(s)
10
100
(b)RC-IGBT(FWD 領域)と従来 FWD
図
RC-IGBT 逆回復動作時のスイッチング波形
図
同一活性面積における熱抵抗
果,RC-IGBT の方が従来 IGBT に比べてターンオフ損失
性面積における RC-IGBT と従来 IGBT・FWD の熱抵抗
が低減されるというメリットがある。RC-IGBT では,定
。RC-IGBT の IGBT 領域の熱抵抗は従
を比較した(図 )
常損失を改善する方向(低飽和電圧化)に調整しても,従
来 IGBT に比べて 12 %,FWD 領域の熱抵抗は FWD に比
来 IGBT よりもターンオフ損失を抑制することができ,ト
べて 40 % 低くなっている。
。
レードオフ特性を大きく改善することができた(図 )
モジュールへの適用時の効果
⑵ FWD 特性
図
に,RC-IGBT と従来 FWD の順方向出力特性を示
す。IGBT の定常損失と同様に,RC-IGBT では薄ウェー
本章では,RC-IGBT をマイルドハイブリッド車向け
ハ化および表面構造の最適化の効果により従来 FWD に比
IGBT モジュールに適用した際の小型化効果について述べ
べて順電圧降下を低減させた。
る。
図
に,RC-IGBT 逆回復動作時のスイッチング波形を
示 す。RC-IGBT
で は,FWD 定 常 動 作 時に電 子が FWD
領域に加え IGBT 領域にも拡散するため,逆回復動作時に
図
に, 従 来 IGBT・FWD と 活 性 面 積 が 同 じ RC-
IGBT,および小型化 RC-IGBT のインバータ動作時の損
失と温度計算結果を示す。 表
に,チップ活性面積とモ
従来 FWD に比べて逆回復電流 Irp が大きくなり,逆回復
ジュール面積の比較を示す。従来 IGBT に比べて,飽和
損失 Err が大きくなるという問題があったが,ライフタイ
電圧,順電圧,ターンオフ損失を低減したことで,RC-
ム制御技術により,Irp を低減している。
IGBT はインバータ動作時の電力損失を 10% 以上低減で
きる。低損失化に加え, .
3. 2 放熱特性
節 で述べた放熱の優位性に
より,チップ最大温度は 14 ℃程度低減できる。モジュー
では,IGBT と FWD を一体化することによ
ルのチップサイズは動作時の最大温度で決まるため,この
りチップ面積およびモジュール面積を縮小した。さらに,
結果は RC-IGBT はより小さいチップサイズで同定格のイ
RC-IGBT においては,FWD 領域からの発熱を IGBT 領
ンバータ動作が可能であることを意味する。25% 小型化
域の部分も介して放熱するため,従来 FWD よりも大幅に
した RC-IGBT で従来 IGBT・FWD と同程度の温度となっ
熱抵抗が低い。直接水冷構造モジュールを想定し,同一活
ており,これにより,モジュール面積は 20% 低減が可能
RC-IGBT
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
256(26)
マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT
の貢献をさらに進めていく所存である。
CC=300 V,
=300 A (実効値),
m=0.8, cosφ=±0.85,水温 65 ℃
out
sw=10 kHz,
out
=50 Hz,
参考文献
150
1.2
jmax
⑴ Takahashi, K. et al.“New Reverse - Conducting IGBT
125
rr
0.8
off
0.6
100
on
f
75
sat
50
0.4
0.2
0
従来
RC-IGBT
IGBT・FWD (同一活性面積)
RC-IGBT
(小型化)
IGBT T jmax(℃)
発生損失(a.u.)
1.0
25
(1200 V)with Revolutionary Compact Package”,
Proceedings of ISPSD 2014. p.131-134.
⑵ Laska,T. et al.“The Field Stop IGBT(FS IGBT) ─ A
New Power Device Concept with a Great Improvement
Potential”
, Proceedings of ISPSD 2000. p.355-358.
⑶ 百田聖自ほか. ハイブリッド車用めっきチップ. 富士時報.
2007, vol.80, no.6, p.385-387.
⑷ M,Rahimo. et al.“The Bi-mode Insulated Gate Transistor
(BIGT)A Potential Technology for Higher power
RC-IGBT と従来 IGBT・FWD の発生損失
表
チップ活性面積とモジュール面積
Applications”
, Proceedings of ISPSD 2009. p.283-286.
野口 晴司
IGBT チ ッ プ の 開 発 設 計 に 従 事。 現 在, 富 士 電
従来IGBT・FWD
RC-IGBT(小型化)
チップ活性面積(a.u.)
1.00
0.75
モジュール面積(a.u.)
1.00
0.80
である。
機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モ
ジュール技術部。
安達 新一郎
ハイブリッド自動車用 IGBT モジュール・IPM の
あとがき
開発に従事。現在,富士電機株式会社パワエレ事
業本部輸送パワエレ事業部 EV モジュール開発部。
本稿では,マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT および
モジュールへの適用時の効果について述べた。
環境問題への対応から,ハイブリッド車,電気自動車は
今後も大きな発展が見込まれる。この中で,さらに車載機
器の小型化の重要性が増すと考えられ,小型化を実現でき
吉田 崇一
パワー半導体素子の開発に従事。現在,富士電
機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モ
ジュール技術部。
る RC-IGBT は非常に有効な手段であると考える。今後も,
デバイスの改善,新材料デバイスの開発などでこの分野へ
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
257(27)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
図
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッ
ケージ技術
Packaging Technology of 2nd-generation Aluminum Direct Liquid Cooling Module for Hybrid
Vehicles
郷原 広道 GOHARA, Hiromichi
齊藤 隆 SAITO, Takashi
山田 教文 YAMADA, Takafumi
地球温暖化の防止や資源の有効利用に向けた取組みとして,ハイブリッド車などの環境対策車のさらなる燃費向上が求
められている。そのため,ハイブリッド車用インテリジェントパワーモジュール(IPM)の小型・軽量化が必要である。こ
れに応えるため,富士電機は三つの新パッケージ技術,すなわちアルミニウム直接水冷構造の冷却器設計技術,超音波接
合技術,ならびに 175 ℃連続動作を可能とする高耐熱化技術を開発した。これらの技術を適用した第 2 世代アルミニウム直
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
接水冷型 IPM は,第 1 世代に対して体積を 30 %,質量を 60 % 低減した。
As activities for preventing global warming and allowing for effective use of resources, further improvements in the fuel efficiency of
eco-friendly vehicles such as hybrid electric vehicles is called for. To that end, size and weight reduction of intelligent power modules (IPMs)
for hybrid electric vehicles is required. To meet this need, Fuji Electric has developed three new packaging technologies: technology for
designing a radiator with a structure capable of direct liquid cooling using aluminum, ultrasonic bonding technology and thermal resistance
improvement technology that allows continuous operation at 175 C. The 2nd-generation direct liquid cooling IPM using aluminum, which
applies these technologies, has achieved a volume reduction of 30 % and mass reduction of 60 % from the 1st-generation model.
本 稿 で は, 第 2 世 代 の IPM に 適 用 し た 三 つ の 新 パ ッ
まえがき
ケージ技術,すなわちアルミニウム直接水冷構造の冷却器
地球温暖化の防止や資源の有効利用が各国共通の取組み
として重要性を増している。自動車分野では,ハイブリッ
設計技術,超音波接合技術,ならびに 175 ℃連続動作を可
能とする高耐熱化技術について述べる。
ド車(HEV)や電気自動車(EV)の開発と普及が加速し
ている。これらの自動車の動力制御に用いるインバータユ
冷却構造の技術課題
ニットは限られたスペースに搭載されるため,小型かつ搭
載方法の自由度の高さと,低燃費を意識した軽量化と効
図 2 に,第 1 世代アルミニウム直接水冷型 IPM の断面
率向上が求められる。インバータに搭載されるパワーモ
構造を示す。この構造では,モジュールとヒートシンクを
ジュールにおいても,小型・軽量化,高効率化が必要であ
直接はんだで接合している。
り,世代ごとに,20 % 以上の小型・軽量化が求められて
ウォータージャケットはユーザが独自に設計するため,
いる。特に,車載用パワーモジュールでは,直接水冷構造
ヒートシンクとウォータージャケットが別個の部品となり,
を用いた高放熱化やアルミニウム冷却器を用いた軽量化が
流路設計だけでなく,水密性と公差を考慮した設計が必要
進んでいる。
である。そのため,座屈や変形を考慮した材料選択やベー
富士電機では,二つのモータを制御するインバータと昇
ス厚さが必要であり,熱抵抗上昇の要因となっていた。
降圧コンバータを内蔵した,車載用アルミニウム直接水冷
このような課題を解決し,アルミニウム直接水冷構造に
型インテリジェントパワーモジュール(IPM:Intelligent
おける放熱能力の向上と高信頼性を確保するため,ヒート
⑴
Power Module)を開発し,HEV に必要とされる高出力を
実現した。図
に,車載用アルミニウム直接水冷型 IPM
シンクとウォータージャケットを一体化したアルミニウム
冷却器を開発した。
を示す。第 2 世代の IPM は第 1 世代に対し,体積を 30 %,
⑵
質量を 60 % 低減した。
半導体素子
固定ねじ
はんだ
ベース
厚さ
絶縁基板
はんだ
O リング
(a)第 1 世代
図
(b)第 2 世代
車載用アルミニウム直接水冷型 IPM
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
258(28)
ウォーター
ジャケット
図
ヒート
シンク
クリアランス
第 1 世代アルミニウム直接水冷型 IPM の断面構造
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術
4×105
〔W/(m2・K)
〕
冷却器設計技術
3 . 1 放熱性能の設計
パワーモジュールの放熱性能は,熱抵抗と熱伝達係数の
熱伝達係数
二つで示すことができる。熱抵抗 Rth は,チップのジャン
クション温度と比較対象とする箇所の温度との差を発生損
失で除した値である。また,熱伝達係数 h は冷媒とフィ
ンの熱交換性能を示す。これらの関係は式⑴で表される。
3×105
2×105
1×105
また,式⑵に置き換えることができる。
h=
1
Rth A
流速
……………………………………………… ⑴
R th:熱抵抗(K/W)
A :フィン表面の面積(m2)
Nu m
……………………………………………… ⑵
L
h:熱伝達係数〔W/(m2・K)
〕
Nu:ヌセルト数
:構成部材の熱伝導率〔W/(m・K)
〕
L:フィンの代表長さ(m)
図
0.5
(m/s)
1.0
熱伝達係数と冷媒流速の関係
ている。よって,フィン表面の流速向上が放熱設計のポイ
⑶
ントであることが分かる。
3 . 2 流速と放熱性能
シール材を用いた従来の冷却構造は,ウォータージャ
ケットをユーザが設計し用意するため,フィンの先端と
ウォータージャケットの間にクリアランスが必要である。
このクリアランスが放熱性能に与える影響について簡易
ヌセルト数 Nu は,形状パラメータを用いて式⑶で計算
モデルを用いて試算した。フィン形状は厚さ 1 mm,間隔
することができる。このとき,レイノルズ数 Re は式⑷で,
1 mm,高さ 10 mm とし,冷媒は冷媒導入口に均等に 1 L/
プランクトル数 Pr は式⑸で表される。
min が流れるように設定した。図
Nu = 0.664Re 1/2Pr 1/3
……………………………… ⑶
Nu:ヌセルト数
Re:レイノルズ数
Pr:プランクトル数
tvL
Re =
h
に,簡易モデルとシ
ミュレーション結果を示す。
…………………………………………… ⑷
クリアランスが広がるほど熱抵抗は上昇し,悪化するこ
とが分かる。冷媒は圧力抵抗の低い部分を流れるため,開
口部の広いクリアランス部に流出し,放熱性能に寄与する
フィン間の流速が低下する。さらに,モジュールが並列に
接続されると,冷媒流速の低下が顕著になることが予想で
Re: レイノルズ数
: 冷媒の密度(kg/m3)
IGBT 素子
v: 冷媒の流速(m/s)
冷媒排出口
絶縁基板
L: フィンの代表長さ(m)
ヒートシンク
η: 冷媒の粘度(Pa・s)
…………………………………………… ⑸
冷媒導入口
Pr: プランクトル数
η: 冷媒の粘度(Pa・s)
(K/W)
Cp: 比熱〔J/(kg・K)
〕
0.20
0.27
0.19
0.18
0.18
0.09
th
(j-w)
: 熱伝導率〔W/(m・K)
〕
これらの式から,熱伝達係数は使用する冷媒の密度,粘
熱抵抗
度,比熱,熱伝導率と流速から計算できることが分かる。
流速に対する熱伝達係数を単位当たりの長さから計算した
結果を図
冷却フィン
(a)簡易モデル
に示す。
0.17
0
フィン表面の流速が速いほど熱交換性能を示す熱伝達係
数は大きくなる。これはチップで発生した熱がフィンに伝
0
1
クリアランス(mm)
2
(m/s)
hCp
フィン間を流れる冷媒流速
Pr =
(b)シミュレーション結果
わり,冷媒を伝って放熱される状態について,フィン表面
を流れる冷媒流速が放熱性能に大きく影響することを示し
図
簡易モデルとシミュレーション結果
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
259(29)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
h:熱伝達係数〔W/(m2・K)
〕
h=
0
0
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術
半導体素子
はんだ
絶縁基板
はんだ
冷却器
第 2 世代アルミニウム直接水冷型 IPM の断面構造
(K/W)
0.08
th
(j-w)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
0.16
熱抵抗
0.20
(a)銅端子超音波接合
図
20%
0.12
1.0
0.04
0
図
(b)アルミニウムワイヤ
ボンディング
接合部の外観写真
実装面積(a.u.)
図
新構造
従来構造
熱抵抗
35%
0
銅端子超音波接合
アルミニウムワイヤ
ボンディング
きる。
ヒートシンクとウォータージャケットを一体化して,ク
図
実装面積
リアランスをなくすことは,フィン間の冷媒流速を早くし
て熱抵抗を下げるのに効果的であることが分かる。
図
に,第 2 世代のアルミニウム直接水冷構造として採
ミニウムワイヤボンディング構造と比較して 35% の実装
⑷
面積の低減が可能となった。
用した新構造の断面図を示す。新構造は,ウォータージャ
直接水冷構造における放熱性能の向上に加え,超音波接
ケットとフィン先端部を接合してクリアランスをなくし
合技術を適用したことで,第 2 世代のアルミニウム直接水
た。これにより,冷媒を最大限に活用できる冷却構造とし,
冷型 IPM は,第 1 世代に対して体積を 30%,質量を 60 %
ベースに相当する部分の厚さを薄くするとともに高熱伝導
低減した。
率材料を採用したものである。
図
に熱抵抗の比較結果を示す。新構造は,冷媒の活用
175 ℃連続動作を可能とする高耐熱化技術
と熱伝導性を考慮しており,従来構造と比較して熱抵抗を
IPM の動作時にチップで発生した熱は,放熱ベースを
20 % 低減することができる。
通じて冷却フィンから放熱される。素子温度 T j の上限は
超音波接合技術
150 ℃が一般的であり,また水冷の場合,水温と素子上限
第 1 世代のアルミニウム直接水冷型 IPM では,主端子
特性を左右する。熱抵抗低減に加えて素子保障上限温度
と内部回路基板の接続にアルミニウムワイヤを採用してい
T jmax を 175 ℃に上げることで,よりいっそうの高出力化
た。電流密度を確保するために必要な本数のワイヤをボン
の達成を目指した。
温度の差であるΔT をどれだけ有効に活用できるかが出力
ディングできる接合面積が必要であり,配線部は出力に応
T jmax を 150 ℃から 175 ℃に上昇させるには,素子周辺
じた広い実装面積が必要であった。小型・軽量化するため
部材の信頼性に与える影響を改善しなければならない。従
に,第 2 世代の IPM では,主端子である銅端子と内部回
路基板の接続に超音波接合を用いた。図
に,超音波接
合を行った銅端子の外観写真を示す。超音波接合では銅端
子と基板銅回路が固相拡散によって直接接合しているため,
強固な接合部が得られる。図
に,同じ電流容量で比較し
⑸
来のモジュール構成を用い,T jmax を固定した場合のパワー
サイクル試験を行った。図
に試験結果を示す。25 ℃の
高温化により,ΔT j=75 ℃のときに寿命が 40% 低下した。
ここでは,素子下はんだ接合部の寿命低下に着目する。
従来の Sn-Ag 系はんだでは,熱劣化による強度低下が寿
た銅端子超音波接合とアルミニウムワイヤボンディングに
命低下の要因と考えられる。そこで,破壊モードを解析し,
おける実装面積を示す。アルミニウムワイヤより導電率の
耐熱に優れ高強度となるように,強化機構を取り入れた新
高い銅端子を直接接合したことで,超音波接合構造はアル
はんだの開発を行った。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
260(30)
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術
100
推定寿命
引張強度(MPa)
パワーサイクル寿命(cycle)
107
106
jmax
=150 ℃
40 %
5
10
jmax
=175 ℃
off
=18 s
104
30
175℃ 1,000 h 加熱後
60
40
20
累積故障率 =1 %
試験条件
on=2 s,
初期
80
0
60
90
120
150
Sn-Ag 系はんだ
(析出強化)
Sn-Sb 系はんだ
(固溶強化)
新はんだ
(複合強化)
Δ j(℃)
図 1 1 引張強度
図
T jmax 上昇によるパワーサイクル寿命の低下
〈注〉
下の影響を調査するために,室温および高温時効 175 ℃,
1,000 h を行ったサンプルの引張強度を測定した。図
に,
Sn-Ag 系はんだ,Sn-Sb 系はんだ,新はんだの測定結果
を示す。
Ag3Sn
25 µm
Sn-Ag 系 は ん だ は 175 ℃ で 1,000 h 加 熱 後, 強 度 が 約
10 µm
44% 低下し,固溶強化である Sn-Sb 系はんだは,約 5 %
の強度低下であった。一方,複合強化型の強化機構を持つ
図 1 0 パワーサイクル試験後(T jmax=175 ℃)のはんだ断面観
察結果
新はんだは 13 % の強度低下であった。強度の低減割合は
多少大きかったものの,複合強化型は強度自体が高く,寿
⑺
命改善に効果を発揮することが期待できる。
5 . 1 Sn-Ag 系はんだの破壊モード
図
5 . 4 パワーサイクル試験結果
に, パ ワ ー サ イ ク ル 試 験 後 の 断 面 を 観 察 し た
開発した新はんだの高温での信頼性を評価するため,
結果を示す。Sn の粒界に沿ってクラックが観察された。
T jmax=175 ℃の試験条件でパワーサイクル試験を実施した。
Sn-Ag 系はんだは,Sn の粒界に Ag3Sn が析出すること
図
で粒界を強化してクラック進展を抑制する構造であるが,
Sn-Ag 系はんだと比較して,ΔT j=75 ℃のときに 2.6 倍の
パワーサイクル試験によるはんだ部の発熱および繰り返し
パワーサイクル寿命を持つことが分かった。
に,パワーサイクル試験の結果を示す。新はんだは,
応力により,Ag3Sn の凝集と Sn 粒子の粗大化が発生する
ことで,粒界を強化する構造が消失したことが原因と考え
107
下にあるはんだ接合部の温度は,150 ℃動作時と比較して,
約 25 ℃上昇することとなり,金属組織の変化と熱疲労に
よるクラック進展が加速し,寿命が低下したと考えられる。
5 . 2 はんだの強化機構
175 ℃連続動作においても金属組織が変化せず,強度を
維持するはんだを開発するために,金属材料の強化機構に
着目した。代表的なはんだの強化機構としては,Sn-Ag
系はんだに代表される析出強化と In や Sb を添加した固
パワーサイクル寿命(cycle)
られる。特に,175 ℃で連続動作を行った場合,チップ直
推定寿命
106
新はんだ
従来はんだ
105
2.6 倍
累積故障率 =1 %
104
30
60
90
120
150
Δ j(℃)
⑹
溶強化がある。従来はどちらか一方の強化機構を利用した
組成であったが,175 ℃連続動作時の信頼性を確保するた
図 1 2 新はんだのパワーサイクル試験結果
め,Sn-Sb 系はんだをベースに第 3 元素を添加し,析出
強化と固溶強化の二つの強化機構を合わせた複合強化型の
新はんだとした。
5 . 3 はんだの機械的特性
析出強化と固溶強化の両方の強化機構を持つはんだの
〈注〉時効:時間の経過に伴い金属の性質(例えば,硬さなど)が変
化する現象をいう。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
261(31)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
機械的特性について,高温下での組織変化による強度低
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術
-
あとがき
Power density, lifetime and impact on inverter design”
.
Proceedings of PCIM Europe, 2011, p.679-684.
⑹ Saito, T. et al.“New assembly technologies for T jmax=175 C
本稿では,ハイブリッド車用 IPM の小型・軽量化を実
c o n t i n u o u s o p e r a t i o n g u a r a n t y o f I G B T m o d u l e ”.
現するパッケージ技術として,アルミニウム直接水冷構造
Proceedings of PCIM Europe 2013, Nuremberg, p.455-461.
の冷却器設計技術と超音波接合技術,および 175 ℃連続動
⑺ Saito, T. et al.“Novel IGBT Module Design, Material and
作を可能とする高耐熱化技術について述べた。
パッケージ技術は,お客さまのインバータ開発設計を支
援するものであり,これらの技術を基にさらなる技術革新
Reliability Technology for 175 C Continuous Operation”
.
Proceedings of IEEE 2014, Sep 14-18, Pittsburgh, p.43674372.
を推進し,高効率,省エネルギー化に貢献する製品を提供
していく所存である。
郷原 広道
パワー半導体パッケージの研究開発に従事。現在,
参考文献
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
⑴ 郷原広道ほか. ハイブリッド自動車用IPMのパッケージ技
富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究
所次世代モジュール開発センターパッケージ開発
部。日本機械学会会員。
術. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.258-262.
⑵ Gohara, H. et al.“Next-gen IGBT module structure for
hybrid vehicle with high cooling performance and high
temperature operation”
. Proceedings of PCIM Europe 2014,
May 20-22, Nuremberg, p.1187-1194.
⑶ Morozumi, A. et al.“Next-gen IGBT module structure
for hybrid vehicle with high cooling performance and high
齊藤 隆
パワー半導体パッケージの研究開発に従事。現在,
富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究
所次世代モジュール開発センターパッケージ開発
部。表面処理技術協会会員,エレクトロニクス実
装学会会員。
temperature operation”
. Proceedings of the 2014 IEEJ,
Hiroshima, p.671-676.
⑷ 百瀬文彦ほか. IGBT モジュールの高信頼性実装技術. 富士
電機技報. 2012, vol.85, no.6, p.408-412.
⑸ K, Vogel. et al.“IGBT with higher operation temperature
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
262(32)
山田 教文
パワー半導体パッケージの研究開発に従事。現在,
富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究
所次世代モジュール開発センターパッケージ開発
部。
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」
3rd-Gen. Critical Mode PFC Control IC “FA1A00 Series”
菅原 敬人 SUGAWARA, Takato
矢口 幸宏 YAGUCHI, Yukihiro
松本 和則 MATSUMOTO, Kazunori
電子機器に広く用いられているスイッチング電源には,高調波電流を抑えるために力率改善(PFC)回路が必要である。
富士電機は,電源の消費電力の削減と低コスト化という市場要求に応えるため,PFC 回路用の第 3 世代臨界モード PFC
制御 IC「FA1A00 シリーズ」を開発した。ボトムスキップ機能により軽負荷時の効率を改善するとともに,パワーグッド
信号出力機能により電源回路の部品の削減を可能にした。また,オーバーシュート低減機能や基準電圧精度の向上などに
Switching power supplies, which are widely used for electronic devices, are required to have a power factor correction (PFC) circuit to
reduce harmonic current.
In order to meet the market demand for less power consumption and lower cost of power supplies, Fuji Electric has developed the thirdgeneration critical mode PFC control IC“FA1A00 Series”intended for PFC circuits. The bottom-skip function has successfully improved the
efficiency under low load and the power good signal function has reduced the number of power circuit parts. Safety has also been improved
by having an overshoot suppression function and improved reference voltage accuracy.
負荷領域での最低効率や平均効率に対する規制がある。こ
まえがき
のため,PFC 回路の制御 IC においても,待機電力の削減
電子機器の小型化や軽量化を図るためにスイッチング電
や,軽負荷時の効率を向上させることが求められている。
源の利用が広く普及しているが,スイッチング電源ではコ
さらに,近年の電子機器に対する低価格化の要求と消費
ンデンサインプット型の整流・平滑回路が採用されている
者の安全意識の高まりを受け,電源においてもコストの削
ため,大量の高調波電流が発生する。高調波電流の増加は,
減と安全性の向上の両立が強く求められている。
富 士 電 機 は, こ れ ら の 要 求 に 応 え て 第 2 世 代 臨 界 制
機器の動作障害や力率低下による無効電力の増加などの問
⑶
題を発生させる。高調波電流を一定の値以下に抑えるため,
御 IC「FA5590 シリーズ 」に続き,第 3 世代臨界制御 IC
に示すように電
「FA1A00 シリーズ」を開発した。電源のコストの低減と
気・電子機器がクラス A〜D に分類され,それぞれに規
低待機電力が可能であり,軽負荷時の効率を改善するとと
制値が設定されている。
もに保護機能を強化した。
国際規格 IEC 61000-3-2 において, 表
この高調波電流および力率の問題を解決するためには,
力率改善(PFC:Power Factor Correction)回路が必要
製品の概要と特徴
であり,特に高い力率を出すことができるアクティブフィ
ルタ方式の PFC 回路が広く使われている。これに対し,
FA1A00 の 外 観 を 図
⑴⑵⑶
富士電機は PFC 回路を制御する IC を多数製品化している。
ま た, 地 球 環 境 の 悪 化 を 抑 え る た め, 電 気 製 品 全 般
比較を表
に,FA1A00 と FA5590 の 性 能
に示す。PFC 回路における軽負荷時の効率向上,
電源のコストの低減,安定性や安全性の向上などの要求に
で の 省 エ ネ ル ギ ー 化 が 重 要 に な っ て い る。 ア メ リ カ の
応えるものであり,FA1A00 は次に示す特徴を持っている。
ENERGY STAR プログラムやヨーロッパの EuP(Energy-
⑴ 軽負荷時の効率向上
using Products)指令など,電子機器の消費エネルギーを
ボトムスキップ機能
制限する規格などが設けられ,年々その規制が厳しくなっ
交流 240 V,10 % 負荷において効率を 14% 向上した。
ている。
例えば,待機電力の規制,ならびに軽負荷を含めた広い
表
高調波電流の規制(IEC 61000-3-2)の分類
分 類
代表的な機器
クラスA
白物家電,音響機器
クラスB
手持ち電動工具,アーク溶接機
クラスC
照明機器
クラスD
テレビ,PC
図
「FA1A00」
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
263(33)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
より,安全性を向上した。
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」
表
臨界 PFC 制御 IC の性能比較
第1ボトム
項 目
FA1A00
高効率
200 kHz
軽負荷時スイッチ
(AC240 V, 10 %負荷で
ング周波数
効率14ポイント改善)
低コス
ト
パワーグッド信号
出力機能
600 kHz
あ り
な し
軽負荷時安定機能
あ り
な し
ゼロ電流検出電圧
−4 mV±3 mV
−10 mV±5 mV
オーバーシュート
低減機能
あ り
(オーバーシュート
電圧10 V低減)
な し
MOSFET
DS
MOSFET
GS
時 間
安定性
安全性
基準電圧
過電流検出電圧
第3ボトム
FA5590
2.5 V±1.0 %
2.5 V±1.4 %
−0.6 V±2.0%
−0.6 V±3.3%
時 間
(a)重負荷時
図
(b)軽負荷時
ボトムスキップ機能の動作波形
定格 200 W,入力電圧 240 V
100
パワーグッド信号出力機能
効率(%)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
+3 ポイント
95
⑵ 電源のコストの低減
n - MOSFET(Metal - Oxide - Semiconductor Field Effect Transistor)を 1 個追加し,シャントレギュレー
タを 1 個,抵抗を 2 個,コンデンサを 1 個,それぞれ削
90
+14 ポイント
FA1A00
85
FA5590
80
減した。
75
0
⑶ 動作安定性の向上
10
軽負荷時安定機能
20
負荷(%)
30
40
⑷ 安全性の向上
オーバーシュート低減機能
図
軽負荷時の効率
オーバーシュート電圧を 10 V 低減した。
基準電圧精度の向上
MOSFET を タ ー ン オ ン し て い る。FA1A00 で は, 重 負
過電流検出精度の向上
荷時は通常の臨界動作と同様に第 1 ボトムで MOSFET
をターンオンしているが,負荷が軽くなるのに合わせて,
ターンオンのタイミングを第 1 ボトムから第 2 ボトム,第
2 . 1 ボトムスキップ機能
インダクタ電流がゼロになってから MOSFET をオンに
3 ボトムと遅らせる。この動作によって,MOSFET がオ
する臨界動作の PFC 回路は,軽負荷時にスイッチング周
フしている期間が長くなり,スイッチング周波数が低くな
波数が増加して MOSFET のスイッチング損失が増加し,
る。
図
効率が悪化するという問題がある。
に,200 W 定 格 電 源 に お け る FA5590 と FA1A00
富士電機では,臨界モード PFC 制御 IC の世代を重ね
の軽負荷時の効率を示す。FA1A00 の効率は,ボトムス
るごとに軽負荷時のスイッチング周波数を低減する機能を
キップ機能によって FA5590 に比べて 20 % 負荷で 3 ポイ
改良してこの問題に対処している。
ント,10 % 負荷で 14 ポイント改善している。
表
に, 各 世 代 の 周 波 数 低 減 機 能 お よ び 軽 負 荷 時 ス
FA1A00 を使用すると,ENERGY STAR プログラムな
イッチング周波数を示す。第 1 世代の FA5500 は 800 kHz,
どの規格に対応できるようになる。また,MOSFET の損
第 2 世 代 の FA5590 は 600 kHz, 第 3 世 代 の FA1A00 は
失が低減することで発熱も小さくなる。そのため,放熱の
200 kHz と軽負荷時のスイッチング周波数を低くし,効率
ためのヒートシンクが小さくなり,電源のコストの低減に
を改善している。
つながる。
図
に, ボ ト ム ス キ ッ プ 機 能 の 動 作 波 形 を 示 す。 臨
界 動 作 で は,MOSFET の V DS の 第 1 ボ ト ム を 検 出 し て
2 . 2 パワーグッド信号出力機能
一般的な電源は,PFC 回路で交流入力電圧 90〜264 V
表
周波数低減機能および軽負荷時スイッチング周波数
世 代
型 式
周波数低減機能
軽負荷時
スイッチング周波数
第1世代
FA5500
な し
800 kHz
FA5590
最大スイッチング周波数
制限機能
600 kHz
第2世代
第3世代
FA1A00
ボトムスキップ機能
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
264(34)
200 kHz
を 400 V 程度に昇圧し,後段の DC/DC コンバータでさら
に電圧を変換して負荷へ供給している。DC/DC コンバー
タは,PFC 回路で昇圧された電圧で動作するよう設計さ
れているため,PFC 回路の出力電圧が一定電圧以下に低
下すると誤動作を起こすことがある。そのため,電源には,
PFC 回路の出力電圧を監視し,一定電圧以下になった場
合に DC/DC コンバータを停止する回路が使われている。
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」
するランプ発振信号が,出力電圧と IC 内部の基準電圧の
ヒステリシス
PFC出力電圧
誤差増幅信号に到達してターンオフすることで決定される。
そのため,制御のゲインはランプ発振信号の傾きに依存す
る。
ランプ発振信号は,傾きが小さいほどゲインが高く,大
H
きいほどゲインが低くなるため,FA1A00 では高入力電
パワーグッド
信号
圧で軽負荷のときにランプ発振信号の傾きを大きくする機
L
時 間
能を内蔵した。これにより,高入力電圧軽負荷時に制御の
ゲインを低くして動作を安定化させることができる。
図
パワーグッド信号出力機能の動作波形
2 . 4 オーバーシュート低減機能
FA1A00 では,この回路の機能を内部に取り込んでい
る。図
に,パワーグッド信号出力機能の動作波形を示す。
PFC 回路は,入力電源の周波数で発生する出力電圧の
リップルを小さくするため,出力電圧制御の応答を遅く設
定している。しかし,応答が遅いと起動時に出力電圧の
グッド信号を L から H に,一定電圧以下に低下したとき
オーバーシュートが発生する。さらに,近年,電源のコス
に H から L にする。この信号を後段の DC/DC コンバー
トの低減を図るために,実使用条件に対してマージンのな
タに伝達することで電源における出力電圧監視回路の削減
い耐圧の電解コンデンサを PFC 回路の出力に接続するこ
が可能となり,電源のコストの低減を図ることができる。
とが多くなっている。その場合,起動時のオーバーシュー
なお,パワーグッド信号の切替えの電圧にはヒステリシス
トによる一時的な過電圧がかかり,電解コンデンサの寿命
を設けており,チャタリングが発生せず安定に動作する。
が縮まってしまう。
FA1A00 は,PFC 出力電圧を監視するための端子を備
FA1A00 では,起動時に出力電圧が設定電圧まで到達
えている。また,パワーグッド信号出力を既存の発振周波
すると,一時的に応答性を早くして出力電圧のオーバー
に,オーバーシュート低減機能
数設定端子と共用することにより,端子の数を増やすこと
シュートを低減する。図
なく前述の機能を実現している。
の動作波形を示す。
2 . 3 軽負荷時安定機能
出力に供給する。起動時は出力電圧を設定電圧まで上昇さ
PFC 制御 IC は,誤差増幅信号が高いほど大きな電力を
節 で述べたとおり 90〜264 V とい
せるときに大きな電力を必要とするため,誤差増幅信号は
う幅広い入力電圧がかけられる。低入力電圧で重負荷のと
最大値まで上昇している。前述のとおり,出力電圧制御の
PFC 回路には, .
きに電力が供給できるようにパルス幅制御のゲインを高く
応答を遅く設定しているため,出力電圧が設定電圧値まで
設定すると,高入力電圧で軽負荷のときにはゲインが高す
到達しても,誤差増幅信号の低下が遅れ,電力を過剰に供
ぎて不安定動作となり,出力電圧のリップル電圧が高くな
給し,出力電圧のオーバーシュートが発生する。
る場合がある。この場合,PFC 回路の後段に接続される
FA1A00 では,出力電圧が設定電圧値に到達したとき
DC/DC コンバータの誤動作や,スイッチングノイズの増
に誤差増幅信号を強制的に引き下げることで応答遅れを小
加などの問題が発生する。
さくし,起動時のオーバーシュートを低減している。これ
FA1A00 では,低入力電圧で重負荷のときにだけゲイ
により,耐圧の低い電解コンデンサを安全に使用できる。
ンを高くし,高入力電圧で軽負荷のときにはゲインを低く
また,FA1A00 では,前述の保護機能以外にも,出力
することで,電力を安定して供給できる機能を内蔵してい
電圧制御の基準電圧精度の向上や過負荷保護検出電圧の精
る。
度向上により,電源の安全性を向上している。
図
に, 軽 負 荷 時 安 定 機 能 の 動 作 波 形 を 示 す。PFC
回 路 の 出 力 電 力 は MOSFET の オ ン 幅 で 制 御 さ れ る。
オーバーシュート
MOSFET のオン幅は,ターンオンから右肩上がりで増加
設定値
出力電圧
機能なし
誤差増幅信号
MOSFET
誤差増幅信号
GS
時 間
(a)低入力電圧
図
機能あり
最大値
ランプ
発振信号
軽負荷時安定機能の動作波形
応答遅れ
(機能あり)
時 間
時 間
応答遅れ
(機能なし)
(b)高入力電圧
図
オーバーシュート低減機能の動作波形
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
265(35)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
PFC の出力電圧が一定電圧以上に上昇したときにパワー
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」
D101
600V25A
交流 85∼264 V
R101
510k
L 1
J101
R102
510k
N 3
C1010.47µ
F101
6.3A
L101
C105 TH101
2200p
C102
1000p L102
C103
1000p
C106
2200p
R216
1500k
C202
220µ
R218
1000k
R217
1500k
R223 1500k
R209
47k
200 W
1
R215
1500k
R222 1500k
Q201
C201
1µ
R103
510k
390 V
R221 2200k
FMH21N50ES
C104
0.47µ
ZT101
YG952S6RP
D201
L201 175µH
C204 R224 390k
100p
R212
36k
R219
33k
VR201
5k
D203
ERA91-02
D204
R201
0.068
J201
4
GND
R207
100
R208
10
R210
33k
C206
0.47µ
C205
0.1µ
IC201
FB
VCC
C210
1000p
RT
R211
200k
R214
100k
C211
56µ
GND
OVP
C207
1000p
C209
0.1µ
D205
C208
2200p
IS
FA1A00N/01N
R213
100
VCC
GND
2
1
J202
図
応用回路例
1.0
高調波電流(A)
10
0.9
入力 240 V
力 率
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
COMP OUT
0.8
入力 100 V
0.7
0.6
図
0
50
100
出力電力(W)
150
力率特性
図
応用回路例
図
0.01
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39
次 数
高調波電流特性
あとがき
に 応 用 回 路 例( 入 力 90〜264 V, 出 力 390 V,
スイッチング電源の待機電力の削減,軽負荷時の効率改
に
善,コスト低減,安全性の向上を実現可能な第 3 世代の臨
力率特性は,標準的な入力電圧(100 V,240 V)の定格
た。今後も,市場の要求に応える機能を取り入れて系列化
200 W)を,図
に同回路で測定した力率特性を,図
0.1
0.001
200
IEC 61000-3-2
クラス D 上限
1
高調波電流特性を示す。
界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」について述べ
負荷で,一般的な電子機器に求められる力率 0.95 以上を
を行うとともに,年々厳しくなる規格・規制に合わせて開
確保している。高調波電流特性は,テレビや PC などの電
発を行っていく所存である。
子機器に必要な IEC 61000-3-2 のクラス D を満足している。
参考文献
⑴ 鹿 島 雅 人, 城 山 博 伸. CMOS力 率 制 御 用 電 源IC. 富 士 時 報.
2001, vol.74, no.10, p.551-553.
⑵ 鹿島雅人ほか. 連続モードPFC回路用電源IC「FA5550/51シ
リーズ」. 富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.441-444.
⑶ 菅原敬人ほか. 第2世代臨界モードPFC制御IC「FA5590シ
リーズ」. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.405-410.
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
266(36)
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」
菅原 敬人
松本 和則
スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富
スイッチング電源制御 IC を主としたエンジニアリ
士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部
ング業務に従事。現在,富士電機株式会社営業本
ディスクリート・IC 技術部。
部半導体営業統括部応用技術部。
矢口 幸宏
スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富
士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部
ディスクリート・IC 技術部。
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
267(37)
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
LLC 電流共振電源の回路技術
Circuit Technology of LLC Current Resonant Power Supply
川村 一裕 KAWAMURA, Kazuhiro
山本 毅 YAMAMOTO, Tsuyoshi
北條 公太 HOJO, Kota
大画面テレビやサーバ機器などに用いられる比較的大きな容量の電源装置では,高効率化,小型化,低ノイズ化の要求
を背景に LLC 電流共振電源が一般的になっている。LLC 電流共振電源は,トランスの漏れインダクタンスを共振に利用し
ており,電圧ゲインがスイッチング周波数により変化するため,トランスの設計が他の制御方式と比較して難しい。富士
電機では,LLC 電流共振電源の制御用 IC の開発・量産とともに,顧客の電源開発の技術サポートを行っている。LLC 電
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
流共振電源の動作原理,ならびにトランスの設計方法とその特性について解説する。
For relatively large capacity power supplies, such as ones for large screen TVs and server devices, LLC current resonant power supplies
are commonly used to meet the requirements for high efficiency, reduced size and lower noise. An LLC current resonant power supply uses
leakage inductance of a transformer for resonance and the voltage gain varies along with the switching frequency, which makes the design
of a transformer more difficult than other control methods. Fuji Electric is working on the development and mass production of control ICs
of LLC current resonant power supplies and provides technical support for customers in the area of power supply development. This paper
describes the principle of operation of an LLC current resonant power supply and the design method and characteristics of transformers.
まえがき
LLC 電流共振コンバータ
LLC 電流共振コンバータの回路図を図 1 に示す。
近年,電気・電子機器の電源装置では,IC をはじめと
する電子部品の進歩により,小型,安価で高効率なスイッ
この回路は,2 つの MOSFET(Q1,Q2)を直列に接続
チング電源が一般的となっている。特に,薄型テレビの大
,トラ
したハーフブリッジ回路と共振用コンデンサ(Cr)
画面化や,情報通信の進歩によるサーバ機器の大容量化な
ンス(T)
,出力整流ダイオード(D1,D2)
,および出力電
どに伴い,比較的大きな容量の電源において,高効率,低
解コンデンサ(Co)から成る。Np はトランスの一次巻線
ノイズ,小型化の要求が高まっている。
の巻数,Ns は二次巻線の巻数である。
このようなスイッチング電源の分野において,富士電機
LLC 電流共振コンバータで用いるトランスは,結合係
では,100 W クラスから比較的大容量の 500 W クラスま
数を小さくすることで漏れインダクタンスを大きくし,こ
での電源を小型で薄く構成でき,高効率・低ノイズ化に優
れを共振用インダクタとして利用している。漏れインダク
⑴⑵
れる LLC 電流共振電源の制御用 IC を製品化している。こ
タンスを示した等価回路を図
の制御用 IC の特徴は,LLC 電流共振方式で問題となっ
ンダクタンス,Lm が励磁インダクタンスである。
に示す。Lr1,Lr2 が漏れイ
てきた上アーム MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor
Field-Effect Transistor)と下アーム MOSFET の短絡に
Cr
よる貫通電流を防止する機能を内蔵していることや,機器
T
のスタンバイ時などの軽負荷時に低待機電力モードで動作
D1
Q2
+
p
することである。この結果,より安全性に優れ,これまで
s
Co
in
低待機電力化のために必要であったスタンバイ専用電源が
⑶
Q1
不要な電源を構成できる。
また同時に,富士電機製の電源制御用 IC をお客さまが
採用する際に,よりスムーズな電源開発ができるよう,デ
D2
モボードの提供,アプリケーション資料の充実,IC 周辺
回路の定数提案などに加え,特に設計が難しく電源動作の
鍵を握るトランス設計のサポートも実施している。
本稿では,LLC 電流共振電源の動作原理,およびトラ
ンスの設計方法と設計例,さらにそのトランスを搭載した
電源の代表的な特性について述べる。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
268(38)
図
LLC 電流共振コンバータ回路
Ro
LLC 電流共振電源の回路技術
⒝ 状態 B:IQ1 が正方向の状態で Q1 をオフすると,遮
Cr
r1
r2
断した直後は Q2 のボディーダイオードを通して Q2
T
D1
Q2
側に負方向の電流が流れる状態となり,共振電流 Icr
+
m
p
s
o
は連続的に変化を続ける。また,ダイオードに電流が
o
in
流れている期間で Q2 をオンさせる。
Q1
⒞ 状態 C:Icr が正方向から負方向に転じると,Q2 に
は正方向の電流 IQ2 が流れる。
⒟ 状態 D:IQ2 が正の状態で Q2 をオフすると,遮断し
D2
た直後は Q1 のボディーダイオードを通して,Q1 側に
図
漏れインダクタンスを示した等価回路
負方向電流が流れる状態となり,共振電流 Icr は連続
的に変化する。また,ダイオードに電流が流れている
期間で Q1 をオンさせる。
状態 B では,Q2 のボディーダイオードが最初にオンし,
LLC 電流共振コンバータの基本動作
本動作は A 〜 D の四つの状態に分けられ,その動作を繰
り返すことで共振電流を制御している。図
電圧スイッチングを行う。状態 D では Q1 に対し同様とな
る。
に各状態にお
ける電流経路を示す。
LLC 電流共振コンバータの動作モード
⒜ 状態 A:Q1 がオンしているので,Q1 には正方向の
電流 IQ1 が流れる。
LLC 電流共振コンバータは周波数変調で出力電圧を制
御する回路方式であり,その入出力特性を求めるには,一
のような等価回路を用いる。
般に図
A
B
C
出力電圧は一次側に換算した電圧 V po で示している。ま
D
た,交流等価抵抗 R ac は式⑴で表される。
cr
Rac=
Q1
8 2 Vo
8n2
= 2 Ro …………………………… ⑴
n
r
r
Io
R ac:交流等価抵抗(Ω)
Q2
n :トランスの巻数比
ON
Q1 OFF
ON
Q2 OFF
V o :出力電圧(V)
I o :出力電流(A)
R o :負荷抵抗(Ω)
図
ここで,n は式⑵で示される。
LLC 電流共振コンバータの動作波形
n=
Np
Ns
……………………………………………… ⑵
T
Q2
r
L r2
r1
m
OFF
Q1
N p:トランスの一次巻線の巻数
Q2
N s :トランスの二次巻線の巻数
ON
この等価回路において入出力電圧比は式⑶となる。
Q1
OFF
ON
(a)状態 A
Q2
(b)状態 B
Q2
r
ON
OFF
r
Q1
Q1
po
m
s
OFF
ON
(c)状態 C
図
o
電流経路
(d)状態 D
図
LLC 電流共振コンバータの等価回路
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
269(39)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
Q2 の電圧がほぼゼロになった状態で Q2 をオンさせるゼロ
に LLC 電流共振コンバータの動作波形を示す。基
図
LLC 電流共振電源の回路技術
Vp o
=
Vs
と,上アーム側と下アーム側がアーム短絡を起こす。この
1
1+
~
~
~0
Lr
n+jQ d
n
d 1~0
~
Lm
~
2
0
2
V po
:一次側に換算した出力電圧(V)
Vs
:等価入力電圧(V)
Lr
:漏れインダクタンス(H)
Lm
:励磁インダクタンス(H)
…… ⑶
の状態に陥らないように,入出力電圧比が最大値よりも高
い周波数領域で使用する。また,共振周波数(fo=w o /2π)
よりも fs が高い領域では,fs の変化に対して出力電圧の変
化が小さく制御性が悪いなどの理由により一般的には使用
しない。そのため,入出力電圧比が 1 より大きい昇圧モー
ドの領域で使用する。
ω ,ω 0 :角周波数(rad/s)
ここで,ω ,ω 0,Q は式⑷〜式⑹で示される。
LLC 電流共振コンバータのトランス設計
~ = 2rfs ……………………………………………… ⑷
ω :角周波数(rad/s)
ω 0:角周波数(rad/s)
5 . 1 設計手順
章 で述べたとおり,昇圧
モードで動作するので,入力電圧が最大の場合も昇圧モー
C r :共振コンデンサの容量(F)
Lr 1
……………………………………… ⑹
Cr Rac
L r :漏れインダクタンス(H)
ドで動作するように入出力電圧比を決める。まず,トラン
スの二次巻線の巻数を求め,その後,一次巻線の巻数を決
定する。また,共振周波数 fo は最大のスイッチング周波
数になるので,IC の最大周波数を超えない範囲であらか
C r :共振コンデンサの容量(F)
じめ決めておく。
R ac:交流等価抵抗(Ω)
⑴ トランスの二次巻線の巻数 N s を式⑻から求める。
なお,図 1 に示す LLC 電流共振コンバータはハーフブ
リッジ型コンバータであるため,等価回路における入力電
圧は半分となる。
V
Vs = in
2
実機で検証した結果を述べる。
LLC 電流共振コンバータは
L r :漏れインダクタンス(H)
Ns =
]Vo +VF g TON
2Ae Bm
……………………………… ⑻
N s :二次巻線の巻数
…………………………………………… ⑺
V o :出力電圧(V)
V F :整流ダイオードの順方向電圧降下(V)
V s :等価入力電圧(V)
T ON:スイッチング素子の最大オン時間(s)
(最低スイッチング周期の 1/2 に等しい)
V in:入力電圧(V)
式⑴〜式⑶を用いて,スイッチング周波数 fs に対する
入出力電圧比を求めた(図 )
。LLC 電流共振コンバータ
A e :トランスのコアの実効断面積(m2)
B m :コアの磁束密度(T)
(B m はコアが飽和しない値とする)
では入出力電圧比の最大値を境界に動作モードが異なる。
このうち入出力電圧比が最大値を示す周波数よりも低い領
⑵ 入力電圧が最大のときも昇圧モードで動作させるよう
域は,容量性動作領域と呼ばれる。この領域で動作させる
にするため,トランスの一次側と二次側の巻数比 n を
式⑼から求める。なお,V s は最大入力電圧のときの値
である。
2.0
1.5
n :巻数比
o
N p:トランスの一次巻線の巻数
1.0
N s :トランスの二次巻線の巻数
V s :等価入力電圧(V)
0.5
容量性
動作領域
0
20
図
Np
Vs
……………………………… ⑼
$
]Vo +VF g
Ns
o
/
s
n=
入出力電圧比
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
1
…………………………………………… ⑸
LrCr
Q=
実際に LLC 電流共振制御 IC を使用したトランス設計の
手順を述べる。続いて,具体的な仕様でトランスを設計し,
fs :スイッチング周波数(Hz)
~ 0=
場合,MOSFET が破壊に至ることがあるため,通常はこ
40
60
80
スイッチング周波数(kHz)
スイッチング周波数に対する入出力電圧比
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
270(40)
V o:出力電圧(V)
使用領域
V F:整流ダイオードの順方向電圧降下(V)
100
⑶ トランスの一次巻線の巻数を式⑽から求める。
LLC 電流共振電源の回路技術
Np = nNs ……………………………………………… ⑽
N p:トランスの一次巻線の巻数
™最低スイッチング周波数
85 kHz(T ON=5.88 µs)
™整流ダイオードの順方向電圧降下 V F
0.6 V
⑴ トランスの二次巻線の巻数 N s(式⑻より)
n :巻数比
N s :トランスの二次巻線の巻数
Ns =
]Vo+VF g TO N
2AeBm
=
]12+0.6 g#5.88
2#90#0.20
0
≒ 2.1
⑷ 漏れインダクタンス L r を求める。
本コンバータではトランスの漏れインダクタンスを共
振用のインダクタとして使用する。一次巻線の巻数 N p で,
したがって,N s を最小の 3 ターンとする。
⑵ トランスの巻数比 n(式⑼より)
トランスの一次巻線からみた L r が求まる。
n=
⑸ 共振コンデンサの容量 C r を決定する。
Np
Vs
200
$
=
≒ 15.9
]Vo +VF g
]12+0.6g
Ns
共振周波数 fo と L r から,C r を式⑸から算出する。
⑹ 励磁インダクタンス L m を決定する。
⑶ トランスの一次巻線の巻数 N p(式⑽より)
入力電圧が最低のときに出力電圧が定格値を得られる入
ング周波数は最低になり,電圧ゲインおよびコアギャップ
を考慮して決定される。なお,トランスのコアのギャップ
lg は式⑾で計算する。
lg =
n 0 AeNp2
l
- e
Lm
nc
Np = nNs = 15.9#3 = 47.7
したがって,N p を最小の 48 ターンとする。
⑴〜⑶により,トランスの巻数比 n=16 となる。
⑷ トランスの漏れインダクタンス L r の算出
EE4717 のトランスでは 1 ターン当たりの漏れインダク
………………………………… ⑾
タンスは 38 nH であるので,一次巻線の巻数 N p が 48 の
ときの漏れインダクタンスは 87.6 µH〔=482×38(nH)
〕
lg :トランスのコアのギャップ(m)
となる。
µ 0 :真空透磁率(=4π×10−7 H/m)
⑸ 共振コンデンサ C r の決定
A e:トランスのコアの実効断面積(m2)
式 ⑸ に fo=125 kHz,L r=87.6µH を 代 入 し て C r を 求 め
N p:トランスの一次巻線の巻数
ると 0.019µF となり,0.022µF のコンデンサを選択する。
L m:励磁インダクタンス(H)
⑹ 励磁インダクタンス L m の決定
le :コアの実効磁路長(m)
入力電圧が最低のときに出力電圧が定格値を得られるよ
µ c :コアの振幅透磁率(=3,000 H/m)
うな L m を求める。入力電圧の最小値は 350 V なので,こ
のときの入出力電圧比をトランスの巻数比から求める。
5 . 2 設計例
トランス設計の例を次に示す。図
が実際に設計したト
ランス周辺の回路である。
™入力電圧 V in
390 V(350〜400 V)
™出力電圧 V o
12 V
™出力電流 I o
12 A(R o=1 Ω)
™使用トランス
したがって,スイッチング周波数が最低のとき(ここで
EE4717
は fs=85 kHz)に,入出力電圧比が 1.2 以上になるような
A e=90 mm2
L m を式⑶から求める。
この結果,L m は 490 µH 以下であればよいということ
le=70 mm
™共振周波数
Vo +VF
Vpo
12+0.6
=
=
≒ 1.2
Ns Vin
Vs
3
350
×
Np 2
48
2
B m=0.20 T
になる。そこで L m=450 µH を選択し,トランスのコアの
125 kHz 程度
ギャップ lg を式⑾から求めると約 0.6 mm になる。
lg =
トランス
r
=12 V
o
n 0 AeNp2
l
- e
Lm
nc
-6
Q2
r1
r2
+
m
=350∼
400 V
=
D1
p1
s
in
4r#10-7#90#10 #48 2
70#10-3
≒ 0.6#10-3
-6
450#10
3,000
o
LLC Q 1
IC
5 . 3 試作トランスの特性
s
試作したトランスを搭載した電源における動作波形を図
CC
D2
p2
に示す。定格時のスイッチング周波数は 110 kHz となり,
ほぼ設計で狙った値となった。
また,試作したトランスを搭載した電源の変換効率は
93〜94% と高効率であった(図 )
。
図
設計したトランスの周辺回路図
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
271(41)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
出力電圧比を求めて L m を決定する。このときのスイッチ
LLC 電流共振電源の回路技術
例と実際に試作したトランスを搭載した電源の代表的な特
in=DC390 V,
=12.0 V,
p
=12.0 A
性について述べた。
p
5 µs/div
今後も,市場要求に対応した製品をタイムリーに開発す
るとともに,お客さまのよりスムーズな電源開発をサポー
下アーム電流:2 A/div
トするために努力する所存である。
下アーム電圧:100 V/div
参考文献
⑴ 山田谷正幸ほか. LLC電流共振制御IC「FA5760」. 富士電機
技報. 2012, vol.85, no.6, p.445-451.
⑵ 陳健. PFC及び待機用コンバータ無しで高入力範囲に対応
スイッチング周波数:110 kHz
したLLC共振コンバータ. 第27回スイッチング電源技術シン
ポジウム. 2012, D2-2.
図
動作波形
⑶ 山田谷正幸ほか. 第2世代LLC電流共振制御IC「FA6A00N
95
川村 一裕
パワー半導体のフィールドアプリケーションエン
90
変換効率(%)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
シリーズ」. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.267-272.
DC350 V
ジニアリング業務に従事。現在,富士電機株式会
DC390 V
社営業本部半導体営業統括部応用技術部。
85
80
75
70
0
図
山本 毅
パワー半導体のフィールドアプリケーションエン
20
40
60
80
100
o (W)
120
140
160
ジニアリング業務に従事。現在,富士電機株式会
社営業本部半導体営業統括部応用技術部。
試作したトランスの変換効率特性
北條 公太
あとがき
パワー半導体のフィールドアプリケーションエン
ジニアリング業務に従事。現在,富士電機株式会
社営業本部半導体営業統括部応用技術部。
本稿では,お客さまが富士電機の LLC 電流共振制御 IC
をスムーズに導入し,使用できるように,トランスの設計
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
272(42)
特集
エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
自動車用大電流 IPS
High Current IPS for Vehicle
岩水 守生 IWAMIZU, Morio
竹内 茂行 TAKEUCHI, Shigeyuki
西村 武義 NISHIMURA, Takeyoshi
富士電機は,自動車用高出力モータの制御などに使用する大電流 IPS(Intelligent Power Switch)を開発した。トレン
チ構造を用いたパワー MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)と制御部 IC とをチップオンチッ
プ構造とすることで,小型パッケージで低オン抵抗(最大 5 mΩ)を実現している。高い信頼性を実現するために,過電
流・過熱検出,低電圧検出などの保護機能を搭載した。また,放熱性の良いパッケージを採用し,並列接続時のエネルギー
Fuji Electric has developed a high current intelligent power switch (IPS) for controlling high output motors of vehicles. The power
MOSFET using a trench structure and the control IC are built into a chip-on-chip structure, thereby realizing low on-state resistance
(maximum of 5 mΩ) with a compact package. To achieve high reliability, protective functions such as overcurrent/overheat detection and low
voltage detection have been provided. In addition, a package with good heat dissipation properties has been adopted, and a configuration that
offers well-balanced energy distribution in parallel connections is provided. This package can thereby cope with temperature rises caused by
an increased current due to a low on-state resistance.
まえがき
7.8
単位:mm
6.3
自動車の電装分野では“環境”
“安全”
“省エネルギー”
⑫
2.45
5.1
⑦
をキーワードとして,排ガスの低減,安全な車両制御,高
1.6
度な燃焼技術による燃費の向上を図っている。これに伴
Unit)の大規模化が進んでいる。ECU は搭載するスペー
4.1
7.5
10.3
い 電 子 シ ス テ ム が 複 雑 化 し,ECU(Electronic Control
スを捻出するためにエンジンの近くなどに設置され,その
設置環境は年々高温化している。そのため,ECU の小型
①
化や高温環境での信頼性の向上が切望され,パワー半導体
0.4
⑥
とその周辺保護回路,状態検出・状態出力回路,ドライブ
端子番号
端子名
端子番号
端子名
回路などを一体化したスマートパワーデバイスの適用が拡
①∼④
OUT
⑨
NC
大している。
これらの要求に応えるため,富士電機では自動車用大電
流 IPS(Intelligent Power Switch)を開発した。
特徴と機能
図
⑤
NC
⑩
IN
⑥
VCC
⑪,⑫
VCC
⑦,⑧
GND
自動車用大電流 IPS の外形図
2 . 1 特 徴
図 1 に自動車用大電流 IPS の外形図を示す。本製品は,
特にモータなどの誘導性負荷の制御や機械式リレーの半導
2 . 2 基本性能
開 発 目 標 の オ ン 抵 抗 5 mΩ(T c=25 ℃,I out=40 A) お
体化用途で使用されることを意識した設計としている。主
よび小型パッケージ( 図 1)を実現するために,自動車
な特徴は次のとおりである。
電装向けデバイスで実績のある第 3 世代トレンチゲー
⑴ 低オン抵抗
ト MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect
⑵ 高放熱小型パッケージ
Transistor) 技 術 を 用 い, 低 R on・A の パ ワ ー MOSFET
⑶ 各種保護機能
チップを開発した。また,回路部には第 4 世代 IPS デバ
バッテリ逆接続時の温度上昇の抑制などを行う。
⑷ 高誘導性負荷エネルギー耐量
モータロック時の破壊防止および並列接続時のエネル
ギー分担が可能である。
イス・プロセス技術を適用し,
.
節で述べる保護機能
を追加した上で回路部のチップサイズを小型化した。これ
らのチップを COC(Chip on Chip)組立技術(図 )に
より,パワー MOSFET チップ上に回路部チップを積層さ
せることで,小型パッケージで大電流の通電が可能となっ
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
273(43)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
分担バランスの良い構成とすることで,低オン抵抗化による電流量の増加から生じる温度上昇に対処している。
自動車用大電流 IPS
100
熱抵抗(℃/W)
*1
th(j-a)max.
10
*2
1
th(j-c)max.
0.1
0.01
0.001 0.01
0.1
1
10
パルス幅(s)
100 1,000
* 1 j-a:junction-ambient
* 2 j-c:junction-case
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
図
自動車用大電流 IPS のチップ
表
自動車用大電流 IPS の仕様
図
2 . 3 保護機能
項 目
定 格
動作電源電圧
6.0∼16.0 V
80 A
114 W(at 25 ℃)
現および ECU 側での冗長設計を最小限にするために,次
出力電流
接合部温度
静止電源
電流
I cc(off)
条 件
規 格
50 µA(max.)
センサをパワー MOSFET チップ上に搭載することにより,
25 ℃,
40 A, 16 V
5.0 m Ω(max.)
の状態でもパワー MOSFET の破壊を防止する設計とした。
150 ℃,
40 A, 16 V
9.0 m Ω(max.)
25 ℃, 40 A, 6 V
7.5 m Ω(max.)
150 ℃,
40 A, 6 V
14.5 m Ω(max.)
特 性
t d(on)
tr
V cc=16 V,
R =0.25Ω
t d(off)
R th(j-c)
誘導性
負荷クランプ耐量
保護
機能
過電流検出機能
(負荷短絡保護)
過熱検出機能
低電圧検出機能
本製品は,負荷短絡状態を検出する電流センサと温度
パワー MOSFET の昇温に対する高い応答性と,負荷短絡
負荷短絡保護は過電流と過熱の二重保護とし,過電流には
制限タイプとラッチタイプの 2 種類を用意して,アプリ
0.2 ms(max.)
tf
定常熱抵抗
⑴ 負荷短絡保護機能(過電流検出,過熱検出機能)
V cc=16 V,
OUT-GND 短絡,
110 ℃
R on
オン抵抗
スイッチン
グ時間
に示す保護機能を搭載している。
150 ℃
項 目
本製品は,モータなどの誘導性負荷の制御と機械式リ
レーの半導体化用途に適した仕様とした。高い信頼性の実
定 格
許容電力損失
基板実装時の熱抵抗特性の例
ケーションに合った選択が可能である。
⑵ 低電圧検出機能
本製品は,VCC 端子がバッテリに直接接続されること
0.8 ms(max.)
を考慮している。厳冬期にバッテリ電圧が一定の値まで低
0.8 ms(max.)
下しても十分な通電能力を確保できるようにしている。ま
0.7 ms(max.)
た,その値より低下した場合は,出力を完全にオフする低
-
1.1 ℃/W
I out≦80 A,
V cc=16 V,
T c=150 ℃
800 mJ(min.)
V cc=16 V,
負荷ショート
100 A(min.)
電圧検出機能を搭載している。
⑶ バッテリ逆接続保護機能
負荷インピーダンスが低い場合にバッテリの逆接続を行
うと,負荷経由でパワー MOSFET のボディーダイオード
検出 155 ℃(min.), 復帰 150 ℃(min.)
検出 4.0 V(min.), 復帰 6.0 V(max.)
に大電流が流れる。このときに発生する熱で温度が上昇し,
端子のはんだが融解する危険性がある(図 )
。
本製品では,バッテリの逆接続を行ったときにパワー
条 件
結 果
MOSFET を積極的にオンさせるバッテリ逆接続保護回路
−55∼+150 ℃
>1,000cycle
を採用した。パワー MOSFET に通電すると,ボディーダ
プレッシャクッカ試験
130 ℃, 85 %
>300時間
イオードに電流が流れる場合よりも圧倒的に損失が低いの
高温高湿バイアス試験
85 ℃,
85%, 16 V
>1,000時間
で,バッテリの逆接続時に生じる発生損失によるパワー
パワーサイクル試験
ΔT j=100 ℃
>20,000cycle
項 目
温度サイクル試験
信頼性
MOSFET の破壊を防止する。
⑷ 誘導性負荷クランプ耐量
モータなどの誘導性負荷を駆動するパワー MOSFET の
⑴
た。本製品の仕様を表 1 に,基板実装時の熱抵抗 R th 特性
の例を図
に示す。
課題として,モータロックによる大電流遮断時に発生する
過大な誘導性負荷エネルギーの処理がある。このためには,
モータロック時に高い誘導性負荷エネルギーが加わる場合
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
274(44)
自動車用大電流 IPS
300
1.1
1.0
250
・ 相対比
バッテリ逆接続保護回路なし
150
on
上昇温度(℃)
0.9
200
バッテリ逆接続保護回路あり
100
0.7
0.6
0.5
50
0
0
0.8
0.4
0.3
20
40
60
時間(s)
80
100
120
図
(a)上昇温度の例
第 1 世代
第 2 世代
第 3 世代
世代別トレンチ MOSFET の R on・A
ドライブ回路
OUT
半導体素子
適用技術
負 荷
GND
3 . 1 第 3 世代トレンチゲート MOSFET 技術
開発目標のオン抵抗 5 mΩ(T c=25 ℃,I out=40 A)を実
現するために,パワー MOSFET には,第 3 世代トレンチ
(b)バッテリ逆接続の例
ゲート MOSFET 技術を適用している。本技術の微細加
工技術を取り入れることでセル密度を 40 % 以上向上させ,
図
バッテリ逆接続時の回路と温度変化の例
さらにプロセスとウェーハの仕様を最適化することでオン
。また,薄
抵抗の大幅な低減と大電流化を図った(図 )
膜化したトレンチゲートの信頼性を確保するため,形状や
プロセス,スクリーニング条件を最適化している。
3 . 2 IC 回路の小型化・高機能化技術
本製品では,IC 回路の小型化と高機能化を実現するた
めに,第 4 世代 IPS デバイス・プロセス技術を適用して
⑵⑶
いる。本技術は,要素デバイス自体の微細化に加え,多層
配線技術を適用して要素デバイス間を接続する配線の面積
を低減している。
(a)表 面
(b)裏 面
IC 回路用デバイスとしては,回路用 5 V 系 CMOS に加
えて,60 V 系 CMOS を備えている。60 V 系のデバイスは,
図
パワーパッケージ(PSOP-12)の構造
ハイサイド型でチップ裏面が電源端子に直結しているため,
自動車用 12 V 系バッテリで発生し得るロードダンプサー
でも,素子が破壊しない設計が必要である。
ジなどの各種サージ耐性の要求を満たすことができる。
本製品では,1 素子単独の誘導性負荷クランプ耐量を高
また,ゲート酸化膜としては,薄膜と厚膜の 2 種類を用
めるのと同時に,並列接続で誘導性負荷を駆動させた際の
意した。薄いゲート酸化膜の MOSFET はしきい値電圧が
冗長設計として,誘導性負荷エネルギーを並列接続の素子
低いので,バッテリ電圧の低下時に駆動が要求される回路
全てで分担し,破壊耐量が向上する設計とした。
に使用できる。一方,厚いゲート酸化膜の MOSFET では
2 . 4 パワーパッケージ
できるので,例えば外部電源電圧 VCC で直接駆動するよ
しきい値電圧は高くなるが,ゲート耐圧を高くすることが
本製品では,低オン抵抗化による電流量増加に対し,放
熱性の良いパワーパッケージ(PSOP-12)を採用してい
る。また,COC 組立技術により,大電流を通電するパワー
MOSFET をチップ搭載エリアの中央に配置し,放熱バラ
うな,高電圧でのゲート駆動が必要な回路にも使用するこ
とができる。
さらに,寄生動作の心配がないポリシリコン適用デバイ
スや,トリミングデバイスも備えている。
ンスの良い構造としている。さらに,実装時に裏面の放熱
これらの要素デバイスの組合せにより,従来品よりも高
部にはんだが確実に広がったことを表面から確認できるよ
集積化や高精度化が可能であり,市場要求に応えることが
。
うに,両側からフレームを出す構造とした(図 )
できる。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
275(45)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
VCC
IN
自動車用大電流 IPS
あとがき
岩水 守生
半導体デバイスの開発に従事。現在,富士電機株
本稿では,自動車用大電流 IPS の特徴や機能,適用し
た技術について述べた。富士電機は,2014 年度中に自動
式会社電子デバイス事業本部事業統括部自動車電
装技術部。
車用大電流 IPS の市場への供給を開始する。今後も大電
流用途の半導体では,パワー MOSFET によるさらなる低
オン抵抗化,および IC 回路の微細化により,小型化と高
機能化を推進し,市場ニーズに対応していく所存である。
竹内 茂行
半導体デバイスの開発に従事。現在,富士電機株
式会社電子デバイス事業本部事業統括部自動車電
装技術部。
参考文献
⑴ Imai, M. el al.“Development of Power Chip- On- Chip
(COC)Package Technology”
. Mate 2008. p.323-326.
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
⑵ Toyoda, Y. et al.“60 V-Class Power IC Technology for
an Intelligent Power Switch with an Integrated Trench
MOSFET”ISPSD 2013.
p.147-150.
⑶ 鳶坂浩志ほか. 車載用第4世代IPS「F5100シリーズ」. 富士
電機技報. 2012, vol.85, no.6, p.440-444.
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
276(46)
西村 武義
パワー半導体素子の開発・製造に従事。現在,富
士電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括部
デバイス開発部。
新製品
紹介
1,700 V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
1,700 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module
牛島 太郎 * USHIJIMA, Taro
近年,地球温暖化を防止するために,これまで以上に
単位:mm
CO2 などの温室効果ガスの削減が求められている。温室
効果ガスを削減する手段の一つとして,パワーエレクト
ロニクス機器の省エネルギー化がある。中でもインバー
タの高効率化が挙げられ,特にインバータの主要な素子
であるパワーデバイスの低損失化の要求が強い。
代表的なパワーデバイスである IGBT(Insulated Gate
新製品紹介
Bipolar Transistor) モ ジ ュ ー ル に は, 従 来 は Si( シ リ
コ ン ) の IGBT チ ッ プ と FWD(Free Wheeling Diode)
チップを用いてきた。この Si デバイスに替わって,耐熱
(a)外 観
性と高い破壊電界強度を持った SiC(炭化けい素)デバイ
110
スが装置の高効率化や小型化を実現するものとして期待
されている。
富 士 電 機 で は 600 V 耐 圧 SiC-SBD(Schottky Barrier
Diode)
,および 1,200 V 耐圧 SiC-SBD の開発を完了し,
と
Si-IGBT
E2
C1
80
これらの
SiC-SBD
C2E1
を組み合わせて搭載し
G2
E2
E1
G1
た SiC ハイブリッドモジュールを製品化している。今回,
690 V 入力インバータ用に 1,700 V 耐圧の SiC ハイブリッ
ドモジュールを開発し,製品化した。
30
本稿では,
「M277 パッケージ」に搭載した 1,700 V 耐圧
SiC ハイブリッドモジュールの特徴とスイッチング特性に
ついて述べる。
(b)外形図
特 徴
図
M277 パッケージの外観と外形図を 図
「M277 パッケージ」
に示す。従来
の Si モジュールから容易に置き換えることができるよう
に Si モジュールと同じ M277 パッケージを採用し,富士
1,400
トータル発生損失(W)
電機で量産立上げを行った 1,700 V 耐圧 SiC-SBD チップ
と第 6 世代「V シリーズ」IGBT チップを搭載した。SiCSBD は,これまで使用していた Si ダイオードに比べ,低
抵抗でかつスイッチング特性に優れている。また,バン
ドギャップが広いため,熱励起されるキャリアが非常に
少なく温度上昇による影響を受けにくい。したがって,
高温動作が可能である。図
にトータル発生損失のシミュ
レーション結果を示す。キャリア周波数 fc が 2 kHz のとき,
べて約 26 % 低い。また,SiC ハイブリッドモジュールは,
fc が高い領域における損失が Si モジュールより低いので
*
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技
E rr
1,200
VF
1,000
E off
800
V sat
E on
600
26 % 低減
400
200
0
SiC ハイブリッドモジュールの損失は Si モジュールに比
図
T j =150 ℃,I o =177 A,E d =1,073 V,F o =50 Hz,
cosφ=0.85,
λ=1.0, 3 相 PWM
SiC Si SiC Si
f c=1kHz
2 kHz
SiC Si
4 kHz
SiC Si
8 kHz
SiC Si
10 kHz
トータル発生損失のシミュレーション結果
高周波動作に有利である。
術部
2014-S04-1
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
277(47)
1,700V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール
V cc=900 V,I c =400 A,V GE=+15 V/−7 V,R g=1.0Ω,
T j =150 ℃
V cc=900 V,I F =400 A,V GE=+15 V/−7 V,R g=1.0Ω,
T j =150 ℃
on
V CE :200 V/div
:64.8 mJ(58 %減)
0V
GE
:20 V/div
0A
I F :200 A/div
rr
0V
C
:10.0mJ(91% 減)
:500 ns/div
CE
0A
0V
:200 V/div
:500ns/div
(a)SiC ハイブリッドモジュール
(a)SiC ハイブリッドモジュール
V cc=900 V,I F =400 A,V GE =+15 V/−7 V,R g=4.7Ω,
T j =150 ℃
ピーク電流
:200 A/div
V cc=900 V,I c =400 A,V GE=+15 V/−7 V,R g=4.7Ω,
T j =150 ℃
on
V CE :200 V/div
:155.6 mJ
0V
GE
0A
I F :200 A/div
ピーク電流
rr:112.5mJ
:500 ns/div
0V
新製品紹介
図
:20 V/div
:200 A/div
CE
0A
0V
(b)Si モジュール
C
:200 V/div
:500ns/div
(b)Si モジュール
逆回復波形
図
ターンオン波形
向アーム側の IGBT ターンオン電流に影響するため,ター
ンオン損失が低減する。逆回復波形と同様にターンオン
スイッチング特性
ピーク電流はほとんどなく,400 A 品のターンオン損失は
Si モジュールと比べて約 58% 低い。
⑴ 逆回復損失特性
図
に,SiC ハイブリッドモジュールと Si モジュール
の 400 A 品における逆回復波形を示す。SiC ハイブリッド
発売時期
モジュールは,逆回復ピーク電流がほとんどない。これ
2014 年 10 月
は SiC-SBD がユニポーラデバイスであるため,少数キャ
リアの注入が起きないことに起因する。400 A 品の逆回復
損失は Si モジュールに比べて約 91 % 低い。
お問い合わせ先
⑵ ターンオン損失特性
図
富士電機株式会社
に,SiC ハイブリッドモジュールと Si モジュール
電子デバイス事業本部事業統括部
の 400 A 品におけるターンオン波形を示す。SiC ハイブ
モジュール技術部産業モジュール3課
リッドモジュールは,SiC-SBD
電話(0263)27-7457
の逆回復ピーク電流が対
(2014 年 11 月 21 日 Web 公開)
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
278(48)
2014-S04-2
新製品
紹介
AT-NPC 3 レベル大容量 IGBT モジュール
―大容量モジュール用パッケージ「M404 パッケージ」―
AT-NPC 3-level High-Power IGBT ModulePackage for High-Power Module “M404 Package”
山本 紗矢香 * YAMAMOTO, Sayaka
近年,再生可能エネルギーが注目され,特に太陽光発
単位:mm
電や風力発電の市場が伸びている。これらの分野では電
力変換効率を向上させるため,高電圧化,大容量化,高
効率化が進んでいる。
富士電機は,3 レベル電力変換回路を一つのパッケー
ジ に 収 め た 1,200 V/400 A 定 格 の IGBT(Insulated Gate
Bipolar Transistor)モジュールを既に製造している。さ
新製品紹介
〈注〉
ら な る 大 容 量 化 に 対 応 す る た め,PrimePack の 一 部 を
改 良 し, 太 陽 光 発 電 用 PCS(Power Conditioner) や 風
(a)外 観
力発電,UPS(無停電電源装置)などに対応できる汎用
性の高い 3 レベル大容量 IGBT モジュール用パッケージ
250
「M404 パッケージ」を開発した。定格電圧 1,200 V,定格
89
LABEL
電流 450 A,650 A,900 A の 3 型式をラインアップした。
M404 パッケージは,並列接続も容易であるため,装置の
いっそうの大容量化に対応できる。
38
25.5
本稿では,M404 パッケージの特徴と電気的特性につい
て述べる。
特 徴
(b)外形図
M404 パ ッ ケ ー ジ は, 既 存 の 大 容 量 パ ッ ケ ー ジ
図
「M404 パッケージ」
PrimePack 内に 3 レベル変換回路とサーミスタを集積し
た大容量 IGBT モジュール用のパッケージである。M404
も変換効率が高い。3 レベル電力変換方式には 2 種類あ
に,ラインアップと主
り,中間双方向スイッチング(AC スイッチ)を使用する
パッケージの外観と外形図を図
な特性を表
に示す。
AT-NPC(Advanced T-type Neutral-Point-Clamped)
⒜ さらなる大容量化のための並列接続が可能である。
方式と,スイッチング素子が直列につながる NPC 方式が
⒝ モジュール内部の主端子ブスバーをラミネート構
ある。等価回路を図
造としたため,内部インダクタンスが小さい。
に示す。
AT-NPC 方式は,電流を通過する素子数が NPC 方式
⒞ 装置の小型化に対応できるようにモジュール実装
面積を省スペース化し,冷却フィンの面積を小さく
できる。
より少ないので,導通損失が抑えられる。さらに,AC
スイッチに富士電機独自の RB-IGBT を適用することで,
素子数が少なくなり,さらに導通損失が低減する。図
に,
⒟ 温度検出用のサーミスタを内蔵している。
各変換方式におけるトータル発生損失とトータル効率を
電気的特性
を用いない場合に比べ,0.1 ポイント効率が向上している。
示す。RB-IGBT を適用した AT-NPC 方式は,RB-IGBT
2 レベル電力変換方式と比較した場合,0.6 ポイントもの
RB(Reverse Blocking)-IGBT を使用することで,素
子数が減り,オン抵抗が下がり,変換効率が向上する。
効率向上となる。
⑵ 耐圧の最適化
既存の 3 レベル製品は,AC スイッチ部が 600 V 耐圧
⑴ 導通損失の低減
*
3 レベル電力変換方式は,2 レベル電力変換方式より
RB-IGBT であった。これに対し,現在,太陽光発電分
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技
〈注〉PrimePACK:Infineon Technologies AG の 商 標 ま た は 登 録
術部
商標
2014-S05-1
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
279(49)
AT-NPC 3 レベル大容量 IGBT モジュール ―大容量モジュール用パッケージ「M404 パッケージ」―
表 1 M404 パッケージ
ラインアップと主な特性
項 目
仕 様
方 式
AT-NPC
形 式
4MBI650VB-120R1-50
4MBI450VB-120R1-50
パッケージ寸法
V CES
1,200 V
I C(IGBT)
450 A
650 A
900 A
−I C(FWD)
450 A
650 A
900 A
V GES
±20 V
Tj
175 ℃
T jop
150 ℃
6.0 ∼ 7.0 V
(I C=450 mA)
6.0 ∼ 7.0 V
(I C=650 mA)
6.0 ∼ 7.0 V
(I C=900 mA)
V CE(sat)
(chip)
V GE=15 V, T j=25 ℃
typ.1.85 V
(I C=450 A)
typ.1.8 V
(I C=650 A)
typ.1.85 V
(I C=900 A)
V F(chip)
T j=25 ℃
typ.1.70 V
(I C=450 A)
typ.1.75 V
(I C=650 A)
typ.1.70 V
(I C=900 A)
R th(j-c)
(IGBT)
max. 0.068 ℃/W
max. 0.049 ℃/W
max. 0.038 ℃/W
R th(j-c)
(FWD)
max. 0.098 ℃/W
max. 0.077 ℃/W
max. 0.054 ℃/W
新製品紹介
V GE(th)
(chip)
V GE=20 V
V CES
900 V
I C(RB-IGBT)
ACスイッチ部
450 A
650 A
V GES
±20 V
Tj
150 ℃
T jop
125 ℃
900 A
V GE(th)
(chip)
V GE=20 V
5.3 ∼ 7.3 V
(I C=450 mA)
5.3 ∼ 7.3 V
(I C=650 mA)
5.3 ∼ 7.3 V
(I C=900 mA)
V CE(sat)
(chip)
V GE=15 V, T j=25 ℃
typ.2.30 V
(I C=450 A)
typ.2.25 V
(I C=650 A)
typ.2.30 V
(I C=900 A)
R th(j-c)
(RB-IGBT)
max. 0.063 ℃/W
max. 0.047 ℃/W
max. 0.034 ℃/W
V iso
共 通
AC 4,000 V(AC:1 min)
インバータ
AC スイッチ
サーミ
スタ
クランプ
ダイオード
トータル発生損失
(W)
インバータ
サーミ
スタ
RB−IGBT
97.6
98
97.1
97
導通損失
2,000
スイッチン
グ損失
1,000
96
フィルター
損失
装着損失
0
(a)AT−NPC 回路
97.7
3,000
トータル効率
(%)
インバータ部
図
4MBI900VB-120R1-50
L250×W89×H38(mm)
2レベル
3レベル
(AT-NPC)
95
3レベル
(AT-NPC)
(RB-IGBT適用)
回路方式
(b)NPC 回路
3 レベル IGBT モジュールの等価回路
図
野ではバス電圧 DC1,000 V が主流になりつつあり,この
各変換方式のトータル発生損失とトータル効率
発売時期
分 野 の 製 品 の AC ス イ ッ チ 部 は DC500 V で ス イ ッ チ ン
2015 年 1 月
グする。このため,既存の 600 V 耐圧では過電圧による
素子破損の恐れがある。一方,既存の 1,200 V 耐圧 RBIGBT ではオン電圧が高くなるため損失に影響が出る上,
お問い合わせ先
チップ占有面積が大きくなり集積化が困難になる。そこ
富士電機株式会社
で,適用電圧に対して十分な過電圧耐量のある 900 V 耐
電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部
圧
RB-IGBT
を開発し,最適化を行った。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
280(50)
電話(0263)27-2943
2014-S05-2
(2014 年 11 月 21 日 Web 公開)
新製品
紹介
ディスクリート SiC-SBD
Discrete SiC-SBD
一ノ瀬 正樹 * ICHINOSE, Masaki
太陽光発電用パワーコンディショナ,風力発電用 DC/
AC コンバータ,ハイブリッド車(HEV)や電気自動車
100
j =25 ℃
(EV)やエアコン用の高効率インバータなどのパワーエ
SiC-SBD
F(A)
レクトロニクス機器には,パワー半導体が数多く使用さ
れている。パワーエレクトロニクス機器の電力損失を低
減する上で,パワー半導体の効率向上が必須課題となっ
10
Si-FRD
ている。このため,従来の Si 半導体の性能限界を打ち破
1
ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体が実用化
0.1
0
されてきている。SiC は,Si に比べてバンドギャップは 3
1
2
3
F(V)
倍以上,絶縁破壊電界は 5 倍以上,電子飽和速度は 2 倍
(a)
F−
F
以上,熱伝導率は約 3 倍といった優れた物性を持ち,Si
3
よりも高温で利用できる。Si 半導体を SiC 半導体に置き
F =10 A
換えることにより,パワー半導体素子のオン抵抗を下げ
Si-FRD
F(V)
て電力変換回路の電力損失を大幅に削減できるので,機
器のエネルギー利用効率の大幅な改善と省電力化が可能
である。
2
富 士 電 機 は,SiC-SBD(Schottky Barrier Diode) を
SiC-SBD
搭載したパワー半導体モジュールを製品化してきており,
今回,ディスクリートパッケージに搭載した 650 V 10〜
1
50 A,1,200 V 18〜36 A の SiC-SBD を開発した。本稿で
0
50
は,650 V/10 A 品を代表として,その特徴と適用例につ
100
j(℃)
(b)
j−
150
200
F
いて述べる。
図
順方向特性
特 徴
1 . 2 逆方向特性
1 . 1 順方向特性
図 1 に,SiC-SBD の順方向特性を示す。SiC-SBD の順
方向電圧 VF
は,Si-FRD(Fast
図
に,SiC-SBD の逆方向特性を示す。SiC-SBD は,
Recovery Diode)より低
い。また,Si-FRD とは逆に正の温度特性を持ち,温度上
昇とともに VF は増加する。このため,ダイオードを並列
100
j =150 ℃
で使用する場合,Si-FRD では温度上昇により VF が低下
し,さらに電流が流れやすくなるため,一部のダイオー
10
R(µA)
ドに電流が集中する。これに対して,SiC-SBD の場合は,
温度の高いダイオードの電流が VF の増加により抑えられ,
Si-FRD
1
並列のダイオード全体で電流を分担するので並列使用が
0.1
容易になる。さらに,温度依存性も小さいため,高温で
SiC-SBD
の使用に適している。
0.01
0
200
400
600
800
R(V)
*
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部ディスクリー
ト・IC 技術部
図
2014-S06-1
逆方向特性 V R- I R
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
281(51)
新製品紹介
る次世代半導体として,SiC(炭化けい素)や GaN(窒化
ディスクリート SiC-SBD
チョッパ
SiC-SBD
回路
AC100,
200 V
DC80∼
450 V
+
SiC-SBD 25 ℃
−
ソーラー
パネル
SiC-SBD 150℃
0A
ドライバ
ドライバ
コントロール回路
Si-FRD 25℃
図
太陽光発電パワーコンディショナ
表
ディスクリート SiC-SBD の製品系列
Si-FRD 150 ℃
:1 A/div
図
:20 ns/div
電 圧
(V)
スイッチング波形
電 流
(A)
新製品紹介
Si-FRD に比べて逆漏れ電流 IR が小さい。高温でも IR が
1 . 3 スイッチング特性
に,SiC-SBD と Si-FRD のスイッチング波形の比
TO-220
TO-220F
T-Pack(s)
TO-247
10
FDCP10S65
FDCA10S65
FDCC10S65
FDCY10S65
20
FDCP20C65
FDCA20C65
FDCC20C65
FDCY20C65
25
FDCP25S65
FDCA25S65
FDCC25S65
FDCY25S65
650
小さいので,高温動作においても熱暴走が起こりにくい。
図
パッケージ
50
−
−
−
FDCY50C65
18
−
FDCA18S120
−
FDCY18S120
36
−
−
−
FDCY36C120
1,200
較を示す。Si-FRD はバイポーラ動作であり少数キャリ
アの蓄積があって消失に時間がかかるため,スイッチン
幅な電力変換効率の向上が期待できる。
グ速度は温度に依存する。一方,ユニポーラデバイスで
効率向上とノイズ低減により電力損失や発熱量が低減
は,伝導に寄与するのは蓄積効果のない多
し,冷却機構,ノイズ対策部品,周辺部品の小型化また
数キャリアであって寄生容量に基づく電流の充放電しか
は省略が可能となる。このため,高密度な実装によって
ないため,高速スイッチングが可能であり,温度依存性
小型・軽量で,高効率・高信頼性の電源が提供できるよ
もほとんどない。また,スイッチング電流の低減により,
うになる。
ある
SiC-SBD
ノイズも低減する。これらの特徴から,SiC-SBD
は高温
製品系列
高周波動作には極めて有利である。
表 1 に,ディスクリート SiC-SBD の製品系列を示す。
適用例
ディスクリート SiC-SBD の適用例として,太陽光発電
発売時期
用パワーコンディショナ(図 )のチョッパ回路,および
2015 年 1 月
電気自動車(EV)用急速充電器の DC/DC コンバータや
インバータが挙げられる。スイッチングロスの低減によっ
て効率改善やノイズ抑制,高周波駆動化に大きく寄与す
お問い合わせ先
る。太陽光発電用パワーコンディショナでは,高速スイッ
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部
チングが要求される電流連続モードでの効率向上が期待
ディスクリート・IC技術部ディスクリート・IC企画課
できる。また,EV 用急速充電器では,高出力・大容量の
電話 (0263)25-2942
二次電池に短時間で充電することが求められており,大
(2014 年 12 月 12 日 Web 公開)
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
282(52)
2014-S06-2
新製品
紹介
株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小
型カップ式自動販売機
Extremely Compact Cup-Type Beverage Vending Machines for Japan Beverage Holdings Inc.
畔柳 靖彦 * KUROYANAGI, Yasuhiko
山口 直美 * YAMAGUCHI, Naomi
中島 一秀 * NAKASHIMA, Kazuhide
カップ式自動販売機は,オフィス,工場,病院,高速
道路のサービスエリアなどさまざまなロケーションで稼
動している。約半数は従業員が多いオフィスで利用され
ており,中・大型機や多機能機が主体となっている。従
業員が少ないオフィス向けのコンパクトサイズの製品は,
ホット飲料専用機が主流であり,夏季に売上が減少する
ため設置箇所を増やすことが困難であった。
新製品紹介
一方で,カップ式自動販売機のレギュラーコーヒー抽
出システムを応用して 2013 年に開発したカウンタートッ
プ機材は,その味が消費者から評価され,コンビニエン
スストアにおけるコーヒー販売を大ヒットに導いた。
このような自動販売機の状況を捉え,
“オフィス市場
全体の活性化”を実現するため,カップオペレータ企業
図
JBHD 向け超小型カップ式自動販売機
表
JBHD 向け超小型カップ式自動販売機の仕様
である株式会社ジャパンビバレッジホールディングス
(JBHD)と超小型カップ式自動販売機を共同で開発した。
コンパクトサイズで小規模オフィス向けの仕様でありな
項 目
がら,身近でおいしい本格的なコーヒーを提供するもの
型 式
である。
外形寸法
製品質量
特 徴
商品展示/押しボタン
従来機種と比べた主な特徴は次のとおりである。
販売原料
⒜ オフィス向けの新デザイン扉
⒝ コンパクトサイズでホット & コールド仕様
⒞ おいしいコーヒーを提供する 1 杯取りドリップ式
のコーヒーブリュア
コーヒーブリュア
カップ機構
⒟ カップ内で飲料を調理する,清掃性・衛生性に優
れたカップミキシング方式
製氷機貯氷量
湯タンク容量
JBHD 向け超小型カップ式自動販売機の外観を図 1 に,
給 水
仕様を表 1 に示す。
排水バケツ容量
⑴ 新デザイン扉
冷 媒
従来のカップ式自動販売機のイメージを一新するため,
消費電力量
仕 様
FJX10
W550×D600×H1,700(mm)
135 kg
フレーバ数:6個/商品選択:12ボタン
ファンクション:9ボタン
レギュラー 2.1 L×2
クリーム 1.4 L×1
砂糖 1.4 L×1
パウダー 1.4 L×3
ドリップ式 ペーパーフィルタ
カスバケツ容量:14L
9 オンス限定 2種類(収容数:210個)
2.1 kg
3.0 L
水道直結/カセットタンク
5.5 L
HFO-1234yf
849 kWh/y
デザイン自由度の高い一体シートキーを採用した。これ
はパネル表示器とシートキーを一体化したものであり,
2013 年のコンビニエンスストアにおけるコーヒーブー
コーヒーショップのメニューボードをイメージした商品
ムの火付け役であり,富士電機の自動販売機コア技術で
展示と選択ボタンを実現した。また,左右のモール部の
あるレギュラーコーヒー抽出システムを搭載した。また,
色をシルバーメタリックとすることで高級感を演出し,
コンパクトサイズでカップミキシング方式を採用するた
さらに将来のリニューアルに備えて,着脱可能な構造と
め,業界初の横一軸搬送カップミキシング方式を搭載し
した。
た。さらに,調理効率を高めるため,プロペラ撹拌(か
⑵ 業界最先端の調理技術
くはん)時にカップを揺らす制御機能を搭載した。
⑶ 環境対応
*
真空断熱材を搭載した温水タンクや高効率制御製氷機
富士電機株式会社食品流通事業本部三重工場設計部
2014-S07-1
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
283(53)
株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機
などの搭載により,業界トップの低消費電力量 849 kWh/y
80
を実現した。また,環境に優しいグリーン購入法適合冷
〈注〉
遅延時間(min)
媒 HFO-1234yf を採用した。
⑷ 簡単オペレーション
1 杯ごとに攪拌用プロペラをリンスするオートサニテー
ション機能を搭載した。また,清掃部に脱着が簡単で丸
洗いできる構造を採用した。
60
40
20
⑸ サービス性・組立性の向上
コンパクトサイズであってもスマートにサービスや組
0
立ができるように各機構部をブロック構造とし,ブロッ
0
20
40
周囲温度(℃)
60
クごとに着脱できるようにした。
図
製氷機コンプレッサの運転遅延時間
背景となる技術
から 325 kWh/y となり 14% 削減した。
2 . 1 省エネルギー温水タンク
カップ式自動販売機の保温・保冷の温度帯域は,97 ℃
2 . 2 省エネルギー製氷機
新製品紹介
の熱湯から氷塊まであり,一般的な缶飲料自動販売機の
製氷機は氷を製造してためておく機構である。製氷機
ホット飲料の 55 ℃からコールド飲料の 5 ℃までと比較
用のコンプレッサは,氷の溶ける量に応じて起動と停止
して広い。さらに,食の安全のため,それぞれの制御温
を繰り返す。起動開始から 1〜2 min は冷媒が循環する
度は「食品衛生法」で規制され,その条件を外れた場合
ために必要な時間であり,この間は氷を製造していない。
には自動的に売切れとする安全最優先の制御を行ってい
つまり起動回数を減らすことは,氷を製造せずに冷媒を
る。食の安全を最優先で確保しつつ,高効率な冷却・加
循環させるだけの時間を減少させることにつながり,よ
熱と調理機構をシステムとして確立することが課題であ
り効率的に製氷することができることとなる。
る。その中でも,常に熱湯をためておく温水タンクは常
氷の需要は,季節による気温の変動によって大きく変
時電力が最も大きいことから,温水タンクに関する省エ
化する。これに着目し,周囲温度をパラメータとして製
ネルギーの取組みが重要である。
氷機内の貯氷量を最適化する高効率制御機能を開発した。
従来の温水タンクは発泡樹脂だけで断熱していた。サー
コンプレッサに運転遅延時間(図 )を設けることで,夏
モグラフィーによる実測や熱解析などを行った結果,省エ
季に製氷量を多く,冬季に少なくした。これにより,製
ネルギーのためには全体的に断熱材の厚さを増す必要が
氷機の年間消費電力量を 25 % 削減した。
あることが分かった。しかし,全体のレイアウトからそ
れは困難であるため,より断熱性能の高い真空断熱材を
2 . 3 最先端調理技術“揺らぎ制御”
カップ式自動販売機は,カップ内で原料と湯をプロペ
採用することとした。真空断熱材を直接温水タンクに接
触させることは,経年劣化や外表面の傷による断熱性能
ラで攪拌するカップミキシング方式により調理を行って
の低下などの問題がある。そこで,発泡樹脂で内側と外
いる。プロペラによる攪拌は,位置,回転数,時間の設
。これに
側から挟み込む三層断熱構造を採用した(図 )
定が可能であり,粒子,粘度など原料の特性に合わせて
より,温水タンクの年間消費電力量は従来の 380 kWh/y
幅広く調整できる。これに加えて,本製品ではパドル攪
拌時にカップを左右に移動させる最先端の調理技術“揺
らぎ制御”
(図 )を搭載した。攪拌効率を高めることで,
外層:難燃性発泡樹脂
外層:難燃性発泡樹脂
最内層:耐熱性発泡樹脂
内層:真空断熱材
(a)三層断熱構造
図
内層:耐熱性発泡樹脂
(b)従来断熱構造
温水タンク断熱構造
〈注〉HFO-1234yf:地球温暖化係数(GWP)が 4 と低く,
「国等に
(a)揺らぎ制御
よる環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入
法)
」基準の GWP140 未満に適合したノンフロン冷媒である。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
284(54)
図
2014-S07-2
最先端調理技術“揺らぎ制御”
(b)従来の制御
株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機
飲料バリエーションのアップ,飲料品質の向上,販売時
間の短縮が可能となった。
お問い合わせ先
発売時期
富士電機株式会社
2014 年 10 月 29 日
営業本部食品流通営業統括部営業第三部営業第一課
電話(03)5435-7077
新製品紹介
(2014 年 12 月 12 日 Web 公開)
2014-S07-3
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
285(55)
新製品
紹介
小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化
Product Lineup of Miniaturized Package “MiniSKiip”
関野 裕介 * SEKINO, Yusuke
磯崎 誠 * ISOZAKI, Makoto
小松 康佑 * KOMATSU, Kosuke
とを実現している。
富 士 電 機 は, コ ン バ ー タ 回 路, イ ン バ ー タ 回 路, ブ
レーキ回路および温度センサを一体化した PIM(Power
Integrated Module)において,富士電機の最新の「V シ
特 徴
リーズ」IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チッ
〈注 1〉
プを小型パッケージ“MiniSKiiP”に搭載した新製品を開
1 . 1 製品ラインアップ
表 1 に,MiniSKiiP 製品と従来品の ECONOPIM 製品の
発し,系列化した。
新製品紹介
インバータ装置の高効率化と小型化を達成するため
ラインアップを示す。従来品の定格電流が 25〜150 A で
に,IGBT モジュールに対しては損失の低減および小型
あるのに対して,新製品の MiniSKiiP 製品は 8〜100 A と
化が強く求められている。これに対して富士電機は,イ
し,新たに 25 A 未満の定格をラインアップに加えて定格
ンバータの高効率化と小型化に貢献する PIM タイプの
電流領域を拡充した。
〈 注 2〉
“ECONOPIM ” 製 品 を 既 に 系 列 化 し て い る。 今 回, 新
また,MiniSKiiP 1 タイプは 8 A と 15 A,MiniSKiiP 2
製品として系列化した MiniSKiiP 製品は,銅ベースレス
タ イ プ は 25 A と 35 A,MiniSKiiP 3 タ イ プ は 50 A と
構造とスプリングコンタクト構造により,従来品である
75 A と 100 A であり,容量に応じてサイズが異なってい
ECONOPIM 製品と比較して設置面積を 36 % 縮小するこ
る。図 1 に MiniSKiiP 1 の内部回路構成を示す。三相のコ
表1 MiniSKiiP 製品と ECONOPIM 製品のラインアップ
定格電流
パッケージタイプ
8A
15 A
25 A
MiniSKiiP 1
35 A
50 A
MiniSKiiP 2
75 A
100 A
MiniSKiiP 3
150 A
̶̶̶̶
外 観
̶̶̶̶
MiniSKiiP
(新製品)
設置面積
質 量
MiniSKiiP 1
MiniSKiiP 2
MiniSKiiP 3
1,680 mm2
3,068 mm2
(36 %削減)
4,838 mm2
(36%削減)
̶̶̶̶
35 g
58 g(68%削減)
91 g(70%削減)
̶̶̶̶
ECONOPIM 2
パッケージタイプ
̶̶̶̶
ECONOPIM
(従来品)
̶̶̶̶
̶̶̶̶
ECONOPIM 3
外 観
̶̶̶̶
ECONOPIM 2
ECONOPIM 3
設置面積
̶̶̶̶
4,837 mm2
7,564 mm2
質 量
̶̶̶̶
180 g
300 g
〈注 1〉MiniSKiiP:SEMIKRON Elektronik Gmbh & Co.KG の商標
または登録商標
*
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技
〈注 2〉ECONOPIM:Infineon Technologies AG の商標または登録
術部
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
286(56)
商標
2014-S08-1
小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化
S
T
N
Gv
Gw
Eu
Ev
Ew
B
U
V
W
Gb
Gx
Gy
Gz
Nb
Ex
定格:1,200 V/100 A
条件:電流:50 A(実効値)
,
力率:0.85,制御率:1
T1
Ey
T2
c
:8 kHz,電圧:600 V,
100
240
Ez
図1 MiniSKiiP 1 の内部回路構成
ンバータ回路,三相のインバータ回路,ブレーキ回路お
よび温度センサを 1 パッケージに収めているため,1 台で
200
75.6 cm2
80
160
60
48.4 cm2
120
40
80
20
40
0
三相交流インバータを構成することができ,インバータ
取付け面積(cm2)
R
Gu
インバータ発生損失(W)
P P1
ECONOPIM 製品
(従来品)
0
MiniSKiiP 製品
(新製品)
装置の小型化および装置設計の効率化に貢献する。
図3 インバータの発生損失とモジュールの取付け面積
1 . 2 パッケージの小型化
SKiiP 2 は ECONOPIM 2 に対して設置面積で 36%,質量
よるはんだ付け工数の削減により,インバータ装置の組
立が簡素化できる。
で 68 % 削 減 し,MiniSKiiP 3 は ECONOPIM 3 に 対 し て
1 . 4 インバータの低損失化
設置面積で 36 %,質量で 70 % 削減している。
図
に,1,200 V/100 A 定 格 の MiniSKiiP 製 品 と
ECONOPIM 製品のインバータ発生損失とモジュールの取
1 . 3 装置取付け工数の削減
に,MiniSKiiP と ECONOPIM をインバータ装置に
付け面積の比較を示す。MiniSKiiP 製品は,ECONOPIM
取り付けたときの断面図を示す。MiniSKiiP 製品は,はん
製品と同等の低損失でありながら,モジュールの設置面
だを使用しないスプリングコンタクト構造を採用してい
積の低減を実現している。
図
るので,1 回のねじ締め工程によってモジュール,ヒート
シンク,PCB(Printed Circuit Board)を同時に一括実装
背景となる技術
組立を行うことが可能である。一方,ECONOPIM 製品は,
モジュールと PCB を別々にねじでヒートシンクに組付け
MiniSKiiP 製品は,高密度実装,スプリングコンタクト
した後,はんだやプレスフィット構造による圧入で端子
構造の適用および絶縁封止材料の最適化により,小型化
と PCB を接合し実装する。このように,MiniSKiiP 製品
を実現している。
は,ねじ締め工数の削減とスプリングコンタクト構造に
2 . 1 高密度実装
図
ねじ
を示す。ECONOPIM 製品は DCB(Direct Copper Bond-
PCB
抑え用ふた
Mini
SKiiP
に,MiniSKiiP 製品と ECONOPIM 製品の内部構造
DCB 基板
放熱用グリス
スプリングコンタクト
ヒートシンク
スプリング端子
アルミニウムワイヤ
チップ
(a)MiniSKiiP
はんだ
端子
端子ケース
ゲル
DCB 基板
PCB
(a)MiniSKiiP 製品(新製品)
ECONOPIM
端子ケース
ねじ
端子
端子ケース
ゲル ワイヤ接合
アルミニウムワイヤ
銅ベース
チップ
放熱用
グリス
DCB 基板
銅ベース
(b)ECONOPIM 製品(従来品)
(b)ECONOPIM
図2 装置取付け時の断面図
図4 内部構造
2014-S08-2
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
287(57)
新製品紹介
表 1 に示すように,同一定格電流で比較すると,Mini-
小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化
ing)基板と外部接続した端子間をアルミニウムワイヤで
装後の断面図を示す。PCB と MiniSKiiP 製品を同時に締
接合していたため,DCB 基板面積の縮小化に限界があり,
め付けることで生じる応力によりスプリングが圧縮され,
設置面積が大きくなっていた。これに対して MiniSKiiP
PCB と端子間で安定した接合が可能である。
製品は,DCB 基板上に外部接続端子を配置したため,設
置面積を縮小化できる。この結果,大幅な小型化を可能
2 . 3 絶縁封止材料の最適化
ECONOPIM 製 品 は, 絶 縁 耐 圧 を 考 慮 し て 十 分 な 沿
とした。
面距離を確保していたが,MiniSKiiP 製品は小型化によ
る沿面距離の減少により,絶縁耐圧の低下が懸念され
2 . 2 スプリングコンタクト構造
MiniSKiiP 製品には,インバータ装置の組立工程にお
た。そのため,従来採用していた封止材では,絶縁耐圧
けるはんだレス組立を実現するために,スプリングコン
が市場要求を満足できないため,新たにゲルを開発し,
に PCB 実
ECONOPIM 製品と同等以上の絶縁耐圧を持つ高信頼性
タクト構造の外部接続端子を採用した。 図
パッケージとした。
PCB と端子の接合
PCB
発売時期
2015 年 4 月
締付け圧
新製品紹介
DCB 基板
お問い合わせ先
富士電機株式会社電子デバイス事業本部
端子ケース
事業統括部モジュール技術部企画課
端子と DCB 基板の接合
電話(0263)25-2943
図5 PCB 実装後の断面図
(2014 年 12 月 19 日 Web 公開)
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
288(58)
2014-S08-3
略語(本号で使った主な略語)
AT-NPC
Advanced T-type Neutral-Point-Clamped
COC
Chip on Chip
DCB
Direct Copper Bonding
ECU
Electronic Control Unit
電子制御装置
EV
Electric Vehicle
電気自動車
FRD
Fast Recovery Diode
FWD
Free Wheeling Diode
HEV
Hybrid Electric Vehicle
IEMOS
Implantation and Epitaxial Metal Oxide Semiconductor
IGBT
Insulated Gate Bipolar Transistor
IPM
Intelligent Power Module
IPS
Intelligent Power Switch
MOSFET
Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor
PCB
Printed Circuit Board
ハイブリッド車
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ
金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ
PCS
Power Conditioner
パワーコンディショナ
PFC
Power Factor Correction
力率改善
Power Integrated Module
PWM
Pulse Width Modulation
パルス幅変調
RB-IGBT
Reverse-Blocking IGBT
逆阻止 IGBT
RC-IGBT
Reverse-Conducting IGBT
逆導通 IGBT
SBD
Schottky Barrier Diode
UPS
Uninterruptible Power Supply
略語・商標
PIM
無停電電源装置
商標(本号に記載した主な商標または登録商標)
ECONOPIM
Infineon Technologies AG の商標または登録商標
MiniSKiiP
SEMIKRON Elektronik Gmbh & Co.KG の商標または登録商標
PrimePack
Infineon Technologies AG の商標または登録商標
その他の会社名,製品名は,それぞれの会社の商標または登録商標である。
富士電機技報 2014 vol.87 no.4
289(59)
主要事業内容
発電・社会インフラ
パワエレ機器
環境にやさしい発電プラントとエネルギーマネジメントを融合させ,
エネルギーの効率化や安定化に寄与するパワーエレクトロニクス応
スマートコミュニティの実現に貢献します。
用製品を提供します。
発電プラント
ドライブ
火力・地熱・水力発電設備,原子力関連機器,太陽光発電システム,
燃料電池
インバータ・サーボ,モータ,EV(電気自動車)システム,輸送
システム
社会システム
パワーサプライ
エネルギーマネジメントシステム,電力量計,スマートメーター
無停電電源装置,パワーコンディショナ
社会情報
器具
情報システム
受配電・制御機器
産業インフラ
電子デバイス
産業分野のさまざまなお客様に,生産ライン・インフラ設備に関わ
産業機器・自動車・情報機器および新エネルギー分野に欠かせない
る
パワー半導体をはじめとする電子デバイスを提供します。
省エネ化
ライフサイクルサービス
を提供します。
変電
半導体
変電設備,産業電源設備
パワー半導体,感光体
機電システム
ディスク媒体
産業用ドライブシステム,加熱・誘導炉設備,工場エネルギーマ
ネジメントシステム,データセンター,クリーンルーム設備
ディスク媒体
計測制御システム
プラント制御システム,計測システム,放射線管理システム
食品流通
冷熱技術をコアに,メカトロニクス技術や IT を融合し,お客様に最
設備工事
電気・空調設備工事
適な製品とソリューションを提供します。
自販機
飲料・食品自販機
店舗流通
流通システム,ショーケース,通貨機器
富士電機技報 第 87 巻 第 4 号
次号予定
平成 26 年 12 月 20 日 印刷 平成 26 年 12 月 30 日 発行
富士電機技報 第 88 巻 第 1 号
特集 パワーエレクトロニクス機器
編集兼発行人
発
行
所
江口 直也
富士電機株式会社 技術開発本部
〒 141-0032 東京都品川区大崎一丁目 11 番 2 号
(ゲートシティ大崎イーストタワー)
富士電機技報企画委員会
編 集・印 刷
企画委員長
江口 直也
企画委員幹事
瀬谷 彰利
企 画 委 員
荻野 慎次 森岡 崇行 片桐 源一 根岸 久方
富士オフィス&ライフサービス株式会社内
「富士電機技報」編集室
〒 191-8502 東京都日野市富士町 1 番地
電話(042)585-6965
FAX(042)585-6539
八ツ田 豊 尾崎 覚 鶴田 芳雄 久野 宏仁
須藤 晴彦 吉田 隆 橋本 親 眞下 真弓
発
売
元
株式会社 オーム社
〒 101-8460 東京都千代田区神田錦町三丁目 1 番地
電話(03)3233-0641
振替口座 東京 6-20018
価
756 円(本体 700 円・送料別)
安納 俊之 大山 和則
特 集 委 員
鶴田 芳雄 井川 修 多田 元
事
木村 基 小野 直樹 山本 亮太 柳下 修
務
局
定
*本誌に掲載されている論文を含め,創刊からのアーカイブスは下記 URL で利用できます。
富士電機技報(和文) http://www.fujielectric.co.jp/about/company/contents_02_03.html
FUJI ELECTRIC REVIEW(英文) http://www.fujielectric.com/company/tech/contents3.html
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。
© 2014 Fuji Electric Co., Ltd., Printed in Japan(禁無断転載)
290(60)
富士電機技報 vol.87 2014
(平成 26 年) 総目次
No.1
特集 産業・社会に貢献する計測・制御ソリューション
〔特集に寄せて〕新しい計測・制御技術への期待 ……………………………………………………………………… 増田 士朗
〔現状と展望〕ソリューションを支える計測・制御技術の現状と展望 …………………………… 近藤 史郎
福住 光記
安定操業・省エネルギー・環境保全を支える計測・制御システムソリュー
ション ………………………………………………………………………………… 庄林 直樹
小出 哲也
高速コントローラ・大容量ネットワークによる駆動制御システムソリュー
ション ………………………………………………………………………………… 小田 孝一
常盤 欣史
安全・安心に貢献する放射線管理ソリューション ……………………………… 中島 定雄
石倉 剛
プラントの安定操業・効率化を支援するサービスソリューション …………… 福島 宗次
北谷 保治
プラント制御におけるデータ分析技術 …………………………………………… 松井 哲郎
村上 賢哉
安定と安全を支える情報・プロセス制御システム「MICREX-NX」…………… 篠 淳一郎
鈴木 健浩
顧客資産の継承と進化を実現する中小規模監視制御システム
「MICREX-VieW XX」 …………………………………………………………… 西脇 敏之
藤田 史彦
中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」の最新オペレーション
機能とエンジニアリング機能 …………………………………………………… 佐藤 好邦
北村 純郎
機械制御から高度なモーション制御まで実現する統合コントローラ
「MICREX-SX シリーズ」 ………………………………………………………………………………………………
省エネルギーに貢献する直接挿入レーザ方式ガス分析計「ZSS」 ……………… 小西 英之
金井 秀夫
MEMS 応用感振センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステム …………… 坂上 智
村上 敬三
「FeMIEL-WL」による
クランプ式無線電力センサ「FeMIEL-SC」
エネルギーの見える化 …………………………………………………………… 項 東輝
太田 英樹
普通論文
3( 3 )
4( 4 )
稲村 康男
9( 9 )
大坪 宏輔
松下 智行
占部 昇
鈴木 聡
小野 健一
14(14)
19(19)
25(25)
33(33)
38(38)
永塚 一人
44(44)
日向 一人
49(49)
石井 靖
小川 敬晴
北川 慎治
54(54)
59(59)
63(63)
中野 年康
68(68)
データセンター向け間接外気活用省エネルギーハイブリッド空調機
「F-COOL NEO」…………………………………………………………………… 大賀 俊輔
高松 武史
高橋 正樹 73(73)
新製品紹介論文
自動車用タンク圧センサ「EPL11E-GM」―― 燃料漏れ検出用圧力センサ ―― ……………………………………………………78(78)
「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」―― …………………………………………………………80(80)
No.2
特集 2013 年度の技術成果と展望
〔特集に寄せて〕
「エネルギー関連事業」で,安全・安心で持続可能な社会に貢献 ……………………………… 北澤 通宏
〔特別対談〕パワーエレクトロニクスでエネルギー革新を目指す ………………………………… 赤木 泰文
江口 直也
―― デバイスのイノベーションで加速化するパワエレの応用 ――
88( 2 )
90( 4 )
〔成果と展望〕エネルギーソリューションの提供 ……………………………………………………………………… 江口 直也
ハイライト …………………………………………………………………………………………………………………………………
発電システム □火力・地熱プラント □風力発電システム □燃料電池 □原子力 …………………………………………
社会インフラ □系統・配電 □エネルギーマネジメント □社会環境 …………………………………………………………
産業インフラ □変電システム □機電システム □計測制御システム …………………………………………………………
パワエレ機器 □ドライブ □パワーサプライ □輸送パワエレ □受配電・制御機器コンポーネント ……………………
電子デバイス □パワー半導体 □感光体 □ディスク媒体 ………………………………………………………………………
食品流通 □自動販売機 □冷熱制御技術 □通貨機器 ……………………………………………………………………………
基盤・先端技術 □基盤技術 □先端技術 ……………………………………………………………………………………………
98(12)
104(18)
112(26)
117(31)
122(36)
136(50)
144(58)
151(65)
154(68)
総目次
No.3
特集 受配電・開閉・制御機器コンポーネント
〔特集に寄せて〕電力システム改革の取組みと受配電・開閉・制御機器コンポーネント …………………………
〔現状と展望〕受配電・開閉・制御機器コンポーネントの現状と展望 ………………………………………………
「SK シリーズ」の機種拡充 ………………………… 森下 文浩
電磁接触器「FJ シリーズ」
深谷 直樹
「シンクロセーフコンタクト」搭載 非常停止用押しボタンスイッチ
(φ22,φ30)
……………………………………………………………………… 町田 謹斎
野村 浩二
「Auto.V」
高圧真空遮断器「MULTI.VCB」
……………………………………… 岡崎 貴幸 臼井 英人
ストライカ引外し式限流ヒューズ付高圧交流負荷開閉器(LBS) ……………… 菊地 征範
宮﨑 哲司
直流高電圧用ブレーカの無極性遮断技術 ………………………………………………………………………………
直流配電システムの短絡故障・地絡故障推定技術 ……………………………… 佐竹 修平
恩地 俊行
受配電・開閉・制御機器コンポーネントの製品評価 …………………………… 宮沢 秀和
秦 淳一郎
受配電・開閉・制御機器コンポーネントの環境対応材料技術 ………………… 原 永治
岩倉 忠弘
アークシミュレーション技術 ………………………………………………………………………… 坂田 昌良
田中 康規 167( 3 )
淺川 浩司 168( 4 )
堤 貴志 176(12)
下山栄治郎
木村 剛
徳永 圭秀
佐藤 佑高
外山健太郎
沼上 毅
吉澤 利之
榎並 義晶
181(17)
186(22)
191(27)
196(32)
201(37)
206(42)
211(47)
216(52)
多様化するニーズに対応するものつくり ……………………………………………………………………………… 小川 拓 222(58)
新製品紹介論文
海外向け大容量 UPS「7000HX-T4」
…………………………………………………………………………………………………… 226(62)
No.4
特集 エネルギー マネジメントに貢献するパワー半導体
〔特集に寄せて〕パワー半導体 ……………………………………………………………………………………………
――材料科学とパワーエレクトロニクスの架け橋――
〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望 ………………………………………… 高橋 良和
藤平 龍彦
1,200 V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール ………………………………………… 小林 邦雄
北村 祥司
メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiC モジュール ……………… 梨子田典弘
仲村 秀世
新型パッケージを採用した産業用 RC-IGBT モジュール ……………………… 高橋 美咲
吉田 崇一
マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT ……………………………………………… 野口 晴司
安達新一郎
ハイブリッド車用第 2 世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術 …………… 郷原 広道
齊藤 隆
第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00 シリーズ」 ………………………… 菅原 敬人
矢口 幸宏
LLC 電流共振電源の回路技術 ……………………………………………………… 川村 一裕
山本 毅
自動車用大電流 IPS ………………………………………………………………… 岩水 守生
竹内 茂行
新製品紹介論文
木本 恒暢 233( 3 )
宝泉 徹
安達 和哉
岩本 進
堀尾 真史
吉田 崇一
山田 教文
松本 和則
北條 公太
西村 武義
234( 4 )
240(10)
244(14)
249(19)
254(24)
258(28)
263(33)
268(38)
273(43)
1,700V 耐圧 SiC ハイブリッドモジュール ………………………………………………………………………………………………
AT-NPC 3 レベル大容量 IGBT モジュール ――大容量モジュール用パッケージ「M404 パッケージ」―― …………………
ディスクリート SiC-SBD …………………………………………………………………………………………………………………
株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機 …………………………………………………
小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化 ……………………………………………………………………………………………
277(47)
279(49)
281(51)
283(53)
286(56)
富士電機技報 第 87 巻 第 4 号(通巻第 884 号)
2014 年 12 月 30 日発行
本誌は再生紙を使用しています。
雑誌コード 07797-12 定価 756 円(本体 700 円)
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