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全文のダウンロード - 独立行政法人日本学生支援機構
『留学交流』
2014年
特集
7月号
『留学交流』2014年7月号 目次
特集
海外留学することの意義
【論考】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本人学生の内向き志向に関する一考察
1
-既存のデータによる国際志向性再考-
A Study on the Inward-looking of Japanese Students:
Revisiting Students‘ International Mindset with Existing Data
一橋大学国際教育センター
OTA Hiroshi
教授
太田 浩
Professor, Center for Global Education, Hitotsubashi University
【論考】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
海外留学することの意義
-平成23・24年度留学生交流支援制度(短期派遣・ショートビジット)追加アンケート
調査結果分析結果から-
Benefits of Study Abroad Experience: Results from Additional Survey and Analysis for
Japanese Students Supported by the Student Exchange Support Program (Scholarships for
Short-Term Visit Program/Short-Term Study Abroad Program) in 2011 and 2012
名古屋大学 国際教育交流センター 野水 勉
明治大学 政治経済学部 新田 功
NOMIZU Tsutomu
International Education & Exchange Center, Nagoya University
NITTA Isao
Graduate School of Political Science and Economics, Meiji University
【事例紹介】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
「グローバルアウトリーチプログラム」とは何か
- 桜美林大学における新しい語学研修プログラムの試み -
What is Global Outreach Program ?:
An Attempt to Create a New Type of Study Abroad Language Program at J.F.Oberlin University
桜美林大学学生センター国際学生支援課
NOMURA Aya / TAKAHASHI Yuko
野村 文・髙橋 祐子
Office of International Programs, J. F. Oberlin University
【EYE】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
「スーパーグローバル ハイスクール(SGH)」事業
-グローバル・リーダーに求められる資質・能力-
Super Global High School: Competency Required for Global Leaders
京都大学大学院教育学研究科
ISHII Terumasa
准教授
石井 英真
Graduate School of Education, Kyoto University
【海外インターンシップレポート】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
海外インターンシップの活動記録 -フィリピン共和国のマイクロファイナンス機関にて-
Internship Activities in Developing Countries:
Case from Microfinance Institution in the Philippines
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科
IWAMOTO Yohei
博士前期課程
Graduate Student, Graduate School of Global Studies, Doshisha University
岩本 陽平
ウェブマガジン『留学交流』2014 年7月号 Vol.40
日本人学生の内向き志向に関する一考察
-既 存 の デ ー タ に よ る 国 際 志 向 性 再 考 -
A Study on the Inward-looking of Japanese
Students:
Revisiting Students' International Mindset with
Existing Data
一橋大学国際教育センター教授
太田
浩
O T A H i r o sh i
( P r o f e s s or , C e nt e r f o r G l o b al E d u ca t i on , H i t o t su b a s h i U n iv e r s i t y )
キーワード:海外留学、内向き化
日本の若者は、海外への興味が薄れてきて「内向き化」しているという議論がメデ
ィ ア で 盛 ん に な り 、大 学 だ け で な く 、官 民 を 挙 げ て そ の 対 策 に 乗 り 出 し て い る 。一 方 、
日本の企業はグローバル人材を求め、国内で学ぶ外国人留学生だけでなく、海外にま
で 採 用 活 動 を 拡 大 し て い る 。急 速 な 経 済 の グ ロ ー バ ル 化 と 知 識 基 盤 社 会 の 進 展 に よ り 、
激しい競争にさらされる昨今、生き残りをかける企業から見ると、自国の学生はグロ
ーバル人材として物足りなく、外国人留学生ほどには魅力的に映らないのかもしれな
い
1
。それでは、日本の学生(若者)は、本当に内向き化しているのだろうか。ある
いは、彼らはグローバル人材を目指そうとしないのだろうか。本論では、日本人の海
外留学者数減少に端を発した若者の内向き化と言われる現象、およびその根拠につい
て改めて考察してみたい。
第 1節
日本人の海外留学者の推移
日本の若者が内向き化している論拠として、まず挙げられるのが海外留学者数の減
少 で あ る 。経 済 協 力 開 発 機 構( O E CD )が 集 約 し た 統 計 に よ る と 、全 世 界 の 留 学 生 数 は 、
1 9 8 0 年 の 1 1 0 万 人 か ら 2 0 1 1 年 の 4 3 0 万 人 へ と 、過 去 3 0 年 間 で 4 倍 も の 増 加 を 示 し た
( O E C D 、 20 1 3 )。 し か し な が ら 、 日 本 人 の 海 外 留 学 者 数 は 1 9 9 9 年 の 7 . 5 万 人 か ら 停 滞
傾 向 に あ り 、2 0 0 4 年 に 一 旦 8 . 3 万 人 近 く ま で 増 加 し た も の の 、そ れ 以 後 は 減 少 を 続 け
て い る( 図 表 1 参 照 )。2 0 1 1 年 の 留 学 者 数 は 5 7 , 5 0 1 人 で あ り 、2 0 0 4 年 の ピ ー ク 時 に 比
1
2012 年 に 経 済 同 友 会 ( 2012) が 行 っ た 調 査 に よ る と 、 直 近 1 年 間 の 新 卒 者 採 用 に お い て 、 い ず
れの業界においても、海外留学経験を有している日本人より、日本で学んだ外国人を採用した企
業のほうが多かった。
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べ て 3 1 % も 減 少 し た ( 高 等 教 育 局 学 生 ・ 留 学 生 課 、 2 0 1 4 )。
図表 1
日本から海外への留学者数の推移
( 注 ) OECD、 ユ ネ ス コ 統 計 局 、 IIE、 中 国 教 育 部 、 台 湾 教 育 部 な ど の 資 料 を も と に 文 部 科 学 省
が集計
出 典 : 高 等 教 育 局 学 生 ・ 留 学 生 課 ( 2 0 1 4 )『 日 本 人 の 海 外 留 学 者 数 及 び 外 国 人 留 学 生 在 籍 状
況調査について』文部科学省
日本人の海外留学者を最も引き付けてきたのは米国であるが、そこでの日本人留学
者 数 の 減 少 傾 向 は き わ め て 顕 著 で あ る 。 19 9 4 年 か ら 9 8 年 ま で は 、 米 国 に お け る 留 学
生 の う ち 、日 本 人 の 占 め る 割 合 が 第 1 位 だ っ た が 、1 9 9 7 / 9 8 年 の 4 7 , 0 7 3 人 を ピ ー ク に
減 少 傾 向 を た ど り 、 20 0 4 年 ( 4 . 2 万 人 ) 以 降 は 一 貫 し て 減 少 し て い る 。 特 に 2 0 0 8 /09
年 か ら 1 0 / 1 1 年 に か け て は 、 前 年 度 比 1 3. 9 % 減 、 1 5 . 1% 減 、 14 . 3 % 減 と 3 年 連 続 し て
大 幅 に 減 少 し た 。 2 0 12 / 1 3 年 は 1 9 , 5 6 8 人 で 第 7 位 に ま で 後 退 し 、 9 7 / 9 8 年 の ピ ー ク 時
に 比 べ て 5 8 . 4% も 減 少 し た こ と に な る ( 図 表 2 参 照 )。
図表 2
米国におけるアジア主要国からの留学生数の推移
出 典 : Institute of International Education ( IIE) ( 2013) Open Doors 2013
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2011 年 に お け る 主 要 留 学 先 別 の 日 本 人 の 海 外 留 学 者 数 を ピ ー ク 時 の 2004 年 と の 比
較 で 見 て も 、米 国 で 学 ぶ 日 本 人 の 減 少 が 突 出 し て い る( 図 表 3 参 照 )。こ の 間 、日 本 人
の 海 外 留 学 者 数 は 全 体 的 に 3 0 . 7 % 減 少 し て い る の だ が 、米 国 へ の 留 学 者 減 少 が 5 2 . 7%
とそれを大きく上回ることから、米国留学離れ、または海外留学先の多様化・分散化
と言い換えることもできるであろう。
図表 3
主 要 留 学 先 別 の 日 本 人 留 学 生 数 ( 2011 年 ) と そ の 増 減 ( 対 2004 年 比 )
留学先
日本人留学生数
留学先
アメリカ
19,966 (-22,249)
カナダ
1,851 (+101)
中国
17,961 (-1,098)
フランス
1,685 (-652)
韓国
1,190 (+276)
ニュー ジー ランド
1,061 (+148)
イギリス
台湾
オーストラリア
ドイツ
3,705 (-2,690)
2,861 (+982)
2,117 (-1,055)
その他
1,867 (-680)
合
計
日本人留学生数
3,237 (+1,473)
57,501 (-25,444)
( 注 )括 弧 内 の 数 字 は 、日 本 人 の 海 外 留 学 者 が 最 も 多 か っ た 2 0 0 4 年 か ら 1 0 年 ま で の 増 減 を 示 す 。
出 典 : 複 数 年 に ま た が る OECD “ Education at a Glance” , IIE “ Open Doors” 等 の デ ー タ を
文部科学省が集計したもの
第 2節 少 子 化 と 国 内 高 等 教 育 機 会 の 拡 大
このような海外留学者数の減少については、内向き化というより、そもそも少子化
で 若 者 の 数 が 大 き く 減 少 し た こ と に 起 因 し て い る 、と い う 見 方 が あ る 。1 8 歳 人 口 は 19 92
年 の ピ ー ク 時 に は 2 05 万 人 で あ っ た が 、そ の 後 減 少 し 続 け 、2 0 09 年 に 1 2 1 万 人 ま で 減
り 、 そ れ 以 後 は 停 滞 し て い る 。ピ ー ク 時 に 比 べ る と 4 0% 強 減 少 し た こ と に な る 。国 内
の 大 学 進 学 年 齢 層 が 18 歳 か ら 20 歳 代 前 半 に 集 中 し て い る こ と に 比 べ 、 海 外 留 学 の 年
代 層 は 2 0 歳 代 か ら 30 歳 代 ぐ ら い ま で に か け て と 幅 広 い た め 、 一 概 に は 比 較 で き な い
が、少子化が海外留学者数減少の大きな要因であることは間違いないであろう
2
。加
え て 、 1 9 91 年 の 大 学 設 置 基 準 の 大 綱 化 に よ り 、 1 9 92 年 に は 52 3 校 で あ っ た 大 学 数 が
2 0 1 3 年 に は 7 8 2 校 に ま で 増 え( 2 0 年 間 で 2 5 9 校 、9 2 年 比 で 4 9 .5 % も 増 加 )、短 期 大 学
を 合 わ せ る と 1,141 校 と な っ た 。 こ れ に よ り 、 大 学 と 短 期 大 学 を 合 わ せ た 収 容 力 ( 大
学 と 短 大 の 総 入 学 者 数 / 大 学 と 短 大 の 総 志 願 者 数 ) は 、 19 9 2 年 の 6 7 . 0 % か ら 20 13 年
に は 9 1 . 7 % ま で 上 が り 、大 学 進 学 率 も 3 8 .9 % か ら 5 5 . 1% へ と 上 昇 し た( 文 部 科 学 省 、
2 0 1 3 )。 特 に 前 者 の 収 容 力 が 9 割 を 超 え た こ と を 根 拠 に 、「 大 学 全 入 時 代 の 到 来 」 と 言
わ れ る よ う に な り 、以 前 に 比 べ る と 国 内 の 大 学 は 、全 体 と し て 入 り や す く な っ て い る 。
よって、入試難易度の高い大学にこだわらなければ、どこかの大学に入学できるよう
な状況にあり
3
、ひと昔前のような、海外に行ってでも大学に進学するという雰囲気
がなくなっている。
2
海 外 留 学 者 数 の 推 移 と 18 歳 人 口 の 推 移 を 単 純 に ピ ー ク 時 か ら の 減 少 率 で 見 れ ば 、 前 者 の 30%
減 に 比 べ て 、 後 者 の 方 が 40% 減 と 大 き い 。
3
い わ ゆ る 「 定 員 割 れ 」 と い う 問 題 も 起 き て い る 。 2013 年 、 入 学 定 員 を 充 足 で き な か っ た 私 立 大
学 は 全 体 の 4 0 . 3 % で あ り 、短 期 大 学 で は 6 1 . 0 % と い う 高 い 比 率 で あ っ た( 旺 文 社 教 育 情 報 セ ン タ
ー 、 2 0 1 3 )。
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しかしながら、海外留学の動向を東アジアの近隣諸国と比較してみると、違った構
図 が 見 え て く る 。 先 述 の 通 り 、 日 本 か ら の 留 学 者 数 は 2011 年 で 57,501 人 で あ っ た の
に 対 し 、人 口 が 日 本 の 半 分 弱 で あ る 韓 国 の 留 学 者 数 は 、同 年 で 26 2 , 4 6 5 人 で あ っ た( 韓
国 統 計 庁 、 2 0 1 2 )。 単 純 に 4 . 6 倍 、 人 口 比 を 考 慮 す る と 1 1 . 7 倍 も 韓 国 の 方 が 多 い こ と
に な る 。 台 湾 の 人 口 は 約 2 , 3 0 0 万 人 と 日 本 の 5 分 の 1 程 度 で あ る が 、 20 1 2 / 1 3 年 の 米
国 へ の 留 学 者 数 は 日 本 ( 1 9 , 5 6 8 人 ) よ り 多 く 2 1 , 8 6 7 人 で あ っ た ( I I E 、 2 0 1 3 )。 少 子
化 と い う 点 で は 、 2 0 11 年 の 合 計 特 殊 出 生 率 を 比 較 す る と 、 韓 国 は 1 . 2 4 、 台 湾 は 1 .0 7
で あ り 、 日 本 の 1. 3 9 よ り 低 い ( 内 閣 府 、 2 0 1 3 )。 ま た 、 高 等 教 育 進 学 率 に つ い て も 、
韓 国 ( 7 1% ) や 台 湾 ( 7 3 % ) は 、 日 本 ( 78 % ) と 同 程 度 で あ る
4
。以上のことから、
海外留学者数の減少を少子化と国内における高等教育の機会拡大だけで説明しようと
すると、国際的な学生流動化の世界的な高まりという潮流に対する日本の遅れがかえ
って明確になる。
それでは、日本人学生の海外留学離れという現象をもたらした他の要因、いわゆる
海外留学の阻害要因は何であろうか。このことについて考察する際、海外留学のタイ
プによって事情が異なることから、①大学在学中の海外(交換・短期)留学や海外研
修、②学位取得を目指す海外留学、そして③これら 2 つに共通な事項の 3 つに分けて
論じたい。
第 3節
大学在学中の海外留学・研修に対する阻害要因
1 就職活動の早期化と長期化
大 学 3 年 次 の 1 2 月 に 企 業 側 の 採 用 に 関 す る 広 報 が 始 ま り 、4 年 次 の 4 月 か ら 採 用 選
考活動が始まる、という現在の就職活動の仕組みでは、在学中の交換留学(典型的な
も の は 、3 年 次 の 秋 か ら 4 年 次 の 夏 ま で の 1 年 間 の 留 学 )は も ち ろ ん の こ と 、1 ヵ 月 程
度の海外研修でも学生には抵抗感があり、留学経験を経て就職活動に臨むことは非常
に困難な状況にある。また、就職活動時期が一昔前に比べて前倒しになっただけでな
く、長引く不況により長期化していることが、学生の就職への不安感を一層募らせて
いる。よって、学生は海外留学よりも、資格取得のための勉強や公務員試験対策をす
るほうが現実的という判断を取る傾向にある。言うなれば、留学が学生時代における
活動の選択肢に入らなくなってきている。
2016 年 卒 の 大 学 生 か ら は 、 3 年 次 の 3 月 に 企 業 側 の 採 用 広 報 が 解 禁 、 4 年 次 の 8 月
から選考活動が開始という日程に変更されるが、この程度の時期的なシフトが解決策
として認知され、学生の留学に対するモチベーションを上げる契機になるとは考えに
くい。日本型経営の特徴である新卒一括採用方式は、企業にとってコストを抑えられ
るなどの利点があるが、大学教育と学生のキャリア形成に対しては悪影響をもたらし
ている。その点を企業は直視し、大卒者採用方法の多様化と通年化を推し進めるべき
であろう。
2 単位互換(認定)制度の未整備と学事暦の違い
交換留学や短期留学を通して海外の大学で修得した単位が、日本の大学では認定さ
4
大学だけなく短期大学、専門学校、職業学校等、非大学の高等教育機関への進学を含む。
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れ に く い と い う 問 題 が あ る 。文 部 科 学 省 の 調 査 に よ る と 、2 0 11 年 に 国 外 の 大 学 と の 交
流 協 定 に 基 づ く 単 位 互 換 制 度 を 導 入 し て い る 大 学 は 全 体 の 44% と 、 2 0 0 9 年 の 3 4 % に
比 べ る と 大 き く 上 昇 し て い る( 高 等 教 育 局 大 学 振 興 課 、2 0 1 3)。し か し 、制 度 が あ っ て
も、海外の大学と単位の積算方法、授業時間数、評価基準が異なるといった理由で、
結果的に認定単位数が少なくなるという話をよく耳にする。さらに学生から見れば、
自 分 の 大 学 で 提 供 さ れ て い な い 科 目 だ か ら こ そ 、留 学 先 で 履 修 し た い と 望 む も の だ が 、
そのような科目は互換できる科目(同じ科目)が自大学にない、という理由で単位認
定の対象外になることも多いと聞く。特に、私立大学に比べて留学制度の歴史が浅い
国立大学では、単位認定の審査や手続きに柔軟性がないことが指摘されている。国立
大 学 協 会( 2 0 0 7) の 調 査 で は 、 6 7 . 8% の 国 立 大 学 が 、「 留 学 し た 学 生 は 帰 国 後 、 留 年 す
る可能性が大きい」と回答している。このような海外留学の成果が国内の大学で積極
的に評価されていないという問題は、4 年間で卒業したいという学生とその親の目に
はハイリスクに映る。
また、日本と諸外国の学事暦の違いも、在学中に海外留学や研修に参加することを
阻む構造的原因になっている。最近は欧米だけでなく、アジア諸国でも数週間のサマ
ープログラムを行うところが増えてきたが、6 月から 7 月にかけて開催されるものが
多く、学期中と重なる日本の学生は参加できない。欧米諸国をはじめとする世界の趨
勢に合わせて、8 月または 9 月から学事暦が始まるように改革するのが理想的である
が、クォーター制(4 学期制)を導入すれば、4 月開始の学年度を変更することなく、
国際学生交流における学事暦の違いによる不都合を解決できるという主張も優勢にな
ってきており、さらなる検討が求められる。
3 大学での国際教育交流プログラム開発の遅れ
諸 外 国 に比 べると日 本 の大 学 における国 際 教 育 交 流 プログラムの開 発 は遅 れており、
学 生 の 関 心 を 海 外 留 学・研 修 に 向 け る 努 力 が 欠 け て い る と 言 わ ざ る を え な い 。小 林( 2 0 11 )
は、日本の大学の留学制度とプログラムの画一性を指摘したうえで、留学は一部の優
秀な学生のためのものであるという意識から大学が脱却できていないことから、留学
の希望を持ちながらも、実現が困難な学生への支援が十分できていないこと、さらに
留 学 の動 機 付 けから支 援 が必 要 な学 生 に対 するアプロー チも怠 っていると説 いている。
ま た 、 留 学 プ ロ グ ラ ム の 効 率 性 と い う 点 で も 問 題 が あ る 。 日 本 学 生 支 援 機 構 ( 2 0 13 )
の 調 査 に よ る と 、20 11 年 度 に 外 国 の 大 学 と の 学 生 交 流 に 関 す る 協 定 に 基 づ き 留 学 し た
学 生 は 36,656 人 で あ っ た が 、 当 該 年 度 の 学 生 交 流 協 定 総 数 は 19,102 で あ っ た こ と か
ら 、 1 協 定 あ た り の 派 遣 学 生 数 は 1.9 人 に 留 ま っ て い た こ と に な る ( 高 等 教 育 局 高 等
教 育 企 画 課 、 2 0 13 )。
日 本 の 高 等 教 育 の 課 題 と し て 、い わ ゆ る ト ッ プ 大 学 に お け る 国 際 化 の 遅 れ が 目 立 ち 、
国際教育プログラムの先駆的な事例は、私立大学に集中しているということも指摘さ
れている。しかも、そのような好事例に対して、政府は最近までほとんど支援をして
こなかった。つまり、政府の支援はトップ大学に集中しがちだが、そのような大学は
研究重視であり、国際教育への取組みは遅れていることが多い。そのため、短期の体
験型研修を含め魅力的な留学プログラムは十分に開発されておらず、世界的な潮流と
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なっている、在学中に海外留学を通じて複数の学位(ダブル・ディグリー)を取得で
きるようなプログラム
5
も 少 な い ( 太 田 、 2 0 1 1 a )。 文 部 科 学 省 の 調 査 に よ る と 、 2 0 11
年 に 海 外 の 大 学 と の 交 流 協 定 に 基 づ く ダ ブ ル・デ ィ グ リ ー 制 度 を 導 入 し て い る 大 学 は 、
全 体 の 1 9% で あ っ た ( 高 等 教 育 局 大 学 振 興 課 、 2 0 13 )。 こ の よ う な 留 学 プ ロ グ ラ ム 開
発の遅れの原因のひとつとして、海外の大学と国際教育交流プログラムを共同で運営
できるような能力をもつ専門教職員の雇用と養成ができていないことも挙げられる。
加えて、文部科学省は日本の大学が海外の大学と共同で学位(ジョイント・ディグ
リ ー 6) を 授 与 す る こ と を 未 だ 認 め て い な い 。 国 外 の 大 学 と 連 携 し て 教 育 す る よ う な
複数・共同学位プログラム、あるいは海外でのインターンシップやフィールドワーク
を各大学が大胆に導入することが求められるとともに、政府がそのような大学の取組
みを支援するための制度的整備と政策的支援を積極的に行うことが必要である。この
点 、 文 部 科 学 省 の 「 大 学 の 世 界 展 開 力 強 化 事 業 」( 2 0 1 1 年 開 始 ) 7 及 び 「 グ ロ ー バ ル 人
材育成推進事業
8
」( 20 1 2 年 開 始 ) 9 の 採 択 校 に よ っ て 新 た な 海 外 留 学 プ ロ グ ラ ム が 開
発されることに対する期待は大きい。前者の事業に採択された全大学が、5 年間の事
業 期 間 に 海 外 派 遣 を 計 画 し て い る 学 生 数 の 合 計 は 6,893 人 で あ り 、 後 者 の 場 合 、 同 様
に 事 業 期 間 中 ( 5 年 間 ) に 派 遣 を 計 画 し て い る 学 生 数 の 合 計 は 5 8 , 5 0 0 人 に も 上 る 。留
学プログラムの多様化と量的拡大にあたっては、マンパワーや専門知識・スキルの不
足を補うために、大学が民間の海外留学支援機関との連携を進めることも検討すべき
であろう。
第 4節
学位取得を目指す海外留学に対する阻害要因
1 学士より高い学位を取得してもメリットの少ない雇用システム
知識基盤社会への移行により、先進国を中心に高度人材への需要が高まっており、
それに伴い専門職を中心に修士学位がスタンダード化し、博士学位取得者が民間企業
や公的機関でも多く採用されるというような、高学歴者を求める職業(企業)の多様
化が世界的に進行している。加えて、そのような高い学位を欧米の大学で取得する傾
向が強まっている。これが世界的な海外留学者数の増加の一因でもある。しかしなが
ら、日本では文系で大学院に進むと就職が難しくなる傾向がある。しかも学位より年
功序列優先の賃金体系では、給与面でも高学歴のメリットが少ないため、大学院進学
5
ダブル・ディグリー・プログラムとは、2 つの大学が各々に教育課程を編成するものの、その
実施や単位互換等においては双方が連携・協議し、修了時には双方の大学がそれぞれ学位を授与
するプログラムのこと。
6
ジョイント・ディグリー・プログラムとは、複数の大学により共同で教育課程が編成・実施さ
れ、修了時には、当該複数大学が共同でひとつの学位を授与するプログラムのこと。
7
国際的に活躍できるグローバル人材の育成と大学教育のグローバル展開力の強化を目指し、高
等教育の質保証を図りながら、日本人学生の海外留学と外国人学生の戦略的受入を行うアジア・
米国・欧州等の大学との国際教育連携の取組みを支援することを目的とした事業。詳細について
は 、 次 の ウ ェ ブ サ イ ト を 参 照 の こ と 。 http://www.jsps.go.jp/j-tenkairyoku/index.html
8
2 0 1 4 年 よ り 「 経 済 社 会 の 発 展 を 牽 引 す る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 支 援 」 と 名 称 を 変 更 し 、「 ス ー パ
ーグローバル大学創成支援」とともに「スーパーグローバル大学等事業」に組み込まれている。
通 称 で “ Go Global Japan” と 呼 ば れ る 。
9
経済社会の発展に資することを目的に、グローバルな舞台に積極的に挑戦し世界に飛躍できる
人材の育成を図るため、学生のグローバル対応力を徹底的に強化し推進する組織的な教育体制整
備の支援を行うことを目的とした事業。詳細については、次のウェブサイトを参照のこと。
http://www.jsps.go.jp/j-gjinzai/index.html
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のインセンティブが弱い。この日本独特の雇用システムは、上述の世界のトレンドに
逆行している。ましてや、海外の大学院で学位取得を目指すとなると、それに伴う経
済的かつ時間的投資を将来回収できるという確信や見通しが持てなければ、慎重にな
らざるを得ないというのが現状であろう。
2 短期的なキャリア形成志向
田 中 ( 20 1 0 ) は ブ リ テ ィ ッ シ ュ ・ カ ウ ン シ ル が 行 っ た 調 査 に 基 づ く 考 察 を 通 じ て 、
長期的な経済停滞に伴う雇用不安、海外でのテロや感染症などへの不安から、海外に
長く滞在して学位取得を目指し、その後就職するというようなビジョンを若者が立て
にくい状況になっていると主張している。日本の若者は、キャリアについて短期的な
視点で考えるのが精一杯となってしまうほど、余裕がないということであろうか。一
方 、日 本 で 学 ぶ 外 国 人 留 学 生 を 含 め 海 外 の 学 生 は 、さ ま ざ ま な 経 験 を 積 ん で 3 0 代 前 半
を目途にキャリアを確立するという長期的なプランを立てるのが普通である。大学卒
業時の就職に全力を注ぐ傾向が非常に強い日本の学生とは対象的である。だが、これ
は学生自身の意思の問題というよりも、日本の雇用(採用)慣習が彼らをそう仕向け
ているといえる。新卒一括採用方式の下では、実務経験がないにもかかわらず、大学
卒業時が人生において労働市場での価値が最も高いと認識されているからである。し
かも、長引く経済の停滞による安定志向で、新卒者の多くが大企業に終身雇用ベース
で採用されることを望んでいるともいわれている
10
。こ の よ う な こ と か ら 、日 本 の 大
学卒業という学歴だけで就職活動をしたほうが有利だと考えるような国内完結型のキ
ャリア形成志向が、より合理性を持って受け止められている。入試偏差値の高い大学
の学生であれば、その傾向はさらに強くなる。よって、産業界は通年採用の導入や大
学 卒 業 後 2~ 3 年 間 は 新 卒 と 見 な す よ う な 改 善 が 求 め ら れ る 。
3 国内の大学院で博士学位授与の増加
文部科学省の指導もあり、国内の人文・社会科学系の大学院でも、最近は博士学位
を授与するようになってきた。しかし、皮肉なことに、博士学位の授与率が高くなる
ことによって、研究者を目指す者が留学をしなくなる傾向が見受けられる。学士課程
から継続して大学院へ、あるいは大学院の修士課程から博士課程に内部進学するほう
が博士学位の取得を容易にすると考えられているからである。加えて博士取得後に、
在学した大学に採用される傾向が強くなれば、自校出身者の割合が高まり、教授陣の
多様性が損なわれる。また、徒弟制度的な慣習の残る日本の大学院では、自分の指導
する学生が留学することで研究室の戦力が低下することを懸念し、大学院生の海外留
学 を 好 ま な い 教 員 も 少 な か ら ず い る と い う ( 太 田 、 2 0 1 1 b)。 し か し 、 こ う い っ た 「 大
学院の内向き化」が進めば、結果として、日本の大学の研究における世界的な競争力
10
内 閣 府 の 推 計 に よ る と 、 2012 年 の 春 に 卒 業 し た 大 学 生 約 56 万 人 に つ い て 、 同 じ 人 数 分 の 正 社
員 の 求 人 が あ っ た も の の 、 約 20 万 人 が 正 社 員 と し て 就 職 し て い な か っ た 。 当 該 20 万 人 分 の 求 人
の多くは中小企業であったことから、学生の根強い大企業志向が、中小企業への就職に結びつか
な い 実 態 が 浮 か び 上 が っ た と さ れ て い る ( 読 売 新 聞 、 2 0 1 2 )。 ま た 、 内 閣 府 が 2 0 1 3 年 に 実 施 し た
日 本 と 諸 外 国 の 若 者 の 意 識 に 関 す る 調 査 に よ る と 、「 で き る だ け 転 職 せ ず に 同 じ 職 場 で 働 き た い
( 3 1 . 5 % )」 と 「 つ ら く て も 転 職 せ ず 、 一 生 ひ と つ の 職 場 で 働 き 続 け る べ き で あ る ( 4 . 8 % )」 の 合
計 が 36.3% に 上 り 、 欧 米 諸 国 に 比 べ る と 終 身 雇 用 を 望 む 割 合 が 高 か っ た ( 内 閣 府 、 2014)
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が弱まってくるのではないだろうか。
4 英語圏の大学の授業料高騰
米 国 の 大 学 の 授 業 料 は 、 過 去 1 0 年 間 近 く 毎 年 平 均 で 5~ 1 0 % 程 度 増 加 し て き た 。
C o l l e g e B o a r d ( 2 0 13)に よ る と 、2 0 0 3 年 の 私 立 4 年 制 大 学 の 平 均 授 業 料 は 年 間 1 9 , 71 0
ド ル 、 州 立 4 年 制 大 学 の 州 外 学 生 授 業 料 の 平 均 は 年 間 1 1 , 7 4 0 ド ル で あ っ た が 、 2 0 13
年 に は 私 立 大 が 3 0 , 09 4 ド ル 、 州 立 大 が 2 2, 2 0 3 ド ル ま で 上 昇 し 、 そ の 間 の 上 昇 率 は 前
者 が 5 7 . 0 % 、後 者 が 8 9 . 1 % で あ っ た( 図 表 4 参 照 )。州 立 大 学 の 授 業 料 は 、約 1 0 年 間
でほぼ倍増したことになる。
図表 4
(注)
米国の 4 年制大学における授業料平均の推移
単 位 : US ド ル
出 典 : College Board ( 2013) Trends in College Pricing 2013
ただし、上記の授業料はあくまで全米の平均であり、留学生の多い有力な州立大学
(州立の旗艦大学)に絞るとさらに高額となり、ここ 5 年間での増加率も高いことが
わ か る ( 図 表 5 参 照 )。
図表 5
大
米国の有力大学の授業料と 5 年間の増加率
学
University of California:
Berkeley
Indiana University
Bloomington
U n i v e r s i ty o f Mi c h ig a n
University of North Carolina
at Chapel Hill
University of Oregon
University of Texas at Austin
University of Virginia
University of Washington
2012-13 学 年 度
授業料
5 年間の増加率
35,752
+21.4%
31,483
+28.3%
39,122
+13.6%
28,446
+23.2%
28,660
33,060
37,336
29,983
+34.8%
+22.5%
+23.4%
+23.2%
(注)
授業料は州外学生適用のもの
単 位 : US ド ル
出 典 :College Board ( 2013) Trends in College Pricing 2013
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私 立 大 学 の 場 合 、年 間 の 授 業 料 が 4 , 0 0 0 ド ル か ら 4 5 , 00 0 ド ル を 超 え る も の ま で ば ら
つ き が 大 き い が 、 3 9 ,0 0 0 ド ル 以 上 が 全 体 の 2 6 . 9 % を 占 め て い る ( 中 央 値 は 3 1 , 2 9 0 ド
ル )( C o l le g e B oa r d , 2 0 1 3 )。 都 市 部 に 位 置 し て い る 著 名 な 私 立 大 学 の 場 合 、 40 , 0 00
ドルを超えるところが多い。留学生であっても条件によっては奨学金が支給される場
合 も あ る が 、一 般 的 に は 、上 記 の 授 業 料 に 生 活 費 な ど を 含 め た 年 間 の 必 要 経 費 総 額 が 、
5 0 , 0 0 0 ド ル を 超 え る よ う に な っ て き て い る 。留 学 志 願 者 と し て 提 出 す べ き 銀 行 預 金 残
高証明書は、この金額を上回るように求められており、一般の家庭にとって米国の学
士課程に 4 年間留学させることは困難になっている。社会人が退職して大学院に進も
うと考える場合でも、個人でこのような高額な留学経費を工面するのは非常に難しい
と思われる。
英 国 の 大 学 の 留 学 生 向 け 授 業 料 は 、 2 0 11 - 1 2 学 年 度 で 年 間 9 ,5 0 0 ポ ン ド ~ 30 , 0 0 0 ポ
ンドと専攻によって違いが大きいが、全体的には米国と同様に高額である(ブリティ
ッ シ ュ・カ ウ ン シ ル 、20 1 2 )。オ ー ス ト ラ リ ア の 大 学 の 留 学 生 向 け 授 業 料 も 、年 間 1 5 ,0 00
豪 ド ル ~ 33 , 0 0 0 豪 ド ル と 幅 が 大 き い が 、全 体 的 に 高 額 な 設 定 と な っ て い る( A u s t r ad e,
2 0 1 3 )。留 学 エ ー ジ ェ ン ト の 大 手 で あ る 留 学 ジ ャ ー ナ ル( 2 0 1 3)は 、英 語 圏 の 主 要 大 学
に 留 学 す る 場 合 の 年 間 費 用( 学 費 と 滞 在 費 )を 以 下( 図 表 6 )の よ う に 試 算 し て い る 。
図表 6
英語圏の留学費用年間比較試算
大学(国)
カリフォルニア大学
ロサンゼルス校(米国)
マギル大学(カナダ)
ケ ン ブ リ ッ ジ 大 学( 英 国 )
オーストラリア国立大学
(オーストラリア)
オタゴ大学
(ニュージーランド)
学
費
滞在費
US$36,888
US$14,208
CA$14,891
CA$13,042
₤13,011
₤5,520
AU$23,568
AU$13,034
NZ$21,000
NZ$12,569
合 計
約 518 万 円 ( US$1= 101
円)
約 265 万 円 ( CA$1= 95
円)
約 320 万 円 ( ₤1= 172
円)
約 350 万 円 ( AU$1= 95
円)
約 300 万 円 ( NZ$1= 89
円)
(注) 学費には授業料と諸経費を含む
外 国 為 替 の 換 算 レ ー ト は 、 2014 年 6 月 30 日 現 在
出 典 : 留 学 ジ ャ ー ナ ル ( 2 0 1 3 )『 大 学 留 学 の 費 用 』 の デ ー タ を 元 に 筆 者 が 新 た に 円 に 換 算 し
たもの。
5 日本の家計の悪化
上述の学費高騰に加えて、日本経済の長期停滞で家計が悪化していること、それも
海 外 留 学 の 阻 害 要 因 と 考 え ら れ る 。 総 務 省 統 計 局 ( 2 0 1 3) の 家 計 調 査 に よ る と 、 勤 労
者 世 帯 の 可 処 分 所 得( 1 世 帯 当 た り 、年 平 均 1 ヵ 月 間 )は 、1 99 7 年 の ピ ー ク 時 に 4 9 7 , 0 36
円 で あ っ た が 、20 1 3 年 に は 3 8 0 , 9 6 6 円 ま で 下 が り 、そ の 間 2 3.3 % も 減 少 し た こ と に な
る 。 ま た 、 厚 生 労 働 省 ( 2 0 13 ) の 調 査 に お い て も 、 1 8 歳 未 満 の 未 婚 の 子 ど も を も つ 世
帯 の 平 均 年 間 所 得 ( 1 世 帯 当 た り ) は 、 19 9 6 年 の ピ ー ク 時 に 78 1 . 6 万 円 で あ っ た が 、
2010 年 に は 658.1 万 円 ま で 下 が り 、 そ の 間 15.8% も 減 少 し た
11
。これらの調査結果
と 呼 応 す る か の よ う に 、ベ ネ ッ セ 教 育 開 発 研 究 セ ン タ ー( 2 012 a )が 大 学 の 英 語 教 育 担
11
2 0 1 1 年 は 6 9 7 . 0 万 円 と 回 復 傾 向 を 示 し た ( 厚 生 労 働 省 、 2 0 1 3 )。
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当 責 任 者 を 対 象 と し て 2 0 0 9 年 に 行 っ た 調 査 で も 、「 経 済 的 な 問 題 で 留 学 を あ き ら め る
学 生 が い る 」と い う 回 答 が 5 9 . 7 % に 上 り 、大 学 に お け る 留 学 生 送 出 し の 課 題 と し て 最
も高い比率であった。
第 5節
大学在学中の留学と学位取得を目指す留学に共通な阻害要因
1 学生の海外留学を評価しない雇用者
日本人が海外留学で得た経験を活かすことが、日本社会にとって重要であると考え
られていなければ、海外留学の推進は意味をもたない。現状、海外留学経験に対する
社 会 の 評 価 は 曖 昧 で あ り 、応 分 に 評 価 さ れ て い る と は 言 い が た い 。多 く の 日 本 企 業 が 、
グローバル対応力の強化と事業の海外展開推進のために、グローバル人材の雇用と養
成( 人 材 マ ネ ジ メ ン ト の グ ロ ー バ ル 化 )が 課 題 で あ る と し て い る が
12
、2 0 1 2 年 の 調 査
で は 、6 ~ 7 割 の 企 業 は 新 卒 採 用 の 選 考 過 程 で 海 外 留 学 経 験 を 考 慮 し て 評 価 す る メ カ ニ
ズムを有しておらず、留学経験者を採用するための特別な配慮や措置も講じていない
( デ ィ ス コ ・ キ ャ リ ア リ サ ー チ , 2 0 12 )。
そもそも、企業が留学経験のある日本人学生の受入れに積極的ではないことを示す
調 査 結 果 も あ る 。 2 0 10 年 に 経 済 同 友 会 ( 20 1 0 ) が 実 施 し た ア ン ケ ー ト 調 査 に よ る と 、
海 外 留 学 経 験 を 就 職 希 望 者 の 選 考 の 際 に「 プ ラ ス 」に 評 価 す る と 回 答 し た 企 業 は 、30 . 3%
で あ っ た 。 ま た 、 2 0 12 年 に 経 済 同 友 会 ( 20 1 2 ) が 行 っ た 調 査 に よ る と 、 直 近 1 年 間 の
新 卒 者 採 用 に お い て 、6 6 . 3 % の 企 業 が 海 外 経 験 を も つ 日 本 人 学 生 を「 募 集 し た が 採 用 せ
ず 」、 ま た は 「 募 集 せ ず 」 と 回 答 し た 。 こ れ ら の デ ー タ は 、 企 業 の 採 用 状 況 を 示 す も の
であるが、政府の公務員採用や大学の教員・研究者採用においても、留学によって得
られた経験と獲得された知識や技能が制度的に評価されているとはいえず、留学経験
者 は 適 切 に 処 遇 さ れ て い な い ( 太 田 、 2 0 11 b )。 経 済 団 体 や 政 府 が 唱 え る グ ロ ー バ ル 人
材 需 要 の 高 ま り と 企 業 な ど の 新 卒 採 用 現 場 と の ギ ャ ッ プ は 大 き い 。こ れ で は 、
「広い世
界に出て、アウェーでも実力を発揮できるようにせよ」と若者を鼓舞しても現実味が
ない。
2 要求される語学力の高度化
2006 年 、 英 語 能 力 試 験 TOEFL
( T e s t o f E n g l i s h a s a F o r e ig n L a n g u a ge ) が 、「 読
む 」、
「 聞 く 」、
「 話 す 」、
「 書 く 」の 4 技 能 統 合 型 の T O E F L- i B Tへ と 移 行 し た 。そ の 結 果 、
全体的な難易度が高まっただけでなく、日本人が得意だった文法問題がセクションと
しては外される一方、苦手なスピーキングが追加された。現状、対策講座などの特別
な 準 備 な し で は 、高 い ス コ ア を 取 る こ と が 難 し く な っ て い る 。2 0 1 3 年 に 実 施 さ れ た T O EF L
に 関 す る 年 次 レ ポ ー ト に よ る と 、 国 ・ 地 位 別 順 位 で 日 本 の ス ピ ー キ ン グ の 平 均 点 ( 17
点 ) は 世 界 最 下 位 で あ り 、 合 計 点 ( 70 点 ) も ア ジ ア で 最 下 位 か ら 3 番 目 で あ っ た
13
( E d u c a t io n a l Te s t in g S e r v i ce , 2 0 14 )。
世界的な非母語話者の英語力向上により、英語圏の有力大学は、近年留学志願者に
12
経 済 産 業 省 ( 2010) の 調 査 に よ る と 、 海 外 拠 点 を 設 置 す る 企 業 に お い て 、 グ ロ ー バ ル 化 を 推 進
す る 人 材 の 確 保 ・ 育 成 に 課 題 を 感 じ て い る 企 業 は 74.1% に 上 っ て い る 。
13
最 下 位 は 東 チ モ ー ル の 62 点 、 ラ オ ス と タ ジ キ ス タ ン が と も に 68 点 、 そ し て カ ン ボ ジ ア が 69
点であった。
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求める英語能力試験のスコア設定を高めている
14
。2 0 1 3 年 、米 国 の 留 学 生 数 ラ ン キ ン
グ 上 位 2 0 校 、ア イ ビ ー ・ リ ー グ 8 校 、名 門 リ ベ ラ ル ・ ア ー ツ 13 校 の 合 計 4 1 校 が 、留
学 生 と し て 出 願 す る 者 に 要 求 す る T O EF L ス コ ア の 平 均 点 は 9 5 . 8 点 と な っ て お り
15
(セ
レ ゴ ・ ジ ャ パ ン 、 2 0 13 )、 先 の 日 本 人 平 均 点 ( 7 0 点 ) と は 2 5 点 以 上 の か い 離 が あ る 。
同様に、英国やオーストラリアにおいても有名校ほど要求スコアが高くなっており、
たとえ留学したくても求められる英語能力を満たせない日本人が増えている。それが
また、英語離れ、ひいては留学離れにつながっているという指摘もある。翻って韓国
や 中 国 で は 、 英 語 力 が 着 実 に 向 上 し て お り 、 日 本 ほ ど T O E FL - i B T の 問 題 が 深 刻 に は な
っ て い な い 。 両 国 と も i B T が 導 入 さ れ た 20 0 6 年 以 降 、 日 本 よ り は 高 い 平 均 点 を 維 持 し
て い る ( 図 表 7 参 照 )。 特 に 韓 国 の ス コ ア の 上 昇 が 目 覚 ま し い 。
インターネットの普及とグローバル化により、英語が実質的な世界共通言語となっ
ていることから、それを一定以上のレベルで使いこなせないというのは、世界に伍し
て競争する際に決定的な障害となる。この点からもワールド・スタンダードを基準と
して、日本の英語教育を根本的に見直す必要に迫られている。
図表 7
日 中 韓 の T O EF L - i B T 平 均 点 の 推 移
( 注 ) 120 点 満 点
出 典 : 複 数 年 に ま た が る Educational Testing Service, “ Test and Score Data Summary
For TOEFL-iBT Tests” 等 を 集 計
3 少ない海外留学のための奨学金
こ れ ま で 、日 本 が 受 入 れ る 外 国 人 留 学 生 向 け の 奨 学 金 に 比 べ る と
16
、日 本 人 の 海 外
留学に対する政府の経済的支援は少なかった。背景には、海外留学は個人の選択と責
任であるという考え方があり、また、かつて多くの日本人は奨学金がなくても留学し
た た め 、 あ え て 政 府 が 支 援 す る 必 要 性 は 高 く な か っ た と も い え る ( 太 田 、 2 0 11 b )。 た
14
T O E F L の 合 計 点 だ け で な く 、各 セ ク シ ョ ン に つ い て も 要 求 ス コ ア を 設 定 す る 大 学 が 増 え て い る 。
15
留 学 生 数 ラ ン キ ン グ 上 位 20 校 が 求 め る TOEFL ス コ ア の 平 均 点 は 86.7 点 、 ア イ ビ ー ・ リ ー グ 8
校 で は 101.5 点 、 名 門 リ ベ ラ ル ・ ア ー ツ 13 校 の 場 合 は 99.1 点 で あ る 。
16
2009 年 、 外 国 人 留 学 生 の 27.8% は 政 府 系 の 奨 学 金 を 受 給 し て い た ( 高 等 教 育 局 学 生 ・ 留 学 生
課 、 2 0 1 0 )。
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だし、昨今の停滞する経済状況と、それに伴う家計の悪化を考慮すれば、海外留学に
おける経済的支援の重要性は非常に高くなっている。そうした状況を踏まえ、政府は
ここ数年、海外留学に関する奨学金(海外留学支援制度
17
:8 日以上 1 年以内の留学
を対象とした短期派遣奨学金、および修士または博士の学位取得を目指す長期派遣奨
学 金 )の 予 算 を 増 額 し て い る
18
。2 0 0 9 年 度 の 6 . 3 億 円( 短 期 派 遣 が 7 4 0 名 、長 期 派 遣
が 5 0 名 )か ら 2 0 1 3 年 度 の 3 5 億 円( 短 期 派 遣 が 1 0 , 0 0 0 名 、長 期 派 遣 が 2 0 0 名 )へ と 、
4 年 間 で 5 . 5 倍 も 増 加 し た ( 図 表 8 参 照 )。 さ ら に 2 0 1 4 年 度 、 文 部 科 学 省 は 政 府 と 企
業が連携して官民の新たな仕組み
19
を 構 築 し 、海 外 留 学 奨 学 金 の 予 算 を 前 年 度 比 で 倍
以上に増額した。短期派遣については、前年度(1 万人)から倍増の 2 万人、長期派
遣 に つ い て は 、 前 年 度 か ら 50 人 増 で 250 人 の 受 給 者 を 予 定 し て い る 。
図表 8
政府による日本人の海外留学に関する奨学金予算額の推移
出典:複数年にまたがる文部科学省『予算の概要』から抜粋
しかし一方で、既存の民間や外国政府系の各種海外留学奨学金への応募者数が減少
し て い る と い う 話 も あ り 、「 奨 学 金 が あ っ て も 留 学 し な い 」 と い う 指 摘 も あ る ( 太 田 、
2 0 1 1 b )。 ま た 、 急 増 す る 政 府 奨 学 金 の 後 押 し も あ り 、 大 学 在 学 中 に 留 学 す る 学 生 は 全
17
こ の 制 度 は 2013 年 度 ま で は 「 留 学 生 交 流 支 援 制 度 」 と 呼 ば れ て い た 。
18
政 府 の「 日 本 再 興 戦 略 」に よ る と 、日 本 人 の 海 外 留 学 者 数 に つ い て は 、2 0 2 0 年 ま で に 約 6 万 人
( 2 0 1 0 年 ) か ら 1 2 万 人 へ 倍 増 さ せ る と し て い る ( 首 相 官 邸 、 2 0 1 3 )。 そ の 方 針 を よ り 具 体 化 す る
た め に 、 2 0 1 4 年 、 文 部 科 学 省 を は じ め と す る 関 係 府 省 庁 は 、「 若 者 の 海 外 留 学 促 進 実 行 計 画 」( 内
閣 官 房 ・ 内 閣 府 ・ 外 務 省 ・ 文 部 科 学 省 ・ 厚 生 労 働 省 ・ 経 済 産 業 省 ・ 観 光 庁 、 2014) を 策 定 し た 。
19
「 官 民 協 働 海 外 留 学 支 援 制 度 ~ ト ビ タ テ ! 留 学 JAPAN 日 本 代 表 プ ロ グ ラ ム ~ 」
( http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1345533.htm)
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体 と し て 増 加 傾 向 に あ る が 、留 学 期 間 の 短 期 化 が 顕 著 と な っ て い る
20
こ と か ら 、留 学
の 成 果 お よ び 多 額 の 奨 学 金 に 対 す る 投 資 効 果 が 懸 念 さ れ て い る( 中 西 、2 0 1 4)。海 外 留
学の裾野を広げつつ、グローバルな頂点を目指す学生をどう生み出すか、真のグロー
バル人材の育成にどう結び付けるかが問われている。
4 リスク回避と安全志向
感染症、テロ、自然災害、地域紛争などの影響から、組織も個人も危機管理が厳し
く問われるような時代になり、リスクをできるだけ回避する学生の安全志向が強くな
っ て い る 。加 え て 、昨 今 の 厳 し い 経 済 状 況 と 雇 用 状 況 を 反 映 し て 、学 生 は 投 資( 費 用 )
対効果に、より一層敏感になっている。つまり、学生の活動(行動)や進路に関する
選択は、それぞれの選択肢に必要な投資と予測される利益の計算だけでなく、各選択
肢に伴うリスクも考慮した、ある意味非常に合理性の高いものになっている。筆者は
海外留学に関する授業を担当しているが、学生から海外留学に伴うメリットだけでな
く、デメリットやリスクも明示してほしいという依頼をたびたび受けるようになって
き た 。一 昔 前 ま で は 、留 学 を 勧 め る 際 に 、
「 行 け ば わ か る 」、
「とにかく一度行ってくれ
ば よ い 」と い う よ う な 言 葉 で 背 中 を 押 し た も の だ が 、今 の 時 代 そ れ で は 説 得 力 が な い 。
田 中( 2 01 0 )は 、ブ リ テ ィ ッ シ ュ・カ ウ ン シ ル の 調 査 に 基 づ き 、最 近 の 学 生 に つ い て 、
敢えてリスクを負ってでも海外に飛び出し、知力と体力の限界に挑戦してみようとす
るよりは、日本国内でできることの中から、それなりにやりたいことを探したほうが
無難と考える傾向が強まっていると指摘する。留学してみたいという気持ちはあって
も 、周 囲 の 状 況 を よ く 見 渡 し た と き 、
「 海 外 留 学 は リ ス ク が 高 い 」と 学 生 の 目 に 映 る こ
とが留学者数の減少をもたらしているといえる。
少 子 化 の 影 響 で 親 が 過 保 護 に な り が ち で あ り 、「 子 離 れ し な い 親 」、 そ し て 「 親 離 れ
し な い 子 」の 関 係 は 強 ま り 、
「 か わ い い 子 に は 旅 を さ せ よ 」は 過 去 の も の に な っ た と い
われている。そのうえ、親の高学歴化が進んだことで、子どもの自主性を重んじて、
大学のことは子ども自身に任せるという前の世代とは異なり、率先して子どもの大学
の こ と や 進 路 に つ い て 関 わ ろ う と す る あ ま り 、親 の 過 干 渉 が 増 え て い る と い う( 染 谷 、
2 0 0 6 )。よ っ て 、 学 生( 子 ど も ) に 留 学 の 希 望 が あ っ て も 、 実 際 に そ れ が 実 現 で き る か
どうかは、学生の自主性より、親の意識や判断にかかっているところが大きい
21
。
大学側も別な意味で安全志向を強めており、海外研修・留学プログラムにおいて、
派遣先で本来ならば、学生として普通にできるようなことまで含めて禁止するように
なってきている。事故や事件の可能性をできるだけ未然に排除するという危機管理の
重 要 性 は 理 解 で き る が 、安 全 性 を 過 度 に 追 求 す れ ば 留 学 先 で の 学 び の 機 会 が 制 限 さ れ 、
本 来 的 な 留 学 の 魅 力 が 失 わ れ て い く ( 太 田 、 2 0 1 1 b)。 未 知 へ の 挑 戦 や 冒 険 に 伴 う 危 険
性に対してある程度寛容でなければ、そもそも留学は成り立たないことを再認識すべ
20
日 本 学 生 支 援 機 構( 2 0 1 4 )の 調 査 に よ る と 、2 0 1 2 年 度 に 大 学 間 の 協 定 等 に 基 づ き 海 外 留 学 し た
日 本 人 学 生 全 体 ( 43,009 人 ) の う ち 56.3% ( 24,220 人 ) が 1 ヵ 月 未 満 の 留 学 で あ っ た 。
21
2012 年 に ベ ネ ッ セ 教 育 開 発 研 究 セ ン タ ー ( 2012b) が 行 っ た 大 学 生 の 保 護 者 に 関 す る 調 査 に よ
る と 、留 学 経 験 の あ る 保 護 者 は 、8 割 強(「 と て も そ う 思 う : 3 3 . 6 % 」と「 ま あ そ う 思 う : 4 6 . 9 % 」
の 和 )が 子 ど も に 海 外 留 学 を 経 験 さ せ た い と 思 っ て お り 、 そ う で な い 保 護 者 の 4 割 強 (「 と て も そ
う 思 う : 11.7% 」 と 「 ま あ そ う 思 う : 30.5% 」 の 和 ) に 比 べ て 、 倍 近 い 割 合 に な っ て い る 。
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きではないだろうか。海外留学は本来画一的にパッケージ化することが困難なもので
あり、たとえ同じ大学に複数の学生が同時期に行ったとしても、一人ひとりの取り組
み方や姿勢によって、実際の経験と、そこから得られる満足感や達成感は大きく変わ
ってくる。失敗や挫折のような一見ネガティブに映る体験も含めて、すべてが学びの
要素になるという原点に返って、大学は学生の主体性と自主性をより引き出せるよう
な工夫をすべきであろう。
5
22
日本というコンフォート・ゾーン
への滞留
日本がこれまでに築き上げた成熟した経済は誇るべきものであるが、それは同時に
情報とモノであふれ返った社会、極度に便利で居心地の良すぎる社会になっている。
その結果、皮肉なことではあるが、若者はそのコンフォート・ゾーンから飛び出し、
敢えて海外の異なった環境の下、多種多様な習慣や文化をもつ人々にもまれ、渡り合
いながら、自分の力で状況を切り開いていくような苦労をすることに価値を見出せな
くなってきている。また、インターネットの普及によって、未知の世界との関わり方
も変わってきた。仮想現実での安易な疑似体験が可能となり、実際に外国に行って自
らの目で確かめ、体験することの意義が曖昧になっているように思われる。さらに、
日本の高度に発達した翻訳システムにより、海外の小説や映画がすぐに翻訳版・字幕
版で普及するようになったこと、外国への修学旅行や家族旅行が増加したことなどか
ら、海外がより身近になった分、かえって外の世界への憧れや興味が薄れてきている
23
( 太 田 、 2 0 1 1b )。
グローバル化によって、外国での出来事が日々の暮らしを直撃し、経済、社会、文
化を含めあらゆることが諸外国との相互依存関係のうえに成り立っているにもかかわ
らず、身近な環境や人間関係など手の届く範囲での幸せに満足し、ぬるま湯的な感覚
のままで自己完結できるような錯覚に陥っているのではないだろうか。恵まれた環境
にいる時こそ、慣れ親しんだ場所(コンフォート・ゾーン)から新しい分野や未知の
世界に向けて飛び出し、異文化に身を置き、そこでの不便さや難しさを体験すること
で得られる学びの大きさを実感することが必要であろう。自国の慣習や常識にとらわ
れず、異なった価値観や概念の中でもまれることで、異文化適応力・対応力が向上す
るだけでなく、自己の確立にもつながる。つまり、国境をまたぐ能力が身につくと同
時に、日本を外から客観的、相対的に見ることで、日本語や日本文化に対する理解が
よ り 深 ま る と い え る ( 太 田 、 20 1 1 b )。
第 6節
内向き化と二極化
ここまで見てきた学生を取り巻く状況を勘案しつつ日本でのキャリア形成を考えた
場合、海外留学が学生にとって現実的な選択肢として見えてこないのではないかとい
22
コンフォート・ゾーンとは、居心地がよいと感じる場所や状況、または、そこにいれば安心で
き る 慣 れ 親 し ん だ 場 所 の こ と 。日 本 語 で は 安 心 領 域 と も 呼 ば れ 、
「 ぬ る ま 湯 に 浸 か っ て い る 」状 態
を指す。
23
若 者 の 海 外 旅 行 離 れ が 進 ん で お り 、出 入 国 管 理 統 計 に よ る と 、2 0 ~ 2 9 歳 の 海 外 旅 行 者 数 は 1 9 9 6
年 の 4 6 3 万 人 を ピ ー ク に 減 少 し 、2 0 1 1 年 に は 2 8 1 万 人 と ピ ー ク 時 に 比 べ て 3 9 . 3 % 減 少 し た( た だ
し 、 2 0 1 2 年 は 3 0 3 万 人 と 回 復 傾 向 を 見 せ て い る )( 法 務 省 入 国 管 理 局 、 2 0 1 4 )。 同 様 に 2 0 代 の 出
国 率 も 1 9 9 6 年 の 2 4 % を ピ ー ク に 減 少 し 、 2 0 0 9 年 は 1 8 % で あ っ た ( 吉 田 、 2 0 1 1 )。
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う 懸 念 を 持 た ざ る を 得 な い 。過 去 の 経 済 成 長 期 に は 、
「 自 分 探 し 」の た め に 大 学 を 休 学
して海外を放浪したり、現状や社会への不満から海外に活路を求めようとしたりする
若者の事例をよく耳にした。その時代に比べると、将来に向けて「回り道」をしてで
も自己を研鑽する、あるいは大きな夢(そもそも夢をもちにくい時代ともいわれてい
る )に 向 か っ て じ っ く り 時 間 を か け る と い う よ う な 余 裕 が な く な り 、国 内 で 要 領 よ く 、
効率的にそれなりの成果を収められればよい、という志向が大勢になっているという
ことなのかもしれない。かつては、不況や雇用状況の悪化こそ、海外留学を促す契機
となっていた。海外に出て自分の能力を高めてから就職するという選択肢があった。
時 に 円 高 は そ れ を 後 押 し し た 。米 国 に お け る 留 学 生 数 で 日 本 人 が 第 1 位 だ っ た 9 0 年 代
中盤が、まさにそのような時期であった。しかし、世界金融危機以後の不況下では、
史上まれにみる円高という追い風が吹いたにもかかわらず、留学者数の増加は見られ
なかった。しかしながら、日本の若者が内向き化していると結論づけるのも早計であ
ろう。
産 業 能 率 大 学 ( 2 01 3) が 2 0 1 3 年 に 新 入 社 員 ( 1 8 歳 か ら 2 6 歳 ) を 対 象 に 行 っ た グ ロ
ー バ ル 意 識 調 査 に よ る と 、 ① 「 海 外 で は 働 き た く な い 」 と い う 回 答 が 5 8 . 3% と 過 半 数
を 占 め た が 、②「 ど ん な 国・ 地 域 で も 働 き た い 」も 2 9 . 5% と 過 去 最 高 を 示 し 、③「 国 ・
地 域 に よ っ て は 働 き た い 」( 1 2. 2 % ) と 合 わ せ る と 、 4 1 . 7 % で あ っ た 。 20 0 1 年 の 同 調
査 結 果 と 比 べ る と 、 ① の 海 外 志 向 が 弱 い 層 は 29.2% か ら 29 ポ イ ン ト あ ま り 増 加 し て
い る が 、② の 海 外 志 向 が 強 い 層 も 1 7 . 3 % か ら 約 1 2 ポ イ ン ト 上 昇 し た こ と か ら 、
「海外
志向が強い層」と「海外志向が弱い層」に二極化が進んでいると分析している(図表
9 参 照 )。① の 理 由( 複 数 回 答 可 )に つ い て は 、
「 自 分 の 語 学 力 に 自 信 が な い 」が 65 .2 %
で 最 も 高 く 、 次 い で 「 海 外 勤 務 は 生 活 面 で 不 安 」 が 5 0. 4 % と 高 く 、 リ ス ク 回 避 志 向 を
示 す と と も に 、 そ も そ も 「 海 外 に 魅 力 を 感 じ な い 」 も 35.5% あ り 、 内 向 き 化 を 裏 づ け
るような値も出ている。
図表 9
新入社員のグローバル意識
出 典 : 産 業 能 率 大 学 ( 2 0 1 3 )『 第 5 回 新 入 社 員 の グ ロ ー バ ル 意 識 調 査 』
ま た 、 内 閣 府 大 臣 官 房 政 府 広 報 室 ( 20 1 0) が 2 0 10 年 に 実 施 し た 労 働 者 の 国 際 移 動
に 関 す る 世 論 調 査 に よ る と 、 20 歳 代 で は 、「 外 国 で 働 く こ と に 関 心 が あ る 」 と 「 ど ち
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ら か と い え ば 関 心 が あ る 」 と い う 回 答 が そ れ ぞ れ 2 0 . 0% ず つ で 、 そ の 和 ( 4 0 . 0% ) は
「 関 心 が な い 」 の 4 0. 0 % と 同 じ 比 率 で あ っ た 。「 関 心 が な い 」 理 由 ( 複 数 回 答 可 ) に
ついては、
「語学力に自信がない」
( 52 . 3 % )と「 外 国 で 生 活 す る こ と に 不 安 を 感 じ る 」
( 47.1% ) が 上 位 を 占 め 、 外 国 語 力 の 不 足 と リ ス ク 回 避 志 向 と い う 留 学 阻 害 要 因 に 共
通するものがある。
上記の 2 つの調査結果を参照すれば、若者の意識は海外志向が強い層と弱い層に分
化していると見るべきであろう。最近の論調では、近年の海外留学・旅行者数の減少
を端緒に若者が国外に出なくなったのは、彼らの心理的な変化(内向き化)によるも
のだということがとかく強調されがちで、社会的、経済的、政治的な状況の変化につ
いては、あまり検証されていない。日本をめぐる状況が大きく変化したことで、日本
そ の も の が 内 向 き 、後 ろ 向 き 、下 向 き に な っ て お り 、そ れ が ガ ラ パ ゴ ス 化
24
などの社
会現象となって表れ、若者の行動志向・選択にも影響を与えているのではないだろう
か。つまり、若者の意識が本質的に内向き化しているというよりは、現状の日本の有
り様が彼らの目線を内側に向かわせていると解釈すべきであろう。しかしながら、日
本人の海外留学離れという現象自体は、グローバル化の進展する世界で、日本の存在
感を危うくする。国際舞台で堂々と自らの意見を発言し、世界を唸らせるようなグロ
ーバル人材が育たないことは、対外的な情報発信力を弱めるだけでなく、日本の競争
力と魅力の低下につながり、海外の影響力ある人物や有能な人材を日本に惹きつける
ことができなくなることをも意味する。特に科学技術の分野では、世界のトップ大学
で博士の学位を修得し、海外で活躍する日本人研究者のネットワークが崩壊すれば、
ノーベル賞級の科学者を育てる基盤がなくなる。これは国家の命運を左右するといっ
ても過言ではない。グローバル人材育成に関する問題解決のためには、海外留学によ
るメリットを若者が実感できるような仕組みを作るべく、政府、実業界、教育界が一
丸となって取組む必要がある。
* 本 稿 は 、太 田 浩 ( 20 1 3 )
「 日 本 人 学 生 の 内 向 き 志 向 再 考 」横 田 雅 弘 ・ 小 林 明 編 『 大 学
の 国 際 化 と 日 本 人 学 生 の 国 際 志 向 性 』 学 文 社 , p p . 6 7 - 93 か ら 抜 粋 し 、 最 新 の デ ー タ
と動向を加筆したものである。日本人学生の国際志向性に関する大規模調査の結果や
日 本 、米 国 、韓 国 の 学 生 国 際 交 流 政 策 に 関 す る 考 察 に つ い て は 、本 書 を 参 照 さ れ た い 。
h t t p : / / w ww . g a k ub u n sh a . c o m / c gi - l o c al / s ea r c h . c g i ?i d = b o ok & i sb n = 9 7 8 - 4 -7 6 2 0 - 23 9 5 8
24
ガ ラ パ ゴ ス 諸 島 に お い て 独 自 の 進 化 を と げ た 生 体 の よ う に 、国 内 だ け で 技 術 や サ ー ビ ス な ど が
独自の方向性をもって進化し、発展を遂げながらも、結果として世界標準から掛け離れてしまう
現象。
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海外留学することの意義
- 平 成 23・24 年 度 留 学 生 交 流 支 援 制 度 (短 期 派 遣・シ ョ ー ト
ビ ジ ッ ト ) 追 加 ア ン ケ ー ト 調 査 分 析 結 果 か ら )-
Benefits of Study Abroad Experience:
Results from Additional Survey and Analysis for Japanese
Students Supported by the Student Exchange Support
Program (Scholarships for Short-Term Visit
Program/Short-Term Study Abroad Program)
in 2011 and 2012
名古屋大学
国際教育交流センター
野水
勉
明治大学
政治経済学部
新田
功
N O M I Z U T su t o m u ( I n te r n a t i o n al E d u ca t i on & E x c h an g e C en t e r, N a g o y a U n i v e rs i t y )
N I T T A I s ao ( S c ho o l o f P o l i t ic a l S ci e n ce a n d E c on o m i c s, M ei j i U n i v er s i t y )
キーワード:短期留学派遣、ショートビジット、海外留学
はじめに
文 部 科 学 省 が 所 管 し 、 日 本 学 生 支 援 機 構 (J A S S O ) が 実 施 す る 『 留 学 生 交 流 支 援 制 度 』
( 平 成 2 6 年 度 か ら『 海 外 留 学 支 援 制 度 』と し て 引 き 継 が れ て い る )は 、平 成 7 年 度 に
文 部 省( 当 時 )に て 策 定 さ れ た『 短 期 留 学 推 進 制 度 』を 平 成 20 年 度 に 引 き 継 ぎ 、平 成
2 2 年 度 ま で は 、 3 カ 月 ~ 1 年 間 の 「 短 期 受 入 れ 」 お よ び 「 短 期 派 遣 」、 並 び に 学 位 取
得を目的とした1年以上の「長期派遣」の3カテゴリーの留学受入れまたは海外派遣
留 学 を 支 援 す る 制 度 と し て 推 進 さ れ て き た 。1 9 9 0 年 代 に 米 国 の J u n i o r Y e a r A b r o ad や
欧 州 の ERASMUS 計 画 等 に お い て 、 短 期 間 の 留 学 ( 交 換 留 学 ) が 推 進 さ れ て い た こ と を
背景に、日本でも国費外国人留学生制度とは異なる新たな留学生受入れ支援策として
『 短 期 留 学 推 進 制 度 』が 策 定 さ れ た 経 緯 が あ っ た た め 、平 成 22 年 度 ま で は 、短 期 留 学
受 入 れ の 予 算 支 援 に 重 点 が 置 か れ て い た( 平 成 2 2 年 度 文 部 科 学 省 予 算:
「短期受入れ」
1 , 8 0 0 人 、「 短 期 派 遣 」 7 6 0 人 、「 長 期 派 遣 」 9 0 人 )。
し か し 、 こ の 10 年 間 に 日 本 人 学 生 の 海 外 留 学 数 の 減 少 傾 向 が 明 ら か と な る 中 で 、
日本人学生のグローバル人材としての育成の重要性が各方面から指摘され、また国内
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外からサマープログラム等の3カ月未満の短期間の留学生受入れプログラム支援の要
請 も 高 ま っ て い た た め 、文 部 科 学 省 は 平 成 2 3 年 度 に 3 カ 月 の 留 学 受 入 れ と 留 学 派 遣 の
両 方 を 推 進 す る た め に 、こ れ ま で の 留 学 生 交 流 支 援 制 度 に 2 つ の カ テ ゴ リ ー を 加 え て 、
「 留 学 生 交 流 支 援 制 度( シ ョ ー ト ス テ イ )」、
「 留 学 生 交 流 支 援 制 度( シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト )」
を 発 足 さ せ 、そ れ ぞ れ 年 間 7 , 0 0 0 人 の 支 援 を 開 始 し た 。平 成 24 年 度 は 、2 つ の カ テ ゴ
リ ー が そ れ ぞ れ 6 , 3 00 人 に や や 縮 小 さ れ た も の の 、 3 カ 月 ~ 1 年 間 の 「 留 学 生 交 流 支
援 制 度 ( 短 期 派 遣 )」 の 方 は 、 7 6 0 人 か ら 2, 2 8 0 人 の 3 倍 の 予 算 増 と な り 、 受 入 れ と 派
遣が同規模となった。
と こ ろ が 、 平 成 24 年 6 月 に 『 留 学 生 交 流 支 援 制 度 』 が 文 部 科 学 省 行 政 事 業 レ ビ ュ
ーの対象となり、
「 短 期 受 入 れ 」、「 短 期 派 遣 」、「 長 期 派 遣 」、「 シ ョ ー ト ス テ イ 」、「 シ ョ
ートビジット」の 5 つのカテゴリー全部に対して、抜本的改善を求める評価結果とな
っ た 1。 レ ビ ュ ー の 中 で は プ ロ グ ラ ム 要 件 や 効 果 に 対 す る 厳 し い 意 見 が 寄 せ ら れ 、 こ
の 結 果 を 受 け て 文 部 科 学 省 は 、 平 成 25 年 度 か ら 「 シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト 」 を 「 短 期 派 遣 」
に、そして「ショートステイ」を「短期受入れ」に統合し、語学力、学業成績、家計
基 準 等 の 条 件 を 付 与 ま た は 強 化 す る こ と と な っ た ( 平 成 2 5 年 度 支 援 人 数 は 、「 短 期 受
入 れ 」 5 , 00 0 人 、「 短 期 派 遣 」 10 , 0 0 0 人 、「 長 期 派 遣 」 2 0 0 人 と 、 受 入 れ と 派 遣 の 人 数
が 逆 転 し た )。 ま た 、『 留 学 生 交 流 支 援 制 度 』 に よ る 留 学 支 援 の 効 果 を 丁 寧 に 調 査 す る
必 要 性 が 確 認 さ れ 、平 成 2 5 年 度 か ら 日 本 学 生 支 援 機 構 の 中 に「 留 学 生 交 流 支 援 制 度 ・
評価分析委員会」が設置されることとなった。
平 成 25 年 度 の 「 留 学 生 交 流 支 援 制 度 ・ 評 価 分 析 委 員 会 」 は 、 ま ず 派 遣 関 係 の カ テ
ゴ リ ー で あ る 平 成 2 3・ 2 4 年 度「 短 期 派 遣 」お よ び「 シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト 」の 奨 学 金 受 給
者 を 対 象 に 、留 学 の 効 果 を 調 査 す る た め の 追 加 ア ン ケ ー ト 調 査( 平 成 2 5 年 8 ~ 9 月 に
実 施 ) を 実 施 し 、 さ ら に 特 に 優 れ た プ ロ グ ラ ム 事 例 を 調 査 し 、 選 ば れ た 代 表 事 例 10
件 の 事 例 報 告 会 を 平 成 26 年 3 月 に 東 京 ・ 大 阪 の 2 会 場 に 分 け て 実 施 し た 。 平 成 25 年
度 の 評 価 分 析 は 派 遣 関 係 に 絞 り 、受 入 れ 関 係 は 平 成 2 6 年 度 に 実 施 す る こ と を 予 定 し た 。
本 稿 は 、 追 加 ア ン ケ ー ト 調 査 ( 平 成 25 年 8 ~ 9 月 に 実 施 ) の 結 果 を 集 計 し 、 分 析
した結果に基づき、それぞれの制度における留学の効果を報告する。著者は、評価分
析委員会並びに同委員会の下で編成されたワーキンググループ(以下WGと略す)2
に 参 画 し 、W G を 代 表 し て 本 稿 を 執 筆 し た 。 ク ロ ス 分 析 は 、統 計 ソ フ ト I BM SP S S を 用
いて主に行った。
追加アンケートの目的と調査項目の設定
前述の通り、
『 留 学 生 交 流 支 援 制 度 』に は 、
「 短 期 受 入 れ 」、
「 短 期 派 遣 」、
「 長 期 派 遣 」、
「 シ ョ ー ト ス テ イ 」、「 シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト 」 の 5 つ の カ テ ゴ リ ー が あ る が 、「 長 期 派 遣 」
は、以前より別に委員会が組織されていたため、評価分析委員会に残る4カテゴリー
の 評 価 分 析 が 委 ね ら れ た 。し か し 、平 成 25 年 度 内 に 4 つ の カ テ ゴ リ ー す べ て の 調 査 分
析 を 終 え る こ と は 困 難 と 判 断 し 、海 外 派 遣 関 係 の 2 つ の カ テ ゴ リ ー「 短 期 派 遣 」
「ショ
ー ト ビ ジ ッ ト ( 以 下 S V と 略 す )」 の 調 査 分 析 を 先 行 さ せ た 。
残 念 な が ら 、 前 身 の 制 度 で あ る 『 短 期 留 学 推 進 制 度 』( 平 成 7 年 度 発 足 ) を 含 め て 、
支援された学生を対象とする全国的な調査はこれまで行われておらず、アンケート調
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査の雛型となる事例は限られていたため、WG委員がこれまで行ってきた先行事例
や日本人学生の国際志向性の調査事例
4-6
3
を 参 考 に 、W G で 独 自 に 組 み 上 げ た 。で き る
だ け 詳 細 な 調 査 が 望 ま し い と こ ろ で は あ る が 、平 成 23・2 4 年 度 に 支 援 を 受 け た 学 生 を
対象とした追加アンケートであり、十分な回答率を確保する必要もあったため、回答
しやすい質問項目に厳選する必要があった。
追加アンケートの説明の前に、日本学生支援機構が「留学生交流支援制度」の支援
対象者に対して、留学修了時に行っていたアンケート項目と結果の概要(平成23年
度 ) を 図 1 に 示 す ( 回 答 率 : ( 短 期 派 遣 ) 62 . 7 % 、( シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト ) 4 1 . 3% )。 こ れ を
踏まえ、追加アンケートの質問項目を最終的に表1の構成とした。
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まず、学生の条件や背景によるクロス分析をして比較評価をすることも想定し、基
本情報の項目として、海外留学・研修時の学年、期間、留学先地域、留学・研修前オ
リエンテーションの有無、留学・研修中インターンシップの有無等を設定した。加え
て、海外生活経験の有無や期間、海外旅行経験とその通算期間によって、学生の意識
の差が現れると考え、問1にその質問項目を設定した。
問2は本制度を利用して経験した海外留学・研修の効果を学生本人がどう自己評価
しているか、学業関連4項目、語学関連4項目、異文化理解関連5項目、進学・就職
関連3項目、そしてその他にグローバルな視野等4項目を加えた全20項目から効果
があったと感じた項目を選択させた。問3と問4は、それぞれ海外留学・研修後の語
学力と学業成績の変化を尋ねた。
問5は、今回のアンケート調査において、とくに重点をおいて組み込んだ質問項目
である。学生の海外派遣に携わる関係者の多くが、海外留学から帰国した学生に対し
て感ずる点は、語学力だけでなく、積極性、リーダーシップ、コミュニケーション能
力、異文化への理解等、人間として成長して帰国したことを強く感ずることである。
こ れ ら を 指 標 化 す る こ と を 考 え 、2 0 0 6 年 に 経 済 産 業 省 が 提 唱 し 、各 方 面 で 参 照 ま た は
利 用 さ れ て い る 「 社 会 人 基 礎 力 」 評 価 12 項 目 に 着 目 し た
7
。 2009 年 に 源 島 福 己 が 当
時 在 籍 し て い た 秋 田 県 の 国 際 教 養 大 学 の 海 外 留 学 経 験 学 生 に 対 し て 、「 社 会 人 基 礎 力 」
を利用して、留学未経験者と比較評価して、顕著な差を報告している
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。 ま た 、 2010
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年に経済産業省グローバル人材育成委員会は、グローバル人材に求められる共通の能
力 と し て ①「 社 会 人 基 礎 力 」、② 外 国 語 で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 、③「 異 文 化 理 解 ・
活用力」の3つを掲げている
9
。 検 討 し た 結 果 、「 社 会 人 基 礎 力 」 評 価 1 2 項 目 を 活 用
す る と と も に 、W G と し て 新 た に 、
「 異 文 化 理 解 ・ 活 用 力 」と し て 3 項 目「 外 国 人 と の
協 働 力 」「 異 文 化 理 解 力 」「 異 文 化 間 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 」 を 加 え る こ と と し た 。 そ
して、各項目の能力に対する自己評価(0~3の4段階評価)と、その評価が留学・
研 修 後 に 向 上 し た か ど う か ( 能 力 向 上 ( 1 )、変 化 な し ( 0 ) 、能 力 低 下 ( - 1 ) ) を 尋 ね た 。
本来ならば、留学・研修後に各能力が向上したかどうかを聞くよりも、能力評価を留
学前に実施して、留学前後を比較することが望ましかったが、本調査が後追いのもの
だったためにやむを得なかった。
問 6 で は 、本 事 業 に よ る 留 学・研 修 目 的 の 達 成 度( 満 足 度 )を 10 点 満 点 で 評 価 さ せ 、
最後の問7は自由記述意見の記入項目とした。
尚、対象学生へのアンケート調査と同時に、学校側の採択プログラム実施責任者に
も追加アンケート調査を実施し、問2と同じ内容の留学の効果を質問したところ、学
校側回答はほとんどすべての項目を選択する回答が多く、差が見いだせなかったため
に、その評価分析を断念した。
基本情報に基づく全体像
平 成 2 3・2 4 年 度 留 学 生 交 流 支 援 制 度 の「 シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト 」
( 以 下 S V と 略 す )と「 短
期派遣」に採択されたプログラムに基づき、奨学金の支援を受けた学生に対して、平
成 2 5 年 8 月 2 6 日 ~ 9 月 1 1 日 に 、学 生 の 所 属 す る 大 学 等 を 通 じ て 追 加 ア ン ケ ー ト 調 査
を行った。
表2に、今回の追加アンケートの大学等学校種別の回収数と全体の回収率を示す。
留学修了時に実施し回答させているアンケートではなく、学生によっては1年近く経
っ て か ら の 追 加 ア ン ケ ー ト で あ っ た た め 、平 成 2 4 年 度「 短 期 派 遣 」を 除 く と 回 収 率 は
2 0 ~ 3 0 % に 留 ま っ た が 、こ の 種 の 調 査 と し て 、こ れ だ け の 数 の 調 査 結 果 が 集 ま っ た こ と
に 大 き な 意 義 が あ っ た 。 平 成 24 年 度 「 短 期 派 遣 」 の 対 象 学 生 は 、 平 成 25 年 夏 に 帰 国
し た 学 生 が 多 か っ た た め 、回 収 率 が 4 0% 近 く ま で 上 昇 し た 。学 校 種 別 で は 9 7% 以 上 が 大
学 で あ っ た が 、平 成 23 年 度 ま で 同 制 度 が 短 期 大 学 、高 等 専 門 学 校 等 を 対 象 と し て い な
かったために、これらの学校で制度の認知度が低かったことや、教育カリキュラムに
余裕がないこと等から取り組みがほんの一部に留まっているものと考えられる。
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図 2 ( a ) は 、 大 学 に 所 属 す る 学 生 の 留 学 ・ 研 修 開 始 時 の 学 年 の 分 布 で あ る 。「 S V 」
の 場 合 は 、学 部 1・2 年 で 留 学 す る 割 合 が 5 0 % 以 上 を 占 め 、こ れ に 対 し て「 短 期 派 遣 」
で は 学 部 1 年 で 留 学 す る 割 合 は 5 %以 下 で あ り 、 学 部 2 年 が 約 3 0 % 、 学 部 3 年 が 約 40 %
と 両 学 年 で 7 0% を 越 え る 。「 短 期 派 遣 」の 場 合 に 学 部 1 年 生 が 極 端 に 少 な い の は 、協 定
大学との交換留学が中心であり、多くの場合に応募者審査に大学の成績が要求される
ことや、日本での学内応募から派遣先大学の入学許可までに半年以上のプロセスを経
ることが多いため、学部 1 年での「短期派遣」が一般に困難であることが大きな理由
であろう。
「 S V 」に お い て 、平 成 2 3 年 度 と 2 4 年 度 を 比 較 す る と 、修 士 1 年 の 割 合 が
倍増している。制度の継続性を確認し、修士課程の教育プログラムに組み込んだ大学
が少なくなかったためではないかと思われる
10
。
図 2 ( b ) は 、 留 学 ・ 研 修 期 間 の 分 布 で あ る 。「 S V 」 と し て 採 択 さ れ る プ ロ グ ラ ム の
留 学 ・ 研 修 期 間 の 条 件 は 3 カ 月 未 満 で あ る が 、 2 週 間 以 内 の プ ロ グ ラ ム が 30-40%で 、
1 カ 月 以 内 の プ ロ グ ラ ム が 8 0 % 以 上 を 占 め て い る 。「 短 期 派 遣 」 と し て 採 択 さ れ る プ ロ
グラムは、3カ月以上1年未満が留学期間の条件であるが、6カ月以上1年未満が平
成 2 3 年 度 は 8 0 % 以 上 、 平 成 2 4 年 度 は 約 70 % を 占 め る 。 平 成 2 4 年 度 は 「 短 期 派 遣 」 の
奨 学 金 支 援 人 数 が 前 年 度 の 1.5 倍 近 く に 増 え た た め 、 そ れ ま で は 限 ら れ た 奨 学 金 を 半
年 以 上 の 学 生 に 優 先 し て 割 り 当 て て い た も の が 、平 成 2 4 年 度 は 半 年 未 満 の 学 生 へ の 割
り当てを増やした大学が多くあったと思われる。
図 3 は 、 留 学 ・ 研 修 先 の 地 域 の 分 布 で あ る 。「 S V 」 と 「 短 期 派 遣 」 で は 分 布 が 大
き く 異 な る 。協 定 大 学 と の 交 換 留 学 が 一 般 的 な「 短 期 派 遣 」の 場 合 は 、北 米 が 3 0 - 40% 、
西 ヨ ー ロ ッ パ が 3 0 %前 後 を 占 め 、 オ セ ア ニ ア が 2 - 3 % と 意 外 に 少 な い 。 中 国 、 韓 国 、 台
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湾 の 東 ア ジ ア に 約 2 0% 、A S E A N 諸 国 に 3 - 4 % の 学 生 が 留 学 し て お り 、こ の 数 年 ア ジ ア 地
域へ留学する学生が増えてきたことを物語る。
「 S V 」の 場 合 は 、北 米 、西 ヨ ー ロ ッ パ
が そ れ ぞ れ 2 5% 、 2 0 %前 後 に 減 少 し 、 オ セ ア ニ ア が 1 0 %前 後 に 増 え 、 ア ジ ア 地 域 が 大 き
く 増 加 し て い る 。 A S EA N 諸 国 が 「 短 期 派 遣 」 の 3 - 4 % か ら 「 S V 」 で は 1 2 - 20 % と 大 き
く拡大している。
図 4 (a)は 、 留 学 ・ 研 修 に 参 加 し た 学 生 の 、 海 外 在 住 経 験 ( 海 外 生 活 、 長 期 滞 在 な
ど 日 常 生 活 の 基 盤 を 海 外 に 置 い た 経 験 )、そ し て 図 4 ( b ) は 海 外 旅 行 の 経 験 で あ る 。
「S
V 」で は 8 0 %、
「 短 期 派 遣 」で は 6 5 %が 1 カ 月 を 越 え る 海 外 在 住 経 験 が な い 学 生 で あ る 。
一 方 、 海 外 旅 行 の 経 験 の な い 学 生 は 「 S V 」 で 3 0 % 程 度 、「 短 期 派 遣 」 で は 2 0 % 弱 に 減
少 す る 。 た だ し 、 海 外 旅 行 1 -2 回 の 経 験 者 が い ず れ も 3 0 ~ 4 0% を 占 め る 。 図 4 ( c ) は
海 外 旅 行 経 験 者 の 中 で 、通 算 し た 旅 行 期 間 に つ い て 尋 ね た が 、
「 S V 」で も「 短 期 派 遣 」
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で も 6 0 % 近 く が 1 カ 月 未 満 で あ る 。従 っ て 、
「 留 学 生 交 流 支 援 制 度 」の 支 援 学 生 の 7 0 -8 0 %
は海外旅行経験があるものの、通算1カ月以上の海外旅行経験はそのうちの3割程度
に留まり、1カ月以上海外に居住し日常生活を経験した学生はさらに限られることが
確 認 さ れ た 。し か し 、
「 短 期 派 遣 」に 参 加 し た 学 生 の 中 で 、1 ~ 3 カ 月 あ る い は 3 カ 月
~1年の海外在住経験のある学生の割合が「SV」に比べて大きく拡がっていること
は注目すべき点である。これは「短期派遣」に参加する前に、語学研修プログラム等
で 1 カ 月 ほ ど 、ま た は そ れ 以 上 の 海 外 滞 在 を 経 験 し て い る こ と を 物 語 っ て い る 。
「SV」
の よ う な 1 - 3 カ 月 の 短 期 プ ロ グ ラ ム を 経 験 し た 学 生 が 、一 定 の 割 合 で 、よ り 長 期 の 留
学・研修として「短期派遣」に参加しているものと推定される。
表 4 は 、 留 学 ・研 修 前 に オリ エンテ ーションが実 施 されたかどうか、そして留 学 ・研 修 中 の
インターンシ ッ プの有 無 を 質 問 した 調 査 結 果 であ る。「SV」の場 合 は、60%以 上 が十 分 なオリ
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エンテ ーシ ョンがあ り 、不 十 分 なものも含 めれば 95%近 くが実 施 されている回 答 であ った 。こ
れらに 比 べて短 期 派 遣 の数 字 がやや低 いのは、交 換 留 学 の情 報 収 集 を 学 生 自 ら調 査 して
留 学 希 望 先 を 選 び、応 募 書 類 を 半 年 以 上 前 から準 備 する過 程 で種 々の情 報 を入 手 してい
ること、人 数 を 集 めるオリ エンテ ーシ ョン形 式 でなく、個 別 対 応 が多 いこと、等 が理 由 ではな
いかと推 察 される。
留 学 ・研 修 中 のインターンシ ッ プの実 施 に ついては、全 体 として 10%前 後 で実 施 されてい
ることが確 認 された 。インターンシ ッ プに よって、学 生 の留 学 体 験 がさらに 豊 富 化 することが
予 想 され、後 述 するクロス分 析 でそ の効 果 を確 認 する。
自己評価に基づく海外留学・研修の効果
アンケート問2において、本制度を利用して経験した海外留学・研修の効果につい
て、学業関連4項目、語学関連4項目、異文化理解関連5項目、進学・就職関連3項
目 、そ し て そ の 他 4 項 目 の 全 2 0 項 目 か ら 選 択 さ せ た( 複 数 回 答 可 )。各 項 目 に つ い て 、
何 %の 学 生 が 選 択 し た か に つ い て 平 成 24 年 度 の も の を 図 5 に 示 す 。 選 択 数 が 無 制 限 で
あったため、結果がまとまりにくい心配があったが、調査母数が多かったために、結
果として有意な差のあるデータが得られた。
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全 部 の 項 目 で ほ ぼ 40%以 上 の 学 生 が 効 果 あ っ た と 回 答 し て お り 、
「 短 期 派 遣 」の 学 生
が、
「 S V 」の 学 生 の 数 字 を す べ て 上 回 っ て い る こ と も 興 味 深 い 。ま た 、そ の 差 が 大 き
かった質問項目は、学業関連の①~③、語学関連の⑤語学力の向上と⑦外国語での研
究発表や議論の仕方の向上、就職関連の4項目、その他の⑰困難を自力で乗り越える
力量の向上、⑳海外の人間関係・人脈の構築であった。これらのいずれの項目も「S
V」のような短期間(ほとんどが1カ月以内)では達成しにくく、半年あるいは1年
滞在する「短期派遣」で大きな効果となることから妥当な結果が得られた。
一方、
「 S V 」の 場 合 は 、語 学 関 連 の ⑥ 外 国 語 で 発 言 す る 勇 気 や 慣 れ 、⑧ 語 学 の 勉 強
へ の モ チ ベ ー シ ョ ン の 向 上 、異 文 化 理 解 関 連 の ⑨ ~ ⑫ の 4 項 目 、⑱ 視 野 の 拡 大 ( 日 本 で
は 得 に く い 視 点 の 獲 得 )の 項 目 に 対 し て 、 70%以 上 の 学 生 が 効 果 が あ っ た と 回 答 し て い
る 。異 文 化 理 解 関 連 は 、
「 短 期 派 遣 」と の 差 が い ず れ も 少 な い 結 果 で あ っ た 。海 外 生 活
経 験 が 全 く な い か 1 カ 月 未 満 の 学 生 が 8 0% に 及 ぶ 「 S V 」 の 学 生 に と っ て 、「 S V 」 で
の海外経験は、異文化理解への大きな刺激となり、語学力向上への動機づけとなった
ことは間違いない。
留学・研修後の語学能力と学業成績の向上
図6は、アンケートの問3、問4において、留学・研修後に語学能力と学業成績が
向 上 し た か ど う か を 尋 ね た 結 果 で あ る 。問 3 で は 、さ ら に TO EF L , T OE I C 等 の 語 学 能 力
評 価 試 験 の ス コ ア も 回 答 さ せ た が 、 記 載 が 少 な く 、 統 計 処 理 は で き な か っ た 。「 S V 」
対 象 者 の 6 0 % 、「 短 期 派 遣 」 は 9 0 %前 後 が 、 語 学 力 の 向 上 を 実 感 し て い る 。 一 方 、 学 業
成 績 の 方 は 、「 S V 」対 象 者 の 4 0 - 50 % 、「 短 期 派 遣 」 は 5 0 - 6 0 %前 後 が 、 学 業 成 績 向 上 を
実感したという回答である。
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社会人基礎力と異文化理解・活用力の自己評価
図 7 は 、 社 会 人 基 礎 力 1 2 項 目 お よ び 異 文 化 理 解 ・ 活 用 力 3 項 目 に 対 す る 、 (a ) 自 己
評 価 点( 0 ~ 3 の 4 段 階 評 価 )と 、そ の 評 価 が 留 学 ・ 研 修 後 に 向 上 し た か ど う か (能 力
向 上 ( 1 )、変 化 な し (0 ) 、能 力 低 下 ( - 1 )) の 評 価 点 を 平 均 し た 結 果 で あ る 。各 項 目 の
「 S V 」と「 短 期 派 遣 」の 平 成 2 3・ 2 4 年 度 の 4 つ の デ ー タ は い ず れ も 似 通 っ た も の で
あ る が 、「 S V 」 と 「 短 期 派 遣 」 の そ れ ぞ れ で 、 平 成 2 3・ 2 4 年 度 の 数 値 が さ ら に 近 接
している。対象者が全く異なるにもかかわらず、数字がこれだけ近接するのは、デー
タ数の多い場合の統計の妙というべきものであるが、小さな数字の差もそれなり意味
を 持 っ て く る よ う に な る 。全 体 と し て は 、留 学・研 修 経 験 に よ っ て 、項 目 3( 実 行 力 )、
9 ( 柔 軟 性 )、 1 0( 状 況 把 握 力 ) の 評 価 が 他 よ り や や 高 く 、 1 4( 異 文 化 理 解 力 ) と 1 5
(コミュニケーション力)は、かなり高い自己評価となっている。ほとんどの項目で
「 短 期 派 遣 」 の 自 己 評 価 が 「 S V 」 の 数 字 を 上 回 り 、 項 目 3 、 項 目 4 ( 課 題 発 見 力 )、
項 目 1 3 ( 外 国 人 と の 協 働 力 )、 項 目 1 4 、 項 目 1 5 は 、 大 き な 差 が 現 れ て い る 。
これら各項目が留学・研修後に向上したかどうかについての平均値は、ほとんどが
0 . 5 を 上 回 っ た 。「 能 力 が 低 下 し た ( - 1 )」 と 回 答 し た 学 生 は す べ て の 項 目 で 2 % 以 下
であり、マイナスの効果はほとんど無視できるため、数字は「能力が向上した」と回
答した学生の割合をほぼ示していると言える。項目間の比較では、異文化理解・活用
力 の 項 目 1 4 ~ 項 目 16 が 留 学・研 修 後 向 上 し た と の 回 答 が 多 い 。
「 S V 」と「 短 期 派 遣 」
を 比 べ た 場 合 、 項 目 1 ( 主 体 性 )、 3 ( 実 行 力 )、 4 ( 課 題 発 見 力 )、 1 2( ス ト レ ス ・ コ
ン ト ロ ー ル 力 )、1 3( 外 国 人 と の 協 働 力 )で 、は っ き り と し た 差 が 現 れ 、大 半 が 6 カ 月
以上の長期の留学によって鍛えられる能力が浮かび上がってきている。
クロス分析による留学・研修前オリエンテーションと留学・研修中インターンシップ
の効果
留学・研修前オリエンテーションが十分に行われた対象者とそれ以外の対象者、留
学・研 修 中 イ ン タ ー ン シ ッ プ が 実 施 さ れ た 対 象 者 と 実 施 さ れ な か っ た 対 象 者 に 対 し て 、
問2の成果項目、問5の能力評価をクロス分析した結果、評価が向上した項目(平成
24年度分)を表5に示す。
表の上半分の問2では、オリエンテーションの実施による評価向上は、数項目に留
ま る が 、下 半 分 の 問 5 で は 、多 数 の 項 目 で 評 価 向 上 が 見 ら れ た 。
「 S V 」で は 明 ら か に 、
「十分なオリエンテーションを実施している」と感じている学生が、自己能力評価が
向上しており、明らかな効果が示されている。
「短期派遣」の場合は、表4の考察でも述べたように、長期間様々な準備を行って
いるため、留学・研修直前のオリエンテーションの実施がそれほど意識されていない
のではないかと思われる。
インターンシップの場合は、問2も問5も、多くの項目でその評価を向上させてい
る。勉学だけでなく、留学・研修先の会社や組織での共同作業、研究等を通じて、文
化や習慣の違いを乗り越えて協働作業を行うことが要求されるため、それらに関連し
た項目をいずれも評価していることがうかがわれる。
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留学・研修目的の達成度(満足度)とクロス分析に基づく傾向分析
追加アンケートの最後の質問として、留学・研修目的が十分に達成されたかどうか
を 1 0 点 満 点 の 評 価 点 で 答 え て い る が 、図 8 に そ の 評 価 点 の 分 布 と 平 均 点 を 示 す 。ア ン
ケ ー ト 対 象 者 が 異 な る に も 関 わ ら ず 、 分 布 は 極 似 し て お り 、「 S V 」 の 平 均 点 が 平 成
2 3 年 度 7 . 8 、 2 4 年 度 7 . 6 に 対 し て 、「 短 期 派 遣 」 が 両 年 度 と も 8 . 0 と や や 上 回 っ て い
る程度であり、本制度における留学・研修目的の達成度(満足度)はかなり高いレベ
ル で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。た だ し 、追 加 ア ン ケ ー ト の 回 答 率 が 2 0 - 4 0 % で あ る こ と を
考えると、満足度の比較的高い学生が回答している可能性が高く、高めの結果となる
ことを念頭におかなければならない。
これまで紹介した基礎データや質問項目に対して、種々のクロス分析を行った。こ
れまで見てきた通り、
「 S V 」と「 短 期 派 遣 」の デ ー タ に は 差 が は っ き り 現 れ て い る が 、
そ れ ぞ れ の 平 成 2 3 年 度 と 平 成 2 4 年 度 の 間 に は 、あ ま り 差 が な い た め 、平 成 2 4 年 度 の
データに対してのみクロス分析を行った。
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表6は、今回の調査の「短期派遣」の全体的傾向と、クロス分析を行った結果によ
っ て 見 い だ さ れ た 傾 向 を 合 わ せ て ま と め た も の で あ る 。表 7 は 同 様 に 、
「 S V 」に 対 し
てまとめたものである。
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全体のまとめ(1)-「短期派遣」
「 留 学 生 交 流 支 援 制 度 ( 短 期 派 遣 )」 は 、「 短 期 留 学 推 進 制 度 」 か ら 脈 々 と 受 け 継 が
れてきた、学術交流協定を締結している大学(協定大学)との3カ月以上1年未満の
交 換 留 学 に 参 加 す る 学 生 を 主 な 支 援 の 対 象 と し た 制 度 で あ り 、 7 0 - 8 0 %が 半 年 以 上 の 滞
在 で あ る ( 図 2 ( b) )。 多 く の 場 合 、 交 換 留 学 に 参 加 す る 学 生 は 、 派 遣 先 大 学 の 受 入 れ
条 件 の 語 学 能 力 に 達 し た 上 で 留 学 が 許 可 さ れ る が 、多 く の 日 本 人 学 生 が 最 初 の 2 - 3 カ
月は勉学が容易でない経験をする。派遣先大学の英語または母国語による授業を十分
に聞き取ることができず、クラスのディスカッションやグループ・プロジェクトにな
かなか入っていけない状況を経験する。それでも交換学生は単位を持ち帰ることを想
定しているため、何とか理解しようと奮闘し、様々な専門講義を聞き取り、ディスカ
ッションやプレゼンテーション、レポート作成に対応する。逃げ場のない環境の中で
実践的な語学力が否応無しに鍛えられるため、結果として交換留学による語学力向上
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は、1~2カ月程度の語学留学とは比較にならない。
また、人間関係でも、最初は友人をつくることにも苦労するが、黙していても何も
伝わらないため、自らを奮い立たせ、積極的に人間関係をつくることによって困難を
克服し、新しい世界が拡がる経験をする。このような経験こそが、図5の社会人基礎
力や異文化理解・活用力の高い自己評価となり、様々な海外の環境で活躍できる人材
の基礎力を育む。
以上のような交換留学経験者の話から、図5や図7を見直すと、図5の留学の効果
で は 、「 学 業 関 連 」 で ① 専 門 分 野 の 知 識 や ② 専 門 用 語 の 習 得 、「 語 学 関 連 」 で は ⑤ 語 学
力 、⑥ 外 国 語 で 発 言 す る 勇 気 や 慣 れ 、
「 異 文 化 理 解 関 連 」の ⑨ ~ ⑬ 、そ し て そ の 他 項 目
では⑰困難を自力で乗り越える力量の向上、⑱視野の拡大、⑳海外の人間関係・人脈
の構築、の回答率が高いことを確認できる。また、図7では、1主体性、3実行力、
4 課 題 発 見 力 、 9 柔 軟 性 、 10 状 況 把 握 力 、 12 ス ト レ ス ・ コ ン ト ロ ー ル 力 、 13 外 国 人
と の 協 働 力 、1 4 異 文 化 理 解 力 、1 5 異 文 化 間 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 、の 能 力 が 特 に 向 上
し た こ と を 自 己 評 価 し て い る 。外 国 語 で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 だ け で な く 、
「社会
人 基 礎 力 」、「 異 文 化 理 解 ・ 活 用 力 」 等 、 国 際 社 会 で 活 躍 で き る 資 質 ・ 能 力 を 合 わ せ て
鍛えてきたからこそ、学生交流関係者の多くが、半年~1年の交換留学を終えて帰国
した学生の人間としての著しい成長ぶりを目の当たりにすることと思われる。
このような経験から、学生交流関係者は、学生が 1 カ月程度の留学に満足すること
なく、少なくとも単位取得を前提とした、半年~1年の交換留学を多くの学生に実現
してほしいという願いである。しかし、協定大学から「交換留学」での受入れが認め
られるためには、協定大学が要求する授業についていけるだけの語学力を準備してお
かなければならない。学生が要求する語学力に達していなければ、語学力の準備や留
学 へ の 積 極 的 な 心 構 え と い う 点 で 、「 S V 」 の 取 り 組 み は 重 要 な 意 味 を も つ 。
今回の調査で、
「 派 遣 留 学 」で は 北 米 や 西 ヨ ー ロ ッ パ 地 域 へ の 海 外 留 学 ・ 研 修 が や は
り大きな割合を占めるが、東アジアやアセアン諸国への交換留学が一定の割合に増え
てきており、中国・韓国・台湾は、留学目的の満足度が高い傾向が見られた。アジア
諸国で活躍できるグローバル人材が産業界からも大いに期待されているため、全体の
交換留学による派遣を増やすとともに、アジア地域への交換留学もさらに推進するこ
とが望まれる。
全 体 の ま と め ( 2 ) - 「 シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト ( S V )」
「 留 学 生 交 流 支 援 制 度 ( シ ョ ー ト ビ ジ ッ ト ( S V ))」 は 、 滞 在 期 間 が 3 カ 月 未 満 と
いうことで最低滞在日数の条件もなく、柔軟な制度として出発したため、申請採択さ
れた留学・研修プログラムには、様々な目的を持った多種多様なプログラムが含まれ
ている。フィールドワークや派遣先協定大学学生との討議等を加味した語学力強化プ
ログラムが多数含まれる一方、フィールドワークやインターンシップを中心とするも
の、研究室での専門研究・研修、国際会議への参加等、多種多様なプログラムが申請
さ れ 、採 択 さ れ た 。に も か か わ ら ず 、
「 S V 」支 援 学 生 の ア ン ケ ー ト 回 答 の 平 均 値 と し
て の 結 果 は 、留 学 の 効 果 の 自 己 評 価( 図 5 )も 、自 己 能 力 評 価( 図 7 )も 、
「短期派遣」
のそれぞれの結果をやや下回るものの、傾向のよく似た結果となっている。
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「 S V 」 対 象 者 は 、 30 % は 海 外 旅 行 経 験 が な く 、 8 0 %以 上 は 1 カ 月 以 上 の 海 外 在 住 経
験がないという学生であったため、それらの学生を巻き込んで、留学の裾野を拡げた
ことは間違いない。また、教育カリキュラムが非常に詰まっていて、半年でも留学を
することに躊躇するような学部や大学院学生に対して、学期の合間を利用できる「S
V 」は そ れ ら の 学 部・大 学 院 関 係 者 に 大 い に 歓 迎 さ れ 、そ の 点 で も 裾 野 を 拡 げ て い る 。
そして、多様なプログラムの「SV」対象者が、留学の効果や自己能力評価をこれ
だけ高く自己評価していることは、参加したプログラムの目的への達成度(満足度)
が 高 か っ た こ と と も 合 わ せ て 意 義 深 く 、平 成 2 3 年 度 新 規 に 開 始 さ れ た「 S V 」は 、対
象者に大きな意義と効果をもたらしたと考えて良いと思われる。
ただし、個々の「SV」プログラムは、新しく企画されたものも少なくないため、
より詳細なアンケート調査を行う中で、細かい問題点が学生から指摘されて、一時的
に評価を下げ、改善に取り組んで評価をまた上げる例も少なくない
3,10
。
ま た 、 細 か く 見 る と 、 留 学 の 効 果 の 自 己 評 価 ( 図 5 ) で は 、「 短 期 派 遣 」 と 「 S V 」
の間に、③専門用語の習得、⑦外国語での研究発表や議論の仕方の向上、⑰困難を自
力で乗り越える力量の向上、の項目において顕著な差が見られたが、他の項目では差
が 少 な い 。と く に 、図 7 の 能 力 の 自 己 評 価 の 場 合 、絶 対 的 な 評 価 で 言 え ば 、
「短期派遣」
と 比 べ る と 大 き な 差 が あ る は ず で あ る 。し か し 、対 象 学 生 の 主 観 的 な 自 己 評 価 の た め 、
「SV」ではあっても、学生にとっては未知の体験であり、大きな刺激を受けて、自
己能力の向上を大きく評価した結果となり、
「 短 期 派 遣 」の 場 合 の 能 力 の 自 己 評 価 と 同
様な結果をもたらしたものと思われる。
「 短 期 派 遣 」 の 場 合 に は 、 留 学 を 経 験 し た 学 生 が 、「 社 会 人 基 礎 力 」 と 「 異 文 化 理
解・活 用 力 」の そ れ ぞ れ の 能 力 を 高 め 、人 間 と し て の 大 き な 成 長 を 遂 げ て い る こ と を 、
図7の結果がよく示していることを述べたが、
「 S V 」の 場 合 は「 短 期 派 遣 」と 同 じ レ
ベルの能力を身につけた、というわけにはいかないように思われる。
学 生 交 流 の 関 係 者 が 心 配 す る の は 、「 S V 」 で こ れ だ け 高 い 自 己 評 価 を す る と 、 留
学を十分に経験したような思いとなり、
「 派 遣 留 学 」へ の モ チ ベ ー シ ョ ン が 下 が っ て し
ま う の で は な い か 、と い う 点 で あ る 。現 に 、
「 S V 」の よ う な 1 カ 月 程 度 の 留 学 は 増 え
ても、半年~1年の交換留学があまり増えない、という関係者の声を最近よく聞いて
いる。
最 初 の ア ン ケ ー ト( 図 1 )問 5 に お い て 、
「 本 事 業 に よる留 学 を経 て、より 長 期 の留 学
を した いと思 うか」に 対 して、「SV」対 象 者 の約 50%が「非 常 に 思 う」、約 35%が「思 う」と回
答 しており、「SV」の帰 国 直 後 は長 期 留 学 のかなりのモチベーションがあるかと思 われるの
「短期派遣」
で、「 S V 」の 場 合 、留 学・研 修 前 の オ リ エ ン テ ー シ ョ ン も 重 要 で あ る が 、
を 促 す 、留 学 ・研 修 後 の フ ォ ロ ー ア ッ プ 研 修 も 大 変 重 要 で は な い か と 思 わ れ る 。ま た 、
「SV」対象者が実際に長期留学をどれだけ実現したかの追跡調査が肝要であると思
われる。
尚 、留 学 ・ 研 修 先 に つ い て は 、
「 派 遣 留 学 」で 割 合 の 高 い 北 米 や 西 ヨ ー ロ ッ パ の 割 合
が 大 き く 減 り 、 オ セ ア ニ ア 、 東 ア ジ ア 、 AS E A N 諸 国 が そ の 分 大 き く 割 合 が 増 え て い る
点は有意義である。現地を一度訪問すれば、その地域への愛着と安心感から、その地
域 の「 派 遣 留 学 」を 後 押 し す る き っ か け に も な る た め 、
「 S V 」で 留 学 ・ 研 修 先 の 地 域
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が拡がることは大変意義深い。
最後に
国費を使って留学支援を行う以上、その費用対効果を十分に説明する必要がある、
というのが行政事業レビューや国の財布を預かる財務省等からの指摘である。残念な
がら、日本学生支援機構も、交換留学を実施する各大学の関係者も、この種の説明の
準 備 が 足 り な か っ た こ と は 正 直 な と こ ろ で あ る 。 冒 頭 で 説 明 し た 経 緯 か ら 、 平 成 25
年8月に調査分析委員会が発足し、年度内に一部報告することを目指して、8月には
平 成 2 3・2 4 年 度 対 象 者 に 遡 っ て 追 加 の ア ン ケ ー ト 調 査 を せ ざ る を 得 な か っ た た め 、さ
まざまな課題を抱えつつ、駆け足で実施した。
留学がどのように効果的か、効果や利点を列挙することはできても、それが量的に
どれほどの効果があるかを示すことは容易ではない。本来ならば留学前と比べて何が
どれだけ変化したか、留学しない学生とどのような差が生ずるかを論ずることも肝要
と思われる。また、回答者の主観的評価も一要素であるが、客観的、絶対的な指標も
加えなければ、様々なデータの比較に限界がある。さらに、留学の効果は、留学直後
の効果だけでなく、進路選択や就職活動、そして社会人として活躍する中で現れてく
る。むしろ、社会人としての活躍の差に大きく反映されるのではないだろうか。従っ
て 、 留 学 の 効 果 を 十 分 に 説 明 す る た め に も 、 個 人 を 追 跡 し 、 2 -3 年 後 、 5 年 後 、 10
年後も視野に入れた長期的な調査も望ましい。
ただし、網羅的な調査を積み上げていくためには、比較評価できる項目と指標を関
係者の間で早期に確立する必要がある。その意味で、今回の調査によって留学の効果
の 全 体 像 が 把 握 で き た こ と と 、留 学 の 効 果 を 図 る 上 で 、源 島 の 先 行 研 究 事 例 を 踏 ま え 、
「 社 会 基 礎 力 」と「 異 文 化 理 解 ・ 活 用 力 」の 1 5 項 目 を 有 効 な 能 力 評 価 項 目 と し て 提 起
できたことは、大変意義深かったと思われる。
平 成 26 年 度 は 、 留 学 生 受 入 れ 側 で あ る 「 短 期 受 入 れ 」 と 「 シ ョ ー ト ス テ イ 」 の 調
査を実施し、同様な評価分析を行い、年度内に派遣と受入れを合わせた報告書を作成
する予定である。そして、評価分析をここで終わらせず、可能であれば、もっと精度
を上げた評価分析が行えるように、
『海外留学支援制度』
(『 留 学 生 交 流 推 進 制 度 』が 平
成 2 6 年 度 か ら 同 制 度 に 再 編 さ れ た )の 対 象 者 全 員 に 対 し て 、留 学 前 、留 学 直 後 、そ し
てその後の追跡調査を継続的に実施していく体制の構築が望まれる。これらのデータ
に よ っ て 、留 学 に 二 の 足 を 踏 む 学 生 た ち に も 、留 学 の 意 義 や 効 果 、社 会 で の 貢 献 等 を 、
より説得力を持って説明できることになるのではないかと期待される。関係者のご意
見・ご批判を仰ぎたい。
1.
文 部 科 学 省 行 政 事 業 レ ビ ュ ー 「 公 開 プ ロ セ ス 」 評 価 者 の コ メ ン ト ( 2 0 1 2. 6 . 2 0 )
h t t p : / / w ww . m e x t. g o .j p / c o m p o ne n t / a _m e n u/ o t h e r / d et a i l / __ i c sF i l e s / a f ie l d f i l
e / 2 0 1 2 / 0 6/ 2 0 / 1 32 2 3 54 _ 1 . p d f
2.
留 学 生 交 流 支 援 制 度・評 価 分 析 委 員 会 ワ ー キ ン グ グ ル ー プ は 、明 治 大 学 横 田 雅 弘( 主
査 )、 一 橋 大 学 太 田 浩 、 東 京 外 国 語 大 学 岡 田 昭 人 、 駒 澤 大 学 坪 井 健 、 明 治 大 学 新 田
功 、名 古 屋 大 学 野 水 勉 に よ っ て 構 成 さ れ 、日 本 学 生 支 援 機 構 留 学 生 事 業 部 留 学 生 交
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流支援課(現:海外留学支援課)の事務的サポートを受けた。
3.
岡 田 昭 人 (2 0 1 2 )「 新 し い 国 際 教 育 プ ロ グ ラ ム の 展 望 と 課 題 - 東 京 外 国 語 大 学 シ ョ ー
ト ・ ビ ジ ッ ト プ ロ グ ラ ム (SV)を 事 例 と し て 」 広 島 大 学 国 際 セ ン タ ー 紀 要 、 第 2 号 、
pp.69-83
4.
坪 井 健 ( 1 99 5 ) 『 国 際 化 時 代 の 日 本 の 学 生 』 学 文 社
5.
坪 井 健 ( 2 01 2 )『 ア ジ ア 学 生 文 化 の 変 容 に 関 す る 国 際 比 較 研 究 』( 平 成 2 3 年 度 科 学 研
究 費 < 基 盤 研 究 C> 研 究 成 果 報 告 書 、 研 究 代 表 者 坪 井 健 )
6.
横 田 雅 弘 ・ 小 林 明 編 (2 0 1 3 ) 『 大 学 の 国 際 化 と 日 本 人 学 生 の 国 際 志 向 性 』 学 文 社
7.
経 済 産 業 省 「 社 会 人 基 礎 力 」 ht t p : / /w w w .m e t i . g o . jp / p o l ic y / ki s o r y o k u /
8.
源 島 福 己 (2 0 0 9 )「 大 学 生 の 海 外 留 学 と 社 会 人 基 礎 力 の 発 達 」『 留 学 交 流 』 V o l . 21 ,
n o . 1 2 p p .2 - 5
9.
経 済 産 業 省 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 委 員 会 ( 2 01 0 )『 産 学 人 材 育 成 パ ー ト ナ ー シ ッ プ グ ロ
ーバル人材育成委員会報告書-産学官でグローバル人材の育成を-』経済産業省
2010 年 4 月
10.
佐 藤 由 利 子 ( 2 0 1 4)「 海 外 短 期 派 遣 を 通 じ た 日 本 人 学 生 の グ ロ ー バ ル 化 効 果 と 実 施 上
の 課 題 - 国 際 環 境 事 例 研 究 に 参 加 し た 大 学 院 生 及 び 指 導 教 員 の 調 査 結 果 か ら - 」広
島 大 学 国 際 セ ン タ ー 紀 要 、 第 4 号 、 pp . 5 9- 7 5
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「グローバルアウトリーチプログラム」とは何か
―桜美林大学における新しい語学研修プログラムの試み―
What is Global Outreach Program ?:
An Attempt to Create a New Type of Study Abroad Language
Programs at J.F. Oberlin University
桜美林大学学生センター国際学生支援課
野村 文・髙橋 祐子
N O M U R A A ya / T AK A H AS H I Y u k o ( O f f i ce o f I n t e r n a ti o n a l P r o gr a m s ,
J . F . O be r l i n U n i ve r s i t y )
キーワード:語学力、主体性、地域社会参加、アウトリーチ、海外留学
はじめに
桜美林大学(以下「本学」と表記)の留学プログラムは、留学期間によって大きく
3 つ に 分 け ら れ ま す が 、以 下 に お い て は 、
「 グ ロ ー バ ル ア ウ ト リ ー チ プ ロ グ ラ ム 」と い
う 、4 カ 月 間 の 中 期 型 の 語 学 留 学 プ ロ グ ラ ム に つ い て 紹 介 し ま す 。こ の プ ロ グ ラ ム は 、
本 学 リ ベ ラ ル ア ー ツ 学 群 ( 以 下 「 L A 学 群 」 と 表 記 ) で 2 0 0 7 年 度 よ り 始 め ら れ 、 2 0 12
年度からは留学中のカリキュラムに地域奉仕活動を組み込み、新しい内容となりまし
た( 英 語 圏 の み )。本 稿 で は 、リ ベ ラ ル ア ー ツ 学 群 の 事 例 紹 介 が 中 心 と な り ま す が 、2 01 3
年 度 秋 学 期 よ り 始 動 し た 、 ビ ジ ネ ス マ ネ ジ メ ン ト 学 群 ( 以 下 「 BM 学 群 」 と 表 記 ) の 職
業体験を組み合わせたグローバルアウトリーチプログラムについても、同様の留学プ
ログラムとして、その内容を紹介することにします。
1.建学の精神とモットーの実践
グ ロ ー バ ル ア ウ ト リ ー チ プ ロ グ ラ ム ( Global Outreach Program) と は ?
冒 頭 で 述 べ た 通 り 、 グ ロ ー バ ル ア ウ ト リ ー チ プ ロ グ ラ ム と は 、 本 学 LA 学 群 と 、 BM
学群の学生を対象に実施されている留学プログラムです。このプログラムに参加する
学生は、留学前後の教室内学習に加え、海外での語学学習、生活体験、地域奉仕活動
( 本 プ ロ グ ラ ム で は「 コ ミ ュ ニ テ ィ ア ウ ト リ ー チ 」と 呼 ぶ )、職 業 体 験 な ど 、多 彩 な 学
習と活動に取り組みます。まずは、学生が多様な世界を知り、地元の人々と交流する
ことで視野を広げ、自分とより深く向き合い、主体的に課題に取り組む意思を醸成す
ること。そのうえで、自分の夢の実現に向かって学生自らが歩むことを支援する。こ
れらが、グローバルアウトリーチプログラムの主たる目的です。本プログラムは、以
下の図の通り、桜美林学園の建学の精神である「キリスト教精神に基づく国際的人材
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の育成」に基づいて、その内容が構成されており、学園のモットーとなる「学びて人
に 仕 え る ( 学 而 事 人 )」 を 実 践 す る 意 味 合 い も 込 め ら れ て い ま す 。
主体性を持つ勇気
(Courage to Lead)
責任感の芽生え
(Cultivation of Responsibility)
地球社会への参加と社会貢献
(Contribution to Global Community)
異文化への関心
(Appreciation of Multicultural Societies)
日本文化の再認識
(Reflection on Japanese Culture)
※ 上 記 の 図 は 、本 学 の 建 学 の 精 神 で あ る キ リ ス ト 教 精 神 に 基 づ い た 国 際 的 人 材 を 育 成 す る た め に 、
すべての留学プログラムにおいて必要とする目標を段階別に分けたものです。上位の段階が成熟
度や発達度を示すものではありません。
(図1)
2.学群の特色を活かしたプログラムの展開
グ ロ ー バ ル ア ウ ト リ ー チ プ ロ グ ラ ム は 、 LA 学 群 、 BM 学 群 そ れ ぞ れ の 教 育 目 的 に 沿
った学びを用意している点に特徴があり、各学群の教育課程の中に全面的に組み込ま
れています。
LA学群
BM学群
内容
語学学習+文化体験、
コミ ュ ニテ ィア ウトリ ーチ(地域奉仕活動、最低15時間)
※英語圏のみ
語学学習(一般英語+ビジネス英語)、コミュニティアウトリーチ、
インターンシ ッ プ(職業体験)
コンセプト
大学生活の早い段階で留学し、国際性や柔軟性を身に付ける。 海外のビジネスの現場で国際的なビジネスセンスを養う。
留学地域
アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国
(計20校 内:英語圏17校)
アメリカ(計2校)
留学時期
1年次秋学期または2年次春学期
2年次秋学期または3年次春学期
単位
最大20単位を認定(自由選択の単位。必修の外国語科目8単位 最大20単位修得可能(一部専攻科目の単位)
の履修を免除)
プログラム構成
事前学習(12週) ⇒ 留学(約16週間) ⇒ 事後学習(2日程度)
事前学習(15週) ⇒ 留学(一般英語8週間+ビジネス英語4週
間+職業体験3ー4週間: 計約16週間) ⇒ 事後学習(2日程度)
2014年4月現在
(図2)
<リベラルアーツ学群>
「 幅 広 い 知 識 と 深 い 専 門 性 を 追 求 す る 」 LA 学 群 に お い て 、 本 プ ロ グ ラ ム は 、 初 年 次
教育を兼ねた留学プログラムとして、学生に提供しています。図2にあるように、留
学時期をあえて大学生活の早い段階に設定し、主たる専攻分野の決定となるメジャー
選択(2年次秋学期)を前に学習意欲の向上や、学ぶ分野を模索するための準備期間
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に 充 て て い ま す( 参 照:参 考 付 表「 L A 学 群 - 留 学 を し た 場 合 の 履 修 の フ ロ ー( 例 )」)。
このような趣旨から、本プログラムにおいては、海外での学習と生活体験を通して、
2年次秋学期の「メジャー選択に繋がる学びへの積極的な姿勢を醸成し、将来の目標
実現に向かって歩む知的・精神的礎を築くこと」を第一の目的とし、さらには、海外
で 地 域 奉 仕 活 動 等 に 参 加 す る こ と に よ り 、地 域 社 会 レ ベ ル で の 異 文 化 交 流 を 実 体 験 し 、
社会を見る新たな視点と「隣人愛」の精神を養うことを目指しています。
<ビジネスマネジメント学群>
本 学 の B M 学 群 で は 、「 国 際 社 会 で 必 要 な ビ ジ ネ ス 感 覚 を 養 い 、 広 範 な 知 識 か ら 発 想
し 、意 思 決 定 の 行 え る 、新 し い 経 営 マ イ ン ド を 備 え た 人 材 の 育 成 」を 目 標 と し て 、
「職
業に直接結びつく」教育を行っています。留学中のカリキュラムには、8週間の一般
英 語 に 加 え 、4 週 間 の ビ ジ ネ ス 英 語 の 学 習 を 組 み 入 れ て い ま す( 図 2 )。そ の 後 、学 生
たちは3~4週間のインターンシップ(職業体験)に参加し、学んだ英語を「仕事」
の現場で活用し、国際的なビジネス感覚を磨くことができます。また、本プログラム
の修了後は、学群の専攻科目で国内外のビジネスについて学習を重ね、卒業時には、
社会から必要とされる語学力とビジネスセンスを持つ学生となることが期待されてい
ま す ( 参 照 : 参 考 付 表 「 B M 学 群 - 留 学 を し た 場 合 の 履 修 の フ ロ ー ( 例 )」)。
3.語学学習に留まらない、将来へ繋がる学びと経験
グローバルアウトリーチプログラムの次なる特徴としては、留学前、留学中、留学
後、それぞれの段階に適合した学びの場を用意し、内容のさらなる充実を図っている
ことが挙げられます。いずれの段階の学習も、学生の参加および履修がプログラムを
修了するための必須条件となっています。
(1)事前学習
まずは、事前学習全体を通して、学生に以下の目標を提示し、これらの目標の達成
に向けて、自らが具体的に取り組む姿勢を身につけられるように指導しています。
1)語学力を向上させる。また、語学が一つの重要な道具であることを実感する。
2)異なる文化の中で生活することで、自らの国や自分自身をも理解する。
3)いかなる状況に置かれても、それを乗り越えていく柔軟性やコミュニケーション
力を身に付ける。
( 図 3)
ここでも各学群の目的に沿いつつ、学生の年次も考慮しながら、独自のプログラム
企画を実践しています。
<リベラルアーツ学群>
L A 学 群 の 事 前 学 習 で は 、カ ル チ ャ ー シ ョ ッ ク や ス ト レ ス へ の 対 処 法 、滞 在 生 活 に お
けるトラブルシューティング、危機管理の処方、文化の違いやステレオタイプに対す
る適切な感覚、自己分析の方法、母国の歴史・文化の理解といった、異文化を経験す
るにあたり有用な知識等の教授は無論のこと、プログラム担当教員が専門とする学問
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領 域( 日 本 文 学 、歴 史 学 、英 米 文 学 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 学 等 )の 講 義 を 行 う こ と で 、
専門的な学びへの興味も促しています。その他にも事前学習では、実践的な会話練習
やグループワークの手法を用いて、自身の考えや興味を主体的に明確化し、他者に説
明できる機会を学生に提供しています。また、いわゆる「学生目線」からの学びも重
要視しており、本プログラムに参加経験のある上級生のピアサポートも実施していま
す。上級生が自らの留学体験を通して明らかにした学習目標や、留学後に学んでいる
専門分野などを後輩に語ることで、プログラム参加学生は、より身近な問題として、
留学とその後の学生生活について考えることができます。
<ビジネスマネジメント学群>
B M 学 群 で は 、学 生 は 、留 学 す る 直 前 の 学 期 に 特 別 講 義 を 履 修 し ま す 。こ の 授 業 で は 、
LA 学 群 と 同 様 に 、現 地 で の 生 活 、文 化 の 違 い 、カ ル チ ャ ー シ ョ ッ ク や ス ト レ ス へ の 対
応、危機管理などを学ぶとともに、留学中の職業体験を見据えた英語のライティング
やリスニング、国際経済やアメリカ合衆国および滞在先となるジョージア州のビジネ
ス環境、職業体験の心構えなどについて、各分野を専門とする教員が講義します。こ
れらの講義は、一般的な留学準備のためだけではなく、留学中に専門性を追求した学
びが可能となることを意識して実施されています。
(2)留学中の広義の「学び」
<リベラルアーツ学群>
‐コミュニティアウトリーチ
い わ ゆ る ESL に お け る 英 語 学 習 に 加 え 、 学 生 は コ ミ ュ ニ テ ィ ア ウ ト リ ー チ ( 地 域 奉
仕活動)に参加します(以下は、コミュニティアウトリーチを実施している英語圏の
留 学 先 に つ い て 述 べ ま す )。英 語 圏 の 提 携 校 で は 各 機 関 の 協 力 を 得 て 、学 生 は 地 域 社 会
の必要に応じた活動に取り組みます。大学が所在する地域や季節により、その活動内
容は様々ですが、以下の通りに大別できます。事例とともに紹介します。
(図4)
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①
教育系
小学校にて日本紹介
日本人学校にて教員の補助
日本語イマージョンスクー
ルにて教員の補助
その他:日本語学科・コースを擁する大学での日本語会話テーブルの補助・運営など
②文化系
左:カルチャーフェスティバルにて出展をする様子
学生の特技を活かして武道レ
右:うどん打ち体験イベントを設ける様子
ッスンをする様子
その他:地域マラソン大会の運営補助、地域のイベントにて折り紙レッスンなど
③福祉系
支援が必要な人への炊き出しに参加
支援が必要な人へ寄付された物資の整理
その他:老人ホーム、学童保育施設での手伝いなど
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④環境系
生態系を重んじるオセアニア地域における
環境保護活動の様子
その他:
・アメリカ西海岸におけるビーチ清掃
・ ア メ リ カ 南 部 に て 、筏 に 乗 っ て 行 う 川 の
清掃
・地域の清掃
など
このように、支援を必要としている人への奉仕活動を通して現地の人々と交流し、
その国の文化や社会への理解を深めるだけでなく、地域社会や人々が抱えている問題
を共に考える機会を、学生たちに提供しています。また、海外における多様な奉仕活
動の在り方を知ることで、学生は地域奉仕活動への新しい視点を得ることができるの
で す 。最 終 的 に は 、留 学 経 験 を 通 し て 、学 生 は 新 た な 問 題 意 識 を 獲 得 し 、LA 学 群 の 特
徴 で あ る 多 彩 な 専 門 分 野( 人 文 ・ 社 会 ・ 自 然 科 学 に ま た が る 3 4 の 専 攻 プ ロ グ ラ ム )に
あらためて向き合ったとき、入学時には想定していなかった分野への関心を生み出す
ことが可能になります。このようにして、2年次秋学期におけるメジャー(主専攻)
の決定にあたり、本プログラムが大きな意味を持つと考えています。
<ビジネスマネジメント学群>
‐ビジネス英語と職業体験
B M 学 群 の 学 生 は 、 約 8 週 間 の 一 般 英 語 の 学 習 ( E S L) を 経 た 後 、 約 4 週 間 の ビ ジ ネ ス
英語クラス(一般英語と並行で実施される場合もあり)において、留学中の職業体験
や将来に役立つビジネス関連の語学を学びます。なお、ビジネス英語クラスは、各提
携校の協力により、本学学生のみを対象とした特別講義となっています。ここでは、
履歴書の書き方、お礼や苦情に対応するビジネスメールの書き方、ゲストスピーカー
の講義、企業研究の授業等が実施され、一般英語よりレベルの高い内容となっていま
す。これらの語学学習の期間を経た後、学生は現地の企業にて職業体験をします。学
生の研修先は、一般英語クラスの成績や個々の適正等を考慮して、本学および現地の
協力機関が決定します。これまでの研修先は、ジョージア州政府機関、日系独立行政
法人現地事務所、法律事務所、会計事務所、不動産業、コンサルタント、通訳・翻訳
業、旅行業、医療法人、ホテル業といった、幅広い業種に渡っています。この職業体
験の意義は、研修先である企業・機関の要求に応え
るために、学生が与えられた役割に満足せず、主体
的に行動していくことが期待されている点にあると
言えます。また、国際ビジネスの現状を肌で感じ、
学ぶことで、学生が自らの将来像を思い浮かべ、実
際に国際社会に貢献していくことへの動機づけを、
本プログラムは与えています。
な お 、B M 学 群 の 学 生 に も 現 地 で コ ミ ュ ニ テ ィ ア ウ
ト リ ー チ が 用 意 さ れ 、地 域 奉 仕 活 動 に 取 り 組 み ま す 。
医療クリニックにて職業体験
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(3)事後学習:
<リベラルアーツ学群>
帰国後は、留学体験に関するプレゼンテーション、留学を振り返り将来について考
えるグループワークなどを組み入れた事後学習を実施しています。また、2年次秋学
期に選択するメジャー(主専攻)を積極的に考える機会として、メジャーの内容を紹
介 す る 講 座 も 、こ の 事 後 学 習 に 含 ま れ て い ま す 。さ ら に は 、入 学 時 に 受 験 し た「 C A S EC」
テスト(※1)を学生が再度受験し、自らの英語の習熟度を把握することで、今後の
学習計画を立案するための有効な基準を提供しています。最後に、事後学習への参加
のほかに、留学に関する報告書の提出を学生全員に義務付けています。
<ビジネスマネジメント学群>
帰国後は、プログラムの成果をグループで話し合い、報告します。現地の人々との
英語によるコミュニケーション方法、アメリカ文化の認識と日本文化の再認識、イン
ターンシップを通じて学んだ職業意識等を振り返ります。また、英語学習の成果を測
る た め に 、 学 生 は T OE I C ® - I T P T e s t を 受 験 し ま す 。
4.留学がもたらす学生の成長
こ こ で は 、L A 学 群 の 学 生 に 対 し て 留 学 後 に 実 施 し て い る ア ン ケ ー ト 調 査 の 結 果 を 用
いながら、留学がもたらす効果について述べます。
※ 1 : 本 学 で は 、 旺 文 社 グ ル ー プ の 「 教 育 測 定 研 究 所 」 が 提 供 す る 「 CASEC」 テ ス ト を 使 用 し 、 本 学 の 必 修 科 目 「 英 語 」 の レ ベ ル 分
け及びクラス分けを行っています。
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ETS.
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問 :「留 学 を通 じて感 じた、あるいは得 た最 も大 切 な存 在 や事 柄 は何 ですか?」(複 数 回 答 可 )
ア ン ケ ー ト に よ れ ば 、「 留 学 を 通 じ て 感 じ た 、 あ る い は 得 た 最 も 大 切 な 存 在 や 事 柄 」
の 第 1 位 は 「 積 極 性 」、 2 位 は 「 現 地 で で き た 友 達 」、 3 位 は 「 日 本 の 家 族 」 で し た 。
こ れ ら に 続 い て 、4 位 は「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ス キ ル の 向 上 」、5 位 に は「 語 学 ス キ ル
の 向 上 」 が 挙 が り ま し た 。「 そ の 他 」 の 項 目 で 記 入 さ れ た 回 答 と し て は 、「 感 謝 の 気 持
ち 」「 危 機 管 理 能 力 」「 ポ ジ テ ィ ブ さ 」「 日 本 の よ さ 」「 日 本 の 文 化 を 知 る こ と 」 な ど が
あります。上位の回答で示される通り、本プログラムが重要視する、主体性を持って
行動することの大切さについて、学生自らも感じることができたと考えています。
次に、学生自らが自身の成長の度合いを評価する項目について、その結果を紹介し
ます。
問 :LAGOプログラムを通 じて自 分 はどのぐらい成 長 できたと思 いますか?
全 く成 長 できていない←---------------------------------------→大 変 成 長 できたと思 う
1----2----3----4----5----6----7----8----9----10
※ LAGO プ ロ グ ラ ム は 、 リ ベ ラ ル ア ー ツ 学 群 グ ロ ー バ ル ア ウ ト リ ー チ プ ロ グ ラ ム の 略 称 で す 。
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この自己評価について、そのような評価を下した理由も学生に求めたところ、以下の
様な回答がありました。
問 :上 記 についてなぜそう思 ったのか、具 体 的 に記 入 してください。
10-9

初 め て の 海 外 で あ っ た が 、約 4 カ 月 生 活 し て 不 安 は あ っ た が す べ て が 新 し
い も の ば か り で 毎 日 刺 激 を 得 る こ と が た く さ ん あ っ た 。自 分 を 信 じ る こ と
レベル
や、その場に応じた適応力がすごく身についたと思うからである。また、
留 学 前 に く ら べ 自 分 の 国 に つ い て 深 く 考 え る よ う に な り 、自 分 の 世 界 観 が
変わったからである。

自分の考え方が変わりました。自分の意志を持つ、小さいことでくよくよ
しない、何事もやってみる、気持ちが前向きになりました。確実にハート
が強くなったと思います。
8 -7

「とりあえずやってみよう」というチャレンジ精神が身についた。また、
以 前 は 全 く し な か っ た 家 の 手 伝 い を 積 極 的 に す る よ う に な っ た 。自 分 一 人
レベル
で 生 活 し て み た こ と で 、洗 濯 や 掃 除 が ど れ だ け 大 変 な 仕 事 で あ る か わ か っ
た。

弱点なども見つけられたのでもっともっと成長していきたい!

私は今まで消極的で自分の思っていることもあまり伝えることをしてこな
か っ た け れ ど 、留 学 か ら 帰 っ て き て 私 自 身 で も 前 よ り も 消 極 的 な 所 が な お
っ た か な と 思 っ て 、 そ し た ら 帰 国 し て 友 達 に 会 っ た ら 、「 な ん か 変 わ っ た
ね 、 い き い き し て る 。」 と 言 わ れ て 、 そ こ で 人 に 言 わ れ て 初 め て 実 感 し た
のですが、この留学は間違いなく私自身のことを変えてくれました。
レ ベ ル 「 1 0 - 9 」 の 回 答 に 見 ら れ る よ う に 、「 自 分 を 信 じ る こ と 」「 自 分 の 意 志 を 持
つ」といった新たな姿勢を学生が得られた点については、本プログラムが目的として
い る「 主 体 的 に 課 題 に 取 り 組 む 意 思 の 醸 成 」に 合 致 し て い ま す 。ま た 、
「自分の国につ
い て 深 く 考 え る 」、 あ る い は 、「 そ の 場 に 応 じ た 適 応 力 が す ご く 身 に つ い た 」 と い う 感
想を読むと、留学前に学生に提示している目標を、ある程度は達成できたと考えられ
ま す 。 学 生 の 自 己 評 価 の 半 数 弱 を 占 め る 「 レ ベ ル 8 - 7 」 の 記 述 欄 を み て も 、「 チ ャ レ
ン ジ 精 神 が 身 に つ い た 」、つ ま り 積 極 的 に 行 動 す る 新 た な 姿 勢 を 獲 得 し た 学 生 や 、自 分
の「弱点」や自身の変化について冷静に分析する客観性を身につけた学生がいること
がわかります。
6 -5

環 境 は と て も 良 か っ た し 、充 実 し た 日 々 を 送 る こ と が 出 来 ま し た が 、自 分
自身がもっと頑張れたのではないかと思い、この評価にしました。日本に
レベル
い た 頃 よ り は ず っ と 真 面 目 に 毎 日 の 授 業 に 取 り 組 め ま し た が 、今 思 い 返 し
て み る と も っ と 出 来 た 事 が あ る よ う に 思 え ま す 。こ れ か ら の 生 活 に 活 か し
ていけるかでまた変わってくると思います。

日 本 で は 出 来 な い 経 験 を 多 く し 、語 学 も 日 本 に い る だ け で は 身 に 付 け る こ
と の 出 来 な い 生 き た 英 語 を 学 ぶ こ と が 出 来 た 。し か し 授 業 な ど あ ま り 積 極
的に発言したり出来なかったこともあったため。
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4 -3

留学で現地の大学生は明確な目標を持っているのを見て自分が未熟だった
と分かった。なので、私は成長していないと思う。
レベル

英 会 話 を 自 分 が 思 っ て い た よ り 、自 分 の も の に で き な か っ た 。行 く 前 は 行
け ば 話 せ て 聞 け る よ う に な る と 思 っ て い た が 、そ ん な に 甘 い も の で は な く
自分の積極性や間違えを気にせず堂々としていることが大切なんだと気付
いたこと、また海外に行きたいと思ったことを含めて3にした。

自主的な勉強がかなり不足していたと思います。
こ う し た 肯 定 的 な 自 己 評 価 の 一 方 で 、「 レ ベ ル 6 」 以 下 の 評 価 を 付 け た 者 の コ メ ン
ト に は 、 反 省 を 含 む も の が 多 く 見 ら れ ま し た 。「 も っ と 頑 張 れ た 」「 積 極 的 に 発 言 し な
かった」といった回答に加えて、自分の未熟さについて言及するコメントがありまし
た。学生自身が設定した目標を達成できなかったことから、こうした低い評価となっ
たことが考えられます。そのうえで、自分に欠けていた点に気づき、具体的な課題を
自ら見出そうとする意思も、回答から読み取ることができ、結果として自己理解が深
まるとともに、主体性の大切さに気づく学生もいたことが窺えます。
5.魅力あるプログラム作りへの工夫と今後について
グローバルアウトリーチプログラムの留学中の主たる目的は語学学習ですが、本プ
ログラムが全体として意図する総合的な学びを深めるために、留学先現地の人々と交
流する機会を学生に提供しています。具体的には、コミュニティアウトリーチや職業
体験が、交流と意識啓発の場として機能しています。その他の学外での学びを促進す
る 工 夫 と し て「 フ レ ン ド シ ッ プ フ ァ ミ リ ー 」が 挙 げ ら れ ま す 。
「フレンドシップファミ
リー」は、北米の大学で寮に滞在する学生を対象とした、現地家庭との交流プログラ
ムです。学生は地元在住の家族と週末に交流し、一般家庭における日常会話や生活習
慣に触れることができます。こうした多彩な企画と内容を実践するうえで、海外提携
校や各種関係機関の協力を欠かすことはできません。ここで重要な役割を果たしてい
る の が 、 桜 美 林 学 園 ア メ リ カ 財 団 ( O bi r i n G a k u e n F o u n d a ti o n of A m e r i c a ) ( ※ 2 ) で
す。同財団は本学の現地組織として、北米地域を対象に、現地提携校や教育機関等と
の協力体制を築いており、北米地域に留学先大学が多いこともあって、プログラムの
充実化に常時努めています。
L A 学 群 の プ ロ グ ラ ム に お い て 、コ ミ ュ ニ テ ィ ア ウ ト リ ー チ を 英 語 圏 す べ て の 大 学 に
導 入 で き た の は 2013 年 度 秋 学 期 か ら で あ り 、 ま た BM 学 群 に お い て も 同 時 期 に 本 プ ロ
グラムが始動していることから、新たなプログラムの効果や成果の検証はまだ始まっ
たばかりです。今後も引き続き、本プログラムに関わる学内外の関係者全員でプログ
ラ ム の 運 営 に 取 り 組 む と 同 時 に 、改 善 の た め の 検 証 も 進 め て い き た い と 考 え て い ま す 。
そ し て 何 よ り も 、冒 頭 1 .で 紹 介 し た 本 学 の モ ッ ト ー で あ る「 学 而 事 人 」
(学びて人に
仕える)の精神に則り、愛を持って隣人に仕えることができる国際的な人材を養い、
育てていくことが大きな目標です。
※ 2 : 本 学 の 北 米 に お け る 拠 点 で す 。 当 財 団 は プ ロ グ ラ ム 作 り 、 学 生 サ ポ ー ト の 両 面 で 関 わ っ て い ま す 。 2010 年 度 に 発 足 し て 以 来 、
複 数 の 大 学 、 NPO と 新 規 に 協 定 を 結 び 、 ま た 既 存 の 提 携 校 の 中 で 、 新 た な 留 学 プ ロ グ ラ ム の 創 設 に 貢 献 し て い ま す 。
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――参考――
● LA 学 群 - 留 学 を し た 場 合 の 履 修 の フ ロ ー ( 例 )
● BM 学 群 - 留 学 を し た 場 合 の 履 修 の フ ロ ー ( 例 )
●グローバルアウトリーチプログラム参加者数
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「スーパーグローバル
ハ イ ス ク ー ル ( S G H )」 事 業
-グローバル・リーダーに求められる資質・能力-
Super Global High School:
Competency Required for Global Leaders
京都大学大学院教育学研究科准教授
石井
英真
I S H I I T e ru m a s a ( G r ad u a t e S c ho o l o f E d uc a t i o n , Ky o t o Un i v er s i t y )
キ ー ワ ー ド : ス ー パ ー グ ロ ー バ ル ハ イ ス ク ー ル ( S G H )、
グローバル・リーダー、海外留学
はじめに
平 成 2 5 年 6 月 に 閣 議 決 定 さ れ た 「 日 本 再 興 戦 略 ― JA P A N is B AC K ― 」 に お い て 、「 グ
ローバル化に対応した教育を行い、高校段階から世界と戦えるグローバル・リーダー
を 育 て る 」た め 、
「 新 し い タ イ プ の 高 校 を 創 設 す る 」こ と が 提 起 さ れ た 。こ れ を 受 け て
文 部 科 学 省 は 、 平 成 26 年 度 か ら 「 ス ー パ ー グ ロ ー バ ル ハ イ ス ク ー ル ( 以 下 、 S G H )」
事業を開始した。この小論では、筆者も企画評価会議協力者としてかかわった、SG
H事業の目的と概要を説明するとともに、SGHを通して見えてくるグローバル・リ
ーダーに求められる資質・能力について述べる。
SGHの目的と概要
文 科 省 は 、 S G H の 目 的 を 、「 急 速 に グ ロ ー バ ル 化 が 加 速 す る 現 状 を 踏 ま え 、 社 会
課題に対する関心と深い教養に加え、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際
的素養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーを高等学校段階
か ら 育 成 す る 」と し て い る 。そ し て 、そ の 事 業 概 要 に つ い て は 、
「国際化を進める国内
の大学を中心に、企業、国際機関等と連携を図り、グローバルな社会課題を発見・解
決できる人材や、グローバルなビジネスで活躍できる人材の育成に取り組む高等学校
等 を『 ス ー パ ー グ ロ ー バ ル ハ イ ス ク ー ル( S G H )』に 指 定 し 、質 の 高 い カ リ キ ュ ラ ム
の開発・実践やその体制整備を進める」と述べている。対象となるのは、国公私立高
等学校と中高一貫教育校(中等教育学校、併設型及び連携型中学校・高等学校)で、
指 定 期 間 は 5 年 間 、 1 校 あ た り の 予 算 は 約 1,600万 円 ( 上 限 ) で あ る 。
平 成 2 6 年 度 の S G H 指 定 校 に つ い て は 、応 募 が あ っ た 2 4 6 校( 国 立 1 0 校 、公 立 1 17 校 、
私 立 1 1 9 校 )か ら 、書 面 審 査 、ヒ ア リ ン グ 審 査 を 経 て 、取 り 組 み の 特 徴 、地 域 性 及 び 国
公 私 の バ ラ ン ス も 配 慮 し つ つ 、最 終 的 に 56 校 が 選 ば れ た( 次 頁 の 表 を 参 照 )。5 6 校 の 内
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訳 は 、 国 立 4校 、 公 立 3 4 校 、 私 立 1 8校 で あ り 、「 国 際 バ カ ロ レ ア ( I B )」 認 定 校 や 「 ス
ー パ ー サ イ エ ン ス ハ イ ス ク ー ル( S S H )」指 定 校 も 含 ま れ て い る 。S G H 校 同 士 の 情
報共有のためのネットワークを構築し、研究協議会を主催する幹事校には、筑波大学
附属高等学校が選ばれた。
表
スーパーグローバルハイスクール指定校一覧
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さらに、SGH事業の構想をより多くの学校に広めていく観点から、SGH事業を
ふまえたグローバル・リーダー育成に資する教育の開発・実践に取り組む高等学校等
5 4 校 ( 国 立 6 校 、 公 立 2 7 校 、 私 立 2 1 校 ) が 、「 S G H ア ソ シ エ イ ト 」 と し て 位 置 づ け ら
れた。こうして、幹事校が中核的な役割を果たしつつSGHとSGHアソシエイトに
よ る「 S G H コ ミ ュ ニ テ ィ 」を 形 成 す る こ と で 、そ れ ぞ れ の 学 校 が 進 め る グ ロ ー バ ル ・
リーダー育成に資する取り組みを共有するとともに、その実践状況を発信することが
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企図されている。
SGHで推進される取り組み
SGHで推進することが期待されている取り組みは下記のようなものである。
【主な取組】
・グローバル・リーダー育成に資する課題研究(例:国際的に関心が高い社会課題)
を中心とした教育課程の研究開発・実践(教育課程の特例の活用を想定)
・グループ・ワーク、ディスカッション、論文作成、プレゼンテーション、プロジェ
クト型学習等の実施(英語によるものも含む)
・ 海 外 の 高 校 ・ 大 学 等 ( ES D を 通 じ た ユ ネ ス コ ス ク ー ル を 含 む 。) と 連 携 し た 課 題 研
究に関するフィールドワーク、成果発表等のための海外研修
・ 帰 国 ・ 外 国 人 生 徒 の 積 極 的 受 け 入 れ 、大 学 と の 連 携 を 通 じ た 外 国 人 留 学 生 と の ア カ
デミックなワークショップ
・ 大 学 と の 連 携 を 通 じ た 、課 題 研 究 内 容 に 関 す る 専 門 性 を 有 す る 帰 国 ・外 国 人 教 員 の
活用
【大学との連携】
・ 課 題 研 究 に 関 す る 指 導 を 行 う 帰 国 ・ 外 国 人 教 員 等 の 派 遣 や 、大 学 生 に よ る ピ ア サ ポ
ート
・国 際 展 開 を 担 当 す る 部 署 と の 連 携 を 通 じ た 海 外 研 修 等 の 企 画・立 案 に 関 す る ノ ウ ハ
ウの伝授
・入試の改善による生徒の学習内容の適切な評価
・単位認定を含む高大連携プログラムの提供
( 文 科 省 「 平 成
26
年 度 ス ー パ ー グ ロ ー バ ル ハ イ ス ク ー ル 概 要 」
( h t t p : / / w ww . m e x t .g o . j p / a _ me n u / k ok u s ai / s g h / _ _ ic s F i l es / a fi e l d f i l e /2 0 1 4 / 03 / 2 8
/ 1 3 4 6 0 6 0 _0 3 _ 4 _ 3. p d f) よ り 。)
国 際 化 を 進 め る 大 学 (「 ス ー パ ー グ ロ ー バ ル 大 学 ( S G U )」 等 ) と の 連 携 の 下 で 、
ま た 、 企 業 、国 際 機 関 ( O E C D 、 U N E S C O 等 )、非 営 利 団 体 等 に よ る 人 材 や プ ロ
グラムの提供も受けながら、課題研究を中心とした教育課程の研究開発・実践等の取
り 組 み を 進 め て い く 。こ れ に よ り 、
「 グ ロ ー バ ル な 社 会 課 題 を 発 見・解 決 で き る 人 材 や 、
グローバルなビジネスで活躍できる人材(国際機関職員、社会起業家、グローバル企
業 の 経 営 者 、 政 治 家 、 研 究 者 等 )」 を 輩 出 す る こ と が め ざ さ れ て い る の で あ る 。
このように、SGHは英語力向上や国際交流のみを意図するものではない。英語力
向上や国際交流をプログラムの一部としながらも、
「 課 題 研 究 」に よ る 総 合 的 で 探 究 的
な学習が重視されている。英語はコミュニケーションの手段であって、その先に、社
会の諸課題に対する関心や責任感、深い教養と確かな見識、批判的思考力や問題解決
能力などを備えたグローバル・リーダー像をどう構想し、課題研究の学びとしてどう
具体化するかが問われている。
また、大学や企業、国際機関等との連携についても、外部の専門家任せのプロジェ
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クトに陥ることなく、連携をきっかけに、各高校において、課題研究の継続的な指導
体制の構築、教科指導をはじめカリキュラム全体の改善、教師集団の力量形成につな
げていくことが期待されている。
グローバル・リーダーに求められる資質・能力をどう考えるか
では、グローバル・リーダー像をどう構想し、課題研究の探究テーマとしてどう具
体化していけばよいのか。二つの視点を提起しておこう。
( 1 )「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 と 「 地 球 市 民 」
一つ目は、経済成長だけでなく持続可能性等の社会問題もあわせて考えるという点
である。国境を越えて人、物、情報等が行き来するグローバル化は、工業経済から知
識 経 済( 知 識 基 盤 社 会 )へ の 転 換 と 結 び つ い て い る 。従 来 の 工 業 経 済 で は 生 産 要 素( 資
本、労働、土地)への投資が富を生み出してきたのに対して、知識経済では人的資本
(情報や知識を活用しイノベーションを起こす個人やチーム)への投資が富を生み出
す 。特 に 先 進 国 に お い て 、労 働 市 場 は 、人 間 に し か で き な い 創 造 的 な 仕 事( 問 題 発 見 、
研究、デザイン等の高次の思考、異質な他者との協働・交渉、マネジメント等の複雑
な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン )へ の 需 要 を 高 め て い る 。日 本 の 国 際 競 争 力 を 高 め る 文 脈 で「 グ
ローバル人材」が注目される背景には、こういった社会の変化がある。
他方で、科学技術の進歩と結びついた経済成長の追求は、新しい問題も生み出して
いる。経済成長や科学技術の進歩は、洪水、凶作、疾病等の自然現象に起因する生存
上 の リ ス ク を 低 減 し 、多 く の 人 々 に 生 活 上 の 安 心 や 富 を も た ら し て き た 。し か し 現 在 、
環境汚染、原子力、遺伝子組み換え等に関わるリスク、すなわち、科学技術が進歩す
ることで生じる人工リスクをどう判断し対処するかが問題となっている。また、グロ
ーバルな知識経済は、富の一極集中を生み出しがちである。富やリスクの分配につい
て考え、経済成長のもたらす物質的豊かさを、精神的豊かさや生活の質の充実、成熟
社会の実現へとつなげていくことが国際的な課題となっている。
経済成長を担う「グローバル人材」を育てる視点だけでなく、持続可能性・環境保
護 、富 や リ ス ク の 分 配 等 の 社 会 問 題 の 解 決 に 向 け て 国 際 的 に 対 話・協 働・連 帯 す る「 地
球 市 民 」 を 育 て る 視 点 が 必 要 で あ る 。 そ し て 、「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 に し て も 、「 地 球 市
民 」に し て も 、論 争 的 で 正 解 の な い 問 題 に つ い て 、国 境 を 越 え て つ な が る 他 者 と 対 話 ・
協働しながら最適解や納得解を導き出していくことが求められるのである。
(2)国際的問題と国内的問題とをつなげて捉える想像力
二つ目に提起しておきたいのは、国際的問題と国内的問題とを関連づける視点の重
要性である。公開されているSGHの審査要項にある「グローバルな社会・ビジネス
に関する課題」という言葉だけを見ると、グローバル企業、国際紛争、エネルギー問
題、開発支援といった、世界的・国際的な大きな課題の探究に重点があるように思わ
れるかもしれない。しかし、国際的問題と国内的問題とをつなげて考える想像力(自
分の足もとの一見ローカルな問題の中にグローバルな問題とのつながりを見出し、逆
に、他国の出来事の中に自分たちの直面している問題とのつながりを見出す力)がな
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ければ、課題研究は、地に足のついていない「人ごと」の探究(観念的思考)となる
危険性がある。グローバル・リーダーの育成が「根無し草の人材」や「国を捨てる学
力」に陥らないためにも、この点は重要である。
国際的問題と国内的問題とをつなぐという場合、日本人として、日本の伝統文化の
よさを自覚し、日本の強みを発信することは重要であるが、それが「和魂洋才」論的
な発想に止まっていては、真のグローバル・リーダーとは言えないだろう。進学や就
職などの選択・決定に際して、日本国外の大学を視野に入れて考えたり、自分はどの
国や地域で仕事がしたいのかを問うたりすることで、自分の中により大きなスケール
の 地 図 を 持 つ こ と が ま ず は 必 要 で あ る 。そ の 上 で 、
「日本社会をよりよくするために自
分 に 何 が で き る の か 」 と い う 日 本 人 と し て の 意 識 だ け で な く 、「( 日 本 社 会 も 含 め た )
世界の人々の生活や社会のあり方をよりよくするために自分に何ができるのか」とい
う地球市民としての意識も持つことで、問題意識を共有する世界中の人々やコミュニ
ティとつながりながら、問題解決に向けて協働することも可能になるだろう。
以上のように、課題研究の探究テーマについては、国際的問題と国内的問題とを内
在的に関連付けたり、経済成長だけでなく持続可能性等の社会問題も考慮したりしな
がら、多面的・構造的に考えていくことが求められる。そして、留学や国際交流の経
験は、語学力を鍛えるための経験に止まらず、問題意識を同じくする世界の人たちの
コミュニティとつながり、そこからネットワークを構築し、さらには、国際的な問題
の解決に向けた議論や活動に直接参画していく手がかりをつかむ経験としても展開さ
れることが重要だろう。
おわりに-SGH事業が高校教育に投げかける課題-
最後に、日本の高校教育全体の改革という文脈で、SGH事業の意味を述べておき
たい。SGHは、いわゆる成績上位校やエリート校にのみ関連する話のように受け取
られるかもしれない。しかし、SGHは既存の高校教育のあり方に対して一石を投じ
るものになると考えられる。
「 S G H ア ソ シ エ イ ト 」 を 含 め れ ば 、「 S G H コ ミ ュ ニ テ ィ 」 の 参 加 校 は 、 ほ ぼ す
べての都道府県にまたがっており、その多くは各地域の高校教育をリードする位置に
ある。何より、SGHが課題研究を通して育成をめざす、社会課題に対する関心と深
い教養、あるいは論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション能力、問題解決
力、行動力等の資質・能力は、程度の差はあれすべての生徒たちに保障されるべきも
のであろう。
グローバル・リーダーに限らず、現代社会においては、生活者、労働者、市民とし
て、他者と協働しながら「正解のない問題」に対応する力や、生涯にわたって学び続
ける力など、高度な知的・社会的能力が必要とされている。それに伴い、学校教育に
対しても、知識を習得させるだけでは不十分で、知識を活用したり創造したりする力
や汎用的能力等を育成すべきとの社会的要求が高まっている。
2000年 代 に 入 り 、 初 等 ・ 中 等 教 育 に お い て は 、 O E C D ( 経 済 協 力 開 発 機 構 ) の 国
際学力調査(PISA)を意識して、知識・技能を活用して課題を解決する思考力・
判 断 力 ・ 表 現 力 等 の 育 成 に 重 点 が 置 か れ る よ う に な っ た 。ま た 、高 等 教 育 で も 、
「学士
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力」や「社会人基礎力」といった形で、汎用的能力の重要性が提起されている。これ
ら を 受 け て 、高 大 接 続 や 大 学 入 試 に つ い て も 、
「 達 成 度 テ ス ト 」で 活 用 力 や 汎 用 的 能 力
等 を 測 定 す る 「 合 教 科 ・ 科 目 型 」「 総 合 型 」 試 験 の 導 入 、 総 合 学 習 ( 課 題 探 究 型 学 習 )
の学習成果や活動歴の入試での活用などが検討されている。
「受験があるから」という理由で教科書の内容を網羅する授業を正当化することは
難しくなってきている。そもそも多くの高校生は、すでに勉強から逃走している。目
の前の生徒たちにとって学校での学習はどのような意味を持つのか、変化の激しい現
代 社 会 を よ り よ く 生 き る た め に 何 を 彼 ら の 中 に 残 し た い か 。こ う し た 問 い を 出 発 点 に 、
総 合 学 習 を 充 実 さ せ た り 、教 科 学 習 の あ り 方 を 再 考 し た り す る こ と が 求 め ら れ て い る 。
SGH事業の意味は、そうした高校教育改革全体の中で理解されねばならない。
参考文献
石 井 英 真「 ポ ス ト 近 代 社 会 が 求 め る 人 間 像 と 学 力 像 - 背 景 と 論 点 - 」
『 指 導 と 評 価 』2 01 4
年4月号。
※ 本 稿 は 、『 月 刊 高 校 教 育 』( 2 0 1 4 年 7 月 号 ) に 掲 載 さ れ た 拙 稿 「 S G H は 高 校 教 育 に
何をもたらすか」を加筆・修正したものである。
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海外インターンシップの活動記録
-フ ィ リ ピ ン 共 和 国 の
マイクロファイナンス機関にて-
Internship Activities in Developing
Countries:
Case from Microfinance Institution in the
Philippines
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科
博士前期課程
岩本 陽平
I W A M O T O Yo h e i
( G r a d u a t e S t u d en t , G r a d u a t e S c h o o l o f G l o b a l S tu d i e s , D o sh i s h a U n iv e r s i ty )
キーワード:フィリピン、マイクロファイナンス、海外留学
はじめに
私 は 同 志 社 大 学 大 学 院 (以 下 、 本 大 学 院 )に て 、 途 上 国 に お け る 国 際 開 発 に つ い て フ
ィリピン共和国(以下、フィリピン)を対象にして研究している。国際開発に関する
専門的なカリキュラムを擁するいくつかの大学院の中から本研究科を選んだ理由はい
くつかあったが、後に詳述する本大学院が持つ海外インターンシッププログラム制度
1
に期待するものがあったということは大きな理由の1つだった。本大学院は海外の
大学・研究機関と連携協定を締結して、研究、教育での交流を積極的に行っており、
海外の大学との連携に基づく現地インターンシッププログラムを制度として敷設して
いる。フィリピンが抱える経済・社会問題や貧困状況、国際援助の仕組みなどについ
ての机上での学びも重要だが、現地に赴くことでその現状を目で見て感じることも重
要だと私は考えていた。そのことについて、途上国現地で活動して自身の研究活動を
一 層 充 実 さ せ る た め に 、本 イ ン タ ー ン シ ッ プ プ ロ グ ラ ム は 非 常 に 有 用 だ と 考 え て い る 。
本レポートにおいては、自身がフィリピンの金融機関にて行ったインターンシッププ
ログラムの内容、学びと気付き、その意義について記す。本レポートは一般に公開さ
れるということなので、平易な文章で書くことを心がけた。
1.イ ン タ ー ン シ ッ プ プ ロ グ ラ ム の 内 容
私 は 2013 年 の 8 月 か ら 9 月 に か け て 約 1 か 月 間 フ ィ リ ピ ン に 滞 在 し た 。 そ の 時 の
1
本 研 究 科 の HP の URL
http://global-studies.doshisha.ac.jp/
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インターンシッププログラムに参加した学生は 5 名で、それぞれがフィリピンのよう
な途上国を対象にした研究を行うことを志していた学生である。滞在中はフィリピン
国立大学ロスバニョス校内にある、留学生向けの寮に宿泊した。宿泊施設は大学の担
当教授に事前に予約していただいたが、それ以外の食事や小遣い、健康など日々の生
活に関することは全て自分達で管理した。
それぞれの学生によって自分が持つ問題意識や研究課題は異なっており、主な関心
は 教 育 、 保 健 衛 生 、 市 民 社 会 で あ っ た 。 私 は マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス (以 下 、 MF) 2と 呼
ばれる、貧困層を対象にした小規模のローン、貯蓄やその他の基本的なサービスを提
供する金融の仕組みについて学ぼうと考えていた。学生によって異なっている調査要
望を合わせることについては、渡航前に本大学院に調査したい分野の希望を提出し、
それを基に本大学院とフィリピン国立大学が検討を行う。入念に検討された後に、フ
ィリピン国立大学がそれらの要望に見合った機関をインターンシップ先として、私た
ちが渡航する前にアポイントメントを取るという形式になっている。最初の 1 週間は
インターンシップ実習生として受け入れが決まっている機関にそれぞれ訪問を行い、
改めて挨拶を行い、その他の情報交換を行った。
2 週目以降はそれぞれの学生がそれぞれの機関のインターン実習生として、実際の業
務 に 別 々 に 参 加 し た 。私 は フ ィ リ ピ ン の M F機 関 と し て は 国 内 最 大 の 規 模 で あ る C AR D MR I
3
を 1 週目に訪問し、インターン実習生としての受け入れ許可が下りた。2 週目以降は
C A R D M R Iを 構 成 す る 金 融 機 関 の 1 つ で あ る C A R D B AN K , I nc . 4 の 南 ロ ス バ ニ ョ ス 支 店 で
イ ン タ ー ン シ ッ プ 実 習 生 と し て 業 務 に 参 加 し た 。 MF の 機 関 を 実 習 先 と し て 希 望 し た 理
由 は 、 途 上 国 に お け る 国 際 開 発 の 分 野 で は こ の M Fが 有 名 で そ の 仕 組 み と 効 果 は 多 く の
人が認知しているからであり、実際に自分もその業務に携わってみたかったからであ
る 。2 0 0 6 年 に バ ン グ ラ デ シ ュ の ム ハ マ ド ・ ユ ヌ ス 氏 と グ ラ ミ ン 銀 行 が ノ ー ベ ル 平 和 賞
を 獲 得 し た が 、 M Fは そ の 際 に 有 名 に な っ た 金 融 シ ス テ ム で あ る 。 そ の MF が 多 く の 途 上
国 に 普 及 し て お り 、フ ィ リ ピ ン に も そ の シ ス テ ム が 存 在 し て い る 。C A R D B A NK の 南 ロ ス
バ ニ ョ ス 支 店 が 行 っ て い た M F事 業 に つ い て 説 明 す る と 、 南 ロ ス バ ニ ョ ス 周 辺 の 地 域 や
村落のコミュニティに対して資金の融資サービスを貧困層の人々に対して行うという
も の だ っ た 。南 ロ ス バ ニ ョ ス 支 店 の み で 5 7 も の コ ミ ュ ニ テ ィ 、9 6 2 名 を 顧 客 と し て い
る 。コ ミ ュ ニ テ ィ と は 、M F の 融 資 サ ー ビ ス の 顧 客 を 複 数 名 で 括 っ た グ ル ー プ で あ り 、1
つ の コ ミ ュ ニ テ ィ の 構 成 員 の 数 は 少 な い も の で 5 名 ほ ど だ が 、多 い も の は 3 0 名 ほ ど で
構成されている。最初は融資を数千円からスタートし、1 週間ごとに利子をつけて返
済していた。融資の種類は住居ローン、農業ローン、教育ローン、他いくつかの選択
肢 が あ り 、そ れ ぞ れ に よ っ て 最 初 に 借 り る お 金 と 返 済 時 の 利 子 率 ( 5 % ~ 2 0% ) が 異 な っ て
いる。生計が立てられない貧困層の人々にとっては、この融資が貴重であり生活に欠
かせないものとなっている。
2
マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス に つ い て は 、「 マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト 」 と い う 呼 称 が 使 わ れ る こ と
も あ る が 、本 報 告 書 に お い て は フ ィ リ ピ ン 現 地 で 使 用 さ れ て い る「 マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス 」
という呼称を使う。
3 CARD MRI の URL
http://www.cardmri.com/
4 CARD BANK, Inc. の URL
http://cardbankph.com/
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図 1 CARD BANK の ス タ ッ フ が 顧 客 の 通
図 2 コミュニティのミーティング風景
帳を確認している様子
CARD BANK 南 ロ ス バ ニ ョ ス 支 店 で 私 の 活 動 は 、 午 前 中 は コ ミ ュ ニ テ ィ の 顧 客 が 集 ま
っ て 開 か れ る ミ ー テ ィ ン グ に 同 行 さ せ て 頂 き 、M F の 現 場 を 見 て 回 る こ と に 努 め た 。こ
の ミ ー テ ィ ン グ は 1 つ の コ ミ ュ ニ テ ィ 内 に て 毎 週 行 わ れ る も の で あ り 、 C A R D B A NK の
スタッフが取り仕切り、今一度返済の義務を周囲のメンバーと確認するというもので
あ る 。 流 れ と し て は 、 ま ず C A R D BA N K の 歌 を 皆 で 歌 う 。 歌 詞 の 内 容 が 「 皆 で 返 済 を し
っかりと行おう」といった意味であり、メンバー間で返済への意識を共有して促す。
その後にスタッフが一人ひとりの名前を呼び、お金の返済業務を行う。一人ずつ通帳
を確認しながら返済を確認し、全員分が確認できればミーティングは終了である。そ
れ を 毎 日 3~ 4 回 ず つ こ な し た 。 ミ ー テ ィ ン グ で は 顧 客 に MF の サ ー ビ ス を 受 け る 動 機
や 、実 際 に 役 に 立 っ て い る か な ど の 質 問 を 行 う こ と で 、顧 客 が 持 っ て い る M F に 対 す る
視線について理解することに努めた。また、スタッフに対しても業務上で不明な部分
が あ れ ば 随 時 尋 ね る こ と で M F の 仕 組 み を 理 解 す る こ と に 努 め た 。こ れ に よ り 、ミ ー テ
ィングの必要性やスタッフのモチベーションなど、実際にその活動に従事して気づく
ことが多かった。
午後からは融資の未返済者の人々の家庭を訪問し、家庭調査を行い、返済を当方に
促すという活動に同行した。スタッフがアンケート用紙を持って、家庭の収入源、1
か月の収入と生活費、家庭構成、最近生活で困ったこと、悩んでいることがないかな
ど、未返済者の日々の生活について或いはその他多くの情報を問答するのである。興
味深かったことは、未返済者の人々の家庭の状況や、その人々がどんな家に住んでい
るのかを実際に確認できたことである。ロスバニョスは、中心に大きな通りが通って
おり、それに沿って飲食店やショッピングセンターが並んでいるのだが、脇道を逸れ
ると驚くほど貧しそうな住宅が並んでいる。コンクリートの壁と土の地面でできてお
り、6 畳間ほどの広さの家で一人暮らしをしている老婆の方がいた。また、ベッドを
買うお金が無いために一つのシングルベッドに子供 4 人が寝て、地面に両親が寝たり
するような家もあった。都市部にて経済成長・工業化が進むフィリピンではあるが、
地 方 に 赴 く と 途 上 国 の 風 景 を 未 だ に 残 し て い る 。 こ の よ う な 家 を 一 日 に 5 軒 か ら 10
軒 ほ ど 回 っ た 。2 週 間 の イ ン タ ー ン シ ッ プ 期 間 中 に は 計 10 0 軒 以 上 の 家 庭 を 訪 問 し た 。
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図 3 顧客が受けているローンの返済
を管理するための通帳
図 4 CARD BANK 南 ロ ス バ ニ ョ ス 支 店 に て
5
上記のような活動を 2 週間継続した。例外的な活動としては、当時台風によりマニ
ラ都 心 部 が洪 水 状 態 だったのでボランティア活 動 として送 る食 料 をパッキングしたり、
C A R D B A N K , I n c .の オ フ ィ サ ー と お 話 を す る 機 会 を 設 け て も ら っ た り 、 CA R D B A N K の ス
タッフと顧客コミュニティの友好関係を深めるためのパーティーに出席したりした。
業 務 の 中 で は 私 が 携 わ る こ と が で き な い 部 分 や 、見 ら れ な い 資 料 も あ っ た が 、M F の 仕
組 み と 現 場 に つ い て 理 解 す る こ と と 、顧 客 の 視 点 か ら M F を 理 解 す る こ と は 十 分 で き た 。
CARD MRI が 公 開 し て い る 資 料 も 頂 き 、 で き る だ け 目 を 通 す こ と で 、 そ の 機 関 に つ い て
の 理 解 に も 努 め た 。 CA R D B A N K 南 ロ ス バ ニ ョ ス 支 店 の ス タ ッ フ に は 友 好 的 に 接 し て い
ただき、朝から夕方までご飯を一緒に食べるほどの仲で、よく笑いあいながらジョー
クも言い合っていた。最終日には皆で夕食兼カラオケに行き、楽しい日を過ごした。
「またロスバニョスに来たときは顔を出してくれ」ということも言われた。
最 後 の 1 週 間 は 、 環 境 保 全 を 行 っ て い る NGO を 訪 問 し た り 、 フ ィ リ ピ ン 国 立 大 学 の
教授が持つ農園の果物の採集を手伝ったり、首都マニラの中心部を見て回った。フィ
リピンという異国の地で様々な場所に行くと、様々な風景が広がっていた。印象的だ
ったことは、工業化が進んでいる地域は大きなショッピングモールや飲食店などが立
ち並びインフラの整備もかなり進んでいたが、農村部においては電気が通っておらず
仕 事 は そ の 地 域 で は 農 業 だ け と い う 現 状 で あ り 、そ の 生 活 の ギ ャ ッ プ に は 驚 か さ れ た 。
途上国では都市部と農村部との生活格差から様々な問題が生じているとは聞いていた
が、そのことについて実際に感じることができた。
帰国後は、本活動についての報告書の作成が各学生に課される。報告書は、本学の
国際課並びに本研究科向けのものを 2 種類作成した。
2.イ ン タ ー ン シ ッ プ プ ロ グ ラ ム の 学 び と 気 付 き
本 イ ン タ ー ン シ ッ プ プ ロ グ ラ ム の 学 び は 、M F に つ い て の 仕 組 み や 効 果 に つ い て の 適
切な理解が促されたことが総じて学びであると言える。研究に資するような精細な調
査や分析は行っていないが、現場に立脚した私の視点からの気付きを以下に挙げてお
く。
5
通帳の中に記載されている情報を判別できないように、写真を修整している。
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(ⅰ ) MF の 効 果 に つ い て の 疑 念
M F の サ ー ビ ス を 受 け る こ と で 、人 々 の 生 活 水 準 が 向 上 し 貧 困 か ら 脱 す る こ と が で き
るかどうかについて様々な議論がなされているが、本活動内においてはその兆候は確
認 で き な か っ た 。私 が 参 加 し た ミ ー テ ィ ン グ に お い て 顧 客 に 対 し て M F の サ ー ビ ス を 受
け て い る 期 間 を 尋 ね た 。2 4 7 名 の 顧 客 に 聞 い た 結 果 、1 7 %の 人 々 が 5 年 以 上 、52 % の 人 々
が 3 年以上このサービスを受けている。しかし、彼ら彼女らの家庭を訪ねたところ未
だに採算が取れない園芸・農業を行っているケースが多く、また家の外見が依然とし
て 貧 し い 様 子 を 呈 し て い た こ と か ら 、M F の サ ー ビ ス が 機 能 し て い る の か 懐 疑 的 に な っ
た。したがって、顧客にとってはお金を融資してもらっても、その使い方の善し悪し
や他の要因が関係し、生活の向上に結び付きにくいのではないのかということを現場
において感じた。
(ⅱ ) マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス の 商 業 的 役 割
C A R D M R I は 元 々 非 営 利 N G O と し て 出 発 し な が ら 、M F の 本 格 的 な 事 業 展 開 の た め に 商
業 金 融 機 能 を 拡 大 し て き た と い う 経 緯 が あ る 。 C A RD M R I は 経 営 方 針 と し て 海 外 資 金 を
得ながらも海外ドナーへの依存体質を作らないようにしており、一般市場から資金を
募 る こ と で そ の 事 業 を 展 開 し て い る 。し た が っ て 、M F の サ ー ビ ス を 通 じ て 利 益 を 得 て
い る 金 融 機 関 で あ る 。元 々 、M F に つ い て は 非 営 利 の 活 動 だ と 考 え て い た 私 に と っ て は 、
現場で見ている限り営利的な考えに基づいたスタッフ達が働いていることに驚きを受
け た 。ス タ ッ フ 達 に は 自 分 た ち が 行 っ て い る M F の サ ー ビ ス は 単 な る 仕 事 で あ り 、顧 客
の生活改善を促そうという意識は希薄だった。学術的には貧困削減に資する施策とし
て MF が 語 ら れ が ち で は あ る が 、 現 場 で は そ れ と は ま っ た く 異 な る 様 相 を 呈 し て い た 。
利 益 の み を 追 求 し て 活 動 す る 彼 ら 彼 女 ら の 姿 は 、 MF の 商 業 的 役 割 を 象 徴 し て い た 。
3.イ ン タ ー ン シ ッ プ プ ロ グ ラ ム の 意 義 に つ い て
私が考える本大学院のインターンシッププログラムの意義について 2 点述べる。1
点目は、途上国における国際開発についての理論や考えを日頃の授業などにおいて温
めておき、実際に現地に足を運びそれを確認することができることである。私の場合
は M F の 内 容 や 議 論 に つ い て 元 々 知 っ て い た 部 分 が あ っ た た め 、そ れ を 実 際 の 現 場 に て
確かめようという具合である。現場においては自分が持っている仮定が当てはまる、
或いは裏切られることが生じるため、さらに研究意欲が湧くのである。修士論文の執
筆においても本プログラムは役に立つであろう。
2 点目は、途上国に携わることができる進路に対する思いを大きくすることに繋が
ることである。インターンシップにて経験した同様の活動を行える国際機関に勤めて
みたい、研究者として途上国の事象をさらに学びたい、民間企業にて現地の経済成長
に貢献できるプロジェクトに携わりたいなど、将来的に途上国に携わることができる
キ ャ リ ア を 現 実 的 に 考 え る こ と に 繋 が る 。本 研 究 科 の 人 材 養 成 目 的 と し て 、国 際 機 関 、
公共機関、国際ビジネスに携わる企業等、異文化社会間の国際交流・理解の推進に貢
献できる専門的人材を養成することを掲げているため、この点からは本インターンシ
ッププログラムはその役割を果たしている。
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さいごに
本研究科においては、上述したような海外インターンシッププログラムがあり、提
携している各種学術機関に学生を派遣し、その学生の問題意識に合った調査を行うこ
と を 支 援 し て い る 。ま た 、資 金 面 に お い て は 本 学 大 学 院 生 の 外 国 派 遣 に 対 す る 奨 学 金 、
JASSO か ら の 奨 学 金 の 補 助 、 本 研 究 科 独 自 の 制 度 の 3 つ が 受 け ら れ る よ う に な っ て い
るため、資金面でも学生にとっては大きな助けになっている。このような制度につい
て、所属する学生が海外で研究活動を行う可能性のある大学院が、学生にとって充実
した研究環境を整えるために、本インターンシッププログラムを一例として参考にし
てもらえればと思う。また、本レポートを読んだ学生に対して、途上国研究にチャレ
ンジしたいという気概があるのであれば、こうした制度を備える大学院への進学につ
いて積極的に検討してみることをお勧めする。
*
本 記 事 に つ い て は 、本 マ ガ ジ ン『 留 学 交 流 』4 月 号 に も 下 記 の 関 連 記 事 が 掲 載
されていますので、ご参照ください。
【事例紹介】
海 外 提 携 校 を 通 じ た イ ン タ ー ン シ ッ プ ・ プ ロ グ ラ ム -途 上 国 の 例 を 通 じ て 同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科
小山田
英治
( h t t p : / /w w w . j as s o .g o . j p / a b ou t / w e bm a g az i n e 2 0 1 4 04 . h t m l )
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次号予告
ウェブマガジン『留学交流』
8月号
特集
「多様なインターンシッププログラム」
インターンシップの活用
/
ウェブマガジン『留学交流』
●
大学・企業と留学生
7月号
Vol. 40
平成26年7月10日発行
編集 独立行政法人日本学生支援機構
(編集部)留学情報課
東京都江東区青海
2-2-1(〒135-8630)
電話
(03)5520-6111
FAX
(03)5520-6121
Eメールアドレス
[email protected]
編集後記
海外で学ぶ日本人留学生の減少がいわれるようになってはや数年が経過し、産業界から高等
教育機関へのグローバル人材育成の要望も日々高まっています。
本号では、「海外留学することの意義」と題し、海外留学減少傾向の原因究明、短期留学プロ
グラムのアンケート調査分析に関する記事を掲載しております。また、大学における短期留学プ
ログラムの事例を紹介するとともに、学生の立場からの短期プログラム体験談をとりあげており
ます。このほか、今年度新たに始まった高校におけるグローバル人材育成の政策についても紹介
いたします。
本号が日本人の海外留学促進の一助となることを願っています。(編集部)
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