...

2007(日本語Pdfファイル)

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

2007(日本語Pdfファイル)
[S1.1.1] 重質油対応型高過酷度流動接分解(HS-FCC)技術の開発
(高過酷度接触分解技術グループ)
新橋第 601 研究室 ○藤山優一郎、奥原俊彰、小笠原巌、友井 肇、中西
水島第 601 研究室
政公
志賀 智 、馬田一教
1. 研究開発の目的
1.1 研究開発の最終目標
重油を分解して化学品を効率よく生産するプロセスを開発する。具体的には 3,000BPD の
実証化装置を用いてプロピレン収率 20mass%以上及びガソリン収率 20mass%を達成する。
平成 19 年度は、
5 年間の研究の初年度にあたり 3,000BPD 実証化装置の基本設計を開始した。
1.2 研究開発の理由
世界的な白油化の進行から重油の需要が減退し、ガソリン等の白油の需要が増加してい
る。石油製品は連産品であるため特定の留分の生産だけを増加させることには限界があり、
世界的に軽質原油の需要が高まっている。その一方で増産余力のある油田は重質原油が主
であり、軽質原油の入手は困難になると考えられる。
本研究では JCCP(財団法人 国際石油交流センター)で開発された技術を応用し、原料
として重油を用いることを目指す。重油からのプロピレンの生産が可能になることにより、
製油所において重質原油を用いることが可能となり、日本のエネルギーセキュリティに役
立つ。
石油のピークアウトが懸念される中で、石油のノーブルユースが求められている。本プ
ロセスでは重油から燃料だけでなく、石油化学品であるプロピレン・芳香族を大量に生産
できる。燃焼により CO2 になる燃料油に代えて、プラスティック原料となるプロピレン・
芳香族を生産することで石油のノーブルユースにつながる。
本プロセスはこれまでサウジアラビアとの共同研究により開発が進められてきた。サウ
ジアラビアの共同研究相手は国営石油会社アラムコおよびキングファハド資源鉱物大学で
あり、彼らの活動を通して本研究はアブドラ現国王にも大いに認知されている。サウジ側
でも本プロセス開発への期待は大きく、これまでの成果を応用し、本開発を国として行う
ことは日本とサウジとの関係強にも大いに役立つ。本開発でプロセスが実証化され、サウ
ジで商業装置が建設されることにより、両国の関係強化にさらに大きく貢献すると考えら
れる。
具体的な目標としては 3,000BPD の実証化装置を用いてプロピレン収率 20mass%以上及び
ガソリン収率 20mass%を達成することとした。製油所における一般的な商業装置は数万 BPD
の規模を持つ。本プロセスは粉末触媒を用いた流動層プロセスであり、スケールアップに
は大きな困難が伴う。最低でも 1,000BPD 以上の装置を用いた実証化が必要となる。また、
プロピレン生産は世界各社がプロセス開発を試みている。
世界最高のプロセスと称するためには 20mass%以上のプロピレン収率を達成すると同時
に、一般に収率が低下するガソリン収率に関し、20mass%を維持しつつ達成する必要がある。
図 1.2-1 参照。
ナフサ
原油
20 mass%以上
灯油
ブチレン類
軽油
重油
アロマ(BTX)
リフォーマー
LPG
高オクタン価ガソリン
アロマ化
二量化
HS-FCC
プロピレン
20 mass%以上
図 1.2-1 石油精製フローにおける HS-FCC プロセス
1.3 研究開発の基礎となる技術及び研究
本研究の基礎となる技術は PEC の事業として反応条件・触媒の最適化が行われた後、JCCP
の事業として反応系の概念設計、30BPD 試験装置の運転研究が行われた。概要を以下に示す。
1.3.1 反応条件・触媒の最適化
0.1BPD パイロット装置を用いて反応条件と触媒の最適化を行い、パイロットレベルでプ
ロピレン収率 20mass%以上を達成した。また、アロマリッチの高オクタン価ガソリンが生
産された。
1.3.2 反応系の概念設計
30BPD 規模のコールドフローモデルを用いた検討を行い、ダウンフロー反応器と再生塔を
組み合わせた触媒循環系、ダウンフロー反応を行う場合の重要機器であるインジェクター
(原料と触媒の混合器)
、セパレーター(生成物と触媒の分離器)の設計を行った。
1.3.3 30BPD 実証化試験装置の運転研究
30BPD 規模の実証化試験装置をサウジアラビアに建設し、運転研究を行った。この規模
で安定に運転できる技術を確立し、プロピレン収率 20mass%以上を達成した。また、残油
を処理できる可能性を見出した。図 1.3-1 に 30BPD 実証化試験装置の全景を示す。
図 1.3-1 30BPD 実証化試験装置の全景(H15-H17 年)
1.3.4
500 BD コールドフロー及び流動シミュレーション
500BD のコールドフロー装置及び流動シミュレーションを用いて、30,000 BD 規模までの
商業化装置についてのインジェクター・セパレーターの設計を実施した。
石油精製において経済的に操業できる規模は数万 BPD であり、30BPD 実証化試験装置に対
し、さらに約 1,000 倍のスケールアップが必要である。実用化には最低でも 1,000B/D の実
証化装置による研究が必要不可欠である。
2.研究開発の内容
2.1 全体計画
本研究開発における全体計画を以下に示す。
2.1.1 装置設計に向けての基礎検討
(1) 機器のスケールアップ検討:流動解析を用いて 3,000 BPD の実証化装置に用いるイン
ジェクター・セパレーターの形状検討を行う。
(2) 反応解析:実用化時には様々な原料が用いられる。HS-FCC 用反応シミュレーターを開
発し、様々な原料に対する性能予測を可能とする。
2.1.2 重質油対応型実証化装置の設計・建設
(1) インジェクター・セパレーターの形状検討結果を用いて機器の形状を決定する。
(2) 様々な原料からの性能予測から、反応系・触媒循環系・触媒再生系(合わせてR&R
系設備と呼ぶ)の仕様(サイズや再生方式)を決定する。
(3) さらに蒸留系、用役設備を含めた 3,000BPD 実証化装置の設計および建設を行う。
2.1.3 実証化装置の運転研究
(1) 原料組成の変動などの影響などを把握し、一年以上の期間で運転試験データの採取お
よび解析を行う。解析結果は運転条件にフィードバックする。
(2) 連続運転時のメンテナンス方法検討や設計への反映検討(構造、材質)を行う。
(3) 全体の運転データ解析結果から、設備改良やその検証運転試験、結果のまとめを行う。
2.2 平成 19 年度研究開発の内容
2.2.1 実証化装置の規模
流動接触分解は気相反応であり、原料油の液滴と再生触媒とのコンタクトにより原料の気
化が進む。また流動接触分解では触媒上に析出したコークを燃焼除去する際に発生する熱
で装置全体の熱バランスをとっているという特徴がある。そのため実験装置のような小規
模の装置では、重質油処理の技術的課題を完全に把握することはできない。一方実際の商
業装置を用いた実用化を想定した場合、製油所全体に占める装置の割合が大きすぎ、装置
を設置する特定の製油所の需給バランス上の制限を受けてしまう。そのため運転範囲が大
幅に制限され、その後の商業装置へのスケールアップに必要な情報を、十分に得ることが
できなくなる。
以上の理由により本格的な商業装置よりも小さいセミコマーシャル規模での検討を中間
に設けた。セミコマーシャル装置とはいっても、商業装置と同様な手法で設計・建設する。
そのため実施場所の候補地については、原料油、生成油の処理などの観点から、通常の FCC
の運転を行っている製油所に限定される。設計、建設、立地等を考慮してサイズや実施場
所を選ぶ必要がある。
2.2.2 リアクター関連機器の実用上の耐久性を考慮した設計修正
リアクター関連機器とは、インジェクター、ダウナーリアクター、セパレーターを示す。
ただしこの中でダウナーリアクター自体は単なる円柱状の構造物であり、通常の配管と同
様の機器であるため、本設計修正の対象外としている。具体的な設計修正対象はインジェ
クターおよびセパレーターであり、従来の FCC 関連機器の設計ノウハウを生かし、FCC ライ
センサーと共同で設計修正を行った。
2.2.3 セミコマーシャル装置の設計建設を通じた、設計ノウハウの蓄積
本年度は装置全体の基本設計を行った。ダウナーリアクターを装備する HS-FCC では従来
の FCC とはプロセス面で大きく異なる点が多い。しかし再生塔や回収系など、ハード面で
は従来の FCC の技術を利用できる部分もあり、ライセンサー技術を活用しながら HS-FCC の
プロセスの設計を進めた。
2.2.4 セミコマーシャル装置の運転を通じた、運転ノウハウの蓄積
セミコマーシャル装置の運転開始は平成 22 年度末を目標としている。運転方法や、運転
で検証するテスト内容についても検討を行った。
2.2.5 商業規模装置へのスケールアップに必要な課題の抽出
セミコマーシャル装置ではその後のスケールアップに必要な様々な知見を得ることも目
的の一つとしている。本年度はセミコマーシャル装置の基本設計を通じ、本格的な商業装
置の規模にスケールアップする場合に必要な検証項目と、その検証内容を把握するための
サンプリング装置の配置に関する検討を行った。
3. 研究開発の結果
1.3.3 で過去の検討結果を検証した結果、数々の課題が抽出された。その中で商業運転で
の耐久性を考慮してリアクター関連機器をスケールアップする必要があるという点が示唆
されている。リアクター関連機器とは、具体的にインジェクター・セパレーターのことで
あり、下記に本年度の検討内容について報告する。
3.1 インジェクターの設計修正
3.1.1 インジェクターの概要
HS-FCC では極めて短い接触時間を採用しているため、触媒に原料を噴霧して混合し、反
応を始めるまでのリードタイムも無視できない。またバックミキシングが起きないダウナ
ーを採用しているが、これは混合という観点から見ればライザーよりも不利な点であり、
そのために触媒と原料を瞬時に混合できる専用のインジェクターを用いている。図 3.1-1
にインジェクターの取り付け位置と構造を示す。インジェクターは触媒分散部、触媒整流
部、原料噴射部の 3 つの部位に分けられる。触媒分散部は触媒を円周方向に均等に分散す
るための部位で、これまでの検討では分散板とバッフルを用いてきた。原料は中心(セン
ター)および周囲(サイド)から吹き付けるが、センターノズルは触媒分散部の途中から
挿入されている。そのため触媒との接触によりエロージョン(磨耗)を起こす可能性があ
り、バッフルはセンターノズルの水平配管の保護もかねている。触媒整流部は触媒と原料
油を効率よく接触させる為に触媒を薄いドーナツ断面形状に整流する部位である。原料噴
射部はドーナッツ状に整流した触媒に原料油を吹きかける部位である。これにより原料と
触媒の混合を瞬時に行っている。
触媒
大気
大気
センターノズル
上部
ホッパー
触媒分散部
インジェクター
空気
空気
リフトライン
大気
大気
下部
ホッパー
触媒整流部
サイドノズル
原料噴射部
空気
空気
リアクター
図 3.1-1 インジェクターの取り付け位置と構造
3.1.2 触媒分散部の構造検討
触媒分散部は、触媒を円周方向に均一に分散する部位である。これまでの検討では容器の
大きさが小さなものであったため、あまり複雑な形状のデザインを採用することができな
かった。同一形状で商業装置規模へのスケールアップを行うと、各部の線速度が増加して
しまうためエロージョンが進行してしまう懸念が残る。
FCC 装置の商業装置にも目的の似た部位がリアクター/ストリッパー内にあり、最近では
この部位に規則充填物を使用する新技術が普及してきている。触媒やスチームガ流れるス
トリッパー内に規則充填物を使用しても、耐久性に問題は無く、従来のバッフルタイプよ
りも高効率であることが明らかになっており、本インジェクターに同様な技術を用いるこ
とを検討した。
EL1
皿
12
9
12
EL2
3
6
EL1
上部配管
9
EL 1
3
6
EL 2
EL2
EL 1
EL 2
EL3
EL3
EL4
EL 3
EL 3
EL 4
あらかじめ分散されるため、
EL4
ノズルの削れは最も進行しない
EL 4
EL5
な
EL 5
EL4まではかなり
EL4まではか
り
周辺に偏った分布
EL6
EL 6
EL5
EL 5
EL4までにある程度
分散できる
EL6
EL 6
図 3.1-2 分散部のレイアウト検討
図 3.1-2 に触媒分散部の検討事例を示した。インジェクター上部には触媒流量を調整する
ためのスライドバルブがあり、開度によって流れが偏る可能性がある。また触媒分散部に
はセンターノズルの水平配管部分が通っており、これらが触媒を円周方向に水平に分散す
るための障害となる。バッフルを用いる方法あるいは規則充填物を用いる方法など、均一
に分散できる適切なレイアウトを検討した。
3.1.3 触媒整流部の構造検討
図 3.1-3 と図 3.1-4 に触媒整流部の断面図を示す。触媒整流部は 3.1.1 でも述べたとおり、
触媒と原料油を効率よく接触させる為に触媒をドーナッツ状に整流している。この部位を
相似型にスケールアップすると、体積と面積の次数の違いによる問題が生じてしまう。例
えば各部の長さを 10 倍にした場合、処理量は 1,000 倍に増加するが、触媒整流部の断面積
は 100 倍にしか増加しないため、単位面積当たりの触媒流量[kg/s・m²]が 10 倍に増加して
しまう。単位断面積あたりの触媒流量が少なすぎる場合には整流効果が小さくなり、一方
単位断面積あたりの触媒流量が大きすぎる場合には差圧が大きくなり、触媒が上部に堆積
して触媒循環に悪影響を及ぼす。単位断面積あたりの断面積はスケールアップ可能なパラ
メーターであるため、設計上の重要なパラメーターである。我々の過去の知見を元に、適
切な範囲内で設計した。
図 3.1-3
触媒整流部の断面図
図 3.1-4 触媒整流部の断面
(縦方向)
(横方向)
3.1.4 原料噴射部の形状検討
図 3.1-5 に原料油噴射部のレイアウト検討例を示す。原料油噴射部ではドーナツ断面に整
流された触媒フローに対し、内部、外部から同時に原料油を噴射して触媒と原料油を混合
する。
また FCC では再生触媒に蓄えられた熱量で反応に必要な熱量をまかなっているため、
単に均一に混合し反応を促進するだけでなく、原料油の液滴と触媒が接触することにより
気化を進めており、ダウナー全体の技術の中でも非常に重要な部位の一つである。
垂直断面については、サイドノズルの取り付け位置や噴射角度、センターノズルの噴射角
度によって、触媒フローに対する原料油の入射位置が決定される。サイドノズルの入射角
度が小さすぎると噴射部周辺の流れが乱れ、完全混合槽に近い流れの携帯になってしまう
ため、原料油の気化は促進されるが、滞留時間分布は広がりを持ってしまう。一方入射角
度が大きくなりすぎると水平方向のモーメントが低下し、触媒フローに対する貫通力が小
さくなり、触媒と原料油を十分に混合することができない。
水平断面に関しても同様であるが、サイドノズルの噴霧角度が広い場合、一本あたりのス
プレーノズルがカバーする触媒量が多くなり、原料油の気化が促進されるが、触媒フロー
の貫通力が低下し、触媒と原料油の混合が進みにくくなる。リアクターへのサイドノズル
の挿入長も同様な影響がある。リアクターへのサイドノズル挿入長を大きくした場合、原
料油が拡散しないため触媒流への貫通力が大きくなるが、スプレーノズルで十分に拡散で
きないため、触媒をカバーする範囲が小さくなるため、気化効率が低下する。またサイド
ノズルを過度にリアクター内に挿入し、触媒流の内部まで挿入した場合、触媒との摩擦に
よりサイドノズルの磨耗が起きる可能性があり、好ましくない。サイドノズルの磨耗が起
きた場合、原料油の霧化効率やスプレー角などが変化し、コーキングなどの問題を引き起
こすためである。重質油処理を行う場合、フィードノズルの性能は非常に重要な要素であ
り、特に気をつける必要がある。
a) 垂直断面
b) 水平断面
センターノズル
触媒層
サイドノズル
リアクター
図 3.1-5
原料油噴射部のレイアウト検討
30BD 試験装置での設計経験や、大規模コールドフロー実験およびその結果を反映した流
動シミュレーションの知見により、既に最適なデザインに関するノウハウが蓄積されてお
り、商業運転におけるサイドノズルの磨耗といったハードウェアへの負荷、原料油の気化、
触媒と原料混合の均一性を評価尺度として各部の形状を最適化し、原料油噴射部のレイア
ウトを最適化した。
3.1.5 耐久性を考慮した設計修正
原料油と触媒の混合が進行するインジェクター内部は流れが大きく変化する部位であり、
局所的に磨耗が進行する可能性がある。そのため触媒との磨耗を考慮した設計の修正を行
っている。
共同で基本設計を進めたライセンサーと意見交換を行い、耐久性やメンテナンス製を高め
るための工夫を行っている。第一に、内部の触媒との接触箇所には耐火材を用い、特に磨
耗に関して大きな懸念がある部位には超硬金属によるハードフェーシングも検討している。
またメンテナンス性に関しては、インジェクターを交換したり、メンテナンスをしたりし
やすいように、作業面からの工夫も施して設計を行った。
3.2 セパレーターの設計修正
3.2.1 セパレーターの概要
セパレーターはリアクターで反応した生成物と触媒をすばやく分離する機器である。
HS-FCC は高温で反応を行うため二次反応が進行しやすく、短い接触時間で反応を停止させ
るためには、ダウンフロー専用の分離機器が必要となる。
図 3.2-1 にセパレーターの構造を示す。リアクターから排出される生成物と触媒は、リア
クター下部に設けているスリットを通ってセパレーター内に導入され、案内羽と外筒で遠
心力を発生し、これにより気・固を分離する。分離された生成物は内筒を通りガス出口へ
放出される。一方、触媒は遠心力で旋回しながらコーン部を落下し、触媒抜き出し管より
排出される構造となっている。
つまりダウンフローによる触媒と生成物の慣性の差、およびスリットから放出される際の
旋回流による遠心力を利用して触媒と生成物を分離している。
図 3.2-1
セパレーターの構造
3.2.2 各部形状の最適化
これまでに 30BD 試験装置やコールドフロー実験を通じて数々の信頼性の高いデータを蓄
積してきた。またこれらのデータを用いて流動シミュレーションの精度を高めてきており、
現在では一般的な商業装置規模のセパレーターの設計に関する知見がそろっている。
ところでセパレーターの設計では次項で述べるような理由により線速度に上限を設けて
いる。そのため各部の寸法は縦には伸びずに横に広がるような傾向を示す。特に商業装置
規模にスケールアップする場合、各部の設定線速度は上限に達してしまうため、この傾向
は顕著となる。図 3.2-2 に示すように、例えば処理量が 10 倍になった場合、遠心力はおよ
そ 1/3 となるため、触媒捕集率は低下する傾向にある。
流動シミュレーションで過去に検討した結果によれば、目標としている 95mass%以上の触
媒捕集率を示すセミコマーシャル規模のセパレーターの設計が可能であることは分かって
いるが、実際にそのような規模での検証結果は無く、この点についてはセミコマーシャル
装置の運転を通じて把握する以外に方法は無い。
線速度と比一定=断面が相似
生成物 + 触媒
生成物
制約値
横だけに広がる
外筒線速度
(触媒の同伴)
スリット線速度
(スリット、案内羽根の磨耗)
反応管線速度
(スリットの磨耗)
二重管の
内外
※処理量10倍で、
遠心力だけが1/3
触媒
図 3.2-2
※1/(10^0.5)
セパレーターのスケールアップの課題
3.2.3 耐久性を考慮した設計修正
セパレーターの内部構造は複雑であり、触媒と生成物が高い線速度で移動しているためエ
ロージョンが起きる懸念がある。30BD 程度の実験装置規模から商業装置規模に相似形でス
ケールアップした場合、各部の線速度が大きくなりすぎるため、エロージョンの懸念があ
り、線速度に上限を設けて設計を進めてきた。具体的な線速度の上限設定理由を表 3.2-1
に示す。
表 3.2-1 セパレータースケールアップにおける線速度の上限
線速度上限設定部位
上限設定理由
リアクター内部
スリットおよびリアクター底部のエロージョン防止
スリット部
スリットおよび案内羽根のエロージョン防止
外筒部
生成物中への触媒の同伴防止
内筒部
生成物中への触媒の同伴防止
線速度の上限値には、一般的な FCC 装置で使用されるような線速度よりも低い値を用いた。
このように上限を設けて設計を行うことで、エロージョンによる問題は低減できると考えられる。
また内部構造の中で触媒と接触する部位には、保温と磨耗防止のために耐火材によるライニ
ング加工を施し、耐久性を向上している。
4. まとめ
4.1 実証化装置 基本設計の実施
JCCP 事業で得た成果を元に 3,000BPD 規模の実証化装置設計に当たり、下記点に留意して
装置の基本設計を開始した。
(1) ダウンフローリアクターの実証化
実証化装置の目的の一つである、商業化へ向けての装置の耐久性を確認するために、商業
装置で通常行われているように、コンバーターは全てライニングを施すように設計した。
(2) 種々の原料油がチャージできるような設計
実証化装置では、様々な原料油をチャージできるような設計とした。油種により、コー
ク収率が大きく異なるため、サイクロン等の機器のターンダウンを考慮し、実証化装置で
あるため通油量にはこだわらず様々な油種をチャージできるような設計とした。
また、原料油種によるイールドの違いを考慮して、メインフラクショネーター以降のプ
ロダクト回収系の設計を実施した。
(3) 高分解型 FCC の特徴を考慮した設計
高分解型 FCC の生成物には通常の FCC 装置よりもジエン化合物が多く含まれる。そのため、
C4 と CCG のジエン選択水添装置を下流装置に組み込んだ。
また、通常の FCC と比較し汚れが激しいと予測される箇所には、スペアー機器の設置を検
討している。
4.2 今後の課題
来年度を通じて水島製油所の制約に合わせた設計を実施し 3,000BPD の基本設計を完成さ
せる。また、実証化運転開始後、本装置の目的である商業化装置への設計反映がスムーズ
に実施できるようにダウンフローリアクター/高分解 FCC で課題となる事項についてスムー
ズに確認ができるような設計を実施する。
4.3 来年度の重点事項
インジェクター、ダウナー、セパレーター等の開発機器については、基本設計段階でライニング
を施し、また今後詳細設計段階で実際の製作面を考慮した若干の形状変更の可能性もある。本機
器は本プロセスの重要な機器の一つであるため、来年度は流動シミュレーターを使用して性能の
検証を実施する予定である。
Fly UP