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奈良教育大学紀要 第46巻第2ぢ- (自然) T一成9年
Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 6, No.2 (Nat.). 1997
絶食時におけるノウサギの糞食について
.し !.蝣!蝣 五 己
(奈良教育大学自然環境教育センター)
."i 言、 Il卜
(静岡県林政課)
(平成9年4月9日受理)
Coprophagy of the Japanese Hare, Lepus brachyurus, under the Situation of Starvation
Harumi ToRII
(Education Center for Natural Environment, Nara Univ,gγsity of Education, Naγa 630, Japan)
and
Yukihumi Kawai
(Shizuoka Prefecture Forestry Administration Division, Shizuoka 420, Japan)
(Received April 9, 1997)
Abstract
The seven months old female Japanese hare, Lepus brachvurus, was kept for 22 days under
the situation of starvation and feeding to examine the number and volume of feces, volume of
rabbit pellets, and activities during a night. Number of feces in each starvation experiment was
about one third of that in the feeding situation. Then, the hare consumed feees directly from the
anus, and this coprophagy occurred more frequently during the starvation experiment. Killing
this hare at 19 : 00 after the experiment, digestive organs were filled with hard feces. These resuits indicated that the hare ate the hard feces during night in the condition of lack of food, and
excretion related to the feeding activity.
1.緒 言
積雪の少ない富士山南西麓における,ニホンノウサギLepus brachyurus (以後,ノウサギと呼
ぶ)の積雪上に残る1晩の糞粒数は飼育個体の糞粒数と比べはるかに少なく,食痕数も少なかっ
た(鳥居, 1990).突発的に起きた積雪による餌不足と摂食量の減少が,脱糞粒数の減少を引き
起こしていたと考えられる.また,幼齢造林地で採集したノウサギの糞粒数は,隣接する落葉広
葉樹林やスギ・ヒノキ壮齢造林地と比べ,はるかに多いものであった(鳥居, 1986).幼齢造林
地はノウサギにとって餌場とみなせることから,利用頻度が高いため糞粒が集中したと考えるの
が妥当であろうが,摂食行動が脱糞を促していたとも考えられる.
ノウサギの密度推定には糞粒法が検討されているが(平岡他, 1977 ,推定の信頼性を高める
にはノウサギの環境選択要因,あるいは糞粒採集の統計学的な処理なども検討されねばならない
33
鳥 居 春 己・河 合 征 彦
34
と考える.さらに,糞粒の排推量と分布様式は摂食量あるいは摂食行動の影響も検討する必要が
あるのではないか.
これらを背景に,給餌時と絶食時におけるノウサギの脱糞粒数と夜間の行動を比較した.その
結果,夜間に硬糞を摂食していることが確認され, Hirakawa (1994)によるノウサギの硬糞食
に関する報告の一部を追試することとなったので,概要を報告する.
2.材料と 方法
静岡県周智郡春野町において, 1993年5月に生け捕りした雌1頭(捕獲時に生後1週間程度)
を用い,生後約7ケ月になる1993年12月7日から12月28日の間に実験を実施した.実験開始時の
体重は2050gであった.実験内容は, Tablelのように11日間は自由に摂食させ(以後,給餌飼
育と呼ぶ).その間に3日は24時間全く餌を与えなかった(以後,絶食飼育と呼ぶ).この絶食飼
育の実施は2日以上の間隔をあけた.
実験は静岡県林業技術センターの実験室内の飼育ケージで行った.ノウサギは太陽光が差し込
む窓際に置いた木製ケージ(135cmX70cmX50Cふ(Fig. 1)で捕獲以来飼育されていた.ケー
ジは餌箱,採餌場,休息場からなり,ノウサギは採餌場と休息場を自由に往来できるが,餌箱へ
は入れない.休息場はノウサギの隠れ場としたため内部にいるノウサギの行動を見ることはでき
ない.ケージの床には3cm格子の金網を張り,糞は斜めにとりつけた3mm格子の金網で受けて
秤量用のステンレスバットへ誘導し,尿は金網を通して下へ落下する. 1日分の糞の回収と餌の
補給は原則的に9時頃に行った.餅には㈱オリエンタル酵母製ラビット用固型飼料を水とともに
Table 1 Number of fecal pellets and fresh weight of rabbit pellets taken by a Japanese hare under
conditions of feeding and starvation periods in captivity
Number of fecal Fresh weight of
Date
Test
pellets rabbit pellets taken
5
・
1
-
1993 Dec. 7-8 Feeding
U
6
.
'
1
8-9 Feeding
Z
.
6
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ll-12 Feeding
1
12-13 StarvatioJl
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3 4
14-15 Feeding
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1
13-14 Feeding
15-16 Starvation
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o
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27-28 Feeding
26-27 Starv ation
#
25-26 Feeding
<
24-25 Feeding
蝣
20-21 Feeding
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1
19-20 Feeding
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1
16-17 Feeding
「ノウサギの糞食」
35
与えた.ケージの置かれた室温は調節しなかった.糞と凶型飼料の垂呈ば槻ザルトリウス製上JuL
天秤(E12000S)から(槻日本電気製コンピューター(PC9801VM)に接続し, 5分間隔で0.1gま
で計量し,自動記録した.この時,糞重量は自然乾燥により時間経過に伴い減少したが,減少前
の計測値を糞重量とみなした.さらに, (㈱松下電気製テレビカメラ(WV-73)を用い,赤色セ
ロファンで覆った10W蛍光灯を照明として,飼育ケージを16時から翌朝8時までビデオ録画し,
ノウサギの行動を1分間隔で分類した.
Pig. 1 Keeping hare and examination system
3.結果 と 考察
Fig. 2に3回の絶食飼育とそれぞれ前後1日ずつの給餌飼育の合計9日間の糞重量と摂食量の
経時変化を示した.回収した糞はすべて硬糞であった.実験期間中のノウサギの活動時間(採餌
場に出ている時間)は目によって異なった.給餌飼育では日没後およそ30分から1時間後頃(16
時半以降)に活動が始まり,日の出の1-2時間前(5時頃)まで続いた.この間,数分から約
1時間間隔で固型飼料を食べ,摂食開始から終了までの間の摂食量は単調に増加した.脱糞は一
度に数gずつまとまって記録された.しかし,計測が5分間隔であったため,実際には一度にま
とめて脱糞したものか,少量ずつ連続していたのかは不明である.この脱糞行動は後述するビデ
オの解析でも確認できなかった.
36
鳥 居 春 己・河 合 征 彦
1618 20 22 24 2 4 6 8 1618 20 22 24 2 4 6 8 12 1416 18 20 22 24 2 4 6 8
Time of day
Fig. 2 Feeding and defecating activities of a Japanese hare during feeding (upper and lower) and
starvation period (middle).
給餌飼育中のノウサギの摂食と脱糞行動で特徴的なことは,夜間の行動開始後に摂食が脱糞に
先行し,摂食終了前に既に脱糞が終わっていることであった.摂食開始時と脱糞がほぼ同時に記
録されたのは, 11日間の給餌飼育期間中のわずか2日間だけであった.
これに対し,絶食飼育の翌日の摂食と脱糞行動は次のようであった.第1回目の絶食飼育の翌
日である12月13日には,午前9時の給餌再開にもかかわらず摂食開始は17時過ぎであった.第2
回目の12月16日では, 16時の給餌再開直後から摂食を始めた.しかし,この時には筆者らが近く
にいたことから,警戒していて摂食量は少なかった.ところが, 17時頃に筆者らが離れた直後か
ら摂食量は急増した.第3匝I目の12月27日では9時頃の給餌の約2時間後から,わずかの時間に
翌朝までの摂食量の約1/6を摂食した.また, 1回目, 2回目ともに脱糞は摂食開始後に始まった.
3回目では11時からの摂食であったが,脱糞は給餌飼育と同様に18時以降に記録された.
実験期間中の摂食量,糞粒数などをTable lに示した.給餌飼育における摂食量は44.1gから
106.2g,平均は85.7±16.5g 貢±sD以後も同様に表す),糞粒数は84個から200個,平均は
132.5±29.9個であった.摂食量,糞粒数ともに変動が大きかった.一方,絶食飼育中の糞粒数
は少なく, 15個から65個,平均は43.7±21.1個であった.絶食飼育において糞粒数が少ないこと
は明らかである(t検定, t=0.001, ♪<0.01.
ビデオによる録画は給餌飼育160時間,絶食飼育48時間であった.ノウサギの行動は「摂食」,
「水飲み」, 「休息」, 「板醤じり」, 「毛繕い」, 「糞食」, 「その他」, 「休息場内での滞在(以後「休
息場」と呼ぶ)」の8パターンに分類できた. 「摂食」と「水飲み」はそれぞれ固型飼料の摂食と
水飲み行動で,ノウサギは様々な姿勢で休息するが, 「休息」はその姿勢にかかわらず一定の姿
勢を保ち続けることをさし, 「板者じり」は休息場などの入り口の縁を音じることである. 「毛繕
「ノウサギの糞食」
37
い」は口あるいは四肢で体の各部の毛を繕う行動である. 「糞食」はノウサギが前かがみになり
虻門に直接口を付け,頭を上げてからロを動かし岨噂する行動である. 「その他」には,四肢や
体を伸ばすこと,歩行や物音など-の警戒,不明などが含まれるが,確認された時間が少ないこ
とからまとめて表示した.この不明は,背中を向けた状態で体が動いているが,行動の内容がわ
からない場合である.それら8行動パターンの1時間ごとの出現頻度を,絶食飼育,給餌飼育の
それぞれ3日ずつをFig.3に示した.給餌飼育,絶食飼育ともに「休息」と「休息場」の占め
る割合が高い. 「休息」は夕方から深夜にピークがあり,翌朝活動を終える前にも小さいピーク
があるようにみえる一方, 「休息場」は深夜から大きな比率を占めた.しかし,それらも日によっ
て大きな変動があった. 「水飲み」と「摂食」は活動時間帯のほぼ全ての時間帯にそれぞれ数分
間ずつ認められ,ノウサギは一晩の活動時間の中で集中的に摂食するのではなく,摂食とそれ以
外の行動を繰り返していたことを示している.
Feeding period
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Dec. 8-9
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-
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Time of day
Fig. 3 Activities of a Japanese hare through the night during feeding (left) and starvation periods
(right).
給餌飼育と絶食飼育の行動比較で特徴的なことは,絶食飼育では「板寄じり」と「糞食」が多
くなり, 「毛繕い」が減少していることである. 「糞食」は絶食飼育,給餌飼育においてともに記
録されたが,絶食飼育で長時間で回数も多い.また,夜間のほぼすべての活動時間帯で記録され
た.絶食飼育では休息場の中から入り口を審じっているのが頻繁に観察されたが, 「休息場」に
まとめられたため, 「板晋じり」はFig.3に示されているよりも実際の頻度は高かった.この「板
寄じり」は固型飼料の摂食と比べると1回当たりの音じっている時間が長かった.それは固型飼
料よりも硬い板を音じっているためとも考えられるが,不足する摂食量の補充というよりはスト
鳥 培 春 己・河 合 征 彦
38
レスによるもののように見えた.
このように,糞食行動が夜間のほぼすべての時間帯で観察されたこと,糞食には岨境がとも
なっていたこと,回収された糞はすべて硬糞であったこと,実験に用いた個体を19時に安楽死さ
せ,解剖したところ,近位結腸から醇腸はすべて硬糞に占められていたこと,糞食の観察された
時間帯は, Hirakawa (1994)の示した硬糞が作られている時間帯であったことなどから.食べ
られていたのは間違いなく硬糞であった.
以上のことから,絶食飼育においてノウサギは自分の硬糞を食べており,それによって糞粧数
が減少したと結論できる.しかし,どの程度の碩糞数を糞会していたかは不明である.また,級
食飼育では糞粒数そのものが減少していたとも考えられる.そのため,糞食の不可能な状態での
絶食飼育中における糞粒数も明らかにするべきであったが,実施できなかった.絶食飼育におい
て硬糞を食べているものの,その量が本来の餌とは質的あるいは量的に不十分であったことは,
絶食飼育の翌日の摂食行動が早くから始まることなどからうかがわれる.
ノウサギを用いて本論と同様の方法で行ったHirakawa (1994)の実験においても,通常の給
餌飼育では夕方から早朝まで摂食と脱糞が記録されるが,給餌を正めると糞重量は増加せず,絶
食飼育の翌日の給餌飼育では通常より早くから摂食が観察されている.そのため,本論の結果は
Hirakawa (1994)の報告を追試する結果となった.
本論およびHirakawa (1994)から,夜間に摂食が阻害されたり,充分な摂食量が確保されな
い場合は,ノウサギは自らの硬糞を食べることから,通常の糞粒数と比べ減少していると考える.
従来,ウサギ類の糞には軟糞と硬糞とがあり,軟糞は積極的に摂食されることが知られていた
on遺, 1994;平川, 1995).特に,飼いウサギの軟糞には蛋白質とビタミンB類に富むことか
ら,糞食の意義の一つに栄養学的な側面が示唆されていたが(Ebino, 1993),近年になって時間
帯によっては栄養学的には低質な硬糞を食べていることが明らかにされた(Ebinoet al., 1993).
また,ノウサギも軟糞だけでなく,尽間の休息中に時間帯によっては硬糞を食べていることが示
された(Hirakawa, 1994).これらのことから,硬糞食はノウサギにとって普通の行動であり,
そのため栄養学的な側面とともに,生態学的な側面からの検討も必要であろう.
それに関して,希にしか積雪のない富士山麓においては,積雪上に残る1晩の糞も食痕も少な
かった(鳥居, 1990).その調査地では,ノウサギは積雪によってもホームレンジの位置を変え
ることはなかった(鳥尉未発表).そのため,積雪による突発的な餌不足が通常の場合に摂食し
ない夜間の硬糞食を促したとすれば,硬糞食が緊急避難食料として機能していると考えられるが,
調査例数が少ない.ノウサギの糞食の生理機構は平川(1995)により整理・解明されつつあるが,
今後は野外での詳細な行動観察が必要があろう.
4.謝 辞
本論をまとめるにあたり,快く校閲を引き受けていただいた人阪市立大学理学部川遺武男博士
に厚くお礼申し上げる.
引 用 文 献
Ebino, K. Y. (1993) Studies on coprophagy in experimental animals, Exp. Anim. 42 : 1-9.
「ノウサギの糞食」
39
Ebino, K. Y., Y. Shutoh and W. Takahashi (1993) Coprophagy in rabbits: Autoingestion of hard feces, Exp.
Anim. 42 : 611-613.
Hirakawa,
H.
(1994)
Coprohagy
in
the
Japanese
hare
(Lepus
brachyurus)二reingestion
of
all
the
hard
and
soft
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平川浩文(1995)ウサギ類の糞食,噛乳類科学 34(2) : 109-122
平岡誠志・渡辺弘之・寺崎康正(1977)糞粒法によるノウサギ生息密度の推定,日林誌 59:200-206
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藤岡 浩(1982)ノウサギ等の生息数予測に関する研究,秋田県林技七業務報告 昭和56年度: 137-159
鳥居春己(1986)糞粒法によるノウサギの棲息密度推定について,静岡林試研報(14) : 23-36
鳥居春己(1990)積雪上に残るノウサギ1晩の足跡追跡,野兎研究会誌17:21-28
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