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活断層の直上にある建物の被害調査と地震防災対策

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活断層の直上にある建物の被害調査と地震防災対策
工学院大学建築系学科卒業論文梗概集
久田嘉章研究室 2011 年度
活断層の直上にある建物の被害調査と地震防災対策に関する研究
D1-08218 松澤
1.はじめに
佳
4.調査概要
日本には多くの活断層が存在する。その中の一つであ
調査日時は、2011 年 5 月 29,30 日の 2 日間である。
る六甲断層帯が動いたとされる 1995 年兵庫県南部地震
断層崖周辺建物の被害調査は、断層崖が顕著に現れた
を契機に、全国の主要な活断層調査が行われ、過去の地
以下の2つ地域を主として、井戸沢断層北部、湯ノ岳断
震の位置や規模、活動度などを調べ、将来の地震の発生
層北西部に位置する建物も数棟調査した。
確率が評価されている。
・井戸沢断層西側セグメント…いわき市田人町黒田(田
人中学校周辺)
2.研究の目的
2011 年 4 月 11 日に福島県浜通りにおいて活断層によ
・湯ノ岳断層東端部…いわき市常磐藤原町
る地震が発生した。この地震は、2011 年 3 月 11 日の東
北地方太平洋沖地震によって誘発されたものと考えられ、
500m以上
2%
400~500m
7%
300~400m
10%
表1
直上
5%
断層からの距離
直上
100m以内
100~200m
200~300m
300~400m
400~500m
500m以上
井戸沢断層と湯ノ岳・藤原断層の地表断層が出現し、そ
れによる建物への被害が報告された。これらの建物被害
調査を実施することによって、今後の活断層による地震
防災対策に役立てることを目的とする。
100~200m
29%
3.2011 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震概要
日
本
地
図
上盤
福島県いわき市
下盤
100m以内
34%
200~300m
13%
(Google)
図2
断層と調査建物の位置
棟数
10
67
56
26
19
13
4
断層と調査建物の位置
調査した建物は全部で 194 棟である。また、調査した
建物の殆どが、今回の調査で確認できた地表地震断層か
湯ノ岳・藤原断層
●
下盤
上盤
調査の方法は、日本建築学会災害委員会作成の調査シ
震央
Mj 7.0 最大震度 6 弱
井戸沢断層帯
★
図1
ら 500m 以内に位置していることを図 2,表 1 に示す。
福島県いわき市・調査断層位置
ートを参考とし、建築年、現状、建物用途、建物階数、
構造種別、基礎形式、基礎被害、地盤変状、屋根形式、
屋根被害、破壊パターン、断層による被害について悉皆
2011 年 4 月 11 日 17 時 16 分に福島県浜通りの深さ
調査を行った。破壊パターンについては、岡田・高井に
6km で Mj7.0 の地震が発生し、死者 3 人、負傷者 10 人
よる被害チャート図(図 3)3)によって、D0(無被害),D1
などの人的被害を生じた。3 人の犠牲者が出てしまった
(軽微被害),D2(一部損壊),D3(半壊),D4(全壊),D5
原因は、田人町石住において崖崩れに伴う家屋倒壊によ
(一部崩壊),D6(完全崩壊)の 7 パターンに判別した 。
るも の であ っ た。 1) こ の地 震 の発 震 機構 は 東北 東 -西 南
Damage Damage
Grade
index
無
被
害
D0
無被害
西方向に張力軸を持つ正断層型で、地殻内で発生した地
震である。東北地方に分布する活断層は、そのほとんど
D1
0.1
壁面の亀裂及び外装材の若干の剥落 。
方で 見 いだ さ れた のは 今 回が 初 めて で ある 。 2) こ の地 震
Md1
一
部
損
壊
発生するなど、多数の余震が発生した。また、2011 年 3
Md1
0.2
屋根瓦・壁面のモルタル等の大幅な剥落
。
屋根瓦・壁面のモルタル等の大幅な剥落
Md2
D2
0.4
D3
0.5
2階破壊型
1 階破壊型
2階の柱・梁・壁の一
部が構造的に破壊され
ているが、内部空間を
欠損するような被害は
生じていない 。
全体破壊型
Gd3
2階の柱・梁の破壊
による、内部空間が
欠損する 。
D4
1 階の柱・梁
の破壊による 、
内部空間が欠
損する 。
0.7
0.8
Ud4
Gd4
2階の破壊される 、
もしくは2階が崩落
する 。
D5
1 階の屋根もしくは軒に
相当する部分が接地して
いる、もしくは接地しそ
うである 。
屋根破壊型
屋根瓦が大部分
崩落する(特に
内部に )。
Ed3
Rd3
1・ 2 階の柱・梁の破
壊による、内部空間
が欠損する 。
Ed4
屋根瓦が大部分
崩落する(特に
内部に )。
Rd3
柱・梁・壁の一部が構造的
に破壊されているが、内部
空間を欠損するような被害
は生じていない 。
Sd3
柱・梁の破壊による 、
内部空間が欠損する 。
Sd4
2 階部分の破壊がか
なり及んでいる 。
構造被害:居住空間が著しく
損なわれる。状態は1階の屋
根が接地している、もしくは
しそうである 。
Sd5
0.9
Ud5-
Ud5+
Gd5-
Gd5+
Cd6-
多く報告された。
屋根破壊型
1・2階の柱・梁・壁
の一部が構造的に破壊
されているが、内部空間
を欠損するような被害は
生じていない。
0.6
月 11 日東北地方太平洋沖地震に誘発されたと考えられ、
井戸沢断層の西側セグメント、湯ノ岳断層東部に被害が
。
Md2
1 階の柱・梁・壁の一
部が構造的に破壊され
ているが、内部空間を
欠損するような被害は
生じていない 。
Ud3
の震源付近では同日 17 時 17 分に M6.0 の地震(最大震
度 5 弱)、17 時 26 分に M5.6 の地震(最大震度 5 弱)が
Nd0
壁面の亀裂及び外装材の若干の剥落 。
0.3
が逆断層であり、正断層型の大規模な地震断層が東北地
無被害
Nd0
0.0
Cd6+
D6
2 階の屋根が接地しているか接
地しそうである 。
1.0
木造2階建て建物の破壊パターン
図3
完全に瓦礫化している ・
木造2階建て建物の破壊パターン
木造1 階建て建物の破壊パターン
岡田・高井による被害チャート図
5.調査結果
7.建物被害率
調査した建物は、木造が 89%(174 棟)と多くを占め
建物被害率は、村尾・山崎(2002)6) の被害関 数 を 使
たため、今回は木造建物に限定して調査結果を報告する。
用した。図 4 は築 30 年以上の木造建物の、一部損壊以
木造建物における破壊パターンの分布は、無被害が 51%
上の被害が発生する確率を示したものである。これに該
と約半数を占め、軽微被害が 36%、一部損壊が 4%、半
当する建物は調査建物全 194 棟中 79 棟で、そのうち被
壊が 2%、全壊が 6%、一部崩壊が 1%であった。
害率による一部損壊以上の確率は直上を除くと、最大で
調査した木造建物の位置は、上盤側が 27%、下盤側が
も 4.8%であった。しかし、実際には約半数の建物が一部
63%、直上が 5%、不明が 5%である。ここでいう直上と
損壊以上の被害を受けたため、相関性は確認できなかっ
は、地表断層が明瞭に現れた地点のことを指す。
た。
地表断層直上の木造建物では全 9 棟中、一部崩壊が 1
90
の建物(写真 1)は住家ではなく、いわき市建徳寺の山
ている様子がわかる。建徳寺山門の北西側に位置する建
徳寺本堂(写真 2)の直下にも地表断層が現れ、南西側
80
70
被害率(%)
門であり、写真からも建物直下に地表断層が顕著に現れ
一部損壊以上(木造)
100
棟、全壊が 6 棟に及んだ。この 1 棟だけあった一部崩壊
に大きく 傾斜 してい るため D4(全壊)と 判別 された 。
60
50
40
30
木造-築30年以上
20
調査建物
上盤側と下盤側は、殆どが一部損壊か軽微被害であった
10
が、なかには全壊が上盤側は 1 棟、下盤側は 2 棟あった 。
0
0
20
40
この 3 棟のうち、2 棟は住家ではなく、寺社の一部であ
60
80
100
PGV(cm/s)
った。
図4
築 30 年以上・木造の建物被害関数
8.まとめ
・距離減衰式では、単純に地盤条件と距離から最大速度
下盤
下盤
は確認できなかった。
上盤
上盤
と算出するため、今回の地震による建物被害との相関性
・活断層の地震被害は、地震動そのものによるものは少
写真 1
建徳寺・山門 D5
写真 2
建徳寺本堂・D4
なく、地表断層が出現したためによるものが多いことが
確認できた。
6.最大速度
地表最大速度は、基盤最大速度を司・翠川(1999) 4 )
の距離減衰式を使用し、それに翠川・松岡(1995)5 ) の
地盤増幅度を掛け合わせて算出した。その結果と、
参考文献
1) 消防庁災害対策本部:福島県浜通りを震源とする地震
(第 11 報)、H23.4.13
k-net・kik-net の観測点 18 地点においての最大速度を
2) 東京大学地震研究所:2011 年 4 月 11 日の福島県浜通
比較した。18 地点全体で比較すると 1.01 と概ね一致す
りの地震に伴う地表地震断層について第 1 報、4 月 13
るが、場所によっては 0.3 倍、2.4 倍の誤差が生じてい
日
た。次に調査した建物においての地表最大速度を算出し
た。その結果、地表最大速度が大きくても破壊パターン
が D0 の地点があり、表 2 のように反対に地表最大速度
が小さくても破壊パターンが D4 の地点があったことか
ら、算出結果と実際の建物被害の相関性が確認できなか
表2
建物番号
H-1
H-3
H-2
M-2
M-1
H-8
H-4
H-6
H-5
M-4
No.524、pp.【65】-【72】
4) 司宏 俊、 翠川 三郎 ( 1999):断 層タ イプ 及 び地 盤条 件
を考慮した最大加速度・最大速度の距離減衰式
5) 翠川三郎、松岡昌志:国土数値情報を利用した地震ハ
ザードの総合的評価、物理探査、Vol.48、No.6、1995、
った。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
3) 岡田・高井(1999)
:日本建築学会構造系論文集論文、
AVS
775.5
775.5
775.5
775.5
775.5
775.5
775.5
775.5
775.5
775.5
pp.519-529
地表最大速度昇順 10 地点
ARV
0.569
0.569
0.569
0.569
0.569
0.569
0.569
0.569
0.569
0.569
断層最短距離(km)
8.80
8.64
8.64
8.64
8.64
8.64
8.64
8.64
8.64
8.64
地表最大速度(cm/s)
13.81
13.98
13.98
13.98
13.98
13.98
13.98
13.98
13.98
13.98
被害パターン
D0
D0
D0
D0
D0
D2
D2
D3
D3
D4
6) 村尾 修、 山崎 文雄 ( 2002):震 災復 興都 市 づく り特 別
委員会調査 データ に構造 ・建築年 を付加 し た兵 庫県南
部地震の建物被害関数
7) 藤本 一雄 、翠 川三 郎 (2003): 日本 全国 を 対象 とし た
国土数値情報に基づく地盤の平均S波速度分布の推定
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