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歯周治療ガイドライン - OralStudio

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歯周治療ガイドライン - OralStudio
糖尿病患者に対する
歯周治療ガイドライン
監修 日本歯科医学会
発行 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
はじめに(目的,作成方法,策定組織,改訂日時等について)
「診療ガイドライン」は,「特定の臨床状況のもとで,臨床医と患者が適切な医療につい
て決断を行えるよう支援する目的で体系的に作成された文書」と定義されています(福
井・丹後 診療ガイドラインの作成の手順 ver.4.3 2001.11.7)。近年,医療の質を向上させ
るうえで「EBM(根拠に基づく医療)を用いた診療ガイドライン」の有用性が注目され
るようになってきました。EBM の手法による診療ガイドラインの基本構造は,
「臨床上
の疑問(Clinical Question: CQ)の明確化」→「エビデンスの検索・評価」→「推奨度の
決定」の 3 段階で構築され,従来の教科書的な構造で取りまとめられたガイドラインと
は,全くといってよいほどその体裁が異なる構成になっています。歯科の領域において
は,残念ながらこのように構築されたガイドラインは現時点で皆無に近い状態であります
が,将来的には,「EBM を用いた診療ガイドライン」が,診療ガイドラインの中心にな
っていくものと推察されます。
本ガイドラインは,NPO 法人日本歯周病学会が日本歯科医学会からの依頼を受け,糖
尿病患者の歯周治療に関わる医療関係者を主たる対象として,作成時点(2008 年度)に
おいて臨床現場で遭遇する特定の問題に対してできる限り客観的なエビデンスに基づい
て,検査・診断・治療に関する一定の方向性(推奨)を示し,現場の判断を支援すること
を意図したものです。活動に関しては,NPO 法人日本歯周病学会からのみ支援を受けま
した。
この領域のエビデンスが十分ではない状況もあり,現時点では臨床専門医のみで作成し
た(Good Old Boys Sitting Around the Table: GOBSAT と通称)教科書的なガイドライ
ンにならざるを得ないのではとの議論も行いましたが,歯周治療分野の将来の発展の礎に
なればとの思いから「EBM を用いた診療ガイドライン」の考え方をできるだけ取り入れ
たガイドラインを作成することにしました。我々にとって初めての挑戦でありましたし,
取り上げた CQ に対してその多くのもので,十分な証拠が存在しないこともその過程で明
らかになってきました。しかしながら,このようなことは,他の多くの分野でも散見され
ているようで,
「EBM の役割は(レベルの高い)エビデンスがほとんどないことを示し
たことである」との皮肉もいわれているようです。現実には高いレベルのエビデンスがな
くても行わなければならないことも少なくないということも認識しなければなりません。
従って,そのような場合でも臨床上の必要から何らかの推奨を示さなければならないこと
もあり,その際には,経験のある歯周病専門医の意見(expert opinion)を慎重に検討
し,記述することとしました。
記載内容は,医師・歯科医師以外の医療関係者にも理解して頂けることを目標としまし
た。まず,糖尿病患者における歯周病の病態に関する Question(Q)を設定し,その各々
に関するエビデンスの検索を行い,Answer を作成しました(Q に関しては後で述べます
推奨度は記載していません)。次に「糖尿病患者に対する歯周病診療」に関して医療現場
で必要とされるであろう Clinical Question(CQ)を本ガイドライン作成ワーキンググル
ープ構成員が抽出し,これらの CQ に対して,現時点で推奨される考え方を記載していま
す。残念ながらすべての CQ に対して科学的エビデンスとなる文献が入手できる状況では
なく,それらのいくつかのものに対しては経験に基づいた現時点でのコンセンサスが得ら
れた考え方を記載することとしました。一方,科学的エビデンスがある程度入手できた
CQ に 対 し て は, 以 下 の 基 準(AHCPR: 米 国 Agency for Health Care Policy and Research, 1993)に基づき推奨度を表記しました。推奨度の決定に関しては,エビデンスの
レベル,エビデンスの数と結論のバラツキ,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害
に関するエビデンスを勘案して総合的に判断するとともに,歯周病専門医,基礎歯学研究
者,臨床疫学者らの意見を慎重に検討し,決定することとしました。文献検索ストラテジ
ーについては,電子検索データベースとして,Medline あるいは医学中央雑誌を検索しま
した。論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容を検討しました。さ
らに検索式,最終検索日および検索結果については,各項に記載しました。また,完成に
先立ち,日本歯周病学会ホームページ上にて,本ガイドライン(案)を閲覧していただく
機会を設け,御意見を内容に反映させるよう努めました。
エビデンスレベル(各研究に付された水準):日本糖尿病学会・糖尿病診療ガイドラインを一部
改変(括弧内の例数は目安)
レベル
それに該当する臨床研究デザインの種類
1+
水準 1 の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタ
アナリシス
十分な症例数(全体で 400 例以上)のランダム化比較試験
1
水準 2 の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタ
2+
アナリシス
小規模(全体で 400 例未満)のランダム化比較試験
2
さらに小規模(全体で 50 例未満)のランダム化比較試験,クロスオーバー試験
2−
(ランダム化を伴う)
,オープンラベル試験(ランダム化を伴う)
3
非ランダム化比較試験,コントロールを伴うコホート研究
4
前後比較試験,コントロールを伴わないコホート研究,症例対照研究 非実験的
記述研究
5
コントロールを伴わない症例集積(10 ∼ 50 例程度)
6
10 例未満の症例報告
推奨の強さとしてのグレード
グレード
説 明
グレード A
行うように強く勧められる。
グレード B
行うように勧められる。
グレード C1
行うように勧めるだけの根拠が明確でないが,行うように勧められるコン
センサスがある。
グレード C2
行うように勧めるだけの根拠が明確でなく,行うように勧められるコンセ
ンサスも得られていない。
グレード D
行わないように勧められる。
ここに記された内容は,あくまでも 2008 年度時点のガイドラインであり,将来的に,
この分野での科学的エビデンスがさらに蓄積された適切な時期(5 年後)に日本歯周病学
会がガイドライン作成ワーキングを立ち上げ,本改訂版を作成したいと考えています。そ
の際には,臨床指標となる数値があれば可能な限りそれを提示し,本ガイドラインの内容
に関連する日本歯科医学会分科会の先生方にも作成委員として参加いただいて各専門分野
の意見を集積するとともに,歯周病専門医以外の歯科医師が求める“臨床的疑問”をガイ
ドラインに反映させるため,CQ の抽出等の過程に一般開業医等の参加も計画したいと考
えています。また,本ガイドラインに対する意見を患者様からもいただき,対象となる患
者からインフォームドコンセントを得るに際して,その意志決定の参考となるような「一
般向けガイドライン」が本ガイドラインを下地として作成されることを期待しています。
なお,巻末には糖尿病学を専門としない読者への情報提供を目的として「糖尿病に関す
る基礎知識」を付記いたしましたので参考としてください。また,本ガイドラインの完成
に先立ち,日本歯科医学会の関係者の先生方に校閲をしていただきましたことをここに記
します。
糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン作成ワーキンググループメンバー(専門分野)
村上伸也(座長,歯周病学)
大阪大学大学院歯学研究科・教授
山崎和久(副座長,歯周病学)
新潟大学歯学部・教授
大石慶二(歯周病学)
徳島大学医学部歯学部附属病院・講師
小方頼昌(歯周病学)
日本大学松戸歯学部・教授
河口浩之(歯周病学)
広島大学大学院医歯薬学総合研究科・准教授
北村正博(歯周病学)
大阪大学歯学部附属病院・講師
島内英俊(歯周病学)
東北大学大学院歯学研究科・教授
田中昭男(口腔病理学)
大阪歯科大学・教授
内藤 徹(歯周病学,臨床疫学)
福岡歯科大学・講師
中川種昭(歯周病学)
慶應義塾大学医学部・教授
永田俊彦(歯周病学)
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・教授
西村英紀(歯周病学)
広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授
野村慶雄(歯周病学)
神戸常盤大学短期大学部・教授
福田光男(歯周病学)
愛知学院大学歯学部・教授
吉江弘正(歯周病学)
新潟大学大学院医歯学総合研究科・教授
吉成伸夫(歯周病学)
松本歯科大学・教授
富永和也(口腔病理学)
大阪歯科大学・講師
田嶼尚子(糖尿病学)
東京慈恵会医科大学・教授
ワーキング協力者
岩山智明 大阪大学
奥井隆文 新潟大学
西田英作 松本歯科大学
横井隆政 松本歯科大学
日本歯科医学会オブザーバー
栗原英見 広島大学大学院医歯薬学総合研究科・教授
外部評価者
林美加子 大阪大学歯学部附属病院・講師
吉田雅博 日本医療機能評価機構・部長
監 修:日本歯科医学会
NPO 法人日本歯周病学会 理事長 山田 了
作成日時 : 平成 20 年 11 月 26 日
専門用語の解説
歯科治療に直接関わる医療関係者以外の方々に対して,理解の助けになるよう,以下に
専門用語の解説を記します。
(出典 : 歯周病専門用語集 2006 日本歯周病学会編より一部改変。)
1 )歯周組織
歯の機能を支持する歯の周囲の組織。歯肉,歯根膜,セメント質,歯槽骨からなる。
2 )歯周病
歯周組織に見られる疾患群の総称。狭義では歯肉炎,歯周炎および咬合性外傷が相当す
る。さらにプラークに起因する歯肉炎,歯周炎のみをさすこともある。
3 )プロービングポケットデプス
プローブ挿入時の歯肉辺縁からプローブ先端部までの距離をいう。臨床的には概ね
3mm 以下を正常とする。歯周病が進行すると概してその距離が大きくなる。
4 )アタッチメントレベル
歯肉が歯に付着する位置,すなわち歯肉溝底部やポケット底部の位置。通常は,セメン
ト−エナメル境からポケット底までの距離で示し,歯周病の進行や改善の指標として用い
られる。歯周病が進行するとその距離が大きくなる(アタッチメントロス)。
5 )歯肉溝滲出液
歯肉溝上皮から滲出してくる組織液。臨床的には歯肉の炎症に伴い,その出液量の増加
がみられる。
6 )歯周基本治療
歯周病の病原因子(主に細菌からなるプラーク)を排除して歯周組織の病的炎症をある
程度まで改善し,その後の歯周治療の効果を高め,成功に導くための基本的な原因除去療
法をいう。プラークコントロール,スケーリング,ルートプレーニング,咬合調整,抜歯
などの処置が主体となる。
7 )スケーリング
歯肉に付着したプラーク,歯石,その他の沈着物を機械的に除去する操作。歯周病の予
防や治療の一手段として重要な位置を占め,スケーラーを用いて行われる。
8 )スケーリング・ルートプレーニング(SRP)
歯石や細菌,その他の代謝産物が入り込んだ病的セメント質あるいは象牙質をスケーラ
ーを用いて取り除き,歯根面を滑沢化すること。
9 )歯周外科治療
歯周基本治療後に行われる外科的治療法の総称。
10)サポーティブペリオドンタルセラピー
歯周基本治療,歯周外科治療等により病状安定となった歯周組織を維持するための
治療。プラークコントロール,スケーリング,ルートプレーニング,咬合調整などの
処置が主体となる。
11)メインテナンス
歯周基本治療,歯周外科治療等により治癒した歯周組織を長期間維持するための健
康管理。歯周病は,プラークコントロールが不十分だと容易に再発することから,定
期的なメインテナンスは,患者本人が行うセルフケア(ホームケア)と歯科医師・歯
科衛生士によるプロフェッショナルケア(専門的ケア)がある。
12)歯周組織再生療法
通常,歯周基本治療のみでは,歯周病の進行により破壊された歯周組織は元通りに
再生しない。そこで GTR 法やエナメルマトリックスタンパクの投与を歯周外科治療
時に併せて行うことにより,歯周組織の再生を促す治療法が行われている。
糖尿病患者における歯周病の病態
Q1
糖尿病になると歯周病になりやすいか?
Q2
糖尿病は歯周病を悪化させるか?
Q3
糖尿病に罹患している歯周病患者と罹患していない歯周病患者ではポケット内
細菌叢は異なるのか?
歯周治療と糖尿病
1 )歯周治療と糖尿病の状態 CQ1
歯周病の治療をすると糖尿病の状態は改善するか?
2 )歯周治療と薬剤
CQ2
糖尿病患者では抗菌療法(局所および全身投与)の併用は有効か?
CQ3
局所麻酔薬中のエピネフリンで血糖値は上昇するか?
3 )歯周基本治療
CQ4
糖尿病患者に歯周基本治療を行うと菌血症を生じるか?
CQ5
糖尿病患者に対して歯周基本治療を行った場合,非糖尿病患者に比較して治療
効果に差があるか?
4 )サポーティブペリオドンタルセラピー CQ6
糖尿病患者のサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)の間隔は短くすべ
きか?
CQ7
糖尿病患者だとグリコヘモグロビン(HbA1C)値がいくら以下だと良好にサポ
ーティブペリオドンタルセラピー(SPT)が行えるか?
CQ8
糖尿病患者は歯周治療後,歯周病が再発しやすいか?
CQ9
糖尿病患者においてメインテナンス期における局所化学療法は有効か?
5 )歯周外科治療 CQ10
糖尿病患者の歯周外科治療を行う際の血糖コントロールの基準値はあるのか?
CQ11
糖尿病患者と健常者の抜歯の予後に差があるか?
CQ12
抜歯や歯周外科治療,歯周基本治療の際に,ワーファリンの服用は中断すべき
か?
CQ13
糖尿病患者では歯周外科治療後の抜糸はいつごろ行うのが適切か?
CQ14
糖尿病患者において歯周外科治療後に歯周パック(包帯)を用いることは有効
か?
CQ15
糖尿病患者の歯周外科治療後に,洗口剤を使用すると有効か?
6 )歯周組織再生療法,インプラント治療
CQ16
糖尿病患者に対する歯周組織再生療法は有効か?
CQ17
糖尿病患者に対するインプラント治療は非糖尿病患者と同等の治療成績が得ら
れるか?
糖尿病に関する基礎知識
⑴ 分類と診断
Ⅰ.糖尿病とは
Ⅱ.分類
Ⅲ.診断
⑵ 治療の目標とコントロールの指標
⑶ 歯科治療上,理解しておくべき糖尿病の病状と合併症
Ⅰ.糖尿病性急性合併症
Ⅱ.糖尿病性慢性合併症
Q1:糖尿病になると歯周病になりやすいか?
A:糖尿病になると歯周病になりやすい。(レベル 3)
背景・目的
厚生労働省の平成 19 年度糖尿病実態調査報告から,わが国における「糖尿病が
強く疑われる人」は約 820 万人,さらに「糖尿病の可能性を否定できない人」が
1,050 万人と,成人の 5 ∼ 6 人に 1 人は糖尿病あるいは糖尿病発症前状態であるこ
とが明らかになっている。糖尿病は,放置すると網膜症,腎症,神経障害などの合
併症を引き起こし,また,脳卒中,虚血性心疾患などの心血管疾患の発症,進展を
促進することも知られている。このような合併症は患者の QOL を著しく低下させ
るのみでなく,医療経済的にも大きな負担を社会に強いており,対策が求められて
いる。口腔領域においても,歯周病が糖尿病患者に高頻度にみられることから,歯
周病は糖尿病の第 6 番目の合併症であると提唱されている。
解説
今回の文献検索では,糖尿病患者と非糖尿病患者の歯周組織の状態を比較したも
のを主に抽出した。
1)
1 型糖尿病と歯周病の関係では,フィンランドにおけるコホート研究がある 。
これは,重篤な 1 型糖尿病を有する歯周病患者では,糖尿病を有さない歯周病患者
や軽度の 1 型糖尿病を有する歯周病患者に比べ歯周基本治療後 12 ヶ月での 4mm
以上の歯周ポケットの割合が有意に高いという報告である。従って,重度の 1 型糖
尿病患者では,歯周治療後の再発が生じやすいといえる。また,わが国における調
査でも,若年者の 1 型糖尿病患者ではおよそ 10%以上が歯周炎に罹患しているの
に対し,全身的に健康な同年代の若年者群では約 1%程度にすぎないという報告が
2)
あった 。
2 型糖尿病と歯周病の発症率との関係は,2 型糖尿病を高い頻度で発症する米国
アリゾナ州のピマインディアンを対象にした研究がある。それによると,2 型糖尿
病患者では非糖尿病患者に比べ歯周病の発症率が 2.6 倍高いことが示されている
3)
。
このように,糖尿病患者は 1 型,2 型に関わらず健常者に比較して有意に歯周病
を発症する頻度が高いといえる。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline を検索した。Medline に用いた検索スト
ラテジーは,(“Diabetes Mellitus”
[MeSH Terms]AND“Prognosis”
[MeSH Terms]AND“Periodontal Disease”
[MeSH Terms]Limits: Humans)で,関連のあ
る論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。
主要な情報として,歯周病の罹患および進行に関する糖尿病患者群と非糖尿病患者
群の比較研究を採取した。
seq.
terms and strategy
hits
#1
“Diabetes Mellitus”
[MeSH Terms]
224,993
#2
“Prognosis”
[MeSH Terms]
614,632
#3
“Periodontal Disease”
[MeSH Terms]
#4
#1 AND #2 AND #3 Limits: Humans
52,203
43
最終検索日 2008 年 7 月 9 日
参考文献
1.
2.
3.
Tervonen T, Karjalainen K. Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of
the response to periodontal therapy in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 1997; 24: 505-10.
Nishimura F, Kono T, Fujimoto C, Iwamoto Y, Murayama Y. Negative effects of chronic inflammatory periodontal disease on diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2000; 2: 49-55.
Nelson RG, Shlossman M, Budding LM, Pettitt DJ, Saad MF, Genco RJ, Knowler WC. Periodontal disease and NIDDM in Pima Indians. Diabetes Care. 1990; 13: 836-40.
関係論文の構造化抄録
Tervonen T, Karjalainen K.
Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to
periodontal therapy in type 1 diabetes.
J Clin Periodontol. 1997; 24: 505-10.
目
的:1 型糖尿病患者の歯周基本治療後の再発を健常者と比較する。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:フィンランドの大学病院。
対 象 患 者:1 型糖尿病を有する歯周炎患者 36 名と糖尿病を有さない歯周炎患
者 10 名。糖尿病群はその重症度によって 3 群に分けられた。
D1 群(13 名):糖尿病の合併症がなく,HbA1C が 8.5%以下にコン
トロールされている群。
D2 群(15 名):糖尿病のコントロールが不十分で網膜症ありとな
し群。
D3 群(8 名):コントロール不良群で合併症あり群。
暴 露 要 因:口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング。
主要評価項目:治療前及び治療後(1 ヶ月,6 ヶ月,12 ヶ月)のプロービングポケ
ットデプス,アタッチメントレベル。
結
果:4mm 以上の歯周ポケットの割合は,歯周基本治療後 6 ヶ月までは
各群間で差が認められなかったが,歯周基本治療後 12 ヶ月では,
D3 群において 4mm 以上の歯周ポケットの割合が他群に比べ有意
に高かった。
結
論:重度の 1 型糖尿病患者では,歯周基本治療後の再発が生じやすい。
(レベル 3)
Nishimura F, Kono T, Fujimoto C, Iwamoto Y, Murayama Y.
Negative effects of chronic inflammatory periodontal disease on diabetes mellitus.
J Int Acad Periodontol. 2000; 2: 49-55.
目
的:1.1 型糖尿病患者群と健常者群の歯周病罹患率を比較する。
2.2 型糖尿病患者群と健常者群の歯周病罹患率を比較する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:岡山大学病院歯科。
対 象 患 者:1.1 型糖尿病患者 43 名,健常者 99 名。
2.2 型糖尿病患者 81 名,健常者 120 名。
暴 露 要 因:糖尿病。
主要評価項目:1. アタッチメントレベル,骨吸収。
2. CPITN。
結
果:1 型,2 型ともに糖尿病患者は健常者と比較して歯周病の罹患率が
有意に高かった。
結
論:糖尿病は歯周病罹患率を増加させる。
(レベル 4)
Nelson RG, Shlossman M, Budding LM, Pettitt DJ, Saad MF, Genco RJ, Knowler
WC.
Periodontal disease and NIDDM in Pima Indians.
Diabetes Care. 1990; 13: 836-40.
目
的:2 型糖尿病患者群と非糖尿病患者群の歯周病の発症率を比較する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:アメリカの大学病院。
対 象 患 者:アメリカのピマインディアン 2,273 名。
2 型糖尿病患者 720 名。
非糖尿病患者 1,553 名。
暴 露 要 因:糖尿病。
主要評価項目:喪失歯数,エックス線での骨吸収率。
結
果:2 型糖尿病患者は非糖尿病者に比べ,歯周病発症率は 2.6 倍高い。
結
論:糖尿病と歯周病は関係がある。
(レベル 4)
Q2:糖尿病は歯周病を悪化させるか?
A:糖尿病は歯周病を悪化させる。(レベル 2 +)
背景・目的
糖尿病は,慢性の高血糖と,糖代謝,脂質代謝,タンパク代謝の障害を生じるひ
とつの症候群で,網膜症,腎症,神経障害を併発することがある。高血糖状態の持
続に起因する好中球の機能不全,コラーゲン合成阻害,歯根膜線維芽細胞の機能異
常,advanced glycation endproducts による炎症性組織破壊,微小循環障害,過剰
な免疫応答などが歯周組織に影響を与え,歯周病を増悪させる可能性が考えられ
る。
解説
糖尿病患者の歯周病の状態を調査した研究のなかから,糖尿病の罹患期間と歯周
病の関係,血糖コントロールの状態と歯周病の関係に注目して検索した。
糖尿病の罹患期間と歯周病の関係を調べた横断観察研究では,1 型,2 型糖尿病
の罹患期間が 5 年を超えるとアタッチメントロスが大きく,歯周病が悪化すること
が示された
1, 2)
。また,Porphyromonas gingivalis に対する血清 IgG 抗体価と 1 型糖
3)
尿病罹患期間が,歯周炎の進行度と強い相関があることがわかった 。縦断研究で
も,1 型糖尿病患者は,非糖尿病患者と比較し,5 年後のアタッチメントロスが大
4)
きいこと ,2 型糖尿病は,非糖尿病患者と比較し,2 年後の歯槽骨吸収が高いこ
5)
と が明らかとなった。
血糖コントロールの状態と歯周病の関係を調べたものでは,血糖コントロールが
不良な 2 型糖尿病患者は,非糖尿病患者や血糖コントロールの良好な 2 型糖尿病患
6)
者と比較して歯槽骨吸収のリスクはより高いことが示されている 。他にも,血糖
コントロールが不良な 2 型糖尿病患者は,非糖尿病患者に比べて歯周炎のリスクは
2.9 倍であるが,血糖コントロールの良好な 2 型糖尿病患者は,非糖尿病患者と比
7)
較しても歯周炎のリスクに有意な差はないとの報告がある 。1 型糖尿病の血糖コ
ントロールに関しても,血糖コントロールの悪い糖尿病患者は,血糖コントロール
の良い患者に比べ,骨吸収度がより大きかったことを示している
8, 9)
。また,炎症
性サイトカインである interleukin-1β(IL-1β)の歯肉溝滲出液中のレベルを測定
したところ,2 型糖尿病の血糖コントロール不良患者は血糖コントロール良好な
10)
患者の約 2 倍高い値を示していた 。
また,糖尿病は歯周病に対する危険因子であることは,メタアナリシスでサポー
11)
トされたエビデンスがある 。
以上のことから,糖尿病は歯周病の進行に関与し,歯周病を悪化させると判断さ
れる。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline を検索した。Medline に用いた検索スト
ラ テ ジ ー は,
(“Diabetes Mellitus”
[MeSH Terms]AND“Periodontal Disease”
[MeSH Terms]AND“Disease Progression”
[MeSH Terms])で,関連のある論
文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。主要
な情報として,糖尿病の状態や罹患期間と歯周病の進行を比較した研究を採取し
た。
seq.
terms and strategy
hits
#1
“Diabetes Mellitus”
[MeSH Terms]
224,993
#2
“Periodontal Disease”
[MeSH Terms]
52,203
#3
“Disease Progression”
[MeSH Terms]
53,580
#4
#1 AND #2 AND #3 Limits: Humans
37
最終検索日 2008 年 7 月 9 日
参考文献
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Al-Shammari KF, Al-Ansari JM, Moussa NM, Ben-Nakhi A, Al-Arouj M, Wang HL. Association of periodontal disease severity with diabetes duration and diabetic complications in patients with type 1 diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2006; 8: 109-14.
2. Cerda J, Vázquez de la Torre C, Malacara JM, Nava LE. Periodontal disease in non-insulin
dependent diabetes mellitus (NIDDM). The effect of age and time since diagnosis. J Periodontol. 1994; 65: 991-5.
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Subgingival microflora and antibody responses against periodontal bacteria of young Japanese patients with type 1 diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2001; 3: 104-11.
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6. Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M. Glycemic control and alveolar
bone loss progression in type 2 diabetes. Ann Periodontol. 1998; 3: 30-9.
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Gingival crevicular fluid levels of interleukin-1β and glycemic control in patients with
chronic periodontitis and type 2 diabetes. J Periodontol. 2004; 75: 1203-8.
11. Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, BatayhaWQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabetes Comlications. 2006; 20: 59-68.
関係論文の構造化抄録
Firatli E.
The relationship between clinical periodontal status and insulin-dependent diabetes mellitus. Results after 5 years.
J Periodontol. 1997; 68: 136-40.
目
的:1 型糖尿病が歯周病進行のリスクファクターになるかを検討する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:トルコの大学病院。
対 象 患 者:1 型糖尿病患者 44 名,非糖尿病患者 20 名。
暴 露 要 因:糖尿病。
主要評価項目:プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,歯肉炎指
数,プラーク指数。
結
果:1 型糖尿病患者は健常者と比較し 5 年後のアタッチメントロスが大
きい。
結
論:1 型糖尿病はアッタチメントロスを促進する。
(レベル 4)
Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M, Knowler WC, Pettitt
DJ.
Non-insulin dependent diabetes mellitus and alveolar bone loss progression over 2
years.
J Periodontol. 1998; 69: 76-83.
目
的:2 型糖尿病が歯槽骨吸収のリスクファクターになるかを検討する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:アメリカの大学病院。
対 象 患 者:ピマインディアン 362 名
2 型糖尿病患者 24 名。
非糖尿病患者 338 名。
暴 露 要 因:糖尿病罹患期間。
主要評価項目:骨吸収率。
結
果:2 型糖尿病患者は健常者と比較し,2 年後の歯槽骨吸収率が高かっ
た。
結
論:2 型糖尿病は歯槽骨吸収を促進する。
(レベル 4)
Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M.
Glycemic control and alveolar bone loss progression in type 2 diabetes.
Ann Periodontol. 1998l; 3: 30-9.
目
的:糖尿病患者における血糖コントロールが歯周病に与える影響を調べ
る。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:アメリカの大学病院。
対 象 患 者:ピマインディアン 359 名。
血糖コントロールが悪い 2 型糖尿病患者 7 名。
血糖コントロールが良い 2 型糖尿病患者 14 名。
非糖尿病患者 338 名。
暴 露 要 因:血糖コントロール。
主要評価項目:骨吸収。
結
果:血糖コントロールが悪い患者は,コントロールが良い患者や非糖尿
病患者と比較して骨吸収が進行した。
結
論:血糖コントロールが悪い患者は,コントロールが良い患者や非糖尿
病患者と比較して骨吸収のリスクが高い。
(レベル 4)
Tsai C, Hayes C, Taylor GW.
Glycemic control of type 2 diabetes and severe periodontal disease in the US
adult population.
Community Dent Oral Epidemiol. 2002; 30: 182-92.
目
的:2 型糖尿病患者の血糖コントロールの状態と歯周病の重症度を比較
する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:アメリカの大学病院。
対 象 患 者:血糖コントロール不良 2 型糖尿病患者 170 名。
血糖コントロール良好 2 型糖尿病患者 260 名。
健常者 3841 名。
暴 露 要 因:血糖コントロール。
主要評価項目:アタッチメントロス,プロービングポケットデプス。
結
果:コントロール不良の 2 型糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して歯周
病の重症度は有意に高い。
結
論:2 型糖尿病の血糖コントロール不良は歯周病の重症度と関連があ
る。
(レベル 4)
Tervonen T, Karjalainen K, Knuuttila M, Huumonen SJ.
Alveolar bone loss in type 1 diabetic subjects.
J Clin Periodontol. 2000; 27: 567-71.
目
的:1 型糖尿病患者の血糖コントロールの状態と歯槽骨吸収の程度を比
較する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:フィンランドの大学病院。
対 象 患 者:24 ∼ 36 歳の 1 型糖尿病患者 35 名,健常者 10 名。
暴 露 要 因:血糖コントロール。
主要評価項目:臼歯部の骨吸収の割合。
結
果:血糖コントロールが悪い患者ほど歯槽骨吸収度が著明である。
結
論:1 型糖尿病の血糖コントロール不良は歯槽骨吸収を進める。
(レベル 4)
Seppälä B, Seppälä M, Ainamo J.
A longitudinal study on insulin-dependent diabetes mellitus and periodontal disease.
J Clin Periodontol 1993; 20: 161-5.
目
的:1 型糖尿病患者の血糖コントロールの状態と歯槽骨吸収の程度を比
較する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:フィンランドの大学病院。
対 象 患 者:35 ∼ 56 歳の 1 型糖尿病患者 38 名。
暴 露 要 因:血糖コントロール。
主要評価項目:プラーク指数,歯肉炎指数,プロービングポケットデプス,アタッ
チメントレベル,プロービング時の出血,歯肉退縮,骨吸収の割
合。
結
果:血糖コントロールが悪い患者は良好な患者と比較し,アタッチメン
トロス,骨吸収度が大きい。
結
論:1 型糖尿病の血糖コントロールは歯周病の状態に影響を与える。
(レベル 4)
Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, BatayhaWQ.
Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis.
J Diabetes Comlications. 2006; 20: 59-68.
目
的:糖尿病と歯周病の関連を調べる。
データソース:MEDLINE。
研 究 の 選 択:歯周病の臨床パラメーターを糖尿病患者と非糖尿病患者で比較した
研究。
データ抽出と質の評価:プロービングポケットデプスとアタッチメントレベルをは
じめとする歯周病のあらゆる臨床パラメーターおよび血糖コントロ
ールの指標としてグリコヘモグロビン(HbA1C)値を抽出し,複数
人で評価した。
主 な 結 果:糖尿病患者と非糖尿病患者は同程度に歯周病に罹患しているもの
の,糖尿病患者ではプラークコントロール,歯肉の炎症,プロービ
ングポケットデプス,アタッチメントレベルなどの臨床パラメータ
ーにおいて,有意に重症化している。
結
論:糖尿病は歯周病を悪化する因子である。
(レベル 2 +)
Q3:糖尿病に罹患している歯周病患者と罹患していない
歯周病患者ではポケット内細菌叢は異なるのか?
A:糖尿病に罹患している歯周病患者のポケット内は,糖尿病に罹患してい
ない歯周病患者のそれと比較して,異なる菌種が存在しているか否かに
ついては明らかにされていない。しかし,Porphyromonas gingivalis ,Capnocytophaga spp. などの歯周病原細菌の検出率が高く,と
くに P.ginigivalis の検出率が高いとする報告が多い(レベル 4)。
背景・目的
糖尿病に罹患している歯周病患者の歯周炎症状は,糖尿病に罹患していない患者
の歯周炎症状と比較して重症であるといわれている。歯周病発症の原因因子である
歯周病原細菌の存在や割合が,糖尿病非罹患歯周病患者のそれと異なるために歯周
炎症状に影響するのか否かを知ることはたいへん重要である。
解説
1)
Ebersole ら は,糖尿病に罹患している歯周病患者のポケットからは,糖尿病に
罹患していない歯周病患者のそれよりも,P. gingivalis,Aggregatibacter actinomycetemcomitans,Capnocytophaga spp. といった菌の検出率が有意に高いと報告して
4)
6)
7)
いる(レベル 4)。Campus ら ,Thorstensson ら ,Zambon ら は検索した菌の
中で P. gingivalis だけが有意に高く検出されたと報告している(いずれもレベル
3)
8)
4)。また,Cianter ら ,Mashimo ら は Capnocytophaga spp. が糖尿病を有する歯
周病患者のポケットから有意に高い割合で検出されたとしている(レベル 4))。
5)
Sbordone ら は P. gingivalis と Capnocytophaga spp. が有意に高く,Prevotella intermedia,A. actinomycetemcomitans は低かったと報告している(レベル 4)。
2)
これらに対して,Lalla ら は,Eubacterium novatum 以外の菌の検出率に差がな
かったと報告し,症状等の条件をそろえると細菌叢にはあまり違いがないことを報
告している(レベル 4)
。
糖尿病を有する歯周病患者の臨床症状が重度であるために,歯周病原細菌の検出
率が高いという考え方も成り立つため,一概に結論づけるのは難しい。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline を検索した。下に示すように,MeSH
Term を 確 認 し,
“Periodontal Disease”
[MeSH Term]AND“Diabetes Mellitus”
[MeSH Term]AND“Dental Plaque”
[MeSH Term]AND“Bacteria”
[MeSH
Term]で文献を抽出し,その中から主要な情報として,糖尿病に罹患した歯周病
患者と糖尿病に罹患していない歯周病患者の細菌叢を比較した論文を検討した。ま
た抽出した論文中の記載から,関連していると考えられる文献を検討した。
seq.
terms and strategy
hits
#1
“Periodontal Disease”
[MeSH Terms]
52,431
#2
“Diabetes Mellitus”
[MeSH Terms]
27,184
#3
“Dental Plaque”
[MeSH Terms]
12,976
#4
“Bacteria”
[MeSH Terms]
#5
#1 AND #2 AND #3 AND #4
827,184
37
最終検索日 2008 年 8 月 25 日
参考文献
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Lalla E, Kaplan S, Chang SM, Roth GA, Celenti R, Hinckley K, Greenberg E, Papapanou PN.
Periodontal infection profiles in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 2006; 33: 855-62.
Ciantar M, Gilthorpe MS, Hurel SJ, Newman HN, Wilson M, Spratt DA. Capnocytophaga
spp. in periodontitis patients manifesting diabetes mellitus. J Periodontol. 2005; 76: 194-203.
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関係論文の構造化抄録
Ebersole JL, Holt SC, Hansard R, Novak MJ.
Microbiologic and immunologic characteristics of periodontal disease in Hispanic
americans with type 2 diabetes.
J Periodontol. 2008; 79: 637-46
目
的:糖尿病に罹患した歯周病患者と糖尿病に罹患していない歯周病患者
の細菌叢と免疫応答を比較する。
研究デザイン:比較対照試験(観察研究)。
研 究 施 設:テキサス大学ヘルスサイエンスセンター。
対 象 患 者:63 名のヒスパニックアメリカン。
暴 露 要 因:糖尿病。
主要評価項目: 4 群(2 型糖尿病+歯周病,2 型糖尿病+健常,非糖尿病+歯周
病,健常)に分け,臨床項目,細菌叢,血清抗体価。
結
果:歯周病群の比較で,糖尿病のある患者から P. gingivalis, A. actinomycetemcomitans, Capnocytophaga spp. が有意に高い率で検出され
た。
結
論:糖尿病を有する歯周病患者には,歯周病細菌の検出率が高い。
(レベル 4)
Lalla E, Kaplan S, Chang SM, Roth GA, Celenti R, Hinckley K, Greenberg E, Papapanou PN.
Periodontal infection profiles in type 1 diabetes.
J Clin Periodontol. 2006; 33: 855-62.
目
的:糖尿病に罹患した 1 型歯周病患者と糖尿病に罹患していない歯周病
患者の細菌叢と免疫応答を比較する。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:コロンビア大学ナオミベリー糖尿病センター。
対 象 患 者:50 名の 1 型糖尿病に罹患した歯周病患者,50 名の糖尿病に罹患し
ていない歯周病患者。
暴 露 要 因:糖尿病。
主要評価項目:2 群(1 型糖尿病+歯周病,非糖尿病+歯周病)に分け,臨床項
目,細菌叢,血清抗体価,サイトカインレベル。
結
果:歯周病群の比較で,糖尿病のある患者と糖尿病のない患者では,
Eubacterium novatum 以外の菌の検出率に差は認めなかった。
結
論:症状等の条件をそろえると細菌叢にはあまり違いがない。
(レベル 4)
CQ1:歯周病の治療をすると糖尿病の状態は改善するか?
推奨:歯周治療によって糖尿病の状態は有意に改善したというランダム化比
較試験(レベル 2)および非ランダム化比較試験(レベル 3)の文献
がある。しかしながら,メタ解析においては統計学的有意差をもって
改善することが認められていない。従って,歯周治療による糖尿病の
改善については注目されるが,今後のさらなる検討が期待される。
(推奨度 グレード C1)
背景・目的
歯周病は糖尿病と同じく慢性疾患であり,歯周病と糖尿病の関係は文献的に
1899 年にはすでに Grunert1)によって示されている。また,糖尿病性歯肉炎や歯周
病のリスクファクターとして糖尿病の存在が挙げられ,糖尿病の影響を歯周病が受
けるという指摘が多かった。しかし,近年,歯周病と糖尿病は双方向性に関連する
ことが指摘されるとともに,組織破壊は感染と最終糖化産物誘導サイトカインの両
者によって相互に影響を受けている 2)ことから,糖尿病に対する歯周治療の効果が
注目される。
解説
糖尿病を有する歯周病患者にスケーリング・ルートプレーニング(SRP)などの
歯周治療を行うと 1 型糖尿病においても,2 型糖尿病においてもグリコヘモグロビ
ン(HbA1C)
,空腹時血糖は減少しているという報告が多い 3∼9)。しかも,歯周組
織の炎症の強弱によって増減する TNF-αと糖尿病の指標である HbA1C とは強い
相関がみられている 7)。さらに歯肉溝滲出液,IL-1β,TNF-αは有意に減少して
いる 10)。しかし,症例数が少ないので,歯周治療が血糖コントロールに有意な効
果をもたらすかどうかの決定には大規模研究が必要であるといわれている 10)。
歯周病治療と医科治療の併用は血糖コントロールを改善し,有意差はないが,部
分的には歯周治療による効果が認められている 11)。また,代謝調節を改善しても
歯周病治療への有意な影響はないが,代謝を調節すると 2 型糖尿病と歯周炎との関
係に有意な影響が出る可能性が示されている 12)。また,歯周治療をすると空腹時
血糖および HbA1C が有意差はないが減少傾向を示すという報告 13)や,また,空腹
時血糖および HbA1C は減少傾向にあるが,全身状態に対する歯周治療の効果に有
意差は見出されないという報告がなされている。さらに空腹時血糖および HbA1C
の減少傾向はダイエットでも生じるので,ダイエットコントロール研究が必要であ
るとする報告もある 14)。
以上のように歯周治療によって糖尿病の状態は改善されるとする報告があるのに
対して,否定的な意見もあり 15),歯周治療に伴う HbA1C の改善について検討した
メタアナリシス文献では統計的有意差がみられない 16)と結論付けていることか
ら,さらに厳格な研究が必要である 17)。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして Medline を検索した。Medline に利用した検索スト
ラ テ ジ ー は,(
(
“periodontitis”
[MeSH Terms]OR“periodontal disease”
[All
Fields])AND“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]AND(“glycemic control”
[All
Fields]OR“glucose tolerance”
[Text Words])AND“periodontal therapy”
[All
Fields])によって文献を検索し,関連文献を収集した。主要な情報として,ラン
ダム化比較試験による研究を収集対象とした。
seq.
#1
terms and strategy
“periodontitis”
[MeSH Terms]OR
hits
56,832
“periodontal diseases”
[MeSH Terms]
#2
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]
251,190
#3
“glycemic control”
[All Fields]OR
43,963
“glucose tolerance”
[Text Words]
#4
#5
“periodontal therapy”
[All Fields]
#1 AND #2 AND #3 AND #4
21,637
38
最終検索日 2008 年 10 月 6 日
参考文献
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関係論文の構造化抄録
Rodorigues DC, Taba M Jr, NOvaes AB, Souza SLS, Grisi MFM.
Effect of non-surgical periodontal therapy on glycated control in patients with
type 2 diabetes mellitus.
J Periodontol. 2003; 74: 1361-7.
目
的:2 型糖尿病患者における歯周病の非観血処置は糖尿病の状態を改善
するかを検討する。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:ブラジルの大学病院。
対 象 患 者:2 型糖尿病を有する歯周病患者 30 名
暴 露 要 因:full mouth SRP +アモキシシリン(Group 1: G1),full mouth SRP
(Group 2: G2)
主要評価項目:プロービングポケットデプス,HbA1C
結
果:プロービングポケットデプスは G1 では 0.8 ± 0.6mm(p < 0.05),
G2 では 0.9 ± 0.4mm(p < 0.05)減少した。アタッチメントレベ
ルは有意差なし。HbA1C は両グループで 3 ヶ月後に減少したが,
G1 に有意差なし,G2 に有意差あり。空腹時血糖の変化には有意差
がなかった。
結
論:歯周治療によって 2 型糖尿病患者の血糖コントロールは改善された
が,有意差はなかった。
(レベル 2 −)
Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco
RJ.
Treatment of periodontal disease in diabetes reduces glycated hemoglobin.
J Periodontol. 1997; 68: 713-9.
目
的:糖尿病患者の代謝調節レベルにおける歯周病処置の影響を検討す
る。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:アメリカ ギラ・リバー・インディアン・コミュニティー。
対 象 患 者:25 ∼ 65 歳の 2 型糖尿病を有する重度歯周病患者(女性 81 名,男
性 32 名)。
暴 露 要 因:歯周治療と以下の 5 つの抗菌薬との併用。
1)水と 100mg ドキシサイクリンを 2 週間
2)0.12%クロルヘキシジン
(CHX)と 100mg ドキシサイクリンを 2
週間
3)ポビドンヨードと 100mg ドキシサイクリンを 2 週間
4)0.12% CHX とプラセボ
5)水とプラセボ
主要評価項目:術前,術後 3 および 6 ヶ月におけるプロービングポケットデプス,
アタッチメントレベル,プラーク中の Porphyromonas gingivalis の
検出,血糖値およびグリコヘモグロビン(HbA1C)。
結
果:歯周病感染処置および歯周炎の消退は HbA1C レベルの減少に関連
する。
結
論:歯周炎のコントロールは糖尿病患者のマネージメントに重要であ
る。
(レベル 2)
Kiran M, Arpak N, Ünsal E, Erdogan MF.
The effect of improved periodontal health on metabolic control in type 2 diabetes
mellitus.
J Clin Periodontol. 2005; 32: 266-72.
目
的:2 型糖尿病患者の代謝調節における歯周治療の影響を検討する。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:トルコ アンカラ大学病院。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 44 名。
暴 露 要 因:スケーリング・ルートプレーニング。
主要評価項目:プラーク指数,歯肉炎指数,プロービングポケットデプス,アタッ
チメントレベル,GR,プロービング時の出血を初診時,1 および 3
ヶ月後血糖値,2 時間後の糖負荷試験,HbA1C,総コレステロー
ル,トリグリセロール,HDL,LDL,マイクロアルブミン尿素。
結
果:プラーク指数,歯肉炎指数,プロービングポケットデプス,アタッ
チメントレベル,GR,プロービング時の出血は治療により改善
し,HbA1C も減少したが,コントロール群では,これらの値はわ
ずかに上昇した。
結
論:非観血的歯周治療は 2 型糖尿病患者の血糖状態改善に関連する。
(レベル 2 −)
Jones JA, Miller DR, Wehler CJ, Rich SE, Krall-Kaye EA, McCoy LC, Christiansen
CL, Rothendler JA, Garcia RI.
Does periodontal care improve glycated control? The department of veteran affairs dental diabetes study.
J Clin Periodontol. 2007; 34: 46-52.
目
的:歯周病治療によって糖尿病状態が改善するかを検討する。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:アメリカボストンの病院。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 165 名
暴 露 要 因:スケーリング・ルートプレーニング,ドキシサイクリン投与(14
日間),1 日 2 回クロルヘキシジン洗浄(4 ヶ月間)
コントロール:通常の歯周治療。
主要評価項目:HbA1C。
結
果:歯周病治療と医科治療の併用は血糖コントロールを改善。
結
論:歯周治療による有意な効果はないが,部分的には効果がある。
(レベル 2)
O Connell PA, Taba M, Nomizo A, Foss Freitas MC, Suaid FA, Uyemura SA,
Trevisan GL, Novaes AB, Souza SL, Palioto DB, Grisi MF.
Effects of periodontal therapy on glycemic control and inflammatory markers.
J Periodontol. 2008; 79: 774-83.
目
的:糖尿病を有する歯周病患者の HbA1C および炎症のバイオマーカー
に対する SRP の効果を検討する。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
研 究 施 設:ブラジルサンパウロ大学病院。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 30 名。
暴 露 要 因:SRP とドキシサイクリン服用(15 名),SRP のみ(15 名)。
主要評価項目:アタッチメントレベル,プロービングポケットデプス,プロービン
グ時の出血,プラーク指数,SUP,HbA1C,空腹時血糖,IL-6,
IFN-γ誘導タンパク,バイオフィルムの存在
結
果:2 型糖尿病患者に対して歯周治療を行った結果,空腹時血糖および
HbA1C は減少傾向にあるが,全身状態に対する歯周治療の効果に
有意差は見出されていない。
結
論:空腹時血糖および HbA1C の減少傾向はダイエットでも生じるの
で,大規模研究およびダイエットコントロール研究が必要である。
(レベル 3)
CQ2:糖尿病患者では抗菌療法(局所および全身投与)の
併用は有効か?
推奨:糖尿病患者に歯周基本治療を行う場合,抗菌療法(全身投与)の併用
は効果が認められない(レベル 2 −)。(推奨度 グレード C2)
一方,抗菌療法(局所投与)の併用は有効である(レベル 4 ∼ 2
+)。(推奨度 グレード C1)
背景・目的
慢性歯周炎患者に歯周基本治療を行うことにより,歯肉の炎症症状は軽減し,歯
周病の臨床的パラメーターの改善が認められる。また,歯周病は歯周病原細菌を含
むプラーク細菌の感染症の側面を持つことから,以前より歯周基本治療の際に抗菌
薬の局所投与および全身投与を併用することによって,歯周組織の臨床パラメータ
ーの改善が期待されていた。しかし,安易な抗菌薬の使用は耐性菌の出現の機会を
増し,さらにはバイオフィルム感染症の病態を有する歯周病には,抗菌薬の応用は
あまり効果が認められないとする意見もある。一方,歯周基本治療で行う歯周組織
検査およびスケーリング・ルートプレーニング(SRP)は,歯周組織に外傷を与
え,プロービングや SRP に伴い一過性の菌血症が生じることが知られている。さ
らに,糖尿病により慢性の高血糖状態が長期に続くと種々の合併症を併発し,好中
球機能低下,微小血管障害,コラーゲン代謝障害等により創傷治癒不全や易感染性
を生じる。糖尿病患者の歯周基本治療に抗菌療法を併用することの歯周基本治療の
成否に対する効果は明確ではない。
解説
糖尿病患者は歯周病を高頻度で発症すること,また易感染性であることが知られ
ている。また,歯周基本治療により菌血症が一過性に生じることから菌血症の予防
および治療には抗菌薬の投与が有効である。一方,抗菌薬の使用による副作用,耐
性菌の出現等のリスクも考えられる。そこで,糖尿病患者の歯周基本治療に抗菌療
法(局所および全身投与)を併用した場合の治療効果,臨床的パラメーターの改善
の有無について検索を行った。6 つの参考文献のうち 1 ∼ 4 は全身投与,5 および
6 は局所投与に関する文献である。
全身投与に関する 4 つの文献では,3 つの文献で抗菌療法の効果がなく,1 つの
論文で臨床パラメーターの改善が認められた。
2 型糖尿病患者に歯周基本治療(SRP)を実施し,ドキシサイクリン(100mg/
day)を 14 日間投薬した。3 ヶ月後の臨床的パラメーターに変化は無かった 1)
(レ
ベル 2 −)。中等度から重度の 1 型糖尿病の歯周炎患者を 30 名ずつの 2 グループに
分け,歯周基本治療を実施し,ドキシサイクリン(100mg/day)を 15 日間投薬し
た。12 週間後の 6mm 以上の歯周ポケットおよびプロービング時の出血がドキシサ
イクリン投与グループで有意に改善した 2)
(レベル 3)。30 名の 2 型糖尿病患者をラ
ンダムに 15 名ずつの 2 グループに分け,グループ 1 には one-stage full-mouth SRP
(FMSRP)とアモキシシリン 875mg 投与,グループ 2 には FMSRP のみを行っ
た。そして 2 週に 1 度 3 ヶ月間のメインテナンスを行った結果,3 ヶ月後の,臨床
パラメーターに変化は無かった 3)
(レベル 2 −)
。113 名の 2 型糖尿病患者(ピマイ
ンディアン)をランダムに 5 群に分け,超音波スケーリングとキュレッタージに加
え 1)水での局所洗浄とドキシサイクリン(100mg/day,2 週間)2)0.12%クロル
ヘキシジン(CHX)とドキシサイクリン(100mg/day,2 週間)3)ポピドンヨー
ドとドキシサイクリン(100mg/day,2 週間)4)0.12%クロルヘキシジン(CHX)
とプラセボ 5)水とプラセボ(コントロール)の投与を行い,3,6 ヶ月後に評価を
行ったところ,臨床パラメーターの改善度に変化は無かった 4)(レベル 2 −)。
局所投与に関する 2 つの文献では,両文献とも臨床パラメーターの改善が認めら
れた。11 人の 1 型糖尿病患者の 5mm 以上の歯周ポケットを 2 ヶ所ずつ(22 部
位)選択し,歯周基本治療終了後に同一患者の 1 部位に対して SRP とプラセボゲ
ル,もう 1 部位には SRP と 10%ドキシサイクリンゲルのポケット内投与を行った
結果,プロービングポケットデプスおよびアタッチメントレベルがテストグループ
で 12 ヶ月後に有意に改善した 5)
(レベル 3)
。13 名の 2 型糖尿病患者に,1 週間に 1
度 1 ヶ月間全歯のポケット内にミノサイクリンを局所投与した結果,ポケット内細
菌数が有意に低下した 6)
(レベル 4)。
以上のことから,歯周基本治療と抗菌療法(全身投与)に関する文献では,抗菌
療法の効果が無い場合がほとんどであることから(レベル 2 −)推奨度 C2 とし
た。一方,抗菌薬の局所投与に関する論文では,2 つの論文で臨床パラメーターの
改善が認められたが(レベル 3 および 4)
,その改善率が大きくないことから推奨
度を C1 とした。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして Medline を検索した。Medline に用いた検索ストラ
テジーは,
(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]AND
“mellitus”
[All Fields]
)OR“diabetes mellitus”
[All Fields])AND(“periodontal”
[All Fields]AND(“therapy”
[Subheading]OR“therapy”
[All Fields]OR“treatment”
[All Fields]OR“therapeutics”
[MeSH Terms]OR“therapeutics”
[All
Fields]))AND (
“anti-bacterial agents”
[MeSH Terms]OR(“anti-bacterial”
[All
Fields]AND“agents”
[All Fields])OR“anti-bacterial agents”
[All Fields]OR
(“antibacterial”
[ All Fields]AND“agents”
[ All Fields])OR“antibacterial
agents”
[All Fields]OR“anti-bacterial agents”
[Pharmacological Action])で,関
連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容を検討し
た。主要な情報として,歯周基本治療と抗菌療法(局所と全身)を併用した場合の
臨床的パラメーターの変化に関する研究を収集対象とした。
seq.
#1
terms and strategy
hits
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
249,612
[All Fields]AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes
mellitus”
[All Fields]
#2
“periodontal”
[All Fields]AND(“therapy”
[Subheading]OR
24,085
“therapy”
[All Fields]OR“treatment”
[All Fields]OR
“therapeutics”
[MeSH Terms]OR“therapeutics”
[All Fields])
#3
“anti-bacterial agents”
[MeSH Terms]OR(“anti-bacterial”
433,103
[All Fields]AND“agents”
[All Fields])OR“anti-bacterial
agents”
[All Fields]OR(“antibacterial”
[All Fields]AND
“agents”
[All Fields])OR“antibacterial agents”
[All Fields]
OR“anti-bacterial agents”
[Pharmacological Action]
#4
#1 and #2 and #3
42
最終検索日 2008 年 8 月 27 日
参考文献
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control and inflammatory markers. J Periodontol. 2008; 79: 774-83.
Llambés F, Silvestre FJ, Hernández-Mijares A, Guiha R, Caffesse R. Effect of non-surgical
periodontal treatment with or without doxycycline on the periodontium of type 1 diabetic
patients. J Clin Periodontol. 2005; 32: 915-920.
Rodrigues DC, Taba MJ, Novaes AB, Souza SL, Grisi MF. Effect of non-surgical periodontal
therapy on glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus.J Periodontol. 2003;
74: 1361-1367.
.Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco RJ.
Treatment of periodontal disease in diabetics reduces glycated hemoglobin. J Periodontol.
1997; 68: 713-719.
Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF. Therapy
with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabetes mellitus and
periodontitis. J Clin Periodontol. 2004; 31: 648-653.
Iwamoto Y, Nishimura F, Nakagawa M, Sugimoto H, Shikata K, Makino H, Fukuda T, Tsuji
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関連論文の構造化抄録
Llambés F, Silvestre FJ, Hernández-Mijares A, Guiha R, Caffesse R.
Effect of non-surgical periodontal treatment with or without doxycycline on the
periodontium of type 1 diabetic patients.
J Clin Periodontol. 2005; 32: 915-920.
目
的:1 型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリンによる抗
菌療法の効果を調べる。
研究デザイン:準ランダム化比較試験。
研 究 施 設:スペインの大学病院。
対 象 患 者:1 型糖尿病患者 60 名(ドキシサイクリン投与群 30 名,非投与群 30
名)。
暴 露 要 因:口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング,1 日 2 回のク
ロルヘキシジンによる含嗽,ドキシサイクリン(100mg/ 日)15 日
間投薬。
主要評価項目:プラーク指数,プロービング時の出血,プロービングポケットデプ
ス,アタッチメントレベル。
結
果:12 週間後の臨床的パラメーターを比較した結果,6 ミリ以上の歯周
ポケットおよびプロービング時の出血がドキシサイクリン投与群で
有意に改善した。
結
論:1 型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリンによる抗
菌療法の併用は臨床的パラメーターの改善に有効である。
(レベル 3)
Rodrigues DC, Taba MJ, Novaes AB, Souza SL, Grisi MF.
Effect of non-surgical periodontal therapy on glycemic control in patients with
type 2 diabetes mellitus.
J Periodontol. 2003; 74: 1361-1367.
目
的:2 型糖尿病患者に対する one-stage full-mouth SRP(FMSRP)とア
モキシシリン投与の効果を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 修 施 設:ブラジルの大学病院。
対 象 患 者:6 ヶ月以内に治療を受けていない歯周病患者 30 名で,過去 5 年以
内のインスリン使用,喫煙,妊娠,糖尿病診断の既往のない者。
暴 露 要 因:テスト群には,one-stage full-mouth SRP(FMSRP)とアモキシシ
リン 875mg 投与を行い,コントロール群には FMSRP のみを行
い,その後 2 週に 1 度 3 ヶ月間のメインテナンスを行った。
主要評価項目:プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,プロービン
グ時の出血,HbA1C。
結
果:3 ヶ月後の臨床的パラメーターは,両群で変化無かった。
結
論:2 型糖尿病患者に対する one-stage full-mouth SRP(FMSRP)とア
モキシシリンの併用は抗菌薬を使用しない場合と比べ,効果は同程
度である。
(レベル 2 −)
Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco
RJ.
Treatment of periodontal disease in diabetics reduces glycated hemoglobin.
J Periodontol. 1997; 68: 713-719.
目
的:2 型糖尿病患者に対する歯周基本治療と,ドキシサイクリンの全身
投与の効果を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:アメリカ ギラ・リバー・インディアン・コミュニティー。
対 象 患 者:2 型 糖 尿 病 患 者 113 名( ピ マ イ ン デ ィ ア ン ; 女 性 81 名, 男 性 32
名)。
暴 露 要 因:113 名の 2 型糖尿病患者をランダムに 5 群に分け,超音波スケーリ
ングとキュレッタージに加え,
1)水での局所洗浄とドキシサイクリン(100mg/day,2 週間)
2)0.12%クロルヘキシジン(CHX)とドキシサイクリン(100mg/
day,2 週間)
3)ポピドンヨードとドキシサイクリン(100mg/day,2 週間)
4)0.12%クロルヘキシジン(CHX)とプラセボ
5)水とプラセボ(コントロール)
主要評価項目:術前,術後 3 および 6 ヶ月におけるプロービングポケットデプス,
ア タ ッ チ メ ン ト レ ベ ル, ポ ケ ッ ト 内 Porphyromonas gingivalis
数,HbA1C。
結
果:ドキシサイクリンを投与した群は,コントロール群に比べ,プロー
ビング値,アタッチメントレベルの改善が大きい傾向にあったが,
有意差はなかった。
結
論:2 型 糖 尿 病 患 者 に 対 す る 歯 周 基 本 治 療 と ド キ シ サ イ ク リ ン
(100mg/day,2 週間)の投薬の併用は,臨床パラメーターの改善
については差がなかった。
(レベル 2 −)
Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF.
Therapy with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabe-
tes mellitus and periodontitis.
J Clin Periodontol. 2004; 31: 648-653
目
的:1 型糖尿病患者に対する歯周基本治療と歯周ポケット内へのドキシ
サイクリン局所投与による抗菌療法の効果を調べる。
研究デザイン:準ランダム化比較試験。
研 究 施 設:ブラジル キャンピナス大学の大学病院。
対 象 患 者:1 型糖尿病患者で基本治療後に 2 ヶ所以上 5mm 以上のポケットが
ある患者 11 名。
暴 露 要 因:歯周基本治療終了後に同一患者の 1 部位に対して SRP とプラセボ
ゲルのポケット内投与,もう 1 部位には SRP および 10%ドキシサ
イクリンゲルのポケット内投与。
主要評価項目:アタッチメントレベル,プロービングポケットデプス,gingival
margin level(GML)。
結
果:プロービングポケットデプスおよびアタッチメントレベルがテスト
グループで 12 ヶ月後に有意に改善。
結
論:1 型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリンのポケッ
ト内局所投与の併用は臨床的パラメーターの改善に有効である。
(レベル 3)
CQ3:局所麻酔薬中のエピネフリンで血糖値は上昇するか。
推奨:糖尿病患者においてエピネフリン含有局所麻酔薬を使用した場合には
一過性の血糖値上昇を生じる可能性があるが,その程度は健常者と変
わりがないと考えられる(レベル 4)。コントロール良好な糖尿病患
者においては安全に使用することが可能である。(推奨度 グレード
C1)
背景・目的
歯周治療としての非外科処置(スケーリング・ルートプレーニング ; SRP)およ
び外科処置のいずれにおいても,局所麻酔の実施が多くの場合必要とされる。しか
しながら,現在日本で最も広く用いられ,かつ麻酔効果の高いとされている局所麻
酔薬(塩酸リドカイン)中には血管収縮薬として 1:80,000 濃度のエピネフリンが
含まれている(1ml 当り 12.5μg に相当)。エピネフリン(アドレナリン)は局所
における血管収縮作用を有するばかりでなく,交感神経刺激作用を有しており,血
中に放出されると心拍数,血圧の上昇や血糖値を上昇させる作用をもつ。従って,
糖尿病患者の歯周治療に際して,エピネフリンを含有する局所麻酔薬を使用した場
合,血中への移行により血糖値の上昇につながる可能性が懸念される。
解説
局所麻酔薬の大部分は血管拡張作用を有するため,局所麻酔薬のみを注射した場
合には血中への移行が早く,麻酔持続時間が短くなるばかりでなく血管内濃度の上
昇による副作用や出血量の増加による処置困難が懸念される。そのため歯科用とし
て用いられる局所麻酔薬は血管収縮薬を含有しており,エピネフリンはその代表的
なものである。しかし歯科処置における局所麻酔の実施に際しては,エピネフリン
自体が血中に移行することで,全身疾患のない患者(健常者)でも血糖値の上昇を
引き起こすことが報告されている 1, 2)
(レベル 4)。アドレナリンはストレス負荷状
態において中枢神経系から分泌されて血中濃度が上昇するため,歯科処置自体が原
因となって血糖値の上昇をもたらしている可能性もあるが,エピネフリン非含有局
所麻酔薬(血管収縮薬としてフェリプレシンを含有)との比較試験 3, 4)で,エピネ
フリン含有局所麻酔薬使用時のみに血糖値の上昇がみられ,局所麻酔薬中のエピネ
フリンがその原因であることが強く示唆された(レベル 2)。
糖尿病患者における局所麻酔薬中のエピネフリンによる血糖値の上昇作用に関し
て健常者と比較した研究 5, 6)では,コントロールされた 2 型糖尿病患者群の血糖値
は健常者に比べて高いものの,局所麻酔後の血糖値は両群ともに介入前と比べて有
意差がなかったとしている(レベル 4)
。しかし,うち一つの研究 6)は血糖降下薬
の服薬を中止した患者の場合は介入後に血糖値の有意の上昇があったとしている
が,有害事象はなかったと報告している。さらに食事療法や投薬によるコントロー
ルを受けていない糖尿病患者は血管収縮薬の絶対的禁忌症とする総説 7)もみられ
る。従って,糖尿病患者では,健常人と同様にエピネフリン含有局所麻酔薬の使用
により一過性に血糖値が上昇するものと考えられるが,その安全性について高いレ
ベルでのエビデンスを得ることはできない。しかし,内科的に良好なコントロール
されている糖尿病患者では概ね安全に使用することができるものと考える(コンセ
ンサス)
。なお未治療あるいはコントロール不良の糖尿病患者については,まず内
科へのコントロール依頼を行うことが推奨される。またこれらの患者において局所
麻酔を避けられない場合にはエピネフリン非含有(フェリプレシン)のものの使用
を考慮する必要もある。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして Medline および医中誌を検索した。Medline に用い
た 検 索 ス ト ラ テ ジ ー は,((“dental clinics”
[MeSH Terms]OR(“dental”
[All
Fields]AND“clinics”
[All Fields])OR“dental clinics”
[All Fields]OR“dental”
[All Fields])AND(
“local anaesthesia”
[All Fields]OR“anesthesia, local”
[MeSH
Terms]OR(“anesthesia”
[All Fields]AND“local”
[All Fields])OR“local anesthesia”
[All Fields]OR(“local”
[All Fields]AND“anesthesia”
[All Fields])))
AND(
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields])AND(“blood glucose”
[MeSH Terms]OR(
“blood”
[All Fields]AND“glucose”
[All Fields])OR“blood
glucose”
[All Fields])の 5 つを用いて関連する論文を抽出した後,その論文の参
考文献リストについても内容の検討を行った。医中誌については[“歯科局所麻
酔”OR“歯科用局所麻酔薬”]AND“エピネフリン”AND“血糖”のシソーラス
を用いて検索を行った。
seq.
#1
terms and strategy
hits
(“dental clinics”
[MeSH Terms]OR(“dental”
[All Fields]
3,470
AND“clinics”
[All Fields])OR“dental clinics”
[All Fields]
OR“dental”
[All Fields])AND(“local anaesthesia”
[All Fields]
OR“anesthesia, local”
[MeSH Terms]OR(“anesthesia”
[All Fields]
AND“local”
[All Fields])OR“local anesthesia”
[All Fields]OR
(
“local”
[All Fields]AND“anesthesia”
[All Fields]))
#2
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]
249,650
AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields]
#3
“blood glucose”
[MeSH Terms]OR(“blood”
[All Fields]AND
157,515
“glucose”
[All Fields])OR“blood glucose”
[All Fields]
#4
#2 OR #3
#5
#1 AND #4
352,053
24
#6
“epinephrine”
[MeSH Terms]OR“epinephrine”
[All Fields]
115,959
#7
“vasoconstrictor agents”
[MeSH Terms]OR(“vasoconstrictor”
217,775
[All Fields]AND“agents”
[All Fields])OR“vasoconstrictor
agents”
[All Fields]OR“vasoconstrictors”
[All Fields]OR
[Pharmacological Action]
“vasoconstrictor agents”
#8
#6 OR #7
#9
#5 AND #8
228,786
17
最終検索日 2008 年 7 月 14 日
参考文献
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Meechan JG. and Welbury RR.Metabolic responses to oral surgery under local anesthesia
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Anesth Prog. 1992; 39: 9-12.
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Perusse R, Goulet JP, Turcotte JY. Contraindications to vasoconstrictors in dentistry: Part
II. Hyperthyroidism, diabetes, sulfite sensitivity, cortico-dependent asthma, and pheochromocytoma. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1992; 74: 687-91.
参考文献の構造化抄録
Meechan JG and Welbury RR.
Metabolic responses to oral surgery under local anesthesia and sedation with intravenous midazolam: the effects of two different local anesthetics.
Anesth Prog. 1992; 39: 9-12.
目
的:静脈内鎮静後に局所麻酔下で抜歯を実施する患者においてエピネフ
リンが血糖値の変動に及ぼす影響を,エピネフリン非含有局所麻酔
薬使用時と比較検討する。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:リドカイン+エピネフリン使用群 10 名,プリロカイン+フェリプ
レシン使用群 10 名。
暴 露 要 因:静脈内鎮静後に局所麻酔下での埋伏智歯抜歯。
主要評価項目:血糖値,血清カリウム濃度。
結
果:局所麻酔実施後 10,20,30 分において,エピネフリン群では血糖
値がベースラインに比べて有意に上昇,一方フェリプレシン群では
有意に低下した。血清 K +はエピネフリン群で 10 分に一過性の有
意の低下があるのに対して,フェリプレシン群は有意に増加しつづ
けた。
結
論:局所麻酔薬中に含まれるエピネフリンは血糖値を上昇させる。
(レベル 2 −)
Schaira VR, Ranali J, Saad MJ, de Oliveira PC, Ambrosano GM, Volpato MC.
Influence of diazepam on blood glucose levels in nondiabetic and non-insulin-dependent diabetic subjects under dental treatment with local anesthesia.
Anesth Prog. 2004; 51: 14-8.
目
的:血管収縮薬を使用した局所麻酔下での SRP が 2 型糖尿病患者の血
糖値を上昇させうるかを健常者と比較検討する。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 10 名,健常者 10 名。
暴 露 要 因:Diazepam 5mg あるいはプラセボ服用後,局所麻酔(2% メピバカ
イン,1:100,000 エピネフリン)下で SRP。
主要評価項目: 血 糖 値(GOD-PAP 法 )
,HbA1C, 血 圧, 心 拍 数,Corah Dental
Anxiety Scale。
結
果:全測定時間において 2 型糖尿病患者血糖値は有意に高く,群内での
有意の変動はみられない。血圧(拡張期,収縮期)は群内,群間の
有意差なし。不安レベルも群間の有意差がない。いずれの群におい
ても Diazepam 服用の有無による差は血糖値の差は認められなかっ
た。
結
論:糖尿病患者と健常者の局所麻酔後の血糖値の変動は差がない。
(レベル 4)
Tily FE, Thomas S.
Glycemic effect of administration of epinephrine-containing local anaesthesia in patients undergoing dental extraction, a comparison between healthy and diabetic
patients.
Int Dent J. 2007; 57: 77-83.
目
的:エピネフリン含有局所麻酔薬使用による抜歯が糖尿病患者の血糖値
に及ぼす影響を健常者の場合と比較検討する。
研究デザイン:症例対照研究。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:健常者 30 名,服薬・食事療法を受けた 2 型糖尿病患者 17 名(control 群),抜歯時に服薬なしの 2 型糖尿病患者 8 名(uncontrolled
群)。
暴 露 要 因:エピネフリン含有局所麻酔使用による抜歯。
主要評価項目:血糖値。
結
果:局所麻酔下で抜歯を実施(麻酔薬使用量・侵襲程度はコントロール
されていない)。術前と抜歯後 10 分の血糖値を比較。健常者と
control 群では術前・術後に有意の変動がみられなかった。一方 uncontrolled 群では血糖値が有意に上昇した
結
論:糖尿病患者と健常者の局所麻酔後の血糖値の変動は差がない。
(レベル 4)
CQ4:糖尿病患者に歯周基本治療を行うと菌血症を生じるか?
推奨:歯周基本治療で行うスケーリングやスケーリング・ルートプレーニン
グ(SRP)のみならず,プロービングを用いた歯周組織検査やブラ
ッシングなどの機械的プラークコントロールによっても菌血症が生じ
る(レベル 4)
。しかし,菌血症の発生は短時間で,また侵襲の程度
はきわめて軽微であり,糖尿病を悪化させる可能性は低い。糖尿病患
者において健常者と比べて口腔由来の菌血症の発生頻度,程度が増す
という報告はなく,歯周組織における炎症の軽減によるメリットの方
が大きいと考えられるため,糖尿病患者でも歯周基本治療を実施する
ことが推奨される。(推奨度 グレード C1)
背景・目的
歯周基本治療は口腔内からの可及的な原因除去を目指した治療で,すべての患者
に実施することが求められ,またその成否は引き続いて行われる歯周治療の効果に
も大きな影響を及ぼす。しかしスケーリング・ルートプレーニング(SRP)は,組
織に外傷を与えるものであり,抜歯の場合と同様に体内への細菌侵入を引き起こす
ことが知られている。このような細菌侵入は SRP のみならず,スケーリング,プ
ロービングなどの歯周組織検査やブラッシングによっても生じ,一時的な菌血症が
発生することが報告されている。歯周組織を含む口腔に由来する菌血症は,病巣感
染(focal infection)の原因として特に易感染性患者において問題とされてきた。
免疫機能低下,局所の創傷治癒遅延や出血時間延長を伴う糖尿病患者においても,
その病態悪化や合併症発症に繋がる可能性が懸念される。
解説
歯周治療において行われる SRP や歯肉縁上スケーリングのみならず,プローブ
を用いた歯周組織検査でも歯周組織への細菌侵入を引き起こし,菌血症を発生させ
(レベル 4)
。さらにブラッシングや歯間ブラシなどを用いた機械的口腔清掃
る 1∼4)
や咀嚼などの日常的活動によっても,同様に菌血症が生じることが報告されてい
(レベル 4)
。アメリカ心臓病協会(American Heart Association; AHA)は,
る 5, 6)
感染性心内膜炎(Infective Endocarditis; IE)予防を目的とした抗菌薬使用に関す
る新たなガイドライン 7)の中で,歯科治療により発生した菌血症は,その頻度,程
度,持続期間においてブラッシングなどの日常的活動によるものと臨床上の差異が
ないとしている。また歯科治療による菌血症の場合,検出細菌量は血液 1ml あた
り 104CFU 以下で,10 ∼ 30 分程度で急速に減少することから,その侵襲程度も低
く一過性のものと考えられている 7)。しかしスケーリング後の菌血症は,歯周炎患
者において歯肉炎患者や健常者と比べて発生頻度が有意に高く,検出細菌数も歯肉
炎指数,プラーク指数及びプロービング時の出血陽性部位数と正の相関があること
が報告されており,歯肉炎症の進行が菌血症発症のリスクを増す可能性がある 8)
(レベル 4)。従って,適切な歯周基本治療を実施して歯肉の炎症を軽減するととも
に,良好な口腔清掃状態を維持することは,結果的に口腔に由来する菌血症の予防
に繋がると考えられる。
糖尿病の場合,末梢の組織は易感染性を呈し,また創傷治癒遅延を伴いやすい。
宿主の免疫も白血球の遊走能や活性酸素産生能の低下を来すことが知られており,
局所の血糖が高ければ菌血症の頻度も増加する。このため,極端に血糖コントロー
ルが悪い場合には,細菌性心内膜炎などの合併症に留意する必要がある。しかしな
がら,糖尿病患者において,口腔に由来する菌血症の発症リスクが健常者と比べて
有意に高くなるという根拠は見当たらなかった。2 型糖尿病患者を対象とした横断
研究では,その原因として尿路感染以外は非糖尿病患者の菌血症患者と比べて有意
差がなく,予後についても差がないことが報告されている 9)。またアメリカ歯科医
師会(American Dental Association; ADA)の歯科治療における IE 予防に関する
コンセンサスレポート 10)では,易感染性の原因となる可能性のある疾患として 1
型糖尿病が取り上げられているが,この問題に関して客観的なエビデンスに乏し
く,最終的に ADA は 1 型糖尿病患者に対する菌血症予防を目的とした抗菌薬使用
について必須のものとしていない(専門家のコンセンサス)
。従って,健常人の場
合と同様に歯周基本治療により一過性の菌血症が発症するが,その程度や有害事象
について高いレベルのエビデンスはない。特にコントロール不良と思われる糖尿病
患者については医師の判断をあおぐ必要があるものの,糖尿病患者においても歯周
組織の炎症を軽減することは,菌血症の発症に関してリスクよりもメリットが上回
ると考えられるため,歯周基本治療を実施することが推奨される。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして Medline および医中誌を検索した。Medline に用い
た 検 索 ス ト ラ テ ジ ー は,((“dental clinics”
[MeSH Terms]OR(“dental”
[All
Fields]AND“clinics”
[All Fields])OR“dental clinics”
[All Fields]OR“dental”
[All Fields])AND(“bacteraemia”
[All Fields]OR“bacteremia”
[MeSH Terms]
OR“bacteremia”
[All Fields]))AND(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR
(
“diabetes”
[All Fields]AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All
Fields])の 2 つを用いて,まず糖尿病患者における歯科治療を原因とする菌血症
に関連する論文を抽出し,そこから歯周治療に関連したものを選び出すという方法
をとった。医中誌については“菌血症”AND“糖尿病”のシソーラスを用いて検
索を行った。
seq.
#1
terms and strategy
hits
(“dental clinics”
[MeSH Terms]OR(“dental”
[All Fields]AND
612
“clinics”
[All Fields])OR“dental clinics”
[All Fields]OR“dental”
[All Fields])AND(“bacteraemia”
[All Fields]OR“bacteremia”
[MeSH Terms]OR“bacteremia”
[All Fields])
#2
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]
249,650
AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields]
#3
#1 AND #2
16
最終検索日 2008 年 7 月 14 日
参考文献
1.
Kinane DF, Riggio MP, Walker KF, MacKenzie D, Shearer B. Bacteraemia following periodontal procedures. J Clin Periodontol. 2005; 32: 708-13.
2. Lafaurie GI, Mayorga-Fayad I, Torres MF, Castillo DM, Aya MR, Barón A, Hurtado PA.
Periodontopathic microorganisms in peripheric blood after scaling and root planing. J Clin
Periodontol. 2007; 34: 873-9.
3. Daly C, Mitchell D, Grossberg D, Highfield J, Stewart D. Bacteraemia caused by periodontal probing. Aust Dent J. 1997; 42: 77-80.
4. Daly CG, Mitchell DH, Highfield JE, Grossberg DE, Stewart D. Bacteremia due to periodontal probing: a clinical and microbiological investigation. J Periodontol. 2001; 72: 210-214.
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6. Lucas VS, Gafan G, Dewhurst S, Roberts GJ. Prevalence, intensity and nature of bacteraemia after toothbrushing. J Dent. 2008; 36: 481-7.
7. Wilson W, Taubert KA, Gewitz M, Lockhart PB, Baddour LM, Levison M, Bolger A, Cabell
CH, Takahashi M, Baltimore RS, Newburger JW, Strom BL, Tani LY, Gerber M, Bonow
RO, Pallasch T, Shulman ST, Rowley AH, Burns JC, Ferrieri P, Gardner T, Goff D, Durack
DT; American Heart Association Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease
Committee; American Heart Association Council on Cardiovascular Disease in the Young;
American Heart Association Council on Clinical Cardiology; American Heart Association
Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia; Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group. Prevention of infective endocarditis: guidelines
from the American Heart Association: a guideline from the American Heart Association
Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease Committee, Council on Cardiovascular Disease in the Young, and the Council on Clinical Cardiology, Council on Cardiovascular
Surgery and Anesthesia, and the Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary
Working Group. Circulation. 2007; 116: 1736-54.
8. Forner L, Larsen T, Killian M, Holmstrup P. Incidence of bacteremia after chewing, tooth
brushing and scaling in individuals with periodontal inflammation. J Clin Periodontol. 2006;
33: 401-7.
9. Leibovici L, Samra Z, Konisberger H, Kalter-Leibovici O, Pitik SD, Drucker M. Bacteremia
in adult diabetes patients. Diabetes Care. 1991; 14: 89-94.
10. Lockhart PB, Loven B, Brennan MT, Fox PC. The evidence base for the efficacy of antibiotic prophylaxis in dental practice. J Am Dent Assoc. 2007; 138: 458-74.
関係論文の構造化抄録
Kinane DF, Riggio MP, Walker KF, MacKenzie D, Shearer B.
Bacteraemia following periodontal procedures.
J Clin Periodontol. 2005; 32: 708-13.
目
的:プロービング後,ブラッシング後,全顎の超音波スケーリング後の
血中の菌を測定する。
研究デザイン:前後比較研究。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:未治療の歯周病を有する患者 30 名。
暴 露 要 因:プロービング,ブラッシング,超音波スケーリング。
主要評価項目:施術直後の静脈血中の細菌。
結
果:培養法ではプロービング後に 20%,ブラッシング後に 3%,超音波
スケーリング後では 13%に口腔由来細菌が検出され,PCR 法では
それぞれ 16%,13%,23%が菌血症とされた。
結
論:歯周病の各種処置によって菌血症が生じるが,その頻度は従来報告
されていたものよりも低い。
(レベル 4)
Lafaurie GI, Mayorga-Fayad I, Torres MF, Castillo DM, Aya MR, Barón A, Hurtado PA.
Periodontopathic microorganisms in peripheric blood after scaling and root planing.
J Clin Periodontol. 2007; 34: 873-9.
目
的:SRP によって生じる,歯周病原細菌および他の歯肉縁下の好気
性,嫌気性菌の菌血症の発生頻度を調べる。
研究デザイン:前後比較研究。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:42 名の重度慢性歯周病と侵襲性歯周炎の患者。
暴 露 要 因:SRP。
主要評価項目:SRP 後の末梢血中の細菌(培養検査)。
結
果:SRP 直後には 80.9%の患者の血中から細菌が検出され,SRP から
30 分が経過した後も 19%から細菌が検出された。もっとも頻繁に
検 出 さ れ た の は Porphyromonas gingivalis と Micromonas micros で
あった。
結
論:歯周炎患者の SRP は,菌血症を生じるリスクがある。
(レベル 4)
Lockhart PB, Brennan MT, Sasser HC, Fox PC Paster BJ, Bahrani-Mougeot FK.
Bacteremia associated with toothbrushing and dental extraction.
Circulation. 2008; 117: 3118-25.
目
的:抜歯時のアモキシシリン前投薬による菌血症予防効果をプラセボ投
与群及び未抜歯(ブラッシング)群との間で比較検討する。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:アモキシシリン投与(Ext + Amox)群 96 名,プラセボ投与(Ext
+プラセボ)群 96 名,未抜歯(ブラッシング)群 96 名。
暴 露 要 因:抜歯およびブラッシング。
主要評価項目:静脈血中の細菌。
結
果:術前にはブラッシング群 1 名の血中に細菌検出(陽性)のみ。全 6
回採血の累積陽性率は,Ext + Amox 群 33%,Ext +プラセボ群
60%,ブラッシング群 23%で,術中の陽性率(2 回)は各々 33%,
58%,19%。術後 20 分以内に 93%の被験者で陰性となる。プラセ
ボ群のみは術後陽性率が有意に高い。
結
論:ブラッシング実施中には,それのみで菌血症を生じる者がいるが,
ブラッシング終了後直ちに血中から細菌は検出されなくなる。なお
各群に 5 − 9%含まれる糖尿病患者とそれ以外の差異については触
れられていない。
(レベル 2)
Forner L, Larsen T, Killian M, Holmstrup P.
Incidence of bacteremia after chewing, tooth brushing and scaling in individuals
with periodontal inflammation.
J Clin Periodontol. 2006; 33: 401-7.
目
的:歯周炎患者,歯肉炎患者及び臨床的健康歯肉保有者において,咀
嚼,ブラッシング,スケーリング後の菌血症の発生頻度,程度及び
その細菌学的特徴を調べる。
研究デザイン:前後比較試験(非ランダム化クロスオーバー)。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:健常者群 20 名,歯肉炎群 20 名,歯周炎群 20 名
暴 露 要 因:咀嚼,ブラッシング,スケーリング。
主要評価項目:静脈血中の細菌。
結
果:咀嚼後は歯周炎患者の 20%のみが陽性で,他の群は全て陰性。ブ
ラッシングでは歯周炎患者の 5%のみが陽性。スケーリングでは健
常者の 10%,歯肉炎患者 20%,歯周炎患者の 75%が陽性。スケー
リング後の検出細菌量は歯肉炎指数と中程度の有意の相関関係があ
った。
結
論:歯周組織の炎症は菌血症のリスクを増加させる。
(レベル 4)
Leibovici L, Samra Z, Konisberger H, Kalter-Leibovici O, Pitik SD, Drucker M.
Bacteremia in adult diabetes patients.
Diabetes Care. 1991; 14: 89-94.
目
的:菌血症で入院した糖尿病患者の原因,細菌,合併症及び予後を非糖
尿病の菌血症患者と比較する。
研究デザイン:横断研究。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:糖尿病患者 119 名,非糖尿病患者 480 名。
暴 露 要 因:糖尿病の有無。
主要評価項目:静脈中の細菌,死亡率,入院期間。
結
果:菌血症の原因として尿路感染が糖尿病患者で有意に多い。死亡率と
入院期間については両群の間で有意差がない。
結
論:菌血症で入院した糖尿病患者の予後は非糖尿病患者と変わらない。
(レベル 4)
CQ5:糖尿病患者に対して歯周基本治療を行った場合,
非糖尿病患者に比較して治療効果に差があるか?
推奨:糖尿病罹患が歯周基本治療による歯周ポケットの減少量と付着の獲得
量を低下させる可能性は低い(歯周基本治療後 1 年以内)
(レベル
3)。ただし 1 年を超える予後は明らかでなく,糖尿病のコントロー
ルが特に悪い場合は,歯周ポケット再発のリスクが高くなる可能性が
ある。
背景・目的
歯周基本治療は,歯周病の病原因子を排除して歯周組織の病的炎症をある程度ま
で改善し,その後の歯周治療の効果を高める基本的な原因除去治療であるが,その
効果の程度は患者の感受性に依存していることが良く知られている。糖尿病は感染
防御機構の破綻・創傷治癒不全を来すことから患者の感受性に影響を及ぼす重要な
宿主因子の 1 つとして挙げられ,歯周炎の有病率・重症度に影響を与える著明なリ
スクファクターであることが示されている 1)。そのため,糖尿病を有する歯周炎患
者は糖尿病を有しない歯周炎患者と比較して,歯周基本治療に対する反応性が悪く
なり治療を難しくしている可能性がある。そこで,臨床的指標である歯周ポケット
(プロービングポケットデプス)の減少量と付着(アタッチメントレベル)の獲得
量に注目して,糖尿病が歯周基本治療の効果に与える影響を明らかにする必要があ
る。
解説
糖尿病が歯周基本治療の効果に影響を与えるかに関して文献検索したところ,ラ
ンダム割り付けを行っていないコントロールを伴う短期的(1 年以内)なコホート
研究を 5 件抽出した 2∼6)。そのうちの 3 件は,歯周基本治療に対するプロービング
ポケットデプスの減少またはアタッチメントレベルの獲得に関して,糖尿病を有す
る歯周炎患者と糖尿病を有しない歯周炎患者で比較して統計解析していた。1 件目
は,年齢等がマッチした糖尿病(分類不明)を有する歯周炎患者群 34 名と糖尿病
を有しない歯周炎患者群 45 名に対して歯周基本治療(口腔衛生指導,スケーリン
グ・ルートプレーニング(SRP))を行った場合の 3 ∼ 4 ヶ月後のプロービングポ
ケットデプスの値別割合の変化を両群で比較して統計解析したものだが,両群間に
有意差はなかった 2)
(レベル 3)。2 件目は,年齢等がマッチした 1 型糖尿病を有す
る歯周炎患者群 36 名と糖尿病を有しない歯周炎患者群 10 名に対して歯周基本治療
を行った場合の 1 ヶ月,6 ヶ月,12 ヶ月後のプロービングポケットデプス≧ 4mm
とアタッチメントレベル≧ 2mm の部位の割合の変化を両群で比較解析したものだ
が,統計学的有意差はなかった。しかし興味深いことに,糖尿病の重症度別に 3 群
に分けて群間比較した場合,重症度が最も高い群では他の群に比較して 12 ヶ月後
のプロービングポケットデプス≧ 4mm の割合が有意に高かったことより,コント
ロールが悪い糖尿病は歯周炎再発のリスクになる可能性が示された 3)
(レベル 3)。
3 件目は,糖尿病を有する歯周炎患者群 20 名と糖尿病を有しない歯周炎患者群 20
名に対して歯周基本治療を行った場合の 4 ヶ月後のプロービングポケットデプス及
びアタッチメントレベルの変化を両群で比較して統計解析したものだが,有意差は
なかった 4)
(レベル 3)。
以上より,文献的には糖尿病の罹患が歯周基本治療の効果に与える影響は低いも
のと考えられる。しかし,これらの文献は歯周基本治療後の経過を最大で 1 年しか
追っておらず,長期的には糖尿病が影響する可能性を否定できない。加えて,糖尿
病の重症度が文献によって様々であることも考察を難しくしている。
参考文献 3 より,糖尿病のコントロールが特に悪い場合は,歯周基本治療の効果
に影響を与えることが推測される。歯周治療においては,糖尿病罹患の有無だけで
なく糖尿病の重症度にも注意する必要がある。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline を検索した。Medline に用いた検索スト
ラテジーは,
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]AND“periodontal diseases”
[MeSH Ter-ms]AND(“dental scaling”
[MeSH Terms]OR“scaling”
[All Fields])
で,41 件該当した論文の中から関連のあるものを抽出した後,その論文の参考文
献リストについても内容の検討を行った。主要な情報として,糖尿病を有する歯周
炎患者と糖尿病を有しない歯周炎患者に歯周基本治療を行った場合の歯周ポケット
の減少量または付着の獲得量を両群で比較解析している研究を収集対象とした。
Seq.
terms and strategy
hits
#1
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]
225,547
#2
“periodontal diseases”
[MeSH Terms]
52,282
#3
“dental scaling”
[MeSH Terms]OR“scaling”
[All Fields]
19,669
#4
“Initial therapy”
[All Fields]OR“Initial preparation”
[All Fields]
4,445
#5
“subgingival curettage”
[MeSH Terms]
1,608
#6
#1 AND #2 AND #3
41
#7
#1 AND #2 AND(#3 OR #4)
42
#8
#1 AND #2 AND(#3 OR #5)
43
最終検索日 2008 年 7 月 29 日
参考文献
1.
2.
3.
4.
5.
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Rose LF, Genco RJ, Cohen DW, Mealey BL(宮田隆 監訳)ペリオドンタルメディスン . 医
歯薬出版 . 2001
Tervonen T, Knuuttila M, Pohjamo L, Nurkkala H. Immediate response to nonsurgical periodontal treatment in subjects with diabetes mellitus. J Clin Periodontol. 1991; 18: 65-8.
Tervonen T, Karjalainen K. Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of
the response to periodontal therapy in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 1997 ; 24: 505-10.
Christgau M, Palitzsch KD, Schmalz G, Kreiner U, Frenzel S. Healing response to non-surgical periodontal therapy in patients with diabetes mellitus: clinical, microbiological, and immunologic results. J Clin Periodontol. 1998; 25: 112-24.
Faria-Almeida R, Navarro A, Bascones A. Clinical and metabolic changes after conventional
treatment of type 2 diabetic patients with chronic periodontitis. J Periodontol. 2006; 77:
591-8.
Navarro-Sanchez AB, Faria-Almeida R, Bascones-Martinez A. Effect of non-surgical periodontal therapy on clinical and immunological response and glycaemic control in type 2 diabetic patients with moderate periodontitis. J Clin Periodontol. 2007; 34: 835-43.
関係論文の構造化抄録
Tervonen T, Knuuttila M, Pohjamo L, Nurkkala H.
Immediate response to nonsurgical periodontal treatment in subjects with diabetes mellitus.
J Clin Periodontol. 1991; 181: 65-8.
目
的:糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを調べる。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:フィンランドの病院。
対 象 患 者:年齢,性別がマッチした糖尿病を有する歯周炎患者 34 名と糖尿病
を有しない歯周炎患者 45 名。
暴 露 要 因:口腔衛生指導,SRP。
主要評価項目:治療前及び治療後(3 ∼ 4 ヶ月)のプロービングポケットデプス。
結
果:両群間で治療によるプロービングポケットデプスの値別割合の変化
に有意差はなかった。
結
論:糖尿病は歯周基本治療によるプロービングポケットデプスの減少に
有意には影響しない。
(レベル 3)
Tervonen T, Karjalainen K.
Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to
periodontal therapy in type 1 diabetes.
J Clin Periodontol. 1997 ; 24: 505-10.
目
的:1 型糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを調べる。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:フィンランドの大学病院。
対 象 患 者:1 型糖尿病患者を有する歯周炎患者 36 名と糖尿病を有しない歯周
炎患者 10 名。糖尿病群はその重症度によって 3 群に分けられた。
D1 群(13 名):糖尿病の合併症がなく,HbA1C が 8.5%以下にコン
トロールされている群。D2 群(15 名):糖尿病のコントロールが
不十分で網膜症ありとなし群。D3 群(8 名)
:コントロール不良群
で合併症あり群。
暴 露 要 因:口腔衛生指導,SRP。
主要評価項目:治療前及び治療後(1 ヶ月,6 ヶ月,12 ヶ月)のプロービングポケ
ットデプス,アタッチメントレベル。
結
果:各評価時において両群間でプロービングポケットデプス≧ 4 ,ア
タッチメントレベル≧ 2mm の部位の割合に有意差はなかった。糖
尿病の重症度の違いで比較した場合,D3 群では D1 群及び D2 群
に比較して 12 ヶ月後のプロービングポケットデプス≧ 4mm の割
合が有意に高かった。
結
論:1 型糖尿病は,歯周基本治療によるプロービングポケットデプスと
アタッチメントレベルの変化に有意には影響を与えない。しかし糖
尿病の重症度が高い場合においてのみ,治療 12 ヶ月後のプロービ
ングポケットデプスが増加する。
(レベル 3)
Christgau M, Palitzsch KD, Schmalz G, Kreiner U, Frenzel S.
Healing response to non-surgical periodontal therapy in patients with diabetes
mellitus: clinical, microbiological, and immunologic results.
J Clin Periodontol. 1998; 25: 112-24.
目
的:糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを調べる。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:ドイツの大学病院。
対 象 患 者:糖尿病を有する歯周炎患者 20 名(中央値 54.5 歳:インスリン依存
性(1 型)7 名,インスリン非依存性(2 型)13 名)と糖尿病を有
しない歯周炎患者 20 名(中央値 50.5 歳)。
暴 露 要 因:第一期:口腔衛生指導,縁上スケーリング。
第二期:SRP,ポケット内洗浄(クロルヘキシジン)。
主要評価項目:治療前,第一期治療の 2 週間後,第二期治療の 4 ヶ月後のプロービ
ングポケットデプス,アタッチメントレベル。
結
果:治療前の両群間のプロービングポケットデプス,アタッチメントレ
ベルに有意差はなかった。また両群間で治療によるプロービングポ
ケットデプス,アタッチメントレベルの変化に有意差はなかった。
結
論:コントロールされた糖尿病は,歯周基本治療によるプロービングポ
ケットデプスとアタッチメントレベルの変化に有意には影響しな
い。
(レベル 3)
CQ6:糖尿病患者のサポーティブペリオドンタルセラピー
(SPT)の間隔は短くすべきか?
推奨:糖尿病患者は SPT 期にあっても歯周病に対する疾患感受性が高いと
考えられるので,年 3 ∼ 4 回の間隔の SPT よりも短くすることが
推奨される(レベル 3)。
(推奨度 グレード B)
背景・目的
糖尿病患者は歯周炎に対するハイリスク集団と捉えられる。したがって治療後の
SPT においても厳格な管理を要するものと考えられる。長期にわたって良好な予
後を得るために非糖尿病患者よりも SPT 間隔を短くすべきかどうかについての指
針が必要とされる。
解説
本課題に関するランダム化比較試験は存在しないが,レトロスペクティブな調査
が存在する 1)。それによると歯周治療後の SPT を平均 11.8 年以上受けた被験者で
ベースライン時,SPT 期における抜歯のリスク因子として統計学的に有意である
と同定されたものは糖尿病(オッズ比:4.17),歯槽骨吸収(同:1.04),動揺度 III
度(同:5.52(動揺度 0 との比較)
),複根歯(同:1.82)
,そして失活歯髄歯(同:
2.24)であった。つまりこれらが抜歯の予知因子となることが示された。
以上から,糖尿病を含む上述の予知因子保有者は SPT 期において歯周病に対す
る疾患感受性が亢進しているものと定義できた(レベル 4)
。これらの予知因子保
有者は通常の SPT で非保有者と同じだけの良好な効果が得られるであろうか。以
前に進行性歯周炎(advanced periodontitis)と診断され通常の非外科的歯周治療
を受けた疾患感受性亢進群(high susceptibility group: HSG)と正常感受性群(normal group: NG)における SPT の予後を比較したレトロスペクティブな研究によれ
ば年に 3 回から 4 回の口腔清掃指導とデブライドメントを中心とした SPT を行っ
た場合,NG では歯周病の悪化が見られなかったのに対し,HSG では有意な歯槽骨
吸収とアタッチメントロスが観察された 2)。以上から,少なくとも糖尿病患者を,
疾患感受性亢進群と捉えるならば通常の年 3 ∼ 4 回(3 ヶ月あるいは 4 ヶ月間隔)
の SPT よりもより厳格な SPT を行うことが推奨される(レベル 3)。
文献検索ストラテジー
糖尿病が SPT 期の予後に影響を及ぼすかどうかを調べる目的でまず Medline を
検 索 し,(
“Diabetes”
[Mesh Terms]AND“SPT[All Fields]”AND“prognosis
[Mesh Terms])で論文を抽出した。その結果,2 件の論文が抽出されたが 1 件は
膵島移植の予後に関するものであり除外した。次に同じく糖尿病が SPT 期におい
て疾患の進行に影響を及ぼすかどうかを調べる目的で Medline を検索し,(“disease progression”
[Mesh Terms]AND“SPT[All fields]”AND“periodontitis”
[Mesh Terms])で論文抽出を試みた。その結果,11 件の論文が抽出されたが多
くは抗菌薬の使用の有無による影響を検討したものや,インプラント周囲炎関連の
もの,遺伝子多型の有無で予後を比較したもの,特殊な患者群を対象としたもので
あるため除外した。その結果,文献 2 のみが抽出された。
Seq.
terms and strategy
hits
#1
diabetes[Mesh Terms]
#2
diabetes[Mesh Terms]AND SPT[Mesh Terms]
#3
diabetes[Mesh Terms]AND SPT[Mesh Terms]AND
308,885
15
2
prognosis[Mesh Terms]
#4
disease progression[Mesh Terms]
119,585
#5
disease progression[Mesh Terms]AND SPT[Mesh Terms]
26
#6
disease progression[Mesh Terms]AND SPT[Mesh Terms]
11
AND periodontitis[Mesh Terms]
最終検索日 2008 年 9 月 26 日
参考文献
1.
2.
Faggion CM Jr, Petersilka G, Lange DE, Gerss J, Flemmig TF. Prognostic model for tooth
survival in patients treated for periodontitis. J Clin Periodontol. 2007; 34: 226-231.
Rosling B, Serino G, Hellström MK, Socransky SS, Lindhe J. Longitudinal periodontal tissue
alterations during supportive therapy. Findings from subjects with normal and high susceptibility to periodontal disease. J Clin Periodontol. 2001; 28: 241-249.
関係論文の構造化抄録
Faggion CM Jr, Petersilka G, Lange DE, Gerss J, Flemmig TF.
Prognostic model for tooth survival in patients treated for periodontitis.
J Clin Periodontol. 2007; 34: 226-231.
目
的:SPT 期における抜歯のリスク因子をベースライン時のパラメータ
ーで検討する。
研究デザイン:前後比較試験。
研 究 施 設:ドイツにおける歯科大学。
対 象 患 者:歯周治療後 SPT を行った患者 198 名。
暴 露 要 因:SPT。
主要評価項目:SPT 期の抜歯。
結
果:ベースライン時の糖尿病の存在は SPT 期における抜歯のリスク因
子となる(オッズ比 4.17)。
結
論:糖尿病は SPT の予後に影響を与える。
(レベル 4)
Rosling B, Serino G, Hellström MK, Socransky SS, Lindhe J.
Longitudinal periodontal tissue alterations during supportive therapy. Findings
from subjects with normal and high susceptibility to periodontal disease.
J Clin Periodontol. 2001; 28: 241-249.
目
的:SPT 期における疾患の進行を歯周炎の程度で比較する。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
研 究 施 設:スウェーデンにおけるコミュニティ。
対 象 患 者:非外科的歯周治療を行った進行性歯周炎と慢性歯周炎。
暴 露 要 因:SPT。
主要評価項目:SPT 期における疾患の進行。
結
果:初診時進行性歯周炎であった患者は SPT 期において疾患がより進
行する可能性が高い。
結
論:歯周病の重症度は SPT の予後に影響を与える。
(レベル 3)
CQ7:糖尿病患者だとグリコヘモグロビン(HbA1C)値がいくら以下だと
良好にサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)が行えるか?
推奨:血管合併症を予防するうえで,HbA1C7%未満(日本人では 6.5%未
満)が有効であるとされている。大血管障害を予防するにはさらに他
のリスクをコントロールすることが推奨されていることから,歯周治
療においても最低 HbA1C7%未満(日本人では 6.5%未満)で SPT
を行うことが推奨される(レベル 1)。(推奨度 グレード B)
背景・目的
CQ6 において糖尿病患者では SPT の間隔を短くすることが推奨された。しかる
に歯周炎に対する再発リスクが高いとされる糖尿病者では,良好な SPT を行うう
えで血糖コントロールの目標値を設定することが望まれる。
解説
SPT ではこの CQ に対応する文献が皆無であったため,まず HbA1C 値が抜歯の
可否を決定する上での decision making の基準となるかどうかについて検討した。
しかしながら HbA1C を指標として抜歯基準を明確に示した文献は見出せなかっ
た。一般に糖尿病治療の基本目標は疾患の進行防止と合併症の予防にある。そこで
糖尿病の合併症を防ぐ上で HbA1C の目標値がどのように設定されているかについ
て検討した。その結果,欧米人においては HbA1C が 7%未満,日本人においては
6.5%未満で細小血管合併症の発症が有意に抑制されることが示されている。この
ことから,歯周病も糖尿病の合併症と捉えるならば HbA1C7.0%未満(日本人の場
合 6.5%未満)であれば,それ以上の群に比べ良好に SPT を行える可能性がある。
しかしながら,参考とした大規模疫学研究はすべて細小血管合併症をエンドポイン
トとしていることから,例えば歯周病を糖尿病に固有の細小血管合併症と類似の病
態を示す合併症であると仮定すればその結果を歯周病に当てはめて考えることが可
能である(レベル 1)
。しかしながら歯周病がむしろ大血管合併症類似の病態であ
り,糖尿病に固有の合併症ではなく慢性高血糖(HbA1C:6%以上)以外の多因子
がリスク因子となると仮定すると,血糖を厳格にコントロールすることのみによる
効果は小血管合併症の予防効果に比べ劣ることとなる(レベル 1)。以上から,
SPT 期において HbA1C が 7%未満(日本人の場合 6.5%未満)であることは推奨さ
れるべきレベルではあるものの,血糖以外の要因をも念頭に置いた厳格な管理が推
奨される。
文献検索ストラテジー
Medline を“Diabetes[Mesh Term]”AND“tooth extraction[Mesh Term]”
AND“contraindication[Mesh Term]”で検索した。その結果,論文が 1 件のみ抽
出されたが,糖尿病はう蝕による歯冠崩壊歯の抜歯の禁忌とはならないとする総説
であり,抜歯をおこなううえで HbA1C を指標としたクライテリアそのものは抽出
さ れ な か っ た。 こ の 結 果 は,
“contraindication” を“glucose metabolis”
[Mesh
Term]や“hyperglycemia”
[Mesh Term]に変えて検索しても,あるいは“contraindication”を“hemoglobinA1C”
[Mesh Term]に変更しても同様であった。
Seq.
terms and strategy
#1
diabetes[Mesh Term]”
hits
#2
diabetes[Mesh Term]”AND tooth extraction[Mesh Term]”
110
#3
diabetes[Mesh Term]”AND tooth extraction[Mesh Term]”
1
315,038
AND contraindication[Mesh Term]”
最終検索日 2008 年 9 月 26 日
以上から HbA1C 値がいくら以下だと抜歯が可能(あるいはいくら以上だと禁忌
となる)等々の明確な基準を論じた研究は見出せなかった。そこで医科ガイドライ
ンでは糖尿病の合併症を予防する上で HbA1C の治療目標値をどこに設定している
かについて検討した。
以下,国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)と国際腎臓学会(International Society of Nephrology)により編集・発行された『Diabetes and Kidney Disease: Time to Act』の日本語訳から抜粋する。
「第 5 章
血糖コントロール
血糖コントロールは糖尿病性腎症の発症を遅らせることが,複数の臨床試験で示さ
れています。これらの試験について,以下に説明します。
The Diabetes Control and Complication Trial(DCCT)は,1,411 名の 1 型糖尿病
患者を対象に 10 年間にわたり行われました。この試験期間中,一方の群の患者は
綿密な患者教育,医療従事者と頻回の接触,血糖値の自己測定,インスリンの複数
回注射といった,厳格な治療を受けました。この患者群では,平均血糖値は 8.3
mmol/L(150mg/dL)前後,HbA1C は 7.0%に維持されました。他の群の患者は,
ある程度の患者教育を受け,医療従事者との接触が頻繁でなはなく,血糖値の測定
を品回に行わず,1 日のインスリン注射が 1 ∼ 2 回といった,その当時の標準的な
治療を受けました。この群の平均 HbA1C は 9.0%前後でした。10 年後,試験開始時
に尿中アルブミン排泄量が正常だった患者の腎機能が評価されました。厳格な治療
を受けた群では標準的な治療を受けた群と比べ,糖尿病性腎症の発症は 50%少な
い結果となりましたが,試験開始時にすでにアルブミン尿がみられた患者では,集
中的な血糖コントロールによるメリットはみられませんでした。
The United Kingdom Prospective Diabetes Study(UKPDS)は,2 型糖尿病患者
を対象に行われました。この試験の結果では,経口血糖降下薬またはインスリンに
よる厳格な血糖コントロールにより,糖尿病性腎症及び糖尿病の他の細少血管合併
症のリスクは低下しましたが,大血管合併症のリスクは低下しなかったことが示さ
れました。UKPDS に参加した肥満(理想体重の 120%を超える場合)の患者にお
ける経口血糖降下薬メトホルミンによる腎不全リスク削減効果は他の経口血糖降下
薬と同様でした。しかし,メトホルミンにより,心臓発作(心筋梗塞)のリスクは
有意に低下しました。
2 型糖尿病患者を対象とした日本の試験では,1 日 3 回以上のインスリン注射によ
る厳格な血糖コントロールを行った患者で,6 年間にみられた腎症の発症あるいは
進行(7.7%)は,標準的な治療を受けた患者(28%)と比べて少なかったことが
報告されています。
これらの試験では血糖コントロールのための基準値が示されていませんでしたが,
HbA1C が低いほど腎症のリスクも低いことがわかっています。しかし,これは低
血糖のリスクと比較して考えなければいけません。このため,現在の臨床ガイドラ
インでは,低血糖がない場合の HbA1C のターゲット値は 7.0%未満とされていま
す。
*:日本では,HbA1C 値 6.5%未満を血糖コントロール良好と判定している。」
以上の結果は腎症のみならず,網膜症や神経症といった細小血管障害に由来する
合併症をエンドポイントした場合でも同様の傾向にあった。
*ここで言う日本人における HbA1C の治療目標値はランダム化比較試験(Kumamoto Study)に基づいて設定された 1, 2)。すなわち,血糖を厳格にコントロールし
た群(HbA1C,6.5%)おいて優位に小血管障害の発症と進行が抑制されたとしたもの
である(レベル 2)。これを受け,日本糖尿病学会では現在 HbA1C6.4%以下をコン
トロール良としている。
糖尿病コントロール目標(日本糖尿病学会 2004 年版)
可
評 価
優
良
不 可
不十分
不 良
6.5 ∼ 6.9
7.0 ∼ 7.9
HbA1C 値
5.8 未満
5.8 ∼ 6.4
空腹時血糖値
110 未満
110 ∼ 129
130 ∼ 159
160 以上
食後 2 時間血糖値
140 未満
140 ∼ 179
180 ∼ 219
220 以上
8.0 以上
一方,欧米における HbA1C の目標値(7.0%)は主として 2 つのランダム化比較
試験(1 型糖尿病患者を対象としたものと 2 型糖尿病患者を対象としたもの)の結
果から導き出されたものであった 3, 4)
(レベル 1)。
参考文献
1.
2.
3.
4.
Shichiri M, Kishikawa H, Ohkubo Y, Wake N. Long-term results of the Kumamoto Study
on optimal diabetes control in type 2 diabetic patients. Diabetes Care. 2000; 23: B21-29.
Ohkubo Y, Kishikawa H, Araki E, Miyata T, Isami S, Motoyoshi S, Kojima Y, Furuyoshi N,
Shichiri M.Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular
complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study.Diabetes Res Clin Pract 1995; 28: 103-117.
The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of longterm complications in insulin-dependent diabetes mellitus. The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. N Engl J Med. 1993; 329: 977-986.
Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional
treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes(UKPDS 33)
. UK Prospective Diabetes Study(UKPDS)Group. Lancet 1998; 352: 837-353.
関係論文の構造化抄録
Shichiri M, Kishikawa H, Ohkubo Y, Wake N. Long-term results of the Kumamoto
Study on optimal diabetes control in type 2 diabetic patients.
Diabetes Care. 2000; 23: B21-29.
目
的:小血管障害を予防する上で有効な血糖コントロール目標を設定す
る。
研究デザイン:400 例未満のランダム化比較研究。
研 究 施 設:熊本県内のコミュニティ。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 52 名。
暴 露 要 因:厳格コントロール(インスリン 3 回以上/日)群と通常コントロー
ル(インスリン 1 ∼ 2 回/日)群。
主要評価項目:小血管障害の発症と進行。
結
果:厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できる。
結
論:HbA1C の治療目標を 6.5%未満とする。
(レベル 2)
Ohkubo Y, Kishikawa H, Araki E, Miyata T, Isami S, Motoyoshi S, Kojima Y, Furuyoshi N, Shichiri M.
Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study.
Diabetes Res Clin Pract. 1995; 28: 103-117.
目
的:小血管障害を予防する上で有効な血糖コントロール目標を設定す
る。
研究デザイン:400 例未満のランダム化比較研究。
研 究 施 設:熊本県内のコミュニティ。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 52 名。
暴 露 要 因:厳格コントロール(インスリン 3 回以上/日)群と通常コントロー
ル(インスリン 1 ∼ 2 回/日)群。
主要評価項目:小血管障害の発症と進行。
結
果:厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できる。
結
論:HbA1C の治療目標を 6.5%未満とする。
(レベル 2)
The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression
of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus. The Diabetes
Control and Complications Trial Research Group.
N Engl J Med. 1993; 329: 977-986.
目
的:小血管障害を予防する上で有効な血糖コントロール目標を設定す
る。
研究デザイン:400 例以上のランダム化比較研究。
研 究 施 設:アメリカ。
対 象 患 者:1 型糖尿病患者 711 名。
暴 露 要 因:厳格コントロール(インスリン 3 回以上/日)群と通常コントロー
ル(インスリン 1 ∼ 2 回/日)群。
主要評価項目:小血管障害の発症と進行。
結
果:厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できる。
結
論:HbA1C の治療目標を 7.0%未満とする。
Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes
(UKPDS 33).UK Prospective Diabetes Study(UKPDS)Group.
Lancet 1998; 352: 837-353.
(レベル 1)
目
的:糖尿病合併症を予防する上で有効な血糖コントロール目標を設定す
る。
研究デザイン:400 例以上のランダム化比較研究。
研 究 施 設:英国。
対 象 患 者:2 型糖尿病患者 3,867 名。
暴 露 要 因:厳格コントロール(インスリンもしくは SU 剤)群と従来法治療
(食事療法のみ)群。
主要評価項目:小血管障害および大血管合併症の発症と進行。
結
果:厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できるも
結
論:小血管合併症を予防する上で HbA1C の治療目標を 7.0%未満とす
のの大血管合併症の予防は血糖コントロールのみでは困難。
る。大血管合併症は他のリスクも考慮する。
(レベル 1)
CQ8:糖尿病患者は歯周治療後,歯周病が再発しやすいか?
推奨:糖尿病患者における長期の予後では,メインテナンス中に抜歯された
歯数が多い,あるいはポケットの深化度が高い等の文献が散見される
(レベル 4 ∼ 3)。一方,HbA1C を 10%以下にコントロールすると
再発のリスクが減少する(レベル 3)
。よって,糖尿病患者では糖尿
病のコントロールを充分行い,適切なサポーティブペリオドンタルセ
ラピー(SPT)を行うことが推奨される。(推奨度 グレード B)
背景・目的
糖尿病患者では,多形核白血球の機能低下や,コラゲナーゼ活性の上昇,コラー
ゲン産生能の低下などが報告されており,糖尿病のコントロールの不良な患者で
は,糖尿病のコントロールが良好な患者に比べ歯周病における骨吸収やアタッチメ
ントロスが高頻度で発症することが報告されている。
このように,糖尿病患者では歯周病が重症化しやすいことが報告されているが,
歯周治療においても SPT,メインテナンス中での再発が多いとされてきた。再発
の基準として,抜歯を基準としたもの,レントゲン上の骨吸収を指標にしたもの,
アタッチメントロスを基準としたものなどが報告されているが,糖尿病患者と非糖
尿病患者の歯周治療の予後を直接比較した研究は数少ない。また,糖尿病の程度も
しくは血糖コントロールによる層別化をして比較したものも認められるが,数的に
十分とはいえない。
解説
これまでの歯周病と糖尿病の関連を調べた研究から,糖尿病は,歯周病のリスク
因子であることは明らかである。さらに,何らかの歯周治療を行うことで,非糖尿
病歯周病患者と同様,病状が改善するとする報告は多い。これに対し,糖尿病患者
は,メインテナンスもしくは SPT 中に非糖尿病患者に比べ再発しやすいかどうか
を検索した研究は数少ない。
Faggion ら 1)は,6 名の糖尿病患者を含む 198 名の患者について平均 11.8 年 SPT
を続け,被験者でベースライン時,抜歯のリスク因子として統計学的に有意である
と同定されたものは糖尿病(オッズ比:4.17),歯槽骨吸収(同:1.04),動揺度 III
度(同:5.52(動揺度 0 との比較)
),複根歯(同:1.82)
,そして失活歯髄歯(同:
2.24)であり,糖尿病や動揺などが抜歯の予知因子となることが示された。
Tervonen ら 2)は,1 型糖尿病患者を糖尿病の程度を基準に平均 30 歳の患者を 3
つのグループに分けた。非糖尿病歯周病患者のコントロール群(10 例),D1:糖尿
病のコントロールのよい群で合併症なし(13 名),D2:糖尿のコントロールが不十
分で網膜症ありとなし群(15 例)
,D3:コントロール不良群で合併症あり群(8
例)の 3 群で,非外科的歯周治療が終了し歯周組織が安定した状態になったことを
確認後,12 ヶ月までメインテナンスを行った。結果,4mm 以上のプロービングポ
ケットデプスの割合が D3 群以外では,差は認められなかった。しかし,D3 群で
は,有意なプロービングポケットデプスの悪化が認められた。
Tervonen ら 2)の研究が外科処置を伴わない,いわば歯周基本治療後の 1 年間で
の観察であるのに対し,Westfelt ら 3)は,46 ∼ 65 歳の 1 型,2 型糖尿病患者で中
等度の歯周炎患者 20 名と同年代の非糖尿病歯周病患者 20 名に対して歯周外科治療
を含めた動的治療を行った後の SPT 中の再発を調べた。すなわち,歯周基本治療
後プロービング時の出血(+)で,5mm 以上のポケットがある部位に対してフラ
ップ手術を行い(手術を受けたのは,コントロール群 20 名中 10 名の 28 歯で,そ
のうち抜歯になったのは 1 歯:糖尿病群 20 名中 9 名の 26 部位で,そのうち抜歯に
至ったのは 3 歯)
,3 ヶ月毎の SPT を継続し,5 年後の結果をまとめた。5 年後の
プロービングポケットデプス,アタッチメントレベルなど臨床評価で両群に差が認
められなかった。
以上のことから,メインテナンスを行うにあたり,糖尿病に対するコントロール
が不十分な患者では再発を起こしやすいといえる。糖尿病のコントロールを充分行
い,適切な SPT を行うことが重要である。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline および医中誌を検索した。Medline に用
いた検索ストラテジーは,
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All
Fields]AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields]OR“diabetes”
[All Fields]OR“diabetes insipidus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All
Fields]AND“insipidus”
[All Fields])OR“diabetes insipidus”
[All Fields]
と
“(“periodontal diseases”
[MeSH Terms]OR(“periodontal”
[All Fields]AND
“diseases”
[All Fields])OR“periodontal diseases”
[All Fields]OR(“periodontal”
[All Fields]AND“disease”
[All Fields])OR“periodontal disease”
[All Fields])
AND(“therapy”
[Subheading]OR“therapy”
[All Fields]OR“therapeutics”
[MeSH Terms]OR“therapeutics”
[All Fields]) と“prognosis”
[MeSH Terms]
OR“prognosis”
[All Fields]もしくは,
“recurrence”
[MeSH Terms]OR“recurrence”
[All Fields]で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リスト
についても内容を検討した。主要な情報として,糖尿病患者を非糖尿病患者と比較
して,歯周基本治療後に歯周病が再発しやすいかどうかを検討した比較研究を収集
対象とした。
Seq.
#1
terms and strategy
hits
(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(
“diabetes”
[All Fields]
315,098
AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields]
OR“diabetes”
[All Fields]OR“diabetes insipidus”
[MeSH Terms]
OR(“diabetes”
[All Fields]AND“insipidus”
[All Fields])OR
“diabetes insipidus”
[All Fields])
#2
(“periodontal diseases”
[MeSH Terms]OR(“periodontal”
[All
28,030
Fields]AND“diseases”
[All Fields])OR“periodontal diseases”
[All Fields]OR(“periodontal"”
[All Fields]AND“disease”
[All
Fields])OR“periodontal disease”
[All Fields])AND(“therapy”
[Subheading]OR“therapy”
[All Fields]OR“therapeutics”
[MeSH
Terms]OR“therapeutics”
[All Fields])
#3
(“prognosis”
[MeSH Terms]OR“prognosis”
[All Fields])
705,797
#4
(“recurrence”
[MeSH Terms]OR“recurrence”
[All Fields])
252,722
#5
#1 and #2 and #3 Limits: Humans
53
#6
#1 and #2 and #4 Limits: Humans
12
最終検索日 2008 年 9 月 28 日
参考文献
1.
2.
3.
Faggion CM Jr, Petersilka G, Lange DE, Gerss J, Flemmig TF. Prognostic model for tooth
survival in patients treated for periodontitis. J Clin Periodontol. 2007; 34: 226-231.
Tervonen T, Karjalainen K. Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of
the response to periodontal therapy in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 1997; 24: 505-510.
Westfelt E, Rylander H, Blohmé G, Jonasson P, Lindhe J. The effect of periodontal therapy
in diabetics. Results after 5 years. J Clin Periodontol. 1996; 23: 92-100.
関係論文の構造化抄録
Faggion CM Jr, Petersilka G, Lange DE, Gerss J, Flemmig TF.
Prognostic model for tooth survival in patients treated for periodontitis.
J Clin Periodontol. 2007; 34: 226-231.
目
的:歯周病患者の歯の残存率を評価する予後の判定モデルをつくる。
研究デザイン:前後比較研究。
研 究 施 設:ドイツ,ミュンスター大学歯周病科。
対 象 患 者:上記大学に通院中の歯周病患者で SPT に入った患者 394 名の 4,559
本の歯:このうち動的治療および少なくとも 5 年以内の SPT 中に
中断したもの 213 名,その後のアンケート診査依頼に応じ,SPT
に継続して参加した患者 198 名を統計処理した。
暴 露 要 因:動的治療として,口腔清掃指導,歯肉縁上縁下のデブライドメン
ト,136 名はフラップ手術を受けた。SPT では,口腔清掃の再動機
付け,縁上のスケーリングとフッ化物塗布(SPT の継続年数平均
11.8 年)。
主要評価項目:全期間を通じた喪失歯数 ;SPT 中に喪失した歯数 ; 糖尿病罹患患者
のロジスティック解析。
結
果:喪失歯の全体は,461 本(10.24%)
,SPT 中に喪失したのは 249 本
(5.46%)。6 名の糖尿病患者において,糖尿病であることは歯の喪
失に関する有意なリスク因子(0.05)
(OR = 4.17,95% CI = 1.51
− 11.57)。
結
論:SPT 中における糖尿病因子は,有意に歯周病の再発に寄与してい
る。口腔清掃の再動機付け,縁上のスケーリングとフッ化物塗布だ
けでは,再発を防ぐことは充分ではない。糖尿病の程度や糖尿病の
コントロールについてデータがないため詳細な評価ができない。
(レベル 4)
Tervonen T, Karjalainen K.
Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to
periodontal therapy in type 1 diabetes.
J Clin Periodontol. 1997; 24: 505-510.
目
的:1 型糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを評価する。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:フィンランドの糖尿病専門病院と大学病院;フィンランド
対 象 患 者:1 型糖尿病患者を有する歯周炎患者 36 名と糖尿病を有しない歯周
炎患者 10 名。
糖尿病群はその重症度によって 3 群に分けられた。
D1 群(13 名):糖尿病の合併症がなく,HbA1C が 8.5%以下にコン
トロールされている群
D2 群(15 名)
:糖尿病のコントロールが不十分で網膜症ありとなし群
D3 群(8 名):コントロール不良群で合併症あり群。
暴 露 要 因:口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング。
主要評価項目:治療前及び治療後(1 ヶ月,6 ヶ月,12 ヶ月)のプロービングポケ
ットデプス,アタッチメントレベル。
結
果:各評価時において両群間でプロービングポケットデプス≧ 4mm,
アタッチメントレベル≧ 2mm の部位の割合に有意差はなかった。
糖尿病の重症度の違いで比較した場合,D3 群では D1 群及び D2
群に比較して 12 ヶ月後のプロービングポケットデプス≧ 4mm の
割合が有意に高かった。
結
論:1 型糖尿病は,歯周基本治療によるプロービングポケットデプスと
アタッチメントレベルの変化に有意には影響を与えない。しかし糖
尿病の重症度が高い場合においてのみ,治療 12 ヶ月後のプロービ
ングポケットデプスが増加する。
(レベル 3)
Westfelt E, Rylander H, Blohmé G, Jonasson P, Lindhe J.
The effect of periodontal therapy in diabetics. Results after 5 years.
J Clin Periodontol. 1996; 23: 92-100.
目
的:糖尿病患者と非糖尿病患者で 5 年間の間の観察期間中で歯周病の再
発があるかを検討する。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:糖尿病外来(Sahlgrenska 大学病院内科,スウェーデン)。
対 象 患 者:46 ∼ 65 歳の 1 型,2 型糖尿病患者で中等度の歯周炎患者 20 名と同
等の非糖尿病歯周病患者それぞれ 20 名。
暴 露 要 因:歯周基本治療後 6 ヶ月目の再評価で,プロービングポケットデプス
5mm 以上でプロービング時の出血(+)の部位に歯周外科を行
う。20 名中 9 名の糖尿病群が歯周外科を受け,20 名のコントロー
ル群中 10 名が外科処置を受けた。
主要評価項目:5 年間の観察期間におけるプロービングポケットデプスおよびアタ
ッチメントレベル。
結
果:5 年間の観察期間において,両群間の歯周病の再発は認められなか
った。
結
論:糖尿病患者は,ほとんどが HbA1C は,8.0 ∼ 9.9%であり,10%以上
は 2 名しかいなかった。よって糖尿病のコントロールがよければ,
歯周病再発に有意な差は認められない。
(レベル 3)
CQ9:糖尿病患者においてメインテナンス期における
局所化学療法は有効か?
推奨:糖尿病患者の歯周病メインテナンス期における局所化学療法の有効性
は不明である。有効としても効果は小さい可能性がある(レベル 2
−)
。患者の状態を考慮し,慎重な判断のもとに行うよう勧められ
る。
(推奨度 グレード C2)
背景・目的
糖尿病は歯周疾患のリスクファクターであることから,一度治療を行った後にも
歯周病を再発しやすい可能性がある。特に,深い歯周ポケットを残して SPT を行
っていく場合には,再発防止にむけて一層の注意が必要かも知れない。
局所化学療法(局所薬物配送システム)は,歯周病原細菌を抑制する目的で,抗
菌作用のある薬物を歯周ポケット内に投与する治療法である。徐放性の薬剤を用い
れば,少ない投与量で局所の薬効濃度が長時間維持でき,耐性菌の出現,副作用,
腸内細菌への影響が少ないという利点をもつ。そこで,糖尿病をもつ歯周病患者の
メインテナンス期に局所化学療法が有効かどうかについて検索した。
解説
今回の文献検索では,糖尿病患者のメインテナンス期における局所化学療法の有
効性についての直接的な報告は発見できなかった。
糖尿病患者の歯周治療時に,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)に併せ
て行う局所化学療法の効果については,ランダム化比較試験が 2 件抽出された。一
つはスロベニアの大学病院において血糖コントロールの不良な 1 型糖尿病患者を
対象とした研究 1)で,SRP のみを行うより,SRP にミノサイクリンゲルを併用す
ることでプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの減少に有意な差
(約 1mm)が見られた(レベル 2 −)。二つめはブラジルの大学病院において 1 型
糖尿病患者を対象とした研究 2)で,再評価後の再 SRP 時にドキシサイクリンゲル
を併用することでプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの減少に有
意な差(約 1.8mm)が報告されている(レベル 2 −)。
一方,糖尿病に罹患していない歯周病患者における局所化学療法の効果について
は多くのランダム化比較試験が行われ,メタアナリシス 3∼7)が発表されている。こ
れらによると,SRP 時に局所化学療法を併用することでよりよい結果が得られる
とされている(レベル 2 +)。しかし,統計学的に有意な効果はあるがプロービン
グポケットデプス,アタッチメントレベルの平均値で 0.5mm 程度と小さく,臨床
的な意義に疑問を投げかけている報告もある(レベル 2 +)。さらに,SPT 時にお
ける局所化学療法の効果を調査した 5 件のランダム化比較試験(2007 ∼ 2008 年)8
∼12)
をみると,そのうち 4 件で効果がなかったと報告されている(レベル 2 −)。ま
た,SPT 時における局所化学療法単独の効果を調べた 3 件のランダム化比較試験
13∼15)
(2003 ∼ 2007 年)
では,SRP と同程度の効果があるとする報告と効果はないと
する報告があった(レベル 2 −)。
以上のように,局所化学療法の効果についてはまだ不明確な部分が多い。ただ,
局所化学療法による大きな問題点が報告されているわけではない。糖尿病患者では
全身的な免疫機能が低下している場合があることを考慮すると,局所化学療法が奏
効する可能性はある。患者の全身状態や口腔内の状態を考慮し,局所化学療法を行
うかどうか慎重に決定する必要があると考えられる。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline および医中誌を検索した。Medline に用
いた検索ストラテジーは,(“periodontal disease”
[MeSH Terms]AND(“anti-infective agents, local”
[MeSH Terms]OR(“anti-infective agents”
[MeSH Terms]
AND“drug delivery systems”
[MeSH Terms])))AND(“maintenance*”
[Text
terms]OR“support*”
[Text terms]
)AND“diabetes”
[MeSH Terms]で,関連の
ある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行っ
た。医中誌については,((糖尿病/ TH OR 糖尿病/ AL)AND(歯周疾患/ TH
OR 歯周病/ AL))AND(局所薬物療法/ AL OR ドラッグデリバリーシステム
/ TH OR ドラッグデリバリーシステム/ AL)の検索式で検索を行った。
主要な情報として,糖尿病患者の歯周治療時に行った局所化学療法の効果につい
てのメタアナリシスとランダム化比較試験研究を検索し,次いで,関連する比較研
究および日本人を対象とした症例集積までを情報の収集対象とした。
seq.
terms and strategy
hits
#1
“periodontal disease”
[MeSH]
52,431
#2
“anti-infective agenets, local”
[MeSH]OR(“drug delivery
12,515
systems”
[MeSH]AND“anti-infective agenets”
[MeSH])
#3
maintenance*[Text]OR support*[Text]
5,152,258
#4
Diabetes[MeSH]
#5
#1 AND #2 AND #3 AND #4
#6
#1 AND #2 AND #3
#7
#1 AND #2 AND #3 Limits: Humans, Meta-Analysis
6
#8
#1 AND #2 AND #4
7
232,769
3
274
最終検索日 2008 年 8 月 24 日
参考文献
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periodontal disease following local treatment with 25% metronidazole gel. J Periodontol.
2003; 74: 372-7.
関係論文の構造化抄録
Skaleric U, Schara R, Medvescek M, Hanlon A, Doherty F, Lessem J. Periodontal
treatment by Arestin and its effects on glycemic control in type 1 diabetes patients.
J Int Acad Periodontol. 2004; 6(4 Suppl):160-5.
目
的:歯周治療(SRP)時のミノサイクリン局所投与が血糖コントロール
と歯周組織の治癒に及ぼす影響を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:スロベニア共和国リュブリャナ大学の大学病院。
対 象 患 者:血糖コントロールの不良な 1 型糖尿病(HbA1C9%)20 名。
暴 露 要 因:2 群(SRP のみ,SRP +ミノサイクリンゲル局所投与)。
主要評価項目:HbA1C,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,プ
ラーク指数,歯肉炎指数。
結
果:HbA1C,プラーク指数,歯肉炎指数に差は認められなかった。プロ
ービングポケットデプスは投与群でより減少し,より大きなアタッ
チメントゲインが得られた(約 1mm)。
結
論:ミノサイクリン局所投与は血糖コントロールには影響しなかった
が,歯周組織の改善に効果があった。
(レベル 2 −)
Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF.
Therapy with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabetes mellitus and periodontitis.
J Clin Periodontol. 2004; 31: 648-53.
目
的:糖尿病患者においてドキシサイクリン局所投与の効果を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。(split mouth design,double blind)
研 究 施 設:ブラジル キャンピナス大学の大学病院。
対 象 患 者:1 型糖尿病患者で歯周基本治療後に 2 ヶ所以上 5mm 以上のポケッ
トがある患者 11 人。
暴 露 要 因:2 群(再 SRP +ドキシサイクリンゲル局所投与,再 SRP +プラセ
ボゲル局所投与。
主要評価項目:歯肉退縮,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル。
結
果:ドキシサイクリン投与群でより大きなプロービングポケットデプ
ス,アタッチメントゲインの改善が見られた(約 1.8mm)。
結
論:1 型糖尿病患者の治療においてドキシサイクリン局所投与は歯周組
織の改善に効果があった。
(レベル 2 −)
Bonito AJ, Lux L, Lohr KN.
Impact of local adjuncts to scaling and root planing in periodontal disease therapy:
a systematic review.
J Periodontol. 2005; 76: 1227-36.
目
的:SRP に局所化学療法を併用するとよりよい治療結果が得られるか
調べる。
データソース:MEDLINE,EMBASE。
研 究 の 選 択:成人の慢性歯周炎,SRP と局所化学療法の併用,一定期間後のア
ウトカム評価。
データ抽出と質の評価:定性的評価と一定期間後のプロービングポケットデプスと
アタッチメントレベルについてのメタ分析。
主 な 結 果:有効とする結果は,テトラサイクリン,ミノサイクリン,メトロニ
ダゾール,クロルヘキシジンで見られる。局所化学療法の併用はプ
ロービングポケットデプスを減らす。SRP 単独と比べたプロービ
ングポケットデプスの改善の程度は 0.2 ∼ 0.5mm である。アタッ
チメントレベルの改善は小さく,統計的優位になった報告は少な
い。局所化学療法によるプロービングポケットデプス,アタッチメ
ントレベルの減少は SRP による減少より少ない。
結
論:局所化学療法の効果は,統計的に有意でも臨床的に意味があるかど
うか疑問である。
(レベル 2 +)
Bogren A, Teles RP, Torresyap G, Haffajee AD, Socransky SS, Wennstrom JL.
Locally delivered doxycycline during supportive periodontal therapy: a 3-year
study.
J Periodontol. 2008; 79: 827-35.
目
的:メインテナンス期の患者においてドキシサイクリンゲル局所投与の
効果を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:スウェーデンの開業医(歯周病専門医)2 ヶ所とアメリカのフォー
サイス研究所。
対 象 患 者:慢性歯周炎メインテナンス期の患者 128 人。
暴 露 要 因:2 群(SRP +ドキシサイクリンゲル局所投与,SRP のみ)。
主要評価項目:プロービング時の出血,プロービングポケットデプス,相対的アタ
ッチメントレベル,細菌検査。
結
果:両群でプロービング時の出血,プロービングポケットデプス,相対
的アタッチメントレベルの改善が見られたが,両群の差は唯一 3 ヶ
月後に見られただけで,その後は差がなかった。細菌の種類に大き
な差はなかった。
結
論:メインテナンス期の SRP 時に局所化学療法を併用しても効果はな
い。
(レベル 2 −)
Leiknes T, Leknes KN, Boe OE, Skavland RJ, Lie T. Topical use of a metronidazole gel in the treatment of sites with symptoms of recurring chronic inflammation.
J Periodontol. 2007; 78: 1538-44.
目
的:SPT におけるメトロニダゾールゲルの効果を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:ノルウェーの大学病院。
対 象 患 者:歯周炎メインテナンス期の患者 21 人(スプリットマウスデザイ
ン)。
暴 露 要 因:2 群(SRP +メトロニダゾールゲル局所投与,SRP のみ)。
主要評価項目:プロービングポケットデプス,プロービング時の出血,アタッチメ
ントレベル。
結
果:2 群間に差はなかった。
結
論:メインテナンス期の SRP 時に局所化学療法を併用しても効果はな
い。
(レベル 2 −)
McColl E, Patel K, Dahlen G, Tonetti M, Graziani F, Suvan J, et al.
Supportive periodontal therapy using mechanical instrumentation or 2% minocycline gel: a 12 month randomized, controlled, single masked pilot study.
J Clin Periodontol. 2006; 33: 141-50.
目
的:SPT におけるミノサイクリンゲルの効果を機械的清掃の効果と比
べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:イギリスの大学病院。
対 象 患 者:歯周炎メインテナンス期の患者 40 人。
暴 露 要 因:2 群(ミノサイクリンゲルのみ,SRP のみ)。
主要評価項目:プロービングポケットデプス,プロービング時の出血,細菌検査。
結
果:どちらの治療法も同程度の効果があり,2 群間に差はなかった。
結
論:メインテナンス期に行う SRP と局所化学療法は,どちらも効果的
で差はない。
(レベル 2 −)
CQ10:糖尿病患者の歯周外科治療を行う際の
血糖コントロールの基準値はあるのか?
推奨:糖尿病患者の歯周外科治療を行う際の直接的な血糖コントロール基準
値 は な い が, 冠 状 動 脈 バ イ パ ス 手 術 の 際, グ リ コ ヘ モ グ ロ ビ ン
(HbA1C)が 7%未満での手術が推奨されていることから(レベル
4),相対的に侵襲性の低い歯周外科治療では概ね HbA1C は 7%未満
が参考の値として考えられる。(推奨度 グレード C1)
ただし,CQ7 にあるように日本人においては HbA1C が 6.5%未満
であることが望ましい。
背景・目的
外科的治療(抜歯)においても,糖尿患者では創傷治癒の遅延が指摘されてい
る。炎症性組織破壊を示す歯周局所に,フラップ手術などで創傷を伴う外科的治療
を行えば,術後創傷部の感染症のために治癒不全が生じる可能性が指摘されてい
る。
糖尿病患者で歯周外科治療行う際の血糖コントロールの指標は必ずしも明確では
ない。年々増加しつつある糖尿病患者の歯周病治療の機会も増加すると推測され
る。とりわけ,外科的歯周治療を行う際の,血糖コントロールの指標を明確にする
ことが術後合併症を予防する上で重要である。
また,糖尿病患者に対する広範囲な歯周外科治療を行うには,術前・術中に血中
グルコースレベルを 80 ∼ 110mg/dl にコントロールしておくことが望ましいとす
る報告も見られる 1, 2)。
解説
糖尿病患者に歯周外科治療後の合併症(感染症)に関するランダム化比較試験は
ない。後向き観察研究では,術前の良好な血糖コントロール(HbA1C < 7%)は,
様々な外科手術後の感染合併症の減少に有意に関係する 3)
(レベル 4)。術前の良好
な血糖コントロール(HbA1C < 7%)は入院期間を短縮することになる(6 日間以
4)
下)
(レベル 4)
。冠動脈バイパス手術を受ける糖尿病患者では,HbA1C が 7%より
高い(> 7%)と,7%以下(≦ 7%)のものに比べ手術後 30 日以内の死亡率が有意
に高い 5)
(レベル 4)。これらの報告からは必ずしも糖尿病患者の歯周病治療を行う
際の血糖コントロール基準値とはならないが,相対的に外科的侵襲が低いと考えら
れる歯周外科治療では,術前の HbA1C7%未満が参考となる。とりわけ前項 CQ7 に
あるように日本人においては合併症を予防する上での HbA1C の目標値が 6.5%未満
に設定されていることから,長期的な予後を良好に保つためにはさらに厳格な血糖
コントロールが要求される。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline および医中誌を検索した。Medline に用
い た 検 索 ス ト ラ テ ジ ー は,
(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields])
AND(“postoperative complications”
[MeSH Terms]OR(“postoperative”
[All
Fields]AND“complications”
[All Fields])OR“postoperative complications”
[All
Fields])AND(glycemic[All Fields]AND(“prevention and control”
[Subheading]OR(“prevention”
[All Fields]AND“control”
[All Fields])OR“prevention
and control”
[All Fields]OR“control”
[All Fields]OR“control groups”
[MeSH
Terms]OR(“control”
[All Fields]AND“groups”
[All Fields])OR“control
groups”
[All Fields])
)AND(hasabstract[text]AND“humans”
[MeSH Terms]
AND English[lang])で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リ
ストについても内容の検討を行った。医中誌については,(糖尿病/ TH or 糖尿病
/ AL)and(術後感染症/ TH or 術後感染症/ AL)and(空腹時血糖値/ TH or
空 腹 時 血 糖 値 / AL)or(“Glycosylated Hemoglobin A”/ TH or HbA1C / AL)
and(歯周疾患/ TH or 歯周病/ AL)で検索を行った。主要な情報として,外科
的治療を受ける糖尿病患者の術後感染症に対して血糖コントロールとの関連性を検
討した研究を採取し,次いで,関連する比較研究及び日本人を対象とした症例集積
までを情報の収集対象とした。
Seq.
#1
terms and strategy
hits
(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]
108,958
AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields])
#2
(“postoperative complications”
[MeSH Terms]OR(“postoperative”179,463
[All Fields]AND“complications”
[All Fields])OR“postoperative
complications”
[All Fields])
#3
(glycemic[All Fields]AND(“prevention and control”
[Subheading] 6,318
OR(
“prevention”
[All Fields]AND“control”
[All Fields])OR
“prevention and control”
[All Fields]OR“control”
[All Fields]
OR“control groups”
[MeSH Terms]OR(“control”
[All Fields]
AND“groups”
[All Fields])OR“control groups”
[All Fields]))
#4
#1 AND #2 AND #3
53
Limits: Human, English 最終検索日 2008 年 8 月 2 日
参考文献
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Dronge AS, Perkal MF, Kancir S, Concato J, Aslan M., Rosenthal RA. Long-term glycemic
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Maynard G. What is the target blood glucose for noncritical care patients? The Hospitalist
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関係論文の構造化抄録
Dronge AS, Perkal MF, Kancir S, Concato J, Aslan M, Rosentha RA.
Long-term glycemic control and postoperative infectious complications.
Arch Surg. 2006; 141: 375-380.
目
的:術前の良好な血糖コントロール(HbA1C < 7%)は術後感染を減少
させるかを検証する。
研究デザイン:後向き観察研究。
研 究 施 設:アメリカの退役軍人病院。
対 象 患 者:糖尿病患者 647 名。
暴 露 要 因:心臓外科でない手術。
主要評価項目:術後感染症(肺炎,創傷感染症,尿管感染症,敗血症)。
結
果: 創 傷 の 分 類, 手 術 時 HbA1C は 術 後 感 染 症 と 有 意 に 関 連 す る。
HbA1C レベル 7%未満は感染症の減少に有意に関係し,オッズ比は
2.13。
結
論:良好な術前の血糖コントロール(HbA1C < 7%)は,様々な外科手
術後の感染合併症の減少に関係する。
(レベル 4)
CQ11:糖尿病患者と健常者の抜歯の予後に差があるか?
推奨:血糖値のコントロールされた糖尿病患者と健常者の抜歯の予後に差は
認められない(レベル 3)
。しかしながら,コントロールが行われて
いない糖尿病患者の抜歯には血糖値変動と感染のリスクがあると推測
され,抜歯後の感染予防に注意を払う必要がある。(推奨度 グレー
ド B)
背景・目的
糖尿病患者は,糖代謝異常に伴う糖尿病性昏睡や意識障害などの急性期症状に加
えて,持続的な高血糖状態を原因とした微小血管の障害やコラーゲン代謝異常,軽
度の免疫不全状態が生じることにより易感染性や創傷治癒遅延などの症状を示すこ
とから,一般的に外科処置に対してリスクが高いと考えられている。糖尿病患者の
易感染性を示唆する研究としては,冠動脈手術後の血糖値レベルと手術創の感染,
肺炎および尿路感染の発生率との関係を検討したコホート研究 1)があり,術後血糖
値が高値の群は低値の群に比べて感染リスクが高いことが報告され,術後の感染の
リスクを低くするためには術後血糖値を 200mg/dl 以下となるようにコントロール
すべきであるとの結果が示されている(レベル 3)。
歯科領域でも,抜歯を行うと高確率(87.5%)で術直後の菌血症が発症すると
の報告 2)がある(レベル 4)。さらに,血糖値のコントロールが不十分な糖尿病患
者において,抜歯後に重篤なムコール真菌症を発症した症例報告が 1970 年代に 2
例 3, 4)あり,うち 1 例 3)は死亡に至っていることから(レベル 6)
,血糖値のコント
ロールがなされていない糖尿病患者の抜歯に際しては術後の日和見感染に注意を払
う必要性が示唆されている。このように,抜歯を糖尿病患者において行なう場合は
健常者に比べて感染のリスクが高いと考えられているが,歯科医学的に抜歯を回避
できない場合が存在することから,感染予防の観点からも糖尿病患者と健常者の抜
歯の予後に差があるか否かを明確にする必要がある。
解説
糖尿病患者に抜歯を行う際には急性期症状の誘発や易感染性,創傷治癒遅延など
のリスクを考慮する必要があるとされている。しかし今回行った文献検索におい
て,糖尿病患者をテスト群,健常者を対照群として抜歯を行い,その予後を直接的
に比較した研究は一件も抽出されなかった。しかしながら,急性期症状誘発の指標
となる抜歯後の血糖値の変動量を糖尿病患者と健常者の間で比較したコホート研究
(レベル 3)
。この研究では,糖尿病患者と健常者の間で抜歯後
が 1 件抽出された 5)
の血糖値変動量に有意差はないものの,糖尿病治療薬の投与を受けていない糖尿病
患者では全ての患者で血糖値が上昇し,その変動量が健常者と比べて大きいとの結
果が示され,血糖値のコントロールが不十分な糖尿病患者では,抜歯時に昏睡や意
識障害などの急性期症状が誘発される可能性が示唆されている。
また,糖尿病患者と健常者を対象とした前記の冠動脈手術後の血糖値レベルと術
後の感染リスクとの関係を検討したコホート研究 1)で,術後の血糖値が比較的低値
にコントロールされていた群は健常者と感染リスクが同程度であったことから(レ
ベル 3),良好に血糖値がコントロールされた糖尿病患者では通常の抜歯に抗菌薬
の投薬は推奨されないとの提言がなされている 6)。一方,日本人を対象とした研究
においては,抜歯後に重篤な感染症を併発した症例報告が 4 件 7∼10)抽出され,糖尿
病患者の抜歯後の感染に注意を払う必要性が示唆される。
以上のことから,血糖値のコントロールされた糖尿病患者と健常者の抜歯の予後
には差はないと考えられる。しかしながら,コントロールが行われていない糖尿病
患者の抜歯に際しては,抜歯前に血糖値のコントロールを行なうことが望ましく,
糖尿病のコントロールの不十分な患者に抜歯を行なう場合は,抜歯後の感染予防に
注意を払う必要があると結論づけられる。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline および医中誌を検索した。Medline に用
いた検索ストラテジーは((“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR“diabetes mellitus”
[All Fields])AND(“tooth extraction”
[MeSH Terms]OR“tooth extraction”
[All Fields]OR“exodontia”
[All Fields]OR“Oral Surgical Procedures”
[Mesh]OR“Oral Surgical Procedures”
[All Fields])AND(“wound healing”
[MeSH Terms]OR“wound healing”
[All Fields]OR“Postoperative Complications”
[Mesh]OR“Postoperative Complications”
[All Fields]))で関連のある論文
を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。医中誌
については,(“糖尿病”AND“抜歯”AND“原著”)のシソーラスを用いて検索を
行った。主要な情報として,抜歯を行った患者を対象として,糖尿病患者である場
合とそうでない場合の治癒経過や術後合併症の発生率を検討した研究を採取し,次
いで関連する比較研究および症例報告までを情報の収集対象とした。
seq.
#1
terms and strategy
hits
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR“diabetes mellitus”
[All
153,393
Fields]
#2
“tooth extraction”
[MeSH Terms]OR“tooth extraction”
[All Fields] 8,064
OR“exodontia”
[All Fields]
#3
“Oral Surgical Procedures”
[Mesh]OR“Oral Surgical Procedures” 24,062
[All Fields]
#4
“wound healing”
[MeSH Terms]OR“wound healing”
[All Fields]
#5
“Postoperative Complications”
[Mesh]OR“Postoperative
32,918
210,592
Complications”
[All Fields]
#6
#1 AND(#2 OR #3)
91
#7
#1 AND(#2 OR #3)AND(#4 OR #5)
19
Limits: Human, English 最終検索日 2008 年 8 月 26 日
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症しイトラコナゾールが奏効した下顎骨を含む咀嚼筋隙アスペルギルス感染症の 1 例:感染
症学雑誌(0387-5911)82 巻 3 号 Page220-223(2008.05)
槙研二 , 山本聡 , 石井寛邦 , 宗像光輝 , 平塚昌文 , 吉永康照 , 白石武史 , 岩崎昭憲 , 白日高歩:
降 下 性 壊 死 性 縦 隔 炎 に 対 す る 頸 部 切 開 お よ び 胸 腔 鏡 下 ド レ ナ ー ジ の 1 例: 胸 部 外 科
(0021-5252)60 巻 2 号 Page165-167(2007.02)
岸本晃治 , 小林敏康 , 新谷悟 , 山田庸介 , 富澤洪基 , 佐々木朗 , 上山吉哉 , 松村智弘:歯性感
染から縦隔洞炎を生じたガス産生性深頸部感染症の 1 例:岡山歯学会雑誌(0913-3941)19
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梅沢義一(日本歯科大学新潟歯学部 第 2 口腔外科), 堀川恭勝 , 又賀泉 , 他:糖尿病患者にみ
られた重症感染症の一例:歯学(0029-8484)75 巻 3 号 Page446-447(1987.09)
関連論文の構造化抄録(分析的研究のみ)
Tily FE, Thomas S.
Glycemic effect of administration of epinephrine-containing local anaesthesia in patients undergoing dental extraction, a comparison between healthy and diabetic
patients.
Int Dent J. 2007; 57: 77-83.
目
的:エピネフリン含有歯科局所麻酔薬投与が血糖値に与える影響を健常
者と糖尿病患者で比較する。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:大学病院(UAE)。
対 象 患 者:健常者 30 人,糖尿病患者 30 人。
暴 露 要 因:抜歯。
主要評価項目:抜歯 10 分後の血糖値。
結
果:健常者と糖尿病患者の抜歯後の血糖値変動に差は認められなかった
が,血糖降下薬を服用していない糖尿病患者では術後の血糖値が有
意に上昇した。投与量,抜歯本数および患者の性別と抜歯後の血糖
値の変動との間には有意な関連は認められなかった。
結
論:血糖降下薬を服用していない患者を除いて,糖尿病患者と健常者の
エピネフリン含有歯科局所麻酔薬使用後の血糖値変動に差はない。
(レベル 3)
Golden SH, Peart-Vigilance C, Kao WH, Brancati FL.
Perioperative glycemic control and the risk of infectious complications in a cohort
of adults with diabetes.
Diabetes Care. 1999; 22: 1408-14.
目
的:糖尿病患者における冠動脈手術後の血糖コントロールと感染リスク
との関連を検討する。
研究デザイン:コントロールを伴うコホート研究。
研 究 施 設:大学病院(アメリカ)。
対 象 患 者:冠動脈手術を 1990 ∼ 1995 年に受けた糖尿病患者 441 人
暴 露 要 因: 術 後 血 糖 値 で 4 群(121 ∼ 206,207 ∼ 229,230 ∼ 252,253 ∼
352mg/dl)。
主要評価項目:脚部感染,胸部手術創の感染,肺炎,尿路感染の発症。
結
果:術後血糖値が最も低かった群に比べ,術後血糖値が高い群になるに
従 い, 感 染 オ ッ ズ 比[95 % 信 頼 区 間 ] が そ れ ぞ れ 1.17[0.57 ∼
2.40],1.86[0.94 ∼ 3.68],1.78[0.86 ∼ 3.47]と高くなった。
結
論:糖尿病患者において,冠動脈手術後の血糖値と術後感染との間には
正 の 関 連 が あ る。 そ し て, 感 染 の リ ス ク を 減 ら す に は 血 糖 値
200mg/dl 以下にコントロールすることが望ましい。
(レベル 3)
Trivedi DN.
Bacteraemia due to operative procedure.
J Indian Dent Assoc. 1984; 56: 447-52.
目
的:抜歯後の菌血症の発症率を検討する。
研究デザイン:コントロールを伴わないコホート研究。
研 究 施 設:大学病院(インド)。
対 象 患 者:40 人の患者。
暴 露 要 因:局所麻酔下での抜歯(浸潤麻酔 20 人,伝達麻酔 20 人)。
主要評価項目:菌血症の発症。
結
果:抜歯後の菌血症の発症率は 87.5%で,麻酔の種類で有意差は認めら
れなかった。
結
論:抜歯後に菌血症は高頻度に発症する。
(レベル 4)
CQ12:抜歯や歯周外科治療,歯周基本治療の際に,
ワーファリンの服用は中断すべきか?
推奨:ワーファリン服用患者に関しては,休薬によって生じる可能性のある
イベントのリスクは,服薬持続によって生じる観血的処置の際の出血
のリスクを上回ると推定され(レベル 2),抜歯や歯周外科治療など
の際に休薬は行わないよう勧められる。(推奨度 グレード D)
背景・目的
糖尿病患者は,循環器系の疾患のハイリスクとなるため,血圧管理はより厳格に
行われ,また塞栓予防のために抗凝固剤,抗血小板剤をしばしば服用している。我
が国で最も頻用されている抗凝固剤がワーファリン(ワルファリンカリウム)であ
り,服用者においては,観血的処置の後の出血の延長が生じることが知られてい
る。抗凝固剤の投与を受けている患者の抜歯については,1957 年に Ziffer ら 1)が抗
凝固剤を継続服用している患者の抜歯を行ったところ術後の出血イベントを来した
ため,抜歯時における抗凝固剤の服用中止を推奨している。また,内視鏡治療の際
や,消化管からの出血など,ワーファリン服用患者においては出血の偶発症が数多
く報告されていることから,観血的な処置を行う際には,抗凝固剤の服用を中止し
たり,減量したりすることが治療のオプションの一つとして考えられてきた 2)。
しかし,1963 年に Marshall ら 3)は,抜歯前に抗凝固剤を休薬したところ,心筋
梗塞を来した症例を報告し,中止による塞栓症の危険性を強調している。ワーファ
リンは,中止時および再開時に血栓形成が亢進するリバウンド現象が報告されてお
り 2),抗凝固剤中止期間中の血栓症の発症報告がしばしば見られ,重篤な疾患へと
進展した症例も報告されている。
このように,抗凝固剤の投与を受けている患者の口腔内小手術の際には,血栓症
の防止のために抗凝固剤の服用を継続すべきとする意見と,術後の出血事象の回避
のために抗凝固剤を減量・休薬すべきという相反する意見があり,抗凝固剤を服用
している患者に対する抜歯,あるいは歯周外科などを実施する際の明確な指針が必
要とされていた。
解説
ワーファリン服用患者は,観血的な歯科治療に際して,服用を継続しても,減量
あるいは休薬しても,処置後の出血には大きな差異はない。ワーファリンの服用を
持続した場合でも,たいていの後出血は適切に局所の処置を施すことにより止血が
可能であるため,スケーリングはもちろん,抜歯や歯周外科治療などの観血的な処
置の場合も,休薬を勧めるべきではない。このことは,すでに複数のランダム化比
較試験でサポートされたエビデンス(レベル 2)がある。
今回の文献検索では,口腔内の小手術の際のワーファリン服薬の維持もしくは休
薬を行った際の,術後の出血などの偶発症に関して実施されたランダム化比較試験
は 2 件抽出された。ひとつは,サウジアラビアの病院歯科において,抜歯を予定し
ている抗凝固剤服用患者 214 名を 4 群(縫合なし+休薬,縫合なし+休薬せず,縫
合+休薬,縫合+休薬せず)にランダムに割り付け,抜歯後の後出血と創傷の治癒
を比較したところ,術後の出血と治癒には群間の差は見られず,縫合した方が術後
(レベル 2)
。もう 1 件は,抜歯を
の出血が多い傾向があったという結果であった 4)
予定している抗凝固剤服用患者 131 名を対象にイタリアの病院歯科で行われたラン
ダム化比較試験(前向きオープンラベル研究)で,これは抗凝固剤減量か抗凝固剤
服用継続にランダム割り付け,抜歯後の後出血を評価したものである 5)。その結
果,減量群の 15.1%に軽度の後出血が生じ,これに対して維持群の 9.2%に軽度の後
出血が認められ,通常の抜歯時には抗凝固剤を減量する必要はないと結論づけられ
ている(レベル 2)。
これらは日本人を対象として行われた研究ではなく,抗凝固剤に対する感受性が
高く,塞栓の発症率が比較的低いとされる日本人にも,この結果が適用可能かとい
う懸念もある。このような ethnic difference の問題に関しては,日本人を調査対象
とした抗凝固療法を受けている患者に対し,ワーファリン服用を維持したまま抜歯
を行ったものと休薬をしたものとの比較を行った病院コホート研究(コントロール
を伴うコホート研究)が 5 件 6∼10)報告されており,いずれも服薬維持と休薬との間
に問題となるような差異は認められていない(レベル 3)ことから,同様な対処が
適用できると思われる。また,歯周外科に関しても,INR(international normalized ratio)が 2.5 以下の場合には術後の出血には差異がなかったという報告があ
り,抜歯のみにとどまらず,歯周外科治療に関しても,ワーファリンの服薬維持が
妥当であるとの判断が推奨されている 11)
(レベル 3)。
以上のように,ワーファリンの服用を行っている歯周病の患者についても,抜歯
に関しては INR が 3.0 までの患者ならば,薬剤を維持したまま抜歯が可能であると
判断され,また歯周病の治療に関してはエビデンスが少ないものの,INR2.5 まで
は,薬剤を維持したまま治療にあたることが可能と考えられる。しかし,抗凝固療
法を受けている患者は,健常人に比して術後の止血は困難なことが多いので,可及
的に外科時の侵襲を少なくすること,局所の止血処置を適切に行うこと,炎症性組
織の除去を確実に行うことなどの点に留意し,できるだけ直近の INR 値を知り,
事前に消炎処置を充分に施すことが必要であると考えられる 11)
(レベル 3)。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline および医中誌を検索した。Medline に用
いた検索ストラテジーは,(“anticoagulants”
[MeSH Terms]OR“anticoagulants”
[Pharmacological Action]OR anticoagulants[Text Word])AND(postoperative
haemorrhage[Text Word]OR“postoperative hemorrhage”
[MeSH Terms]OR
postoperative hemorrhage[Text Word])で,関連のある論文を抽出した後,そ
の論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。医中誌については,(“抗
血栓剤(治療的利用)
”OR“Warfarin(治療的利用)
”AND“出血─術後”AND
“原著”AND“比較研究”)のシソーラスを用いて検索を行った。主要な情報とし
て,ワーファリン服用患者を対象として,歯科治療時にワーファリンの休薬を行っ
たものと行わなかったものとをランダム化比較試験の手法で検討を行った研究を採
取し,次いで,関連する比較研究および日本人を対象とした症例集積までを情報の
収集対象とした。
seq.
#1
terms and strategy
hits
“anticoagulants”
[MeSH Terms]OR“anticoagulants”
152,805
[Pharmacological Action]OR anticoagulants[Text Word]
#2
“surgical hemostasis”
[Text Word]OR“hemostasis, surgical”
4,066
[MeSH Terms]OR hemostasis, surgical[Text Word]
#3
oral haemorrhage[Text Word]OR“oral hemorrhage”
[MeSH
3,242
Terms]OR oral hemorrhage[Text Word]
#4
#5
“oral hemorrhage”
[All Fields]
1,722
postoperative haemorrhage[Text Word]OR“postoperative
3,582
hemorrhage”
[MeSH Terms]OR postoperative hemorrhage
[Text Word]
#6
“postoperative hemorrhage”
[All Fields]
#7
“warfarin”
[MeSH Terms]OR warfarin[Text Word]
#8
#1 AND #5
#9
#1 AND #5 AND Clinical Trial[ptyp]
3,464
13,614
434
122
最終検索日 2008 年 7 月 30 日
参考文献
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関係論文の構造化抄録(ランダム化比較試験のみ)
Al-Mubarak S, Al-Ali N, Abou-Rass M, Al-Sohail A, Robert A, Al-Zoman K, Al-Suwyed A, Ciancio S.
Evaluation of dental extractions, suturing and INR on postoperative bleeding of
patients maintained on oral anticoagulant therapy.
Br Dent J. 2007; 203: E15.
目
的:抗凝固剤の服用患者の抜歯後の出血について,休薬,縫合の影響を
調べる。
研究デザイン:ランダム化比較試験。
研 究 施 設:サウジアラビアの病院歯科。
対 象 患 者:抜歯を予定している抗凝固剤服用患者 214 名。
暴 露 要 因:4 群(縫合なし+休薬,縫合なし+休薬せず,縫合+休薬,縫合+
休薬せず)。
主要評価項目:抜歯後の後出血と創傷の治癒。
結
果:術後の出血と治癒には群間の差なし。縫合した方が術後の出血が多
い傾向があった。
結
論:INR < 3.0 ならば局所の止血がしっかりしていれば休薬の必要な
し。縫合はケースにより必要性を考える。縫合の必要性も,軟組織
の損傷の程度に依存する。
(レベル 2)
Sacco R, Sacco M, Carpenedo M, Mannucci PM.
Oral surgery in patients on oral anticoagulant therapy: a randomized comparison
of different intensity targets.
Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2007; 104: e18-21.
目
的:抗凝固剤の服用患者の口腔外科処置を休薬なしで実施可能か評価す
る。
研究デザイン:ランダム化比較試験(前向きオープンラベル研究)。
研 究 施 設:イタリアの病院歯科受診患者。
対 象 患 者:抜歯を予定している抗凝固剤服用患者 131 名。
暴 露 要 因:抗凝固剤減量か抗凝固剤服用継続にランダム割り付け。
主要評価項目:抜歯後の後出血。
結
果:減量群の 15.1%に軽度の後出血,維持群の 9.2%に軽度の後出血。
結
論:通常の抜歯時に抗凝固剤を減量する必要なし。
(レベル 2)
CQ13:糖尿病患者では歯周外科治療後の抜糸は
いつごろ行うのが適切か?
推奨:十分な血糖コントロール下で歯周外科治療を行う限りにおいては,抜
糸時期は通常通りで特別な配慮は必要としない。しかし,高齢者など
では,感染予防のため術後の消毒や抗菌薬の予防投与を行うことが望
ましい(レベル 4)。
(推奨度 グレード C1)
背景・目的
糖尿病患者は,その臨床的特徴として易感染性や創傷治癒遅延が知られており,
糖尿病患者の口腔内疾患の合併症としては,歯周病が挙げられている。そのため,
歯周治療には糖尿病の臨床的特徴を考慮した特別な配慮が必要ではないかと考えら
れる。
糖尿病患者の血糖値のコントロールと歯科治療の予後との関連に関してはいくつ
かの報告がなされている。すなわち,52 名の糖尿病患者に 3.0 クロミックグート糸
を用いた縫合処置を伴うインプラント処置を行い術後経過を調べた研究 1)において
は,1 次または 2 次手術後に裂開が生じた 5 名の HbA1C は,3 名が 7.4 ∼ 9.2 であ
ったが,他の 2 名は 11.7 以上で血糖値のコントロールが不十分な患者であった。
また,Yoshii ら 2)は,993 名の智歯の抜歯を行い,その中の 7 名の糖尿病患者にお
いて,糖尿病のコントロールが良好であれば,術後,顔面領域へ波及した深部感染
は見られなかったことを報告している。そして,歯周病の領域においても,糖尿病
患者のグリコヘモグロビン(HbA1C)を,前述(CQ7,10)のように,7.0%以下
(日本人では,6.5%)にコントロールしておけば,SPT や歯周外科治療の実施に際
しても特別な配慮は必要ないことが示されている。そしてさらに我が国において,
糖尿病患者に対する広範囲な歯周外科治療を行うには,術前・術中に血中グルコー
スレベルを 80 ∼ 110mg/dl にコントロールしておくことが望ましいとする報告 3, 4)
もなされている。
以上のように,糖尿病患者では血糖値のコントロールの良否が創傷治癒遅延に影
響を及ぼし,結果として歯科治療の予後に影響を与える事が推測される。そこでこ
こでは,糖尿病の状態により影響を受けることが危惧される歯周外科治療後の抜糸
時期について考察する。
解説
糖尿病患者に対し縫合の是非や抜糸時期について直接言及した報告は,今回の文
献検索では抽出されなかった。しかしながら,血糖値がコントロールされている糖
尿病患者では健常者と同様の歯周外科治療の予後が期待できること(CQ10 参照)
から,歯周外科治療の抜糸の時期についても健常者と同一の時期に行なうことが可
能と推測される。
また,歯科領域以外の研究において,Shindo ら 5)は,高齢者の消化器の外科手術
における術野のポピドンヨードによる消毒の効果を調べ,糖尿病患者では,術前だ
けでなく縫合後の消毒が有効であることを報告している。一方,Waldman ら 6)
は,3490 名の全膝関節置換手術を受けた患者に対し,手術部位に対し歯科治療が
感染リスクとなるか,後ろ向きコホート研究(レベル 4)を行った。その結果,術
後 6 ヶ月以内に生じた感染症 62 名のうち 7 名が歯科治療に起因し,その大部分が
歯科処置を受けたのちに抗菌薬の投与を受けていない患者であった。すなわち,こ
れらのことは,歯周治療が口腔外の遠隔臓器への感染源なり得ることを示唆してお
り,特に高齢者では感染予防のため術後の消毒や抗菌薬の予防投与を行うことが望
ましいと考えられる。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline および医中誌を検索した。Medline に用
いた検索ストラテジーは,(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR“diabetes insipidus”
[MeSH Terms]OR diabetes[Text Word]
) と“periodontal diseases”
[MeSH Terms]OR(
“periodontal”
[All Fields]AND“diseases”
[All Fields])OR
“periodontal diseases”
[All Fields]OR(“periodontal”
[All Fields]AND“disease”
[All Fields])OR“periodontal disease”
[All Fields]と“suture”
[MeSH Terms]
を 掛 け 合 わ せ る と 0 に な る た め,
“postoperastive wound”
[MeSH Terms]OR
“postoperative wound infection”
[MeSH Terms]OR“postoperative care”
[MeSH
Terms]などを掛け合わせたものを追加した。さらに,医中誌より(糖尿病/ TH
or 糖尿病/ AL)and(術後管理/ TH or 術後管理/ AL)AND(PT =原著論文
RD =比較研究)で検索した結果,以下の論文を選定した。
seq.
#1
terms and strategy
hits
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR“diabetes insipidus”
[MeSH 315,038
Terms]OR diabetes[Text Word]
#2
“periodontal diseases”
[MeSH Terms]OR(“periodontal”
[All
55,892
Fields]AND“diseases”
[All Fields])OR“periodontal diseases”
[All Fields] OR(“periodontal”
[All Fields]AND“disease”
[All
Fields])OR“periodontal disease”
[All Fields]“periodontal
disease”
[All Fields]
#3
“sutures”
[MeSH Terms]OR suture[Text Word]
55,820
#4
[All
“postoperative period”
[MeSH Terms]OR(“postoperative”
84,013
Fields]AND“period”
[All Fields])OR“postoperative period”
[All
Fields]
#5
“surgical wound infection”
[MeSH Terms]OR(“surgical”
[All
28,341
Fields]AND“wound”
[All Fields]AND“infection”
[All Fields])
OR“surgical wound infection”
[All Fields]
#6
#1 and #2 and #3 Limits: Human
0
#7
#1 and #2 and #4 Limits: Human
2
#8
#1 and #2 and #5 Limits: Human
6
最終検索日 2008 年 9 月 28 日
参考文献
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関係論文の構造化抄録
Yoshii T, Hamamoto Y, Muraoka S, Kohjitani A, Teranobu O, Furudoi S, Komori
T. Incidence of deep fascial space infection after surgical removal of the mandibular third molars.
J Infect Chemother. 2001; 7: 55-57.
目
的:智歯抜歯後に顔面領域へ波及した深部感染がどれほど起きるかを調
査する。
研究デザイン:前後比較試験。
研 究 施 設:兵庫淡路県立病院:日本。
対 象 患 者:1993 年∼ 1999 年に病院に来院した 993 名(418 名女性:575 名男
性)の智歯抜歯患者。
暴 露 要 因:
(1:80,000 エピネフリン含有)2%リドカインの局所麻酔下での従
来法による抜歯術後 3 から 4 日の抗菌薬の投与。
主要評価項目:顔面領域へ波及した深部感染。
結
果:8 例に感染が認められた。
993 名中に 7 名糖尿病患者が含まれていたが良好にコントロールさ
れていたため感染は認められなかった。
結
論:糖尿病患者でも糖尿病がコントロールされ,術後抗菌薬の投与を受
けていれば,顔面領域へ波及した深部感染を起こすリスクはない。
(レベル 4)
Waldman BJ, Mont MA, Hungerford DS.
Total knee arthroplasty infections associated with dental procedures.
Clin Orthop Relat Res. 1997; 343: 164-172.
目
的:関節置換手術を受けた患者に対し,歯科治療が感染源となっている
かを調べる。
研究デザイン:前後比較試験。
研 究 施 設:Johns Hopkins 大学の Good Samaritan 病院,バルチモア
対 象 患 者:1982 年から 1993 年の間に行われた 3,490 名の全膝関節置換手術を
受けた患者。
暴 露 要 因:全膝関節置換手術。
主要評価項目:オペ後 6 ヶ月以上たった患者における膝関節における感染の有無。
結
果:起きた感染症は 62 名であった。そのうち 7 名が歯科治療に起因し
ていた。歯科処置を受けたのちに抗菌薬の投与を受けていない患者
がほとんどであった。
結
論:歯科治療が原因となった感染症が,3,490 名中 7 名に認められ,そ
のほとんどは,歯科治療(抜歯など)後に抗菌薬の投与が行われて
いなかったため,歯科における観血処置後に抗菌薬の投与をするこ
とが必要である。
(レベル 4)
CQ14:糖尿病患者において歯周外科治療後に歯周パック
(包帯)を用いることは有効か?
推奨:非糖尿病の歯周病患者では,歯周外科治療後に歯周パックを用いるこ
とは,術後の治癒促進の観点から有効性は認められない(レベル
3)。しかしながら,糖尿病患者では,同患者が有する易感染性や創
傷治癒不全傾向を考慮して,健常者と比べて歯周外科治療後の感染予
防に歯周パックが有効である可能性があるかもしれないが,使用を推
奨するだけの明確な根拠がない。(推奨度 グレード C1)
ただし,糖尿病の有無に関わらず,術後の出血防止や機械的刺激によ
る疼痛緩和が必要な場合は歯周パックを用いることを考慮する。
背景・目的
歯周外科治療における歯周パックは,1)後出血の防止,2)疼痛の緩和,3)感
染の防止,を主目的として使用され,組織を保護することにより治癒を促進すると
考えられてきた。しかしながら,歯周外科治療後における歯周パックの上記目的に
対する有効性について健常者を対象として検討した研究では,歯周外科治療の内容
に関わらず,その有用性は認められないとする報告が多い 1∼4)。
一方,近年,細菌感染症である歯周炎と細菌に対して易感染性を示す糖尿病との
関連が注目されており 5∼9),糖尿病患者では,健常者と比較してプラーク量は同じ
でも歯肉炎や歯周炎の徴候が増加し,血糖値のコントロールが不良なケースでその
傾向が著明である事が示されている。
以上より,健常者では歯周外科治療後の歯周パック使用の有用性に疑問が生じて
いるが,糖尿病患者では歯周外科治療後の感染防御は健常者以上に注意を払う必要
であると考えられることから,糖尿病患者における歯周パック使用に関する指針が
必要である。
解説
今回の文献検索では,糖尿病患者において歯周外科治療後における歯周包帯の有
用性について検討した研究は 1 件も抽出されなかった。しかしながら,糖尿病患者
は細菌に対して易感染性を示し,創傷治癒不全も認められることから,健常者と比
べて歯周外科治療後の感染予防に歯周パックが有効である可能性があるかもしれな
い。
文献検索ストラテジー
電子データベースとして,Medline を検索した。Medline に用いた検索ストラテ
ジ ー は,“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR“diabetes mellitus”
[All Fields]
AND(“periodontal diseases”
[ MeSH Terms]OR“periodontal diseases”
[ All
Fields])AND(
(“surgery”
[MeSH Terms]OR“surgery”
[All Fields]OR“operative”
[All Fields])OR(“bandages”
[MeSH Terms]OR“bandages”
[All Fields]
OR“dressings”
[All Fields]OR“pack”
[All Fields])OR(“wound healing”
[MeSH
Terms]OR“wound healing”
[All Fields]OR“healing”
[All Fields]))で,関連の
ある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行っ
た。主要な情報として,歯周外科治療後に歯周パックを併用した場合に関する研究
を収集対象とした。
seq.
#1
terms and strategy
hits
“periodontal diseases”
[MeSH Terms]OR“periodontal diseases”
53,030
[All Fields]
#2
“surgery”
[MeSH Terms]OR“surgery”
[All Fields]OR
1,790,862
“operative”
[All Fields]
#3
“bandages”
[MeSH Terms]OR“bandages”
[All Fields]OR
23,960
#4
“wound healing”
[MeSH Terms]OR“wound healing”
[All Fields] 104,272
“dressings”
[All Fields]OR“pack”
[All Fields]
OR“healing”
[All Fields]
#5
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR“diabetes mellitus”
249,625
[All Fields]
#6
#1 AND #2
10,956
#7
#1 AND #2 AND #3
137
#8
#1 AND #2 AND #4
1,848
#9
#1 AND #2 AND #5
82
#10
#1 AND #2 AND #3 AND #4
48
#11
#1 AND #2 AND #3 AND #5
0
最終検索日 2008 年 8 月 25 日
参考文献
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
Powell CA, Mealey BL, Deas DE, McDonnell HT, Moritz AJ Post-surgical infections: prevalence associated with various periodontal surgical procedures. J Periodontol. 2005; 76:
329-33.
Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabet Its Complication. 2006; 20:
59-68.
Ringelberg ML, Dixon DO, Francis AO, Plummer RW. Comparison of gingival health and
gingival crevicular fluid flow in children with and without diabetes. J Dent Res. 1977; 56:
108-11.
Takahashi K, Nishimura F, Kurihara M, Iwamoto Y, Takashiba S, Miyata T, Murayama Y.
Subgingival microflora and antibody responses against periodontal bacteria of young Japanese patients with type 1 diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2001; 3:104-11. Jones TM, Cassingham RJ. Comparison of healing following periodontal surgery with and
without dressings in humans. J Periodontol. 1979; 50: 387-93.
Allen DR, Caffesse RG. Comparison of results following modified Widman flap surgery with
and without surgical dressing. J Periodontol. 1983; 54: 470-5.
Cianciola LJ, Park BH, Bruck E, Mosovich L, Genco RJ. Prevalence of periodontal disease in
insulin-dependent diabetes mellitus(juvenile diabetes).J Am Dent Assoc. 1982; 104: 653-60.
Willans R,Mahan C. Periodontal disease and diabetes in young adult. J Am Med Assoc.
1960; 172: 776-778.
Mealey B. Diabetes and periodontal diseases. J Periodontol. 1999; 70: 935-49.
関係論文の構造化抄録
Powell CA, Mealey BL, Deas DE, McDonnell HT, Moritz AJ
Post-surgical infections: prevalence associated with various periodontal surgical
procedures.
J Periodontol. 2005; 76: 329-33.
目
的:歯周外科治療後の感染に関連する因子を検索する。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
研 究 施 設:アメリカの病院歯科。
対 象 患 者:395 人患者,1,053 症例手術
暴 露 要 因:歯周外科治療(骨切除外科,FOP,DW,歯肉切除,歯根切除,
GTR,インプラント,FGG,CTG,歯冠側移動術,上顎洞挙上
術,歯槽提増大術)。
主要評価項目:Bone graft,membrane,soft tissue graft,術後のクロルヘキシジ
ンの使用,抗菌薬の全身投与,歯周包帯の有無で術後の感染の比
較。*感染の定義:化膿を伴った腫脹の増加
結
果:全体の感染は 22/1053case で 2.09%。
抗菌薬(術前後)投与群:8/281 = 2.85% , 非投与群:14/772 =
1.81%。
術後にクロルヘキシジン洗口剤使用群(17/900,1.89%)では,非
使用群に比較し,有意に感染が低かった(5/153,3.27%)。歯周包
帯群では非包帯群に比較し,感染率は少々高かった(2.67% vs.
1.86%)。
結
論:今回の結果より,歯周外科治療後の感染自体が少ないという過去の
報告を確証するものとなった。歯周術後の抗菌薬投与は術後感染予
防にはあまり効果はなさそうである。
(レベル 3)
Jones TM, Cassingham RJ et al.
Comparison of healing following periodontal surgery with and without dressings
in humans.
J Periodontol. 1979; 50: 387-93.
目
的:歯周外科治療後の歯周包帯の適応の有無による臨床的および組織学
的な結果を比較する。また患者の術後の快・不快を評価する。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
対 象 施 設:アメリカ。
対 象 患 者:7 人の患者,20 部位。
暴 露 要 因:口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング,咬合調整など
の歯周基本後に手術施行。
主要評価項目:炎症状態(GI,PPD,快適度)
結
果:歯周外科治療後に歯周パックを適応してもしなくても,根尖側移動
術においては有意差はないことが示唆された。また術後に歯周パッ
クを適応した場合にはより術後の疼痛・不快感を感じることが示唆
された。
結
論:おそらく根尖側移動術による歯周外科治療後に歯周パックを用いる
必要はない。しかし,術後に機械的清掃ができなくなる期間および
外傷のことなどを考慮して歯周パックを用いても良いのかもしれな
い。
(レベル 3)
Allen DR, Caffesse RG.
Comparison of results following modified Widman flap surgery with and without
surgical dressing.
J Periodontol. 1983; 54: 470-5.
目
的:modified Widman flap(MWF)による歯周外科治療後,歯周包帯
の臨床的効果を調べる。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
研 究 施 設:ミシガン大学。
対 象 患 者:13 人の患者,30 部位。
暴 露 要 因:歯肉溝滲出液および歯肉の炎症状態を外科処置前,外科処置後 2 週
間,1,2 ヶ月で診査。
アタッチメントレベルを外科処置前,外科処置後 1,2 ヶ月で測
定,快適度を質問。
結
果:歯周包帯の有無によるアタッチメントレベル,ポケットプロービン
グデプス,歯肉の炎症状態における有意差は認められなかった。
質問表の結果では,1/3 の患者は歯周パックがない方が不快感が少
ないと回答した。残りの 1/3 はどちらも同程度と回答。歯周パック
の有無を希望するかという質問に対しては,60%の患者がしない方
を希望した。歯周包帯の省略は著しい不快事項にはならなかった。
結
論:おそらく MWF による歯周外科治療後に歯周パックを用いる必要
性はないと考えられる。しかし一方で臨床的に差がなかったという
ことを考えると,術後に機械的清掃が不可能な時期,及び外傷のこ
となどを考慮して歯周パックを用いることは良いのかもしれない。
(レベル 3)
CQ15:糖尿病患者の歯周外科治療後に,洗口剤を使用すると
有効か?
推奨:非糖尿病の歯周病患者に対して,歯周外科治療後に洗口剤(0.2%も
しくは 0.12%グルコン酸クロルヘキシジン,CHX)を用いること
は,術後のプラーク付着,歯肉炎症の抑制,感染予防に有効である
(レベル 2 −∼ 3)
。
ただし,日本においては,この濃度での使用は禁止されている。
(日本の基準では CHX 原液濃度は 0.05%未満であり,推奨グレー
ドを決定することはできない。)
背景・目的
歯周外科治療後早期は,ブラッシングによる機械的プラーク除去ができないため
に,しばしば洗口剤による化学的プラークコントロールが行われることが多い。
ADA では以前よりクロルヘキシジン,リステリン® が認可されており,その臨床
応用がなされてきた。
一方で近年,歯周炎はそれ自体にとどまらず,全身疾患への影響が非常に注目さ
れており,近年増加する傾向にある糖尿病と歯周病の双方の関係についても,2006
年のシステマティックレビューにまとめられている 1)。それによると,糖尿病患者
は健常者と比べ,同程度に歯周病に罹患しているものの,プラークコントロール,
歯肉の炎症,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの点で,有意に
重症化していることが分かっており,糖尿病は歯周病を悪化する因子であるとされ
ている(レベル 2 +)。
よって,これから糖尿病を有する歯周病患者の歯周外科治療の頻度は増加するこ
とが予想されるが,歯周外科治療後のプラークコントロールおよび創傷治癒過程は
健常者以上のケアが必要であり,洗口剤の有効性について明確な指針が必要と思わ
れる。
解説
今回の文献検索では,糖尿病患者において歯周外科治療後の洗口剤の投与の有効
性について記載した論文自体は検索できなかった。
現在日本で発売されている洗口剤に含まれる薬用成分には,グルコン酸クロルヘ
キ シ ジ ン(CHX), 塩 化 セ チ ル ピ リ ジ ニ ウ ム(CPC), 塩 化 ベ ン ゼ ト ニ ウ ム
(BTC),トリクロサン(TC),イソプロピルメチルフェノール(IPMP,リステリ
ン®)がある。その中で,洗口剤に関する論文は,CHX に関するものが大半を占め
た。Essential oil(リステリン®)に関しても報告がある 2)。
歯周外科治療後の洗口剤の有効性については,様々な報告がなされている。特に
CHX に関しては,そのほかの洗口剤に比較しても,有意にプラーク付着性,歯肉
の炎症の抑制に効果があることから,その有用性についてはエビデンス(レベル
3)がある 3∼5)。CHX は陽イオン性化合物であり,負に帯電したバイオフィルムに
吸着し殺菌効果を示し,機械的プラーク除去後,0.12% CHX では約 12 時間持続す
るとされる 6)。濃度に関しては,主に欧州では 0.2%,米国では 0.12%洗口剤が使用
されているが,日本の基準では CHX 原液濃度は 0.05%未満であり,希釈して使用
する際の濃度での効果は不明であり,推奨グレードを決定することはできない。
一方,術後の治癒(プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル)に関
しては,洗口剤使用の有無で,また洗口剤の種類によっても有意差はないとされ
る。術後の感染抑制効果に関する報告は,比較的大規模な large-scale retrospective study による報告がある 7)。それによると,術後に CHX 洗口剤使用群では,
非使用群に比較し,有意に感染が低かった(1.89% vs. 3.27%)とある。
CHX の副作用としてまず考慮しなければならないのが,薬剤アレルギー,アナ
フィラキシーショックである。加えて,長期使用では歯や舌への着色 8)や陰イオン
10)
性食品色素沈着 9),味覚障害(塩味)
などの副作用が報告されている。歯周外科
治療後の比較的短期間の使用では,一番注意すべきはアレルギー反応と思われる。
最近の報告は,2001 年,2003 年の歯周ポケット内イリゲーションに 0.36% CHX 希
釈溶液を使用しアナフィラキシーショックを起こした事例 11),ポケット内への
CHX ゲルを投与した際のアレルギー反応を起こした事例 12)があるが,洗口剤とし
て使用した際の報告はない。CHX 使用に際しては,術前にアレルギーに関する問
診を十分に行い,用量,濃度,用法を厳守する必要がある。
以上より,歯周外科治療後の化学的プラークコントロールの目的として洗口剤
(とくに CHX)を使うことは,糖尿病がコントロールされている患者に関しては,
健常者同様有効性があるかもしれない。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medline を検索した。Medline に用いた検索スト
ラテジーは,
“periodontal disease”
[MeSH Terms]AND(“surgery”
[MeSH Terms]OR“surgery”
[ All Fields])AND(“mouthwashes”
[ MeSH Terms]OR
“mouthwashes”
[All Fields])AND“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]であった
が,以下のように該当する論文は検索できなかった。したがって,主要な情報とし
て,健常者における歯周外科治療後の洗口剤使用の有無に関する比較研究を収集対
象とした。また,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。
Seq.
terms and strategy
hits
#1
“periodontal diseases”
[MeSH Terms]
52,385
#2
“surgery”
[MeSH Terms]OR“surgery”
[All Fields]
#3
“mouthwashes”
[MeSH Terms]OR“mouthwashes”
[All Fields]
#4
“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]
1,742,118
8,607
226,770
#5
#1 AND #2
10,641
#6
#1 AND #2 AND #3
154
#7
#1 AND #2 AND #4
70
#8
#1 AND #3 AND #4
7
#9
#2 AND #3 AND #4
0
#10
#1 AND #2 AND #3 AND #4
0
最終検索日 2008 年 8 月 19 日
参考文献
1.
Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabetes Complication. 2006; 20:
59-68.
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3. Sanz M, Newman MG, Anderson L, Matoska W, Otomo-Corgel J, Saltini C. Clinical enhancement of post-periodontal surgical therapy by a 0.12% chlorhexidine gluconate mouthrinse. J
Periodontol. 1989; 60: 570-576.
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7. Powell CA, Mealey BL, Deas DE, McDonnell HT, Moritz AJ. Post-surgical infections: prevalence associated with various periodontal surgical procedures. J Periodontol. 2005; 76:
329-333.
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Chlorhexidine のプラーク抑制効果 . 日歯周誌 1986; 28: 235-243.
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metal ions and antiseptics. Advances in Dent Res. 1995; 9: 450-456.
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る製剤(口腔内適応を有する製剤).医薬品・医療用具等安全性情報 2004; 197.
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性について . 日本歯科評論 2002; 721: 151-156.
関係論文の構造化抄録
Powell CA, Mealey BL, Deas DE, McDonnell HT, Moritz AJ.
Post-surgical infections: prevalence associated with various periodontal surgical
procedures.
J Periodontol. 2005; 76: 329-333.
目
的:歯周外科治療後の感染に関連する因子を検索する。
研究デザイン:非ランダム化比較試験。
研 究 施 設:アメリカの病院歯科。
対 象 患 者:395 人患者,1,053 例手術。
暴 露 要 因:歯周外科治療(骨切除外科,FOP,DW,歯肉切除,歯根切除,
GTR,インプラント,FGG,CTG,歯冠側移動術,上顎洞挙上
術,歯槽提増大術)。
主要評価項目:Bone graft,membrane,soft tissue graft,術後のクロルヘキシジ
ンの使用,抗菌薬の全身投与,歯周包帯の有無で術後の感染の比
較。
*感染の定義:化膿を伴った腫脹の増加。
結
果:全体の感染は 22/1053case で 2.09%。
抗菌薬(術前後)投与群:8/281 = 2.85% , 非投与群:14/772 =
1.81%。
術後にクロルヘキシジン洗口剤使用群(17/900,1.89%)では,非
使用群に比較し,有意に感染が低かった(5/153,3.27%)。
歯周包帯群では非包帯群に比較し,感染率は少々高かった(2.67%
vs. 1.86%)。
結
論:今回の結果より,歯周外科治療後の感染自体が少ないという過去の
報告を確証するものとなった。歯周外科治療後の抗菌薬投与は術後
感染予防にはあまり効果はなさそうである。
(レベル 3)
Sanz M, Newman MG, Anderson L, Matoska W, Otomo-Corgel J, Saltini C.
Clinical enhancement of post-periodontal surgical therapy by a 0.12% chlorhexidine gluconate mouthrinse.
J Periodontol. 1989; 60: 570-576.
目
的:0.12% CHX 洗口剤の歯周外科治療後の治癒効果について検討す
る。
研究デザイン:ランダム化比較試験(全体で 50 例未満)。
研 究 施 設:開業歯科医院。
対 象 患 者:歯周基本治療が終了し,AAP class Ⅲに分類され,歯周外科予定の
40case。
test 群:N = 17,control 群:N = 21,test 群 2 例 は 除 外 し た た
め,total:38case。
computer-generated random list により対象群を決定。
暴 露 要 因:歯周外科治療後全ての case に Coe-pack® を行い,6W 間,15ml の
0.12% CHX(test 群),プラセボ(control 群)で 2 回/日,30 秒洗
口する。
1 週間後に抜糸,Coe-pack® は除去する。
主要評価項目:歯肉炎指数,PlI > 2 の割合,プロービングポケットデプス,アタ
ッチメントレベル,軟組織治癒状態(上皮化),問診(疼痛)
,着
色。
歯肉炎指数,PlI > 2 の割合は術前と術後 4,6W。
着色は術前と 6W。
それ以外の項目は術前,術後 1,2,4,6W に評価。
結
果:0.12% CHX 洗口群で,プラセボ群に比較し,以下が有意に減少し
た。
①術後 1,2,4,6W 後のプラーク付着(6W 後,54.4%減少,P <
0.05)
②PlI > 2(4W 後:92.7%,6W 後:99.0%減少,P < 0.01)
③歯肉炎指数(4W 後,16.8%減少,P < 0.05)
④歯肉炎指数> 2(4W 後:41.6%,6W 後:40.0%減少,P < 0.05)
CHX 群で術後 6W においてプラセボ群に比較し,歯面着色が有意
に増加した(プラセボ: 4.7%,CHX: 47.1%,P = 0.017)。
プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,術後の上皮
化に有意差はなかったが,0.12% CHX 洗口群では上皮化が良好
で,術後疼痛が少ない傾向にあった。
結
論:歯周外科治療後 0.12% CHX 洗口剤を使用することは,プラーク付
着,歯肉炎症,出血を抑制し治癒促進効果があり,推奨される。
(レベル 2 −)
CQ16:糖尿病患者に対する歯周組織再生療法は有効か?
推奨:糖尿病患者に対する歯周組織再生療法の長期的予後に関する充分なエ
ビデンスはない(レベル 6)。(推奨度 グレード C2)
背景・目的
糖尿病患者において,創傷治癒遅延や術後の感染が発症しやすい原因は,白血球
の機能低下,コラーゲン代謝能の低下,線維芽細胞の組織修復機能の低下,さらに
は糖尿病の合併症の一つである微小循環障害による血行不良が関与していると考え
られている。このように,糖尿病患者は感染に対してリスクが高いことから,歯周
治療にあたっては,厳格なプラークコントロール,血糖コントロールの厳守が報告
されている。しかし,糖尿病患者,非糖尿病患者における歯周治療に対する応答性
に関する報告は少ない。短期間の観察において,良好に血糖コントロールされた糖
尿病患者と非糖尿病患者では歯周治療に対する応答性は同様であるとの報告が多い
1)
。また,歯周基本治療終了 5 年後の比較においても,外科的,非外科的治療部位
において,両群とも良好な結果であったという報告もある 2)。この論文の被験者
は,3 ヶ月毎のリコールを欠かさず,プラークコントロールも非常に良好な被験者
群であったことから,良好なメインテナンス状態であれば,糖尿病患者でも長期間
にわたって外科処置を含む歯周病治療が可能であることを示唆した。しかし,より
高度なテクニックが要求される歯周外科治療の中の歯周組織再生療法に対する糖尿
病患者の応答性については不明なままであり 3)
,近年の患者サイドからも再生療
法への期待が高まる中,糖尿病患者に対する歯周組織再生療法の有効性に対する指
針が必要である。
解説
今回の文献検索では,糖尿病患者に対して GTR 法を施行した症例報告が 2 件抽
出されたのみであった 4, 5)。しかも,この 2 論文は同一患者の症例報告である。す
なわち,1 報目は,57 歳女性,コントロール良好な 2 型糖尿病患者の下顎左側 5,
7 番歯(高度な歯周病罹患部位)に対して通法に則り,GTR 法を施行し術後 12 ヶ
月間観察したところ,エックス線検査で歯槽骨の再生が認められ,良好な結果であ
ったが,2 報目ではその後の 10 年後(GTR 法施行 11 年後)を報告しており,患
者のコンプライアンスが悪化し,リコールに答えず,また,糖尿病の状態も 2 型か
ら 1 型に移行してコントロール不良となった結果,歯周病が再発,GTR 法術前よ
りも悪化し,2 歯とも保存不可能となり,コントロール不良の糖尿病患者に GTR
法は禁忌であると結論づけている。通常,全身疾患は種々の介入処置の予後に影響
を及ぼすと考えられ,エビデンスレベルの高いランダム化比較試験では除外されや
すいため,糖尿病患者に対する論文がないのは仕様がないかもしれないが 6),抽出
論文のエビデンスレベルは低く(レベル 6)
,明確な示唆はできない。あえて推奨
するならば,コントロール不良の糖尿病患者に歯周外科的処置は禁忌であるという
ことであろうか。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,National Library of Medicine(http://www.ncbi.
nlm.nih.gov/PubMed)とコクラン口腔医療グループのデータベースを用いて,パ
ソコンによって英語と日本語で発表された論文の文献検索を行った。特定の用語や
キーワードも検索に含めた。選出した論文の参考文献リスト,関連するテキストと
過去に行われたワークショップ類も調べた。適切とみなした場合は人手に依って検
索したジャーナルも含んだ。検索は審査担当者 2 名が個別に行った。選択の第一段
階でタイトルと抄録を,第二段階ではフルペーパーを検討した。
主要な情報として歯周炎患者に歯周組織再生療法を施行した場合の歯周ポケット
の減少量,または付着の獲得量を両群で比較解析している研究を収集対象とした。
Seq.
#1
terms and strategy
hits
(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]
394
AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields])
AND(
“dental care”
[MeSH Terms]OR(“dental”
[All Fields]AND
“care”
[All Fields])OR“dental care”
[All Fields])AND(“dentistry”
[MeSH Terms]OR“dentistry”
[All Fields])
#2
regenerative[All Fields]AND(“therapy”
[Subheading]OR
2,237
“therapy”
[All Fields]OR“therapeutics”
[MeSH Terms]OR
“therapeutics”
[All Fields])AND(“regeneration”
[MeSH Terms]
OR“regeneration”
[All Fields])
#3
GTR[All Fields]AND(“guided tissue regeneration”
[MeSH
514
Terms]OR(
“guided”
[All Fields]AND“tissue”
[All Fields]AND
“regeneration”
[All Fields])OR“guided tissue regeneration”
[All Fields])
#4
EMD[All Fields]AND(“dental enamel”
[MeSH Terms]OR
236
[All Fields]AND“enamel”
[All Fields])OR“dental
(“dental”
enamel”
[All Fields]OR“enamel”
[All Fields])AND(“Matrix”
[Journal]OR“matrix”
[All Fields])AND(“proteins”
[MeSH Terms]
OR“proteins”
[All Fields]OR“protein”
[All Fields])AND
(“enamel matrix proteins”
[Substance Name]OR(“enamel”
[All
Fields]AND“matrix”
[All Fields]AND“proteins”
[All Fields])
OR“enamel matrix proteins”
[All Fields]OR“emdogain”
[All Fields])
#5
“bone transplantation”
[MeSH Terms]OR(“bone”
[All Fields]
82,961
AND“transplantation”
[All Fields])OR“bone transplantation”
[All Fields]
#6
#1 AND #2
1
#7
#1 AND #3
1
#8
#1 AND #4
0
#9
#1 AND #5
2
#10
#10(#1)AND(#2)AND(#3)AND(#4)AND(#5)AND
0
(“humans”
[MeSH Terms]AND(English[lang]OR Japanese
[lang])AND(Meta-Analysis[ptyp]OR Practice Guideline
[ptyp]OR Randomized Controlled Trial[ptyp]OR Review
[ptyp]OR Case Reports[ptyp]OR Classical Article[ptyp]OR
Clinical Conference[ptyp])
最終検索日 2008 年 8 月 26 日
参考文献
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関係論文の構造化抄録(症例報告のみ)
Mattson JS, Gallagher SJ, Jabro MH, McLey LL.
Complications associated with diabetes mellitus after guided tissue regeneration:
case report.
Compend Contin Educ Dent. 1998; 19: 923-936.
目
的:糖尿病患者に対する GTR 法術後合併症を調べる。
研究デザイン:症例報告。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:コントロール良好な 2 型糖尿病患者。
暴 露 要 因:GTR 法。
主要評価項目:GTR 法の術後に合併症は起こるか。
結
果:コントロール良好な 2 型糖尿病患者の GTR 法の術後の予後は良好
で,SPT 中でも安定していた。
結
論:コントロール良好な 2 型糖尿病患者の GTR 法の予後はよい。
(レベル 6)
Mattson JS, Cerutis DR, Parrish LC.
Complications associated with diabetes mellitus after guided tissue regeneration
- - a case report revisited.
Compend Contin Educ Dent. 2002; 23: 1135-1145.
目
的:糖尿病患者に対する GTR 法術後合併症を調べる(前述の報告の 10
年後,同一患者)。
研究デザイン:症例報告。
研 究 施 設:大学病院。
対 象 患 者:コントロール良好な 2 型糖尿病患者。
暴 露 要 因:GTR 法。
主要評価項目:SPT 中の歯周病の再発,進行。
結
果:コントロール良好な 2 型糖尿病患者の GTR 法の術後の予後は良好
で,SPT 中でも安定していたが,1 型糖尿病となりコントロール不
良となると急速に歯周病が再発,進行した。
結
論:コントロール不良な 2 型糖尿病患者に GTR 法は禁忌である。
(レベル 6)
CQ17:糖尿病患者に対するインプラント治療は非糖尿者と
同等の治療成績が得られるか?
推奨:コントロール良好な糖尿病患者に対するインプラント治療は,成功
率,生存率ともに高く,非糖尿病者と同等の予後が得られるとの報告
が存在するが,必ずしもそうではないとする前後比較研究も存在する
ため,糖尿病患者に対するインプラント治療成績が非糖尿病者と同等
であるとするだけのエビデンスはない。(推奨度 グレード C2)
背景・目的
全身的に健康な患者におけるインプラントの適応症と予知性については数多く報
告されているが 1, 2),インプラント希望患者は,通常壮年期以降の,主に歯周病で
歯を喪失した部位にインプラント治療を希望し,生活習慣病に罹患している割合も
多い年齢層であると思われる。中でも糖尿病患者は一般的に歯の喪失が多いとされ
ているため,喪失部位のインプラント治療に対する期待,必要性も高く,歯科医師
はこのような全身疾患を有する患者にインプラント治療を施行する機会が増加して
いると思われる 3)。基礎的研究から糖尿病動物の創傷治癒過程は遅延する可能性が
あると推測するのは妥当であると思われるが 4, 5),一度オッセオインテグレーショ
ンが確立されれば,糖尿病および非糖尿病動物ともに同程度のオッセオインテグレ
ーション量に達することが報告されている 6)。臨床的に全身疾患を有する患者にお
けるインプラント治療の成功症例が報告されているが 7, 8),糖尿病患者おけるイン
プラント埋入に関する研究についての詳細な分析は報告されていない。
したがって,糖尿病患者におけるインプラント治療の効果と予知性についてエビ
デンスに基づく指針が必要である。
解説
今回の文献検索では,8 件の論文が抽出され,総説が 5 件,ランダム化比較研究
が 1 件,症例報告が 2 件であった。この中で有効な報告と思われたのはランダム化
比較研究のみの 1 件 9)であった。本研究の結論では,コントロール不良の糖尿病患
者においても総義歯のアンカーとしてのインプラント治療は可能であった(レベル
2)。しかし,本論文は糖尿病患者の中で,総義歯とインプラントアンカー総義歯の
成功度合を比較したものであり,非糖尿病者と比較したものではない。そこで,情
報量が少なすぎるため,最近の総説 10)より検索した結果,後ろ向き研究 11∼14),前
向き研究 15∼19)ともにコントロール良好な糖尿病患者では 1 型でも 2 型でも,イン
プラントは高い生存率を達成することが可能であると報告されている。
これらの既存の研究の範囲内において,コントロールが良好であるとういう条件
付きながら,糖尿病患者にインプラント埋入は禁忌でないと示唆している傾向にあ
る。しかし,臨床的には十分に成功,あるいは少しの失敗という解釈で著者らは取
り上げていないが,コントロール良好な糖尿病患者のインプラント生存率が非糖尿
病患者よりも低いという報告 12)や,2 型糖尿病患者が非糖尿病患者より統計学的に
有意に失敗率が高いという報告 16),さらには糖尿病の罹病期間とインプラントの
長さが失敗の有効な予知因子であるという報告 17)も存在することから議論の余地
が残っている。今後,糖尿病のタイプ,発症年齢,罹病期間,長期コントロールの
レベル(HbA1C)などの客観的基準を内包した明確なガイドラインを確立する必要
がある。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,National Library of Medicine(http://www.ncbi.
nlm.nih.gov/PubMed)とコクラン口腔医療グループのデータベースを用いて,パ
ソコンによって英語と日本語で発表された論文の文献検索を行った。特定の用語や
キーワードも検索に含めた。選出した論文の参考文献リスト,関連するテキストと
過去に行われたワークショップ類も調べた。適切とみなした場合は人手に依って検
索したジャーナルも含んだ。検索は審査担当者 2 名が個別に行った。選択の第一段
階でタイトルと抄録を,第二段階ではフルペーパーを検討した。
主要な情報として,糖尿病を有する歯周炎患者と糖尿病を有しない歯周炎患者に
インプラント治療を施行した場合のインプラント成功率,生存率を両群で比較解析
している研究を収集対象とした。
Seq.
#1
terms and strategy
hits
(“diabetes mellitus”
[MeSH Terms]OR(“diabetes”
[All Fields]
397
AND“mellitus”
[All Fields])OR“diabetes mellitus”
[All Fields])
AND(“dental care”
[MeSH Terms]OR(“dental”
[All Fields]AND
“care”
[All Fields])OR“dental care”
[All Fields])AND
(“dentistry”
[MeSH Terms]OR“dentistry”
[All Fields])
#2
implant[All Fields]OR(“dental implants”
[MeSH Terms]OR
53,339
(“dental”
[All Fields]AND“implants”
[All Fields])OR“dental
implants”
[All Fields]OR(“dental”
[All Fields]AND“implant”
[All Fields])OR“dental implant”
[All Fields])
#3
(“osseointegration”
[MeSH Terms]OR“osseointegration”
[All
14,001
Fields])OR osseointegrated[All Fields]OR endosseous
[All Fields]
#4
#1 AND #2 AND #3
15
#5
#1 AND #2 AND #3 AND(“humans”
[MeSH Terms]AND
8
(English[lang]OR Japanese[lang])AND(Clinical Trial[ptyp]
OR Meta-Analysis[ptyp]OR Practice Guideline[ptyp]OR
Randomized Controlled Trial[ptyp]OR Review[ptyp]OR
Case Reports[ptyp]OR Controlled Clinical Trial[ptyp]OR
Multicenter Study[ptyp]))
最終検索日 2008 年 8 月 26 日
参考文献
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関係論文の構造化抄録
Kapur KK, Garrett NR, Hamada MO, Roumanas ED, Freymiller E, Han T, Diener
RM, Levin S, Ida R.
A randomized clinical trial comparing the efficacy of mandibular implant-supported overdentures and conventional dentures in diabetic patients. Part I: Methodology and clinical outcomes.
J Prosthet Dent. 1998; 79: 555-569.
目
的:糖尿病無歯顎患者において下顎インプラントアンカー総義歯と通常
の総義歯の有効性を比較する。
研究デザイン:ランダム化比較研究。
研 究 施 設:大学病院,退役軍人病院。
対 象 患 者:総義歯 37 名,インプラントアンカー総義歯 52 名。
暴 露 要 因:下顎インプラントアンカー総義歯,総義歯の装着。
主要評価項目:治療の成功(患者満足度,咀嚼快適度,義歯使用程度,インプラン
トの生着,メインテナンス必要頻度,骨,アタッチメントレベル)
結
果:総義歯で 56.9%,インプラントオーバーデンチャーで 72.1%の患者
に治療が成功したと判断した。
結
論:コントロール程度が不良の糖尿病患者においても総義歯のアンカー
としてインプラント治療は可能である。
(レベル 2)
Farzad P, Andersson L, Nyberg J.
Dental implant treatment in diabetic patients.
Implant Dent. 2002; 11: 262-267.
目
的:糖尿病患者における長期間のインプラント治療の成功,生存率を調
べる。
研究デザイン:前後研究(後ろ向き)。
研 究 施 設:セントラルホスピタル(スウェーデン)。
対 象 患 者:インプラント治療前に糖尿病を患っていた患者 782 名。
暴 露 要 因:インプラント治療。
主要評価項目:インプラント治療の成功,生存率。
結
果:インプラント生存率は,二次手術時に 96.3%(131/136 インプラン
ト),インプラント埋入後 1 ∼ 10 年で 94.1%(128/136 インプラン
ト)であった。
結
論:糖尿病患者におけるインプラント治療は,血中グルコース濃度が通
常または通常値に近い場合は,特に失敗率が高いということはな
い。
(レベル 4)
Olson JW, Shernoff AF, Tarlow JL, Colwell JA, Scheetz JP, Bingham SF.
Dental endosseous implant assessments in a type 2 diabetic population: a prospective study.
Int J Oral Maxillofac Implants. 2000; 15: 811-818.
目
的:2 型糖尿病無歯顎患者において総義歯サポート下顎インプラント治
療の長期生存率を調べる。
研究デザイン:ランダム化比較研究。(Schernoff 論文の長期報告)。
研 究 施 設:13 の退役軍人医療センター。
対 象 患 者:2 型男性糖尿病患者 89 名。
暴 露 要 因:インプラント埋入(3 種類)。
主要評価項目:インプラントの生存,失敗率。
結
果:インプラント埋入 5 年後に 178 本のうち,16 本(9%)が失敗し
た。最終的なインプラント生存率は 91%(162/178 インプラント)
であった。
結
論:3 種類のインプラント間で失敗率に差は認められず,かつ,2 型男
性糖尿病患者にインプラント埋入は禁忌ではない。
(レベル 5)
糖尿病に関する基礎知識
⑴ 分類と診断
Ⅰ.糖尿病とは
糖尿病とは,インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群であ
る。インスリン作用不足はインスリン供給不足とインスリン抵抗性の増大によりおこり,
その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与している。近年,1 型糖尿病,2 型糖尿病
ともに,その関連遺伝因子に関する研究が精力的に進められ,いくつかの候補遺伝子が列
挙されている。しかし,その詳細はいまだ不明である。発症の引き金となる環境因子は,
1 型糖尿病については,ウィルス感染,食餌性の因子,化学物質,2 型糖尿病では過食,
運動不足,その結果としての肥満,等である。
インスリン作用不足によって,糖代謝のみならず,蛋白質代謝や脂質代謝も障害され
る。持続する中等度以上の高血糖によって,糖尿病の特徴的な症状である,口渇,多飲,
多尿,体重減少,易疲労が出現する。急激かつ著しいインスリン作用不足により,ケトア
シドーシスや糖尿病昏睡をきたす場合もある。しかし,一般的には無症状か症状があって
も軽度なので,患者は病識を持たないことが多い。しかし,著しい代謝異常がなくても,
慢性的な高血糖の持続によって糖尿病に特有な細小血管症と大血管症が発症・進展する。
特に大血管症は,高血圧,肥満,脂質代謝異常の合併により,そのリスクは更に高まる。
Ⅱ.分類
糖尿病はその成因(機序)から,主として 1 型糖尿病と 2 型糖尿病に大別できる。この
うち 1 型糖尿病は自己免疫性あるいは特発性に生じた膵臓のランゲルハンス島β細胞の破
壊による絶対的インスリン量の不足を原因とする。小児や若年層における発症が多いが中
高年層でも認められ,全糖尿病患者中に占める割合は 5%以下である。一方,2 型糖尿病
はインスリン分泌低下やインスリン抵抗性,またはその両者を発症基盤とした相対的なイ
ンスリン作用不足を原因とするものであり,全糖尿病患者中の 90%以上を占める。現在,
わが国で激増している生活習慣病としての糖尿病は 2 型糖尿病であり,もともとインスリ
ン分泌能が低いという日本人特有の遺伝的背景に加えて,過食(特に高脂肪食)や運動不
足による肥満にともなうインスリン抵抗性が原因となって高血糖をきたす。
一方,病態(病期)からの分類も行われる。糖尿病はその病型にかかわらず,それぞれ
膵β細胞の疲弊の程度とインスリンの標的臓器(肝臓,筋肉,脂肪組織など)におけるイ
ンスリン抵抗性の程度によって,インスリンへの依存状態が異なる。インスリンが絶対的
に不足し,生命の維持のためにインスリン治療が不可欠な場合はインスリン依存状態であ
り,古典的な 1 型糖尿病がこれに該当する。食事療法・運動療法,経口薬で血糖が良好に
管理される場合はインスリン非依存状態である。しかし,たとえ 2 型糖尿病であっても,
清涼飲料水の多飲等によってケトアシドーシスに至り,救命のためにインスリン治療が必
須になることもある。目の前の患者さんにおけるインスリン治療への依存度は,いずれの
病型でも 0 から 100%までの間にある。したがって,臨床上,糖尿病は成因と病態の両面
からとらえるとよい。
(図 1)
図 1 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の概念
病態
正常血糖
高血糖
(病期)
糖尿病領域
正常領域
境界領域
成因
(機序)
インスリン非依存状態
インスリン
高血糖是正
不要
に必要
インスリン
依存状態
生存に必要
1型
2型
その他特定の型
妊娠糖尿病
(日本糖尿病学会編 糖尿病治療ガイド 2008 ∼ 2009)
Ⅲ.診断
糖尿病診断の要点は,糖尿病の典型的な症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の有無,
HbA1C 値,糖尿病網膜症,過去の「糖尿病型」の有無,である。また,血糖値が「糖尿
病型」
(①早朝空腹時血糖値≧ 126mg/dl,②75g 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2 時間
値≧ 200mg/dl,③随時血糖値≧ 200mg/dl)かどうかの判定が必要となる。
たとえば,あるときに測定した血糖値が「糖尿病型」で,かつ,1)糖尿病の典型的症
状あり,2)HbA1C ≧ 6.5%,3)確実な糖尿病網膜症の存在 のいずれか一項目を満たせ
ば「糖尿病」と診断できる
あるいは血糖検査を 2 回行うことでも診断できる。ある日に検査した血糖値が「糖尿病
型」であった場合にもう一度別の機会に血糖検査を行い,2 回目にも「糖尿病型」であれ
ば「糖尿病」と診断する。この場合,2 回目は 1 回目と異なる検査が望ましい。
一方,
「正常型」の判定には,①早朝空腹時血糖値< 110mg/dl,および ② 75gOGTT
2 時間値< 140mg/dl,のいずれも満たさなければならない。また,「正常型」「糖尿病型」
いずれにも属さない場合は「境界型」と判定する。境界型には,空腹時血糖異常(Impaired Fasting Glucose; IFG,空腹時血糖値 110 ∼ 125mg/dl)および耐糖能異常(Impaired Glucose Tolerance; IGT,75gOGTT 2 時間値 140 ∼ 199mg/dl)とがある。
75gOGTT の施行は,
「正常型」
「糖尿病型」の判定には必須であるが,糖尿病の診断に
は必須ではない。著しい高血糖状態で OGTT を行うと,さらに高血糖となり有害である。
75gOGTT による判定区分と診断基準を表 1 に示す。
表 1 75gOGTT による判定区分と診断基準
正常域
糖尿病域
空腹時血糖値
< 110(6.1)
≧ 126(7.0)
75gOGTT 2 時間値
< 140(7.8)
≧ 200(11.1)
両者を満たすものを正常型とす
いずれかを満たすものを糖尿病
る。
型とする。
75gOGTT の判定
正常型にも糖尿病型にも属さないものを境界型とする。
静脈血漿値,mg/dL( )内は mmol/L
随時血糖値≧ 200mg/dL の場合も糖尿病型とみなす。
正常型であっても,1 時間値が 180mg/dL(10.0mmol/L)以上の場合は,180mg/dL 未満のものに比べ
て糖尿病に悪化する危険が高いので,境界型に準じた取り扱い(経過観察など)が必要である。
75gOGTT: 75g 経口ブドウ糖負荷試験
(日本糖尿病学会 : 糖尿病診断基準委員会報告 1999)
⑵ 治療の目標とコントロールの指標
糖尿病治療の目標は,血糖・体重・血圧・血清脂質を良好にコントロールすることによ
り,糖尿病性合併症の発症と進展を阻止し,健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)
を維持し,健康な人と変わらない寿命を全うすることである。日本糖尿病学会は,日本人
を対象にして行われた臨床試験の成績をもとに,表 2 に示す血糖コントロールの指標とそ
の評価を提示している。
血糖コントロールの指標とその値をどのように評価するかは,エビデンスに基づいて定
,空腹時血糖値,
められている(表 2)。HbA1C 値(過去 1 ∼ 2 ヶ月の平均血糖値を反映)
食後 2 時間値の 3 つの血糖コントロール指標はいずれも「優」「良」「不十分」「不良」「不
可」の 4 段階に分けられているが,必ずしも同じレベルの血糖コントロールを示すもので
はない。
一方,2007 年,国際糖尿病連合(International Diabetes Federation; IDF)は血糖コン
トロールの目標値を,HbA1C 6.5%未満,空腹時血糖値 100mg/dl 未満,食後 2 時間血糖
値 140mg/dl 未満,とすることを推奨した。健常者の血糖値が 70 ∼ 140mg/dl という狭い
範囲を変動しているということから,低血糖を回避した上でより厳格な血糖コントロール
を求めたのである。
以上の 3 つの代表的な血糖コントロールの指標の他に,過去約 2 週間の平均血糖値を反
映する,グリコアルブミン(GA:基準値 11 ∼ 16%),尿糖の排泄量と相関して低下する
1,5 アンヒドログリシトール(1,5-AG:基準値 14.0μg/ml 以上)が,臨床上用いられる。
治療の目標に向かって,まず,生活習慣の改善について患者教育を十分行う。指導開始
後 2 ∼ 4 ヶ月経過しても「優」または「良」の血糖コントロールが得られない場合,経口
血糖降下薬が開始される。ただし,インスリンの絶対的適応に対しては経口血糖降下薬に
よる治療は行ってはならない。一定のエビデンスがあることから,細小血管症抑制の観点
からはスルホニル尿素薬とビグアナイド薬,大血管症抑制の観点からはαグルコシダーゼ
阻害薬およびチアゾリジン薬,また肥満糖尿病患者におけるビグアナイド薬が推奨され
た。よい血糖コントロールが得られるのであればどの薬剤も第 1 選択薬となりうるので,
患者の病態,合併症,薬剤の作用特性などを考慮して個別に対応することがもっとも重要
である。
表 2 血糖コントロールの指標と評価
指 標
優
良
不十分
不 良
不 可
HbA1C(%)
5.8 未満
5.8 ∼ 6.5 未満
6.5 ∼ 7.0 未満
7.0 ∼ 8.0 未満
8.0 以上
FPG
80 ∼ 110 未満 110 ∼ 130 未満
130 ∼ 160 未満
160 以上
2h-PG
80 ∼ 140 未満 140 ∼ 180 未満
180 ∼ 220 未満
220 以上
HbA1C:グリコヘモグロビン(%),FPG:早朝空腹時血糖値(mg/dl),2h-PG:食後 2 時間血糖値(mg/
dl)
科学的根拠の基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第 2 版 2007
⑶ 歯科治療上,理解しておくべき糖尿病の症状と合併症
Ⅰ.糖尿病性急性合併症(表 3)
高度のインスリン作用不足は,急性の代謝失調を起こす。代表的なものは糖尿病ケトア
シドーシスとケトン体の産生がすくない高浸透圧高血糖症候群である。いずれも脱水と高
血糖により重症例では昏睡をきたす。両者を併せて,糖尿病昏睡と総称される。脱水と高
血糖が主症状であり,初期治療の基本は,脱水の補正と電解質の補充,そしてインスリン
の適切な投与である。できるだけ速やかに,専門医のいる医療機関に搬送する。
低血糖は糖尿病治療中にみられる頻度の多い緊急事態である。インスリンや経口血糖降
下薬で治療中の糖尿病患者におこりうる。血糖値が正常値をこえて急激に低下した際に
は,交感神経刺激症状として,発汗,不安,動悸,手指の振るえ等が認められる。血糖値
が 50 mg/dl 以下に低下した際には,中枢神経症状として,頭痛,眼のかすみ,生あく
び,めまい,空腹感,倦怠感,発汗,振戦,動悸,頻脈,意識レベルの低下,異常行動,
けいれん等が出現し,ブドウ糖が投与されない場合には,昏睡に陥る。
糖尿病患者は感染症にかかりやすい。肺結核,尿路感染症,皮膚の感染症に留意する。
表 3 低血糖,高血糖の徴候・症状と対処法
低血糖の徴候と症状(血糖値 40mg/dl 以下)
あくび めまい 空腹感
倦怠感 発汗 振戦
動悸 頻脈
痙攣発作
低血糖性昏睡
意識消失
ブドウ糖の摂取により血糖値が回復すると症状も改善することが多い
低血糖性昏睡の徴候は重度の低血糖反応がおこる直前まで出現しないことがあるので注
意が必要
高血糖性昏睡
ストレス,発熱,感染が誘因となる
ケトアシドーシス,2 型では高浸透圧高血糖症候群
基本的救命処置の後,速やかに病院へ搬送しなければならない
Ⅱ.糖尿病性慢性合併症
細小血管症(microangiopathy)と大血管症(macroangiopathy)に大きく分類される。
細小血管症(網膜症,腎症,神経障害)は糖尿病患者に高頻度で認められる特有な合併症
で,糖尿病性 3 大合併症(diabetic triopathy)ともよばれる。いずれも細小血管に生じた
病変によっておこるが,神経障害は神経組織における代謝異常も関連している。
細小血管症の成因としてもっとも重要なのは高血糖の持続で,その結果,ポリオール経
路の亢進,PKC 活性の亢進,グリケーションの亢進と AGE の産生,酸化ストレスの亢進
と血管内皮機能障害などが惹起される。これらの代謝系は相互に密接に関連しており,
各々が単独で,あるいは相加的,相乗的に働いて細小血管症が発症・進展する。
一方,大血管症(脳血管障害,虚血性心疾患,閉塞性動脈硬化症など)は動脈硬化によ
るもので,必ずしも糖尿病患者に特有なものではないが,糖尿病患者では進行しやすく重
症化しやすいので注意を要する。とくに,心血管疾患は,耐糖能異常(IGT)の時期から
発症リスクが高くなることが注目されている。この他,糖尿病足病変,皮膚病変,歯周病
などがある。いずれも患者の QOL を著しく低下させ,生命予後に重大な影響をもたら
す。
細小血管症
①網膜症
網膜症の初期には毛細血管瘤,点状出血,網膜浮腫などを認める。これらは高血糖の持
続によって網膜の血管内皮細胞基底膜の肥厚や血管壁における周皮細胞の変性と脱落がお
こり,血管壁が脆弱になることが主たる原因である。これに,血液粘度の亢進,赤血球変
形能の低下,血小板凝集能の亢進などの血液の性状の変化が加わって,血流の障害ならび
に血液成分の漏出が惹起される。さらに進行すると,黄斑症,網膜前や硝子体内の新生血
管の発生,さらに硝子体出血や網膜剥離をおこして,視力障害へといたる。
網膜症の発症・進展の危険因子は,糖尿病の罹病期間,HbA1C 高値,初診時に重症の網
膜症あり,高血圧の合併,妊娠中である。初期には,黄斑部の浮腫や白内障が起こらない
と視力は低下しない。糖尿病診断時には必ず眼科を受診させ,網膜症の有無を評価する。
以降も,少なくとも年 1 回の定期受診が好ましい。増殖前網膜症までは 1 回/ 3 ∼ 6 ヶ
月,それ以降は 1 回/ 1 ∼ 2 ヶ月を目安とする。糖尿病網膜症の早期では,厳格血糖管理
を中心とした内科的管理が有効であるが,進行した場合には眼科的処置が必須である。
②腎症
糖尿病腎症は,原則として検尿によって臨床的に診断する。無症状のまま緩徐に進行
し,ある一定の時期をすぎると,尿中アルブミン排泄量の増加,持続性蛋白尿から慢性腎
不全,という道をたどる。早期診断のためには尿中微量アルブミン量を測定する。
病期分類(厚労省糖尿病調査研究斑による分類法)の第 1 期(腎症前期)は尿中微量ア
ルブミン陰性である。第 2 期(早期腎症)では微量アルブミン陽性となる。糸球体濾過率
やクレアチニンクリアランスは正常あるいは軽度に上昇する。第 3 期(顕性腎症)になる
と,一般の尿検査試験紙によって持続性の蛋白尿陽性が指摘される。腎機能がほぼ正常な
場合は第 3 期 A,クレアチニンクリアランス 60ml/ml 以下または尿蛋白 1g /日以上の場
合は第 3 期 B とする。第 4 期(腎不全期)では腎機能が著明に低下し,血清クレアチニ
ンが上昇する。第 5 期(透析療法期)は慢性腎不全によって透析療法(血液透析または連
続携帯型腹膜還 : CAPD)
,が導入される時期である。
糖尿病腎症の主たる原因は慢性的な高血糖であり,腎症治療の基本は血糖コントロール
である。特に,顕性腎症期(第 3 期 A)までは,食事療法ならびに薬物療法による厳格
な血糖コントロールが大切で,HbA1C 値 6.5%未満を目標にする。また,血圧管理が血糖
コントロールと同様に大切で,目標血圧は 130/80mmHg 未満,尿蛋白が 1g/ 日以上の場
合は 125/75mmHg 未満である。降圧薬は,腎保護作用をもつアンジオテンシン変換酵素
(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
,降圧効果にすぐれた長時間
作用型カルシウム拮抗薬が第 1 選択薬として推奨されている。
③神経障害 糖尿病神経障害は,代謝障害因子と血管障害因子が関与しておこる。高血糖の持続はシ
ュワン細胞の脱落や増殖抑制,そして神経線維の軸索の変性をおこす。さらに,循環障害
による低酸素・虚血が神経障害に影響する。最近は酸化ストレスの亢進が重要視されてい
る。主として知覚神経と自律神経が障害され,左右対称性びまん性神経障害(多発性神経
障害,自律神経障害)と単一神経障害(脳神経障害,体幹・四肢の神経障害など)に分類
される。
神経障害の危険因子は,糖尿病の罹病期間,HbA1C 高値,高血圧,喫煙,アルコール飲
酒,などである。一般的に見られる症状は多発性神経障害で,四肢(特に下肢)に両側性
に出現する異常感覚(しびれ感,じんじん,ぴりぴり感,灼熱感など)や特に夜間に増悪
する四肢末端の自発痛(穿刺痛や電撃痛)が特徴的である。自律神経障害には,無自覚性
低血糖,起立性低血圧症,無痛性通性(非定型的)心筋虚血,胃無力症・便通異常,無力
性ぼうこう,勃起障害(ED)などがある。いずれも患者の苦痛は大きく QOL をそこな
う。進展した患者では突然死の原因となる。
対策としては,禁煙,禁酒などの生活習慣の改善とともに,厳格血糖コントロールであ
る。ただし,長期に高血糖が持続していた場合に急激に血糖をさげると,神経障害が悪化
することがあるので注意を要する。
大血管症
動脈硬化性病変であり,糖尿病に特有な合併症ではない。その危険因子は,加齢,男
性,高血圧,脂質代謝異常,高血糖,肥満,喫煙で,さまざまな生活環境の因子が関与し
ている。2 型糖尿病でも,内臓脂肪蓄積型肥満を上流に,高血圧,高脂血症,血糖高値が
惹起されるメタボリックシンドロームから糖尿病に至った症例では,特に心血管疾患(虚
血性心疾患や脳血管疾患)のリスクが高い。IGT のときから頸動脈内膜中膜複合体の肥
厚が認られることが国内外の臨床試験で報告されているが,酸化ストレス亢進による血管
内皮障害に起因するものと考えられている。
①脳血管障害
糖尿病は,アテローム血栓性脳梗塞とラクナ脳梗塞の危険因子である。糖尿病患者にお
ける脳血管障害の特徴は中小の梗塞が多発することで,多くの場合症状は軽い。しかし,
一過性脳虚血発作をくりかえし脳血管性の認知症に至ることが多いので,早期発見・早期
治療が大切である。治療は一般的な脳血管障害の治療と変わるところはないが,血糖管理
については,初期には低血糖に留意し,徐々に厳格にコントロールする。一般に,糖尿病
患者における脳血管障害は予後不良である。
②虚血性心疾患
糖尿病患者では,心筋虚血があっても典型的な症状をとらず,無痛性無症候性のことが
多い。また,心筋梗塞では多肢病変が多いこと,PTCA 後の再狭窄が多いこと,心筋梗
塞後に心不全を併発しやすく生命予後が悪いこと,が特徴である。また,再梗塞を起こす
頻度は糖尿病がない場合の 4 倍にも達する。症状が軽いだけに見過ごされやすいので,冠
動脈疾患を疑ったときには,心電図による診断(運動負荷心電図,ドレッドミル負荷試
験),心エコー検査,心筋シンチグラム)を施行する。原因不明の血糖コントロールの乱
れ,下腿浮腫,肺水腫,不整脈などがあったときには急性心筋梗塞を疑い,血液検査
(CPK,LDH,AST,ALT,WBC,CRP など)を行う。
③閉塞性動脈硬化症
糖尿病患者における閉塞性動脈硬化症の頻度は非糖尿病者の約 4 倍で,下肢切断の原因
となる。糖尿病患者では糖尿病性神経障害を伴っていることが多いので,虚血による痛み
を感じにくい。病変はびまん性で,大動脈より末梢に認められることが多い。病期診断に
は Fontaine 分類(Ⅰ度:冷感,しびれ感,Ⅱ度:間歇性跛行,Ⅲ度:安静時疼痛,Ⅳ
度:皮膚潰瘍,壊疽)が用いられるが,順に虚血は重症となる。四肢末端の皮膚色調の変
化,皮膚温の低下,下肢動脈(足背動脈,後脛骨動脈,膝下動脈)の拍動低下や消失,血
管雑音の聴取を行う。足関節収縮期血圧 / 上腕収縮期血圧(ankle-brachial index: ABI)
が 0.9 以下の場合は,動脈の閉塞性病変が強く疑われ,0.5 以下では重症である。
その他の合併症
①歯周病
糖尿病患者では歯周病の罹患率が高く,特に血糖のコントロールが悪い場合は重篤な骨
吸収を伴う歯周炎の併発例が多く認められる。歯周病は歯と歯肉の間の溝にグラム陰性桿
菌が感染することに起因する慢性感染症であり,リスク因子として,加齢,肥満,高血
糖,糖尿病の罹病期間,口腔内衛生など多因子が挙げられる。発症機序の詳細は不明であ
るが,高血糖による好中球の機能不全,微小血管障害,コラーゲン代謝障害,歯根膜(歯
周靭帯)線維芽細胞の機能異常による感染の助長,AGE の炎症性組織破壊の関与などが
考えられている。歯周病の重症化や創傷治癒不全は最終的に歯の喪失につながる。また,
口腔内の症状として,口渇や味覚異常等がみられることもある。定期的な検査により早期
に発見すること,口腔の衛生と血糖と肥満の管理が大切である。
一方,歯周病が糖尿病を増悪させるリスクファクターとなる可能性も示唆されている。
例えば,歯周治療によって歯周組織の炎症・口腔機能が改善した結果,HbA1C 等の数値
が改善する場合がある。また,動脈硬化の進展には軽微慢性炎症が関与するといわれてお
り,歯周病はその要因としても重要である。
②糖尿病足病変
壊疽や皮膚潰瘍などの足病変が,糖尿病患者においてしばしば認められる。下肢の閉塞
性動脈硬化症による血管閉塞が主たる原因の壊疽は 50%以下で,ほとんどは糖尿病神経
障害と微小循環を含む血行障害という素地に,外傷や感染が加わって発症する。感覚異常
による低温火傷や靴ずれ,胼胝,足の変形など些細なことが誘因となる。禁煙,定期的な
足の診察,靴の選び方や爪のきり方の指導,皮膚科医による爪の変形や白癬の治療,あん
かや湯たんぽの使用禁止など,フットケアの指導が大切である。また,皮膚潰瘍で径
2cm 以上,深さ 5mm 以上の場合は下肢切断のリスクが高いので,骨髄炎の有無を単純 X
線で評価するとともに専門医の診察が必要である。
③皮膚病変
糖尿病患者では 30 ∼ 70%に何らかの皮膚病変を認める。比較的特異的なものとして
は,前頸骨部色素斑(糖尿病性デルモパシー),リポイド類壊死症,環状肉芽腫などがあ
る。また,微小な血管障害による結合織障害であるデュピュイトラン拘縮(手掌腱膜の線
維化と拘縮)や,血糖コントロール不良症例にみられる後頸部の浮腫性硬化症は,治療に
抵抗する。このほか,糖尿病に特有ではないが,皮膚掻痒症,悪化しやすい湿疹,頑癬,
種々の白癬,さらには,毛包炎,せつ,よう,蜂窩織炎などの多彩で比較的重篤な皮膚感
染症が発生する。いずれも,皮膚科的治療とともに,糖尿病の厳格管理が要求される。
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