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No.B48
LAAN-A-TM035 B48 No. Accurate Glycan Analyzerを用いたエリスロポエチン-αの N-結合型糖鎖解析 Analysis of N-Glycans from Erythropoietin-α Using a Glycan Identification System “Accurate Glycan Analyzer”. 近年の糖鎖構造解析には質量分析計が多く用いられてい 異なり,MSn(n≧2) スペクトルを用い且つプロダクトイオン ます。しかしながら,糖鎖のように構成単糖の質量が同一 の相対強度情報もあわせた検索を行うことで,目的とする のものが多く且つ多分岐している鎖状分子の場合,質量分 糖鎖の分岐情報を含めた構造を推定することが可能です。 析法を用いてどの分岐にどのような糖が結合しているのかと これは,MSn測定で得られるプロダクトイオンの相対強度 いう情報を得ることは容易ではありません。特に,タンパク が糖鎖構造の違い,つまり分岐や結合様式の違いによって 質同定のようにMS/MS を利用したデータベース検索によっ 異なるという事実を利用したものです1) 。 て糖鎖構造を推定するという方法の場合,多くのソフトウェ そこで,今回は市販のエリスロポエチンに結合しているN- アがプロダクトイオンのm/z値のみによるマッチングを行って 型糖鎖の構造解析を,MSn測定が可能なAXIMA Resonance おり,それぞれの構造異性体が持つ分岐構造の情報まで と糖鎖解析ソフト「Accurate Glycan Analyzer」 を用いて試 を得ることは極めて難しいものとなります。 みた事例をご紹介します。 本稿で用いる糖鎖解析ソフトは,従来のソフトウェアとは S. Nakaya 分析試料には市販のリコンビナントエリスロポエチン-αを 用いました(Code. 329871, Carbiochem) 。エリスロポエチ ンは腎臓や肝臓で生合成される糖タンパク質ホルモンで, その造血作用から,慢性貧血の治療薬などとして広く利用 されています。このエリスロポエチンには様々な構造を持っ た糖鎖が結合しており,一般に3箇所のN-型糖鎖(N-glycan) 結合サイトと1箇所のO - 型糖 鎖(O-glycan) 結合サイトが存 在し,各サイトには様々なバリエーションを持った糖鎖が結 合しています(Fig. 1) 。エリスロポエチンが造血ホルモンと して機能するためには,この糖鎖修飾がきわめて重要であ ることが知られています。 この試料5 µgを用いてSDS-PAGEを行ない,得られたバ ンドを 切り出してゲル 内トリプシン 消 化を実 施した後, N-glycanの切り出しとシアル酸の脱離を行なったものをPA 化標識しました。標識後に精製して得られたPA化N-glycan 混 合 物に対して,MS測 定,nanoLCによる分 離,MSn測 定とデータベース検索を実施し,エリスロポエチン-αに結合 しているN-glycanの構造推定を試みました(Fig. 2) 。 はじめにPA化N glycan混 合 物をAXIMA Resonanceを :N型糖鎖結合サイト :O型糖鎖結合サイト Fig. 1 エリスロポエチンの立体構造 出典:PDB Protein Data Bank (http://www.pdb.org) NMR Structure of the Human Erythropoietin The source: PDB Protein Data Bank (http://www.pdb.org) PDB ID: 1BUY. Cheetham, J.C., Smith, D.M., Aoki, K.H., Stevenson, J.L., Hoeffel, T.J., Syed, R.S., Egrie, J., Harvey, T.S. NMR structure of human erythropoietin and a comparison with its receptor bound conformation. Nat Struct Biol. 1998 Oct;5(10):861-6. No.B48 用いてMS測定したところ,複数のシグナルが観測されまし ・SDS-PAGE た(Fig. 3) 。 この マス スペ クトル デ ータか ら「Accurate Glycan Analyzer」 を用いてPA化N-glycan由来イオンの抽出 を行なった結果,11個のシグナルがPA化N-glycan由来イオ ・Glycopeptidase-F によるN-glycanの切り出し∗ ンであると提示されました。 「Accurate Glycan Analyzer」はAXIMA Resonanceとリ ・BlotGlyco Kit によるN-glycanのPA標識・精製∗ アルタイムで連携することで,MSデータからの糖鎖由来イ オンの抽出や糖鎖の構造推定に有用なMSnプリカーサイオ ・100 mM TFA によるシアル酸脱離 ン候補の提示,MSnデータを用いたデータベース検索によ る構造推定を行なうためのソフトウェアです(Fig. 4) 。 ・PA化N-glycan混合物のMS分析 糖鎖由来シグナルの特定 (Fig. 3) ・nanoLCによる糖鎖の分離 ・MALDIプレートへのスポッティング 糖鎖の相対定量 (Fig. 5) 糖鎖解析ソフトにより提示されたPA化N - glycan由来イオ ンの糖鎖構造を推定するには,混合物中に存在する同質量 異性体を事前に分離する必要があります。そこで,カーボン グラファイトキャピラリーカラムを装着したnanoLC-AccuSpot を用いて上記PA化N-glycan混 合 物の分 離とMALDIター ・MSn 分析 ゲットプレートへのスポッティングを行ないました(Fig. 5) 。 尚,nanoLCの溶媒には,その後の質量分析への影響を最 糖鎖構造推定 (Table 1) Fig. 2 糖鎖構造解析のワークフロー Workflow of the Glycan Structure Analysis 小限にするため,揮発性成分であるアセトニトリルとギ酸水 *Glycopeptidase-F (Code. No. 4450) およびBlotGlyco Kit (Code. BS-45063) はそれぞれタカラバイオ,住友ベークライトの製品です。 %Int. 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2617.9 2400 m/z 2600 2800 3000 3200 3400 3713.2 3348.0 0 2983.0 20 2836.9 40 2106.7 1741.6 60 :N-glycan 由来イオン ([M+Na]+) 2471.8 2252.8 849.3 80 1887.7 100 3600 3800 Fig. 3 エリスロポエチン-αから切り出した糖鎖(脱シアル酸化,PA化(ピリジルアミノ化)済み)のマススペクトル。 Mass Spectra of PA Labeled and Desialylated N-glycans from the Erythropoietin-α. Result Window GUI Glycan candidates based on the molecular ions in the MS Search result of MS2 spectral search Both candidates are remained Search result of MS3 spectral search Major glycan structure is identified Reference MSn spectra of the identified glycan Fig. 4 「Accurate Glycan Analyzer」を用いたMSnスペクトルによる糖鎖構造推定イメージ Structure Identification Image Using MSn Spectra by the Accurate Glycan Analyzer Software MALDI機能による自動MS測定を行ないました。得られた 208個のMSデータに対し,これもAXIMAオプション機能で あ るIntensity Mapping 機 能 を 用 い て, 上 述 し たPA化 N-glycan混合物のMS測定で得られた11個のシグナルが存 在するウェルの追跡を試みました(Fig 6) 。まず,自動分析 で得られたMSデータをMass Spectrum Windowに表示さ 27.5 せ, そこにIntensity Mapping 機 能 に よりMALDI Plate 30.0 32.5 35.0 37.5 40.0 42.5 45.371 min 44.461 min ⑦ ⑧ ⑨ ⑩⑪ ⑫ ⑬ ⑭ 41.598 min 43.076 min 43.323 min ⑥ 41.024 min ⑤ 40.185 min ④ 39.252 min ③ 38.178 min 個のウェルに対して,AXIMAオプション機 能であるLC- ② 35.536 min 30.619 min 75 70 65 60 55 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 34.588 min ① mV nanoLC-AccuSpotにより分離・スポッティングされた208 33.500 min 溶液のみの単純な溶媒を用いました。 32.040 min No.B48 45.0 min nanoLC condition Column: Hypercarb KAPPA Capillary column (Lengh: 100 mm, ID 180 um) Total flow: 1 μL/min Sol A: 0.1 % formic acid Sol B: 0.1 % formic acid, 90% CH3CN Gradient (B conc) : 5 % (0‐5 min), 5‐35 % (5‐50 min), 35‐100 % (50‐55 min), 100 % (55‐65 min), 5 % (65‐70 min) Detector: ZETALIF 2000 He/Cd Laser, Excitation: 325 nm, Emission: 420 nm (Picometrics 社) Info 画面を追加表示させます。次いで,Intensity Mapping Windowのm/z入力欄に追跡したいm/z値を入力します。する と指 定したm/zのシグナル 強 度に対 応してMALDI Plate Info 画面のウェルが色分け表示されます。色分けされた各 ウェルをクリックする事でそのウェルに対応したマススペク トル が 連 動 して 表 示 され ま す。 こうして 上 述 のPA化 AccuSpot condition Matrix: 2.5 mg/mL DHB in 80 % EtOH, containing 5 mM NaCl Matrix flow: 4 μL/min Spotting rate: 1 spot/15 sec N-glycan 由来イオンとして提示された11個のシグナルのm/z 値を個々に入力し,対象イオンが存在するウェルを追跡した 結果,14個のウェルに,PA化N-glycan由来イオンが存在 する事が分かりました(Fig. 7) 。 こうして得られた各ウェルに存在するPA化由来N-glycan について,AXIMA Resonanceと「Accurate Glycan Analyzer」 を用いたMSn測定による糖鎖構造推定を行なった結果,14 種類の糖鎖構造を推定する事ができました(Table 1) 。 今回の糖鎖構造推定では,カーボングラファイトキャピラ Fig. 5 エリスロポエチン由来N-グリカン(脱シアル酸化,PA化(ピリジ ルアミノ化)済み)のnanoLCクロマトグラム nanoLC Chromatogram of N-glycans (delialylated and PA labeled) from the Erythropoietin-α Intensity Mapping Window 800 3713.2 2252.8 2617.9 2983.0 3348.0 0 2836.9 20 2471.8 40 2106.7 1741.6 60 追跡したいイオンの m/z を入力。 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600 2800 3000 3200 3400 3600 3800 m/z Mass Spectrum Window %Int. 100 MALDI plate Info Mass data: 1887.9000 1887.7 80 849.3 %Int. 100 1887.7 PA化N-glycan混合物のマススペクトル 60 55 各ウェルと マススペクトルは Linkしている。 80 60 指定したm/zのイオン強度により 各ウェルが色分けされる。 50 45 40 35 30 40 25 20 20 0 15 1400 1600 1800 2000 m/z 2200 2400 2600 10 5 10 15 20 25 30 35 40 45 X / mm Fig. 6 Intensity Mapping 機能によるサンプル搭載ウェルの追跡 Chase of the Sample Loaded Well Using“Intensity Mapping”Function 50 55 60 65 70 No.B48 Table 1 推定糖鎖構造 Identified Structures of PA Labeled N-glycans リーカラムを使用することにより複数の同質量異性体を単 純な溶媒組成での1次元nanoLCのみで分離し,さらにMS n スペクトルのm/zと相対強度を活用したデータベース検索ソフ トウェアを用いることで,それぞれの異性体構造を容易に 推定することができました。このような異性体構造の情報 は,従来のデータベース検索ソフトウェアでは容易には得ら れなかった情報で,本報告の手法が様々な分岐構造を持つ 糖鎖の構造推定に有用であることが示唆されました。 60 60 60 40 40 40 20 20 20 0 0 1700 1750 m/z 35.536 min %Int. 100 ⑤ 1800 1850 0 %Int. 100 80 80 80 60 60 60 40 40 40 20 20 20 0 0 ⑦ ⑴ 2252.9 %Int. 100 2200 2400 39.252 min %Int. 100 ⑦ ⑵ m/z 2600 2800 0 %Int. 100 80 80 80 60 60 60 40 40 40 20 20 20 0 2000 43.323 min ⑨ 2400 0 2700 2800 44.461 min 2983.0 %Int. 100 2200 m/z %Int. 100 2900 m/z 3000 ⑩ %Int. 100 60 40 40 40 20 20 20 0 0 2400 2600 2800 3000 3200 m/z %Int. 100 ⑬ 3713.1 ⑫ %Int. 100 80 80 60 60 40 40 40 20 20 20 0 0 3400 m/z 3500 2800 2700 3000 m/z ⑪ 3600 3700 m/z 3800 2800 3000 m/z 33.500 min 60 3300 2600 m/z ⑧ 0 80 3200 2500 3200 60 32.040 min 3348.2 %Int. 100 3200 32.040 1741.7 ③ 33.500 2252.8 ④ 34.588 1887.7 ⑤ 35.536 2471.8 ⑥ 38.178 2617.7 ⑦⑴ 39.252 2252.9 ⑦⑵ 39.252 2837.1 * ⑧ 40.185 2983.0 * ⑨ 41.024 2983.0 * ⑩ 41.598 2836.9 * ⑪ 43.076 2983.1 * ⑫ 43.323 3348.2 * ⑬ 44.461 3713.1 * ⑭ 45.371 3713.1 * 80 2836.9 80 3000 m/z ⑥ 45.371 min 60 2800 2100 2200 2300 2400 m/z 0 80 30.619 min ② 40.185 min 2837.1 1700 1800 1900 2000 2100 m/z 39.252 min 849.3 38.178 min 2617.7 1650 2471.8 ④ 950 1887.7 %Int. 100 850 900 m/z ③ 2252.8 %Int. 100 80 800 30.619 2983.0 ② 80 750 ① 33.500 min 80 34.588 min Predicted structure 2983.1 %Int. 100 Peak Elution Precursor ion m/z No. Time (min) [M+Na]+ 0 ⑭ 3600 3200 3713.1 ① 849.3 %Int. 100 32.040 min 1741.7 30.619 min *を付した構造は、13Cラベル化糖鎖のMSnスペクトルのプロダクトイオ ン相対強度データから予想した構造 2) 。 3700 m/z 3800 Fig. 7 サンプル搭載ウェルのマススペクトル Mass Spectra of Sample Loaded Wells [Reference] 1) A. Kameyama et.al. Anal. Chem, 2005, 77, 4719-4725. 2) A. Kameyama et.al. J. Proteome. Res, 2006, 5, 808-814. 2011年7月 島津コールセンター 0120-131691 TEL:075-813-1691 3100-07101-570-IK 2011.7