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Title NPC1L1を介したコレステロール吸収を阻害する新規化合 物の同定

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Title NPC1L1を介したコレステロール吸収を阻害する新規化合 物の同定
Title
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Issue Date
NPC1L1を介したコレステロール吸収を阻害する新規化合
物の同定( Dissertation_全文 )
千場, 智尋
Kyoto University (京都大学)
2015-05-25
URL
https://doi.org/10.14989/doctor.k19191
Right
許諾条件により本文は2016-04-01に公開
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
ETD
Kyoto University
NPC1L1 を介したコレステロール吸収を阻害する
新規化合物の同定
千場
智尋
2015
目次
序論
1
第一章
7
NPC1L1 に結合するクロサルノコシカケ由来新規化合物 fomiroid A の同定
第二章
NPC1L1 に対する fomiroid A の影響
27
結論
50
発表論文
53
謝辞
55
序論
生体におけるコレステロールの供給源は、1 日あたり 300 – 500 mg を担う食事由来のコレ
ステロールと 800 – 1200 mg を担う肝臓の生合成経路との二種類に大別される[1]。肝臓にお
いて生合成されたコレステロールは、超低密度リポ蛋白質(VLDL)として血中に放出され、
中間密度リポ蛋白質(IDL)を経て低密度リポ蛋白質(LDL)になり、最終的に LDL 受容
体を介して末梢組織に取込まれる。また生合成されたコレステロールは、食事由来の脂溶
性成分の可溶化に必要な胆汁酸の重要な供給源でもある。一方、肝臓において余剰となっ
たコレステロールは、胆汁酸とともに胆管に分泌され、食事由来のコレステロールや脂溶
性成分とともに混合ミセルを形成し、必要に応じて小腸から再吸収され、キロミクロンと
して肝臓に戻る腸肝循環を行っている(Figure 1)。この腸肝循環は生体内におけるコレステ
ロール恒常性に重要な役割を担っている。
Figure 1. 腸肝循環を介したコレステロール恒常性と阻害剤による影響
コレステロールは、哺乳類細胞の細胞膜を構成する主成分の一つであり、シグナル伝達
に関連する脂質ラフトの形成に寄与している。また、ステロイドホルモン、胆汁酸、ビタ
ミン D などの前駆体としても重要である。しかし、血中の過剰なコレステロールは、死因
の上位を占める心筋梗塞や脳梗塞を誘発する動脈硬化症の危険因子でもあり、その濃度の
1
低下がこれら疾患の予防として重要である[2, 3]。
高コレステロール血症改善剤の第一選択薬は、メバロチンを代表とした肝臓における生
合成を遮断するスタチン系薬剤である。スタチン系薬剤は、コレステロール生合成の律速
反応である3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA(HMG-CoA)からメバロン酸への変換に関与す
るHMG-CoA 還元酵素を阻害する。その結果、肝臓におけるLDL受容体の発現が亢進され、
LDLコレステロールの取込み促進により血中コレステロール濃度が低下すると考えられて
いる[4, 5]。多くの大規模臨床試験により、スタチン系薬剤の投与による血中コレステロー
ル濃度の低下が冠動脈疾患のイベント抑制に有効であることが明らかにされてきた[6]。一
方、血中コレステロール濃度が目標値に到達しない患者に対してスタチン系薬剤の投与量
を2倍に増量してもその低下率は6%前後に留まり、依然として目標値に到達できない課題が
あった [7-10]。これは、生合成経路遮断によるコレステロール濃度の低下を小腸からのコ
レステロール吸収によって補おうとする恒常性機構が働くためと考えられている(Figure 1)
。
この課題を解決したのが、小腸からのコレステロール吸収を阻害する ezetimibeである
(Figure 1, 2)
。スタチン系薬剤とezetimibeの併用は、投与量を増加したスタチン系薬剤単独
より副作用が少なく、より効率的に血中コレステロール濃度を低下させることが明らかと
なっている [10]。
Figure 2. Ezetimibe の化学構造
Ezetimibe はシェリング・プラウ社(現メルク)が開発し、2002 年ドイツやアメリカにて
上市された新薬である。Ezetimibe のコレステロール吸収阻害作用は主にハムスター等の動
物実験により示されていたが[11-14]、上市した当時、その作用メカニズムは不明であった。
2
2004 年シェリングのグループは、作用メカニズム解明のため、小腸上皮由来の遺伝子情報
を元に探索を行い、着目した Niemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)のノックアウトマウスを作
製した。そのマウスは、小腸からのコレステロール吸収を 70%減少させ、Ezetimibe 非感受
性となる表現型が示したことから、NPC1L1 がコレステロール吸収の中心的役割を果たす蛋
白質であることを報告した[15]。さらにその後、ezetimibe が直接 NPC1L1 に結合することが
示され、NPC1L1 は ezetimibe の標的蛋白質であることが明らかとなった[16]。
Figure 3 で示すように、
NPC1L1 は 13 回膜貫通αへリックスから成り、
HMG-CoA Reductase、
SCAP、Insig 等コレステロール代謝に関連する膜蛋白質が共通して保有する sterol sensing
domain と呼ばれるアミノ酸配列を膜貫通領域 3 – 7 に持つ[17]。細胞外には大きな 3 つのル
ープがあり、N 末端ドメインはコレステロールの結合部位[18, 19]、膜貫通領域 2 – 3 に位置
する第二細胞外ループは ezetimibe 結合部位[20]、膜貫通領域 8 – 9 に位置する第三細胞外ル
ープは機能未知のループとなっている。NPC1L1 は Endocytic Recycling compartment(ERC)
と呼ばれる小胞と細胞膜の 2 箇所に局在し、細胞のコレステロール濃度が高い時、NPC1L1
は ERC に局在し、コレステロール濃度が低い時、細胞膜にリサイクルされると提唱されて
いる[21]。NPC1L1 を介したコレステロールの輸送は、細胞膜のコレステロールをクラスリ
ン/AP2 媒介のエンドサイトーシスによって、細胞内に小胞輸送すると考えられている[21] 。
Ezetimibe の作用はそのエンドサイトーシスの阻害と提唱されている。
Figure 3. NPC1L1 の構造と NPC1L1 依存的なコレステロール取込み機構
3
現在、ezetimibe は唯一のコレステロール吸収阻害剤であるが、NPC1L1 遺伝子には多型性
が存在し、ezetimibe の反応性には個人差の多いことが指摘されている[22, 23]。そのため、
ezetimibe とは構造の異なる阻害剤の出現が望まれていた。そこで本論文では、ezetimibe と
同様の作用を示す天然物由来化合物を探索することとした。
第 一 章 で は 、 植 物 や キ ノ コ の 抽 出 物 を 対 象 と し て NPC1L1 に 対 す る
[3H]ezetimibe-glucuronide の結合を阻害する抽出物をスクリーニングし、単離した活性化合物
の構造を明らかにした。第二章では、活性化合物の NPC1L1 に対する直接結合を明らかに
するため、NPC1L1 変異体を用いたファーマコロジカルシャペロン活性を検証した。また、
NPC1L1 機能に与える活性化合物の影響を明らかにするため、NPC1L1 依存的なコレステロ
ール取込みに対する阻害活性を調べた。これら結果から著者はクロサルノコシカケ
(Fomitopsis nigra)抽出物より単離し構造決定した活性化合物が新規化合物であることを明
らかにし、fomiroid A と命名した。また fomiroid A が NPC1L1 に直接結合し、ezetimibe とは
異なる作用によって NPC1L1 依存的なコレステロール取込みを阻害することを示唆した。
4
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5
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6
第一章
NPC1L1 に結合するクロサルノコシカケ由来
新規化合物 fomiroid A の同定
7
8
第一章
NPC1L1 に結合するクロサルノコシカケ由来新規化合物 fomiroid A の同定
コレステロールは細胞膜構成に必須であるのと同時にステロイドホルモン、胆汁酸、ビ
タミン D 合成の前駆体として重要である。しかし動脈壁における過剰なコレステロールの
蓄積は冠動脈性心疾患の原因となる[1, 2]。そのため、体内におけるコレステロール濃度は
肝臓における生合成、食事や胆汁由来のコレステロールの吸収、胆汁への分泌、コレステ
ロールエステル体としての貯蔵などの機構によって厳密に制御されている。高コレステロ
ール血症改善のために用いられている様々な薬剤は、これら機構を標的としている。それ
ら薬剤の一つとして、食事および胆汁由来コレステロールの小腸からの吸収を阻害する
ezetimibe がある[3-6]。
Ezetimibe は小腸上皮細胞の頂端膜およびヒトにおいては毛細胆管に高度に発現する
Niemann-Pick C1-like 1 (NPC1L1)に直接結合する。この蛋白質の阻害は小腸からのコレステ
ロール吸収および毛細胆管からの再吸収を阻害する[7-13]。NPC1L1 はリソソームにおいて
コレステロール転移に関連する NPC1 と相同性があり、13 回膜貫通αヘリックスを有し、
HMG-CoA reductase、SCAP、Insig 等コレステロール代謝に関連する膜蛋白質が共通して保
存する sterol-sensing domain (SSD)を膜貫通領域 4 – 8 に有している[14]。NPC1L1 の N 末端
ドメインはコレステロールやオキシステロールの結合部位であり、その結合を介してクラ
スリン/AP2 媒介の NPC1L1 のエンドサイトーシスが誘導され、コレステロールが細胞内に
小胞輸送される[16]。膜貫通領域 2 と 3 に位置する第二細胞外ループは ezetimibe 結合部位
であり、その結合を介してコレステロール誘導性のエンドサイトーシスが阻害される[17]。
ある種のステロイド系あるいは非ステロイド系化合物は NPC1L1 変異体の誤った細胞内局
在を修正するファーマコロジカルシャペロン活性を持つことが報告された。Karaki らは、こ
れら化合物が NPC1L1 の N 末端ドメインや ezetimibe 結合部位とは異なる部位に結合するこ
とを示唆しており、NPC1L1 の第二ステロール結合部位の存在を提唱している[18, 19]。
9
これら報告から、低分子化合物に対して NPC1L1 は複数の結合部位を有していることが
推測され、ezetimibe とは構造的に異なる新たな化合物が異なる結合部位を介して NPC1L1
機能に影響を与える可能性があった。
本章において、
筆者は様々な化合物を豊富に含んだ植物やキノコのような天然物の抽出物
から NPC1L1 と ezetimibe-glucuronide の結合を阻害する活性を調べ、キノコの一種クロサル
ノコシカケ(Fomitopsis nigra)抽出物から活性化合物として新規化合物の構造を決定した。
10
材料および方法
試薬
[3H]ezetimibe β-D-glucuronide ([3H]EZG)は American Radiolabeled Chemicals より入手した。
Ezetimibe は Toronto Research Chemicals より購入し、
ラノステロールと 25-ヒドロキシコレス
テロールは Sigma-Aldrich より入手した。その他の試薬は Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカラ
イテスクより購入した。
動物実験
入荷した雄性 wistar ラット(SLC)は、室温(23 ± 2°C)、湿度(50 ± 20%)、照明 12 時
間(午前 7 時~午後 7 時)に管理された環境にて一週間馴化させ、8 週齢にて試験に供した。
馴化後のラットは個別飼育(1 匹/ケージ)した。通常食群は CRF-1 (Oriental Yeast)を与え、
その他の群は高コレステロール食(1%コレステロール と 0.5%コール酸ナトリウム含有
CRF-1)を 3 日間与え、血中コレステロール濃度の上昇を誘導した。被験物質はコーン油を
用いて調製し、1 日 1 回、2 日間強制経口投与した。通常食群と control 群はコーン油のみを
投与した。
最終投与より 2 時間の絶食後、ラットをジエチルエーテルで麻酔し腹部大動脈からヘパ
リン処理した真空採血管を用いて血液を採取した。採取後遠心分離(3,000 rpm, 4℃, 15 分)
し、得られた血漿は分析まで-80℃に保存した。総コレステロール値はコレステロール E-テ
ストワコー(和光純薬)を用いて測定した。本試験の実験手順は、株式会社ファンケルの
倫理委員会にて承認されたものである。
精製および単離
クロサルノコシカケ(Fomitopsis nigra)の子実体(42 kg)を、エタノール(168 L)で抽
出し、さらに残渣をアセトン(42 L)で抽出した。両抽出液は混合し、ロータリーエバポレ
ーターを用いて不溶物が析出しないよう減圧濃縮した。続いて、濃縮液に n-ヘキサンと水
11
を加え、分液漏斗を用いて液々分配した。この操作を複数回繰返し、回収したヘキサン層
を濃縮乾固させ、クロサルノコシカケ抽出物として動物試験に供した(Figure 1A)。さら
にその一部(28.3 g)を用いて、n-ヘキサンと 80%アセトニトリル水を加えて液々分配し、
ヘキサン層、中間層、アセトニトリル層を得た。これら画分は濃縮乾固し、その一部を動
物実験に供した(Figure 1B)。
次にアセトニトリル層(13.6 g)を出発として C18 逆相クロマトグラフィー(ODS-A, pore
size 6 nm, particle size 75 µm, YMC)に供し、75%アセトニトリル水にて溶出させ、最後にア
セトンを用いて溶出した画分も含め 8 画分に分画した。画分 2 の一部(73 mg)は C30
(Develosil XG C30-M5, 野村化学)逆相 HPLC に供し、溶離液 60%アセトニトリル水にて
10 画分(2-1~2-10)に分画した。さらに画分 2-6 を同様のカラムを用いて溶離液 0.1%ギ酸
含有 60%アセトニトリル水にてピーク分取し、活性化合物を単離した。
1
H NMR スペクトル(500 MHz、一次元、二次元)は CryoProbe を付属した Bruker AVANCE
500 NMR を用いて methanol-d4、pyridine-d5 中で測定した。内部標準としては tetramethylsilane
を用いた。13C NMR スペクトル(125 MHz)は同一の装置にて測定した。高分解能 ESI-MS
は Waters Synapt G2-S mass spectrometer を用いて測定した。赤外線吸収スペクトル(IR)は
ATR sampling accessory を付属した Perkine-Elmer Spectrum 400 FT-IR/NIR spectrometer にて
測定した。旋光度は JASCO DIP1000 polarimeter を用いてクロロホルム中で測定した。活性
化合物: [α]D +79 (c 0.35, 24°C, CHCl3); IR (neat): 3433, 2938, 1704, 1375, 1150, 1052, 1014 cm-1。
1
H と
13
C NMR の結果を Table 1 に示した。
細胞培養
Human embryonic kidney 293 細胞(HEK293, CRL-1573)は American Type Culture Collection
より購入した。細胞は 37°C、5% CO2 下、10%非動化済牛胎児血清(FBS)含有 Dulbecco’s
modified Eagle’s 培地(DMEM, Life Technologies)にて培養した。
12
発現ベクターの構築、 遺伝子導入、安定発現細胞の樹立
ラット空腸由来 1 本鎖 cDNA(GenoStaff)を鋳型に PCR 法により、rat NPC1L1(rNPC1L1)
(GenBank AY437867)全長を増幅し、pCR4 Blunt TOPO(Life Technologies)にクローニン
グした。その rNPC1L1 cDNA を発現ベクターの pcDNA3.1(Life Technologies)に挿入し、
FuGENE HD(Promega)を用いて HEK293 細胞に導入した。1 mg/ml G418 sulfate(和光純薬)
存在下、rNPC1L1 を導入した HEK293(HEK/rNPC1L1)細胞を培養し薬剤耐性を獲得した
安定発現細胞を樹立した。
膜調製
4 mM 酪酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)
にて 24 時間処理した HEK/rNPC1L1 細胞を用いて、
Garcia-Calvo らの方法[10]に従い膜画分を調製した。簡潔に述べると、8%ショ糖とプロテア
ーゼ阻害剤(complete EDTA-free, Roche Applied Science)を含んだ 20 mM HEPES/Tris 緩衝液
(pH 7.4)に細胞を懸濁し、氷上にて probe sonicator(Misonix)を用いて細胞を破砕した。
その後、遠心分離(1,500 × g、10 分、4°C)にて未破砕の細胞や核を除去し、上清を超遠心
機(125,000 × g、3 時間、4°C)に供した。得られた残渣を 160 mM NaCl、5%グリセロール
を含んだ 20 mM HEPES/Tris 緩衝液(pH 7.4)に再懸濁し、BCA assay kit(Thermo Scientific
Pierce)にて蛋白質濃度を定量後、使用するまで-80°C に保存した。
競合結合試験
HEK/rNPC1L1 細胞由来の膜画分を用いた[3H]EZG の結合は、Garcia-Calvo らの報告[10]
に若干の修正を加えた方法にて行った。各被験物質はエタノールとジメチルスルホキシド
の 1:1 の混合液を用いて溶解させ、反応液中における最終濃度が、それぞれ 2.5%となるよ
うにした。活性化合物は、この混合液に対して 80 mM まで溶解した。競合結合試験は、96
ウェルプレートに最終濃度 25 nM [3H]EZG、37.5 µg HEK/rNPC1L1 由来膜蛋白質、各濃度の
被験物質(活性化合物:23 nM – 4 mM、ezetimibe:565 pM – 100 μM、ラノステロール:7.8
13
μM – 1 mM、25-ヒドロキシコレステロール:9.8 μM – 1.25 mM)を緩衝液(26 mM NaHCO3、
0.96 mM NaH2PO4、5 mM HEPES、5.5mM グルコース、117mM NaCl、5.4 mM KCl、0.03%タ
ウロコール酸ナトリウム、0.05%ジキトニン、pH7.4)に加え、総容量 30 μl となるよう調整
し、
室温、
1 時間反応させた。
反応液は Unifilter-96 Harvester
(PerkinElmer)を用いて Unifilter-96
GF/C プレート
(PerkinElmer)
にトラップし、
Milli-Q 水
(Merck Millipore)を用いて遊離[3H]EZG
を洗浄した。乾燥後、Microscint-20(PerkinElmer)を各ウェルに 15 μl 添加し、TopCount
(PerkinElmer)により rNPC1L1 と結合した[3H]EZG の放射活性を測定した。
IC50 値は、GraphPad Prism software(version 4.0)を用いてデフォルト設定の one-site あ
るいは two-site competition モデル式に対する妥当性を統計学的に解析し(F test, p < 0.05)、
適合したモデル式より算出した。
統計解析
全てのデータのエラーバーは、標準誤差( S.E.)として示した。各測定データは Dunnett
の多重比較検定を用い、分散性が均一でない場合はクラスカルウォリスの Steel 検定を用い
多重比較検定を行った。有意水準はいずれの場合も両側 5 %とした。統計解析はエクセル統
計 2010 を使用した。
結果
クロサルノコシカケ抽出物のコレステロール低下作用と NPC1L1 結合活性を有する活
性化合物の単離
植物やキノコなどの天然物から NPC1L1 の機能に影響を及ぼす化合物を探索するため、
HEK/rNPC1L1 細胞の膜画分と[3H]EZG を用いた競合結合試験を行った。約 2000 種類の植物
やキノコの抽出物から探索を行った結果、NPC1L1 に対する[3H]EZG の結合を阻害する活性
を、キノコの一種、学名 Fomitopsis nigra、和名クロサルノコシカケの抽出物に見出した。
14
クロサルノコシカケは、ツガサルノコシカケ科ツガサルノコシカケ属に属する木材腐朽菌
の一種で、全国に広く分布しているキノコである。[3H]EZG 結合阻害の IC50 値は 95.8 µg/ml
であった。
続いて、このクロサルノコシカケ抽出物に血漿コレステロール低下作用が認められるの
か評価するため、動物実験を行った。Fiugre 1A で示すように、1%コレステロールと 0.5%
コール酸ナトリウムを含んだ高コレステロール食を 3 日間与えた control 群は、通常食群と
比べ約 3 倍血漿コレステロール濃度の上昇が認められ、陽性対照の ezetimibe 投与群は有意
にその上昇を抑制した。クロサルノコシカケ抽出物は 50、150 、500 mg/kg の 3 群設定にて
評価したところ、control 群と比べ 500 mg/kg 投与群にて有意に血漿中コレステロール濃度の
低下が観察された。試験を通じて全群の体重および摂餌量に有意な変化はなかった。
以上の結果より、NPC1L1 に結合する性質を持ったクロサルノコシカケ抽出物には、血漿
コレステロール低下作用を有する成分が含まれている可能性が示唆された。そこで、クロ
サルノコシカケ抽出物をさらに液々分配にてヘキサン層、中間層、アセトニトリル層の 3
つの画分に分画し、同様の動物実験にてコレステロール低下作用を検証した。その結果、
ezetimibe 投与群と同様、投与量 500 mg/kg にて分離前の抽出物とアセトニトリル層に有意な
血漿中コレステロール濃度の低下が観察された(Figure 1B)。また、試験を通じて全群の
体重および摂餌量に有意な変化はなかった。これら結果より、アセトニトリル層に求める
活性化合物が含まれていると考えられ、アセトニトリル層を出発とした各種カラムによる
分離と [3H]EZG を用いた競合結合試験による画分の評価を進めた。その結果、活性化合物
の単離に成功した。
15
A
B
Figure 1. 高コレステロール食摂取ラットにおけるクロサルノコシカケ抽出物お
よびその分画物の影響
ラットに高コレステロール食(1%コレステロールおよび 0.5%コール酸ナトリウム含有
CRF-1)を 3 日間摂取させ、2 日目よりコーン油にて調製したクロサルノコシカケ抽出物
(50 – 500 mg/kg)(A)、あるいはその抽出物の分画物(500 mg/kg)(B)を 1 日 1 回、
2 日間強制経口投与した。通常食群と control 群はコーン油のみ投与した。Ezetimibe 投与群
(Ez)は、ezetimibe を 0.3 mg/kg 経口投与した。黒カラムは通常食(CRF-1)を、青およ
び赤カラムは高コレステロール食を与えたラットを示す。分離前はクロサルノコシカケ抽
出物、HEX はヘキサン層、ACN はアセトニトリル層を示す。エラーバーは標準誤差を示
す(n=6)。*p < 0.05、 **p < 0.01 は control 群と比較した。
16
クロサルノコシカケ由来 fomiroid A の構造決定
活性化合物は無色の油状物質として得られた。分子式は高分解能 ESI-MS により C30H48O3
(実測値; m/z 455.3529 [M-H]-, C30H47O3 の理論値; m/z 455.3525)と推定され、不飽和度が 7
の化合物であることが判明した。活性化合物の構造は DEPT、COSY、HMQC、HMBC を含
む NMR スペクトルから推定した。DEPT の結果から、各カーボンピークは 7 個のメチル、
10 個のメチレン、5 個のメチン、8 個の四級炭素に帰属された。分子式、不飽和度、13C NMR
データ(δC 66.4, 73.8, 125.7, 132.4, 135.0, 136.4, 220.5)
、DEPT データから、活性化合物はそ
の構造内に 4 個の環状構造、2 個の二重結合、2 個のヒドロキシル基、1 個のカルボニル基
を持つことが示唆された。これらの構造的特徴から化合物はラノステロン誘導体であると
推定された。COSY では C-1 と C-2、C-6 と C-7、 C-11 と C-12、 C-15 と C-16、C-20 と
C-21、C-23 と C-24 との間に相関が、C-24 と C-26、C-27 との間に遠隔相関が確認され、
各炭素の結合様式が示唆された。HMBC の結果から、2 個の二重結合が C-8 と C-24 に、2
個のヒドロキシル基が C-15 と C-21 に、1 個のケトン基が C-3 で置換されていることが明ら
かとなった。1H と 13C NMR データの完全な帰属と HMBC 相関は Table1にまとめた。これ
らのデータから、活性化合物の構造は 15,21-dihydroxylanosta-8,24-dien-3-one であると推定
した(Figure 2)
。
Figure 2. Fomiroid A の化学構造
この化合物と同じ平面構造を持つ化合物はシクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼの
阻害剤として Fomitopsis pinicola から過去に単離されており、特許に報告がある[20]。しか
17
しながら、今回単離した化合物と報告化合物の化学シフトを比較すると C-20 と C-21 の値
が大きく異なっており、今回単離した化合物が報告化合物のジアステレオマーであり、新
規化合物であることが示唆された。筆者はこの新規化合物を fomiroid A と命名した。
Table 1. 1H(500 MHz)と
13
C(125 MHz)NMR データ
18
NPC1L1 に対する[3H]ezetimibe-glucuronide の結合に及ぼす fomiroid A の影響
[3H]EZG 結合に対する fomiroid A と ezetimibe の濃度依存的な阻害を、Figure 3 に示す。
[3H]EZG 結合に対する fomiroid A の阻害曲線は二相性を示し、NPC1L1 における fomiroid A
結合部位は、高親和性と低親和性の 2 箇所存在する可能性が示唆された。高親和性部位にお
ける IC50 値は 4.83 ± 0.2 µM、低親和性部位における IC50 値は 1.45 ± 0.1 mM と算出された。
しかし、後で述べるように 1 mM 以上の高濃度では細胞膜に対する非特異的な影響が示唆さ
れるため、低親和性部位に関しては不確定である。一方、ezetimibe は結合部位が 1 箇所の
阻害曲線を示し、その IC50 値は 332 ± 4.2 nM であった。
B
120
140
100
120
[3H]EZG Bound (%)
[3H]EZG Bound (%)
A
80
60
40
20
100
80
60
40
20
0
10 -8
0
10 -7
10 -6 10 -5 10 -4
fomiroid A (M)
10 -3
10 -2
10 -10
10 -9
10 -8 10 -7 10 -6
ezetimibe (M)
10 -5
10 -4
Figure 3. NPC1L1 と[3H]ezetimibe-glucuronide の特異的結合に対する fomiroid A と
ezetimibe の阻害作用
各濃度における非標識 fomiroid A(A)、あるいは ezetimibe(B)存在下、HEK293/rNPC1L1
細胞由来膜画分(37.5 µg 蛋白質)と 25 nM [3H]EZG を室温 1 時間反応させた。非特異的結
合は 100 µM ezetimibe 存在下にて測定した。Fomiroid A の IC50 値は two-site competition
model、ezetimibe の IC50 値は one-site competition model により算出した(Prism software)。
エラーバーは標準誤差を示す(n=4)。
ラ ノ ス テ ロ ー ル と 25- ヒ ド ロ キ シ コ レ ス テ ロ ー ル は 、 NPC1L1 に 対 す る
[3H]ezetimibe-glucuronide 結合に影響を与えない
Fomiroid A はステロール骨格を有しているため、NPC1L1 のコレステロール結合部位であ
る N 末端ドメインに結合し、[3H]EZG の NPC1L1 への結合を阻害していると予想された。
19
そこで、既に N 末端ドメインに結合することが知られているラノステロール(Figure 4A)
および 25-ヒドロキシコレステロール(Figure 4B)を用いて[3H]EZG 結合に及ぼす影響を調
べた。その結果、ラノステロールと 25-ヒドロキシコレステロールはどちらも[3H]EZG 結合
に影響を与えないことが示された(Figure 4C, D)。
A
B
C
D
140
120
[3H]EZG Bound (%)
[3H]EZG Bound (%)
140
100
80
60
40
20
0
10 -6
10 -5
10 -4
10 -3
10 -2
120
100
80
60
40
20
0
10 -6
10 -5
10 -4
10 -3
10 -2
25-hydroxycholesterol (M)
lanosterol (M)
Figure 4. ラ ノ ス テ ロ ー ル と 25- ヒ ド ロ キ シ コ レ ス テ ロ ー ル は 、 NPC1L1 と
[3H]ezetimibe-glucuronide の特異的結合に対して影響を与えない
A. ラ ノ ス テ ロ ー ル の 化 学 構 造 。 B. 25- ヒ ド ロ キ シ コ レ ス テ ロ ー ル の 化 学 構 造 。 C-D.
[3H]ezetimibe-glucuronide の結合阻害実験。各濃度における非標識ラノステロール(C)、あ
るいは 25-ヒドロキシコレステロール(D)存在下、HEK293/rNPC1L1 細胞由来膜画分(37.5
µg 蛋白質)と 25 nM [3H]EZG を室温 1 時間反応させた。非特異的結合は 100 µM ezetimibe
存在下にて測定した。エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
20
考察
Ezetimibe はコレステロール吸収阻害剤として唯一の薬剤であるが、標的蛋白質である
NPC1L1 には多型性が存在し、ezetimibe の反応性には個人差が大きいことが指摘されていた。
そのため、ezetimibe とは構造の異なる新たな阻害剤の出現が望まれていた。本章では、
NPC1L1 への[3H]ezetimibe-glucuronide の結合を阻害する植物やキノコ抽出物のスクリーニ
ングにより、キノコの一種であるクロサルノコシカケを見出し、その血漿コレステロール
低下作用を動物実験により明らかにした。また、クロサルノコシカケ抽出物に含まれる活
性化合物の一つとして新規化合物である fomiroid A の構造を明らかにした。
筆 者 は 、 植 物 や キ ノ コ の 抽 出 物 を 対 象 と し て 、 NPC1L1 発 現 細 胞 の 膜 画 分 と
[3H]ezetimibe-glucuronide を用いた競合結合試験にてスクリーニングを行った。これまで本試
験系を用いてランダムスクリーニングした研究報告は無く、ezetimibe とは構造の異なる化
合物を見出せる可能性があった。実際、筆者は本研究においてクロサルノコシカケ抽出物
より新規化合物の fomiroid A を見出すことに成功した(Figure 2)。
クロサルノコシカケに関する研究では、新規化合物としてラノスタン型トリテルペン配
糖体の fomitoside K が報告されており[21]、fomitoside K が口腔扁平上皮癌細胞に対してアポ
トーシスを誘導することが報告されている[22]。しかし、それ以外の知見はこれまでのとこ
ろ報告されていない。
高コレステロール食摂取により血中コレステロール濃度を上昇させたラットに対して
ezetimibe の効果が報告されているが[23]、この報告の高コレステロール食摂取期間は 7 日間
であった。Figure 1 で示す結果は、高コレステロール食摂取期間 3 日であったが、通常食群
と比べ約 3 倍血漿コレステロール濃度が上昇し、ezetimibe は有意にその上昇を抑制した。
この結果から本試験デザインにてコレステロール吸収阻害作用を評価できると考えられた。
また、本試験デザインでは肝臓におけるコレステロール生合成を遮断するスタチン系薬剤
21
が効果を示さないため[24]、クロサルノコシカケ抽出物およびその分画物には、小腸からの
コレステロール吸収を阻害する成分が含まれている可能性が示唆された。
[3H]ezetimibe-glucuronide 結合に対する fomiroid A の阻害曲線は二相性を示し、NPC1L1
における fomiroid A 結合部位は、高親和性と低親和性の 2 つの結合部位を有することが示唆
された(Figure 3)。しかし、低親和性部位の IC50 値は、1.45 mM と高濃度域であり、膜組
成に対する非特異的な影響が関与していることは否定できない。その場合、NPC1L1 の
fomiroid A 結合部位は 1 箇所と推定され、弱いアロステリック作用である可能性が示唆され
た。
コレステロール生合成の前駆体であるラノステロールは、fomiroid A と類似した平面構造
を有しており(Figure 2, 4A)、NPC1L1 の N 末端ドメインに結合することが報告されてい
る[15]。しかし、ラノステロールは[3H]ezetimibe-glucuronide 結合にまったく影響を及ぼさな
かった(Figure 4C)。またラノステロールと同様、N 末端ドメインに結合することが知られ
ている 25-ヒドロキシコレステロール [16] も、 [3H]ezetimibe-glucuronide 結合に影響を及ぼ
さなかった(Figure 4B, D)。これらの結果より、化合物結合によって引き起こされる N 末
端ドメインの構造変化は、ezetimibe-glucuronide 結合に影響しないことが推測され、fomiroid
A の結合部位は N 末端ドメインとは異なる部位であることが示唆された。さらに筆者は、
ステロール骨格を有しているスティグマステロールや β-シトステロールなど、fomiroid A と
構造が類似した化合物を数種類評価した。しかし、いずれの化合物も ezetimibe-glucuronide
結合に影響を与えなかった(data not shown)。この結果は、fomiroid A が上記したステロー
ル化合物とは異なる立体構造を持つことを示唆している。Fomiroid A の絶対構造の決定が今
後是非とも必要である。
以上まとめると、血漿コレステロール低下作用を有するクロサルノコシカケ抽出物から
単離し構造決定した fomiroid A は、ezetimibe とは構造が異なる新規化合物であり、NPC1L1
の N 末端ドメイン以外に結合して ezetimibe-glucuronide 結合を阻害することが示唆された。
このように fomiroid A を含有するクロサルノコシカケ抽出物は、高コレステロール血症改善
22
を目的とした健康食品として利用できる可能性がある。また、fomiroid A は ezetimibe の効
果に対する個人差の問題を解決する新規コレステロール吸収阻害剤になりうると期待され
る。
23
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25
26
第二章
NPC1L1 に対する fomiroid A の影響
27
28
第二章
NPC1L1 に対する fomiroid A の影響
体内におけるコレステロールの恒常性は肝臓における生合成、食事および胆汁由来コレ
ステロールの小腸からの吸収、胆汁中への分泌、コレステロールエステルとしての貯蔵な
どによって厳密に制御されている。しかし、何等かの要因によってこれらの制御が破たん
し、血液中コレステロール濃度が過多になると、脳梗塞や心筋梗塞などを誘発する動脈硬
化症発症の危険が増大する[1, 2]。近年、コレステロール吸収阻害剤の ezetimibe が高コレス
テロール血症の改善に有効であることが示され[3-6]、その標的蛋白質が小腸上皮細胞の頂
端膜に発現する Niemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)であることが報告された[7-9]。
NPC1L1 は 13 回膜貫通αヘリックスから成り、膜貫通領域 2 と 3 の間に位置する第二細
胞外ループは ezetimibe 結合部位として NPC1L1 機能の阻害に重要である[10-13]。一方、コ
レステロールやオキシステロールのようなステロール類は NPC1L1 の N 末端ドメインに結
合することが知られている[14, 15]。さらに Karaki らは、ある種のステロイド系化合物が
NPC1L1 の N 末端ドメインや ezetimibe 結合部位とは異なる部位に結合し、NPC1L1 変異体
の誤った細胞内局在を修正するファーマコロジカルシャペロン活性を持つことを報告し、
第二ステロール結合部位の存在を提唱した[16]。これらの報告から、NPC1L1 は低分子化合
物に対して複数の結合部位を有していることが推察された。しかし、NPC1L1 の第二細胞外
ループに結合する ezetimibe やその誘導体以外に、NPC1L1 に直接結合し NPC1L1 依存的な
コレステロールの取込みを阻害する低分子化合物はこれまで報告されていない。
第一章において、筆者はキノコの一種であるクロサルノコシカケから単離した新規化合
物の fomiroid A が NPC1L1 に対する[3H]EZG の結合を阻害することを明らかにし、fomiroid
A が NPC1L1 の N 末端ドメイン以外に結合することを示唆した。しかし、それら結果は、
競合結合試験を利用した間接的な証明であったため、fomiroid A が NPC1L1 に直接結合する
のか不確定であった。
29
そこで本章では NPC1L1 変異体に対する fomiroid A のファーマコロジカルシャペロン活
性を調べ、fomiroid A が NPC1L1 に直接結合するのか検討することにした。また、第一章で
はクロサルノコシカケ抽出物が血中コレステロール低下作用を有することを示したが、
fomiroid A が直接 NPC1L1 機能を阻害するか不明であった。そこで NPC1L1 発現細胞を用い
て、
fomiroid A の NPC1L1 依存的なコレステロール取込みに対する影響を調べることとした。
30
材料および方法
試薬
[1,2-3H(N)]-cholesterol は PerkinElmer より、[3H]ezetimibe β-D-glucuronide は American
Radiolabeled Chemicals より入手した。Ezetimibe は Toronto Research Chemicals より、CellMask
Orange plasma membrane stain は Life Technologies よ り 購 入 し た 。 そ の 他 の 試 薬 は
Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライテスクより購入した。
本実験に用いた抗体は次の通りである。mouse monoclonal anti-HA(F-7, sc-7392, Santa Cruz
Biotechnology)、anti-GFP(B-2, sc-9996, Santa Cruz Biotechnology)、anti-vinculin(V9131,
Sigma-Aldrich)、rabbit polyclonal anti-NPC1L1(HPA018105, Sigma-Aldrich)、horseradish
peroxidase(HRP)-rabbit anti-mouse IgG(H+L)conjugate(81-6720, Life Technologies)、HRP-goat
anti-rabbit IgG(H+L)conjugate(81-6120, Life Technologies)、Alexa Fluor 633 goat anti–mouse
IgG(H+L)conjugate(A-21052, Life Technologies)。
細胞培養
Human embryonic kidney 293 細胞(HEK293, CRL-1573)、human embryonic kidney 293T 細
胞(CRL-3216)、human colon carcinoma Caco2 細胞(HTB-37)は American Type Culture
Collection より購入した。細胞は 37°C、5% CO2 下、10%非動化済牛胎児血清(FBS)含有
Dulbecco’s modified Eagle’s 培地(DMEM, Life Technologies)にて培養した。
発現ベクターの構築、 遺伝子導入、安定発現細胞の樹立
ラット空腸由来 1 本鎖 cDNA(GenoStaff)を鋳型に PCR 法により、rat NPC1L1(rNPC1L1)
(GenBank AY437867)全長を増幅し、pCR4 Blunt TOPO(Life Technologies)にクローニン
グした。その rNPC1L1 cDNA を発現ベクターの pcDNA3.1(Life Technologies)および
pCDH-CMV-MCS-EF1-Puro Lentivector(System Biosciences)
(pCDH/rNPC1L1)に挿入した。
31
全長 human NPC1L1(hNPC1L1)(GenBank AY437865)をコードした cDNA は human liver
cDNA library(タカラバイオ)を鋳型として PCR 法により増幅し、pCR2.1(Life Technologies)
にクローニングした。その hNPC1L1 cDNA は、C 末端に enhanced green fluorescent protein
(EGFP)配列を連結させ、pcDNA3.1 に挿入した。
特定部位の変異は iProof high-fidelity DNA polymerase(Bio-Rad Laboratories)を用いた PCR
法により行った。hNPC1L1 の 986 番目のセリンと 987 番目のロイシンの間に influenza virus
hemagglutinin ( HA ) epitope tag を 挿 入 し た 。 rNPC1L1 、 hNPC1L1-EGFP 、
hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP、HA-hNPC1L1-EGFP、HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP のそれぞれを
挿入した pcDNA3.1 は FuGENE HD(Promega)を用いて HEK293 細胞に導入した。細胞は 1
mg/ml G418 sulfate(和光純薬)存在下にて培養し、薬剤耐性を獲得した安定発現細胞を樹
立 し た 。 HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP を 安 定 的 に 発 現 し た HEK293 細 胞
(HEK293/HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP)は、限界希釈法により単一クローン化し、FACS
解析に用いた。
膜調製
4 mM 酪 酸ナ トリウム( Sigma-Aldrich ) に て 24 時 間処理し た rNPC1L1 あ るいは
HA-hNPC1L1-EGFP
を 安 定 的 に 発 現 し た
HEK293
細 胞 ( HEK/rNPC1L1 、
HEK/HA-hNPC1L1-EGFP)を用いて、Garcia-Calvo らの方法[10]に従い膜画分を調製した。
簡潔に述べると、8%ショ糖とプロテアーゼ阻害剤(complete EDTA-free, Roche Applied
Science)を含んだ 20 mM HEPES/Tris 緩衝液(pH 7.4)に細胞を懸濁し、氷上にて probe
sonicator(Misonix)を用いて細胞を破砕した。その後、遠心分離(1,500 × g、10 分、4°C)
にて未破砕の細胞や核を除去し、上清を超遠心機(125,000 × g、3 時間、4°C)に供した。
得られた残渣を 160 mM NaCl、
5%グリセロールを含んだ 20 mM HEPES/Tris 緩衝液
(pH 7.4)
に再懸濁し、BCA assay kit(Thermo Scientific Pierce)にて蛋白質濃度を定量後、使用するま
で-80°C に保存した。
32
結合試験
HEK/rNPC1L1 および HEK/HA-hNPC1L1-EGFP 由来の膜画分を用いた[3H]EZG の結合は、
Garcia-Calvo らの報告[10]に若干の修正を加えた方法にて行った。結合試験は、96 ウェルプ
レートに最終濃度 25 nM [3H]EZG、HEK/rNPC1L1 あるいは HEK/HA-hNPC1L1-EGFP 由来膜
蛋白質 37.5 µg を緩衝液(26 mM NaHCO3、0.96 mM NaH2PO4、5 mM HEPES、5.5mM グルコ
ース、117mM NaCl、5.4 mM KCl、0.03%タウロコール酸ナトリウム、0.05%ジキドニン、pH7.4)
に加え、総容量 30 μl となるよう調整し、室温、1 時間にて反応させた。反応液は Unifilter-96
Harvester(PerkinElmer)を用いて Unifilter-96 GF/C プレート(PerkinElmer)にトラップし、
Milli-Q 水(Merck Millipore)を用いて遊離[3H]EZG を洗浄した。乾燥後、Microscint-20
(PerkinElmer)を各ウェルに 15 μl 添加し、TopCount(PerkinElmer)により[3H]EZG の放射
活性を測定した。非特異的結合量は、100 μM の非標識 ezetimibe 存在下における放射活性と
した。
ウエスタンブロッティング
細胞は氷冷した PBS を用いて洗浄し、プロテアーゼ阻害剤(ナカライテスク)を添加し
た RIPA 緩衝液(50 mM Tris-HCl(pH 7.6)、150 mM NaCl、1% Triton X-100、0.5%デオキ
シコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))を用いて溶解させサンプル
とした。蛋白質濃度は、BCA assay kit(Pierce Biotechnology)を用いて測定した。
サンプルは SDS-PAGE(7.5%)に供し、その後、PVDF 膜(GE Healthcare)に転写した。
転写後の PVDF 膜は、anti-GFP antibody(1:300 希釈)、anti-NPC1L1 antibody(1:1500 希
釈)、あるいは anti-vinculin antibody(1:50000 希釈)の一次抗体と室温 1 時間反応させ、
その後、HRP-labeled rabbit anti-mouse IgG antibody あるいは HRP-labeled goat anti-rabbit IgG
antibody の二次抗体(1:10000 希釈)と室温 45 分処理した。 抗体処理した PVDF 膜は、
ECL prime(GE Healthcare)を用いて発光させ、LAS-4000 mini(Fujifilm)を用いて画像を電
33
子化した。各バンドの発光強度は、Multi Gauge software(Version 3.2, Fujifilm)を用いて解
析した。
共焦点レーザー顕微鏡を用いた局在解析
hNPC1L1-EGFP ( HEK/hNPC1L1-EGFP ) 、 hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP
あ る い は
HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP を安定的に発現した HEK293 細胞は、poly-D-lysine コートさ
れた 35-mm ガラスボトムディッシュに播種し、翌日被験物質を添加した。24 時間後、Hank's
Balanced Salt Solution(HBSS)に溶解した 2.5 µg/ml CellMask Orange plasma membrane stain を
37°C、5 分、細胞に処理し、細胞膜を染色した。その後、HBSS を用いて 3 回洗浄し、生細
胞を共焦点レーザー顕微鏡(FV1000, Olympus)にて観察した。
FACS 解析
HEK293/HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP 細胞を 5 × 105 cells/well となるよう 12 ウェルプレー
トに 播種し、 翌日被験物質 を細胞に 添加した。 24 時 間後、Accutase( Innovative Cell
Technologies)を用いて細胞を剥離し、1%牛血清アルブミン(BSA)を含んだ HBSS に懸濁
し、4°C、15 分、ブロッキングした。遠心分離にて上清を除去後、残渣の細胞は、anti-HA
antibody(1:250 希釈)と Alexa Fluor 633-conjugated anti-mouse IgG antibody(1:500 希釈)
を添加した 1% BSA 含有 HBSS にて再懸濁し、室温 30 分処理した。その後、HBSS を用い
て 3 回洗浄し、HBSS にて再懸濁した細胞を FACS(FACSCalibur, BD Biosciences)解析した。
レンチウイルス溶液の調製と Caco2 細胞への感染
100-mm のディッシュに 293T 細胞を播種して 24 時間後、pCDH/rNPC1L1、pMD2.G
(Addgene)および psPAX2(Addgene)を Lipofectamine LTX(Life Technologies)を用いて
293T 細胞に導入した。96 時間後、レンチウイルス粒子を含んだ上清は、遠心分離(2,000 ×
g、10 分)後、0.45-µm フィルターに供しレンチウイルス溶液とした。Caco2 細胞を 2.5 × 105
cells/well となるよう 6 ウェルプレートに播種した。24 時間後、培養液をレンチウイルス溶
34
液 0.5 ml と、10% FBS と 5 µg/ml ポリブレン(Santa Cruz Biotechnology)を含んだ DMEM(1.5
ml)
に置換し細胞を感染させた。
感染した細胞は 5 µg/ml ピューロマイシン
(Life Technologies)
存在下において培養し、rNPC1L1 発現細胞(Caco2/rNPC1L1)を樹立した。また、インサー
ト DNA を含まない pCDH-CMV-MCS-EF1-Puro ベクターを用いて同様の方法より細胞を樹
立し、Caco2/mock とした。
コレステロール取込みとエステル体の形成
Caco2/mock あるいは Caco2/rNPC1L1 細胞を 5 × 105 cells/well となるよう 12 ウェルプレー
トに播種し、10% FBS、100 units/ml ペニシリン、100 µg/ml ストレプトマイシンを含んだ
DMEM を用いて 10 – 14 日間培養し、小腸上皮様細胞へ分化誘導した。[3H]cholesterol 取込
みを測定するため、細胞に最終濃度 2 mM タウロコール酸ナトリウム(和光純薬)、50 μM
フォスファチジルコリン(Sigma-Aldrich)、1 μM コレステロール(Sigma-Aldrich)、1 μCi/ml
[3H]cholesterol、各濃度の ezetimibe あるいは活性化合物を含有したミセル溶液を 1 ml/well
添加し、37℃にて 1 時間培養した。PBS(+)にて細胞を 2 回洗浄後、0.1% lithium dodecyl sulfate
(LDS)含有 0.2N 水酸化ナトリウム(ナカライテスク)を 1 ml/well 添加し、室温 48 時間
振盪させ、その放射活性を液体シンチレーションカウンター(LSC-5100, ALOKA)にて測
定した。蛋白質濃度は BCA assay kit を用いて測定した。
エステル化された[3H]cholesterol を測定するため、細胞に最終濃度 5mM タウロコール酸
ナトリウム、500 μM オレイン酸(Sigma-Aldrich)、10 μM コレステロール、1 μCi/ml
[3H]cholesterol、各濃度の ezetimibe あるいは活性化合物を含有したミセル溶液を 1 ml/well
添加し、37℃にて 1 時間培養した。その後、無血清用カクテル Insulin-Transferrin-Selenium
(ITS, Thermo Fisher Scientific)含有 DMEM に置換し、さらに 37℃にて 8 時間培養しエステ
ル化を誘導した。その後、PBS(+)にて細胞を 3 回洗浄し、ヘキサン:イソプロパノール
(3:2)混合液 500 µl を用いて細胞から脂質を 2 回抽出し、ガラスチューブに回収した。
減圧下、溶媒を気化させた後、クロロホルム:メタノール(2:1)にて脂質を再溶解させ、
35
その全量をシリカゲルベースの薄層クロマトグラフィープレート(TLC, Merck Millipore)
にスポットした。TLC は、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(6:4:0.1)を用いて展開
した。展開した TLC はヨウ素(ナカライテスク)を用いて発色させ、他の脂質から分離し
たコレステロールエステルをかきとり、その放射活性を液体シンチレーションカウンター
にて測定した。また、脂質抽出後の細胞に 0.1% LDS 含有 0.2N 水酸化ナトリウムを 1 ml/well
添加し、室温 48 時間振盪後、その蛋白質濃度を BCA assay kit にて測定した。
統計解析
全てのデータのエラーバーは、標準誤差(S.E.)として示した。統計解析は one-way ANOVA
の後、Dunnett の多重比較検定を行った。有意水準は両側 5%とした。統計解析はエクセル
統計 2010 を使用した。
36
結果
Fomiroid A による NPC1L1 変異体の細胞内局在変化
NPC1L1 に結合するある種のステロイド系または非ステロイド系化合物は、NPC1L1 変異
体の誤った細胞内局在を修正するファーマコロジカルシャペロン活性を有し、それら化合物
は NPC1L1 の N 末端ドメインや ezetimibe 結合部位とは異なる部位に結合することが報告さ
れている[16, 17]。筆者は、fomiroid A が hNPC1L1 に直接結合する知見を得るため、この化
合物が hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP(L1072T/L1168I 変異体)の局在を小胞体から細胞膜へと
変化させるファーマコロジカルシャペロン活性を検討した。Figure 1A に示すように、
HEK293 細胞に発現させた野生型 hNPC1L1-EGFP の大部分は、細胞膜染色マーカーとの共
局在により細胞膜に分布することが示され、また、fomiroid A 添加による局在変化の影響は
認められなかった。一方、L1072T/L1168I 変異体は主に小胞体に局在し、細胞膜マーカーと
の共局在はほとんど観察されなかった。この結果は、これまでに報告された通りであった。
この細胞に fomiroid A を処理し 24 時間培養すると、L1072T/L1168I 変異体の一部は小胞体
から細胞膜へと局在を変化させた。
次に、fomiroid A によって増加した細胞膜局在を確認するため、ウエスタンブロッティン
グによる解析を行った。
変異による立体構造の崩れから小胞体に留まる未成熟な膜蛋白質は、
その N 結合型糖鎖修飾が高マンノース型になることが知られている。一方、小胞体の品質
管理システムを通過し、ゴルジ体を経由して細胞膜に分布した成熟膜蛋白質は、その糖鎖修
飾が高マンノース型糖鎖よりも分子量の大きい複合型糖鎖になる。この糖鎖修飾の大きさの
違いをウエスタンブロットにより解析した。
Figure 1B で示すように、
野生型 hNPC1L1-EGFP
の分子量は fomiroid A 処理により影響を受けなかった。一方、L1072T/L1168I 変異体は、分
子量の異なる 2 本のバンドとして泳動された。これら 2 本のバンドは、上が複合型糖鎖が付
加された成熟型であり下が高マンノース型糖鎖が付加された未成熟型と考えられた。
Fomiroid A は濃度依存的に成熟型の量を増加させることが明らかとなった(Figure 1C)。
37
A
B
C
Figure 1. Fomiroid A は NPC1L1 変異体の細胞内局在を変化させる
A. 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 を 用 い た 局 在 解 析 。 hNPC1L1-EGFP ( WT ) あ る い は
hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP(L1072T/L1168I)を安定的に発現した HEK293 細胞を溶媒のみ
あるいは 10 µM fomiroid A 存在下 24 時間培養し、その後 CellMask Orange を用いて細胞膜
(PM)を染色した。矢印は細胞膜に局在する NPC1L1 を示す。スケールバーは 10 μm。
B. ウエスタンブロッティング。WT あるいは L1072T/L1168I 変異体を発現した HEK293 細
胞に各濃度の fomiroid A 存在下 24 時間培養した。NPC1L1 は抗 GFP 抗体を用いて検出し
た。Vinculin は loading control として用いた。C. 成熟型 NPC1L1 のバンド強度を定量した。
エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
38
HA epitope tag 挿入による影響の検証
次に筆者は、細胞表面に分布する NPC1L1 を FACS にて定量的に解析しようと考えた。
しかし、NPC1L1 の細胞外領域を認識し FACS 解析に用いることができる市販抗体を得るこ
とはできなかった。そこで、Wang らや Li らの報告[18, 19]に従い、NPC1L1 の 986 番目の
セリンと 987 番目のロイシンの間に HA epitope tag を挿入し、抗 HA 抗体を用いて FACS 解
析を行うことにした。まず、HA epitope tag 挿入による NPC1L1 立体構造への影響を検証す
るため、[3H]EZG を用いた結合実験を行った。第一章で用いた HEK/rNPC1L1 細胞の膜画分
を比較対照とし、HEK/HA-hNPC1L1-EGFP 細胞の膜画分に対する[3H]EZG の特異的結合量
を検討したところ、両画分の[3H]EZG 結合量に差は認められなかった(Figure 2A)。
A
B
Figure 2. HA epitope tag 挿入は NPC1L1 立体構造に影響しない
A. [3H]ezetimibe-glucuronide([3H]EZG)を用いた結合実験。HEK293/rNPC1L1 あるいは
HEK/HA-hNPC1L1-EGFP 細胞を 4 mM 酪酸ナトリウムにて 24 時間処理し、その後、膜画
分を調製した。膜画分(37.5 µg 蛋白質)と 25 nM [3H]EZG を室温で 1 時間反応させ、放
射活性を TopCount にて測定した。非特異的結合は 100 µM ezetimibe 存在下にて測定した。
エラーバーは標準誤差を示す(n=4)。B. 共焦点レーザー顕微鏡を用いた局在解析。
HEK/HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP 細胞を溶媒のみあるいは 10 µM fomiroid A 存在下 24 時
間培養し、その後、CellMask Orange を用いて細胞膜(PM)を染色した。矢印は細胞膜に
局在する HA-L1072T/L1168I 変異体を示す。スケールバーは 10 μm。
39
次に、HA epitope tag を挿入した L1072T/L1168I 変異体(HA-L1072T/L1168I)を発現する
HEK293 細 胞 を 用 い て 局 在 解 析 を 試 み た 。 そ の 結 果 、 fomiroid A 処 理 に よ り
HA-L1072T/L1168I 変異体が細胞膜に分布することが観察された(Figure 2B)。これら結果
により HA epitope tag 挿入による NPC1L1 構造への影響は最小限であることが示唆された。
細胞膜に局在する NPC1L1 変異体の FACS 解析
次に HA-L1072T/L1168I 変異体の細胞膜への局在変化を FACS 解析によって定量化するこ
とを試みた。細胞膜に分布する HA-L1072T/L1168I 変異体は、抗 HA 抗体と Alexa 標識した
二次抗体により検出した。HEK293 細胞における HA-L1072T/L1168I 変異体の総発現量は、
C 末端に融合した EGFP の蛍光強度で示した。
HA-L1072T/L1168I 変異体を発現する HEK293
細胞を fomiroid A 存在下 24 時間培養すると、抗 HA 抗体と EGFP のダブルポジティブな領
域に分布する細胞数が 0.7%から 24.6%まで増加した。この結果は、fomiroid A 処理により
HA-L1072T/L1168I 変異体の構造が正常化し、小胞体から細胞膜へと局在が変化したことを
示している(Figure 3A)。一方、ezetimibe は HA-L1072T/L1168I 変異体の細胞内局在に対し
て影響を与えなかった。これら結果より、fomiroid A は NPC1L1 に直接結合してファーマコ
ロジカルシャペロン作用を示すことが示唆された。
40
A
B
Figure 3. 細胞表面に発現する HA-L1072T/L1168I 変異体の FACS 解析
HEK/HA-hNPC1L1L1072T/L1168I-EGFP 細胞を溶媒のみ(control)、10 µM fomiroid A(A)ある
いは 10 µM ezetimibe(B)存在下 24 時間培養した。細胞表面に発現する HA-L1072T/L1168I
変異体は抗 HA 抗体と Alexa Fluor 633 標識二次抗体を用いて検出し、その後 FACS 解析し
た。パネル右上の百分率は、抗 HA 抗体と EGFP のダブルポジティブな領域に分布する細
胞数の割合を示す。
コレステロール取込みとエステル体形成に対する fomiroid A の影響
ヒト結腸癌由来の培養細胞株である Caco2 細胞は、コレステロール取込みの in vitro モデ
ルとして広く用いられてきた[20-24]。また、Caco2 細胞に外来性 rNPC1L1 を発現させると
コレステロールの取込みがさらに増加することが報告されている[25, 26]。そこで、筆者は
レンチウイルス感染によって rNPC1L1 を安定的に発現した Caco2 細胞(Caco2/rNPC1L1)
を樹立し、NPC1L1 依存的なコレステロール取込みに対する fomiroid A の影響を検討するこ
41
ととした。Caco2/mock 細胞の内在性 hNPC1L1 の発現量と Caco2/rNPC1L1 細胞の内在性
hNPC1L1 と外来性 rNPC1L1 の総発現量は、抗 NPC1L1 抗体を用いたウエスタンブロッティ
ングにより確認した(Figure 4A)。これら細胞にミセルに溶解させた[3H]cholesterol を添加
し 1 時間培養したところ、Caco2/rNPC1L1 細胞のコレステロール取込み量は、Caco2/mock
細胞の取込み量の約 2 倍となった(Figure 4B)。Fomiroid A(30 µM)と ezetimibe(30 µM)
は、両細胞に対して同等のコレステロール取込み阻害活性を示した。しかし、外来性
rNPC1L1 の発現量が内在性 hNPC1L1 に対して約 8 倍高いことから期待されるほど
Caco2/rNPC1L1 細胞のコレステロール取込み量は高くなく、また fomiroid A と ezetimibe に
よる阻害も約 25%程度であった。これらの原因としては、疎水性の高いコレステロールが
ミセルから単純拡散を介して細胞膜に移行する NPC1L1 非依存的な取込みの関与が考えら
れた。
この問題を解決するために、次に [3H]コレステロールエステル量を測定することとした。
コレステロールは細胞内に輸送されると小胞体にて脂肪酸とエステル結合し、コレステロー
ルエステル体として脂肪滴に貯蔵される。NPC1L1 発現細胞は、コレステロールの細胞内輸
送が活性化されていると予想され、コレステロールエステルを測定することで、NPC1L1 の
機能を評価できると考えた。Figure 4C に示すように Caco2/rNPC1L1 細胞のコレステロール
エステル量は、Caco2/mock 細胞と比較すると約 8 倍高いことが明らかとなった。Fomiroid A
は、Caco2/mock 細胞および Caco2/rNPC1L1 細胞におけるコレステロールエステル形成を濃
度依存的に阻害した。Caco2/rNPC1L1 細胞におけるコレステロールエステル量は、30 µM
ezetimibe 処理により 29.2 ± 3.6%、
30 µM fomiroid A 処理により 14.4 ± 1.2%にまで減少した。
これらの結果は、fomiroid A が NPC1L1 の機能を阻害することによってコレステロール取込
みおよびコレステロールエステルの形成を抑制し、その阻害活性は ezetimibe と同等である
ことを示している。
42
A
B
C
Figure 4. Caco2/mock、Caco2/rNPC1L1 細胞のコレステロール取込みおよびコレス
テロールエステル形成に対する fomiroid A の阻害効果
A. ウエスタンブロッティング。Caco2/mock、Caco2/rNPC1L1 細胞における NPC1L1 の発現
を抗 NPC1L1 抗体にて検出した。B. コレステロール取込み活性。分化させた Caco2/mock
および Caco2/rNPC1L1 細胞に、最終濃度 2 mM タウロコール酸ナトリウム、50 μM フォス
ファチジルコリン、1 μM コレステロール、1 μCi/ml [3H]cholesterol と示した濃度の ezetimibe
あるいは fomiroid A を含有したミセル溶液を添加し、37℃にて 1 時間培養した。細胞に取
込まれた[3H]cholesterol の放射活性を液体シンチレーションカウンターにて測定した。C.
コレステロールエステル量の測定。分化させた Caco2/mock および Caco2/rNPC1L1 細胞に、
最終濃度 5 mM タウロコール酸ナトリウム、500 μM オレイン酸、10 μM コレステロール、1
μCi/ml [3H]cholesterol と示した濃度の ezetimibe あるいは fomiroid A を含有したミセル溶液を
添加し、37℃にて 1 時間培養した。その後、無血清用カクテル Insulin-Transferrin -Selenium
含有 DMEM に置換し、さらに 37℃にて 8 時間培養しエステル化を誘導した。有機溶媒よ
り抽出した細胞の脂質は TLC を用いて分離し、エステル化された[3H]cholesterol の放射活性
を液体シンチレーションカウンターにて測定した。エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
*p < 0.05、**p < 0.01 は Caco2/mock 細胞の control と比較した。 #p < 0.05、##p < 0.01 は
Caco2/rNPC1L1 細胞の control と比較した。
43
考察
Ezetimibe は NPC1L1 の第二細胞外ループへの結合を介して小腸からのコレステロールの
吸収を阻害する。しかし、ezetimibe やその誘導体以外に NPC1L1 に直接結合し、NPC1L1
の機能を阻害する低分子化合物はこれまで知られていなかった。本章では、クロサルノコシ
カケより単離した新規化合物である fomiroid A が NPC1L1 に直接結合することを示唆し、
NPC1L1 依存的なコレステロール取込みとコレステロールエステルの形成を強力に阻害し、
その効果は ezetimibe と同等であることを示した。
NPC1L1 の L1072T/L1168I 変異体に対してファーマコロジカルシャペロン活性を示す化合
物は、NPC1L1 の N 末端ドメインや ezetimibe 結合部位とは異なる第二ステロール結合部位
に結合すると推測されている[16, 17]。L1072T/L1168I 変異体は構造のフォールディングが正
常に起こらず、品質管理機構によって小胞体に留められる。この変異体にファーマコロジカ
ルシャペロン作用を持つ化合物が結合すると正しいフォールディングが促進され細胞膜へ
と再局在させることができる。筆者は、共焦点レーザー顕微鏡を用いた局在解析(Figure 1A)、
ウエスタンブロッティング(Figure 1B, C)、FACS 解析(Figure 3A)により fomiroid A の
L1072T/L1168I 変異体に対するファーマコロジカルシャペロン活性を検討した。その結果、
fomiroid A はファーマコロジカルシャペロン活性を有していることが明らかとなり、
fomiroid A が小胞体に留まる L1072T/L1168I 変異体への直接結合を介してその構造の崩れ
を補正し、小胞体の品質管理システムを通過させ、ゴルジ体を経由して細胞膜に輸送させた
ことが示唆された。一方、NPC1L1 の第二細胞外ループに結合する ezetimibe は[12]、これま
での報告のように[16]、そのような作用を示さなかった(Figure 3B)。これら結果は、fomiroid
A の NPC1L1 における主要な結合部位が、第二細胞外ループの ezetimibe 結合部位や第一章
で述べたコレステロールの結合部位である N 末端ドメインではなく、Karaki ら[16]によって
予測された第二ステロール結合部位であることを示唆している。
44
NPC1L1 を介したコレステロール取込みに対する fomiroid A の影響を解析するため、筆者
は rNPC1L1 を安定的に発現させた Caco2 細胞(Caco2/rNPC1L1)を樹立した。この細胞の
コレステロール取込みが 2 倍に上昇したことは、NPC1L1 がコレステロール取込みに関与し
ていることを明確に示している(Figure 4B)。しかし、コレステロール取込みに対する
ezetimibe の阻害作用は、in vivo のコレステロール吸収における劇的な作用と比べると弱か
った[3-5, 30]。これは、これまでの報告のようにミセルに含まれるコレステロールが細胞膜
に単純拡散で移動したためと思われた[21, 31]。
単純拡散の影響を除くため、筆者はコレステロールエステル量を解析した。NPC1L1 を介
し て 吸 収 さ れ た コ レ ス テ ロ ー ル は 小 胞 体 に 輸 送 さ れ 、 acyl-coenzyme A:cholesterol
acyltransferase(ACAT)の作用により脂肪酸とエステル結合し、コレステロールエステルと
して脂肪滴に貯蔵される。NPC1L1 ノックダウンや ezetimibe 処理した Caco2 細胞ではコレ
ステロールエステル量が著しく減少することが報告されている[27-29]。実際、ezetimibe は
Caco2/rNPC1L1 および Caco2/mock 細胞において、コレステロールエステルの形成を強力に
阻害した(Figure 4C)。Fomiroid A の阻害作用は ezetimibe と同程度であり、ezetimibe と
fomiroid A を 30 μM で用いた場合、Caco2/rNPC1L1 細胞におけるコレステロールエステル形
成阻害効果はそれぞれ 71%と 86%であった。Ezetimibe の ACAT 阻害活性は非常に弱いこと
が報告されているが[28, 32]、fomiroid A の ACAT 阻害活性については、今後検証しなけれ
ばならない課題である。また、十分量の fomiroid A が調製できなかったため、動物モデルに
おける検証が行えず、生体でのコレステロール吸収に対する fomiroid A の作用や ezetimibe
との併用効果は今後の課題として残された。
最後にまとめると、クロサルノコシカケから単離された新規化合物の fomiroid A は、
NPC1L1 に直接結合することが示唆され、その結合は、おそらく第二ステロール結合部位で
あると推定された。また fomiroid A は NPC1L1 依存的なコレステロールの取込みとコレス
テロールエステルの形成を阻害した。このように、fomiroid A はコレステロール吸収の新規
45
阻害剤として、また NPC1L1 依存的なコレステロール取込みのメカニズム解析のツールと
しての利用が期待できる。
46
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49
結論
本論文の研究目的は、NPC1L1 に直接結合し、その機能を阻害する天然物由来化合物を見
出すことであった。この目的のため、筆者は様々な化合物を豊富に含む植物やキノコの抽
出物を対象にスクリーニングを行った。各章における結果の要約は次の通りである。
第一章において、筆者は、NPC1L1 に対する[3H]ezetimibe-glucuronide([3H]EZG)の結合
を阻害する植物やキノコの抽出物をスクリーニングした。その結果、キノコの一種である
クロサルノコシカケの抽出物に強い阻害活性を見出した。高コレステロール食摂取により
血中コレステロール濃度の上昇を誘導したラットに対して、クロサルノコシカケ抽出物か
ら液々分配して得られたアセトニトリル層にコレステロール低下作用が認められたため、
さらに各種カラムを用いた分画と得られた画分の[3H]EZG 結合阻害活性を評価した。その結
果、ラノステロン誘導体である新規化合物を見出し、fomiroid A と命名した。Fomiroid A と
構造が類似し NPC1L1 の N 末端ドメインに結合するラノステロールや 25-ヒドロキシコレス
テロールには[3H]EZG 結合阻害活性が認められなかったことから、fomiroid A 結合部位は N
末端ドメインとは異なることが示唆された。
第二章では fomiroid A による[3H]EZG 結合阻害が NPC1L1 への直接結合を介した結果で
あることを明らかにするため、NPC1L1 変異体(L1072T/L1168I)に対する fomiroid A のフ
ァーマコロジカルシャペロン活性を検討した。L1072T/L1168I 変異体は、変異による立体構
造の崩れから主に小胞体に局在するが、fomiroid A を処理することによって細胞膜に再分布
することが共焦点レーザー顕微鏡を用いた局在解析により示唆された。また、ウエスタン
ブロッティングによる解析では、複合型糖鎖修飾された成熟型 NPC1L1 のバンド強度が
fomiroid A 処理により増強することがわかった。さらに、FACS 解析によって細胞膜に
L1072T/L1168I 変異体を発現する細胞数が fomiroid A 処理により 0.7%から 24.6%に増加する
50
ことが示され、L1072T/L1168I 変異体に対する fomiroid A のファーマコロジカルシャペロン
作用が明らかとなった。一方、ezetimibe は L1072T/L1168I 変異体に対してファーマコロジ
カルシャペロン作用を示さなかった。さらに、Caco2/rNPC1L1 細胞を用いた解析から、
fomiroid A は NPC1L1 依存的なコレステロールの取込みおよびコレステロールエステル形成
を阻害することが明らかになった。興味深いことに、その阻害作用は ezetimibe と同等であ
った。これら結果から、fomiroid A は ezetimibe とは異なった結合部位に直接結合すること
によって NPC1L1 の機能を阻害することが示唆された。
本論文における結果から、血漿コレステロール低下作用を示すクロサルノコシカケ抽出
物より単離され、構造決定された新規化合物の fomiroid A は、NPC1L1 の N 末端ドメイン
や ezetimibe 結合部位とは異なる部位に直接結合し、ezetimibe と同様、NPC1L1 の機能を阻
害することが示唆された(Figure 1)。
Figure 1. NPC1L1 機能を阻害する fomiroid A 作用部位の予想
51
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発表論文
A.
Tomohiro Chiba, Tsuyoshi Sakurada, Rie Watanabe, Kohji Yamaguchi, Yasuhisa Kimura,
Noriyuki Kioka, Hirokazu Kawagishi, Michinori Matsuo, Kazumitsu Ueda
Fomiroid A, a novel compound from the mushroom Fomitopsis nigra, inhibits
NPC1L1-mediated cholesterol uptake via a mode of action distinct from that of ezetimibe.
PLoS ONE 9(12):e116162, Dec 2014
参考論文
B.
Osamu Ohno, Taeko Watanabe, Kazuhiko Nakamura, Masaru Kawagoshi, Nobuo Uotsu,
Tomohiro Chiba, Masayoshi Yamada, Kohji Yamaguch, Kaoru Yamada, Kenji Miyamoto,
Daisuke Uemura
Inhibitory Effects of Bakuchiol, Bavachin, and Isobavachalcone Isolated from Piper longum on
Melanin Production in B16 Mouse Melanoma Cells.
Biosci Biotechnol Biochem 74(7):1504-1506, Jul 2010
C.
Masayoshi Yamada, Kazuhiko Nakamura, Taeko Watanabe, Osamu Ohno, Masaru
Kawagoshi, Norihiro Maru, Nobuo Uotsu, Tomohiro Chiba, Kohji Yamaguch, Daisuke
Uemura
Melanin Biosyntheis Inhibitors from Tarragon Artemisia dracunculus.
Biosci Biotechnol Biochem 75(8):1628-1630, Aug 2011
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謝辞
本研究を遂行し学位論文をまとめるにあたり多くのご支援とご指導を賜りました京都大
学大学院農学研究科応用生命科学専攻細胞生化学研究室の植田和光教授に心より感謝申し
上げます。また日々の研究に直接ご指導頂きました松尾道憲助教、研究方針や実験手法に
ご助言を下さいました木岡紀幸准教授、木村泰久助教に深く感謝申し上げます。
化合物の構造決定に関して技術的なご指導やご助言を頂きました静岡大学大学院農学研
究科応用生物化学専攻生物化学研究室の河岸洋和教授に謹んで深謝致します。
本研究を行う機会を与えて頂きました株式会社ファンケル取締役執行役員
士、執行役員
山口宏二博士、総合研究所ヘルスサイエンス研究センター長
炭田康史博
由井慶氏、
本研究を遂行するにあたり多くの協力を頂きましたファンケル総合研究所の櫻田剛史氏、
渡邊理恵氏に深く感謝致します。
在学期間から現在に至るまで私を暖かく受け入れご支援頂いた渡邊太郎氏、福田麻菜氏、
石神正登氏、石神麻衣子博士、並びに細胞生化学研究室の皆様に深く感謝致します。
最後に本論文作成に際して終始、陰で援助してくれた妻 久美子、長男 遼生、長女 美
怜、そして両親に感謝します。
2015 年 3 月
千場 智尋
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