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特集「BPOサービス最前線」 - Nomura Research Institute

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特集「BPOサービス最前線」 - Nomura Research Institute
特集「BPOサービス最前線」
06
2014 Vol.31 No.6
(通巻366号)
06 /2014
視 点
特 集 「BPOサービス最前線」
NRI Web Site
共同利用型システムサービス(ASP)とBPOの融合
藤田勝彦
4
能勢幸嗣
6
金子泰敏
10
内藤利明
14
阿川裕二
18
高木重史
20
香野 哲
22
環境変化に対応するためのBPO活用
―海外の金融機関・BPOベンダーの動向―
米国ITベンダーのBPOサービス
―システムに注目したBPOベンダーの選択―
資産運用会社におけるBPO活用の変化
―業務の増加と複雑化に対応するために―
新たなBPOサービスの展開
―資産運用分野の経験とノウハウを生かして―
オフショアBPOサービスの可能性
―日本企業のオフサイト活用に適した大連とは―
ITベンダーによるBPOサービスの意義
―システムサービスと融合した共同利用型BPOサービス―
NRIグループと関連団体のWebサイト
26
視点
共同利用型システムサービス(ASP)と
BPOの融合
資産運用会社は、投資信託の基準価額を算
にサービス内容(システム機能)を決定して
出する際にシステムが必要である。1990年に
いる。NRIは、お客さまの業務や法制度を十
外資系投信会社が参入するまで、各社はこの
分理解し、多くのお客さまのご要望を集約し
システムを自社で開発・保有するのが当たり
た上で、満足していただけるサービスレベル
前であった。しかし、それ以後は共同利用型
を目指して汎用化したサービスを提供してい
システムサービス(ASP)が普及し、現在
る。しかし、自社システムからASPに変更す
では自社でシステムを保有する資産運用会社
ると、それまでのオーダーメイドのシステム
は存在しない。ちなみに、野村総合研究所
が既製品のシステムサービスに変更されるた
(NRI)の「T-STAR」は基準価額算出のた
め、現場の満足度が低下するケースがあるの
めのASPで約80%という高いシェアを占めて
は否めない。また、同一の業務といえども、
いる。
ユーザーによっては、強みを発揮すべく独自
の業務プロセスを作り上げている場合もあ
4
ASPを採用するメリットはいろいろある
る。そのため、ASPに機能不足を感じている
が、まず挙げられるのが「大幅なコストダウ
ユーザーは、自社で業務ツールを開発する傾
ン」である。ASPを利用することは、システ
向にある。
ム開発コストを複数の会社で負担することと
ASPに各社固有の( 1 社しか利用しない)
同じであるため、ASPを利用する会社は、業
システム要件を取り込みにくいのは、ASPで
務に関わるシステムコストを大幅に削減する
は、システムトラブルの頻度を極小化するた
ことが可能である。
めの膨大なシステムテスト、および複数社の
コスト削減以外にも、度重なる制度改正に
利用を可能にする機能追加など、一般的な自
対応するための情報収集・調査、ならびに要
社開発に比べ開発コストが割高になるためで
件定義の負荷軽減、ITの管理(ソフトウェ
ある。
アおよびハードウェアの保守、IT統制など)
2010年 7 月に設立されたNRIプロセスイノ
からの解放、自社ニーズ以外のシステム機能
ベーションは、主に、資産運用会社向けのバ
の利用(複数ユーザーのニーズを満たすた
ックオフィス業務(ほぼ全域)を対象とする
め)など、ASPを利用することにはさまざま
ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)
なメリットがある。また、多くの同業他社が
サービスを提供する会社である。NRIプロセ
同一システムを利用しているという安心感も
スイノベーションは、上記のような汎用化さ
副次的なメリットとして挙げられるだろう。
れたASPだけでは応えられない各社のニー
ASPは、業界の標準的業務フローを前提
ズに対応することも可能とした。
2014年6月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
野村総合研究所
執行役員
資産運用ソリューション事業本部長
藤田勝彦(ふじたかつひこ)
一 般 に、 企 業 がBPOに 期 待 す る こ と は、
より発生するオペレーショナルリスクや各種
コスト削減、コストの変動費化、退職・休職
マネジメント業務からの解放のためにBPO
などの要員リスクへの対応、属人化の排除、
を活用するケースもある。このようにBPO
業務プロセスの明確化、
BCP(事業継続計画)
の活用事例は、組織単位から業務単位までと
対策などであろう。しかしBPOサービスを
規模も範囲もさまざまである。
採用するに当たっては、移管業務の担当者の
配置をどうするかといった人事面の大きな課
NRIのASPとNRIプロセスイノベーション
題がある。そのため、メリットを享受したい
のBPOサービスは、高品質かつリーズナブ
と思っても実際にBPOサービスの採用に踏
ルな価格のサービスを提供するために、複数
み切れない企業も多い。
ユーザーの業務の共通化・標準化の徹底や、
そこでNRIおよびNRIプロセスイノベーシ
大幅なコストダウンを図るためのオフショア
ョンでは、ユーザーごとの異なる課題を解決
活用などを行っている。またASPだけでは対
するために、ASPとBPOサービスを組み合
応しきれない各社固有のニーズに対しては、
わせた提案を行っている。
まずBPOサービスを提供し、類似のBPOサ
BPOのハードルとなる人事面の課題をリ
ービスを複数社が利用する段階で業務プロ
フトアウト(BPOベンダーへの転籍)や他
セスを共通化・標準化していく。その結果
部署への異動で解決できる場合は、対象業務
をASPにシステム機能として追加すること
の全てをBPO可能である。
で、BPOのコストが減少するだけではなく、
しかし、転籍や異動に抵抗があるような会
ASPの機能が拡充され、他ユーザーでも利用
社でも、部分的なBPOサービスを活用して
できるようになる。
BPOのメリットを享受することも可能であ
このように複数社の業務を横断して比較・
る。さまざまな理由で発生する要員不足を、
分析し、業務を標準化した上でASPの機能向
増員で対応するのではなく、BPOで解消す
上ならびにBPOサービスの提供を行うこと
るケースである。例えば、時期によって繁閑
は、ASPを提供しているBPOベンダー、ま
が生じる業務などで、多忙な時のあふれた業
たは、ASPを提供しているシステムベンダー
務にBPOを適用したり、差別化となるレポ
と提携しているBPOベンダーによってのみ
ートのみ自社で作成し、それ以外のレポート
可能となる。このメリットを生かし、今後も
作成業務をBPOするなどである。
付加価値の高いASPとBPOサービスの提供
ASPでは対応できない各社固有業務につ
を通じて、お客さまの満足度の向上に努めて
いて、業務ツールや手作業で対応することに
いくつもりである。
■
2014年6月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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特 集 [BPOサービス最前線]
環境変化に対応するためのBPO活用
─海外の金融機関・BPOベンダーの動向─
欧米の金融機関では、コスト削減の意識から相当の業務領域も外部委託するようになって
きている。しかも、委託先に対してコスト削減だけでなく、環境変化に迅速に対応できるビ
ジネスパートナーとしての役割を求めるようになっている。本稿では、その要求にBPO(ビ
ジネスプロセスアウトソーシング)ベンダーがどのように対応しているかを紹介する。
欧米金融機関のBPOの動向
欧 米 の 金 融 機 関 で はBPOが 進 ん で お り、
かなりのノウハウや知識が必要な業務領域
6
化によって企業が損失を被るリスク)を考慮
してのことと思われる。
金融機関が直面する環境変化
で も 外 部 委 託(KPO:Knowledge Process
欧米に限らず、金融機関は制度改正のよう
Outsourcing)を行う傾向にある。野村総合
な環境変化に迅速に対応することを求められ
研究所(NRI)が日本を除く三大保険市場で
ている。金融機関がBPOベンダーに求める
ある米国、英国、フランスの状況を調査した
ようになったのも、コスト削減だけでなく、
結果でも、契約書データ入力のような定型的
このような対応を一緒に進めてくれるパート
な業務にとどまらず、募集人教育や料率検
ナーとしての役割である。
証、規程集作成のような、高度なノウハウや
金融機関をめぐる環境変化の 1 つ目はコン
相応の経験が必要な業務まで外部委託してい
プライアンス(法令順守)の強化である。情
ることが分かった。
報漏えいやマネーロンダリングなどの不祥
英国や米国の金融機関が幅広い業務を外部
事が後を絶たないことから、各国の監督機関
委託できる理由には、言語面で委託の選択肢
は投資家および消費者を保護するための規制
が広いことも挙げられる。実際、委託先はイ
を強化している。どの金融機関と話しても最
ンドやフィリピン、カナダと多くの国にわた
初に出てくる話題がコンプライアンスに関す
っている。また、委託先の国の人件費が高く
るものであることがこれを反映している。コ
なると、人件費の安い国へと次々と委託先を
ンプライアンス強化の流れは今後も続いてい
替えていることも分かった。
くことは確実であり、規制が強化されるたび
日本企業の場合は、主に言語の問題から委
に、統制環境の強化、報告様式の変更、事務
託先は国内および中国の一部地域の企業に限
処理やシステムの変更が必要になる。
定され、委託している業務の範囲も狭い。海
2 つ目は顧客接点の多様化である。従来は
外委託に際して委託業務の範囲が狭いのは、
書面で顧客とやり取りしていた申し込み手続
カントリーリスク(国や地域の社会情勢の変
きなどが、今ではメールやWebページ経由で
2014年6月号
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野村総合研究所
金融ITイノベーション事業本部
金融IT事業開発部
グループマネージャー
能勢幸嗣(のせこうじ)
専門はBPO、チェンジマネジメント、
内部統制
も行われるようになっている。このようなペ
業務)のうちリスクの低いものを外部化する
ーパーレス化は、金融機関にとっては紙や郵
という考え方が根底にあった。そのため、要
送費といったコストの削減につながる半面、
件定義は委託側が行い、受託側は単純作業の
業務管理や顧客情報管理を複雑にしている。
定型業務を行うといった形態が主流であっ
申し込みや証券の交付などでも、紙を使った
た。受託側は工夫を積み重ねて生産性を向上
手続きが全くなくなるわけではなく、さまざ
させ、作業単価を低減させることで委託側の
まなルートやチャネルでの処理が混在するか
コスト削減を可能にしたのである。
らである。保険の申込書を例に取ると、書面
しかしこのような形態には、委託した業務
で顧客とやり取りされて代理店で計上される
が硬直化しがちで、環境変化に弱いという面
処理、同様に書面が保険会社の事務センター
がある。金融機関が環境変化に迅速に対応す
に送付されて計上される処理がある。それだ
るためには、BPOベンダーがシステム面に
けでなく、顧客が自らPCを操作してWebペ
も精通し、先を読んで自ら改革の提案を実行
ージから申し込みを行うこともある。従って
に移し、人とITを組み合わせた複雑な業務
BPOベンダーには、これらの複数の顧客接
をプロセス全体としてマネジメントできるこ
点経由の業務を設計する力、業務運営を管理
とが必要になってきているのである。
する力、またそれらの顧客情報を一元管理す
る力などが求められている。
BPOベンダーの対応
3 つ目は、異業種からの新規参入が増えて
欧米のBPOベンダーは上記のような金融
いることである。今ではほとんどの家庭でス
機 関 の ニ ー ズ に 対 応 す べ く、BOT(Build-
マートフォンやタブレット端末が使われてい
Operate-Transfer)、ワンストップ化、サービ
ると思われるが、それはインターネットがそ
ス化などによって、自らリスクを取ってサー
れだけ生活に浸透したということである。そ
ビスを提供するベンダーへと変身しつつある
れに伴って、異業種から参入した、実店舗を
(次ページの図 1 参照)。
全く持たない金融機関も登場している。そこ
(1)BOT契約による強みの持ち寄り
では新規参入ゆえに商品開発や業務変更がス
欧米の金融機関から業務委託を受けること
ピーディーであり、BPOベンダーに対して
の多いインドの場合、BPOベンダーと金融
はそのスピードに遅れずに対応することを求
機関の両者が強みを持ち寄り、リスクを分
めている。
担し合うことで先進的な領域のサービス開
BPOというと、これまではノンコア業務
発に取り組むBOTという契約形態が見られ
(競争力に結び付かない、他社と違いのない
る。BOTでは、BPOベンダーが設備を建設
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7
特 集
図1 ワンストップモデルからBPS/BPaaSモデルへ
モ
デ
ル
ワンストップモデル
(BPO+ITO)
伝統的なBPO
・スタンドアローンのBPO
特 ・人件費格差による低コストリソ
徴
ースを活用
・人月単位に基づく価格
・BPOとITサービスを統合したサ
ービスを提供
・人月単位からトランザクション
単位の価格設定へ移行
・業務委託からサービス利用へ
・トランザクション単位もしくは
成果物のみに代金を支払う
・労働力コストの価格差で一時的
なコスト削減
・業務部門とIT部門の調整負荷が
軽減
・技術への投資の負荷が軽減
・人、プロセス、技術を心配する
必要がない
・法制度などに対応する負荷軽減
・業務量増減に対して柔軟に対応
・ベンダーとクライアントのイン
センティブが異なる
リ
ス ・クライアントはコスト最小化に
ク
努め、ベンダーは請求最大化に
努める
・クライアントのリスクは低減さ
れる
・ベンダーが受注業務に関して一
定規模以上のボリュームの確約
を望む
・発生した成果に対して料金を支
払う(クライアントはリスクを
負わない)
・投資リスクを複数社とシェア
価
値
し(Build)
、人材を確保して教育するなど業
とシステム部門の調整に多くの時間とコスト
務開始のための準備を行い、その後一定期間
を要する。要件定義は業務部門が行い、その
サービスを提供する(Operate)
。そして決
要件をシステム部門に伝達してシステムを開
められた期間が終了すると委託側に業務を移
発し、そのシステムを業務部門とBPOベン
管(Transfer)するのが基本だが、委託側の
ダーがユーザーとして確認するという流れの
意向によってはそのまま委託契約へと移行す
中で、多くの調整が必要になるのである。シ
る場合もある。
ステム部門にとっては、業務部門やBPOベ
BOTは委託側の金融機関にとってリスク
ンダーが業務で使うシステムの開発優先度は
を抑えつつ新しい業務を開始できるメリット
低く、業務の内容に精通している要員も少な
があるだけでなく、受託側のBPOベンダー
い。そのため、ただでさえ時間がかかる調整
にとっても、業務のノウハウを吸収すること
は大きな負荷となる。
によって次の展開がしやすくなるというメリ
欧米の金融機関を顧客とするBPOベンダ
ットがある。インドでは、BPOサービスの
ーの多くは、ワークフローなどのツールを自
萌芽期にこの契約形態がよく見られた。現在
前で用意して受託範囲の全ての業務をワン
も、委託側金融機関が新しいサービスを開始
ストップで提供している。BPOベンダーが、
する場合に行われているようである。
手作業による業務とツールのようなシステム
(2)
ワンストップ化による調整コスト削減
一般に、業務を変更する場合には業務部門
8
BPS/BPaaSモデル
要素の両方を提供することは、顧客の調整の
負荷や時間をなくすことになるため、調整コ
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ストという見えないコストの削減ができると
客企業の数だけ必要となる。BPOベンダー
ともに、業務の柔軟性を確保できる。それだ
が自ら標準的な業務とシステムを設計してサ
けでなく、従来は顧客企業が自社システムに
ービスとして提供すれば、そのコストを顧客
施していたカスタマイズを行わずに済み、シ
企業が負担するとしても、複数企業が分担す
ステムの疎結合化(システム間で互いへの依
ることでコストを数分の 1 に抑えることも可
存度を低くすること)とシステムコストの削
能となる。また、複数社に同じサービスを提
減にもつながる。
(詳細はNRI発行の『金融
供することで業務ボリュームが大きくなり、
ITフォーカス』2013年 5 月号参照)
顧客企業の業務の繁閑にも柔軟に対応できる
(3)
サービス化の進展
ようになる。
より進んだBPOベンダーは、顧客が要件
委託側の企業にとっても、サービスとして
定義を行った業務プロセスを受託して運営す
提供を受ける部分と自社で設計・運営する部
るのではなく、自ら業務プロセスを定義し
分を明確に分けることで、全体としてのコス
て提供するBPS(業務プロセスサービス)も
ト削減が図れ、かつ自社対応部分の対応スピ
しくはSaaS(Software as a Service)をもじ
ードを上げることができると考えられる。
ったBPaaS(Business Process as a Service)
と呼ばれる「サービスモデル」へとビジネス
日本企業も新しい挑戦を
モデルを変化させつつある。
筆者は日本や中国のBPOベンダーも訪問
インドの大手BPOベンダーの中には、業
してインタビューしたが、多くのベンダーが
務規模の拡大に伴い、システム会社を買収す
ツールやシステムを顧客企業から提供されて
るなどしてBPOとITO(ITアウトソーシン
いるのが現状である。その理由はBPOベン
グ)をワンストップで提供するところがある
ダー側の力不足とともに、委託側企業の誤解
が、最終的には、単なるワンストップモデル
にもある。両者が、人手による業務とシステ
から、自ら顧客の業務プロセスの詳細要件定
ムの両方を一体としてサービス化する是非に
義を行いシステムと業務の再設計を行うサー
ついて、あらためて検討するタイミングにあ
ビスモデルへと自身を変化させようとしてい
るのではないだろうか。
るのである。
日本企業も、単なるコスト削減という視点
通常のBPOの場合、同種の業務であって
で業者を選定するのではなく、ともに将来を
も顧客企業によって入力フォーマット、処理
描けるビジネスパートナーとしてBPOベン
順番などが微妙に異なる。そのため、業務の
ダーを選定し、共同して業務改革を推進する
設計やトレーニング、システム投資などが顧
ことが必要と考える。
■
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特 集 [BPOサービス最前線]
米国ITベンダーのBPOサービス
─システムに注目したBPOベンダーの選択─
資産運用会社では、システム導入プロジェクトに伴うリスクやその後の保守・維持管理の
負担が増している。本稿では、一度は自社でのシステム導入をあきらめた米国のある資産運
用会社が、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を活用することでシステム導入と業
務移管に同時に成功した事例を紹介する。
資産運用会社のBPO活用の広がり
形態)への活用形態の変化であり、もう 1 つ
国内の資産運用会社では、ここ 3 、4 年で
は対象業務範囲の拡大という中身の変化であ
BPOの活用が急速に増えている。2013年に
る。この変化の過程では、業務を担うシステ
野村総合研究所(NRI)が行ったアンケート
ムの役割が重要となっている。
調査(57社が回答)では、約 6 割の資産運用
なお、基準価額計算のような業務は2000年
会社でBPOが行われている実態が明らかに
よりも前から外部委託が行われていたが、も
なった。内訳を見ると、日系の資産運用会社
ともと資産運用会社が行う業務とは見なされ
の 4 割、外資系(日本拠点)では 9 割を超え
ていないため、本稿ではミドルオフィス業務
る資産運用会社が利用している。利用がまだ
のアウトソーシングが拡大した2000年以降の
少ないという意味で、日系の資産運用会社で
動向に着目している。
は活用拡大の余地があると言えそうだ。
BPOの活用が進む米国でも、その歴史は実
10
ベンダーが提供する業務サービスを利用する
資産運用業務におけるシステムの重要性
はそれほど古いものではない。本格的に広が
「運用ビジネスは今や装置産業だ」。システ
り始めたのは、日本より約10年ほど先行する
ムが業務の根幹であることを評したある資産
2000年ごろのことである。大手の資産運用会
運用会社の経営者の言葉である。運用スキル
社PIMCO(Pacific Investment Management
のような、一見、人に依存する印象がある資
Company)が2000年にBPOベンダーへ300人
産運用業においても、他業種と同様にシステ
規模の転籍(リフトアウト)を行ったのが先
ムは重要なビジネスインフラなのである。
駆けの 1 つといわれ、それ以降、現在に至る
資産運用会社の業務は多岐にわたる。投資
まで、BPOを活用する資産運用会社の数や
判断やポートフォリオ構築、取引執行といっ
割合は増え続けている。
たいわゆるフロントオフィス業務、ポートフ
BPO活用の仕方も変化しており、そこには
ォリオ管理、パフォーマンス評価、リスク分
2 つの特徴がある。1 つは、リフトアウト型
析、顧客報告資料作成といったミドルオフィ
BPOからコンバージョン型BPO(単にBPO
ス業務、ファンド会計や取引・残高データの
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野村総合研究所
金融ITイノベーション事業本部
金融ITソリューション企画部
グループマネージャー
金子泰敏(かねこやすとし)
専門は資産運用分野のソリューションの企画・
マーケティング、調査・コンサルティング
精査・照合、法定帳票作成といったバックオ
ある。また、システムが資産運用会社の業務
フィス業務など、どれも重要なものだ。これ
おいて重要であることから、BPOベンダー
らの各業務を正確かつタイムリーに効率よく
が導入しているシステムの特性や優劣がユー
行うためにはシステムの活用が欠かせない。
ザーである資産運用会社からの評価に大きく
資産運用会社の業務がシステムによって支
影響することがある。
えられている状況は、その業務サービスを
提供するBPOベンダーにおいても同様であ
米国でのITベンダー系BPOの活用事例
る。システムサービスとは異なり、BPOサ
BPOベンダーが持つシステムが採用の前
ービスではシステムが業務の陰に隠れている
提となった米国での事例を紹介したい。欧州
ため、業務の背後で使われているシステム機
に本社を置く大手の資産運用会社が、システ
能の優劣はサービス品質にあまり影響しない
ムにこだわりを持ってベンダーを評価した事
という指摘がある。確かに、データの照合作
例である。
業のような比較的単純な業務ではこの指摘は
この資産運用会社の主要業務の 1 つに、米
正しい。しかしながら、基準価額計算やポー
国地方債を対象とした資産運用業務がある。
トフォリオ管理、リスク管理やパフォーマン
米国地方債は種類も多く複雑なためデータの
ス分析など、資産運用会社の中核的な業務で
管理が難しく、また税制などの米国固有のル
は、システムが業務の品質やパフォーマンス
ールに精通していることも必要である。
に与える影響は小さくない。
同社がBPOに至った経緯は以下のとおり
BPOの業務範囲が拡大すると、業務知識
である。2007年ごろ、米国地方債を管理する
の必要な比較的難しい業務や、個別性の強い
ためのポートフォリオ管理システムの更改の
業務が含まれてくるため、業務の難易度が高
検討が始まった。検討の結果、当時最先端と
まる傾向がある。同時に、より高度な機能が
評されていたあるパッケージシステム(以
システムにも求められる。従って、BPOベ
下、システムX。商品のカバー範囲が広くシ
ンダーが資産運用会社の業務要件に応えるた
ステムの柔軟性が高いとされている)を自社
めには、資産運用会社と同様にシステムを整
に導入する決定をした。当初はBPOではな
備し強化する必要がある。
くシステム導入プロジェクトとして検討を進
事実、欧米でのBPO拡大の背景にはBPO
めていたのである。しかし、その後に起きた
ベンダーのシステム投資があり、それによっ
金融危機によりIT予算の抑制を迫られ、プ
てコンバージョン型BPOサービスの提供や、
ロジェクトのリソース不足に加え、プロジ
より広い業務のカバーが実現されてきたので
ェクトマネジメントにも問題があったため、
2014年6月号
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11
特 集
表1 BPOベンダー選択時の3社比較検討(A社を採用)
利用システム
12
業務移行期間
カスタマイズ対応
業務知識
A社
(ITベンダー)
○:システムX
○:3カ月
○:可
○:高
B社
(金融機関系)
×:他ベンダー製品
×:銀行グループのコンプライアンス
ルール確認に時間を要する可能性
×:不十分
○:高
C社(金融機関系)
○:システムX
×:銀行グループのコンプライアンス
ルール確認に時間を要する可能性
×:不十分
△:中
2009年にプロジェクトの継続は困難と判断さ
た。表 1 にあるように、金融機関系ベンダー
れた。そこで、業務の一部を外部委託するこ
は、銀行グループとして課せられているコン
とに方針を変更し、2011年に業務移行が実施
プライアンス(法令順守)ルールとの整合性
された。
の検討などで準備に時間がかかることが想定
同社のプロジェクトを支援した米国のコン
されており、短期間での移行は困難だった。
サルタントに話を聞くと、BPOベンダーの
3 つ目は、カスタマイズへの対応である。
選定では 3 社が候補に挙がり、特に 3 つのポ
金融機関系の 2 社はともにカスタマイズ対応
イントが重視されたという(表 1 参照)。
に合意しなかったのに対して、ITベンダー
1 つはシステムである。もともと導入を考
系のA社は新たに地方債の専門家を10人採用
えていたシステムXがBPOベンダー自身の業
して対応することができた。もともと両社に
務インフラとして使われていることが望まし
はビジネス上の関係があり、経営レベルでの
いと考えられた。導入は見送ったが、ポート
信頼が厚かったこともA社の前向きな対応を
フォリオ管理などのシステム機能が同社の業
後押しした。一方、金融機関系の 2 社は、金
務にとって有効で魅力的だったためだ。ま
融危機の影響を受けて経営的に厳しい環境に
た、それまでの導入プロジェクトで準備して
あったため、新たな人材の採用は困難だった
きたリソースを活用することができ、業務移
のである。
行の負担を軽減できるメリットも大きいとさ
以上の検討を経て総合的に判断した結果、
れた。
ITベンダー系のA社に業務を委託することに
2 つ目は、短期間で移行できるかどうかで
なった。
ある。それまでのプロジェクトの遅延もあ
と こ ろ で、BPOが 進 ん で い る 米 国 に は、
り、3 カ月以内に業務移行を完了することが
グローバルカストディアン(複数国の有価証
経営からの条件だった。そのため、過去のリ
券の保管・管理を行う金融機関)のような
ソースを再利用することで期間短縮を図り、
金融機関系のBPOベンダーと、それ以外の
さらにベンダーの対応にもスピードを求め
BPOベンダーがある。後者の中には、もと
2014年6月号
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もとITサービスを提供していた会社が後に
と述べたが、例えばシステム更改や新規シス
業務サービスを提供するようになった、上記
テムの導入を機に利用が拡大する可能性があ
のA社のようなITベンダー系BPOベンダー
る。ここでその理由を述べたい。
が含まれる。なお、本稿では主に伝統的資産
前述の米国の事例をもって、ITベンダー
運用会社向けに業務サービスを提供してい
系BPOベンダーが金融機関系BPOベンダー
るBPOベンダーについて述べている。ヘッ
より優れていることを示したいわけではな
ジファンドやプライベートエクイティーファ
い。この事例は、資産運用会社がシステムプ
ーム(外部資金を集めて未公開株投資を行う
ロジェクトに関わるリスクを軽減した一例と
ファンド)のような、いわゆる非伝統的資産
して捉えることができる。BPOを活用する
運用会社向けには、金融機関系やITベンダ
ことで、結果としてBPOベンダーが導入し
ー系以外にも、アドミニストレーション業務
たシステムを利用することになり、少ない導
(事務代行業務)を専業とするBPOベンダー
入リスクで必要とするシステムを手に入れる
も存在する。
ことに成功したのだ。
運用資産残高ベースでは、金融機関系BPO
通常、日本の資産運用会社では、数年に一
ベンダーのマーケットシェアが高いと推測さ
度、比較的大きなシステム更改を行ってい
れる。大手の資産運用会社を中心に採用され
る。システム基盤の老朽化対策や、国内のビ
ているからだ。その理由の 1 つには価格競争
ジネス環境の変化への対応など理由はさまざ
力があるといわれる。グローバルカストディ
まである。事業を継続するためにはシステム
アンは、運用資産残高が多いほど収益化しや
の更改は必須だが、そのようなシステムプロ
すい性質のあるカストディー(有価証券の管
ジェクトに経営リソースを投入し、そのシス
理)サービスを提供しており、特に大手の資
テムを保守・維持管理することは資産運用会
産運用会社に対しては、BPOとカストディ
社の本業ではない。そのため、今後はシステ
ーをセットにして価格を提示できることが大
ム更改のタイミングでBPOの活用に移行す
きい。従って、上記事例の資産運用会社が一
るケースが増えることは想像に難くない。特
般的には不利と思われるITベンダー系BPO
にプロジェクトの難易度が高く、多くのリソ
ベンダーを選んだのは、あえてシステムにこ
ース投入を必要とするケースではBPOがリ
だわった結果と見ることができる。
スク軽減の有力な手段となる。そのような際
日本市場におけるBPOを考える
冒頭、国内のBPOには拡大の余地がある
に、BPOベンダーの選択においてベンダー
がどのようなシステムを利用しているかが重
視されることは間違いない。
■
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レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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特 集 [BPOサービス最前線]
資産運用会社におけるBPO活用の変化
─業務の増加と複雑化に対応するために─
日本の資産運用業界では、バックオフィス業務を中心に自社での業務運営からBPO(ビジ
ネスプロセスアウトソーシング)サービスに移行するケースが多く見られるようになった。
資産運用会社向けBPOサービスは始まってから20年に満たないが、その間にさまざまに変化
してきた。本稿では、資産運用会社のBPOの歴史を振り返るとともに最新の動向を紹介する。
資産運用会社におけるBPOの始まり
は、投資信託の基準価額を資産運用会社と受
日本の投資信託は1950年代に始まったとさ
託銀行の両者が算出して照合するという業務
れ、半世紀の歴史を歩んできているが、資産
慣習があり、業務ノウハウは資産運用会社と
運用業界でBPOサービスが活用されるよう
受託銀行が有していたので、信託銀行が外資
になってからはまだ20年もたってない。
系資産運用会社の一部の投資信託の基準価額
資産運用業界では、外資系および銀行系の
算出を「T-STAR」を使って代行することを
新規参入を機に、各種バックオフィス向けシ
始めた。これが基準価額算出業務のBPOの
ステムサービスの提供が1990年ごろに開始さ
始まりである。その後、各受託銀行は、投資
れた。当時、バックオフィス業務の 1 つであ
信託の信託財産管理業務を受注するための付
る受益証券管理業務は資産運用会社が行って
加価値向上のサービスとして、基準価額算出
いたが、券面の在庫やステータス(予備券、
業務を請け負うことを「事務代行サービス」
本券、廃券の状況)の管理などは本業ではな
14
務を外部委託する動きが出てくる。日本で
(「事務受任サービス」ともいう)と名付けて
いとする資産運用会社が出るようになり、こ
BPOサービスの提供を始めた。
の業務の外部委託のニーズが高まってきた。
当時、既存の資産運用会社は基準価額算出
そこで、ビジネス代行会社は野村総合研究所
業務のノウハウと体制を有していたため、事
(NRI)の「T-STAR」のような共同利用型
務代行サービスを利用するケースは見られな
システムサービスを導入して資産運用会社か
かったが、事務代行サービスは、1998年ごろ
ら業務を受託するようになった。受益証券管
から急増した外資系を中心とする資産運用ビ
理業務は資産運用会社のバックオフィス業務
ジネスへの新規参入を大きく後押しする要因
のごく一部にすぎないが、これが資産運用会
となった。日本の基準価額算出のルールは非
社におけるBPOの始まりと考えられる。(現
常に難解であり、新規参入する運用会社にと
在は、投信振替制度の導入で受益証券管理業
って業務経験者の調達が大きな課題となって
務は縮小している)
いた。そのような状況で受託銀行の事務代行
次いで、資産運用会社では基準価額算出業
サービスが始まったことで、新規参入の資産
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NRIプロセスイノベーション
資産管理サービス事業本部
資産管理サービス事業部長
内藤利明(ないとうとしあき)
専門は資産運用業界におけるBPO
およびシステム営業
運用会社のほとんどがBPOを採用すること
い業務ノウハウを有するその会社のプロ集団
となったのである。
をNRIが迎え入れることになった。その業務
その後、資産運用会社内でのノウハウの蓄
ノウハウを生かして広範囲の業務を対象とす
積やBPOコストの増加、事務代行サービス
るBPOサービスを提供するために設立され
から撤退する受託銀行の出現に伴い、BPO
たのがNRI-PIである。
から自社での業務運営へ移行する動きも見ら
新たにBPOの対象とすることになった業
れたが、現時点でも半数以上の資産運用会社
務は、約定や時価および銘柄属性情報を管理
がBPOサービスを利用している。NRIは、顧
する「データプロセッシング」、運用報告書
客からの要請により、資産運用会社がBPO
や目論見書(投資判断に必要な重要事項を説
から自社での業務運営へ移行するのを支援す
明する文書)を作成する「投信ディスクロー
る形で、2004年からBPOサービスに参入し
ジャー」、投資信託の売買に関する「設定・
ている。
解約管理」、年金ファンドなどの信託財産管
拡大するBPOの対象業務
理およびレポート作成に関する「投資顧問管
理」などが挙げられる。
前述のとおりすでに1990年代に始まってい
NRI-PIは、BPO対象業務の範囲を拡大し
たBPOは、対象業務も対象顧客も(新規参
ただけでなく、今までは新規参入の資産運用
入組以外に)拡大することなく15年ほどが経
会社しか採用していなかったBPOが、基準
過したが、2010年にNRIプロセスイノベーシ
価額算出の体制・ノウハウを自社で有する
ョン(NRI-PI)が設立されたのを機に状況
既存の資産運用会社にまで採用されるに至
が変化してきた。
ったという意味で、資産運用業界のBPO活
それまで行われていたBPOは、
「T-STAR」
用に転機をもたらした。以前からバックオフ
や受託銀行のシステムがカバーしている業務
ィス業務を内部で行ってきた資産運用会社
範囲に限定されており、システムオペレーシ
は、BPOがコスト削減や要員リスクの回避、
ョンを代行する色合いが強いサービスとなっ
BCP(事業継続計画)などに有効であること
ていた。また、従来のBPOベンダーには資
は理解しても、業務を外部に委託する経験が
産運用会社の幅広いバックオフィス業務につ
ないためにためらわざるを得ないのが実情だ
いてのノウハウがなく、サービスの拡大は難
った。しかし、NRI-PIの設立以降、大手を
しかった。そのような時に、本業へ集中する
含む複数の資産運用会社がBPOを採用する
ためにバックオフィス業務を外部委託しよう
事例や、すでにBPOサービスを活用してい
という資産運用会社が現れ、業界の中でも高
た資産運用会社が委託業務の範囲を拡大する
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15
特 集
事例が多く見られるようになった。
最近のBPO活用の動向
16
託(不特定かつ多数の投資家を対象とする投
資信託)が 5 千を超えたというニュースも報
じられた。さらに2014年 1 月から開始された
BPOというと、人事も含めた組織単位の
NISA(少額投資非課税制度)によって一般
大掛かりな業務委託を想像することが多いと
投資家の裾野が広がり、さらなる新商品の投
思われるが、近年ではそのような経営層の判
入による投資信託の増加が見込まれるだろ
断によるBPOばかりではなく、業務運営の
う。新商品の追加には新たな業務ノウハウの
現場(当事者)が労働力と業務量のバランス
習得も必要となり業務量増加の一因となる。
を考えてソリューションとしてBPOを採用
また、投資家への情報提供を充実させるた
するケースもある。資産運用業務は投資家保
めに、投資信託の運用報告書を「交付運用報
護の観点から事務上のミスが許されず、事務
告書」(各投資家に必ず交付される)と「運
リスクの排除は業務運営の現場の最も重要な
用報告書(本体)」(投資家からの求めに応じ
課題である。しかし、現場では労働力の減少
て交付される)に 2 段階化するなどの制度改
と業務量の増加による事務リスクを抱えてい
正も2014年度に予定されており、資産運用会
ることが多いのである。
社の業務ボリュームの増加が予想される。投
労働力減少の要因には、病欠や交通機関の
資顧問業務においても、業務拡大のためには
トラブルによる一時的なものや、退社や長期
新規顧客からの投資一任契約の獲得が必須で
休暇(病気療養など)といった中長期的な
あり、契約数の増加に伴って業務が増えるこ
ものがある。それを補うために新たに採用し
とになる。
ても教育が十分に済まないうちは労働力の減
このような労働力の減少および業務量の増
少を解消しきれない。少し意味合いは異なる
加というアンバランスな状態を資産運用会社
が、労働力に見られるリスク要因として業務
が自社で解消するためには、既存業務の効率
の属人化(特定の要員しか業務が行えない状
化のほか新規採用や他部署からの異動などが
態)も挙げることができる。
必要となる。しかし、長年運営してきた業務
では業務量の増加にはどのようなものがあ
はすでに効率化の限界に達している。システ
るだろうか。
ム導入による効率化もコストとの兼ね合いか
2012年後半から、いわゆるアベノミクス効
ら実現は難しいと思われる。人員の採用に関
果による株高と円安を受けて、その恩恵にあ
しても、経験者を都合のいいタイミングで採
やかろうと新規の投資信託の設定が増えて
用できる可能性はかなり低く、社内で調達し
おり、2014年 3 月には16年ぶりに公募投資信
たとしても教育に大きな負荷がかかるのが実
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図1 資産運用会社における部分的なBPOサービス活用の事例
事例1
事例2
担当者が退職することになったが、後任がなかなか
見つからない…
レポートの制度改正があり、対応が不安、業務量の
増加も心配…
退職する担当者が行っていた設定・解約関連業務の
BPOサービスを活用
制度改正に係る投信レポーティング業務の
BPOサービスを活用
欠員による業務リスクを回避するとともに、個人に
依存した体制からの脱却を実現
NRIプロセスイノベーションが確実な制度改正対応を
実施
事例3
事例4
年金ファンドの受託が増えたため、顧問担当者が
足りない…
さらなるビジネス拡大のために、営業関連部門を
強化したい…
顧問担当者の信託財産管理業務の
BPOサービスを活用
異動対象の担当者が抱える投信バックオフィス業務
全般のBPOサービスを活用
顧問担当者は新規設定ファンド対応に注力
リソースの最適配置を実現
態であろう。
このような状況で、労働力と業務量のバラ
BPOサービスの進化を目指して
ンスを維持するために業務運営の担当者が採
資産運用会社のバックオフィス業務は複雑
用したソリューションが部分的なBPOであ
化と量的拡大が続いている。そのため新たな
る(図 1 参照)
。
業務に力を入れたいと考える資産運用会社
BCPを実現するための手段としてBPOを
は、バックオフィス業務だけでなく定型化さ
採用したケースもある。BCPを実装する場合
れたミドルオフィス業務(運用のガイドライ
には、オフィスやシステムといった物理的な
ンチェック、パフォーマンス分析など)にま
業務継続環境の準備や、バックアップ環境を
で対象範囲を広げたBPOサービスを求める
用いて業務を遂行するための計画やテストが
ようになっている。
必要になる。これらを自社で行うとコスト面
このようなニーズに応えることがNRI-PI
でも業務面でも相当の負荷がかかるが、複数
の今後の課題である。また、同一の業務であ
の顧客を前提にするBPOを採用すれば、比
っても顧客ごとの対応を行っているものも少
較的安価に業務負荷も増やすことなくBCPを
なくない状況で、いかに業務を標準化して効
実現できるのである。このほか、BPOは業
率化を図るかも重要である。資産運用会社か
務量の増減に応じて料金も変動するため、コ
ら譲り受けた質の高い人員と業務ノウハウを
ストを変動費化できることもBPO採用のメ
生かしてBPOサービスをさらに進化させて
リットとして挙げられる。
いくことがNRI-PIの使命であると考える。■
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特 集 [BPOサービス最前線]
新たなBPOサービスの展開
─資産運用分野の経験とノウハウを生かして─
野村総合研究所(NRI)グループのNRIプロセスイノベーション(NRI-PI)は、これまで資
産運用業界を中心にBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスを提供してきた。
本稿では、これまでのBPOサービスの経験を生かしてどのように他の分野や業務へのBPOサ
ービスを展開しようとしているかを紹介する。
新たなBPOサービスの構築へ
どの範囲の業務をBPOの対象とするかを検
NRI-PIでは、2010年 7 月の設立時から主に
討する。実際にBPOサービスの提供が決ま
資産運用会社向けのBPOサービスを提供し
れば、その後の工程は下記のようになる。
ており、現在の顧客数は17社にまで拡大して
①BPO対象業務の決定
いる。NRI-PIはもともと資産運用会社の専
②業務規定書の作成
門人材をNRIに移したところから出発した会
③業務マニュアルの作成
社であり、これまでの顧客拡大の実績を振り
④業務マニュアルに沿った業務訓練の実施
返ると、すでに確立された資産運用の業務モ
⑤業務運用訓練の実施
デルを活用して、比較的低コストかつ短期間
⑥業務インフラ(システム)の構築
で新たな顧客にBPOサービスを提供し、顧
NRI-PIでは②の業務規定書(表 1 参照)を
客数を増やしてきた。
独自に作成している点が特徴的である。
資産運用会社に向けたNRI-PIのBPOサー
業務規定書は、各業務の実施条件(時刻な
ビスの内容については他稿に詳しいので、本
ど)や作業頻度、連絡媒体、利用するツール
稿ではそれ以外の業種へのBPOサービスの
やシステムなどを定義したものである。
展開に当たってNRI-PIが何を重視し、どの
業務規定書を作成することにより、業務が
ような手順でサービスを構築しようとしてい
顧客サイトとBPOサイトで地理的に分離さ
るかを紹介したい。
れる影響も明確にできる。例えば、ある業務
業務規定書の役割と効果
18
施後のコスト削減効果の試算などを通じて、
が完了した際に近くの座席にいる別の担当者
に口頭で連絡したり資料を渡したりしていた
NRI-PIにまだBPOサービスの導入実績が
業務は、BPOを導入するとメールもしくは
ない分野については、まずBPOの対象とす
FAXによってBPOサイトと連携させること
る業務の範囲を検討するところから始まる。
が業務規定書で明確化される。また、それま
具体的には、業務の概要の把握、現状のコス
ではドキュメント化されずに行われていた担
ト試算、BPO対象業務の候補選定、BPO実
当者間のやり取りもすべて業務として明確に
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NRIプロセスイノベーション
投資情報管理サービス部長
兼 業務コンサルティング部長
阿川裕二(あがわゆうじ)
専門はBPOプロジェクトの導入・
運営マネジメント
表1 業務規定書の例
(一部)
業務名
業務内容
開始時刻
日次/月次
連絡媒体
利用ツール・システム
A業務
属性登録
8時
日次
Web
Aシステム
B業務
外部データ取り込み確認
9∼15時
日次
メール
Bツール
C業務
他社への業務指示
8時
日次
ファックス
―
D業務
特種銘柄時価登録
10時
月次
電話、Web
Dシステム
される。
務マニュアルの完成度や、業務運用訓練の実
業務規定書を作成して業務の分担を明確化
施方法について認識を共通にしておくことが
することは、不要な業務を廃止したり業務を
重要である(ある程度のレベルを確保してお
見直したりすることにより生産性や品質を向
き、BPOを開始してから完成度を高めると
上させることにつながり、結果的に業務統制
いう方法もある)。
の強化も期待できる。
BPO導入工程における課題
システムプロジェクトのマネジメントノ
ウハウを活用
上に述べたように、BPOの導入工程では
新規業務のBPO導入は、BPOベンダーへ
業務規定書や業務マニュアルの作成、業務マ
業務ノウハウを移転するための顧客側の負担
ニュアルを使用した業務訓練が必要である。
も少なくない。さらに、BPOサービスを初
ところが、いざ導入しようとしたとき、顧
めて利用する顧客には、導入工程を理解して
客の担当者が十分に時間を割けずに業務の確
もらうためのていねいな説明も必要である。
認が細部まで行えなかったり、既存の業務マ
時には、業務調整のためにトップダウンの意
ニュアルが利用者にのみ理解できるレベルで
思決定も必要となり、顧客とBPOベンダー
しか記述されていないためにBPOの業務マ
の間での組織レベルの密なコミュニケーショ
ニュアルの整備に時間を取られたりといった
ンが肝要である。
課題が発生する。特に、非定型作業が多い業
こうした活動は、システムの新規導入にお
務について作業ごとにマニュアルを作成する
ける要件定義作業と似ている。業務とシステ
と、多大な時間を取られてBPO開始が遅れ
ムという違いはあるものの、新たな業界や新
ることになるので注意が必要である。
規業務へのBPO導入において、NRI-PIが進
これらの課題に対応するために、BPO導
捗(しんちょく)管理、課題管理、品質管理
入の開始前にBPOの導入工程とタスクにつ
といったNRIグループの豊富なプロジェクト
いて顧客に十分に説明した上で、BPOサー
マネジメントノウハウを活用できる意義は大
ビスの開始時点で目標とする業務規定書と業
きいと考えている。
■
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特 集 [BPOサービス最前線]
オフショアBPOサービスの可能性
─日本企業のオフサイト活用に適した大連とは─
中国の大連で1980年代に日本の工場進出から始まったアウトソーシングは、1990年代に
なって業種を問わない全ての日本企業向けのBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に
拡大した。金融機関向けのシステムサービスを提供してきた野村総合研究所(NRI)もこの
分野に参入し、自社拠点を設けて新しいアウトソーシングサービスにチャレンジしている。
日本企業向けBPO拠点としての大連
NRIが提供してきたBPOサービス
中国・遼寧省の大連は日本から飛行機で 3
NRIの母体となった野村コンピュータシス
時間、600万人の人口を有する港湾都市で、
テム(NCC)の初期の業務は今日でいうと
中国における観光と経済発展のモデル都市で
ころのBPOである。当時は電子計算機と呼
ある。旧満州の玄関として栄えた背景から、
ばれたコンピュータを使って、紙の書類をデ
街には今も日本式の建物が多く、また親日的
ータ化するのである。
な土地柄であることでも知られている。
その後この業務は、顧客向けシステムの
日本語教育の歴史も古く、中国で最も早い
開発を経て、日本の金融業界に向けた共同
1964年に大連日本語専科学校(現在の大連外
利用型システムサービスへと進化した。証
国語学院)が設立された。大連は黒竜江省、
券会社向けの「STAR」では、同一システム
吉林省、遼寧省の東北三省の中でも最も気候
で標準化された口座開設などの業務を、NRI
がよく経済が栄えており、多くの若者が集ま
の関連会社である日本クリアリングサービ
る。東北三省合計で日本語専攻の大学卒業
ス(NCS)が請け負った。資産運用会社向け
生は年間 8 千人を超えるというデータもある
の「T-STAR」では、2004年に一部業務では
(2012年のJETROによる調査)
。
20
なくフルオペレーションを受託することで、
このように日本語人材が豊富で、アクセス
投資信託の基準価額算出の全てのプロセスを
面でも日本に非常に近いという 2 つの優位点
BPOサービス化した。これらはNRIの新たな
を生かして、大連では1990年代からBPOを
BPOサービスの始まりである。
はじめとするITサービス業で日本語人材が
2007年には、大連を活用した「T-STAR」
活躍してきた。中国の東北人特有の真面目さ
のオフショア化にも挑戦した。その目的はコ
が日本の企業文化にマッチしていると言う人
スト削減だけでなく外部の優秀な人材の獲得
もいる。その真偽はともかく、大連が日本企
にあった。このため、オフショア化する際に
業を対象としたBPOに向いているというの
も、業務の一部切り出しではなくフルオペレ
は確かである。
ーションを前提とした。
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NRIプロセスイノベーション
業務コンサルティング部
グループマネージャー
高木重史(たかぎしげふみ)
(執筆時点はNRI大連 総経理)
専門は中国におけるBPO活用コンサル
ティングおよび現地運営全般
オフショアBPOサービスのさらなる発展
オフショアBPOの将来
2010年10月 に は、NRIが100%出 資 し て 自
大連は、データ入力のようなローエンド業
社拠点のNRI大連が設立された。これには、
務のBPOサービスの拠点としても利用され
NRIが金融機関から外部委託を受ける際の統
ているが、その将来はどうであろうか。もと
制責任を説明できるようにするためや、オフ
もとこの分野は日本国内でも外部委託が行わ
ィスやインフラなどを強化してオフショアサ
れており、その基本方針はマルチベンダーで
ービスの質を高めるためという理由がある。
あった。この20年で、その一部に大連が組み
ネットワーク接続には日本にあるNRIのデ
込まれていったが、今後は日本国内の地方拠
ータセンターとの専用線を敷設してストレス
点と大連とのせめぎ合いとなるであろう。日
のないデータのやり取りを可能にした。電
系企業の中には、大連事業を縮小したり撤退
源は 2 系統を用意し、仮にそのいずれもが途
したりするケースも出始めている。
絶えても電気を供給できるよう、ビル専用の
一方、BPOサービス業界の将来にとって
自家発電装置から弱電配線まで行った。全て
追い風になるのがクラウドサービスの進展で
の端末にセキュリティチェックソフトを導入
ある。BPOの歴史から見ても、いかに安全・
し、専任部隊によるリアルタイムの監視も行
安価にデータをオフサイトへ持って来られる
っている。99.8%という運用順守率は日本以
かは常に課題であった。クラウドサービスに
上である。
より、実際のデータがどこにあってもすぐ近
さらに、人については、大連という非常に
くにあるのと同じようにデータにアクセスで
多くの優秀な人材が集まる場所で、会社独自
きれば、今までは想像できなかった多くの業
の観点で多角的に選定している。20倍以上の
務がオフショアBPO化する可能性が広がる。
競争にパスした社員は、日本の金融・IT資
日本の企業は、精緻な事務作業や高度な知
格取得を中心としたOFF-JT(教育・研修)
識を必要とする業務によって
と、NRIの日本の業務プロフェッショナルに
の心を形にしてきた。少子化によってこれら
よる現場のOJTによってスキルを身に付けて
を担う人材が減っていくなかで、社内の業務
いく。円安や中国コスト上昇の逆風を受けつ
量をすぐに減らすことはできない。従って、
つも会社は大きく成長し、現在は約 4 千m2
日本の企業が今後、BPOに際して日本語人
のオフィスに400人のスタッフを抱えている。
材が豊富な大連をオフサイトとして活用する
ガラス壁を多用した解放感にあふれるオフィ
ことは、企業価値を維持し向上させていくこ
スには、現地視察で訪れるお客さまも多い。
とにほかならないのである。
おもてなし
■
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特 集 [BPOサービス最前線]
ITベンダーによるBPOサービスの意義
─システムサービスと融合した共同利用型BPOサービス─
昨今、日本の金融機関においても、欧米の事例などを参考にしつつ、以前では考えられな
かった中核的な業務にまでBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスを活用する
動きが顕著になってきた。本稿では、ITベンダーが自身の提供する金融機関の基幹系業務シ
ステムの周辺業務に対してBPOサービスを提供する意義について考察する。
“オール自前主義”から外部活用へ
システムサービスとして提供してきた信託財
金融機関を取り巻く環境は厳しさが増すば
産管理システムで、次のような機能を持って
かりである。守りの観点としては、投資家や
いる。
預金者の保護、個人情報の保護、企業ガバナ
①各種のデータ処理
ンスや内部統制の強化・向上が挙げられ、攻
②元本管理
めの事業戦略面においては、高度な商品・サ
③基準価額算出
ービスの開発・販売、顧客の囲い込み、差別
④ディスクロージャーレポート作成支援
化戦略など、激化する競争への対応が挙げら
⑤投資顧問
れる。
「T-STAR」シリーズは、現在では資産運
これら増えるばかりの業務に対して、自前
用会社の約80%が利用する、業界の事実上の
で人やシステム投資を増やして対応するばか
標準システムとなっている。
りではコスト競争力もなくなり、またこれを
2004年に、ある顧客企業の要望をきっかけ
続けることは厳しくなってくる。有効な手段
に、これらシステムオペレーションの顧客側
としては、ITに関しても業務に関しても、 オ
の周辺業務までNRIがサービスを提供するこ
ール自前主義
を捨てて外部企業との提携や
とになった。資産運用会社の基幹業務の 1 つ
アウトソーシングへの転換を行うことが挙げ
である投資信託の基準価額算出業務も含めた
られる。これらの巧拙が、生き残るための鍵
アウトソーシングサービスである。これがま
と言っても過言ではないだろう。
さに、システムサービスの延長としてNRIが
BPOサービスの始まり
資産運用業界におけるアウトソーシングサ
ービスの事例としてまず挙げられるのは、野
村総合研究所(NRI)の「T-STAR」シリー
ズ で あ る。
「T-STAR」 シ リ ー ズ は、NRIが
22
1980年代から資産運用会社向けに共同利用型
手掛けた最初のBPOサービスである。この
時は、まだNRIの事業の 1 サービスとして規
模の小さなものであった。
BPOサービス専門会社の設立
2010年 7 月には、BPOサービス専門会社と
2014年6月号
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NRIプロセスイノベーション
取締役社長
香野 哲(こうのさとし)
専門は金融機関向け、基幹系業務のシス
テム事業・BPO事業の企画・推進・運営
してNRIプロセスイノベーション(NRI-PI)
対応が多くては効率化できずコスト削減がで
が設立された。基準価額算出のBPOサービ
きないので、いかにサービスを標準化・共通
スの有用性が確認されたことに加えて、NRI
化・手順化するかがポイントとなる。
がBPOを受託した資産運用会社との提携が
標準化のポイントとしては、まず顧客業務
進んだことにより、新会社設立という大きな
を導入する時点が重要である。極力、他社と
事業展開を見せたのである。提携先企業か
同じ業務になるよう顧客と調整を行う。基幹
ら専門の人材を受け入れ、投資信託バック
系業務は「T-STAR」シリーズという同じシ
オフィス業務全般をサービスメニュー化し、
ステムを利用しているので基本的には問題な
「T-STAR」シリーズを共同利用する他の顧
いが、顧客がその周辺業務のツール類を自社
客企業に向けてBPOサービスを横展開して
開発していることが多く、BPOサービスは
いく枠組みが確立されたのである。
これも引き受けることになる。
加えて、同じ2010年の10月には、中国の
しかしこの部分の個社性を排除してBPO
大連にもNRIグループのBPOサービス専門会
サービスに取り込むことが難しいのである。
社、野村総研(大連)科技有限公司(NRI大
どうしても残ってしまうこの部分に関して
連)が設立された。NRI大連の位置づけも重
は、各社独自の業務を十分に吟味した上で、
要である。日本や欧米のBPOベンダーの集
BPOサービスベンダーとして生産性・効率
積地として発展してきた大連の優秀な人材を
性向上のために新たなシステム投資を行うこ
活用できる意味は非常に大きいからだ。NRI-
とも 1 つの解決策となる。このようにして、
PIが受託した業務を、標準化や手順化を進め
全体としてのコストを徹底的に削減していく
てNRI大連に再委託する道が開け、品質を確
必要がある。
保しつつ業務規模の拡大に備えることが可能
そもそもの話として、BPOを実施したと
になったのである。
しても委託元の業務は完全になくなるわけで
共同利用型BPOサービスの構築
はなく、BPOベンダーとの間で連絡や調整
をする作業、納品物をチェックする作業など
資産運用のBPOサービスは、顧客企業が
が残り、むしろ作業は増えることになる。そ
業務委託のコストメリットを得られるように
れでもBPO実施前に比べて委託元のトータ
するために、顧客が 1 社だけでは採算性が低
ルとしてのコストを落とすには、前述のよう
い価格に設定される。従って、 2 社目、 3社
にBPOベンダーにおいて徹底的なコスト削
目といったように顧客を増やしていくことが
減を実施する必要があるわけである。
採算性の観点から必要である。しかし、個社
これらをまとめると、NRI-PIのBPOサー
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特 集
図1 NRIプロセスイノベーションの人材構成
顧客業務経験者
当初は出向や転籍も
●顧客業務の深い知見
・イレギュラー業務対応力、
判断力
・顧客内他部署との連携
・業界内人脈
NRIのシステムサービス人材
新規採用
NRI大連
派遣社員
ヘルプデスク/導入
業務設計、企画
プロジェクトマネジャー
●NRIシステムサービスへの深い知見
・顧客業務に対する幅広い視野
・業界内他社状況の把握
●設計力、プロジェクト運営能力
・業務分析、効率化プロセス設計
・品質管理、要員管理
●オフショアの有能な人材の
供給
新しいBPOサービス事業のコア
NRIプロセスイノベーションという器
NRIプロセスイノベーション独自の柔軟な人事制度・雇用形態
類似業務を集約したボリュームメリット、人材のローテーション
類似業務からの先行ノウハウの横展開
集約化、標準化、システム化、オフショア化など、効率化の方法論と実績
ビスの鍵は「業務標準化(共同利用型BPO
れがまさに事業としてコアとなる。ただし、
サービス)×ユーザー数×さらなる効率化
業務の立ち上げや顧客業務の導入、日々の業
(IT投資など)×NRI大連の活用」というこ
務運営に関して、②の人材の存在意義が非常
とになる。この枠組みをうまく活用すること
に大きいことを強調したい。その理由は以下
で、サービス品質の担保も含め事業として成
のとおりである。
り立ってくる。
・「T-STAR」シリーズを知っているがゆえ
ITベンダーによるBPOサービスの優位性
図 1 に、NRI-PIに お け るBPOサ ー ビ ス 事
・顧客企業の業務系システムと接続するシ
ステムインフラ構築を推進できる。
業の人材構成を示す。大きく分けると、①顧
・複数の顧客企業より持ち込んだツール類
客企業から受け入れた業務系人材②NRIなど
に関して、集約したり作り直したりするこ
からのシステム系人材③NRI大連の中国人社
とが可能となる。
員や中国パートナー企業の社員および日本国
24
に業務設計がしやすい。
・業務の導入時に、システム開発で培ったス
内採用の派遣社員̶となる。
キル(要件定義からシステムリリースま
資産運用バックオフィス業務の日々の業務
で)を活用することで、適切なプロジェク
運営を主に担うのは①と③の人材である。こ
ト推進が可能となる。
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・日々の業務マネジメントに、システム開発
るというメリットがある。
で培った業務分析、効率化設計および構
このようにメリットはたくさんあるが、現
築、品質管理、要員管理のスキルを活用す
状ではシステムサービスと業務サービスの範
ることができる。
囲が完全に一致しているわけではないなど、
NRI-PIが提供するBPOサービスのメリッ
契約の 1 本化に向けての課題は多い。しか
トは、②の人材が介在することで、③の人材
し、このような動きは徐々に見られるように
の活用も可能になり、全体としてコストが下
なっており、事例として出始めていることも
がるということである。行き着く先は、業界
確かである。
全体のリソースの最適配置とコスト効率の最
大化である。これが、ITベンダーが自身の
金融業界全体への貢献を目指して
提供する基幹系業務システムの周辺業務に対
NRIでは、「T-STAR」シリーズのような
してBPOサービスを展開していくことの意
共同利用型システムサービスやパッケージソ
義であると筆者は考える。
フトを、主に銀行、保険会社、証券会社など
ITベンダーがBPOサービスを提供するこ
の金融機関向けに数多く提供している。ここ
とには、上記以外にも副次的なメリットが
まで本稿で記した内容は、これらのどの業界
ある。現在、顧客企業がBPOサービスを利
にも基本的に当てはまり、NRI-PIのBPOサ
用する場合、システムサービス利用契約と
ービスは金融機関全般に展開していけるもの
BPOサービス利用契約をそれぞれのベンダ
である。
ーと別々に結んでいることが多いであろう。
差別化に寄与しない業界共通の業務は、業
ITベンダーによるBPOサービスが広がれば、
界横断で効率化を推進していくべきである。
契約をBPOベンダーとだけ結べば済むよう
これは、成熟化した市場に対応するためのニ
になる。業務を委託する顧客企業にとって
ーズとして今後、ますます顕在化してくるで
は、業務が適切に遂行される限り、その手段
あろう。ここがNRI-PIが貢献していける部
であるシステムが何であっても構わないので
分である。具体的にどう進めていくかはこれ
ある。
からの検討になるが、BPOサービスによっ
そうなると、顧客企業にとってはITガバ
て業界全体が大きなメリットを得られること
ナンスが不要になり、契約事務が簡素化され
は確信できる。NRI-PIという 1 つの企業の事
るという事務処理的なメリットも出る。IT
業としてだけでなく、広く業界全体を視野に
ベンダー側にも、システムと業務を一体とし
入れた事業としてBPOサービスを進めてい
てサービス提供することで競争力を高められ
きたいと考えている。
■
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NRIグループのCSR活動
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金融・資本市場に関わるNRIの取り組みについての情報
発信、政策提言、ITソリューションを紹介
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産業分野や社会インフラを支えるシステム、システム
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ースにした新事業の創造の実践を紹介
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構築のノウハウを結集させたソリューション群を紹介
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openstandia.jp
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マーケティング戦略の効果を科学的に 見える化 し、
効果を最大化することを目的とした総合支援サービス
コンサルティング業務を通じて独自に開発したインタ
ーネットリサーチサービス
コールセンターからマーケティング部門までさまざまな
ビジネスシーンで活用可能なテキストマイニングツール
テスト工程の効率化を実現するテスト自動実行支援ツ
ール
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テムを構築するワンストップサービス
ITサービスの品質向上とコスト最適化を実現するシス
テム運用管理ソフトウェア
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用のためのソリューションを提供
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『ITソリューション フロンティア』について
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2014年6月号
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編集長
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編集委員(あいうえお順) 五十嵐 卓 伊佐治好生 梅屋真一郎
内山 昇 海老原太郎 尾上孝男
田井公一 平 智徳 武富康人 鳥谷部 史 根本伸之 引田健一
増永直大 八木晃二 吉川 明 若井昌明 和田充弘
編集担当
香山 満 瀬戸優花子 新井洋子
2014年 6 月号 Vol.31 No.6(通巻366号)
2014年 5 月20日 発行
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