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平成13年度税制改正に対する 日本公認会計士協会の意見・要望書

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平成13年度税制改正に対する 日本公認会計士協会の意見・要望書
平成13年度税制改正に対する
日本公認会計士協会の意見・要望書
平成 13 年度税制改正意見・要望書が、租税調査会から意見具申され、平成 12 年 7 月 27 日の
理事会で審議・承認されましたので、お知らせいたします。
ご承知のとおり平成 10 年度の税制改正以来、企業会計と税務とが大きく乖離しております。
会計上の利益は企業の担税力を表す最も有力な指標であり、その意味から、当期利益が課税所
得の中心をなしていなければならず、税務上の課税所得との差異は明確に説明可能である必要
があります。当協会はこのような視点に立ち、来年度以降の税制改正においても我が国の企業
会計制度及び監査制度の健全な発展に支障を来すことのないように配慮することを特に求めて
いるほか、法人税法の改正に当たり、公認会計士の監査上の判断を尊重すること等について要
望しております。
なお、本意見・要望書は、例年どおり自由民主党を始め関係方面に提出済みであることを申
し添えます。
(租税担当常務理事 小島 昇)
(全文)
平成13年度税制改正意見・要望書
平 成 1 2 年 7 月
日本公認会計士協会
はじめに
平成 12 年度の税制改正により、有価証券の一部に時価評価が導入された。これは『金
融商品に係る会計基準』に合わせた税制の協調というべきであり、企業会計と税制の乖離
がいたずらに拡大することを防いだという意味で一定の評価をすることができる。
この間の会計制度と税制の改革は誠に急ピッチであるが、会計と税制は我が国経済の車
の両輪にも等しく、両者が速度を合わせて進むことが経済の推進に何よりも必要である。
今後の展開として、政府税制調査会では、会社分割に係る商法の改正を受け、会社分割
の税制面での整備を図り、その上で連結納税制度の導入へ向けた検討を行うことが明言さ
れている。一方、企業会計審議会においても組織再編に係る会計基準の検討が進められて
いる。
日本公認会計士協会は、これら政府税制調査会及び政府・与党の税制に関する審議動向
並びに現下の経済状況等を踏まえて、このたび「平成 13 年度税制改正意見・要望書」を公
表し、政府・与党など関係諸団体に提出、主張するものである。
税制改正の基本的在り方と展望について
当協会においては、従前からの改正意見・要望事項を踏まえ、基本的スタンスである「課
税の公平」
、
「税制の簡素化及び納税コストの軽減」
、
「会計基準との適合性」
、
「経済取引へ
-1-
の中立性」並びに「国際的整合性」等を旨として審議を行った。今後は特に国際的取引に
係る租税関係や企業再編に係る税制等について研究を進めることとしている。
平成 10 年度以降に生じた会計と税の大きな乖離は、税制の改正が震源となって距離が開
いたものであったが、その後の乖離の動きはむしろ会計基準の改正が震源になっている。
平成 12 年4月から導入された金融商品の時価評価の取扱いを巡っては、税が会計に歩調を
合わせて乖離の拡大を防いだが、退職給付会計や今後の時価主義会計の動向によっては、
会計と税に常に重要な差異が残る事態も想定できないわけではない。
しかしながら、会計によって計算された利益は、企業の担税力を表す指標として最も大
きな説得力を有するものである。その意味で会計上の利益が課税所得の中心を成していな
ければならず、会計と税の調整は租税法としての要請からくる客観的測定可能性、形式性、
公平性などによるものや租税特別措置法による特別の政策目的によるものなどに限られる
べきであろう。
当協会は、こうした視点に立ち、来年度以降の税制改正においても、我が国の企業会計
制度及び監査制度の健全な発展に支障を来たすことのないように、企業会計の基準及び商
法との関係に配慮し、関係諸団体と十分な協議を重ねるよう要望するものである。
国際協調と我が国固有の在り方
国際社会は、それぞれの国や民族がそれぞれの固有の在り方を相互に認め合い、尊重し
合って、初めて協調が成り立つものである。文化や習慣、宗教、歴史だけでなく政治や社
会、経済システムにおいても多様であることが我々の社会の活力の源泉になっているとい
える。
市場経済が国境の枠組みを超えて広がる中、諸外国との協調に努めることは当然である。
しかし、一線を画すべきところは画し、安易に同調することは慎むべきである。国の固有
の在り方まで簡単に放棄するようでは国際社会において名誉ある地位を占めることは望め
ない。
税は文化であるともいわれるように、税制はそれぞれの国の固有の在り方を反映したも
のであり、企業の盛衰や人々の生活の永い歴史に裏打ちされたものである。法人税におけ
る確定決算主義や公益法人等の課税制度など、我が国の風土の中にしっかりと根づいてい
る制度も少なくない。税制の改正に当たっては、国際協調の中での我が国固有の税制の在
り方を見つめることも忘れてはならないと考える。
第1 税制一般について
1 . 通 達 の 発 遣・ 運 用 に つ い て は 十 分 な 配 慮 を も っ て 臨 む こ と
(理 由)
納税者が通達と異なる会計処理や評価方法を採用した場合に、基本通達の前文におい
て形式的又は画一的な適用を戒めているものがあるにもかかわらず、実務上、通達の文
言そのものが税務当局のみならず納税者にも遵守すべきものと解されて運用されてい
る。
-2-
課税の統一的処理 の確保等のために通達をもって一律の会計処理や評価方法を定め
ている趣旨はおおむね理解できるが、租税法律主義及び会計慣行尊重の観点から企業等
の実態に合った会計処理や評価方法の選択の余地が認められてしかるべきである。
また、納税に重大な影響力を有する通達の発遣・運用については、関係諸団体及び有
識者の意見を徴する等の制度を創設し、より民主的なものとされたい。
このほか、いわゆる内部取扱通達等は納税者と課税当局とのトラブル防止のためにも
速やかに公開されるべきである。
2.郵送による税務書類の提出時期を発信日基準に統一すること
(理 由)
現在、確定申告書等の各種納税申告書、更正請求書等については、国税通則法第 22
条により発信日基準が採用されているが、各種申請書及び届出書については税務諸官
庁への到着日基準とされている。
税務当局においても発信日は郵便局の消印で確認できるものであり、納税者の便宜
に配慮して税務署等への郵送による書類の提出はすべて発信日基準に統一されたい。
3.重加算税の賦課決定通知書には、賦課決定の理由を明記すること
(理 由)
重加算税は、事実の仮装又は隠ぺいにより過少申告をした納税者等に対して司法手
続を経ることなく特段に重い負担を課すものであるから、その賦課決定が適正かつ慎
重に行われたことを納税者に明確に示し、また、納税者の不服申立権の保護のため、
重加算税の賦課決定の理由を賦課決定通知書に明記することとされたい。
4.税制の改正検討を行う場合には、併せて納税事務の簡素化、合理化を図るなど納税事
務コストの削減についても配慮すること
(理 由)
事業者が負担している納税者としての事務コストは、一種の租税負担であり、企業
のコストアップの要因となる。税制改正に当たっては、簡素、便宜を旨とし、納税者
の事務負担の軽減に十分配慮されたい。
5.地方税法の全文改正を行うこと。また、地方税の徴収コストの節減についても十分に
配慮検討すること
(理 由)
地方税法については、特別措置事項が附則等において定められている結果、極めて
難解なものとなっているので、地方税法の全文改正に向けて検討されるべきである。
なお、地方税法の改正検討を行うに際しては、現行税制における徴収コストが国税
のそれに比し割高であるので、徴収コストについても効率化を図り、その軽減を図る
よう十分に検討されたい。
6.国税審判官の民間人登用を促進すること
-3-
(理 由)
国税不服審判所長に対して行う審査請求は、行政救済制度の一つであり、その目的
は国民の権利・利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保するものである。
しかし、現状では、国税審判官は税務職員及び数名の裁判官経験者等で構成されて
おり、第三者的機関としての審判所の審理が合議体によるものとはいえ、より一層公
正性を担保する必要がある。よって学識経験者など民間人の登用を積極的に促進され
たい。
7.事業税の外形標準課税については担税力に配慮すること
(理 由)
事業税の外形標準課税は事業者が享受する地方行政の便益に応じて税を負担すべ
きであるという考え方によっているが、直接税である事業税は税の転嫁が困難であり、
こうした方式で事業税を課すと担税力のない事業者も税負担することになるので問
題があると考える。
したがって、現時点で外形標準課税の事業税を導入することは景気回復に悪影響を
及ぼすことが懸念されるばかりでなく、新規産業を興した事業者やベンチャー企業が
赤字の状態で多額の事業税を課されるとその活力を減殺することとなりかねないの
で、導入の時期及び方法について慎重に対処されたい。
8.納税者番号制度は国民のプライバシーに関する厳格な保護措置を設けた上で導入を検
討すること
(理 由)
情報通信技術の発展に伴う金融システムの改革の流れの中で、利子、配当、分配金、
金融資産の譲渡益などの所得に係る金融関係税制の適正な執行を担保し、総合課税の
実施による納税者の税負担の公平を確保するため納税者番号制度の導入は必要と考
える。
ただし、納税者番号は住民基本台帳あるいは基礎年金番号とリンクさせることが想
定されているが、その場合納税者番号は銀行等に提示されるなど番号の漏洩の機会が
多いため、これらにリンクされている行政上の情報が引き出されて国民の諸権利を侵
害するおそれがあるので、プライバシーの保護に関する厳格な保護措置(法律面、コ
ンピュータ技術、他の番号制度との非リンク等)を設ける必要がある。
納税者番号制度は、これらの措置を講じた上で導入されたい。
9.環境税制の一環として一定の炭素排出削減設備に対する課税の軽減及び一定量を超え
る炭素排出車輛、機器等に対する炭素税の導入を検討すること
(理 由)
法人、個人を問わず、現在我が国は環境改善の努力を行っているが、なお一層の環
境改善を促すために、相当の効果を有する設備等に対し課税を軽減し、環境に対する
負荷を与えている企業等に対し一定の課税を行うなど、いわゆる外部不経済を経済化
する一定の税制上の措置を講ずる必要がある。
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特に、京都会議で我が国が国際的に公約した炭素排出量の削減を目指すために、ハ
イブリッド自動車、太陽光発電設備など一定の炭素排出削減効果のある設備に対する
課税の軽減を現在以上に強化されたい。
また、これと併せて、炭素排出量が一定量を超える車輛、機器等に対する炭素税を
導入するなど、環境改善に税制を活用することも検討されたい。
第2 法人税、所得税に共通する事項
1.減価償却資産の法定耐用年数を引き続き見直すとともに、その短縮承認制度の弾力化
を図ること
(理 由)
法定耐用年数は、一般的な技術環境を前提としているが、先端技術の開発速度が早
いことなどにより実態に適合しないものが発生している。また、業種や業態の変化に
伴い法定耐用年数があてはまらない場合も生じている。したがって、平成 10 年度の
改正によって部分的な措置が講ぜられたが、引き続き法定耐用年数の見直しを行われ
たい。
また、これと併せて手続が煩雑な耐用年数短縮の申請承認制度を届出制にするなど、
弾力的に耐用年数の短縮ができるようにされたい。
2.減価償却資産の全額を償却可能とすること
(理 由)
減価償却資産のうち有形固定資産(坑道を除く。
)の償却可能額は、原則として取
得価額の 100 分の 95 とされているが、売却又は下取価額はそのときの帳簿価額を下
回ることが多いこと、撤去及び廃棄費用がかかることなどから、取得価額の全額(備
忘価額を残し)を償却可能とすることを認められたい。
3.コンピュータプログラムの償却期間を短縮すること
(理 由)
現在、ソフトウェアの提供を受けるため又はその開発の委託のために要する費用の
償却期間は5年とされている。
コンピュータの技術革新、多機能化等によるソフトウェアの急激な陳腐化の状況に
鑑み、償却期間を3年程度に短縮されたい。
4.欠損金等の繰越控除期間を最低限7年間とし、開業に長期間を要する場合の特例を設
けること
(理 由)
現在、法人税における欠損金の繰越期間は中小企業支援税制等の特例措置(租税特
別措置法第 66 条の 12、13)を除き5年間となっている。
経済が依然として不透明な経営環境にあって、産業構造の変化が進展している状況
から他業種への転換・新規製品の開発等を図る企業は数多い。しかし、これら新分野
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への進出には時間とコストがかかり、現在の欠損金の繰越期間では余りにも短い。本
来ならば無期限とすべきところであるが、次の理由から欠損金の繰越期間を少なくと
も7年間とされたい。
① 更正可能期間が従来の5年から7年に延長されたこと
② 新規事業につき、利益が生じるようになるには相当長期間を要すると思われる
こと
③ 諸外国の繰越期間は、フランス、イタリアは5年であるものの、オランダが8
年、アメリカが 15 年、イギリス、ドイツが無期限となっていること
なお、関西空港などの公共工事を株式会社が行う場合等、開業までに長期間を要す
るものについては、欠損金等の繰越控除期間の開始を開業からとされたい。
また、所得税における青色申告の純損失の繰越控除期間は現在3年間となっている
が、法人税と同様に延長されたい。
5.「 更 正 の 請 求 」 の 期 間 を 3 年 間 に 延 長 す る こ と
(理 由)
「更正の請求」の期間は現在1年間となっているが、国税通則法で定める税額の増
額更正可能期間が3年間となっていることに鑑み、納税者の権利保護のため「更正の
請求」の期間についても3年間に延長されたい。
6.信託に係る税制の整備を図ること
(理 由)
投資の多様化、国際化に伴い信託の利用が拡大しているが、例えば信託受益権が信
託財産とは別個の権利義務を持つ場合等には、信託財産の委託者や信託受益権の受益
者の課税関係は現行法の解釈に委ねられている。
また、外国有価証券等を対象とする投資商品の場合、租税条約上の取扱いが必ずし
も明確ではない。
課税関係の安定を図るため、国内法及び租税条約における信託の課税関係を整備さ
れたい。
第3 法人税について
1.法人税法の改正に当たっては、企業会計の基準を十分に尊重するとともに、税務上の
事実認定において企業会計の専門家たる公認会計士の監査上の判断を尊重すること
(理 由)
一般に公正妥当と認められた企業会計の基準によって求める期間損益の額は、企業
の担税力を表す指標として最も説得力のあるものと考える。したがって、法人税法の
改正に当たっては、企業会計の基準を十分に尊重し、税法がいたずらに乖離すること
のないよう配慮されたい。こうした観点から、平成 10 年度の税制改正において断行
された各種引当金の廃止・縮減その他の措置について早急に見直しを検討されたい。
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また、企業会計の基準を尊重する趣旨の下に、貸倒れや評価損等、税務上の事実認
定において、企業会計の専門家たる公認会計士の監査上の判断を尊重することを求め
る。
2.事業税及び事業所税については、発生事業年度の損金とする取扱いを認めること
(理 由)
事業税はその損金性が認められている租税ではあるが、申告納税方式によるため、
その損金算入時期は申告書が提出された日の属する事業年度とされている。
この取扱いは、販売費、一般管理費及びその他の費用については、税務上、債務確
定基準を原則としており、申告納税方式によって納付する事業税の確定時期は申告の
ときとされていることによる。
しかしながら、事業税の損金算入は、次のようにその事業年度終了のときであると
解される。
① 納税義務が事業年度終了のときに成立すること
② 課税原因の事実である収益、費用及びこれらから算定される所得が期末までに
発生していること
③ 課税標準金額の計算方法と税率とが法定されており、その税額が期末までに確
定的に算定できること
このように事業税は申告期限未到来であっても、事業年度終了時に債務が確定して
いると考えられるため、商法の定めも含めて、企業会計上はその事業年度の収益に対
応する費用として未払計上することが企業会計の慣行として成熟してきている。
よって、事業税及びこれと同様の性格を有する事業所税について、発生事業年度の
損金とする取扱いを認められたい。
3.連結納税制度の創設に当たり、会計慣行を尊重することにより、租税回避防止規定等
の複雑化を防ぐこと
(理 由)
連結納税制度は所得の合算だけでなく、連結対象会社間の取引に係る内部未実現利
益の消去などの処理が必要になろう。また租税回避行為を防止するため繰越損失や含
み損失の処理などにも複雑な制約が設けられることが考えられる。その処理の妥当性
を担保することは、課税の公平を確保する上で不可欠の手続であるといえる。
そこで、連結納税制度の創設に当たっては、会計慣行を尊重することにより、租税
回避防止等の目的で制度を複雑化しない方法を講じることを検討されたい。
4.同族会社の留保金課税制度を廃止すること
(理 由)
現在、同族会社について留保された所得金額のうち、1,500 万円の定額控除額など
一定の限度額を超過する部分に特別課税がなされている。平成 12 年度に措置された
時限立法によって、例えば設立後 10 年以内の、新事業創出促進法に規定する中小企
業については留保金課税が一時停止されているものの、廃止には至っていない。
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留保金課税は、中小企業の内部留保を圧迫しており、しかも、繰越欠損金を充当し
通常の法人税が課されない場合であっても、その所得に留保金課税がなされる場合が
あり、負担が過重になっている。近時の上場会社の配当性向の低さと比しても、この
ような留保金課税の必要性は乏しい。我が国産業を支えている中小企業の健全な育成
を図る上で、留保金課税制度を直ちに廃止されたい。
5.長期大規模工事以外の請負工事において損失が見込まれるものについても工事進行基
準による経理を認めること
(理 由)
長期請負工事について採用されている工事進行基準の会計慣行は、
① 長期工事の付加価値はその工事の進行に応じて発生すること
② 工事完成時のみをその工事の損益計上時とすると、長期工事の請負会社につい
てはその生産活動に応じた損益を計上することができないこと
などから生じたものである。しかるに、税法においては、長期大規模工事以外の請負
工事のうち利益が生ずると見込まれるものについてのみ、この基準の適用を認めてい
る。さらに、当初、利益が見込まれた工事につき、その工事の進行に伴いその利益が
見込まれないこととなった場合においても、既に計上された利益の修正の経理は工事
完了時まで認められていない。
このことは、適正なる会計慣行に反するのみでなく、適正な課税所得の計算の見地
からしても妥当性を欠くものといわざるを得ない。
したがって、平成 10 年の改正に引き続き工事進行基準の適用範囲と損失が見込ま
れるものなどに関して見直しを行い、長期大規模工事以外の請負工事についても損益
のいかんにかかわらず、工事進行基準の適用を認められたい。
6.適正額の役員賞与は利益処分によるものを除き損金算入を認めること
(理 由)
現行法人税法は、役員報酬は原則として損金となるが、役員賞与については全額損
金不算入と規定し、報酬と賞与との区分を月次支給的なものか臨時的なものかによっ
て判定しているため、臨時に支給されたものは、たとえ、職務執行の対価としての報
酬(費用)であっても、役員賞与と認定され損金不算入となる。
しかし、予め各人別に年俸等で具体的に定められた役員報酬額のうち、当該役員に
対するものとしてその額が適正額の範囲内で、従業員と同様に支給される賞与は、お
おむね我が国の社会的慣行によるものであって、利益処分で配分される役員賞与とは
本質的に異なるものである。
また、合理的な算定基準の枠内の臨時的報酬は、企業収益の状況に左右されること
なく支払われ、課税負担の公平性が損なわれることはないので、利益調整的要素と認
められないものは、損金に算入されるべきである。
7. 道府県民税の利子割制度を廃止すること
(理 由)
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法人に係る道府県民税の利子割は、昭和 62 年度の税法改正により、新たに設けら
れたものである。この改正により、利子所得に対する所得税の源泉徴収税率 20%が
15%に引き下げられるとともに、新たに源泉徴収の対象として金融類似商品が追加さ
れ、道府県民税利子割として5%が源泉徴収されることになったのであるが、本制度
は税額に比して多大な事務負担となっている。
すなわち、この改正の結果、これら利子等の支払者は、所得税と道府県民税とに区
分して源泉徴収すべきこととなり事務が煩瑣になるとともに、他方、その支払いを受
ける法人は、所得税と道府県民税の利子割とに区分して各々法人税及び地方税から税
額控除することとされたが、その控除される金額の計算明細書を添付する必要があり、
特に取引金融機関所在地が複数の道府県に跨がっている法人は、各道府県ごとに利子
割額を計算して明細書を提出しなければならない。多くの法人はその額が少額である
にもかかわらず非常に複雑な記帳及び計算を必要とし、このことは、各道府県におい
て交互計算等の事務量の増加となっており、行政の効率化にも反している。
事務の簡素化のため、本来の源泉所得税のみの方式に戻し、利子割制度を廃止され
たい。
8.交際費のうち、通常かつ必要なものについては損金算入を認めること
(理 由)
交際費は、販売促進等の渉外活動の経費として企業会計上費用性を有するものであ
り、その全額を原則的に損金不算入とすることは、所得課税の趣旨からしても問題が
ある。例えば、通常かつ必要と認められる得意先等に対する慶弔費等をはじめとする
一定の支出については原則として損金算入を認められたい。
9.欠損金の繰戻しによる還付の不適用の規定を廃止すること
(理 由)
法人税は、各事業年度ごとに課税することを原則として、一定の条件の下に繰越欠
損金の控除制度と欠損金の繰戻しによる還付制度が設けられている。
しかるに、後者の還付制度は厳しい財政事情を背景に平成4年の改正で停止され、
一部緩和(租税特別措置法第 66 条の 14)されたものの、停止されたままとなってい
る。
欠損金の繰越及び繰戻し制度は、事業年度課税制度の欠陥を是正するための措置で
あるから、本来制限すべきではない。よって、欠損金の還付不適用の規定を廃止され
たい。
第4 所得税について
1.居住者が年の途中で死亡した場合の準確定申告書の提出期限を、相続税の申告書提出
期限まで延長すること
(理 由)
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居住者が年の途中で死亡した場合の準確定申告は、4か月以内に提出しなければな
らないこととされている。しかし、近時においては被相続人と相続人とが同居してい
る世帯が減少傾向にあり、相続財産の把握の困難性が増大している。また、相続財産
の確定と確定申告すべき所得の間には密接な関連があるので、所得税の準確定申告書
の提出期限を相続税の申告書提出期限まで延長されたい。
2 . 居 住 者 の う ち 、 非 永 住 者( 居 住 者 の う ち 、 日 本 に 永 住 す る 意 思 が な く 、 か つ 居 住 期 間
が5年以下の者)は、永住者より課税所得の範囲が狭められており課税の公平を欠くの
で、公平を期すため永住者と同様の扱いにすること
(理 由)
非永住者は、国外源泉所得については、国内で支払われたもの又は国外から送金さ
れたものについてのみ課税されることになっているので、永住者に比して課税が軽減
されていることになる。二重課税のおそれについては、外国税額控除の規定や租税条
約により調整が可能と考えられるので、居住者について永住者、非永住者の区分は廃
止されたい。
3.財産債務明細書の提出必要限度額を引き上げること
(理 由)
財産債務明細書の提出必要限度額は、昭和 47 年の改正以降、所得金額 2,000 万円
以上となっている。しかし、その後の所得水準の向上、物価の上昇等を勘案した水準
まで引き上げられたい。
4.N P O 法人( 特 定 非 営 利 活 動 法 人 ) に 対 す る 寄 付 金 控 除 の 制 度 を 新 設 す る こ と
(理 由)
現在、寄付金控除は限定列挙され狭い範囲に限り認められているが、福祉活動や人
道的支援活動など政府が行うべき事業について民間の活動が一定の役割を代替して
果たしている。このような活動は政府の財政構造改革の一環としても寄与することが
期待されている。
民間の NPO 法人(特定非営利活動法人)などの行う非営利活動のうち一定の条件を
満たす事業に対する寄付金も寄付金控除の対象とされたい。
第5 土地税制・資産課税について
1.複雑化した土地税制全般の早急な見直しを行うこと
(理 由)
土地に関する現行税制は、国税、地方税にわたり、かつ、複数の税制が錯綜し、国
民の納得し得る制度に至っていない。取得、保有、利用、譲渡及び評価にわたり国税、
地方税の統一的取扱いが望まれるところである。
特に、土地評価については、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税、
-10-
特別土地保有税、相続税、贈与税、譲渡益課税(法人税、所得税)などの税目があり、
各税目別に課税の事情が異なることも考えられるが、税制の簡素化を図り、二重に財
産評価をすることによる財政支出を削減するためにも、その評価方法を統一されたい。
2.不動産所得について土地等 の取得 のため の 負 債 利 子 に よ る 損 失 に つ い て の 損 益 通 算 を
認めること
(理 由)
所得税における不動産所得の損失金額のうち、土地等を取得するために要した負債
の利子の額に相当する部分の金額についてはなかったものとされている。
しかし、この場合の負債利子は不動産収入に対応する費用であるにもかかわらず、
損益通算においてこの利子に係る不動産所得の損失対応部分を、永久的に必要経費と
して認めないことは妥当なものとは認められない。
よって、土地等の取得に係る負債利子についての損益通算を認められたい。
3 . 特 定(事業用)資産 の 買 換 え の 場 合 の圧縮記帳については、1 0 0 %圧縮を認めること
(理 由)
現在、特定(事業用)資産の買換えについては、過密地域からそれ以外の地域への
買換え等土地政策上必要と認められる場合に限り譲渡益の 80%∼90%相当額の圧縮
記帳による課税特例が認められている。
これは、土地の有利性縮減のために圧縮割合を縮減したものであり、地価が鎮静化
し土地取引が低迷している状況においては、その妥当性が認められないものとなって
いる。
さらに、事業等の維持継続といった観点からすれば、買換え時に課税関係が生じる
ことは、その課税による税負担額だけ企業規模を縮小させなければならないという事
態が招来されることになる。
事業多角化等における事業等の再配置あるいは、国土有効利用の見地からの誘導買
換え等においては、前記のように事業の維持継続に重大なる支障を来たすことになり、
住民又は地方公共団体等からの工場移転要求に対する拒絶理由ともなっている。
工場移転等従来の事業規模等を維持継続する必要性のある資産の買換えについて
は、100%の圧縮記帳を認めることとされたい。
4.土地の固定資産税評価額は、路線価等の財産評価通達の評価額と一致させること
(理 由)
土地の固定資産税評価額と財産評価通達の路線価等の評価額はそれぞれ公示地価
の 70%、80%とされているが、国と地方自治体とでそれぞれ別途に地価の調査と評価
額の算定を行っており、二重の調査コストをかけている。また、財産評価通達の路線
価等の評価額は広く公開されているが、土地の固定資産税評価額は公開されておらず、
土地取得等の際に固定資産税の額を計算できない場合があるという不合理がある。
調査コスト低減と納税者の予測可能性を高めるために、土地の固定資産税評価額は、
路線価等の財産評価通達の評価額と一致させる方向で検討されたい。
-11-
第6 国際課税について
1.外国税額控除について
(1) 控除対象外国法人税に該当するか否かの情報を開示すること
(理 由)
外国税額控除の対象となる外国法人税には、法人の所得を課税標準にするもののほ
か、これに代え法人の収入金額を課税標準とするものの中にも控除対象となるものが
あるなど、その該当性の判定は容易でないものがある。
したがって、課税当局において既に判定済みの外国税はもとより、新税等が制定さ
れたとき、納税者間の公平の確保と事務負担の軽減を図るため該当又は非該当の情報
を適時に開示されたい。
(2) 控除限度超過額の繰越期間を少なくとも7年程度に延長すること
(理 由)
外国税額の控除限度超過額及び控除余裕額の3年間繰越を認める制度は、国内にお
ける収益計上時期と外国における課税時期にずれがあることから時間的余裕を与え
つつ、国際的二重課税を排除するための制度である。しかし、最近においては外国税
額の賦課時期とその基礎となった所得の生じた時期との間の隔たりがあるため、控除
できないことが多々生じている。外国税額控除対象とした当該税額は損金不算入とし
て所得金額に加算しているものであるが、繰越期間経過により控除不能になった場合、
国際的二重課税が排除されないことになる。したがって、繰越期間を少なくとも7年
程度に延長されたい。
2.移転価格税制について
(1) 納 税 者 は 独 立 企 業 間 価 格 等 の 算 定 基 礎 の 入 手 が 困 難 で あ る の で 、 課 税 当 局 の 保 有 す
る参考となるべきそのデータ等を公表すること
(理 由)
国外関連者との間の適正価格を決定するには、納税者が同様の条件下で第三者と取
引を行っている場合を除き、同業他社の第三者との間の取引価格を参考としなければ
ならない。
現行税制においては、納税者がその価格等の妥当性を立証しなければならないが、
その参考とすべきデータの入手が非常に困難であるので、課税当局が有する事前確認
の事例、相互協議の事例なども含め適正な移転価格の算定方法等のデータについて極
力公表されたい。
(2) 事前確認制度につき容易かつ有効な活用を促進すること
(理 由)
我が国では、1987 年に「事前確認制度」(通達)が導入されたが、適切なガイドラ
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インがないため、多くの企業では適正な移転価格の算定が困難であり、膨大な事務負
担を強いられるなど問題が多い。
アメリカ、カナダ、ドイツ等の諸国では執行ガイドラインを公表し納税者の予測可
能性を高める努力を払っている。アメリカでは内国歳入庁(IRS)が、1988 年「移転
価格税制の見直しに関する白書」を公表し、更に 1991 年「事前確認に関する歳入手続」
を導入し事前確認システムの構築を推進している。
我が国においても移転価格については、1995 年7月に承認された OECD のガイドラ
インを尊重して執行されているところであるが、独立企業間価格の算定など困難な問
題が多いので、納税者の利益を擁護するため、事前確認制度につき、容易かつ有効な
活用を促進するための情報公開(白書を含め)及びそのガイドラインを策定・改善す
るなどの措置を講じられたい。
3.タックスヘイブン税制について
(1) 実 効 税 率 の 計 算 上 、 外 国 関 係 会 社 が 株 式 交 換 等 に つ き 非 課 税 所 得 が 生 じ な い こ と を
明確にすること
(理 由)
現状は外国関係会社の存在する国が株式交換等につき非課税もしくは課税の繰延
扱いをしている国にあっても、実効税率の計算上分母から除いて計算しておらず、実
効税率が 25%以下となることがある。そこでこれらの計算において、タックスヘイブ
ン税制上、非課税所得が生じないことを明確にされたい。
(2) 地方税法附則第9条第4項の政令を定めること
(理 由)
事業税の課税標準等の特例として、地方税法附則第9条第4項には、「タックスヘ
イブン税制の課税対象留保金額がある場合の“国外の事業に帰属する所得等の控除
(地方税法第 72 条の 15)”の規定の適用並びにその他事業税の課税標準等の適用に関
し必要な事項は政令で定める。」とあるが、政令が定められていないので、政令を速
やかに定められたい。また、その政令において、特定外国子会社等の課税対象留保金
額を事業税の課税標準等から控除する旨、規定されたい。
(3) タ ッ ク ス ヘ イ ブ ン 税 制 の 適 用 除 外 の 規 定 に 別 表 添 付 の 宥 恕 規 定 を 設 け る こ と
(理 由)
タックスヘイブン税制の適用除外の規定につき、別表の添付が要求されているが海
外との連絡などの遅れにより時間的に間に合わないことがある。実質的な事業活動を
行っている企業でも、実効税率の計算をする際に突然の減税などにより税率が 25%以
下になってしまっていることがあるが、海外ということもありその情報入手に時間が
かかる場合があり、適用除外の規定のための別表添付が間に合わないことがある。こ
れらの事情を考慮する宥恕規定を設けられたい。
4.パートナーシップ等の海外の組織体に対する課税上の性格付けを明確にすること
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(理 由)
パートナーシップや LLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)等の我が
国に制度のない海外の組織を通じて内国法人・居住者が投資を行った場合の課税上の
取扱いが明確化されていないので、課税上の性格付けを明らかにされたい。
また、我が国企業がこれらを通じて外国法人を保有している場合、外国税額控除を
適用する上での子会社又は孫会社の判定する基準が明確でないため、子会社又は孫会
社の判定基準を明示されたい。
5.海外で株式交換等が行われた場合、我が国に在住する株主の株式交換又は株式移転に
係る課税の特例が受けられるようにすること
(理 由)
海外において、我が国法人の海外子会社の株式を交換等の方法で別の会社の株式と
交換した場合、譲渡所得が我が国で課されることとなる。我が国法人の海外戦略が阻
害される要因にもなりかねないので、海外における株式交換等についても課税の特例
が受けられるように検討されたい。
第7 消費税その他について
1.消費税の各種届出書について、納税者の利益を考慮して提出期限を緩和すること
(理 由)
(1) 課税事業者選択の届出書は課税期間の開始日前に届出なければならないことと
なっているが、本来の課税事業者になるのであるから、その届出期限を申告書提
出期限までとされたい。
(2) 簡易課税の選択は、小規模納税者の消費税計算の計算簡便性を配慮したもので、
基準期間の課税売上によって選択の届出書と選択不適用の届出書を前課税期間
末日までに提出することとされている。当該課税期間の課税売上高で選択できる
ようにすることは、納税者が原則課税方式か簡易課税方式か有利な方を選択でき
ることとなって、課税の公平を失するという意見もあるが、中小企業の投資予測
能力等を考慮し当該課税期間の課税売上高によって選択する方法を認められた
い。
2.法人の消費税申告については、法人税と同様、申告期限の延長を認めること
(理 由)
法人税の所得計算に際して、決算期後に確定した債権債務で前期に属するものは申
告書上で所得金額を調整しているが、消費税の申告期限が法人税の申告期限と異なる
と、この調整が反映できない場合も生ずるので、事務の簡素化の観点から法人税の申
告期限と一致されたい。
3.消費税における仕入税額控除の帳簿記載要件の軽減を図ること
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(理 由)
現行の消費税法では仕入税額控除をするには、帳簿及び請求書等を保存する(消費
税法第 30 条第7項)とともに、その帳簿に仕入先の名称、仕入の年月目、資産又は役
務の内容等を詳細に記載しなければならないこととされている(消費税法第 30 条第8
項一、二)。この帳簿記載要件は、平成9年4月1日以降の課税仕入及び保税地域か
ら引き取られる外国貨物について適用されている。
この記載を要する理由が、取引の真実性を担保すべき趣旨であれば、帳簿又は請求
書等のいずれかに記載すれば足りるのであって、双方に記載すべき積極的理由は見当
たらない。他方、法人税法では帳簿代用書類(注)の制度があり、帳簿の記載を省略
することが認められている。しかるに、消費税法の帳簿記載要件は、事業者に新たな
事務負担を課することとなっている。
事業者の消費税申告に係る過剰な事務負担を軽減するため、帳簿記載に関する仕入
税額控除の要件を緩和し、請求書等が整理・保存されている場合には、帳簿への取引
内容の記載を省略することができる旨の規定に改正されたい。
(注) 法人税法別表 20 の記載事項の全部又は一部の記載に代えて、その記載され
ている書類を整理し、保存している場合の当該書類をいう。これによる場合、
青色申告を選択する法人は、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳等の別表 20 に定め
る記載を省略することが認められている(消費税法規則第 54 条、第 59 条第3
項)。
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