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博士論文 電気抵抗トモグラフィ法による ガラス溶融炉内白金族

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博士論文 電気抵抗トモグラフィ法による ガラス溶融炉内白金族
博士論文
電気抵抗トモグラフィ法による
ガラス溶融炉内白金族モニタリングに関する研究
A Study on monitoring of the noble metals in the glass melter
by electrical resistance tomography
横浜国立大学大学院
工学府
機能発現工学専攻
物質とエネルギーの創生工学コース
一条
憲明
Noriaki Ichijo
2015 年 12 月
1
目次
目次 ......................................................................................................................................... 2
第1章
緒言 ...................................................................................................................... 3
1.1
本研究の背景および目的 ......................................................................................... 3
1.2
本論文の構成............................................................................................................ 7
第2章
電気抵抗トモグラフィ技術について ................................................................. 10
2.1
既往の研究 ............................................................................................................. 10
2.2
電気抵抗トモグラフィについて ............................................................................. 11
2.3
ガラス溶融炉適用に向けた課題 ............................................................................ 17
第3章
3.1
ガラス溶融炉への適用に向けた要素技術検討 ................................................... 20
円錐型容器への適用............................................................................................... 20
3.1.1
検討方法.......................................................................................................... 20
3.1.2
結果および考察............................................................................................... 24
3.2
繰り返し計算による解像度向上検討 ..................................................................... 32
3.2.1
繰り返し計算による画像再構成アルゴリズムについて................................. 33
3.2.2
数値シミュレーションによる検討 ................................................................. 35
3.2.3
実験による検討............................................................................................... 39
3.3
4 電極による検討 ................................................................................................... 47
3.3.1
検討方法.......................................................................................................... 47
3.3.2
数値シミュレーションによる検討 ................................................................. 52
3.3.3
実験による検討............................................................................................... 62
3.4
温度補正方法の検討............................................................................................... 68
3.5
まとめ .................................................................................................................... 71
第4章
モックアップ炉への適用.................................................................................... 74
4.1
計測の概要 ............................................................................................................. 74
4.2
計測結果および考察............................................................................................... 82
4.3
まとめと今後の課題............................................................................................... 88
第5章
結言 .................................................................................................................... 89
参考文献 ............................................................................................................................... 92
研究に関連する投稿論文、学会発表、特許 ......................................................................... 95
謝辞 ....................................................................................................................................... 97
2
第1章 緒言
1.1 本研究の背景および目的
原子力発電所で使われた燃料は、再処理のプロセスの中でさまざまな処置がおこなわ
れている。再処理の全体工程を図 1-1 に示す。再処理工場に運ばれてきた使用済燃料は、
一時保管した後、貯蔵プールに移され、放射能を弱める。その後細かくせん断し、ウラ
ン、プルトニウム、核分裂生成物に分離される。ウランとプルトニウムについては、精
製、脱硝してウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物の 2 種類の製品が作られ
る。一方で、核分裂生成物については、強い放射能を帯びており、これを高レベル放射
性廃棄物と呼ぶ。この放射性廃棄物をガラスに閉じ込め固化することを目的として、ガ
ラス溶融炉が用いられている。ガラス溶融炉の概略を図 1-2 に示す。炉の運転プロセス
としては、まず炉の上部より高レベル放射性廃棄物とガラスビーズを供給する。供給さ
れた原料は炉壁に設置されている加熱用主電極によってジュール加熱される。高温の溶
融ガラスには導電性があり、例えば 1000℃のときおよそ 10S/m の導電率を有するため、
ジュール加熱が可能となる。その後、炉底部よりキャニスターに注がれ、次の保管プロ
セスへと移行される。本工程中に高レベル廃液に含まれる白金族粒子が壁面付近に堆積
すると、導電率の高い白金族粒子へジュール加熱の電流が流れやすくなり、加熱ムラが
発生し、炉の安定運転を阻害する恐れがある。さらに白金族が炉壁の広範囲に数十 mm
堆積すると、白金族のみに電流が流れ、最悪の場合、ジュール加熱が出来なくなる可能
性がある。そこで、炉内の白金族分布を推定もしくは計測する手法の開発が求められて
いる。本研究にて対象としている白金族とは、高レベル廃液中に含まれる Ru、Rh、Pd
を指す。廃液中ではこれら白金族は硝酸塩の状態で存在しており、ガラスとともに炉内
で加熱されることにより、溶融炉内では酸化物として存在している。高レベル廃液中に
はこれら白金族のほかにも多くの物質が含まれているが、白金族は溶解しにくいこと、
密度が高く沈降しやすいこと、濃度上昇に伴い粘性が高くなること、などから、特に分
布を把握することに対するニーズが高い。また、白金族はウランの分裂生成物であり、
廃液中には必ず含まれる物質である。
これまでの研究では、数値シミュレーションが実施されており、温度分布および電気
抵抗が実験の計測値と良好に一致していることが確認されている[1][2]。一方で白金族の堆
積については、不明な点も多く、現在も解析モデルの改良が行われている。また、白金
族粒子は、数 μm~100μm 程度の粒子径で存在しているが、中には小さな粒子がクラスタ
3
状に集まり、より大きな粒子径のように振舞うこともあるため、白金族の挙動の解明に
は多くの課題がある。
また、炉内のモニタリング手法については、炉がレンガで覆われていること、炉内は
高温かつ放射能にさらされていることから、熱に対する耐久性、および遠隔で操作でき
かつ装置の構成が簡単でメンテナンス性に優れる等の性能が要求される。したがって、
従来用いられている混相流の可視化手法の多くは適用が困難である。例えばレーザーは
外から照射できない上、耐熱性の問題があるため、適用できない。また、メンテナンス
フリーの観点から X 線や中性子線を用いるのも難しいと考えられる。一方、電気抵抗ト
モグラフィ法(以下、ERT)は、電流を印加し、そのときの電位差を測定するのを繰り
返す、というのが基本的なフローであり、炉内に設置された電極をケーブルで接続する
ことにより、炉から離れた位置においても計測を実施することが可能である。さらに、
高温にさらされるのは電極だけであり、電極の材質にインコネル等を選定すれば、耐久
性に関しても問題ない。
そこで、ガラス溶融炉特有の条件に適用可能な ERT の開発をおこない、炉内モニタリ
ング手法を構築することを目的として本研究を実施した。
4
受入
貯蔵
使用済燃料
せん断
溶解
分離
精製
脱硝
製品貯蔵
使用済燃料
(せん断
溶解)
ウラン
プルトニウム
ウラン
ウラン
ウラン
酸化物製品
プルトニウム
被膜管
ウラン
プルトニウム
高レベル
放射性
廃棄物
ガラス溶融炉にて固化
図 1-1 使用済燃料の再処理の全体工程
5
ウラン・
プルトニウム
混合
酸化物製品
High Level Waste
Glass Beads
Heater
Molten Glass
Main
Electrode
Electric
Current
Refractory
Bottom
Electrode
Drain Nozzle
Canister
図 1-2
ガラス溶融炉概略図
6
1.2 本論文の構成
本論文は全 5 章から構成されている。全体の章構成を図 1-3 に示す。構成としては、
第 3 章で実施する各要素技術検討にて得られた成果に基づき ERT システムを改良し、改
良した ERT システムを使用してモックアップ炉にて計測を実施した、という研究のフロ
ーである。各章の概要は以下のとおり。
第 1 章では本研究の背景として、ERT の適用先であるガラス溶融炉についての概要と
適用の目的を示す。さらに、ガラス溶融炉へのモニタリング手法適用にあたっての課題
について述べ、ERT を選定した背景についても言及する。また、論文全体の構成につい
ても本章にて述べる。
第 2 章では ERT について解説する。感度行列の作成から計測、画像再構成に至る一連
のフローについて解説する。また、これまで行われてきた ERT 関連の研究についても言
及する。
第 3 章ではガラス溶融炉への適用に向け、従来の ERT をそのまま適用することが出来
ないため、炉特有の課題に対する要素技術検討と、解像度向上検討について述べる。具
体的には、以下の 4 点について検討する。
・3.1 円錐型容器への適用
従来円筒型容器に用いられてきた ERT を、ガラス溶融炉底部のような円錐型容器へ
の適用に向けた検討結果について示す。円錐型容器の場合、例えば容器内容物の導電
率が一定の場合、電流経路は電極を配置した断面よりも、下方を通るほうが最短経路
であり、電位差計測値はその影響を受ける。したがって、最短経路と計測断面内経路
の距離に応じて電位差計測値を補正することによって、より妥当な再構成画像が得ら
れるようになった。
・3.2 繰り返し計算による解像度向上検討
ガラス溶融炉の内部流れや求められる性能を考慮し、画像再構成アルゴリズムを改
良した結果について示す。ガラス溶融炉内は流速が数 mm/s 程度であること、画像処
理に時間を要しても問題とならないことから、画像再構成法として従来広く用いられ
てきた逆投影法[3][4]をベースに、繰り返し計算を実施することにより、高解像度の画像
を取得できるアルゴリズムの開発を実現した。
7
・3.3 4 電極による検討
従来 ERT は 16 電極程度で用いられることが一般的であるが、ガラス溶融炉への適
用を考慮し、炉の改造を最小限に抑えることを目的として、4 電極 ERT 法についての
検討を実施した結果について示す。4 電極に適用させるために、電位差データ取得法、
画像再構成領域に対して改良を実施し、特にガラス溶融炉内の白金族堆積状況のモニ
タリングにおいて重要な壁面付近の分布について、妥当な結果の得られる手法を開発
した。
・3.4 温度補正方法の検討
適用先であるガラス溶融炉は、その運転サイクルの中で炉内の温度分布に差が生じる。
ERT 計測で得られる電位差計測値は炉内の白金族の影響だけでなく、温度の影響も受
けて値が変化するため、白金族分布をモニタリングするためには、温度の影響を除去
する必要がある。そこで、温度補正方法に関する検討について示す。
第 4 章では、第 3 章にて言及した各要素技術を組み合わせて、モックアップ炉に適用
した際の結果を述べる。モックアップ炉においては、ノイズの除去、温度の影響の除去、
ケーブル長さの差の影響の除去の 3 つの影響についての補正が必要となる。それらの影
響を除去した上で、白金族分布を可視化した結果について示す。
以上の内容をまとめた結言を第 5 章にて述べる。
8
第1章
第2章
第3章
3.1
円錐型容器への適用
緒言
電気抵抗トモグラフィ技術について
ガラス溶融炉への適用に向けた要素技術検討
3.2
繰り返し計算による
解像度向上検討
第4章
3.3
4電極による検討
モックアップ炉への適用
第5章
結言
図 1-3 章構成のフローチャート
9
3.4
温度補正方法の検討
第2章 電気抵抗トモグラフィ技術について
本章では、本研究にて取り扱う ERT に関して、その計測技術の概要とこれまでの研究につ
いて述べる。
2.1 既往の研究
トモグラフィとは、断面内の異なる複数の物質の分布を可視化する手法であり、計測対
象物の流れや構成に影響を与えることなく、断面の可視化画像を取得できる特徴を持つ。
トモグラフィ技術は医療分野で開発が行われ、1968 年に英国 EMI 社のハンスフィール
ド(Godfley Hounsfield)によって X 線 CT 装置が発明され、急速に進歩発展を遂げた。
一方で、X 線 CT 装置は高価であるため、同様の原理を用いてより安価な装置構成となる
電気抵抗方式[4][5]、キャパシタンス方式[4]、超音波方式[6]、光干渉方式[6]、帯電粒子検出方
式[7]、等々異なる信号を用いる手法の開発も進められた。また、医療分野だけでなく、産
業利用についても応用が進められるようになった。
その中で今回用いる ERT は 1980 年代に考案され、安価な装置構成と応答速度の高さ、
高い信頼性から、さまざまな混相流に対して適用検討が進められてきた。主な適用先と
しては、パイプライン等をはじめとする配管[8]、撹拌槽[9]、懸濁重合反応器[10][11]、等々特
に化学工学の分野[12]で多くの適用先が報告されている。また、直径 1.5m の撹拌槽への適
用事例[13]や、導電性のある容器内に対しても適用事例[14]が報告されており、適用先は広
がりを見せている。
ERT 手法に関する研究は現在も広く行われている。データ取得法については、隣接法、
対向法、交差法[15][16]の 3 種類が広く用いられている。データ取得のための電流供給と電
位差計測の組み合わせはこれらの手法以外にもあるが、組み合わせを検討する際には計
測点の独立性と要素間の重み付けの均一性を考慮する必要がある。画像再構成アルゴリ
ズムに関しては、最も基本的で処理時間も短い逆投影法[3][4]が 1980 年代に適用され、そ
の後解像度向上を目的として、
Tiknohov regularization 法[17]、
Modified Newton Raphson
法[18]、Generalized conjugate gradient 法[19]等、繰り返し計算をおこなう手法も多く開発
されている。また、計算機の高速化に伴い、感度行列の算定を三次元空間でおこなった
り、複数の断面に電極を取り付け三次元空間の可視化を実施したりする事例 [20][21]も多く
見られる。
10
2.2 電気抵抗トモグラフィについて
ERT とは、計測断面内に存在する複数の物質の導電率の差を利用して、分布を可視化
する計測手法である。再構成画像を取得するためのフローとして、最も広く用いられ、
比較的処理の単純な逆投影法による画像再構成の流れを図 2-1 に示す。なお、本論文で
は、特に断りのない限り、画像再構成アルゴリズムについては逆投影法、データ取得法
については隣接法を用いる。それぞれのフローの概要は以下のとおり。
①計測対象を設定する。
本研究でのターゲットは溶融ガラスと白金族粒子であり、両者の導電率の差を利用し
て分布を求める。計測対象としては、導電率の異なる複数の物質であれば、適用可能
である。また、物質間の導電率は差が大きいほど、可視化には有利である。
②メッシュを作成する。
本メッシュは、後述する電場計算と画像再構成に用いられる。画像再構成用のメッシ
ュについては、ERT としての解像度(電位差の計測点数)を大幅に超える細かいメッ
シュを作成してもぼやけるだけであるため、本研究では電場計算用のメッシュと画像
再構成用のメッシュとでは、画像再構成用のメッシュのほうを粗く作成している。参
考までに、両者のメッシュの一例を図 2-2 に示す。
③電場計算を実施する。
電場計算は、すべての要素が高抵抗のときの電位差 V(k)fir、すべての要素が低抵抗のと
きの電位差 V(k)obj、および作成したメッシュのうちの一つの要素だけが低抵抗のときの
電位差 V(e, k)を求める。電場計算は境界条件として、電流を供給する電極に+I、-I の flux
をそれぞれ与え、そのときの各電極間の電位差を求めて、実験にて得られる電位差計
測値と同等の電位差計算値を得る。本研究での数値シミュレーションは汎用コード
Fluent14.5 を使用し、電場計算についてはユーザー関数を作成し、計算を実施してい
る。電場計算の基礎式は、以下の式で表される。
     0
(1)
11
④感度係数を算定する。
画像再構成をする各要素の導電率変化に対する、電位差計測値の変化のしやすさを感
度係数とよび、以下の式で表される。
S e , k  
1 Ve,k   Vk  fir
 ( e ) Vn obj  Vn  fir
(2)
感度係数は一般的に、電流供給電極 2 個と電位差計測電極 2 個で囲まれた領域で大き
くなる。また、作成したメッシュが大きければそれだけ電位差計測値に与える感度は
大きいため、メッシュサイズによる感度の影響を相殺するため、計測断面における要
素 e の面積割合である β(e)で除している。
⑤実験により電位差を計測する。
電位差データの取得方法として、本研究では隣接法を用いている。隣接法は図 2-3
に示すように隣り合う電極間に電流を供給し、そのときの他の隣り合う電極間の電位
差を計測することでデータを収集する手法である。基本的な流れとしては、図 2-3 に
示す電極 1 と電極 2 の間に電流を供給し、そのときに他の隣接する電極間(電極 3-4、
4-5、5-6、6-7、7-8)の電位差を計測する。その後、電流を供給する電極を電極 2 と電
極 3 に変え、同様に他の隣接する電極間の電位差を計測する。これをすべての隣接す
る電極の組み合わせに対して実施し、データを収集する。したがって、このデータ取
得法により得られる、独立した電位差計測値の個数 nV は以下の式によって表される。
nV 
ne ne  3
2
(3)
本研究では隣接法を 8 電極で実施しているため、得られる電位差計測値の個数は 20 個
である。一般的な ERT で用いられている 16 電極を採用した場合、データ取得数は 104
個となり、データは大幅に増加する。なお、データ取得数は独立した値の数であるた
め、再構成画像の分割数はデータ取得数と同じかそれ以上にするのが一般的である。
12
⑥抵抗相当値を求め、再構成画像を取得する
④にて算定した感度係数と、実験により得られた電位差計測値から、断面内の各要素
の抵抗相当値 P(e)を求める。P(e)は以下の式で表される。
n
Pe  
 S
k 1
e,k 
V k measured
(4)
n
 S
k 1
e,k 
なお、P(e)の分布は計測断面内の抵抗値の相対分布となる。また、計測された電位差は
式(5)に示すように、すべての要素が高抵抗のときの電位差とすべての要素が低抵抗の
ときの電位差を用いて正規化される。
V k measured 
Vk measured  Vk  fir
Vk obj  Vk  fir
(5)
⑦計測終了の判定をする。
あらかじめ計測時間、および計測回数等の終了判定条件を設定しておき、条件を満足
した場合、計測終了となる。条件を満足していない場合には、⑤の電位差計測以降の
フローを再度実施する。
また、⑤のデータ取得法に関して、前述した隣接法の他に、対向法と呼ばれるデータ取
得法が存在する。対向法は図 2-4 に示すように向かい合う電極間に電流を供給し、その
ときの他の隣り合う電極間の電位差を計測することでデータを取得する方法である。基
本的な流れとして、図 2-4 に示す電極 1 と電極 5 の間に電流を供給し、そのときに他の
隣接する電極間(電極 2-3、3-4、6-7、7-8)の電位差を計測する。その後、電流を供給
する電極を電極 2 と電極 6 に変え、同様に他の隣接する電極間の電位差を計測する。こ
れをすべての対向する電極の組み合わせに対して実施し、データを取得する。したがっ
て、このデータ取得法により得られる独立した電位差計測値の個数 nV は式(6)にて表さ
れる。
13
nV 
ne ne  4
2
(6)
それぞれのデータ取得法の特徴として、隣接法は壁面付近の解像度が比較的高く、中心
付近はぼやけやすい。一方、対向法は壁面付近の解像度は隣接法ほどではないが、中心
付近の解像度は隣接法よりも優れている。可視化する対象の目的に応じて使い分ける必
要がある。本研究では、ガラス溶融炉の壁面に堆積する白金族の検知を目的としており、
壁面付近での解像度がより重要なため、隣接法をデータ取得法として採用している。
14
Decide the measurement condition
Generate the mesh
Calculate the electrical field
Calculate V(n)fir, V(n)obj, and V(e,n)
Calculate the sensitivity matrix
S e , n  
1 Ve,n   Vn  fir
 e  Vn obj  Vn  fir
Measure the voltage
Calculate the resistance values
n
Pe  
 S
k 1
V k measured
e,k 
n
 S
k 1
e,k 
Reconstruct the resistance distribution
Equal to threshold
Yes
End of measurement
図 2-1 画像再構成のフロー
15
No
(a) 電場計算用のメッシュ
(b) 画像再構成用のメッシュ
図 2-2 電場計算および画像再構成用のメッシュの一例
V
V
5
4
V
V
6
7
3
2
1
V
8
図 2-3 隣接法のデータ取得パターン
4
V
5
7
3
V
V
6
2
1
8
V
図 2-4 対向法のデータ取得パターン
16
2.3 ガラス溶融炉適用に向けた課題
ガラス溶融炉への適用に向けて想定される主な課題としては、以下3点が考えられる。
・炉底部に向かって断面積の縮小する錐形であること
・炉内が高温かつ温度分布があること
・炉壁には既存構造物が複数あり、ERT 用電極を新規で追加するスペースに限りがある
こと
それぞれの課題に関する詳細を以下に述べる。
(a) 錐形への適用性
錘形への適用に関して、図 2-5(a)に示すように円錐形容器のある一断面に ERT を適用
する場合を考える。ガラス溶融炉の場合、壁面付近に高濃度の白金族が堆積することが
予想されるため、電流経路としては壁面付近を通りやすくなる。本条件下で例えば対向
する電極 1 と電極 5 の間に電流を供給する場合を考える。壁面付近を通る場合、電流経
路の最短距離は、図 2-5(b)に示す展開図から分かるように、計測断面上の円弧 1-5 では
なく、直線 1-5 となる。すると、最短距離のほうが主要な電流経路となるため、実際に計
測断面上を通った場合の電位差よりも、計測される電位差は小さくなる可能性がある。
そこで、その影響を最小化するための補正法等を検討する必要がある。
(b) 炉内の温度および温度分布
炉内の温度分布については、電位差計測値が受ける温度の影響と白金族堆積の影響を
分離し、白金族堆積のみの影響を画像化するためにも必要である。ERT 計測における電
位差計測値を変化させるパラメータとして、白金族濃度と温度が考えられる。ガラス溶
融炉の温度が運転中に大きく変動してしまうと、計測される電位差が白金族濃度の変化
を検知したのか、温度変化を検知したのかが区別できない。そこで、温度が電位差に与
える影響を明確にすると共に、計測断面内の温度を推定し、温度の影響を除去する方法
を検討する必要がある。
(c) 既存構造物との干渉
既存構造物に関して、炉壁にはジュール加熱用の電極や熱電対が数多く設置されてお
り、ERT 用に同一断面に複数の電極を新規で挿入するためには多くの設計検討が必要と
なる。また、仮に設計変更が可能な場合でも、既存構造物との干渉から同一断面に 8~16
17
本の電極を挿入するのはレイアウト上困難であると考えられる。一方で加熱用電極およ
び熱電対は材質が金属で、かつ炉壁に金属部があるため、位置によっては ERT 用電極と
して活用することも可能である。これらの条件を考慮の上、設計検討を最小限に抑えな
がら、モニタリングに必要な情報を得ることができる計測断面、電極数等の計測条件を
検討する必要がある。
5
1
(a) 円錐形容器への適用イメージ
5
1
1
(b) 展開図による電流経路
図 2-5 錘形への適用イメージと電流経路
18
第 2 章の使用記号
ne
:電極数[ - ]
nV
:電位差計測点数[ - ]
P(e)
:要素 e における抵抗相当値[ - ]
S(e, k)
:計測点番号 k、要素 e における感度係数[ - ]
V(e, k)
:計測点番号 k において、要素 e のみが低抵抗のときの電位差[V]
V(k)measured
:計測点番号 k における、電位差計測値[V]
̅(k)measured
V
:計測点番号 k における、正規化電位差計測値[ - ]
V(k)fir
:計測点番号 k において、すべての要素が高抵抗のときの電位差[V]
V(k)obj
:計測点番号 k において、すべての要素が低抵抗のときの電位差[V]
β(e)
:要素 e が計測断面に占める面積の割合[ - ]
φ
:電位[V]
σ
:導電率[S/m]
19
第3章 ガラス溶融炉への適用に向けた要素技術検討
本章では、ガラス溶融炉への ERT 適用にあたり、炉の形状、運転環境から通常の ERT
手法を適用することができないため、それらの課題を解決するための要素技術検討内容に
ついて述べる。
3.1 円錐型容器への適用
2.3 にて述べたように、ガラス溶融炉の形状と、白金族が壁面付近に堆積しやすいという
特徴を考慮して、円錐型容器への適用方法に関する検討をおこなった。
3.1.1 検討方法
ガラス溶融炉において、白金族が堆積しやすいと考えられる領域は断面積が次第に縮
小していく炉底付近である。したがって、炉底付近の断面積が変化する領域を模擬する
形状として、図 3-1(a)に示す円錐型容器を用いて数値シミュレーションを実施した。ERT
計測対象断面はモデル全体の高さ方向の中間の位置としており、電極の高さは 10mm と
した。電極は、ガラス溶融炉には多くの電極を挿入することが困難であることを考慮し
て 8 電極とした。このとき独立した計測点数は(3)式から 20 点であるため、要素数も独立
した計測点数に合わせて図 3-1(b)に示すような 20 要素とした。
電場計算、白金族粒子の沈降の計算は汎用 CFD コード Fluent14.5 にて、ユーザー関
数を用いておこなっている。それぞれの計算方法について以下に示す。
a. 電場計算
Navier-Stokes 型の保存方程式群を基礎式とする数値熱流体解析においては、流れ場中
を輸送するスカラ θ の保存式は以下のように表される。

     u  F   s
t
(7)
溶融ガラス内の電位 φに対して(7)式を適用すると、対流項 ρuθ、生成項 sθ を考慮する
必要はなく、拡散流束 Fは導電率を用いて
20
F  
(8)
と表される。また静電場解析では非定常項を 0 とみなすことができ、ρ は解析領域中で一
定であることから、基礎式は以下のようになる。
      0
(9)
b. 白金族粒子挙動計算
白金族粒子挙動の解析に関しては,粒子挙動を連続的な白金族粒子濃度 C の輸送現象
として,オイラー型手法でモデル化した. また、白金族粒子は壁面に堆積した高濃度の
堆積層の挙動を再現することが重要となるため、炉内に浮遊する粒子と壁面に堆積する
粒子とで、異なる物理モデルを作成した。
以上の点を考慮して、白金族粒子挙動に関する方程式は以下のようになる。
・粒子濃度 C の輸送方程式

 pC   div pupC   Dp divgrad C   S p
t
(10)
・粒子の移動速度 up
粒子は流体力,重力,壁面摩擦力(堆積層のみ)のつり合いによって決まる粒子速度 up
で移動すると仮定している.粒子の並進運動方程式は以下である.
m
ここで,
u p
t
u p
t
 Fd  F g  F f
(11)
 0 として, Fd  Fg  F f  0 からupを算出する.
浮遊層における流体抵抗力はストークス抵抗を利用して(12)式、堆積層における流体抵抗
力はGidaspowモデルを利用して(13)式で、それぞれで表される。
21
Fd  3 f d p u f  up 
Fd 
Vp
C
(12)
 u f  u p 
(13)
また、このとき式(13)中の粒子濃度に基づく流体抵抗係数βは以下の式(14)~(17)により求
めることができる。

fC
d p 1  C 
2
fC
3
4
  CD
dp
2
t
Re p 
CD 
u f  up
150C  1.75 Re 
C  0.2
(14)
1  C 2.7 1  C  Re p 
C  0.2
(15)
p
t  t
dp
(16)
f
f

24 1  0.151  C  Re p 
0.687
1  C  Re 

Re p  1000
(17)
p
また、重力、壁面摩擦力をそれぞれ式(18)、式(19)に示す。

f 
mg
F g  1 



p 

(18)
 u t  t
p

F f   w Fg  n    t  t
 up





(19)
・堆積層の厚さ tp
堆積層の計算では、計算格子に依存しない仮想的な堆積層領域を設け,浮遊層と堆積層
との質量授受から堆積層の発生と成長を逐次算出する.堆積層の厚さは,粒子の最大堆
積濃度Cmaxを仮定することで算出している.堆積層の厚さを求める式を(20)式に示す。
22
t pi 
Vol
pi
C max

(20)
Si
Measured Section
Height : 200mm
Upper Surface Radius : 300mm
Lower Surface Radius : 100mm
(a) 容器形状
Electrode
(b) 計測断面のメッシュと電極配置
図 3-1 計測対象容器形状
23
3.1.2 結果および考察
a. 円筒型容器と円錐型容器の比較
数値シミュレーションはまず、一般的な適用先である円筒型容器と円錐型容器を用い
て、差の有無と、円錐型容器に従来手法が適用可能かを確認するため、図 3-1 に示す円
錘型容器と図 3-2 に示す円筒型容器でそれぞれ計算を実施した。どちらの容器も計測対
象断面は容器の中間部分であり、計測対象断面の直径は 200mm としている。これらの容
器に対して、図 3-3(a)に示すように壁面に接する要素のみに白金族が含まれる分布を模
擬的に再現して計算をおこなった。同様の分布を計測対象断面だけでなく、計測対象断
面の高さ方向の上下全域にも与えている。また、導電率の高い領域と低い領域の導電率
比は 4.24:1 である。電場計算を実施したときの電位分布の一例を図 3-4 に示す。このと
きの ERT 計測による円筒型容器の再構成画像を図 3-3(b)、円錐型容器の再構成画像を(c)
に示す。どちらの結果も壁面側の要素の導電率が高く、中央付近の要素の導電率が低い
分布となり、実際の分布と同じ傾向を示すことが確認できる。しかしながら、両者の再
構成画像を比較すると、壁面より1要素分内側の要素に関しては、円筒型容器の再構成
画像よりも円錘型容器の再構成画像のほうが導電率が高い結果となっており、ぼやけに
関しては円錘型容器のほうが大きい。本結果の要因について考察する。
2.3 にて述べたように、錘型容器、かつ壁面付近に高導電率の物質が存在する場合、電
流は計測対象断面の壁面付近よりも最短経路となる下方を通りやすくなると考えられる。
今回の計測で採用している 8 電極の系の場合、円弧と直線の距離の比 α(=円弧長さ/直
線)の分だけ電位差計測値は小さく計測されると考えられる。そこで式(21)に示すように、
電位差を補正する。
Vc  Vmeasured
(21)
本検討で用いた円錐型容器に 8 電極 ERT を適用する場合の α について考える。本検討で
用いた円錐型容器に 8 電極 ERT を適用する場合の α について考える。8 電極の場合、電
流供給電極と電位差計測電極の距離としては、電流供給電極が電極 1 と電極 2 の場合を
例に考えると、電位差計測電極は電極 3 と電極 4(=電極 7 と電極 8)の場合と、電極 4
と電極 5(=電極 6 と電極 7)の場合、電極 5 と電極 6 の場合の 3 通りの距離が存在する。
それぞれの距離の算定にあたり、一般化のため、図 3-5(a)に示すように、計測断面の直
24
径が rm、傾斜角が β の容器を考える。これを展開すると、図 3-5(b)のようになり、この
とき容器側面部を展開したときの扇形の角度を θ、中心から計測断面までの距離を R とす
る。
まず、最短距離である図 3-5(b)中の ab について考える。直線 ab の距離 Lab は、以下
の式(21)で表される。
Lab  2 R  sin

(22)
8
ここで、
R
rm
2 cos 
(23)
  2 cos 
(24)
の関係が成り立つので、式(21)に式(22)、式(23)をそれぞれ代入すると、Lab は rm と β を
用いて以下の式で表される。
Lab 
rm
  cos  
sin

cos 
 4 
(25)

一方、円弧 ab を Lab とすると、

r
Lab  m
4
(26)
と表されるため、円弧 ab と直線 ab の距離の比 αab は、
 ab

Lab


Lab
 cos 
  cos  
4 sin

4


25
(27)
と表すことができる。同様にして、円弧 ac と直線 ac の距離の比 αac、円弧 ad と直線 ad
の距離の比 αad はそれぞれ以下のようになる。
 ac

Lac


Lac
 ad

Lad


Lad
3 cos 
 3 cos  
8 sin

8


 cos 
  cos  
2 sin 

2
(28)
(29)


これら αab、αac、αad による距離の補正を円錐型容器に白金族を沈降させたシミュレーショ
ンに対して適用する。
26
Measured Section
Height : 200mm
Radius : 200mm
図 3-2 円筒型容器の形状
high
Conductivity : low
(a) 実際の白金族濃度分布
(b) 円筒型容器の再構成画像
(c) 円錐型容器の再構成画像
図 3-3 実際の白金族濃度分布と再構成画像
電位:低
高
図 3-4 数値シミュレーションによる電位分布
27
c
d
rm
b
β
(a) 鳥瞰図
c
d
b
θ
a
(b) 展開図
図 3-5 容器鳥瞰図および展開図
28
a
b. 白金族沈降シミュレーションへの適用
シミュレーションは図 3-1(a)に示す容器に対して、白金族粒子を容器上面から一様に供
給する条件にて実施した。下方に向かって断面積が縮小していくため、沈降とともに壁
面、特に下方の壁面の白金族濃度が高くなる。白金族濃度の最大値が計測対象断面にな
る時間を ts とし、無次元時間 t/ts を定義する。t/ts = 0.6 から 1.6 における容器側面と計測対
象断面の導電率分布、および従来手法と距離補正実施後の再構成画像をそれぞれ図 3-6
に示す。断面積が下部に向かって縮小している影響で、沈降が進むのに伴い、容器下部
の壁面付近で、白金族濃度が著しく上昇することが確認できる。再構成画像については、
t/ts = 1.4 までは、従来手法も距離補正実施後の画像も外側に高濃度の白金族が存在する傾
向を示しており、多少のぼやけはあるものの、傾向は捉えることができることが分かる。
時間が経過し、白金族の沈降が進むのに伴い、計測対象断面以外に、容器下部に導電率
が高い領域が存在し、電流は容器下部に流れやすくなる。すると、図 3-5(b)で示した最
短経路を電流が流れる傾向がより顕著になり、ぼやけは次第に大きくなる。そして、最
終的には、t/ts = 1.6 の再構成画像のように、従来手法では正しい分布が得られなくなる。
そこで、妥当な結果が得られる限界を把握し、実際のガラス溶融炉で想定される白金族
の沈降状況と比較し、適用性を明確にしておく必要がある。
実機への適用性を検討するために、円錐容器内の導電率の最大値と計測対象断面の導
電率の比(以下、導電率比)の時間変化を図 3-7 に示す。t/ts = 1.6 において、導電率比は
100 程度であり、導電率比は底部に白金族が堆積し始めると、急速に大きくなることが確
認できる。実際のガラス溶融炉の運転において、導電率比が 10 を超えることはほとんど
考えられないため、今回計測対象としているガラス溶融炉の運転条件においては、問題
なく適用できるものと思われる。
29
Conductivity Distribution
of Side Wall
Conductivity Distribution
of Measured Section
Reconstruction image
(Conventional method)
Reconstruction image
(New method)
t / ts= 0.6
t / ts= 1.0
t / ts= 1.4
t / ts= 1.6
high
Conductivity : low
図 3-6 従来手法と距離による補正を実施したときの再構成画像結果
30
10000
conductivity ratio
1000
Measurable range by ERT
100
Operating range of glass melter
10
1
0
0.5
1
time
図 3-7 導電率比の時間変化
31
1.5
2
3.2 繰り返し計算による解像度向上検討
本研究で実施している画像再構成手法は逆投影法である。逆投影法は処理が比較的簡単
であるため、リアルタイムで画像化できるという長所を持つ一方、ぼやけが大きいとい
う短所を持つ。ガラス溶融炉内の流れは 1mm/s 以下で流動していることが多く、リアル
タイムでモニタリングできることよりも、より高解像度の分布を取得できることが求め
られる。高解像度の画像を取得するための方法として、既往の研究においても、2.1 にて
述べたように、繰り返し計算を実施することによって、解像度を向上させるための手法
がいくつも開発されてきた。しかしながら、それらの手法の中には初期値の設定方法、
実際の分布によっては、繰り返し計算が発散することがある。ガラス溶融炉への適用を
考えると、計算エラーによって堆積の進行を適切なタイミングで検知できなくなったり、
堆積していないにも関わらず、高濃度の白金族が堆積していると示したりする恐れがあ
るため、繰り返し計算の適用に際しては、安定した解が得られることが重要となる。そ
こで、本章では、解が安定的に収束することに焦点をあて、繰り返し計算による解像度
向上検討を実施する。
32
3.2.1 繰り返し計算による画像再構成アルゴリズムについて
本研究では、逆投影法にて取得した抵抗分布を初期値として、その抵抗分布に対して電
場計算をおこない、再度抵抗分布を再構成する、という工程を繰り返し、抵抗分布の解
像度を向上させる手法を検討した。本手法は、逆投影法をベースとした繰り返し計算に
よる画像再構成アルゴリズムであるため、i-BP(iterative back projection method)と呼ぶ
こととする。i-BP の画像再構成フローを図 3-8 に示す。図の右側部分は従来の逆投影法
と同様である。i-BP は逆投影法にて抵抗分布を取得後、計測とは独立した計算処理のフ
ロー(図 3-8 左側部分)を実施する。i-BP による追加分の処理について説明する。まず、
逆投影法により得られた抵抗分布に対して電場計算を実施し、実験と同様 8 電極の場合
は 20 個の電位差データ(Vm(n) :n = 1~20)を取得する。電場計算により得られた電位
差データと、実験により得られた電位差計測値の差を評価し、式(30)に示すように、閾値
ε との大小関係を比較する。
Vn measured  Vmn   
(30)
差が ε 以下であれば、繰り返し計算は終了、ε 以上であれば、断面内の抵抗分布をアップ
デートする。アップデート後の抵抗値は以下の式で表される。
Pm1e   Pme   Pme 
(31)
このとき、ΔPm(e)は以下の式で表される。
n
Pme    Vk measured  Vmk    S e,k 
(32)
k 1
ここで、V(k)measured は実験にて得られた計測点番号 k の電位差計測値、Vm(k)は m 回目の繰
り返し計算にて得られた計測点番号 k の電位差データである。式(31)によってアップデー
トされた抵抗分布に対して、再び電場計算を実施する。この工程を繰り返すことによっ
て、再構成画像の解像度を向上させる。i-BP の中で実施される計算は、Poisson 方程式
33
をベースとした静電場計算のみであるため、計算の安定性は高く、また逆投影法により
得られた抵抗分布を繰り返し計算の初期値としているため、任意の初期値から繰り返し
計算を実施する場合と比較しても収束までの繰り返し回数は少なくすることが可能であ
る。また、繰り返し計算は電位差計測とは独立したプロセスであるため、例えば電位差
計測は短い間隔で実施し、詳細情報を取得したいデータに対してのみ、i-BP を適用する
という運用も可能である。
Decide the measurement condition
Generate the mesh
Calculate the electrical field
Calculate V(n)fir, V(n)obj, and V(e,n)
Calculate the sensitivity matrix
S e , n  
1 Ve,n   Vn  fir
 e  Vn obj  Vn  fir
Measure the voltage
Calculate the resistance values
n
Pe  
Additional calculation from back projection method
Update
the resistance distribution
Pm+1(e)=Pm(e)+⊿Pm(e)
 S
k 1
V k measured
e,k 
n
 S
k 1
e,k 
Calculate the voltage under
the reconstructed resistance field
Reconstruct the resistance distribution
Estimate V(n)measured-Vm(n)
Equal to threshold
No
│V(n)measured-Vm(n)│<ε
Yes
End of iteration
図 3-8 i-BP による画像再構成フロー
34
Yes
End of measurement
No
3.2.2 数値シミュレーションによる検討
a. 検討方法
数値シミュレーションは図 3-9 に示すように、150 × 150mm の水平断面を持つ容器に
上から 8 本の電極を円形に配置した状態を模擬している。計算時間の短縮のため、計算
は 2 次元にて実施している。2 次元計算では容器の底面および上部の液面の影響を考慮し
ないことになるが、本計算においては、画像再構成アルゴリズムの有効性の評価が目的
であるため、問題とはならない。またこのときの主な計算条件を表 3-1 に示す。
b. 結果と考察
図 3-10 に真の導電率分布、および逆投影法、i-BP それぞれによる再構成画像を示す。
真の導電率分布と再構成画像を比較すると、まず逆投影法に関しては、ぼやけが大きく、
特に高導電率体が中央付近にある場合には、位置を捉えることも困難である。一方、i-BP
による再構成画像は、高導電率体が角にある場合、中央付近にある場合どちらも解像度
が向上していることが確認できる。また、繰り返し回数の増加に伴い、解像度がより向
上していることがわかる。i-BP による解像度向上の効果をより定量的に把握するために、
Pearson の相関係数[22]を用いて、真の分布との相関の高さを評価する。相関の高さの評
価指標としては、各要素の導電率、および電位差計測値が考えられるため、導電率の相
関係数を CCC(Conductivity Correlation Coefficient)、電位差計測値の相関係数を VCC
(Voltage Correlation Coefficient)とし、それぞれ以下の式で表す。
 C    C C    C 
n
CCC 
e 1
r e
r
i e
i
 C    C   C    C 
n
n
2
r e
e 1
r
e 1
(33)
2
i e
i
 V    V V    V 
n
VCC 
k 1
r k
r
i k
i
 V    V   V    V 
n
k 1
2
r k
r
n
k 1
2
i k
(34)
i
ここで、Cr(e)は真の分布の e 番目の要素における導電率、Ci(e)は繰り返し回数 i 回目におけ
る e 番目の要素の導電率、Vr(k)は計測点番号 k における実験による電位差計測値、Vi(k)は
35
繰り返し回数 i 回目、計測点番号 k における数値シミュレーションによる電位差データ、
C r 、 C i 、 Vr 、Vi はそれぞれ算術平均である。相関係数の値に対する評価としては、1 は
完全な相関、0.9~0.7 は強い相関、0.6~0.4 は中間的な相関、0.3~0.1 は弱い相関、0 は
相関がないと定義する[23]。CCC と VCC の相関係数の変化を図 3-11(a)、(b)にそれぞれ示
す。CCC、VCC ともに繰り返し回数の増加に伴い、効果的に相関係数が増加しているこ
とがわかる。特に、最初の 5 回までにおける向上代が大きい。一方で、図 3-11(a)に示す
ように、計算時間は繰り返し回数に単純に比例する。本計算においては、一般的なデス
クトップ PC で繰り返し計算 1 回あたり、数分の時間を要する。したがって、15 回の繰
り返し計算を完了するためには、数十分かかることとなる。しかしながら、繰り返し計
算は最初の 5 回程度でも十分に相関係数が向上しており、現実的な運用を考えると、5 回
程度の繰り返し計算を実施し、そのときの相関係数と実際の再構成画像を確認しながら、
追加の繰り返し計算を実施するか否か判断するものと考えられる。
36
Current injection
V
Voltage measurement
Side wall of the vessel
図 3-9 数値シミュレーションモデルの概要
表 3-1 主な計算条件
Calculational parameter
Temperature [℃]
Electrical conductivity (molten glass) [S/m]
Electrical conductivity (molten glass containing noble metals) [S/m]
Conductivity ratio (with / without noble metals) [-]
1000
8.6
36.4
4.2
Electric current [mA]
85
Genuine
distribution
Conventional
back projection
iterative
back projection
n=1
n=5
high
Conductivity : low
図 3-10 逆投影法と i-BP による再構成画像
37
n = 15
1
20
0.8
16
0.6
12
0.5
0.4
8
0.3
0.2
CCC
0.1
Calculational time
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
4
0
9 10 11 12 13 14 15
Number of iteration [-]
(a) CCC の変化
1
0.9
0.8
0.7
VCC [-]
CCC [-]
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15
Number of iteration [-]
(b) VCC の変化
図 3-11 繰り返し計算による CCC、VCC の変化
38
Calculational time t/tn=1
0.9
3.2.3 実験による検討
a. 検討方法
本検討で用いた試験装置の概略図を図 3-12 に示す。容器は 3.2.2 で実施したシミュレー
ションの形状と同様、150 × 150 mm の矩形容器を用いている。電極は直径 3mm の金
属棒で先端に 10 × 10 mm の板を溶接し、表面積を大きくしている。実験における 3 次
元的な分布の影響を極力排除するため、10 × 10 mm の電極面の上部はアルミナ製の絶
縁管で覆っている。また、電極配置についても、数値シミュレーションと同様、円形配
置としている。電極と寒天を配置した様子を図 3-13 に示す。
実験条件を表 3-2 に示す。本実験では、導電率を調整するために食塩水を用いている。
ガラス溶融炉における溶融ガラスを模擬するために食塩水を使用し、白金族を模擬する
ために、より高濃度の食塩水にて寒天を作成し、任意の位置に寒天を設置することで位
置の検出能を確認した。しかしながら、飽和食塩水でも、高温溶融ガラスの導電率と同
等であり、白金族が含まれている場合、食塩水では導電率の絶対値までは模擬できない。
そこで、食塩水と寒天の導電率比を溶融ガラスと白金族の導電率に合わせる。また、電
位差のレベルが同等になるように、実験では電流を 20mA としている。
また、電流供給、電位差計測、各電極間のスイッチング等の一連の動作は LabVIEW
を用いて実施している。本計測では矩形波を供給して、位相の切り替えタイミングの前
後の値を利用して電位差を算定している。計測条件として、電流供給の切り替え周期は
300Hz で、データ取得の周期は 24000Hz である。ここで、電流供給切り替え前後のデー
タを模式的に示したグラフを図 3-14 に示す。電位差の算定には切り替え前後の 4 点ずつ、
計 8 点を使用する。これは、計測される電圧値が正確な矩形をしていないため、前後の
傾きから電圧を補正する必要があるためである。計 8 点を時間順に V1~V8 とする。電位
差算定手順としてまず、位相変化前後のそれぞれの平均値を以下の式により求める。
V1  V2  V3  V4
4
V  V6  V7  V8
 5
4
Vave _ a 
(35)
Vave _ b
(36)
次に、位相変化前後の電圧の傾きについて、簡易的に以下の式でそれぞれ算定する。
39
Va 
V3  V4  V1  V2 

2
2
V  V  V  V 
Vb  7 8  5 6
2
2
(37)
(38)
上記の式(35)~(38)を用いて、傾きを考慮した位相変化前後の電圧変化は、以下の式によ
り求められる。
V 
V
ave _ a
 Va   Vave _ b  Vb 
2
(39)
b. 試験結果と考察
寒天を設置した位置とそのときの逆投影法による再構成画像を図 3-15 に示す。電極と電
極の間に寒天のある位置 B と位置 C については、比較的少ないぼやけで寒天の位置を識
別することができているが、一方で電極から離れた位置に寒天がある位置 A および位置
D については、全体的にぼやけた画像となっている。また、位置 A については、寒天が
容器の角ではなく、電極と電極の間にあるものと認識しており、認識している位置にず
れが生じている。
そこで、
位置 A と位置 D の解像度が低い要因について考察するために、
V(n) を以下のように定義する。
無次元電位差 V(n)と無次元電位差の絶対値の平均 ̅̅̅̅̅
V( n ) 
v( n ) agar  v( n ) NaCl
(40)
v( n ) NaCl
20
V n    V( n )
(41)
n 1
ここで、v(n)agar は寒天が容器内に設置された状態での電位差計測値、v(n)NaCl は食塩水のみ
の状態での電位差計測値である。図 3-16(a)に各計測点番号における無次元電位差計測値
を示す。各計測点番号の電流供給電極と電位差計測電極の組み合わせは、図 3-16(b)であ
る。導電率のより高い寒天が挿入されるため、電流経路に寒天が存在している場合、電
位差計測値は小さくなる。したがって、無次元電位差計測値 V(n)の値が小さいほど、より
寒天の影響を強く受け、感度が高いと判断できる。比較的ぼやけの少ない画像を取得で
きた位置 B と位置 C については、V(n) < -0.2 となる比較的電位差低下の大きい計測点が
40
複数存在しており、これが高感度の要因の一つであると考えられる。これは、表 3-3 に
̅̅̅̅̅
示す|V(n) |でも確認できる。一方で、ぼやけが大きい位置 A については、|V(n) |、V
(n) とも
に小さく、どの計測点の感度も低いことがぼやけの原因となっていると考えられる。ま
̅̅̅̅̅
た、位置 D については、|V(n) | は位置 B、C と比較して小さいものの、V
(n) については位
置 B、C と同等であるが、ぼやけは大きい。これは寒天が中央にあることで、すべての計
測点番号に対して、高くはないものの感度があるため、最大値は小さいものの、平均値
は大きくなる。再構成画像は特定の計測点番号のみが大きく変化したほうがより鮮明に
なる傾向があるため、
位置 D のように平均値に対して最大値がそれほど大きくない場合、
画像のぼやけは大きくなる。以上のことから、位置 A および位置 D は逆投影法ではぼや
けが大きくなる傾向にあるため、i-BP を適用し、解像度向上検討を実施した。逆投影法
と i-BP 適用後の再構成画像を図 3-17 に示す。i-BP を適用することで、逆投影法と比較
してより鮮明な再構成画像が取得できていることがわかる。位置 A については、逆投影
法では寒天が電極 4 と電極 5 の間にあるように誤認識していたものが、i-BP を適用する
ことによって、容器角部にあるものと正しく認識することができるようになったことが
わかる。また、位置 D も全体としてより鮮明な画像を取得できており、i-BP が効果的に
機能していることが確認できる。これらの結果を定量的に評価するために、VCC の変化
を確認する。繰り返し計算による VCC の変化を図 3-18 に示す。位置 A、D ともに VCC
は効果的に向上しており、電位差がより真値に近づいたことが定量的に示された。
41
3
1 : rectangular vessel
2 : electrodes
3 : circuit for measurement
4 : computer
4
2
sheath pipe
AA section
1
A
L2
L1 = 150mm
L2 = 150mm
A
electrode
L1
図 3-12 実験装置外略図
agar
electrode
rectangular vessel
図 3-13 電極と寒天を設置した様子(装置を上から見る)
表 3-2 実験条件
Experimental parameter
Electrical conductivity (Sodium chloride solution) [S/m]
3.0
Electrical conductivity (Agar made of sodium chloride solution) [S/m]
12.6
Conductivity ratio (with / without noble metals) [-]
4.2
Electric current [mA]
20
42
1.4
1.2
Voltage [V]
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
-0.4
Time
1.4
1.2
ΔVave_a
V1
V2
V3
ΔVa
V4
2ΔV
Voltage [V]
1
0.8
0.6
V5
0.4
ΔVb
0.2
0
V6
V7
ΔVave_b
Time
図 3-14 電流供給切り替え前後の電位差変化
43
V8
0.2
Non-dimensional voltage
0.1
0.0
Agar position A
-0.1
Agar position B
Agar position C
-0.2
Agar position D
-0.3
-0.4
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
Measurement number
(a) 無次元電位差計測値
5
4
6
7
3
8
2
Measurement number
1
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
Pair of current
injecting electrodes
1-2
1-2
1-2
1-2
1-2
2-3
2-3
2-3
2-3
2-3
3-4
3-4
3-4
3-4
4-5
4-5
4-5
5-6
5-6
6-7
Pair of voltage
measuring electrodes
3-4
4-5
5-6
6-7
7-8
4-5
5-6
6-7
7-8
8-1
5-6
6-7
7-8
8-1
6-7
7-8
8-1
7-8
8-1
8-1
(b) 各計測点番号の電流供給電極と電位差計測電極の組み合わせ
図 3-16 各計測点番号における電位差計測値
表 3-3 各寒天位置における V(n)、 V
Agar position
A
B
C
D
Maximum ∣V (n) ∣
0.06
0.25
0.33
0.16
0.02
0.08
0.10
0.08
V (n)
45
3.3 4 電極による検討
2.3 にて前述のとおり、実際のガラス溶融炉への適用にあたっては、炉壁に構造物が複
数あるため、任意の位置、電極数で ERT を適用することは不可能である。一方で炉壁に
ある加熱用電極、熱電対は炉壁への露出部分が金属でできているため、ERT 用電極とし
ての利用が可能である。そこで本節では、実現性を考慮して、4 電極の系による検討を実
施する。
3.3.1 検討方法
4 電極にて ERT を実施するために、本研究では以下の 2 点の改良を実施した。
a. 画像再構成用メッシュ形状
b. データ取得方法
それぞれの改良点について詳述する。
a. 画像再構成用メッシュ形状
従来広く実施されてきた ERT は図 3-19(a)に示すように、断面全体を可視化するのが一
般的である。しかしながら、4 電極の場合、取得できるデータ数に限りがあることから、
すべての領域を画像再構成しようとすると、全体としてぼやけた画像となり、必要な情
報が得られなくなる恐れがある。そこで本研究では、画像化の範囲を限定することで、
限定した範囲の解像度を向上させることを検討した。画像化範囲の限定の考え方として、
ERT の適用対象であるガラス溶融炉では、壁面付近に堆積する白金族の存在を検知する
ことが主な目的であり、炉の中央部分に関しては、可視化がそれほど重要視されない。
したがって本研究では、壁面付近にのみメッシュを作成し、壁面付近の白金族分布をよ
り高い解像度で検出することを目的として、図 3-19(b)に示すようなメッシュ形状で検討
を進めることとした。分割数は、手法の妥当性を検証するのが主目的であること、およ
び初期段階としては、白金族が電極付近にあるか、電極と電極の間にあるか程度がわか
ればよいため、8 分割とした。
b. データ取得方法
データ取得法については、2.2 にて前述のとおり、隣接法および対向法が従来手法では広
く用いられてきた。しかしながら、4 電極の系に対してそれらの手法を適用すると、隣接
47
法では 2 通り、対向法では 0 通りのデータしか取得することができず、画像再構成をお
こなうためのデータ数としては明らかに不十分である。そこで本研究ではデータ取得数
を増やし、かつ壁面付近の解像度が高くなるデータを取得することを目的として、以下
の手順で取得するデータを選定した。
・電流供給電極を電位差計測電極としても利用することでデータ数を増やす
・隣接法、対向法含めすべての組み合わせをデータ取得対象とする
・壁面付近に感度のあるデータのみを採用する
それぞれの手順について説明する。
【電流供給電極を電位差計測電極としても利用することでデータ数を増やす】
従来手法では、隣接法、対向法ともに、電位差計測は電流供給電極以外の電極間の電位
差を取得することでデータを収集している。しかしながら、同様の考え方を 4 電極に適
用すると、隣接法、対向法に限らずすべての組み合わせを考慮しても、取得できるデー
タ数は 3 通りのみである。したがって、電流供給電極を電位差計測電極としても利用す
ることで、データ取得の組み合わせを増やすことを検討した。
【隣接法、対向法含めすべての組み合わせをデータ取得対象とする】
電流供給電極を電位差計測電極としても利用し、かつすべての組み合わせにてデータ取
得すると、得られるデータ数は、36 通りとなる。最大で得られるデータ数が 36 であり、
この組み合わせから、今回の計測条件に合致したデータを選定する。
【壁面付近に感度のあるデータのみを採用する】
すべての組み合わせを考慮することにより、データ数は 36 通りまで増加するが、それら
の組み合わせの中には、互いに独立していない組み合わせ、壁面付近の感度が他の組み
合わせと比較して小さい組み合わせ等が存在する。したがって、壁面付近の堆積状況を
検知することを考慮して、組み合わせの選定を実施する。
すべての組み合わせを表 3-4 に示す。まず、計測上の性質として、電流供給電極と電位
差計測電極を入れ替えても、得られる電位差は同じであるため、重複する組み合わせを
除外する。これによって、組み合わせは 15 通り少なくなり、21 通りになる。
次に、本計測が壁面付近の可視化に特化していることから、壁面付近の感度が比較的低
い組み合わせを除外する。感度の考え方として、図 3-20 に示すように、電流供給電極と
48
V01
e3
e2
V02
e4
e2
V03
e4
V05
V06
e4
e1
e3
V07
e4
V10
e2
e4
V11
e2
e4
V13
e2
e4
e1
V15
e2
e2
V08
e4
e4
e1
e3
V12
e4
e4
図 3-21 採用した 16 通りの計測パターン
51
e4
e1
e3
e4
e2
V16
e1
e1
e3
e1
e3
e2
e4
e2
e1
V14
e3
e1
e3
e2
e1
e3
e1
e3
e4
e2
e1
e3
V09
V04
e1
e3
e2
e3
e2
e1
e1
e3
e2
e3
e3
e4
e2
e1
3.3.2 数値シミュレーションによる検討
ECDA 法により妥当な結果が得られることを検証するために、図 3-22 に示すように、簡
易的な二次元モデルにて、以下の項目に関して数値シミュレーションを実施した。
(a) ECDA 法の妥当性検証
(b) 除外データの考慮の有無による再構成画像への影響検討
(c) i-BP との併用可否検討
(d) 電極サイズが異なる系での計測可否検討
(d)については、実機は 4 本の電極のうち、2 本の電極断面積は大きく、2 本は小さい組み
合わせになる可能性があるため、その影響についても検討する。それぞれの項目に関す
る詳細を以下に示す。
(a) ECDA 法の妥当性検証
ECDA 法の妥当性検証として、図 3-23(a)に示すように、周方向を 8 分割したうちの 1
要素のみを高導電率としたときの再構成画像を確認した。分布は、電極と接する要素が
高導電率の場合(位置 1)と、電極と電極の間の要素が高導電率の場合(位置 2)の 2 通
り実施した。また、中央部分は実際のガラス溶融炉では白金族が一様に分布していると
きの濃度と考えられるため、図 3-23(a)の低導電率の値と同一としている。得られた再構
成画像を図 3-23(b)に示す。どちらの分布も多少のぼやけは発生するものの、高導電率体
の位置は正しく認識できていることが確認できる。ここで両者の差について考察する。
各計測パターンにおける電位差を図 3-24 に示す。高導電率体が電極と接する位置にある
場合、電極 1 に対して感度の大きい計測パターン(電極 1 が電流供給電極と電位差計測
電極を兼ねる場合)のとき、電位差は大きく変化している。一方、高導電率体が電極と
電極の間にある場合、電位差は多くの計測パターンで変化しているものの、位置 1 と比
較すると、電位差の変化率は小さいため、ぼやけが発生しやすくなっているものと考え
られる。また、位置 2 については、電位差変化率が小さいため、実験を考慮すると、計
測誤差が大きくなりやすくなり、ぼやけはさらに大きくなる可能性があると思われる。
これらの結果から、
・4 電極による ERT でも妥当な結果が得られるポテンシャルを有すること
・壁面付近にのみ着目した手法でも妥当な結果が得られること
が確認できた。
52
(b) 除外データの考慮の有無による再構成画像への影響検討
(a)で適用した ECDA 法は、図 3-21 に示すように、重複および中央部分に感度のある
計測パターンを除外した 16 通りの組み合わせで実施している。そこで本節では、除外の
妥当性の確認を実施する。確認方法として、従来手法の隣接法として用いられ、ECDA
法では除外されている図 3-25 に示す 2 パターンの有無の差について検討をおこなった。
(a)で実施した分布と同じ導電率分布に対して、除外した計測パターンを含めて画像再構
成を実施した結果を図 3-26 に示す。
図 3-23 の ECDA 法による再構成画像と比較すると、
高導電率体が電極と接する位置にある場合には再構成画像に大きな差は見られないもの
の、高導電率体が電極と電極の間に存在する場合には、実際の高導電率体と対向する位
置にも高導電率体が存在すると誤認識していることがわかる。この原因について考察す
る。考察の方法としてまず、感度分布を考える。感度分布は図 3-20 に示すように、図 3-25
の計測パターンにおいて、対向する位置ではその対称性から同程度の感度を有する。こ
れは、例えば電極 1 と電極 2 の間に高導電率体が存在する場合に、電極 1 と電極 2 の間
の要素と電極 3 と電極 4 の間の要素が同じだけ再構成画像を高導電率にする効果がある
ことを意味しており、対向する要素については、完全に誤認識していることになる。8 電
極の場合でも電流供給電極のペアと電位差計測電極のペアが向かい合っている場合には、
同様に向かい合う要素同士の感度は等しくなる。電極数が多い場合には他に得られる多
くの計測値によって影響は緩和されるが、ECDA 法においては比較的顕著に影響が現れ
る。この感度分布の影響で対向する要素にも分布がついてしまったものと考えられる。
以上の点からも、ECDA 法で図 3-25 に示す計測パターンを除外したのは妥当であると判
断できる。
(c) i-BP との併用可否検討
3.2 にて実施した i-BP について、断面全体を画像再構成の対象としている場合には、
解像度を向上させるのに効果的であることが確認できたが、4 電極での検討のように、壁
面付近にのみ着目している場合に同様の効果を得ることができるか検討する必要がある。
そこで、中央付近の分布を正しく推定できている場合と、実際の導電率とは異なる値を
53
設定した場合に、どの程度の影響を受けるか検証を実施した。実際の中央部分の導電率
は壁面付近の導電率の最低値(白金族が堆積していない状態)と同一としており、正し
く推定できている場合にはこの値を使用し、正しく推定できていない場合には壁面付近
の導電率の最大値と最小値の中間の値を設定し、数値シミュレーションを進めた。両者
の再構成画像を図 3-27 に示す。正しく推定できた場合には、繰り返し計算を進めていく
ことによって、ぼやけが少なくなり、より鮮明な画像を取得できることがわかる。一方、
中心付近の導電率の推定が正しくない場合、全体的にぼやけた画像となってしまい、繰
り返し計算を実施しても、真の分布には近づかない。これらの結果から、i-BP を適用す
る場合には、中央部分の温度、白金族濃度が既知で、導電率を推定できる場合には妥当
な分布により近づくが、中央部分の温度、白金族濃度の値の推定が困難な場合には、適
用してもあまり効果は得られない。
(d) 電極サイズが異なる系での計測可否検討
実機において ERT 用電極として使用できる構造物は熱電対の他、電流供給用電極が考
えられる。これらは電極として使用したときに電極面積が大きく異なるため、その影響
を確認する必要がある。そこで、直径が 5 倍異なる構造物を電極として採用することを
想定して、電極サイズの異なる条件に対して電場計算を実施し、影響を評価した。数値
シミュレーションに使用したメッシュおよび境界条件の概要を図 3-28 に示す。上下に位
置する電極 1 および電極 3 の一辺が電極 2 および電極 4 の 5 倍になるように電極面を設
定している。再構成画像を図 3-29 に示す。真の分布に対しては、電極サイズが同じ場合
も異なる場合もぼやけは発生するが、同じ電極サイズの場合には形状の対称性からぼや
け具合は同等となる。一方、電極サイズが異なる場合には、ぼやけ方が異なり、大きい
電極付近のほうがよりぼやけが大きい。
この結果の原因を考察するために、電位差計測値を確認する。電位差計測値の結果を
図 3-30 に示す。縦軸の正規化電圧は電極サイズの差による電位差への影響の比較のため、
それぞれの電極サイズの条件における電位差最大値を 1 として、相対的に比較したもの
である。大きい電極は表面積が大きいことから同じ量の電流を供給した場合に電流が流
れやすくなるため、電位差は小さくなる。このため、例えば大きい電極間に電流を供給
する計測点番号 1 から 4 の場合には、電極サイズが同じ場合と比較して計測される電位
54
差は小さくなる。また、電流供給と電位差計測を兼ねる電極が大きい場合(図 3-30 中の
計測点番号 14)にも、電位差が小さくなる。このように大きい電極付近は、計測される
電位差が小さくなる影響で感度が低くなるため、ぼやけが大きくなるものと考えられる。
また、感度の点からぼやけの要因を考察する。(2)式により求めた各計測パターンの感度
係数のうち、電極 1 と接する要素のみが低抵抗のときの感度係数と、電極 2 と接する要
素のみが低抵抗のときの感度係数を図 3-31(a)、(b)にそれぞれ示す。電極 1 と接する要
素のみが低抵抗のときについて、電極サイズが同じ場合の感度係数と比較すると、大き
い方の電極で、低抵抗要素と接している電極 1 が電流供給と電位差計測を兼ねる場合に
感度が小さくなっていることがわかる。これは、ERT 計測は一定電流を供給し、そのと
きの電位差を計測することで導電率分布を再構成するため、大きい電極の場合、単位面
積あたりの電流量が小さい。したがって、電位差計測値も小さくなり、感度も小さくな
っていると考えられる。一方電極 2 と接する要素のみが低抵抗のときについては、電位
差計測値はすべての電極サイズが同じ場合とほとんど同じである。計測パターン 9、10
のみ電極サイズが異なるケースのほうが感度が高くなっているが、これは電極 2 と接す
る要素が低抵抗になったことで壁面付近を流れる電流の割合が増加する。一方電極 1 お
よび電極 3 は表面積が大きく、見かけ上電極 2 との電極間距離が短くなっており、壁面
付近を流れる電流は電極面積が小さいときと比較してより短い距離で電極 1 および電極 3
に到達するため、感度としてはより大きくなっているものと思われる。以上のことから、
電極 1 および電極 3 付近に低抵抗の物質が存在するときには相対的に検出感度が低くな
ってしまい、ぼやけを拡大させる原因にはなるが、感度係数の算定は電極サイズが異な
ることを前提に算定しているため、電極サイズの差の影響で誤った場所に導電率の異な
る物質が存在するなどの誤認識は発生しないものと考えられる。
55
1.04
Voltage Change ratio
1.02
1.00
0.98
0.96
0.94
Position1
0.92
0.90
Position2
1
2
3
4
5
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
Measuement Number
図 3-24 各計測パターンの電位差
V
V
図 3-25 ECDA 法にて除外した計測パターン
57
真の分布
適用結果
(参考)すべての計測値を
除外なしで採用した場合
導電率:高
導電率:低
(a) 実際の導電率分布
(b) ECDA 法による再構成画像
(c) 除外なしの再構成画像
high
Conductivity : low
図 3-26 除外した計測パターンの有無による再構成画像
実際の導電率分布
実際の導電率分布
5 iterations
iterations
5
逆投影法
逆投影法
導電率:高
導電率:高
導電率:低
導電率:低
中央付近の分布を正しく推定した場合
中央付近の分布を正しく推定した場合
(a) 中央付近の分布を正しく推定した場合
中央付近の分布の推定が実際と異なる場合
中央付近の分布の推定が実際と異なる場合
(b) 中央付近の分布の推定が妥当でない場合
high
Conductivity : low
図 3-27 繰り返し計算による効果の検証結果
58
1.2
Different electrode size
Normalized Voltage
1
Same electrode size
0.8
0.6
0.4
0.2
0
e3
V2V2
1
V3V3
V V
2
3
4
5
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
Measurement Number
e3
V5V5
V6V6
V V
V V
e3
V V
e4 e2
e2
V V
V V
V1V1
V V
e4
V7V7
e1
V19
V19
V V
V V
V24
V24
V V
Sensitivity Coefficient
V V
V11
V11
V
Different
electrode
size
V
V
V14
V14
Same
V15
V15
V
V18 size
V18
electrode
V V
V V
V17
V17
V V
V21
V21
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
1
2
3
4
5
V V
V V
V120.7
V12
0.6
V23
V23
V22
V22
V20
V20
V16
V16
V V
e4
e1
図 3-30 電極サイズが異なる系での電位差計測値
V V
V V
V V
V V
e2
e1
V13
V13
V10
V10
V9V9
e2
V V
V8V8
V4V4
e1
e4
e3
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16
Measurement Number
(a) 電極 1 と接する要素のみが低抵抗のときの感度係数
60
0.7
Different electrode size
Sensitivity Coefficient
0.6
Same electrode size
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16
Measurement Number
(b) 電極 2 と接する要素のみが低抵抗のときの感度係数
図 3-31 電極サイズが異なる系での感度係数
61
3.3.3 実験による検討
シミュレーションによる検討によって、4 電極の系において妥当な再構成画像を取得する
ための方法として、ECDA 法を用いることが有効であることを確認した。しかしながら、
シミュレーションは 2 次元の簡易的なモデルによる検討であったため、実験にてより実
機形状に近い条件にて計測を実施し、ECDA 法の妥当性を確認する。試験装置の構成を
図 3-32 に示す。試験ではガラス溶融炉内の溶融ガラスと白金族を模擬するため、食塩水
と寒天を用いた。溶融ガラスの模擬として食塩水を用い、白金族の模擬として高濃度の
食塩水を固めた寒天を使用し、任意の位置に高導電率の物質を設置して試験を実施した。
試験としては、まず実機の熱電対相当の直径の電極を 4 本、等間隔に容器側面に貼り付
け、計測可否を検討する。また、3.3.2(d)と同様、電極サイズの異なる系への適用につい
ても実験により検討を実施した。
(a) 等断面積の電極 4 本による検討
試験としてはまず図 3-33 に示すように、容器の対向する位置にシート状の寒天を側壁に
接するように挿入する。対向する位置に寒天を挿入した理由としては、実機ではほとん
どの加熱用電極は対向する位置に設置されており、炉内の流れや加熱状況を考慮すると、
対向する位置に白金族が堆積する可能性が高いと推定されるためである。ECDA 法によ
り取得した再構成画像を図 3-34 に示す。導電率比を 2.6 から 1.6 まで変化させているが、
いずれの再構成画像もぼやけは発生しているものの、高導電率体の位置は認識できてい
ることがわかる。導電率比に対する検出限界を把握するために、(33)式の導電率の相関係
数 CCC と導電率比、および RMS の関係を考察する。これらの関係を図 3-35 に示す。
CCC は導電率比 1:1.6 のときにも 0.75 程度と高い相関を示しているため、図 3-34 で
示した再構成画像が妥当であることが定量的にも確認できる。一方、各実験で寒天なし
のときに対する寒天ありのときの RMS と 10 回計測時の RMS を比較すると、導電率比
1:1.6 では、両者がほとんど同じ値であり、寒天の有無が計測誤差と同程度であること
から、導電率比 1:1.6 程度が妥当な計測のできる限界であると考えられる。
62
(b) 電極サイズが異なる系での検討
3.3.2 で実施したシミュレーションと同様、上下の電極の直径を 5 倍、すなわち電極面積
で 25 倍の差がある系にて実験を実施した。電極配置を上から見た図を図 3-36 に示す。
本試験については、電極サイズの差による影響をより明瞭に把握するため、食塩水と寒
天の導電率比は 1:5 とした。また、寒天の設置位置は図 3-36 に示すように、電極 1 と
電極 3 に接する位置(位置 A)
、電極 2 と電極 4 に接する位置(位置 B)に設置し、解像
度、検知能力が評価しやすいようにした。位置 A、B それぞれの再構成画像を図 3-37 に
示す。シミュレーション結果と同様、大きい電極付近に寒天があるとき、特にぼやけが
大きくなることが確認できる。
63
1 : conical vessel
2 : electrodes
3 : circuit for measurement
4 : computer
3
4
2
1
(a) 実験装置の構成図
(b) 実験装置
図 3-32 実験装置の構成
64
0.03
導電率比1:2.6
(変化率のRMS)
0.025
1:2.0
RMS[V]
0.02
0.015
10回計測におけるRMS
1:1.6
0.01
0.005
0
0.7
0.75
0.8
0.85
CCC
図 3-35 電位差変化率と導電率比、導電率の相関係数の関係
図 3-36 電極サイズの異なる系の電極配置
66
3.4 温度補正方法の検討
2.3 にて示したように、白金族分布を画像化するにあたり、最も大きな課題のひとつは温
度の影響の除去である。そこで、ガラス溶融炉の炉底部を模擬した円錐型のアルミナ容
器内にガラスを溶融し、温度と電位差計測値の関係から、温度の影響の除去方法につい
て検討をおこなった。
a. 試験の概要
試験装置の構成を図 3-38 に示す。試験では高温状態を再現するため電気炉を用いてお
り、その中に図 3-39 に示す円錐アルミナ容器を設置する。アルミナ容器に 8 個の溝を設
け、そのうちの 4 個に電極を設置し、炉の上部から電極につながったワイヤを引き出し、
4 電極 ERT 計測を実施した。試験はまず電気炉を 1100℃まで熱上げし、ERT 計測を実
施した後、1000℃、900℃、800℃と下げ、都度 ERT 計測を実施する。試験は温度の影
響の除去手法を検討するのが目的であるため、同じ温度条件にて図 3-39 に示すように金
属(インコネル)の塊を電極の間に挿入し、温度の影響を除去し、かつ金属塊の検出が
可能であるか評価した。
b. 試験結果
本試験で得られた温度と電位差計測値の関係を図 3-40 に示す。縦軸の正規化電圧はノ
イズを除去して得られた電圧に対し、金属塊がない 800℃の値を 1 としたときの相対値で
ある。液体の温度と導電率の関係は、液体中に溶け込んでいるイオンの種類や濃度によ
って異なり、理論式が存在しないため、二次近似とした。本近似を用いて、電位差計測
値から温度以外の影響(本試験では金属塊)のみを抽出する。金属塊有りの結果に温度
補正を実施したときの 800℃、1100℃の再構成画像を図 3-41 に示す。再構成画像は実際
の分布と同様の傾向を示しており、温度の影響の除去方法が妥当であることを確認した。
温度の影響を除去するにあたり、重要な要素として、
・各計測点で電流経路の差から近似式も一定ではないため、計測点ごとに個別に近似式
を定義する必要がある。
・従来の ERT 法と比較するとデータ数は少ないため、再構成画像に加え、電位差生値も
確認しながら、どの電極を含む計測値の電位差が小さいか、といったことも確認するこ
とでより有効な情報が得られる。
68
4本の配線を炉上部より引き出す
アルミナ容器
計測器:
電流印加と電位差計測実施
電気炉
図 3-38 装置の構成
ERT用電極
金属塊を挿入
図 3-39 アルミナ容器の形状
69
1.20
Without metal block
1.00
Normalized voltage [-]
With metal block
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
700
800
900
1000
1100
Temperature[℃]
図 3-40 温度と電位差計測値の関係
high
Conductivity : low
(a) 800℃
(b) 1100℃
図 3-41 再構成画像
70
1200
3.5 まとめ
本章では、ガラス溶融炉への ERT 適用に向けた要素技術検討として、ガラス溶融炉特有
の条件と要求される解像度を考慮して、以下の 4 項目について検討を実施した。
1. 円錐型容器への適用
2. 繰り返し計算による解像度向上検討
3. 4電極による検討
4. 温度補正方法の検討
円錐形容器への適用については、炉底のほうが断面積が小さいことから、3次元的な形
状の影響を受けるという課題に対し、計測対象断面を通る電流経路と最短経路の距離の比
を補正係数として、電位差計測値を補正することにより、実用上十分な白金族濃度に対し
て計測ができるようになった。
繰り返し計算による解像度向上検討については、ぼやけを減らすと共に、分布の誤認識
につながる計算の発散リスクの低減に着目し、逆投影法を基にした繰り返し計算による画
像再構成法の検討を実施した。本手法は計算時間は数分かかるものの、発散しにくく、解
像度が向上することを確認した。
4電極による検討については、ERT 適用に伴うガラス溶融炉の設計変更を最小化するこ
とを目的として実施した。従来のデータ取得法を4電極にて実施した場合、得られる電位
差データが少なく、画像再構成を実施するのに不十分という課題があった。そこで、電流
供給電極を電位差計測電極として使用し、データの重複と壁面付近への感度を考慮し、16
個のデータを採用する ECDA(Expanding Combination Data Acquisiton)法を開発した。
さらに、壁面付近の白金族モニタリング性能を重視し、画像再構成領域を壁面付近に限定
した。これらの改良により、目標とする導電率比(白金族:溶融ガラス = 2.6:1)を上回
る導電率比でも、画像取得が可能であることを確認した。
温度補正の検討については、高温場において白金族のみの影響による導電率変化を画像
化する補正方法の検討した。電気炉での簡易形状による検討の結果、温度補正式を算定す
ることで、800~1100℃の範囲において、妥当な結果が得られることを確認した。
71
第 3 章の使用記号
C
:白金族粒子濃度 [-]
Ci(e)
:i 回目の繰り返し計算における e 番目の要素の導電率 [S/m]
Cr(e)
:真の分布の e 番目の要素における導電率 [S/m]
Dp
:白金族粒子の拡散係数 [m2/s]
Fd
:流体抵抗力
Ff
:流体摩擦力
Fθ
:拡散流束
Lab
:電極 ab 間の電流経路の最短距離 [m]

Lab
:電極 ab 間の円弧 [m]
m
:白金族粒子の質量 [kg]
n
:炉壁面に対する垂直方向単位ベクトル
P(e)
:要素 e における抵抗相当値[ - ]
Rep
:粒子レイノルズ数 [-]
rm
:計測断面の直径 [m]
Sp
:生成量 [kg/(m3s)]
sθ
:生成項
t
:白金族沈降開始からの時間 [s]
ts
:計測断面の白金族濃度が炉内最大になる時間 [s]
uf
:ガラスの流速 [m/s]
up
:白金族粒子の移動速度 [m/s]
ΔV
:パルス波における傾きを考慮した位相変化前後の電位差 [V]
Vave_a
:パルス波における位相変化直前の電位平均値 [V]
Vave_b
:パルス波における位相変化直後の電位平均値 [V]
Vi(k)
:繰り返し計算 i、計測パターン k におけるシミュレーション電位差 [V]
V(n)measured
:実験による計測パターン n における電位差 [V]
Vm(n)
:m 番目の繰り返し計算にて得られた、計測パターン n の電位差 [V]
v(n)agar
:計測パターン n における寒天を設置したときの電位差 [V]
v(n)NaCl
:計測パターン n における食塩水のみのときの電位差 [V]
Vr(k)
:計測点番号 k における実験による電位差計測値 [V]
α
:円弧と直線の距離の比 [-]
β
:粒子濃度に基づく流体抵抗係数 [N s/m4]
72
γ
:円錐容器の傾斜角 [rad]
ε
:繰り返し計算終了の閾値 [V]
η
:円錐容器展開図の扇形角度 [rad]
φ
:電位[V]
σ
:導電率[S/m]
ρ
:流体密度[kg/m3]
ρf
:ガラスの密度 [kg/m3]
ρp
:白金族粒子の密度 [kg/m3]
μf
:ガラスの粘性 [Pa s]
μw
:摩擦係数
73
第4章 モックアップ炉への適用
第 3 章にて実施した各要素技術検討結果に基づき、ERT をガラス溶融炉へ適用できる見通
しを得たため、モックアップ炉にて計測を実施した。なお、モックアップ炉への適用に際
し、第 3 章にて実施した検討のうち、3.2 にて開発した i-BP については採用していない。
これは、i-BP はその繰り返し計算のフローの中で、再構成された抵抗分布に対して電場計
算を実施するが、モックアップ炉での計測では、ECDA 法を採用し、壁面付近のみの分布
を再構成することから、中央付近の抵抗分布を任意の値に仮定する必要がある。しかしな
がらその仮定が実際の抵抗値と乖離している場合、繰り返し計算を進めるにつれて、間違
った分布に収束していくことになる可能性がある。そのリスクを除去するために、本試験
では、i-BP は採用しない。計測の概要と計測結果および考察を以下に示す。
4.1 計測の概要
本検討で適用対象としたモックアップ炉の概要を図 4-1 に示す。幅と奥行はそれぞれ
1.5m 程度である。図 1-2 にて示した現行炉と比較すると、白金族の堆積を抑制するため
にいくつか工夫がなされている。例えば、炉底部の傾斜は現行炉が 45 度に対して 60 度
と傾斜が大きくなっている。また、断面形状については、現行炉が四角錘形状で稜線部
の傾斜がより緩やかになっていたが、新型炉は円錐形状とし、傾斜が緩やかになる稜線
部を持たない。炉の表面は主に耐火レンガとインコネルにより構成されている。表面の
大半は耐火レンガで覆われているが、加熱用電極や熱電対など導電性、熱伝導性が要求
されるものについてはインコネルを用いている。本モックアップ炉は炉内の温度や抵抗
値の変化をモニタリングするために複数の熱電対、電流供給用電極が設置されている。
それらの構造物の一部を ERT 電極として使用する。ERT を適用するためには、同一断面
に複数の ERT 電極として使用できる構造物が設置されている必要がある。炉内の各高さ
の構造物を確認したところ、同一断面に存在する構造物は最大で 4 つあり、4 つの構造物
を持つ断面は図 4-1 に示す 2 断面であった。断面 A は電流供給用の補助電極 2 本と熱電
対 2 本の計 4 本を採用し、
断面 B は熱電対 4 本を採用している。断面 A については、
3.3.2(d)
にて示したように、電流供給用の補助電極のほうが熱電対よりも電極面積が大きく、感
度に差が生じるという課題がある。一方、断面 B については、電極面積は 4 本とも同じ
であるものの、電極配置が 90°おきの等間隔ではないため、電極の組み合わせによって
電極間距離に差が生じるため、電位差計測値にも差が生じる。しかしながら、電極間距
74
離が異なることを前提として感度計算を実施するため、影響は限定的と考えられる。ま
た、電極間距離が異なると、電極間距離が広い領域、例えば図 4-2 中の電極 5 と電極 6
の間に導電率の異なる物質が存在する場合、電極 6 と電極 7 の間に導電率の異なる物質
が存在する場合よりも検出感度は低下すると考えられる。これら電極形状、電極配置の
特異性のほか、炉の形状、炉内温度、ノイズの除去、ケーブル長さの差による抵抗差等々、
考慮すべき課題が多く存在する。それら、今回の計測における従来手法からの改良点を
画像再構成のフローとともに図 4-3 に示す。また、電位差データ取得後のノイズ除去、
ケーブル抵抗の補正、電位差データの正規化のフローを図 4-4 に示す。要素技術検討に
て実施してきた通り、容器形状、電極数、メッシュ作成範囲、データ取得法、温度補正、
ノイズ除去、ケーブル抵抗補正と、ほぼ全ての工程で、ガラス溶融炉適用に向けた改良
を実施している。ここで、ケーブル抵抗について、補正方法を詳述する。断面 A につい
ては、電流供給用の電極と熱電対を併用しているが、両者の ERT システムまでのケーブ
ル長さ、電極サイズが異なるため、炉内の抵抗を除いたケーブル類の抵抗が異なる可能
性がある。ケーブル類の抵抗が異なる場合の影響を単純化したモデルを図 4-5 に示す。
ケーブルの抵抗および炉内の抵抗を図 4-5 のように表されるとすると、温度変化および
白金族堆積による炉内抵抗変化前後に得られる電位差はそれぞれ以下の式で表される。
V1  I RC1  Rm1  RC 2  :抵抗変化前電流供給用電極間
V2  I RC 3  Rm1  RC 4  :抵抗変化前熱電対間
V3  I RC1  Rm 2  RC 2  :抵抗変化後電流供給用電極間
V4  I RC 3  Rm 2  RC 4  :抵抗変化後熱電対間
(42)
(43)
(44)
(45)
したがって、抵抗変化前後の電位差変化率は(42)~(45)式を用いて、それぞれ V3 V1 、
V4 V2 で表される。電極面積の大きさから電流供給用電極のケーブル抵抗と熱電対のケ
ーブル抵抗を比較すると、電流供給用電極のケーブル抵抗のほうが小さい。したがって、
簡単な例として、 Rm1  RC 3  RC 4  2RC1  2RC 2 とし、炉内抵抗変化後に炉内の抵抗が
低 下 す る と し て 、 Rm1  2 Rm 2 と す る と 、 抵 抗 変 化 前 後 に お い て 、 V3 V1  0.75 、
V4 V2  0.83 となり、炉内の抵抗変化は同じであるにも関わらず、抵抗変化率は異なる。
一方で、計測に先立ち実施している電場計算による感度の算定は炉内の抵抗変化のみを
対象にシミュレーションを実施しているため、ケーブル抵抗の差は考慮できていない。
したがって、得られた電位差を補正することなく使用すると、見かけ上電流供給用の電
75
極間の抵抗のほうがより低下していることを示しており、再構成画像にも影響を及ぼす
と考えられる。そこで、従来の感度とは別に計測パターンごとの感度 α を算定し、それ
ぞれの計測パターンを同一の重み付けで扱えるように補正する。
モックアップ炉の運転は、まず白金族の含まれない模擬廃液を使用した試験を実施し、
その後、白金族の含まれる模擬廃液を使用した試験を実施する。そこで、温度補正を実
施することを考慮して、白金族の含まれない状態で複数回データを取得し、白金族の影
響のない電位差と温度の関係を求め、近似式を得る。その後、白金族の含まれる状態に
て計測を実施し、得られた近似式から温度の影響を除去し、白金族含有の影響のみによ
る電位差を求める。
なお、ERT 実施時は、ジュール加熱用の電流の影響をなくすため、加熱用の通電はす
べて OFF の状態で計測を実施している。そのため計測は、他の作業の際に通電を OFF
にするタイミングに合わせて実施した。炉の運転は流下を 8~14 時間周期で実施し、こ
の 8~14 時間の運転を 1 バッチとし、試験内容に合わせて複数のバッチを繰り返す。
また、ガラス溶融炉には加熱用電極、熱電対等、ERT 用として使用する電極の他に、
導電性を有する構造物が複数存在する。これらが電流経路となった場合、炉内のみの導
電率分布を正しく反映できない恐れがある。しかしながら今回の計測では、ERT 計測中
主要な電極の接続、絶縁は同じ条件のため、すべての計測に同じだけの影響が含まれる
こと、ERT 計測用のケーブルに標準抵抗を取り付け、その電位差を計測しており、電流
一定相当の条件にて電位差を算定していることから影響は無視できるものと考えられる。
76
Measuring voltages
Eliminating the noise by FFT
Separating the influence of
the temperature and the noble
metals from voltage values
Extracting the influence of the noble metals
Removing the influence of the outside of the melter
Normalizing voltage measurement values
Reconstructing the conductivity distribution
図 4-4 電位差計測値の補正フロー
80
RC1
I
Rm1
RC2
電流供給用
電極
V1 = I (RC1+Rm1+RC2)
ケーブル等
I
RC3
炉内
ケーブル等
Rm1
RC4
V2 = I (RC3+Rm1+RC4)
熱電対
温度上昇、白金族堆積により炉内が一様に抵抗低下
I
電流供給用
電極
RC1
Rm2
RC2
V3 = I (RC1+Rm2+RC2)
I
RC3
RC4
Rm2
V4 = I (RC3+Rm2+RC4)
熱電対
図 4-5 ケーブル類の抵抗の簡易モデル
81
4.2 計測結果および考察
計測は 4.1 にて前述のとおり、白金族の含まれない状態と、白金族の含まれる状態にて
計測を実施している。それぞれの結果について以下に示す。
(a) 白金族の含まれない状態での計測結果と考察
初めに、白金族の含まれない状態にて計測した結果に対し、計測の妥当性を確認する
ため、シミュレーションによる電位差データと、実験により得られた電位差計測値を比
較する。両者の値を図 4-6 に示す。横軸は図 3-21 にて示した 16 通りの計測パターンで
ある。また、縦軸の正規化電圧は、図 4-4 に示す補正方法によって補正された値である。
両者を比較すると、電位差計測値の大小関係は断面 A、断面 B ともに傾向が一致してお
り、ケーブルの短絡、配線ミス等はなく、計測そのものは問題なくできていることが確
認できる。
また、白金族が含まれる状態にて実施する温度補正に向けて、温度と電位差の関係を
確認する。
代表例として、
計測パターン 14 における温度と電位差の関係を図 4-7 に示す。
電位差に関しては図 4-4 のフローにより補正された値を用いており、温度については
ERT 用電極として使用した熱電対、電流供給用電極にて取得した温度の平均値を用いて
いる。断面 A については、温度と電位差は非常に高い相関を示しており、直線近似する
ことで妥当に温度補正できるものと思われる。一方、断面 B については、断面 A ほどの
高い相関は見られないが、温度の上昇に伴い電位差が低下する傾向は見られるため、断
面 A と同様に直線近似して温度補正を実施することとした。なお、計測断面内の温度分
布については、極端に分布が見られる場合、影響は避けられないと思われるが、本研究
の検出目標である導電率は 1:2.6 であり、これは 100℃前後の温度差に相当する。シミュ
レーション、モックアップ炉の温度計指示値からも 100℃を超えるような極端な分布は確
認されておらず、ERT 適用が不可能となるほどの分布は存在しないと考えられる。
(b) 白金族の含まれる状態での計測結果と考察
白金族の含まれる模擬廃液の供給される試験後半に ERT 計測を実施した.計測は計 4
回実施しており,このときの温度と電位差計測値の関係を図 4-7 中の四角プロットにて
示す.白金族の含まれていない場合と比較すると,低い電位差が計測されており,温度
以外の炉内環境の変化を検知できていることが確認できる.また,各計測点番号の温度
82
のみの影響による電位差に対する変化率を図 4-9 に示す.断面 A,B ともにすべての計
測点において,炉内の白金族の影響と思われる電位差の低下が確認できる.両者の低下
率を比較すると,断面 A のほうが低下率が小さい.これは,断面 A にて使用している電
流供給用電極の表面積が,熱電対と比較して 25 倍程度大きいため,同じ電流を供給して
も電流密度が小さい.このため,電位差の変化率が小さくなっているものと考えられる.
よって,図 4-3 および図 4-4 のフローにしたがって,導電率分布を再構成すると,図 4-10
のようにどちらの断面もわずかに分布はあるものの,電流供給用電極間の電流が短絡す
るような高濃度の白金族の局在は確認できなかった.これは常時計測している他のパラ
メータが示す傾向とも一致した.
83
3.5
Experiment
断面 A
Numerical simulation
3
Normalized voltage
2.5
2
1.5
1
0.5
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16
Measurement number
3
Experiment
Numerical simulation
Normalized voltage
2.5
断面 B
2
1.5
1
0.5
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16
Measurement number
図 4-6 シミュレーションと実験の電位差の比較
84
2
断面 A
Normalized voltage [-]
1.9
1.8
1.7
1.6
1.5
1.4
1.3
Without the noble metals
With the noble metals
1.2
Temperature [℃]
1.3
断面 B
Without the noble metals
Normalized voltage [-]
1.25
With the noble metals
1.2
1.15
1.1
1.05
1
Temperature [℃]
図 4-7 温度と電位差の関係
85
1.8
1.7
1.6
2
1.5
1.3
1.2
1.8
1.7
1.6
白金族堆積の影響による
電位差変化(Vnm)
Without the noble metals
With the noble metals
1.5
1.4
1.3
計測値(Vmeasure)
Without the noble metals
With the noble metals
1.2
Temperature [℃]
Temperature [℃]
温度の影響による電位差
(Vtemp)
図 4-8 温度補正方法の概要
1.00
Change rate of the voltage [-]
1.4
1.9
Normalized voltage [-]
Normalized voltage [-]
1.9
0.95
0.90
0.85
0.80
Section A
0.75
0.70
Section B
1
2
3
4
5
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
Measurement number
図 4-9 白金族のみの影響による電位差変化率
86
(a) 断面 A
(b) 断面 B
high
Conductivity : low
図 4-10 白金族のみの影響による導電率の再構成画像
87
4.3 まとめと今後の課題
要素技術検討にて得た成果に基づいて ERT 計測システムを構築し、モックアップ炉に
適用した結果、妥当な計測のできる条件を確認した。また、計測結果について、白金族
ありの運転状態にて、白金族が計測対象断面に堆積していないことを示す画像が得られ、
他の計測パラメータからも、本結果が妥当であることが確認できた。
一方で今後の課題としては、温度補正手法の精度向上と堆積物の濃度の把握が挙げら
れる。温度補正については、断面 A については、温度と電位差の相関が高く、精度のよ
い温度補正が可能と考えられるが、断面 B については、温度上昇とともに電位差が低下
する傾向は確認できるものの、相関は断面 A ほど高くはなかった。しかしながら、モッ
クアップ炉は ERT 用電極以外にも多くの位置で温度、抵抗を計測しており、断面 B の電
位差とより相関の高いパラメータが存在する可能性がある。これらのパラメータを検討
し、より精度の高い温度補正方法を構築するのが今後の課題である。また、堆積物の濃
度の把握については、現状の 4 電極 ERT 手法では、極めて高濃度の白金族が小さい体積
で存在している場合と、さほど高濃度ではないが白金族は広範囲にわたって存在してい
る場合の判別が難しいと考えられる。現状 4 電極で取得しうる最大のデータ数から画像
を再構成しているため、さらに解像度を上げるためには電極数を増やすか、画像再構成
アルゴリズムの改良が必要となる。電極数の増加については、要求される解像度と電極
を増やしたときのメリット等を勘案しながら、実施可否を検討する必要がある。
88
第5章 結言
本研究では、ガラス溶融炉内の白金族堆積のモニタリングシステムの開発を目的として、
炉内環境への適用性から電気抵抗トモグラフィ(ERT)に着目し、要素技術検討およびモ
ックアップ炉への適用を実施し、以下の成果を得た。
まず、ガラス溶融炉特有の形状、設計の制約、運転条件に対して適用するための要素技
術検討として、以下の4項目を実施した。
1. 円錐形容器への適用
2. 繰り返し計算による解像度向上検討
3. 4 電極による検討
4. 温度補正法の検討
円錐形容器への適用については、断面形状が位置により異なることから、電流経路が計
測対象断面以外を通りやすくなり、3次元的な形状の影響を受けてしまうという課題があ
った。これに対し、計測対象断面を通る電流経路と最短経路の距離の比に応じて、電位差
計測値を補正することにより、より幅広い白金族濃度に対して、妥当な計測ができるよう
になった。
繰り返し計算による解像度向上検討については、逆投影法により発生するぼやけの低減
と、分布の誤認識につながる計算の発散リスクの低減に着目して、逆投影法をベースとし
た繰り返し計算による画像再構成法の検討を実施した。本手法を適用した結果、計算時間
は数分かかるものの、発散しにくく、解像度が向上することをシミュレーションと実験に
より確認した。
また、ERT 適用に伴うガラス溶融炉の設計変更を最小化するため、既設構造物の活用を
想定した4電極による適用性検討を実施した。従来のデータ取得法を4電極に適用すると、
得られる電位差データが少ないため、電流供給電極を電位差計測電極として使用し、すべ
ての電極の組み合わせをデータ取得対象とした。その中から、データの重複と壁面付近へ
の感度を考慮し、16 個のデータを採用する ECDA(Expanding Combination Data
Acquisiton)法を開発した。加えて、ガラス溶融炉では炉壁付近に堆積する白金族のモニタ
リングが重要であることから、画像再構成を実施する領域を、従来の計測対象断面全体か
ら、壁面付近に限定した。これらの改良を実施することにより、目標とする導電率比(白
金族:溶融ガラス = 2.6:1)を上回る導電率比でも、画像取得が可能であることを確認し
た。
89
さらに、炉内の高温場と温度変化に対して、白金族の影響のみによる導電率変化を画像
化するために、温度の影響を除去する補正方法の検討を実施した。ECDA 法により取得す
る 16 通りの計測パターンは、それぞれ温度変化が電位差計測値に与える感度の大きさが異
なるため、それぞれの計測パターンに対して温度補正式を算定することで、800~1100℃の
範囲において、妥当な結果が得られることを確認した。
上記、要素技術検討にて得られた成果を計測システムに反映し、ガラス溶融炉向けの計
測システムを構成、モックアップ炉に適用した。モックアップ炉への適用については、既
設の熱電対および電流供給用の電極を ERT 用電極として使用することで、炉底付近と上部
断面の2断面に対して4電極 ERT を適用した。試験は白金族の含まれない状態と白金族の
含まれる状態にて計測を実施し、白金族の含まれない状態にて電位差計測値と温度の関係
を求め、得られたデータを基に、白金族の含まれる状態にて温度補正を実施、白金族の影
響のみによる導電率分布を画像化した。その結果、白金族の含まれていない状態と比較し
て白金族の含まれる状態では、すべての計測パターンの電位差が低下していることが確認
でき、温度以外による炉内環境の変化を検知できていることを確認した。また、得られた
電位差データを基に画像を再構成したところ、白金族の局在等がないことが確認された。
これは常時計測している他のパラメータが示す傾向とも一致していた。
以上のことから、本研究にて実施した各要素技術検討に基づき構成した ERT 計測システ
ムがガラス溶融炉の白金族分布のモニタリングに対し有効な手法であることが確認された。
本計測によりこれまで得られなかった、炉内のどこから堆積が始まるのか、運転のどのタ
イミングで堆積が始まるのかといった、情報が得られることが期待される。この情報と例
えば数値シミュレーションの結果を複合的に分析することにより、白金族挙動のメカニズ
ム解明の一助になると考えられる。
なお、本研究で実施したモックアップ炉での試験については、特に上部の断面 B におい
て、温度と電位差計測値の相関が低く、白金族分布の誤差要因となった。モックアップ炉
では多くの位置で温度を計測している他、加熱用電極間抵抗など多くのパラメータを計測
しているため、より電位差計測値と相関の高いパラメータを取得できる可能性があり、温
度補正の精度向上を実現できる可能性がある。したがって、今後の課題として、電位差計
測値と相関の高いパラメータの検討が必要である。また、モックアップ炉にて試験を実施
した新型炉では新規で ERT 電極を設置するのは困難な開発段階であるが、新型炉以降の次
90
世代機への ERT 適用に向け、電極数増加による解像度向上効果の定量的把握も ERT の実
施形態を決定する上で検討する必要がある。これらの検討を実施し、ERT の特性をより定
量的に把握することで、ガラス溶融炉以外の産業機械への適用といった応用も可能となる
と考えられる。
91
参考文献
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研究に関連する投稿論文、学会発表、特許
本研究に関連する投稿論文、学会発表、特許を以下に示す。
【投稿論文】
1) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Kaminoyama M., Nishi K., Misumi R. and Nishiyama
S., (2015), Resolution enhancement of electrical resistance tomography by iterative back projection
method, Journal of visualization,
【学会発表(国内)
】
1) Ichijo N., Matsuno S., Tokura S., Tochigi Y., Nishi K. and Kaminoyama M., Applicability of
Electrical Resistance Tomography to Operation Control of Glass Melters, 日本機械学会関東支部
第 17 期総会講演会, 2011, 横浜
2) Ichijo N., Matsuno S., Tokura S., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M.,
Applicability of electrical resistance tomography under actual operating conditions of glass melters,
日本混相流学会年会講演会 2011, 京都, D115, 142-143.
3) Ichijo N., Matsuno S., Tokura S., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M.,
Applicability Study of Electrical Resistance Tomography as a Visualization Method for Inside of
Glass Melters, 可視化情報全国講演会(富山 2011), Vol.31, Suppl. No.2, 45-46.
4) Ichijo N., Matsuno S., Tokura S., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M.,
Applicability of electrical resistance tomography to rectangular vessels, 第 40 回可視化情報シンポ
ジウム, 2012, 新宿, Vol.32, Suppl. No.1, 319-320.
5) Ichijo N., Matsuno S., Tokura S., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M.,
Applicability of electrical resistance tomography to visualize inside of rectangular vessels, 日本混
相流学会年会講演会 2012, 柏,
6) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M., 電気抵抗
トモグラフィによる矩形容器内可視化の検討, 化学工学会関東支部横浜大会, 2012, 横浜
7) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M., Accuracy
improvement of electrical resistance tomography using electrodes inserted from the top of the
rectangular vessel, 第 41 回可視化情報シンポジウム, 2013, 新宿, E202, Vol.33, Suppl. No.1,
425-426
8) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M.,
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Applicability evaluation of electrical resistance tomography using electrodes inserted from the top
of the rectangular vessel, 日本混相流学会混相流シンポジウム 2013, 長野, A322
9) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M., Monitoring
the vicinity of the wall of vessels by electrical resistance tomography with fewer electrodes, 日本混
相流学会混相流シンポジウム 2014, 北海道, B311
10) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Fujiwara H., Misumi R., Nishi K. and Kaminoyama M.,
Application of electrical resistance tomography to glass melter, 第 20 回 動力・エネルギー技術シ
ンポジウム, 2015, 仙台
【学会発表(国際)
】
1) Ichijo N., Matsuno S., Tokura S., Tochigi Y., Kaminoyama M., Nishi K., Misumi R. and Higashi
K., 2012, Applicability of Electrical Resistance Tomography to Monitoring Noble Metal
Accumulation in Glass Melter, 6th International Symposium on Process Tomography (ISPT6), Cape
Town South Africa, PO16.
2) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Kaminoyama M., Nishi K., Misumi R. and Nishiyama
S., 2013, Applicability of ERT to the Rectangular Section Glass Melter, 7th World Congress on
Industrial Process Tomography (WCIPT7), Krakow Poland, P3-10.
3) Ichijo N., Matsuno S., Sakai T., Tochigi Y., Kaminoyama M., Nishi K., Misumi R. and Nishiyama
S., 2014, Applicability of ERT to the glass melter with fewer electrodes, 5th International Workshop
on Process Tomography (IWPT5), Jeju South Korea, TA-2.
【特許】
1) 特許第 5704326 号, トモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法
2) 特開 2013-195343, トモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法
3) 特開 2015-17852, 電気抵抗分布画像の画像処理方法
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謝辞
本研究を行うにあたり、多くの方々のご支援ご協力を賜りました。謹んで御礼申し上げ
ます。
指導教官の上ノ山周教授には、終始適切なご指導とご鞭撻を賜りました。また、入学・
共同研究の手続き、特許出願、国際および国内各学会での人脈構築等、こちらからの申し
出に常に迅速にご対応いただきました。深く感謝いたしますとともに、心より御礼申し上
げます。
また、本研究に関して、ERT の原理や応用に関してのご指導だけでなく、研究の進展に
つながる多くのご助言をいただきました、仁志和彦准教授に心より感謝申し上げます。さ
らに、研究遂行にあたり、こちらから提案した手法に対して、熱意のあるご指導をいただ
きました、上ノ山・仁志研究室の三角隆太特別研究教員に深く感謝申し上げます。
モックアップ炉での試験にあたり、計測を許可いただいただけでなく、スケジューリン
グや結果のレビュー等で日本原燃株式会社様には多大なるご支援ご協力を賜りました。心
より御礼申し上げます。
著者の横浜国立大学社会人博士課程通学に御理解御協力をいただきました、株式会社 IHI
技術開発本部基盤技術研究所 所長 張 惟敦様、前所長 村上 晃一様には厚く御礼申し上げ
ます。また、社会人博士課程入学を認め御協力を頂きました株式会社 IHI 技術開発本部基盤
技術研究所 元所長 池田英人様には深く感謝いたします。研究実施にあたり、多くのサポ
ートをいただきました、IHI INC. Business Development Devision 松野伸介様、株式会社 IHI
技術開発本部基盤技術研究所 徳良晋様、酒井泰二様に心より御礼申し上げます。さらに、
株式会社 IHI 原子力セクター原燃プロジェクト部、システム設計部の方々には ERT の性能
目標、仕様に関する相談、モックアップ炉での試験のサポート等、多方面で御協力をいた
だきました。深く感謝いたします。
また、共同研究を通じて多くの貴重な考察をいただきました、上ノ山・仁志研究室 東 慧
一郎氏、西山 聡氏、山本 大生氏、杉山 幸司氏に心より感謝いたします。
最後に、陰ながら支えてくれた両親、妻の両親と、いつも前向きに研究に取り組む元気
を与えてくれた妻 愛里と長男 虎汰朗、次男 拓磨に感謝します。
以上
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