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クロスボーダーレポ取引と課税

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クロスボーダーレポ取引と課税
クロスボーダーレポ取引と課税
中嶋 美樹子
論文要旨
近年、国境を越えたレポ取引(クロスボーダーレポ取引)が活発に行われ、
金融機関等にとって、外貨を調達する手段として重要な役割を果たしている。
しかしながら、わが国においては、クロスボーダーレポ取引に対する課税に
つ い て 、こ れ ま で そ の 取 扱 い を 明 確 に し な か っ た 。と こ ろ が 、当 該 取 引 に つ き 、
住友信託銀行が課税当局による課税を不服として税務訴訟をおこしたことから、
そ の 取 扱 い を 明 確 化 す る 必 要 が 出 て き た 。そ こ で 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 で 、ク
ロスボーダーレポ取引に対する課税について明確に規定された。
本 稿 で は 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 後 の レ ポ 取 引 に 対 す る 課 税 の 取 扱 い を 概 観 し
たうえで、この改正により、レポ取引に係る課税問題は解決されたのかを検証
し、残された問題がある場合には、今後どのような対策が必要となるのかを、
比較法を用いて考察した。
Ⅱ で は 、 レ ポ 取 引 の 仕 組 み を 紹 介 し 、 レ ポ 取 引 に 対 す る 平 成 21年 度 税 制 改 正
後の現行税制による課税の取扱いを概観した。そこで、わが国のレポ取引の所
得分類を明確化したことにより、レポ取引から生じる所得の分類が違う国の居
住者とクロスボーダーレポ取引を行った場合には、二重課税ないしは二重免除
の可能性があることを指摘した。
Ⅲでは、諸外国においてレポ取引の所得分類が各国で違うことを利用し、ク
ロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームが盛んになっており、巨額
の 租 税 便 益 を 生 じ さ せ て い る こ と を 、 OECDの 議 論 お よ び 2009年 に こ の よ う な タ
ックス・スキームを租税回避アレンジメントとしたニュージーランドの2つの
判 例 に よ り 明 ら か に し た 。 そ し て 、 OECDの 議 論 に 対 す る 米 英 両 国 の 対 応 策 を 紹
介した。米英においては米英租税条約で制限を加えたことで租税便益が生じな
くなったこと、さらに両国の国内法においても特別規定を置くなど積極的に対
応策が講じられていることを明らかにした。また、包括的租税回避否認規定
( General Anti-Avoidance Rule ;GAAR)を 導 入 し て い る ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で は 、
裁判において事業目的を持たないクロスボーダーレポ取引を「租税回避アレン
ジ メ ン ト 」 と し て GAARを 適 用 す る こ と に よ り 対 応 策 が 講 じ ら れ て い る こ と を 紹
介した。
Ⅳでは、わが国におけるレポ取引の国際化にともない、Ⅲでみたようなクロ
スボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームが今後生じる前提条件がそろ
っていることを指摘した。しかしながら、わが国の現行税制ではこれに対応で
きないことを指摘し、比較法により今後の対応策について検討した。そして、
短期的には米英両国のように国内法において租税便益を生じさせる取引につい
て、人工的な経費等の控除を制限する規定を設けることが望ましいとした。さ
らに、各国との租税条約上、所得の分類が違うことにより租税便益を生み出す
ような取引について、その分類を同じものにするような規定が必要になってく
るだろうと指摘した。
最 後 に 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に お け る GAARに つ い て は 、 本 稿 で 取 り 上 げ た 裁 判
例 を 見 る 限 り 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 裁 判 所 の 判 断 が GAARの 適 用 に つ い て 租 税 便
益の金額に力点をおいているように見受けられることを指摘し、そのうえで、
GAARは 通 常 の レ ポ 取 引 に ま で そ の 適 用 範 囲 を 広 げ る 可 能 性 が あ る の で あ れ ば 、
わが国において、レポ取引は短期金融市場において非常に重要な役割を果たし
ており、税制上の規定が通常のクロスボーダーレポ取引の円滑な運営を阻害す
ることがあってはならないことからも、日本への導入は慎重になるべきだと指
摘した。
Ⅰ
は じ め に ............................................................................................ 2
Ⅱ
レ ポ 取 引 に 対 す る 課 税 と 問 題 ............................................................... 3
1
レ ポ 取 引 に 対 す る 課 税 の 沿 革 ............................................................ 3
( 1 ) レ ポ 取 引 の 仕 組 み ..................................................................... 3
( 2 ) 現 行 税 制 に よ る 取 扱 い ............................................................... 7
( 3 ) レ ポ 取 引 に 係 る 訴 訟 と 税 制 改 正 ................................................ 12
2
レ ポ 取 引 の 国 際 化 と 残 さ れ た 問 題 ................................................... 17
( 1 ) 相 手 国 が 貸 付 金 の 利 子 と し て い る 場 合 ...................................... 17
( 2 ) 相 手 国 が 債 券 の 売 買 取 引 か ら 生 じ る 譲 渡 益 と し て い る 場 合 ......... 19
( 3 ) 残 さ れ た 問 題 .......................................................................... 20
3
小 括 .............................................................................................. 21
ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 使 っ た タ ッ ク ス ・ ス キ ー ム と そ の 対 応 ......... 21
Ⅲ
1
OECD に お け る 議 論 ......................................................................... 21
( 1 ) 所 得 分 類 の 違 い を 利 用 し た ス キ ー ム ......................................... 21
( 2 ) 外 国 税 額 控 除 ( FTC) 生 成 ス キ ー ム ........................................... 25
2
比 較 法 に よ る 検 討 .......................................................................... 27
(1)所得分類の違いを利用したスキームに対する外国税額控除の制限
( 米 英 租 税 条 約 24 条 改 正 に よ る ) ..................................................... 27
( 2 ) 米 英 の 国 内 法 に お け る 対 応 ...................................................... 30
( 3 ) ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に お け る GAAR の 適 用 .................................... 34
3
OECD 及 び 比 較 法 か ら 得 ら れ る 日 本 へ の 示 唆 ........................................ 43
Ⅳ
Ⅴ
小 括 .............................................................................................. 42
1
国 内 法 お よ び 租 税 条 約 に よ る 調 整 ................................................... 43
2
包 括 的 租 税 回 避 否 認 規 定 ( GAAR) の 導 入 ......................................... 46
お わ り に .......................................................................................... 46
Ⅰ
はじめに
わが国において、レポ取引は短期金融市場において欠かせない存在となって
おり、その規模も大きい。さらに、近年は国境を越えたレポ取引(クロスボー
ダーレポ取引)が活発に行われ、金融機関にとっては、外貨を調達する手段と
して重要な役割を果たしている。
しかしながら、このようなクロスボーダーレポ取引に対する課税について、
「レポ収益は売買差益であり、貸付金に対する利子収益として扱われることは
決して無かったのである。但し、国税庁の内部処理では、現先を貸付として扱
っ て い た 」 1 と い わ れ 、 ま た 、「 外 国 法 人 日 本 支 店 が 取 引 の 当 事 者 で あ っ た 場 合
に、現先取引における現先スタート金額と現先エンド金額の差額については源
泉徴収税免除の証明書を提示しない限り源泉徴収税を課すべきであるというよ
うな議論、あるいはそのような証明書を提示していたという例は聞いたことが
な い 」 2と も 言 わ れ る よ う に 、 こ れ ま で そ の 取 扱 い が 明 確 化 さ れ て こ な か っ た 。
そ こ で 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 で 、ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 に 対 す る 課 税 に つ
いて明確に規定された。
本 稿 で は 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 で 上 記 の よ う な レ ポ 取 引 に 対 す る 課 税 の 問 題
は全て解決されたのかを検証し、残された問題がある場合には、今後どのよう
な税制が必要となるのかを、比較法を用いて考察する。
Ⅱ で は 、レ ポ 取 引 の 仕 組 み を 述 べ た う え で 、レ ポ 取 引 に 対 す る 平 成 21 年 度 税
制改正後の現行税制による課税の取扱いを概観する。また、この税制改正の要
因となったクロスボーダーレポ取引に関する住友信託銀行事件を取り上げ、税
制改正により、上記のような課税の問題が解決されたのかを検証する。
Ⅲ で は 、 OECD、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で 問 題 と な っ た ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を
使ったタックス・スキームを取り上げ、各国における取り組みを紹介する。
Ⅳでは、わが国におけるレポ取引の国際化にともない、通常のクロスボーダ
ーレポ取引は阻害しないものの、租税回避アレンジメントについてはその租税
便益を無効とするような課税のあり方について検討する。
1 中 島 将 隆 「 レ ポ は 売 買 か 貸 借 か ~ レ ポ の 法 律 上 の 扱 い に つ い て ~ 」 証 研 レ ポ ー ト 1633 号 ( 2005)
4 頁。
2 中 里 実 「 レ ポ 取 引 の 課 税 に つ い て 」 税 研 17 巻 5 号 ( 2002) 73、 74 頁 。
[2]
Ⅱ
レポ取引に対する課税と問題
1
レポ取引に対する課税の沿革
(1)レポ取引の仕組み
①
レポ取引とは
レ ポ 取 引 と い う 言 葉 は 、 英 語 名 の repurchase agreement 3 を 略 し た 言 葉 Repo
に 由 来 す る 。わ が 国 で は 、レ ポ 取 引 は 、
「 債 券 の 貸 借 取 引 の こ と で 、当 事 者 の 一
方が他方に債券を貸出し、見返りに担保金を受入れ、一定期間経過後にこの債
券 の 返 還 を 受 け て 、担 保 金 を 返 却 す る 取 引 」4 、つ ま り 現 金 担 保 付 き 債 券 貸 借 取
引(以下、債券レポ取引という)のことをいうとされている。
ま た 、債 券 レ ポ 取 引 と 同 等 の 経 済 的 機 能 を 有 す る も の と し て 、現 先 取 引 5( 以
下、現先レポ取引という)がある。現先レポ取引とは、債券をあらかじめ約定
した期日にあらかじめ約定した価格で(あらかじめ期日及び価格を約定するこ
とに代えて、その開始以後期日及び価格の約定をすることができる場合にあっ
ては、その開始以後約定した期日に約定した価格で)買い戻し、又は売り戻す
こ と を 約 定 し て 譲 渡 し 、又 は 購 入 し 、か つ 、そ の 約 定 に 基 づ き 当 該 債 券 と 同 種 ・
同 量 の 債 券 を 買 い 戻 し 、又 は 売 り 戻 す 取 引 を い う( 所 令 283④ 、法 令 180④ )。本
稿では、債券レポ取引および現先レポ取引をレポ取引と定義して考察を行う。
②
債券レポ取引の仕組み
債券レポ取引の仕組みは、図 1 のとおりである。
3 日 本 銀 行 が 公 表 し て い る 統 計 デ ー タ に は 公 社 債 現 先 参 考 利 回 を Yields on bonds with repurchase
agreement : Bond repo rates と し て お り 、 現 先 取 引 を レ ポ 取 引 と 訳 し て い る 。 た だ し 、 2007 年 に
日本銀行金融市場局から出されたレポートでは「わが国では、現金担保付債券貸借をレポと呼ぶの
が 通 例 で あ る 。こ の 点 、米 国 で は 、r e p u r c h a s e a g r e e m e n t( 債 券 の 買 戻 条 件 付 売 却 )を レ ポ と 呼 び 、
securities lending/ borrowing が 債 券 貸 借 で あ る 。 も っ と も 、 こ れ ら の 経 済 的 機 能 は ほ ぼ 同 等 で
あ る 」と の 注 釈 を 入 れ て お り 、米 国 で の repurchase agreement が 日 本 の 現 先 取 引 と 同 じ も の で あ る
から、このような英語訳をつけたものと思われる。日本銀行金融市場局「米国短期金融市場の最近
の 動 向 に つ い て - レ ポ 市 場 、 FF 市 場 、 FF 金 利 先 物 ・ OIS 市 場 を 中 心 に - 」 BOJ Reports & Research
Papers・ 2007 年 2 月 ・ 3 頁 。
4
http://www.exbuzzwords.com/static/keyword
(2008.12.2 閲 覧 )。
5 現 先 取 引 は 、旧 現 先 取 引 と 新 現 先 取 引 に 分 け ら れ る 。旧 現 先 と 新 現 先 は い ず れ も 売 買 取 引 で あ り 、
その基本的枠組みも変わらないが、新現先では旧現先ではなかったリスク管理に関する条項や、売
買取引後の債券の銘柄の差し替えが行えるサブスティテューション条項、取引相手がデフォルトし
た 際 の 一 括 清 算 条 項 な ど を 充 実 さ せ た 形 と な っ て い る 。旧 現 先 の 歴 史 は 古 く 1 9 4 9 年 の 起 債 市 場 が 再
開 さ れ た あ と か ら 行 わ れ て い た と さ れ て い る が 、現 在 、旧 現 先 取 引 は 行 わ れ て お ら ず 2 0 0 1 年 4 月 よ
り 1 年 間 の 移 行 期 間 を 経 て 2002 年 4 月 か ら は 新 現 先 取 引 ( 現 在 は 、 現 先 レ ポ 取 引 と い わ れ て い る )
へ と 移 行 し た 。し た が っ て 、本 稿 で 現 先 レ ポ 取 引 と い う と き は 、2002 年 4 月 以 降 の 新 現 先 取 引 の こ
とを指すものとする。旧現先取引から現先レポ取引への移行についての論文は次のものがある。菅
野浩之・加藤毅「現先取引の整備・拡充に向けた動きについて-グローバル・スタンダードに沿っ
た 新 し い レ ポ 取 引 の 導 入 - 」 金 融 市 場 局 マ ー ケ ッ ト レ ビ ュ ー ・ 2001-J-9。
[3]
図 1
債券
A
(スタート取引
(債券の貸し手)
(資金の取り手)
A
( エ ン ド 取 引
(債券の貸し手)
(資金の取り手)
現 金( 担 保 )
現金+担保金金利
同 種・同 量 の 債 券
+賃借料額
B
(債券の借り手)
(資金の出し手)
B
(債券の借り手)
(資金の出し手)
(注)筆者作成。
債券レポ取引のスタート取引日には、A は手持ちの債券を B に貸し出す。同
時に、B は債券を借りるための担保として、当該債券の時価に基づき計算され
た現預金を A に預ける(A の立場は債券の貸し手であると同時に資金の取り手
で あ り 、 B の 立 場 は 債 券 の 借 り 手 で あ る と 同 時 に 資 金 の 出 し 手 で あ る )。
他方、スタート取引日から一定期日が経過したエンド取引日には、スタート
取引日と逆の取引が行われる。つまり、B は A にスタート取引日において借り
て い た 債 券 と 同 種・同 量 の 債 券 を 返 却 し て 当 該 債 券 の 賃 借 料 額 を 支 払 い 、A は B
から預かっていた担保である現預金にスタート取引日からエンド取引日までの
日 数 6に 応 じ た 経 過 利 子 ( 担 保 金 金 利 と い う ) を 加 算 し て B に 返 却 す る 。
債 券 レ ポ 取 引 で は 、 エ ン ド 取 引 日 に 、 Aは Bに 貸 し 出 し て い た 債 券 の 賃 借 料 額
を 受 け 取 り 、 他 方 、 Bは 担 保 金 と し て Aに 預 け て い た 現 預 金 の 担 保 金 金 利 を 受 け
取ることができる。このエンド取引日に実現する債券の貸借料額と担保金金利
は 、 後 述 す る よ う に 同 額 で は な い た め 、 Aが Bか ら 受 け 取 る 金 額 と Bが Aか ら 受 け
取 る 金 額 と に 差 が 生 じ る 。こ の 差 が レ ポ 差 額( 担 保 金 金 利 - 貸 借 料 額 )で あ る 。
具 体 的 7に は 、 担 保 金 金 利 は 、
担 保 金 金 利 = 差 入 担 保 金 額 ×担 保 金 利 率 ×賃 借 期 間( 片 端 入 )÷365( 円 未 満 切 捨 )
と計算され、賃借料額は、
6 スタート取引日からエンド取引日までの期間は、取引当事者同士で自由に設定でき、短いものは
翌日に決済されるもの(翌日物)から 1 年物まで存在する。
7 セ ン ト ラ ル 短 資 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.central-tanshi.com/seminar/9-01.html) に よ る 。
[4]
賃 借 料 額 = 時 価 総 額 ×賃 借 料 率 ×貸 借 期 間 ÷365
時 価 総 額 = 賃 借 数 量 ×債 券 の 時 価 ÷100 ( 円 未 満 切 捨 )
と計算される。
担保金利率は、「同じ取引期間で行われる国債担保取引のマネーマーケット
商 品 金 利 (た と え ば 国 債 担 保 の 有 担 保 コ ー ル 、 TB/FB 現 先 )と ほ ぼ 同 じ 水 準 」 と
されている。また、この金利を日数割で計算していることから、担保金金利は
債 券 の 賃 借 期 間 が 長 け れ ば 長 く な る ほ ど 大 き く な る こ と が わ か る 。し た が っ て 、
担保金金利の実質的な機能は、図 1 での A が B からの借入金に対して支払う金
利ということができる。
③
現先レポ取引の仕組み
現先レポ取引の仕組みは、図 2 のとおりである。
図2
債券
A
(スタート取引日)
(債券の売り手)
(資金の取り手)
A
(エンド取引日)
(債券の買い手)
(資金の出し手)
スタート売買代金
エンド売買代金
同 種・同 量 の 債 券
B
(債券の買い手)
(資金の出し手)
B
(債券の売り手)
(資金の取り手)
(注)筆者作成。
スタート取引日において、A は保有している債券を B に時価に基づいて計算
された価格(以下、スタート売買金額)で売却し、B はスタート売買金額に相
当する現預金を A に支払う(A の立場は債券の売り手であると同時に資金の取
り 手 で あ り 、B の 立 場 は 債 券 の 買 い 手 で あ る と 同 時 に 資 金 の 出 し 手 で あ る )。一
方、スタート取引日から一定期日が経過したエンド取引日には、A はスタート
取引日において売却した債券と同種・同量の債券を B からスタート取引日に決
められた価格(以下、エンド売買金額)で購入するという債券の売買・再売買
の取引を行う(現先レポ取引は債券の売買取引であるので、エンド取引日には
[5]
A の 立 場 は 債 券 の 買 い 手 で あ り 、B の 立 場 は 債 券 の 売 り 手 で あ る と い う 、ス タ ー
ト 取 引 日 と は 逆 の 立 場 に な る )。
現先レポ取引においてレポ差額は取引スタート日における債券の売買金額と
取引エンド日における債券の再売買金額との差額であらわされる。
「基本契約書」においては、スタート取引日における売買金額およびエンド取
引日における再売買金額を次のように計算することとしている。
ス タ ー ト 売 買 金 額 = 取 引 数 量 ×ス タ ー ト 売 買 単 価 + 取 引 数 量 ×ス タ ー ト 取 引
受渡日における経過利子
スタート売買単価=(約定時点の取引対象債券等の時価+スタート取引受渡
日 に お け る 経 過 利 子 )÷( 1+ 売 買 金 額 算 出 比 率 )- ス
タート取引受渡日における経過利子
エ ン ド 売 買 金 額 = 取 引 数 量 ×エ ン ド 売 買 単 価 + 取 引 数 量 ×エ ン ド 取 引 受 渡 日
における経過利子
・取引期間中に取引対象債券等の収益金支払日が含まれない場合
エンド売買単価=(スタート売買単価+スタート取引受渡日における経過利
子 ) + 現 先 レ ー ト ×( ス タ ー ト 売 買 単 価 ×約 定 期 間 + ス
タ ー ト 取 引 受 渡 日 時 点 の 経 過 利 子 ×約 定 期 間 )÷365- エ
ンド取引受渡日における経過利子
・取引期間中に取引対象債券等の収益金支払日が含まれる場合
エンド売買単価=(スタート売買単価+スタート取引受渡日における経過利
子 ) + 現 先 レ ー ト ×( ス タ ー ト 売 買 単 価 ×約 定 期 間 + ス
タ ー ト 取 引 受 渡 日 に お け る 経 過 利 子 ×収 益 金 が 支 払 わ れ
る 日 ま で の 期 間 )÷365- エ ン ド 取 引 受 渡 日 に お け る 経 過
利 子 - 収 益 金 が 支 払 わ れ る 日 に 支 払 わ れ る 額 面 100% 当
たり収益金
つ ま り 、上 記 の 算 式 に 基 づ い て 現 先 レ ポ 取 引 が 行 わ れ た 場 合 、Aは ス タ ー ト 取
引日に、時価に基づいて計算された金額で債券を売却し、エンド取引日には、
スタート売買単価に現先レートの取引期間日数分を加算した金額でスタート取
引 日 に 売 却 し た 債 券 と 同 種・同 量 の 債 券 を 購 入 す る こ と と な る( Bは こ れ と 逆 の
取引を行う)。
[6]
ただし、上記のようにエンド売買金額は、あらかじめ決められているため、
スタート取引日において売買された債券に価格変動があった場合、その価格変
動分はエンド売買金額に反映されない。このような債券の時価の変動に対応す
る た め に A と B と の 合 意 に よ り 、 リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル 条 項 ( ヘ ア ・ カ ッ ト 8、
マ ー ジ ン ・ コ ー ル 9、 リ プ ラ イ シ ン グ 10) を 設 定 す る こ と が で き る 。 取 引 期 間 中
にこれらのリスク・コントロール条項が実施されなければ、A は、エンド取引
日に、スタート取引日に受け取った金銭に現先レートの取引期間日数分の差額
分を加算した金額を B に支払う。他方、B は、エンド取引日に、スタート取引
日に支払った金銭に現先レートの取引期間日数分の差額分を加算した金額を A
から受け取る。このスタート取引日とエンド取引日との差額がレポ差額とよば
れるものである。
以上のように、債券レポ取引においても、現先レポ取引においてもレポ差額
が発生し、A は B に対してレポ差額を支払うこととなる。このレポ差額に対し
て、現行税制においては、法人税あるいは所得税が課税される。
(2)現行税制による取扱い
①
債券レポ取引に対する課税
債 券 レ ポ 取 引 の 会 計 処 理 11は 、 賃 借 料 額 お よ び 担 保 金 金 利 の 額 が 明 ら か で あ
る場合、A については、エンド取引日に B より受領した賃借料額をその他金融
収益(品貸料)として計上し、B に対して支払った担保金金利の額を支払利息
として計上する。他方、B については、エンド取引日に A に支払った賃借料額
は有価証券品借料として計上され、A より受領した担保金金利の額は担保金利
8 ヘア・カットとは、約定時点の債券の時価とスタート売買単価との間に乖離幅を設ける仕組みで
ある。一括清算が発生した場合に債券の時価が下落・上昇していることに伴い発生するリスクを回
避 す る た め に 行 わ れ る 。 例 え ば 、 時 価 100円 の 債 券 を 買 い 入 れ る 際 、 債 券 の 時 価 が 2% 下 落 す る か も
し れ な い リ ス ク に 備 え 、 ス タ ー ト 売 買 単 価 が 98円 に 設 定 さ れ る 。 菅 野 浩 之 ・ 加 藤 毅 「 現 先 取 引 の 整
備・拡充に向けた動きについて-グローバル・スタンダードに沿った新しいレポ取引の導入-」金
融 市 場 局 マ ー ケ ッ ト レ ビ ュ ー 2001-J-9( 2001) 3頁 。
9 マージン・コール(値洗い)とは、取引期間中、取引対象債券等の時価変動に応じて、担保の受
渡 し に よ り 与 信 リ ス ク の 解 消 を 行 う こ と を 言 う 。例 え ば 、債 券 を 担 保 に 資 金 運 用 を 行 っ て い る 場 合 、
債券の時価が下落すれば担保価値が減少するので、この下回った分(=エクスポージャー)をカバ
ー す る た め 、 資 金 の 取 り 手 に 担 保 ( = マ ー ジ ン ) の 差 入 れ を 請 求 す る 仕 組 み で あ る 。 同 上 、 3頁 。
10 リ プ ラ イ シ ン グ ( 再 評 価 取 引 ) と は 、 マ ー ジ ン ・コ ー ル と 同 様 、 与 信 リ ス ク の 解 消 手 段 で あ る 。
当事者の合意により、取引期間中に個別取引を一旦終了し、その時点の時価に基づく新たなスター
ト売買単価を用いて、終了前の取引と同じ条件(取引対象債券等の銘柄・数量、現先レート、エン
ド 日 等 ) で 新 た な 取 引 を ス タ ー ト さ せ る 仕 組 み で あ る 。 同 上 、 4頁 。
1 1 大 和 総 研 『 2 0 0 5 年 度 版 法 人 投 資 家 の た め の 証 券 投 資 の 会 計 ・ 税 務 』( 大 和 総 研 ・ 2 0 0 5 ) 2 7 2 頁 ~
274 頁 。
[7]
息として計上される。ただし、賃借料額および担保金金利の額が明らかでない
場合は、エンド取引日においてレポ差額がプラス(賃借料額<担保金金利)で
あれば、そのプラスの金額が A の支払利息として計上され、同時に B の受取利
息 と し て 計 上 さ れ る 。こ れ に 対 し て 、エ ン ド 取 引 日 に お い て ネ ガ テ ィ ブ ・レ ポ ー
トが発生している場合(賃借料額>担保金金利)には、賃貸料額-担保金金利
の額が A のその他金融収益(品貸料)として計上され、同時に B の有価証券品
借料として計上される。
こ こ で 、A お よ び B が 内 国 法 人 の 場 合 、税 法 上 の 取 扱 い に つ い て は 、所 法 181
条 1 項 1 2 の 源 泉 徴 収 の 対 象 と な る 利 子 に つ い て 、 所 法 23 条 1 項 1 3 で 規 定 し て い
るが、この中にレポ差額は含まれないので、源泉徴収は行われない。したがっ
て、債券レポ取引に係るこれらの収益の額および費用の額は他の取引と合算さ
れて、企業会計上の利益が算出され、法人税法上、債券レポ取引に係るこれら
の収益の額および費用の額が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に
従って計算」されたものであれば、その事業年度の益金の額又は損金の額に算
入され、法人税額が計算されることとなる。
②
現先レポ取引に対する課税
現 先 レ ポ 取 引 は 、 買 戻 ( 売 戻 ) 条 件 付 き の 売 買 契 約 と 構 成 さ れ 14、 民 商 法 上
有 効 な 契 約 と 解 さ れ て い る 15。 し か し 、 「 経 済 的 効 果 や 当 事 者 の 認 識 を 重 視 す
12 ( 所 得 税 法 )
第 1 8 1 条 居 住 者 に 対 し 国 内 に お い て 第 2 3 条 第 1 項( 利 子 所 得 )に 規 定 す る 利 子 等( 以 下 こ の 章 に
お い て 「 利 子 等 」 と い う 。) 又 は 第 2 4 条 第 1 項 ( 配 当 所 得 ) に 規 定 す る 配 当 等 ( 以 下 こ の 章 に お い
て 「 配 当 等 」 と い う 。)の 支 払 を す る 者 は 、 そ の 支 払 の 際 、そ の 利 子 等 又 は 配 当 等 に つ い て 所 得 税 を
徴 収 し 、 そ の 徴 収 の 日 の 属 す る 月 の 翌 月 10 日 ま で に 、 こ れ を 国 に 納 付 し な け れ ば な ら な い 。
(以下省略)
13 ( 所 得 税 法 )
第 23 条 利 子 所 得 と は 、 公 社 債 及 び 預 貯 金 の 利 子 ( 社 債 、 株 式 等 の 振 替 に 関 す る 法 律 第 90 条 第 3
項(定義)に規定する分離利息振替国債(財務省令で定めるところにより同条第1項に規定する元
利分離が行われたものに限る。)に係るものを除く。)並びに合同運用信託、公社債投資信託及び
公募公社債等運用投資信託の収益の分配(以下この条において「利子等」という。)に係る所得を
いう。
(以下省略)
14 現 先 レ ポ 取 引 の 契 約 に 際 し て は 、
「債券等の現先取引に関する基本契約書」
(以下、
「 基 本 契 約 書 」)
が 交 わ さ れ 、取 引 当 事 者 の 合 意 に よ り 、個 別 に 上 記 ( 1 ) ③ の リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル 条 項 の ほ か に 、取
引利便性向上のための条項(サブスティテューション)を設定することができる。
現先レポ取引の法律構成は、「基本契約書」第 5 条において、「個別現先取引における当該取引
対象債券等上の権利は、スタート取引受渡日に買手が売手にスタート売買金額の全額を支払ったと
きに売手から買手に移転し、エンド取引受渡日に、売手が買手にエンド売買金額の全額を支払った
ときに買手から売手に移転するものとする」と規定していることから、債券の購入者が購入後、当
該債券の自由処分権を有していることを明示した債券の売買契約といえる。
1 5「 基 本 契 約 書 」第 1 1 条 4 項 2 号 に お い て は 、一 括 清 算 条 項 が 規 定 さ れ て お り 、こ の 一 括 清 算 条 項
[8]
れ ば 、現 先 取 引 は 債 券 等 を 担 保 と し た 金 融 取 引 」1 6 で あ る と し て 、会 計 処 理 は 、
現先レポ取引の経済的効果を重視して金融取引として処理される。
レ ポ 取 引 の 主 要 な プ レ ー ヤ ー で あ る 証 券 会 社 17は 、 「 有 価 証 券 関 連 業 経 理 の
統 一 に 関 す る 規 則 」 18に 基 づ い て 会 計 処 理 を 行 う が 、 例 え ば 野 村 ホ ー ル デ ィ ン
グス㈱の有価証券報告書においては「値洗いが要求され、有価証券の差替え権
を有しあるいは顧客が譲り受けた有価証券を売却または再担保に提供する権利
を制限しております。したがって、現先レポ取引は担保付契約あるいは担保付
調達取引として会計処理されており、買い戻し金額もしくは売戻し金額を連結
貸借対照表に計上しております」とし、有価証券担保借入金のなかの現先取引
貸付金または現先取引借入金として計上されており、現先レポ取引は金融取引
として処理されている。
具 体 的 に は 、 図 2に お け る Aは 、 ス タ ー ト 取 引 日 に ス タ ー ト 売 買 金 額 を 現 先 取
引 借 入 金 と し て 計 上 し 、こ れ に 対 し て Bは 、ス タ ー ト 売 買 金 額 を 現 先 取 引 貸 付 金
と し て 計 上 す る 。そ し て 、エ ン ド 取 引 日 に お い て は 、Aは 、現 先 取 引 借 入 金 の 返
却処理を行い、同時に現先レートの取引期間日数分の差額を支払利子として計
上 す る 。こ れ に 対 し て Bは 、現 先 取 引 貸 付 金 の 返 却 処 理 を 行 う と 同 時 に 、現 先 レ
ートの取引期間日数分の差額を受取利子として計上する。
税法上の取扱いについては、A および B が内国法人の場合、債券レポ取引と
同様、レポ差額に係る源泉徴収は行われない。したがって、現先レポ取引に係
は現先レポ取引には必ず含まれる。一括清算条項とは「当事者が締結している基本契約書の定めに
基づき、当事者の一方に倒産などの事由が発生した場合に、当該基本契約書に基づくすべての取引
を 倒 産 時 の 時 価 に 引 き 直 し て 一 括 し て 清 算( ネ ッ ト ・ ア ウ ト )し 、一 本 の 債 権 債 務 に す る こ と 」( 菅
野浩之・加藤毅「現先取引の整備・拡充に向けた動きについて-グローバル・スタンダードに沿っ
た 新 し い レ ポ 取 引 の 導 入 - 」 金 融 市 場 局 マ ー ケ ッ ト レ ビ ュ ー 2001-J-9( 2001) 4 頁 ) で あ り 、 こ の
条項が入ることにより、現先レポ取引が私法上、売買とはいえなくなるのではないかとも考えられ
る。しかし、これに対して本多教授は「売買構成では、資金貸借、債券貸借による債務は生じない
が、エンド日における買戻しにおける代金債務、債券引渡債務は生じるのであるから、それを担保
す る た め に マ ー ジ ン ・コ ー ル を 入 れ る こ と は 不 自 然 で は な い 。 同 じ 理 由 に よ り 、 契 約 に マ ー ジ ン ・コ
ールや一括清算の条項が入ることにより、私法上、売買であったものが別のものになる(売買では
なくなる)といったことはありえないと考えるべきである」と指摘されている(本多正樹「レポ取
引 の 発 展 と 法 律 構 成 に つ い て ( 二 ・ 完 )」 民 商 法 雑 誌 1 3 4 巻 3 号 ( 2 0 0 6 ) 3 3 8 頁 ) 。
1 6 大 和 総 研 『 2 0 0 5 年 度 版 法 人 投 資 家 の た め の 証 券 投 資 の 会 計 ・ 税 務 』( 大 和 総 研 ・ 2 0 0 5 ) 2 6 1 頁 。
17 現 先 レ ポ 取 引 の 市 場 参 加 者 は 、 外 国 人 、 事 業 法 人 、 証 券 会 社 、 信 託 会 社 、 短 資 会 社 等 で あ り 、 債
券レポ取引の主要市場参加者の一つである都銀等は参加していない。また、事業法人および信託会
社は債券の買い手・資金の出し手として僅かに取引がある程度で、債券の売り手・資金の取り手と
し て の 取 引 は 、ほ と ん ど な い 。し た が っ て 、主 要 な 市 場 参 加 者 は 証 券 会 社 と 外 国 人 に 限 ら れ て い る 。
日 本 証 券 業 協 会 「 公 社 債 投 資 家 別 条 件 付 売 買 ( 現 先 ) 月 末 残 高 ( 一 覧 )」 を 参 照 さ れ た い 。
18 http://www.jsda.or.jp/html/kisoku/pdf/f002.pdf 参 照 。
[9]
るこれらの収益の額および費用の額は他の取引と合算され、企業会計上の利益
が算出され、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算」さ
れたものであれば、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入され、法人税
額が計算される。
③
クロスボーダーレポ取引に対する課税
次に、レポ取引が国境を越えて行われた(以下、クロスボーダーレポ取引と
い う 。) 場 合 の 課 税 に つ い て み て い く 。 ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 は 2002 年 ( 平
成 14 年 )4 月 に 租 税 特 別 措 置 法( 以 下 、措 法 と い う )42 条 の 2 の 創 設 に よ り 非
居住者に対するレポ差額の非課税措置が講じられてから急増したとされており
19
、今日においても活発に取引が行われている。通常、クロスボーダーレポ取
引は、わが国特有の債券レポ取引ではなく、現先レポ取引と同様の売買形式に
基 づ い て 行 わ れ る 20。
クロスボーダーレポ取引が行われるパターンとしては、図 2 において A の債
券の売り手(資金の取り手)が内国法人で B の債券の買い手(資金の出し手)
が非居住者または外国法人である場合と、その逆の A が非居住者または外国法
人で B が内国法人である場合が考えられる。
A が 内 国 法 人 で あ り 、B が 非 居 住 者 ま た は 外 国 法 人 で あ る 場 合 は 、エ ン ド 日 に
A か ら B に 対 し て 支 払 わ れ る レ ポ 差 額 は 所 法 161 条 6 号 に よ り 、 貸 付 金 の 利 子
として国内源泉所得に該当し、当該利子を内国法人が非居住者または外国法人
に 支 払 う と き に 、 所 法 212 条 1 項 お よ び 所 法 213 条 1 項 1 号 に よ り 20%の 源 泉
所 得 税 を 徴 収 し 、 国 に 納 付 し な け れ ば な ら な い こ と と な っ て い る 21。
19 中 島 将 隆 「 現 先 市 場 の 復 活 と 新 た な 展 開 ‐ 国 際 標 準 の レ ポ 市 場 創 設 ‐ 」 証 券 経 済 研 究 第 49 号
( 2005) 33 頁 。
2 0 わ が 国 に お け る 債 券 レ ポ 取 引 は 、「 日 本 固 有 の 仕 組 み 」 で あ り 、 そ の 仕 組 み は 、「 ス ペ シ ャ リ ス
ト で あ る 外 国 の レ ポ デ ィ ー ラ ー で さ え 理 解 困 難 と な っ て い る 」。 同 上 、 1 9 頁 。 そ の た め 、 通 常 レ ポ
取 引 が 国 境 を 越 え て 行 わ れ る 際 に は 、 レ ポ 取 引 の 国 際 標 準 契 約 書 で あ る MRA( Master Repurchase
Agreement: 1986 年 米 国 で 作 成 さ れ た レ ポ 取 引 の 基 本 契 約 書 で 、 そ の 法 形 式 は 、 債 券 の 売 買 及 び 再
売 買 と な っ て い る 。) や G M R A ( G l o b a l M a s t e r R e p u r c h a s e A g r e e m e n t : 1 9 9 2 年 英 国 で 作 成 さ れ た レ
ポ 取 引 の 基 本 契 約 書 で 、 M R A と 同 様 、 レ ポ 取 引 を 債 券 の 売 買 及 び 再 売 買 と し て い る 。) が 用 い て 行 わ
れる。これらの取引については、課税上、わが国における現先レポ取引と同様の取扱いとなる。
21 ( 所 得 税 法 )
第 161 条 こ の 編 に お い て 「 国 内 源 泉 所 得 」 と は 、 次 に 掲 げ る も の を い う 。
(第 1 号~5 号省略)
6 号 国 内 に お い て 業 務 を 行 う 者 に 対 す る 貸 付 金( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。) で 当 該 業 務 に 係 る も
のの利子(政令で定める利子を除き、債券の買戻又は売戻条件付売買取引として政令で定め
る も の か ら 生 ず る 差 益 と し て 政 令 で 定 め る も の を 含 む 。)
[10]
ただし、クロスボーダーレポ取引の対象となる証券が特定の債券であり、A
が 特 定 金 融 機 関 等 、か つ B が 外 国 金 融 機 関 等 に 該 当 す る 場 合 に は 、措 法 42 条 の
222の 規 定 が 適 用 さ れ 、 上 記 の 源 泉 所 得 税 は 非 課 税 と な る 。
( 第 7 号 ~ 12 号 省 略 )
第 2 1 2 条 非 居 住 者 に 対 し 国 内 に お い て 第 1 6 1 条 第 1 号 の 2 か ら 第 1 2 号 ま で( 国 内 源 泉 所 得 )に 掲
げ る 国 内 源 泉 所 得( そ の 非 居 住 者 が 第 1 6 4 条 第 1 項 第 4 号( 国 内 に 恒 久 的 施 設 を 有 し な い 非 居 住 者 )
に 掲 げ る 者 で あ る 場 合 に は 第 1 6 1 条 第 1 号 の 3 か ら 第 1 2 号 ま で に 掲 げ る も の に 限 る も の と し 、政 令
で 定 め る も の を 除 く 。) の 支 払 を す る 者 又 は 外 国 法 人 に 対 し 国 内 に お い て 同 条 第 1 号 の 2 か ら 第 7
号 ま で 若 し く は 第 9 号 か ら 第 1 2 号 ま で に 掲 げ る 国 内 源 泉 所 得( そ の 外 国 法 人 が 法 人 税 法 第 1 4 1 条 第
4 号 ( 国 内 に 恒 久 的 施 設 を 有 し な い 外 国 法 人 ) に 掲 げ る 者 で あ る 場 合 に は 第 161 条 第 1 号 の 3 か ら
第 7 号 ま で 又 は 第 9 号 か ら 第 1 2 号 ま で に 掲 げ る も の に 限 る も の と し 、第 1 8 0 条 第 1 項( 国 内 に 恒 久
的 施 設 を 有 す る 外 国 法 人 の 受 け る 国 内 源 泉 所 得 に 係 る 課 税 の 特 例 ) 又 は 第 180 条 の 2 第 1 項 若 し く
は第 2 項(信託財産に係る利子等の課税の特例)の規定に該当するもの及び政令で定めるものを除
く 。)の 支 払 を す る 者 は 、そ の 支 払 の 際 、こ れ ら の 国 内 源 泉 所 得 に つ い て 所 得 税 を 徴 収 し 、そ の 徴 収
の 日 の 属 す る 日 の 翌 月 10 日 ま で に 、 こ れ を 国 に 納 付 し な け れ ば な ら な い 。
(2 項以下省略)
第 213 条 前 条 第 1 項 の 規 定 に よ り 徴 収 す べ き 所 得 税 の 額 は 、 次 の 各 号 の 区 分 に 応 じ 当 該 各 号 に 定
める金額とする。
1 . 前 条 第 1 項 に 規 定 す る 国 内 源 泉 所 得 ( 次 号 及 び 第 3 号 に 掲 げ る も の を 除 く 。)
そ の 金 額( 次 に 掲 げ る 国 内 源 泉 所 得 に つ い て は 、そ れ ぞ れ 次 に 定 め る 金 額 )に 1 0 0 分 の 2 0 の 税 率 を
乗じて計算した金額
(以下省略)
22 ( 租 税 特 別 措 置 法 )
第 42 条 の 2 外 国 金 融 機 関 等 が 、 平 成 14 年 4 月 1 日 以 後 に 開 始 し た 次 に 掲 げ る 債 券 に 係 る 所 得 税
法 第 161 条 第 6 号 に 規 定 す る 政 令 で 定 め る 債 券 の 買 戻 又 は 売 戻 条 件 付 売 買 取 引 ( 政 令 で 定 め る 要 件
を 満 た す も の に 限 る 。 第 1 0 項 に お い て 「 債 券 現 先 取 引 」 と い う 。) に つ き 、 特 定 金 融 機 関 等 か ら 同
号に掲げる利子の支払を受ける場合には、その支払を受ける利子(政令で定めるものを除く。以下
こ の 条 に お い て 「 特 定 利 子 」 と い う 。) に つ い て は 、 所 得 税 を 課 さ な い 。
1. 社 債 、 株 式 等 の 振 替 に 関 す る 法 律 第 88 条 に 規 定 す る 振 替 国 債
2. 外 国 又 は そ の 地 方 公 共 団 体 が 発 行 し 、 又 は 保 証 す る 債 券
3 . 外 国 法 人 が 発 行 し 、 又 は 保 証 す る 債 券 で 政 令 で 定 め る も の ( 前 号 に 掲 げ る も の を 除 く 。)
2 前項の規定は、特定利子の支払を受ける外国金融機関等(第4項第1号イに掲げる外国法人に
限 る 。) が 次 の 各 号 に 掲 げ る 外 国 法 人 の い ず れ か に 該 当 す る 場 合 に は 、 適 用 し な い 。
1. 当 該 特 定 利 子 を 支 払 う 特 定 金 融 機 関 等 の 第 66 条 の 5 第 4 項 第 1 号 に 規 定 す る 国 外 支 配 株 主 等 に
該 当 す る 外 国 法 人 ( 所 得 税 法 第 1 6 2 条 に 規 定 す る 条 約 の 我 が 国 以 外 の 締 約 国 の 法 人 を 除 く 。)
2 .居 住 者 又 は 内 国 法 人 に 係 る 第 4 0 条 の 4 第 1 項 又 は 第 6 6 条 の 6 第 1 項 に 規 定 す る 特 定 外 国 子 会 社
等 に 該 当 す る 外 国 法 人 ( 前 号 に 掲 げ る 外 国 法 人 を 除 く 。)
3 .外 国 法 人 の そ の 本 店 又 は 主 た る 事 務 所 の 所 在 す る 国 又 は 地 域( 以 下 こ の 号 に お い て「 本 店 所 在 地
国 」 と い う 。) に お い て 当 該 特 定 利 子 に つ い て 外 国 法 人 税 ( 法 人 税 法 第 6 9 条 第 1 項 に 規 定 す る 外 国
法 人 税 を い う 。以 下 こ の 号 に お い て 同 じ 。)が 課 さ れ な い こ と と さ れ て い る 場 合( 当 該 特 定 利 子 が 本
店 所 在 地 国 以 外 の 国 又 は 地 域 に 所 在 す る 営 業 所 又 は 事 務 所( 第 4 項 及 び 第 7 項 に お い て「 営 業 所 等 」
と い う 。)に お い て 行 う 事 業 に 帰 せ ら れ る 場 合 で あ つ て 、当 該 国 又 は 地 域 に お い て 当 該 特 定 利 子 に つ
い て 外 国 法 人 税 が 課 さ れ る 場 合 を 除 く 。)に お け る 当 該 外 国 法 人( 前 2 号 に 掲 げ る 外 国 法 人 を 除 く 。)
3 第1項の規定は、国内に恒久的施設を有する外国法人が支払を受ける特定利子で、その者の国
内において行う事業に帰せられるものについては、適用しない。
4 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1. 外 国 金 融 機 関 等 次 に 掲 げ る 外 国 法 人 を い う 。
イ 外国の法令に準拠して当該国において銀行業、金融商品取引業又は保険業を営む外国法人
ロ 外国の中央銀行
ハ 国際間の取極に基づき設立された国際機関
2. 特 定 金 融 機 関 等 次 に 掲 げ る 法 人 を い う 。
イ 第8条第1項に規定する金融機関及び同条第2項に規定する金融商品取引業者等で金融機関等
が 行 う 特 定 金 融 取 引 の 一 括 清 算 に 関 す る 法 律( 平 成 1 0 年 法 律 第 1 0 8 号 )第 2 条 第 2 項 に 規 定 す る 金
融 機 関 等 に 該 当 す る 法 人 ( 国 内 に 営 業 所 等 を 有 す る も の に 限 る 。)
ロ 日本銀行
(以下、省略)
[11]
図 2 に お い て 、A が 非 居 住 者 ま た は 外 国 法 人 で あ り 、B が 内 国 法 人 で あ る 場 合
は 、 エ ン ド 日 に A か ら B に 対 し て 支 払 わ れ る レ ポ 差 額 に 対 し て は 、 所 法 161 条
6 号の規定の適用は受けない。ただし、クロスボーダーレポ取引の相手居住国
の法律に基づき外国税が課税される可能性があり、相手居住国と租税条約が締
結されている場合は、その税率が適用されることとなる。この場合 B は、その
支払った外国税について、外国税額控除を受けることとなる。
(3)レポ取引に係る訴訟と税制改正
現行税制では、クロスボーダーレポ取引の取扱いが国内法で規定されている
が 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 ま で は 、そ の 取 扱 い は 明 確 化 さ れ て こ な か っ た 。そ の
ため、クロスボーダーレポ取引に係る当局による課税措置について不服とする
住 友 信 託 銀 行 が 訴 訟 を 提 起 し た 。以 下 で は 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 以 前 の ク ロ ス
ボーダーレポ取引に対する取扱いと住友信託銀行事件を取り上げる。
①
レポ取引の国際化とクロスボーダーレポ取引に対する課税
わが国においては、債券レポ取引と現先レポ取引と、同様の経済的機能を有
するレポ取引が併存して行われているが、レポ取引といった場合には、一般的
に貸借取引である債券レポ取引のことを言い、その取引高も債券レポ取引が
2009 年 12 月 末 で は 約 62 兆 円( 残 高 ベ ー ス )で あ る の に 対 し 、現 先 レ ポ 取 引 は
約 20 兆 円( 残 高 ベ ー ス )と 、債 券 レ ポ 取 引 の 規 模 が 現 先 レ ポ 取 引 の 約 3 倍 と な
っ て い る 23。
しかし、米国や英国などレポ先進国で行われているレポ取引は、売買取引の
現先レポ取引によって行われるのが一般的である。そこで、円の国際化に向け
て 、ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 が 活 発 に 行 わ れ る よ う 、2001 年 4 月 、従 来 の 現 先
レ ポ 取 引 の 標 準 契 約 書 が 、米 国 や 英 国 で 使 用 さ れ る も の を 参 考 に 整 備 さ れ た 2 4 。
整 備 さ れ た 標 準 契 約 書 で は 、(1)③ で 述 べ た リ ス ク・コ ン ト ロ ー ル 条 項 が 新 た に
23 2008 年 12 月 末 で は 、 債 券 レ ポ 取 引 は 、 債 券 貸 付 残 高 が 約 56 兆 円 、 債 券 借 入 残 高 約 62 兆 円 で あ
る の に 対 し 、現 先 レ ポ 取 引 は 約 2 7 兆 円 で あ っ た 。し た が っ て 、わ が 国 に お い て は 、債 券 レ ポ 取 引 市
場 規 模 が 拡 大 し て い る 一 方 、現 先 レ ポ 取 引 の 市 場 規 模 は 停 滞 あ る い は 縮 小 し て い る 。
「公社債投資家
別 条 件 付 売 買 ( 現 先 ) 月 末 残 高 」日 本 証 券 業 協 会( h t t p : / / w w w . j s d a . o r . j p / h t m l / t o u k e i / i n d e x 3 . h t m l )
より。
2 4 菅 野 浩 之 ・ 加 藤 毅「 現 先 取 引 の 整 備 ・ 拡 充 に 向 け た 動 き に つ い て - グ ロ ー バ ル ・ ス タ ン ダ ー ド に
沿 っ た 新 し い レ ポ 取 引 の 導 入 - 」 金 融 市 場 局 マ ー ケ ッ ト レ ビ ュ ー ・ 2001-J-9、 3 頁 。
[12]
追加されたことで取引の安全性が向上するなど、従来の現先レポ取引に比べて
「 金 融 取 引 の 性 格 が 強 い 」 25と い わ れ 、 そ の 結 果 、 レ ポ 差 額 に つ き 、 こ れ ま で
税法上売買取引であるとして利子課税されてこなかったものが「
、利子とみなさ
れ 、 レ ポ 収 益 に 対 す る 課 税 問 題 が 生 じ て き た 」 26と 懸 念 さ れ た 27。
税務当局はその取扱いにつき明言しなかったが、
「 2001 年 11 月 、財 務 省 は『 非
居 住 者 と の レ ポ 取 引 で 発 生 し た 利 子 は 源 泉 徴 収 の 対 象 と す る 』」2 8 と 表 明 し 、
「海
外 勢 が 日 本 勢 と の レ ポ 取 引 で 得 た 利 子 に 10%課 税 す る 方 針 を 打 ち 出 し 」 2 9 た 。
税務当局のクロスボーダーレポ取引に対するこのような課税方針に対して、
アメリカ債券市場協会が反対表明を出し、米国政府に対しても課税をやめるよ
う働きかけたこと、またクロスボーダーレポ取引が活発に行われるよう現先レ
ポ取引の整備を行ったものの、このレポ差額を源泉徴収の対象とすることは、
ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 の 促 進 を 阻 害 す る 要 因 に な り 得 る こ と か ら 、 平 成 14
年 度 税 制 改 正 に お い て 措 法 42 条 の 2 を 創 設 し 、 2002 年 4 月 1 日 か ら 2004 年 3
月 31 日 ま で の 間 に ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 開 始 し た 場 合 に は 、外 国 法 人( 外
国金融機関等)が受け取る利子について非課税措置を講じることとなった。
そ の 後 、非 課 税 措 置 の 期 限 が 延 長 さ れ て 措 法 42 条 の 2 に よ る 非 課 税 措 置 は 続
け ら れ た が 、2008 年 に 、そ の 適 用 期 限 が 撤 廃 さ れ 、非 課 税 措 置 が 恒 久 化 さ れ た 。
②
住友信託銀行事件の概要と裁判所の判決
上記のように、税務当局はクロスボーダーレポ取引により生じたレポ差額に
つ い て 、「 利 子 」 と 定 義 し た う え で 2 年 間 非 課 税 と し た が 、 2002 年 4 月 1 日 よ
り前に行われたものについても同年 7 月までは課税を行わなかった。
し か し 、 2002 年 8 月 30 日 付 で 住 友 信 託 銀 行 に 対 し 、 1999 年 12 月 か ら 2001
年 3 月 の 間 に 開 始 し た 330 回 の ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 に つ い て 、 当 該 取 引 か
25 中 島 将 隆 「 現 先 市 場 の 復 活 と 新 た な 展 開 ‐ 国 際 標 準 の レ ポ 市 場 創 設 ‐ 」 証 券 経 済 研 究 第 49 号
( 2005) 29 頁 。
26 同 上 、 29 頁 。
27 こ の よ う な 懸 念 が あ っ た こ と か ら 、 日 本 証 券 業 協 会 は 平 成 13 年 度 税 制 改 正 要 望 に お い て 「 非 居
住者等とのレポ取引については源泉徴収を行わないこと」を要望したようである。日本証券業協会
「 『 現 先 取 引 の 整 備 ・ 拡 充 に つ い て の パ ブ リ ッ ク ・ コ メ ン ト 』 と 本 協 会 の 考 え 方 に つ い て 」( 2 0 0 0 )
3-4頁 。
28 注 25 と 同 じ 、 29 頁 。
29 同 上 、 31 頁 。
[13]
ら 生 じ た 各 レ ポ 差 額 が 所 得 税 法 161 条 6 号 3 0 ( 平 成 14 年 法 律 第 15 号 に よ る 改
正前のもの)に規定する利子に当たるとして、源泉所得税の各納税告知処分お
よび各不納付加算税賦課決定処分を行った。
訴訟において、税務当局側は、クロスボーダーのレポ取引から生じる差額に
課 税 す る 根 拠 と し て 、 所 法 161 条 6 号 に い う 「 貸 付 金 ( こ れ に 準 ず る も の を 含
む 。)」 は 、 租 税 法 に お け る い わ ゆ る 固 有 概 念 で あ り 、 債 務 者 に 対 し て 信 用 を 供
与する目的で弁済期日まで一定期間が設けられた金銭債権で、その金銭債権か
ら果実(利子ないし利息)が発生し得る元本債権をいうものであり、その経済
的 効 果 か ら す る と 、信 用 供 与 を 伴 う ク ロ ス ボ ー ダ ー の レ ポ 取 引 が 当 然 に 含 ま れ 、
それゆえ、その取引から生じたレポ差額は「利子」に該当する旨を主張した。
ま た 、当 該 レ ポ 差 額 で あ る「 利 子 」に 対 し て 非 課 税 措 置 が 講 じ ら れ る の は 2002
年 4 月 1 日以降に開始したクロスボーダーレポ取引に限定されるとして、当然
に源泉徴収の対象となることを主張した。
こ れ に 対 し て 、住 友 信 託 銀 行 側 は 、
「 貸 付 金 」は 、私 法 上 の 概 念 の 借 用 概 念 で
あり、
「 準 ず る 」と は 、あ る も の と 同 様 又 は 類 似 の 性 質 、内 容 、要 件 等 を 有 し て
いる別のものについて、そのあるものと同じ取扱い、処理をする場合に使用さ
れる語であるとし、
「 貸 付 金( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。)」は 、金 銭 消 費 貸 借 の
対象(若しくはその前提となる債権)又は準消費貸借など金銭消費貸借と同様
若しくは類似の法律関係の目的である金銭(若しくはその前提となる債権)に
限 ら れ 、 こ れ ら か ら 生 じ る 利 子 の み が 所 法 161 条 6 号 に 含 ま れ る の で あ っ て 、
住友信託銀行が行ったクロスボーダーレポ取引から生じるレポ差額はこれに含
まれないと主張した。
高裁判決では、判旨において次のように述べ、税務当局の主張を認めなかっ
た 。つ ま り 、
「 レ ポ 取 引 に は 資 金 調 達 的 な 面 が あ る こ と は 確 か で あ る が 、レ ポ 取
引には債券の調達に資する面もあり、顧客に対して、空売りを行った債券ディ
ーラーが、取引の決済日までに債券を調達するために、他者から債券を一時的
に購入するということにも使われるから、金融機能的側面とともに、債券売買
30 事 件 当 時 に 適 用 さ れ て い た 所 得 税 法 161 条 は 以 下 の 通 り で あ る 。
所 得 税 法 第 161 条 こ の 編 に お い て 「 国 内 源 泉 所 得 」 と は 、 次 に 掲 げ る も の を い う 。
6 号 国 内 に お い て 業 務 を 行 う 者 に 対 す る 貸 付 金( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。)で 当 該 業 務 に 係 る も
の の 利 子 ( 政 令 で 定 め る 利 子 を 除 く 。)
[14]
市場の流動性の確保も経済的機能としては考慮されるべきであり、これらを売
買及び再売買という法律構成の下で実現しようとしているものであるから、私
的自治の作用する取引関係において当事者が上記のような法律形態を選択して
取引関係に入り、その法律形態に特段不合理なものがない以上、その契約関係
を基本にして解釈すべき」として、私法上の法律構成をもとに課税を行うこと
を 原 則 と し た 従 来 の 考 え 方 を 支 持 し た 。さ ら に 、
「このような法律形態を素直に
とらえることなく、レポ取引の持つ金融取引的側面のみを強調し、専らこの観
点から、債務者に対して信用を供与する目的で弁済期日まで一定期間が設けら
れた金銭債権であり、その金銭債権から果実(利子ないし利息)が発生し得る
元 本 債 権 で あ る と し て 、 所 得 税 法 161 条 6 号 に い う 『 貸 付 金 ( こ れ に 準 ず る も
の を 含 む 。)』 に 該 当 す る と 解 す る こ と に は 無 理 が あ る 」 と し て 、 経 済 的 実 質 か
ら 課 税 す る こ と を 認 め な か っ た 31。
国 側 は 、高 裁 判 決 を 不 服 と し て 最 高 裁 に 上 告 し た が 、2008 年 10 月 28 日 に 最
高裁の上告不受理の決定を受け、高裁の判決が確定した。
③
平 成 21 年 度 税 制 改 正
そ の 後 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 に お い て 、所 得 税 法 お よ び 所 得 税 法 施 行 令 が 改
31 当 事 件 の 評 釈 に つ い て は 、 次 の よ う な も の が あ る 。
裁 決 段 階 で の 評 釈 と し て 、 レ ポ 取 引 を 「 貸 付 金 ( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。)」 と 見 る 立 場 に 賛 成
し て い る も の は 、 一 高 龍 司 「 国 際 的 レ ポ 取 引 と 所 得 区 分 - あ る 裁 決 例 を 素 材 に 」 税 務 弘 報 55 巻 1
号 ( 2007) 105 頁 。 こ れ に 対 し て 反 対 の 立 場 を と る も の は 、 宮 崎 裕 子 「 い わ ゆ る レ ポ 取 引 の 進 化 と
課 税 」 中 里 実 ・ 神 田 秀 樹 編 著 『 ビ ジ ネ ス タ ッ ク ス 』( 有 斐 閣 ・ 2 0 0 5 ) 2 8 2 頁 。 明 確 に 反 対 は し な い も
の の 、 裁 決 に 疑 問 を 呈 す る も の は 、 本 多 正 樹 「 レ ポ 取 引 の 発 展 と 法 律 構 成 に つ い て ( 二 ・ 完 )」 民 商
法 雑 誌 1 3 4 巻 3 号 ( 2 0 0 6 ) 3 2 9 頁 、 渡 辺 裕 泰 『 フ ァ イ ナ ン ス 課 税 』 1 2 章 ( 有 斐 閣 ・ 2 0 0 6 )。 裁 判 所 の
判 断 に つ い て の 評 釈 と し て は 、 レ ポ 取 引 を 「 貸 付 金 ( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。)」 と 見 る 立 場 に 賛
成 し て い る も の は 、 石 井 正 「 所 得 税 法 1 6 1 条 6 号 の 『 貸 付 金 ( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。)』 の 『 利
子』とは、消費貸借契約に基づく貸付債権を基本としつつ、その性質、内容等がこれと同様ないし
類 似 の 債 権 の 利 子 で あ る と の 判 断 が 示 さ れ た 事 例 」 税 務 事 例 40 巻 3 号 (2008)27 頁 。 こ れ に 対 し て
反対の立場をとるものは以下のとおりである。秋山高善「レポ取引を巡る課税上の取扱いについて
の 理 論 的 課 題 - 金 融 商 品 取 引 に 対 す る 課 税 問 題 の - 断 面 - 」 国 士 舘 法 研 論 集 第 9 号 ( 2008) 75 頁 。
占 部 裕 典 「 判 批 」 判 例 評 論 第 595 号 ( 判 例 時 報 2008 号 ) 164 頁 。 遠 藤 み ち 「 レ ポ 取 引 差 額 に 係 る 源
泉 徴 収 義 務 」税 理 第 5 1 巻 1 5 号( 2 0 0 8 )1 7 1 頁 。金 子 宏『 租 税 法 』第 1 4 版( 弘 文 堂 ・ 2 0 0 9 )4 2 6 頁 。
中 井 稔 「 レ ポ 取 引 に 係 る 税 法 解 釈 と 会 計 基 準 と の 関 係 」 税 経 通 信 第 63 巻 11 号 ( 2008) 58 頁 。 増 田
英 敏 「( 判 例 評 釈 ) レ ポ 取 引 差 額 に 係 る 源 泉 徴 収 義 務 」 T K C 税 研 情 報 1 8 巻 2 号 ( 2 0 0 9 ) 2 9 頁 。 水 野 信
次「レポ取引から生じる債券の売買代金と再売買代金の差額が貸付金利子に該当しないとされた事
例 」 銀 行 法 務 21No.689( 2008) 40 頁 。 吉 村 政 穂 「 判 評 」 税 研 141 号 (2008)95 頁 。 金 融 ・ 商 事 判 例
1274 号 /2007 年 9 月 15 日 号 /43 頁 。 金 融 ・ 商 事 判 例 1290 号 /2008 年 5 月 1 日 号 /32 頁 。 納 税 者 の 予
測可能性・法的安定性の観点から、税務当局の課税について疑問を呈するものとしては、秋山友宏
「いわゆるレポ取引によって得られる所得は、貸付金に準ずるものの利子に該当せず、その支払者
は 源 泉 徴 収 義 務 を 負 わ な い と さ れ た 事 例 」 税 務 事 例 40 巻 6 号 (2008)15 頁 。 ま た 、 当 事 件 の 直 接 的
な 評 釈 で は な い が 、当 事 件 と 同 様 の 事 例 を 挙 げ て 、レ ポ 取 引 を「 貸 付 金( こ れ に 準 ず る も の を 含 む 。)」
と見るべきではないという立場をとるものとして、岩崎政明『ハイポセティカル・スタディ租税法
( 第 2 版 )』( 弘 文 堂 ・ 2 0 0 7 ) 1 5 1 頁 。
[15]
正 さ れ た 。 レ ポ 取 引 と の 関 係 に お い て は 、 所 法 161 条 6 号 ・ 法 法 138 条 6 号 、
お よ び 所 令 283 条 4 項 、 5 項 ・ 法 令 180 条 4 項 、 5 項 が 重 要 で あ る 。
改 正 後 の 所 法 161 条 6 号 お よ び 法 法 138 条 6 号 で は 、
「 貸 付 金( こ れ に 準 ず る
も の を 含 む 。)」の「 利 子 」の あ と に 、カ ッ コ 書 き で「 政 令 で 定 め る 利 子 を 除 き 、
債券の買戻又は売戻条件付売買取引として政令で定めるものから生ずる差益と
し て 政 令 で 定 め る も の を 含 む 」と い う 文 言 が 追 加 さ れ た 。改 正 税 法 の す べ て 3 2 で
は、これまでも現先レポ取引から生じるレポ差額で債券の買い手が受け取るも
のについては貸付金の利子として取り扱われていたが、所得税法及び法人税法
において具体的な規定が設けられていなかったので、この改正によって取扱い
を明確化したと説明している。
さ ら に 、 所 令 283 条 お よ び 法 令 180 条 に お い て は 、 4 項 「 法 第 161 条 第 6 号
に規定する債券の買戻又は売戻条件付売買取引として政令で定めるものは、債
券をあらかじめ約定した期日にあらかじめ約定した価格で(あらかじめ期日及
び価格を約定することに代えて、その開始以後期日及び価格の約定をすること
ができる場合にあつては、その開始以後約定した期日に約定した価格で)買い
戻し、又は売り戻すことを約定して譲渡し、又は購入し、かつ、当該約定に基
づき当該債券と同種及び同量の債券を買い戻し、又は売り戻す取引(次項にお
い て 「 債 券 現 先 取 引 」 と い う 。) と す る 。」 お よ び 5 項 「 法 第 161 条 第 6 号 に 規
定する差益として政令で定めるものは、国内において業務を行う者との間で行
う債券現先取引で当該業務に係るものにおいて、債券を購入する際の当該購入
に係る対価の額を当該債券と同種及び同量の債券を売り戻す際の当該売戻しに
係る対価の額が上回る場合における当該売戻しに係る対価の額から当該購入に
係 る 対 価 の 額 を 控 除 し た 金 額 に 相 当 す る 差 益 と す る 。」 が 追 加 さ れ た 。
つ ま り 、 4 項 で は 、 所 法 161 条 第 6 号 の 「 利 子 」 の あ と に カ ッ コ 書 き で 追 加
された「債券の買戻又は売戻条件付売買取引」とは、レポ取引のうち、法形式
上 債 券 の 売 買 取 引 と し て 行 わ れ る 現 先 レ ポ 取 引 の こ と を い う と 規 定 し た 上 で 、5
項では、その現先レポ取引から「生ずる差益」とは、クロスボーダーレポ取引
により生じたレポ差額のことをいうと規定した。
3 2 ( 財 ) 大 蔵 財 務 協 会 編 『 改 正 税 法 の す べ て ( 平 成 2 1 年 度 版 )』( 2 0 0 9 )。
[16]
2008 年 10 月 に 裁 判 に お い て ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 が 「 貸 付 金 ( こ れ に 準
ず る も の を 含 む 。)」 に 該 当 せ ず 、 従 っ て 当 該 取 引 か ら 生 じ た レ ポ 差 額 に つ い て
は「 利 子 」に 該 当 し な い と の 判 決 が 確 定 し た に も か か わ ら ず 、平 成 21 年 度 税 制
改正では、租税法上クロスボーダーレポ取引は「貸付金(これに準ずるものを
含 む 。)」 で 、 レ ポ 差 額 は 「 利 子 」 に 該 当 す る と い う 改 正 を 行 っ た の で あ る 。
2
レポ取引の国際化と残された問題
平 成 21 年 度 税 制 改 正 は 、レ ポ 取 引 に つ い て 、そ の 経 済 的 機 能 に 着 目 し 、わ が
国における租税法上の取扱いを明確化したものとして大きな意味を持つ。
しかしながら、租税法上、レポ取引の取扱いを明確化したことにより、クロ
スボーダーレポ取引が行われた場合に、新たな問題が生じる可能性がある。つ
まり、クロスボーダーレポ取引の所得分類とその源泉地規定について、わが国
における取扱いを明確化したことで、わが国における取扱いと取引を行った相
手方の所在する国における取扱いとの間にずれが生じるおそれがあるというこ
と で あ る 。1 (2)③ で 述 べ た よ う に 、ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 が 今 日 に お い て ま
すます活発に行われていることからも、以下では、これらの問題が生じる可能
性について検討する。
(1)相手国が貸付金の利子としている場合
上述のとおり、わが国の国内法では、クロスボーダーレポ取引から生じる所
得 は 貸 付 金 の 利 子 で あ り 、 そ の 源 泉 地 は 使 用 地 主 義 を と っ て い る が 、 所 法 162
条により租税条約に異なる定めがある場合には、その条約に定めるところによ
ると規定している。
①
OECD モ デ ル 租 税 条 約
OECD モ デ ル 租 税 条 約 に お い て は 、 第 11 条 第 1 項 で 、 利 子 の 受 益 者 の 居 住 地
国における課税権を認めつつ、同条第 2 項で、利子の支払者の居住地国につい
て も 、当 該 利 子 の 10% 以 下 で 課 税 権 を 認 め て い る 。た だ し 、
「モデル条約では、
源泉地国での課税の方法については何も規定していない。そのため、支払がな
された際に源泉徴収によって課税をするのか、それとも各人の申告によって課
税 す る か と い う 点 に つ い て は 、 源 泉 地 国 が 自 由 に 決 定 す る こ と が で き る 」 33と
3 3 川 田 剛 『 国 際 課 税 の 基 礎 知 識 』 七 訂 版 ( 税 務 経 理 協 会 ・ 2 0 0 6 )、 1 6 2 頁 。
[17]
指摘している。
そ し て 、同 条 第 3 項 で は 、利 子 の 定 義 が 行 わ れ て い る が 、
「すべての種類の信
用に係る債権(担保の有無および債務者の利得の分配を受ける権利の有無を問
わない)から生じた所得、特に、公債、債権又は社債から生じた所得(公債又
は 社 債 の 割 増 金 お よ び 賞 金 を 含 む )を い う 。」と あ ら ゆ る 国 の 利 子 の 定 義 を も 網
羅する幅広いものとなっている。
最 後 に 、同 条 第 5 項 で は 、利 子 の ソ ー ス ル ー ル は 、
「一方の締約国の居住者で
あ る 場 合 に は 、当 該 一 方 の 国 内 で 生 じ た も の と さ れ る 。」と し て 、利 子 の 支 払 者
の居住地国を源泉地とする債務者主義がとられている。また、ただし書きにお
いて、
「 利 子 の 支 払 者 が 一 方 の 締 約 国 内 に 恒 久 的 施 設 を 有 す る 場 合 に お い て 、当
該利子の支払の基因となった債務が当該恒久的施設について生じ、かつ、当該
利子が当該恒久的施設によって負担されるものであるときは、当該利子は、当
該 恒 久 的 施 設 の 存 在 す る 当 該 一 方 の 国 内 で 生 じ た も の と さ れ る 。」 と し て お り 、
利 子 の 支 払 者 が 、 当 該 一 方 の 締 約 国 に 恒 久 的 施 設 ( 以 下 、 PE) を 有 し て い る 場
合 に は 、 当 該 PE に 生 じ た 債 務 の 利 子 を 当 該 PE 自 身 が 負 担 し て い る と き 、 そ の
源 泉 地 は PE の 所 在 地 国 に な る 旨 を 規 定 し て い る 。
②
日米租税条約
日 米 租 税 条 約 は 、OECD モ デ ル 租 税 条 約 を 基 本 と し て 策 定 さ れ て い る た め 、課
税 権 の 所 在 、利 子 の 定 義 お よ び ソ ー ス ル ー ル の 規 定 は OECD モ デ ル と 同 様 で あ る 。
た だ し 、日 米 租 税 条 約 第 11 条 第 3 項 で は 、政 府・金 融 機 関 等 、同 号 に 掲 げ る
者が受け取る利子については、源泉地国課税免除となる旨が規定されている。
つまり、同項は、利子の受益者が政府・金融機関等以外であれば、源泉地国お
よび利子の受益者の居住地国に、また、利子の受益者が政府・金融機関等であ
れ ば 、利 子 の 受 益 者 の 居 住 地 国 の み に 、そ れ ぞ れ 課 税 権 を 認 め た も の と い え る 。
クロスボーダーレポ取引が行われた場合、わが国の国内法では、当該所得の
源泉地は使用地主義をとっているが、租税条約があるときは、租税条約が優先
される旨が規定されている。そのため、租税条約に異なる定めがあれば、そこ
で 修 正 が 加 え ら れ る こ と と な る 。そ こ で 、OECD モ デ ル 租 税 条 約 を 基 本 と し て 策
[18]
定された日米租税条約を参照すると、利子の支払者の居住地国を源泉地とする
債務者主義がとられていることから、結果としてクロスボーダーレポ取引が行
われた場合は、利子の支払者の居住地が源泉地となる。
③
租税条約が締結されていない場合
ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 の 相 手 が 、国 内 に PE を 有 し な い 非 居 住 者 お よ び 外 国
法人で、その居住地国がケイマン諸島やリヒテンシュタインなどのいわゆるタ
ックスヘイブンであった場合、これらの国との間にはわが国との租税条約が締
結されていないため、租税条約による修正はない。したがって、国内法の規定
に よ る こ と と な り 、 当 該 レ ポ 取 引 か ら 生 じ る 所 得 は 、 所 法 161 条 6 号 の 貸 付 金
の利子に該当し、源泉地はわが国となる。また、クロスボーダーレポ取引の相
手 が 、措 法 42 条 の 2 の 外 国 金 融 機 関 等 に 該 当 し な い 場 合 に は 、レ ポ 差 額 に つ き
20% の 源 泉 徴 収 が 行 わ れ る 。
(2)相手国が債券の売買取引から生じる譲渡益としている場合
(1)と同様、わが国の国内法では、クロスボーダーレポ取引から生じる所
得 は 貸 付 金 の 利 子 で あ り 、 そ の 源 泉 地 は 使 用 地 主 義 を と っ て い る が 、 所 法 162
条により租税条約に異なる定めがある場合には、その条約に定めるところによ
ると規定している。
ところが、クロスボーダーレポ取引が行われた場合に、取引相手の居住地国
がレポ取引から生じる所得を債券の売買取引から生じる譲渡益としているとき
は、両者において所得の種類に違いが生じる。したがって、当該レポ取引から
生じる所得の解釈を明確にしたうえで、当該所得がどちらの国に帰属するのか
という源泉地規定が問題となる。
①
OECD モ デ ル 租 税 条 約
OECD モ デ ル 租 税 条 約 に お い て は 、例 え ば 日 米 租 税 条 約 に お け る 利 子 の 定 義 に
ある「当該所得が生じた締約国の租税に関する法令上貸付金から生じた所得と
同 様 に 取 り 扱 わ れ る も の を い う 。」と い っ た 規 定 が 存 在 し な い 。ま た 、コ メ ン タ
リにおいても、レポ取引から生じる所得の解釈に関して明確に規定されている
も の は み あ た ら な い 。も し 、利 子 に 該 当 す る の で あ れ ば 、
( 1 )① で 検 討 し た 場
合と同様の結果となる。
ま た 、 OECD モ デ ル 租 税 条 約 13 条 第 4 項 の そ の 他 の 財 産 の 譲 渡 収 益 に あ た る
[19]
かどうかについても、コメンタリにおいて、レポ取引から生じる所得の解釈に
関して明確に規定されているものはみあたらない。もし、その他の財産の譲渡
収 益 に 該 当 す る の で あ れ ば 、条 約 上 、
「 第 1 項 、第 2 項 及 び 第 3 項 に 規 定 す る 財
産 (不 動 産 及 び 事 業 用 動 産 )以 外 の 財 産 の 譲 渡 か ら 生 ず る 収 益 に 対 し て は 、 譲 渡
者 が 居 住 者 と さ れ る 締 約 国 に お い て の み 租 税 を 課 税 す る こ と が で き る 。」旨 規 定
されていることから、居住地国でのみ課税されることとなる。
②
租税条約が締結されていない場合
上記①と同様、国内法の規定によることとなり、当該レポ取引から生じる所
得 は 、所 法 161 条 6 号 の 貸 付 金 の 利 子 に 該 当 し 、源 泉 地 は わ が 国 と な る 。ま た 、
ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 の 相 手 が 、措 法 42 条 の 2 の 外 国 金 融 機 関 等 に 該 当 し な
い 場 合 に は 、 レ ポ 差 額 に つ き 20% の 源 泉 徴 収 が 行 わ れ る 。
(3)残された問題
ま ず 、( 1 ) 相 手 国 も 貸 付 金 の 利 子 と し て い る 場 合 の 残 さ れ た 問 題 を 考 え る 。
こ の 場 合 、 ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 の 主 体 が PE を 有 し 、 PE が 利 子 の 支 払 い を
し て い る と き 、当 該 利 子 の 源 泉 地 は PE の 所 在 地 国 に な る 点 に 注 意 が 必 要 で あ る 。
住 友 信 託 銀 行 事 件 に お い て は 、 東 京 国 税 不 服 審 判 所 の 裁 決 書 に 、「( 住 友 信 託
銀行の代理人 A が)請求人の恒久的施設としてこの要件を満たすのであれば、
…(省略)…(本件レポ差額は)日本の国内源泉所得にならない」とある(括
弧 内 は 引 用 者 )。 し か し な が ら 、 裁 決 の 決 定 に お い て は 、 代 理 人 A が PE と し て
認 め ら れ な か っ た た め 、結 果 的 に わ が 国 が 当 該 レ ポ 差 額 の 源 泉 地 と 認 定 さ れ た 。
裁 判 に お い て は 、当 該 代 理 人 が PE に あ た る か ど う か の 判 断 は な さ れ な か っ た が 、
その認定要件さえクリアすれば二重免除が生じる可能性がある。
次に、
( 2 )相 手 国 が 債 券 の 売 買 取 引 か ら 生 じ る 譲 渡 益 と し て い る 場 合 の 残 さ
れた問題を考える。この場合、両者において所得の種類に違いが生じるが、相
手国と租税条約が締結されているときは、利子条項に「当該所得が生じた締約
国の租税に関する法令上貸付金から生じた所得と同様に取り扱われるものをい
う 。」と い う 文 言 が 入 っ て い る と き は 利 子 所 得 と な り 、利 子 の 支 払 者 の 居 住 地 が
源泉地となる。これに対して、この文言が入っていないと、それぞれの国内法
に基づき課税するので、二重課税の問題が起こり得る。
最後に、租税条約が締結されていないときの残された問題を指摘する。住友
[20]
信 託 銀 行 事 件 に お い て 、 同 行 は 、 ケ イ マ ン 諸 島 に 同 銀 行 の 支 店 34を 設 立 し 、 当
該 支 店 が PE で あ る と の 旨 を 主 張 し た 。そ の う え で 、ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 か
ら生じたレポ差額がケイマン諸島の支店により支払われたものとして、国外源
泉 所 得 に 当 た る 旨 を 主 張 し た 。裁 判 に お い て は 、当 該 支 店 が PE に あ た る か ど う
か の 判 断 は な さ れ な か っ た が 、今 後 、ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 が 、措 法 42 条 の
2 の 規 定 が 適 用 さ れ な い 主 体 に よ っ て 積 極 的 に 行 わ れ る よ う に な れ ば 、所 法 161
条 6 号 の 規 定 の 適 用 を 免 れ る 目 的 で 、タ ッ ク ス ヘ イ ブ ン 国 に PE と 認 定 さ れ る 実
体を設立しての課税逃れが出てくる恐れがある。
3
小括
これまでレポ取引の仕組みと会計上、税法上の取扱いを概観し、レポ取引に
関する税務訴訟を取り上げるとともに、これによりわが国においてもレポ取引
の 租 税 法 上 の 取 扱 い を 明 確 化 す る 必 要 に 迫 ら れ 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 で こ れ を
実現したことを明らかにした。また、クロスボーダーレポ取引については、所
得分類上、各国の国内法の取扱いが異なるとき、両国において課税される二重
課税の問題ないしは、二重免除が生じる可能性があることを指摘した。
OECD は 、こ う い っ た 租 税 法 上 の 取 扱 い の 違 い を 利 用 し た タ ッ ク ス・ス キ ー ム
の存在と、当該タックス・スキームが多額の租税便益を生み出すことを問題視
している。また、近年、各国も当該スキームに対する規制を行っている。した
が っ て 、 次 章 で は 、 OECD に お け る 議 論 と 各 国 の 対 応 に つ い て 明 ら か に す る 。
Ⅲ
クロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームとその対応
1
OECD 3 5 に お け る 議 論
(1)所得分類の違いを利用したスキーム
①
スキームの概要
レポ取引に係る国内法の取扱いが国によって異なる場合、クロスボーダーレ
ポ取引を使ってタックス・スキームを行う機会が生ずる。Ⅱで述べたように、
34
住 友 信 託 銀 行 側 は 、当 該 支 店 が P E に あ た る と 主 張 し た が 、税 務 当 局 側 は 、当 該 支 店 に 従 業 員 の
存 在 し な い 、郵 便 私 書 箱 を 置 く だ け の 業 務 実 態 の な い も の で あ る と し て P E に は 該 当 し な い と 主 張 し
た。この点について司法判断はなかった。
35 OECD Forum on Tax Administration“ Building transparent tax compliance by banks” 2009.
[21]
ある国においては、レポ取引は売買取引として取り扱われ、他の国においては
担保付貸付として取り扱われるといったように、各国におけるレポ取引の取扱
い は 統 一 さ れ て い な い 。OECD は 、こ の よ う な レ ポ 取 引 に 対 す る 取 扱 い の 違 い に
よって、例えば、一方の国では課税売上を発生させず、他方の国では税額控除
を生み出すことが可能となるようなスキームを作ることができるとしている。
以 下 で は 、OECD に よ る 、レ ポ 取 引 に 係 る 各 国 の 国 内 法 に お け る 取 扱 い の 違 い
を 利 用 し た 、人 工 的 な( artificial)税 額 控 除 を 発 生 さ せ る 仕 組 み を 検 証 す る 。
図 3 の Country1 に あ る A 社 は 、 Country1 銀 行 グ ル ー プ の 子 会 社 で あ り 、 B 社 、
C 社 、 お よ び D 社 は 、 全 て Country2 銀 行 グ ル ー プ の 子 会 社 で あ る 。 C 社 は 、 こ
のスキームを行う以前から B 社によって所有されていた。
図 3 の ス テ ッ プ 1 に お い て は 、Country2 所 在 の 銀 行 子 会 社 D 社 は 外 部 か ら 10
億 ユ ー ロ の 借 入 を 行 い 、 Country1 所 在 で 同 グ ル ー プ 別 子 会 社 C 社 の 資 本 を 10
億 ユ ー ロ 取 得 す る 。ス テ ッ プ 2 で は 、Country2 所 在 の 銀 行 B は 、外 部 か ら の 借
り 入 れ 10 億 ユ ー ロ (ス テ ッ プ 4 の C を 通 じ て )と 自 ら の 利 益 剰 余 金 20 億 ユ ー ロ
と の 合 計 額 に よ り 、A(Country1 の 銀 行 持 株 会 社 )に 対 し て 7%で 30 億 ユ ー ロ を 貸
し 付 け る 。 ス テ ッ プ 3 で は 、 Country1 所 在 の 銀 行 A は 、 外 部 に 10 億 ユ ー ロ を
貸 し 付 け 、B か ら 20 億 ユ ー ロ で C 株 を 購 入 す る と 同 時 に 、Country2 所 在 の 銀 行
B は 、 プ ッ ト オ プ シ ョ ン を 売 り 、 A と の 間 で 20 億 ユ ー ロ に 利 子 (7%)を 加 算 し た
金 額 で C 株 を 取 得 で き る コ ー ル オ プ シ ョ ン を 購 入 す る 。ス テ ッ プ 4 で は 、C は 、
10 億 ユ ー ロ (ス テ ッ プ 1 で 取 得 )と 、20 億 ユ ー ロ (ス テ ッ プ 3 で 取 得 )を 、Country2
所 在 の 銀 行 B に 貸 し 付 け る ( 戻 す )。 こ の B に 貸 し 付 け ら れ た 30 億 ユ ー ロ は 、
ステップ 2 での A に対する貸付金の資金となる。ステップ 5 で、プットオプシ
ョ ン と コ ー ル オ プ シ ョ ン が 行 使 さ れ る 。つ ま り 、20 億 ユ ー ロ に 利 子 (7%)を 加 算
し た 金 額 で A か ら B に C 株 を 売 却 す る 。最 後 に ス テ ッ プ 6 で は 、C は ス テ ッ プ 4
で B に対する貸付により得られた利子相当分を B に対して配当として分配する。
つ ま り 、 取 引 の 実 態 は 、 Country2 所 在 の 銀 行 D の 外 部 か ら の 10 億 ユ ー ロ の
借 入 、 お よ び Country1 所 在 の 銀 行 A の 外 部 に 対 す る 10 億 ユ ー ロ の 貸 付 は 実 際
取 引 で あ る も の の 、20 億 ユ ー ロ に つ い て は 、Country2 所 在 の 銀 行 B か ら B へ 戻
ってくるという循環取引にすぎない。
[22]
図 3
Country2
所得分類の違いを利用したスキーム
30 億ユーロ
(利子 7%)
ステップ 2
(株売り手・資金取り手)
Country1
10 億ユーロ
(利子 8%)
Country2 は、課税
上、レポ取引を
貸付と取扱う
Country2
銀行持株会社
B
30 億ユーロ
(利子 7%)
ス テ ッ プ
1・4
20 億ユーロ
(+利子 7%)
で A へ C 株売却
ステップ 5
(レポ取引)
Country1
銀行持株会社
A
貸付
:
株式
10 億ユーロ
(利子 6%)
D
Country2
銀行子会社
C
:
銀行子会社
配当
ステップ 6
(株買い手・資金出し手)
B より
20 億ユーロで
C 株取得
ステップ 3
Country2
10 億ユーロ
ステップ 1
Country2
Country1
Country1 は、課税
上、レポ取引を
売買と取扱う
( 注 ) OECDの 図 を も と に 筆 者 作 成 。
②
各国の現行税制による取扱い
OECD の 議 論 に お い て は 、図 3 の ス キ ー ム に つ い て 、Country1 の 現 行 税 制 に お
い て は 、A か ら C へ の 資 本 注 入 は 株 式 投 資 と み な さ れ 、そ の 後 の A か ら B へ の C
株 の 売 却( プ ッ ト・コ ー ル オ プ シ ョ ン の 行 使 に よ る )は キ ャ ピ タ ル・ゲ イ ン( 譲
渡 益 ) と し て 、 Country1 で は 非 課 税 所 得 と な る 。 ま た 、 Country2 に お い て は 、
(ⅰ )B か ら A へ の C 株 の 売 却 と (ⅱ )将 来 の 特 定 の 地 点 で 特 定 の 価 格 で C 株 を B
に売却することができる権利を A に与えるというプット・コールオプションと
のコンビネーション取引については、これら 2 つの取引(売却と買戻保証オプ
シ ョ ン )を 、A と B と の 間 の 担 保 付 貸 付( B は 借 主 で 、担 保 は C 株 式 、そ し て 買
[23]
戻 し の 際 に 払 わ れ る 7% の 利 息 は 借 入 金 の 利 子 )と み な し て い る 。し た が っ て 、
Country2 所 在 の B 銀 行 は 、C 株 の 買 戻 し 時 に 支 払 う 利 子( 20 億 ユ ー ロ ×7%)を
損 金 算 入 で き る 。 ま た 、 Country2 の 国 内 法 で は 、 B が ス テ ッ プ 6 で C か ら 受 け
取った外国配当金に関して外国税額控除を受けることができる。
具 体 的 に Country1 で の 課 税 に つ い て み て み る 。Country1 で は 、図 3 の C は A
のグループ会社であるとみなされるので、スキームから得られる所得は、外部
へ の 貸 付 金 か ら 課 税 利 子 所 得 8000 万 ユ ー ロ( 10 億 ユ ー ロ ×8%)、お よ び B へ の
C 株 の 売 却 に よ る 非 課 税 の キ ャ ピ タ ル・ゲ イ ン 1 億 4000 万 ユ ー ロ( 20 億 ユ ー ロ
×7%) と な る 。 こ れ に 対 し て 、 ス キ ー ム で 発 生 す る 費 用 は 、 A は B か ら の 借 入
金 30 億 ユ ー ロ に 対 す る 利 子 ( 損 金 算 入 ) で あ る 。 さ ら に 、 C は B に 対 す る 30
億ユーロの貸付から課税利子所得を得るが、C は A のグループ会社とみなされ
るので、支払利子と相殺される。結果として、課税されるネットの所得は、こ
の ス キ ー ム に お い て は 外 部 へ の 貸 付 金 に 対 す る 利 子 所 得 8000 万 ユ ー ロ の み と
なる。
こ れ に 対 し て 、Country2 で の 課 税 に つ い て み て み る と 、Country2 で は 、ス キ
ー ム か ら 得 ら れ る 所 得 は 、B の A に 対 す る 貸 付 金 30 億 ユ ー ロ か ら 生 じ る 利 子 所
得であり、これについて課税されるが、同時に、同額の借入を C から行ってお
り、支払い利子は損金に算入されるので、結果として課税利子所得と相殺され
る。また、B から C への利子の支払いは、オプションの行使によって B が C 株
を買い戻した後、C から B への配当金の支払いという形で返ってくることとな
る 。C か ら B へ の 配 当 金 の 支 払 い は 、B に と っ て 当 然 非 課 税 所 得 で あ り 、Country2
における外国税額控除の対象となる。スキームで発生する費用は、D の外部か
ら の 借 入 に 対 す る 利 子 ( 損 金 算 入 ) 6000 万 ユ ー ロ ( 10 億 ユ ー ロ ×6%)、 お よ び
A か ら C 株 の 買 戻 し に つ き 支 払 わ れ る 利 子 ( 控 除 可 能 ) 1 億 4000 万 ユ ー ロ ( 20
億 ユ ー ロ ×7%) と な る 。 結 果 と し て 、 こ の ス キ ー ム で は 、 課 税 さ れ る ネ ッ ト の
所得は発生しないにもかかわらず、損金に算入できる費用が多額に発生し、同
時に外国税額控除も受けられることとなる。
③
各国における税務当局の対応と残された問題
所 得 分 類 の 違 い を 利 用 し た ス キ ー ム に 関 し て 、OECD が 課 税 上 問 題 と し て い る
の は 、 資 金 の 循 環 取 引 ( circular flow of funds) は 、 そ の 大 半 が 経 済 目 的 を
[24]
欠いていること、また、資金が 1 日で流れるように設計されており、全ての融
資 取 引( loan transactions)が 、各 国 の 関 連 企 業 の 連 結 勘 定 に 反 映 さ れ る わ け
で は な い こ と で あ る 。さ ら に 、OECD は 、当 該 取 引 に 係 る 各 国 の 国 内 法 に お け る
取扱いの違いを利用して、租税便益を生じさせていることも問題視している。
と こ ろ が 、各 国 に お け る 税 務 当 局 の 対 応 が 十 分 に な さ れ て い る と は 言 え な い 。
OECD に よ る と 、Country2 で は 、こ の ア レ ン ジ メ ン ト は 、ネ ッ ト で の 節 税 効 果 を
生み出すものであるとして否定的に考えており、このアレンジメントによる課
税上の弊害に対抗できる特別な租税回避の否認規定を適用するだろうと述べて
お り 、Country2 の 国 内 法 に お い て 租 税 回 避 否 認 規 定 が あ る こ と を 前 提 と し て い
る 。し か し 、Country1 の 税 務 当 局 は 、こ れ ら の ア レ ン ジ メ ン ト が 経 済 的 実 質 を
ほとんど持ち合わせないスキームだと考えているものの、現行法においては対
応策がないので、今後、このような税制の確立が必要であろうと述べている。
( 2 ) 外 国 税 額 控 除 ( FTC) 生 成 ス キ ー ム
①
スキームの概要
外 国 税 額 控 除 ( 以 下 、 FTC と い う ) は 、 ク ロ ス ボ ー ダ ー 取 引 に よ り 生 ず る 所
得 に お け る 二 重 課 税 を 排 除 す る た め の も の で あ る 。し か し な が ら 、OECD は 、図
4 の よ う な FTC 生 成 ス キ ー ム を 使 え ば 、 二 重 課 税 が 発 生 し て い な い と こ ろ で 、
納 税 者 が FTC を 使 え る よ う に な り 、 こ の よ う な 取 引 を 使 っ て 生 み 出 さ れ た 意 図
せざる租税便益を生み出していることを問題視している。
以 下 で 、 人 工 的 に FTC を 生 み 出 す た め 設 計 さ れ た 取 引 を 使 っ た FTC 生 成 ス キ
ー ム が 、ど の よ う に し て 意 図 せ ざ る 租 税 便 益 を 生 み 出 し て い る の か を 検 証 す る 。
図 4 の ス テ ッ プ 1 で は 、USA 銀 行 は 、CountryB に 会 社( CountryB 特 別 目 的 会
社 ) を 設 立 し 、 15 億 ド ル で 当 該 会 社 の 株 を 100% 取 得 す る 。 ス テ ッ プ 2 で は
CountryB 特 別 目 的 会 社 は 、 ス テ ッ プ 1 で の 15 億 ド ル 全 て を 、 CountryB 所 在 の
USA 銀 行 の 完 全 所 有 子 会 社 ( USA 銀 行 子 会 社 ) へ 貸 し 付 け る 。 ス テ ッ プ 3 で は 、
USA 銀 行 は 、CountryB 居 住 者( CountryB 銀 行 )と の 間 で 、CountryB 特 別 目 的 会
社 の 株 を CountryB 銀 行 に 15 億 ド ル で 売 却 し 、 5 年 後 に 当 該 株 を 買 い 戻 す こ と
を 約 し た レ ポ 取 引 を 行 う 。 ス テ ッ プ 4 で は 、 CountryB 特 別 目 的 会 社 は 、 USA 銀
行 子 会 社 か ら 1.2 億 ド ル の 利 子 を 受 け 取 り 、 当 該 利 子 所 得 に つ き CountryB に
30%( 3600 万 ド ル )の 税 額 を 支 払 う 。最 後 に 、ス テ ッ プ 5 で は 、CountryB 特 別
[25]
目 的 会 社 は 、 CountryB 銀 行 に 残 り の 8400 万 ド ル を 配 当 金 と し て 支 払 う 。
つ ま り 、こ の 取 引 の 経 済 的 実 質 と し て は 、USA 銀 行 が 、外 国 の 当 事 者( CountryB
銀 行 ) か ら 15 億 ド ル 借 り 入 れ る と い う 単 純 な 取 引 に す ぎ な い 。
図 4
外 国 税 額 控 除 ( FTC) 生 成 ス キ ー ム
米国
Country B
Country
B 銀行
レ ポ 取 引 15 億 USD
ステップ3
USA 銀 行
(株買い手・資金出し手)
(株売り手・
資金取り手 )
配当 8400 万 USD
ステップ5
15 億 USD
ステップ1
Country B
15 億 USD
ステップ2
子会社
特 別 目 的
会社
:
貸付
:
株式
USA 銀 行
利子 1.2 億 USD
ステップ4
(B 所在)
3600 万 USD
Country B 税 金
( 注 ) OECDの 図 を も と に 筆 者 作 成 。
②
各国の現行税制による取扱い
図 4 のスキームについて、米国では、レポ取引は担保付貸付として取り扱わ
れ る の で 、USA 銀 行 は 、CountryB 特 別 目 的 会 社 か ら 8400 万 ド ル の 配 当 金 を 受 け
取 り 、CountryB 銀 行 に 同 額 の 利 子 の 支 払 い を 行 っ た も の と さ れ る 。こ れ に よ り 、
USA 銀 行 は 、 CountryB 特 別 目 的 会 社 に よ っ て 支 払 わ れ た CountryB の 税 額 3600
万 ド ル に つ き 外 国 税 額 控 除 、 そ し て USA 銀 行 子 会 社 は 、 ス テ ッ プ 4 で 支 払 っ た
1.2 億 ド ル の 利 子 に つ き 損 金 算 入 、さ ら に 、USA 銀 行 は ス テ ッ プ 5 に お け る 8400
[26]
万 ド ル に つ き 損 金 算 入 が 可 能 と な る 。 こ れ ら を 合 計 す る と 、 USA 銀 行 お よ び そ
の 子 会 社 は 、 3600 万 ド ル の 外 国 税 額 控 除 と 、 差 し 引 き 8400 万 ド ル の 利 子 を 損
金算入できることとなる。
こ れ に 対 し 、CountryB で は 、ス テ ッ プ 3 の レ ポ 取 引 を 、売 買 お よ び 再 売 買 と
し て 取 り 扱 う の で 、CountryB 特 別 目 的 会 社 か ら の 配 当 金 の 支 払 い は 、CountryB
銀 行 の 配 当 所 得 と な る 。し た が っ て 、CountryB 銀 行 は 、CountryB 特 別 目 的 会 社
によって既に支払われた税金に対して控除を受けることができ、追加的な課税
は生じない。
結果として、貸し手は、課税利子所得を生み出す直接的な貸付により獲得す
るはずであった外国税引き後の利子よりも高額な外国税引き後の利得を得る結
果、非課税所得を手にすることができる。借り手は、損金算入可能な支払利子
を 控 除 可 能 な 外 国 税 額 の 支 払 い へ と 転 換 し た こ と に よ り 、税 引 き 後 ベ ー ス で は 、
より低いコストでの資金調達が可能となる。
③
各国における税務当局の対応と残された問題
FTC 生 成 ス キ ー ム に 関 し て 、 OECD が 課 税 上 問 題 と し て い る の は 、 こ の ス キ ー
ムが通常用いられる取引においては、外国税が全く課されない、あるいはほと
んど課されないところに、取引の当事者が意図的にこれを発生させるという高
度に仕組まれたものであるということである。つまり、通常の貸付において支
払 わ れ る 利 子 を 控 除 可 能 な 外 国 税 の 支 払 い へ と 転 換 さ せ て 、 FTC を 生 み 出 す よ
うな手の込んだ取引であり、取引の当事者らにとって租税便益が 2 倍になる取
引となっているのである。
し か し な が ら 、こ の 取 引 に 対 し て OECD は 各 国 に お け る 税 務 当 局 の 対 応 を 全 く
想 定 し て い な い 。た だ し 、米 国 に お い て は 、後 述( 2( 2 )① )の よ う に 、2007
年 IRS か ら 出 さ れ た FTC 生 成 ス キ ー ム に 対 す る 規 制 案 が IRC セ ク シ ョ ン 1.901
と し て 成 立 し 、一 応 の 対 応 策 が と ら れ た と い え る 。し か し な が ら 、CountryB に
おいては現行法では対応策を持っていないというのが実情であろう。
2
比較法による検討
(1)所得分類の違いを利用したスキームに対する外国税額控除の制限(米英
租 税 条 約 24 条 改 正 に よ る )
①
米英間のクロスボーダーレポ取引に係る問題
[27]
米英間で行われるクロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームが問
題 に な り 始 め た の は 2000年 よ り 前 の こ と で あ る 。 こ の ス キ ー ム は 、 米 英 間 の レ
ポ取引に係る租税法上の取扱いの違いを利用したものであった。米国において
は、レポ取引はその経済的実質により、担保付貸付として取り扱われたが、英
国 に お い て は 、 レ ポ 取 引 は 売 買 取 引 と し て 取 り 扱 わ れ て い た 36。
米英間で行われるクロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームは、
次のような形式で行われた。つまり、米国の持株会社が米国居住の当該子会社
の株式を英国法人に売却すると同時に、当該株式をあらかじめ約定した価格で
買い戻すことを約したレポ取引を行う。当該取引の当事者達は、米国の国内法
による取扱いにおいて、貸付とされるような方法で契約を行っていた。
当該スキームの租税便益は次のようになる。英国法人がレポ取引期間中に、
当該株式に対して支払われる配当金は、英国においては通常の配当金と同様に
扱われるので課税されない。しかし、米国においては、当該レポ取引は貸付と
されるので、当該配当金の支払いは、米国法人から英国法人に対して、貸付金
の利子を支払ったものとして取り扱われる。したがって、英国法人は、米国法
人から得た配当は課税されない一方、米国法人は、配当を利子の支払いとみな
されるので、損金に算入することができる。さらに、英国法人は、レポ取引期
間中、米国子会社を有していることになるので、米国子会社が米国において支
払った米国税額を英国税額から控除することができる。
英国では、こういった取引が数多く見られ、潜在的影響があるとして問題と
なってきたようである。しかし、英国の国内法においては、レポ取引をその経
済的実質により取り扱うことができなかったため、英国は、英国の国内法に基
づき、英国法人を配当の受益者として、配当を支払った米国法人による納税額
に関しては外国税額控除を認めなければならなかった。
そ こ で 、 こ れ ら の 問 題 に 対 応 す る た め 、 2001年 、 米 英 租 税 条 約 3 7 24条 が 改 正
36 後 述 の よ う に 、 英 国 に お い て も 、 2007 年 の 財 政 法 案 に よ り 、 レ ポ 取 引 は 担 保 付 貸 付 と し て 課 税
されるようになった。
3 7 2 0 0 1 年 7 月 2 4 日 に 基 本 合 意 し 、そ の 後 い く つ か の 修 正 が 加 え ら れ た う え で 、2 0 0 3 年 3 月 3 1 日 正 式 に
批 准 さ れ た 。条 約 の 正 式 な 発 効 は 、英 国 に お い て は 2 0 0 3 年 4 月 6 日 、米 国 に お い て は 、翌 年 の 2 0 0 4 年 1
月 1 日 で あ っ た 。正 式 名 称 は 、“ C O N V E N T I O N B E T W E E N T H E G O V E R N M E N T O F T H E U N I T E D S T A T E S O F A M E R I C A
AND THE GOVERNMENT OF THE UNITED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND FOR THE
AVOIDANCE OF DOUBLE TAXATION AND THE PREVENTION OF FISCAL EVASION WITH RESPECT TO TAXES ON
[28]
された。
②
米 英 租 税 条 約 24条 の 締 結
米 英 租 税 条 約 24条( 二 重 課 税 排 除 )の 4項 (b)で は 、米 国 居 住 者 で あ る 法 人 が 、
英 国 居 住 者 で あ る 法 人 お よ び 配 当 を 支 払 う 会 社 の 10% 以 上 の 議 決 権 を 直 接 あ る
いは間接的に所有している法人に対して配当金を支払う場合には、当該配当支
払後利益に関する限り、当該法人がすでに米国で支払った租税を考慮に入れる
ものとする、という米英間の配当金に関する二重課税の排除項目が盛り込まれ
ている。ところが、クロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームにお
いては、この条項による外国税額控除が租税便益をもたらしていることから、
2001年 、 米 英 租 税 条 約 24条 4項 (c)に お い て 、 米 国 居 住 者 で あ る 法 人 に よ り 配 当
が 支 払 わ れ た 場 合 に 、 以 下 の 項 目 (i)ま た は (ii)に 該 当 す る と き に は 、 両 国 は 、
こ の 条 項 に よ る 外 国 税 額 控 除 を 認 め な い か 、項 目 (iii)の 範 囲 内 に お い て の み 外
国税額控除を認めることとしたのである。
つ ま り 、 (i) 英 国 が 英 国 居 住 者 を 当 該 配 当 の 実 質 的 な 受 益 者 と し て 取 り 扱 っ
た 場 合 、(ii) 米 国 が 米 国 居 住 者 を 当 該 配 当 の 実 質 的 な 受 益 者 と し て 取 り 扱 っ た
場 合 に は 、 (iii) 米 国 は 米 国 居 住 者 に 対 し て 、 当 該 配 当 額 を 参 考 に し て 決 定 し
た金額の範囲内においてのみ控除を認めることとした。
具 体 的 に は 、 米 英 租 税 条 約 の 技 術 的 説 明 ( Technical explanation of
Convention) 3 8 に よ る と 、 次 の よ う に な る 。
「この規定は、しかしながら、近年、英国における外国税額控除の規定が改
正されたことで、租税条約に規定された場合には、この控除を認めないことが
可能となった。したがって、英国は、英国におけるレポ取引の取扱いと米国に
お け る 取 扱 い と を 同 じ も の に す る た め に (c)に よ る 除 外 条 項 を 請 求 し た 。こ の 規
定 は 間 接 税 額 控 除 に 関 し て の み 適 用 さ れ る の で 、上 場 会 社 の 10%以 上 の 所 有 権 を
有する者を含む取引に対してのみ適用されることとなる。(間接税額控除を適
用 で き る の は 議 決 権 の 10%以 上 を 所 有 す る 者 に 限 定 さ れ て い る 。)さ ら に 、こ の
規定は、通常のレポ取引から生じる支払いの控除可能額は、全く異なる方法、
INCOME AND ON CAPITAL GAINS.”
38 技 術 的 説 明 は 、 以 下 の URL で 入 手 可 能 。
( http://www.ustreas.gov/offices/tax-policy/library/teus-uk.pdf)
[29]
つまり融資に係る現金費用に基づいて計算されるので、当該株式に対して支払
った配当に基づいて利子控除を受けているような場合にのみ適用される。従っ
て、この規定は、ほとんどのレポ取引および一般の市場で行われている同様の
取引については何ら影響を与えない(与えないようにされている)。」。
(2)米英の国内法における対応
さらに、上記租税条約に基づく規定に加えて、その後米国および英国におい
て 、 国 内 法 で も ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 に 対 す る 規 定 を 整 備 し て い る 39。
①
米国における外国税額控除の制限
米 国 に お い て は 、OECD が 示 し た FTC 生 成 ス キ ー ム と 同 様 の ク ロ ス ボ ー ダ ー レ
ポ 取 引 を 使 っ た タ ッ ク ス ・ ス キ ー ム ( FTC 生 成 ス キ ー ム は 、 レ ギ ュ レ ー シ ョ ン
の な か で 受 動 的 投 資 ア レ ン ジ メ ン ト ( structured passive investment
arrangement) と 定 義 さ れ て い る 。) に よ り 、 人 工 的 に 外 国 税 額 控 除 を 生 成 す る
取 引 が 数 多 く み ら れ 、巨 額 の 租 税 便 益 を 得 て い る こ と か ら 、2007 年 3 月 30 日 、
官 報 ( Federal Register) に 、 当 該 取 引 に よ り 生 成 さ れ た 外 国 税 額 は 外 国 税 額
控 除 に 馴 染 ま な い「 必 要 の な い( noncompulsory)」も の で あ る と し て 、米 国 に
お い て 外 国 税 額 控 除 を 認 め な い と す る 規 則 が 提 案 さ れ た 4 0 。 こ の 提 案 は 、 IRC
セ ク シ ョ ン 1.901-2(e)(5)に 制 定 法 と し て 導 入 さ れ 、2008 年 6 月 に 発 効 さ れ た 。
IRCセ ク シ ョ ン 1.901で は 、 ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 使 っ た タ ッ ク ス ・ ス キ
ームに起因する外国税額を、外国税額控除に馴染まない本質的に「必要のない
( noncompulsory)」税 額 の 支 払 い と し 、そ の 支 払 っ た 外 国 税 額 が 当 該 タ ッ ク ス・
ス キ ー ム か ら 生 じ た「 必 要 の な い( noncompulsory)」外 国 税 額 で あ る と 認 定 さ
れ る と 、米 国 人 が 直 接 あ る い は 間 接 的 に 80%以 上 株 式 を 保 有 す る す べ て の 外 国 法
人は単独の納税者として扱われることとなる。その結果、これら外国法人が支
払った外国税額を米国税額の控除として使用できないように規制することで、
FTC生 成 ス キ ー ム の 租 税 便 益 を 削 減 す る 効 果 が あ っ た 。
39 金 融 商 品 等 を 使 っ た 租 税 回 避 に 関 し て は 、 米 英 と も 一 般 的 な 規 定 と し て 、 こ れ ら の 商 品 を 提 供
す る プ ロ モ ー タ ー に 対 し て の デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー ル ー ル が 設 け ら れ て い る 。米 国 で は 、2 0 0 7 年 8 月 I R S
レ ギ ュ レ ー シ ョ ン 43146、 43154、 お よ び 43157に 、 英 国 で は 2004年 財 政 法 パ ー ト 7( セ ク シ ョ ン 306
~ 3 0 9 )に 規 定 さ れ て い る 。当 該 規 定 で は 、プ ロ モ ー タ ー に 対 し て 、そ の 提 供 す る 取 引 を 開 示 さ せ る
こ と で 、未 然 に 租 税 回 避 取 引 を 抑 制 し よ う と し て い る 。詳 し く は 、P h i l i p R . W e s t , A n t i a b u s e R u l e s
and Policy: Coherence or Tower of Babel?, TAX NOTES INTERNATIONAL 2008.
40
REG-156779-06, 2007-17 I.R.B. 1015 (72 FR 15081).規 則 と 事 例 は 以 下 の URL で 入 手 可 能 。
( http://www.irs.gov/irb/2008-46_IRB/ar08.html)
[30]
支 払 っ た 外 国 税 額 が「 必 要 の な い( noncompulsory)」も の で あ る か ど う か は 、
クロスボーダーレポ取引がタックス・スキームに該当するかどうかについて、
セ ク シ ョ ン 1.901T(e)(5)(iv)(B)(1)か ら (6)の 6つ の 基 準 に よ り 判 定 し た う え で 、
当 該 取 引 か ら 生 じ た 外 国 税 額 を「 必 要 の な い( noncompulsory)」外 国 税 額 と 認
定 す る 方 法 に よ る 。6つ の 基 準 と は 、(1)米 国 居 住 者 が 、外 国 の SPV( 特 別 目 的 会
社 ) を 使 い 、 当 該 SPVの す べ て の 資 産 が 受 動 的 投 資 収 入 ( passive investment
income)を 生 み 出 し 、こ れ に 対 し て 外 国 税 額 を 支 払 っ て い る こ と 、(2)セ ク シ ョ
ン 901 4 1 の 下 で 外 国 税 額 控 除 の 適 用 を う け る 者 が 米 国 居 住 者 で あ る こ と 、 (3)米
国 居 住 者 が 支 店 や PEな ど を 使 っ て 当 該 取 引 を 行 う よ り 、SPVを 使 っ て 当 該 取 引 を
行 う 方 が 外 国 税 額 控 除 の 額 が 大 き く な る こ と 、(4)当 該 取 引 が 結 果 と し て 外 国 税
額 に 関 す る 租 税 便 益 ( foreign tax benefit) を 生 み 出 し て い る こ と 、 (5)当 該
取 引 に 、 米 国 居 住 者 と 関 係 の な い ① SPVの 所 在 す る 外 国 の 国 内 法 の も と で 当 該
SPVの 株 式 を 10% 以 上 直 接 あ る い は 間 接 的 に 保 有 し て い る 、 ま た は ② SPVの 所 在
す る 外 国 の 国 内 法 の も と で 当 該 SPVの 資 産 の 20% 以 上 を 取 得 し て い る 者( 取 引 の
当 事 者 )が 関 与 し て い る こ と 、そ し て (6)米 国 と 取 引 の 相 手 国 と の 間 で 、当 該 取
引に対する各国の国内法の取扱いに違いがあることである。
当 該 規 定 が 、 OECDモ デ ル で 紹 介 し た ス キ ー ム に 適 用 さ れ た 場 合 、 図 4の
CountryB特 別 目 的 会 社 に よ る CountryBへ の 税 額 3600万 ド ル は 、 「 必 要 な
( compulsory) 」 外 国 税 額 で は な い と し て 、 米 国 に お い て 外 国 税 額 控 除 は 認 め
ら れ な い 4 2 。具 体 的 な 判 定 を み て み る と 、(1)に つ い て は 、CountryB特 別 目 的 会
社 は SPVで あ り 、そ の 唯 一 の 資 産 が 受 動 的 投 資 収 入 を 生 み 出 し て お り 、CountryB
に 対 す る 税 額 は 受 動 的 投 資 収 入 に 基 因 さ れ た も の で あ る こ と 、 (2)に つ い て は 、
USA銀 行 は 、 CountryB特 別 目 的 会 社 の 支 払 っ た 3600万 ド ル の 外 国 税 額 に つ い て 、
外 国 税 額 控 除 の 適 用 が 認 め ら れ た 場 合 に は 、セ ク シ ョ ン 901の も と で 外 国 税 額 控
除 を 適 用 す る で あ ろ う と い う こ と 、 (3)に つ い て は 、 USA銀 行 が CountryB特 別 目
的 会 社 の 貸 付 金 を 直 接 所 有 し て い た の で あ れ ば 、USA銀 行 は CountryBに お い て 税
金 を 支 払 う こ と は な か っ た と い う こ と 、(4)に つ い て は 、CountryB特 別 目 的 会 社
41 セ ク シ ョ ン 901 は 、 外 国 税 額 控 除 に 関 す る 規 定 が 設 け ら れ て い る 。
4 2 事 例 お よ び 判 定 は 以 下 の U R L で 入 手 可 能 。O E C D に よ る F T C 生 成 ス キ ー ム は 、事 例 1 .U . S . b o r r o w e r
t r a n s a c t i o n . と 設 定 、 金 額 共 同 じ も の で あ る 。( h t t p : / / w w w . i r s . g o v / i r b / 2 0 0 8 - 4 6 _ I R B / a r 0 8 . h t m l )
[31]
の CountryB銀 行 に 対 す る 8400万 ド ル の 配 当 金 の 支 払 い に 対 し て は 、 CountryBの
国 内 法 に お い て 免 税 と な り 、米 国 に お い て は 、USA銀 行 は CountryB特 別 目 的 会 社
の 株 式 (米 国 法 に お い て は 100パ ー セ ン ト 所 有 と み な さ れ る )を 10パ ー セ ン ト 以
上 保 有 し て い る の で 、 CountryBに お い て 免 税 と な っ た 額 を 外 国 に お け る 費 用 と
し て 計 上 で き る と い う 租 税 便 益 が 発 生 し て い る こ と 、(5)に つ い て は 、CountryB
銀 行 は CountryBの 国 内 法 の 下 で CountryB特 別 目 的 会 社 の 株 式 を 所 有 し て お り 、
か つ 、 CountryB銀 行 は USA銀 行 と 関 係 の な い 取 引 当 事 者 で あ る こ と 、 そ し て (6)
に つ い て は 、 米 国 法 の も と で は 、 USA銀 行 は CountryB特 別 目 的 会 社 の 100パ ー セ
ン ト の 所 有 者 で あ る に も か か わ ら ず 、 CountryBの 国 内 法 の も と で は 、 CountryB
銀 行 は 、CountryB特 別 目 的 会 社 の 100パ ー セ ン ト の 所 有 者 で あ る 。こ の よ う な 各
国 に お け る 租 税 法 上 の 取 扱 い の 違 い に よ り 、USA銀 行 は 、も し 米 国 法 に お け る 取
扱 い が USA銀 行 で は な く CountryB銀 行 を CountryB特 別 目 的 会 社 の 100パ ー セ ン ト
の所有者であるとしたならば受けられていた控除額よりも実質的に多額の税額
控除を受けることができるのである。
し か し な が ら 、 当 該 規 定 に よ り 、 CountryBへ の 税 額 3600万 ド ル は 外 国 税 額 控
除 の 対 象 と な ら な い の で 、結 果 と し て 、USA銀 行 は 8400万 ド ル の 配 当 所 得 と 、同
額の利子の支払いを有することとなり、租税便益は発生しない。
OECD の 事 例 に お い て は 、USA 銀 行 と CountryB 銀 行 と 取 引 は 、経 済 的 実 質 と し
て 15 億 ド ル の CountryB 銀 行 か ら USA 銀 行 に 対 す る 資 金 の 貸 付 に す ぎ な い に も
か か わ ら ず 、CountryB 特 別 目 的 会 社 の 株 式 を 使 っ て ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を
行うことにより、外国税額控除を人工的に発生させ、それが租税便益になって
い る こ と が 問 題 視 さ れ て い た 。し か し 、2008 年 、米 国 に お い て 、こ の よ う な 取
引に対する外国税額控除の制限規定が設けられたことで、米国居住者が、当該
取引を使って外国税額を人工的に発生したとしても、米国においては、外国税
額 控 除 を 認 め ら れ な い こ と と な っ た 。さ ら に 、USA 銀 行 が 直 接 CountryB 銀 行 か
ら資金を借り入れるという通常の取引形態を採用している場合には、当該取引
か ら は USA 銀 行 か ら CountryB 銀 行 に 対 す る 8400 万 ド ル の 支 払 利 子 し か 生 じ な
い に も か か わ ら ず 、CountryB 特 別 目 的 会 社 の 株 を 使 っ た ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取
引 を 行 う こ と で 、USA 銀 行 に と っ て は 8400 万 ド ル の 配 当 所 得 が 発 生 す る こ と と
な り 、 当 該 所 得 は 8400 万 ド ル の 損 金 算 入 可 能 な 支 払 利 子 と 相 殺 さ れ る 。
[32]
以上のように、当該取引は外国税額控除が適用された場合には多額の租税便
益を生み出すものの、上記の規定が適用され、外国税額控除が認められなけれ
ばむしろ租税負担を大きくするような取引となる。
②
英国
上 記( 1 )で 述 べ た よ う に 、2001 年 に 締 結 さ れ た 米 英 租 税 条 約 で は 、米 英 間
でのレポ取引の取扱いを実質的に統一し、これにより外国税額控除を制限する
ことによってクロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームの租税便益
を削減するものとして期待されたが、その後も当該規定を回避するようなクロ
ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 使 っ た 租 税 便 益 を 生 み 出 す ス キ ー ム が 進 化 し 、OECD が 問
題視したような取引が出てきたことで、さらなる対応策が必要となった。
クロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームが租税便益を生み出す
のは、各国によってレポ取引の租税法上の取扱いが違うことに起因するもので
あ る 。し た が っ て 、英 国 は 、2007 年 財 政 法 に お い て 、実 質 的 に 貸 付 と 同 様 の 機
能 を 持 つ レ ポ 取 引 に つ い て は 、当 該 レ ポ 取 引 を 債 権 者 レ ポ 取 引( creditor repo)
あ る い は 債 務 者 レ ポ 取 引( debtor repo)と 定 義 づ け 、そ の 経 済 的 実 質 と 会 計 処
理に基づいて課税することを定め、レポ取引から生じる所得の分類を米国の国
内法と同様にすることにより解決を試みた。
し か し な が ら 、 2007 年 財 政 法 で 債 権 者 レ ポ 取 引 ( creditor repo) あ る い は
債 務 者 レ ポ 取 引( debtor repo)と 定 義 づ け ら れ た レ ポ 取 引 は 、そ の 取 引 の 対 象
が 証 券( security)に 限 定 さ れ て い た こ と か ら 、レ ポ 取 引 の 対 象 を 資 産 (asset)
と し て 、同 規 定 を 免 れ る 取 引 が 発 展 し た 。当 該 取 引 に つ い て は 2007 年 財 政 法 で
は 対 応 で き な い こ と か ら 、 2009 年 財 政 法 案 ( Finance Bill 2009) で は 、 こ の
ようなレポ取引から生じる差額については、原則を基礎とする法律
( principles-based legislation) の 偽 装 利 子 (disguised interest)に あ た る
と し て 、 こ の 法 律 に 基 づ き そ の 経 済 実 質 に 基 づ い て 課 税 す る こ と と さ れ た 43。
ま た 、2009 年 財 政 法 案 で は 、二 重 課 税 の 排 除 規 定 を 使 っ た 租 税 回 避( Double
Taxation Relief Avoidance) の 改 正 が 行 わ れ た 。 こ れ は 、 外 国 税 額 控 除 を 使 っ
た租税回避に対処するために創設された規定であり、この規定を適用するため
43 See Example 2 of HM Treasury, “ Principles-based approach to financial products
avoidance :a consultation document” (2007).
[33]
の 3 つの基準を紹介している。このうち 1 つめの基準がクロスボーダーレポ取
引 に 関 す る も の と な っ て お り 、生 成 さ れ た 外 国 配 当 金( Manufactured overseas
dividends;(MODs)を 使 っ て 外 国 税 額 控 除 を 受 け て い る 場 合 を 想 定 し た も の で あ
る。英国においては、近年、実際の外国配当金を受け取るのではなく、二重課
税 排 除 条 項 の 下 で の 租 税 回 避 規 定 を 適 用 さ れ な い よ う な MODs と 認 定 さ れ る も
の を 受 け 取 り 、MODs に 係 る 外 国 税 額 控 除 の 適 用 を 受 け る 事 例 が み ら れ た 。し た
が っ て 、こ の 基 準 に 該 当 す る 場 合 に は 、MODs を 受 け 取 っ た と し て も 、外 国 税 額
控除を制限することとし、これらの問題に対する対策をはかった。
( 3 ) ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に お け る GAAR の 適 用
ニュージーランドにおいては、クロスボーダーレポ取引を使ったストラクチ
ャ ー ド ・ フ ァ イ ナ ン ス が 活 発 に 行 わ れ て き た が 、 2009 年 BNZ ( Bank of New
Zealand) 事 件 4 4 お よ び WESTPAC 事 件 4 5 に お い て 相 次 い で こ れ ら の 取 引 が 租 税 回
避であるという司法判断が下された。ニュージーランドは、包括的租税回避否
認 規 定( General Anti-Avoidance Rule ;GAAR)を 導 入 4 6 し て お り 、所 得 税 法 BG1
(tax avoidance) 4 7 お よ び GB1 (general anti-avoidance) 4 8 に こ の 租 税 回 避 防 止
44
BN Z I NVE ST M ENT S L td. & ORS v CIR ( 2 0 0 9 ) , C I V 2 0 0 4 - 4 8 5 - 1 0 5 9 . 2 0 0 9 年 7 月 、 高 等 裁 判 所 判
決 、 税 務 当 局 側 勝 訴 、 4 億 1600 万 NZ ド ル 納 税 義 務 、 現 在 上 告 中 。
45
We stp ac Ba n kin g C orp or a tio n v CI R ( 2 0 0 9 ) , C I V 2 0 0 5 - 4 0 4 - 2 8 4 3 . 2 0 0 9 年 1 0 月 、 高 等 裁 判 所 判
決 、 4つ の 取 引 に つ い て 税 務 当 局 側 勝 訴 、 9億 1800万 NZド ル 納 税 義 務 、 現 在 上 告 中 → 早 く て も 上 告 判
決 は 2010年 10月 以 降 。
46 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 包 括 的 租 税 回 避 否 認 規 定 の 歴 史 は 1891年 所 得 税 査 定 法 セ ク シ ョ ン 40に ま で
遡 る 。 セ ク シ ョ ン 40は 、 税 の 支 払 を 免 れ る 目 的 で 締 結 さ れ た 利 子 等 の 本 質 を 転 換 さ せ る よ う な 契 約
や 協 定 は 無 効 で あ る と 規 定 し て い た 。 1900年 、 セ ク シ ョ ン 40が セ ク シ ョ ン 82に 改 正 さ れ 、 こ れ が 近
年 の 所 得 税 法 セ ク シ ョ ン B G 1 の 源 と な る 。セ ク シ ョ ン 8 2 で は 、文 章 あ る い は 口 頭 で な さ れ た 契 約 ・ 協
定・アレンジメントは、直接的にあるいは間接的に税の発生を変化させ、あるいは税の支払義務か
ら 解 放 す る よ う な も の で あ る 限 り に お い て 、無 効 で あ る と 規 定 し た 。現 在 の セ ク シ ョ ン S G 1 は 、セ ク
シ ョ ン 82の 基 本 的 な 考 え が す べ て 入 っ て い る と さ れ て い る 。 そ の 後 、 セ ク シ ョ ン 82は 、 1954年 所 得
税 法 セ ク シ ョ ン 1 0 8 に 引 き 継 が れ 、1 9 6 8 年 に は 、セ ク シ ョ ン 8 2 の 規 定 に 、「 税 務 当 局 に 対 す る も の と
し て 、 税 金 目 的 で 」 行 わ れ る ア レ ン ジ メ ン ト も 無 効 で あ る と の 規 定 が 追 加 さ れ た 。 1954年 所 得 税 法
セ ク シ ョ ン 1 0 8 は 、1 9 7 6 年 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 所 得 税 法 セ ク シ ョ ン 9 9 に 引 き 継 が れ 、1 9 9 4 年 所 得 税 法 セ
ク シ ョ ン B G 1 お よ び G B 1 に 組 み 込 ま れ 、現 行 法 2 0 0 7 年 所 得 税 法 セ ク シ ョ ン B G 1 お よ び G B 1 と な っ て い る 。
David Dunbar,“ Judicial Techniques for Controlling the New Zealand General AntiAvoidance
Rule:A Case of Old Wine in New Bottles,from Challenge Corporation to Peterson” WORKING PAPER
SERIES Working Paper no. 38 2005, pp7-8.
47 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 所 得 税 法 パ ー ト B コ ア 条 項( core provisions)サ ブ パ ー ト BG が 租 税 回 避 に
関 す る 規 定 と な っ て お り 、こ こ で は 、所 得 税 を 削 減 す る 目 的 の 租 税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト は 無 効 と し 、
GB1 に お い て 租 税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト で 得 た 租 税 便 益 を 打 ち 消 す こ と と し て い る 。
48 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 所 得 税 法 パ ー ト G 租 税 回 避 お よ び 非 事 業 取 引 条 項 ( Avoidance and
non-market transactions) サ ブ パ ー ト GB が 租 税 回 避 に 関 す る 規 定 と な っ て お り 、 課 税 当 局 が 租 税
回避アレンジメントにおける控除を全てあるいは一部を認めない、また租税回避アレンジメントで
得 た 租 税 便 益 を 打 ち 消 す こ と を 可 能 に し て い る 。 BG1、 GB1 の 条 文 は 、 以 下 の URL を 参 照 さ れ た い 。
( http://www.legislation.govt.nz/act/public/2004/0035/latest/DLM245342.html)
[34]
規 定 条 項 が み ら れ る 49が 、 当 該 事 件 は 、 所 得 分 類 の 違 い を 利 用 し 、 ま た 外 国 税
額控除を人工的に作り出すスキームであり、商業目的が全くみられないとして
BG1 が 適 用 さ れ た も の で あ る 。
①
BNZ 事 件
(a)事 件 の 概 要
BNZ事 件 で は 、米 国 ま た は 英 国 と の ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 使 っ て 、タ ッ ク
ス ・ス キ ー ム が 構 築 さ れ た 。 BNZは 、 外 国 法 人 の 株 式 を あ ら か じ め 買 い 戻 す こ と
を 約 し て 売 却 す る レ ポ 取 引 を 行 っ た 。 具 体 的 な 仕 組 み は 以 下 の 通 り で あ る 50。
図 5 に お い て 、ま ず 1998 年 7 月 2 日 に 、BNZIS2 特 別 目 的 会 社( BNZIS2)が 、
償 還 優 先 株 を 1 株 1NZ ド ル で 5 億 株 発 行 し 、 BNZ International( BNZI) は 、
こ れ を 5 億 NZ ド ル で 取 得 し 、 BNZIS2 を 完 全 子 会 社 化 し た 。 次 に 、 1998 年 8 月
21 日 、CS グ ル ー プ の 米 国 の 2 つ の 子 会 社( MadParLLC;MadPar と ParkSquareLLC;
Park Square) が 、 CSFB Trust 5 1 を 設 立 し 、 1998 年 8 月 25 日 、 MadPar は 、 CSFB
Trust の 発 行 し た ClassA お よ び ClassB 受 益 証 券 を 、そ れ ぞ れ NZD で 5 億 NZ ド
ル 分 購 入 し 、 Park Square は 、 ClassC 受 益 証 券 を 1,000US ド ル ( = 2,000NZ ド
ル )分 購 入 し た 。同 日 、CSFB Trust は 、上 記 で 調 達 し た 資 金 の う ち 10 億 2,000NZ
ド ル 、 年 利 7.5923%で Credit Suisse First Boston( CSFB) の Loan Note を 購
入 し た 。 こ の 取 引 か ら 7590 万 NZ ド ル の 利 子 所 得 が 見 込 ま れ 、 米 国 税 (35%)控
除 後 の 4935 万 NZ ド ル は 、 ClassA 受 益 証 券 に 配 当 さ れ る こ と と な っ て い た
( ClassA 受 益 証 券 の 利 回 り 9.87%) 。 1998 年 8 月 21 日 、 MadPar と BNZIS2 と
の間でレポ取引に係る契約が締結された。レポ取引の内容は以下の通りである。
MadPar は 、 BNZIS2 に 対 し て 、 1998 年 8 月 25 日 、 ClassA 受 益 証 券 を 5 億 NZ ド
ル で 売 却 し 、当 該 証 券 を 2001 年 8 月 25 日 あ る い は そ れ 以 前 の 特 定 日 に 5 億 NZ
ド ル( ±調 整 後 の 金 額 )で BNZIS2 か ら 買 い 戻 す と い う も の で あ る 。ま た 、こ の
取 引 の 際 、 BNZIS2 は 、 5 億 NZ ド ル に 対 す る 債 務 保 証 斡 旋 手 数 料 ( Guarantee
49 Tracey Bowler “ Countering Tax Avoidance in the UK: Which Way Forward?” TLRC Discussion
Paper No. 7 2009, At page163.
5 0 当 該 事 件 に 含 ま れ る 6 件 の 取 引 の う ち 、判 決 文 か ら 取 引 の 仕 組 み が 明 ら か に な っ て い る 取 引 の み
取り上げる。他の 5 件の取引も基本的な仕組みはこれと同じものである。
51 CSFB Trust は 、 ClassA、 ClassB、 そ し て ClassC の 受 益 証 券 を 発 行 し 、 こ れ に よ り 得 た 収 入 は 、
CSFB の 発 行 し た Loan Note だ け を 購 入 す る た め だ け に 使 用 さ れ る と 規 定 さ れ 、 Loan Note の 購 入 限
度 額 は 10 億 NZ ド ル 、 利 率 は 、 7.5923%以 下 の 固 定 利 率 と 決 め ら れ て い る 。
[35]
procurement fee ; GPF) 年 2.95%を MadPar に 支 払 っ た ( こ れ で MadPar の 買 戻
義 務 は 親 会 社 の Credit Suisse Group が 保 証 す る こ と と な っ た ) 。 1998 年 8 月
21 日 、BNZI と MadPar と の 間 で 1998 年 9 月 30 日 に 、BNZI は MadPar に 対 し て 、
想 定 元 本 5 億 NZ ド ル に 固 定 年 利 率 9.3507%を 支 払 い 、 MadPar は BNZI に 想 定 元
本 5 億 NZ ド ル に 90 日 物 の NZ 銀 行 基 準 金 利 ( 変 動 金 利 ) を 支 払 う 金 利 ス ワ ッ
プ契約が締結された。そして、各期日においてこれらの取引が実行された。
図 5
スイス
BNZ 事 件 の 取 引 の 流 れ
ニュージーランド
BNZ
Credit Suisse
借入:5 億
Group
BNZI 株 取 得 : 2.5 億 NZD
預 金 払 戻 : 2.5 億 NZD
100%
金利スワップ:
想 定 元 本 5 億 NZD
(BNZInter.→ MadPar
固 定 利 率 9.3507%
MadPar→ BNZInter.
NZ 銀 行 基 準 金 利 )
米国
BNZ
BNZI
International
100%
子会社
100%
手数料(GPF)
:2.95%
MadPar
Park
資金取り手)
C 株 取 得 : 1,000USD
手形貸付:
約 10 億 NZD
First Boston
BNZIS2
特別目的会社
(株売り手 ・
Square LLC
Credit Suisse
手数料(GPF):2.95%
BNZIS2
償還優先株取得
: 5 億 NZD
レ ポ 取 引 ( A 株 ):
5 億 NZD
(3 年 後 MadPar が 買 戻 )
(株買い手・資金出し手)
A 株取得:
5 億 NZD
B 株取得 :
2.4495 億 USD
A 株配当金:
1~ 3 年 … 9.87%
そ の 後 … 8.02431%
CSFB Trust
利 子:7 . 5 9 3 2 %
(注)裁判資料をもとに筆者作成。
[36]
米国
(b)租 税 便 益
ニュージーランドにおいては、レポ取引を株式の売買として取り扱う。しか
し 、 米 国 に お い て は 、 こ れ を 担 保 付 貸 付 と し て 取 り 扱 う 。 し た が っ て 、 BNZは 、
ニュージーランドにおいて非課税所得として受け取った配当を米国で利子の支
払 い と し て 控 除 で き る 。ま た 、BNZは 、CSFB Trustか ら 受 け 取 っ た 配 当 金 に つ き
外 国 税 額 控 除 の 適 用 を 受 け た 。さ ら に 、資 金 調 達 コ ス ト と GPFは 、ニ ュ ー ジ ー ラ
ン ド の 税 制 上 損 金 に 算 入 で き る 。ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に お け る BNZの 租 税 便 益 お よ
び 米 国 に お け る CSFBの 租 税 便 益 は 以 下 の 金 額 と な っ た 。
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド : BNZ の 租 税 便 益
Trust か ら の 配 当
(Trust distribution)
利率
金額
(%)
( 百 万 NZ$)
9.87
49.35
損 金 : BNZ の 市 場 か ら の 資 金 調 達 コ ス ト
(Less: funding costs charged by BNZ money markets)
益 金 : MadPar か ら の 受 取 ( 金 利 ス ワ ッ プ /変 動 )
(Plus: swap receipt from MadPar)
損 金 : MadPar に 対 す る 支 払 ( 金 利 ス ワ ッ プ )
(Less: swap expense payable to MadPar)
損 金 : MadPar に 対 す る 手 数 料 支 払
(Less: guarantee procurement fee payable to MadPar)
BNZ 税 引 前 損 失
(BNZ pre tax loss)
NZ 税 :
-所得課税なし
( Income not taxable)
-他の所得に対する控除
( 4.88+ 1.62+ 2.95) ×33%( NZ 法 人 税 率 )
(9.35)
46.75
(2.95)
(14.75)
(2.43)
(12.15)
4.06
20.30
1.63
8.15
( Deduction against other income liable to tax: (4.88
plus 1.62 plus 2.95) x NZ corporate tax rate of 33%)
BNZ の 税 引 後 租 税 便 益
(BNZ post tax benefit)
米 国 : CSFB の 租 税 便 益
Trust へ の 配 当
利率(%)
(9.87)
(Trust distribution)
固 定 収 入 ( 金 利 ス ワ ッ プ ) (Fixed leg of the swap)
6.92
手数料収入
2.95
差引利益
(Guarantee procurement fee)
2.43
(discount)
[37]
② Westpac 事 件
(a)事 件 の 概 要
当 事 件 は 、BNZ 事 件 と ス キ ー ム は ほ ぼ 同 様 で あ る 。1999 年 か ら 2005 年 ま で の
間 に 、Westpac の 子 会 社 が 英 国 お よ び 米 国 の 居 住 者 と 10 件 の レ ポ 取 引 を 行 っ た 。
これら取引の 1 件については、ニュージーランド税務当局からの事前確認制度
に よ り 認 め ら れ た 取 引 で あ っ た 52。 当 該 取 引 は 全 て 通 常 見 ら れ る ク ロ ス ボ ー ダ
ーレポ取引と基本構造は同じものである。興味深いのは、当事件の取引のうち
1 件 に つ い て は 、BNZ 事 件 で 登 場 し た CS グ ル ー プ の 米 国 の 2 つ の 子 会 社( MadPar
と Park Square) に よ っ て 設 立 さ れ た Madison Park Partnership (Partnership)
の 持 分 を 用 い て 、 Westpac の 子 会 社 で あ る TBNZ Equity Ltd (TBNZE)と MadPar
と の 間 で レ ポ 取 引 が 行 わ れ て い る こ と で あ る 。し た が っ て 、BNZ 事 件 も Westpac
事 件 も 同 時 期 に CS グ ル ー プ と 同 様 の ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 使 っ た ス キ ー
ムを実行した。
Westpac 事 件 に お い て は 、 BNZ 事 件 で BNZ と 取 引 が あ っ た CS グ ル ー プ が 外 国
税 額 控 除 レ ジ ー ム に お い て も 登 場 す る の で 、 こ こ で は CSFB 取 引 を 取 り 上 げ る 。
図 6 に お い て 、ま ず MadPar が ク ラ ス A パ ー ト ナ ー シ ッ プ 持 分( 以 下 、A 持 分
と す る )5 億 NZ ド ル 分 、B パ ー ト ナ ー シ ッ プ 持 分 4.62 億 NZ ド ル 分 、ま た Park
Square が C パ ー ト ナ ー シ ッ プ 持 分 1,000NZ ド ル 分 引 き 受 け て Partnership を 設
立 す る 。 Partnership は 、 こ の 設 立 資 金 を も と に 、 CSFB に 9.62 億 NZ ド ル 手 形
貸 付 を 行 う 。 こ の 際 の 利 子 率 は 、 Partnership が 、 持 分 に 対 し て 約 し た 金 銭 の
分 配 ( 米 国 税 引 後 利 益 の 99.5%) に 見 合 う 金 額 を 獲 得 で き る よ う 設 定 さ れ 、 実
際 に は 年 6.287%の 利 子 が 支 払 わ れ た 。
次 に 、 TBNZE は 、 MadPar か ら A パ ー ト ナ ー シ ッ プ 持 分 を 将 来 同 額 で 買 い 戻 す
こ と を 約 し て 3.95 億 AU ド ル( Westpac 側 の 課 税 上 の 理 由 か ら AU ド ル で 購 入 し
た ) で 購 入 す る と い う レ ポ 取 引 を 行 っ た ( MadPar は 、 A 持 分 の 額 面 に 対 し て 最
低 年 7.8033%の 支 払 を 行 う こ と に 同 意 し た )。 こ の MadPar の 買 戻 義 務 は 、 CS グ
52 2004 年 に ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 政 府 か ら 出 さ れ た セ キ ュ リ テ ィ ー ・ レ ン デ ィ ン グ に 関 す る 討 議 資
料においては、
「 政 府 は 、レ ポ 取 引 に 関 す る 租 税 上 の 取 扱 い に つ い て 、何 の 問 題 も な い と 認 識 し て い
る 」と 述 べ て い た 。ま た 、W e s t p a c は 、当 該 取 引 に つ い て 税 務 当 局 に 事 前 確 認 ま で 行 っ て お り 、2 0 0 4
年 時 点 で は 、 BNZ や Westpac の よ う な ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 に つ い て 、 税 務 当 局 は 課 税 上 何 ら 問
題 な い と 考 え て い た こ と が わ か る 。 CIR, “ Taxing securities lending transactions : substance
over form ” , A government discussion document 2004, at page 11.
[38]
ル ー プ が 保 証 し た 。 こ の た め 、 TBNZE は 、 MadPar に 対 し て 、 GPF を 額 面 に 対 し
て 年 2.80%支 払 う こ と を 約 し た 。同 時 に 、TBNZE は 、同 A 持 分 を 英 国 所 在 の TBNZI
に 将 来 同 額 で 買 い 戻 す こ と を 約 し て 3.9 億 AU ド ル で 購 入 す る と い う レ ポ 取 引
を 行 っ た 。 TBNZE は 、 MadPar と NZ ド ル 対 A U ド ル の 通 貨 ス ワ ッ プ 取 引 を 行 い 、
こ の ポ ジ シ ョ ン を ヘ ッ ジ す る た め に MadPar と 行 っ た 通 貨 ス ワ ッ プ 取 引 と 逆 の
ス ワ ッ プ 取 引 を TBNZ Investments( TBNZI) と 行 っ た 。
最 後 に 、CSFB は 、Westpac と NZ ド ル 金 利 ス ワ ッ プ 取 引 を 行 い 、同 時 に 、Westpac
は 、 こ の 取 引 に 対 応 す る ス ワ ッ プ 取 引 を TBNZE と 行 っ た 。
図 6
Westpac 事 件 の CSFB 取 引 の 流 れ
米国
オーストラリア
CSFB
(Mad Par の TBNZE に対する
買戻義務を保証)
手形貸付:
9.62 億 NZD
Westpac
Banking Co
NZD 金利スワップ
(Westpac→CSFB
固定 7.00%/年
CSFB→Westpac
変動金利)
利子:
(6.287%/年)
Partnership の
分配支払額に
見合う金額と
なるよう調整
(TBNZE と TBNZ(UK)
の CSFB グループに対
する義務を保証)
NZD 金利スワップ
(TBNZE→Westpac
固定 7.00%/年
Westpac → TBNZE
変動金利)
ニュージーランド
保証手数料(GPF):2.80%(5 億 NZD)/年
Park Square
LLC
Mad Par
1(株売り手・
(Westpac 孫会社)
TBNZ
Equity Ltd
通貨スワップ : NZD/AUD
資金取り手)
1(株買い手・資金出し手)
2(株売り手・資金取り手)
レポ取引 1(A パートナーシップ持分)
:
3.9 億 AUD(+利子 7.8033%/年)
A パートナーシップ持分:
5 億 NZD
B パートナーシップ持分:
4.62 億 NZD
C パートナーシップ
持分:1,000NZD
Madison
Park
配当
通貨スワップ :
AUD/NZD
英国
Partnership
米国税:
利子所得×35%
レポ取引 2
(A パートナーシップ
持分)
:3.9 億 AUD
米国
パートナーシップの
利益を分配:
キャッシュフローの 99.5%
(注)裁判資料をもとに筆者作成。
[39]
TBNZ
Investments(UK)
2(株買い手・資金出し手)
(b)租 税 便 益
Westpac 事 件 に お け る CSFB 取 引 は 、外 国 税 額 控 除 レ ジ ー ム と し て 取 り 扱 わ れ
た が 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に お け る Westpac の 租 税 便 益 は 以 下 の よ う に な る 。 ま
ず 、 Westpac は オ ー ス ト ラ リ ア 所 在 の 法 人 で あ る が 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に 完 全
子 会 社 で あ る TBNZ を 有 し 、TBNZE お よ び TBNZI は TBNZ の 子 会 社( Westpac の 孫
会 社 )で あ る 。Westpac の 子 会 社 、孫 会 社 で あ る TBNZ グ ル ー プ の 全 て の 会 社 は
ニュージーランドの納税義務者である。
英 国 所 在 の TBNZI は 、 米 国 の パ ー ト ナ ー シ ッ プ 持 分 を 購 入 す る こ と で 、 そ の
持 分 所 得( interest income)に 対 し て 米 国 税 を 支 払 う こ と に な る 。し た が っ て 、
TBNZI は 、 外 国 税 額 控 除 の 適 用 に よ り ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド へ の 税 額 の 支 払 を 軽 減
す る こ と が で き た 。 つ ま り 、 TBNZI は 、 連 結 納 税 申 告 書 に お い て 、 パ ー ト ナ ー
シップ持分を保有していることで得られたパートナーシップのキャッシュフロ
ー の 99.5%の 金 銭 の 分 配 を 総 所 得 と し て 申 告 し 、 パ ー ト ナ ー シ ッ プ が 米 国 で 支
払 っ た 税 額 を 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 税 額 に 対 す る 控 除 と し て 申 告 し た 53。 ニ ュ
ー ジ ー ラ ン ド の 税 率 は 33%な の で 、 結 果 的 に 米 国 で 支 払 っ た 税 額 が ニ ュ ー ジ ー
ラ ン ド で 納 め る べ き 税 額 を 上 回 り 、 結 果 的 に 、 セ ク シ ョ ン LC1 に よ り 、 ニ ュ ー
ジーランドで納めるべき税額は発生しなかったのである。
ま た 、 A 持 分 を レ ポ 取 引 開 始 時 に TBNZE か ら 英 国 所 在 の TBNZI に 移 転 し 、 取
引 終 了 時 に 再 び TBNZE に 戻 し た こ と で 、 TBNZE は 、 MadPar と の レ ポ 取 引 で は 持
分 の 買 い 手 で あ っ た が 、 TBNZI と の レ ポ 取 引 で は 同 持 分 の 売 り 手 で あ る と い う
「 two-tier」 構 造 と な り 、 そ の 結 果 、 課 税 上 、 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 所 得 に 課 さ
れた米国税額が当該所得に対するニュージーランド税額に対して完全に相殺さ
れた。
さ ら に 、BNZ 事 件 と 同 様 に 、Westpac 事 件 に お け る こ れ ら 一 連 の 取 引 に 係 る ス
ワ ッ プ の 費 用 や GPF 手 数 料 等 は 、当 然 に 損 金 算 入 さ れ 、租 税 便 益 と な っ て い る 。
③裁判所の判断
BNZ事 件 お よ び WESTPAC事 件 と も に 、 裁 判 所 の 判 断 は 、 こ れ ら の 取 引 が 1994年
5 3 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 現 行 税 制 に お い て は 、T B N Z I の 外 国 税 額 控 除 に 対 し て は セ ク シ ョ ン L C 2 お よ び
L C 1 4 に よ り 制 限 す る こ と が で き ず 、ま た T B N Z I は 、米 国 税 額 等 に つ き 還 付 金 等 を 受 け 取 っ て い な い の
で 、 セ ク シ ョ ン L C 1 ( 3 A ) に よ り 外 国 税 額 控 除 を 認 め な い と い う こ と も で き な い 。 Wes tpa c B an k ing
Cor por ati on v C IR ( 2 0 0 9 ) , C I V 2 0 0 5 - 4 0 4 - 2 8 4 3 , [ 2 4 2 ] .
[40]
所 得 税 法 セ ク シ ョ ン BG1の「 租 税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト 」に あ た る と し た 。セ ク シ
ョ ン BG1で の 「 租 税 回 避 」 に は 、 (a)直 接 的 に あ る い は 間 接 的 に 所 得 税 の 負 担 額
を 変 化 さ せ る 、(b)直 接 的 に あ る い は 間 接 的 に 納 税 者 の 所 得 税 納 税 義 務 を 取 り 除
く 、ま た は 将 来 的 な 所 得 税 納 税 義 務 を 取 り 除 く 、(c)直 接 的 に あ る い は 間 接 的 に
所得税の負担(将来的な所得税の負担を含む。)を回避する、繰り延べる、あ
る い は 削 減 す る 行 為 が 含 ま れ る 54。 こ の 「 租 税 回 避 」 と い う 言 葉 の 定 義 に お い
ては、「~をいう」という言葉を使わず「~が含まれる」という言葉を使うこ
と で「 租 税 回 避 」の 定 義 を 幅 広 く し て い る 。ま た 、「 租 税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト 」
は、どのような過程で取引に至ったのかにかかわらず、直接的にあるいは間接
的 に (a)そ の 目 的 あ る い は 効 果 と し て 「 租 税 回 避 」 と な る も の 、 あ る い は (b)そ
の 目 的 あ る い は 効 果 に 、 通 常 の 事 業 取 引 あ る い は 同 族 の 取 扱 い ( family
dealings)と さ れ る も の が あ っ た と し て も 、取 引 の 目 的 あ る い は 効 果 の 1つ に「 租
税回避」となるものが含まれているようなアレンジメントを指すと定義されて
い る 55。
BNZ事 件 に お い て は 、BNZが 行 っ た こ れ ら の 取 引 に つ い て 、BNZが ク ロ ス ボ ー ダ
ーレポ取引を用いて課税の取扱いを変更し、租税負担を軽減するという目的、
あるいは効果を持っていたと認定し、また事業目的も理論的な根拠も認められ
ないとした。
Westpac 事 件 に お い て も 、 BNZ 事 件 と 同 様 、 収 益 性 の 見 込 み の 欠 如 に よ っ て 、
商 業 あ る い は 事 業 と し て の 正 当 性 を 欠 く と し た 。 ま た 、 Westpac 事 件 の 判 決 で
は 、 BNZ 事 件 で は 重 要 視 さ れ な か っ た GPF に つ い て 、「 GPF の 介 在 」 が 「 BNZ 事
件 に お い て も Westpac 事 件 に お い て も 事 実 を 明 ら か に す る の に 決 定 的 に な っ
た 」、つ ま り 租 税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト と 認 定 す る の に 決 定 的 な 証 拠 に な っ た と し
ている。
判決文においては、最後には、事業目的が見受けられないので「租税回避ア
レンジメント」であるという判断がなされているものの、その前段階の判断で
54 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 所 得 税 法 OB1 定 義 規 定 ( definitions) を 参 照 さ れ た い 。
( http://www.legislation.govt.nz/act/public/2004/0035/11.0/DLM271382.html)
55 Law Administration SOUTH AFRICAN REVENUE SERVICE“ Discussion Paper on Tax Avoidance and
Section 103 of the Income Tax Act, 1962 (Act No. 58 of 1962)” 2005,pp.32-34.
[41]
ある租税便益の大きさを詳細に分析しており、裁判所は、租税便益の金額をみ
て、これが巨額であったことで「租税回避アレンジメント」であるという判断
を 下 し て い る よ う に 見 受 け ら れ る 。 Westpac 事 件 で は 、 先 に 述 べ た と お り 1 件
目の取引は税務当局の事前照会を受けている。それにもかかわらず、2 件目以
降は、否認されたとすると、やはり租税便益の金額があまりにも巨額であった
ことを問題視しているのではないかと考えられる。
これらのことを総合すると、ニュージーランドの事件における、高裁の判決
は、通常のクロスボーダーレポ取引についても、所得分類の違いが存在するこ
とによって、巨額の租税便益が存在する場合には「租税回避アレンジメント」
と認定される可能性があることを示すものとなっている。
3
小括
こ れ ま で み て き た よ う に 、OECD 及 び 英 ・ 米 ・ ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 等 で は 、各 国
のレポ取引の取扱いが違うことを利用して、クロスボーダーレポ取引を使った
タ ッ ク ス ・ス キ ー ム が 組 成 さ れ 、こ れ が 各 国 の 租 税 収 入 に 大 き な 影 響 を 与 え て い
る。そして、英・米では、近年、このようなタックス・スキームの租税便益を
削 減 す る よ う な 国 内 法 、ま た は 租 税 条 約 の 規 定 を お き 、ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で は 、
こ れ ら タ ッ ク ス ・ ス キ ー ム を「 租 税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト 」と 認 定 し 、GAAR の 規
定を適用していることを明らかにした。
こ れ に 対 し て 、わ が 国 で は 、2009 年 に レ ポ 取 引 の 租 税 法 上 の 取 扱 い が 明 確 化
されたばかりで、クロスボーダーレポ取引を使ったタックス・スキームが行わ
れた場合の国内法および租税条約の手当てはなされていない。
しかしながら、クロスボーダーレポ取引に係る所得分類について、わが国と
異 な る 取 扱 い を す る 国 が 存 在 し て い る こ と か ら 、OECD や 、ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で
問題とされた取引がわが国においても行われる可能性はあると考えられる。
したがって、わが国においても、このような問題に対処すべき国内法および
租税条約の手当てが今後必要になってくるであろう。
そこで、次章では、米・英・ニュージーランドにおける対応策を参考に、わ
が国における今後の対応策を考えたい。
[42]
Ⅳ
OECD 及 び 比 較 法 か ら 得 ら れ る 日 本 へ の 示 唆
わ が 国 で は 、 レ ポ 取 引 は 担 保 付 貸 付 56と し て 取 り 扱 わ れ る 。 そ し て 、 ク ロ ス
ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 か ら 生 じ る 貸 付 金 の 利 子 に つ い て は 、措 法 42 の 2 の 規 定 に よ
り、当該取引の対象が債券で、かつ、わが国側の取引当事者が金融機関等、取
引の相手方が外国金融機関等である場合に限り非課税となる。
と こ ろ が 、OECD の 議 論 お よ び ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 判 例 で の 取 引 を み る と 、そ
の 対 象 は 株 や パ ー ト ナ ー シ ッ プ 持 分 で あ り 、こ の よ う な 取 引 に つ い て は 措 法 42
条 の 2 の 規 定 が 適 用 さ れ ず 、 20% の 源 泉 徴 収 が 行 わ れ る こ と と な ろ う 5 7 。
レ ポ 取 引 は 短 期 に 多 く の 取 引 を 行 う も の で あ る か ら 、各 取 引 に つ き 10% の 税
が課されることは、取引の阻害要因となりかねない。このようなことから、わ
が国において、その税負担を軽減させるようなタックス・スキームがあれば、
そのスキームを利用しようとする前提はすでに存在しているといえる。
わ が 国 で は 、ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 の 歴 史 は 浅 く 、OECD の 議 論 お よ び ニ ュ
ージーランドの判例で問題とされたタックス・スキームは存在しないか、存在
していたとしても租税法上問題視されておらず、こういった取引を想定した国
内法および租税条約の規定も存在しない。
しかしながら、技術的には今後このようなタックス・スキームが生み出され
る可能性はあると考えられ、その租税便益はⅢで述べたように巨額となろう。
したがって、わが国においても、近い将来、これらの取引に対する規制が国内
法および租税条約において必要になってくると考えられる。
1
国内法および租税条約による調整
国 内 法 に お け る 規 制 と し て 、具 体 的 に は 、OECD に お け る 議 論 で 紹 介 さ れ た 所
得 の 分 類 の 違 い を 利 用 し た ス キ ー ム に つ い て は Country2 側 の 、そ し て FTC 生 成
スキームについては米国側からの対応が必要となろう。
5 6 所 法 1 6 1 条 6 号 ・ 法 法 1 3 8 条 6 号 、措 法 4 2 条 の 2 で は 、
「債券の買戻又は売戻条件付売買取引」
を 貸 付 と し て 取 り 扱 う と 定 義 し て お り 、 レ ポ 取 引 の 対 象 を 「 債 券 」 に 限 定 し て い る 。 し か し 、 OECD
が議論しているスキームにおけるレポ取引の対象は株式であり、またニュージーランドの訴訟にお
けるレポ取引の対象は株式又はパートナーシップ持分であることから、わが国において、クロスボ
ー ダ ー レ ポ 取 引 を 行 っ た 際 に 、 そ の 対 象 が 「 債 券 」 以 外 で あ る 場 合 、 所 法 161 条 6 号 ・ 法 法 138 条
6 号 、 措 法 4 2 条 の 2 の 適 用 は な い と 考 え ら れ る 。 し た が っ て 、「 債 券 」 以 外 の 資 産 を 対 象 と し た ク
ロスボーダーレポ取引が行われた場合には、その取扱いが売買・再売買とされる可能性がないとは
いえない。
5 7 こ の 場 合 、わ が 国 が 取 引 の 相 手 方 が 所 在 す る 国 と の 間 に 租 税 条 約 を 締 結 し て い る と き は 、そ の 租
税 条 約 で 決 め ら れ た 税 率 ( 多 く は 10% ま た は 15% ) の 源 泉 徴 収 が 行 わ れ る 。
[43]
(1)所得分類の違いを利用したスキームへの対応
所得分類の違いを利用したスキームの問題点は、国際的二重課税を回避する
ため設けられた間接外国税額控除の悪用および不当に生み出された利子等の控
除 で あ っ た 。 ま ず 、 間 接 外 国 税 額 控 除 に つ い て は 、 図 3 の B( 銀 行 持 株 会 社 )
が外国子会社 C から受け取る配当金について、これまで、わが国の親会社の益
金に算入されたうえで、外国子会社が外国で支払った税金、および配当に係る
外 国 源 泉 税 等 に つ い て は 外 国 税 額 控 除 が 受 け ら れ た 。と こ ろ が 、平 成 21 年 度 税
制改正により、B が外国子会社 C から受け取る配当金については、受取配当金
の 95% を 益 金 に 算 入 し な い ( 法 法 23 の 2) 5 8 こ と と さ れ た 。 そ れ に と も な い 、
外国子会社が外国で支払った税金、および配当に係る外国源泉税等に係る外国
税 額 控 除 も 廃 止 さ れ た( 法 法 39 の 2 5 9・ 法 法 69① 6 0 )。こ の こ と に よ り 、間 接 外
国 税 額 控 除 に よ る 租 税 便 益 は 生 じ な い も の の 61、 外 国 子 会 社 か ら の 配 当 金 に 係
58 ( 法 人 税 法 )
第 2 3 条 の 2 内 国 法 人 が 外 国 子 会 社( 当 該 内 国 法 人 が 保 有 し て い る そ の 株 式 又 は 出 資 の 数 又 は 金 額
が そ の 発 行 済 株 式 又 は 出 資 ( そ の 有 す る 自 己 の 株 式 又 は 出 資 を 除 く 。 ) の 総 数 又 は 総 額 の 100 分 の
25 以 上 に 相 当 す る 数 又 は 金 額 と な つ て い る こ と そ の 他 の 政 令 で 定 め る 要 件 を 備 え て い る 外 国 法 人
をいう。)から受ける前条第1項第1号に掲げる金額(以下この項及び次項において「剰余金の配
当等の額」という。)がある場合には、当該剰余金の配当等の額から当該剰余金の配当等の額に係
る費用の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額は、その
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。
59 ( 法 人 税 法 )
第 39 条 の 2 内 国 法 人 が 第 23 条 の 2 第 1 項 ( 外 国 子 会 社 か ら 受 け る 配 当 等 の 益 金 不 算 入 ) に 規 定
する外国子会社から受ける同項に規定する剰余金の配当等の額(以下この条において「剰余金の配
当 等 の 額 」と い う 。)に つ き 同 項 の 規 定 の 適 用 を 受 け る 場 合( 剰 余 金 の 配 当 等 の 額 の 計 算 の 基 礎 と さ
れ る 金 額 に 対 し て 外 国 法 人 税( 第 6 9 条 第 1 項( 外 国 税 額 の 控 除 )に 規 定 す る 外 国 法 人 税 を い う 。以
下 こ の 条 に お い て 同 じ 。) が 課 さ れ る 場 合 と し て 政 令 で 定 め る 場 合 を 含 む 。) に は 、 当 該 剰 余 金 の 配
当等の額に係る外国源泉税等の額(剰余金の配当等の額を課税標準として所得税法第2条第1項第
4 5 号( 定 義 ) に 規 定 す る 源 泉 徴 収 の 方 法 に 類 す る 方 法 に よ り 課 さ れ る 外 国 法 人 税 の 額 及 び 剰 余 金 の
配当等の額の計算の基礎とされる金額を課税標準として課されるものとして政令で定める外国法人
税 の 額 を い う 。) は 、 そ の 内 国 法 人 の 各 事 業 年 度 の 所 得 の 金 額 の 計 算 上 、 損 金 の 額 に 算 入 し な い 。
60 ( 法 人 税 法 )
第 6 9 条 内 国 法 人 が 各 事 業 年 度 に お い て 外 国 法 人 税( 外 国 の 法 令 に よ り 課 さ れ る 法 人 税 に 相 当 す る
税 で 政 令 で 定 め る も の を い う 。以 下 こ の 項 及 び 第 8 項 に お い て 同 じ 。)を 納 付 す る こ と と な る 場 合 に
は 、当 該 事 業 年 度 の 所 得 の 金 額 に つ き 第 6 6 条 第 1 項 か ら 第 3 項 ま で( 各 事 業 年 度 の 所 得 に 対 す る 法
人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるも
のに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「控除限度
額 」と い う 。)を 限 度 と し て 、そ の 外 国 法 人 税 の 額( そ の 所 得 に 対 す る 負 担 が 高 率 な 部 分 と し て 政 令
で定める外国法人税の額、内国法人の通常行われる取引と認められないものとして政令で定める取
引に基因して生じた所得に対して課される外国法人税の額、内国法人の法人税に関する法令の規定
により法人税が課されないこととなる金額を課税標準として外国法人税に関する法令により課され
るものとして政令で定める外国法人税の額その他政令で定める外国法人税の額を除く。以下この条
に お い て「 控 除 対 象 外 国 法 人 税 の 額 」と い う 。)を 当 該 事 業 年 度 の 所 得 に 対 す る 法 人 税 の 額 か ら 控 除
する。
61 平 成 21 年 度 税 制 改 正 後 、 外 国 子 会 社 か ら の 配 当 金 を 受 け 取 る 場 合 に は 、 従 来 の 間 接 税 額 控 除 制
度を使った場合より減税になるともいわれている。したがって、所得分類の違いを利用したスキー
ムの租税便益は存在し続ける。改正前後の租税負担は、以下のとおり。
[44]
る 95%益 金 不 算 入 規 定 は 、 こ の ス キ ー ム に よ る 形 を 変 え た 租 税 便 益 と な ろ う 。
さらに、このスキームによって不当に生み出された利子等は、Ⅱ1(2)で述
べたとおり、わが国の現行法において損金に算入できる。
国際的二重課税の回避に係る規定の悪用については、米国国内法における対
応策が参考となろう。Ⅲ2(2)で述べたとおり、米国では、クロスボーダー
レポ取引を用いた租税回避スキームに対して、事業目的を持たない租税便益を
生じさせるために行われる取引の分類基準を設け、これに該当する場合には、
その規定の適用を認めないとした。したがって、少なくとも短期的には、わが
国の国内法において、クロスボーダーレポ取引を一部に取り込んだ租税便益を
生じさせるためだけに行われる租税回避スキームについて、米国のような基準
を設け、人工的な利子控除を制限していくことが望ましいと思われる。また、
将 来 的 に は 、95%益 金 不 算 入 規 定 に つ き 、租 税 回 避 ス キ ー ム の 租 税 便 益 と な る こ
と が 認 め ら れ た 場 合 に は 、こ れ に つ い て も 考 慮 す る こ と が 必 要 と な っ て こ よ う 。
( 2 ) FTC 生 成 ス キ ー ム へ の 対 応
FTC生 成 ス キ ー ム に つ い て は 、間 接 外 国 税 額 控 除 制 度 が 廃 止 さ れ た の で 、人 工
的に外国税額を生成したとしても、当該外国税額をわが国の税額から控除する
ことはできなくなった。結果として、人工的に外国税額を生成する誘因を排除
したといえるので、このスキームに対しては一応の対策がとられたといえる。
(3)租税条約による調整
Ⅱ2およびⅢでみたように、クロスボーダーレポ取引を使った一連のスキー
ムは、当該取引から生じる所得の分類が各国で違うことを利用したものであっ
( 従 来 の 制 度 の 場 合 の C o u n t r y 2 が わ が 国 で あ る 場 合 の B の 租 税 負 担 :配 当 金 の 源 泉 徴 収 税 率 は 1 0 %
と す る 、単 位 は 省 略 )外 部 か ら の 借 入 金 の 利 子 控 除 額 6 0 0 0 万 、レ ポ 取 引 に 係 る 利 子 控 除 1 . 4 億 、外
国 子 会 社 C か ら の 借 入 金 利 子 と C o u n t r y 1 国 所 在 の A へ の 貸 付 金 利 子 は 同 額 で あ る の で 相 殺 可 能 、外
国 子 会 社 C か ら の 配 当 金 2 . 1 億 は 益 金 算 入 と な る が 、C が C o u n t r y 1 で 支 払 っ た 外 国 税 額 に つ き 間 接
外 国 税 額 控 除 、こ の 配 当 金 に つ き 源 泉 徴 収 さ れ た 税 額 2 1 0 0 万 は わ が 国 の 税 額 か ら 直 接 控 除 を 受 け る
こ と と な る 。し た が っ て 、こ の 取 引 に よ り B は 2.1 億 -6000 万 -1.4 億 = 0.1 億 の 益 金 算 入 と 2100 万
の直接外国税額控除、およびの C の支払った外国税額の控除を受けることとなる。
( 改 正 後 の 租 税 負 担 )外 部 か ら の 借 入 金 の 利 子 控 除 額 6 0 0 0 万 、レ ポ 取 引 に 係 る 利 子 控 除 1 . 4 億 、外
国 子 会 社 C か ら の 借 入 金 利 子 と C o u n t r y 1 国 所 在 の A へ の 貸 付 金 利 子 は 同 額 で あ る の で 相 殺 可 能 、外
国 子 会 社 C か ら の 配 当 金 2 . 1 億 は 9 5 % 益 金 不 算 入 と な る の で 、1 0 5 0 万 の 益 金 算 入 と な り 、C が C o u n t r y 1
で 支 払 っ た 外 国 税 額 、こ の 配 当 金 に つ き 源 泉 徴 収 さ れ た 税 額 2 1 0 0 万 は わ が 国 の 税 額 か ら 控 除 を 受 け
る こ と は で き な い 。 し た が っ て 、 こ の 取 引 に よ り B は 6000 万 + 1.4 億 -1050 万 = 1.895 億 の 控 除 を
得ることとなる。
(改正前後の租税負担の相違点)外国子会社 C の所在国により税額が違うが、益金不算入となった
方が、わが国親会社の税負担は軽くなると考えられる。
[45]
た。したがって、このようなスキームの租税便益を生み出さないようにするた
めには、租税条約において、所得の分類を同じものにすればよいということに
なる。米英間では、所得の分類の相違が租税便益を生み出すことが明らかであ
っ た こ と か ら 、米 英 租 税 条 約 24 条 を 締 結 し 、両 国 の レ ポ 取 引 に お け る 取 り 扱 い
を同じものとした。したがって、わが国においても各国との租税条約上、所得
の分類が違うことにより租税便益を生み出すような取引について、その分類を
同じものにするという規定が必要になってくるのではないかと思われる。
2
包 括 的 租 税 回 避 否 認 規 定 ( GAAR) の 導 入
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 裁 判 所 は 、各 事 件 に お け る ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 が「 租
税 回 避 ア レ ン ジ メ ン ト 」に 該 当 す る と し て 、GAAR 条 項 を 適 用 し 、こ れ ら 取 引 に
係る費用の損金算入を認めないという判断を示した。しかし、ニュージーラン
ド に お け る GAAR は 、「 租 税 回 避 」 と い う 言 葉 の 定 義 を 幅 広 く 設 定 し て お り 、 高
裁の判決は、通常のクロスボーダーレポ取引についても、各国の所得分類の違
いによって、巨額の租税便益が存在する場合には「租税回避アレンジメント」
と認定される可能性があることを示すものとなっている。
わが国において、レポ取引は短期金融市場において欠かせない存在であり、
クロスボーダーレポ取引についても近年、金融機関が外貨を調達する際に非常
に重要な役割を果たしている。したがって、税制上の規定が通常のクロスボー
ダ ー レ ポ 取 引 の 円 滑 な 運 営 を 阻 害 す る こ と が あ っ て は な ら な い 。GAAR が 通 常 の
レポ取引にまでその適用範囲を広げる可能性があるのであれば、日本への導入
は 慎 重 に な る べ き だ と 考 え る 62。
Ⅴ
おわりに
本 稿 で は 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 を 踏 ま え 、わ が 国 の レ ポ 取 引 に 対 す る 現 行 税
制による課税の取扱いを概観した。特に、クロスボーダーレポ取引は、単独取
引としては金融市場にとって重要な取引であり、わが国においてこれを阻害す
62
松 田 教 授 は 、 米 国 ・ 英 国 ・ カ ナ ダ な ど の 導 入 国 に お け る 現 状 と 問 題 を 検 証 さ れ 、 日 本 へ の GAAR
の 導 入 可 能 性 に つ い て 述 べ ら れ て い る が 、 GAARの 射 程 範 囲 等 を 定 め る 際 に は 困 難 が 予 想 さ れ る こ と
を懸念され、タックス・スキームのプロモーターに対して開示を義務付けるなどのルールづくりが
現実的ではないかと結論付けられている。松田直樹「租税回避行為への対抗策に関する一考察-租
税 回 避 ス キ ー ム の 実 態 把 握 方 法 の 検 討 を 中 心 と し て - 」 税 務 大 学 校 論 叢 第 5 2 号 ( 2 0 0 6 )。
[46]
る よ う な 税 制 を 設 け る べ き で は な い こ と か ら 、平 成 21 年 度 税 制 改 正 の ク ロ ス ボ
ーダーレポ取引から生じる差額の取扱いを貸付金の利子として、その利子に対
して時限を設けず非課税としたことについては評価できるものとした。
し か し 、 近 年 OECDや ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で ク ロ ス ボ ー ダ ー レ ポ 取 引 を 一 部 に 取
り込んだ租税回避スキームの存在が問題となっており、わが国においてもレポ
取引から生じる所得の分類が違う国の居住者とクロスボーダーレポ取引を行う
よ う な 場 合 に は 、 租 税 便 益 が 生 じ る 可 能 性 が あ る こ と を 明 ら か に し た 。 OECDは
これに対して、各国の対応を求めており、米英両国は租税条約および国内法に
よる対応策をとっているものの、クロスボーダーレポ取引を一部に取り込んだ
一連の租税回避スキームに対しては、わが国の現行税制では全く手当てがされ
ていないことを指摘した。これを踏まえ、わが国においてもこのようなタック
ス・スキームが行われる可能性があるものの、現行税制では対応できないこと
を指摘し、比較法による今後の対応策について検討した。
わ が 国 に お い て は 平 成 21年 度 税 制 改 正 に よ り 間 接 外 国 税 額 控 除 制 度 が 廃 止 さ
れたことで、米英のように間接外国税額控除を制限することによる対応は不可
能 で あ る 。さ ら に 、外 国 子 会 社 か ら の 受 取 配 当 金 が 益 金 不 算 入 に な っ た こ と で 、
こ れ ま で 以 上 に 、 OECDで 議 論 さ れ た 所 得 分 類 の 違 い を 利 用 し た タ ッ ク ス ・ ス キ
ームの租税便益が大きくなることを指摘した。そして、わが国においては、短
期的には米国のような基準を設け、人工的な利子控除を制限していくことが望
ま し い と し 、将 来 的 に は 、95%益 金 不 算 入 規 定 に つ き 、租 税 回 避 ス キ ー ム の 租 税
便益となることが認められた場合には、これについても考慮することが必要と
なるだろうと指摘した。さらに、各国の所得分類が違うことを利用するスキー
ム に つ い て は 、 米 英 租 税 条 約 24条 を 参 考 に 、 わ が 国 に お い て も 各 国 と の 租 税 条
約上、所得の分類が違うことにより租税便益を生み出すような取引について、
その分類を同じものにするという規定が必要になってくるのではないかと指摘
した。
最 後 に 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド に お け る GAARに つ い て は 、 事 業 目 的 の 認 定 等 そ の
判断基準は明確であり、タックス・スキームを使った租税回避に対して重要な
役 割 を 果 た し て い る と 思 わ れ る 。た だ し 、本 稿 で 取 り 上 げ た 裁 判 例 を 見 る 限 り 、
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 裁 判 所 の 判 断 が GAARを 適 用 す る か ど う か に つ い て 租 税 便 益
[47]
の金額に力点をおいているように見受けられることを指摘した。そのうえで、
GAARは 通 常 の レ ポ 取 引 に ま で そ の 適 用 範 囲 を 広 げ る 可 能 性 が あ る の で あ れ ば 、
わが国において、レポ取引は短期金融市場において非常に重要な役割を果たし
ており、税制上の規定が通常のクロスボーダーレポ取引の円滑な運営を阻害す
ることがあってはならないことから、日本への導入は慎重になるべきだと指摘
した。
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