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概要編 (PDF形式, 1.05MB)

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概要編 (PDF形式, 1.05MB)
概要編
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メンタルヘルスと労働関係法令
労働安全衛生法とは
労働基準法第 42 条の「労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生
法の定めるところによる」との定めを受け、
「職場における労働者の安全と
健康を確保するととともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことを目的
として制定されたものです。
労働安全衛生法では、働く人の健康を損なう危険の回避の配慮や健康を保
持推進するための配慮、業務を適正、快適なものにするための配慮、危険状
態にある人への安全確保のための配慮などが規定されています。違反した場
合は罰金や懲役が科せられる場合があります。
安全配慮義務とは
安全配慮義務については、労働契約法の第5条に「使用者は、労働契約に
伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができる
よう、必要な配慮をするものとする」と具体的に明記されています。使用者
が労働者に対して負う義務(雇用契約に付随する義務)の一つで、
「使用者
は労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮しなければなら
ない」というものです。
使用者が安全配慮義務を怠ることによって労働者が損害を被ったときは、
以下のような損失・負担が発生します。
◆民事上の損害賠償責任
◆業務上過失傷害などの刑事責任
◆貴重な人材の損失(労働日数の損失)
◆事故等による営業・操業停止に伴う経済的損失
◆社会的信頼の失墜
◆訴訟等の準備に伴う経済的・時間的損失
さらに、過労死等が発生した場合は、億単位の賠償金の支払いを命ぜられ
る場合もあり、多大な損害を被ることがあります。安全配慮義務は、リスク
管理という観点からも企業が真剣に取り組むべき重要な問題なのです。
「安全」という言葉には、設備的な安全面はもちろんのこと、メンタルヘ
ルスなどの精神的な衛生面についても配慮することが含まれています。した
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概要編
がって、事業主だけでなく管理監督者も、部下の労働時間を把握し、心身の
健康状態を積極的に把握して、必要に応じて勤務軽減措置を講ずる義務があ
るのです。
最近の労働判例から
近年、メンタルヘルスに関する裁判例は増える傾向にあります。組織とし
て適切な対策を怠ったばかりに、労働者本人からだけでなく遺族からも訴え
られる結果になれば、不幸なだけでなく、企業としても多大なダメージを受
けるでしょう。大切な人財を失わないためにも、判例などを通して最近の傾
向を踏まえつつ、適切な対策を講じておくことは非常に大切といえます。
以下に、最近の労働判例の一部をご紹介しましょう。
・JFEスチール事件(東京地裁 平成 20.12.8 判決)
…システム開発業務に就いていた労働者が過重労働の末自殺した件につ
いて、出向先の会社の安全配慮義務違反が認められ、遺族に対して約
8000 万円の支払いが命じられた事例
・九電工事件(福岡地裁 平成 21.12.2 判決)
…うつ病発症までの約1年間にわたって月 100 時間超の時間外労働に従事
させ、何の対策も講じなかった会社側に対し、自殺した労働者の遺族へ
の慰謝料ほか約 9900 万円の支払いが命じられた事例
・マツダ事件(神戸地裁姫路支部 平成 23.2.28 判決)
…労働者が質的にも量的にも過重な労働の結果自殺したのは、企業の安全
配慮義務違反だったとして、遺族に対して約 6400 万円の賠償義務が認
められた事例
・九九プラス事件(東京地裁立川支部 平成 23.5.31 判決)
…コンビニエンスストアにおける長時間で不規則な労働や、頻繁な労働場
所の変更が、労働者の心身の健康を害する危険があったとして、事業主
側の安全配慮義務違反が認められた事例 裁判になると、企業側の主張がとおらないケースも少なくないですし、企
業の信用にも大きく傷つく可能性があります。日ごろから、メンタルヘルス
対策に取り組むことが、企業防衛の観点からも非常に重要です。
損害賠償金等の支払い
過重労働や仕事のストレスが原因で精神疾患が発症した場合、労働者は労
働災害を申請することができます。
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概要編
これまでメンタル不調で心の病気になった場合、その当事者は外部に漏れ
ないよう病気を隠したり、症状を察知されないようにする傾向がありました。
しかし、近年では、労働者自身の労働災害への意識が高まったこともあり、
労災を申請する人が増えてきています。
もちろん、たとえ労災認定されても補償は労災保険でまかなわれるため、
故意や重大な過失があるような場合を除き、原則的に会社側の金銭的な負担
はありません。しかし、自殺等悲劇的なケースに発展した場合や、自殺にま
で至らないケースであっても長期療養による経済的な負担や、家族の精神的
な負担などを理由に、会社を相手取り民事訴訟を起こすケースも増えていま
す。
最近では、精神疾患に関する労災認定基準の見直し(厚生労働省:H23.12.26
付 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj-att/2r9852000001z43h.pdf)
などを背景に、損害賠償を請求するだけでなく、使用者責任を問う訴訟も増
加の傾向にあるといわれています。過去の裁判例をみても、会社の安全配慮
義務が問われたケースが少なくありません。
例えば、長時間労働が原因でうつ病を発症し、自殺した社員の遺族が起こ
した「電通事件」裁判では、会社側に 1 億 6800 万円の損害賠償が要求され
ています。実際の支払額は、過失相殺により減額されているものの、いった
ん訴訟となれば会社側も弁護士費用など裁判にかかる費用や、損害の支払い
金、慰謝料の支払い、その他諸々の費用が発生します。さらに、一連の対応
に多くの時間が必要となるうえに、マスコミによって報道されれば、会社側
のイメージを損ないかねません。
万一、裁判に発展すれば、会社収益にも大きな影響を及ぼすことが容易に
想像できます。
図1 厚生労働省「過労死等及び精神障害等の労災補償状況」
(件)
1,200
938
1,000
800
869
600
656
400
200
0
330
127
平成 17
952
931
819
927
1,136
1,181
「過労死」等
支給決定件数
889
請求件数
767
802
精神障害等
355
205
18
392
268
19
支給決定件数
377
269
293
234
285308
20
21
22
請求件数
(年度)
(注1)「過労死」等とは、業務により脳・心臓疾患(負傷に起因するものを除く)を発症した事案(死亡を含む)をいう。
(注2)精神障害等とは、業務により精神障害を発症した事案(自殺を含む)をいう。
(注3)請求件数は当該年度に請求されたものの合計であるが、支給決定件数は当該年度に請求されたものに限るものではない。
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概要編
メンタルヘルス法令の動き
●職場のメンタルヘルス対策を強化・充実に向けた
労働安全衛生法の改正案を国会提出へ 仕事上のストレスが原因でうつ病などになる人が増えている現状を踏まえ、
従業員のメンタルヘルスチェックなどを事業者に義務付ける労働安全衛生法
の改正案がこのほど国会に提出されました。
①メンタルヘルス対策の充実・強化
・医師等による、労働者の精神的健康の状況を把握するための検査を行う
ことを事業者に義務付ける。
・検査結果は、検査を行った医師等から労働者に直接通知される。医師等
は労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできない。
・検査結果を通知された労働者が面接指導を申し出たときは、事業者は医
師による面接指導を実施しなければならない。なお、面接指導の申し出
をしたことを理由に労働者に不利益な取り扱いをすることはできない。
・事業者は、面接指導の結果、医師の意見を聴き、必要な場合には、作業
の転換、労働時間の短縮など、適切な就業上の措置をしなければならない。
②受動喫煙防止対策の充実・強化、ほか
厚生労働省「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/179.html
精神的健康の状況を把握するための検査と面接指導
○ゆううつだ
・
・
・
① 労働者の
同意を得て事
業者に通知
⑥事後措置の実施
時間外労働の制限、作業の
転換の措置
⑤医師からの意見聴取
時間外労働の制限、作業の転換に
ついて意見
︵産業医、地域産業保健センターの医師︶
○不安だ
労働者の意向を尊重
不利益な取扱いを
してはならない
事 業 者
気づきの促進
労 働 者
①結果の通知
○ひどく疲れた
②面接の実施依頼
②面接の申出
一般定期健康診断の「自覚症状、
他覚症状の有無の検査」に併せて
実施
※別途実施も可能
医師
申出後は事業者が対応
医師・保健師が
メンタルチェックを
実施
④面接指導の実施
面接指導後受診
【地域の機関】
直接受診
医療機関
相談
相談機関
・保健所、精神保健福祉センター
・民間団体
連携の促進
厚生労働省公表資料より
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概要編
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企業のメンタルヘルス対策に必要な四つのケア
企業のメンタルヘルス対策を講じる際は、厚生労働省の「事業場のお
ける労働者の心の健康づくりのための指針」(http://www.mhlw.go.jp/stf/
houdou/2006/03/h0331-1.html) が参考になります。指針では、
「四つのケア」
をそれぞれ進めていくことが重要としていますが、この「四つのケア」とは、
具体的には下記のことをいいます。
1.セルフケア
2.ラインによるケア
労働者が、自身の心の健康づくりの
ために行う活動
管理監督者が部下に対する
心の健康づくり対策のための活動
具体的には、ストレスへの気づき、ストレ
スへの対処、自発的な相談など
具体的には、職場環境の改善や、部下への
日常的な配慮、メンタルヘルス不調者等の相
談対応、職場復帰への支援など
【セルフケアを推進するための企業の対策例】
・ストレス自己診断チェックテストの実施
・セルフケアに関する教育研修と情報提供、
など
【ラインケアを推進するための企業の対策例】
・管理職向けのメンタルヘルス研修の実施
・メンタルヘルス不調者対応マニュアルの作成・
配布
・傾聴訓練の実施、など
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
4.事業場外資源によるケア
産業医、衛生管理者、事業場内の保健師な
どの産業保健スタッフや、心理相談担当者、
産業カウンセラー、臨床心理士、精神科医、
心療内科医など事業場内の心の健康づくり専
門スタッフ、および人事労務管理スタッフな
どが、心の健康づくり対策のために行う活動
⇒「セルフケア」および「ラインによるケア」
が効果的に実施されるよう、労働者と管
理監督者を支援
使用者の依頼により事業場外のさまざまな機
関及び専門家が事業場に対して行う、心の健
康づくり対策を支援する活動
⇒地域社会の公的な相談機関(保健所、産業
保険センター)や社外 EAP(従業員支援
プログラム)サービスと連携する
【事業場内産業保健スタッフ等によるケアを
推進するための 企業の対策例】
・社内相談室の設置
・産業医面談の実施
・教育研修の実施
・ネットワークの形成
・心の健康づくり会議の開催、など
【事業場外資源によるケアを
推進するための企業の対策例】
・外部相談機関の利用
・外部講師による研修の実施
・外部専門機関による復職支援サービスの利用、
など
◆外部機関には、以下のようなものがあります。
①都道府県産業保健推進センター
②地域産業保健センター
③労災病院
④中央労働災害防止協会
⑤EAP(従業員支援システム)
これらの四つのケアを基本的な枠組みとして念頭に置きつつ、どの対策に
ウエートを置くか、どの対策を優先課題とするかは各社の事情によって異
なってきます。より効果的な対策は何か、模索するためには組織の個性や特
徴を理解することが必要不可欠です。そのような意味では、対策を検討する
ところからメンタルヘルス対策は始まっているといえるでしょう。
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