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上司のリーダーシップが及ぼす職場不安について ―日本人学生と中国人

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上司のリーダーシップが及ぼす職場不安について ―日本人学生と中国人
2005年度卒業論文
主査
林真一郎
上司のリーダーシップが及ぼす職場不安について
―日本人学生と中国人留学生の比較を通して―
02D019
キーワード
・文化比較
・上司のリーダーシップ
・職場不安
岡田
瞳
目次
Ⅰ、はじめに…………………………………………………………………4
Ⅱ、問題………………………………………………………………………6
1 、 リ ー ダ ー シ ッ プ と PM 理 論 に つ い て
2 、 PM 理 論 の 応 用
3、リーダーシップの文化比較
4、上司と職場の精神衛生と文化的背景(日本)
5、上司と職場の精神衛生と文化的背景(中国)
6 、「 不 安 」 と い う 言 葉 に つ い て
7 、 不 安 尺 度 STAI に つ い て
Ⅲ 、目 的 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 21
Ⅳ 、仮 説 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 22
Ⅴ 、方 法 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 22
1、調査対象
2、調査日程・場所
3、質問紙の構成
(1)フェイスシート
(2)職場での問題点(1)
(3)職場での問題点(2)
(4)リーダーシップの測定尺度
2
(5)不安感情の測定尺度
(6)日常生活でのストレス経験の有無
Ⅵ、結 果 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 28
1、職場での問題点(1)
2、職場での問題点(2)
3 、 PM 指 導 行 動 測 定 尺 度 の 信 頼 性 と 得 点
4、状態不安の信頼性と得点
5 、 国 籍 に よ る PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係
6 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係 ( 日 本 人 )
7 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係 ( 中 国 人 )
Ⅶ 、考 察 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 32
1、職場での問題点
2 、 国 籍 の 影 響 に よ る PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度
3 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度
Ⅷ 、終 わ り に … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 39
謝辞
参考・引用文献
付録(質問紙)
3
Ⅰ、はじめに
近 年 、 グ ロ ー バ ル 化 が 進 み 、 日 本 で も 日 本 人 以 外 の 国 の 方 が 働 く よう
に な っ て き た 。2004 年 に は 、外 国 人 雇 用 者 が 31 万 2 千 人 に 上 っ た( 不
法 就 労 者 は 除 く ) と い う ( 厚 生 労 働 省 「 外 国 人 雇 用 状 況 報 告 」)。 こ の 数
字を見ても、日本における外国人雇用者の存在は無視できない。現在の
日本社会を支えているのはもはや日本人だけではないのである。
し か し 、 様 々 な 文 化 背 景 を 持 っ た 人 が 集 ま り 、 仕 事 を 行 う た め 、 様々
な問題が生じてくるのも事実だろう。言葉がうまく通じず、コミュニケ
ーションが取りにくかったり、礼儀作法や習慣が異なっていたりなど多
くの問題が想定できる。このような背景から、外国人雇用者の精神衛生
問題も大きな話題となっている。異なる文化で働くため、日本人には想
定できないような精神問題も生じてくるのであろう。また、このような
症状が発生しても相談する人がいなかったりして、孤独感に悩まされる
ことも大いに考えられる。このような外国人雇用者の精神衛生を考える
ことも、グローバル化が進んだ現代においては極めて重要な問題なので
ある。
外 国 人 雇 用 者 は 31 万 2 千 人 に 上 っ た と 先 に 述 べ た が 、 そ の 中 で も 多
数を占めているのは中国人と韓国・朝鮮人である。韓国・朝鮮人は特別
永住者がほとんどであるため、年々減少してきているが、中国の外国人
登 録 者 は 、 1991 年 末 に は 171,071 人 だ っ た の に 対 し 、 2003 年 末 に は
462,396 人 と 29 万 以 上 も 増 加 し て い る ( 法 務 省 「 外 国 人 登 録 者 統 計 」)。
この大きな増加は、中国の経済発展と日本企業との提携が大きな要因で
あるだろう。また、日本と中国との物価の違いから、日本に「出稼ぎ」
という形で働きに来ている中国人の存在も無視できない。
さ ら に 、2002 年 に は 95,550 人 の 在 日 留 学 生 が 報 告 さ れ て い る が 、そ
4
の う ち わ け を 見 る と 、 中 国 人 留 学 生 の 大 半 を 占 め 、 2002 年 に は 58,533
人 の 留 学 生 が 報 告 さ れ て い る( 留 学 生 課 調 べ )。こ の よ う に 、中 国 人 の 外
国人登録者、留学生の人数は日本において大きな数を示しているのが分
かる。このように、現在の日本には多くの中国人が生活している。その
ため、彼らの精神衛生を考えることは大変重要なこととなる。
生 活 を す る た め に は 働 く 必 要 が あ る が 、 先 に も 述 べ た よ う に 、 異 なる
文化を持つ人が集まり仕事を行えば、様々な職場問題が起こってくる。
その一つに上司との関係が挙げられるだろう。上司は、部下に仕事の指
示を与える人間であるため、仕事を行う上では当然関係性も深くなる。
チ ェ マ ー ズ( 1999)に よ れ ば 、文 化 間 で の 上 司 の リ ー ダ ー シ ッ プ の 評 価
には差があるという。一言でリーダーシップと言っても、望まれるリー
ダーシップというのは文化背景・社会背景に大きく依存されるのだ。和
を重要視するリーダーが望まれる社会もあれば、リーダーの仕事の進め
方を重要視する社会もある。このように、リーダーのあり方は文化や社
会に大きく依存されるため、様々な文化を持つ人が集まり仕事をする現
代社会では、上司の対応が非常に重要となってくる。また、このような
リーダーシップの評価の違いは、職場での精神衛生にも影響を与えると
考えられる。
現 在 の 日 本 で は 、 職 場 で の 精 神 衛 生 と 上 司 の あ り 方 に つ い て 関 連 があ
る と 指 摘 さ れ て い る ( 塚 本 , 井 形 , 林 , 鈴 木 , 1995)。 三 隅 ( 1982) も
上司のリーダーシップという観点から、職場における精神衛生について
の研究を行っている。一方、中国でも、上司のリーダーシップの評価と
部 下 の 職 場 意 識 に つ い て 研 究 が な さ れ て い る ( 永 井 , 1997)。 し か し 、
日本人と中国人の比較を通して、精神衛生の指標の一つである不安感情
の面から、リーダーシップの評価を検討した研究は行われていない。
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そ こ で 今 回 は 、 共 に 働 く こ と が 多 く な っ て き た 日 本 人 と 中 国 人 を 対象
に、どのようなリーダーシップの評価が、職場での不安感情に影響をも
た ら す の か に つ い て 検 討 す る こ と に し た 。こ の よ う な 研 究 を 行 う こ と で 、
どのようなリーダーシップのあり方が職場不安に影響を与えるかを日本
人と中国人で検討することができ、職場での精神衛生を考える指標とな
りうるであろう。さらに、今後ますます日本人と中国人が同じ職場で働
くことが予想される中で、本研究はより良い職場を形成する上で重要だ
と考えられる。
Ⅱ、問題
1 、 リ ー ダ ー シ ッ プ と PM 理 論 に つ い て
リ ー ダ ー シ ッ プ の 定 義 は 学 者 に よ っ て そ れ ぞ れ だ が 、 多 く の 学 者 に共
通 し て い る 考 え か ら 、リ ー ダ ー シ ッ プ と は 、
「集団がある共通の課題の達
成を追究する際、特定の人物が他のメンバーに対して積極的な影響を与
える過程」
( 鹿 取 、杉 本 ,2004)と い え る 。つ ま り リ ー ダ ー シ ッ プ と は 、
集団が目標を達成しようとするとき、ある個人が他の集団成員や集団の
活動において中心的な役割を果たし、強い影響を与える過程のことを指
す の だ 。 そ し て こ の 「 特 定 の 人 間 」、「 あ る 個 人 」 を 「 リ ー ダ ー 」 と 一 般
的に呼んでいる。
三 隅 ( 1984) は リ ー ダ ー シ ッ プ の 類 型 論 と し て PM 理 論 を 提 唱 し た 。
これは集団の 2 つの基本的な機能に注目した理論である。1 つの機能は
集 団 の 目 標 達 成 や 課 題 解 決 に 関 す る 機 能 の こ と で performance の 頭 文
字を取り、
「 P 機 能 」と い う 。つ ま り 、課 題 の 計 画 、遂 行 、指 示 、業 績 へ
の圧力などを強調する機能である。具体的には、会議などで課題につい
て話し合いを進め、問題を討議する過程や、民間企業で生産目標を目指
6
して仕事を進める過程、学校のクラスで教師の指導のもとに生徒たちが
学 習 を 進 め る 過 程 な ど で 働 く 機 能 で あ る 。一 言 で 言 え ば 、
「仕事中心の働
き」といえよう。
も う 1 つ の 機 能 は 、集 団 の 維 持 を 目 的 と す る 機 能 で 、maintenance の
頭 文 字 を 取 っ て「 M 機 能 」と い う 。つ ま り 、配 慮 、友 情 、緊 張 緩 和 な ど
を強調する機能である。集団は人間の集合であるので、人間関係に過度
の緊張が生じたり、お互いに敵意が生まれると、集団は崩壊の危機をは
らむようになる。そのようなとき、集団間の緊張や敵意を解消し、人間
関 係 を 回 復 さ せ よ う と す る の が M 機 能 で あ る 。集 団 の 主 た る 活 動 か ら 疎
外されている孤独な成員を励まし、集団の中に同化させようとする暖か
い 働 き か け は そ の 具 体 例 で あ る 。 一 言 で 言 え ば 、「 人 間 関 係 中 心 の 働 き 」
といえよう。
仮 に 、 ア ル フ ァ ベ ッ ト や 、 ひ ら が な を 上 下 逆 さ ま に し て 書 き 写 す とい
った単純作業を部下にやらせたとする。この時、その課題を指示する監
督 者 ・ 上 司 が 「 も っ と 急 い で 」、「 正 確 に 」 と 発 す る 発 言 は 、 課 題 の 遂 行
を 強 調 し て い る た め「 P 機 能 」と 言 え る 。一 方 、
「 楽 な 気 持 ち で や っ て 」、
「きついでしょうね」といった発言は部下へのねぎらいや配慮を強調し
ているため「M 機能」と言える。
PM 理 論 で は 、4 つ の リ ー ダ ー シ ッ プ 型 を 想 定 し 、こ の よ う な P 機 能 、
M 機能が顕著に認められるかによってリーダーシップ型を決定してい
く 。 P 機 能 、 M 機 能 共 に 顕 著 に 表 れ て い る リ ー ダ ー を PM 型 、 P 機 能 の
み 顕 著 に 表 れ て い る リ ー ダ ー を P 型 、M 機 能 の み 顕 著 に 表 れ て い る リ ー
ダ ー を M 型 、P 機 能 、M 機 能 共 に 低 く 表 れ て い る リ ー ダ ー を pm 型 と 分
けている。以下に、それぞれの型の特徴を述べる。
◎ PM 型
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仕事中心に考え、部下を支持・激励し、自分も率先して仕事を行う側
面を持つ。一方で人間関係中心的な部下支持の側面をも持つ。これら 2
つの側面を併せ持った上司のこと。
◎P 型
仕事中心に考え、適切な計画を立てる。目標達成に向かって部下を指
示・激励し、自分も率先して行動することが重要であるとする上司のこ
と。人間関係にあまりこだわることはない。
◎M 型
人間関係を中心に考えて、部下に配慮を示し、部下支持的である。仕
事の達成にはあまりこだわらない。
◎ pm 型
仕事にも、人間関係にも積極的な態度や行動を示さない上司。部下の
自由にまかせている。
以 上 が PM 理 論 に お け る 4 つ の リ ー ダ ー シ ッ プ 類 型 で あ る 。 そ し て 、
仕 事 効 率 を 重 視 し 、 短 期 的 な 仕 事 を 行 う と き に は 、 PM 型 > P 型 > M 型
> pm 型 の 順 で 成 果 が 上 が る こ と が 分 か っ て い る 。 ま た 、 人 間 関 係 を 重
視 し 、 長 期 的 な 仕 事 を 行 う 際 に は 、 PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型 の 順 で
成 果 が 上 が る こ と が 分 か っ て い る ( 三 隅 , 1982)。 こ の よ う に PM 理 論
は 職 場 で の リ ー ダ ー シ ッ プ を 測 定 す る の に 4 つ の 群 に 分 け 、リ ー ダ ー シ
ップの機能を明確に表している。
2 、 PM 理 論 の 応 用
上 述 し た よ う に 、 PM 理 論 は リ ー ダ ー の リ ー ダ ー シ ッ プ を 測 定 す る も
の と し て 用 い ら れ て い る 。 し か し 、 PM 理 論 は 、 単 に 、 リ ー ダ ー の あ り
方 と 仕 事 の 成 果 に つ い て 説 明 す る に は と ど ま っ て い な い 。 PM 理 論 は
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様々な分野で応用されているのだ。例えば、教育の分野では、教師の勢
力 資 源 で あ る「 教 師 の 魅 力・対 応 」と「 罰 」の 2 つ を 、教 師 の PM 型 と
比 較 し た 研 究( 河 村 ,1996)が 行 わ れ て い る 。そ の 結 果 、教 師 の P 機 能
は「 罰 」の 勢 力 資 源 を 、教 師 の M 機 能 は「 教 師 の 魅 力・対 応 」を そ れ ぞ
れ果たしていることが明らかにされている。その他、医療現場において
看 護 士 の 教 育 や 、 ス ポ ー ツ に お け る リ ー ダ ー シ ッ プ の 研 究 な ど に も PM
理論は応用されている。
職 場 に お い て も 、仕 事 効 率 だ け で な く 様 々 な こ と を PM 類 型 と 関 連 さ
せ て 研 究 が 行 わ れ て い る 。三 隅( 1982)は 長 年 に か け て 、上 司 の リ ー ダ
ー シ ッ プ 類 型 と 職 場 モ ラ ー ル に つ い て 研 究 を 進 め て き た 。そ れ に よ る と 、
事 故 、退 職 率 と リ ー ダ ー シ ッ プ PM タ イ プ と の 関 係 は 、短 期 的 に 捉 え た
場合には P 型と M 型の逆転傾向はあるものの、職場という長期的な展
望 で 捉 え れ ば 、 そ の 順 位 は PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型 と な っ て い る 。
また、部下のモラール、すなわち、部下の仕事に対する意欲、給与に対
する満足度、会社に対する帰属意識、精神衛生、チーム・ワーク、集団
会 合 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 、業 績 規 範 等 に 関 し て は 、業 績 規 範 に P 型と
M 型 の 逆 転 は 見 ら れ る が 、 そ の 他 の 順 位 は PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型
と 示 さ れ て い る 。こ の よ う に 、職 場 に お い て は 、P 機 能 、M 機 能 共 に 発
揮 す る PM 型 の リ ー ダ ー が 一 番 望 ま し い リ ー ダ ー だ と 分 か る 。
こ の よ う に 見 る と 、P 型 と M 型 の 逆 転 は あ る も の の 、ど ん な 状 況 で も
PM 型 が 最 も 成 果 が あ り 、 pm 型 が 最 も 成 果 が な い こ と が 分 か る 。
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表1 リーダーシップPM行動4種類型の効果の順位表
PM
P
M
pm
☆客観的基準数
事故 長期
1
3
2
4
短期
1
2
3
4
退職
1
3
2
4
☆認知的基準数
仕事に対する意欲
1
3
2
4
給与に対する帰属意識
1
3
2
4
会社に対する帰属意識
1
3
2
4
チーム・ワーク
1
3
2
4
集団会合
1
3
2
4
コミュニケーション
1
3
2
4
精神衛生
1
3
2
4
業績規範
1
2
3
4
三角恵美子 1985 リーダーシップPM理論とその応用,経営と人事管理,
275,1-17より
表 1 に 示 し た 研 究 結 果 か ら 、 精 神 衛 生 が PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型
の順番で良かったと証明されているが、この研究で用いられている精神
衛 生 と は 、緊 張 、ス ト レ ス 、不 安 の こ と で あ る 。
「あなたは自分の職務の
責 任 範 囲 が は っ き り し な い と 思 い ま す か 」、「 あ な た は 今 の 会 社 を や め て
しまいたいと思うことがありますか」といった6つの質問項目から成り
立っている。このように精神衛生全般を取り扱っているのだが、一口に
精神衛生といっても、抑うつ、不安、ストレスなど様々ある。今回は精
神衛生の中でも職場で生じる不安感情に焦点を当て、研究を行うことと
した。
3、リーダーシップの文化比較
「 リ ー ダ ー シ ッ プ の 統 合 理 論 」( チ ェ マ ー ズ , 1972) の 中 で 紹 介 さ れ
ているトリアンディスは、国家や民族における文化的差異について研究
した人物である。彼によれば、集団主義の文化を持つ国と、個人主義の
文化を持つ国とでは望まれるリーダーのあり方が異なるという。
例 え ば 、 集 団 主 義 の 国 で あ る メ キ シ コ 、 イ ラ ン 、 イ ン ド 、 日 本 な どで
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は、勢力格差を容認しているため、部下は自立的な達成や意志決定への
参加を通して自己を個人的に表現しようとする欲求はあまり持たない。
むしろ集団主義の強い文化では、対人関係における調和と、他者に対す
る親密さに対してより大きな欲求を持つ。このような文化では、リーダ
ーが部下に関心を示し部下を好ましく思うといった配慮行動を示すこと
は非常に望ましく、また、思いやりといたわりを持ったリーダーが望ま
れるのだろう。一方、アメリカなどの個人主義の文化では、多くの部下
が意志決定に参加して自分自身の仕事上の機能について自主性を保ちた
いと強く願っている。このような文化では、リーダーの指示行動や統制
行動は、部下のリーダーに対する知覚・配慮・信頼を損ねるだろうと考
えられる。
さ ら に 、 ト リ ア ン デ ィ ス は 、 社 会 と の 関 係 志 向 の 違 い に よ り 、 望 まれ
るリーダーシップも異なると考えた。
◎「コミュニティを共有する」文化
集団主義的なやり方で連合することを強調する。このような文化の理想
的 な リ ー ダ ー は 、細 か な 心 遣 い を す る リ ー ダ ー で あ り 、
「 我 々 は 、皆 で 一
緒 に 働 い て い る の だ か ら 、そ れ ぞ れ 必 要 な こ と を 言 い な さ い 。」と い う よ
うな発言をするリーダーである。
◎「権威の序列」を志向する文化
人間関係における勢力構造を重視するものである。儒教的考えに似てお
り、部下は上司に対して尊敬、敬意、忠誠、服従といった態度を取る。
このような社会で望まれるリーダーは、下位の者が細々とした仕事をや
ることを期待するようなカリスマ的リーダーだとされる。
◎「平等による調和」を志向する文化
互恵性、平等性、報酬の均等配分などが強調される。このような社会で
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望まれるリーダーは、集団のメンバーが全員一緒に作業し、同じことを
同じように共有させることができるリーダーとなる。
◎「市場評価」志向の文化
利益と損得によって左右される社会関係の形態を指している。このよう
な社会で望まれるリーダーは、課題の成功に最も寄与したメンバーに最
大の報酬を与えるリーダーだとされる。
以 上 は 、 ト リ ア ン デ ィ ス の 見 解 で あ っ て 、 関 係 志 向 と 各 国 の 文 化 及び
リーダーシップとを関連づけるような本格的な研究はまだ行われていな
い。しかし、文化的背景とリーダーシップについて考える際の一つの指
標とはなりうる。
マ ー カ ス と 北 山( 1991)は 、集 団 主 義 文 化 と 個 人 主 義 文 化 で は 自 己の
解釈が異なるということに焦点を当て、
「 相 互 依 存 的 自 己 」と「 独 立 的 自
己」という概念を論じた。彼らの概念は、直接的にはリーダーシップに
ついて述べていないが、リーダーシップ理論にとって重要な問題に適用
できる。
◎相互依存的自己
・他者の気持ち、期待、欲求に目が向けられ、そういった他者との関係
が重要視される。→相互依存的自己においては、調和のとれた人間関係
が社会的には望ましくなる。
・他者中心的な情動(同情、親しみ、恥)といったものが表面化しやす
い。
・リーダーシップモデルでは、人間関係を維持することに動機づけられ
る。人は誰しも達成動機を持っているが、相互依存的自己を持つ文化圏
の人は、所属している集団の達成とか客観的な成功よりも主観的な承認
を得ることを望む。
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◎独立的自己
・内的な属性とその状態(例えば、この出来事に対して私はどのように
感じるか、ということ)に関心が向く。→自分の感情に敏感で、自分自
身の能力、欲求、欲望などの情報をもつ傾向にある。
・自己の満足、怒り、プライドといった情動は一般によく感じられ、表
現もされやすい。このような感情の感じ方、表現の仕方は、職場での部
下の感情表出にも影響を与えると考えられる。
・個人的な欲求を満たすことに動機づけられる。
以 上 、 相 互 依 存 的 自 己 と 独 立 的 自 己 に つ い て 述 べ た が 、 こ の 中 で リー
ダ ー シ ッ プ 理 論 に 大 き な 影 響 を 与 え る の は 、「 動 機 づ け 」 の 要 素 で あ る 。
リーダーとは、部下の欲求に気づいて部下がそれを満たしやすくするこ
と、課題の持つ目的に見合った動機を高めたり模範として示したりする
こと、あるいは、新しい動機を持つよう仕向けること、などの様々な手
段によって部下の動機を高めるものだからである。
リ ー ダ ー シ ッ プ の 国 際 比 較 を 通 し て 、 リ ー ダ ー シ ッ プ の 基 本 的 機 能は
普遍的だということも導かれている。つまり、仕事の効果性(仕事はほ
どよい時間の中で達成されなければならない等)と、対人関係(信頼の
ない上司は部下から評価されにくい等)の面では、文化によらない共通
の特徴が見られたのである。しかし、上述したように文化によって価値
観、欲求、期待などは大きく異なる。ゆえに、リーダーシップのこのよ
う な 2 つ の 機 能 が 実 際 に 効 果 を 発 揮 す る 方 法 と な る と 、文 化 に よ っ て 大
変異なることも明らかなのである。
今 回 は 日 本 と 中 国 の 比 較 を 研 究 テ ー マ と し て い る 。 日 本 も 中 国 も 東洋
に属するため、集団主義文化、相互依存的自己を持つ国だと認識されて
い る 。し か し 、日 本 海 を 隔 て 異 な る 歴 史 を 辿 っ た こ の 2 カ 国 が 全 く 同 じ
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文化を持っているとは考えにくい。両国のリーダー観、文化については
次にそれぞれ述べていく。
4、上司と職場の精神衛生と文化的背景(日本)
前 述 し た 文 化 区 分 で 言 う と 、 日 本 の 文 化 は 集 団 主 義 的 、 相 互 依 存 的な
文化であると言われている。確かに、日本人は家族、仲間、職場といっ
たような「集団」に属し、個人的な行動を行わず、むしろ相互関係を重
視し生きていく傾向が強いかもしれない。このように、日本人が集団に
属 し 、 集 団 行 動 を 好 む の は 、 個 人 の 利 益 に つ な が る た め だ と 竹 内 (1995)
は述べている。自分自身で行動すると、様々な困難に直面するが、集団
で行動すれば強力となり、問題も解決しやすくなる。そこで、同じ利益
を求める人同士が集まり集団を形成することによって、個人の利益も得
ることができるようになるのだ。そして、このような集団を保持するた
めにはチームワークが必要となる。目標達成のために個々人が協力し、
最大限の力を発することが重要となるのだ。つまり、団結力、結束力が
重要視されるのが日本社会の特徴と言える。
ま た 、 王 少 鋒 ( 2000) も 、 日 本 は 集 団 主 義 的 な 社 会 だ と 考 え て い る 。
王によれば、日本は島国であるため他民族から支配されにくく、民族も
他の国に比べれば均質であるため、同類意識と集団帰属意識が非常に強
くなっているという。そしてそのために、日本は集団主義的な社会を形
成していると結論づけている。さらに、このような社会であるために日
本人は、仲間意識・団結力が強かったり、上下関係を重んじたり、思い
やりや気配りが必要となるとも述べている。
こ の ら の 論 点 か ら 考 え る と 、 日 本 人 に と っ て 職 場 と は 集 団 維 持 機 能が
強い方が好まれると考えられる。集団維持機能が強ければ、団結力、結
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束力が強まり、個人への利益につながりやすくなる。また、従来から日
本人が重要視する思いやりや気配りが職場に存在すれば、より一層集団
維持機能が助長されるだろう。そしてこのような職場にするためにも
PM 理 論 に お け る リ ー ダ ー シ ッ プ M 機 能 が 上 司 に は 必 要 だ と 考 え ら れ る 。
さらに、竹内は日本におけるリーダーとは年齢、業績、年功、能力だけ
でなく、人徳も必要不可欠な要素だと指摘している。つまり、能力や実
績だけの上司では日本人は満足しないのである。この「人徳」を必要不
可 欠 だ と す る 点 か ら し て も 、日 本 人 は 、PM 理 論 に お け る M 機 能 を P 機
能より重要視する傾向にあると考えられる。
実 際 、財 団 法 人 メ ン タ ル ヘ ル ス 研 究 所 の 調 査( 2005 年 2 月 )に よ る と 、
労働組合の組合員7割が、ここ3年間において組合員の「心の病」は増
加傾向にあると答えているという。そして、この「心の病」の原因は、
「職場の人間関係」と「コミュニケーションの希薄化」であると答えて
いた。この点からしても日本人の集団維持機能の重要性が考えられるで
あ ろ う 。さ ら に 、
「 職 場 の 人 間 関 係 」、
「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 希 薄 化 」の
中には上司との関係も含まれる。この点からも上司のリーダーシップ、
特に M 機能との関連を見ていくことが職場の精神衛生改善につながる
と考えられる。
ま た 、 上 述 し た よ う に 、 三 隅 が 日 本 に お い て リ ー ダ ー シ ッ プ の 類 型と
精 神 衛 生 に つ い て 質 問 し た と こ ろ 、 精 神 衛 生 の 得 点 は PM 型 ( 74.6% )
> M 型 ( 61.8% ) > P 型 ( 31.3% ) > pm 型 ( 26.4% ) の 順 に な っ た と
いう。他にも仕事に対する意欲、給与に対する帰属意識、会社に対する
帰 属 意 識 な ど も PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型 の 順 位 を 示 し て い る 。 さ ら
に、日本人の理想的な上司をたずねる質問で①規則を曲げてまで無理な
仕 事 を さ せ る こ と は な い が 、仕 事 以 外 の こ と で は 人 の 面 倒 を 見 な い 上 司 、
15
②時には規則を曲げて無理な仕事をさせることもあるが、仕事以外でも
人 の 面 倒 を よ く 見 る 、の ど ち ら か の 上 司 を 選 ん で も ら っ た と こ ろ 、83%
の人が②の上司を理想だと考えていることも明らかにされている。この
②を支持する傾向は調査年次に関わらず、性別、年齢、学歴などの違い
を越えていずれの層にも見られる傾向であった。②の上司は①の上司に
比 べ 、M 機 能 が 優 れ て い る こ と が 分 か る 。こ の こ と か ら も 、日 本 人 は 上
司の M 機能を重視することが分かる。
近 年 、 会 社 で の 上 司 の あ り 方 が 問 わ れ 、 上 司 の リ ー ダ ー シ ッ プ の 研修
や、望まれる上司になるためのガイダンス書などが発行されている。こ
のような現状を見ても、上司のあり方は会社、個人にとって大変重要な
ものとなることが分かるであろう。
5、上司と職場の精神衛生と文化的背景(中国)
中 国 も 、 日 本 と 同 様 、 集 団 主 義 的 文 化 、 相 互 依 存 的 文 化 を 有 し て いる
と考えられている。しかし、この集団主義的文化、相互依存的文化は日
本の場合と多少異なる。中国は広大な国土に多数の民族が住んでいるた
め、各民族がそれぞれの文化、言語を保有している。そのため、中国人
は自分の内集団に対しては深くコミットするが、他の村の人、家族以外
の人、異なった方言を話す人などの外集団に対しては容易に信じたりは
しない。
「 私 の 神 様 は 私 」と い う 格 言 が 中 国 に は 存 在 す る が 、複 雑 な 社 会
構 造 を 持 つ 中 国 で は 、頼 れ る の は 自 分 自 身 し か い な い と い う 意 識 が 強 い 。
そのため日本の文化と比べ、個人主義的な傾向が強いことがうかがわれ
る。もちろん中国も農業を生活の基盤としてきたため、人との調和に重
きを置く。人々が協力し合えるような人間関係を形成しておくのは中国
でも重要なことである。しかし、それは個人の主体性を基盤としたもの
16
で、日本のような大きな集団の中での人間関係とは異なる。中国では、
「 日 本 人 は 1 人 な ら 虫 で あ る が 、3 人 以 上 だ と 龍 に な り 、中 国 人 は 1 人
な ら 龍 で あ る が 、3 人 以 上 だ と 虫 に な る 。」と 言 わ れ て い る 。こ の 言 葉 か
らも日本人と中国人の文化差が分かるであろう。
ま た 、 中 国 人 の 特 徴 と し て 「 実 用 主 義 」、「 現 実 主 義 」 と い う の が 挙げ
られる。仕事をする上でも現実的な対応をするため、どんな職業につい
ても、経営者や上司に対する義理や人情より、現実的な報酬を求めて転
職するのは中国人社会では一般的である。このことは先程述べた「私の
神様は私」というように自分の生活を支えるために必要不可欠な考え方
なのだろう。
近 代 の 中 国 は ま さ に 経 済 成 長 の 真 最 中 で あ る 。 当 人 が 努 力 を す れ ばし
た分だけ報酬が手に入るため、自分で会社を起こし、起業家になりたい
と い う 欲 求 が 大 変 強 く な っ て い る 。実 際 、多 く の 中 国 人 が よ り 高 い 昇 給・
地位を目指して仕事に励んでいる。このような社会背景と先に述べた文
化背景から、中国人は仕事を行う際、人間関係より現実的な仕事の成果
や賃金などを重視し、そのような環境を形成する上司が望まれると考え
ることができる。
実 際 、永 井( 1997)の 研 究 か ら 興 味 深 い こ と が 証 明 さ れ て い る 。永 井
は、日系企業における中国人ホワイトカラーに対し、上司のリーダーシ
ップと部下の意識の関係について研究を行った。この中で、満足できる
上 司 の リ ー ダ ー シ ッ プ 類 型 は PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型 と 並 び 、 日 本
と 同 様 な 傾 向 が 見 ら れ た 。 し か し 、 仕 事 満 足 に 関 し て は 、 P 型 > PM 型
> M 型 > pm 型 の 順 番 に 、給 与 満 足 に 関 し て は PM 型 > P 型 > M 型 > pm
型となっていて、P 機能の重要性が指摘されている。さらに、直属上司
による明確な指示の下で仕事を進めることができるかを①職務遂行、②
17
職務計画、③上司指示という3つの因子に分類し、分析したところ、3
つ と も PM 型 > P 型 > M 型 > pm 型 の 順 番 と な っ た 。 こ の こ と か ら も 、
仕 事 を 行 う 上 で 中 国 人 は P 機 能 を 重 視 し て い る こ と が 分 か る 。そ し て こ
の P 機 能 は 、現 実 的 な 仕 事 を 行 う 上 で 重 要 な 機 能 で あ り 、ま た 人 間 関 係
には重きを向けない機能である。よって、先に述べた社会背景、文化背
景とつながる結果が示されている。
ま た 、 中 国 も 日 本 と 同 様 、 ほ と ん ど の 状 況 で 、 PM 型 が 最 も 成 果 を 上
げ 、 pm 型 が 最 も 成 果 を 上 げ て い な い こ と が 分 か る 。
日 本 人 に と っ て 「 ス ト レ ス 」 と い う 言 葉 は な じ み 深 い も の だ が 、 中国
人にとっては「ストレス」について一般的な認識がされていない。しか
し近年における急速な経済成長と社会変革のため、心理的なストレスを
起 こ し や す く な っ て い る こ と は 容 易 に 推 測 で き る 。曽( 2003)は 、中 国
における職場ストレス、ストレス反応とコンピュータ化との関係ににつ
いて研究を行った。またこの研究では、中国で一般的に認識されていな
い「ストレス」知識を、質問に回答していく中で認識させていくという
目的も含まれている。この研究は、企業所有制形態の違いとコンピュー
タ化によって職場でのストレスがどの程度変わるかを検討したものであ
り、その中で、上司との関係や、対人関係を取り扱った「対人緊張感」
という項目は、どの企業形態においても高い平均値を示していた。その
他に高い平均値を示した項目は疲労、不安、抑うつであり、先に述べた
日本の職場での精神衛生と重なる部分が見られる。このことからも上司
と精神衛生の問題は中国でも起こっていて、研究を進める必要があると
考えられる。
6 、「 不 安 」 と い う 言 葉 に つ い て
18
「 不 安 」 と い う 言 葉 は 、 わ れ わ れ が 日 常 た え ず 口 に し 、 耳 慣 れ た 言葉
となっているが、その概念は明確ではない。広辞苑では「安心のできな
い こ と 。気 が か り な さ ま 。心 配 。不 安 心 。」と 定 義 を し て い る が 実 体 が つ
かみにくい表現となっている。実際、心理学的に見ても学者によって定
義 は 異 な る 。河 野・風 祭( 1987)は「 人 が 体 験 す る 感 情( 状 態・場 へ の
反応)の一種で、漠然として拡散した、浮動性の性質のもの」であると
「 不 安 」を 定 義 し た 。そ し て 、不 快 で 落 ち 着 か な い 感 情 で 、筋 緊 張 亢 進 ・
心悸亢進・息切れ・めまい・疲労感・不眠のような生理的随伴現象をと
もなったものであると述べている。
不 安 を 定 義 す る 上 で 、 よ く 用 い ら れ る 方 法 は 、「 恐 怖 」 と の 対 比 で あ
る。以下に「不安」と「恐怖」について述べる。
① 恐 怖 に は そ の 原 因 と な る 特 定 の 対 象 が 存 在 す る が 、不 安 に は 明 確 な対
象がない。
② 恐 怖 は 対 象 に 集 中 し て い る が 、不 安 は 慢 性 的 で 、漠 然 と し て い る 。つ
ま り 恐 怖 は 刺 激 に よ っ て 生 じ る が 、不 安 は 予 感・予 期・懸 念 と い っ た
個人の認知機能に大きく依存した情動である。
③ 恐 怖 に は 、そ れ を 引 き 起 こ す 対 象 か ら 逃 げ よ う 、ま た は 攻 撃 し よ う と
いう感がともなっているが、不安には無力感がともなっている。
④ 恐怖は合理的だが、不安は不合理である。
⑤ 恐 怖 は 脅 威 事 態 に 直 面 し た と き に 生 じ る 情 動 で あ る が 、不 安 は 信 号や
手 が か り を 通 じ て 未 来 の 危 険 を 感 じ る こ と で あ る か ら 、未 来 指 向 的な
情動である。
これらをまとめると、不安とは心理的、生理的な変化を引き起こし、
非合理的で、漠然とした不快な気分のことであると考えられる。そして
この「不安」感情は慢性的に生じることもあるが、職場、学校、家庭な
19
どの特定の場面で生じることもある。近年、職場での精神衛生が話題と
なっているが、その中には職場で生じる不安感情も問題となっている。
先にも述べたが、不安とは大変不快なものである。そのため、一日の三
分の一以上を過ごす職場で、不安感情を抱いていることは大変深刻な問
題であろう。このように職場での精神衛生を考える上で、不安感情は無
視できない。
ま た 、 日 本 に お い て 、 塚 本 ・ 井 形 ・ 林 ・ 鈴 木 (1995) は 、 職 場 の 精 神
衛生度を測るために、不安と抑うつのスケールを用い、職場要因との関
連 を 調 査 し て い る 。さ ら に 中 国 で は 、曽( 2003)の 研 究 で 、職 場 ス ト レ
ス の 種 類 の 一 つ と し て 不 安 が 挙 げ ら れ て い る 。こ れ ら の 研 究 か ら 見 て も 、
精神衛生の一つとして不安を取り上げるのは妥当と言えるだろう。よっ
て、このような背景から、今回の研究では、職場での不安感を測定し、
リーダーシップ類型の影響が生じるかを検討することにした。
7 、 不 安 尺 度 STAI に つ い て
上 記 の よ う に 、「 不 安 」 と い う 言 葉 の 概 念 は 人 に よ っ て 様 々 で あ り 、
大変曖昧なものである。そしてそのために、用語の統合を非常に困難な
も の に し て し ま っ た 。 Spielberger( 1966) は 、 不 安 を 「 恐 ろ し い と い
う判断を基礎にした、恐怖の予期という心理的要因が随伴する情緒」と
定義した。また、我々が感じる不安はその時々に応じて変化し、パーソ
ナリティ特性として用いられる不安は、個人によって差が出てくると考
え た 。そ し て 、
「 不 安 」と い う 概 念 の 曖 昧 さ は 、2 つ の 異 な る タ イ プ の 不
安を区別せずに使っていることに起因すると考え、2 つの異なる不安タ
イ プ 、 状 態 不 安 ( State-Anxiety) と 、 特 性 不 安 ( Trait-Anxiety) の 存
在 を 仮 定 し た ( Spielberger , 1972)。
20
状 態 不 安 と は 、 個 人 が そ の 時 お か れ た 生 活 体 条 件 に よ り 変 化 す る 一時
的な情緒状態であり、その際の生活体条件とは、主観的、意識的な緊張
や 気 づ か い な ど の 感 情 状 態 と 、自 立 神 経 活 動 の 二 面 か ら 成 り 立 っ て い る 。
つまり、状態不安の尺度では、特定時点での自己の状態についての回答
が求められる不安のことを指している。
一 方 、 特 性 不 安 と は 、 不 安 状 態 に 対 す る 、 比 較 的 安 定 し た 個 人 の 性格
傾向を反映するものである。つまり、特性不安とは、不安傾向を知覚し
やすいかの個人差に焦点を当てている不安のタイプといえる。
こ の よ う な 2 つ の 側 面 を 測 定 す る た め に 、Spielberger( 1970)は State
Trait Anxiety Inventory( STAI)を 作 成 し た 。状 態 尺 度・不 安 尺 度 共 に
4 点 尺 度 で 、20 項 目 ず つ で 構 成 さ れ て い る 。状 態 尺 度 で は 、不 安 兆 候 を
示 し た 項 目 に つ い て 、「 あ る 瞬 間 に 」 ど の 程 度 感 じ て い る ( 感 じ て い た )
かを評定するようになっている。これによって、被験者のある瞬間にお
ける不安感情の程度を求めることができる。特性尺度は、不安兆候を示
した項目について、
「 普 段 」ど の 程 度 感 じ て い る か を「 頻 度 」に 関 す る 4
点尺度で評定することが求められる。
こ の Spielberger の STAI を 元 に し て 、岸 本 と 寺 崎 (1986)は STAI( 日
本語版)を作成した。日本語として適切な表現を用いながらも、原文に
忠 実 に 翻 訳 し た も の で あ る 。ま た Cronbach の α 係 数 が 0.86∼ 0.89 の 間
にあり、妥当性は既存の尺度と比較した結果、併存的妥当性が確認され
ている。
今回は、
「 職 場 」と い う 限 定 さ れ た 場 面 で の 不 安 感 情 を 研 究 す る た め 、
STAI( 日 本 語 版 ) の 状 態 不 安 尺 度 を 用 い る 。
Ⅲ、目的
21
上 司 の リ ー ダ ー シ ッ プ が 及 ぼ す 職 場 不 安 が 日 本 人 、中 国 人 と い う 2 つ
の文化の中で差が出るのかを検討する。
上 述 し た よ う に 、 リ ー ダ ー シ ッ プ と 精 神 衛 生 に は 何 ら か の 関 連 が ある
こ と が 予 想 さ れ る 。本 研 究 で は PM 理 論 を 用 い 、調 査 協 力 者 の ア ル バ イ
ト・仕 事 先 で の 上 司 の PM 類 型 を た ず ね る 。ま た 、精 神 衛 生 の 指 標 の 一
つ で あ る 不 安 感 情 に 焦 点 を 当 て 、上 司 の PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係 を 日
本人と中国人との比較の観点から検討する。
Ⅳ、仮説
① 上 司 の PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度 は 日 本 人 と 中 国 人 と で 違 い が 生 じ
るだろう。
② 日 本 人 の 場 合 PM 型 > M 型 > P 型 > pm 型 の 順 番 で 職 場 不 安 が 低 い だ
ろう。
③ 中 国 人 の 場 合 PM 型 > P 型 > M 型 > pm 型 の 順 番 で 職 場 不 安 が 低 い だ
ろう。
Ⅴ、方法
1、調査対象
和 光 大 学 の 日 本 人 学 生 、 中 国 人 学 生 。 中 国 人 学 生 に 関 し て は 、 都 内の
他大学の大学生、大学院生にも調査を依頼した。
記 入 漏 れ や 、 回 答 に 偏 り が あ っ た 質 問 紙 を 除 き 、 日 本 人 83 名 ( 平 均
年 齢 20.8、SD 1.41、男 性 33 名 、女 性 50 名 )、中 国 人 67 名( 平 均 年 齢
24.0、 S D 3.40、男 性 27 名 、女 性 39 名 )の 計 150 名 を 分 析 の 対 象 と し
た。
22
表2 調査協力者の内訳
日本人
人数
83名
55.30%
平均年齢
20.8歳
SD
1.41
男性
33名
39.80%
女性
50名
60.20%
(欠損)
0名
大学生
83名
100%
大学院生
0名
0%
(欠損)
0名
中国人
67名
44.70%
24.0歳
3.40
27名
40.30%
39名
58.20%
1名
52名
77.60%
12名
17.90%
3名
2、調査日程・場所
2005 年 10 月 17 日 か ら 2005 年 10 月 25 日 の 期 間 中 に 、 質 問 紙 を 配
布 し た 。配 布 場 所 は 複 数 の 授 業 時 間 を 使 わ せ て も ら い 、調 査 を 実 施 し た 。
3、質問紙の構成
(1)フェイス・シート
年 齢 、 性 別 、 国 籍 、 大 学 生 / 大 学 院 生 、 ア ル バ イ ト ( 仕 事 ) の 業 種な
どから構成されている。
(2)職場での問題点(1)
本 調 査 は 、 上 司 の リ ー ダ ー シ ッ プ の あ り 方 が 職 場 不 安 に ど の よ う な影
響を与えるのかを調べるものである。そのため、職場不安に影響を与え
うる他要因を明確化する必要がある。そこで、職場での問題点(労働時
間が長い、仕事量が多い等)を挙げ、該当するものにいくつでも○をつ
けてもらった。
こ の 職 場 の 問 題 点 は 、 メ ン タ ル ・ ヘ ル ス 研 究 所 に よ る 、「『 労 働 組 合 の
23
メンタルヘルスの取り組み』に関するアンケート調査」を参考に構成さ
れ て い る 。こ の ア ン ケ ー ト 調 査 の 中 に は 、
「職場のメンタルへルスを低下
させる要因」を職場の組合員に質問している項目がある。現場の意見が
反映されているため、今回の質問項目を作成するのに参考となると考え
た。
(3)職場での問題点(2)
こ こ で の 問 題 点 は 、 日 本 国 籍 以 外 の 調 査 協 力 者 が 、 職 場 で 抱 え る 問題
のことである。文化・言語が異なるため、日本人には感じられない異文
化 問 題 が 生 じ て く る 。加 賀 美( 1999)の 研 究 を 参 考 に し 、在 日 留 学 生 が
職場で抱えうる問題点を挙げ、あてはまるものにいくつでも○をつけて
もらった。
(4)リーダーシップの測定尺度
リ ー ダ ー シ ッ プ の 測 定 に は 三 隅( 1984)の P M 指 導 行 動 測 定 尺 度 を 用
いる。これはリーダーシップを部下の主観的な判断に基づいて、上司の
リーダーシップスタイルを分類する手法であり、部下の上司に対する意
識を測定するには適切な分析手法であるといえよう。
こ の 尺 度 は 大 規 模 デ ー タ に 基 づ い て 数 回 の 因 子 分 析 を 行 い 、 項 目 の検
討を行った際、PM理論と一致した因子構造や分析結果が一貫して得ら
れている。したがって、選択されたP行動項目、M行動項目の内的一貫
性は高く、尺度の信頼性は高いといえる。
ま た 、尺 度 の 妥 当 性 は 、回 答 者 が 属 す る 各 職 場 の 生 産 性 指 数 、事 故 率 、
職務満足度、コミュニケーション、チーム・ワークなどの質問項目を作
成 し 、外 的 基 準 と し た 。そ し て 、P M 尺 度 と 外 的 基 準 と の 相 関 を 検 討 し 、
24
尺度の妥当性が確認されている。
し か し 、 内 容 が 社 会 人 向 け で あ る た め 、 学 生 の ア ル バ イ ト と い う 状況
にはそぐわない質問項目もあった。そのため、言葉のニュアンスを変え
るなどの一部修正を行っている。
ま た 、こ の PM 指 導 行 動 測 定 尺 度 は 5 件 法 を 用 い て い る が 、今 回 の 調
査 で は 、こ の 5 件 法 の 選 択 肢 の 記 述 を 変 え て 行 っ た 。例 え ば 、
「あなたの
上役は、仕事の進み具合について報告を求めますか」という項目には、
既 存 の 尺 度 の 場 合 、「 5 い つ も 求 め る 、 4 か な り 求 め る 、 3 と き に は 求 め
る 、2 あ ま り 求 め な い 、1 ほ と ん ど 求 め な い 」で 回 答 を 求 め る 。こ の よ う
に既存の尺度では、一つ一つの項目に対して選択肢が用意されている。
し か し 、今 回 の 調 査 で は 、調 査 協 力 者 が 回 答 す る の に 分 か り や す い よ う 、
ど の 項 目 に 対 し て も 同 じ 選 択 肢 の 回 答( 5 か な り そ う 思 う 、4 や や そ う 思
う 、3 ど ち ら で も な い 、2 あ ま り そ う 思 わ な い 、1 ま っ た く そ う 思 わ な い )
を用意し、質問紙を作成した。
(5)不安感情の測定尺度
不 安 感 情 は STAI( 日 本 語 版 )の 状 態 不 安 の 尺 度 を 用 い る 。STAI は定
義が曖昧である不安感情を、状態不安と特性不安に分けている。今回の
研 究 で は 「 職 場 」 と い う 環 境 を 定 め て い る た め 、 STAI の 状 態 不 安 を 用
いるのが適切だと考えた。
先 に も 述 べ た よ う に 、STAI( 日 本 語 版 )状 態 不 安 尺 度 の 信 頼 性 と 妥 当
性は証明されているため、既存のまま使用するに至った。また、本調査
では、中国人留学生も対象者にしている。そのため、質問項目の意味が
通じるように、わかりにくい言葉に関しては中国語訳も記載した。
25
(6)日常生活でのストレス経験の有無
結 婚 、 就 職 、 死 別 な ど の 経 験 は 、 不 安 感 情 に 影 響 を 与 え る と 考 え られ
る。そのため、この半年間でのストレス経験について質問を行い、あて
はまるものにいくつでも○をつけてもらった。
Ⅵ、結果
1、職場での問題点(1)
職 場 で 現 在 ( ま た は 過 去 に お い て ) 起 き て い る 問 題 点 に つ い て 答 えて
も ら っ た 。こ れ に は 、日 本 人 80 名 、中 国 人 67 名 の 有 効 回 答 が 得 ら れ た 。
そ の 結 果 を 表 3 に 示 し た 。上 位 3 位 ま で に 回 答 の 高 い 割 合 を 見 て み る と 、
日 本 人 は 「 時 給 ( 給 料 ) が 低 い (38.6%)」「 周 囲 か ら の 評 価 が 気 に な る
(20.5%)」、「 仕 事 が 自 分 に 合 っ て い な い (20.5%)」 の 順 に 並 ん だ 。 一 方 中
国 人 は 、「 時 給 ( 給 料 ) が 低 い (37.3%)」、「 周 囲 か ら の 評 価 が 気 に な る
(34.3%)」、
「 労 働 時 間 が 長 い (29.9%)」の 順 に 並 ん だ 。日 中 共 に「 時 給( 給
料 ) が 低 い 」「 周 囲 か ら の 評 価 が 気 に な る 」 の 2 項 目 が 高 い 割 合 を 示 し
た。
両 国 と も ア ル バ イ ト ( 仕 事 ) で 得 ら れ る 金 額 に は 不 十 分 さ を 感 じ てい
ること、また、職場で自分がどのように見られているか気にしているこ
とが分かった。
「 そ の 他 」で 答 え て も ら っ た 回 答 は 様 々 で 、自 分 の 能 力 が
低い、身体的に疲れる、店長が変わった、サービス残業がある、などが
あがった。
26
表3 職場での問題点(1)
労働時間が長い
仕事量が多い
周囲からの評価が気になる
周りの人とコミュニケーションがとれていない
仕事が自分に合っていないのではないかと思う
時給(給料)が低い
仕事に慣れない
その他
問題なし
日本人
7名(8.4%)
14(16.9)
17(20.5)
14(16.9)
17(20.5)
32(38.6)
11(13.3)
13(15.7)
7(8.4)
中国人
20名(29.9%)
17(25.4)
23(34.3)
10(14.9)
9(13.4)
25(37.3)
3(4.5)
2(3.0)
11(16.9)
2、職場での問題点(2)
中 国 人 留 学 生 に 対 し て 、 職 場 で 起 き て い る ( ま た は 起 き て い た ) 異文
化 問 題 に つ い て 答 え て も ら っ た 。 有 効 回 答 は 67 名 で 、 そ の 結 果 を 表 4
に示した。これを見ると、半分以上の中国人留学生が問題はないと感じ
て い る こ と が 分 か る 。し か し 、約 4 割 の 中 国 人 留 学 生 は 何 か し ら の 異 文
化 問 題 を 職 場 で 感 じ て い る こ と も 明 ら か に な っ た 。ま た 、
「日本語能力の
低 さ 」が 要 因 と な っ て 、問 題 が 生 じ て い る こ と も 分 か っ た 。
「 そ の 他 」で
は、客からの差別、文化・国籍によって仕事のやり方が異なる、という
回答が得られた。
表4 職場での問題点(2)
日本語能力の低さのため、仕事がうまくいかない
日本語能力の低さのため、職場での人間関係がうまくいかない
職場での差別
その他
問題なし
13名(19.4%)
10(14.9)
9(13.4)
5(7.5)
39(58.2)
3、PM指導行動測定尺度の信頼性と得点
本 研 究 で は 、三 隅( 1984)の P M 指 導 行 動 測 定 尺 度 を 一 部 訂 正 し たた
め 、 尺 度 の 内 的 整 合 性 を 検 討 す る た め に 、 Cronbach の α 係 数 を 算 出 し
た 。 P 行 動 の 尺 度 、 M 行 動 の 尺 度 で そ れ ぞ れ 0.68、 0.76 で あ っ た 。
27
表5 PM指導行動測定尺度の項目数とα係数
項目数
α係数
P項目
8
0.68
M項目
8
0.76
PM 指 導 行 動 測 定 尺 度 の 項 目 得 点 は 以 下 の 結 果 が 示 さ れ た 。 そ し て こ
の 平 均 値 を 基 準 に 各 被 験 者 の 上 司 の PM 類 型 を 決 定 し た 。 P 項 目 の 得 点
が 日 中 間 で 2 点 差 が 出 た が 、今 回 は 総 合 的 に 判 断 す る た め に 、総 和 の 平
均 値 を 利 用 し て 、 PM 型 に 分 類 す る こ と に し た 。 P 項 目 の 得 点 が 平 均 値
よ り 高 い 場 合 「 P」、 低 い 場 合 「 p」 と い う よ う に 、 平 均 値 よ り 高 い か 低
い か に よ っ て 、P 機 能 、M 機 能 を 測 定 し た 。そ し て 、P 機 能 、M 機 能 の
組 み 合 わ せ か ら 、 PM 型 、 P 型 、 M 型 、 pm 型 の 4 つ の リ ー ダ ー シ ッ プ
類型を決定した。
表6 PM指導行動測定尺度の項目の得点
日本人
P項目
n
83
平均値
23.1
SD
5.25
最小値
8
最大値
38
M項目
n
83
平均値
25.1
SD
6.91
最小値
8
最大値
38
P項目、M項目共に40点満点
中国人
67
24.9
5.07
12
38
67
25.2
5.82
12
37
計
150
23.9
5.23
8
38
150
25.2
6.43
8
38
4、状態不安の信頼性と得点
本 研 究 で は 、STAI( 日 本 語 版 )の 状 態 不 安 の 尺 度 を 使 用 し 、Cronbach
の α 係 数 を 算 出 し た と こ ろ 、 0.87 と い う 高 い 信 頼 性 が 算 出 さ れ た 。
職 場 不 安 の 得 点 平 均 は 、 日 本 人 の 方 が や や 高 い 得 点 を 示 し た が 、 中国
28
人と大きな差は見られなかった。
表7 職場不安の得点
日本人
n
83
平均値
47.2
SD
9.02
最小値
24
最大値
72
職場不安の得点数:80満点
中国人
67
45.0
8.28
25
73
計
150
46.2
8.74
24
73
5 、 国 籍 に よ る PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係
表8 PM型と職場不安の得点
国籍
PM型
平均値
日本
PM型
43.5
P型
53.1
M型
44.1
pm型
47.9
計
47.2
中国
PM型
43.2
P型
49.2
M型
40.8
pm型
46.9
計
45.2
全体
PM型
43.3
P型
51.2
M型
42.8
pm型
47.6
計
46.3
職場不安の得点数:80満点
標準偏差
8.61
7.53
8.43
8.69
9.02
7.34
8.65
7.19
7.52
8.18
7.84
8.03
8.03
8.19
8.69
最小値
25
37
24
27
24
27
35
25
38
25
25
35
24
27
24
最大値
58
72
60
64
72
58
73
57
60
73
58
72
57
60
72
n
19
20
20
24
83
23
18
12
14
67
42
38
32
38
150
ま ず 、P 項 目 、M 項 目 の 平 均 値 か ら 各 被 験 者 の 上 司 の PM 型 を 決 定 し 、
職場不安の平均を求めた。その結果、表8に示したように、日本では、
P> pm> M> PM の 順 番 に 、 中 国 で P> pm> PM>M の 順 番 に 職 場 不 安
の平均値が高く算出された。
次 に 、 仮 説 ① を 検 証 す る た め に 、 二 要 因 の 分 散 分 析 を 行 い 、 PM 類 型
と職場不安の程度が、国籍によって差が出るかを検討した。しかし、国
籍 と PM 類 型 に よ る 交 互 作 用 は 見 ら れ ず( F(3,142)= 0.45,n.s.)、 仮 説
29
①は検証されなかった。
また、国籍による職場不安の平均値も有意な効果は見られなかった
( F(1,142)= 2,46, n.s.)。
一 方 、上 司 の PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度 に は 差 が 出 て い る こ と が 分 か
り 、 上 司 の PM 群 に よ る 主 効 果 が 見 ら れ た ( F(3,142)= 8.94,p< .05)。
そのため、仮説②③を検証するために日本人、中国人それぞれに対し、
上 司 の PM 類 型 と 職 場 不 安 の 効 果 に つ い て 見 て い く こ と に す る 。
6 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係 ( 日 本 人 )
60
50
53.1
43.5
44.1
47.9
職 40
場
不 30
安 20
10
0
PM型
P型
M型
リーダーシップ類型
図1
PM 類 型 と 職 場 不 安 ( 日 本 人 )
pm型
ま ず 、日 本 人 の 調 査 協 力 者 か ら 見 て い く 。上 司 の PM 類 型 と 職 場 不 安
の 程 度 を 図 1 に 示 し た 。先 に も 記 し た よ う に 、日 本 人 に お け る PM 類 型
と 職 場 不 安 の 平 均 値 は 、 P> pm> M> PM の 順 番 に 職 場 不 安 の 平 均 値 が
高く算出された。
そ し て 、 先 の 結 果 を ふ ま え 、 こ の 平 均 値 の 差 を 検 討 す る た め に 、 一要
因 の 分 散 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 1% 水 準 で 群 に よ る 有 意 な 主 効 果 が
30
見 ら れ ( F(3, 79)= 5.61(p< .01))、 Tukey の HSD 法 を 用 い 、 多 重 比
較 を 行 っ た と こ ろ 、 日 本 人 で は P 型 と M 型 、 P 型 と PM 型 の 間 に 有 意
な 効 果 が 見 ら れ た( p< .05)。つ ま り 、日 本 人 の 場 合 、P 型 > M 型 、P 型
> PM 型 の 場 合 に お い て 職 場 不 安 が 高 い こ と が 示 さ れ た 。 し か し 、 そ れ
以外の類型の関係には有意な効果は見られなかった。
7 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係 ( 中 国 人 )
60
50
49.2
43.2
46.9
40.8
職 40
場
30
不
安 20
10
0
PM型
P型
M型
リーダーシップ類型
図2
PM 類 型 と 職 場 不 安 ( 中 国 人 )
pm型
次 に 、中 国 人 の 調 査 協 力 者 に つ い て 見 て い く 。上 司 の PM 類 型 と 職 場
不 安 の 程 度 に つ い て は 、図 2 に 示 し た 。先 に も 記 し た よ う に 、中 国 人 で
は P> pm> PM> M の 順 番 に 職 場 不 安 の 平 均 値 が 高 く 算 出 さ れ た 。
日 本 人 の 調 査 協 力 者 と 同 様 、 先 の 結 果 を ふ ま え 、 こ の 平 均 値 の 差 を検
討 す る た め に 、 一 要 因 の 分 散 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 5% 水 準 で 群 に
よ る 有 意 な 主 効 果 が 見 ら れ ( F(3, 63)=3.65( p< .05))、 Tukey の HSD
法 を 用 い 、多 重 比 較 を 行 っ た と こ ろ 、P 型 と M 型 の 間 に 有 意 な 効 果 が 見
ら れ た ( p< .05)。 つ ま り 、 中 国 人 の 場 合 、 P 型 > M 型 の 場 合 に お い て
31
職場不安が高いことが示された。しかし、それ以外の類型の関係には有
意な効果は見られなかった。
よ っ て 、両 国 で も 、P 型 > M 型 の 場 合 に お い て 職 場 不 安 が 高 い こ と が
示された。以下に日本人と中国人の分析結果を表に示す。
表9 PM式4類型ごとの職場不安の分散分析結果
日本人
中国人
P(53.1)*>M.PM
P(49.2)*>M
pm(47.2)
pm(46.9)
M(44.1)
PM(43.2)
PM(43.5)
M(40.8)
*:p<.05
Ⅶ、考察
1、職場での問題
当 初「 職 場 で の 問 題 点 (1)(2)」の 項 目 は 、職 場 に お け る 不 安 感 情 に 影 響
を 与 え る も の を 把 握 し 、一 層 職 場 不 安 と 上 司 の PM 類 型 の 関 連 を 見 て い
く目的で作成された。しかし、この項目に○をつけた被験者が多く、職
場での問題は多岐にわたると考えることができる。さらに言うなら、職
場不安に影響を与えるのは上司だけでなく、多くの要因からなるのだと
言えるであろう。
まず、
「 職 場 で の 問 題 点 (1)」か ら 考 え て い く 。日 本 人 は「 時 給( 給 料 )
が 低 い (38.6%)」
「 周 囲 か ら の 評 価 が 気 に な る (20.5%)」、
「仕事が自分に合
っ て い な い (20.5%)」の 順 に 並 び 、中 国 人 は 、
「 時 給( 給 料 )が 低 い (37.3%)」、
「 周 囲 か ら の 評 価 が 気 に な る (34.3%)」、「 労 働 時 間 が 長 い (29.9%)」 の 順
に ○ を つ け た 被 験 者 が 多 か っ た 。日 中 共 に「 時 給( 給 料 )が 低 い 」
「 周囲
からの評価が気になる」が上位にあがり、働いていても金銭面の不足を
感じていること、他者からの評価が気になっていることが分かる。
32
中国人留学生にとって働くことは生活を支える上で大変重要となる。
加 賀 美 (1999)も 在 日 留 学 生 の 経 済 的 困 難 を 示 し て い る た め 、給 料( 時 給 )
の低さは大きな問題となるだろう。一方、日本人学生も学生生活を送る
上でお金は使うことが多く、働いて稼ぐ必要がある。しかし、昨今の不
景気のため給料(時給)は十分に支払えているとは言えない。また、学
業と両立しているため十分にお金を得るほど働けないのも事実だ。この
よ う な 社 会 問 題 、立 場 的 問 題 か ら こ の 項 目 が 高 か っ た と 言 え る で あ ろ う 。
ま た 、「 周 囲 か ら の 評 価 が 気 に な る 」 も 上 位 に 入 っ た が 、 日 本 の 職 場
では当人の評価をきちんと当人に伝えていないことが分かる。これは日
本の文化背景から考えることができるのではないか。日本は集団への調
和や仲間意識が非常に強い。そのため評価を当人に伝えることで集団の
和を乱したくないのではないだろうか。評価を伝えることで良くも悪く
も 集 団 内 に は 変 化 が 生 ま れ る 。下 手 を す る と 調 和 が 崩 れ る か も し れ な い 。
または評価を伝えないことが当人への気づかいだとも考えられる。
そ の 他 中 国 人 は 「 労 働 時 間 が 長 い 」、「 仕 事 量 が 多 い 」 の 項 目 に ○ を つ
けた被験者が多かった。先ほども述べたが、在日留学生の多くは経済的
に困難を抱え、祖国からの仕送りだけでは生活が追いつかない。日本の
物 価 や 日 本 の 大 学 授 業 料 は 高 い た め 、毎 日 必 死 で 働 か な け れ ば な ら な い 。
このような背景から○をつけた被験者が多かったのであろう。
次 に「 職 場 で の 問 題 点 (2)」を 見 て い く 。こ の 項 目 は 中 国 人 だ け に 答 え
てもらった異文化間で生じる職場問題の項目である。しかし、これらの
項 目 に ○ を つ け た 被 験 者 は 全 体 の 4 割 で 、そ れ 以 外 の 人 は 異 文 化 間 で 生
じる職場問題を抱えていなかった。このことは被験者が大学生・大学院
生 の た め 、在 日 年 数 も 重 ね 、日 本 の 職 場 に 慣 れ て き た こ と が 考 え ら れ る 。
しかしそれに反し、
「 日 本 語 能 力 の 低 さ 」を 原 因 に 職 場 の 問 題 を 抱 え て い
33
る中国人が目立ったのも事実だ。
加 賀 美 (1999)の 研 究 か ら 、 在 日 留 学 生 に は 日 本 人 と 関 わ る 機 会 が 少 な
いことが指摘されている。また、異文化コミュニケーションギャップや
相手文化との対人関係構築の仕方の違いが原因となって日本人と関わり
にくいこと、さらには日本語能力の低さのために日本人と関わることに
ためらいを感じるという悪循環を生んでいることも示されている。この
ような日本人とのコミュニケーション障害は日本語能力を低めてしまう
と考えられる。そしてこのようなコミュニケーション障害を持つことに
より、職場でも問題を抱えやすくなるのだろう。
このように見ていくと、職場での問題は多岐に渡るため、職場不安、
職場での精神衛生は、よりマクロ的な視点で研究を進めていくことが今
後重要となると考えられる。また、職場での評価制度がはっきりしない
ことが指摘されているため、各職場では対応が必要であろう。中国人留
学生のアルバイト(仕事)の困難さも分かり、在日留学生の負担を深刻
に 考 え て い く 必 要 も あ る 。さ ら に は 、在 日 中 国 人 留 学 生 の「 日 本 語 能 力 」
に関する問題も指摘され、在日中国人留学生を取り囲むコミュニティの
変革が望まれるだろう。またそれに伴い、日本人も在日留学生と積極的
に関わろうとする姿勢や環境づくりが必要だと考えられる。
以 上 、 職 場 で の 問 題 を 考 察 し て き た 。 職 場 で 問 題 を 抱 え る こ と は 職場
での不安感につながりやすい。精神衛生を良好に保つためにも、職場で
の問題、さらには社会的な問題を改善させていくことが望まれる。
2 、 国 籍 の 影 響 に よ る PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度
本 研 究 で は 、日 本 、中 国 と い う 2 つ の 国 に 注 目 し 、職 場 不 安 に 影 響 を
与 え る PM 類 型 に 差 が 出 る か を 検 討 し て き た 。
34
そ の 結 果 、 日 中 の 国 籍 と PM 類 型 に よ る 交 互 作 用 は 見 ら れ ず 、 日 本 、
中 国 と い う 国 籍 の 影 響 に よ っ て 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度 に 差 が 出 な
い こ と が 証 明 さ れ た 。つ ま り 、文 化 や 社 会 背 景 が 異 な る こ の 2 カ 国 間 に
関しては、同じリーダーシップ類型の上司の下で働いていても、そこで
生じる不安感情に差はないということである。これは、当初立てた仮説
とは逆の結果を示している。当初の仮説では、2 つの国籍間では、文化
背景、社会背景が異なるため、望まれるリーダーシップに有意な効果が
出るというものであった。その結果、職場での精神衛生の一つである不
安感情に対しても影響を与えうるのではないかと考えるに至り、今回の
研究を行ったわけだが、この仮説を実証することはできなかった。
今回の被験者は日本にいる日本人学生と中国人留学生に対して行っ
ている。中国人留学生は、日本人学生と異なる文化を持っているのかも
しれないが、
「 日 本 」と い う 同 じ 環 境 で 生 活 を し 、仕 事 を 行 う た め 、否 応
なしに日本人的な感覚も生まれてくるであろう。また、日本という異文
化で生活を行うため、母国にいた頃とは異なる価値観を持って仕事に励
んでいる可能性もある。つまり、中国にいる中国人と日本にいる中国人
は異なる価値観を持っている可能性が高い。そのため在日中国人留学生
は、先に述べた文化的・社会的背景と若干異なるものを持っていると考
えられる。さらに、近年の日本は経済的に停滞しているといえど、先進
諸国である。一方、中国も近年著しい発展を行い、先進諸国の仲間入り
を果たそうとしている。このような経済背景があるため、日本と中国の
経済交流は大変盛んである。そしてそのために共同して仕事を行うこと
が多くあり、仕事のスタンスが似通ってきている可能性が挙げられる。
以 上 、 こ の よ う な 理 由 で 、 職 場 の 上 司 に 求 め ら れ る も の が 日 本 人 と中
国人で重なり合うようになっているのではないかと考えることができる。
35
しかし、先にも述べたよう、この研究は在日中国人留学生に対して行わ
れている。そのため、同様の研究を行ったら異なる結果が生まれる可能
性は大いに考えられる。また、先にも考察した「職場での問題」に多く
の 調 査 協 力 者 が ○ を つ け た 。そ の た め 、職 場 で の 上 司 の PM 類 型 と 職 場
不安の純粋な関係を見ることができなかった。このことからも、本研究
だけで「
、 日 本 人 と 中 国 人 に お い て 職 場 不 安 に 影 響 を 与 え る 上 司 の PM 類
型 に は 差 が な い 。」と 断 定 す る の は 難 し い と 言 え る 。ま た 、中 国 は 広 大 な
国で、同じ中国人でも地域や民族によって考え方は変わる。そのため、
地域や民族の違いを考慮した研究も今後必要となるだろう。
3 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 程 度
次 に 、 日 本 人 、 中 国 人 そ れ ぞ れ に お け る 、 PM 類 型 と 職 場 不 安 の 関 係
を 見 て い く 。今 回 の 研 究 で 日 本 人 で は P> pm> M> PM の 順 番 に 、中 国
人 で は P> pm> PM> M の 順 番 に そ れ ぞ れ 不 安 感 情 が 高 く 表 れ た が 、こ
れを見ると、M 機能が職場不安の軽減につながることが考えられる。
三 隅( 1987)に よ る と 、M 機 能 は 、集 団 の 調 和 を 尊 重 し 、集 団 員 の 結
びつきを強め、集団から阻害されている成員を受け入れ集団に同化する
よ う に す る 機 能 だ と 言 っ て い る 。こ の 点 か ら す る と 、M 機 能 は 非 常 に 人
情的な機能だと分かる。人は誰しも阻害されるより受け入れられたいと
いう欲求を持ち、集団と険悪になるより調和のとれた関係を望むもので
ある。この点は日本人も中国人も規模は異なるが、共通する特徴として
先に述べた。一方、P 機能は仕事の成果や目標に焦点を当てている機能
の た め 、集 団 の 調 和 や 個 人 の 受 け 入 れ な ど の 機 能 は 持 ち 合 わ せ て い な い 。
日 本 人 は 仮 説 通 り に 、M 機 能 を 持 つ 上 司 の 下 で 職 場 不 安 の 程 度 が 低 か
ったが、中国人にも同様な傾向が見られた。これをあえて考察するなら
36
ば 、M 機 能 の よ う に 人 情 的 な 機 能 は 国 籍 に 関 係 な く 人 間 が 本 質 的 に 求 め
るものではないのだろうか。人は生活をするために働かなければならな
い。しかし、仕事の効率や成果ばかりを気にして、自分に関心を向けて
くれない上司に不快を感じることは、国籍を越えて人間なら誰しも思う
ことであろう。さらに、在日外国人は母国を離れているため、ホームシ
ックにかかりやすい。そのような状況であるから、より一層、個人に対
する関心、気づかい、配慮は好ましいものと感じるのだろう。
先 行 研 究 や 、社 会 背 景・文 化 背 景 か ら 中 国 人 は P 機 能 を 持 つ 上 司 の 下
で 不 安 感 が 低 い と 考 え た わ け だ が 、中 国 人 が P 機 能 を 重 視 す る の は 目 標
や 仕 事 の 充 実 感 な ど に 対 し て で あ り 、精 神 的 な 健 康 は 日 本 と 同 様 、M 機
能によって支えられているのであろう。
またこのことは日本、中国それぞれで一要因の分散分析を行った結果、
P 型 > M 型 の 時 に 職 場 不 安 が 高 い こ と が 示 さ れ た こ と と つ な が る 。上 司
がひたすら仕事の指示ばかりしていたら、部下の精神状態など把握する
こ と は 難 し い 。し か し 、個 人 へ の 気 づ か い 、つ ま り M 機 能 を 持 っ て い れ
ば、個人への関わりも多くなり、より個人の状態を知ることができる。
こ の よ う に 、精 神 的 な こ と に 関 わ る た め に は 上 司 の M 機 能 が 重 要 と な り 、
M 機能が職場不安を軽減させると言えるであろう。
次 に 、 日 本 人 の 被 験 者 の 場 合 、 P 型 > PM 型 の 上 司 の 下 で 職 場 不 安 が
高く表れていることを考える。この点に関しては仮説通りである。また
上 記 と 関 連 し て 、こ の 点 か ら も 日 本 人 の 職 場 不 安 を 軽 減 さ せ る た め に は 、
P 機能だけでなく、M 機能も重要だと言うことが分かる。また、P 型よ
り PM 型 の 方 が 軽 減 す る 理 由 と し て 、 PM 型 が 4 つ の 類 型 の 中 で 一 番 バ
ラ ン ス の 取 れ た リ ー ダ ー だ と い う こ と が 挙 げ ら れ る 。三 角( 1985)も 様 々
な 研 究 か ら PM 型 の 上 司 が ど ん な 条 件 で も 一 番 優 秀 だ と 示 し て い る 。現
37
実的に考えて、仕事に意欲的で、部下対し気づかいをしてくれる上司は
理 想 的 だ ろ う 。と は 言 う も の の 、PM 型 と M 型 の 間 に は 有 意 な 効 果 が 認
め ら れ ず 、職 場 不 安 の 得 点 を 見 て も わ ず か な 差 の た め 、PM 型 と M 型 の
どちらが職場不安を与えやすいのかを考えるのではなく、日本人の職場
不安は M 機能によって軽減できると上記に述べた考察を裏付けるもの
として考えた方が妥当と言える。
ま た 、日 本 人 も 中 国 人 も pm 型 よ り P 型 の 方 が 職 場 不 安 の 得 点 は 低 か
った。日中共に有意な効果は見られなかったが、これをあえて考察する
な ら 、pm 型 の 放 任 主 義 性 に あ る と 言 え る 。pm 型 は 仕 事 の 成 果 に 対 し て
も 個 人 の 問 題 に 対 し て も 関 心 を 向 け な い 。 そ の た め 、 pm 型 の 上 司 の 下
で働くと、自由気ままに働くことができるのではないかと考えられる。
それに比べ、P 型の上司は仕事の成果や目標にうるさく言うので、個人
の 自 由 や 主 体 性 は 失 わ れ や す い 。こ の よ う な こ と か ら 日 中 共 に P 型 > pm
型の上司の下で不安感情が高まると考えられる。
以 上 、日 本 人 と 中 国 人 の 上 司 の PM 類 型 と 職 場 不 安 に つ い て 考 察 を 行
っ て き た 。PM 類 型 と 職 場 不 安 の 得 点 は PM 型 と M 型 に お い て 日 中 が 逆
転していたが、それ以外は同じ順番で並んでいた。日本人も中国人も P
機 能 よ り M 機 能 を 持 つ 上 司 の 下 で 職 場 不 安 が 低 い こ と が 分 か り 、職 場 不
安 を 抑 え る に は M 機 能 の よ う な 個 人 へ の 配 慮 、気 づ か い 、集 団 の 調 和 が
重要であることが分かった。
し か し 、職 場 不 安 に は M 機 能 が 有 効 で あ る と い う の は 、万 国 共 通 と 言
え な い だ ろ う 。今 回 は 日 本 人 と 中 国 人 を 対 象 に こ の よ う な 結 果 が 出 た が 、
他の国では必ずしもあてはまらないことを念頭に置いて外国籍の方と仕
事を行う必要がある。
ま た 、今 回 は 三 隅 の PM 理 論 を 用 い て 研 究 を 行 っ た わ け だ が 、リ ー ダ
38
ーシップのその他の理論を用いたら異なる結果が示されたかもしれない。
リーダーシップに関する理論は多く出されている。理論ごとにリーダー
シップの捉え方は異なるため、また違った視点で研究を進めることがで
きるであろう。
Ⅷ、終わりに
以 上 、本 研 究 で は 、三 隅 の PM 理 論 を 用 い て 、上 司 の リ ー ダ ー シ ッ プ
を評定し、リーダーシップ型と職場不安の関係を日本人、中国人の文化
比較の中で行ってきた。
世 界 中 の 人 と 交 流 で き る 現 在 、 自 分 の 価 値 観 や 考 え 方 だ け を 持 つ ので
は な く 、他 文 化 の 価 値 観 や 考 え 方 を 理 解 す る の は 大 変 重 要 な こ と で あ る 。
特に中国とは経済的な結びつきが強いため、職場での相互理解は必要不
可 欠 と な る 。今 回 は リ ー ダ ー シ ッ プ の PM 理 論 を 用 い て 職 場 不 安 の 程 度
を は か り 、両 国 と も M 機 能 が 職 場 不 安 を 軽 減 さ せ る こ と が 示 さ れ た 。し
かし、職場での精神衛生は多岐に渡ることも分かったため、精神衛生に
影響を与えるその他の要因に対する認知度に日中間で差が生じることも
大いに考えられる。仮に差が生じたとき、我々はどのような対応をする
のがよいだろうか。やはりお互いの文化や民族性を尊重し、互いが快適
に仕事を行える環境を目指していくのが重要であろう。
今 後 、 中 国 の 経 済 発 展 に 伴 い 、 日 本 人 と 中 国 人 が 一 緒 に 働 く こ と はま
すます増えていくと予想される。このような状況に備え、お互いの文化
や価値観を理解していこうとする心持ちが重要になってくるであろう。
今回の研究が、日本人、中国人の精神衛生を考える一つの指標となって
くれることを切に願う。
39
謝辞
本 論 文 を 執 筆 す る に あ た り 、 最 後 ま で 手 厚 く ご 指 導 し て く だ さ っ た林
真一郎助教授をはじめ、適宜なアドバイスをしてくださった諸先生、質
問紙の回収にご協力くださった諸先生方に心から感謝致します。ならび
に、質問紙に答えてくださった学生の皆様、質問紙の作成にご協力下さ
った留学生の皆様、そして最後まで支え続けてくださった臨床心理学演
習のゼミ生の方々に心から御礼を申し上げます。
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