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住 民 主 導 に よ る 防 災 集 団 移 転 の 計 画 技 術

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住 民 主 導 に よ る 防 災 集 団 移 転 の 計 画 技 術
住 民 主 導 に よ る
防 災 集 団 移 転 の 計 画 技 術
小泉地区集団移転協議会
北海道大学建築計画学研究室
株式会社アトリエブンク
小泉地区 集団移転へ
小泉地区は 3 月 11 日に十数メートルの津波に襲われ、同地区の 518 世帯の
うち 266 世帯が流出・全壊という被害を受けた。2011 年 6 月 5 日に「小泉
被災前
小泉地区の被災状況
地区集団移転協議会」を設立し、100 世帯を超える地区住民の意向を集約、
気仙沼 小泉地区
移転先の土地の候補を決めた。
震度
千年に一度といわれる未曾有の大災害。歴史を
ると、東北の沿岸部にお
5強
八戸
被災後
被災後
最大津波高さ
いて高台へ移転した集落が数多く存在する。その内のいくつかは今回の津波
20m
では被害を受けてしまったが、私たちの先人は数百年に一度の大津波を経験
死亡者数
する度に、集落を存続するための高台移転を決意してきたのである。それは
釜石
大船渡
陸前高田
気仙沼
まさに、自然の驚異を理解し自然と共存するための人間としての自然な選択
だったのだろう。人的被害を最小限に抑えた小泉コミュニティが、人間とし
40人
1809 人中
建物被害状況
全壊
石巻
て本能的な共通認識のもと、一丸となって高台移転を決意したのである。
1,118 棟
大規模半壊・半壊
仙台
85
棟
小泉地区集団移転 5つの計画原理
造成中
85
1. 等高線に沿った地盤面の設定
Plan isometric
住戸
災害公営住宅
移転する高台は、海抜 40m で水平に切り土した地盤面
集会所
店舗
を敷地としている。この設定は、ワークショップの
農業施設
初期段階から筆者ら専門家側が念頭に置
いていたものであり、できる限り
盛り土や擁壁を少なくすることを
siteplan
津谷河 河川堤防復旧計画
意図している。それにより造成に
総復旧延長 3,565m、最大復旧計画高 T+P14.7m の河川堤防。
平成 27 年の竣工を予定されている。
関わる工事費を抑えられるのと同時に、
安定した地盤面の確保が期待されるからである。
特に後者は、高台が将来の災害に対して強
でなければ、
移転すること自体が全く無意味な話となるわけであり、住民も
外尾住宅 8 戸
異論なく賛同した理由である。
津波到達ライン
2. 共有空間を中心としたゾーニング
被災跡地(旧小泉地区)
小泉の人々がワークショップを通じて頻繁に言及してきたのが、
共有空間のあり方である。かつての小泉地区は短冊状の宅地割り
で、道路からは短辺方向からアクセスする長細い敷地形状であり ,
旧小泉中学校住宅 21 戸
各宅地の敷地境界に沿って川から引き込まれた水路があったのが特
徴である。小泉の人々には、その水路で野菜を洗ったり米研ぎや洗濯をしたり
移転先
といった記憶が強く残っている。そして、道路→住宅→共有空間という配列が、
共有空間
住宅
小泉コミュニティを支える基盤として住民同士の豊かなコミュニケーションと繋
老人保健施設 はまなすの丘
小泉小学校
道路
がりを育んできたことが、ワークショップを通じて再確認された。 小泉小学校仮設住宅 10 戸
小泉中学校
3. 向こう三件両隣を継承するクラスター構成
(1) の地盤面の設定により、敷地と斜面との境界線は必然的に湾曲したものとなる。「
小泉幼稚園
既存施設へのシームレスなつながり
小泉中学校仮設住宅 93 戸
を
かけなくてもよい」「塀や障壁がいらない」など、住民が「プライバシーがないところ」が
三陸縦貫自動車道
よいところとして積極的に評価している向こう三軒両隣の関係をリアス式海岸をイメージ
宮城、岩手、青森の各県の太平洋沿
岸を結ぶ延長359kmの自動車専
用道路。東日本大震災からの早期復
興に向けたリーディングプロジェク
トに位置付けられた復興道路であ
り、歌津∼本吉間は集団移転計画地
南面より約 10m 下、海抜 30m に計
画される予定である。
させる地形を活かしたクラスターとして継承する宅地計画としている。
「だれがどこにいて何をしているかがわかる」「みんな知っているから安心できる」という
近所付き合いが小泉コミュニティの個性でありそれを存続させようとする大きな理由でもある。
4. 子どもと高齢者に優しい移動環境
遊歩道
緊急車両専用道路
道路
孫の世代のための集団移転」「歳をとったら来たくなる場所」
0
4 0 0m
200
100
5. 既存施設へのシームレスな繋がり
移転先は、ランドマークでもあった美しい小泉海岸が少しでも望める場所、そして小泉の子ども全員が通う学校高台との繋がりが重視されている。
という目標像はワークショップ初期から共有されてきた。(2)(3)
特に小泉小学校と中学校は、3 月 11 日、多くの小泉の方々が駆け上がって助かった場所である。将来の小泉人が育つ場所との繋がりを大事にし、
のゾーニングにより明確になったのが、歩車分離の構成である。
子ども達が安全に学び育つ環境を確保したいという意図で、移転する高台の場所と小中学校への動線が計画されている。
クラスターを繋ぐかたちの湾曲した幹線道路では、自動車の走行速
建設予定の三陸縦貫自動車道を横断するかたちとなっているが、隣地の老人保健施設「はまなすの丘」との関係も、子どもやお年寄りと施設の入居者が徒歩で交流できるような活動がイメージされている。
度は自然と落ちる。6∼8 戸単位のクラスターへはクルドサックで道路を引き込み、共有空間へは遊歩道で
移転先 造成地盤高さ(海抜 40m)
最大津波高さ(海抜 20m)
アクセスする。小泉コミュニティの内的な必然として到達したラドバーン式である。また、小泉の人々が
site section
ラドバーン式に愛着を抱き魅力を感じたのは、それにより実現される共有空間の豊かさである。
小泉地区の取り組み:まちづくり WS
住民一人ひとりが
まちづくりに向き合う
ワークショップ
2011 年 7 月以降、ほぼ隔週で実施してきている住民ワークショップは既
に 20 回以上を数え、2013 年 2 月時点では造成工事へ向けての実施設計
3~6
WS の流れ
暮らし方
イメージの共有
8月
9月
10 月
11月
12 月
1月
2月
3月
8/3
11 月
12 月
1月
た上で小泉がずっと元気でいる為
キーワード」をもとめて議論する。
第2回WS 「小泉地区がずっと元気でいるには ①」
8/30 第3回WS 「小泉地区がずっと元気でいるには②」
言葉によるコンセプトが共有された
後、地形模型(レリーフマップ)を
用いたイメージ共有を行う。
以前の市街地と移転先の大きさを比
べながら、スケール感・距離感のイ
メージを持つことで、リアルなまち
11/22 第8回WS「 景観を考える!」 12/23 第9回WS「 地域の絆① 」
1/17 第10回WS「 地域の絆② 」
2/3 第11回WS「 魅力のある街づくり!」
被災地の中には、震災前からすでに過疎化が進んでいた地域も少なくな
れたかもしれない。そのような小泉が集団移転までして持続するためには、
10 月
「小泉の良いところ」を話し合っ
11/7 第7回WS「 人 ∼ まち ∼ 自然 まとめ」
図面化による共有
9月
5/22 小泉地区を含む 5 地区が国土交通大臣同意取得
10/26 第6回WS「 人 ∼ まち ∼ 自然 ③」
イメージの可視化
8月
いった「小泉の個性が表現された
ティの実現が目標である。
ある。被災しなくとも数十年後には、まちをたたむのか否かの選択を迫ら
7月
のアイディアやのこすべきものと
定の運用にあるが、大きな視点でいえば小泉コミュニティのサステナビリ
慮しなくとも 30 年後には約 4 割減少するという。小泉地区もその一つで
6月
10/11 第5回WS「 人 ∼ まち ∼ 自然 ② 」
のもと、小泉コミュニティの再生へ向けて邁進している。
い。岩手・宮城・福島 3 県の沿岸部の人口は、東日本大震災の影響を考
5月
4月
9/27 第4回WS「 人 ∼ まち ∼ 自然 」
そのヴィジョンを一度も見失うことなく、協議会事務局のリーダーシップ
会」へとバージョンアップした。この株式会社化の中心的な目的は建築協
7月
7/20 第1回WS「継承すべき小泉のいいところ」
ることとなった。合い言葉は「集団移転は未来への贈り物」。小泉地区は
意団体の小泉地区明日を考える会が、「株式会社小泉地区の明日を考える
月
2013 年
9/29 小泉地区 日本建築学会復興モデル地区に選定
3/11 東日本大震災発生
11/21 平成 23 年度第 3 次補正予算成立
4/24 集団移転設立準備委員会 発足
6/5 小泉地区集団移転協議会設立 承認
12/9 気仙沼市長へ 「小泉地区防災集団移転促進事業申込書」提出
6/14 気仙沼市長に要望書提出
2/20 復興庁設置
が終盤を迎えている。住民主導による集団移転計画がそのまま事業化され
最近さらに画期的な展開があった。被災直後から地域を牽引してきた任
2012 年
2011 年
3/14 13回WS「 後世に伝える!」
良好な景観づくり
まちなみの維持管理や
運営など役割の共有
建築協定を考えるワークショップ
3/28 第14回WS「 慰霊碑を考える」
住宅の壁面後退距離を模型と CCD
カメラを用いてリアルなスケール
を体感しながら、多角的にまちな
みの景観について議論をする。
相当の知恵と努力が必要である。
4/23 第15回WS「 新しいまちづくり実践編② 後世に伝える② 」
5/21 第16回WS「 新しいまちづくり実践編 ③ 」
6/12 第17回WS「 我が家のぬくもり ① 」
自分たちが構想した住環境を維持・管理し、小泉地区で生活し続けるた
9/24 第18回WS「小泉の復興計画!」
めには、現実的にはやはりお金が必要である。小泉には、自分たちで飯を
2012 年最後のワークショップ
食っていかなければならないという自覚と覚悟がある。まだまだ試行錯誤
ではあるが、今後の様々な公共・民間事業に対して「株式会社小泉地区の
明日を考える会」が主体的に参与することで、実利的にも地域へ還元され
る仕組みづくりを目指している。
これまでの総括に加え、移転先の実施
詳細設計
各種計画の検討
設計が始まり、2013 年6月には設計
がスタートすることが住民に伝えられ
た。その後、宅地の決定方法について
集中的な議論を行う。
10/15 第19回WS「再生への近道」
11/12 第20回WS「再生への近道②」
12/10 第21回WS「再生への近道③」
12/25 WS年末総まとめ報告会
1/28 第22回WS「新しいまちづくり完結編①」
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