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父親としての理想と現実のずれが父親自身の育児ストレスに及

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父親としての理想と現実のずれが父親自身の育児ストレスに及
提出日:平成 23 年 1 月 16 日
『父親としての
父親としての理想
としての理想と
理想と現実のずれが
現実のずれが父親自身
のずれが父親自身の
父親自身の育児ストレスに
育児ストレスに及
ストレスに及ぼす影響
ぼす影響』
影響』
The effects of the gap between ideal and real of fathers
on the parenting stress of fathers
臨床心理学研究科 臨床心理専攻 1000-110701 青木千春
指導教員
長田由紀子教授
副指導教員 佐伯素子准教授
【問題】
問題】
近年の社会変動に伴い、家庭における父親の役割についての関心の高まりから、政策と
して「父親の育児参加」は奨励され、家事や育児に携わりたいと考えている父親が増加し
ている。しかし、実際には父親の家事・育児への参加はあまり進んでいないというのが現
状である。男性が家庭生活と仕事を希望通り両立することは非常に難しい現実がある。
このような現状の中で、新しい父親の理想とする形が示されている。船橋(1997)は、
父親に期待される子育て役割として「稼ぎ手」
「社会化の担い手」
「世話の担い手」の3つ
の側面をあげ、新しい父親とはその 3 つを行うトータルな存在であるとしている。しかし
一方で多賀(2006)は、稼ぎ手としての父親の扶養責任が減少しないまま父親の育児参加
を求める声だけが高まっていく現実をとりあげ、父親たちが精神的に追い込まれていく可
能性を指摘している。
父親の家事・育児参加を求めようとも、父親自身が望んでも、現実には父親の家事・育
児参加が困難というのが現状であり、このような現状は父親のストレスを高めていくこと
になると考えられる。また、実際に父親がどのような役割を理想としているのか、父親役
割のどこにストレスを感じているのか、明確になっていない。
【目的】
目的】
本研究では、幼児を持つ父親の、
「稼ぎ手」
「社会化の担い手」
「世話の担い手」の父親役
割 3 側面における理想と現実との間に生じるずれをとりあげ、父親自身の育児ストレスと
の関連を検討する。具体的には、以下の 2 点を検討していく。
1)理想と現実のずれの大きさと父親の抱える育児ストレスとの関連を検証する。
2)父親の理想と現実のずれのパターンと育児ストレスとの関連を検討する。
理想と現実にずれがないと認識をしている場合(理想=現実 ずれ0)
、理想の父親像に
比べて現実には育児や家事に参加していないと認識している場合(理想>現実 ずれ正)
、
理想よりも現実のほうが育児や家事に参加していると認識している場合(理想<現実 ず
れ負)の 3 つのパターンに分類し、育児ストレスとの関連を検討する。
【方法】
方法】
調査協力者:
調査協力者
: 関東圏内私立の 3 保育園、2 幼稚園に調査の協力を依頼した。園の職員を
通じ、計 680 名の園児の父親に質問紙と返信用封筒が配布され、回収された。回収された
質問紙は 281 部、回収率は 41%であった。そのうち保育園 103 部、幼稚園 178 部である。
父親の平均年齢は保育園:38.3 歳(SD=5.49)
、幼稚園:39.7 歳(SD=4.54)であった。
1
調査内容 ①父親の
父親の育児ストレス
育児ストレス測定
ストレス測定:
測定:岩田・森・前原(1998)の父親のストレス尺度
を使用した。この尺度は、父親の育児にかかわるストレスを測定する尺度であり、5 つの
下位尺度から構成されている。5 つの下位尺度は、
【夫婦関係】(5 項目)、
【父親であること
の喜び】(5 項目)、
【何らかの制限を受けている】 (5 項目)、
【役割負担】(5 項目)、
【子ども
の特徴/父親能力】(7 項目)である。なお、岩田ら(1998)は、
【父親であることの喜び】と命
名しているが、本研究では【不快さ】に変更している。②
②理想と
理想と現実の
現実の父親像測定:
父親像測定:父親
役割の 3 側面「稼ぎ手」
「社会化の担い手」
「世話の担い手」の「稼ぎ手」役割を反映させ
るため、田辺(2005)による父親になった実感尺度の 6 つの下位尺度のうちの「家族の支
柱」
(3 項目)を使用した。
「世話の担い手」役割を反映させるため、尾形(1995)による
父親の協力的関わりを測定する尺度の下位尺度である「妻・子どもとのコミュニケーショ
ン」
(9 項目)
「家事への援助」
(5 項目)を使用した。
「社会化の担い手」役割に関しては、
社会適応を促すためのしつけと捉え、佐藤(2011)による育児行動尺度の 3 つの下位尺度
のうちの「生活習慣のしつけ」
(6 項目)を使用した。以上 3 つの尺度を組み合わせた 23
項目を理想と現実の父親像を測定する項目とした。なお、本研究では、理想と現実のずれ
の大きさに関しては、理想と現実の父親像の 4 つの下位尺度得点の各々について、理想得
点と現実得点の差の絶対値により算出した。また、理想と現実のずれのパターンに関して
は、理想得点=現実得点の状態をずれ0、理想得点>現実得点の状態をずれ正、また理想
得点<現実得点の状態をずれ負として扱う。③
③人口統計学的変数:
人口統計学的変数:父親の年齢、同居の有
無、子どもの数、立ち合い出産の有無、父親の育児休業取得の有無、最終学歴、父親の就
労状況、母親の就労状況、1 週間の休日数・家族と食べる夕食回数(幼稚園のみ)
、父親と
母親の年収(保育園のみ)を尋ねた。
【結果と
結果と考察】
考察】
現実と理想の父親像を測定する 23 項目に対して、最尤法による因子分析(バリマック
ス回転)を行った結果、
〈妻・子どもとのコミュニケーション〉
、
〈家事への援助〉
、
〈生活習
慣のしつけ〉
、
〈経済的支柱〉の 4 つの因子が見いだされた。これら 4 つの下位因子を理想
と現実の 4 つの父親像を測定する尺度とした。
1)理想と現実のずれの大きさと父親の抱える育児ストレスとの関連
保育園/幼稚園別に、また、人口統計学的変数の中で父親像と育児ストレスに影響を及ぼ
す可能性のある「同居の有無」と「父親の育休取得の有無」を統制し、理想と現実の父親
像各ずれの大きさを独立変数に各育児ストレスの下位尺度を従属変数とした重回帰分析を
行った。その結果、
「保育園」では、
〈生活習慣のしつけ〉ずれと【何らかの制限】及び【役
割負担】との間に正の関連が認められた(β=.218*,β=.197*)
。
「同居の有無」と【役割
負担】との間に正の関連が認められた(β=.208*)
。一方、
「幼稚園」では、
〈経済的支柱〉
ずれと【不快さ】
、
【何らかの制限】
、
【役割負担】のストレスとの間に正の関連が認められ
(β=.312***,β=.321***,β=.201**)
、
〈妻・子どもとのコミュニケーション〉ずれと【子
どもの特徴・父親能力】ストレスの間では正の関連が認められた(β=.196**)
。保育園に
子どもを預けている父親においては、子どもと直接かかわるしつけで葛藤を感じることが
育児ストレスにつながり、幼稚園に通わせている父親は、経済的支柱意識に葛藤を感じる
2
ことが育児ストレスにつながる可能性が示唆された。また、妻や子どもとのコミュニ
ケーションに関する葛藤は父親のストレスにつながるという結果となった。
2)父親の理想と現実のずれのパターンと育児ストレスとの関連
父親の理想と現実のずれのパターンと育児ストレスとの関連を検討するために理想と現
実の父親像下位尺度〈妻・子どもとのコミュニケーション〉
〈家事への援助〉
〈生活習慣の
しつけ〉
〈経済的支柱〉の各ずれのパターン 0、正、負ずれと保育園/幼稚園の 2 要因を独
立変数とし、父親の育児ストレス下位尺度である【夫婦関係】
【不快さ】
【何らかの制限】
【役割負担】
【子どもの特徴・父親能力】の 5 つを従属変数とした 2 要因分散分析を行っ
た。その結果、
【夫婦関係】ストレスについては、
〈家事への援助〉ずれ(F(2,271)=3.664,
p<.05)と〈経済的支柱〉ずれ(F(2,271)=3.616, p<.05)の主効果が有意であった。Tukey
法による多重比較の結果、
〈家事への援助〉ずれについては、負ずれは正ずれより有意にス
トレスが高かく、
〈経済的支柱〉ずれについては、正ずれはずれ 0 より有意にストレスが
高い結果となった。
保育園に子どもを預けている父親においては、理想以上に子どものしつけに従事してい
ると認識していると自分の自由が制限されたようなストレスや、役割負担のストレスが高
くなることが示された。また、家事の援助に関しても、保育園に子どもを預けている父親
も幼稚園に通わせている父親も共に、過度に洗濯、掃除、食事の支度をし過ぎていると感
じる場合に様々なストレスを感じていることが示された。
本研究においては、父親自身が理想とする父親役割よりも現実に家事や育児に従事して
いると認識している方がストレスを感じているという結果となった。仕事と家庭との両立
に悩み、
育児や家事に参加したいに関わらず、
思うように参加できないという葛藤よりも、
育児や家事に参加することによって生じるストレスのほうが、当の父親にとっては深刻な
ものとなっている可能性が示唆された。
大黒柱として一家の稼ぎ手になるという経済的支柱意識のずれに関しては、ずれが正、
つまり、現状よりもっと稼がなければいけないと思っている父親は、保育園に子どもを預
けている父親も幼稚園に通わせている父親も共に、夫婦関係にストレスを感じていた。一
方、ずれが負、つまり、稼ぎ手としての役割は十分すぎるほど果たしていると感じている
父親は、父親であることの不快感や、子どもから自由を奪われたような制限ストレスや、
家庭での役割負担ストレスを感じていた。大黒柱として一家の稼ぎ手になるという経済的
支柱意識のずれは、正負どちらであってもストレスを強く感じる結果が示された。このよ
うな結果は稼ぎ手役割へのこだわりからもたらされ、そのこだわりがストレスへとつなが
っているものと推察される。
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