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中国内販ビジネスの成功シナリオ

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中国内販ビジネスの成功シナリオ
中国内販ビジネスの成功シナリオ
中国進出外資消費財メーカーの販売・マーケティング活動実態調査
目 次
はじめに
2
1.サマリー
3
2.調査の概要
4
3.中国消費財市場における内販ビジネス概況
5
4.中国消費財内販ビジネスにおける欧米系企業と日系企業の取組みの違い
10
4-1 販売・マーケティング活動の実態
10
4-2 販売・マーケティング活動を支えるマネジメント基盤
15
4-3 まとめ
19
5.内販成功度による日系企業の取組みの違い
20
6.中国消費財市場において成功するために
27
参考:アビームコンサルティングの「China Market 進出計画立案フレームワーク」
31
はじめに
2001 年 12 月の WTO 加盟以降、中国では外資企業の中国国内販売に対する規制緩和が段階的に実施されている。そ
の一環として 2004 年 6 月に施行された「外商投資商業領域管理弁法」により、流通分野の開放が進み、同年 12 月 11 日
には独資で商業企業の設立が法的に可能になった。
中国市場の成長と規制緩和の進展は、外資企業にとっては大いに魅力的に見える。実際、中国進出済みの日系企業の
多くが中国市場の開拓に躍起となる一方で、最初から国内販売を目的として新たに進出する日系企業も増えている。し
かし、中国市場で成功することは想像以上に難しく、成功している日系企業は決して多くないことも事実である。中国
市場は、グローバルトップレベルの欧米系企業から、急速に追い上げる中国企業まで、夥しい数の企業が熾烈な競争を
展開している市場であることを忘れてはならない。
それでは、こうした厳しい中国市場において勝者となるために、進出企業は何をすべきなのか。販売活動の要はマー
ケティングであるが、中国市場におけるマーケティング活動の実態を調査したレポートは皆無である。そこで我々は、
中国市場で国内販売を行っている消費財メーカーを対象にして、販売・マーケティング活動の実態を調査することにし
た。本調査で特筆すべき点は、日系企業と欧米系企業のマーケティング活動を比較検討する中から、内販ビジネスを成
功させるためのポイントを抽出したことである。
本報告書が、現在中国にて内販ビジネスの拡大に取り組まれている、あるいは、新たに中国への進出を検討されてい
る企業の皆様に、有益な情報としてご活用いただければ幸いである。
なお、本報告書を発行するにあたり、この場を借りて、調査にご協力いただいた各企業の皆様には改めて感謝申し上
げたい。
1.サマリー
中国市場には他の海外市場にはない特色があるものの、
今回の調査結果によれば、欧米系企業は中国市場を特別
レートブランド政策への注力
視せず、グローバルマネジメントの一環として中国市場
高付加価値・高品質の製品提供を基軸に、確固たるコー
を捉え、内販ビジネスで成功していることが分かった。
ポレートブランドを確立し、欧米系企業や現地企業と
本調査において焦点を当てた、中国消費財内販ビジネ
スにおける日系企業と欧米系企業の取組みの違いは、以
下のポイントに集約される。また、成功度スコアが高い
日系企業とそうでない日系企業との比較においても、同
様の取組みの違いが確認された。
 マーケティングの強化
• マーケット情報の直接収集と電子化による共有
• 現地でのテスト販売とモニター強化
• 販売・マーケティング活動に対する定期的評価の実施
 ブランドイメージの確立
• ブランドを重視したマーケティング活動
• マスメディアの有効活用と社会貢献活動を通したブラ
ンド認知度向上
 確固たるマネジメント基盤の構築
• マーケティング機能を担う組織の社内的位置付けの明
確化
• 現地経営ガバナンスの仕組みの整備
今回の調査結果や欧米系企業の成功事例等を踏まえる
と、中国内販ビジネスの拡大を狙う日系企業は、以下の
3 つのポイントに留意すべきと考える。
1)グローバルマネジメントと連動した中国マネジメントの
仕組み構築
「グローバルの視点での戦略」と「全体最適化」とい
う観点で中国市場を位置付け、グローバルマネジメン
トと連動した中国マネジメントの仕組みを構築すると
同時に、中国市場の変化に柔軟かつ迅速に対応できる
現地経営体制を確立する。その一環として、本社によ
る現地モニタリングや現地から本社へのレポーティン
グとフィードバックの仕組みを整備する。
2)高付加価値で好感度な企業イメージ確立に向けたコーポ
の差別化を図る。また、社会貢献活動等のコーポレー
トコミュニケーションを通じて、中国社会との融和を
アピールし、コーポレートブランドの認知度と好感度
の向上に努める。
3)顧客(現地)により近いポイントでの短サイクル・トラ
イアンドエラー型マーケティング活動の実践
マーケットリサーチやコールセンター等を通じて顧客
の生の声を直接的に収集し、収集した情報を製品開発
やマーケティング戦略に反映させる。そして、現地主
導でのテスト販売とモニタリングを積極的に行い、ト
ライアンドエラーでニーズに合致した製品投入を進め
る。さらに、マーケティング機能を担う組織を現地に
設置すると同時に、現地でのマーケティング活動に対
する評価基準・評価プロセスを明確にして、マーケティ
ング活動の継続的改善と効果実現につながる PDCA
サイクルを整備する。
日系企業の中には、中国市場の難しさやリスクを強調
する余り、トライアル的な位置付けで中国市場に参入し
て暫く様子を見ている企業も少なくない。一方、成功し
ている欧米系企業の多くは、中国市場の将来性を見越し
て、相当程度の投資とコミットメントを伴う本格参入を
進めている。中国市場で成功するためには、機を逸する
ことなく、できるだけ早く打ち手を施す必要がある。内
販ビジネスの拡大を考える日系企業は、前述の3つのポ
イントに留意して中国ビジネスのあり方を早急に見直し、
本格的な事業展開に向けた取組みを開始すべきであろう。
2.調査の概要
1)スペック
2)回答企業プロファイル
図1.主要製品群別構成比
 調査期間
日系企業
2004 年 11 月~ 2005 年 1 月
欧米系企業
21%
 調査対象
中国市場にて国内販売を行っている日系、欧米系消費
財メーカーの総経理・董事長、販売・マーケティング
33%
5%
31%
14%
9%
日 系 企 業 に つ い て は、 中 国 進 出 消 費 財 メ ー カ ー を
中心に 872 社をリストアップし、国内販売の有無を
10%
19%
7%
 調査方法
7%
3%
2%
5%
統括部門長
0%
14%
21%
飲食料品
輸送機器
繊維・アパレル・履物
家具・陶器
衣料品・化粧品
生活用品・雑貨
電気・機械製品
その他
確認した上で、調査票を FAX 送信して調査を実施。
図2.売上高規模別構成比
欧 米 系 企 業 に つ い て は、 消 費 財 の 国 内 販 売 を し て
日系企業
いる企業に対して、訪問調査を実施。なお、本調査の
7%
実施に際して、日系企業は株式会社サイバーブレイン
欧米系企業
0%
2%
23%
28%
ズ、欧米系企業は上海新生代市場研究有限公司(シノ
モニター)の協力を得た。
23%
 有効回答社数
24%
12%
日系企業 43 社、欧米系企業 29 社
33%
48%
1千万元未満
1億元以上10億元未満
1千万元以上5千万元未満
10億元以上100億元未満
5千万元以上1億元未満
100億元以上
図 3.内販比率別構成比
日系企業
欧米系企業
7%
0%
35%
24%
48%
69%
13%
5%
30%未満
50%以上80%未満
30%以上50%未満
80%以上
3.中国消費財市場におけ る 内 販 ビ ジ ネ ス 概 況
1)外資企業の市場占有状況
最初に、中国消費財市場における企業別シェアを見てお
こう。代表的な消費財製品について 2003 年(PC は 2004
年)上位 10 社のシェアを見てみると、デジタル製品では
グローバルで認知度の高い日系企業が一部上位を占めて
いるものの、それ以外の製品では欧米系企業が日系企業
のシェアを上回っている。
1. 化粧品・トイレタリー
製品名:メークアップ化粧品
順位
会社名
製品名:バス・シャワー関係製品
市場占有率
順位
13.7%
1
会社名
P&G
市場占有率
19.0%
16.7%
1
ロレアル
2
コティ
5.5%
2
ユニリーバ
3
資生堂
5.0%
3
花王
4
エイボン
4.2%
4
5
レブロン
3.2%
5
6
メアリーケイ
1.7%
6
ヘンケル
0.7%
7
アルティコア
1.4%
7
ジョンソン アンド ジョンソン
0.7%
1.4%
8
アルティコア
0.5%
0.9%
9
0.8%
10
8
9
コーセー
10
2. 食品
製品名:アイスクリーム
順位
4.9%
1.4%
0.8%
0.4%
コルゲート・パルモリブ
製品名:スナック菓子
会社名
1
市場占有率
順位
11.0%
1
会社名
市場占有率
8.1%
2
ユニリーバ
6.4%
2
3
ネスレ
4.7%
3
4
4.0%
4
4.2%
5
2.3%
5
4.1%
1.6%
6
4.0%
7
1.0%
7
3.2%
8
0.8%
8
2.7%
0.5%
9
2.5%
0.4%
10
2.3%
6
9
アメリカンフーズ
メドゥ ゴールド デイリーズ 10
3. デジタル製品
製品名:デジタルカメラ
7.3%
ペプシ
4.6%
製品名:PC
順位
会社名
市場占有率
順位
1
ソニー
18.3%
1
25.1%
2
キヤノン
15.5%
2
9.9%
3
オリンパス
12.4%
3
4
ニコン
10.7%
4
IBM
7.2%
5
イーストマン・コダック
9.6%
5
デル
5.1%
6
富士写真フィルム
6.8%
6
ヒューレット・パッカード
4.8%
7
サムソン
4.2%
8
コニカ・ミノルタ
4.0%
9
10
会社名
市場占有率
7.8%
Note : Data includes deskbased PCs and Mobile PCs only
3.2%
カシオ計算機
欧米系
2.3%
日系
中国系(香港・台湾系除く) その他アジア系
〔出典〕PC:ガートナー "Asia Pacific PC market to grow 12.8 per cent in 2005 says Gartner"( 2005 年 3 月 9 日 ) GJ05075
PC以外:Euromonitor『Consumer China 2005』に基づき、アビーム コンサルティングにて作成
0.3%
2)日系企業と欧米系企業の「内販成功度」比
較
する企業が最も多いのに対して、日系企業では 20 ~ 30
ポイントに属する企業が最も多い。平均スコアを見ても、
欧米系企業が 38.8、日系企業が 31.6 と、両者のスコアに
中国における消費財製品の国内販売では、欧米系企業
は 7 ポイント以上の開きがある。このように、今回の回
が比較的成功しているように見える。一方、日系企業は
答企業の成功度スコアを見ても、中国市場における内販
といえば、中国内販で成功している企業も一部あるが、
という点で、日系企業は欧米系企業に遅れをとっている
総じて中国市場の開拓では遅れをとっている印象である。
そこで、我々は「内販成功度 注」を定義して、日系企業
と欧米系企業とを比較してみた。成功度スコアの分布図
(図 6)を見ると、欧米系企業では 40 ~ 50 ポイントに属
図 4.直近 1 年間の売上高成長率
欧米系企業
4% 4%
注:「内販成功度」のスコア算定方法
1.「直近 1 年間の売上高成長率(1)」と「現在の売上高実績に対する評価(2)」の回答を数値化
→(1)×(2)=成功度 ①
2.「ターゲット市場におけるシェア(市場における地位)
(3)」と「現在の市場シェアに対する評価(4)」
の回答を数値化
→(3)×(4)=成功度 ②
3.(成功度 ① × 70%)+(成功度 ② × 30%)=内販成功度
※より客観性のある「売上高」に関連する成功度 ① のウェイトを高く設定
図 5.ターゲット市場における主要製品群のシェア
日系企業
0%
5%
欧米系企業
5%
10%
日系企業
3%
12%
26%
12%
38%
50%
43%
57%
21%
38%
48%
24%
30%未満
100%以上200%未満
トップ群
中位群
30%以上50%未満
200%以上
上位群
低位群
50%以上100%未満
図 6.成功度スコア分布
欧米系企業
40%
35
平均値=38.8
日系企業
40%
35
30
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
5
0
平均値=31.6
0
20未満 20-30 30-40 40-50 50-60 60-70 70以上
20未満 20-30 30-40 40-50 50-60 60以上
3)内販開始時期
4)販売チャネル
日系企業の中には、生産拠点として中国に進出し、そ
中国市場を開拓する上で、販売チャネルの重要性はい
の後、国内販売に乗り出したところが少なくない。調査
うまでもない。日系企業と欧米系企業による販売チャネ
結果によれば、日系企業が内販を開始した時期はばらつ
ルの活用状況を見ると、活用している販売チャネルの種
いている(図 7)。1990 年以前に内販を開始した企業が
類やその活用度については、両者の間に大きな違いは見
30%ある一方で、2001 年以降に開始した企業も 21%ある。
られない(図 8)。日系、欧米系とも、最も多く活用して
一方、欧米系企業では 1991 年~ 1995 年に内販を開始し
いるチャネルは、「他社製品も取扱う代理店・卸売業」で
た企業が半数近くを占め、2001 年以降と答えた企業はほ
あり、「百貨店・量販店との直接取引」、「自社製品のみを
とんどない。日系企業の中には早くから内販を始めた企
取扱う特約店」と続く。
業もあるが、全体としては、欧米系企業のほうが内販を
開始した時期は早かったといえる。
図 7.主要製品群の販売開始時期
50%
図 8.活用している販売チャネル種別 ①
欧米系
45%
45
40
35
30
25
20
30%
28%
24%
日系
他社製品も取扱う
代理店・卸売業
21%
百貨店・量販店等
大手小売業との
直接取引
30%
19%
10
0
52%
37%
34%
自社製品のみを
取扱う特約店
15
5
66%
53%
3%
1990年以前 1991∼1995年 1996∼2000年 2001年以降
30%
合弁先・提携先
製造業の販売
チャネル
34%
23%
10%
直営店・通信販売
その他
9%
0%
0
欧米系
2%
日系
10
20
30
40
50
60
70%
しかし、日系企業は 1 ~ 2 種類のチャネルを活用して
図 9.活用している販売チャネル種別 ②
いる企業が多いのに対して、欧米系企業は 3 種類以上の
チャネルを活用している企業が多い(図 9)。日系企業の
場合、内販を開始してからの歴史が比較的浅く、限られ
欧米系企業
日系企業
単体
34%
3種以上
38%
たマーケットでの販売を行っている場合が多い。そのた
3種以上
26%
単体
40%
め、活用しているチャネル数も限られるということかも
知れない。一方、欧米系企業は既に中国全域で内販を展
2種
35%
2種
28%
開している企業が少なくなく、マルチチャネルを活用せ
ざるを得ないという事情も考えられる。
さらに、販売チャネルに対する期待要件についても、
図 10.販売チャネルの重点評価項目
日系企業と欧米系企業に違いが見られる。欧米系の場合、
「現時点でカバーしている(あるいは将来的にカバー可能
な)地域」や「配送・保管機能等、物流関連機能の保有」
69%
カバー地域
35%
といった、デリバリーという基本機能を重要視しており、
販売チャネルについては割り切った活用をしていること
が分かる。中国の場合、卸や代理店といったインフラが
発達途上であるため、欧米系企業の割り切った考え方は
55%
物流関連機能
33%
55%
経営者の資質、
信頼性
51%
理解できる。一方、日系企業の場合は、「企業規模・経営
安定性」を重要視するとの回答が最も多く、次に多いの
55%
販売条件
60%
が「販売条件」である(図 10)。日系は販売チャネルに
対して、基本機能というよりビジネスパートナーである
41%
企業規模・
経営安定性
70%
ことを重視しているために、非常に慎重で保守的な選別
を行っていることが窺える。
14%
情報提供力
44%
10%
政府機関
との関係 0%
その他
0%
欧米系
5%
0
10
日系
20
30
40
50
60
70
80%
5)販売ターゲット
割は、高級品中心または中級品中心で、大都市部中心ま
たは都市部を販売ターゲットにしている(図 11)。一方、
次に、日系企業と欧米系企業の販売ターゲットの違い
欧米系企業の約 7 割は、中級品中心または普及品中心で、
を見てみたい。販売対象製品グレード(高級品中心、中
中国全域を対象に販売していると答えている。この結果
級品中心、普及品中心)と販売対象地域(大都市中心、
から分かるとおり、日系企業と欧米系企業とでは、販売
都市部、中国全域)を組み合わせて市場を 9 つに区分し、
ターゲットに大きな違いがあり、日系企業は比較的狭い
日系企業と欧米系企業の現状を比べてみた。日系の約 6
マーケットをターゲットとしているのが現状である。
図 11.販売ターゲット
中国全域
欧米系企業のポジション
69%
普及品中心
販売対象製品グレード
上海等の大都市中心 沿岸部都市/内陸部都市
︵最︶
高級品中心
63%
普及品中心
販売対象製品グレード
︵最︶
高級品中心
日系企業のポジション
上海等の大都市中心 沿岸部都市/内陸部都市
中国全域
販売対象地域
販売対象地域
● 成長戦略としての M&A・資本提携 ●
欧米系企業の中には、中国消費財内販ビジネスを拡大す
1999 年、ネスレは中国東部のブイヨン市場の大手である
るために、M&A・資本提携を活用する企業が多く見られる。
上海太太楽(トトレ)の株式の過半数を取得し、2001 年
仏化粧品大手のロレアルは、1997 年に市場参入して以降、
には、中国ブイヨン市場で第 2 位の四川豪吉集団と共同出
高級市場向けに 10 以上の国際ブランドを市場に投入して
資会社を設立した。この結果、ネスレは自社のマギーブラ
きた。内販ビジネスの成長を加速するために、ロレアルは
ンドに加えて、中国三大ブイヨンブランドを傘下に収め、
大衆市場への参入を決め、2003 年に「小護士」、2004
中国ブイヨン市場での地位を不動のものとした。
年に「羽西」とローカルブランドを買収した。
カルブランドの買収・資本提携は中国内販市場を拡大する
欧米系企業が多い。例えば、仏食品大手のダノンは、1996
上で最も手っ取り早い手段といえる。3 社は何れも有力ロー
年に杭州娃哈哈(ワハハ)への資本参加を皮切りに、中国飲
カルブランドを傘下に収めた後も、そのブランドを存続さ
料市場の有力ローカルブランドを相次いで傘下に収め、中国飲
せている点で共通している。
料市場でのダノングループのシェアを急速に伸ばしている。
食品大手のネスレも中国ブイヨン市場における地位を築
くために、M&A・資本提携を積極的に進めた企業である。
ロレアル、ダノン、ネスレの例が示すように、有力ロー
食品業界でも、ローカルブランド買収による成長戦略をとる
今後は欧米系企業のように、中国内販ビジネス拡大のた
めの選択肢の一つとして、M&A・資本提携を活用する日系
企業も増えるものと考えられる。
4.中国消費財内販ビジネ ス に お け る 欧 米 系 企 業 と 日系企業の取組みの違 い
4-1 販売・マーケティング活動の実態
日系企業と欧米系企業との間で、中国市場における内
販成功度に違いがあることは、既に見たとおりである。
以下では、その差が何に起因するものかを解明していき
たい。そのために、販売・マーケティング分野における
活動の実態を探ることとした。
1)販売・マーケティング活動における
重点ポイント
販売・マーケティング活動において「現在重要視して
取り組んでいる事項」について、日系企業と欧米系企業
を比較したのが図 12 である。現在重要視している上位 3
項目を見ると、日系企業、欧米系企業ともに、「効果的な
マーケティング戦略の立案と実践」、「市場に適した製品
のタイムリーな投入」、「販売力の強化」と同じ項目が挙
がっている。「今後強化したい事項」を見ても同様であ
り、強化したい項目はほぼ同じといえる(図 13)。つまり、
日系企業も欧米系企業も、重要視して現在取り組んでい
図 12.販売・マーケティング活動において重要視して取り
組んでいる事項
効果的なマーケ
ティング戦略の
立案と実践
略の巧拙なのか、施策の実行レベルの違いによるものな
のか。マーケティング活動の具体的な内容を掘下げない
と、成功度の格差をもたらす要因は見えて来ない。
マーケティング活動の取組み事項については、日系企
72%
市場に適した製品の
タイムリーな投入
70%
48%
販売力の強化
65%
24%
顧客満足度の向上
33%
41%
自社ブランドの
市場認知度向上
26%
市場に合致した
マーケティング
活動の推進
31%
35%
販売・マーケティング
活動に関する迅速な
意思決定
3%
5%
欧米系
法制度改定の 0%
情報収集 0%
日系
0 10
ること、今後強化したいことは同じでありながら、内販
成功度では欧米が優っている。では、成功度の差は、戦
72%
67%
20
30
40
50
60
70 80%
図 13.販売・マーケティング活動において今後強化したい
事項
効果的なマーケ
ティング戦略の
立案と実践
52%
58%
59%
市場に適した製品の
タイムリーな投入
53%
業、欧米系企業ともに、現在重要視している事項、将来
強化したい事項について差はないと述べた。しかし、「自
社ブランドの市場認知度向上」については、現在の取組
みでも、今後の取組みでも、日系企業と欧米系企業の違
いが大きい。中国消費財市場は、グローバルトップレベ
ルの欧米系企業から、急速に追い上げる中国企業までが
切磋琢磨する厳しい市場である。小売の現場で棚を求め
る競争は熾烈であり、ブランド力が無い製品は直ぐに追
い遣られてしまう。「自社ブランドの市場認知度向上」に
向けた取組みの格差は、内販成功度を大きく左右する要
因となっている可能性がある。この点については、後ほ
ど詳しく見ていきたい。
59%
販売力の強化
56%
41%
顧客満足度の向上
49%
自社ブランドの
市場認知度向上
52%
42%
市場に合致した
マーケティング
活動の推進
21%
26%
販売・マーケティング
活動に関する迅速な
意思決定
3%
法制度改定の
情報収集
3%
0
9%
欧米系
7%
10
日系
20
30
40
50
60
70%
10
2)販売・マーケティング活動への取組み状況
図 14.マーケティング調査分析で重視する事項
~ PDCA サイクルを如何に効果的に回すか~
ここからは、日系企業と欧米系企業の販売・マーケ
ティング活動にどのような違いがあるのかを詳しく見て
いきたい。そのために、PDCA(Plan ~ Do ~ Check ~
66%
84%
Action)のサイクルに沿って、マーケット情報収集から
の取組みレベルの違いを検証する。
① マーケット情報収集・活用
中国市場は巨大ではあるが、複雑かつ変化が激しい市
場であることは、中国進出企業の誰もが認めるところで
ある。このことは、常に市場から情報を入手しながら、
迅速に活動を修正していくことの重要性を示唆している。
それでは、中国進出企業は、どのようにしてマーケット
情報を得ているのだろうか。
41%
街頭等での
アンケート
14%
31%
インターネットでの
アンケート
ショールーム等で
のアンケート
9%
21%
7%
41%
イベント会場での
アンケート
19%
66%
自社製品
購入顧客の声
0
日系企業、欧米系企業ともに、マーケティングの基礎
日系
42%
営業活動にて
収集される社内情報
活動に対する評価・見直しまで、日系企業と欧米系企業
欧米系
52%
統計等の公開情報
65%
10
20 30
40 50
60
80
90
100%
情報として、営業等の社内情報、自社製品購入顧客の声、
統計等の公開情報を重要視している点では変わりはない
図 15.販売チャネルの情報提供力を重視する企業の割合
(図 14)。両者の違いが顕著に現れているのは、アンケー
ト等を通じたマーケット情報の収集である。欧米系企業
は、アンケート等を積極的に行い、潜在顧客を含むマー
14%
欧米系
ケットの情報を直接的に収集していることが分かる。中
国は信憑性がある統計データが十分に整備されていない
日系
44%
が、仮に統計データがあったとしても、変化が激しい中
国市場では余り参考にならない。現在の中国では、自分
の足でマーケット情報を収集することが不可欠といえる。
同じことは、販売チャネルに対する重点評価項目で、
情報提供力を重視する企業の割合にも表れている(図
15)。販売チャネルの情報提供力を重視する日系企業が半
数近くを占めているのに対して、欧米系企業は対照的に
少ない。欧米系企業は内販の歴史が長く、販売チャネル
との取引経験を積む中で、マーケット情報は自ら集める
という姿勢を強めていったのかも知れない。
11
0%
10%
20%
30%
40%
50%
日系企業、欧米系企業とも、自社製品購入者の声を重
図 16.顧客とのコミュニケーション手段
要視するとの回答が多いが、その実行レベルには差があ
るように思われる。欧米系企業の場合、コールセンター
83%
中国語ホームページ
59%
を介して顧客とのコミュニケーションを実施している企
業が 7 割を占めている(図 16)。一方、日系企業の場合、
69%
コールセンター
21%
顧客とのコミュニケーション手段としてコールセンター
を挙げた企業は2割に止まっている。
34%
ショールーム
28%
更に興味深いのは、欧米系企業は収集した市場情報を
電子データにより管理し、社内での情報共有を可能にし
24%
顧客の組織化
5%
ている点である(図 17)。IT のマーケティング活動への
活用という点で、日系企業は欧米系企業に遅れをとって
21%
直営旗艦店
28%
いることが窺える。
7%
その他
欧米系
31%
0
日系
10 20 30 40 50 60
70 80 90%
図 17.情報収集と社内共有の電子化状況
販売チャネル
との販売情報の
電子データ交換
欧米系
41%
日系
11%
販売チャネル
から収集した情報
の社内共有
59%
14%
顧客から
収集した情報
の社内共有
44%
10%
0
10
20
30
40
50
60
70%
12
② 製品
図 18.新製品比率
日系企業
欧米系企業
変化が激しい中国市場では、現地ニーズに合致した新
7%
製品を適時に市場投入することが非常に重要と考えら
33%
31%
れる。そこで、アイテム数のうち 1 年間に投入した新製
品の割合を見ると、欧米系企業の過半数が「3 割以上」
52%
41%
と回答しているのに対して、日系企業は 3 割に止まる
36%
(図 18)。
では、現地ニーズへ合致した新製品を適時に市場投入
3割以上
1割∼2割
1割未満
するために、企業はどのような取組みをしているのだろ
うか。欧米系企業では、「現地でのテスト販売とモニター
の強化」という回答が最も多く 5 割を超えているが、日
系企業では 3 割にも満たない(図 19)。中国市場では、
常に市場から情報のフィードバックを受けながら、現地
ニーズに合致した製品改良を行う必要がある。その意味
で、新製品のテスト販売とモニター強化は有効な取組み
であるといえる。これ以外に、欧米系企業と日系企業と
で差が顕著な項目としては、「製品企画開発部門の中国現
地への配置」、「製品企画開発部門の現地スタッフ化」が
あり、現地ニーズに合致した製品開発に対する意識の違
図 19.製品ラインアップ整備とタイムリーな新製品投入の
ために重視する項目
52%
新製品の現地での
テスト販売とモニター
24%
マーケティング部門と
製品企画開発部門との
コミュニケーション
48%
製品企画開発部門に
おける顧客ニーズ把握
の仕組み作り
48%
52%
57%
41%
製品企画開発部門の
中国現地への配置
12%
いが窺える。
34%
製品企画開発部門
の現地スタッフ化
21%
販売実績情報等に
基づく製品ライン
アップの定期的な改廃
積極的な取組みは
行っていない
その他
0
13
28%
38%
3%
10%
0%
欧米系
2%
10
日系
20
30
40
50
60%
③ プロモーション
の寄付を行う等積極的に行っている。欧米系企業は社会
既に見たように、販売・マーケティング活動における
貢献活動を行うだけでなく、メディアを通じて中国社会
重点項目の中で、「自社ブランドの市場認知度向上」につ
にアピールしている。日系企業の中にも社会貢献活動に
いては、日系企業と欧米系企業の間で顕著な差がある。
取り組む企業はあるが、戦略的な PR の巧さという点では、
そこで、日系企業と欧米系企業の自社ブランド認知度向
欧米系企業に遅れをとっていることは否定できない。
上のための取組みを見たのが図 20 である。この図から分
④ マーケット活動評価基準
かることは、欧米系企業は日系企業と比べて、多様な取
組みを行っていることである。特に、
「テレビ CM、新聞・
雑誌等のマスメディアの活用」は欧米系の 9 割が実施し
ているが、日系企業は 6 割である。また、欧米系の 4 割
以上が「社会貢献等の広報活動」を行っているが、日系
企業は 2 割強であり、その格差は大きい。
これまでも繰り返し述べているように、中国市場は変
化のスピードが非常に速く、意思決定の遅れは致命的で
ある。販売・マーケティング活動を実施する際には、そ
の成果を正しく評価し、その結果に基づいて修正アクショ
ンへと繋げることが重要である。このサイクルを効果的
に回すためには、マーケティング活動の評価基準を計画
中国市場におけるブランドの重要性については、日系
段階から予め設定し、活動実施中、実施後に評価基準に
企業の間でも認識されつつある。特に、コーポレートブ
基づいて成果を把握する必要がある。その意味で、販売
ランドを確立することが重要である。欧米系企業は、マ
チャネル、製品ラインアップ、広告宣伝活動の評価・見
スメディア活用から社会貢献活動まであらゆる手段を講
直しの基準が明確に存在しないとする企業が、欧米系企
じて、コーポレートブランドの確立に努めている。例え
業と比較して日系企業に目立つのは問題であるといえる
ば、コカコーラやモトローラは、「希望工程」(農村貧困
(図 21)。
地区の失学児童の就学を支援するプロジェクト)に多額
図 20.自社ブランド認知度向上のための取組み
90%
テレビCM、新聞・
雑誌等の
マスメディア
60%
41%
10%
5%
26%
0%
38%
日系
30%
広告宣伝活動の評価
・見直しタイミング
23%
5
10
15
20
25
30
35%
5%
28%
試供品の配付
35%
7%
15%
積極的な 0%
取組みは
行っていない
0
25%
製品ラインアップの評価
・見直しタイミング
23%
ショールーム開設
その他
14%
販売チャネルの評価
・見直しタイミング
欧米系
45%
社会貢献等の
広報活動
宣伝効果の
あるモニター
図 21.明確な基準が存在しない企業の割合
欧米系
13%
10
20
日系
30
40
50
60
70
80
90 100%
14
4-2 販売・マーケティング活動を支えるマネジメント基盤
前章で述べたように、日系企業と欧米系企業を比較す
ると、販売・マーケティング活動の取組みは一見すると
似ているが、活動内容や実施レベルまで踏み込むと、両
者には大きな差異があることが分かる。同じようなこと
をやりながら、内販成功度に差がある理由はこの辺りに
ありそうである。では、もう一歩踏み込んで、日系企業
と欧米系企業の実行レベルの差は何に起因するのだろう
か。いわゆる「現地化」や「現地への権限委譲」が重要
であるとされるが、本当にそうだろうか。本調査の結果
1)マーケティングの組織的位置付け
マーケティング担当部門の社内での位置付けを見ると、
欧米系企業では、
「他組織(開発・営業等)をリードする
位置付け」または「他組織と同等の位置付け」という回答
が 8 割超を占めており、マーケティング担当部門が他組織
と同等以上に位置付けられていることが分かる。一方、日
系企業の場合、
「マーケティングを担当する専任部門は存
在しない」との回答が 3 割を占め、最も多い(図 22)
。
から考察してみたい。
図 22.マーケティング部門の社内での位置付け
59%
26%
7%
他組織(開発・営業等)
をサポート
13%
10%
位置付けは明確でない
13%
0%
31%
0
15
日系
18%
他組織(開発・営業等)
と同等
専任部門は存在しない
欧米系
24%
他組織(開発・営業等)
をリード
10
20
30
40
50
60
70%
2)本国と現地との役割分担・権限委譲
「投資計画」、
「新製品投入計画」、
「販売価格」、
「販売チャ
ネル」、「広告宣伝活動」の 5 項目について、意思決定す
る際の本国と現地の役割分担・権限委譲について質問し
た。その結果を見ると、日系企業は 5 項目全てについて、
「全て現地で決定」との回答が欧米系企業を上回ることが
分かった(図 23)。一方、欧米系企業は「投資計画」を
除く 4 項目について、「現地立案・本国承認」とする回答
が日系企業を上回る(図 24)。
あり、そのために現地への権限委譲を進める必要がある
と考えていた。しかし、調査結果は、現地への権限委譲
が進んでいるのは、欧米系企業よりむしろ日系企業であ
るという意外なものであった。どうやら、現地への権限
委譲そのものが、迅速な意思決定を可能にし、内販成功
度を高めるという単純な話ではなさそうである。
欧米系
14%
14%
24%
55%
販売チャネル
63%
34%
20
30
地主導の基本方針がある」が半数を占め、「現地における
経営ガバナンスの仕組みが整備されている」や「本国で
現地をモニタリングできる仕組みが整備されている」と
40
我々が現地でインタビューした企業でも、中国市場へ
の進出に際して、本国からは、「資本枠だけが与えられ自
由裁量で事業を開始した」、「とにかく何かやってこいと
だけ指示された」との声が聞かれた。こうした状況では、
投入されたリソースの実力によって、進出の成否が大き
く左右されるものと思われる。
14%
59%
41%
50
60
34%
59%
34%
28%
販売チャネル
24%
41%
広告宣伝活動
58%
10
続く(図 25,次頁)。これに対して、日系企業の場合は、
「現
販売価格
56%
0
ニタリングできる仕組みが整備されている」が 5 割弱と
新製品投入計画
41%
広告宣伝活動
る」との回答が 6 割で最も多く、次に、「本国で現地をモ
投資計画
日系
15%
販売価格
由として、「現地における経営ガバナンスが整備されてい
図 24.現地への権限委譲(現地立案・本国承認)
図 23.現地への権限委譲(全て現地で決定)
新製品投入計画
みよう。欧米系企業では、現地での意思決定が可能な理
いう回答の割合は欧米系企業と比べて顕著に少ない。
我々は当初、中国市場では迅速な意思決定が不可欠で
投資計画
そこで、現地での意思決定が可能な理由が何かを見て
70%
欧米系
33%
0
10
20
30
日系
40
50
60
70%
16
以上のように、欧米系企業では現地での経営ガバナン
スや本国からのモニタリングが整備された上での権限委
譲がなされているのに対して、日系企業ではそうした担
保なしに権限委譲されているように見える。この違いが、
販売・マーケティング活動の PDCA サイクルのスピード
に影響しているものと考えられる。
また、中国語を母国語としないトップマネジメント(総
グローバルに事業を展開する欧米系企業の中には、本
社から中国を含む世界各地のビジネス状況をモニタリン
グできる仕組み(マネジメントコックピット)を構築・
導入しているところもある。
そうした企業の例として、P&G がある。従来、P&G
では世界の各拠点がマーケティング情報をばらばらに管
経理、董事長レベル)のビジネス中国語のスキルについ
理していた。そのため、小売店に販促を仕掛けるために、
ても、興味深い調査結果が得られた。欧米系企業では「ほ
どのインセンティブにどれだけ支出するかといった販促
とんどが話せる」との回答が 7 割超であったのに対し、
日系企業では 2 割未満に止まる(図 26)。日系企業の過
半数は、「ほとんどが話せない」との回答であった。国内
販売の最前線にいるのは中国人であり、彼らの信頼を得
計画一つをとっても、それを本社でモニタリングするこ
とができなかった。
現在、P&G では現地でのマーケティング活動を本社で
モニタリングする仕組みを構築している。具体的には、小
売サイドの販売・在庫情報収集、報奨金等のトレードファ
て、能力を存分に発揮してもらうためにも、トップマネ
ンド管理、SKU 別の製品情報管理をグローバルで共通し
ジメントが中国語でコミュニケーションできることはプ
て行うことができるプラットフォームを構築し、米国本
ラスに働くはずである。
図 25.現地での意志決定が可能な理由
現地における
経営ガバナンス
の仕組み
60%
殆どがビジネス
に必要な中国語
を話せる
47%
17%
本国の
上級役員等を
現地に派遣
約半数がビジネ
スに必要な中国
語を話せる
33%
25%
50%
0
7%
その他
8%
0%
欧米系
11%
0
10
日系
20
30
71%
16%
11%
32%
殆どがビジネス
に必要な中国語
を話せない
27%
現地主導の
基本方針
強力な
合弁パートナー
社から世界各地の活動状況をモニタリングしている。
図 26.中国語を母国語としないトップマネジメントの中国
語のスキル
36%
本国で現地を
モニタリング
できる仕組み
17
● 本社でモニタリングできる仕組みの構築 ●
40
50
60
70%
18%
53%
10
20
30
40
50
60
欧米系
日系
70
80%
3)政府機関等との関係強化
中国の法規制は変更が多い上に、運用も非常に不透明
であるとされる。そのため、地方行政府、共産党青年団、
地域団体等の様々な組織と円滑な関係を築くことが欠か
せない。政府機関等との関係強化のための取組みを見る
図 27.政府機関等との関係強化のための取組み
52%
社会活動
・寄付等
21%
31%
政府関係者との
会食、会談等
38%
と、欧米系企業は、「社会活動・寄付等に参加している」
との回答が過半数に上る(図 27)。このことは、自社ブ
ランド認知度向上の取組みとして、欧米系企業が社会貢
献等の広報活動に積極的であることにも通じる。社会活
動・寄付等を通じて、中国人にとって、また、進出した
地域にとって、「なくてはならない存在」になることは、
政府機関等との関係を強化する上でも有効である。日系
企業の中にも、地域のイベントに参加したり、寄付をし
たりして、地域との融和を図る企業もあるが、このよう
な活動は欧米系企業のほうが積極的であり、日系企業は
あまり得意としていないのが実態だろう。
21%
関係強化を重要
視していない
14%
積極的な取組み
なし(重要との認
識はある)
17%
31%
政府関係者と関
係をもつ団体、企
業、顧問弁護士と
の提携
14%
19%
政府関係者と関
係をもつ人材の
採用
その他
3%
5%
0%
0%
欧米系
10%
10%
日系
20%
30%
40%
50%
60%
18
4-3 まとめ
欧米系企業は内販成功度で日系企業を上回っているが、
その差は何に起因するものなのか。日系企業と欧米系企
特別なことをしているわけではない。彼らは日系企業と
業の販売・マーケティング活動の違いを詳しく見ること
比較して、マーケティングに力を入れ、ブランドイメー
で、両者の取組みに差がある項目を明らかにすることが
ジの確立に努め、それを可能にするマネジメント基盤を
できた。両者の取組みに格差が見られた項目は、以下の
構築している。これらの項目は、中国における国内販売
ように整理できる。
で成功するための基本と考えることもできる。
 マーケティングの強化
• マーケット情報の直接収集と電子化による共有
• 現地でのテスト販売とモニター強化
• 販売・マーケティング活動に対する定期的評価の実施
 ブランドイメージの確立
• ブランドを重視したマーケティング活動
• マスメディアの有効活用と社会貢献活動を通したブラ
ンド認知度向上
 確固たるマネジメント基盤の構築
• マーケティング機能を担う組織の社内的位置付けの明
確化
• 現地経営ガバナンスの仕組みの整備
19
こうして改めて整理してみると、欧米系企業は決して
5.内販成功度による日系 企 業 の 取 組 み の 違 い
前章では、日系企業と欧米系企業の間で、販売・マー
ケティング活動の取組みに差がある項目を整理した。日
系企業の中にも、内販成功度が高い企業は存在する。では、
1)マーケティングの強化
① マーケット情報の直接収集と電子化による共有
日系の成功企業も、欧米系企業のようにマーケティング
欧米系企業は、アンケート等を通じて、マーケット情
に力を入れ、ブランドイメージの確立に努め、マネジメ
報を直接的に収集しているという結果であったが、日系
ント基盤を構築しているのであろうか。そこで、内販成
企業においても、成功度スコアが高い企業は、欧米系企
功度のスコアに基づいて、日系企業を平均値より高い「高
業と取組み度合の違いこそあれ、アンケートを中心とし
スコア」企業と平均値より低い「低スコア」企業とに二
た顧客からの直接的な声を重視していることが分かる(図
分して、両グループの違いを見ることにする。
28、図 29)。
また、販売チャネルからの販売情報の収集や社内での
共有を電子化しているのも、成功度スコアが高い企業に
見られる特徴である(図 30)。
図 28.マーケティング調査分析で重視する情報
20%
街頭等
でのアンケート
日系(高スコア)
日系(低スコア)
9%
41%
街頭等
でのアンケート
欧米系
14%
日系
10%
インターネット
でのアンケート
インターネット
でのアンケート
9%
ショールーム等 0%
でのアンケート
20%
10
15
21%
20
25
7%
41%
イベント会場
でのアンケート
17%
5
9%
ショールーム等
でのアンケート
13%
イベント会場
でのアンケート
0
31%
30
35
40
45%
0
19%
5
10
15
20
25
30
35
40
45%
図 29.販売チャネルの情報提供力を重視する企業の割合
日系
(高スコア)
40%
日系
(低スコア)
48%
36
38
40
42
44
46
48
50%
図 30.情報収集と社内共有の電子化状況
販売チャネル
との販売情報の
電子データ交換
日系(高スコア)
16%
日系(低スコア)
6%
販売チャネル
から収集した情報
の社内共有
10%
0
10
20
30
40
50
60
70%
日系
11%
59%
14%
顧客から
収集した情報
の社内共有
10%
欧米系
41%
販売チャネル
から収集した情報
の社内共有
20%
9%
顧客から
収集した情報
の社内共有
販売チャネル
との販売情報の
電子データ交換
44%
10%
0
10
20
30
40
50
60
70%
20
図 31.新製品比率 3 割以上の企業の割合
② 現地でのテスト販売とモニター強化
欧米系企業では、新製品比率が「3 割以上」とする回
答が過半数あることから、市場ニーズに合致した適時の
日系
(高スコア)
40%
新製品投入の実行レベルは比較的高いと推測できる。日
系企業全体では、新製品比率が「3 割以上」という回答
は 3 割程度であるが、成功度スコアが高い企業について
日系
(低スコア)
23%
だけ見ると 4 割となっている(図 31)。
0
また、ニーズに合致した製品を適時に市場投入する取
5
10
15
20
25
30
35
40
45%
組みとして、欧米系企業では「テスト販売とモニターの
強化」を重視する回答が多かったが、日系企業の中でも
成功度スコアが高い企業はそうでない企業に比べ、同項
目を重視しているという回答が多い(図 32)。
③ 販売・マーケティング活動に対する定期的評価の実施
販売・マーケティング活動の実施とともに、その成果
図 32.製品ラインアップ整備とタイムリーな新製品投入の
ために現地でのテスト販売とモニター強化を重視す
る企業の割合
日系
(高スコア)
32%
を正しく評価して、その結果を次のアクションへ繋げる
ことが重要であることは前述のとおりである。そのため
日系
(低スコア)
17%
には、マーケティング活動の評価基準があることが前提
になるが、日系企業の中でも広告宣伝活動について言え
0
5
10
15
20
25
30
35%
ば、明確な評価基準が存在しないのは、成功度スコアが
低い企業の割合が多い(図 33)。
図 33.明確な基準が存在しない企業の割合
販売チャネル
の評価・見直
しタイミング
30%
製品ラインアッ
プの評価・見直
しタイミング
日系(低スコア)
26%
48%
0
10
20
30
販売チャネル
の評価・見直
しタイミング
40
50%
欧米系
14%
製品ラインアッ
プの評価・見直
しタイミング
30%
27%
広告宣伝活動
の評価・見直
しタイミング
21
日系(高スコア)
25%
10%
広告宣伝活動
の評価・見直
しタイミング
30%
5%
0
日系
25%
26%
10
20
30
40
50%
● 効果的なマーケティング活動 ●
日系消費財メーカーの中でも成功企業の代表の一社とし
て名を連ねるある企業に対し、マーケティング活動の実施
状況についてインタビューを通して確認した。当社は、中
国全域で主に各省部に展開する特約店経由で自社製品を販
売している。対象とする製品グレードはプレミアム製品で
あり、敢えてミドル・マス層に対して別ブランドを打ち出
して拡大することは考えず、地域展開を中心に成長してき
た企業である。
マーケティング調査分析では、政府統計データから顧客
アンケート調査結果まであらゆる情報を活用しているが、
統計データはメッシュが粗く信用度も低いため、もっぱら
顧客からの情報を自ら収集することで対応している。特に
既存客よりも見込み客からの情報を重視し、例えば、自社
で調査設計したアンケートをショールーム来訪者に対して
定期的に実施している。こういった顧客からの収集情報は、
開する手法を採っているため、精度の高い需要予測が実現
できている。
マーケティング活動に対する評価・見直しについても、
客観的な基準を設け定期的に実施している。販売チャネル
に関しては、代理店と評価基準(KPI)を設定し、3 ヵ月ご
との実績で評価している(契約は 1 年更新)。製品ラインアッ
プの評価は四半期ごとに行っており、価格を含めた見直し
は、日本市場よりも柔軟に行っている。広告宣伝活動は年
に一度、ブランド認知度を定量的に測定している。
更に、中国市場においては販売チャネル政策が重要だと
考えており、上述の通り、厳しくドライな関係を維持する
一方で、代理店の経営者を日本に招聘し、日本市場におけ
る当社ブランドの認知度の高さやサービスイメージを体感
してもらうような努力をしている。
現地に存在する開発・生産部門と共有し、また、販売管理
「『先を読む力』が大切であり、現時点で成功していても
システムで処理した販売実績情報を生産計画へリンクする
安心できない。」インタビューの締め括りで聞かれたこの言
等、マーケティング調査結果が製品開発へと反映されてい
葉が、変化の激しい中国市場で一旦築いたポジションを持
る。開発された新製品の市場投入時には、上海をパイロッ
続させることがいかに難しいかを物語っている。
トエリアとして販売を開始し、その結果をベースに全国展
22
2)ブランドイメージの確立
② マ ス メ デ ィ ア の 有 効 活 用 と 社 会 貢 献 活 動 を 通 し た
ブランド認知度向上
① ブランドを重視したマーケティング活動
販売・マーケティング活動で現在重視して取り組んで
いる事項として、欧米系企業の回答比率が日系企業を大
きく上回ったのは、「自社ブランドの市場認知度向上」で
ある。日系企業の中でも成功度スコアが高い企業は、そ
うでない企業と比較して、当該事項の取組みレベルに大
きな差があることが分かった(図 34)。
自社ブランド認知度向上の取組みとして、欧米系企業
は多様な取組みをしており、特に、「テレビ CM、新聞・
雑誌等のマスメディアの活用」と「社会貢献等の広報活
動」で日系企業との格差が見られた。日系企業においても、
成功度スコアが高い企業は欧米系企業と同様の傾向が確
認された(図 35)。
図 34.自社ブランドの市場認知度向上を重点とする企業の割合
日系
(高スコア)
40%
日系
(低スコア)
0
13%
5
10
15
20
25
30
35
40
45%
図 35.自社ブランド認知度向上のための取組み
テレビCM、
新聞・雑誌
等のマスメ
ディア
テレビCM、
新聞・雑誌
等のマスメ
ディア
68%
52%
37%
社会貢献等
の広報活動
日系
(高スコア)
10%
0
日系
(低スコア)
20
40
60
80
100%
90%
60%
45%
社会貢献等
の広報活動
欧米系
23%
0
20
日系
40
60
80
100%
● 困難なブランドイメージ浸透 ●
全世界で複数事業ドメインを展開するある日系企業は、今
今回実施した調査の中で、特にマーケティング活動に関
回の調査でも成功度スコアの上位企業群に属し、中国市場
する項目について、当社の回答内容を同業種の欧米系企業
での実績を着実に積み上げている。当社は中国市場をグロー
と比較したところ、非常に類似した傾向が見られた。総体
バルの生産拠点と位置付けているが、今後は中国市場での
的に取組みレベルが高く、グローバル戦略に基づいたマー
内販ビジネスを現在より拡大することを目論んでいる。
ケティングが上手く機能していることが十分窺えるが、そ
海外事業展開の歴史が古く、中国市場を自社製品の販売
地域のひとつとして捉えている当社であるが、目下のとこ
ろグローバルブランド統一の壁にぶつかっている。特に中
国では、簡体字で表記される企業名は定着しているが、製
品ブランドとしての浸透度は決して高くなく、企業イメー
ジとリンクした認知度の向上が課題となっている。
23
れでも中国市場でブランド認知度を向上させるのは至難な
ことなのだろう。
3)確固たるマネジメント基盤の構築
① マーケティング機能を担う組織の社内的位置付けの明確化
欧米系企業では、マーケティング担当組織の位置付け
は、「他組織(開発・営業等)をリード」または「同等」
という回答が大半を占めている。日系企業の場合、成功
度スコアが高い企業であっても、マーケティング担当組
織の「位置付けが明確ではない」、「専任部門は存在しな
い」との回答が半分を占める(図 36)。重要なことは、マー
ケティング専任部門という箱を作ることでなく、実質的
なマーケティング活動であるということである。
図 36.マーケティング部門の社内での位置づけ
他組織(開発
・営 業 等 )を
リード
日系(低スコア)
19%
他組織(開発
・営 業 等 )と
同等
他組織(開発
・営 業 等 )を
リード
日系(高スコア)
17%
24%
他組織(開発
・営 業 等 )を
サポート
19%
22%
位置付けは
明確でない
28%
10
20
13%
10%
30
40
13%
専 任 部 門 は 0%
存在しない
33%
0
7%
位置付けは
明確でない
5%
専任部門は
存在しない
59%
26%
他組織(開発
・営 業 等 )を
サポート
6%
50
60
70%
日系
18%
他組織(開発
・営 業 等 )と
同等
28%
欧米系
24%
0
31%
10
20
30
40
50
60
70%
24
② 現地経営ガバナンスの仕組みの整備
以上のように、成功度スコアが高い日系企業は、マー
最後に、現地経営ガバナンスの仕組みについて見てみ
ケティングに力を入れ、ブランドイメージの確立に努め、
よう。欧米系企業では、「全て現地で決定」というよりも
それを可能にするマネジメント基盤を構築していること
「現地立案・本国承認」のパターンが多く、本国でのグロー
が確認された。この結果、先に挙げた項目は、中国の国
バルコントロール下で機動的に事業が展開されていると
内販売で成功するための基本ポイントであることが改め
いえる。日系企業においても、成功度スコアが高い企業
て確認された。
では、同様のパターンが多く見られる(図 37、図 38)。
更に、欧米系企業では、現地での意思決定が可能な理由
として、「現地における経営ガバナンスの仕組みが整備さ
れている」との回答が多かったが、日系の成功度スコア
が高い企業でも同様の傾向が見られる(図 39)。
図 37.現地への権限委譲(全て現地で決定)
日系
(高スコア)
10%
投資計画
19%
日系
(低スコア)
35%
新製品投入計画
45%
販売価格
50%
販売チャネル
76%
55%
広告宣伝活動
25
10
20
30
40
50
60
41%
24%
56%
55%
販売チャネル
63%
34%
広告宣伝活動
60%
0
14%
販売価格
67%
日系
15%
新製品投入計画
48%
欧米系
14%
投資計画
70
80%
58%
0
10
20
30
40
50
60
70
80%
図38.現地への権限委譲(現地立案・本国承認)
65%
投資計画
30%
新製品投入計画
45%
35%
日系
(高スコア)
日系
(低スコア)
35%
30%
0
10
20
30
34%
59%
34%
28%
販売チャネル
14%
広告宣伝活動
41%
販売価格
24%
販売チャネル
59%
新製品投入計画
38%
販売価格
14%
投資計画
52%
40
50
60
70
80%
24%
41%
広告宣伝活動
欧米系
33%
0
10
20
30
40
日系
50
60
70
80%
図39.現地における経営ガバナンスの仕組みが整備されてい
る企業の割合
日系
(高スコア)
47%
日系
(低スコア)
0
26%
10
20
30
40
50%
26
6.中国消費財市場におい て 成 功 す る た め に
海外市場は本社から距離的にも時間的にも離れており、
経営環境も大きく異なることが多い。そのため、海外市
場に対するアプローチの仕方も様々である。
1)グローバルマネジメントと連動した
中国マネジメントの仕組み構築
どの海外市場についてもいえることであるが、局所的
例えば、意思決定とオペレーション権限の所在を見た
な視野で中国を捉えるのではなく、「グローバルの視点で
場合、本社が直接的に管理をする「本社主導型」と意思
の戦略」と「全体最適化」という観点から中国を位置付
決定権限を現地に委譲する「現地主導型」の 2 つのパター
けることが重要である。すなわち、グローバル市場にお
ンに大別される。弊社のコンサルティング経験によると、
ける中国市場の戦略的位置付けや、グローバルサプライ
外資系企業が日本市場に進出する場合、販売業務・チャ
チェーンにおける中国拠点の位置付けを時間軸の中で明
ネル政策等は日本のオペレーションに任せるものの、製
確にした上で、戦略的方向性を実現するための中国マネ
品開発・マーケティング等は本社主導で行うことも多い。
日本市場は、新規参入企業による顧客ベース構築が難し
ジメントのあり方を考えるべきである。
例えば、ある企業では、中国を生産拠点として位置付け、
いことや、複雑な流通チャネルへの対応の問題もあり、
製品の主要販売先を日本や欧米市場とし、中国市場での
同業の日系企業と業務提携、合弁会社設立、あるいはM
販売展開は次ステップと考えている。一方、別の企業で
&A等で市場参入するケースも目立つ。
は、中国市場をメインターゲットとして捉え、現地での
では中国市場ではどうか。中国市場には、他の海外市
場にはない固有の特色もある。例えば、①法制度を含む
市場環境の変化の速さ、②ターゲット層の多様性(所得
水準、地域格差等)、③地域間のインフラ格差、④大陸文
化に根ざした合理主義、⑤現地企業の急速な台頭、⑥ニ
セモノ製品による知的財産権の侵害等である。しかしな
製品開発と販売活動を進めている。また、ある企業では、
中国において高付加価値製品戦略を展開するために、日
本で生産した高技術・高品質製品を、中国市場に輸出す
ることを検討している。このように、企業が採り得る方
向性には様々な可能性があり、それぞれの方向性に合っ
たマネジメント形態を検討することが重要である。
がら、今回の調査結果では、欧米系企業は中国市場を特
また、本社で的確な判断と指示ができるように、現地
別視せず、グローバル戦略・グローバルオペレーション
の業績指標(Key Performance Indicator, KPI)を本社で
の一環として中国市場を捉え、内販ビジネスで成功して
モニタリングできる仕組み(マネジメントコックピット)
いることが分かった。
の構築、現地・本社間の迅速なレポーティング・承認・
それでは、日系企業は、どのようなポイントに留意し
て中国内販ビジネスを展開すべきであろうか。今回の調
査結果や欧米系企業の成功事例等を踏まえると、以下の
3つのポイントが重要であると考える。
1)グローバルマネジメントと連動した中国マネジメントの
仕組み構築
2)高付加価値で好感度な企業イメージ確立に向けたコーポ
レートブランド政策への注力
3)顧客(現地)により近いポイントでの短サイクル・トラ
イアンドエラー型マーケティング活動の実践
フィードバックができる仕組みを整備することも重要な
課題である。欧米系企業の場合、中国市場のための仕組
みを特別に用意するのではなく、ERP 等グローバル展開
しているマネジメントの仕組みをそのまま中国でも展開・
活用している企業が多い。これらの欧米系企業はグロー
バルマネジメントの一環として中国マネジメントをうま
く機能させている例といえる。
一方で、グローバルマネジメントという観点から、本
社の位置づけと現地の役割の明確化、そして、中国市場
の変化に柔軟かつ迅速に対応できる現地経営体制を確立
することも必要である。そのためには、優秀な現地人材
を獲得・育成することが欠かせない。例えば、信賞必罰
の業績評価制度やインセンティブ制度の整備、定量的な
目標設定と成果に応じた昇進や処遇への反映、体系的な
教育制度の確立等を進める必要があるだろう。
27
2)高付加価値で好感度な企業イメージ確立に
向けたコーポレートブランド政策への注力
ンド)政策を採っている企業も多い。例えば、欧米系企
中国市場における外資系企業の参入や現地企業の台頭
場の高所得者層をターゲットに販売展開し、そこで築い
は目覚しく、市場における差別化や知名度・認知度向上
た高付加価値・高品質なイメージで中所得者層にアプロー
は重要な課題となっている。プロダクト広告やプロダク
チを進めて成功している企業も多い。日系企業でも、マー
トブランド強化だけでは、個別製品での価格・機能等の
ケティング戦略・製品開発戦略等と連動させ高付加価値・
比較となり、類似製品・模倣品を提供する中国現地企業
高品質なコーポレートブランドを確立している企業もみ
との価格競争に巻き込まれる恐れがある。そこで、中国
られる。
社会の背景やカルチャーを尊重しつつ、コーポレートブ
② 社会貢献活動等による中国社会との融和のアピールと好
ランドによる差別化に取組むことが不可欠である。同時
業では、グローバルのブランド力を梃子にして、中国市
感度向上
に、定期的なブランドポジショニング調査を通じて、中
高付加価値イメージの確立とは別に、社会貢献活動等
国市場へのコーポレートブランド浸透状況を確認し、施
のコーポレートコミュニケーション活動を通じて、中国
策の評価・見直しを行うことも必要な取組みといえる。
社会との融和をアピールし、コーポレートブランド認知
中国市場におけるコーポレートブランド政策には、以下
度と好感度の向上に努めることも重要である。欧米系企
の 2 つの柱がある。
業では、例えば、学校・研究機関等への寄付・寄贈、スポー
① 高付加価値・高品質なコーポレートブランドイメージの
ツ・文化行事等への協賛、身障者の社会活動支援等の社
会貢献活動を積極的に行い、それを戦略的にプロモーショ
醸成
特定セグメントにおいて、戦略製品・戦略サービスの
提供等により、高付加価値・高品質というイメージを確
ンしている。このような活動においても、欧米系企業は
日系企業よりも先行している。
立するコーポレートブランド(あるいはカテゴリーブラ
コーポレートブランド構築の各社取組み
会社名
ポイント
資生堂
自社の強みを活かし、高級ブラン
ドを確立
自社の強みである基礎化粧品開発力を活かした、中国人向けブランドを立ち上げ、販売チャ
ネルでの高サービス、口コミ・雑誌を通じた宣伝によって、他高級ブランドとの差別化を
実現。
高級ホテル等への展開を通じた高
級ブランドとしての確立と、高所
得者層への浸透
高付加価値製品を政府外交施設や最高級ホテル等に提供することで、高級ブランドとして
の地位を獲得。さらに、広告宣伝活動や代理店ショールーム等を用いて、高所得層を中心
とした個人需要開拓を展開。
先進技術を活かした環境問題への
取り組みをアピール
省エネルギー製品の普及キャンペーン実施、自社拠点の CO2 削減等、中国の環境保全に積
極的に関与。また、中国清華大学と共同で省エネルギーや空気質向上のための研究を進め
る等、教育・R & D の分野でも貢献。さらに、それらの取組みを「中国版地域環境報告書」
として報告することで、環境企業としての地位を確立。
オムロン
企業PRと社会貢献活動を組み合
わせたコーポレートコミュニケー
ションに注力
メディア等を用いた積極的な企業PR活動や社会貢献活動を行い、中国社会との調和・融
合をアピールするとともに、グローバル統一のコーポレートコミュニケーションを中国で
も展開。
コマツ
高付加価値・高品質製品と販売チャ
ネル力等よりブランドイメージを
確立
GPS搭載製品等、高付加価値・高品質製品の市場への投入、及び“一省一代理店”の独
占契約での高品質な地域密着型販売チャネルを展開することで、建設機械における確固た
るブランドを確立。
TOTO
ダイキン
内 容
資料:雑誌記事・企業ホームページ情報を基にアビーム コンサルティングにて作成
28
3)顧客(現地)により近いポイントでの
短サイクル・トライアンドエラー型
マーケティング活動の実践
中国市場での販売・マーケティング活動においては、
変化の早い中国市場では、現地主導によるテスト販売
とモニタリングといったトライアンドエラー型の取組み
を通じて情報を収集し、ニーズに合致した製品投入を行
特に、以下の 3 点が重要である。なお、個々のマーケティ
うことが重要となる。欧米系企業では、グローバルでの
ング活動については、現地主体で進めるケースが多いと
マーケティング戦略・製品開発戦略等との整合性を確保
想定されるが、本社と現地のそれぞれのマーケティング
するために、新製品投入に関する最終的な意思決定を本
部門の役割を明確にした上で、グローバルレベルでのマー
社で行う企業が多く見られる。意思決定権限を本社が持
ケティング戦略・製品開発戦略等と、現地でのマーケティ
つべきか、現地に権限委譲すべきかについては、グロー
ング活動との整合性を確保した形で進める必要がある。
バル戦略やグローバルオペレーションの形態、本社意思
① 顧客の声を直接収集する仕組みづくり
決定システムの整備度合(本社の承認・フィードバック
中国現地の顧客の声を直接収集する仕組みが整備され
ていない日系企業は多い。代理店等を経由して収集した
2 次情報ではなく、マーケットリサーチやコールセンター
等を通じて、顧客の生の声を直接的に収集する仕組みを
構築することが重要である。この顧客情報は、製品開発
等を行う上では必須であることから、特に、製品開発を
現地以外で行っている企業にとっては、顧客情報の収集
とレポーティングの仕組みを構築することは、最重要課
題といってよい。
29
② トライアンドエラー型の新製品投入試行と情報収集
の速さ)等を考慮した上で決める必要がある。
③ 現地マーケティング機能の整備とマーケティング活動の
PDCA サイクル強化
以上見てきたように、中国市場において成功するため
には、グローバル戦略・グローバルオペレーションの一
欧米系企業では、マーケティング部門を現地に設置し、
環として中国市場を捉え、グローバルマネジメントとの
本社のマーケティング部門との役割を明確にしている企
整合性がとれた形での中国マネジメントの仕組みづくり、
業も多い。顧客ニーズ情報収集、販売チャネル政策、広
コーポレートブランド政策、現地マーケティング活動を
告宣伝活動といった現地主導で行うマーケティング活動
進めていくことが重要であるといえる。
についても、明確な評価基準を設けて評価・見直しを行っ
ている企業も多い。一方、日系企業では、現地でのマー
ケティング活動を重視していない企業も多く、マーケティ
ング活動に対する評価基準も曖昧である。現地のマーケ
ティング活動に対する評価基準・評価プロセスを明確化
し、定期的な評価をルール化することで、マーケティン
グ活動の継続的改善と効果実現につながる PDCA サイク
ルを整備することが必要である。
しかしながら、日系企業の中には、中国市場の難しさ
やリスクを強調する余り、トライアル的な位置付けで中
国市場に参入して暫く様子を見ている企業も少なくない。
一方、成功している欧米系企業の多くは、中国市場の将
来性を見越して、相当程度の投資とコミットメントを伴
う本格参入を進めている。中国現地企業との業務提携・
合弁会社設立・M&A等も積極的に行っている。本調査
結果からも窺えるとおり、日系企業と欧米系企業での中
国市場での成功レベルの違いや成長スピードの差は歴然
としている。
中国市場は、外資企業の新規参入と現地企業の台頭に
よって競争は益々厳しくなっている。中国市場で成功す
るためには、機を逸することなく、できるだけ早く打ち
手を施す必要がある。内販ビジネスの拡大を考える日系
企業は、前述の 3 つのポイントに留意して中国ビジネス
のあり方を早急に見直し、本格的な事業展開に向けた取
組みを開始すべきであろう。
図 40.中国消費財市場において成功するための 3 つのポイント
グローバルマネジメント
と連動した中国マネジメ
ントの仕組み
中国消費財市場
における成功要因
高付加価値&好感度
イメージを確立するための
コーポレートブランド政策
顧客(現地)により
近いポイントでの短サイクル・
トライアンドエラー型
マーケティング活動
30
参 考 :アビームコンサルティングの「China Market 進出計画立案フレームワーク」
現在中国市場に進出を計画している、あるいは既に進
のマーケティング方法論を駆使し、更に中国ならではの
出はしているが、今後更なる飛躍を画策している日系企
特殊事情を盛り込み、最終消費者への販売を主体とした
業の数は少なくない。ただ、我々からの提言にもあるよ
消費財メーカー向けの様々なケースに対応可能なフレー
うに、これら日系企業の投資規模や、本社からのガバナ
ムワークを開発した。
ンス指針、中国市場の認識度合い等、それぞれが企業に
より異なる。ゆえに、事業を成功へ導くための決定的な
処方箋は存在しない。
「China Market 進出計画立案フレームワーク」は、(1)
進出市場及び事業の決定、(2) 該当事業の現地における事
業計画の策定、(3) 実行計画の策定、(4) 実施及び評価(必
我々アビームコンサルティングでは、日系企業のアウ
要に応じた見直し)の 4 つの大きなステップから構成さ
トバウンド(海外への進出)支援、外資系企業のインバ
れている。その (1) ~ (3) の簡単な概要を以下に示す(図
ウンド(日本への進出)支援のプロジェクトをこれまで
41)。
数多く経験してきた。これらのプロジェクト実績と独自
図41.アビームコンサルティングの「China Market 進出計画立案フレームワーク」
進出計画/実行プロセス
コーポレートマター
リージョンマター
31
主な成果物
終了基準
0.進出戦略の策定
 進出の目的
 進出の中長期ビジョン
(0) 進出の意志決定
1.新市場参入
戦略の策定
 進出市場と進出事業
 進出シナリオ
 事業性概算評価
(1) 進出市場及び事業決定
2.新市場展開方針の
策定
 セグメント優先順位
 マーケティング基本方針
 事業性評価
(2) 事業計画の策定/修正
3.新市場展開
オペレーション具体化
 オペレーション別実行計画
 オペレーションプロセス別管理方針
 取引要件
(3) 実行計画の策定/修正
4.新市場展開/
実施/評価/
 事業/計画進捗
 事業/計画評価
(4) 実行及び計画の評価
1) 進出マーケット(エリア)及び事業の決定においては、
3) 事業性の確認以後は、進出戦略に基づき、マーケット
対象マーケットの概要を把握し、前提条件や成功要因
のビジネス環境に依存する商慣習、契約や債権管理、
分析に基づいて進出事業ドメイン、進出シナリオ及び
採用、政府対応等も含めた具体的な業務プロセスの検
事業性の概算評価を行なう
討を行なう
2) 進出決定以後は、事業部レベルで詳細なセグメント分
図 42 は、各ステップ内のアプローチを示したものであ
析とビジネス環境の再確認を行い、これに基づいて
るが、詳細なタスクについては、事前に準備されたテン
マーケティング基本方針を策定し、進出の最終的なP
プレートをクライアントに合わせて適宜改修し、実行可
/Lシミュレーションを行う
能なレベルまで弊社が側面支援している。
 既に進出済みの企業は、新たな基本方針の枠組み
をここで策定する
図42.進出計画/実行プロセス
①「対外貿易法」
( 94年7月)
● 生産型外資企業は、
第9条但し書きにて、自社設備・原材料の輸入及び自社
製品の輸出が認められた。
②「外商投資商業企業試点弁法」
( 99年6月)
● 外商投資商業企業試点企業は、
自社取扱商品の輸入及び国産品の輸出が
認められた。
③「外商投資企業の輸出入経営権拡大の関連問題に関する通知」
( 01年7月)
①保税区における貿易公司の設立
②外商投資商業企業の設立
③地域統括会社認定を受けた投資性公司の設立
④サンプル輸入販売権をもつ投資性公司の設立
●輸出額1000万ドル以上の製造業による自社製造商品以外の輸出が認めら
れた。また傘型企業及びR&Dによる試験的少量輸入も認められた。
④「外商投資物流企業試点設立業務展開の関連問題に関する通知」
( 02年7月)
●物流企業へ貿易権の試験的付与が認められた。
⑤「中外合弁対外貿易公司設立に関する暫定弁法」
( 03年3月)
●当法に基づき設立された合弁企業は、自社製品以外の輸出入が認められ
た。
⑥「外商投資輸出調達センター設立に関する管理弁法」
( 03年12月)
●外資企業100%の輸出調達センター設立が可能になり、国産品の購入から
輸出及び、買付に必要なサンプルの輸入が認められた。
⑦「外国企業の投資による投資性公司の設立に関する規定」
( 04年3月)
●傘型企業は「地域本部」の認定をうけることで、親会社製品の輸入販売が
認められた。
※保税区内企業も輸出入可能。
1.1.進出対象市場把握
1.
新市場参入
戦略の策定
自社分析/顧客/消費者分析
競合分析
チャネル構造分析
● ビジネス環境分析
・ 政治/経済/社会情勢/環境
・ 外国資本への政策・制度
・ 資金調達/金融制度等
●
●
参入事業及び優先順位の決定
●
●
●
●
●
●
●
セグメント定義
セグメント別内部/外部環境分析
セグメント別成功要因抽出
セグメント別評価
2.2.ビジネス環境の再確認
1.4.シナリオ別事業性評価
参入形態の骨子策定
進出業態の骨子策定
●
●
●
法規制/税制度/優遇措置等
の確認
許認可手続き/リードタイム
等の確認
2.3.マーケティングMix策定
製品戦略の策定
販売戦略の策定
・ チャネル・提携戦略の策定
・ 自社営業戦略の策定
● 価格戦略の策定
● プロモーション戦略の策定
●
現地向け研究開発/商品化プロ
セスの検討
購買/生産/販売プロセスの検討
● 生産プロセスの検討
● 営業組織体制
・ アカウントマネジメント
・ 営業評価体制
・ 営業スキル/教育
・ アフターサービスプロセス
●
●
物流プロセスの検討
人事プロセスの検討
政府対応プロセスの検討
● 現地パートナー選定
概算レベルにおけるP/Lシミュ
レーションおよび投資対効果
分析
2.4.事業性評価
●
●
3.1.オペレーション・マネジメント構築
3.
新市場展開
オペレーション
具体化
1.3.参入シナリオ策定
●
2.1.市場セグメント分析
2.
新市場展開
方針の策定
1.2.事業ドメイン決定
事業計画としてのP/Lシミュレー
ションおよび投資対効果分析
3.2.インフラストラクチャ・マネジメント構築
●
●
●
●
●
●
経営管理組織/会議体の検討
経営管理プロセスの検討
経営管理指標の検討
その他現地共通基盤
・ 設備計画の検討
・ IT導入計画の検討
●
32
アビーム リサーチのご紹介
アビームリサーチは、アビームコンサルティングの社内シンクタンク部門であり、経営トップが直面する重要な経営課
題に焦点を当てて、独自の調査データに裏付けられた実践的なオピニオンを発信しています。アビームリサーチに関す
る詳しい情報は、下記までお問合せください。
アビームリサーチ
ディレクター
木村 公昭
[email protected]
アビーム コンサルティングのご紹介
アビームコンサルティングは、戦略、BPR、IT、組織・人事、アウトソーシング等の専門知識と豊富な経験を持つ約 2,000
名のコンサルタントを有し、金融、製造、流通、エネルギー、情報通信、公共等の分野の企業・組織に対して、幅広いコ
ンサルティングサービスを提供している総合マネジメントコンサルティングファームです。
著者
木村 公昭
アビームリサーチ ディレクター
[email protected]
池田 良夫
戦略ビジネス事業部 プリンシパル
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四十谷 裕之
製造 / 流通事業部 シニアマネージャー
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芳野 剛史
戦略ビジネス事業部 シニアマネージャー
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