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平成28年版情報通信白書の概要 - ITU-AJ

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平成28年版情報通信白書の概要 - ITU-AJ
平成28年版情報通信白書の概要
総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課 情報通信経済室
1.はじめに
総務省では、
「平成28年版情報通信白書」を2016年7月
2.ICTによるイノベーションと経済成長
(1)少子高齢化等我が国が抱える課題の解決とICT
29日に公表した。
少子高齢化の進行により、我が国の生産年齢人口は
今回の白書は、特集テーマを「IoT・ビッグデータ・AI
1995年をピークに減少に転じており、総人口も2008年を
~ネットワークとデータが創造する新たな価値~」とし、
ピークに減少に転じている。総務省「国勢調査」によると、
IoT・ビッグデータ・AI等の新たなICTについて、その進
2015年の総人口(年齢不詳人口を除く)は1億2520万人、
展状況と社会経済全体にもたらす変化を展望している。
生産年齢人口(15歳~ 64歳)は7592万人である。14歳以下
第1章「ICTによるイノベーションと経済成長」では、
の人口は1982年から連続して減少が続いており、少子化に
IoT・ビッグデータ・AI等新たなICTによる経済成長への
歯止めがかからない実態が改めて浮き彫りになっている。
貢献経路について、供給面と需要面から整理し、それぞ
少子高齢化やそれに伴う人口減少は、我が国経済の供
れの経路について事例や企業の取組状況等を交えながら、
給面と需要面の双方にマイナスの影響を与え、我が国の中
ICTが経済成長に与える潜在的効果を定量的に検証してい
長期的な経済成長を阻害する可能性がある。様々なデータ
る。また、ICTがもたらす非貨幣価値(消費者余剰等)に
を収集し(IoT)
、蓄積し(ビッグデータ)
、処理・分析す
ついても考察している。第2章「IoT時代におけるICT産業
る(AI)ことで、現状把握、予測、機器・サービスの制
動向分析」では、経済成長への貢献が期待されるICT産業
御を行い、経済成長につなげ、新たな価値の創造や課題
について、IoTの進展を踏まえた上で全体構造の整理を行
解決に貢献することが期待されている。
(図1)
*1
い、ICT機器・サービスの各市場規模や成長性、競争環境
等について定量的に検証している。第3章「IoT時代の新
製品・サービス」では、IoT時代の新たなICT機器・サー
(2)経済成長へのICTの貢献
~その具体的経路と事例分析等~
ビスとして、現在注目されているフィンテック、シェアリ
我が国が抱える少子高齢化等の課題を踏まえ、ICTが経
ングエコノミー等を取り上げ、それぞれ認知度、利用意向
済成長にどのように貢献するか、2020年頃までの期間を対
等の国際消費者アンケート結果による比較を踏まえなが
象に供給面、需要面のそれぞれについて、計4つの類型、
ら、それらの現状や課題等について分析している。また、
計8つの経路に類型化し、分析を行った(図2)
。
医療、教育など公共分野における先進的なICT利活用事例
4類型の1つ目、
「企業の生産性向上」に関して、人口減
や、熊本地震におけるICT利活用事例も紹介している。第
少社会においては、
「生産性」の改善こそ重要であるとの
4章「ICTの進化と未来の仕事」では、ICTの進化が雇用
指摘がある。白書本文ではICTによる企業の生産性向上の
や働き方に与える影響について概観した上で、急速な進歩
意義について確認した上で、具体的な経済貢献の経路と
を遂げる人工知能(AI)を取り上げ、その現状や日米就
して「ICTに係る投資」及び「ICTの利活用」について説
労者アンケート結果による比較等を交えながら、今後必要
明している。
とされるスキルの変化と求められる教育・人材育成の在り
4類型の2つ目、
「労働参加拡大と労働の質向上」では、
方について検証している。
テレワークの活用やICTによる労働力代替、ICTを使いこ
なす人材の雇用等を取り上げている。
経済成長を生み出すには、供給力のみならず需要の裏
付けも必要である。4類型の3つ目では、スマートホーム、
*1 本白書は、情報通信白書ホームページ(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html)において、全文を
公開している。
ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11)
41
スポットライト
■図1.IoT・ビッグデータ・AIが創造するあらたな価値
■図2.ICTによる経済貢献経路
テレマティクス保険、ネットショッピングといった事例や
(3)経済成長へのICTの貢献~定量的・総合的な検証~
各種統計、推計を交え、ICTによる「新商品・サービスに
IoT・ビッグデータ・AI等のICT投資等が進展した際に、
よる需要創出」について取り上げている。
実質GDPがどのくらい押し上げられるか推計を行ったとこ
4類型の4つ目では、
「グローバル需要の取り込み」に着
ろ、2020年度時点で約33.1兆円の押し上げ効果があること
目し、
「輸出や海外投資」
、
「インバウンド需要等の喚起」
が分かった。要因別に見ると、全要素生産性*2の寄与度が
の2経路に分けて概観している。
大きくなっており、ICTは全要素生産性の寄与度を高める
効果が期待される(図3)
。
*2 生産要素(労働、資本)以外で付加価値増に寄与する部分。具体的には、技術の進歩、労働者のスキル向上、経営効率や組織
運営効率の改善など。英語ではTFP(Total Factor Productivity)という。
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ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11)
■図3.ICT成長シナリオによる実質GDPの押し上げ効果
(4)経済社会に対するICTの多面的な貢献
る。また、IoTが生み出すビッグデータを解析・応用する
ICTは既存統計のみではとらえきれない非貨幣価値の創
技術として期待されているAIの進展もIoTによる市場の創
出にも貢献している。白書本文では、
「消費者余剰」
「時間
出を加速させる。第二に、新しいビジネスの展開が進む中
の節約」
「情報資産(口コミ、レビュー等)
」の3類型を取
で、従来のICT産業の事業者間のみならず、ICT利活用産
り上げ、各類型の事例や定量的推計を紹介するとともに、
業を含む異業種・異分野からの参入事業者との間で、デー
これらが社会にもたらすインパクトの将来展望も行ってい
タがもたらす新たな付加価値やビジネスを巡る競争が進展
る。
することが予想される。
3.IoT時代におけるICT産業動向分析
(1)IoTがもたらすICT産業構造の変化
インターネット技術や各種センサー・テクノロジーの進
このように、既存のICT基盤とIoT・ビッグデータ・AI
による新たなICTの潮流が相互に影響し合いながら、新し
いICT産業としてエコシステムを形成していくことが予想
される。
化等を背景に、パソコンやスマートフォンなど従来のイン
ターネット接続端末に加えて、家電や自動車、ビルや工場
など、世界中の様々なモノがインターネットにつながり始
めている。IoT(Internet of Things)時 代においては、
(2)市場規模等の定量的な検証
IoT時代のICT産業を「コンテンツ・アプリケーション」
「プラットフォーム」
「ネットワーク」
「デバイス・部材」の
こうしたインターネットにつながるモノが爆発的に増加し
大きく4つのレイヤー(階層)に分類して概観すると、
「ネッ
ていくことが予想される。IHS Technologyの推定によれ
トワーク」
「デバイス・部材」の下位レイヤーは、既に世
ば、2015年時点でインターネットにつながるモノ(IoTデ
界的に普及していることから、移動体を中心としてその規
バイス)の数は154億個であり、2020年までにその約2倍の
模は大きいが、成長率の観点からはとりわけ「デバイス・
304億個まで増大するとされている。
部材」レイヤーは低くなっており、スマートフォンを中心
こうしたインターネットに接続するモノやデータの爆発
に急速に成長した「人」向けデバイスの成長は今後鈍化
的な増大は、既存のICT産業や市場の構造にどのような変
することが予想される。
化を与えるのであろうか。
他方「コンテンツ・アプリケーション」や「プラットフォー
第一に、新たな市場の創出や既存のICT産業、市場の
ム」の上位レイヤーは、現在の市場規模は前述の下位レイ
発展が予測される。新たな市場の創出としては、様々なデ
ヤーと比べて小さいが、成長率が高いことから、今後ICT
バイスから収集されるビッグデータの付加価値に着目し
産業の付加価値は全体的に上位のレイヤーへとよりシフト
た、新たなサービスやアプリケーションの創出が想定され
していく蓋然性が高くなっている。
ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11)
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スポットライト
■図4.IoTの進展に係る指標化と国際比較
(3)国際的なIoTの進展状況
国際企業アンケート結果に基づき、各国のIoT進展状況
を指数化するとともに、IoT進展の環境要因として鍵を握る
無線通信インフラの整備状況に関連する指標を定義し、こ
れらの2つの指標について6か国(日本、米国、英国、ドイ
ツ、韓国、中国)のマッピングを行った。日本はIoTの進
展に係る課題としてインフラ面での課題を指摘している企
業の割合が国際的に低かったが、統計から見ても同様に、
日本はインフラ整備状況に比してIoT進展指数が低いた
め、人材の育成や、ユーザー企業へのIoTのユースケースの
紹介等、IoT利活用を進める施策が求められている(図4)
。
4.IoT時代の新製品・サービス
(1)IoT時代の新たなサービス
IoT時代を象徴する新サービスとして、フィンテックや
シェアリングエコノミー等が登場している。これらのサー
ビスの認知度・利用意向・利用率を6か国(日本、米国、
英国、ドイツ、韓国、中国)の利用者にアンケート調査に
て尋ねたところ、我が国は概して他国よりも低い結果と
■図5.個人向け資産管理サービスの認知度・利用意向・利用率
なった(図5)
。ICTを利活用した新たな商品・サービスは、
需要創出による経済成長への貢献が期待できるが、現状、
マートフォンの利用率を前述の6か国分年代別に比較する
日本の消費者の認知度等は低いため、情報提供や不安の
と、日本は約60%と他の国と比較して低い結果となった。
軽減が必要と考えられる。
年代別にみると、20代では87%だが、特に50代以上におい
てスマートフォンの利用率が低く、フィーチャーフォンの
(2)スマートフォンの普及とICT利活用
利用率が高い傾向にあることが分かった。
(1)のような新たなサービスが可能となったのは、
スマー
トフォン等のICT端末やソーシャルメディア等の各種ICT
サービスが普及したことが土台にあると考えられる。ス
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ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11)
(3)公共分野における先端的ICT利活用事例
ICTは社会課題の解決にも貢献しており、白書本文では
公共分野における事例を紹介している。また、熊本地震に
つある。例えば、テレワークによって場所にとらわれない
おけるICT利活用事例についても取り上げている。
働き方が可能になることに加えて、
シェアリングエコノミー
やデジタルファブリケーションの普及は、個人が組織に属
5.ICTの進化と未来の仕事
さずオンデマンド的に就労する機会を拡大しつつある。こ
(1)ICTの進化と雇用、働き方
のような新しい働き方は、人々が多様で柔軟な働き方を選
ICTの進展は、それまで人が行っていた業務をICTが代
択することを可能にし、ワーク・ライフ・バランスの向上
替する雇用代替効果と、ICTを利活用することによる付加
につながることが期待されている。
価値の向上や新規事業の創出によって雇用を増やす雇用
しかし、テレワーク、シェアリングエコノミー、デジタ
創出効果の両面をもたらす。
ルファブリケーションなどのICTの進化によって実現する
ICTによる雇用の代替については、これまでのICT化は、
と考えられる様々な新しい働き方について魅力を感じるか
定型的業務(例:会計事務や生産工程)を代替する一方、
どうかを日米の就労者に尋ねたところ、全ての働き方につ
非定型業務(例:研究職や営業職)や手仕事業務(例:
いて、米国が日本を上回る結果となっており、我が国の就
販売事務)は代替してこなかったことが先行研究 によっ
労者が働き方に対して変化を求めていないことが推察され
て明らかとなっている。しかしながら、近年のAI技術やロ
る(図6)
。
*3
ボティクスの急速な進歩によって、非定型的な知的業務や
複雑な手仕事業務も将来的には機械によって代替されると
(2)AIの現状と未来
の見方が強まりつつある。
AIという言葉が初めて世に知られたのは、1956年の国
ICTの進展は人々の働き方にも大きな変革をもたらしつ
際会議の場であり、比較的最近のことと言える*4。AIは、
■図6.魅力を感じる働き方(日米)
*3 池永肇恵(2009)
「労働市場の二極化-ITの導入と業務内容の変化について-」
『日本労働研究雑誌』
*4 ダートマス会議において、計算機科学者のジョン・マッカーシーが命名した。
ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11)
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スポットライト
大まかには「知的な機械、特に、知的なコンピュータプロ
AIを使う側の立場に立って、今の仕事・業務を続けよう
グラムを作る科学と技術」 と説明されているものの、そ
と対応・準備する」とする人が多くみられ、AIの普及に
の定義は研究者によって異なっている状況にある。その背
供えて、それを使いこなせるようにし、今の仕事・業務に
*5
景として、まず「そもそも『知性』や『知能』自体の定義
適応させるための対応・準備を重視する姿勢がうかがえる。
がない」ことから、人工的な知能を定義することもまた困
一方、日本では、
「対応・準備については、特に何も行わ
難である事情が指摘されている*6。
ない」とする人が過半数を超えており、今後AIが普及浸
ディープラーニングを中心としたAIは、今後、識別・予
透していく中で、AIを活用する流れから、取り残される人
測の精度が向上することによって適用分野が広がり、かつ、
が出てくることが懸念される(図7)
。
複数の技術を結合することで、実用化に求められる機能が
今後私たちの生活や仕事にAIが広く普及していくこと
充足されるといった発展が見込まれている。
は確実であり、AIに関わる取組みを怠ってしまう方が国の
成長を妨げ、結果として雇用への悪影響を及ぼす可能性
(3)AIの進化が雇用等に与える影響
があることが示唆された。AIの利活用を促進するために
AIの普及によって想定される雇用への影響について、
は、AIに対する正しい理解の浸透、AIの実用化に従事す
社会的なコンセンサスが得られていると考えられるものと
る優秀な人材の育成、AIの導入・活用を意思決定できる
して、AIが生み出す業務効率・生産性向上と新規業務・
経営者の増加、AIという手段を使った何かを実現したい
事業創出の2つの効果と、雇用の基礎を構成するタスク量
という意欲や主体性、生活や仕事の中にAIを取り込んで
の変化が挙げられる。
良い使い方を見出す創造性の習得など、AIに対して積極
AIの業務効率・生産性向上効果により、AIが導入され
的に関わる姿勢が必要になる。強い問題意識のもと、政府
る職種のタスク量は減少が見込まれる。一方、AIの新規
や一部の企業によるAIへの取組みは急速な広がりを見せ
業務・雇用創出効果としては「AIを導入・普及させるた
ており、官民一体となったさらなる取組みが期待される。
めに必要な仕事」や「AIを活用した新しい仕事」が創出
され、これら新しく創出される職種のタスク量が増加する
ことが見込まれる。新しく創出されるタスク量が減少する
タスク量を上回り、全体のタスク量が増大するような社会
が理想的であり、今後、AIによる新規業務・事業創出が
果たすべき意義・役割は大きいと考えられる。
(4)必要とされるスキルの変化と求められる教育・人材育
成の在り方
AIの活用には様々なステップがあるため、AIの活用が
一般化する時代に求められる人材や能力は、多岐にわたる
可能性がある。
AIの普及に向けた今後の対応・準備については、日米
の就労者はどのように考えているのだろうか。
米国の就労者は「AIの知識・スキルを習得するなど、
■図7.人工知能(AI)の普及に向けた今後の対応・準備
*5 人工知能学会ホームページ「人工知能のFAQ」
(http://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIfaq.html)
*6 松原仁 人工知能学会会長「第3次人工知能ブームが拓く未来」
(https://www.jbgroup.jp/link/special/222-1.html)
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