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JAFA設立20周年記念シンポジウム

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JAFA設立20周年記念シンポジウム
JAFA設立20周年記念シンポジウム
(記録集)
航空物流の将来展望
∼アジア市場を中心に∼
平成23年10月25日(火曜日)
シンポジウム 午後2時∼5時
交流会
午後5時∼6時
(グランドプリンスホテル高輪)
主催:社団法人航空貨物運送協会(JAFA)
目次
■ 開催概要
P2
■ シンポジウム
Ⅰ 主催者挨拶
JAFA
中村次郎会長
Ⅱ 来賓ご挨拶
国土交通省
Ⅲ 基調講演①
東京海洋大学海洋工学部情報工学科
兵藤哲朗教授
P7-P14
Ⅳ 基調講演②
JAFA
中村次郎会長
P15-P19
藤岡博政策統括官
Ⅴ パネルディスカッション
P4
P5-P6
P20-P40
モデレーター
東京海洋大学海洋工学部情報工学科
兵藤哲朗教授
パネリスト
関西大学政策創造学部
白石真澄教授
三菱商事㈱物流本部戦略企画室
田村幸士室長
BIAC(国際航空貨物航空会社委員会 )
平田邦夫会長
ジェトロ・アジア経済研究所研究企画部
平塚大祐部長
JAFA
矢野俊一副会長
■ 資料
基調講演①
東京海洋大学海洋工学部情報工学科兵藤哲朗教授 講演資料
P41-P80
基調講演②
JAFA中村次郎会長 講演資料
P81-P88
■ 報道状況
P89
■ 実施体制
P90
1
JAFA設立20周年記念シンポジウム
■
開催概要
1
開催日時
平成23年10月25日(火)
シンポジウム 午後2時∼5時
交流会
2
午後5時∼6時
開催場所
シンポジウム グランドプリンスホテル高輪 プリンスルーム
交流会
3
グランドプリンスホテル高輪 クラウンルーム
開催趣旨
わが国生産拠点のアジア等海外諸国への大幅な移転によってわが国をめぐる物流構造は大き
な変化を遂げつつあり、このような状況の中で近年わが国を中心とする航空物流は伸び悩みを余
儀なくされている。
本シンポジウムは、このようなわが国をめぐる物流構造の変化の実態等を明らかにしつつ、ア
ジア市場を中心とした航空物流の将来像を展望し、航空物流を再び成長軌道に乗せるための取組
みや航空物流がわが国経済の発展のために果たすべき役割等について、可能な限り具体的な処方
箋を提示しようとするものである。
また、このシンポジウムには、航空物流関係者はもとより学生等を含む幅広い者の参加を促す
ことにより、航空物流に対する社会的な理解の増進を図ることとする。
4
開催テーマ
航空物流の将来展望∼アジア市場を中心に∼
5
プログラム
14時00分∼14時04分
主催者挨拶
中村次郎
社団法人航空貨物運送協会会長
(日本通運(株)代表取締役副社長)
14時05分∼14時11分
来賓ご挨拶
藤岡 博
国土交通省政策統括官
14時12分∼14時48分
基調講演①
2
兵藤哲朗氏 東京海洋大学海洋工学部流通情報工学科教授
14時49分∼15時12分
基調講演②
中村 次郎 社団法人航空貨物運送協会会長
(日本通運(株)代表取締役副社長)
15時12分∼15時23分
休憩
15時23分∼17時00分
パネルディスカッション
モデレーター:兵藤哲朗氏 東京海洋大学海洋工学部流通情報工学科教授
パネリスト :白石真澄氏 関西大学政策創造学部教授
(順不同)
田村幸士氏 三菱商事物流本部戦略企画室長
平田邦夫氏 BIAC(国際航空貨物航空会社委員会)会長
(日本航空株式会社執行役員貨物郵便本部長)
平塚大祐氏 ジェトロ・アジア経済研究所研究企画部長
矢野
俊一 社団法人航空貨物運送協会副会長
(郵船ロジスティクス(株)代表取締役会長)
17時00分∼18時00分
交流会
6
参加者
①
②
参加人数
シンポジウム
240名
交流会
140名
シンポジウム参加者内訳
正会員
94名
準会員、賛助会員、地方協会会員
15名
航空会社
24名
上屋
9名
荷主等
52名
官庁
19名
学生
5名
プレス
7
22名
記念誌等の配布
全参加者に当協会設立20周年記念誌「JAFA20年の歩み」と「Profile of JAFA」を
配布。
3
■ シンポジウム
Ⅰ
主催者挨拶
社団法人航空貨物運送協会中村次郎会長
ただいまご紹介いただきました、航空貨物運送協会 JAFA の会長をしております中村でございます。
まず、今回の東日本大震災でお亡くなりになられました皆さまのご冥福をお祈りしますとともに被災
された皆さまに心よりお悔やみを申し上げます。
さて、本日 JAFA 設立 20 周年にあたり、国土交通省の藤岡博政策統括官のご臨席を賜りこのように多
くの皆さまにご出席いただきまして、誠にありがとうございます。記念シンポジウムを主催する主催者
としてこの上ない喜びであり、心からお礼を申し上げます。
さて、当協会は平成 3 年、3つの業界団体が統合されて設立され、本年設立 20 周年を迎えましたが、
この間、温かいご指導、ご支援をいただきましたこと、多くの皆さまに厚く御礼を申し上げます。
航空貨物輸送はスタートしてから 60 年ほどになりますが、そのスピード、高い輸送品質を生かし順調
な発展を遂げ、日本経済の発展に多大な寄与をしてまいりました。近年、生産拠点の海外移転や世界的
な経済の長期停滞など厳しい環境が続いておりますが、激動する国際社会の中で日本経済が再び力を発
揮するには、航空貨物業界がさらにその役割を十分果たしていかなくてはならないものと考えておりま
す。
JAFA といたしましては、このような状況を踏まえ、設立時の原点に立ち返り、航空貨物業界のさらな
る発展、そして安全で効率的な貨物輸送サービスの確立を目指し、全力で取り組んでまいります。
本日のシンポジウムにおきましては、東京海洋大学の兵藤哲郎教授に基調講演をお願いし、パネルデ
ィスカッションにはそれぞれの分野の方々にご出演いただくことになっております。ただいま述べまし
たような、業界を巡る環境変化など踏まえ航空貨物物流がその期待された役割を果たすためには何をな
すべきか、様々な角度からご検討いただき、可能な限り具体的な処方箋あるいはヒントをいただければ
と思っております。どうかこれから 3 時間が皆さまにとって有意義な時間となりますよう祈念し、主催
者としての挨拶に代えさせていただきます。
4
Ⅱ
来賓ご挨拶
国土交通省
藤岡博政策統括官
ただいま、ご紹介に預かりました国土交通省政策統括官の藤岡でございます。本日は社団法人航空貨
物運送協会 JAFA 設立 20 周年記念シンポジウムの開催を迎えられ、20 年の節目ということで誠におめで
とうございます。航空貨物運送協会は航空貨物事業の振興・発展、また安全・安心の確保のために大変
なご努力、ご成果をあげられてきたわけでございます。その間のご努力に対しまして、深甚の敬意を表
すとともに私どもの国土交通行政に関しましても格別のご高配をいただきましたこと心より御礼を申し
上げる次第でございます。本当にありがとうございます。
さて、3 月 11 日には、未曾有の大災害でございました東日本大震災がございました。誠に痛ましい限
りでございます。不幸にも多くの方々が災害に見舞われ、亡くなられた方々に対しまして心よりご冥福
をお祈り申し上げますとともに、被災されました方に心からお見舞いを申し上げる次第でございます。
そういった中、航空貨物はもとより、それぞれのモードにおきまして物流事業者の皆様方が被災者の方々
の命の支えとなる、暮らしを再建させる物流に邁進されましたことに心より敬意を表する次第でござい
ます。東北楽天ゴールデンイーグルスの嶋選手は「日本の底力」と言いましたけれども、まさに「日本
の底力」
、そして生活、経済を支える「物流の底力」を感じた訳でございます。
こういった中、経済情勢は大変難しい情勢にございます。もとより、東日本大震災の痛手というもの
も日本経済に大きな影を宿しております。またギリシャの問題に端を発し、欧州を中心とした金融・経
済危機も大変深刻な状況でございますが、私ども航空貨物、そして物流に携わるものは、経済あっての
物流、しかし物流あっての経済であるということで、日本や世界の経済のためにも、日々努力邁進して
いく必要があろうかと思っております。
航空貨物運送協会 JAFA は本当に多岐にわたる活動をなさっておられると承っております。やはり、安
全・確実な運送という点では、IATA 等と協力なさいましてディプロマ試験を実施され、航空貨物輸送に
携わる社員・職員の方々の資質の向上に貢献されたと聞いております。平成 3 年に 3 団体が統合されま
して発足しまして 20 年でございますが、ディプロマ試験を通じて、3 万 3,000 人以上を養成されたと聞
いてございます。大変に大きな成果であり、かつ世界に通ずる人材の養成にご尽力なされたことに本当
に敬意を表する次第でございます。
私どもの物流行政では、平成 21 年には総合物流施策大綱というものも決めておりますが、何といいま
しても、第1に安全確実な輸送、とくにこの局面におきましては災害に強い物流の構築です。2点目は、
国際的なサプライチェーンを支える効率的な物流の実現、日本の経済、世界の経済を支える国際的な物
5
流の一層の推進でございます。3点目はやはり環境負荷の軽減であろうと思っております。いま、地球
環境問題が大変難しい局面に差し掛かっていると言われておりますが、物流事業者はいわば優等生では
ございますが、環境負荷の低減にいろいろなモードがそれぞれに努力していく必要があろうと思ってお
ります。安全確実・災害対応、国際対応、そして環境対応、こういったことを私ども行政も考えており
ます。皆様方の格別なご協力もいただきたいと存ずる次第でございます。
いずれにいたしましても、これは民間の事業でございますので、ルールに則った公正な競争が一番で
ございます。そういった中で社会への貢献も出来てくるわけでございますが、本当に物流が益々発展す
る、とりわけ、もっともスピーディでもっとも確実で、ある意味でもっとも付加価値の高い事業を行っ
ている航空貨物運送の事業の将来は、色々困難はあろうかと思いますが、未来は大変に明るいものだと
思っております。本日お集まりの皆さま方の社業の益々のご発展、また JAFA の益々の事業のご活発を心
より祈念するとともに、日頃の私どもの業務に対します感謝の念を申し述べまして、簡単ではございま
すが挨拶と代えさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
6
Ⅲ
基調講演①
「国際航空物流の特性と施設配置について」
東京海洋大学海洋工学部流通情報工学科
兵藤哲朗教授
航空なのにどうして海洋大学なのかという声も聞こえてきそうですが、ご存じのとおり、東京海洋大
学は 8 年前に東京商船大学、東京水産大学が合併してできた大学です。本日は航空のお話をするのです
が、一部 fish、魚の話ですとか、ship、船の話も交えてご紹介したいと思いますので、どうぞよろしく
お願いいたします。
きょうの内容は以下のコンテンツです。
1
国際航空物流の最近の動向
2
航空―海運の最適輸送手段選択の考え方∼環境負荷も考慮した選択とは∼
3
航空貨物施設配置の問題点
4
航空物流の展望
最近の動向ですとか、航空と海運との輸送手段の競合ですとか、そういったことの捉え方、これは一
部の過去の研究論文の紹介です。あとは航空貨物の施設ですね、インフラストラクチャー、これもいく
つかご紹介して、最後に簡単に展望をおまとめします。
これは今朝の日経新聞です。いきなりこんな話で申し訳ありませんが「国際航空貨物の動き鈍化」と
あります。本日の私の話の趣旨は、あまりこういったことにとらわれずに、気にしなくて大丈夫でしょ
うといったことが伝えられると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
1
国際航空物流の最近の動向
まず、最初に航空貨物の、ないしは航空に限らず国際貨物の動向をみるときに、お手元の資料にも JAFA
の統計がついていましたが、我々研究者がすぐに入手しやすいものとしては財務省の貿易統計です。こ
れは毎月、非常に細かいデータがネットで公開されています。今回久しぶりに学生と一緒にデータを作
ったりしたのですが、グラフの一番左が 2005 年 1 月、右端はダウンロード時の最新データの今年 8 月、
2 カ月前のデータまで載っていました。これをみると、例えば緑色が韓国、赤が中国、青が米国です。
実線が輸出で破線が輸入、と 6 つの統計をここに示しています。ご存じのとおり 08 年秋ぐらいから、グ
ラフでいうとこの辺から一気に、貿易統計をみていますと、ほとんど 3 分の 1 くらいに激減しました。
それが徐々に回復しまして、ちょっとまた最近怪しくなってきている。
7
これは全輸送手段といいますか、主に海運と航空の合計なのですが、航空だけ見てみますとこんなカ
ーブになります。全額と比べてもそう大きな違いはないのですが、特徴的なのはやはり米国と中国の貿
易額の逆転現象、とくにリーマンショック後、その乖離が大きくなっています。それから後は韓国との
やりとりが徐々に減っている。そんなことが特徴として見受けられます。
これは金額ベースの航空の貿易額のシェアを示しています。やはり航空のシェアが一番高いのは米国
からの輸入です。これは相変わらず航空のシェアが高いということがわかります。しかしなんとなくで
すが、08 年から徐々にシェアが下がり続けているようにも見受けられます。この場合のシェアというの
は海運との取り合いですから、海運のシェアが高まりつつあるということの裏腹といえると思います。
それから、貿易統計というのは国ごと、品目ごとの非常に細かい統計です。品目は 9 桁の HS コードが
ついていますので、その上位 4 桁の品目を集計しました。これは 08 年から 11 年、直近 4 年間の輸出で
どんな品目が多いのかということを示しています。上の 4 つが航空、下の 4 つが海運です。これはあま
り数年で中身が大きく変わることはありません。航空は当然集積回路、ダイオードが多く、海運の輸出
は部品、機械系が多くあまり変わりはありません。ただし輸入は多少傾向が変わっていまして、航空は
やはり電気回路とかが多いのですが、医薬品ですとか医療品といったものが徐々に増えつつある。航空
で運ばれる品目の構成が若干変わりつつあるのかなという気もいたします。海運の輸入は豚肉、魚です
とかそういった食品系が多いということが確認できます。
「個別品目の動向から」
この中で航空で運ばれやすいものというのをひとつ選んで取り上げました。HS コードでいうと 8511、
点火または始動に使用する種類の電気機器。これはたぶん自動車やオートバイのプラグだと思います。
特徴としては、コンピューターメモリーほどではないのですが、比較的軽量で高価である。そして自動
車部品であり景気動向に非常に敏感ではないかと思ってこれを抜き出してみました。これはアジア、欧
州、北米の合計なのですが、上が航空、下が船舶。どちらも輸出です。リーマンショックで、電気プラ
グの欧州への輸出が一気にほとんどゼロに近くなるほど冷え込みました。海運もしかりですが、航空の
方が非常に敏感ですよね。何かこういった景気の低迷などがあると、とくに米国向けは 07 年半ばくらい
からすでに低下傾向にあった。背景にはもっと様々なことがあるのかもしれませんが、この 2 つを見比
べると航空貨物というのは非常に物事、経済に敏感に反応するという傾向が見て取れます。リーマンシ
ョック以降、10 年くらいから徐々に回復はしていたのですが、やはり今年 6、7、8 月くらいですか。や
はり欧州の経済危機、それを察してなのか一気に落ち込んでいます。そういう意味で経済の先行指標と
しての航空貨物の動向という見方があるのだろうと思います。
輸入に関してはなぜかリーマンショックの影響というのは非常に少ないです。船舶に関してはとくに
アジアからの輸入が大きく減っているのですが、航空に関してはあまり変わりがないという特徴も見て
取れます。
そしてこれは分担率を見たものです。やはり景気が悪くなると、航空の分担率が下がってしまう。景
気が少し戻るかという時には先行して航空の分担率が上がるという傾向が分かります。
8
2
航空―海運の最適輸送手段選択の考え方∼環境負荷も考慮した選択とは∼
ずっと航空、海上の比較をしてきましたが、次は航空と海運の最適輸送手段選択の考え方について、
プラス、環境負荷についても考えてみようということです。若干学術的な話です。趣旨は、最初に申し
上げたとおり、海運へのシフトが徐々に進んでおりますが、どうしてそうなったのか、ないしはどうい
ったことが原因なのか、についてです。これは後半のパネルディスカッションの中でも取り上げて皆さ
んにもご意見をお伺いしたいと思っています。おそらく IT 化、コールドチェーンの技術向上、それから
やはりアジアマーケットが主になって距離が短くなったということがあるのではないかと思います。こ
の研究をするときにある電機メーカーの方と、船で運ぶのか飛行機で運ぶのか、どういう基準で運べば
よいのかよくわからないという話をしました。確かに安い製品は海上だろう、それからICチップとか
高価な製品は航空だろうと言えますが、もうちょっと考えなくちゃいけない。もちろん専門家の方々を
前にして申し上げにくいのですが、皆さまもそういったことは日々考えておられると思います。ここで
はその手段選択のあり方を考えてみたということです。
「輸送モード選択モデルの構築と適用」
コストを考える場合、まず契約上の輸送費用、それから製品をストックして寝かせておくための在庫
費用(倉庫費用を含む)があります。あとは価値低減費用もしくは陳腐化費用、という言い方をします。
要は航空か海運かの比較をするとき、これが一番大きいのですね。どういうことかというと、コンピュ
ーターのメモリーを航空で運ぶというのは単価が高いからだけではないのですね。コンピューターメモ
リーは半年で価格が半分になったり、ないしは 1 カ月でも 2-3 割価格が下がります。要は陳腐化が非常
に早いわけです。そういった製品に関しては欧州から 2-3 週間かけて運んでいるとそれだけで価格が下
がってしまう、要は陳腐化してしまうということです。それが航空か海運かということを決める大きな
要因となるということです。
9 月 22 日から 12 月 10 日の 2 カ月間くらい、電子辞書、デジカメ、プリンター、液晶 TV、DVD レコー
ダー、USB メモリー、ノート PC、デスクトップ PC の価格がどう変化するかをネット上の販売価格で調べ
ていまして、一番変化が大きかったのはプリンターで、プリンターは 1 カ月で 2 割くらい価格が下がっ
てしまうという世界でした。ですから、こういった価格の低下率、陳腐化率を数式に取り込んで考えて
いくと理論上、この場合は航空が良い、この場合は海運だという判断がつくということになります。実
際に計算してみたのですが、東京からロンドンにものを運ぶ場合、1
あたり 300 万円くらいの価値の
ものとして計算しますと、グラフは下が航空、上が海上ですが、航空の場合は輸送費用が劇的に高い。
その代わり海上は 2-3 週間かかるものですから、価値が低減し、そのコストが支配的であるということ
です。価値が 300 万円くらいですと航空の方がコストが高いのですが、これが 500 万円くらいのものに
なると、今度は逆にこの価値低減費用が高くなるものですから、かえって航空の方が総コストが安くな
るといったことがいえます。もちろん、単価が安いものというのは海上のほうがコストが安くなります
ので、こういった比較にはなりません。
9
販売価格と価格下落率の関係を示したグラフです。これは距離の関数ですから、香港、ドバイ、ニュ
ーヨークといったところから日本に運ばれると仮定して、この曲線は何かというと海運と航空のコスト
が同じになる等費用線です。横軸は何かというとこっちになればなるほど価格の下落率が高い、そして
縦軸は 1
あたりの製品単価です。これを見ると分かるとおり、価格の下落率が高く、そして品物の単
価が高ければ航空、その逆が海運という判断材料が使えるのではないかということを分析しました。
「環境負荷と航空―海上手段選択問題(みなみまぐろを例に)
」
これの続きをやっていまして、航空―海上手段の選択で品物は魚、みなみまぐろを取り上げました。
これは豪州アデレード辺りでとれるのですが、いわゆる畜養、小さいまぐろを捕まえて生簀の中で蓄養
して日本にもってくる。この場合、ひとつは航空ですね。氷詰めにして 1-2 日で生で運んでくる。もう
ひとつは冷凍です。冷凍学の専門家の先生と一緒にやったのですが、まぐろの場合はマイナス 60℃に冷
凍して、船で 1 週間から 10 日くらいかけて運んでくる。要は、どっちが良いのだろうかということです。
このときは環境で評価しました。豪州のポートリンカーンから日本に持ってくることを考えます。海上
輸送の場合はポートリンカーンから船で運びます。1 トン当たり総費用は 1 万 9,000 円で、総所要時間 6
カ月。6 カ月というのは、海上輸送自体は 3 週間くらいなのですが、まぐろの場合、通常清水や焼津に
冷凍倉庫があって、そこで平均半年くらい在庫にするのだそうです。そこで冷やして、市場の動向に応
じて出荷するのですね。この場合 6 カ月くらい冷凍倉庫に眠る。いまは冷凍技術が発展していますので、
2 年でも 3 年でもそんなに品質は変わらないのだそうです。
飛行機の場合、
単価が 1 トンあたり 30 万円、
もちろん 1 日で到着します。
こういった比較を行いまして、このまぐろの輸送はどっちが良いのだろうか、ということを考えるわ
けです。最初に冷凍か生か、冷凍のまぐろなんて食べられなくなるのではないかという話もあるのです
が、実際には冷凍のまぐろというのは解凍のやり方さえ間違えなければその差というのは見分けが付か
ないということで、味に関しては差がないという条件です。結果から申し上げますと、これが費用、航
空の方が費用が高い。航空運賃で差がついています。では航空の方が高いし、CO2 排出量も原単位で計
算するとこれだけ高くなります。ここから言えることは、航空の場合、船に対して優位性をもつとする
と、生で運ぶ。実際には味にそんなに差はないそうですが。付加価値の高いもの、そういったものを航
空で運ぶ、そういった価値があるだろうと。半面、物流費用は倍くらいするし、それから CO2 排出量も
大きいという話だったのですが、実は船の場合をみると、冷凍倉庫で半年間保存するとものすごく CO2
を排出します。もしこれが 1 年在庫としてもつとすると、CO2 排出量は航空とあまり差がなくなってき
ます。結局いえることは、在庫の管理ですとか、物流全般のサプライチェーンマネージメント、環境面
からそういった効果が高いんだろうというご紹介です。
3
航空貨物施設配置の問題点
三番目の話はまた違う話です。私自身が土木工学科出身なものですから、どうしても社会基盤、イン
フラストラクチャーに話が及ぶことになるのですが、航空貨物施設整備の問題点について若干ご紹介し
10
たいと思います。
首都圏の航空の貨物施設について、とくに成田空港の開港 1978 年くらいから紐解いてみますと、最大
の課題というのは原木の TACT(Tokyo Air Cargo Terminal)です。成田開港当時はいったんこの原木に
貨物を集約して、成田との間をピストン輸送するという体制がとられていたということはご存じのこと
と思います。生鮮品などは成田空港直行だったのですが、それ以外は原木で通関する。いわゆる仕分け
基準というのがあって、それが 1990 年代の半ばに米国業界の圧力により仕分け基準が緩和されました。
それで一気に空港外の保税蔵置所が増えて、フォワーダーによる積極的な空港外施設の建設ということ
が起きてきました。たった 10 数年のことではなかったかと思います。原木自体はどんどん取扱量が減っ
てしまって、03 年に閉鎖しました。これがまた羽田の問題、羽田と成田の間にあるということで、羽田
の国際化に際し再び原木周辺にフォワーダーの施設の立地がはじまり、またその機能が見直されている
といったことは皆さんの方がよくご存じかと思います。
こういったことをインフラストラクチャーの計画問題から考えますと、ULD の施設、それから保税蔵
置ということをもっと本当は計画的に空港全体から設計する、これは民間ではなくて公的機関の役目だ
ったと思うのですが、そういったところがもう少しうまい配置、段階整備を考えるべきだったと思いま
す。そういった反省があったからか知れませんが、中部国際空港(セントレア)の場合は、こういった
物流施設と空港との一体整備が考えられました。最近少し取扱量が減って、十分な取扱量はないのです
が、設計自体は非常によい、合理的な設計をしています。この問題はまだまだ解決しなくてはならない
課題として残っています。
これは保税蔵置許可前の貨物の流れ、輸出と輸入です。これが現在ではこういう形になっています。
これが何を引き起こすかというと、施設間の距離が長く、そして例えば周辺道路にとってはトラックの
輸送量が多く渋滞を引き起こしている。ということで周辺住民にとっては環境悪化、周辺自治体にとっ
ても土地利用計画がうまくいっていない。これもやはり公的なところで議論しいろいろなことを決めて
いくべきだと思います。90 年代の半ばくらいから、いま現在、成田空港周辺に大変多くのフォワーダー
の施設があちこちに点在する形になっています。これを良しとするか、もっと合理的な土地利用、施設
の集約をした方が良かったのか、色々な議論があるところだと思います。
「成田・羽田空港間共同輸配送実証実験から」
これをさらに一歩進めますと羽田の国際化です。これをどううまく活用するのか、航空貨物運送協会
としての立場、フォワーダーのより合理的な、利益を生み出すような羽田の活用の仕方。このひとつの
例として成田―羽田空港間の共同輸配送実験に私も参加させていただきました。これは羽田の 4 本目の
D 滑走路ができた直後から去年 11 月、12 月、今年 1 月の 3 カ月間、成田―羽田の貨物の横もちが国際貨
物であるだろうと、それを共同化して効率的な輸配送をしましょうという実験です。1 日 7 往復、ダイ
ヤを設定し、例えば羽田から成田でしたら朝 4 時から最終便が 21 時発という便を決めて、成田と羽田の
間の国際貨物を共同輸配送するというプロジェクトでした。実際に 3 カ月の実験、羽田の国際化が始ま
ったのが昨年 10 月 22 か 21 日でしたから、直後でそんなに取扱量はないだろうということだったのです
が、同期間の羽田の国際貨物の取扱量のだいたい 1 割くらいは共同配送で運ばれたということで、全貨
11
物の 1 割ですから、やはり羽田と成田の間の国際貨物の横もちはそれなりにある。裏を返せば、国際貨
物に関して成田と羽田の一体運用には十分な意味があるだろうということが確認できたということです。
それから、それほどひどい片荷ではないのですが、成田から羽田、羽田から成田、両方向を考えますと
羽田から成田のほうが成田から羽田よりは 1.5 倍くらい多いという傾向がまだあります。この実験は公
的な負担をもった社会実験だったのですが、実験が終わりまして、いまは民間ベースで輸送が行われて
いると聞いています。そういう意味では、成田―羽田間の共同配送の一番初めの実験であって、どうい
うマーケットがあるか、そのマーケット形成には一役買ったのではないかと思います。
これが実績ですが、左が羽田から成田、上が輸送頻度です。1 日 7 便ですが、1 便がトラック 1 台とい
うわけではなく、1 台で運びきれない場合は 2 台、3 台と出しています。羽田から成田は朝 4 時発が多い
ですね。逆に成田から羽田は成田を夕方 19 時、20 時くらいに出る。結局羽田に深夜便が着く、この場
合ベリーだけですが、その深夜便で着いた貨物を成田に運ぶ、ないしはその深夜便を目指して成田から
羽田に貨物が動くと。そういった意味では深夜の航空貨物のポテンシャルが示唆されるということを確
認できました。
「トランジット貨物のマーケット構造と施設のあり方」
いまの成田と羽田の間の横もちもトランジットといえばトランジットなのかもしれませんが、これか
ら先、日本の国際航空のマーケットを考える時にトランジットというのは大きな課題になると思います。
約 5 年前の 06 年にそういった議論がありまして、当時、06 年夏というのは国際航空貨物がピークだっ
た頃です。その頃はトランジットなんていらない、日本発着の貨物が優先であり、仁川空港のようにト
ランジット貨物だけで食べていくなんて、そんな余裕は日本にはない、そんなことが言われていました。
そうはいってもハブ空港のひとつの役割として、トランジット貨物をとってくるということは大きな役
割だろうということで、日本が果たすトランジットというのは、まあ韓国も台湾もそうなのですが、マ
ーケットは中国と米国の間のマーケット。これをトランジットで引っ張ってくるということだと思いま
す。
当時、
「東アジア地域の主要空港における国際航空貨物の流動実態に関する調査」もお手伝いさせてい
ただきまして、その時の結果をごく簡単にご紹介します。日本、韓国、台湾の 3 カ国で共同の調査を行
いました。確か 1 カ月くらいだったと思いますが、契約の Air Waybill をお借りしてきまして、それを
入力する。ですから 1 カ月の 3 カ国の貨物、海外のエアラインは入っていませんでしたが、その貨物の
流動、発着地を正確にとったものです。
これが日本の場合ですね。成田でのトランジットがどこからどこに行っているかといいますと、○の
大きなところを見ていただくと分かるのですが、やはり中国と米国の間が非常に大きい。それから香港
と米国の間、いずれにしろ中国/米国ですね。
次に仁川です。トランジットの数字自体が非常に大きいというのが分かりますし、仁川の場合は中国
/米国のトランジットもそうですが ASEAN/米国のトランジットが非常に高いということが分かります。
日本と違う特徴です。
それから台北。これはやはり中国が近いというということもあって、香港ないしは ASEAN と米国のマ
12
ーケットをトランジットとして取り込んでいます。ですから三者三様なわけです。
また貨物の出入りの時間です。空港に入って何時間くらいかかってその貨物が空港を出て行くのかと
いう時刻分布もまとめました。これが入った時間、これが出た時間なのですが、成田の場合、比較的短
いんですね。大体夜中、21 時くらいに入ってきて、24 時間後、翌日の 21 時くらいに出て行く。そこに
大きなピークがあります。
仁川は意外に時間がかかっています。入ってくるのはやはり 21 時頃が多く、翌日の 21 時、ないしは
2 日後の 21 時に出て行っています。ここで何をしているのか、何らかのアセンブルなどをしているのか
はよく分からないのですが、どうもトランジットの特性も違うようだということが分かります。
さらに意外だったのは台北です。ここは米国と中国の間の完全なワンストップといいますか、非常に
短い時間でトランジットしています。21 時くらいに入ってきて、翌日の 21 時に全部出て行くというト
ランジットサービスを行っています。
こういったサービスをどのように提供するか、これは多分フォワーダーだけでなく、施設内の様々な
機械をどうするか、とか、広い扱い施設を用意するとか、これもやはり施設の計画とともに考えなくて
はならないものだと思います。
これは 5 年ほど前ですが、仁川空港の大韓航空のターミナルの写真です。成田空港と比べるととにか
く天井が高く、ところどころに自動仕分けの機械などがあります。これも色々な説がありますが、天井
が高ければよいのか、とにかく床面積が広ければよいのか、機械もそんなに複雑な機械があっても使い
づらいとか、何が最適なのかはまた研究しながら調べていきたいと思います。
4
航空物流の展望
・ 「陳腐化率」の高い長距離貨物を狙う
・ トランジット市場への対応(需要超過から供給超過という現況を鑑みて)
・ 周辺施設も含めた空港施設配置計画を官民一体で・・・言うは易し
・ モニタリングの技術を活かした詳細分析の可能性を高める
最後になりますが、航空物流の展望です。いくつか申し上げて終わりにしたいと思いますが、やはり
マーケットとしては価格の下落率の高い、なおかつ高価、こういった「陳腐化率」の高い、なおかつ長
距離のそういったマーケットを狙うということが第一であろうというのがひとつです。
それからトランジットに関しましても、現在は明らかに貨物そのものが 4−5 年前に比べれば減ってい
るわけで、日本 In、日本 Out だけでない、どこからかトランジットの貨物を引っ張ってくるという大変
熾烈な競争の中に入らなくてはいけないのですが、ただそういったマーケットもあるわけで、これは先
ほど申し上げたとおり、ただ単にフォワーダーさんだけの努力、キャリアだけの努力ではない。使いや
すい、競争力のあるような施設計画を一体化して、そしてトランジットマーケットも考えないといけな
い。その時に空港だけではない、空港以外の施設と一体化した合理的な計画でないと、効率的な航空物
流というのは成立しません。航空貨物に限らず物流はなんでもそうですが、流すだけではない、どこで
13
止めるか、どこで蓄えるかといった在庫管理との技術ともセットで考えていく必要があるだろうと思い
ます。
最後はモニタリングの技術を活かした詳細分析、要は IT の話です。物流業者さんなんかと話をします
と、皆さんとにかく詳細なデータを個別でお持ちなんですね。契約のデータ、貨物流動といったものは
すべて電子化されていますから、そういったものをうまく使って、より効果の高い計画を立てる。そう
いった時に民間の一企業だけではない、航空貨物運送協会、公的セクターとの共同研究でもいいと思い
ます。そういった形でより確かな歩みを進めていただきたいと思う次第でございます。
以上で雑駁ではございますが、私からの情報、話題提供を終了したいと思います。ご清聴ありがとう
ございました。
14
Ⅳ
基調講演②
航空物流をめぐる環境の変化
社団法人航空貨物運送協会中村次郎会長(日本通運代表取締役副社長)
それでは、私の方から、航空物流をめぐる環境の変化ということで、とくに JAFA がもっておりますデ
ータに基づき、これから航空貨物がどう動いていくかという展望をしたいと思います。構成としまして
は、目次にありますとおり、まず日本発輸出混載重量と方面別比率の推移、そして 2 番目に世界の空港
と港湾の取扱量ランキングのご紹介、3 番目として皆さんご存じだと思いますがアジア諸国の GDP 成長
率、とそれがどう影響していくかについて、4 番目はアジアの中でも最大の市場である中国、そこにい
ま日系企業が進出してどういう状況になっているか、5 番目は日系物流企業の新規海外拠点の展開状況
はどうなっているのかということ、そして最後に 6 番目として航空貨物輸送業の将来ということでお話
をさせていただければと思っております。
1
日本発輸出混載重量と方面別比率の推移
この数字は JAFA のもっているデータからとってきた数字なのですが、2002 年から 2010 年まで、日本
発の輸出の混載重量になります。一番上の黄色の部分が米州向け、真ん中の緑が欧州・アフリカ、赤が
アジア向けです。この中で見ますと、この 02 年の前年に 9.11 のテロがあって、その後航空貨物はガク
ッと落ちたわけですが、02 年から 04 年までは順調に貨物が回復していきました。先ほど兵藤先生のお
話にもありましたとおり、日本発の混載重量は 07 年が数量としてはピークということになります。この
中で特徴的なのは、米州向けというのは全体の比率の中でみても数量を見てもあまり変わりはなく、同
じような数字で推移しています。欧州向けも大体同じ。その中でアジア向けというのが全体の比率の中
でも圧倒的に増えてきている。ちょうど 02 年の時点を見ていただくと分かりますが、02 年に米州・欧
州向けとアジア向けのトン数がほぼ 50:50 になりました。要するに比率的にはちょうど半分ずつになっ
たということですね。それ以降はアジア向けが完全に比率が高くなり、10 年ではアジア向けが 60%に達
し、欧州、米州はそれぞれ 20%となりました。07 年にピークとなったのですが、その後リーマンショッ
クがあり、08 年、09 年と落ち込んで、去年いくらか回復をしてきましたが、今年はまた 3 月 11 日の大
震災があって、11 年というのはいままでのところ数量的にはなかなか伸びてきていないという状況だと
思います。今後、これがどうなるかというのは、先ほどのお話にもありましたが、今後アジアの数量が
伸びてきたときに、航空便と船便とで、価格差ほどのトランジットタイムの差がなくなってきていると
いう問題ですね。この問題で航空貨物がどうなっていくかということがあります。それからさらにサプ
15
ライチェーンマネジメント(SCM)が確立してくると、航空便ではなく船便でも間に合わせるとか、そう
いった動きも出てくる可能性がある。ただ今後なんとも読めないのですが、我々の業界としては今後な
んとか航空貨物が 11 年以降も伸びていって欲しいというところだと思います。
2 世界の空港・港湾/貨物取扱ランキング
次にこれが世界の空港の貨物取扱量ランキングです。これも最初に 10 年のところを見ていただくと、
トップが香港、10 位が台北、成田は 7 位に入っています。これが 91 年ですと成田が世界でトップだっ
たという状況で、これが徐々に落ちてきているということです。まあ落ちてきているというより他の、
とくにアジアの空港がどんどん伸びてきたということです。10 年で言えば、トップ 10 のうちの 6 空港
がアジアの空港であります。
これは関連性が難しいのですが、例えば 91 年に成田がトップでしたが、この年はちょうど、先ほどの
輸出混載重量のアジア向け、欧州向け、米国向けでいうと、アジア向けの貨物が、米国向け、欧州向け
をそれぞれ単独では抜いた年なんですね。ということは、欧州と米国向けを含めると半分以上の比率を
持っていたという時代にはやはり成田が強かった。これが 01 年には成田が香港に負けて 2 位になりまし
たが、この年は日本の輸出混載のうちアジア向けが全体の 50%を超えた年です。この年に香港がトップ
になり、成田が 2 位に落ちたということです。そして、06 年に成田が 3 位に落ちていますが、この年は
日本発のうちアジア向けの貨物の比率が 55%になったときです。その時に 3 位に落ちています。09 年に
4 位になったときには、日本発の混載貨物のうちアジア向けが 60%になっています。もちろん日本には関
空もありセントレアもありますが、象徴的にいうとアジア向けの比率が高まっていくごとに成田の世界
ランクが落ちていっているということが言えると思います。この同じ動きを示しているのが、この表の
中でいうと、海運とは非常に違うのですが、シンガポールをみていただくと、01 年からみると成田と一
緒になって落ちています。それからもうひとつ、成田と一緒に順位が低下してきているのがアンカレッ
ジです。要は、日本はアジアの一番東側にある。そういう意味では、米州向けの貨物が多い場合には成
田、あるいは ASEAN のハブとしてのシンガポール、そして米国を経由して欧州に行く貨物なんかのハブ
になっていたアンカレッジというのが強かったわけですが、やはり、日本発のアジアへの比率が圧倒的
に多くなってきたときに、シンガポール、アンカレッジも落ちてきている。この関連性というのは私に
も分からないのですが、この表の中でみると、大体そのような動きをしていることが分かると思います。
次に港湾です。コンテナ本数の取扱量推移を出しています。海運貨物というのは航空よりさらにドラ
スティックな状況になっていて、10 年のベスト 10 のうち、8 港がアジアの港で占められています。その
中でも釜山、シンガポールを除くとほとんどが中国の港です。その中で東京港はどこに行ってしまった
かというと、世界 27 位です。91 年時点では東京は 12 位、神戸が 5 位でした。その後、阪神大震災があ
り、01 年には日本の港はトップ 10 からなくなってしまいました。よく言われるのは、この阪神大震災
のときに釜山に貨物をとられたのではないかと、いわゆるハブ機能をすべて釜山にとられてしまったの
ではないかということがあるのですが、例えば、ちなみに神戸というのは 10 年には 50 位にも入ってい
ません。東京が 27 位、横浜が 36 位という状況です。では、その日本のすべての港におけるコンテナ本
16
数を足すと、世界の港湾の中でどのくらいになるかというと、昨年トップだった上海の半分くらいです。
日本の全港を足しても上海の半分くらいだということです。
では、この海運の表から何が読めるかというと、シンガポールというのは自国の貨物はほとんどない
けれども、ハブ機能として、欧州からきた船を太平洋につないでいくいわゆるハブとして圧倒的な力を
もってやってきました。もちろん一番貨物をもっている上海や中国のゲートウェイである香港には一時
負けていましたが、それでもまだ 2 位を保っているという状況ですね。ですから、海の方でいうと、順
位を伸ばしてきているのはシンガポールと釜山です。釜山が安定して力をもっているというところだと
思います。その中で逆に順位を落としてきているのが日本の港という状況です。
ですから、航空貨物では、例えば、ドバイや仁川がひとつのハブとしての機能を非常に強くもってい
る。そして海上貨物でいうと、シンガポールと釜山というのが力をもっています。すると航空貨物、海
上貨物ともに韓国、仁川空港と釜山港というのが非常に良い位置をもっているということです。これは
ある意味、日本がもつべき、我々としては日本が持たなければならなかった、米州向け、太平洋向けに
おいてアジアの一番東にある港や空港が韓国にとられたという状況がいえると思います。
3
アジア諸国の GDP 成長率
これはもう単なる数字で、これからもアジアなんだろう、ということなのですが、人口と平均年齢、
これが経済成長と国力になっていくのだろうと思うと、やはりアジアにこれだけ、非常に若いあるいは
人口をたくさん持っている国がある。その中でアジアが人口と若い層を持っているということはまだま
だアジアが伸びていくんだろうなということです。そういう意味では日本は、韓国もそうですが、歳を
とってきているということだと思います。報道されていますが、きょうおそらく世界の人口が 70 億人に
なる、その中でアジアを含めるとほぼ 35 億人になるわけですね。すると世界の人口の半分くらいがこの
地域にいる、ということになると、物の動きというのもやはりアジアを中心に動いていくだろうという
ことです。
4
中国進出日系企業の現状
少しデータが古いのですが、経済産業省のデータです。中国における日本の進出企業数は 09 年の時点
で香港を含め 5,462 社となっていますが、おそらく昨年あたりに大体 6,000 社は超えているのではない
かと思います。これだけの日本企業が中国の中で活動しています。その中でどの地域かというと、この
上位の 10 の省・都市で全体の 8 割を占めています。
そしてこれがさらに伸びていくということになれば、
山東省、これは韓国企業が強いところです。それから福建省、これは台湾企業が強いところです。それ
から、今後はやはり中国の内需ということになると、ここには載っていませんが四川省の重慶や成都、
湖北省の武漢、陝西省の西安といったところがこれから伸びていく、こういうことで今後も日本企業は
どんどん中国に進出していくのだろうと思います。もちろんチャイナリスクと言う問題はあるのですが、
今回タイのああいった洪水があるように、ASEAN もひとつの ASEAN リスクといえるのかどうか。そうい
17
うものもある中でいうと、やはり中国というのが伸びていくんだろうと思われます。
そして下の図は、赤い方が中国に進出した日本企業の売り上げの成長率を示しています。ここはリー
マンショックで少し落ちましたが、やはり全世界平均を上回る成長率で伸びています。
5
日系物流企業の新規海外拠点展開状況
これは JAFA を中心とした日系物流企業の新規海外拠点の展開状況です。00 年まで、01∼05 年、06∼
10 年ということでまとめました。00 年までは、日系物流企業は米州、中南米に拠点を作っていきました。
そして欧州、アジアはこの程度でした。その後 01∼05 年には欧州・米州が圧倒的に減って、アジアもそ
んなに増えていませんが 506 の拠点が開設されました。そして 06 年以降は圧倒的にアジアの比率が高ま
っています。いま現在の全体でいうと、米州・中南米は 512 カ所、欧州・中近東・アフリカは 371 カ所、
アジア・オセアニアは 1,682 カ所という展開状況になっています。これを比率でいうと、00 年までには
アジアの新規拠点は 52.5%だったのがついに 80%近い比率になってきて、総計でも 65%以上の比率がア
ジアに拠点があるという状況です。これを最初にお見せした、JAFA 統計による日本発の輸出混載重量ト
ン数でいうと、米州というのは拠点数と取り扱いトン数の比率が約 20%、欧州・中近東・アフリカが本
来 20%くらいのものが少し低いということが言えるのかもしれません。そうすると、日本の本来の機能
というのは中近東やアフリカというのが我々物流業者にとってはなかなかブラックボックスで出て行け
ないということで、出しているトン数の割には拠点の比率は低いということが言えると思います。
まとめ
航空貨物の業界では、ボーイング社が発表する航空貨物の事業予測がよく参照されます。2029 年まで
という長期予測ですし、飛行機をつくっている会社ですから、たくさん飛行機を売りたいでしょうから
あまり参考になるかどうかは分かりませんが。それによると、2029 年までの航空貨物市場の成長率は年
率 5.9%でいくだろうと。このうち北米・欧州間が 4.2%、米国内・北米内が 3%、EU を含めた欧州内が 3.6%、
これに対しアジア・北米、アジア・欧州間はその倍の成長で伸びていく。これから一番伸びていくと思
われているのが、このアジアの間ですね。アジア域内の物流、中国の国内貿易を入れると成長率は 9.2%
という数字をボーイング社は出しています。
繰り返しになりますが、その中で、我々はアジアの一番東にあって、ある意味では米国が元気な頃は
ハブとしての機能、あるいは日本でモノがたくさんつくられて元気な頃というのは強かったのですが、
どんどんそれが中国を中心にアジア、西の方にシフトしていった。ただ、その貨物はもう一度製品にな
って米国や欧州に出て行く。その時の米国に出て行く貨物、先ほどの話の延長で言えば、いわゆるハブ
機能、これは日本の空港だけではなくて港も弱まってしまったんだろうなと。要は日本の輸出、輸入貨
物に特化したような機能になってきてしまったというところが国際的なランキングの中でいうと、空港
も港湾も落ちてきてしまったのかというところです。
18
そこで我々フォワーダーとしては、我々の業界というのは日本だけが舞台ではないので、やはりこの
アジア全体をマーケットと見据えながら、その一番東にあるのが成田であり、日本の港だということに
なると、そこをどう活用していくか。日本もこれから生産がどんどん海外にシフトしているとはいいな
がら、高付加価値なもの、高技術なものというのは航空貨物で輸送されていくだろう。それからこれだ
けの GDP、あるいは消費力をもった、世界でも有数の消費市場を持った日本に入ってくる航空貨物もあ
る。そういうものに我々フォワーダーがどう様々な商品を、あるいはどうひとつの輸送モデルを提供で
きるかということが一番の課題であろうと思います。
先程から羽田の話も出ていましたが、例えば羽田の一番のアドバンテージというのは、すぐそばに東
京港、横浜港という港をもっているということです。世界の空港の中であれだけ近い距離に港を持って
いるというのはそうないですよね。香港なんかは非常に近いところにあるけれども。これだけ距離の近
いところにあると、もう一度ハブとしての機能を高める、そのビジネスを我々フォワーダーがやってい
こうとするときに、海との問題、港と空港を一体化した輸送モデルを我々がどうつくりうるかというこ
とです。これから色々なそういうことで、成田空港のランクを上げるとか、日本の港のランクを上げる
ことが目的ではないのですが、我々JAFA の会員たちが、アジアとの一体化したマーケット、アジアのひ
とつのマーケットの中で、日本市場、日本の空港を含めながら色々なことを考えながら我々の取り扱う
物量を増やしていければいいかと考えております。
非常に雑駁な話でしたが、私からは以上です。
19
Ⅴ
パネルディスカッション
モデレーター
兵藤哲朗
(敬称略)
東京海洋大学海洋工学部流通情報工学科教授
パネリスト
白石真澄
関西大学政策創造学部教授
田村幸士
三菱商事㈱物流本部戦略企画室長
平田邦夫
BIAC(国際航空貨物航空会社委員会)会長
(日本航空㈱執行役員貨物郵便本部長)
平塚大祐
ジェトロ・アジア経済研究所研究企画部長
矢野俊一
社団法人航空貨物運送協会副会長
(郵船ロジスティクス㈱代表取締役会長)
兵藤:最後はパネルディスカッションです。
様々なお立場から様々な議論ができるかと思います。私自身も楽しみにしています。1 時間 10 分くら
いパネルディスカッションをやって、最後の 15 分か 20 分くらい会場からの質問にパネリストの方々か
ら答えいただくという進め方でまいりたいとおもいます。
パネルディスカッションはテーマを3つくらいに限らしていただきまして、第 1 点は自己紹介も兼ま
した各パネリストの方の航空物流とのかかわり、あるいは今後の航空物流に関する着眼点、2 番目が航
空物流の競争力をどう向上させていくか、3 番目はインフラです。ここでいうインフラは必ずしも社会
基盤整備だけではなくて、フォワーダーや航空会社にとっての設備や通関なども含む広い意味でのこれ
から先のインフラ整備のあり方について、この 3 点について議論を進めていきたいと思います。
20
1. 航空物流とのかかわり
兵藤:まず航空貨物に関するご自身の着眼点を自己紹介も兼ねまして白石さんからお願いします。
白石:関西大学の白石真澄でございます。
どうぞよろしくお願いいたします。きょうの私の立場は一消費者ということでございます。私たちは
生活の中での彩り、季節感を航空物流から得ているのではないかと思います。まず最近はすっかりもら
うこともなくなりましたが美しい花ですね。ランやカーネーションを始め多くの花が航空輸送を利用し
て日本に運ばれています。それから日々食卓に並ぶ食品の数々。もうすぐ解禁のボジョレーヌーボー。
これは時差の関係で解禁後日本が一番早くいただけます。チョコレートや高級ワインもそうですし、う
なぎ、マグロ、サーモンといった私たちの食卓を彩り豊かにする生鮮品まで。これは定時性や即時性、
品質の保持といった能力の高い航空貨物輸送の恩恵を受けているのではないかと思います。
私事ですが、2 人の子供がつい最近までと、いまも海外におりまして、多くのものが海外で調達でき
ますが、例えば日本の 10 代の雑誌を送ってとか、ラーメン、鍋のセットを送ってとかいわれますと、レ
トルトパックに入ったものなどを送りますと、1 万キロ離れたスイスまで早ければ 3 日で届きます。で
すから、親子のコミュニケーションにもこういった物流が一役買っているんではないかなと思います。
兵藤:次は田村さんよろしくお願いします。
田村:三菱商事の田村でございます。よろしくお願いします。
私は商社の物流部門に長く所属していまして、荷主としての仕事、あるいは物流事業者としての仕事
をやって参りました。おもに海運、倉庫事業を手がけていまして、航空貨物との接点といいますと、2007
年から 2009 年までの 2 年間、官民人事交流で国土交通省航空局の航空物流室長をやらせていただいたこ
とで、これを機会に航空との縁が深くなりました。大変濃密な 2 年間でしたが、この時にエアライン、
エアフォワーダー、それから荷主に集まっていただき、国として航空物流の大きな方向性を打ち出そう、
21
ということで、
「航空物流のグランドデザイン」を作成しました。きょうは荷主代表ということで呼ばれ
たと思いますが、そういう経歴もございますので、航空行政という観点から感じたことをお話したいと
思います。
グランドデザインを作る時にいろいろと省内で議論をしましたが、3つばかり驚いた点があります。
一つは航空の世界は旅客便優先主義といいますか、至上主義といいますか、例えば空港の施設整備や運
用の時間帯、様々な制度やルールが旅客を中心につくられています。正直に言って貨物便にとっては
comfortable ではない環境だと感じた次第です。
2 点目は航空行政が、関心を持っているのは航空貨物しかないということでした。航空行政が航空貨
物にしか関心を持たないのは当たり前のように見えますが、荷主の立場で物流業務にかかわっている人
で「私は航空しか分かりません」という人はまずいません。荷主の物流担当者は、航空も海運も倉庫も
トラックも全部分かって一人前の物流マンと言われるわけでして、このあたりの縦割りに違和感があり
ました。縦割り行政の中ではどうしても輸送モード間の連携が不十分だと思います。例えば航空局は空
港を所管していますので、滑走路の整備はきちんとやりますが、空港までのアクセス道路はどうするん
だと。この辺は兵藤先生のご専門だと思いますが、これは航空局の守備範囲外でして、道路局あるいは
地方自治体が所管になるわけです。このあたりがうまく連携ができてなかったなと感じます。
3 点目は航空貨物に関する情報の問題です。私は室長という一番下っ端の管理職でしたが、そのレベ
ルでも日本の航空に関する情報はほぼ何でもアクセスできました。役所にはすごい量の情報がたまって
います。非常に貴重な情報もあります。ところが海外の情報、世界がどうなっているかという情報につ
いては残念ながら蓄積されていません。したがって、仁川空港が伸びているとか、シンガポールのチャ
ンギ空港は競争力があるとか議論はされますが、具体的な情報は限定的で、ドメスティックだったと思
います。以上を言い換えますと、航空行政における航空物流をめぐる課題としては、1つは旅客のみな
らず貨物のニーズをどう取り込んでいくのか、2つ目は、航空に限らず物流機能全体に目配りをしてい
く必要があるということ、そして3つ目は海外の動向や事情の把握につとめていただく必要がある、と
いうことです。
兵藤:航空物流は、海外に最初に直結し、様々な情報をもたらすという理解ではないかと思います。そ
れでは平田さんよろしくお願いいたします。
22
平田:皆さんこんにちは。
「BIAC」というあまり聞き慣れない名前かと思いますが、日本に乗り入れをしています航空会社の中
で貨物を取り扱っています航空会社の集まりでして、そこの会長を務めさせていただいています。JAFA
さんとは危険物の取り扱いや貨物輸送の品質などについての講習、これは競争という観点ではなくて航
空貨物輸送の品質を高めるために適正梱包といった形で JAFA さんの創立以来一緒にやらせていただい
ています。
実をいいますとこのように皆さんの前で航空貨物について語れるほどの経験はありません。
会社の中でも航空貨物にかかわって 3 年あまりでして、リーマンショックをはじめ昨今の貨物の状況を
身をもって体験しているところです。先ほどの兵藤さんのお話にもありましたように、貨物は‘経済そ
のもの’ということを実感しています。旅客と違いまして、遊びの貨物といいますか、観光貨物なんて
ありませんから。まさに経済そのものが貨物に反映されます。当然片道ですし、海上貨物とまったく違
うということを最近実感しています。きょうは「航空貨物の将来展望」ということですが、先ほど中村
会長からのご説明の中で全体の貨物の規模感というものをお分かりいただいたと思いますが、私はたま
たまこの 3 年間 IATA の貨物の理事をやっておりましたものですから、いま私の後ろにスライドで IATA
のデータを示していますが、データの取り方がいろいろ違うものですから、必ずしも適正かどうか分か
りませんが、全体の規模感を見ていただきたくてお持ちしました。本日の私の論点の1つだと思ってい
ます。
スライドでは、世界でどのくらいの航空貨物の規模があって、アジアあるいは日本がどのような位置
づけになっているかが示されています。当然ながら「アジア・オセアニア地域発着」がもっとも大きな
マーケットです。世界全体では In と Out を含めた規模でだいたい 3,300 万トンといわれています。そん
な中でアジア・オセアニア 1,200 万トン、全体の 4 割弱で、欧州、米州がそのあとに続きますが、旅客
のマーケットでもっとも大きいのは「欧州・米州地域」でアメリカと欧州間あるいは欧米とアフリカ、
南アメリカ間の市場です。その中で、日本を In、Out するボリュームは先ほどの中村会長の資料にもご
ざいましたように 230
250 万トンくらいと言われています。我々の統計では日本をトランジットして太
平洋あるいは欧州に抜ける貨物も含めますと、ざっくり 300 万トンくらいが航空貨物の状況かなと思っ
ています。
そういう意味では、アジア・オセアニア地域の東アジアに位置する日本の貨物のボリュームはおおよ
そ世界の 1/10 弱くらいの規模かと思っています。最近では長期凋落とは言いませんが、成田も一時期の
世界1位の貨物取扱空港から最近は 10 位くらいになっています。こういう中で日本を In、Out する航空
貨物が規模として大きいのか小さいのか、あるいはこのマーケットの中で我々航空事業者とフォワーダ
23
ーの皆さんがどういう形で生き残っていくのかということが本日の私の一番の関心でして、皆さんから
いろんな意見をお伺いしたいと思っています。よろしくお願いします。
兵藤:ありがとうございました。それでは平塚さん、よろしくお願いいたします。
平塚:アジア経済研究所の平塚です。
私は専門がアジア経済で、最近とくに貿易のことをやっています。その立場から、最初のおふた方の
基調講演を若干補足していきたいと思います。3 点あります。一つは国際貿易のここ数十年を振り返っ
てみますと、中間材貿易がものすごく発達しています。その原因はグローバル競争の中で大手企業が市
場で勝ち抜くために少しでも生産コストを安くするということで、しかも当初集中するということで生
産工程を分割して一番いいところに配置していくという fragmentation を行っているわけですね。そし
てさらにいろいろなサプライチェーンを使って外注している、ということで国際的に生産ネットワーク
がさまざまな形で発展してきています。
2 点目は、先ほど兵藤先生から、コンパクトなものが航空貨物として使われるというお話がありまし
たが、電気あるいは通信機器といった産業においてとくに国際生産ネットワークが拡大しています。し
かも、生産拠点のメインはもはや日本ではなくなって、中国や ASEAN といった安い労働力が使える地域
に移っています。国際生産ネットワークを使いながら多国籍企業が生産をしていくということは、逆に
中国とか ASEAN に物が向かう、生産拠点がどんどん増えていくという力が働いている。日本にとっては
マイナスの力が働いているという状況になっています。
3 点目は、生産工程が国際分散立地されていますが、その背後にあって有機的に結びつけているのが
物流です。物流コストが高ければ fragmentation とか国際生産ネットワークができないわけですが、い
ろいろな輸送技術がいろいろな形で発展していく中で、国際生産ネットワークは拡大してきています。
そして、その中心が国際航空貨物であろうというのが私の認識です。
兵藤:ありがとうございました。いまの平塚さんのお話をお伺いしていまして、フロアからタイの今回
の洪水で航空貨物にどんな影響がありますか、という質問もきています。これは最後にフロアとのやり
とりの時間で取り上げさせていただきます。お待たせしました。最後になりましたが矢野さん、よろし
くお願いいたします。
24
矢野:こんにちは。郵船ロジスティクスの矢野でございます。
JAFA の副会長も承っております。もともと私は海運会社で定期コンテナ船などをやっていたのですが、
この 7 年間は郵船航空サービス、郵船ロジスティクスで航空物流にどっぷり浸かっております。
フォワーダーにはご存じのようにいろいろな顔がございまして、ドアツードアの一貫輸送業者であり、
通関業者であり、場合によっては倉庫業者、あるいは配送業者でもありますし、航空会社に対しては集
貨代理店だとか、あるいは混載業者、荷主さんの代理という立場もあろうかと思います。いずれにしま
しても、市場と現場に近いところでの仕事でございます。本日はそういう目線からお話をさせていただ
きたいと思いますので、アカデミックな話にはならないかもしれませんが、ご容赦を賜りたいと思いま
す。
私なりに感じます航空貨物輸送の特色みたいなことを 2、3 申し上げておきたいと思います。一つは海
運に比べましてフォワーダーの比率が極めて高いということが特色かと思います。海上貨物は NVOCC の
比率はたぶん 3、4 割かその中間くらいだと思いますが、航空の方はほとんどがフォワーダー経由です。
これは、歴史的なこともありますが、航空では貨物も sensitive、スペースも貴重だということで、そ
ういう sensitive な仕事だからだと思っています。
航空貨物は最近ご指摘のとおり伸び悩んでいますが、これまでずっと伸びてきましたのは、高い運賃
を補って余りありますスピード、あるいは高い輸送品質、こういったことで国際貿易に寄与してきたと
いうことでございます。
航空輸送されるものには、絶えず航空輸送される商品と緊急時に航空輸送されるというふた通りあろ
うかと思います。どちらにとっても大変貴重な輸送手段だと思います。絶えず運ばれるものにはボジョ
レーヌーボーやステッパー、精密な電子部品などがあります。緊急品ではスティールコイルなんていう
ものも時には航空輸送されることもありまして、いずれにしてもサプライチェーンのチェーンが細くな
ったり切れたりしたところをつなぐという役割かなと思っています。タイの洪水や震災のときもそうで
すし、もっと振り返れば米国西岸の港湾ストのときも、ばっさりと切れたものを大量輸送ではありませ
んが飛行機でつなぐということがありましたが、そういったところが役割かと思います。緊急と恒常的
なもの、どちらが多いかということはなかなか線引きが難しくてはっきりとした比率はありませんが、
両方ともあると思っていただければいいかと思います。
いずれにしても航空輸送というものは高品質がカギでして、海上に比べてあらゆる面で irregularity
の許容範囲が狭いといいますか、とくにドアツードアのフォワーダーは品質が求められるということで
す。当協会は我々の業界の社会的地位の向上も使命ですので、こういったことのご理解を得られるよう、
航空輸送にかかわる関係者のすべての皆さまとともに頑張っていきたいと思っています。
25
2.航空物流の競争力向上の方策
兵藤:ありがとうございました。それではひととおり自己紹介を兼ねた航空物流に関する着眼点をご紹
介いただきました。次のテーマは航空物流の競争力向上の方策についてです。これは前半と後半がござ
いまして、前半は先ほどもお話に出ていましたが海上輸送と航空、海上輸送に対してどのように競争力
を持つのか、ないしは共存するということでもあろうかと思います。後半はアジアのマーケットのなか
でどのように競争力を持つのだろうかということで、また白石さんからコメントをいただけますでしょ
うか。
白石:海上と航空との競合関係は、結論から申し上げれば市場が決めることになるのではないかと思い
ます。兵藤先生の基調講演にもございましたように、リードタイムの差と申しますか、運ぶと価格がど
れだけ下落するのかということが要因になっているそうでございますので、例えば香港
東京だったら
ほとんど船と差はないですが、これがニューヨークまで行くとなると相当な差が出ますよね。ですから、
いかに最適化ということを荷主さん自身が決定することだと思います。
航空物流のメリットとして、例えば時間制約、急ぎのもの、例えばクレームの対応などには非常にふ
さわしいケースだと思いますし、薬や生鮮食品という輸送品目の特性を考えたり、在庫を減らしたりと
か、一挙に発売してマーケットシェアを拡大したいということや、資金回転率を高めたい、つまり荷主
さんの戦略がこれを決めていくのではないかと思います。
関空でもすでにやられているように、ベストミックス、海上と航空をいかに組み合わせて最適化をは
かるかということを皆さんお考えになるんだろうと思います。大阪港を利用して中国の上海や蘇州など
に船で運び、それから欧州までは航空便というように、最適化を図るための組み合わせも増えてくので
はないかと思います。
大震災のときを考えても、震災の直後は通信が途絶え、交通が遮断されてトラックで運ぶ。何をどこ
に運べばいいのかという情報系統が錯綜しました。その時に陸路がだめであれば今度は海運でというこ
とですが、津波で岸壁の機能もやられていると。で、秋田空港に韓国からチャーター便で水を 50 トン初
期に運んだということは記憶に新しいところですが、やはり非常時の対応や補完関係を考えると陸・海・
空をどう整備していくのか。マルチモーダルということがよく言われますが、それぞれ違った組み合わ
せで非常時を乗り切っていくというようなインフラ整備の発想も必要になってくるのではないかという
印象を持っております。
兵藤:ベストミックスということばをいただきましたが、キーワードとしていいことばだなと思います。
ありがとうございます。田村さんいかがでしょうか。
田村:先ほどの基調講演の中でもリーマンショック以降の航空貨物量の落ち込みが話題になっていまし
たが、確かに物量的には 2006 年、2007 年がピークでした。しかし、我が国の輸出入貨物の航空化率、
すなわち海上と航空の分担率だけに着目しますと 2004 年くらいがピークでして、ここから少しずつ減っ
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ています。この間に我が国全体の輸出入貨物量は増えている訳です。従って、これは一過性の景気の落
ち込みによる航空貨物量の落ち込みというよりは、何か構造的な問題があって、ひょっとしたら我が国
の輸出の成長を航空貨物が取りこぼしている、つまり海上に流れているということがあるのではないか
と考えられるわけです。
かつて、貨物が高付加価値化したり、グローバル SCM が進展していくとますます時間的要素が重視さ
れるので、航空貨物は増えていくだろうと、場合によっては海上貨物に取って代わるだろうと言われた
時代がありました。しかし、現実にはそうはなっていない訳です。先ほど兵藤先生が言われたように、
海上と航空には棲み分けがありますし、白石先生がおっしゃったベストミックスかもしれません。これ
はどうして起きているのでしょうか。いろいろな分析があると思いますが、一つには海上輸送の高速化
があると思います。例えば日中間の高速船や、最近の新聞の話題ですと北極航路というのもあります。
これが実現すると、日本と欧州の間が極端に短くなる可能性が出てきます。そうすると長距離貨物でも
なかなか航空輸送を使わないという選択肢が出てくるかもしれないということです。
また、荷主側の事情もかなり大きいと思います。荷主というのは皆さん普段からお付き合いいただい
ていてお分かりの通り、大変わがままな存在でして、スペースが余っている時には見向きもしないくせ
に、いざ緊急出荷になりますと、何とかスペースを出せとわめき散らす訳です。もちろん安定的なスペ
ース、安定的な運賃というものを求められる荷主さんも当然いらっしゃいますけど、一方で航空貨物の
難しさはこうした緊急的、突発的なニーズにどう対応するかということだと思います。
航空貨物のいわゆるベースロードと申しましょうか、例えば半導体、生鮮品といったものは航空とい
う選択肢しかないと思いますが、それ以外の貨物は海上輸送にシフトしていくという可能性を秘めてい
ると思います。荷主側は年々コスト意識が厳しくなっていますので、運賃の高い航空貨物を減らして安
い海上貨物にシフトすることで同じ効果が得られるのであれば当然海上にシフトしたいというベクトル
が常に働いています。航空輸送を使わないサプライチェーンマネージメント、これも皮肉な見方をすれ
ばある意味で進化したサプライチェーンなのかなと思います。
もう一つ根本的な問題として言えるのは、航空貨物は付加価値が非常に高い、あるいは流行性の高い、
旬の貨物を運ぶということです。流行性の高い貨物を運ぶということは、流行が過ぎ去るともう運ばれ
なくなるということです。一つの例として挙げられるのが、家庭用のビデオゲーム機です。これは 1997
年から 99 年くらいにかけて日本から大量に輸出された時期があります。
が、
この 3 年間だけなんですね。
99 年は 5 万トン以上輸出されたことがありますが、いまはどうかというと、2008 年では 3,000 トンしか
ありません。その代わりに輸入が 2 万トンあります。ということは、ゲーム機の生産拠点がもう日本で
はなくて海外にシフトしているということを示しています。
このように荷主のコスト意識ですとか、産業構造の変化であるとか、航空貨物そのものが持っている
緊急性とか、こういったものに対していかに柔軟にできるか。柔軟に対応するやり方はいろいろあると
思いますが、このあたりが実は航空物流の競争力を維持・向上させていくポイントではないかと考えて
います。
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兵藤:ありがとうございます。次に、平田さんよろしいですか。
平田:いま田村さんから航空貨物に対して厳しいご指摘をいただきましたが、私も先ほど申しましたよ
うに 3 年半貨物におりまして、海上輸送実績も毎日のように見ています。そんな中で、ご存じのとおり、
日本の貿易統計でも、重量ベースでは 99 パーセント以上が圧倒的に船ですし、国内においても同様です。
とくに島国という意味では日本を In、Out するところでは船と空との棲み分け、あるいは競争論という
のはあまり意味がないんじゃないかなと思っていまして、いかなる時でも緊急輸送の需要というのはあ
りますし、白石教授がおっしゃっていた Point to Point という形で威力を発揮した震災時のケースもあ
ります。道路と海上がすべて寸断された時に飛行機で運べることを実証できました。今回のバンコクで
もそういうケースが出てくるかもしれませんが。そういう意味で私は飛行機で運ぶものというのは緊急
性があって、それからいま田村さんがおっしゃったように時代の最先端をいっているような製品、在庫
をしない製品、こういったものは今後もコンスタントにあるんだろうと私は思っています。ただ、先ほ
ど中村会長がおっしゃっていたように、サプライチェーンマネージメントがどんどん進展することで、
とくに近場のアジアの中では海上にシフトしていく商品がでてくることは避けられないと思っています。
ヨーロッパ、アメリカとの間でそういった形で一気に海上にシフトしていくかどうかについて私はそう
思っていません。むしろその時の最先端の商品の‘値段’
、あるいはその中に占める‘輸送コスト’
、そ
の時の‘為替’の問題、あるいは‘総輸送量’といった条件の中で「空で運ぶのか、海上で運ぶのか」
、
その時々で凸凹はあると思いますが、一気にすべてがシフトしていくとは思っていません。むしろ我々
航空輸送事業者としては航空輸送の圧倒的な付加価値でありますスピードを商品としていかにしっかり
と消費者、荷主、フォワーダーの皆さんに理解していただいて運ぶことが一番重要なことだと思ってい
ますし、また我々が需要をつくっていくということも必要です。中村会長のお話にもありましたように、
昨今は日本の医療関係が伸びています。少子高齢化という風に日本のマーケットも変わってまいります。
それから生鮮食料。きょう採れたものが明日には世界中の食卓に上るようなものが増えてまいります。
それからインターネットの利用が増えていますが、ネットでオーダーした人は明日にでも商品が欲し
いんですよね。そういう早く手に入れたいという需要はコンスタントに出てくると思います。ただ、そ
れを果たして「日本のマーケットだけで商売するのかどうか」というのが私の論点です。我々としては
海上貨物との共存といったものは当然ありますし、競争もしていかなければだめだという認識でいます。
兵藤:ありがとうございました。それでは平塚さんお願いします。
平塚:海上輸送との競合について 3 点ほどお話ししたいと思います。1 点は兵藤先生がおっしゃった価
値が減少していく財ですね。前にタイの富士通のハードディスクドライブの工場でお聞きしたところ、
ハードディスクドライブはだいたい 1 年で変わってしまうということでした。1 年で品質が高まってい
くということですね。その間少しでも出荷していった方が工場側は有利だということで、出荷価格の 2
3%くらいの輸送費を考えているということでした。価値が減少していくものに対しては航空輸送が要
であろうと思います。
2 点目としましてジャストインタイムの生産がいまは行われていまして、どこに行ってもそうですが、
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例えば自動車産業ですとミルクランといって国内でいろいろな工場をトラックで回って部品を集めてく
るということが行われていますが、例えば電子部品ですと、コンパクトであるがためにタイ国内だけで
はなくて周辺国からも部品を調達してくると。例えばマレーシアのジョホールから夜 10 時に工場から出
荷されると翌朝の 5 時にはクアラルンプールの空港に着いて、朝一番のバンコク行きの便に搭載して午
後には工場が指定したところに入ってしまうといった、そのくらいのスピード感で行われています。と
くに重要な点は、不良品が発生した時に急いで対応しなければなりませんので、とくに精度が要求され
るものは少量で毎日出荷していき、何かあった時にはその不良品に対する対応を整えるというのが生産
側からの事情だと思うんですね。
3 点目は、アメリカはかなり出荷統計等が整備されていまして、航空輸送というのはどのくらいの価
値があるのかというのを研究したものをパデュー大学のデビッド・ハメルという人が書いていますが、
その中で、
確か計算結果によりますとだいたい 1 日あたり 0.8%のコスト減という試算で考えていると。
兵藤:ありがとうございました。矢野さんお願いします。
矢野:航空輸送の海上輸送に対する競争力については私も言いたいことがいろいろありますが、皆さん
がだいたいおっしゃいましたので私は主にアジアの中での日本の航空貨物、航空物流の競争力というと
ころに軸足を置いて話をしたいと思います。
大きくいって日本の航空物流の競争力は日本の競争力そのものだと感じています。円高だとか、六重
苦だ七重苦だとか言いまして、生産のアジアシフト、日本脱出が止まらない流れで、それに従って日本
の航空貨物市場もあまり期待が持てないなという声も多いんですが、もう少し広く見てみますとアジア
の中でもチャイナプラスワンではないですけれども、中国あるいはタイからベトナム、インド、カンボ
ジア、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタン、と最近はそこまでシフトが起きている訳で、いわば
世界的な規模で生産のパラダイムシフトがおきています。
それに続いて消費のパラダイムシフトも起きてくると思われます。こういうことで我々フォワーダー
も海外のネットワークを展開してきている訳ですが、日本についてもこういうパラダイムシフトに応じ
て、逆に増える国際物流もあるということで、先ほどから例が出ていますが、生産が移転したことによ
って日本から部品が出て行くとか、できた製品を日本に持ってくるとか、そういう物流もある訳です。
増えるのと減るのとどちらが多いのだというと何とも言えませんが、一方的に悪影響ばかりあるのでは
ないと思います。
日本の生産自体も一方的に衰退していくのではないんじゃないかと私は思っておりまして、アジアへ
の生産移転と言いますが、過去にも繊維から始まって玩具であり、造船、電気製品など、このところは
電子部品、自動車など、航空貨物業界としましても十分経験をしてきた訳ですし、それなりに我々も乗
り越えてきたということではないかと思います。大ざっぱに言いますと、先ほど田村さんがおっしゃい
ましたゲーム機のように新しい技術だとか新製品ができますと、最初は概して値段も高いですし在庫も
少ない、それから市場に早く投入したいということもあって、物流手段として主に航空物流に頼ります
が、だんだん落ち着いてきますと海上輸送に流れていくということであろうかと思います。
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生産の方でも最初の新製品は日本の技術である限りは日本でつくり、それから組み立てがしだいに海
外に移っていき、それに応じ次に現地調達ということで部品が移っていく、といった順番でいく訳です
ね。そういうことで、日本発の技術だとか新製品が必ず出てくると思います。若干いまは踊り場的なと
ころにあろうかと思います。そういうことで我々にも閉塞感があったりしますが、2 週間ほど前の『日
経ビジネス』に「日本の技術 100」という特集がございまして大変力づけられました。日本にもまだま
だ環境対応技術だとかロボットなど未来型の技術がまだいくらでもあると思います。競争力ということ
で日本の技術の底力を信じたいと、フォワーダーの方策ということではございませんが、そのように思
います。
最後に国内航空貨物についてひと言申し上げたいのですが、純粋な国内航空物流ということでは国際
以上に厳しいという見通しが多いんですが、まだまだ北海道、沖縄などの遠距離輸送や緊急輸送でその
役割は大変大きいと思います。それから平田さんが少し触れられましたグローバリゼーションというこ
とで日本の水際の空港を発着点とする国内物流も新しく出てくるということもあると思いますし、これ
も国内航空物流の新しいビジネスチャンスかなという感じがします。そういう意味で内際接続の効率化
というのもテーマでございますし、航空会社さんも、国内が旅客中心の運営になるのは致し方ないとし
て、その中でスペースの安定確保というのが課題であろうかなと思っています。
兵藤:ありがとうございました。私なりに取りまとめさせていただきますと、放っておくと海上にどん
どんシフトするという訳ではなく、はじめからある程度棲み分けのあるマーケットだろうというご意見
が多かったのだろうと思います。ただ、航空貨物ならではの品物、新しいものですとか付加価値の大き
いもの、こういったものを積極的に見つけていく、ないしはみずからつくっていくという姿勢が必要で
す。それと同時に航空貨物の高付加価値化をいっそう進展させる、インフラとしては羽田の 24 時間化と
かいろいろな使い方、いままでにない航空貨物の速達性をさらに生かすような使い方があろうかと思い
ます。
それからご指摘がありましたが航空と海上との連携となると、港は全国に点在していますから国内の
航空のネットワークとの設定、こういったことも念頭に置いて、そういった多角的な検討が必要でしょ
うし、積極的にマーケットをつくっていくことが必要なんだろうと思いました。
次は、2番目のテーマの後半ですが、アジアマーケットの成長をどうやって取り込み、そして航空物
流の競争力向上をどうはかるか、いままでのお話の中でいくつかヒントは出ていましたが、これは順番
ではなく挙手いただいてご提案なりコメントがありましたらお願いします。どなたからでも結構ですが。
では白石さんお願いします。
白石:お先に失礼いたします。アジアとの競争ということで 2 点申し上げたいと思います。皆さんのお
話を聞いていますと空洞化とか厳しい荷主さんの要求、荷主はわがままだというコメントも出ています
が、こうした状況に手をこまねいていられない訳ですね。
航空貨物の競争力を強めていくには1つはより速く、より安く、より安全というこの 3 つだと思いま
す。例えばより速くということであれば成田の稼働時間の夜 11 時から朝 6 時、ここをどうするのかとい
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うこともありますし、せっかく羽田と成田で一体運用といっているのにロスタイムがあれば一体的に運
用できない訳ですよね。私は千葉の幕張に住んでいますが、湾岸を走っていますと成田から羽田まで高
速道路が混んでしまうともうそこでパンクです。空港へのアクセスをどうしていくかということや、い
ま成田にフォワーダーさんが集中していて羽田は手薄ですね。成田 羽田間の物流拠点の再整備というも
のも必要ですし、また、国策の中で着陸料を下げていくことも必要です。そうすれば 1 個あたりの単価
を下げていくことにつながります。テロ以降、空港の安全対策が非常に厳しくなりましたが、私は空港
だけで全貨物をチェックすることが果たしてできるのかどうかと思います。サプライチェーンの全段階
できちんと安全を担保していく方法も考えていかないといけない。ここまでが 1 点目です。
2 点目は人が動く、モノが動く産業政策というものが必要ではないかと思います。産業の空洞化とい
われていますが、日本がこの先何をメシの種にしていくのかということとセットで航空物流の活性化を
考えていかなければならないんですね。羽田にはメディカルゲートウェイ構想ということで第一国際貨
物ビルの 4 階に薬を預かる薬品の専用庫ができて、専門のスタッフがそこにいらっしゃって厳格な管理
ができます。せっかくこういうものがありながら産業政策にそれが生きてないんですね。例えば、いま
全世界で医療ツーリズムというのは 600 から 800 万人といわれて市場規模はこれから 12
15 兆円です。
いままではイギリスやカナダに治療を受けに行っていた人たちが多いのですが、実はそれが費用の安い
アジアにシフトしています。日本の医療は非常に高度なものがあるんですが、こういうものも海外の医
師が来て診療行為をすることに規制があったり、医療面での規制が非常に厳しいんですね。
こうした医療ツーリズムや診療特区みたいなものを空港周辺でやれば、海外から人がきてモノが運ば
れる。つまり、産業政策と一体的に航空物流を考えていくような視点が非常に重要になってくるのでは
ないかと思います。
兵藤:ありがとうございます。そのほかどうでしょうか。平田さんお願いします。
平田:冒頭から兵藤先生をはじめ中村会長も示されたように、
「産業の空洞化」が日本でよく言われてい
ます。個人的には TPP などには日本が積極的に参画していくべきだと考えています。私が 3 年半で経験
したのは‘貨物は経済そのもの’です。我々運送事業者は結論的に言うとそれに合わせていくしかない
んですね。その産業構造の変化に日本なり、世界の生産拠点のシフトなり、そういう物流の流れに我々
が合わせていかない限りは生き残っていけないと思っています。航空事業者の立場からすると、日本の
東アジアに位置するというメリットを生かして、人材なり資源と一緒にその市場の中に飛び込んでいく
んだろうと思っています。だから私は空洞化ということに決して悲観的ではありません。ただ、航空に
関してはいろいろ制約が多く、国と国との航空協定といった制限もありますが、その辺りも次第に緩和
され、撤廃されていく中で、我々としてこの成長するアジアで産業空洞化といって嘆くのではなく、我々
がそれに合わせていくということが結論だと思っています。
一部のフォワーダーさんや船会社さんの中には日本から飛び出してアジアの方に本社拠点を移されて
いるところもありますし、我々もそういう形でアジア全体の成長の中で発展していくためには我々自身
も変わっていかないと。そのためにも、日本の企業は高コストと言われますので、我々としては国際競
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争力のあるような体質にしながら日本の皆さんから評価していただいているしっかりとした品質を市場
にアピールしていくという形で、このアジアでの経済シフトというか産業シフトに立ち向かっていくの
ではないかと思っています。
兵藤:前向きなおことばありがとうございます。日本は幸いなことにアジアの中にいるという姿勢で対
していくのが必要かなと感じました。いまのご発言の中で TPP の話が出ましたが、これはご専門の平塚
さんから TPP それからアジア成長をどうやって取り込むかとか、我が国貿易策、そこらあたり何かコメ
ントはございますでしょうか。
平塚:はい。まずアジアの成長と言った時に2つ考えられると思うんですね。1つは先ほど申し上げた
生産ネットワーク。これは垂直的な、要するに生産システムの中での話で、Vertical Integration、生
産面での垂直な統合ということですね。ヨーロッパで進んでいるのは、例えば自動車なんかではフラン
ス人がドイツの車を買うし、ドイツ人がフランスの車も買うし、それぞれが似たようなものを購入して
いく。そういうのを水平的統合、Horizontal Integration と言っているんですね。これはヨーロッパの
方で進んでいて、アジアの舞台で進んでいる統合は垂直的な生産ネットワークだけの統合にとどまって
います。やはりアジアも水平的な統合に将来歩んでいくことが必要だろうと思います。その時に考えな
ければいけないのが輸送費だと思うんですね。輸送費の中では運搬費も大きいと思うんですが、もう一
つ大きな問題として関税があります。例えば東南アジアから出荷される電子部品に関しては出荷価格の
うち人件費は 2、3%くらいなんです。それで関税は、電子部品の場合はゼロですが、多くの最終製品で
はまだアジアでは高い関税がかかっています。その辺を削除していかない限りなかなかアジア地域の発
展はないであろうということですね。
もう1つは、中国は日本にとって非常に重要なパートナーだと思うんですが、例えば日本と中国で将
来 FTA をやりましょうといっても、日本が思うようには市場が開けないと思うんですね。例えば、自動
車。中国と ASEAN との FTA が動いていますが、中国は自動車についてはタイの生産拠点を怖がっていま
して Sensitive List に入っています。要するに排除しているんですね。そういう中国に対して日本が自
動車市場を解放しろと言っても相手にしてくれないでしょう。それが TPP だとアメリカが入っていると
いうことでものすごい力を持っているんですね。いまアジアの中ではベトナムとマレーシアが TPP への
参加交渉を決めています。いま 9 カ国ですが将来的には APEC 加盟の 21 エコノミーが参加する可能性が
あります。TPP は APEC の参加国が加盟するという前提でいま話が進んでいます。ですから TPP は非常に
大きなマーケットと言いますか、単一市場になっていく可能性がありますから、日本としては入ってい
かないと将来非常に大きな問題になるだろうと言われています。この点では、やはり韓国の存在ですね。
韓国は EU と FTA を締結していますし、今月にはアメリカとの FTA に合意したということで、EU および
アメリカ市場で日本は韓国と競争して行かなくてはいけない。白石先生が政策が必要だとおっしゃいま
したが、日本は大きなホームマーケットに安住してきたと思うんですね。政策は二の次でやってこられ
た時代が続いてきた。いまのまま続けていくとそれほど大きくない韓国に抜かれてしまうという、それ
くらい関税も含めた輸送費というのは重要になっていくと言うことだと思います。
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兵藤:ありがとうございました。いまのテーマ、アジアのマーケットを考えた競争力の向上、ひと言で
まとめてしまえばアジア各国とのパートナーシップ、それも対等なパートナーとしての日本とアジア各
国との役割の見直しが大切だということになるのではないかという気がします。
3. 航空物流を支えるインフラストラクチャー
兵藤:それでは最後のテーマ、これからの航空物流を支えるインフラストラクチャーです。これは別に
空港ですとか公共施設といった社会基盤に限らず、フォワーダーさん、キャリアさんのもっている設備
でも構いません。いろいろな設備についてこれからどんなことを考える必要があるか、これも日本の競
争力を高めるためということでございます。これは逆に矢野さんから順番にひと言いただきたいと思い
ます。
矢野:広い意味でのインフラということですので、フォワーダーとしての事業環境からお話ししたいと
思います。IT や輸送システム、仕掛けだとか制度だとか、通関も含めてです。例えば航空保安という問
題がありますが、これは国際も国内も保安は絶対でして、輸送上のコンプライアンスは我々が絶対に守
るものというのは当たり前のことです。こういった面で教育訓練あるいは周知徹底といったことは当協
会の会員各社、あるいは協会の大きな使命であると思います。
制度面でも適正な制度や規制となるよう協会としてもお願いしていきたいと思っています。一例では
更改 NACCS では効率化で大変寄与したと思っています。昨今 e-Freight もありますし、もう少し大きな
仕掛けとしての AEO 制度も進展していくと思います。こういったことに関しては行政や荷主さん、キャ
リアさん、フォワーダーが協力して進めていくべき分野です。その際にも実状を踏まえた必要なものを
効率的にという視点で制度設計を考えていくべきだろうと思います。
あと空港政策もフォワーダーにとって大きなインフラの一つですが、これも皆さんこれからいろいろ
なご意見があるでしょうからお任せすることにいたします。ひと言だけ言いますと、限られた日本の資
源、お金の中で、こういったものは全体最適を目指した制度設計、製作設計が必要なのではないかと思
います。
最後に羽田空港ですが、1 周年おめでとうございます。旅客の方は順調に伸びてきているようですが、
貨物の方は正直言いまして成田と比べるとコストや使い勝手がいまひとつというところです。生鮮や食
品など輸入関係を中心に伸びてきていますし、輸出の方でも東京以西のお客さまの電子部品等々もござ
いますが、それでも当初予定の 50 万トンには遥かに及ばない 10 万トンに届くかなというくらいのとこ
ろではないかと思います。我が社も施設を構えていまして大変苦労をしているところです。何はともあ
れ、便数が少ないというのが最大のネックですが、せっかく国際化されたのでさらなるコストの低減だ
とか、国際定期便の増便だとか、フォワーダーチャーターの拡大などの利用拡大促進策をお願いいたし
ます。大変潜在力のある空港だと思っております。それから、全体最適の観点から成田と羽田の一体運
営も進めていくべきだと思います。
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兵藤:次は平塚さん、海外の空港の事例でも構わないんですが、何かコメントをよろしくお願いいたし
ます。
平塚:私はここ数年貿易だけではなく経済統合を勉強していまして、その観点から言いますと、グロー
バリゼーションで起きることは地方都市の存在が重要になってくる、要するに国境がなくなってくると
地方都市とほかの国の地方都市が競争していくという時代になっていくことなんですね。そうなるとど
ういうインフラの整備の仕方があるのかというと、一つは兵藤先生が基調講演でおっしゃられたように、
日本の各地からいろんな産物を羽田に集中して、そこをうまく成田とつないでアメリカやヨーロッパな
ど海外に伸ばして輸出していこうという、そういった解決の仕方もあると思うんですね。おそらくそう
いう場合はとくにヨーロッパやアメリカなどの遠隔地というのはそういう市場として有望なのかなと思
っております。
一方で、日本の各都市から中国とか大きな都市に向けてフライトがいろんな形で整備されて、そこで
地方空港の経営的な問題が指摘されてはいますが、こうした地方空港を利用していく、要するに中国に
対して日本の各都市がハブアンドスポークの議論で言うスポークになって、いかにたくさんのスポーク
を効率的にしていくのかということが重要かと思います。日本の空港整備はかなり進んでいて、むしろ
それぞれの空港を利用していくソフトのフォワーダービジネスと言いますか、皆さんのビジネスの分野
の一つだと思いますが、それがうまく日本の地方都市の産物を近隣国の中国や韓国に輸出していくテク
ニックを磨いていただきたいなと個人的には願っております。
兵藤:私も地方空港の需要振興策とか相談を受けることがあるんですが、最初に出てくるのは「うちの
空港に何か需要ないですかね」ということが非常に多いんですね。私も平塚さんと同じでどういう知恵
を絞ったらいいのか分からないのですが。皆さまのお知恵を拝借したいと思う次第です。次は平田さん
いかがですか。
平田:平塚さんがおっしゃった地方空港とハブアンドスポークで結ぶという意味では、羽田は非常に潜
在性のある空港だと思っていますし、きょうは本邦航空会社の立場ではありませんけど、本邦の航空会
社、とくに国内線のネットワークを持っている航空会社は当然ながらそれを考えて国内線の地方からの
貨物を羽田からつないでアジアや欧米につないでいくことを考えていると思います。インバウンドでは
生鮮関係はアジアからどんどん入ってきて増えていくと思います。
もう一つある問題は、航空事業のインフラとして一番大きいのは空港そのものでして、成田と羽田の
一体運営とよく言われますが、それをうまく使って欲しいという行政サイドからの要請でもあります。
ただ、航空輸送業者の立場からすると、そこに機材なり人を配置するには、いかに効率が良くてしっか
りした需要が背景にあるかどうかということがポイントになります。フォワーダーさんや荷主さんの立
場からすると、集積の場所として効率よく集められるかどうか。これら両者のニーズが合致して空港の
競争力がアップできるんだろうと思います。私にとって頭が痛いのは成羽間の‘横持ち’の問題が先ほ
ど出ましたが、空港が二つあるが故に、将来的には解決できると思っていますが、一過的にそういうコ
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ストが発生する。で、仁川でそういうコストが発生しているかというとしていません。そういう意味で、
成羽の一体運営といった形で仁川や香港、あるいはアジアの航空会社に打ち勝てるような競争力のある
空港にできるかとなると、我々輸送事業者、あるいはフォワーダーの皆さんだけでは解決できない問題
だということは自明の理です。やはり日本という国の中での空港にかかわる高コストをどういう形で打
ち勝っていけるようにするかというところは非常に頭の痛い問題ですし、空港のインフラにかかわるコ
ストについては業界としても国に要望をしていく必要があるかなと思っています。
兵藤:それでは田村さんよろしくお願いいたします。
田村: ここ 10 数年、民間企業では「選択と集中」ということばが流行っていまして、他社の事業を買
収をしたりとか不採算事業を切り離したりということが一般的に行われてきましたが、例えば空港政策
という観点から考えますと、いま日本に 100 の空港がありますが、これを選択と集中をしていこうとい
う発想は行政としてはあまりない訳ですね。確かに多大な税金を投入して造った空港ですから、使わな
いからやめてしまおう、といった乱暴な議論はできません。ただ、一方で選択と集中の論理は弱いもの
をただ切り捨てるというよりは、強いものをもっと強くしようと観点もあるのかなと思っています。思
い切ったことはできないにしろ、それぞれの空港が、独自の強みやサービスといったいいところを見い
だして、それをどう伸ばしていくのかということが空港政策なり空港の活用のポイントになってくるの
だろうと思います。特に地方空港になりますと、同じような機能をもって同じような便を張って、同じ
ようなことをやろうと思っているところがありますので、空港間での一定の役割分担ですとか、棲み分
けであるとか、あるいは独自のサービスを展開するということが成長につながるのではないでしょうか。
ご存じのとおり、空港間の機能分担の例としてはニューヨークのようにエアラインによって棲み分け
を行ったりとか、ロンドンでは機能面で分担してみたりとか、また、アジアでは内際分離型が主流だと
か、いろんなパターンがありますが、こういった使い方を旅客というより貨物の観点で、どういう空港
をどういう風に使っていくと伸びていくのだろうということを考えていく。そしてそれを補強していく
には、国や自治体に対して業界として何を要望していくのか。例えば規制緩和であるとか運用時間の問
題、あるいはインフラの整備といったようなことをしっかり要望していく。貨物はとくに時間帯と機材
をできるだけ柔軟に運用できるということが大前提だと思いますので、そういったことに対して業界と
しても声を上げていく必要があるのではないかと思います。
兵藤:最後になりましたが、白石さん、いかがですか。
白石:即時性のある航空物流ですが、インフラの一つとして非常に重要なのは周辺手続きの迅速化、簡
素化ではないかなと思います。荷物を送る時、荷主さんはインボイスなどにそこに何が入っているかと
かリストに書かなければなりませんし、フォワーダーさん、航空会社さんもそれぞれ異なった書類を書
きますが、荷物を送る周辺部分で煩雑な手続きがありますので、ここでより速く、いま検討が進んでい
ると言いますが、電子化することによって、そしてそれが全国の空港で普及することによって手続きの
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簡素化のためのインフラの整備をぜひお願いしたいと思います。
あと 1 点、私は最近経済産業省のある審議会で勉強させていただいているんですが、日本発着の物流
だけでなく、日本企業の海外発、現地発の需要が出てくると思うんですね。大田区には優秀な技術を持
った小さな工場がたくさんあったんですが、3 年間で 1,000 の工場が消えたくらいで、なかなか競争に
勝てない。それで、大田区が支援してタイに工場をつくったんですね。本社だけを残しながら、タイの
工業団地にみんなで入って、それぞれ弱小の企業ですので技術を融通し合ってみんなでいろんなものを
つくる。彼らのつくるものは小ロットなんですが高付加価値のもので急いで届ける必要もあると思うん
ですね。残念ながら企業規模の小さいところは物流の最適化とかロジをどうするかといったノウハウが
ありません。海外に出ているこういった企業はこれから増えてくると思いますが、物流の最適化を含め
ていろんな提案ができるのではないかと思います。
さらに、先ほど TPP の話が出ていましたが、私自身としてはこれはチャンスではないかなと思います。
残念ながらいままで農業に携わっていらっしゃる方には申し訳ないんですが、保護をしすぎた故に衰退
が進んでしまっている。宮崎のマンゴーなんてキロ 5,000 円もするものを皆さん買われたことあります
か。私、年に 1 回も口に入らないんですけど、台湾やフィリピン産よりも格段においしいですよね。日
本農業で価格競争力があるものに品質の競争力のあるものがすごく多い訳で、例えば 2013 年に羽田で枠
の再配分が始まりますが、国内ですごく美味しいものを羽田に集めて、成田でもいいんですが、地方の
活性化に対して羽田の物流がどう寄与していくかということを考えれば、相当競争力のある農産物が地
方にある訳ですね。例えば北海道には 1 回も殺菌しない牛乳があります。マンゴー、コメ、リンゴもそ
うです。リンゴは 1 個 1,000 円で台湾で売れています。守りの農業ではなく攻めの農業にするにはどう
するのかということを考えなければいけませんし、日本政府は TPP に参加している国から情報を得てい
るだけですが、きちっとテーブルについて何が不利益なのか、何が利益をもたらすのかということを説
明する責任があると思います。まずテーブルにつかなければ正しい情報は入ってきませんし、逆風をど
ういう風にすればチャンスに変えられるのか、こういう議論をいち早くしていくことが大事なのではな
いかと思います。羽田は 40 数都市との便を持っていますし、羽田の物流を活性化することによって地方
の農産物が羽田を経由してアジアに出て行くことも可能だと思います。そういう大胆な発想でぜひ取り
組んで欲しいなと思います。以上です。
兵藤:ありがとうございました。ひととおり幅広く考えたときのインフラに対する期待ということをお
伺いしました。意外だったのは地方空港の活性化ですとか、いま白石さんがおっしゃった地方空港から
の農産物の輸送、それから羽田成田の一体運用、羽田は国内線のネットワークが充実しているというこ
とから見た地方からの貨物のつくりかた、物流ですから荷物をどれだけつくるか、ないしは発生させる
か、これで将来が決まる訳ですから、そういう発想が必要なのかなと、そんなことを思った次第です。
それではフロアからいくつか質問を承っていますのでそれに答えていただこうかと思います。中には
すでにこれまでのディスカッションの中でコメントをご披露いただいたものもありますので、そうでな
いものを 2、3 取り上げたいと思います。
これは平塚さん、田村さんに質問と名指しでございます。今回のタイの洪水が、アジアの物流全般、
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そして航空物流に対する影響はどうでしょうかと。また、その時に日本のフォワーダーは何を心がけて
どういうアクションをとるべきだろうかという質問です。まず平塚さんからコメントをいただければと
思います。
平塚:物流は田村さんにお任せすることにしてタイの洪水の影響についてお話ししたいと思います。
チャオプラヤ川、その北端の部分にアユタヤの工業団地がありまして、かつてはバンコクから 2 時間
くらいかかっていましたが、ハイウェイができて 45 分くらいで、例えばキヤノンのハイテクタイランド
の工業団地に車で行けるんですね。非常に便利になってきました。北端から下流の方にかけて工業団地
がさらに展開しています。古い工業団地はバンコクの周辺、あるいはバンコクの一部に立地しています
が、新しいところはアユタヤに向かって外円的に拡大してきたという歴史があります。
バンコクを中心とした工業団地はチャオプラヤ川流域ともう一つ東部臨海地域、パタヤという有名な
リゾート地がありますがそちらの方にもう一つ大きな工業団地があります。これは 90 年代から 2000 年
以降発展してきました。自動車等が多いんですが、それがチャオプラヤ川流域と東部臨海工業団地が一
体となっているんですね。要するに部品のネットワークがバンコク周辺にトラックで 2、3 時間のところ
にでき上がっていまして、チャオプラヤ川流域がダメでも東部臨海が残っているということにはならな
いんですね。例えば自動車のサプライヤーでも 2 次、3 次のサプライヤーは電子部品も手がけていろん
な分野に卸していますので、チャオプラヤ川の洪水となればバンコク周辺の工業団地の機能がかなりマ
ヒしていると言ってもいいと思うんですね。
それと販売先で見ますと、タイ国内が大体 65%くらい、残りの 35%くらいが日本向けと第三国向けの
輸出です。35%のうち日本向けと第三国向けが大体半分ずつですので、タイの生産が滞るということに
なりますとかなり日本の産業のチャンネルに影響がでてしまいます。ですからタイの洪水は日本を含め
て相当大きな影響を与えてくると思います。いろいろな報道で言われていますが、本当にそのとおりの
状況であろうと思われます。
兵藤:まだなお拡大していますので、長期化するというニュースも流れていますね。
平塚:私は 83 年から 85 年までバンコクに住んでいまして、83 年に大きな洪水があったんですね。その
時はバンコク中心でアユタヤまでは洪水はなかったんです。その時に日本人学校が 3 カ月間くらい洪水
で交通遮断状態になったんですね。10 月の中旬に今回のアユタヤの状態を見た時に、83 年の経験から見
ましてこれはアユタヤ周辺で 2、3 カ月水が引かないのではないかと直感的にそう思いました。
兵藤:ありがとうございます。それでは田村さんいかがでしょうか。
田村:現段階では被害状況が把握できていないので、おそらく水が引けば工場の施設等もやられていま
すので、輸送業界にも特需が出てくるのでは、ということは言えると思いますが、ここでお話ししてお
きたいのは、これが終わったあと荷主、メーカーはどういうことを考えるのだろうかということです。
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一つは東日本大震災があって、今回はタイの洪水があって、国境を跨いだ、グローバルな生産あるい
は販売の仕組みの中で2つの大きなエリアが大きなダメージを受けたということで、広い意味での BCP
(Business Continuity Plan)を考え直さなければならないだろうと思います。これまでの企業の物流
の BCP では複数の拠点が同時にやられるということは考えていないと思います。それが今回実際に起き
ているということで、グローバルな形での BCP をどうするかということをまず考えることになると思い
ます。
それに付随して2つ目としては、これまではサプライチェーンマネージメントやジャストインタイム
ということで、リードタイムも絞って在庫も最小限にしてと、物流の仕組みを世界レベルでつくってき
た。それがダメージを受けて、まったく動かなくなってしまったわけです。おそらく今後は、少し余裕
を持ったサプライチェーンを考えていかざるを得ないだろうなと。柔軟な形のサプライチェーンマネー
ジメントといったものを考えていく必要があると思います。そうすると在庫の持ち方とか在庫量だとか、
世界レベルでのモノの流し方、リスクの分散の仕方をもう一度抜本的に考え直すということが場合によ
ってはあろうかと思われます。
それから、これは直接物流とは関係ないんですが、個人的に気にしていますのは、東日本大震災に加
えてアメリカでもハリケーンが定常化していて、さらに今回のタイの洪水ということで再保険のマーケ
ットのキャパシティが足りなくなってきていると思います。リスクをヘッジする手法として企業にとっ
て保険というものは非常に重要だと思っていますが、こういった自然災害が続きますとかなり再保険の
引き受けが難しくなってくると思いますので、このあたりも注意をしていきたいと思います。
兵藤:土木学会の震災調査などで私も行くんですが、日本の場合ですと 21 世紀は間違いなく災害の世紀
で、なおかつ地球温暖化のせいかどうか 100%分かりませんが、海外でも今回のような自然災害が多く
なってくる。そういうことでいまのお話にありましたような物流全体のサプライチェーンマネージメン
トのあり方、必ずしも効率一辺倒ではない、場合によっては船と飛行機の組み合わせの仕方、緊急対応
など改めて物流全体の再構築みたいなことを考える必要があるんだろうなと思った次第です。
あと1つ、これは私にはまったく分からない質問です。航空会社はアライアンスを形成し、旅客の分
野ではコードシェアリングなどをやっていますが、それを航空貨物で見た時にこれからカーゴのアライ
アンスはどうなるんでしょうか、ということなんですが、これにお答えできるのは平田さんでしょうか。
お願いします。
平田:旅客と貨物はまったく違いますね。旅客の 7 8 割は行って帰って来るお客さまです。日本では日
本人が中心で外国人が 2 3 割と増えてきていますが。貨物は片道でして、昔ほどの片荷現象というのは
少なくなっているかと思いますが、どういう形で自社便を行きも帰りもしっかり埋めるかといった時に
は、相手国における販売競争力だとかネットワークが重要ですが、アライアンスというのもその手段の
一つだろうと我々航空貨物業界も思っています。旅客が先行して世界で 3 つないし 4 つのアライアンス
に包含されてしまいますが、貨物が旅客と同じような組み合わせで、旅客・貨物一体となったアライア
ンスになるかというと、私は個人的には違うと思っています。それは飛んでいるマーケット、そこで何
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を航空貨物として運んで行くのかという観点から、そこにサービスしている航空会社がお互いにメリッ
トがある場合にアライアンスという形に進んで行くのではないかと考えています。ぶっちゃけた話、私
はいま日本航空という立場ですが、我々はマーケティングとしては旅客と貨物を分けて整理しています。
ただ、これは個人的な話も含めて申しますと、太平洋ではアメリカンという航空会社と JAL、全日空さ
んはユナイテッドさんと、こういう2つの大きなチームで旅客のアライアンスが組まれている中で、航
空貨物事業者の立場として、旅客と同じアライアンスパートナーを選ぶということは路線によってはあ
ると思いますが、欧州やアジアでも旅客と同じようなアライアンスで組まれて行くかというと、そこは
違うな、と思っています。それはマーケティングが違うんですね。私は旅客と貨物の両方を経験して実
感しました。貨物にはラウンジも必要ありませんし、マイレージもありません。それから往復はしない。
トランジットはしますが。アライアンスは旅客では乗り継ぎで非常に重要な戦略ですが、貨物のトラン
ジットの比率はわずかですので、メインは Point to Point でお互いどういう形で協力できるかという観
点で貨物のアライアンスは考えられるのではないかなと思っています。以上です。
兵藤:ありがとうございます。ほかの方で何がご意見はございますか。矢野さんお願いします。
矢野:フォワーダーの方からすると、平田さんと同じですが、もう一つピンとこないところがあります
ね。旅客と違いましてフォワーダーとエアラインさんというプロとプロとの仕事ですので、基本的には
オペレーターさんと優先的にお話しするということになろうかとは思います。ただその中で資源の有効
利用ということでアライアンスが進んでくるかもしれません。そうするとアライアンスでどういうメリ
ットを顧客に出せるかということになると思いますし、例えばネットワークだとかインターライン接続
が大変効率的になるとか、そういった面でメリットを出せるアライアンスに進んで行けば大変いいこと
だなと思います。
平田:いま矢野副会長がおっしゃったとおりでございまして、我々も自社便のないところをうまくパー
トナーとして補完できると。これは旅客も同じですが、貨物はトランジットは少ないと申しましたが、
例えば南米は私ども飛んでいませんから、そういったところはたまたまパートナーが路線を持っている
と、あるいは私どものパートナーはアジアにネットワークがありませんが JAL が持っていると、こうい
うお互いが補完できるということが大きなメリットでございます。
それから矢野副会長がおっしゃったように、我々は Customer-Oriented でありまして、アライアンス
を組むことでどういうメリットを荷主さん、フォワーダーさんに提供できるかということをアピールで
きない限りアライアンスというのは成功しないんですね。過去に貨物のアライアンスで成功したのを見
たことがありません。過去 JAL でもやりましたが。そういう意味では貨物は経済そのものであり、まっ
たく旅客と違うというのはそういったところだと思います。荷主さん、フォワーダーさんにしっかりと
メリットをアピールできる形でないとアライアンスをやっても意味ないし、そういう形で我々考えて行
きたいと思っています。以上です。
兵藤:ありがとうございました。明確なお答えをいただきまして大変勉強になりました。
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そろそろ時間になりましたので、以上とさせていただきたいと思います。もし皆さんのなかでもし言
い忘れたことや付け加えたいことがどなたかございましたら。平塚さんどうぞ。
平塚:先ほど白石先生が TPP をつかって農産物の輸出をしたらいいんじゃないかというご提案があった
と思いますが、貿易の実証研究の中でアメリカに面白い研究結果がありまして、
「出荷件数は、200マ
イルまでは距離に反比例し急速に減少しています。つまり、一般的なモノは200マイルの範囲内なら
出荷できるが、距離が遠くなればなるほど出荷は減少します。
」
一方、出荷価格で見ると、ものすごく遠くまで出荷していると。要するに高いものほど遠くまで輸出
している。そうすると宮崎のマンゴーとか沖縄のマンゴーがアメリカやヨーロッパに輸出できるんです
ね。例えばフランス料理の、私はよく食べるんですが、オマール海老だったらカナダ産ではなくブルタ
ーニュ産と、産地が重要になってくるんですね。ですからグローバリゼーションの中でいかに産地とい
ったものを重用視していくか。高くても売れる、マーケットを開発していくというのは商社とかのお仕
事だと思いますが、いままで日本がやってきたのは海外のものを日本に紹介するというところに重点が
置かれていた。今後は日本のものを海外に輸出していく、売って行くという観点がグローバリゼーショ
ンの中では重要だなと。その中で輸送費が重要になる訳ですからフォワーダービジネスというのが重要
な産業になって行くのではないでしょうか。日本の農業を支えて行く産業が輸送業界なのではないかな
と思います。
兵藤:ありがとうございました。それではちょうどお時間になりました。パネルディスカッションでは
様々な視点から様々な意見、話題が出ましたが、ご参加された方々の何なりかのご参考になれば幸いで
す。
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.
i
1m3
TCi
1
Ci
FCi SPCi
Ci
m3
FCi
m3
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FCi
FCi
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PR
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+
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100 365
INT %
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100
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13
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7
FRi
7
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k
SC
TC i
TC j
TC i
TC j
SC
30
k
m3
i
j
14
54
2008 9 22
11 10
50
100
95
90
85
USB
LUMIX
80
dynabook
PC
AQUOS
TV
DIGA
DVD
75
70
9/22
9/29
4GB
ValueStar
PC
10/6
10/13
55
10/20
10/27
11/3
11/10
15
1m3
:300
500
16
56
(PR)
(ATR)
17
57
58
/
t
59
/
t
60
60
1970
1 2
21
61
22
62
CO2
23
63
1978
TACT (Tokyo Air Cargo Terminal)
Air Cargo City Terminal (ACCT)
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TACT
1990
1996
2000
2003
ULD
65
ULD
ULD
()
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IACT
TIACT
AL
FWD
AL
TIACT
68
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70
71
72
OD
73
OD
74
OD
75
IN bound
OUT bound
OUT bound
76
IN bound
OUT bound
OUT bound
77
IN bound
OUT bound
OUT bound
78
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Thank you for your attention
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■ 報道状況
●
●
日刊CARGO
平成 23 年 10 月 26 日
「日本の空港をどう活用
平成 23 年 10 月 31 日
「生産移転、貨物減にどう対応」
日本海事新聞
平成 23 年 10 月 26 日 「海上・航空輸送、役割分担探る」
平成 23 年 10 月 28 日 「コストへの柔軟対応を」
●
物流ニッポン
平成 23 年 11 月 3 日 「成長力を取り込め」
●
日刊航空
平成 23 年 10 月 26 日
●
「原点に立ち返り更なる発展へ」
運輸新聞
平成 23 年 10 月 28 日 「港との連携も模索」
●
荷主と輸送
平成 23 年 11 月号
●
「環境激変のなか航空物流の果たす役割について議論」
SPACE
平成 23 年 11 月号
「JAFA:設立 20 周年記念シンポジウムを開催」
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■ 実施体制
設立20周年記念事業推進ワーキング・グループ(記念シンポジウム担当)
総務委員会
委
員
長
副委員長
鈴木 利昭(バンテック)
委
員
加藤 和彦(郵船ロジスティクス)
委
員
藤井 秀基(JPサンキュウグローバルロジスティクス)
委
員
古賀 柳冶(西日本鉄道)
委
員
西田 昌弘(日通)
委
員
田口 勝久(DHLジャパン)
委
員
浜田 高志(OCS)
委
員
石川 嘉明(TNTエクスプレス)
委
員
崎田 敬浩 (ヤマトグローバルエキスプレス)
JAFA 事務局
JAFA 事務局
井上 博文(阪急阪神エクスプレス)
奥島
巌(JAFA事務局次長)
酒井 俊雄
久保田
滝澤
美果 (JAFA 事務局)
進
小尾 正臣
90
(JAFA 事務局長)
(JAFA 理事長)
(JAFA 常務理事)
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