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中東における天然ガス開発を巡る最近の動向

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中東における天然ガス開発を巡る最近の動向
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
中東における天然ガス開発を巡る最近の動向
やま
うら
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かず
山 浦 重 一
*
はじめに
中東の天然ガス資源開発が活発な動きを見せている。世界最大級の構造性
ガス田であるカタールの North Field から産出する天然ガスをアラブ首長国
連邦(UAE)やオマーンにパイプライン輸出する「ドルフィン」構想が始
動した。LNG輸出では,アブダビ「ダス島LNG」と「カタールガス」に
続く中東第3のカタール「ラスラファンLNG」の第1船が 1999 年6月に出
港し,また,「オマーンLNG」でも 2000 年春から本格的な生産が始まる予
定である。イランの South Pars ガス田の開発も当初計画よりは遅れているが
進展している。サウジアラビアでは外資へのガス部門開放という大きな動き
が表面化した。このように中東では現在,石油の開発以上に多くの大規模な
ガス関連投資が行われているのである。これはますます高まる国内や域内の
ガス需要に対応するとともに,欧州,極東および東南アジアなど需要拡大が
見込まれる市場向け輸出を視野に入れた動きである。
中東湾岸諸国(サウジアラビア,クウェイト,イラン,イラク,UAE,
カタール)のガス事情については本誌「国際エネルギー動向分析」 1998 年7
月∼9月号にて詳細が報告されている。本稿では 1998 年夏以降注目される以
下のプロジェクトを中心として,中東における天然ガスを巡る動きを概観す
る。
1. 中東の天然ガス利用の現状
2. UAE Offset Group による「ドルフィン」プロジェクト
3. カタール「ラスラファンLNG」プロジェクト
* 国際動向分析グループ研究員 E-mail:yamaura@tky.ieej.or.jp
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
4. イラン「サウスパースガス田」プロジェクト
5. 「オマーンLNG」プロジェクト
6. 「イエメンLNG」プロジェクト
7. サウジアラビア「Master Gas System」 とガス部門の外資開放の動き
1.中東の天然ガス利用の現状
1.1 中東の天然ガス埋蔵量
中東には石油と同様に豊富な天然ガス資源が賦存する。BP Amoco 統計によ
ると,中東 1 の天然ガス確認可採埋蔵量は 1998 年末時点で 49.5 兆 m3(1,749
兆 cf),世界の 34%を占める 2(図表1)。なかでも,イラン,カタール,U
AE,サウジアラビア,イラクおよびクウェイト6ヶ国の合計は 1978 年の
20.38兆 m3 より2倍以上増え,47.88 兆 m3 に達し,可採年数(R/P Ratio)は
世界平均 63.4 年の4倍以上となる 273 年である 3(図表2)。
国別埋蔵量では世界第2位から5位までをイラン,カタール,UAE,サ
図表1.世界の地域別天然ガス確認埋蔵量
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1 BP Amoco 統計上の「中東」はアラビア半島諸国,イラン,イラク,イスラエル,ヨル
ダン,レバノンおよびシリアを指す。
2 石油換算すると約 445 億 toe で,原油確認埋蔵量 912 億トンの約 49%に相当する。
3 BP Amoco 統計(中東の埋蔵量 49.53 兆 m3÷1998 年生産量 1,810 億 m3)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表2.国別天然ガス埋蔵量・生産量(1998 年)
国
イラン
カタール
UAE
サウジアラビア
イラク
クウェイト
オマーン
イエメン
世界合計
埋蔵量
兆
&)
生産量
億 P
QD
QD
QD
QD
53
(年)
QD
QD
出所:%3 $PRFR 統計 ウジアラビアが占める。イランには大規模な油田だけでなく,沖合いを中心
に South Pars,North Pars,Kangan 等の構造性ガス田が存在する。カタール
には世界最大級の North Field(約 240 兆 cf)がある。サウジアラビアの世
界最大のガワール油田は 65 兆 cf(約 1.8 兆 m3)のガスを埋蔵している。中
東では未探鉱地域が多いことから,今後のクフ層
4
の探鉱によりガス田の発
見や埋蔵量の追加がさらに期待できると考えられている。
1.2 中東の天然ガス生産量
中東には可採年数 270 年以上の莫大な天然ガス資源が埋蔵されているが ,
その開発は進んでおらず,
1998 年の中東の生産量は世界の 8.0%にすぎない。
後述するが,アブダビは豊富な天然ガス埋蔵量を有していながら,急増する
天然ガス需要を賄うために数年のうちには不足分を近隣諸国から輸入せざる
を得ないのである。これは,カタールを除き,中東の大半の天然ガスが石油
生産に随伴するという制約があるためである(図表3)。したがって,例えば
サウジアラビアからカタール,UAE,オマーンにかけて分布する古生代二畳紀後期
1RUWK )LHOG 他の貯留層。層
厚はサウジアラビアで約 m,1RUWK )LHOG で約 m,アブダビ沖では約 mに達する。(石油技術協会編()「石油地質・探鉱用語集」)
の地層。ガス層として重要であり,世界最大級のガス田
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
1999 年4月からのOPECの石油生産削減により,随伴ガスの生産量も比例
して減少し,さらに,LPGの生産量も減少してしまうという事態につなが
るのである。つまり,天然ガスを原燃料として利用する場合には,石油の生
産に左右されず,需要に応じて天然ガスの生産量をコントロールできる構造
性ガスのほうが望ましいのである。
図表3.GCC諸国の天然ガス埋蔵量(QGPC推定)
随伴ガス
カタール
アブダビ
サウジアラビア
オマーン
出所4*3&0((6
*DV&DSコン
構造性ガス
デンセート
クフ層
その他
(単位:兆 FI
合計
注 サワーガス。
中東では 1980 年代初めまで,大部分の随伴ガスは焼却放散され,有効利用
が図られずにきた(図表4)。石油は国際的な商品となったものの,天然ガス
は輸送が容易でないことから自国内で消費することも,輸出されることもな
かった。石油を外貨獲得手段とすれば充分であり,コストのかかる天然ガス
開発を積極的に推進する理由がなかったのである。
しかし,過去 15 年間で中東の天然ガス需要は急増し,1983 年の 399 億 m3
から 1998 年には 1,718 億 m3 に達している。これは例えば 1982 年から稼動し
たサウジアラビアのマスター・ガス・システム(MGS)のように,産油国
が随伴ガスを発電や淡水化プラントの燃料として,また石油化学等の工業用
原料として積極的に活用する方向へ大きく政策転換し,また,構造性ガス田
の開発に投資した結果といえるのである。図表4のとおり 1997 年には推定
2,615 億 m3 の天然ガスが生産されたが,9%がフレア,21%が油田再圧入,
10%がNGL製造過程などでのロスで,残り 60%が国内消費と輸出となって
いる 5 。
5 図表4のデータはイラン,クウェイト,サウジアラビア,カタール,UAEの5ヶ国。
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図表4.中東産ガス国の天然ガス利用の推移
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1.3 中東の天然ガス用途別国内消費量
Cedigaz によると,一次エネルギー消費のなかで天然ガスの占める割合は
カタール (92%)とバハレーン (82%)の2国は非常に高く,UAE,オマ
ーンおよびクウェイトでは 50%を越え,また消費量は大きいがサウジアラビ
アとイランは 40%前後にとどまっている。
天然ガスは国内では主に発電や淡水化プラント用燃料,石油化学や肥料等
製造用の原料,油層への再圧入に使われる。家庭用としてはガスの幹線輸送
や地域配給網が未整備なためイランを除きほとんどの国であまり普及してい
ない。今後の天然ガス需要は経済成長とガスの価格次第ではあるが,発電用
燃料と石油化学用原料としての需要の伸びが大きいと予想されている。用途
別国内消費の現状は次のとおりである。
(1) 発電・淡水化用:ガス燃焼型発電の増加で,天然ガスの全消費量のうち
発電用が占める割合は約 33%である。また,総発電量でみると,サウジ
アラビアは 42%,イランは 54%,UAE,クウェイトとオマーンでは約
80%,カタールとバハレーンでは 100%が天然ガスによる発電である。
図表5に示す追加容量のすべてが天然ガスによる発電ではないとしても,
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国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
かなりの需要増加が見込まれる。
図表5. 2006 年までの電力需要見通し
既設容量
イラン
クウェイト
オマーン
カタール
サウジアラビア
UAE
合 計
0(('
0:
追加容量
(
)
0:
伸び率
予想コスト
(百万ドル)
出所:
(2) エネルギー用:石油や天然ガスの生産,処理,輸送部門での天然ガス消
費量は約 26%で,NGLの増産で消費量は今後増加する見込みである。
(3) 産業用:工業用燃料としての利用は約 26%を占めている。エネルギー
多消費産業はあまり成長が期待できず,消費の拡大は見込めない。
(4) 石油化学用:製品原料としての天然ガス消費量は 10%であるが,安価
なガス(カタールでは 0.50 ドル/100 万 Btu,サウジ 0.75 ドル/100 万 Btu)
を原料とする大規模生産は価格競争力を持ち,またメタノールやエチレ
ン等のプラント増設が数多く計画されているので,今後さらに需要は伸
びる見込みである。
(5) 家庭・商業用:イランでは国内の天然ガス消費量のうち 35%を占める
まで普及しているが,その他の国ではガスの地域配給網が整備されてい
ないこともあり,全体では5%程度の消費にとどまっている。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
1.4 中東の天然ガス需給見通し
カタール国営石油会社(QGPC)が 1999 年3月に開催されたドーハ会議
で発表したGCC(湾岸協力会議)諸国の天然ガス需要予測によれば,1998
年から 2005 年の間に天然ガス需要はほぼ倍増する(図表6参照)6。仮に需要
が見通しの半分だけ伸びたとしても依然として大きな伸びである。
図表6:GCC諸国の天然ガス需要見通し(1998 年−2005 年)
(単位: 百万 cf/日)
カタール
ドバイ
アブダビ
1 (PLUDWH
クウェイト
バハレーン
オマーン
サウジアラビア
合計
年実績
年
年
600
出所:4*3&
また,輸入については,時代の流れに逆行して発電燃料に石油やナフサを
使わない限り,2000−2002 年にドバイは8億 cf/日,アブダビは3億 cf/
日,クウェイトは5億 cf/日の天然ガスの輸入が必要で,また 2008 年には
ドバイ,クウェイトでは 2000 年よりさらに2倍以上,アブダビでは5倍以上
必要となると予測している。サウジアラビアでもMGSの処理能力を増強し
てはいるものの,とくに東部地域での発電や産業用原燃料として5億 cf/日
の輸入が必要であると予測している(図表7参照)。
6 QGPC による需給見通しについては MEES(1999.5.3)に要旨が掲載されている。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表7.GCC諸国の天然ガス輸入見通し(2000 年−2010 年)
(単位:百万 FI日
ドバイ
アブダビ
クウェイト
バハレーン
オマーン
サウジアラビア
年
年
年
800
QD
QD
QD
QD
QD
QD
出所:4*3&
以上のとおり中東の天然ガス事情につき概観したが,中東は莫大な石油埋
蔵量と同時に天然ガス埋蔵量も保有するが,各国とも電力需要の高まり等か
ら今後天然ガスの需要が拡大し,供給不足が懸念されている。この供給不足
を解消すべくカタールの豊富な天然ガスをパイプラインで域内に供給しよう
とする構想のひとつが「ドルフィン」プロジェクトである。また,今後天然
ガスの需要拡大が見込まれるアジアも中東の天然ガスに目を向けていること
から,中東では既存のLNGプロジェクトの能力増強や新規プロジェクトが
計画されている。以下ではこれらの国々の天然ガス開発に関する最近の動き
をみていくこととしたい。
2.カタールの天然ガス開発動向
2.1 North Field ガス田開発の概要
カタールの天然ガス産業は軌道に乗った発展を遂げている。可採年数があ
とわずか 13.3 年となった石油資源に依存せず,その代わりに天然ガスを新た
な収入源と位置づける政策目標が予定どおり進行しているからである。カタ
ール半島北東沖合い 6,000km2 の海底に埋蔵されている 239 兆 cf の North
Field ガス田の開発,また,それを利用するLNG輸出や天然ガスベースの
産業プロジェクトはカタールにとって最重要プロジェクトである。図表8に
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
示すとおり天然ガスの確認埋蔵量も生産量も年々増加している。現時点で
Qatargas(600 万トン/年)と Rasgas(250 万トン/年)合わせて 850 万トン
/年の液化能力は,先行していたアブダビ(580 万トン/年)を上回り,湾岸
最大のLNG輸出能力を有している。
図表8.カタールの天然ガス確認埋蔵量・生産量の推移
確認埋蔵量 億P
油田再圧入 億P年
6KULQNDJH 億P年
焼却 億P年
販売生産量 億P年
出所:23(& 統計
North Filed の開発は当初,国内需要向けの第1フェーズ,近隣諸国輸出
向けの第2フェーズ,中東以外輸出向けの第3フェーズの3段階で順次開発
が進められることになっていた。第1フェーズは 1991 年9月より天然ガス8
億 m3 /日とコンデンセート 35,000 バレル/日(能力)の生産を開始し,発
電所,淡水化プラント,石油化学用の原燃料として供給されている。第3フ
ェーズは 1996 年末に Qatargas の生産が始まった。第2フェーズに関しては
進捗が遅れ現在,UAE Offset Group によるアブダビ,ドバイ,オマーンへの
パイプライン輸出の検討が進んでいるところである。
以下で,North Field 開発の第2フェーズの動きとして UAE Offset Group
主導の「ドルフィン」プロジェクト,第3フェーズの動きとして Rasgas のL
NG生産開始と新たな販売先の決定等について概観する。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
2.2 UAE Offset Group 主導のドルフィン・プロジェクト
2.2.1
プロジェクトの概要
「ドルフィン」プロジェクトは,UAE政府系ベンチャーキャピタル UAE
Offset Group(UOG)7 が中核となり,カタールの North Field ガス田から産出
する天然ガス 30 億 cf/日(300 億 m3/年)を,第1段階としては 2002 年よ
りアブダビ,ドバイ,オマーンへ,第2段階として 2005 年よりパキスタンへ
パイプラインで供給し,それぞれの地域で天然ガスを原燃料とする発電や石
油化学事業を展開しようとするもので,今後6∼7年の間に 80 億∼100 億ド
ルを投資する大規模な構想である。1998 年のパイプラインによる世界の天然
ガス貿易量 3,331 億 m3 の約 10%に相当する規模である。
UOGは 1998 年6月頃から本構想を練り始め,1999 年3月にはQGPC
との間で North Field の天然ガスをUAEおよびオマーンへ供給することに
つき基本合意を結び,また6月には,ドバイ,オマーン,パキスタン各政府
と相次いで合計 28 億 cf/日のガス販売に関する意思確認書(MOU)を取
り交した。さらに,UOGは Mobil が North Field において実施する Enhanced
Gas Utilization Project(EGU) より産出する天然ガスのうち推定3∼5億
cf/日を長期にわたり購入することに合意(MOU)したのである。
「ドルフィン」の骨格は次の3点で,UOGは天然ガスの開発,パイプラ
イン輸送,地域配給等部門別に事業会社を設立する予定である。
(1)
上流:UOGがQGPCや Mobil 等の外国企業と共同で North Field
ガス田の複数鉱区で,30 億 cf/日の天然ガスの開発・生産を行う。
(2) 中流:カタール∼アブダビ(海底 800km),アブダビ∼ドバイ(陸上),
ドバイ∼オマーン(陸上),オマーン∼パキスタン(海底)の間に天然ガス
パイプラインを建設し,また,地域配給ネットワークを構築し,30 億 cf
7 UAEの国防関連オフセットプログラムのため 1992 年に設立された政府系機関。武器
供給外国企業が,技術移転や雇用創出に資するUAE国内企業との合弁事業に対する投
資を行う際のUAE側窓口である。UAE経済の多角化だけでなく湾岸諸国の産業振興
にも影響する投資であるドルフィン・プロジェクトのようにオフセットプログラムの範
疇には当てはまらない新規事業の起業家としての役割も持つようになった
(Petrostrategies:1999.6.21)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
/日の天然ガスを供給する。
すでにMOUを結んだ販売先は:
①アブダビ(ADNOC)1.9 億∼7億 cf/日(2002 年開始)8
②ドバイ(ドバイ供給局)2億∼7億 cf/日(2002 年開始)
③オマーン(石油鉱物省)3億∼6億 cf/日(2002 年開始)
④パキスタン(石油資源省/民営化委員会)10 億∼15 億 cf/日(2005 年開始)
(3)
下流:カタール,UAE,オマーンでガス発電所を建設し,また,石油
化学,アルミ製錬等の天然ガスベースの工業地帯をつくる。
重工業や石油化学産業に対する投資主体としてサウジアラビア基礎産業公
社(Sabic) と 同 様 の 役 割 を 果 た す Emirates Basic Industries(Sina'atAlEmarat)が 1998 年6月に設立されている。
2.2.2 プロジェクトの背景
「ドルフィン」の背景には,アブダビだけでなく,ドバイ,オマーン,そ
して南アジアでは今後,人口の増加や工業化の進展に伴いエネルギー需要が
急増することから,カタールの潤沢な天然ガスを輸入することで対応しよう
とする考えがあった。
アブダビとドバイでは今後6年間で天然ガス需要は倍増すると予想されて
いる(図表6)。アブダビは 180 兆 cf の天然ガス埋蔵量を持ち,年間 520
万トンのLNGを主として日本へ輸出するなど資源に恵まれているものの,
大半が硫黄や二酸化炭素が多く含まれているサワーガスであり,また随伴ガ
スであるため,生産コストが高いという弱点がある。
ドバイではエネルギー資源が非常に限られているなかで,外貨獲得源とし
ての石油の生産量は年々減衰し,その一方で天然ガスに対する需要は年々増
加しているのである。つまり,今後の国内需要の不足分を補うためには,天
然ガス供給源の確保が急務であった。ドバイ政府はUOG以外にもオマーン
8 APS Review Gas Market Trend(1999.6.28/7.5)が伝えている。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
からの 供給 を提 案す る BP Amoco や イラン の Sirri から の供 給に 関し て
Totalfina とも協議を行っているのである。ドバイはアブダビ(ADNOC)
との間でも 2001 年末より5億 cf/日の購入に合意していたが,ADNOC
が5月,新たに開発するクフガス層からの産出ガスを Das 島LNG向けに供
することに方針変更したため,アブダビからの供給が不透明となっていたと
ころであった。
オマーンでは北部の Sohar にガスベース産業を立地する計画で,発電所や
石油化学工業用の原燃料が必要であった。
パキスタンは,国内の民間資本や外資を導入して,発電所の建設やガス地
域配給網の構築を促進したいと考えていた。
一方,ガス供給源としての Mobil は,国内需要向けを想定していたEGUプ
ロジェクトで計画する 2002 年5億 cf/日,2004 年 10 億 cf/日の天然ガス
の主要な販売先を確保できたことになり 9,またUOGが将来,カタール国内
で新たな石油ガス契約を締結した場合には Mobil もこれに参加する権利を取
得したのである。
2.2.3 今後の予定
UOGとQGPCは現在,「ドルフィン」のプロジェクト費用や天然ガス輸
出量等に関し,両者で設立した技術委員会で検討している。またUOGは別
途,UAE,オマーンでの下流プロジェクトに関する経済性評価を行ってお
り,両者はそれらの結果を踏まえて次の段階であるプロジェクトの意思確認
書(MOU)を取り交し,1999 年内の最終的な契約締結を目指している。一
方,天然ガスの販売量や価格につき,UOGはドバイ供給局とは 1999 年末ま
でに,またアブダビ,オマーン,パキスタンとはできるだけ早い時期にそれ
9 Mobil は 1998 年 12 月に QGPC との間で,North Field からすくなくとも 10 億 cf/日の
天然ガスを生産する EGU プロジェクトの実施に合意し,産出ガスを Norske Hydro が建
設するアルミニウム製錬所に供給する計画であったが,同建設計画が頓挫したことによ
り新たなガス供給先を探していた(MEES:1998.12.14)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
ぞれ合意し,最終的な販売契約の締結を目指している。また,UOGは,
「ド
ルフィン」の上流,中流,下流毎に外国石油会社と戦略的パートナーを組み
プロジェクトを推進することにしているが,パイプラインや供給管理につい
ては米 Enron と合意(MOU)し,また,上流部門では Elf と交渉中と伝え
られている。
「ドルフィン」がUOGの目論見どおりUAEだけでなく湾岸諸国のエネ
ルギーや産業振興に貢献し,かつ経済採算性があれば
10
,このプロジェクト
はUAEやカタール政府などの政治的な支援を得ており,早期実現の可能性
は極めて高いとみられている。だが,いくつかの問題点がある。
まず,「ドルフィン」が, North Field の潤沢な天然ガスを近隣諸国へパイ
プラインで輸出しようと最初に提案したわけではないことである。North
Field 第 11 鉱区の Arco 主導のコンソーシアムは 1997 年7月,第2フェーズ
に関する排他的権利をカタール側より取得し,1999 年7月までに同鉱区で産
出される8億 cf/日のガスの販路を含め全体の構想をつくり上げる予定と
なっていた。Arco は5億∼8億 cf/日をドバイの Jebel Ali 工業地帯向けに
供給,将来はバハレーン,サウジアラビアおよびクウェイト等までガスネッ
トワークを拡大するいわゆる GCC Gas Grid 構想の実現を模索していたのであ
る。
UOGとQGPCの 1999 年3月基本合意上,UOGはカタールの天然ガス
をUAEとオマーン国内で「販売」する権利を与えられているだけである。
しかし,UOGが「ドルフィン」に乗り出してから,Arco は「ドルフィン」
の協議に当事者としては加わっていないし,ドバイ政府との独自の交渉も進
展しているとは伝えられていない。カタール政府は Arco の交渉が進展しない
場合は販売先が確保できるまで契約期限延長を示唆していたが,現状につい
ては不明である。ドバイとしてはパイプライン建設などコスト的に割安な
Arco 案を支持していたようであるが,カタール側が Mobil やUOGとの関係
10 MEED(1999.6.25)は第1段階のプロジェクトの採算性は現在のガス価格で年間 12 億ドル
の収益,ROR12%以上と試算している。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
に配慮し, Arco に対し権利放棄するよう求めたのかもしれない。
また,パキスタン向け供給についてはQGPCとシャルジャ(UAE)の
Crescent Petroleum,伊藤忠商事,Brown & Roots からなるコンソーシアム
Gulf South-Asia Gas Corporation(Gusa)が,カタールからUAE西岸,イラ
ン沿岸経由でパキスタンまで 1,600km,10 億∼20 億 cf/日の天然ガス輸送パ
イプライン建設に関して基本合意(HOA)しており,両者は詳細な検討を行
っていると伝えられていた。Gusa が提案する浅海ルートはイラン沿岸を通過
するため,米国からの投資を呼び込めない可能性もあり,また地震の可能性
も高いことから,「ドルフィン」では水深最大 3,000mの深海にパイプライン
敷設を検討している。ただし,この深さは既存のパイプラインでもっとも深
いところに敷設されている Tranmed ライン(チュニジア∼シシリー間)約 600
mの5倍に相当し,また Gazprom とENIが黒海で計画している Blue Stream
Line より 40%も深くなり,推定 30 億ドルのコストが大きな問題である
(WGI:1999.6.17)。5月 22 日にはカタールとパキスタン両国首脳が,QGP
Cとパキスタン石油庁による検討委員会の設置を決定したばかりでもある。
また,インド向け供給については,QGPCがLNGで輸出することを決
定しており,UOGがインド市場もパイプラインによる「ドルフィン」の対
象に含めるのは難しいといえそうである。
だが,Arco や Crescent Petroleum の場合はプロジェクトの構想が表明さ
れてから比較的長い年月が経っているのに対して,UOGは 1999 年3月にQ
GPCの間で基本合意を結んだ後,極めて短期日にオマーン,パキスタンそ
してドバイ政府との間で合計 28 億 cf/日にも達する天然ガスの引き取りを
成立させた。「ドルフィン」の矢継ぎ早の進展について,MEED(1999.6.25) は,
①UAEザイード大統領の長男 Shaikh Mohammed(国軍 Chief of the staff)
がUOGのパトロンとして存在し,関係諸国との間で極めて高い政治レベル
での話し合いを行っていること,②湾岸諸国間の長年の懸案であった国境画
定にみられるように政治的関係がおおきく改善されてきていることを主因と
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
してあげ,「ドルフィン」が早期に実現する可能性が高いとみている。
「ドルフィン」が成功すれば,アブダビの湾岸諸国内での政治的な地位は
高まる。また,UAE,カタール,オマーン3国は天然ガスの共同利用とい
う実質的な核により結束が強まり,さらにこれが GCC Gas Grid として残りの
クウェイトやサウジアラビア,バハレーンにまで繋がることになればこれま
で長い間延び延びとなっていたGCC諸国のエネルギー統合に大きな弾みと
なる可能性がでてきたことになる 11 。
2.3.1 LNGプロジェクトの現状
米 Enron による第3のLNGプロジェクトは Enron が販売先を確保するこ
とができなかったため,1999 年3月に中止された。QGPCと Enron は 1995
年1月,総額 40 億ドルを投資する 500 万トン/年のLNGプロジェクトに
合意(LOI), Enron が権益を保有するインドの Dabhol 発電所やイスラエ
ル,ヨルダン向け販売の可能性を検討していたのである。この Enron プロジ
ェクトが中止となった結果,LNG輸出プロジェクトとしては現在,
Qatargas
と Rasgas の2社が操業中であるが,ともに軌道に乗っている。
Qatargas は 1998 年5月に第3トレイン(200 万トン/年)の運転を始め,生
産能力は合計 600 万トン/年に達している。一方,Rasgas では 1999 年5月よ
り第1トレイン(250 万トン/年)の運転が始まり,
2000 年第1四半期には第2
トレインも稼動する予定である。すべてが立ち上がれば,カタールの液化能
力は合計 1,100 万トン/年となる。さらに,2003 年よりインド Petronet 向
け(750 万トン/年)とDBEC向け(260 万トン/年)の販売が予定されており,
現時点において 2006 年以降の販売契約数量は合計 2,090 万トン/年である(図
表9)。
カタールの Al-Attiya エネルギー・産業大臣は 1999 年3月,世界のLNG市
場では新規プロジェクトが目白押しで,今後厳しい競争が予想されることか
11 GCC は 1999 年3月,GCC6ヶ国間に広域送電網を建設し,余剰電力を相互融通するこ
とに関して合意,Gulf Electricity Link Authority を設立した(MEES:1999.7.5)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表9.カタールのLNG輸出見通し
単位:百万トン年
4DWDUJDV
5DVJDV
合 計
出所:4*3& 資料を基に作成。
注:4DWDUJDV の 、、 年見込みにはスポット販売分を含む。
ら,カタールでこれ以上新規プロジェクトは立ち上げず,今後は Qatargas
と Rasgas のトレイン増設に集中すること,また,現在合計 2,090 万トンの
販売契約量を,今後3年以内に 3,000 万トン/年まで拡大したいとの目標を
表明した(MEES:1999.3.22)。
2.3.2 ラスラファンLNGプロジェクト
Rasgas は 1,000 万トン/年規模のLNG生産・輸出を目標としてきた。総
投資額は推定 35 億ドルである。生産能力 250 万トン/年×2系列のうち第
1トレインが 1999 年5月 23 日より運転を開始した。第2トレインも 2000
年第1四半期に運転開始の予定である。また,コンデンセート 43,000 バレル
/日と硫黄 300 トン/日の生産能力を有する。
販売先については,①1995 年に韓国ガス公社(Kogas,480 万トン/年,1999
年8月開始,25 年間)と契約を締結後,②1999 年7月にインド・Petronet
LNG(750 万トン/年,2003 年7月開始,25 年間) とも販売契約を結び,また
③1999 年8月にインド・DBEC(260 万トン/年,2003 年7月開始,20 年
間)と合意書(HOA)を取り交した。これらがすべて実現すれば Rasgas
の販売量は当初計画の 1,000 万トン/年を超え合計 1,490 万トン/年とな
り,現有鉱区の天然ガス資源だけでは販売量を賄うことができないことから,
Rasgas は 新 た な 鉱 区 取 得 に つ き QGPC よ り 基 本 了 解 を 取 り 付 け て い る
(MEES:1999.7.5)。なお,インド向け販売については 2003 年7月の出荷時は
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
第1,第2トレインの余剰生産分で賄うこととし,2004 年1月までに第3ト
レインを増設し,その後さらに第4トレインを建設する計画である。
この他にも意思確認書(MOU)を 1996 年にトルコ Botas(200 万トン/年)
と,1997 年に Elf(レバノン向け 200−300 万トン/年)と取り交しているが,
交渉の進捗状況は不明である。
Rasgas の運転開始は予定より8週間ほど早まったため,主販売先である
Kogas への販売に先行して米 CMS Energy に対して6月 23 日,スポットで1
隻販売した。8月にもさらに1隻販売の予定であったが,プラント熱交換器
の故障により,Qatargas が急遽,代わりに供給した。 Kogas 向けは 1999 年
8月 23 日に第1船 SK Summit (135,230m3) が Ras Laffan を出港した。また,
第2船 Hyundai Technopia は8月末に出港する。Kogas は 1999 年は年間 66
万トン,2000 年 330 万トン,2001 年 420 万トン,2002 年以降 480 万トンを
引き取る計画である。
しかし,韓国国内の電力需要低迷の影響で,国営電力会社(Kepco) のLN
G消費量が計画を大幅に下回っており,これに対応するため現在,約 100 万
トン/15 隻の引取削減を目指し,インドネシア,マレーシア等の供給会社と
協議を行っている。Rasgas に対しては 1999 年に限って1隻6万トン分の購
入を削減する,あるいは 2004 年まですべてを延期したい旨申し出たとも報じ
られていた。なお, Kogas と Rasgas との契約上,初年度 10%,以降5%の
引取量下方修正が可能となっている。
2番目の販売先である Petronet LNG は4つのインド国営企業(Indian Oil
Corp.,Bharat Petroleum Corp.,Oil and Natural Gas Corp.,Gas Authority of
India。National Thermal Power Co.の出資可能性あり)の合弁企業である。
Rasgas は,インド西部の Gujarat 州 Dahej ターミナル向けに 500 万トン/年,
南部 Kerara 州 Cochin へ残りの 250 万トン/年販売の予定である(Daheji 向
けは 2003 年 62.5 万トン,
2004 年 250 万トン,
2005 年以降 500 万トン。Cochin
へは 2005 年 125 万トン,2006 年以降 250 万トン)。一方,Dakshin Bharat
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
Energy Consortium(DBEC)は CMS Energy, Unocal,印 Grasim Industries (Birla
グループ),豪 Woodside Petroleum,独 Siemens のコンソーシアムである。
インド南部の Tamil Nadu 州 Ennore に建設する 1,886MW のガス発電所とLN
G関連ターミナル向けに 2003 年より 260 万トン/年を供給する予定である。
2.3.3
LNGスポット取引の増加
Qatargas からは,中部電力他日本勢7社が 1999 年に 520 万トン,2000 年
以降は契約どおり全量 600 万トンを購入する計画となっている。だが,日本
勢も景気後退などにより購入価格の引き下げ交渉を余儀なくされている。
(MEES:1999.8.16)。 日本や韓国などの大手需要国が引き取り削減に動けば,
既存プロジェクトでは余剰生産量を抱え込む結果,短期契約やスポット取引
での販売量が増加,他地域のLNG供給者との激しい競争が予想されること
になる。
QGPCはDBEC向け 260 万トン/年(HOA)を含めて現時点で 2,090
万トン/年の長期販売量を確保しているが,すべての引き取りが開始される
のは 2006 年以降であり,それまでの余剰生産量 340 万トン/年(Rasgas160
万 ト ン , Qatargas180 万 ト ン ) に つ い て は ス ポ ッ ト 販 売 を 考 え て い る 。
Qatargas はここ2年で地中海や欧州市場を狙ったスポット販売を積極的に
行っている。スペイン Enagas 社とは,1997 年以降 3 件の短期契約を結びこ
れまでに合計 86 万トンを販売した。トルコ Botas とは 1998 年2月に 40 万
トンの契約を締結した。また,
1998 年 12 月以降は米 Duke Energy, CMS Energy,
Gaz de France に対してスポット取引で各 5.7 万トン販売した。
スポット取引の買い手は現在,米国,スペイン,トルコの3ヶ国が中心で
ある。Cedigaz(News Report 1999.3.18)によると,1998 年の世界の総スポッ
ト取引の 74.6%が Adgas と Qatargas によるものである。なお,スエズ運河
のLNGタンカー通行料金が 1999 年6月より最大 50%引き下げられたこと
は,中東LNGの欧州向け販売にとっては追い風である(MEES:1999.7.12)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表 10. カタール North Field LNG プロジェクトの概要
(権益比率)
生産量
上流 下流
Qatargas QGPC
65%
65% 600万トン/年 1992年
Total
20%
10%
1995年
Mobil
10%
10% (200万トン
三井物産 2.5% 7.5%
×3系列)
丸紅
2.5% 7.5%
プロジェクト 推進主体
カタールガス
売買契約締結状況
400万トン/年1997年開始
52万トン/年 1999年開始
20万トン/年 1999年開始
29万トン/年 1999年開始
12万トン/年 1999年開始
35万トン/年 1998年開始
35万トン/年 1998年開始
17万トン/年 2000年開始
42万トン(1997.7-98.9)
26万トン(1998.10-99.4)
18万トン(1998.9-98.11)
Botas
40万トン(1998.3)
(スポット)DukeEnergy 5.7万トン
1998年12月
CMS Energy 5.7万トン
1999年
Edison
1999年4月
Gaz de France5.7万トン
1999年11月
ラスラファン Rasgas
QGPC
63%
500万トン/年 1995/97年 Kogas
480万トン/年1999年開始
LNG
Mobil
25%
Petronet LNG 750万トン/年2003年開始
伊藤忠
4%
(250万トン (HOA)
DBEC
260万トン/年2003年開始
日商岩井 3.0%
×2系列) (MOU)
Botas
200万トン/年
Kogas
5.0%
ELF
200-300万トン/年
(スポット)CMS Energy 5.5万トン(1999.6)
(注1)Kogasは1999年10月までにRasgas権益(5%)を取得の予定。
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中部電力
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東邦ガス
(短期契約)
Enagas
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3.イランの天然ガス開発動向
3.1 South Pars ガス田開発プロジェクト
イランでは天然ガスの開発,有効利用を優先課題として捉え,大規模な第
1次・第2次バイバック契約による積極的な外資導入も図り,ガス田開発,
国内パイプライン網の整備,近隣諸国への輸出,国内エネルギー構造の転換,
老朽化油田に対するガス再圧入等の計画を推進している。
そのなかで,注目されるのはカタール North Field と連続する沖合いの構
造性ガス田 South Pars の開発プロジェクトである。これまでの評価作業の結
果,天然ガス層の広がりは予想よりもイラン側に延びているのが確認され,
原 始 埋 蔵 量 約 321 兆 cf , 確 認 埋 蔵 量 240 兆 と 推 定 さ れ て い る
(MEES:1998.11.30)。同プロジェクトは 10 段階(フェーズ)に分けて開発が計
画されている。フェーズ毎に 10 億 cf/日の生産を目指し,第1∼第5フェ
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
ーズで産出されたガスは主としてイラン国内の老朽化した陸上油田に対する
ガス圧入に利用されたり,パイプラインで近隣諸国へ輸出される予定となっ
ている。
第1∼第3フェーズの開発作業は資金調達に手間取りながらもようやく一
歩前進した。第1フェーズは,Pars Oil & Gas Co.(イラン国営石油会社(N
IOC)の子会社で,1998 年に同じNIOCの子会社 Pedec の権利義務を承
継)が 2000 年中頃の生産開始を目指し,開発井 12 坑の掘削作業に着手した
ところである。海上生産施設の建設契約は韓国 Samsung Heavy Industries
とイラン Sadra の2社に,また,ガス処理施設は韓国 Daelim に発注した。
第2・第3フェーズは Totalfina(参加権益 40%,オペレータ),Gazprom
(30%), Petronas(30%)のコンソーシアムが 1997 年9月にバイバック契約
を結んだプロジェクトで,開発費は推定 20 億ドルである。第2フェーズが
2001 年6月より,第3フェーズがその半年後からそれぞれ 10 億 cf/日の生
産を見込んでいる。Totalfina は開発作業が終了する 2002 年後半までオペレ
ータを務める。また,外国石油会社は開発費と報酬を約 80,000 バレル/日の
コンデンセートから受取り,その投資リターン(ROR)は 18%程度といわ
れている。産出ガスは大部分は国内需要向けであるが,余剰分はトルコ向け
輸出となる可能性もある。陸上ガス処理施設建設は韓国 Hyundai Engineering
& Construction Co. , 海 上 生 産 施 設 建 設 は ア ブ ダ ビ National Petroleum
Construction Co. ,また海底パイプライン建設は Hyundai Heavy Industries
とそれぞれ契約している。
第4・第5フェーズについては,RD/Shell とBHPがそれぞれ率いるコン
ソーシアムがパキスタンへの輸出向けとして,また,Gazprom が国内向けとし
て,20 億 cf/日の開発計画をNIOCと交渉していたが,いずれも販売先を
確保することができなかったりしたことから,再入札となったようである。
RD/Shell のコンソーシアムはガスの生産から販売まで一貫操業ができな
ければプロジェクトには参加しない姿勢を見せている。RD/Shell はパキスタ
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
ンの今後の輸入に対する需要が予想を下回ると判断し,代わりに RD/Shell
がトルコで計画中の発電所向けを新たな供給先として検討していた。しかし,
NIOCが第4・第5フェーズは上流の開発に限定する,産出ガスの最終用
途は確定しない,コンデンセートの販売から開発費と報酬を受取るなどの条
件を提示したことから,交渉がもつれてしまったようである。
一方,BHPのコンソーシアムは RD/Shell のトルコ向け輸出構想が取り止
めとなったことから,パキスタンへの天然ガス輸出構想を再提案した。これ
には,プロジェクトの経済性を高めるため,パイプラインをインドまで延長
する案を追加している。NIOCはBHPの構想に興味を示しているが,パ
キスタン国内でのガス田発見,同国経済の低迷,また,インドとの外交関係
緊張などプロジェクト実現を阻む要因が立ちはだかり,先行きは不透明のま
まである。
この結果,上流の開発に限定された新たな第4・第5フェーズには Gazprom
のみが残った格好となった。だが,Gazprom が厳しい資金繰りに直面している
ことは周知の事実であり,NIOCとしては Gazprom が権益を保有する第
2・第3フェーズで 2000 年以降多額の資金需要が予定されていることもあり,
さらに第4・第5フェーズの開発も加わった場合,順調に遂行できるか疑問
視しているところである。
新たに第6∼第8フェーズの国際入札が 1999 年4月に開始された。当初の
入札期限は8月末であったが,産出ガスが老朽化油田に対する再圧入に使わ
れることになるのかその最終用途が明確でなかったことから,入札参加者が
すくなく,10 月3日まで延期されている。また,NIOCは第9と第 10 フ
ェーズを一体化して入札することを検討しているようである。
政府の意図するとおり,各フェーズ 10 億∼12 億 cf/日のピーク生産が実
現すれば,South Pars 全体の生産量は 100 億∼120 億 cf/日に達し,イラン
の天然ガス生産量は 1997 年の約 935 億 m3/日(うち販売量 454 億 m3)から
倍増することになる。そうなれば,2005 年∼2010 年には年間 400 億 m3 以上
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
の天然ガスをヨーロッパやアジア市場へ販売することも可能となる
(AOG:1999.5.1)。
3.2
Sirri A,E両油田開発プロジェクト
イ ラ ン 石 油 開 発 史 上 初 め て の バ イ バ ッ ク 契 約 プ ロ ジ ェ ク ト で あ る
Totalfina と Petronas の Sirri A,E両油田では,1998 年 10 月と 1999 年
2月よりそれぞれ原油生産が始り,
1999 年末には 17,000 バレル/日,100,000
バレル/日の生産量に達する予定である。また,産出された随伴ガスのドバ
イ向けパイプライン輸出に関しては,まもなくドバイ側と最終合意に至ると
伝えられている。計画では Jebel Ali にある Dubai National Gas Co.でNG
Lを分離し,天然ガス約7億 m3 /年がドバイの国内需要向けに販売されるこ
とになっている。
3.3
バイバック契約を巡る動き
米国政府は,South Pars ガス田の第2,第3フェーズを共同で請け負った
Total, Gazprom,Petronas に対し,イラン・リビア制裁法に基づく制裁不適
用を 1998 年5月に決定した。それ以後も Elf と Agip が第1次バイバック契
約の2つのプロジェクトに参画し,また,第2次でも BP Amoco や RD/Shell が
応札したといわれるが,米国政府はこれまでのところ新たな制裁発動の動き
を見せていない。米国石油会社としても,制裁が数年以内に公式に解除され
るとの想定の下,第2次バイバックプロジェクトへ参入できるよう準備して
いる。
エネルギー部門への外資参入は政治的にも極めてセンシティブな問題であ
る。MEED(1999.7.23) は,イラン政府やイスラーム教関係者のなかには石油
ガス探鉱開発への外資の直接参入を容認する動きも高まりつつあると伝えて
いる。これは,すなわち,バイバック契約でも認められていない外国企業の
原油所有権を認めることを意味し,1979 年憲法の修正が必要となるものであ
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
る。現在のバイバック契約は,油田老朽化という現実問題を外国企業の資金
や技術を導入することで解決しようとするものであるが,操業期間を 10 年以
内に限定したり,またその後の長期にわたる生産保証を求めるなど外国企業
にとって不満な契約条件が多く,その結果十分な投資を呼び込めないでいる
のが現状である。イランとしても,外国企業からの批判に応え,新たな工夫
を編み出していくことが必要であることは認識しているので,今後の動きが
注目される。
4.オマーンの天然ガス開発状況
4.1 概 要
オマーンは国家歳入の 70−80%,国内総生産(GDP)の 40%以上を石油
収入(1998 年生産量約 90 万バレル/日)に依存している。ただ,石油資源
の可採年数は 16 年余りにすぎないことから,政府は 1995 年に天然ガス開発
を国家最優先事項とし,LNG輸出による外貨獲得,アルミニウム,石油化
学,肥料等のガスベース産業への重点投資を政策目標として掲げた。
オマーンの天然ガス埋蔵量は 1990 年の 7.2 兆 cf より 1998 年末には 28 兆
cf と大幅に増加している(図表 11)。カタールに比べれば埋蔵量は 10 分の1
以下で,今後の探鉱の余地も小さいとみられているが,埋蔵量のうち推定 25
兆 cf が構造性ガスであり,開発には有利な条件が備わっている。2002 年に
は天然ガスのGDPシェアは 15%,その収入も 20%増加するとの予測(AOG
Directory 1999)もあり,脱石油経済への取組みは順調に進んでいるようで
ある。
図表 11.オマーンの天然ガス埋蔵量・生産量の推移
埋蔵量兆 FI
生産量(10 億 m3)
出所:%3 $PRFR
1990
7.2
2.75
1991
9.9
3.05
統計、23(& 統計
1992
16.9
3.47
1993
20.0
3.96
1994
22.2
4.25
1995
25.2
4.17
1996
30.0
4.12
1997
27.5
4.25
1998
28.4
na
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
以下では①2000 年4月の出荷開始を目指すオマーンLNGプロジェクト,
②オマーン初の民間主導天然ガス開発プロジェクト,③国内天然ガス幹線パ
イプラインプロジェクトについて概観する。なお,オマーンの天然ガス需要は
2005 年までに現在より 50%増の 12 億 cf/日に達するとの予測もあり(図表
6),このため,前述のとおり「ドルフィン」プロジェクトに参画,2002 年よ
り3億∼6億 cf/日の天然ガスをカタールから輸入することになっている。
4.2 オマーンLNGプロジェクト
オマーンLNGプロジェクトは,
1989 年∼1991 年に大規模な構造性ガス田
(Saih Rawl,Saih Nihayda,Barik)が内陸部で発見されたことから輸出構想
が浮上した。
LNGの販売先については,1996 年 10 月に韓国 Kogas(406 万トン/年)と,
1997 年 10 月に大阪ガス(66 万トン/年)と,さらに 1998 年 12 月に米 Enron の
インドの子会社 MetGas(160 万トン/年,Maharashtra 州の Dabhol 発電所向
け)12 とそれぞれ契約を締結,生産能力 660 万トン/年のほぼ全量を完売した
(図表 12)。
プロジェクトの総投資額は上流,下流合わせて推定約 39 億ドルである。天
然ガスは上記ガス田の埋蔵量のうち7兆 cf が確保されている。液化基地は首
都マスカットの南東約 200km にある港湾都市 Sur 近郊 Qalhat に建設中で,
80%完了している(MEED:1999.7.23)。1系列あたりのLNG生産能力 330 万
トン/年は完成すると世界最大となる 13。
12MetGas は 1999 年2月,Adgas との間で Dabhol 発電所向けLNG50 万トン/年を 2001 年
より購入することにつき合意。同発電所に必要な年間 200 万トンはすべて確保された。
13 ナイジェリアLNGプロジェクトの第 4,第5トレインでは各 420 万トン/年を計画中。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表 12. オマーンLNGプロジェクトの概要
生産量
推進体制(参加権益)
上流
下流
660万トン/年 所有者 オマーン政府
100% オマーンLNG社
オマーン政府
330×2系列 操業者 PDO
RD/Shell
オマーン政府 60% Totalfina
RD/Shell 34% 韓国企業
Totalfina
4% 三菱商事
Partex
2% 三井物産
Partex
伊藤忠商事
売買契約
契約相手
数量
期間
①韓国ガス公社 406万トン/年 2000年4月より25年間
51%
30% ②大阪ガス
66万トン/年 2000年11月より25年間
5.54%
5% ③MetGas
160万トン/年 2001年末より20年間
2.77% (Dabhor Power)
2.77%
2%
0.92%
注:1996年8月にHOAが締結されたタイ国営石油会社(PTT)向け200万トン/年のLNG供給については同国のエネルギー需要減退
のため1997年11月に中止となった。
長期契約による販売先は上記のとおり決定したが,2000 年4月の初出荷から
2001 年末の MetGas 向け販売が始まるまでの余剰生産能力分については当面,
欧米市場向けに短期契約あるいはスポットベースで販売することを予定して
いる。現在,シェルの米国子会社 Coral Energy Resources (2000 年7月より
13 隻販売)や,スペイン Enagas (2000 年 11 隻販売)と交渉中と伝えられて
いる。NGLについては 2000 年末までは Totalfina 向けに販売(13 万トン
強,2000 年4∼5月より 18 ヶ月間)するが,その後は国内向け販売の予定
である。なお,すでに年産能力分がほぼ完売したことからトレイン増設の可
能性を検討し始めたようである。
4.3 民間主導による北オマーン天然ガス開発プロジェクト
オマーン政府は,これまで政府が独占してきた天然ガス開発に対して民間
部門が積極的に参画することを促進することとし,まず北オマーンの
14,000km2 の広範囲でのガス評価プロジェクト実施に関して BP Amoco(参加
権益 60%),米 Oxy(26%),フィンランド Forum Oyj(14%)との間で 1999 年
4月,PS契約を締結した。3社はすでにプロジェクト対象区域である隣接
する5鉱区でそれぞれPS契約を結び,石油・天然ガスの探鉱作業を行って
きたが,すでに発見しているガス構造を一体開発することで商業生産へ移行
できるよう,PS契約上の構造性ガスに関する規定を石油の規定から切り離
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
し,新たに財務条件や輸出規定を改訂したのである。
BP Amoco と Oxy はそれぞれの鉱区内で天然ガスの埋蔵(推定2兆∼3兆 cf)
を確認しており,開発に成功すれば5鉱区合計で推定3億∼4億 cf/日の生
産が 10 年以上期待できるとみている。産出ガスは Sohar 工業都市およびそ
の周辺地域での需要に優先的に対応するため供給されることになるが,余剰
分については合弁会社は自由に輸出することができることになっている。
Sohar でのガス需要は供給量を大幅に下回ると予想されており,大部分のガ
スはUAE・シャルジャにある BP Amoco の Sajja ガスハブに輸出され,そこ
からドバイの Jebel Ali 工業地帯に供給する案が検討されている。BP Amoco
とドバイ供給局は現在,2億 cf/日以上の天然ガスを 10 年以上にわたって
$1.01∼1.03/百万 Btu の固定価格で供給することに関し交渉中である。
3社の合弁会社は今後3次元地震探鉱や試掘井の掘削を行い,2000 年3月
までに開発に移行するか否か最終的に意思表示することになっている。
これまでオマーン国内の石油ガス開発生産は Petroleum Development Oman
(PDO)が行ってきた。PDOは元々Shell を中心とする会社であったが,
1970 年代の産油国政府による石油会社完全国有化の流れとは一線を画し,オ
マーン政府は 60%の事業参加をしたのみであった。
4.4 国内天然ガス幹線パイプライン建設プロジェクト
オマーン中央部のガス田から,オマーン北部の Sohar と南部の Salalah を
つなぐ2本の天然ガス輸送パイプラインの建設がようやく動き出すことにな
った。2000 年初めに着工,2002 年初めの完成を予定する,総投資額推定 58
億ドルのプロジェクトである。天然ガスによる経済多角化を図るために必要
なインフラを整備することで,なかなか進まない企業誘致に弾みをつけるこ
とが狙いである。
2本の幹線パイプラインは, 1 中央部 Fahad から Sohar まで 305km (能力
5.5 億 cf/日,32 インチ), 2 中央部の Saih Nihayda から Salalah まで
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
700km(2.68 億 cf/日,24 インチ)を結ぶ計画で,上記民間合弁会社の鉱区
から産出される天然ガスも繋ぎ込むことができる。オマーン政府は6月,国
内の既設ガスパイプラインの運営と新しいパイプラインの建設にあたる国営
Oman Gas Co.を設立した。また,HSBC Investment Bank をプロジェクトのフ
ィナンシャルアドバイザーに起用している。
なお,Sohar と Salalah で検討されている主な天然ガスベースのプロジェ
クトとしては石油化学,還元製鉄所,アルミニウム製錬,化学肥料製造等で
あるが,政府は現在,仏 Beicip Fran Lab を起用し,産業立地やプロジェク
トの経済性を始めオマーン国内の総合的ガス利用計画を作成している。
5.イエメンの天然ガス開発状況
5.1 イエメンLNGプロジェクト
イエメンの天然ガス埋蔵量は 16.9 兆 cf で,湾岸諸国のなかでは比較的少
なく,現在は随伴ガスの一部が回収され,油層へ再圧入されるかNGLとし
て販売されているのみで,有効利用は図られていない。そのイエメンにとっ
て,エネルギープロジェクトとしてはイエメン史上最大規模で,最重要プロ
ジェクトといえる「イエメンLNG」プロジェクトがなかなか前進すること
ができずにいる。
プロジェクトの概要は内陸の Marib-Jawf と Jannah 鉱区の随伴/非随伴天
然 ガス約 10 兆 cf を開発,総延長約 320km のパイプラインでアデン湾に面
する Bal Haf ガス液化基地に輸送し,年産 530 万トンのLNGを輸出しよう
とするものである。イエメンガス公社(YGC)と Total は 1995 年9月に合
意に達し,翌 1996 年初めに「イエメンLNG」を設立した。1997 年3月に
は米 Hunt Oil,Exxon および韓国・油公も資本参加した。総投資額は生産・液
化・出荷施設等 27 億ドル,タンカー15 億ドル,合計 42 億ドルである。
LNGの輸出販売先がなかなか決まらないことから,液化基地等の建設工
事に着手できないでいるところである。
1996 年 12 月に Botas と覚書(MOU,260
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
万トン/年,2000 年末開始,25 年間)を取り交し,トルコ向け輸出を期待し
たが,交渉は最終的に成立しなかった。プロジェクト推進役の Totalfina は
1998 年3月,アジア経済の低迷を踏まえ,中国,インド,トルコ,レバノン
への輸出 開拓に 努めるこ ととし た。その 結果, BGがイ ンド Gujarat 州
Pipavav で計画するLNG輸入基地向けに販売することで合意し,1998 年5
月に覚書(MOU)を締結した。年間 265 万トンのLNGを 2003 年半ばより
25 年間にわたり売買する内容であるが,全量 530 万トン供給する可能性も残
されている。だが,インド政府の外資規制や国内のガスインフラ未整備等の
問題もあり,BGとイエメンLNGは最終な販売契約締結に未だ至っていな
い。
さらにBG向けとは別に,Totalfina は 1999 年8月 31 日,イエメンLNG
の新 た な 販 売 先 と期 待 で き る イ ン ド市場 の 開 拓 に 成 功し た 。 具体 的 に は
Total-fina とインドの Tata Electric Co.が折半出資する Indigas の株式を
インド国営ガス会社GAILが 33.33%取得すること,また Indigas がボン
ベイ近郊にLNG受入基地を建設し,第1段階として 2003 年より 300 万ト
ン/年,第2段階として 600 万トン/年を輸入することに3者間で合意した
のである。当初 300 万トン/年のうち 40%は Tata が Trombay 発電所用とし
て,残り 60%をGAILが地域の産業用として購入し,第2段階の増量分は
Indigas が 今 後 販 売 先 を 探 す こ と に な っ て い る 。 こ の 結 果 , G A I L と
Indigas は Dabhol に受入基地を建設し同じくボンベイを市場として狙う
Enron と正面から競合することになりそうである。
プロジェクトの 26%の権益を保有するイエメン政府はプロジェクトの実
現を当初計画の 2000 年より2年間先送りすることを認めている。しかし,イ
エメンのような新規LNGプロジェクトは,既存のプロジェクトが比較的安
いコストで生産能力の増強を図れるのに対して,投資費用が割高となり,競
争力の面で極めて不利であることは否めないのである。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表 13. イエメンLNGプロジェクトの概要
生産量
推進体制(参加権益)
上流
下流
530万トン/年所有者 YEPC
100% イエメンLNG社
265×2系列 操業者
契約締結状況
契約相手
数量
期間
(MOU)
265万トン/年25年間
1998年5月
2003年中頃開始
Hunt Oil 38.5% イエメンガス公社 26% BG
530万トンへ
36.00%
増量可能
Exxon 37% Totalfina
韓国企業 24.5% Hunt Oil
15.1%
Exxon
14.50%
油公
8.40%
注1:トルコのBotasとの間で1996年12月に結んだ覚書(MOU:2000年より年間260万トン輸出)は取り消された。
注2:イエメンガス公社は参加権益を15%まで縮小する意向であり、1997年7月には韓国・現代との間で6%の権益
譲り受けにつき覚書を取り交しているが最終合意には至っていない模様である。
注3: 原料ガスの供給源となるMarib他鉱区においては現在Yemen Exploration & Production Co.(YEPC)がオ
ペレータとなり160,000B/Dの原油生産を行っているが、元々YEPCがこの地域のガスを発見、ハントオイル、エ
クソン、油公はそのYEPCに参画している。
6.1 マスター・ガス・システムの現況
サウジアラビアは,1997 年末からの石油価格の低迷と度重なるOPEC協
調減産により,石油収入が減少し,Rabigh 製油所の高度化や Haradh 油田2
基目のガス分離施設(GOSP)の建設など上流・下流プロジェクトの凍結
や縮小など支出削減を余儀なくされた。大規模プロジェクトとしてはマスタ
ー・ガス・システム(MGS)で4基目となるガス処理施設の建設が Hawiyah
ガス田で進捗しているのみである。これは,アラムコが 1996 年に発表した総
額 150 億サウジリヤール(40 億ドル)のMGS処理能力拡張5ヶ年計画にと
って重要なプロジェクトで,1998 年 11 月のアラムコ取締役会で正式に着工
が承認されたのである。
推定年間 45 億ドルのアラムコ予算のうち,かなりの額がここ数年ガス開発
に投資されている。OPECの石油生産枠を遵守し,かつ,輸出量も確保し
ていかなければならない現状において,図表 14 に示すとおり年約8%で伸び
る国内の天然ガス需要に対応し,また,日量約 23 万バレル/日の原油生焚を
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表 14.サウジアラビアの天然ガス消費
一次エネルギー消費
内天然ガスシェア
石油産業
発電(Sceco)
海水淡水化(SWCC)
Sabic(Jubail)
その他
合計
(単位:百万 boe)
1986
1992
1995
33.8%
23.9
32.4
29.8
21.7
8.3
116.1
33.9
45.8
42.1
36.9
10.0
168.7
34.1
60.6
42.2
53.0
11.0
200.9
1996
630
na
na
na
na
na
na
na
1997
660
40%
na
na
na
na
na
na
2000
719
37%
44.1
68.4
53.0
87.6
12.7
265.8
出所: Arab Oil & Gas Directory 1999
注1:1997 年と 2000 年の数値はアラムコによる推定。
注2:1boe=燃料ガス 5,460cf で換算すると、1995 年は 30 億 cf/日、2000 年は 40 億 cf/ 日の
消費量となる。
削減するためには,低油価環境下においても,MGS関連プロジェクトは棚
上げできないのである(PIW: 1999.2.15)。
MGSとは,石油生産に随伴するガスを焼却することなく回収処理し,精
製ガスやNGL(さらにエタン,ブタン,プロパン,天然ガソリン等に分離)
を発電所や淡水化プラント用燃料,石油化学製品や肥料製造用原料として有
効利用しようとするシステムで,1980 年代初頭に第1フェーズが完成した。
現在実行されている5ヶ年計画では,現有の3ヶ所のガス処理プラントの能
力を 40 億 cf/日から 2000 年までに 52 億 cf/日に拡大し,また,Ghawar 油
田南部の Hawiyah 地区に構造性ガスを処理する4基目のプラントを建設(リ
ヤード近郊の発電所および工業地帯向けに供給)し,MGSの合計処理能力
を約 70 億 cf/日に増強することとした。また,天然ガスの輸送能力も現在
の 58 億 cf/日(随伴ガス 40 億 cf/日,構造性ガス 18 億 cf/日)から 66
億 cf/日に増強することになっている。MEED(1999.8.6)によれば,アラムコ
はさらに Haradh 地区に 12 億∼14 億 cf/日の能力を持つ5基目のガス処理プ
ラントの建設を考えており,1999 年末までにはコントラクターの選定を終え
たいと考えているようである(図表 15)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
図表 15. MGSの能力拡張計画の概要
ガス処理プラント Berri
運転開始
1977年
現行処理能力
8億cf/d
拡張後能力
11.5億cf/d
完成年(予定)
1999年
Shedgum
1980年
16億cf/d
20億cf/d
1999年
Uthmaniya
1981年
16億cf/d
20.5億cf/d
1999年
Hawiyah
建設中
−
16億cf/d
2002年
Haradh
計画中
−
14億cf/d
2002年
出所:AOG、Aramoc Dimensions (Spring/Summer 1999)、MEED(1999.8.2)
(注)Aramco Dimensionsによれば既存3プラントの能力を2000年までに合計59億cf/dに拡張する計画。
サウジアラビアの天然ガス埋蔵量は 204.5 兆 cf で,そのうち 70 兆 cf が構
造性ガスである。1998 年の推定生産量は 830 億 m3,うち 461 億 m3 が消費さ
れ,123 億 m3 がフレアされ,
78 億 m3 が油田に再圧入されている(Arab Oil & Gas
Directory 1999)。アラムコは年間5兆 cf の新規埋蔵量の追加を目標として
いるが,1998 年には,サウジ東部の Wudayhi, Sham'ah,Kahlal の3カ所で
新 た に 7.9 兆 cf の 構 造 性 ガ ス 田 を 発 見 し た (Aramco Dimensions
Spring/Summer1999)。
6.2 上流部門の外資への開放の動き
6.2.1 これまでの経緯
サウジアラビアの石油・天然ガス部門の外資への開放を巡る動きが進んで
いる。これは,アブダッラー皇太子が 1998 年9月に米国の主要石油会社に対
してサウジアラビアの石油およびガス産業において双方の利益にかなう投資
提案を求めたことから始まった。当初,石油・天然ガスの上流部門が開放の
対象に含まれるのか明らかではなかったが,1999 年2月の米 Richardson エ
ネルギー長官のサウジアラビア訪問等により,サウジ側の考え方が比較的明
確になった(国際エネルギー動向分析 1999 年5月号参照)。
すなわち,サウジ側が求めているのは,①生産能力の拡大・輸出指向の上
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
流部門の開放ではなく,サウジアラビアの産業基盤を発展させる下流部門(精
製の効率性改善,潤滑油生産の改善,石油化学プロジェクト等)への投資で
あり,また②天然ガス利用による発電,淡水化,石油化学等付加価値のつい
図表 16.外資への上流部門開放を巡る動き
* 1998/9/27 :アブダッラー皇太子が米国石油会社首脳に対し投資提案を呼びかけ
* 1998/12 :投資提案評価のための閣僚委員会設置(サウード外相が議長)
* 1998/12 :国籍に関係なく投資提案を歓迎する旨発表
* 1999/2/5-7:米国エネルギー長官サウジ訪問
* 1999/5 :アラムコ「技術委員会」は外国石油会社投資提案をすべて「不要」と結論。
閣僚委員会は再審議を要請
* 1999/6 :内閣改造,ナイーミ石油相留任
* 1999/8 :閣僚委員会議長名による書簡出状
た最終製品を生み出す統合型プロジェクトである。なお,天然ガスは国内需
要向けとし,単にLNG等で輸出した場合はマージンが少ないことから関心
がないようであるが,天然ガスの液体燃料化(GTL)に関しては高付加価
値をもたらすプロジェクトとして強い関心を持っているようである。
6.2.2 アラムコ技術委員会による「外資不要論」
主要な欧米メジャー首脳は相次いでサウジアラビアを訪問し,投資提案を
提出した。ナイーミ石油相は(MEES:1999.3.1)「外国企業の提案はコンセプト
と呼ぶべきもの。ガスに関する提案は当方の意図に合っている。検討は石油
省主導で行っており,アラムコも技術的な検討等で協力する」と述べていた。
そして,5月にアラムコ「技術委員会」が開催された。その検討結果は,大
部分の提案は既にアラムコの長期計画のなかに含まれていること,また,ア
ラムコの方がより経済性のある開発ができるとの理由で,メジャーの提案を
「不要」とする意見をまとめ,投資提案を評価する閣僚委員会に報告したの
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
である。しかし,閣僚委員会はアラムコの評価に対して,理由は明確でない
が再審議するよう差し戻し,アラムコにおいて現在再検討されている。PIW
(1999.8.23) によれば,閣僚委員会の議長を務めるサウード外相はメジャー
に対し「サウジは上流部門の外資開放を実施する。1999 年末あるいは 2000
年初めまでには交渉・入札を始める予定である」旨の書簡を送ったと伝えて
いる。これは,上述のアラムコ技術委員会による「不要」との判断により外
資導入の流れが消失したとの見方を打ち消すことを狙ったものである。
6.2.3 開放への背景と今後の予定
イランでは第1・第2次バイバック契約により外資を導入し,またクウェ
イトでも技術サービス契約を一歩進めた Operating Service Agreement の導
入を検討している。イラクでも国連の経済制裁が解除されればロシアや中国
等の石油会社とのPS契約が動きだすことになる。このような潮流のなかで
サウジアラビアが上流部門開放に動いている理由としては,政治的な観点か
ら米国や欧州諸国との関係強化の他,次の3点を少なくともあげることがで
きるだろう。
①
長期的に石油収入の増大を図るためには輸出能力拡大が必要であり,そ
のためにはメジャーを始めとする外国石油会社の持つ資本・技術・経営ノ
ウハウの導入が必要なため。OPECの協調減産によりサウジアラビアは
現在,300 万バレル/日以上の余剰生産能力を抱え,外資導入による能力拡
大は必要なしとの考え方もあるが,ナイーミ石油大臣の最近の発言にある
ように,サウジアラビアは 2020 年までに少なくとも 600 万バレル/日の
増産が求められているのである。だが,現在のアラムコにはこれに対応す
る技術力はあっても,生産能力維持のため以外への投資資金が不足してい
るのである(PIW:1999.5.17)。
②
天然ガスや石油化学部門への外資導入により,石油モノカルチャー経済
からの多様化を図るため。とくに天然ガスに関しては,石油に比べて開発
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
が遅れており,今後の需要拡大を踏まえ,毎年5兆 cf の可採埋蔵量の追加
を目標としている。また,MGSの処理能力増強が必要で,このためには
多額の投資が必要なのである。
③
外資導入により産業基盤を確立し,雇用機会の創出を図るため。これま
で,サウジの新規労働力は政府機関やサウジアラムコが提供してきたわけ
であるがこれが相次ぐ支出削減など経済不振により狭き門となっているの
である。若年労働力人口が急増するなかでの雇用機会の減少は現政権の社
会,経済運営の不満,批判を増大させる恐れもあるのである(PIW:1999.5.3)。
上述のとおり,これまでにサウジ政府が受領した投資提案については,ア
ラムコにおいて現在再検討されているところで,「サウジは 1999 年末あるい
は 2000 年初めまでには交渉・入札を始める予定」としている。しかしながら,
アラムコが5月時点で外資導入を不要と考えたように,サウジ国内では,①
アラムコの減産が余儀なくされるような上流部門の開放はありえない,②外
資導入で生産性が向上するとの議論は誇張されている,③サウジが上流を開
放しても世界の他地域での探鉱開発を抑制する効果はない等の懐疑的な報道
がある(MEES:1999.2.22)。投資評価の閣僚委員会内部でも「開放慎重派(ア
ラムコ独占操業支持)」のナイーミ石油大臣,ムハンマド国務大臣(元都市・
村落大臣)と,「開放推進派」のサウード外務大臣,アッサーフ国家財政・経
済大臣,アル・アイバン国務大臣(元石油省顧問)に意見が二分しているよ
うである。石油・天然ガス部門への外資導入はサウジアラビアの政治,経済,
そして宗教の分野にも影響する極めてセンシティブな問題であり,また,O
PECのあり方にも影響を与えることが予想されるのである。アラムコ技術
委員会の再検討の結果が注目される。
6.2.4 外国石油企業の投資提案
これまでの外国石油会社からの投資提案内容については,サウジ側が公式
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
には石油上流部門は対象としないと発言していることから,天然ガス開発プ
ロジェクト(ガス田の開発,天然ガス地域配給網の構築,発電や淡水化プラ
ント建設,石油化学関連プロジェクト)に集中しているが,油田の増進回収
プロジェクトや製油所の高度化プロジェクトも提案のなかに含まれていると
も伝えられている。
報道された投資提案については次のとおりである。
* [Conoco] 1998 年 11 月提出,1999 年4月再提出。Midyan ガス田の開発(発
電,淡水化,石油化学,ヨルダンへの輸出)を提案。コノコ会長は「サウ
ジ側は欧米企業の単独でなくコンソーシアムによる投資を期待しているよ
うだ」と発言。(注) Midyan ガス田:1994 年に発見された紅海北部沿岸に位
置する低硫黄ガス田。アラムコが開発中。
* [Arco] 1998 年 11 月提出。
* [Oxy] 1998 年 11 月提出。
* [Phillips] 1998 年 11 月提出,1999 年2月再提出。
* [Texaco] 1998 年 12 月提出。Midyan ガス田の開発を提案。Texaco は旧アラ
ムコメンバーで,旧中立地帯陸上で原油生産中。米国下流部門での合弁事
業パートナー(Star Enterprise)。
* [RD/Shell] 1999 年1月提出。Ghawar 油田の Kuff 層の構造性ガス開発を提
案。サウジ国内で輸出製油所(50%,Jubail) と Sadaf(エチレン,MTB
E他)の2つの合弁プロジェクト操業中。
* [Chevron] 1999 年2月提出。Midyan ガス田,Abu Safah 油田(バハレーン
国境近くの沖合い)の開発を提案。Chevron は旧アラムコのメンバーで,
Jubail でサウジアラビア民間資本との石油化学プラント(ベンゼン他)を
建設中。
* [Elf] 1999 年2月提出。サウジ中央部の複数(2-5)ガス田の開発とガス発
電プロジェクト(1,500MW)を提案。発電所建設はベルギーの Tractebel によ
り,サウジ西部へ送電。総投資額推定 15 億ドル。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
* [Marathon Ashland] 1999 年4月提出。
* [Exxon/Mobil] 1999 年4月提出。Midyan ガス田,Abu Safah 油田,Kidan
ガス田(アブダビ国境近く)の開発を提案。 Exxon は旧アラムコの一員で,
Kemya(ポリエチレン)や中国下流プロジェクトでの合弁パートナー。Mobil
も旧アラムコのメンバーで,サウジ国内では Yanbu 輸出製油所(50%),
Lubref(30 % , 潤 滑 基 油 製 造 ) , Petrolube(29 % , 潤 滑 油 製 造 販
売),Yanpet(エチレン他)各プロジェクトの操業。
* [Totalfina] 1999 年4月提出。7月再提出。北部油田,Abu Safah 油田の
開発,石化プロジェクト,発電・淡水化プロジェクトを提案。
* [BP Amoco] 未提出。サウジ国内では太陽電池の製造を行っているのみ。
おわりに
以上みてきたとおり中東の天然ガスは外貨獲得のための輸出品とするか,
急増する国内のエネルギー需要を賄うための石油代替品とするか,その利用
方法は国毎で異なっているものの,いずれにしても中東では現在,積極的な
天然ガス開発が展開されている。
オマーンで新たに立ちあがった民間ガスベンチャーのように,中小規模の
埋蔵量であっても周辺ガス田と一体開発することで,プロジェクトを成立さ
せる動きも出始め,今後このような動きが活発化すれば,新たな天然ガス供
給先が増加することになる。また,カタールでは Exxon と Phillips/Sasol
の2者がそれぞれGTL(合成液体燃料)の製造プラントを建設している。
これは,パイプラインやLNGのどちらでも商業利用できないような中小ガ
ス田の天然ガスからディーゼル油やガソリンなどをつくろうとするもので,
将来低コストで大量生産ができれば高付加価値をもたらす可能性を持つもの
である(国際エネルギー動向分析:1999 年2月号)。
国際エネルギー動向分析 1999 年 10 月号
日本は一次供給エネルギーのうち 11.6% (1997 年)を天然ガスに依存し,
天然ガスの 96%を海外に依存している。また,世界のLNG貿易のうち
58.5% (1998 年)を輸入する国である。その意味でも,中東の天然ガス開発
を巡る動きを今後も注視することは極めて重要なことである。
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